1: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2023/02/19(日) 13:14:05.47 ID:LQd6uuhx0
「わぁーっ! 綺麗なお花畑ー!」

「えへへ。そりゃあ、私がお手入れしているからねっ♪」

「本当、お花に関しては丁寧だよねー」

「ちょ、ちょっと!? アイドルのお仕事もちゃんとやってるでしょ!」

「アハハハ」


「ん?」

「どうかした?」

「これ……アグラオネマだよね? こんな所に植えてていいの?」

「あぁ、それはね」


SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1676780044

2: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2023/02/19(日) 13:15:44.16 ID:LQd6uuhx0
「この子は、ここでいいの」

「もちろん、本当は日当たりの良い所に植えちゃいけない品種なんだけどね」


「この子は、大切な人からの……」


――――

――――――

3: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2023/02/19(日) 13:17:15.96 ID:LQd6uuhx0
――――


 【国民的男性アイドルグループ『ITOKO』メンバー○○ 買春疑惑】

 【未成年に飲酒を強要か!? 幾度もあった、自宅マンションでのアツイ情事】


「ちょ、ちょっと待ってくれ! そんな事実は無いっ!!」


  >ITOKO逝ったあぁぁぁぁぁwwwwwwwwwww
  >令和最大のスキャンダルじゃねコレ?

  >これぞ上級メンバー様の風格やぞ
  >この間の特番に出てた時のキョドリ様ヤバかったよな
   どうせ薬もやってんだろ

  >割とマジで応援してたから残念だわ、死ね
  >いや、氷山の一角だろ普通に考えて
   芸能界なんて皆 兄弟やで

  >こんな犯罪者が国民的アイドルやれてんだから世も末だわ
  >もう終わりだよこの国


「やめろ!! 違うんだ、信じてくれ! 俺は、俺は何も……!!」

「う、わああぁぁぁ……!!」


――――

4: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2023/02/19(日) 13:18:24.17 ID:LQd6uuhx0
~961プロ 社長室~

黒井祟男「ククク……これで我が961プロアイドルの人気は不動のものだ」

黒井「しかし、良い時代になったものだなァ。
   自ら手を汚さずとも、こうして簡単に邪魔者を陥れることができる」


黒井「フッ……なぁに、心配することは無い」
   
黒井「約束の金は、先ほど手配した。後で確認するがいい。
   ご苦労だったな」

黒井「今後とも、よろしく頼むよ。お互いの利益のために」



武内P「はい」

5: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2023/02/19(日) 13:19:15.43 ID:LQd6uuhx0
ウィーーン…



ザワザワ… ガヤガヤ… プップー!…


スタスタ…

武内P「はい……今、終わりましたので、これから向かいます。
    1時間以内には到着できるかと」

武内P「……心配することはありません、渋谷さん。
    レッスンで培ってきたものが裏切ることは、決してありません」

武内P「そうです……落ち着いて……」

武内P「本田さんと、島村さんにも、よろしくお伝えください。
    それでは、1時間後に。失礼致します」

6: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2023/02/19(日) 13:20:09.12 ID:LQd6uuhx0
ピッ!

武内P「…………」

武内P「……」チラッ



 【TKG64 △△ 地元学生サークルの  パーティーに参加していた!?】

 【衝撃!! 業界関係者が語る、大物司会者□□と暴力団幹部の繋がりとは……?】



武内P「…………」


スタスタ…

7: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2023/02/19(日) 13:21:30.93 ID:LQd6uuhx0
~公園~

タンッ タン…

園田智代子「よっ、ほっ……!」タン タンッ…!


智代子「とぁっ!」タタン ビシッ!

西城樹里「おぉー」パチパチパチ


智代子「はぁ、はぁ……えへへ、どう、樹里ちゃん!?」

樹里「どうって、凄すぎてアタシなんかじゃケチつけらんねぇよ」

智代子「ほ、本当!?」

樹里「あぁ、相当練習したんだなってのが伝わった。
   正直言って、見違えたぜ」

智代子「わぁ、やったぁ!
    ……ってあれ? 見違えたって、これまではヒドかったってこと!?」

樹里「な、何だよ?」

智代子「ケチつけないとか言っときながら、ヒドいよぉ! 樹里ちゃん!」

樹里「誰もそんなこと言ってないだろ!」

8: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2023/02/19(日) 13:22:15.07 ID:LQd6uuhx0
樹里「ったく……でも、本当にすごいよ、チョコ」

智代子「えへへ。そりゃーだって、すごく頑張ったからね」

樹里「あぁ、ずっと言ってたもんな。アイドルになりたいって」

樹里「チョコなら、きっとすごく可愛い人気アイドルになれるよ。
   アタシも応援するぜ」

智代子「ありがとう。でも……」

樹里「? どうした?」


智代子「樹里ちゃんは、なる気ないの?」

樹里「なるって、何が」

智代子「アイドルに決まってるでしょ」

樹里「!? ……はぁ!?」

樹里「あ、アタシがアイドルって……そんなガラじゃねぇだろ!!」

9: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2023/02/19(日) 13:23:09.96 ID:LQd6uuhx0
スタスタ…


智代子「ガラとか関係無いよ、可愛い子にはアレをさせろって言うし」

樹里「旅じゃねぇし、か、可愛くねぇし!」

智代子「そういうトコが可愛いって言ってるんだけどね~♪」

樹里「ッ!! こんの、バカッ!!」グワッ!


スタスタ…


智代子「うひゃー、樹里ちゃんが怒ったぁー!」タタタ…

樹里「待てこのっ!!」ダッ!

智代子「アハハハ」



スタスタ…

武内P「……」スタスタ…

武内P「……?」チラッ

10: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2023/02/19(日) 13:24:07.03 ID:LQd6uuhx0
スタスタ… ピタッ

武内P「…………」


樹里「こらっ、逃げるなぁ!! ……ん?」ピタッ

智代子「?」


武内P「…………」


樹里「…………?」


智代子「樹里ちゃん、どうしたの? あの人知り合い?」

樹里「いや、全然」

樹里「おい、何見てんだよ」


武内P「……!」

武内P「……」ペコリ


スタスタ…


樹里「……何だアイツ。気味悪いな」

11: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2023/02/19(日) 13:25:04.32 ID:LQd6uuhx0
テクテク…

智代子「今日はありがとう、樹里ちゃん」

樹里「アタシは何にもしてねぇだろ。明日のオーディション、頑張れよ」

智代子「うん」


智代子「じゃあ、私はこっちなので。また明日ねー!」フリフリ

樹里「寝る前にチョコ食いすぎんなよー」

智代子「美味しいから大丈夫ー!」タッ

タタタ…

12: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2023/02/19(日) 13:26:46.20 ID:LQd6uuhx0
樹里「……ったく、大丈夫かなアイツ」


樹里「ん?」ピタッ



本田未央「ぃやったぁー!! これで私達もいよいよお茶の間デビューだね、しぶりん、しまむー!」

渋谷凛「ローカルだけどね」

未央「ちょっとしぶりーん! なにさ~ちょっとは合格嬉しがったらー?
   緊張しすぎてプロデューサーに電話してたの、この未央ちゃんお見通しだぞー?」ウリウリ

凛「ちょ、ちょっと未央、やめて…!」

島村卯月「あわわわ……未央ちゃん、あまり凛ちゃんをウリウリしちゃダメですよぉ」



樹里(……賑やかな連中だな)

13: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2023/02/19(日) 13:28:05.05 ID:LQd6uuhx0
卯月「……?」

凛「どうしたの、卯月?」

卯月「いや、あそこに立ってる子……こっちをずっと見てるような……」

未央「しまむーのファンじゃない? それか私のファンだったりして!」

未央「はいはーい! 未来のトップアイドルですよー、なんちって」フリフリ


樹里「……!?」ドキッ


凛「やめなよ未央、恥ずかしいでしょ」

未央「うん、ありがとうしぶりん、さすがにちょっと恥ずかしかった」スッ

卯月「でも、そうやっていつも元気一杯なのが未央ちゃんの良い所ですよねっ」

未央「ありがとうしまむー! 良い所見つける天才かぁ!?」ダキッ!

卯月「うひゃあっ!?」

14: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2023/02/19(日) 13:29:22.64 ID:LQd6uuhx0
樹里(……何だアイツら)

樹里(馬鹿馬鹿しい。帰ろ)スッ

スタスタ…



未央「……? あれ、さっきの子は?」

凛「私達の様子見て、ため息ついてどこかに行った」


卯月「シュッとした感じの、カッコいい子でしたね」

未央「ひょっとして、どこかの事務所の子かな?
   近い将来、ライバルになったりして」

凛「バカみたいなこと言ってないで、もう行くよ」

未央「ちょっとしぶりーん! 今のは結構本気で言ったんだけどー私」

凛「ふーん、いつもは本気じゃないんだね」

卯月「あれ、いつも本気じゃないんですか?」

未央「えっ、おぅ……これはどう答えたらいいの私?」

15: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2023/02/19(日) 13:30:29.68 ID:LQd6uuhx0
~夜、346プロ 事務室~

カタカタ… カタカタカタ…

武内P「…………」カタカタカタ…


ガチャッ

千川ちひろ「お疲れ様です、プロデューサーさん」

今西部長「失礼するよ」

武内P「千川さん、今西部長……お疲れ様です」ギシッ

つ エナドリ

武内P「……」グビッ


ちひろ「エナドリのストック、こちらに置いておきますね」

武内P「はい」

16: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2023/02/19(日) 13:32:50.72 ID:LQd6uuhx0
ちひろ「先ほど、他の子達から聞きました。
    ニュージェネレーションズ、オーディション合格おめでとうございます」

武内P「ありがとうございます」

ちひろ「大変だったでしょう。
    皆あぁ見えて不安がりな子達ですし、これが良い自信に繋がると良いですね」


武内P「彼女達の場合、自分自身の実力への不信は、モチベーションの維持にも繋がっているようです」

武内P「根を詰めさせないように気を配ることの方が、より肝要と考えています」カタカタ…

今西「ふむ、なるほど……さすが、よく見ているね」

武内P「担当アイドルが荒波に飲まれぬよう、適切に舵を執ることはプロデューサーの責務です」カタカタ…

ちひろ「そうは言っても、プロデューサーさんの方こそ、あまり無理をしないでくださいね?」


武内P「いえ」

武内P「“本来業務”を行っているうちは……それは、苦にはなりませんので」カタカタ…

17: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2023/02/19(日) 13:34:17.46 ID:LQd6uuhx0
ちひろ・今西「!……」


武内P「…………」カタカタ…


カタカタ カタッ……


武内P「……お気になさらずとも大丈夫です」

武内P「新たな“仕事”の依頼が、あったのでしょうか?」


ちひろ「…………明日の午後です。資料を」スッ

武内P「……」パラッ

ちひろ「すみません、急なお話で……」

武内P「いつものことです……明日、というと?」

ちひろ「はい……
    我が346プロのアイドル候補生を募集する、社内オーディション当日です」

ちひろ「その依頼内容というのが……」


武内P「……その筋の有力者の子供を、オーディションに合格させろ、と」

今西「心苦しいだろうとは、思うがね……」

18: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2023/02/19(日) 13:35:36.77 ID:LQd6uuhx0
武内P「依頼人は?」

ちひろ「同じです。961プロダクションの黒井社長、直々のご指名で……」


武内P「先方に確認をとります」ガチャッ

ポパピプペ


武内P「……」プルルルルル…


『……ウィ、私だ』

武内P「いつも、お世話になっております」

『ハッ! 心にも無い前置きなどどぉ~うだっていい。
 依頼の件は、彼女から聞いたかね?』


武内P「今回の標的は、アイドルではありません。候補生の希望者です」

武内P「まだ業界関係者ではない人間を手に掛けることは、私の本意ではありません」

19: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2023/02/19(日) 13:37:13.86 ID:LQd6uuhx0
『雇われの分際で、一プロダクションの社長であるこの私に、随分な物言いだなぁ?』

武内P「お言葉ですが、961と346は協力関係にすぎず、立場としては対等です。
    その気になれば、上層部に掛け合い、社として態度を改めさせていただくこともできます」

武内P「つまらない意地の張り合いで、いたずらに事を荒立てるのは、お互いの利益にならない。
    そうはお考えになりませんか?」

『フン……自身の能力と346の威光を笠に着て、私を脅そうというのかね?』


『いいだろう。今回については、他の者に依頼するとしよう』

武内P「恐れ入ります」

『だが忘れるな』


『いくら崇高なポリシーとやらを持っていた所で、貴様は日陰者に過ぎんということをな』

ガチャッ

ツー ツー ツー…

20: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2023/02/19(日) 13:38:26.32 ID:LQd6uuhx0
武内P「…………」ガチャ

武内P「今回の仕事については、私とは別の方に依頼されるとのことです」

ちひろ「そうですか……それは、何よりです」ホッ

武内P「内容を考えれば、喜ぶべきことではありません」

ちひろ「! ……す、すみません」


武内P「それに、黒井社長の言うとおりです」

ちひろ「えっ?」


武内P「私は、尊ばれる側の人間ではありません」


ちひろ「プロデューサーさん……」

今西「…………」

21: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2023/02/19(日) 13:39:17.91 ID:LQd6uuhx0
武内P「念のため、明日のオーディションは、私も様子を見守ろうと思います」

武内P「このオーディションの後、961側が次にどのような動きを見せるのか……
    わざわざ346プロの行事に手を下すからには、より大きな目的があるはずですので」

今西「……あぁ、そうだね」


ちひろ「では、私達はこれで……失礼します」ペコリ

今西「あまり、思いつめてはいけないよ」

ガチャッ

バタン…



武内P「…………」

22: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2023/02/19(日) 13:41:08.71 ID:LQd6uuhx0
~翌日、346プロ オーディション会場~

ガヤガヤ…


樹里「結構、人集まんだな」

智代子「ああぁぁあぁ当たり前でしょ、み、みし、みしろプロって大手、ううん超大手の…」ガチガチ…

樹里「どんだけ緊張してんだよ。ほら、チョコでも食うか?」スッ

智代子「い、今お腹痛くなったら、嫌だから、いいや……」ブルブル…

樹里「……こりゃ相当重症だな」


樹里「あのなぁ……アタシみたいな素人が言っても説得力ねぇだろうけど」

樹里「アタシはチョコのこと、現役のアイドルと変わらないくらい、すごく可愛いと思うぜ」

智代子「ほ、ホントに?」

樹里「大体、あれだけ練習してきたじゃねーか。
   自信持てよ、他のヤツらなんか目じゃないって」ポンッ

智代子「そ、そうかな……そうだといいな、えへへ」

23: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2023/02/19(日) 13:43:51.47 ID:LQd6uuhx0
???「フッ……黙って聞いていれば、好き勝手なことを」

樹里「なっ! だ、誰だ!?」


ザンッ!

有栖川夏葉「この私を差し置いて、随分と豪気なものね!」バァーン!


智代子「……えっ、ホントに誰!?」

夏葉「なっ、え!? 私を知らないというの!?」

樹里「無名だから候補生オーディションに応募すんじゃねーのかよ」

夏葉「……それもそうね」


夏葉「いいわ、まずは自己紹介といきましょう」

夏葉「有栖川夏葉よ。残念だけど、このオーディションは私がいただくわ!」

24: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2023/02/19(日) 13:45:56.94 ID:LQd6uuhx0
樹里「何だぁ? 初対面のクセして」

智代子「あ、うぅ……」

樹里「ほら、チョコ。言われっぱなしにされてんなよ」トンッ

智代子「わっ! と……あ、あの」

夏葉「……」ドヤァ


智代子「そ、園田智代子ですっ。チョコアイドル目指してます!」

夏葉「チョコ?」

智代子「そ、そうです! 私、あまりコレといった個性が無くて……」

智代子「名前が、ちよこだから、なんか可愛いかなって、その……ごめんなさい」シュン…

樹里「謝ってどうすんだよ!」


夏葉「……智代子」

夏葉「あなた、チョコの主な原材料が何か、当然知っているわね?」

25: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2023/02/19(日) 13:56:33.02 ID:LQd6uuhx0
智代子「えっ? か、カカオ……?」

夏葉「そう。カカオと人類は紀元前から延べ5500年以上もの長きに渡り、
   相互に深い関わり合いを持つものよ」

夏葉「古代アステカ、マヤ期の時代において、カカオは通貨でもあった。
   それほどの価値あるものを味わえるのは、王族をはじめとする特権階級等の限られた者だけ」

夏葉「かのコロンブスがこれに出会い、欧州に広めて大衆化させるまでは、
   カカオとはすなわち富と力の象徴だった、という事ね」


樹里「……で?」

夏葉「もちろん、今では市場に流通し、一般庶民の間でも広く愛されるものではあるけれど、
   カカオの独特の風味は、古代より人間のDNAに深く刻み込まれているものよ」

夏葉「理性を狂わし、これを欲せざるを得ない魔性としてね……
   私も、幼い頃はお風呂上がりにチョコバーを食べて、父に怒られたものだわ」

智代子「は、はぁ……美味しいですもんね!」ピョン

夏葉「そう! そうなのよ!」ビシッ!

樹里「? ……???」

26: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2023/02/19(日) 13:57:58.57 ID:LQd6uuhx0
夏葉「人を惑わすチョコを統べるアイドルなんて……末恐ろしいわ!」

夏葉「帝王学を修めてきた私にとって、最も危険視すべき存在と言っても良い。
   だから……」

夏葉「私は、あなたにだけは負けないと決めたわよ! 今、この瞬間!」ビシィ!

智代子「え、うぇぇぇっ!?」

樹里「なんつーか、メンドくさいヤツだなぁ」


樹里「そんな大ゲサな話じゃなくって、要はアイドルとしてどっちが可愛くて、
   歌とかダンスがすごいかってことだろ?」

樹里「その点、チョコは大したもんだぜ。後で吠え面かくなよ」

智代子「最後までチョコたっぷりだもんね!」

夏葉「フッ! いいわ、そういう事ならとくとその実力、見せてもらおうじゃない!」

樹里「チョコのボケにまずはツッコめよな」



スッ

武内P「…………」

27: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2023/02/19(日) 13:58:28.11 ID:LQd6uuhx0
武内P「…………」チラッ

武内P「……!」ピクッ


樹里「……?」



武内P「…………」



智代子「樹里ちゃん、どうしたの……あっ、あの人」

夏葉「?」

樹里「…………」


武内P「…………」

28: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2023/02/19(日) 13:59:12.70 ID:LQd6uuhx0
樹里「……ッ」キッ!

クルッ ツカツカツカ…!


武内P「……!」


樹里「おい」

武内P「……はい」


樹里「アンタ、昨日も会ったよな」

樹里「人のことジロジロ見やがって。そんなにアタシが物珍しいかよ」

武内P「いえ、そういうことでは…」

樹里「業界関係者かどうなのか知らねぇけど、アタシだって集中したいんだよ。
   目障りなことすんのは止めてくれよな」

29: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2023/02/19(日) 14:00:07.61 ID:LQd6uuhx0
武内P「! あなたも、今回のオーディションに参加を?」

樹里「なっ!? バッ……ちげぇよ!! 友達の応援で来てんの!」

武内P「し、失礼しました」

樹里「はぁ……そういうわけだから、あんまデカイ図体でウロウロしてんなよな」

武内P「申し訳ございません」ペコリ

スタスタ…


樹里「……ったく」

智代子「樹里ちゃん、だ、大丈夫だった? すごい剣幕だったから……」

夏葉「知らない男の人に、喧嘩でも売りにいくのかと、少し心配してしまったわ」

樹里「何でもねぇよ」

30: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2023/02/19(日) 14:01:03.71 ID:LQd6uuhx0
~~♪ ~~~♪


樹里「へぇ~……皆、上手いモンだなぁ。
   伊達に大手のオーディションじゃねぇってことか」

智代子「…………」

樹里「……チョコ」



スタッフ「それでは、次の方どうぞ」


ザッ

夏葉「エントリーナンバー17、有栖川夏葉です」


智代子「あ、夏葉ちゃんだ……どうだろう?」

樹里「大口叩いてるヤツが、本当に大したヤツだった試しはねぇけどな」

31: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2023/02/19(日) 14:02:37.44 ID:LQd6uuhx0
夏葉「……」スッ


キュッ タタンッ!

夏葉「~~♪ ~~~~!♪」タンッ! タタンッ

タンッ タッ タンッ!


樹里「うおっ……!」

智代子「えっ!? す、すご……!」


武内P「…………」


夏葉「~~~! ~~~~♪」タタンッ タンッ

夏葉「~~! ~~~~♪ ~~~♪」キュッ! タン タッ タンッ!

32: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2023/02/19(日) 14:03:42.27 ID:LQd6uuhx0
智代子「ど、どうしよう……次、私だよぅ……!」オロオロ

樹里「ば、バカッ! 弱気になんなよ、チョコだって負けてないって!」

智代子「で、でもぉ……!」ウルウル



夏葉「~~~!♪ ~~~~…」タンッ タッ

ガッ!

夏葉「!? キャ……!」グラッ


樹里「あっ」
智代子「え?」

武内P「……!?」


ドテッ


夏葉「!? ……ッ!」グッ!

~~♪

33: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2023/02/19(日) 14:04:43.37 ID:LQd6uuhx0
夏葉「~~~~♪」

夏葉「…………」


スタッフ「はい、ありがとうございました」

夏葉「……」ペコリ


智代子「な、夏葉ちゃん……」

樹里「最後の最後で、コケちゃったな……同情するぜ」


武内P「…………」


ギリッ…

夏葉「………………ッ」プルプル…!



樹里「……アイツはアイツ、チョコはチョコだ。しっかりやれよ!」ガッツ!

智代子「う、うん……!」キュッ

34: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2023/02/19(日) 14:05:39.34 ID:LQd6uuhx0
智代子「え、エントリーナンバー18、園田智代子ですっ」

智代子「ちょ、チョコアイドル目指してます! よ、よろひ…」

スタッフ「あ、そういうのいいです」

智代子「ひぇ……す、すみません……」シュン…

プッ クスクス…


樹里「……!」ムッカァ…!


武内P「…………」



智代子「……」スッ


~~♪

35: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2023/02/19(日) 14:06:25.39 ID:LQd6uuhx0
タタンッ! キュッ タッ タンッ!

智代子「~~~~!♪」

智代子「~~! ~~~♪」タンッ タタン!


夏葉「……!」


武内P「…………」


樹里「チョコ……頑張れ……!!」


智代子「~~~! ~~~!!♪」キュッ タンッ!

智代子「~~! ~~♪ ~~~!♪」タタンッ タッ タン!



夏葉「あの子、こんなに凄かったなんて……」

36: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2023/02/19(日) 14:07:28.37 ID:LQd6uuhx0
智代子「~~ッ! ~~~!♪」タン タンッ…!

智代子「~~~ッ!」タタン ビシッ!


智代子「はぁ、はぁ……!」

パチ パチパチ…

智代子「ふぇ?」


パチパチパチパチ…!


智代子「え、あ……あ、ありがとうございましたぁ!!」ペコッ


武内P「……」パチパチ…

37: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2023/02/19(日) 14:08:38.79 ID:LQd6uuhx0
樹里「やったなチョコ! ほんと、完璧だったぜ!」ガシッ!

智代子「樹里ちゃんっ……ありがとう、私、こんな……!」

智代子「まさか、こんなオーディションで拍手してもらえるなんて、思わなくてぇ……!」グスッ

樹里「それだけチョコが凄かったってことだよ。アタシの言ったとおりだったろ?」

智代子「うん……うんっ……!」

樹里「へへ、泣くなよ。まだ結果も出てな……」

樹里「あっ」


夏葉「……素晴らしいパフォーマンスだったわ、智代子」

智代子「夏葉ちゃん……」

38: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2023/02/19(日) 14:10:00.88 ID:LQd6uuhx0
樹里「あー、あの……最後、残念だったな」

夏葉「私が未熟だった。それだけのことよ、それに」

夏葉「あなたのような素晴らしい実力者に出会えただけでも、
   このオーディションに出場した甲斐はあったもの」

夏葉「ありがとう、智代子」スッ

智代子「夏葉ちゃん……ううん、こちらこそ」ギュッ


夏葉「私も、早くあなたに追いついてみせるわね。首を洗って待っていなさい」

樹里「そういうこと言うヤツって、なんか小者っぽいよな」ニヤニヤ

夏葉「あら、あなたに対して言ったわけじゃないわよ?」

樹里「うっせーな! 知ってるよ!」

智代子「えへへへ」ニコニコ



スタッフ「えぇー、それでは、本オーディションの合格者さんを発表します」

39: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2023/02/19(日) 14:11:27.02 ID:LQd6uuhx0
夏葉「じゃあ、私はこれで」スッ

樹里「え、発表聞いていかないのかよ?」

夏葉「聞くまでもないことよ」フリフリ

樹里「お、おう」



スタッフ「えぇー……17番さん。エントリーナンバー17の、有栖川夏葉さん」

スタッフ「他の方々はお帰りになられて結構です、ありがとうございました」



樹里「!?」

夏葉「……!?」クルッ

智代子「…………え」


ザワザワ…

武内P「…………」

40: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2023/02/19(日) 14:12:35.53 ID:LQd6uuhx0
智代子「そんな…………わたし……」

智代子「ダメ、だったんだ……あ、あはは……あは……」

智代子「バカみたい……そっかぁ、私……そう、だよねぇ……」ポロポロ…


樹里「ちょ、ちょっと待てよ!」

スタッフ「わっ!?」

樹里「さっきの見てただろ!? チョコの時だけ拍手が起きたんだぞ!!」

スタッフ「い、いや、それが直接の審査基準ではなくて…」

樹里「そうでなくたってチョコが一番凄かったんだ!
   何でチョコじゃねぇんだよ!! 夏葉はコケ…!」

樹里「ッ……あぁもう!! 絶対おかしいだろ、この会場の雰囲気がその証拠だ!
   合格者が発表されてザワつくオーディションがあってたまるか!!」

41: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2023/02/19(日) 14:14:30.21 ID:LQd6uuhx0
夏葉「その子の言うとおりよ」

樹里「夏葉……!」


スタッフ「あ、あの……」

夏葉「よくもこんな辱めを私にしてくれたわね……
   このオーディションの勝者は、誰の目にも明らかのはずよ」

夏葉「でも、不可解な審査があった理由について、大よその心当たりはあるわ。
   残念ながらね」

スタッフ「えっ?」


クルッ

夏葉「合格は辞退します。早急に、父に問い質す必要があるわね」

コツコツ…!

42: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2023/02/19(日) 14:15:10.60 ID:LQd6uuhx0
スタッフ「あ、ちょ……有栖川さーん!?」

ザワザワ…! オイオイ…


武内P「…………」

武内P「……!」チラッ


スタッフ「……」
黒服達「……」ヒソヒソ…


武内P「……」チラッ


樹里「チョコ……もう帰ろう」

智代子「ヒック…………ヒック……」グスッ…

テクテク…



武内P「…………」

スッ

43: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2023/02/19(日) 14:16:20.63 ID:LQd6uuhx0
~346プロ レッスンスタジオ~

未央「すぃ~まむぅ~~」グデー

卯月「何ですか、未央ちゃん?」


未央「今日さ、何でプロデューサー来なかったのかな?」

凛「リーダーである未央にさえ、何も連絡が無かったの?」

未央「プロデューサーとお親密なしぶりんにも?」ニヤニヤ

凛「……」ギューッ

未央「あだだだだっ!! ごめんごめん、ごめんだから手の甲つねるのヤメてっ!!」

卯月「あわわわっ! きゅ、救急箱を……!」ダッ

凛「いいよ卯月、必要ない」

44: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2023/02/19(日) 14:17:19.04 ID:LQd6uuhx0
未央「ふぃー、お~いちちち……」フーッ フーッ…

未央「いや、そりゃ連絡はあったよ?
   オーディションの様子を見に行くので、レッスンをお願いしますって」

未央「でもさ、ヘンじゃない?」

卯月「ヘン、ですか?」


未央「仮にもローカル局の番組出演っていう大仕事を控えた私達を、
   担当プロデューサーがあっさり放って、浮気しに行くかなぁ?」ウーン

凛「オーディションに、よほど注目すべき子がいたのか、あるいは……」

未央「あるいは?」


凛「……新しく担当になる予定の子がいたとか、かな」


卯月「うーん、だったら、最初から予定に組み込まれてそうな……」

未央「だよね? なんか今日のプロデューサー、急遽ってカンジしたよね?」

45: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2023/02/19(日) 14:18:33.34 ID:LQd6uuhx0
凛「……確かに、そうかも」

未央「うーん……なーんか、テンパってたりしないか不安っていうかさー」


卯月「まぁまぁ、未央ちゃん。
   大きなお仕事を控えて、たぶん私達、ナーバスになってるんですよ」

凛「……そうだね。
  逆に、私達に任せても大丈夫って、プロデューサーは思ってくれたのかも知れないし」

未央「そ、それもそうかぁ! うんうん!
   確かに、やる前からウジウジ悩むなんて私達らしくないよね!」ガバッ

凛「ほんと、調子いいんだから」フッ

未央「あ、何だよしぶり~ん! 調子に乗せてるのはそっちでしょー?」ウリウリ

卯月「えへへへ。やっぱり未央ちゃんは元気が一番ですねっ」ニコニコ

46: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2023/02/19(日) 14:19:41.46 ID:LQd6uuhx0
~公園~

樹里「……落ち着いたか?」

智代子「うん…………ごめんね、樹里ちゃん……」

樹里「アタシに謝んなよ」


樹里「結局、あんなオーディションなんてウソっぱちだったんだな。
   チョコの努力を、踏みにじりやがって……!」

樹里「夏葉が怒るのだって、もっともだぜ。
   あんな勝ち方じゃ、夏葉も嬉しくないだろ。何考えてんだアイツら」

樹里「あぁぁ~~もう、考えれば考えるほどイライラしやがる……!!」ギリッ…!


智代子「ううん、樹里ちゃん……」フルフル

樹里「……チョコ?」

47: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2023/02/19(日) 14:20:54.89 ID:LQd6uuhx0
智代子「やっぱり、私がダメだったんだと思うんだ」

智代子「何の取り柄も無いクセに、チョコアイドルだなんて、ムリヤリ個性を作って……
    たぶんそういうの、あざといし……見る人も、楽しくないだろうし……」

智代子「仮に、あのまま受かって続けたとしても……どこかで……」


樹里「そんなことないっ!!」ガタッ!

ガシッ!

智代子「じゅ、樹里ちゃん……」ジワァ…

樹里「忘れちまったのか!? 歌い終わって拍手が起こったの、チョコだけなんだぞ!」

樹里「チョコは絶対すごいアイドルになれるんだ!
   人を笑顔にしようってヤツが、自分でそれを認められなくてどうすんだよ!」

智代子「で、でもぉ……!」ポロポロ…

樹里「今のチョコは、都合のいい言い訳を自分で作って逃げてるだけだ!
   今度は誰にもさ、文句の付けようも無いくらいに頑張って、完璧な実力をつけて……!」

智代子「! わ、私だって……!」キッ!

樹里「……!?」

48: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2023/02/19(日) 14:22:32.85 ID:LQd6uuhx0
智代子「私だって、あ、あんなにっ! あんなに頑張ったのに……!」

智代子「か、簡単に、逃げてるとか……もっと完璧に、とか……!」ポロポロ…

智代子「そんな……そんな、こと、樹里ちゃんに……い、言われたく、ないもん……!!」

樹里「! ちょ、チョコ……!」

智代子「う、うっ、ぐ……うぅぅ……!!」ポロポロ…

樹里「ご、ごめん……アタシ、勝手なことを……」


智代子「あの場に立ってもいない樹里ちゃんに……!」

智代子「私の気持ちなんて、分からないもんっ!!」ダッ!

樹里「チョコ!? あ、おいっ!!」

タタタ…!

49: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2023/02/19(日) 14:24:12.96 ID:LQd6uuhx0
樹里「…………クソッ!!」ガッ!

樹里「アタシ、なんてひどいことを言っちまったんだ……」



ザッ


樹里「……?」



武内P「西城、樹里さん……ですね?」

50: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2023/02/19(日) 14:25:29.08 ID:LQd6uuhx0
樹里「アンタかよ……何でこんなとこ…」

樹里「って、何でアタシの名前知ってんだよ!?」ドキッ

武内P「オーディション会場に入る際、同伴者の方は、入口で参加用紙を記入されたかと思います」

樹里「それを見たって? はぁ……」


樹里「あのなぁ……一体、何なんだよアンタ。
   何でアタシに付きまとうんだ? それともチョコか?」

武内P「いいえ。西城さん、あなたに用があって参りました」

樹里「……何だよ」


武内P「単刀直入に言います、西城さん」

武内P「あなたを弊社のアイドルとして、スカウトさせていただきたいのです」



樹里「…………は?」

51: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2023/02/19(日) 14:26:54.81 ID:LQd6uuhx0
武内P「申し遅れました……名刺を」スッ

樹里「……ふーん。“961プロ”、プロデューサー」

樹里「い、いやいやいやいや!
   意味分かんなすぎる。何でチョコじゃなくてアタシなんだよ」

樹里「あっ! ひょっとして、アタシのことバカにしてんのか!?」

武内P「? ……バカにしている、とは?」

樹里「だ、だからぁ!
   アタシ、見てのとおり女っぽくねーし、言葉遣いだってほら、悪いし……」

樹里「アイドルって、もっと可愛くってフリフリしてて、女の子らしいだろ?
   そんなの、アタシのガラじゃねぇし、できるわけ……!」


武内P「あなたをスカウトしたい理由が、私にはあります」

武内P「いえ……スカウトしなければならない理由と、言い換えても良い」

樹里「……しなければならない、理由?」


武内P「西城さん……あなたは、狙われています」


樹里「……えっ!?」

52: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2023/02/19(日) 14:28:34.76 ID:LQd6uuhx0
武内P「あなたもお気づきのとおり、今日のオーディションは、不正が行われていました」

樹里「…………」

武内P「それはすなわち、346プロに有栖川夏葉さんを所属させたい者がいたことを意味します。
    引いては、それを足掛かりに、さらなる企みを抱く者が」

樹里「……何だよ、その企みって」

武内P「現時点では分かりません。
    ですが、それが頓挫し、有栖川さんも、園田智代子さんの芽も摘まれた今」

武内P「西城さん……あなたを346プロに所属させようという計画が、おそらく進められています」

樹里「……おい、デタラメ言うなよ。
   アタシはあのオーディションの出場者ですらねぇんだぞ」

武内P「あの場で、不正を表立って糾弾した者だからこそ、です」

樹里「!」

53: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2023/02/19(日) 14:29:42.55 ID:LQd6uuhx0
武内P「口封じのために346側があなたを抱き込もうとするにせよ、
    不正を依頼した者が、その代役としてあなたに目を付けるにせよ……」

武内P「間もなく、何者かがあなたに接触を試みてくるでしょう。
    そして、不正の事実を暴き得るあなたに、どんな手を講じてくるかが分からない以上」

武内P「このままでは危険です、西城さん。
    961プロに所属さえしていれば、容易に手出しはされなくなるはずです」


樹里「……じゃあ聞くけどよ」

樹里「アンタがその、接触を試みてくる悪いヤツじゃないっつー証拠、あんのか?」

武内P「……!」

54: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2023/02/19(日) 14:31:04.09 ID:LQd6uuhx0
樹里「さっきから、勝手なこと言ってくれてるけどさ。
   アタシはそもそもアイドルなんて興味ねぇんだよ、これっぽっちも」

樹里「どんなヤツらから勧誘されようと、応じる気はサラサラ無いね。
   ましてや、チョコを……!」

樹里「チョコを、あんなつまんないマネして蹴落としやがった346プロなんか……!!」ギリッ…!

武内P「西城さん……」


樹里「アタシはアイドルになんかならねぇよ。絶対にな」

樹里「チョコをヒドい目に遭わせた業界になんて、誰が好き好んで入るもんか」クルッ

ツカツカ…



武内P「…………」ポリポリ…

55: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2023/02/19(日) 14:34:11.54 ID:LQd6uuhx0
~夕方、樹里の家~

樹里「…………」ゴローン


「ねぇー、樹里ー?」

樹里「んー? なーにー?」

「ちょっと卵と牛乳買ってきてちょうだい」

樹里「はぁー? 兄貴が行けばいいだろぉ?」

「まだ帰ってきてないのよぉ、友達と遊んでくるとかで」


樹里「はぁ~……ったく、はいはい」ノソッ

樹里「卵と牛乳だけでいいのかー?」


ガチャッ

56: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2023/02/19(日) 14:34:58.97 ID:LQd6uuhx0
テクテク…

樹里「…………」



 ――あの場に立ってもいない樹里ちゃんに……私の気持ちなんて、分からないもんっ!!


 ――このままでは危険です、西城さん。



樹里「……チッ、何だってんだよ」

樹里「はぁ……今日はさっさと風呂入って寝よ」


スゥ…

ガバッ!!

樹里「……!!?」ガシィッ

57: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2023/02/19(日) 14:36:28.23 ID:LQd6uuhx0
ガサッ…!

樹里「な!? ……むぐっ…!?」ジタバタ!

黒服A「お静かに願います」


ガチャッ

樹里「……!!」


黒服B「これだけの大金を、あなたにお渡しする用意が我々にはあります」

黒服B「何も聞かず、これを黙って受け取ってくれるなら、何も起こらない」


樹里「……!」

黒服B「おい、口を離してやれ」

黒服A「……」スッ

樹里「ぷはっ! て、テメェ……ぐっ!」ジタバタ

黒服B「あなたにとって、悪くない取引のはずです」

58: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2023/02/19(日) 14:37:47.95 ID:LQd6uuhx0
樹里「アンタら、346プロの……!?」

黒服B「……」


樹里「こんなモンのために、チョコの挫折を諦めろってのかよ……!」


樹里「346プロだけじゃねぇ。アタシは……アタシだって、チョコを追い詰めた……!」

樹里「友達ヅラして無責任なことを言って、支えてるフリして、何もできなかったんだ!」


樹里「何も起こらないだって? ふざけんな、何もできないまま終わってたまるか!!
   アタシはチョコに謝らなきゃいけないんだ!」

樹里「せめて346の不正を認めさせてからじゃなきゃ、顔向けなんてできねぇ……
   そんな金、受け取れるかよっ!!」



黒服B「……そうですか。残念です」

黒服B「もう少し、あなたが利口な方であれば良かったのですが」ジャキッ

59: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2023/02/19(日) 14:38:25.51 ID:LQd6uuhx0
樹里「! け、拳銃……!?」


黒服B「致し方ありません」グッ…


樹里「……!!」



スゥッ…


ピトッ

黒服B「!?」ゾクッ



つ ナイフ

武内P「…………」

60: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2023/02/19(日) 14:39:15.31 ID:LQd6uuhx0
黒服B「馬鹿な……い、いつの間に……」


黒服A「……!」

樹里「あ、アンタは……!」


武内P「……声を出さず、首を振って答えてください。
    イエスなら縦、ノーなら横に」

黒服B「……」コクッ


武内P「私が誰か、ご存知でしょうか?」

黒服B「……」コクッ


武内P「では、どうすれば良いかも、ご存知ですね?」


黒服B「…………」コクッ

61: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2023/02/19(日) 14:40:13.71 ID:LQd6uuhx0
黒服B「……ッ」チラッ

黒服A「……」スッ

樹里「う、わっ……とと」

樹里「こんの野郎…!」

武内P「西城さん、私の後ろにお越しください」

樹里「あ、はい」ススッ


黒服B「……」

武内P「では、そのまま後ろを振り返ることなく、立ち去ってください」

黒服B「…………行くぞ」スッ

黒服A「……」

スタスタ…



樹里「な、何だ……ヤケにあっけなく引き下がったな」

62: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2023/02/19(日) 14:41:52.86 ID:LQd6uuhx0
武内P「……」スチャッ

樹里「何なんだ、アイツら……346プロの差し金なんだろうけど」

武内P「現時点では、その可能性が高いですが、断定はできません」

武内P「それに、おそらく彼らは、端金で雇われたアマチュアに過ぎません。
    尋問しても無駄だと判断したので、手短に解放しました」

樹里「アマチュア、って……アイツら、銃持ってたんだぞ!?」


武内P「より熟達したプロであれば、そのような極端な手段に走ることは無かったでしょう」

武内P「現代社会において、銃は過去の遺物に過ぎません。
    チラつかせるどころか、それを街中で行使しようとするのは、アマチュアの手口です」


樹里「……アンタ、一体何者なんだよ」

武内P「アイドルのプロデューサーです」

樹里「アンタの業界じゃ、皆ナイフを常備してんのか?」


武内P「表沙汰に出来ない暗部を請け負う者も、いるということです」

武内P「もっとも、最近はこのような直接的手段を行使することは少なくなりましたが」

63: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2023/02/19(日) 14:42:45.70 ID:LQd6uuhx0
樹里「…………」

武内P「私を、疑いますか?」

樹里「えっ?」


武内P「自分の言うことを信じさせるために、私があの連中を西城さんに仕向けた」

武内P「そうお思いになるのは、自然であると考えます」


樹里「……いや、信じるよ。
   アンタは何となく、つまらないウソをつくようなヤツじゃなさそうだし」

樹里「それに、どっちにしろ信じらんねぇ出来事が起こりすぎて、いちいち疑うのもメンドくせぇ」

武内P「ありがとうございます」

樹里「褒めてねぇっての」

64: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2023/02/19(日) 14:44:31.38 ID:LQd6uuhx0
武内P「とりあえず、私は346プロ内部に探りを入れて、事実確認を図ります。
    その間、西城さんは警察に相談をするなどし、くれぐれも身辺の安全を…」

樹里「待てよ」

武内P「?」


樹里「気が変わった……アンタ、アタシをスカウトしてくれるか?」


武内P「……よろしいのですか?」

樹里「たとえ今回の一件がアンタの自作自演だったとしても、
   アンタやその仲間から強引に勧誘され続けるのは敵わねぇ」

樹里「そうじゃなかったとしたら、もっとやってらんねぇぜ。
   マジで正体不明のヤツらから襲われて脅迫されんの、おっかねぇだろ」

武内P「……ご自分の身の安全を、取引の材料に使わせるようで、恐縮ですが…」

樹里「いや、それだけじゃない」

武内P「えっ?」


樹里「お願いしたいことがあるんだ。
   あのオーディションって結局、合格者不在になったんだろ?」

武内P「有栖川さんが辞退された後、補欠合格者を選定するという話は上っていないようです」

65: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2023/02/19(日) 14:46:14.45 ID:LQd6uuhx0
樹里「なら、さ……アタシだけじゃなくて、チョコもスカウトしてやるのって、できないかな?」

武内P「園田さんを……」

樹里「ほら、その……分かるだろ?」ポリポリ…

樹里「元々アイドルを一生懸命に目指していたチョコがなれなくて、
   そのくせ、アタシが鳴り物入りでアイドルになるなんて、何つーか……」


武内P「……分かりました」

武内P「ですが、それにはまず、園田さんの意志を確認する必要があります」

樹里「そっか……そうだよな。あ、ちょっと待って」

ポパピプペ…

樹里「……あぁ、もしもし、アタシ。
   ごめん、ちょっとこれから出かけてくる。卵と牛乳は適当に買って」

樹里「はぁ? ちげーよ、ちょっとチョコのトコに行ってくるだけ。
   ……あぁ、晩メシには帰るよ。はいはい」

ピッ!

樹里「っし。じゃあ行こうぜ」

武内P「……」ポリポリ

樹里「何だよ」

66: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2023/02/19(日) 14:47:33.72 ID:LQd6uuhx0
~智代子の家~

ピンポーン♪

樹里「……チョコ」


「……」


樹里「あ、あのさ……さっきは、ごめんな。
   軽々しいことを、偉そうに言って、その……本当に、反省してる」

樹里「だから、って訳じゃないけど……チョコに、良いニュースを持ってきたんだ」


「……」


樹里「961プロって、知ってるかチョコ?
   ちょっと、そこのプロデューサーって人と、話をしてさ」

樹里「なんと、聞いて驚くなよ。
   アタシ、その961プロにスカウトされたんだぜ!」

67: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2023/02/19(日) 14:49:23.84 ID:LQd6uuhx0
樹里「アハハ。でさ?
   チョコにも言ったけど、アタシ、アイドルなんてガラじゃねぇだろ?」

樹里「だからアタシ、言ってやったんだよ。
   どうしてもアタシをスカウトしたいんなら、チョコも一緒にスカウトしろって」

武内P「……」

樹里「だからさ……もう346プロなんて放っといて、アタシと一緒に…」

「もういい……」


樹里「……え?」


「樹里ちゃん……きっと、すごいアイドルに、なってね」

「アタシと違って、樹里ちゃん、可愛くて……個性の塊、だから……」

「私はもう、大丈夫だから……アイドル、いいや……」


樹里「なっ……おい、チョコ。
   ちょっとココ開けてくれるか? ちゃんと顔合わせて話を…!」

「もう帰って!!」

樹里「!」

68: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2023/02/19(日) 14:50:58.98 ID:LQd6uuhx0
「もう、イヤだ……う、う……」

「テレビで見る、可愛い子達みたいに、なりたくて……でも……」

「わ、わた、し……テレビ、見てるほうが、す、きで……!」

「夢、見ちゃ、て……傷つく、より、も、ひ、ぃ……楽しい、もん……」

「う、わあぁぁ……あぁぁ……!」


樹里「ちょ、チョコ……」

武内P「……失礼」ズイッ

樹里「うわっ」


武内P「園田さん……夢を叶えることは、必ずしも簡単ではありません」

武内P「ですが、それを目指すことの尊さを、
    西城さんと、プロデューサーである私が、園田さんにお示しすることができたらと思います」

武内P「その時はどうか、改めてあなたをスカウトさせてください」



「…………」

69: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2023/02/19(日) 14:51:51.36 ID:LQd6uuhx0
テクテク…

樹里「……チョコ、とうとうドア開けてくれなかったな」

武内P「伝えるべきことは、伝えました。あとは……」

樹里「アタシ達次第、か」


樹里「アンタが言ったのって、要はアタシがチョコの憧れになれたらってことだよな?」

武内P「はい、そうなります」

樹里「ちぇっ、簡単に言ってくれるぜ。でもまぁ……」

樹里「チョコの弔い合戦、って言ったら乱暴だけど……
   どのみち、チョコをヒドい目に遭わせた346プロは、アッと一泡吹かせてやりてぇ」

70: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2023/02/19(日) 14:53:32.82 ID:LQd6uuhx0
樹里「ただの一般人、それも部外者のアタシが声を上げた所で、見向きもされねーだろうけど……
   例えば、もしアタシがアイドルとして有名になって」

樹里「皆から注目されるようになってから、アタシが346のオーディションの不正を告発すれば、
   346だって隠蔽しきれねぇだろうし、チョコの無念だって晴らせる」

武内P「…………」


樹里「アンタと一緒なら、それが出来る……そういうことでいいんだよな?」


武内P「……はい」

樹里「よしっ。決まりだな」

武内P「ありがとうございます、西城さん」ペコリ

樹里「樹里だ」

武内P「えっ?」


樹里「アタシのことは、樹里って呼べよ」

71: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2023/02/19(日) 14:54:32.89 ID:LQd6uuhx0
武内P「はぁ……しかし、それは……」ポリポリ…

樹里「まだるっこしいんだよ、“西城サン”だなんて。肩が凝ってイヤだ」

樹里「ていうか、下の名前で呼び捨てにすんのが、そんなに大変かよ」

武内P「はい」

樹里「はいぃ!? 何だそりゃ!」

武内P「申し訳ございません。どうしても……」


樹里「ったく……つまんねぇな、いいよもう」

武内P「申し訳ございません。善処致します」

樹里「だーもう! その申し訳ございませんってのもやめろ!」

武内P「申し訳ございません」

樹里「……よしっ」

72: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2023/02/19(日) 14:55:28.57 ID:LQd6uuhx0
~某所~


「はい……はい……」

「そうです……彼に先を越された形になります」

「ああなっては、彼女を引き込むことは難しくなったと言えるでしょう」


「いいえ……それが、彼の本来業務でもあります」

「少なくとも、彼はそう思っています……」


「はい、えぇ……では、引き続き監視を……」

73: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2023/02/19(日) 14:59:31.85 ID:LQd6uuhx0
~翌日、961プロ~

樹里「う、わあぁぁ……すげぇ」

武内P「こちらが、西城さんのスタッフ証になります。
    事務所内の施設を使用する際に必要となりますので、常に携行するようにしてください」スッ

樹里「あ、あぁ」


樹里「アンタ、こんなリッパな所で働いてたのか……何つーか、ナメてたぜ。ごめん」

武内P「いえ。では、中へご案内します」


ウィーーン…

樹里「うお、すっげぇ、超キレイ……!」キョロキョロ

武内P「……」

樹里「……な、何だよ! 悪かったな、田舎モンくさくて」

武内P「いえ。こちらです」スッ

コツコツ…


樹里「なんか、とんでもない所に来ちゃったんじゃねぇのか、アタシ……?」

74: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2023/02/19(日) 15:03:14.09 ID:LQd6uuhx0
ガチャッ

樹里「うわ、広っ!」

武内P「基本的に、レッスンはこちらのスタジオを使用することになります」

武内P「更衣室とシャワー室は、あちらです。
    さっそくですが、ご準備ができたら始めましょう」


樹里「……なぁ、プロデューサー」

武内P「何でしょう」

樹里「ひょっとして、アンタがその……レッスン、ってのを見るのか?
   何か、プロのコーチとか、こういうデカいトコだといねぇのかなって」

武内P「仰るように、通常は専属のトレーナーに任せることが多いですが、
    西城さんについては、特別です」

樹里「特別?」


武内P「西城さんを狙う者がいる都合上、関係者を極力絞ることが必要となります」

武内P「今後、西城さんがアイドルとして活動されるに当たっては、
    常に私と一緒に行動することになると思ってください」

樹里「ボディーガード、みたいなモンか」


樹里「ま、やるって決めたからには四の五の言ってらんねぇよな。
   ……よしっ、いいぜ」

75: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2023/02/19(日) 15:06:00.49 ID:LQd6uuhx0
タン タンッ…!

樹里「……っと」タンッ タン


武内P「…………」


樹里「……ッ ……」タンッ タッ

樹里「く……」タタンッ タン


樹里「……ッ!」ビシッ!

樹里「く、はぁ……はぁ……! つ、つれぇ……」ガクッ


武内P「給水を」スッ

樹里「あ……サンキュー」

76: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2023/02/19(日) 15:08:53.06 ID:LQd6uuhx0
武内P「西城さん。何か、運動経験はおありですか?」

樹里「え? あぁ……バスケを少し、な」

武内P「なるほど」


武内P「西城さんは、既に水準以上のものを持っています」

樹里「……!」ピクッ

武内P「ですが、練習は大事です」

武内P「しばらくは、基礎レッスンを繰り返し受けていただきます。
    今日は行わないですが、ボーカルやビジュアルについても同様に、です」

樹里「……その後は?」

武内P「色々ありますが、他のアイドルのバックダンサーとしてデビューするのが一般的かと」


樹里「…………」

武内P「何か、ございますか?」

樹里「いや、そのさ……煽ててんだろ?」

武内P「煽ててなどいません。事実を言っているまでです」

樹里「真顔で言うなっつーんだよ、そういうの。
   ただ、まぁ……お世辞でも嬉しいよ」

樹里「でもさ……」

77: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2023/02/19(日) 15:10:07.95 ID:LQd6uuhx0
武内P「自分には、アイドルとしての夢が無い、と?」


樹里「……チョコの憧れになってやる。
   そしていつか、チョコをアイドルの世界に連れてってやるんだ、って……」

樹里「それも、夢といえば夢なのかも、って思う。でもさ……」

樹里「別にアタシは、アイドルやりたくてやるんじゃない。
   チョコのためと、よく分かんねぇヤツらから逃げるために、なりゆきでさ」

樹里「そんな、不純っつーか……後ろ向きで他人本位な理由で、やっていいのかな……
   それに、いつ終わるんだろうな、って、ふと考えちまってさ」


武内P「…………」

樹里「……あっ! あの、ご、ごめん!
   まだ始まってもいねぇのに、先の話なんかしたってしょうがないよな」

武内P「いいえ、不安に思う気持ちはよく分かります」


武内P「ですが、その心配は無用です」

武内P「西城さんは、基礎的な体力や技術は元より、
    アイドルとして大きな強みとなるものを、既に持っています」

樹里「……何だよ、アタシの強みって?」

78: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2023/02/19(日) 15:11:14.96 ID:LQd6uuhx0
武内P「笑顔です」

樹里「はあ?」


武内P「……」

樹里「すげー真顔……あのな、笑顔なんて誰にでもでき…」

樹里「ていうか、よく考えたらアタシ、アンタの前で笑ったことなんてねぇだろ!」

武内P「はい。今はまだ」

樹里「適当なことを言いやがって! やっぱアタシのことバカにしてんな!?」


武内P「あなたには今、夢中になれるものがありますか?」

樹里「なっ……?」


武内P「なりゆきで巻き込んでしまったことについては、謝ります」

武内P「ですが……いいえ、だからこそ、あなたに知ってもらいたいのです。
    この世界で夢中になれることの尊さを」

武内P「そして、その先にある笑顔こそが、アイドルの本質であると、私は考えています」

79: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2023/02/19(日) 15:12:24.61 ID:LQd6uuhx0
樹里「……それ、誰でもいいって話じゃねぇのか?」

武内P「私は、あなたの笑顔が見たいと思った、ということです」

樹里「!!」カァ-!

樹里「バ、あ、あの……何なんだよいきなり!!」

武内P「あなたが夢中になれるよう、世界を広げることが私の務めです。
    共に頑張りましょう、西城さん」

樹里「……よくそんな恥ずかしいこと、平気な顔して言えんな、もう」ポリポリ


樹里「分かったよ。やるからには、ハンパはできねぇしな」

樹里「何でもいいけど、これからよろしく」

武内P「はい、こちらこそ」


武内P「それでは、今日のレッスンはこれまでとしましょう。
    着替えが終わりましたら、寮へご案内します」



樹里「……は? 寮?」

80: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2023/02/19(日) 15:13:26.21 ID:LQd6uuhx0
~961プロ 寮~

樹里「いや、アタシ実家から通えるって!」

武内P「入寮を強制するものではありません。
    自由にご利用になれる部屋を、西城さん用に確保したまでです」

武内P「通学される学校にも近いことから、ご両親には既にご了解をいただいております。
    もちろん、費用も事務所が負担します」

樹里「……あ、そう」


ガチャッ

武内P「こちらが、西城さんのお部屋になります」

樹里「……十分住めるな」


武内P「私の部屋は、この1階にありますので、何かあれば」

81: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2023/02/19(日) 15:14:34.11 ID:LQd6uuhx0
樹里「えっ? 事務所の人も住んでんの?」

武内P「私だけですが」

樹里「ふーん……」


樹里「なぁ、ちょっと部屋覗いてみてもいいか?」

武内P「……私の部屋を、ですか?」

樹里「アンタがホントに怪しいヤツじゃないかどうか知りたいんだよ」

樹里「……いや、既にもう十分怪しいんだけど」

武内P「あの、しかし……」ポリポリ

樹里「あ、1コ気づいたぜ」ニヤッ

武内P「?」


樹里「アンタ、困ったときは首の後ろを掻くんだな」

武内P「…………」

82: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2023/02/19(日) 15:15:48.98 ID:LQd6uuhx0
~Pの部屋~

ガチャッ

武内P「何も、面白いものはありませんが……」

樹里「……ふーん」ヒョイッ


樹里「意外、でもねぇけど……」キョロキョロ

樹里「生活感ねぇなぁ。ちゃんと飯食ってんのか?」ガチャッ

武内P「あ、冷蔵庫は特に…」

樹里「おわっ!?」


樹里「何だこりゃ! 変な栄養ドリンクしか入ってねぇぞ!?」

武内P「事務所からの、支給品です」スッ

つ エナドリ

武内P「自炊はしていませんが……これは、健康のために」グビッ

83: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2023/02/19(日) 15:17:55.12 ID:LQd6uuhx0
樹里「そういうのに頼らなくていいような健康的な生活をしろよ、まずはさ……」


樹里「ん?」


武内P「…………」スッ

つ 植木鉢

武内P「……」シュッ シュッ


樹里「育ててんのか?」

武内P「定期的に、霧吹きで水を与えるのはもちろん、
    晴れた日には、日当たりの良い所へ位置を調節しています」フキフキ

樹里「ま、マメだな……自炊もしねぇクセに」


樹里「まぁ、ちょっと安心したよ。
   ナイフ持ってたくらいだし、もっと物騒なモン持ってたりすんのかと思った」

武内P「あれは、非常用です。常にそういうシーンがある訳ではありません」


樹里「……なぁ、プロデューサー」

84: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2023/02/19(日) 15:19:33.16 ID:LQd6uuhx0
樹里「アタシが家事、手伝ってやろうか?」

武内P「……えっ?」


樹里「!? あ、バッ! 勘違いすんなよっ!!」

武内P「な、何がでしょうか?」

樹里「――ッ!!」カァーッ!

樹里「あぁ~もう!! だからぁ、いいか!?」ワシャワシャ!


樹里「アタシはアンタに、アイドルとしての面倒見てもらいっぱなしだ。
   一方的に借りができんのは嫌なんだよ」

樹里「だから、生活力のねぇアンタの代わりに、アタシがなんかしてやるよ。
   たまに部屋に行って掃除とか洗濯とか、料理も」

武内P「いえ、お気持ちはありがたいのですが…」

樹里「アタシの気持ちの問題なんだよ!
   それにほら、その植木だって、プロデューサーが忙しくて面倒見れねぇ日もあんだろ?」


武内P「……確かに」

樹里「そこで引き下がんのかよ。どんだけ植木が好きなんだ」

85: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2023/02/19(日) 15:21:27.59 ID:LQd6uuhx0
武内P「ですが、成人男性の部屋に、未成年の女性が通って、
    掃除や洗濯をするというのは、やはり……」

樹里「む、ぐ……ま、まぁ確かに、それはアタシも言い過ぎたな」

樹里「じゃあ、昼メシの弁当作んのと、植木の世話をするくらいで、どうだ?」


武内P「……では、お言葉に甘えて」ペコリ

樹里「よしっ。まぁ心配すんな。
   両親が出かけてていない時は、いつも兄貴に料理当番押しつけられてんだ」

樹里「学校に通いがてら、朝、弁当渡しに行くからさ。
   あ、それと植木は外に置いとけよ。アタシが水やりとかしてやる」


武内P「植木に水をやる時は、こちらの霧吹きをお使いください。
    タイミングは、朝と夕方、夜の計3回。夜は私が行います」

武内P「根元だけでなく、葉っぱにも直接吹きかけて、こちらのタオルで軽く拭いてあげるように。
    あくまで適度な潤いを与えることが目的です」

武内P「また、天気の悪い日は、こちらの日除けの中に入れてください。
    逆に天気が良い日は、日射がこちらから降り注ぎますので、しかし葉が痛まないよう……」

樹里「悪い、なんか紙に書いてくれ」

86: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2023/02/19(日) 15:21:54.97 ID:LQd6uuhx0
樹里「じゃ、また明日なー」

バタン



武内P「……」


武内P「…………」ガラッ


つ エナドリ



武内P「…………」

87: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2023/02/19(日) 15:24:00.84 ID:LQd6uuhx0
――――――

――――


  ――ちょ、これwwwww
  ――うーわマジかよ、最悪だわすげぇ応援してたのに
  ――清純派アイドル( 乱)

  ――不倫問題が取り沙汰されているとのことで、自宅前は騒然と……!


  イヤ……あの人達は、何?
  何で、みんな私を責めるの?

  私、何もしてない! どうして……どうして、こんなことに……!

「落ち着いてください。あなたのことは、事務所が必ずお守りし…」

  どうして家の前まで人が来るの!!

  何で、ウソの報道で、お父さんやお母さんまでズタボロにされなきゃ……
  う、うぅ……!!

「それは……」

  イヤ……やめてよぉ……!!
  助けて……!



「“事故”だったんです」

88: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2023/02/19(日) 15:26:10.21 ID:LQd6uuhx0
武内P「ハッ!!」ガバッ!


武内P「……ハッ! …………ハッ!……」



武内P「………………」

89: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2023/02/19(日) 15:27:27.98 ID:LQd6uuhx0
――――


樹里「アーアーアーアーアー♪」

武内P「力任せではなく、鼻から大きく、背中からゆっくりと頭の後ろを通って」

樹里「あ、えっ!? あ、アーアーアーアーアー♪」



武内P「カメラは通常、この位置と、この辺りにセットされることが多いです」

武内P「常に意識をしながら、感情豊か、かつ演出以外で目線を下げないように。
    アピールポイントは特に重要です」

武内P「また、審査にもトレンドというものがあり、動向を常に把握し…」

樹里「ちょっと待て、覚えること多すぎんだろ……」



タンッ タンッ!

樹里「うぉ……くっ……!」タタンッ タッ! タン

武内P「少し、早いようです。余裕をもって、その分振りを大きく」

樹里「うるせぇ……こ、こうか!?」タン! タンッ


――――

90: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2023/02/19(日) 15:28:41.16 ID:LQd6uuhx0
~346プロ 事務室~

凛「…………」


未央「しぶりん、どうしたの?」ヒョコッ

凛「わっ!? ……み、未央」

未央「……あぁ~それねー。私もすこーし気になってたんだー」


卯月「プロデューサーさん、お弁当作るようにしたんですね。
   忙しいのに、すごいなぁ」

未央「なぁに言ってんのしまむー。どう見ても愛妻弁当でしょ」

卯月「え、うぇぇ!? あ、愛妻……プロデューサーさん、奥さんいたんですか?」

凛「飛躍しすぎだから、卯月」

未央「でもさ、むふふ……誰なんだろうねープロデューサーの胃袋を掴んだ人は~?
   しぶりんも気になるでしょ?」


凛「…………」

パカッ

91: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2023/02/19(日) 15:30:04.10 ID:LQd6uuhx0
未央「おっ♪」

卯月「あ、り、凛ちゃん! 勝手に開けちゃうのは…」

凛「減るもんじゃないから」


凛「…………」

未央「……普通においしそう」

卯月「ゆかりが乗った白ご飯に、鳥の唐揚げ。
   厚焼き卵にも鶏の挽肉が入ってるの、芸が細かいですね!」

卯月「おひたしに、ミニトマトやブロッコリー、煮物もあって、彩りも華やかです。
   うぅ、見てるだけでお腹が空いてきました……」


未央「何かと留守にしがちなプロデューサーに、この気合いの籠もったお弁当……」

未央「匂いますなぁ、しぶりん、しまむー?」ニヤニヤ

卯月「はいっ、おいしそうな匂いです!」

未央「うん、そだね」


凛「…………」

92: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2023/02/19(日) 15:31:30.79 ID:LQd6uuhx0
~961プロ レッスンルーム~

樹里「はぁ……はぁ……ふぅ」


武内P「西城さん」

武内P「そろそろ、ステージデビューを検討しています」

樹里「はぁっ!?」


樹里「きゅ、急だな……あ、ひょっとしてアレか?
   この間言ってたみたいに、誰かのバックダンサーとしての仕事とか」

武内P「いえ、西城さんのソロステージです。
    ライブハウスではなく、デパートのイベントスペースが会場となりますが」

樹里「ま、マジかよ……いつ?」

武内P「一週間後です」

樹里「一週間!?」


武内P「西城さんは、既に十分な実力を有しています。どうかご安心を」

93: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2023/02/19(日) 15:33:13.35 ID:LQd6uuhx0
樹里「……あのさ、プロデューサー」

武内P「何でしょう?」


樹里「アタシに構ってくれんのはいいけど……他に担当してる子とか、いねぇのか?」

武内P「……はい、います」

樹里「何人いるか知んねーけど、その子達のことも、ちゃんと見てやれよ。
   アタシなんてペーペーだけど、ポイントさえ押さえりゃレッスンも一人でできっからさ」

武内P「他のアイドル達についても、指示は適宜与えてあります」


樹里「……ちなみに、どんな子がいるんだ?
   ソイツらも961プロなんだろ?」


武内P「…………」

樹里「言えねぇようなコトかよ」


武内P「……守秘義務がありますので。不必要な情報は、口外を禁じられています」

樹里「うわぁ-、かってぇ~なぁ、オイ」

武内P「…………」

94: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2023/02/19(日) 15:34:09.08 ID:LQd6uuhx0
樹里「まぁ別にいいよ、アタシはアタシのやることをやるだけだからな」スクッ

武内P「……申し訳ございません」

樹里「いいって。ちょっと不安になっただけだよ。
   アンタが本当に961のプロデューサーなのかどうか」

樹里「あんまりアタシの面倒ばかり見てっから、他に仕事ねぇのかなってさ。ハハハ」

武内P「…………」

樹里「じょ、冗談だよ……そんな深刻そうな顔すんなって、ごめん」

武内P「…………」

樹里「……エナドリ、飲むか?」スッ

武内P「いただきます」

95: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2023/02/19(日) 15:35:34.91 ID:LQd6uuhx0
~街中~

テクテク…

未央「アハハ、しぶり~ん、冗談だってばー」

未央「プロデューサーだって毎日全然来てくれないってわけじゃないし、
   来ない時にはちゃんとあーせいこーせい連絡してくれるし」

卯月「私達のことも、ちゃんと目に掛けてくれていますよ、ねっ?」

凛「……そんなの、分かってるよ」


凛「でも、プロデューサーだって、体は一つしか無いんだし、
  担当が増えれば、一人当たりに掛けられる時間は少なくなるでしょ」

未央「そりゃあ、そうだろうけどね」

凛「だから、その……何ていうか、
  もっと私達がちゃんとしなきゃいけないと思うんだけど……」

凛「まだ駆け出しで、どう頑張ったら良いのか……
  方向性も分かっていない中で、変な方に突っ走るのも怖いから」


未央「ふーん、つまり……」

96: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2023/02/19(日) 15:37:06.82 ID:LQd6uuhx0
未央「しぶりんはもっとプロデューサーに構ってほしいんだ!」

凛「……」ギューッ

未央「うぎゃあああ!! あだだだだだだっ!!」

卯月「ああぁっ! み、未央ちゃんの手の甲がダルダルに……!」


未央「んー、まぁ、だったら今度プロデューサーに相談しようよ!」

凛「えっ? い、いや、プロデューサーも、忙しかったら悪い…」

未央「なーに言ってんのさしぶりん! あっちは大人だよ?
   遠慮することないって、ガンガン甘えちゃおうよ!」

卯月「凛ちゃんは優しいですね」ニコッ

凛「そ、そうじゃないけど……」


未央「私も、ニュージェネのリーダーだから分かるけどさ。
   人から頼られるのって、結構うれしいもんだよ?」

凛「未央……」

97: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2023/02/19(日) 15:38:20.25 ID:LQd6uuhx0
卯月「えへへ、じゃあ明日はプロデューサーさんに、私達の方向性について相談しましょう!」

未央「近況報告もね!
   この間トレさんに褒められたビジュアルレッスンの成果、さっそく発揮しちゃおっかな~♪」

凛「何するの、それ?」

未央「そりゃあもちろん、お色気的なアレをさ?
   美嘉ねぇのポーズをこう…」

凛「……」ギューッ

未央「あぃだだだだだっ!!! 何で何でいだだだだだっ!?」



卯月「じゃあ、凛ちゃん未央ちゃん! 明日も頑張りましょうねっ!」ギュッ!

未央「うぅぅ……しぶりん、せめて片方を集中攻撃はやめてほしい……」ヒリヒリ


凛「うん。また明日」フリフリ

98: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2023/02/19(日) 15:38:54.47 ID:LQd6uuhx0
テクテク…


凛(未央も……本当は、不安なのかな)

凛(あぁして、わざとふざけてみせて……)


凛「…………」



凛「……?」ピタッ



凛「この公園……」

99: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2023/02/19(日) 15:39:38.15 ID:LQd6uuhx0
凛(……懐かしいな)


テクテク…

凛(卯月と……プロデューサーと話したのも、この公園だった)



凛「あっ……」ピタッ





コソコソ…


樹里「…………ッ」キョロキョロ

100: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2023/02/19(日) 15:40:44.72 ID:LQd6uuhx0
凛(? あの子……どこかで見たような……)



樹里「だ、誰もいねぇよな……?」キョロキョロ

樹里「ったく、プロデューサーのヤツ……
   あんな大事な話、もっと前もって知らせとけっての」



凛(! 思い出した。あの時の……)



樹里「ふぅ……よし、やるか」ザッ


タンッ タンッ! タタン…



凛「…………!」

101: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2023/02/19(日) 15:41:57.23 ID:LQd6uuhx0
タッ! タタンッ!

樹里「……ッ」

樹里「ココなんだよなぁ、いっつも上手くいかねぇ……」ザッ


樹里「……! よ……!」タタッ! タンッ タッ


樹里「クソッ、ダメだ……!」



凛(まさか……本当に、アイドル……?)



樹里「えぇい、もういっかぃ……!」

樹里「? ……」ピタッ



凛「………………」

102: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2023/02/19(日) 15:42:59.48 ID:LQd6uuhx0
樹里(……どっかで見たな)


樹里「おい」

凛「……!」ピクッ


樹里「何見てんだよ」



凛「……さっきのステップ」

樹里「あぁ?」


スタスタ

ザッ…

凛「もう一度、やってみてもらえる?」


樹里「……何だよ」スッ


タタッ! タンッ タッ タッ! タタッ…


樹里「……で?」

103: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2023/02/19(日) 15:44:21.69 ID:LQd6uuhx0
凛「……上手く、伝わるか分からないけど」

樹里「?」


凛「……」スッ

タタッ! タンッ タッ タッ! タタンッ!


樹里「!! えっ……!?」


凛「……このステップで、合ってる?」

樹里「な、あ……お、おう」

樹里「すげぇな、今の見ただけで覚えちまったってのか!?
   それも、アタシよりも上手に……!」


凛「いや……これ、基礎のヤツだから、私もやったことがあるんだ」

凛「たぶん、この、2の振り足を大きく踏み出しすぎてるんだと思う」ザッ

凛「それで上体がブレて、バランスが崩れるから、次の振りもブレて安定しない……
  だから、もっと振り足は手前に、コンパクトにすれば、動作も少なくて済むのかなって」

104: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2023/02/19(日) 15:45:54.33 ID:LQd6uuhx0
樹里「おぉ、なるほど……よし、ちょっとやってみるぜ」スッ


タタッ! タンッ タッ タッ! タタンッ!

樹里「!? えっ……で、出来た! こんな簡単に!?」


凛「難しいけど、コツを掴むと結構あっさり出来ちゃうもんだよね」

樹里「そっか……今まで張り切って大きく見せようとばかりしてたけど、
   コンパクトにした方がいい所もあるんだな!」

凛「その方が、忙しいパートも逆に安定するし、メリハリもできて良いと思う」

樹里「あぁ、確かに! ありがとな、すっげぇ助かったぜ!!」

樹里「おぉ~、いやぁ自主練してみるもんだなぁー。
   たまたま通りがかった、分かってる人にこうして見てもらえるなん……」


樹里「……あのさ、一つ聞いていいか?」


凛「うん……私も一応、アイドルなんだ」

105: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2023/02/19(日) 15:47:11.03 ID:LQd6uuhx0
樹里「……やっぱ、そうか」

凛「本番、近いの?」

樹里「一週間後に、初ステージなんだ。それが今日聞かされたんだぜ?」

凛「随分急だね」

樹里「ホントだよ。ちょっとは心構えさせろってんだよなー」

凛「プロデューサーから?」

樹里「まぁな。
   アイツ、アタシの面倒ばっか見てて、他に担当してる子達を見てなさそうだからよ」

凛「……!」ピクッ


樹里「アイツがそうしなくて済むように、こうして自主練でカバーしとかなきゃ、って思ってさ。
   じゃないと何つーか、その子達にも悪いだろ?」


凛「…………」

106: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2023/02/19(日) 15:48:41.01 ID:LQd6uuhx0
樹里「? ……どうした?」

凛「あぁ、いや……奇遇だなって、思っただけ」

樹里「奇遇?」

凛「私達のプロデューサーも、最近、留守にしがちだねって……
  さっき、仲間の子達と話してたから」

樹里「あー、ほら、そういうコトもあんだろうなーそりゃ。
   体は一つしかねぇんだし、もっと満遍なく見てやんねーと」

樹里「って、アイドルとしてペーペーのアタシが知ったかして言う話じゃねぇけどさ」

凛「ううん……でも、プロデューサーも忙しいから……」

樹里「そんなの言い訳になんねぇだろ」

凛「えっ?」


樹里「ちゃんとフェアにしねぇとダメだろ、って話」

樹里「もちろん、正念場で特に頑張んなきゃいけないなら、
   ソイツに力を注いでやんなきゃって時もあるだろうけどさ」

樹里「自分でスカウトして、担当してんだったら、ちゃんと均等に面倒見ろよって、
   そう思ったから、今日もプロデューサーに説教してやったんだ」

107: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2023/02/19(日) 15:50:20.08 ID:LQd6uuhx0
凛「……プロデューサーは、何て?」

樹里「申し訳ございません、って仰々しく頭下げられた」

凛「…………」


樹里「まぁ、そりゃ……集中的に目を掛けてもらえるのは、ありがてぇけどさ」ポリポリ…

樹里「でも、大事にしなきゃいけないヤツって、アタシだけじゃないはずだろうし」


凛「……気ぃ遣いだね」

樹里「!? ……はぁ?」

凛「見た目に寄らず」ニコッ

樹里「な、何だぁっ!? 二言目は余計だっ!」

樹里「つーか気ぃ遣いでも何でもねーよっ!! 当然だっての!」

凛「ふふっ」クスッ



凛「自己紹介、まだだったよね。私は、渋谷凛」

108: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2023/02/19(日) 15:51:25.52 ID:LQd6uuhx0
樹里「凛……凛、か」

樹里「西城樹里だ」

凛「樹里だね」

樹里「そうそう、ちゃんと下の名前で呼んでくれるの助かるぜ」

凛「何の話?」

樹里「こっちの話だよ」


樹里「またここで、アタシのダンス見てくれるか、凛?」

凛「私なんかで良かったら、いつでもいいよ」

樹里「自分のこと、“なんか”って言うんじゃねぇよ」

凛「……うん。分かった、樹里」


樹里「よしっ、じゃあ頼むぜ!」

樹里「練習は大事だからな」ニヤッ

凛「うん」ニコッ

109: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2023/02/19(日) 15:52:54.14 ID:LQd6uuhx0
~某ライブ会場~

ワアァァァァァァァァ!!!! パチパチパチパチ…!

「346プロの高垣楓さん、ありがとうございました!」

「さすがとしか言いようがありません。
 他の出場者を寄せつけない、圧巻のステージを披露してくださいました」

「敗北を喫した彼女達もまた、惜しみない拍手を高垣さんに送っています。
 納得の表情といったところでしょう」

「えぇ、本当に」

「あぁ~、今花束が授与されました。
 もはやお馴染みと言いますか、絶対王者としての貫禄を感じさせる光景です」



高垣楓「ありがとうございます」

楓「皆さま、本当に……とても、恐縮です」



「ああして謙遜する控えめな所も、彼女の魅力の一つでしょう」

「そうですねぇ、いやぁまだ拍手が鳴りやみません」


ワアァァァァァァァァ…!!

110: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2023/02/19(日) 15:53:55.93 ID:LQd6uuhx0
~翌日、346プロ事務所~

ガチャッ

凛「おはようご…」

武内P「おはようございます、渋谷さん」カタカタ…

凛「!?」ドキッ


武内P「? 何か」

凛「……別に。ちょっとビックリしただけ」


未央「朝からデスクに着いてるだけで驚かれるプロデューサーってのも、考えものだよね~?」

武内P「も、申し訳ございません……」

卯月「今日は、私達のことを見ていただけるんですか?」

武内P「はい。別件の目処が、ある程度つきましたので」

111: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2023/02/19(日) 15:55:04.38 ID:LQd6uuhx0
未央「じゃあ、さっそくレッスン行こう!
   未央ちゃんの必殺ビジュアルスキルに、プロデューサーもメロメロにさせちゃうからね!」ダッ!

卯月「あぁ、未央ちゃん待ってー!」タタタッ

バタンッ


武内P「渋谷さんも、先にレッスン室へ向かってください。すぐに私もまいります」カタカタ

凛「今日は樹里の面倒、見なくていいんだ?」

武内P「えぇ、おかげさまで」カタカタ…


武内P「……!」ピタッ


凛「……昨日、会ったんだ。
  公園で練習してて……その練習に、一緒に付き合って」

武内P「……そうでしたか」

112: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2023/02/19(日) 15:56:33.40 ID:LQd6uuhx0
武内P「お話しておらず、申し訳ございません」

凛「ううん、いいよ。たぶん訳ありなんでしょ?」

武内P「……はい」


武内P「渋谷さんや私が、346プロの人間であるということを、西城さんには伝えましたか?」

凛「いや、まだ。何となく言いそびれちゃって」

武内P「彼女には、伝えないでください」

凛「えっ?」


武内P「西城さんには、私は961プロのプロデューサーであると伝えてあります」


凛「……身分を偽った、ってこと? どうして」

武内P「それは、言えません。今はまだ」

凛「ッ!?」

武内P「申し訳ございませんが……」

113: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2023/02/19(日) 15:58:20.49 ID:LQd6uuhx0
凛「……ふーん。
  私達に言えないような事情で、私達のプロデュースを放ってる、ってこと?」

凛「そんな事を言われて、私達が納得できると思うの? プロデューサーは」


武内P「一つだけ言えるのは、彼女を救いたいからです」

凛「救う……何から?」


武内P「詳しくは言えません。どうかご理解いただきたい」

武内P「諸般の事情から、私には……西城さんを放っておくことが、できませんでした」


凛「……プロデューサーの言ってる意味、分かんない」クルッ

ツカツカ ガチャッ

バタンッ

114: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2023/02/19(日) 15:59:36.72 ID:LQd6uuhx0
ツカツカ…!

凛(……何をイライラしてんだろ。バカみたい)

凛(プロデューサーにだって、人に言いづらい事情があってもおかしくないのに……
  樹里にばかり構ってたことだけを捉まえて……)

凛(勝手に、嫉妬して……)



ガチャッ

未央「あっ! しぶりーん、何やってたの遅…」

ツカツカ…

未央「あれ?」キョトン

卯月「……凛ちゃん?」

ツカツカ ピタッ


凛「皆、ちょっと話があるんだけど、いいかな」

115: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2023/02/19(日) 16:00:57.86 ID:LQd6uuhx0
ガチャッ

武内P「お待たせしました」

武内P「……?」


未央「♪」ニヤニヤ

卯月「……ッ」ソワソワ

凛「遅いよ、プロデューサー」

武内P「え、えぇ、申し訳ございません……あの」

凛「何?」

武内P「……いえ、何でもありません」


未央「よぉし、それじゃあ私達のレッスン始めよっか-!」

卯月「は、ひゃいっ!(裏声) そ、そうですネ」ビクッ

未央「アッハッハ、何しまむー今の声ー! 動揺しすぎでしょー!」ウリウリ

116: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2023/02/19(日) 16:02:03.09 ID:LQd6uuhx0
卯月「だ、だってぇ……」

未央「まぁまぁ、気持ちは分かるよぉしまむー。
   なにせこの後“大事な”予定がありますからねー、私達。ねーしぶりん?」

凛「ちょっと未央っ!」

武内P「大事な予定?」

未央「あーいいのいいの!
   プロデューサーは気にしないで! こっちの話だから!」

未央「いやぁ楽しみだな~。
   おっといけない、ちゃんと“私達の”レッスンも頑張らないとね~♪」ルンルン


武内P「……」

凛「あのさ……言ってないからね?」

武内P「はい」


凛「……ごめん、言った」

武内P「…………」ポリポリ

117: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2023/02/19(日) 16:03:38.79 ID:LQd6uuhx0
~夕方、公園~

タンッ! タタン!…

樹里「ふっ……は…!」

卯月「その調子ですっ! ターンのキレも良くなってます!」


タッ! タタッ!…

樹里「よっ……ッ…!」

凛「3の時のポージング、大事にした方がいいよ。ノれるし」

樹里「お、おう……!」


タタンッ! タッ…

未央「やったぁ! 凄いよジュリアン、全然バテないのスタミナお化けかー!?」

樹里「へへ、まぁな……って」


樹里「何なんだよお前らっ!!」クワッ!

118: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2023/02/19(日) 16:05:40.24 ID:LQd6uuhx0
未央「な、何って……」

樹里「特にお前だよ! 何だジュリアンって」

卯月「すみません、樹里ちゃん。
   未央ちゃんは、人に変なあだ名をつけるのが上手なんです」

未央「しまむー、何気にヒドいね!?」

樹里「はぁ……まぁ、凛の友達ってんならいいけどさ」


凛「ごめん。騒がしくなっちゃったね」

樹里「謝んなって。コーチをお願いしてんのはこっちなんだからさ」

未央「こっちをコーチ、なんちて、ふふっ」

凛・樹里「……」ギューッ

未央「あだだだだだだだっ!!! 両手はやめていだだだだ!!」


未央「ひぃぃ……千切れるかと思った」フーッ フーッ…

凛「片方を集中攻撃じゃないだけマシでしょ」

樹里「人が真剣に話してんのに、ふざけてんじゃねぇよ」


卯月「えへへ、でも……」

119: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2023/02/19(日) 16:06:50.10 ID:LQd6uuhx0
卯月「なんだか二人、似てますねっ」ニコッ

凛「え?」
樹里「あん?」


未央「ねぇ、この制服の上着、ジュリアンのでしょ?」ヒョイッ

樹里「そうだけど」

未央「ちょっと着てみて」

樹里「あぁ? ……何だよ」イソイソ


未央「でさ。二人とも、自分の上着のポケットに手ツッコんでみてよ」

凛「えっ?」スッ
樹里「こうか?」スッ

未央「ほらっ、そっくり!!」カシャッ!

卯月「うわぁ本当!」

凛・樹里「撮るなっ!!」

120: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2023/02/19(日) 16:09:23.69 ID:LQd6uuhx0
未央「こういうのがさ、後々お宝写真とかになったりするかもよ~?」

卯月「そうだ! 皆でグループ作りませんか?」

凛「その方が、連絡取り合うのにも便利だね」


樹里「え、グループ?」

未央「そう、チェインの」

樹里「ちぇいん?」

未央「えっ、ジュリアン、チェイン入ってるでしょ? スマホに」

樹里「いや、知らねぇけど」

未央・卯月「えっ!?」

樹里「な、何だよ……」

121: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2023/02/19(日) 16:10:40.57 ID:LQd6uuhx0
ティロン♪

凛「……ほら、これで私達のグループに入ったよ」スッ

樹里「悪ぃな、全部設定してもらって」

未央「まさかチェインを知らないとは、さすがの未央ちゃんも驚いたよ」

樹里「何だよ、文句あんのか?」

未央「ううん、全然! こうして友達になれたんだもん!」

樹里「なぁっ!?」カァッ

卯月「はいっ! 樹里ちゃん、これからはたくさんお話しましょうね♪」


樹里「あ、う……な、何なんだよお前らさっきから!」

未央「何って?」

樹里「だからぁ! その……
   何で初対面のアタシに、こんな、色々手間かけてくれんだって話」

凛「気にしないで。この二人、お節介が好きなだけだから」

122: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2023/02/19(日) 16:12:25.59 ID:LQd6uuhx0
未央「あー! またしぶりんそうやって他人事にするー!」

凛「えっ?」

樹里「未央の言うとおりだぜ。
   アタシへのお節介っていうんなら、むしろお前が最初だろ、凛」

凛「い、いや……その……」ポリポリ

樹里「アタシは別に構わねぇ、ていうかありがたいから良いけどよ。
   皆も、本業あるんだろ? 物好きもいいけど、あんま無理すんなよな」


卯月「樹里ちゃんは、私達が構うの、迷惑ですか?」

樹里「なっ!? い、いやだから、迷惑なんかじゃねぇって!」

卯月「なら良かったです!」パァッ

樹里「ぐっ……!」

未央(出た、しまむーの必殺スマイル)

凛(何も言い返せない上に悪意が無いから、本当に罪だよね)

123: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2023/02/19(日) 16:13:32.68 ID:LQd6uuhx0
樹里「ぐ、うっ……まぁいいや、ところで」

樹里「凛達は、ユニット組んでたりすんのか?」

凛「えっ?」


樹里「皆の様子見てると、ただの仲良しってワケじゃないんだろ?
   どこの事務所の、なんてグループなんだろうなって気になってさ」

未央「へへーん、えっとね! 私達はシンデレラプロ…」

凛「……!」ガバッ!

未央「ほぁっ!? モガモガ…!」


樹里「? ……どうした?」

卯月「いやぁぁ~、そ、そのぉ……」モジモジ…

124: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2023/02/19(日) 16:14:36.88 ID:LQd6uuhx0
凛「まだ全然、樹里よりも無名の新人だから、恥ずかしくて言えないよ」

樹里「ウソつけ、アタシよりずっと上手いくせに」


凛「じゃあ行こうか、未央、卯月」スッ

未央「えっ? あ、ちょっとしぶりーん?」タタッ

樹里「あ、おい」

卯月「あぁ、二人ともちょっと……!」


卯月「えぇっと、あの、樹里ちゃんごめんなさい!」ペコッ

樹里「いや、何であやま…」

卯月「二人とも待ってぇー!」タッ

タタタ…!



樹里「……何なんだアイツら?」

125: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2023/02/19(日) 16:16:14.19 ID:LQd6uuhx0
テクテク…

未央「しぶりーん、何も逃げなくたって」

凛「逃げてないから」

卯月「樹里ちゃん、きっと不信に思っちゃいましたよね……」シュン…


未央「そもそも、何でジュリアンに隠さなきゃいけないの? 私達のこと」


凛「……知らない」

未央「えっ!? し、知らないって……」

凛「あのプロデューサーが言うくらいだし、大事なことなんだと思う」

凛「でも……事情があるみたいで、簡単には教えてくれなさそうでさ」


卯月「それでも、私達……
   この業界だったら、いつかは出会っちゃうんじゃないでしょうか」

卯月「オーディションとか……他にも、イベントで競演したり、とか」

卯月「今はまだまだでも、お互いに活躍の場が広がっていけば、いずれ……」

未央「いつまでも隠し通せるもんでもないよねぇ……」ウーン

126: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2023/02/19(日) 16:17:33.08 ID:LQd6uuhx0
凛「……だから悩んでるんでしょ」

卯月「凛ちゃん……」


卯月「凛ちゃんが悩んでいるのは、樹里ちゃんと友達のままでいたいからですよね?」

凛「……!」ピクッ


未央「私達も同じだよ、しぶりん」

凛「未央……」

未央「今は難しくてもさ。
   プロデューサーだって、いつかは私達に教えてくれる日が来るよ」

未央「それまではさ、大目に見てプロデューサーのことを信じてあげようではないか。
   ねっ、しまむー?」

卯月「はい! 私達が樹里ちゃんと仲良くするのは、何も変わりませんから!」ギュッ!


凛「……うん」ニコッ

127: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2023/02/19(日) 16:19:21.79 ID:LQd6uuhx0
――――


 【炎上中の『下り坂42』センターの▽▽ 体調不良のため無期限活動休止を発表】

 【まだあった!? 『下り坂42』▽▽とイケナイ関係を持った芸能人たち】


「ウソ……こんなのウソよ! やっとこれからって時に、どうしてこんな……!」


  >体調不良だって言ってるだろ!いい加減にしろ!(迫真)
  >重病なんやろな。次からはちゃんとゴム付けたら?

  >センターともなれば、そりゃ入れ食いやろな
  >いやいや、センターになるために入れ食いさせたんだろ
  >女ってこういうのがあるから怖ぇわ

  >事務所がまったく庇う気が無いの闇が深すぎて草
  >当たり前やろ、誰がこんな爆弾クソビッチ抱えたいって思うんや
   一刻も早く切り捨てるわ
  >違う方面で復帰してくれるの待ってるやで(ニッコリ


「もうやめて!! ひどすぎるよ! 私、何もしてない! なのに……!!」

「なんで、何でこんな……イヤ、あぁ、うあぁぁぁ……!!」


――――

128: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2023/02/19(日) 16:20:35.17 ID:LQd6uuhx0
~イベント当日 某デパート~

ガヤガヤ… ザワザワ…


樹里「結構……人、集まんだな……」


武内P「店舗によりますが、デパートの利用者というのは、一定数あります」

武内P「当然に、必ずしもこのイベントを目的として来る人ばかりとは限りませんが、
    逆もまた同様です」

武内P「イベントのついでに買い物を済ませていく客を、少しでも集めようと、
    店舗側も協力的になるケースが多い。そのため……」

武内P「……」チラッ



樹里「…………ッ」ガタガタ…

樹里「な、なんだよ……初めての、ステージなんだ、と……当然だろ……」ガタガタ…

129: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2023/02/19(日) 16:21:54.79 ID:LQd6uuhx0
武内P「西城さん」スッ

樹里「え……?」

武内P「初ステージは、アイドルの印象をファンに決定づけうる、とても重要なものです」

樹里「! な……!」ドキッ


武内P「ですが、上手くやろう、より良く見せようと気負う必要はありません」

武内P「西城さんのありのままを、見せるだけでいい。
    焦らずとも、結果は後からついてきます」


樹里「そ、そうは言ってもさぁ……」ポリポリ

樹里「やっぱほら、こういうのって、お客さんに喜んでもらえなきゃだろ?」

樹里「こうして、カッコだけ可愛くしてもらっても、アタシ、ガサツだし……
   アイドルを見たくて来た人の期待に、応えられんのかなって…」


???「準備万端! だぜっ!!」ザッ!

130: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2023/02/19(日) 16:23:08.09 ID:LQd6uuhx0
武内P「……!?」

樹里「なっ!?」


御手洗翔太「あれー? もう誰かスタンバってる人いるね」

伊集院北斗「俺達の他に先約がいるという話は、聞いていなかったが……」

天ヶ瀬冬馬「関係ねぇぜ。邪魔するヤツがいるならねじ伏せるだけだ」


樹里「お、おいっ! 誰だよあの連中!
   聞いてねぇぞ、あんなのも今日出るアイドルなのか!?」

冬馬「あ、あんなのとは何だ!」


武内P「あなた方は、元961プロのジュピターさん、ですね?」

樹里「!?」

翔太「あ、そうそう。クロちゃんと縁を切って、今は別の事務所にいるんだ」

北斗「もっとも、今日の仕事は黒井社長からのオファーですけどね」

翔太「クロちゃんって、何だかんだ面倒見いいよねー」

131: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2023/02/19(日) 16:24:48.16 ID:LQd6uuhx0
武内P「……なるほど」

樹里「なるほどじゃねぇよ! アタシにも分かるように説明しろ!」

北斗「これは、随分と元気のいいエンジェルちゃんだね」ナデナデ

樹里「うわぁっ!? さ、触んな!!」ムキーッ!


冬馬「アンタ達も、今日のイベントに出るのか?」

武内P「961プロの、西城樹里と申します」

樹里「……どーも」ペコッ

冬馬「961だったのか……ジュピターの天ヶ瀬冬馬だ」

冬馬「生憎だが、今日のステージでは俺達が圧勝してやるぜ!」ビシッ!

北斗「今日はただのライブだから、競争することも無いんだけどな」

翔太「ごめんね。
   冬馬君、とりあえず啖呵を切って自分を奮い立たせるのがルーティーンなんだ」

冬馬「こ、こらお前らっ! 無粋な茶々を入れるんじゃねぇ!!」プンスコ!

樹里(……なんか、どことなく既視感あるなコイツ)

132: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2023/02/19(日) 16:25:49.68 ID:LQd6uuhx0
スタッフ「あ、あのぉ、ステージ順はどちらが先に…」

武内P「ジュピターさんが先で、お願いします」

樹里「!?」


冬馬「お、いいのか? じゃあ行くぜ、皆!」

翔太「えへへ。お客さん夢中にさせて、燃え尽きさせちゃったらごめんねー♪」

北斗「チャオ☆」

スタスタ…


樹里「何なんだよ、あれ……」

武内P「文字通りの刺客です。黒井社長が我々に差し向けた」

樹里「えっ!?」

武内P「おそらくは、西城さんが順調にアイドルになることを良しとしない何者かが、
    黒井社長に邪魔立てを依頼したのだと思われます」

133: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2023/02/19(日) 16:26:46.46 ID:LQd6uuhx0
樹里「邪魔立て?」

武内P「ジュピターは、かつて961プロに在籍していたアイドルユニットであり、
    新天地に離れたとはいえ、その実力は折り紙付きです」

武内P「考えられる狙いは……
    その圧倒的な力の差を見せつけ、西城さんの戦意を喪失させる事、でしょうか」

樹里「でしょうか、って……だったら先にアタシがやった方が良かっ…!」

キャアァァァァァァ!!!! パチパチパチパチ…!

樹里「うおっ!?」

武内P「…………」



冬馬「~~~!♪」タン タンッ

翔太「~~♪ ~~~♪」シュバッ タッ タンッ!

北斗「~~~~♪」タンッ キュッ! タンッ

134: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2023/02/19(日) 16:28:15.15 ID:LQd6uuhx0
樹里「す、すげぇ……」

武内P「見事なパフォーマンスと言えます」


武内P「……」チラッ


樹里「……ッ」ガクガク

樹里「クッソ……また、震えてきやがった……!」ギュッ

樹里「どうしろってんだ……アンタ、こんなザマを見せるだけでいいってのかよ……?」


武内P「先ほど彼らが言っていたように、これは競争ではありません」

武内P「私達が果たすべきは、今日来てくれている観客の方々に、楽しんでもらうこと」

武内P「そのためには、西城さん自身がステージを楽しむ事が重要です」


樹里「アタシ自身が……楽しむ」

武内P「はい」

135: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2023/02/19(日) 16:29:13.29 ID:LQd6uuhx0
樹里「つってもよぉ……アタシ、初ステージだぜ?
   経験したことの無いモンに、楽しむ余裕なんて…」

樹里「って、さっきからアタシ、文句言ってばっかだな……ごめん」

武内P「いえ、西城さん」スッ


武内P「あなたの歌と踊りには、力があります。
    これまでレッスンを見てきた私が、保証します」

武内P「後はそれを出しきるだけで良い……きっと楽しいはずです。そして」

武内P「園田さんの心に届くステージを目指す上で、
    この程度のプレッシャーは、いずれ克服しなくてはなりません」

樹里「……!」ピクッ

136: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2023/02/19(日) 16:29:47.69 ID:LQd6uuhx0
樹里「チョコの心に……」

武内P「はい」


樹里「……届ける」

武内P「そうです」


樹里「……うんっ」コクッ



ワアァァァァァァァ!!! パチパチパチパチ…!


武内P「どうやら、終わったようですね」

137: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2023/02/19(日) 16:30:49.76 ID:LQd6uuhx0
冬馬「ゲッチュウ!! 完璧、だぜっ!!」

翔太「いやー、ちょっとバク宙ミスっちゃったなぁ。ステージが小さくって」

北斗「さほど観客の数は多くなかったが、十分な出来だろう」


武内P「お疲れ様でした」ペコリ

冬馬「へへっ、どうだ見たか!」ビシッ!

冬馬「俺達の実力を前に、そっちには余計なプレッシャーを与えちまっ……?」



樹里「……会場、暖めてくれたみてぇだな。ありがとう」

冬馬「あん?」

樹里「じゃあプロデューサー、行ってくる」

武内P「はい」

スタスタ…

138: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2023/02/19(日) 16:31:45.33 ID:LQd6uuhx0
翔太「なんか……さっきまでと雰囲気違ったね?」

北斗「一体、どんな魔法をあのエンジェルちゃんにかけたんです?」


武内P「魔法などは、ありません」

武内P「強いて言えば、あなた方のような実力者に出会えたこと……
    まさしく、そのプレッシャーを利用させていただきました」

冬馬「俺達のプレッシャー?」


パチパチパチパチ…

樹里「えぇーっと……どうも。
   く、961プロの、西城樹里っていいます」

樹里「アタシなりに、精一杯頑張ります、だから……」


樹里「今日は、楽しんでいってくださいっ」グッ


139: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2023/02/19(日) 16:32:35.07 ID:LQd6uuhx0

 西城樹里 【 オーバーマスター 】



140: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2023/02/19(日) 16:34:54.00 ID:LQd6uuhx0
オオォォォォォォ…!!


冬馬「……!」

武内P「…………」


  カッコ悪いわよ
  アタシを墜とすの バレてるの
  カッコつけたところで
  次に出るセリフ 計画(プラン)Bね


タンッ タッ タッ! タタンッ!

樹里「~~!♪ ~~~♪」

タタッ! タンッ タッ タッ! タタンッ!

樹里「~~~~♪ ~~~~!♪」



翔太「へぇぇ……」

北斗「なかなかやるな」

冬馬「……フンッ。大したコトねーぜ」

翔太「またそうやってつよがり言う~♪」

冬馬「うるせぇ!」

141: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2023/02/19(日) 16:37:39.22 ID:LQd6uuhx0
武内P「あなた方の乱入が、元を辿り、誰からの依頼によるものか……
    現時点では、深く詮索をするつもりはありません」

武内P「ですが、西城樹里は並大抵のことで屈するアイドルではない。
    その事を、知らしめる必要があると判断しました」

武内P「これ以上、彼女に余計な邪魔立てが入る前に」


北斗「余計な邪魔立て、ですか……フッ」

北斗「あなたは、あのエンジェルちゃんをトップアイドルに育てるおつもりですか?」


  Thrillのない愛なんて
  興味あるわけないじゃない
  分かんないかな…
  Tabooを冒せるヤツは
  危険な香り纏うのよ
  覚えておけば? Come Again!


武内P「……もちろん、そうです」

武内P「それが、プロデューサーである私の、本来業務ですから」

142: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2023/02/19(日) 16:38:22.87 ID:LQd6uuhx0
タッ タンッ タッ! タタッ タンッ!

樹里「~~~♪ ~~~~!♪」

ワアアァァァァァァァ!!!


樹里(身体が軽い……! イケる!)

樹里(ヘヘッ、お客さん達も盛り上がってるみてぇだな……!)

樹里(このままミス無く……初ステージを、最後まで……!)


樹里(……!?)

ピタッ



武内P「……!?」

143: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2023/02/19(日) 16:39:22.47 ID:LQd6uuhx0
冬馬「? ……おい、どうした」

翔太「急に止まっちゃったね」


ザワザワ…


樹里「うっ……あ、あっ……!」


武内P「西城さん……?」

武内P「……!」ギクッ


 ウワァァーーン!!


北斗「おい、あれ……子供が……!」


冬馬「子供が3階の廊下から落ちかかってるぞ!!」

144: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2023/02/19(日) 16:40:30.51 ID:LQd6uuhx0
子供「うわぁぁーーーん!!! たすけてぇーー!!」

母親「あぁっ! し、しっかり!! 手を離してはダメよ!!」



樹里「うああぁ……!!」ガタガタ


武内P「と、とにかく、助けに行きましょう!」

冬馬「あぁっ!!」ダッ!



タタタ…!

冬馬「チッ……どっから行っても遠回りだぜ!」

北斗「翔太、あのエスカレーターから上って左側から向かってくれ。
   俺と冬馬はここで待機だ」

翔太「オッケー!」ダッ!

145: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2023/02/19(日) 16:41:26.91 ID:LQd6uuhx0
冬馬「待機、って……もしかして、落ちた時にキャッチしろってのかよ!?」

北斗「それ以外無いだろ?」

冬馬「上等だぜっ!!」



子供「ううぅぅ……もうダメぇーー!!! うああぁぁ……!!」ボロボロ

母親「ああぁ! たっくん!! しっかりして!!」


武内P「くっ……!」タタタ…!


翔太「ダメだ……くっそぉ、間に合えぇぇ!!」



子供「う、あっ、あぁ……!」プルプル


ズルッ

146: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2023/02/19(日) 16:42:20.26 ID:LQd6uuhx0
?
樹里「あっ……!」

武内P「!!」

翔太「間に合わな…!」


タタタ…!

シュバッ! ガシッ!

子供「ふぇ……?」





???「はぁ……はぁ…………フフ、間に合って良かった」


子供「……おねえ、ちゃん」



白瀬咲耶「ケガは無いかい?」ニコッ

147: >>146の修正 2023/02/19(日) 16:43:44.94 ID:LQd6uuhx0
樹里「あっ……!」

武内P「!!」

翔太「間に合わな…!」


タタタ…!

シュバッ! ガシッ!

子供「ふぇ……?」





???「はぁ……はぁ…………フフ、間に合って良かった」


子供「……おねえ、ちゃん」



白瀬咲耶「ケガは無いかい?」ニコッ

148: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2023/02/19(日) 16:45:50.59 ID:LQd6uuhx0
冬馬「……あの女」

北斗「翔太とは逆方向から駆け寄って、廊下の手摺を乗り越えて手を伸ばした」

北斗「あの体格で、あの身のこなし……」


グイッ

咲耶「ふぅ……よく頑張ったね。もう大丈夫さ」

母親「あぁ! あ、ありがとうございます!! 本当に、何とお礼を…!」ペコペコ

子供「うわあぁぁぁん……怖かったよぉ……!」

咲耶「フフッ」ニコッ


翔太「……へぇー」ザッ

咲耶「?」

翔太「先、越されちゃったなぁ」

149: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2023/02/19(日) 16:46:41.94 ID:LQd6uuhx0
咲耶「どうやら、そのようだね」

咲耶「でも、あの子の無事を前にすれば、それは些末な事だろう」

翔太「そりゃあ、そうなんだけどね」ポリポリ

咲耶「キミのあの子を助けようという意志にだって、確かなものだったはずさ。
   皆の想いが結実した結果だよ」

翔太「まぁ、そういう事にしよっか」



武内P「……何はともあれ、子供が無事に助かって何よりでした」


樹里「…………」

150: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2023/02/19(日) 16:48:05.23 ID:LQd6uuhx0
ザワザワ…  ザワザワ…


武内P「……関係者と話をしてまいりました。
    今日のイベントについては、中止となります」

武内P「我々に対する事情聴取は、ひとまず終わりましたが、
    この後も、事故の原因に関する現場検証が行われるとのことで」

樹里「……そりゃ、大変だな」

武内P「申し訳ございません。初ステージが、このような事態になってしまい……」

樹里「アンタが謝ることじゃねぇだろ」

樹里「それに……」チラッ


咲耶「……ステージに立っていたアイドルだね」

咲耶「騒がせてしまったようで、すまない」

樹里「そっちが謝るなっての」

151: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2023/02/19(日) 16:49:02.19 ID:LQd6uuhx0
咲耶「いや、謝るさ。何せ初ステージだったのだろう?」

咲耶「西城樹里」


樹里「……!!」ピクッ


武内P「我々を、知っているのですか?」

咲耶「元々、注目していてね。
   今日来ていたのも、樹里のステージを見るためさ」

樹里「いきなり呼び捨てかよ」

咲耶「あ、っと……気分を害してしまったかい?」

樹里「いや、助かるぜ」

152: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2023/02/19(日) 16:59:15.50 ID:LQd6uuhx0
樹里「でも、アタシみたいな新人をいちいちチェックしてんのか?
   言っちゃ悪いけど、そんな事してたらキリがねぇだろ」

咲耶「あぁ、そうだね」

樹里「……?」


咲耶「私達にとって、樹里は見守るに値する特別な存在という事さ」


樹里「!」

武内P「……あなたは、一体」


咲耶「白瀬咲耶だ」

咲耶「同じアイドル同士、お互いに研鑽を重ねていこう」スッ

樹里「……あぁ」スッ

ギュッ

153: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2023/02/19(日) 17:00:16.71 ID:LQd6uuhx0
咲耶「またいつか、会える日を楽しみにしているよ、樹里」ニコッ

コツコツ…



武内P「……白瀬咲耶」

樹里「知ってんのか? アイツ」


武内P「……そういえば一度だけ、お見かけした記憶があります」

武内P「当時、有栖川さんもそうでしたが、
    芸能事務所と専属契約を結ぶ前の、練習生と呼ばれる方達のレッスンを視察した際に」

樹里「ふぅん……アタシと同じ新人ってことか」

154: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2023/02/19(日) 17:01:11.54 ID:LQd6uuhx0
武内P「いずれにせよ、彼女が語った「見守る」ことについての動機が引っ掛かります。
    言い換えれば、なぜ彼女は我々を「監視」しなくてはならないのか」

武内P「もし、我々が置かれている状況についても、ある程度知っているのだとしたら、
    油断のならない相手であるかと」

樹里「あぁ。だけど……アイツは子供を助けた」

武内P「元々、それさえ仕込んでいた可能性もあります」

樹里「……かもな」


樹里「でも……アタシは、悪いヤツじゃない、と思う」



武内P「…………」

155: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2023/02/19(日) 17:02:21.59 ID:LQd6uuhx0
~961プロ 社長室~

黒井「……フゥ~ム」

黒井「ジュピター……ひとまずは一応の仕事をした」

黒井「西城樹里に対しても、それなりの牽制にはなったはずだ、が……」


 【あわや大事故 幼児の窮地を救った謎の美女の正体とは?】


黒井「……気に食わんな。一体何者だ」

カタカタカタ… カチッ


黒井「白瀬咲耶……?」


黒井「…………」ギシッ…



黒井「貴様さえも私の邪魔立てをするか、天井」

黒井「なるほど。フンッ……なぁに、いくらでもやりようはある」

156: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2023/02/19(日) 17:07:12.51 ID:LQd6uuhx0
――――――

――――


  なぜ、あんな無謀なスリーを打った?

  あそこでサヤカにパスをしていれば、無難に2点を取れた。
  試合の流れも作れたはずだ。

「アタシは……ただ、皆のためにやらなきゃって……!」

  ……やはり、お前では荷が重かったようだな。

  ベンチへ戻れ。
  残り時間、ポイントガードはレナに任せる。

  はいっ!

「そんな……待って、待ってくださいっ!」

「う、ぐっ……!」

  ……なぜ、ケガを隠した?

  気合いと根性でカバーする事が、チームのためだとでも?

  だが、お前の行いは、チームを欺いたも同然だ。

157: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2023/02/19(日) 17:08:01.66 ID:LQd6uuhx0
「!! ……ッ」

「……アタシはまだやれます!!」

  もういい。休め。
  ミホ、樹里の手当を頼む。

  はい! 樹里ちゃん、大丈夫? さぁ……!


「ッ……」

「…………ざけ……んな……!」



樹里「ふ……ざけん……!!」

樹里「ハッ!?」ガバッ!


樹里「……ハァ! …………ハァ!……」



樹里「……クソ、何で……思い出してんだよ」

158: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2023/02/19(日) 17:08:57.88 ID:LQd6uuhx0
~翌日 346プロ~

未央「うーん……」


卯月「未央ちゃん、どうしたんですか?」

未央「あ、しまむー。いやさ、昨日ジュリアンのデビューだったでしょ?」

未央「なのに、いくら探しても全然情報が出てこないんだよねぇ」

卯月「えっ? ……あれ、本当だ。検索しても……」


凛「樹里の情報が、出てこない……961プロのホームページにも?」


未央「いくらジュリアンの出来が良かろうと悪かろうとさ。
   誰もSNSとかで発信しないなんて、そんなことあるかなぁ?」

卯月「イベント会場のアカウントさんも、何も言っていないみたいです……」

159: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2023/02/19(日) 17:09:59.62 ID:LQd6uuhx0
凛「……この、ジュピターっていう男性アイドルユニットの事は、どんどん出てくるね」

未央「同じ日に、同じ会場でやってたみたいだね」


卯月「ひょっとして、私達が勘違いしちゃっていたんでしょうか?
   樹里ちゃんのデビューの日を」

凛「いや、樹里自身の口から聞いたんだから、それは間違いないよ」

未央「だよねぇ。じゃあ……このジュピターさん達は、一緒のイベントに出てたってこと?」

凛「そうなるね」


未央「とりあえず、本人に聞いてみよっか!」サッ

凛「えっ?」

ポパピプペ

160: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2023/02/19(日) 17:11:12.74 ID:LQd6uuhx0
未央「……」プルルルルル…


未央「……忙しいのかな? 出ないね」ピッ

卯月「今日のお昼ご飯とか、誘ってみるのはどうでしょうか?」

未央「そうだね! メール入れておこう。
   今日、お昼、どっか一緒に、行かない……っと」スイスイ

未央「あ、そうだ!」

未央「しぶりんもさ、プロデューサーに連絡とってもらえますかなぁ~?
   お昼、皆で一緒に行きたいでしょ?」ニヤニヤ


凛「……うん」スッ

卯月(あれ? ギューッってしないんですね)

未央(ゆ、許された……!)ホッ

161: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2023/02/19(日) 17:12:19.62 ID:LQd6uuhx0
~961プロ レッスンルーム~

樹里「…………!」タンッ タタン…

樹里「よ……ッ……」タタン! キュッ タン


武内P「……西城さん」

樹里「う、おっ……!?」グラッ

樹里「っとと……な、何だ? どっかおかしかったか?」

武内P「い、いえ。申し訳ございません」


武内P「昨日の事で、西城さんは何も、お気になさらないのですか?」

樹里「昨日の事って?」

武内P「たとえば、ご自身の反響について、など……」

武内P「実は……昨日の西城さんのステージについて、SNS等での反響を調べたのですが、
    一切の情報が流れてこないのです」

武内P「異常とも言える情報統制が、なされている可能性も考えられます」

162: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2023/02/19(日) 17:13:36.91 ID:LQd6uuhx0
樹里「別にいいんじゃねぇか?」

武内P「えっ?」

樹里「昨日のアタシの出番、途中で終わっちゃっただろ?」

樹里「まだまだ無名もいいトコなんだし、あんなので有名になれるなんて思っちゃいねぇよ。
   むしろ変な評判が広がってないなら何よりだぜ」


武内P「……それも、そうですね」

樹里「アタシが気にしてんのは、むしろジュピターってヤツらの方だ。
   アイツら、黒井社長の差し金だったんだろ?」

武内P「はい。彼らの言うことが、真実であれば」


樹里「なぁ、プロデューサー……
   アタシ、このまま961プロでアイドルやってて大丈夫なのかよ?」

樹里「アタシだって一応、961プロの所属アイドルだってのに、
   社長自ら邪魔立てを寄こしてくるなんざ、普通じゃないぜ」

163: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2023/02/19(日) 17:14:59.91 ID:LQd6uuhx0
武内P「それは……私も考えていました」

武内P「ですが、今さら鞍替えをする訳にもいきません。
    また、アイドルを辞めることも」


樹里「……一度、整理させてほしいんだけどさ」ポリポリ

樹里「アタシの目的は、チョコにもう一度アイドルを目指してもらうことだ。
   それと、346プロに不正を認めさせること」

樹里「それが出来んのなら、アタシがアイドルをやること自体に拘りはねぇよ」

樹里「961プロのアイドルを辞めて、また別の方法を探すってのもあるんじゃねぇのか?」


武内P「…………」

樹里「あ、い、いや! 961プロでの待遇に文句はないぜ?」ブンブン

樹里「寮は使いやすいし、アンタの弁当作りや植木の世話だって、大した手間じゃねぇし……
   アタシなんかのために、良くしてもらってるって思うよ」

樹里「ただ……あぁして、露骨に妨害をされるのって、結構ショックでさ……」

164: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2023/02/19(日) 17:16:25.73 ID:LQd6uuhx0
武内P「西城さん」

武内P「あなたが961プロのアイドルを辞めた場合に、想定される事態は二つあります」

武内P「身柄を狙われるか、命を狙われるか」

樹里「! ……ッ」ゾクッ


武内P「あの日、黒服の連中に襲われた時のことを、思い出していただきたい」

武内P「もし、オーディションの不正が明るみに出れば、346プロの信用は失墜します。
    彼らの狙いは、西城さんがその不正を暴くのを防ぐこと」

武内P「そのために彼らは、西城さんに金を積むか、346プロに抱き込むか……闇に葬るか」

樹里「…………」


武内P「346プロのアイドルになる事を、あえて受け入れるのであれば、
    それも一つの手段ではありますが」


樹里「イヤだね」

樹里「346プロだけは、ぜってぇに許さねぇ……!」ギリッ

165: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2023/02/19(日) 17:18:00.70 ID:LQd6uuhx0
武内P「……」

樹里「ありがとな、プロデューサー。目が覚めたぜ」

樹里「それにごめん……
   あの日、アタシを守ってくれたのを忘れるなんて、どうかしてた」

武内P「いえ……」


樹里「でも……アタシに刺客を寄こしてきたってのは、
   黒井社長は、346側についてるってことなんじゃねぇのか?」

武内P「一概にそうとは限りません」

武内P「ただ、西城さんに関する徹底的な情報統制が、仮に黒井社長の手によるものであれば……
    いずれにせよ、あまり喜ばしい状況とは言えないかと」

樹里「だよなぁ、うーん……」



ザワザワ…

武内P「……?」

樹里「なんだ? 外が騒がしいな」

166: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2023/02/19(日) 17:19:08.30 ID:LQd6uuhx0
ガチャッ


武内P「……!?」

樹里「! あ、アイツは……!」


ザワザワ…!



夏葉「有栖川夏葉よ!」バァーン!

夏葉「ここに西城樹里はいないかしら!」


社員「で、ですから、アポイントメントの無い方をご案内する訳には……」

夏葉「無礼は百も承知よ。ちょっとお話したいだけなの」

167: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2023/02/19(日) 17:20:48.82 ID:LQd6uuhx0
樹里「……何やってんだ、アイツ」


夏葉「! あらっ、ふふ……やはりあなただったのね」

夏葉「待っていたわ、樹里」

樹里「あん?」

樹里「いや、ちょっと待て……何でアタシを知ってんだ?
   あの日、アタシはアンタに名乗っていなかったはずだぜ」


夏葉「調べたのよ、昨日のイベントについてね」

武内P「……昨日のイベントを?」


夏葉「詳しい話は、場所を移してからにしましょう」

夏葉「美味しいダージリンを淹れてくれるお店を知っているの。
   ご一緒してもらえるかしら?」

樹里「イヤだっつっても断れなさそーだな」

夏葉「話が早くて助かるわ」ニコッ

武内P「……」ポリポリ

168: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2023/02/19(日) 17:22:09.76 ID:LQd6uuhx0
~カフェ~

店員「お待ちしておりました。ごゆっくりどうぞ」カチャッ

夏葉「ありがとう」

スタスタ…


樹里「……すっげー高そうなトコだな」

樹里「外車にまで乗せてもらったし……アンタ、一体何モンだよ?」

夏葉「一アイドル候補生よ」

樹里「アイドルやんなくても、十分金持ってそうに見えるけどな」


夏葉「金銭的な事情なんて、アイドルを志す理由にはなり得ないわ」

夏葉「収入だけを得たいのなら、他にいくらでも方法はあるでしょう?」

樹里「それはまぁ、分かるような分かんねーような……」


武内P「……それで、お話というのは」

夏葉「あぁ、ごめんなさい」

169: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2023/02/19(日) 17:23:22.57 ID:LQd6uuhx0
夏葉「昨日は初めてのイベント出演、お疲れ様、樹里。
   直接見ることができなくて残念だったわ」

樹里「初、ってのまで知ってんのか」

夏葉「思わぬアクシデントで、途中で中止となってしまった事もね」

樹里「…………」


武内P「お言葉ですが、有栖川さん。
    あなたは先ほど、先のイベントについて調べたと仰られました」

武内P「一体、どのようにお調べになったのでしょうか?」

夏葉「……それはどういう意味かしら」


武内P「あのイベントについては、当事務所の西城について、公にされている情報は無かったはずです」

武内P「事務所の公式ページはおろか、個人のSNSアカウントによる発信に至るまで……
    徹底的に、と言えるほどに排除されています」


夏葉「えぇ、そのようね」

夏葉「だから気になったのよ」

170: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2023/02/19(日) 17:25:20.60 ID:LQd6uuhx0
樹里「えっ?」

夏葉「そうまでして、西城樹里というただの一アイドルを秘匿しなくてはならない理由は何か。
   誰がそれを行っているのか」

夏葉「当然、そのアイドルに興味を持つなというのも、私には無理な話だったわ。
   それも、あのオーディションに智代子の付き添いで来ていた、その子が当人だったなんて……」

夏葉「ふふ、偶然にしては出来過ぎていると思わない?」

樹里「アタシに聞くなよ」


夏葉「どうやって昨日のイベントについて調べたのか、という質問だったわね」

夏葉「何てことは無いわ。
   私と同じ事務所に所属する子が、当日のあなたのステージを見ていたからよ」

樹里「同じ事務所?」

武内P「……」ピクッ


夏葉「白瀬咲耶という子を?」

樹里「……あぁ、アイツか。なるほどな」

171: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2023/02/19(日) 17:26:24.61 ID:LQd6uuhx0
夏葉「あなたの様子を語る咲耶の顔と言ったら、ふふっ……
   まるで子供のようにはしゃいで、本当に嬉しそうだったのよ」

夏葉「私だって、アイドルを志す者の一人だから、
   同じ事務所の仲間が注目を寄せる子がいれば、調べてみようって思うでしょう?」

夏葉「ところが、肝心の情報がまるで出てこない……ただの一つも」

武内P「……それで、西城樹里という名前だけを頼りに、961プロを訪れたと」

夏葉「えぇ、そのとおりよ」


樹里「…………」

夏葉「? どうしたの、樹里。黙ってしまって」

樹里「あ、いや……」ポリポリ…

夏葉「照れているのかしら? ふふっ、人は見かけに寄らないわね」

樹里「て、照れてなん……!」

樹里「……あーもう」ワシャワシャ

172: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2023/02/19(日) 17:27:45.32 ID:LQd6uuhx0
樹里「なんつーか、昨日の咲耶とかいうヤツといい……アンタといい」

樹里「モノ好きが多いもんだぜ。アタシはただ……」

夏葉「……ただ?」


樹里「……いや、悪ぃ。アンタに話すような事じゃねぇな」

夏葉「いいえ、話してちょうだい」

樹里「!」


夏葉「さっきも言った通り、樹里……私はあなたに興味があるの」

夏葉「あのオーディションに出ていなかったはずのあなたが、なぜアイドルをしているのかも含めてね」

樹里「……夏葉」


夏葉「私の推測でしかないけれど……
   あのオーディションの結果も、あなたがアイドルを志す理由の一端なのかしら」



樹里「……346プロだけは、絶対に許さねぇ」

樹里「あんなふざけたオーディションで、チョコの努力をコケにしやがった346プロだけは……!」

173: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2023/02/19(日) 17:29:16.45 ID:LQd6uuhx0
武内P「……」

樹里「アイツらを見返して、チョコにもう一度、アイドルをやってもらいたい……
   アタシがアイドルをやる理由なんて、それだけだ」

樹里「有り難がられる要素なんて、アタシには何もねぇよ」


夏葉「……そう」


夏葉「失望したわ。その程度の志だったのね」ガタッ


武内P「……!」

樹里「なっ……!?」

夏葉「ゆっくりしてくれて構わないわ。お会計は済ませておくから」スッ

樹里「な、ちょ、おい待てよっ!!」ガタッ!

174: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2023/02/19(日) 17:30:16.84 ID:LQd6uuhx0
夏葉「……」

樹里「聞き捨てならねぇな」

樹里「確かに、アタシには夢とかやりたい事とか、アイドルに対する前向きな動機なんてねぇよ」

樹里「でも、友達のために……友達の仇を討って、もう一度前を向いてもらいたい、って!
   その気持ちを、赤の他人に馬鹿にされてたまるか!!」

夏葉「あなたはアイドルを何だと思っているの?」

樹里「あぁ!?」


夏葉「アイドルを手段としてしか考えない、その姿勢自体、
   本気でアイドルを夢見ていた智代子に対する侮辱だとは考えないのかしら」

175: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2023/02/19(日) 17:32:05.14 ID:LQd6uuhx0
樹里「!! ……ッ」

夏葉「そんな考えで、よくも智代子に前を向いてもらえるなどと思えたものね」

樹里「こ、この……!」グッ


夏葉「樹里。あなたの今後の活動予定は?」

樹里「え……」

武内P「……基礎レッスンを続ける以外は、今のところ大きな予定はありません」

夏葉「そう」


夏葉「なら、一ヶ月後のサマーフェスに出なさい。
   私も出場するから、直接対決といきましょう」

樹里「!?」


武内P「一ヶ月後のフェス……『サマードルフィン』」

武内P「出場者同士によるステージ対決、ですか」

夏葉「エントリーはまだ受け付けていたはずよ。
   無理というのなら、強制はしないけれど」

176: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2023/02/19(日) 17:33:57.92 ID:LQd6uuhx0
武内P「……いかがされますか? 西城さん」


樹里「……いいぜ、出てやるよ」

樹里「面白ぇ。いわゆるライブバトルってヤツか……
   生意気をほざくオジョウサマの鼻っ柱、へし折ってやるぜ」

夏葉「そうこなくてはね」ニコッ


武内P「しかし、有栖川さん。
    フェスへの出場をはじめ、アイドルとして活動するに当たっては、事務所との専属契約が必要です」

武内P「白瀬さんと同じご所属と仰いましたが、あなたの事務所は……」


夏葉「283プロよ」

夏葉「それが私達の事務所」


樹里「283プロ……」


夏葉「お互いベストを尽くしましょう。
   私を打ち負かすことがあったなら、さっきの非礼はお詫びするわ」

177: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2023/02/19(日) 17:34:46.39 ID:LQd6uuhx0
樹里「夏葉……」

夏葉「じゃあ、私はこれで」フリフリ

樹里「待てよ」

夏葉「まだ何か?」


樹里「ありがとな……アタシに発破かけてくれて」

夏葉「……ふふ、何のことかしらね」ニコッ


コツコツ…



武内P「……西城さん」

樹里「すぐにレッスンがしてぇ。頼めるか?」

178: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2023/02/19(日) 17:37:27.35 ID:LQd6uuhx0
武内P「分かりました。曲も用意しましょう」

樹里「ああ……見方によりゃあ、これも一つのチャンスって事だよな」

武内P「チャンス?」


樹里「今度のそのフェスって、昨日やった地方イベントみてぇなモンじゃなくて、
   多くのアイドルファンや業界人とかが集まる、大規模なイベントなんだろ?」

樹里「それなら、昨日みたいに情報統制?とかで握り潰される心配も無いだろうし、
   結果を残して有名になりゃ、アタシを狙うヤツらも簡単には手出しができなくなる」

樹里「って思ったんだけど、どうだ?」


武内P「……仰る通りかと」

樹里「? 何だよ、釈然としなさそーなツラして」

樹里「あっ! ひょっとしてアタシが勝つって信じてねぇのか!?」

武内P「い、いえ! 決してそういう訳では……!」

179: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2023/02/19(日) 17:39:05.44 ID:LQd6uuhx0
カラン カラン…

樹里「ったく、辛気臭ぇのも紛らわしいぜ」

武内P「申し訳ございません……む」

樹里「今度はどうした?」


武内P「着信が入っておりましたので、少々、失礼します」スッ

樹里「あぁ……あれ、アタシも」サッ


樹里「未央達からだ。
   やべっ、結構時間空いちゃってるじゃん」

武内P「……!」ピクッ


樹里「えーっと、どうやって返信すんだ……ここか?
   違ぇな。クソ、もっと聞いとくんだったぜ」

樹里「なぁ。これ、どうやればいいか分かるか?」スッ

180: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2023/02/19(日) 17:40:41.09 ID:LQd6uuhx0
武内P「……こちらの、下部の空欄をタップすれば、ウィンドウが開きますので、
    そのままメッセージを入力すればよろしいかと」

樹里「おー、サンキュー。
   悪ぃな、この間入れてもらったばっかでさ」

樹里「この未央ってヤツが、やたら賑やかで元気のいいヤツでさー。
   楽しいし、気ぃ遣いなのはありがてぇけど、まともに付き合うと疲れちゃって困るぜ」ハハハ

樹里「あ、卯月からも来た」ティロン♪

樹里「えーと、なになに……このお店でお昼ご飯どうですか、だって?」

樹里「こっからなら行けそうだな。凛も一緒か」


樹里「プロデューサーも、良かったら一緒に昼飯行かねぇか?」

武内P「……!」ギクッ

樹里「な、何だよ。今日弁当作れなかったし、ちょうどいいかなって」

武内P「いえ……」

181: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2023/02/19(日) 17:41:36.56 ID:LQd6uuhx0
武内P「少々、仕事が立て込んでおりますので……すみませんが」

樹里「あぁ……そっか。
   ていうか、仕事の着信来てるんだっけ。悪ぃな、手止めちゃって」

武内P「いえ」


樹里「じゃあ、昼飯済ませたら事務所に戻るよ。レッスンよろしくな!」

武内P「はい。一旦ここで、失礼致します」ペコリ

樹里「そんな仰々しくすんなっての。じゃあなー!」フリフリ

タタタ…



武内P「……」スッ

ポパピプペ

プルルルルル…


『……もしもし、プロデューサー?』

182: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2023/02/19(日) 17:42:29.83 ID:LQd6uuhx0
~外~

『お待たせしてしまい、申し訳ございません』

凛「ううん。忙しいのは分かってるから」

凛「……樹里と、一緒だったの?」

『……はい』

凛「そっか……」


『私は、昼食にご一緒できませんが、皆様にはよろしくお伝えください』

凛「うん、分かってる……そりゃあ、そうだよね」

『申し訳ござ…』

凛「謝らないで」

『渋谷さん……』


凛「でもさ……いつか、理由を教えてよ」

凛「私達が、樹里に……346プロであることを教えちゃいけない理由を」

184: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2023/02/19(日) 17:43:26.73 ID:LQd6uuhx0
『……分かりました』

凛「ありがとう……お疲れ様」

『ありがとうございます……それと、午後もすみませんが、立ち会えません』

凛「……うん、分かった」

凛「それじゃあね」

『はい。失礼致します』

ピッ


凛「…………」

凛「……プロデューサー、忙しくて来れないって」

未央「絶対それ以外にも話してたよね?」

凛「う……!」ギクッ

卯月「お昼ご飯に樹里ちゃんを誘ったの、良くなかったでしょうか……?」


凛「……放ってもおけないでしょ」

未央「だね」
卯月「はいっ」

185: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2023/02/19(日) 17:44:19.00 ID:LQd6uuhx0
~某所~


「……そうか、ご苦労」


「なに……その程度であれば十分だ。案ずるな」


「黒井とて馬鹿な男ではない。いずれ私の狙いにも気づくだろう」

「いや、もう気づいているのかも知れん」

「だからこそ、ああいう派手な行いをしているとも、な……ヤツの考えそうな事だ」



「今の私達にできることは、見守ることだ」

「西城の事を、よろしく頼んだぞ」

186: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2023/02/19(日) 17:46:16.62 ID:LQd6uuhx0
~ファミレス~

樹里「……ふ~ん。ってことは、三人とも本当に新人だってのか」

卯月「はい、そうなんです。だから、まだ活動させてもらえてなくって……」

未央「思ったより世知辛くってさー、困っちゃうよねぇ」ウーム

凛「だから、私達のことをネットとかで調べても、何も出てこないから」

樹里「そっか……アタシなんかでさえ情報が全然出てねぇらしいし、そういうモンなのかな」

凛「そういうものかもね、たぶん。それに……」


凛「自分のことを“なんか”って言うな、って言ってたの、樹里でしょ?」

樹里「うっ!?」ドキッ

凛「アイドルなんだから、もっと図々しくなんなよ」フッ

樹里「そ、そうか……そうだな」

187: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2023/02/19(日) 17:47:31.44 ID:LQd6uuhx0
樹里「じゃあさ、どこの事務所なんだ? それくらいは教えてもらってもいいだろ?」

未央「いぃ!?」ギクッ!


樹里「……まさか、346プロ」

卯月「うえぇぇっ!?」ギクギクッ!


樹里「……なわけ無いか。
   ていうか、あんなトコのヤツらだなんて、思いたくねーし」

卯月「あ、は、ハハ……そ、そうですね、そうそう、アハハ……」


樹里「961プロでもねーし……ってことは……」

樹里「! ……ひょっとして283プロか?」

凛「283プロ?」

188: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2023/02/19(日) 17:48:39.43 ID:LQd6uuhx0
樹里「違ったか……そうだ。皆知らねぇか? 283プロ」

未央「ううん、ちょっとあまり……」

凛「その283プロが、どうかしたの?」


樹里「いや……そこの事務所のヤツとさ、ライブバトルっつーのか?
   一ヶ月後に、一緒のサマーフェスに出ることになったんだよ」

樹里「夏葉、えぇっと……有栖川夏葉ってヤツなんだけど、知ってるか?」

未央「ちょっと検索してみるね」スイスイッ

卯月「あ、有栖川……有栖川ってひょっとして……!?」

樹里「? どうした、卯月?」


卯月「有栖川グループの有栖川、ですか!?」

189: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2023/02/19(日) 17:49:34.73 ID:LQd6uuhx0
未央「!? え、あの……なんかいっぱいCMやってるアレ!?」

樹里「そ、そんな有名なヤツなのか?」

凛「動画サイトにあると思う……あった」スイッ


 『憩いの~~ 空間~~ あります有栖川~~♪』


樹里「あ、なんか聞いたことあんなコレ」

凛「国内でも屈指の、有名リゾートホテルグループの令嬢……」

卯月「水瀬財閥と双璧を為す、国内でも有数の大企業ですよぉ!」ドキドキ

樹里「マジでお嬢様だったのか、アイツ……」

190: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2023/02/19(日) 17:51:22.83 ID:LQd6uuhx0
未央「283プロのプロフィールには、そういう情報までは載っけてないみたいだね」

樹里「アイドル活動に関して、実家の力に頼るつもりはねーってことか。
   ふーん……」

樹里「……!」ピクッ


  ――不可解な審査があった理由について、大よその心当たりはあるわ。
     残念ながらね。

  ――合格は辞退します。早急に、父に問い質す必要があるわね。


樹里「まさか…………アイツ……!」

ギュッ…!


凛「樹里? ……あの、どうかし…」

樹里「悪ぃ、皆。急用ができたから帰るわ」ガタッ

未央「あっ、ちょっとジュリアン?」

樹里「これアタシの頼んだ分。じゃあな」スッ

ツカツカ…!

191: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2023/02/19(日) 17:52:21.25 ID:LQd6uuhx0
卯月「行っちゃいました……」

未央「ど、どうしちゃったんだろ?」

凛「…………」


未央「しかし……へぇー、色んなアイドルがいるもんだねぇ」

凛「まだ283プロのホームページ見てたの?」

未央「なかなか興味深くってさ。
   ……あ、ほら見て、すっごい綺麗だよこの人!」

卯月「うわあぁぁ……か、カッコいい……」

凛「……ふーーん、スタイルもいいね」

未央「元モデルさんかぁ。えーっと、名前名前……」


未央「白瀬咲耶、っていうんだって!」

192: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2023/02/19(日) 17:53:14.47 ID:LQd6uuhx0
~961プロ レッスンルーム~

キュッ! タタンッ タンッ!

樹里「はぁっ、はぁ……! くっ……!」タンッ タン

樹里「……ッ!」タッ タンッ!


武内P「……」

武内P「西城さん、そろそろ休憩を…」

樹里「うる、っせぇ……!」タンッ!


樹里「夏葉……! あの、女……!!」



武内P「…………」

193: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2023/02/19(日) 17:54:01.91 ID:LQd6uuhx0
樹里「はぁ……はぁ……!」タタンッ タンッ

樹里「ッ……うりゃ、と」ビシッ!


樹里「……くっ! はぁ、はぁ! はぁ……!」ガクッ


武内P「お疲れ様でした」スッ

樹里「……」バシッ!

武内P「!」


樹里「……!?」

樹里「あ、あぁ……悪ぃ、その……」


武内P「……西城さん」

武内P「有栖川さんの事で、何か?」

194: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2023/02/19(日) 17:55:06.48 ID:LQd6uuhx0
樹里「……アイツ、有栖川グループっていう、すっげーデカい企業のお嬢様なんだってな」

武内P「そのようです」


樹里「あの日、346プロのオーディションで夏葉を勝たせるよう仕組んだのも、
   夏葉の親父らしいぜ」

武内P「……!」

樹里「もっとも、夏葉本人はそんなこと望んでなかったらしいけどな」


樹里「でも関係ねぇ」ギリッ

樹里「チョコが塞ぎ込んじまったのは、全部あのオーディションが原因なんだ……!」

樹里「何が有栖川グループの令嬢だ……! ふざけやがって、畜生っ!!」ダンッ!

195: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2023/02/19(日) 17:56:37.45 ID:LQd6uuhx0
武内P「西城さん……」

樹里「アタシは勝つぜ、プロデューサー。
   346プロだけじゃねぇ、チョコの仇が、まさか他にもいたなんてな」


武内P「……アイドルを手段とする、ということですか?」


樹里「……あぁ、そうだよ」

樹里「だからイライラしてんじゃねーか……!」

樹里「アイドルに対する夢も野心もないアタシは、結局こうするしかねーんだ!
   悪いかよ!!」

武内P「…………」


樹里「すげーカッコ悪い事だって、分かってるよ……
   夏葉に言われて、気づかされて……納得させられたばかりだってのにな」

樹里「でも……でもっ! 他にどうしようもねぇんだよっ!!」


武内P「……では、西城さん。一つだけお願いがあります」

樹里「? 何だよ」

196: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2023/02/19(日) 17:57:49.14 ID:LQd6uuhx0
武内P「ステージ上では、どんな事があろうと、笑顔でいてください」

樹里「笑顔?」

武内P「はい。アイドルの基本です」

武内P「それさえ約束していただけるなら、私からは何も言いません」


樹里「笑顔……あぁ、いいぜ」

樹里「そんな簡単な事でいいんだったらな」

武内P「…………」

樹里「今日はもう少し自主練してぇ。
   レッスンルーム、まだ使ってていいよな?」

武内P「……えぇ、構いません」

樹里「うっし。忘れないように、ちゃんと復習しとかねーとな」スッ


武内P「…………」ポリポリ

197: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2023/02/19(日) 17:58:17.10 ID:LQd6uuhx0
ガチャッ バタン


コツコツ…


武内P「……」コツコツ…



凛「プロデューサー」


武内P「!?」ピタッ



凛「……お疲れ様」

198: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2023/02/19(日) 17:59:23.78 ID:LQd6uuhx0
武内P「し、渋谷さん……なぜ、ここに?」

凛「プロデューサーに会いに来たからに決まってるでしょ」

凛「961プロ……初めて来たけど、大きくて綺麗な所だね」

武内P「し、しかし……」

凛「大丈夫だよ。私なんてまだアイドルとしての知名度は大して無いし」

凛「こうしてエントランスロビーのソファーで座ってるうちは、
  ただのお客さんなんだなって皆思うでしょ?」

凛「あぁ、それと……未央と卯月には、黙って来ちゃった。
  ちょっと、騒がしくなりそうかなって思って」

武内P「……」ポリポリ


凛「樹里のことで、話があるんだ。時間ある?」

武内P「……場所を変えましょう」

武内P「私の方からも、お話したいことがあります」

凛「うん」

199: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2023/02/19(日) 18:01:04.68 ID:LQd6uuhx0
~喫茶店~

凛「…………」

凛「そんな……そんな事が、346プロのオーディションで……」


武内P「園田さんというご友人を、不条理に失意の底に沈ませた346プロに対し、
    西城さんは強い憎しみを抱いています」

武内P「彼女の目的は、園田さんにもう一度、アイドルを志してもらうこと。
    そして……346プロ、引いてはかの不正に荷担した者達への復讐」

武内P「それ故に、私達が346プロである事を、彼女には秘匿しておく必要があるのです」

凛「ちょっとおかしくない、それ!?」ガタッ!

ザワッ ザワザワ…


凛「……ッ」スッ


凛「……放っておけばいい、とまでは言わないけど」

凛「どうしてプロデューサーは、わざわざ樹里をプロデュースしようって思ったの?
  それも、961プロだ、って身分を偽って……余計な面倒を抱えてまで」

200: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2023/02/19(日) 18:02:23.29 ID:LQd6uuhx0
武内P「そういう人間を、知っているからです」

凛「そういう人間?」


武内P「復讐に身を任せ、暗く深い闇に堕ちた者を」

武内P「取り返しのつかない所にまで至ってしまったら、二度と光を見ることはできません。
    そうなる前に、彼女を救い出す必要があると考えました」

武内P「それ故に……とても見過ごす訳にはいかなかったのです」


凛「……樹里のしようとしてる復讐って、何?」

凛「見えたよ……窓の外から、樹里がレッスンしてる姿」

武内P「…………」


凛「鬼気迫る、っていうのかな……まるで、アイドルじゃないみたいだった」

凛「346プロやその関係するアイドルを打ち負かす事が復讐だって、樹里が考えているなら……
  復讐の機会を与えたのは、プロデューサーの方だったんじゃないの?」

201: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2023/02/19(日) 18:03:42.63 ID:LQd6uuhx0
武内P「私は……」

武内P「…………ッ」グッ…


凛「……ごめん。意地悪な事を言って」

武内P「いえ……そのために私は、
    西城さんに気づきを与え、軌道を修正する必要があると考えています」

凛「気づき?」

武内P「はい」


武内P「アイドルの本懐は、ファンの方々を楽しませること」

武内P「ファンとの触れ合いを通し、アイドル活動の楽しさを見出す機会を与えることで、
    アイドルを志す動機に、それまでと違う意義を彼女に気づかせたいのです」


凛「……具体的に、どうするつもりなの?」

凛「樹里自身、まだそこまでファンを集められるほど知名度があるわけじゃないし……
  346プロのイベントに参加させるのだって、もっと無理でしょ?」


武内P「考えはあります」

202: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2023/02/19(日) 18:04:16.00 ID:LQd6uuhx0
20時頃まで席を外します。

203: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2023/02/19(日) 20:31:44.20 ID:LQd6uuhx0
~後日、とあるミニライブ会場~

テクテク…

樹里「意外と小さいトコなんだなー」

武内P「本来であれば、もっと大きな会場を用意する事もできるのですが、
    当人の希望により、こちらに」

樹里「当人?」


武内P「ミニライブの主演者……
    西城さんが本日、お手伝いをしていただくアイドルとなります」

樹里「ふーん」

204: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2023/02/19(日) 20:32:48.01 ID:LQd6uuhx0
樹里「まぁ、アタシはアタシの仕事をするだけだけど……
   普通アイドルって、多くのファンを呼びたいって思うもんじゃねーのか?」

樹里「余計なお世話かも知んねーけど、わざわざ自分の利益が小さくなるようなこと、
   アイドル自身が考えるのって、なんつーか……」


武内P「西城さんの仰ることは、もっともであり、一つの正解ではあります」

武内P「ですが、彼女にとっては、別の価値基準があったということです。
    単純な利益、それ以上に大事なものが」

樹里「利益以上に、大事なもの……?」

武内P「本日の仕事は、西城さんにもその一端をお知りいただけたらと思い、セッティングしました」


武内P「こちらが、そのアイドルの控え室になります」

樹里「……」ゴクリ…

205: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2023/02/19(日) 20:33:25.88 ID:LQd6uuhx0
武内P「……」コンコン


「どうぞ」



ガチャッ

武内P「失礼致します」

樹里「し、失礼しまー……!?」


武内P「どうも、お疲れ様です」



楓「お疲れ様です」ペコリ

206: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2023/02/19(日) 20:35:04.02 ID:LQd6uuhx0
樹里「あっ、アンタ! ひょっとして、た、高垣……!?」

楓「はい、高垣楓と申します」ニコッ


樹里「お、おいっ! アイツ……じゃない。
   あの人、346プロじゃねぇか!! アタシでさえ知ってるぜ!」

武内P「はい」

樹里「はいじゃねぇ!! どうして346プロの人間がこんなトコ……!」

樹里「こ、この人のライブの手伝いをすんのが、今日の仕事だってのか!?」

武内P「そうです」

樹里「冗談じゃねぇ!!
   どうしてライバル事務所の手伝いを961プロがしなきゃなんねーんだよ!」

樹里「ふざけやがって! やってられっか!!」ザッ


楓「樹里ちゃん」スッ

樹里「うぇっ!?」ドキッ

207: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2023/02/19(日) 20:36:43.86 ID:LQd6uuhx0
樹里(あ、アタシの名前……知ってんのかよ)


楓「ごめんなさい。
  樹里ちゃんが、346プロを苦手だっていうお話は、お伺いしていたのですが……」

楓「今日のお仕事は、私にとって特別な……大切にしている、ミニライブなんです」

楓「これ、見てください。
  今日のファンの方々に配る、うちわです」スッ

樹里「うちわ? ……サイン入り」

楓「先ほどからやっているのですが、ちょこっと大変で。ふふっ♪」ニコッ

樹里(1個1個、手書きでサイン書いてんのかよ……)


楓「樹里ちゃんは、アイドルを志して間もないと、お聞きしました」

楓「先輩風を吹かして、偉そうな事を言うつもりはありません」

楓「ですが……いいえ、だから、今日のお仕事は、
  なるべくお客さんの視点に立って、色々なことを感じ取ってほしいんです」

樹里「お客さんの視点……」

208: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2023/02/19(日) 20:38:20.76 ID:LQd6uuhx0
楓「その時を楽しみたいという気持ちは、
  961プロや346プロ、そのファンの方々にとって、違いは無いと思っています」

楓「だから、お客さん達と一緒に楽しんでもらえると、とても嬉しいです」

楓「今日はよろしくお願いします、樹里ちゃん」ペコリ

樹里「うわっ……あ、頭下げないでくださいっ!」ブンブン


武内P「いかがでしょうか、西城さん」

樹里「…………」


樹里「はぁ……何つーか、怒りも失せちまったぜ」ポリポリ

樹里「よくよく考えたら、ちゃんと仕事の内容を確認しなかったアタシも悪いし……
   やるって決めたからには、ハンパはできねぇよな」

武内P「ありがとうございます」

楓「ふふっ♪」ニコッ

209: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2023/02/19(日) 20:39:51.69 ID:LQd6uuhx0
樹里「で、プロデューサー。
   アタシがやんのは、入口でなんか配るスタッフって事でいいんだよな?」

樹里「最初はステージも頼まれた気がすっけど、やっぱり346プロの前座はできねぇ。
   その辺のナマイキは勘弁してもらうぜ」

武内P「はい。それは承知しております」

樹里「つーか、今日来てんのは楓さんのファンだし、アタシが出たって意味ねぇだろ」

武内P「それは……」

樹里「まぁいいや」


樹里「……今日はよろしくお願いします、高垣楓さん」ペコリ

楓「はい、こちらこそ」



武内P「…………」チラッ


楓「……」クスッ


武内P「……」ポリポリ

210: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2023/02/19(日) 20:41:04.86 ID:LQd6uuhx0
――――


凛『楓さんのミニライブの手伝いをさせる?
  そんなの、樹里がいいって言うわけないじゃん!』

凛『第一、346プロのトップアイドルの仕事に参加させたら、
  プロデューサーと346プロの繋がりだって、樹里に疑われるよ』


武内P『西城さんには、表向きは961プロから企画を持ち込み依頼したという名目で、
    正規に高垣さんのミニライブの仕事に参加していただきます』

武内P『実際上は、346プロ内部の裁量しか生じ得ないため、
    調整そのものは難しくありません』

凛『トップアイドルとの仕事の調整を難しくないって言い切るプロデューサーも、結構凄いよね』

武内P『調整が円滑に進んだのは、高垣さんのお考えによるところも大きくございます』

凛『えっ?』


武内P『アイドルを……ファンと共に楽しむ心を、西城さんに気づいてもらいたい。
    その意図を、汲んでいただけたのだと思います』

武内P『高垣さん自身、何か思うところもあったのではないかと』

211: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2023/02/19(日) 20:43:20.26 ID:LQd6uuhx0
凛『……でも問題は、いくらトップアイドルとはいえ、樹里が346の楓さんに素直に従うかだよね』

武内P『はい。それについては、西城さん次第となります。
    それと……』


武内P『高垣さんと西城さん、双方のアイドル達が一緒に仕事をする事について、
    本来、346側にメリットはありません』

武内P『加えて、私の立場では、961プロの資金を自由に扱う権利はありません』

武内P『発議者である961プロから、相応のギャランティ等の提示が無いにも関わらず、
    346プロが応じたというのは、経緯を知らない人間から見れば、不可解に捉えられます』

武内P『一体何が起きているのか……
    私達の思惑、その動向について、探りを入れる人物が現れる可能性も、否定できません』

凛『……!』

武内P『衆目を集める派手な動きとなる以上、相応に綱渡りな手段とならざるを得ないでしょう』


凛『……そんなリスクを払ってでも、樹里を助けたいの? プロデューサーは』


武内P『はい』


――――

212: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2023/02/19(日) 20:44:36.92 ID:LQd6uuhx0
武内P「西城さんには、こちらのブースを担当していただきます」

樹里「おう……って、
   これ、さっき楓さんが書いてたサイン入りのうちわじゃねーか!」

樹里「さすがにこういうのは、本人が直接ファンに手渡した方がいいんじゃねぇのか?
   いいのかよ、アタシが配っちゃって」


楓「大丈夫ですよ」

樹里「あ、楓さん」

楓「きっと喜んでくれます。
  今日来てくれたファンの皆様の手に、うちわがあるうちは、なんて、ふふっ♪」

樹里「は、はぁ……へ?」

武内P「開場したら、パンフレットと一緒に、こちらのうちわをお客様にお配りください」

樹里(す、スルーかよ……!?)

213: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2023/02/19(日) 20:46:17.53 ID:LQd6uuhx0
樹里(まぁ、敵情視察を堂々と行えるチャンス……って考えるか)

武内P「さっそく、お客様がお見えになられたようです」

樹里「よ、よし……」



ガヤガヤ…


樹里「い、いらっしゃいませー!
   こちらでパンフレットとうちわをお配りしていまーす!」



樹里「あ、はいっ。会場は、こちら中入って右側になります」



樹里「え、えっと……うわっ、パンフが折れちまった!」アタフタ



樹里「へ? トイレ、ですか? えぇっと、どこだろ……
   す、すみません、確認してきます! おい、プロデューサー!……」

214: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2023/02/19(日) 20:47:26.93 ID:LQd6uuhx0
樹里「……! …………!」セッセ セッセ…



楓「……とても熱心に、お仕事に取り組んでくれていますね」

武内P「西城さんは、常識的な感性や責任感が、とても強い方です。
    また、他者への思いやりも」


楓「お話をいただいた時は、私、樹里ちゃんに怒られるんじゃないかって、心配したのですが……」

武内P「高垣さんの人柄に触れ、思い直す面もあったのではと思われます」

215: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2023/02/19(日) 20:49:13.50 ID:LQd6uuhx0
楓「ううん」フルフル

楓「樹里ちゃん自身、本当は気づいているのかも知れません。
  346プロを憎む事が、本質的な解決にはならない事を」

楓「行き場の無い感情に、ひとまずの納得を与えるために……怒りを抱いているのかな、って」

武内P「…………」


楓「……過ぎた事を言いました。忘れてください」

武内P「いえ……そろそろお着替えのほう、お願い致します」

楓「はい」スッ

216: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2023/02/19(日) 20:50:05.14 ID:LQd6uuhx0
ガヤガヤ…

樹里(だんだん、客足も落ち着いてきたな……そこそこ入ったみてーだ)


樹里(しかし、何つーか……
   アイドルのファンって、もっとガツガツしてるもんだと思ったけど……)

樹里(今日のお客さん、みんな落ち着いてるというか……
   でも、変に冷めてるとかじゃなくて……何だろう)

樹里(このライブを楽しむ事に、ファン同士、皆で協力し合ってるみたいな……)


樹里「……?」チラッ



子供「……ママー…………ママぁ~~……!」

217: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2023/02/19(日) 20:51:13.34 ID:LQd6uuhx0
樹里(何だあれ……ひょっとして迷子か?)



子供「ママぁぁ~~!」グスッ



樹里(どっかから迷い込んできたのか?
   いや……この建物の周りに、客を入れるような施設は無さそうだった)

樹里(だとしたら、今日この会場に来た誰かの子供……!?)



子供「うあぁぁぁぁぁ……ママぁぁ~~~!!」ボロボロ



樹里「……クソッ!」ダッ!


武内P「? 西城さん、どちらへ…」

樹里「悪ぃ、プロデューサー! ここは任せた!」

武内P「え?」

タタタ…!

218: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2023/02/19(日) 20:51:58.19 ID:LQd6uuhx0
武内P「……?」ポリポリ



ザッ


武内P「……!」ピクッ



黒服A「西城樹里……の、プロデューサーさんですね」

黒服B「お話したいことがあるのですが、少し、お時間いただけますか」



武内P「…………」

武内P「……どうぞ、こちらに」スッ

219: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2023/02/19(日) 20:53:05.91 ID:LQd6uuhx0
子供「うええぇぇぇ……!」ボロボロ



樹里「おいっ! 大丈夫か!?」ガシッ!

子供「ひっ!?」ビクッ

樹里「あ……悪ぃ、脅かせちまって」


樹里「ママと迷子になっちまったのか?」

子供「……」コクッ

樹里「んーと、じゃあ……どっちから来たか、分かるか?」

子供「……」フルフル


樹里「うーん……」ワシャワシャ

樹里「悩んでてもしょうがねぇ、とにかくママを探しに行かねーとな。
   ほら、アタシがついてやっから、手」スッ

子供「うん……」ギュッ

220: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2023/02/19(日) 20:53:48.78 ID:LQd6uuhx0
樹里「つっても……」


ガヤガヤ…  ゾロゾロ…


樹里「どうやって探すかなぁ……と、とりあえず……」コホン

樹里「あ、あのー!!」


オォォ…?  ドヨドヨ…


子供「……?」

樹里「こ、この子のお母さんはいませんかー!?」

221: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2023/02/19(日) 20:55:05.04 ID:LQd6uuhx0
…? ……?

ザワザワ…


樹里(……くっ。反応ナシかよ、つめてーな)

樹里「すみませーん!! この子のお母さんいませんかー!!」

樹里「すみませーーん!!」


子供「……」



樹里「……クソッ。場所変えるか」

子供「うええぇ……ママぁ……」グスッ


樹里「……大丈夫だ!」ガシッ

子供「ふぇっ?」


樹里「ここはアタシが何とかしてやる!」

222: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2023/02/19(日) 20:56:06.81 ID:LQd6uuhx0
樹里「うっし! こうなりゃ手段なんて選んでらんねー」パシッ!

樹里「おい、肩車するぜ。乗れ」スッ

子供「えっ……うわぁっ!?」

樹里「よっ!と ……どうだ?」


子供「わああぁぁぁ……!」

樹里「たけーだろ?」ニカッ

子供「すごーい!! たかいたかーい!!」ワタワタ

樹里「うわっ!? バッ、こ、こらっ! 暴れんなっ!!」


樹里「よし、じゃあ行くぜ!」

223: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2023/02/19(日) 20:57:02.31 ID:LQd6uuhx0
樹里「すみませーーん!! この子のお母さんいませんかー!!」

子供「いませんかー」キャッキャ


ザワザワ…!  オオォ…


樹里「この子のお母さんいませんかー!?」

樹里「すみませーーん!!」



ザッ…

咲耶「……おや? あれは」



樹里「この子のお母さんを探してまーす!! いませんかー!!」



咲耶「……フフッ。賑やかなことだね」ニコッ

224: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2023/02/19(日) 20:58:12.34 ID:LQd6uuhx0
~舞台裏 控え室~

スタッフ「それじゃあ、あと15分ほどで開演になりますので」

楓「分かりました」



ガヤガヤ…  ザワザワ…


楓「……?」

スタッフ「……向こうが騒がしいですね。ちょっと様子を見てきます」

楓「はい」



ドタドタ…!


楓「……まぁっ」


樹里「か、楓さんっ!」ザッ

225: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2023/02/19(日) 20:59:41.47 ID:LQd6uuhx0
樹里(うわっ、ステージ衣装……)

樹里(改めて見ると……すっげぇ美人、だな)


楓「樹里ちゃん。その、肩車している子供は、一体……?」

樹里「いや、その……迷子になっちまったみたいで…」

子供「わーい」キャッキャ

樹里「だぁーもう、暴れんなって!」

楓「ふふっ。迷子にしては、楽しそうですね」ニコッ

樹里「何も楽しいことなんか……!」


樹里「そ、そうだ! ウチのプロデューサー、どこに行ったか知りませんか!?」

楓「? ……そう言えば、先ほどから姿が見えませんね」

樹里「はあぁ!? アイツ、肝心な時にどこ行ってんだよ!」

樹里「……まぁ急に飛び出しちまったアタシもアタシだけどよ」

226: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2023/02/19(日) 21:01:00.32 ID:LQd6uuhx0
子供「おねーちゃん、もっとー」ワタワタ

樹里「うおっ、とと……!」

樹里「ったく、こっちが気ぃ利かせてママを探してやってんのに、暢気なもんだぜ。
   すっかり泣き止んじまって」

楓「ママ、ですか……」

樹里「ずっとその辺を探し回っているんですけど、全然見つからなくて」

樹里「中は粗方回ってきたから、ひょっとすると会場の外か?
   そうなったら、もうキリが無くなってくるぜ……!」


楓「……樹里ちゃん」

樹里「え? はい」


楓「私に、ちょこっと良い考えがあります」

227: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2023/02/19(日) 21:02:42.88 ID:LQd6uuhx0
~会場外~

テクテク…

未央「ねぇーしぶりーん、やっぱ止めといた方が良いって」

凛「何が」

未央「いくらジュリアンの様子が気になるったって……」

卯月「私達が見に来ている所を樹里ちゃんに見つかったら、
   346プロとの繋がりとか、疑われちゃうんじゃあ……!」ハラハラ


凛「私達はどこかの小さな事務所の、ただのアイドル候補生」

凛「それで、たまたま346プロのトップアイドル、高垣楓さんのミニライブの情報を聞きつけて……
  その……敵情視察? っていうのに来ただけだから」

未央「その“たまたま聞きつけて”っての、ちょっと無理ない?」

凛「と、とにかく! 今日の私達は樹里じゃなくて、楓さんを見に来たってこと」

卯月「チケットを持ってなくて、関係者でも無いはずの私達が、
   楓さんを見れるわけでもないような気が……」

228: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2023/02/19(日) 21:04:07.73 ID:LQd6uuhx0
凛「……ふーん。未央も卯月も、そうやって私にイジワル言うんだ」

未央「うわわっ!? ち、違うってしぶりん!」アタフタ

卯月「私達は、ちょっと色々と、心配と言いますか……ねっ、未央ちゃん!?」アセアセ

凛「もう……」ハァ…

凛「でも、確かに、楓さんと樹里を堂々と見れるシーンが、そう都合良く……」


凛「……?」ピタッ

未央「ん?」
卯月「あれ……?」


ザワザワ…!  オオォォ…!



楓「お騒がせしております。高垣楓と、その迷子のお客さんでーす♪」テクテク

樹里「み、道を空けてくださーい! 押さないでー!」

子供「わーい♪」キャッキャ



凛・未央・卯月「いるー!!?」ガビーン!

229: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2023/02/19(日) 21:05:44.94 ID:LQd6uuhx0
楓「樹里ちゃんの言う通りでーす♪」

楓「お騒がせしている当事者が言うのもなんですが、
  どうか沿道の皆様、交通の邪魔にならないよう」

楓「おさない、かけない、しゃべらないの“お・か・し”を守ってくださいねー♪」

通行人「しゃべらなかったら迷子探せなくないですかー!?」

楓「あ、それもそうですね。じゃあ、おしゃべりはオッケーでーす♪」

アハハハハ…!



未央「か、楓さんが……メガホン持って歩いてる」

卯月「しかもアレ……ステージ衣装、でしょうか? 綺麗……」

卯月「でも、すごく楽しそうですっ」

未央「これは遠巻きに見に行くしかないっしょ! ねぇしぶりん!?」

凛「さっきと言ってること違くない?」


凛(しかも、樹里も一緒……肩に乗っているのは、子供?)

230: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2023/02/19(日) 21:06:59.18 ID:LQd6uuhx0
ガヤガヤ…!

樹里「か、楓さん、やっぱマズいですってこういうの!」

樹里「うわっ、すっげぇ人集まってきてる……!」

楓「えぇ。プロデューサーがいなくて、良かったかも知れません」

樹里「えっ?」


楓「いたらたぶん、止められちゃうでしょうから」クスッ

樹里「い、いやいやいや! じゃあ止めましょうって!」

楓「ユウちゃん」チラッ

子供「なーにー?」

楓「ユウちゃんは今、楽しいですか?」

子供「うんっ! おねえちゃん、あそんでくれてたのしいー!」ワタワタ

樹里「暴れんなっつーの!」

楓「そう。それは良かったです」ニコッ

樹里「だから良くないって!!」プンスコ!

231: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2023/02/19(日) 21:08:02.90 ID:LQd6uuhx0
タタタ…!


楓「……あら?」



母親「ゆ、ユウちゃん……!」


子供「あ、ママー!」フリフリ

樹里「おぁ!? 見つかったのか!?」


母親「ユウちゃんっ!」

子供「ママー!」ジタバタ

樹里「おーよしよし、今降ろしてやっから」スッ


母親「ああユウちゃんっ! ごめんね、怖かったよね……!」ギュゥッ

子供「ううん、すっごくたのしかったー!」

母親「えっ?」

232: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2023/02/19(日) 21:09:24.50 ID:LQd6uuhx0
子供「あのおねえちゃんが、ずっといっしょにあそんでくれたの!」


樹里「……? あ、アタシ!?」ドキッ

子供「かたぐるまして、たかいたかいして、あそんでくれたの!」

樹里「いやいや! アタシは遊びでやってた訳じゃ…!」

母親「あぁ! あの、本当に……本当にありがとうございます!
   ご迷惑をお掛けして、なんとお礼を言ったらいいのか……!」ペコペコ

樹里「や、やめてください!
   アタシはただ、その子をなんつーか、えーっと……!」

楓「ふふふっ♪」ニコニコ


「迷子だったのか」「あの金髪の子が探してあげてたんだって」「へぇー」

パチパチパチ…!

233: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2023/02/19(日) 21:10:57.71 ID:LQd6uuhx0
卯月「……樹里ちゃんが、迷子になった子のお母さんを、探し回っていたんですね」

未央「ファンの人達や、通行人の人達も……なんだか皆、楽しそう」

卯月「はいっ。とっても素敵な笑顔です」

凛「…………」



子供「あそんでー」クイクイ

樹里「だぁー、やめろ! ほら、用が済んだならママんとこ行けって」

楓「……あら、もう開演の時間ですね。ただ、この靴だと急いで走るのが……」

楓「樹里ちゃん、私も会場まで抱っこしてくれませんか?」

樹里「さっきから無茶しか言わねぇなアンタ!?」

楓「女はいつでもダダッコ、なんて、ふふふっ♪」ニコニコ

樹里「あーもう、疲れる!!」ワシャワシャ!



凛「……ふふ、楽しそう」ニコッ

咲耶「ああ、まったくだ」フッ


凛「……!?」ビクッ

234: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2023/02/19(日) 21:12:29.13 ID:LQd6uuhx0
咲耶「おっと、すまない。驚かせてしまったかな?」

凛「……あなたは」


未央「あ、この人! 確か283プロの……!」

卯月「ホームページで……白瀬咲耶さん、ですか?」

咲耶「おや? 光栄だ、私を知ってくれていたとはね」

凛「……ここで何をしているんですか?」

咲耶「何てことはないさ、ただの通りすがりだよ」


咲耶「君達の方こそ、彼女達に何か用が?」

凛「! それは、その……」


卯月「わ、私達はっ!
   えーっと、どこかの小さな事務所の、ただのアイドル候補生でして……!」アセアセ

未央「たまたま! その、346プロのトップアイドル、高垣楓さんのミニライブの情報を、き、聞きつけて……!
   何だっけ、そう、敵情視察! 敵情視察をしに来たっていうか!」アタフタ

未央「でいいんだよね、しぶりん!?」

凛「言い方以外はね」ハァ…

235: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2023/02/19(日) 21:13:35.40 ID:LQd6uuhx0
咲耶「何も取り繕う必要はないさ、渋谷凛」

凛「!」

咲耶「君達のことも知っている。346プロの、本田未央、島村卯月」

咲耶「961プロの西城樹里が、気になっているのだろう?」

卯月「ど、どうしてそれを……」

咲耶「かくいう私も、同じだからね。樹里のことが、気になって仕方がないんだ」

凛「……楓さんではなくて、樹里を?」


咲耶「ミニライブの様子を見たいのなら、考えがある。
   私についてきてくれないかい?」

236: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2023/02/19(日) 21:14:53.30 ID:LQd6uuhx0
~路地裏~


ドサッ…!

黒服B「うっ……う……」ピクピク


武内P「先に仕掛けてきたのは、あなた達の方です」

黒服A「…………ぐ」


武内P「答えていただきます」

武内P「誰の依頼を受けて、あなた方が私を襲いに来たのか……
    西城さんに干渉しようとしているのかを」


黒服A「…………」

黒服A「……言うと、思うのか?」ニヤッ


武内P「いいえ」

武内P「裏の人間になど、何も期待はしていません」スゥ…


ドスッ…!

237: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2023/02/19(日) 21:16:23.18 ID:LQd6uuhx0
~ミニライブ会場~

ガヤガヤ…


楓「少し、遅れちゃいましたね」

樹里「ったく……いくらなんでも、無茶苦茶ですよ」

楓「でも、あの子のお母さんは、見つかりました」


楓「ありがとうございます、樹里ちゃん」

樹里「へ?」


楓「ここは、私がアイドルになって、初めて立ったステージなんです」

樹里「……!」


楓「きっとあの子も、樹里ちゃんに見つけてもらうまで、心細くて、不安だったと思います」

楓「あのままだと、きっとこの会場が……
  あの子にとって暗く、悲しい思い出になってしまっていたでしょう」

楓「私にとっての、大切な場所が……ね」

238: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2023/02/19(日) 21:18:13.12 ID:LQd6uuhx0
樹里「楓さん……」

楓「あの子は、楽しかったと言っていました」

楓「樹里ちゃんが一緒についてくれて、遊んであげたことで……
  あの子にとってもまた、この会場が素敵な場所となった」

楓「その事が、私はとても嬉しいんです」


楓「毎年行っているこのミニライブは、私がファンの方々へ送る、恩返しの場」

楓「でも、今日はもう一つ、お返しをさせてください、樹里ちゃん。
  お席を一つ、ご用意しました」

樹里「……あ、アタシに、ですか?」

楓「はい」ニコッ


楓「樹里ちゃんのおかげで、今日はより一層、心を込めて歌えそうです」

239: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2023/02/19(日) 21:19:26.73 ID:LQd6uuhx0
ワアアァァァァァァ!!!


楓「~~~~♪ ~~~~~♪」

楓「~~~~~♪ ~~~~~~♪」



樹里「……すっげぇ」


樹里「…………」



 ――今日は、開演が少しだけ遅くなってしまい、すみません。

 ――ご存知の方も、おられるかも知れませんが……
    このミニライブが始まる前、とても素敵なことがありました。

 ――小さい子供の、綺麗な思い出を守ってくれた、私の友人へ。

 ――そしてもちろん、今日来てくれたファンの皆様にも、
    心ばかりの感謝を届けたいと思います。

 ――楽しんでいってください。

240: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2023/02/19(日) 21:20:24.07 ID:LQd6uuhx0
樹里「感謝、か……」


ワアアアアァァァァァァ!!! パチパチパチパチ…!!


楓「ありがとうございました」ペコリ

ファン「ありがとー!!」「最高だったよー!」「楓さーん!!」

楓「ふふ、ありがとうございます」フリフリ

ワアアアァァァァァ…!!



樹里「……」パチパチ


武内P「いかがだったでしょうか」ヌッ

樹里「おわっ!?」ビクッ

武内P「高垣さんのステージは」

241: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2023/02/19(日) 21:22:08.89 ID:LQd6uuhx0
樹里「……アタシ、アイドルって、もっとアイドルだけが頑張るもんだと思ってた」

樹里「いや、頑張るってのはちげーな。何つーか……
   アイドルがお客さんを引っ張って、一方通行で盛り上げたり、楽しませるもんだって」

武内P「…………」


樹里「でも……楓さんのステージは、違う気がした」

樹里「そりゃあ、歌はすげー上手いし、圧巻って言うしかねーんだけど……」


樹里「ファンの人達も、このステージを一緒に良くしていこうって……
   盛り上げていこうって気持ちが伝わってきて」

樹里「楓さんも、独りよがりなんかじゃなくて、
   ずっとファンに寄り添って、思いやってるっていうか……」

樹里「ファンがいてこそのアイドルなんだな……
   お互いがお互いを、尊重し合ってる、って感じがした」


武内P「……はい」ニコッ


樹里「で、アンタは今までどこほっつき歩いてたんだよ」

武内P「申し訳ございません。少々、別件が入ってしまいまして」

242: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2023/02/19(日) 21:23:24.93 ID:LQd6uuhx0
樹里「ったく……おかげでこっちは大変だったんだからな?」

武内P「大変失礼致しました」ペコリ



パチパチパチ…!

凛「……凄かったね」

咲耶「まるで、遙か青空の彼方に誘われていたかのような、清らかで美しい歌声だ」

咲耶「歌姫の名に恥じない、素晴らしいステージだったね」

未央「うええぇぇぇ……楓さん、最高だったよぉ……!」ボロボロ

卯月「凄すぎますぅ! 歌上手すぎてぇ……!」パチパチパチ

咲耶「おやおや。
   フフッ、そんなに賑やかにしていたら、変装がバレてしまうよ」


凛「関係者を装って、会場に潜り込むなんて……」

咲耶「ちゃんと業界用のスタッフ証は持っていた。
   こういう時のために、社長からある程度の数を預かっていて良かったよ」

凛「でも!」

243: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2023/02/19(日) 21:25:38.98 ID:LQd6uuhx0
咲耶「褒められた行いではないのは、理解しているさ」

咲耶「それに、こう言ってはなんだが……
   凛達も、正規の手段でこの観客席へ入ることが難しい身だったんじゃないか、ってね」

凛「…………」


咲耶「樹里を見守るという志を同じくする者同士、この出会いを得難きものにしたい。
   良かったら、もう少し話をしていかないかい?」

咲耶「私に対し、不信感を抱いているとすれば、その払拭もしたいからね」

未央「ふ、不信感だなんて、そんな……」

凛「そうだね」


凛「何で樹里を気にしているのか、聞かせてよ」

咲耶「ありがとう。凛はとても真っ直ぐで美しいね」

咲耶「もちろん、私も腹を割って話させてもらうよ。
   そうでなければ、凛達に失礼だ」

凛「お互い、小細工は無しってことでいい?」

咲耶「生憎、策を弄するほどの余裕は無くてね」フッ

244: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2023/02/19(日) 21:27:21.28 ID:LQd6uuhx0
ガヤガヤ…

武内P「本日は、お疲れ様でした」ペコリ

楓「こちらこそ、とても良いステージができて、嬉しく思います」

武内P「恐れ入ります。それでは、私共はここで失礼致します」

楓「はい」


樹里「あ、あの……」

楓「樹里ちゃん、どうかしましたか?」


樹里「楓さん、その……ありがとうございました」ペコリ

樹里「アイドルが何なのかを教わったっつーか……
   ファンと一緒に楽しむ事の大切さ、みたいなモンを、今日のステージで感じました」

樹里「それと……346プロにも、こういう人がいるんだな、って」


楓「ふふ、ありがとうございます」

楓「またいつか、一緒にお仕事しましょうね」ニコッ

樹里「……はいっ」

245: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2023/02/19(日) 21:28:09.75 ID:LQd6uuhx0
テクテク…

樹里「なぁ、プロデューサー」

武内P「はい」

樹里「裏方とはいえ、あんな人と一緒の仕事なんて、よくセッティングできたな」

武内P「……」

樹里「ひょっとしてアンタ、業界ん中じゃすげぇプロデューサーなのか?」


武内P「スタッフの募集というのは、アルバイト等と同様に、相応に門戸が開かれています」

武内P「業界のツテを使って、若干名の枠を確保するのは、そう難しい事ではありません」

246: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2023/02/19(日) 21:29:23.18 ID:LQd6uuhx0
樹里「ふーん、そういうモンか。まぁいいけどよ」


樹里「夏葉と対決するフェス……『サマードルフィン』とか言ったっけか。
   開催まで、2週間切ってるな」

樹里「アタシは勝つぜ、プロデューサー」

武内P「はい」

樹里「だけど……」

武内P「?」


樹里「あのさ……プロデューサー、アタシに笑顔でいろって、言ったよな?」

樹里「今のアタシに、笑顔になんてなれんのかな……」

武内P「…………」

樹里「楓さんみたいに、あんな……誰もが笑顔になれるステージ、出来んのかな」

247: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2023/02/19(日) 21:31:00.71 ID:LQd6uuhx0
樹里「そりゃ、あんなハイレベルなステージを最初から目指すのは、身の程知らずだけどよ」

樹里「何か、自信なくしたっつーか……
   笑顔って、思ってたより難しいのかも知んねぇ、って、尻込みしちまうっていうか……」

樹里「心から笑えるような、そういうの……こんな薄っぺらなアタシに、届けられんのかな……?」


武内P「……」

樹里「あ、おい、今笑っただろ! ひょっとして馬鹿にしてんな!?」

武内P「え? い、いえ! そんな事は……!」


武内P「ですが、西城さん」

武内P「その難しさに気づけただけでも、大きな一歩であると、私は考えます」

樹里「……だと良いけどな」

248: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2023/02/19(日) 21:32:06.00 ID:LQd6uuhx0
樹里「まぁ……今度のフェスではさ」

樹里「あまり、夏葉に仕返しをしてやろう、みたいなスタンスで望まねぇ方が良さそうだな」

武内P「はい」

武内P「共に頑張りましょう、西城さん」

樹里「うん」


樹里「……あれ?」ピタッ

武内P「? どうされましたか?」


樹里「あ、いや」

樹里「ちょっと……見覚えのある人影が見えた気がしてさ」

武内P「……そうですか」


樹里(凛達……それと咲耶、が一緒に歩いてるワケねーもんな)

249: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2023/02/19(日) 21:33:55.55 ID:LQd6uuhx0
~283プロ 事務所~

夏葉「…………」スイッ


シャニP「なんだか、珍しい光景だな」

夏葉「プロデューサー……何が?」

シャニP「レッスンにも行かずに、夏葉が熱心にスマホと睨めっこをしている姿が、さ。
     よほど面白いものでもあったのか?」


夏葉「ふふ、ご明察よ」

夏葉「これを見てもらえるかしら」スッ

シャニP「?」


シャニP「346プロの、高垣楓……彼女のライブイベントの様子か」

夏葉「そう。咲耶がチェインで教えてくれたのよ」

夏葉「咲耶だけじゃないわ、ファンの人達の間でもSNS上で大騒ぎよ。
   たぶん本番前なのでしょうけど、高垣楓本人が突然路上に出て、会場周辺を歩き回っているって」

シャニP「しかもステージ衣装を着て、か……随分と派手な振る舞いをするんだな」

250: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2023/02/19(日) 21:36:17.44 ID:LQd6uuhx0
夏葉「えぇ、本当に」

夏葉「でも、私が注目しているのは、高垣楓の方ではないの」スッ


シャニP「……この、子供を肩車している金髪の子」

シャニP「今度の『サマードルフィン』で夏葉がライバルと目しているという、あの子か。
     961プロの、西城樹里」

夏葉「見所があるでしょう?」

シャニP「ステージ上での姿を見れていないから、何とも言えないが……」

シャニP「確かに、他の子とは違う不思議な風格を感じる。
     賑やかに振る舞っているように見えるが……まるで、孤高の狼のような」

夏葉「孤高?」

シャニP「いや、勘違いだったらすまない。しかし……」

シャニP「961プロの西城樹里が、どうして346プロのトップアイドルと一緒にいるんだ?」

251: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2023/02/19(日) 21:37:04.87 ID:LQd6uuhx0
夏葉「そう。そこなのよ」

夏葉「あの子の周りでは、いつもこうして不思議な事が起きている」

夏葉「きっと今度のフェスでも、新たな発見があるって思わない?」

シャニP「夏葉や咲耶の興味が尽きない理由が、分かった気がするよ」

シャニP「俺も業界関係者として、961と346の繋がりは無視できない。
     機会を見つけて、俺も少し調べてみよう」

夏葉「ありがとう。損はさせないと思うわ」

シャニP「ああ」

252: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2023/02/19(日) 21:38:47.05 ID:LQd6uuhx0
~ファミレス~

卯月「紅茶、お好きなんですか?」

咲耶「事務所の仲間が、よく嗜んでいてね」

咲耶「早速だけど、本題に入ろうか」


凛「そうだね」

凛「まず、咲耶のことを教えて」

咲耶「おや。樹里ではなく、私に興味を持ってくれるとは、嬉しいな」

凛「そうやって人をからかうの、止めてもらえる?」

咲耶「からかってなどいないさ。だが……そうだね」


咲耶「確かに、まずは私に邪な意図が無いことを理解してもらった方が良さそうだ」

咲耶「改めて自己紹介をしよう。
   白瀬咲耶。まだ駆け出しではあるけれど、283プロでアイドルをしている」

253: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2023/02/19(日) 21:41:13.97 ID:LQd6uuhx0
咲耶「アイドルになったきっかけは、スカウトだった。
   モデルの仕事をしていた時に、今のプロデューサーから声を掛けられてね」

未央「どうりでスタイル抜群なワケだよねぇ」ウンウン

卯月「モデルさんのお仕事姿も、見てみたいです」

咲耶「フフ、ありがとう」


咲耶「ただ私は、誰かを喜ばせる仕事がしたいと、常々思っていた」

咲耶「そのためにはモデルではなく、アイドルの方が適しているのではと思ってね」


凛「ふーん……咲耶にとって、アイドルは手段、ってこと?」

未央「ちょ、ちょっとしぶりん、言い方!」


咲耶「当初は、そのように考えていたのかも知れない。
   だが、今は違うよ」

咲耶「素敵な仲間達とプロデューサーに恵まれているおかげで、
   今はただ、アイドルという仕事が、楽しくて仕方がないんだ」

凛「…………」


咲耶「だからこそ、樹里のことが気になっている、とも言えるね」

254: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2023/02/19(日) 21:42:55.91 ID:LQd6uuhx0
凛「え……?」

卯月「ど、どうして樹里ちゃんが気になるんですか?」


咲耶「危うい感情を感じ取ったからさ」

咲耶「憎しみというのは、アイドルには最も似つかわしくない感情だろう?」

凛「憎しみ……」


咲耶「繰り返しになるが、私はアイドルという仕事に出会えて良かった。
   仲間達との得難い絆の数々は、誇りと言っていい」

咲耶「だから、それを心から楽しめていないアイドルの存在が、どうしても気になるんだ」

咲耶「樹里のことを、頭ごなしに否定する気は毛頭無い。
   だけど……その背景や考えをより深く知り、必要とあらば、余計なお節介をしたいのさ」

咲耶「私が樹里に近づく動機は、ただそれだけだよ」

255: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2023/02/19(日) 21:44:31.01 ID:LQd6uuhx0
未央「な、なんかさくやんってさ……」

咲耶「さくやん?」キョトン

未央「どんなにキザな事を言っても、ぜーんぶサマになっちゃうね」

卯月「はい……何だか、とてもカッコいいです」ポー…

咲耶「フフッ、褒め言葉と受け取っておくよ。
   卯月のような可憐な乙女を喜ばせることが出来たなら、お安い御用さ」バチコーン☆

卯月「う、うええぇぇぇぇっ!?」ドッキーン!

凛「卯月、顔赤くしすぎだから」


凛「なるほどね……樹里に抱いている気持ちについて、たぶん嘘が無いのは分かったよ」

咲耶「ありがとう」


凛「ただ、言葉足らずだよね」

凛「どんな経緯で樹里のことを知ったのか。
  どうして樹里が何かを憎んでるって、知っているのか」

凛「肝心な所を、まだ教えてもらってない」

256: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2023/02/19(日) 21:45:46.69 ID:LQd6uuhx0
咲耶「凛は鋭いね」フッ

咲耶「もちろん、隠す気なんて無い。お答えしよう」


咲耶「凛達は、有栖川夏葉というアイドルを?」

未央「あっ、283プロの! さくやんと同じ事務所の人だよね」

咲耶「知っていたか。夏葉もきっと喜ぶよ」

卯月「有栖川夏葉さんが、どうかしたんですか?」


咲耶「彼女は実は、先日行われていた、
   346プロのアイドル候補生を決めるオーディションに参加していたんだ」


凛「……!」ピクッ

未央「! えっ……!?」

卯月「それって、つまり……本当は夏葉さんは、346プロに入りたかったってことですか!?」

257: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2023/02/19(日) 21:46:58.08 ID:LQd6uuhx0
咲耶「そうなるね」

咲耶「しかも夏葉は、そのオーディションに合格していた」

咲耶「なのに、346プロには入らなかった……その意味が分かるだろうか?」


未央「え、えっ……何で受かったのに?」

卯月「……ひょっとして、合格を辞退した、ですか? どうして……」


咲耶「皆を前にして、346プロの悪口を言うつもりは無いのだが……」

咲耶「かのオーディションでは、審査員側で不可解な判定があったらしい。
   夏葉の言うことには、だけどね」


未央「えっ!?」

卯月「ど、どういう事ですか……!?」

凛「…………」

258: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2023/02/19(日) 21:48:50.96 ID:LQd6uuhx0
咲耶「夏葉は致命的なミスをした。
   本来であれば、並み居る出場者を押さえてまで受かるはずが無いほどのミスだ」

咲耶「しかも、彼女の後に実演した子は、
   会場内の誰もが満場一致で合格を確信するほどの出来映えだったという」

咲耶「夏葉もまた、彼女の合格を信じて疑わなかった」


卯月「……なのに夏葉さんが、合格になって……」


咲耶「あれほど憤った夏葉を見たのは、後にも先にも、その様子を語った時だけだ」

咲耶「誇り高い分、ひどく心を傷つけられたのだろうね」

咲耶「もちろん、かの判定により、それまでの努力を反故にされた、その出場者も」

咲耶「そして……その子の周囲の人間も」

未央「……それがジュリアンと何か関係しているの?」


咲耶「私が夏葉からその話を聞いたのは、つい先日の事だ」

咲耶「それよりも少し前……とある日、私は283プロの社長に呼び出された」

259: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2023/02/19(日) 21:51:29.18 ID:LQd6uuhx0
凛「社長から?」

咲耶「天井努という人だ。私達をよく気に掛けてくれる、面倒見の良い人でね」

咲耶「西城樹里について知ったのは、彼の話がきっかけだった」

凛「! ……」


咲耶「樹里は、346のオーディションで不条理に落とされた子の友人として、
   付き添いに来ていたらしい」

咲耶「だから樹里は、346プロを憎んでいる。
   引いては、アイドルそのものをも憎んでいるのかも知れない」


未央「だからプロデューサーは、346プロである事を隠せ、って……」


咲耶「そんな彼女を、天井社長は守ってほしいと私に言った」

卯月「守る……な、何から、ですか?」



咲耶「その前に、君達が樹里を気に掛ける理由を教えてもらえるだろうか」

咲耶「ここから先は、生半可な覚悟しか持たない者に話す事はできない」

咲耶「知ってしまったが最後、君達をも危険に晒す事になりかねないからだ」

260: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2023/02/19(日) 21:52:57.36 ID:LQd6uuhx0
未央「ちょ、ちょっと……何だかすごく物騒というか、おっきな話になってきてない?」

咲耶「ああ。どうやら樹里を中心に、この業界は大きなうねりを見せている。
   おそらくは、私達が考えている以上にね」

卯月「そ、そんな……わ、私達はただ、樹里ちゃんと……!」

凛「いいよ」

卯月「え……」


凛「私達の事もちゃんと話さなきゃ、フェアじゃないよね。
  それに、今さら樹里を放っておくことなんてできない」

凛「上辺の話だけ中途半端に聞かされて、引き下がれっていうのも無理な話でしょ?」

咲耶「……」フッ


凛「そんな大それた事じゃないよ。私達が樹里を気に掛ける理由」

凛「友達でいたいから」

咲耶「友達?」

261: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2023/02/19(日) 21:54:10.41 ID:LQd6uuhx0
凛「初めて……いや、正確には初めてではなかったけど……」

凛「公園で自主練している樹里を見た時、放ってはおけなかった」

凛「何でかは分からないけど、他人とは思えなくて……」


凛「それに……プロデューサー」

凛「私達のプロデューサーが、すごく面倒で、余計なリスクを抱えてまで、
  あの子の事、気に掛けているんだ」

凛「だったら余計、放っておけないよ」

咲耶「君達のプロデューサーが……」


卯月「詳しい事情は、まだ全然聞けてないんです。だけど……
   あのプロデューサーさんがそうまでするなら、私も協力したいなって」

未央「そうそう。せっかく他所の事務所に出来た最初のアイドル友達だもん!
   お互いもっと楽しくやれた方が、絶対いいでしょ?」

262: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2023/02/19(日) 21:55:42.32 ID:LQd6uuhx0
凛「私が……私達が信じるプロデューサーが、放っておかない人がいる」

凛「余計なお節介を焼きたいのは、咲耶だけじゃないってこと」

咲耶「…………」

凛「そんな私達の覚悟は……生半可、ってことになるのかな」


咲耶「……いや。すまない」

咲耶「どうやら私は、凛達をみくびっていたようだね」ニコッ

凛「! それじゃあ……」


咲耶「だが、やはり話すことはできない」


卯月「えっ!?」

未央「何でさ!? そういう流れだったじゃん!」


咲耶「卯月。君はさっき、詳しい事情をプロデューサーから聞かされていないと言ったね」

咲耶「それならまず、君達のプロデューサーときちんと話をするべきだ。
   立場上の第三者である私から、より深い情報を引き出すのは、健全ではないと思うよ」

263: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2023/02/19(日) 21:57:20.83 ID:LQd6uuhx0
未央「ぐぬぬ……!」

卯月「う、う~ん……」

凛「……悔しいけど、それはそうだね」

咲耶「分かってもらえたようで、何よりだ」


咲耶「さて……そうなると、私から話せることも、これでおしまいという事になる。
   ご満足いただけたかな?」


凛「……満足はしてない、けど」

凛「咲耶がどんな人なのか分かった。今日話せて良かったかな」

咲耶「ありがとう。私も、凛達と親交を深めることができて、嬉しく思うよ」ニコッ

凛「ちょっとキザすぎるのが、たまにキズだけどね」クスッ

咲耶「ハハハ、きっと性分なのさ。どうか大目に見てほしい」

凛「卯月もずっと、目がハートマークだったし」

卯月「ええぇぇっ!? そ、そんな事ありま……本当ですか!?」

未央「否定しきれてないのが何ともだねー」ウリウリ

咲耶「フフッ」ニコッ

264: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2023/02/19(日) 21:58:54.84 ID:LQd6uuhx0
咲耶「では、また会おう」クルッ

コツコツ…



卯月「た、立ち去り方もカッコいい……」

未央「見るからに芸能人ですよーって歩き方……あ、道行く人も皆振り返ってる」


凛「……未央、卯月、ごめん」

未央「へ? 何が?」

凛「実は、知ってたんだ、私……346のオーディションで、起こったこと。
  それと、樹里が346プロを憎んでるってことも」

凛「プロデューサーから、この間聞いてたんだけど……私も、信じられなくて……」


卯月「ううん、凛ちゃん」フルフル

卯月「凛ちゃんも私達を思っての事ですし、こうして皆で一緒になれたじゃないですか」

未央「うんうん!
   デッカい問題だけど、まずはそれを知れただけでオッケーだよしぶりん!」

凛「……ありがとう」コクッ

265: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2023/02/19(日) 22:00:08.25 ID:LQd6uuhx0
凛「咲耶も言った通り、やっぱりプロデューサーと、ちゃんと話さなきゃ」

凛「ただ、プロデューサーは、全部を抱え込もうとしている。
  たぶん、樹里に対しても」

卯月「タイミングは、慎重に見計らった方が良いかも知れませんね」

未央「思った以上に混み入った話みたいだからねぇ……」


未央「でも、深入りしないワケにもいかないっしょ。ねぇしぶりん?」

凛「……うん」

卯月「えへへ、また咲耶さんとお話できるのが楽しみです」

凛「卯月が言うと、別の意味に聞こえるんだけど」

卯月「え、うええぇぇっ!? ち、ちが……ぇぅ……!?」アタフタ

未央「そうして墓穴を掘るしまむーなのであった」

266: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2023/02/19(日) 22:00:56.08 ID:LQd6uuhx0
~某所~


「……そうか」

「そこまで彼女達に伝わった、ということだね」


「いや……いずれ分かることだ。ありがとう」

「私達が案ずるべきは、順序とタイミングだ」

「これから起こり得ることのね」



「千川君」

「君に頼みたい事がある」

267: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2023/02/19(日) 22:12:42.19 ID:LQd6uuhx0
~『サマードルフィン』当日~


プルルルルル…



プルルルルル…



『現在、電話に出ることができません』

『ピーッという発信音の後に、お名前とメッセージを、録音してください』

 ピーッ


『……あ、もしもし、チョコ? ……アタシ。樹里だけど……』

『今度アタシ、フェスに出るって、メールしたよな?』

『サマードルフィンとかいう、夏葉と対決するっていう、そのフェスなんだけどさ……』

268: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2023/02/19(日) 22:14:08.31 ID:LQd6uuhx0
『特別にさ、ネット配信、っつーのか? ……されるんだってよ。
 よくわかんねーけど、そういう、専用のリンクから見れるようになってるらしいんだ』

『IDと、パスワード?
 それと……アタシが出る大体の予定の時間、メールしといたからさ、その……』

『チョコにも、見てもらいたいんだ……それだけ』

『敵討ち、ってモンでもねーけど、その……夏葉には、勝とうと思ってる……ていうか、勝つ』

『……ごめんな、突然電話しちまって……それじゃあ』


 プッ



智代子「…………」

智代子「樹里ちゃん……」グスッ

269: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2023/02/19(日) 22:14:45.58 ID:LQd6uuhx0
樹里「…………」ピッ


樹里「……よし」


武内P「そろそろ向かいましょう。ご準備の方は、よろしいでしょうか」

樹里「アンタこそ、植木の水やりやったのか?」

武内P「エナドリも、既に」スッ

樹里「あっ、そ」

270: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2023/02/19(日) 22:15:58.35 ID:LQd6uuhx0
~フェス会場~

ガヤガヤ…! ザワザワ…!


樹里「お、いたいた。おーい」フリフリ

武内P「……」


未央「ジュリアーン!」フリフリ

凛「意外と落ち着いてるね」

樹里「今さらジタバタしたってしょうがねぇだろ」

凛「言えてる」フッ


卯月「あ、あわわわ……!」

樹里「逆に何で卯月が緊張してんだよ」

卯月「い、いええぇ、その! ええっと……!」アセアセ


卯月「こ、こちらの方が……樹里ちゃんの、ぷ、プロデューサーサン、ですよね?」

271: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2023/02/19(日) 22:17:36.93 ID:LQd6uuhx0
武内P「はい」

武内P「西城の担当をしております、“961プロの”プロデューサーです」スッ

卯月「はひっ!? ど、どうも……」

未央「あーこれは、ご丁寧に名刺をどうも。ほほー、“961プロ”ねぇ」ウンウン

樹里「そっか……こんな強面のデカブツが来たんじゃ、卯月がビビるのも無理ねーよな」

卯月「え、えへへ……!」


凛「……」チラッ


武内P「……」コクッ


樹里「ところで……夏葉、見なかったか?」

卯月「えっ?」

樹里「あぁ、そっか悪ぃ。そもそも夏葉の顔を知らね…」


夏葉「来たわね、樹里!」バァーン!

未央「うわぁっ!?」ビクッ

樹里「相変わらずいちいちうるせぇな」

272: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2023/02/19(日) 22:19:53.79 ID:LQd6uuhx0
夏葉「今日のために、我ながら熾烈な特訓を重ねてきたわ。
   私の方から啖呵を切った手前、お粗末な姿を見せるわけにはいかないもの」

夏葉「無論、あなたもそうでしょう?
   互いにその成果を存分に発揮して、最高のステージとしましょう、樹里」

夏葉「もちろん、その上で私が勝つわよ!」ビシィ!


樹里「……」ポリポリ

夏葉「? どうしたの樹里、ひょっとして体調不良かしら?」

樹里「何でもねーよ」


樹里(なんか……あんまり悪い事ができるようなヤツには見えねぇな)

樹里(いちいち憎らしく思うのが、馬鹿馬鹿しくなってくるぜ、ったく)


咲耶「やぁ、樹里」スッ


凛「……!」ピクッ

卯月「あっ! ……さ、咲耶さん」

273: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2023/02/19(日) 22:21:02.82 ID:LQd6uuhx0
樹里「アンタも来てたのか。まぁ、同じ事務所だしな」

咲耶「ああ。悪いけれど、今日の私は夏葉の味方だ」

樹里「何も悪かねぇだろ」


未央(こ、これマズくない!?)

卯月(咲耶さんの口から、私達が346プロだって言われたら……!)ハラハラ


樹里「って、卯月達は咲耶のこと知ってるみてぇだけど、面識あんのか?」

卯月「ひぃぃっ!?」ビクゥ!

樹里「な、何だよ」


咲耶「仕事の縁で、ついこの間知り合ったんだ。
   お互い、駆け出しのアイドルと言うことで、親交を深め合っていこうってね」

274: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2023/02/19(日) 22:22:47.81 ID:LQd6uuhx0
樹里「アンタってこう、台詞がいちいちナンパくさいっつーか、キザだよな」

夏葉「咲耶の良い所よ。喜んでくれたなら何よりだわ」

樹里「褒めたつもりはねーんだけど……」ポリポリ


未央(ま……免れた!?)

卯月(咲耶さん、うまくボヤかしてくれた……?)

凛(…………)


タタタ…

シャニP「夏葉、先ほどエントリーを済ませてきた」

夏葉「ありがとう、プロデューサー」

シャニP「とりあえず本番まで……?」チラッ


武内P「……283プロのプロデューサーの方、ですね?」

シャニP「あなたは……」

武内P「私は、こういう者です」スッ

275: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2023/02/19(日) 22:24:00.31 ID:LQd6uuhx0
シャニP「……なるほど、あなたが西城樹里さんの……」

シャニP「申し遅れました。283プロのプロデューサーです。
     本日は、ウチの有栖川がお世話になります」スッ

武内P「こちらこそ。本日は、どうかよろしくお願いします」

シャニP「えぇ。お互い、良いフェスにしましょう」


未央「へえぇぇ、オトナな応対だねぇ」

咲耶「アナタの違った一面を見れて、少し得をした気分だよ」フッ

シャニP「な……咲耶、それはどういう意味だ?」

夏葉「もちろん悪い意味ではないから、心配しなくていいわよ?」ニコッ

シャニP「お手柔らかに頼むよ、そういうのは……」ポリポリ


樹里「……あっちのプロデューサーは、結構フレンドリーな感じなんだな」

武内P「む……し、失礼しました」

樹里「謝んなっつーの」

凛「……」クスッ

276: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2023/02/19(日) 22:25:20.30 ID:LQd6uuhx0
武内P「ところで、有栖川さんは、これから本番までどうされますか?」

夏葉「咲耶よろしく、樹里と親交を……と言いたい所だけど」

夏葉「生憎、私には強敵を前にして気分転換に勤しむほどの余裕は無いわ。
   最終調整は入念に行いたいから、そろそろ失礼しても良いかしら」

樹里「強敵、ね……喜んでいいのか?」

夏葉「あなたさえ良ければね」フッ

樹里「ヘッ! 後で吠え面かくんじゃねーぞ」ニヤッ


咲耶「バックヤードに手頃な場所があった。行こうか、夏葉」

夏葉「ありがとう、咲耶。助かるわ」

夏葉「ではまた、本番で会いましょう」フリフリ

樹里「ああ」

シャニP「それでは、一旦失礼致します」ペコリ

スタスタ…

277: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2023/02/19(日) 22:26:46.02 ID:LQd6uuhx0
樹里「……アタシも、ボサッとしてらんねぇな」

武内P「練習用のスペースなら、あちらに用意しております」

樹里「凛達も来てくれ。出来を見て欲しい」スタスタ

卯月「は、はいっ!」


未央(すっごい気迫……!)

凛(私達の素性なんて、気にされる心配は無さそうだね)



スタスタ…

咲耶「どうだい、プロデューサー? 実際に樹里に会ってみての感想は」

シャニP「ああ、良い目つきをしていたよ。今から本番が楽しみだ」

夏葉「あら、出番を控える担当アイドルが隣にいるのに、浮気性ね?」

シャニP「そ、そういう意味で言ったんじゃないぞ!?」

夏葉「ふふ、冗談よ」ニコッ


シャニP「ただ、西城樹里よりも、あのプロデューサー……」

咲耶「? 彼がどうかしたのかい?」

278: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2023/02/19(日) 22:27:14.42 ID:LQd6uuhx0
シャニP「いや、気のせいかも知れないが……」

シャニP「彼とよく似た人を、346プロで見かけた気がするんだ」

279: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2023/02/19(日) 22:28:07.66 ID:LQd6uuhx0
~フェス本番~

ザワザワ…


武内P「西城さんの出番は、有栖川さんの後になります」

樹里「……ああ、知ってる」


樹里「…………」


武内P「……有栖川さんのステージを、見に行かれますか?」

武内P「ご覧にならず、ご自分のステージに集中するという選択肢もございますが」



樹里「……アンタは、どうしたらいいと思う?」

武内P「えっ?」

280: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2023/02/19(日) 22:30:20.62 ID:LQd6uuhx0
樹里「アイドルとしての成長を考えるんなら……
   見に行って、何でも吸収しに行った方がいいんだろうな」

樹里「でもアタシは、勝てればいい」

樹里「ただ、勝ちさえすれば……それで、当面の目的を果たせるなら……」


樹里「……そう思ってた。だけど」

樹里「本当に、そうなのかな……」

武内P「…………」


樹里「なぁ、プロデューサー……アイドルに、勝ち負けってあんのか?」


武内P「……難しい質問です」

武内P「今回のフェスについて言えば、審査員がおり、
    より多くの得票を得たアイドルが、勝者となります」

武内P「ですが、敗者となったアイドルにもまた、
    このフェスが、新たなファンを生むきっかけとなる事もあるでしょう」

武内P「果たしてそれを、一概に敗北と断じる事ができるでしょうか」

樹里「…………」

281: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2023/02/19(日) 22:31:49.41 ID:LQd6uuhx0
武内P「アイドルとは本来、優劣を競い合う類のものではないと、私は考えます」

武内P「なぜなら、アイドルにとって最も重要なものは、個性であるからです」

樹里「……前にも似たような事言ってたな、アンタ」

武内P「はい。それぞれの個性が放つ事のできる輝きがあり……」

武内P「二つと同じ星が無いのと同じように、それらは決して比べるものではありません」

樹里「……星、か」


武内P「有栖川さんには、有栖川さんの輝きが……」

武内P「そして、西城さんには西城さんだけが持つ輝きがあります」

武内P「どうか、私にそれを見せていただきたい。
    たとえ西城さんにとって、アイドルが目的を果たすための手段に過ぎないとしても」

武内P「あなたの歌とダンスに魅了された方々が抱く感動に、嘘はありません」

282: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2023/02/19(日) 22:32:51.98 ID:LQd6uuhx0
樹里「……要は、アタシの気の持ちよう次第ってことか?」

武内P「少々、乱暴なまとめ方とは存じますが……」ポリポリ

樹里「言うじゃねぇか、でも」

樹里「アンタのそういうトコ、嫌いじゃないぜ」ニヤッ

武内P「西城さん……」


樹里「見ておくよ、夏葉のステージ」スッ

樹里「勝ち負けは別にして、あれだけ大口叩いてたヤツのステージには、興味もあるしな」

武内P「……はい」ニコッ

283: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2023/02/19(日) 22:33:41.59 ID:LQd6uuhx0
~ステージ~

ワアァァァァァァァ!!!

夏葉「~~~! ~~!♪」キュッ! タンッ タタン!

夏葉「~~~~~! ~~~!♪」タッ! タン タンッ!

ワアアアアァァァァァァァァァ!!!!



卯月「うひゃあぁぁ……!」

未央「こ、こんな人がいたなんて聞いてないよぉ……
   ジュリアン大丈夫かなぁ、しぶりん?」

凛「…………」

未央「ちょ、沈黙が一番怖いってしぶりん!」

凛「ご、ごめん。でも……こんなにハイレベルだったとは、思わなくて……」

凛(この人が、346プロのオーディションを……)

284: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2023/02/19(日) 22:34:39.44 ID:LQd6uuhx0
夏葉「皆ありがとう! これからも、この有栖川夏葉をよろしくね!」フリフリ

ワアアアァァァァァァァ!!!! パチパチパチ…!!


未央「終わった……すっごかったなぁ」

卯月「この後に樹里ちゃんの出番なのに……まだ会場がザワついています……!」

凛「…………」



フッ


オオォォォ…!? ザワザワ…!


凛「暗転した……!」

未央「いよいよジュリアンの出番……目一杯盛り上げなくっちゃね!」

卯月「はいっ!」ギュッ!



ワアァァァァァァァ……!!

285: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2023/02/19(日) 22:35:22.47 ID:LQd6uuhx0

 西城樹里 【 1st Call 】



286: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2023/02/19(日) 22:37:13.36 ID:LQd6uuhx0
  私のこといちばんに
  呼んでくれていたのね


ワアアアァァァァァァァ!!!


  選ばれたら一瞬の 期待も裏切らないよ
  さあ 声をあげて
  誇らしいと感じてね きみの名前を冠に
  そう こたえている


未央「ジュリアン……頑張れ……!」

凛「……樹里」

卯月「そう、その調子です……」ハラハラ…!



タン タッ タンッ! タンッ キュッ! タタンッ!

樹里「~~~♪ ~~~~!♪」

タッ タタンッ! タンッ タタン!

樹里「~~~~!♪ ~~~!♪」

287: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2023/02/19(日) 22:39:46.67 ID:LQd6uuhx0
夏葉「…………」

咲耶「なんて鋭い……それでいて、情感溢れるダンスと歌声だろう」

咲耶「息つく暇も無いとはこの事だね。釘付けになってしまう」

シャニP「……なるほど。夏葉が見込んだわけだな」


咲耶「どうだい、夏葉? 好敵手と見定めた樹里のステージは」

夏葉「……そうね」


  もしCenterで燃えつきたら 墜ちてしまうかも
  こわくなるのは同じ
  どれ位許せるのかを 考えてみたの
  きみをもっと許せる きみももっと許せる
  でも私は自分で 自分のこと許せない


樹里「~~~!♪ ~~~~~!♪」

タタンッ タンッ  キュッ! タッ タンッ!


夏葉「不思議ね……とても誇らしい気分よ」フッ

咲耶「夏葉の目に狂いは無かった、ということかな?」

夏葉「あなたにとっても、でしょう? 咲耶」

咲耶「ああ」

288: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2023/02/19(日) 22:40:47.82 ID:LQd6uuhx0
  奈落に沈んで しゃがみこんだ時
  名前呼ぶ声が 突き抜けて聴こえた
  暗闇の中 結ばれていく
  ひと筋の光へと 手をのばした


樹里「~~!♪ ~~~!♪」

樹里(……このまま)タンッ タタンッ

樹里(このまま、最後まで……!)キュッ タタンッ タン!



樹里「……ッ!?」ギクッ



凛「……?」

未央「あ、あれ?」

卯月「今、な、なんだか……」

289: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2023/02/19(日) 22:41:56.77 ID:LQd6uuhx0
樹里「……ッ!」

樹里「~~~~!♪ ~~~!♪」タッ タン! タタン



シャニP「……ほんの一瞬ではあった、が」

夏葉(表情が、曇った……?)


  宿命的に最高を 更新していく
  生まれ変わり続ける
  今一緒にいて欲しいんだ わがままなくらいに
  ちょっとじゃ足りない全然 嫉妬も加味して超然
  セットリストや視線 完全に伝わってる


樹里「~~~!♪ ~~~!♪」タン! タッ タン!

樹里「~~~~~!♪」タタン タッ! ザンッ!



ワアアァァァァァァ!!!!


樹里「はぁ……はぁ……はぁ……!」

樹里「……ありがとうございました!」ペコリ

ワアアアアァァァァァァァ!!!! パチパチパチ…!!

290: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2023/02/19(日) 22:42:56.20 ID:LQd6uuhx0
コツ… コツ…

樹里「…………」コツ…



武内P「西城さん」

樹里「……プロデューサー」


武内P「お疲れ様でした。素晴らしいステージでした」



樹里「……正直に言えよ」

武内P「西城さん……?」


樹里「夏葉に敵うステージじゃなかった、って」

291: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2023/02/19(日) 22:44:06.16 ID:LQd6uuhx0
武内P「……目立ったミスはありませんでした」

武内P「それどころか、これまで行ってきたどのレッスンよりも、良い出来だったと思います」



樹里「気づいてるはずだぜ、アンタには」

樹里「ラスサビに繋ぐ、一番盛り上げるシーンで……一瞬、動き止まってたろ、アタシ」


武内P「……繰り返しになりますが、ミスとカウントすべきほどのものでは…」

樹里「心にもねぇこと言ってんじゃねぇよっ!!」

武内P「!」


樹里「……ッ」グッ

武内P「さ、西城さん……」

292: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2023/02/19(日) 22:44:57.89 ID:LQd6uuhx0
コツ…

樹里「……!」ハッ



夏葉「…………」

咲耶「お疲れ様、樹里」



武内P「有栖川さん、白瀬さん……」

樹里「……何だよ」



夏葉「……まずは結果を待ちましょう。話はそれからよ」

293: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2023/02/19(日) 22:45:43.95 ID:LQd6uuhx0
樹里「……ああ」


夏葉「……」クルッ

咲耶「また後で会おう」スッ

シャニP「……」ペコリ

コツコツ…



樹里「…………」

武内P「彼女達の言う通りです。さぁ、西城さん」

樹里「分かってる」スッ

ツカツカ…



武内P「…………」

294: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2023/02/19(日) 22:46:37.03 ID:LQd6uuhx0
ザワザワ…!

卯月「い、いよいよ結果発表です……!」ハラハラ

未央「うぅぅ……何だか、自分の時以上にドキドキしちゃうよぉ……!」ソワソワ


凛「……贔屓目抜きに、二人は誰が勝つと思う?」

未央「へっ? い、いやぁ……たぶん、ジュリアンかなつはしのどっちかだとは思うけど……」

卯月「ど、どちらが良かったか、って言われても……そのぉ……」モジモジ


凛「……私は、夏葉さんだと思う」

卯月「えっ!?」

295: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2023/02/19(日) 22:47:36.82 ID:LQd6uuhx0
凛「…………」

未央「し、しぶりん……」



卯月「……あっ! 結果が!!」

凛・未央「!」


オォォォ…!



咲耶「……!」

シャニP「これは……」

夏葉「…………」



武内P「西城さん……」

296: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2023/02/19(日) 22:48:23.90 ID:LQd6uuhx0
 【 1位  西城樹里 】



樹里「……え」

武内P「おめでとうございます、西城さん」ニコッ


ワアアアァァァァァァ!!!! パチパチパチ!!!


樹里「あ、アタシ……」

武内P「さぁ、ステージへ」


樹里「…………うんっ」

297: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2023/02/19(日) 22:49:49.95 ID:LQd6uuhx0
ワアアアアァァァァァァァ!!!!


未央「あっ、ジュリアン出てきた!!
   イェーーーイ!!! ジュリアーーン、優勝おめでとーー!!」ヒューヒュー!

卯月「樹里ちゃん、よく頑張りましたー!! 本当にすごいです!
   ねっ、凛ちゃん!?」

凛「うん……!」


凛(でも……何だか、表情がパッとしないような……?)



夏葉「……負けた、わね」パチパチパチ

咲耶「ああ。でも、夏葉も素晴らしかったよ」パチパチ

夏葉「ええ……それでも、樹里には敵わなかった」フッ

シャニP「時の運、というものもある。
     決して見劣りするものではなかったと、今日来てくれたファンも分かっているさ」

シャニP「また次を頑張ればいい。俺達にできない事ではないはずだ」

夏葉「……ありがとう、プロデューサー」コクッ

298: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2023/02/19(日) 22:50:38.54 ID:LQd6uuhx0
シャニP「ただ、優勝した当人は……?」

夏葉「…………」

咲耶「ステージ上の樹里……まだ自分の勝利が信じられない、というようにも見えるね」

夏葉「……それだけではない気がするわ」

夏葉(一生懸命、笑顔で応じているようにも見えるけれど……樹里)



樹里「あぁ、いえその……あ、アタシなんかが、っていうか」

樹里「いえ、すっげぇ、じゃなくてあの、すごい嬉しいです!
   すみません、応援ありがとうございます!」

パチパチパチパチ…!!!



夏葉(あなた……ひょっとして何か……?)



武内P「…………」

299: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2023/02/19(日) 22:52:13.93 ID:LQd6uuhx0
ザワザワ…

樹里「……ふぅ、やっとひと段落ついたか」

武内P「お疲れ様でした、西城さん」

樹里「本番よりも、その後のセレモニーとかインタビューみてぇなヤツの方が疲れたぜ」

武内P「致し方の無い事です」

樹里「そりゃ分かるけどよ」ポリポリ…


卯月「樹里ちゃーーん!」タッタッタッ


樹里「おー、卯月! 未央と凛も、今日はありがとな」フリフリ

未央「ううん! こちらこそ、すっごい良いステージだったよぉジュリアン!」ダキッ!

樹里「うぉわっ!? お、コラッ、いきなりやめろってそういうの!」


凛「……樹里、お疲れ様」

樹里「凛。へへッ、なんつーか……まだ信じらんねーよ」

300: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2023/02/19(日) 22:53:18.53 ID:LQd6uuhx0
凛「じゃあ、樹里が実感できるまで、私達がたくさん言ってあげないとね」

卯月「はいっ! 樹里ちゃん、優勝おめでとうございます!」

未央「ジュリアンおめでとー!」

樹里「だからいいってそういうの!」

武内P「おめでとうございます、西城さん」

樹里「アンタまで言うんじゃねぇよ!!」

凛「ふふっ」


コツ…


未央「……あっ」



夏葉「樹里、優勝おめでとう」


卯月「夏葉さん、咲耶さん……」

樹里「……ああ」

301: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2023/02/19(日) 22:54:56.79 ID:LQd6uuhx0
武内P「プロデューサーは、どちらへ?」

咲耶「先に車で待っていると」

武内P「そうですか」

咲耶「浮かない顔をしているね、樹里」

樹里「…………」

武内P「西城は、先ほどまで関係者への応対により、拘束されておりましたので」

咲耶「なるほど。お疲れというわけか」


夏葉「生憎だけれど、これからはもっとハードなスケジュールになるわよ、樹里」

夏葉「このフェスの優勝を機に、あなたにはきっとたくさん仕事が舞い込んでくるわ。
   これまでとは比較にならないほどのね」

夏葉「弱音を吐いてるヒマなんか無いわよ。しゃんとしなさい! ねっ?」ニコッ


樹里「……アンタは、どう思ってるんだ?」

夏葉「何が?」

樹里「今日の結果だよ」

樹里「アタシは……夏葉が勝つと思ってた」

卯月「じゅ、樹里ちゃん……」

302: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2023/02/19(日) 22:56:23.94 ID:LQd6uuhx0
夏葉「もちろん、私が勝つと思っていたわ!」ドヤッ!

樹里「……!」

夏葉「でも、結果は樹里の勝ち。私はそれを受け入れるだけよ」

夏葉「だから、あなたも胸を張りなさい」


樹里「あの時は受け入れなかったクセにか?」

夏葉「あの時?」

樹里「346のオーディションの結果に抗議をした時だよ」

夏葉「……!」ピクッ


樹里「あの日のアンタの気持ち、よく分かるぜ……」

樹里「どうしても……納得ができねぇ。皆、ごめん……!」スッ

未央「あ、ちょっ、ジュリぁ…!」

スタスタ…!

夏葉「待ちなさい、樹里」

303: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2023/02/19(日) 22:57:36.23 ID:LQd6uuhx0
樹里「! ……」ピタッ


夏葉「約束を果たすわ。あなたへの非礼を詫びると」

夏葉「智代子を想うあなたの決意を侮辱して、ごめんなさい、樹里」スッ


樹里「……アンタって、呆れるほどに真っ直ぐで真面目だな」

樹里「アンタが本当に、不正を仕向けた有栖川家の人間なのか、分からなくなるぜ」

夏葉「そう……それについても、あなたに話をする必要があるわね」

樹里「えっ?」


夏葉「あのオーディションから帰った後、父に問い質したの」

夏葉「どうして、己が実力を346プロに認めさせる機会を私から奪ったのか、とね。
   すると父はこう答えたわ」

304: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2023/02/19(日) 22:59:27.11 ID:LQd6uuhx0
夏葉「何の事だ、と」


樹里「……何だって?」クルッ


夏葉「彼は……私の父は、346プロオーディションの存在すら知らなかったのよ。
   もちろん、それに私がエントリーをしていた事も」

夏葉「これがどういう意味か、分かるかしら」


樹里「アンタの親父は……不正に関わっていなかった?」


夏葉「この話を信じるかどうかは、あなたの自由よ。
   私も、有栖川家の人間だものね」

夏葉「でも、私は……私だって、あの一件をずっと許していない者の一人」

夏葉「何より、会場内の誰にも文句を付けられないだけの実力で、
   合格を勝ち取ることの出来なかった自分自身にも」

夏葉「いずれにせよ、智代子を傷つける結果を招いた責任が、私にもある事に変わりは無いわ」

305: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2023/02/19(日) 23:00:45.96 ID:LQd6uuhx0
樹里「…………」

凛「樹里……」


樹里「……少し、考えさせてくれ」スッ

スタスタ…



卯月「オーディションの件……樹里ちゃんも、心の整理は難しいですよね」

武内P「……それもあるでしょう。ですが、それ以外にも……」

未央「今日のステージの出来も、ジュリアンの中で満足いってなさそうだったよね」

夏葉「…………」


咲耶(単に、自分のステージに納得していないだけのようには見えなかった)

咲耶(346プロへの私怨だけでなく、どうやら樹里自身、何かを抱えているようだ)

咲耶(それを明かしてくれる日は、果たして来るだろうか……)

306: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2023/02/19(日) 23:02:16.59 ID:LQd6uuhx0
スタスタ…

樹里「……クソッ」

樹里(悪ぃ事、言っちまった……夏葉や、皆にも)

樹里(…………)



  ――樹里ー! パスパース!

  ――えへへっ! やっぱり樹里がいれば安心だねっ!

  ――私の代わりにポイントガードを任せられるの、樹里しかいないよー!



  ――なぜ、あんな無謀なスリーを打った?


樹里「……ッ!!」

ガスッ!


樹里「いちいち、思い出してんじゃねぇよ……!」

樹里「…………ッ」

307: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2023/02/19(日) 23:03:02.21 ID:LQd6uuhx0
「樹里ちゃん……」


樹里「……!?」クルッ



智代子「……樹里ちゃんっ」



樹里「なっ……ちょ、チョコ!?」

智代子「樹里ちゃん!」ダッ

ダキッ!

樹里「うわっ!」


樹里「チョコ……か、会場に来てくれてたってのか!?」

308: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2023/02/19(日) 23:04:19.94 ID:LQd6uuhx0
智代子「樹里ちゃぁん……!」グスッ

智代子「すごく……ひっ、ぐ、す……すっごい、カッコ良かったよぉ……!!」ポロポロ

智代子「キレイで……きま、う、うっ、キマッ、てて、キラキラで……!!」

智代子「うあぁぁぁあぁ……!!」ギュゥ…!


樹里「チョコ……」

樹里「あ、アタシはただ……その……えっと」ポリポリ


 ――あなたの歌とダンスに魅了された方々が抱く感動に、嘘はありません。


樹里「……チョコに、届いて良かった」

智代子「ぇ……?」

樹里「チョコのために、アタシは……アイドルやってた」


樹里「だから……チョコに喜んでもらえたなら、良かったよ」

樹里「良かった、って……今、やっと思うことができたぜ。チョコのおかげでさ」

309: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2023/02/19(日) 23:05:35.19 ID:LQd6uuhx0
智代子「樹里ちゃん……!」ジワ…!

樹里「あーもう、泣くなって。ほら、鼻かめよ、ティッシュいるか?」

智代子「樹里ちゃあんっ!!」ブワワッ

樹里「わあぁぁっ!? や、止めろって、アタシの服べちゃべちゃになるだろ!」

智代子「樹里ちゃん、そんなこと言うのズルいよぉ!! うわぁぁぁん!!」ジュルジュル


樹里「……へへ、ったく」

樹里「誰のせいだと思ってんだよ、アタシがこうして身体張ってんの」

樹里「チョコもさ……やらねーわけにはいかねぇだろ?」ニカッ

智代子「うん……うんっ……!」

樹里「……世話かけさせやがって」ナデナデ



夏葉「……智代子」

310: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2023/02/19(日) 23:08:17.38 ID:LQd6uuhx0
凛(あの子が、樹里の……そっか)

卯月「二人とも、とっても幸せそうです」


咲耶「あの智代子に前を向いてもらう事が、樹里の目的の一つだった」

咲耶「その目的は、達成されたと見て良いだろうか?」

未央「何言ってんのさくやん、あれ見てよ。そうに決まってるじゃん!」

夏葉「樹里の満足げな表情がその証拠ね。さっきとは大違い」ニコッ

咲耶「フフ、そうだね」


凛「これでひとまず、一件落着……かな」

武内P「……今はただ、そうである事を願いましょう」

凛「うん……それと、さっき夏葉さんも言ってたけど、
  このフェスで結果を残した事で、樹里もこれからどんどん有名になる」

凛「そうなれば、しばらくは樹里を危ない目に遭わそうとする人達も、
  容易に手出しが出来なくなる……そうだよね、プロデューサー?」



武内P「……はい」

311: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2023/02/19(日) 23:09:43.42 ID:LQd6uuhx0
~会場外 961プロ リムジン車~

黒井「何の用かと思えば、ノコノコと……」

黒井「そんな事を貴様に教える筋合いなど無い!」

シャニP「で、ですが……!」


???「では、私から話そう」

シャニP「えっ?」

黒井「何ッ!? 貴様、何を勝手な……!」


天井努「いずれ分かる事だ。
    それに、この男は余計な行動をする者ではない。私が保証しよう」

シャニP「しゃ、社長……」

黒井「……フンッ」


天井「お前の目した通り、あの男は346プロのプロデューサーだ」

シャニP「! ……で、ではどうして、彼は961プロのプロデューサーだと?」

天井「961プロのプロデューサーでもある、という事だ。
   その理由については、まだ明かす事はできない」

312: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2023/02/19(日) 23:11:25.97 ID:LQd6uuhx0
天井「だが、来るべき時が来るまで、あの男と西城について深入りはせず、
   しかし注意深く見守る必要がある」

天井「お前にも、その役割を担ってほしい。頼まれてくれるな?」


シャニP「……分かりました。今日は、これ以上お伺いすることはしません」

シャニP「ですが、いずれ何らかの形で、私にも事情を明かしていただくことを願います」

天井「すまない、苦労を掛ける」

シャニP「いえ……では、失礼致します」ペコリ

スタスタ…



黒井「……フンッ!」

黒井「あの西城樹里とかいうガチャ蠅……
   346のプロデューサーが妙な動きをしているから、泳がせてみたが」

黒井「どうやら面倒な事になりそうだな。
   金と手間を惜しまず、さっさと潰せば良かったという訳か」

黒井「私とした事が、目測を見誤るなど……」


天井「フッ……いい加減、青臭い事を言うのはよせ」

黒井「……何だと?」ピクッ

313: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2023/02/19(日) 23:14:09.00 ID:LQd6uuhx0
天井「確かに、我々はそう夢を見てはしゃぐような歳でもないが、
   そうして斜に構えるのは貴様の悪い癖だ」

天井「真っ直ぐに光を見出す若者の背を押すのは、大人の役目だと思うが?」


黒井「貴様……よくもそんな甘っちょろい事を言えたものだ、この私に。
   青臭いのはどちらかね」

天井「さぁな。しかしこれだけは言える」


天井「このフェスを機に、アイドル業界は大きなうねりを見せるだろう」

天井「そして、“何者か”があの男や西城に行動を起こすような事があれば、
   私も静観する事はできなくなる」

黒井「…………」

天井「懸命な判断を期待する。ではな」ガチャッ

バタンッ



黒井「……ナマイキな事を。私を牽制するつもりか」

黒井「夢、か……」

黒井「夢だけで食える業界など無い。だから我々のような者達がいる。
   そう……だからこそ、まだまだ続けていかねばならんのだ」

黒井「346プロとの“契約”だけはな」