李衣菜「…ここどこ?」 前編

164: ◆GWARj2QOL2 2017/01/23(月) 23:16:38.05 ID:ZYmvzWsJO
…。

……。

「ヒャハハッ!てめぇの攻撃で潰れやがった!!バカな奴め!!」

崩れたビルの瓦礫の山。

そのままならば、下敷きだろう。

出来ることなら自分の手で始末をつけたかったと悪態をつき、背を向ける。

「…しかし、期待外れとはこの事だな…」

直属ではないが、上官の説明を触り程度だが聞いていた。

「…こいつらは要注意との事だったが…」

それとは全く異なる、現実。

ムサラビサラは心底つまらないといった表情で飛びたとうとした。

「…ん…?」

だが、その時だった。

「…」

瓦礫が、崩れる音。

自然に出来た音ではない。

「…まさか…?」

そんなはずはない。
あの重さのものが落下してきたのだから、無事でいられるはずがない。

「…」

おそるおそる、後ろを向く。

「…な…」

そこに、いる。

死んだと思ったその女は。

「…何だと…?」

仲間を守り。

「…こんな…」

一滴の血も流す事なく、無傷で。

「こんな…バカな話があるか!!!」

そこに、立っていた。

165: ◆GWARj2QOL2 2017/01/23(月) 23:17:53.07 ID:ZYmvzWsJO
「アハ…」

「こいつ…化け物か…?」

理性は飛んでいた。

それでも、彼女は実験体7号、向井拓海を守り、自身も耐えた。

「…」

見開かれた目。

それがぐるりとこちらに向く。

「ッ…!」

不気味。
得体の知れない何か。

そんな思いが、ムサラビサラの頭を支配する。

そこにあるのは、恐怖心。

「…き、貴様…」

「アハハッ」

まだ遊び足りない。
もっと遊ばせろ。

実験体9号、諸星きらりはそんな目で自分を見つめる。

「…こ、この…」

斬りつけ、その首を落とす。

そう思ったが、足が進まない。

「…!」

怪人であるはずの自分が、実験体と罵る者に驚愕し、恐怖に慄いている。

しかし、また、その時。

「…?」

きらりの動きが止まる。

「…?」

きらりもまた、それが何か分からず、足元を見る。

「!」

それは、血塗れの、拓海の手。

震えながらも、しっかりときらりの足首を掴んで離さない。

「…何…やってんだ…」

致命傷を負った筈の彼女。

しかし、その不屈の闘志が再び拓海を呼び覚まし、起き上がらせた。

「バカな…なんて生命力だ…」

「…おい…諸星。聞けよ…」

「…」

「…そりゃあ、てめーの拳か…?」

「…」

「そうじゃ…ねーんだろ…?」

「…」

「とっとと…帰ってこい…」

「…」

「…帰ってこい!!きらりィィィイイイ!!!」

「!」

166: ◆GWARj2QOL2 2017/01/23(月) 23:18:37.68 ID:ZYmvzWsJO
拓海の手が、きらりのベルトを外す。

変身が解除されたきらりは、そのままそこに倒れこみ、意識を失う。

「…」

一連の光景を目の前で見ていたムサラビサラ。

しかし状況は全く理解出来ず混乱し、その場に立ちすくんでいた。

「…おい…クソコウモリ…」

「!」

「…ありがとよ…」

「…何?」

「アタシは血が多くてさァ…こんくらい抜かれて丁度良いんだわ…」

「…」

「覚悟しとけよ…」

きらりからもぎ取った白いベルトを、自分の腰に巻く。

「…今度は、手加減しねーぞ…」

そして、銃を構え、口元に持っていく。

「…変身…!!」

『STANDING BY』

「何…ぃ…?」

『COMPLETE』

167: ◆GWARj2QOL2 2017/01/23(月) 23:23:20.54 ID:ZYmvzWsJO
黒のアーマーが、拓海を包み、さらに白の線がそれを包む。

そこまでは、きらりと同じ。

「…」

だが、拓海に変化は無い。

「…あー…」

きらりのように人格が変わることなく、その場で首を鳴らす。

「ど…どういうことだ…?」

「…どうやらコイツは、アタシの事が気に入ったみてーだな」

「…!」

「ま、アタシは黒の方が好きだけどよ。気に入られたんじゃあ、しょーがねーよな」

そして、右腕の人差し指を此方に向け、フッと笑みを浮かべる。

「…!」

そのままそれを半回転させ、そして戦いの合図を促す。

「来いよ。クソコウモリ」

「貴様ァァァアアアアア!!!」

168: ◆GWARj2QOL2 2017/01/23(月) 23:25:07.66 ID:ZYmvzWsJO
今までで一番。

地面が崩れる程の、ロケットダッシュ。

気合いも十分。

怒りも十分。

今までに無い程の、全力。

「その首…斬り飛ばしてやる!!!」

爪を最大限にまで、伸ばす。

そして右腕を振りかぶり、拓海の喉元に向かって一直線。

残像が見える程のスピードで、振るった。

「!!!」

だがそれは、空を切る。

「そんなッ…!」

避けられた。

こちらは、伸びきった腕。

倒れこむ程の勢いで放った一撃。

体の自由は、まだ効かない。

つまり、避けられない。

「…バカな…!?」

何処にいるのか。

前、いない。
横、いない。
上、いない。
後ろは、分からない。

ならば。

「…!」

「…知ってるか?」

「…しまッ…」

「…来るって分かってりゃ、見切れなくても避けられるもんなんだぜ?」

拳を握り締め、天まで届かせる勢いで振りかぶる。

「今度は、加減しねーぞ」

地面スレスレ。

掠っただけで、火花が散る。

タイミング、角度、全て良し。

「ッッ!!」

視界が、ブレる。

そして、何かが頭の中で弾け飛ぶ。

口から、様々なものが飛び出していく。

走馬灯のように、悪夢が蘇る。

「…ォォォォオオオオオラァァァァアアアアアアアアッッッ!!!!!」

下からの、強烈なアッパーカット。

拓海がその拳を振り抜いた数瞬後。

死ぬ程辛い痛みが襲ってきたのは、10メートル以上吹き飛ばされ、倒れこんだ後だった。

169: ◆GWARj2QOL2 2017/01/23(月) 23:25:55.27 ID:ZYmvzWsJO
息も絶え絶えに、地の上でもがき苦しむ、蝙蝠。

奇妙なその光景を作ったのは、一人の少女。

「どうだ?腹ん中ぶっ刺されるのとどっちが痛てぇ?」

銃口を冷ますように、拳に息を吹きかける。

比較は出来ずとも、暫くは立ち上がれない痛みだろうというのは見て取れる。

「…」

だがそれは、彼女も同じだった。

「…ッ…」

緊張が解け、様々な苦しみが身体中を一気に襲う。

痛み。
寒気。
倦怠感。
骨の軋み。

「…チッ…」

変身が解け、力無く、倒れる。

「…ここまでかよ…」

最早、指一本動かす気力も残っていない。

「…最後に一発くらい、あのチビポリ公に入れてやりたかったぜ…」

借りのある相手の顔を思い浮かべ、目を閉じる。

力が抜けていく感覚に、身を任せ、彼女は静かに眠りについた。

170: ◆GWARj2QOL2 2017/01/23(月) 23:26:36.69 ID:ZYmvzWsJO
「…」

人間ならば、泣き叫び、病院で目が覚める程の痛み。

「…ガ…ハ…」

最早、意識は途切れ途切れ。

耳鳴りが止まず、脳の中にモスキート音が大音量で響く。

視界の至る所がスパークし、見え辛い状況。

「…アガ…」

顎は完全に砕け、喋ることもままならない。

しかし、その目はまだ諦めていない。

飛ぶ事はおろか、歩く事も出来ない。

飛行生物である彼が、四つん這いになりながらも、拓海の命を奪おうとする理由。

「…ガ…アアアアアア!!!」

それは、彼のプライド。

戦いたい。

倒したい。

勝ちたい。

あの男に、勝ちたい。

その一心で、彼は蘇った。

それの目前で、死ぬわけにはいかない。

必死に、腕を動かし、這いずる。

後数センチ。

彼女の変身が解けた、今の状態なら、首を少し切るだけで殺せる。

せめて、この女だけでも。

「…?」

だが、それ以上進まない。

力が出ないということでは、ない。

「…ア…ア!?」

それどころか、引っ張られている。

左足首を掴まれ、後ろに引きずられている。

一体、何が起きているのか。

ほとんど動かない首を無理矢理動かし、後ろに目をやる。

「…!!!?」

そこに居たのは、想像を絶するものだった。

171: ◆GWARj2QOL2 2017/01/23(月) 23:27:23.29 ID:ZYmvzWsJO
「…」

まず初めに見えたのは、黒。

腕や、足。肩、頭部に至るまで全てが、黒。

重厚な、黒く輝く鎧。

赤のラインが入ったその鎧を着た人物。

「…もう、ダメだにぃ」

「…ア…!アア……!!」

必死で、抵抗する。

逃げようと、もがく。

しかし、圧倒的なその腕力と握力の前では、自分など幼い子犬と変わらない。

「…拓海ちゃんは、もうお眠なんだよ。だから、いじめちゃダメだにぃ」

「…!!」

きらりの左手には、自分の足首。

右手には、剣。

それだけで、何をするのか分かった。

「アガ…!!」

やめろ、とは言えない。

喋れない口では、聞いてもらえない。

「…次は、ちゃんと蝙蝠ちゃんに産まれてきてね」

「ア…!!?」

その瞬間、木の枝を振るうかの如く、ムサラビサラの身体が宙に浮く。

「!!?」

そして、飛ぶ。

視界の端には、先程きらりによって倒壊させられたビルの下半分。

ここまで飛んだのは自分の力ではない。

「…バイバイ…」

『EXCEED CHARGE』

172: ◆GWARj2QOL2 2017/01/23(月) 23:28:29.52 ID:ZYmvzWsJO
…。

『ムサラビサラ。ゲドリアンに復活させられたらしいな』

『?…ガテゾーン…博士』

『博士はよせやい。俺はメカニック専門だ』

『…何用で?』

『なーに。折角蘇ったんだから、祝いにな』

『それならば、ご自身のロボット達へ…』

『愛想がねぇなぁ…。まあどうせお前も実験体と戦う羽目になるだろうからな』

『俺達が勝てば、RXを…』

『そりゃあな。…だが、そんな一筋縄で行くような奴らじゃあ、ねえぞ?』

『…?』

『例えば、実験体7号、向井拓海』

『…この目つきの悪い女が…何か?』

『こいつぁ、喧嘩だけならこん中でもピカイチだ。同条件なら南光太郎でも分からねぇ』

『…ほう…』

『…そんで、こいつだ』

『…こいつは…』

『実験体9号、諸星きらり…まあ、見てくれは気にすんな』

『…』

『…あ、違うな。見てくれも気にしろ』

『…?』

『…素の力じゃ、こいつは規格外だ』

『…何を…』

『単純な腕力。こいつは同年代の奴らのそれを遥かに上回ってる』

『…』

『ただこいつは臆病で泣き虫な奴だ。…だから仕方なく、使ったら戦いが大好きになる魔法のベルトを渡したが…』

『…?仕方なく…?』

『こいつが持つべきベルトは黒だ。…まあ、もしこれを使えたとしたら…』

『…したら…?』

『…相乗効果。カタログスペックなんざ屁でもねぇ力を持っちまうぞ』

『…面白い…!』

…。

173: ◆GWARj2QOL2 2017/01/23(月) 23:29:50.62 ID:ZYmvzWsJO
「ガ…!!」

巨大な光が、徐々に形を成す。

そして現れた、巨大な光の剣。

地響きが聴こえるのは、幻聴ではない。

「…!」

そこにあったのは、恐怖ではない。

恐怖と言うには、巨大過ぎる。

これは、何なのか。

スケールの違いに、脳の全機能が停止する。

空にいるはずの自分よりも、遥かに高く、そして巨大。

押し寄せる光の津波を見て、ようやく彼は理解した。

「…」

自分は、ハズレくじを引いたのだ、と。

174: ◆GWARj2QOL2 2017/01/23(月) 23:31:12.79 ID:ZYmvzWsJO
きらりの、放った一撃。

数十メートル先まで出来た、陥没。

空から見れば、地上に数字の1がでかでかと刻まれていると話題になるかもしれない。

奇しくもその一撃が、彼女達の運命を大きく変えたのだが。

今のきらりには、そんな事を考える余裕は無い。

「拓海ちゃん…」

自分を庇い、傷だらけになり。

それでも尚立ち上がり、自分を助け、守った。

「…」

誰かを殺す為ではない。

誰かを守る為の、力。

それならば、何の迷いもなく振るうことが出来る。

拓海が言う本当の拳とは、そういうことだった。

「…拓海ちゃん…!」

ただ、それをきらりが理解したのは、遅かった。

あまりにも、遅過ぎた。

「ごめんね…ごめんねぇ…」

守れなかった。

自分が迷いを振り切る前に、彼女は力尽きてしまった。

「拓海ちゃあん…!!」

その申し訳なさに、堪らず泣きじゃくり、拓海に抱き着く。

「…」

そして、気付く。

「・・・え?」

「…」

温かい。

まだ、温かい。

「・・・あれ?」

それだけではない。

「…?」

もう一度、今度は耳に意識を傾け、彼女に近づける。

「・・・あれぇ?」

「…zzz…」

「・・・」

「zzz…」

「・・・」

すぐさま、病院に運ばなければ。

そう感じたきらり。

ただ、運んでいる最中に思った。

ムサラビサラの放った言葉も、あながち間違いではない、と。

第六話 終

186: undefined 2017/01/28(土) 21:10:47.73 ID:H/ekkTaiO
この世界に来て、恐らく数日。

驚く事は何度もあった。

「…」

「…」

寝ている李衣菜。
ベッドで休む、夏樹。
その真ん中で座る、里奈。

二人の間に、会話は無い。

ただただ、重苦しい雰囲気が漂っている。

その原因は自分が作ったのだと、夏樹は壁を向き、目を合わせようとしない。

だが、一番の原因は、そうではない。

187: ◆GWARj2QOL2 2017/01/28(土) 21:11:26.90 ID:H/ekkTaiO
「…」

夏樹との戦いで突如変貌した、李衣菜。

彼女は人間の範疇を超え、獣と化した。

「…」

あれは一体、何だったのか。

もしも、李衣菜がこうなっているとしたら、自分達もそうなってしまっているのか。

「…」

溜息すら、つけない。

虚空を見て、ぼうっとする。

何かをやる気さえ起きない。

「…」

友人が、化け物になって、またさらに化け物になった。

それを目にした時は、酷いものだった。

親友であるはずの夏樹に容赦無く攻撃し、殺そうとした。

「…ね、夏樹っち…」

「…ん…」

「…腕、治った?」

「…ん…」

ばつが悪いのか、夏樹の返事は小さく、相変わらずこちらに顔を向けない。

里奈も、どのように声をかけて良いのか分からず、それ以上話しかけることはなかった。

188: ◆GWARj2QOL2 2017/01/28(土) 21:12:01.12 ID:H/ekkTaiO
「!?」

そして、今日、この日。

夏樹達は、この世界に来て初めて、地震を体験した。

「おわっと…!」

「え!?じ、地震!?」

ベッドで眠っていた李衣菜も顔をしかめるが、疲れているのか起きない。

「…な、何だ…?」

外の様子を伺おうと、窓から見る。

「!?」

巨大な、光。

天まで届きそうな程の、光の柱。

塞がらない、自分の口。

「…な、何あれ…?」

巨大な光は、ゆっくりと倒れるように降りていく。

「…」

その光景を見ていた夏樹の背中に、ぞくり、と寒気。

「…やべっ…!隠れろォ!!」

「え?」

そして里奈と寝ていた李衣菜を抱きかかえ、無理矢理ベッドの下に隠れる。

「な、何?どうしたの夏樹っち?」

「静かにしろ!!…来るぞ…!」

「え?」

189: ◆GWARj2QOL2 2017/01/28(土) 21:13:13.27 ID:H/ekkTaiO
それは、隕石。
それは、ミサイル。
はたまた、ロケットの墜落。

「ひゃっ!!?」

巨大な何かが地球に超高速で落下し、大地震を引き起こす。

「…ッ!?」

体験したことのない揺れに、固まる。

そして、少し遅れて、今度は耳を押さえる。

「…!!」

これ以上の音は聴くことはないだろう程の、轟音。

そして、窓の隙間から吹く砂塵の嵐。

「何!?何が起きてるの!?」

「分かるかよ!!」

焦り。

得体の知れない巨大な力に対する、畏怖。

「とにかく逃げるぞ…!だりーはアタシに任せろ!」

そう言って夏樹は李衣菜を担ぎ、一刻も早くこの場から立ち去るよう里奈に促す。

里奈もそれが一番だと頷き、今だ続く微振動の地上を警戒しながら移動する。

「…」

その為か、見ることはなかった。

「…」

夏樹の背中で、起きた李衣菜。

「…」

ゆっくりと、目を開ける。

「…」

その目は、まだ血走ったままだった。

190: ◆GWARj2QOL2 2017/01/28(土) 21:14:10.99 ID:H/ekkTaiO
…。

主がいない、部屋。

電気は切られており、非常用のライト以外の灯りは見えない。

ただ、その薄暗い部屋の中でも、一際目立つもの。

主によって開けられたままの、隠し部屋、だった場所。

その中の、二つのカプセル。

一つは開けられ、一つは閉じられている。

「…」

閉じられたカプセルの中には、機械と思しきもの。

「…」

部屋の主、ガテゾーンの技術の集大成とも呼ぶべき戦闘ロボット。

今回、そこにもう一つの技術が詰め込まれた。

「…」

それは大成功を収めた。

しかし、今の彼が持つもう一つの特殊能力の危険性をガテゾーンは危惧した。

「…」

その起動スイッチは押されておらず、封印されている。

あくまで彼は、最終兵器として投入するべし。

そう考えた。

しかしガテゾーンのロボット軍団は次々と実験体によって破壊されていった。

「…」

最終兵器である彼の、封印の解き方。

「…」

それは、自分以外の再生ロボット軍団の消滅。

『pipipi…デスガロン、機能停止確認』

ガテゾーンの、技術の集大成。

『ヘルガデム、起動。カウントダウンを開始…』

「…!」

大魔神を彷彿とさせるロボット。

彼の名は、ヘルガデム。

そしてその背中には、Φの文字が入ったトランク型のアイテム。

そこから毒々しい赤が身体の全てを包み、そして彼の顔すら変えた。

『ヘルガデム、起動成功』

「…」

『起動セ…起ドウ…キ…ガガ…』

「…」

身体中から毒煙を撒き散らし、彼は歩き出す。

以前より遥かに危険となった、その姿で。

…。

191: ◆GWARj2QOL2 2017/01/28(土) 21:14:57.19 ID:H/ekkTaiO
「…」

見た目よりも、身長は低く。

見た目よりも、体重は軽い。

「…拓海ちゃん…」

病院を探すよりも、先ずは止血。

そう考えたきらりは背負っていた拓海を近くのベンチに休ませ、近くの売店に立ち寄り、包帯と消毒液を手にした。

これがゲームの世界なら体力も回復しようものだが、今この場でそれは応急処置にしかならない。

「絶対助けるからね…!」

それでもきらりは必死で、拓海の身体に包帯を巻いていく。

だが、いかんせんそういった技術は持ち合わせていない。

「…よいしょ」

「…ン…」

鼻と、口と、目。

それ以外は隙間のほとんどない、綺麗な黒髪のミイラが出来上がってしまっていた。

「…」

しかしそれを寝苦しいと無意識に訴えるくらいには、生きている。

今彼女が生きているのは、持ち合わせたその驚異的な生命力なのだろうと、きらりは感じる。

「一緒に、帰ろうね…」

そう呟いたきらりの背中で、拓海の包帯の隙間から、妖しい光が漏れる。

純粋な彼女はまだ、拓海が生きていられる本当の理由を、知らない。

192: ◆GWARj2QOL2 2017/01/28(土) 21:15:34.69 ID:H/ekkTaiO
「参ったな…地震は流石に止んだみたいだけど…あれじゃあまたいつ来るか…」

「敵…なのかな?」

「それは分からねーけど…でも何かヤバい事が起きてて、ヤバい奴がいるってのは確かだろ」

なるべくなら衝突は避けたい。

ということではない。

今となっては、戦って勝てる相手なら、戦うつもりではいる。

しかし、これは違う。

「…っつーか…」

「…」

どうやっても、勝てる気がしない。

もしこれが味方なら、これ以上ない程に頼もしく見えるものだが。

「…敵なら、相当ヤバいな…」

「…」

そうでないなら、益々この世界から脱出するのが難しくなる。

「…ね、夏樹っち…」

その時、里奈の頭に過ったもの。

「…」

両手が塞がっている夏樹のズボンに引っ掛けてあるそれを手に取る。

「…」

「これ…」

193: ◆GWARj2QOL2 2017/01/28(土) 21:16:19.25 ID:H/ekkTaiO
里奈が手に取ったそれは、先のデスガロンとの戦闘で唯一灰化しなかったもの。

崩れていく彼の左腕からころん、と音をたて、落ちた。

「…」

腕時計のような、しかしそうでないもの。

デスガロンはこれを使用した時、音も残像も残すことなく瞬間移動をしてみせた。

「これって…」

そして、そのアイテムには見覚えのあるマーク。

「もしかして、だりなちゃんの…」

「…」

Φのマークが刻まれた、それ。

それがもし本来、彼女専用の物だとしたら。

「…」

この世界の攻略は、難しくないかもしれない。

音をも抜き去るそのスピードならば。

「…でも…」

しかし、夏樹は里奈の意思とは違う。

「それって…こいつを矢面に立たせるって事なんだろ…?」

「…」

それでも、夏樹はまだ、李衣菜を戦わせる事に反対していた。

「…こいつは、本当は虫も殺せないくらい優しい奴なんだ…」

「…」

「そんなこいつを…李衣菜を一番危ない目に合わせるなんて…」

「…」

「…アタシは、嫌なんだ…」

194: ◆GWARj2QOL2 2017/01/28(土) 21:16:56.12 ID:H/ekkTaiO
「…」

夏樹の心中。

ぶつかっても尚、守りたい、戦わせたくない。

単なる仲間という思いではない。

これが、過保護というやつなのか。

「…夏樹っちの気持ち、分かるよ…」

「…」

異常だと自分でもなんとなく思うが、里奈はそれをあえて否定せず、彼女の気持ちを組んだ発言をする。

「…アタシも、だりなちゃんが傷ついてくの、もう見たくない…」

「…」

「…でも…」

しかし、李衣菜の本質に触れた彼女だからこそ、分かることもある。

手に持ったそれを見つめ、そして意を決したかのように夏樹の目を見つめる。

「…もし、これを渡さなかったら…だりなちゃんは絶対怒ると思う」

「…」

「多分、だりなちゃんは、そういう人だと思う…」

「…里奈…」

里奈の言った、そういう人。

それは、夏樹も含めてのものだが、あえて、言わなかった。

195: ◆GWARj2QOL2 2017/01/28(土) 21:17:45.84 ID:H/ekkTaiO
「…」

里奈の真剣な瞳に、返す言葉が思いつかない。

夏樹は静かにまた前を向き、歩き出す。

「…」

まだ、答えは出せない。

「…」

何故、彼女がそこまで李衣菜を戦わせたくないのか。

愛情なのか。
それとも、独占欲なのか。

彼女は決してそういった趣味は持っていない。

だが、李衣菜と接していく内に、彼女は無意識に李衣菜に対してはいつも強くありたいと思うようになっていった。

自分が今背負っている者に、格好悪い姿を見せたくない。

彼女には、頼られる存在でいたい。

「…」

それこそが、彼女が李衣菜を戦わせたくない理由なのだが。

無意識だからか、夏樹はその事を自覚出来ていなかった。

「…!」

しかし、不安気な表情を浮かべる余裕は無い。

「ど、どうしたの?」

「シッ!…隠れるぞ…」

いつ、どこで敵が目の前に現れるか分からない。

味方が突然現れるという保証など何処にも無い。

人影は敵。

そう考えていた方が、いざという時の心構えになる。

196: ◆GWARj2QOL2 2017/01/28(土) 21:18:34.75 ID:H/ekkTaiO
「…い、今来るの…?」

「静かにしろ…!何とかやり過ごす…!」

里奈の口に手を当て、建物の影に隠れる。

向こうから歩いてくる、人影。

少なくとも、自分達よりも巨大。

背中に何か大きな物を背負って、ゆっくりと、悠然と歩いてきている。

「…」
「…」

今の時刻は恐らく夕方。

逆光のせいか、シルエットしか分からない。

「…!何だ…?」

「…!夏樹っち!」

目を凝らして見ようとすると、先に気付いた里奈が夏樹の肩を叩く。

「なっ…静かにしろって…あ、おい!」

その目は確信したと言わんばかりまっすぐそれを捉え、そして走っていく。

「…?」

その異常な行動に呆気にとられた夏樹も警戒しながらゆっくりと身体を起こす。

そこで目を凝らす。

「…あ」

そして、里奈に少し遅れて気がついた。

「…あ…」

いつもの髪型とは違い、ポニーテールとなっている上、服装もかなり似つかわしくないものとなっているが。

その顔と巨体は、中々忘れるものではない。

「…諸星…きらり…?」

「…夏樹…ちゃん…?」

あれ程悠然と道の真ん中を歩いていた割には、鼻水を垂らし、泣きじゃくっていたきらり。

「…と、誰だそりゃ…?」

そしてやはり背負っていた、誰か。

「…ミイラ?」

長い黒髪というだけでは、拓海だとは分かる訳もなかった。

197: ◆GWARj2QOL2 2017/01/28(土) 21:19:15.70 ID:H/ekkTaiO
…。

「そっか…やっぱアンタらも…」

「…にぃ…」

自分達と時を同じくして、きらり達も地獄の苦しみを味わっていた。

「…しかし、とんでもないな…あの地震がアンタの仕業なんて…」

「…にぃ…」

「…」

今だに、信じられない。

この赤ん坊がそのまま大きくなったような人間に、あのような力があるのか、と。

「…」

彼女から詳しく話を聞くのは、随分時間がかかった。

拓海に早く治療を受けさせたい一心でここまで連れてきたというのだが、先の地震と砂埃の混じった強風のせいで、とてもじゃないが使える状態ではなくなってしまっていた。

それが分かると彼女はその場にへたり込み、本物の赤ん坊のように咽び泣いた。

しかしその光景をいつまでも眺めている程、夏樹達の性格は歪んではいない。

自分を責め、拓海に謝り続けるきらりを必死で宥め、自分達にあったことを説明した。

傷は何故か放っておくだけで直ぐに治る。

そう聞いたきらりはミイラのようになった拓海の包帯を解き、様子を見る。

するとやはりか、その身体は聞いていた状態とは大幅に違う。

傷は全て生々しく割れた皮膚だとの事だったので、思わず目を瞑ってしまっていたが。

そこにあったのは、いくつかの薄い擦り傷。

驚くきらりに、もう慣れたと自嘲気味に笑う、夏樹達。

しかし、きらりが此方の雰囲気に慣れてくれたのは、そこから数十分もしてからだった。

198: ◆GWARj2QOL2 2017/01/28(土) 21:20:09.78 ID:H/ekkTaiO
「…とにか…く!」

考えをまとめ、一度、大きく手を叩いたのは、里奈。

「全員かどうかは分からないけど、随分大所帯になった…でしょ?」

「あ、ああ…」

「これなら、何とかなる…って気がしてくるよね!」

「…」

「…」

里奈が言ったそれは、戦力として、の意味ではない。

あくまで、気持ちの問題。

「…」

しかし、動けるのは3人だけで。

2人は、いつ起きるのかも分からない状況。

おまけに脱出への糸口が一つも見つからない事で、素直に喜べない。

何とかなる。

今までも、何とかなってきたのだから。

「…」

しかし、現実問題。

「何とかなる」というアバウトな言葉では最早、勢いを取り戻せない。

何か、この状況を打開出来る確定的な何かが欲しい。

それ程までに、自分達は追い込まれているのだと、感じていた。

「…えっと…」

それでも持ち前の明るさで何とか2人を励まそうと、頭の中で言葉を整理していく里奈。

「…んー…」

悩みに悩んで、いざ口を開こうとした、その時だった。

199: ◆GWARj2QOL2 2017/01/28(土) 21:20:58.82 ID:H/ekkTaiO
「…!」

「うきゃっ!?」

「!また地震か…!?」

地面が、縦に揺れる。

それは、きらりが起こしたものと同じ。

「…こ、今度は何だよ…!」

しかし、その揺れは長く、大きい。

「…」

一体何が起きているのか、ゆっくりと窓から外を見る。

「…!!」

そこにあったものは、驚愕の光景。

「…嘘だろ…」

その光景に、自然と足が震える。

武者震いなどという格好の良いものではない。

「…嘘だろおい…?」

純粋な、怯え。

その者が通る道は紅く腐り、そして崩れていく。

纏うそれは、毒煙のようにも見える。

「…んだよ…あれ…」

この世界を統べる王のような風格を醸し出し、ゆっくりと、歩を進める。

その進路は、間違いなく、此方。

ロボットである彼のセンサー内で隠れる方法など、ありはしない。

息を潜めている今この瞬間でも、彼は一切の迷いなく、自分達に狙いを定めている。

「…やるしか…ねえってのかよ…」

地震の原因は、彼の纏う赤い煙の力のせいで腐食し、崩れていくビル。

それだけでも、彼女達を震え上がらせるには十分過ぎる程だった。

200: ◆GWARj2QOL2 2017/01/28(土) 21:21:42.24 ID:H/ekkTaiO
「…おい」

「えっ?」

「…?」

迫り来る恐怖の中、不意に夏樹が里奈ときらりの肩を叩く。

顔はあの得体の知れないロボットに向けたまま、彼女は続ける。

「…2人を連れて逃げろ。アレはアタシが食い止める」

「えっ?」

「!」

「そ、そんなの…夏樹ちゃんが…」

「いいから!!行けって!」

それは出来ないと食い下がるきらりに、夏樹は語気を強めて言う。

「早く行ってくれ…!時間が無いんだよ!」

こうしている間にも、彼との距離はどんどん縮まっている。

今だに攻撃をしかけてこないのは、メタヘビーのような近接主体なのか、どうとでも出来るという自信か。

「で、でも…」

「…!いい加減に…!」

「夏樹っち」

「!」

あのロボットの力は、恐らく今までの者達とは比較にならない。

それは、皆共通して感じたこと。

そして、里奈にはもう一つ分かっていることがある。

「…」

そこに一人で立ち向かっていこうとしている夏樹の背中に、ぴた、と手を乗せる。

「そんな脚で、立ち向かえるの?」

「…!」

「そんな顔で、アイツの目の前に立てるの?」

「…」

201: ◆GWARj2QOL2 2017/01/28(土) 21:22:32.25 ID:H/ekkTaiO
「…」

夏樹が此方に振り向く。

その表情は怯え、恐怖に歯から音が鳴る。

脚は震え、まともに歩けるかどうかも分からない。

「…強がってないで、素直になった方がいいよ」

そんな夏樹の本心を、里奈は感じ取っていた。

「…でも…誰かがアイツを食い止めなきゃ…!」

「死ぬの、ヤなんでしょ?」

「…」

「だったら、強がらないで。カッコ悪いだけだから」

「…里奈…」

「そんなの、何もカッコ良くない」

夏樹に対する里奈なりのエールなのか。

はたまた、本心なのか。

「きらりちゃん。2人、担げるでしょ?行って」

「え…」

「アタシ達も、後で追いつくから」

その腰に、ベルトを巻く。

そして、携帯を取り出し、コードを入力。

「…里奈…」

「勝とうだなんて思ってないよ。ただ、2人なら時間は作れる。逃げられる」

それ以上は何も言わない。

夏樹にも何も言うなとばかりに、背を向ける。

「…行くよ。夏樹っち」

「…」

「泥臭い方が、アタシ達らしいんだから」

「…!」

「…立って」

「…おう…!」

202: ◆GWARj2QOL2 2017/01/28(土) 21:23:12.45 ID:H/ekkTaiO
ガテゾーン、最終兵器、ヘルガデム。

彼はそこからさらに強化され、リミッターを外された。

その結果、彼の自我は失われ、プログラムに従ってしか、行動出来なくなっていた。

「…ターゲット 木村夏樹 諸星きらり 確認…」

そのセンサーに捉えられた、ターゲット。

「…破壊行動に移行…」

両腕を動かし、行動に移る。

しかし、それはそう簡単にいくものではない。

「…ターゲット 諸星きらり 逃走…木村夏樹…」

プログラムされたデータを確認しようと、一度両腕を降ろしたその時。

「木村夏樹 距r」

「「デリャアアアアアアアアアアアアアアッッ!!!」」

203: ◆GWARj2QOL2 2017/01/28(土) 21:24:11.67 ID:H/ekkTaiO
目の前で起きた、爆発。

そしてそこから飛び出してきた、2人の少女。

「木村夏樹 発見」

「遅ェッッ!!!」

里奈の推進力により威力の増した飛び蹴り。

それはヘルガデムの頭部にヒットし、彼の動きを止める。

「こっちもぉ……行っけぇ!!」

間髪入れず、背後から押し寄せる弾丸の波。

前後ほぼ同時に当てられた事で倒れることはなかったが、動きは止まった。

「…」

しかし、その身体は全く傷ついていない。

それは、想像の範囲内。

勝つことは、目的ではない。

あくまで、時間稼ぎ。

「里奈!撃ちまくれ!!!」

「りょーかいっ!!」

夏樹の銃モードの携帯と、固有武器の2丁拳銃。

里奈の固有武器の、マシンガン。

蜂の巣にするかの如く、ヘルガデムを煙に包んでいく。

彼が動こうとすれば、足元を。

体勢を立て直そうとすれば、顔を。

的確に、時間を稼いでいく。

「…この…!どんだけタフなんだこいつは…!」

どれだけ撃ち尽くしても、彼は倒れることはおろか、ビクともしていない。

だが、やめる訳にはいかない。

彼は自分達の攻撃など意に介さずその腕を夏樹に伸ばしている。

「…!来んな…っての…!」

夏樹の顔に、段々と焦りが見えてくる。

弾丸は、無限ではない。

「…く…!」

自身の身体を犠牲にする、それ。

いつまでも持たないというのは、分かっていた事ではあるものの。

よもやここまでとは、思っていなかった。

204: ◆GWARj2QOL2 2017/01/28(土) 21:25:00.71 ID:H/ekkTaiO
…。

「拓海ちゃん…李衣菜ちゃん…!」

拓海と李衣菜を両脇に抱え、必死で走るきらり。

2人の命を預かるきらりは、ある意味最も重要な役割であった。

しかし、彼女の頭の中は夏樹と里奈に対する申し訳なさでいっぱいだった。

自分は、いざという時に戦えない。

頼りにならないのだ、と。

勿論夏樹にも里奈にもそのような思いは無い。

しかし、きらりはきっと自分は助けてもらったのだと、考えてしまっていた。

逃げ出した自分は恥を知るべきだと、自分で自分を責め続けていた。

「…!」

せめて、この2人だけは何としても守り通さなければならない。

その時は、拓海の忠告通り、戦わなければならない。

「…」

だが、あの恐ろしい敵と、戦えるのか。

出来るわけがない。

だから自分は、走るしかない。

自分に出来ることは、これくらいしかない。

悔し涙なのか、悲しさのそれなのか分からないが、彼女は泣く。

だが、巨大すぎる闇は、彼女のそんな思いも無視して踏みにじっていく。

「…ッ!?」

205: ◆GWARj2QOL2 2017/01/28(土) 21:25:40.83 ID:H/ekkTaiO
視界の両端を、何かが高速で横切った。

それらは幾つかの建物に穴を開け、4つ目でようやくその勢いを失った。

「…え…?」

何が横切ったのか。

あまりにも突然過ぎて、混乱する。

「・・・」

左右を、交互に見る。

顔は伏せられ、腕も足もだらしなく下げている。

地面に力無く座り込むその2人。

「・・・」

1人は、明るい茶髪。
もう1人は、長い金髪。

「・・何・・これ・・・?」

それは、1分程前に自分を逃がした、者。

「夏樹ちゃん…?」

怖がる皆に発破をかけ、勇気を出して立ち上がった者。

「里奈ちゃん…?」

血塗れの身体は、起き上がる気配を見せない。

「…そんな…」

現れた本当の絶望に、後退り。

「ッ…」

そして、何かにぶつかる。

「・・・」

下を向けば、見覚えのある影。

「・・・」

最早振り向かずとも、何が後ろに立っているのか、分かる。

「・・・」

これが、死ぬということ。

「・・・」
「ターゲット 木村夏樹 死亡確認」

言葉は、出ない。

考えることは、もうやめた。

「・・・」
「ターゲット 諸星きらり 確認」

…。

206: ◆GWARj2QOL2 2017/01/28(土) 21:26:22.57 ID:H/ekkTaiO
この世界は、作られた世界。

限りなく現実に近づけた、仮想空間。

その為、雨が降る時もある。

丁度この時、強めの雨が降り注いだ。

その雨は、汚れを流し、そして消していく。

それを抵抗することなく受ける者達。

一体のロボットと、そこに横たわる5人の少女。

「ターゲット 諸星きらり 死亡確認」

腹に風穴が開いた巨大な少女。

彼女はその腕を離すことなく、横たわる。

「ターゲット全員 死亡確認…ベルト破壊へ移行…」

ロボットは彼女らをそれ以上攻撃することなく、ケースやベルトを踏み潰していく。

プログラムに則り、行動していく。

「ベルト破壊 完了 全てのシミュレーション 完了」

そして振り向き、またゆっくりと歩き出す。

その後ろで起き上がった1匹の獣と化した少女には、目もくれず。

「…ウ゛ウ゛ウ゛…!!」

唸り声にも耳を貸さず。

「ウ゛ガァッ!!」

飛びかかり、巻きつき、自身を殴りつける少女に、何の興味も示さなかった。

「右腕部 異物発見」

その腕を軽く振り回し、そして元に戻る。

「異物排除確認」

振り回された勢いで叩きつけられた少女は、その血走った目で彼を見る。

理性を失っているからか、動けずとも、動こうとする。

「…!!!」

再び攻撃をしようと、もがく。

「…ッッ!!!!」

その大粒の涙が訴えているのは、果たして何なのか。

誰も、見てくれる者はいなかった。

第七話 終

213: ◆GWARj2QOL2 2017/02/05(日) 22:44:34.50 ID:S031BAzqO
…。

薄暗い、視界。

降り注ぐ、雨。

身体を包む、冷たさと、痛み。

気力は、とうに無くなった。

「…」

身体を起こす事も、周りを見渡す事も出来ない。

「…」

指は、動く。

腕は、上がる。

今、自分はどうなっているのか確かめたくなり、腕を上げる。

「…」

傷だらけの、ボロボロの右腕。

「…」

何かを考える余裕も無いが、その異変に疑問を感じる。

「…」

肌色の腕は、そこにはない。

鋭利な爪と、大きな棘が生えた、灰色の太い腕。

これは、自分のものなのか。

「…」

必死に、濡れた地を這いずる。

周りで横たわっている仲間には、まだ気づいていない。

「…」

べちゃ、と。

転がるように、身体を反転させた。

「…」

ほぼうつ伏せの状態で、顔だけを少し起こし、雨で出来上がった水溜りを見る。

「…」

見慣れた筈の、自身の顔。

「…なに…?」

尖った、耳。

白と黒が反転している、瞳。

著しく伸びた、犬歯。

太くなった、首。

逆立ち、固まった髪。

狼を彷彿とさせる、口。

灰色の、体色。

「…なに…これ…」

李衣菜がそれを自分だと認めるには、恐らく長い時間がかかるのだろう。

じっと見つめていても、それが何なのかを判断出来ずにいた。

214: ◆GWARj2QOL2 2017/02/05(日) 22:45:22.94 ID:S031BAzqO
「…」

混乱し、再び仰向けに転がる。

降り注ぐ雨に対して、瞬きさえもしない。

その中、妙な音が、彼女の耳に入る。

「…」

随分距離は離れている。

しかし、聴こえる。

乾いた固いブーツが、地面を歩く音が。

「…」

雨が降っている為、乾いた音が聴こえるのはおかしい。

だが、それすらも今は考える事が出来ない。

「…」

その音は段々と近付いてくる。

「…」

近付いてくる度、もう一つの音も聴こえてくる。

それは地面が、割れている音。

ヒビが入り、割れていく音。

「…」

そして、音が止まる。

「…」

自分の、すぐ近く。

そこで、音は止まった。

「…だ…れ…?」

「…」

ゆっくりと目を動かす。

鋭利な棘、というより刃が生えた、黒い腕。

というより、全身が黒。

金色の線が引かれた、身体。

腹部にある、金色のベルト。

「…」

その腕が、此方に伸びてくる。

そして、遠のく、意識。

「…」

意識を失う寸前。

彼女は、幻のようなものを見た。

「…」

見知った、顔。

無表情なそれとは裏腹に、優しさと熱血を兼ね備えた、顔。

自身が心を許した、顔。

「…プロデューサー…」

…。

215: ◆GWARj2QOL2 2017/02/05(日) 22:47:02.05 ID:S031BAzqO
時は少し、遡る。

それは、李衣菜がベルトの使い方を理解し、里奈と会ったばかりの頃。

「…」

「…」

携帯に表示された、いくつかの番号の羅列。

「…」

一つは、変身コード。

真ん中二つは、横に表示された携帯を銃へと変えるだろうコード。

「…」

4つ目。

『3821』

そう書かれた、コード。

一度目の変身で、それが何なのかは、無理矢理頭の中に捻じ込まれたことで理解した。

「…これ、なあに?」

「…私、バイク乗れないしなぁ…」

それはあり得ない程のスピードを出す事が可能な、超絶マシン。

そのデータも、頭の中に捻じ込まれていた。

しかし、運転技術はおろか免許も持っていない李衣菜には、どう考えても使いこなせる代物ではない。

「…事故るの、目に見えてるなぁ…」

「…アタシも、そこまで運転に自信あるわけじゃないし…」

そして、里奈もまた、そのように呟いた。

そう感じた2人は、そのコードを使う事をやめ、携帯を閉じた。

216: ◆GWARj2QOL2 2017/02/05(日) 22:47:57.48 ID:S031BAzqO
「んー…何かこう、ちょーどいいのないかなぁ?」

「丁度良い…?」

「ほら、今なんて勝手に運転してくれる車もあるんだよ?」

「…」

随分我儘なヒーローだ、と苦笑する。

最も、免許すらない自分が笑うのもおかしな話ではあるが。

「…」

しかし、李衣菜には一つ心当たりがあった。

「…どうしたの?だりなちゃん」

「ん…」

頭に送られてきた情報。

その中にあった、一つの項目。

「…んー…」

が、自分の記憶力ではそれを思い出すのは難しかった。

「…えっと…何だっけなぁ…?」

「…あ!だりなちゃんだりなちゃん!」

「え?」

そんな中、李衣菜のケースに入っていたマニュアルに目を通していた里奈が、李衣菜の肩を叩く。

「これこれ!えーと…「SB-555 V オートバジン」…?」

「…何それ…あ!」

その言葉を聞いて、思い出す。

自身のベルトの、正式な装着者を守る、サポートメカ。

高性能AIを積まれた、ハイスペックなロボット。

それはバイクにもなり、普段は移動手段として使われるもの。

「これ良いね!ねえねえ!呼べないかな!?」

「…んー…」

正式な、装着者を守る。

「どしたの?」

それに対しての、疑問。

里奈の期待を寄せる顔には、応えられないだろう思い。

「…私、正式な装着者じゃないと思うし…」

「…ん…んー…そっか…」

しかし、こうも様々な情報を送られても、一度には覚えられない。

そこだけは、常人のまま。

やはり、この世は記憶よりも記録なのだろうと溜息をついた。

…。

217: ◆GWARj2QOL2 2017/02/05(日) 22:48:53.09 ID:S031BAzqO
そして時は戻り、ガテゾーンの研究室。

「…」

「…」

主のいない部屋に、二人。

一人は、クライシス帝国最高幹部、ジャーク将軍。

そしてもう一人。

「…ジャーク将軍。これは何事か」

「…」

クライシス帝国首領より派遣された査察官、ダスマダー大佐。

「これは何事かと聞いている」

本来彼が怒りを向けるのはこの部屋の主、ガテゾーンであるのだが。

それを良しとしないジャーク将軍が彼を隠すようにマリバロンの元へと向かわせ、それを自分に向けさせた事も含め、ダスマダーの怒りを買っていた。

「ガテゾーンは、仮面ライダー555のパワーアップ用ツールを自分の部下に装着させたと聞く。其奴が起動したのだろう」

毒煙を撒き散らす、歩く兵器と化したヘルガデム。

その力の影響は目に見えて分かり易い。

部屋は異臭を放ち、辺り一面が溶け、最早研究室としては機能しない程にまで朽ち果てていた。

「…この実験で、ヘルガデムを起動させるまでに至った経緯は?」

「貴様も見ていたのだろう。あの少女達がそれ程までに力を使いこなしたということだ」

「そういうことではない。対RX用兵器を作り上げる事が目的の実験の筈だ。貴方達の兵士達があの子供達を殺し、尚且つベルトまで破壊してしまっては意味が無い」

「彼奴等も打倒RXに命をかけている。こちらの兵士が勝てば、戦うのは彼奴等だということなのだろう」

「それでは実験の意味が無い!!」

「…」

218: ◆GWARj2QOL2 2017/02/05(日) 22:51:11.30 ID:S031BAzqO
「この作戦で最も重要なのは、あの子供達だ。南光太郎は女子供、いや、人間には手出しが出来ない。だからこその人間兵器だというのに貴方達の兵士が殺してしまっては全てが水の泡だ」

「…」

「少女達の戦闘力を極限にまで高め、RXを殺せるまでの力をつけさせた後に洗脳、RXを倒させる」

「…」

「その為に貴方は幹部達にここまでの仮想空間を作らせ、怪人達を再生させたのだろう!」

「…ダスマダーよ」

「…」

「余が選んだ幹部達、そしてその幹部達が選んだ兵士達」

「…」

「彼奴等は再び生を受けた」

「…」

「それを実験の為だけに再び地の底に沈ませよと、申すのか?」

「全ては南光太郎、仮面ライダーBlack RXを倒す為だ」

「…彼奴等では、それは出来ないと?」

「出来ているなら、とっくにRXはこの世にいない。違うか?」

「…」

「…そして、だ」

「…どうした」

「ガテゾーンが選んだ子供達は、ガテゾーンによって作られたコピーのベルトを使用していると聞く」

「…」

「…ならば、聞こう」

「…」

「…本物は何処にある?」

「…」

「ここにあるのは、異臭を放つ機械類だけだ。仮面ライダー達のベルトなど何処にもない」

「…」

「…それどころか、警備の役を担っているチャップ達が死んでいるではないか」

「…」

「あの妙なライダーに夢中で気がつかなかったか!!」

「…余を誰だと思っている。針の落ちた音一つ、聞き漏らしはせぬわ」

「ならば何故こうなっている!?侵入者がいたに決まっているだろう!!」

「…心当たりならある」

「…!?…それは?」

「これを見よ」

「…。…!」

「…ガテゾーンは、計算違いをしていたようだ」

「…成る程…」

「恐らく、あの少女は認められたのだろう」

「…」

「自身が仕える、正規のライダーとして」

219: undefined 2017/02/05(日) 22:54:00.76 ID:S031BAzqO
…。

……。

『おい。いつまで寝てんだよ』

…?

『お前だよ。お前』

…誰ですか?

『…あー…俺の事は…まあいいや』

…?

『お前さ、夢…って…あるか?』

…夢?

『夢だよ。あんだろ。夢』

えっと…トップアイドルで、それでロックで…。

『…結構あんだな』

は、はい。たくさん…。

『なら起きろよ。起きてなくちゃ夢は叶えられねーだろ』

…?

『なあ、知ってるか?』

…何ですか?

『夢を持つとな。時々すっごく切なくなるんだ』

…。

『でも、時々凄く熱くなるんだ』

…。

『俺、夢が無かった時があってよ。その時は他人の夢を俺なりに応援出来れば良いかなってな、自分の人生なんざそんなもんだって思ってたんだ』

は、はぁ…。

『でも、夢を持つと変わるもんなんだな』

…。

『色んな感情が出てきて、生きたいって思うようになるんだ』

…。

『でも、俺は生きられなかった』

…!?

220: ◆GWARj2QOL2 2017/02/05(日) 22:54:56.26 ID:S031BAzqO
『そこからは色んな奴がベルトを使った。でもそいつらも叶えられなかった』

…?

『でも、お前は違うんだろ?』

…貴方の夢って…何だったんですか?

『俺か?…そうだなぁ…』

…。

『真っ白な明るいシャツみたいに、皆の人生が幸せになって欲しい』

…。

『でも、俺は出来なかった』

…。

『お前は夢を叶えろよ』

…え…?

『出来なかった俺の代わりに。そのでっかい夢を叶えろ』

…。

『だから、お前に託す』

…あの、貴方の名前は…?

『じゃあな』

あ、ちょ、ちょっと!?

…。

……。

221: ◆GWARj2QOL2 2017/02/05(日) 22:55:40.53 ID:S031BAzqO
「…ッ!?」

これが漫画ならば、勢いの良い効果音がつくだろう程。

飛び起きるという事を、人生で初めて経験した。

「…」

見た夢は、はっきりと覚えている。

しかし、夢に出た男の顔はぼんやりとしており、分からなかった。

「…?」

そもそも今見たのは、夢だったのか。

それとも、現実だったのか。

「…」

薄暗い景色の中。
立ち去っていった、彼。

「…!」

思い返し、そしてもう一度、今度は跳ね起きる。

夜の中で、降り注ぐ雨。
化け物のような、自分の肉体。

「…ハッ…ハッ…」

思わず過呼吸気味になり、呼吸を整える。

そして一度、自分の手に視界を移し、安堵のため息をつく。

いつもの、自分の細腕。

良かった、と頭の中で思い浮かべる。

222: ◆GWARj2QOL2 2017/02/05(日) 22:56:41.11 ID:S031BAzqO
「…」

辺りを見渡す余裕は、出来た。

「…あ」

自分のすぐ隣に、穏やかな顔で眠る、里奈。

「…里奈ちゃん…」

とても、死闘を繰り広げ続けたようには見えない。

この状況でも、寝ている時は無防備になる。

「…ん…」

二、三回彼女の艶やかな髪を撫でる。

一応年上ではあるが、可愛いと思ってしまったのは、少し失礼だろうかと苦笑い。

「…あれ?」

そこで、違和感に気付く。

「…」

里奈は、ここにいる。

しかし、他の皆は何処にいるのか。

「…?」

もう一度見渡しても、里奈以外の者は見当たらない。

「え…?」

嫌な予感。

頭に過る、最悪の展開。

「…!里奈ちゃん!里奈ちゃん!!」

「…んー…?」

「起きて!里奈ちゃん!!」

「ん、んぇ…何ぃ…?」

223: ◆GWARj2QOL2 2017/02/05(日) 22:57:54.92 ID:S031BAzqO
心地良い快眠から叩き起こされたものの、彼女をしかめっ面にするには足りず垂れ下がった眉と目でその行為に応える。

「…んー…?」

「ヤバいよ!今すぐ起きて!着替えて!」

「ど…どうしたの?」

「みんながいないの!!私達2人しかいないの!!」

「え…え!?」

皆がいない。

考えるよりも先に、本能的に口が開いた。

起きたばかりの頭をフル回転させ、その言葉の意味を理解しようとする。

たまたま自分達以外の人間がいないだけではないのか。

皆外に出ており、自分達を待っているのではないか。

だが、彼女達がそんな事をするとも思えない。

「…あっ…」

「何?どうしたの?」

そして、思い出す。

「…」

思い出し、身体が震える。

「!?…里奈ちゃん?里奈ちゃん!?」

「あ…」

自分と、もう一人。

敵は自分の攻撃など意に介さず、もう一人にのみターゲットを絞る。

当たれば消滅する筈だったあの攻撃も効かず、彼はゆったりともう一人に向かう。

それを助けようと、片腕を掴んだ。

もう一人も、もう片方の腕を掴み、動きを封じようとした。

しかし、その時だった。

彼は両腕を振り回し、虫を振り払うかのように自分達を投げ飛ばした。

それだけならば、自分のように壁に叩きつけられただけで終わっただろう。

しかしもう一人は、そこに、さらに砲弾を撃ち込まれた。

「…」

生きているというのは、希望的観測。

つまり、願い。

「…」

ここにいない、というのは、生きていて何処かに逃げたということか。

それとも、誰かに連れ去られ、死んだ者に用は無いと切り捨てられたのか。

「…夏樹っち…!」

「…」

震える里奈を見て、自分達に何が起きたのかをざっくりとだが想像出来た。

224: ◆GWARj2QOL2 2017/02/05(日) 22:58:44.80 ID:S031BAzqO
「…」

側にいたはずの、仲間。

彼女達が今何処にいるのかは、想像もつかない。

「…」

その上、ベルトすら見当たらない。

「…」

里奈の反応と、ベルトも無いことから察するに分かる、圧倒的な敗北。

「…これから、どうしよう…?」

「…」

その質問に対する答えなど、返せる訳もない。

一気に弱気になった里奈の顔を、李衣菜は見ることが出来ず、視線を逸らす。

「…だりなちゃん…」

だが、藁にもすがる思いで里奈は自分の肩を掴み、揺らす。

何とかしてくれ。

そう訴える里奈を、真っ直ぐ見ることが出来ない。

「だりなちゃん…!」

仲間思いで、優しい彼女。

だが「彼女」は今、崩壊しかけている。

とにかく助けを求める、弱々しい子猫のようになってしまっていた。

「…だりなちゃん…」

「…」

この追い込まれた状況で、自分に出来ること。

最早戦う力は残されていない。

「…」

そう、思っていた。

「…!」

だが、そうではなかった。

225: ◆GWARj2QOL2 2017/02/05(日) 23:00:01.42 ID:S031BAzqO
意識を失っただろう、あの時。

その時に見た、あの毛むくじゃらの腕。

異常なまでに逞しくなった、肉体。

自分のものとは思えない、顔。

「…」

もしも、あれが幻ではなかったとしたら。

「…」

まだ、チャンスはあるというのだろうか。

「…」

ならば、行かなければ。

そう思い、立ち上がる。

里奈も、何も言わず、ひっそりと着いてくる。

だがそれでも、李衣菜に考えがあるわけでもない。

あの姿に任意でなれる保証など、ありはしない。

それでも一縷の望みを李衣菜に託し、必死で着いてくる。

「…」

やがて外に出る。

「…あ」

「あ…」

そこに待ち構えていたかのように。

まるで最初からあったかのように。

「…これ…」

黒と白のモトクロスが、出口の前に置いてあった。

226: ◆GWARj2QOL2 2017/02/05(日) 23:00:46.63 ID:S031BAzqO
『…』

一人でに動くそれは、間違いなく李衣菜の方を向き、ライトを光らせる。

散歩を待っている犬のように前部分を振り、音を鳴らす。

「…里奈ちゃん…」

「…ん?」

だが、一つ問題がある。

仮に、このバイクが自動で動いてくれたとしても。

「…バイクって、どうやって動かすの…?」

「…えええ…?」

エンジンの掛け方はおろか、ハンドルの握りさえも自信の無い李衣菜には、重過ぎる贈り物。

ここまで来て、何ともカッコのつかない事だと、苦笑いする。

「ふーんだ…どーせ私はにわかだよーだ…」

「めんごめんご…でも何か、気が楽になっちゃった」

「…」

「ありがとね」

「…?」

「…だりなちゃんらしく、いてくれて…」

227: ◆GWARj2QOL2 2017/02/05(日) 23:02:23.49 ID:S031BAzqO
…。

顔に、少量の冷たさ。

思わず顔をしかめ、手で拭こうとする。

そのすぐ後に、頬に微かな痛み。

じわりと、滲むような痛み。

そして、聞こえ始める、大きな声。

「…?」

ゆっくりと、目を開ける。

ぼんやりと見えてくる、見覚えのある顔。

「…」

普段はかき上げられたヘアースタイルだが、この世界ではこちらの方が見慣れてしまった。

「…夏樹…ちゃん…?」

「!…良かった…無事みたいだな…」

「え…?」

それは、本物なのか。

「…!」

自分の記憶が正しければ、彼女は、腹部が焼け焦げた状態で壁に持たれ、力尽きていた筈だった。

「…な、夏樹ちゃん…?」

「…」

「本当に、夏樹ちゃん…なの…?」

「…そう…だと思うぜ…」

228: ◆GWARj2QOL2 2017/02/05(日) 23:03:28.91 ID:S031BAzqO
「…そ、そうなのぉ…?」

「…まあ、多分な。自信無いけどさ…」

その体験をした本人だからこそ言える、どちらとも言えない答え。

それこそ、最もリアルな回答だということなのかもしれない。

「…よ、良かったぁ…」

「…そりゃどーも…」

ならば、信じようと胸を撫で下ろす。

「…!」

だが、それを疑問に思うのならば。

「…あ…」

「?」

ならば、自分はどうだと、腹部に手をやる。

「…あれ?」

そこは、いつも通り、何の異常も無い、肌。

「…なあ、きらり」

「…?」

「…正直に教えてくれ」

「…な、なぁに?」

肩を掴む力が強まる。

それだけ真剣なのだという、夏樹の意思表示。

「…ど、どうしたの…?」

「…お前…いや…」

「…」

「…アタシ達って…死んだのか…?」

「え…?」

229: ◆GWARj2QOL2 2017/02/05(日) 23:04:30.69 ID:S031BAzqO
「…」

唐突で、ぶっ飛んだ質問。

死んでいるというならば、今ここにいる自分達は、何なのか。

「…」

だが、夏樹からは自分をからかっている様子は微塵も感じられない。

「…え、えと…」

しかし、思い出してみれば、おかしい事ばかり。

確かにあの時、自分は死んでもおかしくない痛みを味わった。

背中を突き抜け、背骨は砕け、内臓は破裂し、腹に大きな穴が開いた。

その途中で意識は途切れ、そして今目覚めた。

「…」

それを仮に死んだ、とするならば。

何故自分は、自分達は生きているのか。

どのように傷を治し、もう一度心臓を動かしたのか。

そしてどうやって、ここに来たのか。

「…悪い。色々あり過ぎて混乱してるよな」

「…」

あり得ない事は、もう随分体験した。

しかし、ここまでの事はそうそうあることではない。

「…なあ、きらり」

「…?」

だが、夏樹にはそれに関する事で、なんとなく心当たりがあった。

「…もしも、アタシがバケモンになっちまったら、どうする?」

「…え…?」

「もし、お前の身体がバケモンになってたら、どうする?」

「…きらりが…?」

「お前だけじゃない。アタシも、みんなも、だ」

「…どうして?」

「…」

それは、心当たり、というより、確信。

「…」

「…夏樹ちゃん…?」

そう考えれば合点がいく。

寧ろ、そう考えるしかない。

「…もう、なってる奴がいるんだよ」

「…え…?」

230: ◆GWARj2QOL2 2017/02/05(日) 23:05:27.53 ID:S031BAzqO
…。

「…」

「…」

自身の相棒とも呼べる存在の、急激な変化。

「…李衣菜ちゃんが…」

「…アイツも…きっと…」

「…」

その後は、口にはしない。

そうしないのは、察してくれということなのか、ただ認めたくないということなのか。

「…」

「…」

思い返せば自分達は、初めからこうなる運命だったのかもしれない。

「…きらり」

「…?」

しかし、立ち止まってはいられない。

「立ちなよ」

「え…?」

こうなった以上、最早後退は無い。

「ほら、立ちなって」

「あ…」

ただ、前に進むのみ。

「行くよ。みんなの所に」

「…ど、どこに…?」

「…」

目的地を知っているわけではない。

だが、それは恐らく。

「…こいつが、教えてくれるだろ」

「え?…あ…」

歩いて、少し。

2人の目の前に現れたのは、黒地に黄色の線が入ったサイドカー付きの大型バイクだった。

…。

231: ◆GWARj2QOL2 2017/02/05(日) 23:06:20.39 ID:S031BAzqO
「…!」

ようやく見つけた、脚。

「おー!はっやーい!」

現代には考えられない、オーバーテクノロジーを搭載したバイク。

「ちょっ…!もちょっ…もちょっとゆっくり…!!」

「えー?」

乗った直後、彼は引き寄せられるかのように自動で運転を始めた。

まず驚いたのは、その速さ。

人間ならば風の抵抗に逆らえず吹き飛ぶ可能性がある程。

しかし今の自分達には、そよ風にも感じる。

最も、そう考えていたのは運転手のみかもしれないが。

「速い!速い!!」

「ホントだねー☆」

何かのアトラクションにでも乗っているかのような感覚。

凄まじい速度で流れる景色に、李衣菜は目を閉じる。

だが、そのスピードにおいても彼は何かにぶつかることはない。

センサーがついているのか、障害物を捉えた瞬間に避け、その上で最短のルートを辿る。

「…生きてるみたい…」

「…」

意思を持ったように自分達を待ち構え、乗せ、送る。

「…」

一体誰がどんな経緯で開発したのか。

232: ◆GWARj2QOL2 2017/02/05(日) 23:07:16.24 ID:S031BAzqO
「ねえ…」

「…?」

「…罠じゃ、ないよね…?」

「…」

李衣菜の呟いた一言に、里奈は共感せざるを得ない。

「…なら…」

「…」

しかし、このまま敵の本拠地に向かっているのならば。

「…」

それは、こちらとしても本望。

「…やるしか…ないね…」

待ち構えているのならば。

来ることが分かっているならば。

「…」

導くその場所へと、駆け抜けていくだけ。

例え、その先に何が待っていようとも。

「…」

「…」

右のサイドミラーで、確認する。

裏からやって来る、サイドカーの付いた黒い大型バイク。

そこに乗る2人の姿。

「…」

「…」

そして、左のミラー。

白い、超大型の、SFを彷彿とさせるバイク。

そこに乗る、黒い長髪。

「…」

夏樹、きらり、拓海。

それぞれが、導かれる。

「…おい…お前ら…」

その再会に、歓喜は無い。

最早、言葉など不要。

「…喜ぶのは…」

それをするのは。

「…アイツら全員、ぶっ飛ばしてからにしようぜ…!!」

233: ◆GWARj2QOL2 2017/02/05(日) 23:08:42.63 ID:S031BAzqO
視界に入ってきた、敵の本拠地らしき場所。

そこで待ち構える大量の兵隊。

「…」

全員が、拳を握る。

何をするか、確認する必要もない。

「…」

バイクを停め、降りる。

そして李衣菜達が乗ってきたバイクも、そのまま何処かへと消え去る。

「…」

深く、大きく息を吸い、吐く。

「…」

目を閉じ、身体の毛細血管まで集中を行き渡らせる。

「…」

その変化は、クライシス帝国戦闘員達にも、見て取れた。

5人の少女達の身体がみるみるうちに灰色に染まっていき、やがてその細い身体が一回りも二回りも逞しくなっていく。

「…」

多田李衣菜。
藤本里奈。
木村夏樹。
向井拓海。
諸星きらり。

それらだったものは原型を失い、何とも言えないものへと形を変えた。

234: ◆GWARj2QOL2 2017/02/05(日) 23:09:47.98 ID:S031BAzqO
「…」

固まった毛が逆立ち、体毛や爪、牙の生えた、狼のような化け物。

「…」

長い槍を携えた、ライオンの意匠と静かな狂気を感じさせる鎧と顔立ちの、化け物。

「…」

水蜘蛛状の、棘の生えた武器を構える一つ目の化け物。

「…」

龍、というよりも鬼のような角を生やした、強靭で強固な鎧を纏ったパワー特化の化け物。

「…」

大型の剣、というよりは最早鈍器とも取れる、破壊力抜群だろう武器を持った馬の化け物。

それぞれが放つ、尋常ではないオーラ。

それは、殺気。

誰一人として生かす気はないという意思を前面に押し出す。

数ならば、こちらの方が何百倍もある。

圧倒的な数の違い。

負けるわけがない。

そう考えていたチャップ達。

しかし、元居た位置よりも数センチ。

既に後退りを始めた者も何人かいる。

235: ◆GWARj2QOL2 2017/02/05(日) 23:10:49.79 ID:S031BAzqO
「…」

先頭を任されたチャップは、5人の少女、だったものを見て、一番初めに思った事。

自分達は、彼女達を待ち構え、立ちはだかる存在だった筈。

なのに、何故だろうか。

これでは、どちらが立ちはだかる側なのかが、分からない。

自分の手が、震え始めた事に気付く。

「…」

だが、こちらにも逃げるなどという選択肢は無い。

敵前逃亡は、死刑。

「…お前達…」

後ろや、横にいる数百のチャップ達に、若干の震え声で話す。

「…絶対に…通すな…」

言っていることと、その言い方は真逆。

逆に士気を下げてしまうようなその様子。

だが、引くも地獄、進むも地獄。

ならば、少しでも可能性のある方を選ばなければならない。

「…相手はたった5人の…子供だ…!」

だが、そこに子供らしきものはいない。

「…子供なんだ…!」

いるのは、常軌を逸した化け物。

姿形を見る限り、自分達と同等などということはあり得ない。

「…い…行くぞ…!」

精一杯高く、利き腕を上げる。

だが、その腕はメトロノームのように大きく震えていた。

236: ◆GWARj2QOL2 2017/02/05(日) 23:11:50.73 ID:S031BAzqO
「…なんだか、着ぐるみでも着てるみたいだな…」

水蜘蛛状の武器を持った夏樹が、己の身体を見渡し、語る。

「おー…何だかたくみんかっこよー☆」

「だろ?…いや知んねーけど…」

これから繰り広げられる戦争を前に、彼女達はお互いの姿を見て感想を述べている。

「…」

「…っつーかお前なんだよそれ。馬か?」

「…むぇー…もちょっとかわゆいのが良いにぃ…」

「…その姿で喋んなよ…」

だが、それくらいが丁度良い。

自分達は、ヒーローなどという大それたものではない。

ただの、女子高生達。

「やっぱり、背伸びなんかするもんじゃないね」

李衣菜のその一言。

それは皆、共通して思った事。

「泥臭い方が、アタシ達らしいってもんだ」

その背中をポン、と叩く。

「…さーて…肩慣らしと行くかァ…」

それを合図に、拓海がぐるりと腕を回す。

「肩慣らし…ねぇ…」

地面に突き立てた槍を引き抜き、構える、里奈。

瞳の奥がギラリと光り、チャップ達を映す。

「…なれば、良いけどね…!」

それがどういう意味なのか。

若干気の抜けた声だったことで、それは良く、伝わった。

「…おい。だりー」

「?」

再び、夏樹が李衣菜の背中をポンと叩く。

機から見ればそれは、蜘蛛の化け物が狼の化け物に話しかけているだけの恐ろしい光景だが。

「やれよ。お前が」

「…?」

しかし、彼女達には分かる。

いくら化け物になったとしても。

「合図だよ。戦いの」

「…合図…」

「そうだよ。お前がリーダーなんだからな」

「えっ?」

その優しい顔は、見える。

237: ◆GWARj2QOL2 2017/02/05(日) 23:13:06.25 ID:S031BAzqO
「わ、私が?」

「そうだろ。…ま、頼りないけどさ」

「えー…」

「ほら、早くしろよ。みんな待ってるぜ」

「…」

右、左。

4人の、仲間。

団結力も、力も十分。

「…里奈ちゃん」

「んっ☆」

「…拓海ちゃ、さん…」

「ん。…ん?」

「…きらりちゃん」

「はーい☆」

「…」

「…」

「…なつきち」

「…ん」

「…みんなで一緒に、帰ろうね」

「…当たり前だろ」

「…」

「…」

一人、前に進む。

「…!」

大きく、大きく、ひたすら大きく、長く。

息を吸い、思いっきり、吐く。

「…」

これは、緊張ではない。

「…」

勿論、楽しみでもない。

「…ン…」

これは、中途半端な感情。

「…行ッッッ……!!!」

等身大の、正義感だ。

「ッッッ…くぞぉぉぉぉぉおおおおおおおおおお!!!!!」

238: ◆GWARj2QOL2 2017/02/05(日) 23:14:08.98 ID:S031BAzqO
李衣菜の叫びに呼応し、4人が駆ける。

李衣菜もまた全速力で駆け抜け、チャップ達が数メートル進む間に距離を詰めてしまった。

その爪とダッシュ力で、その直線上の相手全てを切り裂き、抜ける。

「!…やるじゃねえか李衣菜!」

その腕の一振りで、一気に何人ものチャップ達の上半身と下半身を分け、弾き飛ばす拓海。

その鎧にはチャップの剣など通らず、逆に折れていく。

その後ろで大剣を振り回す、きらり。

きらり自身の意思なのか、切れる程の鋭さは無く、鈍器と化した、それ。

しかしそれでも兵器として相違ない程の威力。

掠っただけでも、チャップの腕はもぎ取られ、空に舞う。

「そー…れっ!!」

ひと突きで、数人。

串刺しにした後、槍を無理矢理上げ、切り裂く。

ライオンの意匠に恥じることない腕力と脚力。

空をバッタのように跳び回り、蜂のように刺していく。

「どこ見てんだ…よっ!」

その武器でもって、相手を切断、ではない。

それは両断出来る武器ではなく、ブチブチと繊維を千切りながら切り裂いていく。

それが出来るのは、その怪力と、迷いの無い性格の為。

239: ◆GWARj2QOL2 2017/02/05(日) 23:14:59.98 ID:S031BAzqO
「でぇやああああああああ!!!」

それぞれが、それぞれの固有の武器を持ち、振るう中、李衣菜はその格闘能力のみでもって戦っていた。

殴り、蹴り。

切り裂き、投げ飛ばす。

チャップのマスクのゴーグル部分に爪を突っ込み、抉る。

言うなれば、今の彼女は全身が武器。

追い込まれた状況下で鍛え上げられた彼女の近接格闘術は、戦闘員に過ぎない彼らにはあまりにも強大。

血飛沫を上げ、おもちゃの人形のように軽々と弾き飛ばされる。

次々と屍と化していくチャップ達を足場に李衣菜達は、本拠地に向かって一直線に、跳んだ。

「!?」

だが、こうなる事は、向こうの想像の範囲内。

ならば、第二、第三の手は打つべき。

「多田李衣菜 藤本里奈 木村夏樹 向井拓海 諸星きらり 確認」

跳び上がった先で見たもの。

「直ちに撃破する」

肩から2門の、砲台。

それは自分達にトドメを刺した、あの大魔神のようなロボット。

「行動、開始」

「!!」

240: ◆GWARj2QOL2 2017/02/05(日) 23:16:05.87 ID:S031BAzqO
ヘルガデムの放った強烈な砲撃。

地面に着弾後、凄まじい音を上げて大爆発を起こす。

その衝撃で5人は吹き飛ばされ、再び戦闘員の大群の中心へ放り出される。

「痛ったぁ…」

「…またあいつかよ…!」

「っ痛ー…おい里奈!もっとマシな方法あっただろーが!!」

「しょーがないじゃん!!」

直撃は免れた。

ヘルガデムが5人をロックオンした瞬間、里奈がそのリーチでもって4人全員を無理矢理センサーから外し、避けさせた。

腹部への突然過ぎる衝撃に痛みを隠しきれず文句を言ったものの、直撃するよりは遥かにマシだと言える。

着弾した地面は陥没し、その威力を物語る。

「…」

喰らっていたら、少なくとも動く事は不可能になっていた。

「…り、里奈ちゃん。ありがとにぃ…」

「ん!」

その感情を素直に表したのは、きらり1人だけだったが。

「…」

だが、残り3人が素直でないという訳ではない。

「…」

正直、それどころではない。

「…ちょっと…」

周りを見渡す。

先程よりも増えたかもしれない程の量。

「…やばいんだけど…!!」

それだけならば、まだ良い。

「…」

倒した筈の4体のロボットが、操り人形のように機械的に歩いてきている。

241: ◆GWARj2QOL2 2017/02/05(日) 23:16:50.98 ID:S031BAzqO
キューブリカン。
ガンガディン。
メタヘビー。
デスガロン。

倒した筈の彼らが、戦闘員を引き連れて向かってきている。

だがその動きに、前のような意思は感じられない。

「…ただの箱…か…」

「だけど…ヤバイよね?」

だがそれでも、今の自分達にはかなりの驚異。

今の状態で、戦えるのか。

「…」

「…やるしかねーだろ…!」

それでも戦闘態勢を取り、5人がお互いに背を向ける。

互いの背中を自然と預ける。

「…!」

かく汗は、暑さのせいではない。

寧ろ身体は冷え切っている。

自分達の勝つビジョンが見えない事から来る、冷や汗。

「…」

どうすれば良いか。
どのように戦えば良いか。
というより、逃げれば良いのか。

頭の中で考えに考え、打開策を練る。

だが冷静になれないこの状況で、それは無理だというものだった。

「…!」

こうなる事は、想定の範囲外。

あまりにも数が多く、倒した者まで復活しているとなれば、計算は大きく狂う。

「…!」

思わず死を覚悟する。

「…」

だが、その時だった。

242: ◆GWARj2QOL2 2017/02/05(日) 23:17:51.92 ID:S031BAzqO
「!!」

突如、目の前のチャップ達が銃弾の雨に降られ、倒れていく。

「…え…?」

自分達の周りの者達が将棋倒しのように崩れていく。

「…?」

一体、何が起きたのか。

「…あ!」

一番初めに気づいたのは、李衣菜。

「…あ、あれ…!」

「!?」

上空、数十メートル。

そこに現れた、一体のロボット。

「…!」

見覚えのあるカラーリングと、刻まれたマーク。

「あれ…って、もしかして…」

前の面影は全く無いが、二つのタイヤとその顔部分。

「アタシ達が乗ってきた…バイク?」

人型となったあのモトクロスが、上空からマシンガンを撃ち、戦闘員達を倒した。

そこから推測するに、彼は敵ではなく、味方。

「…」

そして彼は、背中にかけていた一つの大きな袋を李衣菜に投げた。

「うわっと!…え、え?」

「…な、何だ?」

「…」

そしてまた、ひたすらマシンガンを撃ち続ける。

それは、まるで時間稼ぎ。

言葉を発する機能は無いのか、行動でもって示す、意思。

243: ◆GWARj2QOL2 2017/02/05(日) 23:18:50.21 ID:S031BAzqO
「…まさか…?」

夏樹が袋の紐を解き、中を確認する。

「…」

そして、直ぐにそれが何かを理解する。

「…へぇ…」

そして、彼がそれを持ってきた理由も、察する。

「…こりゃ、誰か正義のヒーローが助けてくれる訳じゃなさそうだな…」

そして、そこに入っていた黒と黄色のベルトと、携帯電話を手にする。

李衣菜達もそれに続き、自身が使っていたそれらを手にし、腰に巻く。

「…いーや…」

素早く携帯電話を開き、コードを入力。

「…十分だよ…!」

『STANDING BY』

携帯電話を掲げ、胸元で構え、握り締め、両手で持ち、銃を口元まで上げ。

皆が各々のやり方で、気合いを入れ。

一度大きく息を吸い、目を閉じ。

「…」

そして、カッと開く。

「「「「「変身!!!!!」」」」」

244: ◆GWARj2QOL2 2017/02/05(日) 23:19:41.76 ID:S031BAzqO
赤。
黄色。
白。
青。
黒。

様々な色の光が混ざり合う。

周りのチャップ達もその眩しさに目を覆う。

ロボット達もその異常に気づき、動きを一旦止める。

「…」

そして、姿を現す。

「…」

今までとは違う。

「…」

全身を包む、アーマー。

「…」

頭部を包むそれは兜ではなく、仮面。

「…」

その姿を見たヘルガデムのセンサーが、新たな反応を感知。

目の前の5人の少女のデータが自動で更新を行った。

「実験体5号~9号 オリジナルのベルト使用…」

それは、ガテゾーンによって入力されたデータ。

「5号 仮面ライダー555。6号 仮面ライダーカイザ。7号 仮面ライダーデルタ。8号 仮面ライダーサイガ。9号 仮面ライダーオーガ、確認」

245: ◆GWARj2QOL2 2017/02/05(日) 23:20:40.64 ID:S031BAzqO
「…仮面ライダー…ねぇ…」

「…ライダーじゃないのが2人いんだけどな…」

「も、もう!今はそれ禁止!!…っていうかその顔何!?」

「あ?…あー…まあ、仮面ライダーってんだから、仮面なんだろ」

「わー!何か髪の毛背中に引っかかってるー!!」

「…っつーかきらり!てめーだけなんでそんなマントついてんだよ!」

「わ、分かんないにぃ…」

三者三様、ではなく五者五様の、反応。

「?…うわっ!?」

その様子を見ていた人型バイク、オートバジンがようやく李衣菜の元に降り、そしてバイク形態へと戻る。

「…な、何だァ?」

「…」

他の者達には分からない、その行動。

だが、李衣菜には分かる。

「…んっ」

オートバジンの右ハンドルを引き抜く。

そこから現れる、赤色の剣。

「…ほー…」

「…」

李衣菜はこの時、あの夢を思い出していた。

あの男の顔は相変わらず思い出せないまま。

しかし、疑問が一つ、解決された。

「…」

あの男こそが、正規の装着者だったのだろう、と。

「…どなたか、分かりませんけど…」

その剣を握り締め、その男に語りかけるように、呟く。

「…ちょっとだけ…!」

そして、剣をヘルガデムへと向ける。

続いて他の者達も、他のロボット達に向かって構える。

それは、二度目の戦いの合図。

「…ちょっとだけ、お借りします!!」

何とも李衣菜らしい、火蓋の切り方だった。

第八話 終

249: ◆GWARj2QOL2 2017/02/19(日) 21:02:26.26 ID:X3wnOaF5O
「…」

向かい合う、5人の少女と、5体のロボット。

それを囲む、戦闘員の大群。

「…」

その光景を静かにモニターで観察する、2人組。

「…」

「…」

「…」

クライシス帝国最高幹部、ジャーク将軍。

監察官、ダスマダー大佐。

彼らは5人がここに来ることを想定し、チャップを増員、そして怪魔ロボットを急遽復活させ、臨んだ。

「…まさかハンガーに置いてあったバイク達が自らの意思で起動するとは…」

「…」

「…これも、ライダーの力の一旦ということですかな?ジャーク将軍」

「…」

「分かっているとは思うが、あの少女達を殺すことは許されない。もしヘルガデムが彼奴等にトドメを刺そうとした時には…」

「案ずるな。その時には余が自ら止める」

「それで良い。あの5人を失えばクライシス帝国首領のお怒りを買う事は間違いない」

「…」

「…後はあの少女達が、何処まで戦闘力を高められるか、だ。フフ…」

「…」

…。

250: ◆GWARj2QOL2 2017/02/19(日) 21:03:11.55 ID:X3wnOaF5O
…。

皆、打ち合わせをしたわけではない。

それでも皆、まるで決まっていたかのようにそれぞれのロボットの前に立つ。

「…」

一陣の風が吹き、均衡状態が続く中、ヘルガデムと相対する李衣菜の肩に夏樹の手が置かれる。

「だりー」

「?」

その手には、手首に装着する、555専用ツール。

「使いなよ。お前のもんだ」

「…これ…」

「あいつをぶっ飛ばす用だよ。分かるんだろ?使い方」

「…うん」

それを夏樹から手渡される。

すると、そこに拓海が背を向けたままに声を掛ける。

「おい」

「?」

「…多分、この軍団の大将はアレだ…」

「…」

「…本来そういう奴はこのアタシがすっ飛んで、ぶっ飛ばしてやりてーところだ、が…」

「…」

「そうしたいのは、アタシだけじゃあねぇ」

「…」

視線を拓海から、移していく。

背を向けてはいるが、残りの3人。

3人とも何かしらの因縁があるのか、腕が震える程拳を握り締めている。

「…」

「それをお前に譲ってやるってんだ」

「…拓海さん…」

「…良いか」

「…は、はいっ…」

「…」

「…」

「…ぶっっっ壊せ!!!!」

251: ◆GWARj2QOL2 2017/02/19(日) 21:03:59.19 ID:X3wnOaF5O
「!」

「行くぞお前ら!!」

「はいよ」

「はーい☆」

「きらりんぱ…っわー!!」

「…」

ぶっ壊せ。

そう言って拓海達は戦闘員の海の中へ飛び込んでいった。

「…」

彼女らしい、簡潔な一言。

「…」

だがその一言は、単純なものではない。

負けるな。
下がるな。
逃げるな。
引き分けもするな。
勝て。
殺せ。
圧倒的な勝利を収めろ。

「…」

一体のロボットにさえもあれ程苦戦したというのにも関わらず、言ってくれるものだ、と思う。

「実験体5号 多田李衣菜 確認」

目の前に仁王立ちする全身赤色のそれは、間違いないなく大魔神そのもの。

「…名前、言わないんだ」

「撃破後、オリジナルベルト破壊」

「…」

話を聞こうとしないのではない。

聞く機能を失っているのだ、というのはほぼ初対面だろう自分でも分かる。

「…悪いけど、このベルトは借り物だから…」

「撃破行動、開始」

「…傷つけさせやしないよ!!」

252: ◆GWARj2QOL2 2017/02/19(日) 21:04:40.71 ID:X3wnOaF5O
「えいっ!!」

一度殴れば、10人が吹き飛び。

一度蹴れば、20人が弾き飛ぶ。

「…!」

殴れば、殴る程。
蹴れば、蹴る程。

きらりの末端神経を通して伝わってくる。

相手の骨が砕け、内臓が破裂する感触。

人、ではないのだろうが、今自分は、大量に、生命を奪っている。

人を傷つけてはいけない。

肉体的にも、精神的にも。

そう誓ってきた筈の自分が、こうして殺戮を繰り返している。

矛盾している。

彼女自身も、それは分かっている。

だが、こうしなければ。

こうされるのは、自分達。

自分以外の仲間が、こうされてしまう。

「やあああああっ!!」

だからせめて、一発で。

一瞬の苦しみだけで、終わらせなければ。

それが、今自分に出来る事。

「…ん…にっ!!」

構造は人間と同じなのか、心臓を強く叩くと動かなくなる。

「…やっ!!」

首を捻れば動かなくなる。

戦いながら、やり方を覚えていく。

そんな自分が、何よりも嫌だったのだが。

253: ◆GWARj2QOL2 2017/02/19(日) 21:05:22.74 ID:X3wnOaF5O
「!」

戦闘員に囲まれ、渦を巻き始めた時、弾丸の雨。

咄嗟にガードをし、防いだ。

「…」

生身なら、身体が蜂の巣になっていただろうが、不思議と痛みはない。

それ程までに、このアーマーが固く、それでいて柔軟だということ。

「…!」

向こうからガタガタとキャタピラを回しながら近づいてくる、重戦車。

李衣菜が一番最初に相手をしたロボット、キューブリカン。

「…」

彼、そして彼らは自我を失い、プログラムに則って行動する、真のロボットとなった。

「…!」

キューブリカンは戦闘員を気にすることなく、弾丸を勿体ぶる事なく一斉放射した。

味方を撃つことなど、きらりには考えられない話。

だがそれは、撃ったのではない。

「…」

撃つように、プログラムされている。

彼を作った、何者かに。

「…ごめんね」

「…」

「…嫌だよね。自分の身体なのに、自分で動かせないって…」

「…」

奇しくも、自分も一度は同じ境遇に遭った。

目の前にある手や、足が動かせない。

まるで縛り付けられながら、3D映画を観ているような感覚。

そこに楽しみなど、これっぽっちもなかった。

最も、彼らにその感情があるかどうかは知らない。

254: ◆GWARj2QOL2 2017/02/19(日) 21:06:08.99 ID:X3wnOaF5O
「…きらりはね、本当は戦いたくなんかないの…」

殴りたくない。
傷つけたくない。
殺したくない。

「傷つけるのは、いけないことなんだにぃ…」

目の前にいる敵さえも、それは同じ。

「…でも、いけないことなら…」

仮に、そうだとしたならば。

「…きらりが、やるから…」

その業を、背負うのは、自分で良い。

「戦うことが罪なら、きらりが背負うから…!!」

「…」

その言葉は、彼に届いているのか。

仮に届いていないとしても、今のきらりには関係無し。

「…」

「!!」

先に沈黙を破ったのは、キューブリカン。

再び弾丸の嵐がきらりを襲うが、彼女は急所のみをガードし、進む。

「…!」

痛くない訳がない。

この勝負が終わった後の自分の身体は見たくない。

「ッ…!」

それでも、前に進む。

そして、ミッションメモリーをオーガストランザーと呼ばれる短剣に装填。

柄を折り曲げ、拳銃の要領で構える。

痛みに耐えながら、携帯のENTERボタンを、ゆっくりと押す。

これは、第一歩なのだ、と。

「…」

『EXCEED CHARGE』

「…」

キューブリカンは、それを避けようとしない。

避ける選択肢がプログラムされていないのか、それとも。

「…さよなら…」

「…」

何故か、同情を感じてしまいながらも、きらりは引き金を引いた。

「…」

「…」

一瞬の静寂の後にキューブリカンは金色の光に包まれ、消えた。

少しの痕跡も残すこともなく。

…。

255: ◆GWARj2QOL2 2017/02/19(日) 21:07:17.29 ID:X3wnOaF5O
…。

「…ッッラァ!!!」

蹴った相手の首の骨が砕ける感触。

「どーだ!!拓海式喧嘩殺法、思い知ったkおわっと!!」

一撃与えれば、倒れる。

しかし次から次へと雪崩のように流れ込んでくる戦闘員に拓海は、銃一つと肉弾戦だけでは頼りなく感じ始めていた。

「!?…てめっ…!何処触ってんだコラァ!!」

いくら好戦的な拓海とはいえ、ここまでの経験は無い。

「離せって…!…この…!」

揉みくちゃにされながら、デルタフォンを口元に持っていく。

「…ッ!」

自分には、武器と呼べるものは少ないかもしれない。

だが、それよりも強大なものがある。

「『3821』!!」

『Jet Sliger Come Closer』

それは、兵器。

256: ◆GWARj2QOL2 2017/02/19(日) 21:08:15.81 ID:X3wnOaF5O
拓海が呼んだそのバイク、というよりマシンは、彼女が1人、目を覚ました際に、目の前に置いてあったもの。

それが自分のものだと感じたのは、一度目の変身の時に捻じ込まれた知識のおかげか。

見た目にも驚いたが、拓海が一番驚愕したのは、そのスペック。

それと、複雑過ぎる操縦方法。

素人にはまず扱えるものではない。

ならば、自分はどうか。

果たして、この暴れ馬を手懐けられるのか。

「…来い!」

海を真っ二つに切り裂きやって来る、超大型バイク。

そのマシンの名前は、ジェットスライガー。

「オラァッッ!!」

周りの戦闘員を薙ぎ倒すジェットスライガーに自身もぶつかる寸前、ギリギリで飛び乗る。

「…!!」

ここまでやってきた時とは違い、全速力を出す。

そのスピードは、やがて衝突の衝撃すら感じなくなる程。

「ふん…うぎぎぎぎ…!!!!」

両手に力を込め、左右のハンドルを回す。

「ふんぬぬぬぬぬぬぬ…っ!!!」

小回りが効かないという弱点を抱えているからか、タイヤと地上の設置面から火の粉を撒き散らし、何とか無理矢理旋回することに成功。

そして、再び海へと向ける。

「…行くぞ…!」

すでにジェットスライガーはボディの至る部分に戦闘員達の体液と思しきものを付着させ、本来の色が殆ど見えなくなっている。

「行くぞおらぁぁああああああああ!!!」

大声と共にアクセルを踏み、けたたましい爆発音を出しながら猛スピードで海の中へと走る。

「オラァォァァァァアアアアアアア!!!」

その最高速度、時速1300km。

257: ◆GWARj2QOL2 2017/02/19(日) 21:09:01.40 ID:X3wnOaF5O
あまりにも直線的な突進。

しかし、それだけではない。

「逃がさねぇ…ぞっ!!!」

操縦席にあるボタンを押し、搭載されたミサイルを放つ。

何とか避ける事に成功した者も、その攻撃に巻き込まれ、吹き飛ばされる。

「ヘッ!見たか馬鹿野郎!!」

ブレーキを掛け、後ろを向く。

「ん?」

そして、下を見ると、いくつかの影が自分の頭上にあることに気付く。

その影は少しずつ大きくなっている。

「…まさか!?」

はっとして振り向く。

「…ッ!?やべっ…!!」

そこには、無数のミサイル。

そして、そのミサイルを発射したのは。

「…てめぇ…!」

怪魔ロボット、ガンガディン。

彼によるミサイル攻撃に拓海が気付いたのは、直撃する寸前だった。

258: ◆GWARj2QOL2 2017/02/19(日) 21:09:49.09 ID:X3wnOaF5O
「うがあっ!!!!」

ガンガディンの攻撃の直撃に耐えられず爆発するジェットスライガー。

本能的にバックをしたからか、自身のダメージは軽減された。

「…こ…のォ…!!」

だがそれでも即座に立ち上がるのは容易ではなく、手を使って立ち上がる。

「…」

破壊され、燃えるジェットスライガーの向こう側で、ガンガディンがこちらに肩の砲台と、両腕のビーム兵器を向けている。

「…!」

その腕が光る前に察した拓海は跳び上がり、近くの家の屋根に飛び移る。

「…」

瞬間、放射されるビームとミサイル。

「ハッ!構えりゃ撃ってくることくらい分かるってんだ!!」

こちらにゆっくりと向きを変えるガンガディンを小馬鹿にしながらベルトのバックル部分からミッションメモリーを引き出し、デルタフォンに装填。

そのまま口元に持っていき、言い放つ。

「CHECK!!」

259: ◆GWARj2QOL2 2017/02/19(日) 21:10:41.37 ID:X3wnOaF5O
『EXCEED CHARGE』

ベルトからデルタフォン、デルタムーバーにフォトンブラッドが送られる。

「てめぇらロボットはなぁ…」

そして構え、ガンガディンに向かって、放つ。

三角錐状の強烈なエネルギーがガンガディンを襲い、動きを封じる。

「ソフバンで人間と話してりゃあ良いんだよ!!!」

そのまま急降下。

「…」

「喰らえええええええええ!!!」

そして、その光る片足で、ガンガディンを貫く。

「…お…っとぉ…」

そして着地し、振り向く。

「…」

既に炎に包まれ、灰化しかけているガンガディン。

機能は、もちろん停止している。

「…こいつ…」

だがその姿に、拓海は少し疑問を感じていた。

「…わざとか…?」

両腕を開き、まるで自分を受け入れるような様子。

おかしい、と思いつつも拓海はまだ戦っている仲間の元へと走り出した。

…。

260: ◆GWARj2QOL2 2017/02/19(日) 21:11:21.51 ID:X3wnOaF5O
…。

「おりゃー!!」

空を自在に飛び回り。
地上の者全てを自由に攻撃する。

フライングアタッカーから繰り出される光弾の雨に戦闘員達は逃げる術も無く、次々と貫かれていく。

「来れるもんなら来てみろやーい☆」

縦横無尽に空を駆け回る里奈は、チャップ達にとって天敵。

大量にいた彼らはものの数分も持たずに灰と化し、地上はいつのまにか彼らだったもので覆われていった。

「…!」

だが、その中で唯一、その光弾を喰らってもビクともしない者。

「…」

周囲が静かになったのを確認し、地上へと降りる。

「…」

飛ぶことはおろか、遠い敵を攻撃することすら不可能の、近距離専用ロボット、メタヘビー。

その代わりに、圧倒的なパワーと装甲、安定性を兼ね備えており、里奈達の攻撃はほとんど通用しない。

事実、李衣菜の全力で放った拳でもコンマ1ミリもズレる事なく、耐えてみせた。

「…やっとかぁ…」

そんな強敵であるにも関わらず、里奈は困る様子を見せない。

261: ◆GWARj2QOL2 2017/02/19(日) 21:12:13.31 ID:X3wnOaF5O
「…」

「…」

両者の間に、会話は無い。

一方は、持っていた感情全てを消去された為。

そしてもう一方は、持っている感情全てをぶつけたい為。

「…」

忘れもしない、あの戦い。

勝ちこそしたものの、自分の目の前で極限にまで傷付けられた友人。

これは、その因縁の相手。

「…よーやく、だね…」

仮面の下で、彼女はニヤリと笑う。

「よーやく、アンタをぶっ飛ばせる…」

あの時は、李衣菜が彼を打ち破った。

だが、今は違う。

彼女の怒りは、少しも治まっていなかった。

「…行くよ…!」

爪先に、力を込める。

バックパックに手を掛ける。

「…」

メタヘビーも自動的に構え、里奈の出方を探ろうとしている。

「…ン゛ン゛ン゛…!!!」

脚の力が地に伝わり、ヒビを入れる。

「…ダリャァッッ!!!!」

フライングアタッカーの推進力と、爪先の力。

ヒビ割れたコンクリートの床が砕け、その速さと強さを伺わせる。

262: ◆GWARj2QOL2 2017/02/19(日) 21:13:12.37 ID:X3wnOaF5O
「…」

「デエエエリャアアアアアアア!!!」

メタヘビーが右腕を振り上げ、里奈をはたき落とそうとするも、その速さのせいか、動きが間に合わない。

センサーが里奈を感知し、それをメモリーに伝え、最善の行動を計算してから動く「今の」方法では、彼女を捉えられない。

「…」

金属と金属の、激しい衝突音。

あまりの衝撃に、鼓膜が破裂しそうになる感覚。

「…ッ!!!」

だが、里奈はそれでも耐えた。

仮面の下で額が割れ、血が垂れても。

「…」

その威力がどれ程絶大なものか。

凹んだメタヘビーの頭部が、それを物語る。

「…」

「!!」

両腕が動き、里奈を捕まえる。

「…」

このままサバ折りをするつもりなのか、そのまま里奈をギリギリと絞め始める。

「…!!」

だが里奈はお構いなしに頭を振りかぶり、再びメタヘビーの頭部へと頭突きを繰り出す。

何度も何度も、同じ箇所に向かって額をぶつける。

「…」

「…ッ…!!」

やがて仮面が割れ始め、中から里奈の血塗れの顔が見える。

「…もう…」

「…」

「…一回ィ!!!」

そして、ダメ押しと言わんばかりにそのまま頭突き。

仮面は上半分が完全に割れ、顔が露わになる。

「…」

だが、ダメージを負ったのは里奈だけではない。

ふらつきながらも脱出に成功した里奈と、半分の大きさになるまで頭部が凹んでしまい、完全に両腕を離してしまったメタヘビー。

263: ◆GWARj2QOL2 2017/02/19(日) 21:13:56.62 ID:X3wnOaF5O
「…石頭なら…」

「…」

「…石頭なら、こっちのステージだよ…!」

頭部の損傷で思考回路に異常をきたしたのか、動きがぎこちなくなったメタヘビー。

それを見て、すかさず携帯のENTERボタンを押す。

『EXCEED CHARGE』

フォトンブラッドがベルトから足先へと伝わる。

「…行くよっ!!」

ツールを使わない分、他の者よりもそのスピードは速い。

力任せに蹴るとともに足裏から青白い三角柱型のエネルギーが出現し、彼の腹部を抉る。

「…」

だがメタヘビーは苦しむ様子を見せない。

ぴくりとも身体を動かす様子も無く、だらりと腕を下げる。

「…ッ!」

その様子に歯を食いしばる。

しかし、彼を倒さなければ仲間の元へは行けない。

「…ッダアアアアアアアアアアア!!!!!」

そのまま、ロケット花火のようにメタヘビーの身体を貫く。

「リャアアアアアアアアアア!!!!!」

その勢いは止まることなく、貫いた後も地上を駆ける。

264: ◆GWARj2QOL2 2017/02/19(日) 21:14:59.24 ID:X3wnOaF5O
「…ハァッ…!ハァッ…!」

後ろから、燃え盛る音が聴こえる。

それは、彼が機能停止した、つまり死んだということ。

「…ハッ…!ハッ…!」

結局彼は、一言も喋ることなく、そのまま粉になった。

「…」

これは、勝利。

「…」

戦って得た、喜ぶべきもの。

「…」

しかし、心は晴れることはない。

殺した事がどうということでは、ない。

それならば、戦う資格は無い。

「…何で…!」

だがこれは、「彼」に対する勝利なのだろうか。

「…何で…一言も喋らないの…!」

自身が憎んだ彼は、もっと挑発的で、プライドに満ち溢れた戦い方だった。

このような、受身の戦い方ではない。

「…アタシが…」

それは、彼が彼でないことの証明。

「…アタシがぶっ飛ばしたいのはアンタじゃない…!」

彼の皮を被った、違う者。

「…!」

それだけなら、まだマシだったかもしれない。

最後、里奈の攻撃を喰らう時、それを受け入れるかのように腕を下げた動き。

それは、機械の故障などではない。

間違いなくメタヘビーは、意図的に下げた。

「…何で…?」

それは、こう訴えているようにも見えた。

「…何で、もうちょっと抗えないの…?」

『殺してくれ』、と。

…。

265: ◆GWARj2QOL2 2017/02/19(日) 21:16:01.26 ID:X3wnOaF5O
…。

「そー…」

猛スピードで直進。

前輪に急ブレーキをかけ、捻って急速回転。

「らっ!!」

振られる後輪で、戦闘員の顔を砕く。

「まだまだっ!!」

再び走らせ、撥ねる。

「こっちのテクなら…」

そしてまたブレーキをかけながら高速回転。

コマ回しのようになり、その勢いで戦闘員達を薙ぎ倒していく。

「アタシが一番なんでね!!」

長年、というよりは天性のもの。

高度な運転技術を戦闘に置き換える事も、彼女にとっては難しいことではなかった。

しかし、戦う対象はこれだけではない。

それは、彼女も重々承知していた。

「…!」

撥ね飛ばされた大群の1人をビームが突き破り、夏樹に飛んでくる。

それを回転させる事で避け、発射地点を確認する。

「…」

向こうから銃を構えた一体のロボットが、こちらに歩いてくる。

装備されていた左腕のツールは、無い。

「奪っといて正解だったみたいだな…」

「…」

「!」

266: ◆GWARj2QOL2 2017/02/19(日) 21:17:07.57 ID:X3wnOaF5O
「…」

「今度は名乗りも無しかよ…!…って、そうだよな…」

次々と放たれるビームを間一髪で避けながらお返しとばかりに武器、カイザブレイガンを発砲。

しかし彼もまたその光弾を腕で弾き返す。

「…」

歩く兵器。

怪魔ロボット達に相応しい呼び名。

自分の武器よりも、遥かに強力な武器。

彼、デスガロンはそれに加え驚異的な反応速度と背中に隠した鋭利な爪、圧倒的なパワーを誇る。

「…ったく…ズルいもんだよな…」

「…」

「…ま…アタシもだけどな」

「…」

「「2」対1だけど、恨むなよ?」

ポン、と今の愛車、サイドバッシャーに手を置く。

デスガロンも背中の爪を展開、構えの姿勢を取る。

「…行くぜ」

右手の親指で操縦部分のボタンに触れる。

「…」

「…!」

267: ◆GWARj2QOL2 2017/02/19(日) 21:18:36.26 ID:X3wnOaF5O
本能か、それとも搭載されたカメラが自動的に追っているだけなのか。

展開、変形し、巨大化し。

デスガロンは、まるで大型の肉食恐竜のような姿となったサイドバッシャーを、ゆっくりと見上げた。

「…ハイテクは、アンタらだけじゃないみたいだな」

そこに座り、見下ろす形となった夏樹。

ハンドル部分に出現したボタンや、数多くのレバー。

操作方法は熟知しているものの、いざ目にすると、驚く。

「…」

デスガロンが銃を構え、撃つ。

「そらっ!!」

その巨大に似合わない軽快な動きでそれを躱し、内蔵されたミサイルを余すことなく撃ち込む。

しかしデスガロンもそれは同じで、無数のミサイルを難なく躱していく。

「…!そんな簡単に喰らっちゃくれない…か」

「…」

「…でもな…!」

ならば、とバイクを動かすのと同じ方法で前進、前方向に勢い良くジャンプ。

「…」

「…これなら…どうだ!」

サイドバッシャーの腕部分を振り上げ、肉弾戦へと持ち込もうとする。

「…」

だが彼は爪を器用に使い壁を登り、それを拒否。

これが前の彼だったなら、喜んで挑発に乗っただろうが。

今の彼は、リスクのある方法に手を出したりはしない。

「…」

「おわっ!?」

そしてそこから、サイドバッシャーの足元を狙う。

足下を壊されたサイドバッシャーはバランスを崩し、前のめりに倒れかかる。

「やべっ…!」

咄嗟に腕部分を突き出し倒れることは回避したものの、これでは攻撃が出来ない。

「…ッ!」

分かり易い、焦りの顔。

それを見逃す筈もないデスガロンは、すぐ様爪を展開。

刺さった爪で身体を壁に固定し、両足を壁につけ、思い切り夏樹に飛びかかる。

その拳は強く握られており、トドメを刺すのは直接と言わんばかりに振りかぶる。

それが、夏樹の罠だとも気付かずに。

「…バーカ」
『EXCEED CHARGE』

268: ◆GWARj2QOL2 2017/02/19(日) 21:21:05.51 ID:X3wnOaF5O
「せー…のっ!」

サイドバッシャーの上で倒立、そのまま仰向けに倒れこみながら向かってくるデスガロンの腹部にカイザポインターから三角柱状のエネルギーを放つ。

「…」

「言ったろ?」

「…」

「…2対1だって…なっ!!」

夏樹は思わぬところで攻撃を喰らい、地に落ちてゆくデスガロンに向かって、跳び上がり、下方向に目を向ける。

「これで…!」

そのまま真下に向かって、急降下。

「…」

「終わりだぁぁぁぁぁあああああ!!!」

「…ぃ…」

だがその瞬間、デスガロンからかなり小さな声量で、何かを呟いているのが耳に入った。

「…それで…良い…」

「!」

「…殺せ…」

「…ッ!!」

デスガロンはそのまま、何かに抵抗するかのようにゆっくりと、それでいて力強く両腕を開く。

夏樹の両足がデスガロンを捉え、体内から彼の身体を破壊していく。

「…もう…」

「…」

「…たくさんだ…」

「…ッ…でぇぇやぁぁぁああああああありゃあああああああ!!!」

そして彼を貫き、夏樹が地上に降り立つまでには燃え尽き、灰となってしまった。

「…」

夏樹は後に落ちてきた灰を全て被ってしまったものの、それを払うことはない。

「…」

彼が言わんとしたことは、何だったのか。

「…」

自分の身体であるにも関わらず、自分の身体として使用出来ない。

「…アンタらは…」

おまけに何度も再生させられ、使い捨てられた事で、辟易してしまった。

「…」

作られた奴を間違えた。

そう呟きたかったが、それは出来ない。

彼らに作られなければ、彼らは生まれなかったのだから。

「…」

敵であり、憎むべき相手だとは、勿論分かっている。

しかし分かっていても、同情を感じてしまう。

「…」

やるせない。

そう思いながら、夏樹はその場を立ち去っていった。

…。

269: ◆GWARj2QOL2 2017/02/19(日) 21:22:15.72 ID:X3wnOaF5O
…。

「…」

拳を突き出せば、跳ね返され。

蹴れば、叩き落とされ。

銃弾を放てば、消し飛ばされ。

「…」

今までのどの相手にも効いた、あの技を放っても、その身体を貫くことはなかった。

「…」

李衣菜は次第に追い詰められ、肉体的にも、精神的にも極限状態となってしまっていた。

「…ゴホッ…」

クラッシャー部分から、ドス黒い血が漏れる。

「…」

肋骨は、何本か既に折れた。

多少の痛みならもう慣れたもの。

しかしズキンズキンと心臓の鼓動に合わせてやってくる激痛は、女子高生の彼女が耐えられるようなものではない。

「…ハァ…ハァ…」

仮面の中に、鉄の臭いが充満する。

それが自分が出したものだとは、考えたくもなかったが。

「実験体5号、多田李衣菜。ベルト破壊へ移行する」

「…!」

事務的に、冷たく言い放つヘルガデムのその言葉に目を見開く。

「…ッ…」

立たなければ、と震える腕と脚を全部使って、無理矢理身体を起こす。

「…ま、まだ…」

膝を手で押さえつけ立ち上がり、戦う意思を示す。

しかし産まれたての仔鹿のようになっている今の状態でこの敵に勝つ方法は現実的に考えて思いつかない。

事実、万全の状態で戦い、この状態にまで追い込まれた。

「…戦える…!」

パワーも装甲も、桁違いのスペック。

自分で自分を鼓舞させながら、彼の前に立つ。

「…!」

震えているのは、ダメージのせいだけではなかったが。

270: ◆GWARj2QOL2 2017/02/19(日) 21:23:03.27 ID:X3wnOaF5O
「行動、開始」

「!!」

ヘルガデムの肩から、砲弾が放たれる。

「…ッ!!」

間一髪、滑り込むようにそれを避け、転がりながら左腕に装着されたツール、ファイズアクセルからアクセルメモリーを取り出す。

「…これで…!」

ファイズフォンからミッションメモリーを引き抜き、アクセルメモリーを装填。

「…!!」

少しでも隙を見せれば砲弾を撃ち込まれ、吹き飛んだところに追い打ちをかけられる。

だがボロボロになり、ヘルガデムがベルトの破壊行動へ移行した事で、ほんの少しだけ猶予が出来た。

「…もう…」

震えが止まり、今一度、今度はしっかりと立ち上がり、ヘルガデムを見据える。

彼は既にこちらをロックオンしており、次弾を撃ち込む寸前となっている。

「…終わりだよ…!」
『COMPLETE』

そして再び砲弾が撃ち込まれ、李衣菜の居る場所に着弾。

たちまち爆発し、煙を上げる。

「…」

ヘルガデムは搭載されたセンサーで、李衣菜の状態を確認しようと試みた。

「…」

だが、前方には何も感知されない。

「…」

煙が消え始め、やがて見えてきたもの。

「…」

そこは、陥没したコンクリートのみだった。

271: ◆GWARj2QOL2 2017/02/19(日) 21:24:01.54 ID:X3wnOaF5O
…。

「…!」

ヘルガデムから次弾が撃ち込まれた瞬間、李衣菜が変身する555の胸部が展開、フォトンブラッドの色が赤から銀へと変化し、仮面の眼が赤へと変化。

ファイズアクセルのスイッチを押したその瞬間、世界が止まった。

『START UP』

「…」

砲弾。
ヘルガデム。
周りに立ち込める、煙。

全てがスローモーションに見え、李衣菜は今、この世界で唯一動ける者となった。

「…!」

その制限時間は、10秒。

しかし、それだけあれば十分。

「でやっ!!」

李衣菜はヘルガデムに向かって走り、真上に飛び、ファイズポインターからエネルギー弾を放った。

だが、その行動は一回だけではない。

二回、三回。

何度も同じ動作を繰り返し、ありったけのものをぶつける。

「でえやあああああああああ!!!」

やがて赤い三角柱状のエネルギーに囲まれたヘルガデムに向かって、飛び蹴りを喰らわせる。

何度も、何度も貫き、破壊しようとする。

「…ッ!!」

だが、その硬さと、フォトンブラッドの強さの違いからか、彼の身体の中心で跳ね返される。

「…時間が…!!」

気がつけば、既に残り時間は3秒。

「…頼むから…!もう終わって…!!」

2秒。

「…お願い…!!」

1秒。

「…!!」

『Time out』

今自分が持つありったけを、ぶち込んだ。

そして、最後の一撃を与えようと再び飛び上がった時、それは訪れた。

「…ヤバ…」

『Reformation』

色も、胸部も全て元に戻る。

下を見ると、至るところから灰を撒き散らしながらもまだこちらを見上げるヘルガデムの姿。

「…!」

ここまで来れば、最早化け物。

自分達を遥かに超える、怪物。

「…」

そう考え、諦めようとしたその瞬間。

「…!」

その音速の生き物は、やってきた。

272: ◆GWARj2QOL2 2017/02/19(日) 21:24:56.14 ID:X3wnOaF5O
「!」

何をやってもたじろぐことのなかったヘルガデムが、突然苦しみ出す。

何の異常か、身体の色が赤から銀色へと変わっていく。

だがそれは、先の自分のような銀色ではなく、鉄のような、重い色。

攻撃が効いた、というよりは何かしらのエラーが発生したという感じが見受けられる。

「…あ…」

だがその答えは、瞬時に分かった。

「あれは…!」

それは音速で動く自分よりも、さらに速く動き回り、ヘルガデムの背後に回った。

そのまま彼の背中に装備されたアイテムを無理矢理もぎ取り、彼の力を半減させた。

「…李衣菜ァ!!」

仮面を捨て、人間の姿でもなく。

そしてその強固な鎧すらも脱ぎ去った、彼女。

「…拓海さん…!」

「今だ!!決めろォォォオオオオオオオ!!!」

「…!」

李衣菜は拓海の叱咤に頷くことで応え、ミッションメモリーを腰に備え付けられたファイズポインターに装填。

「…てやっ!!」

右足に装着、レーザーを放つ。

「…これで…」

「…」

「終わりだぁぁぁぁああああああ!!!」

急降下する形で決める、クリムゾンスマッシュ。

「…」

銀色に変化した、ヘルガデム。

だがそれは、変化ではない。

元に戻った、ということ。

「…調子に…」

つまり、意思を取り戻したということ。

「調子に乗るなァ!!!」

「!?」

273: ◆GWARj2QOL2 2017/02/19(日) 21:25:41.37 ID:X3wnOaF5O
これが最後だと放った必殺技。

李衣菜のその決死の一撃をヘルガデムは満身創痍の身体で受け止め、両腕で耐える。

「…この程度…!!」

身体がほとんど壊れた状態でも、彼は必死に耐える。

その理由は、ただ一つ。

「…終われるか…!!」

今まで戦ってきたのは、自分ではない。

自分は小さな箱に閉じ込められ、外を覗くだけの存在となっていた。

戦いたい。
ここから出してくれ。
自由にさせてくれ。

いくら訴えても、聞いてくれる者は誰一人いなかった。

「…このままで…終われるか…!!!」

蘇らされ、閉じ込められ、身体の自由を奪われた。

だが、今はこうして動く。

例え、死にかけの状態であっても。

今自分は、こうして相手と向き合えている。

だからこそ、望む。

「何も出来ないままで、終われるかァ!!!!」

どうかもう少しだけ、自由を楽しみたいと。

「!!?」

「ぬぅぅおおおおおおおあああああ!!!!」

その意地だけで、彼は李衣菜の攻撃を跳ね返してしまった。

274: ◆GWARj2QOL2 2017/02/19(日) 21:26:29.52 ID:X3wnOaF5O
「!!…李衣菜ッ…!」

それを見ていた拓海が焦り、助けようと動く。

しかし、すぐに止まる。

「…!」

跳ね返され、宙に投げ出された李衣菜。

だがその中で、彼女は既に第二の手を打っていた。

「…まさか…!」

天高く振り上げられたその状態で、腰部に装備されたファイズショットにミッションメモリーを装填。

右手に持ち、握る。

もう一度、急降下しながら李衣菜は叫ぶ。

「…まだまだぁぁァァァァアアアアアアアアアア!!!!!」

振りかぶり、落下のスピードを乗せた、全力の右ストレート。

「…!!」

ヘルガデムはもう一度防御しようと、腕を上げようとする。

「…ム…!?」

だが、上がらない。

「…」

先程の攻撃で、遂に身体が限界を迎えてしまった。

灰となっていく己の腕を見て、ヘルガデムはもう一度、李衣菜を見上げる。

「でええええりゃああああああああ!!!!」

「…」

彼女の右拳が、胸部にめり込む。

地面に叩きつけられ、身体全体が青い炎に包まれる。

ゆっくりと、走馬灯を見るかのように目に映るものが遅くなっていく。

その時、彼は色々なことを考えた。

ロボットではあるが、痛みを感じる事が出来る己の身体。

正直、自分には要らない機能だと思っていた。

だが、今は悪くないと思うようになっていた。

275: ◆GWARj2QOL2 2017/02/19(日) 21:27:37.81 ID:X3wnOaF5O
「…実験体5号…」

「…!」

何もせずに終わってはしまったものの、ほんの少しだけ、願いを聞いてもらうことが出来た。

「…この先の本部に、この世界の出口がある…」

「…え…?」

そのお礼を誰に言っていいのか分からず、ヘルガデムは目の前の少女にそれを押し付けることにした。

「…そこからお前達の仲間がいる、怪魔界へと行ける…」

「…」

生きて、死ぬ。

短期間ではあるものの、それを実感出来た。

「…早く行け…」

「…!」

本当に戦いたかった相手とは違うものの、もうこれ以上を望むことはない。

呪縛から解放されただけでも、満足だと。

彼にもしも表情を変える機能があるならば。

「…」

きっと、満点の笑みを浮かべて死んでいっただろう。

「…」

李衣菜は変身を解除し、ペコ、と少しだけ灰の山になったヘルガデムに向かってお辞儀をした。

複雑な心境ではあったが、筋は通す。

彼女は、ずっと彼女のままだった。

276: ◆GWARj2QOL2 2017/02/19(日) 21:28:28.04 ID:X3wnOaF5O
「…おい」

「…」

「…やったな」

「…はい」

後ろから拓海が背中を優しく叩く。

「…」

「…良い喧嘩だったぜ」

「…拓海さん…」

彼女なりの、褒め方。

拓海も相変わらず、拓海のまま。

姿が変わっても、その内に秘めた優しさは、変わることはなかった。

「…」

「…あー、なんだ。李衣菜」

「はい?」

「…その、拓海さんってのはやめろ」

「え?」

「拓海、で良い。…あ、それと…タメ口で構わねーよ」

「…」

李衣菜の最後の最後まで諦めないその強さを、拓海は見届け、そして認めた。

「ほら行くぞ。みんなも待ってる」

「…」

「…」

「…」

「…んだよ。どーした?」

「…その、えっと…拓海…さ、ちゃん…」

「あ?」

「…その姿で言われても…」

「あ?…あ」

剥き出しの牙に、威圧するような目。

何よりその灰色の禍々しい身体のままでは、どうにもリアクションが取りづらい。

あまりにも自然に皆の元へと行こうとしたからか、元に戻るのを忘れてしまっていた。

「…行くか」

「…うん」

277: ◆GWARj2QOL2 2017/02/19(日) 21:29:38.74 ID:X3wnOaF5O
「…」

そして、この世界にある、クライシス帝国の本部。

「…出張所にしちゃ、随分デカいよな」

「…そだね」

それでも、自身らが働く事務所とそう変わらない大きさに驚く5人。

「…ま!これでようやく向こうのお偉いさん方とご対面って訳だ!…一発二発じゃ済まさねぇ…!」

拳を鳴らし、本部を睨む。

我先にと拓海が勇んで歩いていく。

「…」

そして、止まる。

「…」

向こうからやってくる、2種類の足音。

一つは、軽めのブーツのような足音。

もう一つは、重く、それでいてしっかりとした足音。

「…んだよ。わざわざ行くまでもねえってか?」

余裕の態度を見せるが、その顔には一滴、汗が流れている。

少し後ろにいる4人も、同じく。

嵐の前の静けさのような、得体の知れないプレッシャーを感じ取った。

「…」

「…」

騎士のような服装に身を包んだ、青年。

金の重厚な鎧に身を包み、赤銅色のマントを羽織った男。

どちらも本部の入り口前で立ち塞がるように止まる。

「…」

手合わせをしたわけではない。

知っているわけでも、ない。

しかし、相手の戦闘力を知る方法はそれだけではないと、5人全員が感じる。

びりびりと、肌に伝わる迫力。

「…なつきち…」

「…ああ」

「…」

「…どうやら、上司が来たみたいだな…!」

「…」

不敵な笑みや冗談で誤魔化しても、その恐怖心は、分かる。

目の前の2人はこちらを見下ろし、微動だにしない。

まるで、こうなることが初めから分かっているかのように。

278: ◆GWARj2QOL2 2017/02/19(日) 21:31:36.63 ID:X3wnOaF5O
「…実験体5号…9号まで。よくぞ此処まで来てくれた!」

騎士風の青年が、演説をするかのように口を開く。

「お前達の行動は全て見させてもらった!大したものだと褒めてやろう!!」

自分達がここに来たことが余程嬉しいのか、両腕を開き、歓迎の意思を見せる。

「…つまり、てめーがアタシらを此処に拉致監禁した張本人ってことか?」

「その通り!!」

「悪びれねーのかよ…」

「お前達はこれから我がクライシス帝国の一員となり、憎き仮面ライダーBlack RXを倒す突兵となってもらう!!」

「…あ?」

「これまでの機械兵団はお前達に戦いを方を身につけさせる為の駒に過ぎんのだ!!」

そしてその男は、自分達をその軍団に引き込むことを声高々に宣言する。

「…んな冗談…!!」

「…?」

「んな冗談、聞いてたま…!!?」

我慢の限界と青年に食ってかかろうとする拓海。

しかし、それはもう一人の男によって阻止される。

「…!」

「…」

その光景に、李衣菜達も息を飲んだ。

「…」

その男は瞬間移動でもしたのかと思うほどの速さで拓海の前に立ち、杖を彼女の喉元に近づける。

「…てめぇ…!」

「余の目が届く中で、好き勝手はさせん」

静かに、それでいて重々しく語り掛ける。

その迫力に拓海はいつしか気圧され、後ろに下がってしまっていた。

「ジャーク将軍。その程度の者、助けを貰うまでも…」

279: ◆GWARj2QOL2 2017/02/19(日) 21:32:04.50 ID:X3wnOaF5O
「…ダスマダーよ」

「…?」

「…首領からの遣いとはいえ、貴様も余の部下」

「…」

「…余の手の届くところで、手は出させん」

「…ほう」

「…」

「!」

ジャーク将軍と呼ばれたその男は一度、杖の先端で地を叩き、李衣菜達を視界に入れる。

「…少女達」

「…」

その喋り方、立ち振る舞い。

単に実力だけの上司ではないということが、見受けられる。

「…余は、ジャーク将軍」

「…」

「今のお前達を、ここから先へ通すわけにはいかぬ」

「…」

「もしも、通りたいと言うのならば…」

杖を地から離し、悠然と歩き、近づいてくる。

そして、一喝する。

「私を倒してみるがいい!!」

「!!」

280: ◆GWARj2QOL2 2017/02/19(日) 21:32:52.17 ID:X3wnOaF5O
ジャーク将軍のその言葉に、李衣菜達は身構える。

対峙して改めて気づく、その迫力。

鎧の下から見える、筋骨隆々の肉体。

相手を萎縮させる、その眼差し。

いつの間にか李衣菜達と同じところまで下がってしまった拓海に対しても侮蔑の視線を投げることもない、相手への礼儀。

「…5対1…だよ…?」

きらりの質問に、視線を外すことなく、彼は簡潔に答える。

「それが将たる者の務めだ」

「…」

余裕だとは、言わない。

ただ、自分が将であるが故という、それだけの理由。

「…出会い方間違えなけりゃ、仲良くなれたかもな…!」

拓海がベルトを巻き、それを金切りに皆もベルトを巻く。

「変身!!」

5人が一斉に変身し、飛び上がる。

「…」

ジャーク将軍はそれを一瞥した後、杖を軽く振るった。

「!!?」

その一振りで李衣菜達は吹き飛び、遥か後方へと叩きつけられる。

「…ったぁ…!!」

「あたた…!!」

「アイツ…何したんだよ…!?」

大きなダメージを一度に負ったことでベルトが耐えられず、変身を解除してしまう。

「うえぇ…」

つまり彼は、一切触れることなくそれをやってのけたということ。

「…何てヤローだ…!!」

その圧倒的な力に、ただ驚愕するしか出来ない。

ジャーク将軍はその場から一歩も動かず、また杖の先端をとん、と地に置いた。

281: ◆GWARj2QOL2 2017/02/19(日) 21:33:48.72 ID:X3wnOaF5O
「…どうした…お前達の怒りはその程度ではないはずだろう?」

追い打ちをかけるなどということは、ない。

向かってくれば、また叩き潰せば良い。

完全な強者の証。

「…ぐ…!」

力の差は、歴然。

「…なら…!」

李衣菜と拓海。

2人が立ち上がり、李衣菜はファイズアクセルを装着、拓海はベルトを地に置き、ドラゴンオルフェノクへと変身。

「…こっからは…!」
「アタシらの世界だぞ…!!」
『START UP』

果たして彼に対して、スピード戦法が通用するものかどうか。

それも分からないまま、2人は走った。

ジャーク将軍の背後に易々と回り込み、その顔に左右から上段蹴りを浴びせようと試みる。

「…ふむ」

「!?」

しかし、彼は止まった時間などお構いなしにと拓海と李衣菜の脚をそれぞれの手で掴んでしまった。

「…てめぇ…!!」

「は、離して…!」

「…」

万力で締め付けられているように感じる程の、握力。

骨まで伝わるその力は、全く振りほどける気がしない。

「…確かに、私よりは遥かに速い」

そして、2人をそのまま持ち上げる。

「…だが、余の時間は止まってなどおらぬ」

「!」
「!」

「…ぬぅん!!」

振り回し、投げる。

きらり達に受け止められ、何とか事なきを得たものの、再び変身解除へと追い込まれてしまった2人。

「…これも、通用しねえってのかよ…!」

ヘルガデムよりも、またさらに桁違いな力と反射速度でもって、皆から自信を奪っていく。

282: ◆GWARj2QOL2 2017/02/19(日) 21:34:28.62 ID:X3wnOaF5O
「…流石はジャーク将軍…と言っておこう」

「…」

後ろで軽い拍手をする青年、ダスマダー。

部下であるにも関わらず、彼は自分の上司すらも駒のように見る。

ジャーク将軍とは、真逆。

それでも、ダスマダーからも感じる強者の証。

「だがしかし!我々の目的を忘れてはならない!」

「…」

「その子供達を洗脳せよ!!さすれば貴方のその功績、必ずや首領の耳に入れておこう!!」

「!?」

「…」

その言葉に、李衣菜達は耳を疑う。

「せ、洗脳って…?」

「ここにいるジャーク将軍が直々にお前達を洗脳、クライシス帝国の戦士として活動してもらうのだ!!」

「は…?」

「ふ、ふざけんな!!誰が洗脳なんざ…!」

「ならば抵抗してみるがいい。私達がいくらでも相手になろう!!」

「…」

「お前達など、このダスマダーが…ッ!!?」

「!?」

283: ◆GWARj2QOL2 2017/02/19(日) 21:35:17.87 ID:X3wnOaF5O
高笑いしていたダスマダーの顔が突如、後ろに折れ曲がる。

「…」

ジャーク将軍はそれを尻目に、その原因となっただろう者をギロリと睨みつける。

「…」

李衣菜達も、思わず目を疑う。

「…!」

後ろを振り向き、固まる。

「…」

銃に変形させた携帯を構えた、里奈。

銃口から上がる、煙。

その目は冷ややかで、それでいてしっかりとダスマダーを見据えている。

「…里奈…」

「…みんな」

「…?」

「迷う必要なんか無いよ」

「…里奈ちゃん…」

「こいつは、悪い奴だよ」

「…」

「やっつけるよ。みんなで」

「…」

「…フフ…」

「…」

「ハッハハハハハハハハハハハハ!!!!」

「!」

284: ◆GWARj2QOL2 2017/02/19(日) 21:36:10.54 ID:X3wnOaF5O
里奈の攻撃に動きを止め、天を仰いでいたダスマダーが、笑い出す。

「…あー…」

その余韻を残し、そしてこちらにぐるりと首を向ける。

「…面白い…」

その顔を見て、驚く。

彼の被弾箇所である額は、少し赤い後を残しただけで、何一つ怪我は無い。

「そうでなくては、面白くないからなァ!!」

剣を抜き、構える。

先までの少しあどけなさも残した顔つきも、歪んだ顔へと変化し、殺気を一切隠さなくなっていた。

「…」

それに対し、何らアクションを起こさず、相変わらずの仁王立ちをするジャーク将軍。

「…!」

数では勝っていても、その実力差は比べ物にならない。

「…何度でも…やってやるよ…!」

それでも彼女達は、諦めない。

「…まだ、やりたいこと、やってないからな…!」

ベルトを巻き、立ち上がる。

「これ以上、待たせてらんないしね…」

たとえ諦めようと、諦めなかろうと結果が同じだとしても。

彼女達は、進むことを選ぶ。

「愚か者共め…ならば望むままに戦ってやろう!!」

剣を片手に構え、高笑いする。

口だけではないという、実力の証明の仕方。

「きらり達なら、出来るもん…!」

「…みんな…」

皆の前に、一歩出る李衣菜。

ファイズフォンを構え、コードを入力。

そして、ヘルガデムから奪い取った戦利品、ファイズブラスターに差し込む。

「…見せてやろうよ…!」

そして、皆一様に、思いの丈を、目の前の敵にぶつける。

「…私達の、生き様ってやつを!!!」

285: ◆GWARj2QOL2 2017/02/19(日) 21:36:50.28 ID:X3wnOaF5O
「変身!」
『COMPLETE』

「変身!」
『COMPLETE』

「変身!」
『COMPLETE』

「変身!」
『COMPLETE』

「変身!!」
『AWAKENING』

286: ◆GWARj2QOL2 2017/02/19(日) 21:37:52.04 ID:X3wnOaF5O
「ふむ…」

李衣菜が変身した瞬間、555の身体に異変が起きた。

どこからともなく、赤い光の線が現れ、彼女のアンテナ部分に当たる。

するとたちまち全身が真っ赤に染まり、装甲もより強固なものとなった。

「…」

李衣菜は右手に握ったファイズブラスターを光り輝く剣へと変形させ構え、2人の幹部と対峙する。

「それが仮面ライダー555の強化形態というわけか…」

従来の555とは違い、身体の全てにフォトンブラッドの色が入っており、その出力の高さを伺わせる。

「…ハハッ!!」

「!」

その姿を見たダスマダーは、構えをそのままに、瞬時に李衣菜の懐へと飛び込む。

「どの程度か確かめる良い機会だ…!!」

「…!」

「フン!!」

「…でやっ!!」

反応が遅れたものの、何とかダスマダーの一撃を受け止めた。

「…!!」

しかし、その身体に似合わず、機械軍団に匹敵する程の腕力を持ち合わせている彼に、次第に押されていく。

「どうした…?その程度ではないのだろう…?」

「…悪いけど…か弱い女の子なんで…!」

「!」

287: ◆GWARj2QOL2 2017/02/19(日) 21:38:47.78 ID:X3wnOaF5O
李衣菜との鍔迫り合いの最中。

戦っているのは1人だけではないと、横から斬撃が飛ぶ。

「その程度!」

しかしそれが当たる程、彼は弱くはない。

夏樹の一撃は、空を切っただけに終わってしまった。

「…流石に、喰らっちゃくれない、か…」

死角からの不意打ちにも関わらず、その殺気だけで判断する。

いかに彼が戦い慣れているかが、良く分かる。

「…だけど…」

「…?」

「…チームワークなら、そっちよりよっぽどあるからね…!!」

「…何?」

「…撃てー!」

「!」

李衣菜の合図。

その瞬間、彼女の背後から無数の銃弾が飛ぶ。

「…!…ハハッ!!狙う気があるのか…!?」

しかしダスマダーはその中を平気な顔で避け続け、こちらに向かってくる。

「先ずは貴様からだ!実験体5号!!」

そして、李衣菜に斬りかからんと走る。

「私の力を…ぬおっ!?」

だがその時、何かに足を取られ、躓いてしまった。

「…!」

そこには、無数の陥没。

「…まさか…!?」

彼女達が狙っていたのは、自分ではない。

自分の、足場。

「…良かった…」
『EXCEED CHARGE』

「!?」

倒れかかりながらも、視界を前にする。

「…ダスマダーさんが、バカ正直に向かってきてくれて…!!」

そこに、あったもの。

「何っ…!?」

それは、ファイズショットを被せた、李衣菜の右拳だった。

288: ◆GWARj2QOL2 2017/02/19(日) 21:39:36.58 ID:X3wnOaF5O
「…」

「…」

重い、金属音。

「…」

手応えは、確かにあった。

貫く衝撃を、放った筈だった。

「…良き、チームワークだ」

「…ッ…!!」

「…ジャーク将軍…」

だがそれは、鋼鉄の巨大な壁に阻まれていた。

「しかし、忘れてはならぬ」

「…!!」

右手首に、握り潰されそうな痛み。

勿論先ほどと同じく、振り解けるものではない。

「いくら強化しようと、数が増えようと、チームワークが良かろうと…」

自由な方の手で、ジャーク将軍の顔を何度も殴り、抵抗する。

夏樹達も加勢し、必死に攻撃をする。

「余にとっては、無力に等しい」

「!!」

289: ◆GWARj2QOL2 2017/02/19(日) 21:41:36.26 ID:X3wnOaF5O
李衣菜の右腕から、木材が潰れるような音が全員の耳に届く。

「…ッ…アアアアアアアアアアア!!!」

「!!だりー!!!」

「だりなちゃん!!」

「李衣菜ちゃあん!!」

瞬間、痛みに叫び、のたうち回る李衣菜。

強化スーツに身を包んでいるため固定はされているが、間違いなく右手首は粉砕された。

「…その満身創痍の身体でここに来たのは、褒めてやろう」

「…!!」

「…が、勘違いはしてはならぬ」

「…て…めぇぇぇええええええ!!!」

その光景に、我を忘れる程の怒りを感じた拓海がジャーク将軍に殴りかかった。

「…ぶっ殺してやッッッ!!!?」

しかしそれよりも遥かに速く、彼の手が拓海の頭部に届く。

「…!!!」

「今、貴様達は自らの力で生き永らえていると思っているようだが…」

「…は、離しやがれ…!!」

おもちゃを扱っているかのように、拓海を片腕一本で軽々と持ち上げる。

「…貴様達、人間の少女など…」

掴んだ箇所、デルタの仮面がひび割れ、徐々に拓海の皮膚が露出していく。

「殺そうと思えば、いつでも殺せるのだ」

「!!」

「…拓海!!!」

たった、1人。

実験体のうち1人が死のうと作戦に影響は無い。

そう暗に示したジャーク将軍は拓海の頭部を握り潰そうと右手に力を込める。

「…余に挑んだのは、間違いだったな」

「…!…!!?」

「拓海ぃぃぃいいいいいい!!!」

だが、その時だった。

290: ◆GWARj2QOL2 2017/02/19(日) 21:44:43.54 ID:X3wnOaF5O
「…ム…!?」

「!!」

今まさに拓海を殺そうとしていたジャーク将軍。

そこへ、一台のバイクが異常なスピードで突進してくる。

「…ぬおっ!!?」

「うわっ!!?」

そしてそのまま、ジャーク将軍に激突。

「…!!」

「あれは…!!」

それを見たダスマダーと、突進された本人が、そのバイクの姿に目を見開く。

それだけではなく、夏樹達も、その異様なデザインのバイクに唖然とする。

『pipipi…』

青、赤、黄。

彩られた、バッタのようなデザイン。

「…な、何だこいつ…」

何とか気絶は免れた拓海も、間近で見て驚く。

まるで意思を持っているかのように拓海を助け、闘牛のように前部分を振る。

「…アクロバッター…」

ダスマダーがぼそりと呟く。

「…これが来た、ということは…」

そして、その顔に若干の焦り。

「…?」

その時、どこからともなく、足音が聴こえてくる。

「…」

それまで変化のなかったジャーク将軍の表情が、ほんの少し険しくなる。

「…あれは…?」

李衣菜と拓海を介抱しながらも、それが気になる里奈、きらり、夏樹。

「…黒い…?」

昆虫のような、真っ赤な目。

屈強な、黒いボディ。

二つ、赤く輝く「何か」を有したベルト。

291: ◆GWARj2QOL2 2017/02/19(日) 21:45:25.50 ID:X3wnOaF5O
「…何だよ、あれは…」

その疑問に対してか、それとも自然か。

「…RX…!!」

ダスマダーが憎き相手の名を呼ぶように、呟く。

「!」

「…あれが…?」

「…仮面ライダー、Black…RX…?」

ゆっくりと、確かな足取りでこちらに歩いてくる彼は、敵か、味方か。

「…南光太郎…何故ここが…?」

「…1人の仮面ライダーが、俺をここまで案内してくれた」

「…?」

「何の罪も無い子供達を利用し、洗脳し、自分達の兵隊にするなど…この俺がさせない…!」

「…RX…まあ良い。ここで貴様を処刑してやる!!」

「子供達の夢を踏み躙るお前達を…俺は絶対に許さん!!!!!」

それは、疑うまでもなかった。

292: ◆GWARj2QOL2 2017/02/19(日) 21:46:28.34 ID:X3wnOaF5O
「ジャーク将軍、RXは私が引き受ける!何としても実験体達を逃がすな!!」

「…」

「行くぞ!!RX!!」

ダスマダーが待ちきれないとばかりにRXに斬りかかる。

「喰らえッ!!」

衝撃波が生まれる程の斬撃にも関わらず、彼はそれを片腕で受け止め、そしてその瞬間、身体が青く光り出す。

「なッ!!?」

そして一瞬で液状に変化し、空中から彼に四方八方から突撃。

「がっ…!」

それに思わずたじろぐダスマダーへもう一度、突進。

「RX…キック!!」

液状がダスマダーに直撃する刹那、それは赤く光る足へと変わり、そして元の姿へと戻る。

RXの両足での飛び蹴りが顔面に直撃し、ダスマダーは綺麗に後方へと吹き飛んでいく。

黒い血を撒き散らし、地面でもがき苦しむ。

「…」

「…は…?」

ダスマダーがジャーク将軍に自分達を任せ、RXに攻撃を開始。

そして、ここまで。

「…な…」

「…何だ…ありゃ…」

その間、およそ3秒。

夏樹達が一呼吸終える間に、RXは1人の幹部を行動不能にしてしまった。

293: ◆GWARj2QOL2 2017/02/19(日) 21:48:11.29 ID:X3wnOaF5O
「…南光太郎よ」

「…」

「…良くぞ、ここまで来た、と褒めておこう」

「ジャーク将軍…!」

「…が、余が貴様と戦うには、少々早い」

「…!」

「だがここは負けを認め、潔く身を引こう」

「何…!?」

「…だが、これだけは言わせてもらう」

「…」

「…貴様も、そこで伸びている者も」

「…」

「…そして、今貴様が守った少女達も、私達、クライシス帝国も…」

「…」

「それぞれの大義の為に、戦っているということを」

「…ジャーク将軍…!」

「ゲドリアン」

「!」

294: ◆GWARj2QOL2 2017/02/19(日) 21:49:04.94 ID:X3wnOaF5O
ジャーク将軍が名前を呼んだ瞬間、上空から1人の化け物が飛び降りてきた。

ゲドリアンと呼ばれているそれは、倒れたダスマダーを抱え、ジャーク将軍の元へとひとっ飛びする。

「RX!本来ならここでお前を切り刻んでやりたいところだが…」

「…!」

「このバカをほっとくと首領にドヤされるんでな…。今日は見逃してやる!」

「貴様…!」

「せいぜい首を洗って待っておくがいい!」

その言葉を最後に、後ろのジャーク将軍が杖で床を叩く。

すると3人は光に包まれ、一瞬のうちに消えてしまった。

「…」

RXと呼ばれていた彼は、彼らが消えた後も拳を握り締めながら、悔し気に見続ける。

「…」

そしてこちらを向き、李衣菜と拓海の怪我をその赤い目に映す。

「…キングストーンフラッシュ!!」

「…!」

それに向かってポーズを取り、ベルトから光を放つ。

「…?」

目を瞑っていなければ、目が一生使えなくなりそうな程の、眩しさ。

「…!」

だが、微かに感じる、温かみ。

恐怖は不思議と、無い。

「な、何を…?」

「すまない。今俺が君達に出来ることはこれくらいしかない…」

「え…?」

「…」

「…あ…!」

その光の中、苦悶の表情を浮かべていた李衣菜の顔に、落ち着きが戻る。

拓海もまた、押さえていた頭から手を離し、起き上がる。

その様子から、恐らくこの光には治癒能力があるのだろうと感じる。

完治したのか、彼は光を放つのを止め、そして光に包まれる。

『…すまない』

「え?」

『…俺も後から必ず行く。君達の仲間を連れて…!』

「あ、ちょっと…!」

そして、段々とRXの声が小さくなっていることに気づく。

「!」

見ると、彼の身体が若干、薄くなり始めている。

『どうか、無事でいてくれ…!』

「あ…」

お礼の一つでも何とか言おうと彼に触れようとするが、その手は空を掴んだだけに終わった。

「ちょ、ちょっとアンタ…!」

それから数秒もしないうちに、彼は霧のように、消えた。

まるで嵐のように、全てを掻っ攫って。

295: ◆GWARj2QOL2 2017/02/19(日) 21:49:50.09 ID:X3wnOaF5O
「…」

もう、何が起きても驚かないつもりでは、あった。

「…」

しかし、この世界では最早常識などという言葉は存在しない。

生きてきた時間の短さとは関係無い、漫画のような世界。

「…なあ」

「…ん…」

無言の空気が続く中、李衣菜を腕に抱く夏樹が、隣にいた里奈に対して口を開く。

「…神様って、いるんだな」

「…ん」

どれだけ絶望に追い込まれても。
どれだけ血を見ようとも。
残酷な運命に打ちひしがれたとしても。

まだ自分達は、見捨てられてはいない。

「じゃ…」

「…」

「…行くか」

「…ん!」

それが分かっただけでも、救いというものだった。

…。

296: ◆GWARj2QOL2 2017/02/19(日) 21:50:38.69 ID:X3wnOaF5O
…。

それから、数分後。

「…李衣菜…?」

「…うん」

渋谷 凛。

「…李衣菜ちゃん…なの…?」

本田 未央。

「…うん」

時間にすれば、短過ぎる再会。

感覚的には、数十年も待たされたような、再会。

「…まだ、戦える?」

だが、李衣菜はそれを喜ぶのはまだ早いと、2人を起こす。

「…」

「…」

「立って、戦える?」

何度も泣きじゃくったのだろう彼女達の顔を見ても、優しい言葉はかけない。

「…うん」

「…出来るよ」

「じゃあ、行こうか。みんなで」

いつの間にか、自分達とは違う、遠い世界に行ってしまったと、未央と凛は感じる。

だからこそ、その厳しい言葉に対して意地でも応えようとする。

たくましくなった友人に、追いつこうと。

「…うん!」

「…じゃ、これ」

「え?」

297: ◆GWARj2QOL2 2017/02/19(日) 21:51:19.99 ID:X3wnOaF5O
李衣菜から2人に、何かが手渡される。

「…?」

「…ベルトの…バックル?」

「使って。多分、そっちよりは大丈夫だから」

「…」

「…」

バックルの中心部に、見覚えのあるマーク。

赤いダイヤと、緑のクローバー。

「先ずは、卯月ちゃんと美嘉さんを元に戻さなきゃ」

そして、もう二つ。

「…それ…」

青いスペードと、黒いハート。

「…行くよ。いつまでも座ってないで」

「…」

「みんな戦ってる。生きる為に。帰る為に」

「…」

「…」

298: ◆GWARj2QOL2 2017/02/19(日) 21:52:13.02 ID:X3wnOaF5O
李衣菜が指差す方向を、見る。

「…あ…」

黒い、金の線。
白い、青の線。
黒い、黄色の線。

顔は、分からない。

だが、その声には聞き覚えがある。

「…あれ…」

「卯月ちゃあん!お願いだから元に戻って!!」

「…っあー!暴れんなって!!」

「痛くしない痛くしなーい☆」

卯月と鍔迫り合いをする、きらり。

美嘉を二人掛かりで抑え込む、夏樹と里奈。

「…3人だけじゃないよ」

「…」

「…」

そして、その向こう。

「…いくらテメーが機械軍団の長だろうがなぁ…!」

「…!」

「こちとら族の長なんだよ!!!」

「ぬおっ!!?」

ガテゾーンに一撃を喰らわせ、さらに大型バイクで追撃を試みている、拓海。

「…戦うことを怖がってたら、前には進めないよ」

「…李衣菜…」

「でも前に進まないと、助からないよ」

「…」

「助かりたいなら、戦って」

「…李衣菜ちゃん…」

「覚悟、したんでしょ?」

「…」

「…」

真っ直ぐな目でこちらを見つめる、李衣菜。

多くの死地を乗り越えたからこそ出せる、説得力。

「…うん」

「出来てる」

「…じゃ、行こっか」

299: ◆GWARj2QOL2 2017/02/19(日) 21:54:17.88 ID:X3wnOaF5O
「…」

凛。

「…」

李衣菜。

「…」

未央。

3人が並び、ベルトを腰に巻く。

凛と未央はベルトに最初から備え付けられたカードをバックルに挿入。

トランプのようなものが帯状になり、ベルトの形となる。

それは自動的に2人の腰に巻かれ、音声を鳴らす。

「…分かるんだ?」
『5・5・5』

「…何となく…?」

「…何でだろ…」

「…さあ、ね?」

準備は出来た。

覚悟も、出来た。

「…」

そこに、言葉はいらない。

後は、進むだけ。

だがこれは、倒す為の戦いではない。

生きる為の、生きて帰る為の、戦い。

「…変身!」
『Open Up』

「変身!!」
『COMPLETE』

「変身!」
『Turn Up』

赤い光に包まれる、李衣菜。

未央と、凛のベルトのバックルからは、カード状のエネルギーが出現。

「…!」

「…ッ!!」

2人はそれに向かって、走り出す。

李衣菜もまた、それに合わせて走る。

「…行っっっくぞぉぉおおおおおおお!!!」

「でええええやああああああああ!!!」

「ああああああああああああ!!!」

300: ◆GWARj2QOL2 2017/02/19(日) 21:55:00.95 ID:X3wnOaF5O
赤い光の両サイドで、エネルギーが勢い良く、突き破られる。

そこから現れた、3人の戦士。

真ん中に、李衣菜が変身した、仮面ライダー555。

左には、凛が変身した、仮面ライダーレンゲル。

右には、未央が変身した、仮面ライダーギャレン。

李衣菜は走りながら、スペードとハートのバックルを2人にパスするように渡し、そしてさらに加速する。

「2人とも…!」

右手に、ファイズフォン。

左手には、ファイズブラスター。

「…ちょっと、我慢しててね…!」
『AWAKENING』

301: ◆GWARj2QOL2 2017/02/19(日) 21:55:46.90 ID:X3wnOaF5O
「きらりちゃん!」

「!」

「なつきち!里奈ちゃん!」

「!」

「…!」

走ってくる李衣菜と、凛、未央に気付く3人。

その手に持った物で全てを察し、それぞれが暴走する卯月と美嘉の背後に回り、羽交い締めにする。

「でえ…りゃっ!!」

それでもまだ抵抗しようとする2人の腹部に、李衣菜がダメ押しの一撃を加える。

急所に叩き込まれたことで、動きが止まる。

「今だよ!!」

「卯月…!」

そして、凛は卯月へ、カードを挿入し、ベルトとなったそれを無理矢理装着、レバーを引く。
『Turn Up』

「…ごめん!」

出現したエネルギーに、そのまま卯月を投げ飛ばす。

「…ごめん!美嘉姉!」

未央は美嘉へ、ハートのバックルのベルトを叩きつけ、カードをスリット。
『CHANGE』

「元に…!」

「戻れええええええええ!!!」

302: ◆GWARj2QOL2 2017/02/19(日) 21:56:32.35 ID:X3wnOaF5O
エネルギーを突き破り、その場で姿が変わり。

卯月と美嘉は力無く項垂れ、立ち尽くしている。

重厚なアーマーに、昆虫のような仮面。

「…」

暴走は止んだ。

しかし、どうなったかまでは、分からない。

ただ、李衣菜達にこれ以外の方法は思いつかなかった。

「…」

本部の中で見た、一部始終。

本部の中に保管されていた、4つのバックル。

恐らくこれが正解なのだろうと、それらを手にとって、ここまで来た。

「…!」

そして遂に、その時はやってきた。

303: ◆GWARj2QOL2 2017/02/19(日) 21:58:21.48 ID:X3wnOaF5O
「…あ…」

「…あれ?」

卯月と美嘉。

顔色は伺えないが、ゆっくりと頭を上げている。

何が起きたのか分からないと、周囲を見渡す。

「…な、何ですか?どうしたんですか?」

「…あれ?アタシ…」

そして、混乱する。

「…え?だ、誰っ!?」

仮面を被り、顔が出ていない為、無理もない。

外し方もよく分かっていないので、何とか説明しようと、李衣菜が近づく。

だが。

「!?」
「うわっ!?」

「卯月いいいいいいいい!!!」
「美嘉姉えええええええ!!!」

彼女達の視点で見るならば、人ならざる化け物が叫びながら飛び込んできた、と思わざるを得ない。

だがそれは、友人の無事を心から喜ぶ優しい景色なのだと、李衣菜達は笑う。

「良かった…!良かったぁ…!」

「美嘉姉ぇ…」

「え…その声…」
「…凛…未央…?」

誤解は割と早く解け、これでようやく全員が揃った、と喜ぶ。

「…良かっ…」

304: ◆GWARj2QOL2 2017/02/19(日) 21:59:34.62 ID:X3wnOaF5O
「…」

視界の端を、何かが猛スピードで横切った。

横切ったそれは、地面に叩きつけられ、力無く横たわる。

「…え…?」

変身が解除され、姿が露わになる。

「…あー」

「…拓海…ちゃん…?」

「そのベルトを奪ってきたのは誰だと思ってんだ?」

「…!」

振り向くと、そこには腕を回すガテゾーンがジャケットを脱いだ状態で立っていた。

「俺ぁ科学者だぜ?何の対策も無しにこんな事すると思うか?」

「…!」

ガテゾーンの背後に、壊れた状態で横たわるジェットスライガー。

彼の手には、リモコンらしきもの。

恐らくそれは、あのバイクに取り付けられた起爆スイッチ。

「相手が歴戦の猛者共ならともかく、ガキのお前らにゃあまー…だそいつは早すぎるシロモノなんだよ」

「…だけど、傷を負ってるのは…!」

「そっちも対策済みだ。人間が作れるもんを俺が作れないわけねぇだろうよ」

「…ッ!!」

「…ま、他にも言いたいことはある…が、まァ…一言でまとめておくか」

すると彼はショットガン型の武器を背中から取り外し、構える。

「…!」

それに対抗し、李衣菜達も武器を構える。

「…」

多勢に無勢、という言葉がある。

しかし彼は、この状況においても全くたじろぐことはない。

「…」

寧ろ、楽しんでいる。

「…」

そして彼は銃の引き金に指を置き、少し低いトーンで、冷静に言い放った。

「調子に乗るな」

「!!」

305: ◆GWARj2QOL2 2017/02/19(日) 22:00:21.73 ID:X3wnOaF5O
「…!」

そのショットガンが発砲される瞬間、地面が揺れ出す。

「何…?これ…!」

「出てこい。シュバリアン」

「!!」

地面に亀裂が走る。

「うわっ!!?」

「きゃっ!!?」

巨大な地震を起こしながら、中から巨大なロボットが這いずり出てきた。

「こいつぁお前達のデータを元に作った物をさらに強化させたモンだ」

「コイツ1人じゃなかったのかよ…!」

「言ったろ。俺は科学者だって…なっ!」

ガテゾーンはシュバリアンと呼ばれるそれの上に飛び乗ると、地上にいる彼女達に再度言い放つ。

「…調子に乗るなってのは、割とマジだぜ」

「…!」

「シュバリアン!こいつらを殲滅しろ!!」

『了解しました』

ガテゾーンの命令に、両腕に備え付けられたビーム砲を構え、チャージを始める。

「…!」

その出力は、今まで見たどの怪魔ロボットよりも強力。

「…やべ…!!逃げろォ!!!」

夏樹がいち早く叫んだものの、時すでに遅かった。

『殲滅、開始します』

「…!」

子供達に対して、彼は容赦無く攻撃を放った。

着弾したそれは大爆発を引き起こすほどの威力で、彼女達はいとも簡単に吹き飛ばされてしまった。

「うわああああああああああっ!!!」

深刻なダメージを負い、その場に倒れ込んでしまう。

306: ◆GWARj2QOL2 2017/02/19(日) 22:01:31.11 ID:X3wnOaF5O
「…こんな…!」

「…こんなの…アリかよ…!」

衝撃のせいか、脚がまだ言うことを聞かない。

「…んー…直撃は無し、か」

ガテゾーンはそんな散り散りになった彼女達を見ながらデータを記録している。

「急ピッチで仕上げたからなぁ…こりゃまだまだ改良が必要だ」

「…コイツ…マジでアタシらぶっ殺す気みたいだぜ…!」

「当たり前だろ。お前らに任せてRXを倒されたんじゃ、俺らのプライドはズタズタだ」

「…!」

「仮にお前らが死んで計画どうのこうのってなってもな、代わりを探せばいいだけの話だ」

「…人間を…何だと思ってんの…!?」

話を察した未央が、怒りを爆発させる。

だがガテゾーンは振り向くこともなく、即答する。

「お前らが豚だ牛だを食うのと同じさ」

「!」

「…さて、どいつからやろうか…」

そして、お菓子を選ぶ子供のように1人ずつ、舐めるように見ていく。

「…」

「…」

「…」

そして、彼が目をつけたのは。

「…よーし。お前さんだ。渋谷凛」

「!」

「シュバリアン。あいつをやれ」

『了解しました』

「!」

「…!凛!!」

凛に向かって、放たれる二発目。

「凛!!!」

美嘉達が走り、助けようとする。

「…!」

避けられないと、防御の体勢を取る凛。

直撃すれば、どうなってしまうか。

先程着弾したあの隕石が落下したような地面を見れば分かる。

「…!!」

仮面の下で、彼女は死を覚悟し、目を瞑った。

「…」

しかし、その時だった。

307: ◆GWARj2QOL2 2017/02/19(日) 22:03:28.68 ID:X3wnOaF5O
ガテゾーン含め、皆、目を疑った。

「…」

黒い何かが、超高速で凛の前に立ち塞がり、ビームを片手で弾いた。

「…え…?」

弾いたその腕には、鋭利な角、というよりは鎌のようなものが生えている。

全身が黒と金に包まれた、禍々しい、何か。

「…は?」

ガテゾーンは、混乱した。

あの攻撃は、今までの怪魔ロボット達のものよりも何倍もの威力を誇るもの。

しかし、彼はそれを弾き、消した。

「…おいおい…聞いてねぇぞ…?」

冷や汗をかく機能は自分には無いが、間違いなく彼は焦っていた。

「…なんだァ?ありゃあ…」

「…」

「…」

だが、卯月と、李衣菜。

彼女達には、見覚えがあった。

「…あれ…」

消えゆく意識の中、幻影のようにそれは現れた。

最も、そこからは覚えていないが。

「…間に合いました…」

「!」

しかし聞き覚えは、彼女達全員に、あった。

「…無事で、良かった…」

「…その声…」

「…嘘…」

そして、顔を上げる、それ。

「…」

やはり、昆虫のような仮面。

「…」

その目は、燃える炎のように、真っ赤だった。

第二章 終

引用元: 李衣菜「…ここどこ?」