1: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2014/06/25(水) 23:45:20.87 ID:nL3FzWN+o
・876プロです
・オリキャラいます
・オリ設定ありです

SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1403707520

2: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2014/06/25(水) 23:47:18.97 ID:nL3FzWN+o

 最近、有望株が何人か876プロに入った。
 所属アイドル達――特に、涼たち三人が、その功績で事務所を見事に大きくしてくれたおかげで、876の門を叩く子が増えた。
 スタッフも増やし、事務所も広い所に移し、設備も整っている。

石川「なのに……」

 そのうちの一人が、絶不調だ。
 最初は何かピンとくるものがあったので採用したけれど、それ以降は鳴かず飛ばず。
 同期にはDランクに迫る子も出ているというのに、Fランクのまま。

石川「はぁ……」

「うっ、うっ、うぅ……」

 今日もオーディションに落ちて、屋上で泣く始末。
 仕方ないので、私自ら慰めることにした。

石川「いつまでそこで泣いているつもり?」

「放っといてください」グスン

 これだ。
 この子は、拗ねやすい。
 そして、すぐに泣く。
 誰かを見ているようだ。

石川「……」

 さて、どうしたものかしら。
 実力がないわけではない。
 運の悪さをひっくり返せるだけのものは持っている。
 足りないのは、自信と――

石川「ねぇ、ドライブでもどう?」

「ドライブ、ですか?」

4: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2014/06/25(水) 23:50:10.96 ID:nL3FzWN+o

―――
――


石川「着いたわ」

「ここは……?」

石川「876プロよ」

「え?」

石川「少し前までの、ね。二階よ」


 今となっては懐かしさすら感じてしまう。
 プロデューサーとして活動していた頃、偉大な先輩たちが自分の事務所を立ち上げていった様を間近で見ていた。
 私もいつか――そう願い、経験を積み、遂にはこの小さな城の主となった。

 最初は全くうまくいかなかった。
 高木会長、社長には何度も助けられた。
 黒井社長からは多くを学ばせてもらった。

 候補生が集まり、スタッフも仕事に慣れてきた。
 だけど、プロデューサー時代のようにはいかなかった。
 アイドルたちとのコミュニケーションはどこかちぐはぐになってしまい、やめる子も出てきた。
 事務所は力をつけられず、私はひたすら守るのに手一杯だった。

 そして、あの子たちがやってきた。


石川「涼や絵理も、ここがスタートだったのよ」

「……で、伝説の始まりってやつですね」

石川「来た当時はああも大きく羽ばたくだなんて微塵も思っていなかったけどね」


 特に、あの子に関しては。
 私はあの子に、何の期待も――

5: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2014/06/25(水) 23:53:18.87 ID:nL3FzWN+o

石川「今でも思い出せるわ。前日に、思いがけない人から話があったの」

「何の話です?」

石川「あるアイドルが来た時の話」

 そう、思い出せる。

石川「天海春香が、どうしても紹介したい子がいるって、突然ね」

「あ、あ、天海春香!? あの天海春香ですか!? 正真正銘文句なしのトップアイドルの!?」

石川「そう、その天海春香」

 まなみが大慌てで「天海春香さんが来ました!」って駆け込んできて。
 ものすごく興奮した様子の春香さんが、突然語りだした。
 どうしても、どうしても会ってもらいたい子がいる、と。
 興味はあった。彼女にここまで言わせる子が、どんな子か。
 実力は全くみたいだったけれど、会うだけ会ってみようか――
 だけど、名前を聞いた瞬間、強い衝撃を受けた。

石川「その子の名字は、この業界にいる者なら、あるいは悪魔の名のように、あるいは神の名のように思えるものだった」

 ありふれてはいるけど、その姓は、何年も前の芸能界において最高にして最強のアイドルのものだった。
 黒井社長は、いつか彼女を越えるアイドルをプロデュースしてみせると語ってたっけ。

「……あの、もしかして、日高先輩の話ですか?」

石川「そうよ。日高愛の話」

6: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2014/06/25(水) 23:56:00.04 ID:nL3FzWN+o

「そっか……日高先輩も、ここからスタートしたんですね」

石川「……ちょっと、違うわね。涼も絵理も、そして愛も、正確にはここに来る前からスタートを切っていたわ」

「そっか! 水谷先輩はネットアイドルで、秋月先輩はぶっつけ本番で女装して成功したっていう経歴がありましたね!」

石川「そうそう」

「じゃあ、日高先輩も……」

石川「そこなんだけど……」

 愛のことは、すぐに調べた。
 予感は的中、彼女は伝説のアイドル日高舞の一人娘だった。
 これだ。この子を使えば、876プロは大きくなれる。
 たったそれだけだった。それだけで、彼女を迎え入れようと思った。
 だって、そうでなければ……。

石川「愛はここに来るまで、オーディションに何十回も落ちていたわ」

「うそぉ!?」

石川「末期には、審査員にどこがダメか聞いたら「すべて」って言われたほどの落ちこぼれだったのよ」

 そんな子は、普通、入れたりしない。
 実際に見たあの子は、信じられないくらいダメだった。
 これが、あの日高舞の娘なのかと疑うレベルだった。

「う、嘘です! だって、日高先輩ですよ!?」

石川「今じゃトップアイドルの一人だけど、ここに来た時は本当にそんな子だったのよ」

7: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2014/06/25(水) 23:59:43.43 ID:nL3FzWN+o

 あの子が芸能界で生き残るためには、日高舞の名前が必要不可欠。
 そう言ってあげたんだけど……。

石川「偉大なお母さんの名前を使ってデビューしましょうって言ったら、あの子はすぐに「嫌」って言ったの」

 日高舞の娘じゃない、日高愛で頑張らせてくださいって。
 強い、だけど脆い瞳で、こっちを見て。
 だから、たった一回だけ、チャンスをあげた。

石川「私が出した条件は、新人オーディションの突破だった。それができれば、やりたいようにさせると約束したわ」

「勿論、できたんですよね?」

石川「危なっかしかったけれどね。同期に絵理と涼がいたのもいい刺激になったのだと思うわ」

「そっかぁ……流石日高先輩です!」

 思わず、笑い出しそうになる。
 流石ときたか。
 あの、愛が。

石川「そのあとで、愛は絵理と涼とであるオーディションを競ったの」

「あの三人が? 誰が勝ったんですか?」

石川「誰だと思う?」

「……日高先輩が新人オーディションを終えてすぐだったんですか?」

石川「ええ、そうよ」

「あの、それって日高先輩に勝ち目があったんですか?」

石川「ほとんどなかったわね。ちなみに勝ったのは涼よ」

8: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2014/06/26(木) 00:07:27.93 ID:JjdFD+bco

 それからも、愛は苦難の連続だった。
 見ているこっちが、何度も哀れに思うほどに。
 壁にぶつかって、すぐに泣いて。

石川「星井美希と戦ったこともあったわね」

「ほほほほ、星井美希ー!? そ、それダメじゃないですか勝てませんよ!」

石川「オーディションがぶつかったのは事故だったけど、やるって言いだしたのは愛なのよ」

「流石日高先輩……突撃しまくりだったんですね」

石川「だけど、相手は強敵。そこで、絵理のプロデューサーの提案で、水谷絵理と日高愛の二人がかりでオーディションに挑んだの」

 それでも、勝てる見込みは少なかった。
 絵理がどれだけ成長できるかだった。
 ところが――

石川「組んでのレッスン中、愛は絵理に全くついてけず、足を引っ張る始末」

「むしろ、そんなに実力差があってどうして組ませたんですか……」

石川「だから、愛がOK出したのよ。876プロは昔からアイドルの自主性を尊重しているの」

「……それで、結果は?」

石川「愛は落ちたわ。だけど、絵理が星井美希に勝った」

「おぉ! 水谷先輩凄いです!」

石川「死力を尽くしたのよ。オーディションが終わったら倒れるぐらい、絵理は頑張った」

「倒れ――ええ!?」

石川「そして、それは愛には手痛い経験となったわ。レッスンにはついていけず、頑張りも絵理に及ばなかったってね。差を思い知ったことでしょう」

9: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2014/06/26(木) 00:13:19.69 ID:JjdFD+bco

 自分をダメだなんて言わないよう、言い聞かせた。
 あの子はコンプレックスの塊だったから、中々届かないけれど。

石川「それからも、愛は苦しんだわ」

 当時、事務所にはまだ余裕がなかった。
 それはスタッフにも分かっていたことで――

石川「ずっと支えてくれていたマネージャーがやめたのよ。それからは、一人」

「他のマネージャーはつけなかったんですか?」

石川「そんな余裕なかったわ」

 それでもなんとか乗り越えて、大きく成長しようとしていた矢先。
 遂に、事件は起きた。
 まさか彼女が帰ってくるだなんて、誰も思わなかったに違いない。

石川「愛がそれでも頑張って、段々人気が出てきた頃よ。日高舞がカムバックしたのは」

「日高先輩のお母さんですね。伝説のアイドル」

石川「愛はずっと、母親との比較をされてきたわ。自分自身でもね。アイドルとしてのコンプレックス、それが帰って来て、立ち塞がった」

「……大丈夫だったんですか?」

石川「ちょっと厄介なことになって、愛は自分を見失いかけたわ」

 だけど――

10: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2014/06/26(木) 00:17:35.50 ID:JjdFD+bco


石川「仲間たちに支えられて、愛は自分自身を取り戻した」

 始まりが春香さんなら、追い詰められた愛を救ったのも春香さんだった。
 歌が好きだから、歌う。
 好きなら好きってだけで絶対……。
 愛が、彼女から受け継いだ言葉。

石川「そして、日高舞に打ち勝ち、トップアイドルへの道を歩み続けたわ」

 日高舞とは違う、日高愛というアイドル。
 それはまるで――

石川「太陽のように、人を照らして」

「……」

石川「あの子はね、諦めなかったのよ。何度も泣いて、弱音を吐いても、それでも諦めないで立ち上がり続けた」

「だけど、私は……」

石川「越えてみなさい」

「?」

石川「待っているわよ。そんな、諦めなかったアイドルが、あなたを」

「私を……?」

石川「アイドルは、好き?」

「そ、そりゃあ好きです! 大好きです!」

11: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2014/06/26(木) 00:21:31.93 ID:JjdFD+bco

石川「だったら、諦めないことよ。アイドルに必要なのは、自信と――」

 立ち上がり、突撃し続けた、あの子のような――

石川「立ち上がり、挑戦し続ける勇気よ」

「勇気……」

石川「泣いて落ち込んだっていいわ。だけど、立ち上がりなさい。あなたを待っている、大勢がいるから」

 愛が、そうだったように。

12: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2014/06/26(木) 00:23:39.79 ID:JjdFD+bco

―――
――



愛「社長、あの子に何か言いました?」

石川「なんのこと?」

愛「ライバル宣言されました」

石川「よかったじゃない」

愛「社長ー! 何話したんですかー!」

石川「誕生日だったし、あなたを振り返っただけよ」


おわり

引用元: 石川「諦めなかったアイドル」