1 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/07/17(日) 02:30:58.96 ID:sY4s8WFh0
少女「え……もう君に夏休みはないの?」

少女「どうして? まだ夏は始まったばかりなのに」

少女「……」

少女「そっか、大人になると遊んでばっかもいられないもんね」

少女「……え?」

少女「数日休みはあるけど、それが夏休みってわけじゃないんだ?」

少女「そっか。大人にとっては、ただの休みのうちの何日でしかないんだ」

少女「何か、そういうのって寂しいね」


3 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/07/17(日) 02:34:59.62 ID:sY4s8WFh0
少女「私、海に行きたいな~」

少女「一緒に泳いでいっぱいはしゃごうよ!」

少女「……」

少女「行っても、泳がないつもりなの? どうして、あんなに海好きだったじゃん」

少女「砂浜に着いただけで、ワーッて気持ちになってさ。準備運動もせずに海に……」

少女「……」

少女「……大人になると、そういうのもなくなっちゃうんだね」

 

5 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/07/17(日) 02:38:50.90 ID:sY4s8WFh0
少女「あ、じゃあ海の家でかき氷食べていい?」

少女「夏といえばかき氷だもんね」

少女「……え、氷だけじゃなくて、ラーメンもカレーも、シャワーも使っていいの?」

少女「そんな豪華なの初めてだよ~。お金……大丈夫?」

少女「……」

少女「そっ、か。今は普通にお金持ってるもんね」

少女「でも、私はやっぱりかき氷だけでいいよ。私にとっては、海の家ってそういう場所だからさ」

少女「シャワーも、カレーもラーメンも……なんか素直に受け入れられないよ」

少女「なんでかな。せっかく大丈夫って言ってくれたのに、ごめんね」


8 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/07/17(日) 02:41:56.47 ID:sY4s8WFh0
少女「ねね、そろそろ神社で夏祭りがあるんだよ」

少女「……」

少女「え、行かないの? あんなにお祭り好きだったのに……」

少女「……同級生と会うのが嫌なの?」

少女「……」

少女「そう、行っても誰もいないんだ」

少女「みんな、やっぱり地元なんて離れちゃうのかなあ」

少女「本当はいるかもしれないけど……町の小さなお祭りに来るかなんてわからないもんね」

少女「……」

少女「まさか、君も行かないつもりなの? 夏なのに……なんか、寂しいね」


15 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/07/17(日) 02:46:32.81 ID:sY4s8WFh0
少女「あ、うん。私は友達と行く予定だけど……来るのかなって思っただけ」

少女「……ううん、大丈夫。私はクレープとかき氷だけが食べられれば満足だから」

少女「そんなにお小遣いや食べ物いらないよ~」

少女「……」

少女「お祭りで、何でもたくさん食べてみたいって考える事もあるけどさ」

少女「でも、そういうのって違うような気もするんだ」

少女「……あなたはもう感じてるかもしれないけど」

少女「お祭りで一万円持っていくのって、なんだかとても寂しい事だと思うの」

少女「どうしてかな。私には、まだわからないや」


18 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/07/17(日) 02:50:02.82 ID:sY4s8WFh0
少女「花火~。ねえ、花火しようよ♪」

少女「……騒音? ご近所さん? やる場所がない?」

少女「なんで~、昔はよくその辺りで花火してたじゃん!」

少女「……」

少女「……」

少女「そう……あんまり、そういう事出来ない雰囲気になっちゃうんだね」

少女「別に悪い事してるわけじゃないのに、ね」

少女「花火……したいなあ」



24 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/07/17(日) 02:54:39.76 ID:sY4s8WFh0
少女「わ、いいの? ここで花火しても」

少女「わ~い」

少女「蝋を垂らして……こう、ロウソクを固定して」

少女「ふふっ」

シュ……シューッ

少女「わ、ついたついた。綺麗~」

少女「ほら、クルクル~って。あはははっ」

少女「……昔はこの花火クルクルするの、よく注意されたよね。別に危なくなんかないのに」

少女「危なくないってわかっちゃったから、大人になった子供は誰も注意をしなくなる……」

少女「あなたも、そうなの?」

少女「……なんてね。クルクル~って」

シューッ。

25 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/07/17(日) 02:55:47.50 ID:sY4s8WFh0
少女「ふふっ、花火楽しい~」

少女「……」

少女「やらないの? タバコに火をつけるより、全然綺麗だよ?」



28 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/07/17(日) 02:59:01.74 ID:sY4s8WFh0
少女「でも、ずいぶん量あるね。二人じゃ消化しきれないよ」

シューッ

少女「……もっと」

少女「昔は、もっとたくさん花火が欲しくていつまでもこうしてたかった」

少女「終わりに近づくにつれて、だんだん、なんか寂しくなってさ……」

少女「最後に線香花火だけが残ると、ああ、もう夏も終わっちゃうのかなって」

少女「だから、ずっと花火をしていたかったのかな」

少女「……」

シューッ

少女「綺麗だね。やっぱり」


30 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/07/17(日) 03:03:09.81 ID:sY4s8WFh0
少女「え? 帰る時間?」

少女「でもまだ花火こんなにあるよ~」

少女「……」

少女「保存しておけば大丈夫かな? じゃあ、また次の機会にやろっか」

少女「でも……」

少女「花火って、夏の間でもそんなに回数しないよね」

少女「一回すれば満足だし、途中で花火大会とかもあるし……子供は何回でもしたがるけどさ」

少女「大人は、やっぱりそうじゃないのかな~……って」

少女「なんだか、この余った花火が無駄になっちゃいそうで」

少女「……」




33 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/07/17(日) 03:11:35.41 ID:sY4s8WFh0
少女「え、本当に?」

少女「本当に、また花火やってくれるの!」

少女「やったぁ~! えへへ、絶対の約束だよ」

少女「……ん、じゃあ線香花火やって帰ろっか」

パチ……。

パチ、パチ……シューッ。

少女「……綺麗」

少女「でも、楽しくはないよね線香花火」

少女「地味で、最後は地面に落ちちゃって……それで花火も終わるから」

少女「同じ花火なのにね」

少女「……」

34 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/07/17(日) 03:12:58.15 ID:sY4s8WFh0
シューッ。

少女「このまま……」
少女「このまま、これがずっと終わらないでって何回お願いしたかなぁ」

少女「あなたも……した事あるでしょ、そういうお願い」


ポタッ。


少女「叶った事は、一度もないだろうけど……ね」

少女「帰ろっか。花火はおしまい」

少女「でも、夏はまだ……うん、まだ始まったばかりだよ」

少女「えへへ~、明日は何をしようかな」



36 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/07/17(日) 03:16:13.91 ID:sY4s8WFh0
少女「ねえ、お菓子食べたいな」

少女「駄菓子屋さん行こうよ。近所にあるじゃんか~」

少女「……そうだよ、ずっとあるお店だから絶対知ってるって」

少女「そうそう、そのお店。駄菓子屋さん~」

少女「じゃあしゅっぱ~つ」



39 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/07/17(日) 03:21:00.98 ID:sY4s8WFh0
少女「ねね、洗剤無いって言ってたよね。あとティッシュも……」

少女「……って、何キョロキョロしてるの?」

少女「ここは日用品も扱ってるんだよ。え、昔はそうじゃなかったの?」

少女「……」

少女「子供だけにお菓子売るってだけじゃあ、今はダメなのかな?」

少女「……私は、あまり子供が来なくて、たまに大人がいるこの駄菓子屋さんしか見たことないけど」

少女「子供だけで賑わう駄菓子屋さんとか、見てみたいなぁ」

少女「……」

少女「洗剤、別の場所で買おっか」


42 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/07/17(日) 03:26:54.62 ID:sY4s8WFh0
少女「お菓子~たくさ~ん」

少女「でもこれで百円分~」

少女「……そんなに驚かないでよ。昔はよく買ってたんでしょ?」

少女「……でも、それでもう一度感動出来るって事はさ。気持ちがきっと忘れちゃってるんだよ」

少女「駄菓子屋さんでカゴをお菓子いっぱいにする楽しみをさ」

少女「……」

少女「だって、さっきから、懐かしい、しか言ってないんだもね」

少女「一緒に買い物しようよ。たまには……昔に戻ってさ」

少女「濃い色をしたゼリーとか、当たり付ききなこ棒とかコーラみたいな袋したジュース買おうよ」

少女「百円片手に、ね」

43 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/07/17(日) 03:30:41.20 ID:sY4s8WFh0
少女「明日から親戚のお家に行くんだ~」

少女「一緒にデパートとか繁華街行きたいな」

少女「……デパート、潰れたの? 昔はよく行ってたって話してくれたのに」

少女「……ああ」

少女「昔だから、潰れちゃったんだね」

少女「……残念」

少女「そういう思い出の場所が変わるのも、夏だから……なのかな」

少女「夏も別れの季節、そんな気がするの」

45 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/07/17(日) 03:35:27.01 ID:sY4s8WFh0
少女「……」

少女「……おばあちゃん、今年も来ました。お邪魔します」

少女「私は元気に育ってます。おばあちゃんは元気ですか?」

少女「……それはよかったです」

少女「あの人が好きだと言っていた、おばあちゃんの作った煮物がもう食べられないのがとても残念ですが……」

少女「でも、私たちは元気にやっています」

少女「……」

少女「お線香の匂い、これも夏ですね」

少女「じゃあおばあちゃん、数日、お邪魔します」


49 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/07/17(日) 03:40:38.98 ID:sY4s8WFh0
少女「……」

少女「あ、見えるよ。デパートが前あったとこ」

少女「建物はそのままみたい……だね」

少女「……デパート、楽しいよね」

少女「まずはおもちゃ屋さんのある階に一直線で、そのあとパパやママのお買い物に付き合って……」

少女「最後は地下の食品売り場で夕ごはんを買うな」

少女「……」

少女「今は、自由におもちゃも買えるしご飯だってここで選ぶ必要も無いもんね」

少女「自由だけど……こうやってデパートから離れちゃうんだよね」

少女「……」

少女「だからあの建物も、あんな風に忘れられてしまったのかなあ?」


52 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/07/17(日) 03:52:26.95 ID:sY4s8WFh0
少女「おばあちゃん、今日行った繁華街はとても楽しかったです」

少女「ああいう場所だけは、いつも変わらずにあるのだと感じました」

少女「もちろん、お店とか色々変わったりはしてるんだろうけど……たまにかしか行かない私にはよくわかりません」

少女「だから、私の思い出の中ではあの繁華街は変わっていません」

少女「きっと大人になれば見方も変わるんだろうけど……今の私にはよくわからないです」

少女「では、おやすみなさい」



54 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/07/17(日) 03:56:01.65 ID:sY4s8WFh0
少女「暑い~暑い~……コンクリートばっかで全然緑が無い~」

少女「……ずいぶん慣れてるね。あ、そっか、しばらくこういう場所で暮らしてたんだもんね」

少女「いいなぁ、一人暮らし。やっぱり楽しかった?」

少女「友達たくさん呼んで、騒いで……でもそのうるささが何だか心地よくて」

少女「一人暮らしって、そんなイメージ」

少女「……」

少女「どうして、そんな寂しそうな顔をするの?」

少女「友達、いなかったの?」

少女「……」

少女「いても、寂しい時があるんだね」



56 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/07/17(日) 04:00:04.93 ID:sY4s8WFh0
少女「へえ……徹夜で遊んだりとかもやっぱあったんだ!」

少女「友達とずっと遊んでいられるのって、楽しかった?」

少女「朝になって、お腹がすいたからそろそろ帰ろうってなって……」

少女「じゃあ、また明日って言って朝焼けの中でバイバイするの」

少女「……え、お友達とのお別れってそうじゃないの?」

少女「私には、子供だからまだその別れ方しか知らないや」

少女「朝焼けが夕焼けになるだけで、友達とのお別れってそんな感じかなって」

少女「あはは、大人だもんね。挨拶だって変わってくるよね」

57 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/07/17(日) 04:04:53.47 ID:sY4s8WFh0
少女「……友達かあ」

少女「でも、こっちに戻って来ちゃったらもうその人たちとは遊ばないの?」

少女「ん~……私は今の友達と遊べなくなったら、寂しいかなあ」

少女「寂しくて、泣いちゃうよ」

少女「……」

少女「でも、時間が経ったらそうは言ってられないんだね」

少女「……うん。私は悔いのないよう遊んでおくね、友達と」

少女「それで、もし離れたりしても会いに行って、いつまでもずっと友達でいるんだ」

少女「えへへっ」

少女「……いられる、よね? そんな顔してたら、不安になっちゃうよ……」

少女「みんな、私の事覚えていてくれるかなぁ」

58 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/07/17(日) 04:08:57.01 ID:sY4s8WFh0
少女「……昔、この広場でお祭りあったの?」

少女「う~ん、何となくは覚えている……かも」

少女「え~、指輪なんておねだりしてたっけ? 覚えてないや」

少女「……」

少女「その指輪、どんな形してた? 色は、ついていた宝石の種類は?」

少女「……忘れちゃったんだ」

少女「あ、ううん。どんなのかな~って気になって」

少女「私がそれを買ってたら、今ここで指輪の思い出話も出来たかもしれないけど……買わなかったんだよね」

少女「指輪、その後どうなったのかな~」


60 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/07/17(日) 04:12:45.54 ID:sY4s8WFh0
少女「誰かに買われたのかな。それとも、売れ残ったりとか」

少女「……もしかしたら、まだ余り物として今年も売られるかも、なんてね」

少女「……」

少女「もし私がそるを手に入れていたら……」

少女「なんだか、そんな指輪があったなんて夢や幻みたいだね」

少女「そうやって思い出って、取り零して行くのかな」

少女「……」

少女「指輪一つで、こんな気持ちになるなんてね、不思議」

少女「……帰ろっか。何もない広場にいても、なんだか寂しいよ」

63 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/07/17(日) 04:16:31.86 ID:sY4s8WFh0
少女「おばあちゃん、私たちは明日帰ります」

少女「今までお邪魔しました。お盆にはおばあちゃんがぜひ家に来て下さい」

少女「あ、あと……明日はお昼くらいに出発するつもりです。よければ見送りに来て下さい」

少女「車の後ろの窓から、おばあちゃんたちが手を振ってるのを見るのが……私は大好きです」

少女「ちゃんとお別れ出来た気持ちになるから……」

少女「正直、ずっとその風景を見ていられると、昔の私は思っていました」

少女「……でも、時間はそれを許してくれなかったみたいです」

64 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/07/17(日) 04:21:05.30 ID:sY4s8WFh0
少女「こういう時だけは、あの人の普段考えてる事がわかる気がします」

少女「たまに寂しい顔を見せるのが大人なら、私も大人に近付いた証拠なんでしょうか?」

少女「……」

少女「私には、もうちょっと時間が経たないとわかりそうにありませんね」

少女「では、おやすみなさい。また今度……」


65 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/07/17(日) 04:24:14.15 ID:sY4s8WFh0
少女「お盆の次は、冬休みにまた……遊びに来ます」

少女「私は、ちょっとだけ大人なっているでしょう」

少女「……寂しい顔は出来ませんけど」

少女「正直、大人になるってわかりません」

少女「あの人もわかっていないから……あんな悲しい顔をするのかな、って」

少女「……」

少女「多分、誰にもわからないのでしょう」

少女「それが大人だと思います」

少女「……こういう風に、考えを誤魔化して話す」

少女「ちょっとだけ、わかったような気がします」

少女「……」

少女「ずっと真っ直ぐでいられなくなるのは……夏が来るからでしょうか」

少女「……」

少女「なんだか、よくわかんなくなっちゃった」


66 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/07/17(日) 04:26:14.79 ID:sY4s8WFh0
少女「大人は毎日こんな事考えてるのかな、偉いな~」

少女「……」

少女「偉い、のかな?」

少女「……」

少女「……おやすみなさい、おばあちゃん」

少女「……」


翌日、私たちはおばあちゃんのいない風景を窓から見ながら、元の町へと帰って行きました。

途中で見える海が……なんだかとてもキラキラしてました。


67 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/07/17(日) 04:27:53.92 ID:sY4s8WFh0
少女「ねえ、明日は花火大会だよ!」

少女「もちろん一緒に行……え、友達の結婚式?」

少女「……そっか、前から決まってたんじゃ仕方ないよね」

少女「……」

少女「……」

少女「……うん」

68 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/07/17(日) 04:31:50.33 ID:sY4s8WFh0
……ドーン。

少女「花火、綺麗だなあ」

少女「お家の二階でゆっくり見る花火も素敵だよね」

……ドーン。

少女「かき氷、食べたかったなあ」

少女「クレープ、どんな種類があったっけ……」

少女「……」

少女「お祭り行けないだけでこんな寂しくなるのに……」

少女「でも、こういう寂しさとは違う寂しさな顔するんだよね……」

少女「……」

……ドン、パーン。

少女「花火、よく見えないや」


69 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/07/17(日) 04:32:48.45 ID:sY4s8WFh0
ドン、ドン……パラパラパラ。

少女「……終わっちゃいそう」

シーン


少女「……」

シン……。

少女「終わっちゃった」

少女「大人になるってこういう気持ちなのかなあ」

71 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/07/17(日) 04:37:48.54 ID:sY4s8WFh0
少女「おかえり、ね、また明日から夏休みの続き……」

少女「……そっか、もうお休み終わりなんだ」

少女「ううん、大丈夫。むしろ今まで付き合ってくれてありがとうね」

少女「……え?」

少女「まだ、夏にやりたいことの半分もやりきってないよ? ほら、あなただって他にもさ……遊んでた事いっぱいあるでしょ?」

少女「……思い出せないの? たくさん遊んだはずの夏休みなのに」

少女「……私は、まだまだやりたい事も遊びたい内容も考えつくけど、あなたにはもう無いんだね」

少女「……」

少女「ううん、なんだかごめんね。わかるから」

少女「だって……」


あなたにとって夏は……きっとそういうモノになってしまったんでしょうね


73 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/07/17(日) 04:41:34.50 ID:sY4s8WFh0
あれから、私は一人で遊ぶ夏休みを過ごしていた。

友達とプールにいったり、スイカを食べたり……もちろんラジオ体操もしたりと、他にもまだまだたくさんの事をした。

少女(遊べば、きっと思い出すよ)

少女(でも……)

あの人にとってそういう夏は、もう来ないのでしょう。

少女「……」

それを思い、かわいそう、とは少し違う気持ちが私の中にはありました。

少女(だって、いつかは私も……)

少女(そんな夏が、来るのだから)


75 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/07/17(日) 04:48:26.08 ID:sY4s8WFh0
少女「……今日も朝日が昇る」

空はほんのり明るくなり、まだ光っている月が向こうの山に沈もうとしています。

少女「……ふーっ」

私は、朝の空気を胸に吸い込み大きく深呼吸をしました。

少女「私の夏は……まだ」

少女「まだ、終わらない」

私は自分に言い聞かせるようにそう呟くと、朝の町を自転車で走り出しました。

カゴにはラジオ体操のカードを入れながら、ただ夢中で。

私は私の夏休みを……もう二度と来ないこの日を。

まるで、ずっと思い出として焼き付けるかのように真っ直ぐだけを見ながら……。


79 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/07/17(日) 04:55:07.42 ID:sY4s8WFh0
少女(私は……この夏休みを忘れない)

あの人も、そんな事を考えた時があったのでしょうか。

少女「……」

あの人の夏は、もう終わり。

誰かにとっては、ただ季節の一部でしかなくなってしまった夏を……私は。

少女「……」

少女「涼しいなあ、いい気持ち」

私はこんなにも幸せな気分で過ごしている。

今は、その幸せにゆったりと浸かっていよう……。

まるで、ある日夢が覚めるみたいに大人になるまでは……この、甘い香りさえもする夏休みを……。

今は、まだ。



81 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/07/17(日) 05:00:16.94 ID:sY4s8WFh0
少女「……夏休みが終わる頃、私はちょっと大人になっちゃうのかなあ」

……。

それから私の夏休みが終わるまで、たくさん友達と遊びました。

勉強や宿題もあったけど、たくさん、たくさん時間を惜しむように。

私は……私の夏休みを過ごしました。

でも……一つだけ。

少女「あ……」

一つだけ、私は守れなかった約束を思い出しました

少女「花火……そう言えばやってないや。まだこんなにあるのに」

少女「……」

もう、夏は終わり。

82 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/07/17(日) 05:11:38.72 ID:sY4s8WFh0
結局、あの人はあれから一度も花火の話題など出さずにそのまま……。

少女「……」

少女「約束、したのに」

少女「……」

少女「ああ……」

その時私は思いました。

ここに置かれた大量の花火が……あの人の夏休みそのものなんじゃないかと。


花火に巻かれた、キラキラと光る色紙と火薬の匂い。

そして、束になったままの線香花火が……いつまでも。

まるで、誰かの忘れ物のように、その場所に置いてありました。

少女「……」


蝉が鳴く声もすっかり大人しくなった、八月の終わりの事でした……。