侑「ポケットモンスター虹ヶ咲!」 Part2 その6

579: ◆tdNJrUZxQg 2023/01/04(水) 13:05:50.39 ID:2N444K9g0

■Chapter068 『決戦! DiverDiva・果林!』 【SIDE Ayumu】





果林「──キュウコン!! “かえんほうしゃ”!!」
 「コーーーンッ!!!!!」


またしても、崖の上からこちらに向かって火炎が降ってくる。


歩夢「エースバーン! “かえんボール”!!」
 「──バーースッ!!!」


ボールから出したエースバーンが真上に向かって、火の玉を蹴り出し、キュウコンの炎と相殺させる中、


侑「フィオネ! “みずあそび”!」
 「フィオ~♪」


フィオネが周囲に大量の水をばら撒き、私たちを包囲していた“ほのおのうず”を消火する。


侑「歩夢!」

歩夢「うん!」


侑ちゃんが私の手を取り、走り出す。


果林「待ちなさい……!! “かなしばり”!!」
 「コーーンッ!!!」


果林さんは逃げ出す私たちの動きを止めようと、“かなしばり”を放ってくるけど、


侑「ニャスパー!! “マジックコート”!!」
 「──ニャーーッ!!!」

果林「ぐっ……!?」
 「コーーンッ…!!?」


侑ちゃんとニャスパーがそれを反射して、逆に果林さんたちの動きを止める。


リナ『侑さんナイス判断!』 || > ◡ < ||

侑「今のうちに一旦距離を取ろう……!」

歩夢「うん!」


侑ちゃんに手を引かれながら、必死に足を動かしていると──


果林「ぐ……っ……ファイ、アロー……!! “ブレイブバード”……!!」

 「キィーーーーッ!!!!!!」


上空からファイアローが猛スピードで急襲してくる。


歩夢「ウツロイド! “パワージェム”!!」
 「──ジェルルップ…」

 「キ、キィーーーッ!!!」


そのファイアローをウツロイドが相性的にかなり有効な、いわタイプの技で牽制する。

ファイアローは目にも止まらぬスピードで身を翻しながら、“パワージェム”を回避するけど、なかなか近寄れず空中を旋回し始める。


侑「そういえば、歩夢……そのポケモン……ウルトラビーストだよね……?」

580: ◆tdNJrUZxQg 2023/01/04(水) 13:06:30.08 ID:2N444K9g0

二人で逃げる中、侑ちゃんがウツロイドを見ながら、そう訊ねてきた。


歩夢「あ、うん、ウツロイドって言うんだよ」
 「──ジェルルップ」

リナ『ウツロイド きせいポケモン 高さ:1.2m 重さ:55.5kg
   謎に 包まれた UBの 一種。 ポケモンや 人間に 寄生し
   寄生された 生物が 暴れだす 姿が 目撃されている。 意思が
   あるかは 不明だが 時折 少女の ような 仕草を みせる。』

リナ『きせいポケモンって言われてるみたいだけど……平気なの……?』 || 𝅝• _ • ||

侑「…………」


侑ちゃんとリナちゃんが少し不安げな表情をするけど──


歩夢「この子はそんな怖い子じゃないよ。ね、ウツロイド」
 「──ジェルルップ」


ウツロイドは私の言葉に答えるように、触手を持ち上げて返事をする。


歩夢「ウツロイドたちは怖いポケモンなんかじゃなくて……ちょっぴり“おくびょう”なだけなの……」
 「──ジェルルップ」


私は──しずくちゃんに崖から突き落とされたときのことを思い出しながら、侑ちゃんたちに説明を始めた。



──────
────
──


歩夢「──しずくちゃん……!! 絶対、絶対、侑ちゃんたちが助けに来てくれるから……!! だから──んぅっ、」


全身をウツロイドの触手に絡め取られ──私は一瞬で引き摺り込まれ、口元も視界も覆われて──目の前が真っ暗になった。

──このまま、毒を注入されちゃうのかな……そう思ったとき。


 「──ジェルルップ…」「──ベノメノン…」「──ジェルップ…」

歩夢「…………?」


ウツロイドの触手は、私の身体をまさぐっているけど……なかなか毒を注入するような気配がない。

──もしかして……? 私がなんなのかを……確認してる……?


歩夢「…………」


全身をまさぐる触手が、私の手の平に触れたとき──思い切って、優しく握ってみると……。


 「──ジェルルップ」


ウツロイドは鳴き声をあげながら、私の手に触手を巻き付けてくる。

反応してる……──返事……してる……?

しずくちゃんはウツロイドには強力な神経毒があって危険と言っていたけど……ウツロイドは崖上から私たちが見ていても、近寄ってきて攻撃するようなことはなかった。


歩夢「………………」


もしかして──この子たちが危険なウルトラビーストだって言うのは……毒にやられた人間が勝手に言っているだけなんじゃないか。

調査と称して、自分たちに突然近付いてきた人間に驚いて……毒で自分たちを守っているだけなんじゃ……。


歩夢「…………ん、むぅ……」

581: ◆tdNJrUZxQg 2023/01/04(水) 13:07:08.76 ID:2N444K9g0

刺激しすぎないように、僅かに口をもごもごと動かすと──


 「──ジェルップ…」


口を塞いでいた触手が少しだけ浮く。


歩夢「…………そっか……君たちは……本当は、怖かっただけなんだね……」
 「──ジェルルップ…」「──ベノメノン…」「──ジェルップ…」

歩夢「……ごめんね。……急に人が落ちてきたら……びっくりしちゃうよね。……攻撃されたのかなって思っちゃうよね……ごめんね……」
 「──ジェルル…」「──ベノメ…」「──ジェルルップル…」

歩夢「……大丈夫だよ。……私は君たちに怖いこと、したりしないから……」


ウツロイドの触手を優しく握って、頬に寄せる。


 「──ジェルルップ…」

歩夢「……ちょっとひんやりしてる……」
 「──ジェルル…」

歩夢「……うん。……大丈夫だよ、怖くない……私は君たちの味方だよ……」
 「──ジェルルップ…」「──ベノメノン…」「──ジェルルル…」


──
────


結局ウツロイドは、私に何もしなかった。

そのままゆっくりと洞窟の地面に、私を降ろしてくれた。


歩夢「ありがとう、ウツロイド」
 「──ジェルルップ…」


私は地面に横たわり、未だ視界を埋め尽くすウツロイドたちを見ながら考える。

……恐らくこの後、毒で動けなくなるはずの私を、しずくちゃんたちが回収しにくるはず……。

なら、そのときを見計らって脱出を──そこまで考えて、首を振る。


歩夢「……だ、ダメ……それじゃ、しずくちゃんが果林さんに何されるか……」
 「──ジェルルップ…」

歩夢「あ、ご、ごめんね……ちょっと考えごとしてて……」


私が首を振る動作でウツロイドを少し驚かせてしまったようだ。

もう一度、優しくウツロイドの触手を握って頬を寄せる。


 「──ジェルル…」


すると、私が今接しているウツロイドが、私の頭にすっぽりと覆うように、頭に取り付いてくる。


歩夢「……その場所が落ち着くの?」
 「──ジェルルップ…」

歩夢「ふふ、わかった」
 「──ジェルル…」


ウツロイドも落ち着いたようだから、また考え始める。

……それにしても、こんな風に頭をすっぽり覆われた状態で、横たわっていたら……見た人は絶対、私が寄生されたって勘違いするよね……。


歩夢「……あ……」

582: ◆tdNJrUZxQg 2023/01/04(水) 13:08:26.76 ID:2N444K9g0

そうだ……勘違いしてもらえばいいんだ……。

もともと、寄生されている状況を狙っているわけだし……。


歩夢「……ウツロイド、しばらくの間……私の頭にくっついたままでいてもらってもいい?」
 「──ジェルルップ…」


どちらにしろ……私はこの洞窟から逃げる術もない……。

脱出の機会を伺うために、私は一旦寄生されたフリをすることにした。


──
────


ウツロイドたちの中で、横になったままじっとしていたら……気付けば眠ってしまっていた。

これだけ密集している状態は暑そうに思えるけど……ウツロイドの体はひんやりとしていて、なんだか心地よくて……。

我ながら能天気かも……と思いながら、寝起きのぼんやりとした頭のまま、引き続きその場で倒れたフリをしていると──


しずく「──……歩夢さん……」


しずくちゃんの声が近くで聞こえてきて──直後、抱き起される。


しずく「……歩夢さん……可哀想に……」


そのまま、しずくちゃんが私に頬を寄せて抱きしめてくる。

正直、肝が冷えた。寄生されているフリをしていることがバレないようにと、必死に息を殺していた、そのときだった──


しずく「──…………そのまま、寄生されたフリを続けてください」

歩夢「……!」


私の耳元で、私にしか聞こえないような小さな囁き声で、しずくちゃんが話しかけてきた。


しずく「…………絶対に、歩夢さんが逃げるタイミングを作り出します……それまで、私が歩夢さんと歩夢さんの大切なものはお守りします……ですので、どうかそのときが来るまで……耐えてください」

歩夢「…………」


──しずくちゃんはフェローチェに操られてなんかいない。その言葉だけで十分に理解出来た。

私はしずくちゃんの言葉に無言で肯定の意を示した。


──
────
──────



歩夢「──……だから、ウツロイドは私を助けてくれたお友達なんだよ」
 「──ジェルルップ…」


私の言葉を受けて、


リナ『……確かに、ウツロイドの神経毒には、宿主にウツロイド自身を守らせように心理誘導する作用が含まれてるらしい。強力な毒はあくまで外敵から身を守る手段でしかないというのは、歩夢さんの考えてるとおりなのかも』 || ╹ᇫ╹ ||


リナちゃんがそう補足してくれる。

583: ◆tdNJrUZxQg 2023/01/04(水) 13:09:03.22 ID:2N444K9g0

侑「とにかく、信用出来る歩夢の友達ってことだね!」

歩夢「うん!」

侑「歩夢がそう言うなら信じるよ! 一緒に戦って! ウツロイド!」

 「──ジェルルップ…」





    👠    👠    👠





果林「……く……! ……うご……きな、さい……!!」


全身に力を込めて、無理やり“かなしばり”を解除する。

崖の下に目を向けると──侑と歩夢から結構な距離を離されてしまっていた。

──果林、落ち着きなさい。

心の中で自分に落ち着くように促す。

あんな初歩的な反射技に引っ掛かるなんて、さすがに頭に血が上り過ぎている。

一度深く息を吸ってから──ピューイッ! と指笛を吹いて、ファイアローを呼び戻す。


 「キィーーーーッ!!!」


ファイアローがこちらに向かって切り返してきたのを確認して──私は崖から飛び降りた。


 「キィーーーーッ!!!!」


落下しながら、私を拾いに来たファイアローの脚を掴み──逃げた二人を追いかけて飛行を開始する。


果林「キュウコン、付いてきなさい!」

 「コーーーンッ!!!!」


指示を聞いて、崖を駆け下りるキュウコンと共に、私は猛スピードで追跡を始めた。





    🎹    🎹    🎹





侑「はぁ……はぁ……! ここまでくれば……!」

歩夢「はぁ……はぁ……う、うん……!」

リナ『距離は十分に取れた!』 || ˋ ᇫ ˊ ||


──高所から一方的に攻撃されるのを避けるために、それなりに距離を離した。

でも、振り返ると──ファイアローに掴まった果林さんが猛スピードで追い付いてきているところだった。


リナ『もう、追い付いてきた……!?』 || ? ᆷ ! ||

果林「ファイアロー!! “だいもんじ”!!」
 「キーーーーッ!!!!」


ファイアローが口から特大の炎を噴出する。

584: ◆tdNJrUZxQg 2023/01/04(水) 13:09:38.08 ID:2N444K9g0

侑「く……! フィオネ!! “ハイドロポンプ”!!」
 「フィーーーオーーーッ!!!!」


“ハイドロポンプ”を発射し、“だいもんじ”を相殺しようとするけど──ジュウウウッと音を立てながら、水がどんどん蒸発していく。

それに加えて──


 「──コーーーンッ!!!!」


地面を駆けながら追い付いてきたキュウコンも加勢の“だいもんじ”を発射してくる。

──2匹分の“だいもんじ”を受けきるのは無理……!?

そう思った瞬間、


歩夢「トドゼルガ!! “ハイドロポンプ”!!」
 「──ゼルガッ!!!」


キュウコンの火炎に対して、歩夢のトドゼルガが“ハイドロポンプ”で対抗する。

が、


歩夢「と、トドゼルガ、頑張って!」
 「ゼルガァァァァ!!!!!」


トドゼルガの水流はキュウコンの火炎に押され始める。

いや、歩夢だけじゃない。


 「フィーーーーーッ!!!!!」


私たちもファイアローの炎に負けそうになっている。


侑「く……イーブイ!! “どばどばオーラ”!!」
 「イーーブィッ!!!!」


肩の上から飛び跳ねたイーブイが周囲に相手の特殊攻撃を半減するオーラを発生させ──それでやっと拮抗し始める。


侑「これなら……!!」


──防ぎきれると思った瞬間、


 「キィーーーーッ!!!!」

侑「……!?」


ファイアローが自身で出した炎を突っ切り、“ハイドロポンプ”を掠めるように躱しながら、突っ込んできた。


果林「──“フレアドライブ”!!」
 「キィーーーーッ!!!!」

侑「くっ!? “ブレイククロー”!!」
 「ウォーーーーッ!!!!」


咄嗟にウォーグルへ指示。ウォーグルが大きな猛禽の爪を薙ぐが──ウォーグルの爪を掠めるように、ファイアローが宙返りで回避する。


 「ウォーグッ!!!?」


爪を空振り驚くウォーグル。しかも──その宙返りをしているファイアローの脚に、果林さんの姿がなかった。

直後──ズサァッと音を立てながら、私のすぐ横を果林さんが滑り抜けていく。


侑「な……!?」

585: ◆tdNJrUZxQg 2023/01/04(水) 13:10:32.87 ID:2N444K9g0

ファイアローが宙返りをする瞬間に手を離して、その勢いのまま私の背後に回り込みながら、


果林「“つばめがえし”!!」

 「キィーーーーーッ!!!!」

 「ウォーーーグッ…!!!?」
侑「ウォーグルっ!?」


炎を身に纏ったまま、切り返してきたファイアローがウォーグルに突撃し、さらに──


果林「バンギラス!! “じしん”!!」
 「──バンギッ!!!」


背後でボールから飛び出したバンギラスが、“じしん”によって大地を激しく揺らす。


侑「うわぁ……!?」


あまりの激しい揺れに立っていることもままならず、私は尻餅をつかされ、


歩夢「きゃぁっ……!?」


背後で歩夢も転倒し、二人で背中合わせで蹲ったまま動けなくなってしまう。

バランスを崩したのは私たちトレーナーだけでなく、


 「ゼルガァ…ッ」
歩夢「と、トドゼルガ……!!」


キュウコンと攻撃を撃ち合っていたトドゼルガも例外ではなく、大きな揺れで狙いが逸れてしまったのか、消火しきれなくなった“だいもんじ”が迫ってくる。

だけど、トドゼルガは──


 「ゼルガァッ!!!!」


むしろ自分から盾になるように“だいもんじ”突っ込んでいく。


歩夢「トドゼルガ!?」
 「ゼルガァァァ!!!!」


私たちに攻撃が届かないように、特性“あついしぼう”で炎を受け止めながら冷気を発して対抗する。

ただ、その間にも、


リナ『侑さん!! 攻撃が来るよ!?』 || ? ᆷ ! ||

侑「……!?」


果林さんは待ってなどくれない。


果林「“ばかぢから”!!」
 「バンギィッ!!!!」


バンギラスが両腕を振り上げ、蹲る私たちに向かって──力任せに振り下ろしてくる。


侑「歩夢ッ……!!」

歩夢「きゃっ!?」


揺れる大地で満足に動けないながら、私は背後の歩夢に跳び付くようにして、その場から離脱しようとする。

どうにか振り下ろされる腕そのものは回避できたけど──バンギラスのパワーで、大地が割れ砕け、その衝撃で、

586: ◆tdNJrUZxQg 2023/01/04(水) 13:11:09.86 ID:2N444K9g0

侑「っ゛……!!」

歩夢「きゃぁぁぁぁっ!!!」


歩夢ともども吹き飛ばされる。


歩夢「ふ、フラージェス!! “グラスフィールド”!!」
 「──ラージェス」


歩夢が咄嗟にフラージェスに“グラスフィールド”を指示し、私たちは敷き詰められた草の絨毯の上を転がる。


侑「つぅ……っ……」

歩夢「侑ちゃん、平気……!?」

侑「お、お陰様で……みんなは……?」
 「ブ、ブィ…」「ニャー…」「フィー…」

 「バース…」「──ジェルルップ…」


イーブイ、ニャスパー、フィオネ、エースバーンもどうにか無事。ウツロイドは浮遊して逃げていたらしく、歩夢のそばにふわふわと降りてくる。

ただ、


 「ウォ、ウォーグ…」


先ほどのファイアローの攻撃ですでに戦闘不能になっていたウォーグルと、


 「ゼルガァァァ…!!!」


私たちの盾になって、“あついしぼう”でどうにか炎を受けきったトドゼルガは、体力が限界だったのか、その場に崩れ落ちる。


歩夢「戻って、トドゼルガ……!」
 「ゼルガ──」

侑「戻れ、ウォーグル……!」
 「ウォーグ──」

リナ『侑さんっ!! 歩夢さんっ!! また来てる!?』 || ? ᆷ ! ||

 「キィーーーーッ!!!!!」

 「コーーーンッ!!!」

侑「っ……!?」

歩夢「……!!」


──本当に息つく暇がない……!


侑「ニャスパー!! サイコパワー全開!!」
 「ウニャーーッ!!!」

 「キィッ…!!!」


ニャスパーのサイコパワーを全開にし、発生した念動力の衝撃波をファイアローに向けて発射すると、ファイアローは押し返されるようにして、後ろに逃げていく。

そして、飛び掛かってくるキュウコンは、


歩夢「ウツロイド! “パワージェム”!!」
 「──ジェルップ」

 「コーーンッ…!!!?」


歩夢のウツロイドが迎撃して吹き飛ばす。


 「…コーーーンッ…!!!」

587: ◆tdNJrUZxQg 2023/01/04(水) 13:12:00.02 ID:2N444K9g0

それでもキュウコンは、全身の毛を逆立てながらすぐに立ち上がる。


リナ『“じしん”のダメージもあるはずなのに、すごいタフ……』 || > _ <𝅝||

侑「……歩夢、立てる……?」

歩夢「う、うん……!」


歩夢の手を取りながら、私たちは立ち上がるけど──


 「コーンッ!!!!」

 「キィーーーッ!!!!」

 「バンギィッ…!!!」


気付けば、あっという間に三方向から敵に囲まれてしまっていた。

さらに、ダメ押しとばかりに──果林さんの胸にあるネックレスが光を放つ。


果林「バンギラス、メガシンカ」
 「バンギラァァスッ!!!!!!」


バンギラスが光に包まれ──頭の角や、両肩、尻尾のトゲがより攻撃的に鋭く伸び、岩の鎧が全身を覆い、より攻守に優れた姿へとメガシンカする。

そして、それと同時に、周囲が激しい“すなあらし”に包まれる。


果林「……二人掛かりでなら勝てるとでも思ったのかしら?」

侑「く……」

果林「大人しくしていれば、痛い目に遭うこともなかったのにね……」


完全に果林さんの強さに圧倒されてしまっている。

どうにか態勢を立て直さないと……!

そのとき──歩夢がギュッと私の手を握ってくる。


侑「……!」

歩夢「侑ちゃん、落ち着いて」


そうだ……落ち着け。

焦ったまま戦っちゃダメだ……。

──果林さんのやろうとしていることを、冷静に考えてみるんだ……。

果林さんが積極的にやっていること、それは──包囲だ。

攻撃やポケモンを配置することによって、相手を包囲することを優先した戦い方をしている気がする。

理由は恐らく──歩夢だ。

果林さんにとって今一番困るのは、私が歩夢を連れて逃げ去ること。

果林さんの計画のために、現状最も重要なピースになっているのが歩夢だからだ。

なら今すべきことは包囲網を崩すこと──


侑「歩夢……バンギラス相手に時間、稼げる?」

歩夢「ちょっとなら……!」

侑「わかった、任せる……!」

歩夢「うん!」

588: ◆tdNJrUZxQg 2023/01/04(水) 13:12:42.87 ID:2N444K9g0

私は──キュウコンに向かって走り出す。

今包囲網を抜ける方法があるとしたら──狙うべきは手負いのキュウコンから……!!


果林「バンギラス!!」
 「バァンギッ!!!!」


もちろん、果林さんも簡単にそれをさせないように動くはず。


歩夢「ウツロイド!! “パワージェム”!!」
 「──ジェルルップ…」


動き出そうとするメガバンギラスに向かって、ウツロイドが攻撃を放つけど──宝石のエネルギー弾は、“すなあらし”に阻まれてほとんどが掻き消えてしまう。


果林「効かないわよ、そんな攻撃じゃ……!」
 「バァンギッ!!!」


そこに向かって──歩夢が他の手持ちのボールを放つ。


果林「“ストーンエッジ”!!」
 「バァンギッ!!!!」


歩夢のポケモンがボールから飛び出すと同時に、そこに鋭い岩が突き出てくるけど──岩が貫いた場所からは、ベシャッと粘性の高い音が鳴る。


果林「……!?」

歩夢「マホイップ!! “マジカルシャイン”!!」
 「マホイップッ!!!」


“とける”で攻撃を防いだマホイップが相性の良いフェアリー技を激しく閃光させる。


 「バァンギッ…!?」
果林「く……!?」

歩夢「フラージェス! “ムーンフォース”!!」
 「ラージェス!!!」

 「バンギッ…!!」


フェアリー技で畳みかけ、


歩夢「エースバーン!! “とびひざげり”!!」
 「バーーーースッ!!!!」

 「バンギッ…!!?」


エースバーンが怯んだメガバンギラスの頭部を蹴り飛ばす。

効果抜群の相性で有利な展開を取ったように見えたが、


 「バンギッ!!!!」


バンギラスは根性で仰け反った体を戻しながら、エースバーンに“ずつき”をかまして反撃する。


 「バーーースッ…!!!?」


反動の乗った反撃にエースバーンの体が宙を舞う。


歩夢「え、エースバーン!? 戻って!!」


歩夢がエースバーンをボールに戻す。無傷とはいかなかったけど──隙は十分作ってくれた……!!

589: ◆tdNJrUZxQg 2023/01/04(水) 13:13:13.02 ID:2N444K9g0

侑「フィオネ、“みずあそび”! イーブイ、“いきいきバブル”!」
 「フィーーーッ」「ブーーイィッ!!!」


フィオネが周囲に水をまき散らし、イーブイが周囲に泡を展開させる。


 「コーーーンッ!!!!」


それによって、キュウコンの“だいもんじ”の威力を軽減しつつ──


侑「ドラパルト!! “ドラゴンアロー”!!」
 「──パルトッ!!!!」
 「メシヤーーーッ!!!!!」「メシヤーーーッ!!!!!」


ドラパルトをボールから繰り出すと共に、音速で発射されたドラメシヤたちが、威力の下がった“だいもんじ”を突っ切り──


 「コーーンッ…!!!?」


火炎の向こうであがるキュウコンの鳴き声が、“ドラゴンアロー”の直撃を知らせてくれる。

よし……!

そして、


 「キィーーーッ!!!!」

侑「ニャスパー! パワー全開!! “サイコキネシス”!!」
 「ウニャーーーッ!!!」


横から迫ってくるファイアローをサイコパワーで牽制する。


 「キ、キィーーーッ!!!!」


またしても、ファイアローはサイコパワーの風を前にすると、後ろに退避していく。

やっぱりそうだ……! ファイアローはさっきから、攻撃を避けることを優先していた。

最初からファイアローは包囲網の維持を優先するように指示を受けているということだ。

メガバンギラスとファイアローを牽制し、キュウコンを撃退した。


侑「ドラパルト! “ハイドロポンプ”!!」
 「パルトォーーーッ!!!!」


私は威力の弱まった“だいもんじ”にダメ押しの水流をぶつけて消火し、道を作りながら、


侑「歩夢!! こっち!!」


歩夢を呼び寄せる。


歩夢「うん!」


歩夢は頷きながら踵を返して、私の方へと走り出す。

が、それと同時に、


果林「バンギラス!! “いわなだれ”!!」
 「バンギィッ!!!」


態勢を立て直したメガバンギラスが“いわなだれ”を発生させ、それが歩夢に迫る。


侑「ニャスパーッ!! “テレキネシス”!!」
 「ウニャ---ッ!!!」

590: ◆tdNJrUZxQg 2023/01/04(水) 13:13:54.01 ID:2N444K9g0

すぐさま、ニャスパーでサポートするけど──岩の量が多すぎて、全ての岩を浮遊させきれない。


侑「ドラパルト!! “りゅうのいぶき”!!」
 「パルトォーーーーッ!!!」


ドラパルトが少し上に浮遊しながら撃ち下ろす形で、歩夢の背後の岩をピンポイントで吹き飛ばし──私は歩夢に向かって両手を広げる。


侑「歩夢!! 跳んで!!」

歩夢「侑ちゃん……!!」


歩夢が岩に巻き込まれる寸前で踏み切って、私の胸に飛び込んでくる。

歩夢を抱き留めた瞬間──地面から巨大な樹が生えてきて、“いわなだれ”を塞き止めた。


侑「はぁ……せ、セーフ……」
 「イッブィ!!」

歩夢「この樹……“すくすくボンバー”……?」

侑「うん、そうだよ」


間一髪、仕込んでおいた“すくすくボンバー”で“いわなだれ”を凌ぎきったけど、またすぐに追撃が来るはずだ。


侑「歩夢、行こう!」

歩夢「うん!」


歩夢の手を引きながら再び走り出した瞬間──


リナ『侑さん! 上!?』 || ? ᆷ ! ||

侑「上!?」

果林「──サザンドラ!! “りゅうせいぐん”!!」
 「サザンドーーーーラッ!!!!!」


サザンドラの背に乗った果林さんが指示を出すと──大量の“りゅうせいぐん”が降り注いでくる。


歩夢「侑ちゃん! 下がって!!」


歩夢が一歩前に出て、


歩夢「マホイップ! “ミストフィールド”! フラージェス! “ムーンフォース”!」
 「マホイ~~」「ラージェスッ!!!」


マホイップがドラゴンタイプの攻撃を半減するフィールドを展開し、フラージェスが月のパワーを放出し、落ちてくる流星に向かって発射する。

“ムーンフォース”が直撃すると、流星はエネルギーを失い、バラバラの塵になって消滅する。

そもそも、フェアリータイプにはドラゴンタイプの攻撃は効果がないから、マホイップやフラージェスのパワーでも十分対抗出来ている。

なら私は──


 「キィーーーーッ!!!!」

侑「後ろだ……!! “ドラゴンアロー”!!」
 「パルトッ!!!!!」
 「メシヤーーーッ!!!!!」

 「キィーーーーッ…!!!!?」

果林「……!」


後ろから急襲してきたファイアローを一点読みで撃ち落とし──

591: ◆tdNJrUZxQg 2023/01/04(水) 13:15:05.87 ID:2N444K9g0

 「メシヤーーーーッ!!!!」


もう1匹のドラメシヤはグンと軌道を変え、サザンドラに向かって突っ込んでいく。

が、


果林「“りゅうのはどう”!!」
 「サザンドーーーラッ!!!!!」

 「メ、メシヤーーーーッ!!!!!?」


そちらは攻撃失敗。迎撃されて、吹っ飛んできたドラメシヤをボールに戻し、他のドラメシヤをボールから出してドラパルトに装填する。


果林「……読まれた……?」


果林さんは戦闘不能になったファイアローに向かってボールを投げ、控えに戻しながら、怪訝な顔をする。

──包囲を優先する動きからして、サザンドラを見た瞬間、ファイアローは背後に回してくると思った。


果林「……ふふ、そういうこと……」


果林さんが含むように笑う。


果林「侑、貴方──ずっと、私の出方を伺ってたのね……」

侑「…………」

果林「考えてみれば当然よね……。意識を失った歩夢を助け出したとしても……フェローチェの速度からは逃げられないものね」


そう、そもそもフェローチェの速度からは、まともに逃げる術がない。

だからこの戦いは元から、最低限フェローチェは倒さないといけない戦いだった。


果林「わざわざこの決戦の地まで来たのに……弱すぎると思ったのよ」

侑「果林さんが戦闘中に意識してることは──包囲、行動阻害、死角からの攻撃ですよね」


そして、果林さんもフェローチェが居れば、最悪歩夢を奪われても打開出来ると考えていたということ。

私たちにとって、今一番まずいシチュエーションは──フェローチェに追跡されながら、他の手持ちに包囲され、一網打尽にされることだった。

だから、とにかくフェローチェを出してくるタイミングに注意しながら、果林さんが戦闘をどう組み立てるのかを伺っていたというわけだ。


果林「観察タイプのトレーナー……嫌な相手ね。なら、ここからは──観察させずに倒さないとね」


──腹を決める。

ここからが本番だ。


侑「ライボルト!! メガシンカ!!」
 「──ライボッ!!!」


ボールから出したライボルトが光に包まれると同時に──


果林「“とびひざげり”!!」
 「──フェロ…ッ!!!!」


一瞬で目の前に現れたフェローチェの膝を、


侑「ライボルト!!」
 「ライボォッ!!!!」


ライボルトの目の前に黒い壁のようなものが飛び出して、攻撃を防いだ。

592: ◆tdNJrUZxQg 2023/01/04(水) 13:16:01.33 ID:2N444K9g0

果林「……!」


さあ、必殺技の解禁だ……!



──────
────
──


侑「──私の長所……ですか……?」

彼方「うん~。わたしも果南ちゃんも、侑ちゃんの短所にばっかり言及しちゃってたからね~。でも、短所に関しては、ここまでで十分補強できたから、ここからは長所をちゃんと理解してもらいたいなって思って」

侑「なるほど……。……それで、私の長所って……?」

彼方「前にも果南ちゃんがちょっと言ってたけど~……侑ちゃんが得意なのは戦局の見極めだね~。特にトレーナーが何をしようとしているのかを、見抜く力がある」

侑「確かに……前にダイヤさんからも似たようなことを言われました。トレーナーをよく見てるって……。……でも、それって結構基本的なことなんじゃ……」

彼方「確かに相手のやりたいことを考えて動くのは戦闘の基本だね~。でも、それが出来るトレーナーって意外と少ないんだよ~?」

侑「そう……なんですか……?」

彼方「バトル中って考えることがたくさんあるからね~。果南ちゃんやかすみちゃんはあんまりそういう組み立て方はしてないだろうし~……」


言われてみれば、あの二人は組み立てる戦いというよりも……自分たちの出来ることを無理やりにでも通すって戦い方かもしれない……。


彼方「そういう彼方ちゃんもそっちタイプではないし……千歌ちゃんとか穂乃果ちゃんも違うからな~……。……強いていうなら、せつ菜ちゃんが一番侑ちゃんに近いかも」

侑「え……!?」


思わぬところで、憧れのトレーナーの名前が出てきて驚く。


侑「せ、せつ菜ちゃん……?」

彼方「せつ菜ちゃんは純粋に頭が良い子みたいだから、たくさんの戦術を知ってるし……相手のポケモンやトレーナーの癖を考えながら、バトルを組み立てるタイプ。理論派って言うのかな? もちろん、ポケモンの鍛え方もトップクラスだから、彼方ちゃんも相手にするのは気が重いんだけどね~……」

侑「じ、じゃあ……私も長所を伸ばしていけば、せつ菜ちゃんみたいに……!」

彼方「ふふ、そうだね~。でも、この考え方を実行するには、出来なくちゃいけないことがあるのです!」

侑「出来なくちゃいけないこと……?」

彼方「それは、いなしと防御だよ~」

侑「いなしと……防御……?」

彼方「相手を観察する戦い方って、もともと戦ってる姿を見たことがある相手には最初から使えるけど……初めて戦う相手の場合、まず相手を観察しなくちゃいけないでしょ?」

侑「は、はい……それは確かに」

彼方「でも、戦いにおいて一番難しいのは、初めて見る攻撃を対処すること」

侑「なるほど……だから、いなしと防御が必要だと……」

彼方「そういうこと~。ただ、侑ちゃんのポケモンは防御が得意なポケモンばっかりじゃないよね。うぅん、どっちかというと苦手な部類かな」

侑「……そうかもしれません」


私の手持ちで出来る防御手段というと、イーブイのいくつかの“相棒わざ”とニャスパーのサイコパワーくらいだ。


彼方「そこで考えるのがいなし。例えば真っすぐ飛んでくる拳は~」


そう言いながら、彼方さんがこっちにゆっくり拳を向けてくる。

593: ◆tdNJrUZxQg 2023/01/04(水) 13:16:41.46 ID:2N444K9g0

彼方「真っすぐ拳をぶつけて相殺するより、上から叩いて攻撃を逸らす方が、少ないパワーで相手の攻撃を無力化できるよね?」

侑「はい」

彼方「じゃあ、これが炎だったらどうする~?」

侑「えっと、水で消火するとか……?」

彼方「うんうん。他には岩で火を遮ったり、風で進路を逸らしたり。攻撃を無力化する方法って実はいろいろあるんだ。これをいかに無駄なく、瞬時に選べるか……それがいなしの技術ってわけ。それを侑ちゃんには習得して欲しいってわけだよ~」

侑「なるほど」


どうやら私の長所は、相手の攻撃を防ぐ手段があってこそ真価を発揮するという話のようだ。

そんな中、ずっと話を黙って見ていたリナちゃんが、


リナ『でも、常に全部の攻撃をいなすのって難しくない?』 || ╹ᇫ╹ ||


そんな疑問を彼方さんにぶつける。


彼方「そうだね~。いなしが得意な人でも、全ての攻撃をいなすのは難しい。特に相手が速い場合や攻撃範囲が広い場合は、ほぼ無理かも。だから、いなしだけじゃなくて、どこかで防御も必要ってこと」

リナ『なるほど』 || ╹ᇫ╹ ||

侑「でも、私のポケモンじゃ、防御手段が……」

彼方「ふっふっふ……そこで彼方ちゃんの出番なわけですよ~」

リナ『どういうこと?』 || ? ᇫ ? ||

彼方「何を隠そう、彼方ちゃんは防御戦術の達人なのだ~。だから、これから侑ちゃんに新しい防御手段を授けよう~」

侑「お、お願いします……!」


──
────
──────



黒い盾はフェローチェの蹴撃を弾く。


 「フェロ…!!!」


着地し、一旦距離を取ろうとするフェローチェに向かって、


侑「“でんげきは”!!」
 「ライボッ!!!」


高速で広がる電撃で攻撃する。


果林「フェローチェ!!」
 「フェロッ……!!!!」


果林さんの呼び掛けと共に──フェローチェが一瞬で、果林さんの傍まで離脱する。


リナ『本来“でんげきは”は必中クラスになるはずの高速技なのに……』 || > _ <𝅝||

侑「相手がそれだけ速いんだ……そこは割り切ろう」
 「ライボ…!!!」


それよりも──ちゃんと実戦で成功した。

この黒い盾が、彼方さんと編み出した、私の防御手段の切り札だ……!


果林「一体どうやってるのかしら──ね!!」

 「フェローーーッ!!!!!」

594: ◆tdNJrUZxQg 2023/01/04(水) 13:17:27.97 ID:2N444K9g0

今度はフェローチェが真上から“とびかかる”で降ってくるが、


 「ライボッ!!!」

 「フェロ…!!!」


黒い盾が真上に移動し、フェローチェを弾く。フェローチェはまたすぐに反撃を受けないように離脱し、


果林「サザンドラ!! “りゅうのはどう”!!」
 「サザンドーーーラッ!!!!」


サザンドラがライボルトに向かって、“りゅうのはどう”を放ってくる。


歩夢「フラージェス!! “ムーンフォース”!!」
 「ラージェスッ!!!」


それを、フラージェスが“りゅうのはどう”を相殺する。

が、


 「バンギィッ!!!!」


メガバンギラスが前に飛び出し、ドラゴン技の防御に入っていたフラージェスを“アイアンヘッド”で叩き落とす。


 「ラージェスッ…!!?」
歩夢「フラージェス……!? も、戻って!!」


歩夢がフラージェスとボールに戻すのとほぼ同時に──


 「フェロッ」
歩夢「……!?」


歩夢の目の前にフェローチェが膝を引きながら、現れる。


 「ライボッ!!!」


そこに割り込むように飛び込んだライボルトが黒い盾で攻撃を防ぐ。


歩夢「ら、ライボルト……! ありがとう……!」


攻撃を防いだ瞬間、


果林「サザンドラ!! “りゅうのはどう”!!」
 「サザンドーーーラッ!!!!」


サザンドラが再びライボルトに向かって、“りゅうのはどう”を発射してくる。


侑「ニャスパー!!」
 「ニャーーーッ!!」


そこにニャスパーが飛び込み、サイコパワーで“りゅうのはどう”をいなす。

が、いなした瞬間、


 「バンギィッ!!!」


またしても、メガバンギラスが防御したポケモン──今度はニャスパーを叩きに来る。

595: ◆tdNJrUZxQg 2023/01/04(水) 13:18:12.07 ID:2N444K9g0

侑「フィオネ!! “ハイドロポンプ”!!」
 「フィーーーオーーーーッ!!!!」

 「バンギッ…!!!」


フィオネの“ハイドロポンプ”でメガバンギラスの腕を弾いて攻撃を中断させるが、


 「フェロッ!!!」

 「フィーーーッ!!!?」


フェローチェが標的を変え、フィオネを蹴り飛ばした。

蹴り飛ばされたフィオネは、そのまま岩壁に叩きつけられる。


侑「フィオネっ!?」

 「フィ、フィー…」

侑「戻って!!」


ボールに戻す隙にも、


果林「“りゅうせいぐん”!!」
 「サザンドーーーラッ!!!!!」


次の攻撃が降ってくる。


歩夢「マホイップ! “マジカルシャイン”!!」
 「マホイーーーーッ!!!」


マホイップが降ってくる流星を、フェアリータイプの“マジカルシャイン”で破壊するけど──


歩夢「きゃぁっ……!」


歩夢から少し離れた場所に消し損ねた流星が落ちてきて、その衝撃で地面が揺れ、歩夢が転倒する。

流星の数が多すぎる……!


侑「歩夢!! この数を捌ききるのは無理だ!! ニャスパー! こっち!!」
 「ウニャー」


私はニャスパーを呼び寄せながらライボルトにまたがり、稲妻のような速度で走り出しながら、歩夢に手を伸ばす。


侑「歩夢!!」

歩夢「うん……!」


すれ違いざまに歩夢の手を掴み、ライボルトの背中に引っ張り上げた。


侑「一旦退避を──」
 「フェロッ!!!」

侑「ッ!?」


走るライボルトの横にフェローチェが追い付いてきていた。

並走しながら、フェローチェの脚が迫る。


 「ライボッ!!!!」


──ゴッと音を立てながら、フェローチェの蹴りをギリギリで黒い盾がガードする。

596: ◆tdNJrUZxQg 2023/01/04(水) 13:18:59.20 ID:2N444K9g0

侑「イーブイ!! “びりびりエレキ”!!」
 「ブーーーイィッ!!!」

 「フェロッ…!!」


しかし、またしてもフェローチェはヒット&アウェイで攻撃を回避する。


侑「防げても攻撃が当てられない……っ」


純粋なスピードでは、メガライボルトよりもフェローチェの方が速いかもしれない。

どうにか防御で凌いで、攻撃をヒットさせたいんだけど……!

黒い盾を傍らに浮遊させながら、ライボルトが“りゅうせいぐん”の降りしきるフィールドを走り回る。


歩夢「……その黒い盾……もしかして、砂鉄……?」

リナ『歩夢さん、正解! よく気付いたね!』 || > ◡ < ||

歩夢「なんか、この黒い盾……近くにいると肌がピリピリするから……電磁力か何かで操ってるのかなって思って……」

侑「ほ、ホントによく気付いたね……」


そう、彼方さんと一緒に考えたこの黒い盾の正体は──砂鉄だ。

周囲のフィールドから砂鉄を集め、メガライボルトの超高出力の電磁力で制御、超圧縮し、頑強な壁を生成している。

メガバンギラスの起こす“すなあらし”のお陰で砂鉄の回収効率もかなりのものになっていて、意図せずこちらにとって好都合な環境になっている。


侑「ただ、でんきエネルギーのほとんどを防御に回しちゃうから、攻撃の出力が落ちちゃうんだ」

リナ『攻防両立とはなかなかいかない……』 ||  ̄ ᇫ  ̄ ||

侑「フェローチェは防御力が低いウルトラビーストらしいから……攻撃を当てさえすれば、ダメージにはなると思うんだけど……!」


一旦距離を取って、態勢を立て直そうとした、そのとき──急にグラグラと地面が大きく揺れ始め、


 「ライボッ…!!!?」
侑「いっ!?」

歩夢「えっ!?」

リナ『わーーーっ!?』 || ? ᆷ ! ||


これ“じならし”……!? 

メガバンギラスからの攻撃だと気付いた時には、ライボルトが転倒し、私たちの身体は宙に浮いていた。

しかもライボルトの走行速度が速度だけに、このまま地面に激突したらやばい……!?


侑「“テレキネシス”!?」
 「ニャァァッ!!!!」


すぐさま“テレキネシス”で落下による地面への激突は防ぐけど──


リナ『横の勢いが止まらない!?』 || ? ᆷ ! ||

歩夢「きゃぁぁぁぁっ!!?」


私と歩夢はそのまま、岩壁に激突しそうになった瞬間、


 「パルトッ!!!」


ジェット機のようなスピードで飛んできたドラパルトが間一髪のところで、私たちを頭で拾い上げるように乗せて救出する。

そして、ライボルトは──

597: ◆tdNJrUZxQg 2023/01/04(水) 13:19:36.76 ID:2N444K9g0

 「ライボッ!!!!」


“でんじふゆう”を壁に向かって使い激突を防ぐ。


侑「あ、ありがとう……ドラパルト……」
 「ブ、ブィ…」

歩夢「ぶ、ぶつかっちゃうところだった……」

リナ『間一髪……』 || > _ <𝅝||


ドラパルトは旋回をしながら、宙を舞うが──その進行方向に、


 「サザンッ!!!」


全身に黒いエネルギーを集束させた、サザンドラの姿。


侑「やばいっ!?」

果林「“あくのはどう”!!」
 「サザンドーーラッ!!!!」

 「パルトッ!!!?」
侑「ドラパルトッ……!?」

歩夢「きゃぁぁぁぁっ!!?」


“あくのはどう”の直撃を受けて、私たちはドラパルトから振り落とされ──再び地面に向かって真っ逆さまに落ちていく。


侑「ニャスパー!! もっかいっ!!」
 「ウニャーッ!!!」


今度はさっきと違って、重力による自由落下だけだから、“テレキネシス”だけで落下の衝撃を防げるけど──


 「ニャッ!!?」


そのとき突然ニャスパーがサイコパワーを全開にし──


侑「えっ!?」

歩夢「っ!!?」


周囲にいた私たちを吹っ飛ばす。

私は宙を舞いながら咄嗟に──


侑「歩夢ッ!!」


歩夢を抱き寄せ──地面の上を転がる。


侑「ぅ……ぐぅ……っ……!」

歩夢「ゆ、侑ちゃん……!」

侑「あゆ、む……無事……っ……?」

歩夢「わ、私は平気だけど……侑ちゃんが……!」

侑「へ、平気だよ……そんなに高い場所から落ちたわけじゃないから……」


全身の痛みに耐えながら立ち上がると──


 「フェロ…」
 「…ウニャ…」

598: ◆tdNJrUZxQg 2023/01/04(水) 13:20:28.46 ID:2N444K9g0

ニャスパーがフェローチェの“ふみつけ”を受けて、戦闘不能になっていた。

フェローチェの攻撃を察知して、咄嗟に私たちだけを吹き飛ばしたんだ……。

そして、目が合った瞬間、


 「フェロッ!!!!」


一瞬で肉薄してくるフェローチェ、


 「──ライボッ!!!!」


そこに割り込むように、ライボルトが防御する。


侑「“スパーク”!!」
 「ライボッ!!!」


ライボルトが火花を散らせるが、


 「フェロッ」


やっぱりフェローチェには逃げられてしまう。さらにそこに──


果林「それ……物理の防御にしか使ってないわよね」

侑「!?」


上空からギクりとする言葉を掛けられる。

そう、砂鉄による防御はあくまで物理攻撃への防御手段。

特殊攻撃へは特筆出来るほどの防御にはならない。


果林「“かえんほうしゃ”!!」
 「サザンドーーーラッ!!!!」


しかも、ドラゴン技じゃないから、フェアリータイプで無効化出来ない……!?


歩夢「マホイップ!! イーブイに“デコレーション”!!」
 「マホイ~~!!」


そんな中、マホイップがイーブイに、クリームやリボンのあめざいくを“デコレーション”をし始める。


侑「……! イーブイ! “めらめらバーン”!!」
 「ブーーーィィィッ!!!!」


“デコレーション”は味方の攻撃能力を上昇させる技だ。

強化された炎を身に纏い、イーブイが真っ向から炎に突撃する。

“デコレーション”の効果もあって──こちらの炎の勢いが上回り、


 「ブーーーィィッ!!!!」


炎同士の衝突によって、“かえんほうしゃ”の方向をどうにか逸らす。

が、そこに向かって──


果林「“あくのはどう”!!」
 「サザンッ!!!!」


攻撃を受けきったばかりのイーブイに、追撃の“あくのはどう”が飛んでくる。

599: ◆tdNJrUZxQg 2023/01/04(水) 13:21:26.93 ID:2N444K9g0

侑「“どばどばオーラ”ッ!!」

 「ブーーィィィッ!!!」


咄嗟に“どばどばオーラ”を放って防御させるが、


 「ブィィィッ…!!!」


完全には防ぎきれず、イーブイが撃ち落とされる。


侑「イーブイッ!!」


私がイーブイの落下地点に走り出した瞬間、


 「フェロッ」

侑「くっ……!?」


フェローチェの蹴撃が迫る。


 「ライボッ!!!!」


俊足のライボルトが、それをすかさずガードし──私はスライディングしながら、イーブイをキャッチする。


侑「イーブイ平気!?」
 「ブ、ブィ…!!」


ダメージは少なくないけど──どうにか無事だ。

ほっと一安心した、そのとき、


歩夢「侑ちゃんッ!!!!」


歩夢が私の名前を叫んだ。

ハッとして顔を上げると──


 「──バンギッ!!!!!」
 「──フェロッ」


腕を振り下ろすメガバンギラスの姿と、脚を振り下ろすフェローチェの姿。


 「ライボッ!!!!」


またしても、フェローチェの攻撃を絶対防御する姿勢を貫いているライボルトが、フェローチェの攻撃は防いだものの──バンギラスの攻撃が私に向かって降ってきていた。


歩夢「侑ちゃん、逃げてぇぇぇぇぇぇっ!!!!!」


歩夢の絶叫が響く。

──無理だ、避けられない。

目の前の光景がスローモーションになる中、


 「イッブゥィッ!!!!」


腕の中のイーブイから──闇が放たれた。

600: ◆tdNJrUZxQg 2023/01/04(水) 13:22:24.82 ID:2N444K9g0

侑「……!?」


周囲が突然真っ暗になり何も見えなくなったかと思ったら、腕の中からイーブイが飛び出し──月光のような淡い光を纏いながら、


 「バンギッ!!!!」
 「ブーーーィッ!!!!」


自身の体でバンギラスの攻撃を受け止めた。


侑「……うそ!?」


まさか──


リナ『“相棒わざ”!? “わるわるゾーン”!?』 || ? ᆷ ! ||


物理攻撃のダメージを減らす“相棒わざ”……!?

私が呆気に取られていると──


歩夢「──マホイップッ!! “マジカルシャイン”ッ!!」
 「マホイーーーーッ!!!!」

 「バンギッ…!!?」


歩夢の叫ぶような技の指示と共に、メガバンギラスが足元から強烈な閃光で焼かれ、よろける。

──ハッとして、ライボルトに視線を向けると、


 「ライボッ…!!」


バチバチと“スパーク”するライボルトの傍からはすでにフェローチェの姿は消えていた。

でも、これはこのタイミングなら、むしろ好機だ……!!


侑「ライボルト!! バンギラスに“ライジングボルト”!!」
 「!! ライボォッ!!!!」

 「バンギィィッ!!!!?」


立ち上る電撃を足元から受け、立て続けの攻撃にふらつくバンギラスに向かって、


侑「イーブイ!! “いきいきバブル”!!」
 「ブーーーィィッ!!!!」


イーブイが大量のバブルでメガバンギラスの全身を埋め尽くし──


 「バ、バンギ…ッ…」


メガバンギラスの体力を吸いつくし、戦闘不能に追い込んだのだった。

あとはサザンドラと、フェローチェ……!!


果林「くっ……サザンドラ、“りゅうせい──」


果林さんが技を指示しようとした瞬間、


 「──ジェルルップ」
果林「っ!!?」


突然、果林さんの背後から、ウツロイドが飛び掛かった。

果林さんは咄嗟にサザンドラから飛び降りて、回避するが、

601: ◆tdNJrUZxQg 2023/01/04(水) 13:23:08.16 ID:2N444K9g0

 「サザンドーーーーーラッ!!!!!?」


ウツロイドは、サザンドラの頭に纏わりつき、サザンドラに神経毒を注入し始める。


果林「戻りなさいっ!! サザンドラ!!」


果林さんは落下しながら、サザンドラをボールに戻し──

着地の衝撃を受け身を取って殺しながら、すぐに立ち上がる

さすが訓練された人間だけあって、見事な動きではあるけど──


果林「……っ……」


さすがに、それなりの高さがあったこともあって、全く無傷とは行かなかったようだ。

しっかり立ってはいるものの、足に少しふらつきが見える。

加えて、毒を注入されたサザンドラは恐らくもう戦闘は出来ない……!


侑「サザンドラも倒した……! これなら……!」


が、直後──


 「フェロッ!!!」
 「──ジェルップ」


ウツロイドの真上にフェローチェが突然現れて、かかと落としの要領で叩き落した。


歩夢「ウツロイド……!!」


地面に墜落したウツロイドは──


 「──ジェルル…。…」


動かなくなってしまった。戦闘不能だ。


果林「……はぁ……はぁ……。……ずっと……背後からウツロイドを忍び寄らせてたわね……」

歩夢「あと……ちょっとだったのに……」

果林「本来は貴方が寄生されるはずだったのに……悪いこと考えるじゃない……」


フェローチェの姿が掻き消えたと思ったら──


 「フェロッ!!!!」
歩夢「……!」


次の瞬間には歩夢の顔面にフェローチェの脚が迫り、


 「ライボォッ!!!!」


ライボルトが、もう何度目かわからないディフェンスをする。


果林「はぁ……はぁ……。何よ……なんで、邪魔するのよ……ッ!」


だんだん果林さんに焦りが見えてきた。彼女は息を切らせながら、大声をあげる。

直後、


 「フェロッ!!!!」

602: ◆tdNJrUZxQg 2023/01/04(水) 13:24:02.72 ID:2N444K9g0

フェローチェが歩夢の背後に回り、後頭部を蹴ろうとし、


 「ライボッ!!!」
歩夢「きゃっ!?」

 「フェロッ!!!!」


そして今度は側頭部、


 「ライボッ!!!!」
歩夢「……っ!!」

 「フェロッ!!!!」


また正面から、


 「ライボッ!!!!」
歩夢「……っ!!」


連続攻撃を、ライボルトがギリギリで防ぐ。


果林「私が負けたら……!! 私の世界の人たちはッ!! みんな死んじゃうのよッ!!」

 「フェロッ!!!!」

 「ライボッ!!!!」
歩夢「っ……!! ゆ、侑ちゃん……っ」


フェローチェが歩夢へ連続攻撃を始める。

どうにか、ライボルトが防ぐ中、


侑「ライボルト!! “でんげきは”!!」
 「ライボォッ!!!!」

 「フェロッ!!!? …ローチェッ!!!」


あまりに捨て身な連続攻撃だったため、ここで初めてこっちの攻撃がフェローチェにヒットする。

ただ、攻撃は当たったが──フェローチェの攻撃が止まらない。


侑「ライボルトッ!! 歩夢を連れて逃げて!!」

 「ライボッ!!!」
歩夢「きゃっ!?」


ライボルトが歩夢の襟後を咥え、無理やり背中に乗せて走り出す。

でも──


 「フェロッ!!!」


フェローチェは執拗に歩夢を狙う。


果林「そう、歩夢がいれば、歩夢の身体があれば、世界が救える、救えるの……ッ」

侑「果林さんッ!! 歩夢が死んじゃったら、歩夢の能力も使えなくなるんじゃないのッ!!?」

果林「うるさいッ!!! 少しでも息があればいいのよ……ッ!!!」


追いつめられて、果林さんは正常な判断力を失っているのが、私の目から見てもわかった。

603: ◆tdNJrUZxQg 2023/01/04(水) 13:24:59.76 ID:2N444K9g0

侑「ライボルトッ!!! とにかく逃げてッ!!!」

 「ライボォッ!!!!」
歩夢「っ……!!」

 「フェロッ!!!!」


駆けるライボルト、追うフェローチェ。


侑「く……っ」


私は果林さんのもとへと走る。


侑「イーブイ!! “びりびりエレキ”!!」
 「ブーーーィィッ!!!」


イーブイの“びりびりエレキ”を果林さんのすぐ真横に落とす。


果林「きゃぁっ!!?」

侑「果林さんッ!! フェローチェに止まるように指示して!!」

果林「お、お断りよ……ッ!!」

侑「っ……! イーブイ!! “びりび──」


いったん気絶させようと、イーブイに指示を出そうとした、そのときだった。

度重なる防御で──ライボルトもいい加減疲労が限界だったんだろう、


 「フェロッ!!!」

 「ライボッ!!!?」
歩夢「きゃっ!!?」


フェローチェの“ローキック”がライボルトの脚に引っ掛かり──ライボルトがバランスを崩す。

それと同時に──猛スピードで走るライボルトの背に乗っていた歩夢が、放り出された。


侑「歩夢ッ!!?」


歩夢が放り出された瞬間。


 「マホイッ!!!!」


歩夢の胸元にいたマホイップが“サイコキネシス”で飛んでいく勢いを軽減するが──それでも、ニャスパーのような強力なサイコパワーですら止めきれなかった勢いは殺しきれず、


 「マホイッ…!!!」


マホイップは自身の体を下敷きにするように、“とける”で歩夢のクッションになろうとする。

──ベシャッ、ベシャッと音を立て、クリームをまき散らしながら、歩夢が地面を転がる。


侑「歩夢----ッ!!!」
 「イブィーーーッ!!!!」

リナ『歩夢さんっ!!』 || > _ <𝅝||


私は歩夢のもとへと走り出す。


歩夢「……っ゛……あ、ぐ、ぅ……っ……」
 「マ、マホィ…」

歩夢「……あ、はは……クリームまみれ……だ……。……けど……お陰で、たすかった……よ……マホイ……ップ……」
 「マホ…」

604: ◆tdNJrUZxQg 2023/01/04(水) 13:25:54.25 ID:2N444K9g0

辛うじて、歩夢の意識はあった──が、


 「フェロ…」


動けなくなった歩夢の前で、フェローチェが脚を振り上げる。

ライボルトは──


 「ライ、ボッ…」


先ほどの攻撃によって、猛スピードで転んだことで、すぐに起き上がれるような状態じゃなかった。

ライボルトはもう──歩夢を守れない。

マホイップも全身のクリームが飛び散っていて、すぐに戦える状態じゃない。


 「フェロ──」

侑「歩夢ーーーーーーッ!!!! 逃げてぇぇぇぇぇぇぇッ!!!!!」


フェローチェの脚が振り下ろされ──そうになって……フェローチェの脚が──止まった。


侑「……え……」

リナ『………………!?』 || ? ᆷ ! ||

果林「……う、そ……」


フェローチェの軸足に──


 「──シャーーーボ」


歩夢の上着の袖から顔を出した──サスケが、噛み付いていた。


歩夢「……サスケ……おりこうだね……」
 「シャーーーボッ」

 「フェロ……」


ライボルトの電撃を受けていたこともあり……防御力が極端に低いフェローチェは──最後はアーボのサスケの“どく”により……力尽きて崩れ落ちた。

一瞬、呆然としてしまったけど──すぐに我に返って、また駆け出す。


侑「……歩夢っ……!!」

歩夢「……ゆう……ちゃん……」


ボロボロの歩夢を抱き起こす。


侑「歩夢、大丈夫……!?」

歩夢「……ゆう、ちゃん……わたしたちの……勝ち……だよ……」

侑「そんなことどうでもいい……!! 歩夢……!!」

歩夢「どうでも……よく、ないよ……。……ちょっと痛いけど……大丈夫……」


怪我をしているのは間違いないけど……意識もちゃんとある。


侑「……すぐに治療してあげるから……もう少しだけ我慢してね……」

歩夢「……ぅん」


歩夢を抱き上げようとした、そのとき、

605: ◆tdNJrUZxQg 2023/01/04(水) 13:26:34.98 ID:2N444K9g0

果林「──ゴロンダッ!!」
 「──ロンダ…」

侑「……!?」
 「イブィッ!!!?」

果林「“アームハンマー”!!」
 「ロンダァッ!!!!」

侑「っ……!!」


私は歩夢を抱きかかえたまま、その場から飛び退き、地面を転がる。


歩夢「ぁ゛……っ゛……」

侑「ご、ごめん、歩夢……!! 痛かったよね……」

歩夢「へい……き……だ、よ……」

侑「……っ……すぐ、終わるから……!」


私は顔を上げる──


果林「…………はぁっ…………はぁっ…………。……私は……私は…………負けちゃ……いけないの……っ……」
 「ゴロンダァ…」


まだ──ポケモンが残っていた。


リナ『こ、こわもてポケモン……ゴロンダ……』 || > _ <𝅝||

侑「く……イーブイ!!」
 「ブイッ!!!」

果林「私は…………負ける、わけに…………いかないのよ………………」


果林さんは、引き攣った顔で、そう呟く。

この満身創痍の状態……イーブイ1匹で体力満タンの果林さんのポケモンに勝てるの……!?


 「ロンダァッ…!!!」


ゴロンダが走り込んでくる。


侑「……やるしかないっ……!! イーブイ!! “きらきらストーム”!!」
 「ブーーーーィィィィッ!!!!!」

 「ゴ、ロンダァ…!!!!」


ゴロンダをパステル色の風が包み込み──


 「…ゴ、ロンダ…ァ…」

侑「あ、あれ……?」
 「ブイ…?」


ゴロンダは一発の攻撃で、力尽きて、倒れてしまった。


侑「強く……ない……?」

果林「あ……ぁ…………」


果林さんがそれを見て、カタカタと震えだす。

606: ◆tdNJrUZxQg 2023/01/04(水) 13:28:35.29 ID:2N444K9g0

果林「…………ダメ、ダメよ……私は……負けちゃ……ダメ、なの……」

侑「果林さん……!! もう、終わりです!! 私たちの勝ちです!!」

果林「終わり……違う……終わりじゃない……!!」


もうポケモンは残っていないはず。だけど、果林さんは私に向かって歩いてくる。

そして、懐から──サバイバルナイフを取り出した。


侑「う、嘘でしょ……?」

果林「私は…………たくさんの人の…………想いを……願いを……背負ってるのよ…………だから……だから……ッ」


果林さんが走り込んできて──ナイフを振りかざした。


侑「……ッ!!」


私をナイフで切り付けようとした、その瞬間──私を庇うように、人が飛び込んできた。

レンガレッドのおさげを揺らしながら──


エマ「……っ……!」

侑「エマ……さん……!?」

果林「!? え、エマ……!?」

エマ「…………果林、ちゃん……」


エマさんは果林さんの名前を呼びながら、その場に崩れるようにして蹲る。

その肩には──真っ赤な血の痕が服に滲んでいた。


侑「え、エマさん……!? 血が……!」

エマ「大丈夫……ちょっと掠っただけ……。……全然深くないから……」

果林「え、エマ……な、なんで……」

エマ「果林ちゃん……もう……こんなこと……終わりにしよう……? これ以上……誰かを、傷つけないで……」

果林「…………ダメよ……」

エマ「……本当はこんなこと……もう、したくないんでしょ……?」

果林「…………ち、違う……私は……私の意志で、ここに……」

エマ「……もう、大丈夫だから……一人で抱え込まないで……一人で泣かないで……いいんだよ……」


エマさんがよろよろと立ち上がる。その足には添え木とギブスがしてあった。

怪我をしている足で立ったら痛むはずなのに……エマさんは優しい表情を崩さず──果林さんを抱きしめる。


エマ「そのゴロンダちゃん……わたしが最初にあげたヤンチャムちゃんだよね……?」

果林「…………ぁ…………それ、は…………」

エマ「まだ持っててくれたんだね……。……それに……果林ちゃんがお家に残していった……他のヤンチャムちゃんたち……メール持ってたよ……?」

果林「…………」

エマ「……『この子たちのこと、よろしくね』って……これから滅ぼす世界に……そんなメール持たせたポケモン、置いてかないでしょ……?」

果林「わた……し……は……」

エマ「……あれは……わたしに宛てた……果林ちゃんからの……SOSだったんだよね……? ……『私を止めて』って……『もうこんなことしたくない』って……」

果林「…………っ」

エマ「大切な人たちを守るために……頑張って悪い人になろうとしてたんだよね……。……でも、果林ちゃんが一人で抱えなくていいんだよ……」

607: ◆tdNJrUZxQg 2023/01/04(水) 13:29:34.95 ID:2N444K9g0

カランと音を立てて、果林さんの持っていたナイフが地面に落ちる。

それと共に、果林さんが膝から崩れ落ちた。


果林「………………」

エマ「果林ちゃん……ここまでずっと……一人で頑張ったんだよね……偉いよ……」


エマさんは果林さんを抱きしめたまま、頭を撫でながら言う。

そして、そこにもう一人……。


彼方「……果林ちゃん」

果林「……彼方……」

彼方「……ずっと……ずっと……一人にして……ごめんね……。果林ちゃんと……ちゃんと向き合ってあげられなくて……ごめんね……」

果林「…………私……は……」

彼方「…………これからは一緒に考えよう……一緒に……みんなが笑顔になれる世界のこと……。……簡単じゃないのはわかってる……だけど、一緒に、ちゃんと……考えよう……わたしたちの世界のこと……」


そう言いながら、彼方さんも果林さんを抱きしめる。

すると──果林さんは、全身の力が抜けたかのように……エマさんと彼方さんにもたれかかる。


果林「…………彼方。……私……もう……疲れちゃった……」

彼方「……ごめんね……いっぱい、いっぱい……背負わせちゃって……。……でも、これからは一緒に背負うから……だから、今はもう……休んでいいよ……果林ちゃん……」

果林「…………うん……」


こうして私たちの死闘は──意外な形で……幕を閉じることとなったのだった。




608: ◆tdNJrUZxQg 2023/01/04(水) 13:30:07.38 ID:2N444K9g0

>レポート

 ここまでの ぼうけんを
 レポートに きろくしますか?

 ポケモンレポートに かきこんでいます
 でんげんを きらないでください...


【ウルトラキャニオン】
 口================== 口
  ||.  |○         o             /||
  ||.  |⊂⊃                 _回/  ||
  ||.  |o|_____.    回     | ⊂⊃|  ||
  ||.  回____  |    | |     |__|  ̄   ||
  ||.  | |       回 __| |__/ :     ||
  ||.○⊂⊃      | ○        |‥・     ||
  ||.  | |.      | | ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄\     ||
  ||.  | |.      | |           |     ||
  ||.  | |____| |____    /      ||
  ||.  | ____ 回__o_.回‥‥‥ :o  ||
  ||.  | |      | |  _.    /      :   ||
  ||.  回     . |_回o |     |        :  ||
  ||.  | |          ̄    |.       :  ||
  ||.  | |        .__    \      :  .||
  ||.  | ○._  __|⊂⊃|___|.    :  .||
  ||.  |___回○__.回_  _|‥‥‥:  .||
  ||.       /.         回 .|     回  ||
  ||.    _/       o‥| |  |        ||
  ||.  /             | |  |        ||
  ||. /              o回/         ||
 口==================口


 主人公 侑
 手持ち イーブイ♀ Lv.77 特性:てきおうりょく 性格:おくびょう 個性:とてもきちょうめん
      ウォーグル♂ Lv.75 特性:まけんき 性格:やんちゃ 個性:あばれるのがすき
      ライボルト♂ Lv.76 特性:ひらいしん 性格:ゆうかん 個性:ものおとにびんかん
      ニャスパー♀ Lv.73 特性:マイペース 性格:きまぐれ 個性:しんぼうづよい
      ドラパルト♂ Lv.73 特性:クリアボディ 性格:のんき 個性:ぬけめがない
      フィオネ Lv.71 特性:うるおいボディ 性格:おとなしい 個性:のんびりするのがすき
 バッジ 8個 図鑑 見つけた数:250匹 捕まえた数:10匹

 主人公 歩夢
 手持ち エースバーン♂ Lv.65 特性:リベロ 性格:わんぱく 個性:かけっこがすき
      アーボ♂ Lv.65 特性:だっぴ 性格:おとなしい 個性:たべるのがだいすき
      マホイップ♀ Lv.64 特性:スイートベール 性格:むじゃき 個性:こうきしんがつよい
      トドゼルガ♀ Lv.63 特性:あついしぼう 性格:さみしがり 個性:ものおとにびんかん
      フラージェス♀ Lv.62 特性:フラワーベール 性格:おっとり 個性:すこしおちょうしもの
      ウツロイド Lv.71 特性:ビーストブースト 性格:おくびょう 個性:ものおとにびんかん
 バッジ 3個 図鑑 見つけた数:211匹 捕まえた数:20匹


 侑と 歩夢は
 レポートに しっかり かきのこした!


...To be continued.




609: ◆tdNJrUZxQg 2023/01/05(木) 02:29:42.07 ID:mDhGJcE10

 ■Intermission👏



 「ディァ…ガァァ…」「バァァ……ル…」「ギシャ…ラァ…」

愛「伝説のポケモンって言っても、こんなもんなんだね」


倒れた3匹のポケモンたちを見ながらぼやく。


鞠莉「……っ…………つよ……すぎる……」


強い……強いかぁ。


愛「愛さんからしたら……他の人が弱すぎるだけなんだけどね……」

鞠莉「……っ……」


昔から疑問だった。どうしてポケモントレーナーは戦いになっても、自身が前に出ないのか。

ポケモンの真価を発揮するなら──トレーナーも一緒に戦うべきだ。

ただ、どうやらポケモンバトルというものでは、そういう考え方はあまり主流ではないらしい。

ま……正直もうどうでもいいけど……。


愛「んじゃ、貰ってくよ」


そう言いながら、ディアルガにボールを投げる。


 「ディァ…ガァ…──」


ディアルガが、パシュンとボールに吸い込まれる。


鞠莉「……スナッ……チ……!?」

愛「ん、こっちではそういう言い方するんだ。……愛さんはね、ビーストボール──こっちの世界で言うモンスターボールの開発の研究をしてたんだよね」


マリーにそう説明しながら、今度はパルキアにボールを投げる。


 「バァル…──」

愛「上書き捕獲機構くらい、大して難しい技術じゃないんだけどね」

鞠莉「あなたは……っ……そのポケモンたちを、捕まえて…………なにを、するつもり…………?」

愛「んー……アタシはね……──全ての世界を一つに繋げる」

鞠莉「……? ……一つに……繋げる……?」

愛「ま……言ってもわかんないだろうね。わかんなくてもいいけど」


そう言いながら、ギラティナに向かってボールを投げた瞬間──


 「ギシャラァッ…!!」


ギラティナが影に潜って逃げ出した。


愛「……外した。ま……すぐに追いかけて捕まえるからいいけど。……あ、そうだ」


アタシはマリーに近付き、


愛「それ、貰っとくわ」

610: ◆tdNJrUZxQg 2023/01/05(木) 02:30:40.60 ID:mDhGJcE10

彼女が手に持っていた、“こんごうだま”と“しらたま”を奪い取る。

奪い取ると言っても、だいぶ痛めつけてあげたから、もう抵抗する力もないっぽいけどね。


鞠莉「っ……」

愛「さーてと……ギラティナ捕まえに行って、あとはおさらばかな~。……あ、そうだ……せっかくだし、最後にいいもの見せてあげるよ」


そう言いながら、マリーの目の前に今しがた捕まえたディアルガとパルキアをボールから出す。


 「ディァガァ…」「バァル…」

鞠莉「……なにする……つもり……?」

愛「“こんごうだま”と“しらたま”……君たちはこれをディアルガとパルキアに指令を送るための“どうぐ”だと思い込んでたみたいだけど……。ホントの使い方はこうするんだよ」


アタシは“こんごうだま”をディアルガの胸の宝石に向かって、“しらたま”をパルキアの肩の宝石に向かって投げつける。

すると──


 「ディァ…ガ──」「バァル…──」


“こんごうだま”と“しらたま”はディアルガとパルキアの体にある宝石に吸い込まれていく。


鞠莉「……な……」


するとディアルガとパルキアの体の形が変化していく。

ディアルガは側頭部の甲殻が口元を覆う顎当てへと変化し、胸部の甲殻は首の中ほどに移動し、宝珠を中心に詰めた砲のような形へと変わる。前足が肥大化し、後ろ足が細くなる。そして胴には特徴的な突起のついたリングが出来ている。

パルキアは腕が四足獣のような蹄を持った前脚へと変化し、後ろ脚も前脚と同じように、蹄を持った形に。尻尾は細長い5本のものになり、こちらにも特徴的なリングが胴に現れる。


愛「……これが、このポケモンたちの“オリジンフォルム”ってやつだよ」

鞠莉「“オリジン……フォルム”……?」

愛「……ああそういや……“はっきんだま”も貰っておかないとね。……マリーは持ってなさそうだから……あの二人のどっちかか……」


アタシは気絶しているダイヤと果南の持ち物を漁ってみる。すると──すぐに見つかった。


愛「おっし……そんじゃ、あとはギラティナ捕まえに行きますか~」


ディアルガとパルキアをボールに戻しながら、肩をぐるぐる回して気合いを入れていた──そのとき、


 「──ボルテッカー!!!」
  「ピィィーーーーカァァァーーーーッ!!!!!」

愛「! リーシャン!!」
 「リシャァァァァンッ!!!!!」


リーシャンが咄嗟に音の障壁を作り出し、突っ込んできたピカチュウを弾き返そうとするが──


 「ピィィィィカァァァァ!!!!!!」


ピカチュウは音の障壁をお構いなしにどんどんめり込んでくる。


愛「く……!? リーシャン!!」


アタシはリーシャンの体をグリップしながら身を捻る──直後、


 「ピカァァァァァッ!!!!!」

611: ◆tdNJrUZxQg 2023/01/05(木) 02:32:03.27 ID:mDhGJcE10

ピカチュウが音の障壁を貫き、アタシがそれをギリギリで躱すと──背後に突っ込んだピカチュウが轟音をあげながら、周囲にとんでもない規模の雷撃を散らす。

このピカチュウ、この強さ……思い当たるトレーナーは一人しかいない。


穂乃果「……駆けつけて来てみたら……大変なことになっててびっくりした」

愛「……最後に規格外なのが来たね」


恐らく……この地方で最も強いトレーナー……。元チャンピオン・穂乃果。

果南のパワーでも破られなかった音の障壁を軽々とぶっ壊してきた。


穂乃果「でも、いいリベンジマッチの機会かな。ここなら、“テレポート”で飛ばされることもないだろうし」

愛「だから、穂乃果とは……まともに戦いたくなかったんだよね」

穂乃果「まあまあ、そう言わないでよ。……愛ちゃん、強いでしょ?」


そう言いながらボールを構える。


愛「……わかった。ただ、さすがの愛さんでも、穂乃果相手に手加減は出来ないから──死んでも文句言わないでよね?」

穂乃果「安心して、私が勝つから!」


どうやらここが愛さんにとっての──ラスボス戦みたいだね。


………………
…………
……
👏


612: ◆tdNJrUZxQg 2023/01/05(木) 16:16:22.75 ID:mDhGJcE10

■Chapter069 『決戦! DiverDiva・愛!』 【SIDE Honoka】





穂乃果「ピカチュウ!! “10まんボルト”!!」

 「ピーーカ、チュゥゥゥゥゥ!!!!!!」


愛ちゃんを挟んで向かい側にいるピカチュウが、電撃を放つ。

それに対し、


愛「リーシャン!!」
 「リシャァァァァンッ!!!」


愛ちゃんがリーシャンの名前を呼ぶと、ピカチュウの電撃が狙っていたはずの愛ちゃんから逸れて、変なところに落ちる。

その隙に愛ちゃんはリーシャンを左手で掴み、ステップを踏みながらピカチュウから距離を取る。


穂乃果「音で作った障壁……!」


さっきピカチュウの“ボルテッカー”を避けるときにも使っていた。

リーシャンの持つ音の振動を増幅して行う攻撃とサイコパワーという二つの能力を掛け合わせ、発生させた音の衝撃をサイコパワーで自分の周囲に留め、壁として存在させている。

それの精度がものすごく緻密で高度……さらに、その間集中して動けないはずのリーシャンは、愛ちゃんが直接手に持って移動することによって、トレーナーが欠点をカバーしている。

人が手に持てるくらい小さなポケモンである、リーシャンの性質を生かした、よく考えられた戦い方だ。


穂乃果「なら……! ケンタロス!!」
 「──モォォォォォォッ!!!!!」


ケンタロスがボールから飛び出すと同時に、愛ちゃんに向かって突っ込んでいく。


愛「リーシャン!!」
 「リシャァァァァンッ!!!!」


愛ちゃんは左手に掴んだリーシャンを前に突き出し、音の障壁を展開する。けど──


 「ブモォォォォォ!!!!!」

愛「と、止まらない……!? ルリリっ!!」
 「ルリィッ!!!」


ケンタロスは音の障壁をただの“とっしん”でぶち破る。

愛ちゃんは後ろに身を引きながら、今度は右手に持ったルリリが尻尾を振るってくる。


 「ブモッ…!!!?」


ルリリの尻尾がケンタロスの側頭部を叩き、ケンタロスが一瞬怯むけど──


 「ブモォォォォォッ!!!!!」


ケンタロスは3本の尻尾で自分の体をピシピシと叩きながら、自身を“ふるいたてる”。


 「ブモォォォォォッ!!!!」


そして、再び愛ちゃんたちに向かって“とっしん”していく。


愛「く……しつこい……!?」

613: ◆tdNJrUZxQg 2023/01/05(木) 16:17:02.93 ID:mDhGJcE10

愛ちゃんは後ろに向かって跳躍しながら、リーシャンを真下に向け、


愛「リーシャン!!」
 「リシャァーーーンッ!!!!」


リーシャンが真下に向かって、音の障壁を発生させ、その反動で空に跳び上がる。


 「ブモォォォォォッ!!!!!」


確かに空に跳ばれたらケンタロスでは手が出せない。けど──


穂乃果「ピカチュウ!! “かみなり”!!」
 「ピッカァァァァッ!!!!」


ピカチュウが“かみなり”を空中にいる愛ちゃんの上に発生させる。


愛「リーシャンッ!!」
 「リシャーーーーンッ!!!!」


すぐにリーシャンを真上に掲げ、音の障壁を作り出す。けど、“かみなり”は愛ちゃんの真上ではなく、真横に落ち──真横から急に軌道を変えて、横から愛ちゃんたちに直撃した。


愛「がぁっ……!!?」
 「リシャンッ!!!?」「ルリィッ!!!?」


──バリバリと音を立てながら、稲妻が迸り、


愛「……ぐ……ぅ……」


愛ちゃんが、地面に落下する。


穂乃果「ふぅ……」


さすがに生身で“かみなり”を受けたら、戦闘継続は不可能かな……。

そう思ったけど、


愛「……っ……い、今……完全に空中で不自然に曲がったよね……」

穂乃果「な……」


愛ちゃんはすぐに立ち上がる。


愛「……アタシ、これでも技術担当だからね……服に耐電加工くらいしてきてるよ……」

穂乃果「……さすがに一筋縄ではいかなさそうだね……」
 「ティニ…」

愛「……! さっきの不自然な“かみなり”の挙動……ビクティニの“しょうりのほし”か……」


“しょうりのほし”。ビクティニの特性で、味方の命中率を底上げする特性だ。

ビクティニは勝利をもたらすポケモンと言われていて、ピカチュウの“かみなり”は勝利をもたらすために“偶然”軌道を変えて愛ちゃんに襲い掛かったというわけだ。


愛「あー……やっぱ、穂乃果は強すぎるわ……。……久しぶりに本気出さなきゃダメそう」

穂乃果「ピカチュウ!! “かみなり”!!」
 「ピッカァァッ!!!!!」


再び迸る雷撃が、また勝利に導かれ……愛ちゃんに吸い込まれるように飛んでいくけど──愛ちゃんに当たる直前で跳ね返ってくる。


穂乃果「!? ピカチュウ!! 尻尾!!」
 「ピ、ピッカァッ!!!!」

614: ◆tdNJrUZxQg 2023/01/05(木) 16:18:06.23 ID:mDhGJcE10

ピカチュウは咄嗟に尻尾を向けて、跳ね返ってきた“かみなり”を“ひらいしん”で吸収する。


 「ピ、ピカァ…ッ!!!」


それでもエネルギーが吸いきれず、周囲に稲妻が放出され、あちこちに雷撃が落ちて大地を破壊し始める。


穂乃果「っ……! 溜めちゃだめ!! “ほうでん”!!」
 「ピカァッ!!!」


ピカチュウは尻尾に落ちてきた電撃をその場で“ほうでん”して体から逃がしながら、“かみなり”を受け止める。

それによって──どうにか吸収しきれた。


穂乃果「ほ……。……今の反射、“ミラーコート”……!」

愛「そーゆーこと」
 「──ソーナノ!!」


どうやら、ソーナノに反射されたらしい。


 「ブモォォォォォッ!!!!!」


ケンタロスが愛ちゃんに向かって、“とっしん”していくけど、


愛「“カウンター”!!」
 「ソーーナノッ!!!!」

 「ブモォォォッ!!!?」


ソーナノは物理技でも反射出来る。

ケンタロスはそのまま跳ね返されて、地面を転がる。


穂乃果「ケンタロス、大丈夫!?」

 「ブ、ブモォォォッ…!!!」


ケンタロスはすぐに体勢を立て直して起き上がる──が、起き上がったケンタロスの頭に……紫色の何かが引っ付いていた。


 「──レズン…」

穂乃果「……!? エレズン!?」


──“カウンター”で反撃する際に、一緒に張り付けられた……!?


愛「“ほっぺすりすり”」

 「レズン」

 「ブ、ブモォォッ!!!?」


エレズンが自身の頬を擦り付けると──ケンタロスが“まひ”で動きを鈍らされる。

そこに向かって──


愛「“すてみタックル”!!」

 「ルーーーリィッ!!!!!」

 「ブモォッ!!!?」


愛ちゃんの手から離れて飛んできたルリリがケンタロスの顔面にめり込んだ。


 「ルリッ」

615: ◆tdNJrUZxQg 2023/01/05(木) 16:18:41.20 ID:mDhGJcE10

ルリリは尻尾をバネにしながら、離脱し──


 「ブ、モォ……」


ケンタロスは崩れ落ちた。


穂乃果「……!」

愛「ルリリ、エレズン、戻っておいで」

 「ルリ」「レズン」


逃がしちゃダメだ……!!


穂乃果「ラプラス!! “フリーズドライ”!!」
 「──キュゥゥゥ!!!!」


繰り出したラプラスが、広がる冷気をエレズンとルリリに向かって発射する。

でも、そこに向かって──


愛「リーシャンッ!!」
 「リーシャンッ!!!」


愛ちゃんが逃げる2匹を庇うように、リーシャンを構えながら飛び込んでくる。

またしても、音の障壁を作りながら冷気を吹き飛ばそうとするけど──


 「キュゥゥゥゥ!!!!」

愛「いっ!? 冷気でも貫通してくんの!?」


ラプラスは強引に音の壁ごと凍らせ始める。さらに──


穂乃果「“ハイドロポンプ”!!」
 「キュゥゥゥゥッ!!!!!」


冷気の層に向かって、それを押し込むように、“ハイドロポンプ”を発射する。

音の壁を凍らせ始めていた“フリーズドライ”の層にぶつかった“ハイドロポンプ”は──凍り付いて杭のように、音の壁に突き刺さる。


愛「ぐっ……!?」


愛ちゃんは咄嗟の判断で身を伏せて、ギリギリ氷の杭を回避するけど──私はそこに向かって次のポケモンのボールを投げ込む。


穂乃果「ガチゴラス!!」

 「──ゴラァァァァスッ!!!!!」

愛「!?」


伏せた愛ちゃんに──ボールから飛び出したガチゴラスが大顎を開けながら、“かみくだく”!!


愛「ソーナノッ!! “カウンター”!!」
 「ソーーナノッ!!!!」


ソーナノが飛び込んできて、ガチゴラスの大顎による攻撃を反射し、無理やりこじ開けようとするけど、


穂乃果「“ばかぢから”!!」

 「ゴラァァァァァスッ!!!!!!」


押し返されそうになった、ガチゴラスはパワーでソーナノの反射を無理やり抑え込む。

616: ◆tdNJrUZxQg 2023/01/05(木) 16:19:13.15 ID:mDhGJcE10

愛「は、反射をパワーで!? む、無茶苦茶……!?」

 「ソナノッ!!!?」


ガチゴラスはパワーで無理やり圧倒したソーナノに噛みつき、そのまま頭を振るって、ブンと真上の放り投げる。


 「ソ、ソーナノーッ!!!?」

穂乃果「“もろはのずつき”!!」

 「ゴラァァァァスッ!!!!!」

 「ソーーナノッ!!!!?」


空中で抵抗できないソーナノが、破砕の一撃で、吹っ飛ばす。


愛「っ……!! リーシャン!!」
 「リシャンッ!!!」


吹っ飛ぶソーナノを、リーシャンがサイコパワーで受け止め、助けるけど──


 「ソー…ナノ…」


落下のダメージがなくても、打撃の威力だけで十分だ。

ソーナノはすでに戦闘不能になっていた。


愛「ごめん、ソーナノ……無茶させすぎた」
 「ソーナノ──」


愛ちゃんは謝りながら、ソーナノをボールに戻す。

直後──


 「ゴラァァァァスッ!!!!!」


ガチゴラスが勝手に頭を構えて走り出した。


穂乃果「え!?」


指示はまだ出してない……!?

ハッとして、フィールドを見ると──


 「レズンレズン♪」


エレズンが手を叩いていた。


穂乃果「しまった!? “アンコール”!?」


同じ技を出させる技によって、“もろはのずつき”を無理やり誘発させられ、


愛「さすがに突進系の大技は軌道が読みやすいよね……!!」


愛ちゃんはガチゴラスの下を潜るようにスライディングしながら、


愛「“ハイパーボイス”!!」
 「リシャンッ!!!!」

 「ゴラァァスッ!!!?」


真下からガチゴラスの顎を狙って、音の衝撃を直撃させ、さらに──

617: ◆tdNJrUZxQg 2023/01/05(木) 16:19:53.16 ID:mDhGJcE10

愛「“アクアジェット”!!」
 「ルリッ!!!!」

 「ゴラァスッ!!!?」


追い打ちを掛けるように、もう一発、真下から顎に向かってルリリが強烈な突撃でガチゴラスの顎を跳ね上げる。


愛「“ふぶき”!!」
 「ルーーーリィッ!!!」

 「ゴラァァァス…!!!?」


そして、トドメと言わんばかりに至近距離から、ガチゴラスが苦手とするこおりタイプの技で一気に氷漬けにする。


穂乃果「ガチゴラス……!?」


氷漬けになったガチゴラスがゆっくりと横転するのと同時に──


愛「リーシャン!!」
 「リシャンッ!!!」

 「…レズンッ!!!」


愛ちゃんの指示の声と共に、突然エレズンが猛スピードで吹っ飛んできて、


 「キュゥッ!!!?」


ラプラスの顔に張り付いた。


穂乃果「なっ……!?」

愛「“ほっぺすりすり”!」

 「レズン♪」

 「キュゥ…!!!?」


ルリリがガチゴラスを攻撃している間に、愛ちゃんはリーシャンの音の衝撃によって、エレズンをラプラスに向かって飛ばしてきた。

理解したときにはもうラプラスは“まひ”させられていて、さらに──エレズンはボールを抱えていた。そのボールから、


 「──ベベノッ」


白光の体色を持った、色違いのベベノムが飛び出してきた。


愛「ベベノム!! “ヘドロウェーブ”!!」

 「ベーーベノーーーッ!!!!」

 「キュゥゥゥゥ!!!!?」

穂乃果「ラプラス!?」


ラプラスが、至近距離から発生した、波のように押し寄せてきた毒液にまみれ、


愛「“とどめばり”!!」

 「ベベノッ!!!!」

 「キュゥッ…!!!!」


ダメ押しの一撃を食らって戦闘不能になる。


穂乃果「ピカチュウ!! “かみなり”!!」
 「ピッカァァァッ!!!!」

618: ◆tdNJrUZxQg 2023/01/05(木) 16:20:51.90 ID:mDhGJcE10

“かみなり”をベベノムの頭上に落とすけど、


愛「“アイアンテール”!!」

 「ベノッ!!!!」


ベベノムが“とどめばり”によって、爆発的に上昇させた攻撃力によって、尻尾を振るって強引に“かみなり”を弾き飛ばす。

さらに畳みかけるように、


 「レズンッ!!」

 「ピカッ!!?」


エレズンがピカチュウに跳び付いてくる。


穂乃果「くっ……!? ピカチュウ!! “10まんボルト”!!」
 「ピィーーーカァ、チュゥゥゥゥゥッ!!!!!!!」

 「レズンッ!!!!!」


取り付いたエレズンごと電撃で攻撃する。が、その隙に、


愛「ベベノム、“いえき”!!」

 「ベベノッ!!!」

 「ティニッ!!!?」


ビクティニがベベノムから“いえき”を掛けられる。


愛「ルリリ!! 今のうちに“はらだいこ”!!」
 「ルリッ!!!」


ルリリがパワーを高め始める。

一方、


 「ピカァァァァァッ!!!!!」

 「レ、ズンッ…!!!」


ピカチュウは優勢。

でも、至近距離から電撃による反撃を食らっているエレズンが倒れそうになった瞬間、


愛「“じたばた”!!」

 「レズンッ!!!」

 「ピカッ!!!?」


エレズンがピカチュウの目の前で全身を無茶苦茶に振り回しながら暴れだし、ピカチュウを吹き飛ばす。


穂乃果「“かえんだん”!!」
 「ティニーーーッ!!!!!」


ビクティニが周囲に向かって、真っ赤な炎弾を撃ち出して、


 「レズンッ!!!?」「ベベノッ!!!!」


エレズンとベベノムを強烈な炎で攻撃し、


 「ベ、ベベノ…!!!」

619: ◆tdNJrUZxQg 2023/01/05(木) 16:22:39.12 ID:mDhGJcE10

ベベノムにはギリギリ耐えきられて、逃げられてしまうが、エレズンはどうにか戦闘不能に追い込む。

が、


愛「“たきのぼ、り”ッ!!!」

 「ルーーーリィッ!!!!!」


愛ちゃんが水のエネルギーを全身に纏ったルリリを──ビクティニに向かって、ぶん投げてきた。


 「ティニッ!!!?」
穂乃果「ビクティニ!?」

 「ティ、ティニ……」


“はらだいこ”でフルパワーになったルリリのパワーによって、ビクティニは一撃で戦闘不能に、


穂乃果「ピカチュウ!!」
 「…ピッカァァァッ!!!!!」


エレズンの“じたばた”で大きなダメージを負ったものの、どうにか耐え切ったピカチュウが、全身に電撃を纏いながら、ビクティニを倒して着地したルリリに向かって、


穂乃果「“ボルテッカー”!!」
 「ピィィィィィカァァァァァァァッ!!!!!!」

 「ルリィーーーッ!!!!?」


ルリリを撃破する。


愛「く……ルリリ、エレズン、戻れ……!」
 「ルリ…──」「レズン…──」


愛ちゃんがルリリとエレズンをボールに戻す。


穂乃果「ラプラス、ガチゴラス、ビクティニ、戻って!」
 「キュウ…──」「……──」「ティニ…──」


私も戦闘不能になったラプラスとビクティニ、氷漬けになってこれ以上の戦闘が続けられないガチゴラスをボールに戻す。


愛「いやぁ……ホント強すぎ……っ、こんな追い詰められたのいつ以来だっけ……」
 「ベベノ…」「リシャンッ」

穂乃果「それはお互い様かな……」
 「ピカッ…!!!」


愛ちゃんはベベノムとリーシャンと共に身構え、私はピカチュウと──


穂乃果「リザードン!」
 「──リザァッ!!!」


リザードンを出して──メガリングをかざす。


穂乃果「メガシンカ!!」
 「リザァァーーーッ!!!!」


リザードンが光に包まれると共に──やぶれた世界の中に、強い日差しが差し込んでくる。

それと同時に、リザードンは尻尾が長く伸び、翼も一回り大きく変化。頭には一際大きな角が頭頂から1本伸び、腕にも翼を備えた姿──メガリザードンYへとメガシンカする。


 「リザァァーーーーッ!!!!!」

穂乃果「リザードン……! “かえんほうしゃ”!!」
 「リザァーーーーーッ!!!!!」

620: ◆tdNJrUZxQg 2023/01/05(木) 16:23:32.63 ID:mDhGJcE10

リザードンが強烈な火炎を放つ。


愛「く……リーシャンッ!!」
 「リシャァーーーーンッ!!!!」


リーシャンが例によって、音の障壁を発生させるが──とてつもない火炎は、音の障壁に阻まれるどころか、一瞬で防壁を貫く。


愛「うわっちっ!!? き、距離取るよ!!」
 「リシャンッ!!!」


愛ちゃんは、リーシャンの音撃の反動で、後ろに向かって距離を取るけど、


穂乃果「ピカチュウ!!」
 「ピッカァッ!!!!」


ピカチュウが全身に電撃を纏い、“ボルテッカー”の構えを取りながら走り出す──そして、走りながらそのエネルギーを拳へと集中させ、


 「ピッカァッ!!!!」

愛「……っ!?」


稲妻のような軌道を描きながら、リザードンの吐いた炎を飛び越えて──真上から愛ちゃんたちに向かって飛び掛かる。


穂乃果「“ボルテッ拳”!!」

 「ピカァァァァッ!!!!!」

愛「リーシャンッ!! “ハイパーボイス”!!」
 「リシャァーーーーーーンッ!!!!!」


愛ちゃんが咄嗟に、真上から飛び掛かってくるピカチュウに向かって、爆音によって攻撃してくるけど──


 「ピィィィィィカァァァァァァッ!!!!! チュゥゥゥゥゥゥゥッ!!!!!!」


“ボルテッ拳”のパワーは音の衝撃のエネルギーを遥かに凌駕し──


愛「く……っ……!?」
 「リ、リシャァァァッ!!!!?」


一瞬の静寂ののち──バヂバヂバヂバヂッ!!!!! と激しい稲妻の音を空間内に轟かせながら、電撃のエネルギーを盛大に爆ぜ散らせた。

その反動で、


 「ピッカァッ!!!」


ピカチュウがくるくると回転しながら、私の隣に着地しながら戻ってくる。

そして、電撃エネルギーによって、巻き起こった爆発が晴れると、


愛「ぐ……く、そぉ……」
 「リシャンッ…」


愛ちゃんがリーシャンと共に倒れていた。


穂乃果「……これなら、どう……?」

愛「っ゛……」


さすがに愛ちゃんの表情が歪む。

耐電撃スーツでも、さすがに“ボルテッ拳”を無効化しきることは出来なかったようだ。

621: ◆tdNJrUZxQg 2023/01/05(木) 16:24:43.12 ID:mDhGJcE10

穂乃果「……もう終わりだよ」

愛「…………っ」


私はうつ伏せになって倒れている愛ちゃんへとゆっくりと近付く。


穂乃果「……さぁ、降参してくれるかな?」

愛「……。……わかった。……降参……──するもんかっ!!」
 「──ベベノッ!!!!」

穂乃果「……!?」


うつ伏せの愛ちゃんの胸の下から──ベベノムが飛び出してきて、毒液を射出する。

毒液は私の顔に真っすぐ飛んできて──


 「ピッカァッ…!!!」
穂乃果「!! ピカチュウ!!」


ピカチュウが私を庇って毒液を受ける。


穂乃果「リザードンッ!!」
 「リザァァッ!!!!」


リザードンが至近距離で“ねっぷう”を起こし、


愛「ぐぅぅっ!!?」
 「ベ、ベベノォッ!!!?」


愛ちゃんを焼き尽くす。


愛「ぐ……ぅ……」


さすがに、この攻撃で愛ちゃんも大人しくなる。


穂乃果「……ピカチュウ……ありがとう……」
 「ピカカ…」

穂乃果「うん、ボールに戻って、休んでね」
 「チャー…──」


ピカチュウをボールに戻す。


愛「………………つよ……すぎ……でしょ……」

穂乃果「……! まだ、意識があるんだね……」

愛「…………耐熱も…………してん……だよ……」

穂乃果「でも、もう動けないよね」

愛「……ぁ゛ー……動きたくは……ない、ね……」

穂乃果「……とりあえず、ディアルガとパルキア……返してもらうよ」


そう言いながら、私は屈んで愛ちゃんが腰に着けたボールに手を伸ばす。


愛「……これが……試合みたいな……ポケモンバトルじゃなくて……よかった……」

穂乃果「え?」

愛「…………やっぱ、アタシは……そういうルールに縛られた戦いよりも…………ただ、相手を倒す戦いの方が、向いてるっぽいね……」

穂乃果「何言って──」

622: ◆tdNJrUZxQg 2023/01/05(木) 16:28:17.30 ID:mDhGJcE10

──ゴッ!!! 鈍い音と共に、頭に強い衝撃を受けた。


穂乃果「ぁ゛……っ……!!」


衝撃と痛みで私はその場に倒れ込む。

倒れた私の目の前には──


 「──ウソッ」

穂乃果「ウソ……ハチ……っ゛……」


ウソハチがいた。ウソハチが──私の頭上に、落ちてきた。


 「リザァッ!!!!」


リザードンが咄嗟に、炎を吐こうとしたが、


愛「ウソハチ……“だいばくはつ”……!!」
 「ウソッ…!!!」

 「リザッ!!!?」


ウソハチがリザードンの懐に飛び込み──爆発して吹き飛ばした。


愛「…………悪いね。……真面目に戦ったら、勝てる気がしなかったから……卑怯な手、使わせてもらったよ」

穂乃果「いつ、の……間に……空に……」

愛「……“ボルテッ拳”だっけ? ……あのとんでも技が上から飛び掛かってくる使い方で……助かったよ」

穂乃果「…………あの、とき、の……“ハイパー……ボイス”……」


愛ちゃんは、ピカチュウの攻撃を相殺するように見せかけて──遥か上空に向かって、ウソハチの入ったボールを打ち上げていたんだ……。

私の視界が赤く染まっていく。私は……頭から大量の血を流していた。


愛「……もう、立つのは無理っしょ……猛スピードで落ちてきた岩が……頭に直撃したようなもんだからね。勝負ありだよ……」

穂乃果「…………っ゛……」


愛ちゃんがよろよろと立ち上がって、私に背を向ける。


愛「さーて、今度こそ……ギラティナ捕まえて、おさらばだ……」


そう言いながら立ち去ろうとする背に──


穂乃果「──……ま、って……」


立ち上がって、声を掛ける。


愛「…………冗談でしょ? あれ食らって立つの……?」

穂乃果「あなたは……野放しにしちゃ……いけない……」

愛「…………」

穂乃果「リザー……ドン……」
 「…リザァ…ッ…!!!!」


ウソハチの“だいばくはつ”で吹っ飛ばされたリザードンが、羽ばたきながら戻ってくる。

623: ◆tdNJrUZxQg 2023/01/05(木) 16:29:10.58 ID:mDhGJcE10

愛「ここまで来ると……ポケモンも……トレーナーも……化け物じゃん……」

穂乃果「あなたは……ここで……とめ、る……」


意識が朦朧とする。だけど、この人だけは……絶対にここで止めないとダメだ。

ここで逃がしたら──本当に誰にも手が付けられなくなる。

そのときだった。愛ちゃんが抱き抱えていたベベノムが──


 「ベベノ…──」


カッと眩く光り輝いた。


穂乃果「この光……しん、か……?」


この土壇場で──愛ちゃんのベベノムが進化して、アーゴヨンに──


愛「ただの、進化じゃないよ……」
 「──アーゴッ…!!!」


確かに愛ちゃんのベベノムは色違い。

進化したアーゴヨンも、本来の色とは違い、黄色と黒の警告色をしたアーゴヨンへと姿を変える。でも──それだけじゃなかった。


穂乃果「……なに……これ……?」


目の前のアーゴヨンは──翼から目が痛くなるような、激しいオレンジ──超オレンジと言っても差し支えのない、強烈な閃光を放ち、お腹の毒針からもそれがエネルギーとしてスパークしている、異様な姿だった。


愛「……悪いね……。……アタシは……止まるわけにいかないんだよ」


私とリザードンは……アーゴヨンから放たれた閃光に──飲み込まれた。





    👏    👏    👏





穂乃果「…………」
 「……リ、ザ……」

愛「…………」


今度こそ、動かなくなった穂乃果に背を向けて歩き出す。


愛「……さて、ギラティナ……出てきてくんないかな……。……逃げられないこと……わかってるっしょ……?」


虚空に向かって呼び掛けると──


 「──ギシャラァッ…」


満身創痍のギラティナが、空間を裂いて現れる。

そして、その直後──そこらへんを転がっていた、果南、ダイヤ、マリーの真下に空間の裂け目が生じ、3人を飲み込んだ。


愛「……!」


それと同時に──背後の穂乃果……さらに、彼女たちがボールに戻せていなかったポケモンたちも空間の裂け目に飲み込まれて姿を消す。

624: ◆tdNJrUZxQg 2023/01/05(木) 16:29:39.86 ID:mDhGJcE10

愛「……逃がしたってことか……」

 「ギシャラ…ッ」

愛「……自分がもう、アタシから逃げられないってわかってて……。ギラティナがいなくなったら……この空間自体、維持できないもんね……。……そんなナリで意外と義理堅いじゃん。愛さん、そういうの嫌いじゃないよ」

 「ギシャラァッ!!!!!」


ギラティナが最後の力を振り絞って飛び掛かってくる。


愛「ま……それでも、捕獲させてもらうけどね……」
 「アーゴッ!!!!」

 「ギシャラァァァァァッ!!!!!」


ギラティナの雄叫びが──やぶれた世界に、響き渡った。




625: ◆tdNJrUZxQg 2023/01/05(木) 16:30:09.97 ID:mDhGJcE10

>レポート

 ここまでの ぼうけんを
 レポートに きろくしますか?

 ポケモンレポートに かきこんでいます
 でんげんを きらないでください...


 レポートに しっかり かきのこした


...To be continued.




626: ◆tdNJrUZxQg 2023/01/06(金) 17:05:43.89 ID:djK6Kzqg0

■Chapter070 『戦いを終えて』 【SIDE Yu】





侑「……歩夢、もう痛いところ……ない……?」
 「ブイ…」

歩夢「うん、大丈夫だよ。エマさんのママンボウが治療してくれたから……」
 「ママァ~ン」

遥「やっぱり、ママンボウの治癒力はすごいですね……。……幸い骨に異常はなさそうですし……私が診た感じでも、問題ないと思います」

歩夢「遥ちゃんも……ありがとう」


あの後、エマさんのママンボウに傷を治してもらい……遥ちゃんから怪我を診てもらっていた。

ママンボウの治癒効果のお陰で、切り傷や擦り傷はすぐに治り、私も歩夢もすっかり元気になっていた。


歩夢「ただ、その……服がクリームでべとべとだから……出来れば、着替えたい……かも……」
 「マホ…」

歩夢「あ、ご、ごめんね!? マホイップを責めてるわけじゃないの! むしろ、マホイップがいなかったらもっと大怪我してたし……」
 「マホ~…」

侑「とりあえず、あとで着替えよっか。歩夢の着替えも持ってきてるから」

歩夢「うん、ありがとう……侑ちゃん」


さて……どうにか歩夢を救出することに成功したわけだけど……。


彼方「……手錠……痛くない……?」

果林「…………ええ、大丈夫よ」


果林さんは、武装を完全に解除させられ……彼方さんが持ってきていた手錠を着けられている。


エマ「か、彼方ちゃん……やっぱり、手錠までしなくても……。果林ちゃん……もう、酷いことしないと思うから……」

果林「いいえ……今は……こうしておいて……。……もう、私が変な気を起こしても……大丈夫なように……」

エマ「果林ちゃん……」


果林さんは……先ほどまでの攻撃的な表情が嘘のように、戦意を失っていた。

そんな中、


姫乃「──あ、貴方たち!! 果林さんから、離れてくださいっ!!」


急に声が響く。

目を向けると──拘束されて、彼方さんのカビゴンに担がれている姫乃さんが、声を荒げていた。


果林「姫乃……」

彼方「姫乃ちゃん、目が覚めたんだね~……」

姫乃「果林さん!! そんなやつらの口車に乗ってはいけませんっ!! 私たちは使命を帯びてここにいるんです……!! だから……」

果林「……もう、いいの」

姫乃「か、果林さん……」

果林「…………私たちの……負けよ……」

姫乃「…………」

果林「姫乃……今まで、一緒に戦ってくれて……ありがとう……」

姫乃「…………私は……」

627: ◆tdNJrUZxQg 2023/01/06(金) 17:06:15.90 ID:djK6Kzqg0

姫乃さんは果林さんの言葉を聞き、何か言いたそうにしていたけど……結局口を噤んだ。

果林さんが負けを認め……戦いは終わった。

そして、ちょうどそこに──


 「──侑せんぱ~い!! 歩夢せんぱ~い!! リナ子~!!」


声が聞こえてくる。

この声は──


侑・歩夢「「かすみちゃん!」」
リナ『かすみちゃん!』 || > ◡ < ||

かすみ「侑先輩!! 歩夢先輩!! リナ子!!」


声の方に振り向くと同時に、かすみちゃんが抱き着いてくる。


かすみ「お二人とも、ボロボロじゃないですか……でも、無事でよかったです……」

侑「あはは……そう言うかすみちゃんも、ボロボロだよ」


まさに全員死闘を終えたという様相になっていた。


しずく「本当に……みんな無事で、よかったです……」


そして、ゆっくりと追い付いて来るしずくちゃんを見て、歩夢が、


歩夢「しずくちゃん……!」

しずく「わわっ……?」


しずくちゃんに抱き着く。


歩夢「ありがとう……しずくちゃんのお陰で……私の大切なもの……全部、全部失くさずに済んだよ……」

しずく「ふふ……お力になれたのなら……何よりです……」

侑「それにしても……あれが全部演技だったなんて……」

しずく「敵を騙すにはまず味方から……ですよ♪」

侑「あはは……ホントに騙されたよ……」

かすみ「……そういえば、それについてなんだけどさ」


私に抱き着いていたかすみちゃんが、不満そうな顔をしながら口を開く。

628: ◆tdNJrUZxQg 2023/01/06(金) 17:06:50.88 ID:djK6Kzqg0

しずく「ん?」

かすみ「しず子、戦ってる最中……かすみんのこと、勧誘してたよね? フェローチェの虜になりましょう~とか」

しずく「あ、う、うーん……言ったかも……?」

かすみ「あそこで、かすみんがうんって言ったらどうするつもりだったの? せつ菜先輩を引っ張り込むために本気で戦うフリしてたのはわかるけど……勧誘までする必要なくない?」

しずく「それは……その……。……役に……のめり込みすぎちゃって……つい……」

かすみ「…………はぁ……。……ま、しず子らしいけど……」

しずく「で、でも! かすみさんなら、絶対にあそこで「うん」なんて言わないってわかってたし……!」

かすみ「ま……結果丸く収まったし……そういうことにしてあげなくもないかな~……」

しずく「む……かすみさんだって、勢いに任せて……その……す、すごいこと……言ったくせに……///」

かすみ「……!?/// だ、だから、あれは……///」

リナ『二人とも顔真っ赤だよ? 大丈夫?』 || ╹ᇫ╹ ||

かすみ「なんでもないですっ!!///」
しずく「な、なんでもないよ!?///」


何やら、向こうは向こうでいろいろあったようだ……。

それは追い追い聞くとして──私はこちらに歩いてくる人影に目を向ける。

黒髪の右側を結んでいる、凜とした──私の憧れのトレーナー。


侑「……せつ菜ちゃん」

せつ菜「……侑さん」


私が立ち上がって目を合わせると──


せつ菜「侑さん……ごめんなさい」


せつ菜ちゃんは二の句を告げず、頭を下げた。


侑「せ、せつ菜ちゃん……!?」

せつ菜「あのとき……クリフの遺跡で、侑さんは私を止めようとしてくれていたのに……私が未熟だったばかりに、侑さんに酷いことを言ってしまって……八つ当たりしてしまって……」

侑「あ、頭を上げて……! 私、怒ってないから……!」

せつ菜「で、ですが……」

侑「私も……せつ菜ちゃんの気持ち……なんにもわかってないのに、勝手なこと言っちゃって……ごめん……。……せつ菜ちゃんの苦しみ……全然わかってなかった」

せつ菜「そ、そんなこと……」

侑「うぅん……。……勝手に憧れて、勝手に私の理想を押し付けてた……。……無責任なこといっぱい言っちゃって……。だから私、これからは憧れるばっかりじゃなくて……もっとちゃんと、せつ菜ちゃんのことが知りたい……」

せつ菜「侑さん……」

侑「……一人のポケモントレーナーとして……一人の……友達として……」


私はせつ菜ちゃんの手をぎゅっと握る。


せつ菜「……侑さん……っ……。……はい……っ……」


せつ菜ちゃんは目に浮かぶ涙を拭ってから、私の握手に応えるように両手で私の手をぎゅっと握りしめる。

そして、そんな私たちの頭にポンと手が置かれる。


善子「──それと……同じヨハネのもとから旅立った図鑑所有者としても……ね?」


ヨハネ博士だった。

629: ◆tdNJrUZxQg 2023/01/06(金) 17:07:40.20 ID:djK6Kzqg0

侑「ヨハネ博士……! 同じ図鑑所有者ってことは……!」

せつ菜「その……はい……。先ほど……ポケモン図鑑と……最初のポケモンを……頂きました……」


せつ菜ちゃんは少し恥ずかしそうに、目を伏せながら言う。


せつ菜「わ、私……その……侑さんに図鑑所有者でなくてもチャンピオンに、とか、なんか、いろいろ言ったから、そんな私が図鑑所有者になるのは、あれかと思うかもしれませんが、ですから、その……」

侑「よかったぁ~~!!」

せつ菜「わぁっ!?///」


私は思わずせつ菜ちゃんに抱き着いてしまう。


せつ菜「ゆ、侑さん……!?///」

侑「せつ菜ちゃんが……うぅん、菜々ちゃんが、やっと夢を叶えられて……よかった……」

せつ菜「侑さん……。……はい……」

侑「えへへ、これからはおんなじ図鑑仲間だ♪」
 「ブイ」


抱き着きながら、ニコニコ笑っていると、


歩夢「…………むー……」

侑「おとと……? 歩夢……?」


歩夢が、私の腕に抱き着いてくる。


侑「え、えっと……どうしたの……?」

歩夢「…………むー……」


歩夢はぷくーっと頬を膨らませたまま、不満そうにしている。

わ、私……何かしたかな……?

そんな歩夢に、


しずく「歩夢さん、言いたいことがあるなら、ちゃんと言わないと、侑先輩にはわかりませんよ? 鈍感なんですから」


しずくちゃんがそんなことを言う。


歩夢「…………知ってるけど…………。……むー……」

侑「え、えっと……?」
 「ブイ…」

侑「え、なんでイーブイ呆れてるの……?」

リナ『さすがの私もこれには、リナちゃんボード「あきれ」』 ||  ̄ ᇫ  ̄ ||

侑「リナちゃんまで!?」


ホントになんなの……!?

私が歩夢の反応にあたふたする中、


せつ菜「……そうだ、しずくさん」

しずく「はい?」


せつ菜ちゃんがしずくちゃんの手を取って──


せつ菜「私……結局、守ろうとした直後に敵対関係になってしまったせいで……まだしずくさんのことを、ちゃんと守れていません」

630: ◆tdNJrUZxQg 2023/01/06(金) 17:09:16.02 ID:djK6Kzqg0

せつ菜ちゃんは片膝を折って、


せつ菜「……何かあったら、1回だけ守るというのは約束したことなので……何かあったら言ってくださいね? 今度こそ、私が命を懸けてお守りします!」


まるで王子様のように、しずくちゃんに向かってそう宣言する。


しずく「へっ!?/// い、いや、ですがあれは私が騙したようなものなので、そんな律義に守らなくても……!?///」

せつ菜「いえ……私はあの一時だけでも、貴方のあの言葉に救われたんです……。ですから、守らせてください」

しずく「で、でも……/// ……じ、じゃあ……そういうときがあったら……///」

せつ菜「はい、お任せください!」

しずく「……///」


しずくちゃんが顔を真っ赤にしながら、しおらしい反応をする。


かすみ「ちょっとしず子!! 何、満更でもなさそうな顔してんの!?」

しずく「だ、だって……///」

リナ『一瞬であちこちに修羅場を作り出してる……せつ菜さん恐るべし……』 ||;◐ ◡ ◐ ||

せつ菜「え? えっと……?」


私たちを見て、ヨハネ博士が、


善子「くっくっく……賑やかで何よりね。でも、仲良くしなさいよ。貴方たちはみんな、このヨハネのリトルデーモンなんだから」


そう言って笑うのだった。





    🍊    🍊    🍊





曜「一件落着……みたいだね」

花丸「千歌ちゃんが、せつ菜ちゃんとの戦いには手を出さないで欲しいって言いだしたときは、どうしようかと思ったけど……」

梨子「千歌ちゃんったら……すっかりチャンピオンになってたんだね。ちゃんと一人のトレーナーとして……せつ菜ちゃんに道を示した」

ルビィ「ルビィもジムリーダーとして、見習わなくちゃ……!」

千歌「…………」

曜「千歌ちゃん?」


曜ちゃんが、反応がない私の顔を覗き込む。

でも、もう……無理……。

──バタン。


曜「わー!? 千歌ちゃん!?」

梨子「ち、千歌ちゃん!? もしかして、バトルで怪我したんじゃ……!?」


──ぐ~……。


曜・梨子「「…………」」

花丸「人間、空腹には勝てないずら」

ルビィ「千歌ちゃん……ここに来る前に、あんなに食べてたのに……」

631: ◆tdNJrUZxQg 2023/01/06(金) 17:09:55.75 ID:djK6Kzqg0

たくさん動きすぎて、お腹空いた……。ついでに、眠い。


千歌「…………お腹空いた……眠い……疲れた……もう、ダメ……」

梨子「帰るまで頑張りなさい……って言いたいところだけど……今回ばかりはね……」

曜「カイリキー、千歌ちゃんのこと運んであげて」
 「──リキッ」

ルビィ「あ……! ルビィ、飴さんなら、持ってるよ!」

千歌「食べさせてー……」

ルビィ「うん。はい、口開けて」

千歌「あーむ……」

花丸「棒が喉の奥に刺さらないように気を付けてね?」

千歌「ふぁ~い……」

梨子「……棒付き飴なんだ……」

善子「うわ……!? カイリキーに抱えられてだらけた千歌の口に、ルビィが飴を押し込んでる……!? 何事……!?」

曜「おー……善子ちゃんが的確に状況を説明してる……」

善子「善子じゃなくてヨハネよ!!」


みんなが甘やかしてくれる……幸せー……。

身に沁みる飴の甘さを感じながら、私はぼんやりと──せつ菜ちゃんに目を向ける。

632: ◆tdNJrUZxQg 2023/01/06(金) 17:10:49.08 ID:djK6Kzqg0

侑「そういえばさ、そういえばさっ! せつ菜ちゃんが貰った最初のポケモンってどんな子なの!?」

せつ菜「あ、はい! 出てきて、ダクマ!」
 「──ベァーマ…」

歩夢「わ、可愛い♪」

侑「ダクマ! この子がせつ菜ちゃんの最初のポケモンなんだねっ!」

せつ菜「最初というか、最後というか……少し言い方に悩んでしまいますけどね……」
 「ベァ?」

せつ菜「あ、そうだダクマ! おやつがあるので、食べませんか? えっと……」
 「ベァーマ」

歩夢「せつ菜ちゃん、ゲンガー用にあげたやつまだ余ってる?」

せつ菜「え? あ、はい。たくさん貰ったのでまだありますけど……」

歩夢「うん♪ じゃ、桃色の“ポフィン”をあげようね♪ ダクマが好きな味だから♪」

せつ菜「え、でも……ダクマだけ、自分用のおやつがないのは可哀想です……。……ゲンガーもおやつを取られたら嫌でしょうし、私が前に作ったやつが確か……」

歩夢「私がいくらでもあげるから、ダクマには桃色の“ポフィン”をあげようね?」

せつ菜「あ、歩夢さん……? ……な、なんだか……すごく圧が強いです……。ですが、私が作った自慢のやつがあるんです! ダクマ! おやつですよ!」
 「ベ、ベァ…」

かすみ「し、しず子……あれ、炭みたいな色してない……?」

しずく「というか……炭そのもののような……」

歩夢「あーーーーーサスケーーーーー人のもの勝手に食べちゃダメだよーーーーー」
 「シャーーーボッ」

せつ菜「あーーーーーっ!? 私特製の自慢の“ポフィン”がーーーーっ!?」

リナ『歩夢さんとサスケの尊い行いによって、また1匹のポケモンの命が救われた……』 ||;◐ ◡ ◐ ||

歩夢「ごめんね、せつ菜ちゃん……。……お詫びに今度、私と一緒に“ポフィン”作らない?」

せつ菜「え……! い、いいんですか!?」

歩夢「うん♪ “ポフィン”はみんなで作った方がおいしくなるから、一緒に作ろう♪」

かすみ「歩夢先輩! かすみんも一緒にいいですか!? 歩夢先輩のお菓子作りの技術を盗──じゃなくて、教えてください!」

しずく「あ、それなら私もご一緒したいです」

歩夢「うん♪ みんなで作ろう♪ ──そのときに上手な作り方を徹底的に教えなくちゃ……うん」

せつ菜「? 歩夢さん、何かおっしゃいましたか?」

歩夢「うぅん♪ なんでもないよ♪」

侑「じゃあ、私はみんなが作ったのを食べるね! えへへ、楽しみ……」
 「ブイ…」

リナ『ポケモン用のお菓子なのに、自分が食べる話ししてる……』 ||;◐ ◡ ◐ ||


賑やかなあの子たちを見ていると──まるで昔の私たちを見ているような気持ちになった。


千歌「せつ菜ちゃん……よかったね……」


仲間に囲まれた彼女は……きっともう大丈夫……。

私は……チャンピオンとして、一人のポケモントレーナーとして……大切なことを教えてあげられたことに安堵するのだった。




633: ◆tdNJrUZxQg 2023/01/06(金) 17:11:17.71 ID:djK6Kzqg0

    👠    👠    👠





果林「……」

彼方「……」

果林「……懐かしいな」

彼方「……そうだね」


侑たちを見ていると……昔の自分たちを思い出す。

同じ志を持った仲間たちと……過ごした日々を……。


果林「私たち……いつから……すれ違っちゃったのかしらね……」

彼方「果林ちゃん……」

果林「私はどこから……間違っちゃったのかしらね……」

彼方「…………」

果林「…………」

彼方「……やり直せばいいよ」

果林「ふふ……簡単に言うんだから……」

彼方「みんなが笑える世界を……目指そう……昔みたいに……一緒に……」


彼方が私の手を握る。


果林「……そうね。……彼方……後のことは……よろしくね……」


彼方には……この言葉で十分伝わるはずだ。彼方は……私の家族だから。


彼方「……大丈夫。私、頑張りながら……待ってるから……」

果林「……うん」

エマ「ま、待って……どういうこと……?」


そんな私たちの会話を聞いて、エマが瞳を揺らしながら訊ねてくる。


果林「どう足掻いても、私はこの後、国際警察に捕まるって話……釈放されるのに、どれくらい掛かるかしらね……」

エマ「そ、そんな……!」

果林「いいのよ、エマ。……それでいいの」

エマ「果林ちゃん……」

果林「私が出来る限りの罪を背負うから……外に出るのは、時間が掛かっちゃうかもしれないわね……」

姫乃「……! 果林さん、それって……!」

果林「……この一連の問題は全て──私が無理やり命令して従わせた。そういうことよ。姫乃も愛もね」

姫乃「ま、待ってください……! 私は……そんなことされても嬉しくありません……!」

果林「姫乃……」

姫乃「果林さんが負けを認めて、檻に入ることを選ぶなら……私もお供します……。……させてください……」

果林「……ありがとう、姫乃」


最初は利用するつもりでしかなかったのに……姫乃はいい子だった。……最後まで、私に付き従ってくれるらしい。

634: ◆tdNJrUZxQg 2023/01/06(金) 17:12:19.94 ID:djK6Kzqg0

せつ菜「──なら……私も一緒に檻に繋がれるべきです」

果林「せつ菜……」


いつから聞いていたのか、気付けばせつ菜が私たちの方へやってきて、自分にも責任があると言いだした。


果林「……ダメよ、それこそ貴方は私が利用しただけ。関係ないわ」

せつ菜「いいえ……私は自分の意志で貴方たちに付いて行きました。貴方たちが裁かれるなら、私も同じように裁かれて然るべきです」

果林「……子供がかっこつけるんじゃない」

せつ菜「な……」

果林「自分の意志でとは……よく言うわね。まんまと心の弱みに付け込まれて利用された分際で」

せつ菜「それは……」

果林「貴方は、貴方の帰るべき世界があるでしょう? ……なら、そこに帰りなさい」

せつ菜「…………」

果林「特に……親や……自分を大切にしてくれる人を悲しませちゃダメよ……」


せつ菜の後方にいる──彼女の両親や……彼女をずっと見守ってきたであろう真姫……そして、彼女たちの仲間を見ながら。


果林「なんて……私が言えた話じゃないけどね……」

せつ菜「果林さん……」


せつ菜は何か言いたげだったけど──後方の両親たちや仲間と私を何度か見比べたあと、


せつ菜「…………」


私に向かって、綺麗なお辞儀をしてから、仲間たちのもとへと──帰っていった。


果林「それと……愛もね。……愛は本当に私が無理やり従わせてただけだから……」

彼方「そういえば……愛ちゃんはどこにいるの……?」

果林「あちこち移動しているせいですぐにはわからないけど……発信機があるから、それでちゃんと見つけて……もう終わったことを伝えるわ。私たちの負けだって……」


それで全て終わり……。やっと全部……終わりなんだ……。





    🎹    🎹    🎹





リナ『……』 || ╹ _ ╹ ||

侑「リナちゃん……行かなくていいの?」


果林さんたちをじっと見つめているリナちゃんに、そう訊ねる。

リナちゃんにとって……果林さんたちは、かつての仲間だ。……あの場に行きたいんじゃないかな……。


リナ『うぅん……いい。私はコピーだから……。璃奈はもう、死んだんだよ。あの輪に加わるべきなのは、私じゃない』 || ╹ ◡ ╹ ||

侑「リナちゃん……」

リナ『それに今の私は、侑さんのポケモン図鑑だから!』 || > ◡ < ||

侑「……わかった。リナちゃんの意思を尊重する」

リナ『ありがとう、侑さん』 || ╹ ◡ ╹ ||

635: ◆tdNJrUZxQg 2023/01/06(金) 17:12:50.49 ID:djK6Kzqg0

粗方の話もついて……。

あとは──


侑「あとは……帰るだけだね」
 「ブイ」

かすみ「ですね」


私たちは歩夢と、しずくちゃんと、せつ菜ちゃんを無事救出し……果林さんの野望も食い止めた。

やっと戦いが終わったんだ……。

──そう思った、そのときだった。


 「──しずくちゃーーーーんッ!!!」


空から電子音のような声が降ってきた。


しずく「この声……もしかして、ロトム……?」

 「やっと見つけたロトッ!!!」


焦った様子で、しずくちゃんの目の前にロトム図鑑が舞い降りてくる。


しずく「どうしたんですか……?」

 「た、大変ロトッ!!!」


焦った様子のロトムが口にしたことは、


 「やぶれた世界に居た、マリーたちが…愛って人にやられたロト…!!!」

しずく「え!?」


まさに青天の霹靂。私たちの知らない場所で、まだ事態が動いていたことを知らされる。


侑「ど、どういうこと!?」

 「ゲートを狙われたロト…あまりに強すぎて、果南ちゃんもダイヤちゃんも歯が立たなかったロト…」

果林「──なるほどね……愛はゲート側に行ってたのね……」


そう言いながら、彼方さんに手を引かれる形で、果林さんがこちらに歩いてくる。


果林「……今すぐ、愛を呼び戻すわ。もう戦闘が終わったことを伝える」


果林さんが愛ちゃんを止める旨を口にした瞬間──


 「──その必要はないよ」


またしても、空から声が降ってきた。

その場にいた全員が、空を見上げると、


愛「……アタシはここにいるから」
 「アーーゴ」


黄色と黒の巨大なハチのようなポケモンに掴まった──愛ちゃんがいた。

636: ◆tdNJrUZxQg 2023/01/06(金) 17:13:32.00 ID:djK6Kzqg0

侑「愛ちゃん……!」

果林「愛……もう戦いは終わったの……! 私たちの負けよ……!」

愛「……みたいだね。まんまと負けちゃったみたいでまぁ……」

果林「……ごめんなさい。でも、出来る限りの責任は私が負うから……だから──」

愛「んー……別にそれはどうでもいいや」

果林「どうでもいい……?」

愛「挨拶しにきただけだから──」
 「アーーーーゴッ!!!!!」


直後、上空から──大量の“りゅうせいぐん”が降り注いできた。


侑「……!? イーブイ!! “きらきらストーム”!!」
 「ブーィィッ!!!!」

歩夢「マホイップ!! “マジカルシャイン”!!」
 「マホイーーーッ!!!」


咄嗟に私たちに向かってくる流星をフェアリー技で掻き消すが──大量の“りゅうせいぐん”を全ては捌ききれず、


侑「くっ……!! 歩夢、伏せて!!」

歩夢「きゃっ!!?」

せつ菜「……くっ! せ、せめて、戦えるポケモンが残っていれば……!」

かすみ「しず子……!!」

しずく「きゃっ!?」



全員でその場に伏せる。

でも──数が多すぎる。


果林「愛!! やめなさい!! ……くっ……!!」

彼方「エマちゃん!! 遥ちゃんと姫乃ちゃんと一緒に、わたしの近くで伏せてて!!」

エマ「う、うん……! 遥ちゃん! 姫乃ちゃん!」

遥「は、はい……! 姫乃さんも……!」

姫乃「あ、愛さん……一体何を……」


みんなが伏せる中、


彼方「ネッコアラ!! “ウッドハンマー”!! コスモウム!! “コスモパワー”!!」
 「コァッ!!!」「────」


彼方さんのネッコアラが流星を強引に叩き落とし、コスモウムが頑強な体で隕石を破壊する。

さらに──

637: ◆tdNJrUZxQg 2023/01/06(金) 17:14:01.99 ID:djK6Kzqg0

曜「カメックス!! “ハイドロポンプ”!!」
 「ガメェーーーッ!!!!」

梨子「メガニウム!! “ハードプラント”!!」
 「ガニュゥーーーッ!!!!」

ルビィ「コラン!! “ひかりのかべ”!!」
 「ピピピッ」

花丸「デンリュウ!! “チャージビーム”ずら!!」
 「リューーーッ!!!」

千歌「はぇ!? なになに!? うわぁ!? でっかい隕石降ってきてる!?」

善子「あんたは寝てなさい!! アブソル!! “かまいたち”!!」
 「ソルッ!!!!」


図鑑所有者の先輩たちが、隕石を破壊していく。

少し離れたところにいた、せつ菜ちゃんのお父さんやお母さんたちは、


真姫「絶対私から離れないで!! ハッサム!! “バレットパンチ”!!」
 「ハッサムッ!!!!!!」


真姫さんのハッサムが守っている。

しばらく、流星による攻撃が続いたが──実力者たちの尽力によって、どうにか凌ぎ切る。


愛「……へー……耐えきるのか。さすがに実力者揃いだね……」

彼方「……さ、さすがに……戦闘で疲れきってるところに、この攻撃は堪えるよ~……」

遥「それより……あのポケモン……なに……?」

しずく「ウルトラビーストじゃないんですか……? アーゴヨンってポケモンじゃ……確かに、色が違いますけど……」

善子「いや……データで見たアーゴヨンとは……姿が違う……。色違いだとしても……あんなエネルギーの塊みたいな、光る翼を持っているポケモンじゃない……」


確かに愛ちゃんのアーゴヨンは──見ているだけで目が焼かれそうなくらいの、超オレンジと言いたくなるような強烈な閃光を放っていた。

そして、お腹にある毒針らしき場所からも、バヂバヂと音を立てながら、エネルギーを爆ぜ散らしている。


愛「ああ、この子はね……。……ベベノムが……愛さんの気持ちに応えた姿だよ」

侑「気持ちに……応えた……姿……?」

善子「……まさ……か……」


その言葉を聞いて、ヨハネ博士が目を見開いた。


善子「……キズナ……現象…………」

愛「……へー……知ってる人がいるとは思わなかった。そうキズナだよ! この子はずっとアタシと共に、目的のために戦い続けてきた……!! そして、目覚めたんだよ!! キズナの力が……!!」
 「アーーーーゴッ!!!!!!」


アーゴヨンが、超オレンジの閃光翼を羽ばたかせると──周囲にとんでもない勢いの風が発生する。

638: ◆tdNJrUZxQg 2023/01/06(金) 17:14:34.71 ID:djK6Kzqg0

侑「ぐぅ……!?」

歩夢「きゃぁ……!?」

せつ菜「ふ、風圧が強すぎて……! た、立っていられない……っ……!!」

果林「愛ッ!! もうやめなさい!! これは命令よ!! もう、戦いは終わったの!!」

愛「へー……」

姫乃「愛さんっ!! 何を考えているんですかっ!? 味方まで巻き込むつもりですか……!?」

愛「……アタシは最初から……カリンも姫乃も……味方だなんて、思ってなかったけど?」

姫乃「なっ……」

果林「彼方!! さっき私から回収したリモコン貸して!!」

彼方「り、了解~!!」


彼方さんが取り出したリモコンを、手錠をした果林さんの手に受け渡す。

恐らく──前に聞いた、愛ちゃんの首に着けられたチョーカーに電撃を流すボタンだ。


果林「愛ッ!! 止まりなさいッ!!」


果林さんがボタンをポチリと押したが──


愛「…………」


愛ちゃんはケロリとした顔をしている。


果林「な……なんで……!?」

愛「はぁ……こんなおもちゃで本当にアタシに言うこと聞かせられると思ってたんだね」


そう言いながら、愛ちゃんは──チョーカーに手を掛け、バキっと折りながら外してしまった。


果林「な……そんな外し方したら……電撃が……」

愛「こんなのね、着けられたその日にはもう外してたよ……」

果林「嘘……それじゃ、今までは……」

愛「そ、逃げられないフリして……カリンのこと利用してただけ」

果林「ど、どうして……そんな……?」

愛「このポケモンたちを手に入れるためだよ……」


愛ちゃんはそう言いながら──3つのボールを放り投げる。

そのボールから飛び出したのは──


 「──ディアガァァ…」「──バァァァル…」「──ギシャラァァァ…」


とてつもない威圧感を発する、3匹の巨大なポケモンの姿。


侑「……な、なに……あの、ポケモン……」

かすみ「い、一匹はギラティナですよね……!? で、でも、やぶれた世界以外じゃ、あの姿になれないんじゃ……」


私たちの疑問に答えるように、愛ちゃんが口を開く。

639: ◆tdNJrUZxQg 2023/01/06(金) 17:15:13.29 ID:djK6Kzqg0

愛「この子たちはね……真の姿を取り戻した、時の神、空間の神、反物質の神だよ……」

善子「まさかそれが……ディアルガ、パルキア、ギラティナの……本来の姿……ってこと……?」

愛「そーゆーこと」

彼方「そのポケモンたちを捕まえて、何するつもりなの……!?」

愛「それは簡単だよ。……これから、世界を── 一つに繋げるんだよ……」

善子「世界を一つに……繋げる……?」

愛「……もうちょっと具体的に言うとね……ウルトラスペース内の特異点を……神の力でインフレーションさせて、全宇宙のありとあらゆるエネルギーを均一化する……」

善子「なん……です……って…………?」


ヨハネ博士がその言葉に目を見開く。


善子「あんた、そんなことしたら全世界が──いや、全宇宙がどうなるかわかってんの!? それってつまり、全宇宙の熱的死が訪れるってことよ!?」

愛「もちろん。……ありとあらゆるエネルギー差異が消滅して……全てが無になる……」

善子「そんなことしたら、あんたも消えることになる!! 何考えてんの……!!?」

愛「……りなりーを迎えに行くんだよ」

果林「え……」

彼方「璃奈、ちゃん……を……?」

愛「全てが無になった──物質が消え去り……情報しかなくなった世界……つまり、全てがりなりーと同じになる……」

果林「愛……あ、貴方……何……言ってるの……?」

愛「ねぇ、カリン、カナちゃん。……りなりーが最期になんて言ってたか知ってる……?」


愛ちゃんは果林さんたちを見下ろしながら──


愛「……もし生まれ変われるなら……次は、みんなと繋がりたい……そう言ったんだ……。……だから……アタシがりなりーの夢を叶える……全宇宙を……情報レベルでバラバラになったりなりーと……一つに……繋げるんだ……」

果林「なに……言ってる……の……?」

善子「……狂ってる……」

愛「狂ってる? ……あははっ! だろうねっ! アタシはりなりーを失ったあの日から、もう狂ってるんだよ!! ……りなりーを奪った、世界のせいで……!」

果林「奪ったって……あ、あれは事故で……」

愛「あれが本当に不幸な事故だったと思ってんの?」

果林「え……」

愛「……確認したらさ……ウルトラスペースシップに細工してやがったんだよね……アイツら……。……ご丁寧にアタシたちが出発前点検を済ませた後に……」

彼方「ま、まさか……それじゃあ、あの事故は……」

愛「そうだよ。……政府方針に反対するアタシたちを消すために……仕組まれたんだよ」

果林「そん……な……」

愛「だから、こんな世界に未練なんてない。アタシはりなりーの望みを叶える。他のことなんてどうでもいい。……あはははははっ!! やっとこの時が来たんだ……!!」


愛ちゃんは高笑いを上げながら、そう宣言する。

そのとき、


リナ『──そんなこと、璃奈は望んでないッ!!!』 || ˋ ᇫ ˊ ||


大きな声をあげながら──私の傍から、リナちゃんが飛び出した。


侑「リナちゃん……!?」


勢いよく飛び出したリナちゃんが、愛ちゃんの目の前に相対する。

640: ◆tdNJrUZxQg 2023/01/06(金) 17:15:57.17 ID:djK6Kzqg0

愛「……何?」

リナ『璃奈はそんなこと望んでない!!』 || ˋ ᇫ ˊ ||

愛「……リナちゃん……だっけ? 名前が同じだけのロトム図鑑の分際で……りなりーの何がわかるの?」

彼方「愛ちゃん、その子は璃奈ちゃんなの!!」

愛「……は?」

彼方「璃奈ちゃんの記憶を持ってる子なの……!!」

愛「嘘でしょ……?」

リナ『彼方さんの言ってることは……嘘じゃない……。私はロトム図鑑じゃない。……璃奈の記憶をベースに作られた……AIだよ』 || ╹ᇫ╹ ||

愛「……ベースに……か」

リナ『…………』 || ╹ _ ╹ ||

愛「…………じゃあ、答えてよ……」

リナ『…………』 || ╹ _ ╹ ||

愛「…………君は……りなりーなの……?」

リナ『…………』 || ╹ _ ╹ ||

愛「…………」

リナ『…………璃奈では……ない。……私は……コピー。……璃奈は今も……情報として……どこかを……漂ってる……。……璃奈は……もう……絶対に生き返らない……』 || 𝅝• _ • ||

愛「………………。…………だよね…………知ってる。……知ってるよ。……だって──りなりーの作った理論に……そう書いてあったから……りなりーの提唱した理論には……一度情報レベルでバラバラになった人間を……完全に復元するのは絶対に不可能だって……」

リナ『…………』 || 𝅝• _ • ||

愛「何度も何度も何度も何度も何度も何度も……計算しなおした……。もしかしたら、万に一つ、億に一つ、兆に一つ……あの理論が間違ってて……りなりーを救える可能性があるかもしれないって。でも…………りなりーが作った理論が……間違ってるはず、なかった……。……ないんだ……。……だって、りなりーが作った理論だから……。……りなりー自身が……もうりなりーが帰ってこないことを……証明してたんだ……」

リナ『…………』 || > _ <𝅝||

愛「でもさ……」


愛ちゃんはギュッと拳を握りしめて──


愛「……こんなときくらい──嘘……吐いてよ……」


絞り出すような声で……そう、言った。


リナ『……愛、さん……』 ||   _   ||

愛「そうじゃなきゃ……アタシ……っ……。……もう、本当に……止まれないじゃん……っ……」


愛ちゃんは──泣いていた。

直後──アーゴヨンの背後に巨大なウルトラホールが出現し、


愛「…………もう……全部終わりだ……この世界も、この宇宙も……全部……一つになる……。……りなりーと……一つになって……繋がるから……──」

リナ『愛さんっ!!』 || > _ <𝅝||


愛ちゃんは……ホールに飲み込まれて──消えてしまったのだった。




641: ◆tdNJrUZxQg 2023/01/06(金) 17:17:41.04 ID:djK6Kzqg0

>レポート

 ここまでの ぼうけんを
 レポートに きろくしますか?

 ポケモンレポートに かきこんでいます
 でんげんを きらないでください...


【ウルトラキャニオン】
 口================== 口
  ||.  |○         o             /||
  ||.  |⊂⊃                 _回/  ||
  ||.  |o|_____.    回     | ⊂⊃|  ||
  ||.  回____  |    | |     |__|  ̄   ||
  ||.  | |       回 __| |__/ :     ||
  ||.○⊂⊃      | ○        |‥・     ||
  ||.  | |.      | | ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄\     ||
  ||.  | |.      | |           |     ||
  ||.  | |____| |____    /      ||
  ||.  | ____ 回__o_.回‥‥‥ :o  ||
  ||.  | |      | |  _.    /      :   ||
  ||.  回     . |_回o |     |        :  ||
  ||.  | |          ̄    |.       :  ||
  ||.  | |        .__    \      :  .||
  ||.  | ○._  __|⊂⊃|___|.    :  .||
  ||.  |___回○__.回_  _|‥‥‥:  .||
  ||.       /.         回 .|     回  ||
  ||.    _/       o‥| |  |        ||
  ||.  /             | |  |        ||
  ||. /              o回/         ||
 口==================口


642: ◆tdNJrUZxQg 2023/01/06(金) 17:18:11.36 ID:djK6Kzqg0

 主人公 侑
 手持ち イーブイ♀ Lv.77 特性:てきおうりょく 性格:おくびょう 個性:とてもきちょうめん
      ウォーグル♂ Lv.75 特性:まけんき 性格:やんちゃ 個性:あばれるのがすき
      ライボルト♂ Lv.76 特性:ひらいしん 性格:ゆうかん 個性:ものおとにびんかん
      ニャスパー♀ Lv.73 特性:マイペース 性格:きまぐれ 個性:しんぼうづよい
      ドラパルト♂ Lv.73 特性:クリアボディ 性格:のんき 個性:ぬけめがない
      フィオネ Lv.71 特性:うるおいボディ 性格:おとなしい 個性:のんびりするのがすき
 バッジ 8個 図鑑 見つけた数:255匹 捕まえた数:10匹

 主人公 歩夢
 手持ち エースバーン♂ Lv.65 特性:リベロ 性格:わんぱく 個性:かけっこがすき
      アーボ♂ Lv.65 特性:だっぴ 性格:おとなしい 個性:たべるのがだいすき
      マホイップ♀ Lv.64 特性:スイートベール 性格:むじゃき 個性:こうきしんがつよい
      トドゼルガ♀ Lv.63 特性:あついしぼう 性格:さみしがり 個性:ものおとにびんかん
      フラージェス♀ Lv.62 特性:フラワーベール 性格:おっとり 個性:すこしおちょうしもの
      ウツロイド Lv.71 特性:ビーストブースト 性格:おくびょう 個性:ものおとにびんかん
 バッジ 3個 図鑑 見つけた数:221匹 捕まえた数:20匹

 主人公 かすみ
 手持ち ジュカイン♂ Lv.78 特性:かるわざ 性格:ゆうかん 個性:まけんきがつよい
      ゾロアーク♀ Lv.73 特性:イリュージョン 性格:ようき 個性:イタズラがすき
      マッスグマ♀ Lv.72 特性:ものひろい 性格:なまいき 個性:たべるのがだいすき
      サニゴーン♀ Lv.71 特性:ほろびのボディ 性格:のうてんき 個性:のんびりするのがすき
      ダストダス♀✨ Lv.72 特性:あくしゅう 性格:がんばりや 個性:たべるのがだいすき
      ブリムオン♀ Lv.72 特性:きけんよち 性格:ゆうかん 個性:ちょっとおこりっぽい
 バッジ 8個 図鑑 見つけた数:251匹 捕まえた数:15匹

 主人公 しずく
 手持ち インテレオン♂ Lv.66 特性:スナイパー 性格:おくびょう 個性:にげるのがはやい
      バリコオル♂ Lv.65 特性:バリアフリー 性格:わんぱく 個性:こうきしんがつよい
      アーマーガア♀ Lv.65 特性:ミラーアーマー 性格:ようき 個性:ちょっぴりみえっぱり
      ロズレイド♂ Lv.65 特性:どくのトゲ 性格:いじっぱり 個性:ちょっとおこりっぽい
      サーナイト♀ Lv.65 特性:シンクロ 性格:ひかえめ 個性:ものおとにびんかん
      ツンベアー♂ Lv.65 特性:すいすい 性格:おくびょう 個性:ものをよくちらかす
 バッジ 0個 図鑑 見つけた数:224匹 捕まえた数:23匹

 主人公 せつ菜
 手持ち ダクマ♂ Lv.5 特性:せいしんりょく 性格:ようき 個性:こうきしんがつよい
      ウインディ♂ Lv.86 特性:せいぎのこころ 性格:いじっぱり 個性:たべるのがだいすき
      スターミー Lv.81 特性:しぜんかいふく 性格:おくびょう 個性:ものおとにびんかん
      ゲンガー♀ Lv.84 特性:のろわれボディ 性格:むじゃき 個性:イタズラがすき
      エアームド♀ Lv.79 特性:くだけるよろい 性格:しんちょう 個性:うたれづよい
      ドサイドン♀ Lv.82 特性:ハードロック 性格:ゆうかん 個性:あばれることがすき
 バッジ 8個 図鑑 見つけた数:28匹 捕まえた数:9匹


 侑と 歩夢と かすみと しずくと せつ菜は
 レポートに しっかり かきのこした!


...To be continued.




643: ◆tdNJrUZxQg 2023/01/07(土) 11:46:19.80 ID:Xct6+7De0

■Chapter071 『終焉と絶望。……それでも──』 【SIDE Yu】





リナ『…………』 ||   _   ||

侑「リナちゃん……」

リナ『…………ごめんなさい……愛さんを……止められなかった……』 ||   _   ||

歩夢「リナちゃん……」

かすみ「リナ子……!! なんで、嘘吐かなかったの!? 愛先輩の言うとおり、あそこで自分が璃奈だって言ってれば……!!」

しずく「かすみさんっ!! リナさんの気持ちも考えて!!」

かすみ「でも……!! このままじゃ世界、滅んじゃうんでしょ!?」

しずく「そ、それは……」

リナ『うぅん、かすみちゃんの言ってることは正しい……。……合理的に考えれば、あそこは嘘を吐いてでも止める場面だった』 ||   _   ||

侑「……じゃあ、どうして……嘘を吐かなかったの……?」

リナ『………………私…………愛さんには…………嘘……吐けなかった……。…………大好きな愛さんにだけは…………嘘……吐けなかった…………』 || 𝅝• _ • ||

かすみ「…………リナ子……。…………ごめん」


それは……リナちゃんが、どうしようもなく璃奈ちゃんだったから……愛ちゃんの目の前で……璃奈ちゃんの死を肯定せざるを得なかった。


侑「…………」


やるせなかった。

でも、もう……どうすればいいか。

みんなが沈黙する中……口を開いたのは──


歩夢「……愛ちゃんを、止めに行こう」


歩夢だった。


侑「歩夢……?」

歩夢「私……愛ちゃんの気持ち……ちょっとだけ……わかる気がするんだ……」

かすみ「ま、マジですか……?」

歩夢「……もし、侑ちゃんが……死んじゃったとして……。……それでも、侑ちゃんに繋がる何かがあったら……私はそれが世界を滅ぼすことになるんだとしても……きっと手を伸ばしちゃうと思う……」

侑「歩夢……」

歩夢「……大好きな人に嘘を吐けなかったリナちゃんの気持ちも……わかるよ……。……好きな人に嘘吐くのって……苦しいし……悲しいもん……」

リナ『歩夢さん……』 || 𝅝• _ • ||

歩夢「でも……それってどっちも、大好きで、大切だから、そう思うんだよね……? ……お互いを想い合う……大好きな気持ちのせいで……誰も望まない未来を選んじゃうなんて……悲しすぎるよ……」


歩夢の言うとおりだ。……こんな悲しい結末で、終わらせちゃダメだ……。


侑「……ねぇ、リナちゃん」

リナ『なぁに……?』 || 𝅝• _ • ||

侑「リナちゃんはどうしたい? ……オリジナルとか、コピーとかじゃなくて……。……リナちゃんはどうしたい?」

リナ『私は……』 ||   _   ||


リナちゃんは少しだけ悩んでいたけど──


リナ『……私は──愛さんを救いたい……!! 愛さんに、この世界で生きる未来を……選んで欲しい……!!』 || > _ <𝅝||

644: ◆tdNJrUZxQg 2023/01/07(土) 11:47:53.84 ID:Xct6+7De0

リナちゃんはそう、自分の気持ちを口にしてくれた。


侑「……うん! じゃあ、決まりだ」

歩夢「愛ちゃんを止めに……行こう……!」


私は歩夢と頷き合う。


かすみ「……そうですね……。……このまま、世界が消えるのを黙って待つなんて……絶対お断りですし」

しずく「せっかく、ここまで来たんですから……ハッピーエンドで終わらせないと、納得行きませんよね」


かすみちゃんとしずくちゃんが、歩み出る。


せつ菜「こんな形で、世界を終わらせるわけに行きません。……やっと、私は私を始められるんですから……!」

エマ「なにが出来るかわからないけど……。……誰かを想う気持ちが、悲しい結果になるのは……嫌だから……。わたしにも手伝わせて……!」


せつ菜ちゃんとエマさんが、協力を申し出て。


果林「……仲間の不始末は……さすがに責任取らないとね」

彼方「そうだね~。一発愛ちゃんには厳しく言ってやらないと! 一人で考え込むな~って」


果林さんと彼方さんが、仲間の為に決意する。


リナ『みんな……』 || 𝅝• _ • ||

侑「リナちゃん……! 愛ちゃんを止めに行こう……!」

歩夢「大切な人を想う気持ちを……悲しい結末にしないために……!」

リナ『……うん!』 || > _ <𝅝||


私たちは最後の戦いに臨むために……覚悟を決めた。




645: ◆tdNJrUZxQg 2023/01/07(土) 11:49:14.34 ID:Xct6+7De0

    🎹    🎹    🎹





曜「とりあえず……愛ちゃんが具体的に何しようとしてるのかが、私たちにはよくわからなかったんだけど……」

善子「そうね……まず、その説明をしようかしら……」

せつ菜「確か……特異点のインフレーション……とか言ってましたよね……?」

しずく「それによって、全宇宙のエネルギーを均一化するとも……」

かすみ「果林先輩たちの世界って、エネルギーが他の世界に偏っちゃうから困ってたんですよね……? 均一化ってことは……みんなで平等に分け合うってことじゃないんですか?」

リナ『うぅん、そういう次元の話じゃない。エネルギー差異の完全均一化は全ての熱的活動の終焉を意味する』 || ╹ᇫ╹ ||

かすみ「……???」

善子「えーっと……そうね……。めちゃくちゃ簡単に言うなら……熱いの反対は冷たいだけど……それが全部一定になったら、熱いも冷たいもなくなっちゃうって話かしら」

せつ菜「つまり……相対概念の消失……でしょうか」

リナ『そういうこと。さらにこれは、何も熱に限った話じゃない。光は暗いから明るい、空気が多い場所から少ない場所へ移動するから風が吹く……みたいに、ありとあらゆる現象はエネルギーの差異によって生じてる。これがなくなると……』 || ╹ᇫ╹ ||

侑「えっと……熱さもないし、明るさもないし、風もない世界になる……ってこと……?」

リナ『それどころか、物質もエネルギーが動き続けてることによって存在してるから、エネルギー差異が完全消滅したら……全ての物質がなくなるに等しい。人やポケモンどころか、星も……宇宙すらも』 || ╹ᇫ╹ ||

花丸「つまり……無……」

かすみ「え……!? そ、それ……めちゃくちゃやばいじゃないですか……!?」

善子「だからヤバイって言ってるでしょ……。これが全宇宙の熱量的な終焉──熱的死と言われてる。愛はそれを無理やり引き起こそうとしている」

果林「つまり……全宇宙が滅びるってことね」

彼方「果林ちゃん……あんまり、わかってないよね?」


とりあえず……愛ちゃんを止めないと、全てが滅んじゃう……ってことはわかったかな……。

となると、次に話すべきは……どうやって愛ちゃんを止めるかだ。


善子「だから、私たちは愛が事を起こす前に、追い付いて止めないといけないんだけど……そもそも特異点ってシップで行けるの?」

リナ『たぶん……無理……。……特異点って言っても愛さんが行こうとしてるのは特異点の中核……。普通のシップじゃ行けたとしても、途中でバラバラになる……』 || > _ <𝅝||

善子「そうよね……向こうはキズナ現象を起こした規格外のアーゴヨンに……覚醒したディアルガ、パルキア、ギラティナまで持ってる……。それによって、やっとたどり着けるってことよね……」

リナ『速度自体はポケモン単体の速度よりかは全速力シップの方が上だから、もしかしたら特異点に着くまでに追い付くこと自体は出来るかもしれないけど……』 || 𝅝• _ • ||

果林「シップ内に居たらウルトラスペース内での戦闘は無理……。……追い付いたところで無抵抗のまま墜とされるのが関の山ね」

侑「となると必要なのは……ウルトラスペースを自由に航行すること、かつウルトラスペース内で戦闘して愛ちゃんを止められること……か……」

しずく「ウルトラビーストに乗って移動するのはどうでしょうか? 確かウルトラビーストには、ウルトラスペースのエネルギーを中和する効果があるんですよね? それなら、生身の人間でも活動出来るはずです!」

彼方「確かにそうだね~……実際、愛ちゃんはアーゴヨンでウルトラスペース内のエネルギーを中和して、航行してるはずだし……」

善子「でもあのアーゴヨンは特別……エネルギーの出力的に普通のウルトラビーストじゃ追い付けないわよね?」

リナ『うん。速度の面でも、活動限界時間を考えても、普通のウルトラビーストで飛び出すのは少し無謀かも……』 || 𝅝• _ • ||

花丸「ちなみに……愛ちゃんはどれくらいで、その特異点とやらにたどり着くずら?」

リナ『私たちが以前行ったことがあるのは、あくまで重力圏内までだったけど……中核となると、全速力のシップでも何年も掛かるような距離だから、多少の余裕はある……と思う。ただ、ディアルガやパルキアがいるから、時空を歪めて加速とかはしてそう……。ざっくり1ヶ月くらいがボーダーだと思った方がいいかも……』 || > _ <𝅝||

遥「どちらにしろ……向こうが時空を操って移動出来る以上……こちらもかなりの水準でワープ航行レベルの速度が求められることになります……」

千歌「条件が厳しすぎるよ~……」


確かに、必要とされていることはわかりやすいかもしれないけど……それを満たすことがあまりに難しすぎる。

早くも議論が詰まってしまったところで、口を開いたのは、


かすみ「は~……相変わらず皆さん、難しく考えすぎなんですよ……」

646: ◆tdNJrUZxQg 2023/01/07(土) 11:50:01.55 ID:Xct6+7De0

かすみちゃんだった。


侑「何か考えがあるの……?」

かすみ「はい! 要は超速くて超強いウルトラビーストを捕まえれば万事解決です!」

しずく「それが出来たら苦労しないでしょ! 真面目に考えなさい!」

かすみ「いひゃい~……ほっへひっはららいれ~……」


かすみちゃんがしずくちゃんにほっぺを引っ張られて悲鳴をあげる。


姫乃「……とりあえず、ここでうんうん唸っていても仕方がないので、ひとまずシップをこちらに持ってきます」

遥「そういうことなら、姫乃さんの手錠……一旦外しますね。いいよね、お姉ちゃん?」

彼方「うん。さすがにこんな状況だし、敵も味方もないからね~……果林ちゃんのも一旦外してあげるね~」

姫乃「助かります」

果林「お願い」


姫乃さんたちが、シップの移動へと動き出す中──


侑「うーん……新しいウルトラビーストか……」


私はかすみちゃんの考えは、案外悪くない気はしていた。

今のこっちのカードじゃ、どっちにしろ追い付くことすら難しいというなら……新しい航行方法を得る方がまだ可能性がある気がするし……。

向こうがポケモンの力によって無理を通しているなら、それを覆すにはこっちも無理を通せるだけのポケモンの力が必要なんじゃないかな……。

そのときふと──


 「────」
侑「コスモウム……?」


彼方さんのコスモウムが、私の前に舞い降りてきた。

……確かに修行中にそこそこ仲が良くなったポケモンではあるけど……。


侑「そういえば、コスモウムもウルトラビーストなんだっけ……」
 「────」


まあ……あまりに遅すぎて、追い付くとかそういう次元じゃないんだけど。


歩夢「侑ちゃん……何か思いついた……?」

侑「うぅん……全然……。……歩夢は?」

歩夢「私も……なかなかいい案が思い浮かばない状態……」

侑「だよね……」
 「────」


二人で悩んでいた、そのとき──唐突に歩夢の胸元が輝きだした。


歩夢「えっ!? 何……!?」


歩夢が驚きの声をあげると同時に──


 「──ピュィッ!!!!」
歩夢「……! コスモッグ……! ずっと私の服の中に居たの……?」


コスモッグが飛び出し、光り輝いていた。その光は──今までにも、何度か見たことのある光だった。

647: ◆tdNJrUZxQg 2023/01/07(土) 11:50:44.54 ID:Xct6+7De0

侑「こ、これってまさか……!?」

歩夢「進化の光……!」


光に包まれたコスモッグは──


 「────」


紅い水晶を持った、コスモウムへと……進化した。

そして、再び歩夢の胸元に降りてくる。


侑「コスモウムに進化した……」

かすみ「……ちょーっと待ってください……? コスモッグが進化しちゃうと、ウルトラスペースシップのエネルギーが取り出せなくなっちゃうんじゃ……!?」

果林「……そうね」

かすみ「ぬわーーー!? ますます、シップで追い付く希望がなくなっちゃいました~~~!?」


かすみちゃんが頭を抱えるけど──


彼方「…………」

果林「…………」


果林さんと彼方さんが、急に口元に手を当てて何かを考え始めた。


エマ「果林ちゃん……? 彼方ちゃん……?」

果林「……ねぇ、彼方……もしかして、今私と同じこと考えてない?」

彼方「……奇遇だね~、彼方ちゃんも今、果林ちゃんが同じこと考えてる気がしてたよ~」


果林さんと彼方さんは、リナちゃんの方に向き直る。


果林「リナちゃん、コスモウムは……太陽の化身か月の化身に姿を変えるって前に言ってたわよね?」

彼方「それが本当なら……もしかしたら……追い付けるんじゃない……?」

リナ『……! 確かに、コスモウムは大きなエネルギーを内包している繭みたいな状態……それが覚醒して進化した姿なら……! もしかしたら……!』 || ╹ 𝅎 ╹ ||

歩夢「それじゃ、この子たちを進化させれば……!」
 「────」

侑「ってことは……」
 「────」

かすみ「コスモウムを持ってる歩夢先輩と彼方先輩なら、乗り込めるってことですか……!?」

彼方「んー……一人は歩夢ちゃんだけど……もう一人は彼方ちゃんよりも──侑ちゃんがいいと思う」

侑「え!? な、なんで!?」
 「────」

彼方「コスモウム……さっきから侑ちゃんの周りを漂ってるし……」

侑「え?」
 「────」


言われてみれば、確かにコスモウムが私の周りをくるくると回っていた。

648: ◆tdNJrUZxQg 2023/01/07(土) 11:52:42.72 ID:Xct6+7De0

侑「……ホントに私でいいの……?」
 「────」

彼方「……コスモウムはもしかしたら……ずっと主を探してたのかもしれないね」

侑「え……?」
 「────」

彼方「だって、彼方ちゃんの傍に4年も居たのに……進化の兆しすらなかったんだもん」

果林「太陽の化身、月の化身になぞらえて、“SUN”と“MOON”の称号を組織内で最も強い二人に与えていた……。それは単純な強さが化身の力を呼び覚ますと思っていたからだという節があるわ。……でも、本当はそうじゃなかったかもしれない」

侑「それって、一体……?」
 「────」

彼方「それが何かはわからないけど……コスモウムは侑ちゃんに、その何かを見出したんじゃないかな」

侑「……そういうことなの? コスモウム?」
 「────」


周りを飛びまわっているコスモウムに訊ねても、言葉が返ってくるわけじゃないけど……。

大人しかったコスモウムがこんなに活発に動き回っている様子が、答えなんじゃないだろうか。


侑「……わかった。それじゃ……私と一緒に来て、コスモウム」
 「────」

歩夢「侑ちゃん……!」
 「────」

侑「うん……! コスモウムたちを進化させよう……!」
 「────」





    🎹    🎹    🎹





──現在私たちは、ウルトラスペースシップに乗り込み……私たちの世界を目指しているところだ。


姫乃「果林さん、本当に全速でいいんですね……!? ここで燃料を使ったら、確実に愛さんを追いかけることはできなくなりますが……」

果林「ええ。とにかく、戻るのを優先して。どっちにしろ、シップで追い付けないなら、コスモウムたちが進化することに賭けた方がいい」

姫乃「……わかりました」


速いと言っても1日以上は掛かるらしいので、私たちは移動の時間を使いコスモウムの進化条件について考えているところだった。


リナ『私が以前読んだ石碑の碑文のとおりなら……コスモウムは、日輪と月輪が交差する場所で、交差する時に、人の心に触れ、化身へと姿を変えるって記されてた』 || ╹ᇫ╹ ||

侑「太陽と月が交差する場所……」
 「────」

歩夢「どういうことかな……?」
 「────」


コスモウムたちは、どんどん活発に私たちの周囲を衛星のように回っている。

まるで、進化のタイミングを今か今かと待っているかのように……。

コスモウム側の準備が出来ているなら、あとは条件を整えてあげるだけだけど……。

649: ◆tdNJrUZxQg 2023/01/07(土) 11:53:26.40 ID:Xct6+7De0

しずく「人の心に触れという文面からして……確実に進化する場所があるのは、文明のある世界だと考えていいでしょうね」

かすみ「つまり、かすみんたちがさっきまでいた世界じゃ、どう足掻いても進化しないってことだよね……」

せつ菜「はい。……それで、日輪と月輪が交差する時というのですが……単純に昼夜が切り替わる瞬間のことではないでしょうか?」

かすみ「まあ確かに太陽はお昼のものですし、月は夜のものですもんね」

しずく「となると……夕暮れか夜明け……ですかね」

侑「確かに、試してみる価値はあるよね」

歩夢「じゃあ、時間は夕暮れか夜明けとして……問題は場所だよね……」

かすみ「うーん……日輪と月輪が交差する場所……。太陽と月……どっちにも近い場所ですかね?」

せつ菜「天体に少しでも近いとなると……宇宙?」

リナ『それだと、昼夜の概念と人の心に触れって場所がおかしくならない?』 || ╹ᇫ╹ ||

せつ菜「あ、確かに……」

かすみ「じゃあ……一番近い場所……高い場所ってこと?」

しずく「……あぁっ!!」


そのとき、しずくちゃんが突然大きな声をあげる。


かすみ「ちょ……び、びっくりさせないでよ、しず子……!」

しずく「あ、ありました……! 太陽と月と縁の深い場所……!」

侑「ほ、ホントに……!?」

歩夢「どこなの……?」

しずく「カーテンクリフの遺跡です! あそこには、太陽信仰と月信仰があったと考えられていたはずです!」

せつ菜「確かに……私も同じような話を聞いたことがあります」

かすみ「太陽と月を同時に崇めるなんて、欲張りな遺跡ですねぇ……」

せつ菜「確か……真西から日差しが差すときと、真東から日差しが差すときに、雲海に映る巨大な人の形をした影を神として崇めた……とかだったような……。……もちろん、その正体は自分自身の影なんですけど……。東に見た場合と西に見た場合、両方の人が主張をした結果、2つの信仰が生まれたという話だった気がします」

しずく「せつ菜さん……詳しいですね」

せつ菜「私は修行でよく登っていたので……気になって調べたこともありますし、実際に西にも東にも巨人の影を作ってみたことがありますよ! それと、もう一つ……あそこには面白い話があるんですよ」

歩夢「面白い話……?」

せつ菜「時間帯で……遺跡の呼び方が変わるんです」

かすみ「へ? なんでですか……?」

侑「地名そのものが変わるってこと……?」

しずく「……そっか、夕暮れか夜明けかによって、崇拝対象自体が変わるから……」

歩夢「あ、なるほど……夕暮れの神様を崇拝した呼び方と、夜明けの神様を崇拝した呼び方があるんだ……」

せつ菜「はい! そういうことです! 夕暮れ時が近づくと“黄昏の階(たそがれのきざはし)”、夜明け時が近づくと“暁の階(あかつきのきざはし)”と呼ぶそうですよ」

侑「じゃあ、交差するって言うのは……」

せつ菜「黄昏と暁が切り替わる場所……と考えれば辻褄が合うのではないでしょうか」

かすみ「なんかそれっぽい気がしてきました……!」

侑「……ふふ♪」


──ふと、笑みが零れてしまう。

650: ◆tdNJrUZxQg 2023/01/07(土) 11:54:33.76 ID:Xct6+7De0

歩夢「? 侑ちゃん? どうかしたの?」

侑「あ、ごめん……なんか、みんなどんどんアイディアが飛び出してきて、あっという間に正解なんじゃないかって場所にたどり着いちゃったから……なんか、すごいなって思って」

せつ菜「皆、それぞれに旅をしてきましたからね……その経験と知識が集まれば、わからないことなんてありませんよ!」

しずく「ですね。私たち、本当にいろんな場所を見て回ってきましたから……!」

かすみ「もしかしたら、かすみんたち……こうして世界を救うために、冒険の旅に出たのかもしれませんね!」

せつ菜「そう考えると、RPGの勇者一行みたいでかっこいいですね!!」

歩夢「ふふ……♪ 最初は、どうして自分が選ばれたのかわからなくって悩んでたのに……今は世界どころか……全宇宙を救おうとしてるなんて、あのときの私が知ったらびっくりして倒れちゃうかも……♪」


本当に……本当に、たくさんのものを、この旅の中で見てきた。辛いことも、悲しいことも、苦しいこともたくさんあったけど……それでも、思うんだ──


侑「……私……旅に出られて、本当によかった……。……歩夢、ありがとう」

歩夢「え?」

侑「歩夢が居てくれなかったら私……今ここに居なかった。……歩夢のお陰で偶然イーブイと出会って、たまたまポケモン図鑑を貰って……こうして、みんなと一緒に冒険できたことが……本当に夢みたいなんだ。だから──」


最後まで言おうとして、


歩夢「……違うよ、侑ちゃん」


歩夢に人差し指で口を押さえられる。


侑「……?」

かすみ「侑先輩、わかってないですねぇ……。いつまで経っても、自分はあくまで歩夢先輩のおまけみたいに言うんですから……」

しずく「侑先輩は、脇役なんかではありませんよ」

せつ菜「そのとおりです。侑さん、貴方はもう立派な強さと志を持った── 一人のトレーナーじゃないですか」

侑「……みんな……」

歩夢「……私が居たから、侑ちゃんがここに居るんじゃないよ。侑ちゃんがここまで歩いてきたから……侑ちゃんはここに居るの」


歩夢はそう言って私の手を握る。


侑「歩夢……」

歩夢「そして……それはみんな同じ。……侑ちゃんは私たちと何も変わらない」

しずく「もし侑先輩の旅立ちが偶然なら、私たちの旅立ちだって偶然ですよ」

せつ菜「むしろ、侑さんの場合は自分で掴んだ結果です。そんな消極的に捉えられたら、私の立つ瀬がないじゃないですか! もっと自信を持ってください!」

かすみ「選ばれたかすみんたちと侑先輩、じゃありませんよ。私たち5人みんなが、ヨハネ博士に選ばれたトレーナーです!」

侑「……!」


──私は、無意識のうちに、引け目を感じていたのかもしれない。

自分は選ばれたわけじゃないから。選ばれたみんなに便乗させてもらっただけだ……なんて。

でも、そうじゃない。……そうじゃ、なかったんだ。

本当は、きっかけなんて……どうでもよかったんだ。

私たちはみんな──旅に出て、いろんな景色を見て、時に悩んで、考えて、戦って……ポケモンたちといろんな困難を乗り越えてきた、一人の──ポケモントレーナーなんだ。


侑「そっか……そうだよね……」
 「ブイ♪」

歩夢「イーブイも侑ちゃんとの出会いが偶然なんて言われたら、嫌だもんね~?」
 「ブイ!!」

歩夢「ほらね♪ イーブイに怒られないように、侑ちゃんも胸を張って。ね?」

侑「……うん!」

651: ◆tdNJrUZxQg 2023/01/07(土) 11:55:22.59 ID:Xct6+7De0

だから、私は言い直す。


侑「みんなと旅が出来て……本当によかった! これからも、そんな旅が続けられるように……私たちで守るんだ!」


私の言葉に、みんなが頷く。

決意を胸に──シップは進んでいく。





    😈    😈    😈





──ローズシティ、病室。


善子「入るわよ」

鞠莉「……返事くらい待ちなさい」

善子「……こてんぱんにされたって聞いてたから、そんなこと言えるくらいには回復してるみたいでよかったわ」


そう言いながら、私はマリーの横にある椅子に腰かける。

ウルトラキャニオンから戻ってきてすぐ……私たちは海未からの報せで、瀕死のマリーたちが病院に担ぎ込まれた話を聞いた。

だから、こうして師の見舞いに来たというわけだ。


鞠莉「こんなことしていていいの? まだ、終わってないんでしょ?」

善子「出来ることがないだけよ。大勢で遺跡に押し寄せてもしょうがないからね……それに……」

鞠莉「それに……?」

善子「未来は……あの子たちに託してきたから」


私の自慢のリトルデーモンたちに、ね。


鞠莉「……言うようになったじゃない」

善子「ええ。マリーたちの仇は私の可愛いリトルデーモンたちが取ってくれるから、安心しなさい」

鞠莉「ふふ……頼もしい」


ウルトラビーストの出現報告も依然あるらしく……さっき言ったように、大勢でクリフの遺跡に押し寄せたところで、出来ることがあるわけではない。

だから、曜とルビィはジムに戻った。……ずら丸も何故かダリアに戻ったけど……まあ、やることがあるんでしょ。

リリーも事態が収束するまでは、ローズの防衛に参加するらしい。

そして千歌はリーグへと帰還した。

もちろん、私たちが戦う選択肢もあったけど……6人全員、満場一致だった。

未来は──新しい世代に託そう、と……。


善子「私たちは、もう前に世界を救ってるからね。おいしいところは、あの子たちにあげることにしたわ」

鞠莉「ふふっ、さっき出来ることがないって言ってたじゃない……」

善子「それはそれよ……んで、他の人たちは大丈夫なの?」

鞠莉「うん。ダイヤはさっき目が覚めたって聞いたわ。大怪我だったから、当分ベッドの上だろうけど……。あと……果南も大怪我してたはずなんだけど……」


そのとき、廊下からドタドタと騒がしい声が聞こえてくる。

652: ◆tdNJrUZxQg 2023/01/07(土) 11:56:19.35 ID:Xct6+7De0

ナース「ま、待ってください~!!」
 「ハピハピッ!!」

果南「無理~~!! 1ヶ月もじっとしてたら、死んじゃうって~!!」


部屋のすぐ外で、慌ただしく果南が通り過ぎていった。


善子「……どっかで見た光景ね……」

鞠莉「まったくね……」


マリーは肩を竦める。


鞠莉「穂乃果さんは……かなり酷い怪我だったけど、どうにか意識は取り戻したみたい。命に別状はないって」

善子「そ……ならよかった」


私とマリーは、何気なく、窓の外を見る。

外には、今日も穏やかな青空が広がっていた。


鞠莉「……まさか、あと一月足らずで……この世界どころか……宇宙全てが滅びようとしてるなんてね……」

善子「本当にね……。……まあ、きっと大丈夫よ」

鞠莉「ふふ、そうね。自慢のリトルデーモンたちがいるものね♪」

善子「そういうことよ」


あの子たちは、度重なる困難を……ポケモンたちと力を合わせて、打ち破ってきた。

今回だって、きっとそうしてくれる。私はそう確信している。


善子「頼んだわよ……リトルデーモンたち……」


みんなの生きる世界を──お願いね。





    🎹    🎹    🎹





侑「……相変わらず、何度見ても長い階段だね……」
 「ブイ」「────」

かすみ「まさか、3回も登ることになるとは思ってませんでした……」


私たちは、カーテンクリフの遺跡に続く階段へとたどり着いていた。


彼方「これ……登るの~……? 絶対無理~……」

遥「お、お姉ちゃん、登る前から諦めちゃダメだよ……!」

姫乃「……果林さん、本当に上の遺跡に直接シップを着けなくてよかったんですか……?」

果林「でも、この階段……登った方がいいんでしょう?」

リナ『うん。進化は儀式だから。信仰では階段を登ることも儀式の手順に含まれてるみたいだし、その方が確実』 || ╹ ◡ ╹ ||

果林「じゃあ、登るしかないわね。彼方、しっかりしなさい」

彼方「はぁ……わかったよぉ……。彼方ちゃん、これでも怪我人なのになぁ……」


果林さんに言われて、彼方さんが渋々階段を登り出す。

653: ◆tdNJrUZxQg 2023/01/07(土) 11:57:26.36 ID:Xct6+7De0

エマ「それじゃ……ゴーゴート、お願いね」
 「ゴォート」


足を怪我しているエマさんは、ゴーゴートの背に乗って登り出す。


果林「エマ。辛かったら、すぐに言うのよ」

エマ「うん、ありがとう、果林ちゃん♪」

姫乃「……」


仲の良さそうなエマさんと果林さんを見て、姫乃さんが不満そうな顔をしながら付いていく。


しずく「……この三角関係……ありですね……」

かすみ「なに言ってんのしず子……」

せつ菜「はっ……! こんなに長い階段……ダッシュで登れば、いい修行になるはず……!!」
 「──ベァーマッ!!」

せつ菜「ダクマ……! まさか自分から出て来るなんて……! 一緒に修行したいってことですね!!」
 「ベァーマ」

せつ菜「それでは一緒に階段ダッシュしましょう!! ……うおおおおおお!!!」
 「ベァァァァ!!!!」

歩夢「……せ、せつ菜ちゃん……これは儀式だから、ダッシュは……。……行っちゃった……」
 「────」

侑「あはは……せつ菜ちゃんらしいや……」
 「ブイ」「────」

しずく「かすみさん、今回は走らないの?」

かすみ「さすがに3回目となると……ゆっくり景色でも見ながら登ろうかな……」

しずく「ふふ、そっか♪」


しずくちゃんがクスクス笑いながら、かすみちゃんと一緒に登り始める。


侑「それじゃ、私たちも行こっか」
 「────」

歩夢「うん」
 「────」


2匹のコスモウムを連れ、私たちも階段を登り始めた。





    🎹    🎹    🎹





せつ菜「──皆さーんっ!! 遅いですよー!!」
 「ベァ!!」


登っていくと、途中でせつ菜ちゃんとダクマが、足踏みしながら待っていた。


かすみ「あの人、どんだけ元気なんですか……」

彼方「……かなたひゃん…………もう、むりぃ~……」

遥「お、お姉ちゃん……もうちょっとだから……頑張って……」


彼方さんはすでにヘロヘロで、さっきから遥ちゃんが後ろから押してあげている。

654: ◆tdNJrUZxQg 2023/01/07(土) 11:58:10.01 ID:Xct6+7De0

果林「まったく……それでも元“MOON”なの……?」

彼方「だってもう4年も前の話だよ~……? それに、彼方ちゃんのスタイルは昔から座して動かずだったし~」

果林「……はぁ……もう、手引いてあげるから、頑張りなさい」

彼方「わ~♪ 優しい~♪ 優しい妹とお義姉ちゃんに挟まれて、彼方ちゃんハッピーだよ~♪」

果林「はいはい。調子いいんだから……」

遥「ふふ♪」


あちらはあちらで仲睦まじそうだ。


せつ菜「それにしても……すっかり日が暮れてしまいましたね」


そう言いながら、せつ菜ちゃんが私たちのところまで駆け下りてくる。


かすみ「上ったり下りたり忙しそうな人ですね……」

歩夢「あはは……」
 「────」

リナ『これだと……もう黄昏時は過ぎちゃってるから……』 || ╹ᇫ╹ ||

しずく「そうなると次は、暁時ですね」

侑「頂上に行って、夜明けまで待つことになるかな」
 「────」

せつ菜「ですね! それじゃ、ラストスパートです! 行きますよ、ダクマ!!」
 「ベァーマッ!!!」

せつ菜「うおおおおお!!」
 「ベァーーー!!!」

歩夢「せ、せつ菜ちゃん……あの……だから、これは儀式で……。……行っちゃった……」
 「────」

侑「あはは……」
 「────」


私たちは頂上を目指します。





    🎹    🎹    🎹





──頂上にたどり着くと……辺りはすっかり暗くなっていました。


かすみ「野生のポケモン……いませんよね……?」

侑「……前に来たときは襲われたもんね」
 「ブィ…」


しかも、かなり強かったし……。一応、警戒して周囲を見渡すけど、


せつ菜「皆さーん! 遅いですよー!」
 「ベァーマ」


相変わらず元気そうなせつ菜ちゃんがいるだけで、野生のポケモンはいなさそうだ。

とりあえず一安心していた、そのとき──袖をくいくいっと引かれる。


歩夢「侑ちゃん……」

655: ◆tdNJrUZxQg 2023/01/07(土) 11:59:47.61 ID:Xct6+7De0

歩夢だった。


侑「どうしたの?」

歩夢「空……見て……」

侑「空……?」


歩夢に促されて見上げると──


侑「うわぁ……!」


そこには、今にも落ちてきそうな満天の星が瞬いていた。


しずく「綺麗……」

かすみ「前に来たときは、それどころじゃなくて気が付かなかったですけど……確かにこれはすごいですねぇ……!」

侑「うん……!」


そして、そんな星空に反応するかのように、


 「────」「────」


コスモウムたちも活発に私たちの周囲を回っている。


せつ菜「コスモウムたちのこの反応……場所はここで間違いなさそうですね……!」

侑「うん! あとは、夜明けを待つだけだね!」
 「ブイ」

しずく「夜明けとなると……あと9時間くらいでしょうか……?」

彼方「そんなに待てない~……彼方ちゃんは寝る~……すやぁ……」

姫乃「はぁ……マイペースですね……」

果林「……とはいえ、少し長いし、休息を取る必要はありそうね……。……特に侑、歩夢。貴方たちは突入もあるから、今のうちに休んでおきなさい」

侑「は、はい!」

歩夢「わかりました」

エマ「かすみちゃんたちも先に寝ちゃっていいよ♪ 見張りはわたしたち大人がするから♪」

かすみ「そういうことなら……お言葉に甘えて……」

しずく「うん、そうだね。暁時を逃さないためにも……早めに寝て備えるべきだしね」

せつ菜「でしたら、あちらに集まって寝ましょう!」

侑「うん」
 「ブイ」


私たち図鑑所有者の5人は、先に仮眠を取らせてもらうことにする。

石畳の上にそのまま転がるのも憚られるので、シートを敷いて……薄手の毛布だけ出して、みんなで横になる。

656: ◆tdNJrUZxQg 2023/01/07(土) 12:01:06.15 ID:Xct6+7De0

せつ菜「……こうして、皆さんと星空を眺めて寝るなんて……キャンプみたいでワクワクしますね!」

かすみ「あ、ちょっとわかります! ここしばらく、外でこんな風にのんびりするタイミングもなかったですし……」

しずく「もう……二人とも、遊びじゃないんですよ? 今は休息が最優先。おしゃべりしてないで寝ますよ」

かすみ「ちょっとくらい良いじゃん……しず子のケチー」

せつ菜「ですが、しずくさんの言うことも一理あります。休むときは迅速に休む。これも大事なことですよ」

かすみ「えぇー……でも、すぐに寝ろって言われても眠れませんよぉ……」

せつ菜「コツがあるんですよ。目を閉じて……力を抜いて……呼吸を深く……。………………すぅ…………すぅ…………」

かすみ「え、うそ……もう寝ちゃったんですか……?」

侑「さすが、せつ菜ちゃん……休息の速さも一流……」

かすみ「オンオフ激しすぎませんか……?」

しずく「かすみさんも見習ってね。……さ、おしゃべりは終わり。目瞑って」

かすみ「ぅ~……わかったよぉ……」

歩夢「……侑ちゃん……手、繋いでもいい……? ……その方が……すぐ眠れるから……」

侑「うん、いいよ」
 「ブイ…zzz」

歩夢「ありがとう……♪」


胸元で寝息を立てるイーブイを撫でながら、私は歩夢と手を繋いで目を瞑る。

長い階(きざはし)を登ってきた疲れもあったのか、思いのほか、私の意識はすぐに微睡んでいった──





    🎹    🎹    🎹



──────
────
──


──夢を見た。


愛「………………りなりー……」
 「ニャァ…」


愛ちゃんが……泣いていた。


愛「りなりー……」


戸を叩いて……。


愛「ねぇ、りなりー……」


泣いていた。


愛「りなりー……開けてよ……りなりー……っ……」
 「ニャァ…」


──胸が痛くなるような……悲痛な声で……。


──
────
──────


657: ◆tdNJrUZxQg 2023/01/07(土) 12:01:45.92 ID:Xct6+7De0

    🎹    🎹    🎹





 『──侑さん、時間だよ』

侑「…………ん、ぅ…………」


ぼんやりと目を開けると──


リナ『おはよう、侑さん』 || ╹ ◡ ╹ ||


リナちゃんが目の前に居た。


侑「おはよう……」


ゆっくりと身を起こす。


歩夢「侑ちゃん、おはよう。あったかいエネココア作るけど……飲む?」

侑「飲む……」

歩夢「わかった♪ ちょっと待っててね」


歩夢が手際よくエネココアを作り始める。

辺りを見回すと──


しずく「ほら、かすみさんしっかりして。せつ菜さんも」

かすみ「まだ……ねむぃぃ……」

せつ菜「あふぅ……頑張りまひゅ……」


しずくちゃんはもう完全に目を覚ましていて、寝起きで乱れたかすみちゃんとせつ菜ちゃんの髪を梳かしてあげている。

果林さんたちは……。


果林「………………すぅ…………すぅ…………」

彼方「……すやぁ…………はるか……ちゃぁ~ん…………」

遥「…………すぅ…………すぅ…………」

エマ「…………くぅ…………くぅ…………」

姫乃「…………」


すでに眠っている。どうやら、私が起きるのが少し遅かったようだ。


歩夢「はい、エネココア。火傷しないようにね」

侑「ありがと……」

歩夢「こっちはイーブイの分だよ♪」
 「ブイ♪」


受け取ったエネココアを一口飲むと……甘さと温かさでなんだか、ホッとする。

658: ◆tdNJrUZxQg 2023/01/07(土) 12:02:18.33 ID:Xct6+7De0

歩夢「せつ菜ちゃんとかすみちゃんも、どうぞ♪」

せつ菜「ありがとう、ございます……ふぁぁ……」

かすみ「いただきまーす……。……ふー……ふー……。……こくこく……。……えへへぇ……おいしい……」

歩夢「しずくちゃんは……今飲む……?」

しずく「あ、すみません……。かすみさんの髪を梳かし終わったら頂きます。そこに置いておいてもらえれば……」

歩夢「うん、わかった♪」
 「シャボ」

歩夢「サスケの分もすぐに用意するから、ちょっと待ってね」
 「シャボ」


みんなにエネココアを配り終わり、歩夢も私の隣に腰を下ろして、エネココアを飲み始める。

これから最後の戦いを控えているというのに、なんだか随分と穏やかな時間が流れていた。


せつ菜「もう、すっかり深夜ですね……」

リナ『夜明けまで、だいたいあと4時間くらいだね』 || ╹ ◡ ╹ ||

かすみ「4時間……そう考えるとまだ結構あるかも……」

歩夢「みんなでお話ししてたら、すぐだと思うよ♪ 彼方さんたちを起こさないように、小さな声でだけど……」

しずく「そうですね」

リナ『どんなお話しするの?』 || ╹ ◡ ╹ ||

侑「……それなんだけどさ。……私、リナちゃんの話が聞きたいな」

リナ『私の?』 || ╹ᇫ╹ ||

侑「よく考えたら……私たち、リナちゃんが……璃奈さんとして、生きていた頃のこと……ほとんど知らないから……。もちろん、リナちゃんが嫌じゃなかったらだけど……」

リナ『構わないよ。……うぅん、というより、私も侑さんたちには、知っておいて欲しいかも。ただ、ちょっと長い話になっちゃうけど……いい?』 || ╹ ◡ ╹ ||


リナちゃんの言葉を受けて、みんなが首を縦に振る。


侑「うん。……聞かせて、リナちゃんのこと」

リナ『わかった。……それじゃ、話すね。私が……プリズムステイツで──愛さんたちと過ごした、日々のこと……』 || ╹ ◡ ╹ ||


リナちゃんはそう前置いて……生きていたときの──昔話を語り始めた……。




659: ◆tdNJrUZxQg 2023/01/07(土) 12:04:01.07 ID:Xct6+7De0

>レポート

 ここまでの ぼうけんを
 レポートに きろくしますか?

 ポケモンレポートに かきこんでいます
 でんげんを きらないでください...


【暁の階】
 口================== 口
  ||.  |○         o             /||
  ||.  |⊂⊃                 _回/  ||
  ||.  |o|_____.    回     | ⊂⊃|  ||
  ||.  回____  |    | |     |__|  ̄   ||
  ||.  | |       回 __| |__/ :     ||
  ||.●⊂⊃      | ○        |‥・     ||
  ||.  | |.      | | ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄\     ||
  ||.  | |.      | |           |     ||
  ||.  | |____| |____    /      ||
  ||.  | ____ 回__o_.回‥‥‥ :o  ||
  ||.  | |      | |  _.    /      :   ||
  ||.  回     . |_回o |     |        :  ||
  ||.  | |          ̄    |.       :  ||
  ||.  | |        .__    \      :  .||
  ||.  | ○._  __|⊂⊃|___|.    :  .||
  ||.  |___回○__.回_  _|‥‥‥:  .||
  ||.       /.         回 .|     回  ||
  ||.    _/       o‥| |  |        ||
  ||.  /             | |  |        ||
  ||. /              o回/         ||
 口==================口

660: ◆tdNJrUZxQg 2023/01/07(土) 12:04:43.14 ID:Xct6+7De0

 主人公 侑
 手持ち イーブイ♀ Lv.77 特性:てきおうりょく 性格:おくびょう 個性:とてもきちょうめん
      ウォーグル♂ Lv.75 特性:まけんき 性格:やんちゃ 個性:あばれるのがすき
      ライボルト♂ Lv.76 特性:ひらいしん 性格:ゆうかん 個性:ものおとにびんかん
      ニャスパー♀ Lv.73 特性:マイペース 性格:きまぐれ 個性:しんぼうづよい
      ドラパルト♂ Lv.73 特性:クリアボディ 性格:のんき 個性:ぬけめがない
      フィオネ Lv.71 特性:うるおいボディ 性格:おとなしい 個性:のんびりするのがすき
      コスモウム Lv.75 特性:がんじょう 性格:ゆうかん 個性:からだがじょうぶ
 バッジ 8個 図鑑 見つけた数:258匹 捕まえた数:11匹

 主人公 歩夢
 手持ち エースバーン♂ Lv.65 特性:リベロ 性格:わんぱく 個性:かけっこがすき
      アーボ♂ Lv.65 特性:だっぴ 性格:おとなしい 個性:たべるのがだいすき
      マホイップ♀ Lv.64 特性:スイートベール 性格:むじゃき 個性:こうきしんがつよい
      トドゼルガ♀ Lv.63 特性:あついしぼう 性格:さみしがり 個性:ものおとにびんかん
      フラージェス♀ Lv.62 特性:フラワーベール 性格:おっとり 個性:すこしおちょうしもの
      ウツロイド Lv.71 特性:ビーストブースト 性格:おくびょう 個性:ものおとにびんかん
      コスモウム✨ Lv.75 特性:がんじょう 性格:なまいき 個性:ひるねをよくする
 バッジ 3個 図鑑 見つけた数:227匹 捕まえた数:20匹

 主人公 かすみ
 手持ち ジュカイン♂ Lv.78 特性:かるわざ 性格:ゆうかん 個性:まけんきがつよい
      ゾロアーク♀ Lv.73 特性:イリュージョン 性格:ようき 個性:イタズラがすき
      マッスグマ♀ Lv.72 特性:ものひろい 性格:なまいき 個性:たべるのがだいすき
      サニゴーン♀ Lv.71 特性:ほろびのボディ 性格:のうてんき 個性:のんびりするのがすき
      ダストダス♀✨ Lv.72 特性:あくしゅう 性格:がんばりや 個性:たべるのがだいすき
      ブリムオン♀ Lv.72 特性:きけんよち 性格:ゆうかん 個性:ちょっとおこりっぽい
 バッジ 8個 図鑑 見つけた数:253匹 捕まえた数:15匹

 主人公 しずく
 手持ち インテレオン♂ Lv.66 特性:スナイパー 性格:おくびょう 個性:にげるのがはやい
      バリコオル♂ Lv.65 特性:バリアフリー 性格:わんぱく 個性:こうきしんがつよい
      アーマーガア♀ Lv.65 特性:ミラーアーマー 性格:ようき 個性:ちょっぴりみえっぱり
      ロズレイド♂ Lv.65 特性:どくのトゲ 性格:いじっぱり 個性:ちょっとおこりっぽい
      サーナイト♀ Lv.65 特性:シンクロ 性格:ひかえめ 個性:ものおとにびんかん
      ツンベアー♂ Lv.65 特性:すいすい 性格:おくびょう 個性:ものをよくちらかす
 バッジ 0個 図鑑 見つけた数:225匹 捕まえた数:23匹

 主人公 せつ菜
 手持ち ダクマ♂ Lv.15 特性:せいしんりょく 性格:ようき 個性:こうきしんがつよい
      ウインディ♂ Lv.86 特性:せいぎのこころ 性格:いじっぱり 個性:たべるのがだいすき
      スターミー Lv.81 特性:しぜんかいふく 性格:おくびょう 個性:ものおとにびんかん
      ゲンガー♀ Lv.84 特性:のろわれボディ 性格:むじゃき 個性:イタズラがすき
      エアームド♀ Lv.79 特性:くだけるよろい 性格:しんちょう 個性:うたれづよい
      ドサイドン♀ Lv.82 特性:ハードロック 性格:ゆうかん 個性:あばれることがすき
 バッジ 8個 図鑑 見つけた数:50匹 捕まえた数:9匹


 侑と 歩夢と かすみと しずくと せつ菜は
 レポートに しっかり かきのこした!


...To be continued.