2: 名無しで叶える物語(たこやき) 2023/06/04(日) 12:56:35.55 ID:xnok2DBW
私は人の感情が読めた。

相手が考えていることが言葉になって聞こえるなんて大層なものではないのだけれど。

その人の目線、表情、声色といった視覚・聴覚の情報が頭の中で変換されて、その人の胸の前に「色」として現れる。

嬉しいなら赤色、寂しいなら青色、心配事があれば灰色、といった具合だ。

3: 名無しで叶える物語(たこやき) 2023/06/04(日) 12:58:28.42 ID:xnok2DBW
どうやら聞いたところでは共感覚、というらしい。

便利なものではあるが、いいことばかりとは限らない。

小さい頃からオーディションでは面接官の感情ばかりに目が行ってしまった。

自分の行動に対して露骨に嫌な色を出されれば、みるみる自信がなくなっていった。

4: 名無しで叶える物語(たこやき) 2023/06/04(日) 13:00:18.28 ID:xnok2DBW
これが私の生まれ持った呪い。

誰にも言えない秘密。

5: 名無しで叶える物語(たこやき) 2023/06/04(日) 13:05:03.38 ID:xnok2DBW
あの子は出会ったときから気になっていた。

天真爛漫に話し、目を輝かせているあの子。

その胸には嬉しい赤や悲しい紫や興味津々の黃など、色が目まぐるしく変化していた。

なのに……
その奥に常に映っている灰色。いや、もはや濃すぎて鈍色といったほうが正しいか。

その色を、見て見ぬふりはできなかった。

6: 名無しで叶える物語(たこやき) 2023/06/04(日) 13:07:12.77 ID:xnok2DBW
あの子と同じスクールアイドル部に入って、その灰色、心配事の原因を探していた。

なにか困っていることがあれば手を差し伸べ続けたが、その色は変わるどころかより深まっていった。

1年生の東京大会予選前、私はついに原因を聞いてしまった。

ラブライブで負けたら、帰国しなければならない。

あの子は巨大な不安と戦っていたのだ。

8: 名無しで叶える物語(たこやき) 2023/06/04(日) 13:10:47.24 ID:xnok2DBW
それを知ってしまった私には、そんな舞台でセンターを務める勇気は持てなかった。

なのにあの子は………

「Liella!のセンターにふさわしいと思ったからデス!」

鈍色の上に灯るのは強い期待の緑色。
お世辞だと疑うこともできない自分の呪いに、すこしだけ感謝をした。

「ありがとう、可可。」

そう言ったときにあの子の胸に灯った赤色を見逃さなかった。

9: 名無しで叶える物語(たこやき) 2023/06/04(日) 13:12:04.44 ID:xnok2DBW
1年生の東京大会決勝では負けてしまったが、スクールアイドルを続けることはできるようだ。

しかしあの子の灰色は少しずつ濃くなっていった。

10: 名無しで叶える物語(たこやき) 2023/06/04(日) 13:13:36.71 ID:xnok2DBW
2年生になってからは帰国問題に触れるたびにあの子の胸の前に見たことのない藍色が灯るようになった。

その色が何を意味するのかわからないが、態度を見れば良い感情ではないのだろう。

でも、私は心配することを止められなかった。

11: 名無しで叶える物語(たこやき) 2023/06/04(日) 13:15:00.94 ID:xnok2DBW
東京大会決勝前の雨のふる夜。

「可可は、みんなと楽しく歌っていたいのデス……」

そう言ったあの子に映る色はもう真っ黒になっていた。

12: 名無しで叶える物語(たこやき) 2023/06/04(日) 13:16:43.55 ID:xnok2DBW
居ても立ってもいられず、行動を取ることにした。

勝つために。あの子のために。

その行動でどんどん暗くなっていくみんなの色にも、私は耐えなければならなかった。

それでも神社に訪ねてきた1年生4人の胸の前の色が緑だったのを見て、こんないい子たちになんてことをしてしまったのだと思った。

13: 名無しで叶える物語(たこやき) 2023/06/04(日) 13:20:05.40 ID:xnok2DBW
「3年間、一緒にスクールアイドルやりきりたいの!」

結局、部員みんなに迷惑をかけながらぶちまけた思いは、

「大嫌いで、大好きデス。」

あの子の灰色にヒビを入れた。

14: 名無しで叶える物語(たこやき) 2023/06/04(日) 13:23:34.69 ID:xnok2DBW
それからというもの、あの子の胸に見えていた藍色は消え、赤色が灯ることが多くなった。

一緒にご飯を食べているとき。一緒に衣装を考えているとき。

そのことを嬉しく思いながらも、灰色のヒビの間から覗く青っぽい色が気になった。

やはり奥底には寂しさがあるのだろうか。そう思い、できる限り一緒に過ごした。

15: 名無しで叶える物語(たこやき) 2023/06/04(日) 13:25:51.86 ID:xnok2DBW
迎えた東京大会決勝。

みんなで作り上げた完璧な舞台。
メンバーの胸の前には不安などなく、幸せな赤色が灯っていた。

観客たちの楽しそうな嬉しそうな色に背中を押され、最高の舞台を作ることができた。

16: 名無しで叶える物語(たこやき) 2023/06/04(日) 13:27:44.01 ID:xnok2DBW
優勝の結果をみて泣きながら抱きつくあの子の胸には砕けて散った灰色。

かわりに中心に輝く鮮やかなパステルブルーが灯っていた。

17: 名無しで叶える物語(たこやき) 2023/06/04(日) 13:29:47.79 ID:xnok2DBW
…………………………

「すみれ、なにジロジロ見てるデスか。」

「み、見てないわよ。」

それからというもの、ついついそのきれいな水色を見てしまうようになった。

その色を見ているだけで、幸せの感情が溢れ出てしまう。

こんな気持ちにさせてくれることを、自分の呪いに感謝した。

せめて顔にだけはでないようにしないとね。

この幸せは、私だけの秘密。

18: 名無しで叶える物語(たこやき) 2023/06/04(日) 13:33:11.30 ID:xnok2DBW
…………………………

まったくすみれは。

あれだけ可可の問題で心配しないように遠ざけていたのに。

勝手に心配して、どんどん表情も暗くなっていって。

なのに東京大会が終わってからというもの、こんなに浮かれた表情をして。

本当によかったです。だって……

「灰色がすっかり消えて、きれいな赤色が溢れ出てマスよ?」

「…………………え?」

19: 名無しで叶える物語(たこやき) 2023/06/04(日) 13:34:15.45 ID:xnok2DBW
おわり

引用元: 【SSコンペ】すみれ「秘密のパステルブルー」