1: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/02/12(日) 19:57:31.67 ID:uQpsctFhO
~校舎裏・伝説の桜の木の下~


男「なあ。どこまで行くんだ?」

女「――……」たったっ…

クル

女「ねえ、男くん。ここ、知ってる?」

男「ん? ああ。クラスの女子が噂してたのってここだろ」

男「校舎裏の桜の木の下で告白すると、幸せになるらしい。とか何とか」

女「そう。なら話は早いや、あのさ男くん」


ザァアァア~…


女「私と付き合ってください」ペコ

男「……」


ヒュウウ~~…


男「急にどうしたんだ」

女「だめ?」コテン

男「いや、ダメとかじゃ無くて。今更だろ、そういうのは」

女「そんなコト無いよ。ちゃんとやっておかないと、こーいうことも」

女「私たちってほら、曖昧に付き合って、なーなーでチュッチュしてたでしょ?」

男(ちゅっちゅて…)

男「…なあなあじゃ駄目なのか?」

SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1486897051

2: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/02/12(日) 19:58:29.09 ID:uQpsctFhO
女「んーん、だめじゃない……けど、言い合っておきたくてさ。大事だと思うから、付き合って下さいって、ちゃんと言えるような関係が」

女「だから付き合って欲しい。私と君と。この桜の木の下で、あらためて恋人同士になりたいの」

男「……、その髪」

女「え?」

男「髪。急に短くしたのは、この告白と関係あったりするか?」

女「…別に…ないけど、前から切りたかっただけで…」クルクル

男「誤魔化してる」

女「はあっ? ちょっと、私が聞きたいのは告白の返事! イエスかノーってだけ!」

男「………」ジッ

女「なに、その目。髪を勝手に短くしたの怒ってる? 君がそんな束縛系だとは思わなかったー」ムッ

男「いや、そんな似てるかと思って」

女「…なんの話?」

男「前から思ってた話」

男「俺は眼鏡掛けてもないし、髪型だって違う。背格好も全く似てない。雰囲気もタイプも全然一緒じゃあ無い」

男「どこが似てる? 俺の何処が【お前の兄貴】と似てるんだ?」

女「……………」

3: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/02/12(日) 19:59:00.03 ID:uQpsctFhO
男「教えてくれ。言ってくれたらちゃんと返事するから」

女「――は。なにッ、言ってるの…? 超絶意味わかんないですけど…?」

男「そうか。ならハッキリ言ってやる」


男「もう兄貴のことすっぱり諦めて、こっちに逃げるのか?」

女「…ッ…!」ギリッ


ぱぁんっ!


男「…痛ッた…」

女「分かったようなコト言わないでよッ! 君がッ、私のなにを知ってるて言うの……ッ!?」

男「分かるわけがないだろ。それはお前の問題だ、俺が知るわけ無い」

女「じゃあ変なこと言わないで、私と付き合えるかどうかだけ返事すればッ!?」

男「さっきも言った。お前がきちんと答えるなら、俺も答える」

女「…っ…」ギュッ

男「でも、まあ、それもさっき言ったとおりだけどな」

女「なによっ、それっ」

男「代わりなんて誰だって嫌だろ、普通に考えて」

女「……」

男「一度だって今の関係が良いとは思ったことは無いよ、俺は」

女「……。今更なに? もういい、忘れて。告白、無かったことにするから」

4: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/02/12(日) 19:59:32.33 ID:uQpsctFhO
男「そうか。だったらもう、良いよな」スッ

女「……嫌なヤツ」

男「知ってる。それにお互い様だろ」


スタスタスタ…


「…ねえっ!」

男「ん」チラ

「確かに似てないけど――一個だけ、似てるんだ。君ってさ」

男「おう。参考までに聞いとく」

「笑顔。君の笑顔ってすごくお兄ちゃんに似てる。だから、良いなって思ったんだ」


「――良いなって思ってたんだ…」ポロ


男「……。頑張れ、応援してる」

「ありがとう。頑張る。それと、今までありがと…」

男「おう」


ヒュウゥウウ~…


~文芸部~

金髪「んー、五点?」

男「それは何点中の?」

金髪「もちろん百点満点中の五点だし。ダメだわ、最後まで鳥肌凄いし」

5: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/02/12(日) 20:00:08.31 ID:uQpsctFhO
男「そうですか…」

金髪「どっかの  同人誌でも参考にした? ならセリフ長過ぎ。当て馬テイドのお前が出張りすぎ。一コマで収まってないと」

男「一コマ……」

金髪「あんさ、べっつに妄想でもイイケドさ、もうちっと現実味出してよ」ヘラヘラ

金髪「単なる暇つぶしでの恋バナだし、気軽にさ、意地張らなくても良いから」フリフリ

男「しかし、れっきとした実話なのですが」

金髪「恐れ入ったね。後輩君の根性入った妄想話、感動すっけど聞いてるこっち疲れちゃうんでー勘弁願いたいって言うかー」

男「なるほど。勉強になります」

金髪「ッショ? 文芸部の部長サン、超リスペクト出来るっしょ?」

男「はい。これからもよろしくお願いします」

金髪「オナシャース!」

男「だがしかし、文芸部部長。恋バナというのは難しい。貴方を満足させるような過去が、果たして俺にあるのかどうか」

金髪「ん? なんでもイイヨ? ただ妄想くっさいのマジ勘弁ってだけ」

男「妄想くっさいの…」

6: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/02/12(日) 20:01:08.11 ID:uQpsctFhO
金髪「ほら、見た目悪くないし? オレほどじゃないけど、身体がっしりしててバリバリスポーツやってます系狙い所っしょ?」

男「はい。中学までバスケ部の部長やってました」

金髪「バリ運動系でモテるじゃ~~~ん! バスケ部とか女子超困んないじゃ~~~ん!」

男「ですが、先ほどの恋バナはお気に召さなかったようなので…自信が…」

金髪「他なんかないの? バリって恋しちゃってるっしょ?」

男「……。ああ、ならばこれならどうでしょうか――――」


~放課後・教室~


眼鏡「なあ。部活、辞めるって本当か?」

男「昨日、退部届を出した。明日から晴れて帰宅部になる」

眼鏡「…どうして」

男「どうして? もう部長としてやることはやったんだ、邪魔者は消えないと」

眼鏡「なら! …なら退部届を出さずに、卒業までやり通せば良いだろう? どうして禍根を残すような事をするんだ」

男「……。さっきからどうして、ばっかりだな」

眼鏡「! キミが気にかかることをするからだろ!?」バッ

男「……」

眼鏡「…すまん、急に大声を出して…悪かった、謝る…」

男「気にしない。それじゃあな」ガタリ


「待ってくれ!」ギュッ



7: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/02/12(日) 20:01:52.64 ID:uQpsctFhO
男「――っ、なんだ急に…?」

眼鏡「いかないで、くれ。置いていかないで、くれ。私を…ひとりぼっちにしないでくれ…」

男「ひとりぼっちじゃないだろ。部員は良い奴らばっかりで、他に女子マネだって居るだろ」

眼鏡「そういう事じゃない! 私が言いたいのは、そうじゃない……そうじゃないんだ…」

男「………」

眼鏡「なにが、悪かったんだ。なにをそこまで、キミを追い詰めたんだ。…私か? 私が悪かったのか? だったらっ、」ギュッ

男「違う」

眼鏡「なら私の目を見て言ってくれ…!! どうしてだっ、なぜキミは一度もっ! ここ数日間私の目を見てくれない…っ?」

男「…だって目が恐いんだもん、お前」

眼鏡「生まれつきだ! 悪かったな生まれつき眼光鋭くてッ! そうじゃない…そうじゃないだろ…!」

男「……」

眼鏡「…そうやって見てくれないんだな。私は今、キミに抱きついているというのに」

ぎゅっ

眼鏡「最後の最後まで私を見ないのだな…私を責めないんだな…」

男「ああ」

男「これ以上、眼鏡の側に居ちゃダメだってことぐらい、俺にだって分かってるから」

8: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/02/12(日) 20:02:42.29 ID:uQpsctFhO
眼鏡「…っ…ダメじゃ無い! 私はもう、キミと一緒に居られる! もうやましいキモチになんて抱かなくても済むんだ!」

男「え…?」

眼鏡「わか、れたんだ。もう先輩とは付き合ってない、私は……もう、誰とも付き合ってない」

眼鏡「今までずっとキミの側で曖昧な態度をして、長い間…困らせていた…」

男「気にしすぎだろ」

眼鏡「思い上がりでも良いッ! 私はキミに負い目を感じてるのは事実だ…!」

眼鏡「だから、もう、キミが私のことで振り回されている姿を…見たくは、ないんだっ」

スッ…

男「……?」チラ

眼鏡「っ…っ……っ…」フルフル…

男「お、おい…なんで下、なにも穿いてないんだ…っ!?」

眼鏡「好きに、していいから。もう、キミの思うがままに私を…使って…良いから…」ギュッ

眼鏡「――どうか、私の前から居なくならないでくれ…」


~~~~


金髪「一点」

男「手厳しいですね」

9: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/02/12(日) 20:03:21.16 ID:uQpsctFhO
金髪「アノ、気になるんだけどサ。どっしてさっきからxxxっぽい展開ばっかなワケ? 聞いてるこっちが嘘っぱちでもこっぱずかしいんですケド!」

男「すみません。言われたとおり部活、セリフ少なめ、妄想臭くない恋バナ選んだつもりだったんですが」

金髪「ああ…要望通り選んだら、それになったと…」

金髪「でもサァ? それ、妄想くささなくなってないよ? むしろマシマシに盛っちゃってるから」

男「マシマシ……」

金髪「フフ。でも文芸部部長さんとしては? シャイで妄想ボーイの物語聞いてて楽しくなっちゃう系の人なんよ! どうどう? まだ語れるっしょ?」

男「ええ。恋バナに関しては事欠きません、まだまだあります」キッパリ

金髪「カァ~ッ!ww 将来有望だわ~wwwwwwこの子、すっごいわ~wwww安心して将来の部長の座を明け渡せられるわ~wwww」

金髪「まww 部員なんてオレとお前だけなんだけど。お前が入部する前に、他やめちまったしさ」

男「そういえば何故、先輩は文芸部を?」

金髪「ん? 見た目や雰囲気がやりそうにないって? …ふっふっふ、ここ、格好の  場向きなの」

男「  場とは?」

金髪「人気少ない北校舎。誰も近寄らない四階の端っこ。都合の良い収納スペース。取って付けたかのような寝心地の良い高級ガウチ」

金髪「ここまでお膳立てされてちゃ使うっきゃないっしょ!?ww」

10: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/02/12(日) 20:03:58.74 ID:uQpsctFhO
金髪「あーもちろん、部員となったお前も使ってよし! けど掃除はこまめにな? そこ先輩超うるせーからな?」

男「成る程。では今度シフト表作りましょう、先輩と俺、日にちが被らないようきっちりと」

金髪「んん~~wwwwwwwwww 前がそーいうのならーwwww うん~~wwwwww」

男「はい」

金髪「あーお前超笑えるわ。どっからその自信沸いてくんの? じゃあよ、恋バナ続けて続けて。引き出しあんなら存分に語っちゃってよ~ww」

男「分かりました。先輩の満足が得られるのなら、俺はやれるだけのことを語ります」コクコク


~自室・夜~


男(もう寝るか。受験勉強はやれるだけやったしな)パチン

男「……そういや今日、両親帰ってこなかったか」

男(何時までも仲良いのは良いことだが、子供達に放任すぎないか)ゴソ

コンコン

男「? なんだ?」


「…お兄ちゃん、起きてる?」


男「今から寝るところだ。何か用事か、だったら明日にしてくれると嬉しいんだが」

ガチャ

妹「――なら都合いいな、って思う、かな?」ヒョコリ

11: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/02/12(日) 20:04:33.26 ID:uQpsctFhO
男「……。どうして枕持ってるんだ?」

妹「寝るためですけど…」

男「じゃあ寝ろよ」

妹「ここで寝たいんですけど…」

男「ダメだ」

妹「返事は聞いてないんですけど…」

パタン

男「お前なぁ、もう中学生だろ? 一人で寝るのが恐くなっても、ちゃんと我慢できるように…」

妹「よい、しょっと…」モゾモゾ

男「おいこら」

妹「うひひ。あったかいでゴンスなぁ~」ムフフ

男「……はぁ」バタリ


チッチッチッチッ…


男「…すぐ寝ろよ、抱きつくなよ、涎も垂らすな、わかったか」

妹「りょーかいです」ぴしっ

男「ん」


チッチッチッチッチッ…


妹「ねえ。お兄ちゃん」

男「寝ろ」

妹「今日、お母さんとお父さん、帰ってこなかったね」

12: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/02/12(日) 20:04:59.87 ID:uQpsctFhO
男「……」

妹「いまごろ。なにやってるんだろうね」

男「知らん」

妹「わたし知りたい」

男「なら明日の朝聞いてみれば良い。教えてくれるぞ、きっと教えてくれる」

妹「わたし、お兄ちゃんから知りたい」

男「…………」

妹「だめ?」

男「…ダメだ」

妹「なん、で…? んっ、どうしてお兄ちゃんは教えてくれないの…?」ゴソゴソ

男「そりゃ兄貴だから。一人の家族としては、言ってはダメなこともある」

妹「んっ、あっ! ひゃっ…ふふ、お兄ちゃんらしいね、んふふ…」チュク…

男「………。お前、俺の後ろで、なにやってる、んだ?」

妹「え? そりゃもちろん、オナ―――」


~~~


金髪「しゅーりょーーーー!!! はい! お前の持ち点ゼロになりました~~~~!wwwwww」

男「いつの間に持ち点制度が…ならば先ほどの点数は加点制…!? 把握をぬかりました先輩! もう一度チャンスを俺に!」ガタァッ

金髪「いや、単なるノリだからww 点数も持ち点ゼロも、オレのキモチの代弁的なヤツだからww」

13: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/02/12(日) 20:05:32.31 ID:uQpsctFhO
男「ぐぅぅ…先輩に気を遣われ、ましてや言い訳もさせるとは…っ」クッ

金髪「いや本音っすから! うんうん、もうなんつぅーかさ、家族はダメ? ましてや妹とか超ひくっていうか? 妄想の範疇超えちゃったというか?」

男「ええ。俺もこれは恋バナなのか、と判断に迷いました」

金髪「そこじゃなぁ~~~い!ww 悩むとこそこじゃなぁ~~~い!wwww」

男「そう、ですか。すみません、俺自身もあまり気配りできない人間だと思ってる次第で…」

金髪「そういったこでもなーーーし! …はぁ、うん、うん、はぁ~~~~……」

男「先輩?」

金髪「お前、童貞だろ?」

男「どうして分かったんですか!?」ガタンッ

金髪「アッハハ~! …真性ですか、そうですか」ボソリ

金髪「オレも途中まで笑っちゃってっし、ここまで聞いておいて邪険にすんのもカワイソーだから言ってあげるケド」

金髪「ぜーんぶ―――どっかの  漫画か、同人誌から話パクってるだろ?」

男「……っ…!!」

金髪「やめた方が良いと思うなーそういう見栄っ張り? 大人ぶり? 見てて聞いててどん引きなんよ、つか、妹まで出しちゃうとか神経どうにかしてるっしょ?」

男「先輩……」

金髪「別に良いじゃんドーテイでも、彼女いなくても、モテなくてもサ」

金髪「でもさ。お前見た目悪くないし、身長もたっかいし、ちょっと抜けてるけどさばさば系で喋りやすいし、なんでウソなんてつくのよ?」

14: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/02/12(日) 20:06:27.15 ID:uQpsctFhO
男「………」

金髪「あ~イイヨイイヨ~ww トラウマとかあんなら無理して喋んなくてww それすら妄想ぽかったら、お前のどこを信じれば良いのかわかなくなっしwwww」

男「………」


スッ トン…


男「先輩。ありがとうございます」ペコ

金髪「アリガトウゴザイマス? なんで感謝?」ヘラヘラ

男「俺、やっぱり思い切って文芸部に入部して良かった。先輩、ズバズバと俺の恋バナを否定してくれる」

男「…それに部室に置いてあるたくさんの同人誌、読ませて貰って勉強にもなりました」

金髪「べ、勉強? なにを同人誌で勉強すんだ? …妄想の糧にしてた感じ?」

男「それは…」


男「【俺の恋バナが変だという事。それを勉強するためです】」


金髪「……」

金髪「は?」

男「だから是非とも先輩に聞かせたい。俺の最初で最後の、本当の恋バナを――」

男「――どうか、それは何点なのか、ご教授願いたいです」

15: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/02/12(日) 20:07:08.08 ID:uQpsctFhO
~~~


中学一年生の頃。
俺はとある女子生徒に【呪われた】。

経緯は多分、二学年で人気だった女子を振ったから。


「無理。部活が忙しいから、つきあえないです」


無難な返答だったと今でも思うのだが、しかしそれがダメだったらしい。

次の日から壮絶な【悪質な噂】が周囲に立ちこめ始めた。


『両親と血が繋がってないらしいよ。親がアバっててとっかえひっかえで』
『中学生何人か堕ろさせたってマジ? すげーよな、やっぱモテるヤツは』
『隣町の女子も言ってた。すぐ手が出るんだって、こっわーい』


否定しても否定しても新しい噂が蔓延っていく。
どす黒くて、真っ新で、純粋で邪悪な悪意。

じきに部活も行きづらくなって、学校にすら行く気を無くしていって。


「……今日も良いっすか」ガラリ


それでも、俺が中学一年間を続けられたのは、とある女子生徒のお陰だった。

16: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/02/12(日) 20:07:39.48 ID:uQpsctFhO
「こんばんわ。男くん、今日はどうしたの?」

「新しい本、読みたくなって。また、オススメを教えて欲しいなって、思って…」

「うふふ。そうなんだ、じゃあこれなんてどうかな? 今の気分にぴったりだと嬉しいけれど」

「ウッス…」テレ


放課後の図書室に何時も残っていた上級生。
丸い野暮ったい眼鏡をかけた、影が薄くて記憶にあまり残りにくい女子生徒。

でも、

好奇な視線と悪意的な噂から逃げ場所を探してた俺にとって、彼女はもう女神当然だった。

彼女だって俺の噂を耳にしているはず。
俺のような背の高い生徒なんてそう居ない。だから、邪険にされたって仕方ない。

でも、

「あ。そうだ男くん、君ってば同人誌は知ってる? 商業誌ではなくて、個人誌。そこにはたくさんの自由があって、色んな物語ができるんだよ」

彼女は何時だって俺の側に居て、たくさんのことを教えてくれて、その優しさは暖かった。



でも。
それも今では届かない過去の想いだった。



「……嘘だろ」

彼女が自殺したと知ったのは【俺がバスケ部に復帰し、やけにモテ始めた頃だった】。

17: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/02/12(日) 20:09:24.11 ID:uQpsctFhO
中学一年終了間際。彼女にとっては卒業間際。
何があったのか、彼女に身に一体どんな悩みがあったのか――

俺は知るよしも無かった。だって、噂なんてなくなってて。
確かに図書室に行く機会も減っていたのは事実だが、それでも、彼女が思い悩んでる姿なんて。

「……どうしてだよ、なんで、一言も」

ああ、そうか。
きっと彼女は俺に言いたくなかったんだ。幸せになっていく俺を邪魔したくなかったんだ。

だから黙ってたんだ。俺の前だけは押し隠して、何度も何度も作り笑いを浮かべて。
いつも通りをふりを通し続けていたということか。


ああ、なんて恩知らずで馬鹿な人間なのだろう。俺というヤツは。


訪れた彼女の葬式には多くの友人とみられる人たちが来ていた。
意外にも彼女には友人関係が広かったらしい。当たり前だ、俺自身が知らなくてどうする。

彼女の優しさは人を癒やす。俺が一番知っていることだろうに。

でも、少しだけ気になった。
同世代があまりにも少ない。年上か、ましてや異性。その年齢層が広すぎる。

18: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/02/12(日) 20:10:21.01 ID:uQpsctFhO
「あの、すみません」

だから聞いてみたのだ。
どういった関係性なのだと、…興味本位で、一つでも彼女の気持ちを知りたくて。

「君。もしかして、過去に酷い噂をされたり、いじめを受けてたことある?」

「…え?」

「ああ。ごめん、私は彼女と同業者だったの。同人誌販売とかしてて、もちろん彼女も描いてたよ」

「は、はあ…」

「ふーん。そっか、なにも知らないだ。そうだよね、こうやって葬式にこれるぐらいだし」


「そっちのほうが幸せだものね」


同業者と語った人が言う、その意味を俺は理解できなかった。
でもなんとなく、ただなんとなく、ちょっとした思いつき程度の考えで。


――彼女の作品を、ここ最近に置いての同人誌を、読んでみたのだ。

――それが、彼女の全てが詰め込まれた【俺の対する呪いだと知らずに】。


~~~


男「先輩。『色野トーコ』という作者をご存じですか」

金髪「…え? え、あ、おう、知ってるというか…『陵辱系』やら『純愛系』やら…」

金髪「ジャンル問わず、とにかく多くの同人誌をネットやら本誌やらで描きまくってて…」

金髪「すげー短い期間だったけど、なんか超信教的なファンばっかりの有名作家、だろ…?」

19: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/02/12(日) 20:11:19.31 ID:uQpsctFhO
男「読んだことは?」

金髪「あ、あるけど? つか、短期間で絵柄変わって上手くなって、話もやばいぐらい変で、けど…ああ、そうだ…」

男「――そう、いつもいじめられていた男子生徒が主役だった」

金髪「……、……っ……」ゴクリ

男「それ。俺の好きだった先輩なんです」

金髪「…え、えっと」

男「俺が好きで、なのに彼女の悩みを一つたりとも知らなくて」

男「だけど、俺が初めて好きになって。今でも思い続けてる人で、そして…」


男「今でも俺を呪い続けてる。死んだ今でも尚、俺の側に居てくれる人なんです」


金髪「―――は、」

金髪「は、ははっ! んだよそれっ、今度は恐い系の話!? まったく話つきねーなーお前なぁーww」

男「読んでいるのなら知ってますよね、先輩」


男「明るく、楽しいギャグ調子の純愛系は主人公が幸せになる」

男「暗く、酷いオチがある救われない陵辱系は主人公が不幸せになる」


男「そして何か似通ってませんか? どこか見覚えがあったりしませんでしたか?」

金髪「なっ、ないけど!?」

20: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/02/12(日) 20:12:26.91 ID:uQpsctFhO
男「いえ。その同人誌を読んだ当時、ではなくて、今まで俺の恋バナに対してですよ」

金髪「…ごく、り…お前が、経験したことって……」

男「はい。貴方が言ってくれたとおり【本当に同人誌っぽい恋愛ばかり】だった」

金髪「…どう、して」

男「呪われたんです。彼女は俺に対し、憎しみか、それとも別の感情か。それを抱えたまま黙って同人誌を書き続けた」

男「なにも俺に伝えないまま自殺をして、残ったモノは同人誌。描き上げていった主人公は全て俺」



男「関係性なんて、ないわけがない。俺は……もう、普通の恋をさせてもらえない」

男「俺は一生【同人誌のような恋愛】ばっかりし続けるんでしょう…」



金髪「………」

男「…わからないんです、恋愛の普通さが、日常の境目と創作めいた境界線が」

男「だからここの文芸部を知ったとき心から嬉しかった。やっと同人誌を読むことが出来る」

男「…対処法を学ぶことが出来る」ギュッ

金髪「ばっ!!」ガタァッ

金髪「ばっかだなぁ~~!! お前ってば、んなこと事実だったとしても真に受けるなっつーの!」

21: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/02/12(日) 20:13:20.47 ID:uQpsctFhO
男「………」

金髪「あのなぁ!? 幾ら何でも突拍子もなさ過ぎっつーか!? なによなによ、じゃあお前は、それから恋愛全部そんな感じってワケか!?」

男「そんな感じです。超同人誌っぽいです」キッパリ

金髪「阿呆いえ! ああーーーーーーくっだらねぇーなぁ! おい、話としてはじゅーぶん笑えたけど、語ってるお前の態度が気に食わん!」

金髪「マジで語るのやめてくんない? はぁーあ、いいよもう、今日は帰るぞ、かえろかえろ」

男「…はい」ガタリ

金髪「……」チャリチャリ

男「先輩。明日から俺、その…」

金髪「んだよ」チラ

男「…すみません、なんでもない、です」

金髪「………はぁ、イイヨべっつに」

男「えっ?」

金髪「気にくわねーけど、入部は認めるって。ぜんぜん良いから、パイセン達が置いていった同人誌、ばんばん読んじゃってよ」

男「いいん、ですか?」

金髪「ほいほい。けどオナった匂い残すなよ!? オレそこんところウルセーからな!」

男「…………」じぃ~~~ん…

22: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/02/12(日) 20:14:02.65 ID:uQpsctFhO
金髪「きめーよ、んだよノッポくんよ」

男「先輩。俺、すごく感動って、いうかっ、………感謝します」ペコォオオオオ!!

金髪「どぅあっ!? 気をつけろよ! あぶねぇ!!」ヒョイ

男「先輩! あとでシフト表作りましょう! 俺、頑張りますから! というか俺、今日夜なべして作ってきます!」

金髪「ああ、そう……じゃ、頑張ってね」ハ、ハハ…


ガチャン スタスタスタ…


金髪(不思議な奴が入部したもんだ。見た目、完全に運動部系でどうすかっと思ったが)

男「あ」

金髪「どした?」

男「忘れ物しましたッス! 先輩! すみません! すみません!」ペコペコ

金髪「謝るな謝るな…その程度でよ、こっちも危ねえから…ほれ、鍵だ」チャリ

男「ありがとうございます!」

ダダァンッ

金髪「ったく、早まったかなオレも。ちっと面倒くさいキャラ臭がほんのりするわ…」グテー

23: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/02/12(日) 20:14:44.48 ID:uQpsctFhO
金髪(ま。融通効かなそうだが真面目だし、こっちのことも深く詮索してこねーだろ)

金髪「ハハッ!ww なにが同人誌みたいな展開ばっかりだよ。くっく、そうだったらここでオレも、」


シーン


金髪「―――………」サー…


くるっ ダダダダダダダダ!!!

ガラァ!! どがぁーん!


金髪「おいっ!! こ、後輩…っ…お前変なところ触るんじゃねーぞ!!」バッ

男「え?」

金髪「はぁ…はぁ…!? あっ、いや、何でも無いなら、別に…!」ブンブン

男「は、はあ…」

金髪(思い過ごしか、そりゃそうだ。なにがあるってんだ、オレはちゃんと隠して――)


ミチミチ… バキン メシメシ…ッ


金髪「…ん?」

男「?」

24: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/02/12(日) 20:15:27.73 ID:uQpsctFhO
バギィイイッ!! 

【女装用一式その他モロモロ『ピー』マグラ、しっぽ付き『ブー』、配信用ノートpc、カメラ、大小揃った小型『ブィイイイ!!』】

ドッサーーーーーーーー!!!


金髪「…………………」

男「……………………」


カチッ ブィッ ブブブ ブィイイイイイイイイイイインンンンン!! ガタガタガタガタガタ…


金髪「待て」

男「はい」コクコク

金髪「これは、だな。違う、オレのじゃなく、過去ここで  目的で使ってきた先人達の、」


ピチュン! ブゥーン…

『はぁーいっ! おまたせ全国津々浦々の、男の娘だいちゅきなヘン  お兄さんたちーっ!』

『もう準備はで・き・て・る・よん! だめだめ~! もっとイイね押してくれなきゃ、だ・め♪』


男「あ、この声。先輩に似てますね」キッパリ

金髪「………」ダラダラダラダラダラ

金髪「あの、さ。後輩君よ」

男「はい?」


金髪「お前、本当に、同人誌すぎ、マジで」

男「? そうですか?」



引用元: 金髪「お前の話、超同人誌すぎだろw」男「そうですか?」