1 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/12/03(土) 13:55:21.81 ID:n3kKX0Wn0
~駅~

ザワザワ

結衣「この街に戻るのも、あれ以来か……」フゥ

結衣「……待ち合わせ時間までもうちょっとか」チラッ

今回の帰郷は、家族への顔出しでも、思い出に浸るためでもない。
この街で起きた『黄泉がえり事件』、その極秘調査のためだ。

結衣「しかし、資料を何回読んでも、フィクションにしか思えないな」パラッ

事件は、神隠しにあった子供が発見されたことから始まった。
58年前に死んでいたはずの子供は、しかし確かに当時のままの姿で忽然と現れたという。

結衣「あー、頭が痛い」

にわかには、信じ難い。誰だってタチの悪い悪戯だと判断するだろう。
だが、それを裏付ける証拠が出てきてしまった。



4 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/12/03(土) 13:58:00.43 ID:n3kKX0Wn0
結衣「DNAは死者のものと完全に一致している、か」パラパラ

頭の固い上層部も、同じような事例報告が頻発しては、重い腰を上げざるを得なかった。
遺族に協力をお願いして、残されたへその緒などを基にDNA鑑定を依頼したそうだ。
結果として、全てのケースでDNAは一致。

結衣「……死者が、蘇った」

ここで、死人が蘇ったことに科学的な信憑性が生まれた。

結衣「神隠しの一件だけなら、タイムスリップでも疑うところだけど」ハァ

火葬された人まで蘇る事例が、日増しに増えている。
全てのケースで遺骨とDNAが一致しているだから、もう笑うしかない。

結衣「こんな仕事は探偵にでも委託すればいいのに、まったく」

少しでもこの街の情報が欲しいらしく、この街出身で土地感のある私に命令が下った。

結衣「……いくか」

我が故郷は田舎ではあるものの、年月の経過と共に少しずつ発展していたようで。
私を迎えた高層ビル群は、もう私の思い出にはかすりもしない建物ばかりだった。

5 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/12/03(土) 14:00:33.30 ID:n3kKX0Wn0
~民家~

情報収集の一環で、蘇った人への聞き込み調査を行う。
正直、役場でのやり取りついでに、文書化しておいて欲しかった。

結衣「これは君の通ってた学校の絵?上手だね」

子供「………」カキカキ

結衣「君は、この子かな?」

子供「……うん」カキカキ

結衣「この家に帰ってくるまで、君はどこにいたの?」

子供「……森」カキカキ

人見知りな子のようだ、これ以上の質問は身内の方にすることにしよう。
子供というのは、追い詰めればそれだけ意固地になるものだ。

6 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/12/03(土) 14:02:45.72 ID:n3kKX0Wn0
結衣「恐縮ですが、あの子の話をお願いできますか?」

老人「ええ構いませんよ、そちらさんにも事情があって、大変でしょう」

結衣「……そう仰っていただけると、助かります」

老人「……空襲のあった日でした、避難の最中にあの子と森ではぐれたのです」

老人「普段ならともかく、何せ戦時中でしたから……」

老人「私も両親も親戚も、逃げることに必死で、迷子になったこの子に気付かなかった……」

老人「きっと生きている、そう信じて、不安を押し殺して、私たちは防空壕に隠れました」

老人「けれど空襲が終わって、一晩、二晩、一週間経っても、あの子は……」

結衣「……帰ってこなかった、そういうことですね」

……あの子が森で行方不明になったのは、この御老人が子供だった時の話だ。
今までずっと森にいたなんてありえない、58年も老化せずに森で生きていける訳がない。

7 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/12/03(土) 14:05:35.45 ID:n3kKX0Wn0
ならば、あの子の言う、森にいたというのは何を意味する?
生前の記憶?霊魂の記憶?確定するには情報が足りない……。

結衣「ご協力、ありがとうございました」

老人「お役に立てたなら、幸いです」

結衣「慌ただしくて申し訳ありませんが、これで失礼いたします」

スタスタ

子供「………」カキカキ

この子はいったい、どこから来た。
黄泉がえりとは、何なんだ。

8 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/12/03(土) 14:08:43.41 ID:n3kKX0Wn0
~心療内科、京子side~

先生「最近の調子はどうですか?歳納さん」

京子「……どうでしょうか」

京子「あの時、あの子の骨を海にまいて、整理をつけたつもりなのですが」

京子「やっぱり、時折どうしようもなくなります」

京子「こんなにうじうじしてるといけない、あの子に怒られるって、そう思うんですが……」

先生「……必要以上に急ぐことは、自分を追い詰めることは、解決にはなりません」

先生「それにそれは、そう思えるだけ進歩しているということなのですよ」

京子「そうだと、いいですけど」


10 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/12/03(土) 14:13:35.79 ID:n3kKX0Wn0
京子「正直、お薬の処方だけでいいのになぁ……」

京子「あ~、面倒くさい!」

心療内科だかなんだか知らないが、所詮は医者の中でも落ちこぼれたものの行く道だ。
カウンセリングを専門とするのか、医者として仕事をするのか、はっきりして欲しいものだ。

プップー

京子「ん?」

ガチャ

ちなつ「京子先輩、こんなところで何やってるんですか?」

京子「ちなつちゃん!久しぶりっ」

ちなつ「お久しぶりです」

大人になったちなつちゃんは、緩やかな癖のある長い髪が綺麗だ。
何時だったか、髪を結ぶのは子供っぽいと言って、それ以来今も伸ばしているようだ。

11 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/12/03(土) 14:16:21.14 ID:n3kKX0Wn0
京子「この前悩んでた新車、プリウスに決めたんだ?」

ちなつ「結構イケてるでしょ?」

京子「めちゃめちゃ可愛い」

ちなつ「バス待ちですか?もしよければ私が送りますよ」

京子「ホント?やった!」

ちなつ「それじゃ、お好きな席にどうぞ」

友人と仲良く話すというのは、大人になるとこれが案外難しい。
成長と共に道は別れて、身の回りに精一杯になってしまうものだから。

バタンッ

だから、今日はちょっとラッキーな日だ。

12 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/12/03(土) 14:19:54.07 ID:n3kKX0Wn0
京子「………」ウトウト

始めはそわそわしていたけれど、安心感から次第に眠くなってきた。
目的地に到着するまで、少しだけ、少しだけ目を閉じていよう……。

京子「………」

……逢い…い…と思………は……と今……願いに……
……を……月…ず……が………、………濡ら………
…弦…………浮………鏡……………水面……

京子「………」zzz

……の新曲をお届けしました。
既に亡くなっているという噂も流れていましたが、新曲と共に戻ってきました。
これからの活動が、期待されますね。


プツンッ……。

13 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/12/03(土) 14:23:41.48 ID:n3kKX0Wn0
~京子のアパート、結衣side~

京子「結衣?」

結衣「久しぶり、京子」

京子「本物の結衣じゃん!戻るなら連絡位しなよ!」

結衣「そんなに驚かないでも」

仕事ついでに、京子に会いに来た。
少しだけ待って引き返そうと思っていたけれど、運良く玄関先で鉢合わせた。
小煩い上司もいないし、どうせ長丁場になるだろうから、少しくらい遊んでも罰は当たるまい。

京子「とりあえず、立ち話もなんだし、中に入ってよ」

結衣「ありがとう」

久しぶりに見た京子は、意外と元気そうでほっとした。

14 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/12/03(土) 14:28:09.46 ID:n3kKX0Wn0
京子「こうして会うのは、あかりの葬式以来だね」エヘヘ

結衣「そうだな」

京子「結衣ったら、上京してから冷たいんだから」ムゥ

結衣「それはごめん、まぁ、自覚はあるから顔出しに来たわけだし」

京子「何か食べる?」

結衣「用意してくれるの?」

京子「うん、自信はないけど、それでよかったら」モジモジ

結衣「それじゃ、いただくよ」

京子も自炊をしていて、そんな姿に戸惑いを覚えなくなったのは何時からだっただろう。
まぁどうだっていいか、都合の悪いことなんて忘れて、今を楽しんでいたい。


16 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/12/03(土) 14:32:58.06 ID:n3kKX0Wn0
結衣「ご馳走様、美味しかったよ」

京子「お粗末様ですよっと」

結衣「随分と腕が上達してて、正直驚いた」

京子「京子ちゃんは天才っ子ですから!」

結衣「」ジトー

京子「うっ、そういう目で見るのはやめてよ」

結衣「ふーん」

京子「なんか急に恥ずかしくなってきた……」

一人前に恥じらいを学習してきたようで、なりよりだ。

17 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/12/03(土) 14:35:31.70 ID:n3kKX0Wn0
京子「と、ところで今日はどうしたの?帰省か何か?」

結衣「ちょっと仕事の関係で、こっちに用があってね」

京子「へえ、何でまた?」

明らかな話題そらしだけど、からかい続けると話も進まないし、乗ってあげようか。

結衣「ここ一帯で死人が蘇っているから、調査しろってさ」

京子「はっ?」

まぁ、誰でもそういう反応になるだろう。
こっちは大真面目なんだけどさ。

本来は守秘義務があるけれど、こいつも首を半分突っ込んでいる事だ。
与太話みたいなものだし、話しても構わないか。

18 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/12/03(土) 14:40:19.42 ID:n3kKX0Wn0
結衣「最初に確認された事例は、森で失踪した子が蘇った件らしい」

結衣「それから一週間が過ぎたけれど、黄泉がえりの数は増える一方、現在も進行中だよ」

京子「えっ、それマジ?」

結衣「マジ」

京子「今日ってエイプリルフールだっけ?」

結衣「だから冗談でも何でもないんだって」

京子「えぇぇぇ」

結衣「今は蘇った人の搜索や情報収集の段階で、捜査機関と協働して動いてるところ」

もっとも、俄には信じ難いことなのは、私にも理解できる。
ここ数日の調査を通じて、私にもようやく実感がわいてきたところだから。


20 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/12/03(土) 14:45:33.84 ID:n3kKX0Wn0
結衣「役場勤めの京子なら、心当たりもあるだろ?」

結衣「この地区で、死亡届を取り消してほしいって人が出てきたと聞いたよ」

京子「……あれか!何かおかしいと思ったんだよ」

やはり、事務仕事にも支障が出るレベルにまで、問題は広がっているようだ。

結衣「といったわけで、しばらくはこの街にいるから、よろしく」

京子「はいよ」

結衣「相変わらず適応能力が高いな」

京子「まぁね、面白い情報入手したら、私にも教えてね」

結衣「バレたらやばいな」

京子「バレなきゃいいじゃん」

京子よりも私の方が偉いから、私が得るものは殆どないのだけど。

21 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/12/03(土) 14:48:54.12 ID:n3kKX0Wn0
京子「今、失礼なこと考えたでしょ」ムッ

結衣「考え過ぎ」

京子「そっかなぁ……」ジィー

幼馴染というのは、ある意味不便なものだ。

結衣「ところで、今の話、信じてる?」

京子「まさか」ハハッ

結衣「………」ハァ

やっぱり、黄泉がえりを信じたわけではなかったようだ。

京子「……でも、信じてないけれど、」

京子「結衣が嘘ついてないことは、わかるよ」ニコッ

あの昔のままの、無邪気な微笑みだった。
私を信頼して、ありのままの姿をさらけ出していた京子が、そこにいた。

22 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/12/03(土) 14:52:40.67 ID:n3kKX0Wn0
結衣「そう……」

予想はしていた、京子は何があっても私を信じるだろうと。
人が生き返るなんて変なことを話し始める、そんな私でも信じてくれるって。

それでも、それが照れ臭くて、懐かしくて、嬉しくて……、
涙が零れてしまいそうで、言葉が出せなかった。

結衣「…………それって、私の頭がおかしいって言ってるようなものだよね」

京子「あっ、バレた?」テヘッ

結衣「京子……」

京子「いや、結衣さん落ちついて、ほら、ねっ、ねっ」アセアセ

結衣「しょうがないな、京子は」

いつまでも、お調子者なんだから。

23 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/12/03(土) 14:55:44.18 ID:n3kKX0Wn0
京子「……あかりも、ひょっこり蘇ったりして」

京子「なんてねっ、変なこと話してごめん」

冗談めかしたけれど、今のは確かに京子の本心だった。
気にしていない素振りで、人一倍あかりに囚われているのは、京子だから。

結衣「……そうなるかも」

京子「変な子だったよね、あかり」アハハ

結衣「良くも悪くも、あんな子は二人といないね」

そんな調子で、夜まで思い出話に花を咲かせた。
話の種は尽きなくて、楽しくて、懐かしくて、ちょっと切なかった。

24 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/12/03(土) 15:00:09.85 ID:n3kKX0Wn0
~捜査本部~

部下「自殺した高校生が生き返った件、マスコミの方にはどのように?」

結衣「途中で蘇生に成功したと、説明を」

実際、心肺停止の状態から回復するものは少ないながら存在する。
首を吊った人は首の骨が折れるとか、そんなことまで私の知ったことではないが。

結衣「時間を稼ぐことを第一に考えて、情報を適度に小出しにしてコントロールするように」

部下「了解しました」

結衣「私は病院へ調査に出かけるので、後は頼みます」

バタン

無茶を言っているのは分かっているが、私にできるのは情報収集とデータ分析くらいだ。
ならば、意地でも、この黄泉がえりの法則を掴んでみせる。

25 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/12/03(土) 15:04:29.40 ID:n3kKX0Wn0
~病院~

結衣「今までのこと、どこまで覚えてる?」

青年「……ロープを、首にかけたところまでは」

結衣「体の調子は悪くない?」

青年「大丈夫です」

結衣「最後に、何か印象に残っていることはあるかな?」

青年「……誰かに呼ばれたような、そんな気が、しました」

この青年、いたって健康体の普通の人間だ。
けれど、自殺した時のロープの痕も、胸部切開の痕も、その体から綺麗に消えている。

果たしてこれを人だと、私たちと同じ存在だと言えるだろうか。
この青年の存在が世間にバレたら、色々なものが終わるだろう。

26 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/12/03(土) 15:08:23.04 ID:n3kKX0Wn0
結衣「窮屈な思いをさせて悪いけど、もう少しの辛抱だから」

青年「はい」

結衣「質問に答えてくれて、ありがとう」

パタン

結衣「………」フゥ

手を回して誤魔化したが、あの子の死体は棺桶の中にあった。
死体が棺桶の中にあるのなら、ここに存在しているあの子は何なのだろう?

結衣「呼ばれた気がした……か」

意味深な言葉だ。



28 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/12/03(土) 15:12:32.35 ID:n3kKX0Wn0
~京子のアパート~

結衣「またご馳走になっちゃって、ごめん」

京子「いいのいいの、結衣はお疲れさんみたいだし」

結衣「ちょっと、色々あって」

京子「進展、あった?」ワクワク

結衣「データも揃って、少しずつ推測も可能になってきたよ」

京子「おお、なになに?」

結衣「……想いが人を、蘇らせるのかな」ボソッ

疲れていたからなのか、私は迂闊にも口を滑らせた。
本来、それは漏らしてはいけない情報だった。
特に、京子には。

京子「えっ」

京子の顔色が変わって、
後悔した瞬間には、もう京子は動き出していた。

29 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/12/03(土) 15:15:43.75 ID:n3kKX0Wn0
バタン

「あかり?」

バタン

「どの部屋にいるの?ねぇ、あかり!」

バタン

「あかり、返事してよ、あかり」

「……あかり、どこにいるの?」

「あかり……」

こんなにも動揺して、仮面を被ることもなく取り乱す。
京子の苦しむ姿なんて、見たくなかったのに。

30 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/12/03(土) 15:18:55.52 ID:n3kKX0Wn0
結衣「京子」

京子「結衣……」

まるで、迷子の子供のような瞳をしている。
帰る場所を見失って途方に暮れている、そんな顔をしている。

結衣「黄泉がえりなんて、信じないんじゃなかったの?」

京子「私、馬鹿だから」フフ

京子は自虐するように、自分自身を嘲笑った。

可笑しそうに笑っているのに、
その笑顔は悲しいものにしか見えなかった。

31 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/12/03(土) 15:23:22.05 ID:n3kKX0Wn0
~捜査本部~

プルルルルッ

結衣「捜査本部の船見です」

結衣「はい」

結衣「おそらくこの件、まだ収まりません」

結衣「報告書の通り、偽りはありません」

結衣「報道機関には、そちらで対処をお願いします」

結衣「ええ、データ収集は恙無く終了しました」

結衣「これから、黄泉がえりの現象の分析に移ります」

結衣「情報が漏れることのないように、注意をお願いします。」

ピッ

32 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/12/03(土) 15:25:51.70 ID:n3kKX0Wn0
プルルルルル

結衣「はい、船見です」

京子『町役場の歳納でーす』

結衣「なんだ、京子か」

京子『何だとはなんだよ』

結衣「それで、用件は?」

京子『もう二組み、新しく現れたよ』

結衣「……そっか」

京子『心配してる?』

結衣「別にしてないよ」

ピッ


京子「むむむ」ムカッ

33 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/12/03(土) 15:29:43.42 ID:n3kKX0Wn0
~休憩室~

部下「街でも噂になっているようです」

結衣「だろうね」

部下「……こんなの本当にずっと、続くんですかね」

結衣「何時までも続くかもしれないし、終わりが来るかもしれない」

ただひとつ言えることは、これが自然の摂理に反しているということだ。
神の奇跡か、悪魔の契約か、いずれにしても恐ろしいことだ。

部下「ここが踏ん張りどころ、ですか」

結衣「そういうこと」

これが公表されたら、世界中を巻き込んでかつて無いパニックが起きるだろう。
犠牲になるのは、幸せが壊されるのは、この街の人々だ。

部下「流石に体力がきついです」

結衣「私が代わりに書類処理してあげるから、仮眠してきなさい」

皆の疲労も溜まっている頃だろう。
私も何かを掴まなければ、御大層な立場の分の働きをしなければ。

34 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/12/03(土) 15:32:52.98 ID:n3kKX0Wn0
~夢~

……古い夢を見ている。

私は仕事を全て処理して、仮眠を取っているはずだ。
明晰夢というやつだろうか、これは私が高校生の時の記憶……。

~海辺の砂浜~

あかり「結衣ちゃん」

結衣「何?」

あかり「東京って、そんなにいい所なの?」

結衣「まぁ、楽しいかな」

あかり「彼氏さん、とかは?」

結衣「そこそこ」

あかり「えぇぇぇ!本当にできたの?」

結衣「冗談だよ」

あかり「もぅ、結衣ちゃんったら」プンプン

頬を膨らませて怒ったフリをするあかり、懐かしさに胸が暖かくなる。


36 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/12/03(土) 15:37:27.78 ID:n3kKX0Wn0
あかり「ねぇ、結衣ちゃん」

結衣「何?」

あかり「私が京子ちゃんに告白したとき、京子ちゃんに相談受けたでしょ?」

結衣「ああ、あったね、そんなことも」

あかり「それに、あかりが告白する時も、ずっと応援してくれたよね」

結衣「二人とも、私の大事な幼馴染だから」

あかり「それでね、私たちが結ばれたのは結衣ちゃんのおかげだなぁって、そう思うの」

あかり「だから、ありがとう」エヘヘ

結衣「私も二人の仲が上手くいくと、本当に幸せだよ」

あかり「結衣ちゃん」

あかりと京子の恋愛相談にを受けて、私は二人を結びつけた。
その甲斐あって二人の仲は順調で、それがとても嬉しくて、少し寂しい気分になった。

37 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/12/03(土) 15:41:49.99 ID:n3kKX0Wn0
京子「なにこそこそ話してんの?」ヒョイ

結衣「なんでもない」

あかり「なんでもないよ?」

京子「うぅ、内緒話なんてずるいぞ、私に教えろぉー!」

三人で何時までも、何時までも、こうしていたかった。


~~
「結衣、あかりが海に、海に」

「京子?落ち着いて、どうしたの?」
~~


波は、私たちから大事なものを奪った。


39 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/12/03(土) 15:47:27.62 ID:n3kKX0Wn0
~朝~

結衣「ん……」

結衣「ふぁぁ……」

結衣「……今日も頑張るか」

起き抜けの気分は、あまり良いとは言えない。
体は凝っているし、夢の余韻は私の心によどみを作る。

~報告~

結衣「ここに表示されているのは、データを分かりやすく可視化したものです」

結衣「黄泉がえりは、森林のクレーターを中心として、同心円状に起こっています」

結衣「では黄泉がえりを、日付順に、徐々に表示していきましょう」

ポチッ

結衣「日付が進むにつれて、範囲が円状に拡大していたことが分かります」

結衣「そして五日前から、この拡大は止まりました」



41 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/12/03(土) 15:52:29.19 ID:n3kKX0Wn0
結衣「現在、黄泉がえりは、このラインで囲ったエリアにおいてのみ発生しています」

結衣「故に、このラインが黄泉がえりの効力の限界だと、考えられます」

ポチッ

結衣「次に黄泉がえりの中心、クレーターの分析を行います」

結衣「このクレーター付近では、重力異常が引き起こされて、磁場の乱れも観測されました」

ポチッ

結衣「重力異常・磁場異常の範囲は、先程の黄泉がえりの発生エリアとぴったり一致します」

結衣「このクレーターこそが、黄泉がえりの発生原因だと推測されます」

ポチッ

結衣「さらに、蘇った人達の墓の位置を点で表示すると……」

結衣「全てが黄泉がえりの発生エリアに収まっています」

42 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/12/03(土) 15:55:20.52 ID:n3kKX0Wn0
ピッ

結衣「以上から鑑みるに、黄泉がえりの原因がクレーターにあること、」

結衣「そして黄泉がえりには、死者の遺骨等の構成情報が必要であることが分かります」

結衣「確定できない情報や詳しい分析は、レジュメに記載している通りです」

結衣「私からの報告は以上です」


44 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/12/03(土) 16:00:42.34 ID:n3kKX0Wn0
~捜査本部~

部下「政府は、どう動くでしょうか」

結衣「……未だにデータも乏しいから、判断は難しい」カタカタ

結衣「それでも政府の行動を予測するなら、隔離か、あるいは……」カタカタ

部下「……考えたく、ないですね」

結衣「同意するよ」カタカタ

恐ろしくなって、私は伝手を頼って各所から情報を集めている。
それによると、保護という形の隔離政策が行われることは決定事項らしい。

部下「ところで、それは?」

結衣「森のクレーターから出ている信号を波にして、可視化したもの」タンッ

部下「まるで生きているみたいです」

結衣「様々な手法でアプローチしているけど、それも面白い見解だね」

部下「なんだか、無性に心を揺さぶられるような、そんな気分になります」

確かにこれは、私たちの根源的なナニカに関係するものなのかもしれない。
郷愁とも、渇望ともつかない感情を、私に喚起するのだから。

45 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/12/03(土) 16:03:42.48 ID:n3kKX0Wn0
~あかりの家付近~

京子「あかり、戻って来てるでしょ?」

京子「ねえ、いるんでしょ?」

京子「待ってよ、中に入れてよ、ねえ!」

バタン

京子「………」ハァ

結衣「京子」

京子「……結衣、お仕事終わったの?」

結衣「ああ」

京子は、あの日に囚われている。
いなくなったあかりの幻影を追いかけて、追いかけて……。

京子「みっともないところ、また見られちゃったな」アハハ

こんなにも、すり減ってしまった。


47 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/12/03(土) 16:10:02.53 ID:n3kKX0Wn0
京子「あの人はあかりのことが一番好きだったから、隠してるんじゃないかって思って」

結衣「………そんなに」

結衣「そんなにあかりが好きなの?黄泉がえって欲しい?」

結衣「死んだ人間が、そんなに大事か?」

結衣「知るか!そんなこと!!」

激情が私を支配して、京子にきつい言葉を浴びせる。
胸にこみ上げる熱い感情が、暴走する。

結衣「いいか京子、人が蘇るには想いだけじゃ駄目なんだ」

結衣「遺骨か髪の毛でもないと、体の一部がないと蘇らないんだ」

結衣「遺骨は私たちが海にまいた」

結衣「だからあかりは、もう帰ってこない」

後ずさりする京子の肩をつかんで、追い打ちをかけた。
怯えた表情の京子に、言い聞かせるように真実を告げた。

京子「……うそ」

京子は糸の切れた人形のように、その場に座り込む。
泣き崩れる京子が弱々しくて、見ていられなかった。

48 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/12/03(土) 16:12:57.58 ID:n3kKX0Wn0
~捜査本部~

プルルルル

結衣「捜査本部、船見です」

部下『大変ですっ、大変なことになりました』

結衣「どうした?」

部下『研究所に移送されていた例の人達が、全員消えました』

結衣「……電車を利用していたはずでは?」

部下『電車の中から、一瞬で消えました』

結衣「場所は?」

部下『〇〇付近です』

結衣「ちょっと待って」カタカタ

49 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/12/03(土) 16:15:23.94 ID:n3kKX0Wn0
結衣「……そこはエリアの境界部分に当たる」

部下『なるほど、そういうことですか』

おそらく、黄泉がえりのエリアを離れたから、彼らは消えたのだろう。

結衣「今から、黄泉がえりの身内の調査に移ってください」

結衣「蘇らせた人の下に戻っている可能性も、十分に考えられる」

部下『了解しました』

結衣「頼みます」

部下『……あの人達、本当に人間なんですか』

結衣「………」

部下『すみません、余計なことを言ってしまいました』

部下『失礼します』

…ピッ

50 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/12/03(土) 16:19:13.73 ID:n3kKX0Wn0
結衣「………」カタカタ

『クレーターを形成した未知の存在によるある種のエネルギー活動が、
私たちの死に別れた人間への想念に反応し、そのエネルギーの及ぶ範囲に残された遺骨等、
死者たちの肉体の一部を基に彼らを実体化させたのではないか……』

結衣「こんな報告書をあげることはできないか」

書きかけた文章を、一気にデリートする。

結衣「あかりの献体が、ここにあれば……」

……もし、肉体の一部を持ち込めば、あかりはきっと蘇る。

51 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/12/03(土) 16:24:53.93 ID:n3kKX0Wn0
~休憩中~

部下「ただいま戻りました」

結衣「ご苦労さま」

部下「船見さんも、お疲れ様です」

結衣「結果は?」

部下「読み通りでした」

結衣「そうか」

やはり黄泉がえりは、本来の場所に戻っていたようだ。
己を呼び出した、自分を想う人の所で再構成されたのだろう。

部下「それから、報告したいことがもう一件……」

結衣「というと?」

部下「歳納さんのことです」

結衣「京子のこと?」

部下「……はい」

その神妙な顔に嫌な予感がして、鼓動が不規則になる。
聞きたくない、聞いてはいけないような気がする。

52 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/12/03(土) 16:27:01.87 ID:n3kKX0Wn0
部下「二週間程前に、病院に続く道で自動車事故が発生しました」

部下「こちらが、その事故の詳細な書類です」

結衣「………」

結衣「これは……」ペラ

〇月〇日、死亡

結衣「………」ペラッ

頭部を打ちつけて即死

結衣「………………」

トラックとの正面衝突

結衣「そんな……」

結衣「……………………嘘だ」


歳納京子は二週間前に、自動車事故で死亡している。





55 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/12/03(土) 16:32:36.65 ID:n3kKX0Wn0
部下「………」

部下「この情報は他の誰にも報告していません、どうします?」

結衣「……このことは内密に、本人にも内緒でお願いします」

部下「……本当に、よろしいんですか?」

結衣「…………お願い」

私が、死んだ京子を蘇らせていたんだ。
私のこの想いが、京子を……。

部下「失礼、します」

あまりの衝撃に、私は返事を返すこともできなくて。
ただ、なすすべもなく立ち尽くしていた。

56 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/12/03(土) 16:36:36.41 ID:n3kKX0Wn0
~回想~

京子「よっ、飯食った?」

結衣「まだだよ」

京子「良かった、一緒に食べにいこう!」

結衣「はいはい」

京子「突然だけどさ、今回の黄泉がえりが一段落したら、私も東京に出ようかなって思ってて」

結衣「ふーん」

京子「……遅すぎるかな?」

結衣「そんなことはないと思うよ」

京子「でさ、もし東京に住んだら……、時々会ってくれる?」モジモジ

結衣「ああ」

京子「ほんとに?」パァァ

結衣「当たり前だろ、そんなの」クスッ

………。
交わした約束は、もはや守られることはない。

京子は、黄泉がえり、だった。

57 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/12/03(土) 16:39:11.22 ID:n3kKX0Wn0
~京子のアパート、京子side~

京子「」フンフフーン

京子「洗濯も終わりっと」

京子「何しよっかな」

京子「………」

明るく振舞うも、ふと手を休めると考え込んでしまう。
泣きそうな顔をして、あんなに怒った結衣。

京子「……結衣」

冷血そうでいて、結衣は誰よりも情が深い。
そんな彼女を怒らせて、悲しませるなんて、私はつくづく罪深い女だ。

京子「……結衣に怒られちゃったよ、あかり」

あかりがいなくなって、私の心の歯車は噛み合わないままだ。
それでも、最近は胸の中が結衣でいっぱいになって、熱に犯されているかのようだ。

58 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/12/03(土) 16:43:50.55 ID:n3kKX0Wn0
ドクンッ

京子「あれ?」クラッ

バタッ

京子「おかしいな、体が……」

その場に倒れたまま、力が入らない。
頭に鈍い痛みが走って、耳元でノイズが生じる。

「私はどうして……」

ノイズは次第にクリアになり、それは完全な形で私に届いた。

「そっか……私は……」

脳裏に、自分の最期がよぎる。
対向車線のトラックがこっちに向かって来て、そのまま……。

もう死んでるんだ、私。

『結衣?』

『久しぶり、京子』

事故に遭った後の記憶は、結衣と再会するところから始まった。
ああ、私は、黄泉がえりだったのか。

59 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/12/03(土) 16:46:21.62 ID:n3kKX0Wn0
~民家、結衣side~

子供「お姉ちゃん」

結衣「どうしたの?」

子供「明日の夕方を過ぎたら、きっとみんな消える」

結衣「……そっか」

黄泉がえりにしか分からない、そんな感覚があるのだろうか。
京子も、消えるのか。

結衣「……私は最低な女なんだ」

結衣「私には好きな人がいて、でもその人が愛したのは、私の親友だった」

結衣「親友は死んで、その人は壊れかけてしまった」

結衣「親友の黄泉がえりを望むその人に、私は辛くあたった」

私はこんな子供に、何を話しているのだろう。
困らせるだけだと分かっているのに、懺悔なんてして。


61 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/12/03(土) 16:49:42.19 ID:n3kKX0Wn0
結衣「私は黄泉がえって欲しくなかったんだ、その親友にだけは……」

あかりは私の親友なのに、黄泉がえって欲しくないと思っていた。
なんと浅ましくて、惨めな考えだろうか。

結衣「ごめん、もう行くね」

結衣「嘘つきなまま、彼女と別れたくないから」

子供「……がんばって」

結衣「ありがとう」

覚悟は、決まった。
消えゆく彼女に、せめての幸せを贈りたい。



63 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/12/03(土) 16:52:13.13 ID:n3kKX0Wn0
~病院~

ガチャ

警備員「ちょっとあなた、ここは立ち入り禁止ですよ」

結衣「厚生労働省のものです」

警備員「アポイントメントはおありで?」

結衣「緊急なものですから」

警備員「申し訳ありませんが規則です、お通し出来かねます」

結衣「すみません」ガッ

警備員「ぐぁっ」

カッカッカ

警備員「……先輩、不審者です、応援を頼みます!」

ここまで辿り着くのに、随分と時間を浪費した。
押し問答をしている時間はない、強行突破してでも手に入れる。

64 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/12/03(土) 16:55:02.28 ID:n3kKX0Wn0
バタンッ

結衣「………」ガサガサ

ない。

結衣「………」バタン

ない。

結衣「………」ゴソゴソ

どこにも、ない。

結衣「くそっ、どこだ」ガラッ

結衣「保管場所はここのはずなのに」ガタン

あかりの献体は、どこだ。

65 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/12/03(土) 16:58:35.91 ID:n3kKX0Wn0
警備員「いました、あの人です!」

警備員に見つかってしまった、ご丁寧に応援を呼んで駆けつけてくれたようだ。
抵抗も虚しく、数人がかりで、無理やりに拘束される。

結衣「邪魔をするな!」

警備員「動かないでください!」

結衣「あの子の、あの子の献体が必要なんだ!」

結衣「離せっ、離せぇぇぇ!」

医者「……その人を、離してあげてください」

白衣を着た青年が現れて、その場を仕切る。
どうやら、ここの管理者の立場にあるのだろう。

66 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/12/03(土) 17:02:55.39 ID:n3kKX0Wn0
医者「その人と、二人きりにしてもらえますか?」

警備員「しかし……」

医者「全ての責任は、私が持ちます」

警備員「……分かりました、お気を付けて」

バタン

医者「大丈夫ですか?」

結衣「ええ」

医者「献体が欲しいという理由、聞かせてもらえますか」

よく分からないが、これはチャンスなのだろう。
上手く情に訴えて、情報を引き出すことを、最優先に考える。



68 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/12/03(土) 17:05:36.16 ID:n3kKX0Wn0
………

医者「……やはり、そういうことでしたか」

結衣「驚かれないんですね、人が蘇るというのに」

黄泉がえりのこと、クレーターのこと、幼馴染のこと、
その全てを話したのに、この人の顔色は変わることがなかった。

医者「実は、想像はついてました」

医者「病院にいると、色々な情報が入ってきますからね」

医者「確か赤座あかりさん、でしたね」ゴソゴソ

コトン

医者「彼女の角膜です、持って行ってください」

結衣「……ありがとうございます」

また暴れて探し回る羽目になると思っていたから、少々予想外だ。
私の話が琴線に触れた、感動した、そういうわけでもなさそうだが。



70 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/12/03(土) 17:13:50.51 ID:n3kKX0Wn0
医者「後は私が誤魔化しておきますから、ご安心を」

結衣「でも、どうして」

このことがバレたら、この人のお先は真っ暗だ。
それがわからないはずはない、なのに何故私に協力するのか、不思議だった。

医者「私の妻は、黄泉がえり、ですから」

結衣「……お世話になりました」

それだけで、全てに納得がいった。
この気持ちは、大切な人を蘇らせた人間にしか理解できないだろう。

医者「私もあなたの情報がなければ、このまま知らずに妻との別れを終えていたでしょうから」

パタン

結衣「………」ハァ

夜中までかかったが、後は徹夜で帰るだけだ。
明日の夕方まで時間はギリギリ、急いで飛ばさないと間に合わなくなるだろう。

結衣「間に合わせて、みせる」

こんなところで、終わるわけにはいかない。
タイムリミットは、明日の夕暮れ。

71 :よく見たら時間設定ミス……:2011/12/03(土) 17:17:51.88 ID:n3kKX0Wn0
~京子side~

プルルルル

京子「結衣、でてよ」

プルルルル

京子「………」

プルルルル

京子「結衣、一体どこに……」

昨日から、結衣に連絡がつかなくなった。
結衣の職場に問い合わせても煙にまかれて、事情を知ることができなかった。

プルルルルル

京子「………」

結衣『もしもし』

京子「もしもし、結衣?結衣!」

ようやく、結衣に繋がった。
結衣の声を聞くことができた。

72 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/12/03(土) 17:20:18.07 ID:n3kKX0Wn0
京子「今どこにいるの?」

結衣『見つかったよ京子、あかりの献体が』

京子「……結衣?」

ようやく電話にでた結衣は、どこか興奮していた。

結衣『ごめん京子、黙ってたことがあるんだ』

結衣『あかり、ドナー登録してたんだ』

結衣『角膜が残ってたんだ、昨日一晩中探しててさ』

京子「そうじゃないよ、結衣」

私が結衣に伝えたいのは、結衣から聞きたいのは、そんなことじゃない。
なのに、結衣は聞く耳を持ってくれなくて。

結衣『この角膜をそっちに持ち込めば、あかりは蘇る』

京子「違うの、結衣」

結衣『もうすぐ着く、待ってて、必ずあかりを連れていくから!』

プツッ

73 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/12/03(土) 17:23:20.75 ID:n3kKX0Wn0
京子「結衣……」

結衣に会いたい、結衣の声を聞きたい、結衣の顔が見たい。
それは、叶うのだろうか。

夕暮れの光が、部屋に差し込み始めていた。


~~


結衣「あかり、どうして京子を置いていったんだよ」

結衣「あいつは、お前じゃないと駄目なんだよ」

結衣「……わたしじゃ、ダメなんだよ!」

だから戻ってきてよ、あかり。
一発だけ、その頬を叩かせてよ。

74 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/12/03(土) 17:26:14.92 ID:n3kKX0Wn0
……プルルルル

結衣『京子』

京子「結衣、今どこ?」

結衣『もうそっちに着く』

京子「本当に?」

窓から見える、夕暮れに照らされた街。
其処此処からホタルのような光が、空に昇っているのが見える。

もう、時間がない。

「ぁ……」

頭がくらくらして、体に力が入らない。
ふと見た右手は透明に透けていて、絶望に近しい恐怖が私を襲う。

75 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/12/03(土) 17:29:13.42 ID:n3kKX0Wn0
京子「結衣、結衣!」

結衣『大丈夫、もう着くからあかりは』

京子「違うの、違うの、」

京子「私は結衣に会いたいの!」

京子「結衣ぃ、私消えちゃうよ……」

京子「もう、結衣に会えなくなるよ」

こんなにも想っているのに、こんなにも会いたいのに。

76 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/12/03(土) 17:31:58.57 ID:n3kKX0Wn0
結衣『京子、気付いたのか……』

京子「……うん」

結衣『今、アパートか?』

京子「うん」

結衣『……私たちの中間地点に、中学校がある』

京子「それがどうしたの……?」

結衣『そこまで走れ、いいから走れ』

京子「でも……」

結衣『走れ、京子!』

……ガチャ、バタンッ

今は結衣を信じて走る。
それが私の、心の支えだから。

77 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/12/03(土) 17:34:18.41 ID:n3kKX0Wn0
京子「………」ハッハッハ

走る。
両手の感覚がなくなってきた。

京子「………」ハッハッハ

それでも、走る。
この足が覚束無くても、無理やりに動かして。

京子「………」ハァハァ

この道を走る。
思い出の詰まった学校を目指して。

京子「………」

私の体が、淡く発光を始める。
それは蛍のように点滅を繰り返し、私の存在を薄れさせていく。

私は、結衣に会いたい。



79 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/12/03(土) 17:38:02.71 ID:n3kKX0Wn0
~日没の学校~

京子「結衣!」

結衣「京子……」

間に合った、京子は来てくれた、なのに……。

結衣「あかりが蘇らない……」

結衣「あかりは、何でよみがえらないんだ!」ガッ

角膜を持って来たのに、京子が傍にいるのに。
癇癪を起こした子供のように、私は行き場のない怒りをあかりにぶつける。

京子「結衣、もういい、もういいんだって」

京子になだめられて、私は冷静さを取り戻す。


京子「私は結衣に、結衣に会いたかったの」


京子の言葉が、姿が、表情が、私の胸をぎゅっと締め付ける。
京子と見つめ合って、それだけで何か通じあえた気がする。

80 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/12/03(土) 17:40:18.01 ID:n3kKX0Wn0
結衣「………」

京子「………」

心地よい沈黙が、私たちを包む。
ああ、このまま、時間が止まってしまえばいいのに。

結衣「酷い顔」フッ

京子「そっちこそ」フフッ

思わず、笑い合う。
私は徹夜明けの、京子は汗だくの、お互いにみっともない姿だった。



82 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/12/03(土) 17:43:34.72 ID:n3kKX0Wn0
結衣「私は、京子のことが好きだった」

結衣「ずっとずっと、京子のことだけが、好きだった」

想いが、胸から溢れた。
本当は伝えるつもりのなかった言葉、それは自然と口をついて出た。

京子「……なんで」ポロッ

京子「何で、もっと早く言わないんだよ」ポロポロ

くしゃくしゃに顔を歪めて、京子は泣いた。
喜ぶように、悲しむように、後悔するように。

結衣「うん」

伝えたいことが山ほどあるのに、そのどれもが言葉にならなくて。
私にできたのは、ただこうして相槌を打つことだけだった。



84 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/12/03(土) 17:46:28.65 ID:n3kKX0Wn0


「もっと、もっと一緒にいたかった……」


涙を零しながら、それでも京子の瞳は私を見つめ続ける。
京子の体が崩壊して、手が、足が、消えていく。

最後の最後に、京子は優しく微笑んだ。


87 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/12/03(土) 17:49:30.77 ID:n3kKX0Wn0


「いくなっ!」


想いを込めて手を伸ばしたけれど、

京子の体は空に散って、抱きしめることは叶わなかった。

88 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/12/03(土) 17:52:42.38 ID:n3kKX0Wn0
「………」

京子は、風とともに去った。

「きょうこ……」

終わりは、こんなにもあっけなく訪れた。
京子の頬を伝う涙は、地面に落ちることもなく塵と消えた。
優しい微笑みと、鋭い痛みを私に残して、京子は消えた。

結衣「………」

握り締めたこの手は、何もつかめなかった。
京子は光の粒子となり、空に帰った。

結衣「……私も」

京子の帰った夜空を、見上げる。

結衣「京子といっしょに……いたかったなぁ……」

慟哭は風にかき消されて、溢れる雫は大地に吸い込まれてなくなった。
想いが実ったと同時に、それは永遠に触れることのできないものとなってしまった。

89 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/12/03(土) 17:55:18.97 ID:n3kKX0Wn0
水面に映った月が、貴方を愛することの哀しみを深めていくようだ。
恋しさを歌ったこの胸の旋律は、天の彼方に届くだろうか。

逢いたいと思う気持ちはそっと今、願いになって。
けれど、その願いは、もう叶わなくて……。

世間に噂された黄泉がえり事件は、黄泉がえり全員の消失と共に幕を閉じた。

90 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/12/03(土) 17:57:54.04 ID:n3kKX0Wn0
~葬式~

カンジザイボサツギョウジンハンニャハラ……

結衣「………」

今日は京子の葬式だ。

あかりに続いて京子まで、幼馴染達は私を置いて逝ってしまった。
ちなつちゃんも、京子と一緒に逝ってしまった。

居眠り運転のトラックと正面衝突、二人とも即死だった。
苦しまずに逝けたことは、不幸中の幸い、なのだろうか。

あれから、私は残された人々の追跡調査を行なった。
残された人々の多くは、不思議と穏やかな表情をしていた。
愛する人が消えてなお、彼らは生きることの意味を見失わなかった。

むしろ黄泉がえりとは、実は死者たちによって、
新たに生きることの意味を見つけ出したものたちのことではなかったのか。

91 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/12/03(土) 18:00:13.02 ID:n3kKX0Wn0
いいや、それは嘘だ、そんな事は思いつきの綺麗事でしかない。
それでは心が通じ合えた瞬間に、愛する者を失った私は、一体何を得たと言うのか。

……私がその答えを見つけたのは、ある中学生の少女のおかげだった。
彼女は、黄泉帰りの同級生の思い出をこう語った。

『あの人がいなくなった事は悲しいけれど、例え1時間でも、1分でも、1秒でも……、
自分が本当に愛した人と心が通じ合えたなら、私は自分の人生を幸せだと思える。
その思いが私にある限り、私は前を向いて生きていく事が出来る。』

それが答えだった。
それこそが、私の求めていた答えでもあった。

92 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/12/03(土) 18:02:58.47 ID:n3kKX0Wn0
私は黄泉がえりという現象を通じて、自分の想いに気がついた。
私たちは抱きしめ合うことはおろか、想いをぶつけ合ったのも最後の一瞬のみだった。

それでも、その一瞬、想いが通じ合えたことが大切なことなんだ。

結衣「またね、京子」

これから、私の新しい人生が始まる。


貴方に、永遠の愛を



おわり