1 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/09/24(木) 01:18:01.38 ID:OtFeQBeA0

長門有希。

この宇宙を統括する情報統合思念体によって作られた対有機生命体コンタクト用ヒューマノイドインターフェース。

今日もまた、情報爆発を引き起こした涼宮ハルヒの観測。

涼宮ハルヒの願望実現能力は、あらゆる事象を変異させる可能性を秘めており情報統合思念体も興味を抱いている。

ここで言う涼宮ハルヒの願望実現能力とは事象平面を4次元的に移動させることによって生じるA・O空間、

すなわちデカルトの絶対客観空間(この絶対客観空間には人間は我々は干渉する手段を持たない)において、

ある事象を『あるべき結果』から『望ましい結果』へと変異させ、その際に生まれる莫大なエネルギーを変換し、

我々にとって都合の良い、3次元的な力に変換することによって朝比奈みくるの      たい。




3 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/09/24(木) 01:27:55.40 ID:OtFeQBeA0

つまりあなたがたヒトにも理解できるように言うと、その願望実現能力(仮にここでシステムゾハルと呼ぶ)から生じる圧倒的なエネルギー

(このシステムについては時間と宇宙の始まりから終わりまでを内包する情報統合思念体にも解明できない)を利用して、自律進化を終えた情報統合思念体にとって

進化のきっかけとなりうる事象を発見しようというもの。

それが私の任務であり、私がここに居る理由。信じて。

であるからして、私は今日も今日とて涼宮ハルヒの願望実現能力の観測を続け、その能力とシステムゾハルの解析を進め、

ひいてはその解明によって情報統合思念体の自律進化の手がかりともなり得るデータを送信する。


あなたがたに理解できるように説明していたら時間がかかってしまった。

もう放課後。部活動に行く時間。

私が所属していた文芸部室にて、現在涼宮ハルヒはSOS団なるものを立ち上げて活動を続けている。

そして、その団体の活動目的は、宇宙人や未来人、超能力者を集めて一緒に遊ぶこと。

その目的は、彼女の持つシステムゾハルをもって達成されている。

それでもなお活動が続けられているのは、悲しいかな彼女自身にその自覚がないからであり、そして同時に

彼女のその事実を知らせる事が事実上不可能であるからに他ならない。


そんな憂いを少なからず感じ、私はとりあえずスカートを脱ぎ去る。

もう夏は終わってしまったとはいえ、いまだにムシムシとした暑さは残っている。

下半身が少し涼しくなったのを確認し、私は部室へ向かった。


4 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/09/24(木) 01:30:00.68 ID:EdHOHBUZO

長文好きだから支援


5 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/09/24(木) 01:36:35.18 ID:OtFeQBeA0

部室の前に到着する。

彼(私以外の有機生命体の多くは彼のことを『キョン』と読んでいる。しかしながら、それは彼の正しいパーソナルネームではないく、

一般で言うところのあだ名であるため、私はその呼称を用いることを避けている。他意は、ない。)がドアの前で退屈そうに腕を組んでいる。

その仕種から予想される事象は2つある。

一つ目は、朝比奈みくるが部室で着替えを行っているため、紳士的な彼はわざわざ部室を出て待っているということ。

そしてもうひとつの可能性も無視することはできない。その可能性とは、朝比奈みくるが部室で着替えを行っているということである。

後者の可能性に憤りを隠せなくなった私は、はやる気持ちを抑え、まず彼に挨拶をするという妥協策をとるに至った。


「お…おい、長門!?お前、スカートはどうした!?」


私の挨拶もまるで意に介さず、彼はそんな事を口走った。どうして?

あなたがたヒトは、まず『あいさつ』によって円滑なコミュニケーションを図るとのデータがある。

私はそのデータにあることをそのまま実行しただけなのに、予想外な態度で返答を返してきた彼に驚きを隠しえない。

私が不思議そうな顔をしていると、彼は私の肩をつかんで叫んだ。


「誰かに何かされたのか!?おい、長門!!どうなんだ!?」


その必死な剣幕に、私は興奮を禁じえない。


6 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/09/24(木) 01:45:13.60 ID:OtFeQBeA0

「誰かにされたんだな!?おい、そうだろう!?」


彼の言葉が理解できない。

そもそも、誰か、に、何か、をされたというのならば、いくらでも当てはまる事象は起こっている。

なので、私は徐々に湿っている 着をとりあえずは見て見ぬ振りをして、正直に答えた。


「そう。された」


何一つ嘘はない。

そう、今日は4時間目の体育の授業中クラスメイトの渡辺千咲にボールを投げられたし、

昼休みにはクラスメイトの後藤弘樹に昼食を一緒に取ろうと誘われた。

しかし、彼は何を思ったのか、怒ったような表情を浮かべて歯軋りを始めた。

私はそんな彼の態度を怪訝に思いながらも、中で朝比奈みくるが着替えているであろう部室のドアを蹴破った。


「きゃあああ!?なな、なんですかぁ~!?」


黄色い悲鳴、という表現がこれほど当てはまる場面もなかなかないだろう。

そう思えるほどに見事な朝比奈みくるの絶叫が響いた後、私は団長席に座る涼宮ハルヒの目の前に正座する。


「ゆ、有希…!?アンタ、どうしたのよ…?スカートは!?」


彼と同じく、意味が理解できない質問を繰り出す涼宮ハルヒ。その上、内容まで同じである。

その奇妙な事態に違和感を覚えた私は、とりあえずその原因を探るために涼宮ハルヒの机の上に立ち、

そこでY字バランスをとってみることにした。


7 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/09/24(木) 01:52:22.33 ID:OtFeQBeA0

これ以上はないほどに美しく調和が取れたY字バランスに満足がいった私は、

ひとまず団長席の机から降りることにする。

そして再び机に登る。

何事にも波長というものが存在し、それが美しく調和された風景ほど美しいものはない。

なので、私は先ほど上げた足とは逆の足を上げ、太ももの裏を両手で支える。

徐々に持ち上げられていく足。

はじめは膝を曲げた状態から、膝がへそにつくくらいまで足を持ち上げる。

そしてその状態から、膝をゆっくりと伸ばしていく。

足が私の目の前まで伸び、ゆっくりと手を離しポーズを取る。


……美しい。

完璧なY字バランスを決めた私を、他の団員は口を開けて見ほれている。

それも無理のないこと。なぜなら私は、情報統合思念体によって作られたうんたら。

その私が作った調和された波長を目の当たりにして、自我を保てるヒトは存在しない。


「ちょ、ちょっとキョン!!有希が…!有希がおかしくなっちゃったわ!!」


「おい、長門!!一体どうしちまったんだ!!誰に何をされたんだ!!」



「ひ、ひえぇん…うぇえええええん……」


10 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/09/24(木) 02:03:11.42 ID:OtFeQBeA0

ここにきて、私はその異様な光景に息を呑むことになる。

私の目の前にはたかく振り上げられた左足。

その美しさには今更口をはさむところなどあろうはずもない。

しかし。

どうした事だろう。

私は、スカートを穿いていなかった。


「私のスカート……どこ」


そう彼に尋ねてみても、彼は茫然自失。

他の二名に至っても同じ反応である。

……私から衣服を奪い去る、しかも私がそれに気づくこともないまま……。

急激な羞恥心と危機感に見舞われた。

流石に彼の前でスカートを穿かずに過ごすのは抵抗がある。

……彼に、変な女だと思われたくない。

そんな、どこか私達思念体のインターフェースらしくない感情に悩まされた私は、ある決断を下す。

そして直後、その最善にして最高の解決策を思いついた私に感嘆をもらしてしまった。


そう、何のことはない。

スカートを穿いていないのならば、 着も脱げば良いのである。



15 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/09/24(木) 02:16:44.19 ID:OtFeQBeA0

腰にある 着のゴムに指を滑らせる。

そして、一度極限まで左右に伸ばしたあと、指を離す。

パン!という小気味の良い音を立てて、ゴムが私の腰を叩いた。

それから、 着を太もも、膝、すね、足首へと滑らせていく。

その光景を他三名は呆然と見つめていた。

……この感情は、何。

あの終わらない夏休みにでさえ、こんな感情を覚えることは終ぞなかった。

なのに、私は今、脈拍数が急激に上昇している……わかりやすく言えば、ドキドキしている。

ひょっとしたら、これがヒトのいうところである恋、なのだろうか。


そんな感情とは裏腹に、ここにきてある懸念事項が頭をよぎる。

――今日の 着は、他人に見せられるようなものだっただろうか。

不安は一度発生するととどまることを知らず、どんどん私を焦燥感へと追いやっていく。

その不安を拭い去るため、私は一気に 着を足首から取り去り、その柄を確認した。


……良かった。

今日の 着はペンギン。人に見られて恥ずかしいものではなかった。


22 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/09/24(木) 02:25:29.74 ID:OtFeQBeA0

しかしながら、ペンギンが臀部にプリントされているその 着が標準的なものなのかどうかはあくまで主観的な判断でしかない。

であるからして、この時点で安心に胸をなでおろすのは時期尚早というものである。

残る懸念事項、つまるところ他人から見てもその 着が一般的なこの国における女子高校生が身に着けていても違和感がないものなのかを確かめるべく、

私は画期的かつ簡易的、それでいて完全なる手段を取ることにした。


その手段の手順としては、以下の通りである。

まず第一に、 着の柄がよく確認できるような状態を保ちながら丸める。

そして次に、確認してもらうべき相手の前に移動する。

この際に注意すべきことは、相手に絶対的な信頼を抱かせ、主観がないように、あくまで徹底した客観的意見を取り入れるためにも、

その相手の前に移動する際に最善の注意を払いたいということである。

である以上、私もその点に留意しながら、まったく音を立てないようにブリッジの状態で彼の前に移動した。

それから、最終段階。実際に確かめてもらう段階である。

最重要にして最難関、この 着が恥ずかしいものではないかを確認してもらう大事な作業である。

このような重大な任務ほど、その場における迅速な判断と行動が必要とされる。

よって、私は彼の前に移動するなり、すぐさま彼の口の中に丸めた 着をねじ込んだ。


26 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/09/24(木) 02:38:35.65 ID:OtFeQBeA0

一瞬にして口の中に 着をねじ込まれた彼は目を見開く。

……5秒。……10秒。

時間とはかくも無常に私達生あるものから残された時を奪い去っていくものなのだろうか。

私が死の概念について熟慮していると、唐突に朝比奈みくるが倒れた。

即座に私は原因の解明と彼女の生命・安全維持の為に行動を起こす。


彼は 着を口から取り出し、涼宮ハルヒは泣きながら半狂乱で朝比奈みくるの名前を呼ぶ。

何度も何度も、まるで何かにとり憑かれたかのように名前を呼ぶ。

その様子に私は心が突き動かされるのを実感する。

……たった一人の人間が倒れただけなのに、どうしてそこまで必死になって心配できるのだろうか。

以前の私ならばそんな風に思ったに違いない。

でも、今は違う。

なざなら、私はこの数年間の活動を通じて、有機生命体の有する『絆』というものの偉大さを学ぶことができたから。

SOS団を愛し、その団員を誰よりも愛している涼宮ハルヒだからこそ、この事態に誰よりも先に朝比奈みくるの身を案じ、

そして心の底から涙を流すことができるのだろう。


……私は、そんな事を思いながら、この任務につけたことを本当に幸せだと実感する。

情報統合思念体と同一の存在だった頃は、こんな感情を抱くこともなかった。

それこそ、宇宙の起源(勿論ここでいう宇宙とはこの私達が現在存在する現存宇宙に限らず、ベビーユニバースや平行宇宙、その他の兄弟的位置に属する宇宙も含まれる)

かあその存在を見守ってきたというのに、このロストエルサレム、すなわち地球という極矮小な惑星における単なる知的生命体の生存活動において、このような素晴らしい生に依存する精神の神秘を目の当たりにできたことに素直に感動している。




30 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/09/24(木) 02:50:40.80 ID:OtFeQBeA0

そんなやり取りを一通り見終わった後、私はある欲求が精神を蝕み始めていることに気がついた。

……野球がしたい。

無性に、野球がしたいのだった。

その欲望を抑えることができなくなった私は、ひとまず野球を実践するための道具を揃え始める。

この部室には以前涼宮ハルヒの提案で出場した草野球大会の際に使用した道具が一式揃っていたはず。

なので、さっそく捜索にかかることにした。

ふと、掃除箱の上を見上げるとグローブとボールが入っている段ボールを発見した。

早速取りに行こうとするが、なぜか床で朝比奈みくるが寝ているので邪魔で通れない。

そんな予想外の事態に憤り、私は力任せに朝比奈みくるの頬を抓って起こそうと試みた。

しかし彼女は一向に起きようとせず、それどころか抓った所が内出血を起こし、それに加えて

涼宮ハルヒがなにやら私に向かって叫んでいるので、仕方なく寝ている朝比奈みくるの体を踏み越えて掃除箱に近づく。


「ちょっと有希!!!!気絶してるみくるちゃんを足蹴にするなんて、いったいどういうつもり!!?」


などと、いまだに涼宮ハルヒが理解しがたい内容の叫びをわめき散らしている。

そのような戯言に付き合っていても仕方がないので、私は野球道具一式をとることにした。


……唖然。私としたことが、なぜ失念していたのだろうか。

嗚呼、インターフェースとは思念体の支配下を離れるとかくも無力なものなのだろうか。

そう、バットがないのだ。


仕方がない。私はいったんこの長門有希個人の活動を停止させ、その代用案を模索し始めた。

その情報処理時間、レスポンスタイムを合わせて0.0003秒。我ながら素晴らしい処理速度である。

その計算から導き出された結論は、バットの代わりに、代用品として朝比奈みくるを使用するというものだった。


34 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/09/24(木) 03:05:18.09 ID:OtFeQBeA0

未だに床で寝ている朝比奈みくるを一先ず抱きかかえ、長机の上に横たえる。

このままではバットとしての機能は果たせるわけもないので、できる限りバットに近い形状を作る。

まず邪魔なのは衣服。

見慣れた北高の制服を引き裂き、 着姿にする。

そしてブラジャーも取り去り、その豊満に成熟した肢体を顕にする。……素晴らしい。

朝比奈みくるの体のつくりは、もはや許しがたい。生物学上同性である私からみても、非常に魅力的である。

大きいながらも品の失われていない胸、喩えるならば母なる海。宇宙におけるあらゆる生の起源となった波のような、

ある種の暖かさと冷たさ、母性と 性、そして無垢さと 猥さ。

相反する属性、決して相容れぬ定めをも覆したその二つの    。

    。なんと素晴らしい響きであろうか。

そう、言うなれば光。波としての性質を持ちながら、時として粒子としての働きをも掌るその存在。


そして、    も破り捨てる。

薄い  に隠されたそこは、まさにエリュシオン。失われた楽園。

腐敗した大地に咲く一輪の花、盲目のうちにいつしか見失っていた回帰すべき場所。

母なる海。ああ、これこそが高次元存在。ゼロ。


しかしここであることに気づく。

全裸ではあまりに可哀想ではないだろうか。そう思った私は、せめてもの慰みに靴下を穿かせてあげた。

それから、さらにバットに近い形状へ。

その最大の障壁となるのは、頭髪である。

私は空間操作によって、バリカンを生成した。


38 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/09/24(木) 03:15:25.86 ID:OtFeQBeA0

目の前には、お姉さん座りの体勢で号泣する涼宮ハルヒ。

私の 着を口から吐き出し、信じられないものを見たような表情を見せる彼。

気絶したままの朝比奈みくる。

先ほどまでと違う点といえば、朝比奈みくるが野球部も顔面蒼白の五厘刈りになっていることであった。

無理もない。バリカンには刃は付けておらず、直接刈ったのだから。


「?」


妙な違和感。何であろうか。

よくよく考えてみると、五厘刈りになった朝比奈みくるの顔は、どこかバランスが悪い。

その原因を探っていると、ようやく結論にたどり着いた。


……眉毛が浮いているのだ。


それもそのはず、頭髪がなければ眉毛など体毛が強調されてしまうのも必然といえる。

その違和感を解消するため、そしてより一流のバットに近づけるため、

朝比奈みくるの体毛という体毛を永久脱毛することした。


そうして出来上がったバットと野球道具を引っさげて、私はグラウンドに乗り出した。



43 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/09/24(木) 03:23:08.89 ID:OtFeQBeA0

グラウンドでは今日も運動部が精を出している。

このような娯楽にも限界以上の能力と労力を割ける風潮は私には理解できないが、

それでも野球がしたいという欲求はその疑問を遥かに上回るのだった。


「野球がしたい」


そう告げると、主将らしき大男は怪訝そうに私達を見つめる。私達とは無論、私とバットのことである。

男は好色そうな目で、私達のことを眺める…いや、この場合は舐めまわすといったほうが適切であろう、そんな風に見た後、

一打席だけならバッターボックスに立たせても良いと言った。

ありがたい。1打席あれば十分である。

野球部の一年生らしき少年からバットを借りる。

少年は「あ、あの…一応ヘルメットを……」と言ってくれたが、底だけは譲るわけには行かなかった。

なぜなら、私はスカートも 着も穿いていないのであるから。

頭かくして尻隠さずの状態だけは避けたかったのだ。


朝比奈みくるをベンチに横たえ、それに野球部員が何人かが群がるのを横目で確認してから、私はバッターボックスに入る。



51 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/09/24(木) 03:31:48.34 ID:OtFeQBeA0

ピッチャーはなんとありがたい事に、この学校のエースを務める選手が投げてくれるとの事だった。

挑戦者としてこれほど嬉しいことはない。

全力で相手をしてもらえる。それ即ち、勝負の醍醐味。

しかし、私のそんな思惑に反して投手はこんなことを言い出した。


「そんな格好で来たんだ、誘ってんだろ?終わったら部室で楽しもうぜ」


ニヤニヤしながらそんな事を言われたからからには黙っていられない。

私はここに野球を、ひいては勝負をしに来たのであって、断じて殿方を誘惑しにきたのではないのだから。

売り言葉に買い言葉、ただしこの喧嘩においては釣銭をきっちり払ってもらわなくてはならない。

神聖なる真剣勝負を汚されたのだから。


「そんな大口は私を打ち取ってからにして。もし私が負けたら本当になんでも好きにしていい」


そう言うと、投手は唇の端が釣りあがる音が聞こえそうな嫌な笑みを浮かべて、


「へぇ?楽しみにしてるぜ?じゃあ、もし万が一俺が打たれたらどうするんだ?」


などと言ってきた。

しかしここまでくれば言葉は不要。あとは玉と棒で語るべき。

だから一言だけ、こう言ってやった。


「相応の覚悟はしておいて」


58 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/09/24(木) 03:47:27.33 ID:OtFeQBeA0

相手投手はその大きな体に似合わず実にしなやかなフォームで第一投を繰り出してくる。

球速は142km/h。高校生レベルなら十分通用するだろう。

私は渾身の力を振り絞って、そのボールの中心から7mm下、最も回転数が上がり打球が伸びる位置にバットを叩きつける。

ドン!!という爆発音を発し、私が振り下ろしたバットが激しく発光し始めた。

ボールは嫌な音と感触を伴って、私の身長よりも低い位置で平行移動……否、ホップしながら伸びていく。

ミートポイントから一塁側ベンチに一直線に走る。

その軌道はベンチで寝そべっていた私のバットを貫通し、SOS団の部室に向かう。


……ファール。

少しばかり振り遅れてしまっていた自分への怒りが収まらず、唇をかみ締める。

ところが、そんな事で私の怒りも収まるはずもなく、その怒りは相手投手に向けられた。

次の一球をジャストミートし、これ以上ないほどのホームランを放った。

相手投手はうなだれ、頭を抱えながら震えている。


「お、お……俺が悪かった………まいった……ころさないで……」


私は脅える投手を立たせ、手を取った。

私は、自分が勝った時の条件を出していない。ただ、覚悟をしておいてといったまで。

勝負の先など、はじめから見てはいなかった。私が見たかったのは、真剣勝負の一幕。

相手が私に本気でぶつかってきて、私も本気でそれを迎え撃つ。

それこそが勝負であり、私が望んでいたもの。

だから……私は、「楽しかった」とだけ言い残し、相手投手に借りていたバットを全力で投げつけた。



68 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/09/24(木) 03:57:46.69 ID:OtFeQBeA0

心地よい疲労感に包まれてグラウンドを後にする。

勝負、その後に残るのは勝っても負けても爽快感。

なればこそ、人はこうして数々の歴史を血で塗り固めながらも、

正義のため、あるいは守るべきもののため、愛するもののため……戦い続けてきたのだろうか。

囚われた忌まわしき因果の鎖、復讐が復讐を呼び、欲望が理性を凌駕し、正義が剣を振るった歴史。


……進化とは、なんなのだろうか。

その答えを見つけることこそが、私の任務。

でも……私一人にできることなど、たかが知れている。

そう、私はせっかく絆というものを学んだ。

相談してみよう。そういえば、今日は古泉一樹がまだ部室に来ていない。

もしかしたら掃除当番なのかも知れない。もしくは、また閉鎖空間の対処に追われているということもありうる。


しかしながら最近彼らの定義するところの神である涼宮ハルヒの精神状態に異常は見られなかったはず。

……万が一ということもある。私は閉鎖空間の可能性を考慮し、古泉一樹を捜索すべく学校を後にした。



74 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/09/24(木) 04:06:15.33 ID:OtFeQBeA0

古泉一樹を探して数十分、私は駅前のコンビニに到着した。

今日の晩御飯を準備するためである。

棚に並べられた様々な商品を眺め、ある疑問が浮かんだ。

ドロリッチである。美味しいのだろうか?

モナカ王とどちらにしようか迷いに迷った末、ひとまず棚に戻すことにした。

そこで、なんと求めていた人物が自動ドアをくぐって店内に入ってきたのである。

古泉一樹、その人であった。

どこか疲れた表情のその様子からは、私の予想は間違っていなかったのだろうと推測される。

おそらく、閉鎖空間帰りなのだ。

そんな様子の古泉一樹に私の悩みを打ち明けても良いかどうか迷う。

きっと、自分自身のことで頭がいっぱいのはずだ。

……しかし。

私達の絆は、もっと深い。

古泉一樹はきっと、私がここで我慢して一人で抱え込むのを良しとは思わないはず。


だから私は、思い切って古泉一樹にこう声をかけた。


「いらっしゃいませー」


79 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/09/24(木) 04:15:19.82 ID:OtFeQBeA0

口を開けたまま言葉もない様子の古泉一樹。

それもそのはず、まさか私がこんな所に居るとは思いもしなかっただろう。

驚かせてしまったお詫びと労いの意味もこめて、彼に近づいてあるものを手渡した。

ドロリッチである。


「奢ってあげる。飲んで」


しかし、彼は唖然としたまま返事を寄越さない。

疲れているからだろうか?それとも、私のドロリッチは受け入れられないと……?

そう思うと、悲しくなってくる。

私はただ、彼の疲れを少しでも癒したかった。

そうすることが、仲間である私達にとって当然の行いだと信じていた。


そんな私の思いは、一瞬にして砕け散る。

私が信じていた絆は、所詮夢物語。空想の産物だったのだ。

ありがちな小説に出てくる安い友情ごっことさして変わらないものだったのだ。

わた、私のし、信じてきたものは…ひぅ、な、なんだったのだろう?

成長できたと思った実感は…?うぐ、な、なんだったの…?

涙は留まることを知らず、頬骨を伝い顎から滴る。やがて嗚咽が伴い始め、私は声を上げて泣いてしまった。



81 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/09/24(木) 04:22:25.91 ID:OtFeQBeA0

彼が私の泣き顔を眺め、当の私は涙を流し続け数分。

涙は止まった。

でも、失われた信頼と水分は戻ってはこない。

仕方なく私は、水分だけでも補給しようとドロリッチの蓋にストローを突き刺す。


……甘い。美味しい。

私の壊れかけた心を修復するように、それはまるで心の隙間に染み入るように私の体に入ってくる。

美味しい。その感情だけが私を支配する。


「ちょっとお客さん!!!なにやってんですか!?それ会計まだでしょ!?」


無粋な事を叫びながら、店員がレジから飛び出してきた。

夢見心地だった私は強制的にこちらがわに呼び戻される。

少し咽て、ドロリッチが床と胸元に零れてしまった。


「し…!しかも下半身裸じゃないですか!!!警察呼びますよ!?いいですね!?」


なおも叫び続ける店員を尻目に、私は胸元に零れたドロリッチを指で救う。

もったいない。外国にはこれさえも食べられない子供達がたくさん居るというのに。

そう思うと私は居ても立っても居られず、床に零れたドロリッチを啜ることにした。



91 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/09/24(木) 04:32:27.18 ID:OtFeQBeA0

古泉一樹も落ち着きを取り戻したようで、床に舌を這わせる私を抱き起こしてくれた。

そして矢継ぎ早に何があったのか、誰に何をされたのかなどと訳のわからないことを叫ぶ。

……また、奇妙な既視感。

そう、彼や涼宮ハルヒと同じ内容のことを叫ぶのだ。

ここまで来ると何かその台詞に意味が篭められているのかと疑わざるをえない。

シンクロニシティ。意味のある偶然の一致。

かつてこの星における生物の進化において、数回にわたってこのような事象は起こってきた。

もちろんヒトも例に漏れず、不特定多数の固体による意味のある偶然の一致を引き起こしてきたのである。

ならば、今回もそうなのではないか?


そう、私は栄えある進化の場面に立ち会おうとしているのでは?

ある種の興奮と高揚感が私を包む。

まさか、この目で自律進化を目の当たりにしようとは。

これは情報統合思念体にも予測できなかったはず。


そんな事を思っていると。

5名の警官が私を取り押さえた。



96 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/09/24(木) 04:46:20.50 ID:OtFeQBeA0

パトカーの中で私は考える。

なぜ私は逮捕されたのだろうか。

情報操作を行えば、警官など一網打尽だったはず。

そこで私は驚愕した。

情報操作を行えなかった理由。それに加えて、今日の様々な奇妙な体験の理由。


口の中いっぱいに、ドロリッチが入っていたのだ。

これでは情報操作が行えようはずがない。

しかし、もしも私の口にドロリッチが入っていなかったら……。

もしも私が警官に取り押さえられたときに情報操作を行えていたら……。

嗚呼、其処に進化の可能性はあったのだろうか。


今からでも遅くはない。

この口の中でぐちゃぐちゃに咀嚼されたドロリッチを処理すれば。

思い立ったら即行動に移す。これもまた、私がSOS団で学んだ多くのもののうちのひとつだった。

私の両脇に座る警官に「ドロリッチ。美味しい。いる?」と聞いてから(無論はっきりち発音はできなかったが)

口移しでドロリッチを分けてあげようとしていると、警官はなんと私に猿轡を噛ませた。



105 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/09/24(木) 04:57:53.73 ID:OtFeQBeA0

これで進化を目の当たりに出来る可能性は潰えた。

……どこで間違ったのだろうか。

歪みの始まりは、なんだったのだろうか。

ドロリッチはなぜこんなに美味しいのだろうか。

幾重にも絡まった事象の糸を解くことは最早出来なくとも、すべてをなかったことには出来る。


私は、任務云々を抜きにしても、人間が此れからどういった進化を遂げるのかに興味を抱いていた。

そして、それが我々情報統合思念体にどのような影響を齎すのかも。

血と争いの歴史を、ヒトは上書きすることが出来るのだろうか。

サイダー味のファンタやグレープ味の三ツ矢サイダーのような不毛な争いの輪廻から抜け出し、

ドロリッチのように新しい喜びと幸福の境地にたどり着くのだろうか。


その進化を見届けるため、私はその手段を取った。

猿轡を噛み千切り、手錠を千切り、ドロリッチを大切に大切に飲み下し、愉悦と恍惚に表情を緩ませる。

手足と口が自由になった私を見て、警官はドアを開けて逃げ出した。


晴れて自由な身となった私は、隣に居る古泉一樹に話しかける。


「あなたも、見たい?」


無論、古泉一樹は居ない。

無性に寂しくなった私は、SOS団の部室に戻ることにした。




112 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/09/24(木) 05:07:31.12 ID:OtFeQBeA0

ひどく懐かしく感じる学校。

私が慣れ親しみ、感情というものを教えてもらった場所。

任務が終わっても、私は此処を忘れることはないと思う。

涼宮ハルヒに誘われてSOS団に入り、

朝比奈みくるにお茶を煎れてもらって、

古泉一樹に丁寧にいろんなことを教えてもらって、

……そして、彼に優しくしてもらった場所。


どうしたことだろう。

私の大切な人たちが、大切な場所が、赤くなっていた。


……ここに文章に記すことさえ、心が痛む。

涼宮ハルヒは、彼に守られるようにして抱きすくめられて。

彼は、涼宮ハルヒを守るように抱きしめたまま。

その両者の胸に、拳大の穴が開いていた。


朝比奈みくるは、校庭で……全裸にされ、頭髪も体毛も抜かれ、同じように胸に穴を開けられている。




125 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/09/24(木) 05:14:52.31 ID:OtFeQBeA0

怒りでもない、悲しみでもない、どうしようもない感情の昂りが私を突き動かしていた。

涙を流しながら、私は夕焼けの空に向かって絶叫する。


「ぎゃああああああああああああ」


無意識のうちの咆哮だった。

もしかしたら、狂ってしまったのかもしれない。

そうだとしても……それならばそれでいい。

最も大切なことは忘れていないから。


大切な人たちを守らなくては。

最も効率よく助けるためには?

犯人を捜す?修復を試みる?

どの線も私の高度な計算機能が無駄だと告げている。

どのみち、狂ってしまったのかもしれない私の計算など、約に立たないかも知れないが。


弾き出された計算結果を元に

私は彼らを助けるため

情報操作を行った。


そして、冒頭に戻る。



胸元にこびり付いていたドロリッチが、床に音もなく零れ落ちた。




134 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/09/24(木) 05:21:42.68 ID:OtFeQBeA0

長門「おしまい」


キョン「……」


ハルヒ「……えっと、確かに幻想ホラーと言えばそうだけど……どう思う?キョン」


キョン「あ?あー…ま、まぁ…あまり生徒にいい顔はされないんじゃないかな?」


みくる「ひぇぇ…怖いですぅ……」うるうる


古泉「確かに、少し検討の余地がありそうですね」


ハルヒ「という訳よ、有希。悪いけど書き直し!」


長門「……そう」