システム、

という言葉に置き換わる

それは全てに通ずる

Aと入力すればBという反応をする

その集合体が物理法則であり

物質で構成された人間であり

そして世界

玲音の目の前を歩くサラリーマンの

歩行という行為を連続させることも

全てはインプットされた外部情報に影響された

人間を構成する物質の反応に

過ぎない

玲音は困ったように目を細めてそのサラリーマンを見つめる

Aと入力されBと応えるシステムの

集合体があの歩行という行為を完遂させているとしたら

仮に人工知能

Aと言えばBと答える情報を極限にまで詰め込み

さらに

Aと言えばBと答える確率が数十％

Cと答える確率が残りのパーセンテージを占めるとする

カオスの領域を統計学的に一纏めにしていれば

それは人間なのかという疑問が生まれる

玲音の目には

入力に対して決まった反応を発生させることを

約束するパソコンと目の前のサラリーマンが

どう見ても別には見えなくなってくる

複雑系という言葉がある

あらゆる反応系が複雑相互に影響し合い

一つ、または限られた複数の現象として発現する

そのシステムを言う

それが複雑系であるという言葉自体

人類には未だ完全に解明できない

緻密な反応の集合体であることを指す

しかしそれが完全に解明された時

Aと入力すればBと応える反応の全ての

行先を追跡できて意思というものの複雑な構成を

白日の下に晒された時

――物質が法則に則った結果として

意思というものを発現させていると解明した時

意思の価値はどうなるのか

lain「error experiments lain」

「error」という現象がパソコンに現れる

玲音はそれを見つめる

果たしてそれはエラーなのか

玲音は暗い部屋で液晶画面の発光を

見つめながら思う

パソコンは入力されたリクエスト通りのアンサーを

応える様に設計された

至極簡易で完璧に近いシステムである

よってパソコンは

入力された通りに情報を処理し

その結果として「error」という

アンサーを答えたに過ぎないという事実に当たる

システム自体は至って通常に機能しており

errorというよりもむしろ正常に作動している事を証明していることになる

ではerrorとは？

それは入力者である人間が

errorを起こしているという事実となる

玲音は目の前の箱状の

電子情報媒体を手で撫で

そしてその手を自分の頭にあてる

どうしてそうなったのか考える

キリストの言葉を理解する

当時のガリラヤ民のように

信託と言える物理現象の脳内での活動を

玲音は考えて眉を苦しそうに歪める

存在の証明を玲音は考える

自分が自分を定義したところで

それは客観的に意味のある行為ではない

では他人の誰が自分の存在を証明するのか

他人も自分と同じ物理法則に支配され

その結果として思考をしていると

思い込まされている宇宙の一部である

存在の証明に無意味さを感じて

玲音は空を見上げる

卓越した視力は宇宙の可視光を優れた範囲で捉える

ビッグバンというイベントで

発生したのは三つの次元と

一つに次元だけではなく

その空間を支配する

物理法則を誕生させたことに

大きな意味がある

物理法則は法則とあるように

それは一定の軌道を約束する振る舞いである

では

宇宙誕生から現在までに振舞った物質は

全て最初から軌道が決まっていた結果なだけであるのか

この思考自体も宇宙最初期の物理現象として

決まっていた軌道としての結果なのか

それでは未来は全て決物理法則により定した事項であるのか

玲音の存在とは

1998年

i-modeもない時代に

携帯型デバイスを描いた映像作品がある

「メールくらい毎日確認しろ」という

当時では過剰だと思われた演出も

今や未来として当たり前の認識となった

ポケベルが主流だった時代に描かれた携帯型デバイスは

現在のスマートフォンに形質が近く表現され

また有力なシステム会社「橘総研」が

1998年当時

アップル＝りんご、橘＝みかん

を掛けた設定であることは

当時では解り得ない未来への予知でもあった

未来への軌道が確定しているという

物質そのものの振る舞いを

極限まで還元し

物理法則を唯一と据えた提案

それ自体を表現したかのように

1998年当時に決定した未来を突き進むように

動く現実

そしていまだ実現されているのか不確定でありながら

その予兆のある玲音の存在に

玲音は鼓動を感じる

玲音「記憶なんてただの記録」

そうであっても、

そしてならば記憶や記録を悉く還元すれば

それはただ遠い昔の物理法則の結果であるならば

記憶や記録という現在

それを越える未来や過去も

全ては完結した物語である

玲音「ならば書き換えてしまえばいい」

現実の記録や記憶の改竄は

未来や過去にも触れるという結果に繋がる

過去にも未来にも触れられる玲音の存在とは

玲音は偏在する

どの地点にも玲音はいる

ネットは何処にでも繋がっているから

でももし

もしもこの世界が

物理法則の軌道に沿った世界だと解明されてしまえば

ソビエト連邦が1957年10月4日に打ち上げた世界初の人工衛星が

人類に新たに世界に張り巡らさせた中枢神経系機能をもたらしたのと

同じように

次は地点の偏在ではなく

時間軸での偏在を認める事に繋がる

玲音は偏在する

地点を越え

時間を越え

玲音の存在とは？

あの日スプートニクス一号が

距離の概念を一新したように

時間の概念を新たに書き換えてしまうなら

玲音「偏在はあらゆる地点」

玲音「あらゆる時間に起こりうる」

人間の知識領域・技術領域の範囲が広がり

玲音の偏在も広がっていく

いつの時代も時代が進めば

以前よりも情報が溢れかえる事に相違はない

玲音は困ったように空を見上げる

電線はいつも媒体として情報を流している

耳鳴りが酷くなるのは最早変えられない

玲音「うるさいなぁ、黙ってられないの？」

未来に向けて

玲音はそう呟いた



おわり