ココア「今日は2月9日じゃない？」

チノ「そうですね」

ココア「だから『2・9』にかけて、肉祭りをしたらどうかな」

チノ「肉祭り？」

ココア「両陣営に分かれて、肉を投げ合うんだよ」

チノ「絶対嫌です」

ココア「鬼は外！　鬼は外！」ﾌﾞﾝﾌﾞﾝｯ

チノ「痛い痛い！　やめてください！」

ココア「えー。いいと思うんだけどなぁ、肉祭り」

チノ「生肉が肌に張り付くのとか、想像するだけで嫌です」

ココア「焼けばいいの？」

チノ「いや……。焼いてもダメかもです」

ココア「じゃあ、ちょっとお肉焼いてくるから待っててね！　チノちゃん！」ﾀﾞｯ

チノ「待ってください！　焼いてもダメですって！」

ココア「ちゃんとミディアムレアにするから！」

チノ「焼き加減の問題じゃないです！」

ココア「焼けって言ったり焼くなって言ったり……。
　　　チノちゃんと話してると頭が混乱しちゃうよぉ」

チノ「それはこっちのセリフです。ココアさんは少しおかしいですよ」

ココア「うーん……」

チノ「……？　どうしたんでしょう」

ココア「ブロック肉は当てやすいから1点、
　　　しゃぶしゃぶ用のお肉は当てづらいから5点にしようか」

チノ「なに細かいルールを決める段階に移行してるんですか。
　　やりませんよ私は。肉祭りなんて」

ココア「鶏の手羽先って、投げたらブーメランみたいに戻ってくるのかな？」

チノ「知りません」

ココア「ひらめいた！」

チノ「わっ！　……突然大きな声を出すのはやめてください。びっくりしてしまうので」

ココア「大豆って、畑の肉って言うじゃない？」

チノ「言いますね」

ココア「ってことは……。日本人は、昔から肉祭りをしてたってことになるんじゃないかな……？」

チノ「なりません」

ココア「……っ！　大変だよ、チノちゃん！
　　　みんなは2月3日、つまり、肉の日でもないのに肉祭りをしてたことになるんだよ！」

チノ「だからなりませんって」

ココア「チノちゃん！　こうしちゃいられないよ！
　　　早くみんなに知らせないと、取り返しのつかないことになっちゃう！」

チノ「取り返しのつかないことになってるのは、ココアさんの頭の方ですよ」

ココア「止めないでチノちゃん！　私、行かないといけないの！」

チノ「ダメですって！　みんなに変な人だと思われちゃいますよ！」ｸﾞｲｸﾞｲ

ココア「ごめんチノちゃん……。これも正義のため！」ﾌﾞﾝｯ

チノ「痛い！」

ココア「鬼は外！　鬼は外！」ﾌﾞﾝﾌﾞﾝｯ

チノ「痛い痛い！」

ココア「肉は内！」ﾋﾞｯﾀｰﾝ!

チノ「痛ったあああああああっ！！！！！」

ココア「大変……っ！　早くみんなに知らせなきゃ……っ！」ﾀﾞﾀﾞﾀﾞｯ

リゼ「おい、どうしたんだココア。そんなに慌てて」

ココア「……！？　リゼちゃん！　大変なの！」ｷｷｯ

リゼ「おいおい……。なんだよ血相変えて。少し落ち着けよ」

ココア「はぁ……っ！　はぁ……っ！　みんな……っ！　肉祭り……っ！」

リゼ「肉祭り……？」

ココア「知らず知らずのうちに……。みんな肉祭りをしてたんだよ……」

リゼ「……言っている意味が全く分からんのだが」

ココア「リゼちゃん」

リゼ「なんだ」

ココア「ちょうど一週間前、何をしてた？」

リゼ「一週間前……？　ああ。節分だからって、私とシャロ、千夜の三人で豆まきを」

ココア「肉は内！」ﾋﾞｯﾀｰﾝ!

リゼ「がふ……っ！？」

ココア「残念だよ……。リゼちゃん……。
　　　リゼちゃんも、悲しい肉祭りの犠牲者だったんだね……」

リゼ「な……、何を言って……」

ココア「肉は内！」ﾋﾞｯﾀｰﾝ!

リゼ「……っ！」ﾄﾞｻｯ

ココア「……」ｶﾗﾝｺﾛﾝ

千夜「いらっしゃー……、まぁ、ココアちゃん。こんにちは」

ココア「……リゼちゃんに聞いたよ」

千夜「？　何の話？」

ココア「先週の月曜日……、千夜ちゃんが何をしてたのか」

千夜「先週……。あら、ココアちゃんは、
　　てっきりチノちゃんと豆まきをしてるものだと思ってて……。
　　ごめんなさいね。それで声をかけなかったのよ」

ココア「……そう。残念だよ、千夜ちゃん」

千夜「本当にごめんなさい。別に、わざと仲間はずれにしたわけじゃないのよ……？」

ココア「肉は内！」ｽｶｯ

千夜「ひっ……！」ﾋﾗｯ

ココア「今のを避けるなんてね。さすが千夜ちゃんだよ」

千夜「な、何をするの……！？　ココアちゃん！」

ココア「それは自分の胸にでも聞いてみたらいいんじゃないかな」

千夜「だから、ごめんなさいって……。謝ってるじゃないの。
　　本当にチノちゃんとしてるものだと思って……」

ココア「問答無用だよ！　肉は内！　肉は内！」ｽｶｯｽｶｯ

千夜「きゃああああああっ！　お願いだからやめて！　ココアちゃん！」ﾄﾀﾀｯ

シャロ「な……、いったい何の騒ぎよっ！？」ｶﾗﾝｺﾛﾝ

ココア「あー。シャロちゃん」ﾀﾞﾗﾝ

千夜「ひっ……！　シャロちゃん！　逃げて！」

シャロ「ええ……。どういう状況か、全然理解できないわ」

ココア「肉は内！」ﾋﾞｯﾀｰﾝ!

シャロ「ひぐ……っ！？」ｶﾞｸｶﾞｸ

千夜「シャロちゃんッ！！！」

ココア「肉は内ーーーッ！！！」ﾋﾞｯﾀｰﾝ!

シャロ「ひゅっ……」ﾄﾞｻｯ

千夜「シャロちゃああああああああああああん！！！！！！！！」

ココア「さぁ……。次は千夜ちゃんの番だよぉ」

千夜「ココアちゃん！　いい加減にして！」

ココア「いい加減にするのは千夜ちゃんの方だよ。どうせ毎年豆まきしてるんでしょ？」

千夜「……いったい何を言ってるのよ」

ココア「いいから答えてよ。……毎年。豆まき、してるんだよね？」

千夜「ふざけないで！　どうしてシャロちゃんを……」

ココア「早く答えて！　豆まきしてるんでしょう！？」

千夜「ええ！　してるわよ！　それが何なの！？」

ココア「とうとう化けの皮が剥がれたね！　千夜ちゃんは、悲しい肉祭りの犠牲者なんだよ！」

千夜「肉祭り……！？　なんなのよ……、それって」

ココア「知らぬが仏とはよく言ったものだね！　次は外さないよ！」ﾀﾞﾀﾞｯ

千夜「……っ！」ﾊﾞﾊﾞｯ

ココア「逃げても無駄だよぉ！　肉は内！」ﾋﾞｯﾀｰﾝ!

千夜「くう……っ！」ｻﾞｻﾞｻﾞｯ! ﾋｭｯ

ココア「あっははははははぁ！　これでとどめ……？」ｻﾞｸｯ

千夜「はぁ……っ！　はぁ……っ！」ｼｭﾙﾙﾙﾙﾙ……ﾊﾟｼｨｯ!

ココア「な……、何……。これぇ……」ﾄﾞｸｯﾄﾞｸｯ

千夜「……手羽先よ」

ココア「手羽先……っ？」

千夜「そうよ。夕ご飯にしようと思って、さっき買ってきておいたの」

ココア「そう……。私の手羽先ブーメラン説は……、間違ってなかったんだね」

千夜「ええ……。理論は既に完成していた。……あとは実践だけ」

ココア「あっはは……。そっかぁ……。
　　　それをぶっつけ本番で成功させちゃうなんて、さすがは千夜ちゃんだねぇ……」

千夜「……もう終わりよ。ココアちゃん」

ココア「やっぱり私は間違ってなかった……。が……、ま……」ﾄﾞｻｯ

千夜「さようなら、ココアちゃん。悲しき肉祭りの犠牲者よ……」

マヤ「なぁ、メグー。『バタフライエフェクト』って知ってる？」

メグ「ううん。知らないよぉ」

マヤ「ブラジルで蝶が羽ばたくと、テキサスで竜巻が起こるんだってー」

メグ「ええーっ！？　それって本当なの？」

そう。
始まりは、ほんの小さな擦れ違いからだった。

ココア（マヤちゃんにメグちゃん……。これは……、夢……？）

私は、どこでボタンを掛け違えたんだろう。
この結末は、いつから決まっていたことなのだろうか。

千夜「さようなら、ココアちゃん……」

ココア（千夜ちゃん……）

チノ「生肉は嫌です！」

ココア（そうだね、チノちゃん……。次はちゃんとうまく焼けるように頑張るよ……）

仮に人生をやり直せるとするならば、どこを起点にすれば良いのだろう。
どこまで時間を巻き戻せば、この惨劇は回避されるのだろうか。

リゼ「何をするんだ！　ココア！」

シャロ「何をするのよ！　ココア！」

ココア（リゼちゃんに……。シャロちゃん……。ごめんね、二人とも。
　　　お肉はぶつける物じゃなくて、食べる物だったんだね……）

私には分からない。
そもそも、そんなことを考える意味があるのかすら甚だ疑問だった。

千夜「……ココアちゃん。ごめんなさい」

ココア（ううん……。私の方こそごめんね、千夜ちゃん。
　　　きっといつか、手羽先ブーメランの投げ方教えてね）

竜巻が起きた原因を、蝶の羽ばたきに見つけることが不可能なことと同じように、
私の引き起こした失敗も、どこから始まったかなんて予測もつかない。

ココア（ああ……。だんだん体が軽く……）

もし、次があるのならば。
もう一度チャンスが与えられるとしたら。
私は、もっとうまくやれるだろうか。

チノ「ココアさん。豆まきしましょう」

ココア「え？　節分はもう1週間も前だよ」

チノ「うっかりしてました。今日、マヤさんとメグさんが豆まきした話をしてて、
　　私もやりたいと思ったんです」

ココア「うーん……。豆まきかぁ」

チノ「やりましょう」ｿﾜｿﾜ

ココア「まったくしょうがないなぁ。お姉ちゃんが付き合ってあげるよぉ」

チノ「さすがココアさんです。それではお姉ちゃんのココアさんが鬼をやってください」

ココア「えー！　そんなのないよ！」

終わり