1: 名無しで叶える物語(きしめん だぎゃー)@\(^o^)/ 2015/03/18(水) 21:53:00.19 ID:UnZZQSru
それはなんと気紛れで、意地悪な存在なんだろう──

これは、μ'sが矢澤にこの「バックダンサー」になるまでの物語。
メンバーを大切に思ってるはずのにこが、どうして妹たちにバックダンサーなんて教えてたのか自分なりに考えてみました。

以下注意
設定はアニメ準拠
SID設定はにこのみ中途半端に踏襲(全部踏襲すると虎太郎が時空を超えてしまう)
地の文はないが独白あり
にこの過去話になるので暗い部分もあります

最後までお付き合いいただけたら幸いです。

5: 名無しで叶える物語(きしめん だぎゃー)@\(^o^)/ 2015/03/18(水) 22:09:52.05 ID:UnZZQSru
もしもこの世界に、神様なんてものがいるなら。

それはなんと気紛れで、意地悪な存在なんだろう──

そう思いながら、私、矢澤にこは一人道を歩く。

数ヶ月前に16歳になったばかりの女子高生が至るには悲観しすぎな気がするその考えも。

今の自分の状況を見れば仕方ないと誰もが思うだろう。

目の前で何度もチャンスを逃しながら、足掻いて足掻いて……

やっと自力で掴んだ、物心ついた時からの夢の欠片を、たったの半年で失ってしまったのだから。

にこ「どーしたものかしらね……ほんとに」

─そんなに、本気でスクールアイドルやりたいんだったら……─


にこ「……っ」

ほんの1時間前に言われた言葉に、胸が痛む。

にこ「そりゃ、私だってそうできてたら、どんなに良かったか……」

そう呟きながら私は自宅のドアを眺め、息を吸い、心を整えるのだった。

7: 名無しで叶える物語(きしめん だぎゃー)@\(^o^)/ 2015/03/18(水) 22:20:55.28 ID:UnZZQSru
にこ「にっこにっこにー!スーパーアイドル矢澤にこにー、ただいま帰りましたー!」

こころ「お姉さま!お帰りなさい!」

ここあ「お帰りお姉ちゃん!」

にこ「ただいまー!二人とも良い子にしてた?」

こころ「してました!」

ここあ「してたしてた!」


……ああ、なんで神様は意地悪なんだろう。神様に仕えるはずの天使たちは、こんなに素直で可愛いっていうのに……


ここあ「あれ?虎太郎は?」

こころ「まさかお姉さま、お迎えを忘れて帰ってきちゃったんじゃ……」

にこ「このにこにーがそんな失敗するわけないでしょ?今日はちょっと早く帰ってきたから、一度帰ってからお迎えに行くことにしたのよ」

ここあ「そういえばまだ時間早いね」

こころ「今日は、アイドルの練習はなかったのですか?」

にこ「アイドルね……そのことなんだけど、私、一人に……」


思わず、本当のことを言いそうになってしまった。

8: 名無しで叶える物語(きしめん だぎゃー)@\(^o^)/ 2015/03/18(水) 22:38:23.88 ID:UnZZQSru
~2時間前、アイドル研究部部室~

にこ「……どういうことよ、これ」

部員1「……そういうことだよ」


……机に置かれた、2枚の封筒。

そこには、はっきりと「退部届」と書かれていた。


にこ「どうしてよ!?私達のことを知ってくれてる人も、少しずつ増えてきてるっていうのに!」

部員2「私達じゃなくて……私、でしょ?ステージに立ってて気づかないわけない……人気なのは、にこだけだよ」

部員1「私、言われたよ。あなた、矢澤さんのバックダンサーなの?って」

にこ「だってそれは……私は、少しだけど小さい頃からこういう練習をしてきた!だから今は差があるように見えるだけ……このまま練習を続ければ、いつかは……」

部員1「いつかって、いつなの?それに、そんなの無理だよ……練習を続けたって、私達はにこに一生追いつけない……誰より真剣なんだもの、にこは」

部員2「ごめんね、にこが悪いんじゃないのはわかってる……けど私達もう、ついていけないよ……」

10: 名無しで叶える物語(きしめん だぎゃー)@\(^o^)/ 2015/03/18(水) 22:45:37.73 ID:UnZZQSru
にこ「だって、あなたたちまでいなくなっちゃったら、私はどうやってアイドルに……」

部員1「そもそも、私達は高校時代の部活動としてスクールアイドルがやりたかっただけ……にこみたいに、真剣にアイドル目指してるわけじゃない」

部員2「そんなに、本気でスクールアイドルやりたいんだったら……」


彼女が、私の事情を知っていたわけではない。だからそれは、何の悪気もない一言だったのだろう。それでも──


部員2「UTXに、行けばよかったのに」


──その一言で、私の時間は……止まってしまった。

13: 名無しで叶える物語(きしめん だぎゃー)@\(^o^)/ 2015/03/18(水) 23:00:02.08 ID:UnZZQSru
次に時間が動き始めた時、私が最初に認識したのは、痺れるような右手の痛みだった。

自分が何をしてしまったのか、思い知らせるように熱を持つ右の手の平と裏腹に、私は自分の頭が……心が、どんどん冷たくなっていくのを感じていた。


部員1「さいってー」

にこ「……アンタ達に、何が分かるっていうのよ」

部員1「分からないから、こうなったんでしょ」

にこ「……」

部員1「アイドルやりたいんだったら、一人ででもなんでもステージに立ちなよ。それじゃ」


もう一人を庇うように出ていった彼女を見送った後も、その一言は私の頭を回り続けた。

──そんなに、本気でスクールアイドルやりたいんだったら──

──UTXに、行けばよかったのに──


にこ「……ま、そりゃそーよね」

にこ「本気でアイドルやりたいんだったら、こんな学校で細々とスクールアイドルやってる奴なんていないわよね」

にこ「あーあ、真剣になっちゃって、バカみたい……」

にこ「真剣になって、何が悪いってのよ……」


やっぱり、涙は……出なかった。


~~~~~~~~~~~~~~~~

15: 名無しで叶える物語(きしめん だぎゃー)@\(^o^)/ 2015/03/18(水) 23:17:03.51 ID:UnZZQSru
にこ「私、一人に……」


そこまで言って、ふとこころとここあが不安そうな顔をしているのに気がついた。

いけない、この子たちを悲しませちゃダメだわ。この子たちの前では、私はスーパーアイドルにこにーでなくちゃいけない……


にこ「実はね、にこにーがとーっても凄すぎて、もう一人でステージに立ったら?って言われちゃったニコ!」

にこ「にこにーったら罪なオ・ン・ナ♪」

にこ「けどね、それじゃ皆が可哀想だから、皆をにこにーのバックダンサーにしてあげたニコ!」

にこ「皆はバックダンサーだから、まだまだ練習しなくちゃだけど」

にこ「にこにーはスーパーアイドルだから、練習なんてしなくてもいいニコ!」

こころ「そうだったんですね!流石お姉さまです!」

ここあ「私は知ってたぜ!お姉ちゃんが凄いってこと!」

にこ「さ、じゃあ虎太郎のお迎えに行くわよ!二人も来るわよね?」

こころ「行きます!」

ここあ「行く行くー!」

18: 名無しで叶える物語(きしめん だぎゃー)@\(^o^)/ 2015/03/18(水) 23:26:49.47 ID:UnZZQSru
……どうしてこうなっちゃったんだろ。

あの子が私の事情を知らないことなんて、冷静に考えれば分かることだったのに……

だってそれは、私が意図的に隠してきたことだったんだから。

お金がなくて、UTXに行けませんでした、だから仕方なくここでスクールアイドルやってますなんて……言えるわけないでしょ。

それとも、仲間を信じて打ち明けてしまった方が良かったんだろうか?

全ては、私が皆を信じ切れなかったために起こってしまったこと?

何だ、神様のせいなんかじゃない──

──最初から、悪いのは私だったんだ……

20: 名無しで叶える物語(きしめん だぎゃー)@\(^o^)/ 2015/03/18(水) 23:48:35.10 ID:UnZZQSru
~5月、矢澤家~

にこママ「じゃあにこ、後は頼んだわ。いつもごめんね」

にこ「ううん、ママ。行ってらっしゃい」

虎太郎「いってきま~す」

にこ「虎太郎も行ってらっしゃい!」


虎太郎を保育園に預けた後仕事に向かうママを見送って、私はこころとここあに向き合う。


にこ「さぁ二人とも!準備はいい?ハンカチとティッシュは持った?」

こころ「もちろんです!」

ここあ「バッチリだぜ!」

にこ「よろしい!行き帰りに知らない人から声をかけられたらどうする?せーの!」

こころあ「「すみません、今プライベートなんで」」

にこ「完璧よ!それでこそにこの妹達だわ!今日の虎太郎お迎え当番はどっち?」

ここあ「あたしだよー!」

にこ「任せたわよ」

ここあ「任せてお姉ちゃん!」

こころ「ほらここあ、そろそろ行かないと」

にこ「もうそんな時間かしら。それじゃ二人とも、行ってらっしゃい!」


2年生になった私は……正直、アイドルへの情熱を完全に失ってしまっていた。

あれ以来、一人でライブをやろうとしたり、新しい部員を勧誘しようとしたけれど、どれも上手くいかなかった。

一人でできることには限界があったし……何より、あの子達との別れ方がよくなかったみたいで、私の学校での印象はあまりいいものではなくなっていた。

一応、アイドル研究部には初代部長という形で所属してはいるけれど、余った部屋をあてがわれた部室には、活動の形跡は一切残っていなかった。

部室は今や、学校に話す人がいなくなった私のパーソナルスペースとなっている。

このままの、冴えないくすんだ枯葉色の日々を過ごしながら、卒業するんだろう……そう思っていた矢先に、事件は起こった。

34: 名無しで叶える物語(きしめん だぎゃー)@\(^o^)/ 2015/03/20(金) 23:10:15.99 ID:ZD05JYjx
にこ「お願いがある?どうしたの、急に」

ここあ「あのね、お姉ちゃん……私達、お姉ちゃんの写真が欲しい!」

にこ「写真?そんなもの、いくらでもあるでしょう」

こころ「そうじゃなくてね、あの……お姉さまが、アイドルをやってる写真が欲しいの!」

にこ「……!」


……私は、妹達の前ではアイドルであり続けた。壊れた自分の夢の代わりに……あの子達の夢だけは、壊したくなかった。

ママはとっくに、私がおかれた状況に気づいているんだろう。それこそ……子供の時から。

隠し通せてるなんて思っていた自分が馬鹿らしい。きっとママは、全てを知ってる……私がアイドルを諦めた、その理由も。

親にとって、それがどんなに辛いことか、想像もできない。ママは、何も悪くないのに。悪いのは全部……私なのに。


ここあ「お姉ちゃんには、大人のファンもいっぱいいてライブはいつも大盛り上がりで、小さな私達は危ないからまだダメ、って言われてるけど」

こころ「見てみたいんです!お姉さまがアイドルとして、皆を笑顔にしているところを!」

にこ「そっかー、写真かー。けどねー、にこにーは大人気アイドルだからね!写真だって、そんなに簡単に手に入らないのよ?」

こころ「……ダメ、ですか?」

にこ「……ダメなわけ、ないでしょ!最っ高の一枚をプレゼントしてあげるわ!」

ここあ「やったぁ!」

こころ「楽しみにしてます!」


……さて、どうしましょう。

35: 名無しで叶える物語(きしめん だぎゃー)@\(^o^)/ 2015/03/20(金) 23:11:20.27 ID:ZD05JYjx
その週の週末、私は……二度と入ることはないと思っていたアイドルショップにいた。

当然、私がアイドルをやっている写真などないのだから、作るしかない。

幸い自分のベストショットを探してポーズを撮りまくっていた時期があるから、私の方の素材は問題ない。

あとは、適当なアイドルの写真のセンターに私を合成すればいい。

……こんなことが、いつまでも続けられるはずがないのに。そう思いながら店内を一通り見て回り、私は愕然とした。


にこ「……これはちょっと誤算だったわね」


いかにマイナーなアイドルと言えど、センターはそれなりに魅力のある女の子だ。

そしてそんな女の子は基本的に……ボンキュッボーンな体型で、背も高い。

いくらなんでも、体型が違ったらあの子達も気づいてしまうだろう。

春の測定でも1mmも成長していなかった胸を恨めしく思いながら、もう一度隈なく店内を回って、私はついに発見した。


にこ「……何の皮肉なのよ、これ」


『人気沸騰中!スクールアイドル特集!』店の隅に小さく掲げられたそのポップの下には、全国で人気のスクールアイドルの写真が売られていた。

そしてその中のグループの一つの、センターの女の子。私と同じくらい小柄なその女の子は……

全国ナンバーワンスクールアイドル、A-RISEの5代目センター……綺羅ツバサだった。

36: 名無しで叶える物語(きしめん だぎゃー)@\(^o^)/ 2015/03/20(金) 23:23:03.39 ID:ZD05JYjx
にこ「はぁ……何をやってるのかしら、私」


結局他に使えそうな写真は見つからず、私はA-RISEのセンターを自分に変えた写真を二人にプレゼントすることになった。


ここあ「すっごーい!お姉ちゃんありがとう!」

こころ「このお二人が、お姉さまのバックダンサーなのですね?」

にこ「え、ええそうよ。けど二人とも、それを他の人に見せたりなんかしちゃダメよ?それは二人しか持ってない、スペシャルな写真なんだから!」

ここあ「わかったー!」

こころ「大切に飾っておきます!」


ママが、あの二人の机に大切に飾られた写真に気づくのはいつだろうか。

それを見つけた時……何を思うだろうか。

二人の夢を守って上げられた安堵感、他人の努力を自分のものにしてしまった罪悪感、そして自分に対する無力感……

それらがごちゃまぜになった気持ちのまま、私は一人自室で溜息を吐くのだった。

37: 名無しで叶える物語(きしめん だぎゃー)@\(^o^)/ 2015/03/20(金) 23:42:27.91 ID:ZD05JYjx
にこ「A-RISEの新メンバー選抜ね……もう、そんな時期だったのね」


去年までは会場にまで詰め掛けて見ていたのに、今年は存在すら忘れていた。


にこ「けど、去年の選抜にこんな娘達いたかしら……参加者は、隅から隅までチェックしたはずだけれど」

にこ「……って、2年生!?全員が!?嘘でしょ!?」

にこ「それなら納得だわ……1年生から選抜に参加する生徒なんていないもの」

にこ「それにしても、そんなことってあるわけ……?A-RISEのオーディションよ?3年生だって、ほとんど全員参加してたはずなのに……」


同い年の生徒が、A-RISEのメンバー。その事実に、私は劣等感よりも先に期待を抱いてしまった。

UTXの芸能科3年生を全員抑えて頂点の座を勝ち取ったこの3人のパフォーマンスを、見たくなってしまった。

家にあるパソコンでスクールアイドルの公式ページを開き、A-RISEのプロモーションページに飛ぶ。

新メンバーになってからのPVを一通りチェックした私は……

使い道も見つからないまま貯まっていたお小遣いを掴むと、近くのアイドルショップへと駆け出していた。

38: 名無しで叶える物語(きしめん だぎゃー)@\(^o^)/ 2015/03/21(土) 00:19:20.45 ID:ltyubRl1
~9月・アイドル研究部部室~

にこ「ふっふふ~ん♪」


新学期の初日、私は大量の荷物を持って登校すると、真っ先に部室へと向かっていた。

夏休みの間、地道にバイトとショップ巡りを繰り返して手に入れた戦利品達を飾るためだ。

こっちにはA-RISEのライブ限定タペストリー、あっちには最近実力を発揮してきてる隣の県のスクールアイドルのポスター。

ガラガラだった棚の上には、CDやDVDをずらっと並べた。そして、その中心には。


にこ「手に入って、ほんとによかったわ……」


『伝説のアイドル伝説』。各プロダクションや事務所、学校などが限定生産を条件に歩み寄り、古今東西の素晴らしいと思われるアイドルを集めたDVD-BOX。

これが8月に発売されると発表された時には、ネット上では大変な騒ぎになったものだった。

各地で予約終了・売り切れが相次ぐ中、私は何とかこのDVDを3セット確保することができた。

40: 名無しで叶える物語(きしめん だぎゃー)@\(^o^)/ 2015/03/21(土) 00:35:04.36 ID:ltyubRl1
保存用・観賞用・布教用。アイドルファンの基本である。

その内、学校に持ってきたのは保存用と布教用。それらを棚に飾ると、私は悦に浸る。

これを手に入れるために、随分無理をした……というか、ズルをした。

せめて溜めてたお小遣いを少しでも残していれば……と思う一方、それを無意味な後悔だということもわかっている。

今世代のA-RISEと出会わなければ、私がアイドルファンに戻ることも、私がこのDVDを手に入れることもなかっただろうから。

それに、私は一人だ。だから、このズルがばれることはない。

このズルを知っているのは。

私と……気紛れで意地悪な、神様だけなんだから。

46: 名無しで叶える物語(きしめん だぎゃー)@\(^o^)/ 2015/03/21(土) 21:47:05.11 ID:ltyubRl1
~10月・アイドル研究部部室~

「こんにちはー、アイドル研究部さーん?」


突然、ノックとともにドアの外からそんな声がかけられた。……来客?こんなところに?

この部室に用があるやつなんていないはずだけど……と訝しみながらドアを開ける。


来客「アイドル研究部の部長さん?」

にこ「そうだけど……アンタどなた?」


少し不機嫌になりながら私がそう聞くと、そいつは少し驚いたような顔をした。

……何よ、その私がアンタのことを知ってて当然みたいな反応は。こっちはアンタのことなんて一度も……あ。


にこ「……ああ、副会長か」

副会長「今学期から生徒会副会長に任命されました。以後、お見知りおきを」


そういえば先月、生徒会の交代なんてものがあったっけ。いかにも真面目です、みたいな顔した生徒会長しか印象になかったわ。


にこ「……で、その副会長さんがこの部室に何の用なわけ?」

副会長「半年分の活動報告と来年度の予算申請の受け取りに」

にこ「ああ忘れてたわ、今日が期限だっけ。わざわざ取りに来させて悪いわね、今書いちゃうからそこに座って待っててくれる?」


予算申請ねぇ。どうせ最低額しか出ないし、最低額しか申請しないわよ……今年の予算だって結局1円も使って……

引き出しの中の部費を入れた封筒に手を伸ばし、しかし私はそこでフリーズする。

ああ……どうしよう、忘れてた。バイト代が入ったらすぐに返すつもりだったのに……!

47: 名無しで叶える物語(きしめん だぎゃー)@\(^o^)/ 2015/03/21(土) 22:57:39.59 ID:ltyubRl1
副会長「……部長さん?」

にこ「……なんでもない、なんでもないわよ……あはは」


……何とかして、誤魔化すしかない。とりあえず、書類は書き始めないと怪しまれる……!

引き出しから封筒と書類一式を取り出し、机の上に置く。

鞄から筆記用具を出し、書類の一枚を自分の近くに引き寄せた時、紙切れが一枚副会長の足元に落ちた。


にこ「あ、悪いわね」

副会長「いいえ、お構いなく。それより……」


紙切れを拾った副会長が、それをこちらに向けてくる。


副会長「これ、説明して、もらえる?」


-------------------------------------
領収書

伝説のアイドル伝説 DVD-BOX \-----

音ノ木坂学院 アイドル研究部 様
-------------------------------------

……レシート、そのままになってたのね。

48: 名無しで叶える物語(きしめん だぎゃー)@\(^o^)/ 2015/03/21(土) 23:18:05.03 ID:ltyubRl1
……早い話が、私は3セットある伝説のアイドル伝説の内、1セットを買うのに部費を使っていたのだった。

いくら夏休みにバイトをしていたとはいえ、高校生が一月に用意できる額など、そう多くはない。

ましてやDVD-BOXを3枚など、用意できる額ではなかったのだ。

もちろんそのままにしておくつもりなどなく、バイト代が入ったら戻しておくつもりだった。

……まぁ、それを忘れてちゃ言い訳にもならないけど。


にこ「それは……びびび、備品よ!」

副会長「備品?」

にこ「そうよ!ウチはアイドル研究部なんだから、アイドルの研究資料を部費で買ってたっておかしくないでしょ!?」

副会長「……なるほどなぁ……」

にこ「何よ、何か文句あるわけ!?」

副会長「……部長さん。悪いけどお名前、教えてもらえる?」


……あ、これ、もしかしてマズい……?

50: 名無しで叶える物語(きしめん だぎゃー)@\(^o^)/ 2015/03/21(土) 23:44:15.35 ID:ltyubRl1
にこ「……いいわ、よく聞いてなさい!私はね!」


そこまで言うと、私は息を吸い込んだ。


にこ「にっこにっこにー♪あなたのハートににこにこにー♪笑顔届ける矢澤にこにこー♪にこにーって覚えてらぶにこっ♪」


やけっぱちで繰り出した私のキメ台詞に、今度は副会長がフリーズする番だった。


副会長「……」

にこ「……」


部室には、世界全体が止まってしまったかのような沈黙が訪れていた。

永遠にも感じられるその沈黙の中、私は最後のポーズを決めたまま考えていた。

ああ、これを妹達以外に見せるのって、いつ以来かしら……?

……沈黙は、まだ終わってくれない。

51: 名無しで叶える物語(きしめん だぎゃー)@\(^o^)/ 2015/03/22(日) 00:12:13.03 ID:p1ADzZMJ
副会長「……あんな、書類を作るのに必要だから、名前を教えて、ってことなんやけど……クッ、フフ……」

副会長「アカン、なんやこの子、面白すぎる……!フ、フフフ、アハハハ……」

にこ「ちょっと、何がおかしいのよ!」

副会長「ごめんごめん、今のは部長さんの持ちネタなん?」

にこ「持ちネタって……失礼ね!キャラよ、キャラ!アイドルに大切なのはキャラ作りなんだから!」

副会長「そうやんなぁ、アイドル研究部やもんなぁ?ああ、面白……」

にこ「……」

副会長「あーあ、真面目な副会長になりきっとったのに崩されてしもた……やるなぁ、部長さん?」

にこ「……そりゃどうも。アンタも大概じゃない、関西弁?」

副会長「そんなところやね……えっと、お名前何やったっけ、矢澤にこにこさん?」

にこ「……にこ。矢澤にこ、よ」

副会長「矢澤にこさん、っと……じゃあ、これに必要事項書いてもらえる?」

にこ「何よこれ」

副会長「備品購入届。幸いレシートはあるから、それを貼って提出すれば備品で通るよ」

にこ「……え?」

副会長「備品なんやろ?そのDVD」

にこ「え、ええそうよ!備品よ備品!届け出ればいいのね!楽勝だわ!」


……あれ、もしかして助かった?

52: 名無しで叶える物語(きしめん だぎゃー)@\(^o^)/ 2015/03/22(日) 00:27:39.57 ID:p1ADzZMJ
にこ「……書けたわ」

副会長「はい、お疲れさん。あんな、ウチ、決めたよ」

にこ「……何を?」

副会長「ウチは、部長さんと友達になる!」

にこ「はぁ!?何勝手なこと言ってるのよアンタ……!」

副会長「あれ?そんなこと言っていいん?この書類が通るかどうかは、ウチの一声で決まるんよ?」


そう言って、備品購入届を私の目の前でひらひらさせる副会長。


にこ「何よ、私を脅すつもり!?」

副会長「ふふ、冗談や……逃す手なんかないやろ?こんな面白い子」

にこ「……好きにしなさい」

副会長「じゃあ、そうさせてもらうわ」

にこ「ったく……で、アンタは?」

副会長「え?」

にこ「え?じゃないでしょ。名前よ名前、アンタの名前は?」

副会長「ああ、そうやね。ウチは希……東條希」

にこ「希、ね……覚えとくわ」

希「部長さんは、矢澤にこさんだから……にこっち、やね?」

にこ「はぁ!?アンタ聞いてなかったの?にこにーって覚えてらぶにこっ♪よ!」

希「うんうん、よろしくな、にこっち♪」

にこ「聞きなさいよ!」

53: 名無しで叶える物語(きしめん だぎゃー)@\(^o^)/ 2015/03/22(日) 00:35:06.85 ID:p1ADzZMJ
希「ん、もうこんな時間か……じゃ、書類は確かに預かりました」

にこ「ああ、そういえばそういう用事だったわね……衝撃的すぎて忘れてたわ」

希「またアイドルの話聞かせてな、にこっち!」

にこ「頑なにその呼び方なのね……いいからさっさと行きなさい」

希「ほな~♪」バタン

にこ「……何だったのよ、あいつ……」


-----------------------------------------


希「ふふっ、あんな面白い子がおったなんて……」

希「『運命の輪』。今日の占いは、大当たりやね♪」

59: 名無しで叶える物語(きしめん だぎゃー)@\(^o^)/ 2015/03/22(日) 19:34:03.73 ID:p1ADzZMJ
~翌日~


にこ「……ねぇ、希」

希「んー?」

にこ「なんでアンタ、ここにいるわけ?」

希「お昼休みやから」

にこ「そういうことじゃなくて、なんでここでご飯食べてるのよ!ここ部室なんだけど!?」

希「いやな、昨日の出会いがあまりに衝撃的すぎて忘れとったんやよ、連絡を」

にこ「連絡?」

希「部活動の予算会議、今週末の放課後。出席してな」

にこ「……ああ、了解。……で、それ言うためだけにお昼まで広げに来たわけ?」

希「生徒会長がな、予算会議の資料の確認が忙しいからお昼は生徒会室で食べるって……」

にこ「いや、手伝いなさいよ……」

希「自分でやるからって聞かへんもん……あー、寂し」

にこ「だからって何でここなのよ……アンタ、他に友達いないの?」

希「せっかく友達になったんやしいい機会やもん」

にこ「……あっそ」

60: 名無しで叶える物語(きしめん だぎゃー)@\(^o^)/ 2015/03/22(日) 21:17:49.82 ID:p1ADzZMJ
希「なぁ、にこっち」

にこ「ん?」

希「にこっちは、どうして……」

希「……にこっちはどうして、同じDVDを二つ持ってるん?」

にこ「わかってないわね希、保存用・観賞用・布教用よ。家にもう1セットあるわ」

希「布教用なん?ウチにも布教してほしいなぁ」

にこ「ダメよ、これは部の備品なんだから。部員限定よ」

希「じゃあこっちは?」

にこ「そっちは保存用、開けることはないわ」

希「えー、ケチー」

にこ「私にもこだわりってものがあるのよ。さ、教室に戻るから出ていきなさい」

希「はいはーい」


-----------------------------------------


にこ「私の教室、ここだから。じゃあね」

希「ん、ほなな」

希「……」

希「……聞けるわけ、ないやんな……」

希「にこっちは、どうして……」

希「……どうして、一人なん……?」

63: 名無しで叶える物語(きしめん だぎゃー)@\(^o^)/ 2015/03/23(月) 21:20:12.39 ID:jFY5ayjd
~金曜日・予算会議~

会長「弓道部は、一年生の好成績から来年度こそ入賞を狙う意気込みであり、それに伴う備品の強化を希望して……」

にこ(……退屈ねぇ)


各部の申請額とその理由を淡々と読み上げ、予算配分を発表する生徒会長を見ながら、私はそんなことを思う。

なんて言うか、氷の女王みたいよね……整った顔と綺麗な髪してるのに、そんな真面目な顔ばっかりじゃもったいないわ。

教えてあげるからにっこにっこにーってしてみなさいよ。あなたが笑えば、男だけじゃなくて女の子だって魅了できるわよ……

そんなとりとめのないことを考えつつ、生徒会長の隣で働く希に目をやってみる。

次に使う資料を用意しつつ、質問が出ればその回答に必要な資料を選んで渡す。

会長が目を引く存在なのもあるだろうが、目立たないながら優秀なサポート役なのが見て分かる。

……へぇ、普段はあんななのに、なかなかやるんじゃない……


会長「次、アイドル研究部」


どうやらアイドル研究部の番が来たようだ。とはいえ、最低額しか申請してないんだし、減りようもモメようもないけれど。


会長「アイドル研究部には今年度特に実績はなく、予算申請も人数に合わせた最低額です。よって、このまま承認とします。何か意見がある方は挙手をお願いします」


このまま何事もなく、アイドル研究部の予算は承認される。

……そう確信していた私は、会長の言葉を聞くまでそれに気づかなかった。


会長「吹奏楽部部長、どうぞ」

吹奏楽部「ありがとうございます。アイドル研究部に関してですが、部員も一人で特に活動した様子もない部活に部室と予算が与えられるのは、現状どちらも足りていない吹奏楽部としては納得がいきません」

吹奏楽部「このまま来年度も同じ状況が続くのであれば、そのような部活に存在意義はないかと思います」

吹奏楽部「よって、アイドル研究部の……廃部案を、提案します」

64: 名無しで叶える物語(きしめん だぎゃー)@\(^o^)/ 2015/03/23(月) 21:50:46.37 ID:jFY5ayjd
にこ「なっ……!」

会長「……アイドル研究部部長、この件について説明をお願いします」


私は立ち上がり、反論しようとする。


にこ「私はっ!」

にこ「……私、は……!」


けれど、続く言葉が出てこない。説明できることなんて……ない。


会長「……もう結構です、座ってください」

にこ「……っ!」

会長「他に、この案に関して意見のある方は挙手をお願いします」

会長「いないようでしたら、このまま決議に……」

生徒会役員「あ、あの、会長……」

会長「何?」

生徒会役員「挙手が、あります」


彼女がその挙手に気づかなかったのは、それを想定していなかったから……で、ある以上に。

挙手の主が、彼女から見て視界に入りづらい位置に居たのが原因だろう。

何せ、その位置は……彼女の真横なのだから。


にこ「……希……?」

65: 名無しで叶える物語(きしめん だぎゃー)@\(^o^)/ 2015/03/23(月) 23:18:34.49 ID:jFY5ayjd
会長「希!どうして……!」

希「あかんでー会長、公私混同は。東條副会長、やろ?」

会長「っ……!東條副会長、どうぞ」

希「私は、アイドル研究部の廃部案に反対します」

希「その理由は、3つ」

希「まず、音ノ木坂学院の校則では、部活動を設立する際には5人の生徒が必要ですが、設立された部活に対して人数の下限はありません」

希「よって、アイドル研究部が一人であることは、廃部の理由にはなりません」

希「次に活動実績がない、というお話ですが」

希「アイドル研究部の活動内容の一つ、『アイドルに関する研究活動』については……」

希「個人的な意見になりますが、備品として資料を購入するなど、十分な活動を行っていると判断します」

希「そして最後に、もう一つの活動内容……『スクールアイドル活動』ですが」

希「部長である矢澤さんは……去年1年」

希「スクールアイドル活動を、行っています」

66: 名無しで叶える物語(きしめん だぎゃー)@\(^o^)/ 2015/03/23(月) 23:50:40.46 ID:jFY5ayjd
……待ってよ。どうして希が……どうして希が、それを知ってるの?


希「去年設立されたアイドル研究部は、始めは規定通り5人の部員がいました」

希「そして、そのメンバーでスクールアイドル活動を行っていた……これは、記録が残っています」

希「5月に行ったファーストライブの後、2人が退部」

希「そのまま3人での活動を続けていましたが……去年の10月に残りの2人が退部、矢澤さんが残った形になります」

希「その後、一度だけ一人で行ったライブを最後に活動を休止、今に至ります」

希「スクールアイドルは、複数人での活動が基本です」

希「この状況から推測すると、矢澤さんが現在スクールアイドル活動を行っていないのは……部員が一人だから、でしょう」

希「つまり、来年度に部員が増えれば……アイドル研究部は、スクールアイドル活動を再開できるはずです」

吹奏楽部「……もし部員が、増えなかったら?」

希「その時は、それでおしまい。元々一人の部活ですから、矢澤さんの卒業と同時に廃部、という形になるでしょう」

吹奏楽部「……」

希「現状、活動したくてもできない状況にある部活を……活動の有無を理由に廃部にすることは、生徒会役員としての立場からも……個人としても、忍びない。私はそう考えます」

希「私からは、以上です」

会長「……では、これ以上意見がなければ決議を……」

吹奏楽部「……結構です」

会長「……と言いますと?」

吹奏楽部「廃部案は、撤回します。失礼しました」

会長「……!」

会長「……では、次の部活の予算審査の結果に移ります……」


……ふざけんじゃ、ないわよ……

67: 名無しで叶える物語(きしめん だぎゃー)@\(^o^)/ 2015/03/24(火) 00:18:39.27 ID:nI1PDSlK
にこ「……アンタ、どういうつもりよ」


予算会議が終わった後、私は希に食ってかかった。


にこ「調べたの?私の……アイドル研究部のこと」

希「生徒会で、できる範囲でな……その部活の過去の活動も、予算審査の資料やから」

にこ「ハッ、それにしちゃ詳しいじゃない……良い?よく聞きなさい」

にこ「私はね、こんな学校でスクールアイドルやる気はもうないの」

にこ「人数が足りないから?活動したくてもできない?見当外れもいいとこよ。今活動してないのは、私の意志」

にこ「スクールアイドルなんか所詮、私には相応しくなかったのよ」

にこ「アンタがやったのは余計なことでしかない……予算も部室も、欲しいならくれてやったのに」

にこ「一人の私を見て、同情でもしちゃったのかしら」


希がそんな子じゃないのはわかってるのに、言葉が口をついて止まらない。

ああ、さっきこの勢いがあれば、希にこんな思いをさせることもなかったのに……


希「それが全部、本当なら」


悲しい表情で、私を見ながら希は言う。


希「何で、予算申請の活動内容に、スクールアイドル活動って書いたん?」

希「何で、にこっちは……そんな悲しい顔、してるん……?」

70: 名無しで叶える物語(きしめん だぎゃー)@\(^o^)/ 2015/03/24(火) 23:50:30.00 ID:nI1PDSlK
にこ「……っ!」

にこ「……申請は、去年のをそのまま書いただけよ」

にこ「私のことを知ったつもりに、ならないでくれる?」

希「知ったつもりなんかじゃないよ……ウチはにこっちのことを、知らないし、知ってるの」

希「ウチが知ってるのは、アイドル研究部にあったことだけ」

希「にこっちがどうして一人になったのかも、その時にこっちがどんな気持ちだったかも、知らない」

希「……けどね、ウチは……今のにこっちを、知ってる」

希「アイドルが大好きな、にこっちを知ってる」

希「にこっちが、本気でそんなこと言う子じゃないって……知ってる」

にこ「……希……」

希「それにね、にこっち」

希「ウチが廃部案に反対したのは……必ずしもにこっちのため、というだけではないんよ?」

71: 名無しで叶える物語(きしめん だぎゃー)@\(^o^)/ 2015/03/25(水) 00:13:04.06 ID:s7qdPwiu
にこ「……どういうこと?」

希「あの場にもう一人、廃部に反対だった人がいた、いうことや」

にこ「何言ってるのよ、いなかったじゃないそんなヤツ」

希「まぁ、ちょーっとあの子はな……、ん」

希「……そんな怖い顔しないでよ、えりち」


私が振り向くと、そこには私越しに希を睨んでいる、氷の女王がいた。

72: 名無しで叶える物語(きしめん だぎゃー)@\(^o^)/ 2015/03/25(水) 00:13:55.48 ID:s7qdPwiu
にこ「アンタ、生徒会長の……」

会長「絢瀬絵里よ、矢澤にこさん……ごめんなさいね、生徒会長として副会長に用事があるの」

にこ「構わないわよ、こっちこそ忙しいのに相方を捕まえちゃって悪かったわね」

希「怖いなー、ウチ、何言われてまうんやろ」

絵里「さ、行くわよ。話は生徒会室でしましょう」


……ダメだわ、ここで希を行かせたら。これだけは、言っておかないと。


にこ「……希!」

希「ん?」

にこ「……酷いこと言って、ごめんね。助かったわ、ありがと」

希「……ん!どういたしまして。あんな、にこっち」

にこ「何よ」

希「カードがウチに告げるんよ。にこっちには、もう一度必ずチャンスが来る」

希「それまで、諦めたら……アカンよ」

にこ「カード?何それ?」

希「タロットや。ウチの占いは当たる、って評判なんよ?」

にこ「……面白い趣味してるじゃない。アンタそのキャラ、結構アイドル向きよ。そうね、『スピリチュアルやね』とでも言ってみれば?」

希「ふふっ、考えとくわ」

絵里「希!行くわよ!」

希「はいはーい!そんな急がんでもええやん、えりちー!」

絵里「何言ってるのよ……どういうつもりよ、生徒会役員があんなに堂々と意見するなんて……」


二人が生徒会室に歩いて行った後で、私は一人呟く。


にこ「もう一度チャンスが来る……それまで諦めるな、ね」

にこ「……余計なお世話よ」


──そして、4月。

私達の物語が──動き出す。

75: 名無しで叶える物語(きしめん だぎゃー)@\(^o^)/ 2015/03/25(水) 23:44:25.81 ID:s7qdPwiu
にこ「……っと、こんなもんかしらね……」


こころとここあを見送った後、サングラスとマスクをして家を出る。

花粉症、というわけではない。これは気分だ。

仮にも敵情視察なのだ、素顔を見せるわけにはいかない……なんて、ただの追っかけなんだけどさ。

三日前、新学期前日に行われた今世代のA-RISE選抜。そこで選ばれたメンバーによるライブがUTXで行われる。

A-RISE『UTX本校にようこそ!皆さーん、お元気ですかー?』


UTXに到着すると、既にスクリーンにはA-RISEのメンバーが映し出されていた。

……二人を送り出さなければいけなかったとはいえ、後れを取ったわ……


???「あ、あのー……」


突然、隣のヤツが話しかけてきた。……音ノ木坂の、2年?何よ、この忙しい時に……


にこ「何?」

2年「ひっ!」

にこ「今忙しいんだけど」

2年「あ、あの、質問なんですけど、あの人たちって、芸能人とかなんですか?」


……はぁぁぁぁぁ!?今ここで私を捕まえてする質問がそれ!?


にこ「はぁぁぁぁぁ!?アンタそんなことも知らないの!?そのパンフレットにも書いてあるわよ、どこ見てんの」

2年「す、すみませーん!」

にこ「はぁ……A-RISEよ、A-RISE」

2年「A-RISE?」

にこ「スクールアイドル」

2年「アイドル……」

にこ「そ、学校で結成されたアイドル。聞いたことないの?」

2年「へぇー……」


ったく、そうこうしてる内に曲始まっちゃってるじゃないの!

77: 名無しで叶える物語(きしめん だぎゃー)@\(^o^)/ 2015/03/26(木) 00:00:37.45 ID:bqZHG3m1
A-RISE『What'cha do what'cha do? I do "Private Wars"』

A-RISE『ほら正義と狡さ手にして』


……流石ね、やっぱり。

今年のA-RISEは、去年の2年生メンバーが全員そのままスライドした形になる。

それはつまり、A-RISE唯一の弱点が存在しないということなのだ。

A-RISEの弱点……それは、1年でメンバーが変わること。

A-RISEというブランドを手に入れる代わり、彼女達に与えられる時間は1年間。

だけど、彼女達は去年1年間で既に人気を十分すぎるほど得ている。

実力だけとっても飛び抜けているのだ。今世代のA-RISEは紛れもなく史上最強世代。

史上最強の──スクールアイドル。

……ま、こんなこと考えても仕方ないわ。

私は、たった一人のアイドル研究部。

……その上、私の通う学校は、3年後に廃校になると言うのだから。

78: 名無しで叶える物語(きしめん だぎゃー)@\(^o^)/ 2015/03/26(木) 00:24:42.81 ID:bqZHG3m1
~教室~


希「ただいまー、にこっち」

にこ「……アンタどこ行ってたのよ、何で部室で食べてる私より遅いわけ?」

希「ちょーっとな……」

にこ「……廃校関連のこと?」

希「……ま、せやね」

にこ「生徒会も大変ね」

希「それがそうでもないんやよね……理事長に、今いる生徒のことを考えろ、って言われてもうた。動ける範囲も、限られてくる」

にこ「……ふぅん」


……それじゃ、私は力になれそうにないか。

そもそも、私がいたところで何ができる、って話なんだけど。

私……この学校、そんなに好きじゃ……ないし。

79: 名無しで叶える物語(きしめん だぎゃー)@\(^o^)/ 2015/03/26(木) 21:47:03.44 ID:bqZHG3m1
私がそのポスターを見つけたのは、そんなやり取りから数日後のことだった。

そこに書かれていた内容を、私はそこにいた生徒に問う。


にこ「何……これ?」

生徒「さ、さぁ……?」


──初ライブのお知らせ──そして、グループ名募集。

……音ノ木坂のスクールアイドル、ですって?


にこ「アンタ、知ってたんでしょ?」

希「ん?何のことー?」


翌日、私は希にその連中のことを問いただした。


にこ「とぼけないでよ、音ノ木坂のスクールアイドルを名乗る連中よ。アンタが知らないはず、ないでしょ?」

希「そうやね……あれは廃校が発表された2日後やったかなぁ。生徒会室に『廃校を阻止するためにアイドル部を設立します!』って乗りこんで来てね」

にこ「……何で私に話が来てないのよ」

希「生徒会としては、あの子達をスクールアイドルとして認めてないからや」

にこ「……認めてない?」

希「『部活は生徒を集めるためにやるものじゃない。思いつきで行動しても何も変えられない』、って……えりちがね」

にこ「……あの生徒会長の言いそうなことだわ」

希「にこっちはちょーっとえりちのこと誤解しとるね……ま、それはいいとして。認めてない以上、ウチが話を持ってくわけにはいかんやろ?」

にこ「ま、そういうことにしといたげる。つまりそいつらは、廃校を阻止するためにアイドルを始めようとしてるってことね」

希「そうやね……南ことりちゃんに、園田海未ちゃん……そして、高坂穂乃果ちゃん。2年生やね」

にこ「結構よ、興味ないから」

希「にこっち……」


……そんなので上手く行くとでも思ってんのかしら、そいつら。

80: 名無しで叶える物語(きしめん だぎゃー)@\(^o^)/ 2015/03/26(木) 22:46:19.28 ID:bqZHG3m1
──私は、続けるわよ──

──どうして?もう、これ以上続けたって意味があるとは思えないよ──

──決まってるじゃない──

──アイドルが、好きだからよ──


にこ「……っ……!」


……最悪の目覚めだ。今更あの時の夢を見るなんて……

原因はわかりきっていた。例のスクールアイドル連中の初ライブだ。

観客はほとんどゼロ、だけど堂々と歌いきって見せた。

──いつか……いつか私達、必ず……ここを、満員にしてみせます!──

生徒会長に向けて自分の想いを叫ぶその姿は……悲しいほど、かつての自分と重なった。


~教室~


希「で、アイドル研究部の部長から見て、あの子達のライブはどうだったん?」


何で私がライブを見ていたことが前提なのよ……とは、もう思わない。希は、そういうヤツだ。

だから私は、率直な感想を伝える。


にこ「……ダメね。とんだ素人連中だわ」

希「そうなん?歌も踊りも、ウチから見たらとっても良かったよ」

にこ「歌とか踊りとかじゃないのよ……もちろんそれだってまだまだ見られたレベルじゃないけどね」

にこ「私が言ってるのは、そういうことじゃない……根本的に、意識が足りてないのよ」

にこ「一番大切なことが……アイドルがどういう仕事なのかが、わかってない」

にこ「あれじゃ、近い内に壁にぶつかるでしょうね……素人にありがちなパターンだわ」

希「にこっちには、それが何かわかってるんよね?……だったら、にこっちが……」

にこ「私が、あいつらと一緒にスクールアイドルをやれば……とでも、言いたいのかしら」

にこ「……そうね、いい機会だわ」

にこ「教えてあげる。私がアイドル研究部で、何をしてきたのか」

にこ「……私に、何があったのか」

81: 名無しで叶える物語(きしめん だぎゃー)@\(^o^)/ 2015/03/26(木) 23:24:14.05 ID:bqZHG3m1
~放課後・部室~

にこ「私ね、アイドルになりたかったのよ。それこそ、物心ついた時には」

にこ「だから、自分はアイドルになるんだ……って、ずっと信じてた」

にこ「けど、現実はそう上手く行かなくてね……ま、早い話レッスンを受けるお金がなかったのよ」

にこ「お小遣い貯めて児童劇団に入ったこととか、あったんだけどね。その時は楽しかったわ……これが私の進む道なんだって、はっきり思った」

にこ「結局、オーディションには受からなかったんだけどね。理由?歯がなかったから」

にこ「子役とかやってる子はね、あれ差し歯してるのよ。……一つ賢くなったわね、感謝しなさい」

にこ「それからしばらく、なんとなく時間が過ぎた時よ。A-RISEを見た時は衝撃だったわ。学校でアイドルができるんだ、ってね」

にこ「だから私、高校はUTXに行くつもりだったの」

にこ「……これはアンタも知ってるわよね?そ、入学金だけで100万円するのよ、あそこ」

にこ「それで、私は音ノ木坂に来た。そしてそこで、スクールアイドルを始めたの。クラスメートを誘って、ね」

にこ「運命が無情で、家庭環境が非情で、オーディションが不運なら……」

にこ「チャンスは、自分の手で勝ち取ってやる、ってね」

82: 名無しで叶える物語(きしめん だぎゃー)@\(^o^)/ 2015/03/27(金) 00:04:12.43 ID:60PN8h41
にこ「5人で、精一杯頑張ってね。4人ともこんなの初めて、って楽しそうだった」

にこ「私も、ようやく自分の夢が動き出した、って思ってたわ」

にこ「それで、アンタも知ってるファーストライブ。観客の人数って、記録にあるのかしら」

にこ「そう、ないのね。……4人、だったわ。クラスで仲の良かった娘達だけ」

にこ「それでも私達、歌ったのよ。全力で、練習の成果を届けた」

にこ「その時に私、誓ったの」

にこ「私はアイドルを続ける、って」

にこ「いつかここを……満員にしてみせる、ってね」

にこ「部員は、その時に二人減っちゃったけどね。続けて意味があるとは思えない、だってさ」

にこ「それからの私は、がむしゃらだった……頑張ってれば、いつか誰かが気づいてくれるって、思ってた」

にこ「実際、ライブの度にお客さんは増えてたのよ?だから私は、間違ってないと思ってた」

にこ「それから、どうなったと思う?どうして私、こうなったんだと思う?」

にこ「……にこは、誰よりも真剣だから、私達はにこに一生追いつけない……ついていけない、ってさ」

にこ「あまつさえ、UTXに行けばよかったのに、なんて言うもんだからさ。ちょっと頭に血が上っちゃってね……ひっぱたいちゃった、そいつのこと」

にこ「その時にね、気づいたの。にこにーは気づいちゃったの」

にこ「真剣にアイドルやりたいようなヤツはね、こんな学校のスクールアイドルでくすぶってなんかいないって」

にこ「にこにーの、アイドルへの道は、もうとっくに途絶えてたって」

にこ「夢見る少女の物語は、これでおしまい。どう?面白かった?」

にこ「良かったら感想、聞かせてよ。ねぇ、希」

にこ「私は、どうやったら、アイドルになれてたんだと思う……?」

87: 名無しで叶える物語(きしめん だぎゃー)@\(^o^)/ 2015/03/27(金) 23:10:13.20 ID:60PN8h41
……へぇ。アンタでもそんな顔、するのね。

いつも全部見抜いてるよ、って感じだから新鮮だわ。

……ちょっと、やりすぎちゃったかしらね。


にこ「ごめんね希、イタズラが過ぎたわ。そんな顔、させるつもりじゃなかったんだけど」

希「イタズラ……?」

にこ「さっき話したことは、全部本当にあったこと。あの時確かに私は、もう私はアイドルにはなれないんだ、って思ったわ」

にこ「……けどね」

にこ「私の物語は、終わってなんかいない」

にこ「私は、アイドルになることを……諦めてない」

にこ「考えてみれば、高校までパッとしなかったアイドルなんて、いくらでもいるもの」

にこ「年齢的にはギリギリだけどね。自分でお金を稼ぎながら、私はもう一度アイドルを目指すつもり」

にこ「だけどね、希……ううん、だからこそ、ね」

にこ「私は、あの子達と一緒にスクールアイドルはできない」

89: 名無しで叶える物語(きしめん だぎゃー)@\(^o^)/ 2015/03/27(金) 23:55:09.52 ID:60PN8h41
希「理由はきっと……聞くまでもないんやろね」

にこ「流石希ね、話が早くて助かるわ」

希「音ノ木坂を守るためにアイドルを始めた穂乃果ちゃん達と、音ノ木坂でアイドルを目指して、それが叶わなかったにこっちじゃ……」

にこ「そ。学校への想いも、アイドルへの想いも、私達は全く方向性が違う……違いすぎる」

にこ「そんな状態で私があのグループに入って、上手く行くはずがないわ」

にこ「私が入らなくても上手く行かないのは変わりないけど……ね」

希「……」

にこ「一度見ればわかるわ……仲良いんでしょ、あの子達」

希「……そうやね」

にこ「どうせアンタが裏で手を貸してるんでしょ?解散させてあげるのが本人達のためよ。ここで失敗すれば……あの子達はきっと、元のままではいられない」

希「にこっち……あんな、にこっち!」

にこ「じゃ、私帰るわ。悪いわね、長くつき合わせちゃって」


何か言いたげな希を残したまま、私は部室を出た。

……これでいい。私に今更……何ができるってのよ。

90: 名無しで叶える物語(きしめん だぎゃー)@\(^o^)/ 2015/03/28(土) 01:01:11.07 ID:q++aFXgC
~数日後~

にこ「解散するどころか、メンバー増えてるんだけど」

希「そうみたいやね」

にこ「そうみたいやね、じゃないわよ!アンタどういうつもりよ!?私が嫉妬や悪意で解散させろ、なんて言ったと思ってるわけ!?」

希「ウチは何にもしてへんよ?」

にこ「アンタまたそうやって……!」

希「……ウチ、何にもしてないんよ」

にこ「……本当なの?」

希「ほんと。確かに一人には、ちょーっとお手伝いしたことあるけど……それは、ファーストライブ前の話」

にこ「じゃ、どうして……」

希「今回入った子達は皆……穂乃果ちゃん達のライブを見とった子達や」

にこ「……」

希「それにな、にこっち。これ、見てみ」

にこ「何これ……あの時のライブじゃない。アンタ、こんなの撮ってたの?」

希「ウチやないよ……これも、ほんと」

にこ「じゃ、誰よ」

希「さぁなぁ……ウチだって、何でもしってるわけやないもん。それよりにこっち、コメント読んでみ」

にこ「『初めて見ました。応援します』……『頑張ってください』……何これ?」

希「穂乃果ちゃん達に宛てられた、コメントや」

にこ「……」

希「穂乃果ちゃん達の活動が……ちゃんと誰かの心を動かしてる、いうことやんな?」

にこ「……フン、今だけよ、今だけ」

にこ「……アイドルはね、そんな甘いもんじゃないんだから……」

希「……そうやね。けどね、にこっち」

希「ウチは応援したいな、あの子達のこと」

91: 名無しで叶える物語(きしめん だぎゃー)@\(^o^)/ 2015/03/28(土) 01:04:18.06 ID:q++aFXgC
その日の放課後、私は部室のパソコンであいつらのPRページを開いた。

いいわ。希がやらないってんなら……私がやってやる。


にこ「アイドル部……」


まずは挨拶よ。受け取りなさい!

『アイドルを語るなんて10年早い!(((┗─y(`A´ ) y-˜ケッ!!』

動画にコメントを打って、私は……笑った。

94: 名無しで叶える物語(きしめん だぎゃー)@\(^o^)/ 2015/03/28(土) 22:32:01.54 ID:q++aFXgC
にこ「アンタ達、とっとと解散しなさい!」


音ノ木坂アイドル部を名乗る連中──μ'sのリーダー・高坂穂乃果に、私はそんな言葉をデコピン付きで叩きつけた。

希にあいつらを解散させる気がない以上、私が動くしかない。

そうよ、最初っからこうしてやれば良かったんだわ!


~放課後~

希「どうやらあの子ら、やめるつもりはないようやで?にこっち」

にこ「……フン」


ま、あの程度でどうにかなるとは思ってないわ。

まずは小手調べ、といったところよ。

……それにしても、どうしてあいつら……いえ、考えるのは後だわ。

とりあえずは、情報収集。

そう思った私は、雨で練習が中止になったらしい連中の後をつけることにした。

95: 名無しで叶える物語(きしめん だぎゃー)@\(^o^)/ 2015/03/28(土) 22:50:53.78 ID:q++aFXgC
ひ、酷い目にあったわ……

雨には打たれるし、子供には笑われるし、もう散々よ。

……けどま、収穫はあったわ。

人数が増えたあいつらが部活申請しないのは、何か理由があるのかと思ったけど……

まさか、忘れてただけだったなんて。

とすると、明日にでも生徒会に部活申請をしに行くでしょうね。そこには希がいる……となれば。

そろそろ、かしらね。


~翌日~


穂乃果「じゃあもしかして、あなたが……」

穂乃果「あなたがアイドル研究部の部長!?」


私とそいつらが部室前で鉢合わせたのは、翌日のことだった。

……やっぱりやってくれたわね……希。

96: 名無しで叶える物語(きしめん だぎゃー)@\(^o^)/ 2015/03/28(土) 23:18:53.49 ID:q++aFXgC
~部室~


海未「校内にこんなところがあったなんて……」

にこ「……勝手に見ないでくれる?」


部室周りで繰り広げられた攻防の末、私はあいつらに部室への侵入を許してしまっていた。


花陽「こ、こここ、これは……!」

花陽「『伝説のアイドル伝説』DVD全巻BOX……!持ってる人に初めて会いました!」

にこ「そ、そう……?」

花陽「凄いです!」

にこ「ま……まぁね」

穂乃果「へぇー……そんなに凄いんだ……」

花陽「知らないんですか!?」

花陽「『伝説のアイドル伝説』とは、各プロダクションや事務所、学校などが限定生産を条件に歩み寄り、古今東西の素晴らしいと思われるアイドルを集めたDVD-BOXで、
その希少性から『伝説の伝説の伝説』、略して『伝伝伝』と呼ばれる、アイドル好きなら誰もが知ってるDVD-BOXです……!」

穂乃果「花陽ちゃん、キャラ変わってない……?」

花陽「通販・店頭ともに瞬殺だったそれを、二セットも持っているなんて……!尊・敬……!」


……何よ、なかなか見どころあるやつもいるじゃない。

この前入ったメンバーね、こいつは。

ま、ここは驚かせといてあげるわ。


にこ「家にもうワンセットあるけどね」

花陽「ほんとですか!?」

穂乃果「じゃあ皆で見ようよ」

にこ「ダメよ、それは保存用」

花陽「くぁあああ~!……伝伝伝……!」


……ちょっとショック受け過ぎじゃないかしら。

布教用もあるんだけどね。それは部の備品だから部員限定よ。

97: 名無しで叶える物語(きしめん だぎゃー)@\(^o^)/ 2015/03/28(土) 23:57:18.68 ID:q++aFXgC
ことり「……!」

にこ「……ああ、気づいた?アキバのカリスマメイド、ミナリンスキーさんのサインよ」

海未「ことり、知っているのですか?」

ことり「あ、あ、いや……」

にこ「ま、ネットで手に入れたものだから、本人の姿は見たことないんだけどね」

ことり「……」


……ふぅん。伊達にアイドルやってるわけじゃないのかしら。詳しいヤツは詳しいのね……


ことり「と、とにかく、この人凄い!」

にこ「それで?何しに来たの?」


……ま、大体の予測はついてるけどね……


穂乃果「アイドル研究部さん!」

にこ「……にこよ」

穂乃果「にこ先輩。実は私達、スクールアイドルをやっておりまして」

にこ「知ってる。どうせ希に、部にしたいなら話つけて来いとか言われたんでしょ」

穂乃果「おおー!話が早い!」

にこ「ま、いずれそうなるんじゃないかと思ってたからね」

穂乃果「なら!」

にこ「お断りよ」

穂乃果「……え?」

にこ「お断りって言ってるの」

98: 名無しで叶える物語(きしめん だぎゃー)@\(^o^)/ 2015/03/29(日) 00:33:21.89 ID:THeS8Eiv
穂乃果「や、あの……」

海未「私達は、μ'sとして活動できる場が必要なだけです。なので、ここを廃部にしてほしいとかいうのではなく……」

にこ「お断りって言ってるの!」

にこ「言ったでしょ?アンタ達はアイドルを汚しているの!」

穂乃果「でも!ずっと練習してきたから、歌もダンスも……!」

にこ「そういうことじゃない……!」


そういうことじゃない。アンタ達に足りないのはそんなことじゃない。

それがわからない内は、どんなに練習したって本当のアイドルにはなれないわ。

……だけど、それを伝えたところで意味はない。

言葉だけを伝えても、本人がその意味に気づけなければ、それは何の役にも立たない。

……私はそれを、嫌と言うほど知っている。

だけどまぁ、せっかくここまで来たんだもの。少しくらい私のアイドル論を伝授してやってもいいわ。


にこ「……アンタ達、ちゃんとキャラ作りしてるの?」

穂乃果「キャラ?」

にこ「そう!お客さんがアイドルに求めるものは、楽しい夢のような時間でしょ?」

にこ「だったら、それに相応しいキャラってものがあるの!ったくしょうがないわね」

にこ「いい?例えば……」

にこ「にっこにっこにー♪あなたのハートににこにこにー♪笑顔届ける矢澤にこにこー♪にこにーって覚えてらぶにこっ♪」

にこ「……どう」

穂乃果「う……」

海未「これは……」

ことり「キャラって言うより……」

真姫「……私無理」

凛「ちょっと寒くないかにゃー」

花陽「フムフム、なるほど……!」


……少しでもこいつらのことを見直した私がバカだったわ。

99: 名無しで叶える物語(きしめん だぎゃー)@\(^o^)/ 2015/03/29(日) 00:47:07.67 ID:THeS8Eiv
にこ「そこのアンタ……今、寒いって……?」

凛「あ、いや……すっごい可愛かったです!最高です!」

ことり「あ、でもこういうのもいいかも」

海未「そうですね、お客様を楽しませるための努力は大事です!」

花陽「素晴らしい!流石にこ先輩!」

穂乃果「よーし!そのくらい私だって……」

にこ「……出てって」

穂乃果「え?」

にこ「とにかく話は終わりよ!とっとと出てって!」


私は無理やりそいつらを追い出し、扉に鍵をかける。

急に静かになった部室で、私は一人、椅子に座った。


にこ「……フン……何よ、無理に褒めたりなんかして」

にこ「そんなにアイドルやりたいってわけ?わっかんないわね」


……嘘だ。大嘘だ。その気持ちを……私は誰より知っているのだから。


にこ「……フン」


外を見る。雨はまだ、止みそうになかった。

104: 名無しで叶える物語(きしめん だぎゃー)@\(^o^)/ 2015/03/29(日) 22:30:53.10 ID:THeS8Eiv
部室で窓の外を眺めながら、私はさっきまでの嵐のような出来事を思い出していた。

ったく、人のコレクションを勝手に見たり触ったりするんじゃないわよ。

その上、この私のアイドル論を寒い、なんて言ってくれちゃって。

やっぱり、とんだ素人集団だわ。

……そう、素人だったのよね、あいつら。

結成からライブまで、一月なかったはずよね。

それであのパフォーマンスなんだから……大したもんだわ、実際。


──穂乃果ちゃん達の活動が……ちゃんと誰かの心を動かしてる、いうことやんな?──


……今日はなんだかやる気が削がれちゃったわ……帰りましょうか。

105: 名無しで叶える物語(きしめん だぎゃー)@\(^o^)/ 2015/03/29(日) 23:16:16.82 ID:THeS8Eiv
学校を出たところで、後ろから声が聞こえてきた。……あいつらだわ。

急いで信号を渡り、階段を下りたところに隠れて様子を見る。

何やら難しい顔をして歩く3人。……どうやって私に認めてもらうかの相談でもしてるのかしら。

悪いけど、認めるわけにはいかないわ。アンタ達にとって、アイドルはあくまで廃校を阻止する手段でしかない。

そんなの……認められるわけがない。

そんなことを考えている内に、向こうも私に気づいたみたいだ。私は傘を伏せ、あいつらの視界から消える。

そっと傘を上げると、あいつらは楽しそうに笑っていた。


にこ「……フン。何仲良さそうに話してるのよ」


……どうしてあんな風に笑っていられるんだろう。

パフォーマンスはともかく、ライブは成功したとは言えない……いや、大失敗の部類だろう。

あの短期間で歌もダンスもあそこまで仕上げてきたんだ。よほどこの学校を守りたかったに違いない。

ならばこそ──その強い想いは、残酷な現実に打ちのめされたはず。

……そうよ、学校を守りたいんなら他に手段だってあるでしょう。

なんてアンタ達は、アイドルにこだわるの?そこまでして……続けようとするの?

106: 名無しで叶える物語(きしめん だぎゃー)@\(^o^)/ 2015/03/29(日) 23:26:11.40 ID:THeS8Eiv
──やりたいからです!──

──こんな気持ち、初めてなんです!やって良かったって、本気で思えたんです!──

──いつか……いつか私達、必ず……ここを、満員にしてみせます!──


思い出したのは、講堂で生徒会長に向けて叫ぶ高坂穂乃果の姿だった。


──決まってるじゃない──

──アイドルが、好きだからよ──


……何よ、最初っから答えは出てたんじゃない……

私と一緒なんだ、あの子達は。もうとっくに、あの子達は……本気でアイドルを、やるつもりなんだ。

……いいえ違うわ、私は知ってた……あの日から、知ってた。そんなことは、ライブを見ればわかる。

……私がどれだけアイドルを見てきたと思ってんの。嫌でもわかるわ……私が見ないようにしてきただけ。

あの子達を認めない理由が……欲しかっただけなんだ。

……でも待って。……どうして私は、あいつらを認めたくないの……?

107: 名無しで叶える物語(きしめん だぎゃー)@\(^o^)/ 2015/03/29(日) 23:42:46.53 ID:THeS8Eiv
翌日になっても、私はその答えが出せずにいた。

出席番号が最後だからこその、窓際の特等席。

誰とも話さなくても良いその席から、私は立ち上がる。

希は生徒会があるから、とさっさといなくなってしまった。

だから私は部室に向かうことにした。

部室の前に立った時、通りがかった生徒の声が聞こえた。


生徒1「帰りどっか寄ってく?」

生徒2「そーだね!部員の皆に声かけて、一緒に行こうよ!」

生徒1「いいねー、どこ行くー?」


……ああ、そうか。私、あの子達が羨ましかったんだ。

ずっとああやって……一緒に本気でアイドルをやれる仲間が、欲しかったんだ……

……何よ。結局、嫉妬と悪意だった、ってこと?

……バカな私。今更気づいたって、もうどうしようもないじゃない……

そう思いながら私は部室のドアを開け、暗い部室に入る。……その時だった。





「「「「「「お疲れさまでーす!」」」」」」

108: 名無しで叶える物語(きしめん だぎゃー)@\(^o^)/ 2015/03/29(日) 23:56:18.33 ID:THeS8Eiv
そこにいたのは……μ'sの6人だった。

え、何これ、どういうこと!?何がどうなってるわけ!?


にこ「なっ……!」

穂乃果「お茶です、部長!」

にこ「部長!?」

ことり「今年の予算表になります、部長!」

にこ「んあっ……!」

凛「部長、ここにあったグッズ、邪魔だったんで棚に移動しておきました!」

にこ「こら!勝手に!」

真姫「さ、参考にちょっと貸して。部長のオススメの曲」

花陽「な、なら迷わずこれを……!」

にこ「あーっ!だからそれは!」

穂乃果「ところで次の曲の相談をしたいのですが部長!」

海未「やはり次は、さらにアイドルを意識した方が良いかと思いまして」

ことり「それと、振り付けも何か良いのがあったら」

穂乃果「歌のパート分けもよろしくお願いします!」


……何なの、こいつら……何の真似よ、これ。


にこ「……こんなことで押し切れると思ってるの?」

穂乃果「押し切る?私はただ、相談しているだけです」

穂乃果「音ノ木坂アイドル研究部所属の、μ'sの7人が歌う、次の曲を」

にこ「7人……」

109: 名無しで叶える物語(きしめん だぎゃー)@\(^o^)/ 2015/03/30(月) 00:03:13.42 ID:ME9Br8OS
……どうして私がスクールアイドルをやってたことを……

いや、それは問題ではないわ。心当たりならあるもの。

それより、私の過去を知ったのなら当然……私が一人になった理由だって、聞いているのだろう。

それでもこいつらは、私を仲間にする気なの……?


穂乃果「にこ先輩!」


……良いわ。そういうことなら、もう遠慮しない。私の本気を、ぶつけてやるわ。


にこ「……厳しいわよ」

穂乃果「わかってます!アイドルへの道が厳しいことくらい!」

にこ「わかってない!アンタは甘甘!アンタも!アンタも!アンタ達も!」


だから教えてやる。私が一番大切にしてる……アイドルにとって、一番大切なこと。

アンタ達に足りなかったことを。


にこ「良い?アイドルって言うのは、笑顔を見せる仕事じゃない!笑顔にさせる仕事なの!それをよーく自覚しなさい!」


アンタ達なら、きっとこの言葉を活かすことができる。……そう、信じて。

110: 名無しで叶える物語(きしめん だぎゃー)@\(^o^)/ 2015/03/30(月) 00:19:52.21 ID:ME9Br8OS
にこ「いーい?やると決めた以上、ちゃんと魂込めてアイドルになりきってもらうわよ!わかった?」

6人「「「「「「はい!」」」」」」

にこ「声が小さい!」

6人「「「「「「はい!!」」」」」」

にこ「いーい?アイドルってのは、頭のてっぺんから爪先までアイドルでなきゃいけないの。一瞬でも気を抜いたらダメよ!」


……こうして、私は再びスクールアイドルとして活動することになる。


にこ「にっこにっこにー!」

6人「「「「「「にっこにっこにー!」」」」」」

にこ「全然ダメもう一回!」

にこ「にっこにっこにー!はい!」

6人「「「「「「にっこにっこにー!」」」」」」

にこ「ツリ目のアンタ!気合い入れて!」

真姫「真姫よ!」

6人「「「「「「にっこにっこにー!」」」」」」

にこ「はい、ラスト一回!」

6人「「「「「「にっこにっこにー!」」」」」」


……嫌だ私、何泣きそうになってんのよ。まだまだこれからだってのに……


にこ「全然ダメ!あと30回!」

凛・真姫「ええ~!?」

穂乃果「何言ってんの、まだまだこれからだよ!」


……私のセリフよ、それ。


穂乃果「にこ先輩、お願いします!」


私は涙……いえ、汗よ。汗を拭うと、後輩たちに向き直った。


にこ「よーし、頭から、行っくよー!」

111: 名無しで叶える物語(きしめん だぎゃー)@\(^o^)/ 2015/03/30(月) 00:22:36.79 ID:ME9Br8OS
……それからほんの少し、時は流れて。

7月、オープンキャンパス。

112: 名無しで叶える物語(きしめん だぎゃー)@\(^o^)/ 2015/03/30(月) 00:41:20.85 ID:ME9Br8OS
もしもこの世界に、神様なんてものがいるなら。

それはなんと気紛れで、意地悪な存在なんだろう──


にこ「そう思わない?希」

希「何やの、藪から棒に」

にこ「穂乃果よ」

希「穂乃果ちゃん?」

にこ「私が2年間……いえ、ずっとずっと必死に手に入れようとしてきたものを、あいつはたったの3ヶ月で手にしちゃったのよ」

希「そうやなぁ……確かに神様は、気紛れなのかもしれんね」

希「けど、ウチは思うんよ」

希「神様が気紛れなのは、その人にチャンスを与えるタイミングだけや、って」

希「にこっちが一人、諦めずに頑張ったから」

希「あるいは──誰かのために一生懸命だったから」

希「神様は、にこっちにチャンスをくれたんやと思うよ」

希「そして、穂乃果ちゃんがにこっちにとってのチャンスであったように」

希「にこっちだって、穂乃果ちゃんにとってのチャンスやった」

希「そうやって、自分のしたことが誰かと繋がって、誰かのチャンスになっていく……そうでしょ?」

にこ「どーだかね」

希「素直やないんやから……聞かせてあげたいわ、あの子達がにこっちのいないところでしてたにこっちの話」

にこ「……ライブ前に不安になるような話、しないでくれる?」

希「あらにこっち、緊張してるん?」

にこ「そういうアンタの方がよっぽど余裕なさそうじゃない」

希「バレてもーた?」

にこ「安心しなさい。ステージに上がったら、そんなこと考えられなくなるわ」

にこ「最っ高よ、アイドルって」

希「にこっちが言うなら、間違いないんやろね」

絵里「希、にこ。行くわよ」

希「うん!」

にこ「さぁ、全力で……楽しみましょう!」

113: 名無しで叶える物語(きしめん だぎゃー)@\(^o^)/ 2015/03/30(月) 00:51:14.56 ID:ME9Br8OS
~ライブ後・矢澤家~


にこ「ただいま!」

こころ「お帰りなさいお姉さま!」

虎太郎「おかえりー」

ここあ「ライブはどうだったの、お姉ちゃん!」

にこ「成功よ……!大成功だったわ……!」


そう言って、私は可愛い妹・弟を抱きしめる。


こころ「お姉さま!?」

ここあ「どうしたのお姉ちゃん、ライブなんていつもやってるでしょ!?」

虎太郎「なかよしー」

にこ「……違うのよ、こころ、ここあ……今日はね、μ'sの初ライブだったの」

こころ「μ's?」

にこ「そうよ。アイドル研究部の、新しい部員……!」

ここあ「つまり、その新しくできたμ'sのライブが成功したってこと?」

にこ「うん、そうよ!だから嬉しいの!だってあの子達は……!」

こころ「μ's……」

こころ「それが、お姉さまの新しいバックダンサーなのですね?」

ここあ「なるほどね!流石お姉ちゃんだな!」


……えっ……?そっか、この子達はまだ私を……!


にこ「あのね、二人とも」


そう言いかけて、私はふと希の言葉を思い出す。


──そうやって、自分のしたことが誰かと繋がって、誰かのチャンスになっていく……そうでしょ?──

114: 名無しで叶える物語(きしめん だぎゃー)@\(^o^)/ 2015/03/30(月) 01:00:32.39 ID:ME9Br8OS
……そっか。そうだったのね。

私が今期のA-RISEと出会って、それがきっかけで希と出会って……それが、μ'sとの出会いに繋がって。

全部全部、繋がってる……そして、その最初の1ページは。

こころとここあが、私がアイドルだって信じてくれたこと。

私を信じ続けてくれたこと。

私はずっと……この子達のアイドルであり続けたんだ。

だから神様がチャンスをくれた……なんて、希の考えが移っちゃったかしら。

……そういうことなら、私は。


にこ「そうよ!私の新しいバックダンサー、μ's!」

にこ「大変だったわよ、最初はアイドルにとって一番大切なこともわかってなくてね……」


私はこの子達の夢を、もう少しだけ守り続けたいと思う。

万が一ばれたとしても……ま、あいつらなら許してくれるでしょ。



いつか、この夢が本当になるまで。もうちょっとだけ、つき合ってね。

115: 名無しで叶える物語(きしめん だぎゃー)@\(^o^)/ 2015/03/30(月) 01:04:27.03 ID:ME9Br8OS
どっとはらい。

これにて『にこ「もしもこの世界に、神様なんてものがいるなら」』完結になります。

にこが最後まで守り続けた「夢」が、巡り巡ってにこを救ってたらいいよね……というお話だったんですが、学校での話のボリュームを大きくし過ぎて後付け感。

過去編はアニメや設定と矛盾しないように考えるのが大変ですね……万が一矛盾あればご指摘いただけると幸いです。

読んでくださった皆様、感想コメントをくださった皆様、誠にありがとうございました。

また機会があればお会いしましょう。

引用元: にこ「もしもこの世界に、神様なんてものがいるなら」