1 :名無し:14/03/29(土) 01:15:40 ID:PVAbWdkqJ主 
竜宮小町Cランク上昇!
破竹の快進撃

今日1日中は週刊誌、テレビで報道されるだろう

竜宮小町を結成して4ヶ月

私たちは鬼軍曹こと律子のもとで努力を重ね

なんとかCランクまで名を連ねる事が出来た

美希「でこちゃんおめでとうなの!」

2: 名無し:14/03/29(土) 01:16:01 ID:PVAbWdkqJ 
伊織「デコちゃん言うな!」

裏表の無い正直な性格なのはよく知っている

きっと今の言葉も素直な賞賛なのだろう

でも————————

P「美希!そろそろ出るぞ!」

美希「はいなの!」
3: 名無し:14/03/29(土) 01:17:09 ID:PVAbWdkqJ 
Sランクの彼女をテレビで見ない日はない

今日も私たちにただ、『おめでとう』と言う為だけに事務所に戻ってきたそうだ

売れても変わらない。それが彼女の強みなのだろう

律子「そろそろ私たちも出るわよー皆準備して!」

亜美「は→い!」

あずさ「あら〜ポーチはどこにいったかしら〜」

私たちも変わらない

今日も明日も

4: 名無し:14/03/29(土) 01:18:15 ID:PVAbWdkqJ 
美希は全国ネットで歌の仕事

片や私たちはローカルテレビの深夜枠のバラエティ

いつも通りに仕事をこなし

いつも通りにスタジオを後にする

律子「帰りはどうする? 事務所? 直帰?」

亜美「亜美は事務所→! 真美と一緒に帰る!」

あずさ「私も忘れ物があるので事務所に送ってもらっていいですか〜」

律子「いいですよ! 伊織はどうする?」

私は……

5: 名無し:14/03/29(土) 01:19:35 ID:PVAbWdkqJ 
ただ何もせずにこうやって散歩するのはいつぶりだろう

収録、レッスン、収録、レッスン、レッスン、レッスン————

駆け上がるためにスケジュールも詰め詰めで

帰ればベットに倒れて朝を迎える

もちろん学校だってあるし、事務所でぼーっと過ごす事もある

私自身の足で歩くのはいつぶりだろう

6: 名無し:14/03/29(土) 01:19:59 ID:PVAbWdkqJ 
橋の上から堀を見つめる

日が少しずつ暮れてきて、近くの公園で遊んでいた子供の声が少しずつ小さくなっていく

堀に浮く鴨は何も考えていないようで羨ましく感じた

「デコちゃん?」

名前を呼ばれバッと振り向く

そこには今一番会いたくない奴がいた

7: 名無し:14/03/29(土) 01:21:05 ID:PVAbWdkqJ 
美希「デコちゃんがここにいるなんて珍しいね」

伊織「デコちゃん言うな」

美希「…? どうしたの? 元気無いね」

伊織「……」

言葉に詰まる

8: 名無し:14/03/29(土) 01:22:20 ID:PVAbWdkqJ 
美希「ミキね、悩んだり落ち込んだ時にここにくるの」

美希「でね、先生を見るの」

伊織「先生…?」

美希「そう。ほら、あそこに浮いてる」

伊織「……鴨じゃない」

美希「そうだよ。カモ先生」

9: 名無し:14/03/29(土) 01:23:29 ID:PVAbWdkqJ 
美希「なんにもしないでぷかぷか浮いてるでしょ? すごいなぁって」

伊織「すごいかしら?」

美希「だって何もしないで浮けるんだよ。きっと知らない間に努力したんだと思うの」

美希「”頑張らない様に頑張らなくちゃ”って思うんだ」

伊織「……」

美希「ミキはやっぱりキラキラしたいけど、ダラダラもしたいの。 でもやっぱりキラキラしたいの」

伊織「……そんなのずるいじゃない…」

美希「えっ…?」

10: 名無し:14/03/29(土) 01:24:08 ID:PVAbWdkqJ 
伊織「私だって死ぬ程努力したわ!知らないうちにこっそりじゃなくずっとずっとよ! 毎日毎日レッスンして、仕事が来るようになってからは学校、仕事、レッスン、これの繰り返しよ! それでやっと、やっとここまできたのに…それがこんな考えしてる奴に負けてるなんて……!」

美希「デコちゃん…」

気づけば知らないうちに私の目からは涙が溢れていた

今までの必死に食らいついていた私を全否定された気がして

美希は取り乱した私を隣の公園まで連れてきて、ずっと逃げずに話を聞いてくれた

美希に対する罵詈雑言もあった。努力が評価に比例しない私の永遠とした愚痴だった

それでも美希は隣にいてくれた

私が泣き止む頃にはすっかり夜になっていた

11: 名無し:14/03/29(土) 01:24:53 ID:PVAbWdkqJ 
美希「………落ち着いた?」

私は小さく頷く

美希「じゃああれ乗ろ?」

美希が指差す先には小さなブランコ

伊織「嫌よ……子供じゃないんだし…」

美希「いいからいいから」

美希が私の腕を掴み引っ張っていく

13: 名無し:14/03/29(土) 01:25:50 ID:PVAbWdkqJ 
ブランコに座る私。これもいつぶりだろう

そういえば小さい頃は外で遊ぶといっても庭の中だけだった気がする

隣にはブランコを揺らしている美希

風にそよぐ金色の髪が明かりの少ない公園の中で輝いていた

14: 名無し:14/03/29(土) 01:27:45 ID:PVAbWdkqJ 
美希「ミキ達ってさ、アイスとブランコに似てるなーって思うの」

伊織「……アイス?」

美希「そう。早くしないと溶けて美味しくなくなっちゃうどころか食べられなくなっちゃうの」

美希「また冷やせば食べれるけどそんなめんどくさい事する人ほとんどいないの」

美希「ね? 似てるでしょ?」

伊織「………ブランコは?」

15: 名無し:14/03/29(土) 01:28:10 ID:PVAbWdkqJ 
美希「うーんとね。デコちゃんブランコ乗れる?」

伊織「そ、そんなの当然でしょ! 乗れないとでも思ってるの!?」

立ち漕ぎをする美希に負けじと私もブランコに立つ

伊織「あ、あれ? …?」

どうも上手く出来ない

勢いがどうしても上手くブランコに伝えられない

16: 名無し:14/03/29(土) 01:28:45 ID:PVAbWdkqJ 
美希「今のミキとデコちゃんそっくりなの」

伊織「デコちゃん言うな! それとどういう意味よ!」

美希「ミキは今そんなに頑張ってないよ。少しの力をブランコの動きに合わせてちょうど良く入れてるだけなの。」

伊織「……」

17: 名無し:14/03/29(土) 01:29:44 ID:PVAbWdkqJ 
美希「デコちゃんは今一生懸命にブランコ漕いでるよね。でも中々上手くいかないの。それをブランコが揺れるみたいに毎日毎日繰り返して、前に行ったり後ろに行ったり、それで少しずつ上まで進むようになるの」

こいつは

美希「そういう意味ではもうデコちゃんはブランコを漕ぎ始めてるの。あとは上手く伝えるだけ。そしたらてっぺんまであっという間なの」

なんにも考えてないようで考えているんだ

美希「だから焦る事何て無いの。デコちゃんは嫌かもしれないけど、ゆっくり進んでいけば良いってミキは思うな」

伊織「……美希」

18: 名無し:14/03/29(土) 01:30:32 ID:PVAbWdkqJ 
私は劣等感で周りが見えなくなっていたのかもしれない

朝の『ありがとう』も嫌みに聞こえて—————

美希「ねぇねぇデコちゃん」

伊織「デコちゃん言うなっての!」

アイスとブランコみたいな私と美希

美希「帰りにアイス買って食べていこうよ!」

いつか、いつの日か

伊織「いいじゃない。行きましょうか」

美希「今日のデコちゃん素直でかわいいのー!」

伊織「ばっ、抱きつくな!」

追い抜かしてやるんだからね!!

おしまい