1 :名も無き被検体774号+:2013/01/03(木) 13:14:06.48 ID:WHIRN/4b0
女「年明けの一言目にうぜえってなんですか、傷つきますよ。はっぴーにゅーやー?」

男「だって寝起きにいきなり来るとは思わんかったし声でかいしテンション高いし」

女「新年ですもん。あけましておめでとうございます!」

男「あぁ、おめでとう」

女「辛気くさいですよ! 新年なんだから心機一転、新規に新機軸を心に取り入れなくちゃ!」

男「辛気にかけてうまいこと言おうとしたというのはわかる」


2 :名も無き被検体774号+:2013/01/03(木) 13:17:07.92 ID:WHIRN/4b0
女「わーいつもの仏頂面だー。仏頂さんだー。ぶっちょぶっちょ」

男「どっかのお菓子みたくなるからやめろつつくな。この顔は生まれつきだ」

女「えーでも楽しかったら笑うでしょ?」

男「新年だからってそれだけで笑えるほど希望に満ちた人生じゃないもんでな」

女「つまんねーやつだな! よし、私がいいことを教えてしんぜよう」

男「いやいいよ。帰れ」

女「お邪魔しまーす」

3 :名も無き被検体774号+:2013/01/03(木) 13:20:15.17 ID:WHIRN/4b0
男「人の話を聞かんやつだな……散らかってるぞ」

女「いつものことだから気にしないで。見られて困るものは見てから忘れてあげます」

男「そんなもんないけどせめて見ない努力をするのがマナーというものだ」

女「マナーとか学校で習わなかったし。あ、ソファーが新しくなってる。ひゃっほーい」

男「ひゃっほーいじゃない、そこは俺の席だ。俺の家の俺の私物だ座んな」

女「マーキングマーキング。あーすでにけっこう煙草くさい……だめですよ換気しなくちゃ」

男「消臭剤かけときゃいいだろ。……ちょっと待ってろ飲み物いれるから」

女「ロイヤルミルクティーお願いします!」

男「ロイヤルもミルクもティーもないからコーヒーな」

女「一文字も合ってない……ちくしょうごろごろしてやる」



5 :名も無き被検体774号+:2013/01/03(木) 13:22:43.00 ID:WHIRN/4b0
女「いいなー一人用ソファー。狭いのにこんなの置いちゃってすごい圧迫感。
  買ってから後悔するタイプ?」

男「おまえ羨むのか貶すのかどっちかにしろ。砂糖いるか?」

女「あのーあれ、カロリーオフのスティックシュガーありません?」

男「ねえよ。俺カロリーオフ系って嫌いなんだよな。人工甘味料って変な味するし」

女「贅沢な舌に育っちゃったわけですね。
  ところでさっきポスト覗いてきたんですけど、年賀状きてましたよはい」

男「……ありがとうって言わなきゃいけないのか微妙なところだが、
  まず人の家のポストを勝手に覗いてはいけないことを学べ」

6 :名も無き被検体774号+:2013/01/03(木) 13:25:47.08 ID:WHIRN/4b0
女「あ、このマグカップ前に私が割ったやつだ! 買いなおしたんですね偉い」

男「偉いと言う前に謝る気はないのか。
  もう店に在庫なかったからわざわざメーカーに注文したんだぞ」

女「そこは新年に免じて許して下さい。はっぴーにゅーやー!」

男「もういいよおまえは自由に生きろ。そして挫折して後悔して慎みを知れ」

女「男さんはなんでそんないつもつまらなそうな顔してるんですか。はい年賀状」

男「いやさっきもらったけど」

女「私の分です」

7 :名も無き被検体774号+:2013/01/03(木) 13:29:57.95 ID:WHIRN/4b0
男「こういうのって直接渡すもんじゃない気がするが……相変わらず下手な絵だなあ」

女「画伯と呼んでくれてもいいですよ」

男「まあ手書きでやるだけ偉いと思うわ。俺なんかぜんぶ同じ絵柄のを印刷しただけだ」

女「男さんのはまだ届いてなかったなぁ。帰ったらみてみます。んん、このコーヒー苦い。
  こんな苦いのばっかり飲んでるから苦味ばしった顔になっちゃったんですね」

男「そんなにまで酷い顔してるか俺は」

女「酷いっていうか、笑顔が足りません。足しましょう笑顔」

男「苦手なんだよ作り笑顔は」



10 :名も無き被検体774号+:2013/01/03(木) 13:33:20.81 ID:WHIRN/4b0
女「だからー、自然に笑えばいいだけですって」

男「そりゃまあ、面白いことがあれば笑えるけど、つまらないときには笑えるもんじゃないだろ」

女「んー、気持ちの問題ですよ」

男「気持ちねえ……」

女「つまらないときに楽しく生きる方法って知ってます?」

男「知らん」

女「別の生き物になってみるんですよ、気持ちだけ」

男「ほう」

女「たとえば豚とか」

男「……なんで豚」

11 :名も無き被検体774号+:2013/01/03(木) 13:36:39.32 ID:WHIRN/4b0
女「いずれ食べられる生き物の気持ちですよ。
  でも当人は、当豚はそんなこと微塵も考えないで餌をはむはむしてるんですよ。
  なんでって人間の言葉なんてわからないから」

男「豚の言葉がわからないおまえは、豚の気持ちをどうやって言語化するんだ」

女「そう、そこです。なんか気持ちだけならいけるかなーって漠然と挑戦してみましたけど、
  結局のところ気持ちを言語化できないと、気持ちが想像できてるかどうかもわかんないんですよねー」

男「弛まぬチャレンジ精神だけは認めよう」

女「とりあえず豚の気持ちになってみるのは無理だって気付いたので、
  少し妥協することにしました」

男「妥協?」

女「人間になってみたことがある豚の気持ちになってみることにしたんです」

男「なんでおまえはそうやってややこしい思考に転がるんだ」

12 :名も無き被検体774号+:2013/01/03(木) 13:39:08.95 ID:WHIRN/4b0
女「人間になってみたことがある豚なので、言語は日本語でもだいじょうぶです。
  あ、ってことは元日本人だこの豚」

男「あー、その豚は、人間になる前は豚だったのか?」

女「えっと、つまり豚→人間→豚かどうかってことですね。
  人間になってみたことがある豚、なのでもちろん元は豚です。
  なってみたことがある、なのでもちろん人間になった後に豚に戻ります。
  つまりそれで合ってますね!」

男「なんかジブリの映画思いだしたわ不意に」

女「あれは元人間でしょ?」

男「豚になってみたことがある人間だな」

女「作中はほぼずっと豚ですけどね。あ、話しを戻します」

男「戻すぐらい執着があったか」

13 :名も無き被検体774号+:2013/01/03(木) 13:41:49.78 ID:WHIRN/4b0
女「だってこれ楽しく生きる方法ですよ。大事じゃないですか。
  このノウハウを活かせばすばらしい人生になること受けあいです。あーあ、お金とろうかな」

男「全力で払わんぞ。この払わなさに全てを賭けてもいい」

女「そんなことに全力使わなくて良いのに……
  それで、人間になってみたことがある豚ですけどね。
  やっぱり人間としての知識があるから、いろいろやな情報も知ってるわけですよ。豚的に」

男「人間の知識を持って豚になる、って時点で俺には悲劇にしか聞こえない」

14 :名も無き被検体774号+:2013/01/03(木) 13:43:44.43 ID:WHIRN/4b0
女「ですよねー。まあいつか食用にされちゃうってことが分かってて、
  それでも逃げることも叶わなくてただ餌を食べて排泄するだけの日々てすよ。
  ひきこもりニートより辛い生活です」

男「まあなあ。絶望的だわな」

女「あと下手に人間のときにベイブとか観てたら大変です。
  俺にもあんなチャンスが訪れるかもみたいな期待を胸に抱きつつ、
  もちろんそんな日はやって来なくて半端な希望がじわじわと真綿で首を締め付けられるように
  萎んでいくのを待つ豚生なんて、最悪ですよ」

男「豚生って言葉を今後の人生であと何回使うことがあるだろうか」

15 :名も無き被検体774号+:2013/01/03(木) 13:46:56.63 ID:WHIRN/4b0
女「あ、もっとやなこと思いついちゃいました」

男「思いつかんでいいのに」

女「人間だったときに豚肉食べてたら、なんかもうカニバリズム的な気分ですよね豚だけど。
  しかも美味しいとか思っちゃってたりして。ああ、あんな味なのか自分のこの身体、
  とか思いながら餌をはむはむ」

男「はむはむって擬音おまえちょっと可愛いと思って言ってるだろ」

女「可愛いでしょはむはむ」

男「それが可愛いのは可愛らしい顔で可愛らしさが許される年齢と身分があるから可愛いだけだ」

女「それって暗に俺と付き合ってくれっていう愛の告白ですか?」

男「なんでこういう時だけポジティブな発想が全開になるのか不思議」

女「つまらない時が多いからこそ、ポジティブな発想が大事になるんですよ」

男「いやさっきまでの話はまったく救いようがなかったと思う」

16 :名も無き被検体774号+:2013/01/03(木) 13:49:40.48 ID:WHIRN/4b0
女「じゃあもう豚はやめましょう。何がいいですかねー、冷蔵庫?」

男「生物から無機物になっちまったわけだが。冷蔵庫の気持ちってどんなだよ」

女「人間になったことがある冷蔵庫、はなんか想像しにくいので、
  単純に日本語をマスターしている冷蔵庫の気持ちを考えましょう。
  えーと……身体の中にたくさん食料がある気持ち。便利?」

男「新年早々なにをやってるんだろうか俺達は」

女「急に現実に戻んないで下さいよー。じゃあどっか出かけます? 初詣とか」

17 :名も無き被検体774号+:2013/01/03(木) 13:52:54.48 ID:WHIRN/4b0
男「だらだらこんな話してる時点で、お互い予定がないのは明白だしな……
  でも初詣はやめとこう。人ゴミはきつい」

女「じゃあ初売り?」

男「それも人ゴミだろ。何か欲しいものあるのか?」

女「別にないですけどー。暖かな愛がほしい」

男「残念、冷たいのしか残ってないわ」

女「じゃあそれでいいです。こっちで暖めますから」

男「その服あったかそうでいいよな。ペンギンみたいで」

女「え、寸胴ってこと? いじめ?」

男「そう受け取るのか、なるほど」

女「なるほどじゃねー。ペンギンってそんなにあったかいイメージあるかなぁ。もふもふしてますけど」



20 :名も無き被検体774号+:2013/01/03(木) 13:56:25.95 ID:WHIRN/4b0
男「犬のプードルとかさ、一部分だけもこもこしてて、残りが丸裸みたいな感じじゃん。
  あれってぜんぶ毛がないより余計に寒そうに感じる」

女「その感覚はちょっとわからないでもないけどやっぱわかんないです」

男「どっちだよ。で、出かけるか?」

女「どこ行くにも混んでるでしょうね。それなりに」

男「俺はとりあえず腹減ったから何か食いに行くけど」

女「じゃあ私もご相伴に預かろうと思います」

男「おごらんぞ?」

女「やだなぁ割り勘しますよもちろんサノバビッチ」

男「語尾に下品な言葉がついてきた気がするが聞かなかったことにしよう。さ、行くぞ」

女「準備はや! まだコーヒー飲み終わってないから待って下さい」

21 :名も無き被検体774号+:2013/01/03(木) 13:59:52.72 ID:WHIRN/4b0
男「あー外雪降ってんなー。傘持ってきた?」

女「私が来たときには降ってませんでしたからないです。天気予報みないし」

男「見ろよ」

女「友達がいつも代わりに教えてくれるんですよねー。予報士目指してる子」

男「気象庁より友達の予報をあてにしてんのか」

女「麗しい友情です」

男「本音は?」

女「三回連続で外したらケーキおごってくれるんですよ彼女」

男「その子は友達の選び方をよく考えた方がいいかもな」

女「え、選んだの私ですよ。すっごい可愛いんだからあの子。
  授業中に居眠りして金縛りに遭ったりしてるし」

男「なんかやっぱりおまえは思考が変なほうに傾いてるよなぁ」

女「でもそこが?」

男「いやよくないけど」

女「そんな私のことが?」

男「ちょっとこの雪みぞれっぽくなってきたなー」

女「スルースキルばっかり上達しやがって……!」

22 :名も無き被検体774号+:2013/01/03(木) 14:03:19.80 ID:WHIRN/4b0
男「あんまり遠出してもあれだから近くのファミレスでいいか?」

女「はーい。いま気付いたけどこれ相合傘じゃないですかきゃーらぶらぶ」

男「一本しかなかったんだよ。予備はバイト先だし」

女「たまに盗まれても仕方ないけど実際盗まれたらイラッとするランキング一位ですよね傘って」

男「女は高い傘買わないの?」

女「買いませんよ。物なくすの得意なんで」

男「ふうん」

女「あれ、反応うすい」

男「たまーにふつうの回答されると逆に驚くんだよ」

女「驚いたっていう反応じゃなかった……ふつうに無関心の顔だった」


24 :名も無き被検体774号+:2013/01/03(木) 14:05:25.20 ID:WHIRN/4b0
男「なに食おうかな。お、カレーフェアか」

女「タイカレーって戦隊物みたいですよね」

男「どの辺が?」

女「レッドカレー、イエローカレー、グリーンカレー!」

男「あとピンクとブラックがいれば完璧か」

女「えー、ブルーとホワイトは?」

男「いっそシルバーとゴールドも作っちまえ」

女「食べたくないですね」

男「ああ」

25 :名も無き被検体774号+:2013/01/03(木) 14:08:02.29 ID:WHIRN/4b0
女「でも男さん知ってました? タイカレーってほんとはカレーじゃないこと」

男「言ってることがわからない」

女「正式にはカレーじゃなくて、タイ料理のゲーンっていう汁物の一種なんですよ」

男「ゲーン」

女「ゲーン」

男「美味しそうな響きではないな」

女「カレーってことでいいと思います」

26 :名も無き被検体774号+:2013/01/03(木) 14:13:28.49 ID:WHIRN/4b0
男「カレー話ばっかりしてたせいで結局カレーを注文してしまった」

女「カレー話に惑わされず私はパスタを注文しました」

男「スイーツ女子め。スパゲッティと言え」

女「ふふん。パスタはスパゲッティを凌駕してるんですよ意味的に!」

男「なんだと」

女「パスタはイタリア語で麺的な意味を持ってて、スパゲッティ、ペンネ、ラザニアなんかも含むのです」

男「パスタって言って出てきたのがラザニアでも文句は言えない国なのかイタリアは」

女「そうです。だからイタリア語からするとラーメンもうどんもそばもパスタってことになりますね」

男「えーじゃあ俺パスタ大好きだわ」

女「スイーツ男子め」

27 :名も無き被検体774号+:2013/01/03(木) 14:17:55.12 ID:WHIRN/4b0
男「ドリンクバーでお代わり5杯って飲みすぎだろ」

女「むしろ抑えたほうですよ? ケーキも食べちゃったし」

男「カロリー的にはまるで抑えきれてる気がしないが」

女「その分いま使ってるからだいじょうぶです」

男「喋ってるだけで?」

女「男さんといると燃費が悪くなるんです」

男「俺のせいか」

女「笑ってるでしょ?」

男「俺が?」

女「私が」

男「笑ってるな」

女「楽しいからです。男さんも笑ってるし」

男「え?」

女「男さんの気持ちになって笑ってあげました」

男「……そいつはどうもありがとう」

女「今年もよろしくお願いします」

男「あぁ、よろしく」

28 :名も無き被検体774号+:2013/01/03(木) 14:19:16.57 ID:WHIRN/4b0
おわり。