1 :名無しで叶える物語(ドイツ)@\(^o^)/:2014/10/16(木) 03:55:26.29 ID:1evwljoY●.net 2BP(1000)

アイドル研究部を創設したばかりのころは、にぎやかだった。

はじめてもらえた予算を使って、みんなで嬉々として資料を買った。

余ったお金で、コーヒーメーカーも買った。

各自でカップを持ち寄って、よく部室でコーヒーを飲んだものだ。

しかし、コーヒーカップは一つ消え、二つ消え、ついには私のものだけになった。





3 :名無しで叶える物語(ドイツ)@\(^o^)/:2014/10/16(木) 03:56:22.50 ID:1evwljoY.net 2BP(0)

部員が私だけになったのは、一年目の冬。

それから一年経ったが、ひとりぼっちには、まだ慣れない。

ひとりでコーヒーを飲んでいると、なんだか寒々しくなってくる。

おかしいな。

みんなで飲んだコーヒーには、もっと「いんてぃましー」があった気がする。

私は、ヘタな英語で、ひとりごとを呟いた。

カタカナ英語ならぬ、ひらがな英語である。


4 :名無しで叶える物語(ドイツ)@\(^o^)/:2014/10/16(木) 03:57:17.46 ID:1evwljoY.net 2BP(0)

にこ 「さむたいむす」


窓の外は、もうすっかり冬景色だ。


にこ 「らいふ いず みありー」


コーヒーに映る私の顔が、揺れている。


にこ 「あ またー おぶ こーひー」


今日もコーヒーは苦い。


にこ 「あんど ほわっとえばー いんてぃましー

    あ かっぷ おぶ こーひー あふぉーず」


ときに人生は、カップ一杯のコーヒーがもたらす「いんてぃましー」の問題。


5 :名無しで叶える物語(ドイツ)@\(^o^)/:2014/10/16(木) 03:58:19.46 ID:1evwljoY.net 2BP(0)

これは、どこかの国のエラい作家さんの言葉だそうだ。

「いんてぃましー」という単語の意味は、私には分からない。

分からない理由は、私がアホだから(だけ)ではなく、

かつてこの部室にあったはずの「いんてぃましー」が消えてしまったからなのだ。

うーん、この状況、なかなかハードボイルドだぜ。


6 :名無しで叶える物語(ドイツ)@\(^o^)/:2014/10/16(木) 03:59:08.78 ID:1evwljoY.net 2BP(0)

そんなことを考えながらクールにコーヒーを嗜んでいると、

ドカドカドカとノックの音がした。

私が返事をする間もなく、ガランガチャンと戸が開いた。


絵里 「ズドラーストヴィチェ!

    かしこい、かわいい?」


にこ 「……」


絵里 「んー? その名も?」


にこ 「……エリーチカ」


絵里 「ハッラショー!

    エリチカ、そんなふうに褒められるの、はずかしいなあ!」

    

7 :名無しで叶える物語(ドイツ)@\(^o^)/:2014/10/16(木) 04:00:13.98 ID:1evwljoY.net 2BP(0)

希  「にこっち、急にお邪魔してごめんな」


にこ 「希、このポンコツに、ノックのマナーを教えてあげて」


希  「エリチ、ふだんはもう少しだけ賢いんやけどね。

    今は、にこっちに会いたくて、はしゃいでるのよ」


絵里 「にこ、ひとりで、寂しいでしょ?

    何か困ってることはない?

    このスーパーハラショーな生徒会長が、何でもお手伝いするわよ!」


にこ 「スーパーハラショーって何語なのよ……まあそれはいいわ。

    困ってることなんて、別にないわよ。

    私はひとりで平気だもん」

    

8 :名無しで叶える物語(ドイツ)@\(^o^)/:2014/10/16(木) 04:01:27.15 ID:1evwljoY.net 2BP(0)

絵里 「えー、何かあるでしょ!

    ほれほれ、何でも言っていいのよ」

    

にこ 「そんなら、辞書を引くのも面倒だから、一つだけ教えてちょうだい。

    『いんてぃましー』って、どういう意味だったっけ」


絵里 「intimacyの意味ね。お安い御用よ。

       な意味と、   じゃない意味があるけど、どっちが聞きたい?」


にこ 「   じゃないほうだけでいいわ」


絵里 「温かい友情」


にこ 「たとえアタマのネジが弛みきっていても、さすがは生徒会長ね。

    どうもありが……」


絵里 「ちなみに、   なほうの意味は、秘密の性的関係よ!

    キャー、こんなことエリチカに言わせるなんて、にこにーのス・ ・ !」


にこ 「訊いとらんわ! もう帰れ!」


9 :名無しで叶える物語(ドイツ)@\(^o^)/:2014/10/16(木) 04:02:01.37 ID:1evwljoY.net 2BP(0)

希  「ごめんなー、ほなまた。

    ほら、エリチ、帰るよ」


絵里 「あ、にこ、ブラックコーヒー飲んでる!

    カッコいい、すっげーハードボイルド!

    ああ、希、そんなに強く引っ張らないで……

    ほなまた」


にこ 「絵里、あんたのアタマのネジは、弛んでるだけじゃなくて、

    残念ながら、もう何本か抜け落ちてるのね」

    

10 :名無しで叶える物語(ドイツ)@\(^o^)/:2014/10/16(木) 04:03:03.64 ID:1evwljoY.net 2BP(0)

ふたたび静かになった部屋で、考えた。

温かい友情か。

たしかにそれは、この部室には無いものだ。

だからこそ、絵里と希は、私を心配して遊びに来てくれるのだろう。

でも、心配にはおよばない。

他の部員がいないのなら、私は、コーヒーカップに映る私と「いんてぃましー」を築けばよいのだ。

もちろん、ここでいう「いんてぃましー」とは、   なほうの意味ではない。


11 :名無しで叶える物語(ドイツ)@\(^o^)/:2014/10/16(木) 04:06:02.57 ID:1evwljoY.net 2BP(0)

【その夜、矢澤家】


にこ 「みんな、今日もママは遅くなるから、先に夕ごはんを食べるわよ」


こころ「おおっ! 今日の夕ごはんは、カレーですね!

    私、にこにーの作るカレー、だいすきです。

    宇宙ナンバーワンアイドルとして活躍して、

    そのうえ私たちにカレーを作ってくれるなんて、すごいです!」


にこ 「ありがとね。

    あんたたちがお手伝いしてくれたから、おいしく出来たのよ。

    またタマネギの皮むき、手伝ってちょうだいね」

    

12 :名無しで叶える物語(ドイツ)@\(^o^)/:2014/10/16(木) 04:06:51.99 ID:1evwljoY.net 2BP(0)

ここあ「つぎは、ジャガイモの皮がむきたい!」


にこ 「刃物を使うのは、まだダメよ。

    あ、そうだ。

    今日はデザートがあるから、お楽しみにね」


そう言って私は、冷蔵庫からヨーグルトを出して見せた。


こころ「やった! ありがとうございます!

    あれ、でも私たちは四人なのに、このヨーグルトは三個しかありませんよ」


にこ 「そうね。たいてい一パックには三つしか入ってないのよ。

    でもいいわ。私はいらないから」

    

13 :名無しで叶える物語(ドイツ)@\(^o^)/:2014/10/16(木) 04:07:47.74 ID:1evwljoY.net 2BP(0)

にこ 「心配してくれて、ありがとね。

    でも私は、いいのよ。

    そうね、かわりに、コーヒーでも飲むわ」


ここあ「えー、あんなマックロでニガいものを飲んで、ほんとにおいしいの?」


にこ 「苦いから、おいしいのよ。

    でもあんたたちは、そんなこと知らなくていいのよ」

    

14 :名無しで叶える物語(ドイツ)@\(^o^)/:2014/10/16(木) 04:08:26.45 ID:1evwljoY.net 2BP(0)

夕食を終えたあと、三人をお風呂に入れた。

そうこうしているうちに、すぐに三人を寝かしつける時間になった。


にこ 「さあ、おチビさんたちは、もうお布団に入る時間よ。

    今日もにこにーが、お話してあげるから」


こころ「今日は、どんなお話ですか?」


にこ 「『幸福なニコニー』というお話よ」


ここあ「コーフクって何?」


にこ 「コーフクっていうのはね、幸せのこと。

    嬉しかったり、楽しかったりすること。

    うーん、わかりにくいかな……

    そうそう、今日食べたカレーの味がするのよ」


虎太郎「かれー、おいしい」


15 :名無しで叶える物語(ドイツ)@\(^o^)/:2014/10/16(木) 04:10:03.39 ID:1evwljoY.net 2BP(0)

にこ 「そう。コーフクっていうのは、要するに、おいしいカレーのことなのよ。

    では、お話をはじめるわね。

    あるところに、ニコニーという女の子がいました。

    ニコニーは、宇宙ナンバーワンアイドルでした」


こころ「ニコニーは、どんなふうに、宇宙ナンバーワンアイドルだったのですか?」


にこ 「ニコニーは、それはそれは美しいお姫さまの像だったのよ。

    全身は金ぴか。

    両目は、真っ赤なルビー。

    もっているマイクも、黄金でできていたの。

    そして心臓は、ダイヤモンドでできていたわ。

    いわゆるダイヤモンドプリンセスというやつね」


ここあ「ニコニー、すげえ!」


16 :名無しで叶える物語(ドイツ)@\(^o^)/:2014/10/16(木) 04:11:41.58 ID:1evwljoY.net 2BP(0)

にこ 「さて、そんなふうにゴージャスでパーフェクトなニコニーは、

    ある日、街の人びとをかわいそうに思ったの。

    街のみんなは、ニコニーみたいに金ぴかじゃないからね。

    そこでニコニーは、みんなを呼んで、金ぴかを分けてあげることにしたの」


こころ「どうやって、街の人を呼んだのですか?」


にこ 「金ぴかのマイクで歌ったのよ。

    そしたら、その歌声に惹かれて、みんな集まってきたの」


ここあ「どんなお歌?」


にこ 「あんたたちもよく知ってる『にこにーにこちゃん』よ。

    あれを歌うと、誰でも笑顔になれるの。

    だから街のみんなも、笑顔になったわ。

    そして歌い終わったあとで、

    ニコニーは、体の金ぴかを剥がしてみんなに配ったの。

    『これで暖かいコートでも買いな』って言ってね。

    かっこいいでしょ。

    こういう人のことを、むずかしい言葉で、『はーどぼいるど』って言うのよ」

    

17 :名無しで叶える物語(ドイツ)@\(^o^)/:2014/10/16(木) 04:12:57.90 ID:1evwljoY.net 2BP(0)

こころ「はーどぼいるど、ですか。

    よく分からないけど、さすがニコニーです。

    でも、ニコニーは、金ぴかを剥がして、寒くなかったのですか?」


にこ 「ニコニーは平気だったわ。

    今日みたいな冬の寒い日でも、ニコニーはちっとも寒くなかった。

    だって、さっき話したように、ニコニーの心臓は、ダイヤモンドでできていたからね」


ここあ「それで、街の人は、どうしたの?」


にこ 「それぞれの家に帰って行ったわ。

    そして、ニコニーの歌と金ぴかのおかげで、みんな幸福になったの」

    

18 :名無しで叶える物語(ドイツ)@\(^o^)/:2014/10/16(木) 04:14:16.35 ID:1evwljoY.net 2BP(0)

こころ「みんなが行ってしまったら、ニコニーは寂しくないのですか?

    ニコニーには、お友達はいなかったのですか?」


にこ 「ニコニーは、寂しくなんかなかったわ。

    みんなが幸福なのを見れば、ニコニーも幸福だったから。

    ダイヤモンドプリンセスには、友達は必要ないの。

    ダイヤモンドプリンセスは、自分との間に『いんてぃましー』を築けるからね。

    でも、そうじゃない普通の人は、お友達との間に『いんてぃましー』を築かなきゃいけないのよ。

    だから、あんたたちみたいなおチビさんたちは、ちゃんとお友達をつくらなきゃダメよ」


一同 「はーい」


にこ 「さて、今日のお話はここまで。

    おやすみなさい」


一同 「おやすみなさーい」


19 :名無しで叶える物語(ドイツ)@\(^o^)/:2014/10/16(木) 04:14:57.44 ID:1evwljoY.net 2BP(0)

おとぎ話の「ニコニー」と、ここにいる「にこにー」の間には、大きな違いがある。

ダイヤモンドの心臓をもった「ニコニー」と違って、「にこにー」がもっているのは、生身の心臓なのだ。

「にこにー」は、ダイヤモンドプリンセスのふりをしているが、ホントはただの人間なのだ。


20 :名無しで叶える物語(ドイツ)@\(^o^)/:2014/10/16(木) 04:15:21.65 ID:1evwljoY.net 2BP(0)

ああ、私はもう、ひとりぼっちで金ぴかの偶像を演じることに疲れてしまった。

私の体に張られた金メッキは、誰かに配る前に、いつのまにか剥がれてしまった。

金メッキの剥がれた偶像は、寒さに耐えきれずに、部室で一人で震えているのだ。


21 :名無しで叶える物語(ドイツ)@\(^o^)/:2014/10/16(木) 04:16:11.73 ID:1evwljoY.net 2BP(0)

【翌日の放課後、部室】


絵里 「ズドラーストヴィチェ!

    かしこい、かわいい?

    そう、その名もエリーチカよ!」


にこ 「こいつ、ついに返事を待たずに自分から言いやがった……」


希  「お邪魔してごめんね、にこっち。

    今日は、生徒会として、部室の暖房の点検に来たの。

    ほら、にこっちが、部室で一人で震えてたらかわいそうやろ」


にこ 「お仕事お疲れさまね。

    おかげさまで、暖房はちゃんと効いてるわよ」

22 :名無しで叶える物語(ドイツ)@\(^o^)/:2014/10/16(木) 04:17:45.53 ID:1evwljoY.net 2BP(0)

絵里 「それならよかった。

    でもほら、一人でいると、何だか余計に寒くなってくるじゃない」


にこ 「寒くないわよ!

    あんたらの手を借りるまでもないわ。

    パーフェクトな私は、私自身との間に『いんてぃましー』を築けるの。

    だから、一人でも、十分あったかいのよ。

    これがホントの自家発電というやつね」


絵里 「自家発電?

    それってス ……」


にこ 「   な意味じゃないわよ!

    希、このロシアン  ハラショー女を早く生徒会室に連れ帰って」

    

29 :名無しで叶える物語(ドイツ)@\(^o^)/:2014/10/16(木) 04:50:42.84 ID:1evwljoY.net 2BP(0)



希  「まあまあ、そう言わんと。

    せっかくだから、もうちょっとおしゃべりしない?」


にこ 「おしゃべりはしないわ。

    その代わりに、私の質問に答えて。

    どうして私に構うの?

    私からこんなにツッケンドンな態度をとられても、どうして懲りないの?」

        

    

23 :名無しで叶える物語(ドイツ)@\(^o^)/:2014/10/16(木) 04:18:28.34 ID:1evwljoY.net 2BP(0)

それを聞くと、ロシアン  ハラショー女が真面目な顔になった。


絵里 「にこのことが、気になるからよ。

    何か困ってないかな、とか、寒くないかな、とか」


にこ 「それは同情かしら?

    だとしたら、大きなお世話よ。

    私の金メッキはとっくに剥がれてるかもしれないけど、

    それでも、あんたたちから同情されるほど落ちぶれちゃいないの」


絵里 「同情なんかじゃないわ。

    あなたを下に見るつもりなんか、ぜんぜん無い。

    むしろ私たちは、あなたと似た者どうしなのよ。

    だから私たちは、あなたとお友達になりたいの」


希  「何も、アイドル研究部に入れてくれとか頼むわけじゃないよ。

    いっしょにコーヒーを飲むくらいのお付き合いでいいの」


にこ 「あっそ。かってにすれば」


24 :名無しで叶える物語(ドイツ)@\(^o^)/:2014/10/16(木) 04:20:28.38 ID:1evwljoY.net 2BP(0)

どうして私のことが「気になる」のか、そのときの私には、まだ分からなかった。

ただ、絵里と希がアイドル研究部に入れてくれと言わない理由については、うすうす気づいていた。

この二人は、私と同じように、勝手に葛藤を抱え込んで、身動きがとれなくなるタイプなのだ。

だから、どれほどこの部活に興味があったとしても、二人にはそれを口に出す勇気がなかったのだろう。


25 :名無しで叶える物語(ドイツ)@\(^o^)/:2014/10/16(木) 04:21:59.12 ID:1evwljoY.net 2BP(0)

【次の日、部室】


絵里 「おじゃましまーす。

    さっそくコーヒーを淹れるわね。

    にこはブラック、希はミルクを少々で砂糖はなし、でよかったかしら。

    私は、ミルクも砂糖もいただくわね」


希  「マイカップも、もってきたよ。

    この部屋に置かせてもらっていい?」


にこ 「なんで昼休みも来てんのよ!

    ちょっと部室に馴染みすぎじゃないの?」


希  「だって、部活の邪魔をするわけにはいかんやろ。

    そんなら、昼休みに来るしかないやん。

    なあ、エリチ」


絵里 「そうそう。

    大丈夫よ、コーヒーにかかる諸経費は、

    生徒会長の秘術でどうにかするから。

    それにしても、この部屋には色んな機材があるわね。

    あら、このAV機器って、もしかして、ス ……」


にこ 「   な意味じゃないわ!

    オーディオ・ビジュアル機器の略よ!

    中学生みたいな反応しやがって……ていうか、もう、わざとでしょ」

    

26 :名無しで叶える物語(ドイツ)@\(^o^)/:2014/10/16(木) 04:22:34.67 ID:1evwljoY.net 2BP(0)

そして私も、二人をアイドル研究部に誘う勇気がなかった。

私は、部活の仲間を再び失うのが怖かったのだ。

またあんな思いをするくらいなら、一人のままでいい。

お互いに踏み込む勇気を出せないまま、私たち三人は、コーヒーをがぶがぶ飲みつづけた。


30 :名無しで叶える物語(ドイツ)@\(^o^)/:2014/10/16(木) 04:55:56.16 ID:1evwljoY.net 2BP(0)

【数日後、部室】


希  「ねえ、にこっちは、コーヒーが好きなの?」


にこ 「好きだから飲んでいる、というわけではないかもね。

    『いんてぃましー』の意味が知りたくて飲んでるのよ」


希  「『いんてぃましー』とコーヒーには、何か関係があるの?」


にこ 「ときに人生は、カップ一杯のコーヒーがもたらす『いんてぃましー』の問題なのよ」


絵里 「きゃー、にこ、カッコいい! ハードボイルド!」

    でも『いんてぃましー』は、『温かい友情』っていう意味なんじゃないの?」

    

31 :名無しで叶える物語(ドイツ)@\(^o^)/:2014/10/16(木) 04:58:08.51 ID:1evwljoY.net 2BP(0)

にこ 「じゃあ、温かい友情って何なのよ。

    どうしたら、コーヒーみたいな真っ黒で苦い飲み物から、温かい友情が出てくるわけ?

    回し飲みでもしたらいいの?

    でも私は、コーヒーの回し飲みなんてまっぴらごめんよ。

    コーヒーっていうのは、あくまで自分のカップで飲むもんなのよ」


希  「回し飲みする必要は、ないと思うよ。

    ただ、ひとりぼっちで飲んでいたら、『いんてぃましー』は出てこないかもね」


にこ 「そんなら、誰かと一緒に飲んだらいいの?

    同じテーブルでコーヒーを飲みさえすれば、もう温かい友情が芽生えるの?」

    

32 :名無しで叶える物語(ドイツ)@\(^o^)/:2014/10/16(木) 05:06:54.82 ID:1evwljoY.net 2BP(0)

希  「うん。それでええんやないかな。

    もっと言えば、同じテーブルで飲む必要すらないかもしれないね」


にこ 「そんなことを言ったら、なんでもありになっちゃうじゃない。

    ひとりぼっちで飲んでいたら『いんてぃましー』は出てこないって、

    あんたさっき言わなかったっけ?」


希  「別々のテーブルにいても、ひとりぼっちじゃない場合があるかもよ」


にこ 「あーあ、今の私には、分かりそうもないわ。

    ムズカしーことを考えるのは、もうオシマイにしましょ。

    絵里、そこの甘食、取ってくれる?」


絵里 「ねえ、はじめて甘食を見たときから思ってたんだけど、

    甘食って、形といい、二個セットという販売方法といい、すごくス ……」


にこ 「   な意味は込められてないわ!

    淑女の胸にあるモノに似てるとか、そんなことはどうでもいいのよ。

    ていうか、あんたが言うと、私に対するイヤミにしか聞こえないのよ!」

    

33 :名無しで叶える物語(ドイツ)@\(^o^)/:2014/10/16(木) 05:08:22.04 ID:1evwljoY.net 2BP(0)

【その夜、矢澤家】


にこ 「ほら、あんたたち、もう寝る時間よ。

    今日もお話してあげるから、おふとんに入りなさい」


こころ「今日は何のお話ですか?」


にこ 「少し前に話した、『幸福なニコニー』の続きよ」


ここあ「あ、それ覚えてる!

    金ぴかの体で、ルビーの目とダイヤモンドの心臓をもったニコニーの話だよね!」

    

34 :名無しで叶える物語(ドイツ)@\(^o^)/:2014/10/16(木) 05:10:38.21 ID:1evwljoY.net 2BP(0)

にこ 「そうそう、その話よ。

    あのときニコニーには仲間がいなかったけどね、

    ある日、ニコニーに、二人の仲間ができたの」


こころ「よかったです、ニコニーに仲間ができて!

    私、心配してたんです。

    いくらパーフェクトなニコニーといっても、

    やっぱり寂しいんじゃないかなって。

    お名前は、何て言うんですか?」


にこ 「ふふ。ありがとね、心配してくれて。

    二人の名前は、ハラショー女のエリーと、スピリチュアル女のノゾミー。

    口癖は『ハラショーだわ』と『スピリチュアルやね』なの。

    これを言っていれば大抵のことは解決すると思っている、ただのアホよ。

    二人の外見は、黄金に輝くニコニーに比べれば、ごく平凡だわ。

    とはいえ、胸に甘食を入れているという点では、

    ニコニーにないものを持っていると言わざるをえないわね。

    ちくしょう、あいつら……」

    

35 :名無しで叶える物語(ドイツ)@\(^o^)/:2014/10/16(木) 05:11:39.12 ID:1evwljoY.net 2BP(0)

ここあ「ニコニーとエリーとノゾミーは、毎日どんなことをしているの?」


にこ 「一緒にコーヒーを飲むの」


ここあ「ゲー、コーヒー?

    あんなニガいのを飲んで、面白いの?」


にこ 「そうね、なかなか面白いものよ。

    温かい友情も芽生えるかもしれないし。

    もしそうなったら、エリーとノゾミーは、ただの仲間じゃなくて、

    ニコニーのお友達になれるかもね」


こころ「でも、エリーとノゾミーがお家に帰ったら、

    ニコニーは、またひとりぼっちになるんじゃないですか?

    それで、ニコニーはコーフクなのですか?」

    

36 :名無しで叶える物語(ドイツ)@\(^o^)/:2014/10/16(木) 05:12:53.24 ID:1evwljoY.net 2BP(0)

にこ 「そうね。ひとりぼっちになっちゃうかもね。

    うーん……私には、その時ニコニーが何を思うのか、もう分かんないわ。

    もしあんたたちがその場にいたら、何をしてくれる?」


虎太郎「かれー、わけてあげる」


ここあ「そうそう、お姉ちゃん、まえに話してくれたもんね!

    コーフクは、カレーの味がするんだよね」


こころ「うちのカレーは、すごくおいしいですからね!

    きっとそれを食べたら、金ぴかのニコニーも、コーフクになりますよね」


にこ 「そうね。まちがいなく、コーフクだと思うわ。

    三人とも、ありがとね。

    さて、今日のお話はここまでよ。おやすみなさい」


一同 「おやすみなさーい」


37 :名無しで叶える物語(ドイツ)@\(^o^)/:2014/10/16(木) 05:14:27.43 ID:1evwljoY.net 2BP(0)

愛する妹と弟の言うことは、間違いなく正しい。

青い鳥に出てきてもらうまでもなく、幸福は家庭の中にあるのだ。

もっと具体的にいうと、台所のカレー鍋の中にあるのだ。


38 :名無しで叶える物語(ドイツ)@\(^o^)/:2014/10/16(木) 05:15:08.69 ID:1evwljoY.net 2BP(0)

【次の日、昼休み、部室】


絵里 「ズドラーストヴィチェ!

    K・K・Eだよーん!

    ねえ、にこ、KKEって何の略だと思う?」


にこ 「『子どものころは、賢かったのに、エリーチカ』の略かしら」


絵里 「ハズレー! だって今でもかしこいもん!

    そう、KKEとは、昔も今も、かしこい、かわい……モゴゴ」


希  (絵里の口を押さえながら)

   「さあ、今日も、一緒にお弁当食べて、コーヒー飲もか」


にこ 「かってにすればいいわ」


39 :名無しで叶える物語(ドイツ)@\(^o^)/:2014/10/16(木) 05:15:45.85 ID:1evwljoY.net 2BP(0)

絵里 「もー、にこは、今日も気難しい顔をしてるわね。

    そんな顔してると、幸せが逃げていっちゃうわよ」


にこ 「おあいにくさまよ。

    私はもう幸福だから、ご心配なく」


絵里 「ほんと? それならいいけど。

    ちなみに、にこの幸福というのは、何かしら?」


にこ 「うまく言えないけど、カレーの味がするものよ」

40 :名無しで叶える物語(ドイツ)@\(^o^)/:2014/10/16(木) 05:17:14.26 ID:1evwljoY.net 2BP(0)

絵里 「カレーなら、私、知ってるわよ。

    カレーは飲み物なのよね」


希  「いや、エリチ、それはちょっと違うんやないかな」


絵里 「だって、亜里沙が言ってたもん。

    『お姉ちゃん、カレーは飲み物だって、テレビで言ってたよ』って」


にこ 「また聞きの情報をすぐ信じるとは、賢くないわね」


絵里 「そうかしら。でも亜里沙が言うことは4割くらいホントなのよ。

    ベースボールで言ったら、かなりの高打率じゃないかしら。

    だから亜里沙と私は、具の無いカレーを水で薄めて飲むの。

    飲みながら、亜里沙は、こう言うのよ。

    『お姉ちゃん、これがニッポンのワビサビなんだね』って」


にこ 「そりゃ、何も入ってない水っぽいカレーをすすってたら、

    侘しくもなるし、寂しくもなるわよ!

    あんたも亜里沙ちゃんも、日本のカレー文化を誤解しているわ。

    カレーには、ニンジンとか、タマネギとか、ジャガイモとかの具を入れないと」

    

41 :名無しで叶える物語(ドイツ)@\(^o^)/:2014/10/16(木) 05:20:15.01 ID:1evwljoY.net 2BP(0)

希  「いやいやにこっち、カレーにジャガイモは入れないやろ。

    ジャガイモは主食だもん。

    カレーにジャガイモを入れて、それをゴハンにかけるということは、

    いわば、ゴハンをゴハンにかけるようなものだよ。

    それは、そばめしとか、焼きそばパンとか、コロッケ蕎麦とかと同じように、間違ってるよ」


にこ 「おいしければ、それでいいじゃない。

    コロッケ蕎麦を否定するとは、江戸っ子の風上にもおけないわ、このエセ関西人!

    ていうか、カレーの中のジャガイモを否定するなら、

    肉じゃがの中のジャガイモはどうなるのよ」


希  「ジャガイモをゴハンにかけるから、あかんの。

    肉じゃがとしてオカズにするなら、いくらジャガイモが入っていようと、問題ないよ」


にこ 「肉じゃがの中のジャガイモと、カレーの中のジャガイモに、

    どんな違いがあるっていうのよ。

    口に入れたら同じじゃない」


希  「うーん、違うと思うよ。

    オカズとしてお好み焼きを食べるお好み焼き定食は成立するけど、

    さすがの大阪人も、お好み焼き丼なんていう暴挙にはでないやろ」


にこ 「エセ関西人のあんたが言っても説得力はないけど……

    なるほど、希の家のカレーには、ジャガイモが入っていないのか」

    

42 :名無しで叶える物語(ドイツ)@\(^o^)/:2014/10/16(木) 05:22:46.96 ID:1evwljoY.net 2BP(0)

絵里 「不思議なものね。

    それぞれの家庭で、カレーがこんなにも違うなんて」


にこ 「そうすると、幸福の味は、家庭ごとに違うということになるわね」


絵里 「じゃあ、にこの幸福は、私には味わえないの?」


にこ 「そういうことになるわね」


絵里 「でも、にこは、幸福なのね?」


にこ 「そうよ」


絵里の顔が、少し曇った。


絵里 「幸福なら、それでいいけど……

    確かめられないのは、ちょっと寂しいわね。

    あ、私、今日は職員室に用事があるんだった。

    ごめん、ちょっと席を外すわね」

    

43 :名無しで叶える物語(ドイツ)@\(^o^)/:2014/10/16(木) 05:23:48.98 ID:1evwljoY.net 2BP(0)

そう行って、絵里は部室を出ていった。

しばらくしてから、希が口をひらいた。


希  「なあ、にこっち。

    どうしてエリチが、にこっちの幸せを気にするのか分かる?」


にこ 「分からないわ。

    どうして絵里が、私なんかに構うのか」


希  「エリチは、にこっちのことを、自分に似てると思ってるのよ」


にこ 「はあ?

    金髪碧眼で、本当は賢くて、胸に甘食まで入ってる生徒会長が、

    私なんかとどう似てるって言うのよ」


希  「強がってるところ」


44 :名無しで叶える物語(ドイツ)@\(^o^)/:2014/10/16(木) 05:24:54.09 ID:1evwljoY.net 2BP(0)

にこ 「私は強がってなんかいないわよ。

    だって、ほんとーに強いんだから。

    私は、ダイヤモンドの心臓をもった、ダイヤモンドプリンセスなんだから」


希  「そういうとこが、似てるんよ。

    生身の心臓しかもってないくせに、ダイヤモンドの心臓をもってるフリをしてるところが」


にこ 「はーん。大きなお世話ね。

    言っとくけど、私は、

    ダイヤモンドプリンセスのフリをするのをやめるつもりはないからね。

    あいつは私に、どうなってほしいのよ」


希  「何も言いなりにしようとしてるわけじゃないよ。

    ただ、幸せでいてほしいんだよ。

    たとえ、その幸せの味を共有できなくても。

    もちろんウチも、同じことを願ってるよ」


にこ 「……」


45 :名無しで叶える物語(ドイツ)@\(^o^)/:2014/10/16(木) 05:25:32.18 ID:1evwljoY.net 2BP(0)

幸福はカレーの味がする。

カレーの味は、家庭ごとに違う。

だから、違うカレーを食べている人どうしは、幸福を共有できないかもしれない。

それでも相手の幸福を願ってくれるのが、友達なのかもしれない。

だとすれば、絵里と希は、まぎれもなく私の友達なのだ。


46 :名無しで叶える物語(ドイツ)@\(^o^)/:2014/10/16(木) 05:26:17.84 ID:1evwljoY.net 2BP(0)

にこ 「希」


希  「何?」


にこ 「絵里が戻ってきたら、三人でまたコーヒーを飲みましょう」


絵里と希の思いを知った私は、ひとりぼっちでいるのをやめることにした。

二人が私の友達でいてくれるのと同じように、私も二人の友達でいたいと思ったのだ。


47 :名無しで叶える物語(ドイツ)@\(^o^)/:2014/10/16(木) 05:28:35.85 ID:1evwljoY.net 2BP(0)

それから月日は流れ、私たちは三年生になった。

廃校阻止のために結成されたスクールアイドルの話は、私たちの耳にも届いていた。

当初、絵里と私は、別々の立場からμ’sに反発しつづけた。


絵里 「μ’s? 認められないわぁ。生徒会長として」


にこ 「μ’s? 認めないわよ。アイドル研究部部長として」


やっぱり、絵里と私は、頑固なダイヤモンドプリンセスであるという点で、似た者どうしだったのだ。

とはいえ、希の仲介のおかげで、けっきょく私たちもμ’sに加わることになった。

こんな先輩を受け入れてくれた後輩たちには、感謝してもしきれない。

μ’sのおかげで、絵里と希と私は、ようやく同じ部活ができるようになったのだから。


48 :名無しで叶える物語(ドイツ)@\(^o^)/:2014/10/16(木) 05:30:37.46 ID:1evwljoY.net 2BP(0)

そして加入してすぐ、絵里と私は、あることに気がついた。


にこ 「絵里、あの赤毛の吊り目は、もしかすると……」


絵里 「ええ、にこ。

    あのツンケンした態度と協調性の無さは、あなたと私にそっくりよ。

    西木野さんは、おそらく……」


μ’sには、もう一人、ダイヤモンドプリンセスがいたのだ。


真姫 「センパイたち、コソコソと何を話してるんですか。

    話題は、クールで沈着冷静な私のことかしら」


にこ (そうそう。これだわ。

    この根拠のない自信、親近感を感じるなあ)


絵里 (そうそう。これだわ。

    この無理のある虚勢、親近感を感じるなあ)


真姫 「ははーん、分かったわ。

    知性と音楽の才にあふれた、この偉大なる「グレート・まきちゃん」を讃えていたのね。

    いくら賞賛してもいいけど、援助はいらないわよ。

    完璧な私は、なんでもぜーんぶ、ひとりでできるんだから。オホホ」

    

49 :名無しで叶える物語(ドイツ)@\(^o^)/:2014/10/16(木) 05:31:16.03 ID:1evwljoY.net 2BP(0)

【それから数日後、音楽室】


絵里 (ドカドカドカとノックをして、返事も待たずにガランガチャンと戸を開ける)

   「ズドラーストヴィチェ!

    かしこい、かわいい?」


真姫 「……」


絵里 「んー? その名も?」


真姫 「……エリーチカ」


絵里 「ハッラショー!

    エリチカ、マッキーにそんなふうに褒められるの、はずかしいなあ!」


真姫 「……」


50 :名無しで叶える物語(ドイツ)@\(^o^)/:2014/10/16(木) 05:32:21.99 ID:1evwljoY.net 2BP(0)

にこ (ドカドカドカとノックをして、返事も待たずにガランガチャンと戸を開ける)

   「にっこにっこにー!

    あなたのハートに、にこにこにー!

    笑顔とどける?」


真姫 「……」


にこ 「んー? その名も?」


真姫 「……矢澤にこにこ」


にこ 「いやーん!

    マッキーに褒められるのは嬉しいけど、

    どぁめどぁめどぁめ、にこにーは、み、ん、な、の、も、のぉー」


真姫 「……」


51 :名無しで叶える物語(ドイツ)@\(^o^)/:2014/10/16(木) 05:33:06.96 ID:1evwljoY.net 2BP(0)

希  「お、やっとるな。

    二人とも、にぎやかなのはええけど、

    あんまり真姫ちゃんの作曲の邪魔したらあかんよ」


真姫 「希センパイ、教えてくれませんか。

    つい最近までμ’sに反発してたこの二人が、どうしてこんなに急に馴染んでるわけ?

    いや、それはいいとして……

    どうしてこの二人は、私の前ではこんなにアホになるの?」


希  「二人とも、嬉しいんだよ。

    自分たちに似てる女の子を、もう一人見つけることができて」


絵里 「そうだ、真姫、作曲に疲れただろうから、

    コーヒー淹れてあげるわね!」

    

52 :名無しで叶える物語(ドイツ)@\(^o^)/:2014/10/16(木) 05:34:38.59 ID:1evwljoY.net 2BP(0)

にこ 「そうよ!

    コーヒーを飲んだら温かい友情が芽生えるのよ!

    それはもう、ニョキニョキと生えてくるのよ。

    雨後のタケノコのように」


真姫 「なにそれ、意味わかんない」


にこ 「ふふふ。意味わかんないなら、教えてあげるわ。

    温かい友情っていうのは、『いんてぃましー』のことよ。

    ちなみに『いんてぃましー』には、   な意味もあるんだけど、知ってる?」


真姫 「おそろしいほどヘタな発音ね。

    正しくはintimacyでしょ。

    もう一つの意味は……知ってるけど、言いたくないです」


にこ 「秘密の性的関係!

    きゃー、ニコニーにこんなこと言わせるなんて、真姫ちゃんのス・ケ・べ!」

    

53 :名無しで叶える物語(ドイツ)@\(^o^)/:2014/10/16(木) 05:35:43.10 ID:1evwljoY.net 2BP(0)

絵里 「真姫、そんな   なあなたにオススメのお茶うけは、甘食よ。

    ほら見て。

    この意味深な先端部の突起には、たぶんス ……」


真姫 「   な意味は込められてません!

    希センパイ、このアホどもを連れて帰ってください!」


希  「お邪魔してごめんな。ほなまた。

    ほら、二人とも、部室に戻ろ」


絵里 「あー希、そんなに強く引っ張らないで……

    コーヒー淹れといたから、よかったら飲んでね。

    ほなまた」


にこ 「あー希、そんなに強く引っ張らないで……

    一人で音楽室にいるのが寂しくなったら、いつでも呼んでね。

    にこにーが、あんたのことを守ってあげるわよ。

    ほなまた」


真姫 「フン。知らない。

    守ってなんて、私、言ってないもん」


64 :名無しで叶える物語(ドイツ)@\(^o^)/:2014/10/16(木) 18:12:55.99 ID:1evwljoY.net 2BP(0)


【その夜、矢澤家】


こころ「にこにー、今日のお話は何ですか?」


にこ 「今日は、ひさしぶりに、『幸福なニコニー』のお話の続きをするわ」


ここあ「ちゃんとおぼえてるよ!

    金ぴかの体で、ルビーの目とダイヤモンドの心臓をもったニコニーの話だよね!

    ニコニーには、エリーとノゾミーっていう仲間ができたんだよね!」


にこ 「そうそう、その話よ。

    あれから、エリーとノゾミーは、ただの仲間じゃなくて、ニコニーの友達になったの」

    

65 :名無しで叶える物語(ドイツ)@\(^o^)/:2014/10/16(木) 18:13:36.59 ID:1evwljoY.net 2BP(0)

こころ「それはよかったです!

    どうやって、三人はお友達になったのですか?」


にこ 「お互いが、お互いのコーフクを願ったからよ。

    それを願えば、お友達になれるの。

    たとえ三人が、別々のお家に住んでいてもね」


ここあ「コーフクを願う?」


にこ 「そうよ。

    つまり、『おいしいカレーを食べていてくれますように』ってお願いするのよ。

    そうすれば、一緒にカレーが食べられなくても、お友達になれるの」

    

66 :名無しで叶える物語(ドイツ)@\(^o^)/:2014/10/16(木) 18:15:20.75 ID:1evwljoY.net 2BP(0)

こころ「それで、どうなったのですか?」


にこ 「そのあとニコニーには、さらにお友達が増えたの。

    今度はなんと、一気に六人も増えたのよ。

    ホノカーという元気な子。

    ウミーという真面目な子。

    コトリーという優しい子。

    リンという明るい子。

    カヨチンという穏やかな子。

    それからマッキー。そうね、マッキーは……」


虎太郎「まっきーは、どんな子?」


にこ 「ニコニーとぜんぜん違うけど、ニコニーにそっくりな子」


67 :名無しで叶える物語(ドイツ)@\(^o^)/:2014/10/16(木) 18:16:17.70 ID:1evwljoY.net 2BP(0)

こころ「ぜんぜん違うのに、そっくりなんですか?

    むずかしくて、よくわからないです」


にこ 「マッキーは、ピアノと勉強ばかりしているの。

    ピアノを弾くのは、キレイな曲をみんなに聴かせてあげるため。

    勉強するのは、みんなの病気を、いつか治してあげるため。

    ニコニーはピアノも弾けないし勉強もできないから、

    この点では、マッキーとニコニーはぜんぜん違うわ」


ここあ「じゃあ、どんなところが、そっくりなの?」


にこ 「『やってやろーじゃない!』って言って、みんなの期待に応えるばかりで、

    寒くないフリをしてるところ。

    『寒くないの?』って訊くと『寒くないわよ!』って逆ギレするのよ。

    要するに、ただのアホね。かつてのニコニーと同じで」

    

68 :名無しで叶える物語(ドイツ)@\(^o^)/:2014/10/16(木) 18:17:18.29 ID:1evwljoY.net 2BP(0)

こころ「それは困った方ですね。

    ホントは寒いのに、寒くないフリをしていると、カゼをひいちゃいますもんね。

    それでニコニーは、どうしたのですか?」


にこ 「同じくアホのエリーとノゾミーと一緒に、マッキーにコーヒーをあげたの」


こころ「コーヒーを飲むと、カゼをひかなくなるんですか?」


にこ 「ときに、カップ一杯のコーヒーは、温かさをもたらしてくれるのよ」


ここあ「でも、みんな別々の家に住んでるんだよね。

    お家に帰る時間がきたら、どうするの?」


にこ 「ほかのみんなにしてるのと同じお願いをするのよ。

    『マッキーが、お家でおいしいカレーを食べられますように』って」

    

69 :名無しで叶える物語(ドイツ)@\(^o^)/:2014/10/16(木) 18:20:03.69 ID:1evwljoY.net 2BP(0)

【次の日、放課後、音楽室】


絵里 「やっほー、真姫!

    練習が始まる前の時間も惜しんで、ピアノの練習というわけね。

    ところで、さっき穂乃果たちと話し合って、

    今日から『センパイ』って呼ぶの禁止にすることになったから。

    だから私のこと、『かしこいかわいいエリーチカ』って呼んでいいのよ」


にこ 「ズトラースト……(続き忘れた)ナントカ! 真姫!

    今ごろもう、部室ではみんなキャピキャピしながら、

    下の名前で呼び合ってるわよ。

    だから私のこと、『にこにーにこちゃん』って呼んでいいのよ」


真姫 「そんな長い名前では呼びません。

    あなたたちの希望を受け入れたとしても、

    せいぜい『エリー』と『にこちゃん』というところでしょ」

    

70 :名無しで叶える物語(ドイツ)@\(^o^)/:2014/10/16(木) 18:21:05.29 ID:1evwljoY.net 2BP(0)

絵里 「ねえねえ、にこ、聞いた?

    私マッキーから、『エリー』って呼んでもらっちゃった!」


にこ 「私なんか『にこちゃん』だもんねー!

    うらやましいでしょ……あれ、真姫、あんた顔が赤いわよ」


真姫 「ええい、これ以上からかうようなら、

    『マヌケ』と『トンマ』って呼んでやるから、覚悟しなさい。

    ねえ、希。

    ちょっとこの二人、どうにかしてよ」

    

71 :名無しで叶える物語(ドイツ)@\(^o^)/:2014/10/16(木) 18:22:35.71 ID:1evwljoY.net 2BP(0)

希  「ごめんな、真姫ちゃん。

    あとから入ってきた三年生が、真姫ちゃんに構うのは、お節介かもな。

    ウチらがμ’sに入る前から、真姫ちゃんは、凛ちゃんと花陽ちゃんとステキな友達やったし、

    二年生とも仲良くやってたもんな。

    でも、二つ年上の立場からすると、真姫ちゃんのことが心配になるの」


真姫 「心配? 何が心配だって言うんですか」


にこ 「ダイヤモンドのフリをしてるところ」


絵里 「ほんとは、コワレモノみたいに危なっかしいところ」


希  「要するに、この二人みたいなところやね。

    この二人も、以前は真姫ちゃんみたいにめんどくさい人間だったのよ」


にこ 「ウヒョー」


絵里 「ウヒョー」


真姫 「もう少し可愛らしく照れなさいよ……

    そもそも私、昨日も言ったとおり、守ってなんて頼んでないから。

    今日から先輩禁止なのよね。

    そんならお望みどおり、対等な立場で話させてもらうわよ」

    

72 :名無しで叶える物語(ドイツ)@\(^o^)/:2014/10/16(木) 18:23:04.24 ID:1evwljoY.net 2BP(0)

こうして真姫は、絵里へのツッコミ役となり、私のケンカ相手となった。

希は、そんな私たちのドンチャン騒ぎを、にこにこ笑って見ていた。

誰も信じてくれないかもしれないが、私たちは、真姫をコワレモノのように丁重に扱ったつもりだ。


73 :名無しで叶える物語(ドイツ)@\(^o^)/:2014/10/16(木) 18:24:17.68 ID:1evwljoY.net 2BP(0)

【そのまた次の日、音楽室】


にこ 「あ、真姫ちゃん、今こっち見たでしょ」


真姫 「いや、ピアノの脇で見つめ続けられたら、そりゃ気になるわよ。

    いくら私に魅了されたからといって、ちょっとくっつきすぎよ」


にこ 「はあ? 

    カンチガイされちゃ困るわ。

    ただ私は、よくもまあ指がこんなにくるくる動くもんだと、面白くて見てただけよ。

    あんたのほうこそ、ちょっと見られたくらいで、なに照れてんのよ。

    くやしかったら、にらめっこで勝ってごらんなさいよ、このオタンコナス」

    

74 :名無しで叶える物語(ドイツ)@\(^o^)/:2014/10/16(木) 18:27:18.29 ID:1evwljoY.net 2BP(0)

真姫 「オタンコナスは今関係ないじゃない、このドテカボチャ!」


にこ 「ドテカボチャとは言ってくれるわね、このトマト頭!」


真姫 「ちょっと待って、トマト頭って何よ」


にこ 「頑固なアホっていう意味よ」


真姫 「にこちゃん、それを言うなら、キャベツ頭でしょ。

    ほら、リピート・アフター・ミー。

    cabbage head」


にこ 「きゃべじ・へっど!」


真姫 「相手に訂正してもらいながら悪態を言うなんて、アホここに極まれりといったところね。

    私なら恥ずかしくて耐えられないわ。

    あーおかしい。オホホ」

    

75 :名無しで叶える物語(ドイツ)@\(^o^)/:2014/10/16(木) 18:29:28.68 ID:1evwljoY.net 2BP(0)

にこ 「何よ、あんたこそ、なんでそんなに悪態に詳しいのよ。

    やっぱりネジリコンニャクのようにヒネクレた女の子には、口ゲンカでは勝てないわ。

    だって、にこの心は、白コンニャクのように清く滑らかだもん」


真姫 「頭の中が白紙のままでツルツルだと言いたいのなら、同意するわ」


にこ 「ええい、誰の頭がカラッポだって言うの、この……」


そこに、希と絵里が、コーヒーを持ってきた。


希  「ほんまに二人は、なかよしやね。

    部室でコーヒー淹れたから、差し入れよ」


絵里 「ふふふ。息がピッタリ合ってるのね。

    にこ、ケンカはそれくらいにして、グレート・マッキーに何か曲をリクエストしてみたら?」


にこ 「ねーねー、そんなら次は『にこにーにこちゃん』弾いてよ」


真姫 「いいわよ。弾いてあげるから、歌ってごらんなさいよ」


76 :名無しで叶える物語(ドイツ)@\(^o^)/:2014/10/16(木) 18:40:55.66 ID:1evwljoY.net 2BP(0)

それからも毎日、ドテカボチャの私は、オタンコナスの真姫とケンカをしたり、

「にこにーにこちゃん」を歌ったりした。

私が一年生だったころ、正真正銘のキャベツ頭であった当時の私は、こんなふうに友達と遊ぶことができなかった。

だから真姫には、あのころの私の代わりに、いろんなことを楽しんでほしかったのだ。

自分でもよくわからないほどの情熱で、私は音楽室に入り浸った。


77 :名無しで叶える物語(ドイツ)@\(^o^)/:2014/10/16(木) 18:43:04.15 ID:1evwljoY.net 2BP(0)

【数日後の部室、練習のあと】


真姫 「にこちゃん、何こっち見てんのよ」


にこ 「ピアノの脇で見つめているときは釈明のしようもないけど、今は違うわ。

    そっちが先に見たから見たんじゃない。

    言いがかりをつけるようなら、こっちにも考えがあるわよ」


真姫 「いいわよ。そっちがその気なら、こっちだって受けて立つわ」


希  「お、今日もなかよく『そっちこっち論争』やね。

    まあ、その内実は、ヤンキーのインネンの付け合いと同じやけど……

    真姫ちゃん、ムシャクシャするんなら、にこっちに枕投げてみる?」

    

78 :名無しで叶える物語(ドイツ)@\(^o^)/:2014/10/16(木) 18:44:04.47 ID:1evwljoY.net 2BP(0)

真姫 「何で学校に枕があるのよ」


希  「スピリチュアルやろ」


絵里 「オープンキャンパスの日に、スピーチだけじゃ味気ないから、枕投げ大会を計画していたの。

    替わりにライブをすることになったから、結局やらなかったけどね。

    スローガンは、『投げとばせ このマックラな現状』なんつって」


真姫 「枕だけに……って、やかましいわ!

    どうせウソをつくなら、もう少し上手いこと言いなさいよ!

    いーわよ、そこまで用意してるんなら、やってやろーじゃない!」


希  「お、それなら穂乃果ちゃんたちも呼んで、九人でやろか!」


79 :名無しで叶える物語(ドイツ)@\(^o^)/:2014/10/16(木) 18:46:30.74 ID:1evwljoY.net 2BP(0)

ひとしきり枕投げをしたあと、私は絵里と希と帰途についた。


にこ 「いやー、放課後の学校で枕投げをするのが、

    こんなに楽しいとは思わなかったわ」


絵里 「真姫も楽しんでいたようで、何よりね」


希  「理事長がローカを通ったときは、

    枕を隠さなくきゃいけなくて、焦ったよね。

    枕投げをしていたことだけじゃなくて、

    枕が学校にあることから釈明しないといけないから」


にこ 「さて、今度は水遊びでもしましょうか。

    プール掃除か何かにかこつけて、真姫にホースで水を……」


絵里 「さんすい!」


80 :名無しで叶える物語(ドイツ)@\(^o^)/:2014/10/16(木) 18:48:16.97 ID:1evwljoY.net 2BP(0)

希  「にこっちは、ほんまに真姫ちゃんのことを気にかけとるんやな。

    ここんとこ毎日、真姫ちゃんと遊ぶことばっかり考えとるね」


にこ 「私はあいつが、作曲や勉強だけじゃなくて、

    いろんなアソビを『やってやろーじゃない!』って言うところが見たいのよ」


絵里 「どうしてそう思うの?」


にこ 「だってそれは、私が一年生のときに出来なかったことだから。

    だからせめて、かつての私によく似た真姫には、

    あのころの私のかわりに、めいっぱい楽しい思いをしてほしいの」


熱っぽく語る私の目を見て、絵里が優しく言った。


絵里 「大丈夫よ、にこ。

    私たちが部活を引退しても、真姫は残りの五人といっしょに、

    楽しくやっていけるわよ。

    私たちの見ていないところでね」


にこ 「そりゃそうだけど、でも……

    私がついていてあげなきゃだめな気がするのよ」

    

81 :名無しで叶える物語(ドイツ)@\(^o^)/:2014/10/16(木) 18:49:52.60 ID:1evwljoY.net 2BP(0)

このときの私は、まだ気づいていなかった。

「先輩禁止」をして友達になれば、私は真姫との距離を完全に埋められると思いこんでいた。

でも、どんなに距離を埋めても、距離はゼロにはならないのだ。

どんな友達も、ずっと友達のそばについていてあげることは、できないのだ。

私がそれに気づくのは、もう少し先のことになる。


82 :名無しで叶える物語(ドイツ)@\(^o^)/:2014/10/16(木) 20:13:26.52 ID:1evwljoY.net 2BP(0)

【数週間後】


一次予選が近づいたころから、真姫はますます音楽室に籠りがちになった。

真姫はおそらく、予選で負ければ三年生が引退することになると思って、プレッシャーを感じているのだ。

とはいえ、真姫はその悩みを決して口にしなかった。

だから私たちも、彼女にかける言葉を見つけられずにいた。


83 :名無しで叶える物語(ドイツ)@\(^o^)/:2014/10/16(木) 20:14:28.58 ID:1evwljoY.net 2BP(0)

そんなある日の放課後。

私が「にこにーにこちゃん」を歌いながら愉快に廊下を歩いていると、向こうから真姫がやってきた。


真姫 「こんにちは、にこちゃん。

    あなたは、いつもアホみたいに幸せそうね。

    アタマがカラッポだからかしら」


にこ 「あいかわらず、お行儀のよいご挨拶ね。陰気なトマトちゃん。

    でもまあ、たしかに私は、スッゲー幸せよ。

    あんたは、アタマにゴチャゴチャした葛藤を詰めこみすぎなのよ。

    一旦アタマを更地にして、そこにお花畑でも作ってみなさいよ。

    そしたらたぶん、幸せになれるから」

    

84 :名無しで叶える物語(ドイツ)@\(^o^)/:2014/10/16(木) 20:15:24.77 ID:1evwljoY.net 2BP(0)

真姫 「じゃあ、にこちゃん、幸せって何よ」


にこ 「幸せっていうのは、私が今歌ってる『にこにーにこちゃん』のことよ」


真姫 「ふーん。まあ、『にこにーにこちゃん』は確かにステキな曲だけど。

    でも、その答えだけじゃ、意味わかんないわよ」


にこ 「そうよ。意味なんて、わかんなくていいのよ。

    幸せの意味が分からなくても、幸せの味が分かっていれば、それで十分じゃない」


真姫 「じゃあ、幸せはどんな味がするのよ」


にこ 「カレーの味がするのよ」


85 :名無しで叶える物語(ドイツ)@\(^o^)/:2014/10/16(木) 20:17:30.86 ID:1evwljoY.net 2BP(0)

真姫 「なにそれ、変なの。

    そんなら『ハッピー・メーカー』っていうのは、カレー屋さんの歌なのかしら」


にこ 「当たらずといえども遠からずね。

    カレー屋さんじゃなくても、カレーを作る人は、みんなハッピー・メーカーなのよ。

    そして、食卓でカレーを食べる人は、みんな、それで十分ハッピーなのよ」


しばらく考えてから、真姫が言った。


真姫 「なるほどね……

    まあ、よくわからない話はこれくらいにしときましょう。

    さあ、にこちゃん、部活に行きましょ」


にこ 「ごめん、今日は私、練習休ませてもらうわ」


真姫 「何か用事があるの?」


にこ 「うん、まあちょっとね。

    ほかの皆にも、そう伝えといて。

    あんたたちは、予選が近いんだから、ちゃんと練習しときなさいよね!

    それじゃ、また明日!」


真姫 「あ、ちょっと待ちなさいよ、にこちゃん……」


86 :名無しで叶える物語(ドイツ)@\(^o^)/:2014/10/16(木) 20:18:29.76 ID:1evwljoY.net 2BP(0)

私は、そそくさと真姫の前から逃げ出した。

今日は、ママの仕事の都合で、私が家事をしなければならない。

もちろん、だからといって、自分が不幸だとは思わない。

だって私の家庭は、みんなの家庭とはちょっと違うかもしれないけど、でも幸せなのだから。

カレーの味が家庭ごとに異なるように、幸福の味も、家庭ごとに異なるのだ。


87 :名無しで叶える物語(ドイツ)@\(^o^)/:2014/10/16(木) 20:19:02.12 ID:1evwljoY.net 2BP(0)

【矢澤家】


にこ 「ただいまー」


こころ「にこにー、おかえりなさいませ!

    にっこにっこにー!」


ここあ「にこにー、おかえりなさい!

    にっこにっこにー!」


虎太郎「にこにー、おかえり。

    にっこにっこにー」


家に帰ると、かわいい妹と弟が、声をそろえて駆け寄ってくる。

アキハバラのメイドカフェもビックリのお出迎えだ。


88 :名無しで叶える物語(ドイツ)@\(^o^)/:2014/10/16(木) 20:20:00.45 ID:1evwljoY.net 2BP(0)

にこ 「はーい、みんな、にっこにっこにー!

    今日の晩ごはんは、銀河カレーライスよ。

    なぜ銀河かというと、このカレーが宇宙一おいしいからよ。

    なんたって、宇宙ナンバーワンアイドルが作るんだから」


こころ「おおっ!

    にこにー、それはいったい、どんなカレーなのですか?」


にこ 「にこにーが、銀河スーパーマーケットで厳選した食材を使ったカレーよ」


89 :名無しで叶える物語(ドイツ)@\(^o^)/:2014/10/16(木) 20:21:25.30 ID:1evwljoY.net 2BP(0)

ここあ「なにが入ってるの?」


にこ 「まずは、銀河トリ肉。

    宇宙の鳥ハンターが、天の川の河原でつかまえたのよ。

    チョコレートより、もっとおいしいんだから」


そう言って私は、特価品の鶏肉を見せた。

チキンカレーは、おなかにも、お財布にもやさしい。


こころ「ああ、なんとすばらしい!

    ほかには、何が入っているのですか?」


にこ 「隠し味の、銀河リンゴ。

    天の川の岸に生えている木からとれるのよ。

    あんたたちのほっぺたみたいに、丸くて赤くてかわいいの」


そう言って私は、これまた特価品のリンゴを見せた。

すりおろしてちょっとだけカレーに入れると、小さい子にも食べやすいカレーになる。

残りは、フルーツポンチの材料にすればよい。


90 :名無しで叶える物語(ドイツ)@\(^o^)/:2014/10/16(木) 20:21:54.86 ID:1evwljoY.net 2BP(0)

ここあ「にこにー、すげえ!

    ということは、いま、宇宙から帰ってきたの?

    ねえねえ、にこにー、どうやって天の川に行くの?」


にこ 「えーと……

    電車で行くのよ。

    Suicaという魔法の切符を使えば、どこにでも行けるんだから。

    千代田線から山手線を経由して、銀河鉄道に乗り換えるの」


ここあ「よくわからないけど、すげえ!」


虎太郎「にこにー、すげー」


91 :名無しで叶える物語(ドイツ)@\(^o^)/:2014/10/16(木) 20:22:30.00 ID:1evwljoY.net 2BP(0)

【そのころ、学校の屋上】


真姫 「そういうわけで、にこちゃんは今日は練習を休むそうよ」


穂乃果「にこちゃん、何の用事があるのかな?」


絵里 「もしかしたら家庭の事情かもしれないわ。

    あまり詮索しちゃだめよ」


真姫 「カレシでもできたんじゃないのー?

   『どぁめどぁめどぁめー、にこにーは、み、ん、な、の、も、のぉー』とか言ってるけど、

    きっとしょーもない男にだまされてんのよ」

    

92 :名無しで叶える物語(ドイツ)@\(^o^)/:2014/10/16(木) 20:23:37.40 ID:1evwljoY.net 2BP(0)

希  「真姫ちゃん、今日はずいぶん荒れとるね。

    そんな心にもないこと言うなんて。

    ホントはにこちゃんのこと、心配してるんと違う?」


真姫 「そんなわけないでしょ。

    私はにこちゃんがバナナの皮で滑って豆腐の角にアタマをぶつけようが、

    悪いお猿さんに柿をぶつけられてペチャンコになろうが、知ったこっちゃないわ。

    むしろ、にこちゃんの不幸で、トマトがもっとおいしく食べられるというものよ」


凛  「真姫ちゃんはホントに素直じゃないにゃー。

    ホントは、にこちゃんが少しでも不幸な目にあったら、トマトジュースも喉を通らなくなるくせに」

    

93 :名無しで叶える物語(ドイツ)@\(^o^)/:2014/10/16(木) 20:24:10.82 ID:1evwljoY.net 2BP(0)

真姫 「ハア? ちゃんちゃらおかしい。

    練習も終わったことだし、私もう帰るからね。

    そうだ、エリー、希、ちょっと訊きたいことがあるんだけど……」


絵里 「何かしら?」


真姫 (小声で)

   「にこちゃんの家の場所、わかる?」


希  「ごめんね。

    にこっち、ウチらを家に入れてくれないから、正確な場所までは知らないわ。

    途中までは一緒に帰ってるから、大体の場所はわかるけど……」


真姫 「それで十分よ。ありがとう」


94 :名無しで叶える物語(ドイツ)@\(^o^)/:2014/10/16(木) 20:24:45.62 ID:1evwljoY.net 2BP(0)

【矢澤家】


にこ 「あっ、明日の朝の牛乳、買い忘れた。

    こころ、ここあ。

    私ちょっと、銀河スーパーマーケットに買い足しに行くから、

    虎太郎の世話をお願いね」


そう言って私は、マンションの外に出た。

銀河スーパーマーケットは、実際には徒歩10分のところにある。

ちょうど今の時間なら、半額セールも始まっているかもしれない。

小走りで駆けていると、向こうから、せかせかとした足取りで、赤毛の女の子が歩いてきた。


95 :名無しで叶える物語(ドイツ)@\(^o^)/:2014/10/16(木) 20:25:32.91 ID:1evwljoY.net 2BP(0)

真姫 「あら、ミス・ヤザワさん。ごきげんよう。

    今日はずいぶんお急ぎのご様子ですこと。

    そんなにドタバタと走っていると、

    犬の尻尾を踏んづけて、追い回された挙げ句に、ドブに片足を突っ込んでしまいますわよ。

    オホホ」


にこ 「あら、ミス・ニシキノさん、ごきげんよう。

    あなたこそ、ずいぶんお急ぎのご様子ですこと。

    そんなに脇目もふらずに歩いていると、

    猫の尻尾を踏んづけて、引っ掻かれた挙げ句に、電信柱にアタマをぶつけてしまいますわよ。

    オホホ」

    

96 :名無しで叶える物語(ドイツ)@\(^o^)/:2014/10/16(木) 20:28:10.12 ID:1evwljoY.net 2BP(0)

真姫 「アタマがカラッポなくせに、こういう悪態をつくのは得意なのね。

    そのヒネクレたアタマのどこに、きれいなお花畑があるのかしら」


にこ 「何よ。ヒネクレてるのは、お互いさまでしょ。

    ごめんね、私ちょっと急いでるから。

    ケンカの続きは、明日学校でゆっくりと……」


真姫 「何よ。私だって急いでるんだから、にこちゃんに構ってるヒマはないのよ。

    ……まあ、だけど、どうしてもっていうんなら、

    ちょっとにこちゃんの用事に付き合ってあげないこともないけど。

    にこちゃん、どこに行くの?」


毛先をくるくるといじりながら、真姫がそう言った。

しかし私は、スーパーの半額セールに行くところを真姫に見られたくなかった。


にこ 「銀河鉄道に乗らないと行けないところよ。

    残念ながら、真姫ちゃんの持ってるSuicaじゃ行けないわ」


少しの沈黙のあと、真姫が口をひらいた。


真姫 「何よ、にこちゃんの……キャベツ頭」


そう捨て台詞を残して、彼女はすたすたと去っていった。


97 :名無しで叶える物語(ドイツ)@\(^o^)/:2014/10/16(木) 20:29:35.39 ID:1evwljoY.net 2BP(0)

【次の日、昼休み】


にこ 「昨日、たまたま真姫に会ったわ。

    お互いにヒネクレてるから、口ゲンカくらいしかできなかったけどね。

    あいつの減らず口にも、こまったものね」


希  「でも、嬉しいんやろ?

    おしゃべりできて」


にこ 「まーそれは認めてもいいわ。

    何といっても、私と真姫はケンカ友達なんだから。

    具体的には、善良な少女と邪悪な魔女といったところね」


絵里 「魔女?」


にこ 「だって先に毒を吐くのは、たいていあいつの方だもの。

    『二コニー、ジャガイモの皮をバケツに一杯剥くまでは、ゴハンはあげないわよ』

    みたいなことを真姫が言って、私はそれに弱々しく反論するのよ。

    いや、さすがにまだそこまで言われたことはないけど……」

    

98 :名無しで叶える物語(ドイツ)@\(^o^)/:2014/10/16(木) 20:30:20.30 ID:1evwljoY.net 2BP(0)

絵里 「じゃあ昨日は、何を言われたの?」


にこ 「悪態を交えながら、私の行き先を訊かれたわ。

    でも、教えてあげられなかった」


希  「どうして?」


にこ 「友達どうしは、同じカレーを食べる必要はないのよ。

    それぞれの家には、それぞれのカレーがあるんだから」

    

99 :名無しで叶える物語(ドイツ)@\(^o^)/:2014/10/16(木) 20:32:06.07 ID:1evwljoY.net 2BP(0)

絵里 「友達だって、家にお呼ばれすれば、そこの家のカレーが食べられるじゃない」


にこ 「まーそうね。

    でも、ずっとじゃないわ。

    ずっとそこの家のカレーが食べたかったら、友達の壁を越えるしかないわね」


絵里 「友達の壁を越えると、何になるの?」


にこ 「恋人。

    行きつく先は、夫婦ね。

    もっとも、こんなこと考えたって、しょーがないじゃない。

    私たち、女の子どうしなんだから。

    ハハハ、どうしてこんな話になったのやら」


そう言ってカラカラと高笑いする私に、希が口をはさんだ。


希  「にこっち、もしかして、真姫ちゃんのこと……」


にこ 「何よ。あいつはただのケンカ友達よ。

    そうだ、私、進路指導室に用事があるから、ちょっと席を外すわね」

    

100 :名無しで叶える物語(ドイツ)@\(^o^)/:2014/10/16(木) 20:32:56.00 ID:1evwljoY.net 2BP(0)

用事を済ませて教室に戻る途中で、音楽室のそばを通りかかると、きれいなピアノの音がする。

思わず立ち止まって聴き惚れていると、中から声が聞こえた。


真姫 「聴くんなら、中に入ったらどう?」


中に入ると、取り繕ったような高飛車な態度で、真姫が言い放った。


真姫 「ニコニー、ジャガイモの皮むきは終わったの?

    バケツに一杯むくまでは、ゴハンはあげなくってよ。

    オホホ」


にこ 「ちくしょう、おとぎ話の中でしか耳にしないようなイジワルなセリフを、

    ついに現実に言いやがった……」

    

101 :名無しで叶える物語(ドイツ)@\(^o^)/:2014/10/16(木) 20:34:21.11 ID:1evwljoY.net 2BP(0)

真姫 「ジャガイモの皮むきのごほうびに、

    とくべつにグレート・まきちゃんの演奏を聴かせてあげてもよくってよ」


それからしばらく、邪悪な魔女は、善良なる私に曲を聴かせてくれた。

でもその曲は、まだ断片的なものだった。


にこ 「これ、もしかして、次の予選のための曲?」


真姫 「そうよ。未完成だけどね。

    それに、まだぜんぜんダメだわ」


にこ 「そうかな?

    私には、すごくキレイな曲に聴こえるけど」


真姫 「にこちゃんみたいな粗野な女には、

    ネコのケンカでさえも甘美な音楽に聞こえるのよね」

    

102 :名無しで叶える物語(ドイツ)@\(^o^)/:2014/10/16(木) 20:35:16.04 ID:1evwljoY.net 2BP(0)

にこ 「うっさいわね!

    私がせっかく褒めてあげてんのに!

    私は常々、感心してるのよ。

    口を開いても毒しか吐かないあんたが、なぜかキレイな曲を弾けることに」


真姫 「デッショー?

    私の中には、秘密があるのよ。

    それが、あるときは悪態になったり、あるときはキレイな曲になったりするの。

    いわゆるソルジャー・ゲームというやつね。

    まあ、にこちゃんには、私の秘密なんか分かりっこないでしょうけど」


にこ 「そりゃそうよ。

    マシンガンみたいな減らず口で武装されたら、

    あんたの秘密とやらに近づけるはずもないわ。

    地球人が火星人の言葉を理解できる日が来ても、

    私があんたの言葉の真意を見抜ける日はこないでしょうね」

    

103 :名無しで叶える物語(ドイツ)@\(^o^)/:2014/10/16(木) 20:35:58.28 ID:1evwljoY.net 2BP(0)

真姫 「そうね。

    にこちゃんみたいな腹黒い女には無理ね。

    こんな悪い子には、NASAも協力してくれないもんね」


にこ 「はあ、腹黒い?

    私の可愛らしい白いお腹を見ても、まだそんなことが言えるのかしら。

    まあ、百歩譲ってお腹が黒いとしても、私の心は白く輝いてるんだけどね」


真姫 「知ったこっちゃないわ。

    にこちゃんの心なんて、見えないもん。

    にこちゃんに私の秘密が見すかせないのと同じように」


105 :名無しで叶える物語(ドイツ)@\(^o^)/:2014/10/16(木) 20:36:39.63 ID:1evwljoY.net 2BP(0)

にこ 「それはそうと、お昼休みなのに、熱心ね。

    お弁当はもう食べ終わったの?」


真姫 「ええ。凛と花陽と食べたあと、私だけ途中で抜けさせてもらったわ。

    曲作りのことが、どうしても気になって」


にこ 「でも曲作りは、家でもできるじゃない」


真姫 「にこちゃん、あなたはやっぱりアホでマヌケでトンマね。

    ピアノっていうのはね、手を使って弾くのよ」


にこ 「まあそうね」


真姫 「勉強も、手を使ってやるもんなのよ」


にこ 「何が言いたいのよ」


106 :名無しで叶える物語(ドイツ)@\(^o^)/:2014/10/16(木) 20:37:58.68 ID:1evwljoY.net 2BP(0)

真姫 「ピアノを弾きながら勉強することはできないってことよ。

    ウドンを食べながらボクシングができないのと同じくらい、自明なことね。

    だから、ピアノの音が聞こえたら、それは、勉強してないってことをバラしてるわけ」


にこ 「ご家族にバレちゃいけないの?」


真姫 「ううん。

    パパもママも優しいから、そんなことでいちいち口を出したりしないわよ。

    でも、今、作曲で煮つまってるから……

    勉強しないで、ずっとピアノにかじりついている姿をバラしたくないの。

    家族の要求じゃない。私の意地よ」


にこ 「そこまでして、誰のために曲を作ってるの?」


真姫 「それはナイショ」


107 :名無しで叶える物語(ドイツ)@\(^o^)/:2014/10/16(木) 20:38:31.44 ID:1evwljoY.net 2BP(0)

真姫の葛藤は、私には、よくわからない。

病院の一人娘のお嬢さんは、私とはぜんぜん別の家庭で生きているのだ。

真姫は、私とは別のカレーを食べているのだ。

そのカレーを、真姫は、ほんとうに「おいしい」と思っているのだろうか?

私は今まで、自分の家のカレーの味を他人に伝えるつもりはなかったし、他人の家のカレーの味を無理やり知ろうとも思わなかった。

だから、こんなにも他の家のカレーの味を知りたいと思ったのは、はじめてのことだった。


108 :名無しで叶える物語(ドイツ)@\(^o^)/:2014/10/16(木) 20:39:20.05 ID:1evwljoY.net 2BP(0)

にこ 「ねえ、真姫。

    私、絵里と希と友達になったときに、分かったことがあるの。

    友達っていうのは、同じカレーが食べられなくても、

    相手の幸福を願うことができる人のことなのよ」


真姫 「その通りね。

    にこちゃんのくせに、まともなこと言うじゃない」


にこ 「でも、どうしてかわからないけど、今はそれだけじゃ我慢できないの。

    だから訊いてもいいかな?」


真姫 「どうぞ」


にこ 「真姫ちゃんの家のカレーは、ホントにおいしいの?」


真姫 「おいしいわよ」


にこ 「どんな味がするの?」


109 :名無しで叶える物語(ドイツ)@\(^o^)/:2014/10/16(木) 20:40:23.85 ID:1evwljoY.net 2BP(0)

長い沈黙のあとで、真姫が口をひらいた。


真姫 「ねえ、にこちゃん。

    私の秘密が、火星より遠くにあるというのは、正しいわ。

    だから、私の家のカレーの味も、秘密よ」


にこ 「どうやったら、そのカレーを食べに行けるの?」


真姫 「にこちゃん、あなた、きのう会ったときに言ってたわね。

    あなたの行き先には、銀河鉄道に乗らないと行けないって。

    粗野なジャガイモ女らしからぬポエムで、感心したわ。

    だから私も、同じことをあなたに言い返すわね。

    私の秘密も、ソレに乗らないと行けないところにあるの」


にこ 「そんなら、一緒に乗ればいいじゃない」


真姫 「残念ながら、行き先が別なのよ」


にこ 「それなら私、真姫ちゃんの行きたいところまで……」

    

真姫 「にこちゃんの持ってるSuicaじゃ行けないわ」


そう言うと、真姫はふたたびピアノを弾きはじめた。


110 :名無しで叶える物語(ドイツ)@\(^o^)/:2014/10/16(木) 20:40:58.27 ID:1evwljoY.net 2BP(0)

私は何も言い返せなかった。

たしかに、自分の食べているカレーの味を教えずに、相手の食べているカレーの味を知ろうとするなんて、道理にかなわないことだ。


111 :名無しで叶える物語(ドイツ)@\(^o^)/:2014/10/16(木) 20:41:36.07 ID:1evwljoY.net 2BP(0)

音楽室から出たあとで、考えた。

同じカレーが食べられなくても「おいしいカレーを食べていてくれますように」と願うのが、友達。

じゃあ「同じカレーを食べたい」と願うのは、どんな人だろう?

その答えは、すでに述べたとおりだ。

恋人だ。

112 :名無しで叶える物語(ドイツ)@\(^o^)/:2014/10/16(木) 20:43:30.36 ID:1evwljoY.net 2BP(0)

じゃあ、あいつの家のカレーの味が知りたいと思った私は、あいつの恋人になりたいと思っているのか?

いや、それは、ちょっと飛躍しすぎてる。

だって私たちは、女の子どうしじゃないか。

ただ私は、あいつとの距離を埋めたいと思っただけだ。

でも、昨日と今日の会話で、距離を完全に埋めることはできないのだと分かった。

昨日は私が突き放し、今日は真姫が突き放した。

磁石みたいなものだ。ぎりぎりまで近づけると、すっと離れてしまうのだ。


118 :名無しで叶える物語(ドイツ)@\(^o^)/:2014/10/17(金) 00:00:12.46 ID:1evwljoY.net 2BP(0)


【その夜、矢澤家】


こころ「にこにー、今日のお話は何ですか?」


にこ 「『幸福なニコニー』のつづきよ」


ここあ「おぼえてるよ!

    ニコニーには、たくさんのお友達ができたんだよね」


にこ 「そうよ。

    そしてニコニーは、八人の友達と一緒に、アイドルになったの。

    九人で歌ったら、ニコニーの体は、もっと金ぴかになったわ。

    一人で歌ったときよりも、ずっと金ぴかになった」


こころ「どうしてですか?」


にこ 「ニコニーは、うれしかったのよ。

    みんなが、そばにいてくれて」

119 :名無しで叶える物語(ドイツ)@\(^o^)/:2014/10/17(金) 00:01:21.81 ID:wGwaJuL2.net 2BP(0)

ここあ「それで、ニコニーはずっとみんなと一緒に歌ったの?」


にこ 「ずっとではないわ。

    ときには、みんなと一緒じゃない日もある。

    ある日のニコニーは、用事があって、みんなより先に帰ったの。

    そして用事をすませて、牛乳を買いにいく途中で、

    ニコニーはたまたま友達の一人と会ったの」


こころ「誰と会ったのですか?」


にこ 「マッキーよ」


こころ「ピアノとお勉強ばかりしている人ですね」

120 :名無しで叶える物語(ドイツ)@\(^o^)/:2014/10/17(金) 00:02:26.88 ID:1evwljoY.net 2BP(0)

にこ 「そうそう。あのマッキーよ。

    トマトのような赤い髪、

    アメシストのような紫の目、

    そして、ダイヤモンドのように壊れやすい心臓をもった魔女なの」


こころ「ダイヤモンドなのに、こわれやすいのですか?」


にこ 「そうよ。

    ニコニーの心臓も、実は同じように壊れやすかったの。

    そんなところが、そっくりなのよね」

    

121 :名無しで叶える物語(ドイツ)@\(^o^)/:2014/10/17(金) 00:03:14.61 ID:wGwaJuL2.net 2BP(0)

ここあ「それで二人は、どうしたの?」


にこ 「一緒に銀河鉄道に乗ったのよ。

    行き先は、それぞれ違うんだけどね」


こころ「銀河鉄道、私、知ってます!

    それに乗って、いつもにこにーはスーパーマーケットに行くんですよね!」


ここあ「スイカをもってれば、駅から乗れるんだよね!」


にこ 「そのとおり。

    Suicaを見せて鉄道に乗って、二人はいろんなキレイな景色を見たわ。

    白鳥のお星さまとか、サソリのお星さまとか。

    それから、乗り合わせていたほかの七人の友達と一緒に遊んだの。

    お月さまの上で枕投げをしたり、

    天の川の岸辺で水遊びをしたり」

    

122 :名無しで叶える物語(ドイツ)@\(^o^)/:2014/10/17(金) 00:04:01.51 ID:wGwaJuL2.net 2BP(0)

ここあ「すげー、楽しそう!

    ねえねえ、宇宙には、銀河リンゴと銀河トリ肉があるんだよね!

    ニコニーとお友達は、それを食べたの?」


こころ「銀河カレーライスにすると、すごくおいしいんですよね!

    ニコニーとお友達は、カレーを一緒に食べたのですか?」


にこ 「残念ながら、一緒に食べることはなかったわ。

    だって鉄道の中でカレーを食べるのは無理じゃない」


虎太郎「しょくどーしゃ」


にこ 「ん?」


虎太郎「ぎんがてつどーには、しょくどーしゃは、なかったの?」


にこ 「なるほど、食堂車か……」


123 :名無しで叶える物語(ドイツ)@\(^o^)/:2014/10/17(金) 00:06:33.58 ID:wGwaJuL2.net 2BP(0)

友達は別々の家に住んでいるから、それぞれの家のカレーを食べる。

だから、一緒にカレーを食べることはできないのだと、私は思っていた。

でも、それは思い違いだったようだ。

同じ家でカレーを食べることができないなら、道中で一緒にカレーを食べればよいのだ。

友達が家で食べるカレーの味が分からないのなら、一緒にカレーを作ればよいのだ。


124 :名無しで叶える物語(ドイツ)@\(^o^)/:2014/10/17(金) 00:07:42.14 ID:wGwaJuL2.net 2BP(0)

【次の日の昼休み、三年生の教室】


にこ 「ねえ、絵里、希。

    つぎの予選の曲のことなんだけど……」


絵里 「ええ、ことりと海未と真姫が、がんばって準備をしてくれてるわね。

    もちろん私たちも、できるかぎりサポートしなきゃいけないけど」


にこ 「最近、あいつらに負担がかかりすぎてるんじゃないかしら。

    少なくとも真姫は、ちょっと悩んでるように見えるわ」


希  「確かに真姫ちゃん、最近昼休みも放課後もピアノにかじりついてるもんね。

    練習が終わったあとも、下校時刻ぎりぎりまで音楽室にいるし。

    にこっちは、何か事情を知ってるんやな?」


にこ 「ええ、まあ、ちょっとね。

    だから、もう少し私たちで手伝ってあげることはできないかなあって、思ったの」

    

125 :名無しで叶える物語(ドイツ)@\(^o^)/:2014/10/17(金) 00:09:01.33 ID:wGwaJuL2.net 2BP(0)

絵里 「そうはいっても、九人でいっぺんにやるのは効率が悪いし……

    グループに別れて、三人をサポートするのがいいかしら」


希  「うん、それがいいかもね。

    さっそく、今日の練習のときに提案してみる?」


にこ 「そうしましょうか。

    でも、グループ分けはどうする?」


希  「でたらめに分けるよりは、得意分野に別れて集まったほうがいいよね。

    エリチはちょっとだけ作曲の心得があるから、真姫ちゃんの手伝い。

    それと、にこっちも真姫ちゃんのとこがええと思うよ」


にこ 「え? でも私、作曲のことはぜんぜん知らないんだけど」


希  「真姫ちゃんの異変に気づいたのは、にこっちやんか。

    似た者どうし、おしゃべりするだけでも、真姫ちゃんはずいぶん楽になるんと違うかな。

    何といっても、真姫ちゃんと、にこっちと、エリチは、

    μ’sの誇る三大めんどくさいダイヤモンドプリンセスやもんね」


絵里 「ふふふ。何だか強そうな名前ね。実際はあんまり強くないけど……

    さて、そうと決まれば、次は衣装グループと作詞グループね」

    

126 :名無しで叶える物語(ドイツ)@\(^o^)/:2014/10/17(金) 00:09:47.42 ID:wGwaJuL2.net 2BP(0)

こうしてその日の放課後は、グループごとに新曲づくりの手伝いをすることになった。

海未の手伝いをするのは、希と凛。

ことりの手伝いをするのは、穂乃果と花陽。

そして、真姫の手伝いをするのは、絵里と私。


127 :名無しで叶える物語(ドイツ)@\(^o^)/:2014/10/17(金) 00:11:28.26 ID:wGwaJuL2.net 2BP(0)

【放課後、音楽室】


絵里 「はい、それでは、作曲グループの活動をはじめまーす」


真姫 「手伝ってもらえるのは嬉しいんだけど、まずは私が大まかな曲の構成を決めないと」


絵里 「曲の構成は、決まりそう?

    大変なところはない?」


真姫 「残念ながら、ちょっとスランプ気味で……

    なかなか思いつかないの」


にこ 「私は作曲に関してはシロートなんだけど……

    何か悩みがあったら、ちょっと気分転換もかねて、話してもらえるかな」

    

128 :名無しで叶える物語(ドイツ)@\(^o^)/:2014/10/17(金) 00:12:52.61 ID:wGwaJuL2.net 2BP(0)

真姫 「そうね。ずっとピアノにかじりついていても仕方ないし。

    何か別のことをしながら、話を聞いてもらおうかな」


絵里 「いいけど、何する?」


にこ 「カレーライス」


真姫 「ん?」


にこ 「一緒にカレーライスを作りましょ」


それを聞いた絵里の顔が、ぱっと明るくなった。

もしかしたら絵里は、ずっと前からこの言葉を待っていたのかもしれない。


絵里 「さすが、にこね。とってもハラショーな案だわ」


129 :名無しで叶える物語(ドイツ)@\(^o^)/:2014/10/17(金) 00:15:01.39 ID:wGwaJuL2.net 2BP(0)

真姫 「ちょっと待ってよ……

    作曲とカレーと、何の関係があるのよ。

    ほかのグループは、もうちょっと作詞や衣装に関係あることしてるんじゃないの?」


絵里 「それが、海未たちのグループは、裏山に山頂アタックに行ってるの。

    ことりたちのグループは、校庭にテントを張ってお昼寝してるわ」


真姫 「なんて自由な奴らなのかしら……

    でも調理部でもないのに、学校でカレー作ってもいいの?」


にこ 「そのへんは、かしこい生徒会長がいれば、どうとでもなるわよ。

    ね、絵里」

    

130 :名無しで叶える物語(ドイツ)@\(^o^)/:2014/10/17(金) 00:15:53.83 ID:wGwaJuL2.net 2BP(0)

絵里 「そのとおり。

    このKKEの秘術を使えば、学校で何だってできるのよ。

    あ、でも、何をしてもいいからといって、ナニをしてもいいわけでは……」


真姫 「別に   なことをしようってんじゃないわよ!」


にこ 「キャー、まだ   なことなんて一言も言ってないのに!

    そんなこと考える真姫ちゃんこそ、ムッツリ   !」


真姫 「ええい、茶化すな!

    ロシアン  ハラショー女と宇宙ナンバーワン  アイドルめ!

    いいわよ、カレー作りでもカレイの活け造りでも、やってやろーじゃない!」

    

131 :名無しで叶える物語(ドイツ)@\(^o^)/:2014/10/17(金) 00:17:07.52 ID:wGwaJuL2.net 2BP(0)

【スーパーマーケット】


そんなわけで私たちは、カレーの材料を買うべく、銀河スーパーマーケットに赴いた。


絵里 「えーと、ニンジン、タマネギ、ジャガイモ……」


にこ 「あ、ジャガイモを入れると希が困るから、やめときましょうよ。

    作り終わったら、あいつらにも食べさせてやるんだから」


真姫 「なるほど、じゃあみんなの口に合うようにしないと」


にこ 「そうね。真姫、なにか知ってる?」


真姫 「私が知ってるのは、花陽がご飯とカレーを別々の器に盛ることくらいね。

    それぞれのカレーの味の好みについては、よくわからないな」

    

132 :名無しで叶える物語(ドイツ)@\(^o^)/:2014/10/17(金) 00:18:31.43 ID:wGwaJuL2.net 2BP(0)

絵里 「大丈夫よ。

    真姫とにこが好きな具材を作れば、きっとみんなの口にも合うわ。

    真姫の家のカレーには、何が入ってるの?」


真姫 「トマト」


絵里 「では、まず、トマトを買いましょ。

    それから、にこは?」


にこ 「うちで作るカレーライスには、鶏肉が入ってるわ。

    それから隠し味のリンゴ。

    ほら、絵里、あなたも好きな具材を言いなさいよ」


絵里 「私にとってのカレーは飲み物だから、具は入ってないのよ」


にこ 「ずいぶん前に聞いた気がするけど、それホントだったのね。

    具の無い、水で薄めたカレーを飲んでるって話」

    

133 :名無しで叶える物語(ドイツ)@\(^o^)/:2014/10/17(金) 00:21:15.32 ID:wGwaJuL2.net 2BP(0)

真姫 「ちょっと待ちなさいよ……私は初耳よ。

    何でそんな意味わかんないことしてんのよ。

    エリー、カレーっていうのは、ノドがかわくもんなのよ。

    だからカレーの合間に飲む水は、あんなにおいしいの。

    それがあなた、水にカレーを入れたら、水を飲む意味がないじゃない」


絵里 「そう、カレー水は無意味なの。

    ナンセンスの極みなのよ」


真姫 「そこまで分かってるなら、どうしてそんなアホなことするの?」


絵里 「ニッポンのお坊さんは、白湯を飲んで、無の境地を味わっているらしいわね。

    まさにワビサビであり、じつにハラショーだわ。

    そこで私も、同じように、カレー水を飲んで、ナンセンスの境地を味わいたいと思ったの。

    ナンセンスギャグというのは、頭で理解するのではなく、全身で体得するものなのよ」


にこ 「白湯とカレー水をいっしょにするな!

    じゃあ、あんたのためには、何を入れたらいいのよ」


絵里 「水が入っていれば、それで満足よ。

    あとはお気に召すまま」


にこ 「まあ、水はどっちみち入れるけど……薄めないからね」


134 :名無しで叶える物語(ドイツ)@\(^o^)/:2014/10/17(金) 00:22:07.99 ID:wGwaJuL2.net 2BP(0)

【調理室】


こうして私たちは、材料を買い揃えて、調理室でカレー作りを開始した。


絵里 「では、さっそく始めましょうか。ごくごく」


にこ 「あんたは何を飲んでるのよ」


絵里 「カレー水」


にこ 「カレー粉を無駄づかいするな!」


絵里 「カレー水を飲んでいたらノドがかわいたから、

    ふつうのお水をいただいてもいいかしら。

    おお、この無意味な行為……まさにナンセンス」


真姫 「エリー、あなたは、賢さが妙な方向に突き抜けた挙げ句に、

    ついにホントのアホになっちゃったのね」

    

135 :名無しで叶える物語(ドイツ)@\(^o^)/:2014/10/17(金) 00:23:05.63 ID:wGwaJuL2.net 2BP(0)

にこ 「まあ、自由にさせておきましょう。

    真姫ちゃんは、タマネギの皮を剥いてちょうだい」


真姫 「お安い御用、お茶の子さいさいよ。

    ……あれ、何か剥いてたらどんどん小さくなっていくんだけど」


にこ 「わああ、表面だけでいいのよ!

    これじゃ、こころとここあの方が上手だわ」


真姫 「こころちゃんと、ここあちゃんっていうのは、誰のこと?」


にこ 「私のかわいい二人の妹よ。

    虎太郎っていう、かわいい弟もいるのよ。

    いつか、会わせてあげるわね」

    

136 :名無しで叶える物語(ドイツ)@\(^o^)/:2014/10/17(金) 00:24:19.35 ID:wGwaJuL2.net 2BP(0)

真姫 「ありがとう。楽しみにしとくわね。

    それで次は、このタマネギをみじん切りにすればいいのね」


にこ 「わああ、あんたが包丁を持つのを見るのは危なっかしいわ!

    ピアノ奏者が指をケガしたら大変だから、

    切るのはお姉ちゃん……じゃなかった、私に任せなさい!」


真姫 「何よ、その言い間違い!

    私はにこちゃんの義妹ってわけ?

    でも私は、こころちゃんやここあちゃんと違って、もう高校生なのよ。

    包丁くらい使えるわよ、やってやろーじゃない!」


にこ 「わああ!

    真姫ちゃん、猫の手、基本は、猫の手よ!」

    

137 :名無しで叶える物語(ドイツ)@\(^o^)/:2014/10/17(金) 00:24:43.41 ID:wGwaJuL2.net 2BP(0)

大騒ぎしながらも、カレー作りは何とか進む。

材料を全て切り、鶏肉と野菜を少々炒めたあとで、水を入れる。

具材が煮えるのを待ちながら、私はぽつりぽつりと話を始めた。


138 :名無しで叶える物語(ドイツ)@\(^o^)/:2014/10/17(金) 00:26:00.98 ID:wGwaJuL2.net 2BP(0)

にこ 「ねえ、真姫ちゃん」


真姫 「何よ、にこちゃん」


にこ 「一次予選の曲、誰のために作ってるの?」


真姫 「前にも言ったでしょ。

    それはナイショよ」


にこ 「三年生のためじゃない?」


真姫 「はあ?

    カンチガイしないでよね!

    別にあんたたちのために作ってるんじゃないんだからね!」


にこ 「ふふふ。それならいいわ。

    だって曲は、どんなときでも、みんなのためにあるんだからね」


絵里が微笑みながら、カレー水を片手にこちらを見ている。


139 :名無しで叶える物語(ドイツ)@\(^o^)/:2014/10/17(金) 00:27:01.40 ID:wGwaJuL2.net 2BP(0)

にこ 「私たち三年生は、もう半年もしないうちに部活を引退するわ。

    寂しいけど、受験もあるし、卒業もあるんだから、しかたないわよね。

    でも、だからといって、何も気をつかってもらう必要はないし、

    プレッシャーを感じる必要はないのよ。

    私たちは、あんたたちと一緒に部活ができただけで、もう十分なのよ」


絵里が頷きながら、カレー水を口に運んでいる。

ちょっと飲み過ぎだぞ、あいつ。


真姫 「あ、あたりまえじゃない。

    まあでも、その言葉は覚えておくわ。ありがとね」

    

140 :名無しで叶える物語(ドイツ)@\(^o^)/:2014/10/17(金) 00:28:41.06 ID:wGwaJuL2.net 2BP(0)

にこ 「そんなら真姫は、みんなのために曲を作りながら、何をお願いしてくれる?」


真姫が私と目を合わせて、言った。

真姫の目は、さんざん悪態をついてきた女とは思えないほど、澄んでいた。


真姫 「みんなが幸せになること」


私も、真姫から目を逸らさずに言った。


にこ 「その『みんな』の中には、あんた自身も入ってなくちゃダメなのよ」


141 :名無しで叶える物語(ドイツ)@\(^o^)/:2014/10/17(金) 00:32:57.69 ID:wGwaJuL2.net 2BP(0)

真姫 「なーにを言ってるのよ。

    私はすでに完璧な、『グレート・まきちゃん』なんだから、

    お願いをする前から、もうとっくに幸せなのよ……」


にこ 「ふふふ。

    ダイヤモンドプリンセスのフリをするところは、やっぱり変わってないのね。

    そんならいいわ。

    あんたが自分の幸せを願うことができないなら、私が代わりにお願いしてあげるわよ。

    『どうか真姫ちゃんが、幸せでいてくれますように』って。

    『どうか真姫ちゃんが、おいしいカレーを食べていてくれますように』って」

    

142 :名無しで叶える物語(ドイツ)@\(^o^)/:2014/10/17(金) 00:34:41.20 ID:wGwaJuL2.net 2BP(0)

真姫 「私の家のカレーの味も知らないのに、そんなお願いができるのかしら」


にこ 「相手の家のカレーの味が分からなくても、このお願いをすることはできるのよ。

    それだけじゃないわ。

    今こうして、一緒にカレーを作ってるじゃない。

    私たちは、ずっと一緒にカレーを食べることはできないかもしれない。

    でも、いちどでも一緒にカレーを食べることができたら、

    そのカレーの味を思い出しながら、相手の幸せをお願いすればいいのよ」


すると、真姫が微笑んで言った。


真姫 「ありがとう。

    そんなら私も、にこちゃんの代わりに、にこちゃんの幸せをお願いしてあげるわよ」

    

にこ 「ふふふ。ありがとう。

    私たち、友達だもんね」

    

143 :名無しで叶える物語(ドイツ)@\(^o^)/:2014/10/17(金) 00:35:28.18 ID:wGwaJuL2.net 2BP(0)

私たちの話を聞いていた絵里が、満足したように大きく頷くと、残ったカレー水を飲み干した。

さすがに飲み過ぎだぞ、あいつ……

あ、ついに普通の水を飲みはじめた。アホか。


144 :名無しで叶える物語(ドイツ)@\(^o^)/:2014/10/17(金) 00:37:00.14 ID:wGwaJuL2.net 2BP(0)

絵里 「うー、やっぱりカレー水ばかり飲むのは辛いわね。

    ……ところで、にこ」


にこ 「なによ、私が言ったこと、間違ってる?」


絵里 「いいえ。私も同じ意見よ。

    さすが、にこね。

    でも最後の言葉は、ちょっとだけ訂正してもいいのよ。

    カレー鍋の前で、ちょっとだけ友達の壁を越えてもいいのよ。

    にこと真姫。あなたたち二人はね」

    

145 :名無しで叶える物語(ドイツ)@\(^o^)/:2014/10/17(金) 00:38:01.14 ID:wGwaJuL2.net 2BP(0)

真姫 「どういうこと?」


絵里 「生徒会長として、今日は特別に認めるわぁ。

    にこと真姫が、友達の壁を越えて、ちょっとだけス ……」


にこ 「   なことはしないわよ!

    ていうか何よ、   なことって!」


絵里 「きゃー、それを私の口から言わせるの?

    いやーん、にこにーの   !」


にこ 「小学生みたいな茶々を入れるな!

    おいこら、にやにやせずに何か言え、このロシアン  ハラショー女!」


絵里 「あ! エリチカ、カレー水と普通の水の飲みすぎで、

    何だか急に、お花摘みに行きたくなっちゃった。

    ちょっと席を外すわね。

    ほなまた」


そう言うと、絵里は飄々と部室から出て行った。


146 :名無しで叶える物語(ドイツ)@\(^o^)/:2014/10/17(金) 00:40:38.44 ID:wGwaJuL2.net 2BP(0)

扉が閉まったあとで、真姫が呟いた。


真姫 「にこちゃん」


にこ 「何?」


真姫 「『いんてぃましー』の意味って、何だっけ」


にこ 「みんなのところに行けば、答えが分かるわよ。

    でもその前に、まずは二人で答え合わせをしましょうか」


そんなわけで、真姫と私は、ちょっとだけ友達の壁を越えた。

べつに、   なことはしていない。

ただ、埋められないと思われていた距離を、ほんの少しの間だけ、ゼロにしただけだ。

そのあと真姫と私は、できあがったカレーを持って、みんなのところに行った。


147 :名無しで叶える物語(ドイツ)@\(^o^)/:2014/10/17(金) 00:41:54.47 ID:wGwaJuL2.net 2BP(0)

【部室、カレーを囲む九人】


にこ 「さあ、銀河カレーライスの完成よ。

    宇宙ナンバーワンアイドルグループμ’sに所属する、ニコニーとエリーとマッキーが作ったんだから、

    当然のことながら、宇宙一おいしいのよ」


真姫 「ちなみに、タマネギを調理したのは、何事にも完璧なこの私よ」


絵里 「ちなみに、カレー水を飲んだのは、最近ひときわ賢いこの私よ」


148 :名無しで叶える物語(ドイツ)@\(^o^)/:2014/10/17(金) 00:43:45.08 ID:wGwaJuL2.net 2BP(0)

穂乃果「わー、すごーい!

    三人とも、ありがとう!」


海未 「山頂アタックのあとのカレーは、とてもおいしいです」


ことり「お昼寝のあとのカレーも、とてもおいしいよ!」


凛  「鶏肉とトマトが入ってて、すごくおいしい!」


花陽 「隠し味のリンゴも、すごくおいしいよ。

    それに茶碗まで用意してくれて、ありがとう」

    

149 :名無しで叶える物語(ドイツ)@\(^o^)/:2014/10/17(金) 00:44:46.58 ID:wGwaJuL2.net 2BP(0)

希  「なんだかこうしてると、はじめて部室に押しかけて、

    にこっちとコーヒーを飲んだときのことを思いだすなあ、エリチ」


絵里 「そうね。

    あのとき一人でクールにコーヒーを嗜んでいた姿もカッコよかったけど……

    銀河カレーライスを皆に振る舞っている今のあなたも、カッコいいわよ」


にこ 「みんな、どうもありがとね。

    さて、食後はコーヒーをどうぞ」

    

150 :名無しで叶える物語(ドイツ)@\(^o^)/:2014/10/17(金) 00:48:12.45 ID:wGwaJuL2.net 2BP(0)

部員が私しかいなかったころ、この部屋にある食器は、私のコーヒーカップだけだった。

それが今では、九個のコーヒーカップに加えて、九枚のカレー皿プラス一膳の茶碗まである。

いつか私は、自分のカップを手に取って、この部屋を出ることになるだろう。

また一人で、コーヒーを飲む日がくるのだろう。

でも、その日がきても、私はもう寒い思いをせずに済むだろう。


ときに人生は、一杯のコーヒーがもたらす「いんてぃましー」の問題。


今なら、この問題の答えが分かる。

「いんてぃましー」とは、今私が飲んでいるコーヒーの、決して消えない温かさのことなのだ。


151 :名無しで叶える物語(ドイツ)@\(^o^)/:2014/10/17(金) 00:53:55.31 ID:wGwaJuL2.net 2BP(0)

カレー作りと山頂アタックと昼寝が、どれほど役に立ったのかは分からない。

しかし、この数日後、真姫と海未とことりは、すばらしい曲と詞と衣装の案を作りあげることになる。

そのあとのことについては、もう多くを語る必要はないだろう。


152 :名無しで叶える物語(ドイツ)@\(^o^)/:2014/10/17(金) 00:55:22.53 ID:wGwaJuL2.net 2BP(0)

【その夜、矢澤家】


にこ 「さて、そういうわけで、マッキーとエリーとニコニーは、

    銀河鉄道の食堂車でカレーを作って、ほかの六人と一緒にそれを食べました。

    カレーを食べたあとは、みんなでコーヒーを飲みました。

    すると九人のところに、女神のミューズさんが降りてきて、

    ステキな曲と歌詞と衣装ができました。

    だから九人は、とってもコーフクでした」


こころ「おお……」

    

にこ 「これで『幸福なニコニー』のお話はおしまい。

    めでたし、めでたし」


こころ「すばらしいお話です!

    ハッピーエンドというやつですね!」

    

153 :名無しで叶える物語(ドイツ)@\(^o^)/:2014/10/17(金) 00:56:10.09 ID:wGwaJuL2.net 2BP(0)

ここあ「ギンガテツドーは、どこに行くの?」


にこ 「行き先は、九人それぞれ違うのよ。

    だから途中でお別れをする日がくるかもしれない。

    でも、みんなで同じ景色を見て、いっぱい遊んで、

    カレーも食べたし、食後のコーヒーも飲んだ。

    だから、お別れの日がきても、大丈夫なのよ」


虎太郎「よかったね、にこにー」


154 :名無しで叶える物語(ドイツ)@\(^o^)/:2014/10/17(金) 00:57:52.13 ID:wGwaJuL2.net 2BP(0)

【数日後、部室】


穂乃果「甘食って、以外とコーヒーに合うんだね」


ことり「和風のマドレーヌみたいなものだからね」


凛  「でもどうして、甘食なの?」


希  「エリチがこの手のシモネタを好んでるから、しょうがないのよ。

    コーヒーとお茶うけは、生徒会長の秘術で調達してもらってるから、メニューはエリチが選んでるの。

    最近は、にこっちと真姫ちゃんも関わってるみたいだけど」


海未 「シモネタ?

    甘食のどこにハレンチなところがあるのですか?」


花陽 「わ、話題を変えよう!

    食べたいおやつのリクエストとか……」

    

155 :名無しで叶える物語(ドイツ)@\(^o^)/:2014/10/17(金) 01:02:50.48 ID:wGwaJuL2.net 2BP(0)

絵里 (ドカドカドカとノックをして、返事を待たずにガランガチャンと戸を開ける)

   「ズドラーストヴィチェ!

    かしこい、かわいい?」


一同 「エリーチカ!」


にこ (ドカドカドカとノックをして、返事を待たずにガランガチャンと戸を開ける)

   「にっこにっこにー!

    あなたのハートに、にこにこにー!

    笑顔とどける?」


一同 「矢澤にこにこ!」


真姫 (ドカドカドカとノックをして、返事を待たずにガランガチャンと戸を開ける)

   「まっきまっきまー!

    あなたのハートに、まきまきまー!

    知性が溢れているのは、誰の美貌?」


一同 「マッキー!」


希  (ついにダイヤモンドプリンセスは、三人ともポンコツになったか。

    よかったよかった)

    

156 :名無しで叶える物語(ドイツ)@\(^o^)/:2014/10/17(金) 01:05:45.86 ID:wGwaJuL2.net 2BP(0)

にこ 「みんな、今日は、甘食以外のおやつが食べたいという希望を察して、

    新たなお茶うけを調達してきたわ!

    エリーとマッキーとニコニーが選んだんだから、きっとみんなの気に入るわよ!」


穂乃果「わー、なになに?」


絵里 「    プリン」


希  「甘食はまだ詩的やったけど、それはあかんわ、エリチ。

    小学生レベルのシモネタやんか」


真姫 「でも、ここまで堂々と   な意味を込められると、

    むしろ清々しい感じがしてこない?」


海未 「ハレンチですよ、真姫」


157 :名無しで叶える物語(ドイツ)@\(^o^)/:2014/10/17(金) 01:09:00.93 ID:wGwaJuL2.net 2BP(0)

絵里 「あ、そうだ。

    五パックあるんだけど、当然一パック二個入りだから、九人で食べると一つ余るわよね。

    だから余りは、にこにあげるわ!」


真姫 「そうそう。余ったプリンは、にこちゃんが受けとるに相応しいわ。

    いつもありがとね、みんなのお姉ちゃん」


私は、いつも家で三個入りのヨーグルトを妹と弟に譲っている。

絵里と真姫は、そんな私に気を遣ってくれているのだろう。

だから、嬉しいことは嬉しいのだが……


にこ 「ありがとう!

    この二つを仕込めば、私も立派な……って、やかましいわ!」



――――――――

※おわりです。

 読んでくれた方、ありがとうございました。