1: ククリカレー◆R0DkcCA3hA 2014/06/11(水)20:08:18 ID:fjqG8bJJC
まだ梅雨が完全に終わりきらない蒸し暑い7月の頃、俺はこの街に引っ越してきた。
親が転勤族ということもあり、友達も作らず……正確には友達を作れず一人でいるのが当たり前だった。そう……あの日までは……。

3: ククリカレー◆R0DkcCA3hA 2014/06/11(水)20:08:53 ID:fjqG8bJJC
~学校~

先生「これから、転校生を紹介する。みんな仲良くしてやってくれ!さぁ俺君入りなさい」

ガラガラ

生徒「ガヤガヤ」

先生「はい、静かに!俺君自己紹介を頼むよ」

俺「はい。東京から引っ越してきました俺といいます。宜しくお願いします。」ペコッ

先生「俺君が早く学校に慣れるようにみんな、宜しくな」

4: ククリカレー◆R0DkcCA3hA 2014/06/11(水)20:09:28 ID:fjqG8bJJC
俺はいつものクセでクラスメイトを見渡す。
クラスで不良の悪そうなやつと、その手下がニヤニヤしながら俺を見ている。こういう奴らには関わらないで静かにしようと心に誓い指定された椅子に座った。

隣の女子「俺君、教科書まだ無いでしょ?私の貸してあげるね!」

俺「あぁ。ありがとう。」

隣の女子「私、さつきって言うの!よろしくね!」

5: ククリカレー◆R0DkcCA3hA 2014/06/11(水)20:10:04 ID:fjqG8bJJC
これが俺とさつきの出逢いだった。
さつきはセミロングの髪型で身長は低くもなく高くもない。
明るく活発で誰にでも好かれそうな健全な女の子って感じだった。

休み時間になると決まって転校生の質問タイムの時間。
俺はこれが大嫌いだ。どこからきたの?なんで転校生してきたの?こんなありふれた質問ばかりで正直めんどくさかった。

6: ククリカレー◆R0DkcCA3hA 2014/06/11(水)20:10:45 ID:fjqG8bJJC
さつき「ねぇ、俺君って携帯電話持ってる?」

またか……っと感じた。意味のないアドレスや電話番号交換。俺はとっさに嘘をついてしまった。

俺「携帯持ってないんだ……」


さつき「えぇー!俺君東京に居たのに携帯電話持ってないの!?私達なんて田舎なのに持ってるんだよ!」

さつきは間髪入れずに驚いた声で言った。そして自慢気に携帯を見せびらかす。

7: ククリカレー◆R0DkcCA3hA 2014/06/11(水)20:11:20 ID:fjqG8bJJC
さつき「ねぇねぇ!ほらさわってもいいよ!スマホだよ!あっ!スマホってスマートホンの略だよ!」アハハ

さつきが持っていた機種は俺が前に使っていたやつだった。しかもすごく綺麗で大事に使っているのが分かった。

さつき「ここをスライドして……、ほら少し使っていいよ!」

さつきは凄く嬉しそうに携帯の使い方をレクチャーしてくれた。東京者に勝ってる優越感に浸ってるようにも見えた

8: ククリカレー◆R0DkcCA3hA 2014/06/11(水)20:11:58 ID:fjqG8bJJC
放課後、先生の指示でさつきが校内を案内してくれることになった。

さつき「俺君ってさぁ……」

俺「ん?」

さつき「なんでもない!やっぱりいいや!」

俺「え?なんだよ?気になるから言ってくれよ」

さつき「うーん。私、転校したことないから分からないんだけど、転校するとリセットする感じ?前の友達とかには連絡取り合うの?」

俺「俺の親が転勤族だったから友達は作らない主義なんだ。」

さつき「え?じゃあ今まで友達居なかったの?」

俺「まぁ、そうだね……」

さつき「えー!そうなんだー!じゃあ、私がもしかして初めての友達!?」

さつきはキラキラと目を輝かせていた。

9: ククリカレー◆R0DkcCA3hA 2014/06/11(水)20:12:33 ID:fjqG8bJJC
俺「は、はぁ?友達?」

さつき「教科書貸してあげたでしょ!忘れたの?」

俺「教科書借りたら友達なのか?」

さつき「そうだよー!俺君さぁ、校内案内終わったらちょっと付き合ってくれる?」

俺「どこに行くんだ?」

さつき「いいから!いいから!」

さつきは本当に人懐っこいネコみたいだった。

10: ククリカレー◆R0DkcCA3hA 2014/06/11(水)20:13:11 ID:fjqG8bJJC
~商店街~

さつき「ほらここ!」

さつきが指を差した場所は携帯電話ショップだった。

さつき「俺君、携帯ないんだよね?ここで見てみようよ!」

さつきは意気揚々と俺の腕を引っ張っりショップに誘導している。

俺「ちょっとまってよ!未成年なんだから買えるわけないだろ!」

さつきは一瞬考えた様な素振りを見せすぐに笑顔で答えた。

さつき「見るだけ!ねっ!ねっ!」

さつきの強引さに根負けした俺は渋々店内に入った。

11: ククリカレー◆R0DkcCA3hA 2014/06/11(水)20:13:53 ID:fjqG8bJJC
さつき「わぁ~!最新機種だ~!俺君、これなんてどうかな?」

さつきが手にしたのは俺が今使っている携帯だった。

さつき「私の機種の最新だよ!これにしちゃいなよ!」

さつきはいつも以上に目を輝かせている。

俺「うーん。考えておくよ」

俺は椅子に座りながら、興味津々で携帯を見ているさつきをぼんやりと見つめていた。

俺「友達か……」

ガラにもなくボソッ呟いて一人で苦笑していた。

12: ククリカレー◆R0DkcCA3hA 2014/06/11(水)20:14:43 ID:fjqG8bJJC
~二日後~

俺は携帯を買ったことにして、さつきに見せた。さつきは子供みたいにはしゃいで俺の携帯を触っていた。


さつき「ねぇ!アドレス交換しよ!」

俺「あぁ、分かった。」


今までになかった感情だ。誰かに言われても形式上だけで何の連絡もこない交換とは違う。友達との交換なのだから。

13: ククリカレー◆R0DkcCA3hA 2014/06/11(水)20:15:17 ID:fjqG8bJJC
~二日後~

俺は携帯を買ったことにして、さつきに見せた。さつきは子供みたいにはしゃいで俺の携帯を触っていた。


さつき「ねぇ!アドレス交換しよ!」

俺「あぁ、分かった。」


今までになかった感情だ。誰かに言われても形式上だけで何の連絡もこない交換とは違う。友達との交換だから。

14: ククリカレー◆R0DkcCA3hA 2014/06/11(水)20:16:07 ID:fjqG8bJJC
~♪♪~♪♪♪♪~

アドレス交換を終える音楽が流れるとしばらくしてすぐにメールが来た。

タイトル さつきだよー!

本文 やっほー!

俺は思わず含み笑いをする

さつき「あー!なんで笑うのよー!せっかくメールしたのに!」ブー

俺「だってメールで送る内容がやっほー!ってさぁ……」

さつき「じゃあさ!毎晩交換日記ならぬ交換メールしようよ!」

15: ククリカレー◆R0DkcCA3hA 2014/06/11(水)20:16:46 ID:fjqG8bJJC
この一言がきっかけで俺とさつきの交換メールが始まった。
話す内容と言えば、今日は何があってどうしたとか。同じクラスで同じ時間を過ごしていても感性の違いだろうかお互いが見ている物や考え方の違いに、次第にさつきに興味を持ちはじめている自分がいた。

16: ククリカレー◆R0DkcCA3hA 2014/06/11(水)20:17:24 ID:fjqG8bJJC
~夏休み~

さつきの提案で近くの山に登山する事になった。老若男女誰でも気軽に散歩気分で登山出来るとあって素人の俺でも大丈夫とのこと。
あまり乗り気ではなかったけど、さつきが半ば強引に決めたのだ。

さつき「遅いよー!早くしないと電車に乗り遅れるよー!俺走って~!」

俺「ち、ちょっと待ってくれよ~」ハァハァ

さつき「早く早く~!」

俺「さつきが早いんだよ~」ハァハァ


この頃になるとお互いが名前で呼び合うことに抵抗がなくなっていた。これもさつきの提案だった。

17: ククリカレー◆R0DkcCA3hA 2014/06/11(水)20:18:19 ID:fjqG8bJJC
登山は思ったよりキツくなく新鮮だった。夏の山の土や草木の匂いが疲れた身体を励ましてくれるようだった。

さつき「山頂だー!」

俺「思ったより楽だったな」ハァハァ

さつき「俺、息があがってるよ!」アハハ

山頂から見る景色は美しく小さな街がさらに小さく見えた。
ふとさつきに目をやると寂しげな表情を浮かべていた。

18: ククリカレー◆R0DkcCA3hA 2014/06/11(水)20:18:51 ID:fjqG8bJJC
俺「さつき?」

さつきはハッとしてすぐに笑顔になった。

俺「なんだよ?どうした?」

さつき「ううん。なんでもない」

明らかにさつきは無理に笑っている。

俺「いいから言ってみろよ」

さつき「実は…………。」

19: ククリカレー◆R0DkcCA3hA 2014/06/11(水)20:19:22 ID:fjqG8bJJC
さつきから突然言われた病気。俺は言葉を失った。手術をしても成功する確率は30%以下。手術をしなければ余命1年持たないと医師から言われた事を淡々と説明していた。

さつき「だから……これが最後の思い出で……。」

ガバッ

さつき「く、苦しいよ…………」

さつきの言葉を振り払うかのように強く、強く抱き締めた。

さつき「俺……ありがとうね……」

俺はさつきを抱き締めたまま小さく見える街をぼんやりと見詰めていた。

初めてキスをしたのはこの時だった……。

20: ククリカレー◆R0DkcCA3hA 2014/06/11(水)20:19:52 ID:fjqG8bJJC
~9月~

学校が始まるとそこにはさつきの姿はなかった。メールも入院してからはきていない。
何も出来ない自分自身の情けなさに悔しくて眠れない夜もあった。
俺の生活の全てを投げ捨てでもさつきを守りたいと強く願っていた。

そんな何も出来ないもどかしい日々が過ぎていくなかで一通のメールがきた。もちろんさつきからだ。俺は意を決意してメールを開く。

24: ククリカレー◆R0DkcCA3hA 2014/06/11(水)20:21:09 ID:fjqG8bJJC
タイトル 俺元気?
本文 明日手術だから、終わったらメールするね!

この日、俺は何も返事を返すことが出来ずにただ携帯電話の画面を見ているだけだった。
なんて返せばいい?頑張れなんて言葉は第三者の戯言にしか感じない。本当に頑張っているやつに頑張れなんて言えるわけがない。自問自答しながら夜が更けていった。

25: ククリカレー◆R0DkcCA3hA 2014/06/11(水)20:21:39 ID:fjqG8bJJC
翌日になってもさつきからのメールはなかった。
翌々日も同じだ。
クラスの連中はさつきのことなんか忘れているようで俺にはそれが苦しかった。

一週間がたったある日、一通のメールがきた。それはさつきアドレスだったが文章はさつきの母親から俺に宛てられたものだった。

俺はメールの内容に目を通して急いでさつきの家に向かった。

26: ククリカレー◆R0DkcCA3hA 2014/06/11(水)20:22:22 ID:fjqG8bJJC
さつきの母親からのメールは直接会って話がしたいとのこと。
嫌な予感しかしなかった。

さつきの家に着くと俺は息を切らしながらインターホンを押した。

ピンポーン

さつき母「はーい!」

俺「あの……俺と言いますが……」ハァハァ

さつき母「あっ!あなたが俺君ね!ちょっと待ってて!」

急いだからかそれとも不安からか
心臓の鼓動がとても早くなっているのを感じた。

さつき母「お待たせ。どうぞあがって」

27: ククリカレー◆R0DkcCA3hA 2014/06/11(水)20:23:02 ID:fjqG8bJJC
俺は軽く会釈をするとリビングに案内された。
そこにはソファーに座ってぼんやり窓を見詰めているさつきがいた。

俺「さつき!」

俺はさつきを強く抱き締めた。

さつき「誰!!」

俺「え…………」

俺は言葉を失った。
さつき母が俺に説明してくれた。手術は成功したのだが、手術の恐怖からか数ヵ月間の記憶がないらしい。

28: ククリカレー◆R0DkcCA3hA 2014/06/11(水)20:23:34 ID:fjqG8bJJC
俺「よかった……」

俺はその場に崩れるようにしゃがみこんだ。

さつき母「よかった……?」

さつき母は少し驚いている

俺「はい。さつきとは数ヵ月の出会です。記憶をなくしてもさつきは生きている。今度は逆に俺が積極的に話し掛けて仲良くなる番なんです!」

さつき母「…………。」

さつき母は泣いていた。俺の手を握りながら何度も「ありがとう」と言っていた

さつきの居ない夏が来るのはもう嫌だ。今度こそ君がいる夏になるように俺は前を向いて進んで行くだろう。自分のためにではなく、さつきのために……。


おしまい

引用元: オリジナルSS【君のいた夏】