1 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/09/03(木) 19:22:52.26 ID:WSXNmIVbO
ついこの間まで蝉がやかましく幅を利かせていた夕暮れ時は、幾分穏やかになり秋の虫の音が響くようになった。そういえばもう久しくクーラーも使っていないなあと、ベッドと壁の間で見つけた空調のリモコンを手に、ぼんやりと考える。



もう夏も終わる。夏休みが終わる。

けだるい暑さは足早に去った。あれだけいやだった熱帯夜が、なんだか恋しい。



そうやって、網戸の向こうから流れてくる夕風に季節の変わり目を感じていると、携帯がやかましく着信を伝えた。やれやれ、どうして機械音はこうも風情がないのか。


……ハルヒか、

ピッ


キョン「よう、どうした」


ハルヒ「旅行に行くわよ!」


4 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/09/03(木) 19:25:23.12 ID:WSXNmIVbO
キョン「なんだ?また突拍子もなく」


ハルヒ「あんた今年どっかに旅行に行ったりしたの?」


キョン「いんや、俺以外の家族は真っ最中だがな」


ハルヒ「じゃあ決まりね!」


キョン「……おまえにとって旅行ってのはそんなに軽いもんなのか」


ハルヒ「なによ、もう夏も終わるわよ!後から後悔してもだめなんだから!」


まあ確かに、旅行というのは悪くない。だいぶ涼しくなってきたことだしな……。
それに、どうせ拒否権はあるまい。

5 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/09/03(木) 19:29:13.61 ID:WSXNmIVbO
もう心はおれましたが書きためてるのでsageで行きます


キョン「……で、いつ行くんだ?」


ハルヒ「今からでもいいけどまあ明日にしてあげるわ!明日朝9時に駅に集合ね!」


キョン「相変わらず唐突なことだ。それで、ほかの奴らも来るのか?」


ハルヒ「……えと、その……」

キョン「ん?なんだ?」


ハルヒ「こ……今回は二人旅!あれよ、あんまり多くても疲れるだけでしょ?」

6 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/09/03(木) 19:30:33.76 ID:WSXNmIVbO
カーテンの隙間から漏れる朝日で目を覚ます。7時少し過ぎ。
その日、空はポスターカラーでベタ塗りしたように青く、どうやら夏が少し戻ってきたようだった。ツクツクボウシがせわしく鳴いている。

俺は昨日の晩にボストンバッグに詰め込んだ荷物を一通り確認した後、鍵をかけ、少しはやめに家を出た。

二人旅……か

7 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/09/03(木) 19:32:14.45 ID:WSXNmIVbO
ハルヒ「早いわね、やる気満々じゃない」


夏の妖精が、そこにいた。
白いワンピースに、麦わら帽子。少しかかとの高いサンダル。それらのすべてが相まって、夏を象徴するような、透き通った神秘さを醸し出していた。
いつもとは違う雰囲気のハルヒに、俺は少し狼狽えてしまった。

きょうの空模様は、どうやらこの妖精の仕業だな。


ハルヒ「……なによぼーっとみて、やましいこと考えてるんじゃないでしょうね」


キョン「すまん、昼飯なに食おうか考えてただけだ」


ハルヒ「全く、つまらないこといってるとおごらせるわよ?」


そういって意地悪に笑うハルヒは、本当にいつもとは違う雰囲気を漂わせていた。
その雰囲気は、純白のワンピースのせいでも、風にさらさらとそよぐ髪のせいでもないようだった。

8 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/09/03(木) 19:33:39.15 ID:WSXNmIVbO
キョン「ところで、俺たちはこれからどこに行くんだ?」


ハルヒ「そうね、どこがいい?」


キョン「……まさかとはおもうが、決めてなかったのか」


ハルヒ「当たり前よ!決まった旅なんてつまらないわよ。」


キョン「……まあ、悪くはないが」


ハルヒ「ちなみに、2泊くらいはするつもりだからいろいろいけるわよ!」


キョン「事前に言ってほしかったもんだが、まあ予想はしていたさ」


ハルヒ「そうね……東かしら、西かしら……」


ハルヒ「こんだけ夏っぽいんだから、西ねっ!」

9 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/09/03(木) 19:35:10.78 ID:WSXNmIVbO
ローカル線からJRに乗り換え、俺たちは西へ向かう電車に揺られていた。流れる景色は、強い日差しを受けて色濃く映えている。まあ風がある分、そう蒸し暑くはなるまい。


ハルヒ「そうそう、あんた朝御飯食べてきたの?」


キョン「いや、作るのが面倒でな。買うのもだるいし。」


ハルヒ「ったく、そんなことだろうと思ったわよ」


そういうとハルヒは、足元のパンパンに膨らんだ鞄から弁当を二つ取り出した。


ハルヒ「ほらこれ、あんたの分!旅はこれからなんだから、しっかり食べなさいよっ」


キョン「おぉ……悪いな」

10 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/09/03(木) 19:36:30.06 ID:WSXNmIVbO
随分彩りのよい弁当だ。これを早起きして作ったんだろう、相当な気合いの入れようだな。
きれいに巻かれた卵焼きを頬張る。なるほど、見かけ倒しではないな。


キョン「お前、何かと器用だな」


ハルヒ「こんなの言葉通り朝飯前よ」


相変わらずスペックの高い奴だ。


ハルヒ「それよりキョン!海が見えてきたわよ!」



15 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/09/03(木) 19:48:16.95 ID:WSXNmIVbO
レスがついたので投下しきって寝ます



俺たちは次の駅で降りると、海に向かって歩き始めた。
時刻は10時30分。町は少し活気づき始めているようだったが、人口はさほど大きくないのだろう、風が青草を揺らすさらさらとした音だけが聞こえていた。


キョン「閑静でいいところじゃないか」


ハルヒ「どうせだから出来るだけ静かなところがいいわよね!」


キョン「そうだな」

16 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/09/03(木) 19:49:01.76 ID:WSXNmIVbO
少し傾斜がかった丘陵から、直線距離にして1キロくらい先だろうか、瀬戸内海がだいぶ昇った太陽をきらきらと反射しているのが見えた。



ハルヒ「うんうん!いかにも夏って感じだわ!」


堤防の上で潮風を受け、ハルヒはご満悦な様子だった。

キョン「あんまりはしゃぐなよ?落ちられたらたまらんからな」

俺は堤防越しに聞こえる波の音を心地よく聞きながら、バランスよく進んでいくハルヒを横目に、いよいよ旅らしさを満喫していた。

それにしても、何でこいつはまたこんな突拍子もないことを思いついたんだろう。まあ、理由があるかどうかすら怪しいもんだが。


18 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/09/03(木) 19:51:06.77 ID:WSXNmIVbO
ハルヒ「……瀬戸内海って、以外と広いわよね………」


キョン「地図でみる感覚とは確かに違うが」


ハルヒ「そうよね……」


キョン「……どうだ、向こう側までわたってみるか?フェリーならそう高くもないだろ」


ハルヒ「……」


俺の言葉は、波にかき消されてしまったのだろうか、ハルヒは無反応だった。ハルヒはぼーっと遠い目でしばらく海に浮かぶ島々を眺めた後、いきなり駆け出した。


ハルヒ「次の駅まで競争っ!勝った人には昼ご飯の選択権が与えられるわよ!」


やれやれ、サンダルでご苦労なことだ。



20 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/09/03(木) 19:54:54.08 ID:WSXNmIVbO
その後俺たちは駅で電車に乗り、その先の少し大きな街の、ハルヒご希望の店で食事をした。

その後、俺たちは相変わらずふらふらと観光じみたことなんかをしていた。一日が過ぎるのは早いもんで、もう日はすっかり西日になり、長く延びる二つの陰の上を涼しい風が吹き始めた。


ハルヒ「今日はこの辺に泊まりましょ、観光地っぽいし、きっといい宿があるわよ!」


キョン「できればゆっくり風呂に疲れるようなところにしてほしいんだが」


ハルヒ「確かに今日は結構歩いたからね……」


途中で買った観光案内の本をめくりながら、ハルヒはあれよこれよと宿選びをしている。


ハルヒ「うん、ここね!近いしあんたご希望の温泉付きっ!」

21 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/09/03(木) 19:56:12.73 ID:WSXNmIVbO
キョン「はぁ~~~」

いい匂いのする和室に寝転がると、旅の疲れが畳へと溶けていくようだ。

ハルヒ「あんくらいでへばっちゃって、まだ二日あるのよ?」

キョン「と言いつつお前も寝ころんでるじゃないか」

ハルヒ「私畳好きなのよね、この臭い、旅に来てるって改めて実感するわ……」



午後6時30分過ぎ。食事までの時間を、俺たちは寝ころんだまま、今日行った街のことだとか明日どこへ行くだとか、そんな話をしながら過ごした。

にしても、こいつと同室で一夜を過ごすとはな。
一部屋しかあいていなかったとは言え、年頃の男女が、相部屋で、だ。少し女将の目がイヤらしかったが、ハルヒは俺に失礼なほどそんなの気にしていないようだ。まあ、こいつはそういう奴だ。

22 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/09/03(木) 19:56:55.08 ID:WSXNmIVbO
キョン「よう、えらく長湯だったな」

ハルヒ「あんたが早いのよ、女の子はいろいろお手入れがあんの!」

キョン「そうかい。ところで、女湯も露天風呂あったか?」

ハルヒ「もちろんあったわ!もう最高よ、湯加減もよかったし!」

キョン「そうか。どうだ、湯上がりに花火でも」

23 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/09/03(木) 19:57:47.66 ID:WSXNmIVbO
旅館から五分ほど歩いたところの砂浜では、所々で家族連れやカップルやらがバーベキューをしたり、花火をしたりと思い思いに過ごしていた。


ハルヒ「適当に来たとは言え、いいとこよね……」

キョン「ああ、観光地らしいしな」

最後に残った線香花火がパチパチと火花を散らすのを、ぼんやりと見つめる。いつもほどの過激さのないこの旅には、これくらいが丁度いいもんだ。

24 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/09/03(木) 19:58:48.51 ID:WSXNmIVbO
ハルヒ「ねぇ、キョン」

キョン「ん?なんだ?」

ハルヒ「……私、あんたに言わなきゃいけないことがあんのよ」

キョン「……また突拍子もない話なんじゃないだろうな」

ハルヒ「……たぶん当たり」

明るく膨らんだ火球から、火花がはじける間隔が短くなっていく。

25 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/09/03(木) 19:59:59.34 ID:WSXNmIVbO
キョン「……で、なんなんだ、あまり聞きたくもないが」

ハルヒ「…………」

ハルヒ「あのね……」

ハルヒ「…………」

ハルヒ「……あっ!あぁ~やっちゃった」

海からの風に吹かれぽつりと落ちたそれは、少し火花を散らした後、すぐさま暗く冷え固まって、きめの細かい砂地に黒い点を作った。


ハルヒ「やっぱなんでもないわ!大したことじゃないし!」


立ち上がりながらハルヒは言う。トリートメントのにおいがほのかに香る。


キョン「……そうかい」

ハルヒ「さ、旅館に戻って明日の行き先を決めましょ!」


俺は散らばった花火を袋に戻した後、大学生らしき人影が、甲高い声を上げるのを尻目に旅館へと戻った。

26 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/09/03(木) 20:01:01.76 ID:WSXNmIVbO
ハルヒは帰るとすぐさま敷かれていた布団に横になり、しばらく旅行雑誌を見ながらあれこれ言っていたが、俺が自販機でジュースを買い戻ってくると、突っ伏したまま熟睡のご様子だった。


キョン「やれやれ、昼間はしゃぎすぎだ」


とはいえ、確かに今日は結構歩いたからな。

ハルヒに布団を掛けた後、電気を消し横になると、いつの間にか意識はまどろんだ夏の夜に溶けていった。

27 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/09/03(木) 20:01:59.89 ID:WSXNmIVbO
キョン「んっ……朝か」


枕元の携帯は午前7時を表示していた。


キョン「確か朝ご飯は30分からだったな……」

キョン「おいハルヒ、朝だぞ」

ハルヒ「んん………なに、もう朝……?」


ハルヒは体を起こし一つ大きくあくびをする。はだけた浴衣からは下着のついていない膨らみがちらっと見えた。朝から刺激が強すぎる……


ハルヒ「なにあんた、朝から変なこと考えてんじゃないでしょうね」

……勘の鋭い奴だ

キョン「……30分から朝食だぞ、あと顔に寝あとが付いてる」

28 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/09/03(木) 20:02:56.24 ID:WSXNmIVbO
キョン「さぁ、食うか」

ハルヒ「……ねえ、もう跡ついてない?」

テーブルに付きながらハルヒは言う。

キョン「ちょっと残ってるぞ」

ハルヒ「迂闊だわ、下向いて寝ちゃうなんて……。」

バイキング形式の朝食からは、個人の食生活が垣間見えるもんだな。こいつの超人ぶりは、このバランスのよい食事のおかげなんだろうか。


ハルヒ「なんかあんたが取ってきたの、ずいぶんじじ臭いわね」

キョン「やっぱ朝は味噌汁だろ、それより、おまえ朝にしてはなかなか食うな」

ハルヒ「当たり前よ!今日もたくさん歩くんだから、あんたもしっかり食べなさいよっ」

29 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/09/03(木) 20:03:40.89 ID:WSXNmIVbO
ハルヒ「……さて、今日はどこに行こうかしら」

キョン「旅行雑誌読んでたのに決めてなかったのか?」

ハルヒ「しょうがないじゃない、昨日は寝ちゃったんだから」

昨日に引き続き相変わらずいい天気だ。海の方を見ると、白絵の具を絞り出したような、質量感のある厚い入道雲が湧いている。


ハルヒ「そうね……昨日は海だったから、今日は山ね!」

30 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/09/03(木) 20:05:00.97 ID:WSXNmIVbO
ローカル線で北へと上がる車両の中で俺は、昨日ハルヒが言い掛けていたことの内容を考えていた。
突拍子のないことらしいそれは、このたびと関係があるのかも知れない。ハルヒに聞いてみようか……いや、こいつのことだ。すぐ茶化されて二度目が聞きづらくなるだけだ。


ハルヒ「ちょっとキョン聞いてるの?」

キョン「すまんすまん、で、なんだっけ?」

ハルヒ「この先の街で今日納涼祭があるって話!花火もあるみたいよ!」

どうやらこの先というのは、中国山地を越えた、日本海側の街のことらしい。結構かかりそうだな……

時刻は10時になろうとしていた。向こうについたら昼前だろうな。

31 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/09/03(木) 20:06:09.24 ID:WSXNmIVbO
ハルヒが少し歩きたいと言い出したので、俺たちは目的駅の少し前で下車し、一車線の県道をぶらぶらとしていた。稲穂が風にそよぎ、田んぼの泥の臭いに混ざり、青臭い夏のにおいがする。

ハルヒ「……カメラもってきとけばよかったわ」

キョン「確かにいい景色だな。隣町の目的地まであと7、8キロってところか」

ハルヒ「まあ、歩き疲れたらバスに乗ればいいわよ。」

キョン「そうだな、まあこの田舎具合なら日に10本程度しかなさそうだが」

ハルヒ「……ねえ」

キョン「どうした」

ハルヒ「キョンは……その……今、楽しい?」

普段人のことなんて気にしないこいつが、俺のことを気にかけているとは思いもしなかった。そのうち雪が降るかも知れんぞ。


キョン「そうだな……たまにはこう言うのも悪くはないな、と思うが」

ハルヒ「そっか……ならいいわ!」

32 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/09/03(木) 20:06:57.92 ID:WSXNmIVbO
ポツ……ポツ…


キョン「なんだ?雨か?」

朝遠くに見えていた暑い積乱雲が、いつの間にか頭上に迫っていた。草木の揺れが激しくなる。

雨は数分もしないうちに強まり、さっきまで乾いていたアスファルトに水が這い始めた。

キョン「ハルヒ!あそこのバス停まで走るぞ!」

ハルヒ「わ……わかった!」


34 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/09/03(木) 20:08:20.49 ID:WSXNmIVbO
時刻表を見る限り、どうやら次のバスまで一時間程度ある。やはりこの辺は本数が少ないみたいだな……

ハルヒ「あ~もう、靴が塗れちゃったわ」

鞄から出したタオルで頭を拭きながら、ハルヒは不満げに……でもなく、何とない感じでいう。雨足はだんだんと強まり、屋根の上から流れ落ちる水の音が響いている。

キョン「バスも当分こないし、やむまで雨宿りだな」

ハルヒ「そうね……」

一通り体を吹き終えたハルヒは、靴を脱いでベンチに三角座りをして、目の前を流れる川が増水していくのをぼんやりと見つめていた。さっきまで澄み渡っていた流水も、今では泥色だ。

ハルヒ「……昨日言い掛けてたこと、言ってもいい?」

川の方を向いたまま、ハルヒは言う。

キョン「……あぁ。俺も少し気になってたんだ。」

ハルヒ「私ね、その………」




ハルヒ「私、転校するの」



36 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/09/03(木) 20:09:17.47 ID:WSXNmIVbO
キョン「………冗談か?」

ハルヒ「……」

キョン「……マジなのか?」

ハルヒ「……親の都合でね。」
キョン「SOS団はどうするんだ?!それに三人とも悲しむじゃないか!」

ハルヒ「……あんたは?」

相変わらずこっちを見ずに、ハルヒは淡々と続ける。



ハルヒ「あんたはどうなの……私は、あんたの気持ちが知りたいわ」

37 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/09/03(木) 20:11:13.36 ID:WSXNmIVbO
キョン「俺は………俺も、寂しい。きっと寂しがる、おまえがいなくなると、悲しいぞ」

ハルヒ「そっか……」

キョン「だから、何とかならないのか?どこかに下宿したり……なんなら長門に頼めばいい!あいつは確か空き部屋を持っていたぞ!もしくは…」

ハルヒ「うんん、いいのよ、あんたが止めようとしてくれるだけで。」

キョン「……もう、決めてるのか」

ハルヒ「……あんたを旅行に誘う前から、ちゃんと決めてたわ。私は、私の決めたとおりにするから」

キョン「……そうか」

ハルヒ「……私ね、四国に行くのよ。確か愛媛だったかしら……この夏に家族でいってみたけど、なかなかいいとこだったわよ。蛇口からポンジュースはでなかったけど。」

キョン「だろうな」

ハルヒ「ホント、ちっぽけよね、あんたも私も。所詮まだ子供だから、逆らえないものだっていっぱいあるわ。地図じゃあんなに狭い瀬戸内海もずいぶん広く感じるわけだわ。」



40 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/09/03(木) 20:12:18.13 ID:WSXNmIVbO
転校がやめになっていないのを聞く限り、こいつはもうむこうでやっていくことを受け入れているのだろう。だから、例の能力も発動しないのだろう。


キョン「……雨、あがったな」

ハルヒ「……そうね」


ハルヒ「でも靴塗れちゃったから、バス待ちましょ。」


キョン「あと20分ってところか……そうだな」

41 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/09/03(木) 20:13:46.50 ID:WSXNmIVbO
それから俺たちは、目的地の少し大きな街を例のごとくふらふらと歩き回った。
あれから転校の話題にはならなかった。お互いそれを避けているようでもあった。


転校……か

そんなことになるなんて、毛頭考えてなかった。ただただ、いつもの慌ただしく非日常な日常が、卒業しても、社会人になっても、そのまま続いていくような気が、何となくしていた。
でも実際は、そんなの絵空事で………こんなに早く、それが明かされるとは思ってもいなかったが。

俺は、夕暮れに近づくにつれ増える人並みが留まることなく往来するのを、それが無常の隠喩であるかのように考えていた。

42 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/09/03(木) 20:17:01.15 ID:WSXNmIVbO
ハルヒ「いや~なかなか楽しかったわ!花火は思ったよりしょぼかったけど!」

キョン「そりゃ地元のだからな」


人であふれかえっていた帰り道も、宿に着く頃には俺たち以外いなくなり、遠くの方で蛙の声が聞こえていた。


ハルヒ「確か今日の宿にも温泉あったから、いい癒しになるわ」

キョン「どうせなら玉造の方まで行きたかったが」

ハルヒ「学生の身分で偉そうなこと言ってんじゃないわよ!」


ハルヒ「……とは言え、明日でこの旅もおわりね……」

キョン「案外早いもんだな、旅も夏も。」

ハルヒ「……しんみりしてんじゃないわよ!宿まで競争!負けたらアイスおごりだから!」

キョン「へいへい」



44 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/09/03(木) 20:19:52.27 ID:WSXNmIVbO
キョン「じゃあ、電気消すぞ」

ハルヒ「いいわよ」

カチッ

キョン「明日は、また当てもなくふらふらするのか?」

ハルヒ「そうね……あんたどっか行きたいとこある?」

キョン「そうだな……とくには」

ハルヒ「なによそれ、ちょっとは考えなさいよね!」

キョン「……明日は、地元を観光ってのはどうだ?ほら、おまえ最後だろ?」

少しの沈黙のあと、ハルヒは言う。

ハルヒ「あんたの割には、いいこと言うわね」

あたりだったか

ハルヒ「……それにしても、今日は雨すごかったわね」

キョン「夏のにわか雨は限度を知らんからな。」

ハルヒ「ちょっとからだ冷えちゃったわよ……キョン、そっち行っていい?」

45 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/09/03(木) 20:21:58.32 ID:WSXNmIVbO
さくっと終わるんで
とりあえず書いてるのは落としきる


キョン「なっ……!自分の布団があるだろっ!」

ハルヒ「一人じゃ寒いのよ!それともあんた、体調を崩した私を背負って地元観光する気?」
キョン「それはごめんだが……」

ハルヒ「じゃあきまりっ!ちょっとそっちよりなさい!」

キョン「ちょ、まじなのか」

ハルヒ「へんなことしたら殺すからね?」

キョン「……」


48 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/09/03(木) 20:24:30.37 ID:WSXNmIVbO
心拍数が過去最高記録を叩き出しそうだ。いかんいかん、変な気が起きる前に寝てしまおう……

ハルヒ「……」

ハルヒ「……キョン?」

ハルヒ「ねぇキョン、寝てるの?」

ハルヒ「キョン……あたしね、あんたにもう一つ、言わなきゃなんないの」

ハルヒ「でもこんなこといったら、あんたにバカにされるかもね……」

ハルヒ「……私、あんたといると、すごい楽しいのよ。でも、なんて言うか、団活の時の楽しさとはまた違う感じでね……」

ハルヒ「要するに……私はあんたのこと、す、す……」

ハルヒ「……」

ハルヒ「……やっぱやめ!あんたにも迷惑だろうし、何せもう転校しちゃうしね!」

ハルヒ「ねえ、キョン」

ハルヒ「……寝ちゃってるか……」



53 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/09/03(木) 20:28:13.05 ID:WSXNmIVbO
ごめん、エロはないけどささっと終わらすから


ハルヒ「キョン!起きなさい!最終日なんだから時間は限られてるのよっ!」

どうやら朝だ。6時30分。ずいぶん早いな……

ハルヒにたたき起こされた俺は、眠気眼をこすりつつ朝食を取ると、電車のダイヤを調べていた。

キョン「この感じだと昼前には帰れるだろうよ。」

ハルヒ「じゃあ早速行きましょ!」

昨日までとは打って変わって、空はすっかり秋色を呈していた。少し白味がかった青空に、ちぎれ雲が転々としている。気温ももう30℃もなさそうだな。

ハルヒ「行きと帰りじゃぜんぜん景色が違って見えるわよね」

キョン「そうだな……それにしても、ずいぶん遠くまで行ったもんだ。」

ハルヒ「次で乗り換えかしら」

キョン「ああ。それからは少し長いがな。」

本当に、遠くまできたもんだ。でも三日間にわたる旅も今日で終わりだ。長いようで短いもんだな。

54 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/09/03(木) 20:29:14.17 ID:WSXNmIVbO
それから俺たちは、初日泊まった観光地やら、最初におりた海沿いの街やらを通り過ぎながら、12時前には出発した駅に着いた。

ハルヒの提案により、俺たちはゲーセンやら、ボウリングやら、どこででもできそうなことをした。こいつもふつうの高校生らしい遊びを、そろそろ身につけたようだな。

そんなことをしている間に、時刻は5時になっていた。

ハルヒ「もう夕方ね……」

キョン「そうだな……もう旅も終わりか。お前、いつこっちをでるんだ?」

ハルヒ「明日の朝早くよ。あんたまだ寝てる頃かもね。」

キョン「そうなのか、見送りは……」

ハルヒ「そんなのいいわよ、行きづらくなっちゃうわよ……」

西日に照らされ、街が黄金色に染まり始めていた。

ハルヒ「そうだ、最後に行きたいところがあるの」

55 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/09/03(木) 20:30:09.33 ID:WSXNmIVbO
傾いた日が、窓枠の形に陰を作る。

ハルヒ「やっぱ部室はいいわよね~!」

そういってハルヒは団長席に腰掛ける。この部室も、ずいぶんと寂しくなるだろう

ハルヒ「この湯飲み、記念にもらっていっていいかしら」

キョン「ああ、いいんじゃないか」

ハルヒは湯飲みを丁寧にタオルで包むと、そっと鞄の奥にしまった。

キョン「……三人には、俺が伝えておくからな」

ハルヒ「……頼んだわ、直接だと泣いちゃうかも知れないから」

ハルヒ「SOS団も解散ね……」

外を見ながら、ハルヒは呟く。

56 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/09/03(木) 20:31:09.36 ID:WSXNmIVbO
キョン「俺は……俺はな、ハルヒ」

ハルヒ「……なによ」

キョン「なかなか楽しかったぞ、SOS団。おまえなら、向こうに行ってもうまくやれるさ!」

ハルヒ「……そうね!もちろん、そのつもりよ!」

キョン「ところでだな……」

ハルヒ「……なによ」

ハルヒがこちらを振り返る。夕日に透けて茶色に輝く髪がふわりとなびく。


キョン「おまえが昨日の夜言い掛けてたことなんだが……」

ハルヒ「!!!」

57 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/09/03(木) 20:32:21.58 ID:WSXNmIVbO
ハルヒ「あ、あんた、起きてたの!!?」

キョン「誰も寝てるなんて言ってなかったろ」

ハルヒ「返事しないなら寝てると思うわよ!アホ!アホキョン!」

キョン「悪かったな……ハルヒ、俺は迷惑なんかじゃないぞ。続き、聞かせてもらえないか?」

ハルヒ「……私に言わそうってわけ?」

キョン「はて、なにを言おうとしていたか俺には見当がつかんからな」

ハルヒ「……いじわる」

ハルヒが席を立ち、俺の方にずかずかと歩み寄ったかと思うと、唇のあたりに、暖かく柔らかい感触がしたのを俺は感じた。

58 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/09/03(木) 20:33:05.38 ID:WSXNmIVbO
ハルヒ「……これが私の気持ちよ。次あったとき、返事しなさいよね!!」


キョン「もう答えはでてるんだがな」


ハルヒ「次でいいのよ!いい?返事決めときなさいよ!!」

ハルヒ「つまんない返事だったら蹴り飛ばすわよ!!」


キョン「ああ、わかった。いつになるかはわからないが、きっとそのときにはちゃんと答えるさ」


ハルヒ「絶対よ?」


キョン「ああ、絶対だ。」



60 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/09/03(木) 20:34:02.00 ID:WSXNmIVbO
登校日の朝



キョン「おっす」


谷口「ようキョン!久し振りだな!」


キョン「おまえは相変わらず元気そうだな。」


谷口「それよりよぉ、西校の奴らが女の子三人紹介してくれるって言うんだよ!来るよな!?」


キョン「遠慮しとく。おまえもアホなこと言ってないでさっさと教室行けよ。」


谷口「つれないなぁ。女でもできたのかよ」


キョン「……さあな」


谷口「なんだと!どういうことだキョン!」


キョン「ほら、行くぞ」

61 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/09/03(木) 20:35:16.57 ID:WSXNmIVbO
岡部「え~~非常に突然なんだが……」


クラスがどよめいている間、俺は、夏の妖精が去り、すっかり秋らしくなった空を眺めていた。輪郭の曖昧になった雲の間に一筋の飛行機雲が引かれていくのを、ぼんやりと眺めては、短くも、色濃い夏を思い出していた。


キョン「次の連休はいつだろうな……」


上空の早い風に流されて、薄雲は箒で掃いたように伸びていった。いくらか優しい色になった空が、その後ろに広がっていた。





おわり
我ながらきもいな、じゃあな