1 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/06/29(火) 19:37:04.39 ID:sNE4kLNr0
アリスゲームの敗者であるはずの蒼星石の心は
その事実とは裏腹に晴れやかなものであった。

水銀燈に思うところがあり
ローザミスティカが自分に還されたとはいえ
これもいずれはまた、水銀燈か翠星石に渡すことになるだろう。

自分はきっとアリスにはなれない。

お父様に二度と会うこともできないかもしれない。

それでもいい。それでいい。

自分はもうアリスゲームを降りた身だ。
何十年以上も続いている戦いの螺旋から抜け出せた身だ。

アリスゲームとは自分達の至上の目的であり手段でもあったが
それはまた自分達を閉じ込めている鳥かごでもあった。
3 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/06/29(火) 19:39:01.19 ID:sNE4kLNr0
自分は敗れた。夢は破れた。
しかし、そこで全てが終わりではなかった。

魄(ミスティカ)を水銀燈に奪われた。
体(ボディ)を雪華綺晶に奪われた。
それでも残ったものがあった。心だ。



蒼星石「あ~~生きるの楽しいなあチクショ~」



街路樹の居並ぶ通りを歩く蒼星石の足取りは軽かった。
心と記憶だけの存在となって9秒前の白を漂ったのはいい経験だった。
臨死の恍惚。文字通り死の淵をさまよう体験。

漠然とした概念でしか理解していなかった死を
言葉でなく心で理解した蒼星石にとって
今ある束の間の生はひときわ輝いていた。
あたかもスイカに塩をかけて甘みが引き立つように。



6 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/06/29(火) 19:40:34.41 ID:sNE4kLNr0
蒼星石「♪しっあわっせは~ ♪あっるいってこっなっい~~」



これは運命だ。
お父様が許してくれた、ほんのちょっぴりの奇跡。

人形としての仮初の命。それもアリスゲームで失った。
しかし、それでも紆余曲折を経て、まだこの大地に立っている。
仮初の命、その上でさらに許された余生。

これを全て、結菱一葉や桜田ジュンとの絆のために使い切ろう。
命を懸ける。言い訳も出来ないぐらいで全力で生きる。
その結果、思いが遂げられなくても、届かなくても、納得は残る。

7 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/06/29(火) 19:42:44.23 ID:sNE4kLNr0
蒼星石「♪だ~かっら ♪あっるいっていっくんだね~」



叶わなかった夢に、実らなかった結果に意味はあるのだろうかと思っていた。
最初から無かったものと同じではないかと思っていた。

違う。違った。
意味はある。この自分の胸の中に。
意味はあった。あの9秒前の白の中に。

8 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/06/29(火) 19:44:15.29 ID:sNE4kLNr0
蒼星石「♪いちにちいっぽ~ ♪みっかでさんぽ~」



自分はアリスにはなれない。けれども自分は
水銀燈も真紅も他の姉妹の誰もがなれない者になれる。

その確かな感覚が9秒前の白で感じられた。

まさにそれは雪華綺晶の言う、エーテルから解放されたアストラル。
イデアのイリアステル。
ローザミスティカというアリスゲームの縛りから解放された精神。
蒼星石を蒼星石たらしめている中心。



10 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/06/29(火) 19:47:03.43 ID:sNE4kLNr0
蒼星石「♪さ~んぽすすんで ♪フンフフッフフ~ン」



会えることは無いだろうとは思っているが
もし、お父様に会うことがあるならば、こう言いたい。

僕はアリスではありません。アリスにはなれません。
けれども、僕はあなたの娘です。僕が蒼星石です。
僕は幸せでした。産み出してくれてありがとう、と。



蒼星石「♪じ~んせいは~バンジージャン……プッッ!?」



もう双子の姉の背中ばかり追いかけたりはしない。
いじけた視線を地面に落とすようなこともない。
自分の名前と同じ、蒼穹を見上げて歩いて行こうと決めた。
そんな蒼星石を前代未聞の不幸が襲った。



蒼星石「……   踏んだ」



11 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/06/29(火) 19:49:30.54 ID:sNE4kLNr0
人は   を踏んだ時。走馬燈のようにあらゆる思考を巡らせる。
蒼星石もまさにその状態に陥り、これまでのモノローグに当たる内容がそれだった。
その間、実に2秒。
だがしかし、いくら哲学的な事を思案しようとも、結局は単なる現実逃避。
   を踏んだという事実は、どうにも覆しがたく
更にしばらくの茫然自失とした時間が流れた後、蒼星石の思考は地に戻った。



蒼星石「……踏んだね。そうですよ、踏みましたよ。
     これはもう、ものの見事に踏みましたよ」


12 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/06/29(火) 19:51:06.53 ID:sNE4kLNr0
レンピカ「!!」

蒼星石「大丈夫、僕は冷静だよ。今のも独り言じゃないから。
     レンピカ、君に説明するための台詞だから。
     開き直ったわけじゃないから」

レンピカ「……」

蒼星石「つま先やかかとで、ちょっと擦っただけなら誤魔化しも効くけど
     これはもう無理。擦ったっていうレベルじゃない」

レンピカ「……」

蒼星石「足の裏の中心で   の真芯をとらえちゃったよ。
     土踏まずの部分でモロに踏んだ」

13 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/06/29(火) 19:52:30.43 ID:sNE4kLNr0
レンピカ「……ッ!」

蒼星石「『土は踏まないのに   踏んだ』って? やかましいわ!」

レンピカ「……!」

蒼星石「早く足をどけて靴を洗わないと? 分かってるよそんなことぐらい。
     でも、周りを良く見てご覧? レンピカ」

レンピカ「!?」

蒼星石「結構な数の町の人達が行きかっているだろう?
     今は休日の昼下がりだしね。足を離してしまったら
     僕が   を踏みつけていることがばれてしまう」

レンピカ「……」

14 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/06/29(火) 19:54:04.25 ID:sNE4kLNr0
蒼星石「幸か不幸か、僕の右足が   の長軸に沿ったド真ん中を
     踏んだおかげで、   本体のほとんどは足の下に隠れている。
     ふふ、僕もなかなかに悪運が強いらしい」

レンピカ「ッッ!!」

蒼星石「いや、運と   をかけたギャグじゃないから。
     無理して笑わなくていいから。そんなんじゃないから」

レンピカ「……」

蒼星石「ともかく、このままここでじっと休憩でもしているふりをして
     人通りが減るのを待とう。街路樹に手でもついておけば
     カッコつけて休んでいる今時の若者っぽいし」

15 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/06/29(火) 19:56:06.54 ID:sNE4kLNr0
翠星石「蒼星石じゃないですか? 奇遇ですね。こんな所で会うなんて」

蒼星石「翠星石!? い、いつからそこに!?」

翠星石「? つい今さっきですが」

蒼星石(良かった……   踏んだことには気づかれてないみたいだ)

翠星石「それより、何してるんですか?」

蒼星石「ああ、ちょっと散歩なんだけどね。疲れたから休憩を。
     翠星石の方は?」

翠星石「翠星石は買い物ですぅ」

16 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/06/29(火) 19:58:07.67 ID:sNE4kLNr0
ジュン「のりに晩御飯の材料を頼まれたんだ」

蒼星石「ジュン君? そうか、それで二人で?」

ジュン「別に買い物ぐらい僕一人で充分なのに」

翠星石「いやいや、チビ人間では力不足です。だからこうして監督役の翠星石が……」

ジュン「はいはい……」

蒼星石「ははは。でもそうやって二人で並んで歩いているとまるでデートみたいだね」

翠星石「ばっ! 馬鹿言うんじゃないですよ蒼星石!!
     そんなことあるわけないですよ、もう! いやらしいですねぇ!!」ドンッ

蒼星石「ちょ、ちょっ!! 押さないで! 押さないで翠星石!!」グラッ

レンピカ「……ッ!!」

17 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/06/29(火) 19:59:28.58 ID:sNE4kLNr0
蒼星石(ま、まずい!! 翠星石の張り手で体のバランスが!
     このままじゃ転んでしまう! そしたら足が離れて……!)

ジュン「お、おい!?」

蒼星石「ふぬぁあああああああああ!!」グィーン

翠星石「おお? 今時マトリックスの真似ですか?」

蒼星石「ま、まあね……(良し! よく持ち直した僕! 偉い! 最高!)」

18 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/06/29(火) 20:01:30.50 ID:sNE4kLNr0
ジュン「ところで何か臭くないか?」

蒼星石「!!」

翠星石「そう言われれば何となく……」

蒼星石(しまった! 今のマトリックスで右足に体重がかかったせいで
        がさらに潰れてしまったんだ! どうする! どうする僕!?)

翠星石「蒼星石は何か臭わないですか?」

蒼星石「さ、さあ? 引きこもりのジュン君の体臭じゃない?」

ジュン「失礼な。これでも清潔にしているぞ」

蒼星石「そ、そんなことよりも早く買い物を済ませた方がいいんじゃないかな?」

19 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/06/29(火) 20:03:45.18 ID:sNE4kLNr0
翠星石「それもそうですね。道草食ってるとのりが心配するです」

蒼星石「今日の晩御飯なんでしょ? メニューは何なのかな?」

ジュン「カレーだよ」

蒼星石「あ、そう……カレーなんだ……」

翠星石「そうだ! 翠星石も今日は一緒に夕飯を食べるですぅ!」

蒼星石「悪いけど今日はカレーって気分じゃないんだ……
     またの機会にお願いするよ」

翠星石「そうですかぁ? 残念です」

蒼星石「うん。ごめんね」

ジュン「……そろそろ行くぞ翠星石」

翠星石「はいです。それじゃバイバイです蒼星石!」

蒼星石「バイバ~イ」

20 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/06/29(火) 20:05:02.19 ID:sNE4kLNr0
蒼星石「ふう……やっとバカップルが去ったか……」

レンピカ「……!」

蒼星石「うん。分かってる。さっきより人通りが減ってきてる。
     右足を離すなら今がチャンスなんだけど……」

レンピカ「?」

蒼星石「さっきのマトリックスでかなり足腰がキてるんだ。
     今、無理に動こうとしたら右足を引きずることになる。
     もし、そんなことをすれば……」

レンピカ「!!」

蒼星石「そう、大惨事だ。ちょっとしたテロ行為だよ。
     さっきまでは休んでいるふりだったけど今度は本当に少し休まないと……」

21 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/06/29(火) 20:07:13.88 ID:sNE4kLNr0
老婆「もし……? そこの坊ちゃん?」

蒼星石「はい? 僕ですか? (今度は何だ?)」

老婆「柴崎さんって方のお家を探しているのだけど御存知ないかしら?」

蒼星石「すいませんが、苗字だけでは何とも……」

老婆「なら住所ではどうかしら。○○町の……」

蒼星石「ああ、それなら分かります。
     あっちに行って、こっちを曲がって、そっちに向かえばOKです。
     歩くとちょっとありますよ」

老婆「ありがとう、助かったわ。
    お礼と言ってはなんだけどお菓子をあげましょうね」

蒼星石「あらら、なんだかすいません」

22 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/06/29(火) 20:08:27.43 ID:sNE4kLNr0
老婆「本当にどうもありがとうね~。賢いボク~」

蒼星石「お気を付けて~」

レンピカ「……」

蒼星石「お菓子貰っちゃったよ。やったね。さて中身は……」

レンピカ「!?」

蒼星石「やっぱりカリントウだよ! ちくしょう!!」



23 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/06/29(火) 20:10:44.47 ID:sNE4kLNr0
蒼星石「それにいつの間にか人通りがまた多くなってしまっている。
     体力は回復してきたけど、これじゃあ、まだ動けない。
     カリントウは食べる気がしないし……!?」



しかし、ここで蒼星石に電流走る!!
閃き! 圧倒的閃き!! 事態を打破する奔流!!
   を洗い流す水洗式便所の如き大水流!



蒼星石「そうだ! このカリントウを……!!」



   があるから右足が離せない。でもこれが   でないとしたら?
そう! カリントウを踏んでいるだけだとしたら!?



24 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/06/29(火) 20:11:57.28 ID:sNE4kLNr0
蒼星石「木を隠すなら森の中……!」



カリントウの袋を開けて食べるふりをしながら中身を地面にぶちまけたなら
もはや通行人に   とカリントウを見分けることは不可能!

この状態であれば、足を離した後に潰れた   があっても
誰もが、落としたカリントウを踏んだだけだと思うだろう!



蒼星石「カリントウが   に似ていることを逆に利用するんだ……!」



まさに逆転の発想。川を遡る津波の如き逆流! 圧倒的ポロロッカ……!!





27 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/06/29(火) 20:13:43.78 ID:sNE4kLNr0
蒼星石「これ以上の方法は無い! 早速実行だ! うおりゃあ!」



蒼星石の計算に狂いは無かった。
ただ一つの誤算は、その時たまたま上空を飛んでいた水銀燈の存在。

そして、その時の水銀燈が
ここ2~3日間まともな食事にありつけていない状態だった事が
蒼星石の唯一にして最大の誤算であった。



水銀燈「いよっしゃあ!! カリントウゲットーーーーッ!!」シュババババッ

蒼星石「何ィーーーーーーーッッ!?」



蒼星石がばら撒いたカリントウは、あるいは地面に落ちる間の僅かな空間で
あるいは地面に落ちたとしても3秒以内に、全て水銀燈に拾われてしまった。



28 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/06/29(火) 20:15:59.89 ID:sNE4kLNr0
蒼星石「す! 水銀燈!! 君は……ッ! 君はッ! なんてことをッッ!!」

水銀燈「あはは! もらっちゃった! もらっちゃったぁ!
     蒼星石のカリントウもらっちゃったぁ!!」モシャモシャ

蒼星石「食べないで! 返して!!」

水銀燈「……」モシャモシャモシャモシャ

蒼星石「無視するな! それと、食べるなって!!」

29 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/06/29(火) 20:18:04.46 ID:sNE4kLNr0
水銀燈「えぇ? なんでよぉ? あんたカリントウを捨てたんじゃなぁい?
     だったら私がこれを食べても何の問題もないでしょう?」モシャモシャ

蒼星石「大アリなんだよ! それに地面に落ちた物を食べるだなんて
     君には薔薇乙女としての誇りが……!」

水銀燈「勘違いおしで無いわよ蒼星石。
     私はただお腹が減って死にそうだっただけ。
     生きる為なら半端なプライドなんて捨てるわ」ゲェップ

蒼星石「くっ……! (完食しやがった!)」

水銀燈「ふう、ご馳走様ぁ。
     じゃあね! 食べ物を粗末にしたお馬鹿さんの蒼星石!」



束の間見えたカリントウばらまきは腹に消え天に昇った。
水銀燈無法の落ち物食い……!!



蒼星石「ちくしょう……」



30 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/06/29(火) 20:53:45.85 ID:sNE4kLNr0
蒼星石(どうせなら僕の足の下の   も食べていってくれたら良かったのに……)

真紅「蒼星石?」

蒼星石「うわぁ!? 真紅? 何故ここに!?」

真紅「何故って……? 散歩だけど、この子の」

犬「ワンワン!」

蒼星石「!?」

31 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/06/29(火) 20:57:26.57 ID:sNE4kLNr0
蒼星石「その犬は……?」

真紅「もちろん私の下僕。くんくん2世よ」

蒼星石「くんくん……2世?」

雛苺「嘘ついちゃだめなの真紅! 蒼星石、この子はベスよ」

蒼星石「ベス?」

真紅「……近所の山田さんが海外旅行の間、ウチ(桜田家)で預かっているのだわ」

雛苺「みんなで交代で散歩させているのよ」

蒼星石「ははぁ、なるほどね」

32 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/06/29(火) 21:02:21.31 ID:sNE4kLNr0
真紅「この通りは格好の犬の散歩コースなのだわ」

蒼星石「そうだろうね」

雛苺「その分、犬の   も沢山落ちているのよ!」

真紅「近所の子供からは   ロードとも呼ばれているの。
    マナーのなっていない飼い主もいるものね」

蒼星石「そう……だろうね」

雛苺「ヒナね! この間、ちょっとだけ   をふんづけちゃった!」

蒼星石「!」

真紅「フラフラと注意力が散漫な証拠よ」

雛苺「でも先っちょを、ほんのちょっとだけだったからギリギリセーフなの!」

真紅「ギリギリアウトでしょ」

33 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/06/29(火) 21:13:23.01 ID:sNE4kLNr0
蒼星石「……」

真紅「蒼星石そう思うでしょ?    を踏むだなんて薔薇乙女として……いえ
    女性としてあるまじき失態なのだわ。小学生の男子じゃあるまいし」

蒼星石「……」

犬「クンクン」

蒼星石「!?」

雛苺「ベスが蒼星石の足の臭いをかいでるの!」

真紅「? 珍しいわね、私達人形の臭いには興味を持たない子なのに」

蒼星石(やばい! 絶対臭いで僕の足の下の   に気付いている!)

犬「フンガフンガ!」

蒼星石(ああ! すごい! スゴイ嗅いでるよ! なんとか! なんとかしないと)

犬「ハッハッハッ!」

蒼星石(手で追い払うのは無理だ! 右足は絶対動かせない! 左足で……!)

34 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/06/29(火) 21:18:54.11 ID:sNE4kLNr0
蒼星石「ごめん!」 ボギャア!

犬「ギャイーーン!!」

真紅「なっ! なにをするだーー!!」

雛苺「どうしたの蒼星石!」

蒼星石「僕は犬が嫌いなんだ! そのアホ犬を僕に近づけるんじゃあない!」

真紅「だからって蹴ることは無いでしょ! 蒼星石」

雛苺「怖かったの? ベスが?」

蒼星石「怖いんじゃあない! 人間にへーコラする態度に虫唾が走るんだよ!」

真紅「どうしたっていうの! あなたの口からそんな言葉が出るとは思えないのだわ」

蒼星石「いいから! 僕のことはもうほっといてくれ!!」

35 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/06/29(火) 21:25:32.21 ID:sNE4kLNr0
レンピカ「……」

蒼星石「何も言わないでくれレンピカ。
     あの場を切り抜けるにはこうするしかなかったんだ」

レンピカ「……!」

蒼星石「真紅たちに嫌われた? ふ、しかたないさ。
        をモロに踏んだことがばれたら嫌われるどころじゃないよ」

レンピカ「……」

蒼星石「そうだね。随分と人通りも減ってきたし、日も暗くなってきた。
     そろそろこの場を離れる時……!?」

36 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/06/29(火) 21:33:03.90 ID:sNE4kLNr0
蒼星石「あ、足が……右足が動かない!?
     まるで   が接着剤になったかのように!」

レンピカ「ッ!?」

蒼星石「嘘だろ! 動け動け! 動いてよ! 今動かなきゃ駄目なんだよ!」

レンピカ「……!」

蒼星石「『吉本新喜劇の膝で舟こぐ竜じいみたいになっている』?
     どうでもいいよ! そんなこと!」


39 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/06/29(火) 21:43:02.03 ID:sNE4kLNr0
蒼星石「なんだよこれ!    が足と地面の間で固まったのか!?
     ちくしょうちくしょうちくしょう!」

レンピカ「……!」

蒼星石「どうしようどうしようどうしよう! ねぇ、どうしようレンピカ!?
     僕このままここから動けなくなちゃったらどうなるのかな!?」

レンピカ「……ッ」

蒼星石「『春には綺麗な花が咲くでしょう』? 駄目だこりゃ!
     事ここに到って、君まで冷静さを欠くなんて……!!」

レンピカ「!?」

雪華綺晶「あら、蒼薔薇のお姉さま。こんばんは」

蒼星石「き、雪華綺晶!?」

雪華綺晶「何かお困りのようですが、どうかしましたので?」



41 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/06/29(火) 21:50:11.70 ID:sNE4kLNr0
後に、この時のことを雪華綺晶はこう答えている。



雪華綺晶「はい。一目見て分かりました。『ああ、この人   踏んだんだな』と」

 ―――それから、どうしたのですか?

雪華綺晶「まずは彼女を落ち着かせることが第一だと考えました」

 ―――かなりのパニック状態だったとレスキュー隊員は語っていましたが。

雪華綺晶「一旦は落ち着いてくれたのですが、大勢の大人の方がやってきたのを見て
       恥ずかしさのあまり、また興奮してしまったのでしょう(笑)」

 ―――なるほど(笑)

42 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/06/29(火) 21:56:29.74 ID:sNE4kLNr0

 ―――ところでレスキュー呼ばなくても靴を脱げばよかったのでは?

雪華綺晶「んー? やはりあなたは分かっていない。薔薇乙女というものを」

 ―――というと?

雪華綺晶「身につけている装飾の全てがお父様からいただいた大切なもの。
       例え、靴の片っぽとて捨てられるものではありませんわ」

 ―――なるほど!

雪華綺晶「そろそろ帰ってもいいでしょうか? サッカーのワールドカップ観たいので」

 ―――貴重なお時間を我々のインタビューに割いて頂きありがとうございました!

雪華綺晶「いえいえ、お仕事お疲れ様です」

43 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/06/29(火) 22:00:40.57 ID:sNE4kLNr0
こうして『蒼星石が   踏んで動けなくなったよ事件』は
忘れた頃に定期的に世界まる見えやアンビリーバボーで紹介され
姉妹だけにではなくお茶の間の皆さんにまで、生き恥を晒すこととなった。



蒼星石「もう二度と   を踏んだりしないよ」



The end


転載元:幸せの蒼星石