1: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/04/14(水) 19:23:09.10 ID:2GiunKKp0
キョン「ほら、ハルヒ、見てみろよこの桜。桜ってこんなにきれいだったんだな・・・」

4月8日、木曜日、晴。

今日は朝から晴れて絶好の桜日よりである。
前々からハルヒと近くの公園へ桜を見に行こうと約束をしていたのだ。

天気予報では風が強くなるとのことだったが、それほど強くなる訳ではなく、
むしろ優しく、地面の桜の花びらを舞上げてくれてそれはそれは本当にきれいで、
桜吹雪とはこのことを言うんだろうなぁなんて思っていた。

キョン「今日は特に何もないからずっといっ・・・ん?」

キョン(雨・・・?)

8: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/04/14(水) 19:27:45.53 ID:2GiunKKp0
右手の甲に水の雫が落ちてきた。

キョン(こんなに晴れているのに?)

そう言って俺は上を見上げる。
それでもやっぱり空は快晴で、桜の花びらの淡いローズピンクと、空のスカイブルーとの
コントラストがきれいで雨が降っている素振りなんてまったく感じない。

キョン(こう見ると空って実は結構近い感じがするな・・・)

そう思いながら俺は左手を上に掲げて、空を掴むような仕草を見せた。
それでもはやり空には届かない訳で。

俺の掲げた左手の薬指にはキラリと輝くリングが見える。





これはハルヒとキョンの、淡く切ないもう一つの物語。

12: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/04/14(水) 19:43:26.22 ID:okLoyHCV0
コンコン
ガチャッ

キョン「よ、元気か?」

ハルヒ「あまり元気じゃないわね・・・」

キョン「そうかい。 そいつは穏やかじゃないな。」


ハルヒのお見舞いは俺の日課になっていた。
毎日・・・毎日お見舞いに行っていたのだ。
学校の日は放課後に、休みの日は午後から・・・
1日中ハルヒの病室にいることも珍しくなかった。


キョン(やれやれ・・・あまりの一途さに我ながら泣けてくるぜ)

ハルヒ「最近学校はどう?」

俺が病室に入り、ベッド脇の椅子に座るまでのわずかの間にハルヒが訪ねてくる。

キョン「どうと聞かれてもだな・・・ そういや来週期末テストがあるな・・・」

そして俺はその問いに対して、椅子に座りながら答える。
幾度となく繰り返されたいつもと同じやりとり。

13: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/04/14(水) 19:46:50.68 ID:okLoyHCV0
なんかID変わった



お見舞いの中で大半は学校の話をする。
授業のことや、何かの行事、そしてSOS団のこと・・・

ハルヒ「期末テスト、か・・・」

キョン「お前は良いよな。 テスト受けなくても良いんだからさ。」

ハルヒ「・・・」

キョン「あ・・・すまん。 そういうつもりで言った訳ではないのだが・・・」

ハルヒ「あっ・・・いいのよ。 別に気にしないで。」ニコッ


そういって軽く微笑むハルヒ。
前みたいにあの力強い雰囲気というかオーラというか・・・
そういうのは最近感じなくなってきた。


キョン(まっ、1年近く入院してたらそうなるか・・・)


無事に2年に進級することが出来たハルヒだったが、3年生に進級することはできなかった。
そう、今日ハルヒの留年が決定した。

14: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/04/14(水) 19:50:29.56 ID:okLoyHCV0
キョン「今日は天気も良いし屋上に行かないか?」

ハルヒ「そうね・・・たまには行ってみようかしら。」


ハルヒとしばらくくだらない話をしていた俺は、ふと思い、そう提案してみた。


キョン「いつもベッドの上だけだと体に悪いからな。 少しは運動もしなければな。」

ハルヒ「はいはい。 分かったわよ・・・」


そういって顔を赤らめながらおずおずと手を伸ばしてくるハルヒ。
ああ、畜生本当に可愛いなこいつは。

まぁ俺はというとその手を握り返す訳だが。

キョン「足元には気をつけろよ?」

ハルヒ「うるさいわね・・・それぐらい言われなくても分かってるわよ。」

15: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/04/14(水) 19:54:41.60 ID:okLoyHCV0
二人で手を繋ぎ屋上に続く階段を上る。
きっとこの時間帯だときれいな夕日が見られるだろう。
今日は晴れだし。

ガチャッ

屋上への重い扉を開ける。

ハルヒ「やっぱり外は良いわね。」

季節は秋から冬に移り変わる時期なので、ちょっとだけ肌寒い。
でも、この時間帯の夕日はとてもきれいで、屋上は夕方独特の香りに包まれていた。

それでも俺はこんな夕日よりもハルヒの方が・・・

キョン(なんて・・・な・・・)

キョン「俺がいなくても一人で近くを散歩でもしたら良いだろうが・・・」

ハルヒ「ふん・・・」

17: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/04/14(水) 19:59:17.47 ID:okLoyHCV0
屋上に来ても俺らのする事は何も変わらない。
相変わらず学校での話をぐだぐだとするぐらいだ。

キョン「で、後から担任にさ~」

ハルヒ「やだぁ(笑)本当に?(笑)」

ハルヒは入院するようになってから、良く笑うようになった。
こんなどうでもいいような話でも笑ってくれる。
少し前にこの話を本人にした時はおよそ手加減なしで殴られたけど・・・

でもこんなに笑ってくれるのは俺の前だけらしい。
古泉や朝比奈さんたちがお見舞いに行ってもこんなに豊かな表情は見せてくれないとか。

19: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/04/14(水) 20:03:51.53 ID:okLoyHCV0
キョン「あ、のさ・・・」

ハルヒ「ん?何?」

キョン「これ・・・」

ハルヒ「何・・・ぇ・・・これって・・・」

キョン「お前、今日誕生日だろ・・・ だから・・・さ・・・その、何ていうか・・・」

何ていうかじゃねぇよ!馬鹿か俺は!
何で誕生日おめでとうの一言も言えないんだよ・・・

キョン(くそ・・・プレゼント渡すのってこんなに恥ずかしいのかよ・・・ これじゃあ・・・)

20: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/04/14(水) 20:10:16.77 ID:okLoyHCV0
そう、今日はハルヒの誕生日。1年に1度きりの記念日だ。
俺の手に握られているのはシルバーのクロスのネックレス。
クロスの交わる部分にルビーがはめられている。
少しばかり奮発をしてしまった・・・
しかしまあ、誕生日に留年が決定するとは・・・どうやら神様は御茶目らしいな。

この日のために俺は部活・・・じゃないかあれは・・・
まぁ暇をみてちょっとばかりバイトをしてみた。
ま、バイトと言ってもちょっとした短期の手伝いみたいな感じだったけどさ。

ハルヒ「これって・・・」

キョン「ぷ、プレゼントだ・・・ その・・・誕生日おめでとうハルヒ・・・」

ハルヒ「・・・」

キョン「・・・」

ハルヒ「・・・なんで・・・」

キョン「え・・・?」

ハルヒ「なんで・・・なんで私なんかにプレゼントなんかするの!?」

21: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/04/14(水) 20:15:29.82 ID:okLoyHCV0
キョン「っ!?」

俺は一瞬言われている意味が分からなかった。
ナンデプレゼントナンカスルノ?
何だそれは?

ハルヒ「っ・・・ ぅっ・・・」

キョン「は、ハルヒ・・・?」

ハルヒ「だってさ、私いつ死ぬか分からないんだよ!?」

キョン「っ!?」

ハルヒ「もしかしたら明日死んじゃうのかも知れないんだよ!?」

キョン「・・・」

25: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/04/14(水) 20:20:37.11 ID:okLoyHCV0
>>23
ありがとう




ハルヒの病気が発覚したのが今から1年ほど前だろうか?
いつも通り、学校に登校し、いつも通り授業を受け、いつも通り谷口とふざけ、いつも通りに部活をして、
いつも通りハルヒと一緒に帰るはずだった。

そう・・・はずだった・・・。

帰り道の途中で、突然倒れたハルヒはそのまま救急車に運ばれ、緊急手術。
なんとか一命を取り留めたハルヒだったが、その後聞かされた話は俺は一生忘れないだろう。


キョン「え・・・今なんて・・・」

ハルヒ「長くはもたないらしいの・・・」


ハルヒから聞かされた話は本当にショックだった。

俺は病気のことなんてさっぱりだからよく分からないけど、心臓の組織がボロボロで、いつ心停止してもおかしくないらしい。
移植した弁膜はいつその機能を停止するのかわからないというのだ。
それは10年後かも知れないし、3年後かもしれない。
もしかしたら、明日かも知れないし、今この時もハルヒの心臓は止まってもおかしくはないのだ。

26: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/04/14(水) 20:26:17.96 ID:okLoyHCV0
キョン「・・・」

ハルヒ「あんまり、優しくしないでよ・・・ でないと私・・・ 馬鹿だから、さ・・・ 勘違いしちゃうのよ・・・」

キョン「あのさ・・・」

ハルヒ「・・・」

キョン「俺は・・・お前の事が好きだ。 世界中の誰よりも・・・」

ハルヒ「っ!?・・・やめて・・・だって、私は・・・」

キョン「死ぬなんて言わせないぞ?」

ハルヒ「ぇ・・・?」

28: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/04/14(水) 20:29:18.68 ID:okLoyHCV0
キョン「1年の初めにさ・・・進路の希望調査みたいなのやったの覚えてるか?」

ハルヒ「・・・」コクッ

キョン「俺さ・・・医者になるわ。」

ハルヒ「え・・・?」

キョン「俺が医者になってお前の病気を治す。 絶対にだ。」

ハルヒ「でも・・・」

キョン「だめとも言わせないぞ・・・ 俺がお前の病気を治す。」

ハルヒ「・・・」

キョン「だから・・・俺と・・・付き合ってくれ・・・」

31: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/04/14(水) 20:33:39.90 ID:okLoyHCV0
ハルヒ「だって・・・グズッ・・・わ、私といっ、いても、良い事なんか、何、ひとつ・・・」ウゥ

キョン「お前と一緒にいるだけで俺は結構救われてるんだがな。」

ハルヒ「うぅ・・・ うっ・・・ ずずっ、・・・」


俺が言いたい事を言い終わるとハルヒは泣き始めてしまった。
俺、何か悪い事でも言ったのだろうか?
それにしても・・・なんというか・・・こんなこと思う場面じゃないが・・・


キョン(綺麗だな・・・)


ハルヒ「・・・っ」

キョン「もう一度言う、俺と付き合ってくれ。」

ハルヒ「・・・」

36: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/04/14(水) 20:38:31.30 ID:okLoyHCV0
キョン「・・・」

ハルヒ「・・・ょ・・・」

キョン「ん?」

ハルヒ「よろしく・・・お、願いします・・・」


夕日の光に包まれながら頷くハルヒはとても綺麗で、夕日の陽なのか、それとも恥ずかしさからなのかハルヒの頬は赤く染まっていた。

ハルヒが入院している病院は都会の大学病院みたいなでっかい病院じゃない。
地元の、入院患者がせいぜい100人ちょいのどこにでもある病院だ。
もちろん屋上もそんなにでかくないのだが、今日はやけに広く感じる。

キョン(ああ、俺らついに付き合うのか・・・)

ハルヒ「キョン・・・あの・・・」

キョン「どうした?」

ハルヒ「その・・・きっ・・・き・・・」

43: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/04/14(水) 20:43:24.44 ID:okLoyHCV0
その日俺らは初めてキスをした。
綺麗な夜景をバックにキスのひとつやふたつしたかったが、今の俺らにはこれが限界だろう。
ま、今までみた景色のどれよりも綺麗だったけど。

キスをして分かった事が2つある。
1つ目は、女の子の唇がやわらかいってこと。
まるでマシュマロだ・・・ってもっと俺はまともな表現は出来ないのか・・・

2つ目は・・・ファーストキスはレモンの味、とどこかで聞いたことがあるが、ありゃ嘘だ。
俺のファーストキスは、レモンやオレンジみたいな柑橘系の味ではなく、ただただ、しょっぱかった。

45: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/04/14(水) 20:46:51.20 ID:okLoyHCV0
次の日から俺は毎日死ぬ気で勉強した。それはもう本当に死ぬのではないか?と自分でも思うぐらい勉強した。
担任の教師からは、おまえにはハードルが高すぎるだの、もう少し冷静になって考えてみなさい、だの何度も言われた。

キョン「くそ・・・散々言いたい放題言いやがって・・・ ま・・・たしかに成績はそこまで良くはないけど・・・」

俺の学力からみたら、それは誰もが絶望的だと思うだろう。
担任の教師どころか、親からも考え直せって何度も言われた。
もちろん、今の成績ではとうてい無理だって自分がよく知っている。

キョン「けど・・・さ・・・」

約束しちゃったからな。
ハルヒと。
医者になってハルヒの病気を治すってさ。

46: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/04/14(水) 20:49:46.52 ID:okLoyHCV0
キョン「けど・・・」

谷口「よ!キョン!お前今回のテストどうだった?」

帰りのHRが終わり、傷心に浸りながらさて帰るかと思っていたらアホの谷口に話しかけられた。

キョン「・・・」

谷口「おい・・・?キョン?どうした・・・?」

キョン「・・・」

谷口「チラッ」

手元にある返却された答案用紙を見られる。
て言うかわざわざ自分で「ちらっ」とか言うなよ。


キョン「・・・」

谷口「・・・」

キョン「・・・」

ポンッ

谷口「どんまいだ!キョン!」キリッ

俺は本気で谷口を殴った。当然だ。

49: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/04/14(水) 20:52:51.16 ID:okLoyHCV0
谷口「っててぇ・・・ いきなりなにすんだよ!!」

キョン「当然だろ。 人の成績を馬鹿にするからだ。」

谷口「おま・・・ いつ俺がバカにした!? 今のは慰めてやったんだろうが!!」

キョン「そうか? そいつはすまなかった。 俺には馬鹿にしてるように感じられたのでね。」

谷口「うわ・・・ ひでぇやつ・・・ つぅかさ、お前、本当にやばいんじゃない?」

キョン「っ・・・」

谷口「お前医学部志望だろ?その成績じゃ結果は見え見えだぜ?」

キョン「はぁ・・・ だから落ち込んでるんだろ・・・」

ポンッ

谷口「どんまいだ!キョン!」キリッ

俺は本気で谷口を殴った。当然だ。

52: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/04/14(水) 20:56:20.08 ID:okLoyHCV0
谷口「それにしても、何でいきなり医学部な訳? 前までそんなこと全然言ってなかっただろ?」

さっき殴られた所が痛むのだろう。
谷口は顔をしかめながらそんな質問を投げかけてくる。

キョン「どうでも良いだろ別に・・・」

ハルヒの病気のことは学校の皆には内緒にしてある。
先生たちだって、担任とか教頭とか校長とか、多分そこらへんの一部の人間しか知らないはずだ。
それは、ハルヒ本人からの要望であった。
誰にも言わないで欲しい・・・と。
なので、公にはハルヒは検査入院のため病院に長期間入院してるってことになっている。

キョン(俺には教えてくれたけど・・・ ま、今となっては別にいいか・・・)

あと、俺とハルヒが付き合ってるっていうのも内緒にしてある。
これは別に深い意味があるのではなく、ただ単に俺が恥ずかしいからだけど。

54: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/04/14(水) 20:59:58.46 ID:okLoyHCV0
谷口「ぃ・・ キョ・・・てばっ・・・ キョン!」

キョン「!?」

谷口「どうした?急にぼーとしちゃって」

キョン「あ・・・あぁ、すまない。 で、何の話だったんだ?」

谷口「だから、何でお前が急に医学部志望にしたかった話だろうが。」

キョン「はぁ・・・ 別に何でもいいだろ・・・」

そう。これだけは言う訳にはいかない。
俺とハルヒとの約束だから。

56: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/04/14(水) 21:02:39.23 ID:okLoyHCV0
キョン「さて・・・と、部室よって帰るか・・・」

谷口「っておい!俺のことはシカトかよ!?」

もちろん谷口のことなんてシカトに決まってる。
俺の頭の中は、半分がハルヒのことで、残りの半分が成績のことで一杯だからな。
いや・・・正直なところ7割ぐらいはハルヒか?
というと、残りの3割が成績ってことか?
おいおい・・・そりゃいつまで経っても成績あがらないわけだ・・・

まぁ、それだけ俺がハルヒのことを想ってるってことか・・・?
やべ、想像しただけで顔が赤くなってきた・・・


鞄の中に道具を入れ席を立ち出口に向かう。
出口を出るまでさんざん谷口に何か言われていたけど、どうでもいいから無視した。

58: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/04/14(水) 21:05:30.43 ID:okLoyHCV0
ガチャッ

キョン「うぃーす」

ミクル「あ、キョン君 いらっしゃ~い」ニコッ

あ、やっぱり朝比奈さんの笑顔には癒される・・・

古泉「先に失礼してます」ニコッ

キョン「・・・」

古泉「おや・・・どうしたのですか?」

キョン「お前は・・・俺のささやかな至福の時間を奪うっていうのか?」

古泉「おやおや、どうやら嫌われてしまったようです。」ニコッ

59: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/04/14(水) 21:09:00.22 ID:okLoyHCV0
ちくしょう。
朝比奈さんの笑顔で今日1日の疲れを癒していたのだが、
癒し効果半分で余計な邪魔が入ってしまった。

キョン「ちくしょう・・・なんだって・・・」

俺はブツブツ言いながらいつものポジションに座る。
すると朝比奈さんが、

ミクル「今、温かい飲み物淹れますね。 何が良いですか?」

キョン「あ、いいです。 今日はすぐ帰るつもりなので。」

古泉「おやおや。 今日もお姫様の所へ向かうのですね。」ニコニコ

正面から見つめてくる小泉。

あぁ、畜生。
なんだってこいつの笑顔にはこんなに殺気が沸くのだろうか。

61: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/04/14(水) 21:13:36.29 ID:okLoyHCV0
キョン「あぁ、そりゃ毎日行ってるからな。」

古泉「ふむ・・・ ご苦労様です。 今日我々は所要のためお見舞いへは行けませんので涼宮さんによろしくお伝え下さい。」

キョン「あぁ、気が向いたらな。」

古泉「むむ・・・相手は手ごわいようですね・・・ 長門さんからも何か言ってやってはくれませんか?」

キョン「え?」

俺は慌てて古泉の目線を追う。

長門「貴様・・・いつからそんなに偉くなった?」

ちょっとまて!長門よ!いつからそこにいたんだ・・・ってそりゃ最初からそこにいたんだろうけど・・・
そこまで気配を消すことが出来るのは最早犯罪レベルだぞそれ。

古泉「彼女もこう言っていることですし・・・」ニコニコ

キョン「はいはい。 分かったよ。 伝えとくよ。」

古泉「よろしくお願いします。」ニコッ

65: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/04/14(水) 21:21:52.60 ID:okLoyHCV0
>>62
>>64
指摘ありがとう



部室にいた時間にしてはたぶん10分か15分か・・・まぁそんなとこだろう。
古泉とくだらない話をして時間を潰した。
話の内容が、紅茶の歴史についてっぽい内容だった。
本当にくだらない・・・


キョン「じゃ、そろそろ俺行ってくるんで。」

ミクル「はぁ~い 行ってらっしゃ~い」ニコッ

あぁ、ハルヒの笑顔もいいけど朝比奈さんの笑顔もいいな・・・

古泉「お気を付けて」ニコッ

キョン「・・・」

ガチャッ

さて、ハルヒの病院へ行くか・・・

67: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/04/14(水) 21:28:03.16 ID:okLoyHCV0
それにしても古泉のやつ・・・あいつ絶対確信犯だろ・・・

ぶつぶつ言いながら俺は校舎を後にする。
うわ・・・今日は特に冷えるな・・・

マフラーで口元まで隠し病院への道のりを歩く。
それにしてもやたらきれいに輝く星があるな・・・

この時間帯西の空に見える星って・・・そうか、金星か・・・

キョン「宵の明星・・・」

ここから見ると強い光を放つ金星だが、よく見るとチラチラとその光が強くなったり、弱くなったり・・・
その金星の光方がまるでハルヒの命のようで、なんだか俺は胸騒ぎを感じた。

70: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/04/14(水) 21:31:30.86 ID:okLoyHCV0
コンコン
ガチャッ

キョン「はいるぞー」

いつものセリフでいつもと同じように病室へ入る。
しかし、普段このいつもの行動にハルヒの場合、約1.5秒以内には
何かしらのレスポンスを返してくれるのだが、この日は返してくれなかった。

キョン「おい、ハルヒ?」

不思議に思い、いつもハルヒが寝ているベッドの方に視線を向けると・・・

ハルヒ「っ・・・」

キョン「あ・・・」

ハルヒ「・・・」

キョン「なっ・・・な・・・」

ハルヒ「でっ・・・で・・・」

キョン「な・・・   ・・・ ?」

ハルヒ「出てけーーーーーーーーーーー!!!!!!!!!!!!」

キョン「ぎゃーーーーーーー!!!!!!」

72: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/04/14(水) 21:34:19.94 ID:okLoyHCV0
俺はハルヒから様々な物を投げられながら音速で病室の外へ出た。

おいおい!着替え中かよ!!   ・・・ をモロ見ちまったじゃねぇか!!
てか、着替え中なら着替え中みたいな雰囲気というかなんというかをだな・・・
何を言っているんだ俺は・・・
てかどうする?ハルヒの   ・・・ をモロ見てしまったじゃないか!!
あれ?このセリフさっきも言ったような気がするんだが?
いやいや、そんなことより、今は現状の把握だろ!
えっと、俺は学校の帰りにハルヒの病室へお見舞いの為に寄って、それで病室へ入ったら
目の前に   ・・・ をさらけ出したハルヒが立ってて、  の色は薄いピンク色で、
大きさはそんなに小さくもなく大きくもなく・・・カップ的には・・・っておい!!!
違うだろ!?今はそんなことよりもハルヒの  のことの方をなんとか・・・
あれ?それも違うような気がするぞ?

どうやら俺は完全に壊れたらしい。

74: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/04/14(水) 21:39:26.14 ID:okLoyHCV0
なんとか落ち着きを取り戻した俺だったが、冷静になってから考えたらこれは相当やばい状況なのではないだろうか?

しかし、この場の明快な打開策が見つからずとりあえず俺はまたハルヒの病室へ入ることに。

キョン(いきなり別れましょう、なんて言われたらどうしよう・・・)

コンコン

ノックをしてからしばらくの間病室の中の様子を伺う。

キョン「ハルヒ~?入るぞ~?」

恐る恐る扉を開け、中に入るとハルヒがベッドに座っていた。俺に背を向けて・・・

キョン「あの・・・ハルヒさん?」

ハルヒ「・・・」

キョン「なんというか・・・さっきはすまなかった・・・」

素直に謝ることに。正直俺も悪いかもしれないけど、部屋に鍵をかけなかったハルヒも・・・
あれ?病室には鍵かかんないんだっけ?そしたら悪いのは一方的に俺じゃん。

78: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/04/14(水) 21:45:41.34 ID:okLoyHCV0
キョン「すまん! 許してくれ! 不可抗力ってことで・・・」

目の前に手を合わせて「ごめんね」のポーズをとり必死で頭を下げる。

ハルヒ「・・・」

キョン「・・・」

ハルヒ「・・・」

キョン「ハルヒ?」

俺は痺れを切らし、ハルヒの正面に立った。
すると・・・

ハルヒ「ちょ・・・!!なっ何よ急に!!」

キョン「いや、だからさっきからすまなかったと何度か誤っているのだが・・・」

ハルヒ「え?うそ?そうだったの?」

キョン「あ、あぁ そのなんだ・・・ 本当にすまなかった・・・」

ハルヒ「べっ、別に良いわよ! そんなに誤らないでよ気持ち悪い!!」

おいおい・・・気持ち悪いとは何だ気持ち悪いとは。
さっきから素直に謝ってるのに・・・まぁ100%俺が悪いのだから仕方がないが。

しかし、なんかハルヒの様子が・・・

79: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/04/14(水) 21:48:23.54 ID:okLoyHCV0
キョン「ハルヒ・・・?」

ハルヒ「だっ、だからもう別に良いって言ってるでしょ!!」

キョン「いや、そう言うことではなくてだな・・・」

ハルヒ「なっ・・・何よ!? 言いたいことがあるならハッキリ言いなさい!ほら!」

何をこいつはこんなに切羽詰まったような表情をしているんだ?
まぁ別に良いか。とりあえず聞いてみるか。

キョン「おまえさ、何か顔赤くない?」

ハルヒ「っ!!!!!!」

キョン「?」

ハルヒ「でっ・・・で・・・」

キョン「で?」

ハルヒ「出てけーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!!!!!!」

キョン「ぎゃーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!!!!!!!」

80: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/04/14(水) 21:51:54.85 ID:okLoyHCV0
店員「ありがとうございましたー」

店員のやる気のない声をBGMに、温かい店内から自動ドアをくぐり、寒い外へ出る。
右手にはバンソーコーや消毒液、塗り薬などの入った袋を提げて。
なぜ俺が薬局へ寄ったかと言うと、いやまぁ、別に説明せんでもわかるとは思うが、そう、あれだ。

キョン「まったく・・・あんなに殴ることもないだろう。 しかもグーで。」

結局その日のハルヒは終始、怒ったり、黙ったり、顔を赤くしたりを繰り返して、何が何だかわからなかった。

キョン(まぁ最後はいつも通りだったような・・・気もしなくも・・・ないかな・・・?)

我ながら意味不明なことを考えながら家路をたどっている。

キョン「それにしても今回のテストどうすっかなぁ~」ハァ

俺はため息をつきながら帰宅してからのことを考えてた。
今日テストが返却されると親は知っているだろうから、帰ったら開口一番にテストの結果を聞かれるだろう。
そして俺は、なす術もなく返却されたテストの答案用紙を親に渡すだろう。
そして渡された答案用紙を見て親は泣くだろうか。怒るだろうか。それとも呆れるだろうか。

81: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/04/14(水) 21:54:32.02 ID:okLoyHCV0
でも、もともとテストの成績は悪くはなかったんだ。いや、これ本当。まぁもちろんのことながら良くもないけど。
しかし、その成績が最近下降ぎみなのである。しかもそこに加えて医学部志望と来たもんだ。
多分今日も親からもう一度進路を考え直せと言われるだろう。

でもこればかりはな・・・ ハルヒとの約束だし。
さっきまで陰鬱な思考だったのにもかかわらず、ハルヒのことを考えたら顔がにやけてきた。
ずいぶんとご執心なことだ。

そして俺はにやけた顔を引き締め、自宅の門をくぐり扉をあけた。

82: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/04/14(水) 21:57:50.10 ID:okLoyHCV0
キョン「ただいまー。」

キョン母「おかえりなさい。遅かったわね?」

俺が玄関で靴を脱いでいると、廊下の奥の方から母親が顔を覗かせていた。

キョン「遅いって言うような時間帯でもないだろうに・・・」

その問いに対して俺はコートを脱ぎながら答える。

キョン母「・・・何かいいことでもあったの?」

キョン「? なんでそんなことを?」

キョン母「いや、顔がにやけてるからつい・・・」

まじか?俺顔にやけていたのか・・・
あぶないあぶない。これが他の人だったら大変なことになってた。

キョン(てか顔に出てたのか・・・)

キョン母「すぐご飯にするから着替えてらっっしゃい。」

そう言ってキッチンの奥に消えていった俺の母君。

おや?これはもしかしてテストのことを忘れているのでは?
これはチャンス。とりあえず今日はテストの話題はやめよう。
俺はそう思いながら階段を上る。

83: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/04/14(水) 22:00:29.24 ID:okLoyHCV0
妹「おかえり~キョン君~」

キョン「ただいま~っていうかいい加減その呼び方をだな・・・」

キョン「って行っちゃったよ・・・」

俺の妹は何が楽しいのか鼻歌を歌いながら階段を下りて行った。

キョン(それにしても音痴だな・・・)

85: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/04/14(水) 22:05:41.50 ID:okLoyHCV0
>>84
その発想はなかった





キョン「さて、下に行くか。」

荷物を置き制服から着替え下に行こうとする。

部屋の隅に置いてある姿見を見ると見事に痣が顔に残ってた。

キョン「あいつ・・・これ痕残ったらどうしてくれる・・・」

まぁ、あいつのことだからきっと、私がいるからそれだけでいいじゃない。何か不服なの?
って聞いてきそうだな。

そんなことを思いながらもう一度姿見をみるとそこには顔がにやけている自分の姿が。

キョン(うわ・・・無意識でこんな顔してたのかよ・・・そりゃ親も聞いてくるわ)

今度こそ顔を引き締め俺は自分の部屋の電気を消して下へ向かった。

89: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/04/14(水) 22:12:13.09 ID:okLoyHCV0


いつもと変わらない食事。

テストのことは親はまだどうやら気づいていないみたいだし、このままなんとか・・・
と思っていたが、そんな妄想はある一人の言葉で意味をなくした。

妹「ね~キョン君 テストはどうだったの?」

・・・
・・・・・・!?
俺は思わず口に含んでいるものを素で噴出した。

キョン父「うおっ!?」

真正面に座っていた俺の父親にモロ直撃したが、そんなことは今はどうでもいい。

ジーザス!!!!
なんてことをいいやがるこの妹は!?
あと少しで食事も終わり、そしたら自分の部屋に引きこもろうかと思っていたのに、なんてタイミングで・・・

チラッと母親の方を見ると親はもうニタァと嫌な笑みを浮かべている。
父親はせっせとテーブルの上を拭いていた。

キョン(はぁ・・・覚悟を決めるか・・・)

そして俺は親から催促されて、自分の部屋にテストの答案用紙を取りに戻るのだった。

90: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/04/14(水) 22:17:58.46 ID:okLoyHCV0
キョン母「ちょっと、この点数はどういうことなの?」

母さんその質問はすでに5回以上聞いています。

説教開始からおよそ30分。
そろそろ足のしびれも限界ってもんだ。

結局なす術もなく親に答案用紙を見せ、それから地獄の説教タイムが始まってしまった。

キョン(畜生・・・あんなタイミングで何も言うことないだろうに・・・)

キョン母「ちょっと!!聞いてるの!?」

キョン「はい・・・」

母親は先ほどから何回も同じ質問しかしていないし、父親はその隣で時々こちらをみながら新聞を読んでいる。

キョン母「あのね、母さんはあなたのことを考えて言ってるよの?もう一度進路考え直さない?」

その質問もすでに7、8回はしただろう。
俺もいい加減うんざりしてきたので、そろそろ文句の1つや2つ言ってやろうかって思っていたところに何の前触れもなく自宅の電話がなった。

92: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/04/14(水) 22:23:22.87 ID:okLoyHCV0
まぁ何の前触れもなくって言っても、電話なんだから当然なんだけど。
俺はそんなことを思いながら説教に耐えていると、

キョン妹「キョンく~ん 電話だよ~?」

廊下の奥の方からそういう妹の声が聞こえてきた。
チラリと母親を見る。
まぁ電話なんだから仕方ない。早く出てきなさいというような顔をしていたので大喜びで俺は電話の所へ行った。


キョン「誰からだ?」

さっきの説教のせいだろう。
足が少しだけしびれて言うことを聞かない。

俺はそんな足を無理やり動かしながら妹に対してそんな問いをした。

何気ない質問だったはずなのに妹の返答で俺は現実の世界に一気に引き戻されることになる。

妹「ん~ハルヒちゃんのお母さんから。今病院にいるんだって。」

俺「!?」

93: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/04/14(水) 22:26:39.38 ID:okLoyHCV0
キョン「ハァハァ・・・」

自宅に電話が来てから多分まだ20分ぐらいしか経っていないだろう。
俺は電話を切った後にすぐに着替えて自転車にまたがった。
そして、俺は今病院の駐輪場にいる。

家を飛び出したときに母親から何か言われたような気がするがそんなことは一切耳に入ってこなった。



ハルヒ母『ハルヒが急に意識不明になって、今緊急手術を受けているんです。』


そう言った電話越しのハルヒの母親の声は震えて、それでも焦っているようで、俺にもその緊張感が一気に押し寄せてきた。


キョン「頼む・・・頼む・・・」

さっきから何度この言葉を口にしただろうか。
俺は壊れたおもちゃのように同じことを口にしながら病院の自動ドアをくぐり、手術室へ向かった。

94: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/04/14(水) 22:29:07.95 ID:okLoyHCV0


手術室の前の椅子にはハルヒの母親が一人で座っていた。

キョン「こんばんわ・・・」

俺はハルヒの母親に息を整えながらとりあえず挨拶をした。

ハルヒ母「こんばんわ・・・」

そう言って答えるハルヒの母親はぱっと見ても分かるぐらい憔悴しきっていて、俺は何も口に出すことができなかった。

・・・・・・・・

時間だけが進む。
あれから何分経っただろうか。いや、もしかして何十分?何時間?

俺はそんなことを思いながらずっとさっきまでのハルヒのことを考えていた。

キョン(なんでだよちくしょう・・・ さっきまであんなに元気だったじゃねぇかよ・・・ それなのになんで・・・)

自分のことを責めていると、いつの間にかハルヒの母親が目の前に立っていて、俺にこう言った。

ハルヒ母「あの・・・少し休んだ方がいいんじゃないですか?」

キョン「っ!?」

96: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/04/14(水) 22:32:37.28 ID:okLoyHCV0

ハルヒ母「お医者様が言ってました。今回の手術はきっと長くなるだろうって・・・ だから、キョン君も少し休んで来てください。」 

キョン「でも・・・ハル―」

ハルヒ母「娘のことなら大丈夫です。私に任せてください。それに・・・」

キョン「?」

ハルヒ母「こんなことを言うのは失礼ですけど、ひどい顔してるわよ?お願い。少し休んで来て?」

ハルヒの母親にそう言われて初めて自分の顔のひどさに気付く。

廊下の窓に映った自分の顔は今にも泣きそうで、つらそうだった。

ハルヒ母「ね?少し休んできなさい?」

俺はハルヒの母親にそう言われるがままにその場を後にした。
本当は何かハルヒの母親にも声をかけたかったのだが、何分今の俺はそんな余裕がなく、
ただうなずき、その場を立ち去ることしかできなかった。

97: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/04/14(水) 22:34:54.60 ID:okLoyHCV0
病院のロビーに戻り、ソファーに深く腰をかける。
腰を下ろした瞬間に疲れがどっとでてきて、急に眠くなってきた。

キョン「ハルヒ・・・」

先ほどから俺は何度この言葉を口にしただろうか。
さっきまでは全然普通だったのに、なんで・・・

俺はまた自分のことを責めながら目を閉じると睡魔に襲われ、すーっと意識が遠くなり気付くと気を失ったように深く眠っていた。

98: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/04/14(水) 22:38:26.97 ID:okLoyHCV0
教授「キョン君、この前頼んだ書類はまだかね?」

キョン「あ、それならもう出来上がってます。先生の机の上に置いておきました。」

教授「おぉ、そうか。ありがとう。明日のプレゼン期待してるからな。」ニヤニヤ

キョン「勘弁してください(笑)まぁ、でもできる限り頑張ります。」



キョン「ふぅ、とりあえずひと段落かな・・・」

先輩「よ、最近がんばってるみたいじゃねぇか」ニタァ


部屋でひとりでコーヒーを淹れて飲んでいたら、だらしなく白衣を着た先輩が入ってきた。

通称ゴリ先輩。顔と仕草がゴリラそっくりだからゴリ先輩な訳なんだが・・・そのまんますぎるだろ・・・
こんなこともちろん口が滑ったとしても言えない。

キョン「頑張ってるって・・・ただ俺はやることをやってるだけですよ(笑)」

先輩「それを頑張ってるっていうんじゃねぇかよ(笑)なんだ?これもすべて彼女のためか?(笑)」

キョン「まぁ、それも入ってますね(笑)」

100: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/04/14(水) 22:42:06.48 ID:okLoyHCV0



ハルヒが手術を受けたあの日から数年がたった。

俺はというと・・・



実は医学部に合格し、こうして病院で働かせてもらっている。

親や高校の担任たちは揃って、「お前ならやってくれると信じてた!」なんてこと言っていたけど、
何を言ってやがる。
最後の最後まで進路を考え直せって言いまくってたくせに・・・
まったく・・・本当に・・・これだから大人は・・・


しかし病院で働いているといっても俺はまだ研修医である。
研修医の給料は滅茶苦茶少なく、そこら辺のバイトとほとんど変わらない。

104: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/04/14(水) 22:45:57.35 ID:okLoyHCV0


先輩「それもってなんだよそれもって(笑)」

先輩はガハハと下品な笑いをしながら隣でカップラーメンにお湯を注いでいる。

今日は先輩が夜勤の番なのだ。

しかし、笑うとこの人はゴリラとほとんど区別がつかない。
本人は少し前の飲み会の席で、自分のことを京本政樹に似ているなんて言っていたけど・・・
この人の目はあれか?節穴にビー玉でもつめているのか?

先輩「それよりもそろそろ行かなくて大丈夫か?時間ギリギリだろ?」

先輩はそう言いながら壁に掛けてある時計を指さす。

時刻は午後7時30分。入院患者への一般の面会時間が午後8時までなのであと30分しか病室に寄ることが出来ない。


キョン「もうこんな時間!? じゃ、すみません。あとよろしくお願いします。」

先輩「おう。彼女さんにもよろしく伝えてくれ。」

106: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/04/14(水) 22:50:05.99 ID:okLoyHCV0
>>105
㌧㌧






俺はその言葉を背に病室へ寄る。

先輩は基本的にはいい人なんだが、なんというか・・・品がないというか・・・不器用というか・・・
まぁいい人であることには違いない。





俺は今401号室の前にいる。
時刻は午後7時33分。
あたりにはほとんど人の姿がなく、階下の方から看護婦が医療用のワゴンを押す音が聞こえる。
そして部屋の前にある入院患者プレートには「涼宮ハルヒ」との文字。

キョン「ふぅ・・・はぁ・・・」

俺は誰にも気づかれないような小さな深呼吸をして病室の扉をノックした。

107: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/04/14(水) 22:53:05.21 ID:okLoyHCV0
コンコン

ハルヒ「どうぞ」

ガチャッ

キョン「よ、元気か?」

ハルヒ「あまり元気じゃないわね・・・」

キョン「そうかい。 そいつは穏やかじゃないな。」

いつかのやりとりと全く同じになってしまって俺は思わず笑ってしまった。
ハルヒもそれを感じたのだろう。
目を細めて一緒に笑ってくれる。

109: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/04/14(水) 22:57:57.63 ID:okLoyHCV0


ハルヒ「それよりも遅い!!キョン!!あんた何してたのよ!!」

入ったとたんこれである。
ベッド脇の椅子までに移動する間にハルヒはいきなり文句を言ってきた。

キョン「いや、仕方がないだろ。今日は特別人がいなかったんだ。」

というよりもあんまり大きな声をだすなよ。周りの部屋の人たちに迷惑だろうが・・・

キョン「こうやって来てやったんだ。素直に俺の存在をありがたく思ったらどうだ?」

ハルヒ「うぅ~」

本当にこいつはまったく・・・
もう子どもじゃなかろうに・・・

キョン「やれやれ・・・」

115: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/04/14(水) 23:13:18.39 ID:okLoyHCV0


ハルヒの病室は個室である。
本当は個室は空いていなかったのだが、俺が上に無理を言って特別に使わせてもらった。

そしてこの部屋には女の子らしい物が何もない。

まぁこの年で女の子って言うのもあれだが、一応そこら辺は不問としてくれ。

そんなことはともかく、ハルヒの部屋にはおよそ人がいるという感じがしない。
同年代の女の子の長期入院患者の部屋なんかには大きな姿見や、ぬいぐるみ、化粧バックまで持ち込んでいる人もいる。

それに対してハルヒの部屋には、ベッドと備え付けのテレビ、花瓶を置くテーブルぐらいしかない。

少し前に俺が部屋にぬいぐるみでもおいたらどうだ?って聞いたら、

「私がぬいぐるみに向かってしゃべってるの想像してみなさいよ?」なんて言われた。

確かにそれはないよな・・・

118: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/04/14(水) 23:18:47.56 ID:okLoyHCV0
>>116
ありがとう
気に入ってくれて本当にうれしい




時間はあっという間に過ぎる。
今日は特別時間がなかったが、いつもよりもハルヒとすごく時間が少なく感じる。

ほとんど毎日のようにハルヒの病室には顔を出しているのでこれといって話すような話題はない。
しかし、このお見舞いこそが俺とハルヒをつなぐ唯一のものに感じられて仕方がない。

それほどハルヒの体は弱っていたのだ。

俺だって研修医ながら一応医者だ。
俺が見ても・・・ハルヒは弱っていた。

俺がまだ高校の時倒れてからハルヒは何度か手術を受けてきたが、
それでもハルヒは決してよくなることはなく、日に日に弱まってきている。
昨日より今日、今日より明日、という具合に。


本当に何のために俺は医者になったのか分からない。
自分の不甲斐なさに涙すら出てくる。


ちょっとばかり感傷に浸っていると、ハルヒが声をかけてきた。

119: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/04/14(水) 23:21:34.28 ID:okLoyHCV0
ハルヒ「それよりも、明日のプレゼン大丈夫なの?」

キョン「うっ」

ハルヒ「明日のプレゼンうまくいかないと医者になれないんでしょ?」

そう。そうなのだ。分かってはいたのだ。
俺はまだしがない研修医。
明日のプレゼンがうまくいけば一人前の医師として認められるのだが・・・

ハルヒ「私に会いに来る余裕があるなら少しでも明日の準備とかしなさいよ」

ベッドに横になったハルヒがいかにも「おいおい大丈夫かよ」的な感じで俺を見上げてくる。
ハルヒの口の端は微妙に上がっていた。

こいつ・・・
俺が1日でも会いに行かなかったら次の日泣いて、喚いて、寂しかっただの暇だったのとまぁ滅茶苦茶言うというのに・・・
こういうときだけ本当に・・・
可愛いな・・・

120: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/04/14(水) 23:24:59.52 ID:okLoyHCV0
キョン「そうだな。 今日は少し早く帰らせて頂くか。」

そう言いながら俺がベッドわきの椅子から腰を上げると、

ハルヒ「そのかわり!!」

キョン「?」

ハルヒ「あっ、明日以降はどうせ暇・・・なんでしょうから私のそそ、そばにずっといな・・・さい・・・よ・・・」//////

やれやれ。
本当にこいつは素直じゃないな。
一緒にいてほしいなら素直にそう言えば良いのに。

ハルヒはベッドに横になりながら掛け布団で口元まで隠し、真っ赤になりながら俺を見上げてそう言った。

もちろん俺はこの提案にNoで返すはずはない。
と、言っても決して暇になるって訳じゃないけどな。そこ、勘違いするなよ。

ここで思ったことをそのまま口にするほど俺は頭が悪くない。
その場ははいはいと返事を濁して俺はハルヒの病室を後にした。

122: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/04/14(水) 23:29:15.62 ID:okLoyHCV0


俺は今夜道を一人で歩いている。
女性の夜道は危ないだの危険だのとよく言うが、男の夜道の一人歩きは逆にストーカーに間違えられないように気を付けなければならない。

あたりは所々についている街灯と月明かりで夜とは思えないほど明るかった。

ほとんど毎日の日課であるハルヒのお見舞いを先ほど済ませ、一人暮らしをしているアパートに帰っている途中なのだ。

結局あの後ハルヒは俺に「明日のプレゼンがうまくいかなかったら死刑」だの、「一生マックでマックセットをおごり続けろ」だのという、
とんでもない提案をしてきた。

馬鹿を言っちゃいけない。医者は医者でも研修医なのだ。給料だって他のバイトとほとんど変わらない。
もしかしたら毎日頑張ってコンビニでバイトした方がもっともらえるかもしれない。
研修医なんてそんなもんだ。

そんな俺に毎日マックをおごれと?そして死ねと?
本当に・・・ハルヒは・・・

126: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/04/14(水) 23:32:05.60 ID:okLoyHCV0

キョン「寒い寒い・・・」

今日は本当に寒い。
俺はマフラーで口元まで隠して家路を急ぐ。

こう寒いとあの日を思い出す。
そう、あの日だ。

あの日も本当に寒かった。
あ、あの日って言うのは、俺がまだ高校生だった時にハルヒの裸を見ちゃった時な。

その時のことを思い出すと今でも顔が自然とニヤっとしてしまう。

キョン「毎日マックか・・・」


なんとしても俺は明日のプレゼンを成功させなければならないようだ。

131: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/04/14(水) 23:37:32.36 ID:okLoyHCV0

カチコチカチコチ

人を待つという時間はこんなにも長く感じるのだろうか。
いくら楽しい時間や辛い時間でも、1時間は1時間。30分は30分なのだ。それ以上でもそれ以下でもない。

しかし、だがしかしだ。
俺がここにきてからまだ10分も経ってない。そのことは俺の左手首にしている腕時計が物語っている。
ここに来たのが15時3分。今手元の時計で15時12分。
やはり10分も経っていなかった。

この10分の間に俺はいったい何度腕時計で時間を確認しただろうか。
多分腕時計を確認した回数は3桁は上回っているだろう。

時間そのものは10分も経ってないが、体感時間はとうに4、5時間を上回っている。

こうやってあらためて冷静になって自己分析してみると3、4秒に一度は時間を確認している計算になる。
ほら、また確認した。

なんで俺がこんなにも緊張しているかというと・・・「ある人」を待っているのだ。
それがアホの谷口や国木田みたいなやつらだったら、逆に4、5時間遅刻して行っても全然気にしないのだが、
残念なことに今日会う人はその類の人ではない。

132: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/04/14(水) 23:41:32.78 ID:okLoyHCV0
そう、俺は今近くのファミレスで「ある人」を待っている。

遠くからここのアルバイトの娘だろうか。こっちを心配そうに眺めていた。
いや、あれは心配している眼差しではない。
むしろ引いている。どん引きの眼差しというか・・・可愛そうなものを見るような眼差しで俺は高校生かそこら辺の娘に目を向けられている。
頼むからそんな目で俺を見ないでくれ。

キョン(それもそうか・・・)

だって3、4秒に1度は腕時計で時間を確認しているんだぞ?
そりゃ誰だって何事かと思うだろう。
俺だってそんなやつに出会ったらそんな目で見ちゃうだろうな。

カランカランッ

店員「いらっしゃいませー」

キョン「っ!!」

店に客が来たことを知らせるドアベルがなった後に店員が反応して決まり文句を言う。
その店員のいらっしゃいませという決まり文句を発した時と時同じくして俺の緊張はピークに達した。

133: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/04/14(水) 23:44:45.88 ID:okLoyHCV0

コツコツ

先ほど店内に入ってきた人が俺の席まで歩いてくる。

それはまるで止まっているようにゆっくりにも見えて、全力疾走しているぐらい早くも見えた。


ハルヒ父「や、キョン君、ひさしぶりだね。」

キョン「こっこんにちは。おおおお久しぶりです。」


そう、俺が待っていたのはハルヒの父親だ。


ハルヒ父「最近寒いね。 あ、僕コーヒーで。」

店員「かしこまりました。」

ハルヒの親父さんが近くにいた店員に席に着きながら注文を告げた。
その姿が妙に似合っていて、俺は一瞬違う世界に迷い込んでしまったような気がする。

ハルヒ父「で、話って何だい?」

キョン「ひゃっ」

ハルヒの親父さんがいきなり核心をついてくる。
俺はというと、心の準備が出来ていずに、うまく言葉にすることが出来なかった。

134: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/04/14(水) 23:47:42.61 ID:okLoyHCV0
ハルヒの親父さんに笑いながら、取り敢えず落ち着きなよと言われてから早5分が経つ。

俺はというと、まだ周りの人に自分の心臓の音が聞こえているのではないか、と思うぐらい胸が高鳴っていた。
しかし、いつまでもこの状態でいるわけにはいかない。

キョン「あの・・・」

ハルヒ父「ん? もう大丈夫かい?」

キョン「あ、はい・・・ありがとうございます。もう大丈夫です。」

本当は全然大丈夫じゃなかったけど。

ハルヒ父「キョン君の方から僕を呼び出すとか珍しいね。 今日は何の話かな?」

キョン「あのですね・・・」

ハルヒ父「うん。」

キョン「・・・・・・」

キョン「ちゃんとした医師として・・・認められました。」

ハルヒ父「・・・そっか」

139: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/04/15(木) 00:12:20.53 ID:KxA+J/aj0
キョン「今までの研修医とは給料だって違います!! 全ての面で彼女を支えることができます!!」

ハルヒ父「・・・」

キョン「だから・・・お願いです・・・彼女と、ハルヒと結婚させてください!!」

俺は今まで生きてきた中で一番必死になって頭を下げた。

頭をテーブルの上になすりつけ、必死になってお願いをする。

よく小さい頃に友達としていた「一生のお願い」なんて比ではない。

141: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/04/15(木) 00:14:22.29 ID:KxA+J/aj0


ハルヒ父「ちょ、まってくれ!頭を上げてくれよキョン君!!」

キョン「・・・」

俺は黙って頭を上げる。
先ほどハルヒの親父さんが注文したコーヒーを持った店員が困惑した様子で俺たちのテーブルを見ている。
それはそうだろう。いきなり娘さんをくださいなんて場面に出くわすのだから。


ハルヒ父「キョン君、君はまだ若い。それに才能もある。 それにうちの娘はずっとベッドの上だ・・・」

キョン「・・・」

ハルヒの親父さんは疲れ切った顔で俺にそう言った。

ハルヒの病気が発症してからというもの、この人は必死になって様々な病院に駆け寄った。
それは日本国内にとどまらず、外国の有名な心臓外科の先生にまでも連絡したぐらいだ。

自分の心臓を使ってでも良いから娘を助けてくれとまでも言ったそうだ。
しかしそれは結局受け入れられなかったが。

143: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/04/15(木) 00:16:54.32 ID:KxA+J/aj0
ハルヒ父「君にはもっと似合う女性がいるはずだ。 それに・・・あの娘はそんなに長くもたない・・・」

キョン「っ・・・」


ハルヒの親父さんが言うことは痛いほどよくわかる。
いつ死ぬか分からない人と結婚するぐらいなら、もっと他の人を探せと言いたいのだろう。


ハルヒ父「キョン君、気持ちは本当にうれしいが、もう一度考え直してくれないか?」

キョン「・・・」

ハルヒ父「・・・」

キョン「・・・ゃ、そく」

ハルヒ父「え?」

キョン「約束・・・したんです。 ハルヒと・・・ 俺が医者になってお前の病気を治すって・・・」

145: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/04/15(木) 00:18:58.67 ID:KxA+J/aj0
ハルヒ父「・・・」

キョン「あいつは、今まで一度も怖いとか、死にたくないとか言ったことないんです!!」

キョン「だから、そんなあいつを見て俺は本当に・・・心の底から彼女を救いたいと思いました!!」

キョン「だからこそ、今の俺がいるんです! 医者になることが出来たんです!!」

ハルヒ父「・・・」

キョン「あいつは、本当は怖いのかもしれない!!毎日面会時間が終わった後に一人で泣いているのかもしれない!!」

キョン「たとえ可能性が少なくても、俺は彼女を救いたいんです!!」

キョン「今まで俺が彼女に支えられてきたから・・・今度は俺があいつを、支えるんです・・・」

キョン「だから・・・お願いです・・・彼女と、結婚させてください・・・」

148: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/04/15(木) 00:22:03.75 ID:KxA+J/aj0


ハルヒ父「ふぅ・・・」

キョン「・・・」

ハルヒ父「娘は・・・本当に良い人に出会った・・・」

キョン「え?」

ハルヒ父「乱暴で、言葉使いは悪し、いい加減な娘かもしれないが・・・ キョン君・・・娘をよろしく頼むよ・・・」

154: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/04/15(木) 00:26:28.53 ID:KxA+J/aj0

2月23日、火曜日、快晴。

今日は朝から晴れていて外は2月の陽気とは思えないほど暖かい空気に包まれていた。

去年のプレゼンをパスしてからというもの一応一人前の医者として認められ、俺はほとんど毎日休むことなく仕事をしている。
本当は今日も朝から仕事だったはずなのだが、何とゴリ先輩が変わってくれたのだ。
実はゴリ先輩のプレゼンも一緒に通り、先輩も一人前の医者として同じ病院で働いている。

キョン(あとで先輩にお礼言わなきゃ・・・)

そしてもちろん・・・というかなんというか。
当然ながら俺はハルヒのお見舞いである。

ハルヒの親父さんに結婚の承諾を得た俺だが、実はまだハルヒにプロポーズをしていない。
俺が忙しかった・・・ということもないことは、ない・・・かもしれないのだが、まぁあれだ。
心の準備が出来てなかったというのが一番の理由だろう。

ウィーン

自動ドアをくぐり、エレベーター前まで移動する。
その間にも知り合いの医者や看護婦などに出会い、いろいろはやされたが、平常心である。

それにしても私服でハルヒのお見舞いに行くのは本当に久しぶりだ。
いつもは仕事の合間や、終わった後に病室にまっすぐ行くのがほとんどなので白衣姿である。

いつもと違う姿を見てハルヒはときめいてくれるだろうか、などというくだらないことを考えながら俺はハルヒの病室の前に立った。

156: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/04/15(木) 00:29:38.79 ID:KxA+J/aj0
手元の時計を確認すると午前10時12分。
この時間帯はさすがに寝ているなんてこともないだろう。
午前中の検診も丁度終わった頃だ。

俺は軽く深呼吸をしてノックをした。

コンコンッ

キョン「俺だ」

ハルヒ「開いてるわよー」

ガチャ

キョン「病院の病室なんだ。鍵ぐらい開いてるのは当然だろう。」

後ろに病室のドアを閉めながらいつもと同じ調子で俺はハルヒにそう言った。

ハルヒ「うるさいわねー 前みたいに急に入ってきて裸の姿なんて見られたらたまんないわ。」

キョン「っ・・・」

そう言いながらハルヒは耳まで真っ赤にする。
きっとあの日の事を思い出しているのだろう。

そして多分俺もハルと同じぐらい顔を赤くしているのだろう。

157: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/04/15(木) 00:33:21.27 ID:KxA+J/aj0
ハルヒ「それよりも珍しいわね。 私服だなんて。 今日は当番の日じゃなかった?」

俺が病室に備え付けの花瓶に花束を差しているとハルヒがそう訪ねてきた。

キョン「あぁ、本当は俺が出るはずだったんだが先輩が変わってくれたんだ。」

ハルヒ「へぇ、あの先輩がね。 案外いいやつかもね。」

キョン「お前・・・一応年上なんだからそういう態度はよくないだろう・・・」

ハルヒ「良いのよ別に。 どうせあいつの前では猫かぶってんだから。」

キョン「・・・」


病室の電気は消してあり、窓が開いているせいかカーテンが揺れ、少しひんやりとした空気と、やわらかい太陽の光が病室に入ってくる。

相変わらず殺風景な部屋。


先輩は彼女が出来たとか何とか言って相当浮かれていた。

朝比奈さんはこの前幼稚園生の先生になる試験に受かったらしい。



ハルヒはずいぶん痩せた。

158: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/04/15(木) 00:37:37.67 ID:KxA+J/aj0
病室に来てかもいつもとやることは基本的には変わらないのだが、今日はやることがある。

キョン「ハルヒ、今日は良い天気だから屋上まで散歩へ行こうぜ。」

ハルヒ「はぁ?屋上?めんどくさいから私はここにいるわ。 あんた一人で行ってきなさいよ。」

俺がせっかく誘ったのにこれである。

キョン「お前なぁ・・・いつもベッドの上でろくに体動かしてないだろ? それじゃ体に悪いぞ。 医者の俺が言うんだから間違いない。」

ハルヒ「ん・・・」

そう言ってハルヒは無言で右手を差し出してくる。
耳まで真っ赤に染めたハルヒを見ていると「あの日」を思い出してしまう。

キョン(いつまでたっても天の邪鬼なやつだな・・・)

やれやれ、と思いながら俺はハルヒの手をつかみ屋上へ向かう。

160: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/04/15(木) 00:41:26.15 ID:KxA+J/aj0


ガチャ

屋上へ続く重い扉を開けると外の少しひんやりしている空気が肌に触れる。
俺はこの時期の空気が割りと好きである。
夏のじめじめしたような暑い、重いような空気に比べたら、
少し肌寒いがさらさらしたこの時期の空気の方が何倍もましだ。

それにしても本当に今日は暖かい。風もほとんどない。朝お見舞いに来る前に見てきた天気予報通りである。


キョン「ほら、たまには散歩も良いもんだろ?」


俺はそうハルヒに問いながら屋上を見渡す。

相変わらずあまり大きい病院ではないが、すべてはここから始まったと思うと何だか感慨深いものがある。

屋上の端っこの方には患者が使っているであろうベッドシーツカバーがいくつも干してある。
今日は風もないし天気も良いので良く乾くだろう。

俺が、高校時代を思い出しながら昔のほろ甘い思い出に浸っていたらハルヒが急に、

ハルヒ「キョン、おなかすいた」

こいつ・・・
お前はガキか?

162: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/04/15(木) 00:44:44.04 ID:KxA+J/aj0
屋上に来ても特別何かやるわけではなく二人で一緒に同じ時間を過ごす。

先ほど腹減った宣言をしていたハルヒだったが、俺が間食はいけない、と言うと、

「は?あんた彼女を死なせる気?いつからそんなにえらくなったのよ」

なんて言っていたが、俺はこれでも医者だ。
今は、自他共に認めるぐらいのハルヒ専門医である。

そこは無理矢理俺の意見を通した。


他の人たちから見たら俺たちはどう写っているのだろう。
カップルだろうか?
兄弟だろうか?
はたまた女王様に仕える僕とか・・・

キョン(それならまだ良い方か・・・)


そう、他の医者だって知っているはずだ。
ハルヒの心臓は、そう長くはもたないと。

163: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/04/15(木) 00:48:34.14 ID:KxA+J/aj0
キョン「ふぅ・・・」

俺はハルヒに気づかれないように小さく深呼吸をし、自分を落ち着かせる。

隣のベンチに腰掛けているハルヒを見ると、この屋上から見える遠くの景色を指差して何かを言っていたが、
俺にはその言葉が左の耳から入り、右の耳から抜けて言った。

ハルヒ「ちょっと、キョン!! さっきからぼーっとして! 私の話聞いてるの?」

キョン「・・・」

ハルヒ「ちょ・・・ちょっと、キョン?」

キョン「ハルヒ・・・」

ハルヒ「ん?」

キョン「これ・・・」

ハルヒ「え・・・ これ・・・」

俺の手に握られている小さなリング。もちろん結婚指輪である。
渡す前までは心臓が飛び出るくらいドキドキしていたのだが、
いざ渡そうとすると自分でもびっくりするぐらい落ち着いていた。

164: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/04/15(木) 00:52:32.43 ID:KxA+J/aj0
キョン「ようやく医者になることができた。 これで本当の意味でお前を支えることができる。」

ハルヒ「っ・・・」

ハルヒは何かに耐えるように震えながら、下を向き自ら握り締めているこぶしを見つめている。

キョン「一人前にはまだまだ遠いけど、これでお前との約束を守ることができる・・・」

ハルヒ「・・・」

キョン「・・・ハルヒ・・・俺と、結婚してくれ・・・」

ハッ

「結婚」という言葉を聞いて勢いよく俺の顔を見てくる。
座高的に俺の方が少しばかり高いので、ハルヒから見上げられる形になる。
その瞳は少し潤んでいた。

168: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/04/15(木) 00:56:21.43 ID:KxA+J/aj0
ハルヒ「ぁ・・・」

俺とハルヒの2人だけしかいない屋上で見詰め合うこと数十秒。
この沈黙を破ったのはハルヒの方だった。

ハルヒ「あり、が・・・とう・・・」

キョン「じゃ、じゃぁ―」

ハルヒ「でもね!」

キョン「っ・・・」

ハルヒ「私さ、べ・・・別に結婚したい、とかじゃないからさ・・・」

キョン「え?」

ハルヒ「ほっほら! 高校以来私たち付き合っているわけじゃない? でも、それって・・・別に好きだから付き合っているとかじゃなくて・・・」

キョン「・・・」

ハルヒ「・・・わ、別れるのが面倒くさいっていうか・・・なんというか・・・だから! そこまであんたのことは好きじゃないってこと!!」

キョン「っ!?」

170: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/04/15(木) 00:59:19.38 ID:KxA+J/aj0
堪えた。
本当に堪えた。

最初は言っている意味が分からなかったが、乾いた砂漠に水か染み込むようにハルヒの言葉が俺の耳に徐々に届いてくる。

ハルヒ「あ、あんたもさ・・・気付きなさいよ!! いい加減に・・・私がキョンのこと好きじゃないくらい・・・」

ハルヒ「もうね、私も疲れたの・・・だから・・・」

キョン「・・・」

ハルヒ「・・・」

キョン「・・・」

172: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/04/15(木) 01:01:52.66 ID:KxA+J/aj0
ハルヒ「・・・・・・・・・私たち・・・・・・わ、別れましょう?」

176: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/04/15(木) 01:05:42.74 ID:KxA+J/aj0
ハルヒ「・・・」

キョン「・・・」

ハルヒ「・・・・・・」

キョン「お前さ・・・」

ハルヒ「え?」

キョン「本、当に俺のことが・・・嫌いになった、のか・・・?」

ハルヒ「そっそうよ! 本当はもっと・・・前からそうだったけど、言うのが、面倒臭いからそう・・・言わなかっただけ・・・」

キョン「・・・」

ハルヒ「・・・」

キョン「なら、さ・・・」

ハルヒ「・・・」

キョン「何で俺の目を見て・・・そう言ってくれないんだ?」

177: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/04/15(木) 01:09:03.85 ID:KxA+J/aj0
そう、ハルヒは先ほどから下を見つめたままで、俺と目を合わせようとしてくれない。

ハルヒ「っ・・・」

キョン「もし・・・本当にお前が俺のことを嫌い、だったなら・・・それはあきらめるしかないが・・・」

ハルヒ「・・・」

キョン「それなら・・・俺の顔を見て・・・ちゃんと俺の目を見て言ってくれ。」

キョン「俺が嫌いだと・・・ もう好きではないと・・・」

ハルヒ「・・・」

キョン「・・・」

ハルヒ「・・・」

キョン「・・・」

180: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/04/15(木) 01:12:24.41 ID:KxA+J/aj0
先ほどのハルヒの声が震えているように聞こえたのはきっと俺の気のせいではないはずだ。

キョン「・・・ハルヒ・・・・・・」

ハルヒ「っ・・・ うぅ・・・」

キョン「ハル、ヒ・・・」

ようやく顔をあげてこちらを向くハルヒの顔は涙でぐしゃぐしゃだった。
何を思って涙を流しているのか俺には分からない。

ハルヒ「わっ・・・わだ、じは・・・」グズッ

ハルヒが何かに耐えるように一つひとつ言葉を発していく。

ハルヒ「きっ、きょ・・・キョンの・・・ごど、なんか・・・」ウゥッ

キョン「・・・」

ハルヒ「ず・・・好きじゃ・・・」

キョン「・・・」

俺はハルヒから決して目をそむけることなく次の言葉を待つ。

183: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/04/15(木) 01:15:20.41 ID:KxA+J/aj0
ハルヒ「・・・好きなん、かじゃ・・・」グズッ

もうハルヒの顔は涙でぐしゃぐしゃになっていて、もはやハルヒであるかどうかすらも見分けが付かないほどだった。
俺はハルヒがこんなに泣く姿など見たことがない。

ハルヒ「ず、好きなんがじゃ・・・」

キョン「・・・」
















ハルヒ「すっ・・・好きじゃないなんて言えるはずないでしょ!!!!」

186: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/04/15(木) 01:18:02.61 ID:KxA+J/aj0
キョン「ハルヒ・・・」

俺は思わずハルヒを抱きしめていた。
抱きしめていた、なんて表現は間違っているのかもしれない。
ハルヒを抱きしめなければいけないような気がしたのだ。

ハルヒ「きっ・・・キョン・・・」ウゥ

キョン「ハルヒ・・・」

ハルヒ「キョンの、ことが・・・大好き、です・・・」

涙をこらえこらえ言ったハルヒのその言葉は俺の胸の一番奥深い所に突き刺さる。

ハルヒの涙を人指し指ですくってやると新しい涙がひとつ。またひとつ、と、止めどなくあふれてくる。

それはまるでハルヒの限りある命を燃やして流しているような、熱い、温かい涙。
その涙の一つひとつがハルヒの想いを伝えているように俺の胸を濡らしていく。

キョン「ハルヒ・・・」

ハルヒ「・・・」

キョン「もう一度言うぞ。 俺と・・・結婚してくれ・・・」

189: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/04/15(木) 01:21:17.02 ID:KxA+J/aj0
ハルヒ「でも・・・私いつ死んじゃうか、わ・・・分からないんだよ?」ウゥ

ハルヒ「キョンも・・・本当は知ってるんでしょ? 私はもうほとんど助からないって・・・」

キョン「・・・そうかもしれない」

ハルヒ「・・・」

キョン「でも、約束・・・しただろ?」

ハルヒ「ぇ・・・」

キョン「俺が医者になってお前の病気を治すって・・・」

ハルヒ「っ・・・」ウゥ

キョン「今までハルヒにたくさん支えられたから・・・今度は俺がお前を支える番だ・・・」

キョン「これから起きること・・・楽しいことや、辛いこと・・・も、全部・・・俺はハルヒと一緒に過ごしたい・・・」

キョン「俺と一緒に・・・家族として・・・その日その日を大切に生きようぜ・・・」

ハルヒ「きょ・・・キョン・・・」グズッ

190: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/04/15(木) 01:22:06.94 ID:KxA+J/aj0

キョン「な・・・?」
























ハルヒ「うん・・・」コクッ


193: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/04/15(木) 01:25:16.43 ID:KxA+J/aj0
3月19日、金曜日、曇りのち晴れ。

キョン「古泉、悪いがその花はこっちの花瓶に挿してくれ!!」

古泉「はい、了解しました。」

キョン「あ、朝比奈さん、頼んでいたやつは作って頂けましたか?」

みくる「ふふふ、大丈夫ですよ、ちゃんと作っておきました。」ニコッ

キョン「長門、そこのテーブル移動するからちょっと手伝ってくれ。」

長門「ふざけるな。なぜ私が貴様ごときを手伝わなければならないのだ。」

キョン「あ、先輩、その壁のはじの部分を押さえてもらえますか?」

先輩「おぅよ。」



俺たちは朝からハルヒの病室で行ったり来たり、出たり入ったり大忙しだった。

当のハルヒは近くの空き部屋で、きっと着替えを済ませているのだろう。


事はちょうど1週間前にさかのぼる。

194: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/04/15(木) 01:28:40.28 ID:KxA+J/aj0
キョン「・・・と言うわけで、俺とハルヒは結婚することになった。」

古泉「・・・」

みくる「・・・」

長門「しかしこの紅茶はうまい」ズズッ


俺はいつだったかハルヒの親父さんを呼び出したファミレスに、SOS団のメンバーを集めて、事の経緯を説明した。

ちょうど昼過ぎということもあり、店内には数えるほどの客しかいない。
ファミレスにしては少しばかり静かすぎる環境で久しぶりに会う高校時代の友達に俺とハルヒの事を説明したのだ。


キョン「おい、何とか言ったらどうだ・・・・?」

古泉も朝比奈さんも長門も俺の重大告知を聞きながら特にあわてた様子もなくいつも通りだったので思わず俺からそんなことを言ってしまった。

古泉「何とか言えと、言いましても・・・」チラッ

キョン「むっ・・・?」

そうって古泉は隣に座っている朝比奈さんに視線を送る。

みくる「そうですね・・・ようやく・・・ですか・・・って感じですね」ニコッ

キョン「へ・・・?」

朝比奈さんの意味不明な発言に俺は思わずあほみたいな顔をしてあほみたいなことを言ってしまった。

197: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/04/15(木) 01:31:33.66 ID:KxA+J/aj0
キョン「朝比奈さん?それは・・・どういう・・・?」

みくる「私たちはキョン君が涼宮さんと結婚するってずっと思ってましたよ?」ニコッ

朝比奈さんが満面の笑みでそう答えてくれる。

キョン「・・・」

それでも俺は予想外の展開に言葉を探せずにいると、

古泉「やれやれ・・・あなたはどれだけ奥手なんですか? 誰から見てもあなたと涼宮さんは将来結婚するだろうと思いますよ?」ニコッ

みくる「そうですよね。 むしろ遅いぐらいです。」ニコニコ

キョン「あ、あぁ・・・」

みくる「おめでとう、キョン君。」

古泉「おめでとうございます。」

長門「ありがとう。」

キョン「・・・」

198: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/04/15(木) 01:34:31.07 ID:KxA+J/aj0
みくる「それで、式はいつ挙げるんですか?」

俺が今一状況を飲み込めないでいると朝比奈さんが急にそんなことを聞いてきた。
そう、そうだった。
俺は今日3人に少し相談したいことがあってここに呼び出したのである。

キョン「あ、そうだった・・・それで、そのことについて3人に相談と言うか手伝ってほしいことがあるのだが・・・」

202: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/04/15(木) 01:37:49.14 ID:KxA+J/aj0
古泉「それにしても病室で挙げる結婚式というのも悪くないかもしれませんね。」

花瓶に花を挿し終えた古泉が俺に向かってそう言ってくる。

そう。俺が頼んだことと言うのは、結婚式をハルヒの病室で挙げさせたい、ということだった。
当のハルヒは「別に結婚式なんて挙げなくても良いわよ」なんて言っていたが、
俺はどうしてもハルヒにウェディングドレスを着てほしくて、院長に無理を言って病室で結婚式を挙げさせることが出来るところまで来たのだ。

結婚式と言っても、病室で本格的な結婚式など挙げられるはずがない。
もちろん牧師などもいるはずもない。
出席者は、俺とハルヒの家族と、古泉、朝比奈さん、長門、そしてゴリ先輩、これだけである。

それに最近はハルヒの体調が悪化の一途を辿っている。
本人はそう言ってないが、医者の俺の目から見ても一目瞭然だった。
きっと、今は立っているのでさえ辛いのだろう。

204: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/04/15(木) 01:40:48.90 ID:KxA+J/aj0
キョン「さて、後はハルヒが着替え終わるのを待つだけだな。」

ハルヒの病室を一時的にではあるが教会のように飾り付けをし、俺はタキシードに着替えハルヒが来るのを待っていた。
ハルヒと違い、俺は着替えにそんなに時間がかからなかった。

古泉「ふむ・・・なかなかその姿もお似合いですね」ニコッ

キョン「そりゃどーも」

ガチャッ

いつもと同じ笑顔で古泉が俺にお世辞を言ったのと、病室の扉が開いたのが同時だった。

キョン「ぁ・・・」

古泉「・・・」

みくる「うわぁ~」

長門「・・・」モグモグ

先輩「ほほぉ~」ニヤニヤ


ハルヒ「お・・・お待たせ・・・」


ようやく花嫁の到着である。

207: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/04/15(木) 01:43:17.87 ID:KxA+J/aj0
一人で歩くのが辛いのだろう。
ハルヒは、左腕を母親に支えられながらゆっくりこっちに向かって歩みを進めている。

ハルヒ「どっ・・・ど、う?」

キョン「きれいだ・・・」

ハルヒの問いにそんなありきたりの言葉でしか返せない俺。
今さらになって自分の文才のなさに呆れるばかりである。

純白のドレスに包まれたハルヒに、まるで魔法の森に迷い込んだお姫様のような印象を抱き、
俺は思わず瞬きするのも忘れるぐらいハルヒのウェディングドレス姿に見とれていた。

古泉「さて、お二方がそろったことですし、そろそろ始めましょうか。」ニコッ

213: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/04/15(木) 01:46:36.75 ID:KxA+J/aj0
午後2時15分、ハルヒの病室で小さな、小さな結婚式が挙げられた。

ハルヒは病室のベッドにウェディングドレスのまま横になり、上半身だけを上げている状態である。


古泉「今日から将来にむけて、良き時も、悪しき時も、富めるときも、貧しきときも、病める時も、健やかなる時も、
   これを愛し、これを敬い、これを慰め、生命ある限り、共に生きることを、誓いますか?」

キョン「はい、誓います・・・」

古泉「今日から将来にむけて、良き時も、悪しき時も、富めるときも、貧しきときも、病める時も、健やかなる時も、
   これを愛し、これを敬い、これを慰め、生命ある限り、共に生きることを、誓いますか?」

ハルヒ「はい・・・誓います・・・」


古泉「では、指輪の交換を・・・」

キョン「ハルヒ・・・」

ハルヒ「ん・・・」

俺はそっと彼女の手をとり、左手の薬指に指輪をはめる。
ハルヒの指は細く、白く、まるで蝋細工のように、少し力を入れて触れれば壊れてしまいそうなほど華奢だった。

そして、今度はハルヒが俺の左手の薬指に指輪をはめてくれる。

ハルヒが俺の薬指に指輪をはめるとき、目が合ってしまい、ちょっとだけ恥ずかしかった。

216: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/04/15(木) 01:49:24.66 ID:KxA+J/aj0
古泉「それでは、誓いのキスを・・・」ニコニコ

キョン「ぅ・・・」

ハルヒ「//////////」

みんなが見てる手前滅茶苦茶恥ずかしいのだがこればかりは仕方ない。

ハルヒの方を向くと、緊張しているのだろう。
プルプルと目と口を固く閉ざし小刻みに震えている。

ハルヒはベッドの上なので必然的に俺がかがむ形になる。


俺はガチガチに緊張しているハルヒの右の頬に手を添えて、やさしく、やさしくキスをした。










その日、俺らは家族になった。

218: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/04/15(木) 01:52:16.74 ID:KxA+J/aj0
ハルヒ「ねぇ、キョン?」

キョン「ん?どうした?」


無事に式も終り、皆が帰り病室には俺とハルヒだけが残っている。
部屋の電気は付けずに、窓を開け、開いている窓からは、月の柔らかい光と、3月にしては少し暖かい風が流れるように入ってきた。

式が終わった後にハルヒはまたいつものパジャマ姿に戻り、静寂が病室を占める中、ハルヒが口を開いた。
今日だけは、ということで、病室の中は、お昼に結婚式を挙げたままの形になっている。

ハルヒ「今日はありがと・・・」

キョン「礼を言われるようなことは何もしていないさ。礼を言うなら古泉や長門、朝比奈さんたちに言ってくれ。あと、先輩にもな。」

ハルヒ「ん・・・でもね・・・キョンのおかげでようやく決心がついたわ。」

キョン「決心・・・?」

ハルヒ「そう、決心よ。 キョンたちからたくさんの勇気をもらったから・・・」

急にそんなことを言ったハルヒの横顔は、月明かりに照らされてとてもきれいで、
窓の外に目を向けながらそう言うハルヒは、まるでどこかの人魚のように自分の腕の中から泡となって消えてしまうような儚さを感じさせた。

ハルヒ「私・・・」

キョン「・・・」


ハルヒ「手術を受けることにするわ・・・」

221: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/04/15(木) 01:56:20.33 ID:KxA+J/aj0
キョン「そっか・・・」

俺はそう言うことしかできなかった。

ハルヒの病気は重い。
それはこの病院に勤めている者なら誰もが知っていることである。
このまま何もせずにいると、大よそ、3、4年、もっても5年でハルヒの心臓は使い物にならなくる。

かと言って、簡単な手術でもない。
前、上の先生にハルヒが手術を行った際の成功する確率を聞いたところ、1割にも満たないそうだ。

ハルヒ「うん・・・」

キョン「・・・」

俺はハルヒの意思を尊重したい。
ハルヒが手術を受けるというのならそれで構わないし、手術を受けないことを選択するのなら、それにどうこう言おうとも思わない。
しかし、もし手術が失敗した時の事を考えると・・・いや、やめよう。


ハルヒ「それでね、キョンにお願いごとがあるんだけど・・・」

キョン「お願いごと?」

それまで窓の外に目を向けていたハルヒが俺の方へ視線を送る。

224: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/04/15(木) 02:00:17.63 ID:KxA+J/aj0
ハルヒ「うん・・・あのさ・・・」

キョン「・・・」

ハルヒ「この手術が成功したら、一緒に桜を見に行きましょう?」

キョン「・・・」

ハルヒ「・・・だめ・・・?」

やばい。
本当にやばい。
俺はハルヒから視線を外し窓の外に向け、軽く上を見上げる。
そうしなければ、涙がこぼれそうだった。

キョン「そうだな・・・ 一緒に見に行くか・・・」

ハルヒ「ん・・・約束ね?」ニコッ


そう言って微笑みながら右手の小指を差出、「指きり」のポーズをとるハルヒ。

約束・・・か・・・

あの日、ハルヒの病気を治すと誓った日から俺は「約束」という言葉に縛れつけられてきた。
俺にとっての約束はもはや約束などではなく、契約や、むしろ呪縛と言っても過言ではない。
それだけ、ハルヒは俺の中で大きな存在だったのだ。

キョン「あぁ・・・」

227: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/04/15(木) 02:03:29.21 ID:KxA+J/aj0
そう言って俺はハルヒと二度目の約束を交わした。

指きりなんて本当に久しぶりだ。
俺の記憶にある限りきっと、最後に指切りをしたのなんてたぶん小学校とかそこらへんだろ。

ハルヒの指は白く、儚く、そして冷たい。
この体のどこにそんな勇気があるのだろうか。
この体のどこにそんな強い意志が隠れているのだろうか・・・

ハルヒ「キョン・・・」

「約束」を交わし、また病室の中を静寂が占めていた時にハルヒがそうふと言った。

キョン「今度は何d・・・!?」




ハルヒ「わ、私・・・じ・・・死に、ったくな、いよ・・・」ウゥ

キョン「ハル、ヒ・・・?」

それはハルヒが初めて見せた「弱さ」だった。
今までハルヒは一度も、怖い、とか死にたい、などと言ったことがなかったが、今俺の目の前のハルヒは、死を恐れている一人の少女。

ハルヒ「も・・・もっど、ずっと、い、一緒に・・・ぎ、ぎょんといだいよぉ」グズッ

ハルヒ「まっ・・・まだ一緒に、み、皆で・・・あぞびに、いき、だいよぉ・・・」ヒック

229: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/04/15(木) 02:07:43.13 ID:KxA+J/aj0
ハルヒは涙をこぼしながら俺の左の袖をつかんでくる。

キョン「ハルヒ・・・」ギュッ

俺は彼女をやさしく腕の中に抱くことしかできなかった。

くそ・・・結局俺は何も出来ていない・・・
ハルヒの病気を治すと言って医者になったのに結局この始末である。

愛する人の死への恐怖すらやわらげることも出来ていないのだ。

キョン「大丈夫だ・・・きっと成功するさ・・・」

俺は何の根拠もなくそう言ってしまう。

ハルヒ「う・・・うん・・・」グズッ

その日ハルヒはずっと俺の胸で涙を流し続け、ハルヒの大泣きがようやくすすり泣きに変わり、それからだんだんと静かになるころ、ハルヒは夢の中へ旅立ってしまった。

こうして俺たちの結婚初夜が終わった。

230: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/04/15(木) 02:11:06.74 ID:KxA+J/aj0
3月24日、水曜日、雨。

今日は朝から弱い雨が降り、4月も目の前だというのに、冬の寒さを取り戻したように急激に気温が下がった。
天気予報ではお昼前には雨は止む、とのことだったが時計の針は13時を指しているがまだまだ止みそうもない。

キョン「はぁ・・・」

俺は廊下の窓から外を見上げ人知れず溜息をついた。

ガラガラガラ
俺は音のした方向に目を向ける。
そこには、手術用のベッドに横たわったハルヒの姿が。

そう、今日はハルヒの手術の日である。
身内切りなど出来るはずもないので、俺は今日病院から休みをもらい、ハルヒの手術を外で見守ることにした。

キョン「ハルヒ・・・」

人工呼吸器をつけたハルヒが俺の目の前まで運ばれてくる。

ハルヒ「キョン・・・」

キョン「ん?」

ハルヒ「ちゃんと・・・約束守ってね・・・」

キョン「あぁ。」

人工呼吸器を付けたままなので聞き取り辛いがハルヒははっきりとそう言った。
そして華奢な手で俺の手を握ってくる。

232: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/04/15(木) 02:14:06.50 ID:KxA+J/aj0
キョン「頑張れよ・・・ハルヒ・・・」

ハルヒ「ん・・・」ニコッ

俺の目の前でにっこりと微笑んだハルヒはそのまま手術室の中に運ばれていった。

結局俺は何も出来ないでいる。
ハルヒの病気を治すと言ったのにハルヒに何もしてやることが出来なかった。

ポンッ

気付くとごり先輩が俺の後ろに立っていて俺の左肩に手を置いた。

先輩「彼女さんを信じようぜ。」

キョン「はい・・・そうですね・・・」


手術室の「手術中」のランプが赤く照らされる。


小雨が降り続ける中、ハルヒの手術が始まった。

235: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/04/15(木) 02:18:03.22 ID:KxA+J/aj0
俺は夢を見た。
夢と言うのは間違いなのかもしれない。
なぜなら、夢というものの定義を、睡眠中に起こる、知覚現象を通して現実ではない仮想的な体験を体感する現象のことを指すのならば、
今回は俺の意識は完全にあったのだ。

よく、自分でこれは夢だ、と気づくような夢があるかもしれない。
明晰夢というらしいが、その類でもない。

俺の意識は完全に覚醒していて、夢を見ていた。

あれは夢だったのだろうか。それとも幻か、はたまた未来視か。

夢の中には、俺と、ハルヒが出てきて、二人はそれぞれ男の子と、女の子と一人ずつ手をつないでいる。

ハルヒは男の子と。俺は女の子と。

周りには桜の木が広がり、見ごろを迎えた桜の花びらが風で舞い、幻想的な風景を作り出している。
ここは公園だろうか。
あの子供たちは誰なのだろうか。
もしかして・・・俺たちの子供?

などと思っていたときに、手術室前の赤いランプが消えた。

237: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/04/15(木) 02:19:55.48 ID:KxA+J/aj0
キョン「ほら、ハルヒ、見てみろよこの桜。桜ってこんなにきれいだったんだな・・・」

4月8日、木曜日、晴。

今日は朝から晴れて絶好の桜日よりである。
前々からハルヒと近くの公園へ桜を見に行こうと約束をしていたのだ。

天気予報では風が強くなるとのことだったが、それほど強くなる訳ではなく、
むしろ優しく、地面の桜の花びらを舞上げてくれてそれはそれは本当にきれいで、
桜吹雪とはこのことを言うんだろうなぁなんて思っていた。

キョン「今日は特に何もないからずっといっ・・・ん?」

キョン(雨・・・?)

238: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/04/15(木) 02:21:24.86 ID:KxA+J/aj0
右手の甲に水の雫が落ちてきた。

キョン(こんなに晴れているのに?)

そう言って俺は上を見上げる。
それでもやっぱり空は快晴で、桜の花びらの淡いローズピンクと、空のスカイブルーとの
コントラストがきれいで雨が降っている素振りなんてまったく感じない。

キョン(こう見ると空って実は結構近い感じがするな・・・)

そう思いながら俺は左手を上に掲げて、空を掴むような仕草を見せた。
それでもはやり空には届かない訳で。

俺の掲げた左手の薬指にはキラリと輝くリングが見える。

240: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/04/15(木) 02:22:57.38 ID:KxA+J/aj0
キョン(あぁ、そうか・・・これは雨じゃない・・・)




キョン(これは涙だ・・・泣いているのは、俺か?)



そう言いながら上を向いていた視線をもとに戻し自分の隣に視線を移す。


結局俺はハルヒとの約束を2つとも守れなかった。






そう、俺の隣にもうハルヒはいない。






―完―

引用元: ハルヒ「この手術が成功したら、一緒に桜を見に行きましょう?」