1 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/05/17(火) 15:16:49.19 ID:2CfgflN4O
梓「澪先輩なんかも背は高い方ですよね」

澪「いや、それ程でもない気も…」

唯「澪ちゃんなんてもんじゃないんだよ!
だってうちの垣根越しに頭が見えるくらいなんだよ!」

律「はぁ?唯んちの垣根っつったら2メートルはあんだろ
なんかの見間違いじゃねーのか?」

紬「厚底ブーツとか履いてたのかしら…」

さわ子「私40センチの厚底ロンドンブーツ持ってるわよ」

澪「何に使うんだ…」

唯「ん~そうなのかな~ けど変なんだよ
服装は白いワンピースでね、帽子被ってて~
それにずっと『ぽっぽっぽっぽっ』ってつぶやいてた」

律「ハトかよ」

唯「ぜ~ったいおかしいよねぇ…」

隣の婆「唯ちゃん…それ…本当なの…?」

唯「おばあちゃん!?なんで部室に!?
あ、見学?私の演奏見に来たとか?」

隣の婆「それ、本当に見たのって聞いてるの!」


34 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/05/17(火) 16:23:34.63 ID:2CfgflN4O
唯「う~ い~…(泣)」

憂「ちょ、ちょっとお姉ちゃんどうしたの?
学校から帰ってくるなり泣き出して
もしかして転んだ!?どっか擦りむいた!?」

唯「うぅ…うい~
長らく、長らくお世話になりましゅたぁ~(号泣)」

私の見たもの
それは隣のおばあちゃんの話では『八尺様』というものらしい

(回想)
婆「見てしまったのならしょうがないけど
それはね、とてもとてもよくないものなの」

紬「詳しく…聞かせてもらえませんか?」

澪「ちょ!ムギ!そんな恐そうな話!やめ、やめま、せん、か?」

律「おい澪!何言ってんだよ!
もしかしたら唯の一大事かもしれねーんだぞ!
話は聞いといた方がいいだろ!」

澪「律…その割にはなんで楽しそうなんだ…」


42 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/05/17(火) 16:39:39.84 ID:2CfgflN4O
どうやら『八尺様』はこの町に昔から居るお化けで時々人にとり憑いては悪いことをしてきたらしい

澪「(聞いてない…聞いてない
私には聞こえない…)」

唯「そ、そ、そ、それでワタクシは一体どうなってしまうのでしょうかかかか…」

婆「最悪の場合…唯ちゃんは…」

紬「そんな!」

澪「(ひぃっ!)」

梓「にわかには信じ難い話ですが」

さわ子「いいえ
この世には科学でも解明出来ない恐ろしいことはあるのよ!
そう、あれは私が昔彼氏と山奥に夜のドライブに行った時のこと
突然車がエンストしてしまい立ち往生していると闇の向こうから一本脚の白い影が…」

律「あーはいはい
そういうさわちゃんの嘘臭い話はいいから」

梓「なんていうかリアリティないですよね」

さわ子「ちょっと!
これ本当にあった洒落にならないくらい怖い話なのよ!」



49 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/05/17(火) 17:12:58.53 ID:2CfgflN4O
律「はぁ~…これでとうとう唯も一巻の終わりか
さらば放課後ティータイム
…って唯が居なくてもギターは梓がいるしボーカルは澪がいるしなんとかなるか」

唯「びぇぇぇ~!そんなのイヤだよぉおおおおおおお!(泣)」

梓「ちょっと律先輩!
唯先輩も泣かないで…泣かないでください…」

婆「大丈夫よ唯ちゃん!
助かる方法はあるのよ!」

一同「!?」

唯「うぇっ… うっ… ほんとぉ~に?」

婆「ええ!
おばあちゃんがきっと助けてみせるからね」



51 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/05/17(火) 17:26:28.56 ID:2CfgflN4O
(回想終了)
「そんな訳でちょっくらおばあちゃんの家にお泊まり行ってきます!」

憂「はぁ」

唯「なんか助かるにはねおばあちゃんの家にある部屋に一晩お泊まりしなきゃならないんだって~
でね、その部屋からは一歩も出ちゃいけないらしいよ~」

憂「お姉ちゃんそんな大変な目に…
私応援してるから頑張ってきてね!」

憂「あ、それはそうとご飯どうする?
もう作っちゃってるし部屋ごもりするなら食べてった方がいいよね?」

唯「もちろん食べていきますともぉ~
お!今日は天ぷらそばですな」

憂「じゃあ私お泊まりの準備整えとくからその間に食べちゃってね」

唯「あいあいー」


55 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/05/17(火) 17:47:09.42 ID:2CfgflN4O
憂「お姉ちーゃん、支度終わったよー」

唯「私も今食べ終わったよー
じゃあご飯も食べて気合いも入ったし!
いっちょ行ってまいりま…」

憂「どしたの?」

唯「でへへ~ おしっこ行きたくなっちゃった…
あの話聞いてから緊張しっぱなしで一回もしてなかったから…」

憂「もうしょうがないなぁ
早く済ませてきてね」

唯「あいあいー」

婆「憂ちゃん!駄目よ!」

憂「あ、おばあちゃん!
この度はお姉ちゃんがお世話になります
そうそう、この前もらった京茄子のお漬け物すっごいおいしかったです~」

婆「あらあらご丁寧にどうも
この前ねおいしいじゃが芋が手に入ったからまた肉じゃがを…
って憂ちゃん駄目よ!唯ちゃんを一人にしちゃ!」


58 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/05/17(火) 18:02:46.05 ID:2CfgflN4O
憂「けど流石にお手洗いには…」

婆「お手洗いでも駄目!
相手はそんな恐ろしいものなのよ!
常に一人にしないで見守ってなきゃ駄目!」

憂「え…(見守るって…お姉ちゃんのおしっこしてる所を!?)」

憂「(いや待って、これはお姉ちゃんのおしっこ姿を剛法的に見れるチャンス…
いやいやいや、そうじゃなくて相手は恐ろしいお化けだからお姉ちゃんを一人にはできないし
前におしっこしてるの見たのはいつ?
確か小学校3年生の時一緒にお風呂入ってて見せっこを…
あれだけお風呂場でおしっこしちゃ駄目って言ったのに「見せっこ」って甘美な響きに惑わされて…
違う違う!今おしっこは関係なくてお姉ちゃんの安否が一番心配…
一番といえば一番搾りだけどお姉ちゃんずっとしてないって言ってたし特濃一番搾り!?
カップ?カップ持って行った方がいいの!?
あ、今日昼にローソンで買ったティーカップゼリーの容器!
それや!それしかないで!
違う!違うそうじゃない!
私はお姉ちゃんを見守る大事な役目が…
見守るってことは監視だよね?
監視といえば監視カメラ、カメラ持っててもいいの!?
これでPCのお姉ちゃんフォルダ念願のおしっこムービーが収められるの!?
やるか?やってまうか?行ってまうかあああああああ!?)」




63 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/05/17(火) 18:17:03.05 ID:2CfgflN4O
唯「うい~戻ったよー
いやー結構たまってたみたいですごい出ちゃったよー」

憂「え…え… あ?」

婆「あらあら、なんとか大丈夫だったみたいねー
心配したけどよかったわぁ」

憂「え…あ… はい? え?」

唯「あ、おばあちゃん迎えにきてくれたのー?
それじゃあ憂、お姉ちゃん頑張ってくるからね!
しっかりお留守番してるんだよ!」

憂「うぇ? はぁ はい…
行って らっさい…」


69 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/05/17(火) 18:49:52.33 ID:2CfgflN4O
━━━ 婆宅

律「お、やーっと来たか
おせーぞ唯ー」

唯「りっちゃん!それにみんな来てたんだ
澪ちゃん…こんな時に来て怖くないの?」

澪「怖いさ…
話を聞いた時は怖くて死ぬかと思ったけどさ…
けど、こんな時こそ近くに居たいんだよ
直接の役には立てないかもしれないけど、近くで唯が助かるのを願っていたいんだよ」

唯「澪ちゃん…」

律「まあ私は見物しに来ただけだけどなー」

澪「一番最初に行くって言ったのはお前だよな」

律「う、うるせー!そういうことはバラすなよ!」

唯「りっちゃん…」


71 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/05/17(火) 19:06:32.70 ID:2CfgflN4O
紬「唯ちゃん、これ持って行って」

唯「これは…お札?」

紬「ええ、うちの斉藤に事情を話したの
あの人の家ってそういうことに詳しい家系らしくて…これを持って行って渡しなさいって」

唯「ムギちゃん…」

梓「唯先輩、私はこれを…」

唯「お?これはお守りだね」

梓「ムギ先輩のみたいに大した物じゃないかもしれないけど神社でもらってきました
…本当にこんな話信じられないけど唯先輩に万が一があったらって私… 私…(泣)」

「あずにゃああああああん!
部屋にこもってる間、ずっとこのお守りをあずにゃんと思って身につけてるからね!」

梓「先輩…唯先輩!」

婆「唯ちゃん…本当にいい友達が出来たのね…」

律「ほら二人ともいつまでも泣いてんなよ
おばあちゃんが用意してくれたスイカがあるからさ、唯が助かる前祝いにパーッと食おうぜ」

唯「みんな…みんなぁ…」

この仲間達が見守っていてくれれば何事もなく全てを終えられる
その時の私はそう信じていたのです


79 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/05/17(火) 19:44:11.10 ID:2CfgflN4O
おばあちゃんに案内された部屋は異様な雰囲気だった。
全ての窓は新聞紙により塞がれその上から何枚ものお札が貼られていた。
部屋の隅には盛り塩が盛られ、中央には四角い箱のようなものが置かれている。
その上にあるのは仏像…だろうか。
また一晩部屋から出れないための処置だろう、おまるが2つ置かれている。

唯「ちょっと、怖い、かも」

婆「いいこと、唯ちゃん
あなたは一晩この部屋から出ては駄目
また私もお友達もこの部屋には来ない」

婆「もし誰かの声がきこえたとしても相手をしては駄目
誰の声であろうとそれはその人ではないのよ」

唯「ごくり…」

返事が出来ない。
ここに来てようやく気付いたがこれは尋常なことではないのだ。
こみ上げてきた恐怖に喉がつまる。脈が早くなる。体温が上がるのが感じ取れる。

あずにゃんに貰ったお守りを握りしめた。
彼女を近くに感じ取れた気がして、少し心が休まる。

婆「明日の朝7時にここへ来ます。
もし怖いことがあったらあそこにある仏様にお祈りしなさい。
大丈夫、唯ちゃんしっかり育ったし、あんなに素敵なお友達が待っててくれるんですもの
無事に終わるわ」

唯「うん…」



82 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/05/17(火) 20:04:24.92 ID:2CfgflN4O
○月×日 PM19:00

部屋に入ると入り口から4人が見守っているのが見えた。
部屋の中は照明が点けられないため廊下からの逆光で表情は見えない。
けど何故だろう、彼女達がいると思うだけで先の恐怖が薄れていく。
きっとあの気持ちは…

律「唯、明日の朝まで会えないってだけのことだ
きっと大丈夫
全部終わらせて…いつも通りお茶、飲もう」

りっちゃんが言い終わると襖がピシャッという音と共に閉められる。
けど大丈夫。今は。
さっきの恐怖、あれは皆から私一人離れて闇へ、日常から遠く離れた人の知れない闇へ落ちていくと錯覚したからなのだ。
けど今はもう平気だ。
私がどこまで行こうが彼女たちとの繋がった何かは切れることはない。
世界がどうなっても私はひとりじゃないんだ。


85 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/05/17(火) 20:31:40.36 ID:2CfgflN4O
○月×日 PM22:00

唯「おなか…痛い…」

ぎゅるるるぐ!ぐぎゅ!ぐぐぅううううううううう!

唯「うっ!」

なんでこんなにお腹が痛いんだろう。
これも『八尺様』の呪いなのだろうか。
…違う…これは違う。
私の中で何かが繋がり、解った。


87 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/05/17(火) 20:35:05.35 ID:2CfgflN4O
(回想)
憂「あ、それはそうとご飯どうする?
もう作っちゃってるし部屋ごもりするなら食べてった方がいいよね?」

唯「もちろん食べていきますともぉ~
お!今日は天ぷらそばですな」

天ぷら…

律「おばあちゃんが用意してくれたスイカがあるからさ、唯が助かる前祝いにパーッと食おうぜ」

スイカ…

そしてあずにゃんに貰った暑中見舞い…
『暑い中、体調に気をつけて勉強がんばってください
×スイカと天プラ
×うなぎと梅干し
×かき氷と天プラは食べ合わせが悪いので一緒に食べちゃダメですよ』

ぐりゅりゅりゅぐりゅうううううう!
唯「またキタ!」

余りの激痛に思わず畳み敷きの床を転げまわる。

唯「もう…限界かもぉ…」

腹痛に屈しつつある私の視線の先。
そこには陶器のアヒル二匹が冷ややかな目で私を見おろしていた…。



91 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/05/17(火) 20:58:12.25 ID:2CfgflN4O
○月△日 AM2:00

おなかはなんとか収まった。
もう天ぷらもスイカも二度と見たくない。

唯「ヒマだなぁ…」

唯「あ~あ ギータも一緒に連れてくればよかったなぁ…」

そんなことをつぶやきながら部屋を転がってると窓からコツコツコツ、と何かを叩く音が聞こえた。
思わずビクッとなり動きが止まる。

唯「風… だよね…」

あずにゃんのお守りを胸にあてがいギュッと握りしめる。
風で何かが窓に当たっているのか、それとも誰かが…。
そんな思いを振り払いこれは風のせいと思い込もうとする。

唯「そもそもここ二階だよ?
そんな場所の窓にノック出来る人なんて…

その瞬間2メートルを超える『あれ』の姿を思い出す。
駄目だ!こらえろ!あれは風だ!


94 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/05/17(火) 21:06:07.25 ID:2CfgflN4O
コツコツという音は二方向にある窓を行ったりきたりしていたが、始まった時同様突然やんだ。

唯「ふぇ~…」
安心した瞬間だった。
廊下とこの部屋を隔てる襖の方から声がきこえる。

?「唯?もう寝ちゃったか?唯?ゆーいちーゃん」

笑いがこみ上げる。
りっちゃんの声だ。
こんな時にのんきなものだ。

?「ヒマなんだろ?出てきて遊ぼーぜー」


98 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/05/17(火) 21:15:58.79 ID:2CfgflN4O
まったく何を言ってるのか。
私はこの部屋から明日の朝まで出れな…

「もし誰かの声がきこえたとしても相手をしては駄目
誰の声であろうとそれはその人ではないのよ」

おばあちゃんの言った言葉が思い出された。

?「3人とも寝ちゃってさぁ~、参ってんだよ
聞こえてるんだろ唯?遊ぼーよー」

あずにゃんのお守りとムギちゃんのお札を握りしめ、部屋の真ん中にある仏像に向かってお祈りをしはじめる。

唯「(助けてください!助けてください!)」

そしてみんなの顔を思い浮かべる。
澪ちゃん、りっちゃん、ムギちゃん、そして…あずにゃん!
みんなに会いたい!早く全て終わってみんなに会いたい!


101 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/05/17(火) 21:26:45.87 ID:2CfgflN4O
○月△日 PM7:00

婆「よく頑張ったわね、唯ちゃん
さ、もう部屋を出ても大丈夫よ」

あの後、私はどうやらお祈りをするうちに意識を失ってしまったらしい。
開け放たれた襖から朝の陽光が差す。

唯「おばあ…ちゃん…
それに…

いつも馴染んだ顔ぶれ。
だけどこの時ほど彼女たちのことを愛しく思ったことはない。

みんなあああああああああ!」

私は暗い部屋から駆け出すと彼女たちに飛びついた。



107 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/05/17(火) 21:43:55.46 ID:2CfgflN4O
○月△日 AM8:00
婆宅 食卓

一晩を明かした私達はおばあちゃんの家で朝ごはんをご馳走になっていた。

紬「唯ちゃん、お札色変わった?」

唯「ん~ん、貰った時のまんまだよ」

紬「おかしいわねぇ…話だとお札が悪いものから守ってくれる代わりに色が黒く変わるらしいんだけど…」

律「まあー部屋に貼ってあったお札で充分だったってことだろ
しかし唯って思ったより辛抱強いのなー」

唯「へ?」

律「だってさー、夜中誘いに行ったのに返事もしないんだぜ?
あ、それとも寝てただけとか?」

澪「お前そんなことしてたのか!?」

律「だってさーみんな寝ちゃってヒマでしょうがなくてさー
どうせ唯もヒマしてんだろうなーって思ったら…(ゴッ!)痛え!」

澪「お前はあああああああッ!」

112 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/05/17(火) 21:54:55.76 ID:2CfgflN4O
唯「なんだぁ… あの声はりっちゃん本人だったのぉ…
心配して損したじぇ」

律「ははっ 悪い悪い」

梓「まったく、冗談でもやっていいことと悪いことがありますよ」
そうつぶやくあずにゃんの目は真っ赤に腫れていた。
なんでも私が部屋にこもった後泣き続け、そのまま疲れて眠ってしまったらしい。

唯「お!泣いたカラスがもう怒っとりますな」

梓「ちょ!唯先輩!
そもそも私は最初から大丈夫と思ってました!
みんな騒ぎ過ぎです!」

唯「うりうりうりうりうりー」

梓「ちょ…!」


116 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/05/17(火) 22:04:38.92 ID:2CfgflN4O
唯「じゃああと不思議だったのは窓を叩く音か
あれはやっぱり風だったのかなぁ」

憂「あ、それ多分私だよ」

唯「憂!?ていうかいつの間に!?」

憂「ほらお姉ちゃんギータ忘れてったでしょ?
寂しいとかわいそうだから持ってってあげようと思って」

憂「そしたら玄関の戸締まりしちゃってるし…
夜中にお騒がせしちゃいけないだろうから脚立持ってって窓からノックしたの」

律「憂ちゃんも大概人騒がせだよなぁ…
流石は唯の妹」

憂「そ、そうですかねぇ~…てへっ」

梓「なんで嬉しそうにするのよ…」


119 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/05/17(火) 22:08:59.43 ID:2CfgflN4O
唯「なんだぁ~
じゃあ不思議なことや怖いことなんてなんにもなかったんじゃん」

けどいいかな。
今回の件でまたみんなと私を繋ぐなにかは強くなったような気がする。
変わらない日常が一番だけどこういう気持ちになれるならたまにはこういうことがあっても…

紬「待って」


121 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/05/17(火) 22:21:08.27 ID:2CfgflN4O
紬「そもそも最初に唯ちゃんが見た背の高い女の人って?
昨晩来なかっただけでまさかまだ何も終わってないんじゃ…」

唯、律、梓、憂「あ」

ムギちゃんを見つめ唖然とする私達。
だが澪ちゃんだけが全く違う方向を見て固まっている。
手に持ったお味噌汁のお椀からはダラダラと中身がこぼれていた。

律「おい澪、味噌汁こぼれてんぞ
ムギが言ったことがいくらショックでも固まりすぎ…

澪ちゃんの視線を追ったりっちゃんも固まる。
その視線の先にあるもの。
食卓のある部屋に面する縁側を越え、庭を越え、道路に面した塀の向こう。
そこそこの高さがある塀の向こうの道路に『それ』はいた。
朝日の逆光で見えにくい巨大な姿。
本来なら人影とも言うべき形だが、その異質な大きさがそう呼ぶのをためらわせた。

紬「あれが…」

梓「『八尺様』…?」



129 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/05/17(火) 22:37:59.32 ID:2CfgflN4O
○月△日 PM8:30
終わる世界

皆固まって動けない。
目がなれるにつれその姿が明瞭になる。
『それ』の姿は私が昨日見たものに間違いはなかった。
ただ服装が違う。
帽子はかぶっておらず白と黒のボーダーカットソーにデニムパンツ、その上にグレイのワンピースを羽織る今風の服装だ。
ウェーブのかかった髪に特徴的な大きな口。
笑っている…。
その顔はどことなくトドやアザラシといった海獣を思わせる。

憂「お姉ちゃん… 逃げよ…
お姉ちゃんだけでも」

梓「逃げて… 逃げてくださ…い…」

脅えながらも気丈に私を気遣う二人。
こんなにも二人を、いや彼女をいとおしく思ったことはない。
こんな時に不思議な気持ちだった。


134 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/05/17(火) 22:53:58.99 ID:2CfgflN4O
唯「私、行かなきゃ…!」

梓「ゆいせんぱいッ!?」

思いもよらないことを言ったのだろう。
泣き叫び取り乱すあずにゃん。
そのツインテールにまとめた綺麗な髪にそっと手をかける。

唯「大丈夫、あずにゃんが心配するようなことにはならない」

そう言って人差し指で涙をぬぐう。

梓「ゆい…ゆい…せんぱい…?」

唯「私には解るの
あれはもう一人の、ううん、違う私だって!」

一同「!?」


137 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/05/17(火) 23:02:41.90 ID:2CfgflN4O
『私』は微動だにしない。
その笑みからは残忍なイメージを思い浮かべるが不思議と恐怖はない。

『私』「ようやくこうして話が出来るのね…
ずっと会いたかった…唯ちゃん」

唯「あなたは…私…なんですよね?」

『私』「そう、私はあなたたちと別の次元、別の世界から来た
ある意味ではあなた自身よ」

唯「最初見た時は解らなかったけど、今なら全て解ります」


145 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/05/17(火) 23:18:40.52 ID:2CfgflN4O
彼女の語ることは驚くべきものだった。
私達の住む世界はいくつもの平行宇宙で成り立っているらしい。
そしてそこには旅館でバイトをする内気な私、双子の片割れでド 乱宇宙人な私、鍛冶屋のお手伝いをするエルフ耳ロリな私、頭に花を乗せてハワイアンな私、その他大勢の私がいるとのことだった。
そしてその平行宇宙は生まれては消滅する運命にある。
しかし何年かそのサイクルの加速が異常な程に早まり、このままでは全ての平行世界、いやこの次元が消滅する可能性が出てきたのだった。

『私』「そしてそれはたとえ別次元に住むといっても私に消滅に等しいダメージを与えます」


150 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/05/17(火) 23:33:35.48 ID:2CfgflN4O
○月△日 AM9:00

世界は崩壊しつつあった

律「唯達に!この世界に何が起こってるんだ!」

和「あってはならない平行世界同士の接触
暫近線に近づきながらも決して触れあうことのなかった世界が今一つになろうとしてる…
その中で唯はただひとつの特異転と化そうとしてる
彼女は既に人を越えてしまっている…」

紬「三行で!」

和「世界が
終わる
のよ」

次元震の衝撃のあまり食卓の焼き魚が吹き飛び固まりつづける澪の顔面に当たる。

梓「ゆいせんぱい!ゆいせんぱあああああああああい!!」


158 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/05/17(火) 23:48:03.61 ID:2CfgflN4O
唯「(この感触はあずにゃんから貰ったヘアゴム…
一体私は何を…そうだ!)」

唯「そんなことは…
そんなことは…させない!」

唯「破ぁあああああああああああッ!!」

八尺様(あいなま)「なぜだぁあああああああああッ!」

光に包まれる唯と八尺様(あいなま)
そして二人は唯達の世界でも八尺様のいた世界でもどこでもない空間を漂っていた。

八尺様(あいなま)「本当に後悔はないね?」

唯「ない
だって生きていくことは…戦いだから!」

八尺様(あいなま)「なら私はここでお別れね…
ちょっとだけ、寂しいけれど」

唯「あ…待って! 行かな…」

八尺様(あいなま)「大好きだったわ、私の未来…

さよなら」

唯「…さよなら」


162 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/05/18(水) 00:04:38.80 ID:VncmWSkwO
○月□日 PM15:00
軽音部部室

唯「いや~一時は本当にどうなることかと思ったよ~」

律「まったく人騒がせな奴だよな
まぁ無事に帰ってこれたんだしよかったけど」

澪「私固まってて気付いたら全部終わってた…」

紬「けどあの時の梓ちゃんすごかったわぁ~
「ゆいせんぱああああーい!」って(くすっ)」

唯「え~ 私それ知らないよー
…あずにゃぁん、も一回だけやって、も一回だけ」

梓「やりません!ムギ先輩も今更そんな話しないでください!」

さわ子「あんた達、今日も元気ねぇ…」

唯「あ、さわちゃん来た どったの?」

さわ子「おとといの晩ライブ行った帰りにハメ外し過ぎてね…
昨日はお休みしちゃった上にまだ調子悪いのよ…」

律「うわ、私らあんなことになってる最中お休みかよ
ていうかまだ微妙に酒くせー」

163 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/05/18(水) 00:12:34.58 ID:VncmWSkwO
律「じゃあみんな集まったことだし…一曲やるか!」

澪「おー律からそんなこと言い出すなんて珍しい」

紬「さんせー!」

梓「ほら、唯先輩も行きましょ!」

唯「……うん!」

こうして私達の日常が戻ってくる。
未来が解らなくたって、闇に包まれていたっていい。
もう先を進むことに恐れなんてないんだから…みんなといれば!

唯「みんなだ~い好きだよぉ!」