1 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/01(水) 21:01:22.12 ID:oUuhAeyu0
古典の専門家から見れば色々と稚拙な文だろうが、とにかく狂言っぽくしてみたかった。
壱・『琵琶売』
2 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/01(水) 21:02:21.77 ID:oUuhAeyu0
律「これは軽音神楽衆が筆頭にて田井中律と申す者でござる。
本日は日柄もようござるによりて、我らが楽屋の塵払いをば致しており申す。
ソレ神楽衆一味、あれをばこちらに、これをばあちらに」
紬「洒乱羅、洒乱羅。サテ茶事が器の類、いずくにか置くべき」
唯「コレコレ律殿律殿」
律「ヤア何事ぢや」
唯「見よ。芥もくたの山くづせし跡より長持あらわれたり」
律「なんと長持。ようやつた唯、これぞ軽音神楽衆が重代の底宝にたがひあるまじ」
唯「なれば早う開けばや」
律「オウ開けよ開けよ。サテ中よりいでるは黄金(くがね)か珠か、はたまた瑠璃珊瑚」
(長持開ける)
唯「ムム、こは何と」
律「南蛮琵琶の古びたるがひとつのみとは。アアあぢきなきことかな」
3 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/01(水) 21:03:21.16 ID:oUuhAeyu0
(さわ子、舞台入り)
さわ子「ヤイヤイ神楽衆、をるかやい」
神楽衆「ハアー御前に」
さわ子「ハテ目慣れぬ長持あり。中のもの、こち持て来」
唯「かしこまつてござる(琵琶差渡す)」
さわ子「サテ黴が香に昔の偲ばれることよ。
聞け、我かつて『死障魔』一味にありて重鉄(おもがね)狂ひし時分、
これなるを獲物におらび猛りき。アアなつかしや。」
唯「ヘエ、されば御持ち帰りあれ。我らもおのおの、もちもの片付けてござる」
さわ子「マァ待て。一念、楽屋清めにつとむとは、まこと殊勝。
意気に報ひ、こは汝らに取らせるぞ。
店(たな)に売りて餅代ともせよ(琵琶かへし、退場)」
唯「オオ冥加々々。心得てござる」
(神楽衆、琵琶いだき舞台前方へ)
(そこに店者あらはる)
4 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/01(水) 21:04:25.86 ID:oUuhAeyu0
律「値のほど、あらためてくださいませ」
店者「(琵琶受け取り)あらためますゆえ、しばし待たれよ」
(琵琶さする)
店者「きはまりました。売り放つなら、五十万円にて承りたく」
紬「されば五十万円、しかと頂戴つかまつる」
律「待て待て、な無為に取らそ。
ハテこれなる古木屑に、かくも奇特の沽券あるは何ゆえか、由縁お聞かせ願いたく候」
店者「されば語らん、値のうちを。
こは遥か天竺沙羅双樹、遠珍(とおめづら)の木より削り出したるものにて。
張りたる弦を抑えるは、しろがね留具の艶光。
かくて仕上がりし玉の琵琶、瑕疵(かし)も少なければ見所すぐれたり」
律「ハア、せんずるところは」
店者「三国一の、値打ちもの(札と証文わたし、退場)」
律「されば五十万円、しかと頂戴つかまつる(札と証文、懐に入れる)」
5 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/01(水) 21:05:01.58 ID:oUuhAeyu0
(神楽衆、舞台奥へ)
律「しめたしめた。我ら五人連れなれば、勘定ひとり十万円ぢや」
唯「さほどの厚き束もて頬打たば、如何にをかしき心地やせん」
(さわ子、ふたたび舞台入り)
さわ子「ヤイヤイ神楽衆、神楽衆よ戻りたるか」
律「(うろたへて)オオさわ子殿。をられましたか」
さわ子「ハテいかなことぞ。戻りたるも声はせで、何故そのやうに隠れゐたるか」
律「イヤイヤ、ちと用のことありますれば」
さわ子「マア待て。値いかほどにありしか、まず聞かせよ」
律「ハテ、値とは」
さわ子「言ふもおろか。一定、あずけし琵琶が値なり」
律「ハハア琵琶が値。イヤよろしうござつた」
さわ子「よろしうとは、数えて如何に」
律「しめしましては、アアしめしましては一万円」
6 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/01(水) 21:05:56.67 ID:oUuhAeyu0
(神楽衆、おどろき惑ひたる気色)
神楽衆「律や律、ようもあだごと申したり」
さわ子「イヤなう、黴も生ひたれば安かるも是非なし」
律「エエ是非なきこと、是非なきこと」
さわ子「合点。ならば証文を見せよ」
律「ハテ証文とは」
さわ子「値のうち記せし文なり。よもや受け忘れたるとかや」
律「ア、イヤ、これに(懐より証文いだす)」
さわ子「しかに証文と見ゆ。いざ、こちへ進ぜよ」
律「ムム」
さわ子「サアサア如何した」
律「エエ御堪忍(口の中に証文入れる)」
7 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/01(水) 21:06:30.49 ID:oUuhAeyu0
神楽衆「オオ律や律、ようも食ひたり」
さわ子「こはなんと。ヤイ出せ出せ」
律「出しませぬ」
神楽衆「ヤレ食へ、ソレ食へ。ヤンヤ、ヤンヤ」
さわ子「出せや出せ」
律「出しませぬ」
神楽衆「ヤレ食へ、ソレ食へ。ヤンヤ、ヤンヤ」
さわ子「おのれ(律を組み伏せ)、出さぬなら地獄は一定すみぞかし」
律「オオ魔王めきたる御換気、あなおそろしや(証文吐き、平伏)」
(神楽衆、律に並びて平伏)
さわ子「(証文見て)ヤアラ律、にくき奴め。真実五十万円なるぞ」
律「ハア平に、平に」
8 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/01(水) 21:07:04.07 ID:oUuhAeyu0
さわ子「まこと第一に申さば、一切あまさず与えたものを。
一万円と申したるがゆえ、つぶと一万円のみ取らす。心得よ」
律「ハハア心得ました」
唯「イヤお待ちあれ」
さわ子「さらさら、何をか言はむ」
唯「そ札束、蔵する前にひとつ御聞き入れあれかし」
さわ子「申せ」
唯「願わくば、我が頬をば打つてくだされ」
さわ子「いぶせき願いなるも、汝なれば聞き届けようぞ」
(さわ子、札束で唯打つ)
唯「オホーウ、ホーン(法悦境に至る気色)。六根清浄、六根清浄」
律「さても果報なる者よ」
12 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/01(水) 21:12:19.27 ID:oUuhAeyu0
弐・『眉沢庵』
13 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/01(水) 21:13:12.63 ID:oUuhAeyu0
唯「御台に乗りたる固粥は、御供を選ばずぬくぬくと。
ひとつ、ふたつ、みつよつ、飯(いひ)の椀」
紬「唯殿は本日も気褄(けづま)うるはしくござる」
唯「なうなうむぎ殿」
紬「サテ何でしやう」
唯「むぎ殿が眉、太きこと出雲が社の御しめ縄にも似たり。こは如何したことぞ」
紬「さればその事にござる。げに申さば、我が眉は沢庵大根にてこしらへて候」
唯「ナニ沢庵」
紬「サア一切れ、つかまつれ」
唯「ムム、見事なる黄金色に食指動じまする。イザはばからず、箸をば付けん」
(紬が眉、箸にて取り外し食ふ)
唯「アラうまや、アラうまや」
(唯、小躍り)
14 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/01(水) 21:14:24.92 ID:oUuhAeyu0
(律、舞台入り)
律「ヤア唯ばかりが福しめるとは、ねたしうござる。
我にも一枚、振舞あるべし」
(律、残りたる眉を箸にて取り外し食ふ)
律「アラうまや、アラうまや」
(律、小躍り)
紬「されば聞きたまへ。我、ずいと両眉失はば、姿かたちおぼつかなくなりぬ。
今はただ解瑠がごと様にて、とろけ果つるのみ」
(紬、とろけるがごと倒れる)
唯「ヤヤむぎ殿が一大事」
律「早う代わる沢庵をば持て」
唯「イヤイヤ、いかでこの場に沢庵などあるべき」
律「エエ所詮なし。沢庵に似るもの、如何様にてもつかまつれ」
唯「サアサアこれにては如何」
15 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/01(水) 21:15:54.46 ID:oUuhAeyu0
(唯、分度器もち出し紬が額に張る)
紬「(からだ起こし)事なきを得たり」
唯「アア安堵せり。さてもむぎ殿、お尋ねしたき旨、別にもあり」
紬「サテ何でしやう」
唯「沢庵あるひは分度器こしらへの眉ならば、上がり下がりは如何にするものか。
げにげに、ゆかしくおぼゆ」
紬「オオ、あれ見てくりやれ」
(紬、唯のうしろ指す。唯と律、つられ見る)
唯「何事ぞ」
(紬、唯律のまなこ逸れたる間に顔隠し、ひそやかに眉下げる)
16 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/01(水) 21:16:29.98 ID:oUuhAeyu0
唯「ヤア不可思議なり」
律「動くべからざる眉の、いつしか動きたるぞよ」
紬「洒乱羅、洒乱羅。秘するが花よ(逃げつつ退場)」
唯・律「待て待て、つまびらかに教えおくべし(追いつつ退場)」
19 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/01(水) 21:51:14.80 ID:oUuhAeyu0
参・『隠れ信心』
20 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/01(水) 21:51:57.36 ID:oUuhAeyu0
和「これは桜高評定会議が頭目にて、真鍋和と申す者でござる。
神楽衆が愛努瑠として聞こえし秋山澪、何やら子細らしき面持ちにて参上せしゆえ、
イザ容体うかがはんと存ずる。
サテ澪、ゆるり入りしやれ」
澪「聞けや和。近ごろ我がまはりに、あやしき人の目しげくのぞきたる気配あり」
和「我が桜高に不埒の巣盗禍あるともおぼえず。サテ如何なることにや」
澪「オウオウ(袖で目元おさへる)」
和「何故に泣くぞ」
澪「神楽衆に談義せんと欲しても、皆ただひとへに戯(あざ)れるのみ。
まめまめしくいらへるは、ひとり汝のみなれば、まことありがたく感ずるぞ」
和「アレびんなきかな」
(恵、舞台入り)
恵「こは稀有なる客の来られたるかな」
21 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/01(水) 21:52:59.71 ID:oUuhAeyu0
澪「ハテ和、かの人は如何なる御方にや」
和「我が先なる評定頭、曽我部恵殿に他ならず」
恵「ホホ、軽音神楽衆なれば、我を知らぬも詮無きことか」
澪「アイ許させられい」
恵「さらりと。サテ、澪殿が本日の御用は如何に」
和「ハハア、巣盗禍しのびて澪に付きまとふかとの疑ひ、これあり」
恵「ナニ巣盗禍とはゆゆしきことぞ。和殿、すぐさま検非違使所に渡り、これ漏らさず伝ふべし」
和「心得てござる」
澪「かくもねんごろの御心遣ひ、もつたいのうござる」
恵「礼に及ばず。桜高がおとめうち詫びなば、すなわち助くが所職なれば」
澪「オオ如来が慈悲にも比すべき取成。どこぞの神楽衆筆頭にも倣わせばや」
23 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/01(水) 21:54:23.41 ID:oUuhAeyu0
和「サア茶をひとつ(茶すすめる)」
恵「神楽衆の日ごろ振舞ひつるほどの豪奢には及ばねど、今はひとつ」
澪「(茶飲み)ヤアヤアなんの、甘露にござる」
和「して澪追ひまはすは、いずこの訳知らずやら」
恵「サテ、あるひは澪宗門が一徒やも」
澪「アア恐気のこと。忘ればや」
恵「世人の思ひ入れ、わけて深き御身なれば是非もなし」
澪「ヤレ奇得の評定頭殿なるかな、神楽衆が実(むざね)も真具(まつぶさ)に知られたるか」
和「しかに、細やかにすぎまする。
茶事こそ神楽衆が名物なることまで御存知とは、奇(あや)なるべし」
恵「イヤ、なべて和殿のかつて聞かせ示したることとおぼゆ」
和「イヤイヤ、申せし覚えはトントございませぬ」
恵「ハテ然様ぢやつたか。
されど神楽衆が高名、日の本六十六国にとどろきわたるものなれば、おのづ耳に入るも道理なるべし」
24 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/01(水) 21:56:04.10 ID:oUuhAeyu0
澪「ムム、ムム(疑わしき気色)」
恵「聞くべきは聞きつ。今はこれまで(去りつつ、紙おとす)」
和「待たれよ。なにやら散り落とされたるぞ(紙拾ふ)。
ヤヤ、こはなんと。澪宗門徒が証に他ならず」
恵「エエイかへせ、かへせ。ここ渡る半(なから)に拾ひ取りたるのみぞ」
和「イヤイヤ、ホレここに、曽我部恵と御名前しるされております」
恵「アア、さしつたり」
澪「さても危急存亡、評定頭殿まさに瀬戸際。
こは一番、正無事(まさなごと)などものし、治定はかるべき」
(澪、恵と和の間に割り入る)
澪「サテサテ皆様方、これより慮外なるをば申し上げます。
よも評定頭殿こそ巣盗禍の本体ならめとは、如何に」
(恵、泣きくづれる)
25 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/01(水) 21:56:50.65 ID:oUuhAeyu0
恵「ハアー許させられい、許させられい」
澪「オオ、そらごとより真の出たるぞ」
恵「オイオイ。
次の春来たれば、桜高より去るべき定めの我が身なり。
菩薩の化生としたひ念ずる澪殿との別れも近づき、いたみわぶに耐へがたし。
さればこそ、かくの愚か事におよびたるぞ」
澪「アア評定頭殿、なんとも思ひの他なるかな。
こに報ひ候わねば、我とても七生晴れぬ悔ひをば残しまする。
されば後、かならづ稽古場まで御越し願いたく候」
(澪去る)
恵「アアなさけなや。常に思ひかけし澪殿の、御腹立ちをこうむりたるぞ。
けだし神楽衆が兵(つはもの)ども集め、我を討たんとの御意趣か」
和「よもや。澪が本意は知らねど、今はただ稽古場へ急ぐのみ」
(恵、澪、舞台脇へ)
(澪、南蛮琵琶持ちて再び舞台入り)
28 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/01(水) 21:58:44.65 ID:oUuhAeyu0
澪「さても曽我部恵殿。
こたび、つつがなく勤め終えられましたること、まこと珍重好事と存じまする」
恵「ハテ、なんと申されたか」
和「恵殿の行く末、言祝ぎたく候となん」
恵「オオ、オオ」
澪「かくも深き御こころざし、我とても気色わろからず。
されば一念、得手もの神楽もて餞(はなむけ)となしたくござる」
恵「アア嬉しき日ぞ、嬉しき日ぞ」
澪「これより奏でまするは御存知、連節不破々々が刻。いざ、共に音声(おんぢやう)なさん」
恵「ヤンヤ」
和「ヤンヤ」
(澪、琵琶ならす)
29 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/01(水) 21:59:40.99 ID:oUuhAeyu0
澪「南無大黒天、縁結びの権現様よ」
恵「今生ひとたび一夜とて、契る便宜(びんぎ)もあれかしと」
和「言問ひあれば、おのづから」
澪「恋の情けも、深まりゆく」
恵「ヤレ不破々々が刻」
和「ソレ不破々々が刻」
澪「ヤツトコヤツトコ、アア不破々々が刻」
(三者、舞ひ謡ひつつ退場)
32 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/01(水) 22:03:28.18 ID:oUuhAeyu0
>22
もしかして『菊慈童』?
あれは「狂言」じゃなくて「謡曲」だったような。
36 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/01(水) 22:06:29.70 ID:oUuhAeyu0
あーそうそう。
少し前に謡曲っぽいものも書いてスレ立てしたんだけど、すぐにdat落ちしてしもうた。
悔しかったんで、そっちも再度貼る。
39 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/01(水) 22:07:34.10 ID:oUuhAeyu0
謡曲『惑梓(まどひあずさ)』
『能本作者註文』にいわく、作者は「飛牡蠣」。
平成十九年、雲母能舞台にて初演。
好評を呼び、後の平成二十一年から二十二年にかけては、京都動画衆により機巧絵巻が作成された。
歴史上名高き「軽音物」の大流行が始まった契機である。
41 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/01(水) 22:09:18.10 ID:oUuhAeyu0
ワキ・ワキツレ四人一声
「汝が姿 見れば心の臓 どうどうめき
思ひはかれば 淡雪羹
ヤレ不破々々が刻 ソレ不破々々が刻
ワキ澪「かやうに連なりたるは、桜高が軽音神楽衆にて候。
わけて我は南蛮琵琶つかまつる者にて、名をば秋山澪と申し候」
ワキツレ唯「近頃あず猫が影も見えず。もの思ふべし」
ワキ澪「月に群雲、花にも嵐。さては限りの至れるか」
シテ、うしろめたしき気配にて舞台入り
ワキツレ律「さても梓。何故の懈怠ぞ。我ら一座日々これ稽古、おこたることの無きものを」
ワキツレ唯「待ちわびたる哉。待ちわびたる哉」
シテ、なおも顔ふせ黙る
43 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/01(水) 22:10:07.95 ID:oUuhAeyu0
ワキ澪「痛わしき様なり。何とてやあらむ」
ワキツレ律「さては岩にせかるる滝川の」
ワキツレ唯「或は峰にわかるる横雲の、今生の名残は御勘弁」
シテ梓「ならば答えん。なづみの霧、心にかかり、道に惑ひしが故にて候」
ワキ・ワキツレ四人一声
「あら何と」
シテ梓「それ軽音が一党に我の招かれし由、今はおぼつかなし。
初心に響きし歓迎の宴も、すでに遠し。
かのいみじき境地、羽化登仙の心持、御四人と共に御座候へば、
再び兆すこともあらむと思ひ定め、勤めに勤めてはべりおりしも、
露ほどの甲斐なく、あぢきなき限りにて候。
もはや十方浄土にも往生すべき縁なしやと」
シテ、面おほひて泣く
ワキツレ唯「あず猫あず猫、いとほしや」
45 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/01(水) 22:11:08.10 ID:oUuhAeyu0
ワキツレ律「然り。
伯牙調べれば、鐘子期が感は必ず動じ、
鐘子期賛すれば、伯牙が情にあやまたず当たる。
されば我らは今知音、この場は一定、おとなふのみぞ」
ワキ・ワキツレ四人一声
「心得たり」
ワキ・ワキツレ四人、得物かまへ鳴らす
地謡「なんとも不思議の心地なり。
学を好まぬ唯殿に、本意なき思ひはたへざれど。
太鼓のはやる律殿の、勢いまことにうとけれど。
なれどこれなる四天王、そろわば奏でる三国一の、賑わひ和(にぎ)ぶ大神楽。
ひとえに天部の諸尊とて、聞かば舞ひ出す極みの音よ」
ワキ、シテに近づく
46 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/01(水) 22:11:43.97 ID:oUuhAeyu0
ワキ澪「さても梓。汝かつて、我にこと問ひていわく、外番に出でざるは何の故かと」
シテ梓「然り」
ワキ澪「いざや答えん。この神楽衆と共だちおとなふ、そに勝る楽しみの知れぬがためなり。
我ら三世に一蓮托生、珠の緒と珠の緒つなぐ縁の紐いと太ければ、
南無諸天善神、一切の加護ありて我らが神楽も華やぐべしと」
シテ梓「心得て御座候」
ワキ澪「さても梓。貞盛に小烏丸、本多作左に蜻蛉切、汝が腕にも名物睦丹。
なれば共に楽しまん、いざ」
シテ梓「かしこまつて御座候。我が身の置き所、軽音神楽衆の他になし」
ワキツレ唯「よろづかたじけなし、あず猫や」
ワキ澪「うさ祓ひの茶事もあれ。稽古むつかしきこともあれ。
されど神楽衆の所作に無駄なく、全て芸道の血肉とこそなれ」
48 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/01(水) 22:12:36.28 ID:oUuhAeyu0
ワキツレ唯・律、あからさまに稽古の手やすむ
ワキツレ唯「やあ疲れたり」
ワキツレ律「向こう七日の物忌みあるべし」
シテ梓「澪殿が言、すずろに疑わしくおぼえ候」
ワキ澪「これはまた、かたはらいたし」
ワキツレ沢庵「我の出番なきまま果つるとは」
地謡「桜三月、菖蒲は五月、をとめの盛りは十六七。
咲きも咲いたる大輪の、いつつの花の行く末かたし。
後の世にまで数々の、物語をば残したる、軽音神楽衆のそもそもの、縁起はかくも目出度けれ。
縁起はかくも目出度けれ」
(了)
62 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/02(木) 00:12:58.16 ID:q9eQfsDY0
けど、色々とアレンジしすぎたせいで元ネタとは別ものになったかも。
読んでる途中で原典が分かったら偉い!
今狂言『御器被』
64 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/02(木) 00:14:29.59 ID:q9eQfsDY0
1年生の教室にて。
梓「あーあ、今日は掃除当番かー……
学祭ライヴも近いし、さっさと終わらせて練習に行かなくちゃ」
憂「あっ、梓ちゃん危ない! 蜂が飛んできたよ!」
梓「えっ?(髪を揺らしつつ、振り返る)」
純「おおー! ツインテールで蜂を叩き落した!」
梓「ふ……ふふーん、見たか! これぞ中野家に伝わる奥義です!」
憂「すごーい!」
純「……単なる偶然だったくせに」
65 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/02(木) 00:15:20.74 ID:q9eQfsDY0
部室にて。
紬「うーん……なかなか入ってきてくれないなあ」
澪「なにやってんだムギ? そんなところでうずくまって」
律「ふふふ、知りたいか?」
唯「ムギちゃんはねー、今朝ゴキブリホイホイを持ってきてくれたんだよ!」
澪「え」
律「それを部室にしかけておいたんだが……
放課後の今に至るまで、中はカラのまま」
紬「しょぼーん、だわ」
澪「ちょ、何考えてんだ! ゴキブリなんて捕まえて、どうするつもりなんだよ!」
紬「一度でいいから、こういう家庭的ガジェットで害虫を捕獲してみたいの!
と言うか、子どもの頃からゴキブリさんって一度も見たこと無いし」
66 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/02(木) 00:16:41.75 ID:q9eQfsDY0
唯「実物をじっくり観察するのが、長年の夢なんだよねー」
紬「うふふー」
澪「ばっ、馬鹿! そんな悪い夢は捨てろ!」
律「(澪の耳元で)容器の蓋を開けると……黒光りするゴキちゃんがびっしり……」
澪「ひ、ひいいい!(気絶)」
紬「でも……流石は優良児そろいの桜高ね。
みんな毎日いっしょうけんめいお掃除してるから、ゴキブリなんて住んでないのかも(肩を落とす)」
律「そ、そんなに残念なのかよ」
唯「うんうん、ムギちゃんの気持ちよく分かるよ。
私も、うちに帰って冷蔵庫開けて、アイス入ってなかったら自殺したくなるもん」
律「軽いな、お前の命」
紬「ありがとう唯ちゃん。でも仕方ないわ、きっとこれも運命なのよ。
この度は、ご縁がなかったってことで」
律「虫相手に見合いでもする気だったのか」
67 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/02(木) 00:17:31.27 ID:q9eQfsDY0
紬「じゃ、お茶の用意をするね。はあ……(深く溜め息)」
律「(ひそひそ声で)おい、唯」
唯「(ひそひそ声で)なんでありますか隊長」
律「うむ。我が隊で最も残念……じゃなくて優秀な唯隊員に、特別任務を与える」
唯「とと、特別任務! それはいったい!」
律「しいっ、声が大きい。いいか、あの紬の無念そうな顔を見ろ」
唯「マジかわいそうであります」
律「なんとかしてあげたい!とか思わないか?」
唯「思うであります」
律「じゃ、ゴキブリ捕まえてきて」
唯「はあ?」
68 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/02(木) 00:18:13.22 ID:q9eQfsDY0
律「で、こっそりホイホイの中に仕込んでおくんだ。
ムギ、きっと大喜びだぞー」
唯「ええー、めんどくさいー」
律「あまりの喜びに、明日からお菓子の量が倍増したりしてな」
唯「やる! 私がんばる!」
律「校内くまなく探せば、一匹ぐらい見つかるはずだ。
行け、戦え、唯隊員!」
唯「ラジャー! と、その前に」
律「まだ何か?」
唯「ゴキブリって、なに?」
律「はひ?」
唯「だから、ゴキブリってどんなの?」
69 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/02(木) 00:18:44.60 ID:q9eQfsDY0
律「お、お前……それはひょっとしてギャグで言っているのか?」
唯「ううん、本当に見たことないんだ」
律「むうう。にわかには信じがたいが……お前はウソだけはつかない奴だからな。
……バカだけど」
唯「えへへー、それほどでもー」
律「いいか、あのホイホイに描かれた絵をよく見ろ」
唯「お、なんか怪獣みたいなのがいるね」
律「だいたい、あんな感じの生き物だ」
唯「結構かわいいんだね」
律「いやいや、あれはかなりデフォルメされた姿だ。実物は恐いぞー。
いきなり飛び掛ってきたりする」
唯「ふむふむ、メモメモ」
71 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/02(木) 00:20:06.82 ID:q9eQfsDY0
律「とにかく全体的に黒っぽくて、2本の触覚がピンと伸びていて」
唯「で、おっかない生き物……っと」
律「そうそう。B級ホラー映画とかだと、しょっちゅう放射線を浴びて巨大化してる」
唯「よし、おおむね理解した! ちょっくら行ってくる!(部室から駆け出る)」
律「武運を祈ってるぞー……ククク、これで邪魔者は消えた」
紬「さあ、お茶が入りましたよー……って、あれ?
唯ちゃん、どこ行ったの?」
律「ん。ちょっと急用で、しばらく戻らないってさ」
紬「そうなの……今日のおやつ、新鮮なうちに食べてほしかったんだけど」
73 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/02(木) 00:21:11.00 ID:q9eQfsDY0
律「でも澪は気絶したままだし、唯はいないし。なんとなく、梓も来ないような予感がするし」
紬「しかたないわ。三人の分は、りっちゃんが食べていいよ」
律「あー残念だなー申し訳ないなー。でも、食べずに残すよりはずっとマシだよねゲヘヘ」
紬「なんか、りっちゃん……計画通り!って顔してるけど」
律「めめめ滅相も」
紬「それじゃ、どうぞ!
今日のおやつは、アリゾナ州名物の芋虫入りキャンデーよ!」
律「ぐえ」
紬「わあー、舐めると舌がビリビリして面白い!
さ、りっちゃんも遠慮せず!
破片すら残さず、ぜーんぶバリバリと!」
律「策士、策に溺れるの巻」
74 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/02(木) 00:21:44.95 ID:q9eQfsDY0
廊下にて。
唯「むむー、ゴブキリ、ゴブキリ……」
梓「はあ、何か思ったより時間かかっちゃったな
唯「うううう、ゴリゴリ、ゴリゴリどこにいる」
梓「あれ、唯先輩?どうしちゃったんですか、そんなところに這いつくばって」
唯「おお、あずにゃん。私は今、ムギちゃんの命を救うための重大な任務をこなしているのです」
梓「また謎な発言かましてるよ、この人。
て言うか、練習はどうしたんですか? 学祭、もうすぐなのに……」
唯「そんなことを気にするヒマがあったら、あずにゃんもゴブリンを探してよ!」
梓「ファンタジーRPGのザコ敵?」
唯「違うよ、ゴロツキだよ!」
75 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/02(木) 00:23:03.99 ID:q9eQfsDY0
梓「だから、なんですかそれ」
唯「うんとねー、全体的に黒っぽくて、触覚が2本 ちしていて……はっ!」
梓「ちょ、いきなり顔近づけないでください!」
唯「く、黒い!」
梓「あ痛、おさげ引っ張らないで!」
唯「触覚が2本!」
梓「やめてってば! いいから、練習に行きますよ!」
唯「おわあ、怒って飛び掛ってきた! 恐い!」
梓「先輩のフリーダムさの方が、ずっと恐いです!」
唯「やったービンゴだ、間違いない!」
梓「いやいやいや、そこで喜ぶのは意味不明すぎます」
76 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/02(木) 00:23:38.98 ID:q9eQfsDY0
唯「いいからいいから、部室に行くよ!」
梓「え、やっと練習する気になったんですか?」
唯「練習でも何でもやってあげるから、とにかく今は部室に!
ムギちゃんのもとへ、今すぐゴー!」
梓「おおー! 珍しくやる気ですね、燃えてますね!」
唯「ふんす! これでお菓子倍増計画大成功だよ!」
77 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/02(木) 00:24:11.87 ID:q9eQfsDY0
部室にて。
梓「失礼しまーす」
唯「あれ、りっちゃんが息してない」
梓「澪先輩も瞳孔開きっぱなしですね。何事?」
紬「あら、唯ちゃん梓ちゃん。やっと帰って来たのね」
唯「おう、待たせたね!」
紬「ごめんなさい。遅くなるって聞いたから、おやつもう食べちゃった」
梓「あうう……」
唯「いいさいいさ、明日から通常の3倍食べさせてくれれば!
それよりも、これからムギちゃんの夢をかなえてあげるよ!」
紬「え?」
78 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/02(木) 00:24:43.85 ID:q9eQfsDY0
「さあ、あずにゃん……と見せかけて、実はごきにゃんだったそこのキミ!」
梓「はい?」
唯「このホイホイに入ってください!」
紬「え?」
梓「え?」
唯「……え?」
紬「ごめん、ちょっと何言ってるか分からない」
唯「いや、だから……ゴキブリを……ホイホイに……」
梓「ひどい! いつから私がゴキブリになったんですか!」
紬「見損なったわ唯ちゃん、後輩をいじめるなんて」
79 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/02(木) 00:25:24.70 ID:q9eQfsDY0
唯「えええええええ!? そんな、私は、ただ」
紬「反省するまで、唯ちゃんだけおやつの量を半分にします!」
唯「ぎゃー! それだけは勘弁してくだせぇ!」
梓「……なんでもいいから、練習しましょうよぉ」
唯「おのれ、よくも騙したおったなごきにゃ……いや、あずにゃん?
あれ? ねえねえ、どっちが本当の正体なの?」
梓「いやだから、私に聞かれても」
コメントする