2: 名無しで叶える物語(有限の箱庭)@\(^o^)/ 2015/03/24(火) 20:49:03.38 ID:x3hbxolC.net
私が尊敬するあの人は、いつも良い匂いがする。
甘くて、それでいて上品な匂い。

動くたびに髪の毛が揺れて、ふわり、とあの良い匂いが広がる。

香水、使ってるのかな。

「え、香水、ですか?私は香水は使ってませんが…」

「シャンプーの匂いではないでしょうか?山桜の香りらしいです。…あとは、ヘアオイルの匂いですかね」

使っているシャンプーとヘアオイルを聞き出して、早速ドラッグストアへ買いに行く。

お風呂に入るのが楽しみだなぁ。

3: 名無しで叶える物語(有限の箱庭)@\(^o^)/ 2015/03/24(火) 20:49:31.43 ID:x3hbxolC.net


待ちに待ったお風呂の時間。

私はわくわくしながらシャンプーを手に出して、頭をわしわしと洗う。

…海未ちゃんの匂い。

あの幸せな匂いに包まれてる。

あったかくて、ドキドキして、嬉しくて、にやにやしちゃう。

リンスも、同じシリーズのもの。なんだかいつもより髪がサラサラになった気がする。

髪を乾かして、歯磨きして、布団に潜り込む。

私の髪から海未ちゃんの匂いがして、まるで海未ちゃんと一緒に寝ているみたい。

4: 名無しで叶える物語(有限の箱庭)@\(^o^)/ 2015/03/24(火) 20:49:59.67 ID:x3hbxolC.net
…なんか今日はにやにやしっぱなしだな。自分が気持ち悪いや。

朝からはヘアオイルもつけて行こう。海未ちゃん、気付いてくれるかな。

私にとって海未ちゃんは憧れ。

かっこ良くて、可愛くて、スタイルも良くて、頭も良くて、優しくて、強くて。

私が持ってないものを全て持っている。

大好きな海未ちゃん。少しでも近づけたら良いなぁ。



「おはよう凛ちゃん!…あれ…くんくん…凛ちゃん、シャンプー変えた?」

「それに、いつもより髪がツヤツヤしてる気がする」

さっすがかよちん。一目で分かっちゃうなんて。

6: 名無しで叶える物語(有限の箱庭)@\(^o^)/ 2015/03/24(火) 20:50:26.57 ID:x3hbxolC.net
「へぇー、海未ちゃんと同じものを使ってるんだね。確かに、海未ちゃん良い匂いするもんね」

「あ、海未ちゃん達だ」

「おはようございます、凛、花陽」

「おっはよー!」

「おはよ♪」

「ん…?あれ…凛ちゃん、海未ちゃんのシャンプーの匂いがする!お揃いにしたの?」

「凛もあのシャンプー買ったんですね。あの匂いは私もお気に入りで、ずっとあれを使っているんですよ」

にこり、と微笑む海未ちゃん。

「穂乃果もあの匂い好き!でも、ウチはみんなで同じシャンプー使ってるから、一緒のやつに出来ないんだぁ」

7: 名無しで叶える物語(有限の箱庭)@\(^o^)/ 2015/03/24(火) 20:50:50.02 ID:x3hbxolC.net
「あはは、穂乃果ちゃんが勝手に変えたら、雪穂ちゃん凄く怒ったって言ってたもんね」

「そうなの!『私はパンテーンしか許さない!』なんて言うんだよぉ。他のも使いたいよー」

…でも、凛の気のせいかな。それとも、鼻がおかしいのかな。

今日の海未ちゃん、いつもの匂いがしない。

誰かの家に泊まってきたのかな。

8: 名無しで叶える物語(有限の箱庭)@\(^o^)/ 2015/03/24(火) 20:51:50.69 ID:x3hbxolC.net


私は特に今まで、ヘアケアなんか気にしてこなかった。

ずっとショートヘアだったし、シャンプーやリンスにこれといったこだわりは無かった。

でも、海未ちゃんのシャンプーは凄く好き。今まで使ったシャンプーの中で、ダントツで良い匂い。

はてさて、あの匂いに惹かれて海未ちゃんを大好きになったのか、海未ちゃんが大好きだからあの匂いが好きなのか…

うーむ、哲学である。なんて。

真っ暗な部屋のなか、布団に包まってそんなことを考える。

…そういえば、穂乃果ちゃんもこのシャンプーの匂い好きって言ってたよね。

えへへ、変えて良かったな。これからもリピートしよう。

今日も、山桜の香りに包まれておやすみなさい。

9: 名無しで叶える物語(有限の箱庭)@\(^o^)/ 2015/03/24(火) 20:52:21.70 ID:x3hbxolC.net


「今日の練習はこれで終わりです」

「はー疲れたー!さっさと帰るわよ」

「…凛ちゃん、穂乃果ちゃん誘わないで良いの?」

かよちんは、私の全てを知っている。

私が好きなもの、こと。

そして、好きな人。

10: 名無しで叶える物語(有限の箱庭)@\(^o^)/ 2015/03/24(火) 20:52:49.66 ID:x3hbxolC.net
「えぇ…昨日もそう言ってたでしょ!ほら、行った!」

「うわぁ、凛ちゃん。どうしたの?…ラーメン?良いねー、行く行く!2人でご飯って、久々だね!」

私は、穂乃果ちゃんが好き。



「んー、美味しいね。さっすが凛ちゃんオススメのラーメン屋さん」

穂乃果ちゃんはいつも美味しそうにご飯を食べる。こっちまで気分が良くなっちゃう。

「あはは、花陽ちゃんと真姫ちゃんって、クラスではそんな感じなんだ」

11: 名無しで叶える物語(有限の箱庭)@\(^o^)/ 2015/03/24(火) 20:53:16.65 ID:x3hbxolC.net
穂乃果ちゃんと一緒に居ると楽しくて、もっとお喋りしたくなっちゃう。

「いやー、凛ちゃんみたいな後輩を持てて、穂乃果は幸せだよ」

『後輩』…か。

凛には恋愛なんて良く分からないけど、道程は遠そうだ。

これからもっと仲良くなれたら良いのになぁ。

「…え…恋人…?…何言ってんの、穂乃果に恋人なんて居るわけないじゃん!」

「変な凛ちゃん。よし、そろそろ出よっか」

良かった。今付き合ってる人は居ないみたい。

「じゃあね、凛ちゃん。今日は楽しかったよ!」

穂乃果ちゃんと別れて帰路に立つ。もっと頑張んなきゃ。

12: 名無しで叶える物語(有限の箱庭)@\(^o^)/ 2015/03/24(火) 20:53:47.47 ID:x3hbxolC.net
「ん…電話」

「もしもし…うん。うん、そうだよ!楽しかったー!」

「んー、そう!凛ちゃん大好きだからねー!」

「え…日曜日?行くー!行く行く!!」

「誘ってくれるなんて嬉しいなぁ。いつも穂乃果の方から誘ってたから…はは、うん。うん」

「分かった、また明日ね」

「あ…待って。今日さ、好きな人居る?って聞かれちゃって…」

「……うん、うん…」

「…そうだよね…うん。また今度話そっか。うん、じゃあね」

「…」

13: 名無しで叶える物語(有限の箱庭)@\(^o^)/ 2015/03/24(火) 20:54:28.93 ID:x3hbxolC.net


「凛ちゃんは消極的過ぎるんですっ!」

「こんなに可愛いんだから、自信持って!大丈夫だよ!」

かよちんは、私のことになると人が変わったようになる。

それだけ、私のことを考えてくれてるってことだよね。ありがとう、かよちん。

「…でも、花陽も恋愛なんてしたことないし、穂乃果ちゃんのことをよく知ってるわけでもないんだよね」

「だから!もう1人、サポーターを増やそうよ!穂乃果ちゃんをよく知ってる人が良いかな」

確かに、このままだと全然進展しないかも。手伝ってくれる人が多いと心強いけど…

穂乃果ちゃんのことを好きって知られるのは恥ずかしい。

14: 名無しで叶える物語(有限の箱庭)@\(^o^)/ 2015/03/24(火) 20:55:06.86 ID:x3hbxolC.net
…でも、海未ちゃんなら大丈夫かも。穂乃果ちゃんのこともよく知ってるし。



海未ちゃんに恋愛相談をする日が来るなんて、思ってもみなかった。

大体、μ'sのみんなは付き合ってる人は居ないはずだし…

はー、ドキドキする。

「話とは何ですか?…え…いや、私は…お付き合いは…していませんが…」

「か、からかわないで下さいっ!…え…凛が…?」

「……」

「…そう…ですか…穂乃果のことを…」

…??海未ちゃん、顔が暗いよ?もしかして、嫌なのかな。

「…いえ。何でも…」

「……」

15: 名無しで叶える物語(有限の箱庭)@\(^o^)/ 2015/03/24(火) 20:56:24.57 ID:x3hbxolC.net
「すみません、少し具合が…申し訳ないのですが、帰らせて下さい」

そういった海未ちゃんの顔は青白くて、少し悲しげな表情をしていた。

「大丈夫です。1人で帰れます。また明日…」



「ええ!?もう告白しちゃうのぉ!?」

「あ、ごめんね、つい声が…で、でも、早くないかな?まずは外堀を埋めないと…」

「あー、告白されてから好きになるっていうのも聞いたことあるけど…大丈夫かな?」

確かに、まだ私と穂乃果ちゃんは『付き合う』って感じではない。

でも、凛、不器用だから何したら良いか分からないし…

このまま、『ただの後輩』で居るのも嫌だ。

16: 名無しで叶える物語(有限の箱庭)@\(^o^)/ 2015/03/24(火) 20:57:24.99 ID:x3hbxolC.net
海未ちゃんにも相談しようと思ったんだけど、あの日以来ずっと元気が無くて、相談出来ないで今日に至る。

「…うん、凛ちゃんが決めたことなら、花陽、全力で応援するよ」

「どんな結果になっても、花陽はずーっと、凛ちゃんの味方だから!」

ありがとう、かよちん。

こんな親友を持てて、凛は幸せ者だ。



「…別れる?何で?穂乃果、何か悪いことした…?」

「…嘘。正直に話して」

「え…?凛ちゃんが私のことを…?…あはは…そう…なんだ…」

「…でも、それって凛ちゃんに失礼だと思うんだ」

「…それに…穂乃果のこと、その程度の好きだったんだ」

「…ごめん、そういうつもりじゃなかったの。凛ちゃんのこと、凄く可愛がってるもんね…」

「…本当のことを話そう。凛ちゃんにも…みんなにも」

「やっぱり嘘はつくもんじゃないねー…罰が当たったのかな」

「うん…でも、やっぱり穂乃果はあなたのことが好き」

「海未ちゃん」

17: 名無しで叶える物語(有限の箱庭)@\(^o^)/ 2015/03/24(火) 20:57:53.56 ID:x3hbxolC.net


私が全てを知ったのは、私の気持ちの全てを伝えた後。

そうだったんだ。凛、鈍感だから、全然そんなこと気づかなかったよ。

…あはは、馬鹿みたい。1人で浮かれて、あれこれ悩んで。

全部、ぜーーーーーーんぶ、無駄だった。

ごめんねかよちん。せっかく応援してくれたのに。

「アイドル同士が付き合ってるなんて知られたら、大変なことになるだろうから…だから隠してたの」

「それに…まさか、私のことを好きになってくれる人が2人も居るなんて、思ってもみなかったから」

真っ白な頭の中に、穂乃果ちゃんの言葉がふわふわ出たり入ったり。

「…ごめん。本当に…」

18: 名無しで叶える物語(有限の箱庭)@\(^o^)/ 2015/03/24(火) 20:58:20.53 ID:x3hbxolC.net
穂乃果ちゃん、泣いてるの?…なんで?海未ちゃんと付き合って、好き同士で、幸せなのに、どうして?

「私は、海未ちゃんのことが好きで、付き合ってます。だから、凛ちゃんとお付き合いすることはできません」

はは、こんなにハッキリ断わられたら、傷付くなー。

…でも、凛知ってるよ。

それは、穂乃果ちゃんが優しいから。

中途半端に断ったら、凛はずっと、穂乃果ちゃんへの思いを引きずることになるから。

19: 名無しで叶える物語(有限の箱庭)@\(^o^)/ 2015/03/24(火) 20:59:07.69 ID:x3hbxolC.net
「…え…?」

「…!!」

「り…凛ちゃ…うっ…うぅっ…」

「大切にする…ずっと…大切にするからっ…」

私の好きな人が、好きな人と付き合えたんだもん。

私の好きな人が、幸せになってくれたらそれで良い。

それが、凛の幸せだよ。

ずっとお幸せにね。

20: 名無しで叶える物語(有限の箱庭)@\(^o^)/ 2015/03/24(火) 20:59:41.64 ID:x3hbxolC.net
「…凛ちゃん…」

「穂乃果ね、海未ちゃんと凛ちゃんって姉妹みたいだなーって思ってたの」

「…だから、これからも仲良くしてあげてね」

当たり前じゃん。海未ちゃんは、私の憧れの人だもん。

かっこ良くて、可愛くて、スタイルも良くて、頭も良くて、優しくて、強くて。

私が持ってないものを全て持っている。

私が…持つことが出来ないものも。

21: 名無しで叶える物語(有限の箱庭)@\(^o^)/ 2015/03/24(火) 21:00:22.56 ID:x3hbxolC.net


「…凛…」

「怒らないのですか…?」

怒るわけないよ。海未ちゃんが幸せなら、私も幸せなの。

…嘘をつかれたのはショックだけど。

「ごめんなさい…凛っ…私は…私は…こんなに可愛い後輩を悲しませてしまって…」

え?凛、悲しくなんか無いよ?

先輩として、尊敬してる大好きな海未ちゃん。

1人の女の子として、魅力的で大好きな海未ちゃん。

22: 名無しで叶える物語(有限の箱庭)@\(^o^)/ 2015/03/24(火) 21:01:17.98 ID:x3hbxolC.net
そんな私の大好きな2人が一緒に幸せになるなんて、凛、嬉しいよ。

嬉しい。

…嬉しい。のに。

目の前がぐじゅぐじゅになって、鼻水が止まらない。

おかしいな、変だよ。

「凛っ…!!」

海未ちゃん、そんなにきつく抱きしめないでよ。苦しいじゃん。

…海未ちゃんの髪の匂い。

山桜の良い香り。

私も一緒の匂いなのに、姉妹みたいに仲が良いのに、なんで凛は海未ちゃんになれないんだろ。

なんで凛じゃないんだろ。




不思議。

23: 名無しで叶える物語(有限の箱庭)@\(^o^)/ 2015/03/24(火) 21:01:43.54 ID:x3hbxolC.net


今日は疲れちゃった。

…2人にメールを送っておこう。

『凛は2人が幸せなら幸せだよ!

別れたら許さないんだから!』

明日の部活で、2人が付き合ってることをみんなに話すらしい。

…みんな、どんな反応するのかな。

真姫ちゃんとか、面白い声出しそう。楽しみだなぁ。

24: 名無しで叶える物語(有限の箱庭)@\(^o^)/ 2015/03/24(火) 21:02:27.86 ID:x3hbxolC.net
お風呂に入って、歯磨きをして、布団に潜る。

最近は布団にもシャンプーの匂いがうつってきちゃった。

海未ちゃんに包まれてるみたい。

かっこ良くて、可愛くて、スタイルも良くて、頭も良くて、優しくて、強くて。

私が持ってないものを全て持っている。

大好きな海未ちゃん。

おやすみなさい。

25: 名無しで叶える物語(有限の箱庭)@\(^o^)/ 2015/03/24(火) 21:03:27.05 ID:x3hbxolC.net


気持ちの良い朝。

ぐんと背伸びをして、布団から跳ね起きる。

顔を洗ってご飯を食べて、歯磨きして、制服に着替える。

鏡の前で、くるりと一回転。うん、今日もキマってる。

洗面台には、海未ちゃんと同じヘアオイル。

透明な瓶には黄金色のオイルが入っていて、窓から入る朝日をきらきらと反射している。

私はその瓶を手に取って、太陽にかざしてみる。

優しい山桜の香りがふわりと漏れだす。

いくら形だけ真似しても、仲良くしても、私はあの人になれない。

私は得ることはできない。

あはは、当たり前じゃんねー。

振りかぶって、手に持った瓶を床に叩きつける。

ガツンと鈍い音がして、1、2回バウンドして瓶は無様に床に転がった。

思い切りが足りなかったか、瓶が予想以上に硬かったか。瓶は割れなかった。

さて、行ってきます。



おわり

引用元: 凛「海未ちゃん良い匂いだにゃー!」