1: 名無しで叶える物語(たこやき) 2023/07/15(土) 15:20:28.46 ID:2iaCSsun
PART 1

梢「えーっと、これが噂のネットショッピングね?」

梢「ここをタップして……えいっ」

梢「やったわ! ようやく画面が進んだ!」

梢「ほら、私ひとりでもネットでお買い物できるんだから……!」フンス

梢「んー、購入したい商品は……っと」

梢「……あら、なにかしらこれ?」ポチッ

梢「『それは神からの恵み、奇跡の水』──」


梢「水素水……?」

2: 名無しで叶える物語(たこやき) 2023/07/15(土) 15:25:32.01 ID:2iaCSsun
―――――――――――――――
―――――

花帆「梢センパイ梢センパイ! 今日の紅茶もすっごくおいしいです!」

梢「ふふっ、それはよかったわ」

梢「……」ソワソワ

花帆「梢センパイ……?」

梢「あら、気がついた? 実は今日の紅茶はね、いつも淹れているものよりも少し特別なの」

花帆「えー! そうだったんですか!? 言われてみると確かに特別な味がするような……!」

梢「さて、なにが違うでしょう? ヒントは水よ」

花帆「んー……なんだろうな〜」グビグビ


綴理「さや、ボクたちはそろそろ練習に行こう」

さやか「あ、はい。すぐ行きます」


花帆「うーん、わかんないです! センパイ、答え教えてくださいー!」

梢「正解はね? ドゥルルルルル……ぽーん」





梢「なんと、この『水素水』を使っていたの!」プシッ

さやか「…………」

さやか「え?」

4: 名無しで叶える物語(たこやき) 2023/07/15(土) 15:29:10.52 ID:2iaCSsun
さやか(いま水素の音が聴こえたような……。それに先輩が持っているペットボトル……まさか……)

さやか(いやいや、そんなわけ……! わたしの思い過ごし……ですよね?)


花帆「すいそすい……?」

梢「ええ! 数日前にインターネットで見かけて注文していたものが、昨晩ようやっと届いたのよ」

花帆「わっ、梢センパイ! ひとりでネットショッピングできたんですね、すごいです!」

梢「そう? 水素水の効能に比べたら大したことではないと思うのだけれど……ふふふ」


さやか(嘘……。やっぱり水素水の話をしています……!)

さやか(令和の時代にアレを買っちゃう人がいるなんて……梢先輩……)

綴理「……さや? 練習行かないの?」

さやか「あ、ちょっとだけ待ってください! 靴ひもを結びたいので!」

綴理「うん、わかった。……あれ? 上履きに靴ひもなんてないけど」


梢「水素水はその名の通り、水に水素分子を溶かし込ませた飲料なの」

花帆「なるほどなるほど、だからこんなにも風味豊かで味わい深いんですね?」

梢「その通りよ花帆さん。水素水はすごいんだから!」


さやか(梢先輩、まさか水素水メーカーの謳い文句に踊らされている……なんてことはないですよね……?)

さやか(いえ、そんなわけがありません!)

さやか(いくら先輩が機械に弱いからって、ネットのうさんくさい水素神話を信じたりするわけ──)



梢「水素水はね! 身体にとてもいいのよ!」ドヤッ

さやか「」

5: 名無しで叶える物語(たこやき) 2023/07/15(土) 15:37:08.47 ID:2iaCSsun
花帆「へ〜、水素水ってすごいんですね!」

梢「そうなの! 私も半信半疑で飲んでみたのだけれど、今朝起きたら身体が軽くなっていて驚いたわ!」

花帆「あ、わかりました! 梢センパイがいつもよりキラキラしてるのはそのおかげですね?」

梢「ふふっ。……水素水にはね、エビデンスの認められた効能がまだまだたくさんあるのよ」


さやか(梢先輩は過去から来たタイムトラベラーなんですか!?)

さやか(なんだかそれっぽいこと言ってますけど、今じゃ水素水は科学的に否定されているんですよ!)

綴理「さや……? いつまで靴ひも結んでるの?」

さやか「ええ、そうですね……わかりました。綴理先輩のも結んであげますから」

綴理「え、ボク上履きだから靴ひもなんて……ああああ結ばれちゃうー」


梢「花帆さん。水素はこの地球上で最も小さい分子なのは知っているわよね?」

花帆「え……。あ、はい、もちろん……!!」

梢「そんな水素が人体に入ると、細胞を通り抜けて全身に広がり、さまざまな益をもたらしてくれるの」

梢「体内の悪性物質に作用して老化や病気を抑えたり、しみシワの原因を根本からケアしたり、血液循環をよくして代謝を上げる効果などがあるわ」

梢「美容や健康、ダイエットや筋力増強にも効く水素水なんだけど……なんと! これだけでは終わらないわ!」

花帆「ええー! 水素水には身体にいい効果がまだあるんですか?!」

梢「そうなのよ花帆さん!」

梢「水素水によって脳が活性化されることで、記憶力や集中力が高まり、学習能力の向上にもつながるの! ……あの子にも飲ませてあげたいわね」

梢「それから仕事も捗るようになるし、後輩との恋愛も……その……いい感じになると期待されるわ!!」

梢「運勢もよくなり、健康寿命も伸びる、人間関係も改善されて──まさにいいことずくめなの!」

花帆「えー!? すごいすごい! 水素水は万能薬なんですね!!」

梢「ええ! 人体以外だと、特に植物の成長促進の効果もあるそうよ」

花帆「すっごーい! 水素水かぁ〜……不思議、なんで今まで知らなかったんだろう……?」

梢「きっとまだ世間に知られる途中なのではないかしら」

花帆「なるほど! こんなすごいものをいち早く知れるなんて、あたしたちってラッキーですね!」

梢「そうね。これから毎日水素水を続けて、心身ともに鍛え上げ──目指すはラブライブ優勝よ!」

花帆「はい!」

6: 名無しで叶える物語(たこやき) 2023/07/15(土) 15:39:49.46 ID:2iaCSsun
さやか「…………」

さやか「すぅぅ……」

さやか「……………………」


さやか(はああああああああああ〜〜〜〜〜!!!!)

さやか(そんなわけないじゃないですかー! なにをぬかしてるんですか、梢先輩!?)

さやか(確かに水素は小さいし細胞もすり抜けるかもしれないです……けど! その理屈だと容器のペットボトルも貫通し放題で水素抜けまくりですよ? ちくわ状態ですよ!)

さやか(そもそも水に水素を溶かしたってどういうことですか!? そんなの授業で習っていませんよ! 構造式どうなってるんですか?!)

さやか(人体への効果に関してもエビデンスなんて微塵もありませんし! あれって確か、マウスでの実験をあたかもヒトにも応用できるとうそぶいていただけですからね!?)

さやか(仕事やら恋愛やら運勢やらは、その人の気の持ちようじゃないですか! 気分が前向きになったと錯覚したから、人生が好転しているように感じるだけですよ!)

さやか(しかも、こうした副次的効果をさも水素水の功績だと謳っていますが、結局はそれも理想論ですし……。タバコを吸わなければベンツを買えるというわけではないでしょう?)

さやか(植物への効果のほどは知りませんけど……というか、花帆さんも花帆さんです! どうして真に受けてるんですか! ちょっとは疑ってくださいよ?!)

さやか(とにかく、早く先輩に教えなきゃ……! 水素水がエセ科学であることを……!)

さやか「あ、あの……。水素水は…………」










梢「ふふっ、花帆さんに喜んでもらえて本当によかったわ♪」ルンルン

さやか「!!」

7: 名無しで叶える物語(たこやき) 2023/07/15(土) 15:42:05.06 ID:2iaCSsun
さやか(い、言えない……)

さやか(梢先輩の、あんな嬉しそうな表情を見たら……)

さやか(言えるわけ、ありませんよ…………)


梢「そうだわ、さやかさんと綴理もどうかしら?」

花帆「水素水おいしいよ! 身体にいいことしてるなぁ〜、って気分になれるよ!」

さやか「あ……いえ、わたしは遠慮しておきます」

花帆「そっかー……。残念」シュン

綴理「ボクもいいかな。それより、さや……足痛い……」

さやか「はっ! す、すみません……! 先輩のことすっかり忘れていました!」

綴理「ボク忘れられてたの……?」

さやか「あぅ……。れ、練習ですよね、練習……! さ、行きましょう!」

綴理「ずっとそう言ってたけど……。うん、行こう」


さやか「…………」

さやか(世の中には、知らないほうがいいこともあるのかもしれません……)

さやか(どうやら先輩には効果があるみたいですし、あえて水を差すようなことは言わないでおきましょう)

さやか(おふたりの笑顔を守るためにも……わたしは静かに去らせていただきます)



綴理「……キュウリだ」

さやか「キュウリ、ですか」

綴理「いや、クラゲ……」

さやか「なんだか水分多めですね。雨でも降るんですか?」

綴理「かもしれない。──大きいのが振りそうだ」

8: 名無しで叶える物語(たこやき) 2023/07/15(土) 15:44:15.93 ID:2iaCSsun
―――――――――――――――
―――――

花帆「いやぁー……スライム風呂、気持ちよかったね〜」ポカポカ

さやか「そうですね〜」ポカポカ

花帆「お風呂でぽかぽかした後に、さやかちゃんと配信しちゃうなんて……! あたしも大人になったな〜」

さやか「そうですね〜。意味はよくわかりませんが」


さやか「……ん?」

花帆「どうしたの、さやかちゃん?」

さやか「あの。あそこのドアが開いてる部屋って……花帆さんの部屋ですよね?」

花帆「うん。もう何回も来てるから覚えたよね」

さやか「はい、覚えてますが……ええ!? なんでドアを開けたままなんですか? 不用心すぎますよ!」

花帆「あはは……。ちょっと"段ボール"がかさばっちゃってて……」

花帆「部屋に入りきらなくて、ドアが閉まらないんだよねー」

さやか「ああ、そうなんですね」

さやか「…………」

さやか「ん? 段ボール……?」


さやか(あれ……)

さやか(なんでしょう、すごくイヤな予感が……)

9: 名無しで叶える物語(たこやき) 2023/07/15(土) 15:45:41.57 ID:2iaCSsun
花帆「ちょっと前にさ、梢センパイが言ってた水素水の話……さやかちゃん覚えてる?」

さやか「水素水……まあ、はい」

花帆「実はあれからね、あたしも自分用の水素水が欲しくなって、ネットで注文したんだ〜!」

さやか「!!!!」

花帆「『数量限定』とか『これが最後のチャンス』とか書いてて、おまけに販売終了時間ギリギリだったからさ。急いで買わなきゃー! と思ってすぐにぽちったの」

さやか「そ、そうですか……。花帆さんは思い切りがいいというか、なんというか……行動力の権化ですね」

花帆「えへへ。そうかな〜?」

さやか「褒めてないです」

花帆「ええー!?」


さやか(見たところ、段ボールはざっと5〜6箱でしょうか……。箱買いだと一気にこれぐらい買うものなんですかね)

さやか(水素水かあ……。まあ曰くつきとはいえ、信じている人が飲めば多少なりとも効果はあるかもしれませんし……)

さやか(あまり花帆さんを否定しないように気をつけましょう)

さやか「で、花帆さん。何箱あるんですかこれ?」





花帆「え……50箱だよ?」

さやか「50箱だったなオーマイガー!」

10: 名無しで叶える物語(たこやき) 2023/07/15(土) 15:47:29.75 ID:2iaCSsun
さやか「なんですか、これは……」

さやか「詐欺? マルチ!? あああああああああああああ…………!」

花帆「さ、さやかちゃん?」

さやか「あー……もう! もうもう……もぉぉぉ!!」

花帆「さやかちゃんが牛になった?!」

さやか「なってませんよ!! なにやってるんですか花帆さんふざけないでください!!」

さやか「ご、50……? 50って……はあ? 待ってください、いちにぃさんしぃ…………ごじゅう!?」

さやか「わたし、夢でも見ているのでしょうか……? 友達が、こんなことに…………はああ!?」

花帆「50はちょっと多いかなーとは思ったんだけどね。……ま、身体にいいものだから問題ないかなって!」

さやか「問題だらけですよ……。ほんと、頼みますよ花帆さん……はああ……」

花帆「さやかちゃん大丈夫? 顔も赤いし、もしかしたら熱あるのかも!」

さやか「青ざめているつもりでしたが赤いんですね?! むしろこの状況で平然としている花帆さんに驚嘆ものですが!!」

さやか「ふぅ、ふぅぅ……」

花帆「えっと、さやかちゃん……?」


さやか「……あの、今日の配信は花帆さんおひとりに任せてもいいですか?」

花帆「あ、うん……。やっぱり体調悪かったんだね?」

さやか「はい、もうなんでもいいです……。埋め合わせはまた後日しますので……それでは……」フラフラ

花帆「う、うん……。さやかちゃんフラフラだけど大丈夫かな……」

11: 名無しで叶える物語(たこやき) 2023/07/15(土) 15:50:04.71 ID:2iaCSsun
さやか「はあ……」

さやか(完っ全に詐欺ですよね……? マルチじゃないだけマシなのかもしれませんが……)

さやか(しかし花帆さん……よもや50箱も水素水を買ってしまうとは! 巧妙な手口だとしても、少しは疑ってくださいよ!)

さやか(……これ、ひょっとして非常にまずい事態なのでは?)

さやか(あーもう……気づいてしまった以上、わたしがなんとかしなくちゃ……!)

さやか(そもそも、わたしが梢先輩を止めなかったのも一因ですからね……。こんな形で後悔するとは思いませんでしたけど)

さやか(えーっと、花帆さんが購入した日付から計算して……クーリングオフ期間には一応間に合いそう……。あとは…………)


さやか「」スタスタ

花帆「わっ、戻ってきた!」

さやか「花帆さん、この段ボール50箱はすでに開封されましたか?」

花帆「え? 手はつけてないけど……今日届いたばかりだし」

さやか「では、ぜっっったいに! 開けないでくださいね!?」

花帆「ええ!? ……う、うん!」

花帆「よくわかんないけど……さやかちゃんの言うことだし、開けないでおくね!」

さやか「お願いします」


さやか「ふぅ……。これで滞りなく返品できます……」

さやか(さて、ここで真実を伝えることは容易ですが、それよりもまずは……)

さやか(足取りは重いけど、行くしかないですね……)

さやか(──梢先輩のもとへ!)

13: 名無しで叶える物語(たこやき) 2023/07/15(土) 15:52:31.45 ID:2iaCSsun
―――――――――――――――
―――――

さやか「」ドドドドドドドン

梢「な、なに!? なにごと……? ドアが高速ノックされているのだけれど……」

さやか「……こんばんは梢先輩。部屋は綴理先輩に教えてもらいました」

梢「こ、こんばんは、さやかさん……。夜分に訪ねてきたってことは、なにか急用なのね?」

さやか「はい、火急の問題です。とりあえず部屋に上がらせてもらいますね」ドドドドドドド

梢「あ、ちょっと──!」


バンッ!

さやか(冷蔵庫の中……几帳面に敷き詰められたペットボトル…………)

さやか「あぅ……!」

梢「さ、さやかさん!? どうして泣いているの……」

さやか「悔しいんです……忸怩たる思いなんです……」

さやか「わたしが『水素水はでっち上げ』だと、しっかり伝えていたら……こんなことにはならなかった……!」

梢「…………」

梢「で……でっち上げ……?」

梢「な、なにを言っているのかしら……? さっぱり理解が追いつかないのだけれど……」

さやか「……先輩。この際だからはっきり言わせていただきますね」



さやか「水素水はすべてまやかしです。奇跡の水なんてものは存在しません……」

さやか「──梢先輩、あなたは騙されています!」

梢「!!?」

14: 名無しで叶える物語(たこやき) 2023/07/15(土) 15:55:16.50 ID:2iaCSsun
梢「わ、私が…………騙されている……?!」

さやか「はい。ものの見事に」

梢「それは……とても信じがたい話なのだけれど……」

梢「えー、つまり、さやかさんはこう言いたいわけね? 『水素水には効能なんてない』……と」

さやか「代弁してくださってありがとうございます」

梢「……そう、優しいのね……。さやかさんはきっと、私を案じて忠告しにきてくれたのではないかしら?」

梢「でもね、その心配はいらないわ。なぜなら水素水は正真正銘──『奇跡の水』なんだから!」

さやか「でーすーかーらー……水素水なんて存在しません! ひたすら水分補給しているだけなんです! いい加減、気づいてください!」

さやか「先輩も花帆さんも、メーカーにとっていいカモですよ? このままじゃ誰も幸せになりませんよ!?」

梢「…………」



梢「──聞き捨てならないわね」キリッ

さやか「!」

16: 名無しで叶える物語(たこやき) 2023/07/15(土) 15:58:37.65 ID:2iaCSsun
梢「ねえ、さやかさん……。私もね、最初はさやかさんと同じ意見だったのよ?」

梢「飲むだけで身体の調子が良くなり、万事うまくいく魔法の水なんてあるわけないって……そう思っていたわ」

梢「けれど私は知った、水素水には揺るぎないエビデンスがあるのよ! 水素水はすごいの!!」

さやか「な、なるほど……」

さやか「どうやら、その付け焼き刃の理論武装を崩す必要があるみたいですね……」

梢「それは不可能よ、なぜなら水素水は完璧なんだから!」


さやか「……そういえば先輩」

さやか「以前、水素水の説明をする際に『水に水素分子が溶けている』と仰っていましたけど……これってなんの根拠もない出任せですよね?」

さやか「水素は水に溶けるわけありません。これくらい中学生でもわかることですよ?」

梢「っ……! いえ、私たちは門外漢だから知らないだけなの。水素は水に溶けるし、化合するはずよ!」

さやか「……そうですか」

さやか「じゃあ先輩。その化合した水素水の構造式、言ってみてください」

梢「構造式ね……? ええ、わかったわ。それさえ言えば、さやかさんは私を信用してくれるのね」

梢「…………」



梢「え……H14O……?」

さやか「自信なさげじゃないですか!」

19: 名無しで叶える物語(たこやき) 2023/07/15(土) 16:02:02.68 ID:2iaCSsun
さやか「やっぱり梢先輩も気づいてるんですよね!? 水素水は嘘っぱちだって!」

梢「そ、そんなこと……!」

梢「H14O(水素水)は…………あるわ……!」

さやか「ないですよ! 普通に考えておかしいと思いませんか?!」

さやか「酸素1人に対し、14人で寄って集って取り囲むって! これじゃ酸素がかわいそうじゃないですか!」

梢「まあ、すごいわ! 元素を擬人化するなんてとてもユニークな発想ね、さやかさん」

さやか「話を逸らさないでください!」

さやか「大体なんですか、水素って!? 上方置換で集めたんですか? 火を近づけるとよく燃えるんですか?!」

梢「お、落ち着いてさやかさん! ほら、水素水でもどう?」プシッ

さやか「いりませんよ! なにが『プシッ』ですか! 仮に水素が溶けていたとしても今の瞬間に逃げてるじゃないですか!!」

梢「うぐ……」


梢「あ、そうよ! エビデンスならまだ残っていたわ! きっとさやかさんにも理解してもらえるはずよ」

さやか「……」

梢「そんな目で見ないで!? これは歴としたデータなんだから!」フンス

梢「──確かにあなたの言う通り、水素水の科学的根拠は"希薄"かもしれない」

さやか「うまいこと言わないでください」

梢「……けど、これを見て!」

さやか「!!」

22: 名無しで叶える物語(たこやき) 2023/07/15(土) 16:04:20.05 ID:2iaCSsun
――――――――――

【水素水ユーザーの喜びの声、続々!】


『東京在住 女性(会社経営)』
私は水素水のおかげで人生ばら色になりました!
年収は103万→1億に、友達もたくさん増え、家族関係も良好に!
そしてなんと!部活の大会で一等賞をもらえたんです!
これもすべて水素水パワーです!ありがとう!

『北海道在住 女性(学生)』
私は水素水のおかげで友達100人できました!
高校進学を機に上京したものの、慣れない土地になかなか馴染めなかった私。そんなある日、水素水を持ち歩いてみたらクラスのみんなが話しかけてくれました!
それからというもの、放課後はみんなで集まり、お気に入りのフレーバーをシェアし合い水素水パーティです。
水素水があってよかった!ありがとう!

『上海在住 女性(芸能)』
私は水素水のおかげで日本に来れたデース!
水素水パワーで体力がめきめきついて自分の成長を感じることができマース!あと友達もできたデース!
中国では1割しか認知度はありマセンが、これからもっともっと広めていきたいデース!ありがとう!

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23: 名無しで叶える物語(たこやき) 2023/07/15(土) 16:07:00.63 ID:2iaCSsun
梢「……ね? 見てもらえば分かる通り、水素水を飲んで人生を向上させた人はたくさんいるのよ!」

梢「これだけの証言があればもう、水素水の効果を認めざるを得ないと思うのだけれど?」

さやか「どうして匿名の意見を鵜呑みにしているんですか……。どれも似通った内容ですし、すべて同じ人が書いた自演なのでは?」

梢「自演!? そ、そうね……匿名だとそうなるのね……」

梢「……だったら! これならどうかしら?!」バッ

さやか「この画像は……トレーニングジム?」

梢「ええ! ジムには高確率で水素水サーバーが設置されているわ。筋トレ後に一杯やるのがトレーニーの流儀なの」

梢「それすなわち、全国のトレーニーたちは水素水の効果を認めているという証左なのではないかしら?」

さやか「彼ら彼女らは脳まで筋肉なので判別つかないのだと思われます。きっと水ならなんでもいいんです」

梢「っ! ……なにも言い返せないわ」


梢「で、でも……でも!」

梢「私はこの身で実際に……水素水の効果を体感しているのよ!? いわば水素水の生き証人! これにはどう説明をつけるつもりかしら!?」

さやか「はあ……それが一番簡単な理屈ですよ」

梢「!」

さやか「いいですか、先輩? 思い込みというのは、時に凄まじい力を発揮するものなんです」

さやか「なんの効果もない粉を風邪薬と言って与えたら、病気が治ったという話もあるぐらいですからね」

梢「偽薬……プラシーボ効果ね……」

さやか「たぶん梢先輩は最初から、水素水を信じきっていたんです。だから体調の変化が顕著に現れたんですよ」

梢「!!」


さやか「……反論はないみたいですね」

梢「ま、まさか……私が…………?」

25: 名無しで叶える物語(たこやき) 2023/07/15(土) 16:08:45.25 ID:2iaCSsun
さやか「お分かりいただけましたか? 冷静に考えれば、水素水がありえないことは自明の理なんですよ」

さやか「水素水の製造なんて不可能ですし、もし仮に作れても人体に都合よく作用するわけないんです」

梢「うう……」

さやか「改めて断言しておきます」







さやか「──あなたはっ! 詐欺に! 遭ったんですよ……!」

さやか「さっさと認めてください、乙宗梢!!」

梢「ああ、そんな……! あああああ…………」

27: 名無しで叶える物語(たこやき) 2023/07/15(土) 16:12:26.93 ID:2iaCSsun
梢「待って頂戴……溺れそうよ……」

さやか「早く陸に上がってください。地に足つけてください」

梢「と、とりあえず……水素水を飲んで落ち着きましょう? 水素水にはね! 自律神経を整える効果があるのよ!」

さやか「飲むわけないじゃないですか! ただの水ですよ、それ!?」

梢「た……ただの、水……!?」

梢「そうよね……ふふっ、これは普通の水なのよね……ふふふふふふ……」

梢「こんなものを一本500円で購入していたのね……? ほんと、バカな梢……」

さやか「か、価格設定が富士山頂と同じ……!」

梢「……ありがとうさやかさん。あなたのおかげで自身の愚かさに気づくことができたわ……これは勉強代ね……」

さやか「っ……! す、すみません……。わたしったら、先輩にかなり失礼なことを口走っていたような……! つい熱くなってしまいました……」

梢「いいのよ、いいの……。まんまと騙されていた私が悪いのだから……」


さやか「ところで、なんですけど」

さやか「わたしが梢先輩を訪ねたのは、先輩に現実を突きつけるためではありませんよ」

梢「え……?」

さやか「花帆さんのことなんですけど……」

さやか「先輩は、花帆さんが水素水を購入しているのはご存知ですか?」

梢「ええ、まあ……それもすべて私の責任ね。花帆さんが支払った分の代金は私が肩代わりしないと……」

さやか「そうですか。段ボール50箱分ですから、先輩の負担もさぞ重いでしょうね」

梢「そうねぇ。500円×24本×50箱なのだから──」



梢「え、50箱?」

さやか「はい、50箱です」

28: 名無しで叶える物語(たこやき) 2023/07/15(土) 16:16:08.40 ID:2iaCSsun
梢「ごじゅ……え? ちょ……50…………え??」

梢「…………ごじゅ、え? ほんとに……?」

さやか「はい、50箱です」

梢「か、花帆さんの行動力には……いつも、驚かされるわ……ふふふふふ」ガクガク

さやか「気持ちはお察しします。わたしも震えましたよ」

梢「……詐欺のこと、花帆さんは知っているのかしら?」

さやか「いえ。花帆さんより先に、まずは梢先輩に事の次第を伝えるべきだと思ったので」

梢「そう……! さやかさんには気を遣わせちゃったわね」

さやか「一応、花帆さんのほうはクーリングオフの要件を満たしています。手続きさえ済ませばお金は戻ってくるはずです」

梢「…………そう、ね……」


さやか「……もちろん、それには花帆さんの協力が必要です。クーリングオフをするなら、花帆さんにはすべてを話さなければなりません」

さやか「『水素水は嘘で、花帆さんも騙されている』──と」

梢「ええ、分かってる。……でもそうしたら彼女、どんな顔をするかしら」

さやか「そうですね……」

さやか「『あたし、アホ花帆だ……こんなのに騙されて、梢センパイやさやかちゃんにまで迷惑かけて……全部全部あたしのせいだ……』って、消灯しちゃいそうですね」

梢「違うわ!! 悪いのはすべて私なの! あなたはなにも悪くないのよ!?」

さやか「わたしに言われましても……」

梢「花帆さんの笑顔を壊すのは心苦しい……! でも、このままにしておくわけにもいかないものね…………」



梢「……決めたわ」

梢「今から花帆さんの部屋に出向き……そこですべてを話すことにする」

さやか「では、わたしも近くまでご一緒します」

梢「……ありがとうさやかさん、助かるわ」

29: 名無しで叶える物語(たこやき) 2023/07/15(土) 16:18:04.98 ID:2iaCSsun
―――――――――――――――
―――――

梢「……本当ね。花帆さんの部屋から段ボール箱がはみ出ているわ……」

さやか「あれは氷山の一角です。さらに奥には山積みの段ボールたちが堆く連なってるみたいです」

梢「一刻も早く、クーリングオフしないと……!」


梢「すぅぅ……」

梢「ふぅぅ……」

梢「……じゃあ行ってくるわね。ここまでついてきてくれてありがとう、さやかさん」

さやか「先輩、頑張ってくださいね」

梢「……ええ」





花帆「──ふんふん」


梢「! 部屋から花帆さんの声が……」

さやか「あ、そういえば今は配信中でした……! 配信が終わるまで待ちましょうか」

梢「そうね」

33: 名無しで叶える物語(たこやき) 2023/07/15(土) 16:21:18.09 ID:2iaCSsun
花帆「ふんふん……向日葵さん『さやかちゃん風邪なの? 心配!』」

花帆「だよねだよね?! あたしも心配だよ〜!」

花帆「ほんとは今日、さやかちゃんとふたりで配信の予定だったのになあ……花帆はとても寂しいです……」


さやか「ドアが開きっぱなしだから、外まで声がだだ漏れですね……」

梢「さやかさんは体調不良でお休み、ってことになっているみたいね?」

さやか「あ、そうでした……! あとでうまく話を合わせないといけませんね」


花帆「さやかちゃん、今頃どうしてるのかな……? 配信が終わったらお見舞いに行こうと思うんだけど、なにを持っていけばいいんだろ?」

花帆「ふんふん……秋桜さん『おかゆ作ってあげよう』」

花帆「あ、いいねそれ! さやかちゃんフラフラだったし、ごはん食べれてないかもしれないもんね!」


さやか「夕ごはん一緒に食べたじゃないですか……」

梢「ふふっ、心配しすぎて忘れているのかしら? かわいいわ」


花帆「あ、そうだ! おかゆ作るならやっぱ、アレを持っていかなくちゃ!」

花帆「ちょっと待っててね? センパイからもらった分が、まだ冷蔵庫にあったはず……あった!」ドタバタ

花帆「じゃじゃーん、みんな見て見てー! これがなんだか分かるかな〜?」


梢「私に、もらった……?」

さやか「ま、まさか…………」





花帆「これはね、水素水っていうの! 身体にとってもいい万能薬なんだよ!!」

さやか&梢「」

35: 名無しで叶える物語(たこやき) 2023/07/15(土) 16:24:13.25 ID:2iaCSsun
梢「か、花帆さん……水素水のことを、ファンのみなさんに話しているわ……」

さやか「──先輩! 今すぐ突入してください! もうなりふり構っていられません!」

梢「突入!?」

さやか「水素水の件はまず間違いなく、コメントで指摘されます! ──それより先に、先輩の口から本当のことを言うんです!」

さやか「これは心証の問題です! 配信コメントで知らされるか、先輩の口から教えてもらうか……花帆さんにとってどちらがいいですか?!」

梢「……そうね! 行ってくるわ!」バッ


花帆「えへへー。実は梢センパイに教えてもらったんだー、この水素水」

花帆「飲むとね、びっくりするくらい体の調子がよくなるの! ほんとすごいよね!」

花帆「今うしろに映ってる段ボールもみんな水素水なんだよ! びっくりした?」

梢「…………花帆さ──!」



花帆「ん? ふんふん……」

花帆「菫さん『騙されてるったら騙されてるわよ!』……って、えええ!?」

梢「!!」

さやか(ああ! 間に合わなかった……!!)

37: 名無しで叶える物語(たこやき) 2023/07/15(土) 16:26:03.99 ID:2iaCSsun
花帆「騙されてる……って、どういうこと……?」

花帆「菖蒲さん『それ先輩が嘘ついてるよ』…………え、嘘……? そんな……わけ……」

花帆「あ、あれ……? 他のコメントもみんな、水素水は効果ないって言ってる…………なんで……」

梢「ああ……花帆さん…………」

梢「違うの…………私は、ただ……」

花帆「…………」





花帆「みんな、待って! 梢センパイがあたしに嘘つくわけないよ!!」

梢「!!!!」

40: 名無しで叶える物語(たこやき) 2023/07/15(土) 16:32:14.28 ID:2iaCSsun
花帆「水素水はね、梢センパイが教えてくれたんだよ?! 身体にすごくいいんだって……それなのに効果がないわけないじゃん!」

花帆「梢センパイはね、いつもあたしのことを第一に考えてくれてるんだよ?」

花帆「練習メニューもあたしのために細かく調整してくれるし、あたしが悩んでたらすぐ気づいて親身に相談に乗ってくれるの!」

花帆「ちょっと怖いときもあるけど、厳しさの裏にはいつも愛が溢れてて、すごく優しいセンパイなの……」

花帆「こんなに頼りになる人、他にないってくらい……大切な存在なの……」

花帆「あたしにとって、梢センパイは……雨と、風と、太陽みたいな人で…………いつもあたしの心に、花咲かせてくれる……大好きな人……」

花帆「あたし、は……そんな、梢センパイ、を……心から尊敬、して…………梢センパイは……すごい人なんだって…………」

花帆「あ………………ぐすっ、ごめ…………なんか、さあ……悔しくって…………! あたしの、センパイを……バカにされたみたいで……」

花帆「っ……センパイ、は……絶対……うそついたりなんて、しないって…………それだけは、みんなにも、わかって……ほしいの……」

花帆「………………すんっ……もう、大丈夫です…………ごめんね? 急に取り乱しちゃって……」

花帆「えっと、だから……誰が、なんと言おうと……」

花帆「あたしは……梢センパイを信じてる!!」







梢「言えなかったわ……」トボトボ

さやか「……」

43: 名無しで叶える物語(たこやき) 2023/07/15(土) 16:39:46.11 ID:2iaCSsun
梢「花帆さんが私のこと大好き過ぎるのだけれど」

さやか「こうなることは薄々読めていましたよ……。やれやれ、梢先輩らしいというか……」

さやか「……」

梢「仕方ないわ……こうなったら、私が全額負担するしかないわね……」

さやか「……先輩」

梢「そんな目で見ないで!? 分かってる、分かってるのよ……!」

梢「そうね、正直に伝えるほうが誠実よね! でも、あれだけ慕ってくれている後輩に……失望されたくないの……」

梢「後輩の前で格好つけてしまうのは、私の悪い癖ね……」

さやか「はあ…………。先輩、そうではなくて」

さやか「実は、可能ですよ? 花帆さんになにも知らせず、クーリングオフを済ませるのは」

梢「ほ、本当かしら?!」

さやか「サインさえあればいけます。花帆さんには書類内容を見せず、適当な理由をつけて書かせれば……」

梢「待って! そ、それはつまり……花帆さんを騙すということ!? 私にはできないわ、そんなの……!」

さやか「では、花帆さんに真実を話しますか?」

梢「!!!!」

梢「…………それしか方法はないのね……」

さやか「はい。必要書類等はわたしが用意しておきますね」

梢「お願いするわ……。でも、私にできることがあるならなんでも言って頂戴」

さやか「はい、なんでも言いますね」


梢「ああ……。どうしてこんなことになってしまったのかしら……」

梢「私が、もっとしっかりしていれば……」

さやか「元はと言えばわたしにも責任があります。もっと早く伝えていれば……」

さやか「……なんて考えてたら切りがありません。梢先輩、わたしたちが今すべきことはなんですか?」

梢「……そうね。今は花帆さんを救うことだけを考えるわ」

さやか「はい。とりあえず、件の詐欺業者に連絡したいんですけど……社名は覚えていますか?」

梢「それならちょうど、この段ボールの差出人欄に書いてあるわ」

さやか「あ……! ほんとだ、住所や電話番号までご丁寧に……」



さやか「社名は──『オニナッツ健康食品』ですか」

46: 名無しで叶える物語(たこやき) 2023/07/15(土) 16:43:31.80 ID:2iaCSsun
さやか「…………」

『お掛けになった番号は、現在使われておりません』

さやか「だめです。やっぱり繋がりません」

梢「そう……ここに記載されている情報は偽物かもしれないのね」

さやか「まあそうだと思いましたよ。阿漕な商売を生業にしている悪徳詐欺会社ですからね……そう易々と尻尾は掴ませないでしょう」

さやか「しかし、どうやってクーリングオフの書類を叩きつけてやればよいのやら……」

梢「そうねぇ。住所が間違っているのなら、いくら書類を郵送しても意味がないものね」

さやか「んー……。ホームページを見た感じ、どうやら立派なオフィスみたいですね」

さやか「そもそも存在しているかもわかりませんが……賭けてみるほかありませんね……。はあ…………」


さやか「……」ポチポチ

梢「それは……?」

さやか「このままでは、花帆さんが水素水を持ってお見舞いに来てしまいますので」ポチポチ

さやか「……送信っと」ポチッ



花帆「……あ、さやかちゃんから連絡だ! ふんふん……」

花帆「『ごはんは食べました。花帆さんの声を聞いていたら元気になってきましたので、ご心配なさらずに』……だって! さやかちゃん配信見てくれてたんだ……!」

花帆「あーよかったー! ずっと心配してたけど、大丈夫だって。みんなも安心していいよ!」

48: 名無しで叶える物語(たこやき) 2023/07/15(土) 16:47:23.18 ID:2iaCSsun
―――――――――――――――
―――――

さやか「それではまた部室で。これ以上できることはありませんし、消灯時刻も近いですので」

梢「あの、さやかさん……この度は本当に……」

さやか「……その続きはわたしではなく、花帆さんに言ってください」

梢「…………分かったわ。……ただ、すべてが解決したそのときは──どうか私に、謝罪させて頂戴」

梢「あなたにはすでに、感謝してもしきれない恩があるの」

さやか「……」


梢「それじゃあ……おやすみなさい、さやかさん」

さやか「……おやすみなさい、梢先輩」

さやか「…………」

さやか「…………」

さやか「はあ…………」





綴理「さや」

さやか「ひゃあっ!!??」

49: 名無しで叶える物語(たこやき) 2023/07/15(土) 16:48:43.01 ID:2iaCSsun
さやか「つ、綴理先輩……! もう、驚かさないでくださいよ!」ドキドキ

綴理「ごめん。さやのかわいい声が聴けそうな気がして」

さやか「まったく……。って、先輩はこんなところでなにをされてるんですか?」

綴理「わ、ボクも同じこと言おうと思ってたんだ。偶然だね?」

さやか「偶然というか、当然の疑問でしたね」

綴理「あ、そうそう、質問の答え……さやがこずの部屋の場所、聞いてきたでしょ? だからなにかあるな……と思って」

さやか「……なにかありましたよ。そして用件は済んだので、部屋に戻ろうとしていたところです」

綴理「そっか……」



綴理「──さや、どうして怒ってるの?」

さやか「!!」

50: 名無しで叶える物語(たこやき) 2023/07/15(土) 16:52:26.54 ID:2iaCSsun
さやか「……いらいらなんて全然してませんが?」

綴理「絶対怒ってる……!」

さやか「と、とにかく! 綴理先輩には関係のないことです。さ、部屋まで送りますよ」

綴理「大丈夫。どんぐり置いてきたから帰り道はわかる」

さやか「そうですか? ではわたしはここで失礼します」


綴理「…………さや!」

さやか「今度はなんですか」

綴理「あ…………」

綴理「ボク、これでも先輩だから」

さやか「はい、知ってますけど?」

綴理「さやが相談、してくれたら……喜ぶ、かも」

さやか「……ご心配には及びません。この件で、綴理先輩の手を煩わせたりはしませんから」

綴理「えっと……」

さやか「そうだ、先輩……。綴理先輩は大丈夫だとは思いますが一応、忠告しておきます……」

さやか「"契約"にだけは、十分気をつけてくださいね」

綴理「契約……?」

さやか「それでは、おやすみなさい」スタスタスタ

綴理「おやすみ…………あ、さや……」



綴理「うう……」

綴理「ボク、さやに"先輩"できなかった…………」

52: 名無しで叶える物語(たこやき) 2023/07/15(土) 16:57:45.62 ID:2iaCSsun
―――――――――――――――
―――――

花帆「おっはよーございます!」フラワー!

綴理「おはよう、かほ」

花帆「綴理先輩おはようございます! あ、さやかちゃん、体調よくなっ──」


さやか&梢「……」ズーン

花帆「……あ、あれ? ふたりとも、どうかしたんですか……?」

綴理「かほ。すごいことになった」

花帆「え、なになに!? なんですか!!」ワクワク

梢「ふぅ…………」

梢「花帆さん……。あなたに、大事な話があるのだけれど……」

花帆「えっ……も、もしかして、スリーズブーケ解散ですか?! イヤです、そんなの!!」

梢「そんなことしないわ!! 私だってイヤよ!!」

梢「…………ただ、場合によってはその可能性も……」ボソッ

さやか「梢先輩」

梢「あ、いえ! なんでもないわ……!」

花帆「……?」

梢「……ところで花帆さんは、今週末……なにか予定はあるかしら?」

花帆「えっと、特には。そうだ、さやかちゃんとスケートに行きたいなーとは思ってましたけど」

梢「そう……ならよかったわ」

花帆「?」

梢「突然で申し訳ないのだけれど、今度の休日に──」



梢「私たち4人で、東京観光することになったわ!」

花帆「えっ…………えええええーーー!!?」

53: 名無しで叶える物語(たこやき) 2023/07/15(土) 16:59:27.20 ID:2iaCSsun
―――――――――――――――
―――――

花帆「おっはよーございます!」フラワー!

綴理「おはよう、かほ」

花帆「綴理先輩おはようございます! あ、さやかちゃん、体調よくなっ──」


さやか&梢「……」ズーン

花帆「……あ、あれ? ふたりとも、どうかしたんですか……?」

綴理「かほ。すごいことになった」

花帆「え、なになに!? なんですか!!」ワクワク

梢「ふぅ…………」

梢「花帆さん……。あなたに、大事な話があるのだけれど……」

花帆「えっ……も、もしかして、スリーズブーケ解散ですか?! イヤです、そんなの!!」

梢「そんなことしないわ!! 私だってイヤよ!!」

梢「…………ただ、場合によってはその可能性も……」ボソッ

さやか「梢先輩」

梢「あ、いえ! なんでもないわ……!」

花帆「……?」

梢「……ところで花帆さんは、今週末……なにか予定はあるかしら?」

花帆「えっと、特には。そうだ、さやかちゃんとスケートに行きたいなーとは思ってましたけど」

梢「そう……ならよかったわ」

花帆「?」

梢「突然で申し訳ないのだけれど、今度の休日に──」



梢「私たち4人で、東京観光することになったわ!」

花帆「えっ…………えええええーーー!!?」

54: 名無しで叶える物語(たこやき) 2023/07/15(土) 17:01:03.55 ID:2iaCSsun
花帆「と、東京!? ということはぁ……大都会!!」

花帆「すごいすごい! ……でもどうして東京に?」

梢「そ、それは……」

さやか「み、みんなで東京行きたいですねー、って話をしていたところだったんですよ!」

さやか「ほら、東京には楽しい場所がたくさんありますし! 東京ディズニーランドや東京ディズニーシー、そして東京ドイツ村!」

梢「私たちが行くのは原宿周辺なのだけれど……。それでも、流行の最先端に触れることができるいい機会だわ!」

さやか「と、いうわけですので……花帆さん! 出発の金曜日までに準備を済ませておいてくださいね!」

花帆「うん!! 東京かあ……なに持っていこうかな〜?」

綴理「かほ。一緒におやつ選ぼう……!」

花帆「もちろんです! あ、綴理先輩知ってますか? 遠足のおやつは500円までなんですよ!」

綴理「えー……。じゃあ、おでんはおやつ?」

花帆「んー、難しいところですね……。バナナはおやつだから、おでんも……?」

56: 名無しで叶える物語(たこやき) 2023/07/15(土) 17:04:09.36 ID:2iaCSsun
梢「…………」

梢「東京にある、『オニナッツ健康食品』本社……そこに乗り込むのね」

さやか「はい。本当はふたりで行くのが理想でしたけど、流石に東京行きは隠せませんからね」

梢「……綴理にはなにも話していないのよね?」

さやか「はい、旅行に行くとだけ……」

さやか「口が硬いとは思いますが、これは念のためです……。もちろん、わたしは綴理先輩を信じていますけどね?」

梢「そうね……。あの子に悪意はなくても、うっかり喋ってしまう可能性はあるものね」

さやか「……わたしたちの任務は二つ」

さやか「『花帆さんが交わした契約を破棄すること』。そして、『花帆さんにこの一件を隠し通すこと』、です」

さやか「花帆さんの笑顔を守るため……必ず成功させましょう!」

梢「ええ! もちろんそのつもりよ!」


花帆「……ん? 梢センパイとさやかちゃん、なんだか親密……?」

さやか「そんなことありませんよ? それより花帆さん、観光したいスポットなどは見つかりましたか?」

花帆「んー……どこもキラキラしてて目移りしちゃうな〜」

花帆「あーでも、せっかくの東京だし、食べ歩きしてみたいかな〜。みんなはどうです?」

梢「花帆さんが望むなら私も賛成よ」

綴理「同じく。東京いっぱい食べたい」

さやか「それは難しそうですが……。いいですね、向こうに着いたらいっぱい食べましょう!」

花帆「うん!」


さやか(待っててください、花帆さん!)

さやか(わたしが必ず、騙し取られたお金を取り返してみせます……!)





さやか「行きましょう────東京へ!」

引用元: 梢「水素水は身体にいいのよ」さやか「え……?」