1: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/11/27(日) 22:40:50.54 ID:Veu3Xsf20
初雪「……さむい」
布団の中で目覚めて開口一番、初雪はそう呟いた。
既に同室の住人はいないようだ。そのせいか、部屋の中はやけに静かに感じられる。
しばらくして、部屋の外から話し声が聞こえて来たかと思うと、ガチャリと部屋の扉が開かれた。
吹雪「あ、おはよう初雪ちゃん」
白雪「おはようございます」
初雪「……おはよう」
かけ布団から頭だけを出した状態で、初雪は挨拶を交わす。起きようとする気配すら感じられない。
二人は厚手の防寒着にマフラー、手袋、耳当てと、万全の防寒態勢。
吹雪「雪が降ってるんだよ! 初雪だよ、初雪!」
上着を脱ぎながら、吹雪が興奮した様子で話す。その服に、雪がちらほら付いているのが見える。
初雪「……初雪?」
カーテンが開かれた窓から外を窺うと、白い雪がしんしんと降っていた。外一面雪景色だ。
初雪「……どおりで寒い訳だ」
そう言って、頭の上まで布団を被る。
吹雪「ちょっと初雪ちゃん! もう起きないとダメだよ!」
白雪「頑張って起きてください!」
姉二人の必死の説得に、初雪は重い体を起こす。というのも、毎朝毎朝いつものことなのではあるが。今日はそれに加えて、寒さが身に凍みる。
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2: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/11/27(日) 22:42:29.52 ID:Veu3Xsf20
深雪「おっ、おはよう初雪」
叢雲「おはよう。……初雪、あんたいつもに増して酷い顔ね」
磯波「おはようございます」
部屋を出てすぐ、隣の部屋から出てきた吹雪型の妹たちと鉢合わせた。
初雪「……おはよう」
深雪「今日は初雪だぜ! 初雪!」
いつも元気のいい四番艦は、早すぎる降雪にも大喜びのようである。
叢雲「降るとは言っていたけど、まさか本当に降るとはね……」
磯波「びっくりですよね……」
季節外れの初雪に、艦娘たちは浮かれているようだった。食堂でも、今日は雪遊びしようとか、寒いから部屋でゆっくりしたいとか、そんな話ばかり飛び交っていた。
3: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/11/27(日) 22:44:18.94 ID:Veu3Xsf20
深雪「なあ初雪。せっかくだし、一緒に外で遊ばない?」
初雪「あー、……パス」
深雪「……そっか」
初雪「……じゃあ」スタスタ
深雪「…………はー」
初雪は、しばらく一人部屋にいたのだが、そのうち部屋にいるのにも飽きてきたので、特に行くあてもなく部屋を出た。
廊下を歩いていると、外から雪にはしゃぐ声が聞こえてくる。
少し羨ましいような、そんなもどかしい気持ちに苛まれる。が、そんな気持ちを胸の奥に無理やり押し込めながら、一人窓の外を見ていた。
4: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/11/27(日) 22:45:50.13 ID:Veu3Xsf20
そうして、窓の外に降る雪をぼんやり眺めていると……。
提督「おっ、初雪」
初雪「……司令官」
提督「よっ。雪見か?」
初雪「……うん。司令官は? サボり?」
提督「失敬な。仕事ならちゃんと終わらせたぞ」
初雪「……そう」
提督「……今日は寒いな。もう冬って感じだ」
初雪「そもそも、十一月に雪が降るなんておかしい」
提督「まあ、そう言うなって。……俺は嫌いじゃないな。この季節に降る初雪も」
初雪「……ん」
提督「……外、出てみないか? 見てるだけじゃなくてさ。他の娘は楽しく遊んでるぞ」
初雪「……絶対寒いし、ヤダ」
提督「……俺は行くぞ」
そう短く言うと、提督は一人駆け出した。
提督「ああっ! さ、寒い!!」
初雪「…………」
初雪はその場から逃げるように立ち去ろうとしたが、少し思い直して自分の部屋に足を向けた。
5: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/11/27(日) 22:47:12.02 ID:Veu3Xsf20
初雪「……やっぱ寒い」
はあ、と息を吐くと、煙のように白く色づいてふっと霙雪の中に消えていった。
提督「とりゃあ」
と叫び声が聞こえた直後、ぼふっと顔に何かがぶつかった。それからワンテンポ遅れて、冷たさがじんわりとやってくる。
提督「ふははー。どうだ初雪!」
既に防寒態勢を整えていた提督はそう言いつつ、次弾装填済みである。
提督「いくぜ――ボホッ」
今度は、提督の顔に雪玉がぶつかった。
深雪「深雪さま参上! 大丈夫か、初雪?」
初雪「……深雪」
提督「……新手か。やってやるぜ――ゴホッ」
バスバスと複数弾が顔に着弾。
吹雪「やった!」
夕立「決まったね!」
睦月「にししー」
初雪「……ふふふ」
提督「……いいだろう。まとめてかかってこい!!」
6: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/11/27(日) 22:49:28.12 ID:Veu3Xsf20
各々別々の場所で遊んでいた娘たちも集まってきて、雪合戦が始まった。
島風「みんなおっそーい」
天津風「……あんたそれで寒くないの?」
雪風「それっ!」シュッ
不知火「」バスッ
不知火「……ふふふ。不知火を怒らせたわ――」
時津風「それー」シュッ
不知火「――ぬい」バスッ
清霜「それー!」シュッ
深雪「とりゃあ!」シュッ
涼風「てやんでぇー!」シュッ
提督「もうやめてくれー!!」バスバスバス
初雪「…………」
7: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/11/27(日) 22:50:27.50 ID:Veu3Xsf20
提督「はあー、楽しかった」
初雪「……司令官、子供みたいだった」
提督「はっはっは。何事も楽しまなくちゃあな」
初雪「……」
提督「こういうのもさ、悪くないだろ?」
初雪「……」フイ
吹雪「さっ、初雪ちゃんも一緒にやろうよ」
白雪「きっと楽しいですよ」
初雪「え、えっと……」
提督「……行って来い。ほら」
提督は自分のマフラーを外すと、初雪の首にかけた。
初雪「……ん、ありがと」
そう言うと、初雪は駆け出していった。
8: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/11/27(日) 22:51:49.58 ID:Veu3Xsf20
叢雲「あんたって、ほんと世話焼きよね」
提督「そうか?」
叢雲「どっからどう見てもそうでしょうが」
提督は少し考えた後、ふと言った。
提督「……多分、俺とあいつが似てるから、かな」
叢雲「……ふーん」
叢雲(なんとなくわかるような……)
初雪(司令官……ありがと)ギュッ
深雪「深雪スペシャル! いっけー!!」シュッ
初雪「わぷっ! ……やったな」シュッ
深雪「ははは!」バスッ
深雪(司令官……サンキューな!)
9: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/11/27(日) 22:53:23.41 ID:Veu3Xsf20
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
カーテンの隙間から射す朝日が、容赦なく初雪を襲う。
かと思えばサッとカーテンが開かれ、その光は一気に凶暴性を増した。
吹雪「初雪ちゃん起きて! 朝だよ!」
初雪「うう……もうちょっと」
そう言いながら布団にもぐる初雪。
白雪「起・き・る!!」バサッ
初雪「……うう……」
掛け布団を失ってはどうしようもないというふうに、重い瞼を擦りながら、初雪は体を起こした。
吹雪「今日は出撃があるんだから、シャキッとしないと!」
初雪「……え?」
白雪「もう、忘れていたんですか?」
初雪「……うん」
白雪「……」
10: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/11/27(日) 22:54:56.68 ID:Veu3Xsf20
深雪「みんな、おはよう!」
叢雲「おはよう」
吹雪「うん、おはよう」
磯波「おはようございます。今日はいい天気ですね」
白雪「おはようございます。そうですね」
叢雲「昨日雪が降ったなんて嘘みたいよね」
初雪「……おはよう」
吹雪「さあ! 今日も一日頑張ろう!」
吹雪型一同「おー!」
初雪「……おー」
11: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/11/27(日) 22:58:11.80 ID:Veu3Xsf20
ローマに良く似た雪だるまが、日の光に当てられて溶けていた。
昨日とは打って変わっての快晴だ。その眩しいほどの光に、初雪は溶けるんじゃないかとさえ思った。
叢雲「何言ってんのよ」
吹雪「さあ、みんな行くよ! 第十一駆逐隊、吹雪! 出撃します!」
初雪「……」チラ
提督「……」フリフリ
初雪「……」ドキ
初雪(私だって、本気を出せばやれるし)
初雪(だから……見てて)
吸い込まれそうなほど蒼い空の下、彼女たちは漣立つ海に飛びだしていった。
少し早い初雪は、まだ溶けきっていない。
終わり
引用元: ・【艦これ】霜月に降る初雪と
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