1: ◆XiAeHcQvXg 2013/04/05(金) 14:25:13.85 ID:1i2XHQMk0
時系列的にはつきひフェニックス直後です。

とは言っても、平行世界的な感じなので、原作との食い違いがあると思います。(傾物語的な)

夏からのセカンドシーズンへ向けて、暇潰し程度に読んで頂ければ幸いです。

内容的にはファイヤーシスターズのお話となります。

拙い文章ですが、宜しくお願いします

SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1365139513

2: ◆XiAeHcQvXg 2013/04/05(金) 14:26:14.12 ID:1i2XHQMk0
火憐と月火。

栂の木二中のファイヤーシスターズ。

僕の妹達。

彼女達の事を語るのは少しだけ難しいかもしれない。

何故、と問われても、その質問にすら答えるのは難しい。

だけど、敢えて言わせて貰うと。

言いたく無い、と言うのが正解なのだろうか。

3: ◆XiAeHcQvXg 2013/04/05(金) 14:27:11.63 ID:1i2XHQMk0
昔の思い出なんて物は、時間の経過によって記憶の奥底に封じ込められるのも仕方が無い物だ。

けど、絶対に忘れてはならない思い出もある筈なのだ。

例えば、戦場ヶ原に誘われた初めてのデート。

あの日の夜空を忘れる事は無いだろう。

例えば、八九寺と初めて会った日の出来事。

あいつとのやり取りは今でも僕の日課(実際には毎日会っている訳でも無いが、気持ち的に)である。

例えば、神原の左腕。

大事な後輩、変 ではあるが。

例えば、千石との再開。

形は望まれた物では無かったが、確かにあれは思い出なのだ。

例えば、羽川に助けられた事。

羽川が居なければ、僕は今頃。

例えば、忍との最初の出会い。

背負わなければならない、忘れる事なんて出来ない。

4: ◆XiAeHcQvXg 2013/04/05(金) 14:27:53.33 ID:1i2XHQMk0
と、色々思い出して見た物の、怪異絡みの事が殆どである。 僕の青春って一体なんなのだろう。

まあ、そんな感じで忘れてはならない物と言う事は必ずある。

他にも色々とあるが、思い出していたらキリが無さそうなのでここらで一度、今回の話とは関係無い者の話は辞めよう。

そう、あくまでも今回は僕の妹達、火憐と月火の話だ。

これもまた、忘れてはならない話。

思い出、とは違う話。

付け加えて言うならば、シリアスな話。

蜂に刺された火憐。

不如帰の月火。

そんな二人の妹の、忘れてはならない物語。

正確に言えば、僕が忘れてはいけない物語。

5: ◆XiAeHcQvXg 2013/04/05(金) 14:28:28.54 ID:1i2XHQMk0
その日は何故か、いつもより早く目が覚めた。

夏のせいか、はたまた先日までの戦いのせいか、それとも僕にも規則正しい生活リズムが身に付いたとか。

最後のはねえな。 不規則な生活を普段からしているのに、いきなり規則正しいリズムになれるんだったら誰も苦労なんてしないだろう。

羽川でもあるまい。

いや、そもそも羽川なら不規則な生活なんてしないか。

6: ◆XiAeHcQvXg 2013/04/05(金) 14:32:10.59 ID:1i2XHQMk0
とにかく。

一応理由を付けるとしたら、たまたまと言う事になるのだろう。

それ以外に理由なんて見つからないし、そうするのが理に適っている。

つまり今日、僕は普段より早く目を覚ましたのだ。

7: ◆XiAeHcQvXg 2013/04/05(金) 14:32:46.22 ID:1i2XHQMk0
さて、時計からするといつもより三十分は早く起きているらしい。 どうした物か。

寝起きですぐに勉強、って感じでも無いしなぁ。

いや、これは頭を動かすのが嫌とかでは無く、回らない頭を回しても却って逆効果になるんじゃないか、と言う僕の判断に寄る物だ。

だから勉強が嫌と言う訳では無い、決して。

さてさて、それならば何をしようか?

8: ◆XiAeHcQvXg 2013/04/05(金) 14:33:23.87 ID:1i2XHQMk0
二度寝でもしようか。

時間がある時の二度寝程、気持ちが良い物は中々無い。 だが、それは止めた方がいいか。

いつもなら三十分後には妹達が起こしに来る筈なので、二度寝をしても目覚め方を最悪にするだけで良い案だとは言えないだろう。

ならばどうする?

たまには、妹達を出迎えるのも良いだろう。

とびっきり、優しく。

9: ◆XiAeHcQvXg 2013/04/05(金) 14:33:51.63 ID:1i2XHQMk0
忍「おい、お前様よ」

暦「うわ、起きてたのかよ」

びっくりした、朝から心臓に悪い事をしてくれる吸血鬼だな。

心臓に悪い事をしない吸血鬼、と言うのも変な響きになるか。

なら、やっぱり心臓に悪い事をする吸血鬼。 こっちの方がしっくり来る。

忍「何をくだらない事を考えておるのじゃ」

暦「いやいや、忍も心臓に悪い事をする吸血鬼と心臓に悪い事をしない吸血鬼だったら、前者の方がしっくり来るだろ?」

10: ◆XiAeHcQvXg 2013/04/05(金) 14:34:35.39 ID:1i2XHQMk0
忍「……お前様が何を言っているのか、儂にはちと分からんが」

忍「違うわい。 その今考えてる事より少し前の方じゃ」

少し前? 何か考えていたっけ、僕。

こんな言い方をすると、常に何も考えていないただの馬鹿に見えてしまうだろうから、何か考えていたのだろう。

僕は常に何も考えていないただの馬鹿では無いのだ。

暦「っとすると、羽川の事か!」

11: ◆XiAeHcQvXg 2013/04/05(金) 14:35:48.12 ID:1i2XHQMk0
忍「……わざとやっておるじゃろ」

暦「おいおい忍、僕が人生に割く考え事の内、半分は羽川の事だぜ」

暦「つまり、忍が言っているくだらない事ってのも羽川の確率が五十パーセントなんだよ」

でも、羽川の事をくだらないって、例え忍だとしても許せない事態なんだけど。

忍「妹御の事じゃ」

僕に付き合うのが疲れたのか、忍はとっとと話を詰めてきた。

もう少し付き合ってくれても良いだろうに、付き合いの悪い吸血鬼も居たものだ。

暦「なあ、忍」

忍「なんじゃ、お前様よ」

暦「付き合いの悪い吸血鬼ってどう思う?」

12: ◆XiAeHcQvXg 2013/04/05(金) 14:36:29.82 ID:1i2XHQMk0
僕がそう言うと、忍は凄惨に笑い、こう言った。

忍「一瞬で死ぬか、じっくりと死ぬか、どちらでも好きな方を選んでよいぞ」

どっちにしろ死ぬじゃねえか!

13: ◆XiAeHcQvXg 2013/04/05(金) 14:37:20.72 ID:1i2XHQMk0
閑話休題。

つまり、忍の言う『くだらない事』とは、僕が考えた妹達を出迎える方法の事だろう。

その結論に素早く辿り着き、発言する事でなんとか死ぬのは免れた。

ぶっちゃけ、忍とガチバトルになっても僕が死ぬ事は無いと思うけどな。

暦「それで、どうしてくだらない何て思ったんだ?」

忍「前にも言った様に、お前様の感情の変化は儂に伝わってくるんじゃよ」

14: ◆XiAeHcQvXg 2013/04/05(金) 14:37:51.91 ID:1i2XHQMk0
忍「その感情から察するに『ああ、どうせまたくだらない事を考えておるな』との結論に儂は辿り着いたのじゃ」

暦「随分と失礼な吸血鬼だな」

失礼じゃない吸血鬼と言うのも、面白いけど。

暦「なあ、忍」

忍「失礼じゃない吸血鬼はどう思う。 等と言ったら分かっておるな?」

暦「いやいや、全然そんな事は思ってないよ。 マジマジ」

暦「えっと、つまり」

暦「僕がこれからしようとしてる事は、くだらない事じゃないって事を言いたいんだよ」

15: ◆XiAeHcQvXg 2013/04/05(金) 14:38:18.42 ID:1i2XHQMk0
忍「現在進行形でくだらない事をしておるがの」

忍の口から現在進行形、なんて言葉が出てくる方が個人的には驚きだ。

一体いつ、こいつは学んでいるのだろうか?

忍「まあ、お前様がそこまで言うからには……さぞ、くだらない事では無いのじゃな?」

忍「断言しておったからの、くだらない事では無いと」

忍「それこそ恐らく、妹御達の将来に関わるかもしれん程にな」

16: ◆XiAeHcQvXg 2013/04/05(金) 14:39:40.99 ID:1i2XHQMk0
むむむ。

忍の奴め、無駄にハードルを上げやがった。

忍「ほれ、早く言ってみせよ」

僕の焦りが伝わったのか、忍は嫌らしくにやにやと笑っている。

暦「一応確認しておくけど、もしくだらない事だったらどうするんだ?」

忍「蹴る」

なんだ、それだけか。

今の忍は肉体的には八歳児と変わらないし、それならまあ、くだらない事と思われてもいいよな。

17: ◆XiAeHcQvXg 2013/04/05(金) 14:40:15.08 ID:1i2XHQMk0
暦「起こしに来る妹達を驚かせるんだよ、何か罠を張って」

凄惨とは言えない物の、笑顔を作りながら忍に言った。

直後。 蹴られた。 脛を思いっきり。

暦「いってええええええ!!」

八歳児に蹴られて蹲る僕。 これはこれでありか?

忍「やはりくだらん事じゃったか。 聞いて損したわい」

忍「お詫びにゴールデンチョコレートを三つじゃ!」

なんだよそのお詫び。 というか、僕は、特にお前が不利益を被る事なんてしていないが!

18: ◆XiAeHcQvXg 2013/04/05(金) 14:40:42.36 ID:1i2XHQMk0
忍「それで、具体的にはどう驚かせるのじゃ?」

ノリノリじゃねえか、この吸血鬼。

暦「なんだ忍、手伝ってくれるのか」

忍「手伝うと言うよりは、眺めておる感じじゃな」

暦「そうかよ、まあ期待はしてなかったけどさ」

暦「よし、それじゃあ早速取り掛かるとしよう」

と何か壮大な仕掛けをする様な感じで言ってみたが、僕が取った行動はとても単純な物である。

19: ◆XiAeHcQvXg 2013/04/05(金) 14:41:11.65 ID:1i2XHQMk0
つまり。

クローゼットの中に、閉じ篭る。

忍「こんな所に隠れて、どうするんじゃ?」

暦「どうするって、それだけだよ」

忍「これのどこに驚く要素があるんじゃ、お前様よ」

何を言っているんだ、忍の奴。

驚く要素だらけで、挙げだしたら枚挙に暇が無いではないか!

暦「まず、あの妹達は僕を起こしに来るだろ?」

忍「その前提じゃよ、起こしに来なかったらどうするんじゃ?」

暦「いや、それは無い」

即断。 断言。

忍「……お主、よっぽどじゃな」

20: ◆XiAeHcQvXg 2013/04/05(金) 14:41:41.09 ID:1i2XHQMk0
忍「まあよい、それで起こしに来たとして、その後は?」

分かってないなぁ、こいつ。

暦「考えてもみろよ、忍」

暦「居る筈の兄が居ないんだぜ? それがどれだけの驚き要素に溢れている事か」

暦「多分、あいつらは」

暦「『兄ちゃんがいない!』『お兄ちゃんがいない!』って顔を見合わせるんだ、最初に」

暦「それで、その後は泣き叫びながら家中を捜すんだよ」

暦「そこで僕が颯爽と登場」

暦「『どうしたんだい、火憐ちゃんに月火ちゃん』」

暦「『何か嫌な事でもあったのかい?』って感じで」

21: ◆XiAeHcQvXg 2013/04/05(金) 14:42:14.16 ID:1i2XHQMk0
忍「今のお主、ドむかつくぞい」

ドむかつくってなんだよ。 新しい言葉を作るなよ。

忍「それに、最後の台詞も、あのアロハ小僧を思い出させて、むかつき度が増すのう」

別に、真似した訳じゃないんだけどなぁ。 自然にやった事が忍野に似ていると言われると、少しだけど嫌な気分になってしまう。

別に、忍野が嫌な奴って訳でも……あれ、あるか。

暦「はは、忍ちゃん。 元気良いね」

暦「何か良い事でも-----」

忍「ほれ」

22: ◆XiAeHcQvXg 2013/04/05(金) 14:42:48.01 ID:1i2XHQMk0
暦「いってええええええええええええ!!」

台詞を言う前に蹴るなよ! せめて言い終わってから蹴れよ!

と言うか、ほれってそんな可愛い台詞と同時に出すべき蹴りの速度じゃなかったぞ!

暦「同じ場所を蹴るとは、成長したな……忍」

それに、よくあんな体制から蹴りを出せたな。

一応言っておくが、僕と忍はクローゼットに押し込まれている形である。

忍「予想以上にくだらんかったわい……もう一人で勝手にやっておれ」

そう言い残すと同時に、影の中へと忍は姿を消していった。

全く、勝手に計画に参加して、勝手にノリノリで、勝手に僕の脛を蹴って、挙句の果てには勝手に寝やがった。

23: ◆XiAeHcQvXg 2013/04/05(金) 14:43:14.30 ID:1i2XHQMk0
ゴールデンチョコレートの数が三つから二つに減っているのにも気付かずに、馬鹿な奴め。

でも、よくよく考えたら奢らされる事が前提になっている時点で、馬鹿な奴は僕の方かもしれない。

24: ◆XiAeHcQvXg 2013/04/05(金) 14:43:44.83 ID:1i2XHQMk0
閑話休題。

妹達を驚かせる為に、未だに僕はクローゼットの中で身を潜めたままだ。

忍との無駄なやり取りもあったせいで、そろそろ丁度良い時間なのでは無いだろうか?

携帯を開き、時刻確認。

あれ? おかしいな。

僕が言っている【おかしい】と言うのは、あまり時間が経過していなかった。 と言う意味ではない。

25: ◆XiAeHcQvXg 2013/04/05(金) 14:44:10.51 ID:1i2XHQMk0
その逆。

【既に妹達が起こしに来る時間から三十分程過ぎていた】

おかしい、携帯の時計が狂っているのか?

いや、それも無い。 先程、部屋に置いてある時計と僕の携帯の時計が指している時間は一緒だった。

厳密に言えば、一分や二分くらいのずれはあったと思うけど、さすがに三十分はずれていなかった筈。

なら、何故?

26: ◆XiAeHcQvXg 2013/04/05(金) 14:45:53.01 ID:1i2XHQMk0
すぐ頭に過ぎったのは、つい先日の事。

暴力陰陽師、影縫余弦。

そもそも、そもそもだ。

例外にしておく、とは言った物の、その言葉のどこに信用性があったのだろうか。

面倒臭いガキに付き纏われない為、嘘を付いた可能性だってある筈じゃないか。

なら、今。

二人は? 僕の妹達は?

月火は言わずもがな、狙われる危険性はかなりある。

そして火憐も、その場に居たとしても、あの陰陽師なら関係無く、やりそうである。

僕が取るべき行動は。

27: ◆XiAeHcQvXg 2013/04/05(金) 14:46:22.47 ID:1i2XHQMk0
暦「火憐ちゃん! 月火ちゃん!」

気付けば、さっきまでの驚かせようと言うわくわく感は、焦燥感に変わっていた。

クローゼットの扉を勢いよく開け、続いて部屋の扉も壊れんばかりの勢いで開く。

階段を駆け下り、二人を捜す。

見当たらない。

両親が居ないのは、恐らく仕事に出ているからだろう。

けど、僕や火憐や月火は、夏休みの真っ最中である。

なのに、見当たらない。

28: ◆XiAeHcQvXg 2013/04/05(金) 14:46:49.44 ID:1i2XHQMk0
と、ここでふと思い付く。

もし、ただ出掛けているだけだとしたら、僕の焦りっぷりは、それはもう滑稽なのではないか。

その思いから、半ば祈りながら玄関へと足を向ける。

二人の靴は---------あった。

つまり、家からは出ていない。

なら、どうして姿が見えないのだろうか。

まさか、まだ寝ているのか?

29: ◆XiAeHcQvXg 2013/04/05(金) 14:47:17.55 ID:1i2XHQMk0
一度降りた階段を上り、火憐と月火の部屋の扉を勢いよく開ける。

ここで、二人が居れば僕はとても安心できたのだが……部屋はもぬけの殻だった。

暦「……くそっ!」

やはり、二人の身に何かがあったのかもしれない。

家の中は全て捜した……よな?

いや、一つだけ、一つだけ捜していない場所がある。

僕は思い出すのと同時、その場所へと足を向けた。

30: ◆XiAeHcQvXg 2013/04/05(金) 14:50:07.48 ID:1i2XHQMk0
気付くべきだった。

『それ』をする前に、僕は気付くベきだったんだ。

その行為を指し示している物的証拠はいくつもあった。

火憐がいつも着ているジャージだとか、月火の部屋着でもある着物とか。

それにもっと早く気付いていたら、こんな事にはならなかったのに。

でも、言い訳をさせてもらうと、そこまで頭が回る状況じゃなかった。

勿論、それは僕だからではなので、この状況に追い込まれているのが、知っている事は知っている羽川であったり、頭の回転が異常に早い月火であったり、そういった奴なら『なあんだ。 そういう事だったのか』で済んだだろう。

31: ◆XiAeHcQvXg 2013/04/05(金) 14:51:18.44 ID:1i2XHQMk0
しかし、僕はその二人では無い。

前置きが少し長くなってしまったが、結論から言うと、火憐と月火は見つかった。

本人達からしてみれば、何をやっているんだこの兄は? との感じだっただろう。

つまりは、火憐と月火は仲良く朝風呂に入っていたのである。

32: ◆XiAeHcQvXg 2013/04/05(金) 14:51:45.74 ID:1i2XHQMk0
以下、回想。

僕が唯一捜していない場所。

阿良々木家の風呂。

脱衣所に入り、風呂場の扉へと手を掛ける。

中の電気は付いていたが、そんな事は気にもせず、勢いよく、僕は扉を開いた。

暦「火憐ちゃん! 月火ちゃん!」

33: ◆XiAeHcQvXg 2013/04/05(金) 14:52:14.20 ID:1i2XHQMk0
すると、目の前には壁が広がっていて……

壁、とは言った物の、冷静に見ればそれは人だった。

もっと冷静に見れば、それは僕の妹だった。

でっかい方の妹、阿良々木火憐だった。

火憐「何しとんじゃ、こらあ!!」

一瞬だけ、ぽかんと効果音が出そうな表情をした火憐は、すぐさま鬼の形相(比喩ではなく、本当に鬼の顔だった)をし、僕の顔面を殴りつける。

34: ◆XiAeHcQvXg 2013/04/05(金) 14:52:42.75 ID:1i2XHQMk0
効果音を付けるとすると、パチンとか、バチンとかでは無く、ドゴン! と言った感じだ。

エクスクラメーションマークが付くほどの、そんな感じの鉄拳制裁である。

僕のせいだと言っても、明らかに手加減無しの攻撃はぶっちゃけかなり痛い。

今すぐにでも泣き出して部屋に閉じこもりたかったが、あくまでも僕は火憐の兄であるので、それは情けなさ過ぎて頑張って堪えた。

暦「よ、良かった……無事で」

僕は薄れ行く意識の中で、最高に格好良い台詞を吐く。

月火「どうみても変 だよ。 お兄ちゃん」

そんな月火の優しい言葉を聞きながら、僕は文字通り意識を失った。

35: ◆XiAeHcQvXg 2013/04/05(金) 14:53:37.57 ID:1i2XHQMk0
回想終わり。

そんなこんなで、現在、僕は自室のベッドへと横たわっている。

一応言っておくが、意識を失っている間に勝手に歩いて自分の部屋のベッドへと横たわったとか、今までのが全て夢だった、なんて事は無い。

最後の情けなのか、正義の心からなのか、火憐と月火が僕を部屋まで運んでくれたのである。

火憐「あははは。 兄ちゃん、死んだんじゃねえかと思ったぜー」

死ぬほどの攻撃を兄に加えるとは、末恐ろしい。

月火「でも、火憐ちゃんのストレートを正面から顔に食らって、何事も無いって凄いよお兄ちゃん! 誇っていいよ!」

妹に顔を殴られる時点で、誇れる気がしない。

と言うか、殴られた時に変な音したし、多分鼻の骨とか折れてたんだろうけどな!

全然何事も無くねえよ!

36: ◆XiAeHcQvXg 2013/04/05(金) 14:54:10.07 ID:1i2XHQMk0
暦「にしても、どうして火憐ちゃんも月火ちゃんも、今日は起こしにこなかったんだ?」

話題を百八十度変える。

このままでは兄の威厳もあったもんじゃないからな。 ナイス方向転換だ。

火憐「んー、あー、あれ?」

最初に口を開いたのは火憐で、その口振りからして、どうにも僕が期待する答えは得られそうに無かった。

暦「月火ちゃん、どうしてだ?」

月火「んー、どうしてだろう?」

暦「どうしてだろうって、僕が聞きたいんだけど」

37: ◆XiAeHcQvXg 2013/04/05(金) 14:54:38.75 ID:1i2XHQMk0
妹が起こしに来なかった理由を問い詰める兄。 責め立てる兄。

我ながら、なんて理不尽な奴なのだろうと思う。

思うだけであって、改めようとは思わないけど。

38: ◆XiAeHcQvXg 2013/04/05(金) 14:55:15.18 ID:1i2XHQMk0
火憐「いやあ、あたしは何となく覚えてたんだけど」

言い訳、では無さそうだ。 どうやら本当になんとなくは覚えていたらしい。

月火「ええ、火憐ちゃん覚えてたの? 私、すっかり忘れてたよ」

月火「と言うか、覚えてたなら言ってよー」

火憐「悪りい悪りい。 でも、いっつも月火ちゃんの方から起こしに行こうーって言うじゃん? だからすっかり忘れてたんだよなぁ」

39: ◆XiAeHcQvXg 2013/04/05(金) 14:57:42.24 ID:1i2XHQMk0
ふむ。

つまり、火憐はなんとなく覚えていて、月火は綺麗さっぱり忘れてた。 と言う事になるのか。

それにしても、火憐がいつもなんとなくでしか覚えていない事が軽くショックである。

暦「ま、いいか」

暦「次から気をつけろよ、我が妹達よ」

随分と上から目線。

火憐は「はーい」と気持ちよく返事はした物の、月火は「なんで上から目線なの? ねえねえ、お兄ちゃん、どうして?」との返事だった。

月火のは返事と言うより、文句と言った方が正しいか。

僕はその返事には返事を返さず、目を瞑って夢の世界へと旅立とうとした。

火憐「おい、寝ようとしてるんじゃねえよ兄ちゃん」

月火「そうだよ、私達の前で堂々と二度寝するなんて、ゴミも同然だよ。 お兄ちゃん」

どうやら、二度寝はやっぱり、不可能である。

40: ◆XiAeHcQvXg 2013/04/05(金) 14:58:09.34 ID:1i2XHQMk0
僕はこの時、何故、微妙なズレに気付かなかったのか。

気付かないのも無理は無いのかもしれない。

だけど、それでも。

この時に気付けていたら、結末は変わっていただろう。

それが、良い方向か悪い方向か、どちらに行くかは分からないけれども。

別に、この日と限った訳でも無い。

最低でも次の日に気付けていたら、と今更後悔する。

そうすれば、僕の妹達は。

傷を負うことは無かった筈なのに。


火憐リーフ 開始

47: ◆XiAeHcQvXg 2013/04/06(土) 14:12:27.15 ID:4Ue2Nw/k0
朝のやり取りはすっかり頭の隅に追いやり、僕は現在、街中を散歩中である。

いや、散歩中と言うのは語弊がある。 正しくは忍のドーナッツを買いに行く最中だ。

忍「もっと早く歩けんのか」

暦「別に走ってもいいけど、着く前に体力が尽きるから結果的に遅くなるぜ。 それでも

いいのか?」

忍「ならいっそ、吸血鬼化をして……」

こええよ! そんな簡単に血はあげたくねえよ!

暦「とにかく、別にドーナッツは逃げないだろ。 何もそんな焦らなくても」

忍「儂は我慢と言う言葉が嫌いなんじゃ。 今すぐにでも目の前に持ってこんか」

48: ◆XiAeHcQvXg 2013/04/06(土) 14:12:53.98 ID:4Ue2Nw/k0
そりゃ、そうだろうなぁ。

なんといっても、伝説の吸血鬼なのだから。

五百年の中で、多分、我慢なんて一回もした事が無いんじゃないだろうか。

暦「とは言っても、今すぐと言うのは無理だから、後十分くらいは待ってくれよ」

忍「仕方ないのう……ならば、儂はDSでもやっておく事にするかのう」

そう言い残し、伝説の吸血鬼、もとい八歳児の幼女は僕の影の中へと姿を消して行っ

た。

僕の影の中、どんだけ快適空間になっているんだろう。

49: ◆XiAeHcQvXg 2013/04/06(土) 14:13:26.60 ID:4Ue2Nw/k0
まあ、丁度良く一人になれた事だし、先ほど頭の隅に追いやった事を考えて見るか。

朝の出来事、妙な違和感は少しある。

だってそうだろう。

今まで一度だって、例外を除いて朝に起こしに来なかった事等、無いのだから。

火憐も月火も忘れている感じだったけど(火憐は若干覚えていたが)月火が忘れると言う事が妙な違和感だ。

もしかして、僕は知らない内に、あいつらに嫌われる事でもしたのだろうか。

50: ◆XiAeHcQvXg 2013/04/06(土) 14:14:02.13 ID:4Ue2Nw/k0
うーん。

 は んであげてるし、定期的に   は見てあげてるし、火憐に至っては歯磨きしてあげてるし。

特に嫌がられそうな事、無いんだけどなぁ。

「何をどう捉えたら、それが嫌がられない原因だと思うんですか。 阿良々木さん」

後ろからそんな声がする。 顔を見なくとも誰か分かる。 間違いない、僕の愛しの。

暦「はちくじいいいいいいいいいいいいいいいい!!」

八九寺「やめてください。 変 がうつります」

いつにも増して、冷たい八九寺だった。

51: ◆XiAeHcQvXg 2013/04/06(土) 14:14:41.37 ID:4Ue2Nw/k0
暦「と言うかお前、今僕の名前を噛んで無かったよな。 そうかそうか、ついにお前も」

八九寺「アレレ木さん、でしたっけ」

暦「もう手遅れだ。 さっきお前は、しっかりと僕の名前を呼んだんだからな」

八九寺「失礼、噛みました」

しかとだ、僕がなんと言おうといつもの流れに持って行こうとしている。

そのしかとっぷりは見事で、ついつい僕も流されてしまう。

暦「違う、わざとだ」

八九寺「ええ、わざとです」

暦「いつもの流れじゃなかったの!?」

52: ◆XiAeHcQvXg 2013/04/06(土) 14:15:15.27 ID:4Ue2Nw/k0
どうにも、今日の八九寺は僕に対して冷たいようである。

八九寺「それで、アレレ木さん」

暦「もういいよ、アレレ木でいいよ」

八九寺「さっきの言葉を聞く限りですけど、妹さんに嫌われる理由ははっきりしているじゃないですか」

暦「何? 僕のどの行動が問題なんだ」

八九寺「全てです」

全否定かよ!

53: ◆XiAeHcQvXg 2013/04/06(土) 14:15:42.55 ID:4Ue2Nw/k0
暦「いやいや、でもさ」

説明中。 朝からの一連の流れ。

暦「って訳で、その後の態度とかは別に普通だったんだよ」

八九寺「顔を殴られる時点で普通とは掛け離れていると思いますが……」

八九寺「ですけど、理由はなんとなく分かりましたよ」

暦「本当か八九寺! 是非教えてくれ」

八九寺「アレレ木さんはシスコンなので、嫌われて当然かと」

なんだよそれ、僕はシスコンじゃねえぞ。

54: ◆XiAeHcQvXg 2013/04/06(土) 14:16:10.28 ID:4Ue2Nw/k0
それにアレレ木ってまだ続いてるのか。 まさか、一生って事は無いよね。

暦「百歩譲って……いや、千歩譲って僕がシスコンだとしよう」

八九寺「その場合、阿良々木さんは譲られる側と言う事になりますね」

良かった、阿良々木さんに戻った。

いやそうじゃない、譲られる側っておい。

暦「でも、それならもっとド派手に嫌われてもいいんじゃないか? って思うんだ」

八九寺「そこが駄目なんですよ、阿良々木さん」

八九寺「まずはソフトに、次第にハードになっていくんです」

55: ◆XiAeHcQvXg 2013/04/06(土) 14:16:54.28 ID:4Ue2Nw/k0
八九寺「そうですね、例えるなら」

八九寺「一発殴るという行為を一年間繰り返し、ある日を堺にそれが十発に変わる」

八九寺「と言った感じですね」

暦「怖いよ! 僕の妹達はそんなんじゃねえよ!」

八九寺「だって、いきなり十発級の攻撃をしたら、阿良々木さん生きていられないではないですか」

八九寺「ここはそうですね、妹さん達の優しさに感謝するべきですよ」

暦「八九寺さん、八九寺さん、僕何か悪いことしましたっけ」

八九寺「悪いことの塊が何を言っているんですか」

56: ◆XiAeHcQvXg 2013/04/06(土) 14:17:22.30 ID:4Ue2Nw/k0
暦「でもさ、でもさ」

暦「やっぱりそれにしても、前からずっとやっている事だし、いきなりってのは変じゃないか?」

八九寺「真面目に言いますと、それは私には分かりませんよ。 実際に会ったことは無いですしね」

八九寺「ですが、阿良々木さんにこう言うのは少し酷かもしれませんけど」

八九寺「知らずの内に、ストレスや嫌な思いと言うのは、貯まっていく物ですよ」

八九寺はいつになく真剣な顔つきで、僕にそう言った。

57: ◆XiAeHcQvXg 2013/04/06(土) 14:18:17.17 ID:4Ue2Nw/k0
暦「ストレス、ねえ」

八九寺と別れ、本来の目的でもあるミスタードーナッツへと向かう。

真っ先に思い出されるのは、羽川翼。

障り猫。

あいつも、僕が気付かぬ内に、かなりのストレスを溜め込んでいた。

でも、火憐や月火に限って……ストレスねえ。

無い、と断言するのは簡単だけど、とてもそれは出来ない。

羽川の例があるし、案外そういった物は気付かれにくい物なのだ。

気付かれにくいし、気付きにくい。

58: ◆XiAeHcQvXg 2013/04/06(土) 14:20:12.24 ID:4Ue2Nw/k0
暦「帰ったら一回、話して見るかなぁ」

とは思う物の、たかが朝起こしてくれなかっただけで話し合うと言うのは、何だか若干きもい。 我ながら。

火憐だったら多分「妹にいつまでも依存してんじゃねえよ、気持ち悪い兄貴だな」と。

月火だったら多分「何々、お兄ちゃんは私達に起こして貰えなかった事でそんなに悩んでいるの? 仕方ないなぁ、全く」と。

やはり、まだそんな深刻に考えるべき問題じゃないよな、これって。

八九寺にも言われたが、さすがにそこまで行くと、自分でもシスコンなのではと思ってしまう。

断じて、それは無いけれど。

59: ◆XiAeHcQvXg 2013/04/06(土) 14:20:44.72 ID:4Ue2Nw/k0
一旦これらの問題は棚上げしておくことにする。 また明日からは起こしに来てくれるだろうし。

僕が変に考えていたら、逆にあいつらは正義のなんちゃらかんちゃらで絡んでくるに違いない。 いつも通りで居よう。

そう決意をし、ミスタードーナッツへと辿り着く為に、道路の角を曲がる。

丁度目の前に、人が一人。

それは僕が、よく見知ったシルエットだった。

暦「お、戦場ヶ原」

僕の彼女、戦場ヶ原ひたぎ。

60: ◆XiAeHcQvXg 2013/04/06(土) 14:21:15.18 ID:4Ue2Nw/k0
暦「おーい」

手を振りながら声を掛ける。

戦場ヶ原「……?」

そんな僕を不審な目で見つめながら、少しだけ首を傾げていた。

おいおい、彼氏に対してその態度はちょっと酷くないか。

距離は少しずつ縮まっていく。

暦「おい、戦場ヶ原」

目の前まで距離が詰った時、僕はそう声を掛けた。

61: ◆XiAeHcQvXg 2013/04/06(土) 14:21:46.98 ID:4Ue2Nw/k0
戦場ヶ原「ええっと、すいません。 どちら様でしょうか」

いつもの戦場ヶ原さんだった。

暦「さすがの僕も、そういきなり来られると心に込み上げてくる物があるんだけど」

戦場ヶ原「それは大変ですね。 それでは失礼」

ああ、そうですね。 失礼しました。

暦「おいこらあああ!」

僕の真横を通り過ぎ、このままでは本当に帰宅しそうな勢いの戦場ヶ原の肩を掴み、その足を無理矢理止める。

62: ◆XiAeHcQvXg 2013/04/06(土) 14:22:25.58 ID:4Ue2Nw/k0
戦場ヶ原「あら、これはこれは。 ただの変人かと思えばただの阿良々木くんじゃない」

暦「ただの阿良々木くんってなんだよ、阿良々木くんにただのもただじゃないのもねえよ」

戦場ヶ原「そうね、ただの変人ね。 ごめんなさい」

暦「変人にもただのもただじゃないのもねえからな!」

戦場ヶ原「そう言われればそうね。 ではこうしましょう」

戦場ヶ原「変人の阿良々木くん、こんにちは」

暦「もう変人でいいです」

戦場ヶ原「それで、変人の阿良々木くんはどうしてこんな所に?」

暦「ん、ああ。 忍の奴にドーナッツを奢る約束をしててな、それを買いに行く途中なんだよ」

戦場ヶ原「ふうん。 ロリ奴隷に随分と優しいのね、変人の阿良々木くんったら」

戦場ヶ原「ああ、そうか。 変人だからこそよね。 ごめんなさい」

63: ◆XiAeHcQvXg 2013/04/06(土) 14:22:59.13 ID:4Ue2Nw/k0
暦「言動を見る限り、どう考えてもお前の方が変人だからな」

戦場ヶ原「まさか、そんな事、ありえる訳無いじゃない」

暦「ああ、そうだな、そうですね」

暦「それで、戦場ヶ原は何でこんな所に?」

戦場ヶ原「私がいつ、どこに居ようと、勝手じゃない」

暦「……まあ、そうだな。 プライバシーって奴もあるしな」

戦場ヶ原「野暮用よ、野暮用」

戦場ヶ原「羽川さんに頼まれて、わざわざこんな街の郊外まで届け物を持って行って、今はその帰り道ってくらい野暮用よ」

暦「プライバシーも何もねえな!」

64: ◆XiAeHcQvXg 2013/04/06(土) 14:23:37.78 ID:4Ue2Nw/k0
戦場ヶ原「ふふ、それより勉強は捗ってるのかしら?」

暦「ぼちぼちって感じかな」

戦場ヶ原「ぼちぼち? 私と羽川さんが教えてあげているのに、ぼちぼち?」

暦「あ、いえ。 ぼちぼちと言うより、ぶっちぶちって感じです」

戦場ヶ原「そう、ならいいわ」

ぼちぼちとぶっちぶちにどこまでの差があるのか、僕には少し分からない。

まあ、でも、戦場ヶ原がそれで納得したなら良いのだろう。

65: ◆XiAeHcQvXg 2013/04/06(土) 14:24:05.20 ID:4Ue2Nw/k0
戦場ヶ原「あらいけない、そろそろ行かないといけないわ」

暦「ん? この後にまだ用事あるのか?」

戦場ヶ原「ええ。 暇人の阿良々木くんとは違って、詰め詰めのスケジュールなのよ、私は」

暦「そりゃあ、ご苦労様です」

そう言い、働き者の戦場ヶ原に敬礼。

戦場ヶ原「……一つ、聞きたいんだけどいいかしら」

暦「僕に答えられる事なら、どうぞ」

戦場ヶ原「阿良々木くんは、ど忘れとかそういうのって、ある?」

66: ◆XiAeHcQvXg 2013/04/06(土) 14:24:49.24 ID:4Ue2Nw/k0
ど忘れ? んー、どうだろうか。

暦「まあ、あるんじゃないか? そう言われると、昨日の夜飯だってすぐに思い出せる自信も無いし」

戦場ヶ原「そう、ならいいわ」

戦場ヶ原「それでは、さようなら。 暇人の阿良々木くん」

戦場ヶ原は最後の最後まで戦場ヶ原だった。

67: ◆XiAeHcQvXg 2013/04/06(土) 14:25:27.20 ID:4Ue2Nw/k0
閑話休題。

こうも知り合いに連続して会っていると、本来の目的を忘れてしまいそうである。

忍には十分だけ待てと言ったが、もう既に三十分くらいは経っているのでは無いだろうか。

暦「忍、起きてるか?」

影に向け、話しかける。

暦「……おーい」

忍「……なんじゃ、お前様なんてもう知らん」

いじけていた。 元怪異殺しの威厳なんて殆ど残っていない程に。

68: ◆XiAeHcQvXg 2013/04/06(土) 14:26:01.98 ID:4Ue2Nw/k0
暦「悪かったって。 ゴールデンチョコレート五個にしてやるから、勘弁してくれないか」

僕がそう言うと、忍は両手の内側を僕に向ける。 降参のポーズの様だ。

暦「降参?」

と、聞くと。

忍「十個じゃ」

と、答えた。

くそう。 今月のお小遣い、もう殆ど残っていないのに。

また月火から巻き上げるか、仕方ない。

69: ◆XiAeHcQvXg 2013/04/06(土) 14:26:30.69 ID:4Ue2Nw/k0
一応誤解があるといけないので、言っておくが、この巻き上げると言うのは、ただ単に借りると言うだけの事である。

普通に『借りる』と使うと、兄として些か情けないので『巻き上げる』と言う表現を使っているのだ。

暦「分かった。 ゴールデンチョコレート十個、それで手打ちだ」

忍「おっけーじゃ! さすがは我が主様、気前がいいのう!」

一瞬にして機嫌は回復していた。

吸血鬼ってのは、機嫌の回復も早いのだろうか。

70: ◆XiAeHcQvXg 2013/04/06(土) 14:27:20.19 ID:4Ue2Nw/k0
ドーナッツを無事に(?)食べ終え、現在は帰宅途中。

話が変わるが、アニメやら漫画やらで、知り合いと連続して会う描写と言うのが結構あるのは分かるだろうか?

見ている側としては「いやいや、そんなのねえから!」と思うのだけれども。

特に何て言うか、友達すらほとんど居ない僕からしてみれば、その数少ない友達に偶然連続で出会う事なんて、それこそ奇跡みたいな物なのだ。

だってそうだろ?

日本の人口は確か一億人程だったと思う。 そこから偶然にも数人と連続して会うだなんて、奇跡以外の何物でも無いんじゃないだろうか。

71: ◆XiAeHcQvXg 2013/04/06(土) 14:27:59.35 ID:4Ue2Nw/k0
日本全国、と言ったら少し大袈裟だったかもしれない。

しかし、町一つの人口としては約一万人程の筈である。

その中から友達に会うにしても、かなりの確率になると言う事だ。 計算は得意じゃないのでどんな確率かは分からないが。

羽川だったらこんな時、ずばっと確率なんて導き出してしまうんだろうな。 いやあ、さすが羽川さん。

72: ◆XiAeHcQvXg 2013/04/06(土) 14:28:28.45 ID:4Ue2Nw/k0
まあ、それでも。

友達になれる程、近くに住んでいる者同士なら、ある程度の確率の上乗せはあるとは思うけど。

とにかく、どうしてこんな話をしたかと言えば、それはもうとても単純な物である。

単純明快。

僕に、その奇跡の様な確率が訪れたからだ。

73: ◆XiAeHcQvXg 2013/04/06(土) 14:28:58.78 ID:4Ue2Nw/k0
忍野「やあ、阿良々木くん」

忍野メメ。

年中アロハ服のおっさん。

忍の名付け親。

人を見透かした様な奴。

専門家。

74: ◆XiAeHcQvXg 2013/04/06(土) 14:29:51.08 ID:4Ue2Nw/k0
暦「……忍野? どうして」

忍野「まあまあ、積もる話もあるだろうね。 ただどうして居るのかって言われれば-----」

忍野「阿良々木くんなら、何故かは分かるんじゃないかな?」

僕が、何故か知っている?

忍野が戻ってきた理由?

暦「知らねえよ。 何か忘れ物でもしたとか?」

忍野「あはは、まあ、そうだね」

忍野「忘れ物と言えばそうかもしれないし、そうじゃないかもしれない」

75: ◆XiAeHcQvXg 2013/04/06(土) 14:30:34.21 ID:4Ue2Nw/k0
忍野「ただ、僕はいつでも中立さ。 そこのバランスを保つ為なら、そこに僕は居るんだよ」

忍野「分かるかな? 阿良々木くん」

暦「……さあな」

暦「つうか、僕に用事があったのか? それとも僕とは全く関係の無い用事なのか?」

聞いてから気付く。

僕と全く関係の無い用事だとしたら、忍野はわざわざ僕の前に姿を見せなかったんじゃないか、と。

76: ◆XiAeHcQvXg 2013/04/06(土) 14:31:28.79 ID:4Ue2Nw/k0
忍野「あれ、おかしいな。 てっきり用事があるのは阿良々木くんの方だと思ったんだけど」

忍野「ま、いいや。 阿良々木くんがそう言うなら、そうなんだろうね」

暦「言ってる事が良く分からないぞ、忍野」

僕の方から忍野に用事? そんな物、ある訳無いのに。

むしろ、居ない時の方が用事があったと言うべきだろうに。

忍野「とにかく、さ」

忍野「僕はしばらく、あの学習塾廃墟に居させて貰うから、何か用事が出来たらいつで

もおいで」

77: ◆XiAeHcQvXg 2013/04/06(土) 14:32:09.82 ID:4Ue2Nw/k0
忍野「出来たら、では無く……思い出したら、なんだけどさ」

忍野はそう言いながら、意味深な笑顔を作る。

暦「分かった。 色々お前と話したい事はあるけど」

暦「今は優先すべき事があるからな、暇な時にでも顔を出すよ」

忍野「そうかい、じゃあ待ってるよ。 暇人の阿良々木くん」

そう言うと、忍野は来た道を戻り、僕の前から姿を消した。

なんだろう、僕はそこまで暇人に見えるのだろうか。

78: ◆XiAeHcQvXg 2013/04/06(土) 14:32:48.03 ID:4Ue2Nw/k0
暦「忍、起きてるか?」

忍「起きておるよ、会話も聞いておった」

暦「……そうか。 なあ、どう思う?」

忍「と言われてものう。 儂にもあいつの考えている事は分からんからのう」

忍野は何を思って、戻ってきたのだろうか。

こうもあっさり戻って来られると、あの別れもなんだか虚しく感じてしまう。

暦「今のが怪異……僕自身が生み出した怪異って可能性は、あるか?」

忍「まあ、そうじゃな……」

忍「人の形を真似る怪異は少なく無いが、今のがそうだとは思えんのう」

79: ◆XiAeHcQvXg 2013/04/06(土) 14:33:14.54 ID:4Ue2Nw/k0
暦「やけにはっきり言うんだな。 どうしてそう思う?」

忍「怪異は、そこに居ると思うから居るんじゃよ」

忍「お前様は、心のどこかでアロハ小僧に会うのを望んでおったのか?」

暦「それは……無い、かな」

深層心理まで問われると、さすがに自信が無いけど、僕が思うに多分、別段忍野との再会は望んでいなかった筈だ。

忍「じゃろうな。 それならばあやつは怪異では無く」

忍「本物のアロハ小僧、忍野メメじゃよ」


第三話へ 続く

84: ◆XiAeHcQvXg 2013/04/07(日) 19:40:10.41 ID:4LedjiWP0
さておき。

忍野に問い質したい事は山ほどある。

具体的に言えば、貝木の事や影縫さんの事や、戻ってきた事や。

けれども、僕は先程も言ったように、優先すべき事があるのだ。

忍野との話し合いより、優先すべき事柄。

それは恐らく、他の何よりも優先しなきゃいけない事。

言いすぎか。

85: ◆XiAeHcQvXg 2013/04/07(日) 19:41:07.56 ID:4LedjiWP0
つまりは、僕の言っている優先すべき事とは。

月火からお金を『巻き上げる』事である。

忍のせいで、今月のお小遣いもほとんど吹っ飛び、財布はすっからかんである。

すっからかんとは言った物の、小銭は多少入っているのだが、それこそジュースの一本でも買えば文字通りすっからかんになるだろう。

それくらい、すっからかんである。

お金が無ければあんな本やこんな本すら買えない、つまり優先すべき事なのだ。

もし万が一にでも、僕の到着が一分遅れたせいで、月火の財布もすっからかんになっていたら、それこそ一大事だ。

86: ◆XiAeHcQvXg 2013/04/07(日) 19:42:13.84 ID:4LedjiWP0
大事な役目。 月火の財布をすっからかんにするのは、僕の大事な役目だ。

こう言うと聞こえはよくなるが、やっている事は妹からお金を借りようとする兄である。

そんな事を考えながら、やや足早へと自宅へ向かったのが功をなしたのか、気付けば目の前に阿良々木家が。

問題は、二人がファイヤーシスターズ的活動で外出中の場合だろう。

そうすれば僕には打つ手が無くなってしまう。 所謂、詰みの状態である。

この嫌な予感をすぐにでも払拭したく、玄関の扉を僕は開いた。

87: ◆XiAeHcQvXg 2013/04/07(日) 19:43:24.09 ID:4LedjiWP0
第一確認、二人の靴。

火憐の場合は、衝撃を吸収する所か衝撃を跳ね返すと言われている靴なので、見た感じはすぐに分かる。

月火の場合は、あいつは変に洒落ているので、無駄に保有している靴は多い。

つまりはこの場合、火憐の衝撃を吸収する所か衝撃を跳ね返す靴があれば、二人は在宅中と言う事になる。

あの二人、阿良々木火憐と阿良々木月火は良くも悪くも、二人でワンセットなのだ。

88: ◆XiAeHcQvXg 2013/04/07(日) 19:43:58.60 ID:4LedjiWP0
暦「火憐ちゃんの靴、火憐ちゃんの靴」

一応断っておくが、別に火憐の靴が好きなわけでは無い。

暦「お、あったあった」

無事発見。 何事も無く、火憐の靴は存在していた。

つまり、二人は今現在、家の中に居る。

一度、火憐の靴を手に取り、間違いないかを確認する。

念のため。

じっくり三十秒ほど確認し、間違いはどうやら無さそうだった。

89: ◆XiAeHcQvXg 2013/04/07(日) 19:44:34.03 ID:4LedjiWP0
その靴を戻す前に、一度匂いを嗅いで、再度確認。

暦「よし、大丈夫だ。 火憐ちゃんの匂いだ」

一応断っておくが、火憐の匂いを嗅ぎたかった訳では無く、ただの確認である。

確認作業。

証拠の示し合わせ。

と、ここで。

「……兄ちゃん帰ってたのか」

との声が聞こえた。

90: ◆XiAeHcQvXg 2013/04/07(日) 19:45:34.60 ID:4LedjiWP0
状況整理。

まず、声の発信源の特定。

この家の中で、僕の事を『兄ちゃん』と呼ぶ奴は誰か?

両親は共に、僕の事は名前で呼んでくる。 なので除外。

それに、兄ちゃんと言うからには恐らく、僕より年下の存在だ。

つまりは、火憐か月火。 そのどちらかになるだろう。

月火は僕の事を『お兄ちゃん』と呼ぶ。

しかし、さっき聞こえた声からすると、お兄ちゃんでは無く『兄ちゃん』だった。

つまり、月火も除外。

91: ◆XiAeHcQvXg 2013/04/07(日) 19:46:09.93 ID:4LedjiWP0
と、すると。

ゆっくり顔を上げ、声の主を確認する。

分かりきっている事だった。 目の前に居たのは阿良々木火憐。 でっかい方の妹だった。

暦「や、やあ、火憐ちゃん。 ただいま」

火憐「ん、おかえり」

火憐「つうか、玄関で何してんだ?」

暦「玄関? 何を言ってるんだ火憐ちゃん。 家の中に入るには、玄関を通らなければいけないだろ? そんな当たり前の事を言うなんて、どうしたんだい火憐ちゃん」

火憐「いや、あたしは玄関を使わない時あるけど」

マジかよ、じゃあお前、どこから家に入ってるんだよ。

92: ◆XiAeHcQvXg 2013/04/07(日) 19:47:13.17 ID:4LedjiWP0
火憐「二階の窓とか、使うだろ?」

いやいやいや。 そんな当たり前の様に言われると僕がおかしいみたいじゃないか。

むしろ二階の窓から家の中に入るってどんな状況だよ、空き巣かよお前は。

火憐「それより、兄ちゃんは玄関で何をしてるんだ? 見る限りだと、あたしの靴をまじまじと見つめている気がするんだけど」

暦「ん? ああー! これかこれか!」

暦「これはな、つまりは火憐ちゃんを守る為にやっていた事なんだよ」

93: ◆XiAeHcQvXg 2013/04/07(日) 19:47:51.66 ID:4LedjiWP0
火憐「おいおい。 兄ちゃんに守られる程に弱くねえぞ、あたしは」

暦「それでも守りたいって思うのが兄の役目だろ? 火憐ちゃん」

火憐「……まあ、兄ちゃんがそう言うならそうなんだろうけど」

暦「そうそう。 だから靴の匂いを嗅いでいたのも火憐ちゃんを守る為なんだよ」

火憐「え、兄ちゃん。 あたしの靴の匂いを嗅いでいたのか」

失言。 そこまでは見られていなかった。

94: ◆XiAeHcQvXg 2013/04/07(日) 19:49:01.14 ID:4LedjiWP0
暦「ん? ああー! 当たり前だろ、火憐ちゃん!」

暦「世界どこへ行っても、兄は妹を守る為に靴の匂いを嗅いでいる物なんだよ。 知らなかったのかい? 火憐ちゃん」

火憐「それは知らなかった! さっすがあたしの兄ちゃんだぜ」

僕の妹は馬鹿だった。

まあ、そのお陰で助かったんだけどな。

もし、この場に月火でも居たら、弁解の余地なんて絶対に無かった。

あれ、月火? 火憐と常に行動してる筈なんだけど、そう言えば先ほどから姿が見当たらない。

95: ◆XiAeHcQvXg 2013/04/07(日) 19:49:39.13 ID:4LedjiWP0
暦「火憐ちゃん、話は変わるけど、月火ちゃんは?」

僕がそう聞くと、火憐はあからさまに目を背け、小さく言った。

火憐「……しらねー」

余りにも素っ気無く、不審に思ったが戸惑ってしまった僕は、火憐が二階にある自室に向かって行くのを止める事は出来なかった。

暦「どうしたんだ、火憐ちゃんの奴」

とにかく、火憐が知らないと言うのなら、多分月火は家に居ないのかもしれない。

二人でワンセットのあいつらが別々に行動を取っているのは、それは大いに珍しいが……

まあ、あいつらもそろそろ別行動を取るべきだし、何も僕が口を出す事でも無いか。

96: ◆XiAeHcQvXg 2013/04/07(日) 19:50:37.90 ID:4LedjiWP0
月火の事だから、他の友達とでも遊んでいて、一人放置された火憐のご機嫌が斜め、と言った所だろう。

我ながら名推理である。

とは言った物の、いきなり別行動を取らされた火憐が少し、本当にちょびっとだけ可哀想ではあるので、後で久しぶりに遊んでやるか。

まあ、とにかく一度、風呂にでも入りたい気分なのだけれど。

そう思い、リビングへと足を向ける。

二人が別行動を取っているからには、僕の優先すべき事はどうやら達成困難な様である。

月火が遊びに行っていると言う事はつまり、今日辺りにでもあいつの財布はすっからかんになってしまうだろうから。

くそう。 月火の財布をすっからかんにするのは僕の役目であるのに!

97: ◆XiAeHcQvXg 2013/04/07(日) 19:51:03.19 ID:4LedjiWP0
と、思った直後。

目の前に、人影。

僕よりも小さい、人影。

和服に身を包んだ、人影。

月火だった。

98: ◆XiAeHcQvXg 2013/04/07(日) 19:51:45.19 ID:4LedjiWP0
暦「あれ? えーっと、あれ、何でだ」

月火「どうしたのお兄ちゃん。 暑さにやられた? それとも私の可愛さにやられた?」

暦「暑さにやられた」

月火「少しは悩んでよ。 プラチナむかつく」

まだ使ってたのか、それ。

いやいやいやいや、それよりだ。

99: ◆XiAeHcQvXg 2013/04/07(日) 19:52:21.85 ID:4LedjiWP0
暦「つうか、月火ちゃん、家に居たの?」

暦「てっきり、居ない物だと思ってたんだけど」

月火「はい? はいはいはいはい? 何々お兄ちゃん、私が家に居ちゃ駄目なの?」

暦「違う違う、違うから落ち着いてくれ月火ちゃん、とりあえずその手に持っているハンマーを置いてくれ」

月火「じゃあほれ、理由をどうぞ。 くだらない理由だったらこのハンマーで頭をコツンってしちゃうからね」

絶対にコツンじゃなくてゴツンだろ、それ。

100: ◆XiAeHcQvXg 2013/04/07(日) 19:53:23.88 ID:4LedjiWP0
暦「いやさ、さっき火憐ちゃんに会ったんだ。 ああ、家の中でな」

暦「その時に「月火ちゃんは?」って聞いたら「しらねー」って言うからさ、てっきり月火ちゃんは出掛けてる物だと思っていたんだよ」

月火「ふうん? でもさ、お兄ちゃん。 私達が別行動取ると思う?」

暦「思わねーけど。 でもそれなら、火憐ちゃんは教えてくれたって良いだろ? リビングに居るとかさ」

月火「まあ、そうだねぇ。 それにはちゃんとした理由があるんだよ」

暦「そうなのか?」

月火「うん、そうなのだよ」

101: ◆XiAeHcQvXg 2013/04/07(日) 19:53:49.60 ID:4LedjiWP0
暦「……」

月火「……?」

月火「どうしたのお兄ちゃん、黙っちゃって」

暦「その理由を言えよ! 今のは明らかに月火ちゃんが理由を語る流れだったからな!」

月火「もう、分かってないなぁ。 お兄ちゃんは」

月火「乙女の秘密を探るなんて、なってないよ。 なって無さ過ぎて死んだ方がいいよ」

暦「僕の命、大分軽い扱いだよな。 前から思ってるけど」

暦「まあ、そうか……つまり、あれか」

暦「女の子の日って奴か」

102: ◆XiAeHcQvXg 2013/04/07(日) 19:54:21.70 ID:4LedjiWP0
ドスン、と音が聞こえた。 僕の腹の辺りにハンマーがめり込んだ音だった。

暦「な、何するんだよ月火ちゃん……」

月火「普通、それ言わないからね。 私の前だからこれだけで済んでるんだよ? むしろ感謝して欲しいくらいの物だよ」

暦「そ、そりゃ……ありがとう」

妹にハンマーで殴られ、お礼を言う兄の姿がそこにはあった。

月火「それに、そう言う訳じゃないんだよー」

暦「あれ、違うのか?」

103: ◆XiAeHcQvXg 2013/04/07(日) 19:54:58.39 ID:4LedjiWP0
月火「うん、私も良く分からないんだけどさぁ。 お兄ちゃんが家を出て、ちょっと後からなんだけど」

月火「なあんか、機嫌が悪そうなんだよねぇ。 刺々してると言うか、そんな感じ」

よく分からないが、それがつまり、女の子の日って奴じゃないのだろうか。

でも、僕が家から出て少ししてからって事だから、違うのかな?

月火がそう言うなら、多分そう言う事なのだろう。

暦「ふうん? でもさっき会った時は、別に普通だったと思うんだけどなぁ」

暦「月火ちゃんが何かしたんじゃないのか?」

104: ◆XiAeHcQvXg 2013/04/07(日) 19:56:04.18 ID:4LedjiWP0
月火「ないない、あり得ないよ。 お兄ちゃん」

月火「私が火憐ちゃんと喧嘩すると思う? 冗談にもならない冗談だよ。 全くもう」

暦「まあ、確かに、そうだよな」

だとすると、だとするならば。

何があったのだろう、と思ってしまう。

月火にも原因が無く、火憐がそんな原因も無く月火の事を「知らない」等と言う訳も無い。

105: ◆XiAeHcQvXg 2013/04/07(日) 19:56:30.43 ID:4LedjiWP0
ファイヤーシスターズの片割れでもある月火にさえ、分からない原因。

僕にはとても、見等が付く筈が無かった。

暦「あれ、でもお前さ。 さっき理由を知っているみたいな雰囲気出してなかったか?」

月火「うん、それが?」

さぞ当たり前の事の様に、聞き返してくる。

暦「それがってな……知っているなら教えてくれよ、月火ちゃん」

月火「私が言っているのは心当たりまでだよ。 あくまでも予想って訳」

予想、ね。

106: ◆XiAeHcQvXg 2013/04/07(日) 19:56:57.69 ID:4LedjiWP0
暦「それでも良い、教えてくれ」

月火「仕方ないなぁ。 ま、でもお兄ちゃんの頼みだしね、教えてあげよう!」

やけに上から目線だな、このチビ。

月火「と言ってもさ、原因は少なからず……いや、多大にお兄ちゃんにあるんだけどね」

暦「僕に? それなら尚更聞かなくちゃいけないな、その月火ちゃんの予想」

月火「うん、じゃあ語ろう。 語りつくしてあげよう」

月火「私が予想するに、多分火憐ちゃんは」

月火「瑞鳥君に振られたんだよ」

107: ◆XiAeHcQvXg 2013/04/07(日) 19:57:29.01 ID:4LedjiWP0
暦「瑞鳥君? 誰だそれ」

月火「知っているでしょ、お兄ちゃん。 火憐ちゃんの彼氏を居ない物にしないで」

暦「いや、誰だそれ。 知らない知らない。 まず、それは人なのか?」

月火「人だよ、歴とした人だよ。 変 じゃない分、お兄ちゃんより人だよ」

暦「ああ、そうか。 その瑞島君って言うのが人なのは分かった。 後、僕は変 じゃない」

月火「分かり辛い間違え方しないで。 音が出るならまだしも文章なんだから、瑞島君じゃなくて瑞鳥君だよ。 後、お兄ちゃんは変 だよ」

暦「で、その瑞鳥君ってのは誰だ? 月火ちゃんの言葉からするに、どうやら火憐ちゃんのストーカーらしいけど」

108: ◆XiAeHcQvXg 2013/04/07(日) 19:58:18.01 ID:4LedjiWP0
月火「私の発言のどこをどう取ったらそうなるのか、一日掛けて問い質したいよ」

月火「瑞鳥君は火憐ちゃんの彼氏でしょ。 ちなみに私の彼氏は蝋燭沢君ね」

暦「そんなついでで、僕の精神に攻撃を加えるのはやめろ、月火ちゃん」

暦「納得したくないけど、ここは納得しておかないと話が進まないし、渋々納得するよ。 瑞鳥君の事」

暦「それで、その瑞鳥君がどうしたって?」

月火「ほんっとーに、私の話何も聞いてないよね、お兄ちゃん」

月火「その瑞鳥君が、火憐ちゃんの事を振ったんじゃないかって思ってるんだよ。 私はね」

月火「それで火憐ちゃんは機嫌が悪いんだ。 どう? この名推理」

109: ◆XiAeHcQvXg 2013/04/07(日) 19:58:55.55 ID:4LedjiWP0
暦「そうか、そう言う事か。 それはそうと月火ちゃん、その瑞鳥君の住所と電話番号を教えてくれ」

月火「両方とも知ってるけど、知ってどうするの?」

暦「僕の火憐ちゃんを傷付けた責任を取らせる。 死と言う形で」

月火「怖いよお兄ちゃん。 主に僕の火憐ちゃんって断言する辺りが恐ろしいよ」

月火「でもさでもさ、お兄ちゃんは火憐ちゃんに彼氏が居る事、納得してなかったんでしょ? なら今回の事は、大きな声で言えないけど、お兄ちゃんにとっては良いお知らせだったんじゃない?」

110: ◆XiAeHcQvXg 2013/04/07(日) 20:00:11.94 ID:4LedjiWP0
暦「確かにそうだけど、いや、これ以上無い程に良いお知らせだけど、それとこれとは話が別だ」

暦「火憐ちゃんは僕の妹だ。 泣かせるのは例え誰であっても僕は許さない」

月火「お、今のは少し格好良い台詞だね」

暦「もし瑞鳥君が本当にそんな事をしたら、僕は火憐ちゃんと付き合わなければならない」

月火「今ので台無しだ。 これ以上無いくらい台無しだ。 むしろ台すら無くてただの無しだ」

111: ◆XiAeHcQvXg 2013/04/07(日) 20:00:52.45 ID:4LedjiWP0
閑話休題。

暦「それで、月火ちゃんの言いたい事は分かった。 つまり、火憐ちゃんは振られたショックでああなったって言いたいんだな?」

月火「うん、そうだよ」

暦「でも、僕に多大な原因があるって言うのは、どういう意味か教えてくれないか」

月火「言わなきゃ分からないの? 全くもう、これだからお兄ちゃんはお兄ちゃんだよ。 全くもう」

月火「     んだり、キスしたり、歯磨きしたり、押し倒したり、してるからじゃないのかな?」

暦「あ、やっぱりそうか」

月火「自覚あったの!? それが今日一番の驚きだ、月火ちゃん的に」

112: ◆XiAeHcQvXg 2013/04/07(日) 20:01:29.09 ID:4LedjiWP0
月火「とにかくさ。 そう言うのがあったから、関係がギスギスしちゃったんじゃないかな?」

なんと、完全に僕のせいじゃないか。 むしろこれ、僕以外の誰にも責任無いじゃないか。

暦「でもさ、歯磨きはまだしも、     んだりキスしたり押し倒したりって月火ちゃんにもやってる事だぜ」

月火「すごい発言だね。 公共の電波じゃとても流せないよそれ」

暦「それなのに、月火ちゃんは別に、蝋燭君とギスギスしたりってのは無いんだろ?」

月火「人の彼氏を勝手に略さないで」

月火「ま、私は分別付くしね。 そこが火憐ちゃんとの違いだよ」

月火「なんだったら、お兄ちゃんが後十人居ても、蝋燭沢君とはギスギスしない自信があるんだよ。 私には」

ただの浮気性じゃないのか、それ。

113: ◆XiAeHcQvXg 2013/04/07(日) 20:02:00.66 ID:4LedjiWP0
月火「とにかく、今回の事はお兄ちゃんが原因だよ。 だからほら、ほらほら」

そう言い、月火が僕の背中をぐいぐいと押す。

こう言うと聞こえは良いのかも知れないが、実際はハンマーでぐりぐりと僕の背中を押しているだけである。

暦「え、何々。 家を出て行けって事?」

月火「お兄ちゃんがそうしたいなら、それでもいいけどさ。 その前にやる事あるでしょ?」

月火「悪い事をしたら、まず謝らないと。 言うのと言わないのとじゃ、全然違うんだからさ」

妹に諭されてしまった。

まあ、だけど、言っている事に間違いは無い。

僕は、火憐に謝る必要がありそうなのは確かだから。

114: ◆XiAeHcQvXg 2013/04/07(日) 20:02:27.75 ID:4LedjiWP0
暦「よし、分かった。 火憐ちゃんにしっかりと謝って、仲直りしてから正式に付き合うよ。 ありがとう月火ちゃん」

月火「突っ込み場所が丸で囲ってある感じだね。 敢えて突っ込まないけど」

月火「とにかくほら、頑張ってね」

よし、やってやろう。

僕も男だ。 取るべき責任はしっかりと取らなければ。

火憐と付き合うのは予想外だったけど、まあいいか。

まあいいか。 で済まされる問題なのかは分からないが、まあいいか。

暦「待ってろよ火憐ちゃん、責任は必ず取ってやるからな!」



第四話へ 続く

121: ◆XiAeHcQvXg 2013/04/08(月) 14:52:59.08 ID:6FQjVbKd0
暦「火憐ちゃん、許してくれ!」

勢いよく扉を開け、勢いよく土下座。

火憐「あ? 何してんだよ、兄ちゃん」

暦「見ての通りだよ。 火憐ちゃん」

暦「僕のせいでお前が彼氏と別れる事になって、それに僕は責任を感じているんだ」

暦「だから、その責任を取らせてくれ。 火憐ちゃん、僕と付き合おう」

暦「勿論、火憐ちゃんが嫌ならそれまでだ。 僕は大人しくこの家を去るから」

畳み掛ける。 こう見えて、意外と火憐は押しに弱いのだ。

122: ◆XiAeHcQvXg 2013/04/08(月) 14:53:36.70 ID:6FQjVbKd0
火憐「は? うーん?」

火憐「悪りい。 兄ちゃんが何を言ってるのか、さっぱり分からねーぜ」

火憐「でも、まあ兄ちゃんと付き合うってのは悪い話じゃねえな。 にしし」

と火憐は返し、僕に笑顔を向けてくる。

火憐「けど、あたしには彼氏が居るしなぁ。 さすがに浮気はできねえし、兄ちゃんには悪いけど断らせて貰うぜ」

123: ◆XiAeHcQvXg 2013/04/08(月) 14:54:42.63 ID:6FQjVbKd0
暦「ん?」

火憐「ん?」

状況整理。

三十分掛け、僕と火憐は何故こうなったのかを話し合った。

火憐「ってことは、つまり兄ちゃんはさ、あたしが瑞鳥君と別れて、それが機嫌が悪い原因? って思ってたのか?」

暦「うん。 そうだけど……違うのか?」

124: ◆XiAeHcQvXg 2013/04/08(月) 14:55:25.29 ID:6FQjVbKd0
火憐「あははは。 ほんと、兄ちゃんは面白いな。 全然違う、かすりもしてねえよ」

暦「なら、どうして火憐ちゃんは機嫌が悪いんだ? 少なくとも、僕のせいでは無さそうだし」

火憐「ん、ああ。 色々あってな、ちょっと虫の居所が悪かったんだよ」

暦「色々、ね」

暦「お前も色々悩む事ってあるんだなぁ」

火憐「兄ちゃんのそう言う発言が、色々の原因だったりするんだよ」

125: ◆XiAeHcQvXg 2013/04/08(月) 14:57:05.33 ID:6FQjVbKd0
暦「なに? マジかよ。 じゃあやっぱり僕と付き合おう火憐ちゃん」

火憐「兄ちゃんが気を付ければいいだけだろ。 それに実の兄と付き合えるかよ! 今思ったけどさ」

暦「実の兄に処女を捧げようとした奴が何言ってるんだ。 説得力の欠片も無いぞ」

火憐「処女は良いんだよ。 それとこれとは話が別だろ?」

僕がおかしいのだろうか。 何をどう考えても処女の方が重いだろ、それ。

火憐「それはそうとさ、兄ちゃん」

暦「ん?」

126: ◆XiAeHcQvXg 2013/04/08(月) 14:58:12.43 ID:6FQjVbKd0
火憐「虫の居所って言葉、やけに面白いよな」

暦「別に僕はそう思わないけど」

火憐「だって、虫がどこに居ようと関係ねえだろ? なのにそんな些細な事を気にするなんてどんな臆病者だ! って話」

暦「ことわざなんてそんな物だろ。 それを言ったら火憐ちゃん、猫の手も借りたいってことわざも随分な話だとは思わないか?」

暦「だって、実際に猫の手を借りたところで効率が落ちるだけだろ。 あいつら怖いし」

火憐「あたしは怖いとは思わないけどなぁ。 まあでも、効率が落ちるのは間違い無いね」

火憐「そう考えると、随分変な言葉だよな。 ことわざって」

暦「比喩が多いしな。 でも、それが良くもあるって事じゃないか?」

127: ◆XiAeHcQvXg 2013/04/08(月) 14:58:48.77 ID:6FQjVbKd0
火憐「かもな。 それはそうとさ、今ふと思ったんだけど、才色兼備ってのはあたしの為にある言葉だろ」

思った事を言わずには生きていけないのか、こいつは。

少なくとも、その言葉がことわざでは無く、四文字熟語の時点で才は消え去るけどな。

火憐の奴、いつからこんな馬鹿になったんだろうなぁ。

火憐「なんか、兄ちゃんがあたしの事を馬鹿にしている気がするんだけど」

128: ◆XiAeHcQvXg 2013/04/08(月) 14:59:29.31 ID:6FQjVbKd0
暦「ん? 僕が火憐ちゃんの事を馬鹿にするだって? 何を言ってるんだよ」

暦「僕が今まで、火憐ちゃんの事を馬鹿にした事あったかい? 生まれてこの方、ただの一度も無いぜ」

火憐「……そうだよな! 兄ちゃんは心にも無い事、言わねえからな!」

良かった、馬鹿で。

暦「しかし火憐ちゃん、才色兼備ってのは頭脳明晰で、容姿端麗でって事だぜ。 分かってるか?」

火憐「勿論分かってるさ」

何だよその疑いなき笑顔は。 火憐ってここまで自分が好きな奴だったのか。 まあ、意外と言えば意外だけど。

129: ◆XiAeHcQvXg 2013/04/08(月) 15:00:18.46 ID:6FQjVbKd0
暦「ま、火憐ちゃんがそう言うなら別にいいけどさ」

火憐「兄ちゃんもそう思うだろ? なあなあ」

暦「お、思うから。 思うから頬擦りやめろよ! 本当にやめて!」

火憐「ちぇっ。 折角の妹からの頬擦りなんだから、もっと喜べよ。 殴るぞ」

気軽に暴力発言するな! もうそれ、脅しの領域だからな!

火憐「にしても、あたしが才色兼備だとすると、兄ちゃんは何になるんだろうな?」

130: ◆XiAeHcQvXg 2013/04/08(月) 15:00:45.88 ID:6FQjVbKd0
まず、火憐が才色兼備かどうかを議論したい。 一分もあれば終わる議論だろうけど。

暦「僕か。 僕は何でもいいさ、そんな称号に拘る男じゃないんでね」

火憐「ふうん。 じゃああたし目線から勝手に決めるけど、いいか?」

良くねえだろ。 たった今、そんな称号には拘らないって言ったけど、火憐に決められるのは良くねえよ。

火憐「そうだな。 うーん」

そんな僕の考えは虚しくも届かず、既に火憐は僕に相応しい名誉ある称号を考え始めていた。

131: ◆XiAeHcQvXg 2013/04/08(月) 15:01:32.64 ID:6FQjVbKd0
火憐「風前の灯かなぁ。 兄ちゃんにぴったりだ」

もう少し悩めよ。 絶対ふと思いついただけだろ。

というか。

暦「え? 何、僕もうすぐ死ぬの?」

暦「つうか、何でまたことわざに戻ってるんだよ。 四文字熟語の流れじゃなかったの?」

火憐「んー? どっちでもいいじゃん」

火憐「それに、火は消える前が一番燃えるだろ? 褒め言葉だぜ、兄ちゃん」

暦「そんな一瞬の輝きの為に僕を殺そうとするんじゃねえよ! しかも、風前の灯にそんな隠された意味なんてねえからな!?」

132: ◆XiAeHcQvXg 2013/04/08(月) 15:03:06.98 ID:6FQjVbKd0
暦「もっと他のにしてくれ。 良い言葉なんて、他にいっぱいあるだろ」

火憐「んだよ、何でも良いって言ったのは兄ちゃんの方だぜ?」

むぐぐ。

確かにそうは言ったけれども、風前の灯って。

火憐「仕方ねえなぁ。 じゃあ他のにすっか」

暦「ああ、そうしてくれ。 火憐ちゃん」

火憐「とは言っても、既に考えてあるんだけどな。 兄ちゃんにぴったりの言葉」

やけに自信たっぷりに、火憐はそう言った。

いや、こいつはいつでも自信の塊みたいな物だけど。

どうせまた、思いつきなんだろうなぁ。

133: ◆XiAeHcQvXg 2013/04/08(月) 15:04:24.90 ID:6FQjVbKd0
暦「ふうん。 あまり期待はせずに聞いてやろう。 その言葉とは?」

火憐「へへへ、兄ちゃんにぴったりの言葉、それは」

火憐「両手に花。 これしかねえな!」

ばーん。 と効果音が付きそうな感じで、火憐は腕組みをしながら、そう僕に宣言をする。

暦「火憐ちゃん、一応聞いてやろう。 仮にも名誉ある言葉を僕に付けてくれたんだしな。 火憐ちゃんが何故、その言葉を僕に付けたのか聞いてやろう」

134: ◆XiAeHcQvXg 2013/04/08(月) 15:05:02.43 ID:6FQjVbKd0
火憐「ん、何だよ兄ちゃん、分からねえのか? 小学生でも分かる理由だぜ」

火憐「あたしと月火ちゃん。 両手に花だろ?」

暦「火憐ちゃんと月火ちゃんの事は分かるよ。 そりゃ、僕の妹達だしな。 でもな火憐ちゃん、それと両手に花って言葉にどう繋がりがあるんだ?」

火憐「物分りの悪い兄ちゃんだな。 あたしと月火ちゃんが花で、それを持ってるの兄ちゃんって訳だよ。 分かったか?」

暦「ごめん、全然分からない。 全く分からない。 むしろその式をどう解けば火憐ちゃんと月火ちゃん=花って答えになるのか教えて欲しい」

135: ◆XiAeHcQvXg 2013/04/08(月) 15:05:32.98 ID:6FQjVbKd0
火憐「あ? あたしと月火ちゃんは花じゃないって言いたいのか? おい」

問い詰められた火憐が出した答えは単純な物だった。

つまりは脅し。 脅迫である。

暦「あ、ああ。 まあさ、火憐ちゃん落ち着けよ。 確かにそうかも知れない。 需要がある層から見れば、確かに僕は両手に花とも言えなくも無いかもしれなくも無い」

背後から首を閉めれらながら、妹のご機嫌を取る兄貴。

火憐「幸せだろ?」

暦「うん。 幸せ。 とてもとても幸せ。 僕って何でこんな幸運なんだろう。 僕一人でこれだけの幸運を使って良いのだろうかって位、幸せだなぁ」

136: ◆XiAeHcQvXg 2013/04/08(月) 15:09:14.02 ID:6FQjVbKd0
こんな、威厳も何も無い兄貴なんて、探してもそうそう居る物じゃないだろうな。 鏡を見れば居るんだろうけど。

火憐「なんか白々しいぞ、兄ちゃん。 おりゃ」

殴られた。 結局肯定しても殴られた。 理不尽だ。

暦「すぐに暴力に訴えるなよ! お前の殴りって、冗談抜きで結構なダメージだからな!」

火憐「ああ、そうだったのか。 それは悪い事をしたよ兄ちゃん、ごめん」

んんん? てっきり、いつものノリで言ったんだけど。 思いの外、申し訳無さそうな顔を火憐がしている。

137: ◆XiAeHcQvXg 2013/04/08(月) 15:10:30.73 ID:6FQjVbKd0
暦「まあ、何もそこまで落ち込まなくても……次から気を付ければいいしな」

火憐「うん。 次からは殴るのは止めるよ。 蹴る」

暦「結局暴力かよ!」

火憐「あはは。 やっぱ、兄ちゃんと話してると楽しいな」

火憐「てか、さっきのあたしが花ってのも冗談だぜ? 一応言っておくけどさ」

火憐「さすがのあたしも、花って感じじゃねえしな」

138: ◆XiAeHcQvXg 2013/04/08(月) 15:11:08.57 ID:6FQjVbKd0
暦「ふうん。 けど、僕的には月火ちゃんの方が花って言葉は似合わないと思うけどな」

火憐「んー? あたしよりもか?」

暦「うん。 だって月火ちゃん、あんな女子女子してるのにあれだぜ。 花っつうより、爆弾だよあれは」

月火に聞かれでもしたら、それこそ爆発しかねない爆弾。

火憐「へえ。 あたしよりも似合わないって事は無いと思うけどな、それでも」

暦「そうか? そうは言っても、火憐ちゃんって意外と女子っぽい所とかあるじゃん」

139: ◆XiAeHcQvXg 2013/04/08(月) 15:11:51.56 ID:6FQjVbKd0
火憐「は? へ? あたしが? 兄ちゃん頭でも打ったのか?」

暦「いや打ってねえけど。 だって、前に月火ちゃんの服を借りてた……火憐ちゃんが勝手に借りてただけだけどさ。 あの時は、結構見た目的には花って感じだったじゃん」

火憐「……なんか、兄ちゃんにそう言われると体がむず痒いな」

暦「なんだよ、褒めてるんだぜ。 火憐ちゃん」

火憐「そうなんだろうけどさ。 うーん。 まあ、そうだな」

火憐「こういう時は、あれだな」

火憐「ありがとう、兄ちゃん」

140: ◆XiAeHcQvXg 2013/04/08(月) 15:12:20.63 ID:6FQjVbKd0
素直な分には、良い妹だよなぁ。 これが多分、僕が月火より火憐の方が花って言葉に相応しいと感じる要因なんだろうな。

火憐「兄ちゃんも、女子女子してて花って言葉、似合うと思うぜ」

ああ、僕の妹は結局馬鹿だった。 つうかこいつ、僕の事を逆に馬鹿にしてるんじゃねえか。 そう考えるとさっきまでの褒め言葉を返して欲しい。 利子付きで。

141: ◆XiAeHcQvXg 2013/04/08(月) 15:13:00.09 ID:6FQjVbKd0
閑話休題。

暦「とりあえずさ、何か僕に出来る事があったら言ってくれよ。 暇じゃなければ手を貸すぜ」

火憐「ふうん? 兄ちゃんがそうやって言うのはかなり珍しいな。 いつもだったら何があっても手伝ってくれないだろ」

火憐「こう言うのはあれだけど、何か裏があるんじゃねえかって思っちゃうぜ」

暦「僕が? まさか。 火憐ちゃんの為なら火の中水の中、いつでも駆けつける兄だぞ? 僕は」

火憐「火の中水の中ね。 なら、兄ちゃん。 一つ頼みがあるんだよ」

142: ◆XiAeHcQvXg 2013/04/08(月) 15:13:31.59 ID:6FQjVbKd0
暦「早速だな。 いいぜ、引き受けてやるよ」

火憐「内容も聞かずにか? 大丈夫かよ、兄ちゃん」

暦「この兄に任せて置け。 とは言っても、月火ちゃんを倒して来いとかは無理だけどな」

火憐「月火ちゃん、そうだな。 月火ちゃんか」

なんだろう。 火憐の出す雰囲気が、少しだけ暗くなった気がする。

しかし、ここまでシリアスな空気が似合わない奴も居ないよな。

火憐「兄ちゃん、あたしの頼みってのはさ。 月火ちゃんの事なんだよ」

暦「月火ちゃん絡みか。 それってやっぱり、火憐ちゃんがさっき言っていた『色々』ってのに含まれているのか?」

火憐「多かれ少なかれ、って感じかな。 勿論、月火ちゃんのせいでは無いと思うけど」

143: ◆XiAeHcQvXg 2013/04/08(月) 15:15:44.93 ID:6FQjVbKd0
月火ちゃんのせいでは無い『と思う』か。

暦「ま、いいさ。 それで月火ちゃん絡みの頼みってのは?」

火憐「ああ、その話だったな。 実はさ、兄ちゃん」

火憐「月火ちゃん、何か悩んでいるっぽいんだよ。 だから、話だけでも聞いてあげてくれないか?」

暦「月火ちゃんもかよ。 ファイヤーシスターズは悩みが多いんだな」

火憐「まあな。 だってそりゃ、正義の味方だぜ!」

あまり関係ないだろ、それ。

144: ◆XiAeHcQvXg 2013/04/08(月) 15:16:12.64 ID:6FQjVbKd0
暦「別にいいけどさ、それこそ火憐ちゃんが聞いてあげた方が良いんじゃないか? 僕と月火ちゃんより、火憐ちゃんと月火ちゃんの方が仲いいだろ?」

火憐「そうか? あたしから見りゃ、兄ちゃんと月火ちゃんってかなり仲良いと思うぜ。 けど、どっちの方が月火ちゃんと仲良いかって言われると……そうだな、あたしの方が良いんだろうけど」

ええー、マジかよ。 今度から気を付けよう。

火憐「でもさ、仲が良いから言えない事ってあるだろ? 変な感じになっても嫌だしさ。 だから兄ちゃん、ここは一つ、頼むぜ」

145: ◆XiAeHcQvXg 2013/04/08(月) 15:16:40.92 ID:6FQjVbKd0
仲が良いから言えない事。

怪異。

吸血鬼。

至極もっともな話だった。

暦「分かった、火憐ちゃん。 その頼み、引き受けるよ」

と、ここで着信。

146: ◆XiAeHcQvXg 2013/04/08(月) 15:17:35.30 ID:6FQjVbKd0
暦「あ、悪い。 出ていいか?」

火憐「確認する事じゃねえだろ。 兄ちゃんの電話を止める権利はあたしにねーよ」

ふうん、そっか。

僕は一度、部屋から出て、電話を取る。

説明。

電話主は戦場ヶ原ひたぎであった。

147: ◆XiAeHcQvXg 2013/04/08(月) 15:18:06.20 ID:6FQjVbKd0
内容はどうやら「暇人の阿良々木くん、どうせ暇でしょ? 暇人なのだから暇よね。 そうと決まれば今から出かけるわよ」との事で。

暦「は? え? 今から? 何をしにどこに?」と聞き返すと。

「羽川さん絡みよ。 それに」と言い、少しの間があって、戦場ヶ原は。







「忍野さん絡みでもあるわ」と言った。

148: ◆XiAeHcQvXg 2013/04/08(月) 15:19:07.38 ID:6FQjVbKd0
暦「火憐ちゃん、悪い」

部屋に戻り、開口一番、僕は火憐にそう言った。

火憐「ん? 別に話の途中で電話を取ったくらいで、あたしは怒るほど短気じゃねえぞ。 月火ちゃんでもあるまいし」

ひと言余計とはこの事か。 間違えても月火ちゃんの前では言わない方が良い台詞である。

暦「いや、まあそれも悪いとは思ってるけど。 そうじゃないんだ」

暦「火憐ちゃんの頼み、明日でもいいか? 少し用事が入っちまった」

149: ◆XiAeHcQvXg 2013/04/08(月) 15:20:10.36 ID:6FQjVbKd0
火憐「ん、頼み? ああ、月火ちゃんの事か」

火憐「いいぜ、お願いしてるのはあたしの方だしな。 兄ちゃんには断る権利もある訳だし」

そうは言ってもな、お前。 断ったら間違い無く暴力振るうだろ。 お前の攻撃、結構洒落にならないからな。

暦「断らねえよ。 僕が断ると思うか?」

暴力を振るわれても、振るわれなくても、結局は断らないんだけれども。

火憐「あはは。 そうだな、兄ちゃんにもしっかりと正義の血は流れているんだしな」

嫌な血だな、おい。 それに、僕のは正義の血なんかじゃない。 僕に流れているのは。

ただの、吸血鬼の血だ。

150: ◆XiAeHcQvXg 2013/04/08(月) 15:21:16.71 ID:6FQjVbKd0
暦「悪い。 それじゃあちょっくら出掛けてくるよ」

火憐「おう。 気を付けてなー」

との言葉を受け、扉を閉める。

正確に言えば、閉めようとした。

もっと正確に言えば、閉まる直前。

火憐「……大丈夫だよな、多分」

との声が、聞こえた気がした。

151: ◆XiAeHcQvXg 2013/04/08(月) 15:22:04.12 ID:6FQjVbKd0
何か言ったか? と聞く事も出来ただろう。 しかし、生憎、僕にそこまで時間的余裕は無かったのだ。

なんといったって、あの忍野が僕と羽川と、それに戦場ヶ原まで呼び出すなんて、多分只事では無いのだから。

今までに一度も無かったパターン。 だからこその危機感。

だけれども。

152: ◆XiAeHcQvXg 2013/04/08(月) 15:23:17.88 ID:6FQjVbKd0
この時、本当に僕が警戒しなければいけない事は別にあったのだ。

他にも、一度も無かったパターンがあったのに。

気付かなかった。

気付けなかった。

気付こうとしなかった。

誰に何て言われようとも、これは確実に僕の責任である。

今だから言えるけれど、その時の僕に、今の僕はこう言いたい。

「本当に馬鹿なのはお前だよ。 阿良々木暦」

第五話へ 続く

160: ◆XiAeHcQvXg 2013/04/09(火) 14:24:43.95 ID:XFcid8lQ0
忍野「やあ、久しぶりだ。 委員長ちゃんにツンデレちゃん」

忍野「阿良々木くんはさっき会ったから、さっき振りか」

僕と戦場ヶ原と羽川。 一度集まった僕達は、特に会話も無く、忍野の元へと向かった。

そして今、目の前には僕が知っている忍野メメが居る。

暦「忍野、何か用事があって集めたんだろ? 一体何の用事だよ。 一応、僕にもやらなきゃいけない事があるんだけど」

忍野「はは。 気が早いなぁ、阿良々木くんは。 そこら辺、変わらないよねぇ」

忍野「まあ、いいけどさ。 それじゃあ阿良々木くんのお望みどおり、用件に入るとしようか」

161: ◆XiAeHcQvXg 2013/04/09(火) 14:25:23.40 ID:XFcid8lQ0
忍野「もっとも、委員長ちゃんは大体分かってるんじゃないかな? 君は頭良いしね、阿良々木くんと違ってさ」

余計なひと言である。

戦場ヶ原「羽川さんが大体分かっている? それは本当なの、羽川さん」

と、戦場ヶ原の問い。

羽川「うん。 大体、だけどね。 そんな難しい事では無いよ」

暦「悪い、僕には皆目見当も付かないんだけど」

162: ◆XiAeHcQvXg 2013/04/09(火) 14:25:49.86 ID:XFcid8lQ0
忍野「そりゃそうだ。 阿良々木くんと委員長ちゃんじゃ頭の出来が違うしね。 でも、だからと言って阿良々木くん、何も思いつめる事は無いさ。 安心してくれ」

暦「忍野、ちょっと黙ってろ」

暦「それで、羽川。 その大体ってのは何だ?」

羽川「繋げるだけだよ。 まず第一に」

羽川「忍野さんが、何故ここに戻ってきたのか。 だね」

何故、と聞かれても。

僕は忍野じゃあるまいし、あいつの考えている事なんて分かる訳が無い。 いつだって。

163: ◆XiAeHcQvXg 2013/04/09(火) 14:26:16.96 ID:XFcid8lQ0
戦場ヶ原「……なるほど、そう言う事ね。 思ったより厄介な事なのかしら」

どうやら、戦場ヶ原にはその『大体』と言う物が何か分かった様である。

僕の頭の回転が遅いってのもあるだろうけど、それでもこの二人と一緒に居ると、どうにも僕は惨めで仕方ない。

戦場ヶ原「あら、どうしたの阿良々木くん。 そんな惨めな顔をして」

その考えを読んだ様に、戦場ヶ原はとても楽しそうな顔で、そう言った。

164: ◆XiAeHcQvXg 2013/04/09(火) 14:26:46.43 ID:XFcid8lQ0
暦「そこまで惨めな顔はしてねえよ」

戦場ヶ原「それは失礼。 元々だったわね」

暦「お前の言葉は殆どが余計な言葉だよな!」

戦場ヶ原「では、そんな惨めな阿良々木くんに優しい優しい私が教えてあげるわ」

戦場ヶ原「ヒントその壱・何故、忍野さんは私達を集めたのか」

暦「何故、って……忍野じゃないんだから、分からないだろ」

戦場ヶ原「まあ、それはそうね。 もし忍野さんがとんでもない変 だったなら、私達を監禁する為に集めたのかもしれないわね」

戦場ヶ原「それでも、阿良々木くんを呼んだのは趣味が悪すぎると言う事になるけれど……」

暦「もう何も言いません。 続けてください」

165: ◆XiAeHcQvXg 2013/04/09(火) 14:27:15.34 ID:XFcid8lQ0
戦場ヶ原「ふふ。 それじゃあヒントその弐・忍野さんは何故戻ってきたのか。 これはさっき羽川さんも言っていたわね」

忍野が戻ってきた理由、それと忍野が僕達を集めた理由。 つまり、その二つは繋がっていると言う事か。

暦「でも、それなら別にわざわざ集めなくても良かったんじゃないか? 僕と忍野は昼間に会っているんだし。 なあ、忍野」

と忍野に聞いたが。

忍野「……」

話す気は無い様だった。

166: ◆XiAeHcQvXg 2013/04/09(火) 14:27:46.32 ID:XFcid8lQ0
戦場ヶ原「それには何か理由があるんでしょうね。 それについては私も分からないわ。 羽川さんもよね?」

羽川「だね。 それは多分、本当の所を知っているのは忍野さんだけなんじゃないかな」

暦「ふうん。 そうか」

戦場ヶ原「それで、どう? そろそろ頭の回転が悪い阿良々木くんにでも分かったんじゃないかしら?」

暦「悪いな。 頭の回転が悪すぎて、全然分からない」

戦場ヶ原「だと思ったわ。 そんな阿良々木くんに、ヒントその参」

戦場ヶ原「忍野さんは、何の専門家?」

168: ◆XiAeHcQvXg 2013/04/09(火) 14:28:44.35 ID:XFcid8lQ0
暦「そう、か。 そう言う事か」

暦「忍野が戻ってきた理由。 僕達を集めた理由」

つまりは、そう言う事なのだろう。

暦「忍野、話してくれ。 今、何が起きているんだ?」

忍野「お。 やっと喋っていいのかな。 黙れって言われたから黙ってたんだけど、実際黙るって結構辛いよねぇ」

忍野「その分、忍ちゃんは尊敬するよ。 まあでも、今は随分とお喋りになってるみたいだけどさ」





-------怪異。






170: ◆XiAeHcQvXg 2013/04/09(火) 14:30:02.11 ID:XFcid8lQ0
暦「そう、か。 そう言う事か」

暦「忍野が戻ってきた理由。 僕達を集めた理由」

つまりは、そう言う事なのだろう。

暦「忍野、話してくれ。 今、何が起きているんだ?」

忍野「お。 やっと喋っていいのかな。 黙れって言われたから黙ってたんだけど、実際黙るって結構辛いよねぇ」

忍野「その分、忍ちゃんは尊敬するよ。 まあでも、今は随分とお喋りになってるみたいだけどさ」

171: ◆XiAeHcQvXg 2013/04/09(火) 14:30:31.07 ID:XFcid8lQ0
一体、どこからそんな情報を仕入れて来るんだよ。 お前は。

忍野の前で忍が喋った事なんて、一回も無い筈だぞ。 それこそ、あのゴールデンウィークの時以来。

忍野「それじゃあ本題に入るけど、いいかな」

戦場ヶ原「はい。 むしろこのまま本題に入らないまま解散するかと思ったくらいですから」

どんな集合だよ。 ただの嫌がらせじゃねえか、それ。

忍野「っは。 ツンデレちゃんは相変わらずだね。 まあいいんだけど」

忍野「それじゃあ本題。 この町が危ない」

172: ◆XiAeHcQvXg 2013/04/09(火) 14:31:00.29 ID:XFcid8lQ0
と、忍野は口調を変える事無く、そう言った。

暦「この町が危ない……? どういう意味だ、忍野」

忍野「そのままの意味さ。 とは言っても、さすがにこれは説明しないとね。 順を追って話すよ」

忍野「まず、この町に忍ちゃんがやって来て、ここら辺一帯が不安定なのは知ってるよね? さすがにそこから説明は面倒だし、知っていると思って続けるよ」

忍野「それが恐らくは原因だと思う。 んで、そのせいで呼び出しちゃったんだよ」

暦「呼び出したって、何をだ?」

忍野「怪異さ。 それも、とびっきり性質の悪い奴でね」

173: ◆XiAeHcQvXg 2013/04/09(火) 14:32:50.98 ID:XFcid8lQ0
本当の所、忍野にはここで、とてつもなくくだらない事を言って欲しかった。

関わらないのなら、関わらない方が良い。 それが、怪異。

結局また、怪異か。 それに、とびっきり性質の悪い奴と来た物だ。

忍野「それと、ああ。 その前に、さっき阿良々木くんが言っていた事の説明をしようかな」

忍野「ええっと、何だっけ。 何で昼間会った時に、説明しなかったか。 だっけ?」

忍野「簡単な話さ。 その時はまだ、問題視するレベルでは無かった」

忍野「とは言っても、厄介なのには変わり無いからね。 今回のはバランスを著しく狂わせる。 そんな怪異さ」

忍野「だからこうして、戻ってきたって訳だよ。 分かってくれたかな?」

忍野「そして今、早く解決しないと、ちょっとマズイ事になりそうなんだ。 だから君達を呼んだって事さ」

174: ◆XiAeHcQvXg 2013/04/09(火) 14:33:24.32 ID:XFcid8lQ0
戦場ヶ原「なるほど」

忍野の言葉を受け、戦場ヶ原が納得した様子で首を縦に振っている。

戦場ヶ原「つまり、その怪異を[ピーーー]為に、私達にも手伝えって事ね」

そう言う事か。 なるほど、それなら忍野が戻ってきた理由も、僕達を呼び出した理由も納得行く。

暦「ま、忍野には恩があるしな……手伝える事があるなら、手伝うよ」

僕がそう言うと、忍野は嫌らしく笑い、口を開く。

175: ◆XiAeHcQvXg 2013/04/09(火) 14:33:57.42 ID:XFcid8lQ0
忍野「おいおい、ツンデレちゃんに阿良々木くん。 何を言ってるんだい? そんな元気良さそうにさ」

忍野「何かいいことでもあったのかい?」

戦場ヶ原「どういう意味ですか。 私達はあなたの……忍野さんの手伝いをするから、集められたんじゃないんですか?」

忍野「うん。 そうだよ。 それは間違い無い」

忍野「でもさ。 君達、勘違いしてるんじゃないかな」

暦「勘違い? どういう事だよ、忍野」

忍野「だって、君達がする手伝いってのはね。 僕に情報を与える役目って所なんだから」

176: ◆XiAeHcQvXg 2013/04/09(火) 14:34:25.54 ID:XFcid8lQ0
暦「情報を与える? 僕達はそんな、与えられる情報なんて持っていないぞ」

忍野「今はまだ、そうかもね。 ただ、簡単な事だよ」

忍野「普通に生活して、普通に遊んで、ああ。 阿良々木くんは受験勉強中だっけ? なら前者の二つは無理か」

忍野「ま、阿良々木くんは除くとしてさ。 その中で何か『違和感』を感じる事があったら、教えてくれればいいんだよ。 それ以上でもそれ以下でも無い」

羽川「で、でも。 私達は怪異を知っています。 出会っています。 他にも、何か出来る事があるんじゃないですか?」

忍野「無いよ。 一つも無い」

177: ◆XiAeHcQvXg 2013/04/09(火) 14:34:55.63 ID:XFcid8lQ0
暦「なら、何だよ。 僕達は忍野とお喋りする為に頑張れって言いたいのか?」

忍野「お喋り、ね。 面白い表現だなぁ。 やっぱ、阿良々木くんは面白いよ」

忍野「けどさ、もしかして阿良々木くん。 いや、ツンデレちゃんや委員長ちゃんも、かな?」

忍野「僕達全員で協力して、その怪異を倒すか[ピーーー]か消すか。 そう言う風に考えていたのかい?」

忍野「だとしたら、そうだね。 そんな君達に僕はこう言うだろう」

忍野「自惚れるなよ」

忍野「ってね」

178: ◆XiAeHcQvXg 2013/04/09(火) 14:35:30.60 ID:XFcid8lQ0
暦「別に、そんなつもりはねえよ。 ただ、僕達はもっと手伝える事があるんじゃないかって思ってるだけだ」

忍野「それが自惚れてるって言うんだよ。 阿良々木くん」

忍野「君達はただの一般人だ。 まあ、阿良々木くんは中途半端に人間って形になるんだけど」

横で、戦場ヶ原の視線の鋭さが増した気がした。

忍野「それでも、今回はそれだけなんだよ。 君達に出来る事は」

忍野「まあ、もっとも。 僕は君達の意思を止める権利は無いけどさ」

忍野「でも。 これだけは言っておくけど、君達は死にたいのかい?」

179: ◆XiAeHcQvXg 2013/04/09(火) 14:36:07.68 ID:XFcid8lQ0
そんな訳、あるか。

死にたくて死にたくて生きている奴なんて、居る訳無い。

それこそ、忍の奴だって、吸血鬼時代……最後は僕に助けを求めた。

皆、生きたくて生きているんだ。

忍野「返答が無いって事は、違うと受け取るよ」

忍野「それならこれが最後だ、よく聞いておいてくれよ」

忍野「何か『違和感』があったら僕に報告する事。 これは些細な事でも構わない」

忍野「次に、君達は多分、出会う事は無いと思うけど、もし会ってしまったら絶対に近づかない事。 死にたいなら別だけど」

180: ◆XiAeHcQvXg 2013/04/09(火) 14:36:41.01 ID:XFcid8lQ0
忍野「それと最後。 これはツンデレちゃんや委員長ちゃんじゃなくて、阿良々木くんに対して言っておく言葉だ」

忍野「阿良々木くん、君さ。 かなりヤバイよ」

最後に忍野は、いつもの様に笑いながら、僕にそう言ったのだった。

181: ◆XiAeHcQvXg 2013/04/09(火) 14:37:10.12 ID:XFcid8lQ0
その後、戦場ヶ原と羽川は先に帰らされ、僕は一人、忍野に呼び止められる事となった。

もっとも、戦場ヶ原は僕を連れ戻そうと、必死に忍野と言い争いをしていたけれど(とは言っても、忍野の性格からして、戦場ヶ原が言い合いで勝てるとは思えなかった)

182: ◆XiAeHcQvXg 2013/04/09(火) 14:37:42.79 ID:XFcid8lQ0
そして忍野に色々と質問をされ、僕の方も色々と質問をして。

現在はベッドに横たわっている。

勿論、あの廃墟のベッド(ベッドとは名ばかりで、実際は机を繋げただけ)では無く、正式な、ちゃんとした阿良々木家のベッドである。

暦「にしても、あいつは説明不足にも程があるよな。 毎回毎回」

忍「あの小僧にも小僧なりの考えがあるのじゃろ。 儂にはさっぱりじゃがな」

暦「考えか。 まあ、そうなんだろけどさ」

暦「でも、忍野が教えてくれたのって、結局は僕に何かが起きるかもしれないって事だろ? その何かさえ分からないと」

忍「分かった所でどうこう出来るとは思えんがのう。 それこそ、結果が出てからじゃろ」

暦「そっか。 まあ、忍野にすら何が起こるか分からない程の物だし、忍の言うとおりだな」

暦「分かった所で、僕達の力じゃどうこう出来る物では無い。 その通りだ」

183: ◆XiAeHcQvXg 2013/04/09(火) 14:38:17.71 ID:XFcid8lQ0
以下、回想。

暦「それで、僕がヤバイってのはどういう意味なんだよ。 戦場ヶ原達を先に帰らせて……余計、心配掛けるんじゃないか?」

忍野「かもね。 けどそれで良いんだよ。 そっちの方が阿良々木くんも嬉しいだろ? 心配して貰えるなんてさ」

暦「んな訳ねえだろ。 心配させたく無いんだよ、僕は」

忍野「ははは。 本当に優しいよね、阿良々木くんは」

暦「話を戻すぞ、忍野。 それで、僕に何が起きるんだ?」

忍野「阿良々木くんの方から話を逸らしたのに、酷い話だなぁ。 全く」

忍野「ま、いいんだけどさ。 それじゃあ二人っきりになれたし、本題に入ろうか」

184: ◆XiAeHcQvXg 2013/04/09(火) 14:38:47.87 ID:XFcid8lQ0
忍野「ああ、正確に言えば、二人と一匹かな。 それこそどっちでも良いけど」

と忍野は言い、笑って僕に続ける。

忍野「ぶっちゃけて言うと……何がどうヤバイのかは分からないんだよ」

暦「……は?」

忍野「ただ、なんとなく嫌な空気を阿良々木くんが纏ってるだけって話さ。 自覚は……無いか。 その調子じゃ」

暦「別に、僕はいつも通りだぜ。 忍もいつも通りだ」

忍野「まあ、怪異なんて気付かなければそれまでだし、それもそれで良いんだろうけどさ。 けど、今回は話が別だ」

185: ◆XiAeHcQvXg 2013/04/09(火) 14:39:14.64 ID:XFcid8lQ0
暦「……どういう意味だ。 何が起きてるか知ってるんじゃないか? 忍野」

忍野「いやいや、知らないよ。 だけどね、阿良々木くん」

忍野「嫌な予感ってのは大体当たるんだよ。 特に僕の場合はさ」

忍野「今回はそんなパターンだ。 だから阿良々木くんに警告しているんだよ」

警告。

忍野が言うと、確かに僕にとってはそれはもう、かなり重大な物に聞こえた。

186: ◆XiAeHcQvXg 2013/04/09(火) 14:40:21.51 ID:XFcid8lQ0
忍野「巻き込むのは好きじゃないんだけどなぁ。 本当は阿良々木くんや委員長ちゃん、ツンデレちゃんが何も知らない内に終わってるのが一番だったんだけど」

忍野「まあ、そうもうまくは行かないらしい」

暦「なるほど。 頭の回転が悪い僕でも、大体の事情は分かったよ」

暦「それで、僕にどうしろって言うんだ? 何に気を付ければいけないのか分からないのに、ただヤバイってだけ言われても、嫌がらせとしか思えないんだけど」

忍野「ん? ただの嫌がらせだよ。 阿良々木くん」

暦「……」

忍野「ははは。 そんな怖い顔しないでくれよ。 冗談に決まってるじゃないか」

忍野「さっきも言った様に、阿良々木くんは何か気付いた事があったら教えてくれればいい。 それだけさ」

忍野「本当に些細な事で構わない。 いつもと違う事を教えてくれればいい」

187: ◆XiAeHcQvXg 2013/04/09(火) 14:41:28.43 ID:XFcid8lQ0
いつもと違う事。

暦「……そう言われると、二つ気になる事があるんだ」

忍野「ふうん。 何かな?」

暦「まず、忍野。 お前が戻ってきた事だよ。 それがいつもと違うパターン」

忍野「あー。 確かにそう言われればそうだ。 お見事だよ阿良々木くん。 まあ、それは特に問題では無いんだけど」

忍野「僕は問題を解決しに来た側だぜ? まさかその僕が怪異だって言いたいのかい。 阿良々木くんは」

暦「そうとは言ってねえよ。 忍野がバランスを保持する為に来た事は分かっているさ」

188: ◆XiAeHcQvXg 2013/04/09(火) 14:42:03.79 ID:XFcid8lQ0
忍野「そうかいそうかい。 ま、そうなんだけどね。 んじゃあその事は解決したとして、もう一つはなんだい?」

暦「まあ、これは別に気にする事でも無いだろうしさ。 ただ、いつもと違うっちゃ違うんだけど」

暦「毎朝起こしに来る妹達が、起こしに来てくれないんだよ」

忍野「そりゃ、大変だ。 嫌われちゃったのかい」

忍野「と言うか阿良々木くん。 朝くらい自分で起きなよ。 もしかしてシスコンなのかな、君は」

暦「シスコンでは無い。 だから言ったろ、別に気にする事でも無いって」

189: ◆XiAeHcQvXg 2013/04/09(火) 14:42:29.94 ID:XFcid8lQ0
忍野「そうでもない。 些細な事で良いんだよ。 それはそうと阿良々木くん」

忍野「阿良々木くんにとってさ、その妹ちゃん達が起こしに来ないってのは、それほど異常な事なのかい?」

暦「そうじゃなきゃ、わざわざ言わない。 一応、今まで無かった事だしな」

忍野「……そうかい。 よく分かったよ、阿良々木くん」

暦「本当にこんな事で良いのかよ。 もし妹達が起こしに来ないのが怪異の仕業だったら、それこそ性質の悪い怪異ってのは納得だ」

忍野「はは。 僕には阿良々木くんを更正させる怪異と思えるけどな」

暦「ほっとけ」

回想終わり。


第六話へ 続く

196: ◆XiAeHcQvXg 2013/04/10(水) 13:07:02.47 ID:LcnCiymQ0
朝、目が覚める。

どうやら、今日も自然と起きれたらしい。

少しだけ期待しながら時計に目を移すと、妹達が起こしに来る時間はとっくに過ぎていた。

暦「……今日もか」

だが、今思えば。 あいつらはあいつらで悩んでいる事があるらしいし、それを考えると昨日と今日、起こしに来なかったのは納得できる。 とても、こんな物が怪異の所為だとは思えないし。

火憐の問題や月火の問題は、今日中に解決できるだろうか。 とは言っても、内容すらまだ聞いていないし、なんとかするとも言えないけれど。

197: ◆XiAeHcQvXg 2013/04/10(水) 13:07:43.74 ID:LcnCiymQ0
というか、今までこんな風になった事は無かったと言うのもあり、僕もどうすれば良いのか分からないってのが正直な所なんだけどな。

とりあえず、でっかい妹……火憐とは昨日話したので、今日は小さい方の妹、月火と話さなければなるまい。

昨日の朝は随分と慌てたせいもあって、朝から大分手痛い攻撃を喰らってしまったからな。

だが、今日は違う。 妹達が起こしに来ない理由も分かってるから、二日連続の失敗等、しない予定である。

あくまでも予定。 念の為。

198: ◆XiAeHcQvXg 2013/04/10(水) 13:08:10.95 ID:LcnCiymQ0
思い立ったが吉日。 まあ、火憐程の行動力は僕に無いので、大分ゆっくりした動作だったかもしれない。

暦「おーい。 月火ちゃん居るかー?」

階段を降りながら、月火の名前を呼ぶ。

少し待ってみたが、返事は無かった。

また風呂にでも入っているのだろうか?

一応の確認、玄関の靴。

暦「あれ、おかしいな」

一足見当たらない。 月火の靴は多分あるのだろうけれど(何足かあると言っても、そんなに大量では無いので、一応は把握しているつもりだ)火憐の靴が見当たらなかった。

199: ◆XiAeHcQvXg 2013/04/10(水) 13:09:19.58 ID:LcnCiymQ0
うーん。 どうした物か。

と言うか、昨日との逆パターン(って言っても、実際には二人とも家に居たんだけどな)

月火が家に居て火憐が出掛けているって、あいつらが変な事に首を突っ込んでいるパターンじゃねえか。 本格的に厄介だぞ、それ。

とにかく、やはり一度、月火とは話す必要がありそうだ。

家には居るっぽいし、まずはどこから探そうか。

と考えた所で、リビングへと向かう月火の姿が見えた。

200: ◆XiAeHcQvXg 2013/04/10(水) 13:09:50.74 ID:LcnCiymQ0
なんだよあいつ、さっき呼んだのが聞こえてなかったのか? 風呂に入っていた訳でも無さそうだし。

その月火の後を追う形で、僕もリビングへと入っていく。

いつもなら、ソファーにだらしなく寝そべっている月火だが、今日は意外にも、ちゃんと座っていた。

と言うか、やけに静かだな、あいつ。

一人でも騒がしい奴なのに。

暦「おーい。 月火ちゃん」

少々離れた位置から声を掛けてみる。

が、無反応。

201: ◆XiAeHcQvXg 2013/04/10(水) 13:10:17.96 ID:LcnCiymQ0
何か考え事か? 似合わない似合わない。 柄にも無く、神妙な顔付きなんてしちゃって。

とは言っても、悩み事ね。 あいつの抱えてる悩み事ってなんだろうな。

僕が想像できる範囲だと、良い服が無いとか、後はそうだな……僕に構ってもらえないとかだろうか。

んー。 それにしてもだけど、こう、大人しい月火ってのも中々に珍しい。

表情もなんか、深刻そうと言うか、悩んでいると言うか、そんな感じ。

姿勢は正しいし。 正直な所、切り取った絵みたいな雰囲気だ。

202: ◆XiAeHcQvXg 2013/04/10(水) 13:10:43.82 ID:LcnCiymQ0
あれ、でもこれってさ。 いつもがだらしないと言うか、うるさいと言うか、そんな感じだからそう思うってだけの話なのか。

なんだよ、僕の褒め言葉を今すぐ返しやがれ、月火の奴め。

と、理不尽な怒りを月火にぶつけた所で(ぶつけたと言っても、頭の中で。 実際に言ったら吸血鬼化していなければ多分危ない)少しいたずら心が働いた。

いつもやられている分、仕返ししようと。

具体的には、驚かせてみようと。

思い立ったが吉日。 便利な言葉だな、これ。

203: ◆XiAeHcQvXg 2013/04/10(水) 13:11:10.16 ID:LcnCiymQ0
結論を出した僕は、月火に気付かれない様に後ろからそっと近づく。

音を立てない様に、そっと近づいていく。

月火の後頭部が目の前に迫った所で、僕は足を止めた。

つうか、よく気付かないよな。 どんだけ警戒心が無いんだよ。

んで、近づいた所で何をしようか。 驚かせようとは思った物の、内容までは考えていなかった。

んー。 まあ、とりあえず を んでみるか。

204: ◆XiAeHcQvXg 2013/04/10(水) 13:11:40.65 ID:LcnCiymQ0
即決即断。

背後からそっと腕を伸ばし、一気に月火の へと手を伸ばす。

月火は結局、僕の手が に触れるまで、存在すら気付いていなかった様だ。

月火「え? なになになになに!?」

がばっと立ち上がり、後ろを振り返る月火。

暦「よう。 おはよう月火ちゃん」

爽やかな、朝の挨拶である。

月火「へ?」

月火「だ、誰? なんで私の家に入ってる訳? [ピーーー]っ!」

僕の爽やかな挨拶の返しに、月火がとった挨拶は、僕の顔を掌打で打ち抜く事だった。

つか、いきなり[ピーーー]とか。 火憐の貫手並にありえない。

205: ◆XiAeHcQvXg 2013/04/10(水) 13:12:19.62 ID:LcnCiymQ0
ピーって・・

変換変えます

206: ◆XiAeHcQvXg 2013/04/10(水) 13:12:51.57 ID:LcnCiymQ0
即決即断。

背後からそっと腕を伸ばし、一気に月火の へと手を伸ばす。

月火は結局、僕の手が に触れるまで、存在すら気付いていなかった様だ。

月火「え? なになになになに!?」

がばっと立ち上がり、後ろを振り返る月火。

暦「よう。 おはよう月火ちゃん」

爽やかな、朝の挨拶である。

月火「へ?」

月火「だ、誰? なんで私の家に入ってる訳? 氏ねっ!」

僕の爽やかな挨拶の返しに、月火がとった挨拶は、僕の顔を掌打で打ち抜く事だった。

つか、いきなり氏ねとか。 火憐の貫手並にありえない。

207: ◆XiAeHcQvXg 2013/04/10(水) 13:13:31.51 ID:LcnCiymQ0
時間経過。

こんな感じで、なんとか二日連続の失敗は避けられたと言う訳だ。

僕の中では、こんなのは失敗に入らない。 本人が失敗だと思わなければ、それは失敗では無いのだ。

火憐の言っていた「自分が負けだと思わなければ負けでは無い」 みたいな。

暦「いきなり酷い挨拶だな。 月火ちゃん」

月火の攻撃だけあって、僕の回復は幸いにも早く、昨日みたいな事にはならない。

多分、火憐の攻撃だったら昨日の二の舞、もしかしたらもっと酷い事になっていたのだろう。

208: ◆XiAeHcQvXg 2013/04/10(水) 13:14:27.06 ID:LcnCiymQ0
月火「よくそんな台詞が言えるよね。 棚上げってこう言う事を言うのかな。 勉強になったよ、お兄ちゃんありがとう」

暦「そんな今にも攻撃してきそうな体勢で、ありがとうなんて言われても全く嬉しく無い」

月火「にしても、いきなり何? 結構普通に驚いたんだけど」

結構普通にってどっちだよ、はっきりしやがれ。

暦「いやいや、月火ちゃんがあまりにも隙だらけだったからさ。 ついな」

209: ◆XiAeHcQvXg 2013/04/10(水) 13:15:01.69 ID:LcnCiymQ0
月火「いやいや。 つい、で後ろから     まないでよ。 お兄ちゃん、どんだけ妹の    を むのさ」

暦「朝から        言うなよ、下品だぞ」

月火「お兄ちゃん。 その台詞もう一度言ってくれるかな。 録音しておくから」

暦「え? 録音してどうするんだよ。 そんなに僕の声が聞きたいのか?」

月火「聞かせるのはお兄ちゃんだよ。 お兄ちゃん物覚えが悪そうだから、同じ事をした時に聞かせるんだよ」

暦「僕は自分のした発言についてはしっかり記憶しているぞ。 今まで忘れた事なんて無い」

月火「ふうん。 その発言すら忘れていたら、意味無いけどね」

210: ◆XiAeHcQvXg 2013/04/10(水) 13:15:43.28 ID:LcnCiymQ0
月火「というかさ、誰のせいだと思ってるの? 未来の為に、お兄ちゃんはここで仕留めておくべきだよ。 やっぱり」

暦「まあまあ。 それはさておき、さ」

月火「私としては、たっぷり時間を掛けて話したいんだけど。 家族会議物だよ」

暦「お前ら、また何か問題に首を突っ込んでないか?」

月火「綺麗にスルーしたね。 まあいいけどさ」

良いのかよ。

月火「それより、問題って?」

211: ◆XiAeHcQvXg 2013/04/10(水) 13:17:09.03 ID:LcnCiymQ0
暦「火憐ちゃんが居ないんだよ。 いつものパターンからして、大体お前らが問題事を抱えてる時だろ、これって」

暦「抱えてるっつうか、首を突っ込んでるって言うのが正しいんだろうけど」

月火「別に問題は抱えてないけど。 それよりも一ついいかな、お兄ちゃん」

暦「ん? どうした」

月火「火憐ちゃんって、誰?」

212: ◆XiAeHcQvXg 2013/04/10(水) 13:17:42.48 ID:LcnCiymQ0
今、何て言ったこいつ。

暦「おいおい。 さすがに冗談がきついぜ、月火ちゃん」

暦「火憐ちゃんは火憐ちゃんだよ。 分かるだろ?」

月火「へえ。 お兄ちゃんの彼女?」

暦「な、何言ってるんだ。 僕の妹で、お前のお姉ちゃんだろ、月火ちゃん」

月火「知らないけど。 もしかして、お兄ちゃん。 脳内で妹を作ってるの? そんな酷い事になる前に私に相談してよ!」

213: ◆XiAeHcQvXg 2013/04/10(水) 13:18:18.46 ID:LcnCiymQ0
月火「大体……あれ?」

月火「火憐ちゃん……そうだよね。 お兄ちゃんの妹で、ファイヤーシスターズで、火憐ちゃん」

月火がこめかみを押さえながら蹲る。

暦「おい……月火ちゃん、大丈夫か?」

その月火の背中を摩り、顔を覗き込み、様子を伺った。

顔色は、あまり良い様には見えない。

214: ◆XiAeHcQvXg 2013/04/10(水) 13:19:04.69 ID:LcnCiymQ0
月火「うーん。 おかしいなぁ。 火憐ちゃんは火憐ちゃんだよね。 お兄ちゃんの妹だ」

暦「どうしたんだよ、月火ちゃん。 本当に大丈夫か?」

月火「ごめん。 何で忘れていたんだろ、私」

暦「忘れていた? 火憐ちゃんの事を?」

どういう事だ。 あんだけ仲が良いのに、忘れるなんて。

月火「うん。 最近、ど忘れって言うのかな。 多いんだよね」

月火「と言うかさ、正直な話だけどさ」

215: ◆XiAeHcQvXg 2013/04/10(水) 13:19:37.23 ID:LcnCiymQ0
月火「さっき、お兄ちゃんが私の    を んだでしょ? 後ろからいきなり」

ただの朝の挨拶。 ただの朝のスキンシップをそう言われると、ただの変 みたいだな、僕。

月火「その時もさ、一瞬誰か分からなかった。 だから本当にびっくりしたよ」

暦「誰か分からなかったって、それってもう」

ど忘れって話じゃない。 明らかにおかしい。

病気? それとも、月火の体内に宿っている怪異のせいか?

216: ◆XiAeHcQvXg 2013/04/10(水) 13:21:06.59 ID:LcnCiymQ0
いや、違う。

僕には心当たりがあるじゃないか。 それも昨日、忍野から聞いているじゃないか。

そう言う事としか考えられない。 これが、怪異の所為だとするならば。

でも、おかしくないか? 僕自身に起きる筈なのに、何で月火が。

暦「とにかく、月火ちゃん」

言っていいのか、駄目なのか。

迷っていられるかよ、くそ。

217: ◆XiAeHcQvXg 2013/04/10(水) 13:21:41.00 ID:LcnCiymQ0
暦「そう言うのに詳しい奴が居るんだよ。 今からそいつと会ってくるから、大人しく待っててくれ」

月火「そう言うのってどういうの? お兄ちゃんの言ってること、ちょっと意味が分からないんだけど」

暦「ちゃんと説明する。 全部、しっかりと」

月火「そっか」

月火は短くそう言い、続けて何回も、小さく、小さく繰り返していた。

月火「…… じゃあ信じてみようかな」

暦「ああ。 お前のお兄ちゃんを信じろ。 なんとかしてやるから」

安請け合い。 本当に解決できるなんて、保証できないのに。

けれど、月火の暗い顔は見ていたくなかった。 そんな顔は似合わねえよ、お前。

月火の方も多分、あまり期待はしていないのだろう。

218: ◆XiAeHcQvXg 2013/04/10(水) 13:22:14.21 ID:LcnCiymQ0
だが、信じると言ってくれた。 僕の事を。

ならそれだけだ。 やれるだけの事をやってやる。

それで何も解決できなかったのなら、月火の怒りは全部僕が受け止めてやる。

とにかく、今は急がなければ。 急いで、忍野の所へ。

暦「よし、じゃあ僕はちょっくら出掛けて来る。 すぐに戻るからな」

そう声を掛け、自転車の鍵を取り、玄関へと向かう。

その僕の背中に、月火から声が掛かった。

219: ◆XiAeHcQvXg 2013/04/10(水) 13:22:40.40 ID:LcnCiymQ0
月火「私、やっぱり変だよね」

振り向き、僕は言う。

暦「いつも変だろ、月火ちゃんは。 だから別に気にする事なんてねえんだよ。 月火ちゃんはいつも通り、だらだら過ごしとけ」

月火「そっかそっか。 いつも変か。 でもそれを言ったら、お兄ちゃんも変って事になるけど、良いのかな」

暦「そりゃそうだろ。 なんつったって、僕達は兄妹なんだからさ」

月火「おっけーおっけー。 話は分かったら、早く行ってきなよ、お兄ちゃん」

月火「でも、なるべく早くしてよね。 私だって」

月火「お兄ちゃんとか火憐ちゃんの事、忘れたくないよ」

220: ◆XiAeHcQvXg 2013/04/10(水) 13:23:09.98 ID:LcnCiymQ0
その言葉を受け、僕は一目散にあの廃墟へと向かう。

まだ、昼を少しだけ過ぎた所だ。 忍野が今居るかも分からないけれど、とにかく急いで報告をしないと。

自転車を必死に漕ぐ。

くそ、僕自身に何かが起こるかと思って油断していた。 まさか月火に影響が出るなんて。

必死に、必死に自転車を漕ぐ。

その時。

221: ◆XiAeHcQvXg 2013/04/10(水) 13:23:39.94 ID:LcnCiymQ0
暦「うおっ!」

目の前に影が飛び出してきた。 急ブレーキを掛けながら、なんとか避けられたが。

暦「悪い! 大丈夫か?」

しかし、その影は僕の見知った知り合い。 いや、友達。

八九寺「危ないじゃないですか。 何を考えてそんな飛ばしているんですか。 阿良々木さん」

いつものネタは仕掛けて来なかったが、今、そう呼んで貰えたのは正直な所、嬉しい。

暦「は、八九寺か。 大丈夫か?」

八九寺「阿良々木さんに轢かれる程、鈍くさくはないです。 車には勝てませんが」

222: ◆XiAeHcQvXg 2013/04/10(水) 13:24:10.89 ID:LcnCiymQ0
暦「重いよ! その自虐ネタ重過ぎるだろ!」

八九寺「これからはこれを持ちネタにしようと思っているんですよ。 ですので宜しくお願いします」

暦「返しが難しいネタを持ちネタにするんじゃねえよ。 普通にいつものネタでいいだろ」

八九寺「マンネリと言うのもありますしね。 いつまでも同じネタでは飽きられてしまいます」

暦「まだ公衆の面前で披露していないネタに、マンネリも何も無いと思うが」

八九寺「そういう油断が、一番危ないんですよ。 やはり阿良々木さんとはコンビを組めそうに無いですね」

223: ◆XiAeHcQvXg 2013/04/10(水) 13:24:42.11 ID:LcnCiymQ0
暦「え? 僕達コンビを組む予定とかあったの?」

八九寺「うまく行けば、今年中にはデビューできた筈です」

暦「マジかよ。 じゃあそのチャンスをみすみす逃したって訳か」

八九寺「ええ。 残念ながら」

八九寺「ですが、まだ次のチャンスはあります。 ですので頑張りましょう! 阿良々木さん!」

暦「おう!」

224: ◆XiAeHcQvXg 2013/04/10(水) 13:25:14.32 ID:LcnCiymQ0
閑話休題。

八九寺「それはそうと、阿良々木さん」

暦「ん?」

八九寺「随分と急いでいる様子でしたけど、何か用事でもあるんですか?」

暦「ああ、そうだった。 忍野に会いにいかないといけないんだよ」

八九寺「忍野さん、ですか。 でも、あの人はこの町から出て行った筈では?」

暦「それが昨日、ふらっと戻ってきてさ。 今はあの廃墟に居るんだ」

八九寺「へえええ。 あの人も随分と変わり者ですね。 わざわざ戻ってくるなんて」

暦「まあ、事情があるんだけどな」

八九寺「……あまり、良い事情だとは思えませんけれど」

225: ◆XiAeHcQvXg 2013/04/10(水) 13:25:44.07 ID:LcnCiymQ0
暦「全く持ってその通り。 なんでも結構マズイ状況らしいぜ」

八九寺「なるほど。 それで相も変わらず、阿良々木さんはそれに首を突っ込んでいる、と」

暦「ま、そうなるな」

暦「お前も、変な奴とかに会ったらすぐに逃げろよ。 その辺、八九寺ならすぐに分かるだろ?」

八九寺「そうですね。 では、これから阿良々木さんと出会ったらすぐに逃げる事にします」

暦「言うと思ったぜ。 だから僕はこう返す」

暦「逃げる間も無く捕まえてやる!」

八九寺「ふん! 望む所です!」

と、よく分からない勝負の約束をした。

226: ◆XiAeHcQvXg 2013/04/10(水) 13:26:28.77 ID:LcnCiymQ0
暦「んじゃ、僕はそろそろ行くよ。 急いで忍野と話さないといけない用事があるんだ」

八九寺「分かりました、それではまた……」

八九寺は、最後まで言い切る前に、言葉を打ち切る。

暦「おい、どうした? 別れの挨拶くらいしっかり言えよ」

八九寺「いえ、あの。 すいません」

八九寺「どちら様でしょうか?」

227: ◆XiAeHcQvXg 2013/04/10(水) 13:27:30.16 ID:LcnCiymQ0
くそ、くそ。

あれから、何度も八九寺に話しかけたが、結局最後の最後まで僕の事を思い出す事は無かった。

僕と話した人間が、僕の事を忘れる?

いや、でも。 月火は僕の事を思い出してくれた。

それに、月火は火憐の事も忘れていたんだ。

既にもう、何がどうなって、何が起きているのか分からない。

あの時の八九寺の顔。

本当に、僕の事を忘れていた。

今まで話した事も全部。 跡形も無く。

228: ◆XiAeHcQvXg 2013/04/10(水) 13:28:28.05 ID:LcnCiymQ0
人に忘れられる事は、こんなにも辛い事だったのかよ。

暦「……そうだ、戦場ヶ原」

あいつなら、僕の事を覚えている筈だ。

そりゃ、そうだろ。

だってあいつは、忘れる事を嫌う。

もしも、忘れる原因が僕と話す事だったとするなら、この行為は危ないかもしれない。

だけど、そうであろうと。

今は、僕の事を覚えている人と、話がしたかった。

自転車を一度止め、携帯電話を取り出す。

電話帳から戦場ヶ原の名前を呼び出し、通話ボタンを押す。

一回、二回、三回目のコールの途中で、電話は繋がった。

229: ◆XiAeHcQvXg 2013/04/10(水) 13:28:56.20 ID:LcnCiymQ0
暦「もしもし、戦場ヶ原か?」

僕はこの時思い知る。

人との思い出すら、記憶すら、怪異の前ではなんの意味も持たない物なのだと。

戦場ヶ原「……すいません、どなたでしょうか? 携帯に登録されていたので、知り合いなのかもしれませんが、覚えが無くて」

なんて。

僕の彼女は、そう言ったのだから。


第七話へ 続く

238: ◆XiAeHcQvXg 2013/04/11(木) 13:06:09.27 ID:nU8S8t1b0
その後、羽川や神原や千石に電話をしてみた物の、結果は全て同じ。

つまり、全員が僕と言う存在を忘れていた。

どうすれば良いんだ。 忍野に会えば解決できるのか。 もう、皆の記憶は戻らないのか。

僕自身、多分相当焦っていた。

だって、そりゃそうだろ。 つい昨日まで、何事も無く話していた友達が、全員僕の事を忘れているんだから。

とにかく、とにかくだ。

まずは、忍野に会わなければ。

会って、話さなければ。

何が起きて、どうなったのか。

もう頼れる奴は、あいつしか居ないのだから。

239: ◆XiAeHcQvXg 2013/04/11(木) 13:06:54.47 ID:nU8S8t1b0
忍「お前様よ。 少しは落ち着かんか」

暦「忍っ! 分かるか? 僕の事が分かるか?」

僕の影から忍が現れる。 迂闊にも、一番最初に確認するべき忍の事を僕が忘れていたなんて、とんだ皮肉である。

忍「何を言っておる。 儂を誰だと思っとるんじゃ。 お前様の事なら全て分かるわい」

暦「良かった……もう、どうにかなっちゃいそうだったんだよ。 忍が覚えていてくれて良かった」

忍「ふん。 たかが忘れられたくらいで慌てすぎじゃよ、お前様は」

240: ◆XiAeHcQvXg 2013/04/11(木) 13:07:46.68 ID:nU8S8t1b0
暦「そうは言ってもさ。 いきなり前触れも無く、忘れられるなんて……結構辛いぞ」

忍「儂には分からん感情じゃな。 まあよい」

それもそうか。 忍も伊達に五百年生きている訳じゃない。

こいつに思い出とか、友達が居たのかは分からないけれど、そいつらは全員忘れていったんだ。 忍の事を。 死と言う形で。

忍「それより、今すべき事は分かるか? お前様よ」

暦「分かってる。 忍野に会う、だろ?」

僕がそう言うと、忍は溜息を付き、口を開く。

忍「馬鹿か貴様は。 本気で言っておるのか?」

241: ◆XiAeHcQvXg 2013/04/11(木) 13:08:25.56 ID:nU8S8t1b0
暦「どういう意味だよ、忍」

そう聞いた僕の顔をじろりと睨み、忍は続けた。

忍「まず、おかしいと思わんのか? 何故、あの小僧は戻ってきたのか」

暦「そりゃ、あれだろ。 この町に怪異が出たから……」

忍「それだけだとは思えんのう。 この儂には」

忍「まあ、もっとも。 儂の予想が絶対に正しいとは言えんが」

242: ◆XiAeHcQvXg 2013/04/11(木) 13:09:17.32 ID:nU8S8t1b0
暦「それだけじゃない、他の理由……」

暦「つまり、忍野が何かを隠しているって事か?」

忍「もしくは」

忍「あやつ自体が怪異。 と言う事じゃよ」

忍野自身が、怪異?

暦「でも、昨日……忍は違うって言ってただろ? あいつは正真正銘、忍野だ。 って言ってたじゃないか」

忍「確かにそう言ったのう。 だが、それはお前様が生み出した怪異。 と言うパターンに置いての話じゃよ」

243: ◆XiAeHcQvXg 2013/04/11(木) 13:09:56.34 ID:nU8S8t1b0
暦「えっと。 って事は」

忍「他の誰かが生み出した怪異ならば、話は別じゃ」

暦「つまり、最初からずっと、あいつは怪異って事か? あのゴールデンウィークの時から」

忍「たわけ。 あの時は正真正銘、ただのアロハ小僧じゃよ」

ただのアロハ小僧って、すごい言葉だな。

忍「しかし。 こんな偉そうに言ってみた物の、今のアロハ小僧が怪異と言うのも、確定では無いがの」

暦「忍でも、分からないのか?」

忍「分からん事も無いが、この町はどうにも、その辺りの匂いが強すぎるんじゃ。 長い時間一緒におれば分かるが、大して一緒におった訳でも無いしのう」

244: ◆XiAeHcQvXg 2013/04/11(木) 13:10:37.40 ID:nU8S8t1b0
暦「そうか。 そうだよな。 それに、昔程の力もある訳じゃないしな」

暦「それで忍、そういう怪異に心当たりは?」

忍「人の形を真似る怪異。 言い出したらキリが無い程おるよ」

忍「それに、その質問は愚問じゃよ。 我が主様よ」

忍「心当たりがあるから、儂がわざわざ出てきておるのが分からんのか?」

暦「はは。 それもそうだな」

245: ◆XiAeHcQvXg 2013/04/11(木) 13:11:23.54 ID:nU8S8t1b0
忍「話を戻すぞい。 一番確率がありそうな奴……一番ありそうな怪異と言えば」

忍「ドッペルゲンガー。 これはお主も知っておるじゃろ?」

暦「ドッペルゲンガー? 随分と最近の話の気がするけど、そんな怪異も居るのか?」

忍「怪異は生きておるんじゃ。 噂になった時点で、存在するんじゃよ」

暦「……確かに、吸血鬼だとかもその類なんだよな」

暦「それで、そいつはどういった怪異なんだ?」

暦「僕が知っている限りじゃ、自分とそっくりな影がある日現れて、そいつと会うと死ぬってくらいだけど」

忍「ふむ。 そうじゃな、そういう説が一番流れておる」

忍「だが、怪異としての奴は違う」

246: ◆XiAeHcQvXg 2013/04/11(木) 13:18:22.60 ID:nU8S8t1b0
忍「これもあの、アロハ小僧の受け売りじゃが」

忍「呪い。 呪いによって出てくる怪異じゃ」

忍「前髪娘の様な、の」

暦「呪い……か」

忍「そして、呪いが掛けられた対象の、もっとも苦手とする人物の姿で現れるんじゃよ」

苦手とする人物、か。 なるほど、それなら忍野の姿と言うのもかなり納得できてしまう。

忍「ドッペルゲンガーの目的は一つ。 呪われた対象を-----[ピーーー]事じゃ」

248: ◆XiAeHcQvXg 2013/04/11(木) 13:20:00.79 ID:nU8S8t1b0
忍「これもあの、アロハ小僧の受け売りじゃが」

忍「呪い。 呪いによって出てくる怪異じゃ」

忍「前髪娘の様な、の」

暦「呪い……か」

忍「そして、呪いが掛けられた対象の、もっとも苦手とする人物の姿で現れるんじゃよ」

苦手とする人物、か。 なるほど、それなら忍野の姿と言うのもかなり納得できてしまう。

忍「ドッペルゲンガーの目的は一つ。 呪われた対象を-----殺す事じゃ」

874: ◆XiAeHcQvXg 2013/04/25(木) 10:47:54.45 ID:+P9v2xqH0
暦「殺す、事。 はは、まるでレイニーデビルみたいだな、それだと」

忍「似て非なる物と言った所じゃよ」

忍「レイニーデビルは対価を求めるじゃろ? 魂と言う名の対価を」

忍「それに、あの悪魔は何も殺す事だけが目的では無いしの」

忍「しかし、ドッペルゲンガーは対価を求めないんじゃ。 現代風に言うならば、無償の殺し屋、と言った感じかのう」

暦「でも、それならどうして、すぐに僕を殺さないんだよ。 ぶっちゃけ、忍野とやり合ったら勝てる気しないぞ」

249: ◆XiAeHcQvXg 2013/04/11(木) 13:21:32.22 ID:nU8S8t1b0
僕がそう思うのも無理はない。

ゴールデンウィークの時、僕がかなり苦労して、なんとか退けた吸血鬼ハンター達。

ドラマツルギー。 エピソード。 ギロチンカッター。

あいつらの攻撃を忍野は、一人で全て受け切ったのだ。

忍「少しは頭を使わんかい。 ドッペルゲンガーと言えど、その化けた姿や形だけでは無く、性格や趣味、そして行動から考え方まで、全て一緒なんじゃよ」

忍「唯一の違いと言えば、呪いを掛けられた対象を殺す。 と言う、明確な目的がある事。 じゃがの」

暦「なるほどな。 つまり、簡単に解釈するならば、忍野が本気で僕を殺そうとした時と、一緒の行動を取るって事か?」

忍「その通り。 理解が早くて助かるのう」

罵倒されたり、褒められたり、どっちなんだよ。

250: ◆XiAeHcQvXg 2013/04/11(木) 13:22:36.56 ID:nU8S8t1b0
忍「じゃが、これもあくまで仮定にすぎん。 それだけでは説明できん事も起きておるしのう」

暦「説明できない事……皆の記憶喪失、か」

忍「とにかく、儂が言いたい事は一つじゃ」

忍「白と確定する前にあやつと会うのは危険。 と言う事じゃよ」

けど、ならどうしろって言うんだ。 忍野には頼れないとなると、僕はどうすれば。

本当に、忍野は怪しいか? あいつの言葉、どう考えても本物にしか見えなかったけど。

今起きている事。 僕自身に起きているとは、言えない。

251: ◆XiAeHcQvXg 2013/04/11(木) 13:23:35.45 ID:nU8S8t1b0
暦「……分かった。 とにかく一度、家に帰る」

暦「月火ちゃんにはもう少し、我慢してもらおう」

暦「けど、一つだけ約束してくれ、忍」

忍「なんじゃ、お前様よ」

暦「あいつが怪異だとしたら、僕は間違いなく倒しに行く。 その時は、協力してくれるか」

忍「何を言っておるんじゃ、儂には断る理由など無い」

暦「そうだったな。 ありがとう、忍」

忍「カカッ。 礼には及ばんよ」

252: ◆XiAeHcQvXg 2013/04/11(木) 13:24:01.91 ID:nU8S8t1b0
その時、匂いがした。

花の匂いの様な、そんな感じ。

今まで嗅いだ事の無い物だったけれど、なんとなく、僕にはそれが花の匂いだと『分かった』。

「……ん。 待て、お前様!」

それだけ言い、---は忽然と姿を消した。

253: ◆XiAeHcQvXg 2013/04/11(木) 13:24:39.93 ID:nU8S8t1b0
そして、僕は家に帰る。

月火が待つ、家へと。

その道中、僕の知らない奴が、声を掛けてきた。

何やら大きな荷物を抱えて、まるで旅の途中の様な、そんな大荷物。

そして、随分と気さくに、そいつは言う。

254: ◆XiAeHcQvXg 2013/04/11(木) 13:25:09.39 ID:nU8S8t1b0
「おいおい、-----。 どこに行くんだよ」

「つうか、どこから来てるんだ? あっちには面白い物なんてねえだろ」

「はあ? なんだよおい、喧嘩売ってるのか?」

255: ◆XiAeHcQvXg 2013/04/11(木) 13:25:37.25 ID:nU8S8t1b0
ん。 なんだか焦っている、のか?

最近、世の中には変な奴が増えたよなぁ。

いきなり絡んでおいて、喧嘩売ってるのかって、僕は特に買いもしなければ売りもしない。

との事を言うと。

「そうかよ。 結局、皆そうなんだな。 -----も」

と言い、僕の前から姿を消した。

若干、顔が青ざめていたのが気になるっちゃ気になるが、それだけだ。

ここら辺は随分と治安が良いと思っていたけれど、案外そうでも無いかもしれない。

まあ、どこの町だってそんな物かもしれないが。

256: ◆XiAeHcQvXg 2013/04/11(木) 13:26:11.20 ID:nU8S8t1b0
そのまま家に付き、玄関の扉を開く。

暦「ただいま」

月火「お、遅かったね。 それで、どうだった?」

暦「ん? どうって、何がだよ」

月火「あれ、何がだっけ?」

変な奴がここにも居たか。

暦「まだ寝惚けてるのかよ、月火ちゃん。 ちゃんと勉強しないからだぜ」

月火「はい? お兄ちゃんよりはしてるけど、それにお兄ちゃんよりは落ちこぼれていないけど? むしろ成績、上の方だしね」

257: ◆XiAeHcQvXg 2013/04/11(木) 13:27:17.98 ID:nU8S8t1b0
暦「ちげーよ。 僕が言ってるのは人生の勉強の事だ」

月火「お兄ちゃんに人生の勉強を教えてもらっても、絶対役にたたないね。 むしろ逆効果だよ」

暦「ほう。 言っとくが、僕の話は参考になるぞ。 これは保証しよう」

月火「ふうん。 へえ。 そうなんだ。 で、どういう風に参考になるのかな? お兄ちゃん」

暦「そうだな、まずは妹とのスキンシップの仕方とか、そう言った事の参考になる」

月火「いや、どう考えてもそれ、参考にならないでしょ。 現在進行形で失敗の形として表れてるよ」

258: ◆XiAeHcQvXg 2013/04/11(木) 13:27:51.20 ID:nU8S8t1b0
暦「分かってないな。 月火ちゃん」

暦「だって、月火ちゃんは僕の事、好きだろ? 結果は表れているじゃないか。 成功って形で」

月火「え、なになに。 よく聞こえなかったんだけど。 もう一回言ってくれるかな?」

暦「だって、月火ちゃんは僕の事、好きだろ? 結果は表れているじゃないか。 成功って形で」

月火「うわ、むかつく程にリピートしたね」

月火「で、なんで私がお兄ちゃんの事が好きなお兄ちゃんっ子みたいな扱いをされてる訳?」

259: ◆XiAeHcQvXg 2013/04/11(木) 13:28:16.35 ID:nU8S8t1b0
暦「え、違うのか?」

月火「好きか嫌いかで言われれば、そりゃ好きな方にはなるけどさ。 でも、その度合いを数値で表すと」

月火「百が限界だとして、零が平均ね。 マイナスになると嫌いの方向になるとしてだ」

暦「うん。 八十くらいだろ?」

月火「自信たっぷりに言うその顔がむかつくよ。 ほどよくむかつね、その顔」

月火「私の中では、十四くらいかな。 お兄ちゃんなんてその程度だよ」

暦「ひくっ! いくらなんでも低すぎるだろ! せめて二十にしない? キリがいいしさ」

260: ◆XiAeHcQvXg 2013/04/11(木) 13:29:03.03 ID:nU8S8t1b0
月火「そう? じゃあ十で良いかな。 四捨五入して」

暦「やめろよ! 無理矢理繰り上げて二十にしてくれ!」

無理矢理と言う言葉を使って、自分で少し悲しくなる。

月火「まあ、とにかくさ。 私の中でのお兄ちゃん好き度なんてその程度だよ。 分かったかな?」

暦「ぐぬぬ」

暦「で、でも待てよ月火ちゃん! それならどうして『毎朝僕を起こして』くれるんだよ」

261: ◆XiAeHcQvXg 2013/04/11(木) 13:29:43.21 ID:nU8S8t1b0
月火「へ? 私がお兄ちゃんを起こす? いつ?」

暦「ん? んー。 あれ、無かったな、そういえば」

月火「そうだよ。 全くもう、私に起こして欲しいの? ならそう言ってくれれば良いのに」

暦「ん。 起こしてくれるの? やったー」

月火「うん、良いよ。 だからさお兄ちゃん、何か簡単な物でいいから、武器に使えそうな物、用意しておいてね」

暦「武器? どうしてまた、何か退治にでも行くのかい。 月火ちゃん」

月火「明日の朝から出動だよ。 お兄ちゃんの睡魔と戦って来るんだ」

暦「そ、そうなのか。 ああ、でもやっぱり月火ちゃん。 兄として妹に起こされるってのは少しあれだし、やっぱり自分で起きるよ」

262: ◆XiAeHcQvXg 2013/04/11(木) 13:30:32.60 ID:nU8S8t1b0
月火「ふうん。 そっか、それは残念だ」

月火「ま、別にいいけどさ。 そろそろご飯だし、お風呂入っちゃってね」

暦「一緒に入るか?」

月火「絶対嫌。 お兄ちゃんと入るくらいなら、雨の日に外で体を洗った方がマシだよ」

そこまでかよ。

暦「そこまで拒否られると、さすがに傷付くぜ」

月火「どうせ傷の一つや二つ、増えても変わらないでしょ」

暦「まあ、それもそうかもしれないけど! 『たった一人の妹』なんだから、もう少し優しく接してくれよ!」

暦「一応言っておくが月火ちゃん、お前が今より更にチビだった時は、僕と一緒にお風呂とか入ってたんだからな」

263: ◆XiAeHcQvXg 2013/04/11(木) 13:32:29.57 ID:nU8S8t1b0
月火「知ってる。 それが私の人生、最大の失敗だからね。 忘れられないよ」

最大の失敗かよ。 ならそうだな、その失敗を作ってあげたお兄ちゃんに感謝しろよ、月火。

だってそれが最大の失敗なら、この先もっと大きな失敗なんて無いだろ。

月火「とにかくさ。 ちゃっちゃとお風呂入っちゃってよね。 じゃないとご飯にならないし」

暦「はいはい。 分かったよ」

264: ◆XiAeHcQvXg 2013/04/11(木) 13:34:30.36 ID:nU8S8t1b0
玄関先での随分と長い無駄話を終え、僕は一人、風呂場へと向かう。

月火「そーいえばさ、お兄ちゃん」

その背中に、月火が再び声を掛けてきた。

早く風呂に入れと言う癖に、僕と話したがる月火に免じて、渋々振り向く。

暦「んー?」

月火「今日、不審者に会ったんだよ。 それも家の中で」

暦「落ちが見えた。 僕は不審者じゃねえぞ」

265: ◆XiAeHcQvXg 2013/04/11(木) 13:34:58.33 ID:nU8S8t1b0
月火「いやいや、そうじゃなくってさ。 真面目な話」

暦「へえ。 真面目な話ね。 月火ちゃんの口からそんな言葉が出た時点で、既に真面目な話だな」

暦「で、それはどんな不審者だったんだ?」

月火「その失言については見逃してあげるよ。 特別サービスで」

月火「それで、よく分からないけど、私の名前を知ってたんだよ。 お兄ちゃんの名前も」

暦「そりゃ、月火ちゃんの友達じゃねえのか? お前、友達いっぱいいるじゃん」

266: ◆XiAeHcQvXg 2013/04/11(木) 13:35:25.86 ID:nU8S8t1b0
月火「多いけど、さすがの私も友達の顔なんて忘れないよ。 だから今日のは不審者なんだよ」

暦「つうか、マジで知らないんだったらやばいだろ、それ」

暦「何もされなかったのか? 月火ちゃん」

月火「されなかったって言えば、されなかったんだけど」

月火「でも、されたと言えば、されたって事になるのかなぁ」

暦「そっか。 大丈夫だった……んだよな? 何か変な事をされたりとかは、無かったんだよな」

月火「それは平気。 と言うか、お兄ちゃんの心配っぷりが恐ろしいよ」

暦「普通だろ? 知らない奴が家の中に居るとか、ホラーかよ」

267: ◆XiAeHcQvXg 2013/04/11(木) 13:35:52.37 ID:nU8S8t1b0
月火「うーん。 まあ、そうなんだけどさ」

月火「その人、なんか怖くなかったんだよね。 よく分からないんだけど」

暦「僕だったら絶対叫び声あげてるぞ……」

月火「私もそうだよ。 叫びそうになったんだけど」

月火「何ていうか、必死……って感じだったんだよね」

暦「必死? 目的がわからねえな、そいつの」

268: ◆XiAeHcQvXg 2013/04/11(木) 13:36:52.99 ID:nU8S8t1b0
月火「うん。 何を言ってるのか分からなかったし。 一応、私もかなり驚いてたから、ほとんど覚えてないんだけどね」

月火「でも、名前は覚えてる。 こう言うのもあれだけど、良い名前だったよ」

暦「そこまで話し合ってるお前が驚きだぞ。 僕としては」

暦「それで、何て言ってたんだ? 名前」

月火「えっとね」

月火「あららぎ、あららぎかれん。 そう、言ってた」


第八話へ 続く

277: ◆XiAeHcQvXg 2013/04/12(金) 13:05:19.92 ID:bRAFU2f40
あららぎ、かれん。

どこかで、聞いたか?

いや、そんな訳無いだろ。 あららぎってのはつまり、阿良々木だよな。

珍しい苗字だとは思うし、聞いていたのなら僕が覚えている筈だ。 阿良々木かれん、なんて名前を『忘れる』訳が無いじゃないか。

直後。

頭痛。 激しい頭痛。

とてもやり過ごせる物じゃない、頭を押さえ、倒れそうになる。

278: ◆XiAeHcQvXg 2013/04/12(金) 13:05:51.79 ID:bRAFU2f40
倒れるのはなんとか回避できたが、とてもじゃないが立って居られない。

今まで経験してきた中で、多分トップクラスの頭痛だろう。

羽川のもこんな感じだったのだろうか?

羽川、翼。 頭痛?

なんで僕は『羽川に頭痛が起きたと思っている』んだ? そんなシーン、見たことも無いのに。

疲れているのか。 そう言えば、今日はやけに体がだるい。

279: ◆XiAeHcQvXg 2013/04/12(金) 13:07:04.05 ID:bRAFU2f40
「お兄ちゃん、お兄ちゃん! 大丈夫?」

僕の肩を掴み、そう声を掛けてくる奴が居た。

月火「大丈夫? 頭痛いの?」

まるで、小さい子供に言うように話掛けてきていたのは、月火だった。

ああ、そうか。 僕は月火と話している途中だったのか。

暦「大丈夫、大丈夫だ。 月火ちゃん、僕は大丈夫」

月火「とてもそうは見えないんだけど、本当に?」

280: ◆XiAeHcQvXg 2013/04/12(金) 13:07:38.95 ID:bRAFU2f40
暦「ああ。 突然、頭痛がしてさ。 今はもう治まったから」

本当はまだ少しだけ痛むが、月火には余計な心配を掛けたくなかった。

このままでは、救急車をでも呼ばれてしまいそうだ。 もし、そうなったら僕の友達にも心配を掛けてしまうだろう。

月火「なら、良いんだけど。 疲れているんじゃない?」

暦「かもしれねぇ。 ごめん月火ちゃん、今日はちょっと寝る事にする」

月火「うん。 それが良いよ。 お兄ちゃんの事だから、一日寝ればすぐに治るから」

暦「もはや突っ込む気すらしないな。 まあ、僕は寝るよ」

月火「お大事に。 何か用があったら呼んでね」

月火「私に出来る事あったら、してあげるからさ。 貸しは高くつくけどね」

281: ◆XiAeHcQvXg 2013/04/12(金) 13:08:10.59 ID:bRAFU2f40
暦「そうか。 ありがとうな、月火ちゃん」

そう言い、未だに肩に手を置く月火の頭を撫で、立ち上がる。

頭を撫でるついでに、立ち上がるついでに、 を んでおいた。

月火「……その自然な動作はすごいよ。 尊敬に値するね」

月火も慣れてきたのか、あまり面白いリアクションは見られない。

うーん。 もっと違う事をしなければ、これ以上面白いリアクションは望めないかもしれないな。

僕も、次に打つ手を考えておかなければ。

282: ◆XiAeHcQvXg 2013/04/12(金) 13:08:36.66 ID:bRAFU2f40
暦「言っておくが月火ちゃん、今のは貸しだぜ。 これで月火ちゃんには貸しが出来たという形になる」

月火「妹の    を む事によって、貸しを与える兄ってどうかと思うよ。 むしろ全世界探しても、ここにしか居ないと思う」

と、いつもの無駄なやり取りが始まりそうになった。

別に僕自身、既に頭痛は殆ど治まっていたので、始めても良かったんだけれど、月火の方が「それじゃあ、ゆっくり休んでね。 おやすみ」と言う物だから、渋々自分の部屋へと向かう事になってしまった。

283: ◆XiAeHcQvXg 2013/04/12(金) 13:09:21.36 ID:bRAFU2f40
さておき。

今は自室のベッドへ横たわっている。

特にする事も無く、したい事も無い。 なのだが。

ただ寝るだけってのも、案外辛い物なのだ。

部屋の中を照らすのは、窓から差し込む月明かりだけであった。

その明かりが、部屋に置いてある物に当たり、影を作り出している。

影。

284: ◆XiAeHcQvXg 2013/04/12(金) 13:09:48.72 ID:bRAFU2f40
暦「あれ」

気付けば立ち上がり、窓を背中に、自分の影を僕は見下ろしていた。

暦「おーい」

とか、言ってみたり。

まずいな、やはり僕は疲れているのだろう。

こんな、自分の影に向けて話しているのを月火にでも見られたら、多分あいつはこう言うな。

「うわ、お兄ちゃん。 友達が少ないとは知っていたけれど、まさかそんな、自分の影と話す程寂しかったんだね。 今度からは私が相手になってあげるから、言ってね」

とか言うだろうな。

285: ◆XiAeHcQvXg 2013/04/12(金) 13:10:41.25 ID:bRAFU2f40
けれど、幸いにも僕は今、具合が悪いのだし「熱でもあって、変になっているんだろう」とでも思われるのが関の山か。

つうか、そんな寂しい奴って訳でも無いのになぁ。

戦場ヶ原は僕の彼女でもあるし、羽川だって友達だ。

千石だって友達。 神原だって友達じゃないか。

四人も居るんだぜ、凄いだろ。

って月火に自慢でもしてやろうか。 あいつはその十倍以上居そうだけれど。

さすがは僕の妹って所か。 僕自身が反面教師として大活躍である。

286: ◆XiAeHcQvXg 2013/04/12(金) 13:11:08.63 ID:bRAFU2f40
さて。

それにしてもだ。 影に話掛けては見た物の、返答なんてのは当然無かった。

何を期待しているんだか。 これは本当に、そろそろマジで自分の体調が心配になってしまう。

いつまでもこうしていて、それこそ月火にでも見られたら嫌だし、今日は寝よう。

月火に言われたからでは無いが、一日寝ればなんとか治ってるだろうし。

と思い、再びベッドに体を投げる。

287: ◆XiAeHcQvXg 2013/04/12(金) 13:11:34.45 ID:bRAFU2f40
目を瞑り、睡眠体制。

その時、睡眠を阻害する音が部屋に鳴り響く。

ああ、どうやら僕の携帯の様だ。

渋々、仕方なく画面を見る。

発信者は、僕の彼女。 戦場ヶ原ひたぎだった。

さすがに気付いたからには無視できず、マナーモードにしていなかった自分を呪いつつ、通話ボタンを押す。

288: ◆XiAeHcQvXg 2013/04/12(金) 13:12:00.71 ID:bRAFU2f40
暦「どうした、こんな時間に」

戦場ヶ原「こんな時間? 阿良々木くんは小学生なのかしら。 まだ八時をちょっと過ぎた所じゃない」

そうだったのか。 時計なんて帰ってから見ておらず、まだそんな早い時間だったとは知らなかった。

暦「いや、ちょっと具合が悪くてな。 丁度寝る所だったんだよ」

戦場ヶ原「ふうん。 あらそう。 でも一つ勉強になったわ、阿良々木くん」

暦「勉強? なんの?」

289: ◆XiAeHcQvXg 2013/04/12(金) 13:14:37.00 ID:bRAFU2f40
戦場ヶ原「馬鹿でも具合が悪くなるって事よ。 阿良々木くんが身を持って証明してくれたわ」

暦「お前、それ病人に言う台詞かよ……それとな、馬鹿は風邪をひかないだからな」

戦場ヶ原「そうね。 今のは阿良々木くんに対するテストだったのだけれど、正解よ。 おめでとう」

戦場ヶ原「思ったよりも重症じゃないようで、安心したわ」

暦「いくら僕でも、そこまで馬鹿じゃねえからな!」

戦場ヶ原「違うわ。 私が言ってるのは阿良々木くんの体調の事よ」

戦場ヶ原「それだけ突っ込みが出来るのなら、大丈夫って事でしょう?」

290: ◆XiAeHcQvXg 2013/04/12(金) 13:15:02.81 ID:bRAFU2f40
それもそうか。 てかそういう事か。

こいつの心配の仕方には異論を呈したいが、その話はまた今度するとしよう。

暦「まあ、かもな」

暦「それより戦場ヶ原。 これは何の電話だ?」

戦場ヶ原「何の? 別に特に意味は無いわ」

暦「お前、意味も無く電話してくるなよ。 それこそ、学校とかで良いだろ」

291: ◆XiAeHcQvXg 2013/04/12(金) 13:15:30.24 ID:bRAFU2f40
戦場ヶ原「あら、恋人の声を聞きたいと思うのは駄目なのかしら」

突然、こいつは毎回毎回、突然にこんな事を言う。

それが良くもあるんだけど。

戦場ヶ原「好きな人の声を聞くのに、理由が必要なのかしら」

暦「……僕が悪かった。 ごめん」

戦場ヶ原「いいわ、私は優しいから、そんな事で一々怒ったりはしないのだからね」

暦「そりゃ、優しいな」

戦場ヶ原「ふふ。 まあそれでも、あまり長電話は迷惑でしょうし、そろそろ切るわね」

暦「ああ、悪いな。 治ったらまた、電話しよう」

292: ◆XiAeHcQvXg 2013/04/12(金) 13:16:00.55 ID:bRAFU2f40
戦場ヶ原「ええ。 それじゃあ-----」

戦場ヶ原が電話を切ろうとする。

僕は。

暦「なあ、戦場ヶ原。 一つ聞きたい事があるんだけど」

戦場ヶ原「? 何かしら」

暦「僕と戦場ヶ原って、どこでどう出会って、どう付き合ったんだっけ」

僕の口から出たのは、随分と失礼な質問であった。

発言している身からこう言うのもあれだが、結構驚いてしまう。

293: ◆XiAeHcQvXg 2013/04/12(金) 13:16:40.66 ID:bRAFU2f40
戦場ヶ原「さすがの優しい私でも、その質問は怒るわよ。 阿良々木くん」

暦「は、はは。 そりゃ、ごもっともで」

戦場ヶ原「仕方ないから、一から説明してあげる。 覚悟して聞きなさいな」

そう言い、戦場ヶ原は僕達の馴れ初めを語り始める。

戦場ヶ原「まず、そうね。 最初の出会いは、私が階段から落ちたのを阿良々木くんが受け止めてくれた事よ」

暦「……そうだな。 それが最初だった」

294: ◆XiAeHcQvXg 2013/04/12(金) 13:17:23.74 ID:bRAFU2f40
戦場ヶ原「それで、それから」

戦場ヶ原「……あれ」

と言い、戦場ヶ原は口を閉ざしてしまう。

暦「それから、どうした?」

戦場ヶ原「……何でも無いわ。 阿良々木くん、その。 ごめんなさい」

暦「え? マジでどうしたんだ。 戦場ヶ原」

戦場ヶ原「さっきはあんな偉そうな事を言ったのに、どう付き合ったのか覚えて無いのよ」

戦場ヶ原「多分、大事な事だったと思うのに。 覚えて無いのよ」

295: ◆XiAeHcQvXg 2013/04/12(金) 13:17:59.14 ID:bRAFU2f40
暦「いや、でも。 僕だって覚えて無いんだしさ。 何も戦場ヶ原が謝る事じゃないだろ」

戦場ヶ原「……そう、かしら」

暦「そうだよ、だから気にすんな。 大事なのは今だろ?」

戦場ヶ原「……超格好良い」

暦「んぐっ!」

本日二度目の、戦場ヶ原からの奇襲である。

暦「ま、まあさ。 そんな気にするなよ。 僕が言うのも変だけどさ」

296: ◆XiAeHcQvXg 2013/04/12(金) 13:18:37.27 ID:bRAFU2f40
戦場ヶ原「そうね。 阿良々木くんがそう言うのなら、分かったわ」

戦場ヶ原「それじゃあ、そろそろ本当に迷惑でしょうし、おやすみなさい」

暦「言うほど迷惑って訳じゃないけどな、おかげで元気も出てきたし」

戦場ヶ原「そう。 それは良かったわ」

戦場ヶ原は最後にそう言うと、電話を切った。

297: ◆XiAeHcQvXg 2013/04/12(金) 13:19:13.76 ID:bRAFU2f40
暦「僕、どんだけ変な質問してんだよ……」

我ながら驚いた。 そりゃ、もうかなり。

暦「寝るか。 今日はやっぱり、調子悪い」

独りそう呟き、ベッドの上で座る形になっていた体を三度、寝かせる。

目を瞑る。 今度こそ、僕の睡眠を阻害する物は無かった。

298: ◆XiAeHcQvXg 2013/04/12(金) 13:20:05.67 ID:bRAFU2f40
その日、辛い夢を見た。

右も左も、真っ暗で。

見上げても闇が広がっていて、足元にも闇が広がっていて。

僕は一体、どこを足場として居るのだろうか、とか。

ここは僕の部屋なのだろうか、とか。

そんな考えても仕方の無い事を夢の中で考えていた。

とにかく、その場から逃げ出したい。

299: ◆XiAeHcQvXg 2013/04/12(金) 13:20:45.10 ID:bRAFU2f40
逃げ出したいのだけれど、どこにどう行けばいいのかすら、分からない。

だって、そりゃそうだ。 全て真っ暗なのだから。

どれだけ歩いても、走っても、広がっているのは闇。

僕にどうしろって言うんだ。

何も知らない。 分からないのに。

もうこのまま、一生、僕はここに居ないといけないのか。

もしそうだとしたら、それはそれで貴重な体験なのだろう。

300: ◆XiAeHcQvXg 2013/04/12(金) 13:21:22.35 ID:bRAFU2f40
それを話す相手も、居ないのだけれど。

その時だった。 声が、聞こえて来る。 真っ暗な中、聞こえてきた。

それはもう、毎日嫌と言うほど聞いている声だ。

「兄ちゃん、兄ちゃん」

と。

その声が聞こえたからなのか、ただ単に僕が目を覚ましただけなのか、それとも気を失っていただけなのか。

ようやく、夢の世界から戻ってくる事が出来たのであった。

301: ◆XiAeHcQvXg 2013/04/12(金) 13:21:49.13 ID:bRAFU2f40
月火「お兄ちゃん、お兄ちゃん」

なんだ、お前かよ。

でも、それにしては随分と声色が違った気がする。

鋭いと言うか、月火の声よりも力強さがあると言うか。

少なくとも、聞いたことのある様な、声。

暦「……月火ちゃん、どうしたんだ」

302: ◆XiAeHcQvXg 2013/04/12(金) 13:22:20.77 ID:bRAFU2f40
まだ完全に開かない瞼を少しだけ上げて、僕を起こしに来た妹に声を掛ける。

暦「というか、本当に起こしに来てくれたのか。 十パーセントくらい冗談だったんだけど」

月火「いいから起きて、お兄ちゃん」

月火「てかさ、十パーセントって。 それ殆ど本気だよ」

暦「まあ、折角起こしに来てくれたんだしな。 分かった、起きるよ」

そう言い、まだ暗い部屋の中で、僕は体を起こす。

あれ、まだ暗い部屋?

303: ◆XiAeHcQvXg 2013/04/12(金) 13:23:18.94 ID:bRAFU2f40
暦「……月火ちゃん、今何時だ?」

一応の確認の為、月火に問う。

いや、それは正直言って意味の無いことなのだけれど。

だって、時計はあるしな。 僕の部屋。

だからこれは、せめてもの可能性に賭けた結果である。

月火「今? 時計を見れば分かるでしょ。 三時だよ、三時」

暦「そうかそうか。 そうだよな、今は三時だ」

暦「にしてはやけに外が暗いなぁ。 あれ、もしかして、魔界とかからなんか攻めて来ちゃった感じ? それで暗い感じ?」

304: ◆XiAeHcQvXg 2013/04/12(金) 13:24:07.42 ID:bRAFU2f40
月火「そんな訳無いでしょ。 お兄ちゃん、頭大丈夫? あ、大丈夫じゃないか。 さっき頭痛が酷そうだったし。 今は夜中の三時だよ」

暦「あ! そっかー。 そりゃ、外も暗い訳だ! さっすが月火ちゃんだぜ」

ノリノリだ。 我ながら。

月火「でしょでしょ? だからお兄ちゃんは、私の事をもっと尊敬するべきなんだよ」

このチビも大分ノリノリだ。 いや、こいつは素で言っているのかもしれないけど。

そんな事を言いながら、なだらかな を張り、さも偉そうにする妹。

その妹の首に、僕は手刀を入れる事にした。

305: ◆XiAeHcQvXg 2013/04/12(金) 13:24:33.50 ID:bRAFU2f40
暦「夜中に起こすんじゃねえよ! 僕はどんだけ朝が早い人間だと思われてるんだよ!」

暦「まだそんな年老いてねえからな!」

僕の攻撃を受けた月火はと言うと、自分で吹っ飛んだんじゃないかって位、吹っ飛んで行った。

月火「ありえない! 折角可愛い可愛い妹が起こしに来てあげたって言うのに、その態度はありえないよ!」

倒れた体を起こしながら、月火はヒステリックに切れた。

つうか、可愛いとか自分で言ってるんじゃねえよ。

306: ◆XiAeHcQvXg 2013/04/12(金) 13:25:05.90 ID:bRAFU2f40
暦「夜中の三時に起こしに来る妹とかいらねえ! 思いっきり嫌がらせだからな!」

月火「はい? 嫌がらせって言うけど、そんな事を言うなら、お兄ちゃんが私にしてる殆どの事も嫌がらせだからね?」

暦「ほーう。 一体、いつ? どんな嫌がらせを僕がしたっていうんだ?」

妹に嫌がらせ? 笑わせるな。 僕はそこまで、人間として終わっちゃいねえんだよ。

月火「妹の を む。 キスをする。 お金を借りようとする。 入っているお風呂に入ってくる。 押し倒す」

人間として終わっていた。

307: ◆XiAeHcQvXg 2013/04/12(金) 13:25:35.94 ID:bRAFU2f40
暦「さておき、なんでこんな時間に起こしたんだ?」

月火「全然置いていい問題じゃないよ。 てか、自分が不利になったからって話を逸らさないで」

暦「いやいや。 だって、そうしないといつまで経っても話進まないだろ。 月火ちゃんとの会話って、無駄に長くなるし」

月火「関係無いね。 って事で話を戻そうお兄ちゃん。 語り合おう」

月火「それじゃあまずは、そうだね。 お兄ちゃんが、すぐに私の    を む理由から聞こうか」

やれやれ、困った妹だぜ。 全く。

308: ◆XiAeHcQvXg 2013/04/12(金) 13:26:27.87 ID:bRAFU2f40
暦「理由? そんなの分かるだろ。 そこにお前が居るからだよ」

月火「まるで、私が悪いみたいな言い方だね。 断言する辺り、すごいよお兄ちゃん」

どうも。

月火「んじゃあ次。 キスをする理由を聞こうか」

暦「それも分かりきっているぞ、月火ちゃん。 そこにお前が居るからだ」

月火「なるほど、なるほど。 そういう事だったのか」

月火「それじゃあ、お金を借りるのは?」

309: ◆XiAeHcQvXg 2013/04/12(金) 13:26:54.53 ID:bRAFU2f40
暦「そこにお前が居るからだな」

月火「お風呂に一緒に入ろうとしたり、押し倒したりするのは?」

暦「お前が居るから」

月火「それで良い? 理由はそれで良いのかな」

暦「ああ、むしろこれ以外の理由なんて皆無だ」

310: ◆XiAeHcQvXg 2013/04/12(金) 13:27:21.74 ID:bRAFU2f40
月火「私の所為にしてんじゃねえ!」

ベッドの上に座る僕に、月火のローキックが炸裂した。

なんだか、良い感じに入ってしまったので、ちょっとだけだが痛い。

僕は月火に蹴られた部分を摩りながら、口を開く。

暦「なんだよ、月火ちゃん。 本当は月火ちゃんも嬉しいんだろ?」

月火「お兄ちゃんが本当にそう思っているのなら、私は今すぐ縁を切りたいね。 それと島流しの刑に処したい」

311: ◆XiAeHcQvXg 2013/04/12(金) 13:28:05.93 ID:bRAFU2f40
暦「島流しとか、そんな事したら、誰が月火ちゃんの を んだりキスしたり、押し倒したりするんだよ。 少しは考えた方がいいぜ」

月火「あれ、これってさ。 私、脅されてるのかな。 全然そんな感じしないんだけど」

暦「とにかく、これで話は終わりだ。 僕はこれからもお前の は むし、押し倒すし、キスもする。 お風呂にも入る」

そう高々と宣言してやった。

暦「ああ、それと、勿論お金も借りる」

危ねぇ。 一番大事な事を言い忘れる所だった。

月火「最早、何も言えないね。 私の最大の失敗を訂正するよ。 お兄ちゃんの妹だった事が最大の失敗だよ」

なんとでも言いやがれ、お前がなんと言おうと、僕はこれからもずっと、お前のお兄ちゃんなんだよ。 ざまあみろ。

そう考え、僕は少し、自分が情けなく思ってしまうのだった。


第九話へ 続く

317: ◆XiAeHcQvXg 2013/04/12(金) 17:54:45.39 ID:bRAFU2f40
閑話休題。

暦「それで、本題に入ろうぜ。 月火ちゃん」

月火「私的にはさっきのも本題なんだけど。 なんなら繰り返してもいいんだよ」

暦「いや、やめよう。 今度なんか奢るから、本当にこのまま話が進まないとマズイ」

月火「もう、仕方ないなぁ。 でも、奢ってくれるならいいか。 うん」

物で釣られるとは、安い奴。

318: ◆XiAeHcQvXg 2013/04/12(金) 17:55:13.84 ID:bRAFU2f40
暦「それで、何だってこんな時間に起こしに来たんだよ。 怖い夢でも見たのか?」

そうだとすると、正直な所、こんな時間に起こされたのも許してしまいたくなる。

だって、怖い思いをして、兄に助けを求めてくる妹って可愛いじゃん。

まあ、怖い夢を見ていたのは僕もなんだけれど。

しかし、月火の口から出た言葉は、それを否定する物だった。

319: ◆XiAeHcQvXg 2013/04/12(金) 17:55:43.58 ID:bRAFU2f40
月火「違うよ。 そう言う訳じゃない。 第一さ、怖い夢を見たからってお兄ちゃんの所には来ないよ。 なんで二回も怖い物を見なきゃいけないの?」

僕は怖い物扱いかよ。 散々な扱いだな。

暦「それじゃあどうしてだよ。 まさか、本当に嫌がらせか?」

月火「違う違う。 なんて言うか……どう説明すれば良いのかな。 とりあえず、私の部屋に来てくれない?」

えー。 面倒だな。 二度寝したいんだけど、僕。

月火「早くしてよ。 私だって、お兄ちゃんを部屋に入れるのは苦渋の決断なんだからさ」

320: ◆XiAeHcQvXg 2013/04/12(金) 17:56:39.92 ID:bRAFU2f40
またまた。 そんな事言って「お兄ちゃん、一緒に寝よ?」とか言ってくるんだろ、こいつ。

可愛い奴だな。 本当に。

後ろを付いていく僕がそんな事を考えているとも知らず、月火は自分の部屋の扉を開く。

暦「良いよなぁ。 相変わらず広くてさ。 お前一人じゃ勿体無いだろ」

月火「私もそう思うんだよね。 なんでこんなに広い部屋なんだろーって」

暦「ふうん」

321: ◆XiAeHcQvXg 2013/04/12(金) 17:57:05.95 ID:bRAFU2f40
てっきり。

「お兄ちゃんと違って趣味が多いから」とか。

「友達が遊びに来るから」とか。

「服がいっぱいあるから」とか。

そんな事を言う物だと思ったんだが、意外にも月火は僕と同じ意見らしい。

暦「それで、わざわざ部屋に呼んでどうしたんだよ。 月火ちゃん」

僕がそう聞くと、月火は部屋の中をゴソゴソと漁り、目的の物を見つけたのか、僕にそれを突き出してきた。

322: ◆XiAeHcQvXg 2013/04/12(金) 17:58:47.15 ID:bRAFU2f40
月火「これ、何か分かる?」

そう言い、月火が僕に見せたのは、どこか見覚えがある『ジャージ』だった。

暦「ジャージ……? どこかで見た気がするんだけど、なんだろう」

月火「そっか、お兄ちゃんも見た気がするんだ」

月火「私もさ、どっかで見た様な感じなんだよねー」

僕と月火に見覚えがある物。

それは、当然と言っていいかもしれない。 だって、家の中にある物だし。

323: ◆XiAeHcQvXg 2013/04/12(金) 17:59:23.47 ID:bRAFU2f40
暦「月火ちゃんのでは、無いよな?」

月火「うん。 私がこんなダサいの着ると思う?」

暦「ダサいかどうかは知らないけど。 まあ、思わないな。 月火ちゃんにはあまり、似合いそうに無いし」

暦「ついでに言っておくと、僕のでも無い」

だけれども。 問題はそのジャージが家の中に、それも月火の部屋にあったと言う事だ。

暦「学校で、間違えて誰かのを持ってきたとかじゃないか?」

月火「そんな覚えは無いんだけど……なのかなぁ。 でもさ、なーんか引っ掛かるんだよ」

324: ◆XiAeHcQvXg 2013/04/12(金) 18:00:10.84 ID:bRAFU2f40
引っ掛かる。 その言葉には僕も同意だ。

何か、大事な物の様な……そんな感じ。

月火も恐らく、その気持ち悪さがあるのだろう。

そうでなければ、月火がこんな時間に僕を起こすなんて事、ある訳が無い。

暦「不思議な事もあるんだな。 じゃあ、そろそろ僕は寝ていいか?」

それがなんなのか解決はしたかったが、睡魔には勝てない。

明日また、この『ジャージ』については話し合うとして、今日の所はとりあえず、寝るか。

325: ◆XiAeHcQvXg 2013/04/12(金) 18:00:57.20 ID:bRAFU2f40
月火「はいはい。 ごめんね、わざわざ起こしちゃって」

月火は未だに、そのジャージを両手で広げ、食い入る様に見つめていた。

偶然だった。 本当に、偶然。

視界の隅に、見えた。

暦「月火ちゃん! それ、ちょっと貸してくれ!」

月火「え? いいけど、どうしたの急に」

月火からジャージを受け取り、広げながら確認する。

暦「確か、ここら辺に……」

326: ◆XiAeHcQvXg 2013/04/12(金) 18:01:54.53 ID:bRAFU2f40
あった。 やっぱり。

ジャージの裏地、そこに書いてある、小さな名前。

阿良々木火憐と。

直後、またしてもあの頭痛が僕を襲った。

暦「……ぐあっ!」

蹲る僕を月火が慌てて抱える。

抱えると言っても、体格差もあるので、気持ち程度の物ではあったけれど。

頭痛のせいで、どうにも思考が捗らない。 阻害されている様な感じだ。

だが、そんなの関係無い。

327: ◆XiAeHcQvXg 2013/04/12(金) 18:09:22.10 ID:bRAFU2f40
僕の顔を覗き込みながら必死に何かを言っている月火の声も、段々と聞こえなくなってきた。

考えろ、考えろ。

僕は何か、大事な事を忘れているんだ。

阿良々木、暦。

阿良々木、月火。

違うだろ。 違えんだよ。 そうじゃないんだ。

たった一人の妹、阿良々木月火?

何かがおかしい。

328: ◆XiAeHcQvXg 2013/04/12(金) 18:10:02.32 ID:bRAFU2f40
くそ! 今すぐにでも頭が割れそうな痛みだ。

つうか、もう割れてるんじゃないか、これ。

まるで、金槌で何回も、何回も何回も何回も何回も何回も何回も何回も何回も何回も何回も何回も何回も何回も何回も何回も、殴られている様な。

月火の顔がぼやけて見える。

目の前は、赤く染まっていた。

329: ◆XiAeHcQvXg 2013/04/12(金) 18:12:08.54 ID:bRAFU2f40
あれ、血かよこれ。 どういう状況だ。

ああ、そうか。 眼から、血が出ているのか。

訳、分からねえぞ。

だけど、こんなので、この程度で、諦めては駄目だろ。

『あいつはもっと辛かった』んだから、僕が投げ出しては駄目だ。

あいつ、あいつだ。

330: ◆XiAeHcQvXg 2013/04/12(金) 18:12:45.66 ID:bRAFU2f40





暦「……火憐、ちゃん」





331: ◆XiAeHcQvXg 2013/04/12(金) 18:13:29.05 ID:bRAFU2f40
回想。

332: ◆XiAeHcQvXg 2013/04/12(金) 18:13:56.02 ID:bRAFU2f40
昨日の帰り道、僕は声を掛けられた。

あれは知らない奴じゃない。 僕の知っている奴、何より、僕の誇り。

火憐「おいおい、兄ちゃん。 どこに行くんだよ」

火憐「つうか、どこから来てるんだ? あっちには面白い物なんてねえだろ」

そう、火憐は僕に言った。

それに対し、僕は、僕は、僕は。

333: ◆XiAeHcQvXg 2013/04/12(金) 18:14:43.99 ID:bRAFU2f40
「すみません、どなたでしょうか。 人違いでは」

と、返したのだ。

その後、火憐は。

火憐「はあ? なんだよおい、喧嘩売ってるのか」

と言っていた。

334: ◆XiAeHcQvXg 2013/04/12(金) 18:15:19.99 ID:bRAFU2f40
今なら分かる。 火憐は、僕なら覚えているだろうと、期待したのでは無いだろうか。

火憐は大荷物を持っていた。 月火が言っていた不審者と言うのは間違いなく、火憐の事だろう。

僕と会う前に、恐らくは月火と めて、荷物を持って飛び出した所に丁度よく僕が通りかかったのだ。

そして、鉢合わせになったのだろう。

何が、何が、だろうだよ。 そんなんじゃない。 そうとしか考えられない。

そして、僕はそれを-------------------------裏切った。

335: ◆XiAeHcQvXg 2013/04/12(金) 18:15:55.68 ID:bRAFU2f40
その事実にすら気付かず、僕は火憐に、続けて酷い言葉を浴びせた。

「いきなりそんな事を言われても、売りもしませんし買いもしませんよ」と。

この馬鹿は、呆れた様に笑いながら、火憐に向けてそう言った。

対する火憐は。

火憐「そうかよ。 結局、皆そうなんだな。 兄ちゃんも」

と。

336: ◆XiAeHcQvXg 2013/04/12(金) 18:16:25.53 ID:bRAFU2f40
どんだけ馬鹿だよ。

妹の事すら忘れるって、そんな馬鹿いねえぞ。

小さい妹に忘れられ、それだけでも火憐はかなり傷付いていた筈なのに。

それに、更に追い討ちをかけるって、どこを探せばそんな馬鹿が居るんだよ。

全部、全部。

337: ◆XiAeHcQvXg 2013/04/12(金) 18:16:55.81 ID:bRAFU2f40




僕だ。




338: ◆XiAeHcQvXg 2013/04/12(金) 18:17:39.66 ID:bRAFU2f40
恐らく、少しの間だけ気を失っていたかもしれない。

月火の顔は、涙に濡れていて、僕がどんな状況だったかはすぐに分かった。

それに加え月火の奴、和服が僕の血塗れになってるじゃねえか。 なんだかホラー映画みたいだな。

暦「月火ちゃん」

月火「お、お兄ちゃん? 大丈夫? ねえ、お兄ちゃん」

暦「大丈夫だよ。 お前のお兄ちゃんを舐めるんじゃねえぞ」

339: ◆XiAeHcQvXg 2013/04/12(金) 18:18:12.25 ID:bRAFU2f40
月火「そう、そっか。 でも、死んだんじゃないかって思ってさ。 私」

暦「殺されても死なねーよ。 僕は不死身だからな」

月火「そうだよね。 うん。 私のお兄ちゃんだしね」

暦「ああ。 そうだ」

暦「なあ、月火ちゃん」

暦「僕、少し……いや、結構かもしれないけど。 出掛けて来るよ」

340: ◆XiAeHcQvXg 2013/04/12(金) 18:18:49.95 ID:bRAFU2f40
月火「出掛ける? 今から? と言うか、血だらけだけど、大丈夫なの?」

暦「出かけるよ。 今から。 血だらけなのは、大した問題じゃねえよ」

月火「でも、でもさ。 どうみたって大丈夫じゃないじゃん。 お兄ちゃん」

暦「かもしれないな」

月火「なら、休みなよ。 なんなら救急車呼ぶ?」

暦「月火ちゃんがこれだけ優しくしてくれているのに、こう言うのもあれだけどさ。 やらないといけない事があるんだ」

341: ◆XiAeHcQvXg 2013/04/12(金) 18:46:29.81 ID:bRAFU2f40
月火「なにそれ、訳分からない。 こんな状態のお兄ちゃんを外に出す程、私は冷たくないよ」

暦「ありがとう。 だけど、行かないと」

月火「……それは、大事な事?」

暦「ああ」

月火「自分の体より、大事な事?」

暦「当たり前だ」

月火「……はあ。 もう、分かった。 分かったよ、お兄ちゃん」

月火「でも、せめて、顔は拭いてよ。 近所で噂になってもあれだしさ。 今、タオル持って来るから」

暦「悪いな」

342: ◆XiAeHcQvXg 2013/04/12(金) 18:47:55.64 ID:bRAFU2f40
月火が部屋から出るのを見て、僕は一度、自分の部屋へと戻る。

すげえすっきりとした気分だ。 頭の中に引っ掛かっていた物が、取れた感じ。

手早く着替え、財布や携帯をポケットに押し込み、階下へと向かう。

ああ、ついでにあれも、拝借しておこう。

もう一つのそれをポケットに押し込んだ所で、丁度、月火がタオルを持ってきた。

月火「ほい、お兄ちゃん」

暦「サンキュー」

343: ◆XiAeHcQvXg 2013/04/12(金) 18:48:40.26 ID:bRAFU2f40
どうやら月火も着替えた様で、先程までのさながらホラー映画みたいな図では無くなっていた。

写真の一枚でも取っておくべきだったかな。 何年後かの月火に見せてやりたい。

そんな事を考えながら顔を拭く僕に、月火は声を掛けてきた。

月火「それで、何をしに行くの?」

拭き終わったタオルを月火に返し、玄関で靴を履く。

暦「大事な物を取り返して来る」

暦「僕の、大事な誇りを」

月火「ふうん。 正義の味方みたいだね、お兄ちゃん」

344: ◆XiAeHcQvXg 2013/04/12(金) 18:49:08.57 ID:bRAFU2f40
暦「はは、そう見えるか」

暦「でも、僕はそんな物にはなれないよ。 本物にも、偽物にも、僕はなれない」

月火「よく分からないけどさ、頑張ってね。 お兄ちゃん」

暦「ああ」

月火「いつにも増して格好いいね。 奢ってもらう約束もあるんだし、なるべく早く------」

言っている途中で、月火の目が虚ろになる。

これは見た事がある光景だ。

そう、八九寺もそうだった。

345: ◆XiAeHcQvXg 2013/04/12(金) 18:49:37.04 ID:bRAFU2f40
月火「あ、えっと。 なんで、私。 こんな所にいるんだろ」

なるほど、そういう事か。

つまりは多分、僕も火憐と同じ立場になったと言う事だ。

そもそも最初は、僕も忘れられていたのだし、驚きはしないけれど。

月火「えっと。 誰、ですか?」

おいおい、せめて「どなた」とか「どちらさま」って使えよ。 そんなんじゃ来客があった時、対応任せられねーぞ。

346: ◆XiAeHcQvXg 2013/04/12(金) 18:50:04.56 ID:bRAFU2f40
暦「必ず、帰ってくるよ。 僕の誇りも、月火ちゃんの相方も、連れてな」

最後にそう月火に言い、僕は外へと出た。

大分不審な目で見られてしまったが、夜も遅いこともあり、都合良く夢とでも解釈するだろう。

そうでなければ、ちょっと面倒だが。 まあ、そんなの全部まとめて片付けてやる。

そういや、月火の奴……火憐のジャージをダサいとか言ってたな。 ついでにちくっておこう。

火憐の前ではそんな事、絶対に言わなかったのに、心の中でずっと思っていたんだろうな。

そう考えると、火憐がちょっとかわいそうである。

けど、ジャージばかり着るってのもどうかと思うけど。

あいつも、月火みたいな服を着れば、結構似合うと思うんだけれどなぁ。

まあ、そんなのは本人の意思だし、僕が言う事でも無いか。

347: ◆XiAeHcQvXg 2013/04/12(金) 18:50:31.16 ID:bRAFU2f40
とりあえず、だ。

月火には後からいくらでも埋め合わせはするとして。

今、僕が最優先でやるべき事。

火憐を見つけて、この状況を変える手立てを見つける。

ほぼ百パーセント、怪異のせいだとは思うが。

正体が見えない以上、戦えるとも思えない。

何より、火憐も巻き込まれてしまっているのだ。 本来なら、僕がそうなるべきだったのに。

僕が近づく事で、火憐は僕の事を忘れてしまうかもしれない。

348: ◆XiAeHcQvXg 2013/04/12(金) 18:51:03.24 ID:bRAFU2f40
だけど、それだけだ。

多分、と言うか大真面目に、一年くらい僕は暗い男になりそうだけど、火憐がまたあの家に戻れるならそれでいい。

火憐には火憐の居るべき場所がある。

僕には僕の、居るべき場所がある。

化物にこそ、相応しい場所が。

349: ◆XiAeHcQvXg 2013/04/12(金) 18:51:41.57 ID:bRAFU2f40
とにかく、火憐が家を出て行ってから随分と時間が経ってしまった。

あいつは行動範囲が広いし、何より体力が半端無い。

正直な所、どこに居るか分からない火憐を探すより、フルマラソンを走れって言われた方が楽だろうな。

だけど、その程度だ。

なんなら町中を探してもいい。

見つからなければ、この県を探しきってやる。

それでも駄目なら、日本全国だ。

やってやるよ、それくらい。

もう一度、火憐の笑顔が見れるなら、それくらい。


第十話へ 続く

360: ◆XiAeHcQvXg 2013/04/15(月) 11:18:46.61 ID:PGWDh4gJ0
携帯を確認。

時刻は三時三十分。

夏とは言っても、辺りはまだ、大分暗い。

そりゃ、明るかったら逆に驚きだけれども。

まずは一旦、状況を整理しよう。

361: ◆XiAeHcQvXg 2013/04/15(月) 11:19:14.19 ID:PGWDh4gJ0
僕は確か、今日……いや、昨日か。

昨日の朝、月火と話して異変に気付いたんだ。

月火が火憐や僕の事を忘れている、と。

その時はまだ、月火は思い出してくれた。

正確に言えば、僕の事を忘れていたのは一瞬だったんだけれど。

362: ◆XiAeHcQvXg 2013/04/15(月) 11:20:18.97 ID:PGWDh4gJ0
それで僕は、その話を聞いて、異変を忍野に知らせる為、あの廃墟へと向かったのだ。

道中、八九寺とぶつかりそうになり、僕は急いでるのも忘れて、無駄話をしていたと思う。

今思えばそれもまた、僕の馬鹿っぷりが判るのだけれど、今更後悔しても仕方ない。

そして、八九寺は別れ際……僕の事を忘れていた。 否、その瞬間に忘れた。

それが僕にはあまりにもショックで、忍野と会う前に全員に連絡を取ったんだ。

一番最初に連絡を取ったのは、戦場ヶ原。

しかし、あいつも僕の事を忘れていた。 綺麗さっぱり。 跡形も無く。

363: ◆XiAeHcQvXg 2013/04/15(月) 11:20:44.39 ID:PGWDh4gJ0
……待てよ、でもあいつは。 僕と数時間前に話した時は、僕の事を覚えていなかったか?

戦場ヶ原と連絡を取ろうか。 とも思ったが、今はそれ所では無い。 また、忘れられている可能性だって、十分にあるのだし。

そして、その後。 羽川や神原、それに千石とも連絡を取ったけれど、結果は同じだった。

恐ろしくなり、怖くなり、一刻も早く、忍野の元へと向かおうとしている時に、僕の影から忍が出てきた。

忍……そうか、忍は?

364: ◆XiAeHcQvXg 2013/04/15(月) 11:21:19.23 ID:PGWDh4gJ0
暦「おい、忍。 起きているか? おい!」

月明かりによって作られる僕自身の影に、話しかける。

忍「なんじゃ。 儂の事を忘れおって、極刑物じゃぞ」

と憎まれ口を叩きながら、忍は影の中からすうっと出てきた。

暦「悪かったよ。 気付いたら、お前の事も……」

暦「忍、何が起きているんだ? 今、僕達に」

365: ◆XiAeHcQvXg 2013/04/15(月) 11:21:47.31 ID:PGWDh4gJ0
忍「別にいいがの。 それと、何が起きているか。 と言う質問じゃが」

忍「分からん。 儂にもどういう事なのか分からんのじゃ」

忍にも分からない、何か。

暦「そう、か」

暦「僕は、一体どうなっていたんだ?」

366: ◆XiAeHcQvXg 2013/04/15(月) 11:23:12.24 ID:PGWDh4gJ0
忍「そうじゃな、その辺りは儂にも分かる。 なので、まずはそこから説明するとしようかのう」

忍「お前様は、記憶を失っていた。 又は、記憶を改変されていた。 このどちらかじゃ」

忍「昨日、儂とお前様とで話していたのは、覚えておるか?」

忍「お前様が記憶を失う直前の事じゃ」

暦「ああ、覚えている。 と言うか、思い出した」

忍「ならば話は早い。 あの会話の最後、妙な気配を感じたんじゃよ」

367: ◆XiAeHcQvXg 2013/04/15(月) 11:23:45.27 ID:PGWDh4gJ0
暦「妙な、気配?」

忍「うむ。 お前様が、何かに絡みつかれるような、そんな感じが儂にも伝わってきたんじゃ」

僕と忍の体はリンクされている。

僕は全然気付かなかったけれど、忍はさすが。 その妙な気配と言うのを感じたのだろう。

そうか、それで忍は。

368: ◆XiAeHcQvXg 2013/04/15(月) 11:24:13.05 ID:PGWDh4gJ0
暦「異変を感じて、声を掛けてくれたのか」

忍「その通りじゃよ。 それに、お主の眼、大分虚ろになっておったしの」

まるで、迷子娘や先程の妹御、極小の妹御の様にじゃ。 と忍は続けた。

忍「しかし、結果は」

暦「間に合わなかった。 って事だな」

369: ◆XiAeHcQvXg 2013/04/15(月) 11:25:03.15 ID:PGWDh4gJ0
忍「さよう。 恐らく、お前様の儂に対する記憶も、全て失われておった筈じゃよ」

暦「でも、それでも僕の前に姿を出すくらいは、できたんじゃないか?」

僕がそう言うと、忍は呆れた様な顔をし、口を開く。

忍「お前様の馬鹿っぷりも、いよいよ拍車が掛かって来た見たいじゃな」

忍「怪異とは、気付かなければ気付かない物なんじゃよ。 そこにあるから、あると思うのじゃ」

370: ◆XiAeHcQvXg 2013/04/15(月) 11:25:43.04 ID:PGWDh4gJ0
そうか。 そうだ。

だから僕は、忍の事を忘れて、気付かなかったんだ。

そこに居ると、思わなくなったから。

忍「まあ、儂的にはあの時、本来の形に戻れたんじゃがの。 儂本来の姿に」

暦「本来の姿……そうなのか?」

忍「無論。 お前様との関係が切られたのなら、既にいつでも戻れたんじゃよ」

それはつまり、怪異の王。 吸血鬼。 キスショット・アセロラオリオン・ハートアンダーブレード。

それに、戻れたと言う事か。

371: ◆XiAeHcQvXg 2013/04/15(月) 11:26:11.51 ID:PGWDh4gJ0
暦「なあ、こう言うのもあれだけどさ、何で戻らなかったんだ?」

僕の問いに、忍は凄惨に笑い、答える。

忍「儂は、自力で戻って自力で死ぬ。 他の物の力なぞ借りて戻る等、却下じゃ」

忍「ましてや、他の怪異の力を借りて等、儂の名が廃る所の話じゃないわ」

暦「はは。 そうか」

暦「迷惑掛けるな、忍」

372: ◆XiAeHcQvXg 2013/04/15(月) 11:27:31.91 ID:PGWDh4gJ0
忍「ふん。 それに、あの姿に戻ったら、ゴールデンチョコレートともおさらばでは無いか……それは断じて却下なのじゃ!」

結局はそれかよ。

でも、まあ。

とんだ、お人好し吸血鬼も居た物だ。

373: ◆XiAeHcQvXg 2013/04/15(月) 11:27:59.31 ID:PGWDh4gJ0
暦「つまり、話が最初に戻るけど。 僕はあの時に記憶が入れ替わった。 もしくは失った。 そう言う事なのか」

忍「そうじゃな。 それが一番有力な解釈の仕方……賢明と言った方が正しいかのう。 とにかく、そう言う事じゃよ」

暦「そうか。 なあ、忍」

一呼吸して、僕は言う。

暦「やっぱり、忍野に会う必要はあると思うんだ。 例え、あいつが敵だったとしても、だ」

374: ◆XiAeHcQvXg 2013/04/15(月) 11:28:26.26 ID:PGWDh4gJ0
忍「奇遇じゃのう。 儂も同じ考えじゃよ。 我が主様よ」

暦「ありがとう。 それじゃあ」

暦「宜しく頼むぜ。 相棒」

忍「カカッ。 この儂を相棒扱いとは、随分と偉くなった物じゃな」

忍「まあ、悪くは無いがのう」

忍「だが、こう決意を固めたとして。 お前様には先に済ませなければならん事も、ある様じゃが?」

375: ◆XiAeHcQvXg 2013/04/15(月) 11:28:55.30 ID:PGWDh4gJ0
暦「ああ、そうだよ。 その通りだ」

暦「もう絶対に忘れてやらねえ。 例え、いつもみたいに土下座されてもな」

忍「うむ。 それがお主に出来る努力じゃよ」

忍「さて……」

忍「大体の場所は、既に見当は付いておる。 お前様、準備はいいか?」

376: ◆XiAeHcQvXg 2013/04/15(月) 11:30:18.25 ID:PGWDh4gJ0
暦「出来て無くても、今すぐ走って迎えに行くさ」

忍「承知したぞ、我が主様。 それでは、行くとするかのう」

忍は指差す。 あの先に、火憐が居る筈だ。

忍「距離はちと遠いが、歩いていけん距離でも無いかの」

暦「ああ、了解。 サンキューな、忍」

377: ◆XiAeHcQvXg 2013/04/15(月) 11:30:49.95 ID:PGWDh4gJ0
忍「礼には及ばんよ。 儂は言葉より、物の方が嬉しいのでな。 具体的に言えばゴールデンチョコレートじゃ。 と言うか、そんな事より」

忍「さっさと走らんか。 あの巨大な妹御はいつ動いてもおかしく無いんじゃぞ」

だから、巨大って言うほどでかくねーっつうの。

影の中へと入る忍を見送り、僕は先程、忍が指差した方向を見据える。

さて、行くか。

378: ◆XiAeHcQvXg 2013/04/15(月) 11:31:24.53 ID:PGWDh4gJ0
忍に何度か案内され、その場所に着いた時には、既に四時を回っていた。

案内された場所。

柄の木二中。

にしても、随分と分かりやすい場所に来たんだな。 あいつも。

これなら見つけてくれって言ってる様な物じゃねえか。

ああ、そっか。

379: ◆XiAeHcQvXg 2013/04/15(月) 11:32:01.42 ID:PGWDh4gJ0
見つけて欲しかったのか、火憐は。

部屋に残ってたジャージも、そういう意味だったのかもしれない。

つくづく、僕は何にも分かっていなかったんだろうな。

あいつが感じていた事も……メッセージも。 何も。

まあいいさ。 そんなの、これから分かれば良いのだから。

380: ◆XiAeHcQvXg 2013/04/15(月) 11:32:27.87 ID:PGWDh4gJ0
忍が言うには、恐らく火憐は屋上に居るとの事らしい。

夜中の中学校に入る事自体、初めてだけども(高校には何度か入った事がある。 校舎の中までとは行かなかったが)

しかし、あいつは良くこんな所に一人で来たな。

ましてや屋上だなんて。

正直言って、結構怖いぞ、ここ。

381: ◆XiAeHcQvXg 2013/04/15(月) 11:33:32.15 ID:PGWDh4gJ0
勿論、門が開いている訳も無いので、それを飛び越えて中に入る。

警備員や通りすがりの人に見つかれば、それこそマズイ事になりそうだ。

捕まったのが高校生となれば、尚更か。

そんな事を考え、若干びくびくしながら進んでいたら、忍が後ろから驚かせようと度々僕の妨害をしてくる。

この吸血鬼め。 お化け屋敷かよ。 もう既に、ゴールデンチョコレートの数がプラスからマイナスへと移行している事については、今はまだ黙っておこう。

382: ◆XiAeHcQvXg 2013/04/15(月) 11:34:11.37 ID:PGWDh4gJ0
幸いにも、警備員の姿等は見えなかった。 この町の治安を考えれば、納得だけれども。

そして。 それから程なくして。 すぐに。 すんなりと。 屋上へと繋がる扉の前へと、僕は到着した。

一度、扉の前で足を止め、目の前を見据える。

おいおい、内側から鍵が掛かってるんだけど。 マジで火憐が居るとしたら、あいつどうやって入ったんだよ。

383: ◆XiAeHcQvXg 2013/04/15(月) 11:34:38.29 ID:PGWDh4gJ0
あー。 でも、家に入るのにも二階の窓とか使う奴だし、不思議では無いのか。

まあ、家の二階と高さは随分違うけどな。

あいつ自体、生きる不思議みたいな感じだし、そんな感じの物だと思おう。

さて、どうするかなぁ。 なんて挨拶しようかな。 いやいや、まずは頭を下げた方が良いのかな。

つっても、妹に頭下げるのもなぁ。

うーん。 何かドッキリでも仕掛けてみようかな。 それか、壁をよじ登って、想像できない様な登場でもしてやろうかな。

等と考える。 無駄な事をつらつらと。

384: ◆XiAeHcQvXg 2013/04/15(月) 11:35:05.74 ID:PGWDh4gJ0
本来ならば、こんなどうでもいい事なんて考えずに、とっとと扉を開けるべきなのだろうけれど。

少しだけ、怖かった。

火憐に突き放されるのが、少しだけ。

少しじゃねえな。 かなりか。

僕って本当に、どうしようも無いくらいに馬鹿だよな。

全て、僕自身の都合だよな。

あー、くそ。

385: ◆XiAeHcQvXg 2013/04/15(月) 11:35:50.62 ID:PGWDh4gJ0
これが羽川だったり、千石だったり、八九寺だったり、神原だったり、それに戦場ヶ原だったりしたら、僕はここまで怖くなかったんだと思う。

あいつらの時は、自分の都合なんて考えずに、殆ど無理矢理、あいつらが助かるのを手伝った。

八九寺は厳密に言えば違うけれども。 しかし、方向性は違う……のかな。

友達に突き放されても、僕は多分、大丈夫だと思う。

いや、大丈夫では無いが。 ここまでじゃないって意味だ。

つうか、いつまで悩んでいるんだよ。 火憐に会いたかったんだろ? 僕は。

386: ◆XiAeHcQvXg 2013/04/15(月) 11:36:21.95 ID:PGWDh4gJ0
でも。

だから。

けど。

もうやめだ。

そんな自分自身に対する言い訳は、もうやめよう。

387: ◆XiAeHcQvXg 2013/04/15(月) 11:36:50.90 ID:PGWDh4gJ0
嘘を付くのも、止めだ。

火憐にも。

僕自身にも。

怖い。 火憐に突き放されるのが。

それがどうしたって言うんだ。 その時は泣いてやる。 あいつが引く位に泣いてやる。

それでも駄目なら。

その時はその時だ。

388: ◆XiAeHcQvXg 2013/04/15(月) 11:37:17.50 ID:PGWDh4gJ0
第一。

火憐はそんな奴じゃないから。

自分に言い聞かせる様に、思考する。

ぶっちゃけた話、そんな事はただの自分自身に対するハッタリでしか無いのだ。

だって、僕はあいつの事を分かってやれなかったのだから。

だが、今はそれでいい。 ハッタリでも何でも、今は。

389: ◆XiAeHcQvXg 2013/04/15(月) 11:38:31.77 ID:PGWDh4gJ0
よし、そうと決まれば。

鍵を外し、扉に手を掛ける。

大分錆付いてる様に見えたが、意外にも扉はすんなりと開いた。 音も立てずに。

開いたドアから、先程まで嫌と言うほど浴びていた風が入り込んでくる。

居なかったらどうしようとか、思っていたけれど。

どうやらそれも、無用な心配だったらしい。

390: ◆XiAeHcQvXg 2013/04/15(月) 11:38:57.85 ID:PGWDh4gJ0
僕の妹、阿良々木火憐は手を頭の後ろで組んで、屋上に大の字で寝転がっていて、空を見上げていたのだから。

こういった仕草が、一々男っぽいよなぁ。 つくづく思うけど。

暦「正義の味方が、夜の学校に侵入して良いのかよ」

僕はいつも通り、いつもの感じで、火憐に声を掛けた。

僕の誇りに。

僕の大切な妹に。


第十一話へ 続く

397: ◆XiAeHcQvXg 2013/04/15(月) 17:49:52.93 ID:PGWDh4gJ0
火憐「遅せえよ、待ちくたびれたぞ」

火憐は僕の方には視線を向けず、そう呟く。

暦「さっき言ったろ。 正義の味方がこんな所に居るなんて、思わねえよ」

僕がそう言うと、火憐は「よっ」と言いながら、手を使わずに立ち上がる。 すげえな。

火憐「ここはあたしのテリトリーだからな。 だから、いつ居ても大丈夫なんだ」

やはり、僕の方は見ずに、火憐は言った。

399: ◆XiAeHcQvXg 2013/04/15(月) 17:50:30.74 ID:PGWDh4gJ0
暦「そうか。 それなら文句は言えないな」

火憐「おう」

少しの沈黙。

それに耐えかねたのか、五分ほど経った後、火憐が再び口を開く。

火憐「何しに来たんだ」

暦「迎えに来たんだよ」

火憐「兄ちゃんが知らない、赤の他人をか?」

暦「違う」

暦「僕の妹をだ」

400: ◆XiAeHcQvXg 2013/04/15(月) 17:51:32.03 ID:PGWDh4gJ0
火憐「言ってる事が違うよ。 兄ちゃん」

火憐「昼間、何て言ったか忘れた訳じゃねえんだろ?」

暦「ああ。 忘れていないよ」

火憐「そうか。 それで、今更何の用事だ?」

暦「最初に言ったろ。 迎えに来たんだって」

火憐「あたしに帰る場所はねえよ。 兄ちゃんは知ってるだろ。 月火ちゃん、あたしの事を忘れていた。 誰だお前って、言われたぜ」

暦「あるよ。 帰る場所はある。 月火ちゃんは僕が説得する。 あいつが思い出すまで説教だ」

401: ◆XiAeHcQvXg 2013/04/15(月) 17:52:16.61 ID:PGWDh4gJ0
火憐「そりゃ、月火ちゃんが可哀想だぜ。 兄ちゃんの説教は恐ろしいんだから」

暦「僕的には、火憐ちゃんの説教の方が恐ろしいけどな。 暴力が伴うし」

火憐「はは。 酷い言い方だなぁ。 あたしの暴力は、愛のある暴力なのに」

暦「そんな暴力、あってたまるかよ」

火憐「ま、いいけどさ。 それで、兄ちゃん」

火憐「なんで、あたしの為に、こんな夜中に汗だくで走ってきたんだよ」

402: ◆XiAeHcQvXg 2013/04/15(月) 17:53:00.10 ID:PGWDh4gJ0
火憐から僕の姿は見えない筈なのだけれど、気配で分かったのだろうか。 それが気配で分かるか分からないかさえ、僕には分からないが。

暦「さっきも言ったろ、火憐ちゃん」

暦「僕の、妹だからだ」

暦「それ以上でも、以下でも無いよ。 火憐ちゃんは僕の誇りで、僕の妹で、僕の家族だ」

暦「だから、夜中でも関係ねえ。 汗だくになっても、お前の為なら今から校庭百週でも何でもしてやるさ」

そう言うと、ようやく、火憐は振り向いた。

火憐「やっぱ、迷惑掛けるよな、兄ちゃんには」

403: ◆XiAeHcQvXg 2013/04/15(月) 17:54:41.32 ID:PGWDh4gJ0
火憐「ありがとう。 兄ちゃん」

久しぶりに見る火憐の顔は、こう言うのもあれだけど、ジャージなのを除けば、綺麗な物であった。

暦「やめろよ、僕にお礼を言われる資格なんて無いんだからさ」

火憐「良いんだよ。 あたしが良いって言うから良いんだ」

火憐「なあ、兄ちゃん。 頼みがあるんだけれど、良いかな」

その言葉を聞き、僕は笑いながらこう返す。

暦「いいぜ、引き受けてやるよ」

404: ◆XiAeHcQvXg 2013/04/15(月) 17:55:08.87 ID:PGWDh4gJ0
火憐「相変わらずだよな。 兄ちゃんはさ」

火憐「惚れるよ。 本当に」

火憐は笑い、そう言ってくれた。

火憐「じゃあ、頼みなんだけど」

火憐「抱きしめてくれねえか」

405: ◆XiAeHcQvXg 2013/04/15(月) 17:55:35.53 ID:PGWDh4gJ0
僕はそれを聞き、黙って火憐の元へと近づく。

ったく、図体だけでかくなりやがって。 別にいいけどさ。

そして、近づいてくる僕を見て、火憐がなにやら恥ずかしそうにしていた。

おい、やめろよ。 僕まで恥ずかしくなるだろうが。

まあ、かと言って、やめるって訳でも無いんだけど。

気が付けば火憐が目の前に居て、僕はそっと火憐を抱きしめた。

406: ◆XiAeHcQvXg 2013/04/15(月) 17:56:21.63 ID:PGWDh4gJ0
暦「火憐ちゃん、ごめん」

火憐「謝る事じゃねえよ。 確かに、良く分からない事が起きて、あたしも訳が分からなくて。 だけど、それでも兄ちゃんはこうして来てくれたんだから」

火憐「それだけで、充分だよ」

暦「でも、怒ってただろ」

火憐「あたしが怒ってたら、兄ちゃんはもう木っ端微塵になってるぜ。 だから怒ってないよ」

暦「そう、か。 ごめん、ごめん」

407: ◆XiAeHcQvXg 2013/04/15(月) 17:56:58.09 ID:PGWDh4gJ0
火憐「だから謝るなって、なんだかあたしが悪いみたいじゃねえか」

火憐「てか、何泣きそうになってるんだよ! なっさけないなぁ、兄ちゃん」

暦「うるせえ。 うるせえよ、火憐ちゃん」

暦「心配だったんだよ。 火憐ちゃんに何かあったらって思ったら、僕は」

火憐「大丈夫だよ。 あたしに何かするのは兄ちゃんしかいないし、あたしに何かするのが許されるのは兄ちゃんだけだ」

暦「……はは。 そりゃ、良い事を聞けた」

そして、僕と火憐はしばらくの間、そのままの姿勢で話し合った。

408: ◆XiAeHcQvXg 2013/04/15(月) 17:57:46.51 ID:PGWDh4gJ0
何分か経った後、ようやく僕と火憐は離れる。

と言うか、途中で何回かキスをしそうになって(一応言っておくが、ただのスキンシップだ)この雰囲気でキスをしたらヤバイって自制が働いて、なんとか堪えていたのだけれど。

そう何度も自制は効きそうになく、とりあえず一回離れようと言う事で抱きしめ合うのをやめたのである。

暦「なあ、火憐ちゃん。 僕からも一つ、頼みがあるんだ」

そして今は、二人で並び、座っている。

409: ◆XiAeHcQvXg 2013/04/15(月) 17:58:13.34 ID:PGWDh4gJ0
火憐「兄ちゃんから? 珍しいな。 言っておくけど、月火ちゃんを倒して来いってのは無理だぞ」

いつか僕が言った台詞。 多分、僕の真似なのだけれど、思いの他似ていた。

暦「あははははは!」

自分の真似をする奴を見て、ツボに入ってしまったのが悔しいが。

火憐「いつまで笑ってるんだよ。 そこまで面白いネタでは無いと思ったんだけど」

暦「あはは、ごめんごめん。 それで頼みなんだけどさ」

暦「僕の事、一発でいいから思いっきり殴ってくれ」

410: ◆XiAeHcQvXg 2013/04/15(月) 17:58:39.87 ID:PGWDh4gJ0
火憐「え? 良いの?」

なんで嬉しそうなんだよ。 そこは「兄ちゃんを殴る事なんて出来ないよ」とか言っておけよ。

暦「一発だけな、二発は許さないぞ」

火憐「おう、任せとけ!」

言うや否や、火憐は僕に向かって拳を掲げる。

暦「か、火憐ちゃん。 一応、少しだけ遠慮してくれよ。 なあ」

火憐「聞こえねえ!」

聞こえてるじゃねえかよ、おい。

411: ◆XiAeHcQvXg 2013/04/15(月) 17:59:07.29 ID:PGWDh4gJ0
との訳で、僕は綺麗に吹っ飛んだ。

つうか、マジで遠慮無しだった。

この前の風呂で殴られた時よりも本気だったぞ。

それで意識を失わない辺り、僕も殴られ耐性が出来つつあるのだろうか。

いらねえよ、そんな耐性。

火憐「うわ、大丈夫か? 兄ちゃん」

暦「……だ、大丈夫。 多分」

412: ◆XiAeHcQvXg 2013/04/15(月) 18:00:04.24 ID:PGWDh4gJ0
吹っ飛んだついで、先程入ってきた扉に頭を思いっきりぶつけた。 いや、マジで痛い。

火憐「どう見ても大丈夫じゃねえけど。 あたしが殴っといてあれだけどさ」

火憐「ってか、血でてんぞ、兄ちゃん」

暦「みたいだな」

火憐「舐めようか?」

なんで舐めるんだよ。 兄の頭を舐める妹とか色々駄目だろ、それ。

暦「いい、舐めなくていい。 むしろ絶対にそれだけはやめて」

413: ◆XiAeHcQvXg 2013/04/15(月) 18:01:04.83 ID:PGWDh4gJ0
暦「見とけ、火憐ちゃん。 これが僕だ」

そう言い、先程切った傷口を火憐に見せる。

狙いは、最初からこれだった。 もう、火憐に対しては嘘を付きたく無かった。

火憐「痛そうだなぁ」

と、火憐は最初言っていた物の。

火憐「あれ、兄ちゃん。 よく見えないから、もう少し見える様にしてくれ」

と言い。

火憐「……これ、塞がってるぞ。 傷口」

と、言った。

414: ◆XiAeHcQvXg 2013/04/15(月) 18:01:38.24 ID:PGWDh4gJ0
暦「いつかはさ、話さないとって思ってたんだ」

暦「火憐ちゃん。 今からする話、聞いてくれるか」

僕がそう言うと。

火憐「当たり前だよ、兄ちゃん。 兄ちゃんの言う事には絶対服従の火憐ちゃんだぜ」

と、僕の妹は笑顔でそう言ったのだった。

415: ◆XiAeHcQvXg 2013/04/15(月) 18:02:46.03 ID:PGWDh4gJ0
大分、長い時間話し込んでいたと思う。

辺りは少しずつ、明るくなっているのが見て分かる。

春休みに、僕の身に起きた事。

その全部を火憐に語った。

それを聞いた火憐は、と言うと。

416: ◆XiAeHcQvXg 2013/04/15(月) 18:03:41.78 ID:PGWDh4gJ0
火憐「へええ。 すげえな兄ちゃん。 じゃあさ、腕とか吹っ飛んでも、また生えてくるんだよな?」

と、それはもう嬉しそうに聞いている。

一つ気になる事と言えば、さっきから聞いてくる質問が殆ど。

「頭が吹っ飛んでも元通りになるの?」とか。

「骨とか全部折れても、戻るのかよ?」とか。

そう言う物騒な事ばかりってのが、気になってしまう。

こいつ、間違っても試そうなんて思わないと良いけど。

417: ◆XiAeHcQvXg 2013/04/15(月) 18:04:51.81 ID:PGWDh4gJ0
暦「前にさ、覚えてるかな。 貝木泥舟って詐欺師」

火憐「ああ、あいつか。 覚えてるよ。 兄ちゃんの誇りを汚した奴だ、許せねえ」

いや、その誇りってお前の事なんだけどな。 自分で言ってて恥ずかしくないのかな。

暦「あいつが火憐ちゃんにしたのが、それだよ。 怪異」

暦「囲い火蜂って言ってな。 その蜂に刺されると、体が火に包まれた様に熱くなる。 そんな怪異らしい」

暦「あいつはさ、催眠だとか、プラシーボ効果だとか言っていたけれど。 それだけじゃ説明出来ない事もあるしさ」

418: ◆XiAeHcQvXg 2013/04/15(月) 18:05:22.07 ID:PGWDh4gJ0
火憐「ふーん。 なんだ、てっきり馬鹿でも風邪は引くってのが実証されたのかと思ったんだけどな」

自覚あったんだ。 初めて知った。

暦「ま、そんな訳で」

月火の事も話そうか悩んだけれど、話すとするならば、本人も居る所でしっかりと話したい。

それに、あれは知らなくても良い事、なのだと僕は思う。

言わなくていいなら、言う必要なんて無いのだから。

暦「これが、僕だよ。 火憐ちゃん。 お前の兄ちゃんで、化物の話さ」

419: ◆XiAeHcQvXg 2013/04/15(月) 18:05:56.06 ID:PGWDh4gJ0
そう、僕が締めると、火憐はいつもみたいに笑って、僕にこう言った。

火憐「あはははは! 何言ってるんだよ、兄ちゃん」

火憐「兄ちゃん、あたしより弱いのに良く言えるよな。 そんな兄ちゃんが化物なら、あたしはどうなんだよ」

火憐「兄ちゃんは兄ちゃんだろ。 月火ちゃんの兄ちゃんで、あたしの兄ちゃんで、それだけだよ」

火憐「化物を名乗るなら、せめてあたしを倒してからにしやがれ!」

馬鹿だけど、本当に純粋だな。

純粋だし、優しい。

420: ◆XiAeHcQvXg 2013/04/15(月) 18:06:46.30 ID:PGWDh4gJ0
火憐「てかさ。 吸血鬼ってのも案外、大した物じゃねえんだな。 兄ちゃん程度に負けるくらいだし」

この余計なひと言さえ無ければ、もっと良いのだけれど。

暦「勝ったか負けたかって問題じゃねえけどな」

つうか、後で忍に何て言われるか、考えただけで恐ろしい。

「言っておくがな、火憐。 お前の発言によって、僕がドーナッツを奢らされるんだからな! 言葉を慎め!」

いや、言っておくとは言った物の、実際に言ったら殴られるので頭の中で考えただけだが。

421: ◆XiAeHcQvXg 2013/04/15(月) 18:07:22.09 ID:PGWDh4gJ0
暦「いつか絶対勝ってやるよ。 覚えとけよ火憐ちゃん」

火憐「へっへっへ。 いつでも受けて立つぜ。 寝てる時でも、飯食ってる時でも、風呂に入ってる時でも。 いつでもあたしは受けて立つ!」

暦「風呂に入ってる時はやめておくよ。 殴られて気を失うのは気持ちが良い物じゃねえからな」

火憐「んだよ。 折角そのまま篭絡して、一緒に風呂に入ろうと思ったのに」

どんな篭絡だよ。 こええぞ、それ。

422: ◆XiAeHcQvXg 2013/04/15(月) 18:07:49.90 ID:PGWDh4gJ0
との訳で、僕と火憐は仲直りする事が出来た。

久し振りに、本当に火憐とこれだけ砕けた話をするのは久し振りな気がして、とても楽しかったのを覚えている。

後悔は勿論ある。

思えば、始まりからおかしかったんだ。

火憐と月火が起こしに来なかった、あの日から。

色々と火憐とは話をして、大体起きている事は分かった。

423: ◆XiAeHcQvXg 2013/04/15(月) 18:08:15.39 ID:PGWDh4gJ0
火憐が抱えていた悩み。 やはり、月火が原因との事。

僕が出掛けている間、火憐と月火はいつも通り一緒に居たのだけれど。 月火の態度がいきなり、知らない奴に接するそれになったとの事だ。

火憐はそれに少しだけ怒り。 僕が帰って来た時に月火の事を聞いても、素っ気無い態度を取った。 との事。

当の月火は、その忘れた事すら忘れていたと言った感じで、火憐の態度の変化、その原因に気付く事が無かったのだ。

そして、昨日。

火憐は月火に、完全に忘れられた。

424: ◆XiAeHcQvXg 2013/04/15(月) 18:08:45.20 ID:PGWDh4gJ0
他人事の様には言えない。 僕も、忘れていたのだから。

そして、今。

僕はどういった立場なのだろうか?

僕の友達が覚えているかは分からないが、忍はどうやら、覚えている様だ。 そこら辺はさすが吸血鬼と言った所か。

その忍の話だけれども。

……火憐に僕の体の事を話す時に、忍の事も話さなければならなかったのは説明するまでも無い。 しかし、どうにもあいつは姿を見せない。

柄にも無く恥ずかしがっているのだろうか、変に照れるしな、あいつ。

それとも、さっきの火憐の発言で怒っているのだろうか。

まあ、その内出てくるだろう。

425: ◆XiAeHcQvXg 2013/04/15(月) 18:09:12.58 ID:PGWDh4gJ0
他人事の様には言えない。 僕も、忘れていたのだから。

そして、今。

僕はどういった立場なのだろうか?

僕の友達が覚えているかは分からないが、忍はどうやら、覚えている様だ。 そこら辺はさすが吸血鬼と言った所か。

その忍の話だけれども。

……火憐に僕の体の事を話す時に、忍の事も話さなければならなかったのは説明するまでも無い。 しかし、どうにもあいつは姿を見せない。

柄にも無く恥ずかしがっているのだろうか、変に照れるしな、あいつ。

それとも、さっきの火憐の発言で怒っているのだろうか。

まあ、その内出てくるだろう。

426: ◆XiAeHcQvXg 2013/04/15(月) 18:09:59.89 ID:PGWDh4gJ0
さておき、そんな後悔エピソードを思い出した所で、どうやら夜が明けたらしい。

後悔エピソードと言えば、前に月火とした話を思い出す。

そういや、あいつの後悔エピソードってあの時聞いてないな。 今度問い詰めてみよう。

でも、あいつの話なんて大体知っているしなぁ。 僕が知らない面白エピソードがあるならば別だけど。

んー。 火憐なら知っているのだろうか。 月火の面白エピソード。 今度時間がある時にでも、聞いてみる事にしよう。

427: ◆XiAeHcQvXg 2013/04/15(月) 18:10:25.16 ID:PGWDh4gJ0
つうか。 火憐と一緒に朝日を見るのは、意外にも始めてかもしれない。

火憐の横顔はどこか嬉しそうで、僕もまた、それを見て嬉しくなる。

一時はどうなるかと思ったが、まあ、結果良ければ全て良し。 と言った感じか。

と、急に火憐が僕の方に顔を向けた。

火憐「なあ、兄ちゃん」

428: ◆XiAeHcQvXg 2013/04/15(月) 18:10:52.23 ID:PGWDh4gJ0
暦「どうした、火憐ちゃん」

太陽に照らされた火憐の顔は、晴れ晴れとした物だった。

そして、火憐は僕にこう言う。

火憐「兄ちゃんが来てくれたのは嬉しいし、ぶっちゃけ付き合っても良いくらいなんだけどさ」

火憐「あたし達、これからどうするんだ」

付き合っても良いのかよ。 でも僕には戦場ヶ原が居るしなぁ。 いやいや、真面目に考える事じゃないだろ、僕。

429: ◆XiAeHcQvXg 2013/04/15(月) 18:11:20.22 ID:PGWDh4gJ0
てか、やべ。 火憐を見つけた後の事なんて、何も考えて無かったぞ。

うーん。

どうしよっか。

最終回的な雰囲気を出しといてあれだけど、どうやらまだ、この妹と僕の話は終わりそうにない。

とりあえず、まあ。

暦「よし、それなら火憐ちゃん、こうしよう」

430: ◆XiAeHcQvXg 2013/04/15(月) 18:11:47.69 ID:PGWDh4gJ0
暦「とりあえず、僕と付き合おう」

と、実の妹に告白をしてみた。 生まれて初めての告白である。

火憐「いいぜ」

火憐「だけど、月火ちゃんの許可が降りたらな」

どうやら、一生無理らしい。 と言うか、許可が降りる前に殺されると思う。

まあ、冗談だから良いんだけれど。

431: ◆XiAeHcQvXg 2013/04/15(月) 18:12:14.34 ID:PGWDh4gJ0
ああ、そういや、月火が火憐のジャージを馬鹿にしていた事をちくらなければ。

そうだな。 全部終わったら、ちくってやろう。

そして、もう少しだけ続けるとしよう。

化物になり損なった兄と、化物より強い妹の話を。


第十二話へ 続く

442: ◆XiAeHcQvXg 2013/04/18(木) 13:32:33.52 ID:7T0TV7XF0
暦「なあ! 火憐ちゃーん! おーい!」

火憐「なんだよー! 兄ちゃーん!」

暦「これー! もうそろそろ良いんじゃないかー!」

火憐「あたしもー! たった今同じ事思ってたぜー!」

朝っぱらから、大声で会話する僕と火憐。

それにはしっかりと理由があるのだ。

遡る事、約一時間前。

443: ◆XiAeHcQvXg 2013/04/18(木) 13:33:22.01 ID:7T0TV7XF0
以下、回想。

火憐「どーすーるーかーなー」

横で歩く火憐が、そんな風に呟いて(呟くと言うには、些か声が大きいが)いる。 ちなみに、これでもう十回目だ。

暦「うーん。 甘かったと言えば、甘かったのかな」

火憐「忍野って人かぁ? 居ない物は仕方ねーじゃん。 探すのにも、気配感じねーし」

会った事も無い人間の気配を探れるのか。 いや、気配を探れるだけで十分凄いけどさ。

暦「だけど、本当にこれだと打つ手が無いんだよ」

444: ◆XiAeHcQvXg 2013/04/18(木) 13:34:30.31 ID:7T0TV7XF0
火憐「うーん。 あたしは別に、これからずっと兄ちゃんと一緒でも良いけどな」

暦「月火ちゃんと一緒じゃなくても良いのか?」

火憐「それは……まあ、嫌だけどさ」

火憐「でも、その忍野って人に会えないとどうしようもねえんだろ? だったら気楽に行こうぜー」

能天気な奴だなぁ。

けど、言ってる事に間違いは無いのかな。

これは少し前の事だけど。

最後の望みを託して、僕と火憐の家に、つまりは月火の居る場所に行ったのだけれども。 月火は僕と火憐の事をやはり、覚えていなかった。

その後、火憐と僕とで、早朝(と言うか、ほぼ夜中)から知り合いと言う知り合いに連絡も取ってみたが、簡単に言えば全滅である。

445: ◆XiAeHcQvXg 2013/04/18(木) 13:35:19.04 ID:7T0TV7XF0
そして、この行動によって、一つ分かった事がある。

僕もまた、火憐同様、関わりがあった全ての人間から、忘れられていると言う事だ。

それはそうと、僕が確認する時間は本当に数分、五分程で終わったのに対し、火憐は一時間近くも確認の電話を続けていた。

その辺りは、さすが有名人なのだけれども。

何故か負けた気分になり、兄として些か悲しかったので、電話を掛けている振りを僕はしていたのだ。 それは結局、余計に僕の情けなさに拍車を掛けるだけであったのだが。

そうして、少しだけ気分が落ち込んだ所で、あの廃墟へと向かったのだが……

忍野はそこにおらず、僕と火憐の期待は空振りだったと言う訳だ。

446: ◆XiAeHcQvXg 2013/04/18(木) 13:35:54.96 ID:7T0TV7XF0
暦「とりあえず、なんかご飯でも食べるかぁ」

火憐「お、兄ちゃんの奢りか! 嬉しいな」

暦「何でだよ! って言いたいけど、どうせ火憐ちゃん、お金無いだろ」

火憐「あるっちゃあるけど、家に忘れて来たんだよ」

火憐「つまり、あたしは今……無一文だ!」

堂々と言うなよ。 格好良いけどもな。

447: ◆XiAeHcQvXg 2013/04/18(木) 13:36:40.14 ID:7T0TV7XF0
暦「そんだけ大荷物を持っていて、なんで一番大事な物を忘れてるんだ!」

火憐「いやいや、前に財布持ってたらさ。 あの詐欺師野郎に小銭まで全部持って行かれたじゃん。 だから持ち歩かない癖がついちまってるんだよ」

財布の意味ねえな、それ。

暦「そういや、そんな話も聞いたな」

にしても、貝木の奴め。 今度会う事があったら、やっぱり一発くらい殴っておこう。 火憐の分として。

暦「まあ、安心しろ火憐ちゃん。 僕はそんな事もあろうかと、お金は大量に持ってきてるんだぜ」

火憐「ふうん」

448: ◆XiAeHcQvXg 2013/04/18(木) 13:37:22.53 ID:7T0TV7XF0
暦「なんだよその期待していない眼差しは! 良いのかい火憐ちゃん、いいんだな?」

火憐「な、何がだ。 兄ちゃんの財布がすっからかんなのは知ってるんだぜ」

僕の強気な態度を不審に思ったのか、後退りをしながら火憐が僕に対して、そう言った。

ふふふ、馬鹿め。 お前は兄の偉大さを身を持って知るのだ。

暦「ほう。 これを見ても同じ言葉が言えるかな?」

と言いながら、火憐に僕の財布の中を見せる。

火憐「え、マジかよ。 壱……弐……参……百万くらいあるじゃねえか!」

暦「いや、そこまでは無いけどな」

449: ◆XiAeHcQvXg 2013/04/18(木) 13:38:07.33 ID:7T0TV7XF0
参で数えるのやめるんじゃねえよ。 幼稚園児か。

暦「十万円だ、十万円」

火憐「じゅ、十万円……」

火憐「あたしが今まで持った事の無い数字だぜ……さすがは兄ちゃん、貯金してたのか」

暦「貯金? 僕がそんな事、出来ると思うのかい?」

火憐「正直、思わないけど……だからこそ、驚いてるんじゃねえか」

火憐が先程とは打って変わって、尊敬の眼差しを向けてくる。 こんな眼差しはしょっちゅう向けられているので、特に何も思わないけど。

そして、僕を神の如く崇拝して来る火憐に、僕は先程の火憐の様に、堂々と言い放った。

450: ◆XiAeHcQvXg 2013/04/18(木) 13:38:52.48 ID:7T0TV7XF0
暦「実はこれ、家の生活費をこっそり貰ってきたんだよ」

火憐「うおりゃ!」

瞬間、火憐のローキックが炸裂。 狙ったのか、たまたまなのか、見事に太もものツボに入る。

分かる人には分かる、あの滅茶苦茶痛い場所である。

暦「いてえよ! 火憐ちゃん、今狙っただろ!」

火憐「不死身なんだろ? ならいいじゃん」

狙ってたのかよ、やめろよ。 お前の蹴りだけでも痛いのにさ。

451: ◆XiAeHcQvXg 2013/04/18(木) 13:39:51.93 ID:7T0TV7XF0
つうか、なんて事だ。 これは非常にマズイ。

これからの生活、火憐の暴力に今より更に怯えなければいけないのか。

火憐にとって、不死身体質は良いサンドバック。

これが、今回の事から僕が得られた教訓だ。 とか、考えてみたり。

暦「良くない良くない。 絶対に良くない」

うわ言の様に呟きながら、火憐の事を見上げる。

452: ◆XiAeHcQvXg 2013/04/18(木) 13:40:59.75 ID:7T0TV7XF0
ここで気を付けなければいけない事は、僕が蹲っていると言う事実である。

その為、火憐を見上げる形となっているのだ。

よく、巷では「火憐の方が僕より背が高い」等と言われているが、あれはあれだ。

僕の姿勢が悪いだけであって、決して! 絶対に! 火憐が僕より背が高いと言う事実は無いのだ。 多分。 恐らく。 だといいな。

453: ◆XiAeHcQvXg 2013/04/18(木) 13:41:32.32 ID:7T0TV7XF0
火憐「まあまあ、良いじゃねえか。 あたしと兄ちゃんの仲だろ?」

そんな仲、僕は望んでいない。

暦「……言っておくが、火憐ちゃん。 ここで僕に逆らうと言う事は、お前の朝ご飯が無くなるって事なんだぜ。 分かるか?」

火憐「ぐっ」

火憐「け、けど。 あたしの正義がそれを許さねえんだよ。 兄ちゃんのやってる事は、泥棒と一緒だ!」

まあ、そうなんだけどな。

454: ◆XiAeHcQvXg 2013/04/18(木) 13:42:12.46 ID:7T0TV7XF0
暦「おいおい、考えてもみろよ、火憐ちゃん」

暦「このお金は、確かに僕のでは無い。 それは認めよう」

暦「けどな、元はと言えば生活費だ。 僕や火憐ちゃんや、月火ちゃん。 それに両親のな」

暦「そのお金の僕と火憐ちゃんの分を持ってきた所で、問題は無いと思わないか? 悪い事に使う訳でも無いんだぜ」

火憐「そ……そう言われると。 確かに」

暦「だろ? それに、これだけお金があるとさ。 いくら紳士な僕でも、魔が差す可能性も否定できない」

暦「だから火憐ちゃん。 火憐ちゃんが僕の行動を監視して、何に使うか見ておかないと駄目だぜ」

暦「それが、火憐ちゃんの大事な役目なんだよ。 正義の役目だ」

455: ◆XiAeHcQvXg 2013/04/18(木) 13:42:45.13 ID:7T0TV7XF0
火憐「正義の……役目」

火憐「……そうだな! 兄ちゃん、その通りだ!」

火憐「あたしが間違っていた……兄ちゃんの言う事に間違いはねえんだ」

火憐「よし、分かったぜ。 正義の役目だな、兄ちゃん! いい響きだ」

やっぱり、言い包めるのは楽だよなぁ。 月火と違って。

456: ◆XiAeHcQvXg 2013/04/18(木) 13:43:20.37 ID:7T0TV7XF0
火憐「よし、そうと決まれば兄ちゃん。 その財布を寄越せ」

暦「え? 何でだよ、火憐ちゃん」

火憐「だってそうだろ? あたしは余計な物には使わない自信があるしな」

火憐「兄ちゃんに危ない橋は渡らせたくねえんだよ。 その財布を持っていなければ、余計な物を買う心配もねえだろ?」

暦「いや、待てよ、火憐ちゃん」

火憐「焦れったいな。 うりゃうりゃ」

僕の話に聞く耳を持たず、火憐は僕の体を抱きしめる。 抱きしめると言うか、ロックした。

暦「話し合おう! 話し合おうぜ、火憐ちゃん!」

火憐「つか、自信が無い兄ちゃんより、自信のあるあたしが持っていた方が良いだろ。 それだけじゃん」

そう言われると、僕にはもう、何も言い返せなかった。