侑「ポケットモンスター虹ヶ咲!」 Part2 その5

458: ◆tdNJrUZxQg 2022/12/31(土) 12:11:42.96 ID:8UVAxvmj0

■Chapter064 『かすみとしずく』 【SIDE Kasumi】





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──


かすみ「はー……はー……」

果南「結局完走に2日掛かったね。……まあ、途中で睡眠も取ってるし……初回としては上出来かな」

かすみ「そ、そりゃどーもです……」

果南「それじゃ、今日は宿で休みな。明日は早朝に出るから」

かすみ「わかりました……」

果南「お、素直だね。てっきり、もう行きませんとか言うと思ったのに」

かすみ「だって……かすみんにとって……この修行は必要なんですよね……?」

果南「そうだね」

かすみ「なら、やってやりますよ……」

果南「そっかそっか♪ やっぱり、私が見込んだだけのことはあるよ♪」


そう言いながら果南先輩は、かすみんの頭を撫でます。


かすみ「やーめーてー……髪崩れちゃいますぅ~……」

果南「あはは♪ あれだけ、ひぃひぃ言いながら走ってたのに、髪型に気を遣うのすごいね」

かすみ「髪のセットは乙女の命なんですぅ!!」


ぷりぷり怒りながら、果南先輩の手を振り払う。


果南「あはは♪ かすみちゃんって、ちょうどいいサイズ感だから撫でたくなるんだよね」

かすみ「むー……確かにかすみんは超絶可愛いから、ナデナデしたくなるのはわかりますけどぉ……」


それにしても果南先輩って、飄々としていて何考えているのか、よくわかんないんですよねぇ……。

彼方先輩よりも謎かもしれません……。


かすみ「あのー……果南先輩」

果南「ん?」

かすみ「どうして、かすみんの面倒見てくれるんですか……? かすみんが可愛いから?」

果南「あはは♪ 確かにかすみちゃんは可愛いけど、それが一番の理由ではないよ」

かすみ「じゃあ、どうして?」


かすみんにはずっと疑問でした。どうして果南先輩みたいな人が、わざわざかすみんに稽古を付けてくれるのか……。

いや、あの、正直内容が死ぬほどキツイのはどうにかして欲しいんですけど……。


果南「そうだなぁ……強いて言うなら──かすみちゃんの中に可能性を見たから……かな」

かすみ「可能性……? いや、確かにかすみん可能性の塊だと自負してますけどぉ……」

果南「あはは♪ そういうとこそういうとこ♪」

かすみ「……?」

果南「ポケモンバトルで……いや、人が生きていく上で一番大切なことってなんだと思う?」

かすみ「え?」

459: ◆tdNJrUZxQg 2022/12/31(土) 12:12:39.96 ID:8UVAxvmj0

急に難しいこと言いだしますね、この人……。


かすみ「うーん……。……みんなから愛される可愛い女の子になること?」

果南「あははっ、確かにそりゃ大事かもね! ポケモンバトルで役に立つかはわからないけど」

かすみ「じゃあ、なんなんですか……」

果南「諦めないことだよ」

かすみ「諦めないこと……?」

果南「生きてるとさ……どんな人でも苦しくて、足が止まりそうになることがたくさんあるんだ。戦うのが苦しくなったり、前に進めなくて辛くなったり、目標を見失って未来に希望が持てなくなったり……」

かすみ「果南先輩もですか?」

果南「うん、そうだよ」

かすみ「……お気楽能天気そうなのに……?」

果南「お? そんな生意気なこと言うのはこの口かな~?」


果南先輩が、かすみんのほっぺを摘まんで引っ張ってくる。


かすみ「い、いひゃい~……かしゅみんのかわいいほっへがのびちゃいまふぅ~……」

果南「ホントにほっぺぷにぷにだね。ずっと引っ張ってたいかも」

かすみ「ひゃめて~……」

果南「はいはい。じゃ、もう生意気なこと言っちゃダメだよ」


果南先輩はやっとほっぺを摘まんでいた手を放してくれる。


果南「……みんなだよ。みんな、前に進めなくなるときがあるんだ。侑ちゃんも、せつ菜ちゃんも……きっと私の見てないところで、歩夢ちゃんも、しずくちゃんもたくさん挫折して悩んでたんじゃないかなって思うんだ」


果南先輩はそう言って……目を細める。


果南「だけど、かすみちゃんだけは違った。……どんなに苦しいことがあっても、挫けそうなことがあっても、辛いことがあっても、かすみちゃんだけはずっと前を向くことをやめなかった。それはかすみちゃんが思っているよりも、ずっとずっと、すごいことなんだよ」

かすみ「そういうもんなんですか……?」

果南「そういうもんだよ。そしてそれは誰にも負けない武器になる」

かすみ「誰にもって……千歌先輩とか、せつ菜先輩にも?」

果南「うん……かすみちゃんはいつか、千歌やせつ菜ちゃんにも負けないくらい強くなるって私は思ってる」

かすみ「……。……な、なんですか……めちゃくちゃ持ち上げるじゃないですか……///」

果南「私は本来弟子なんて作るタイプじゃないんだけどね。……でも、かすみちゃんを見てたら……かすみちゃんにだけはいろいろ教えてみたくなった」


果南先輩が珍しく真剣な顔で言うから……かすみんなんだか恥ずかしくなっちゃって目を逸らしちゃいます。


かすみ「……そ、そういうことなら……かすみん……しばらく、果南先輩に教わってあげてもいいですよ……?」

果南「ふふ♪ じゃあ、教わってくれるかな♪」

かすみ「は、はい……その代わり……かすみんのこと、強くしてください!」

果南「うん、私に教わるんだから、強くなってくれないと困るよ♪」


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────
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460: ◆tdNJrUZxQg 2022/12/31(土) 12:16:28.08 ID:8UVAxvmj0

かすみ「ジュカイン!! “ソーラーブレード”!!」
 「カインッ!!!」

しずく「サーナイト、“サイコキネシス”♡」
 「サナッ」


ジュカインが陽光の刃を振るうのに対して、メガサーナイトはサイコパワーで自身の目の前に黒い球体を作り出す。

すると、“ソーラーブレード”はその球を中心に軌道を捻じ曲げられ──しず子を避けるように飛んで行ってしまう。


かすみ「“リーフストーム”!!」
 「カインッ!!!」


今度は背を向け、しっぽミサイルに纏わせて“リーフストーム”を放つけど、


しずく「ふふ♡ 当たらないよ♡」


それも、黒い球に逸らされて、明後日の方向へ飛んで行ってしまう。


かすみ「……ブラックホール」

しずく「あはは♡ さすがに勉強してきたんだね、偉いよかすみさん♡」


事前に確認してきたサーナイトの図鑑によると……こう書かれていた。

 『サーナイト ほうようポケモン 高さ:1.6m 重さ:48.4kg
  未来を 予知する 能力で トレーナーの 危険を 察知し 空間を
  ねじ曲げることで 小さな ブラックホールを 作り出す 力を 持つ。
  胸の 赤いプレートは 心を 実体化したもの と言われている。』


しずく「そう、サーナイトはサイコパワーで小さなブラックホールを作り出せる。これがあれば遠距離攻撃は全部逸らすか吸い込むことが出来ちゃうんだよ♡」
 「サナ」

しずく「それにサーナイトがメガシンカのパワーで出来るようになったのは防御だけじゃないよ……♡ “ハイパーボイス”!」
 「サーーーナーーーッ!!」


──サーナイトから強烈な音波攻撃が発せられ、かすみんたちに襲い掛かってくる。


 「カインッ…!!」
かすみ「ぐ、ぅぅぅぅぅっ!!」


咄嗟に耳を塞いで鼓膜を守るけど──強力な音波は、耳だけでなく、物理的な衝撃となって、かすみんたちを吹き飛ばす。

衝撃で身体が浮くかすみんを、


 「カインッ…!!」


ジュカインが、尻尾を伸ばして、吹き飛んでいかないように助けてくれる。


かすみ「あ、ありがと……! ジュカインは平気?」
 「カインッ!!!」

しずく「ふふ♡ かすみさんのジュカインもメガシンカしてすっごくたくましくなったね♡ でも、メガシンカでドラゴンタイプが増えたせいで……“フェアリースキン”のメガサーナイトとは相性が悪くなっちゃったね♡」


しず子がくすくすと笑いながら言う。


かすみ「……相性なんて、パワーでくつがえしてあげる」

しずく「へー♡ 楽しみ♡」

461: ◆tdNJrUZxQg 2022/12/31(土) 12:17:19.58 ID:8UVAxvmj0

そう言いながら、しず子がすっと手を上げる。

攻撃の予兆を感じ、ジュカインも刃を構える。

──しず子が“サーナイトナイト”を持っていたのは最初から知っていたし、果南先輩と一緒にサーナイト対策はしっかりしてきた。

もちろん厄介な音波攻撃への対策も……!


しずく「サーナイト」
 「サーーーーー──」


空気を吸うサーナイト、そしてそれを見て、


 「カインッ…!!!」


刃を構えるジュカイン。

──果南先輩曰く……音波攻撃を攻略するには……。


果南『音より速く攻撃すればいいだけだよ』


とのこと……。

お陰で──……めちゃくちゃ可愛くない技を習得させられました……。


 「カインッ!!!!」


自らを“ふるいたてる”ことによって、ジュカインの腕の筋肉が隆起する。

強化した筋力で振り下ろす──神速の斬撃……!!


しずく「“ハイパーボイス”!!」
 「──ナーーーーーーーッ!!!!!!」

かすみ「“かまいたち”!!」
 「カァインッ!!!!!!!」


飛んできた音波を──音速の刃が斬り裂いた。


しずく「……! へぇ……♡」


音を斬り裂いたのと同時に、


かすみ「行くよっ!!」
 「カインッ!!!」


ジュカインが地を蹴って飛び出す。

俊足のジュカインは一瞬でメガサーナイトに肉薄し──


 「カインッ!!!」


“リーフブレード”を逆袈裟斬りの要領で振り上げる。


かすみ「いっけぇぇぇ!!」


攻撃が決まった──そう思った瞬間。


しずく「ふふ♡」


しず子がサーナイトの前に飛び出してきた。

462: ◆tdNJrUZxQg 2022/12/31(土) 12:18:13.40 ID:8UVAxvmj0

かすみ「!? ジュカインッ!?」
 「カ、カインッ!!!?」


ジュカインの刃が──しず子の脇腹を斬り裂く寸前で止まる。


しずく「“マジカルシャイン”♡」
 「サナ!!!」

 「カインッ…!!!?」


ジュカインは目の前で強烈な閃光を食らって仰け反り、


しずく「頭ががら空きですよ……♡ “サイコショック”!」
 「サナッ!!!」


サーナイトが目の前に作り出した──ちょうどジュカインの頭くらいのサイコパワーのキューブが、ジュカインの頭にぶつけられる。


 「カイン…ッ!!!!」

かすみ「ジュカインッ!!」


ジュカインの体がグラリと揺れたけど、


 「カイ、ンッ!!!!」


ジュカインはドンと震脚しながら踏ん張る。


しずく「あはは♡ 今のも耐えるんだね♡」

かすみ「っ……!! “アイアンテール”!!」

 「カインッ!!!」


ジュカインが身を捻って、尻尾を振るうけど、


しずく「はい、ダメです♡」


また、しず子が前に出てきて、


かすみ「っ……!! ジュカイン、ストップッ!!」

 「カ、カインッ…!!!」

しずく「“サイコキネシス”♡」
 「サナッ!!!」

 「カインッ…!!!」


サイコパワーでジュカインが、かすみんの方に吹っ飛んできて──


かすみ「ぐ……!?」


巻き込まれるようにして、ジュカイン共々地面を転がる。


かすみ「……っ゛……!!」

しずく「あはは♡ 咄嗟に“グラスフィールド”を展開して衝撃を殺したんだね♡ すごいすごーい♡」

かすみ「……ジュカイン……! 立てる……!?」
 「カインッ…!!!」


ジュカインは声を掛けると、すぐに立ち上がる。“グラスフィールド”を展開してくれたお陰で、大きな怪我にこそならなかったけど……。

463: ◆tdNJrUZxQg 2022/12/31(土) 12:20:34.32 ID:8UVAxvmj0

しずく「ふふ……♡ かすみさんは、私のこと攻撃出来ないって──信じてたよ♡」

かすみ「しず、子ぉ……!!」

しずく「かすみさんは私には絶対勝てないよ♡ だって、私が私である以上、かすみさんは私を傷つけられないもの♡ あはは♡ 今の私……すっごく悪役っぽいね♡」

かすみ「……ぐ……!!」


思わず拳を握りこんでしまう。

……まさか、ここまでしてくるなんて思ってなかった。

怒りで腸が煮えくり返りそうですけど……むしろ、そのお陰で完全に腹が決まった。


かすみ「何がなんでも正気に戻してやるから……っ!!」





    👠    👠    👠





せつ菜「……っ!!」


しずくちゃんが逆にポケモンの盾になったのを見て、せつ菜が今にも飛び出しそうになったけど……かすみちゃんのメガジュカインが攻撃を寸止めしたのを見て、その場に踏みとどまる。


せつ菜「…………」

果林「……しずくちゃんが自分の命に頓着しないと言ったのは貴方よ?」

せつ菜「わかってます……」


せつ菜はいつでも助けに入れるように身構え始める。

とはいえ……私もしずくちゃんがあそこまでするのは予想外だった。

お陰でせつ菜の視線は完全にしずくちゃんに釘付けになってしまっている。

……しずくちゃんは恐らくあの行動がもっとも私のためになると考えているのかもしれないけど……いや……案外、せつ菜の気を引きたいだけの可能性もあるのかしら……?

せつ菜としずくちゃんはウルトラディープシーにて、数日間寝食を共にしていたし……浅からぬ絆が芽生えていても……。

そこまで考えて、私は頭を振る。

いや……だとしても、フェローチェの魅了以上の動機で動くことはありえない。

どうにも、フェローチェというポケモンが持っている毒は、感性の強い人間相手だと影響が強すぎる。

調節が効かないものだから仕方ないけど……。

……まあ、せつ菜の注意が向こうの戦闘に寄っているのは別に構わない。

だって、


 「キーーーッ!!!!」

侑「ぐぅっ……!?」
 「ウォーーーグッ……!!!!」


空中で必死に攻撃を避けていたウォーグルを、今しがたファイアローが上から攻撃を加えて叩き落としたからだ。


 「コーーーンッ!!!!」

侑「“ハイドロポンプ”ッ!!」
 「フィーーーオォーーーーッ!!!!」

464: ◆tdNJrUZxQg 2022/12/31(土) 12:23:13.38 ID:8UVAxvmj0

落下しながらもキュウコンの炎はフィオネの激流が相殺する。

咄嗟の防御は一人前だけど……いつまでもつかしらね。





    👑    👑    👑





かすみ「避ける気がないなら、動きを封じればいい……!! ダストダス!!」
 「──ダストダァ!!!」


ダストダスをボールから出し、


かすみ「“どくガス”!!」
 「ダァァァス!!!!」


両手からしず子に向かって“どくガス”を噴出する。


しずく「“ミストフィールド”♡」
 「サナ」

かすみ「ぐ……」

しずく「“どくガス”……“ミストフィールド”で掻き消えちゃったね♡」

かすみ「なら、直接捕まえるだけ……!! ダストダス!!」
 「ダストダァァス!!!!!」


直接しず子を捕まえようと、ダストダスが腕を伸ばす。


しずく「“サイコキネシス”♡」
 「サナ」


片腕をサイコパワーで止められるけど──まだ、もう片腕が逆側から、しず子に向かって迫っている。

行ける……! そう思った瞬間、


 「ベァァァァ…!!!」

かすみ「……!」

しずく「私にも手持ちは複数いるんだよ?」


そう言いながら、もう片方の手は──しず子が繰り出したツンベアーがガッチリと掴んでいた。

ツンベアーは冷気で掴んだダストダスの腕を凍らせながら、


 「ベァァァッ!!!!」


手前に思いっきり引っ張る。


 「ダストダァッ…!!!?」


そのパワーにダストダスが引っ張られ体勢を崩して、転ばされる。


かすみ「ダストダス!?」

しずく「パワーはこっちに分があるみたいだね♡」
 「ベァァァ…」

465: ◆tdNJrUZxQg 2022/12/31(土) 12:24:05.64 ID:8UVAxvmj0

そして、そのままダストダスの腕を凍らせ、地面に縫い付けるようにして動けなくする。

が──氷漬けにされながらも、ジュウジュウと音を立てながら、ダストダスの腕の氷が溶けはじめる。


しずく「……! ツンベアー下がって!」
 「ベァァァッ」


異変を察知して、ツンベアーがダストダスの腕から離れると同時に──ダストダスの腕の氷が完全に溶け自由になり、


かすみ「“ロックブラスト”!!」
 「ダストダァッ!!!」


ダストダスが、手の平の先をツンベアーに向け岩を発射しようとした瞬間、


しずく「……ふふ♡」


しず子がその間に割って入ってくる。


 「ダ、ダストダァ…」


ダストダスは困った表情になり、攻撃を止めてしまう。


かすみ「……腕、戻して」
 「ダストダ…」


ダストダスが私の指示に従って、伸ばした腕を戻す。


しずく「あれ? もう終わり? なんだ、つまんないなー♡」

かすみ「ねぇ、しず子」

しずく「ん?」

かすみ「これが……本当にしず子の望んだことなの……?」

しずく「そうだよ?」

かすみ「自分を盾にして……そんな無茶苦茶な戦い方してでも……しず子がそこまでして戦う理由は何……?」

しずく「果林さんにフェローチェを魅せてもらうためだよ♡」


私はギュッと拳を握る。


かすみ「……しず子……いっつも、かすみんが危ないことしたら叱ってくれたじゃん……。……なのに、なんでそのしず子がこんな戦い方するの……」

しずく「なんでって……当たり前でしょ? ──あんなに美しいポケモンを魅せてもらえるんだよ?♡」

かすみ「…………っ」


──そのとき、わかってしまった。

もう……私の知っているしず子は……いないんだ。

誰よりも真面目で、誰よりも優しくて、誰よりも努力家で、いっつもお小言を言いながら……それでも私の傍にいてくれたしず子は……もう、いないんだ……って。

はる子が言っていた……毒が回りすぎると……もう治療出来ないって……。つまり、しず子は……もう……私が助けたところで……。

それがわかった途端──


かすみ「……ぅ……ひっく……っ……」


涙が出てきた。

466: ◆tdNJrUZxQg 2022/12/31(土) 12:25:12.38 ID:8UVAxvmj0

しずく「泣かないでかすみさん。かすみさんは何も悪くないよ♡ ……これが本当の私だっただけ♡」

かすみ「…………」

しずく「だから、かすみさんが泣かなくていいんだよ♡」

かすみ「…………」

しずく「黙らないでよ~……。……うーん……あ、そうだ! そんなに悲しいなら、かすみさんも一緒にフェローチェの虜になろう♡ 幸せな気持ちになれるよ♡」

かすみ「…………」

しずく「戦いをやめてくれれば、かすみさんのこと果林さんに紹介してあげる♡ だから──」

かすみ「ああああああああああああああああああああっ!!!!! うるっさいっ!!!!!!! バカしず子っ!!!!!!!」

しずく「……!?」


私の大きな声に驚いたのか、しず子は一瞬ビクリと身を竦める。


しずく「な、なに……突然……!?」

かすみ「……決めた……」

しずく「……何を?」

かすみ「……最初は正気に戻すつもりだったけど……もうやめです。……とっつかまえて、ふんじばって、気絶させて……引き摺ってでも連れて帰る……」


もうきっと……連れて帰っても、しず子は元には戻ってくれない……。でも……。


かすみ「……引き摺って、連れ帰って、療養施設に叩きこんで……一生ウルトラビースト症の治療を受けさせてやるっ!!」

しずく「…………」

かすみ「それで……!!! それで……っ」

しずく「それで……?」

かすみ「かすみんが……病気のしず子のこと……一生面倒見てやりますよ……!!」

しずく「……!?///」

かすみ「ジュカイン!!」
 「カインッ!!!」


私はジュカインに飛び乗り──同時にジュカインが地を蹴って飛び出した。


しずく「つ、ツンベアー!!」
 「ベァァァァ!!!!」


進路を塞ぐように、ツンベアーが飛び出してくるけど──


 「ダストダァァァッ!!!!」

 「ベァァッ!!!?」


ダストダスが両手を伸ばし──ツンベアーを地面に押さえ付ける。

その隙に、ジュカインはツンベアーを飛び越え、しず子に迫る。


しずく「正面突破……!? サーナイト!! “サイコショック”!!」
 「サナッ!!!」


サーナイトが正面に特大のサイコパワーのキューブを作り出すけど──ジュカインは腕の刃に光を集束していた。

もちろん“ソーラーブレード”だけど……これはただの“ソーラーブレード”じゃない。

果南先輩と考えた──次の段階に進化した、最強の“ソーラーブレード”だ……!!

本来大きく伸びるはずの光の刃は──ジュカインの腕の刃の形に沿うようにして、集束していく。

大きく伸びると範囲がある分、威力が分散する……なら……!!

467: ◆tdNJrUZxQg 2022/12/31(土) 12:26:28.44 ID:8UVAxvmj0

かすみ「全部の太陽エネルギーを……!! 一本の小太刀に……!!」
 「カイィィンッ!!!!!」


光り輝く、腕の小太刀を縦に振り下ろすと──特大のサイコキューブは、真っ二つに斬り裂かれた。


しずく「っ……!? “サイコキネシス”!! ブラックホール展開!!」
 「サナッ!!!!」


斬り伏せたキューブの先で、サーナイトがサイコパワーでブラックホールを作り出す。

でも、関係ない……!!


しずく「!? ブラックホールに突っ込んでくる気!?」

かすみ「吸い込まれるよりも速く──斬り伏せる……!!」
 「カインッ!!!!」


振り上げられる神速の光剣は──真空の刃を作り出し、ブラックホールすら真っ二つにしてみせる。


しずく「なっ!?」
 「サナッ…!!!」

かすみ「しず子ぉぉぉぉっ!!!!」
 「カァァァインッ!!!!!」


サーナイトはもう目と鼻の先──ジュカインが刃を構える。

が、


 「サナッ!!!!」


サーナイトの胸の赤いプレートから──パステル色の輝きが溢れ出す。


しずく「“はかいこうせん”っ!!!」
 「サナァッ!!!!!!」

かすみ「……!!」


“フェアリースキン”によって強化された、至近距離からの最大威力の大技……!!

だけど……!!


 「カィィィィンッ!!!!!!!」


ジュカインの刃は、“はかいこうせん”をど真ん中から斬り裂きはじめる。


しずく「“はかいこうせん”まで斬るつもり……!?」
 「サーーーーナーーーーッ!!!!!」

 「カインッ…!!!!」


輝きの奔流の中、踏ん張るジュカインの体が揺れる。

確かに至近距離から放たれる“はかいこうせん”の威力がとんでもないのはわかる、だけど……!!

私の──私たちの刃を作り出す力の根源は……諦めない心だから……!!


かすみ「諦めなければぁぁぁぁ……!! 斬れないものなんて──ないっ!!」
 「カァァァインッ!!!!!!!!」

しずく「……!!」
 「サナッ!!!」


ジュカインの刃が完全に“はかいこうせん”を斬り伏せようとした瞬間、

468: ◆tdNJrUZxQg 2022/12/31(土) 12:27:40.37 ID:8UVAxvmj0

しずく「……っ!!」


しず子が飛び出してくる。

わかってるよ、それも知ってる。だから──


かすみ「──私がいるんだよっ」


私は、ジュカインから飛び降り……割って入ろうとする、しず子に向かって──飛びついた。


しずく「!?」

かすみ「いっけぇぇぇっ!!! ジュカインっ!!!」
 「カァイィィィィンッ!!!!!!」


ジュカインの集束“ソーラーブレード”が──


 「サ、ナ…ッ」


サーナイトを……斬り裂いた。

そして、


しずく「は、放して……!!」

かすみ「しず子ぉっ!!!!」


私はしず子の両腕を掴んで、馬乗りになる。

そして、思いっきり頭を引く。


しずく「や、やめ……!」


そのまま頭突きの要領で──頭を振り下ろした。


しずく「っ……!!」


しず子が目を瞑った。

………………。

…………。

……。

──コツン。


しずく「え……」

かすみ「しず……こぉ……っ……。……もう……かえろう……っ……」

しずく「かすみ……さん……」


私は……しず子のおでこに、自分のおでこをくっつけたまま……ポロポロと涙を流していた。

……本当は一発かましてやるつもりだったのに……。

しず子を目の前にしたら……結局、出来なかった。


かすみ「わた、しが……ずっと……ずっと……いっしょにっ……いるからぁっ……だから、だからぁ……っ……」

しずく「………………」

かすみ「しず、こが……っ……いないの、……いやなの……っ……だから、……っ……かってに、いなくならないで……よぉ……っ……わたしが、……まもって、あげるから……っ……そばに、……いてよぉ……っ……」

しずく「…………かすみさん……」

469: ◆tdNJrUZxQg 2022/12/31(土) 12:28:35.56 ID:8UVAxvmj0

涙で滲む視界の向こうで──


しずく「…………本当に……強く、なって……ここまで来たんだね……」


しず子が……笑っていた。いつもの、あの笑顔で……。


かすみ「しず……子……?」


が、そのとき、


 「──ズガドーン!! “シャドーボール”!!」
  「──ガドーーーンッ!!!!」


聞き覚えのある声が響くと同時に──後ろに向かって思いっきり引っ張られる。


かすみ「わっ!?」


何かと思ったら──


 「カインッ!!!!」


私を引っ張ったのはジュカインで──今の今まで私が居た場所を、特大の“シャドーボール”が通り過ぎていく。


かすみ「い、今の……!?」


距離を取って顔を上げると──


せつ菜「……しずくさん、無事ですか」
 「…ガドーンッ」

かすみ「せつ菜……先輩……」


せつ菜先輩がズガドーンを携えて、しず子に手を差し伸べていた。


しずく「……ありがとうございます」

せつ菜「貴方の全力見せてもらいました。ですが、それよりも彼女は強い……。……なので、約束どおり……ここからは私が助太刀します」
 「ガドーン…」

かすみ「……っ!」


せっかくしず子を連れ戻せそうだったのに……こんなところで、せつ菜先輩が割って入ってくるなんて……!

さすがにこの状況で2対1になるのは分が悪すぎる……。


しずく「……せつ菜さん、ありがとうございます。出てきて、バリコオル」
 「…………」


しず子がせつ菜先輩の手を取って立ち上がりながら、バリコオルをボールから出す。


せつ菜「いえ、約束したので」

しずく「そうですか……。……ごめんなさい」

せつ菜「……? 何故、謝るんですか?」

しずく「……せつ菜さんが……本当に優しい人で助かりました」

せつ菜「……? なに言って……」


直後──せつ菜先輩の背後に……高い高い“リフレクター”と“ひかりのかべ”の二重の障壁が出現する。

470: ◆tdNJrUZxQg 2022/12/31(土) 12:29:33.44 ID:8UVAxvmj0

せつ菜「……!? な、なにを……!?」


突然の展開に目を見開くせつ菜先輩、そしてそれと同時にしず子は大きく息を吸って──


しずく「歩夢さぁぁぁぁぁぁんっ!!!!! 今ですっ!!!!!!!」


大きな声を張り上げた。





    🎹    🎹    🎹





 「コーーーーンッ!!!!!」
 「キーーーーーッ!!!!!」

侑「くっ!!! “ブレイククロー”!! “みずのはどう”!! “どばどばオーラ”!!」
 「ウォーーーーッ!!!!」「フィーーーオーーー!!」「ブーーイィッ!!!!」


地上に叩き落とされ、なお激しく攻撃してくるキュウコンとファイアローの攻撃を捌いているときだった。


しずく「──歩夢さぁぁぁぁぁぁんっ!!!!! 今ですっ!!!!!!!」


侑「!?」
 「ブイッ!!?」

リナ『なに!?』 || ? ᆷ ! ||


しずくちゃんの大声が聞こえてきて、ギョッとする。


果林「な、なに……!?」


それは果林さんも同様だったらしく……一瞬、攻撃の手が止まる。

それと同時に──


歩夢「──……ウツロイド!! “アシッドボム”!!」
 「──ジェルルップ」


先ほどまで、車椅子の上でぐったりしていたはずの歩夢が──急に立ち上がり、歩夢の頭の上に寄生しているウツロイドが果林さんへ攻撃を放った。


侑「えっ!?」
 「ブイッ!!!?」

リナ『嘘!?』 || ? ᆷ ! ||

果林「なっ!? キュウコンッ!!」
 「コーーーンッ!!!!」


果林さんは咄嗟の判断でウツロイドの“アシッドボム”を火炎で蒸発させるが、その一瞬の隙に歩夢が駆け出して──


歩夢「ウツロイド!! 飛び降りるよ!!」
 「──ジェルルップ」

歩夢「……たぁっ!!」


そのまま、何の躊躇もせずに──崖から飛び降りた。

何が起こったのか理解出来なかったけど──


侑「……歩夢っ!!!」
 「ブイッ!!!!」

471: ◆tdNJrUZxQg 2022/12/31(土) 12:30:09.64 ID:8UVAxvmj0

私は反射的に駆け出していた。

歩夢は空中に飛び出すと──ウツロイドに掴まって落下傘の要領で降りてくる。


果林「……キュウコン!! “かえんほうしゃ”!!」
 「コーーーンッ!!!!」


そこに向かって放たれるキュウコンの火炎。


侑「“ハイドロポンプ”!!」
 「フィオーーーーッ!!!!!」


それを阻止するように、フィオネが“かえんほうしゃ”を消火する。

果林さんも急なことに動揺しているのか、威力が十分に乗せ切れていない。


果林「く……!? ファイアロー!!」
 「キーーーッ!!!!」


先ほどまで、私たちを執拗に攻撃していたファイアローが歩夢の方へと飛び立とうとした瞬間、


 「ウォーーーーグッ!!!!!」

 「キーーーッ…!!?」


ウォーグルが爪で押さえつけるようにして、飛行を中断させる。

その間に私は駆ける──


歩夢「う、ウツロイド!! もうちょっとだから、頑張って……!」
 「──ジェルルップ…」

果林「“ひのこ”!!」
 「コーーンッ!!!!」


数で撃ち落とすのを優先してきたのか、9つの狐火がウツロイドに向かって降り注いでくる。


歩夢「よ、避けて……!!」
 「──ジェル…」


ふわふわと軌道を変えながら、避けようとするも──1発の“ひのこ”がウツロイドの傘に直撃し、爆発する。


歩夢「きゃぁっ!?」
 「──ジェルップ…」


その爆発の衝撃で歩夢がウツロイドを掴んでいた手を滑らせた──


歩夢「きゃぁぁぁぁぁぁ!!?」

侑「歩夢ーーー!!!!!」


私は歩夢が落ちてくるその場所に向かって──滑り込んだ。

朦々と砂煙が立ち込める中──

私は──

──歩夢を、ぎゅっと……抱きしめていた。

472: ◆tdNJrUZxQg 2022/12/31(土) 12:31:36.24 ID:8UVAxvmj0

侑「歩夢……っ……」

歩夢「──……侑ちゃん……絶対助けに来てくれるって……信じてたよ……」

侑「うん……っ……」
 「ブイィ…」

リナ『歩夢さん……本当に歩夢さんだよね……』 || > _ <𝅝||

歩夢「えへへ……イーブイとリナちゃんも……」
 「ブイィ♪」

リナ『うん♪』 || > ◡ <𝅝||

侑「歩夢……っ……もう……絶対、離さないから……っ」

歩夢「……うん……ずっと……離さないで……」


私は、世界一大切な幼馴染をぎゅっと……ぎゅっと……力強く抱きしめた。





    💧    💧    💧





かすみ「え……なに……どういうこと……?」


かすみさんがぽかんとしている。

そして、


果林「なにが……起こってるの……?」


バリコオルが展開した透明な壁の向こうで、果林さんが目を見開いて驚いていた。

私はそんな果林さんに向かって、


しずく「──そもそも、どうしてウツロイドは例外だと思ったんですか」


声を張り上げながらそう言葉をぶつける。


果林「え……」


しずく「歩夢さんにポケモンを手懐ける──いえ……ポケモンと仲良くなる歩夢さんの才能が、どうしてウツロイドには例外的に効かないと思ったんですか?」


果林「……ま、さか……しずくちゃん……貴方……!!?」


しずく「果林さん……私にこう言ってくれたじゃないですか。『舞台に立つときは、自分が今何を求められていて、今の自分に必要な役割を考えて……その上で出せる最高の自分を演じてみるといい。役割を理解していれば自ずとチャンスは巡ってくる。』って。だから……私は私の舞台で、私の役割を理解して──演じました。そして、チャンスは巡ってきました」


果林「……!? じゃあ、フェローチェの毒に侵されていたのも……!?」


しずく「ええ。私は貴方たちに付いていったあのときから……──フェローチェになんてこれっぽちも興味ありませんでしたよ♡ 私の狂人演技、どうでしたか? まんまと騙されてくれましたよね♡」


果林「……………………やって、くれるじゃない……」
 「コーーーンッ!!!!!」


怒りに任せてキュウコンが炎が飛んできますが──“ひかりのかべ”に防がれて霧散する。


しずく「このときのためだけに、ひたすら“リフレクター”と“ひかりのかべ”の練習をしていたんです。破らせませんよ……!」


果林「く……!」

473: ◆tdNJrUZxQg 2022/12/31(土) 12:32:26.39 ID:8UVAxvmj0

せつ菜「つまり……貴方は全員まとめて謀ったと……」
 「ガドーン」


そう言いながら、ズガドーンが“シャドーボール”を集束しながら、私に向かっていつでも発射できる状態にしていた。


せつ菜「数日間……寝食を共にした仲ですから……言い訳くらい、聞きますよ」

しずく「……そもそも……歩夢さんが攫われた時点で、絶望的な戦力差を埋める方法を私はずっと考えていたんですよ」

せつ菜「……」

しずく「だけど……どんなに考えても……戦力差は絶望的だった……だから、私は考えたんです──」


あのとき──カーテンクリフの遺跡で、彼方さんと遥さんの容態を見守っていたときのこと……。



──────
────
──



彼方「しずく……ちゃん……はるか、ちゃんのこと……おね、がい……」

しずく「彼方さん……!? そんな身体で、どこに行くつもりですか!?」

彼方「みん、なを……たすけ、なきゃ……戦闘に……な、ってる……」


確かに先ほどから激しい戦闘の音が響いているけど……。


しずく「なら、私が行きます……! 彼方さんはここに──」

彼方「ぜっ、たい……ダメ……、かり、んちゃんは……フェロー、チェを……持って、る……」

しずく「え……?」

彼方「いい……? ぜったい、ここに……いるんだよ……!!」


そう残して、彼方さんは身体に鞭打ちながら、階段を駆け上がっていった。

──フェローチェがいる……つまり、それは……。


しずく「かすみさんたちが戦っているのは……ウルトラビースト……!?」


待っていろと言われたけど……。


遥「…………」


すっかり気を失って、ぐったりしている遥さん。

でも上では戦闘が起こっていて、助太刀に行かないとかすみさんたちが危ない……でも、どうすれば……。

そのとき──


 『──侑ちゃんっ!! かすみちゃんっ!! 逃げてぇぇぇっ!!』

しずく「……!!」


歩夢さんの叫び声、


 『──もう、やめてぇぇぇぇぇっ!!!!』

しずく「……! 遥さん……ごめんなさい……!!」


私は階段を駆け出す。

階段を駆け上がった先にあった光景は──

474: ◆tdNJrUZxQg 2022/12/31(土) 12:34:12.43 ID:8UVAxvmj0

彼方「…………」

かすみ「……っ゛……ぅ……」

侑「歩夢……行っちゃ……ダメだ……!」

歩夢「侑ちゃん……来ないで……」

侑「……!!」


ボロボロになって気を失っている彼方さん。

満身創痍の侑先輩とかすみさん。

そして……歩夢さんが、目の前のある大きな空間の穴に向かって──果林さんと一緒に歩いているところだった。


歩夢「ごめんね……」

侑「あゆ……む……」


歩夢さんが連れ去られようとしている。

今、私に何が出来る? ポケモンを出して戦う……? いや、無理だ。

侑先輩やかすみさんに勝てなかった相手に、私が挑んだところで勝てるわけがない。

だから歩夢さんは自分を犠牲にして付いていくことを選んだんだ。そうじゃなきゃ、無抵抗に付いていったりするはずがない。

私は目の前で起こっている出来事に対して、脳をフル回転させながら分析し、激しく思考する。

──今、私に、何が出来る……?

その自問自答が至った答えは──


しずく「フェローチェ……」


果林さんの横に居るポケモンだった。

──ドクリと胸が高鳴る。あのときのフェローチェに酔う感覚を身体が思い出す。

でも──もし、これに抗って、敵の懐に潜入出来たら……? もしかしたら、今度こそ……本当に正気を失って……壊れてしまうかもしれない。

だけど、


しずく「……やるしかない」


今、私に出来ることは──いや……今、私にしか出来ないことは、これしかない……!


果林「さぁ、歩夢この穴に──」

しずく「──待ってください!!」


私は──大きな声で果林さんを引き留めた。


しずく「…………」

かすみ「しず……子……?」


──オウサカ・しずく。あなたは今から──フェローチェの虜になった、可哀想な女の子……。


しずく「…………私も、連れて行ってくださいませんか……♡」


この瞬間から、私は──私の戦場に自らを駆り出したのだった。



──
────
──────


475: ◆tdNJrUZxQg 2022/12/31(土) 12:36:00.56 ID:8UVAxvmj0

しずく「そして、その先で……せつ菜さん、貴方が彼女たちに与していることを知りました」

せつ菜「…………」

しずく「貴方が敵だとしたら……恐らく、まともに戦って勝てるトレーナーは千歌さんしかいない。ですが、その千歌さんも捕らえられていた。そこで私は考えたんです──まともじゃない戦況に貴方たちを引き摺り込むしかないと」


そう言った瞬間、


 「サ…ナ…」


私のすぐ足元で、瀕死寸前になっていたサーナイトが私の足を掴む。次の瞬間、フッと視界が切り替わる。


かすみ「へっ!? し、しず子が急に目の前に……!?」

せつ菜「っ……!? “テレポート”……!?」

しずく「かすみさん、走るよ!!」

かすみ「う、うん……!」


私はかすみさんの手を取って走り出す。それと同時に、


しずく「サーナイト、お願いね……!」
 「サナ…」


サーナイトに私のバッグを持たせ──再度“テレポート”させる。


せつ菜「くっ……!! 待ちなさい!!」

かすみ「えとえとえと……かすみん、何がなんだか……」

しずく「簡単に言うとね……! 私は最初から──せつ菜さんと果林さんを分断させて、多対一になる形を作ろうとしてたってこと!!」

かすみ「……!! じゃあ……!!」

しずく「かすみさん!! 二人でせつ菜さんを倒すよ!!」

かすみ「しず子……!! うんっ!!」


かすみさんとの共同戦線による──せつ菜さんとの戦いの火蓋が切って落とされた。





    🎀    🎀    🎀





歩夢「侑ちゃん……」

侑「歩夢……」


ああ……久しぶりの侑ちゃんの匂い……侑ちゃんの温もり……ずっとこうしていたいけど……。


リナ『ゆ、侑さん、歩夢さん……再会が嬉しいのはわかるけど……』 || >ᆷ< ||

歩夢「そうだね……侑ちゃん、行こう」

侑「歩夢……うん!」


リナちゃんに促されて立ち上がる。

直後──


果林「──“かえんほうしゃ”!!」
 「コーーーンッ!!!」

476: ◆tdNJrUZxQg 2022/12/31(土) 12:39:18.29 ID:8UVAxvmj0

上から炎が降ってくる。


歩夢「ウツロイド!! “ミラーコート”!!」
 「──ジェルルップ」


その炎を反射する。


果林「くっ……!!」
 「コーンッ!!!」


果林さんたちは反射されたと判断した瞬間すぐに身を引いたから、ダメージは与えられなかったけど……十分牽制にはなった。

それと同時に、


 「サナ」


しずくちゃんのサーナイトが目の前に“テレポート”してくる。

サーナイトは私にしずくちゃんのバッグを預けたあと──ぱぁぁぁっと、優しい光を放ち……。


 「サナ…」


パタリと倒れてしまった。


リナ『今の……“いやしのねがい”……!?』 || ? ᆷ ! ||

侑「た、確か使ったポケモンが戦闘不能になる代わりに、控えのポケモンが全回復する技だよね……?」


つまり……。


歩夢「ありがとう……しずくちゃん……!」


しずくちゃんのバッグに入っていたサーナイト用のボールに倒れたサーナイトを戻し──さらにしずくちゃんのバッグから、私のボールベルトを取り出して腰に着ける。

そして最後に……たくさんの回復アイテムが詰まったバッグの奥に、小箱を見つける。

その箱を開けると──


歩夢「……ありがとう……しずくちゃん」

477: ◆tdNJrUZxQg 2022/12/31(土) 12:39:56.74 ID:8UVAxvmj0

心の底からのお礼を呟いて──私は箱から取り出したローダンセの髪飾りを身に着ける。

私の大切なものは……しずくちゃんが全部守ってくれた。

手持ちたちの育成から、回復まで、全部……大事な侑ちゃんからの贈り物も……全部……全部……!!

あと、私に出来ることは──


果林「“ほのおのうず”!!」
 「コーーーンッ!!!!!」


──ゴォっと炎を周囲にまき散らし、私たちの逃げ場を塞ぐようにキュウコンが炎を吐いてくる。


果林「……逃がさないわよ……」


怒りを顕わにした果林さんが、崖の上から見下ろしてくる。


歩夢「侑ちゃん……私と一緒に……戦って……!」

侑「うん! 私……歩夢と一緒なら、誰にも負けないから……!!」


二人で頷き合って、


侑・歩夢「「二人で倒そう……! 果林さんを……!!」」


私と侑ちゃんは果林さんを倒すために──前に踏みだした。




478: ◆tdNJrUZxQg 2022/12/31(土) 12:40:35.83 ID:8UVAxvmj0

>レポート

 ここまでの ぼうけんを
 レポートに きろくしますか?

 ポケモンレポートに かきこんでいます
 でんげんを きらないでください...


【ウルトラキャニオン】
 口================== 口
  ||.  |○         o             /||
  ||.  |⊂⊃                 _回/  ||
  ||.  |o|_____.    回     | ⊂⊃|  ||
  ||.  回____  |    | |     |__|  ̄   ||
  ||.  | |       回 __| |__/ :     ||
  ||.○⊂⊃      | ○        |‥・     ||
  ||.  | |.      | | ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄\     ||
  ||.  | |.      | |           |     ||
  ||.  | |____| |____    /      ||
  ||.  | ____ 回__o_.回‥‥‥ :o  ||
  ||.  | |      | |  _.    /      :   ||
  ||.  回     . |_回o |     |        :  ||
  ||.  | |          ̄    |.       :  ||
  ||.  | |        .__    \      :  .||
  ||.  | ○._  __|⊂⊃|___|.    :  .||
  ||.  |___回○__.回_  _|‥‥‥:  .||
  ||.       /.         回 .|     回  ||
  ||.    _/       o‥| |  |        ||
  ||.  /             | |  |        ||
  ||. /              o回/         ||
 口==================口


 主人公 侑
 手持ち イーブイ♀ Lv.75 特性:てきおうりょく 性格:おくびょう 個性:とてもきちょうめん
      ウォーグル♂ Lv.74 特性:まけんき 性格:やんちゃ 個性:あばれるのがすき
      ライボルト♂ Lv.74 特性:ひらいしん 性格:ゆうかん 個性:ものおとにびんかん
      ニャスパー♀ Lv.70 特性:マイペース 性格:きまぐれ 個性:しんぼうづよい
      ドラパルト♂ Lv.71 特性:クリアボディ 性格:のんき 個性:ぬけめがない
      フィオネ Lv.69 特性:うるおいボディ 性格:おとなしい 個性:のんびりするのがすき
 バッジ 8個 図鑑 見つけた数:245匹 捕まえた数:10匹

 主人公 歩夢
 手持ち エースバーン♂ Lv.63 特性:リベロ 性格:わんぱく 個性:かけっこがすき
      アーボ♂ Lv.63 特性:だっぴ 性格:おとなしい 個性:たべるのがだいすき
      マホイップ♀ Lv.61 特性:スイートベール 性格:むじゃき 個性:こうきしんがつよい
      トドゼルガ♀ Lv.62 特性:あついしぼう 性格:さみしがり 個性:ものおとにびんかん
      フラージェス♀ Lv.60 特性:フラワーベール 性格:おっとり 個性:すこしおちょうしもの
      ウツロイド Lv.70 特性:ビーストブースト 性格:おくびょう 個性:ものおとにびんかん
 バッジ 3個 図鑑 見つけた数:207匹 捕まえた数:20匹

 主人公 かすみ
 手持ち ジュカイン♂ Lv.76 特性:かるわざ 性格:ゆうかん 個性:まけんきがつよい
      ゾロアーク♀ Lv.72 特性:イリュージョン 性格:ようき 個性:イタズラがすき
      マッスグマ♀ Lv.70 特性:ものひろい 性格:なまいき 個性:たべるのがだいすき
      サニゴーン♀ Lv.70 特性:ほろびのボディ 性格:のうてんき 個性:のんびりするのがすき
      ダストダス♀✨ Lv.71 特性:あくしゅう 性格:がんばりや 個性:たべるのがだいすき
      ブリムオン♀ Lv.71 特性:きけんよち 性格:ゆうかん 個性:ちょっとおこりっぽい
 バッジ 8個 図鑑 見つけた数:239匹 捕まえた数:14匹

 主人公 しずく
 手持ち インテレオン♂ Lv.65 特性:スナイパー 性格:おくびょう 個性:にげるのがはやい
      バリコオル♂ Lv.64 特性:バリアフリー 性格:わんぱく 個性:こうきしんがつよい
      アーマーガア♀ Lv.64 特性:ミラーアーマー 性格:ようき 個性:ちょっぴりみえっぱり
      ロズレイド♂ Lv.64 特性:どくのトゲ 性格:いじっぱり 個性:ちょっとおこりっぽい
      サーナイト♀ Lv.65 特性:シンクロ 性格:ひかえめ 個性:ものおとにびんかん
      ツンベアー♂ Lv.64 特性:すいすい 性格:おくびょう 個性:ものをよくちらかす
 バッジ 0個 図鑑 見つけた数:208匹 捕まえた数:22匹


 侑と 歩夢と かすみと しずくは
 レポートに しっかり かきのこした!


...To be continued.




479: ◆tdNJrUZxQg 2023/01/01(日) 03:19:39.68 ID:w+jDVHjQ0

 ■Intermission☀





──音ノ木上空。


穂乃果「……うーん」


私はリザードンの背の上で、腕を組んで首を傾げる。


穂乃果「……ウルトラビーストの出現率は日に日に上昇してるし……野生のポケモンがウルトラビーストに襲われる件数も増えてるんだよね……」


相談役から貰ったデータを見ながら呟く。

正直、こういうデータを見る、とかは苦手なんだけど……それにしたって、少し妙だなと思ってしまう。


穂乃果「これは、地方の危機に含まれないってこと……? 龍の咆哮すらないなんて……」


もちろん龍の咆哮は、メテノの墜落の方じゃなくて、本物の方のこと。

確かに、グレイブ団事変のときに比べると、目に見えて危機に思えないのはわかるけど……向こうだって、目で見て判断しているわけじゃないはずなのに……。


穂乃果「うーん……」

 「──何を唸っているのですか」

穂乃果「……!」


声がして、振り向くと、


海未「ずっと、ここに居るんですね」


海未ちゃんがカモネギに掴まって飛んでいた。


穂乃果「なんだ、海未ちゃんか……」

海未「なんだとはなんですか……。……作戦が始まったことだけ伝えようと思って」

穂乃果「……! わかった」

海未「場所はわかりますか?」

穂乃果「15番水道にある幽霊船だよね。相談役から聞いてる」

海未「なら、よかった。可能であれば……助力を頂けるとありがたいです」

穂乃果「わかった」

海未「よろしくお願いします」


それだけ言うと海未ちゃんは私に背を向ける。

480: ◆tdNJrUZxQg 2023/01/01(日) 03:20:43.20 ID:w+jDVHjQ0

穂乃果「もう行っちゃうの?」

海未「ええ。本当に用件を伝えに来ただけなので」

穂乃果「なら、ポケギアに連絡入れてくれればいいのに……」

海未「普段滅多に出ない癖によく言いますね」

穂乃果「う……それは、ごめん……」

海未「……ふふ、冗談ですよ。……たまたまスケジュールに微妙な隙間があったので、パトロールがてらに幼馴染の顔を見に来ようと思っただけです。……居る場所がわかること自体が珍しいんですから、貴方は」

穂乃果「そっか」

海未「ええ。……穂乃果」

穂乃果「なに?」

海未「今回の騒動……片付いたら、久しぶりにことりと3人で……ご飯でも食べに行きましょう」

穂乃果「いいね、行きたい!」

海未「言質……取りましたからね。放り出したら承知しませんよ」

穂乃果「はーい」

海未「……では」


海未ちゃんは今度こそ、飛び去っていった。


穂乃果「…………」


私は傍らにある音ノ木に目を向ける。


穂乃果「……今回は……見逃してくれるってことなのかな……?」


私は未だ何の音沙汰もない龍神様に向かって、一人呟くのだった……。





    🏹    🏹    🏹





──ローズシティ。ニシキノ総合病院。特別治療室。


真姫「こっちよ」

海未「ありがとうございます」


真姫に病室まで案内をしてもらう。


真姫「それじゃ私は、もう行くわね……」

海未「はい。忙しい中、ありがとうございます」

真姫「ん」


私を案内し終わると、真姫はすぐにその場を後にする。

彼女にはこの後やることがありますからね。

病室に入ると、


理亞「……海未さん」

海未「理亞、こんにちは」

481: ◆tdNJrUZxQg 2023/01/01(日) 03:21:33.19 ID:w+jDVHjQ0

私に気付いた理亞が、少し不安そうな顔をする。

まあ、これから行うのは事情聴取ですから……多少の不安はあるでしょう。

そして──事情聴取をする当の本人に顔を向ける。


海未「……それと、聖良。……初めましてという方がいいでしょうか」

聖良「……ええ。お会いするのは初めてですね……」

海未「その様子だと……すっかり、声は出るようになったようですね」

聖良「ふふ、理亞がずっと話し相手になってくれていましたからね」


そう言って笑う聖良は、意外にも悪人の顔の片鱗は感じられず……その表情は、私が幼い頃、年の離れた姉から向けられていた顔に近い物を感じました。

……つまり、姉の顔ということです。


聖良「それで、私に聞きたいのは……グレイブ団事変の真相というところでしょうか?」

海未「……それもですが……今、この地方は少々立て込んでいまして……。貴方に聞きたいのは、この人物たちのことです」


そう言いながら、私は端末に二人の人物の写真を表示して、聖良に見せる。


聖良「……愛さんと果林さんですか」

海未「……! やはり、面識があるのですね」

聖良「はい。私たちの飛空艇──Saint Snowの設計をしてくださったのは愛さんです。……そして、果林さんからは資金協力を頂いていました」

海未「どうりであれほどの規模の飛空艇が作れたわけですね……。彼女たちとはどうやって?」

聖良「ディアンシーの研究をしている際に、私の研究内容をどこかで掴んでコンタクトを取ってきたという感じでした」

海未「では、向こうから……?」

聖良「はい」

海未「ふむ……」


自分から協力を名乗り出たということは……。


海未「……向こうの要求はなんだったんですか?」


必ず対価を求められたはずだ。


聖良「ディアンシーの捕獲に成功し、全てが終わったら──ディアルガ、パルキア、ギラティナを渡す約束をしていました」

海未「なんですって?」


私は少し考える。……確かにその3匹を手中に収めておけば、こちらは果林たちを追跡することがほぼ不可能になっていた。

……ということは、彼女たちはこの3匹の伝説のポケモンたちの力で、自分たちを追跡される可能性に最初から気付いていた……?

それなら一応筋は通っていますが……なんだか釈然としない。

聖良とのコンタクトがグレイブ団事変の前ということは……3年以上前のことなわけだ。

そのときには果林はモデル事務所をフェローチェの力で掌握し、表舞台に出ていたとはいえ……そこまで想定出来るものなのでしょうか……。


海未「果林は……その3匹を手に入れて何をしようとしていたのかわかりますか?」

聖良「いえ、そこまでは……という以前に、その3匹を欲しがっていたのは果林さんではありませんよ」

海未「果林ではない……? では……」

聖良「はい、その3匹を欲しがっていたのは愛さんです。加えて、そのことは果林さんには言わないで欲しいと言われていたので……。果林さんに言われたことと言えば……そうですね……出来る限りオトノキ地方内の戦力を削って欲しいとは言われましたが……」

海未「……」

482: ◆tdNJrUZxQg 2023/01/01(日) 03:22:29.24 ID:w+jDVHjQ0

果林の目的は理解出来る。オトノキ地方内の戦力を削れば、ウルトラビーストを撃退することもままならなくなるからだ。

だが……愛の目的が理解出来ない。

先のとおり、彼女がエンジニアとして、私たちの追跡をその時点で想定して、対策を打っておいたということも考えられなくはないですが……。

だとしたら、果林に隠す理由はなんでしょう……?


海未「まだ……私たちがわかっていないことがある……?」


リナや彼方のような、かつて組織に所属していた人間にも、知られていない何かが……?


聖良「私が彼女たちについて知っているのは……これくらいですね」

海未「そうですか……。……ありがとうございます」


そう言って私は席を立つ。


理亞「あ、あの……海未さん……! ねえさまは……これから、ねえさまはどうなるの……?」

海未「……事態が落ち着いたら、グレイブ団事変について、改めて事情聴取をすることになると思います」

理亞「そうしたら……ねえさまは……」

聖良「罪を償うことになるんでしょうね」

海未「……貴方が素直に罪を認めるなら、そうなるでしょう」

理亞「……ねえさま」

聖良「いいのよ、理亞。……私が犯した罪は事実ですから」

理亞「……」

聖良「私が寝ている間に……貴方はジムリーダーとして、多くの人に囲まれるようになっていた……。貴方が笑ってくれているなら……私はそれで満足です」

理亞「……ねえさま……」

海未「……とりあえず、後日また来ます。そのときに改めてお話ししましょう」

聖良「はい」


私は、そう残して──聖良の病室を後にした。

……それにしても……愛はディアルガ、パルキア、ギラティナを手に入れて……何をする気だったんでしょうか……?


………………
…………
……
🏹


483: ◆tdNJrUZxQg 2023/01/01(日) 12:04:19.83 ID:w+jDVHjQ0

■Chapter065 『決戦! ポケモントレーナー・せつ菜!』 【SIDE Shizuku】





しずく「──とりあえず一旦、せつ菜さんから距離を取ろう!!」
 「ベァ…!!!」

かすみ「う、うん! 行くよ、ジュカイン!」
 「カインッ!!」

かすみ「ダストダスは一旦戻って!」
 「ダストダァ──」


私はかすみさんの手を引きながら、峡谷の細い道へと走り出した。

その際かすみさんは、体が大きく走るのが苦手なダストダスを一旦ボールに戻す。


せつ菜「……逃げるなら内側にいるバリコオルを倒すまでです! ズガドーン! “かえんほうしゃ”!!」
 「ガドーンッ!!!」


ズガドーンが、透明な壁を作っているバリコオルへ攻撃を仕掛けるが、


 「…………」


バリコオルは無言のまま、壁をすり抜け、壁の外側へ移動する。


しずく「バリコオルの特性は“バリアフリー”です!! 展開解除自由自在ですから、自分が通る部分だけ解除してすり抜けることも出来ますし、再展開もすぐ出来ます!!」

せつ菜「く……!」

しずく「“バリアー”を解除したいなら……!! まずは私たちを倒すことですね!!」


そう言いながら、私はかすみさんの手を引き、峡谷の細道を曲がる。


しずく「次は……こっち……!」

かすみ「み、道知ってるの……!?」

しずく「出来る限りの下調べは徹底的にしたから……! 今はとにかくせつ菜さんを奥に誘い込むよ!」

かすみ「なんで!?」

しずく「広いフィールドで戦うと絶対に力負けするから! 少しでも、複雑な地形で搦め手を使わないと勝ち目がないって話!」

かすみ「ぐぬぬ……悔しいけど、確かにせつ菜先輩を真っ向から倒すのはきついかも……」


せつ菜さんはただでさえ強いのに……彼女が今使っているのはウルトラビースト。しかも、私の認識が間違っていなければ、せつ菜さんが持っているウルトラビーストの数は3体だ。

かすみさんは以前に比べたら信じられないほど強くなったし、性格的に真っ向勝負で戦いたいかもしれないけど……相手はあのせつ菜さん。勝率を少しでも上げるために策を弄する必要がある。

幸いここら一帯の地形は頭に叩き込んだ。複雑な峡谷の道をかすみさんの手を引きながら突っ走る。


しずく「……はぁ……はぁ……もうちょっと奥まで引っ張りたい……けど……」


ある程度走って、せつ菜さんと距離を離したところで、


かすみ「しず子……!」


かすみさんが足を止めて、私の顔を覗き込んでくる。


しずく「ん? なに?」

かすみ「ホントにホントに……フェローチェのこと……もう大丈夫なの?」

484: ◆tdNJrUZxQg 2023/01/01(日) 12:05:23.26 ID:w+jDVHjQ0

かすみさんは心配そうな表情でそう訊ねてくる。

……確かにかすみさんにとっては大事なことか。

もし、私がまだ完全にフェローチェの魅了から脱していないとなったら、いつ発作が起きるかもわからないまま戦うことになるだろうし……何より純粋に心配してくれているんだと思う。

ここからは、かすみさんとの共闘がどれだけうまく行くかに全てが懸かっている。せつ菜さんを引き離している今のうちに、話しておくべきだろう。


しずく「……平気だよ。もうフェローチェになんか、なんの興味もない」

かすみ「ホントに……? ずっと、果林先輩のフェローチェの近くに居たんでしょ……?」


……確かに、果林さんの信頼を得るためには、フェローチェに心酔している演技をし続ける必要があった。

だから、何度かご褒美と称してフェローチェを魅せてもらっていた。……そのとき、私の体内にある毒が何度も暴走しかけたけど……。


しずく「平気だよ……私は平気なの。……フェローチェの毒には絶対に負けない……」

かすみ「な、なんでそう断言できるの……?」

しずく「ふふ♪ かすみさんが言ったんだよ?」

かすみ「え?」

しずく「かすみさんの方が……フェローチェなんかよりも、可愛くて、美しくて、綺麗で、魅力的なんでしょ?」

かすみ「え、あ、そ、それは……///」


かすみさんの顔が赤くなる。

私は……いつかかすみさんが言ってくれた、この言葉のお陰で、負けずにいられた。


しずく「それとも、かすみさんは……私のこと、こんなに魅了しておいて……責任取ってくれないの……?」

かすみ「へっ!?/// あ、いや、だから、あれは別にそういう意味じゃなくて……しず子を助けるために必死で……/// あ、でも、しず子がそう思ってくれるのは嬉しくって……その……///」

しずく「ふふっ」


耳まで真っ赤になるかすみさんを見て、くすくす笑ってしまう。


しずく「あ、でも……フェローチェに魅了されてるのも悪くないかもなー……」

かすみ「へっ!? な、なんで!?」

しずく「だって、そうしたら──かすみさんが一生面倒見てくれるって言ってたから……それも悪くないかな~……って」

かすみ「ぅ……/// だ、だから……それは……///」

しずく「そう言ってくれて……嬉しかった……」


そう言いながら、かすみさんの指に私の指を絡めると──なんだか、心地の良いドキドキがしてきて……この気持ちの方がフェローチェの魅了なんかよりも、ずっとずっと……幸せな気持ちだった。

──そのとき、近くでドカンッ!! と爆発音がする。

せつ菜さんが追い付いてきた……!


かすみ「や、やば……走るよ……!」

しずく「あ、うん」


かすみさんが私の手を引いて走り出す。

……むー……なんか誤魔化されちゃったな……。まあ、いいけど。

なんて、思っていたら、

485: ◆tdNJrUZxQg 2023/01/01(日) 12:06:06.64 ID:w+jDVHjQ0

かすみ「あ、あのさ……」

しずく「ん?」

かすみ「……べ、別に……病気とかじゃなくても……しず子の面倒くらい……ずっと、見て……あげなくもない……から……///」

しずく「……へっ!?///」


──完全に不意打ちだった。自分の顔が一気に熱くなるのを感じる。


かすみ「だからっ……!! 今は、せつ菜先輩に勝たなきゃ!! 勝って、帰るよ!!」


そう言いながら、かすみさんが──あるものを投げ渡してきた。


かすみ「せつ菜先輩に勝つには必要でしょ!」

しずく「……! うん!」


それを受け取り確認した直後に──私も代わりにあるものをかすみさんに投げ渡す。


かすみ「さぁ~て……! それじゃ、いっちょやってやりますか~!」

しずく「うん……!」


位置も十分奥まで来た。

ここでせつ菜さんを迎え撃つ……!!





    🎙    🎙    🎙





せつ菜「……」
 「ガドーンッ!!!」


先ほどからズガドーンが炎弾を放ち、岩壁を爆破で破壊しながら進んでいる。

さっき一瞬だけ、岩壁の影に彼女たちの逃げる姿を見つけられたが……また、奥へと走り去っていってしまった。


せつ菜「……誘い込んでいるわけですか……」


しずくさんは明らかに地形を把握し、死角の少ない場所を選んだ逃げ方をしている。

恐らく、ここの地形も事前に下調べをしていたのだろう。

最初から全て……私を倒すために作戦を立てていたわけだ。


せつ菜「あの言葉も、全部……演技──嘘だったんですね……」


胸がジクりと痛んだ気がした。せっかく……やっと、私の気持ちを理解してくれる人が現れたと思ったのに……。


せつ菜「とんだ……大女優ですね」


そして、今も彼女は策を弄し、私を誘い込んでいる。

それがわかった上で、攻め込むのは愚策だとわかっているけど──


せつ菜「いいですよ……その誘い……乗ってあげますよ。もちろん……ただで思惑通りに誘われるつもりはありませんが……!」


私も、やられたまま引き下がるなんて、性分が許さない。

486: ◆tdNJrUZxQg 2023/01/01(日) 12:06:47.41 ID:w+jDVHjQ0

せつ菜「ズガドーン!! “ビックリヘッド”!!」
 「ガドーーーーンッ!!!!!」


私はダメージ覚悟の爆発技で開戦の狼煙を上げた。





    👑    👑    👑





かすみ「…………」

しずく「…………」


二人で物陰に隠れて、せつ菜先輩を待ち構える。


しずく「音が……止んだ……?」


しず子の言うとおり、先ほどから鳴り続けていた爆発音が突然止まる。

……が、その直後……先ほどとは比べ物にならない轟音と共に──岩壁がこちらに向かって雪崩のように襲い掛かってきた。


しずく「っ!?」

かすみ「しず子!!」


かすみんは咄嗟にしず子の腕を掴み、


 「カインッ!!!」


私たち二人をまとめて抱き上げて、ジュカインがその場から離脱する。

それと同時に、


しずく「ツンベアー戻って!!」
 「ベァ──」


しず子が崩れ落ちてくる岩から、間一髪でツンベアーをボールに戻す。


かすみ「い、いきなりなんですか……!?」

しずく「まさか、“ビックリヘッド”……!?」

かすみ「それって、前に見た自爆するやつ!?」

しずく「うん……体力が大きく削れるから、こんな序盤から使ってくるとは思ってなかったのに……」


ガラガラと崩れるの岩の隙間から、せつ菜先輩の姿が見えた。


せつ菜「……見つけましたよ……」


直後、


 「────ジジジジ」


せつ菜先輩の傍らに──巨大な電線のようなポケモンが姿を現す。


かすみ・しずく「「……!?」」

487: ◆tdNJrUZxQg 2023/01/01(日) 12:08:31.37 ID:w+jDVHjQ0

そして、そのポケモンの体が──青白くスパークしながら、帯電を始める。

でも、かすみんたちは今……崩れる岩から逃れるために──空中に跳んでいた。


しずく「空中じゃ逃げ場が……!?」

かすみ「ジュカインッ!! 尻尾立てて!!」
 「カインッ!!!」

せつ菜「“かみなり”!!」
 「──ジジジ」


直後、カッと周囲が青白い閃光に照らされ──ピシャーーーーーンッ!! と轟音を立てながら空気を震わせる。

“かみなり”というよりも──もはや青白い光の柱のような雷撃を、メガジュカインの特性“ひらいしん”で受け止めます……が、


かすみ「威力が……強すぎる……っ!」


以前見た、侑先輩のメガライボルトの“かみなり”を彷彿とさせる──いや、もしかしたらそれ以上かもしれない電撃は、ジュカインの尻尾に吸収しきれず、バチバチと周囲に爆ぜ散っている。


しずく「地面にいないから、電気を逃がしきれてないんだよ……!」

かすみ「わかってるっ! “やどりぎのタネ”!!」
 「カインッ!!!」


ジュカインが地面に向かって、“やどりぎのタネ”を吐き出し──


かすみ「とりゃぁっ!!!」


電撃が爆ぜる中、ジュカインの背中のタネに手を伸ばしてもぎ取る。

そのとき──バチンッ!!


かすみ「っ゛……!?」


爆ぜた“スパーク”が指先に当たり──全身が痺れて動けなくなる。

──感電した。

気付いたときには、かすみんの身体はフラりと落下を始める。


しずく「かすみさんっ!!」


落ちそうになったかすみんの腕をしず子が掴み、


しずく「ロズレイド!! “アロマセラピー”!!」
 「──ロズレイドッ!!!」


心地の良い香りと共に、身体の痺れが和らぐ。


かすみ「っ……!! しず子、ありがと……っ!!」


お礼を言いながら、真下に向かって、タネをぶん投げる。

すでに地面で成長を始め、ツタを伸ばし始めている“やどりぎのタネ”の横に、ジュカインの背中のタネが落ちてきて弾けると──

ツタは一気に成長し──太い樹となって、ジュカインの足元まで伸びてくる。


 「カインッ!!!」


──その樹木に着地すると同時に、ジュカインの尻尾で吸いきれずに爆ぜていた電撃は、樹を通って、地面へと逃げていく。

488: ◆tdNJrUZxQg 2023/01/01(日) 12:09:58.42 ID:w+jDVHjQ0

かすみ「ジュカインの背中のタネは……植物を急成長させるほどに栄養満点なんですよ……!」

しずく「それよりかすみさん、身体は平気……!?」

かすみ「ちょっと、ビリっとしただけ……!」


正直、感電した瞬間、軽く意識が飛びかけたけど……当たったのは指先だったし、すぐに“アロマセラピー”を使ってくれたお陰で痺れも一瞬で取れたから、動けないほどのダメージにはなっていない。

が、もちろん息をつく暇などない。


せつ菜「“うちおとす”!!」
 「ガドーーーンッ!!!」


ズガドーンが落ちていた石に業炎を纏わせ、火球にして飛ばしてくる。


しずく「ロズレイド! “にほんばれ”!!」
 「ロズレ!!」

かすみ「“ソーラーブレード”!!」
 「カインッ!!!!」


強い日差しの下で、集束“ソーラーブレード”を作り出し、火球を真っ向から斬り裂く。


せつ菜「“でんじほう”!!」
 「──ジジジジッ」

かすみ「尻尾向けて!!」
 「カインッ!!!」


今度は尻尾の“ひらいしん”で吸収し、地面に流して無効化する。


せつ菜「なら……“やきつくす”!!」
 「ガドーーーーーンッ!!!!」


畳みかけるような攻撃──今度はズガドーンが、やどりぎの樹木の根本に業炎を噴き付ける。

とんでもない火力で焼かれた樹木は一気に炎で焼け崩れ──グラリと傾き始める。


かすみ「わったたっ!? ジュカイン!! 地面に向かって跳んで!!」
 「カインッ!!!」


空中に居たらダメ……!! とにかく、地面に着地しないと……!!

傾く樹木を蹴って、地面に向かって一直線に飛び出すけど、


せつ菜「“かみなり”!!」
 「──ジジジジジ」


その一瞬の隙にすら攻撃を放ってくる。


しずく「ロズレイド! “パワーウィップ”!!」
 「ロズレ!!!」


“かみなり”がジュカインの尻尾に落ちるのとほぼ同時に──ロズレイドが腕にある花から“パワーウィップ”を伸ばして地面に突き刺す。

──落雷の轟音が空気を震わせる中、今度はそれがアースの代わりになって、地面に電撃を逃がす。

やっとの思いで着地をするも、


せつ菜「“かえんほうしゃ”!!」
 「ガドーーーンッ!!!!」


せつ菜先輩の猛攻は止まらない。

489: ◆tdNJrUZxQg 2023/01/01(日) 12:10:35.73 ID:w+jDVHjQ0

しずく「ツンベアー!! “しおみず”!!」
 「──ベァァ!!!」


再びボールから繰り出されたツンベアーが、炎に向かって口から“しおみず”を発射するが──ジュゥゥゥッ! と音を立てながら、どんどん蒸発していく。


せつ菜「そんな威力で受けきれると思ってるんですか!!」

しずく「く……っ!!」


確かにみずタイプじゃないツンベアーだと消火が追い付かない。でも、少しでも炎の勢いを殺してくれれば十分……!


かすみ「行くよ、サニゴーン!! “ミラーコート”!!」
 「──ニゴーーーンッ!!!」


ツンベアーの目の前にサニゴーンの繰り出し──“ミラーコート”で反射する。


かすみ「自分の炎で燃えやがれです~!」


反射された“かえんほうしゃ”がせつ菜先輩たちに迫りますが──


せつ菜「“だいもんじ”!!」
 「ガドーーーンッ!!!!」


その炎をズガドーンが“だいもんじ”で相殺する。


かすみ「う、嘘!?」

しずく「……! 反射の可能性を考えて、あえて1段階弱い技を選んでたんだ……!」

かすみ「どんだけ先読みしてるんですか……!」

せつ菜「リスクをケアして攻撃するのは、当たり前のことですよ……」

かすみ「な、なら……!!」
 「ニゴーーーーンッ!!!!」


周囲の岩石がふわりと浮かび上がる。


かすみ「いっけぇーー!! “ポルターガイスト”!!」
 「ニゴーーーンッ!!!!」


大きな岩石たちが、せつ菜先輩を襲いますが──


せつ菜「“かみなりパンチ”!! “ほのおのパンチ”!!」
 「──ジジジ」「ガドーーーンッ」


大きな岩石さえも、雷撃と業炎を纏った拳がやすやすと割り砕いていく。


かすみ「こ、攻撃が通らない……っ」

しずく「ツンベアー!! “つららおとし”!!」
 「ベアァァァ!!!!」


しず子が間髪入れずにサニゴーンの目の前に巨大なつららを落として氷の壁を作る。


せつ菜「“マジカルフレイム”!!」
 「ガドーーーンッ!!!!!」


分厚い氷の壁が炎を防ぐと思いきや、ものすごい勢いで溶け始める。

490: ◆tdNJrUZxQg 2023/01/01(日) 12:11:24.71 ID:w+jDVHjQ0

かすみ「ひ、日差しが裏目に出てる……!」

しずく「く……!! インテレオン、“あまごい”!!」
 「──インテ!!」


しず子が出したインテレオンが雨を降らせて炎の勢いを弱めようとするけど──あまりの炎の勢いに消火が間に合わず、燃え盛る炎がサニゴーンに襲い掛かる。


かすみ「“ミラーコート”!!」
 「ニゴーーーンッ!!!」


2度目の“ミラーコート”を構えるが──


せつ菜「2度も同じ技で反射出来ると思ってるんですか?」

かすみ「……!?」


“マジカルフレイム”はサニゴーンの目の前で──クンと軌道を上に逸らし──


 「ベァァァッ!!!?」


その背後に居たツンベアーに襲い掛かる。


しずく「ツンベアー!?」
 「ベァァ…」


ツンベアーが炎に焼かれて、その場に倒れる。

さらに、


せつ菜「──“ロックブラスト”!!」
 「ガドーーンッ!!!!」

 「ニゴーーンッ…」


炎を纏った岩石がサニゴーンを吹き飛ばす。

さらに、追撃、


せつ菜「“かみなり”!!」
 「──ジジジジッ」

かすみ「ジュカインッ!! 尻尾立ててぇっ!!」
 「カインッ!!!!」


落ちてきた青い柱をジュカインの“ひらいしん”で吸収する。

……が、青白い稲妻は何故かさっきよりも威力が強く、吸収しきれなかった電気が、稲光となって、周囲に迸る。


しずく「かすみさんっ! 伏せて!!」

かすみ「わわっ!?」


しず子に腕を強引に引っ張られ、転ぶように伏せると──今さっきまでかすみんの頭があった場所を稲妻が走る。


かすみ「な、なんで吸収できないの……!?」

しずく「たぶん、ズガドーンしか攻撃してないタイミングあったから、その間に“じゅうでん”してたんだと思う……っ! きゃぁっ!?」


しず子の目の前に──バチンと稲妻が爆ぜて、声があがる。


 「カインッ…!!!」
かすみ「ぐぅ……っ! ……じ、ジュカイン頑張ってぇ……!!」

491: ◆tdNJrUZxQg 2023/01/01(日) 12:12:28.40 ID:w+jDVHjQ0

本来でんき技を無効化するはずなのに、ウルトラビーストの規格外のパワーのせいで、それすら完遂しきれない。

“かみなり”が終わるのを身を伏せたまま耐えていると、


 「ガドーンッ」

かすみ・しずく「「……!?」」


伏せている私たちの目の前にズガドーンが立っていた──巨大な影の球を集束しながら。


かすみ「……っ……! ブリムオン!!」
 「──リムオンッ!!」

しずく「インテレオン!!」
 「インテッ!!!」

かすみ・しずく「「“シャドーボール”!!」」
 「リムオンッ!!!」「インテッ!!!」

 「ガドーーンッ」


ズガドーンから発射される“シャドーボール”に、2匹の“シャドーボール”をぶつける。

2匹掛かりで同じ技をぶつけるが──


しずく「ダメ……っ! 向こうの方がまだ強い……っ!」


巨大な“シャドーボール”に、こっちの2つの“シャドーボール”が飲み込まれ始める。

でも、


 「カィィィンッ!!!」


まだ、ジュカインは“かみなり”を吸収しきれていない……!

ジュカインを失ったら“ひらいしん”も使えなくなり、デンジュモクの範囲攻撃で一網打尽にされて一巻の終わり……!

何がなんでもジュカインは守らなきゃ……!


かすみ「ブリムオンっ! “ひかりのかべ”!!」
 「リムオンッ!!!」


2匹の“シャドーボール”を飲み込んだ、ズガドーンの特大“シャドーボール”が“ひかりのかべ”に衝突して、影のエネルギーが爆ぜ散る。

だけど、どんどん影の球は“ひかりのかべ”にめり込むようにして、かすみんたちの方へと迫り出してくる。


かすみ「お、抑えきれないぃぃぃ……! さ、“サイコキネシス”ッ!!」
 「リムォォンッ…!!!!」


追加の技で、“シャドーボール”を押し返そうとするけど──ゆっくりと影の球がかすみんたちに迫ってくる。

巨大な影の球が目と鼻の先まで迫ったそのとき──


しずく「インテレオン……!?」


しず子の声が響く。それと同時に、


 「インテッ!!!!」


インテレオンが体に“あくのはどう”を纏って、“シャドーボール”に自ら突っ込んだ。

衝突と同時に、“シャドーボール”の影のエネルギーが一気に破裂し──


 「インテッ…!!!」

492: ◆tdNJrUZxQg 2023/01/01(日) 12:13:16.75 ID:w+jDVHjQ0

インテレオンが吹き飛ばされる。


しずく「戻って……!! インテレオン……!!」


直撃を受けたインテレオンは、あえなく戦闘不能……ですが、お陰で“シャドーボール”は消え去った……!


かすみ「ブリムオンッ!! “サイコ──」


目の前のズガドーンに攻撃を食らわせてやろうと思ったけど、


せつ菜「“オーバーヒート”」
 「ガドーーンッ」


こっちが攻撃態勢に入るよりも早く、ズガドーンの体から真っ赤な熱波がかすみんたちを襲った。


かすみ「あっつ……!!?」
 「リムオンッ…!!!?」


“ひかりのかべ”で防いでいるにも関わらず、全身が焼け焦げるような熱波が周囲一帯に広がっていく。

そんな中、


 「リムオンッ!!!」
かすみ「ブリムオン……!?」


ブリムオンが一歩前に出て、さらに私の周囲だけサイコパワーで熱波を逸らし始める。


かすみ「だ、ダメ……!! ブリムオンが燃えちゃう……!!」
 「リムゥォォォンッ!!!!」

しずく「ロズレイドッ、“はなふぶき”ッ!!」
 「ロズレッ!!!」


しず子が、少しでも熱波を防ぐようにと、ブリムオンの目の前にお花の壁を吹かせるけど──向こうは業炎、こっちは花。花は一瞬で燃え尽きてしまう。

そのとき、ちょうど、


 「……カインッ!!!」


ジュカインが“かみなり”を吸収しきり、


かすみ「か、“かまいたち”ッ!!」
 「カインッ!!!!」


背後から、ジュカインが刃を振るって作り出した“かまいたち”が飛んできて、それを身を捻って避けながら、かすみんは後ろに逃げる。

真空の刃が熱波をど真ん中から斬り払う。

どうにか、広がる熱波に対する逃げ道を見つけて、かすみんが致命傷を受けるのは免れたけど──


 「リム…オン…」


ブリムオンが崩れ落ちた。


かすみ「……っ……」


やっと落ち着いたフィールドでは──先ほど“マジカルフレイム”で戦闘不能になったツンベアーが横たわり、“ロックブラスト”で弾き飛ばされたサニゴーンが気絶して転がっている。


 「ガドーンッ」


そんな中、目の前でくねくねと身をくねらせているズガドーンと、かすみんの間に割って入るように、

493: ◆tdNJrUZxQg 2023/01/01(日) 12:13:56.73 ID:w+jDVHjQ0

 「カインッ!!!」


ジュカインが割り込んでくる。


せつ菜「……そのジュカイン、よく育てられていますね……ウルトラビースト2匹との攻防の中心にいながら、未だに主人を守るために前に立っている」

かすみ「……」

せつ菜「ですが……力不足です。……ウルトラビースト2匹の力には及ばない。……しずくさん、計算高い貴方も……最後の最後でつく陣営を間違えたようですね……」

しずく「……」

せつ菜「2対1なら勝てると思いましたか?」

しずく「……はい、そう思っていました。──そして、今も……思っています……!!」
 「ロズレッ!!!!」


ロズレイドがしず子の言葉と共に、ジュカインの前に踊り出した。


せつ菜「!? ロズレイドが単身……!?」


ズガドーンとの相性がすこぶる悪いロズレイドが前に飛び出してくるのは、さすがのせつ菜先輩も予想外だったらしく、一瞬判断が遅れる。

ロズレイドは両手の花をズガドーンに向けて、


しずく「“わたほうし”!! “どくのこな”!!」
 「ロズレィッ!!!!」


2つの花から、それぞれ別の技をズガドーンに向かって、放出する。


せつ菜「悪あがきを……!! “マジカルフレイム”!!」
 「ガドーーンッ」

 「ロズレッ…!!!」


至近距離から“マジカルフレイム”で焼かれて、ロズレイドが戦闘不能になる──けど、


かすみ「ダストダス!! “ベノムトラップ”!!」
 「──ダストダァァスッ!!!!!」


ボールから飛び出したダストダスが、“どく”状態の相手にだけ効く毒霧を噴射する。


 「ガ、ドォーーンッ」


“わたほうし”と“ベノムトラップ”によって、ズガドーンの動きが鈍った瞬間──


 「ガァァァァァーーーーーッ!!!!」


上空から、鳴き声が響く。


せつ菜「なっ……!?」

かすみ「さぁ、かましてやってください、アーマーガア!!」

 「ガァァァァァァ!!!!!!」

 「──ジ、ジジジジ」


上空から突っ込んできたアーマーガアが、“ボディプレス”でデンジュモクに向かって突っ込む──と同時に、デンジュモクの足元にヒビが入る。


せつ菜「……!?」

かすみ「実はかすみん……まだ得意な戦法があるんですよ……!」

494: ◆tdNJrUZxQg 2023/01/01(日) 12:15:02.04 ID:w+jDVHjQ0

その亀裂はどんどん大きな亀裂となり──


かすみ「動かない相手になら特に有効──落とし穴作戦ですっ!!」

 「──グマァァァァァァ!!!!!!」

 「──ジジジジ」
せつ菜「落とし穴……!?」


穴の中からマッスグマが雄叫びをあげる。それと同時に、せつ菜先輩ごと巻き込んで地面が崩落を始めた。


せつ菜「くっ……!?」


せつ菜先輩は軽い身のこなしで、その場から飛び退きますが──大きな巨体のデンジュモクはそうもいかない……!


 「──ジ、ジジジジ」

せつ菜「こんな巨大な穴、いつから……!?」

しずく「最初からですよ」

せつ菜「最初から……!?」

かすみ「逃げてるように見せかけて──せつ菜先輩の足元にはずっと穴を掘って追いかけるマッスグマがいたんですよ!!」


崩落する地面に足を取られ、さらに上からアーマーガアの“ボディプレス”を受け、体勢を崩したデンジュモクの巨体が倒れ始める。


せつ菜「デンジュモクッ!! “ほうでん”!!」

 「──ジジジジジジジ!!!!」

 「ガァァァァァッ…!!!!!」「グマァァァァッ…!!!?」


“ひらいしん”で吸い寄せる前に、直接電撃を浴びせられたアーマーガアとマッスグマが気絶して動きを止める。

だけど、もうバランスを崩したデンジュモクに、攻撃を回避する術はないし──


 「ガ、ドォォーーーーンッ」


動きの鈍ったズガドーンじゃ、もうサポートも間に合わない……!


かすみ「ダストダス!! “にほんばれ”!!」
 「ダストダァァァス!!!!」


降っていた雨をダストダスが再度晴らし──


 「カィィィンッ!!!!!」


ジュカインが、大地を踏み切って──飛び跳ねた。

雲の切れ間から、差し込む陽光の帯の中──太陽の光を輝く剣に集束して、


かすみ「“ソーラーブレード”ォォォォォッ!!!!」

 「カィィィィィィィィィンッ!!!!!!!!!」


バランスを崩し傾くデンジュモクの体を──頭から足の根本まで一直線に斬り裂いた。


 「──ジ、ジジジジ」


最大威力で斬り裂かれたデンジュモクは──そのまま、ゆっくりと大地に崩れ落ちたのだった。

495: ◆tdNJrUZxQg 2023/01/01(日) 12:16:07.56 ID:w+jDVHjQ0

かすみ「やったぁ!! ナイスだよ、ジュカイン!!」

 「カァァインッ!!!!」


が、喜ぶのも束の間──ボォンッ!! と音を立てて、ジュカインが爆炎と共に吹き飛ばされた。


 「カィンッ…!!!?」

かすみ「ジュカイン……!?」


爆発に吹き飛ばされ、地面を転がったジュカインは──


 「カ、ィンッ…」


ついに戦闘不能になってしまった。


かすみ「じ、ジュカイン……!」

せつ菜「……確かに、デンジュモクを倒したのはお見事でした……。……ですが、いくら動きが鈍っていても、他のポケモンを攻撃している間に炎で狙い撃つのは容易いことです……!!」

 「ガドォーーンッ」

かすみ「だ、ダストダス……!!」
 「ダストダァスッ!!!!」


ダストダスが、腕を伸ばしてズガドーンを拘束する。


せつ菜「……“にほんばれ”のサポートをする時間で、ズガドーンを拘束するべきでしたね。尤もそれでは、ジュカインの“ソーラーブレード”が間に合いませんでしたが」


そう言うと同時に──


 「ガドーーーン」


ダストダスに拘束されているズガドーンの頭が──ポロリと落ちる。


かすみ「……!?」

せつ菜「ですが……ウルトラビースト2匹相手に、相討ちまで持っていったことは……素直に評価しますよ。──“ビックリヘッド”」


ズガドーンの頭が膨張し、爆発──しようとした瞬間。

──パァァァァンッ!!!! と音を立てて、落ちたズガドーンの頭が、水の弾丸に撃ち抜かれた。


せつ菜「……え……?」


撃ち抜かれた頭は不発し、


 「ガ、ドォン」


自身のエネルギーの大部分を内包する頭部を撃ち抜かれたことによって、ズガドーンの体も崩れ落ちた。


せつ菜「……な……に……?」


さすがに何が起こったのか理解出来なかったのか、せつ菜先輩が驚きで目を見開く。


しずく「……せつ菜さん。私の手持ちには──インテレオンがいるんですよ。遠方にアーマーガアが運び出し、そこから“ねらいうち”にさせてもらいました」

せつ菜「インテレオン……? インテレオンはさっき戦闘不能にしたはずです……!」

しずく「ええ、そうですね」


そう言いながら、しず子が手の平にボールを乗せて、せつ菜先輩に見せつける。

496: ◆tdNJrUZxQg 2023/01/01(日) 12:17:57.43 ID:w+jDVHjQ0

しずく「──この子が、本当に……インテレオンなら……ですが……」

せつ菜「は……?」


そう言いながら、しず子が戦闘不能になって、フィールドに倒れているロズレイドとツンベアーをボールに戻す。

かすみんも倣うように……ジュカイン、マッスグマ、サニゴーン、ブリムオン──そして、“アーマーガア”をボールに戻した。


せつ菜「……え……あ、アーマーガアはしずくさんのポケモンではなく、かすみさんのポケモン…………?」

かすみ「一時的に、ですけどね」

せつ菜「一時的に……まさか……戦闘前に……交換していた……? じゃあ、しずくさんの最後のポケモンは……!?」

しずく「せつ菜さんが、かすみさんの手持ちを把握していなくて……助かりました」


……そう、こんなことが出来るポケモンは──特性“イリュージョン”を使えるポケモンしかいない。


せつ菜「……ゾロ……アーク……?」

かすみ「……純粋なバトルじゃ、せつ菜先輩の方が、私たち二人より強いかもしれませんけど……騙し合い化かし合いでは、かすみんたちの方が1枚上手だったようですね」

せつ菜「…………」


せつ菜先輩は一瞬黙り込みましたが、


せつ菜「…………はは……ははは……あはははははははっ!!」


すぐに大きな声で笑いだした。


せつ菜「確かにすごいです……!! こんな戦法を取ってくるなんて、考えてもいませんでした……仮に私が貴方たちの立場だったとしても、思いつかなかったと思います……。一人のトレーナーとして……素晴らしかったと賞賛したいです。……ですが──」

 「────」

 「ダストダァ…ッ」


ダストダスが──突然崩れ落ちる。


かすみ「ダストダス……!?」

せつ菜「……まだ、私には……ウルトラビーストがもう1匹残っています……」

 「────」


この離れた距離から一瞬で肉薄し、ダストダスを斬り裂いたポケモンは──小さな折り紙のような見た目をしたウルトラビースト。


かすみ「……カミツルギ……」

せつ菜「……本当に、賞賛に値します。……ですが、貴方たちの負けです」

かすみ「…………っ」


どうする……どうする……。

本当の本当に私の手持ちは1匹も残っていない……。


せつ菜「覚悟は……出来ていますね……」

 「────」


カミツルギがこっちに、剣先を向けてくる。

直後──

497: ◆tdNJrUZxQg 2023/01/01(日) 12:21:37.82 ID:w+jDVHjQ0

 「────」


──パァンッ!! と音を立てながら、音速で飛んできた水の弾丸が、カミツルギによって斬り裂かれた。

それと同時に、


しずく「かすみさん、逃げるよ!!」

かすみ「しず子……!」


しず子が私の手を引いて、走り出す。


せつ菜「この状況でまだ、逃げられると思っているんですか……?」

 「────」


カミツルギがものすごいスピードで追いかけてくるけど……そんなカミツルギを狙い撃つように、連続で水の弾丸が飛んでくる。


せつ菜「……本当の本当に、悪あがきですね……」

 「────」


せつ菜先輩はゆっくり私たちの後を追いながら、カミツルギは音速の水の弾丸を、それよりも速い斬撃で斬り払っていく。


しずく「まだ……まだインテレオンがいるから……!! まだ、負けてないから……!!」

かすみ「……しず子」

しずく「私は……諦めない……!! 諦めないことを……今まで何度もかすみさんから教えてもらったから、絶対に諦めない……!!」


そう言って握られた、しず子の手は──震えていた。


しずく「二人で生きて帰るって約束したもん……! だから、だから……!!」


だけど──激しい戦闘の後で、体力が限界だったのかもしれない。

しず子が足をもつれさせ、


しずく「あっ……!?」


──転んだ。


 「────」


背後に迫るカミツルギ。


かすみ「しず子っ!!」


私は咄嗟に、転んだしず子に覆いかぶさり、カミツルギからの攻撃の盾になるように、跳び付こうとした──のに。

しず子は私の腕を引っ張りながら、自分は身を捻り、私が跳び付く勢いを利用して、まるで合気道のような方法で、逆に私を自分の背後に投げ飛ばした。


かすみ「……っ!?」


私は地面を滑る。

すぐに身を起こして振り返るけど、


 「────」


もう、カミツルギがしず子に向かって、刃を振り上げていた。

498: ◆tdNJrUZxQg 2023/01/01(日) 12:23:16.13 ID:w+jDVHjQ0

しずく「……護身術……まさか、初めて使う相手が──かすみさんだとは思わなかったよ」


しず子はそう言って、笑った。





    💧    💧    💧





──刃が迫る。

もうこの距離は絶対に避けられない。でもいいんだ。かすみさんを守れるなら。

それに私──せつ菜さんを、傷つけちゃったから……。

みんなを助けるためとはいえ……苦しんでいるせつ菜さんを、利用することを選んだ悪い子だから……。

もしその報いを受けなくちゃいけないんだとしたら──それは私の役目だから。


かすみ「──しず子ぉぉぉぉぉっ!!!!!」

しずく「ばいばい……かすみさん。……大好きだよ……」


背中でかすみさんが叫ぶ自分の名前を聴きながら──私はお別れの言葉を呟いて──目を閉じた。


…………。

…………。

…………。


あれ……?

おかしいな……。……痛みがない。

もしかして……痛みを感じる暇もないくらい……一瞬で死んじゃったのかな……?

私がゆっくり目を開けると──


しずく「……え……」


私の目の前には、


かすみ「う……そ……」


みかん色の髪の女性と、青色の波導を纏ったポケモンが居た。


せつ菜「……なん……です……って……?」


この地方最強のトレーナー──オトノキ地方・チャンピオン。


千歌「……」
 「グゥォ」


千歌さん、その人だった。




499: ◆tdNJrUZxQg 2023/01/01(日) 12:24:13.01 ID:w+jDVHjQ0

    🍊    🍊    🍊





千歌「……しずくちゃん、平気?」

しずく「……は、はい……」

千歌「そっか、よかった。……下がってて」
 「グゥォ」


ルカリオが波導の剣で受け止めたカミツルギの刃を振り払う。

そして私は──せつ菜ちゃんを見据える。


せつ菜「う、動かないでください……!!」

千歌「それは聞けないかな」

せつ菜「動くなっ!! カミツルギ! “いあい──」

千歌「“いあいぎり”」
 「グゥォッ」

 「────」


ルカリオの神速の波導が──カミツルギを一瞬で斬り裂き、カミツルギはその場に崩れ落ちた。


せつ菜「う……そ……」


せつ菜ちゃんが膝をつく。


かすみ「す、すご……」

しずく「な、何も見えなかった……」


せつ菜ちゃんが、膝をついたまま、拳を握りしめる。


せつ菜「…………」

千歌「せつ菜ちゃん、立って」

せつ菜「……え」

千歌「まだ、ポケモン……居るでしょ?」

せつ菜「…………!」

千歌「大切な……“せつ菜ちゃんのポケモンたち”が、まだいるでしょ?」

せつ菜「…………」


私がどうしてここまで来たのか、それは──


千歌「あのとき……出来なかったバトル、しに来たよ」


私はそう言いながら、バッグから──マントを取り出し、それを羽織る。


せつ菜「──チャンピオン……マント……」

千歌「そうだよ。……オトノキ地方のチャンピオンの証……チャンピオンマント」

せつ菜「……それを羽織る意味……わかっているんですか……!?」

千歌「わかってるよ」


意味、それは──このマントを羽織ってするバトルは、いついかなるモノであったとしても──オトノキ地方の頂点を決める、正式なチャンピオン戦となるということ。

500: ◆tdNJrUZxQg 2023/01/01(日) 12:24:52.29 ID:w+jDVHjQ0

せつ菜「わ、私が貴方に何をしたのか、理解して──」

千歌「んー、それはもう、この際どうでもいいや」

せつ菜「……!」

千歌「今更私たちが語るのは、言葉じゃなくていいよ。……ポケモンバトルで語ろうよ」

せつ菜「……」

千歌「私が勝ったらチャンピオン防衛。せつ菜ちゃんが勝ったら──今日からせつ菜ちゃんがオトノキ地方のチャンピオンだよ」

せつ菜「…………」


せつ菜ちゃんが、腰からボールを外して手に持った。


千歌「ありがとう」


──あのとき、私が未熟だったせいで、伝えられなかったことを伝えに……ここに来たから。

オトノキ地方のチャンピオンとして──誰よりも、ポケモンバトルを愛する……一人のポケモントレーナーとして。


千歌「──オトノキ地方『チャンピオン』 千歌!! 行くよ、せつ菜ちゃん……!!」


今度はちゃんと──伝えてみせるから……!!




501: ◆tdNJrUZxQg 2023/01/01(日) 12:25:57.21 ID:w+jDVHjQ0

>レポート

 ここまでの ぼうけんを
 レポートに きろくしますか?

 ポケモンレポートに かきこんでいます
 でんげんを きらないでください...


【ウルトラキャニオン】
 口================== 口
  ||.  |○         o             /||
  ||.  |⊂⊃                 _回/  ||
  ||.  |o|_____.    回     | ⊂⊃|  ||
  ||.  回____  |    | |     |__|  ̄   ||
  ||.  | |       回 __| |__/ :     ||
  ||.○⊂⊃      | ○        |‥・     ||
  ||.  | |.      | | ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄\     ||
  ||.  | |.      | |           |     ||
  ||.  | |____| |____    /      ||
  ||.  | ____ 回__o_.回‥‥‥ :o  ||
  ||.  | |      | |  _.    /      :   ||
  ||.  回     . |_回o |     |        :  ||
  ||.  | |          ̄    |.       :  ||
  ||.  | |        .__    \      :  .||
  ||.  | ○._  __|⊂⊃|___|.    :  .||
  ||.  |___回○__.回_  _|‥‥‥:  .||
  ||.       /.         回 .|     回  ||
  ||.    _/       o‥| |  |        ||
  ||.  /             | |  |        ||
  ||. /              o回/         ||
 口==================口


 主人公 かすみ
 手持ち ジュカイン♂ Lv.78 特性:かるわざ 性格:ゆうかん 個性:まけんきがつよい
      ゾロアーク♀ Lv.73 特性:イリュージョン 性格:ようき 個性:イタズラがすき
      マッスグマ♀ Lv.72 特性:ものひろい 性格:なまいき 個性:たべるのがだいすき
      サニゴーン♀ Lv.71 特性:ほろびのボディ 性格:のうてんき 個性:のんびりするのがすき
      ダストダス♀✨ Lv.72 特性:あくしゅう 性格:がんばりや 個性:たべるのがだいすき
      ブリムオン♀ Lv.72 特性:きけんよち 性格:ゆうかん 個性:ちょっとおこりっぽい
 バッジ 8個 図鑑 見つけた数:242匹 捕まえた数:15匹

 主人公 しずく
 手持ち インテレオン♂ Lv.66 特性:スナイパー 性格:おくびょう 個性:にげるのがはやい
      バリコオル♂ Lv.65 特性:バリアフリー 性格:わんぱく 個性:こうきしんがつよい
      アーマーガア♀ Lv.65 特性:ミラーアーマー 性格:ようき 個性:ちょっぴりみえっぱり
      ロズレイド♂ Lv.65 特性:どくのトゲ 性格:いじっぱり 個性:ちょっとおこりっぽい
      サーナイト♀ Lv.65 特性:シンクロ 性格:ひかえめ 個性:ものおとにびんかん
      ツンベアー♂ Lv.65 特性:すいすい 性格:おくびょう 個性:ものをよくちらかす
 バッジ 0個 図鑑 見つけた数:212匹 捕まえた数:23匹


 かすみと しずくは
 レポートに しっかり かきのこした!


...To be continued.




502: ◆tdNJrUZxQg 2023/01/02(月) 02:32:28.29 ID:VUrl28Mg0

 ■Intermission✨



──やぶれた世界にて、ゲートの維持を続けていると……。


果南「真姫さん、こっちだよ」

真姫「……やぶれた世界……初めて来たけど、想像以上におかしな場所ね……」


真姫さんを先頭にした5~6人ほどの集団を、果南がこのゲートまで案内してくる。


鞠莉「チャオ~真姫さん」

ダイヤ「こんな状態のままで、恐縮ですが……」


わたしたちは、珠経由でディアルガとパルキアに指示を送りながら、挨拶をする。

彼女の後ろには、数人のリーグ職員と……四十代前半くらいの夫婦の姿があった。


鞠莉「そちらの人たちが事前に聞いていた……」

真姫「ええ、そうよ」


事前に聞いていた──ゲート先に通すことになっている人たちだ。

わたしが軽く会釈すると、ご主人は会釈を返し、奥様は深々と頭を下げてくれた。


真姫「鞠莉、ダイヤ、果南。ゲートの維持、お願いね」

ダイヤ「はい、お任せください」

鞠莉「みんなが帰ってくるまで維持するのが、わたしたちの役目だからね♪」

果南「何かあったときは私が対処するから、こっちは任せて」

真姫「ありがとう。それじゃ、今からこのゲートを潜って……世界を移動する。貴方たちは絶対に私たちから離れないようにして。その代わり、貴方たちの身の安全を最優先に守ることを、私含め、ポケモンリーグが全面的に保障するわ」


真姫さんが夫婦に向かってそう伝えると──彼らはその言葉に頷く。


真姫「行きましょう……!」


そして真姫さんたちは、ゲートを潜り──侑たちの向かった世界へと、飛んでいった。


ダイヤ「うまく……行けばいいのですが……」

鞠莉「こればっかりは、わたしたちにはどうすることも出来ないからね……」

果南「とにかく今は私たちに出来ることをしよう」


3人で頷き合う。


果南「って、言っても……この感じだと私の役割はあんまりなさそうだけどね~」


確かに果南の言うとおり、ダイヤもわたしも、ディアルガとパルキアのコントロールが大分安定している。

このまま何事もなければ、ゲート維持自体は問題なく最後までこなせそうだ──と思った、まさにそのときだった。


 「──よっと……なーるほどねー。ここ、やぶれた世界ってやつだよね。こーゆーカラクリだったのかー」


──人影がゲートから、こちらの世界に躍り出てきた。

一瞬、今入っていった真姫さんたちが、何かの事情ですぐに引き返してきたのかと思ったけど──

その人物の容姿は──明るい金髪をポニーテールに結った少女の姿をしていた。それはまさに……数日前、会議で確認した姿そのもので、

503: ◆tdNJrUZxQg 2023/01/02(月) 02:33:19.88 ID:VUrl28Mg0

愛「表と裏の狭間にある世界から、ディアルガ、パルキア、ギラティナの力で、無理やり空間直通ゲートを伸ばすとは……よー考えたねー」


わたしたちの敵である──ミヤシタ・愛、本人だった。


ダイヤ「……っ!?」

鞠莉「な……!?」

果南「ラグラージッ!!!」
 「──ラァグッ!!!!」


果南が一瞬で攻撃態勢に移行し、繰り出したラグラージが飛び掛かる。

が、


 「リシャァーーンッ」
愛「まぁまぁ、そー焦んないでよー」

 「ラ、ラァァァグッ…!!!」


愛の傍らに居るリーシャンが一鳴きすると、作り出された音の障壁でラグラージが弾き返される。


果南「な……!? 止められた……!?」

愛「……もっとゆっくり楽しもーよ。……愛さんが遊んであげるからさ」


愛はそう言いながら──不敵に笑った。


………………
…………
……



504: ◆tdNJrUZxQg 2023/01/02(月) 13:30:44.67 ID:VUrl28Mg0

■Chapter066 『決戦! チャンピオン・千歌!』 【SIDE Setsuna】





──ドクン、ドクンと心臓が脈打ち、口から飛び出してきそうだった。

もう二度と、戦うことがないと思っていたのに。あれで──あの戦いで終わりだと、全て終わってしまったと……思っていたのに。

千歌さんが──私の目の前に居た。

今の私に勝てるの?

ウルトラビーストもなしに、彼女に……勝てるの……?

『特別』のない私が……『特別』な彼女に、勝てるの……?

そこまで考えて──私は頭を振った。

やめよう。そんなことを考えても意味はない。

ギュッとボールを握り込む。

『特別』がなくても、私は彼女に何度も挑んだ。

そして何度も負けて、何度も何度も悔しくて泣いて、それでも何度も何度も何度も彼女の戦いを見返して、考えて、分析して……次は勝てるようにと、そう自分に言い聞かせて、私は──私たちは強くなった。強くなってきた。

私のトレーナー人生は──千歌さんを倒すためだけに存在していたと言っても過言ではない。

これはきっと、千歌さんの最後の気まぐれだ。

もう二度と巡ってこない、本当の本当に最後のチャンス。彼女を超えるための──最後のチャンスなんだ。


せつ菜「……すぅ……。……はぁ……」


息を吸って、吐いて──ボールを握り込んだ。


せつ菜「行くよ……! ゲンガー!!」
 「──ゲンガァァーーーッ!!!!」


ボールからゲンガーが飛び出す。


せつ菜「“シャドーボール”!!」
 「ゲン、ガーーーッ!!!!」


フィールドに飛び出すと同時に発射された“シャドーボール”が猛スピードでルカリオに向かって飛んでいく、だが、


千歌「……“はっけい”っ!!」
 「グゥオッ!!!!」


千歌さんとルカリオが“シャドーボール”に掌打を合わせるように放つと、パァンッと音を立てながら、“シャドーボール”が霧散する。

大丈夫、これくらいのことは当たり前。やってくるに決まってる。

だけど、私が次の攻撃に入ろうと思ったときには、


 「──グゥォッ!!!!」


ルカリオは“しんそく”でゲンガーに肉薄していた。

そして、波導の剣を構える。

──恐らく技は、“いあいぎり”。本来ゴーストタイプのゲンガーには効かない技だが、彼女のルカリオが放つ刃は実体のないものすら“みやぶる”必中の斬撃。

あまりに速過ぎる、“しんそく”の居合が、ゲンガーを捉えようとした瞬間──


千歌「……!! ルカリオッ!!」

 「グゥォッ…!!!」

505: ◆tdNJrUZxQg 2023/01/02(月) 13:39:19.48 ID:VUrl28Mg0

ルカリオの刃がゲンガーにあと紙切れ1枚ほどで当たるか当たらないかの場所で、寸止めされた。

何故なら、ゲンガーが──黒いオーラを纏っていたからだ。


千歌「“みちずれ”……!」


さすが千歌さん。あの速さでありながら、咄嗟に攻撃を止められる判断力。そしてルカリオの技量。

ただ、それによって生じた隙に、


せつ菜「“あくのはどう”!!」
 「ゲンガーッ!!!!」

 「グゥオッ…!!!」


全方位に広がる“あくのはどう”でルカリオを吹き飛ばす。

そして、吹き飛んだことにより距離が離れた瞬間に、ゲンガーの口から、


「أ̷͕͈͈͆͊̂̀͂̾͂̃̿̂ͅن҉̱͚̬͍̘̟͎̙́̏̉̓́ا̸͈̞̭͎̰͚̥̮̮̱͔̄̓̌͒͂̇́́̑ ل̸̫̝͖̝̘̝͍̦̝͕̈͒̉̄͛ع̴͎͇̗̯͉̳̰̫͚̘͇͙̽̀̄̈́̐̽̃̈́̓́̓ن̷̗̲̠͎͖͖͖͉͂̃̈́̋̌̀̐̑̆͐͊ ي̶͙̙͖̙̘͔͖̬̰͙́̊̂͂̐̃م҉͔͚̳̦̗̍̀̀̌̿̚ك҈̖͍͙͍̞̩̾͂͒̈́̌̿̍̚ͅن҈̰̫͍͙͓̬͚̍̉͊̿̌̚ك҉̲̥̥̮̗̫͕̟̋̔̈̇̅̓́̀̍͆ ا҉̞͙̖͍̭̈̍̏̽ͅل̷͈̫̮͈̙͔̖̠̞͒̽̍͑̎̓̑̉̈͗͊ق̸̩̤̝͓̥̜̜̝̠̐͊͛̍̔̈́̿̍͋̓ي̶͖͎͚͇̥̙̩̊̔͂̅̿ا̴͔̣̗̲̫̳̠̫̙̦̃̉̓͛ͅͅم̸̟͓͇͚̯̜͓̥̮̞͚͆̑̓̌ ب҈͚͎͓̯͖̥̓̈̅̆ͅه̷͚͉̦̝̥̘͉̩͙̥̆̌͂̄̑́̊̽̐͑」


この世のものとは思えないような、呪いの歌が流れだす。


千歌「……! ルカリオ、戻──」

せつ菜「“くろいまなざし”!!」


千歌さんが一瞬で、“ほろびのうた”に気付きルカリオを戻すためにボールを投げるが、私はそれよりも早く“くろいまなざし”で交換を封じる。

交換は封じた……!! これで、千歌さんのエースを同士討ちに──


 「グゥォッ!!!」


と思った瞬間、ルカリオが“しんそく”により再び一瞬でゲンガーの懐に潜り込み、


千歌「“ともえなげ”!!」
 「グゥォッ!!!」


波導を纏った手でゲンガーの腕を掴みながら、真後ろに身を捨てつつ、足で押し上げるようにゲンガーを放り投げた。


 「ゲンガ──」
せつ菜「……!」


“ともえなげ”によって放り投げられたゲンガーは、私のボールに勝手に戻っていく。

──相手を強制的に控えに戻させる技だ。

千歌さんはゲンガーが場から退場して“くろいまなざし”が解除されると同時に、


千歌「ルカリオ戻れ!! 行け、フローゼル!!」
 「グゥォッ──」「──ゼルゥゥゥゥッ!!!!」


ルカリオを戻し、代わりにフローゼルを繰り出しながら走り出す。


せつ菜「スターミー!!」
 「──フゥッ!!」

千歌「フローゼル!! “かみくだく”!!」
 「ゼルゥッ!!!」


私がスターミーをボールから出すと、千歌さんは一瞬の判断で相性のいい“かみくだく”を選択指示するが、

506: ◆tdNJrUZxQg 2023/01/02(月) 13:40:05.34 ID:VUrl28Mg0

せつ菜「“かたくなる”!!」
 「フゥッ!!!」

 「ゼルッ…!!?」


噛み付いたフローゼルの歯がガキッと硬い音を立てる。

間髪入れず、


せつ菜「“マジカルシャイン”!!」
 「フゥッ!!!」

 「ゼルッ…!!!」


至近距離から激しい閃光で焼き尽くす。

ダメージを負いながら吹っ飛んだフローゼルに向かって、


せつ菜「“10まんボルト”!!」
 「フゥッ…!!!」


今度はこっちが相性のいい“10まんボルト”で攻める。


千歌「“アイアンテール”!!」
 「ゼルッ…!!!!」


フローゼルは吹っ飛ばされながらも尻尾を硬質化し、それを地面に突き刺し、


千歌「“いわくだき”!!」
 「ゼルッ!!!!」


後ろに飛ばされている反動も利用し、てこの原理で足元の岩を砕きながら捲りあげて、盾にする。

普通なら驚いてしまうけど……千歌さんならそれくらいのことはしてくる……!!


せつ菜「それくらい、読んでます!!」


スターミーの“10まんボルト”は岩の盾に阻まれたように見えたが、岩にぶつかると沿うように回り込み、岩の後ろのフローゼルに向かってバチバチと音を立てながら襲い掛かるが──


千歌「“みずびたし”!!」
 「ゼルッ!!!」


フローゼルが、巨大な球状の水の塊を目の前の岩に向かって吐き出すと、“10まんボルト”は岩の水分に吸着されるように、それ以上前に進めなくなる。


千歌「水は電気をよく通すから、水に巻き込まれると進めなくなるんだよ!」

せつ菜「……!」


確かに、導電体の水から、絶縁体である空気中に向かって放電をするのは極めて難しい。

ご丁寧に“みずびたし”にする際も、口から出している水流から感電しないように、一度口の中で球状にしてから、ある程度の水量を纏めて発射し、自身と電撃の接触部分が出来ないようにしているのも芸が細かい。


千歌「フローゼルへの電気攻撃対策は完璧だから!」

せつ菜「なら、これはどうですか!! “10まんボルト”!!」
 「フゥッ!!!」

千歌「だから、効かないって!! “みずびた──」


再び放った“10まんボルト”に対して、千歌さんが再び“みずびたし”を指示しようとした瞬間──ボンッ!!! と音を立てながら、フローゼルの目の前で爆発が起きた。


 「ゼルッ…!!?」
千歌「うわぁっ……!?」

507: ◆tdNJrUZxQg 2023/01/02(月) 13:41:09.24 ID:VUrl28Mg0

千歌さんは爆風でフローゼルと一緒に地面を転がりながらも、すぐに受け身を取って立ち上がる。


千歌「ば、爆発した!?」


今の“10まんボルト”は電撃による直接攻撃が狙いじゃない。

私が利用したのは放電中に起こる電熱だ。

水は電気を流せば、水素と酸素に分解される。水素は熱を加えると酸素を使って爆発的に燃焼する物質。なら、2度目の電撃による電熱で急に加熱されたら爆発するに決まっている。

吹き飛んで出来た隙に向かって、


せつ菜「“こうそくいどう”!!」
 「フゥッ!!!」


スターミーが体を高速回転させながら、フローゼルに向かって突っ込んでいく。スピードアップしながらの渾身の突撃……!


せつ菜「“すてみタックル”!!」

 「フゥッ!!!」

千歌「っ……! “スイープビンタ”!!」
 「ゼルッ!!!」


フローゼルはすぐに体勢を立て直し、硬い尻尾でスターミーを弾き飛ばすが、


 「フゥッ!!!」


弾き飛ばされても、スターミーは高速軌道で、すぐに切り返してくる。


千歌「も、もう一発っ!!」
 「ゼルッ!!!」


2撃、3撃と連続で弾き返すが──高速回転しながらスターミーはどんどん速度を上げていく。

このままだと、捌ききれなくなることに気付いた千歌さんは、


千歌「“あまごい”!!」
 「ゼルッ!!!!」


雨を降らせ始める。雨が降り始めると──


 「ゼルッ!!!」


フローゼルは尻尾のスクリューを高速回転させながら、ものすごいスピードで動き出し、スターミーの突進を回避する。


せつ菜「……! “すいすい”……!」


“すいすい”は水中や雨の中で、自身の素早さを倍加させる特性。

さらに、


千歌「“アクアジェット”!!」
 「ゼルッ!!!」


水流を身に纏い、超加速しながらフローゼルが、横回転するスターミーの丁度中央のコア部分に突撃してくる。


 「フゥッ…!!!?」

せつ菜「スターミー!?」


お互いが超高速軌道で動いていることもあって、その一撃でスターミーがバランスを崩し回転しながら墜落して、突起部分が地面に突き刺さる。

508: ◆tdNJrUZxQg 2023/01/02(月) 13:42:05.73 ID:VUrl28Mg0

千歌「そこだっ!!」

 「ゼルッ!!!」


その一瞬の隙を見逃さずに、尻尾を高速回転させ始めるフローゼル。あれは見たことがある──“かまいたち”の予備動作……!

スターミーはどうにか突起の先から水を逆噴射させることで、地面に刺さった体をすぐに引き抜くが、フローゼルはもう攻撃の体勢に入っていた。


千歌「“かまいたち”!!」

 「ゼルッ!!!!」

せつ菜「“スキルスワップ”!!」

 「フゥッ!!!!」


が、スターミーのコアが光ると同時に──スターミーがまさに目にも止まらぬスピードで、風の刃を回避した。


千歌「うそっ!?」

せつ菜「“すいすい”、貰いましたよ!!」

 「フゥッ!!!!」


先ほどのさらに倍のスピードで雨の中を駆けるスターミーは、今度こそフローゼルの背後を取り、体を回転させながら突撃を炸裂させ──


千歌「“うずしお”ッ!!」
 「ゼルゥッ!!!」

 「フゥッ!!!?」

せつ菜「な……っ!?」


──たと思ったら、巨大な水の渦がフローゼルの背後に発生し、突っ込んできたスターミーを逆に渦の中に捕えてしまった。


千歌「これでも速い相手を見切るのは得意なんだよ!!」

せつ菜「くっ……!! “こうそくスピン”!!」

 「フゥッ!!!」


スターミーはすぐさま体を逆回転させ、渦を対消滅させる。

渦から解放された瞬間、


千歌「“ソニックブーム”!!」
 「ゼルッ!!!!」


フローゼルの尻尾から、音速の衝撃波が飛んでくる。


せつ菜「“ちいさくなる”!!」
 「フゥッ!!!!」


スターミーが指示と共に一気に体を小さくし、攻撃をギリギリ回避する。


千歌「く……!」


間一髪の回避。

スキルスワップにより、フローゼルの特性が“しぜんかいふく”に変わってしまったせいか、速度の面でスターミーに大きく軍配が上がっていたことも大きいだろう。

私はスターミーの回避を確認し、間髪入れずにボールを投げ込む。


せつ菜「ドサイドン!!」
 「──ドサイッ!!!!」

509: ◆tdNJrUZxQg 2023/01/02(月) 13:44:00.70 ID:VUrl28Mg0

ドサイドンがボールから飛び出すと同時に、大きな腕をフローゼルに向かって振りかぶる。


 「ゼルッ…!!?」
千歌「……っ!」

せつ菜「“アームハンマー”!!」
 「ドサイィィッ!!!!」


振り下ろされる重量級の拳に対して、


千歌「しいたけ!! “コットンガード”!!」
 「──ワッフッ!!!」


ボールから飛び出したトリミアンが、フローゼルを庇って、攻撃を受け止める。

ボフンと音がして、“ファーコート”に打撃が吸収される。

そして、その隙に、


千歌「フローゼル!! “ハイドロポンプ”!!」
 「ゼルゥゥゥッ!!!!」


トリミアンの影から、フローゼルが“ハイドロポンプ”でドサイドンを攻撃してくる。

……が、


 「ドサイッ…!!!」


ドサイドンはダメージを受けながらも、“ハイドロポンプ”を耐えていた。

ドサイドンはもともとタフな上に、特性は“ハードロック”。弱点タイプのダメージを軽減する特性なのが活きている。

さらに、ドサイドンの体からキラキラと輝く鉱物のようなものが舞い散る。


千歌「……!? や、やばっ!?」

せつ菜「“メタルバースト”!!」
 「ドサイッ!!!!」

 「ゼルゥッ!!!?」


さらにそのダメージを、はがねのエネルギーに変換し、フローゼルに叩きつけた。


 「ゼ、ゼルッ…」
千歌「戻って、フローゼル!!」


さすがに、耐えきれず動けなくなったフローゼルをボールに戻しながら、


千歌「しいたけ!! “アイアンテール”!!」
 「ワッフッ!!!」


トリミアンが硬質化した尻尾をドサイドンに突き刺してくる。


せつ菜「そんな威力じゃ、ドサイドンの防御は貫けませんよ!!」
 「ドサイッ!!!!」


お返しとばかりに、ドサイドンが“アームハンマー”を叩き付けるが、

またしても──ボフンッと音を立てながら、強力な打撃がいとも簡単に吸収される。


千歌「それを言うなら、こっちも防御力が自慢だよ!」
 「ワッフ!!!」

510: ◆tdNJrUZxQg 2023/01/02(月) 13:44:38.42 ID:VUrl28Mg0

さっきの高速軌道の戦いとは打って変わって、今度はどっしりと構えた物理戦が始まる。

──が、そんな悠長にやるつもりは最初からない。


せつ菜「そうは言っても……得意なのは物理攻撃に対してだけですよね!! “アームハンマー”!!」
 「ドサイッ!!!!!」


三たび振り下ろされる、重量級の拳が──


 「ギャウッ!!!?」
千歌「なっ!!?」


今回は毛皮に衝撃を吸収されずに、トリミアンを押しつぶす。

そして、怯んだところにドサイドンが手の平を突き付ける。


せつ菜「“がんせきほう”!!」
 「ドッサイッ!!!!!」


ドサイドンの手の平に空いた穴から、巨大な岩石が発射され、


 「ギャウンッ!!!!」


砕ける岩石がトリミアンを吹き飛ばした。


千歌「し、しいたけ!! 戻れ!!」


これで2匹戦闘不能……!!


千歌「……防御しきれなかった……? ……違う、防御力で受けてなかったんだ」

せつ菜「そうです……“ワンダールーム”です」
 「フゥ!!」


小さくなり、いつの間にか私の足元まで戻ってきていたスターミーが鳴き声をあげる。

体を小さくし、“ほごしょく”によって姿を眩ませていたスターミーが使っていたのは、“ワンダールーム”という技。

フィールド上にいる全てのポケモンの防御と特防を入れ替えるという不思議な効果を持つ。

それによって“ファーコート”を無効化し、“コットンガード”の上から押しつぶしたというわけだ。


せつ菜「さぁ……次のポケモンを出してください……!!」

千歌「……その前に」

せつ菜「……? なんですか……」

千歌「ドサイドン、戻した方がいいよ」

せつ菜「……はい? 何を──」


何を言っているのかと思った瞬間、


 「ドサイッ…!!!」


ドサイドンの巨体が崩れ落ちた。


せつ菜「な……!?」

千歌「しいたけがドサイドンに突き刺してたのは──ただの“アイアンテール”じゃないよ」


一瞬何かと思ったが、

511: ◆tdNJrUZxQg 2023/01/02(月) 13:45:11.07 ID:VUrl28Mg0

せつ菜「……“どくどく”……!」


すぐに思い至った。ひっそりと刺した尻尾から“どくどく”を注入されて、“もうどく”状態にさせられていたというわけだ。

私は言われたとおり、ドサイドンをボールに戻す。


せつ菜「……やるじゃないですか」

千歌「せつ菜ちゃんこそ!!」


スターミーが再び“ほごしょく”で姿を消す中、お互いが次のポケモンのボールをフィールドに放つ──





    👑    👑    👑





安全圏に避難してきたかすみんたちは、千歌先輩とせつ菜先輩のバトルを見て言葉を失っていました。


かすみ「……一つ一つの判断が早過ぎます……」

しずく「……これが……最強クラスの人たちの戦い……」


かすみん……自分が強くなった自覚はありますけど……このレベルのバトルはまだ出来る気がしません……。


かすみ「……というか、せつ菜先輩……ウルトラビーストで戦ってたときより、強くない……?」

 「──そういうことなのよ、要は」

かすみ「え?」


声がして振り返ると──


善子「……千歌がここに来た理由は、きっとそういうことなのよ」

しずく「ヨハネ博士……!」


ヨハ子博士はかすみんたちに近付いてきて──ギューッと抱きしめてきた。


善子「二人とも……無事でよかったわ……」

かすみ「よ、ヨハ子博士……」

しずく「ヨハネ博士……ご心配をお掛けしました……」

善子「無事ならいいわ」


ヨハ子博士はそう言いながら、かすみんたちの頭を撫でる。


かすみ「あ、あのあの……それでそういうことって……どういうことですか……?」

善子「……見てればわかるわ」

しずく「見てれば……わかる……?」


ヨハ子博士はそれ以上多くは語らなかった。……見てればわかるって、どういうことだろう……?


善子「頼んだわよ……千歌」




512: ◆tdNJrUZxQg 2023/01/02(月) 13:45:59.46 ID:VUrl28Mg0

    🎙    🎙    🎙





千歌「ルガルガン!! “ドリルライナー”!!」
 「──ワォンッ!!!!」


体を回転させながら猛突進してくるルガルガンに対して、


せつ菜「エアームド!! “てっぺき”!!」
 「──ムドーーーッ!!!!」


こちらはエアームドを繰り出して、攻撃を真っ向から受ける。

──ギャギャギャと耳障りな音が鳴り響き、ギィンッ!! と音を立てながらルガルガンを弾き返す。

弾かれたルガルガンに向かって、


せつ菜「スターミー!! “ハイドロポンプ”!!」

 「フゥッ!!!」


小さい姿かつ“ほごしょく”によって潜伏しているスターミーが“ハイドロポンプ”でルガルガンを狙撃する。

ルガルガンに対して相性のいい大技のはずだが、


千歌「見つけた!! “ドリルライナー”!!」
 「ワォンッ!!!」


むしろ、千歌さんは──“ハイドロポンプ”に真っ向から突っ込んできた。

ルガルガンは激流を真っ向からドリルのパワーで穿ちながら、突っ切ってくる。


せつ菜「スターミー!! 一旦退避しなさい!!」

 「フゥッ!!!」


スターミーは攻撃を中断し、再び“ほごしょく”で姿を消す。


千歌「逃がしちゃダメ!!」

 「ワォンッ!!!」


スターミーが姿を消し、岩に突っ込んだルガルガンはそのまま弾けるように、スターミーの追跡を始める。


せつ菜「エアームド!! “フリーフォール”!!」

 「ムドーーーッ!!!!」


だが、そんなことは許さない……!

エアームドがルガルガンに向かって、鉤爪を構え上から急襲した──瞬間、


 「ピィィィィィッ!!!!!!」

 「ムドーッ!!!?」


ムクホークがエアームドに向かって突っ込んできた。

そのまま大きな爪でエアームドを地面に押し付けながら──


千歌「“インファイト”!!」

 「ピィィィィィィッ!!!!!!」

513: ◆tdNJrUZxQg 2023/01/02(月) 13:46:44.32 ID:VUrl28Mg0

爪と翼と嘴を使って、猛打を叩きこんでくる。

激しい近接攻撃だが──エアームドの防御を貫くにはまだ足りない……!


せつ菜「そこです!! “ドリルくちばし”!!」

 「ムドーーーッ!!!!」


攻撃に集中するあまり、防御がおろそかになっている部分を突いて、“ドリルくちばし”をムクホークの胸部に叩きこむ。


 「ピィィッ…!!!!」


嘴が直撃し、ムクホークは一旦後ろに逃げたが──

すぐに、爪でエアームドを抑えつけようとしてくる。

そのとき、


 「──フゥッ…!!!?」


スターミーの鳴き声が聞こえてくる。


せつ菜「くっ……!」


このムクホークの執拗な攻撃が、ルガルガンがスターミーを追いかけるための足止めだと言うのはわかっていたが、気付けば小さな小さなスターミーがルガルガンの口に咥えられていた。

ただ──いくらなんでも見つけるのが早過ぎる。


千歌「“かみくだく”!!」

 「ワォンッ!!!」

せつ菜「コスモパワー!!」

 「フ、フゥッ!!!!」


ガキン!! と音を立てながら、辛うじてキバを耐える。


せつ菜「“サイコショック”!!」

 「フゥッ!!!!」


そして、ルガルガンの口の中にサイコパワーで1個だけキューブを作り出し、


 「ワ、ワォ…!!?」


ルガルガンの口を無理やりこじ開ける。

今のうちに脱出させ──


 「ピィィィィィィッ!!!!!!」

 「ム、ムドーーーッ!!!!」

せつ菜「……!?」


今度はエアームドの鳴き声があがる。目を向けると、ムクホークが足でエアームドの体を掴み、低空飛行しながら引き摺り始めていた。

そのまま、ムクホークが飛び立とうとした瞬間、


せつ菜「エアームド!! “ボディーパージ”!!」

 「ム、ムドォー!!!!」

514: ◆tdNJrUZxQg 2023/01/02(月) 13:47:28.43 ID:VUrl28Mg0

エアームドが掴まれていた部分の鋼の鎧をパージして、脱出する。

でも、今度は、


 「フ、フゥゥ!!!!」

せつ菜「……!!」


スターミーがルガルガンの足に踏みつけられじたばたしていた。

──ルガルガンはスターミーの姿を完全に捉えている……!?

そこで、やっと気付く。


せつ菜「……しまった、“かぎわける”……!?」


相手は最初からスターミーの姿ではなく──ニオイで追っていたことに気付くが、もう時すでに遅し。


千歌「“ブレイククロー”!!」

 「ワォンッ!!!」

 「フゥッ…!!!?」


踏みつけていたスターミーを、防御を貫く爪撃で切り裂いたあと──


千歌「“アクセルロック”!!」

 「ワンッ!!!」

 「フゥゥッ…!!!?」


たてがみの岩を高速で突進しながら叩きつけられ──スターミーは戦闘不能になる。


せつ菜「く……っ! 戻りなさい、スターミー!!」


私はスターミーをボールに戻しながら──視線をエアームドに戻すと、


 「ムドーーッ!!!!」

 「ピィィィィィッ!!!!」


上昇して逃げるエアームドをムクホークが追いかけているところだった。


千歌「“こうそくいどう”!!」

 「ピィィィィィッ!!!!!」


千歌さんの指示でムクホークが加速し──


千歌「“すてみタックル”!!」

 「ピィィィィッ!!!!!」


“すてみ”による渾身の一撃が──エアームドに直撃した。


 「ムドォォォッ…!!!!」

せつ菜「エアームド……!!」


あまりの破壊力に全身の鎧をばらばらに砕かれ、落下を始めるエアームドを、


 「ピィィィィッ!!!!!」

515: ◆tdNJrUZxQg 2023/01/02(月) 13:48:12.97 ID:VUrl28Mg0

ムクホークが掴んで、そのまま地面に急降下を始める。


千歌「“ブレイブバード”!!」

 「ピィィィィィッ!!!!!」


そのまま一直線に──エアームドごと地面に墜落し、その衝撃で地面にヒビが入る。


千歌「エアームドが硬くても、こっちのパワーの方が上だったね!」


千歌さんが胸を張って自慢げに言ってくるが、


せつ菜「……あはは、千歌さん。忘れていませんか?」

千歌「……え?」

せつ菜「私のエアームドの特性──“くだけるよろい”ですよ」
 「ムドーーッ!!!!」

千歌「わ、忘れてた!?」


直後、鎧を脱ぎ去って加速したエアームドが、ムクホークの足元から飛び出し──


せつ菜「“はがねのつばさ”!!」
 「ムドーーーッ!!!!」

 「ピィィィィッ!!!?」


ムクホークの脳天に叩きこむ。


 「ピィィッ…!!!」


脳震盪を起こしてふらつく、ムクホークに向かって、


せつ菜「“ガードスワップ”!!」
 「ムドーーーッ!!!」


“くだけるよろい”で下がった自身の防御力を──ムクホークに移す。

“ガードスワップ”はお互いの防御の能力変化を入れ替える技だ。


せつ菜「エアームド──」


私がエアームドに次の指示を出そうとした瞬間、千歌さんも迎撃態勢に移る。


せつ菜「“てっぺき”!!」

千歌「させな──“てっぺき”!?」
 「ワォンッ!!!!」


だが、千歌さんはムクホークへの追撃を予想していたのか、エアームドが防御を固めてきたことに面食らって驚きの声をあげる。

それと同時に、飛び込んできたルガルガンの爪を──ギィンッ!! と音立てながら、エアームドの鎧が弾き返す。

“くだけるよろい”で下がった防御は“ガードスワップ”でフォローし、さらに再び“てっぺき”で硬質化させた鎧で、ルガルガンの爪を弾く。

──そもそも、ここで千歌さんが自由に攻撃をさせてくれるはずがない。

だから、私の選択肢は最初から……防御一択。

それに──


千歌「い、今のうちにムクホーク!! 逃げ──」


もうすでに、ムクホークへの攻撃は完了している……!

516: ◆tdNJrUZxQg 2023/01/02(月) 13:49:10.98 ID:VUrl28Mg0

 「ピィィィィィッ!!!!?」

千歌「……!?」


──突然、上空から落ちてきた、無数の鉄の剣が、ムクホークを斬り裂き、


 「ピ、ピィィィ…」


ムクホークは戦闘不能になってその場に倒れ込む。


千歌「今の……“くだけたよろい”で砕けた破片……!?」


そうだ。最初から私の作戦は、あの場でムクホークを動けなくさえすれば、もう完了していた。

そして今のうちに、


せつ菜「エアームド!! “はねやすめ”!!」

 「ムドーーー」


エアームドが地上に降り立ち、回復を始める。


千歌「っ……! “ドリルライナー”!!」
 「ワォンッ!!!」


地上に落りたエアームドに向かって、ルガルガンが回転しながら突っ込んでくる。

それに合わせるように、


せつ菜「“ドリルくちばし”!!」

 「ムドーーーッ!!!!」


両者のドリルの先端が真っ向からぶつかり合い、耳障りな音が周囲を劈く。

──ギャギャギャギャ!!! と大きな音を立て──ガキンッ!! という音と共に、お互いのポケモンが弾かれて、後ろに飛び退く。


せつ菜「……はぁ……はぁ……」

千歌「……はぁ……っ……はぁ……っ」


激しい攻撃の応酬に、さすがに息が切れる。それにしても……。


せつ菜「……千歌さんって、何度戦っても、いつもなにかしら前に見たことを忘れてますよね」

千歌「う……!? ……で、でも、“くだけるよろい”を攻撃に使うのは見たことなかった! 今の知らなかったもん!」

せつ菜「特性さえ知っていれば防げたはずでは?」

千歌「そーいうせつ菜ちゃんだって、私の技で見切れてないのたくさんあるじゃん!」

せつ菜「な……!? で、ですが、毎回少しずつ改善されてるじゃないですか!? 前に10番道路で戦ったときは、ほぼ見切っていたようなものです!!」

千歌「それでも、私たちもどんどん強くなるから、完全に攻略されることはないけどねっ!」

せつ菜「強くなってるのは私たちだって同じです!! いつか──いえ、今日こそ、完全に攻略してみせますよ!! エアームド!!」
 「ムドーーッ!!!」


エアームドが戦闘不能になったムクホークの傍に突き刺さっている鉄の刃を一本引き抜き嘴に咥える。

その動作の隙に、


千歌「“アクセルロック”!!」
 「ワォンッ!!!!」

517: ◆tdNJrUZxQg 2023/01/02(月) 13:49:49.63 ID:VUrl28Mg0

ルガルガンが飛び出してくる。

──ギィンッ!! ルガルガンのタテガミの岩と、エアームドの鉄の刃が鍔迫り合う。

パワーが拮抗する中、


せつ菜「引きなさい!」
 「ムドォ!!!」


エアームドが身を引く、


 「ワォッ…!!?」


急に身を引かれて、ルガルガンが一瞬前につんのめるが、


千歌「“ストーンエッジ”!!」
 「ワ、ワォンッ!!!」


千歌さんはよろけて前に踏み込む動作を、咄嗟の判断で攻撃に変換する。

ルガルガンの踏み込みと同時に鋭い岩が飛び出してくるが、


 「ムドォ!!!」


エアームドはその岩を足蹴にして、空に飛び立つ。

が、ルガルガンはすぐに自身のタテガミの岩で、“ストーンエッジ”を割り砕き、


千歌「“ロックブラスト”!!」
 「ワンッ!!!」


砕いた岩を投げ飛ばしてくる。


せつ菜「“きりさく”!!」
 「ムドォーーーッ!!!」


その岩を鉄の刃で斬り裂きながら、


せつ菜「“てっぺき”!!」
 「ムドォッ!!!」


さらに体を硬質化しながら、エアームドは岩石の弾丸の中、ルガルガンに向かって急降下を始める。


せつ菜「“ボディプレス”!!」
 「ムドーーーッ!!!!」

 「ワォンッ!!!?」


硬い鉄の鎧ごと、上空からルガルガンに叩きつけた。

ここまでのダメージも含め、これが決め手となり、


 「ワ、ワォン…」


崩れ落ちるルガルガン。


せつ菜「わ、私たちの勝ちです!!」

千歌「……残念、相打ちだよ」


千歌さんの言葉と共に──

518: ◆tdNJrUZxQg 2023/01/02(月) 13:50:44.81 ID:VUrl28Mg0

 「ムドォ…」


エアームドも崩れ落ちた。


せつ菜「エアームド……!?」


驚いて、倒れたエアームドを見ると──胸にルガルガンのたてがみの岩が折れて、突き刺さっていた。


せつ菜「か、“カウンター”……!」

千歌「これ折れるとまた生えるまで時間かかるんだけどねー……ま、仕方ない! せつ菜ちゃん相手にたてがみの岩一本の犠牲なら上出来だよ! 戻れ!」


そう言いながら、千歌さんはルガルガンとムクホークをボールへ戻す。


せつ菜「……戻ってください」


私も戦闘不能になって倒れているエアームドをボールに戻す。


千歌「さぁ、次だよ!!」


千歌さんがボールを構える。


せつ菜「望むところです……!!」


私も次のボールを構えたところで、


千歌「──せつ菜ちゃん」


千歌さんが私の名前を呼んだ。


せつ菜「なんですか?」

千歌「……楽しいね……!」

せつ菜「え……」

千歌「せつ菜ちゃんとのバトルは……予想外のことがたくさんあって……! 知らない技が、戦術がたくさんあって……! 何度戦っても、ドキドキワクワクする! ──せつ菜ちゃんは?」

せつ菜「……私は」


私は──

──胸が……ドキドキしていた。

でも、最初の動悸とは全然違う。

これは、このドキドキは──


せつ菜「──わけ……ないじゃないですか……」


このドキドキの正体なんて──そんなの……前から知っている。


せつ菜「──……楽しくないわけ……ないじゃないですか……っ!!」

千歌「うんっ!! そうだよねっ!!」


何度も何度も感じてきたこの高揚感。

そうだ、私は……ポケモンバトルの、この感覚がずっとずっと……大好きだったんだ。

519: ◆tdNJrUZxQg 2023/01/02(月) 13:51:28.82 ID:VUrl28Mg0

千歌「私も今、さいっこうに楽しい!! だからさ、もっともっと楽しいバトル、しようよっ!!」

せつ菜「望むところですっ!!」

千歌「行くよ、ルカリオ!!」
 「──グゥォッ!!!」

せつ菜「行きますよ、ゲンガー!!」
 「──ゲンガーーッ!!!」


私の“メガバングル”と、千歌さんの“メガバレッタ”が同時に光り輝く。


せつ菜・千歌「「メガシンカ!!」」
 「ゲンガァァァァァァァァァッ!!!!!!」「グゥォォォォォッ!!!!!!!」


メガゲンガーから影の力が、ルカリオから青い波導の力が溢れ出し、空間を震わせる。


千歌「ルカリオッ!! 波導全開ッ!! 行くよっ!!」
 「グゥオッ!!!!!」

せつ菜「ゲンガーッ!! 全身全霊で迎え撃ちますよっ!!」
 「ゲンガァァァァァァ!!!!!!」





    🎙    🎙    🎙





千歌「ルカリオ!! 波導の力を斬撃に……!!」
 「グゥオッ!!!」

せつ菜「“ふいうち”!!」
 「ゲンガッ!!!」

 「グゥオッ!!!?」
千歌「……!」


千歌さんの攻撃は確かに必中必殺の一撃。

だけど、ノータイムで連発出来るようなものではないし、一定以上の集中が必要になる。

攻撃を撃たせないことがもっとも正しい。

千歌さんも私の魂胆に気付いたのか、攻撃方法を切り替えてくる。


千歌「“ボーンラッシュ”!!」
 「グゥオッ!!」


剣状にしていた波導を長い骨の形にし振り回す。


せつ菜「“ゴーストダイブ”!!」
 「ゲンガッ──」


それを避けるように、ゲンガーが影の中に潜り、“ボーンラッシュ”が空振る。


千歌「なら……!」
 「グゥォッ!!!」


ルカリオは地面に骨を突き立て──それに掴まったまま上に伸ばして、上へと逃げる。


千歌「メガゲンガーは体が影に埋まってるから、空には追ってこれないでしょ!!」

 「グゥオッ!!」

せつ菜「確かにそうですね、ですがこれならどうですか!!」

520: ◆tdNJrUZxQg 2023/01/02(月) 13:52:07.91 ID:VUrl28Mg0

今しがた影に飛び込んだ場所──即ちルカリオが骨を突き立てた地面が、ジュウウッと音を立て始める。

それと同時に、骨がグラリと揺れる。


 「グゥオッ…!!?」

千歌「溶けてる……!? “ヘドロばくだん”だ……!! ルカリオ、離脱!!」

 「グゥォッ!!!」


ルカリオが“しんそく”で飛び出しながら、地上に向かってジャンプする中、地面がドロドロに溶け始め、そこからゲンガーが顔を出す。

相手が空中にいる間がねらい目……!!


せつ菜「“シャドーボール”!!」
 「ゲンガァァァァッ!!!!!」


ゲンガーの口から特大の“シャドーボール”が放たれる。


せつ菜「落ちながらで受け切れますか!!」


“はっけい”で対抗してくると思ったが──何故かルカリオの落下が急に止まり、


せつ菜「……え!?」


軌道を読み違えて外れた“シャドーボール”が、そのまま明後日の方向に飛んでいく。

よく見たら、ルカリオの足元が、わずかにスパークしているのがわかった。


せつ菜「まさか、“でんじふゆう”!?」

千歌「“ラスターカノン”!!」

 「グゥゥゥォォォッ!!!!!!」


集束した光線が空中に浮いたルカリオから発射される。


せつ菜「く……!? “シャドーボール”!!」
 「ゲンガァァァァ!!!!」


“ラスターカノン”に向かって、再度“シャドーボール”を発射するが──

特性“てきおうりょく”で強化された“ラスターカノン”は“シャドーボール”を貫いて、ゲンガーに直撃する。


 「ゲ、ゲンガァァッ!!!!」
せつ菜「ゲンガー……!?」

千歌「さぁ、ガンガン行くよー!!」

 「グゥオッ!!!」


ルカリオが再び“ラスターカノン”の態勢に入るが──


 「ゲンガ…!!!」


ゲンガーが空にいるルカリオに向かって手をかざすと──急に集束していた光が弱まり、消滅する。


千歌「ふ、不発……!? しまった、“かなしばり”……!?」


一瞬で正解にたどり着くのはさすがです……!

521: ◆tdNJrUZxQg 2023/01/02(月) 13:52:55.59 ID:VUrl28Mg0

千歌「でも、空にいればそっちの攻撃は──」

せつ菜「“かみなり”!!」
 「ゲンガァッ!!!!」

 「グゥオッ!!!?」
千歌「うわぁっ!!?」


目の前で、特大の落雷が発生し、空中にいるルカリオに直撃する。

ダメージを受けたルカリオがふらりと落ちてくる。

無防備に落ちてくるルカリオに向かって──


せつ菜「“きあいだま”!!」
 「ゲンガァーーーッ!!!!」


気合を集束したエネルギー弾を発射する。


千歌「ルカリオーーーッ!!! “はどうだん”ッ!!」

 「グゥ…オォッ!!!!」


落下しながらも、ルカリオの発射した“はどうだん”が“きあいだま”とぶつかり合い、相殺しあう。


そのまま、着地したルカリオは、跳ねるような身のこなしでゲンガーに接近し、


千歌「“はっけい”!!」
 「グゥオッ!!!!」


波導を纏った掌打をぶつけてくる。が、


せつ菜「“したでなめる”!!」
 「ゲンガァァァ~~~」

 「グゥオッ!!!?」
千歌「いっ!?」


それに合わせるように──ゲンガーがベロリと舌を出す。

ルカリオの“はっけい”はゲンガーの舌にべちょりと音を立てながらぶつかった直後、


 「ゲンガッ…!!!?」


波導のエネルギーによって、ゲンガーが吹っ飛ばされる。

だが──


 「グ、グゥオ…!!!」
千歌「ま、“まひ”した……!!」


“したでなめる”の追加効果で“まひ”させた。

さらに、


せつ菜「“たたりめ”!!」
 「ゲンガァァッ!!!!!」


弱り目に“たたりめ”。状態異常の相手には倍の効果を発揮する呪いの攻撃でルカリオを攻撃する。


 「グゥ、オォォォ…ッ」


苦悶の顔を浮かべながら膝を突くルカリオに向かって──

522: ◆tdNJrUZxQg 2023/01/02(月) 13:53:47.46 ID:VUrl28Mg0

せつ菜「“シャドーボール”!!」
 「ゲンガァァァァッ!!!!」


三度目の正直の特大“シャドーボール”を発射する。

怯んだルカリオは避けることも出来ず──


 「グゥォォォッ…!!!!」


影の球に呑み込まれる。


せつ菜「よし、このまま……!!」

千歌「“あくのはどう”!!」
 「グゥオォォォォッ!!!」

せつ菜「……!」


だが、ルカリオは影の球の中から全方位に向かって“あくのはどう”を放って、“シャドーボール”を吹き飛ばす。

そして、影の球から出てきたときには──


 「グゥオ…」


その手に──波導で出来た剣を手にしていた。


千歌「波導の力を斬撃に……!!」

せつ菜「させないっ!! “シャドーパンチ”!!」
 「ゲンガァァッ!!!!」


ゲンガーが自身の両手を影に沈めると──ルカリオの足元の影から、拳が飛び出す。

が、


 「グゥオ」


ルカリオは波導の剣で、冷静に受け止める。

でも……“いあいぎり”の集中は切った……!!

攻撃を畳みかけようとした瞬間──


 「ゲンガッ…!!!?」
せつ菜「な……!?」


ゲンガーの影から──波導のエネルギーが拳の形をして飛び出してきて、ゲンガーの体にめり込んでいた。


せつ菜「……“まねっこ”……!?」


“シャドーパンチ”を真似され、背後からの突然の攻撃でゲンガーが怯んだ隙に──


千歌「波動の力を斬撃に──」
 「グゥオッ!!!」


千歌さんとルカリオが必中必殺の型を完成させる。


せつ菜「“ゴーストダイブ”!!」
 「ゲンガッ!!!」


苦し紛れの回避択。ゲンガーが影に潜り込むが、

523: ◆tdNJrUZxQg 2023/01/02(月) 13:54:32.95 ID:VUrl28Mg0

千歌「影ごと斬り裂け──“いあいぎり”!!」
 「グゥゥオッ!!!!」


下から上に向かって薙がれる波導の剣が、ゲンガーの潜った影を一閃する──

一瞬、フィールド上が静寂に包まれたが──

数秒後、


 「…ゲン、ガ…」


影の中から戦闘不能になったゲンガーが浮かんできたのだった。


千歌「はぁ……はぁ……斬ったよ……!」
 「グゥオッ!!!」

せつ菜「ウインディッ!!」
 「──ワォンッ!!!」

千歌「……!」


間髪入れずに飛び出したウインディが、


せつ菜「“ねっぷう”!!」
 「ワォォォンッ!!!!!」


“ねっぷう”でルカリオを焼き尽くす。


 「グゥォォォッ…!!!!」
千歌「ぐ……っ!!」


最後は斬られたとは言え──不発も含めれば全力の集中技を3回も使わせた。

集中が必要不可欠な技はその分負担も大きい。畳みかけるなら、今しかない……!!


千歌「波導、全開ッ!!!」
 「グゥゥゥゥオオオオオッ!!!!!!」


ルカリオが“ねっぷう”の中、両手の平をこちらに向けて──残りの波導エネルギーを発射してくる。


せつ菜「“だいもんじ”!!」
 「ワァォンッ!!!!!」


それに対して、巨大な火炎で真っ向から立ち向かう。


千歌「ルカリオッ、頑張れぇぇぇッ!!」
 「グゥ、オォォォォッ!!!!!」


波導と“だいもんじ”がぶつかり合い、拮抗するが──


 「グゥ、ォォォォォ…!!」


ルカリオもさすがに体力の限界だったのか──次第に火炎が優勢になり。


千歌「くっ……!!」
 「グゥ、ォォォォッ…!!!!」


“だいもんじ”がルカリオを飲み込んだ。

業炎は千歌さんごと飲み込んだように見えたが──炎が晴れると、


 「グゥ、ォ…」

524: ◆tdNJrUZxQg 2023/01/02(月) 13:55:17.06 ID:VUrl28Mg0

戦闘不能になったルカリオの向こうで、


 「──バクフーーーンッ…!!!!」
千歌「……やっぱり、ここまで追い詰められちゃうか……」


業炎から主人を守るように、バクフーンが千歌さんの前に立っていた。





    👑    👑    👑





しずく「……これで、お互い……最後の1匹……」

かすみ「…………しず子、どうしよう…………かすみん、千歌先輩を応援しなくちゃいけないはずなのに…………せつ菜先輩は敵なのに……今、どっちにも負けて欲しくないって……思ってるかも……」

しずく「…………私も……」


胸が熱かった。

死力を尽くして戦う二人の姿を見ていたら、どうしようもなく、胸が熱かった。

胸が熱くて、ドキドキしていた。





    🎙    🎙    🎙





せつ菜・千歌「「“かえんほうしゃ”!!」」
 「ワォォォンッ!!!!」「バクフーーーンッ!!!!!」


2匹の“かえんほうしゃ”が真っ向からぶつかり、フィールドに炎を散らす。

ぶつかった、火炎の勢いは──


せつ菜「互角……!!」

千歌「なら……!!」


先に動いたのは、千歌さんだった。


千歌「“ふんか”!!」
 「バクフーーーーンッ!!!!!!」


バクフーンの背中から──爆炎が飛び出す。


せつ菜「ウインディ!!」
 「ワォンッ!!!」


私はウインディに飛び乗り、


せつ菜「“しんそく”!!」
 「ワォンッ!!!!!」


降ってくる火炎弾の中、ウインディが私を乗せて猛スピードで走り出す。

私は上を見上げ──落ちてくる火山弾の軌道を見ながら、ウインディのたてがみを引っ張り、避ける方向を伝える。


 「ワォンッ!!!!」

525: ◆tdNJrUZxQg 2023/01/02(月) 13:56:03.58 ID:VUrl28Mg0

ギリギリの軌道で炎弾を避け──最短ルートでバクフーンに肉薄し、


せつ菜「“インファイト”!!」
 「ワォンッ!!!!」


打撃を食らわせようとした瞬間、


千歌「“ふんえん”!!」
 「バクフーーーンッ!!!!」

せつ菜「ぐっ!?」
 「ワォンッ!!!」


バクフーンが背中をこちらに向けて、“ふんえん”を噴き出す。

全身が燃えるように熱かったけど──


せつ菜「今は……私の心の方がもっと熱い……!! “かえんほうしゃ”!!」
 「ワァォォォォンッ!!!!!!」


炎の中で、ウインディが炎を噴き出す。


千歌「くっ……!?」
 「バクフーーンッ…!!!」


“ふんえん”を押しのけて、火炎がバクフーンと千歌さんに襲い掛かり、


せつ菜「“フレアドライブ”ッ!!」
 「ワァォォォォンッ!!!!!!」


全身に炎を纏ったウインディが、自身の出した炎を突っ切りながら──バクフーンに突撃した、が、


 「バクフーンッ!!!!」


バクフーンはそれを両手で受け止める。


千歌「負けるかぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!」
 「バク、フーーーーーーンッ!!!!!!!!!」


ウインディを受け止めながら、千歌さんに気合いの声に呼応するように、バクフーンの背中から気合いの炎が噴き出す。


千歌「“れんごく”ッ!!!」
 「バクフーーーーーーーンッ!!!!!!!!」


さらなる爆炎が、バクフーンの口から放たれる。


せつ菜「“だいふんげき”ッ!!!!」
 「ワァァァォォォォォンッ!!!!!!!」


ウインディも全身からありったけの業炎を放ち、お互いの炎がぶつかり合う。


せつ菜「うおおおおおおおおおおおおおおっ!!!!!!」
 「ワァォォォォォォォォォォンッ!!!!!!!!!!!」

千歌「燃えろおおおおおおおおおおおっ!!!!!!」
 「バクフーーーーーーーーンッ!!!!!!!!!!」


お互いの爆炎が業炎が、ほのおのエネルギーぶつかり合い……膨張した熱が──爆発した。

526: ◆tdNJrUZxQg 2023/01/02(月) 13:56:37.00 ID:VUrl28Mg0

せつ菜「ぐぅぅぅぅっ……!!?」
 「ワォンッ…!!!」

千歌「ぐぅぅぅぅぅっ……!!」
 「バクフーンッ…!!!」


お互いが爆風で吹き飛ばされる。


せつ菜「……ぐ、ぅぅぅ……ッ……!!! まだ……まだ、です……ッ……!!!」
 「ワォォォンッ…!!!!」


燃えるような熱さの中、立ち上がると──


千歌「はぁ……はぁ……ッ……!!」
 「バク、フーーーンッ…!!!!」


千歌さんも立ち上がっていた。

お互いの体力はもう限界。

恐らく次がお互い最後の技になるだろう。

だから、私は──


せつ菜「千歌さんッ!!!!」

千歌「……!?」

せつ菜「Z技を……使ってくださいッ!!!!」

千歌「……!!!」

せつ菜「あの技を超えないと──私は胸を張って、貴方に勝ったと言えないからッ!!!!」


最後だからこそ、手加減なしの全てとぶつかり合いたかった。

『特別』だとかそうじゃないとか、もうそんなことはどうでもよくて。

今はただ──全力の千歌さんとぶつかり合いたかった。


千歌「うんっ!! バクフーーーーンッ!!!! 行くよっ!!!!! 全力のZ技っ!!!!!」
 「バクフーーーーーーンッ!!!!!!!」


千歌さんの腕についたZリングが──燃えるような赤色の光を灯す。

そこから、エネルギーがバクフーンへと流れ込み──


 「バクフーーーーーーンッ!!!!!!!!!」


バクフーンから抑えきれないほどの炎熱のエネルギーを感じた。


千歌「行くよッ!!!!! せつ菜ちゃんッ!!!!!」

せつ菜「はいッ!!!!! 千歌さんッ!!!! 私は、今日、ここでッ!!!!! 貴方を超えますッ!!!!!!」
 「ワォォォォォォォォォォンッ!!!!!!!!!!!!!!!!」

千歌「“ダイナミックフルフレイム”ッ!!!!!!!」
 「バクフーーーーーーーーーーーンッ!!!!!!!!!!!!」


バクフーンから──視界一杯を覆いつくすような業炎が──放たれた。




527: ◆tdNJrUZxQg 2023/01/02(月) 13:57:09.56 ID:VUrl28Mg0

    🎙    🎙    🎙





せつ菜「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!!!!!!!!」
 「ワォォォォォォォォォォンッ!!!!!!!!!!!!!!!!」


向かってくる大火球に向かって、ウインディが全身全霊の炎で迎え打つ。

とんでもない炎熱を肌で感じる。

だけど、


せつ菜「負けるかあああああああああああああああああああっ!!!!!!!!」
 「ワォォォォォォォォォォォンッ!!!!!!!!!!!!」


雄叫びをあげながら、立ち向かう。

──熱くて熱くてたまらない、苦しいはずなのに、今は、この瞬間が、この戦いが、終わって欲しくない。そんな気持ちでいっぱいだった。

そうだ。私が大好きなポケモンバトルはこれだったんだ。

ただ強い人と全力でぶつかり合って、胸が熱くなる。この瞬間が大好きだったんだ。

だから私は──ポケモンバトルが大好きだったんだ。

……ふと、思う。

私はいつから、この気持ち忘れてしまっていたのだろうか。

いつから勝ちにばかり拘るようになってしまったんだろうか。

いつから──選ばれることに拘るようになってしまったんだろうか。

本当は、『特別』だとかそんなこと、どうでもよくて──ただ、この楽しくて大好きな時間を、ずっとずっと味わっていたかった。ずっとこの中にいたかった。それだけのはずだったのに。

お父さんにポケモンを取り上げられそうになった瞬間、なくなってしまうと思った瞬間、怖くなってしまった。

だから私は、在り方ばかり考えて、ただ──結果だけを示そうとして。

でも違った。そうじゃなかったんだ。私の本当の気持ちは、強い自分を見せつけることなんかじゃない。実績を誇示して納得させることなんかじゃない。

ただ──私がポケモンを、ポケモンバトルを大好きだって気持ちを──伝えなくちゃいけなかったんだ。


せつ菜「……気付くのが遅いよ……私……っ……」


涙が零れて──炎の中で一瞬で蒸発する。

取り返しの付かないことをしてしまった。

大好きなポケモンで──人を傷つけてしまった。

許されないことを、してしまった。

これが終わったら……私はもう、ポケモントレーナーではいられない。

だから。きっとこれが最後だから──


せつ菜「全部の炎ッ!!!!!!! 出し切ってッ!!!!!! ウインディィィィィィィィィッ!!!!!!!!!!」
 「ワォォォォォォォォォンッ!!!!!!!!!!」




528: ◆tdNJrUZxQg 2023/01/02(月) 13:58:38.61 ID:VUrl28Mg0

    👑    👑    👑





──なんでだろ。なんで……。


かすみ「なんで……かすみん……泣いてるの……っ……?」


せつ菜先輩と千歌先輩が全力でぶつかる姿を見ていると、胸が燃えるように熱くて、勝手に涙が溢れてくる。


しずく「私は……っ……わかる、気がするよ……っ……」

かすみ「え……」


しず子もポロポロと涙を流しながら、


しずく「だって、全力で何かをする人たちの姿は……っ、見ている人たちの心を──震わせるものだから……っ……」

かすみ「っ……!!」


そっか、今私の心は──震えてるんだ。

そう思ったら、居てもたっても居られなくて──


かすみ「せつ菜先輩ッ!!!! 千歌先輩ッ!!!!! どっちも頑張ってぇぇぇぇッ!!!!!」


かすみんは思わず叫ぶ。

ただ、全力で全てを懸けて戦う人たちに、自分の心の震えが少しでも届くようにと──


善子「……人とポケモンは、どうしてポケモンバトルなんてものをするのかしらね」

しずく「え……?」

善子「……歴史の中で、何度もポケモンを戦わせるのをやめさせようとしたことがあったらしいわ。戦いは野蛮だとか、ポケモンを傷つけるなとか、理由はいろいろあった。それでも……人もポケモンも……戦うことを、競い合うことをやめなかった」

しずく「………………」

善子「私たちは今……その答えを……見ているのかもしれないわね……」





    🎙    🎙    🎙





せつ菜「あああああああああああああああああああああっ!!!!!!!!」


燃え盛る炎の中で、


 「ワォォォォォォォォンッ!!!!!!!!」


相棒と一緒に──生まれて初めて捕まえたポケモンと一緒に──ただ、心を燃やす。


529: ◆tdNJrUZxQg 2023/01/02(月) 13:59:36.30 ID:VUrl28Mg0

────────
──────
────
──


せつ菜「やっと……捕まえた……!」
 「ワン…」

せつ菜「私の……初めての……ポケモン……!!」
 「ワン…」

せつ菜「よろしくね、ガーディ!」
 「…ワンッ」


──ガブリ。


せつ菜「いったぁっ!!?」

真姫「……まさに飼い犬に手を噛まれるね」

せつ菜「うぅ……が、ガーディ……わ、私、君のトレーナーなんだよ……?」
 「ガルル…」

せつ菜「ま、真姫さぁん……」

真姫「ふふ、最初はそんなものよ。大丈夫、きっとすぐに仲良くなれるから」

せつ菜「ほ、ホントかなぁ……?」
 「ガルル…」


──
────


せつ菜「やったぁ♪ 勝ったよ、ガーディ♪」
 「ワンッ♪」


──ペロ。


せつ菜「きゃっ!? あはは♪ く、くすぐったいよ、ガーディ♪」


──
────


 「ワォォォォォンッ!!!!!」
せつ菜「これが……ウインディ……! ガーディの進化した……姿……!」

 「ワォンッ」
せつ菜「……うん。一緒にもっともっと強くなろう……。誰にも負けないくらい、強く、強く……!」

 「ワォォォォォォォンッ!!!!!」


──
────
──────
────────


せつ菜「私とウインディは……ッ!!!! 誰にも負けないッ!!!!!!」
 「ワォォォォォォォォォォォォンッ!!!!!!!!!!!」


雄叫びをあげながら、業炎に立ち向かう──が、


せつ菜「ぐぅぅぅぅぅぅっ……!!!!」
 「ワォォォォォンッ…!!!!!!」


一向に勢いが弱まらない千歌さんたちの炎に次第に押され始める。

530: ◆tdNJrUZxQg 2023/01/02(月) 14:00:46.47 ID:VUrl28Mg0

せつ菜「まだッ!!!! まだ、終わらせないッ!!!!!!!」
 「ワォォォンッ!!!!!!!!」

せつ菜「最後までッ!!!!! 諦めないッ!!!!!!」
 「ワォォォォォンッ!!!!!!!」

せつ菜「最後まで……諦めたくないッ!!!!!!!」
 「ワォォォォォォォンッ!!!!!!!」





    👑    👑    👑





──せつ菜先輩側の炎が徐々に押され始めたのが、かすみんの目にもわかった。


かすみ「っ……!!! せつ菜せんぱぁぁぁぁぁいっ!!!!! 負けないでぇぇぇぇぇっ!!!!!!」

しずく「せつ菜さぁぁぁぁぁぁんっ!!!!!! まだ……まだ終わってないですよーーーっ!!!!!」


あの業炎の中、声が届くのかわからないけど──かすみんたちは叫ぶ。

ただ、真っすぐに戦う──先輩に向かって。

そのとき──


 「菜々ぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!!!!!!!」


男の人が──菜々先輩の名前を呼んだ。


男性「負けるなぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!!!!!!」

女性「菜々ぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!!!!!! 頑張ってぇぇぇぇぇぇぇっ!!!!!!」


その人と並んで、女の人が──菜々先輩の名前を叫んだ。

誰かはわからないけど──心の底から、菜々先輩のことを応援して叫んでいるのが、一目でわかった。





    🎙    🎙    🎙





せつ菜「う、あぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!!!!!」
 「ワォォォォンッ…!!!!!!!!!」


目の前に迫る炎が大きくて、熱かった。

──ああ、これがチャンピオンの炎なんだ。

熱さに朦朧とする頭で、そう、思った。

いつか、届くかな。

いつか、この炎を超えられるかな。

……うぅん、いつか。超えよう。


 「ワ、ォォンッ……」
せつ菜「…………やっぱり、千歌さんは……強いなぁ……」


炎が私を飲み込もうとしている。

そのときだった──

531: ◆tdNJrUZxQg 2023/01/02(月) 14:01:32.51 ID:VUrl28Mg0

 『っ……!!! せつ菜せんぱぁぁぁぁぁいっ!!!!! 負けないでぇぇぇぇぇっ!!!!!!』

せつ菜「え……」

 『せつ菜さぁぁぁぁぁぁんっ!!!!!! まだ……まだ終わってないですよーーーっ!!!!!』

せつ菜「この……声……」


かすみさんと……しずくさんの……声……。


せつ菜「……っ……!!! ウインディッ!!!!!!」
 「ワォォォォォンッ!!!!!!!!!」


まだ終わってない。終わってない。終わりたくない……!!

──違う。そうじゃない、終わりたくない、じゃない。


せつ菜「私は……ッ!!!!!! 勝ちたいッ!!!!!!!!」
 「ワォォォォォォォンッ!!!!!!!!!」

 『菜々ぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!!!!!!!』

せつ菜「……!!」


この声──


 『負けるなぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!!!!!!』


せつ菜「おとう……さん……っ……」


お父さんの、声だった。

どうして今聞こえるのかわからないけど──お父さんが私を応援していた。


 『菜々ぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!!!!!! 頑張ってぇぇぇぇぇぇぇっ!!!!!!』

せつ菜「おかあ……さん……っ……」


お母さんが私を応援していた。


 『菜々ぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!! お前はこんなところで終わるのかぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!!! チャンピオンになるって言っただろうっ!!!!!!!!』

 『菜々ぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!! 最後までっ、諦めないでぇぇぇぇぇぇぇっ!!!!!!』


──お父さん、お母さん。


せつ菜「──うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!!!!!!!!! ウインディィィィィィィィ!!!!!!!!!! “もえつきる”までぇぇぇぇぇ!!!!!! やきつくせぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!!!!」
 「ワォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォンッ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」


ウインディが──全身全霊の炎を、ぶつけた。




532: ◆tdNJrUZxQg 2023/01/02(月) 14:02:11.58 ID:VUrl28Mg0

    🎙    🎙    🎙





せつ菜「……………………はぁ…………はぁ…………」
 「ワォ、ン…ワォン…!!」

千歌「…………はぁ…………はぁ…………」
 「バク…フーーンッ…!!」

せつ菜「…………止め、ました……よ…………」

千歌「あ、はは…………すご、すぎ…………」

せつ菜「ウイン、ディ……」
 「ワォ…ン…ッ」


私はウインディと一緒に歩き出す。


せつ菜「決着をつけ……ましょう……」
 「ワォ、ン…」


もうすぐそこに──手を伸ばせば、チャンピオン、に──


 「ワォ…ン…」
せつ菜「………………」


ウインディが──崩れ落ちた。


せつ菜「………………負け……か……」


私は立ち尽くして、空を仰いだ。

私のポケモンは全て、戦闘不能になった。

この勝負は……私の負けだ。


千歌「……せつ菜ちゃん」


千歌さんがよろよろとした足取りで、目の前まで歩いてくる。

そして、


千歌「……さいっこうの……バトルだったよ……」


私を抱きしめた。

533: ◆tdNJrUZxQg 2023/01/02(月) 14:03:04.63 ID:VUrl28Mg0

千歌「また……やろうね……」

せつ菜「千歌……さん……。……でも、私は……もう……ダメですよ……」

千歌「そんなこと……ない……」

せつ菜「ダメ、なんです……私は……ポケモンを使って……人を、傷つけてしまった……もう、ポケモントレーナーを続ける資格なんて……私には……っ……」

千歌「…………せつ菜ちゃん。……ポケモンは好き?」

せつ菜「え?」

千歌「…………ポケモンバトルは、好き?」

せつ菜「………………はい」

千歌「なら……もうそれだけで十分だよ。……せつ菜ちゃんは……それだけで、ポケモントレーナーだよ……資格とか、そんなもの……必要ないよ……」

せつ菜「……千歌……さん……っ……」

 「──間違えたなら……またやり直せばいいわ」

せつ菜「……!」


声がして振り向くと──


真姫「……菜々」


真姫さんが居た。


せつ菜「真姫、さん……わ、私……」

真姫「いい。……今は、何も言わなくていいから」

せつ菜「…………真姫……さん……」

真姫「私よりも……ちゃんと話さないといけない人が来てるから」

せつ菜「え……」


その言葉を聞き──真姫さんの後ろを見ると、


菜々父「菜々……」

菜々母「菜々……」

せつ菜「お父さん……お母さん……」


お父さんとお母さんがいた。


せつ菜「あ…………わ、わたし……その……わた、し……おとうさんと、おかあさんに……迷惑……かけ……て……」

千歌「せつ菜ちゃん、そうじゃないよ」

せつ菜「え……」

真姫「今貴方が伝えなくちゃいけないことは……そういうことじゃないでしょ?」

せつ菜「………………はい」


私はお父さんとお母さんの前に歩み出て、二人の顔をしっかりと見る。


せつ菜「お父さん……お母さん……私──ポケモンが大好きなの。……ポケモンバトルが大好きなの。……危ないこともいっぱいある、うまく出来ないこともいっぱいある。だけど──大好きなの」

菜々母「……うん」

菜々父「……そうか」

せつ菜「だから、私がポケモントレーナーでいることを……許してください……! 私は大好きなものを諦めたくないから……! 大好きを諦めたら──私が私でいられなくなっちゃうから……! だから──」

菜々父「……じゃあ、いつかはチャンピオンにならないといけないな……」

せつ菜「え……」

534: ◆tdNJrUZxQg 2023/01/02(月) 14:04:04.37 ID:VUrl28Mg0

お父さんはそう言って、私の頭を一度だけ撫でた。

その後、背を向けて──


菜々父「……私は、ポケモンを好きにはなれないけどな……」


それだけ言うと、数人のガードの人と共に、お父さんは行ってしまった。


せつ菜「えっ……と……?」

菜々母「……ふふ、許してくれるって」

せつ菜「そ、そういうことで……いいの……?」

菜々母「お父さん……菜々にいろいろ言っちゃったから、素直に認めづらいみたいだけど……菜々のポケモンリーグのビデオ見てるとき、すっごく熱くなってたのよ?」

せつ菜「え?」

菜々母「判定に対して、『今のは合理的に考えて審判がおかしかった。やり直すべきだ』って」

せつ菜「お父さんが……?」

菜々母「そうよ。……菜々の試合を見てたらね……菜々がすごく真剣で、菜々は本当にこれが大好きなんだって……お父さんもお母さんも、わかったから」


そう言いながら、お母さんは私を抱きしめる。


菜々母「ごめんね、菜々……。私たち……貴方ともっともっとお話ししなくちゃいけなかった……。……遅いかもしれないけど……これからたくさん、菜々の大好きなもの、大切なもの……私たちに教えてくれないかな……?」

せつ菜「…………うん……っ……。私こそ……今まで……ちゃんと、言えなくて……ごめんなさい……っ……」

菜々母「うぅん……大丈夫よ」


お母さんは私を抱きしめながら、頭を撫でてくれた。


菜々母「それでね……。実は菜々……貴方に会いたいって人がいるの」

せつ菜「え……?」


そう言って、お母さんが私を離すと──その後ろに、その人が居た。


善子「──こうして……博士として会うのは……初めてかもしれないわね。せつ菜。……いいえ──菜々」

せつ菜「ヨハネ……博士……?」

善子「やっと、会えた……」


ヨハネ博士は私の目の前まで歩いてくる。


善子「手、出して」

せつ菜「え?」

善子「いいから」


私が手を出すと──


善子「これから頑張りなさい。……貴方は──このヨハネにとって、初めて旅に送り出すトレーナーなんだから」

せつ菜「……あ」


私の手の平に上に──真っ赤なポケモン図鑑と……モンスターボールが1つ、置かれていた。


善子「貴方のポケモン図鑑と──」


ヨハネ博士が私の手に乗せられたモンスターボールのボタンを押し込むと──

535: ◆tdNJrUZxQg 2023/01/02(月) 14:04:35.73 ID:VUrl28Mg0

 「──ベアーマ!!」


私の足元に、灰色の小さな熊のようなポケモンが姿を現した。


善子「貴方の最初のポケモン──ダクマよ」


その言葉を聞いて、


せつ菜「……ぁ……っ、……ぅぁぁっ……」
 「…ベァ?」


私は思わず図鑑とボールを持ったまま──両手で顔を覆って、膝を突いてしまう。


せつ菜「ぅっ……ぅぁぁぁっ……!!」


ポロポロと涙が溢れ出して……そんな私を──ヨハネ博士が抱きしめる。


善子「……あのとき、手を離しちゃって……ごめんね……。……でも、もう大丈夫だから……貴方は、私の大切なリトルデーモンよ……」

せつ菜「う、ぁ、ぁぁぁっ……ぅぁぁぁぁぁぁん……っ……うぁぁぁぁぁぁ……っ……」
 「ベァ?」


私は小さな子供のように、声をあげて泣きじゃくる。

こうして私は……長い長い戦いの果てで、やっと── 一人のポケモントレーナーとして、始まることが出来たのだった。

本当に……本当に……長い……長い……道の果てで──




536: ◆tdNJrUZxQg 2023/01/02(月) 14:05:08.19 ID:VUrl28Mg0

>レポート

 ここまでの ぼうけんを
 レポートに きろくしますか?

 ポケモンレポートに かきこんでいます
 でんげんを きらないでください...


【ウルトラキャニオン】
 口================== 口
  ||.  |○         o             /||
  ||.  |⊂⊃                 _回/  ||
  ||.  |o|_____.    回     | ⊂⊃|  ||
  ||.  回____  |    | |     |__|  ̄   ||
  ||.  | |       回 __| |__/ :     ||
  ||.○⊂⊃      | ○        |‥・     ||
  ||.  | |.      | | ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄\     ||
  ||.  | |.      | |           |     ||
  ||.  | |____| |____    /      ||
  ||.  | ____ 回__o_.回‥‥‥ :o  ||
  ||.  | |      | |  _.    /      :   ||
  ||.  回     . |_回o |     |        :  ||
  ||.  | |          ̄    |.       :  ||
  ||.  | |        .__    \      :  .||
  ||.  | ○._  __|⊂⊃|___|.    :  .||
  ||.  |___回○__.回_  _|‥‥‥:  .||
  ||.       /.         回 .|     回  ||
  ||.    _/       o‥| |  |        ||
  ||.  /             | |  |        ||
  ||. /              o回/         ||
 口==================口


 主人公 せつ菜
 手持ち ダクマ♂ Lv.5 特性:せいしんりょく 性格:ようき 個性:こうきしんがつよい
      ウインディ♂ Lv.86 特性:せいぎのこころ 性格:いじっぱり 個性:たべるのがだいすき
      スターミー Lv.81 特性:しぜんかいふく 性格:おくびょう 個性:ものおとにびんかん
      ゲンガー♀ Lv.84 特性:のろわれボディ 性格:むじゃき 個性:イタズラがすき
      エアームド♀ Lv.79 特性:くだけるよろい 性格:しんちょう 個性:うたれづよい
      ドサイドン♀ Lv.82 特性:ハードロック 性格:ゆうかん 個性:あばれることがすき
 バッジ 8個 図鑑 見つけた数:10匹 捕まえた数:9匹


 せつ菜は
 レポートに しっかり かきのこした!


...To be continued.




537: ◆tdNJrUZxQg 2023/01/03(火) 01:01:28.94 ID:Sh64zN700

 ■Intermission✨



果南「“アクアテール”!!」
 「ラァグッ!!!!」

愛「……よっと!」


愛がラグラージの振るう尻尾を、後ろに飛び退きながら避けると、


 「リシャンッ!!!!」


愛の陰から、リーシャンが飛び出してくる。


愛「“しねんのずつき”!」
 「リシャンッ!!!!」

 「ラグッ!!!?」


的確にラグラージの顎下を突き上げるように、リーシャンが体をぶつける。


果南「く……っ!! “アームハンマー”!」
 「ラァグッ!!!」


ラグラージはすぐに顎を引き、目の前にいるリーシャンに向かって拳を振り下ろすが、


愛「“ねんりき”♪」
 「リシャンッ」


リーシャンの周囲に力場が発生して、ラグラージの腕を弾く。


鞠莉「ね、ねぇ……ま、まずくない……?」

ダイヤ「果南さんが……リーシャン1匹に押されてる……!?」

鞠莉「わたしたちも加勢に入った方が……!」


一旦ゲートを閉じてでも、愛の撃退をするべきかと思ったけど、


果南「ダメっ!! 二人はゲート維持に集中して!!」


果南は私たちの加勢を拒否する。


ダイヤ「ですが……!」

愛「そーだよー。加勢してもらった方がいいんじゃない~?」


愛がケラケラと笑いながら果南を挑発する。


果南「相手の狙いはゲートでしょ!? こんなんで、ゲート閉じてたら、それこそ思うツボだって!!」

愛「へー押されてる割に冷静じゃん」

果南「そもそも私は、二人のゲート維持を邪魔させないためにいるんだ……! ラグラージ、メガシンカ!!」
 「ラァグッ!!!!」


ラグラージが光に包まれ、メガラグラージへと姿を変え、腕の噴出口から空気を逆噴射しながら、ラグラージが急加速する。


果南「“たきのぼり”!!」
 「ラァァァァグッ!!!!!!」

538: ◆tdNJrUZxQg 2023/01/03(火) 01:02:18.75 ID:Sh64zN700

ラグラージがリーシャンに向かって、滝すら登れるような、ものすごいスピードで飛び出す。

が、


愛「じゃ、こういうのはどう?」


愛はそう言いながら、リーシャンを胸に抱え込み──自らラグラージに向かって走り込んでくる。

そして、そのまま──スライディングをするように、突撃してくるラグラージの足元を潜り込んで、


愛「“ハイパーボイス”!」
 「リシャァァァーーーーンッ!!!!!!」

 「ラグッ…!!!?」


ラグラージの真下から、真上に指向性を向けた“ハイパーボイス”によって、ラグラージの体が宙を浮く。


果南「なっ……!?」


そして、滑り抜けた愛の手には、


 「──ルリッ!!!」

果南「ルリリ……!?」

愛「“たたきつける”!!」
 「ルリッ!!!」


愛はルリリの胴体を右手で掴み、自身の腕を横薙ぎに振りながら──その勢いをプラスしたルリリの尻尾が果南の脇腹辺りに飛んでいく。


果南「がっ……!?」


果南は咄嗟に腕でガードしたけど──その勢いに負けて吹っ飛ばされた。


鞠莉「果南っ!?」
ダイヤ「果南さんっ!?」

愛「……ダメだよ、これはただのバトルじゃなくて、戦争なんだからさ~」


愛がそう言い放つのと同時に、


 「ラグゥッ…!!!?」


先ほど真上に飛ばされたラグラージが、落下してくる。


果南「ぐっ……! ぅ……っ……」

愛「って、マジ!? あれ直撃したのに、すぐ立つんだ!」

果南「鍛えてるからね……」


果南が腕を押さえながら立ち上がると同時に、


 「ラァァァァグッ!!!!」


ラグラージが大きな腕を振りかぶって、愛に飛び掛かる。が、


愛「“ねんりき”」
 「リシャンッ!!」


その拳との間に飛び出したリーシャンが──また力場でラグラージの拳を弾く。

539: ◆tdNJrUZxQg 2023/01/03(火) 01:02:52.63 ID:Sh64zN700

 「ラグッ…!!!」


腕をかち上げられて、隙が出来たところに、


愛「ほら、“プレゼント”だよ」
 「ルーリィ~」


ルリリが“あわ”を吐き出し──それは、ラグラージの顔の目の前で大爆発した。


 「ラ、グ…ッ!!!」


至近距離で爆弾の爆発を受けたラグラージは、そのまま白目を向いてひっくり返る。


果南「ラグラージ……!! く……ギャラドス!!」
 「──ギシャァァァ!!!!」


果南はすぐに倒れたラグラージの代わりに、ギャラドスを繰り出した。


ダイヤ「……鞠莉さんっ!!」


わたしの名前を呼びながら、ダイヤが“こんごうだま”を投げ渡してくる。


ダイヤ「ディアルガの制御、お願いします!!」

鞠莉「え!?」


そう言いながら、ダイヤは、


ダイヤ「ハガネール!!」
 「──ガネェェェェルッ!!!!!」

ダイヤ「メガシンカ!!」


ハガネールをメガシンカさせる。


ダイヤ「“アイアンヘッド”!!」
 「ンネェェェェーーーールッ!!!!!」


メガハガネールは全身を回転させながら、愛に向かって突っ込んでいく。

それに対して愛は、


愛「リーシャン」
 「リシャンッ」


リーシャンを左手で掴んで、ジャンプしながらリーシャンを下に向けると──空気に弾かれるように上空に向かってジャンプする。


ダイヤ「なっ……!?」


突然予想外の大ジャンプをされ、ハガネールの攻撃が相手のいない地面に突き刺さる。

愛は、そのままハガネールの上に着地し、


愛「あらよっと……!」


そのまま、ハガネールの体の上を走りだす。

そして、右手に掴んだルリリをブンと振ると──伸びた尻尾が猛スピードでダイヤの側頭部に迫る。

540: ◆tdNJrUZxQg 2023/01/03(火) 01:04:38.55 ID:Sh64zN700

ダイヤ「……!?」

果南「ギャラドス!! “アクアテール”!!」
 「ギシャァァァァァッ!!!!」


ダイヤに向かって迫るルリリの尻尾に合わせるように、ギャラドスが尻尾を振るって弾き返す──が、


 「ギシャァァッ…!!!」


ギャラドスの尻尾も振りかぶり切れずに弾かれ、ダイヤのすぐ真横の地面に叩きつけられる。


ダイヤ「く……っ……!?」

果南「ダイヤ、無事!?」

ダイヤ「は、はい……!!」

愛「へー、やるじゃん」


ハガネールの上でステップを踏む愛だが──


 「ンネェェェーールッ!!!」

愛「おろ?」


ハガネールが勢いよく尻尾を振り上げて、愛を上空にぶん投げる。

そのまま、


 「ンネェェェェェルッ!!!!!」


大きな顎を開きながら──愛に向かって、頭から突撃していく。


ダイヤ「“かみくだく”!!」
 「ンネェェェェルッ!!!!!」


空中で無防備な愛に、大顎がバクンと噛みついた──ように見えたが、


 「ン、ネェェェェル…!!!」

愛「ふー、危ない危ない……」

ダイヤ「嘘……でしょ……っ!?」


ハガネールの口の中で、リーシャンが発生させた球状の力場がハガネールの大きな顎を無理やり押し開いていた。

愛を守る力場の球はハガネールが口を閉じようとする勢いを利用して──スポンと上に飛び出し、


愛「ルリリ!! かますよ!!」
 「ルリッ!!!」


空中に飛び出した反動を利用して、ルリリを振りかぶった。


愛「“アイアンテール”!!」
 「ルーーリィッ!!!!」


遠心力を使って伸ばされたルリリの尻尾が、


 「ンネェェェーーールッ!!!!!?」


ハガネールの頭を真上から殴りつけ──


ダイヤ「……!?」

541: ◆tdNJrUZxQg 2023/01/03(火) 01:05:23.49 ID:Sh64zN700

その衝撃を受けハガネールが白目を向いたまま──ダイヤに向かって、猛スピードで倒れ込んできた。

ハガネールの巨体はダイヤを巻き込み、その重量で大地を割り砕く。


果南「ダイヤッ!!?」

鞠莉「ダイヤッ!!!」


果南がダイヤに向かって駆けだす。

ダイヤは──


ダイヤ「…………」


押しつぶされこそしなかったものの、ハガネールが割り砕いた大地に巻き込まれ──全身のあちこちから出血しながら、気を失っていた。


愛「重量級のポケモンを使うと、こういうリスクがあるんだよねー」

果南「ダイヤッ……!!!」


果南がダイヤを瓦礫の中から救出しようとした瞬間──


愛「“ハイパーボイス”!!」
 「リシャァァァァァーーーーンッ!!!!!」

鞠莉「果南っ!! 避けてっ!?」


駆け寄る果南に向かって、“ハイパーボイス”が迫る。


果南「“アクアテール”!!」
 「ギシャァァァァッ!!!!」


それに対抗するように、ギャラドスが尻尾を音を超える速度で縦薙ぎにし──音波攻撃自体を吹き飛ばす。


愛「うぉっ!? マジ!?」


愛もさすがにそんな方法で“ハイパーボイス”を防がれると思っていなかったのか、驚きの声をあげる。


果南「ダイヤ……!!」


ギャラドスが攻撃を防ぎ、その間に果南がダイヤを瓦礫の中から抱き上げる。


ダイヤ「……か、な……ん…………さ……」

果南「喋らなくていい……! とにかく治療を──」

 「──ギシャァァァッ!!!?」

果南「!?」


ギャラドスの鳴き声に驚き果南が視線をギャラドスに戻すと──ギャラドスの首に、ルリリの伸ばした尻尾が巻き付いていた。


愛「……よそ見してるなんて余裕だね~」
 「ルリッ」


その巻き付けた尻尾を戻す勢いに引っ張られるように愛がギャラドスの頭部に向かって飛び出し──


愛「リーシャン、行くよ!」
 「リシャァンッ」


左手に持ったリーシャンが発生させた力場を、まるで拳のようにして──

542: ◆tdNJrUZxQg 2023/01/03(火) 01:06:30.44 ID:Sh64zN700

 「ギシャァァァァッ…!!?」


ギャラドスの顔面を殴りつけた。


果南「ギャラドス!?」


ギャラドスの巨体が、いとも簡単に吹っ飛ばされる。


果南「っ……!」


果南がすぐ様、次のボールに手を伸ばした瞬間──果南の周囲に、大量のサイコキューブが出現する。


果南「……!?」

愛「“サイコショック”」
 「リシャンッ」

果南「ダイヤッ!!!」


果南は咄嗟にダイヤを庇うようにして、その場に伏せって覆いかぶさる。

直後、サイコキューブが弾丸のように、果南の背中に降り注ぎ──


鞠莉「果南っ!!?」

果南「……ぁ……ぐ……っ……。……く、そ…………ッ……」


果南はその場に崩れ落ちた。


愛「よし、いっちょあがり」

鞠莉「うそ……」


果南とダイヤが負けた……?

元チャンピオンと四天王よ……?


愛「さーて……あと一人」

鞠莉「……っ」


愛がこちらに視線を向けてくる。

どうする……。

わたしもバトルが苦手なわけじゃないけど、さすがに果南やダイヤほどの実力はない。

その二人をここまで圧倒した相手に、わたし一人で勝つのは難しい──いや、ほぼ無理だ。


鞠莉「……ロトム」
 「ロ、ロト…」

鞠莉「わたしの図鑑に」
 「──マ、マリー…」


ボールから出したロトムをわたしの図鑑に入れさせる。


鞠莉「わかるわね」
 「ロト…!!!」


ロトムはわたしの言葉に頷くと──ゲートの中に入っていった。

それを確認して、わたしは愛に向き直る。

543: ◆tdNJrUZxQg 2023/01/03(火) 01:07:02.43 ID:Sh64zN700

鞠莉「……あなたの目的は何? ゲートの破壊?」

愛「まあ、それも悪くないんだけどね。アタシの目的は──その子たちだよ」


そう言って指差したのは──ゲートの前にいるディアルガたち。


愛「大人しく渡してくれれば、アタシも手荒なことしなくて済むんだけどな」

鞠莉「……」


さっき善子から聞いたゲートの通過時間を考えれば……そろそろ、ロトムはゲートの向こうに抜けたはず……。


鞠莉「……ディアルガ!! パルキア!!」
 「ディアガァァァァッ!!!」「バアァァァァルッ!!!!!」


“こんごうだま”と“しらたま”を使って、ディアルガとパルキアに“テレパシー”を飛ばし、ゲートを閉じさせる。


愛「……はぁ、やるってことね」


どこまで出来るかはわからない……。だけどこのまま、はいわかりましたと、ディアルガやパルキアを渡すわけにはいかない。

わたしが戦闘態勢に入ると同時に──


 「──ギシャラァァァァァッ!!!!!!」


ギラティナが“シャドーダイブ”で愛に向かって突っ込んでいく。


愛「……ま、いいや」
 「リシャンッ!!」


愛がそう言いながら手に持ったリーシャンをギラティナに突き付けると、


 「ギシャラァァァァ…!!!!」


ギラティナもリーシャンの作り出したサイコパワーの力場で、押し返される。


愛「3匹まとめて相手してあげるよ」

鞠莉「行くわよ!! ディアルガ!! パルキア!! ギラティナ!!」
 「ディァガァァァァァ!!!!!!」「バァァァァァァルッ!!!!!!」「ギシャラァァァァァァァッ!!!!!」


3匹の伝説のポケモンの鳴き声が、やぶれた世界に轟いた。


………………
…………
……



544: ◆tdNJrUZxQg 2023/01/03(火) 12:16:45.81 ID:Sh64zN700

■Chapter067 『果林』 【SIDE Emma】





姫乃ちゃんとの戦いを終えて……。


彼方「いったたたたっ!!」

遥「うーん……肋骨……かなり折れてるね……。よくこれで肺に刺さらなかったね……」

彼方「お、お姉ちゃん……運、いいからね~……」

遥「でもあんまり激しく動いちゃダメだよ? これから刺さるかもしれないし……」

彼方「善処しま~す……」


今は戦闘後の治療の真っ最中。

そんな中わたしは、どうしても彼方ちゃんに聞きたいことがあった。


エマ「ねぇ、彼方ちゃん」

彼方「ん~? な~に~?」

エマ「……彼方ちゃんって、果林ちゃんと一緒の孤児院で育ったって……さっき言ってたよね……?」

彼方「ああうん。……そうだね……」

エマ「……あのね、わたし姫乃ちゃんに言われてハッとしたの……。……わたし、果林ちゃんのこと……本当は何も知らないんじゃないかって……それで、説得しに来たなんて言っても……お前に何がわかるんだ~って言われちゃって当然なのかなって……」


わたしが勝手に、果林ちゃんのことをわかった気になっていただけな気がしてならない。

もちろん、だからといって今の果林ちゃんを放っておけないという気持ちは本当だけど……。


エマ「ねぇ、彼方ちゃん……果林ちゃんが自分の住んでた世界にいたとき……どんな子だったか……教えてくれないかな……?」

彼方「…………結構辛い話になると思うけど、それでもいい?」


彼方ちゃんがそう確認を取ってくる。


エマ「うん……。むしろ、果林ちゃんの辛い気持ちに寄り添ってあげたいから……教えて」


わたしの言葉を聞くと、彼方ちゃんは頷いた。


彼方「……わかった。…………そうだなぁ……あれは……果林ちゃんが“虹の家”に来たときだから……もう、7年も前になるのかな……」


彼方ちゃんはそう前置いて、話し始めた。





    👠    👠    👠





──崖下で陽炎に揺れ燃える大地の中で、侑と歩夢が私と戦うために身構えていた。

しずくちゃんには……まんまとやられてしまった。まさかあんな形で裏切られるなんて……噫、私はいつもこうだ。

璃奈ちゃんも彼方も……みんな……私の傍から離れて行ってしまう。

愛も……本当に仲間と呼べた頃が、もう記憶の遥か遠くで……。今は何をしたいのかがよくわからない。

きっと……私の味方は……本当は最初から誰もいなかった……。全てがめちゃくちゃになった……あの、厄災の夜から──


545: ◆tdNJrUZxQg 2023/01/03(火) 12:17:17.49 ID:Sh64zN700

────────
──────
────
──


 「──大丈夫……!? しっかりして……!?」

果林「ん……ぅ……」


大きな声で呼びかけられ、目を開けると──見知らぬ女の人が居た。救助隊の格好をしているから……救助隊なのだろう。


女の人「……! 息がある……! 人工呼吸器回して!!」


人工呼吸器を口に当てられる。


女の人「あなただけでも……助かってよかった……」

果林「…………」


私が揺れる船の窓から、外に目を向けると──真っ暗な夜の闇の中……私の故郷の島が……今まさに……海に飲み込まれているところだった……。





    👠    👠    👠





あの夜──所謂“闇の落日”と呼ばれるあの日のことは、今でも忘れられない。

本当にそれは唐突で……急に大きな地震が起こったかと思ったら、大地が裂け、家が崩れて飲み込まれた。

命からがら脱出し、家族と逃げ惑う中、崩れた大地からは瘴気が噴き出し、それを吸い込んだご近所さんが喀血して、倒れた。

私たちは必死に逃げた。道中で、大地の崩落に友達が巻き込まれるのを見た。

「助けないと」と泣き叫ぶ私を、両親が無理やり引き摺るようにして、島の高台へと逃げ──その道中、砕ける岩の崩落にお父さんが巻き込まれて、瓦礫と共に消えていった。

島の高台にたどり着けたのは……私とお母さんと──


 「コーン…」


小さい頃から大切にしていた、ロコンしかいなかった。

高台に逃げても……どんどん水位が上がってきて……瘴気の影響もあって、私の意識は朦朧としていた。

そんなとき──救いの手とも言える、ヘリのライトが私たちを照らした。

朦朧とする意識の中──「果林! しっかりして!!」──母が私を押し上げ、ヘリの救助隊の人がやっとの思いで私をヘリに引っ張りこんだ直後──

お母さんとロコンは──高台ごと……海に飲み込まれた。一瞬だった。

私の意識は、そこで途絶え──次に目を覚ましたときには……船の上から……遠方で大きな渦潮に飲み込まれるように、私が生まれ育った故郷が沈む姿を眺めていたのだった。





    👠    👠    👠





院長「──今日からここが貴方のお家よ」

果林「…………ありがとう、ございます……」

546: ◆tdNJrUZxQg 2023/01/03(火) 12:17:48.58 ID:Sh64zN700

保護された私は、あの“闇の落日”の中でも残った大きな都市国家の一つである──プリズムステイツの郊外にある“虹の家”という孤児院に送られた。

当時15歳。

もう分別のわかる歳だった。だから……どうしようもないことが起こったんだと理解出来た。だけど……だからこそ、辛かった。

何もわからないくらい……小さな子供だったらよかったのにと、何度も思った。


院長「果林ちゃん15歳よね? 実はわたしの上の娘も同い年なのよ。かなちゃーん?」

 「なーにー?」


気の抜けるような声で返事をしながら、院長先生とよく似た髪色の女の子がとてとてと歩いてきた。


院長「この子、果林ちゃん。今日から、一緒に住むことになる子よ」

彼方「あーうん、言ってた子だよね~。彼方ちゃんはね~彼方って言うの~。よろしくね~」

果林「……よろしく」


これが──私と彼方の初めての出会いだった。





    👠    👠    👠





“虹の家”には私を含め、10人の子供と……院長先生の娘である彼方と遥ちゃんの計13人が一緒に暮らしていた。

大きな孤児院ではなかったけど、院長先生は率先して“闇の落日”で身寄りを失った子供を受け入れていたそうだ──もちろん、それでも孤児の数が多すぎるため、こうして受け入れてもらえただけでも、運がよかったと言える。

ここにはおおよそ10歳くらいの子が多く、私と彼方はその中でも最年長だったけど……私はあまり年下の子と上手に接する自信がなかったため、一人で過ごしていることが多かった。

もちろん、邪険に扱っていたわけではないから、嫌われたり、怖がられていたということはなかったけど……。

一方で彼方は……なんだか掴みどころのない子だった。

孤児院内で率先して家事を手伝っていたり、他の子たちの御守りも率先してやっていたとかと思えば……暇が出来ると、


彼方「…………むにゃむにゃ……」
 「……メェ……zzz」


ウールーと一緒に日の高いうちからお昼寝していたり……忙しないのか、のんびりしているのか、よくわからない子だった。

わかりやすいことと言えば……とにかく妹の遥ちゃんが大好きだということだろうか。

そして、一番わからなかったのは──


果林「……」


“虹の家”の近くの岬に……簡易的に建立された──沈んだ私の故郷の慰霊碑があった。

慰霊碑と言っても……本当に簡易的なもので、見た目はただの大きめの石。……これが慰霊碑であると言われなければ誰にもわからない。そんな代物だった。

私はこの慰霊碑に手を合わせるのが日課だった。

そして両手を合わせて目を開けると、決まって──


彼方「……」
 「メェ~~」


いつの間にか隣で、彼方も両手を合わせていた。仲良しのウールーと一緒に。


果林「……」

547: ◆tdNJrUZxQg 2023/01/03(火) 12:18:26.53 ID:Sh64zN700

私が無言で慰霊碑を後にすると──彼方も特に何も言わずに、孤児院へと戻っていった。それが毎日。

私は特別進んで彼方とコミュニケーションを取っていたわけではなかったけど……この時間は何故か、彼方と二人で過ごす時間だった。

私が慰霊碑を訪ねると、本当に毎日、律義なことに……気付けば彼方が隣に居る。さすがに気になって、ある日──


果林「…………ねぇ、彼方」


私は彼方に声を掛けてみた。


彼方「ん~?」
 「メェ~~」

果林「院長先生に何か聞いたの?」


さすがに院長先生は、私の島のことは知っているけど……何も知らない彼方が、こうして手を合わせてくれる理由がよくわからなかった。

だから私は、てっきり院長先生が何かを言ったのかと思っていたんだけど……。


彼方「うぅん、特に何か聞いたわけじゃないよ~? まあ……毎日手を合わせてるのを見たら……なんとなく、わかるし……」
 「メェ~~」

果林「……まあ、言われてみればそれもそうね……」


孤児院に居る人間が毎日欠かさず手を合わせている石を見たら……なんとなく、わかるか。


果林「……見ず知らずの人たちの慰霊碑に、毎日手を合わせに来るのは、大変じゃない?」

彼方「うーん……それは特に考えたことなかったな~。もしかして、迷惑だった?」
 「メェ~~」

果林「迷惑なんてことはないけど……不思議だと思ったから」

彼方「彼方ちゃんは関係ない人なのに、どうしてこんなことしてるんだろうってこと?」

果林「まあ……そんな感じ」

彼方「う~ん……それは……果林ちゃんがいっつも一人で行動したがるからかな」

果林「……どういうこと?」

彼方「果林ちゃんが……新しい場所でずっと一人だったら……心配しちゃうかなって思って……」


そう言いながら、彼方は慰霊碑を見つめる。


果林「彼方……」

彼方「あ、もちろんみんなで行動しろって意味じゃないよ~? 一人が好きな人もいるからね~。だから、こうしてご家族に報告するときだけでも……彼方ちゃんが隣にいるのを見れば、安心してくれるかなって……」


それは彼方なりの優しさだった。……見ず知らずの私の家族が、今の私を見て心配しないようにと……。


果林「……ありがとう……。……私の家族もきっと……安心してると思うわ……」

彼方「ならよかった~。じゃ、戻ろっか~」


私がお礼を言うと、彼方はニコっと笑う。優しい笑顔だった。


果林「…………聞かないの?」

彼方「ん~果林ちゃんが言いたいなら」


彼方は不思議な子だった。

寄り添っているように見えて、自分からは踏み込んでこない。

それは彼女が人を優しく慮っているからこそ出来ることで……見ず知らずの私を家族として扱ってくれているからに他ならなかった。

だからだろうか……私を家族と思ってくれる人にくらいは……言ってもいいのかな、と……。

548: ◆tdNJrUZxQg 2023/01/03(火) 12:19:07.49 ID:Sh64zN700

果林「…………平和な島だった。あの日まで……」

彼方「うん」

果林「…………もちろん世界がどうなってるかは知ってるし……いつか起こるかもしれないとは、みんな思っていたけど……急だった。つい数時間前まで話してた島の人たちが、友達が……家族が、ポケモンが……みんな……私の目の前で、死んでいった……」

彼方「……うん」

果林「……全部……飲み込まれて……なくなっちゃった……。……もう、私の住んでた故郷は……影も形も……残ってないんだって……。残ってるのは……たまたまポケットに紛れ込んでた、この小石くらいかな……」


そう言って……彼方に小石を見せる。

逃げ惑っている際に紛れ込んでしまっただけだろうけど……今となっては、これ以外にあの島にあったものは何も残っていなかった。


彼方「……」
 「メェ~~」


そんな私を見て……彼方は無言で私を抱き寄せ──頭を撫でてくれた。


果林「大切な人が……場所が……なくなるのは……悲しい……。…………もう誰にも……こんな想い……して欲しくない……」

彼方「……うん」


もし、こんなどうしようもない世界を救う方法があるのだとしたら……私は迷わずにそれを選ぶのに。

あまりに無力な自分が……虚しくて……悲しかった。





    👠    👠    👠





孤児院に来て数ヶ月経った頃、私はプリズムステイツにある、警備隊へと入隊することを決めた。

プリズムステイツはいろんな場所から、いろんな種類の人間が故郷を追われ生活している場所だから……なんというか、あまり治安がいい場所ではなかった。

それ故に、警備隊での仕事は決して安全なものではないし……だからこそ、稼ぎも相応によかった。

それに孤児院経営も決して裕福な環境で行っているわけではないのは、近くで見ていればわかったし……少しでも、私を拾ってくれた院長先生への恩を返したい気持ちもあった。

そして、何より──


彼方「それじゃ~、今日も頑張ろうね~」


彼方が私と同じような考えで、この警備隊へ入ろうとしていることを聞いたから、一緒に入隊した。

──入隊すると、戦闘用のポケモンが支給された。そのときに彼方はネッコアラを貰い……なんの因果か、私に支給されたポケモンは、


 「コーーン」


故郷で失った家族と同じ種類のポケモン──ロコンだった。

自分で言うのもなんだけど、ありがたいことに私にはポケモンで戦うセンスがあった。

そしてそれは彼方も……。

私たちはあっという間に、警備隊の中でもトップクラスの強さへと伸し上がり──ものの半年で私は率先して前に出る攻撃部隊の隊長に、彼方は救護や防衛を主とする防御部隊の隊長になっていた。

ただ……それは決して、楽でもなければ、楽しいものでもなかった。

549: ◆tdNJrUZxQg 2023/01/03(火) 12:27:10.65 ID:Sh64zN700

果林「キュウコン、“ひのこ”!!」
 「コーーーンッ!!!」

男「あ、あちぃっ……!?」

果林「さぁ……盗ったもの……返しなさい。返さないなら……痛い目に合わさないといけないの……だから……」

男「か、勘弁してくれ……家族を食わせるためなんだ……」

果林「…………キュウコン、やりなさい」
 「コーンッ」


──窃盗は特に多かった。

土地が減れば、資源も食糧も乏しくなる。いつも誰かが誰かの住処と食糧と──命を奪い合っているような世界。

そして……私も、その一部だ……。


果林「…………」

彼方「……あの人……しばらく投獄されるって。常習犯だったから……お手柄だって、上の人が言ってたよ……」

果林「…………」

彼方「……果林ちゃん……」

果林「…………あの人の家族は……きっと、飢えて死ぬ……。……私が……殺したようなものだわ……」


私は寮のベッドの中で横になり、丸くなって、頭を抱える。

そんな私を見て──彼方はベッドに腰かけ、私の頭を撫でる。


彼方「果林ちゃん……果林ちゃんが辛いなら、彼方ちゃんと同じ防御部隊に回してもらうようにお願いしない……? 彼方ちゃんもお願いするから……」

果林「…………いい。……今は……一人にして……」

彼方「果林ちゃん……。……わかった。……あとでご飯持ってくるから、一緒に食べようね」


──きっとこれは私の役割だ。そう思っていた。

だから、上の人間には、彼方は防御部隊の隊長が適任であると、何度も伝えていた。

そして……私が攻撃部隊として……全てを排除すれば、彼女が辛い戦いをすることも減る……そう考えて、戦い続けた。

彼方には……誰かから奪うなんて似合わないから。





    👠    👠    👠





──警備隊に入って1年ほど経ったある日、


果林「政府主導の研究機関に統合される……?」

彼方「うん、そうらしいよ~」


二人で食事をしているときに、彼方からそんな話を聞かされた。

550: ◆tdNJrUZxQg 2023/01/03(火) 12:27:45.33 ID:Sh64zN700

彼方「まだ、噂話を聞いただけだから……実際どういう感じになるのかはわからないけど~……」
 「メェ~~」

彼方「はいはい、ご飯ね~」
 「メェ~」

果林「研究……聞いただけで、鳥肌立ちそう……」

彼方「あはは~、果林ちゃんお勉強は苦手だもんね~」

果林「……別にいいでしょ。……それにしても、なんでまた……」

彼方「なんでも、すご~い研究者の人が、すご~い発見をしたらしくってね~」

果林「ふーん……そのすご~い研究者のすご~い発見ってなんなの……?」


私は話半分に聞いていたけど──


彼方「……世界を救う方法が、見つかるかもしれないんだって~」

果林「え……?」


私は彼方の言葉を聞いて、目を見開いた。


果林「ホントなの……?」

彼方「なんかね、どうして世界がこんなになっちゃったのか……突き止められたかもしれないって~。それをすご~い研究者の人たちが見つけたみたいなの」

果林「も、もっと詳しく……!!」

彼方「あわわ……急に食いつきよくなった……。……でも、彼方ちゃんが知ってるのはここまで~……噂話だから、どこまで本当なのかはよくわからないし……」

果林「なんだ……」

彼方「結局は実際に統合されてからじゃないとだね~……。あ、ただ……」

果林「ただ……?」

彼方「噂によると……そのすご~い研究者さんたちは15歳と14歳の女の子二人組らしいよ~」

果林「……15歳と14歳って……」


どっちも私たちより年下じゃない……。





    👠    👠    👠





──実際に噂どおり、私たちプリズムステイツ警備隊は、政府主導でプリズムステイツの研究機関の実行部隊へと組み込まれることになった。

そして私と彼方は……警備隊での実績もあったため、その実行部隊の隊長、副隊長へと任命された。


彼方「か、かかか、果林ちゃん……!! この契約書見て……! お給料……すごいよ……!!」

果林「さすが政府の抱える実行部隊の隊長ね……」


──ここに来るまでに、なんとなくの説明は受けた。

確かに彼方の言うとおり、今この世界がどうしてこんなことになってしまったのか……それを突き止めた天才科学者が居たらしく、プリズムステイツでもトップクラスの戦闘能力を持つ私たちには、何かと発生する荒事を任せたいとのことだった。

その際、今この世界に何が起こっているのかも簡単に聞いたけど……正直何を言っているのかちんぷんかんぷんだった。エネルギーが世界から流出するのがどうたらとか……。

まあ、わかっていなかったのは私だけじゃなくて、彼方も同じような感じだったので、私の理解力が特別低いわけではない。……はず。

そして今日は、実際にその天才科学者二人と顔合わせするということで、早めに着いた私たちは研究所の応接室に通され待っているところだ。

今後は私たちとその二人の科学者さん、合わせて4人で連携を取っていくことになる。

551: ◆tdNJrUZxQg 2023/01/03(火) 12:30:40.44 ID:Sh64zN700

彼方「研究者さん、どんな子たちなんだろーねー?」
 「メェ~」

果林「正直……気が進まないわ……」

彼方「そうなの~?」
 「メェ~」


彼方が膝の上のウールーを撫でながら、のんきな声で訊ねてくる。


果林「科学者って、きっと眼鏡掛けて白衣を着たお堅い形の子たちってことでしょ……? いかにも勉強の話ばっかりしてる感じの……」

彼方「偏見すごいね~……。失礼だから、本人たちにそんなこと言っちゃダメだよ~?」
 「メェ~」

果林「言わないわよ……」


とはいえ、うまくやっていける気がしない……。

もちろん、世界を救うためと言うなら協力するのは吝かではない。むしろ望むところだ。

ただ……理論の話とかは聞きたくない。絶対にその日一日、頭痛に悩まされるハメになること請け合いだ。


彼方「まあ、嫌だったら果林ちゃんは横でおすまし顔しててくれればいいから~。果林ちゃん綺麗だから、座ってるだけでも絵になるし~」

果林「……場合によってはそうするかも……」

彼方「まあ、気楽に行こ~。そろそろ時間かな~?」


彼方の言うとおり、応接室内の壁掛け時計を見ると、そろそろ時間になろうとしていた。

そして──扉が開いた。


研究者1「お、もう着いてたんだね。待たせちゃったみたいで、ごめんね!」

研究者2「は、初めまして……」


そう言いながら応接室内に女の子が二人入ってくる。

私はその容姿で、すでに面食らってしまった。

一人は明るめの金髪をポニーテールに縛っている活発そうな女の子だった。

もう一人は外巻きカールのセミロングヘアをした小動物のような印象を受ける女の子。

この子たちが……噂の天才科学者たちなの……? イメージどおりなのは、白衣を着ていることくらいだった。

私と彼方は席から立ち上がる。


果林「この度、プリズムステイツ警備隊から統合される形で配属されました、アサカ・果林です」

彼方「同じく、コノエ・彼方です~」

研究者1「あ、いいっていいって、これから一緒にやってく仲間なんだし、そういう堅苦しいのは無しで! 歳も近いらしいしさ! もっとフランクな感じでいーよ!」

果林「は、はぁ……」

愛「あっと……名乗ってなかったね。アタシはミヤシタ・愛! んで、この子はりなりー!」

璃奈「えっと……て、テンノウジ・璃奈です……」
 「ニャァ~」

璃奈「この子は……お友達のニャスパー……です……」


璃奈ちゃんは腕に小さな猫ポケモンのニャスパーを抱いていて、その子も一緒に紹介してくれる。

552: ◆tdNJrUZxQg 2023/01/03(火) 12:31:12.72 ID:Sh64zN700

果林「……えっと……それじゃ、ミヤシタさんとテンノウジさん……」

愛「愛でいーよ! りなりーもファーストネームでいいよね?」

璃奈「うん。ファミリーネームは長いし……ややこしいから、璃奈でいい」

果林「……わかったわ。愛と……璃奈ちゃん」

 「ニャー」

果林「それと……ニャスパーね」


なんというか、愛は呼び捨てにしていい気がしたけど……璃奈ちゃんはなんというか……璃奈ちゃんという感じだった。


果林「それなら、私たちのことも下の名前で呼んで頂戴。良いわよね、彼方」

彼方「うん~、もちろん~。よろしくね~、愛ちゃん、璃奈ちゃん~。あ~あと、この子は彼方ちゃんの親友のウールーだよ~」
 「メェ~~」

愛「うん、よろー! カリン! カナちゃん! ウールーも!」

璃奈「よろしく、お願いします……果林さん……彼方さん……ウールー……」


挨拶をしながら、璃奈ちゃんは愛の後ろに隠れてしまう。


彼方「果林ちゃん、璃奈ちゃんが怖がっちゃってるかも……」
 「メェ~~」

果林「……彼方、それはどういう意味か説明してくれる?」

彼方「冗談だってば~。璃奈ちゃん、もしかして緊張してるのかな~?」

愛「あはは……りなりー緊張しいなんだよね。やっぱり、ボードあった方がいいんじゃない?」

璃奈「……初対面だから……素顔の方がいいと思ったけど……。……そうする」


璃奈ちゃんはそう言いながら──上着の中から、1冊のノートを取り出した。


璃奈「あ、あのね……私……人の顔を見て喋るの……緊張しちゃって苦手で……だけど、怒ってないし、怖がってないよ……」 || ╹ ◡ ╹ ||


そう言いながら、表情が描かれたページを開いて顔の前に掲げる。

少し変わっているけど……どうやらこれが、彼女なりの感情表現ということらしい。


彼方「あはは~よかったね果林ちゃん、怖がられてないって~」

果林「彼方……」

彼方「だから、冗談だって~」

果林「はぁ……全く……。……これから一緒に頑張りましょう。私たちも早く貴方たちを理解できるように努力するわ」

璃奈「果林さんも彼方さんも優しそうな人でよかった。私もこれから一緒に頑張りたい。璃奈ちゃんボード「やったるでー!」」 || > ◡ < ||
 「ニャー」

愛「じゃ、これから、今後の活躍を祈って、もんじゃパーティーでもしますか~!」

彼方「え、もんじゃってあのもんじゃ~!? 今どき作れる人がいるなんて珍しい~! 彼方ちゃんにも作り方教えて教えて~」

愛「あははっ♪ 愛さん、もんじゃを作る腕には自信あるからね! 何を聞かれても、もんじゃいない! なんつって!」

璃奈「愛さん、今日もキレキレ!」 ||,,> ◡ <,,||

愛「どんなもんじゃいっ! あははは~!!」


なんだか、思ったより変な人たち──主に愛が──だけど……。

想像していたよりは、意外と楽しくやっていけそうかも。私はそんな風に思うのだった。




553: ◆tdNJrUZxQg 2023/01/03(火) 12:31:44.45 ID:Sh64zN700

    👠    👠    👠





──結論から言うと、この二人……特に愛とはとても気が合った。


愛「あー!! また負けたぁー!!」

果林「はぁ……はぁ……。これで……私の10勝9敗7引き分けね……」

愛「カリンもっかい! 次勝って、10勝10敗にする!」

果林「あ、明日ね……今日はさすがにしんどいし、私はこの後取材があるし……愛にも研究があるでしょ……?」

愛「うー……わかった。でも、約束だからね!」


愛は研究者でありながら、とにかく戦闘でも腕が立つ子だった。

戦績としては拮抗しているように見えるけど……彼女の使うポケモンは全て小柄で進化前しかいない。

これで私と実力が拮抗しているのだから、末恐ろしい戦闘センスと言わざるを得なかった。


果林「……ねぇ、愛」

愛「ん?」


私は訓練場から、研究棟に戻る最中、愛に訊ねてみる。


果林「どうして、ベイビーポケモンばかり使うの? 貴方だったら、ポケモンを選べば実行部隊に居たとしても、遜色ないのに……」

愛「んー……リーシャンはもともと友達だったからだけど……りなりーが可愛いポケモンが好きって言うからさ」

果林「……それだけ……?」

愛「え? うん。それにりなりーったら、可愛いポケモンで敵をばっさばっさなぎ倒すところがかっこいいって褒めてくれてさ~♪」

果林「……そう」


彼女と私とでは、戦いに対する価値観が違いすぎる……。

そこに関しては研究者らしい変わり者というか……だからこそ、戦闘員ではなく研究員なのかもしれない。


愛「──たっだいま~♪」


愛が元気よく、中央研究室のドアを押し開くと、それに気付いた璃奈ちゃんと彼方が寄ってくる。


璃奈「愛さん、果林さん、おかえりなさい」
 「ニャァ~」

彼方「二人ともおかえり~」
 「メ~」

果林「ただいま。彼方、今日は防衛演習があるんじゃないの? まだここに居て大丈夫?」

彼方「もう~今日は夜間演習だって言ったよ~? だから、今のうちにすやぴしておこうと思って~」
 「メェ~~」

果林「……そうだったかしら……」


彼方は私と違って防衛隊の隊長だから、私とは訓練の運用スケジュールが全然違って覚えられる気がしない……。

554: ◆tdNJrUZxQg 2023/01/03(火) 12:34:49.89 ID:Sh64zN700

璃奈「愛さん。ボール収納時に発生する質量欠損と空間歪曲率の統計データ、ほぼ完成した」

愛「マジで!? まだだいぶ時間掛かる予定だったはずなのに……!?」

璃奈「予算がたくさん貰えたから、それで自動化ロボットを作る余裕が出来た。すごくありがたい」

愛「いや~やっぱり、これもカリンとカナちゃんが来てくれたからだね~♪ 統合サマサマだ~♪」

彼方「あはは~、やっぱりお金は大事だもんね~」

果林「お陰で、“虹の家”の抜けた床と雨漏りが直ったって言ってたものね……」


政府主導の統合によって予算が増えたのは警備隊側だけではなかったらしく、研究所も正式な政府機関として、多額の予算が下りているというのは噂で聞いている。

それだけ、この機関には多くの期待が寄せられていた。

私は彼女たちの話を傍で聞きながら、トレーニングウェアを脱ぎ捨て、シャワーを浴びに行く。


彼方「あ~も~、また服脱ぎっぱなしにする~……」
 「メェ~」

果林「別にいいでしょ。急いでるのよ」

彼方「摸擬戦から帰ってきたばっかりなのに、もう出るの~?」
 「メェ~?」

璃奈「果林さん……今日はメディアからの取材がある」

果林「そういうこと」


私は手早くシャワーで汗を流して、表向きの格好に着替える。


彼方「あんまり忙しいなら……彼方ちゃんが代わるよ~?」

果林「夜から演習なんでしょ。彼方は早く寝なさい」


私はそう残して、中央研究室を後にした。




555: ◆tdNJrUZxQg 2023/01/03(火) 12:35:22.67 ID:Sh64zN700

    👠    👠    👠





私たちのやっていることは……簡潔に言ってしまえば、この世界を救うための最先端活動だ。

璃奈ちゃんと愛が、ウルトラスペースと言われる異次元空間の存在を発見したことを端に、プリズムステイツ政府はそれに世界の命運を懸けて、多額の予算と──そして、警備隊から多くの戦力を実行部隊として送り込んだ。

最初は研究機関が戦力を求める理由がよくわからなかったけど……どうやら、ウルトラスペースという空間には、ウルトラビーストと呼ばれる危険な生物がいるらしく、私たちはその生物たちとの戦闘を想定して、ここに呼ばれたらしい。

特に私と彼方は、特別優秀な戦力として数えられているらしく、私は攻めの対ウルトラビースト戦略、彼方は守りの対ウルトラビースト戦略を任されている。

今回のこの研究の注目度はかなりのもので……物資や土地の奪い合いで睨み合っていた他国も、プリズムステイツ政府に多額の資金援助や物資援助を申し出ているほど……つまり、全世界が私たちの動向に注目している。

私と彼方は孤児院の経営のために、稼ぎの良い仕事していただけのはずなのにね……──璃奈ちゃんや愛が常軌を逸した天才で、世界が注目するのはわかるけど……。

ただ、その理由は実際にここに来て、すぐにわかった。世界が注目している研究ということは──世界中からメディアも押し寄せてくるからだ。

国家間での電信通信なんてものが失われて久しいこの世界において、各国のメディアは何がなんでも自国に情報を持ち帰りたがる。有り体に言えば……少し強引なこともしてくる。

故に──前に立たせる人間が欲しかったということだ。

そして、私はそれに選ばれた。理由は……俗的な話だけど、要約すると顔とスタイルがよかったかららしい。

若くて、麗しい少女たちが前線に立ち戦う姿は、人々から支持を得やすいという目論見が上にはあるらしかった。

まあ……俗的だとは思うけど、容姿を褒められて悪い気はしないし、私はそこまで嫌だとは思わなかった。

何より、人前に出るのが極端に苦手な璃奈ちゃんを守る盾は必要だったわけだし、理由にも納得出来た。

……目立ちたがり屋の愛は、たまに勝手に付いてきて一緒に取材を受けていることもあったけど……。

──気付けば私たち4人は……世界中の期待を背負って、世界の命運を託されていたのだった。





    👠    👠    👠





璃奈「空間歪曲率上昇。ウルトラホール、展開」


璃奈ちゃんが機器を操作する中、ガラス張りの向こうにある実験室で──空間に穴があく。


愛「おっけー、ホール安定。このまま、維持するよ。ベベノム、苦しくない?」

 『ベベノ~』『ベベノ~』


愛が端末越しに2匹のベベノムに話しかけると、ベベノムたちは元気に返事をする。


果林「それにしても……ベベノムがウルトラビースト……ねぇ……」

彼方「ベベノムって、街外れの丘にたくさんいるからね~……。“虹の家”の外でもたまに見かけてたよね」


ウルトラビーストは大きなエネルギーを体に持っていて──それによって空間を歪めて、ウルトラホールをあけることが出来る……璃奈ちゃんたちが突き止めた大発見はこれによって始まったらしい。

実際に目の前で奇怪な空間の穴を何度も見せられているので、それが嘘ではないということは理解出来ているけど……ちょっと街の外れにいくと生息しているポピュラーなポケモンが、危険と称されるウルトラビーストの仲間だったと言われてもなかなかピンとこない。


彼方「……すやぁ……」

果林「彼方、寝ないの」

彼方「えぇ~……だってぇ~……毎回、こうやってホールを見てるだけなんだもん~……」

果林「私たちは万が一に備えてここに居るのよ」

彼方「わかってるけど~……」

556: ◆tdNJrUZxQg 2023/01/03(火) 12:35:59.74 ID:Sh64zN700

確かに、ただホールがあいて、それが消えるのを見るだけなのが退屈なのはわかる。

私も気を抜くと、欠伸の一つでもしていまいそうだと思いながら、見ていると──その万が一が発生した。


璃奈「……! ホールにエネルギー反応!」

愛「この数値……!? ヤバイ!! りなりー、ホール閉じて!!」

璃奈「もう、やってる……! けど……ホールが外側からこじ開けられてる……!」

果林「な、なに……!?」


直後──研究室内のホールがカッと光り、


果林「……っ……!?」


眩い光の中に──


 「──フェロ…」


真っ白な上半身と、黒い下半身をした──細身のポケモンが立っていた。


果林「綺麗……」


思わず目を引かれてしまうような──そんな、美しいポケモンだった。


璃奈「ウルトラビースト……フェローチェ……!」

愛「カリン!! 直視しちゃダメ!! ウルトラビーストには人を操る力を持った奴がいるから!!」

果林「え……?」


直後──


 「フェロッ!!!」


ガシャァンッ!! と音を立てながら、ウルトラビーストがガラス張りの壁を蹴り破り──私に向かって突っ込んできた。


彼方「ネッコアラっ!! “ウッドハンマー”!!」
 「コァッ!!!」

 「フェロッ…!!」


振り下ろされるウルトラビーストの脚に対し、彼方のネッコアラが割って入るように丸太を振りかざして、弾き飛ばす。


彼方「果林ちゃん、平気!?」

果林「あ、ありがとう、彼方……!」


私は頭を振る。なんだか、頭がボーっとしていた。

愛の言っていたように、人を操る力とやらにやられかけていたらしい。


愛「私も戦う……! りなりー! 下がってて!」

璃奈「う、うん……ニャスパー、隠れるよ」
 「ニャァ」


璃奈ちゃんが机の影に隠れ、愛がウルトラビーストの前に出てくる。

557: ◆tdNJrUZxQg 2023/01/03(火) 12:36:29.40 ID:Sh64zN700

 「…フェロッ」

果林「いいわ、暴れるって言うなら……貴方が私を魅了するよりも早く……倒してあげるから……!」





    👠    👠    👠





果林「……はぁっ…………はぁっ…………」

愛「し……死ぬかと思ったぁ……」

彼方「……かなたちゃん……もう……うごけないぃ…………」


私たちは、3人の力を合わせて、どうにかウルトラビーストを倒し……捕獲することに成功した。

戦闘後の研究室内は……ボロボロだった。


果林「……どうりで……戦力を欲しがるわけね……」


こんなのを愛一人で対応し続けるのは、確かに無理がある……。


璃奈「みんな……大丈夫……!?」
 「ウニャァ~」


戦闘が終わって、物陰に隠れていた璃奈ちゃんが心配そうに飛び出してくる。


彼方「ど、どうにか~……」

愛「平気だよ……カリンとカナちゃんがいなかったら、さすがにやばかったけどね……」

璃奈「今、医療班を呼んでくるから……!」


部屋を飛び出そうとした璃奈ちゃんが、


璃奈「あれ……?」


何か気付く。


愛「りなりー?」

璃奈「……ウルトラホールがあった場所に……まだ、何か……いる……?」

果林「……!?」


私は、その言葉を聞いて身構えた──けど、そこにいたのは……。


 「ピュィ…」


小さな小さな……紫色の雲のようなポケモンだった。




558: ◆tdNJrUZxQg 2023/01/03(火) 12:37:12.36 ID:Sh64zN700

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──そこで捕まえた雲のようなウルトラビーストは……コスモッグというらしく、大量のエネルギーを内包するポケモンであることがわかった。

結論から言うと、このコスモッグを捕獲したことによって、璃奈ちゃんと愛の研究は飛躍的に進むこととなった。

このポケモンが持っているエネルギーを利用すれば──理論上ウルトラスペースの中を航行しうるエネルギーになるということがわかったからだ。

政府は、急ピッチでウルトラスペースを航行するための船──ウルトラスペースシップの開発に着手し、半年という驚くべきスピードでウルトラスペースシップを完成させるに至った。

これにより、ウルトラスペース内の探索が可能になり、研究は次の段階へ……世間からも大きな賞賛を浴び、世界を救うという途方もない話がだんだん現実味を帯びてきていた。

戦闘によって捕まえたウルトラビースト──フェローチェは私が手持ちとして従えることとなり……いろいろなものが順調に進んでいく中──


──“虹の家”の院長先生が……彼方のお母さんが……亡くなった。





    👠    👠    👠





遥「おかあさん……っ……おかあ、さん……っ……」

彼方「……遥ちゃん……」


遥ちゃんが棺桶にすがるように泣きじゃくり、彼方がそんな遥ちゃんを抱きしめている。


果林「…………院長先生……」


数ヶ月前に過労で倒れたというのは聞いていたけど……ウルトラビーストとの邂逅もあり、私はなかなか時間が取れず──いや、正確には彼方を無理にでもお見舞いにいかせるために、仕事を強引に肩代わりしていたためだけど──まさか、こんなすぐに亡くなってしまうとは……思っていなかった。

“闇の落日”の時に吸った瘴気が……ずっと院長先生の身体を蝕んでいたらしい。


果林「…………」


短い間ではあったけど……私にとっては、もう一人のお母さんのようなものだったから……やるせなかった。





    👠    👠    👠





──葬儀も全て終わり……明日にはまた研究所に戻る。……そんな夜のことだった。

私と彼方は、すごく久しぶりに“虹の家”で過ごしていた。

ただ……どうしても寝付けなくて、水でも飲もうかと思いリビングに行くと──


彼方「…………」


彼方が遺影の前で、正座していた。


彼方「…………“虹の家”……立派になったね」


遺影に……院長先生に……母親に、話しかけていた。

私は親子の会話を邪魔したくなかったので、音を立てないように、物影に隠れる。

559: ◆tdNJrUZxQg 2023/01/03(火) 12:37:58.45 ID:Sh64zN700

彼方「…………あんなに軋んでた床も、音鳴らなくなったね。雨漏りもしなくなったし……立て付けの悪かったドアもちゃんと開くようになったね。職員の人も何人も雇っててびっくりしちゃった。孤児院としては、もう安泰だね」

果林「…………」

彼方「果林ちゃんと一緒に……頑張ってきてよかったって……思ったよ……」

果林「…………彼方……」

彼方「……わたしたち……これからも頑張るね……世界中の人……救って見せるから。……この世界を、果林ちゃんたちと一緒に……救って見せるから」

果林「…………」

彼方「………………でも…………でも、ね……っ……」


彼方の声が、震えていた。


彼方「…………ほんとうは……おかあさんに……っ……すくわれた世界を……みせて、あげたかった……よぉ……っ……」


彼方は……肩を震わせて泣いていた。

……私はこのとき初めて、彼方の泣いている姿を見た。

葬式の間、泣きじゃくる遥ちゃんや、この家の小さな子たちの前では、絶対に見せなかったのに……彼方が、声を震わせて、泣いていた。


彼方「…………おかぁ……さん……っ…………ぐす……っ……ひっく……っ……」

果林「………………」


──この世界は理不尽だ。

理不尽に奪われて、泣く人ばかりの世界で……そんな中でも、誰かに与えて手を差し伸べてくれる人が……命を落とす。

私はギュッと……拳を握りしめた。


果林「…………こんな世界……間違ってる…………」


こんな、誰かが泣かなくちゃいけない世界のままで……いいはずがない。


果林「…………私が……変えるんだ…………」


こんな奪われるだけの世界を……私が、変えなくちゃ……いけないんだ。





    👠    👠    👠





──ウルトラスペースシップによる本格的なウルトラスペースの調査が開始された。

調査メンバーはもちろん、私、彼方、愛、璃奈ちゃんの4人だ。

その中で……私たちは、ウルトラスペースの中に、いろいろな世界があることを知った。

荒廃しきった世界や、巨大な電気を帯びた樹木が張り巡らされた世界、一面に広がる砂漠の世界、宝石のような輝く鉱物があちこちに生えた洞窟の世界……。

本当にいろいろな世界があって……そこにはいろいろな種類のウルトラビーストが生息していた。

時に捕まえ、時に撃退し、時に逃げ……私たちは少しずつウルトラスペースとウルトラビーストという存在を理解していった。

その中で、テッカグヤ、デンジュモク、カミツルギ、ズガドーン……そして、2匹目のコスモッグを捕まえることに成功した。

それと同時に……並行して行っていた、ウルトラスペースシップの2台目を完成させたり……とにかく調査は順調に進んでいた。

ただ……そんな調査の中でも……私たちが見つけた世界の中に、文明がある世界は一つしか見つけることが出来なかった。

それも、遠く……自由に行き来するとなると、コスモッグの持っている途方のないエネルギーをもってしても、少し不自由があるというくらいには遠くにだ。

そんなある日のことだった。

560: ◆tdNJrUZxQg 2023/01/03(火) 12:38:47.16 ID:Sh64zN700

璃奈「……!」


研究室にいるとき、璃奈ちゃんが急に椅子を跳ねのけるようにして、立ち上がった。


愛「り、りなりー? どうしたの? 何かひらめいたん?」

璃奈「………………わかった」

彼方「わかったって……何がわかったの~……?」

璃奈「世界を………………救えるかも……しれない……」

果林「ホントに……!?」


私は、思わず璃奈ちゃんの両肩を掴んで、


果林「一体どういう方法なの……!? 璃奈ちゃん……!!」


思わず彼女に詰め寄るように訊ねてしまう。


愛「ちょ、カリン……!」

璃奈「……か、果林さん……い、痛い……」

果林「あ……ご、ごめんなさい……」

愛「……カリンが人一倍気持ちが強いのは知ってるけど……そんな風に詰め寄ったら、りなりーが困っちゃうからさ……」

果林「そう、よね……ごめんなさい……」

璃奈「うぅん……大丈夫」

彼方「それで……どういう方法なの……?」


彼方が訊ねるけど、


璃奈「……それは……」


璃奈ちゃんは、何故か酷く歯切れが悪かった。


璃奈「…………言っていいのか……わからない」

果林「言っていいのか……? わからない……?」


私は思わず眉を顰める。

561: ◆tdNJrUZxQg 2023/01/03(火) 12:39:20.03 ID:Sh64zN700

果林「世界を救う方法があるんでしょ……? それを言っていいのかわからないって、どういうこと……?」

璃奈「そ、それは……。……でも、今この場では……教えていいことか……私だけじゃ判断しかねる……」

果林「なによそれ……。……ねぇ、璃奈ちゃん……貴方も世界を救いたいんじゃないの……?」

彼方「か、果林ちゃん、落ち着いて……」

愛「…………何か思うことがあるってことだよね」

璃奈「……うん」

愛「わかった。……ただ、私たちは政府から託されて研究してるから……」

璃奈「……わかってる。……報告しないわけにはいかない……」

果林「なら、ここで言ってもいいんじゃないの?」

璃奈「……ご、ごめんなさい……」

愛「カリン、やめて。りなりーが困ってる」

果林「私たちは仲良しごっこしてるんじゃないのよ? 世界の命運を懸けて戦ってるの」

愛「……」

果林「……」

彼方「ふ、二人とも落ち着いて! 果林ちゃん、焦って聞いても彼方ちゃんたちにはよくわからないだろうし、ちゃんと報告した後にわかりやすく纏めてもらった話を聞こう? ね?」

果林「…………わかった」


私は璃奈ちゃんに背を向けて、近くの椅子に腰を下ろした。


璃奈「……ほっ」

愛「りなりー、大丈夫?」

璃奈「……うん」

彼方「ごめんね……果林ちゃんも悪気があって言ってるわけじゃなくて……最近、調査進捗とかメディアから詰め寄られることが多くって……だから、ちょっと焦っちゃってるだけで……」

璃奈「うん、理解してる。果林さん、ごめんね、すぐに言えなくて……」

果林「……私こそ……ごめんなさい……。……ちょっと、頭を冷やすわ……」

愛「……それじゃ、アタシとりなりーで一旦理論を纏めてくるから……」

果林「ええ……お願いね」


愛と璃奈ちゃんが部屋を後にする。

私は思わず両手で顔を覆って俯く。

璃奈ちゃんにやつあたりするなんて……何やってるの、私……。


彼方「……果林ちゃん、疲れてるんだよ……今日はお仕事やっておくから、休んで?」

果林「彼方……」

彼方「いっつも、前に立たせちゃって……ごめんね……。……果林ちゃんが一番しんどい位置にいることは……わたしも、璃奈ちゃんも、愛ちゃんもわかってるから……」

果林「……ありがとう……彼方……」





    👠    👠    👠





ここからしばらく、愛と璃奈ちゃんが理論を纏めるのに難航することとなる。

……どうやら、璃奈ちゃんの思いついた理論が……大きなリスクを孕んでいるものだからという噂は耳に入ってきた。

562: ◆tdNJrUZxQg 2023/01/03(火) 12:39:52.44 ID:Sh64zN700

 「──だからそれじゃ、根本的な解決にならないって言ってんでしょ!?」


応接室から、愛が荒げた声を聞く機会もだんだんと増えていった。恐らく、政府の役人と今後の方針で揉めているのだろう。

その間は調査が滞り、私たちは訓練と演習くらいしかすることがない中──ある辞令が下った。


果林「──……“SUN”と“MOON”……?」

彼方「うん。上からの辞令で……組織内でポケモンでの戦闘が強い二人に権限を渡すって話みたい」

果林「権限って……なんの?」

彼方「コスモッグを自由に扱う権利みたいだね……2匹のコスモッグがそれぞれ“SUN”と“MOON”に1匹ずつ渡されるみたい」


彼方が辞令に目を通しながら言う。


果林「それってつまり……」

彼方「……ある程度、自由にウルトラスペースを調査する権限みたいだね」

果林「……そう」

彼方「嬉しくないの? 果林ちゃん、“MOON”に任命されたってことは……出世みたいなものだよ?」

果林「そうね……」


私は思わず眉を八の字にしてしまう。

──組織内で戦闘が強い二人──

この指定の仕方は……恐らくだけど……私には愛が政府の役人に反発し続けた結果のように思えた。

反発をする愛に対し、上の人間は愛に自由を与えないために、作戦そのものの実行能力を持った人間に権限を与えようとしたけど……愛は彼方より強い。下手したら私よりも……。

研究者でありながら、作戦の実行能力も高い彼女から、全ての権限を奪いきれなかった結果、こんな不自然な辞令が下ったんじゃないかしら……。

もちろん、想像の域は出ないけど……。


彼方「……どうする?」

果林「……まあ、コスモッグを受け取るのは構わないけど……」


コスモッグはウルトラビーストではあるものの、戦闘能力が皆無なウルトラビーストだ。

故に持っていようが持っていまいが、そこまで大きな問題はないと思う。……ただ、エネルギーを放出させすぎると休眠状態になると予想はされているから、そこは考えないといけないけど……。

ちなみに他のウルトラビーストは、結局うまく扱える人がいなくて、持て余しているのが現状だ。

一度、彼方がテッカグヤを扱おうとしたものの……結局強すぎる力に振り回されてしまい断念。

私も何匹か使ってみたものの……フェローチェほど、しっくりくるものがなく、現状の手持ちの方が有効に戦えそうだったために、受け取りはしなかった。

閑話休題。

コスモッグを受け取るのはいいとしよう。ただ──


果林「だからって、私だけで調査に行くことってないと思うんだけど……」

彼方「……それはそうかも」


ウルトラスペースシップの操縦はほとんどプログラミングされた自動操縦らしいし、簡単な使い方くらいは聞いているから、動かすことは出来ると思うけど……。

それ以外のことは、完全に愛と璃奈ちゃん任せだから、私たちに持たされても使い道があまり思いつかない。

……他国のスパイとかに奪われる可能性が減るくらいかしら……?


果林「それにしても……なんで“SUN”と“MOON”……太陽と月なのかしら……?」

愛「──文献を見つけたからだよ」


そう言いながら、愛と璃奈ちゃんが部屋に入ってくる。

563: ◆tdNJrUZxQg 2023/01/03(火) 12:42:33.94 ID:Sh64zN700

果林「愛……」

彼方「文献って?」

璃奈「2匹目のコスモッグを見つけた世界で、石板があったの覚えてる?」

果林「あったような……なかったような……」

愛「まあ、あったんだけどさ。その石板にあった碑文をりなりーが言語解析プログラムにずっと掛けてたんだけど……それの結果が出たらしくってね」

果林「それが太陽と月だったの?」

愛「コスモッグは成長すると、太陽の化身もしくは月の化身へと姿を変えるんだってさ」

璃奈「日輪と月輪が交差する場所で、交差する時に、人の心に触れ、太陽の化身もしくは月の化身に姿を変えるって記されてた」

彼方「あーだからか~……太陽と月をそれぞれ授けるぞ~ってことだね~」

璃奈「そんな感じ。強いトレーナーの傍に居れば、いつか覚醒して私たちの力になってくれるだろうって考えてるみたい」


まあ……自分で言っておいてなんだけど……正直命名の理由には言うほど興味はない。興味があるのは……──私が任命された“MOON”じゃない方。


果林「……“SUN”は貴方よね、愛」

愛「……まーね」

果林「上の人と揉めてるの……?」

愛「……」


愛は気まずそうに頭を掻く。

……恐らく、私の予想はそこまで大きく外していないのだろう。


愛「……大丈夫、ちゃんとチャンスは貰ったから」

果林「チャンス……?」

愛「世界……ちゃんと救える理論、見つけてみせるからさ」

璃奈「……私たち頑張る! 璃奈ちゃんボード「ファイト、オー!」」 || > ◡ < ||


愛は“SUN”の称号を得て、璃奈ちゃんと何かをしようとしていることはわかった。

ただ──これが……最悪の結果を招くことになる……。





    👠    👠    👠





果林「──愛……!!」

愛「ん? カリン、どしたん?」

果林「どしたんじゃないわよ!! 璃奈ちゃんと二人でウルトラスペースの調査に行くってどういうこと!?」

愛「うぇー……情報筒抜けじゃん。独立した権限があるなんて嘘っぱちだねぇ……」

果林「行くなら私たちも連れていって……!」


ウルトラスペースは危険な場所だ。

いくら愛の腕が立つと言っても、たった二人で行くのは危険すぎる。

564: ◆tdNJrUZxQg 2023/01/03(火) 12:43:18.50 ID:Sh64zN700

愛「んっとね……最初はアタシもそうお願いしたんだけど、拒否されちゃってさ」

果林「拒否……? どうして……?」

愛「お前たちのわがままのために、貴重な戦力を危険な目に合わせるわけにいかないって」

果林「……危険な場所に行くの……?」

愛「まーね……。……だから、二人でしか行けないなら、アタシも断念しようとしたんだけど……りなりーがね。……行かないわけにいかないって」

果林「璃奈ちゃんが……」


あの気弱な璃奈ちゃんが……政府の役人に対して、そんなことを言ったなんて、想像出来ないけど……。

それでも、勇気を振り絞って言ったということだろう……。


愛「りなりーが行くって言うんだったら、愛さんが行かないわけにいかないっしょ!」

果林「愛……。……ちゃんと、帰って来るんでしょうね……?」

愛「もちのろん! ちゃんと成果持ち帰ってくるために行くんだから! 任せろって!」

果林「わかった。じゃあ、もう何も言わない」

愛「あんがとっ! ま、カナちゃんと一緒にお昼寝でもして待っててくれりゃいーからさっ!」

果林「ふふ、じゃあ……そうさせてもらおうかしらね」


──数日後、愛は璃奈ちゃんと一緒にウルトラスペースの調査へ出た。

結果────璃奈ちゃんが……死亡した。





    👠    👠    👠





──ウルトラスペースシップが帰ってきた時点で、異変があった。

ウルトラスペースシップの形状が──変わっていた。シップの倉庫部となるはずの部分が消失していた。


果林「な、なにが……あったの……?」

彼方「わ、わかんない……」


船が戻ってくる報告を聞いて、離発着ドックに来た私たちは、酷く動揺していた。

そして、ボロボロのウルトラスペースシップの中から、


愛「…………」


愛が出てくる。


果林「愛……! よかった……!」


私たちは愛に駆け寄る。

よく見ると愛は随分とやせ細っていて──どこを見ているのかわからないような、そんな虚ろな目をしていた。


彼方「あ、愛ちゃん……?」


嫌な予感がした。


果林「……愛……? ……璃奈ちゃんは……?」

愛「──………………ちゃった……」

565: ◆tdNJrUZxQg 2023/01/03(火) 12:44:48.06 ID:Sh64zN700

愛は消え入るような声で、


愛「……りなりー…………いなく……なっちゃった…………」


そう、言ったのだった。





    👠    👠    👠





彼方「…………どうして……」

果林「…………」

彼方「…………どうして……璃奈ちゃんが……」


愛が帰ってきて、半日ほどが経過した。

愛があまりに憔悴しきっていて、とてもじゃないけど話が聞けない状態だったため、詳しいことはまだわかっていないけど……調査中に事故でウルトラスペースシップが半壊し、その際に璃奈ちゃんが亡くなったという見方が強かった。


果林「…………まだ…………奪うの…………?」


私は唇を噛んだ。

そのときだった──急に研究所内にアラートが鳴りだした。


彼方「な、なに……!?」


──『離発着ドックにて緊急事態発生。緊急事態発生。』──


果林「彼方……! 行くわよ……!」

彼方「う、うん……!」


私たちはとにかく、離発着ドックへ走る。





    👠    👠    👠





──たどり着いた離発着ドックでは、


愛「──あぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!!!」
 「リシャーーーーンッ!!!!!!」


愛が、ドックを破壊していた。


彼方「あ、愛ちゃん……!?」

果林「愛っ!? 何やってるの!?」

愛「りなりーを……っ!!! りなりーを返せぇぇぇぇぇっ!!!!!」
 「リシャァァァァンッ!!!!!」


愛が大暴れしていて、他の職員はとてもじゃないけど、近付けない。

でも、このまま放っておいたら離発着ドックが使い物にならなくなる……!

566: ◆tdNJrUZxQg 2023/01/03(火) 12:46:31.68 ID:Sh64zN700

果林「彼方!! ドックを守って!! 消火も!!」

彼方「わ、わかった!! バイウールー! パールル!」
 「──メェ~~~~」「──パルル」


バイウールーがリーシャンの音攻撃を体毛で吸収し、施設の被害を抑えながら、パールルが“みずでっぽう”で壊れた機器から出火した炎を消火する。

その間に私は、


果林「キュウコン、“かなしばり”!!」
 「──コーーンッ!!!」

 「リシャンッ…!!?」


リーシャンの動きを止めて、


果林「愛っ!! やめなさいっ!!」


後ろから愛を羽交い絞めにする。


愛「りなりーをぉっ、かえせぇぇぇぇぇっっ!!!!!! かえせぇぇぇぇぇぇっ!!!!」

果林「っ……!」


愛は錯乱しながら、叫び続ける。

とてもじゃないけど、呼び掛けで止めるのは不可能だと判断し、


果林「……フェローチェ……!」
 「──フェロッ」

果林「“みねうち”……!」
 「フェロ」

愛「がっ……!?」


愛のお腹に、手加減した打撃を叩きこんだ。


愛「……りな……りー……」


愛は気絶して……大人しくなった。璃奈ちゃんの名前を……呼びながら……。





    👠    👠    👠





──愛は、施設を破壊した責任を問われ……ひとまず拘束されることになった。今はポケモンを没収の上、自室で軟禁状態らしい。

加えて、このチームからも除名されるらしい。


彼方「…………果林ちゃん……“SUN”になるんだってね……。……彼方ちゃんが……“MOON”だって……」

果林「…………みたいね……」

彼方「…………研究班が足りなくなっちゃうから……。……人が補充されるみたい」

果林「……聞いた。……姫乃って子と……遥ちゃんよね……」

彼方「……うん」

果林「…………あの4人じゃなきゃ……ダメなのに……」

彼方「果林ちゃん……」

果林「なんで……なんで、こうなっちゃうのよ…………」

567: ◆tdNJrUZxQg 2023/01/03(火) 12:47:07.78 ID:Sh64zN700

私たちは……力を合わせて世界のために戦っていたはずなのに……。

気付いたら……愛も……璃奈ちゃんも……いなくなってしまった。





    👠    👠    👠





──そして、私たちはやっと、愛と璃奈ちゃんが……どうして、世界を救う方法とやらを教えてくれなかったのかを理解した。


果林「…………」

彼方「…………」


先ほど司令から……璃奈ちゃんが気付いた、世界を救う方法をざっくりと聞かされた。

それは──


果林「…………私たちの世界を救うには…………他の世界を……滅ぼすしか……ない……って……」

彼方「………………」


詳しい理屈はわからないけど、そうらしい。他の世界を滅ぼすことによって……私たちの世界の崩壊を、食い止めることが出来る。それが、璃奈ちゃんが突き止めた世界を救う方法だった。

それに加えて──もし、それをしなければ……私たちの世界は今後もどんどん、確実に、滅亡へと進んでいく……とも。

彼方は……珍しく私に背を向けていた。どんな顔をすればいいのかわからないからなのか……それとも……。


果林「…………ねぇ……彼方……」

彼方「…………なぁに……?」

果林「…………………………怒らないで、聞いて……」

彼方「…………うん」

果林「………………私は……何をしてでも……この世界を、守りたい……」

彼方「…………果林ちゃん」

果林「………………こんな酷い世界だけど……大切な人がたくさんいるの……思い出の場所が……大切な場所が……たくさん、あるの……もう……この世界から、誰かが、何かが失われるのなんて……耐えられない……」

彼方「…………」

果林「…………彼方……」


私は無言の彼方の背中にすがるように、おでこを押し付ける。


果林「…………貴方は……私の前から……いなく、ならないで……。……お願いだから……」

彼方「……………………」

果林「…………壊すのは……全部、私がやる……奪うのも……罪も、業も、憎しみも、恨みも……全部私が背負う……だから……彼方だけは……私の傍に居て…………お願い…………」

彼方「………………」

果林「………………彼方……」


でも、彼方は──


彼方「……………………ごめん、果林ちゃん……少し……考えさせて……」

果林「………………」

568: ◆tdNJrUZxQg 2023/01/03(火) 12:52:18.19 ID:Sh64zN700

私を置いて……行ってしまったのだった……。





    👠    👠    👠





──なんとなく、わかっていた。彼方は誰かから奪うようなやり方に賛同なんてしないって。

案の定というか、数日もしないうちに彼方が司令に反対の意思を伝えたという話が耳に聞こえてきた。

彼方と……施設内ですれ違っても──


彼方「あ……」

果林「あ……か、彼方……!」

彼方「ご、ごめん……今、急いでるから……」

果林「……彼方……」


すっかり、避けられてしまっている。

ただ……上の人間たちは、完全に──他世界への侵略の方向で進めようとしている。

……このまま、彼方が反対し続けたら、何が起こるだろうか……?

彼方は事実上の組織の幹部……もし、組織の意向に沿えなかったからと言って……ただ、辞めることで解決できないところまで事情を知ってしまっている。そうなったら彼方は……。

だから私は──


果林「……」


──コンコン。だから私は、戸を叩く。中に入ると、政府の役人たちが会議をしていた。

内容は──彼方をどうするかについて話しているところだった。

だから、私は、こう言った。


果林「彼方は……私が説得します……」


彼方を守るには……もう、これしかないから。





    👠    👠    👠





果林「………………」


深夜──私は計画書を見て、眉を顰める。

内容は……まさに他世界への侵略だった。

彼方もすでに、この計画書は受け取っているはずだ。この内容を踏まえた上で……私は彼方を説得しないといけない。

でも、やらなくちゃいけない。

私が……彼方を──家族を……守らないといけないんだ……。


果林「………………早く行かないと」

569: ◆tdNJrUZxQg 2023/01/03(火) 12:53:01.28 ID:Sh64zN700

躊躇している暇はない。

そう思ったけど──


果林「…………今更……何にびびってるんだか……」


私の手は……震えていた。


果林「…………そりゃ……出来るなら……奪いたくなんて……ないわよ……」


誰も悲しまない世界があるなら、その方がいい。そんなの当たり前だ。そうに決まってる。


果林「…………でも…………選ばなくちゃいけないなら…………選ぶしか、ないじゃない…………っ」


黙って滅びを待つなんて……出来ない。

だから、せめて……私が背負うから……私以外のみんなを守るために……私が背負って……地獄に落ちるから……。


果林「…………」


私は覚悟を決めて、彼方の部屋へと向かう。





    👠    👠    👠





──コンコン


果林「彼方、今いい?」


返事がない。


果林「……入るわよ」


でも、話すしかないから。

私が部屋の中へ入ると──そこは本当に誰もいなかった。

今は深夜だ。外出しているとは考えにくいのだけど……。


果林「どこに行ったのかしら……?」


そんな風に言葉を漏らした、まさにそのときだった──

──『緊急事態発生。緊急事態発生。』──

施設内にアラートが鳴りだした。


果林「な、なに……!?」


──『何者かが、ウルトラスペースシップを占拠し、発進しようとしています』


果林「……!」


今この場でそんなことをする理由がある人間なんて、数えるほどしかいない。

加えて、もぬけの殻になった彼方の自室……そんなのもう……!

570: ◆tdNJrUZxQg 2023/01/03(火) 12:54:09.62 ID:Sh64zN700

果林「彼方……!!」


私は離発着ドックへと走り出した。





    👠    👠    👠





離発着ドックに着くと、職員が数人倒れていた。

ほとんど気絶していたけど、


職員「ぅ……」


まだ、意識のある職員がいた。


果林「何があったか教えて……!!」

職員「コノエ姉妹が……シップに乗り込んで……」

果林「遥ちゃんも……!?」


そんなことを言っている間に、目の前で一隻のウルトラスペースシップが──発進した。


果林「彼方……待って……!! ……くっ……!」


私は、もう一隻の方──愛が乗っていた半壊のウルトラスペースシップに乗り込む。

愛はちゃんと帰ってきたし、メインエンジンが壊れていたらしいけど、そこはすでに新しい物に換装されている。万全の機体ではないが、これでも追いかけることは出来るはず……!


果林「た、確か……ここにエネルギーを充填して……オートパイロット……行き先は……」


もし、この状況で向かうとしたら──もうここに戻ってくるのは想定していないはず。その上で、何もない世界に行っても、生きていくことなんて不可能。

なら──行き先は一つ。……私たちが滅ぼそうとしている……たった一つだけ見つけることが出来た、文明のある世界。

私はそこにオートパイロットを合わせる。

発進シークエンスに入ると同時に、通信が入る。


果林「今、忙しいの!! 後にして!!」

 『──果林か』

果林「……!」


通信相手は実行部隊の司令。私が彼方を説得すると、そう宣言した相手だった。


司令『彼方のやっていることが、どういうことか……わかるな?』

果林「……それは理解してます……でも、私が必ず説得します。説得して連れ帰ります……だから……!」

司令『わかった。連れ帰れたときは……君に免じて今回は不問にしても構わない。……だが、もし連れ帰れないときはどうする?』

果林「…………」


彼方たちがやっていることは──恐らく亡命だ。

亡命先で私たちの世界がやろうとしていることを知らされる。そんなことになったら、私たちの世界は……。

そういう意味での問い。もうこの時点で裏切り者の烙印を押されてもおかしくない中で、最後の最後の譲歩をされている。

だから、もしそれが出来なかったときは──

571: ◆tdNJrUZxQg 2023/01/03(火) 12:54:46.12 ID:Sh64zN700

果林「……私が……撃墜します……」


……私が、手を……下すしか……ない。





    👠    👠    👠





果林「…………なんで…………なんでよ……。……彼方……」


なんで、そんな道を選ぶのよ……。

なんで……。


果林「私を……置いていくの……」


ウルトラスペースシップは……倉庫部がない分、軽いからかむしろ通常よりもスピードが出ていた。

航行を続けていると──前方に彼方たちの乗っているシップが見えてきた。

私は通信を飛ばす。


果林「彼方っ!! 聞こえる!?」


私が問いかけると、


彼方『か、果林ちゃん……』

遥『果林さん……』

果林「止まって、二人とも!! お願いだから……!! もしここで止まってくれたら不問にするって、約束もしてもらった、だから、お願い……!!」

彼方『……でも、不問にして……計画に加担しろって、ことだよね……?』

果林「……彼方っ!! お願い、言うことを聞いて……!! 貴方を……失いたくないの……!!」

彼方『…………果林ちゃん』

果林「……知らない誰かの命よりも──私は貴方が大事なの……!! だから……っ!!」


私の言葉に対して──


彼方『…………わたしね、果林ちゃんに初めて会ったとき──ちょっと怖い子だなって思ったんだ……』

果林「……え……?」


彼方は突然、そんなことを言いだした。


彼方『……それは……果林ちゃんがそのときのわたしにとって……“知らない誰か”だったからなんだと思う……』

果林「…………」

彼方『でも……でもね……。……あのとき、果林ちゃんに会えて……よかったって、思うの……。……“知らない誰か”が、“大切な人”になったから、そう思うの……』

果林「かな……た……っ……」

彼方『……だから……“知らない誰か”が……いつかの自分にとって“大切な人”かもしれないって……思っちゃうんだ……。……だから、わたしは……戻れない……』

果林「…………っ……かなた……っ」

彼方『──……ごめんね、果林ちゃん』


その謝罪は──決別の言葉だった。

572: ◆tdNJrUZxQg 2023/01/03(火) 12:55:33.67 ID:Sh64zN700

果林「…………っ…………ぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!! フェローチェッ!!!」

 『──フェロッ!!!!』


ウルトラビーストは、ウルトラスペース内でも活動出来る。

シップのボール射出機能で外に出したフェローチェが、彼方たちのシップに取り付く。


果林「“むしのさざめき”ッ!!!」

 「──フェロォォォォォッ!!!!!!」

彼方『っ゛ぅ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛!?』

遥『ぁ゛ぁ゛ぁ゛っ!!?』


もし、ここで彼方たちを逃がしたら──だから、私はもう選ぶしかなかった。


果林「フェローチェ……ッ!! やりなさい……ッ!!」

 『…フェロッ!!!』


音を遥かに凌駕するスピードで振り下ろされるフェローチェの脚が、彼方たちの乗っているウルトラスペースシップを……真っ二つに、両断した。

シップはそのまま……バラバラになって、ウルトラスペース内に消えていった。

私は……両手で顔を押さえる。


果林「なんで…………なんで…………こう、なっちゃうの…………なんで…………っ」


私は……どうして、大切な人を……自分の手で……。

なんで、どうして……どう……して……。





    👠    👠    👠





──私は……本当はどうすればよかったんだろう。

わからない。……わからない。

だけど、一つわかることがある。

……起こってしまったことは、もう戻らない。……だから私は……もう、戻れない。

私は──


果林「私は……私の世界を救うんだ……」


もう、進むしかない。





    👠    👠    👠





果林「……愛、入るわよ」


軟禁中の愛の部屋に押し入る。

573: ◆tdNJrUZxQg 2023/01/03(火) 12:56:15.60 ID:Sh64zN700

愛「……や、カリン。来ると思ってたよ」


愛は随分と余裕そうな表情をしていた。


果林「もっと落ち込んでると思ってたわ……」

愛「アタシもカリンはもっと落ち込んでると思ってた。……聞いたよ、カナちゃんの乗ったシップ……カリンが撃墜したんだってね」

果林「…………」


私は愛の首にチョーカーを着ける。


果林「……愛……私に協力しなさい……」

愛「…………ああ、これが首輪ってわけか。逆らったときは電撃? それとも、首でも飛ぶ?」

果林「電撃よ……。死なれたら困るわ……貴方には、やってもらわないといけないことがたくさんあるからね……」

愛「アタシがこんなおもちゃで言うこと聞くと思ってんの?」


私は、手に持ったリモコンのスイッチを入れる。


愛「っ゛、ぁ゛!!?」


愛に着けた首輪に電流が流れ、愛を痺れさせる。


果林「……もう一度言うわ、愛。私に協力しなさい……」

愛「……っ゛……。……まあまあ、カリン……そう、焦んないでよ……」

果林「…………」

愛「……言うこと聞くつもりはないんだけどさ……協力はしてやってもいいよ……」

果林「……は?」

愛「……その代わり……カリンもアタシに協力してよ……」

果林「……この状況で交渉しようって言うの?」

愛「どっちにしろ、アタシの頭が必要なんでしょ? いーよ、アタシの頭脳でよければ貸してあげるよ。ただ──アタシにもやりたいことが出来たから、それはやらせてもらう」

果林「…………」

愛「どーせこのおもちゃに発信機も付いてんでしょ? カリンの監視範囲内でアタシはアタシのやりたいことをやる。アタシはカリンの求める知恵と技術を提供する。それでお互いWin-Winっしょ?」

果林「……わかったわ」

愛「交渉成立だね~♪ これからはカリンの駒として、せっせと働いてあげるよ」

果林「……信用してるわ、愛」

愛「へいへい、任せろ~」


愛は何やら企んでいるようだけど……私の目的を邪魔するつもりがないならいい。

私は愛と協定を結んだ。





    👠    👠    👠





──私たちのチームは、璃奈ちゃんと彼方がいなくなり、愛が事実上の除名。副隊長候補だった遥ちゃんも居なくなったため……新しく入る姫乃という女の子を“MOON”に据え、二人──プラス愛──で動かすことになった。

574: ◆tdNJrUZxQg 2023/01/03(火) 12:56:55.61 ID:Sh64zN700

姫乃「──よ、よろしくお願いします!」

果林「よろしく、姫乃」

姫乃「あ、あの……」

果林「何かしら?」

姫乃「私、果林さんにずっと憧れていたんです……それで、組織に入っていつか一緒に働ければと思っていて……」

果林「そうだったの……ありがとう」

姫乃「果林さんも……“闇の落日”でご家族を失ったと聞きました……。……実は私も……それで孤児になって……」

果林「……大変な思いをしたのね……」

姫乃「いえ……それでも果林さんは世界を救うために、戦っていると聞いて……私も果林さんのお力になりたいと……ずっと思っていました……」

果林「……そう思ってくれて、嬉しいわ……」


この子はきっと──愛や璃奈ちゃんや彼方とは違う……。

大切な何かを選ぶためなら……優先順位の低い物を切り捨てられる子……直感で、そんな気がした。

きっと──この子は使える。信頼を得ておいた方がいい。

信頼を得るには……自己開示かしらね。


果林「……姫乃」

姫乃「な、なんでしょうか」

果林「これから一緒に戦う仲間だから……貴方には、私が……あの夜に見たものを、先に……話しておこうと思って……」

姫乃「か、果林さん……は、はい……」


私はもう……日和らない……。

世界を……私の守るべき世界を……救う。

そのために手段なんか……選ばない……。





    👠    👠    👠





──姫乃は優秀だった。

研究班として入ってきたが、もともと戦闘の腕もそこそこ立つ子だったし、二人体制になったことを知った瞬間、すぐに戦闘訓練に熱心に取り組み始め、あっという間に実行部隊のトップ2になった。

私たちはすぐにでも計画を実行したかったけど──問題があった。

それは、あの時点で“MOON”であった彼方が、コスモッグを持ち逃げしていたことだった。シップを撃墜した際に、落ちてしまったコスモッグを回収しないと、エンジンエネルギーの充填の問題でウルトラスペース内を自由に行き来しづらくなる。

そこで愛がコスモッグの持つエネルギーを探知する装置を作り出し──コスモッグを探すことになり、この作戦は星の子に準えて、コードネーム“STAR”と名付けられた。

そして、肝心の“STAR”の行き先は──


愛「……ああ、これ……アタシたちが滅ぼそうとしてる世界だね」


とのことだった。


果林「なら丁度いいわね……。確か、世界そのものに穴をあけるためには、ウルトラビーストをその世界に呼び込んで、大量のウルトラホールをあければいい……って話だったわよね?」

愛「そうそう。ただ、そのためにあっちこっちの世界からウルトラビーストを探すための航行エネルギーが必要だかんね。コスモッグは2匹欲しいってわけ」

575: ◆tdNJrUZxQg 2023/01/03(火) 12:57:43.90 ID:Sh64zN700

「別に地道に待っても3~4年くらい待てば不自由ないくらい集まる気はするけどね~」と付け加えながら。

──しかし、とある問題が起こった。

それは──


愛「……んー……“STAR”の反応……消えたね……」


目的の世界に来たときには、“STAR”の反応が消えてしまっていたということだ。

──痕跡はあったから、間違いなくこの世界にはいるはず……とのことだったけど……。

こっちの世界に来てからすぐに、フェローチェの毒を使い、モデル事務所をコントロールして資金を集めながら……私たちは“STAR”を探していた。

……そんなあるとき──偶然訪れた、コメコシティでのことだった。


果林「……のどかな町ね……」


右を見ても、左を見ても、大きな建物がないけど……とにかく牧場が広い。

このゆったりした空気は、私の故郷に似ている気がして、居心地がいい気がした。

そのとき、ふと──


果林「……え……?」


視界の先に、彼女は、居た。

オレンジブラウンのロングヘアーに、トロンと垂れた眠そうな瞳。見間違えるはずがない。

私が苦楽を共にした家族……。


果林「……彼方……」


彼方が前方から歩いてきていた。


果林「彼方……っ……!」


あのとき、私が手に掛けてしまったと思っていたけど……生きていたんだ。

私は感情が抑えきれず、彼方に向かって駆けだしていた。


彼方「……あ!」


彼方も私に気付いたように、駆けてくる。

どんどん近付き、私は彼方を抱きしめようとした──のに、


彼方「花陽ちゃーん! 今日もしかして、新米入ったの~?」

花陽「あ、彼方さん! はい、今日は新米が入りました! やっぱり、お米は新米だよね!」


彼方は──私に気付かず、私の横を……すり抜けていった。

──彼方は、私を……覚えていなかった。


果林「………………」

576: ◆tdNJrUZxQg 2023/01/03(火) 12:58:48.24 ID:Sh64zN700

──そっか……。……シップごと……墜落したんだもの。

記憶がなくなっているくらいのことはあっても、なんらおかしくない。

だけど……。

このとき私は、思ってしまった。

──噫、私は……彼方にとって、忘れられる存在だったんだ、と。

忘れても……大丈夫な存在だったんだと……。

思ってしまった。


果林「……ふふ。……そっか」


そのとき──私の心の中で、大切にしまっていた何かが……壊れてしまった気がした。

このときを最後に、私はもう……本当に自分で自分を止めることが……出来なくなってしまった気がした。


──
────
──────
────────



私には……もう味方なんて、いらない……。

私はただ……自分の大切なものを守るために……選ぶだけ。

ただ、そのために……戦うことを選んだから。


果林「全部……壊してあげる……」


私は眼下の侑と歩夢を、自分の邪魔をする全てのものを……排除する。




577: ◆tdNJrUZxQg 2023/01/03(火) 13:00:32.66 ID:Sh64zN700

    🍞    🍞    🍞





彼方「……彼方ちゃんが覚えてるのは……シップが撃墜された、その瞬間まで……。……その後、コメコに“Fall”として落ちてきて……エマちゃんに助けてもらった後はエマちゃんも知ってるとおりかな」

エマ「……そっか」

彼方「聞いてみて……どう……思った? ……きっとね……果林ちゃんをあそこまで極端にさせちゃった原因は……わたしにあると思うんだ」

遥「お姉ちゃん……」


彼方ちゃんはそう言って声を沈ませるけど……。


エマ「……違うよ」


わたしはそうは思わなかった。


エマ「彼方ちゃんの優しさも……果林ちゃんの優しさも……どっちも間違ってなんかないよ。お互いの優しさが……ボタンの掛け違いみたいになっちゃっただけ……」

彼方「エマちゃん……」

エマ「今でもきっと……果林ちゃんの心のどこかに、彼方ちゃんと仲直りしたいって気持ち……きっとあると思う。前みたいに、家族に戻りたいって気持ち、あると思う」

彼方「……うん」

エマ「優しさがすれ違ったままなんて……悲しすぎるよ……。でも……果林ちゃんはもう自分の力じゃ止まれない……だから、誰かが止めてあげないと……」


大切な家族同士が……こんな形で争うなんて、悲しすぎるから。


エマ「だから、行こう……! 果林ちゃんを止めに……!」




578: ◆tdNJrUZxQg 2023/01/03(火) 13:01:01.92 ID:Sh64zN700

>レポート

 ここまでの ぼうけんを
 レポートに きろくしますか?

 ポケモンレポートに かきこんでいます
 でんげんを きらないでください...


【ウルトラキャニオン】
 口================== 口
  ||.  |○         o             /||
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 主人公 エマ
 手持ち ゴーゴート♂ Lv.40 特性:くさのけがわ 性格:むじゃき 個性:ねばりづよい
      パルスワン♂ Lv.43 特性:がんじょうあご 性格:ゆうかん 個性:かけっこがすき
      ガルーラ♀ Lv.44 特性:きもったま 性格:おっとり 個性:のんびりするのがすき
      ミルタンク♀ Lv.41 特性:そうしょく 性格:おとなしい 個性:たべるのがだいすき
      ママンボウ♀ Lv.40 特性:いやしのこころ 性格:ひかえめ 個性:とてもきちょうめん
      エルフーン♀ Lv.40 特性:いたずらごころ 性格:れいせい 個性:ぬけめがない
 バッジ 1個 図鑑 未所持

 主人公 彼方
 手持ち バイウールー♂ Lv.79 特性:ぼうだん 性格:のんてんき 個性:ひるねをよくする
      ネッコアラ♂ Lv.77 特性:ぜったいねむり 性格:ゆうかん 個性:ひるねをよくする
      ムシャーナ♀ Lv.78 特性:テレパシー 性格:おだやか 個性:ひるねをよくする
      パールル♀ Lv.76 特性:シェルアーマー 性格:おとなしい 個性:ひるねをよくする
      カビゴン♀ Lv.80 特性:あついしぼう 性格:わんぱく 個性:ひるねをよくする
      コスモウム Lv.75 特性:がんじょう 性格:なまいき 個性:ひるねをよくする
 バッジ 0個 図鑑 未所持


 エマと 彼方は
 レポートに しっかり かきのこした!


...To be continued.