2: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/06/04(木) 00:27:54.25 ID:b7IL5KVe0
歩「あ、暑い…」
時間が経つのは速いもので、今年ももう6月に入ってしまった。
世間では5月病の終わりだ―、何て声もあるみたいだけど…アイドルには5月病なんて関係なく、先月も今日も変わらず仕事だ。
今日はバラエティ要員じゃなくて、ダンスパフォーマンスをバッチリ披露!イエス!!
…それは良かったんだけど、この暑さがそれらを見事に打ち消してくれた。
まだ夏にも入って無いってのに、7月頭じゃないかと思わせるこの天気。
ホント、勘弁してほしいよ…。
まだ救いなのは、セミの声が聞こえないことくらいかな?ただただ静かに、その暑さはアタシを苦しめる。
別に倒れたりするほどじゃないけど、歩いてくるだけで汗が出てくる…真夏の一歩手前ってとこかな。
夏に入って無い事の何が嫌だって、まぁ、これからの時期を考えると憂鬱になるってのもあるけど…
歩「ただ今戻りました~…やっぱりクーラーはついてないよなー…」
夏じゃないから冷房が付けられない。夏の時期恒例の、室内に入った時のあの至福の感覚はまだまだお預けみたいだ。
瑞希「こんにちは、舞浜さん」
至福の感覚に代わってアタシを迎えてくれたのは、同じ事務所のアイドル『真壁瑞希』。
いわゆる「ポーカーフェイス」ってやつで、あまり表情から感情は読めない。けど真面目に、全力にアイドルの仕事に取り組んでるのはいつも伝わってくるんだ。
3: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/06/04(木) 00:32:17.34 ID:b7IL5KVe0
歩「あれ、瑞希今日仕事あったっけ?」
瑞希「いえ、今日はオフですが暇だったもので」
歩「なるほどね~。それにしても、最近すっごく暑いよな~」
瑞希「そうですね…暑くて溶けてしまいそうです。…そうだ、舞浜さん。アイスを食べたくありませんか?」
歩「そうだなー、そろそろアイスが恋しい季節になってきたな~」
瑞希「実は丁度、今日皆さんへと用意してきたアイスが何個か…」
歩「ホント!?」
凄い準備が良いじゃないか!帰りにコンビニでアイスを買って帰ろうかなんて考えてた所だったんだよ!
…でも、瑞希はそう言ってからその場から動かない。……どうしたんだ?
歩「おーい、瑞希?」
瑞希「アイスが………」
歩「アイスが…どうしたんだ?」
瑞希「アイスが………私の鞄の中に」
歩「鞄の中ね!なるほど…………え、鞄の中?」
瑞希「…すみません、冷凍庫に入れるのを忘れてしまっていました。うっかり」
歩「………」
そして、瑞希は鞄の中を漁ってアイスを取り出す。どうやらカップアイスを持ってきてくれていたみたい。
でも、そのカップの中からはチャプチャプという、アイスでは絶対に鳴らない音が聞こえてくる。……完全に液体になっちゃってるみたい。
カップアイスだったのが不幸中の幸いかな?
瑞希「いえ、今日はオフですが暇だったもので」
歩「なるほどね~。それにしても、最近すっごく暑いよな~」
瑞希「そうですね…暑くて溶けてしまいそうです。…そうだ、舞浜さん。アイスを食べたくありませんか?」
歩「そうだなー、そろそろアイスが恋しい季節になってきたな~」
瑞希「実は丁度、今日皆さんへと用意してきたアイスが何個か…」
歩「ホント!?」
凄い準備が良いじゃないか!帰りにコンビニでアイスを買って帰ろうかなんて考えてた所だったんだよ!
…でも、瑞希はそう言ってからその場から動かない。……どうしたんだ?
歩「おーい、瑞希?」
瑞希「アイスが………」
歩「アイスが…どうしたんだ?」
瑞希「アイスが………私の鞄の中に」
歩「鞄の中ね!なるほど…………え、鞄の中?」
瑞希「…すみません、冷凍庫に入れるのを忘れてしまっていました。うっかり」
歩「………」
そして、瑞希は鞄の中を漁ってアイスを取り出す。どうやらカップアイスを持ってきてくれていたみたい。
でも、そのカップの中からはチャプチャプという、アイスでは絶対に鳴らない音が聞こえてくる。……完全に液体になっちゃってるみたい。
カップアイスだったのが不幸中の幸いかな?
5: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/06/04(木) 00:38:00.91 ID:b7IL5KVe0
瑞希「すみません、期待だけさせてしまいましたね。」
歩「アハハ、仕方ないって!」
瑞希「しかし、より一層アイスが食べたくなってしまいました…」
確かに仕方ないとは言ったけど、アイスに対する欲は一段と強まってしまった。…ヤバい、考えれば考えるほど食べたくなってきたよ。
歩「…なぁ、瑞希。良かったら、今から買いに行かない?」
瑞希「今から、ですか?」
歩「イエス!もう居ても立っても居られないよ!」
瑞希「…奇遇、ではないですね。私も同じことを考えていました。」
そう言って、瑞希はほんの少し、口角を上げた。瑞希はポーカーフェイスってさっき言ったけど、時々こんな表情の変化を見せてくれる。それがまた「可愛いんだよなぁー…」
瑞希「…舞浜さん。いきなりそう言うのは、ずるいです」
歩「え?」
瑞希「可愛いだなんて……ドキドキ」
歩「…もしかして、口に出てた?」
瑞希「はい。バッチリと」
歩「………アハハハハ。」
ヤバい、これは中々恥ずかしい。顔が熱くなるのが自分で分かる。そして見た感じ、瑞希の顔の赤さはアタシ以上なんじゃないかって思う。
こういう所が可愛いと思うんだよな~。
………これは、うん。
歩「ほら、早くアイス買いに行こう!コンビニで良いよな?先に出てるよ~!」
瑞希「…誤魔化すのは無しだと思います」
そうは言っても、恥ずかしいものは恥ずかしいんだってば~!
6: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/06/04(木) 00:52:54.75 ID:b7IL5KVe0
歩「う~ん、やっぱりウマいや!」
瑞希「はい。…しかし、舞浜さん」
歩「何?」
瑞希「どうして、わざわざこんな遠くのコンビニに来たんでしょうか…?」
歩「………ソーリー」
恥ずかしさから周りも見ずに歩き続けたから、いつの間にか近くのコンビニをスルーしちゃってたみたい。反省。
歩「ま、まぁ、散歩と思ってさ!アイスを食べながら事務所まで帰ろうよ!」
瑞希「…それは構いませんが、道は覚えていますか?」
歩「それはノープロブレム!この辺は良く来るんだ!」
瑞希「そうでしたか。では、お任せします」
歩「オッケー!」
事務所へとのんびり食べ歩きながら帰る。日差しのピークが過ぎて、少しの暑さと風の涼しさが心地いい。まさに「アイス日和」って言う感じだな。
二人ともコーンアイスを選んで、瑞希は隣で舐めている。ペースがかなり遅くて、コーンに達しかけてるアタシに対して、まだまだ時間がかかりそうだ。
歩「早く食べないと、溶けちゃうよ」
瑞希「む、ホントですね」
そう言って少しながらペースを上げ、食べることに集中する。アタシもそれに倣って、しばらく食べることに集中する。
瑞希「……………」
歩「……………」
周りを行きかう人たちの話し声や車の音が周りで響く中、しばらくの間無音が続き、前の通行人に注意しながらもアイスに集中する。
7: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/06/04(木) 00:59:08.16 ID:b7IL5KVe0
瑞希「…そう言えば」
歩「ん?」
瑞希「この前、ブライダルのモデルの仕事がありまして」
歩「…あぁ、そう言えばやってたね!」
まつりや星梨花達も出てたっけ?
…星梨花や環にウェディングドレスの仕事が来ることに違和感をあまり感じなくなってる時点で、アタシもプロデューサー達に毒されてるのかもしれない。
瑞希「なんと、タキシードとウェディングドレスの両方を着せてもらったんです……お得」
歩「へぇ、すごいじゃないか!」
瑞希「…しかし、『結婚前にウェディングドレスを着ると行き遅れる』という話もあります」
歩「…あ~、聞いたことはあるような」
瑞希「その法則からいくと………私はもしや、他の方の2倍は行き遅れる事になるんでしょうか?」
ズルっ
歩「な、何を気にしてるんだよ…!」
瑞希「いえ、ふと頭に浮かんだので。…それにしても舞浜さん、ナイスズッコケ」
歩「…それは褒めてるの?」
瑞希「勿論、褒めてます。角度やタイミング、それはもう、天海さんに迫るものが…」
歩「………やっぱり褒められてる気がしないや…」
複雑な気分になり、ため息をついたところでまたもや無言になる。
…さっき、瑞希がさらっと『他の方』って言って美希やまつりを含めてた事に関しては、触れないでおくことにする。
行き遅れるなんて事は…ないよ、多分。
歩「ん?」
瑞希「この前、ブライダルのモデルの仕事がありまして」
歩「…あぁ、そう言えばやってたね!」
まつりや星梨花達も出てたっけ?
…星梨花や環にウェディングドレスの仕事が来ることに違和感をあまり感じなくなってる時点で、アタシもプロデューサー達に毒されてるのかもしれない。
瑞希「なんと、タキシードとウェディングドレスの両方を着せてもらったんです……お得」
歩「へぇ、すごいじゃないか!」
瑞希「…しかし、『結婚前にウェディングドレスを着ると行き遅れる』という話もあります」
歩「…あ~、聞いたことはあるような」
瑞希「その法則からいくと………私はもしや、他の方の2倍は行き遅れる事になるんでしょうか?」
ズルっ
歩「な、何を気にしてるんだよ…!」
瑞希「いえ、ふと頭に浮かんだので。…それにしても舞浜さん、ナイスズッコケ」
歩「…それは褒めてるの?」
瑞希「勿論、褒めてます。角度やタイミング、それはもう、天海さんに迫るものが…」
歩「………やっぱり褒められてる気がしないや…」
複雑な気分になり、ため息をついたところでまたもや無言になる。
…さっき、瑞希がさらっと『他の方』って言って美希やまつりを含めてた事に関しては、触れないでおくことにする。
行き遅れるなんて事は…ないよ、多分。
8: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/06/04(木) 01:03:31.89 ID:b7IL5KVe0
………………
…歩いてる途中、瑞希がこっちをちらちら見ては、何か考える様な素振りを見せる。
瑞希「…あの、舞浜さん。」
歩「ん?」
瑞希「……………いえ、やっぱり何でもありません。」
歩「…そうなの?」
瑞希「はい、何でもありません」
そして無言が続く。
実はこのやり取り、さっきから何回もやってたりするんだよなぁ…。
ちゃんと話が続いたのはブライダルの仕事の話くらいで、後はこんな感じだ。…何か悩んでる?表情も、心なしかいつもより真剣に見えるし。
深刻な悩みなら、解決できるか分からないけど、アタシがちゃんと聞いてあげないと…!
9: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/06/04(木) 01:07:14.20 ID:b7IL5KVe0
歩「なぁ、瑞希。ちょっと…」
声を掛けようとしたところで、瑞希が何やら小さい声で呟いているのが聞こえる。…周りの雑音に紛れて、全然気づかなかった。
一体何を………
瑞希「…………ダンスの話、は私がついていけない。…『ENJOY HARMONY』は、気を遣わせちゃうかー…。他には…ブツブツ」
…え?
もしかして、瑞希…
瑞希「もっと自然な話題を…………」
アタシと何を話すかで悩んでる……?!
そう言えば、こうして二人で瑞希と話す機会ってあんまり、いや、ほとんど無かった様な気がする。
瑞希なりに、距離を近づけようとしてくれたのか。それとも、この無言の時間を気まずく感じたのかも…。何にせよ、気を遣ってくれてるのは間違いない。
別に、気にする必要ないのに。
声を掛けようとしたところで、瑞希が何やら小さい声で呟いているのが聞こえる。…周りの雑音に紛れて、全然気づかなかった。
一体何を………
瑞希「…………ダンスの話、は私がついていけない。…『ENJOY HARMONY』は、気を遣わせちゃうかー…。他には…ブツブツ」
…え?
もしかして、瑞希…
瑞希「もっと自然な話題を…………」
アタシと何を話すかで悩んでる……?!
そう言えば、こうして二人で瑞希と話す機会ってあんまり、いや、ほとんど無かった様な気がする。
瑞希なりに、距離を近づけようとしてくれたのか。それとも、この無言の時間を気まずく感じたのかも…。何にせよ、気を遣ってくれてるのは間違いない。
別に、気にする必要ないのに。
10: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/06/04(木) 01:09:17.36 ID:b7IL5KVe0
歩「なぁ、瑞希?」
瑞希「………はい、何でしょうか。」
考え事をしてたからか、反応がいつもよりも遅れる。
歩「あー、その、何話そうかなんて、別に無理に考えなくっていいって!アタシ、瑞希と二人でいれるだけで楽しいよ!」
瑞希「…!」
歩「あ、いや、勘違いしないで!瑞希と話してて楽しくないって訳じゃないんだ!」
瑞希「………」
歩「ただ、瑞希と二人で何も話さず歩いてるだけでも、その…落ち着くんだ。」
瑞希「落ち着く、ですか?それは一体…」
歩「うーん、上手く言葉に出来ないんだけど…そう、安心感があるんだ!」
『安心感』。うん、これがピッタリだ。瑞希と一緒の空間は、別に言葉が無くっても気まずい感じがしない。
やっぱりそれは、安心感、何だと思う。
11: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/06/04(木) 01:15:06.51 ID:b7IL5KVe0
逆に、さっきまでは何だかぎこちない感じだった。だから…
歩「もっと自然体でいいよ。それが一番楽しいよ!そうに決まってる!」
瑞希「自然体、ですか…」
少しの間考えに集中して、すぐに顔を上げた。
瑞希「そう、ですね。では、そうしましょう。」
歩「オッケー!」
瑞希「…そう言えば私、もしかして独り言を言っていましたか?」
歩「アハハ、ダンスなら何時でも教えるよ!!」
瑞希「…聞かれてたかー」
それはもう、一目で分かるくらいに顔を真っ赤にして俯いてしまう。やっぱりこういう所が可愛い。
歩「……………」
瑞希「……………」
そこから事務所までは無言だった。だけど、アタシにとっては楽しい時間だったよ!
瑞希はどうだろう。何も聞いてないけど、多分大丈夫。
途端にアイスを食べるのが早くなって、食べ終わったのはアタシと同じだったからね!
なんだ、アタシよりもよっぽどアイスが食べたかったんじゃないか。
12: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/06/04(木) 01:17:09.17 ID:b7IL5KVe0
歩「ただいま~!」
瑞希「ただいま戻りました」
琴葉「おかえりなさい。…って、歩と瑞希ちゃん?何だか、珍しい組み合わせね。」
P「それもそうだな。どこに行ってたんだ?」
歩「アハハ、ちょっと散歩にね!」
瑞希「のんびりと歩いてきました。」
琴葉「歩が散歩?…瑞希ちゃんはともかく、何だかイメージ出来ないわね」
歩「な、何でさっ?」
P「『散歩?それだったらダンスしようよ!』とか言いそうだからな」
歩「それは…あれ?否定できない」
瑞希「なるほど。散歩の時間があればダンス、ですか…。」
歩「瑞希も、そんな真に受けないでよ~!」
瑞希「分かっています。…冗談です」
歩「…はぁ。」
事務所でアタシ達を出迎えてくれたのは、プロデューサーと、事務所のアイドル『田中 琴葉』。
瑞希とアイスを買い食いしてきたのは、事務所の皆には内緒にすることにした。皆の分は買ってないから、アタシ達だけずるいって感じがするし。
13: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/06/04(木) 01:21:21.44 ID:b7IL5KVe0
琴葉「あ、そうだ。歩、瑞希ちゃん」
歩・瑞希「「?」」
琴葉「お土産にアイスを買ってきたんだけど、どう?」
歩「…え?」
P「このアイス、すごく美味しいぞ!先着順だし、早くしないと無くなるぞ?」
琴葉「ふふっ、ありがとうございます。ここのアイス、私好きなんですよ。ちょっと暑くなってきましたし、アイスが恋しくなっちゃって。」
P「あぁ、わかるよ。クーラーもつけられないしな~」
瑞希「………あちゃー。」
琴葉・P「「?」」
どうやら琴葉はアタシ達とは丁度すれ違いに事務所に来たみたいで、彼女もアイスをお土産に買ってきたみたいだ。
そしてそのアイスは。
偶然にも瑞希が用意してきたものと同じものだった。
歩・瑞希「「……………」」
アタシ達は互いに顔を合わせて、
歩・瑞希「「………はぁ」」
そっとため息をついた。それはプロデューサー達には聞かれることは無く、瑞希のアイスと同じように、静かに事務所の中に溶けていった。
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