侑「ポケットモンスター虹ヶ咲!」 その4

493: ◆tdNJrUZxQg 2022/11/22(火) 12:11:09.64 ID:lNytOG/10

■Chapter025 『スボミーの森』 【SIDE Shizuku】





──時刻はお昼を過ぎ、太陽が少しずつ傾き始めた頃。


かすみ「それじゃ、コメコシティに向かってレッツゴー♪」

しずく「日が暮れる前に森を抜けないとね」


3番道路を通過し、コメコの森に差し掛かった。

コメコの森は、オトノキ地方最大の森だけど、道さえ外れなければ抜けるのはさほど難しくない場所だ。

野生のポケモンの気性も大人しいポケモンが多いし、苦労することもないだろう。

そんな中、私の腰についているボールが1つ、震え出す。


しずく「ん……?」


どうやら、外に出たがっているようなので、ボールを投げて、外に出す。


 「──スボ…」
しずく「スボミーどうしたの?」

 「スボ…」


ボールから出たがっていたのはスボミーだ。スボミーは外に出ると辺りをキョロキョロ見回しながら、とてとてと歩き始める。


かすみ「そういえば、しず子のスボミーってこの森のポケモンだったんだよね?」

しずく「うん……まあ、そうだね」

かすみ「やっぱり、故郷の空気が恋しかったのかな」

しずく「……そうかもしれないね」


……とはいえ、結果として群れから追い出されてしまった子だから、自分から外に出たがるとは思っていなかったけど……。


 「スボ…スボミ」


スボミーは辺りをキョロキョロと見回しながら、歩いている。


かすみ「なんだろう……見回りでもしてるみたいかも」

しずく「もしかして……敵がいないか見張ってるの?」
 「スボ」

しずく「大丈夫だよ、スボミー。この森は大人しいポケモンが多いから……。……あれ……?」

かすみ「どしたの、しず子?」

しずく「いや……」


ふと、思う。……このスボミーが群れから追い出された理由は、ロトムの言っていたことが正しいのなら、外敵に自分から攻撃を仕掛けていたからだ。

しかし、この森のポケモンは基本的に大人しい気性のポケモンばかり。……じゃあ、スボミーは一体何と戦っていたんだろうか……?


しずく「…………」


もしかして……スボミーたちの外敵足りうる何かが、この森には潜んでいる……?

森の木々が風に揺れ、葉同士が揺れて擦れ合う特有の音が聞こえてくる。

普段だったら、平和の象徴のような、穏やかな自然のBGMも、そんな疑念のせいか、少し不気味な音に聞こえる気もする。

494: ◆tdNJrUZxQg 2022/11/22(火) 12:12:18.97 ID:lNytOG/10

しずく「考えすぎ……かな」


あたりを見回すと、


 「スボ…」「スボミ…」「ボミィ…」


いつのまにか、私たちを遠巻きに見つめるスボミーたちが、あちこちにいることに気付く。


しずく「スボミー……このスボミーが元居た群れの子たちかな……」
 「スボ」

かすみ「なんか、遠巻きに見てる……やっぱり怖がられてるみたいだね」

しずく「うん……」


ただ、スボミーはそんなことを気にも留めず、辺りをしきりに見回している。


しずく「スボミー……どうしたのかな……」

かすみ「やっぱり今でも、元居た群れの仲間たちが心配なのかもよ?」

しずく「……そういうことなのかな」


そういう理由なら、いいんだけど……。なんだが、スボミーの警戒の仕方に少しだけ異様なものを感じ始めた、そのときだった──


 「──フェロ」

かすみ「……え?」

しずく「……!?」


気付いたときには──細く、真っ白なポケモンが私たちの目の前に立っていた。

長身な人間くらいの高さで、透き通るような白い体躯の初めて見るポケモン。

姿を認めた次の瞬間──気付けば、私は尻餅をついていた。


しずく「……え?」


余りに自然に膝が折れて、尻餅をついている自分に驚いた。

それと同時に、身体が震えていることに気付く。

さらに、全身から嫌な汗を掻き始める。

──それは、生物としての本能だった。

理由はわからないけど、このポケモンは……まずい。脳が警鐘を鳴らしている。

咄嗟に、かすみさんにも視線を向けると、


かすみ「……あ、え……?」


かすみさんも同じような状態で尻餅をついていた。


 「フェロ…」


目の前のポケモンが、私に視線を向けて来る。目が──逢った。

視線が交わった瞬間──動けなくなった。


しずく「……だ、ダメ……」

495: ◆tdNJrUZxQg 2022/11/22(火) 12:13:49.25 ID:lNytOG/10

脳が本格的に危険信号を発し始めたが、身体が動かない。

そんな中、


 「スボォォォーーーー!!!!!」


スボミーが雄たけびを上げながら、そのポケモンに向かって飛び掛かって行った。


しずく「だ、ダメ……!? スボミー……っ……!」


私の制止も虚しく、


 「フェロ」

 「スボォッ!!!?」


スボミーは目の前の白いポケモンに足蹴にされた。

吹きとばされるスボミー。

ここからはほぼ反射だった。力の入らない身体を必死に動かして、


しずく「スボミー……ッ!!!」


飛んでくるスボミーに向かって、抱き留めるようにして飛び付き、スボミーを抱きかかえると──そのまま、視界が回った。

あまりに強い勢いで蹴られたスボミーを受け止めたせいか、威力が殺しきれずに一緒に吹き飛ばされていたのだ。

そのまま、地面を転がり、


しずく「……ぐっ……!!」


森の木に背中を打ちつける形でやっと止まった。


かすみ「し、しず子……ッ!!」

しずく「…………ぁ……ぐ……っ……」


かすみさんの声がずいぶん遠くに聞こえる……。

いや、恐らくそれくらい吹っ飛ばされたんだ。

痛みを堪えながら、


しずく「スボミー……だい、じょうぶ……?」


スボミーに向かって、安否を訊ねる。


 「ス、スボ…」


すると、私の胸の中で、スボミーが鳴き声をあげた。


しずく「無事……みたい、だね……よかった……」
 「スボ…」


やっとわかった。スボミーが戦っていた外敵は──あのポケモンだ。

そして、あのポケモンは危険だ。危険すぎる。

立ち上がって、逃げなくちゃ。今すぐに。

顔を上げると──


かすみ「し、しず子……っ……!」

496: ◆tdNJrUZxQg 2022/11/22(火) 12:14:55.33 ID:lNytOG/10

かすみさんがこちらに這いながら、寄ってきているところだった。

恐らくかすみさんも、目の前のポケモンの危険性には気付いている。

どうにか、逃げるんだ。

私も起き上がろうとした、そのとき、ふと──胸がドキドキと高鳴っていることに気付く。


しずく「……え?」


胸が高鳴っている。恐怖によるものではない。

気持ちが昂揚し、興奮しているときの、胸の高鳴り。

こちらに這って近付いてくる、かすみさんの先に──


 「フェロ」


先ほどのポケモンが私たちを見下すように立っていた。

そのポケモンを見て、思った──思ってしまった。


しずく「──綺麗……」


よく見ると、そのポケモンは美しかった。今まで見た、どんなポケモンよりも。

私がさっき視線を外せなかったのは、恐ろしかったからじゃない。

あのポケモンが美しすぎて、目を離せなかったんだ。

そんなことに気付いて、


しずく「……あは、あははは……♪」


何故か、笑いが込み上げてきた。


かすみ「し、しず子……?」

しずく「すごい……すごい……!! あのポケモン綺麗……今まで見たどんなモノよりも美しいポケモンだよ……」


なんだか、うっとりとしてしまう。


かすみ「ちょっと、しず子、どうしちゃったの!?」


やっと、私のもとに辿り着いたかすみさんが、私の両肩を掴む。


しずく「あ、か、かすみさん……あのポケモンが見えないよ……!!」

かすみ「しず子!? 何言ってるの!?」

しずく「もっともっと、目に焼き付けないと……♪」


私の顔を覗き込むかすみさんを避けるように、あのポケモンを視界に入れる。

──噫、美しい……♪ その透き通るように白くて、スラっとした細長い体躯は木漏れ日を反射しながら、輝いている。

見ているだけで、心が洗われるようだ。こうして視界に入れているだけで、幸福感が胸を満たしていくのがわかる。


 「スボォッ!!!」


そのとき、胸元で急にスボミーがボフンッ! と音を立てながら、花粉をまき散らした。


しずく「ぐ、げほげほ……っ……」
 「スボ、スボボ!!!」

しずく「あ……あれ……私……今……?」

497: ◆tdNJrUZxQg 2022/11/22(火) 12:15:55.25 ID:lNytOG/10

今、私……何言ってたっけ……?

頭の中におかしな靄が掛かっていたような……。


かすみ「しず子!! 逃げるよ!!」


かすみさんがフラフラしながら立ち上がり、私の手を掴んで走りだそうとする、が、


かすみ「……わっ!?」


まだ身体の自由が効いていないのか、すぐにバランスを崩して、転んでしまう。


しずく「か、かすみさん!? 大丈夫!?」

かすみ「……っ……そ、それはこっちの台詞だよ……っ!!」

しずく「え……?」

かすみ「って、あぁ!! こっちに来てる!!」

しずく「え?」


振り返ろうとした瞬間、


かすみ「見ちゃダメ!!」


かすみさんが、私の頭を抱えるようにしてハグしてきた。


しずく「か、かすみさん!?///」

かすみ「しず子は絶対あいつのこと見ちゃダメ!!」

しずく「え、ええ……?」


私が動揺する中、


 「スボッ!!!」


スボミーが私の胸元から飛び出していく。


しずく「あ、スボミー!?」


そして、それと同時にスボミーが眩く光り出した。


しずく「!? まさか、このタイミングで進化!?」


視界のほとんどがかすみさんで埋まっているせいで、ちゃんと確認は出来てなかったけど、一瞬視界の端で捉えたあの光は恐らく進化の光だった。


かすみ「スボミー……!! しず子を守るために……!!」

 「──ロゼェッ!!!!」


そして耳に届いてくるのは、スボミーが進化したポケモン──ロゼリアの鳴き声。


かすみ「今のうちに……!! 逃げるよ……!!」

しずく「待って!? ロゼリアが戦っているのに“おや”の私が逃げるわけにいかないよっ!!」

かすみ「ロゼリアが時間を稼いでくれてる間に逃げるの!!」

498: ◆tdNJrUZxQg 2022/11/22(火) 12:18:26.23 ID:lNytOG/10

二人で言い合いを始めた、次の瞬間には、


 「──ロゼェッ…!!!?」


ロゼリアは私たちのすぐ傍まで吹きとばされて、ぐったりとしていた。


しずく「ロゼリア……!?」
 「ロゼ…」

かすみ「だ、ダメです……っ……れ、レベルが違い過ぎます……」


私を抱きしめたまま、かすみさんが震え出す。

このままじゃ埒が明かない。


しずく「ごめん、かすみさん……っ!!」


かすみさんを引き剥がすようにして、


かすみ「きゃんっ!?」


両手でかすみさんを押すと、かなり弱い力だったのに、かすみさんは再び尻餅をついてしまった。

でも、このままじゃ全滅しかねない。

私は決意し、あの白いポケモンと対峙するために振り返った。


かすみ「見ちゃダメ、しず子っ!!」

 「フェロ」

しずく「……あ」


視界に入れた瞬間。全身の力が抜けて、再びへたり込む。


しずく「あ、えへへ……すごい……きれい……?」


あのポケモンの一挙手一投足を見ているだけで、脳が溶けるような気分になった。

一歩ずつ、一歩ずつ、私の目の前に迫り。


しずく「あ……?」


そのポケモンは、私の目の前で、その長い脚を振り上げた。


かすみ「しず子っ!!!!」


──あ、きっと死ぬ。

猛スピードで振り下ろされる脚が、何故かスローモーションのように見えた。

でも、自分が今際の際にいることすら、どうでもよく思えるくらい──美しかった。


 「──バイウールー!!! “コットンガード”!!!」


──が、その瞬間、私とそのポケモンの間に白いもこもことしたものが割り込んできて、ボフッと音を立てながら、蹴りを受け止めた。


しずく「……ぁぇ……?」

かすみ「しず子……っ!!」


かすみさんが飛びついてきて、再び抱きしめられる。

499: ◆tdNJrUZxQg 2022/11/22(火) 12:19:26.83 ID:lNytOG/10

かすみ「大丈夫!? 怪我してない!?」

しずく「?? ????? ???」

女性「──大丈夫!?」


知らない人の声が聞こえる。


かすみ「た、助けてくださいっ!! しず子が、しず子がおかしくなっちゃって……!!」

女性「ウルトラビーストの毒が回ってるね……遥ちゃん、診てあげて」

女の子「う、うん! ちょっと失礼します!!」


急に、かすみさんから剥がされて、視界に現れたのは明るい茶髪のツインテールの女の子の顔。


女の子「……瞳孔の動きがおかしい……かなり、毒が回ってる……」

しずく「?? ???」

かすみ「毒!? 毒ってなんなんですか!?」

女の子「えっと……あのウルトラビーストには、特殊なフェロモンで人やポケモンを魅了する力があるんです」

かすみ「フェロモン!? だから、しず子がおかしくなって……!!」

女の子「とにかく、戦闘はお姉ちゃんたちに任せて、一旦離れましょう!!」

かすみ「は、はい!! わかりました!!」

しずく「??? ????」


私の身体が、ツインテールの女の子と、かすみさんの二人掛かりで持ち上げられる。


かすみ「しず子!! 今、助けるからね!!」

しずく「??? ?????」





    🐏    🐏    🐏





──ウルトラビーストの反応がして、すぐに駆け付けたら、人が襲われている場面に遭遇した。


 「フェロ!!!」

彼方「もいっかい! “コットンガード”!!」


振り下ろされる脚を、さらに増量した毛皮でガードする。


 「フェロ…ッ」


攻撃がうまく通らず忌々しそうにするフェローチェの背後から、


穂乃果「ピカチュウ!! “アイアンテール”!!」
 「ピッカァッ!!!」


穂乃果ちゃんのピカチュウが飛び込んできて、横薙ぎに“アイアンテール”を炸裂させる。


 「フェロッ…!!!」


吹っ飛ばされながらも、フェローチェはその身のこなしで受け身を取り──

500: ◆tdNJrUZxQg 2022/11/22(火) 12:20:14.29 ID:lNytOG/10

 「フェロォ…!!!」


とてつもない、瞬発力で飛び回り始める。

このウルトラビーストは一瞬で時速200㎞にも到達する瞬発力を持っていて、目で追うのはほぼ不可能に近い。

でも、こんなスピードタイプ相手には──


穂乃果「千歌ちゃん!! 任せた!!」

千歌「了解です!! ルカリオ、行くよ」
 「グォゥッ!!!」


千歌ちゃんが、目を閉じる。

風を切りながら、森の中を飛び回るフェローチェの音──いや、気配を察知して、


千歌「……そこっ!! “いあいぎり”!!」
 「グゥォッ!!!!」


── 一閃した。


 「フェ、ロッ…!!!!」


高速機動をしながら、必殺の一撃で切り裂かれたフェローチェはそのままバランスを崩して、森の木にぶつかり、一瞬蹲ったあと──空中にあいた“穴”へと逃げていった。


穂乃果「おみごと! 千歌ちゃん!」

千歌「ふぅ……一発で成功してよかったぁ……」

彼方「それより、さっきの子たち……!!」

穂乃果「そうだった……!! 急ごう!!」

千歌「はい……!」


私たちは、遥ちゃんと一緒にいるはずの、さっき襲われた子たちのもとへと急ぐ。





    👑    👑    👑





しず子を二人掛かりで抱きかかえるようにして、少し離れた場所に逃げることが出来た。


かすみ「あ、あの……!! しず子は……!?」

遥「かなり……危ない状態です」


移動している最中に、遥と名乗った子はしず子の状態を確認しながら、そう言う。


かすみ「あ、危ないって……」

遥「フェローチェの毒は……感受性の強い人にとっては猛毒になります。……このまま毒が回りすぎると、精神汚染されてしまって……最後は……」

かすみ「精神、汚染……」


なんですか、その物騒なワードは……。


遥「とにかく、すぐに専門の治療をしないと……! 本部に連絡を入れます……!」


本部が何かはわからないけど……。

501: ◆tdNJrUZxQg 2022/11/22(火) 12:21:19.49 ID:lNytOG/10

かすみ「それって、すぐに来てくれるんですよね!? 間に合うんですよね!?」

遥「……わかりません。でも、出来るだけ急いでもらいます」

かすみ「そんな……」


それじゃ、このままじゃ、しず子は……。


しずく「……ぁ」


さっきまで、虚ろな目で黙っていたしず子が小さく声をあげた。


かすみ「しず子……?」

しずく「……さっきの、さっきのポケモンは、どこ? ねぇ、どこ? どこどこどこ!?」

かすみ「!?」

遥「い、いけません!? もう禁断症状が!?」


さっきのポケモンの姿を求めて、急に暴れ出すしず子。


しずく「もっと、もっと見てたいのっ!!! ねぇ、どこ、どこどこどこ!!?」


大声をあげながら、暴れるしず子に向かって、


かすみ「しず子っ!!!」


かすみんは大きな声で呼びかけながら、肩を掴んで顔を覗き込んだ。


かすみ「かすみんを見てッ!!!!」

しずく「ッ!!?」

かすみ「あんなのより、かすみんの方がずっと、ずーーーーっと!!! 可愛くて、美しくて、綺麗で、魅力的でしょ!!!?」

しずく「……ッ!!!?」

かすみ「毒だか、フェロモンだか知らないけどッ!!! あんなの変なやつに負けないでッ!!!! かすみんがいるからッ!!!!」


ただ、必死に叫ぶ。1秒でも早くしず子に──大切なしず子に、いつものしず子に戻って欲しい一心で、叫んだ。


しずく「……か、すみ……さん……?」

かすみ「!! しず子!! うん!! かすみんだよ!!」

しずく「……かすみ……さん……」

かすみ「しず子、大丈夫っ!! かすみんがいるから……っ!!」


ぎゅっとしず子を抱きしめると、


しずく「…………う、ん…………」


しず子は小さく返事をしたあと、かすみんの胸の中で、クタっとなってしまった。


かすみ「し、しず子!?」

遥「発作が……収まった……」

かすみ「あ、あのあのあの!? しず子がクタって……!?」

遥「大丈夫です、発作が落ち着いて、気を失っただけだと思うので……」

かすみ「へ……? そ、そっか……」

502: ◆tdNJrUZxQg 2022/11/22(火) 12:23:01.86 ID:lNytOG/10

かすみんも力が抜けて、しず子を抱きかかえたまま、へたり込んでしまう。

そこに──


 「おーい!! 遥ちゃーん!!」


さっきかすみんたちを助けてくれた、バイウールーのトレーナーのお姉さんが、向こうから駆けてくるのが見えた。


遥「お姉ちゃん!! こっち!!」


どうにか、撃退にも成功したようだった。

かすみんとしず子は……どうやら、九死に一生を得たことをここでやっと確信して、安堵するのでした。





    👑    👑    👑





あの後、気を失ったしず子をおんぶして、近くにあるロッジまで移動してきた。

どうやら、かすみんたちを助けてくれた人たちが借りているロッジらしい。

そこのベッドにしず子を寝かしつけ、遥──もといはる子が再び診察を始めた。


かすみ「あの……しず子は……」

遥「……とりあえず、症状は落ち着いてるみたいです。……目を覚ましてみないと、今後どうなるかわからないけど……すぐに大事に至ることはないと思います」

かすみ「ホント!? ホントに!?」

彼方「遥ちゃんが言うなら間違いないね~。遥ちゃん、ずっとウルトラビースト症についてのお勉強してたから~」

遥「……私は戦えないし、これくらいしか出来ないから……でも、症状が落ち着いてるというのは間違いないです。安心してください」

かすみ「……よかったぁ……」

遥「強く声を掛けたのが、よかったのかもしれません」


どうやら、かすみんの必死の叫びが届いたらしい。本当によかった……。

あとは、本部? とやらから、専門の治療をしてくれる人を待つだけですね……。


かすみ「あの、ところで……さっきから言ってる、ウルトラビーストってなんなんですか……?」

彼方「あ……流れで言っちゃった」

千歌「まぁ……巻き込んじゃった以上、説明しないわけにもいかないし、いいんじゃないかな」

穂乃果「緊急時どうするかは、私たちに任せられてるしね、へーきへーき」


……というか、しれっとこの地方のチャンピオンがいる気がするんですけど……簡単な自己紹介くらいならさっきしたとはいえ……結局なんなんでしょうか、この人たち。

503: ◆tdNJrUZxQg 2022/11/22(火) 12:24:24.92 ID:lNytOG/10

穂乃果「全部は説明出来ないけど……ざっくり言うと、この世界じゃない場所から来たポケモン、みたいな感じかな」

かすみ「この世界じゃない場所から来たポケモン……? なんですか、それ……?」

千歌「文字通り、ここじゃない場所から来た、めちゃくちゃ強いポケモンだよ。まあ、詳しいことはあんまりわかってないんだけど……たまにこっちの世界に迷い込んでくるのを、私たちが撃退してるんだけど……」

穂乃果「今回は、私たちが駆けつけるのが遅れたせいで、かすみちゃんとしずくちゃんを巻き込んじゃった……ごめんなさい」

かすみ「え、い、いや……それなら、穂乃果先輩たちのせいじゃないじゃないですか……謝らないでください」

穂乃果「えへへ……ありがとう。でも、こうならないために、私たちがいるんだから……反省はしないとね」

千歌「うん……そうだね」

穂乃果「あ、それと……これ本当は秘密にしなくちゃいけないことだから、他の人には絶対話さないでね? パニックが起きちゃうから」

かすみ「は、はい、わかりました」


つまり、詳しいいきさつはわかりませんが、超強いトレーナーたちが異世界から襲ってくるエイリアンポケモンたちを撃退していたけど、たまたまそいつらにかすみんたちが遭遇しちゃった……という感じみたい。


彼方「とりあえず、今日は疲れたでしょ? ここなら、彼方ちゃん含めて、めちゃくちゃ強いトレーナーが3人もいるから、安心して休んで~」

かすみ「……はい、そうさせてもらいます……」


かすみんも緊張の糸が切れたのか、眠くなってきました……。ああ、でも……汗くらいは流さないと……うら若き乙女がお風呂にも入らず、寝るなんて言語道断です。


かすみ「ふぁぁ……お風呂、貸してください……」

遥「はい! こっちが浴室なので!」


はる子に案内されて、浴室へ向かう。

部屋から出ていく際、ベッドのしず子に目を向けると──


しずく「…………すぅ…………すぅ…………」


静かに寝息を立てながら眠っている姿に、再度安心して、今日の疲れを癒すために、お風呂を目指すのでした。

──あまりに疲れすぎていたせいか、湯船で寝かけて溺れそうになったのは、ヒミツですよ?




504: ◆tdNJrUZxQg 2022/11/22(火) 12:25:01.56 ID:lNytOG/10

>レポート

 ここまでの ぼうけんを
 レポートに きろくしますか?

 ポケモンレポートに かきこんでいます
 でんげんを きらないでください...


【コメコの森】
 口================== 口
  ||.  |○         o             /||
  ||.  |⊂⊃                 _回/  ||
  ||.  |o|_____.    回     | ⊂⊃|  ||
  ||.  回____  |    | |     |__|  ̄   ||
  ||.  | |       回 __| |__/ :     ||
  ||.○⊂⊃      | ○        |‥・     ||
  ||.  | |.      | | ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄\     ||
  ||.  | |.      | |           |     ||
  ||.  | |____| |____    /      ||
  ||.  | ____ 回__o_.回‥‥‥ :o  ||
  ||.  | |      | |  _.    /      :   ||
  ||.  回     . |_回o |     |        :  ||
  ||.  | |          ̄    |.       :  ||
  ||.  | |        .__    \      :  .||
  ||.  | ○._  __|⊂⊃|___|.    :  .||
  ||.  |___回●__.回_  _|‥‥‥:  .||
  ||.       /.         回 .|     回  ||
  ||.    _/       o‥| |  |        ||
  ||.  /             | |  |        ||
  ||. /              o回/         ||
 口==================口


 主人公 かすみ
 手持ち ジュプトル♂ Lv.23 特性:かるわざ 性格:ゆうかん 個性:まけんきがつよい
      ゾロア♀ Lv.21 特性:イリュージョン 性格:ようき 個性:イタズラがすき
      ジグザグマ♀ Lv.17 特性:ものひろい 性格:なまいき 個性:たべるのがだいすき
      サニーゴ♀ Lv.22 特性:のろわれボディ 性格:のうてんき 個性:のんびりするのがすき
 バッジ 2個 図鑑 見つけた数:111匹 捕まえた数:6匹

 主人公 しずく
 手持ち ジメレオン♂ Lv.18 特性:スナイパー 性格:おくびょう 個性:にげるのがはやい
      マネネ♂ Lv.18 特性:フィルター 性格:わんぱく 個性:こうきしんがつよい
      アオガラス♀ Lv.18 特性:はとむね 性格:ようき 個性:ちょっぴりみえっぱり
      ロゼリア♂ Lv.19 特性:どくのトゲ 性格:いじっぱり 個性:ちょっとおこりっぽい
      キルリア♀ Lv.20 特性:シンクロ 性格:ひかえめ 個性:ものおとにびんかん
 バッジ 0個 図鑑 見つけた数:120匹 捕まえた数:9匹


 かすみと しずくは
 レポートに しっかり かきのこした!


...To be continued.




506: ◆tdNJrUZxQg 2022/11/23(水) 12:28:33.84 ID:O3G9ZVHQ0

■Chapter026 『潮騒の町・ウチウラシティ』 【SIDE Yu】





──かすみちゃんたちと別れてから、2番道路を歩くこと数時間。


リナ『侑さん、見えてきたよ』 || ╹ ◡ ╹ ||

侑「うん! あれが次の町……!」
 「ブイ」

歩夢「ウチウラシティだね!」


次の目的地、ウチウラシティへと到着した。


リナ『ウチウラシティは東西を海に囲まれてる海の町だよ。海産資源が多くて、別名・潮騒の町って呼ばれてる』 || ╹ ◡ ╹ ||

歩夢「確かに、町の中でも、潮の香りがするね」

侑「コメコシティとかホシゾラシティでも近くに海はあったけど……この町は本当に海の町! って感じかも!」
 「ブイブイ!」


少し遠くを見渡せば、西側に傾き始めた太陽に照らされた海とビーチが見える。

ここからでは、ちょっと遠くて見えないけど……今見ているのと逆側にも、真っ直ぐ進んで行けば海があるはずだ。


侑「どっちにも海があるのって不思議かも……!」

リナ『ここウチウラシティから、半島の南端のウラノホシタウンまでを繋ぐ1番道路は別名「海の道」とも呼ばれてる』 || ╹ 𝅎 ╹ ||

歩夢「地図で見るとわかりやすいけど、海を割るように半島が突き出てるから、そう言われてるんだよね」

リナ『うん』 || ╹ ◡ ╹ ||

侑「へー! せっかくだから、ウラノホシタウンまで行ってみたいなぁ……」

リナ『でも、ウラノホシにはジムはないよ?』 || ╹ᇫ╹ ||

歩夢「ふふ、でも侑ちゃんは行きたいんだよね」

侑「うん! だって、ウラノホシタウンと言えば──千歌さんの出身地だもん! チャンピオンの生まれ育った町に行けば、千歌さんの強さの秘密が何かわかるかもしれないし!」

リナ『なるほど』 || ╹ ◡ ╹ ||

侑「あと、この近くには研究所もあるからね! 行ってみたい場所はたくさんあるよ!」


凛さんと花陽さんの都合が付くまで、少し時間も掛かるだろうし……その間に、この一帯をいろいろ見て回れればいいな。


リナ『それじゃとりあえず、ジムに行くの?』 || ╹ᇫ╹ ||

侑「うーん……もうそろそろ夕方になるし……。まずは宿探しかな」

歩夢「じゃあ、ジム戦は明日にする?」

侑「うん。たくさん歩いて、ポケモンたちも疲れちゃっただろうし」
 「ブイ」

歩夢「ふふ、侑ちゃんも……でしょ?」

侑「あはは、バレちゃった?」

歩夢「今日はゆっくり休んで、明日のジム戦に備えようね♪」

侑「うん! それじゃ、張り切って良い宿を探そう~!」

リナ『今、宿の候補を検索するね』 || ╹ ◡ ╹ ||

侑「お願い、リナちゃん!」


いつもどおり、リナちゃんに検索をお願いして、私たちは宿を探し始めた。




507: ◆tdNJrUZxQg 2022/11/23(水) 12:30:31.42 ID:O3G9ZVHQ0

    🎹    🎹    🎹





──あの後、海辺の旅館に宿を取って、腰を落ち着けた。


侑「はぁ~……おいしかった~♪」
 「ブイブイ♪」


晩御飯に出てきた海の幸を堪能出来て、幸せな気分。


侑「しかも、この後は温泉~♪」

リナ『侑さん、ご機嫌だね』 || ╹ ◡ ╹ ||

侑「ご飯もおいしいし、温泉にも入れるって言われたら、そりゃご機嫌にもなるよ~! イーブイたちも温泉でゆっくりしようね!」
 「ブイ♪」「ワシャー♪」

侑「ニャスパーもだよ」
 「ニャァ?」

侑「温泉、お風呂。わかるかな?」
 「ニャァ」


説明してみるものの、ニャスパーは興味なさげに自分のモンスターボールで遊び始める。……まあいっか、ニャスパーがマイペースなのは、いつものことだし。


侑「ライボルトは……」
 「…ライ」


部屋の隅で、身を伏せて目を瞑っている。温泉には興味なさそう……。

ライボルトはなんというか……孤高というか、あんまりスキンシップを取りたがらないんだよね……。


侑「ま、いっか……」


お風呂の準備をしようとしていると、


歩夢「よいしょ……」


何故か歩夢が、上着を羽織っていることに気付く。


侑「歩夢? 外に行くの?」

歩夢「あ、うん。ちょっと、お散歩しようかなって思って」

侑「もう暗いよ?」

歩夢「近くを歩くだけだから、大丈夫だよ」

侑「私も付いていこうか……?」

歩夢「……ちょっと一人でお散歩したい気分なんだ。大丈夫、すぐに戻ってくるから」

侑「そう……? 何かあったらすぐに連絡するんだよ?」

歩夢「うん、わかった」


歩夢は頷くと手を振りながら、部屋を出ていく。


リナ『歩夢さん、どうしたんだろう?』 || ? _ ? ||

侑「わかんない……」


ただ、歩夢が一人になりたいと言うなら、止めるのも違う気がするし……。

508: ◆tdNJrUZxQg 2022/11/23(水) 12:32:09.73 ID:O3G9ZVHQ0

侑「まあ……サスケもいたし、手持ちのボールも持ってたから、大丈夫だと思う」

リナ『そうだね。いざってときでも、図鑑があれば位置もわかるし』 ||  ̄ ᇫ  ̄ ||

侑「うん」





    🎀    🎀    🎀





私は一人、ウチウラシティの西にある浜を歩く。


歩夢「……もう、侑ちゃんったら、相変わらず過保護なんだから……」


そうやって、気に掛けてくれることが嬉しい自分もいるけど……。

でも、今は……そんな侑ちゃんの優しさに甘えてちゃいけないとき。


歩夢「ラビフット、マホミル、出てきて」
 「ラフット!!」「マホミ~♪」


2匹をボールから出し、


歩夢「サスケも」
 「シャボ」


定位置にいたサスケも砂浜に降ろす。


歩夢「それじゃ、始めよっか」
 「ラフット!!」「マホミ~♪」「シャーーボ!!」





    🎀    🎀    🎀





砂浜の砂を盛って、そこに拾った木の棒を立てる。


歩夢「──サスケ! “どろばくだん”!」
 「シャーーボッ!!!!」


その木の棒目掛けて、サスケが“どろばくだん”を放つ。

サスケの攻撃は木の棒を吹きばしたけど……それと同時に、盛った砂の山も吹き飛ばしてしまった。


歩夢「これじゃダメ……もっと的確に攻撃を当てないと……。サスケ、もう1回!」
 「シャーーボッ!!!」


いくつか作った砂の山に立てた木の棒に向かって攻撃を飛ばす。木の棒だけ狙い撃てればそれで成功だ。成功するまで、何度も繰り返す。


 「シャーーーボッ!!!」

歩夢「! やった! 今度は成功だよ! サスケ!」
 「シャボッ」

歩夢「それじゃ、次はラビフット!」
 「ラフット!!!」

歩夢「行くよ……! はい!」

509: ◆tdNJrUZxQg 2022/11/23(水) 12:33:21.52 ID:O3G9ZVHQ0

同時に2つ放り投げた、小石を、


歩夢「“にどげり”」
 「ラビ、フット!!!!!」


的確に2つ蹴り飛ばす。


歩夢「うん! 上手だよ! もう1回!」
 「ラフット!!!」

 「──ふふ、特訓ですか?」

歩夢「っ!?」


急に声を掛けられて、ビクっとしてしまう。


歩夢「あ、えっと……」

女の人「あら……ごめんなさい。驚かせるつもりはなくて」

歩夢「い、いえ……」

女の人「こんな暗い中特訓なんて、精が出ますわね。ポケモントレーナーさんですか?」

歩夢「は、はい」


私に話しかけてきたのは、髪の長いお姉さんだった。

夜の砂浜は街灯もないため、髪が長いくらいの特徴しかわからないけど……とにかく、優しい声と柔らかい口調で喋る人だ。


女の人「技の命中精度を上げる特訓ですか……」

歩夢「はい。……少しでも、強くなりたくて」

女の人「ふふ、強くなるためには、焦りは禁物ですわよ? 実力というものはゆっくりと時間を掛けて身に着けても……」

歩夢「……私、近いうちに大事な試合があるんです」

女の人「……では、それに向けての特訓……ということですか」

歩夢「はい。……その試合、実は再戦で……今度は絶対に勝ちたいんです。それに、マルチバトルだから、一緒に戦ってくれる子の足を引っ張らないように、少しでも強くならないと……」

女の人「なるほど……。少し、ここで見ていてもいいですか?」

歩夢「え? いいですけど……きっと、面白くないですよ?」

女の人「いえ、頑張っている人を見るのが好きなので」

歩夢「は、はぁ……」


なんだか変わった人だなと思った。

でもまあ……本当に見ているだけなら、別に断る理由もないかな……。


歩夢「えっと……それじゃ、次はマホミル」
 「マホミ~♪」


私はマホミルから少し離れた場所に移動して、


歩夢「マホミル! “アロマセラピー”!」

 「マホ~~」


マホミルの匂いが届くのを待つ。


歩夢「……えっと、じゃあ次はこっちに移動して……もう1回!」

 「マホミ~♪」

歩夢「……うーん、ここだともう届かない……」

510: ◆tdNJrUZxQg 2022/11/23(水) 12:34:13.85 ID:O3G9ZVHQ0

恐らく移動して、風上に来てしまったというのもありそうだ。


歩夢「そこから、もう少し“アロマセラピー”の範囲、広げられる?」

 「マホ~~~!!!」


マホミルがさっきよりも大きな鳴き声をあげながら、“アロマセラピー”を発動すると、


歩夢「あ……ちょっとだけ、匂いが届くね! その調子!」


今度は私のもとに匂いが届いてきた。


女の人「なるほど……補助の得意なマホミルは少しでもサポート出来る範囲を広げるための特訓、ということですね」

歩夢「あ、はい」

女の人「ふふ、面白い特訓方法ですわね」


女の人は思ったよりも、楽しそうに私の特訓を観察していた。ホントに変わった人かも……。


歩夢「じゃあ、もう少し離れたところまで──」


私がマホミルの方を見ながら、少しずつ距離を取って後退していたそのとき、


歩夢「きゃっ!?」
 「──タマッ」


何かに躓いて背中側から転んでしまう。


歩夢「いたた……」

女の人「大丈夫ですか……?」


転んだ私を見て、女の人が駆け寄ってくる。


歩夢「は、はい、下が砂だったので、怪我とかは……。……突然、何かに躓いて……」


足元を見ると、


 「タマッ…」


青くて丸いポケモンが蹲っていた。


歩夢「ポケモン!? ご、ごめんね!? 怪我してない!?」
 「タマ…」


間近で見て確認をすると、少し怯えてこそいるものの、怪我はしていなさそうで安心する。


女の人「このポケモンは……タマザラシですわね」

歩夢「タマザラシ……? タマザラシって、寒い海にいるポケモンですよね?」

女の人「はい、ですからあまりこの辺りにはいないのですが……何分まだ泳ぐのが苦手なポケモンなので、たまにこうして流されて来てしまうことがあって……」

歩夢「そうなんですか……」


つまり、群れからはぐれてしまった子のようだ。


 「タマ…」


タマザラシは不安そうに、私に身を寄せてくる。

511: ◆tdNJrUZxQg 2022/11/23(水) 12:35:31.97 ID:O3G9ZVHQ0

歩夢「お腹空いてるの? ……あ、“きのみ”があるから、ちょっと待っててね」


私はバッグから“フィラのみ”を取り出して、タマザラシに与える。


女の人「あ、その“きのみ”は……!」

 「タマ…♪」


タマザラシは“フィラのみ”を見ると、おいしそうに食べ始めた。


歩夢「ふふ、好きな味だもんね♪ まだ、たくさんあるからね♪」
 「タマ♪」

女の人「……あの」

歩夢「? なんですか?」

女の人「どうして、その子が辛い味が好きだとわかったのですか?」

歩夢「え?」

女の人「“フィラのみ”は強い辛味成分を含む“きのみ”で、苦手なポケモンは食べたら“こんらん”してしまうほどです……味の好みを完全に把握していないと、普通はあげられないのではと思いまして……」

歩夢「えっと……でも、この子、私に擦り寄ってきたので……“さみしがり”な子なのかなって。“さみしがり”な子は辛い味が好きで、すっぱい味が嫌いですし……」

女の人「この短時間で、初めて出会ったポケモンの性格を……」

歩夢「……?」

女の人「やはり、貴方は面白いトレーナーですわね」

歩夢「は、はぁ……ありがとうございます……?」


なんだかよくわからないけど……感心されてしまった。


女の人「そのタマザラシ、よかったら貴方が連れていってあげてください」

歩夢「え?」

女の人「群れからはぐれたタマザラシが元の群れに追い付くのは難しいでしょうし……“きのみ”をくれた貴方を信用しているようですから」

 「タマァ♪」

歩夢「……タマザラシ、私と一緒に冒険してくれる?」
 「タマ、タマァ♪」


問いかけると、タマザラシは嬉しそうに身を寄せてきた。


歩夢「うん。それなら、一緒に行こうか♪」
 「タマ♪」

女の人「ふふ、素敵なものを見せてもらったところで……わたくしはそろそろ帰りますわね」

歩夢「あ、はい。暗いのでお気を付けて……」

女の人「貴方も。……そうそう、貴方の特訓を見ていて思いましたが……」

歩夢「?」

女の人「貴方の持ち味は、鋭い攻撃や精度の高い技ではなくではなく……きっと、その優しさや愛情、ポケモンをよく見ている、その観察力にあると思いますわ。……なんて、余計なお世話かもしれませんが」

歩夢「……前にも、他の人から同じようなことを言われました」


少し言葉の選び方は違うけど……ニュアンス的にはエマさんが言っていたことに似ている気がする。


女の人「それを鍛えていくのではダメなのですか?」

歩夢「ダメ、というか……。……自信が欲しいんです」

女の人「自信、ですか……?」

歩夢「さっき大事な試合があるって言いましたよね。……その試合のことを考えると、まだ不安で。また負けちゃうんじゃないかなって……そんな風に考えちゃって……」

512: ◆tdNJrUZxQg 2022/11/23(水) 12:36:34.11 ID:O3G9ZVHQ0

次こそは、胸を張って、自信を持って戦いたいと思うのに。どうしても、弱気な自分が顔を出してしまう。そんな状態から抜け出したくて、こうして侑ちゃんには秘密で特訓をしにきたわけだけど……。


女の人「今日の特訓で、自信は付きましたか?」

歩夢「……正直、あんまり」


技の精度や威力は、少しずつ上がっていっているのを実感している。でも……それでも、自分がまた負けてしまうんじゃないかという不安が頭から離れていってくれない。


女の人「そうですか……。……でしたら、最後にもう一つお節介を焼きますわね」

歩夢「?」

女の人「実戦で失った自信は、実戦でしか取り戻せないものです。その大事な試合とやらの前に、一度どこかで戦ってみてはどうでしょうか」

歩夢「どこかでバトルを……」

女の人「もちろん、決めるのは貴方自身ですが……。それでは、今度こそ帰りますわね」

歩夢「あ……すみません、引き留めたみたいになっちゃって……」

女の人「いえ、お気になさらず。……それでは、またお会いしましょう。おやすみなさい」

歩夢「はい、おやすみなさい」


女の人は小さく手を振ると、背筋を伸ばしたまま、夜の浜を後にして、町の方へと消えていくのだった。


歩夢「……? ……またお会いしましょう……?」


またどこかで会うのかな……? いや、社交辞令の一環みたいなものだよね……?


 「ラビフ!!」「シャボ」「マホミ~♪」「タマァ」
歩夢「……そうだね、私たちもそろそろ戻ろうか」


あんまり長く続けていると、侑ちゃんも心配するだろうし……。

みんなを引き連れて、私も夜の浜辺を後にするのだった。





    🎹    🎹    🎹





歩夢が帰ってきたのは、散歩に出てから1時間くらいしてからのことだった。

特に変わった様子もなく、普通に戻ってきたから一安心……したんだけど。


 「タマ♪」
歩夢「タマザラシもお風呂入りたいの? こおりタイプでも、温泉って入って大丈夫なのかな?」

侑「歩夢の手持ちが増えてる……」

歩夢「あ、うん。さっき、そこの浜辺でお友達になったの」
 「タマ♪」


しかも、すごく懐いているし……。


歩夢「それじゃ、私お風呂行ってくるね」

侑「あ、私も!」

歩夢「え? 先に入ったんじゃ……」

侑「歩夢のこと待ってたんだ! ゆっくり温泉を楽しむなら、歩夢と一緒がいいなって思って」

歩夢「……ふふ♪ そっか♪」

513: ◆tdNJrUZxQg 2022/11/23(水) 12:37:22.82 ID:O3G9ZVHQ0

歩夢は嬉しそうに笑いながら、


歩夢「じゃあ、早く行こ♪」


私の手を引く。


侑「わっとと、今行くから焦らないでって!?」

歩夢「ダ~メ♪ 私いっぱい歩いて疲れちゃったから、早くお風呂でのんびりしたいの♪」

侑「そ、そうなんだ……? あ、イーブイ、ワシボン、ニャスパーもいくよー!」
 「ブイブイ」「ワシャ~♪」「ニャァ?」

歩夢「みんなもおいで~!」
 「ラフット」「シャボ」「マホマホ~♪」「タマァ♪」


私たちは手持ちたちと一緒に賑やかな雰囲気のまま、一日の疲れを癒すために、温泉へと向かうのだった。




514: ◆tdNJrUZxQg 2022/11/23(水) 12:37:56.31 ID:O3G9ZVHQ0

>レポート

 ここまでの ぼうけんを
 レポートに きろくしますか?

 ポケモンレポートに かきこんでいます
 でんげんを きらないでください...


【ウチウラシティ】
 口================== 口
  ||.  |○         o             /||
  ||.  |⊂⊃                 _回/  ||
  ||.  |o|_____.    回     | ⊂⊃|  ||
  ||.  回____  |    | |     |__|  ̄   ||
  ||.  | |       回 __| |__/ :     ||
  ||.○⊂⊃      | ○        |‥・     ||
  ||.  | |.      | | ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄\     ||
  ||.  | |.      | |           |     ||
  ||.  | |____| |____    /      ||
  ||.  | ____ 回__o_.回‥‥‥ :o  ||
  ||.  | |      | |  _.    /      :   ||
  ||.  回     . |_回o |     |        :  ||
  ||.  | |          ̄    |.       :  ||
  ||.  | |        .__    \      :  .||
  ||.  | ○._  __|⊂⊃|___|.    :  .||
  ||.  |___回○__.回_  _|‥‥‥:  .||
  ||.       /.         ● .|     回  ||
  ||.    _/       o‥| |  |        ||
  ||.  /             | |  |        ||
  ||. /              o回/         ||
 口==================口


 主人公 侑
 手持ち イーブイ♀ Lv.30 特性:てきおうりょく 性格:おくびょう 個性:とてもきちょうめん
      ワシボン♂ Lv.27 特性:はりきり 性格:やんちゃ 個性:あばれるのがすき
      ライボルト♂ Lv.28 特性:ひらいしん 性格:ゆうかん 個性:ものおとにびんかん
      ニャスパー♀ Lv.25 特性:マイペース 性格:きまぐれ 個性:しんぼうづよい
 バッジ 2個 図鑑 見つけた数:72匹 捕まえた数:4匹

 主人公 歩夢
 手持ち ラビフット♂ Lv.25 特性:リベロ 性格:わんぱく 個性:かけっこがすき
      アーボ♂ Lv.23 特性:だっぴ 性格:おとなしい 個性:たべるのがだいすき
      マホミル♀ Lv.21 特性:スイートベール 性格:むじゃき 個性:こうきしんがつよい
      タマザラシ♀ Lv.18 特性:あついしぼう 性格:さみしがり 個性:ものおとにびんかん
 バッジ 0個 図鑑 見つけた数:99匹 捕まえた数:13匹


 侑と 歩夢は
 レポートに しっかり かきのこした!


...To be continued.




515: ◆tdNJrUZxQg 2022/11/23(水) 23:08:39.11 ID:O3G9ZVHQ0

 ■Intermission🎹



──震えている女の子に、抱かれていた。


 「……おとうさん……おかあさん……」

 「こっちに来ちゃダメ……!」

 「逃げるんだ……!」

 「おとうさん……っ……おかあさん……っ……!!」


……直後、視界は眩い光に包まれて──ホワイトアウトする。



──ところ変わって……ご飯を食べる場所。


 「…………」

 「──もしかして、喋れないのかい……?」

 「…………」

 「そうかい……辛い思い……したんだね……」

 「…………」

 「おばちゃんで良ければ、頼ってね……ご飯を作ってあげることくらいしか出来ないけど……」

 「…………」


女の子は、頷いた。



 「…ニャァ」



──────
────
──



侑「……ん……ぅぅ…………?」


目が覚める。


侑「…………夢…………?」


なんだか……おかしな夢を見た。

あまりに身に覚えがない光景……。

いや、夢だから、そういうこともあるのかもしれないけど……。

内容はよくわからなかったけど……妙にリアリティがある夢だったような……。

ぼんやりと身を起こすと──


歩夢「…………すぅ……すぅ……」
 「ラビ…zzz」「…zzz」「マホ…zzz」「タマァ…zzz」


眠っている歩夢と、そのポケモンたち。


 「ブイ…zzz」「ワシャ…zzz」「ニャァ…zzz」「…ライボ」

516: ◆tdNJrUZxQg 2022/11/23(水) 23:09:14.33 ID:O3G9ZVHQ0

私のポケモンたち。

そして、


リナ『侑さん……? どうかしたの? まだ早いよ?』 || ╹ᇫ╹ ||


リナちゃんが居た。


侑「あ、うぅん……ちょっと変な夢見て起きちゃっただけ……」

リナ『そう?』 || ╹ᇫ╹ ||

侑「もうちょっと……寝ようかな……」

リナ『うん、その方がいいと思う。時間になったら起こすから』 || ╹ ◡ ╹ ||

侑「……うん、お願い……」


私は再び目を瞑って、眠りへと……落ちていくのだった。



………………
…………
……
🎹


517: ◆tdNJrUZxQg 2022/11/24(木) 14:11:31.44 ID:ffPGApYk0

■Chapter027 『決戦! ウチウラジム!』 【SIDE Yu】





──ウチウラシティで一晩を過ごし、その翌日。


侑「あー……緊張してきた」
 「ブイ」


ウチウラジムを前に、緊張で跳ねる鼓動を落ち着けようと深呼吸をする。


歩夢「侑ちゃん、頑張ってね!」

リナ『侑さん、ファイト』 ||,,> 𝅎 <,,||

侑「うん、頑張る!」


歩夢とリナちゃんの激励を受けながら、覚悟を決めて、ジムの扉をくぐる。

ジムの中は学校の体育館のような内装で、その床にはバスケットコートの様に、ポケモンバトル用のフィールドを示すラインが引かれている。

ここウチウラジムはポケモンスクールが併設されているから、ジム戦がないときは体育館としても使っているのかもしれない。

そんなジム内を見回しながら、奥に目を向けると──赤い髪の女の子が一人。


侑「ウチウラジムのジムリーダー──ルビィさん……!」

ルビィ「……チャレンジャーの方ですか?」

侑「はい! セキレイシティから来た、侑って言います! ジム戦、お願いします!」

ルビィ「わかりました! バトルスペースについてください!」

侑「はい! 行くよ、イーブイ!」
 「ブイ!!」


セキレイ、ダリア、コメコ、ホシゾラに続いて訪れた5つ目のポケモンジムにして、私の3つ目のジムバッジを懸けた戦いが始まる。

未だに緊張で高鳴る胸を、深呼吸でどうにか落ち着かせながら、チャレンジャーのスペースに向かう。

その最中、


歩夢「侑ちゃん! 頑張ってね!」


私の背後のセコンドスペースから歩夢の声。

私は力強く頷いてみせてから、再びルビィさんの方へと振り返ろうとした、そのときだった。


 「──そのジム戦、少し待ってもらえませんか?」


凜とした声が、ジム内に響き渡った。


侑「え?」

歩夢「……あれ、この声……?」

ルビィ「ぅゅ……? お姉ちゃん……?」


ルビィさんの背後から、歩いてくる黒髪の女性の姿を見て、私は目を見開いた。


侑「う、嘘……!? あの人って、まさか……!!」


チャンピオン率いる、4人の最強ポケモントレーナー──四天王の1人。その中でも鉄壁の防御力を誇ると言われるくさタイプのエキスパート──

518: ◆tdNJrUZxQg 2022/11/24(木) 14:12:12.29 ID:ffPGApYk0

侑「だ、ダイヤ……さん……」

ダイヤ「あら、わたくしのこと、ご存じなのですね。ありがとうございます」

侑「あ、あああ、当たり前じゃないですか!!」


ダイヤさんと言えば、元ウチウラジムのジムリーダーで、つい最近四天王に就任したというのはニュースにもなっていたし、知っていて当然だ。

この町に訪れる際も四天王の出身の町だし、もしかしたらどこかで会えるかもなどと淡い期待をしていなかったわけじゃないけど──まあ、セキレイシティも四天王出身の街だけど──まさか、もう去ったと思っていたこのウチウラジムで会えるとは思ってもみなかった。


侑「さ、さささ、サイン!! サインください!!」

ダイヤ「ふふ。わたくしのサインなんかでよろしければ、ジム戦が終わったあとに差し上げますわ」

侑「や、やったーーー!! 歩夢!! ダイヤさんからサイン貰えるって!!」


興奮気味に歩夢の方を振り返ると──


歩夢「……あの」


歩夢は何やら困惑していた。


侑「歩夢……?」

歩夢「えっと……」


そして、そんな歩夢の視線は私を通り過ぎて──ダイヤさんに注がれている。


ダイヤ「ふふ、昨日振りですわね」

歩夢「……やっぱり」

侑「え、何? 昨日振りって、どういうこと?」

歩夢「私……昨日、浜辺でダイヤさんと会ったの」

侑「え、嘘!? なんで教えてくれなかったの!?」

歩夢「真っ暗でほとんど顔とかは見えてなくて……まさか、四天王の人だったなんて……」

侑「な、なるほど……」


確かにそんな場面で会った人がまさか四天王の1人だなんて、想像出来ないかも……。


ルビィ「それより、お姉ちゃん……どうしたの? 今日はお休みだって言ってたのに……」

ダイヤ「確かに今は休暇中ですが……少し、そちらの方に用事がありまして」


そう言いながら、ダイヤさんの視線は再び歩夢に向けられる。


歩夢「……」

侑「歩夢に……!? やっぱ、昨日何かダイヤさんと話したの!?」


四天王のダイヤさんと歩夢がした会話……すごく気になる……!!


ダイヤ「昨日わたくしが最後にした話、覚えていますか?」

歩夢「……はい」

ダイヤ「でしたら、わたくしがここに出てきた理由も、なんとなくおわかりなのではないでしょうか?」

歩夢「……」


ダイヤさんの言葉を聞いて、歩夢が不安げな瞳を私に向けてきた。

519: ◆tdNJrUZxQg 2022/11/24(木) 14:13:07.74 ID:ffPGApYk0

侑「歩夢……?」

歩夢「……あの……侑ちゃん」

侑「なに?」

歩夢「……あの、ね……わがまま、言っていい?」


目を泳がせながら、不安げに言う歩夢に向かって。


侑「いいよ」


私は即答した。


歩夢「侑、ちゃん……」

侑「歩夢、何かしたいことがあるんだよね。だったら、私は協力する!」

ダイヤ「聞く前から、了承してしまっていいのですか?」

侑「はい! 歩夢のお願いですから!」


歩夢はいつも一歩引いている子だった。

私が好きなものに突っ走って、引っ張って、連れ回しても、文句一つ言わず、いつも私の傍にいてくれた。

そんな歩夢が、自分から、自分のしたいことを、わがままを、私に言ってくれることが、なんだか嬉しかった。


侑「どんなお願いでも、わがままでも、私が力になるからさ!」

歩夢「侑ちゃん……ありがとう」

ダイヤ「……ふふ、決まりですわね」

ルビィ「……?」

ダイヤ「ルビィ、このジム戦、少し特殊ルールにさせてもらってもいいですか?」

ルビィ「特殊ルール?」

ダイヤ「はい、特殊ルールとして──このジム戦はわたくしとルビィの二人で、チャレンジャーのお二人のお相手をさせていただきますわ」





    🎀    🎀    🎀





侑「──まさか、四天王と戦えるなんて……!!」
 「ブイ」


ダイヤさんとの話を終えて、戦いの準備取り掛かる中、侑ちゃんは興奮気味に言う。


歩夢「あの……侑ちゃん、本当に良かったのかな」


今更ながら、こんなことを私の一存で決めてしまってよかったのかと不安になるけど、


侑「いやいや、むしろありがとうって言いたいくらいだよ!! ジム戦が出来るだけでも贅沢なのに、四天王のダイヤさんと戦えるんだよ!? こんな機会普通ないんだから! 楽しまないと!」

歩夢「ふふ、侑ちゃんは本当にポケモンバトルが大好きなんだね」

侑「うん!」


嬉しそうな侑ちゃんを見て、安心する。

また私のわがままのせいで、大事なジム戦の難易度を上げてしまったかと思ったけど、それも杞憂のようだ。

──そして、このバトルをする以上は、

520: ◆tdNJrUZxQg 2022/11/24(木) 14:13:57.62 ID:ffPGApYk0

歩夢「……侑ちゃん」

侑「なに?」

歩夢「……私、勝ちたい」


勝ちたい。勝って、自分の自信にするために。


侑「違うよ、歩夢」

歩夢「え?」

侑「勝ちたい、じゃなくて──勝とう!」

歩夢「……! うん!」


侑ちゃんの手をぎゅっと握って、頷き合って、決意する。勝つんだ……!


リナ『二人とも頑張ってね。私もサポート頑張る』 || ˋ ᨈ ˊ ||

侑「うん、お願いね! リナちゃん!」

歩夢「頑張るね!」


リナちゃん含めて、戦いの準備が整ったところで、フィールドの向かい側にいるダイヤさんとルビィさんが声を掛けてくる。


ダイヤ「さて、準備はよろしいですか?」

ルビィ「こ、今回のルールは特別ルールで、それぞれのトレーナーが2匹ずつのポケモンを使ってのマルチバトルです!」

ダイヤ「そして、もちろんですがそちらが勝った暁には、ジムバッジをお二人に差し上げますわ。ただし、こちらの手持ちは侑さんのジムバッジ2個相当に合わせて選ばせていただきます。ジムバッジを持っていない歩夢さんには少し厳しい条件になりますが、そこはご容赦を」

侑「わかりました!」

歩夢「も、問題ありません!」

ルビィ「それじゃ、ジム戦を開始します……!」

ダイヤ「今は四天王ですが、本日はジムリーダーの一人として、お相手いたしますわ」


二人がボールを構える。


ダイヤ「ウチウラジム・ジムリーダー『花園の気高き宝石』 ダイヤ」

ルビィ「ウチウラジム・ジムリーダー『情熱の紅き宝石』 ルビィ!」

ダイヤ「さあ、ルビィ。行きますわよ!」

ルビィ「うん! お姉ちゃん!」


4つのボールが放たれて──……バトル、スタート……!!





    🎀    🎀    🎀





侑「行くよ! ライボルト!!」
 「──ライボッ!!!」

歩夢「ラビフット、お願いね!」
 「──ラフット!!!」


侑ちゃんの最初のポケモンはライボルト、私はラビフットを繰り出す。

対する、ジムリーダー側は、

521: ◆tdNJrUZxQg 2022/11/24(木) 14:14:53.69 ID:ffPGApYk0

ルビィ「行くよー! ヒトモシ!」
 「──トモシ~」

ダイヤ「さぁ行きましょう、カリキリ」
 「──カリキリ」


ろうそくのようなポケモンと、小さなカマキリのようなポケモン。


リナ『ヒトモシ ろうそくポケモン 高さ:0.3m 重さ:3.1kg
   明かりを 灯して 道案内を するように 見せかけながら
   生命力を 吸い取っている。 吸い取る 命が 若ければ
   若いほど 頭の 炎は 大きく 妖しく 燃え上がる。』

リナ『カリキリ かまくさポケモン 高さ:0.3m 重さ:1.5kg
   昼間は 光を浴びて 眠り 夜に なると より 安全な
   寝床を 探し 歩き出す。 太陽の 光を 浴びると 甘く
   よい香りが するので 虫ポケモンたちが 寄ってくる。』


今のウチウラジムのエキスパートタイプは、ほのおタイプ。そして、先代ジムリーダーのダイヤさんのエキスパートタイプは、くさタイプだったはず。

侑ちゃんもそれは知っているだろうから、その上でくさタイプに相性のいいワシボンを出さなかったということは──


侑「ライボルト!! ヒトモシに向かって“チャージビーム”!!」
 「ライボッ!!!!」


開始早々、ライボルトの攻撃がヒトモシに向かって飛んでいく。


ルビィ「ヒトモシ、“ちいさくなる”!!」
 「トモシィ~…」

侑「くっ、避けられた……! ライボルト、畳みかけるよ!」
 「ライボッ!!!」


ライボルトが侑ちゃんの指示でヒトモシに向かって飛び出して行く。

その際、一瞬だけ私に目配せをしてくる。


歩夢「……!」


侑ちゃんの言いたいこと、伝えたいことが自然とわかった。

──『ヒトモシは私たちが引き付けるから、カリキリをお願い!』

私はそれに応えるように、力強く頷いて見せる。


ダイヤ「──ボーっとしている余裕はありませんわよ!」

歩夢「!?」


ダイヤさんの声にハッとして視線を前に戻すと──カリキリがラビフットに向かって飛び掛かってきているところだった。


歩夢「避けてっ!?」
 「ラビフッ!!」


私の咄嗟の指示で、ラビフットは身を引くものの、完全には回避しきれず、


 「カリッ」


飛び掛かってきたカリキリが、ラビフットの脚に引っ付いた。


ダイヤ「“きゅうけつ”!!」
 「カリ、キリッ!!」


そして、そのままラビフットの脚にガブリと噛みついてくる。

522: ◆tdNJrUZxQg 2022/11/24(木) 14:15:48.06 ID:ffPGApYk0

 「ラ、ラビフッ!!」


カリキリは顎で噛みつき、体力の吸収を始める──剥がさなきゃ……!!

幸いこっちは有利なほのおタイプ。付かれた場所が脚ならすぐに剥がせる……!!


歩夢「“ブレイズキ──」

ダイヤ「“タネマシンガン”!!」

歩夢「……!?」


でも、私の指示よりもコンマ数秒早く、


 「カリカリリリリリリ」


カリキリはラビフットの脚から口を離して、タネを吐き出して攻撃してくる。


 「ラ、ラビッ!!?」


ダメージこそ大きくないものの、カリキリは吐き出すタネの反動で距離を取ってくる。


歩夢「せっかく、反撃のチャンスだったのに……」


いや、切り替えよう。距離を取ってくれたのなら、それはそれでいいんだ。


歩夢「ラビフット! “かえんほうしゃ”!!」
 「ラビ、フゥゥゥ!!!!!」


今度は口から火炎を噴いて攻撃する。近接攻撃じゃなくても、ほのお技で攻めていけば、こっちが有利だもん……!

──だけど、ダイヤさんは極めて冷静に、次の指示を出す。


ダイヤ「“このは”!」
 「カリ!!」


……“このは”……?

カリキリの目の前に大量の“このは”が集まってきて、


歩夢「……!?」


ラビフットの“かえんほうしゃ”を壁になって受け止める。


歩夢「う、うそ……くさタイプの技でほのおタイプの技を防いでる……!?」


予想外の防御手段に驚く。……とはいえ、いくら防いだと言っても、壁となっているのは、あくまで“このは”だ。

このまま、“かえんほうしゃ”を続けていれば“このは”の壁を焼き破るのはそんなに難しくないはず……!


歩夢「こ、このまま、“かえんほうしゃ”を続けて……!!」
 「ラビフゥゥゥーー!!!!!」


火炎で燃やされた“このは”の壁はメラメラと音を立てながら燃え上がる。

この調子ならもうすぐ、破れ──


ダイヤ「“きりばらい”!」
 「カリキリーー」

歩夢「!?」

523: ◆tdNJrUZxQg 2022/11/24(木) 14:16:25.11 ID:ffPGApYk0

そう思った瞬間、カリキリが強烈な風を巻き起こし、“このは”の壁もろとも、炎が霧散していく。

そして、何故か噴き付ける“かえんほうしゃ”は、カリキリを迂回するように逸れていってしまう。


歩夢「な、なんで……」


確かに“きりばらい”によって、吹いている風が炎の方向を操っているのかもしれないけど……ここまで、強い防御の技になるとは思えない。

当惑している私に向かって、ダイヤさんが口を開く。


ダイヤ「炎は風に煽られ、より燃えやすい方へと流れていきました」

歩夢「より、燃えやすい方……?」


何を言っているのかと思ったけど……よく見たら、炎が流れていった場所には──1本の道のように草が生い茂っていた。


歩夢「“グラスフィールド”……」

ダイヤ「そのとおり。炎の流れは草のフィールドと風の力でコントロールさせていただきました」

歩夢「……っ」


どうしよう、確実にこっちの方が相性は有利なはず……どうにか攻撃を当てなくちゃ……。


ダイヤ「攻撃がうまく決まらず、焦っていますわね」

歩夢「……」

ダイヤ「一つ、教えて差し上げますわ」

歩夢「……?」

ダイヤ「わたくしのエキスパートタイプ──くさタイプにはいくつ弱点があるかご存じですか?」


えっと……くさタイプの弱点は……。


歩夢「……ほのお、こおり、ひこう、むし、どくタイプです」

ダイヤ「正解。すらすら出てくるあたり、よく勉強されていますね。そんなくさタイプのポケモンたちですが……実は攻撃面でもそこまで恵まれてはいませんわ」


……確かに、同タイプのくさタイプをはじめ、ほのお、どく、ひこう、むし、ドラゴン、はがねと攻撃が半減されてしまう対象も多い。


ダイヤ「そんな相性の面では恵まれているとは言い難いくさタイプのポケモンたちが、どうすれば戦えるか、わたくしはずっと考えてきました。多い弱点も弱点にならないように、いくつも対策を考えて」


つまり……ダイヤさんが言いたいことは──


歩夢「ただ、弱点を突いただけじゃ……勝てない……」


今さっき、ほのおタイプの攻撃をいなされてしまったように、ダイヤさんは弱点のタイプへの対策が完璧なんだ……。

最初にやろうとした、“カウンター”としての“ブレイズキック”も、偶然ではなく、こっちの反撃を読み切っての回避行動だったということ。


歩夢「……っ」


圧倒的な実力差を感じる。


ダイヤ「さあ、次はどうされますか?」


強い……これが、四天王の実力。

──だけど、


歩夢「…………すぅ…………はぁ…………」

524: ◆tdNJrUZxQg 2022/11/24(木) 14:17:01.51 ID:ffPGApYk0

私は一度、深呼吸をする。

落ち着こう。落ち着いて、よく考えるんだ。

きっと何か打開する方法があるはずだ。

──もう簡単に諦めない。強くなるって、決めたから。

侑ちゃんの隣で、強くなるって、決めたんだから。





    🎹    🎹    🎹






──横で歩夢がダイヤさんに苦戦しているのが、目に見えてわかる。

どうにか、加勢したいけど……。


侑「“でんげきは”!!」
 「ライボッ!!!!」

 「トモシィ!!?」
ルビィ「わわ!? 回避率を上げてても、その技は当たっちゃう!?」

リナ『“でんげきは”は必中技! 侑さん、ナイス技選択!』 ||,,> 𝅎 <,,||

ルビィ「なら──“マジカルフレイム”!!」
 「トモーー!!」


ルビィさんの指示と共に、飛んできた青白い炎がライボルトに纏わりつくように燃え上がる。


 「ライボッ!!!!」
侑「ライボルト! 落ち着いて! そんなに威力の大きい攻撃じゃないから!」


炎を受け、慌てるライボルトを落ち着かせながら、ルビィさんを見る。


ルビィ「……」


ルビィさんは、目の前で戦っている私から、出来るだけ視線は外さないものの──さっきからチラチラとラビフットの方を気にしている気がする。


侑「リナちゃん」

リナ『なに?』 || ╹ᇫ╹ ||

侑「ヒトモシの特性って、もしかして“もらいび”だったりする?」

リナ『うん、そうだよ』 || ╹ 𝅎 ╹ ||

侑「やっぱり……」


ヒトモシの特性は知らなかったけど、進化系のシャンデラの特性と同じらしい。

あのロウソクの体は見るからに炎によって強化されそうだし……恐らくさっきから、ラビフットを気にしているのは、ラビフットからの炎攻撃を受けて強化したいからだ。

相手はほのおタイプのエキスパート。そして、今ルビィさんが一緒に戦っているダイヤさんはくさタイプのエキスパート。

姉妹の二人のことだ。くさタイプを使うダイヤさんをフォロー出来るポケモンを意識して使っているというのは、想像に難くない。

そのために、“もらいび”のヒトモシを使っているとなると、


侑「やっぱり、ルビィさんを自由にさせるわけにはいかない……」


今は歩夢を信じて、ルビィさんのヒトモシに集中しよう。

525: ◆tdNJrUZxQg 2022/11/24(木) 14:17:38.80 ID:ffPGApYk0

侑「ライボルト! “かみくだく”!!」
 「ライボッ!!!!」


私の指示と共に、ライボルトが駆け出す。

“ちいさくなる”のせいで技は当たりづらいし、“マジカルフレイム”の効果によって、特殊攻撃力が下げられている。

なら、接近して直接攻撃をした方が手っ取り早い。


 「ライッ!!!!」


標的は小さいけど、自慢の俊足で肉薄したライボルトは、しっかりと目標を捉えてキバを突き立て──た、と思った瞬間、


侑「うぇ!?」


噛み付いたはずのヒトモシが──ドロリと溶けた。


リナ『侑さん! “とける”だよ!』 || ˋ ᇫ ˊ ||

侑「物理もダメ……!」


しかも、その直後、


 「ラ、ライボッライィッ」


急にライボルトがたたらを踏みながら、むせ始めた。


侑「ライボルト!?」


焦ってライボルトを確認すると──口元から、何やら黒い煙が……。


侑「まさか、“スモッグ”!?」

ルビィ「えへへ、成功だよ! ヒトモシ!」
 「トモ~」

ルビィ「そのまま、“たたり──」

侑「“スパーク”!!!」
 「ライボッ!!!!」

 「トモシッ!!!?」
ルビィ「ピギィ!!?」


その場で激しく“スパーク”し、すぐさまヒトモシを追い払う。

それと共に、ライボルトは後退し、一旦相手から距離を取る。


侑「あ、あぶな……! “どく”状態から、さらに“たたりめ”を受けるところだった……」


どうにか最大打点は防いだものの、


 「ライボ…」


“どく”を受けてしまったことには変わりない。このままだと、まずいかも……。

何か思い切った攻め手を打つべきか……いや、でも、


ルビィ「ヒトモシ! ライボルトから目を離しちゃダメだよ!」
 「トモッ!!」

526: ◆tdNJrUZxQg 2022/11/24(木) 14:18:37.33 ID:ffPGApYk0

ルビィさんの狙いがいまいち掴み切れない。

さっきから、ラビフットを気にしているかと思いきや、ライボルトの相手はしっかりしている。

あれだけ多彩な補助技があるなら、ライボルトの攻撃を掻い潜ってラビフットの方に行くのも無理ではないはず。


侑「……いやむしろ、そうしないのはおかしいような……」


思わず口に出して呟いてしまう。

考えてみれば、ヒトモシの仮想敵は最初から、ダイヤさんの手持ちのくさタイプが呼ぶ、ほのおタイプやこおりタイプの相手なんだとしたら、大真面目にライボルトの相手をし続けているのには違和感がある。

加えて、でんきタイプの通りが悪い、くさタイプのポケモンがライボルトの相手をしに来る方が絶対に戦闘の効率もいいはず。

でも戦局はライボルトVSヒトモシ、ラビフットVSカリキリの構図になっている。……だけど、対戦相手を入れ替えようともしていない、そうしないだけの理由があるはずだ。


 「トモシ」


指示どおり、ライボルトから視線を外さないヒトモシ。そして、


ルビィ「…………」


相変わらずラビフットを気にしながら、私たちの次の行動を待っているルビィさん。

──私が知る限りでは、ルビィさんの公式試合での戦い方には、独特な緩急があるイメージだ。

膠着したような試合運びのように見えて、突然何かのきっかけで、一気に自分の方に展開を持ち込むような逆転型の戦い方が特徴のトレーナー。


侑「……」


もしかして──何か特定の行動を……待っている……?

そのとき、ふと、


ダイヤ「──さあ、次はどうされますか?」


ダイヤさんが歩夢の次の行動を促す言葉が聞こえてきた。


歩夢「……っ」


歩夢も攻撃を捌かれて焦っているのがわかる。

ダイヤさんは防御戦術の名手として知られている。

相性がよくても、なかなかあの防御力を崩せず苦戦するのも無理はない。


ダイヤ「どうしましたか? もうすでに最大火力の技は使ってしまいましたか?」


再び、攻撃を誘うような言葉。

そこでふと──一瞬だけ、ダイヤさんがライボルトの方をチラリと見たのを、私は見逃さなかった。


侑「……!」


──もしかして……そういうこと……?

……ただ、わかったとして、どうする?

歩夢に伝えたら、相手にもこっちが気付いたことを気取られる。

……いや──


侑「ライボルト、床に向かって“アイアンテール”!」
 「ライボッ!!」

527: ◆tdNJrUZxQg 2022/11/24(木) 14:19:26.67 ID:ffPGApYk0

──ガァンッ!!! と激しい音を立てて、ライボルトが地面に鋼鉄の尻尾を叩き付ける。

その大きな音と突然の行動に、


ルビィ「ピギィ!?」

歩夢「きゃっ!?」


ルビィさんと歩夢が同時に驚きの声を上げる。


歩夢「侑ちゃん……?」

ダイヤ「一体何を……?」


思いっきり攻撃をぶつけた床は、崩れて小さな礫が転がる。


侑「歩夢、これ使える?」

歩夢「え……」


歩夢は一瞬、私の言葉に目を丸くしたけど、


歩夢「うん」


すぐに頷いた。

それを確認すると、ライボルトが礫を咥えてから、ラビフットの方に放り投げる。


 「ラビフッ」


ラビフットはそれを器用にリフティングし始める。


ダイヤ「! 武器の調達ということですか」


ダイヤさんはこの意図には、すぐに気付いたようだ。


侑「歩夢、相手はどっちも守りがすごく堅い」

歩夢「う、うん……」

侑「だから、イチかバチか、私の合図で一気に最大火力で攻めてみよう」

歩夢「で、でも……」


歩夢の戸惑いの声。恐らく、我武者羅に突っ込んでも、また捌かれるだけかもしれないという心配だろう。

ただ、私は、


侑「大丈夫。私を信じて」

歩夢「侑ちゃん……」

侑「……いや、違うかな」

歩夢「?」

侑「私は歩夢のことを信じてるよ」

歩夢「! ……わかった」


歩夢も了承してくれた。

……あとは一発勝負だ。


 「ライボォッ…!」

528: ◆tdNJrUZxQg 2022/11/24(木) 14:21:12.81 ID:ffPGApYk0

ライボルトが足回りの筋肉に“じゅうでん”を始める。


侑「1,2,3で同時に行くよ……!」

歩夢「うん! 行くよ、ラビフット!」
 「ラビフッ!!!」


リフティングをしているラビフットの脚がメラメラと炎を宿す。


ダイヤ「ルビィ、来ますわよ!」

ルビィ「うん!」


相手方も迎え撃つ準備は万端のようだ。


侑「よし……! 行くよ、歩夢!」

歩夢「うん! いつでも!」

侑「1……2……3!! 行け! ライボルト!!」
 「ライボッ!!!!」

歩夢「ラビフット!! “ブレイズキック”!!」
 「ラビフットッ!!!!」


──ライボルトが充填した電気エネルギーを解放した“でんこうせっか”でヒトモシに向かって飛び出し、ラビフットが“ブレイズキック”で石に着火しながら、カリキリに向かって蹴り飛ばす。


ダイヤ「さあ、来なさい!!」
 「カリキリ」

ルビィ「ヒトモシ! 行くよ!!」
 「トモシッ!!!」


猛スピードで前進するライボルトと、それに並ぶように飛んでいく燃え盛る礫。

2つの攻撃が真っすぐ目の前の対象を捉えたその瞬間──ルビィさんの声。


ルビィ「“サイド──」

侑「“エレキボール”!!」
 「ライボッ!!!」

ルビィ「──チェンジ”!! え!?」


ルビィさんが技の指示を出し切る前に、ライボルトが尻尾から“エレキボール”を放つ──背後のラビフットに向かって。


侑「歩夢!! 本命のボールはそっちっ!!!!」

歩夢「!! ラビフット!! 蹴り返して!!」
 「!! ラビフット!!!!!!」


ラビフットが“エレキボール”を蹴り返すのと同時に──燃えた礫が急に上方向に軌道をずらし、ヒトモシの頭の上スレスレを通り抜けていく。


ダイヤ「なっ!?」

ルビィ「な、なんで!?」


驚きの声を上げる姉妹。

それもそのはず。最初から仲間と場所を入れ替える技──“サイドチェンジ”でヒトモシが“もらいび”で受け止めるつもりだったが、その受け止めるはずの炎の礫がヒトモシを避けるように天井に吸い寄せられていくからだ。


ダイヤ「っ!? “でんじふゆう”を使ったデコイ!?」

529: ◆tdNJrUZxQg 2022/11/24(木) 14:21:54.20 ID:ffPGApYk0

──そう、そのとおり。あの礫はライボルトが口に咥えたときに“でんじふゆう”で磁力を帯びさせていた。

最初から当てるつもりのない、囮の攻撃……! ラビフットが蹴り飛ばした直後にライボルトが一帯に強力な電場を作り出して、浮遊させたというわけだ。

礫が熱を帯びていたせいで、思ったよりも磁力で上に飛ばせなかったけど──ヒトモシにさえ当たらなければ十分だ……!

この一瞬でそれに気付いたダイヤさんはさすがだけど、


ダイヤ「カ、カリキリ!! “このは”!!」
 「カ、カリキ!!!」


この状況で防御の指示まで間に合うか──いや、間に合わせない!!


 「ライボッ!!!」


土壇場で作った“このは”の壁を猛スピードの突進で無理やり突き破り、


侑「“ほのおのキバ”!!」
 「ライボッ!!!!」

 「カリィ!!?」


燃え盛るキバでカリキリを抑えつけたまま、


侑「“オーバーヒート”!!!」
 「ライボォォォォ!!!!!!」

 「カリキィィィィィ!!!?」


ありったけの熱波を至近距離で解放して焼き尽くした。

そして、それと同時に──


 「トモシィ!!!?」
ルビィ「ヒ、ヒトモシー!!」


デコイの燃える礫を吸収する気満々で前に出てきたヒトモシは、ラビフットのキックで加速しながら跳ね返ってきた“エレキボール”が直撃して、


 「ヒ、トモォ…」


目を回して、戦闘不能になるのだった。


侑「……せ、成功したぁ……」


かなり無茶な作戦がどうにか成功して、思わずへたり込む。


ルビィ「う、うそ……」

ダイヤ「……してやられましたわね。戻って、カリキリ」
 「…カリィ──」

ダイヤ「ルビィも。ヒトモシを戻してあげてください」

ルビィ「あ……うん。お疲れ様、ヒトモシ……」
 「…トモ──」


戦闘不能になった2匹がボールに戻される。

相手のポケモンを先に2匹撃破した。このアドバンテージは大き──


歩夢「侑ちゃんっ!」

侑「わぁ!?」

歩夢「もう、あんな無茶なことするなんて聞いてないよっ!」

530: ◆tdNJrUZxQg 2022/11/24(木) 14:22:30.97 ID:ffPGApYk0

歩夢が軽く涙目になりながら、抗議してくる。


侑「ご、ごめんっ! 声に出したら向こうにバレちゃうって思ったから……!」

歩夢「そうだとしても、ホントにびっくりしたんだから! “エレキボール”がこっちに向かって飛んできたとき、私、一瞬頭が真っ白になっちゃったんだよ!?」

侑「だからごめんって! でもね、歩夢!」

歩夢「?」

侑「歩夢なら絶対に、私の作戦、すぐに理解してくれるって信じてたから、成功したよ!」


そう言って、ニコっと笑顔を作ると、


歩夢「も、もう……そういう言い方、ずるいよ……」


歩夢は可愛らしく、ぷくーっと頬を膨らませるのだった。


リナ『二人ともすごかった! ナイスコンビネーション!』 ||,,> ◡ <,,||

侑「うん、ありがとう、リナちゃん」

歩夢「はぁ……今度から、こういう作戦は出来るだけ、あらかじめ決めておくようにしようね……」

侑「あはは、了解。でも、これで今回のバトルは4対2に持ち込めた……!」

リナ『うぅん、3対2だと思う』 || ╹ᇫ╹ ||

侑「え?」


言われて、フィールドを見ると、


 「ライ、ボッ…」


ライボルトが蹲っていた。


侑「しまった……“どく”のダメージがそろそろ限界だった……!」


ライボルトは“スモッグ”で受けた“どく”のダメージで、これ以上の戦闘は厳しそうだ。


侑「戻って、ライボルト! ありがとう!」
 「ライボ…──」


ライボルトをボールに戻して、歩夢以外が一斉にポケモン交換のため、バトルは一旦仕切り直しだ。


ダイヤ「──ポケモンを入れ替える前に、一つ聞いてもいいでしょうか?」

侑「なんですか?」

ダイヤ「ルビィのヒトモシの“サイドチェンジ”……わかっていたのですか?」


ダイヤさんからのそんな問い。


侑「あーえっと……“サイドチェンジ”をヒトモシが使えるかは知らなかったんですけど……」

ダイヤ「けど?」

侑「ルビィさんはずっとラビフットを気にしてたし……ダイヤさんも、不利相性のはずなのに歩夢の攻撃をいなすばっかりで、全然攻撃を仕掛けてなかったから、最初からラビフットに強力なほのお技を撃たせようとしてるんじゃないかなって。となれば、ヒトモシとカリキリのどっちかが、場所を入れ替わる技“サイドチェンジ”を使えるんじゃないかって思って」


“サイドチェンジ”自体はダブルバトルの試合で何度か見たことがあったけど、ヒトモシかカリキリがそれを使えるかどうかは、ある意味賭けだったけどね……。


ダイヤ「……なるほど」

ルビィ「ピギッ!?」

531: ◆tdNJrUZxQg 2022/11/24(木) 14:23:17.42 ID:ffPGApYk0

私の言葉を聞いて、ダイヤさんの鋭い視線がルビィさんに送られる。


ダイヤ「ルビィ、あれほど視線には注意しなさいと、いつも言っているでしょう……」

ルビィ「え、えぇ……ルビィ、ラビフットの方は見ないようにしてたつもりなのに……そんなに見ちゃってたかなぁ……」

ダイヤ「尤も……確信をしたのは、わたくしもどこかでライボルトの方を見てしまったから、なのかもしれませんが……」


恐らく、ダイヤさんもルビィさんに合図を送るために、わかりやすく大技を引っ張り出すタイミングを調整していたんだと思う。

その際、ダイヤさんが一瞬だけライボルトを見たのは、位置を入れ替えたカリキリが有利な展開を運ぶための策を考えるための確認だったんだろう。


ダイヤ「……とはいえ、あの一瞬であれだけの作戦を組み立てて実行する胆力。マルチバトルのパートナーを信頼していないと出来ない芸当。素直に称賛しますわ」

ルビィ「う、うん……確かにすごかった……」

侑「えへへ……だってさ、歩夢!」

歩夢「もう! 私まだ許してないよ! ……でも、侑ちゃんが私を信じてくれたのは……嬉しかったよ。えへへ……///」


さて、話も終わったところで、


ダイヤ「……さて、こうしてわたくしたちは不利な状況になってしまいましたが……。……2匹目はそう簡単には行きませんわよ」

ルビィ「侑さん! 次のポケモンの準備はいいですか!」

侑「はい!」


ダイヤさんとルビィさんがボールを放る。


侑「さぁ、出番だよ! イーブイ!」
 「ブイ!!」


後ろで待っていた、イーブイがバトルフィールドに飛び出し、それと同時に2つのボールがフィールドに放たれた。

さあ、第二ラウンドだ……!





    🎹    🎹    🎹




 「──ジャノビ」
ダイヤ「ジャノビー、お願いしますわね」

 「──シャモッ!!」
ルビィ「ワカシャモ! 行くよ!」


ダイヤさんはジャノビー、ルビィさんはワカシャモを繰り出してくる。


リナ『ジャノビー くさへびポケモン 高さ:0.8m 重さ:16.0kg
   生い茂った 草木の 陰を 潜り抜け 攻撃を 回避し
   巧みな ムチさばきで 反撃。 体が 汚れると 葉っぱで
   光合成が できなくなるので いつも 清潔に している。』

リナ『ワカシャモ わかどりポケモン 高さ:0.9m 重さ:19.5kg
   野山を 走り回って 足腰を 鍛える。 スピードと パワーを
   兼ね備えた 足は 1秒間に 10発の キックを 繰り出す。
   戦いに なると 体内の 炎が 激しく 燃え上がる。』


侑「歩夢、何してくるかわからないから気を付けて……!」

歩夢「う、うん」


──結果として相手の作戦は失敗したとはいえ、ルビィさんは場全体を巻き込んだトリッキーな戦略を仕掛けてきた。

今度も、姉妹で何か策を巡らせているかもしれない。そう思った矢先、

532: ◆tdNJrUZxQg 2022/11/24(木) 14:24:03.17 ID:ffPGApYk0

ルビィ「お姉ちゃん! ラビフットはルビィが──」

ダイヤ「いえ、ルビィはイーブイをお願いします」

ルビィ「え、でも……」


ダイヤさんは標的を指定する。


ダイヤ「むしろ、手を出さないように」

ルビィ「え、えぇ!?」

ダイヤ「……このままでは、わたくしが作戦のためだけに虚勢を張ったようではありませんか」


──なんの話だろう……? と思ったけど、


歩夢「あ、さっきの話……」


歩夢はすぐに思い至ったようだ。

ヒトモシと戦いながらだったから、しっかりは聞いていなかったけど──相性だけ良くても、自分のくさタイプのポケモンたちを突破は出来ない……みたいな話だったかな。


ルビィ「で、でも……あれはそういう作戦で……」

ダイヤ「とにかく、手を出さないように」

ルビィ「ぅ、ぅん……」


どうやら、ダイヤさん的に、このままではくさタイプのエキスパートとしてのプライドが許さないらしい。

──もちろん、これもさっきみたいな作戦の可能性もあるけど……。


侑「……でも、関係ない! イーブイ!!」
 「ブイ!!!」


私の声と共にイーブイが駆け出す──ジャノビーに向かって。


侑「歩夢!! 集中攻撃で先にジャノビーを倒すよ!!」

歩夢「う、うん! わかった!」


ダイヤさんもルビィさんも残る手持ちは1匹ずつ。なら、片方をさっさと倒してしまえば、2対1を作り出せる。

わざわざ、相手の拘りに乗ってあげる理由はない。これはバトルなんだ……!

駆け出したイーブイの体毛が赤く燃え上がる。


侑「“めらめらバーン”!!」
 「ブイィ!!!」


2匹のほのお技で一気に片を付ける……!

そう、思った瞬間──イーブイの前に影が躍り出て、


ルビィ「──“ブレイズキック”!!」
 「シャァモッ!!!!」

 「ブイッ!!!?」
侑「イーブイ!?」


イーブイを蹴り返した。

真っ向からキックを食らったイーブイは、ジムの床を転がりながらも、受け身を取ってどうにか体勢を立て直す。


歩夢「侑ちゃん!? 大丈夫!?」

侑「だ、大丈夫、致命傷にはなってないよ! びっくりしたけど……」

533: ◆tdNJrUZxQg 2022/11/24(木) 14:24:38.14 ID:ffPGApYk0

完全にジャノビーとの間に立って、イーブイを遮るように立ち塞がるワカシャモ。

それにしても──


侑「全然ワカシャモからの攻撃に気付けなかった……!」


ジャノビーに狙いを定めていて注意が向いていなかったとは言え、ワカシャモは弾丸のような目にも留まらぬスピードでイーブイに攻撃をしてきた。

さっきの腰を据えた戦い方をしていたヒトモシとは打って変わって──ワカシャモはとんでもないスピードタイプらしい。


ルビィ「イーブイさんのお相手は、ルビィたちがします!」
 「シャモォ……!!」


あくまでラビフットの相手は、ダイヤさんとジャノビーがするということらしい。


ダイヤ「さて、今度こそ、くさタイプの真髄、お見せしますわ」
 「ジャノー」


……いや、でも考えようによってはチャンスかも。


侑「歩夢。ダイヤさんはああ言ってるけど、ほのおタイプの方が有利なことには変わりないよ!」

歩夢「う、うん!」


確かに迫力はあるけど、向こうから有利な相性で戦ってくれるなら、望むところのはずだ。

むしろ、考えないといけないのは私の方。


 「シャモォ…!!」


かくとうタイプ特有の隙のない構えのまま、ジャノビーとの射線を塞いで立っているワカシャモ。

ノーマルタイプのイーブイにとっては、不利な相性の相手だ。

私たちこそ、慎重にいかなくちゃ……!


侑「でも……弱点を突けるのは私たちも同じだけどね!」
 「ブイッ!!!」


私の声を共に、イーブイの体からぷくぷくと泡のようなものが湧き出してくる。


侑「“いきいきバブル”!!」
 「ブーィッ!!!!」


ワカシャモは私たちがどうにかするから、ジャノビーは任せるよ、歩夢……!





    🎀    🎀    🎀





ルビィ「──ワカシャモ! “かえんほうしゃ”!!」
 「シャモォォォーー!!!!」

 「ブ、ブィィ」
侑「ぐぅっ……! すごい、火力……! 負けないで、イーブイ……!」


隣ではイーブイとワカシャモが、激しい攻撃の応酬を繰り広げていた。

相性は良いはずなのに、ワカシャモの“かえんほうしゃ”は、イーブイの“いきいきバブル”をジュウジュウと音を立てながら蒸発させている。

534: ◆tdNJrUZxQg 2022/11/24(木) 14:25:08.42 ID:ffPGApYk0

歩夢「侑ちゃん……!!」

侑「こっちはいいから!! 歩夢はダイヤさんとジャノビーに集中して!!」

歩夢「……っ! わ、わかった……!」


ルビィさんが侑ちゃんを遮ったように、こうなったらダイヤさんも私が侑ちゃんの加勢に行くことを許してはくれないだろう。


歩夢「やるしか……ない……」

ダイヤ「腹を括ったようですわね。さあ、どこからでもどうぞ」
 「ジャノ」


ただ、いざ相対したはいいけど──どうやって攻めればいいの……?


 「ラビ…」


ラビフットも困惑している。何せ、さっきのカリキリとの戦いでは、侑ちゃんの機転で突破出来たとはいえ、私たちはほとんど攻撃を有効に通せていなかった。

だから、頭を過ぎる……また、さっきみたいに捌かれてしまうんじゃないかという未来が。


ダイヤ「……警戒して来ませんか、なら──こちらから……!」
 「ノビー…!!」

歩夢「!」


ダイヤさんの指示で、ジャノビーが滑るようにして、こちらに向かって飛び出してきた。


歩夢「ラビフット! 走って!」
 「ラビフッ!!!」


それを見て、私はラビフットを走らせる。

ジムの外側を回るようにして走り出したラビフットを追って、ジャノビーが地を這う。


ダイヤ「逃げますか……。……いや」


私の逃げのように見える手は恐らくすぐに看破される。

でも、真っすぐ戦っても、さっきみたいにいなされるだけだ。

なら──


歩夢「走って! ラビフット!! 全速力で!!」
 「ラビフッ!!!」


スピードの戦いに持ち込む……!


ダイヤ「“ニトロチャージ”ですか……」


──そう、ラビフットはヒバニーのとき同様、走れば走るほど体に熱が蓄積されて加速していく。

いくらジャノビーが素早い身のこなしでも、極限まで速くなったラビフットには追い付けないはず……!


 「ラビビビビビ!!!!!」


侑ちゃんとルビィさんの戦いに巻き込まれない程度にフィールド上で円を描きながら加速するラビフット。

この調子で攪乱しながら、攻撃の機会を──


歩夢「あ、あれ……?」


気付くと、さっきまでラビフットと追いかけっこ状態だったジャノビーは、何故かフィールドのど真ん中で立ち尽くしていた。

535: ◆tdNJrUZxQg 2022/11/24(木) 14:25:44.92 ID:ffPGApYk0

歩夢「追って、来てない……?」


それと同時に、


歩夢「きゃっ……!?」


突然、身体が前に引っ張られるような感覚がして、声をあげてしまった。

──いや、気のせいじゃない。足をしっかり踏みしめて身を引いていないと、体が前のめりになってしまう。


歩夢「な、なに……!?」

ダイヤ「相手が逃げ回るなら……引き寄せればいいだけですわ」
 「ジャノォーー!!!」


ハッとして、再度ジャノビーに目を向けると──さきほどまで、フィールドを覆っていたグラスフィールドが、吸い寄せられるように渦を巻きながら、ジャノビーに向かって集まっている。

まさか……。


歩夢「この引き寄せる力は……風!? ジャノビーが操ってるの!?」

ダイヤ「この子はヘビポケモンですが……ヘビは1000年生きれば──龍となると言われていますのよ」


ダイヤさんのその言葉を皮切りに──吸い寄せる風はジャノビーを中心に渦巻きながら、一気に成長し始める。


ダイヤ「“たつまき”!!」


──ゴォッ!! と、音を立てながら、大きな“たつまき”が発生する。


 「ラ、ラビッ…!!」


ラビフットもその吸引力に引っ張られないように、必死に走り回るが、徐々にスピードを殺され始めていた。


歩夢「か、“かえんほうしゃ”!!」
 「ラビフーーー!!!!」


苦し紛れに“かえんほうしゃ”を“たつまき”に向かって放ってみるけど──火炎はみるみる内に風の渦に飲み込まれて掻き消えていく。


歩夢「……っ」


こんなフィールド全体を巻き込むような大規模な技、どうすれば……!


歩夢「フィールド全体……? ゆ、侑ちゃんたちは……!?」


ハッとしながら、イーブイの方に目を向けると──


侑「イーブイ……!! とにかく、“いきいきバブル”で耐えて……!!」
 「ブ、ブィィ!!!」


風に抗いながらで体勢を崩してしまっていた。

そんな中で襲いくるワカシャモの“かえんほうしゃ”。イーブイから仕掛けていたはずなのに、気付けば炎の勢いに押され気味になっていた。


歩夢「な、なんでワカシャモはこんな風の中でも攻撃が……」

リナ『わ、ワカシャモの足腰は強靭……! それにするどい爪を床に立てて体勢を保ってる……!』 || >ᆷ< ||

歩夢「リナちゃん!?」


風に煽られながら、頼りなく私に近寄ってくるリナちゃんを抱きとめる。

536: ◆tdNJrUZxQg 2022/11/24(木) 14:27:00.16 ID:ffPGApYk0

リナ『ありがとう歩夢さん……このままじゃ、“たつまき”に吸い込まれるところだった……』 || > _ <𝅝||

歩夢「う、うぅん、それはいいんだけど……」


リナちゃんの言うとおり、ワカシャモの方を見ると、


 「シャモォォォォ!!!!」


鋭い爪を地面に突き立てて姿勢を安定させたまま、“かえんほうしゃ”をイーブイに放っているところだった。


歩夢「このままじゃ……侑ちゃんたちも……」


──つまり、私がジャノビーを止めなくちゃいけない。


歩夢「……私に……出来るの……?」


目の前の巨大な“たつまき”を前に、気が遠くなりかけた、そのとき、


侑「歩夢!!」

歩夢「……!」

侑「大丈夫!! 歩夢なら、出来るよ!! ……うわっちち!!? イーブイ、もっと泡出して~!!」
 「ブ、ブィィ!!!」

歩夢「侑ちゃん……」


懸命に炎を消火しながらも、私を励ましてくれる侑ちゃんの言葉に、私は、


歩夢「……出来るかじゃない……やらなくちゃ……!」


勇気を振り絞る。風に抗うように自分の足でしっかり立って。

──このままじゃ、イーブイもろともやられちゃう。

とにかく、あの“たつまき”を止めないと……。

でも、どうする? ……とにかく考えるんだ。

発生源はジャノビーだから、ジャノビーを直接攻撃すればいいのかな……。

でも、正面から炎で攻撃しても、風の壁に阻まれて、ジャノビーを止められない……。

じゃあ、


 「ラ、ラビビビビビ…!!!」


今も懸命に“ニトロチャージ”を続けるラビフットの加速した突撃で、壁を突き破る、とか……?

……それも無茶な気がする。


歩夢「せめて……風の吹いてない隙間でもあれば……」


それなら、どうにか中に飛び込むことが出来るかもしれないのに……。


リナ『隙間かわからないけど……風が吹いてない場所、あるよ』 || >ᆷ< ||

歩夢「え?」


抱きかかえたリナちゃんからの言葉に、一瞬なんのことかと思ったけど、


歩夢「……そっか! “たつまき”には一点だけ、風の吹いてない場所がある……!」

537: ◆tdNJrUZxQg 2022/11/24(木) 14:27:47.96 ID:ffPGApYk0

すぐにその意味に気付く。

あとはそこにたどり着く方法だけど──頭を過ぎった方法は、またしても無茶な作戦。でも──


歩夢「……さっきよりは出来そう……!!」


私は意を決して、ラビフットに向かって叫んだ。


歩夢「ラビフット!! “ニトロチャージ”!!」
 「!!! ラビフッ!!!!」


私は困惑気味だったラビフットに、道を示す。


歩夢「走って走って……とにかく走って!!」
 「ラビィィィ!!!!!」


ラビフットは迷いがなくなったのか、ジムの床を蹴りながら再び猛加速を始める。


ダイヤ「どうするつもりですか……?」


ダイヤさんはヤケでも起こしたのかと言いたげだったけど──


歩夢「とにかく速く、速く走って!! ラビフット!!」
 「ラビィィィィィ!!!!」


ラビフットは──ぐんぐん加速していく。

先ほどのスピードとは比べ物にならない速さで……!


ダイヤ「……! まさか……!」

リナ『ラビフット、“たつまき”を利用して、加速してる!?』 || ? ᆷ ! ||


──そう、“たつまき”が渦を巻きながら、周囲のモノを吸い込んでいるということは、


歩夢「渦の方向に逆らわなければ、それはむしろ“おいかぜ”になる……!」
 「ラビィィィィィ!!!!!」


風の力を利用して、爆発的な加速をするラビフット。その通り道は、大きな熱エネルギーによって、赤く赤く赤熱した跡を床に残しながら、さらにスピードを増していく。


ダイヤ「その爆発的なスピードで、突き破る気ですか……! なら、こちらももっと壁を堅牢にするまでですわ!! ジャノビー!!」
 「ジャノビィィーー!!!」


ダイヤさんの声と、“たつまき”の中から響くジャノビーの声と共に、周囲の“グラスフィールド”から巻き上げられた葉っぱたちが、まるで意思をもったかのように、“たつまき”を緑色に染め上げていく。


リナ『これは、“グラスミキサー”!?』 || ? ᆷ ! ||

ダイヤ「そのとおりですわ! 風だけではありません、大量の草を巻き上げて、さらに堅牢になった壁、打ち破れますか!」

歩夢「……ラビフット!! 今だよ!!」
 「ラビッ!!!!!」


加速しきったラビフットは急転換しながら、一点に向かって飛び出して行く。

ただ──


ダイヤ「……なっ!?」


行き先は“たつまき”の方じゃない……!

538: ◆tdNJrUZxQg 2022/11/24(木) 14:28:40.16 ID:ffPGApYk0

ダイヤ「何故、壁に向かって……!?」


そう、行き先は──ジムの壁……!


歩夢「ラビフット!! そのまま走って登ってーーー!!!」
 「ラビィィィ!!!!!」


真っ赤な線を引きながら、壁に突撃していったラビフットは──猛スピードのまま、壁を垂直に登っていく──


ダイヤ「なっ!?」


だけでは留まらず──そのエネルギーのまま、天井を逆さまに走っていく。

今、ラビフットの目指している場所……“たつまき”の風のない場所、それは──


ダイヤ「目的は……“たつまき”の目……!?」


そう、風のない場所とは、“たつまき”の中心点だ。

そしてそこに向かうため、少しでも風の壁が薄い場所があるとすれば──天井スレスレしかない。


歩夢「お願い!! ラビフット!!」
 「ラビッ!!!」


天井を逆さまに走りながら、“たつまき”の中心点に達したラビフットは、天井を蹴りながら、真下に向かって飛び降りる。

溜めに溜めた熱を宿した足を振り下ろしながら、


歩夢「“ブレイズキック”っ!!」

ダイヤ「……!!」


膨れ上がる熱が内側から、“グラスミキサー”を吹き飛ばす……!!


歩夢「きゃっ!!」


弾け飛ぶ草と風に、思わず顔を腕で庇ってしまう。

でも──


歩夢「出来た……! “たつまき”、攻略出来た!!」


あの絶望的な光景を打ち破った……!!


ダイヤ「……大したものですわ」


内側から膨れ上がる熱に、草と風が吹き飛ばされる中、


ダイヤ「……ですが」


今さっきまで“たつまき”のど真ん中だったであろう場所には、


歩夢「え……」

 「ジャノ」

 「…ラ、ラビフッ」


脚をジャノビーの“つるのムチ”に絡めとられながら、拘束されているラビフットの姿だった。

539: ◆tdNJrUZxQg 2022/11/24(木) 14:29:38.72 ID:ffPGApYk0

歩夢「な、なんで……」

ダイヤ「……まさか、あの“たつまき”をあんな方法で攻略されるとは思いませんでしたが……。……風のない場所で自由に動けるのは、ジャノビーも同じだったということですわ」

歩夢「あ……」


勝手にアドバンテージを取ったと思い込んでしまっていたけど──風の影響を受けていなかったのはジャノビーも同じ、いやそれどころか……。


ダイヤ「真上から一直線に落ちてくるとわかっていれば、容易ではなくとも、いなすことくらいは出来ますわ」

歩夢「そんな……」

ダイヤ「……“しぼりとる”」


そのまま、絡めとられて地に伏せったラビフットは、


 「ラ、ラビ…」


“つるのムチ”で縛り上げられて──戦闘不能になってしまった。


歩夢「……」


……ダメだった。……今回はうまく行くと思ったのに……。

思わず唇を噛みそうになった、そのときだった。


 「シャモォォォォーーー!!!?」

歩夢「……!」


響くワカシャモの声に視線を向けると、泡まみれになって、ダメージを負っているワカシャモに向かって、


侑「イーブイ!! “すてみタックル”!!」
 「ブーーーイッ!!!!!」

 「シャモォォォ!!!!!?」


イーブイが“すてみタックル”を炸裂させているところだった。


ルビィ「ワカシャモ!? 大丈夫!?」
 「シャ、シャモォ…!!」

ダイヤ「い、いつの間に形勢が……!?」

ルビィ「あ、あのイーブイ……かなり攻撃してたはずなのに、全然倒れてくれなくって……」


確かに、イーブイはずっと押されていたはずなのに……いつの間にか状況が逆転していた。


ダイヤ「確かあれは“相棒わざ”……存在は知っていましたが、効果までは把握しきれていませんが……状況を鑑みるに、恐らく吸収技ですわね」


どうやら、“いきいきバブル”の相手の体力を吸収する効果のお陰で持久戦に迫り勝ったということみたいだ。


ダイヤ「ルビィ、一旦ワカシャモを後ろに下げてください」

ルビィ「う、うん……! ワカシャモ、距離を取って……!」
 「シャモ…!」


手負いのワカシャモは跳ねるようにして、イーブイたちから距離を取って、フィールドの奥の方へと下がっていく。

540: ◆tdNJrUZxQg 2022/11/24(木) 14:30:13.78 ID:ffPGApYk0

リナ『状況がこっちに傾いてる! 今が攻め時だよ!』 ||,,> 𝅎 <,,||

侑「歩夢とラビフットのお陰だね!」

歩夢「……え」

侑「歩夢たちが、ジャノビーのあの大技を打ち破ってくれたからだよ!」

歩夢「……でも、結局勝てなくて……」

侑「それでもすごいよ! 私だったら、あんな作戦思いつかなかったと思うもん!」

歩夢「……だけど、また同じことされたら……」


──次はもう突破出来る気がしない。だけど、そんな私の心配に、


リナ『その心配はないと思う』 || ╹ᇫ╹ ||


リナちゃんが答える。


歩夢「……え?」

リナ『あんなフィールド全体を巻き込むような大技、最終進化系じゃないジャノビーには連発出来ないんじゃないかな』 || ╹ᇫ╹ ||

ダイヤ「……」


リナちゃんの言葉に対して、ダイヤさんは沈黙で答える。

その沈黙は即ち肯定を意味しているのに等しい。

私は、負けて倒れてしまった、ラビフットに目を向ける。

……確かに勝つことは出来なかったけど、


 「…ラビ…」


……役割は果たしたとでも言わんばかりに、ラビフットが小さく鳴いたのだった。


歩夢「……うん」


私は、ラビフットをボールに戻す。そのボールをぎゅっと胸に抱き寄せて、


歩夢「ありがとう……ラビフット」


お礼を言った。


侑「歩夢! 勝てるよ!」

歩夢「……うん!」


私は、この試合の最後のポケモンをフィールドに繰り出す。


 「──マホミ~♪」
歩夢「行くよ、マホミル!」


試合は最終局面へ──




541: ◆tdNJrUZxQg 2022/11/24(木) 14:31:10.51 ID:ffPGApYk0

    🎀    🎀    🎀





ダイヤ「“グラスフィールド”」
 「ジャノッ」


手始めに、ダイヤさんは“グラスフィールド”を再展開する。


ダイヤ「ワカシャモには“グラスフィールド”で体力を回復しながら、後方支援をお願いします」

ルビィ「わかったよ、お姉ちゃん!」
「シャモ…!!」

リナ『相手は時間を稼いで体力を回復する気だよ!』 || ˋ ᇫ ˊ ||

侑「そんな暇与えない!! “いきいきバブル”!!」
 「ブーイッ!!!」


イーブイが全身から泡を飛ばして、後方のワカシャモを狙うけど、


ダイヤ「“リーフブレード”!!」


前で構えているジャノビーの草の刃で泡を斬り裂かれて無効化される。


ダイヤ「さすがに狙いが見え見えすぎますわ!」

侑「っ……“いきいきバブル”じゃ攻撃のスピードが遅すぎる……。なら、これならどうですか……!」


──パチパチとイーブイの体毛から火花が爆ぜる音と共に、電撃が飛び出す。


侑「“びりびりエレキ”!!」
 「ブイイイ!!!!」


泡の攻撃と違って、電撃は動きが速く捉えづらい。そんな侑ちゃんの思惑に対してダイヤさんは、


ダイヤ「“つるのムチ”を伸ばして!!」
 「ジャノ!!」

“つるのムチ”を電撃に向かって伸ばす。すると、電撃は“つるのムチ”の先端に向かって、吸い込まれていく。


侑「嘘!? “つるのムチ”を避雷針代わりにした!?」

ダイヤ「確かに電撃は動きが速いですが、操作もされやすい。攻撃は後ろには通させませんわ」


ワカシャモに通りの良い、みずタイプやでんきタイプをジャノビーが受け止めて、その間に“グラスフィールド”で回復する作戦。

単純だけど、対処が難しい。なら……!


歩夢「マホミル! “ミストフィールド”!」
 「マホミ~!!」

ダイヤ「!」


回復手段のフィールドを書き換えちゃえばいいんだ……!


ダイヤ「“グラスフィールド”!」
 「ジャノッ!!!」

歩夢「“ミストフィールド”!」
 「マホミ~!!!」


ダイヤさんも黙ってフィールドの書き換えを許すわけはないから、自然とフィールド展開の応酬が始まる。

542: ◆tdNJrUZxQg 2022/11/24(木) 14:31:47.50 ID:ffPGApYk0

ダイヤ「……っ! ルビィ!!」

ルビィ「うん! ワカシャモ! “かえんほうしゃ”!!」
 「シャモーーーッ!!!!」


これ以上のフィールド展開を許すまいと、マホミルに向かって後方から火炎が飛んでくる。


侑「させない!! “めらめらバーン”!!」
 「ブイッ!!!」


その炎を全身の炎で相殺するように、イーブイが盾となって受け止める。


ダイヤ「……先にマホミルを狙わないといけませんわね。“グラスフィールド”を一旦諦めましょう」


ダイヤさんが“グラスフィールド”の展開を諦めると同時に──身をくねらせて、突貫してきた。


侑「なっ……!?」

歩夢「え!?」


腰を据えた防御をしてくると思い込んでいた私たちは一瞬反応が遅れる。

ジャノビーは目にも留まらぬスピードでイーブイの横を通過し、


ダイヤ「“グラスミキサー”!!」
 「ジャノーーッ!!!!」

 「マホミーーー!!!?」


草の旋風をマホミルの真下から発生させて、渦の中にマホミルを捕える。


歩夢「マホミル!?」

侑「しまった……!? イーブイ! マホミルを援護──」

ルビィ「“かえんほうしゃ”!!」
 「シャモーーー!!!!」

侑「っ!?」


今度はワカシャモがイーブイとジャノビーの間に火炎を噴き出し、進路を妨害してくる。


ダイヤ「わたくし、防御の方が得意ですが、もちろん攻撃も抜かりありませんわよ……!」

 「マホミーーーー!!!」
歩夢「……っ……どうにか、どうにかしなきゃ……」


考えるんだ、自分と相手のポケモンをよく見て、何か解決策を──


歩夢「……あれ……?」


ふと、草の渦の中で、くるくると回転しているマホミルを見て、思った。


 「マホミーーーー♪」


──マホミル……楽しそう……?

反時計回りに渦を巻く、“グラスミキサー”の中で、マホミルは苦しそうというより……楽しそうだ。

理由はわからない、だけど……。

543: ◆tdNJrUZxQg 2022/11/24(木) 14:32:29.12 ID:ffPGApYk0

歩夢「侑ちゃん! 私たちのことはいいから、ワカシャモに集中して!」

侑「え!?」

歩夢「どうにか、出来ると思うから……!」

侑「な、なんかよくわからないけど、わかった! 歩夢を信じる!! イーブイ! 炎を纏ったまま、ワカシャモに突撃!!」
 「ブイッ!!!」


イーブイはマホミルへの援護を諦めて、ワカシャモの方へと走り出す。

そして私は再び渦の中で楽しそうに回り続けるマホミルに目を向ける。

──理由はわからないけど、あの子があんなに楽しそうにしているなら、きっとこれはピンチじゃない!

次の瞬間、


 「マホミーーー♪」


マホミルが渦の中で──光り輝き始めた。


ダイヤ「なっ!?」

ルビィ「これって!?」

侑「まさか!?」

歩夢「……進化の……光……!」


光の中から、マホミルの進化した姿──ピンク色のホイップクリームの体に、かすみちゃんから貰った“リボンあめざいく”を付けた姿のポケモン。


リナ『マホミルがマホイップに進化した!!』 ||,,> 𝅎 <,,||

歩夢「マホイップ……! それが、あなたの新しい姿なんだね!」
 「マホイップ♪」

リナ『マホイップ(ミルキィルビー) クリームポケモン 高さ:0.3m 重さ:0.5kg
   手から 生みだす クリームは マホイップが 幸せなとき
   甘味と コクが 深まる。 進化の 瞬間 体の 細胞が
   揺れ動く ことで 甘酸っぱい フレーバーに なった。』

ダイヤ「この土壇場で進化を……!?」

歩夢「マホイップ! あなたの新しい力を見せて!」
 「マホイ~♪」


マホイップが楽しげに鳴き声をあげると、


 「ジ、ジャノッ!!?」


急にジャノビーの体がふわりと浮いて、自ら出したはずの“グラスミキサー”の渦の中に引きずり込まれる。


ダイヤ「これは“サイコキネシス”!? ジャノビー!? 今すぐ、脱出してください!?」
 「ジ、ジャノー!!?」


脱出の指示も虚しく、ジャノビーは為すすべもなく、渦の中で振り回される。

そして、渦の中心で楽しそうに回り続けるマホイップの周囲に、ポポポポっと紫色の炎が出現する。


歩夢「いけーーー!! マホイップ!! “マジカルフレイム”!!」
 「マホイップッ♪」


現れた紫色の炎は、“グラスフィールド”に巻き込まれる形で── 一気に紫色の炎の火炎旋風へと昇華した。


 「ジ、ジャノオオオッ!!!!?」


逃げ場のない、“マジカルフレイム”の旋風に巻き込まれたジャノビーは、そのまま炎の中を打ち上げられたあと──地面に落ちてきて、

544: ◆tdNJrUZxQg 2022/11/24(木) 14:33:10.76 ID:ffPGApYk0

 「ジ、ジャノ……」


目を回してひっくり返っていた。


ダイヤ「……ジャノビー、戦闘不能ですわ」

歩夢「やった……! やったよ! マホイップ!」
 「マホイ♪」


勝利の余韻に浸るのも束の間、


歩夢「……そうだ、侑ちゃんたちは……!」


まだ試合は終わっていない。

イーブイは、


 「ブイイイイイイ……!!!!!」

 「シャモオオオオオオオ!!!!!!!」


“めらめらバーン”を身に纏ったまま、ワカシャモの“かえんほうしゃ”の中、どうにか前に進もうとしているところだった。





    🎹    🎹    🎹





侑「イーブイ!! 頑張れー!!」
 「ブ、ブイイイイイ……!!!!!」

ルビィ「ワカシャモ! 火力で負けちゃダメだよ!」
 「シャモオオオオオ!!!!!」


イーブイがワカシャモに向かって攻撃してくることに気付いたルビィさんは、すぐに標的をイーブイに切り替えてきた。

どうにか“めらめらバーン”で炎の勢いを相殺しながら、接近しようとしているけど、


 「ブ、ブイイイイ……!!!!」


いかんせん相手の火力が強い。でも……でも──


侑「歩夢たちが頑張って作ってくれたチャンスなんだ……!! 絶対に負けない……!!」
 「ブイイイイイイイッ!!!!!!」


ここが正念場だ、この炎さえ突破出来れば──


ルビィ「ワカシャモ!! とっておきの炎、行くよーーー!! “だいもんじ”!!!」
 「シャモオオオオオオオオオオオッ!!!!!!」

侑「なっ!?」
 「ブイッ!!!?」


まだ、これ以上の技を隠してた……!?

“かえんほうしゃ”の中を懸命に進むイーブイに向かって──より集束された大の字の炎の塊が飛んでくる。


侑「……っ!!」

545: ◆tdNJrUZxQg 2022/11/24(木) 14:33:47.01 ID:ffPGApYk0

そのとき、イーブイは、


 「ブイッ!!?」


炎の中で──“なにか”に躓いた。


侑「……!! イーブイ!! 突き進め!!」
 「ブイイイイイッ!!!!!!」


私の言葉、イーブイの雄たけびと共に──“だいもんじ”が着弾して、爆発を起こす。


侑「っ……!!」


強い熱波に思わず、顔を庇う。


ルビィ「いくらイーブイさんの“相棒わざ”が強くても、これは耐えられませんよね……!」

侑「……そう、ですね……」


ルビィさんの言葉と共に、爆炎が晴れていく。その中に、


侑「──……当たってたら、ですけど」


イーブイの姿は──なかった。


ルビィ「え!?」


そこにあったのは──小さなだけ穴だった。


ルビィ「え、何……? 穴……? イーブイは……?」

ダイヤ「ルビィ!! 下です!!」

侑「もう遅いです!!」
 「──ブイッ!!!!」


ワカシャモの真下から、急にイーブイが飛び出して、


 「シャモォッ!!!!?」


“ずつき”をかました。

──ゴンッという鈍い音と共に、吹っ飛ばされたワカシャモは、


 「シャ、シャモォ…」


ここまで蓄積したダメージもあってか、耐えきれずに倒れこむのだった。


ルビィ「あ……ワカシャモが……」

ダイヤ「ワカシャモ……戦闘不能ですわ」


ダイヤさんが口にする判定と共に、


侑「……ぃやったあぁぁぁぁ……!!」


声が漏れた。

546: ◆tdNJrUZxQg 2022/11/24(木) 14:34:42.30 ID:ffPGApYk0

侑「歩夢! 私たち──」

歩夢「侑ちゃん……!!」


私が声を掛けようとした瞬間、それを遮るかのように、歩夢が私に抱き着いてくる。


歩夢「侑ちゃん……! 私……私たち……っ……!!」

侑「……うん。……勝ったよ、私たち……」

歩夢「ホントに……ホントに勝ったんだよね……? ……私たち……っ……」


泣きそうな声で言う歩夢に向かって、


ダイヤ「……ええ。正真正銘、貴方たちの勝利ですわ」


ダイヤさんがそう答えながら、こちらに歩いてくるところだった。


ダイヤ「自分のポケモンと、自分のパートナーを信じて戦い抜いた、貴方たちの勝利ですわ」


ダイヤさんは試合中の表情が嘘のように、柔らかい笑顔でそう告げる。


歩夢「は……はい……っ……!」

侑「ふふ……やったね、歩夢!」

歩夢「うん……っ……!」


目に一杯の涙を浮かべながら喜ぶ歩夢のもとに、


 「マホ~♪」「ブイ♪」


試合を終えた、マホイップとイーブイが駆け寄ってくる。


歩夢「マホイップ……イーブイ……ありがとう……っ……。……ラビフットも、ライボルトも、みんなが頑張ってくれたから……私たち、勝てたよ……っ……」

ダイヤ「歩夢さん、勝者がそんな泣いていてはいけませんわよ」

歩夢「す、すみません……っ……」

ダイヤ「……自信は付きましたか?」

歩夢「……はい……っ!」

ダイヤ「それは何よりです」


ダイヤさんは歩夢の返事に満足げな表情をするのだった。


ルビィ「あ、あの……侑さん。聞きたいことがあるんですけど……」

侑「? なんですか?」

ルビィ「最後……よく“あなをほる”……間に合いましたね。……ジムの床板もあるのに……」

侑「ああ、えっと……」


私はイーブイが最後に掘った穴に目を向ける。


侑「炎を凌ぐのに夢中で、ぎりぎりまで気付かなかったんですけど……炎の中でイーブイが躓いたんですよね」

ルビィ「躓いた……?」

侑「それで、気付いたんです」


──『ライボルト、床に向かって“アイアンテール”!』

547: ◆tdNJrUZxQg 2022/11/24(木) 14:35:26.55 ID:ffPGApYk0

侑「イーブイが躓いたのは、ライボルトが“アイアンテール”で床板を砕いた場所だったんだって」

ルビィ「あ……」

ダイヤ「それだけではありませんわ。ルビィ、気付きませんか? この香りに」

ルビィ「え? 香り……? ……言われてみれば、なんか甘い良い匂いがするかも……?」

ダイヤ「これは、マホイップの放っている“アロマミスト”ですわよね?」

歩夢「は、はい……」

ダイヤ「“アロマミスト”によって、上昇した特防で攻撃を耐えつつ、砕いた板材の下に咄嗟に潜り込んで“だいもんじ”を回避した、ということですわね」

侑「最後の最後で運がよかっただけかもしれないですけど……あはは」

ダイヤ「いいえ、運を引き寄せるのも、引き寄せた運を好機に変えたのも、貴方の実力ですわ。それでは、ルビィ」

ルビィ「う、うん」


ダイヤさんに促されたルビィさんは、ポケットから2つ──宝石のようなシルエットをしたバッジを取り出した。


ルビィ「侑さん、歩夢さんの実力を認め、お二人にはこの──“ジュエリーバッジ”を進呈します!」

侑・歩夢「「はい!」」


二人で1つずつ“ジュエリーバッジ”を受け取る。


侑「やったね、歩夢♪」

歩夢「うん……♪」

リナ『二人ともおめでとう♪ 見ていてずっとドキドキハラハラしっぱなしで、すごい試合だった!』 ||,,> ◡ <,,||

侑「リナちゃんも、サポートありがとう」

歩夢「ありがとね、リナちゃん♪」

リナ『どういたしまして♪ 二人の役に立てて、私、嬉しい♪』 ||,,> ◡ <,,||

ダイヤ「ふふ、ロトム図鑑さんも含めて、良いチームワークでしたわ」

ルビィ「うん! すごかったです!」


称賛の言葉もそこそこに、


ダイヤ「それで、この後はどうされるおつもりですか?」


ダイヤさんはそう訊ねてくる。

548: ◆tdNJrUZxQg 2022/11/24(木) 14:36:04.26 ID:ffPGApYk0

侑「えっと……この近くに研究所がありましたよね? そこに行ってみたいなって……」

ダイヤ「アワシマ研究所ですわね。港から定期便が出ていますので、それを使えばすぐに行けると思います。あと、そちらの所長とは古い仲ですから、こちらからお二人のこと、連絡しておきますわね」

侑「いいんですか!?」

ダイヤ「ええ、もちろん。善子さんのところから旅立ったトレーナーが来ると聞いたら、きっと喜びますから。是非、訪ねてあげてください」

侑「わかりました!!」


次の行き先も無事決定。そして、ダイヤさんは最後に歩夢に向き直る。


ダイヤ「歩夢さん」

歩夢「は、はい……!」

ダイヤ「貴方はポケモンをよく見ている。きっとその目は、これからも貴方を助けてくれると思いますわ。今日の気持ちを、経験を忘れずに、精進してください」

歩夢「はい」

ダイヤ「……ふふ、いけませんわね。また説教臭いことを言ってしまいましたわ。教師時代の癖が抜けていませんわね……」


ダイヤさんはそうおどける。


ダイヤ「大切な試合。頑張ってください」

歩夢「はい! ありがとうございます!」


こうして私たちは激闘の末、四天王とジムリーダータッグの変則ジムバトルに勝利し──ジムバッジを手に入れたのでした!




549: ◆tdNJrUZxQg 2022/11/24(木) 14:36:40.00 ID:ffPGApYk0

>レポート

 ここまでの ぼうけんを
 レポートに きろくしますか?

 ポケモンレポートに かきこんでいます
 でんげんを きらないでください...


【ウチウラシティ】
 口================== 口
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 口==================口


 主人公 侑
 手持ち イーブイ♀ Lv.34 特性:てきおうりょく 性格:おくびょう 個性:とてもきちょうめん
      ワシボン♂ Lv.27 特性:はりきり 性格:やんちゃ 個性:あばれるのがすき
      ライボルト♂ Lv.30 特性:ひらいしん 性格:ゆうかん 個性:ものおとにびんかん
      ニャスパー♀ Lv.25 特性:マイペース 性格:きまぐれ 個性:しんぼうづよい
 バッジ 3個 図鑑 見つけた数:77匹 捕まえた数:4匹

 主人公 歩夢
 手持ち ラビフット♂ Lv.30 特性:リベロ 性格:わんぱく 個性:かけっこがすき
      アーボ♂ Lv.23 特性:だっぴ 性格:おとなしい 個性:たべるのがだいすき
      マホイップ♀ Lv.25 特性:スイートベール 性格:むじゃき 個性:こうきしんがつよい
      タマザラシ♀ Lv.18 特性:あついしぼう 性格:さみしがり 個性:ものおとにびんかん
 バッジ 1個 図鑑 見つけた数:104匹 捕まえた数:14匹


 侑と 歩夢は
 レポートに しっかり かきのこした!


...To be continued.




550: ◆tdNJrUZxQg 2022/11/25(金) 14:31:58.32 ID:vdkzhBrC0

■Chapter028 『葛藤』 【SIDE Shizuku】





──『しず子っ!!!』


かすみさんの声。


──『あんなのより、かすみんの方がずっと、ずーーーーっと!!! 可愛くて、美しくて、綺麗で、魅力的でしょ!!!?』


かすみさんが、私に向かって、叫んでいる。


──『毒だか、フェロモンだか知らないけどッ!!! あんな変なやつに負けないでッ!!!! かすみんがいるからッ!!!!』


かすみさんの声が、私の中で木霊していた。



──
────
──────



しずく「──…………ん……」


──瞼の裏に光を感じて、ぼんやりと目を開けると、見慣れない天井があった。


しずく「ここ……どこ……?」


自分がどうしてこんな場所にいるのか、寝起きの頭を働かせて思い出そうとするけど──記憶に靄がかかったかのように、直近のことがほとんど思い出せなかった。

ホシゾラシティで侑さんたちと別れて……コメコの森に入ったところまでは覚えている。


しずく「…………」


ゆっくりと身を起こすと、酷い眩暈に襲われた。

頭が……重い……。

重い頭を押さえながら、傍らに目を向けると──


 「…ロゼ…zzz」


ロゼリアが眠っていた。


しずく「……ロゼリア……? ……もしかして、スボミー……?」


──そういえば……スボミーが進化していたような……。記憶の中の靄の向こうに手を伸ばそうとした瞬間、


しずく「……いた……っ……!」


頭がズキンと痛んだ。

私は一体どうしてしまったのか……。

頭を押さえながら、改めて、周囲を確認していると──


かすみ「…………すぅ…………すぅ…………zzz」


私の寝ているベッドにもたれかかるようにして、かすみさんが寝息を立てていた。

551: ◆tdNJrUZxQg 2022/11/25(金) 14:32:41.04 ID:vdkzhBrC0

しずく「かすみさん……? ダメだよ、かすみさん……寝るならちゃんとベッドで寝ないと……風邪引いちゃうよ……」

かすみ「……ん、ぇ……?」


私が声を掛けると、かすみさんは少しビクっとしてから、顔を上げて──


かすみ「……しず子……?」


目を丸くする。


しずく「かすみさん……?」

かすみ「…………よ」

しずく「……よ?」

かすみ「よかったぁぁぁぁぁ!!! しず子~~~!!!!」

しずく「きゃぁっ!?///」


突然かすみさんが、抱き着いてくる。




しずく「か、かすみさん!?///」

かすみ「よかった、よかったよぉ……! 痛いところとかない!? 大丈夫!?」

しずく「え、えっと……強いて言うなら……重い、かな……?」

かすみ「んなぁ!?」


ベッドの上で飛び付かれたから、軽くのしかかられている状態なわけだし……。


かすみ「か、かすみん重くないもん!! 確かに彼方先輩の作ってくれるご飯おいしくって3回もおかわりしちゃったけど……育ちざかりだから、すぐに消費されるもん!!」

しずく「あはは……冗談だよ。……彼方先輩……?」

かすみ「あ、うん! かすみんたちを助けてくれた人たちの一人なんだよ!」

しずく「助けてくれた……? ……えっと……どういうこと……?」

かすみ「え……? もしかして、しず子……なんにも覚えてないの?」

しずく「……う、うん……コメコの森に入ったところくらいから……記憶が曖昧で……」

かすみ「…………やっぱ、ウルトラビースト症……の後遺症……」

しずく「……え?」

かすみ「あ、いや! なんでもないよ! とりあえず、お医者さんがいるから──えっと、はる子って言うんだけど……! すぐ呼んでくるから、待ってて!」

しずく「あ、いいよ。お世話になったんだったら、私の方から挨拶に行かないと──」

かすみ「今起きちゃダメ!!」

しずく「!?」


かすみさんが珍しく激しい剣幕で声をあげる。

普段のぷりぷりと怒るような可愛い感じの雰囲気ではなく──本当に私が行くことに対して、否定的な意思を示しているのが嫌でもわかる……それくらいの剣幕だった。


かすみ「いいから、しず子はここで待ってて!」

しずく「わ、わかった……」


言い返すことも出来ず、素直に頷くと、


かすみ「絶対勝手に歩き回ったりしたらダメだからね!」

552: ◆tdNJrUZxQg 2022/11/25(金) 14:33:59.44 ID:vdkzhBrC0

そう残して、パタパタと駆けていってしまった。

どうやら、相当身体のことを心配されているらしい。


しずく「…………本当に、私……どうかしちゃったのかな……?」


一抹の不安を覚えながら、しばしかすみさんを待つことに──





    💧    💧    💧





遥「──ひとまず……問題はなさそうですね」

かすみ「……よかったぁ……」

しずく「ありがとうございます。遥さん」


かすみさんが呼んできたお医者さんこと──遥さん。

そして、そんな遥さんと一緒に部屋に来たのは、


彼方「遥ちゃんが平気って言うなら間違いないよ~。よかったね、しずくちゃん」


そんな彼女のお姉さんだという、おっとりした雰囲気の人──彼方さん。

さらに、


千歌「何かあったらすぐ言ってね? 飛んでくるから!」


まさかのチャンピオン・千歌さんの姿。

そして、最後に、


穂乃果「とりあえず、しずくちゃんとは今後のことをお話ししたいんだけど……いいかな?」


初めて見る人だったけど……チャンピオンもいるようなこの場をまとめていることから、只者ではなさそうな──穂乃果さん。

かすみさん含めて、今私がいるベッドの周りには5人も集まってきていた。


しずく「今後のこと……ですか」


──今後のこと。

先ほど、自分がどうしてこんな場所で眠っていたのか、その理由を簡単な診察を受けながら聞かされた。

ただ……。


しずく「正直、何も覚えていないので……実感が湧かないというか……」


ウルトラビーストという未知の世界から来たポケモンに襲われ、命を失いかけたこと。

彼方さんたちが間一髪で助けに来てくれて、かすみさんともども命拾いしたこと。

そして、そんなウルトラビーストの毒に侵され、危ない状態を治療してもらって今に至ると説明されたが、正直頭が追い付いていない。


遥「フェローチェの毒は精神に強く作用します……だから、記憶に混濁が発生するのは仕方ないと思います……」

彼方「とはいえ、襲われちゃったのは事実だからね~……」

遥「奇跡的に回復こそしていますが……いつ発作が現れるかも、わかないので……」

しずく「発作……ですか……」

553: ◆tdNJrUZxQg 2022/11/25(金) 14:35:47.69 ID:vdkzhBrC0

その発作が具体的にどういったものかはわからないが……未知の毒に侵されている以上、楽観的な状況ではなさそうだ。


遥「今こちらに、もう少し精密に検査をするための機器を送ってもらっているんですけど……」

彼方「どっちにしろ、一旦本部に来てもらって、ちゃんとした設備で精密検査をした方がいいかもしれないね~……」

しずく「精密検査……。それって、どれくらい時間が掛かるものなんですか……?」

遥「経過観察もあるので……1ヶ月から……最悪1年くらいは見てもらうことになるかもしれません……」

かすみ「1年!?」


遥さんの回答に、かすみさんが悲鳴のような声をあげた。


かすみ「それじゃ、旅は!? 旅はどうするの!?」

穂乃果「……残念だけど、中断してもらうしかないかな」

しずく「……そう、ですよね……」

かすみ「そ、そんな……」


私は穂乃果さんの言葉に俯いてしまう。

とはいえ、起こってしまったことは仕方がない。


しずく「わかりました……私の旅は一旦ここで──」


やむを得ないと、首を縦に振ろうとしたら、


かすみ「ち、ちょっと待ってよ、しず子!! しず子はそれでいいの!?」


かすみさんが、ベッドに手をつくようにして、身を乗り出しながら言う。


しずく「私だって旅を諦めたくはないけど……」

かすみ「じゃあ、諦めちゃダメだよ!!」

しずく「……でも」

かすみ「少なくともかすみんは、しず子が一緒に来てくれなきゃイヤだもん!!」

しずく「かすみさん……」


かすみさんの気持ちは理解出来る。……だけど、


彼方「あのね、かすみちゃん。……かすみちゃんが思ってるよりも、これって重い事態なの」

遥「ちゃんとした設備があれば、ウルトラビースト症の発作が起こったとしても、すぐに治療が出来ます……。なので、しずくさんには本部の医療施設に入ってもらって──」

かすみ「──しず子が旅出来なくなることの方が、重い事態ですっ!!」


説得を試みる彼方さん、遥さんの言葉をかき消すように、かすみさんが大声で反発する。

554: ◆tdNJrUZxQg 2022/11/25(金) 14:36:52.83 ID:vdkzhBrC0

しずく「かすみさん……もういいから。ありがとう、私は大丈夫だよ……」

かすみ「大丈夫じゃないっ!!」

しずく「かすみさん……」

かすみ「私知ってるもん!! しず子がこの旅に出るために、どれだけ勉強してたか、頑張ってたか……! 旅立ちが決まった後もいっぱいいろんな下調べして、いろんな街のこととか勉強してたのも知ってるもん!!」

しずく「それは……」

かすみ「それに……旅してる間のしず子、いっつも楽しそうだった……。新しい仲間に出会う度に、学校じゃ見たことなかったような嬉しそうな顔して……新しい景色を見るたびにワクワクしたような顔してたの……知ってるもん……」

しずく「……」

かすみ「そんなしず子が……もういいなんて、旅を諦めてもいいなんて……思ってるわけないもん……」


何か、説得する言葉を探すけど──私は言葉が出なかった。それくらい、かすみさんは私の気持ちを言い当てていた。

そんな中で、どうにか絞り出せたのは、


しずく「……子供みたいなこと……言っちゃ、ダメだよ……」


そんな弱々しい言葉だった。


かすみ「しず子のしたいことが出来なくなるのを協力するのが大人なら、かすみん子供でいいもん……」

しずく「……」


先ほどまで、説得を行っていた彼方さんや遥さんも、かすみさんの悲痛な言葉に、なんと言えばいいかわからない様子だった。

そんな中、口を開いたのは、


穂乃果「……じゃあ、かすみちゃん。聞くけどさ」


穂乃果さんだった。


穂乃果「しずくちゃんが発作を起こすところ、かすみちゃんは見たんだよね?」

かすみ「……はい」

穂乃果「……あの発作が起こるとまずいってことは、わかるよね?」

かすみ「それはわかります……でも、かすみんがまたいっぱい声掛けて、しず子の目を覚まさせます……!」

穂乃果「……なるほど。……じゃあ、もう一つ教えておくね」

かすみ「……?」

穂乃果「一度ウルトラビーストに魅入られた人は……また、ウルトラビーストと出会う確率が高くなるんだ」

かすみ「え……?」


──それは初耳だけど……。思わず、遥さんの方に視線を向けると……遥さんは黙ったまま頷く。事実らしい。


穂乃果「しずくちゃんと一緒に旅をするってことは、かすみちゃんもまたウルトラビーストに襲われる可能性が高いんだよ。ウルトラビーストがどれほど強いかは……かすみちゃんが一番よくわかってるんじゃないかな」

かすみ「それ……は……」

穂乃果「しずくちゃんだけじゃない。次は、かすみちゃんの命に関わることが起こるかもしれない」

かすみ「…………」

穂乃果「その反面、本部でなら、いつでもしずくちゃんを守ってあげられるし、絶対に身の安全は保証する。だから──」

かすみ「…………っ」


大人の理屈だった。でも、それ故に正しかった。

こんな理屈を突き付けられたら、誰も反論なんて出来ない。出来ない……はずなんだけど、

555: ◆tdNJrUZxQg 2022/11/25(金) 14:37:53.48 ID:vdkzhBrC0

かすみ「なら……」

穂乃果「?」

かすみ「なら、ウルトラビーストに負けないくらい、かすみんが強ければいいってことじゃないですか……!!」

穂乃果「……」


かすみさんが急に机上の空論を言い出すからか、穂乃果さんも呆れて、言葉を止めてしまった。


穂乃果「…………どうしよう、確かにそれはそのとおりかも……」


──いや、違った。あれ、もしかしてこの人……実はかすみさんに近しい側の人……?


彼方「ほ、穂乃果ちゃん……重要なところで負けないでよ~……」

穂乃果「いやでも、かすみちゃんがウルトラビーストより強ければ、確かに問題ないし……」


ま、まあ……かすみさんが強ければ解決するのは確かなんだけど……。

今、重要なのはそこじゃないような……。


かすみ「なら話は早いです!!」


かすみさんは、いそいそと荷物をまとめ始める。


しずく「かすみさん、どこに……?」

かすみ「ポケモントレーナーが強さを示すなら行く場所は一つ……! 今すぐコメコジムでジムバッジを手に入れてくるから、待ってて!!」


それだけ言うと、かすみさんは部屋を飛び出して行ってしまった。


しずく「え、あ、ちょっと待って、かすみさ──……行っちゃった……」


強さを示すのはいいにしても……ジムバッジ3個程度じゃ、穂乃果さんたちが納得する強さの証明にならないと思うんだけど……。

恐らく誰もがそう思っているだろうという中、口を開いたのは、


千歌「……少し、様子を見てもいいんじゃないかな」


ずっと黙ったまま、話を聞いていた千歌さんだった。


彼方「そういえば、千歌ちゃん……ずっと、黙ったままだったね~……?」

千歌「あーうん……必死なかすみちゃん見てたら、なんか思い出しちゃって……」

彼方「思い出しちゃった……?」

千歌「……自分が旅をしてたときのこと。私も無茶なことたくさんしたなぁって……」


千歌さんは昔を懐かしむように言う。


千歌「そのたびに、危ない目に遭って……。それを周りの大人に反対されたこともあった。でも……それでも、ポケモンたちとそれを乗り越えてきてさ。……その先に今の私があるって思ったら……なんか、かすみちゃんの気持ち、簡単に否定出来ないなって……」

穂乃果「むー……千歌ちゃんばっかりずるいよ~! 私だって、おんなじこと考えてたけど、今はしずくちゃんとかすみちゃんの身の安全が大事だって思って喋ってたのに……!」

千歌「ご、ごめんなさい……。でも、やっぱり、かすみちゃんの気持ち……全部無視するのは出来なくて……。……もちろん、しずくちゃんの気持ちも」

しずく「…………」


彼女たちも昔、ポケモントレーナーとして旅をして、今があるからこそ、私やかすみさんの旅に水を差すことに、思うところがあるのだろう。

……だけど、大人が大人として、私やかすみさんの身の安全を守ろうとしていることも、かすみさんが私と旅を続けられるように必死になっていることも、どちらの心情も理解出来るからこそ……私はどうすればいいのかがわからなかった。

556: ◆tdNJrUZxQg 2022/11/25(金) 14:39:18.92 ID:vdkzhBrC0

千歌「私は……しずくちゃんがどうしたいかも大事だと思う」

しずく「……私は……」

千歌「素直に答えて欲しいんだけど……旅を続けたい?」

しずく「……それは……。……はい。続けたいです……かすみさんと一緒に」

千歌「だよね……。じゃあ、私たちの意思だけで勝手にダメだって決めつけちゃうのも……」

しずく「……でも……それと同じくらい……怖いって気持ちも、あります……」


少なくとも命が脅かされていることに覚える恐怖はある。

未知の毒に侵食されているかもしれない。またその原因と出会うことになるかもしれない。

そして、なによりも──次はかすみさんも命の危険にさらすことになるかもしれない。

それはどうしようもなく……恐ろしいことだと、私はそう思う。


穂乃果「……わかった。とりあえず、今後どうするか、しずくちゃん自身でよく考えてみてもらっていいかな?」

しずく「……はい」

穂乃果「その答え次第で、私たちもまた考えるから。……状況によっては、しずくちゃんやかすみちゃんの要望通りに出来るとは限らないけど……」

しずく「……わかりました」


私は穂乃果さんの言葉に頷く。

かすみさんの意向や行動に関わらず、私も自分自身がどうしたいのか、決断する必要があるだろう。


遥「とりあえず今日は安静にしていてくださいね。この後、簡易検査用の機器が届いたら、私が検査をするので……」

しずく「はい、よろしくお願いします」


とりあえず、今私に出来ることは、ここで考えながら安静にして待つことだ。


彼方「ん~じゃあ、とりあえず話もひと段落したし、彼方ちゃんご飯作ってくるね~。みんな、いっぱいお話しして、お腹空いちゃったでしょ?」

穂乃果「それじゃ、私たちは彼方さんがご飯を作ってくれてる間に、見回りに行こうか」

千歌「そうですね……森にウルトラビーストが出現したばっかりだから、警戒をちゃんとしておいた方がいいだろうし……」


それぞれが持ち場に戻っていき、人口密度の高かった室内が一気に寂しくなる。

私も、いろいろ考えて少し疲れてしまった……一旦、休ませてもらおうかな……。

そう思い、横になる。


しずく「…………私は……どうすればいいのかな……」


私はそう呟いて……目を閉じたのだった。





    👑    👑    👑





──ロッジを飛び出したあと、かすみんはジムの前でぼんやりしています。

何故なら、ジムの扉にこんな張り紙がしてあったからです。

──『農作業のため、ジムに御用の方は午後以降にお願いします』──だそうです。

だから、こうしてジムの前でジムリーダーが戻ってくるまで待っているわけです。

557: ◆tdNJrUZxQg 2022/11/25(金) 14:40:04.80 ID:vdkzhBrC0

かすみ「かすみん、誰かからジム戦はスムーズに出来ない呪いでも掛けられてるんですかね……」
 「ガゥ?」


……とはいえ、今回に関してはここで待っていれば絶対に来るわけですし、まあいいでしょう。


かすみ「それにしても、コメコのジムリーダーは働き者ですねぇ。ジムリーダーをやってるのに、農業もやってるなんて……」


コメコと言えば、農業の町で有名ですし、かすみんもお料理の買い物をするときは、よくコメコ産のお野菜とか果物とかを選んでいた気がします。

──くぅぅぅ~……。食べ物のことを考えていたら、かすみんのお腹から可愛らしい音が鳴る。


 「ガゥ」
かすみ「お腹空いた……」


やっぱり、何も食べずに飛び出してきたのは失敗でしたね……。

彼方先輩の作ってくれるおいしいご飯を食べて、ジム戦に備えるべきでした。

……なんてこと、今更言っても仕方ないので、今はそこのおにぎり屋さんで買った、塩むすび──豪勢な具を選べるようなお小遣いも残っていない──で我慢します。


かすみ「ゾロアも食べよ?」
 「ガゥ♪」


大きめの塩むすびをゾロアと半分こして、パクつくと、


かすみ「……! お、おいしい……!」
 「ガゥガゥ♪」


恐らく質素な味だろう思っていた塩むすびは、そんな予想に反して、思わず感想を口にしてしまうくらいおいしかった。

お米一粒一粒がしっかり感じられて、でも硬いわけではなくて、炊き立てのようにふっくらとした食感。

お米特有の風味が口いっぱいに広がり、それでいて炭水化物特有の口に残るような癖もほとんどない。

そんなおにぎりだからなのか、米そのものの味をしっかり感じられて──それを際立たせる絶妙な塩加減。


かすみ「かすみん……こんなおいしい塩むすび、初めて食べました……!」

 「──ですよねですよね!! コメコのお米は世界一なんですよ!!」

かすみ「わひゃぁ!?」


──気付けば、知らない人の顔が至近距離にありました。


かすみ「だ、誰ですかぁ!?」

花陽「あ、ご、ごめんなさい……私、花陽って言います……。お米農家をしていて、うちのお米をおいしそうに食べてくれていたから、つい嬉しくなっちゃって……」

かすみ「な、なーんだ……そういうことですか。でも、このおにぎり本当においしいです!」

花陽「えへへ、ありがとう♪」


目の前の花陽という人は本当に嬉しそうにお礼を言ってくる。


かすみ「むしろお礼を言いたいのは、かすみんの方ですよ!」

花陽「かすみんちゃん……? 変わった名前だね?」

かすみ「かすみんちゃんじゃなくて、かすみんです! かすみだから、かすみんなんです!」

花陽「あ、そういうことだったんだね! よろしくね、かすみちゃん!」

かすみ「……」


な~んか……テンポが狂う感じがしますねぇ……。

558: ◆tdNJrUZxQg 2022/11/25(金) 14:40:37.70 ID:vdkzhBrC0

かすみ「……と、とにかく。おいしいお米、ありがとうございます! お陰で元気出てきたんで、ジム戦もばっちりこなせそうです!」

花陽「あれ? もしかして、ジムの挑戦者さん?」

かすみ「はい。見たとおり、まだジムリーダーが帰ってきてなくて……」


確か、ここのジムリーダーの名前は……。なんか、りん子先輩が言ってたような……かよち? かよ……なんだっけ。


かすみ「かよ……子先輩でいいや。その人を待ってるんです」

花陽「かよ子……? ……あ、もしかして凛ちゃんに会ったのかな?」

かすみ「あれ、もしかしてりん子先輩と知り合いなんですか?」

花陽「うん♪ 凛ちゃんとは幼馴染なんだ♪」

かすみ「へぇ~、そうだったんですね」


隣の町とはいえ、世間は意外と狭いものですねぇ。


花陽「それじゃ、凛ちゃんを倒して、ここに来たってことだね」

かすみ「はい!」

花陽「そっか! なら、私も気合い入れて頑張らないと……」

かすみ「……?」

花陽「ジムリーダーとして、全力でお相手するよ! よろしくね、かすみちゃん!」

かすみ「……はい? えっと、かすみんが待ってるのは、ジムリーダーであって……」

花陽「あ、えっとね。実は私がそのジムリーダーなんだ♪」

かすみ「…………へ?」


間抜けな声が出た。


かすみ「え、で、でも名前が……」

花陽「凛ちゃんからは、昔から、かよちんってあだ名で呼ばれてるんだ♪ だから、きっとかすみちゃんの言ってる、かよ子先輩は私のことだと思う!」

かすみ「じ、じゃあ、かすみんたち敵同士じゃないですかっ!!」


思わず、飛び退いてしまう。

ジム戦前に、ジムリーダーと仲良く談笑してる場合じゃないんですよ、かすみんは!!


かすみ「お米はおいしかったですし、それはありがとうって思いますけど……ジムリーダーなら話は別です!! かすみんは敵さんと仲良しこよししに来たんじゃないんです!!」

花陽「え、ええ!? ジムリーダーとチャレンジャーってだけだから……バトル外では仲良くしても……」

かすみ「それじゃ、戦いづらくなっちゃうじゃないですか!!」

花陽「た、確かにそうかも……。わかった! それじゃ、仲良くお話するのはバトルの後にするね! それじゃ、ジムの中に入ってください!」


かよ子先輩の先導でジムの中へと案内される。かすみんもゾロアをボールに戻しながら、その後ろを付いていく。

……なんだかおっとりしていて、良い人そうだけど、今日のかすみんは1ミリ足りとも手加減してやるつもりはありません。

ジムリーダーだろうがなんだろうが、完膚なきまでに叩きのめしてやるくらいのつもりです。


かすみ「しず子のために……圧倒するくらいじゃないと、ダメなんだから……!!」


今日は、完璧な勝利をもぎ取らなくちゃいけない。かすみんがしず子を守れるんだってことを、示すためにも……!!




559: ◆tdNJrUZxQg 2022/11/25(金) 14:41:20.77 ID:vdkzhBrC0

    👑    👑    👑





ジムに入ると、中は地面を敷き詰めて作ったフィールドになっていた。

りん子先輩の道場のような板張りのジムとはだいぶ印象が違いますね……。


花陽「ルールの確認です! 使用ポケモンは3体ずつ! 全てのポケモンが戦闘不能になったら、その時点で決着です!」


ジムリーダーのバトルスペースから、かよ子先輩がそう伝えてくる。


かすみ「わかりました」


かすみんは軽く深呼吸をします。


かすみ「しず子……待っててね」


絶対絶対、何がなんでも、勝つ。そう意気込んで、ボールを構える。


花陽「それでは、これよりジム戦を開始します! コメコジム・ジムリーダー『陽光のたがやしガール』 花陽! よろしくお願いします……!」


かすみんとかよ子先輩、お互いのボールが同時に宙を舞う。バトル……スタートです……!!




560: ◆tdNJrUZxQg 2022/11/25(金) 14:41:55.48 ID:vdkzhBrC0

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【コメコシティ】
 口================== 口
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  ||.  回____  |    | |     |__|  ̄   ||
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  ||.○⊂⊃      | ○        |‥・     ||
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  ||.  | |      | |  _.    /      :   ||
  ||.  回     . |_回o |     |        :  ||
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  ||.  | |        .__    \      :  .||
  ||.  | ○._  __|⊂⊃|___|.    :  .||
  ||.  |___●○__.回_  _|‥‥‥:  .||
  ||.       /.         回 .|     回  ||
  ||.    _/       o‥| |  |        ||
  ||.  /             | |  |        ||
  ||. /              o回/         ||
 口==================口


 主人公 かすみ
 手持ち ジュプトル♂ Lv.23 特性:かるわざ 性格:ゆうかん 個性:まけんきがつよい
      ゾロア♀ Lv.22 特性:イリュージョン 性格:ようき 個性:イタズラがすき
      ジグザグマ♀ Lv.17 特性:ものひろい 性格:なまいき 個性:たべるのがだいすき
      サニーゴ♀ Lv.22 特性:のろわれボディ 性格:のうてんき 個性:のんびりするのがすき
 バッジ 2個 図鑑 見つけた数:113匹 捕まえた数:6匹


 かすみは
 レポートに しっかり かきのこした!


...To be continued.




561: ◆tdNJrUZxQg 2022/11/26(土) 11:49:39.41 ID:K66c2REr0

■Chapter029 『激闘! コメコジム!』 【SIDE Kasumi】





かすみ「──行きますよ、ジュプトル!!」
 「プトルッ!!!」


かすみんの1番手はジュプトル! 今日は出し惜しみなしです! 最初からエースで一気に決めちゃいますよ!


花陽「お願い、ホルード!」
 「ホルー!!」


相手のポケモンはホルード……なんか、うさぎさんっぽいのに絶妙に可愛くない……。

 『ホルード あなほりポケモン 高さ:1.0m 重さ:42.4kg
  大きな 耳は 1トンを 超える 岩を 楽に 持ち上げる。
  ショベルカー並みの パワーで 固い 岩盤も コナゴナに
  する。 穴を 掘り終えると ダラダラと 過ごす。』


かすみ「パワーはすごそうですけど、その分のろまさんっぽいですね……!」


図鑑をパタンと閉じる。どうやら、図鑑によればじめんタイプっぽいですし、有利相性で攻め込めますね……!


かすみ「ジュプトル! “リーフブレード”!!」
 「プトルッ!!!!」


──ダンッ! と音を立てながら飛び、速攻で切りかかる。


 「ホル!?」


予想どおり、のろまさんなのか、急に飛び出してきたジュプトルに驚いて動けなくなってますね……ふふふ。


 「プトォルッ!!!!」


そのまま、縦に振り下ろした、草の刃が直撃し──パシッ。


かすみ「……へぇ!?」


──して、なかった。


花陽「ホルード、ナイスだよ!」
 「ホル~」


耳を使って、真剣白羽取りの要領で受け止められていた。

そして、ジュプトルの腕の葉っぱを掴んだまま、


花陽「“アームハンマー”!!」
 「ホルーー!!!!」


地面に叩きつけようとしてくる。


かすみ「やばっ!? ジュプトル!!」
 「ジュプトォッ!!!」


ジュプトルは咄嗟に口から、タネを吐き出す。

吐き出したタネは──ボンッ!と音を立てて、ホルードの前で爆発する。


 「ホ、ホル…!!」

562: ◆tdNJrUZxQg 2022/11/26(土) 11:50:51.52 ID:K66c2REr0

爆裂したタネに驚いたホルードの耳は、思わずジュプトルを放す。

勢いはあったため、ぶん投げられこそしたものの、


 「プ、プトルッ」


そこは自慢の身のこなしで華麗に着地する。


かすみ「セ、セーフ……」

花陽「咄嗟の防御に“タネばくだん”を使うなんて……!」


素早さで攪乱出来ると思ってたけど……そこは、さすがジムリーダー。一筋縄では行きませんね……。

遠距離技で一旦様子を見ようとしていた矢先、


花陽「“マッドショット”!」
 「ホールーッ!!!!」


ホルードは泥の塊を複数飛ばしてくる。


かすみ「“リーフブレード”で斬り払って!」
 「プトルッ!!!」


泥の塊を的確に斬り落としての防御。

多少、捌ききれずにぶつかりますが、こっちはくさタイプ。じめんタイプの攻撃ではそんなにダメージは通りません!


花陽「なら……!」
 「ホルッ!!!」


急にホルードが自分の耳を土に突っ込むと、耳を突き立てた部分が赤みを帯びる。


花陽「“ねっさのだいち”!」
 「ホルーーッ!!!」


そして、耳を使ってその土をひっくり返すように、こっちに向かって投げつけてくる。


 「プトル…ッ」
かすみ「あ、あちち!? あついですぅ!?」


熱された土は、水分を失ったからなのか、砂になってジュプトルを襲う。

その熱量はかなりのもので、離れた場所から指示しているはずのかすみんのところにも熱気が届いてきている。


かすみ「ジュプトル、“やけど”しなかった!?」
 「プトルッ!!」


どうやら、状態異常は免れたらしい。ラッキーです……!

ただ、熱にひるんだかすみんたちに、かよ子先輩は畳みかけるように攻撃を続ける、


花陽「“でんこうせっか”!」
 「ホルッ!!!」

かすみ「いっ!? “ファストガード”!?」
 「プ、プトルッ!!!!」


のろのろだと思っていたホルードが急に、猛スピードで突っ込んでくる。

咄嗟に、ガードをするけど──あまりに強力なスピードとかすみんの指示が相手よりワンテンポ遅れていたためか、完全に防ぎきれず、


 「ジュプトォッ…!!!」

563: ◆tdNJrUZxQg 2022/11/26(土) 11:52:36.43 ID:K66c2REr0

またしても、吹っ飛ばされる。


かすみ「受け身とって!!」
 「プトルッ!!!」

かすみ「よし! いい子ですよ、ジュプトル!」
 「ジュプトッ!!!」


攻撃を受けてもどうにか受け身で威力を殺している。身のこなしの軽さが活きているけど……。


かすみ「あの破壊力……どこかで攻撃が直撃したら……」


恐らく直撃は食らったら終わり……!

どうにか、攻撃を直撃させられる前に策を練らないとと思うのに、


花陽「“メガトンパンチ”!!」
 「ホルッ!!」

かすみ「ぴきゃぁぁぁ!? 逃げて逃げて!?」
 「プ、プトォル!!!」


かよ子先輩は攻撃の手を緩めない。


花陽「──“とっしん”!!」
 「ホル!!!」

花陽「──“アイアンヘッド”!!」
 「ホーールッ!!!!」

花陽「──“10まんばりき”!!」
 「ホルーーーー!!!!!」


畳みかけられる近接攻撃。とにかく回避に専念させて、逃げ回らせる。

それでも、ホルードはしつこくジュプトルを追い回しながら、攻撃をしまくってくる。


かすみ「当たったら終わり、当たったら終わり……!」
 「プトル…ッ」


が、避けながら後退をしすぎたのか──気付けば壁際に追い込まれていました。

いや、


かすみ「も、もしかして、誘導されてた~!?」
 「プ、プトルッ…!!!」


あんな無茶苦茶に技を振りまくってるように見えて、少しずつジムの角の方に追い込まれていた。


花陽「これで、逃げ場はないよ! “ばかぢから”!!」
 「ホーーーールーーー!!!!!」


壁に追い詰められたジュプトルに向かって、耳を大きく引きながら、殴りかかってくるホルード。


かすみ「っ……! 飛び越えて! “アクロバット”!!」
 「ジュプトォル!!!!」


咄嗟の指示。飛び出したジュプトルは、ホルードの頭に手を突きながら、身を捻って、耳と耳の間をすり抜けながら飛び越える。


花陽「!」


かよ子先輩が驚いて息を呑むのが聞こえた。そして、その直後──ドゴォッ!! と大きな音を立てながら、ホルードの攻撃はジムの壁に炸裂する。


かすみ「……ひ、ひいぃぃ! か、壁に穴が……!」

564: ◆tdNJrUZxQg 2022/11/26(土) 11:53:05.76 ID:K66c2REr0

“ばかぢから”でぶん殴られた壁は、一発でジムの壁をぶち抜いて、そこから先に外が見える。

あの人、自分のジムなのに、容赦なくぶっ壊してきましたよ!?

あんなの当たったら本当に一溜りもありません……! 避けられてよかった……。


花陽「逃げてばっかりじゃ、勝てないよ!」

かすみ「そんなのわかってますよぉ! でも、そんなバカみたいな破壊力ズルじゃないですかぁ!!」

花陽「そ、そんなこと言っても、ホルードの特性は“ちからもち”なんです! これは、そういう個性ですから……!」


そんな特性を持っているなら尚更、真正面から戦うなんて出来ません……!

とにかく今は、距離を取って──


花陽「あくまでも逃げるんだね……なら──」
 「ホル」


ホルードがまた耳を地面に突き刺す。また“ねっさのだいち”!? と身構えたけど、いつまで経っても、耳を引き抜かない。


かすみ「? な、なにを……」


いつ土をひっくり返してくるかと警戒していたけど──警戒する方向はそっちじゃなかった。


 「プトルッ!!?」
かすみ「!? ジュプトル、どうしたの!? って、えぇ!?」


ジュプトルの驚く鳴き声に反応して、目を向けると──ジュプトルの足が砂に絡め取られていた。


花陽「“すなじごく”!」
 「ホルッ!!!」

かすみ「こ、拘束までしてくるなんて、聞いてないですよー!!」
 「プ、プトルッ」

花陽「これで……もう逃がしません……」

かすみ「脱出! 全力で脱出!」
 「プ、プトォル…」


脱出を指示するも、完全に足が砂に埋まってしまっていて、逃げるのはもはや困難。

やばい、やばい……!! どうにかしないと、と考えている間にも、ホルードはジュプトルに迫ってくる。

回避は無理……! なら、近寄らせないしかない……!


かすみ「“タネマシンガン”……!」
 「プトルルルル!!!!」


“タネマシンガン”でけん制をするものの、


 「ホルー」


ホルードは耳で払い飛ばしながら、のっしのっしと迫ってくる。

小さいダメージはこの際気にしていないようだった。

そりゃぁ、あの破壊力だと、こっちは一発貰ったら終わりだから、わかる気もしますけどぉ……!?


かすみ「あ、あのパワーをどうにか……」


とはいえ、特性ということは、あのポケモンの唯一無二の性質みたいなものです。

どうにかするって言っても、どうにも……。

565: ◆tdNJrUZxQg 2022/11/26(土) 11:53:46.56 ID:K66c2REr0

かすみ「……? 特性……?」


そこでかすみんはハッとする。


かすみ「そうだ……! ジュプトル! あれです! ……“タネばくだん”!」
 「!!! プットルッ!!!!」


ジュプトルはまたしても、口からタネを飛ばす。


花陽「また“タネばくだん”ですね……! でも、もうここまで来たら関係ないです! ひるまないで、確実に攻撃を仕掛けて!」
 「ホルーー」


もはや回避するつもりもない。そのままタネは──ゴッと音を立てて、ホルードの頭に直撃した。


花陽「不発……?」

かすみ「う、うそ……」

花陽「ふふ……最後の最後で運が悪かったですね」


もうホルードはジュプトルの目と鼻の先。


かすみ「“リーフブレード”ォ……!!」
 「プトォルッ!!!!」


苦し紛れに振るう草の刃、だけど、


花陽「受け止めて!」
 「ホルッ!!!」


またしても、真剣白刃取りの要領で受け止められる。


花陽「これで、終わりです! “アームハンマー”!!」


最初と同じ展開で、今度は動けないジュプトルに向かって、ホルードの耳が振り下ろされ──……なかった。


花陽「!? ホルード、どうしたの!?」
 「ホ、ホル…!!!」

 「プトル…!!!」


何故か、ホルードはジュプトルの刃を掴んだまま、ほぼ力の釣り合った押し合いに発展していた。


花陽「な、なんで!? ホルードの方がパワーは圧倒的に上なのに!?」

かすみ「……にっしっし……引っ掛かりましたね~?」

花陽「え……!?」

かすみ「さっきの“タネばくだん”……本当にただ不発なだけだったと思いますか~?」

花陽「……!? まさか、さっきの他の技……!?」

かすみ「そのとおりです! 特性“ちからもち”は“ふみん”に書き換えさせて貰いましたよ!」


そうさっきの技は“タネばくだん”ではなく──


花陽「──“なやみのタネ”……!?」


相手の特性を“ふみん”にする技──“なやみのタネ”だったというわけです。

566: ◆tdNJrUZxQg 2022/11/26(土) 11:54:42.15 ID:K66c2REr0

花陽「……そ、それでもまだ力比べでなら、拮抗してる……! ホルード! 頑張って!」
 「ホルゥゥゥ!!!!!」

 「プ、プトルッ!!!」


特性を失った今でも、どうにか押し切ろうと、踏ん張りながら迫り合いを続ける。

さすが、ジムリーダーのポケモンとでも言いましょうか。よく育てられていて、“ちからもち”が消えちゃったあとでも、本当に押し切られちゃいそうですけど──

迫り合いを続ける最中、ホルードが耳で掴んでいる部分が、急に内側から光り出す。


花陽「なっ!?」

かすみ「……ここまで来て、かすみんたちは真正面から力比べなんてしませんよ!」
 「プトルッ!!!!」


その光はどんどん輝きを増し──大きな刃となって、ホルードを貫く……!


かすみ「“ソーラーブレード”ッ!!」
 「プトォル!!!!!!」

 「ホルゥゥゥ!!!?」


ジュプトルの草の刃が──光の刃となって、ホルードの脳天から直撃した。


花陽「!! ホルード!!」
 「ホ、ホルゥ……」


こんな至近距離で大技を食らったら、もうとてもじゃないけど、立ってるのは無理ですよね。

ホルードは太陽光の刃に吹き飛ばされて、気絶したのでした。


花陽「……やられちゃった。……ありがとう、ホルード。戻って」
 「ホルゥ…──」

かすみ「……ふぅ、どうにか1匹目、突破です……」
 「プトルッ」


かよ子先輩がホルードをボールに戻して、次のボールを投げる。


花陽「……お願い、ダグトリオ!」
 「──ダグダグ!!」


──次に出てきたポケモンは、ダグトリオ。

 『ダグトリオ もぐらポケモン 高さ:0.7m 重さ:33.3kg
  チームワークに すぐれた 三つ子の ディグダ。
  3匹は とても仲良し。 3つの 頭が 互い違いに 動いて
  どんなに 硬い 地層でも 地下100キロまで 掘り進む。』


かすみ「さぁ、どんどん行きますよ! ジュプトル!」
 「ジュプトォル!!!!」


ダグトリオ目掛けて、“リーフブレード”を構えて飛び出すジュプトル。この流れに乗って、2匹目も討ち取ってやります……!

肉薄して、横薙ぎにリーフブレードを一閃──したのですが、


かすみ「……あ、あれ……?」


そこにはダグトリオの姿はなく……。穴っぽこが空いているだけ。


かすみ「潜って逃げられた……! ジュプトル、気を付けて!」
 「プトルッ」

567: ◆tdNJrUZxQg 2022/11/26(土) 11:55:23.96 ID:K66c2REr0

ジュプトルともども、キョロキョロとフィールド内を見回しながら警戒する。

どこから出てきても追い付いて攻撃するくらいのつもりで、神経を尖らせる。

そんな中……もこっと地面が盛り上がった場所は、


かすみ「……!? 真下……!? ジュプトル、逃げ──」

花陽「“ふいうち”!!」
 「ダグッ!!!」

 「プトォルッ!!?」


真下から突き上げられて、ジュプトルが真上に吹っ飛ぶ。

相手が逃げてるんだと思い込んでいたせいで、攻撃への対処が遅れた……!


かすみ「ぐぬぬ……! そのまま、“リーフブレード”!」
 「…プトォォル!!!」


ただ、転んだままでいるつもりはない。尻尾を器用に使って空中で体勢を立て直し、そのまま落下のスピードを加えて、反撃を試みる。

──縦薙ぎの刃がダグトリオの直上から、一閃されるが、


 「ダグッ──」

かすみ「……っ! また、潜られた……!」


またしても、ジュプトルの攻撃は空振り。


かすみ「ジュプトル、足元注意だよ!」
 「プトル…!!」


次の攻撃は受けないと、足元に警戒を回したら──今度はジムの隅っこの方の地面が盛り上がる。


花陽「“トライアタック”!!」
 「ダグダグダグ!!!!」

 「プトォル!!!?」
かすみ「ちょ……! 今度は、遠距離!?」


三角形の頂点にほのお・でんき・こおりを宿したエネルギー弾がジュプトルに直撃する。


かすみ「ぐぅ……! “タネマシンガン”……!」
 「プトルルルルルッ!!!!」


すかさず、遠距離技で反撃をするも、


 「ダグッ──」

かすみ「ああーもう……! また、逃げられた……!」


ダグトリオはすぐに穴に潜って逃げてしまう。


かすみ「悠長に相手を待ってたら、ただの的ですね……! ジュプトル!」


かすみんがバッと手をあげると、


 「! プトルッ!!」


ジュプトルは地面を蹴って跳躍し──壁に張り付いた。

568: ◆tdNJrUZxQg 2022/11/26(土) 11:56:33.14 ID:K66c2REr0

かすみ「これなら、少なくとも近接攻撃は当たりません!」

花陽「! なるほど……」


キモリの時代から、壁や樹に登るのは得意技なんですから……!

近距離攻撃を予防してしまえば、あとは遠距離攻撃対策に絞るのみ……!

と、思った瞬間──グラグラと地面が揺れ始めた。


かすみ「ひゃぁっ!? な、なんですかぁ!?」
 「プ、プトォル…!!」


壁に張り付いたジュプトルを振り落とすような激しい揺れ。


かすみ「まさか、“じしん”ですか!?」

花陽「そのとおりだよ! 逃がさない……!」

かすみ「が、頑張ってジュプトル!」
 「プ、プトル…ッ」


かすみんの応援も虚しく──ジュプトルは揺れに耐えきれず、壁から振り落とされてしまう。


かすみ「……っ! 起き上がって、ダッシュ!!」
 「プトル…ッ!!」


振り落とされても、ひるんでいる場合じゃない。着地と同時に受け身を取って起き上がり、すぐに走り回り始める。

狙いを定めさせるわけにはいかない……!

でも、ダグトリオは、


 「ダグッ!!!」

 「プトルッ!!?」
かすみ「ひゃぁぁ!? なんで進路上に出てくるのぉ!?」

花陽「地面に潜ったポケモンは地上の振動を感知して攻撃するんです! “ヘドロばくだん”!!」
 「ダグッ!!!」

かすみ「そんなのズルじゃないですかぁ~!! タ、“タネマシンガン”……!!」
 「プトルルルルッ!!!!!」


苦し紛れに相殺を狙うけど、ヘドロの塊を消し飛ばしきることは出来ず、


 「プトォル……ッ!!!」


真正面からダメージを負う。

次の瞬間にはもうダグトリオは地面の中だし……!


かすみ「ぐ、ぐぬぬぬぬぬ……!! ひ、卑怯ですよぉ……!!」

花陽「ごめんなさい……でも、これも戦略だから……」

かすみ「むきーっ!! ジュプトル!! “タネマシンガン”!! “タネマシンガン”ですぅ!!」
 「プートルルルルルッ!!!!!」


ジュプトルがフィールド一帯を手当たり次第に“タネマシンガン”で攻撃させる。


花陽「ヤケを起こしちゃったら、勝てないよ……?」

かすみ「うるっさいですっ!!」

花陽「……なら、もう決めちゃおう! ダグトリオ!」


かよ子先輩の指示と同時に──ジュプトルの足元がもこっと盛り上がった。

569: ◆tdNJrUZxQg 2022/11/26(土) 11:59:12.59 ID:K66c2REr0

花陽「──“10まんばりき”っ!!」


直下からの大技──でしたが、


かすみ「……引っ掛かりましたねぇ~?」

花陽「え!?」


ダグトリオは何故か──頭の先っちょだけ出たところで止まってしまっていた。


花陽「な、なんで!?」

かすみ「かよ子先輩、本当にかすみんがヤケっぱちを起こして、“タネマシンガン”をばらまいてたと思ってたんですかぁ?」

花陽「……!? ダグトリオ! 一旦潜りなおして!」
 「ダ、ダグッ」


先っちょだけ出ていたダグトリオは、すぐに地面に潜りなおして離脱する。


花陽「い、一体何が……」

かすみ「かよ子先輩~、二度もおんなじ作戦に引っ掛かってたら……勝てる勝負も勝てませんよ~?」

花陽「同じ作戦……? ……まさか、さっきの……“タネマシンガン”じゃない……!?」


今更気付いても、もう遅い。さっきのブラフの“タネばくだん”同様……今回の“タネマシンガン”も実は“タネマシンガン”じゃなくって──


かすみ「もうダグトリオが掘った穴の中は──“やどりぎのタネ”から出た芽が張り巡らされてますよ!」

花陽「……!?」


さっきばら撒いていたのは、“やどりぎのタネ”……!

それをダグトリオが空けた穴目掛けて、打ち込みまくったというわけです。

穴同士は繋がっているわけですから、穴の中を縦横無尽に伸びまくるやどりぎの芽から逃げる方法なんて皆無です……!

そして、やどりぎに体力を吸収され続けていることがわかった今、


かすみ「そっちは無理やりにでも攻撃せざるを得ませんよね!」


──離れたところでもこっと盛り上がった地面目掛けて、


花陽「“トライアタック”……!!」
 「──ダグ…ッ」

かすみ「“エナジーボール”!!」
 「プトォーールッ!!!!」


勢いよく飛び出した“エナジーボール”が、まっすぐ“トライアタック”を捉えて相殺し、エネルギーが弾けた衝撃で周囲の土を巻き上げる。

──その土煙を突っ切るようにして、


かすみ「“リーフブレード”!!」
 「プトォルッ!!!!」


ジュプトルがダグトリオを袈裟薙ぎに斬り裂いた。


 「ダ、グ…」


効果抜群。たまらずダグトリオは戦闘不能となりました。


花陽「……戻って、ダグトリオ」

かすみ「……あと……1匹……!」

570: ◆tdNJrUZxQg 2022/11/26(土) 12:00:09.96 ID:K66c2REr0

自分が今、かつてない程バトルに集中していることを実感できた。でも、それは当たり前──


かすみ「今日のかすみんは……圧倒的に、絶対的に、無敵な感じを見せつけに来たんですから……!!」


しず子を守れるって証明するために──かすみんはジムリーダーに圧勝しに来たんです……!!


花陽「……かすみちゃん、強いね。びっくりしちゃった」

かすみ「そうでしょう、そうでしょう! 今日のかすみんは無敵なんですから!」

花陽「でも、私にもジムリーダーとしての意地があるから……この切り札で、劣勢を覆します……!」


かよ子先輩が、最後のポケモンのボールをフィールドに投げ込んだ。





    👑    👑    👑





花陽「お願い、ナックラー!」
 「──…ナク」


最後に出てきたポケモンは……ナックラー。


かすみ「なんか……最後によわっちそうなのが出てきましたね……」


今までで一番弱そうかも……。と、思った矢先、


 「プトッ!?」


ジュプトルが驚きの声をあげながら、少しずつ前進……いや、滑ってる……?


かすみ「……違う!? 何かに、引っ張られてる!?」


かすみんは状況把握のために、図鑑を開いて、ナックラーのページを開く。

 『ナックラー ありじごくポケモン 高さ:0.7m 重さ:15.0kg
  すり鉢状の 巣穴の 底で じっと 獲物が 落ちて くるのを
  待ち続けている。 大きな アゴは 大岩を 噛み砕く。 頭が
  大きいので ひっくり返ると なかなか 起き上がれなくなる。』


かすみ「アリジゴク……!? じゃあ、ジュプトルを引っ張ってるのは……砂!?」


気付けば、いつの間にかジュプトルの足元どころか──ナックラーを中心にして、フィールド全体に大きな流砂が発生していた。


かすみ「やば……! 脱出! ジャンプ、ジャンプ!!」
 「プトルッ…!!」


すかさずジャンプで脱出……! 身のこなしの軽いジュプトルなら、体が埋まる前なら、十分脱出が出来ます。

でも、相手もそれくらいはわかっていたようで、


花陽「“マッドショット”!!」
 「ナックラ」

 「ジュプトッ…!!」


泥の弾を飛ばしてきて、空中のジュプトルを撃ち落としにかかってくる。


かすみ「ああもう……! せっかく逃げたのに……!」

571: ◆tdNJrUZxQg 2022/11/26(土) 12:01:00.50 ID:K66c2REr0

叩き落されて、すぐに状況はリセット……いや、それどころか、


花陽「“すなあらし”!」
 「クラ~」


──ゴォッと音を立てながら、“すなあらし”が発生する。


かすみ「ぐぅ……!」
 「プ、プトル…」


足元が悪いだけでなく、さらに砂がバシバシとぶつかってくる。しかも、視界まで悪くなってきた。


かすみ「これじゃ、遠くからナックラーが狙えないじゃないですかぁ……!」


そんな、かすみんの不満を無視するように、


花陽「“ねっさのだいち”!!」
 「ナックラー」

 「プトォル…!!!」
かすみ「あち、あちち!? だから、それ熱いんですってば!?」


飛んでくる灼熱の砂。向こうは容赦なく、範囲攻撃で攻めてくる。


かすみ「とにかく、近寄らなきゃ……! もう逃げるのはなし! ジュプトル、“リーフブレード”!!」
 「…プトルッ!!!」


砂を蹴って、ジュプトルが前方へ飛ぶ。

足を取られて、動きづらいのは確かですが、この流砂はナックラーを中心にして引き寄せられている。

なら、近接攻撃はその流れに逆らわなければ、確実に相手に届くんです……!


 「──プトォルッ!!!」


“すなあらし”の先で、ジュプトルが草の刃を振り下ろす影が見えた。

真っすぐに振りぬかれた攻撃は、ジュプトルの足元にいるであろう、ナックラーらしき影に直撃する。


かすみ「やりました……!」


相性ではこっちが有利……! 直撃さえしてしまえば、こっちのもの……!

だけど──


かすみ「……? ジュプトル……?」


ジュプトルの影が、動かない。


かすみ「な、なに……?」


“すなあらし”の先に、必死で目を凝らすと──


かすみ「……なっ!?」


ジュプトルの草の刃は──


 「ナク」
花陽「捕まえたよ……!」

572: ◆tdNJrUZxQg 2022/11/26(土) 12:01:47.67 ID:K66c2REr0

ナックラーの大アゴで完全に受け止められていた。

考えてみれば……悪い視界の中、流砂の流れに従って行けば確実に敵に行きつくのと同様に、相手からしても攻撃してくる方向が簡単にわかってしまう。


かすみ「逆っ!! 逆の刃で、“リーフブレード”!!」

 「プ、プトルッ!!!!」


当てさえすればいいんです……! 捕まってるなら、相手だって、動けないはずだもん……!!

だけど、かよ子先輩は、


花陽「“あなをほる”!」
 「ナック」

かすみ「んなぁ!?」
 「プトル…!?」


ジュプトルもろとも、地面に引き摺りこんできた。

悪い足場の中、どうにか踏ん張りながら、攻撃を仕掛けていたジュプトルはいとも簡単に体勢を崩して、ナックラーの巣穴に頭から突っ込む。


かすみ「やばっ!? 逃げて、ジュプトル、逃げてー!!」


かすみんの言葉も虚しく、頭から砂に埋もれて、下半身だけを外に出してもがいている状態のジュプトルに、脱出の手段など残されておらず、


花陽「“むしくい”!!」
 「ナックナクナク」


地中から、好き放題噛みつかれたあと──気絶してしまったのか、もがいていた下半身は動かなくなってしまった。


かすみ「も、戻って、ジュプトル……!」

花陽「ジュプトル、戦闘不能だね」

かすみ「ぐぬぬ……」


パーフェクトは叶わず。……でも、まだまだこっちが優勢ですもん!


かすみ「ジグザグマ!」
 「──ザグマァ!!」


ジグザグマを繰り出す、が……。


 「ク、クマァ!!?」


ジグザグマは出てきて早々、足を砂に取られる。


かすみ「と、止まっちゃダメ! “しんそく”!」
 「ザ、ザグマァ!!!」


足に力を込めて飛び出す。……が、“すなあらし”の邪魔もあってか、思うように速度が出ない。

速度が出なければまた自然と足を取られて──


 「グ、グマァ…」
かすみ「ジ、ジグザグマぁ~!?」


ジグザグマは砂にずぶずぶと沈んでいく。


花陽「ふふ……選出を間違えちゃったみたいだね」

かすみ「ぐぬぬ……! “じたばた”!」
 「ザ、ザグマァ!!!」

573: ◆tdNJrUZxQg 2022/11/26(土) 12:02:33.41 ID:K66c2REr0

ジグザグマは手足を“じたばた”暴れさせ、周囲の砂を吹き飛ばしながら、これ以上沈むのを耐える。


花陽「じゃあ、追撃の“すなじごく”」
 「ナク」

 「グマァ~~!?」


抵抗虚しく、ジグザグマはみるみる砂に沈んでいく。

程なくして──ジグザグマの姿は完全に見えなくなってしまった。


かすみ「あ……」

花陽「これで2匹目も戦闘不能だね。ちょっとくらいなら砂に埋まっていても、ボールを投げれば手元に戻してあげられると思うから」

かすみ「…………」

花陽「かすみちゃん、ジグザグマをボールに戻して、次のポケモンを出してもらえるかな?」

かすみ「…………」

花陽「かすみちゃん、悔しいのはわかるけど、早くポケモンの交替を……」

かすみ「………………まだです」

花陽「? まだ……?」

かすみ「……まだ……ジグザグマは戦闘不能じゃ──ありませんよ……!」


次の瞬間──


 「ナックッ!!!?」


ナックラーの体が砂の中に引っ張られるように、沈み込んだ。


花陽「えっ!?」

かすみ「かすみんのジグザグマはですね、穴掘りは得意なんですよ! 前に何時間も砂浜で、“ものひろい”をしてたくらいなんですから! 最初っから砂に足を取られてなんかなかったんですよ!」

花陽「……!? じゃあ、ナックラーのさらに下に潜り込んで……!?」

かすみ「相手を捕えたつもりが、逆に捕らえられちゃいましたね! 逃げ場のない砂の中で、爆音を食らわせてやりますよっ!! ──“ハイパーボイス”!!」

 「──ザグマアァァァァァァァァァ!!!!!!!!!!!!!!!!」


地中から砂をぶっ飛ばす大音量で、ジグザグマが“ハイパーボイス”をぶっ放す。

そして、その大量の砂に交じって、


 「……クラァ……」


至近距離からの大爆音に卒倒したナックラーが宙をくるくると回転しながら──ボスッと砂のフィールドの上に落ちていった。


花陽「…………ナックラー、戦闘不能。……このジム戦、かすみちゃんの勝利です」

かすみ「……やったー!! ジグザグマ! よく頑張りましたね!」
 「ザグマァ♪」


飛びついてきたジグザグマを抱きしめる。


かすみ「あらら……こんなに砂だらけになっちゃって……」


体に付いた砂を払ってあげながら頭を撫でると、


 「ザグマァ♪」


ジグザグマをご機嫌な鳴き声をあげるのでした。

574: ◆tdNJrUZxQg 2022/11/26(土) 12:03:19.25 ID:K66c2REr0

花陽「まさか……最後の1匹を見ることなく負けちゃうなんて……」

かすみ「ふふん、どうですか? かすみんの実力は!」

花陽「すっごく強かったよ……! 残りポケモンに差を付けられての負けって、ジム戦でもあんまりないから……びっくりしちゃった」

かすみ「そうでしょうそうでしょう! 今日のかすみんは最強なんですから……!」

花陽「うん、そうだね……! その証として──この“ファームバッジ”を受け取ってください!」


かよ子先輩から、稲穂型のバッジを受け取る。


かすみ「えへへ、ありがとうございます!」


本当は1匹も倒されないくらいの圧勝がしたかったけど……十分快勝だったと言えるレベルでしょう。たぶん。


かすみ「これなら……少しくらい、しず子を守れるって証明も──」

 「──かすみさんっ!」


そのとき、声と共に──誰かが私を背中側から抱きしめてきた。

いや、誰かは……声を聞けばわかるんだけど……。


かすみ「し、しず子……!?」

しずく「かすみさん……バトル、すごかったよ……」

かすみ「え、えぇ!? み、見てたの……!?」

しずく「うん……途中からだったけど……」

かすみ「か、体は!? 体はもうなんともないの!?」

しずく「うん……簡易検査で、とりあえず動いても問題ないって言われたから……見に来たんだ」

かすみ「そ、そうだったんだ……」


しず子が後ろからぎゅーっと抱きしめてくる。


かすみ「しず子……苦しい……」

しずく「……ごめん……」


しず子は「ごめん」と謝った割には、全然力を緩めてくれなかった。


かすみ「しず子」

しずく「……なに……?」

かすみ「しず子のことは……かすみんが守るから」

しずく「……うん」

かすみ「だから──」

しずく「一緒に冒険……続けよう」


かすみんが口にする前に──しず子に言われてしまった。

それだけ言うと、しず子はやっとかすみんを解放してくれる。

振り返ると──今の今までかすみんを抱きしめていたはずなのに、今はこっちに背中を向けていた。

575: ◆tdNJrUZxQg 2022/11/26(土) 12:04:18.99 ID:K66c2REr0

かすみ「しず子? なんで、背中向けてるの?」

しずく「えっとね……かすみさんに言わないといけないことがあって……」

かすみ「言わないといけないこと?」

しずく「実は……旅、続けても大丈夫って、言われたんだ」

かすみ「……はい?」


しず子のカミングアウトに変な声が出た。


しずく「簡易検査の結果がすごくよかったみたいで……精密検査とかも大丈夫ってことで、旅を続けてもいいよって」

かすみ「………………」


え、じゃあ、かすみんの頑張りの意味は……?


かすみ「せっかく、かすみん……めちゃくちゃ頑張ったのに……」

しずく「……ふふ♪ でも、今日のかすみさん、すっごくかっこよかったよ♪」


しず子はいたずらっぽく笑いながら、かすみんに向かって振り返る。


しずく「それじゃ、一旦ロッジに戻ろうか」

かすみ「えー? 戻らなくてもよくないー? もう、しず子、特に身体とかに問題ないんでしょ?」

しずく「でも、帰ったら彼方さんの作ってくれるご飯が食べられるよ?」

かすみ「……! た、確かにそれは魅力的……」

しずく「それに、もう一晩くらい泊めて貰ったほうがいいんじゃないかな? かすみさん、お小遣い結構ピンチだし、宿代、浮かせたいでしょ?」

かすみ「……し、仕方ないなぁ……しず子がそう言うなら、戻ってあげますよ~」

しずく「ふふ、ありがとう、かすみさん♪」


まあ、今日は気分もいいですしね。かすみんのジム戦での活躍でも語りながら、彼方先輩の作った、おいしい晩御飯を頂くとしましょう……!

かすみんは意気揚々とロッジを目指して、ジムを後にするのでした。




しずく「──……ありがとう、かすみさん。……今度は……私が頑張る番だよ……」





    💧    💧    💧





──時刻は深夜を回ろうかという時間帯。

かすみさんはジム戦の疲労もあってか、鼻高々にジム戦のことを語りながらご飯を食べたあと、すぐに寝てしまった。

かすみさんが先に就寝し、この場には穂乃果さん、千歌さん、彼方さん、遥さん……そして、私が残っている。

そんな中で私は──


しずく「…………」


三つ指をついて、頭を下げていた。

自分で言うことではないかもしれないが、我ながら美しい姿勢で頭を下げていると思う。

厳しく躾けてくれた両親には感謝しなくてはいけない。

576: ◆tdNJrUZxQg 2022/11/26(土) 12:05:12.77 ID:K66c2REr0

遥「し、しずくさん……あ、頭を上げてください……」

しずく「…………」

彼方「しずくちゃん……えっと……あのね……。彼方ちゃんたちも困っちゃうというか……」

しずく「…………」


結論から言うと──私の簡易検査の結果はあまり芳しいものではなかった。

すぐさま、どうこうと言うほどのものではなかったが……ウルトラビーストが持つ、特有のエネルギーのような毒素が体の中に留まってしまっているらしく、出来る限り専門の医療施設で治療を受けて欲しいと説明を受けた。

……だから、その頼みを断るために、私を診てくれた遥さんの厚意を無下にするために、こうして頭を下げている。


しずく「……私が──私たちが旅を続けることを、許してもらえませんか……」

遥「……ど、どうしよう……お姉ちゃん……」

彼方「う、うーん……」


頭を下げ懇願する私と、困惑する彼方さんと遥さん。それを見かねてか、


穂乃果「……しずくちゃん、一度顔を上げてもらえないかな」


穂乃果さんがそう口にする。


しずく「……許可を頂けるなら」

穂乃果「……ちゃんと顔を見て話したいから、顔を上げて」

しずく「…………」


私は渋々顔を上げる。


穂乃果「……しずくちゃん、自分が何を言ってるか、わかってる?」

しずく「……わかってます」

穂乃果「しずくちゃんはいつ発作が起こってもおかしくないし……ウルトラビーストにまた襲われる可能性も高い……って言うのは、朝説明したとおりなんだけどさ」

遥「……少なくとも、しずくさんを診た人間としては……本部の医療施設に入って欲しいと思っています……」

しずく「……診ていただいたこと、治療していただいたことには感謝しています。……ですが」


私は──


しずく「……私は、かすみさんと一緒に……旅を続けたい」


本当は今日、あの場に観戦をしに行ったのは……検査の結果を受けて、専門の医療施設に入るため……かすみさんにお別れを言うためにジムに赴いていた。

だけど……かすみさんが必死に戦う姿を見て。

私と一緒に旅を続けるために、その力を示すために戦う姿を見て──自然と涙が溢れてきた。

諦めないかすみさんの姿を見て、私も簡単に諦めたくなくなってしまった。


しずく「……無茶を言っていることは承知しています。……ですが、この旅は……かすみさんと、ポケモンたちとする冒険の旅は、この一度きりしかないと思うんです……。……お願いします、私に、私たちに……時間をください」


私はただ懇願して、頭を下げる。

私が頭を下げると、再び場が静まり返る。

沈黙の中、ただひたすらに頭を下げ続けている中──沈黙を破ったのは、


千歌「……じゃあ、こうしよう、しずくちゃん」

577: ◆tdNJrUZxQg 2022/11/26(土) 12:09:29.95 ID:K66c2REr0

千歌さんだった。

彼女は腰のボールベルトからボールを外して、ポケモンを出す。


 「──グゥオ」

しずく「ルカリオ……?」


千歌さんのルカリオが私に近付いてきて、手をかざすと──ボォっと青いオーラのようなものが見えた。


千歌「今、しずくちゃんの波導をルカリオに覚えてもらってる」

しずく「波導……?」

千歌「人の持ってるエネルギー……みたいな感じかな? 波導は距離が離れてても、集中してれば、ある程度感知が出来るんだ。だから、こうしてしずくちゃんの波導を覚えさせておけば、もし何か異常があったときに、すぐルカリオが報せてくれる」

しずく「……監視、ということですね」

千歌「うん。もし、しずくちゃんがウルトラビーストと遭遇したり、それこそ発作が起こるようなことがあったら、すぐに飛んで行くから」


──飛んで行く……というのは、私にとってプラスな理由だけではなく……発作が起こるようなことがあったら、今度こそ医療施設に入ってもらう、ということでもあるのだろう。

ただ、今は私の身を慮って言ってくれた提案を蹴って、無茶な要求を聞いてもらっている立場だ。これくらいの条件は付いていて当たり前。


しずく「わかりました」

千歌「穂乃果さん、彼方さん、遥ちゃん。それでいいかな?」


千歌さんが、3人に確認を取る。


遥「……わかりました。ただ、しずくさん、無茶だけはしないでくださいね……」

彼方「みんなが納得してるなら、彼方ちゃんからはこれ以上何か言うつもりはないよ~……」

穂乃果「……わかった。ただ、しずくちゃんにはいくつか注意して欲しいことがあるんだけど……」

しずく「注意してほしいこと……ですか?」

穂乃果「何かおかしな気配を感じたら、何がなんでも逃げるのを優先すること。異常を感じたら、真っ先に私たちの誰かに連絡をすること。出来るかな」

しずく「は、はい……! もちろんです……!」


私が穂乃果さんの言葉に首を縦に振ると、


穂乃果「うん、ならオッケー!」


先ほどまで神妙な面持ちだった穂乃果さんは、柔らかい雰囲気で笑いながら、許可をしてくれたのでした。


彼方「そうと決まったら、今日は早く寝るんだよ~? 明日からまた旅が始まるんだから~」

しずく「は、はい……! そうさせてもらいます……!」


気付けば随分深い時間になりつつある。

明日もかすみさんと、ポケモンたちと共に旅を続けるのであれば、しっかり睡眠を取って明日に備えなければ。

寝室に行くために、リビングを出ていく際、


しずく「……皆さん、私のわがままを聞いてくださって……本当にありがとうございます」


もう一度、深々と頭を下げてから、部屋を後にしたのだった。




578: ◆tdNJrUZxQg 2022/11/26(土) 12:10:11.39 ID:K66c2REr0

    💧    💧    💧





かすみ「…………ふぇへへ…………どーれすかー…………かすみん…………むてきの…………トレーナー………………むにゃむにゃ……」


──寝室に入ると、かすみさんが寝言を言っているところだった。


しずく「ふふ……今日のジム戦の夢でも見てるのかな」


思わず、くすくす笑ってしまう。本当に今日のバトルはかすみさんの中でも会心の結果だったんだろう。

……実際、すごくかっこよくて、胸を打たれる戦いだった。


しずく「……ありがとう、かすみさん。これからもよろしくね」

かすみ「………………ふぇ…………? …………しず子ぉ……? …………なんか、言ったぁ…………?」

しずく「なんでもないよ。おやすみって言っただけ」

かすみ「……ん~……そぅ…………………………すぅ……すぅ…………」


寝言で会話するなんて、かすみさんらしいなと思って、またくすくすと笑ってしまった。


しずく「…………」


これから先、私はどうなってしまうんだろうか。

不安はあるけど……。


かすみ「…………zzz」


かすみさんと一緒なら、きっと大丈夫。

今はそう思うから。

私は今度こそ、明日に備えて、布団に潜るのだった。




579: ◆tdNJrUZxQg 2022/11/26(土) 12:10:58.41 ID:K66c2REr0

>レポート

 ここまでの ぼうけんを
 レポートに きろくしますか?

 ポケモンレポートに かきこんでいます
 でんげんを きらないでください...


【コメコの森】
 口================== 口
  ||.  |○         o             /||
  ||.  |⊂⊃                 _回/  ||
  ||.  |o|_____.    回     | ⊂⊃|  ||
  ||.  回____  |    | |     |__|  ̄   ||
  ||.  | |       回 __| |__/ :     ||
  ||.○⊂⊃      | ○        |‥・     ||
  ||.  | |.      | | ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄\     ||
  ||.  | |.      | |           |     ||
  ||.  | |____| |____    /      ||
  ||.  | ____ 回__o_.回‥‥‥ :o  ||
  ||.  | |      | |  _.    /      :   ||
  ||.  回     . |_回o |     |        :  ||
  ||.  | |          ̄    |.       :  ||
  ||.  | |        .__    \      :  .||
  ||.  | ○._  __|⊂⊃|___|.    :  .||
  ||.  |___回●__.回_  _|‥‥‥:  .||
  ||.       /.         回 .|     回  ||
  ||.    _/       o‥| |  |        ||
  ||.  /             | |  |        ||
  ||. /              o回/         ||
 口==================口


 主人公 かすみ
 手持ち ジュプトル♂ Lv.29 特性:かるわざ 性格:ゆうかん 個性:まけんきがつよい
      ゾロア♀ Lv.23 特性:イリュージョン 性格:ようき 個性:イタズラがすき
      ジグザグマ♀ Lv.22 特性:ものひろい 性格:なまいき 個性:たべるのがだいすき
      サニーゴ♀ Lv.22 特性:のろわれボディ 性格:のうてんき 個性:のんびりするのがすき
 バッジ 3個 図鑑 見つけた数:118匹 捕まえた数:6匹

 主人公 しずく
 手持ち ジメレオン♂ Lv.18 特性:スナイパー 性格:おくびょう 個性:にげるのがはやい
      マネネ♂ Lv.18 特性:フィルター 性格:わんぱく 個性:こうきしんがつよい
      アオガラス♀ Lv.18 特性:はとむね 性格:ようき 個性:ちょっぴりみえっぱり
      ロゼリア♂ Lv.19 特性:どくのトゲ 性格:いじっぱり 個性:ちょっとおこりっぽい
      キルリア♀ Lv.20 特性:シンクロ 性格:ひかえめ 個性:ものおとにびんかん
 バッジ 0個 図鑑 見つけた数:127匹 捕まえた数:9匹


 かすみと しずくは
 レポートに しっかり かきのこした!


...To be continued.




580: ◆tdNJrUZxQg 2022/11/26(土) 20:37:43.90 ID:K66c2REr0

 ■Intermission🐏



遥「あの……穂乃果さん」

穂乃果「ん?」

遥「……本当に……行かせてしまっていいんでしょうか……」

彼方「遥ちゃん、もう決めたことだから、これ以上何か言うのはダメだよ~? 今更、やっぱりダメって言っても、しずくちゃんもかすみちゃんも納得できなくなっちゃうし」

遥「でも……」

彼方「遥ちゃんは優しい子だからね~……しずくちゃんのことが心配なんだよね。でも、今はしずくちゃんたちのこと……信じてみよう」

遥「……うん」


実際、自分たちの意思に関わらず、自由を縛られるというのが、どれほど大変なことかは、私も遥ちゃんもよくわかっているつもりだ。

しずくちゃんが心配だって気持ちは、もちろん私にもあるけど……彼女の自由を奪いたくないという気持ちもある。そしてそれは遥ちゃんも同じだと思う。だからこそ葛藤しているんだと思うしね。


穂乃果「それに……千歌ちゃんにあそこまでされたら、私も折れるしかないな~って」

千歌「あはは……まあ、その~……真っすぐ気持ちぶつけられると……弱くて……」

彼方「……? あそこまでされたらって、どういうこと……?」


穂乃果ちゃんの発言に首を傾げる。

千歌ちゃんにとって、ルカリオでしずくちゃんの波導を管理するのは大変だからなのかな……? くらいに思ったけど、


千歌「んっとね、完全に離れた場所の人の波導を感知し続けるってなると、ルカリオはほぼバトルには使えないんだよね」


大変なんてもんじゃなかった。ルカリオといえば、千歌ちゃんにとって、一番信頼しているエースのはずなのに……。


彼方「じゃあ……千歌ちゃんはエースを手持ちから外してまで……。……まあ、確かにしずくちゃん……すごい頑張ってお願いしてたもんね~……」

千歌「しずくちゃんだけじゃなくて……かすみちゃんもかな」

彼方「かすみちゃんも?」

千歌「ご飯食べながら今日のジム戦のこと、聞いてたけどさ……私、自分が旅してるときに花陽さんとのジム戦で結構ギリギリの勝利だったんだよね。でも、かすみちゃんはジムリーダー相手に危うげなく勝ってきて……ちゃんと強さを証明して見せた」

彼方「なるほど~……」

千歌「何かを背負いながらの戦いって、焦っちゃったりして、自分の力が発揮しきれなかったりするけど……かすみちゃんはそんな中でも、ちゃんと結果を見せてくれた。やっぱり、その努力には報いてあげたいなって」


千歌ちゃんなりに彼女たちの努力に報いた結果が、ああいう形だったということらしい。


千歌「それに……私たちにも落ち度はあるし……」

穂乃果「……そうだね。こうならないために、普段から見回って、一般人が接触する前に撃退してきたわけだし……。今回みたいに巻き込んじゃったのは、私たちの落ち度だね……」


そこは彼方ちゃん含めて、反省しなくちゃいけないことかも……。

だからこそ、これが彼女なりの責任の取り方なのかもしれない。

581: ◆tdNJrUZxQg 2022/11/26(土) 20:38:28.56 ID:K66c2REr0

穂乃果「……ごめんね、千歌ちゃんだけに責任取らせるみたいになっちゃって……」

千歌「あはは、ダイジョブですよ! その代わり、穂乃果さんにはルカリオの分まで頑張ってもらうつもりなんで!」

穂乃果「ふふ、そういうことなら任せて! ……ところで、空いた手持ちの分は、補充するの?」

千歌「えっと……今、善子ちゃんの研究所にルガルガンを預けてるんですけど、あの子を手持ちに戻そうかなって。……あ、でも健康診断もするから一度ローズに連れてくとか言ってたっけ……。すぐにってわけにはいかないかも……」


一応手持ちの補充の当てはあるみたい。確かネッコアラと入れ替えで外してた子だったかな?

ただ、来るまでは時間が掛かっちゃうみたいだから……その間は、彼方ちゃんも頑張ってフォローしないと……!

フォローをしっかりするためにも……彼方ちゃんもしっかり、睡眠を取って明日に備えなきゃ……!


彼方「じゃあ、私たちも明日に備えて、そろそろ寝ちゃおうか~」

遥・千歌・穂乃果「「「は~い」」」


ロッジの夜はこうして、更けていくのでした~……。


………………
…………
……
🐏




582: ◆tdNJrUZxQg 2022/11/27(日) 15:45:28.09 ID:4KWPSfBf0

■Chapter030 『オハラ研究所』 【SIDE Yu】





──ジム戦を終えて……。

今は船に揺られて移動の真っ最中。


侑「潮風が気持ちいい~!」
 「ブイ~♪」

歩夢「ゆ、侑ちゃん……! そんなに身を乗り出したら危ないよ……!」


甲板の手すりから身を乗り出して風を感じていると、歩夢が甲板口の方から声を掛けてくる。


侑「平気平気~! ほら、歩夢もおいでよ!」

歩夢「い、いいよ……船って思ったより揺れるし……」

侑「いいからいいから!」


半ば強引に歩夢の手を引く。


歩夢「きゃ……!」
 「…シャボ」

歩夢「だ、大丈夫だよ、サスケ。ちょっとびっくりしただけだから……」
 「シャーボ」

侑「ほら! 風……気持ちよくない?」

歩夢「……ほんとだ」

侑「ね!」


セキレイシティには海がないから、船に乗ることなんてまずないし、せっかく経験出来ることは進んでしなくちゃ損だからね!

歩夢は初めて乗る船が思った以上に揺れることにおっかなびっくりだったものの、連れ出してしまえば、気持ちよさそうに風を感じてくれていた。

二人で船旅を満喫していると、間もなく、目指していた島に到着しようとしていた。


侑「もう着いちゃうのかぁ……まだ、もう少し乗ってたかったなぁ」

歩夢「あはは……島自体は最初から見えてたもんね」


すぐそこに迫った目的地は、近くで見ると思ったよりも大きく存在感を放っている。


侑「ここが……アワシマ……! オハラ研究所のある場所……!」
 「ブイ」

リナ『アワシマ……ちょっと懐かしい』 || > ◡ < ||

歩夢「リナちゃんは、あの島に行ったことがあるの?」

リナ『うん! 私のボディはあそこの研究所で作ってもらったんだよ!』 ||,,> ◡ <,,||

侑「へー! そうだったんだ!」

歩夢「それじゃあ、リナちゃんにとっては里帰りなんだね」

リナ『そんな感じかも!』 ||,,> ◡ <,,||


リナちゃんを作った場所っていうのも気になるし……本当に楽しみになってきた……!

今の今まで、船での移動が終わるのを名残惜しんでいたのに、気付けば気持ちは研究所を見られることに移り変わっていた。

一体、どんな場所なんだろう……! オハラ研究所……!




583: ◆tdNJrUZxQg 2022/11/27(日) 15:46:05.45 ID:4KWPSfBf0

    🎹    🎹    🎹





──島に降り立ち、船着き場から歩くこと数分。


侑「……わぁ……!」


研究所が見えてきて、思わず声をあげてしまう。


侑「見て、歩夢! 研究所だよ!」

歩夢「ふふ、そうだね♪」

侑「小さな島にぽつりと佇む施設……! THE研究所って感じがするよね……! はぁー……なんかときめいてきちゃった……!!」
 「ブイ」

リナ『外観を見ただけでここまでテンション上がるの……ある意味すごいかも』 ||  ̄ ᇫ  ̄ ||

歩夢「侑ちゃん、ポケモンに関する施設は大好きだもんね」

侑「うん! その中でも、ポケモン研究所って言ったら、いろんなポケモントレーナーが最初のポケモンを貰う場所なわけだし……! それこそ、千歌さんはここで最初のポケモンを貰ったトレーナーだし、曜さんやルビィさん、ヨハネ博士もここから旅に出たんだよ! そう考えたらすごいよ……! 今のチャンピオンやジムリーダーたちの歴史が始まった場所なんて言われたら、そりゃテンション上がるに決まってるじゃん……!!」

リナ『侑さん、楽しそう』 || ╹ ◡ ╹ ||

歩夢「ふふ、そうだね。それじゃ、ここで話してても仕方ないし……早く入ろっか」


歩夢にそう促されたけど、


侑「ま、待って……! 一度、深呼吸させて……!」


いざ、そんな場に立ち入ろうと思ったら、急に緊張してきた……。


リナ『大袈裟すぎる……』 ||  ̄ ᇫ  ̄ ||

歩夢「あはは……」


大きく息を吸って、吐いて……。


侑「よし……!」

歩夢「大丈夫?」

侑「うん! い、行こう……!」

リナ『侑さん、手と足が一緒に出てる……』 ||  ̄ ᇫ  ̄ ||

歩夢「あはは……大丈夫かな……」

 「ブイ…」





    🎹    🎹    🎹





──研究所の中に入ると、


 「ピカチュ?」「ハニ~?」


可愛らしく小首を傾げる、ピカチュウとミツハニーに出迎えられた。

584: ◆tdNJrUZxQg 2022/11/27(日) 15:46:50.27 ID:4KWPSfBf0

歩夢「わ、可愛い♪ こんにちは♪」

 「ピカピカ~♪」「ハニ~♪」


このピカチュウたちは、研究所内で放し飼いにされているようだ。

そして、そんなポケモンはピカチュウやミツハニーだけでなく……。


 「カラ」「…ラル」


カラカラやラルトスのようなポケモンたちの姿も見える。

そんな放されているポケモンたちの中でも、一際私の目を引いたのは、


 「ブイ」「ブイ~?」「イブイッ!!」

侑「わ~! イーブイがこんなにいっぱい……!」
 「ブイ…!!」


イーブイたちの姿。

イーブイはあまり数の多くない珍しいポケモンだから、これだけ集まっているところを見たのは初めてかもしれない。


歩夢「侑ちゃんのイーブイも、同じイーブイがいっぱいいるから興味があるみたいだね」

侑「同じイーブイ同士、仲良くなれるんじゃないかな? どう?」
 「ブイ…」


肩に乗っているイーブイに訊ねてみるけど、当のイーブイは興味こそあれど、あまり気が進まないというか……私の頭を盾にして隠れてしまった。


侑「うーん……やっぱ初対面相手だと“おくびょう”な子だったことを思い出すね……」


私たちには随分と慣れてきたから忘れていたけど、人見知り──いやこの場合、ポケ見知り……?──する子なんだった。


歩夢「ふふ、帰るまでに仲良くなれるといいね♪」

侑「そうだね」
 「ブイ…」


じゃれているイーブイたちのさらに奥には、これまた珍しいポケモンがいた。


 「ポリ」

侑「わ……! あれって、もしかしてポリゴン!?」

歩夢「確か……珍しいポケモンだよね?」

侑「うん! すっごく珍しいポケモンだよ! 私こんな近くで見るの初めてだよ……!」

リナ『ここでは、あのポリゴンが来客番をしてるんだよ。だから、もうすぐ迎えの人が来ると思う』 || ╹ ◡ ╹ ||

侑「そんなところまでポケモンがやってくれてるんだ!? さすが、ポケモン研究所……!」


ヨハネ博士の研究所でも思ったけど、研究所では珍しいポケモンをたくさん見ることが出来て本当に楽しい……!

次は何が見られるかなと、ワクワクしていると──奥の扉が開く。


使用人「──お待ちしておりました。侑さんと歩夢さんですね」


扉からは、恭しい言葉遣いと共にメイド服に身を包んだ人が姿を見せる。

585: ◆tdNJrUZxQg 2022/11/27(日) 15:47:34.74 ID:4KWPSfBf0

侑「今度はメイドさん!? 歩夢! 私本物のメイドさん初めて見たよ!?」

歩夢「う、うん……私もメイドさんを見たのは初めてだけど……これは研究所だからなのかな……?」

リナ『この研究所の職員は、みんな博士に仕えてるメイドさんなんだよ』 || > ◡ < ||

歩夢「それはそれですごいかも……」

使用人「奥で博士がお待ちです。ご案内します」

侑「はい! よろしくお願いします!」


背筋をピンと伸ばしたメイドさんに案内されて、私たちはついに、この研究所の博士のいるところまで案内してもらいます……!


リナ『そういえば、歩夢さん。なんだか、落ち着いてるけど……あんまりこういう場所好きじゃないの?』 || ╹ᇫ╹ ||

歩夢「うぅん、そんなことはないよ? むしろ、いろんなポケモンが見られるのは楽しいかな。けど……」

リナ『けど?』 || ? ᇫ ? ||

侑「はぁ……ポケモン研究所……最高……♪」

歩夢「侑ちゃんがあれだけテンション高いと、逆に落ち着いちゃって……」

リナ『……なるほど』 ||;◐ ◡ ◐ ||





    🎹    🎹    🎹





──メイドさんに連れられて、研究所内の奥の方までやってきた。


使用人「博士、失礼します。お二人とも、どうぞ中へ」


言われるがままに部屋の中に入ると──


鞠莉「あなたたちが侑と歩夢ね? ようこそ、オハラ研究所へ。私がここの所長の鞠莉よ。待っていたわ」


鞠莉博士に出迎えられる。


侑「……!! ほ、本物の鞠莉博士……!」

鞠莉「あら~、わたしのこと知ってくれていたのね?」

侑「も、も、もちろんです……!! あ、あ、あの……!!」

鞠莉「ん~?」

侑「さ、サイン……!! サイン貰ってもいいですか……!?」


バッとサイン色紙を差し出す。


鞠莉「あらあら♪ わたしのサインなんかでよかったら、いくらでも書いちゃうわよ~♪」


鞠莉博士は、わたしのサイン色紙を受け取ると、慣れた手付きでサラサラとサインを書いていく。


鞠莉「はい、どうぞ♪」

侑「わぁ……! 鞠莉博士の直筆サイン……!! か、感激です……!!」


思わず感動してしまう。

今日はダイヤさんやルビィさんからもサインを貰っちゃったし……最高の日だ。

586: ◆tdNJrUZxQg 2022/11/27(日) 15:48:14.45 ID:4KWPSfBf0

リナ『侑さんって、そんなに博士が好きだったの? 知らなかった』 || ? ᇫ ? ||

歩夢「う、うん……私も……。侑ちゃんってトレーナーが好きなんだと思ってたけど……」

侑「何言ってるの二人とも!?」

歩夢「!? え、えーっと……」


思わず、歩夢たちに詰め寄ってしまう。


侑「鞠莉博士と言えば、9年前のポケモンリーグでトリプル、ローテーション、シューターの3部門で優勝してる超凄腕トレーナーでもあるんだよ!?」

歩夢「そ、そうなの……?」

リナ『うん。確かに鞠莉博士はポケモンリーグでも結果を残してる。最近の大会では、出場自体してないけど……』 || ╹ᇫ╹ ||


リナちゃんが補足するように解説してくれる。

さすがに10年近く前の大会のことだったから、歩夢は知らなかったみたいだけど……。

そんな中、鞠莉博士は私たちの会話内容よりも──


鞠莉「あら……? もしかして、あなた……リナ?」


リナちゃんに反応を示した。


リナ『うん! 博士、久しぶり!』 ||,,> ◡ <,,||

鞠莉「え、ええ、久しぶりなのはいいんだけど……。どうして、侑たちと一緒に……?」

リナ『……? 博士が侑さんに私を渡したんじゃないの?』 || ? ᇫ ? ||

侑「え……? 私はヨハネ博士からリナちゃんを渡されたんだけど……」

リナ『?? どういうこと??』 || ? ᇫ ? ||

侑「……?」


私もどういうことって感じだけど……?


鞠莉「……ははぁーん……そういうことね……。……あの堕天使……」


ただ、鞠莉さんは一人納得した様子。


鞠莉「リナ。侑とはうまくやれているかしら?」

リナ『うん! 侑さんとの旅はいろんな発見があって楽しい!』 ||,,> ◡ <,,||

侑「私も、リナちゃんにはいっつも助けられてるよ!」

リナ『それなら嬉しい! リナちゃんボード「にっこりん♪」』 ||,,> ◡ <,,||

鞠莉「そっか。リナが順調に経験を積めているならいいの。侑、これからもリナのこと、よろしくね」

侑「は、はい!」


……なにか、ちょっとした手違いがあったのかな?

話が食い違っている部分があるけど……まあ、よろしくって言われたし、大丈夫ってことだよね?

587: ◆tdNJrUZxQg 2022/11/27(日) 15:48:52.44 ID:4KWPSfBf0

鞠莉「それよりも、あなたたち。ダイヤ、ルビィとマルチバトルして勝ったって聞いたわ!」

侑「は、はい! 先ほど、ジムで戦わせてもらって……」

歩夢「侑ちゃんと一緒だったから、勝てました……えへへ」

鞠莉「大したものだわ……特に歩夢。あなたのことは、ダイヤもすごく褒めていたわ」

歩夢「え? わ、私ですか……?」

鞠莉「ええ。ポケモンをよく見ていて、心から寄り添える素敵なトレーナーだって」

歩夢「そ、そうですか……///」


鞠莉さんから、ダイヤさんの称賛の言葉を貰って、歩夢が恥ずかしそうに頬を染める。


侑「ふふ、よかったね。歩夢」

歩夢「う、うん……///」


歩夢は褒められたことが純粋に嬉しいのか、顔を赤くしながらも笑っていた。

私も自慢の幼馴染が褒められて、なんだか嬉しい気持ちになってくる。


鞠莉「あと、侑のことも褒めていたわ」

侑「え? 私のことも……?」

鞠莉「あなたは歩夢とは逆に、トレーナーをよく見てるって」

侑「トレーナーのこと……?」

鞠莉「トレーナー個々の癖や戦術、やろうとしてることを見抜く力に長けているって評価していたわ。相手に対する下調べもしっかりしていて、なかなか出来ることじゃないって」

侑「そ、そんな……/// ただ、ダイヤさんやルビィさんの試合はたまたま見たことがあったってだけで……///」

歩夢「ふふっ、侑ちゃん顔赤いよ♪」

侑「あ、歩夢だって、さっき顔真っ赤だったじゃん……っ!///」


褒められ慣れてないというのもあるけど……まさか、現役の四天王にこうして褒められるなんて思ってもいなかったから、すごく顔が熱かった。

でも……嬉しいな。

こうして褒められると、俄然やる気が湧いてくる。


侑「……もっともっと、強くなろうね、歩夢……!」

歩夢「うん、そうだね……えへへ」

鞠莉「なんだか、初々しくて、昔のこと思い出しちゃうわね……」

リナ『昔のことって?』 || ╹ᇫ╹ ||

鞠莉「もちろん、チカッチたちを送り出したときのことよ。あの子たちは6人とも……最初のポケモンを渡すときから大変だったんだから」

侑「……! そ、その話もっと詳しく聞きたいです!」


チャンピオンの千歌さんと、その同期の人たちが最初の3匹を選ぶときの話なんて、めちゃくちゃ興味があるし、聞いてみたい……!


鞠莉「あらそう? それじゃあ、どこから話そうかしら……。そうね、それじゃ一番最初にポケモンを持って行っちゃった子のことから話そうかしら──」

侑「はい!」


私はわくわくしながら、鞠莉さんの思い出話に耳を傾ける──




588: ◆tdNJrUZxQg 2022/11/27(日) 15:49:36.97 ID:4KWPSfBf0

    🎹    🎹    🎹





鞠莉「──……そして、ルビィはアチャモを、花丸はナエトルを連れていくことになったってわけね」

侑「……花丸さんも、ここの研究所で最初の3匹を選んだ1人だったんですね……」

鞠莉「あら、花丸のこと知ってるの?」

侑「はい! ダリアで……えーっと、たまたま会っただけなんですけど……」


途中まで言いかけて、ダリアのジムリーダーのことは、あまり詳しく言っちゃいけなかったことを思い出して、適当に言葉をぼかす。


鞠莉「あら、そうだったのね。ダリアで大学に入ったあと、そのまま向こうの研究室に入ったみたいなのよね。連絡はちょくちょくくれるんだけど……今は何をやってるのかしらねぇ」


どうやら、鞠莉さんは花丸さんがジムリーダーをしていることを知らなさそうだ。セーフ、言わなくてよかった……。

それにしても、千歌さんたちの旅立ちの話は、興味深い話だった。

千歌さん、曜さん、ヨハネ博士、ルビィさん、花丸さんと……今でも一線級で活躍している人ばっかりだし……。

あ、でも……梨子さんって人のことはあんまり知らないかも……。


歩夢「あ、あの……」

鞠莉「ん~? なにかしら?」

歩夢「もしかして、梨子さんって……今カントーで活躍してる芸術家の梨子さんですか……?」

鞠莉「Oh! That's right! その通りよ!」

侑「歩夢、知ってるの……?」

歩夢「うん! 梨子さんは絵を描いたり、作曲も手掛けてて……『星』って作品群がすっごく有名なの。ある地方を旅したときに見た輝きを表現したってインタビューで言ってたんだけど……それって」

鞠莉「……ふふ、そうね。きっとこの地方での旅のことよ」

歩夢「やっぱり……!」


歩夢は目をキラキラさせながら言う。

芸術家か……そこまで把握しきれてなかった……。


侑「私も見てみたい……」

歩夢「ふふ、今度家に帰ったら、梨子さんの出した本とCDがあるから、一緒に鑑賞しよっか♪」

侑「うん!」

鞠莉「あと梨子は、バトルも優秀な子だったわよ。ジムバッジも8つ全て集めていたし、千歌のライバルだったからね~」

侑「そうなんですか!? ど、どんなトレーナーだったんですか……!?」

鞠莉「そうねぇ……最初はさっき言ったとおり、ちょっと困った子だったんだけど──」


鞠莉さんが梨子さんの話をし始めた、そのとき、


 「──鞠莉~? いる~?」


鞠莉さんの研究室に知らない人が入ってきた。

深い海のような髪をポニーテールに縛っているお姉さん。


果南「あ、ごめん……来客中だったんだ」

鞠莉「あら、果南……っと……もうこんな時間だったのね。思ったより話し込んじゃったわね」


どうやらこの人は果南さんと言うらしい。

589: ◆tdNJrUZxQg 2022/11/27(日) 15:50:29.40 ID:4KWPSfBf0

果南「今タイミング悪いなら、後にするけど……ん?」


鞠莉さんとやり取りをしていた果南さんの視線は──ふよふよと浮かぶリナちゃんに留まる。


果南「あれ!? もしかして、リナちゃん!?」

リナ『うん! 果南さん、久しぶり!』 ||,,> ◡ <,,||

果南「どうしてリナちゃんがここに……!?」

鞠莉「いろいろあってね。今はそこにいる侑がリナと一緒に旅してるのよ」

侑「わ、私が侑です」


鞠莉さんから紹介を受けて、頭を下げて挨拶する。


果南「私は果南、よろしくね。そっちの子は?」

歩夢「私は歩夢って言います」

果南「歩夢ちゃんだね。よろしく」

鞠莉「この子たちは、善子のところから最初のポケモンと図鑑を貰って旅に出た子たちなのよ」

果南「へー。ってことは、かすみちゃんやしずくちゃんと一緒に旅に出た子たちってこと?」

鞠莉「そうなるわね」


そういえば、かすみちゃんたちもこの島に来たって話を、ホシゾラで聞いたっけ。


歩夢「あ、あの……果南さんは、鞠莉さんに何か用事があったんじゃ……」

果南「……っと、そうだった。……ただの定例報告みたいなもんなんだから、後でもいいんだけど……」

歩夢「い、いえ……! お仕事の邪魔をするわけにはいかないので……! ね、侑ちゃん」

侑「う、うん」


正直もっと鞠莉さんの話は聞きたいけど……確かに仕事の邪魔をするのは忍びない。

歩夢に手を引かれて、部屋を後にしようとするけど……名残惜しいというのが顔に書かれていたのか、


鞠莉「うーん、それじゃあ……侑たちがイヤじゃなかったら、今日はここに泊まっていったらどうかしら?」


と、鞠莉さんが提案してくれる。


侑「い、いいんですか!?」

鞠莉「ええ。だから、仕事が片付いたら、またお話ししましょ?」

侑「は、はい! 是非!」

鞠莉「それまでは、研究所の中を好きに見て回っていていいから。何かあったら、そこらへんにいる所員に聞いてくれれば対応するわ」

歩夢「ありがとうございます。侑ちゃん、リナちゃん、行こっか」

侑「うん」

リナ『お仕事頑張ってね。リナちゃんボード「ファイト、おー!」』 || > ◡ < ||


歩夢とリナちゃんと一緒に、私たちは一旦、博士の研究室を後にした。




590: ◆tdNJrUZxQg 2022/11/27(日) 15:51:24.59 ID:4KWPSfBf0

    🎹    🎹    🎹





──あの後、研究所内をくまなく見て回って……鞠莉博士の仕事が片付いたあと、ここから旅立って行ったトレーナーたちの話をたっぷり聞かせてもらった。

ついでに夕食も頂き──メイドさんが作ってくれた絶品料理に舌鼓を打った──その後、お湯を頂き、今は所内にある客用寝室のベッドの上に寝転んでいる。


侑「いたれりつくせりだぁ……幸せぇ……♪」
 「ブイ~…」

歩夢「ご飯、すっごくおいしかったね。ホテルのご飯みたいで、ポケモンたちも大喜びだったし」
 「シャーボ♪」

侑「大浴場まであるなんて、本当にホテルだよぉ……」

歩夢「侑ちゃん、風邪引いちゃうから、先に髪乾かさないとダメだよ? イーブイはこっちおいで♪ 毛繕いしようねー♪」
 「ブイ♪」

侑「えー……イーブイばっかりずるいー……私にもブラッシングしてー……」

歩夢「ダーメ、ポケモンたちが先だよ」

侑「うー……わかったよー……」


私はもそもそと立ち上がって、ドライヤーをバッグから取り出して、髪を乾かし始める。


リナ『侑さんが見たことないくらい、だらけきってる……』 ||;◐ ◡ ◐ ||

侑「あまりに尽くされすぎて……ずっとここにいると、ダメ人間になりそう……」

歩夢「もう……侑ちゃんったら……。でも、本当にすごいね、この研究所……。所員……というかメイドさんもすごい数いるし、ご飯もお風呂も本当にホテルみたい……」

リナ『みたいというか、もともとホテルなんだよ』 || ╹ᇫ╹ ||

侑「そうなの?」

リナ『博士のお祖父さんが経営してたホテルなんだけど、お父さんに代替わりしたときに研究所に改装したんだって』 || ╹ᇫ╹ ||

侑「どうりで……あの大浴場ホントにすごかったもんなぁ」

歩夢「ホテルは辞めちゃったの?」

リナ『うぅん。海外とかでは今でもグループ展開で経営してるみたいだよ。鞠莉さんが博士になったときにお父さんとお母さんはそっちに集中するために、研究職は辞めたらしいけど』 || ╹ᇫ╹ ||

侑「じゃあ、あのメイドさんって……元従業員?」

リナ『従業員というよりは、鞠莉さんの使用人かな。信頼出来るメイドさんを残して研究所で働いてもらってるみたい』 || ╹ᇫ╹ ||

侑「へー……じゃあ、本物のメイドさんなんだね」

歩夢「本物のメイドさんにお世話される生活って、なんか想像出来ないかも……」

侑「確かに……今日の今日まで本物のメイドさんなんて見たことなかったし……」


庶民の私たちとは住む世界が根本的に違うのかも……。


 「イッブィ…♪」
歩夢「……んー? ここ気持ちいいんだねー?」


そんな会話をしながらも、せっせとイーブイの毛繕いをしてあげている歩夢。

この甲斐甲斐しさなら、メイドとしてもやっていけるんじゃないかな……? なんて思ってしまう。


歩夢「? どうしたの? じーっとこっち見て……?」

侑「いや、イーブイ気持ちよさそうだなって」

歩夢「ふふ、イーブイ毛繕い好きだもんね~?」
 「ブイ♪」

歩夢「たまには侑ちゃんもしてみる?」

591: ◆tdNJrUZxQg 2022/11/27(日) 15:52:28.89 ID:4KWPSfBf0

そう言いながら、歩夢がイーブイを抱きかかえて私のもとに運ぼうとすると、


 「ブイィ…」


イーブイはイヤイヤと首を振る。


歩夢「あ、あれ……?」

侑「歩夢の毛繕いがいいんだってー……」


全く、本当にどっちが“おや”なんだか……。


歩夢「じゃあ、もう少し……」


再び歩夢がブラシを握ると、


 「タマァ…」
歩夢「きゃ!? ど、どうしたの、タマザラシ?」


タマザラシが歩夢の腰辺りに身を摺り寄せていた。


侑「タマザラシも毛繕いしてほしいんじゃない?」

歩夢「えっと……今はイーブイにしてあげてるから」
 「タマァ…」

歩夢「ど、どうしよう……侑ちゃん……」


歩夢、相変わらずポケモンに大人気……。


侑「ほら、イーブイ。こっちおいで。もう十分してもらったでしょ?」

 「ブイ…」

侑「タマザラシと交替。歩夢のこと困らせたくないでしょ?」

 「…ブイ」


説得すると、イーブイは歩夢の膝から降り、私の隣まで来て腰を下ろす。

よしよし、こういうときにわがまま言わずに言うこと聞くなら、まだ“おや”としての威厳が保てている。……はず。


歩夢「それじゃ、タマザラシ、おいでー」
 「タマァ♪」

侑「タマザラシ、随分甘えん坊なんだね」

歩夢「群れからはぐれちゃった子だからってのはあるのかも……ラビフットやマホイップに比べると……」


確かにラビフットやマホイップはワシボンと一緒に遊んでいるし、あそこまで歩夢に甘えるって感じではないかもしれない。

ちなみに、ライボルトとサスケはすでに寝ている──ライボルトに関しては目を瞑っているだけかもしれないけど。

あともう1匹──ニャスパーは、


 「ニャァ…」

リナ『ずっと視線を感じてる』 || ╹ _ ╹ ||

侑「やっぱり、リナちゃんが気になるみたいだね、ニャスパー」


何故か、リナちゃんを目で追いかけていることが多い。

592: ◆tdNJrUZxQg 2022/11/27(日) 15:53:01.95 ID:4KWPSfBf0

歩夢「やっぱり、動くものが気になるのかな……?」

リナ『確かにネコポケモンは動く物体を追いかける習性がある。ここまで興味を持ち続けるのは珍しい気がするけど』 ||  ̄ ᇫ  ̄ ||

侑「ふーん……。……ねぇ、ニャスパー」

 「ニャァ?」

侑「もしかして、リナちゃんのこと好きなの?」

リナ『私、好かれてる? リナちゃんボード「テレテレ」』 ||,,╹ᨓ╹,,||

 「ニャァ」

侑「……ダメだ、全然わからない」


鳴いて相槌こそ打つものの、無表情すぎる。


侑「この子の“おや”だったら、わかるのかなぁ……?」

歩夢「早く、見つかるといいんだけどね……」

侑「そうだねぇ……」


まあ、今のところ手掛かりもない状態だからなぁ……。

すっかり髪も乾かし終わり、再びベッドに身を投げ出すと──


侑「……ふぁぁ」


あくびが出る。


侑「眠くなってきた……」

歩夢「ふふ。今日は朝からジム戦もしたから、そろそろ休もうか」

侑「そうだね……」


もぞもぞと動きなら、布団を被ると──


 「…ブイ」


イーブイが私のベッドを抜け出して、歩夢のいるベッドにぴょんと飛び移る。


歩夢「イーブイ、私と一緒に寝る?」
 「ブイ♪」

 「タマァ…」
歩夢「タマザラシも一緒に寝ようね~」
 「タマァ…♪」

侑「……」

リナ『侑さん、ドンマイ』 ||;◐ ◡ ◐ ||


全く……ホントに誰が“おや”なんだか……。

イーブイの歩夢ラブなところに内心呆れながらも、私は目を瞑る。

歩夢の言ったとおり、今日は朝からジム戦もあったし、疲れからか睡魔はすぐに訪れた。

おやすみなさい……また、明日も頑張ろう……。




593: ◆tdNJrUZxQg 2022/11/27(日) 15:53:33.78 ID:4KWPSfBf0

>レポート

 ここまでの ぼうけんを
 レポートに きろくしますか?

 ポケモンレポートに かきこんでいます
 でんげんを きらないでください...


【オハラ研究所】
 口================== 口
  ||.  |○         o             /||
  ||.  |⊂⊃                 _回/  ||
  ||.  |o|_____.    回     | ⊂⊃|  ||
  ||.  回____  |    | |     |__|  ̄   ||
  ||.  | |       回 __| |__/ :     ||
  ||.○⊂⊃      | ○        |‥・     ||
  ||.  | |.      | | ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄\     ||
  ||.  | |.      | |           |     ||
  ||.  | |____| |____    /      ||
  ||.  | ____ 回__o_.回‥‥‥ :o  ||
  ||.  | |      | |  _.    /      :   ||
  ||.  回     . |_回o |     |        :   ||
  ||.  | |          ̄    |.       :   ||
  ||.  | |        .__    \      :  .||
  ||.  | ○._  __|⊂⊃|___|.    :  .||
  ||.  |___回○__.回_  _|‥‥‥:  .||
  ||.       /.         回 .|     回  ||
  ||.    _/       ●‥| |  |        ||
  ||.  /             | |  |        ||
  ||. /              o回/         ||
 口==================口


 主人公 侑
 手持ち イーブイ♀ Lv.35 特性:てきおうりょく 性格:おくびょう 個性:とてもきちょうめん
      ワシボン♂ Lv.30 特性:はりきり 性格:やんちゃ 個性:あばれるのがすき
      ライボルト♂ Lv.31 特性:ひらいしん 性格:ゆうかん 個性:ものおとにびんかん
      ニャスパー♀ Lv.25 特性:マイペース 性格:きまぐれ 個性:しんぼうづよい
 バッジ 3個 図鑑 見つけた数:99匹 捕まえた数:4匹

 主人公 歩夢
 手持ち ラビフット♂ Lv.32 特性:リベロ 性格:わんぱく 個性:かけっこがすき
      アーボ♂ Lv.26 特性:だっぴ 性格:おとなしい 個性:たべるのがだいすき
      マホイップ♀ Lv.26 特性:スイートベール 性格:むじゃき 個性:こうきしんがつよい
      タマザラシ♀ Lv.20 特性:あついしぼう 性格:さみしがり 個性:ものおとにびんかん
 バッジ 1個 図鑑 見つけた数:126匹 捕まえた数:14匹


 侑と 歩夢は
 レポートに しっかり かきのこした!


...To be continued.




594: ◆tdNJrUZxQg 2022/11/27(日) 20:22:35.94 ID:4KWPSfBf0

 ■Intermission✨



──時刻は深夜を回り……みんなが寝静まった時間。


果南「……」

鞠莉「……さて、そろそろかしら」


果南と一緒に研究室で待ち続けていると──扉が開く。


鞠莉「ご苦労様、ポリゴン」
 「ポリ」


ポリゴンZは私からのお礼を受けると、恭しく頭を下げた後、持ち場へと戻っていく。


果南「……ホントにポリゴンZとは思えない律義さだ……」

鞠莉「まあ、ポリゴンZというか、ポリゴンZじゃないというか……」


まあ、それはいい……。目的はポリゴンZの観察じゃなくて──


リナ『博士、話ってなぁに?』 || ╹ᇫ╹ ||


そのポリゴンZが連れて来てくれた、リナと話すことだ。


リナ『部屋にいたら、急にポリゴンから通信が入ってびっくりした』 || ╹ᇫ╹ ||

鞠莉「とりあえず、こっちにいらっしゃい」

リナ『うん』 || ╹ ◡ ╹ ||


ふよふよと浮かぶリナを室内に迎える。


鞠莉「こうして3人で話すのも久しぶりかしらね……」

果南「もう……1年振りくらいかな?」

リナ『図鑑ボディに入ってから果南さんとは話してないし……それくらいになるかも』 || ╹ _ ╹ ||

鞠莉「組み込むのに結構手間取ったものねー……」

リナ『でもお陰で今はこんなに自由に喋れるし、動き回れる。ありがとう、博士』 ||,,> 𝅎 <,,||

鞠莉「どういたしまして。……それで、本題なんだけど……何か、変化はあった?」

リナ『……全然』 || ╹ _ ╹ ||

鞠莉「……まあ、そうよね」

リナ『どうすれば、他の部分にアクセス出来るかの見当もついてない』 ||  ̄ ᇫ  ̄ ||

鞠莉「何か外部刺激を受ければ変化があるかと思ったけど……やっぱり領域が連結されてないと、うまく読み込めないと考えるべきなのかしらね……」


まあ……ここまでは予想の範疇だ。……となると、打開策は──視線は果南へと移る。


果南「期待の視線を向けられてる中、申し訳ないけど、こっちも難航中だよ」

鞠莉「そうよね……わたしの方も全然手掛かりなし……」

果南「……そういえば……クロサワの入り江の裂け目って今どうなってるの? 何かの間違えで復活してたりとかしない?」

鞠莉「ずっと豆粒みたいなサイズだったけど、この間完全に閉じちゃったわ……何か変化があったら教えて欲しいとはルビィに言ってあるんだけど……」

595: ◆tdNJrUZxQg 2022/11/27(日) 20:23:32.63 ID:4KWPSfBf0

わたしも果南もリナも……それぞれの進捗は芳しくないと言ったところのようだ……。

とはいえ、


鞠莉「手掛かりなしのまま足踏みしてるわけにもいかない……とは思ってる」

果南「……まあ、やっぱり気になるしね」

鞠莉「大した理由がないならそれでもいいけど……わたしにはどうしても、もっと何か大切な意味があるって気がするから……」


あの日、リナと出会ったときのことを思い出す。

最初はたった9文字の信号でしかなかった──『・・・---・・・』。

あくまで直感でしかないと言われれば、それまでかもしれない。でも……それでも……わたしはこの信号にただならぬ何かを感じた。

少なくとも──意思を持った存在から送られた信号であったことには間違いなかったからだ。


リナ『そういえば、博士』 || ╹ᇫ╹ ||

鞠莉「なにかしら?」

リナ『私……侑さんと旅する予定じゃなかったの?』 || ╹ᇫ╹ ||

鞠莉「ああ、そのこと……。……ええ、本来は千歌か善子と一緒に行動してもらうつもりだったわ。何かの手違いというか……善子が一度もあなたを起動もせずに、侑に渡しちゃったのは予想外だったけど」

リナ『そうなんだ……今からでも、千歌さんか善子さんの場所に行った方がいい……?』 || 𝅝• _ • ||

鞠莉「……いいえ、侑の傍にいてくれればいいわ。リナも侑のこと、気に入ってるんでしょう?」

リナ『うん……! 侑さん優しいし、一緒にいるといろんな経験が出来て楽しい……!』 ||,,> ◡ <,,||

鞠莉「なら、それでいい。侑のこと、サポートしてあげて」

リナ『わかった!』 ||,,> ◡ <,,||


……それに、今は何やらキナ臭いことが起こっているという噂も耳にしている。

実力者への襲撃……。リナの存在が……もし、この襲撃に関与しているのだとしたら、千歌や善子みたいな、名前が知れ渡っている人間の傍に置いておくよりも、侑の傍の方が安全かもしれないし……。


鞠莉「……何より、リナが居たい場所に居られる方がいいものね」

果南「……ふふ。……かもね」


私が漏らした小さな呟きに果南が小さく笑うのだった──


………………
…………
……



597: ◆tdNJrUZxQg 2022/11/28(月) 12:12:58.32 ID:9EuEq8f90

■Chapter031 『悠揚の町・ウラノホシタウン』 【SIDE Yu】





侑・歩夢「「──お世話になりました」」


──翌日、私たちは鞠莉博士に見送られる形で、オハラ研究所を後にするところだった。


侑「興味深いお話、たくさん聞かせてくれてありがとうございます!」

鞠莉「また、いつでも遊びに来て頂戴ね」

歩夢「はい!」

鞠莉「それと侑。リナのこと、よろしくね」

侑「はい!」

リナ『博士、行ってきます!』 ||,,> ◡ <,,||

鞠莉「侑、歩夢、リナ──Good luck! 良い旅を」


博士が手を振りながら、私たちを送り出してくれる。


侑「それじゃ、行こうか……!」
 「ブイ」

歩夢「うん」

リナ『リナちゃんボード「レッツゴー!」』 ||,,> ◡ <,,||





    🎹    🎹    🎹





──アワシマから船に揺られること、数十分。


侑「やっぱいいなぁ、船旅……! 気に入っちゃったよ♪」
 「ブイ」


苦手な人は苦手らしいけど、風が気持ちいいし、この独特の揺れも非日常感がして、私は嫌いじゃない。


歩夢「ふふ、今回は乗船時間が長くてよかったね、侑ちゃん」

侑「うん!」


ご機嫌な船旅で私たちが目指す先は──ウラノホシタウンだ。

本数は少ないものの、アワシマからウラノホシの南端の港を行き来する船があって、今はそれでウラノホシタウンへと移動中ということだ。

船着き場からすでに島が見えているウチウラシティとは違って、ウラノホシタウンの港は岬を迂回するため、少し時間が掛かる。

私としては、お陰で船旅が満喫出来て嬉しい。


歩夢「あ、見て侑ちゃん! あそこ……入江の洞窟になってるよ!」

侑「え、ホント?」


今まさに、迂回しようとしている岬の下には──歩夢の言うとおり、洞窟の口がぽっかりと口を開けていた。


侑「うわぁ~! すっごい! こんなの写真でしか見たことなかったよ!」

歩夢「うん!」

598: ◆tdNJrUZxQg 2022/11/28(月) 12:13:47.75 ID:9EuEq8f90

実際に目の当たりにすると、小舟くらいだったら飲み込んでしまいそうな大きさの洞窟が海にせり出してきている様子は圧巻だった。

そんな自然の作り出す光景を目の当たりにして、歩夢と二人で興奮してしまう。


リナ『あそこはクロサワの入江だよ』 || ╹ ◡ ╹ ||

侑「クロサワ? ってことは……」

リナ『うん、ルビィさんやダイヤさんの一族が管理してる場所なんだよ。入江の洞窟内は、メレシーってポケモンがキラキラ輝いてて、オトノキ地方に3つある、夜の虹の1つって言われてる』 || ╹ ◡ ╹ ||

歩夢「あ、オトノキの3つの夜の虹って、聞いたことあるよ! 大樹・音ノ木、クロサワの入江、クリスタルケイヴのことだよね」

リナ『歩夢さん、大正解! リナちゃんボード「ぴんぽーん!」』 ||,,> ◡ <,,||

侑「夜の虹……! なんかもう響きだけで、ときめいてきちゃう! 私、見に行きたい!」

リナ『残念だけど、今は一般開放はされてない……』 ||  ̄ ᇫ  ̄ ||

侑「え、そうなの……?」

歩夢「3年前のグレイブ団事変のときに、戦いの場になったらしくって……それ以来は、調査以外では立ち入り出来ないんだったよね」

リナ『うん。洞窟内部もかなり崩れちゃったところもあるらしいし……関係者じゃないと中に入るのは難しい』 ||  ̄ ᇫ  ̄ ||

侑「そっかぁ……」


せっかく名所の近くに来たのに、見られないのは残念……。でもまあ、入れないなら仕方ないか……。


侑「じゃあせめて、ウラノホシタウンは満喫するぞー!」

リナ『ウラノホシは温泉旅館が有名だから、のんびり過ごせると思うよ』 || ╹ ◡ ╹ ||

歩夢「ウラノホシの旅館はご飯もおいしいって話だよ」

侑「おいしいご飯……今から楽しみ……!」


なんだかここ数日、おいしいものを食べてばっかりな気はするけど……でも、各地のおいしいご飯も旅の醍醐味だよね……!


歩夢「ポケモン用のご飯を作ってくれる場所も多いみたいだから、着いたらみんなで食べようね♪」
 「シャボ♪」「ブイブイ♪」


ポケモンたちもご機嫌な様子。

私たちはわくわくしながら──船は間もなく、ウラノホシの南の港へと到着します……!





    🎀    🎀    🎀





──港で船から降り、船着き場を抜けると……すぐに緑の溢れる景色が見えてきた。


歩夢「自然豊かな町なんだよね、ウラノホシは」

リナ『うん。木々と海に囲まれた町で、すごく穏やかなところだと思う。悠揚の町なんて呼ばれ方をすることもあるよ』 || ╹ ◡ ╹ ||

歩夢「悠揚の町……本当にゆっくり過ごせそうだね」

リナ『そうだね。温泉旅館も多いから、ここに来る人の大半はのんびりとした休暇を取りに訪れることが多いみたい』 || ╹ ◡ ╹ ||

歩夢「最近、バトルも多かったから……ポケモンたちと一緒に今日くらいはゆっくりしたいなぁ。侑ちゃんはどうする?」

侑「……」

歩夢「……侑ちゃん?」


侑ちゃんの方を見ると──何故か、侑ちゃんがぷるぷると震えている。

599: ◆tdNJrUZxQg 2022/11/28(月) 12:14:53.31 ID:9EuEq8f90

侑「……こ」

歩夢「……こ?」

侑「……ここが……チャンピオンの生まれ育った町なんだぁ……!」


侑ちゃんはぱぁーっと目を輝かせて、周囲をキョロキョロし始める。


歩夢「侑ちゃん……。千歌さんのこともいいけど、少しは町の雰囲気を楽しもうよー……」

リナ『侑さんはいつもどおりだね』 ||  ̄ ᇫ  ̄ ||

侑「いや、楽しんでるよ! この自然溢れる町で、千歌さんは日々鍛錬に励んでたんだって思うだけで、あちこちが輝いて見えるよ……! この海で遠泳とか砂浜ダッシュとかしてたのかな……!」

歩夢「いや……鍛錬は旅しながらしてたんじゃ……」

リナ『侑さん、楽しそう』 || ╹ ◡ ╹ ||


侑ちゃんったら相変わらず、好きなもののことになると、周りが見えなくなる子なんだから……。

少し呆れ気味に──でも、そんなところも可愛いなと思いながら、侑ちゃんのことを眺めていた、そのとき、


 「──……侑さ~ん! ……歩夢さ~ん! ……リナさ~ん!」


近くの砂浜の方から、私たちを呼ぶ声が聞こえてきた。


リナ『呼ばれてる?』 || ╹ᇫ╹ ||

歩夢「あれ、この声……」

侑「もしかして……!」
 「ブイ」


声のする方に目を向けると──黒髪のストレートロングを右側で一房括った髪型の少女が、ウインディと並走しながら、こちらに向かってくる。

あの子は……。


侑「せつ菜ちゃん!?」

せつ菜「……はい! こんなところでお会い出来るなんて……!」

歩夢「カーテンクリフ以来だね……! せつ菜ちゃん!」

せつ菜「そうですね! 砂浜ダッシュをしていたら、遠くに侑さんたちが見えて……! またお会いできて嬉しいです!」

リナ『せつ菜さんはなんで、ここで砂浜ダッシュしてたの?』 || ╹ᇫ╹ ||

せつ菜「それはもちろん、ここはチャンピオンである千歌さんの出生の地……! きっと、彼女もこの大自然の中で、日々鍛錬を積んでいたに違いありませんから! 私もそれに倣って、ポケモンたちと鍛錬をしているところだったんです!」

侑「……! せつ菜ちゃんもそう思う!? やっぱり、そうだよね!」

せつ菜「はい……!! こうして、ここで修行すれば、千歌さんの強さの秘訣がわかるかもしれませんし!」

侑「うんうん!」

歩夢「いや、だから……それはたぶん、旅の道中で……」

リナ『歩夢さん、ファイト』 || ╹ ◡ ╹ ||


侑ちゃんと同じようなことを考えている人がまた一人……あれ、私がおかしいのかな……?


せつ菜「それはそうと、侑さん、歩夢さん、旅の方は順調ですか?」

侑「あ、うん! せつ菜ちゃんと別れた後いろいろあったけど……」

歩夢「ダリア、コメコ、ホシゾラ、ウチウラと進んできて、さっきアワシマから船でここに到着したところなんだよ」

せつ菜「そうだったんですね!」

侑「ジムバッジもほら……!」

600: ◆tdNJrUZxQg 2022/11/28(月) 12:15:35.78 ID:9EuEq8f90

侑ちゃんがせつ菜ちゃんにバッジケースを開いて見せる。


せつ菜「おぉ! もうバッジが3つも……! つい数日前に旅に出たばかりだというのに……これは、私たちもウカウカしていられませんね!」
 「ワォン」

せつ菜「侑さんが頑張っているのを聞いたら、なんだか燃えてきました……! ウインディ! もう一本、砂浜ダッシュ行きますよ!」
 「ワォン!!」

侑「あ、なら私も一緒にやってもいい!?」

せつ菜「是非是非!! 侑さんもポケモンたちと一緒に汗を流しましょう!」

歩夢「ストップ! ストーーップ!!」


今にも走り出そうとする侑ちゃんたちを制止する。


歩夢「さ、先に今日泊まる場所見つけよ? ね?」

リナ『確かに宿を確保してからの方がいいと思う』 || ╹ᇫ╹ ||

侑「……それはそうかも」


どうにか納得してもらえてホッとする。

今のこの二人の熱量だと、それこそウラノホシで過ごす時間のほとんどがトレーニングになっちゃいそうだし……。


せつ菜「確かに……まだ宿をお決めになっていないなら、そっちを優先した方がいいですね……」

侑「あ……! せっかく宿を探すなら、せつ菜ちゃんも一緒に泊まらない!? いいよね、歩夢?」

歩夢「うん、私は構わないけど」

せつ菜「ホントですか!? 是非……! ……と、言いたいところなんですが……実は明日の朝までには、一度ローズの方に帰らなくてはいけなくて……」

リナ『そうなの?』 || ╹ᇫ╹ ||

せつ菜「はい……皆さんとご一緒したいのはやまやまなんですが……外せない用事があるので」

侑「そうなんだ……残念……」

せつ菜「ただ、夜までは滞在しているつもりなので……! それまで、ご一緒させてもらってもいいでしょうか?」

侑「それはもちろん! ね、歩夢?」

歩夢「うん♪」


それには異論はないかな。私もせっかく会えたんだから、せつ菜ちゃんとお話ししたい気持ちもあるし。


せつ菜「それでは、まずは侑さんたちの宿を見つけるところからですね……! あ、そうだ!」


せつ菜ちゃんが何かを思いついたかのように、ポンと両手を叩く。


せつ菜「もしよかったら、千歌さんのご実家の旅館にご案内しますよ!」

侑「え!? 千歌さんの実家……!?」

せつ菜「はい! 千歌さんのお家は温泉旅館を営んでいるんですよ!」

侑「そうなの……!?」

せつ菜「ただ、素敵な旅館はたくさんあるので、それ以外の場所を探すのもありだと思いますが──」

侑「うぅん! そこ! 絶対そこに泊まりたい! いいよね、歩夢!?」

歩夢「ふふ、いいよ♪ じゃあ、せつ菜ちゃん、そこに案内してもらってもいい?」

せつ菜「はい、お任せください! こちらです!」


私たちは、せつ菜ちゃんに案内される形で、千歌さんのご実家の旅館目指して歩き始めた。




601: ◆tdNJrUZxQg 2022/11/28(月) 12:16:22.81 ID:9EuEq8f90

    🎹    🎹    🎹





侑「──ここが千歌さんの育った家なんだぁ……」
 「ブイ」


訪れた旅館は、木造の大きな旅館だった。


せつ菜「チャンピオンのご実家というだけあって、ウラノホシの旅館の中でも人気なんですよ」

リナ『なら、なくなる前に部屋を確保しないとだね』 || ╹ ◡ ╹ ||

せつ菜「ですね。侑さん、歩夢さん、中に入りましょう」

歩夢「はーい」

侑「う、うん」


ちょっと緊張する。


引き戸を開けて、中に入ると──外観からも見てわかるとおり、和風の造りになっている館内。そして、そんな館内の受付に立っている妙齢の女性が一人。


女性「あら……? せつ菜ちゃん! いらっしゃい♪」

せつ菜「こんにちは、志満さん!」


どうやら、この人は志満さんというらしい。


志満「また泊まりに来てくれたの?」

せつ菜「いえ……私は日帰りなので……。ただ、友達が是非ここに泊まりたいとのことなので、案内していたんです」

志満「あら、そうだったのね。ありがとう、せつ菜ちゃん」


志満さんはせつ菜ちゃんにふわりと笑いかけたあと、


志満「ようこそ、お越しくださいました。旅館トチマンへようこそ」


綺麗なお辞儀と共に私たちを迎えてくれる。


志満「一部屋でよろしいですか?」

侑「は、はい! よろしくお願いします!」

歩夢「お世話になります」

志満「かしこまりました、少々お待ちくださいね」


志満さんは、そう言うと手続きを始める。よかった……部屋、まだ残っていたみたいだ。

そんな中、せつ菜ちゃんが、


せつ菜「こちらの志満さん、千歌さんのお姉さんなんですよ」


と、耳打ちしてくる。


侑「ええっ!? ち、千歌さんの……!?」

志満「あら……? もしかして、千歌ちゃんのファンの子かしら?」

侑「は、ははは、はい!!」

志満「妹のこと、応援してくれて嬉しいわ♪ 千歌ちゃんがいたら、お部屋への案内とかを任せたんだけど……最近、あんまり帰ってこなくて……ごめんなさいね」

侑「い、いえっ!? お構いなくっ!?」

602: ◆tdNJrUZxQg 2022/11/28(月) 12:17:19.80 ID:9EuEq8f90

千歌さんに、案内なんてしてもらったら、申し訳なくて逆にいたたまれなくなっちゃうよ……!?


志満「それでは、こちらに宿泊者のお名前と連絡先をいただけますか?」

侑「は、はーい」


渡された用紙に、必要事項を書いて渡す。


志満「タカサキ・侑ちゃんとウエハラ・歩夢ちゃんね。一緒に泊まるポケモンは4匹ずつの計8匹で大丈夫?」

侑「は、はい!」

志満「かしこまりました。それではお部屋にご案内しますね」

歩夢「はい、お願いします」

侑「よ、よろしくお願いします!」

志満「ふふ、侑ちゃん。あんまり緊張しなくていいのよ。千歌ちゃんはチャンピオンだけど、ここは普通の旅館だから」


私があまりに緊張しているように見えたのか、志満さんがクスリと笑う。


侑「は、はい……」

歩夢「ふふっ♪」


ついでに歩夢にも笑われてしまった。……だってあの千歌さんのお家なんだし……緊張くらいするよ……。


せつ菜「それでは、私は待合ロビーで待っていますので」

侑「あ、うん! 荷物置いたらすぐ戻ってくるね!」

歩夢「ちょっと待っててね、せつ菜ちゃん」


私たちは、志満さんに部屋まで案内してもらう。

その際、


歩夢「侑ちゃん、そういえばさ……」


歩夢が耳打ちをしてくる。


侑「も、もう緊張してないけど……?」

歩夢「えっと……そうじゃなくてね。千歌さんのこと」

侑「千歌さんのこと?」

歩夢「うん。せつ菜ちゃん、千歌さんのこと探してるみたいだけど……千歌さんのいる場所ってコメコの森だよね?」

侑「ああ……」


確かに、しばらくあそこに滞在しているみたいだし、コメコの森のロッジに行けば会える可能性はかなり高い。けど……。


侑「千歌さん、かなり忙しそうだったし……なんか、あんまり大っぴらにあそこにいるよって言わない方がいい感じだったよね……」


詳細はわからないけど……なんか、言えないことが多い仕事をしているっぽかったし……。


歩夢「……だよね。侑ちゃんならそう言うと思った。じゃあ、せつ菜ちゃんに悪いけど……千歌さんのことは内緒にしようね。リナちゃんも」

リナ『了解』 || ╹ ◡ ╹ ||

603: ◆tdNJrUZxQg 2022/11/28(月) 12:18:10.82 ID:9EuEq8f90

なるほど、これの確認がしておきたかったってことね。

まあ、確かにある程度示し合わせておかないと、誰かがぽろっと言っちゃうかもしれないしね。

内緒話をしていると、志満さんがとある部屋の前で足を止める。

どうやら、話している間に部屋に着いたようだった。


志満「こちらがお二人のお部屋です。ごゆっくりお過ごしください」

侑「はい、ありがとうございます」

歩夢「お世話になります」


案内してくれた志満さんにお礼を言うと、志満さんは柔らかく笑ってから、「くつろいでいってね」と言葉を残して、フロントの方へと戻っていった。


侑「それじゃ、私たちも早く荷物置いて、戻ろっか」

歩夢「うん、そうだね」


せつ菜ちゃんをいつまでも待たせちゃいけないからね!





    🎹    🎹    🎹





侑「──じゃあ、せつ菜ちゃんはよくこの町に来るんだ」

せつ菜「はい! 今回でもう何度目かわからないくらいですね!」


せつ菜ちゃん曰く、この町には頻繁に足を運んでいるようだった。

そんな私たちの会話が聞こえたのか、受付カウンターにいる志満さんから「いつもご贔屓にしてくれてありがとうね♪」との声が。

志満さんが千歌さんのお姉さんだと言うのはさっき聞かされたことだけど、千歌さんにはもう一人お姉さんがいるらしく、名前は美渡さん。

千歌さんは三姉妹の末っ子らしく、次女が美渡さんで、長女が志満さんだそうだ。


侑「それにしても……千歌さんにお姉さんが二人もいたなんて……」

歩夢「ふふ♪ 侑ちゃんはトレーナーとしての部分以外には、なかなか興味が向かないところがあるからね」

侑「わ、笑うことないじゃん……」


確かに歩夢が言うとおり、千歌さんのバトルの腕にばかり目が行っていて、家族についてなんて全然考えたことなかったけど……。


せつ菜「確かにポケモントレーナーとしてだと、千歌さんは突出していますよね。ですが、志満さんもコーディネーターとしては有名な方らしいですよ!」

歩夢「コーディネーターって、ポケモンコンテストの?」

せつ菜「はい! なんでも、現コンテストクイーンのことりさんとはライバル関係だったとか」

侑「ことりさんと……!」


私たちにとって馴染み深い名前が出てきて反応してしまう。まさか、千歌さんのお姉さんがことりさんとライバルだったなんて……世間って思ったより狭いんだなぁ……。


侑「そういえば……せつ菜ちゃんがこの町によく来るのって……」

せつ菜「もちろん、千歌さんにお手合わせをお願いするためです! って、言っても……空振りになっちゃうことも多いんですけどね、あはは」

志満「──千歌ちゃん、本当にたまにしか帰ってこないんだもの……」


私たちが会話をしていると、いつの間にか志満さんがお茶を載せたお盆をこちらに運んで来てくれていた。

604: ◆tdNJrUZxQg 2022/11/28(月) 12:19:05.58 ID:9EuEq8f90

志満「よかったら、お茶菓子もどうぞ。ポケモンちゃんたちにも♪」

 「ブイブイ♪」「シャーボ」

歩夢「あ、ありがとうございます」

侑「お、お気遣いなく~……!」

志満「ふふ、お客様なんだから気遣いますよ」


……確かに。


せつ菜「私までいただいてしまっていいんですか……?」

志満「もちろん♪ お得意様ですから♪」

せつ菜「ありがとうございます。お言葉に甘えていただきますね」

志満「ええ。それじゃ、ごゆっくり」


志満さんはまた柔和な笑みを浮かべてから、パタパタと奥の方へと消えていく。


リナ『せつ菜さん、志満さんからすごく気に入られてるんだね!』 || > ◡ < ||

せつ菜「本当に何度も千歌さんを訪ねて来ていますからね。……本人に会えたのは数回ですが……」

リナ『千歌さんに会ってどうするの?』 || ╹ᇫ╹ ||

せつ菜「それはもちろん、バトルです! 千歌さんはお優しい方なので、チャンピオンでありながら、野良試合をほとんど断らないことでも有名なんですよ」

侑「そうなんだ……!」


じゃあ、私も千歌さんが帰ってくるのを待っていたら、バトルしてもらえたのかな? ……って、言っても今の私じゃ、全然歯が立たないだろうけど。


せつ菜「もちろん、公式戦ではないので、それで千歌さんに勝ってもチャンピオンの称号などは貰えませんが……。……と言っても、勝てたことはないんですけどね」


せつ菜ちゃんは自嘲気味に言う。


侑「で、でも……! せつ菜ちゃんは千歌さんに負けないくらい強いトレーナーだと私は思ってるよ……!」

せつ菜「ありがとうございます、侑さん。……ですが、千歌さんと実際に戦ってみるとわかるんです。私はまだまだだなと……。……もちろん、いつかは超えたいと思っていますが……!」

リナ『どうして、そこまで千歌さんに拘るの?』 || ╹ᇫ╹ ||

せつ菜「それはもちろん──チャンピオンを目指しているからです!」


リナちゃんの言葉に迷いなく答えるせつ菜ちゃん。


侑「かっこいい……!」


堂々と言い切るせつ菜ちゃんに思わずときめいてしまう。

うん、そうなんだよ……! 実力ももちろんだけど、この堂々とした言動、立ち振る舞いがせつ菜ちゃんの魅力なんだ……!


歩夢「それじゃ、こうして千歌さんを何度も訪ねてるのは……」


歩夢が、サスケとイーブイに貰ったお菓子を食べさせてあげながら、せつ菜ちゃんに訊ねると、


せつ菜「はい。少しでも……彼女の強さに迫るためです」


せつ菜ちゃんは力強く頷きながら、そう答える。


せつ菜「私は……強くならなきゃいけないんです。強くなって、証明したい」

侑「証明……?」

605: ◆tdNJrUZxQg 2022/11/28(月) 12:19:56.61 ID:9EuEq8f90

──証明。その言葉に首を傾げる。どういう意味だろうか。


せつ菜「あ、すみません。これだけ言われても、何を証明したいのか、よくわからないですよね。えっとですね……」


せつ菜ちゃんはそう言いながら、何故か浮遊するリナちゃんに視線を向ける。


リナ『?』 || ╹ _ ╹ ||

せつ菜「……歴代のチャンピオンと言われる人には共通点があるんです」

歩夢「共通点?」

せつ菜「はい。このオトノキ地方の歴代チャンピオンは──全員がポケモン図鑑の所有者なんです」


それは初耳だ。


侑「そうなの……?」


思わず、私もリナちゃんの方を見て確認してしまう。

すると、


リナ『確かに歴史上、この地方のチャンピオンは最初のパートナーポケモンとポケモン図鑑を貰って旅に出た人しかいないみたいだね』 || ╹ᇫ╹ ||


との回答が返ってくる。せつ菜ちゃんの言う共通点というのは、事実らしい。


せつ菜「もちろん、それをずるいとは思いませんし、ポケモン図鑑やパートナーポケモンの有無が、トレーナーの強さに直結するとも思いません。実際に図鑑とパートナーを貰って旅に出るトレーナーはそれ相応の才能を認められて選ばれるものですから」

リナ『図鑑を貰う人はそもそも強くなる素質を認められて選ばれることも少なくないからね。図鑑所有者がチャンピオンになるのは、ある意味道理なのかも』 ||  ̄ ᨈ  ̄ ||

せつ菜「そうですね。……ですが、この地方にはたくさんのトレーナーがいます。その誰も彼もがポケモン図鑑と最初のパートナーを手にするチャンスがあるわけではありません」


せつ菜ちゃんは、一息吸ってから、


せつ菜「だから私は……そんなポケモン図鑑や最初のパートナーを持つ資格を得られなかった人間でも、最強の称号を手に入れられるんだと……証明したい」


そう言葉にする。はっきりと。

……ただ、その余韻のように、


せつ菜「──……そうじゃないと……私は……存在出来ないから……」


消え入るような声で、せつ菜ちゃんはそう漏らした。


侑「……え?」

せつ菜「……あ、す、すみません! 最後のは無しで……!」

侑「えっと……」


少し動揺してしまう。存在出来ないって……。


せつ菜「それくらい、私にとって強くなることは、重要だということですよ!」

リナ『それがせつ菜さんの、レゾンデートルなんだね』 || ╹ ◡ ╹ ||

侑「レゾン……?」

歩夢「存在理由って意味だよ、侑ちゃん」

侑「なるほど」

606: ◆tdNJrUZxQg 2022/11/28(月) 12:20:29.98 ID:9EuEq8f90

それくらい、せつ菜ちゃんは強くなることにひたむきなんだ……。

そのひたむきさに胸を打たれたからか、


侑「きっと……なれるよ、チャンピオン……!」


私は自然とそう口にしていた。


せつ菜「侑さん……」

侑「わ、私が言っても……生意気に聞こえるかもしれないけど……」

せつ菜「いえ……嬉しいです! 応援してくれる侑さんのためにも、何が何でもチャンピオンにならなくてはなりませんね!」


せつ菜ちゃんはそう言いながら立ち上がって、


せつ菜「そうとなったら、もっと鍛えなくてはいけませんね……!! なんだか、やる気が湧いてきました……!!」


嬉しそうに笑う。

よかった。少しでもせつ菜ちゃんの背中を押せたんだったら、嬉しいな。


せつ菜「この気持ちがあるうちにもうひとっ走り……! と、行きたいところですが……」


せつ菜ちゃんが壁掛け時計の方に目を向ける。釣られて私も時間を確認すると──もう夕方と言っても差し支えない時刻になっていた。


せつ菜「名残惜しいですが……私はそろそろ、帰らないといけませんね……」

侑「もう、こんな時間……」

歩夢「ふふ、侑ちゃん、夢中でお話ししてたもんね」

せつ菜「あ……す、すみません、バトルのお話しばかりで……歩夢さん、退屈ではありませんでしたか?」

歩夢「うぅん! 全然退屈なんかじゃなかったよ! 私もせつ菜ちゃんのバトルのお話、聞いてみたかったから」

侑「歩夢も、あれからバトルをするようになったし、強くなったんだよ! ね?」

歩夢「そ、そんなに言うほどじゃないけど……うん、今はバトルの魅力もわかってきたと思う」

せつ菜「そうですか……! それはいいことですね! ……では、いつか歩夢さんとも、バトル出来る日が来るということですね!」

歩夢「え、えぇ……!? せ、せつ菜ちゃんとバトル出来るくらいになるまでだと……すっごい時間掛かっちゃうかも……」

せつ菜「大丈夫です! 歩夢さんが強くなるまで、チャンピオンとして待っていますから! もちろん、侑さんのこともですよ!」

リナ『まだチャンピオンになってないのに気が早い』 ||  ̄ ᇫ  ̄ ||

せつ菜「ふふ♪ そうですね♪」

侑「あはは♪」

歩夢「ふふ♪」


思わず3人で顔を見合わせて笑ってしまう。


せつ菜「いつか──最高の舞台でお会いしましょう!」


せつ菜ちゃんはそう言って、最高の笑顔を見せてくれるのだった。




607: ◆tdNJrUZxQg 2022/11/28(月) 12:21:07.06 ID:9EuEq8f90

    🎹    🎹    🎹





せつ菜「──お見送り、ありがとうございます」

侑「もっと話したかったなぁ……」
 「ブイ」

せつ菜「ふふ、きっとまたどこかで会えますよ」

侑「……うん。そうだね!」


こうしてウラノホシタウンで会えたんだから、またどこかで偶然会うこともあるよね!


歩夢「もう日も落ちちゃったね……暗いから気を付けて帰ってね」

せつ菜「お気遣いありがとうございます。ですが、帰りは“そらをとぶ”でひとっとびなので、ご安心を!」


せつ菜ちゃんはそう言いながら、ボールからポケモンを外に出す。


 「ムドー!!」

侑「わぁ! せつ菜ちゃんのエアームド!」

せつ菜「さすが侑さん、ご存じでしたか」

侑「うん! 攻守隙の無いせつ菜ちゃんのエアームド……大好きなんだ……!」

せつ菜「ふふ、ありがとうございます。エアームド、褒められていますよ」
 「ムド」


せつ菜ちゃんの言葉を聞いて、エアームドはペコリとお辞儀をする。


侑「礼儀正しい……!」

せつ菜「ふふ、頭のいい子なので」

歩夢「……あ、そうだ!」

せつ菜「?」


歩夢は何かを思い出したらしく、バッグの中から、紙と袋を取り出す。


歩夢「これ、せつ菜ちゃんに」

せつ菜「これは……?」


せつ菜ちゃんが紙を開く。

608: ◆tdNJrUZxQg 2022/11/28(月) 12:21:53.67 ID:9EuEq8f90

せつ菜「『ウインディ:からいポフィン(赤)』『スターミー:あまいポフィン(桃)』……これは……メモ、ですか?」

歩夢「うん♪ 私が作ったポケモンのお菓子だよ! せつ菜ちゃんのポケモンの好みに合わせて作ってあるから!」

せつ菜「え? 私の手持ちの好みにですか……?」

歩夢「うん! 前にせつ菜ちゃんが試合で出してた5匹しかわからなかったけど……」

せつ菜「バトルを見ただけで私の手持ちの好みがわかったんですか……?」

歩夢「? うん。好きな色の“ポフィン”がメモに書いてあるから、そのとおりに食べさせてあげてね!」

せつ菜「わかりました! ありがとうございます!」

歩夢「絶対メモのとおりにあげてね」

せつ菜「? はい!」

歩夢「人が作ったものを勝手にアレンジとかしちゃだめだよ? 絶対に、書かれたとおりに、食べさせてあげてね」

せつ菜「は、はい……な、なんだか、ちょっと圧が強いですけど……承知しました!」

歩夢「うん」

リナ『歩夢さん。きっと、ウインディたちも泣いて喜ぶ』 ||  ̄ ᨈ  ̄ ;||

侑「?」


いつになく歩夢がぐいぐい行ってるけど……そんなに会心の出来だったのかな?

まあ、せっかく作ったのなら、好きな味のものを食べて欲しいもんね。


せつ菜「さて……」


せつ菜ちゃんがエアームドの背に飛び乗る。


せつ菜「またどこかでお会いしましょう!」

侑「うん! またね! せつ菜ちゃん!」
 「ブイブイ!!」

歩夢「案内してくれてありがとう!」

リナ『次会えるとき、楽しみにしてる』 || ╹ ◡ ╹ ||

せつ菜「はい! それでは──エアームド、行きますよ!」
 「ムドーー!!!」


エアームドが鋼鉄の翼を羽ばたかせ、一気に飛翔する。


侑「ばいばーい!」

歩夢「またねー!」


手を振って見送る中、暗闇を切り裂く鋼の翼は、ぐんぐんと遠ざかり──すぐに見えなくなった。


侑「やっぱせつ菜ちゃんのエアームド、速いなぁ……」

リナ『すごくよく育てられてる証拠』 || ╹ ◡ ╹ ||


やっぱり、せつ菜ちゃんとそのポケモンたちはすごいんだって、感じちゃうなぁ。

そんなせつ菜ちゃんに追い付けるように。


侑「よし、私も頑張るぞ……!」


一人気合いを入れる。


歩夢「ふふ♪」

609: ◆tdNJrUZxQg 2022/11/28(月) 12:22:36.52 ID:9EuEq8f90

そんな私を見て、歩夢が微笑ましそうに笑う。

ふいに──潮の香りを孕んだ、夜風が吹き抜ける。


歩夢「……風、気持ちいいね」

侑「うん、そうだね」


これだけ自然豊かだからだろうか。空気がおいしくて、こうした何気ない風も、心地がいい。

旅館に戻る前に、もう少し外の空気を感じていたいなと思った。

どうやら、歩夢も同じことを考えていたらしく、


歩夢「侑ちゃん、少し……歩かない?」

侑「うん、そうだね」


私たちは少しだけ、夜道を散歩をすることにした。





    🎹    🎹    🎹





 「──ブイ、ブイ」

侑「イーブイー! あんま遠く行っちゃダメだよー!」


夜の砂浜を無邪気に駆け出すイーブイに声を掛けながら、私は歩夢とのんびり砂を踏みしめる。


歩夢「夜の海って……綺麗だね」

侑「そうだね……」


夜の水面は、昼のような澄んだ青さこそないものの──真っ暗な境界面に星や月の光を反射して、まるでもう一つ夜空がそこにあるかのような、幻想的な風景を作り出している。

きっと、こんな景色も……旅に出なかったら、見ることはなかったんだ。


侑「歩夢」

歩夢「なぁに?」

侑「私と旅に出てくれて、ありがとう」

歩夢「ふふ。どうしたの、急に?」

侑「歩夢が居てくれたから、私はこうして旅が出来てるんだって思ったら……お礼言いたくなっちゃった」

歩夢「もう……お礼を言いたいのはそれこそ私の方だよ。一緒に旅してくれてありがとう、侑ちゃん」

侑「……あはは♪」

歩夢「うふふ♪」


お互いお礼を言い合っているのがなんだか可笑しくって、今度は二人で顔を見合わせて笑ってしまう。


リナ『二人だけ、ずるい』 ||,,╹ᨓ╹,,||

侑「もちろん、リナちゃんも! いつもありがとう!」

歩夢「リナちゃんがいっぱいサポートしてくれるから、楽しい冒険が出来てるよ♪」

リナ『うん!』 ||,,> ◡ <,,||


セキレイから始まって、ダリア、コメコ、ホシゾラ、ウチウラ……そしてウラノホシと進んできた。

610: ◆tdNJrUZxQg 2022/11/28(月) 12:23:21.07 ID:9EuEq8f90

侑「ここまで……いろんなものを見てきたね」

歩夢「うん。短い間にいろいろあったね」

侑「力を合わせて進んだり……」

歩夢「ケンカもしちゃったね」

侑「そうだね……」

歩夢「でも……今になってみたら、ああやってケンカして、思ってることを言い合えたから、もっと侑ちゃんのこと、理解出来た気がする」


そう言いながら、歩夢は私の手を握ってくる。

だから、私も歩夢の手を握り返す。


歩夢「侑ちゃんと一緒に旅に出られて……よかった」

侑「歩夢……」


なんだか、胸があたたかかった。

空は暗闇の中に浮かぶ星と月だけで、お日様はとっくに沈んでしまっているのに、歩夢の言葉を聞いていると、ぽかぽかとお日様に照らされているような、あたたかさを感じる。


侑「……歩夢はお日様みたいだね」

歩夢「え?」

侑「いつも私の心を、あったかい太陽みたいに照らしてくれる」

歩夢「ええ……? それなら、太陽は侑ちゃんの方だよ! 侑ちゃんの隣にいると、すっごくあったかいもん……侑ちゃんの手も……」

侑「歩夢の手の方があったかいよ。だから、やっぱり太陽は歩夢の方だよ」

歩夢「えー? 侑ちゃんの方があったかいよ」

侑「歩夢の方があったかい」

歩夢「侑ちゃんの方が……」

侑「……っぷ」

歩夢「……ふふ♪」


言い合っているのが可笑しくて、また二人で笑ってしまう。


侑「じゃあ、二人とも、お互いがお互いの太陽ってことで!」

歩夢「ふふ、そうだね♪」


ああ、なんか……いいな、こういう時間。


侑「私……この旅、ずっと続けてたいな」

歩夢「ふふ、そうだね」

リナ『まだまだ、この地方は行ってない場所の方が多い。まだまだ、旅は終わらないよ』 ||,,> ◡ <,,||

侑「……旅を名残惜しむにはまだ早いか」


バッジもまだ半分も集まってないしね。旅はこれからだ……!

漣の音を聴きながら、胸中で決意をしていると、ふと──


侑「……? 何……?」

歩夢「侑ちゃん?」

侑「……何か……聞こえる……?」

611: ◆tdNJrUZxQg 2022/11/28(月) 12:24:06.58 ID:9EuEq8f90

──海の方から、何かが呼んでいる気がした。

その声に引き寄せられるように、波打ち際に視線を向けると──


侑「え……?」


それは、落ちていた。

波打ち際に、ぽつんと。

角の取れた、丸石のような、でも、それは石じゃなくて──


歩夢「侑ちゃん、これって……」

侑「──ポケモンの……タマゴだ……」


そこにあったのは──ポケモンのタマゴだった。





    🎹    🎹    🎹





あの後、旅館に戻って、志満さんにタマゴの落とし物があったこと、探している人がいないかを訊ねたけど、


志満「──……少なくとも、この旅館には心当たりのいる人はいなかったわ……」


宿泊客に確認を取ってくれた志満さんからは、そんな回答が返ってきた。

この旅館の前の浜辺で拾ったから、誰か知っている人がいないかなと思ったんだけど……。


美渡「志満姉~、役場にも確認してみたけど、タマゴの落とし物探してるみたいな届け出はなかったよ~」


そんな風に志満さんに報告をしているのは、先ほど話に聞いた、千歌さんのもう一人のお姉さんの美渡さんだ。


志満「ありがとう美渡。……っていうことで、私たちにはそのタマゴのことはちょっとわからないわね……」

侑「そうですか……ありがとうございます」

歩夢「どうしようか、そのタマゴ……」

侑「う~ん……」


誰か落とした人がいるならその人に返したいけど……。


美渡「誰も持ち主が居ないなら、貰っちゃってもいいんじゃないかな?」

侑「え、でも……」

美渡「もしかしたら、誰かの捨てたタマゴとかなのかもしれないし……」

志満「こら、美渡! 滅多なこと言わないの!」

リナ『……でも確かに、その可能性はある。強いポケモンを厳選する人の中には余らせたタマゴを捨てちゃう人もいないわけじゃない』 || ╹ᇫ╹ ||

歩夢「タマゴって……ポケモンみたいに“おや”はわからないの?」

リナ『タマゴは生まれたときに、一番近くにいた人が“おや”になる。だから、まだ“おや”と呼ばれる人間は決まってない』 ||  ̄ ᇫ  ̄ ||

美渡「それに、タマゴは元気なトレーナーと一緒にいないと、孵化しないって言うしさ……警察とかに届けて持ち主が現れるのを待つのもありだけど……その間ずーっとタマゴのまま待ち続けるのも、気の毒だなって思うし」

志満「それはまあ……そうねぇ……」

侑「うーん……」

612: ◆tdNJrUZxQg 2022/11/28(月) 12:24:43.30 ID:9EuEq8f90

……普通に考えたら、もともとタマゴを持っていた人が居て、なんらかの理由で落としちゃったとかな気がするけど、


侑「…………」


私は何故か……理由はうまく説明できないけど、このタマゴはそういうものではない気がした。

このタマゴは──私を呼んでいた気がする。

少し考えたけど、


侑「……わかりました。私、このタマゴ、育ててみます」


……私はこのタマゴを、受け取ることにした。


歩夢「侑ちゃん、いいの……?」

侑「うん。もし、持ち主を探すにしても……タマゴのままじゃ、他のタマゴと見分けも付かないし……生まれてきたポケモンを見てから探した方がいいだろうしさ」


仮に落とし主がいるんだとしても、生まれてきたポケモンの種類を見れば、タマゴのままの状態よりは探す手がかりも見つけやすいだろうしね……。


美渡「うん、そうしな。一応、タマゴを探してるみたいな人が居たら、連絡はしてあげるからさ」

侑「はい、ありがとうございます」

志満「侑ちゃんたちがそれでいいなら、私はいいんだけど……」


こうして私たちは、ウラノホシの町でせつ菜ちゃんと出会い、そして……ふしぎなタマゴを拾うことになった。

……一体、このタマゴ……どんなポケモンが生まれてくるんだろう……?




613: ◆tdNJrUZxQg 2022/11/28(月) 12:25:17.67 ID:9EuEq8f90

>レポート

 ここまでの ぼうけんを
 レポートに きろくしますか?

 ポケモンレポートに かきこんでいます
 でんげんを きらないでください...


【ウラノホシタウン】
 口================== 口
  ||.  |○         o             /||
  ||.  |⊂⊃                 _回/  ||
  ||.  |o|_____.    回     | ⊂⊃|  ||
  ||.  回____  |    | |     |__|  ̄   ||
  ||.  | |       回 __| |__/ :     ||
  ||.○⊂⊃      | ○        |‥・     ||
  ||.  | |.      | | ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄\     ||
  ||.  | |.      | |           |     ||
  ||.  | |____| |____    /      ||
  ||.  | ____ 回__o_.回‥‥‥ :o  ||
  ||.  | |      | |  _.    /      :   ||
  ||.  回     . |_回o |     |        :   ||
  ||.  | |          ̄    |.       :   ||
  ||.  | |        .__    \      :  .||
  ||.  | ○._  __|⊂⊃|___|.    :  .||
  ||.  |___回○__.回_  _|‥‥‥:  .||
  ||.       /.         回 .|     回  ||
  ||.    _/       o‥| |  |        ||
  ||.  /             | |  |        ||
  ||. /              o●/         ||
 口==================口


 主人公 侑
 手持ち イーブイ♀ Lv.36 特性:てきおうりょく 性格:おくびょう 個性:とてもきちょうめん
      ワシボン♂ Lv.32 特性:はりきり 性格:やんちゃ 個性:あばれるのがすき
      ライボルト♂ Lv.31 特性:ひらいしん 性格:ゆうかん 個性:ものおとにびんかん
      ニャスパー♀ Lv.25 特性:マイペース 性格:きまぐれ 個性:しんぼうづよい
      タマゴ  なにが うまれてくるのかな? うまれるまで まだまだ じかんが かかりそう。
 バッジ 3個 図鑑 見つけた数:105匹 捕まえた数:4匹

 主人公 歩夢
 手持ち ラビフット♂ Lv.33 特性:リベロ 性格:わんぱく 個性:かけっこがすき
      アーボ♂ Lv.27 特性:だっぴ 性格:おとなしい 個性:たべるのがだいすき
      マホイップ♀ Lv.27 特性:スイートベール 性格:むじゃき 個性:こうきしんがつよい
      タマザラシ♀ Lv.22 特性:あついしぼう 性格:さみしがり 個性:ものおとにびんかん
 バッジ 1個 図鑑 見つけた数:132匹 捕まえた数:14匹


 侑と 歩夢は
 レポートに しっかり かきのこした!


...To be continued.




614: ◆tdNJrUZxQg 2022/11/28(月) 23:37:08.98 ID:9EuEq8f90

 ■Intermission🎹



──暗い部屋にいた。


 「んー? 今日の──は甘えん坊だなぁ~」

 「…………」

 「じゃあ、──が寝るまで、ぎゅーってしててあげるね」

 「うん……」


なんだか……幸せな光景を見ている気がした。

私も嬉しかった。


 「……私は──突き止めなくちゃいけない……。お父さんとお母さんの理論を、研究を、完成させないといけない……」


そうじゃないと──お父さんとお母さんが……報われないから……。

そんな声が……頭の中でぼんやりと木霊していた……。



 「ニャァ…」



──
────
──────

615: ◆tdNJrUZxQg 2022/11/28(月) 23:37:48.72 ID:9EuEq8f90

侑「……んぅ…………」


ぼんやりと目を開ける。


侑「…………」


また、変な夢を見た……なんなんだろ……。

……まあ、夢に意味を求めてもしょうがないんだけどさ。

頭を掻きながら、枕元を見ると、


 「ニャァ……zzz」


ニャスパーが眠っていた。


リナ『侑さん、おはよう』 || ╹ 𝅎 ╹ ||

侑「おはよう……リナちゃん」

リナ『今日は朝一でメールが届いてたよ』 || ╹ ◡ ╹ ||

侑「メール?」

リナ『凛さんから』 || ╹ 𝅎 ╹ ||

侑「! 凛さんからってことは……!」

リナ『うん! ジム戦の日取りが決まったみたい! 明日ホシゾラジムで待ってるって!』 ||,,> ◡ <,,||

侑「明日……!」


ついに、再戦の時が来たということだ。

ホシゾラまでは1日もあれば十分戻れるから、今日は移動になるだろう。


歩夢「……んぅ……侑ちゃん……?」


リナちゃんと話していると、隣の布団で寝ていた歩夢も、目を覚ましたようだ。


侑「あ、おはよ、歩夢。ジムの再戦の日取り、決まったよ!」

歩夢「え、本当に!?」

侑「うん! 明日、ホシゾラジムで待ってるって! 急いで戻らないとだね」

歩夢「うん!」


変な夢のこともすっかり忘れて、私は朝から、ジムへの闘志で心を燃やすのだった。


………………
…………
……
🎹


616: ◆tdNJrUZxQg 2022/11/29(火) 13:03:18.53 ID:ULDkry570

■Chapter032 『ジグザグジグザグドッグラン?』 【SIDE Kasumi】





──朝。コメコの森のロッジ。


しずく「それでは、行ってまいります」

かすみ「お世話になりました! 彼方先輩! ご飯すっごくおいしかったです!」


私はしず子と一緒に、お世話になった彼方先輩たちへお礼交じりに挨拶をする。


彼方「ふふ、またいつでもおいで~。次も腕によりをかけてご飯作ってあげるから~」

遥「お身体にお気をつけて……」

穂乃果「二人とも、無茶しちゃダメだよ~?」

千歌「何かあったら、いつでも連絡してね!」

しずく「はい、ありがとうございます」


ロッジの皆さんの送り出しの言葉にしず子が深々と頭を下げる。

この短い数日の間に、いろいろあったもんね。

かすみんもそれに倣って、ぺこっとお辞儀します。


かすみ「……さて、それじゃいこっか!」

しずく「うん!」


さぁ、冒険の旅の再開です!





    👑    👑    👑





さて、ロッジを颯爽と旅立った、かすみんたちが次に向かう先は──


かすみ「……わぁ~!! 広~い!」


眼前に広がる、広大な草原。

いわゆる都会で育ってきた、かすみんたちからしてみると、こんなに広い草原はほとんど見たことがない。

そんなここは──コメコシティとダリアシティを繋ぐ4番道路。通称『ドッグラン』です!

これだけ広々としていると、かすみんも開放的な気持ちになっちゃいますね!

ただ、そんなかすみんよりも、


しずく「──見て見てかすみさん!! ヨーテリーとハーデリアの群れだよ! あ! あっちにはガーディ!」


しず子は、さらにテンションが高かった。目をキラキラさせながら、かすみんの腕をぐいぐい引っ張ってくる。


かすみ「し、しず子~そんなに引っ張らないでよ~」

しずく「あそこでボールを追いかけてるのは、ワンパチだよ! ワンパチはね、“たまひろい”って特性で、ボールで遊ぶのが大好きなんだよ! ……私もボールを投げたら、取ってきてくれるかな」


聞いてないし……。言うまでもなく、普段しず子のテンションがここまで高くなることはそんなにない。

ただ、理由ははっきりしています。

617: ◆tdNJrUZxQg 2022/11/29(火) 13:04:12.50 ID:ULDkry570

かすみ「しず子ってホントに犬ポケモン好きだよね」

しずく「うん! だって、あんなに可愛いんだよ!? 誰だって大好きだよ!」


しず子は筋金入りの犬ポケモン大好きっ子なんです。


 「イヌヌワンッ!!」
しずく「見て見てかすみさん! ワンパチがボール拾ってきてくれたよ!」

かすみ「うんうん、よかったね、しず子」


何はともあれ、しず子が楽しそうで何よりです。

大丈夫だとは言われているけど、しず子は病み上がり。

かすみん、これでも結構気を付けて見ていたんですけど……これだけ元気なら本当に大丈夫そうですね。


しずく「ほーら、とっておいでー♪」
 「イヌヌワンッ!!」


しず子が再びボールを放り投げると、ワンパチがそれに向かって駆け出す。

……野生ポケモンなのに、ここまで野生を忘れていると、ちょっと心配になりますね。

ボールを追いかけるワンパチを目で追いかけていると──そのワンパチの目指す場所に人影があることに気付く。


かすみ「あれ? あの人って……」


その人影には見覚えがあった。

青みがかった黒髪をウルフカットにしている、女性の後ろ姿──


しずく「!? も、もしかして──果林さんじゃないですか!?」

果林「?」


しず子の声に気付いて、果林先輩が振り返る。


果林「あら、貴方たちは……」


かすみんたちの姿を認め、こちらに近付いてくる。


果林「一週間振りくらいかしら? 確か……しずくちゃん、だったわよね?」

しずく「はい! 名前、覚えていてくださったんですね! でも、どうして果林さんがここに……お仕事ですか?」

果林「今日はオフよ」

かすみ「じゃあ、なんでこんなところに……?」

果林「こんなところなんて言ったら、コメコの人に怒られるわよ。えっと……貴方は……」

かすみ「かすみんは、かすみんです!」

果林「かすみんちゃん……? 変わった名前ね……?」

かすみ「かすみんちゃんじゃなくて、かすみんはかすみん──」

しずく「えっと、ごめんなさい! この子はかすみさんって言うんです!」

果林「ああ、なるほど……そういうことね」


果林先輩は納得したように、片手を顎に当てて、小さく頷いて見せた。


かすみ「それで、どうして果林先輩はドッグランにいるんですか?」

果林「ああ、えっとね……ちょっと友達と待ち合わせしてるところで……」

618: ◆tdNJrUZxQg 2022/11/29(火) 13:04:46.27 ID:ULDkry570

果林先輩が言いかけた矢先、


 「──果林ちゃ~ん!」


彼女の名前を呼びながら、コメコ方面から駆け寄ってくる女の人の姿。


果林「ああ、言ってる傍から来たみたい」

エマ「──おはよう、果林ちゃん!」

果林「おはようエマ」

エマ「ごめんね、待たせちゃったみたいで……」

果林「大丈夫よ、私もさっき着いたところだから」


赤毛を三つ編みおさげにしている青い目の女の人──果林先輩が待っていたこの人は、エマ先輩というらしい。


エマ「えっとあなたたちは……果林ちゃんのお友達?」

果林「前、コンテスト会場で見に来てくれた子たちよ」

エマ「あ、もしかして果林ちゃんのファンの子ってことかな?」

しずく「は、はい!」

かすみ「まあ、かすみんはそいうわけじゃ……」

しずく「か、かすみさん……! 本人の前でそんなこと……!」

果林「別にいいわよ。そんな気を遣わなくても」


慌てるしず子とは裏腹に、当人は涼しい顔をしている。なんか随分サバサバしてる人ですねぇ……。


エマ「コンテストってことは、フソウからここまで……? でも、この辺りでは見たことないし……もしかして旅人さん?」

しずく「あ、はい」

かすみ「何を隠そうかすみんたちは──ポケモン図鑑と最初のポケモンを貰って旅に出た、選ばれしトレーナーなんですよ~」


かすみんは胸を張って自慢します。ポケモン図鑑の所有者に選ばれたトレーナーなんて、どこにでもいるわけじゃないですからね!

さぞ珍しがって、敬って貰えるかと思ったんですが、


エマ「あ! もしかして、歩夢ちゃんと侑ちゃんのお友達なのかな!?」


全然珍しがって貰えていませんでした。


しずく「侑先輩たちをご存じなんですか!?」

エマ「うん! 二人もちょっと前にコメコに来たんだよ!」


……考えてみれば、侑先輩たちはかすみんたちと逆回りでホシゾラシティまで辿り着いていたわけですから、コメコに知り合いが居てもおかしくないですね……。


エマ「わたしはエマ、よろしくね♪」

かすみ「あ、えっとかすみんは──」

しずく「こちらはかすみさんです。私はしずくと言います」

かすみ「ちょっとぉ!! 人の自己紹介、邪魔しないでよぉ!!」

しずく「だって、どうせ私が訂正する羽目になるし……」

かすみ「むー……」

エマ「かすみちゃんとしずくちゃんだね♪」

619: ◆tdNJrUZxQg 2022/11/29(火) 13:05:33.63 ID:ULDkry570

嬉しそうに笑いながら握手を求めてくるエマ先輩。

果林先輩とは真逆で、フレンドリーな人ですね~。

一方で、件の果林先輩は、


果林「……へー……貴方たちが、図鑑所有者……」


かすみんたちのことをジロジロと観察していた。


かすみ「ちょ……な、なんですか……」

果林「あら、ごめんなさい……図鑑所有者と聞いて、少し興味が湧いちゃって」

かすみ「……へー、果林先輩もそういうの気になるんですね。いいですよいいですよ! 好きなだけかすみんを見てください!」


注目されているって言うなら満更でもない。かすみんは思わず得意になって、胸を張ってしまいます。


果林「しずくちゃん、貴方、図鑑所有者だったのね……」

しずく「え、あ、は、はい……///」

かすみ「もう、こっち見てない!?」


なんなんですか、期待させておいて……! ぐぬぬ……!

このかすみんを適当にスルーした癖に、果林先輩は、


果林「……」

しずく「あ、あの……果林さん……ち、近くないですか……?///」


しず子の顔を覗き込むようにして、じっくりと観察している。


果林「……ふふ、そう」

しずく「か、果林さん……?///」


果林先輩は一人で勝手に納得したように笑う。


果林「良い目になったわね、しずくちゃん」

しずく「そ、そうですか……?」

果林「ええ。……真の美を理解したような目になったわ」

しずく「し、真の美……ですか……?」


果林先輩の言葉にきょとんとするしず子。

……ってか、


かすみ「ホントに近いですよ!! 近すぎます!! 離れて離れて!!」


なんかちゃっかり、しず子の顎に手を添えて、顔を覗き込んでるし!

二人の間に割って入るようにして、引きはがす。


果林「あら、ごめんなさい」

しずく「……///」

かすみ「しず子も何、満更でもなさそうな顔してんの!」

しずく「だ、だって……///」


しず子にとっては憧れの人みたいだし……わからなくはないけどさぁ。

620: ◆tdNJrUZxQg 2022/11/29(火) 13:06:24.15 ID:ULDkry570

エマ「ところで、二人はこれからドッグランを抜けてダリアに行こうとしてるのかな?」

しずく「あ、はい。そのつもりです」

エマ「だったら、ちょっと気を付けた方がいいかも……」

かすみ「気を付ける? 何をですか?」

果林「今ドッグランは、野生ポケモンの縄張りがちょっと不安定らしいわよ」

かすみ「縄張りが不安定……?」

エマ「もともと犬ポケモンって、それぞれしっかりとした縄張りを持ってて、お互いがそれに干渉しないようにしてることが多いんだけど……最近ラクライの群れの縄張りが不安定みたいで……」

果林「それで、一旦それを落ち着かせるために、エマが駆り出されたってわけ。私はその手伝い」


果林先輩はそう言いながら、腕を組んで肩を竦める。

まさにそのとき、遠方の雲がピカっと光る。


かすみ「あれ、雷ですか……?」


かすみんがそう訊ねる頃に──ゴロゴロと音が聞こえてくる。


しずく「……2~3kmくらい先ですね」

エマ「うん。今はあの辺りにいるみたいだね」


しず子の言葉にエマ先輩が頷いた。


かすみ「なんで、わかるの……?」

しずく「光は音より速いから、秒数を数えればなんとなくの距離がわかるんだよ」

かすみ「……ふーん……?」


なんかよくわからないけど、そうらしい。


果林「場所がわかったのはいいけど……こんなこと、わざわざエマがどうにかするようなことなのかしら……?」

エマ「あのね、ドッグランはコメコの人が昔から管理してきた場所なんだよ。だから、コメコの一員として、ドッグランの平和を守るのも私の仕事だよ!」

果林「そう……まあ、エマがそれでいいならいいけど」

エマ「それにラクライ以外にも、変な子が紛れちゃってるらしいし……そっちの対策もしないと……」

かすみ「変な子?」

エマ「えっとね……最近ドッグランにもともといなかったポケモンを間違って逃がしちゃった人がいるらしくって……」

しずく「確かドッグランは保護区域だから……特定の種類のポケモン以外は逃がしちゃいけなかったはずですよね」

かすみ「ええ? じゃあ、犬ポケモンたちの中に猫ポケモンが紛れちゃってるみたいな……?」

エマ「確認されてる子は一応犬ポケモンなんだけど……もともとここにはいない犬ポケモンだったの。だから、間違えちゃっただけだと思うんだけど……」

果林「だから、そういう本来いない種類の子たちを捕まえるのも、コメコの人たちの仕事の一つらしいわ」

かすみ「へー……そうなんですね」

エマ「そういうことだから、二人とも、ここを抜けるなら気を付けてね」

しずく「はい、ありがとうございます」


この場所を維持するのも大変なんですねぇ……。


果林「それじゃ、早く終わらせちゃいたいし、私たちも行きましょ、エマ」

エマ「うん、そうだね! それじゃあね、二人とも」

621: ◆tdNJrUZxQg 2022/11/29(火) 13:07:00.57 ID:ULDkry570

エマ先輩が手をふりふりしながら、ドッグランを奥の方へと歩き出す。

そして、その後に付いていくように果林先輩も、歩き出しながら──振り返る。


果林「……それじゃあ、またどこかで会いましょう」


果林先輩は最後にそう残してから、エマ先輩と行ってしまった。


しずく「また、どこかで……えへへ……」

かすみ「ちょっとしず子、何ニヤニヤしてんの」

しずく「べ、別にニヤニヤなんかしてないもん……」


しず子がぷくっと頬を膨らませる。

全く、こんなに可愛いかすみんが傍にいるのに、ちょ~っと果林先輩がリップサービスしただけで、チョロチョロなんですから……。





    👑    👑    👑





果林先輩たちと別れたあと、かすみんたちはのんびりとドッグランを進んでいるところです。


 「──クマァ♪」
かすみ「わぁ♪ ジグザグマ、また拾ってきたんですね、偉いですよ~♪」

しずく「今日はたくさん拾ってきてるね?」

かすみ「平原が広がってるから、見つけやすいのかな?」


この穏やかでだだっ広い場所だからか、今日はジグザグマの“ものひろい”が絶好調です。


かすみ「この調子でたくさん集めようね~♪」
 「クマァ♪」


ジグザグマから受け取った“げんきのかけら”をバッグに押し込む。


しずく「まだ集めるの……? もうかすみさんのバッグ、パンパンだけど……」

かすみ「手に入れられるものは手に入れておいて損はないの!」

しずく「でも、そこまでパンパンだと逆に物が取り出しづらくない? 少し間引いた方が……」

かすみ「ダメ! せっかく、ジグザグマがかすみんのために拾ってきてくれたものなんだから、全部かすみんが使うの! それに『備えあれば嬉しいな』って言うでしょ!」

しずく「それを言うなら『備えあれば憂いなし』ね……。あと『過ぎたるは及ばざるが如し』って言葉もあるんだけど……」

かすみ「ふーんだ、そんなこと言うしず子には、後で必要になっても分けてあげないんだから」


口うるさいしず子に言い返しながら、バッグを背負おうとした、その時──かすみんの足元を、猛スピードで何かが通り過ぎた。


かすみ「わっ!?」


急なことに驚いて、足がもつれる。そしてその拍子に、重いバッグが重力に引っ張られて、かすみんは後ろ向きにひっくり返る。


しずく「か、かすみさん!? もう、言わんこっちゃない……!」

かすみ「いたた……今何かが足元を……」


頭を上げて、何かが通り過ぎて行った方向に目を向けると──白と黒の縞模様をした細長いポケモンが、長い舌を見せながらこっちを見つめていた。

622: ◆tdNJrUZxQg 2022/11/29(火) 13:08:39.57 ID:ULDkry570

かすみ「……何あいつ……?」

しずく「……もしかして、ガラルマッスグマ?」

かすみ「マッスグマって……ジグザグマの進化系だっけ」

しずく「うん、そうなんだけど……あれはガラルの姿で、本来ドッグランには普通の姿のマッスグマしかいなかったはず……」

かすみ「じゃあもしかして、エマ先輩が言ってた変な子って……」

しずく「たぶん、ガラルの姿のマッスグマを逃がしちゃった人がいたってことじゃないかな……」


そんな話をしている間に、マッスグマはかすみんたちに背を向けて、猛スピードで走り去っていく。


かすみ「なんか、ガラルのマッスグマはずいぶんと凶悪な顔をしてるんだね……」

しずく「あくタイプが加わってて、こっちのジグザグマやマッスグマと比べると凶暴だって言うからね……」

かすみ「ふーん……」


それにしても、なんで急にかすみんのこと転ばせてきたんだろう。

それ以上、何か攻撃してくるでもなく、そのまま走って行っちゃったし……。

……まあ、いいや。

かすみんは起き上がって、周囲を伺います。

すると、転んだ拍子にバッグから散らばってしまった、アイテムの数々。


かすみ「……盛大に散らばっちゃった……」


落ちたアイテムを拾おうとした、瞬間──手を伸ばしたアイテムが目の前から掻き消えた。


かすみ「……へ?」


びっくりして顔を上げると──ジグザグマが居た。

でも、かすみんのジグザグマじゃない。

白と黒の──さっきのマッスグマと同じような色をしたジグザグマ。

それも1匹じゃない。2匹、3匹、4匹──いや、10匹はいる。

しかも……全員、今しがたかすみんが落としたアイテムを咥えている。


かすみ「ち、ちょっと! それかすみんのですよ!」

 「グマグマ」「ググマー」「グママ」


かすみんが声をあげると、ジグザグマたちは散り散りになりながら、アイテムを持ち逃げしていく。


かすみ「こ、こらー!? 泥棒ー!?」

しずく「あれ全部ガラルジグザグマ……!? もしかして、さっきのマッスグマの子分……!?」

かすみ「んな……じゃあ、もしかしてかすみんを転ばしたのって……」

しずく「た、たぶん、最初から転んで散らばった“どうぐ”を奪うため……」

かすみ「むっかー……!! 寄ってたかって人の物を奪うなんて、許せません……!!」
 「クマァ」

かすみ「行くよ、ジグザグマ! 絶対取り返してやるんだから!!」
 「クマァ!!」


かすみんは怒り心頭、白黒のジグザグマたちを追いかけて、駆け出します。


しずく「あ、ちょっとかすみさん! 待ってってばー!?」



623: ◆tdNJrUZxQg 2022/11/29(火) 13:09:31.83 ID:ULDkry570

    👑    👑    👑





かすみ「むむむ……どこに行きやがりましたか~……」

しずく「行きやがったって……まだそんなにたくさんあるんだから、ちょっとくらい良いんじゃない……?」


しず子はかすみんのバッグを見て、そんなことを言う。


かすみ「ダメ! これは、せっかくジグザグマが頑張って拾ってきてくれたものなんだから! それに……」

しずく「それに?」

かすみ「まんまと奪われたままなんて、悔しいじゃん!」

しずく「……はぁ……。わかった……私も取り戻すの手伝うよ」

かすみ「ホントに!? やっぱ、しず子わかってる~!」

しずく「わかってるというか、諦めてるだけだけど……。でも、どうやって探すの? 見失っちゃったけど」

かすみ「それを今考え中なの!」


最初は足跡を追えばいいかなと思っていたんだけど……ジグザグマたちは逃げている間も好き勝手ジグザグに走るせいか、逆に居場所を特定しづらい。


しずく「ジグザグマたち、結構逃げなれてる感じがするね……足跡を大量に作ってるのも、わざと攪乱するためなのかも」

かすみ「姑息な奴らですねぇ……!」


こうなったら、足跡を虱潰しに追うしかない……?

頭を抱えていると、


 「クマ」


かすみんのジグザグマが足跡をくんくんと嗅いだあと、


 「クマ」


とてとてと先に向かって歩き始める。


かすみ「もしかして、においで追える?」
 「クマァ」

かすみ「さすが、かすみんのジグザグマです! あのガラルのジグザグマたち、すぐに追いついてやりますからね!」
 「クマ」


ジグザグに歩きながら、においを追って進むジグザグマを追いかける。

気付けば、徐々に草原エリアから外れて、ちょっとした林のようなエリアに入ろうとしていた。


しずく「……ジグザグに進むからか、進みが遅いね……」

かすみ「ま、まあ……ジグザグマだし……。マッスグマよりも可愛げあっていいじゃん!」

しずく「別に悪いとは言ってないけど……」


確かに探し物をしているときは真っすぐ目的に向かって進んでくれたら嬉しいけど……これが、ジグザグマの可愛いところでもあるわけだし。


しずく「……そういえばさ」

かすみ「なに?」

しずく「かすみさん、ジグザグマの進化、キャンセルしてるよね?」

624: ◆tdNJrUZxQg 2022/11/29(火) 13:10:31.64 ID:ULDkry570

──進化のキャンセルとは、書いて字のとおり、進化をさせずそのままの姿にしているということです。

自分のポケモンの進化タイミングでポケモン図鑑にあるボタンをぽちっと押すと、進化させない電波が出るらしく、それで進化前の姿を維持できるんです。


しずく「進化させないの?」

かすみ「んー……進化させちゃうと可愛くなくなっちゃうし……」

しずく「そうかな? 私はマッスグマも愛嬌ある顔してると思うけど」

かすみ「うーん……」


マッスグマは見たことあるけど……かすみん的には少しシャープすぎるなぁって思うんですよね。

ただ──なんとなく、しず子の顔を見る。


しずく「……? どうかした?」

かすみ「……なんでもない」


穂乃果先輩に言われたように、かすみんたちはウルトラビーストに襲われる可能性がある。

なら、少しでも進化した方が強くなれるのかな……なんて思うけど……。


かすみ「……やっぱ、今はジグザグマのままでいい」

しずく「そう?」


かすみんはやっぱり可愛いポケモンたちに囲まれていたいんです──まあ、もうすでになんかそれっぽくない手持ちもいる気はしますが……。

もちろん、どうしても進化の必要性を感じたら、進化させることもあるかもしれないけど……それは今じゃない気がする。


しずく「まあ、進化させない方が育ちも速くなるし、かすみさんがそうしたいなら、それでいいと思うよ」

かすみ「うん」


林の中を、結構奥の方へと進んできたと思う。

そんな中、においを嗅いでいるジグザグマの動きに変化があった。


 「クマ…」

しずく「ジグザグマ、さっきから行ったり来たりしてるね……?」

かすみ「ジグザグマ、どうかしたの?」

 「クマ」


ジグザグマは困ったように周囲をキョロキョロとしている。


しずく「においがここで途切れちゃってるのかな……?」

かすみ「えーでも、なんもないし……」


さっきまで順調だったのに、急ににおいが途切れるものなんだろうか。

すると、ジグザグマは、


 「クマ」


地面に鼻をこすりつけながら、そこを掘り返し始める。

すると──黄色いキラキラとした欠片のようなものが顔を出す。

625: ◆tdNJrUZxQg 2022/11/29(火) 13:11:18.79 ID:ULDkry570

しずく「! “げんきのかけら”……!」

かすみ「もしかしてこれ、かすみんたちの!? やりました! 取り返してやりましたよ!」

しずく「いや待って……なんでこんな場所に埋まってるの」

かすみ「へ?」


考えてみれば……なんでせっかく盗ってきた物を埋めちゃうんでしょうか。

しかも、集めて埋めてるわけでもなくて、これ1個だけ……。


かすみ「まるで見つけてくださいとでも言ってるような……」

しずく「……たぶん、そういうことだよ、かすみさん」


そう言いながら、しず子がかすみんの背中に、自分の背中を合わせてくる。


かすみ「え、なになに? どういうこと?」

しずく「周り……見て」

かすみ「え?」


しず子に言われて気付く。周囲の木々の影に──


 「グマ」「グマァァ…」「ジグザ…」


白黒のジグザグマの姿が見切れていた。

その数、5匹……10匹……いや、


かすみ「な、なんかものすごい数いない……?」


さっきかすみんの道具を持ち逃げしていった子たちの倍以上……20匹以上はいる気がする。


かすみ「か、完全に囲まれてる……もしかして……」

しずく「……私たち……まんまと誘い込まれたみたい」

かすみ「え、ヤバイじゃんそれ!?」


かすみんが声をあげた瞬間、


 「グマッ」「グマァッ!!!!」「グママ!!!」


ジグザグマたちが四方八方から一気に飛び掛かってきた。


かすみ「わぁ!? こっち来た!?」

しずく「く……! 出てきて、キルリア!! マネネ!!」
 「──キル!!」「──マネネッ!!」

しずく「キルリア! “チャームボイス”!!」
 「キル~~♪」

 「グマッ!!?」「グザグザッ!!」「ザグマァッッ!!!」


しず子のキルリアが音波攻撃で飛び掛かってくるジグザグマたちを吹っ飛ばす。


かすみ「し、しず子、どうしよう!?」

しずく「とにかく逃げるしかないよ!! かすみさんもポケモン出して!!」

かすみ「えぇ、盗られたかすみんの“どうぐ”は!?」

しずく「言ってる場合!?」

626: ◆tdNJrUZxQg 2022/11/29(火) 13:12:29.50 ID:ULDkry570

ちょっと口論している間にも、次のジグザグマたちが飛び掛かってくる。


かすみ「ジ、ジュプトル! “シザークロス”!!」
 「──ジュプトッ!!!」

 「グマッ…!!!?」「グマァッ!?」


ジュプトルを出して、飛び掛かってくるジグザグマを撃ち落とすけど──数が多い。

倒しても倒してもどんどん次が襲い掛かってくる。


かすみ「ぐぬぬ……わかったよ、もう!! 逃げればいいんでしょ!!」

しずく「来た道を戻ろう!! 後ろは任せて! マネネ、“リフレクター”!!」
 「マネッ!!!」


マネネが背後に物理攻撃を防ぐ壁を発生させると、そこにジグザグマたちが衝突して、地面に落ちる。

その隙にかすみんは今来た道を塞ぐように群がっているジグザグマたちに向かって、


かすみ「ジュプトル!! “りゅうのいぶき”!!」
 「ジュプトォォォォ!!!!!」

 「グマ!!?」「ジグザググ!!!!」


攻撃を放って、道を開く。


かすみ「しず子!! 走るよ!!」

しずく「うん!」


しず子の手を取って、かすみんは走り出します。

その間にも四方八方からジグザグマたちが飛び掛かってきますが、


かすみ「“タネマシンガン”!!」
 「プトルルルルル!!!!!」

しずく「“マジカルシャイン”!!」
 「キルゥッ!!!!」


どうにか、迎撃しながら突き進む。


しずく「マネネ! 振り落とされないようにね!」
 「マネッ」


全力で包囲網を突破すると──先ほどまで引っ切り無しに飛び掛かってきていたジグザグマたちの姿が見えなくなる。


かすみ「やった、群れを抜けた……!!」


が、安心するのも束の間、林の中を並走するようにして猛追してくる白黒の影、


 「マッスグ!!!!」「グマグマッ!!!」

しずく「今度はマッスグマ……!」

かすみ「もう勘弁してくださいよぉ!!」


両サイドから追ってくる2匹のマッスグマ。

樹々を縫うように、直角カーブを繰り返しながら、少しずつかすみんたちの方に幅寄せするように迫ってくる。


かすみ「は、挟まれる~……!! “エナジーボール”!!」
 「ジュプトッ!!!」

627: ◆tdNJrUZxQg 2022/11/29(火) 13:13:14.34 ID:ULDkry570

追い返すために、エネルギー弾を放ちますが、


 「グマグマグマッ」


相手が速すぎる上に、攻撃が樹に阻まれて、うまく撃退出来ない。


かすみ「そ、そうだ、しず子!! エスパータイプの技でどうにかしてよ!!」

しずく「ガラルマッスグマはあくタイプだから、エスパータイプは効果ないんだよ!!」

かすみ「そ、そんな~!!」


もう、とにかく走るしかない。必死に足を動かしていると──林の樹々の隙間から光が見えてくる。


かすみ「!! 出口……!!」


林から出てしまえば、その先は広い草原だ。

この視界の悪い林に比べたら、絶対に戦局も有利になるはず……!

かすみん、最後の力を振り絞って、全力でダッシュします。


しずく「かすみさん!! 前、なんかいる!!」

かすみ「へっ!?」


しず子に言われて視線を前に向けると──確かに、何かが立ち塞がっていた。

でも、咄嗟のことで反応しきれず、


かすみ「ぎゃんっ!?」

しずく「きゃぁっ!」


正面からソレに衝突して、かすみんはしず子ともども、すっ転んで尻餅をつく。


かすみ「いたた……」

しずく「かすみさん、大丈夫……?」

かすみ「しず子こそ、平気……?」

しずく「う、うん、でも……」


尻餅をついて蹲るかすみんたちの左右には、


 「グマグマグマッ」「マッスグゥッ」


ガラ悪く舌をベロりと出したマッスグマたち、


 「グマグマ」「ググマァッ」「ジグザグ」


そして、背後から追いかけてくるジグザグマたちの鳴き声。

さらに、かすみんたちがぶつかった前方の主は──


 「……グマァッ」


大きな体躯で立ち塞がり、見下ろしていた。

ガラルのマッスグマをさらに一回り大きくして、ゴツくしたようなポケモン……。

628: ◆tdNJrUZxQg 2022/11/29(火) 13:13:50.26 ID:ULDkry570

かすみ「な、なんですか……こいつ……」

しずく「た、タチフサグマ……」

かすみ「タチフサグマ……?」

しずく「ガラルマッスグマの進化系だよ……」

かすみ「し、進化系!? マッスグマってさらに進化するの!?」

 「──グマァァァァァァァァッ!!!!!!!!!!!!!」


タチフサグマはかすみんたちに向かって声を轟かせながら、威嚇してくる。


かすみ「う、うるさい……」

しずく「た、タチフサグマは大きな声で相手を威嚇するの……」


至近距離で叫ばれたせいか、頭がガンガンする。

でも、とにかく目の前のこいつをぶっ飛ばさないと、それこそ袋叩きにされる。


かすみ「ジュプトル……!! “リーフブレード”!!」
 「ジュプトォッ!!!!」


自慢の草の刃で切り抜けようと、縦薙ぎに振り下ろされた、“リーフブレード”は、


 「グマァッ!!!!」

 「プトルッ!!!!?」


タチフサグマが前方でクロスしている腕に防がれて、弾かれてしまった。


かすみ「んなぁ!?」

しずく「あれは“ブロッキング”……!」


タチフサグマは、弾き飛ばしてよろけたジュプトルに肉薄し、クロスした腕を開くようにして、“クロスチョップ”をジュプトルに炸裂させた。


 「ジュプトォッ…!!!」

かすみ「ジュプトル!?」


吹っ飛ばされるジュプトルをすかさずボールに戻す。


かすみ「あいつ強い……」

しずく「ごめん、かすみさん……」

かすみ「なんで急に謝るの……?」

しずく「まんまとタチフサグマのいる方に誘導されてた……私のせいだ……」

かすみ「しず子のせいじゃないって!!」

しずく「で、でも、このままじゃ……」

かすみ「だから、今考えてるの……!!」

629: ◆tdNJrUZxQg 2022/11/29(火) 13:14:47.77 ID:ULDkry570

背後からはすでにジグザグマたちが飛び掛かってきていて、マネネの張ってくれた“リフレクター”も限界までは時間の問題。

どうする? 後方のジグザグマたちをどうにか倒して逃げる? ……いや、また林の中に戻っちゃったら、マッスグマから逃げられない。

左右のマッスグマを振り切るのも、かなり難しそうだし……じゃあ、目の前のタチフサグマを倒す……?

かすみんの手持ちのエース、ジュプトルでも歯が立たなかった。

ゾロアでどうにか策を考える……? サニーゴで最悪相打ちを取るとか……いやでも、そもそも相性で負けてるし……。

必死で考えるけど、この場を切り抜けるビジョンがどうにも浮かんでこない。

そんな中でも、


 「グマァッ」


タチフサグマがこちらに向かって歩を進めてくる。

絶体絶命。

もう、どうしようもない……。


かすみ「しず子……」

しずく「な、なに……?」

かすみ「かすみんがあいつに突っ込むから、その間に脇を通り抜けて林を出て」

しずく「!? だ、ダメだよ!! そんなことしたらかすみさんが……!」

かすみ「もうこれしかないの!!」

しずく「嫌!! せっかく一緒にまた旅に出られたのに、かすみさんだけおいてなんかいけない!!」

かすみ「しず子、お願いだから……!!」

しずく「嫌!! 絶対に嫌……」


しず子がぎゅっとかすみんの袖を握ってくる。

眼前にはタチフサグマが迫る。

タチフサグマが大きく息を吸ったのが見えた。

かすみんはもうダメだって思っちゃって……目を瞑った。……そのときだった、


 「グマ──」
 「──クマァァァァァァァァァァァァァッ!!!!!!!!!!!!!!!!」


タチフサグマの雄叫びをかき消すように──大きな鳴き声が響き渡った。

この声は、ずっとかすみんの聞いてきた鳴き声。


かすみ「ジグザグマ……?」
 「クマァッ!!!!」


ジグザグマはかすみんの前に立って、自分の何倍もあるタチフサグマの前で、全身の毛を逆立てながら、威嚇していた。


かすみ「何やってるんだ……私……」


何勝手に諦めてるんだ……まだ、自分のポケモンは戦う意思を失ってないのに……。


かすみ「ジグザグマ……!! やるよ!!」
 「クマァッ!!!」

しずく「かすみさん!? 無茶だよ!?」

かすみ「無茶でも、ジグザグマがやる気なんです!! “ミサイルばり”!!」
 「クママママッ!!!!!」


逆立った体毛を飛ばして、タチフサグマを攻撃する。

630: ◆tdNJrUZxQg 2022/11/29(火) 13:15:35.78 ID:ULDkry570

 「グマ…」


タチフサグマは両腕を上げて防御。ダメージはあんまりなさそうだけど……。足は止まった。


かすみ「しず子!! ジグザグマとマッスグマ任せるから、とにかく時間を稼いで!!」

しずく「……! わ、わかった! やってみる……!」
 「キルッ」「マネネッ!!!」


周りの手下たちはしず子にどうにかしてもらう。

かすみんはとにかく、こいつを倒す……!

さっきから見ていると、タチフサグマはカウンター的な攻撃が得意らしい。

つまり、自分から積極的に攻撃してくるタイプではなさそうだ。


かすみ「なら、“はらだいこ”!」
 「クマ、クマ~」


ジグザグマは座るような体勢になって、ぽんぽことお腹を叩き始める。

自分を鼓舞して、攻撃力をフルパワーにする技です。

そっちから来る気がないなら、今のうちに準備を整えるまで、


 「グマ…!!」


ですが、相手も戦い慣れしているのか、すぐにこっちの思惑に気付いて、走り出す。

地面にいる小さなジグザグマを、両手でガッと抑えつけると──そのまま、自分もろとも後ろに転がり始める。


しずく「か、かすみさん!! “じごくぐるま”だよ!!」

かすみ「わかってる!! しず子は雑魚散らしに集中してて!!」


相手は見た目通り、近距離技主体のポケモン。

何かしら肉弾戦を仕掛けてくるのはわかっていたから、ここまでは想像の範疇。

あとは──タイミングを間違えるな。


 「ク、クマァァ」
 「グマァッ!!!!」


“じごくぐるま”は相手もろとも転がったのち、回転の勢いを使って相手を投げ飛ばし、地面に叩きつける技。

叩きつけられるその一瞬、


かすみ「今です!! “こらえる”!!」
 「クマァッ!!!!」


ゴッ!! と鈍い音を立てながら、地面に叩きつけられるジグザグマ。

ですが、どうにか攻撃を堪えて耐えきります。


 「グマァッ!!!」


もちろん、すぐに追撃しようと、タチフサグマは起き上がって、ジグザグマに向かって走り出しますが、


 「グ、マァッ!!?」


急にタチフサグマが痛そうな声を上げて怯んだ。

631: ◆tdNJrUZxQg 2022/11/29(火) 13:16:28.76 ID:ULDkry570

しずく「え!?」

かすみ「……痛いですよねぇ!! 足に鋭い欠片がぶっ刺さったら!!」

しずく「欠片……!? って、まさか……!?」


タチフサグマが痛そうに持ち上げた足の下には──黄色の輝く欠片が一つ。


しずく「“げんきのかけら”!?」


そう……! “じごくぐるま”を受けてる最中に、さっき拾った“げんきのかけら”を地面に突き立てて、即席の“まきびし”代わりにしたわけです!!

一発怯ませれば十分……!!


 「クマァッ!!!!」


今度は逆にタチフサグマの懐に飛び込んでやります。


 「グマッ!!?」

かすみ「かすみんたちのフルパワー!! 食らいやがれです!! “じたばた”!!!!」
 「クマクマクマァァァァァ!!!!!!」


ジグザグマはタチフサグマの懐に潜り込みながら、全身の硬い毛を擦り付けるようにして、激しく攻撃する。


かすみ「“こらえる”で体力もギリギリ!! しかも、“はらだいこ”でフルパワーになった最大威力の“じたばた”です!!」
 「クマァッ!!!」

 「グマァァッ!!!!」


全身をくねらせながら、硬い毛と爪と牙で無茶苦茶に攻撃しまくって、タチフサグマをぶっ飛ばす。


 「グマァッ…!!!」


見た目からは想像も出来ないようなパワーで吹っ飛ばされたタチフサグマは、樹に背中を打ち付けられて、ガクりと首を垂れたのでした。


かすみ「よっしゃぁ!! やってやりました!!」
 「クマァッ…」


が、喜びも束の間で、


 「マ、マネネェッ!!」
しずく「きゃぁっ!!?」


──パリンという何かが砕ける音と共にしず子の悲鳴。

“リフレクター”が破られた。


かすみ「……っ!?」


せっかく、タチフサグマを倒したのに、このままじゃ逃げ切れない。


かすみ「しず子……!!」


しず子に向かって飛び掛かるジグザグマたちがスローモーションに見えた。

視界の端では、マッスグマたちが“リフレクター”が壊れたことを認識して、飛び出そうと構えているのもわかった。

ダメだ。間に合わない。


かすみ「しず子ぉぉぉぉ!!!! 逃げてええええぇぇぇ!!!!」

632: ◆tdNJrUZxQg 2022/11/29(火) 13:18:13.06 ID:ULDkry570

叫ぶかすみん。だけど、しず子たちはもう逃げる余裕なんてなくて──白黒の毛むくじゃらがしず子たちに爪を立てようとした、瞬間、


 「──キュウコン! “ひのこ”!!」
  「コーーンッ!!!!!」


9つの火の玉が──飛び掛かってくるジグザグマたちをピンポイントで撃ち抜いた。


しずく「え……?」

かすみ「へ……」


突然の攻撃に驚いたのか、


 「グマッ!!?」「グママ、グマグマッ」「グマ、ググマッ!!!」


ジグザグマたちは一目散に逃げ出し始める。


かすみ「あ、そ、そうだ……! マッスグマは……!」

 「そっちも、大丈夫だよ」


優しい声と共に、


 「ワンワンッグルルルルッ!!!!!」


激しいうなり声をあげる、黄色と黒の犬ポケモン──パルスワンが視界に入る。その傍らにはすでに1匹仕留めたのか、マッスグマが伸びていた。

バチバチと牙の周りに稲妻を迸らせて、もう1匹のマッスグマを威嚇している。


 「グ、グマ…」


形勢が悪くなったと思ったマッスグマが逃げ出すと、


 「ワンッ!!!!!」


パルスワンは駆け出し、追いかけていく。

気付けば……あれだけいたジグザグマやマッスグマの群れは、1匹残らずいなくなっていたのでした。


かすみ「た、助かった……?」

 「大丈夫? 二人とも?」

 「このタチフサグマ、かすみちゃんがやったの? すごいわね、お姉さん、ちょっとかすみちゃんのこと見直しちゃったわ」


声の主の方へ振り返ると──先ほどのお姉さんたちの姿。


しずく「果林さん!!」

かすみ「エマ先輩ぃぃぃ!!」

エマ「二人とも、怪我してない?」

果林「怪我の手当てもいいけど……一旦、林から出ましょうか。ここだと見晴らしが悪いわ」


エマ先輩と果林先輩の助太刀によって、どうにか窮地を脱したのでした。




633: ◆tdNJrUZxQg 2022/11/29(火) 13:19:27.73 ID:ULDkry570

    👑    👑    👑





かすみ「パルスワン……戻ってきませんけど……」

エマ「パルスワンは三日三晩走っても大丈夫だから、疲れて動けなくなったマッスグマをちゃんと捕まえて戻ってきてくれるはずだよ」

果林「スピードでもマッスグマに負けてないしね」


エマ先輩の言葉に、果林先輩がそう補足する。


果林「それにしても、タチフサグマの雄叫びが聞こえて向かってきたら……貴方たちが戦っているんだもの。驚いたわ」

しずく「危ないところを助けていただいて……ありがとうございました……」

エマ「こっちこそごめんね……こんな場所に縄張りを作ってたなんて知らなかったから……」

しずく「あのガラルジグザグマたちが、本来ここにいないポケモン……ということですよね」

エマ「うん! だから、全部捕まえちゃうつもり!」

果林「って言っても、ボスはかすみちゃんが倒してくれたから、まとまりのなくなったジグザグマたちを捕まえるくらいならわけないと思うわ」


そう言いながら、果林先輩は今しがた捕獲した、タチフサグマの入ったボールをエマ先輩に手渡しながら言う。


エマ「ちょこちょこ草原エリアで目撃情報はあったんだけど……巣や縄張りがわからなくて捜索にずっとてこずってたんだ……。でも、二人のお陰で、どうにか全部捕まえられそうだよ~。ありがとう」

かすみ「とりあえず……もう当分あんなのとは戦いたくないです……」

果林「ふふ、ジャイアントキリングだったものね」


そう言いながら、果林先輩がかすみんのジグザグマに視線を落とす。


果林「早速、その経験が反映されそうだけど?」

かすみ「え?」


言われてジグザグマを見ると、ジグザグマがぶるぶると震えていた。

進化の兆候だ。


かすみ「いけないいけない……!」


かすみんは図鑑を取り出して、キャンセルボタンを押す。


果林「あら……進化キャンセルしちゃうの?」

かすみ「はい! かすみんたち……まだしばらくはこのままでいいかなって」
 「クマ」

かすみ「この姿でも工夫次第で戦えること、わかっちゃいましたから!」
 「クマァ♪」


だから、進化はもうちょっと先でいいかな? いつか、本当に力が必要になったときまで、進化はお預けです!


エマ「二人はこのまま、ダリアに行くんだよね?」

しずく「はい、そのつもりです」

エマ「それじゃ、ドッグランを抜けるまで付き合うね! って言っても……他にはそんなに好戦的なポケモンはいないと思うけど……」

かすみ「助かりますぅ……かすみんもう結構くたくたなんで」


万が一にも、もうバトルはしたくない。

何かあったらエマ先輩たちに戦ってもらいましょう……。

634: ◆tdNJrUZxQg 2022/11/29(火) 13:20:32.53 ID:ULDkry570

果林「それじゃ、早く行きましょう。日が暮れちゃう前にエマを家まで送りたいし」

エマ「果林ちゃーん! そっちは、コメコ方面だよー!!」

果林「……わ、わかってるわよ……/// まだジグザグマが残ってないか確認しようとしただけ……///」

かすみ「……バトルもコンテストも強くて、スーパーモデルなのに……方向音痴……」

果林「……あら、何か言ったかしら~?」

かすみ「ぴぇ! な、なんでもないですぅ~! 早く行きましょう~!」

果林「全く……」


ぞろぞろとダリア方面へと歩き出す。


かすみ「……あれ?」

しずく「どうしたの? かすみさん?」

かすみ「何か忘れてるような……」


そもそも、何か目的があって、ジグザグマたちを追いかけてたんじゃないっけ……。


かすみ「あっ!! 盗られた“どうぐ”!!」

しずく「もう、諦めよう。本当に日が暮れちゃうよ」

かすみ「そ、そんなぁ~……かすみんたち頑張ったのにぃ……」

エマ「ジグザグマたちを捕獲するときに見つけたら、かすみちゃん宛てにポケモンセンターに届けておくよ」

かすみ「うぅ……そうしてくれると助かりますぅ……。ジグザグマ、また頑張って集めようね……」
 「クマァ♪」


傾き始めた日が照らす中、落ち込むかすみんとは対照的に、ジグザグマは尻尾をぶんぶん振りながら、楽しそうに鳴き声をあげるのでした。




635: ◆tdNJrUZxQg 2022/11/29(火) 13:21:12.70 ID:ULDkry570

>レポート

 ここまでの ぼうけんを
 レポートに きろくしますか?

 ポケモンレポートに かきこんでいます
 でんげんを きらないでください...


【4番道路】
 口================== 口
  ||.  |○         o             /||
  ||.  |⊂⊃                 _回/  ||
  ||.  |o|_____.    回     | ⊂⊃|  ||
  ||.  回____  |    | |     |__|  ̄   ||
  ||.  | |       回 __| |__/ :     ||
  ||.○⊂⊃      | ○        |‥・     ||
  ||.  | |.      | | ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄\     ||
  ||.  | |.      | |           |     ||
  ||.  | |____| |____    /      ||
  ||.  | ____ 回__o_.回‥‥‥ :o  ||
  ||.  | |      | |  _.    /      :   ||
  ||.  回     . |_回o |     |        :  ||
  ||.  ●|          ̄    |.       :  ||
  ||.  | |        .__    \      :  .||
  ||.  | ○._  __|⊂⊃|___|.    :  .||
  ||.  |___回○__.回_  _|‥‥‥:  .||
  ||.       /.         回 .|     回  ||
  ||.    _/       o‥| |  |        ||
  ||.  /             | |  |        ||
  ||. /              o回/         ||
 口==================口


 主人公 かすみ
 手持ち ジュプトル♂ Lv.31 特性:かるわざ 性格:ゆうかん 個性:まけんきがつよい
      ゾロア♀ Lv.25 特性:イリュージョン 性格:ようき 個性:イタズラがすき
      ジグザグマ♀ Lv.30 特性:ものひろい 性格:なまいき 個性:たべるのがだいすき
      サニーゴ♀ Lv.23 特性:のろわれボディ 性格:のうてんき 個性:のんびりするのがすき
 バッジ 3個 図鑑 見つけた数:130匹 捕まえた数:6匹

 主人公 しずく
 手持ち ジメレオン♂ Lv.21 特性:スナイパー 性格:おくびょう 個性:にげるのがはやい
      マネネ♂ Lv.20 特性:フィルター 性格:わんぱく 個性:こうきしんがつよい
      アオガラス♀ Lv.20 特性:はとむね 性格:ようき 個性:ちょっぴりみえっぱり
      ロゼリア♂ Lv.20 特性:どくのトゲ 性格:いじっぱり 個性:ちょっとおこりっぽい
      キルリア♀ Lv.22 特性:シンクロ 性格:ひかえめ 個性:ものおとにびんかん
 バッジ 0個 図鑑 見つけた数:139匹 捕まえた数:9匹


 かすみと しずくは
 レポートに しっかり かきのこした!


...To be continued.




636: ◆tdNJrUZxQg 2022/11/29(火) 20:27:50.75 ID:ULDkry570

 ■Intermission👏



──コメコシティ・DiverDiva拠点。


姫乃「──姫乃、戻りました」

愛「あれ? 姫乃っちじゃん」


声に振り向いてみると、姫乃っちの姿があった。

この子は大抵カリンの企み事に付き合って、地方中を行ったり来たりしているから、こうして拠点で会うのは珍しい。


姫乃「はい、今は果林さんから特に指示もないので……一度拠点に顔を出そうかと思って……」


そう言いながらしきりにキョロキョロとしている姫乃っち。


愛「カリンならいないよー」

姫乃「そうなのですか……?」


露骨に残念そうな顔をする。


姫乃「して……果林さんはどちらへ?」

愛「カリンなら、今エマっちとドッグランにいるよ」

姫乃「は?」

愛「なんでも、ラクライの縄張りを元の場所まで引っ張るのをお願いされたんだとさー。自分で牧場側に呼び出す作戦立てておいて、よくやるよねー」

姫乃「ありがとうございます、愛さん。それでは行ってまいります」

愛「待った待った。どこ行くつもりよ」

姫乃「もちろんドッグランへ……」

愛「ダメに決まってるでしょ。ってか、カリンに怒られるよ」


姫乃っちはカリンが自由に動くために、外での接触タイミングはかなり限られている。

ましてや、エマっちとカリンが一緒にいるタイミングで出て行くなんて言語道断だ。


姫乃「……」

愛「愛さんに向かって、そんな不機嫌そうな顔されても困るんだけど」

姫乃「果林さんは、あの現地人と距離が近すぎます……」

愛「それは前にも聞いたし、カリンにも伝えたよ。でもまあ、しょうがないじゃん?」

姫乃「愛さんはいいんですか」

愛「何が?」

姫乃「果林さんがあの現地人にうつつを抜かしていても何も思うことがないと」

愛「やることやってくれてれば私はどっちでもいいんだよねー。それに──私はカリンに逆らえないし」


そうおどけながら、首輪をつまんで見せる。

637: ◆tdNJrUZxQg 2022/11/29(火) 20:28:45.08 ID:ULDkry570

姫乃「そうですか……まあ、貴方には期待していません」

愛「酷いこと言うねぇ、姫乃っち」

姫乃「そうですか? ご自分にどうして、そんな首輪が着いているかを考えればわかることでは?」

愛「……」

姫乃「……失礼。言いすぎました」

愛「ま、いいよ、別に」


まあ、姫乃っちからしたら、アタシは目の上のたんこぶみたいなもんだからね。

別にいちいち怒るようなことでもない。


姫乃「お詫びと言ってはなんですが……面白い情報を手に入れてきましたよ」

愛「面白い情報?」


姫乃っちが私にデータの入ったUSBを手渡してくる。

早速データを読み込むと──人物資料が入っていた。


愛「ナカガワ・菜々……? ……ローズのジムリーダーの秘書……?」


情報に適当に目を通していく。ローズのジムリーダーと言えばマッキーだけど……。


愛「……って、ずいぶん若いね」


16歳で、ジムリーダーの秘書……? トレーナーとしてはそれくらいで大成してる人はいくらでもいるけど……トレーナーとしての経歴もないし……。


姫乃「はい、私もそう思いまして。合間に調べていたんですが……面白い人物と結びつきまして」

愛「面白い人物……?」


画面を下にスクロールしていくと──その人物の情報があった。


愛「……マジで?」

姫乃「十中八九、間違いないかと」

愛「……なるほどね」


なるほどどうして……これは叩けば埃が出そうな話だ。


愛「いいね……カリン、こういうの好きだと思うよ」

姫乃「ありがとうございます。果林さんに伝えておいてください」


そう言うと、姫乃っちは背を向けて、拠点から出ていこうとする。


愛「カリンに会ってかないの?」

姫乃「私の役目は果林さんの役に立つことですから。また、何か情報を探してきます」


そう残して、姫乃っちは拠点から出て行ってしまった。


愛「真面目だねぇ」


思わず肩を竦める。

それにしても──


愛「これは……面白いことになるかもね」

638: ◆tdNJrUZxQg 2022/11/29(火) 20:29:22.97 ID:ULDkry570

私はモニターに映る人物の資料を見ながら、一人呟くのだった。



 「ベベノー」


………………
…………
……
👏