希「凍ってると種出すの面倒くさくて種ごと食べるやん」

穂乃果「うんうん」

にこ「体に悪いわよ……」

希「なんでなん？　スイカバーは種ごと食べても何も言われへんのに」

穂乃果「そういえばそうだねぇ」

にこ「あれはチョコチップか何かでしょうが！　本物の種とは違うのよ！」

希「そうなんや……。初めて知ったわ……」

穂乃果「私もだよ……」

にこ「全然話が進まないんだけど！？」

希「それで朝起きたら頭から芽が生えてたんよ」

にこ「要約すると……。冷凍スイカの種が、希の体の中で芽を出したってことでいいの？」

穂乃果「そうとしか考えられないね！」

希「そうやんなぁ」

にこ「……そんなことがありえるのかしら」

穂乃果「ああ！　私、分かったかも！　つまり……」

希「なぁに？　穂乃果ちゃん」

穂乃果「夏になったら、希ちゃんからスイカが取れるってこと……？」

希「やったやん！　スイカ食べ放題なんよ！」

にこ「喜んでる場合じゃないでしょ！？　放っておいたら大変なことになるわよ！」

希「い、いったいどうなるんよ……？」

穂乃果「怖がらせるのはやめてよ……、にこちゃん……」

にこ「きゅ、急にテンション落とさないでくれる！？　こっちまで怖くなるじゃないの……！」

希「にこっち！　うちはどうなるんや！」ﾕｻﾕｻ

穂乃果「にこちゃん！　希ちゃんはどうなるの！」ﾕｻﾕｻ

にこ「ちょ、ちょっと！　揺さぶらないでよ！」

希「もったいぶってるとわしわしするでぇ！」ﾜｼﾜｼ

穂乃果「じゃあ私も！」ﾜｼﾜｼ

にこ「二人がかりは卑怯……っ！　あぁん……っ！」ﾋﾞｸﾋﾞｸｯ

にこ「いい加減にしなさいよ！　あんた達！」

希「にこっち……、ごめんなぁ……」

穂乃果「ごめん……。ちょっと変なテンションになっちゃって……」

にこ「いい！？　人間の身体から植物の芽が生えるなんて、前代未聞のことなのよ！　分かる！？」

希「うちなぁ、昔テレビで、眼球から芽が生えた人の番組見たことあるんよ」

穂乃果「目から芽が！？」

希「歯には歯をや！」

穂乃果＆希「ハンムラビ法典！　イエーイ！」

にこ「何を盛り上がってんのよ！」

穂乃果「それで……、その人はどうなったの？」

希「しゅじゅちゅして芽を取ったらしいで？」

穂乃果「しゅずつで目を取ったの……？」

希「違うんよ。目じゃなくて、しゅじゅちゅで芽を取ったんよ」

穂乃果「しゅじつで……」

にこ「”手術”でしょうが！　なんで一回もちゃんと言えないのよ！
　　　その滑舌の悪さで、よく今までアイドルなんてやってこれたわね！」

穂乃果「何よ！　そんなに怒るんだったら、にこちゃんしゅじゅちゅって10回言ってみなよ！」

にこ「しょうがないわねぇ。ちゃんと聞いておきなさい。
　　　手術手術手術手術しゅじゅちゅ……」

穂乃果「ほら！　言えてないじゃん！」

にこ「うっるさいわねぇ！　そんなの今は関係ないでしょ！？」

希「うちも手術せなあかんのかなぁ……」

穂乃果「わっ！？　希ちゃん！　今”手術”って言えてたよ！」

希「そう言う穂乃果ちゃんも言えてたんよ」

穂乃果＆希「イエーイ！」ﾊﾟｰﾝ!

にこ「だからそんなことで盛り上がってる場合じゃないでしょうに！」

希「にこっちは”手術”ってちゃんと言えなくて悔しいんやなぁ」

穂乃果「にこちゃん！　気持ちは分かるけど、八つ当たりは良くないよ！」

にこ「なんなのよ！　あんた達は！」

希「ちょっと怖いけど……、これからお医者さん行ってくるわ……」

穂乃果「何科に行けばいいんだろうね？」

にこ「手術が必要そうなら……。外科、かしら」

希「産婦人科と違うん？」

にこ「なんでよ！？」

希「だって”芽”って植物の赤ちゃんやろ？
　うち、昨日食べたスイカの子をこの身に宿してるんよ……」

穂乃果「の、希ちゃん……。その歳でママになるの……？」

希「そうやね……。望んでできたわけやないけど……、子供にはなんの罪もないもんね……」

にこ「変に話を重たくしないでくれる！？」

希「お医者さんの話聞いてきたんよ……」

穂乃果「それで……、どうだった……？」

希「……」

穂乃果「……」

にこ「……」

希「これな……」

穂乃果「うん……」

にこ「な、何よ……。さっさと言いなさいよ……」

希「スイカの芽やなかった……」

穂乃果「えっ」

にこ「えっ」

穂乃果「じゃあ……、なんだったの……？」

希「枝毛やって」

にこ「枝毛！？」

穂乃果「そうなんだぁ！　良かったね、希ちゃん！」

希「うんっ！　心配かけてごめんなぁ」

穂乃果「ううん！　希ちゃんが無事ならそれでいいよ！」

希「ありがとうなぁ」

にこ「ちょ……！　ちょっと待ちなさいよ！」

希「なぁに？　にこっち」

にこ「そんな緑色した奇抜な枝毛って……、ありえるの……？」

希「ありえるも何も……」

穂乃果「現に生えてるじゃない！　にこちゃん、現実を見ないと！」

にこ「ええー……」

希「お医者さんがなぁ、これを根元から切って鉢植えに植えておけば、
　夏には花が咲くだろうって言ってたんよ」

穂乃果「そうなんだ！　じゃあさっそく鉢植え買いに行こうよ！」

希「何から何までごめんなぁ」

にこ「あんた達！　おかしいと思わないの！？
　　どこの世界に、鉢植えに植えたら花が咲く枝毛があるのよ！？」

希「ここにあるけど……」

穂乃果「にこちゃん。自分の中の常識を疑うことも、時には大切なんだよ」

にこ「現実が見えてないのはあんた達の方よ！」

希「これくらいの鉢植えでどうやろうか」

穂乃果「うーん……。少し小さいような……」

にこ「あんた達……。本当に育てる気でいるのね……」

希「小さいかなぁ」

穂乃果「うん。もしかしたら、希ちゃんくらい大きくなるかもしれないし」

希「うちがおさまるくらいの鉢植え買っておいたらええかな」

穂乃果「うんっ！　それでいいと思うよ！」

にこ「それって南米とかに生育してるのを植えるやつじゃないの！　大き過ぎよ！」

希「大き過ぎるかなぁ」

穂乃果「希ちゃんは大きいから平気だよ」

希「そうやんなぁ」

穂乃果「希ちゃんは南米サイズだね」

希「ありがとう」

穂乃果「にこちゃんはたんぽぽサイズ」

にこ「ちょっと！？　どこ見て言ってんのよ！」

穂乃果「え。胸だけど」

にこ「はっきり言わないで！」ﾜｰﾝ

穂乃果「よし！　これでバッチリだね！」

希「これが夏になったら花を咲かせるんかぁ……」

穂乃果「ふふっ！」

希「？　穂乃果ちゃん、どうしたん？」

穂乃果「だって。希ちゃん、ママの顔してたよ？」

希「……そうやね。なんだか、そんな気分なんや」

にこ「本当に花なんて咲くのかしら……」

希「え……」

穂乃果「ちょっと！　にこちゃん！？　言っていいことと悪いことがあるよ！？」

にこ「ええー……」

希「咲かんかったら……、どうしようかねぇ……」ｳﾙｳﾙ

穂乃果「大丈夫だよ、希ちゃん！　花は咲くから！」

にこ「な、なにも泣くことないじゃないの」

穂乃果「にこちゃん！　ちゃんと謝りなよ！」

希「ええんよ……。私が夢見てただけなのかも知らんし……」ﾎﾟﾛﾎﾟﾛ

穂乃果「にこちゃんっ！！！」

にこ「わ、分かったわよ。……希。悪かったわ」

希「……」ﾋｯｸ……ﾋｯｸ……

にこ「花は……。きっと咲くわよ」

希「そうやんなぁ！」ﾊﾟｧｧ

にこ「た、単純な子ね……」

～数日後～

希「ふんふふーん」ﾙﾝﾙﾝ

穂乃果「希ちゃん、ご機嫌だねぇ」

希「この子にお水あげてる時が、一番幸せなんよ」ｼﾞｮｳﾛｰ

穂乃果「……あれ。少し大きくなったんじゃない？」

希「えー？　……そうかなぁ？」

穂乃果「うんっ！　絶対そうだよ！　少し大きくなってる！」

希「……なんだか、うれしいわ。早く花咲くとええなぁ」ｷｭﾝｯ

穂乃果「夏が楽しみだねっ！」

にこ（ホントに育ってるじゃないの……。なんでよ……）ｶﾞﾀｶﾞﾀ

～初夏～

希「この子もだいぶ成長したなぁ」ﾅﾃﾞﾅﾃﾞ

穂乃果「つぼみも大きくなってきたし……。この分だと、もうすぐ花も咲きそうだね」

希「そうやねぇ」

穂乃果「……んん？」

希「？　どうしたん？」

穂乃果「ねえ、これ……。にこちゃんに……、似てない？」

希「あー、私もそう思っとったんよ。植物と言うよりは、にこちゃんやね。この子」

穂乃果「やっぱそうだよねぇ！　……でも、どうしてだろう」

にこ（似てるとか言う次元じゃないわ……！　私そのものじゃないの……！）ｶﾞﾀｶﾞﾀ

花「……」ﾌﾟﾙﾌﾟﾙ

穂乃果「わっ……」

希「な、なんか震えてるやん！　この子！」

穂乃果「花が……。花が咲くんだよ！　きっと！」

希「ほんまや！　つぼみが開きかけとる！」

花「……」ﾌﾟﾙﾌﾟﾙ

穂乃果「頑張れ！」

希「頑張るんや！」

花「……」ﾊﾟｯｶｰ

穂乃果「咲いた……！？」

花「にっこにっこにー！」

にこ「！？」

希「ああ……。うち、なんか泣きそうや……」ｳﾙｳﾙ

穂乃果「良かったね……。希ちゃん……」ｳﾙｳﾙ

にこ「ちょっと！　感動してるとこ悪いんだけど！
　　この花、今なんかしゃべってたわよね！？」

希「……そうやった？」

穂乃果「私は何も聞こえなかったけど……」

花「あなたのハートににこにこにー！」

にこ「ほら！　今喋ったじゃないの！」

希「ええ……。何も聞こえへんかったよ……」

穂乃果「にこちゃん……。熱でもあるんじゃないの……？」

にこ「な、なんで聞こえてないのよ」ｶﾞﾀｶﾞﾀ

～夜・校舎内～

にこ（絶対おかしいわよあの植物……。見た目も私そっくりだし……。
　　こんなことになるなら、早く処分しておくべきだったわ……）ﾋﾀﾋﾀ

花『にこにーって覚えてラブにこ！』

にこ「っ！？」ﾋﾞｸｯ!

花『矢澤にこにこー！』

にこ（部室から……！　やっぱりあの植物が喋ってるんだわ……！）ﾋﾀﾋﾀ

花『やっぱりあの植物が喋ってるんだわ……！』ｶﾞﾁｬｯ!

にこ「……っ！？」ﾋﾞｸｯ!

花「誰よあなた！？　私の真似するのやめてくれる！？」

にこ「いやああああああああああああっ！！！！！！！」ﾄﾞｻｯ

～翌日～

希「ああ……。誰の仕業や……」ﾎﾟﾛﾎﾟﾛ

穂乃果「希ちゃん……。元気出して……」

希「せっかく花が咲いたのになぁ……」

穂乃果「どうして鉢植えだけ残していなくなっちゃったんだろう……」

希「にこっちは……、何か知らない？」

花「何か、って……。私が知るわけないでしょうに……」

希「そうやんなぁ……」

穂乃果「そうだ、希ちゃん！　にこちゃんを、あの子の代わりにすればいいんじゃない！？」

花「なんでそうなるのよ！？」

穂乃果「花が咲いたときなんて、にこちゃんにそっくりだったでしょ！？」

希「……そうやなぁ。じゃあ、そうしようかねぇ」ｽｸｯ

花「ちょ……、ちょっと……。何する気よ……」

希「何する気か、……って？」ﾜｷﾜｷ

穂乃果「私も手伝うよ」ﾜｷﾜｷ

花「何よ……。ち、近づかないで……」

希「わしわしするでぇ！」ﾜｼﾜｼ

穂乃果「にこちゃん！　覚悟だよ！」ﾜｼﾜｼ

花「二人がかりは卑怯……っ！　いやああああああああああああっ！！！！！！！」ﾄﾞｻｯ

終わり