1 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/07/21(日) 20:42:27.25 ID:L8nBSyms0
母「ヤダ! いつのだろう!?」

子供「わかんなーい。だけど、ホコリかぶってるよ」

母「ヤダヤダ! ちょっと、あなたー!」

父「んー? 何? 大掃除はかどってるか?」

母「それどころじゃないわよ! 押し入れの奥からモンスターボールが出てきたって!」

父「うわっ・・・・・・」

子供「開けてみるぅ?」

母「やめなさい!」

父「まいったなぁ、去年の大掃除ではここ、放置してたからなぁ」


5 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/07/21(日) 20:46:17.07 ID:L8nBSyms0
母「最後にここ開けたの、いつだろう」

父「さぁ、この押し入れは全然つかわないしなぁ」

子供「僕ずっと触ってないよー」

父「お前じゃないか? このモンスターボール」

母「私じゃないわよ! モンスターボールなんてここ数年、触れてもいないわ」

父「うーん。まったく記憶にないしなぁ・・・・・・」

子供「じゃあ、空なんじゃない?」

父「かもな」

母「嫌よ、それで腐った死体が出てきたりしたら」

10 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/07/21(日) 20:50:08.86 ID:L8nBSyms0
父「業者でも呼ぶか?」

母「うーん・・・・・・でも、この前聞いた話だけど、○○さんちでも似たようなことがあって、業者に頼んだんだって」

子供「○○さんちってー?」

母「ほら、草むらの近くの、よく木ノ実をくれるおじさんのうちだよ」

子供「あー! あのおじさんかー」

母「モンスターボールの中からキャタピーの死体が出てきたらしいんだけど」

父「うわっ」

母「なんでも、子供が捕まえて、そのままだったらしくて、ポケモン愛護法に基づいて、罰金を払わされたそうよ」

父「罰金!? 嫌だなー・・・・・・業者の作業料もかかるんだろ? ちょっとなぁ・・・・・・」

母「むしポケモンだったから罰金も少なかったらしいけど、種類によっては有期の禁固刑もありえるって・・・・・・」

子供「お父さん、逮捕されちゃうのー!?」

父「さ、されないよ・・・・・・ハハハ」

16 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/07/21(日) 20:54:11.16 ID:L8nBSyms0
父「や、やっぱり、自分たちで確認しよう」

母「それでもし中身が入ってて、警察に知られたら・・・・・・死体遺棄なんてことに、ならないわよね」

父「まさか、ポケモンだぞ? 法律上は、器物扱いだし・・・・・・」

母「そう、ね。バレなきゃ大丈夫よね。わざわざ、業者に金とられるのも嫌だし」

父「よし、じゃあ、中身を確認するか」

母「外でやってね」

子供「僕もいく~」

25 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/07/21(日) 20:58:17.82 ID:L8nBSyms0
父「よし、こんだけ山奥にくれば大丈夫だろう」

子供「じゃあ、中身を確認しよ!」

父「う、うん」

父「・・・・・・離れてろよ」

子供「はーい」

父「そら」

ヒューン ポワン

死体「」

父「ぬおわ!」

子供「わー! 死体だー!」

33 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/07/21(日) 21:03:01.94 ID:L8nBSyms0
子供「死体だ死体だー!」キャッキャ

父「コラ! ばっちいから触るんじゃない!」

父「しかし、ひどいな・・・・・・すっかりミイラ化してる・・・・・・これ、なんだ?」

死体「」

父「なんか、猫っぽいけど・・・・・・」

子供「あー!」

父「ん? なんだ、どうした」

子供「これ、エネコだー!」

父「エネコ? なんでエネコが・・・・・・うちに?」


43 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/07/21(日) 21:09:39.29 ID:L8nBSyms0
子供「思い出した! おじさんから貰ったんだ!」

父「おじさん? ホウエンのおじさんか?」

子供「うん! 去年うちにきたときに、くれたんだ。前、僕が『エネコほしい』って言ったから、つかまえてきてくれて」

父「で、そのまま押し入れに入れっぱなしか?」

子供「うん。忘れちゃってた。ボールのまま押し入れの中にしまわなければよかった」

父「ったく、いつも言ってるだろ、見た目はボールでも、中には命が入ってるんだって」

子供「ごめんなさーい」

父(まあ、無理もないな。こんな球に命が詰まってるなんて、俺でさえ実感しにくい)

父「さ、エネコに『ごめんなさい』して、お墓つくってやろうな」

子供「うん!」


45 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/07/21(日) 21:13:02.65 ID:L8nBSyms0
父「ただいまー」

母「おかえり。どうだった」

父「入ってたよ」

母「うへぇ、何が?」

父「エネコ。ほとんど皮と骨だよ。モンスターボールに入ってなかったら、とっくに風化してたな。ありゃあ」

母「あー嫌だ嫌だ。なんでそんなのがうちにあったの?」

父「お義兄さんがくれたんだってよ。それを忘れて放置してたって」

子供「ごめんなさーい」

母「もう!」


49 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/07/21(日) 21:18:11.46 ID:L8nBSyms0
子供「あー、テレビでおんなじことやってるよー」

父「ん? おんなじこと?」

アナウンサー『さあ、年末の大掃除シーズン。近年急増しているのが、これ、「モンスターボールの放置」』

コメンテーター『最近増えてますねー。よく聞きます』

アナウンサー『モンスターボールが開発されて以来、ポケモンの持ち運びに便利と評判だったわけですが』

アナウンサー『ポケモンを小さなボールの中にしまった結果、そこにポケモンがいるのだという意識が薄くなってしまう』

アナウンサー『そういった傾向が強まり、今、ポケモン愛護団体からボール使用に対する反論が出ているんですねー』

コメンテーター『この無機質な球が置かれているだけでは、そこに生き物がいるのだと、思えない』

コメンテーター『ポケモンが入っているのは理解しているんですよ。だけど、ダイレクトに命を感じることはできないんです』

アナウンサー『わかります。だから、ウチではポケモンはみな、放し飼いなんですよ』

コメンテーター『ですけど、都会に住む人はスペースがありませんから。そういった人々の間でも、ボールは普及してるわけです』

父「実際、無理だよな。モンスターボールの廃止なんて、いまさらさ。こんだけ普及してるんだもん」

母「ねぇ。便利だし」

子供「だよねー」


53 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/07/21(日) 21:23:08.67 ID:L8nBSyms0
~ゴミ収集所~

後輩「せ、先輩。今年もすごいっすよ。モンスターボールの山」

先輩「うは、すげえな。何個あるんだよ」

後輩「さぁ・・・・・・。これ、何個かは中身入ってるんですかね?」

先輩「どうだかな。だが、うちの方針は、『モンスターボールは不燃ゴミ』だから」

後輩「中身は確認しないんすよね?」

先輩「そう。確認作業なんていちいちやってられねえし」

先輩「もし、中身が入ってたら、役所に報告しねえとなんねーの」

先輩「面倒だろ? でもさ、ほら」

ギギギギギギ ズズゥン

先輩「中身を確認しないまま、プレスにかけちまえばさ、真相は闇の中よ」

後輩「そうっすね。俺たちはただ、ボールをプレスにかけてるだけっすもんね」



59 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/07/21(日) 21:29:05.52 ID:L8nBSyms0
先輩「っそ、俺たちが処理してるのは、モンスターボールだ」

先輩「ポケモンじゃない」

後輩「なんとも、割り切るのが大変でしたけど、慣れましたね」

先輩「ハハハ。だって、見た目はただのボールだしな」

後輩「そういう風に考えると、なんかいいっすね。あの玩具みたいなデザインは」

先輩「遊び飽きられた玩具か。あながち間違ってねえな」

後輩「あっ、また次のモンスターボールが運ばれてきましたよ」

先輩「大掃除シーズンはひでえな。楽できねえわ」

60 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/07/21(日) 21:32:22.53 ID:L8nBSyms0
先輩「・・・・・・」

後輩「先輩、プレスしたモンスターボールが埋め立て処分場に運ばれるとき、いつも手を合わせますよね」

先輩「ん。なんとなくな」

後輩「割り切るとか言って、全然割り切れてないじゃないっすか」

先輩「ばーか。なんとなくって言ってるだろ」

後輩「そっすか。じゃあ俺も」

先輩「・・・・・・ふぅ、まだまだ仕事は終わらねえぞ」

後輩「はい。はやく次のやつらをプレス機に放り込んじまいましょう」

先輩「そうだな」

その後も、モンスターボールが潰される音が止むことはなかった。

~完~