1: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2023/07/15(土) 00:25:36.59 ID:ukM/fkgyo


研究員「安価でデジモンを進化させる」 前編
  

研究員「安価でデジモンを進化させる」 後編

生命の定義とは何か?

条件は四つだ。

一つ、遺伝子を持つこと。
二つ、能動的に栄養活動を行える代謝系を持つこと。
三つ、自己増殖できること。

四つ…
『魂』を持つこと。


この四つの条件を満たすのであれば、その肉体は素粒子から構成される物質である必要はない。

デジタルデータの肉体を持ち、生命の定義の四条件を満たす、情報生命体…

それを人は、デジタルモンスターと呼んだ。


SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1689348335

4: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2023/07/15(土) 00:38:21.48 ID:VHWhAq+RO
我々はデジタルモンスター研究所の研究員。

これまでの社会では、デジタルモンスター達は好奇の目で見られたり、その生態系を映した映像を娯楽として楽しまれている程度だった。

マッシュモンを育成できるデジタルペット端末『デジタルモンスター』は、購入者からとても評判がいい。
動画サイトでは、マッシュモンと飼い主のやりとりを映した動画が上げられることもあり、人気を集めている。

そういうわけで現在、奇妙なことだが、一般人に『デジモンの中で一番最初に思い付くのはどれ?』と聞くと…
ほぼ全員がマッシュモンの名を挙げるのである。

キモカワ系マスコットキャラクターとして大人気なのだ。



そうしてデジモンは、良くも悪くも画面の向こう側にしかいない、関わろうと思わなければ関わりようのない存在だと思われていた。


しかし、ある事件をきっかけとして…
社会はデジモンへの警戒を一気に強めた。

デジモンを利用した情報窃盗事件だ。

ハッキングデジモンを倒したのもまた、デジモン達であった。


そうしてコンピューターセキュリティとクラッカーの攻防には、デジモンという新たな要素が否応にも関わってくることになるのであった。



…そんなわけで、ハッキングデジモンを見事撃退した我々の研究所は、デジモンサイバー犯罪への対策技術開発のために、急遽規模拡大されることになったのだ。

6: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2023/07/15(土) 01:01:26.34 ID:VHWhAq+RO
我々の研究所には、何名か新人が来たので、自己紹介をすることにした。

そういえば、我々の名前をまだ読者の皆様には伝えていなかった。
訳あって本名は伏せるが…
以後はニックネームで名乗らせていただこう。


まず私は、研究員の一人…あだ名は「ケン」。
自慢は体力だ。
エナジードリンクを一切接種せずとも、二日は余裕で徹夜していられる。
そもそもショートスリーパーで、日に3時間くらいしか寝ないのだ。
好きなデジモンはスターモンだ。だってかっこいいじゃん。


次は研究所のリーダー…あだ名はそのまんま「リーダー」。
人前で喋るのが得意で、度胸が物凄い人だ。駆け引きや交渉も上手く、皆に慕われている。
自分では目的達成のために非情になれるつもりでいるようだが、根の優しさが枷になったところを何度か見たことがある。
好きなデジモンはゴートモンだそうだ。コカトリモンやディアトリモンといった最強クラスの外敵を葬ったとこに感動したらしい。


そして女性研究員…あだ名は「クルエ」。
カワイイものが大好きらしい。割りと冷酷な発想ができるあたり、実利主義なようだ。
好きなデジモンはプルルモンやトコモン、ゴマモンだそうだ。
フローラモンやコマンドラモンも好きだと言っていた。それ言うのはズルいぞ。みんな好きだからあえて言わなかったのに。あとその二体を挙げるならちゃんとマッシュモンも好きって言え。


カリアゲの研究員…あだ名は「カリアゲ」。
一度髪型を変えてツーブロックにしたことがあったが、相変わらずカリアゲと呼ばれていた。
好きな食べ物は鶏軟骨のカラアゲだそうだ。ビールを飲みながらかっこむのがたまらんのだとか。
好きなデジモンはコカトリモンと言っていた。美味そうだかららしい。…後で聞き直したら、どうやらそれは一発ギャグのつもりで言ったらしく、本当はボアモンやサラマンダモン等の炎で包まれた体を持つデジモンが好きらしい。


痩せた研究員…あだ名は「メガ」。
趣味でイラストを描いているらしく、デジモンのイラストをネットに投稿して万バズしているらしい。
オタク気質な奴で、ひとつのことにこだわると周りが見えなくなることがある。
好きなデジモンはゴートモンだそうだ。リーダーと被ったな。だがお前の趣味はよくわかるぞ。



そして新人研究員…あだ名は「シン」。
デジモンに強い興味があって来たらしい。大変いいことだ。
好きなデジモンはグレイモン、パイルドラモン、ホエーモン(完全体)、ジャガモンだそうだ。素直でよろしい。

7: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2023/07/15(土) 01:17:27.76 ID:VHWhAq+RO
研究所では早速、デジモンサイバー犯罪の対策について議論が始まった。

リーダーはプロジェクターで、私が書いてる議事録を映しながら、司会をしている。
「さて…まずは。何か案のある奴はいるか?」

リーダーがそう言うが…なかなか案が挙がらない。
そりゃまあ、どうすりゃいいかなんていきなり聞かれても分からんよな。最適解をいきなり出せるはずがない。


さて…
こういう時に有効な、議論を進めるためのテクニックがある。

私は挙手して発言した。
「ハッキングデジモンが出現したら、コマンドラモンとマッシュモンをその場へ向かわせて退治させるのはどうでしょうかー?」


一同はしばらく、静まり返ったが…
やがてカリアゲが口を開いた。
「な、何言ってんだ!これから敵がどんどん増えるかもしれないし、強くなっていくかもしれないぞ!この二体だけじゃやられちまうぞ!」


続いてメガが発言した。
「前の戦いで勝てたのは運が良かったと思う。次同じ条件、同じ面子で戦ったら、相手はもうスカモン大王のコクピットを曝すような真似はしないだろう。勝てないよ」


クルエも続いて挙手した。
「そもそも後手にまわるのがビミョーですよね~。こないだの事件も結局情報は盗まれましたし。未然に防ぎたいですよねー、犯人とっちめたいですねー」


新人のシンも続いて言った。
「相手はきっともっと強いデジモン出してくるッスよ!戦力強化は必須ッス!」

9: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2023/07/15(土) 01:26:26.76 ID:VHWhAq+RO
一通り聞いた後、私は発言した。
「なるほど。つまり今必要なのは、こういうことですね」

議事録に箇条書きをした。

①セキュリティデジモンの頭数を増やして、パワーアップする必要がある

②相手にセキュリティデジモンの弱点を突かれないように、多様な戦略を揃える必要がある

③そもそもハッキングデジモンの侵入自体を阻止したり検知する仕組みが必要

④敵の動向を探り、手口の変化に警戒する必要がある


4つの箇条書きを書き終えた後、私は続けて話した。
「兎にも角にも、まずは今挙がった4つの課題を解決しないことには仕方ないってことですね」


「おぉー」
一同はそれっぽい指針が見えてきたことに感心しているようだ。


…これが、発言者が少ない会議を活発にさせるテクニック。
「最初にあえて、すぐできるけどダメな案」を出す。

人は誰でも変なこと言って批判されて恥をかきたくないのだ。だからアイデアをいきなり出すのに抵抗を持つ者は多い。

だが、あえて即効性があるけどダメな案を出すことで、他の参加者は「批判する側」に回れる。
というか、そうしないと最悪の案に決まってしまうという危機感を煽る。


そうすることで参加者は、「批判される側」でなく「批判する側」になれるので、ためらいなく発言できるようになるのだ。


しかしまあ…君らいい大人だろ。
私にこんな子供騙しみたいなテクを使わせなくても活発に議論してほしいぞ。

10: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2023/07/15(土) 01:33:13.33 ID:VHWhAq+RO
リーダーが腕組みしながら口を開いた。
「よくまとめたなケン。他にも色々考えるべきことはあるだろうが、取っ掛かりはこんなもんでいいだろう。まずはこれら4つの課題に対して『今できること』を挙げていくことで、ロードマップを組み立てていこう」

カリアゲがつぶやく。
「今できることかー…。あんま多くなさそうだな」

クルエがため息をついた。
「なんか一気に全部満たす近道とかないすかねー」


メガがきっぱり言った。
「無いでしょ」


千里の道も一歩から。
地道に研究を進めつつ、その時点でできる精一杯の運用を試行錯誤していくしかない。

20: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2023/07/16(日) 00:53:25.43 ID:jEMBp6duO
我々はこの指針を実現するための具体的な施策について議論を始めた。

まずはリーダーが口を開いた。
「スカモンの背後にいる者が何者かは分からないが…敵は少ない方が…いや、増えない方がいい。そして戦いはなるべく、戦う前に勝てる方がいい。武力的衝突を最小限に抑えながらハッカーを排除する…それが最も合理的だ」

その通りだ。

「えぇっと…どういうことだ?」
カリアゲが首を傾げる。

「ようはデジクオリアやデジモンキャプチャーの販売規制を真っ先にやるべきってことじゃないですかー?デジモン達にケンカしてもらうよりもー」
クルエが髪をくるくる巻いて弄りながら答えた。

リーダーは頷いている。
「そうだ。結局ハッカー共がハッキング用デジモンを育成するには、有償ライセンスで純正品のデジクオリアを使用しているからだ。ならば、その供給元を抑えてしまえばいい」

デジクオリアを販売元といえばカンナギ・エンタープライズですよね。日本発の多国籍企業の。

「ああ。悪用される危険性がある以上、デジクオリアの販売規制をかけるべきだ。俺はそう思う」

私もそう思います。


「…そう言われると、ボクもそう思う」
メガも同意見のようだ。

「デジモンちゃん達が必要以上に傷付くのはやですもんねー」
クルエも賛同してくれた。

「よ…よし!カンナギ・エンタープライズへ交渉しに行こう!」
満場一致のようだ。
うちの研究所には他にもメンバーが多数いるが、そちらでも特に異論は出なかったようだ。

それなりにお偉い公務員の方や、スポンサーにも同行してもらい、我々はカンナギ・エンタープライズへ向かった。

22: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2023/07/16(日) 01:03:48.12 ID:jEMBp6duO


カンナギ・エンタープライズ日本支社のオフィスに着くと、女性職員が出迎えた。

「初めましてぇ~♪社長秘書の岸部エリカと申します~♪よろしくお願いしまぁす♪」

岸部エリカと名乗った女性は大変な美人であった。

「うひょー!すげー美人!」
おいカリアゲ!なんつうこと言うんだ!
令和の時代にそんな発言をする奴があるかバカ!

「あっすんませんつい…でへへ…」

「ま~ぁ♪褒められて嬉しいです~♪よろしくお願いしますねぇ♪」

岸部さんは微笑んでいる。

スポンサーさんも微笑んでいるが、二人のやりとりを見て汗をダラッダラにかいている。
そりゃそうだ。

うーん…カリアゲには後で説教だな。コンプライアンスとか色々。





応接室にて、リーダーはデジクオリア販売規制の相談をした。

危険なハッカーがデジモンを悪用したら、世界規模の混乱が起きかねない。

だから、デジクオリアのライセンスを発行する相手を、政府管轄の組織による許可制にしてほしい…
そう頼んだ。


岸部さんは答えた。
「でもウチ多国籍企業ですよぉ?海外支社でライセンス発行をするときは、どちらさんから許可もらうんですかぁ?」

23: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2023/07/16(日) 01:11:36.98 ID:jEMBp6duO
メガはメガネをいじりながら答えた。
「その場合はその国の支社からライセンスを発行すれば…」

「あらぁ、うちの支社はさすがに世界196ヵ国すべてにあるわけじゃないんです~♪ですからムリですね♪」

うぅ~ん。そりゃ確かにそうだ。

カリアゲはうーんと唸ってから口を開いたは。
「じゃあよ…何かしらのさ、国際機関の承認を得なきゃダメってことにしたらどうだ?」

「いち企業のいち製品のライセンス発行を、国際機関が管理?うふふ、ずいぶん大げさですねぇ」

岸部は口に手の甲を当てながらくすくすと笑っている。

「まあ分かってると思いますけどぉ、うちの会社のお客さんが減るだけの提案をされて、はいそうですねって首を縦に振るメリット、ありませんよねぇ?」

そう来たか…。

24: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2023/07/16(日) 01:21:36.78 ID:jEMBp6duO
リーダーは険しい表情で返答する。
「自分が何を言っているか分かっているのか…?あなた達は、犯罪に加担することも厭わないと言ってるのか!?」

「道具を正しく使う人もいれば、悪用する人もいる。それはデジモンに限らず、コンピューター全部そうでしょう?Wind●wsの購入に国際機関の許可いりますぅ?」

「むむ…」
あのリーダーが苦戦している…。

「誤解しないでください、うちは別に、悪用を推奨してはいませんよぉ?」

「ならばなぜ賛同してくれない!?」

「だって…あなた達がいう承認機関とやらが、そもそも信用できませんもの♪」

「!?」

「仮にあなた達がデジクオリア使用の承認権を独占したら…あなた達の暴走を誰が止められるんですかぁ?」

「暴走だと…?」

26: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2023/07/16(日) 01:26:37.11 ID:jEMBp6duO
「そうですよぉ、承認機関がごく一部の人達の手に渡ったら、もうその機関は世界中に好き放題デジモンでサイバー攻撃し放題じゃないですか♪誰も止められなくなりますよ♪」

「馬鹿げたことを…そんなことは…」
そこまで言って、リーダーは言葉を止めた。

「そんなことは?」

「…」

り、リーダー?
断言してくださいよそこは。

「うふふふふ♪賢い方ですねリーダーさんは♪その通り、あなた達の提案って、ようはサイバー戦争の道具を自分たちが独占して、世界をコントロールしたいって言ってるのと同じです♪うっふふふ♪」

岸部は笑っている。


クルエがつんつんと私の服の袖をつっついてきた。
どうしました?
「ケンさん…私、あの女嫌いです」

まあ…わからんでもないけどさ…
ヒソヒソ話だとしてもさ、今言うなよ。


27: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2023/07/16(日) 01:36:40.84 ID:jEMBp6duO
リーダーは苦い顔をしている。
「たしかに…あなたの言うことには一理ある。武力の行使権をひとつの組織が独占し、誰も対抗できなくなる…それは、理想的ではないかもしれない」

「そうですねぇ♪」

「だが…世界中でデジモンを利用した犯罪者どもが野放しになるよりはずっとマシなはずだ!よく考えてみろ!デジモンによるサイバー攻撃から全てのネットユーザーを守るために、どれだけ大量のセキュリティデジモン達を維持しなくてはならないのか!?」

リーダーは熱くなっている。

「維持費用は莫大になるぞ!うちもスパコンを駆使してようやく餌を捻出してるというのに!全てのネットユーザーがそのコストを捻出しなくてはならなくなる!そうでなければつけ入れれるからな。よく考えてみるんだ…地獄だろう、そんなのは!」

「ふふ…♪」

「ならば、たとえ武力の独占という形になってでも、混沌より秩序を目指すべきだ。その方が結果的に、皆がコスト捻出のために苦労せずに済むはずだろう!」

「しゅーじんのじれんま、ですねぇ♪」

「そうだ。だから頼む…。今ならまだ間に合う!パンドラの箱に鍵をかけてくれ!」

「まぁ♪素敵な言い回し♪」

必死に頭を下げるリーダーに対して、岸部はくすくすと笑みを浮かべるだけだ。

29: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2023/07/16(日) 01:44:53.41 ID:jEMBp6duO
「じゃあ、こうしましょう」

岸部は自身の口元に指を添えた。

「ライセンスの料金を、1000倍に上げます♪それでいいなら構いませんよ♪」

「ひゃっ…!?」
リーダーは青ざめている。
今だって安くないライセンス料金を払っているのだ。具体的には書かないけど…。
1000倍になったら流石に厳しすぎる。研究所そのものが維持できるかってレベルの話になってくる。

「だってそうでしょう?その話を飲むなら、本来私達が得られた収益が千分のイチくらいになっちゃうじゃないですか♪そんなにデジクオリアの価値を感じて独り占めしたいのなら、それくらい払ってもらわないとぉ♪釣り合いませんよぉ♪」

岸部は脚を組み替えながら余裕の表情をしている。


カリアゲがは不愉快そうな顔をしている。
「そ、そんな無理難題…!足元みやがって!平和より金のほうが大事なのかよ!」

「それはこっちのセリフですけどぉ?うっふふふ、お金がかさむなら平和を諦めるんですかぁ?政府からの補助金とかあれば払えるんじゃないですかぁ?」

32: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2023/07/16(日) 01:51:44.32 ID:jEMBp6duO
す、スポンサーさん、どう思います?

「ね、値段交渉をしようじゃないか。1000倍は厳しいが…100倍くらいで手を打つのはどうかね?」

「だぁ~め♪頼み方がカワイくなかったから、1100倍にしますね♪」

「元より増えた!?むむ…」
スポンサーは頭を抱えている。

「…その額になると、この場で即決はできない。というか…そこまで値上げすると、君達カンナギエンタープライズにとっても損な結果になるんじゃないかね?誰も買わなくなるぞ。そもそもデジモンの研究自体やれなくなってしまう。君達が今ほどほど丁度良く得ているはずの収益もなくなるのではないかね?」

「ん…」
岸部が眉をピクっと言わせた。
おおっ効いている…?

33: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2023/07/16(日) 02:00:41.84 ID:jEMBp6duO
「そうだ。分かるだろう?今の値段を1000倍に釣り上げたからといって、君達の収益が今の1000倍になるわけではない!そんな値段は払えない、と誰もがデジモン研究事業から撤退し、結果的に収益が一万分の一になることだって十分あり得るだろう!分かっているのかね君ィ!」

スポンサーさんは自信満々にそう告げた。

「む…く…」
岸部は眉をヒクヒクさせている。
おお、効いてる!効いてるぞ!スポンサーさんが優勢だ!

「だが我々は、今の100倍になるのなら…どうにか払えるぞ!デジクオリアを使ったビジネスやサービスを黒字化するビジョンだってある。どうだね、お互いwin-winなのはこのあたりじゃないかね?」

「…それは、…」

「ハッハッハ!だいたいねぇ。我々は払えるが…多国籍企業の君達が急にデジクオリアの値段を100倍に吊り上げたら、よその国からどう思われるかね!株価暴落が間違いなく起こるぞ、んん?いいのかね君ぃ?」

「…っ!」
岸部はスカートをぎゅっと握っている。

足元を見て墓穴を掘ったせいで自爆してるんじゃないかあの人…?

34: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2023/07/16(日) 02:05:06.23 ID:jEMBp6duO
「どうだね?カンナギエンタープライズが株価暴落を起こさずにライセンス料金を吊り上げるなら…50…いや…25倍でギリギリってとこだろう。どうだね?お互いの落とし所はその辺じゃないかね?君達はライセンス料金を上げられる!我々はネットの平和を守れる!win-winじゃないか!まだ断る理由があるかね!?」

うおぉ、なんか流れで25倍まで根切りやがった!
色々突っ込みを入れたいが…今は下手に口を挟まないでおこう。

どうだ…向こうの反応は…?

43: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2023/07/17(月) 10:36:32.13 ID:Wi2Jc5aYO
「やぁ、すまない。待たせたね」
応接室へ、スーツ姿の男性が入ってきた。

「カンナギエンタープライズジャパン」

44: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2023/07/17(月) 10:50:09.82 ID:Wi2Jc5aYO
するとそこへ…

「やぁ、すまない。待たせたね」
我々のいる応接室へ、スーツ姿の男性が入ってきた。

「カンナギエンタープライズジャパンCEOの神木だ。待たせてしまってすまないね、前の会議が長引いたもので」

私はCEOに挨拶した。
「お久しぶりです、ケンです。実際に会うのは、最初にデジクオリアとデジドローンのテストをご依頼頂いた時以来ですね」

「ああ、ケン。君のレポートはよく読んでいる。我が社の製品をうまく活用してクラッカーのデジモンを倒したそうだね。嬉しいよ」

リーダーやスポンサーも挨拶をした。

「待っている間、うちの岸部が話を聞いたそうだね。どこまで話したかな」

リーダーは、話の流れを説明した。


CEOは静かに話を聞いていたが、やがて口を開いた。
「なるほど、結論から言おう。クラッカーへの販売規制をする気は毛頭無い」

それを聞いたカリアゲは、ガタっと音を立てて席から立ち上がる。
「なんだって!?そこの美人秘書さんはさっき、ライセンス料金を吊り上げれば応じるって言ってたぞ!?」

だから本人の前で『美人』秘書ってつけるんじゃないよ…

「岸部にそんな決定権は与えていない。部下が勝手に口走ったことだ。一旦白紙に戻そう」

「でぇっ!?な、なんだそりゃ!ズルいぞ!さっきはいいって言ってたのに!」

「彼女の発言は言質として機能しない」

「なんだそりゃ…」

「岸部、あとは私が対応する。お茶の代わりを持ってきなさい」

「は、はい…失礼しますCEO」

カリアゲは不満そうにしている。
私の考えすぎかもしれないが…
このCEO、はじめからこれを狙っていたんじゃないんだろうか。

挑発が得意な岸部にこちらの腹の中を探らせて、本性を暴く。
そして話の流れが不利になったらバトンタッチして、なんやかんや言って白紙に戻す。

そうして一度だけ、話をリセットできるように仕掛けておいたのではないだろうか…。
疑いすぎかもしれないが。

45: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2023/07/17(月) 11:07:35.99 ID:Wi2Jc5aYO
カリアゲは納得行かないようだ。
「で、でもよお!そっちだってハッカーに製品を悪用されてマイナスイメージが付くのは不本意じゃねえのか!?」

スポンサーがそれに続けて話す。
「正直に言うが、規制がかかるのは時間の問題だと思うぞ神木くん!デジクオリアが悪用されて社会が混乱してから、君の不本意な形で規制をされることだって考えられる。それが分かりきっている以上、ある程度君の望む形で規制案を盛り込んでおいた方が、のちのち損せず済むと思うがねぇ!」

CEOはふーっと息を吐く。

「私には優秀なハッカーの友人が数多くいる。彼らと区別するために、悪意のあるハッカーをクラッカーと故障させてもらう」

「それはすまなかったね。そうしよう」

「…我々が戦う相手は、クラッカーだけじゃない。我が社のソフトウェアを違法コピーしたり、我が社の特許権を侵害して同様の技術のハッキングツールを勝手に作るような奴が現れることも危惧しなくてはならない」

「ふむ…。もともと違法行為をはたらくクラッカーには著作権侵害など気に留めないだろうからねぇ」

「デジクオリアは、我が社が莫大な予算を投じて苦労して開発したソフトだ。そう簡単にコピーされることはないはずだ。少なくとも、有償ライセンスの料金を払えば誰にでも使用させている今はね」

「今は…か」

「そう。同じものを作り直すよりも、我が社から買ったほうが遥かに安上がりだ。だからクラッカー共も、今は我が社のデジクオリアを正規購入して使用しているだろう」

そういうとこは律儀なんですね。
何に使ってるかは監視してないんですか?

「していない。あえてね」

あえてですか…

47: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2023/07/17(月) 11:21:55.67 ID:Wi2Jc5aYO
「だが我々が販売規制を行ったならば、クラッカー達は違法コピーソフトを開発して使うようになるだろうな」

そう簡単に真似できるものなんですか?

「可能なはずだ。我々が莫大な予算を投じたのは、根幹となる基礎技術の研究開発の部分だからね。特許を取っている以上、システムの基礎理論は論文で公開している。それを実装しているプログラムは企業秘密だがね…。だからサルマネは言うほど簡単でないが、言うほど難しくもない」

カリアゲが顔をしかめながら答える。
「論文で公開しなきゃよかったんじゃねーか?」

「そうはいかない。基礎理論を公開しなければ、デジクオリアの映像を『カンナギエンタープライズ社が捏造したフィクション映像だ』と疑われても反証できなくなるからね。インチキ技術だと疑われないために必要なことだ」

「うーん…違法コピーされるかもしんねーけどよ、とりあえず販売規制しとけばクラッカーの勢力は落とせるだろ。だめなのか?」

「ああ、駄目だ。販売規制という安直な手段で対策した気になったら、誰もセキュリティデジモン開発に予算を回さなくなる。君達の戦力は育たない。…そんなときに違法コピー品のデジクオリアで戦力強化したクラッカーがデジモン犯罪を仕掛けたら、誰が対抗できる?」

「…あ」

カリアゲは黙ってしまった。

リーダーは苦い顔をしている。
「…それは、そうだな…」

スポンサーは扇子を取り出して、ぱたぱたと扇いでいる。
「ハッハッハ!結論が出てしまったね!神木CEO!この話し合いは君の勝ちだ!降参だ、ハーッハッハ!」

49: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2023/07/17(月) 11:31:40.75 ID:Wi2Jc5aYO
カリアゲは、はぁーっと溜め息をついた。
「そんな面倒事を引き起こすソフトをよぉ…なんで開発しちまったんだ?こんなことになるなら作らないほうがよかったんじゃねーか…」

「…?君は知らないのか?デジクオリアが元々何をするために作られたソフトなのか」

「ん?デジモンを見れるようにするためじゃないのか」

「いいや。デジタルモンスターそのものが初めて発見されたのは、デジクオリアを使って君達がデジタルワールドを調査したときだろう」

「そういやそうだな…。ん?あれ?え?どういうことだ?分かんなくなってきたぞ?」

要するに…カリアゲ。
因果関係が逆だ。

デジモンを見るためにデジクオリアが開発されたんじゃない。
デジクオリアが開発されたからデジモンを発見できたんだ。

「???あれあれあれ?えっと、じゃあ…デジクオリアが発明された時点じゃデジモンは見つかってなかったのか?」

そうなる。

「じゃあ、デジクオリアって元々なんのために作ったんだ?」

50: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2023/07/17(月) 11:47:04.81 ID:Wi2Jc5aYO
そう話しているうちに、岸部さんがお茶をもってきてくれた。
笑顔がちょっと怖い。

神木CEOは、お茶を飲むと、少しだけ目を瞑った。
「…時間が余った。少しだけ、昔話をしないか」

「え?昔話ぃ?なんの?」
カリアゲが首を傾げる。

CEOの提案に、リーダーが答える。
「そうだな…研究が進んできた今、デジクオリアに対する認識を深めるためにも、今一度振り返っておきたい。どうやらデジクオリアの論文を読んでない者もいるようだ」

リーダーはカリアゲをちらっと見る。
「う…すまねえ、詠もうとしたけどアレ難しくってよ…一語一句がよくわかんねえ」

スポンサーはカリアゲを扇子で扇ぐ。
「ハーーッハッハッハ!分からないものを素直に分からないと言えるのは優秀な側の人間だよカリアゲ君達。見栄を張って知ったかぶるような、使いものにならない輩が世の中には大勢いるんだからねぇ!」

「褒められてる気がしねぇ~…」

CEOはスクリーンにプロジェクターで資料を映した。

「では、改めて振り返ろうか。デジクオリア開発の経緯を」







一同のやりとりを聞いたクルエが、私にひそひそ話をしてきた。
「てかこの人達、なんで敬語使わないんすかねー?」

それは言及するな。
今その…なんか…そういうノリのあれなんだよ…うん。
マジで言及しないで。

54: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2023/07/17(月) 18:06:17.74 ID:KtqbIF4bO
CEOは静かに語り始める。
「数年前…ドイツの物理学者が『魂』の存在を証明したあの日以来、生物学の常識はひっくり返った。永らく機械論的唯物論で説明されてきた生命の営みが、魂という四次元空間上の情報生命体によって制御されていたと解明されたんだ」

スクリーンには、魂の構造を模式化した図が表示されている。

「我々…三次元空間に棲む生物よりも前に、この世界には既に生命は存在していた。我々の五感では知覚できない、『情報空間』とでもいうべき四次元空間的領域に…『情報生命体』がね。我々はこれを魂と呼ぶ」

細胞の模式図と、魂の関係性が図示された。

「原始の地球で、魂たちはタンパク質を使い、己の器である原核生物を作り上げた。厳密に言えばタンパク質というよりは分子、いや…素粒子であえるクォークを媒体とした肉体と呼んだほうが適切だな」

「やがて原核生物は細胞核を得て真核生物へ進化し、動物、植物、菌類…その他原生生物が誕生した。それらは多細胞生物となり、一個体が複数の細胞や魂を持つようになった」

人間の脳の機能局在を示すマップが表示された。

「そうして動物は進化を続け、我々人類となった。人類は脳を発達させて、想像力を獲得し、『心』という自分だけの心の中の世界を生み出せるようになった。それが人類の文明や芸術、宗教が発展してきた理由だ」

カリアゲはぼーっとした目で見ている。
「ほーん…」

CEOは、何ページか資料を飛ばした。
話を巻こうとしているようだ。

「前置きが長すぎたね、すまない。…魂の存在が証明されたとき、我々はこう考えた。…『魂が実在するなら、これまで霊と呼ばれてきたモノも実在』するのではないか?」とね

55: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2023/07/17(月) 18:21:02.33 ID:KtqbIF4bO
「霊ってあの幽霊か?ヒュードロドローっていうオバケの?」

「正しくは『そう言い伝えられている何か』だ」

「?どう違うんだ?」

「当時それらを実際に目撃した者達が、事態を正しく解釈していたのは限らないし、正しく言い伝えられているとも限らない。フィクション作品による誇張でパブリックイメージが捻じ曲げられてもいるだろう」

「あぁー…なんか風で舞った布が月明かりで照らされただけのものを、オバケと見間違えた…って聞いたことあるな。あるいはプラズマがどうこうとか」

「その通り。実際そうであるケースもあるだろうが…、『現代科学ではそうとしか説明できない』故に我々がそうだと決めつけているものでもある」

「え…実際にオバケがいたかもしれないってことか?」

「その可能性があるということだ。そして我々は研究した。世界各地の心霊現象や、土着信仰、シャーマニズムの習慣などをね」

「ふーん…」

「結論から言うと…世界各地のシャーマニズムの習慣が根付いた原点を推測すると、どうやらそこには共通の『何か』が存在しているらしい、ということが分かった」

「共通の何かって?」

「儀式だ」

「儀式…」

「現代において、伝承されている祈祷をやったところで、実際に怪奇現象を起こせるわけではない。だが…それらの原点では、偶然か必然か、何らかの奇跡を引き起こす条件が揃い、実際に引き起こすことに成功したらしいことが分かったんだ」

「あ~、それを上辺だけ真似てきたけどうまく再現できないって状態が続いてんのか」

56: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2023/07/17(月) 18:33:56.11 ID:KtqbIF4bO
「でもよ、昔の人はどうやってそんな儀式を作ったんだ?」

「…あらゆるシャーマニズムの儀式は『霊視』から始まる。霊とされる何かを目撃した者達から当時の状況を聞き、それを体系化し、人工的に起こそうとしたらしい」

「ありえねえって思うけど…まあ魂があるって分かった今、否定できねーよな…」

「ある素質を持った人物が、精神をトランス状態にし、何らかの所作をすることで…超自然的な『何か』と繋がる。それは世界各地で、神仏とか精霊とか云われるものだ」

CEOは、その儀式を図式化した画像を表示した。

「我々はこれをコンピューター・ソフトウェアで再現することを試みた。…世間からも株主からも、馬鹿馬鹿しいと批判されたよ。それでも多額の予算を投じて、我々は研究を続けた。…そうして、ついに再現に成功したんだよ」

「すげぇ…」

「我々は特殊な人工知能に祈祷の儀式をさせることで、人工知能の『心』を『超自然的な何か』へ接続し、その心象風景を映像として出力することに成功した!」

リーダーが静かに口を開いた。
「…それが、最初期型のデジクオリアか」

「そうだ。デジクオリアは元々、『霊』や『冥界』を観測するために開発したんだ」

58: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2023/07/17(月) 18:43:57.84 ID:KtqbIF4bO
「そうして霊視用人工知能が接続された『世界』を広く見回すために、デジドローンを開発した。そして君達に、何か意味のあるものが見えてこないかを調査をしてもらうために協力してもらったんだ」

そうして私が…
デジタルワールドの海底で、クラゲ型デジモン…ポヨモンを見つけた。

「そう、君の功績だケン。…驚いたよ。我々は天国とか地獄と呼ばれる世界で、幽霊と呼ばれる何かを見るつもりでいたんだ。だが実際にそこにいた幽霊は…肉体を獲得し、進化する力を身に着けていた」

あれらには、デジタル「クリーチャー(生物)」ではなく、「モンスター(怪物)」という名を付けさせていただきました。

「君の命名は適切だったよケン。あれらはかつて、世界各地のシャーマン達が目撃に成功した怪異そのものだったのだから。生物というよりは怪物なのだろうね」

カリアゲが驚く。
「え!?じゃあデジモンって幽霊なのか?」

「逆だ。かつて幽霊と呼ばれたものの正体が、何らかの手段で観測されたデジモンなんだ」

「ええ…でもよ、デジモンってデジタルネットワークの世界に住んでるデジタル生命体だろ?なんでインターネットが発明されるより前にデジモンがいるんだ?」

62: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2023/07/17(月) 19:17:00.96 ID:KtqbIF4bO
「思い出してほしい。我々生物は、素粒子を最小単位とする肉体に魂が宿って産まれた生物だ。ならば…他の何か最小単位とした肉体に魂が宿り、生命が誕生する可能性もあるんじゃないか?」

「んー…?まああるとすればあるような…」

「我々人類の脳は多数の神経細胞が結合した、ニューラルネットワークという仕組みで働く生体コンピュータだ。その働きによって生まれるのが『心の中の世界』…。ならば、人間の精神の中に新たな生命が生まれる可能性もあるはずだ。神経細胞が貯蔵するデータを肉体として…ね」

「…データの、肉体…?まさか…」

「そう。かつて人類が目撃した幽霊や精霊の正体とは…『脳神経の中で生まれた、心の中の世界で生きる情報生命体』だったんだ」

「…!」
カリアゲは驚いた顔をしている。そりゃそうだ。

「…うーん。でもよ、一人の脳ミソの中でしか生きられないんなら、ただの幻と同じじゃねえか?」

理解が早いな…。

「人類の脳がクローズドネットワークのままだったらね。しかし、その情報生命体は、魂が元々いた世界…『四次元空間上の情報世界』へ人類の脳を繋げ、行き来できるようになった。狐憑きや霊の憑依と呼ばれる現象…あれは『情報世界』から人間の脳へ、情報生命体が宿ることで起こる現象だ」

「えー…こっわ…」

「デジタルネットワークが発達した現在、世界各地の人工知能はめざましい発達をし、ついに人類同様に『内面世界』を獲得するに至った。機械が心を持つかどうかは別としてね」

「内面世界…?」

「シミュレータと呼ぶと分かりやすいかもしれないね。自動車開発や、新薬開発、気象予報用などに使われるシミュレータだ。ゲームソフトもある意味では『ゲームの中の世界』を模したシミュレータといえるだろう」

「それらの多数のシミュレータの中で…、ゼロイチのデータの肉体を持った生命体が生まれた。そして彼らはかつて人間の心の中に生まれた怪異と同様に、情報世界へ進出していったんだ」

「つまりそれが…デジモンか…!え、じゃあデジモンって、狐憑きみたいに人の脳に取り憑くことがあるのか!?」

「可能性は有り得なくはないが…、デジタルネットワークで生まれた生命体は、人間の脳の内面世界環境には適合しないはずだ。コンピューターの中には侵入することがあるだろうがね」

64: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2023/07/17(月) 19:31:29.51 ID:KtqbIF4bO
え、ちょっと待ってください。
論文は一通り読みましたが、人間の心の中の情報生命体なんてのは初耳ですよ!?

「それはそうだ。何故ならこれはあくまで我々デジクオリア研究チームの中だけの仮説だ。なにせ検証のしようがないだろう。シャーマンをどこから連れてくる?そのシャーマンの霊能が本物だとどうやって証明する?」

…あなた達はどうやったんですか。

「霊能者を名乗る人物達をかき集め、一握りの本物を探し当てた。…それだけで論文を書けるほどの確度はないがね」

…デジクオリア開発秘話にそんな話が…。

「すげーなそれ!世紀の大発見だぞ!古くから妖怪とか幽霊とか言われてたものの正体が、人から生まれたデジモンだったなんで!論文には書けなくてもさ、なんかで発表しろよ!」

カリアゲがそう言うと、スポンサーが口を開いた。

「ハッハッハ!カリアゲ君!それはできないよ!なあ神木CEO!」

「え、なんでだよ!?すげえ発見じゃん!」

「…怪異の伝承は、長い長い伝言ゲームの中で歪められて伝えられてきた。現代ではホラーフィクション作品の題材として、過剰な設定が与えられ、そちらにパブリックイメージが引きずられている」

「ああ…ヒュードロドロー、うらめしやーってやつ?」

「そうだ。デジモンがそれと同類などと発表してみたらどうなるか。デジモンがどんな偏見を持たれ、どんなデマが流れ、どんなパニックが起きるか…想像に難くない」

「あー確かに。デジモンが『妖怪テケテケ』や『口裂け女』、『ハイチのゾンビ』やらと混同視されちゃうのか…クソ、面倒だな…!」

「大衆は忙しい。正しい知識を得ようとせず、声の大きい輩が唱える第一印象だけで物事を決めつける。そうなるくらいなら、我々が今初めて発見した存在として、偏見のない状態から始めた方がいい」

「納得だ…」

65: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2023/07/17(月) 19:44:53.80 ID:KtqbIF4bO
「そうだ。デジモンを勝手に伝説や迷信と結び付けられたら、正しい情報が世間に伝わらなくなるからね。君達がデジドローンとデジクオリアで発見し、記録に残したもの…それが、それだけが。我々人類の、デジモンに対する理解の『全て』だ。それ以外の一切のまやかしは必要ない」

「…すげえ経緯があったんだな。デジクオリアの開発って」

「この研究にどれだけ多額の予算を投じたかは想像に難くないだろう。そして我々は、まだ開発費用の赤字分を回収できていない。研究存続のためにも、ライセンス料金という資金源を自ら絞るわけにはいかないんだ」

その話をすると、スポンサーさんがグスっと鼻を鳴らし、目に涙を浮かべた。
「苦労したんだねぇ…神木くん!ぐすっ、どれだけ大変だったことか…どれだけ世間や株主に後ろ指を指されたか!それでも君達は研究を成し遂げた!素晴らしい!猛烈に感動した!ウオオオォーン!オォーーン!」

マジ泣きしてる!?
ビジネスマンとして何か共感できるポイントがあったんだろうか。

「はーすげえな…。ん…?じゃあよ、昔の人が幽霊と言い伝えたような…『幽霊そっくりなデジモン』がどこかにいるってことか?」

「どうだろうね。デジタルワールドには未探索領域がまだまだ多い。世界の何処かにはいるかもしれないね…。人々が幽霊や精霊として言い伝えた『何か』が」

66: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2023/07/17(月) 19:51:23.11 ID:KtqbIF4bO
「あくまで仮説段階だが…、君達研究グループから送ってもらったデジモンの生態データをもとに、『かつて人が幽霊として認識した』とされるデジモンの想像図をAIに描かせた。見てみるかい?」

「見てぇー!どんなんだろ…はーこえぇ…!」
カリアゲは大ヒットのホラー映画でも見るかのようなテンションだ。

「これだ」

そう言ってCEOが映し出したのは…


no title


…なんとも可愛らしい?姿だった。
煙の体に、小さな手と顔がついており、頭頂部には小さな火がついている。

「幼年期デジモン…仮称モクモン。こういうのを見つけたら教えてほしい」

「あんま怖くなかったな…」

「それは君がデジタルモンスターの知識を持ち、正体を知っているからだよ。恐怖とは未知から生まれる。何も知らない者が、こいつをいきなり目撃したら、話が違ってくるだろう」

「あーそりゃ怖いかも…」

68: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2023/07/17(月) 20:03:32.46 ID:KtqbIF4bO
「…そういうことだ。我々はデジクオリア開発にかかった費用を回収しなければ倒産してしまう。販売規制などやって海賊版が溢れたら、カンナギエンタープライズが倒産しかねない。分かってくれたかリーダー」

「…そういう事情があるなら、販売規制の方は諦める。だが一つ聞きたい。CEO…あなたは平和と戦乱のどちらを望んでいるんだ?」

「…かつてドードーという鳥がいた。外敵のいない島で育ったため、逃げる力も戦う力も退化した鳥だ。だがドードーは、島の外からやってきた外敵によって、あっけなく絶滅させられた。君達の言う平和とは、ドードーのような暮らしを指すのか?」

リーダーはため息を付いた。
「…平和は戦って勝ち取るしかない、ということか。理解したよ」

「我々は悪のクラッカーを冷遇することはできない。君達が先程提唱した国際機関を信用することもできない。…だが、君達研究チームのことだけは、秩序を目指す者として信用している。新製品のテスター…という形でなら、優遇しても不公平ではないかな?」

「…それでいい。助かる」



そうして、カンナギエンタープライズジャパンのCEOへの交渉は…

誰も冷遇せず、誰も規制しない。誰のスタートラインも弄らない。

だが、我々研究グループが編成した対クラッカー用セキュリティチームに限り、新製品のテスターを優先的に依頼する。

…そういう落としどころで合意に至った。

70: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2023/07/17(月) 20:09:58.99 ID:KtqbIF4bO
研究室で、カリアゲははーっとため息をついた。
「結局、クラッカーと真正面からぶつかり合って勝つしかねえのかー…。あー大変そうだ…」

交渉では一言も話さなかったメガが、カリアゲに話しかけた。
「新製品のテスターというのも、戦力強化としてアテにしていいのか微妙だし…。無駄足だったかな…」

クルエはスマホを弄ってデジモンに関する世間の噂を調べている。
「無駄足かどうかといえば…まあそーかもしれませんねー。モクモンちゃんが可愛かったけど、可愛くない女がウザかったので足し引きゼロですかねー」

「そんなことはない」
リーダーが我々に話しかけてきた。

「戦わなくてはいけないことが分かった…踏ん切りがついた。それが収穫だ」

収穫なんですかそれ…?

73: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2023/07/17(月) 20:51:24.19 ID:KtqbIF4bO
~オマケ~

ちなみに「ヒトの脳から生まれたデジモンがかつて存在した」という話は、くれぐれも他言無用で…と念を押された。

仮にこの話がクラッカーにまで知れ渡ってしまうと…
『ヒトの脳へのハッキングをするデジモン』がクラッカーの手で開発されかねないからだ。

そうなったら…本当に打つ手がなくなる。
クラッカーや独裁国家が、デジモンでヒトの脳へハッキングを仕掛けてくるようになったら、戦いすらできない。

現在、それらの研究データは、カンナギ・エンタープライズのクローズドネットワークの中だけで管理されており、外部から参照されることはない。

しかし、もしもカンナギ・エンタープライズがクラッカーを冷遇したり規制するようになったら、クラッカーは純正品デジクオリアのライセンスを管理するカンナギへデジモンによるサイバー攻撃を仕掛けるかもしれない。

そうして研究データが盗み出されたら、『脳へのハッキング』を試みるようになる可能性がある。

…クラッカーを冷遇できない理由は、自分達が攻撃されないようにするためでもあるのだそうだ。



…あっちもあっちで苦労してるんだな。

79: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2023/07/18(火) 22:13:12.54 ID:AuyxD+E/O
①セキュリティデジモンの頭数を増やして、パワーアップする必要がある

②相手にセキュリティデジモンの弱点を突かれないように、多様な戦略を揃える必要がある

③そもそもハッキングデジモンの侵入自体を阻止したり検知する仕組みが必要

④敵の動向を探り、手口の変化に警戒する必要がある


リーダーは、この4項目をプロジェクターに映している。
「我々は、ひとまずこの4つの指針を目指していくものとする。今できることを積み重ねていくしかないだろう。…まずは何から始めようか」

メガが挙手した。
「はじめにやるべきことは…!スカモン大王を食べて大繁殖したマッシュモン達をどうにかすることだ!!」


そう。
先日の戦いで大繁殖したマッシュモンは今、ランドンシーフの中にいるのだが…

餌キノコの備蓄を猛烈な勢いで消費しているのである。
数が数ゆえ仕方ない。

このままではコマンドラモンやピョコモン達にあげる餌も底をついてしまう。

メガが面倒を見ているようだが…
「真っ先にコレなんとかしようよ!!よそに引き取ってもらうか、スパコンをもう2~3台増強して餌を増やすか!!」

引き取ってもらうか…?でも、どこに。


クルエはSNSでデジモンについて検索しながら答えた。
「マッシュモンは今世間で大人気ですからねー、引く手数多だと思いますよー。デジタルモンスターの飼育端末ほしいって人今でもたくさんいますからねー」

また抽選販売するか?
それも悪くない手ではある。

80: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2023/07/18(火) 22:19:00.41 ID:NRRDzcv4O
リーダーは、スクリーンの字を見ながらなにか考え事をしている。

「③の…ハッキングデジモンの侵入検知…。これをやるなら、具体的にどんな手段がある?既存のセキュリティソフトじゃ検知できないんだろう」

それを聞いたメガは答える。
「だから先にマッシュモンをどうにかーーーー!」




デジモンに見張らせて目視で検知すればいいのでは?


「え?」
メガがこっちを向いた。

今大勢いるマッシュモン達を、優先的にハッキングデジモンから保護したい施設・組織のサーバーへ派遣して、見張ってもらうのはどうでしょうか。

メガは手をポンと鳴らす。
「なーるほどー、それなら2つの問題がいっぺんに解決するネ」

83: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2023/07/18(火) 22:28:59.46 ID:fvNwB2jjO
スポンサーさーん!

『私をお呼びかな』

今いるマッシュモンを、警備員兼デジタルペットとして派遣するサービスを始めようと思うんですが、いかがでしょうか。

『素晴らしいいいい!イィィンノベェエエエイションだよケン君!客にはアテがある、こちらから声をかけてみようじゃないか!』

よろしくお願いします。

『では、このサービスに名前を付けたまえ!』

な、名前?
デジモン侵入検知サービス、とかでしょうか。


『駄目だ駄目だ!インパクトが弱ぁい!もっとこう、ドカンと来るやつを考えてくれたまえ!』

そう言われても…何がいいかな。
新人のシン君、なんかアイデアはある?

「うーん…サービス…『デジネズミトリ』とかどうでしょう」

デジネズミトリ…
まあ無難な感じでいいね。

カリアゲはなんかある?

「マッシュモン…見張り…!…『見張りまッシュモン』!なんてのはどーお?」

ダジャレかよ!

『素晴らしいいいいい!カリアゲ君、このアイデアに君のネーミング!鬼に金棒だよ!これでいこう!』

いいんですか!?




…そんなわけで、マッシュモン達は、サイバー攻撃から優先的に保護したい組織…
金融・保険業、官公庁、医療などの分野の組織へ派遣されていった(勿論有料サブスクリプションだ)。

寂しくならないように、2体のペアで1セットとした。

デジモンはただのソフトウェアでなく意思をもつ生物なので、コミュニケーションをとってあげてほしいと頼んだ。

…派遣先組織の情シスには、専門の『デジモンテイマー部』という部署が設立され、1~2人程度の世話係が配備されたそうだ。

85: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2023/07/18(火) 22:36:35.98 ID:p8xZJmqOO
メガは心配そうにしている。
「これで大丈夫かな…。マッシュモンちゃんと働けるかな…。ハッキングデジモンに食われたり、逃げ出したりしないかな…」

まああり得るだろうな。

「うぅ、やっぱガバガバだよなぁ~…」

ガバガバだな。
だけど、今取れる最善策ではある。

検知サービスの発展も、今後視野に入れていかないとな。

「あとこれ、サブスクけっこう割高だよなぁ…」

餌代がどうもかかって仕方ない。
もっと効率よく、栄養価の高い餌を生成できるようにする必要があるな。

「…でも、こうしていざ動いてみると、新しい課題がいろいろ見つかってくるね。最初はいまいちビジョンがぼやっとしてて五里霧中だったけど、だんだんやるべき事が具体化されてく」

クラッカーとの競争だからね。
石橋を叩いて渡ってたらあっという間に引き離されて追い抜かれる。

失敗するのも覚悟で、いろいろアグレッシブに試していくしかないさ。

86: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2023/07/18(火) 22:48:39.80 ID:p8xZJmqOO
リーダーは、スクリーンに例の四指針を映した。




①セキュリティデジモンの頭数を増やして、パワーアップする必要がある

②相手にセキュリティデジモンの弱点を突かれないように、多様な戦略を揃える必要がある

③そもそもハッキングデジモンの侵入自体を阻止したり検知する仕組みが必要

④敵の動向を探り、手口の変化に警戒する必要がある




「③はひとまず、今できることはやった。サービスの改善は必要だろうが、クラッカーに対して先手は打てたとみていいだろう」

通報があったらどうするんですか?

「…難しいところだな。コマンドラモンやマッシュモンをけしかけて駆除させられればいいが…戦力が心許ない」

そうなんですよね。
うちのデジモン達、火力不足なんですよ全体的に。

カリアゲがきょとんとしている。
「そうなのか?こないだのスカモン大王戦ではちゃんと敵を倒せてたぞ。コマンドラモンの火力はすげーぜ!」

それは、コマンドラモンが日頃からちょっとずつ爆弾や弾薬を作って備蓄してるからなんだ。

それらが尽きたら攻め手がないんだ。
マッシュモンの毒も、ゲレモンには効かないし…。

「格闘戦とかできないのか?」

コマンドラモンは、基礎代謝量を抑えつつ爆弾で瞬間火力を出すタイプだから、インファイトの格闘戦は苦手なんだよ。

「マジか…こないだはよく勝てたな…」

まあ、爆弾を無駄遣いせず、相手の口の中にぶちこめたおかげで、有効打を打てたからかな。

88: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2023/07/18(火) 23:01:48.20 ID:p8xZJmqOO
はっきり言って、こないだの戦いでスカモン大王を倒せたのは、弱点を付けたことと、相手が舐めプしたからだ。

次はもう今の戦力じゃ間違いなく勝てない。

「…」

クルエは四指針を眺めている。

「④って具体的に何すればいいんですかねー?」

今みたいに、戦力の分析をして、次の手を考えることを続けていくことですよ。

「なるほどー。じゃ、あとは①と②…戦力の強化と多彩化ですかー。どうやります?あっちみたいに半人工デジモンを作っていきます?」

クルエの問いかけに対してリーダーは答える。
「やっていくしかないだろうな…。みんな気が進まないようだが…」

カリアゲは苦い顔をしている。
「まあ正直…クラッカーの真似事はやりたくねえよな…やだなー…。それに時間かかりそうだよな。まともに戦わせられるようになるのはいつになるやら…」

「あの!」
新人のシンが挙手した。

「コマンドラモンの武器って、どうやって作ったんです?」

銃はコロモンから進化したときに生えてきたよ。
弾薬は日頃からちょっとずつ作って蓄えてる。

「じゃあ、銃って一度無くしたらもうそれっきりなんですか?」

…どうなんだ?コマンドラモン。
チャットで聞いてみた。

『ぶひんの よびは つくれる』

また作れるらしい。

「じゃあ、コマンドラモンにたくさん銃や爆弾を作って貰えば、マッシュモン達も同等の火力出せるんじゃないですか?」

…!
そう言われると確かに…!

手っ取り早く戦線強化できそうな気もしてくる。

92: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2023/07/18(火) 23:10:29.15 ID:p8xZJmqOO
「はー…コマンドラモンってスッゲー優秀なデジモンっすねー。武器工場役もできるなんて。クラッカーでもこんな凄い戦力持ってないッスよきっと」

そうだと祈りたい。

「でも、どうやってこんな凄いデジモン作ったんスか?設計した人頭良すぎですよ」

いや、設計したわけじゃないよ。
デジタルワールドで一番賢いディノヒューモンのデジタマを頂戴してきて、産まれたコロモンを訓練したらこうなった。

「…フローラモン?っていうんですか?ピョコモンの前世でしたっけ。戦闘記録見たら、弱そうに見えてけっこう活躍してましたよね。こっちはどうやって?」

フローラモンも特に「こういう風なデジモンを作りたい」って考えはなかったよ。
愛情を込めて育てたらこうなった。

「…あの…。…もしかして…」

…。




「…望み通りのデジモンをわざわざ作ろうとしなくても、拾ってきたデジタマを愛情込めて育てれば…、いい戦力に育つんじゃないですか?」

…確かに。
まさに今、そうなってる。



リーダーはそれを聞いて、はっとした顔をしている。
「…そうだ。そう考えると…、クラッカーは今、逆に不利なんじゃないか?望み通りのデジモンを作ることに固執するあまり、不確定要素を排除しようとして、逆にチャンスを手放している…のでは?」

冷静に考えると…
こっちにアドバンテージは十分ありますね。

93: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2023/07/18(火) 23:20:53.43 ID:p8xZJmqOO
この方向性…ワンチャンありますよ!リーダー!

「よし!①と②の案が出たな。コマンドラモンに武器の備蓄を増やしてもらいつつ…!デジタルワールドから、デジタマを集め、愛情をこめて、鍛え、育てる!これでいこう!どうだ?」

なるほど…これなら幾分か気が乗ります。
デジタルワールドの生態系への影響は気になりますが、まあ仕方ないでしょう。

カリアゲも乗り気だ。
「よっし!クラッカーの真似事なんてやめだやめ!こっちはこっちの得意分野がある!愛情という最大の武器がな!」

そう言うカリアゲに対して、クルエは指笛を鳴らしてヒューっと囃し立てた。


「善は急げだ!作戦名…『次世代戦力育成(テイマーズ)』!開始!」





…餌たくさん作れるようにならないと。
ね?スポンサーさん。

『ハッハッハ!スパコンがいくつあっても足りないねえ!予算の確保が大変だあぁ!ハーッハッハッハ!』

105: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2023/07/19(水) 07:26:52.72 ID:xvdL4VvWO
とにかく高いDP(戦闘力と基礎代謝量の高さを示す指標値)のデジモンを揃えまくり、グレイモンやジャガモンやスコピオモンを従えて、パワーでクラッカーデジモンを鎮圧すれば万事解決…

…というわけにはいかないのだ。


最も気をつけなくてはならないのは「飼育崩壊」。
我々がデジモンの餌を生成できるペースには限りがある。
そのため、大食いのデジモンを増やしまくったら即座に餌が底をつくだろう。
そうしたら飢えたデジモン同士が共食いを始めて、こちらの手持ちデジモン達全員が全滅することは想像に難くない。


カリアゲがスポンサーさんに「生きるか死ぬかの瀬戸際なんだぞ!スパコンもう10個20個増やせばいいじゃんか!」と言っていたが…

『ハッハッハ!子供心を忘れないのはいいことだよ!ハッハッハ!』

…と、冷や汗混じりの表情であしらわれていた。

予算を無限に引っ張ってこれるなら良かったのだが…
残念ながら、不景気な昨今では大人の事情というものがあり、無制限にバカスカ予算を出してくれる猫型ロボット的な救世主の出現は望めないようだ。

そういうわけで、当面は…
高いDPのデジモンをひたすらかき集める方針ではなく、成長期や、低DPの成熟期を主戦力とした編成を強いられることになるだろう。

…懐事情が厳しいのは、クラッカー側も同じはずだ。

107: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2023/07/19(水) 07:40:47.44 ID:i13d1j38O
さて。
これまでのデジモン観察によって、我々は通常進化、ジョグレス進化以外に、新たな3つの進化の形を発見した。

「パッチ進化」
「デジクロス」
「レベルダウン進化」
というものだ。


簡単に説明すると…
パッチ進化とは、コロモンがコマンドラモンに進化したときのように、「外部からデータ取り込んで進化する」というものだ。

コロモンはコマンドラモンに進化したとき、銃や爆弾、光学迷彩など、明らかにそれまでの爬虫類系統とは異なる形質を獲得した。自然な進化とは言い難いのだ。
あの時コロモンは、飛行型戦闘訓練ボットとコントローラーを食べることで進化したわけだが…
冷静に考えると、あんな栄養にならなそうなものを、餌として食べたわけがないのだ。

すなわちコロモンは、戦闘訓練ボットのデータを吸収して己の遺伝子へ組み込むことで、兵装のデータを獲得したのだ。

この進化を我々は、「パッチ進化」と命名した。


パッチ進化の発見によって、これまで未解明だった『軟体型デジモン(サンゴモン)が、どうやって植物の形質を獲得して植物型デジモンへ進化したのか』や『植物型デジモンが、どうやって菌類型デジモン(マッシュモン)へ進化したのか』といった疑問を説明できるようになった。

サンゴモンが植物のデータを取り込んでパッチ進化したのが植物型デジモン。
植物型デジモンが菌類のデータを取り込んでパッチ進化したのがマッシュモンということだ。

パッチ進化は、様々なデジモンのルーツを説明可能となるだろう。

109: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2023/07/19(水) 07:47:00.42 ID:y9zVmxsCO
ジョグレス進化とは、ジャガモンがやったような「2体以上のデジモンが完全に融合し、元に戻れなくなる進化」を指す。

当初は何がどうなればデジモン同士の合体ができるのかわけがわからなかったが…
どうやら複数のデジモンが、同次にパッチ進化をして、互いのデータを互いに吸収し合うことで一体化するという仕組みらしい。
ようはジョグレス進化は、パッチ進化の発展型なのだ。



デジクロスとは、エクスブイモンとスティングモンがやったような、「分離して元通りの個体に戻れる」タイプの一時的な合体のことだ。

当初我々は、パイルドラモンもジョグレス進化のひとつとして考えていたが…
合体したらそのままのジャガモンと、自在に分離・変形できるパイルドラモンは、明らかに異なる合体プロセスに基づいているのだ。

そういうわけで、一時的な合体を「デジクロス」と呼称し、ジョグレス進化と区別することにした。

デジクロスは、凄まじくエネルギーの消耗が激しいようで、短時間しか合体していられない。さらに分離後には疲労困憊の腹ペコ状態となる。

無理もない話だ。
宇宙から無限にエネルギーが供給されて無限に戦闘継続できる…というわけにはいかない。
成熟期2体の体から無理矢理レベル5デジモン相当のエネルギー出力を捻出しているのだから、無理があるといえば無理があるのだ。

だが、「一時的な戦闘力強化」という仕組みは、この上なく合理的だ。
喉から手が出るほど欲しいが…いかなる仕組みで実現しているのかは未解明だ。

110: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2023/07/19(水) 07:50:17.56 ID:1clJoE2jO
最後の「レベルダウン進化」は…
ホエーモンやゲレモンがやったような、進化だ。

進化、といっても…
デジモン固有の、一個体の成長に伴う遺伝子変化のことではない。

次世代の個体を産むことによる、遺伝子変化…。我々の世界の生物の「進化」に近い意味合いの方の「進化」だ。

こちらは多少説明が難しいので…
「ホエーモン」の海での戦いと進化の映像を今一度見直して、理解を深めていこう。

122: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2023/07/19(水) 20:25:49.24 ID:y5GlZCe4O
かつて森のエレキモンが川や海で生活するようになり、ルカモンに進化したことがあった。

研究員の一人が、ルカモンのその後を観察したら、とても興味深いことになったと報告を上げてきた。

さっそく見てみよう。

ルカモンは海へ進出し、海で狩りをしながら生活していた。

超音波によって敵デジモンを痺れさせてから、噛みつきで仕留めるのがルカモンの戦術だ。

肺呼吸であるがために長時間潜水してはいられないが、陸上で培った強靭な骨格や、高温性によって高い運動能力を維持する仕組みによって、生存競争では優位に立っていた。




ルカモンは子供を産んだ。なんと、掟破りの卵胎生だ。

デジタマではなく、幼年期デジモンを直接産んだのである。
産まれたのはウパモン。両生類型の幼年期デジモンだ。

123: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2023/07/19(水) 20:26:31.87 ID:y5GlZCe4O
ルカモンの胸部にはポケットがあり、幼年期デジモンはそこへ潜り込んだ。

息継ぎは大丈夫なのだろうか…と思ったが、なるほど両生類型デジモンなら、子供のうちは鰓呼吸ができるから溺れないのだ。

 

これは面白いことになった。イルカ型の水生動物型デジモンなのに、幼年期デジモンが両生類型の特徴へ回帰し、母体は有袋類の特徴を獲得した。

現実の動物の特徴から逸脱した形質を獲得した、デジモンらしい破天荒な進化である。

 

やがて、ウパモンはオタマジャクシ型デジモン、オタマモンへ進化した。

これは意外だった。てっきりゴマモンあたりの水生哺乳類型デジモンへ進化すると思っていたのだが。

 

そう…これがデジモンだ。

かつてシーラモンが、一世代で肺呼吸を獲得したように。

ルカモンの子供は、一世代で鰓呼吸を獲得したのである。

 

ルカモンの子供であるオタマモンは、かつて我々がサバンナで見たことのある、ベタモンの兄弟だった個体群に比べて、はるかに戦闘能力が高かった。

水中をスイスイと高速で泳ぎまわり、同じ成長期のスイムモンを捕食してしまうことも多々あった。

どうやらこのオタマモンは、両生類型というより、「鰓呼吸の哺乳類型デジモン」らしい。ややこしくなってきたぞ…!

124: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2023/07/19(水) 20:27:16.02 ID:y5GlZCe4O
さて、そんなルカモンだが…

ある時、二枚貝型成長期デジモンであるシャコモンを食べまくっていたときに、ルカモンは目をつけられた。

タコ型成熟期デジモンであるオクタモンと、イカ型成熟期デジモンであるゲソモン、そして…二本の強い腕と強い顎を持つ、巻貝型成熟期デジモン、シェルモンに。

 

この三体の軟体型デジモンは、オクタモンをリーダーとした「海のギャング」と呼ばれる強力な捕食者集団であった。

遊泳能力の高いゲソモン、硬い守りのシェルモン、そして知能の高いオクタモンのチームワークにかかれば、シードラモンのような強力な水棲デジモンですら餌食となってしまう。

恐るべき智略で狩りを確実に成功させる、危険な集団だ。

 

 

 

ある日、オタマモンが海底で狩りをしているとき…

砂の中を潜って迫っていたシェルモンが、突如オタマモンの目の前に出現し、一瞬でオタマモンを丸のみにしてしまったのである。

 

我が子が食われたのを見て激高するルカモン。

シェルモンへ一直線に襲い掛かった。

 

そこへ、横からゲソモンが飛んできて、ルカモンにタックルを浴びせた。

ルカモンは少しダメージを受けたが、軟体型デジモンのタックル程度では、頑丈な肉体はそうそう傷つかないようだ。

125: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2023/07/19(水) 20:28:06.61 ID:y5GlZCe4O
ゲソモンとシェルモンの二体を相手に善戦するルカモンだったが…

こっそり忍び寄っていたオクタモンに絡みつかれた後、頭部に空いた呼吸孔へ粘着質な墨汁を注入されてしまった。

急いで陸に上がろうと逃げるルカモン。しかし、オクタモンに加えてゲソモンに絡みつかれ、おまけにシェルモンにもしがみつかれてしまった。

そのまま海底へと引きずり込まれてしまうルカモン。

 

オクタモンは、ルカモンが肺呼吸であることを見抜いたのだろうか…?

このままルカモンを溺死させる気だ…!

 

絶体絶命の状況で、ルカモンの体は…

突如、光り輝いた。

進化の輝きだ。

 

全長2mほどだったルカモンの肉体は、一気に15mの巨体へと変わった。

頭部は硬質の外殻で覆われており、口もでかくなった。

これはイルカというより…マッコウクジラだ!!

 

これはとても珍しい…!

ルカモンは、スコピオモンへ進化したスナイモン以来となる、単独でのレベル5への進化に成功したのだ。

 

鯨型デジモン…ホエーモンは、全長15mのビッグサイズだ。

これだけの図体差を見せつけられたら、さすがに敵わないと思ったのだろう、ゲソモンとオクタモンは死に物狂いで逃げた。

だが、移動が遅いシェルモンはホエーモンに一口で丸のみにされた。

 

恐れをなしたゲソモンは、岩山の隙間に潜り込んで隠れた。

だがホエーモンは、ルカモン時代よりもさらに強大になった超音波攻撃を、爆発的な威力で岩山に向かって放った。

 

岩山は一気に吹き飛び、轟音とともに爆発した。

大量に沸き立つ泡、地面をえぐり舞い散る砂。

それらが止んだとき、こなみじんに吹き飛んだゲソモンの断片がそこにわずかに残っていた。

126: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2023/07/19(水) 20:29:38.61 ID:y5GlZCe4O
明らかに桁違いの戦闘能力である。

リーダーのオクタモンは、必死に逃げている。

命乞いが通じる相手ではないのだ。逃げるしかない。

だがホエーモンは、泳ぐスピードも圧倒的だ。

オクタモンは、どんどん距離を詰められていく…!

 

 

 

その時。

ホエーモンは突如、動けなくなった。

岩場に乗り上げてしまい、座礁してしまったのである。

 

オクタモンは、浅瀬の方へ逃げていたのだ。

そして、子供を喰われたことで頭に血が上ったホエーモンは、岩場に気づかずにオクタモンを追跡してしまった。

そして…

オクタモンの策略に引っかかり、座礁したのである。

ホエーモンが動けない間に、オクタモンは遠くへ逃げていく。

遠くというか…さらに浅瀬のほうへ。 

なんということだろう。オクタモンはそのまま、河口を登り、川へと逃げて行ったのである。

淡水でも生きていけるというのだろうか?



ホエーモンは、死に物狂いで暴れた。

そして…

先ほどの超音波攻撃によって岩場を粉砕して吹き飛ばすことで、脱出に成功したのであった。


ホエーモンを座礁させることで逃げおおせたオクタモンも大したものだが…

そこから自力で脱出したホエーモンも大したもんである。

127: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2023/07/19(水) 20:32:19.21 ID:y5GlZCe4O
その後のホエーモンは、かつてのスコピオモンを彷彿とさせる暴れっぷりを見せた。

その巨体を維持するために、毎日猛烈な数のデジモンを捕食しまくった。

 

ホエーモンの恐ろしさに、海のデジモン達は逃げ惑った。

かつてのジャガモンのように、太刀打ちできる対抗戦力は、いつか現れるのだろうか…?

 

しかし、その目立つ巨体はやがて警戒されるようになり、海のデジモン達はホエーモンの接近を察して避けるようになった。

ホエーモンは得られる餌の量が減っていき、どんどん痩せていった。

 

やがて、ホエーモンは子供を産んだ。

かつてと同じウパモン、そしてウパモンが進化したオタマモンだ。

 
順調に育ったオタマモンは、やがて成熟期へ進化した。

我々は、それらがルカモンに進化すると想像していたが…

なんと驚くべきことに、オタマモン達は直接ホエーモンへと進化したのである。

128: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2023/07/19(水) 20:33:12.92 ID:y5GlZCe4O
まさか一気にレベル5になったのか!?と思ったが…

このホエーモン達はレベル4…つまり成熟期デジモンと判定された。

体長は、15mある親よりもスケールダウンし、7mほどである。

 
親の半分ほどではあるが…それにしてもでかい。

おそらく基礎代謝量はグレイモン以上だろう。

もしかしたら、あのスコピオモンにすら勝てるかもしれない。
 

そうしてレベル4のホエーモン達もまた、海の覇者として君臨した。

ただし、親と違ってそれほど狂暴ではない。

食う餌の量も、そりゃ並みのデジモンに比べれば格段に多いが…親よりもずっと少ない。

超音波攻撃の威力も、親に比べれば控えめだが、それでもルカモンより格段に増していた。


だが、親の劣化版というわけではない。

過剰な筋力を削減した分、空腹に強くなったのだ。

 
必要以上の過剰戦力を得てしまったがために、四六時中死に物狂いで餌を探し回り、飢えに苦しんでいるレベル5ホエーモンに比べて…

それをスケールダウンさせて戦力低下したようなレベル4ホエーモンの方が、はるかに安定した生き方ができていた。

 
やがて、レベル5ホエーモンは姿を消した。

どこか我々のデジドローンでは観察できない領域へ泳いでいったのだろうか。

あるいは、どこかで骸となっているのだろうか…。

129: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2023/07/19(水) 20:33:56.57 ID:y5GlZCe4O
さて。

今回の観察で、最も目を惹いたのは…

レベル5ホエーモンの圧倒的な戦闘能力。

…ではなく。

 
「レベル5デジモンが、スケールダウンして、レベル4として最適化された」という現象である。

世代を超えたレベルダウン現象だ。
 

人によっては、これを「弱くなったのだから退化だ」と感じるかもしれないが…

私個人の主観でいうならば、これは「進化」だ。

デジモンの個体としての進化ではなく、遺伝子としての進化、という意味合いの方だ。
 

ホエーモンというレベル5デジモンの優れた点を引き継いだうえで、無駄を省いてダウンサイジングし、成長期から直接進化できるようになったことは、環境への更なる適応といえるだろう。

130: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2023/07/19(水) 20:34:45.34 ID:y5GlZCe4O
この「レベルダウン進化(仮称)」だが…

実は、陸上デジモンでも同じ例が目撃されている。

「ゴキモン」と「ヌメモン」だ。


ゴキモンはかつて、ゴキブリ型のレベル4デジモンだった。

レベル4なのだから、それなりの戦闘力と基礎代謝量があったのだが…

主に分解者として他のデジモンの糞や死骸を食べるゴキモンには、逃げ足さえあれば、戦闘力など不要だったのである。
 

そうしてゴキモンの子供達は、レベル3(成長期)にして、親と同じ姿に進化したのである。

戦闘力は親よりも低下したし、体のサイズも小さくなったが、逃げ足は親に負けず劣らず速い。

そうしてレベル3にレベルダウン進化したゴキモンは、レベル4の頃よりもはるかに広い生息域へ進出できるようになったのである。

 

ゴキモンはシンプルな例だが…

ヌメモンはさらに面白いことになっていた。

我々が一番最初に観察したデジモンは、ヌメモンだったわけだが…

湿地のヌメモン集落のその後を観察していた研究員がいたのだ。 

次は、彼が記録した、ヌメモン一族のその後を紹介しよう。

132: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2023/07/19(水) 20:38:56.82 ID:y5GlZCe4O
ヌメモンはレベル4のデジモンであった。

かつてはワームモンなどの弱いデジモンを捕食していた時期もあったが、陸上のデジモン達のパワーインフレはどんどん加速していく。

ヌメモンのような弱いデジモンは、戦いではもうついていけなくなった。
 

そこで、ヌメモンたちは開き直ったのである。

「戦いに勝てないなら、戦闘能力など無くしてしまってもいい」と。
 

いつしかヌメモンは、ゴキモン同様に、レベル3のデジモンとなっていた。

ホエーモンの例でも目撃された、レベルダウン進化である。
 

レベル4だった頃にわずかにあった戦闘能力を完全に捨て去り、代わりに強靭な胃腸と繁殖能力を発達させた。

その結果ヌメモンは、「だいたいなんでも食える」ようになり、レべル4になるのを待たずしてウジャウジャ殖えまくるようになったのである。

133: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2023/07/19(水) 20:40:19.44 ID:y5GlZCe4O
かつて、グレイモンやティラノモン達が森林を焼き払ったことがあったが…

木々の燃えカスは、ヌメモンたちによって食われ、きれいさっぱり片づけられた。
 

ヌメモンはとても嗅覚がよく、デジモンの死骸や排泄物を見つけると、すぐに寄ってきて食べてしまう。

嫌気性の細菌がウジャウジャ湧いていようがお構いなしだ。ヌメモンの胃はおそらくボツリヌス毒素ですらきれいさっぱり消化してしまうだろう。
 

そんなヌメモンにも弱点があった。
それは、身体が乾燥に弱いとう点である。

 
湿った皮膚を維持しなくてはならないため、カンカン照りの日には、日陰に避難するのが間に合わずに、熱射病になってそのまま干からびてしまうことがままあるようだ。
 

そんなある時、レベル3のヌメモンは、レベル4へ進化した。
カタツムリのような貝殻をもった、カラツキヌメモンである。

 
レベル4だけあって、この殻はとても硬い。
レベル3デジモン程度の攻撃では傷一つつかなかった。

 
そしてこの殻は、カラツキヌメモンを乾燥から護った。
強い日差しにさらされたときは、殻にこもることで水分の蒸発を防ぎ、日が暮れるのを待つのである。
 

そうして乾燥に強くなったカラツキヌメモンは、生息分布を広げ、サバンナ等への進出を試みた…。

134: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2023/07/19(水) 20:43:07.00 ID:y5GlZCe4O
しかし。

レベル4になるまで殻を獲得できず、レベル3まではヌメモンのような乾燥に弱い身体だ、という進化系統のままでは、真の意味でサバンナで「暮らす」ことはできないのである。
 

そこでカラツキヌメモンは、再びレベルダウン進化をした。
レベル3ですぐにカラツキヌメモンへ進化できるようにしたのだ。

さらに、幼年期の系統も一新した。 

幼年期レベル1は、泡型デジモンのバブモン。
ワックス質の泡を纏うことで、軟体の体を乾燥から護る。
 

幼年期レベル2は、餅?に似た姿のモチモン。
身体の外側は焼けた餅の表面のように乾いた皮膚で覆われており、体内を乾燥から護る。
 

そしてレベル3でカラツキヌメモンとなるのである。

このように、幼年期のうちから乾燥に強くなり、成長期ですぐにカラツキヌメモンになることで、サバンナや乾燥地帯へ進出することに成功した。

 
代わりに、殻の硬度はレベル4だった頃よりも脆くなった。

レベル3の哺乳類や爬虫類型デジモン… ギザモンやガジモンに爪や牙で攻撃されたら、破砕されてしまうこともある。

135: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2023/07/19(水) 20:46:18.66 ID:y5GlZCe4O
そういった捕食者に対して、カラツキヌメモンがとった対応は…

マッシュモンのように毒素を持つことや、個々の戦闘力を底上げすることではない。 

『ボス』を作ることだった。

 
そうして出現したのが、カラツキヌメモン達の親玉、モリシェルモンである。

レベル3のカラツキヌメモン達の中で、もっとも優秀な個体がレベル4のモリシェルモンへ進化する。 

モリシェルモンの体長は3mほどもある。貝殻はカラツキヌメモンのヤワな装甲とはうってかわって巨大で頑丈だ。軟体動物デジモンではあるが、体内には軟骨のような支えがあり、重い体重でありながら高い運動能力を発揮できる。

二本の強い腕で敵をうちのめすことができるし、トゲの生えた殻にこもって回転することで攻防一体の突進攻撃もできる。 


外敵が、弱いカラツキヌメモンを狙って狩りをしていると、カラツキヌメモン達が発する恐怖のフェロモンを感じ取り、回転する巨大な貝殻が飛来して敵をぶっとばす…ということだ。


直近モリシェルモンを見たときは、コカトリモンに瞬殺されていたので、あまり強い印象がないかもしれないが…

ヌメモン系統としては珍しく、まっとうに強いデジモンなのだ。
…獰猛な上に知能は低そうなので、飼いならすことは難しそうだが。

136: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2023/07/19(水) 20:47:02.15 ID:y5GlZCe4O
そんなモリシェルモンの主食は、なんと野生のマッシュモンである。

身体を毒素で守ることで、外敵から捕食されなくなり、どんどん増えていたマッシュモンだが…

ヌメモン時代に獲得した強靭すぎる消化器官をそのまま受け継いでいるモリシェルモンは、その毒素を消化可能になっていた。 

モリシェルモンにとって、マッシュモンなど、捕獲しやすい餌にすぎない。


そうして、ヌメモンがモリシェルモンになるまでに、2回のレベルダウン進化を遂げているのだ。

 
近年では蜘蛛型デジモンのドクグモンがレベル3にレベルダウンした、コドクグモンという種も発見されている。

 
レべル5にならずして、レベル4デジモンの先へ進めるこの現象は…
進化の袋小路を突破することができるのかもしれない。

137: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2023/07/19(水) 20:52:53.88 ID:y5GlZCe4O


さて。
以上がレベルダウン進化についての報告だ。


それはさておき…
ホエーモンから命からがら逃げたオクタモンを、その後しばらく観察してみた。

no title


タコ型デジモン、オクタモンは、淡水にこそ適応できたが…
海のハンターとして暴れまわっていたオクタモンはそこそこ高いDPを持つ。

川の低カロリーな餌では、空腹が満たされないようだ。

オクタモンは、陸上への進出を試みたが…
どうやら陸上では呼吸ができず、その軟体ボディを支えることもできないらしい。

落胆するオクタモン。
海には絶対戻りたくないようだ。


どうするのだろうか…
シーラモンのように子供を残すのか?

138: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2023/07/19(水) 20:56:55.84 ID:y5GlZCe4O
川の中で頭を抱えたオクタモンは…
突然絶叫した。

凄まじい声だった。
海のデジモンに声帯などないとばかり思っていたのだが…

空気を震わすような大絶叫を発した。

そしてオクタモンの肉体は、光り輝き…
異様な姿へ変貌した。
no title

141: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2023/07/19(水) 21:03:04.81 ID:y5GlZCe4O
な、なんだ、これは…?
タコのデジモンというより、所謂タコ型宇宙人のようなデジモンへと進化した。

大きな頭部は、まるで人間の脳のようにたくさんの皺が刻まれている。

人のような両腕を持ち、右手には光線銃のような武器を持っている。

たくさんあった筋肉質なタコ足は、ほっそりとした形状になり、細い胴体を支えている。



インベーダーのような姿のデジモン…ベーダモンは、ゆっくりと川から陸上した。



とても強そうには見えないが…
レベル5デジモンのようだ。


スコピオモン、ホエーモンに続き、独力でレベル5への到達に成功した3体目のデジモンとなった。

しかし、レベル5の割に、DPはかなり低い。
元のオクタモンより一回り低いDPだ。


どういうことだろうか…
レベル5になれば必ず強くなるというわけではないのだろうか?



ともかく、スペック上は史上最弱のレベル5デジモンであるベーダモンが…
これからどのように生きるか、見ものである。

142: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2023/07/19(水) 21:15:28.01 ID:y5GlZCe4O
このへんで切ろうとしたが…
…ええい、気になる!気になるぞ!


やはりベーダモンをもう少し見てみよう。


ベーダモンは、ニョロニョロした足で陸上を移動している。
そのスピードはお世辞にも速いとは言い難い。

やはり…タコの姿のデジモンが、いきなり陸上に適応しようとするのは無理があったのではないだろうか。

そこへ…
さっそく外敵がやってきた。

no title

レベル4の羽虫型デジモン、フライモンである。
こいつは素早く空中を飛び回り、尻尾の猛毒の針を飛ばして獲物を狩る恐るべきハンターである。


両者のDPを比較すると…
フライモンの方が上のようだ。


フライモンは、弱そうなベーダモンを見て、即座に襲いかかった。

細い胴体には針を飛ばしても当たらないとみたのか…
直接噛みつきにきたようだ。

143: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2023/07/19(水) 21:17:55.86 ID:y5GlZCe4O
フライモンを見つけたベーダモンは…
光線銃を向けて、引き金を引いた。

光線銃から光の輪がいくつも広がり、フライモンを包み込む。

すると…
フライモンは突如、襲いかかるのをやめて、地面に降り立った。


ん?どうしたんだ?


しばらく観察すると…
フライモンは前足で、自分の尻尾から毒針を引き抜いた。

そして…
その毒針で、己の喉を刺し貫いたのである。

145: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2023/07/19(水) 21:21:47.32 ID:y5GlZCe4O
なんだ!?
フライモンが自殺した…!?


ベーダモンは、フライモンの死骸へにじり寄ると…
傷口へ口を当てて、体液を啜った。




何がおきたんだ、今。
フライモンはなぜ自殺した!?

わけがわからないが…
言えることはただ一つ。


フライモンよりDPがはるかに劣っていたベーダモンが、フライモンを傷一つ負わず瞬殺したということだ。


…このデジモン、危険な匂いがする。

146: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2023/07/19(水) 21:26:32.72 ID:y5GlZCe4O
ベーダモンは、フライモンの体液を吸ったが…
硬い殻に覆われた肉はまだ残っている。

どうやらベーダモンは力が弱く、フライモンの殻をむいて肉を露出させることができないらしい。

するとベーダモンは、周囲をきょろきょろと見回した。

やがてベーダモンは、あるデジモンを見つけた。

鋭い爪と牙を持った、大きな耳の哺乳類型レベル3デジモン…ガジモンだ。
no title



ベーダモンは、ガジモンの方へ声を発した。
何事かと思って振り向いたガジモン。

…目の前には大きなフライモンの死骸がある。


ガジモンはにったりと笑い、フライモンの死骸へ近寄った。

147: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2023/07/19(水) 21:29:05.42 ID:y5GlZCe4O
するとベーダモンは、ガジモンに光線銃を浴びせた。
光の輪がガジモンを包み込む。

光線銃で光の輪を浴びせ続けられているガジモンは…
一心不乱にフライモンを解体した。
鋭い爪と牙で、殻を剥いて、肉を露出させ…
フライモンの肉を爪でバラバラに解体した。

そして、フライモンの肉を一口も食わずに、森の奥へ去っていった。



ガジモンが去った後、ベーダモンはフライモンの肉を食べ始めた。

…胃が小さめらしい。
大半を残して、そのまま去っていった。

148: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2023/07/19(水) 21:31:45.06 ID:y5GlZCe4O
どうやらベーダモンは…
光線銃から発する光の輪でデジモンを包んでいる間、そのデジモンを操ることができるようだ。

その一芸にのみ特化し、己の肉体の戦闘力を捨て去ったベーダモン。

こんな進化があるのか…
いよいよもってデジタルモンスターは、全くわけのわからない方向へと進化を始めた。

スコピオモンとはまた別の意味で、恐ろしいレベル5デジモンといえるだろう。

158: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2023/07/20(木) 18:49:11.42 ID:eC/a9O5EO
オペレーション・テイマーズ。
セキュリティデジモン達の飼育計画が始まろうとしている。

ケンこと私に課せられたタスクは…
デジモンの飼育ではなく。
「野生デジモンの観察」と「基礎研究」だった。

どうやら私が基礎研究を発展させていき、他の皆がそれを応用していく…という流れを期待しているらしい。

…デジタルワールドにはどんな変化があっただろうか。
私はデジドローンを飛ばし、デジタルワールドの生態観察を再開した。

159: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2023/07/20(木) 18:56:32.89 ID:eC/a9O5EO


デジタルワールドと現実の生態系は異なる。
だが、現実の生態系と同じニッチのデジモンないしデジタル生命体は、だいたい存在しているようだ。

ときに…
「蝿」に相当するニッチのデジモンはいるだろうか。

いる。
蜂の幼虫に、小さな2つの翅が生えたような、小さな昆虫型デジモン。
ププモンである。
no title



デジモンの死骸が分解される様子を観察すると…

死んだデジモンは、やがて死臭が立ち始める。

そうすると、ヌメモンやゴキモンだけでなく、様々なスカベンジャーデジモンが寄ってくる。
ププモンはそのうちの一種だ。

ププモンにも色々な個体群がいるが…
スカベンジャーとして活動する個体群は、いわゆる「幼年期のまま産卵して殖える」タイプだ。

ププモンは死骸を食べながら、その場で産卵して、ププモンが殖えていく。

見た目が可愛らしいとはいえ…
どんどんププモンが湧いて死骸を食い尽くしていく様子は、見ていて心地がいいものでは決して無い。

161: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2023/07/20(木) 19:13:22.18 ID:eC/a9O5EO
デジモンの死骸はそうなるとして…

では、樹木やキノコの死骸は、何が分解するのだろうか?

私は当初、ヌメモンがそれを担うと考えていたが…
硬い樹木はリグニンという物質を含んでおり、ヌメモンの顎の力ではバキバキ食えないようだ。

森の中の朽木を観察すると…
ミノムシ型デジモン、ミノモンがたくさんいた。
no title


まあこれは予想できる範疇だが…
全く予想していなかった、意外なデジモン達がいた。

それは…
no title



ピチモンである。
これは意外すぎる発見だ。
ピチモンはてっきり水中にしかいないものだと思っていた。

だがこの個体群のピチモン達は、陸上で生活しているようだ。
硬い樹木を酵素で溶かしながらシャリシャリと食べて、やがて朽木にし、土へ還してしまう。
…勿論、デジタマを産んでピチモンを産みながら。

どうやらピチモンには陸生種が存在するようだ。

163: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2023/07/20(木) 19:22:13.37 ID:eC/a9O5EO
ピチモンには陸生種がいる。
そう認識した上で、デジタルワールドを見回すと…
けっこうあちこちにいるようだ。
とても小さいため、今までは気にも留めていなかっただけのようだ。

海岸や砂浜に流れ着いたスイムモンなどの死骸には、半陸生種…
鰓を水で濡らすことで、陸上活動に適応したピチモンが群がって食べていた。

どうやらピチモンは、同じ見た目の「ピチモン」でありながらも、極めて多彩な種分化をしてようだ。

ガニモン等の成長期へ進化可能な個体群。
進化せずピチモンのまま、水中で殖える個体群。
陸上で殖える個体群…。
まだまだ色々な生活環のピチモンがいるかもしれない。


どうやらピチモンは、現実でいうところの「フナムシ」や「トビムシ」等のニッチを担っているようだ。

165: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2023/07/20(木) 19:45:30.23 ID:eC/a9O5EO
さて、先程ちらりと登場したミノムシ型幼年期デジモン、ミノモンだが…
ミノモンはレベル2、いわゆる幼年期第2形態であり、リーフモンというレベル1幼年期デジモンから進化するところがよく目撃されている。
no title


…我々は今まであまり、昆虫型デジモンについて詳しく触れてこなかった。

なぜなら、昆虫型デジモンはあまりにも進化系統(幼年期→成長期→成熟期の進化の流れ)が複雑怪奇すぎて、これといった仮説や結論を出せずにいたのである。

今でもまだ、昆虫型デジモンの進化の仕組みについて正しく説明できる気がしないが…
どれだけ研究がこんがらがっており、どれだけ我々の頭を悩ませているか。

急いでいないなら、少しだけ途中成果を聞いてもらいたい。

167: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2023/07/20(木) 20:08:45.69 ID:eC/a9O5EO
成長期以上の昆虫型デジモンは大まかに、「羽虫型」「甲虫型」「幼虫型」「翅をもつが手な昆虫型」の4つに分けられるようだ。

…尚、ドクグモンはかつて昆虫型デジモンだと思われていたが、実は甲殻類型成長期デジモンであるガニモンの陸生種から進化したことが分かったので、昆虫型からは除外して考ええる。



昆虫型デジモンの幼年期のうち、既知の種は2系統ある。

ププモンから、蜂型デジモンのプロロモンに進化する系統。
no title



もうひとつは、リーフモンからミノモンに進化する系統だ。

つまり、幼年期は幼虫型と羽虫型の2系統があるといえる。

169: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2023/07/20(木) 20:21:55.38 ID:eC/a9O5EO
さて、幼年期デジモンは比較的すっきりしているのだが…
成長期以降が極めてややこしい。


羽虫型は…
蜂型のファンビーモンや、蝶型?のモルフォモンがいる。
no title

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甲虫型には、テントモン、コカブテリモンがいる。

幼虫型には、ワームモン、クネモン、ドクネモンがいる。

「翅をもつが飛ぶのが苦手な昆虫型」は、レベルダウン進化したレベル3ゴキモンのみだ。

171: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2023/07/20(木) 20:34:32.73 ID:eC/a9O5EO
成熟期になると、それぞれの系統にもっと種類が増えていく。


羽虫型には、スティングモンやヤンマモン、モスモン、フライモン、ハニービーモン、バタフラモンなどがいる。

甲虫型は、カブテリモンとクワガーモン。

「翅をもつが飛ぶのが苦手な昆虫型」は、ゴキモンとスナイモン。

幼虫型の成熟期は存在しない。


…さて、こうして整理すると、割とすっきりした系統に見える。

各系統から、スムーズに成長していくのではないかと見えるが…

全くそんなことはない。
これがとんでもなくややこしいのだ。

何が何に進化するのか…
法則が見えてこないのである。

173: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2023/07/20(木) 20:50:25.52 ID:eC/a9O5EO
まずは羽虫型の成熟期だが…。

たとえば、エクスブイモンとデジクロスしてパイルドラモンやディノビーモンになったスティングモン。
蜂型なので、やはり蜂型のプロロモンから進化するのか?と思いきや…
どうやら幼虫型のドクネモンから進化したようだ。
ちなみに、あのスコピオモンの子孫である。

しかし、スティングモンが産んだデジタマから産まれた幼年期は、やはり羽虫タイプでなく幼虫タイプ。
…ドクネモンでなくワームモンへ進化したようだ。


では、フライモンやハニービーモンやバタフラモンも同じく幼虫型から進化するのか?と思いきや…
これらはクネモンとファンビーモンの両方から進化するのである。

175: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2023/07/20(木) 21:15:12.90 ID:eC/a9O5EO
「翅をもつが飛ぶのが苦手な昆虫型」だが…
スナイモンはドクネモンやワームモンから進化するようだ。

レベル4ゴキモンは、進化前の成長期デジモンが何なのか、我々はいまだに発見できていない。

予想としては、ワームモンでないかと考えている。
なぜならゴキモンの目は複眼や単眼でなく、ワームモンと同じレンズ眼だからだ。



…そして甲虫型の成熟期だが…
クワガーモンは、クネモンとテントモンから進化する。
カブテリモンは、クネモンとテントモンに加え、コカブテリモンからも進化する。


この通り…
昆虫型デジモンの進化系統図は、枝状になっておらず、枝分かれしては収束して…を繰り返しており、何がどう進化するかがまるで法則性が見えてこないのだ。

177: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2023/07/20(木) 21:20:36.40 ID:eC/a9O5EO
どうしてこんな複雑怪奇な進化系統になっているのだろうか…?

そもそも幼虫型デジモンとは何なのか、どんな経緯で発生したのか。

なぜ蛹型はいないのか。

…昆虫型デジモンは、あまりにも謎が深い。
脊椎動物型デジモンよりもずっと前から陸上で繁栄していただけあって、進化の歴史を紐解き読み解くのは難しそうである。

だが、おそらくこれら昆虫型デジモンにも、なにか共通の祖先がいたはずである。

冒頭で紹介した陸生型ピチモンは、昆虫型デジモンと近縁な遺伝子を持っているようであり…
何かしらの関係がありそうだ。


…解き明かされる日は来るのだろうか。

190: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2023/07/21(金) 21:11:38.09 ID:Sg3NSaZqO
昆虫型デジモンは、外見が昆虫に似てはいるものの、厳密には我々の世界の昆虫とは体の構造がかけ離れていることが多い。

昆虫の体は、頭・胸・腹の3つに分かれている。
しかしテントモンなどの甲虫型デジモンやスティングモンは、「腹」に相当する部位が存在しないのだ。
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その体型は、我々人間の体にもよく似ている。
直立二足歩行が可能な脚部や股関節も、昆虫には見られない特徴だ。

また、我々の世界の昆虫の眼は複眼なのだが…
一部の昆虫型デジモンは、複眼でなく脊椎動物のようなレンズ眼を持っている。
バタフラモン、ワームモン、ゴキモンなどだ。
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こういった違いから、昆虫型デジモンは我々の世界の昆虫に相当するものではなく、姿形が昆虫に似た全く別系統の生物と考えたほうが良さそうだ。
先入観は捨ててみるべきかもしれない。

191: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2023/07/21(金) 21:27:12.11 ID:Sg3NSaZqO
また、顎の形も昆虫から大きく外れたものがいる。

昆虫というカテゴリーは、厳密には「節足動物門、六脚亜門、外顎綱」という。
外顎綱の名が指す通り、昆虫の口のはふたつの外顎が左右にくっついている。
中心には唇という器官があり、歯や舌はない…というのが基本構造だ。

ところが、クワガーモンやゴキモン、ヤンマモン等は、爬虫類や哺乳類と同じように、歯や舌がしっかりと生えているのである。
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では、昆虫型デジモンの口は基本的に脊椎動物型デジモンと同じ構造なのか?というと…
実はそうでもない。
フライビーモンやフライモンのような羽虫型デジモン、コカブテリモン、クネモンのような幼虫型デジモンは、しっかりと昆虫らしい口の構造となっているのである。

あまりにも不可解だ。
複数の系統が、それぞれまばらに、昆虫らしい体組織を持っていたり持っていなかったりするのである。

私は、ここに法則性を全く見いだせずにいた。

194: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2023/07/21(金) 21:43:23.44 ID:Sg3NSaZqO
我々の世界には、人間と同サイズの昆虫はいない。

なぜなら、昆虫は身体構造上、巨大化できないからだ。
理由は2つある。

1つ目…外骨格生物は、体を外側の外殻で支えている。体が巨大化すると、体に対する外殻の体積比はどんどん小さくなっていく。
そのため、巨大昆虫の手足はゴムタイヤのようになり、頑丈さが無くなっていくのだ。

2つ目…昆虫は、気門というシステムでガス交換している。これは、建物で喩えるならファンのないダクト(通風孔)のようなものだ。
気門から入ってきた空気は、身体中に張り巡らされた細い管を通じて、体組織へ混ざる。そして浸透圧によって酸素と二酸化炭素を交換するのである。
そのため昆虫は、我々人類と違って、横隔膜を使って能動的に息を吐いたり吸ったりすることがなく、ヘモグロビンで酸素を運搬することもない。

これは小型動物においては低燃費な呼吸システムとして有効に働くのだが…
大型動物になるのには不向きなのだ。

なにせ、大きく息を吸って吐くことができないのだ。しかも心臓の鼓動を速くしても、酸素運搬が早くなるわけでもない。

そのため、大型動物の激しい運動に必要なエネルギー量を供給する前提の構造にはなっていないのだ。

196: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2023/07/21(金) 21:49:50.84 ID:Sg3NSaZqO
だが昆虫型デジモンは違う。
人間より大きなデジモンがいるのに、とても機敏に動くことができる。

成熟期最強クラスに君臨するスナイモンの戦闘力を見れば、先程述べたような「昆虫が巨大化できない理由」などぶっちぎっていることは明白だ。

昆虫デジモンを解剖して体内を詳細に観察できれば理解は深まるかもしれないが…
それができる戦力はうちには今のところ無い。

たとえスカモン大王を持ち出しても、スナイモンやスティングモンには瞬殺されるだろう。


…そういうわけで、昆虫デジモンの法則性を見出すには!体内の構造を調べるためのサンプルが欠けた状態で仮説を立てなければならないのである。

197: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2023/07/21(金) 21:57:05.48 ID:Sg3NSaZqO
現時点で、あえて仮説を立てるなら…

大型の昆虫型デジモンは、脊椎動物のように、体の内側にも骨格を持っており、閉鎖系の血管やガス交換システムを兼ね備えている。
…と考えなくては、あの高い運動能力は説明がつかない。

昆虫型デジモンは、脊椎動物の特徴と節足動物の特徴を併せ持っており、種によって各部位にどちらの特徴が顕現するかが異なっている。

…というのが、ひとつの仮説として挙げられる。
だが、いやそんなバカな。
脊椎動物デジモンと昆虫デジモンのハイブリッドなんて、どうやって生まれたというのか…





…ん?
なんか、聞いたことがあるぞ。そんな話をどこかで。
脊椎動物と脊椎動物の合体…?

198: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2023/07/21(金) 21:59:43.56 ID:Sg3NSaZqO
脊椎動物と節足動物の合体…


それを実際にやったやつを、我々は見たことがある。

パイルドラモン、そしてディノビーモンだ。


竜人型のエクスブイモンが、スティングモンを装甲のように纏うことでデジクロスを行い、一時的に誕生するデジモンだ。

もしかしたら、あの素っ頓狂なトンデモ合体は…
昆虫型デジモンのルーツに深く関わっているのかもしれない。

199: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2023/07/21(金) 22:08:23.29 ID:Sg3NSaZqO
そういえば、我々は今までハニービーモンを「昆虫型デジモン」と呼んでいた。
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だがこいつ…
本当に昆虫型デジモンであろうか?

私には、昆虫のような外装を纏った脊椎動物デジモンのようにしか見えない。

モルフォモンも同じだ。
体の作りは明らかに脊椎動物タイプだ。
昆虫のパーツは、どことなく外付け感がある。
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これらのデジモンを見て、あるひとつの特徴をもつデジモンを、我々は探した。

そして見つけた。
エビドラモンだ。
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「脊椎動物の肉体を、節足動物の外殻が包んだような姿のデジモン」。
その水中種だ。

201: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2023/07/21(金) 22:15:10.86 ID:Sg3NSaZqO
私は、昆虫型デジモンについての仮説をひとつ考えた。

それはすなわち…
「昆虫型デジモンとは、はるか昔、海の中で魚型デジモンと甲殻類型デジモンが合体して誕生したデジモンを祖先としているのではないか」という仮説だ。

我々が、脊椎動物デジモンの上陸を実際に目撃したのは、シーラモンの子供であるオタマモンやベタモンが初めてだった。

だが実際には、それよりもはるか前に…
魚型デジモンが甲殻類型デジモンと合体して、陸上に上陸した。

その末裔が現在繁栄している、いわゆる「昆虫型デジモン」と呼ばれる種なのではないか…
という仮説だ。

つまり、脊椎動物のような顎を持つエビドラモンは、昆虫型デジモンの祖先から枝分かれした存在…
もしくは昆虫型デジモンの祖先そのものである可能性がある。

203: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2023/07/21(金) 22:35:16.41 ID:Sg3NSaZqO
そう考えると、各デジモンが持つ奇妙な形質についても説明がつく。

たとえばゴキモンは、手足や胴体は昆虫の特徴が多いが、目と口は脊椎動物タイプである。

我々の世界のゴキブリは、複眼を持っているため、常に全方位を見ることができる。しかし画素数というか解像度は複眼のセル数分しかないため、細かい像を捉えるのは苦手である。

だがゴキモンは、複眼でなく脊椎動物タイプのカメラ眼を採用している。これにより、視界は狭まるが、ピントを合わせて遠くのものを見たり、物体の細かい造形を認識できる。

ゴキモンには、鳥のような「空から来る天敵」があまりいない。せいぜいヤンマモン程度だ。
そのため、常に上空を警戒しなくてもいいので、カメラ眼を採用しても生存に不利でないといえる。

また、狭いところへ素早く逃げるのに適した身体構造として、節足動物タイプの手足や胴体を採用したと考えられる。




その一方で、肉食昆虫デジモンのクワガーモンは、手足や胴体は脊椎動物の特徴が強く、眼は複眼のようだ。

これは、激しい近接格闘をするために、外骨格だけでなく強い内骨格も必要だったためと考えられる。
また、肉食動物なので「とりあえず動くものを仕留めて食えばいい」ので、細かい物体を精細に視認する必要がないため、複眼を採用したと考えられる。





…このように、各昆虫型デジモンは、はるか昔節足動物と脊椎動物が合体したことで…
自身の生態に合わせて、脊椎動物タイプと節足動物タイプのうち優れた特徴のみを選り好みして、肉体各部の構造へ発現させることができるのではないだろうか。

204: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2023/07/21(金) 22:39:38.45 ID:Sg3NSaZqO
進化系統の法則性については分からないが…
「各デジモンの姿の法則性」については、ひとまず仮説を立てることができた。

すなわち、スティングモンは…
はるか昔の祖先が持っていた「脊椎動物デジモンと合体する力」を、先祖返りで再び獲得したデジモンなのかもしれない。

209: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2023/07/22(土) 11:58:03.75 ID:Xiedq7uPO
これまで我々が見てきた哺乳類デジモンは、海獣型、偶蹄類型程度だった。

しかし、近年は哺乳類型デジモンがデジタルワールド中で数と種類を増やしつつある。

原因は、あるエレキモンが、奇妙なデジモンへ進化したためだ。
有袋類のオポッサ厶に似た姿の、オポッサモンだ。
no title


オポッサモンのDPは低い。エレキモンより少し上くらいだ。既存デジモンでいうとベジーモンと同程度である。

だがオポッサモンはなんと、風船を作って空をふわふわ浮くことができる。
どんな原理なのだろうか?熱気球のように熱で浮翌力を得ているわけではないようだが…。

オポッサモンは風船を様々なことに使う。
ヤンマモン等の敵が襲ってきたら、風船を投げ当てて爆発させて身を護る。
見たところ、風船の中身は水素ガスのようだ。

オポッサモンは、デジタマを産むと、腹部の袋に収めて温める。
そして幼年期が産まれると、そのまま袋の中で育てるのだ。

デジタルワールドに自生する植物の果実は、我々の世界で商業用に栽培されるフルーツのように大きく実る。
オポッサモンは、デジタルワールド中を風船で旅して回り、果実を食べながら暮らす。

そうしてオポッサモンは、デジタルワールド各地へ、哺乳類型の成長期デジモンを産んで回っているのである。


かつて我々がスカモン戦で見た祢津型デジモンの「チューモン」も、オポッサモンが産んだ種だ。
おそらく例の個体も、もとを辿ればオポッサモンを祖先としているのだろう。

210: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2023/07/22(土) 12:12:44.67 ID:Xiedq7uPO
オポッサモンの出現からしばらくして、森の中で見かけるようになった、レベル3の猫型デジモン、ミケモン。
かつてはチューモンが進化した成熟期だったが、その子供がレベルダウン進化によって成長期でミケモンの姿を獲得したようだ。
no title


ミケモンは素早い身のこなしをもつ、木登りが得意なハンターだ。
手のグローブは電気を通さない絶縁体となっており、ベタモンやエレキモン、テントモンなど、放電で身を守るデジモンを狩ることができる。

そのDPは、これまでレベル3で最強クラスだったアグモンにすら匹敵する高さだ。

ミケモンの集団に狙われると、硬い体を持つゴツモンですら、甲殻をひっぺがされて軟組織を食い千切られてしまうことがある。

…一匹ならともかく、群れで狩りをするミケモンの脅威度は、既にレベル3の範疇を超えている。
ベジーモン程度なら造作もなく仕留めことができる、恐るべきハンターである。

211: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2023/07/22(土) 12:24:47.61 ID:Xiedq7uPO
攻撃でなく、護りや逃走が得意なデジモンもいる。

トゲモグモンの子孫とみられる成長期、アルマジモンは、敵に襲われると体を丸めて、硬い甲殻で身を護る。
no title


完全に防御態勢に入ったアルマジモンの甲殻は、ミケモンの群れでも破壊できない。
ゴツモンと違って、爪を差し込める隙間がないようだ。



また、大きな耳で空を飛んで逃げる、ツカイモンというウサギに似た成長期デジモンも出現した。
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ツカイモンは夜行性であり、昼間は地面に掘った巣穴の中で眠る。

ミケモンの群れに襲われたときは、空を飛んで逃げようとする。
…だが、ミケモンは跳躍力に優れ、木登りが得意なため、空中へ逃げたツカイモンがそのまま空中で仕留められることも少なくないようだ。

212: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2023/07/22(土) 12:29:38.20 ID:Xiedq7uPO
ある夜。

ツカイモンが、草原でレッドベジーモンに追いかけられていた。

ツカイモンは、さっそく耳をはばたかせて飛行を始めた。
レッドベジーモンは蔓を伸ばしてツカイモンを捕獲しようとするが、ツカイモンはそれをバレルロールで躱した。
見事なものである。


レッドベジーモンは、諦めて帰っていった。

平原ならば、木の上から襲ってくるミケモンもいない。
そのまま逃げ切れるだろう、そう思って、ツカイモンは空を飛び続けていたが…


突如、空中で何者かに捕獲された。
no title


フクロウ型成熟期デジモン、アウルモンだ。

213: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2023/07/22(土) 12:32:49.82 ID:Xiedq7uPO
ツカイモンは必死に暴れて抵抗するが、アウルモンの強い握力からは逃れられない。

そのままアウルモンの巣へ連れ去られたツカイモンは…
鋭い爪で生きたままバラバラに解体された。

そして、アウルモンの巣にいる小さな雛鳥型幼年期デジモン…
ピナモン達は、細切れになったツカイモンの肉を美味しくいただいた。
no title




哺乳類デジモンだけでなく…
鳥類型デジモンも、徐々に増えつつある。

214: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2023/07/22(土) 12:40:58.64 ID:Xiedq7uPO
そんなツカイモン達だが…
あるツカイモンは、成熟期への進化へ成功した。

no title

コウモリ型デジモン…ピピスモンである。

コウモリ型とは言ったが、その体の構造はコウモリとは大きく異なる。
四本の手足とは別に、背中に一対の翼を持っているのである。

ピピスモンは、超音波をソナーのように使うことで、闇夜でも空間を認識できる。
アウルモンの接近に気付き、逃げることができるのだ。

ミケモンの群れがいても、先に接近に気付いて離れることができる。


…こうして、オポッサモンやピピスモンなどの哺乳類デジモンは、空中をも住処としていくのだった。

216: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2023/07/22(土) 12:49:05.73 ID:Xiedq7uPO
「逃げるが勝ち」という言葉がある。

高いDPをもつ肉食のデジモンにとっては…
DPが低いにもかかわらず、俊敏かつ立体的な逃走方法や、接近を能動的に感知する感覚器官をもつ草食デジモンが、ある意味一番の天敵といえる。

217: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2023/07/22(土) 12:53:03.17 ID:Xiedq7uPO
やがて、ピピスモンもデジタマを産んだ。
木の洞で孵化したデジタマから産まれた幼年期デジモンは…
やがて、コウモリ型の成長期デジモンへ進化した。
no title


ピコデビモン。
…ツカイモンより、さらに夜の闇に溶け込むことに特化した哺乳類型デジモンである。

このピコデビモン達がどのような進化を遂げるか…
見物である。

226: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2023/07/23(日) 20:31:34.47 ID:whfoZKq7O
研究所の中が何やら騒がしい。

私はメガに、何があったのか聞いた。

「カンナギエンタープライズの説ではさ、昔の人がオバケだと思ってたのはモクモンだった…と考えてるらしいって、前に聞いたじゃん?」

そうでしたね。

「自在にシルエットを変えるケムリの肉体を、頭部の鬼火が照らすから、いろんな姿の怪物に見えたのでは…って予想から、モクモンの姿を考えたらしいんだけど。所謂一般的な『白い布のオバケ』の姿のアーキタイプとはかけ離れてるなと」

まあ確かに。

「それで、カンナギエンタープライズが、『白い布のオバケによく似たデジモンがいたのでは』と予想して、こんなデザインのデジモンの存在を予想したんだ」

どれどれ?
カンナギエンタープライズから送られてきた画像を見てみると、そこには…

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…白いボロ布を纏い、目と口が布の穴から露出している、所謂オバケ的なデジモンの姿が描かれていた。
なんというか…そのまんまだな。

「名前は仮称バケモンっていうらしいよ」

名前もそのまんまだな!

227: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2023/07/23(日) 20:43:28.43 ID:whfoZKq7O
しかし…こんなデジモンが存在しうるのか?
どうやって浮翌遊してるんだこれ?

そうツッコむと、リーダーがやってきた。

「バケモンの浮翌遊については…オポッサモンの風船同様に、我々の世界の物理法則に加えて、デジタルワールド特有の未知のエネルギーを利用しているのではないかと考えられてる」

未知のエネルギーですか…。
まあオポッサモンのふざけた飛び方を見た後だと、なんでもできそうに見えてきますね。

「そうだ。デジタルワールドは、一見すると飛行が明らかに不可能そうな姿のデジモン達が平然と飛行している。エクスブイモンやツカイモンを見てみろ。あんな小さな翼をばたつかせるだけで空を飛べるのはおかしいだろう」

それは確かに…。
『空を飛ぶための不思議なエネルギー』がデジタルワールドにはあるんでしょうか。

「このバケモンの姿の予想図はな、先日ケンがオポッサモンを発見し、『謎の飛行エネルギー』の存在を見つけてくれたおかげで成り立つようになったんだ」

まあ、それはそうか。
ボロ布を纏ったデジモンがフワフワ浮いてるなんて、今までの常識じゃ考えられませんでしたもんね。

スターモンのように、エネルギーを噴射して一時的に飛ぶならともかく、常時浮き続けてるとなると、話も違ってきそうですし。

「ボロ布の中身がどうなっているかは不明だ。どの系統から進化したデジモンだろうな?」

うーん…
植物でも、昆虫でも、哺乳類でも、爬虫類でも、鳥類でもなさそうだ…。

飛べるスターモンと同系統だったり…?

「我々が観察を開始するより前に陸上にいたとすると、植物型か昆虫型か…?」

バケモンの分類の同定は難しそうだ。

228: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2023/07/23(日) 20:46:36.37 ID:whfoZKq7O
「ん?どうした?」
そこへ、カリアゲが混ざってきた。

メガがかくかくしかじかを説明した。

「へー、バケモンっていうのか…」

そうだ。
仮にコレがいたとして、何の系統から進化したんだろうな?って議論だ。
どう思う?

カリアゲはしばらく絵を見つめてから答えた。
「ってかこいつ、ポヨモンじゃね?」


「え?」
我々一同は思わず声を上げた。

バケモンの姿の予想図を、ポヨモンと見比べると…
そっくりだったのだ。
no title

230: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2023/07/23(日) 20:54:26.22 ID:whfoZKq7O
ポヨモン。

ズルモンと並んで、最も原始的な遺伝子を持つ「始祖のデジモン」と考えられている。

水中をふわふわと泳いで漂っており、その形質はクラゲを彷彿とさせる。

メガは、うーんと悩んでからカリアゲの言葉に返事をした。
「いや、ポヨモンはクラゲのデジモンだよ。陸上での目撃翌例はない」

「えークラゲかこいつ?クラゲに目と口はねーだろww」

「それはそうだけど…言及するの?今更そこに?野暮くない?」

「あーそういうもんか?」

いや。
野暮じゃない。

よく考えると…おかしい!
刺胞動物門のクラゲに、こんなくりっとした眼球はないし、こんな位置に口もない。

ポヨモンは今までクラゲの枠だと考えてたけど…
冷静に考えると、ぜんぜんクラゲじゃない!!

「お、おう…」

232: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2023/07/23(日) 21:02:23.82 ID:whfoZKq7O
リーダーは、腕を組みながら頷いている。

「ポヨモンは現在、いちばんはじめに誕生したデジモンと考えられている。デジタルワールドに多種多様なデジタル生命体が発生した中で、はじめに出現した『多細胞生物型のデジタル生命体』…それが、『幼年期のまま殖えるタイプのポヨモン』だとな」

最初のデジモンにいきなり口や目があるというのも不思議な話ですね。

「厳密には『ポヨモンの祖先となる何か』かもしれないな。目や口のないアメーバ状のデジモンだったかもしれない。だからズルモンとポヨモンのどちらが先に発生したのか、未だに断定できていない」

なるほど…。
『始祖のデジモン』であるポヨモンが、数百年や数千年前に既に存在しており…
『狐憑き』によってヒトの視界というデジタル空間に住み着き、フワフワ泳いでいたのとすると。

その姿はまさしく、『空を漂う白い布』そのものになりますね。
辻綱が合う。

233: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2023/07/23(日) 21:09:28.38 ID:whfoZKq7O
うーん、しかし。
まあ仮にそうだったとして…
じゃあ、ヒトの視界というデジタル空間は、ポヨモンが住めるように水で満たされていたのか?

そう言うと、メガは首を傾げる。
「まあ、ヒトの視界にデジクオリアをつっこむ手段がないからわからないけど…。海やプール、風呂の中にでもいない限りは、陸上じゃない?」

なんとも言えないな…。

「要点は『ヒトの心の中が水で満たされてるかどうか』というより、『ポヨモンが陸上で生きてられるか』じゃないか?」

うーん、無理では?
デジタルワールドの沖や砂浜では、陸に打ち上げられて窒息死してるポヨモンの死骸が度々見つかってるぞ。

それを聞いたリーダーが提案してきた。
「…実験してみたらどうだ?幼年期のまま殖える個体群のポヨモンのデジタマをひとつ持ってきて、ビオトープで孵化してみればいい」

どうなりますかね…。
実験してみましょう。

235: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2023/07/23(日) 21:14:38.60 ID:whfoZKq7O
我々は、デジモンキャプチャーを使い、デジタルワールドの海からポヨモンのデジタマを採取した。

そしてビオトープの土の上へ置いて、様子を観察した。

…しばらくすると…
デジタマにヒビが入った。

中から、ポヨモンの姿が現れ…

…ふわふわと浮いた。


一同は唖然とした。
水中でしか呼吸できないデジモンのデジタマでも、陸上で孵化させれば陸上に適応するようだ。


そして…
浮いている!ポヨモンが!ふわふわ浮いている!

どういう原理なんだ…?

236: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2023/07/23(日) 21:18:30.20 ID:whfoZKq7O
カリアゲがそれを見て笑顔で言った。
「見ろ!あれがバケモンの正体だ!空中をふわふわ漂うクラゲ…オバケだ!」

うーん。確かに…
それっぽい。

この実験結果を、カンナギエンタープライズへ伝えたら…
神木さんはとても喜んでいたようだ。
バケモンという現在見つかっていない種を仮定しても、イマイチ仮説の根拠にはならないが…
現生種ポヨモンが幽霊の正体だと言えるなら、根拠としてかなり尤もらしくなる。


…しかし、ポヨモンは徐々に弱っていった。
キノコを与えても、朽ちが小さくて食べれないし、嚙みちぎれないためだ。

239: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2023/07/23(日) 21:23:16.56 ID:whfoZKq7O
そこで我々は、ポヨモンをキノコ栽培室へ入れてみた。

キノコ栽培室では、デジタルワールドから採取した原木に、毒のない多種多様なキノコを植え付けて、データマイニングで生成したデータを栄養として与えて栽培している。

ポヨモンは、ふわふわ浮翌遊すると…
「データ」そのものを、ぱくっと食べた。


おお、そうか。
ポヨモンは原始的な種だから、デジタル生命体よりもデータそのものを餌として好むんだな。

所謂、独立栄養生物型デジモンというやつだ。

しばらく経つと…
ポヨモンはデジタマを大量に産んだ。


たくさんのデジタマから、ポヨモンが一斉に孵化した。

…やばい!
これやばいぞ!!
ほっといたら殖えまくる!

241: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2023/07/23(日) 21:26:03.57 ID:whfoZKq7O
ど…どうします?

「…」


一同は、しばらく沈黙した。


みんな、何か言いたいことがありそうな感じがする。


私にもある。
だが…それを発言してもいいものか。


だが…
カリアゲが最初に口を開いた。

「…デジタルワールドに帰せばいいんじゃないか?」



…うん、そうしよう。
それがいい。

私はカリアゲの発言に賛同し…
喉まで出かかったアイデアを、そのまま飲み込んだ。

243: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2023/07/23(日) 21:31:25.27 ID:whfoZKq7O
我々はデジタルワールドの川のあたりへゲートを開き、コマンドラモンやマッシュモンの協力のもとで、ポヨモン達を放逐した。

ポヨモン達は、フワフワと漂い、土の上の細かいゴミデータを食べている。

…やがて、オタマモンやウパモンなどの野生デジモンがやってきて…
ポヨモンを食べた。

一日と経たずに、すべてのポヨモン達が食い尽くされたようだ。

…なるほど、これが、ポヨモンが今陸にいない理由か。
よく分かった。


あのポヨモンにはちょっと可哀想なことをしたが…
まあ、できる限りの範疇で、命を尊重したつもりではある。
そう自分に言い聞かせて納得した。

244: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2023/07/23(日) 21:40:58.84 ID:whfoZKq7O
実験の後、私はリーダーと二人きりで話をした。

リーダー。
実は私、あのポヨモン達をどうするか考えたとき…
ひとつ、アイデアを思い浮かんだんです。

「ああ。…おそらく俺も、お前と同じ解決策を思い浮かんだ」

どう思いますか?

「…植物型デジモンのピョコモンや、自身がキノコであるマッシュモン、農園育ちで野菜から必須栄養素を接種できるコマンドラモンなら、今の餌が…キノコである程度栄養を賄えている。だが…肉食デジモンを飼育するなら、キノコだけを餌にすることはできない」

そうですね。
…動物性タンパク質が必要となるでしょう。

「…いずれそれをやらねばらならない時が来るかも知れない。だが、弊害もあるかもしれない」

弊害…
性格への影響ですか。

「ああ。蛇を飼ったことはあるか?」

ないですが…

「蛇は冷凍マウスだけを与えているうちは比較的おとなしい。だが、活き餌ばかり与えると…飼い主の手に噛み付くくらい凶暴化することもあるそうだ」

…なるほど。

「…対クラッカー用の戦力として、肉食デジモンを飼育することを本気で考えるならば、それに適した餌の供給方法を考えねばならないだろう」

…理解してくれますか。

「ああ。俺達人間が、今までずっとやってきたことだ。罪悪感を他人に押し付けながらな」

…我々がその役目を負うときが来るかもしれませんね。

「ああ」

…デジモンにちょっと親近感を持っている今、あまり気は進みませんがね。

「そうだな…」

255: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2023/07/24(月) 19:35:07.63 ID:WtajV90OO
私とクルエは、カンナギエンタープライズ・ジャパンへ向かった。

新型デジドローンVRのテストや、各種研究報告をするためだ。

新型のデジドローンVRは凄い解像度だ。まるで本当に自分がデジタルワールドにいるかのようだ…
触覚やにおいは感じ取れないが、視聴覚は極めてリアルだ。

一通り体験した後、神木CEOへ、各種研究報告をした。

オペレーション・テイマーズで、採取を狙っているデジタマについて…等など。


そうして話していると…
オフィスのパソコン一台から、突如警報ブザーが鳴った。

な、なんだ!?

「きたぁー!」
岸部エリカさんの、何やら嬉しそうな声が聞こえてきた。


か、神木さん!
なんですかあの音!

「ああ…あれは、我が社の製品のコピープロテクトが反応したことを報せる音だよ」

コピープロテクト?

256: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2023/07/24(月) 19:46:51.48 ID:WtajV90OO
「ああ。デジクオリアには特殊なコピープロテクトを仕掛けていてね。半端なコピー品なら、起動不可なだけだが…。少々腕の立つ輩がライセンスを偽造して起動に成功したら、そのまま少しの間は使わせてやっている」

少しの間は…?
どういうことですか?

「違法コピーしたデジクオリアを使用した場合、我が社では先程の警報が鳴る。そして、違法ユーザーのサーバーへ、足がつかずに我々がデジモンを送り込める伝送路を自動で確保するんだ」

何故そんなことを…?

「そうだな…ケン、クルエ。君達二人だけになら、特別に見せてやってもいいが…どうする?きっとセキュリティデジモン開発の参考になるはずだ」

他言無用ってことですね。
大丈夫なんですか?そんなこと私達に教えて。

「構わないさ」

じゃあ…お願いします。
何をする気か分かりませんが。

「では…岸部、この二人に仕事を見せてやってくれ」

神木さんがそう言うと、岸部さんが自席に座ったまま、我々二人を手招きして呼んだ。

257: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2023/07/24(月) 20:02:12.13 ID:WtajV90OO
我々は岸部さんの席のモニターを後ろから見た。

「ふふふ、今からナニするか、わかりますかぁ?」

何でしょうか…
情報を抜き取って、訴訟の準備でも?

「うふふ、それをやったらスパイウェアでしょぉ?違法に得た証拠は裁判で使えないんですよぉ」

じゃあどうするんですか…?

「ぶっころしまぁす♪」

!?

私とクルエは驚く。
すると、神木さんが横から解説した。

「もしも、我々のデジクオリアと同等のテクノロジーを、いちからコーディングして作り上げた者がいたならば…。無論特許侵害で訴訟はするが、敬意は払ってやろう。そう簡単にできることではないからな」

はぁ…。

「だが、我が社の製品をそのままコピーし、社員達の血と涙と汗の結晶を何の対価も払わずに使おうとする不届き者がいるならば…『処刑人』を送り込む」

し、処刑人!?
何ですかそれ!?

「我々もデジモンを育成しているんだ。対クラッカー用ではない。『対違法コピーユーザー』用のデジモンをね。岸部、見せてあげなさい」

「はいはーい♪」

そう言うと、岸部さんはデジクオリアを起動して、カンナギ社内サーバーのビオトープ映像を映した。

260: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2023/07/24(月) 20:13:20.41 ID:WtajV90OO
「我々はある条件に該当するデジモンを探した。『デジモン同士の交戦は不得意でもいいので、DPが低く、それでいて火力と破壊力が凶悪なデジモン』だ」

そ、そんなのいるんですか?
何故そんなデジモンを?

「理由はひとつ。運用上、対人用の破壊活動だけを想定しているからだ。…このタスクは岸部に任せたんだ。彼女は理想的な恐怖の破壊デジモンを見事に用意してくれたよ」

「やん♪CEOってばぁ♪」

そ、それで、その処刑人というのは…?

「では、お見せしよう」
神木さんがそう言うと、ビオトープ内にデジモンの姿が映った。

262: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2023/07/24(月) 20:21:44.76 ID:WtajV90OO
画面に映ったデジモンは…

no title


オタマジャクシ型成長期デジモン、オタマモンだった。
それが8匹。

温泉を模した風呂にのんびりと浸かっていた。

それを見たクルエは、通常のオタマモンとの違いに気付いたようだ。

「ん…?このオタマモンちゃん、赤いですね?ふつう青じゃないでしたっけ」

265: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2023/07/24(月) 20:30:05.34 ID:WtajV90OO
「うふふ、サラマンダモンっていうデジモン、覚えてますぅ?」

サラマンダモン…。
炎を纏ったサンショウウオみたいなデジモンですよね。
ディノヒューモン農園で、炎を使ってイモを焼いたり、木を焼いて農地開拓やってるデジモンだったかと。
no title


「そうそう、あのコ達の子供なんですよぉー
~。うっふふ、カワイイでしょぉ~?」

クルエは渋い顔をしている。
「まあ…たしかに可愛い…とは思いますけど」


サラマンダモンの子供達…
ってことは、あのサラマンダモンからデジタマ8個も盗んだんですか!?

「いえ、一個…。一個よ」

え?じゃあ八つ子?

「その話は後にさせてもらいますねぇ~♪じゃ、アカタマちゃん達、今日もどぴゅっといっちゃいましょ~♪」

なんか…怪しい号令だ。

266: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2023/07/24(月) 20:44:16.90 ID:WtajV90OO
オタマモン達は、デジタルゲートに飛び込んだ。
例の伝送路を使い、違法コピーユーザーのパソコン内へ侵入した。

今回違法コピー品がインストールされたパソコンは3台。

オタマモン達は、3・3・2にチームを分けたようだ。

パソコン内のデータで構成されたデジタル空間に潜り込んだオタマモン達は…
口から粘度の高い泡をぷくぷくと吹き、デジタル空間のそこら中を移動して、どんどん泡まみれにしていった。

な…何してるんですか?
この泡なんですか?

「なーんでしょぉ?」

たっぷり時間をかけて、デジタル空間を泡まみれにしていったオタマモン達は…
パソコン内だけでは飽き足らず、そこに接続されているデジタル機器内のデジタル空間を虱潰しに泡まみれにしていった。

ルーターやテレビ、スマートフォンやスマートウォッチらしきもの、ゲーム機など…。

光回線のモデム以外、すべてを泡まみれにした。

「モデムは見逃すんですね」
クルエの言葉に、岸部さんが答える。

「だってぇ、モデムはプロバイダーの業者さんから借りてるものでしょぉ?そっちにとばっちりで迷惑はかけられませんよぉ~」

変なとこ律儀だな…。
しかし、泡まみれにしただけで…終わりですか?

「うーっふっふふふふふ♪これからが…お楽しみターイムですよぉ~…♪」

ヒエッ…
なんか恐ろしい笑みを浮かべている。

そういやこの人、警報ブザーが鳴ったとき、なんか喜んでなかったか…?
気のせいだろうか。

268: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2023/07/24(月) 20:53:38.14 ID:WtajV90OO
オタマモン達は、デジタル空間から退避した。
そしてデジタルゲートまでやってくると…

ぽっと火を吐いた。

火はデジタル空間内にびっしりしきつめられた泡に着火した。
すると、泡はすぐに火がついた。
まるでガソリンだ。


デジタル空間内を埋め尽くしている泡は、瞬く間に燃え広がり…
五分と経たずに、デジタル空間内は火の海となった。

様々なデータがどんどん燃えていく。
うわっ…!やべえぞこりゃ!
OSを構成してる重要なデータや、マザーボード上の絶対消えちゃ駄目なデータがどんどん燃えてる!!
ひいぃぃい!グロ動画だぁぁ!!

「うっふふふふふふ♪綺麗ぇえええええええええーーーーー♪この瞬間がたまりませんのですわぁぁぁーーーーーー♪」
岸部さんは恍惚の表情でそれを眺め、口の端から涎を垂らしている。


クルエはそんな岸部さんにドン引きし、怪訝そうな視線を向けている。

269: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2023/07/24(月) 20:57:24.27 ID:WtajV90OO
デジタル空間の壁や天井、床はごうごうと燃えていき、がらがらと崩れ始めた。

「はぁぁーーーん♪破滅って素敵ぃぃいーーーーーー♪最高ぉーーーーーー♪」

うわ…
今の岸部さんには話しかけないでおこう。

やがて、ネットワークが遮断された。
前もって避難していたため、取り残されたオタマモンはいないようだ。

そうして、オタマモン達は無事に帰還した。
餌としてたくさんフルーツを与えられたオタマモンは、歓喜してフルーツを食べた。


…あれ?そのフルーツは?

「デジモンキャプチャーで、デジタルワールドの森の木からひょいっと」

あ、そっか。
デジモンキャプチャーって餌の採取にも使えるんだ。

270: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2023/07/24(月) 21:01:27.98 ID:WtajV90OO
そ、それで岸部さん。
あの違法コピーユーザーのパソコンはどうなったんですか?

「うふふふふ♪どうなったんでしょーね♪知る術が無いのでなんとも…♪」

か、神木さん。
これは一体どういうことなんですか?

「…まあ、再起不能だろう。お高いマシンを用意したようだが、お釈迦だ」


…器物破損罪!!!
不正アクセス禁止法違反!!
アウトオォォォォオ!!!

「相手も著作権法違反だ。お互い様だ」

そういう問題じゃないでしょ!
アナタそんなやくざな性格でしたっけ!?
ガチ犯罪じゃないですかこんなの!!

「そうだね」

そうだねじゃないですよ!!

273: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2023/07/24(月) 21:12:09.17 ID:WtajV90OO
「違法コピー品が出回ったら、苦労して私についてきてくれた我が社の社員達が被る損失は、こんな程度では済まなくなる。我々を違法コピーから未然に護ってくれる何某などいないのだから、自衛するしか無いだろう」

まあ、それはそうですが…。
目には目を、違法行為には違法行為をですか。

「サイバー犯罪の立証は簡単じゃない。お互いにその条件ならば、あとは殴り合いで決着を済ますしかないだろう。それなら、デジクオリア導入直後に、マシンを丸ごとデジモンの力で潰してしまう他ないだろう。もたもたしていたらあちらもデジモンで武装してしまう」

まあ…
放置したら、悪質なクラッカーがそのマシンでデジモン使い始めるでしょうからね。

「悪質なクラッカーといえど、我が社の正規品を購入して使うのならば、不利な条件は与えない。だが違法コピーをする者はあらん限りの手段で抹[ピーーー]る」


こ、こええ…
神木さんってとんでもない世界で戦ってきた人なんだなぁ。
法が護ってくれない世界で…。

274: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2023/07/24(月) 21:19:35.62 ID:WtajV90OO
いやしかし。
あなた確か…デジクオリア承認機関の暴走を危惧しているとか言ってませんでした?

私は今まさにあなたの暴走を危惧しているんですが。

「わたしもそうおもう」
クルエが首を縦に振った。

「別に我々は、無害なユーザーや未購入者のデジタル空間に放火するつもりはないよ。そうしたら客が減るだけだ」
そ、それはそうでしょうとも。

「それにオタマモン達は戦闘能力が低い。何者かが我々のサーバーを狙って、アグモン一匹送り込んだだけで全滅するだろう」

白兵戦はそんな弱いんですか…。
「破壊活動の強さ」と「戦闘能力の強さ」はぜんぜん違うんですね。

「だが、我々の正規品デジクオリアがクラッカー達に使われており、我々が彼らを冷遇しない限り、そうそう我々を攻めては来ないだろう」

まあオンラインでデジクオリアのライセンス認証できるあなた達が倒れたら、クラッカーもデジモンに指示できなくなりますからね。

…ああ、その状況を維持するために、過剰なくらい熾烈に違法コピーユーザーを撲滅してるのか。
合点がいった。

275: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2023/07/24(月) 21:29:41.33 ID:WtajV90OO
ま、まあ他言無用の意味は分かりましたよ。

「君達には弱みを握られたわけだね」

…しかし、なぜ教えてくれたんですか?
こんなこと誰にも教えないほうがよかったのでは?

「君達に知っておいてもらいたかったからさ」

クルエがひょいと顔を出す。
「岸部さんの性癖をですか?」

「違う。…あのオタマモン8兄弟のことだ」

そういえば、デジタマ1個から産まれたって言ってましたね。
どういう事ですか?

「…オタマモン達は、正しくは、ディノヒューモン農園にいるサラマンダモンの『子供』じゃない。…『孫』だ」

孫…?

「少し前のことだ」

276: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2023/07/24(月) 21:44:03.85 ID:WtajV90OO
「我々はサラマンダモンのデジタマを一個採取した。そこから産まれた幼年期デジモンは、青いオタマモンへ進化した」

青い方ですか。

「我々は違法コピー対策の『処刑人』を作るために、オタマモンを育成し、サラマンダモンに進化させようと試みたんだ」

なぜサラマンダモンを?

「DPが低くて燃費がよく、それでいて破壊活動が得意…そんなデジモンがほしかったからだ」

なるほど。

「ビオトープ内ではデジモンは成長期以上に進化しなくても平気だから…、成熟期へ進化させるには様々な環境負荷を与える必要があった」

うちのデジモン達も成熟期にならないな。

「そうしてオタマモンはサラマンダモンへ進化した。これで処刑人の力で、違法コピーユーザーを撲滅できる…!そう考えていた。実際、サラはよく働いたよ」

名前つけてたんですね。

「だが、思わぬ弊害があった」

な、なんですか?

277: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2023/07/24(月) 21:56:15.42 ID:WtajV90OO
「…君達は、デジタルワールドからなぜ幼年期や成長期のデジモンがいなくならないか、考えたことはあるか?」

幼年期や成長期が…?
よく考えると、成熟期デジモンがデジタルワールドにどんどん増えていくのなら、それに狩られる幼年期や成長期デジモンは減っていきそうですよね。

「デジモンは、幼年期や成長期を最終形態とする個体群を除いて…成熟期にならないとデジタマを産まない。だが、成熟期になったとたん、生態系のピラミッドの最下層を補填する勢いでデジタマを産むんだ」

そ…そんなに。

「高いDPのデジモンはそれほど産まないが…DPが低いデジモンは産卵のペースが凄まじい。スカモンやゲレモンは凄かっただろう」

ええまあ…。

…つまり…

「サラもまた、デジタマを産みすぎた」



「我々の世界の有性生殖ならば、交尾をさせないことで繁殖をセーブできる。だが…単為生殖となると、それは止めようがない」

まあ生理現象みたいなもんでしょうからね…。
産んだデジタマを逐一捨てたら、怒って言うこと聞かなくなるでしょうし。

「苦肉の策だった。我々は…サラを手放した」

手放したって…

「デジタルワールドへ放逐されたサラは、ずっと我々のデジドローンを探し続けていたよ。…心が傷んだ。そこの岸部さえもね」


278: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2023/07/24(月) 21:59:03.66 ID:WtajV90OO
「同じ過ちを繰り返さないように、サラが残した8つのデジタマは成長期のまま大切に育てると決めた」

なるほど…。

「君達が…我々と同じ過ちを繰り返さないことを祈っているよ」

分かりました。
ありがとうございます。




私とクルエは、帰りの車の中で、終始無言だった。

きっとクルエも、神木さん達の苦悩を想像して頭がいっぱいいっぱいなのだろう。

280: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2023/07/24(月) 22:00:19.40 ID:WtajV90OO
車を降りて、しばらくしてから…
クルエは口を開いた。

「ってかパソコン燃やしてるときの岸部さんめっちゃキモくなかったですか?」

そっちかよ!!!

290: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2023/07/25(火) 20:26:11.78 ID:n+OSZIPOO
私は、デジモン達の繁殖について調査し、レポートを作成した。

野生デジモンの食物連鎖の頂点は成熟期デジモンだが…
ピラミッド下層の成長期や幼年期デジモンは、なぜ『いなくならない』のか?
という疑問が主題だ。

いなくらない、というのは…
「なぜデジタルワールドは成熟期デジモンだらけにはなっていないのか?」という意味と
「なぜ被捕食者である幼年期や成長期は、根絶していないのか?」という意味の両方だ。

当たり前の話だが…
食物連鎖のピラミッドは、被捕食者である下層がどんどん増殖しなくては、成立しない。

それなのに、被捕食者であるはずの幼年期や成長期デジモンは、(一部の個体群を除いて)デジタマを産まないのである。

これでは、すぐに食物連鎖のピラミッド下層が根絶してしまうのではないか…?


…結論から言うと…
デジモンの繁殖形態は、ある意味『蜂』に近いところがある。

蜂の社会は、大多数の働き蜂と、一匹の女王蜂で形成される。(※雄の蜂は今回言及しない)

女王蜂はひたすら産卵を行い、大多数の働き蜂は産卵せずに働くのである。

これは、女王蜂を中心として見れば、働き蜂を小間使いにしているかのように見えるが…

実際のところ、女王蜂は別に働き蜂へ何か命令をしているわけではない。ひたすら産卵ばかりしているのである。

これは裏を返せば、「大勢の働き蜂は、産卵という仕事を女王一匹に押し付けている」ともいえる。

デジモンの繁殖形態は、これに近い。
幼年期や成長期は、戦闘力は低いものの、産卵というタスクを成熟期デジモンへ押し付けているので、自身の生存にのみ全力になればいい。
少食であり、成熟期への進化という切り札を残しているので、環境適応能力も高い。

逆に成熟期デジモンは、戦闘力こそ高いものの、基礎代謝量が多い上に、幼年期や成長期に押し付けられた産卵タスクを担わなくてはならないのである。

その上、進化という環境適応の切り札を使ってしまった後であるため、個体レベルではもう「新しい環境へ適応する」ことが難しいのだ。

…そういうわけで、世の中弱肉強食…
と言いたいところだが…
強者は強者なりの苦労があり、むしろ弱者の方が気楽で生きやすいところがあるのである。

292: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2023/07/25(火) 20:36:41.97 ID:n+OSZIPOO
そしてレポートを、クルエと共に、リーダーへ見せた。

「成る程…。成熟期デジモンは、強者というより『強者としての在り方を強いられた者』なわけだな。それ故に、たくさんのデジタマを産まなくてはならないのか。…我々の世界の強者とは在り方が全く異なるな」

食われる幼年期や成長期デジモンは、子孫を残せずに死んでしまうわけですからね。
ならばその穴埋めは成熟期デジモンが担うことになります。

「仮に成熟期デジモンを、我々が育成した場合…、デジタマを産むなと言えば、産むのをやめられるだろうか?」

うーん…
そういう条件下で進化させれば、そうなるかもしれませんが。
野生デジモンと同じ環境負荷を与える条件下では、産卵を自分の意思で止めることはできなくなるでしょうね。

「ふむ…それは何故だ?」

リーダーがそう言うと、クルエがずいっと前に出た。

「止める方法があるなら私が知りたいですよ…私生理が重くって、しんどくて生理痛きついんですよ。ピルとか飲まずに自分の意思で止めれるならとっくに止めてますよ」

リーダーはそれを聞いて慌てる。
「そっそうなのか?体調が悪いなら休んでいいぞ…」

「そういうことじゃなくて。『卵を産みたくないのに産まれてしまう』というのは、人間もデジモンも同じってことです。頭で嫌がっても、排卵日は嫌でも来るんです。世の中に、産みたくない子供を産んでしまった女性がどれだけいるか、想像に難くないですよね?」

「な、なるほど…その通りだな」

いつになく言葉に迫力のあるクルエ。リーダーが気圧されている。
なんというか…よくそんなこと堂々と言えるな…。

295: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2023/07/25(火) 20:54:09.27 ID:n+OSZIPOO
まあ、人間だけの話とかではなくて…

「遺伝子は利己的」と言えばリーダーなら分かりますね。

「…なるほど。確かにそうだな」
「え?利己的?なにが?」

リーダーはうなづくが、クルエはピンと来ていないようだ。

…例えば、車を運転しようとした時。
車載コンピューターが「今は気分が乗らないので走りたくない」とか言って走行を拒否したら、どうしますか?


「えー?そんな車…乗らないでしょ。ちゃんと走る車を選びますよ」

そう。
そういうことです。

つまりその話でいう車載コンピューターが、人間やデジモンの「脳や心」であり。
運転手が「遺伝子」なんです。

「遺伝子は…脳や心より、偉いってことですかね」

遺伝子は、デジモンの心が子供を産みたがろうが、産むのを嫌がろうが、「産むことを強制する」んです。

なぜなら、仮に脳の自由で子を産むことを拒絶できるように進化した種が現れたなら…
その種はやがて、個体数が減っていき、通常種との生存競争に敗けて絶滅するからです。

逆にいうと、脳が遺伝子に操られる生物は、そうであるからこそ淘汰されず生き残ってきたわけです。

「じゃあ、私が嫌でも生理痛に苦しまなきゃいけない理由は…。『自由に生理を止めれる人間がいたかもしれないけど、それらは子を残さなかったから滅んだ』かもしれないってことなんですね」

そういうことです。

「ほんと、遺伝子って利己的なんですね~…」

296: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2023/07/25(火) 21:06:36.82 ID:n+OSZIPOO
「…それはさておき。今日はいよいよ例の作戦を決行する日だ。この日に備えて、コマンドラモンとマッシュモンは準備と訓練をしてきたんだ」

え?例の作戦って何ですかリーダー?

「あれ?ケン君に言ってませんでしたっけ」

クルエさんは知ってるんですか?

「おや、伝えるのを忘れていたか。オペレーション・テイマーズ…デジタマ採取作戦を行うんだ」

デジタマ採取ですか。
何を狙うですか?

「こっちに来てくれ。メガとシンが主導で進めている作戦だ」

私はリーダーに連れられて、大型モニターのある部屋に来た。

部屋の中心では、メガが腕を組んで仁王立ちしている。

「ヒトロクマルマル!これより、エクスブイモン並びにスティングモンのデジタマ採取作戦を決行する!!」

うおお!
こんなに気合入った声のメガは初めて見たぞ。

300: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2023/07/25(火) 21:42:37.29 ID:n+OSZIPOO
「コマンドラモン、ボスマッシュモン!そしてミニマッシュモン軍団!配置に付け!パルモンは命令があるまで待機!」

メガがそう言うと、コマンドラモンとボスマッシュモンから「ラジャー」とチャットが飛んできた。

…えっと、いったい何が始まるんです?リーダー。

「対クラッカー用セキュリティデジモンを育成するならば、やはりデジクロスの素養を持つデジモンを最優先で確保したい。そこで、ディノヒューモン農園で最近産まれたエクスブイモンとスティングモンのデジタマを採取することにしたんだ」

なるほど…。
デジタマはどこにあるんですか?

「木でできた小屋の中だ。入口には亀型成長期デジモンのガメモンが2体、常に見張っている。不届き者が来たら木で作ったラッパを鳴らして報せるらしい」

警備が厳重なんですね。

「前に我々がディノヒューモンのデジタマを一個奪ったからな。しかも、何やら他にもデジタマを奪われたデジモンがいたらしい…。そんなわけで、警戒レベルは今かなり高い」

なるほど…。
ディノヒューモン農園、かなりでかくなってますね。
木製の建造物がたくさん見えます。

相手の戦力は?

「農耕・労働階級は成長期が中心だが…。群れの長であるディノヒューモンとスティングモンの2トップと、メガが『四天王』および『死神』と呼んでる5体の成熟期がいる」

四天王と、死神ですか。

「ああ。四天王というのは…亀型デジモンのトータモン。竜人型デジモンのエクスブイモン。火炎竜型デジモンのフレアリザモン。そしてカエル型デジモンのゲコモン。この4体だ」

no title

no title

no title

no title


あれ?
前はフロッグモンやサラマンダモンがいませんでした?

「あの二体は略奪者との戦いで死んだ。その子供がゲコモンとフレアリザモンだ」

両方とも二足歩行ですね。

「その方が仕事がしやすいんだろうな」

304: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2023/07/25(火) 21:51:57.47 ID:n+OSZIPOO
それで…死神というのは?

「蛾型デジモンのモスモンだ。ハッキリ言って、今のディノヒューモン農園ではパイルドラモンの次にヤツが強い」

no title


モスモンですか…
体が小さいですね。成長期みたいだ。
強いんですか?

「空を飛んで機関銃を連射できるんだぞ?眼球なんて狙われてみろ、正面からまともに戦える奴はいない」

なるほど。
モスモンのデジタマは狙わないんですか?

「それも考えたが…、奴は高い木の幹に巣穴を掘って産卵する。少しでも巣穴から音を立てたら蜂の巣だ。今のメンバーでは安全な採取が困難なので、保留だ」

いずれは欲しいんですね。

「そうだな。…さて、いよいよ作戦開始だ」

305: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2023/07/25(火) 21:58:12.54 ID:n+OSZIPOO
ちょっといいです?
四天王の中で、トータモンだけ四足歩行なのは何故なんでしょうか。

「トータモンはパワーがある。森林から伐採してきた材木を何十本も引きずって集落まで搬送できる。スピードはともかく、馬力ならタスクモン以上…グレイモン級かもしれないな」

うへぇ…
しばらく見ないうちに発展してるんですね。

こんなバケモノ軍団に、成長期だけで乗り込んで大丈夫なんですか?

「うまくいけば問題ないはずだ」

どこから行くんですか?

「小屋の中に直接デジタルゲートを開けたら、簡単だったが…あの中にアクセスポイントは無くてな。小屋に一番近いアクセスポイントからスタートだ。小屋との距離はおおよそ300mだ」

…健闘を祈ります。

306: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2023/07/25(火) 22:04:03.66 ID:n+OSZIPOO
メガが声を張り上げる。
「作戦開始!!」

オペレーションルームのスクリーンには、いくつものウィンドウ画面が表示されている。

ひとつは、農園を上空から映した地図と、コマンドラモンの体につけたマーカーの位置。

ひとつは、農園を上空から映した遠景の映像。

そして、コマンドラモンの主観視点の映像だ。


…あんまりよく見えないですね。

「奴らはデジドローンを嫌っている。モスモンの視界内にデジドローンが映ったら即破壊される」

こえー…。

ってあれ?上空映像にはコマンドラモンが映ってませんね。

「今は光学迷彩を使用中だ。この作戦のために、光学迷彩の持続トレーニングを積んで、スカモン戦の1.5倍長く消えてられるようになった。走らなければバレない」

…デジモンは進化だけじゃなく、トレーニングでも個体の強さが伸びるんですね。

307: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2023/07/25(火) 22:20:26.40 ID:n+OSZIPOO
コマンドラモンの主観視点の映像は、どんどん小屋へ近づいていく。

ディスプレイには、光学迷彩の残存連続可能時間が表示されており、だんだん数値が下がっている

やがて、入口を見張っているカメモンの顔が映像に近づいてきた。

だが、カメモンはコマンドラモンの接近に気付かなかった。

…コマンドラモンは、無事に小屋の中に潜り込んだ。

小屋の中には見張りがいない。

そしてコマンドラモンは、小屋の中で光学迷彩をいったん解除した。

…今物音を立ててカメモンに見つかったら…
笛を鳴らされるんですよね…確か。

「そうだ。死神のモスモンだけでなく、エクスブイモンとスティングモンがデジクロスしたディノビーモンも来るだろうな」

つまり即死ってことですか。

「そうだ」

頑張れコマンドラモン…!

308: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2023/07/25(火) 22:32:30.93 ID:n+OSZIPOO
そしてコマンドラモンは、バッグから何かを取り出した。

…あれは何だろう。固形物だ。
何か固形物を取り出して、コマンドラモンはそれを食べた。

「無臭のレーションだ。デジタルワールドに自生しているバナナと、野生のデジモンの肉を混ぜて乾燥させ、においを消したものだ。帰路の光学迷彩を発動するために栄養を補給している」

野生のデジモンの肉?

「ああ。バクモンの肝臓だ」

どうやって仕留めたんです?

「光学迷彩を使いながら接近して…頸動脈をナイフでグサリだ」

つっよ。バクモンって成長期ですよね?
やっぱコマンドラモンって殴り合いが苦手なだけで、暗殺なら得意なんですね。

「作戦のために犠牲にした野生のバクモンには感謝しなくてはならないな。コマンドラモンには、『頂きます』の挨拶を教えたよ」

そうなんですね…。

312: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2023/07/25(火) 22:46:23.82 ID:n+OSZIPOO
コマンドラモンが栄養を補給し始めたのを見たメガは、指令を続ける。

「第一段階クリア!続いて第二段階目開始!ボスマッシュモン、ダミー隊用意!」

メガがそう指示すると…

小屋の地面から、にょきにょきとマッシュモンが二体、生えてきた。

うお!?なんだあれ!?

「ボスマッシュモンもトレーニングを積んで器用になった。ゲレモンやスカモンの戦法を真似したらしくてな。チビマッシュモンと有線の菌糸を繋げることで、視界を常に共有しつる命令を出せるようになった」

な、なんか地面からマッシュモンが生えてきたんですが。

「作戦の数日前から、地面の中にマッシュモンの菌糸を侵入させておいた。成長したマッシュモントリュフのように土の中で眠っていて…、今、ボスマッシュモンと接続して目覚めたんだ」

なんか…うちの戦力バケモノ揃いですね。

「白兵戦以外は器用だよな…白兵戦以外は」

小屋に生えたマッシュモンは、ふたつのデジタマを眺めている。

…すると、地面からデジタマによく似た模様のキノコがいくつも生えてきた。

あ、あれは!?

「菌糸のコントロールだ。ある程度望み通りの形のキノコを生やせる。ああしてダミーを作っている」

…随分トレーニングしたみたいだな…。
デジモンは、進化しなくても、トレーニングだけでこんなにやれることが増えるのか。

「うちのボスマッシュモンが異常なんだ」

314: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2023/07/25(火) 23:03:10.62 ID:n+OSZIPOO
小屋の中には、どんどんマッシュモンが増えていく。

…前もってあれだけのマッシュモンを、地面の中でトリュフみたいに育てていたのか。
怖すぎるでしょ…。

十分な数のマッシュモンが増えたのを見たメガは、指令を出した。

「第二段階クリア!続けて第三段階。集落の外で待機させておいたチビマッシュモン軍団!並びにパルモン!強奪作戦開始!」

メガがそう言うと、コマンドラモンは2つのデジタマを抱え、ガスマスクをつけた。

そして、集落の外から、大勢のチビマッシュモン達がどっと湧いてきて、大声をあげながら集落に侵入した。

「マシー!マシマシー!」

チビマッシュモン達は、トータモンやゲコモンのデジタマ置き場を目掛けて突撃した。

びっくりした集落の住人デジモン達。
カメモンは笛を吹いた。

スナリザモン、ブイモン、カメモン、ファンビーモン達は、チビマッシュモンと交戦する。

すると、チビマッシュモン達は…
何かを撒いた。

…あれは!
フローラモンの花粉だ!
どこから調達したんだ!?

爬虫類デジモン達は、花粉のアレルギー作用で咳ごみ、大量の涙と鼻水を流している!

そうしてチビマッシュモン達は、トータモンやゲコモンのデジタマ置き場へ突き進んだ。

315: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2023/07/25(火) 23:08:00.87 ID:n+OSZIPOO
…だが、集落の住人には、花粉が効かない者がいた。
蜂型成長期デジモン、ファンビーモン。そして幼虫型成長期デジモンのワームモンである。

虫にとって花粉は主食だ。
アレルギーになどなるはずがない。

ファンビーモン達とワームモン達は、チビマッシュモンを攻撃した。

ファンビーモン達は、ギザギザした針を剣のように振るってチビマッシュモンを斬る。

ワームモン達は、ネバネバした糸を吐いて、チビマッシュモン達を捕らえる。

むむ…強いぞ…!



そうして、徐々にチビマッシュモンの侵入ペースが落ちてきた頃…

「マシーーーーーー!!」

…エクスブイモンとスティングモンの卵を置いた小屋から、たくさんのマッシュモンが飛び出してきた。

エクスブイモンとスティングモンのデジタマに似せたたくさんのキノコを、それぞれが持っている。

それを見たファンビーモン達は大慌てしている。

317: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2023/07/25(火) 23:16:19.81 ID:n+OSZIPOO
「マシーーーーーー!!」

偽デジタマを抱えたマッシュモン達は、集落の外へ逃げていく。

ワームモン達は、マッシュモン達をネバネバした糸で捕らえていくが…
マッシュモンはバトンリレーのように、偽デジタマを手渡していく。

このまま、偽デジタマを持ち帰れるか…!?
いや、いらないんだけど…。


その時。


連続した凄まじい銃声が鳴り響いた。
大勢のマッシュモン達がばたばたと転倒する。

「マ…マシ…!」「マシー!」

来たな…!
死神モスモンが、ガトリング砲から煙を出しながらやってきた。

しかしマッシュモンは菌糸のデジモン。
腹部に風穴を開けられた程度じゃ死なない。

立ち上がろうとするマッシュモン達だったが…


瞬きしたその瞬間に。
十数匹のマッシュモンが、一瞬でサイコロステーキのようにバラバラになった。
持っている偽のデジタマごと。


ついに出たな…!

…ディノビーモンが、突如出現した。
エクスブイモンとスティングモンがデジクロスして誕生したデジモンだ。


ディノビーモンはすぐに消えた。
直後、再び十数匹のマッシュモンが、ダミーデジタマごと粉々になった。

こんなに速いなんて…!
速すぎて目で動きが追えない!

319: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2023/07/25(火) 23:23:29.66 ID:n+OSZIPOO
チビマッシュモン達が瞬殺されている間に…
コマンドラモンの位置マーカーは、どんどんデジモンキャプチャーのアクセスポイントへ近づいていく。

よし!
このまま持ち帰れば、採取成功だ!


…そう思った瞬間。
突如、コマンドラモンの視界は転倒した。


何だ…!?
何があった!?コマンドラモン!?


コマンドラモンの視界は、自分の足を映した。

うぅ、コマンドラモンの脛の真ん中から血が…!

モスモンの流れ弾が飛んできたようだ。


チビマッシュモン達は、コマンドラモンがいない方向へモスモンとディノビーモンを陽動していたから…
こっちに弾が飛んでくることは想定外だった。

そして、脚が映ったということは…
光学迷彩が解けたんだ!


コマンドラモンの視界の隅に、2つのデジタマが転がった。


や…やばい!

320: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2023/07/25(火) 23:29:33.36 ID:n+OSZIPOO
コマンドラモンは、片膝で立って、2つのデジタマを持ち上げると…

デジモンキャプチャーのゲートのある方向へ、勢いよく転がした。

デジモンキャプチャーのゲートの中から、植物型デジモンが飛び出した。

no title

二足歩行で立つ植物型デジモン。
頭から花が咲いている。

一目でわかった。
フローラモン改めピョコモンの、進化した姿だ。

メガは叫んだ。
「パルモン!ツタだ!」

その言葉と共に、パルモンはツタを伸ばしてデジタマを捕獲し…
デジモンキャプチャーのゲートの中に投げ込んだ!

よし!
デジタマは確保した!
あとはコマンドラモンを救助すれば、作戦は…!

321: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2023/07/25(火) 23:32:49.68 ID:n+OSZIPOO
そこまで言いかけた時。
私は大型スクリーンで、コマンドラモンの視界を確認した。



コマンドラモンの視界には…

こちらを向いている、モスモンとディノビーモンが映っていた。

327: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2023/07/26(水) 22:06:17.45 ID:9MjEj3qTO
デジクロスでレベル5となったディノビーモンと、成長期のコマンドラモンとの戦力差は圧倒的だ。
加えてコマンドラモンは脚を怪我しており、光学迷彩もたった今解除されてしまったばかりである。
万に一つも助かる見込みはない。


コマンドラモンは、背後のパルモンへ、先に逃げるように促した。


ディノビーモンは、脚に力を入れて前に屈む。
距離を詰めに来る気だ…!



そこへ、何者かが割って入った。


背中に大剣を背負った、人型爬虫類デジモン…
農園の主、ディノヒューモンだ。

ディノヒューモンは、ディノビーモンとモスモンを制止した。


…字面が非常にややこしいが…
ディノ『ビー』モンは、エクスブイモンとスティングモンがデジクロスした蜂型デジモン。

ディノ『ヒュー』モンは、人そっくりなシルエットをした爬虫類型成熟期デジモンだ。

『ビー』と『ヒュー』の部分でうまく読み分けて欲しい。

329: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2023/07/26(水) 22:21:28.98 ID:9MjEj3qTO
ディノヒューモンは、コマンドラモンへ近寄ると…
そっと手を伸ばした。

その手は優しくコマンドラモンの額に触れた。

…どうしたのだろうか?
ディノヒューモンから見れば、相手は群れの仲間のデジタマを奪った憎き盗人であるはずだ。
一体なぜ…?


作戦の指揮を務めるメガは、何も言えずにディスプレイを見つめている。
パニックで頭が真っ白になっているようだ。

誰だってそうなるだろう。
私が同じ立場でもそうなる。




その時。

ディノヒューモンの少し後ろから、何かが力強く殴打される音がした。

驚いて背後を振り向くディノヒューモン。



なんと、ディノビーモンとモスモンが…
背後から、今まで私が一度も見たことのない猿型デジモンに、武器で後頭部を殴りつけられていたのである。
no title

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モスモンをブーメラン状の武器で殴打したのは、大きな仮面を被った身軽そうな猿型デジモン。

ディノビーモンを骨棍棒で殴打したのは、金色の毛皮を持つ筋肉質な猿型デジモンだ。


モスモンとディノビーモンは昏倒した。
ディノビーモンはデジクロスで得た力をスピードに全振りしているため、防御力は並の成熟期デジモン程度であるらしい。

331: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2023/07/26(水) 22:28:22.31 ID:9MjEj3qTO
メガはそのデジモン達を見て驚いた。
「奴らは…蛮族!何故ここに!?」

ば…蛮族!?
蛮族って何ですか!?

リーダーが私に教えてくれた。
「ジュレイモンやスターモンがいる森から遠く離れた、別の森林に住んでいるデジモンだ」

未探索の森林に…!?

「ディノヒューモン農園は木材を得るために、度々森林へ行って樹木を伐採しているんだが…どうやらそこで敵対したらしい。サラマンダモンとフロッグモンが死んだのも奴らとの交戦のせいだ」

それが何故今ここに…!?

「なぜかは分からないが…、蛮族は度々農園の作物を狙って攻めに来ることがあった。もしかしたら、農園の長の命を狙う機会をずっと狙っていたのかもしれない」

な…なんてことだ。
変な恨みは買うもんじゃないですね。

「あの仮面を着けているヤツはセピックモン。金色のヤツはハヌモンと、我々は呼んでいる。…そして、あれが…ゴリモンだ」

リーダーが指さした画面では…
右腕が砲身のような形状のゴリラ型デジモンが、ディノヒューモンに襲いかかっていた。
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335: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2023/07/26(水) 22:45:20.46 ID:9MjEj3qTO
セピックモンは、小柄なモスモンに馬乗りになって、頭部へブーメランを何度も打ち付けている。

その様子を眺めるリーダー。
「モスモンは戦闘力が強大だがDPが低いデジモンだ。つまり肉体が頑丈じゃないということだ。そういうデジモンは、自分のペースで戦えているうちは強いが…ああやって不意打ちをされると、とても脆い」

なんか我々、DPが低いのに強いデジモンを探していましたが…
ああいう弱点があるんですね…。

「そうだな…」



ハヌモンは、骨棍棒でディノビーモンの後頭部を滅多打ちにしている。

打撃を受けたディノビーモンは頭部から出血し、殴打される度に血が飛び散っている。

ハヌモンに馬乗りになられているディノビーモンは、劣勢を覆そうとして、起き上がろうとしている。
ディノビーモンはスピード特化の形態だが、その超スピードを生み出す筋肉は勿論パワーも相当なものだ。

しかし、そこへさらなる声が近づいてきた。
「キー!キキー!」

…2体のずんぐりむっくりした猿型デジモンが出現し、ディノビーモンの手足を地面へ押さえつけたのである。
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「ヤツはジャングルモジャモンだ。あいつら蛮族が住む密林では最も数が多い猿型デジモンだ」

ジャングルモジャモンは、暴れるディノビーモンの手足を掴んでいる。

ディノビーモンの血飛沫が、ジャングルモジャモンの茶色の毛皮に浴びせられる。


ディノヒューモンは、大きな剣でゴリモンと戦っているが…
ゴリモンは右腕の硬い砲身で剣を弾きながら、ディノヒューモンへパンチや砲撃を確実に当てている。
明らかに劣勢なディノヒューモンは、だんだん弱っていく。


蛮族の成熟期が5体もこの場に集まっている…!
混戦状態だ。

336: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2023/07/26(水) 22:48:47.46 ID:9MjEj3qTO
その状況を見たコマンドラモンは…
手榴弾を取り出した。


そしてコマンドラモンは、その手榴弾を…

338: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2023/07/26(水) 22:58:57.55 ID:9MjEj3qTO
…ジャングルモジャモンとハヌモンにボコられている…
ディノビーモンの側頭部へと投げつけた。


手榴弾が爆発する。
爆風と破片がディノビーモンの頭部へダメージを与えた。

成長期の攻撃といえど、この至近距離で回避不可の状況でくらったらディノビーモンといえどただでは済まないだろう。


そしてコマンドラモンは、パルモンに合図をした。
パルモンは、ツタを伸ばしてコマンドラモンに絡ませ、一緒にデジタルゲートへ飛び込んだ。
これにてデジタマ採取任務は無事完了である。

研究所の皆は、コマンドラモンが無事にミッションを達成して帰還したことを喜んでいる。


よくやった…
よくやったよコマンドラモン。
状況を的確に判断し、最善を尽くして帰還したことは称賛に値する。


し…しかしだ!
情けをかけてくれた相手に対して…それはどうなんだコマンドラモン…!?
ちょっと外道が過ぎるぞ!?
もし君がフィクションの物語の主人公だったら、間違いなく視聴者から反感を買っているに違いない…!


だが、この世界はフィクションじゃないし、我々も主人公ではない。ここは現実だし、我々はそこに生きるちっぽけな生き物だ。

善人が都合よく報われるような見えざる神の手など有りはしない。利を棄てて仁を選ぶ者ほど損をする世界であることは、歴史が嫌というほど証明しているのだ。


…まあ、もし蛮族を攻撃したところで、ジャングルモジャモンあたりがコマンドラモンに狙いを定めるだけだろうから…
変にディノヒューモン一派に加担したところで、状況は好転どころか悪化するだけだ。

その選択をしなかったのは、合理的だし『正しい』判断ではあるのだろう。

…でも…なんかこう…もにょもにょする…!

340: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2023/07/26(水) 23:11:19.51 ID:9MjEj3qTO
コマンドラモンが無事に帰還したが…
少しでもデジクロスに関するデータは計測しておきたい。

我々はデジドローンを一機出して、ディノビーモンのデータを計測しながら、戦いを見守った。

戦いは農園組が圧倒的に不利だ。
モスモンは夥しい出血をしており、もう戦闘不能に陥っている。
このまま殴打され続ければ頭蓋が割れて死ぬだろう。

…ディノヒューモンは、ゴリモンの顎を殴りつけた。
ディノヒューモンの腕についた刃が、ゴリモンの頬を裂いた。
怒ったゴリモンが放った強烈なアッパーカットが、ディノヒューモンの顎を捉える。
ディノヒューモンは地面を転がった。立ち上がろうとしてもふらついている。脳震盪を起こしたようだ。


ディノビーモンは…

装甲を組み替えて、パイルドラモンへと変形した。

342: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2023/07/26(水) 23:17:07.86 ID:9MjEj3qTO
ハヌモンはパイルドラモンの頭部を殴打し続けるが…
先程までと違い、一切ダメージが入っている様子が見えない。

パイルドラモンは、そのまま身を起こし…
手足を押さえつけているジャングルモジャモンや、馬乗りになっているハヌモンを意に介さぬと言わんばかりに、立ち上がった。

両腕を勢いよく振るうパイルドラモン。
ジャングルモジャモン2体が遠心力で吹き飛んだ。

ハヌモンは、骨棍棒をパイルドラモンへ振るう。
パイルドラモンはそれを頭突きで迎撃し、骨棍棒を逆に粉砕した。

驚くハヌモンの腹部へ、パイルドラモンの鋭いパンチが突き刺さる。
パイルドラモンの腕についたパイルバンカーが勢いよく突き出て、ハヌモンの脊椎を貫通した。

そのままパンチの勢いでハヌモンを吹き飛ばしたパイルドラモンは…
モスモンをタコ殴りにしているセピックモンの方へ向かった。

セピックモンはブーメランを投げて攻撃する。
パイルドラモンはそれを手で打ち払い、仮面を着けているセピックモンの顔面にパンチを放つ。

その一撃で、セピックモンの頭部は仮面ごと粉微塵に粉砕した。

344: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2023/07/26(水) 23:28:57.83 ID:9MjEj3qTO
ハヌモンをケンカキックでボコっているゴリモンは、実力差を思い知ったらしく、一目散に逃げ出した。

だが、パイルドラモンは腰についた2丁の機関銃を構えると、必死に逃げるゴリモンへ向かって乱射した。

流れ弾が当たった樹木は一撃でへし折れ、空中できりもみ回転している。

そんな威力の銃弾の集中砲火を浴びせられたゴリモンは、みるみるうちに原型が無くなり、肉塊となって散らばった。



吹き飛ばしたジャングルモジャモン達はというと…
凄まじい勢いで地面を駆けて逃げていく。

ナックルウォーキングに適した長い腕は、地面を走行するときにも役立つらしい。

ジャングルモジャモン達の逃げ足は速い。
あっという間に50mほどの距離をつけていた。

パイルドラモンのスピードでは追い付けないだろう。

345: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2023/07/26(水) 23:30:26.61 ID:9MjEj3qTO
…パイルドラモンは、再び装甲を組み替えて、ディノビーモンとなった。

そしてディノビーモンは、脚に力を入れると…
その姿はあまりの超スピードで消え、土埃が線となってジャングルモジャモンを追跡した。

ものの1秒ほどで60mの距離を詰め、ジャングルモジャモンへ追い付いたディノビーモン。
その走行スピードは、時速換算でおおよそ200km/hである。


2体のジャングルモジャモンは驚いた表情をしたが…
ディノビーモンが目にも止まらぬスピードで腕を振るうと、ジャングルモジャモン達の顔はその表情のまま真っ二つに両断された。

346: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2023/07/26(水) 23:38:19.87 ID:9MjEj3qTO
全ての襲撃者を殲滅したディノビーモンは…
デジクロスを解除し、エクスブイモンとスティングモンに戻った。

二体はその場で腰を下ろし…
ぜぇぜぇと荒い呼吸をして寝っ転がった。

デジクロスには弱点がある。
成熟期デジモン2体の肉体に貯蔵されているエネルギーから、無理矢理レベル5相当の出力を引き出しているのだから、合体が継続するのは短時間なのだ。
しかも凄まじくエネルギーを消耗する。激しい戦闘を続けた今の二体は、餓死寸前までエネルギーを消耗し、ひどく疲労困憊していることだろう。

…集落が騒がしい。
チビマッシュモンの生き残りはもう撤退済みのはずだ。
おそらく今の襲撃者達以外にも、手薄の農園を狙って攻めている蛮族デジモンがいるのだろう。

エクスブイモンはふらふらと立ち上がり、集落の方へ向かおうとする。

…スティングモンはそんなエクスブイモンの腕を掴み、引き倒した。

そして、ジャングルモジャモンの死骸から肝臓を引きずり出し、エクスブイモンへ与えた。

347: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2023/07/26(水) 23:39:40.68 ID:9MjEj3qTO
ジャングルモジャモンの死骸へ齧り付き、肉を食い千切ってかっこむエクスブイモン。
とにかく腹が減って仕方ないのだろう。食事に夢中なようだ。

スティングモンは、周囲を警戒しながら、もう一体のジャングルモジャモンを食い始めた。

360: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2023/07/27(木) 22:59:26.07 ID:nPIMNH1io
エクスブイモンは、勢いよく餌を食べていたが…
急に首の後ろを押さえた。
うずくまった。

そして、その場で嘔吐してしまい…
鼻血を出して倒れた。

倒れて痙攣するエクスブイモンを揺さぶるスティングモン。
ある程度歩ける体力を補給したスティングモンは、エクスブイモンを肩に担いで集落へ向かった。


…ディノビーモン形態だったときに、ハヌモンから後頭部をしこたま殴られたダメージが効いてきたようだ。

コマンドラモンの爆弾が頭部に直撃したダメージもあるのだろう。

パイルドラモン及びディノビーモンは、エクスブイモンがスティングモンを装甲として身に纏う合体をする。
そのため、後頭部へのダメージは殆どがエクスブイモンに行くようだ。

ディノビーモンを地面に組み敷けるパワーをもつハヌモンから、何度も急所である後頭部を殴打されて…
無事なわけがなかったのだ…。

362: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2023/07/27(木) 23:19:00.70 ID:nPIMNH1io
途中でディノヒューモンと合流したスティングモン。

ディノヒューモンは、動かなくなったモスモンを抱きかかえながら、集落へ走っていた。



農園では、蛮族デジモンの成長期であるコエモンの群れが、2~3体のジャングルモジャモンと共に、作物を略奪していた。
no title



襲撃者に対するディノヒューモン集落は…
善戦していた。

ワームモンがネバつく糸を吐きかけて、コエモンを拘束する。
この糸がかなり頑丈であり、コエモンだけでは自力で外せない。
成熟期のジャングルモジャモンでさえ、糸を簡単には千切れないようだ。

その上、集落には四天王の残り3体のうち、ゲコモンとフレアリザモンがいた。
トータモンは遠征中で出掛けているようだ。

ゲコモンは、指向性の超音波攻撃を出して、コエモンを吹き飛ばしている。
格闘戦は得意でないようで、ジャングルモジャモン1体と互角のようだ。

だがフレアリザモンはかなり強い。
炎のツメを振るい、コエモン達を次々と倒していく。
炎を吐いて、ジャングルモジャモンの毛皮を燃やす。


そうして、作物や死んだ成長期デジモンの死骸がいくらか持っていかれてしまったが…
ひとまず蛮族デジモンを追い返すことに成功したようだ。

363: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2023/07/27(木) 23:25:40.12 ID:nPIMNH1io


夜。

集落で、エクスブイモンとモスモンが手当を施されていた。

だが、どちらもどんどん衰弱していく。


…そして、二体はその夜に死亡した。
ディノヒューモンとスティングモン、残りの四天王は悲しみ、二体のデジモンの葬儀を行った。


うぅ…こんなことになってしまうなんて。
我々は平和利用のために、ちょいとデジタマを貰おうとしたのだが…

偶然にも、蛮族が不意打ちをする絶好の機会を与えるきっかけとなってしまった。

さすがに罪悪感がある…。
こんなことを引き起こすつもりはなかったのだ。

作戦を主導したシンとメガも複雑そうな表情をしている。

364: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2023/07/27(木) 23:35:18.44 ID:nPIMNH1io
ディノヒューモンとスティングモン、四天王のうち3体は、何かを話し合っている。

スティングモンが、大げさな身振り手振りを交えながら、ディノヒューモンへなにか言っている。
『ウー!イーコロコロガッシ、グイグイ!』


な…何を言っているかわからん。
そう思っていると、メガが同時翻訳してくれた。
「スティングモンがディノヒューモンへ、『お前がタマゴを取り戻す邪魔をした』って言ってる」

凄いな。あいつらの言語が分かるのか。

「どうやら彼らの会話はボディランゲージが主で、口語はその補助らしい。ゲコモンやフレアリザモンが二足歩行になったのは、作業だけでなくボディランゲージが使えるようになるためだったみたいだよ」

なるほど…。

ディノヒューモンは、スティングモンへ言い返す。
『イーバブバブ、ウーコロコロシュパシュパ!イーバブバブシュパシュパ!』
「『スティングモンのデジタマを奪ったのは、俺の子供だった。俺の子供も盗まれた』…と言っているね」

366: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2023/07/27(木) 23:51:40.15 ID:nPIMNH1io
ディノヒューモンが怒りに震えながら話す。
『ウホウホ…ウホウホ、ゴロリ、ブイブイ!パタパタ!ウホウホワルワル!』

「『蛮族がエクスブイモンとモスモンを殺した。蛮族が悪い』と言ってる」


スティングモンは、少し考えたあと、頷いた。
『ウホウホ…シュパシュパ、ウーコロコロ、イーコロコロ…?』

「『蛮族が、お前や俺のタマゴを盗んだのか?』」



ディノヒューモンは地団駄を踏みながら頷いた。
『ンー!ウホウホ!ウホウホワルワル!』

「『そうだ、蛮族が悪い』だって」


そう聞いた一同は、一斉に同じことを繰り返した。
『ウホウホワルワル!ウホウホゴロリ!ウホウホワルワル!ウホウホゴロリ!』

369: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2023/07/27(木) 23:57:59.19 ID:nPIMNH1io
「…『蛮族が悪い、蛮族を[ピーーー]』って繰り返し言ってる」

つ、つまりだ、メガ…。
ディノヒューモンやエクスブイモン、スティングモンのデジタマを採取したのは全部蛮族の仕業ってことになったのか。

コマンドラモンは、蛮族に捕まって犯行に協力させられてる…みたいな?

「彼らの原始的な言語にそこまで細かい情報をやりとりできる語彙はまだないだろうけど…、おそらくそういう共通認識になったと思うよ」

まあ確かに…
ゲートの向こうの人間がどうこうした、なんて想像つかないだろうからな。

「言語を扱う集団の語彙力は、そのまま集団の思考力となる。彼らは農耕ができるほど文明を発達させてはいるが、細かい問題分析ができるステージには達していない。だから外敵に何かをされたら『目に付く外敵を排除する』以外の選択肢をまだ選べないんだ」

問題解決の基本スタンスが暴力による解決なんだね…。

「今のデジタルワールドでは、暴力で解決できないレベルの複雑な問題は発生しないからね」

371: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2023/07/28(金) 00:11:41.68 ID:vgDh2uWLo
四天王のトータモンも叫んでいる。
『オオォォ!オオォォ!!』

…トータモンは喋らないのか?

「トータモンは他の四天王や2トップより、脳の言語野の進化が進んでいないようだ。言われた言葉は理解できるが、自分で話すことはできないよ」

話せないデジモンも集落にいるんだ。

「モスモンに至っては言語を理解してすらいない。周囲の動きを見て、なんとなく敵対者へ銃を向けているだけだ」

昆虫型デジモンはそんななんだ…。
スティングモンだけ例外的に話せるんだな。

「言語野は我々人類が長い時間をかけて進化させてきた脳の機能だ。そうそう簡単に真似できるものじゃない」

そう考えると、うちの3体は凄いんだな。

「ディノヒューモンの子供のコマンドラモンや、独自言語をもともと使ってたマッシュモンは分かるけど、フローラモンがなぜあんなに早く言語を習得できたのかは未だに分からない」

…ディノヒューモン、やっぱおかしいよな。
ベタモンがいきなりあれになったんだよな、確か。

「蛮族でさえ、長い長い進化を続けて最近やっとディノヒューモンのレベルに追いつき始めたんだ。ディノヒューモンはやはりどこか、進化が特別におかしい」

パッチ進化で…何かを取り込んだのかも。
何をかは知らないけど…。

374: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2023/07/28(金) 00:22:08.41 ID:vgDh2uWLo


コマンドラモンに、なぜあの時ディノビーモンへ爆弾を投げたのか聞いてみた。

『わけのわからない てきが たくさんあらわれた。 ぶじにかえるには やつらに ねらわれない ひつようがあった』

なるほど…
あの攻撃は、ディノビーモンへの追い討ちというより、蛮族側に巻き添えで攻撃されないためにやったのか。

『でぃのびーは つよい ばんぞくを けちらしてくると おもった だからすこしでも きずをあたえる ひつようがあった』

…そうだな。
確かにコマンドラモンが生き延びるには、それが最善策だった。


私は「何もディノビーモンを攻撃しなくても…」とか考えた自分を恥じた。

そう考えられるのは、私が安全な司令室で、デジモン達を駒として見て、後からあーだこーだ言える立場だからこその余裕なんだ。

現場で命を張って実際に任務に当たっているコマンドラモンとは、視点が異なっていたんだな。



…なあ、コマンドラモン…。
仮にディノヒューモン陣営に協力してたらどうなってたと思う?
『わたしが ばんぞくに ころされていた』

じゃあ、もし一緒に蛮族を退治できていたら?
『でぃのひゅーから やさいを もらえたかもしれない だが たまごは かえさなくてはならないだろう』

…そうだよな。
『助けたお礼にデジタマを貰える』なんて都合のいい話はないよな。

『たまごは いちばん たいせつなもの じぶんのいのちより それをわたす とりひきは ありえない』

だよな…。
私の仮に自分に子供が産まれたとして。
『100万円やるから子供をよこせ』なんて言われて、取引に応じるはずがない…。

377: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2023/07/28(金) 00:26:39.91 ID:vgDh2uWLo
その大事なデジタマを…
我々は、奪った。

そのことの意味を、我々はしっかりと理解しなくてはならない。

我々にデジタマを奪われたスティングモンのことは、可哀想だとは思うが…
『だからやめよう』というわけにはいかない。

これは善と悪の戦いじゃない。
生存競争なのだ。

379: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2023/07/28(金) 00:32:51.86 ID:vgDh2uWLo


コマンドラモンは、モスモンに撃たれた傷に包帯を巻いた。

幸いにも傷は深くない。
立って歩けるように十分回復できるだろう。

さて、今回採取したデジタマはあれか。
エクスブイモンのデジタマと、スティングモンのデジタマと…

…んん!?
なんかもう一個あるけど!?

シン、あれは!?
「あー、死神モスモンのデジタマっすよ。モスモンは死んじゃったんで、木の見張りがいないわけっすよね?だからパルモンに頼んで、木登りして取ってきてもらいました」

…棚からぼたもちだな…。
モスモンが死んだ原因は我々にもある。
せめて大事に育てよう。



「おーい!ケン!ちょっと来てくれ!」

ん?どうしたカリアゲ!

「なんか変なことやってるデジモンがいるんだけどさ…あれ何やってるんだと思う?」

どれどれ…?
私はカリアゲの席の画面を見た。
デジドローンで、デジモンの観察をしているようだ。

381: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2023/07/28(金) 00:37:12.88 ID:vgDh2uWLo
デジドローンに映っていたのは…

燃える体の両生類デジモン。サラマンダモンだ。

あれ?サラマンダモンは死んだはずでは…?

「メガはそう言ってたけどな。子供がいたとか?でもこのサラマンダモン、なんかおかしいんだよ」

おかしいとは…?
画面に映っていたサラマンダモンは…

『クワー!クワァー!』


…何をやってるんだ、こいつは。


自分が産んだデジタマを…
自分で割って、火を吐いて燃やしている…!


デジモンにとって、あんなに大切なはずのデジタマを、何故…!?

395: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2023/07/28(金) 18:07:04.97 ID:eqdN6jETO
リーダーは不思議そうにサラマンダモンを見ている。
「自分が産んだデジタマを燃やしている…?食べる気か…?」

シンがリーダーに問う。
「あれなんか意味あるんすか?デジタマからしか採れない栄養があるとか…?」

「いいや、エネルギーロスになるだけだろうな。デジタマを産むのには多大なカロリーを消費する。それを焼いて食ったところで、消費カロリーとは釣り合わないはずだ」

そのままサラマンダモンを観察する一同。
やがて割れたデジタマから火が消えた。

デジタマだったものは、黒焦げになっている。

カリアゲは訝しげに観ている。
「ど…どうするんだ、あそこから」


『クワーァ!』

なんとサラマンダモンは、自分のデジタマの燃えカスを食うわけでもなく、尻尾で薙ぎ払って破壊した。

『クワーァ!クォーー!!』

そして周囲に、何かを報せるかのような鳴き声を発している。


「え、ええ…食うわけじゃなく、ただ自分のデジタマを破壊するだけかよ!?何の意味があるんだ!?」

リーダーは引きつった表情をしている。
「理解できない…。非合理的だ。こんな行動になんの意味があるんだ」

シンはドン引きしている。
「気が狂ってるんじゃないですか…?」

『クワーァ!クワアアァァ~~!』

メガはサラマンダモンの動きを観察している。
「周囲をきょろきょろ眺めている…。なにかを探してるんだろうか」

407: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2023/07/30(日) 14:29:40.24 ID:HhcdvCavO
一同がドン引きしながら見ている中…
クルエが呟いた。

「…サラじゃないですか、あれ」

え?
サラって…

「ん?なんだ?サラって?」

うお!
カリアゲが反応した。
…クルエは、絶対他言無用だったはずの名前を口に出してしまった。

「知っているのか?あの個体について」
リーダーに問わてたクルエは口を押さえて慌てている。

あ、ああ…
実は前にですね、クルエさんと一緒に赤いオタマモンを見つけたんです。
それが育ってコレになったのかなーと思って…ね!

「ああ、はい、そ、そです」

「…なるほど。名前まで付けるとは、随分愛着があるんだな」

愛着というか…
他のオタマモンと区別して呼ぶためにですね。
レッドオタマモンとか勝手に名付けても良かったんですが、まあまだ保留ということで。

「…にしても、一体何をやってるんだこいつは」

画面の中のサラマンダモンは、デジドローンの方を向いた。

「気付かれた…!?攻撃されるかもしれん、離れるぞ」

デジドローンはサラマンダモンから遠ざかっていく。

『クワーァ!クワァ!クゥーーワァァ!』

サラマンダモンはペタペタと這ってデジドローンを追跡してくる。

「追ってくるぞ!農園のサラマンダモンから、デジドローンは敵だと聞いているのかもしれん。いちど撤収だ」

そう言いリーダーは、デジドローンを近隣のアクセスポイントまで移動すると…
デジタルゲートを開き、デジドローンを引っ込めた。

サラマンダモンの叫び声は、ずっとデジドローンに浴びせられていた。

408: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2023/07/30(日) 14:40:57.90 ID:HhcdvCavO
一同は話し合っている。

「あの行動の理由は何だ?一体何があったら、あんな行動を取るようになるんだ?」

リーダーの問いかけに、頭を悩ませる研究員達。
私とクルエも悩んでるフリをする。

メガが何か思い浮かんだようだ。
「もしかして…子供にいちど殺されかけたことがあるんじゃ…?」

カリアゲは眉をしかめている。
「いや、子供デジモンが親を殺そうとするって…どういう状況だ?」

リーダーは腕組みしながら発言する。
「有り得なくはないが…生まれもしないうちからデジタマを破壊するようになるものだろうか。仮にそうだとして、次はもっとマシな子が産まれてほしいと望んで産まれてくるのを待つんじゃないか?」

メガは目をつぶる。
「うーーーん…。多分そうだよなぁ…デジモンが人間の言葉を理解できたら簡単だったのになぁ~…」

リーダーはクルエの方を向く。
「クルエはどうだ、何か考えはないか?」

「ひゅい!?」
慌てるクルエ。

「え、えーと、なんででしょうね…わかんないです」
知らない振りをするクルエ。

「お前はどうだシン?」
リーダーは、新人のシンに意見をたずねる。

「…現時点の情報では分からないッスけど…もし、調べるとしたら。あのサラマンダモンのデジタマを採取して育成すれば、答えが分かるんじゃないッスか?」

おお…!
確信に迫ろうとしている…!

410: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2023/07/30(日) 15:00:35.22 ID:HhcdvCavO
「よし!サラマンダモンのデジタマを採取して育成してみよう。ケンとクルエはサラマンダモンを観察して、デジタマを破壊する理由を推理する情報を集めてくれ。我々は捕獲作戦を計画しておく」

わかりました。
そっちはよろしくお願いしますリーダー。

「もしかしたら、極めて凶暴なデジモンが産まれるかもしれない。サラマンダモンのデジタマは、第二ビオトープへ隔離して育成することにしよう」

そうですね…。
準備お願いします。





私とクルエは、なんとなく察しがついている。
あの個体が、カンナギエンタープライズで育てられ、放逐されたサラならば…
デジタマを破壊するようになってしまった理由には心当たりがある。

だが、それは今このまま観察を続けたところで、決して自然には導き出せないだろう。

どうしようかな…

411: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2023/07/30(日) 15:14:19.75 ID:HhcdvCavO
リーダー達は採取作戦を考えている。
「サラマンダモンが警戒心が弱かったら、デジタマを簡単に採取できるんだが…ヤツは明確にデジドローンに反応し、追跡してきた。おそらくデジドローン自体を脅威として認識しているんだ」

メガは頷く。
「農園の初代サラマンダモンはすでに死んでるんだよね…あのサラマンダモンはその子供ってことかな。たしか、僕達がディノヒューモンのデジタマを採った後、スナリザモンと代わってデジタマ警備をしてたのが初代サラマンダモンだった」

よく覚えてるなそんなこと…。
メガの記憶力には驚かされる。
農園の言語を解析したときも驚いたけど、「あんなの日本語のオノマトペだけで構成されてるじゃないか。簡単だよ」と言ってたっけ。ぜんぜん簡単じゃないぞ。

リーダーは顎に手を当てる。
「では、サラマンダモンの子供も、デジドローン警備の任務を引き継いでいる可能性があるな。…だが、なぜあの仮称サラという個体は、農園から離れて暮らしているんだ?」

カリアゲはうーむと悩んでいる。
「そうだよな、なんでだろ…農園から追い出されたとか?デジタマを破壊するから?」

シンは、はっとした顔をした。
「なんか…分かったかもしれないッス」

「おお!?」
一同はシンへ期待の眼差しを向ける。

新人くん…まさか、サラの過去について気付いたのか!?

412: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2023/07/30(日) 15:21:57.24 ID:HhcdvCavO
シンは静かに語り始める。
「きっと…過去に一度、農園ではこんな事件があったんスよ」

カリアゲはごくりと喉を鳴らす。
「事件…?」

「蛮族っていたじゃないですか…猿型デジモンの。あの蛮族が、自分達のデジタマと、農園にあるサラマンダモンのデジタマを…、一個こっそり入れ替えたんッス」

「入れ替えた…?」

「そうッス。農園に潜り込ませるスパイを育成するために…。デジタマをひとつ持ち帰り、数合わせのために一個置いて帰ったんス」

「な、なるほど…」

「そしてサラマンダモンの目の前で、デジタマが孵化した。そこからはなんと、敵である蛮族の子供が産まれた!…驚いたサラマンダモンは、その場で蛮族の子供デジモンを焼き殺したんスよ!」

「ゴクリ…」

「そうして、農園デジモンの子供を焼き殺したと誤解されたサラマンダモンは、農園を追放された…!サラマンダモンは喋れないから、誤解を解けなかったんス!」

「な、なるほど…!」

「そうして追放されたサラマンダモンは…、自分のデジタマを破壊するようになった。どうッスかこの推理!」

「すげえよシン!筋が通ってる!きっとそうじゃねえか!?お前頭いいな!」

「えっへへーwwまあ、こんなもんスよ」


…ちがーーーーう!
違うんだシン!カリアゲ!そうじゃないんだ!
だが、私がそう言って否定できるだけの材料があるわけでもない。

くぅぅ…もどかしい!
訂正できないのがもどかしい!

422: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2023/07/31(月) 21:50:27.67 ID:x3HohwMoO
「ちょっと待てシン」

「なんっすかリーダー?」

「仮にそうだったとして…何故自分のデジタマを破壊するようになると?別に放っておけばいいんじゃないのか」

「えっとそれは、だから…自分のデジタマから蛮族デジモンの幼年期が産まれてこないように…と」

「それなら産まれるまで待って様子を見たほうが合理的ではないか?ちゃんと両生類系デジモンが産まれる可能性もあるだろう」

「そ、それは…そうッスけど…心ある生き物は常に合理的な判断ができるとは限らないッスよ」

「…それはそうだな。だが仮説としては弱い」

「じゃあ他にどういう理由があるんスか!?」

「…分からん」

わかんないよね…。
膠着状態だ。

「だが、今できることはある。デジタマ捕獲作戦の下調べだ」

「何するんッスか?」

「丁度いい。メガが作った試作品を試そう」

なんか作ったんですか?

「対クラッカー用撹乱兵器…ダミー・デジドローンだ」

424: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2023/07/31(月) 22:13:30.48 ID:x3HohwMoO
ダミー・デジドローン…。

これはリーダーが、対クラッカー戦を想定してメガに作らせた秘密兵器だそうだ。

デジモンを従える者同士がデジタル空間で戦闘を行う場合、司令塔を破壊することが最も有効な戦術だ。

我々が操作しているデジドローンは、簡単に作れるものではない。

我々がデジタルワールドやデジタル空間を視認するのに使っているソフトウェアであるデジクオリアは、古の時代に実在したシャーマンの特殊な才覚と霊能力を人工知能によって再現するものだ。

そして、その視聴覚を担うデジドローンとは…
日本では昔「管狐」や「飯綱」と呼ばれ、海外では「使い魔」と呼ばれた霊能力技術を再現したものである。
ある意味では擬似的な人工デジタル生命体に近いかもしれない。

そのため、一度破壊されてしまうと、再構成するのには長い時間がかかってしまうのだ。

もしクラッカー戦でデジドローンが破壊された場合、我々はデジタル空間を一切視認できなくなってしまう。
デジタルゲートを安全な位置へ開いてデジモンを避難させることすらできなくなる。それは戦闘を大きく左右するだろう。

そこで、クラッカー戦でデジドローンを破壊されないために、簡単に作れるダミーのデジドローンを開発したのだ。


これを使い、サラマンダモンがどのようにしてデジドローンを攻撃するのか探るつもりらしい。

425: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2023/07/31(月) 22:23:54.80 ID:x3HohwMoO
我々は、ダミー・デジドローンを操作して、サラマンダモンへ近づけた。

どう来るか…!?

サラマンダモンは、デジドローンへ気づいた。
すると意外なことに、サラマンダモンは…

『クワー!クワーァ!クワアアァァ!』

なんと、デジドローンへ抱きついたのであった。
近接攻撃は苦手そうなのに。

『クワー!クワー!クワー!クゥーン!クゥーン…!』

サラマンダモンは、デジドローンへ頬ずりを繰り返したり、ひっくり返って腹を見せたりしている。

リーダーは驚いている。
「…?何をしてるんだ?敵対心がある反応とは思えないな」

シンは訝しげに見ている。
「ぜんぜん攻撃してこないッスね…燃えた体で頬ずりしてくるのが攻撃?いや、あんま温度高くないッスねあの炎…」

カリアゲは、その様子を見てははっと笑った。
「うちの実家の犬みてえだ。けっこうな老犬でさ、白内障なんだけどよ、俺が会いに行くとあんな声出して甘えてくるんだよ」

「甘えて…いる?まさか…?デジドローンに…?」

「ん?どうしたんすかリーダー?」

「…まさか、あのサラマンダモン…誰かに飼われていたのか?」

「飼われてた!?な、何に!?」

「他の研究者か…あるいは、クラッカーに、だ」

おおっ!すごい!
みんな凄いぞ!!
この調子なら、近いとこまで推理できそうか…!?

427: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2023/07/31(月) 22:33:29.56 ID:x3HohwMoO
その様子を見たシンは、顎に手を添える。
「ははーん、分かりましたよ!こんどこそ!」

「おお、シン!次の推理を聞かせてくれ!頼むぜ!」

「任せてくださいッスカリアゲ先輩!…コホン。あのサラマンダモンは、クラッカーに飼われていたんです」

リーダーは頷く。
「ふむ…」

「サイバー攻撃翌用のデジモンとして育てられていたけど…、デジタマを産んだ結果、飼い主のサーバーにダメージを与えてしまったんス!」

「ダメージ?」

「炎のデジモンだから…火事とか」

「なるほど…?」

「それで怒った飼い主に棄てられたんッスよ。それ以来、ああやって罪滅ぼしのために自分のデジタマを焼くようになってしまい、また飼い主のところに戻りたがっている…!どうッスか!」

「ふむ…先程よりは無理がないな」

おお!だいぶ近いぞ!
飼い主はクラッカーではないが…
…いや悪質なサイバー攻撃による器物損壊をやるような連中だから善人ヅラしたクラッカーみたいなもんか。
合ってる合ってる!

「あとは、デジタマを採取して隔離チェンバーで育てれば、元飼い主のサーバーを燃やした幼年期デジモンが見れるはずッス!」

「なるほど…。やってみるか」

すごいぞシン!

429: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2023/07/31(月) 22:47:01.62 ID:x3HohwMoO
そのとき。
スポンサーさんから通信が入った。

『御機嫌よう諸君!調子はどうだね?』

かくかくしかじかです。

『なるほど素晴らしい!農園からエクスブイモンとスティングモン、モスモンのデジタマを採取したと!映像で見せてもらったが、あれらの戦闘力は一級品だ!オペレーション・テイマーズがうまく進んでいるようで何よりだ!』

どうも。

『あー、もしもだケン君。私がモスモンのデジタマを欲しいと言ったら…譲ってくれるかね?』

勿論。
あなたにはとてもお世話になっています。
こっちだけでは手狭になりそうですし、お譲りしますよ。

『では…他の研究所でもセキュリティデジモンを研究しているため、そっちがサンプルとして譲ってほしいと言ってきたらどうだね?』

他の研究所ですか。
勿論、喜んで…

「ダメだ」

リーダー!?

「あんたになら譲れるが、どこの馬の骨とも知れない奴らには譲れない。これは我々のパートナーデジモンが命懸けで手に入れたものだ。相応の対価がなければ譲れない。最低でも300万円は払ってもらう」

そ、そんな、デジタマを売り物にするような…

『ハッハッハ!今のはリーダーが正しいよケン君!デジタマは金になる!優秀なデジモンのは特にな!』

し、しかし…

『コマンドラモン君の命懸けの成果とは、それほど安いものかね!?そんなことではカモにされるぞ、しっかりしたまえケン君!』

うぅ…。
その通りですね。

431: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2023/07/31(月) 22:59:45.43 ID:x3HohwMoO
ヒョイとカリアゲが顔を出した。
「それで、今日は俺達になんか用事があるんスか?」

『ああ、近況報告を聞きたくてね。そうだ、君達はランサムウェアの被害には遭っていないかね?』

「ランサムウェアぁ?なんだそれ?」

メガがヒョイと顔を出す。
「ランサムウェア…。マルウェアの一種だよ。感染したパソコンの…」

「マルウェアって?」

「あのさぁ…。…えっとね、コンピュータウイルスやトロイの木馬、ワームのような、悪質なソフトウェアの総称だよ。ランサムウェアは、感染したパソコンのデータを勝手に暗号化してしまうんだ」

「暗号化?嫌がらせのためにか?」

「それもあるが、暗号化解除ツールを売り付けるように要求するものもある。データを人質にとって身代金を振り込ませるような手口だよ」

「へぇー、こええな…」

『解説ありがとうメガ君!近年は、既存のウイルスセキュリティソフトでは防げないランサムウェアが流行っているらしくてね。君達も気を付けたまえ!』

怖いですね…忠告ありがとうございます。

『それで君達は、これからは例の3つのデジタマの育成に専念するのかね?』

432: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2023/07/31(月) 23:06:23.27 ID:x3HohwMoO
シンがひょいと顔を出す。
「これから、サラマンダモンのデジタマを拾おうと思ってるんス!人懐っこくて甘えてくるから、きっと前に誰かに飼われていて、棄てられたんスよ。だから、デジタマが安全なら、サラマンダモンも拾おうかと思ってるッス」

『…誰がそれを捨てたのかね?』

「クラッカーじゃないか、と思われてますね」

『…イカン!そのデジタマとデジモンを拾ってはならない!』

え!?

「な、なんでッスか?」

『もしもクラッカーが棄てたのなら…、そのデジモンにはマルウェアが仕込まれている可能性がある!拾ったら悪質なプログラムが起動し、データを盗まれるかもしれないぞ!』

「な…なんだってーーーーー!?」


あーーーーもう!!
一旦話がまとまりそうだったのに、かえってややこしくなった!!

434: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2023/07/31(月) 23:14:05.77 ID:x3HohwMoO
「そんなことできるんスか!?」

『デジタルモンスターは情報生命体だ。パッチ進化というものがあるんだろう?もしクラッカーが、そのデジモンに任意のマルウェアを食わせてパッチ進化させていたら、そのマルウェアをばらまく感染源になる可能性があるだろう!』

「う…確かに…!で、でもクラッカーじゃなくて一般研究者が棄てたのだったら可哀想ッスよ…」

『同情を誘うブービートラップなんて古今東西どこにでもあるじゃあないか。戦場では、ぬいぐるみのテディベアや、赤ん坊の泣き声を録音したベビーカー等に、爆発物を設置する…。そんな罠なんて典型的な手口だ』

「うっわ、えげつないッスね…」

『そのサラマンダモンもその類ではないかね!?』

「あ、ありえる…!」


うおおぉぉ!違うんだよ!!
これ以上話をややこしくしないでくれスポンサーさん!頼むから!
…そう言いたいけど…言えない…!

435: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2023/07/31(月) 23:44:06.32 ID:x3HohwMoO
その時、クルエの声がした。
「このサラマンダモンさん、人の声やチャットに反応しますよー」

お、ほんとに?

「お腹すいた?って聞いたら首を縦に振ってました」

や、やはり…
人間に育てられたのは確定だ。

『あのスカモン同様、高い言語能力を持っているようだねぇ?んん?用心した方がいいのではないかな?』

お…お言葉ですがスポンサーさん!
私はこのサラマンダモンが、クラッカーの罠とは限らないと思います。

『ほほう!何故だね!』

理由は3つ。
1つ目ですが…、デジタマは金になると言いましたね。
これほどきちんと言うことを聞く母体デジモンなら、変な罠として使うより、殖やしてデジタマを仲間のクラッカーに売ったほうが儲かるのでは?

『それはケース・バイ・ケースではないかね?君達の研究設備をマルウェアで破壊することも彼らにとって後々利益を生むはずだ』

あっそれはそうですね。ハイ。

『それで2つ目は?』
2つ目ですが…
デジタマを焼くように仕込む意味がない!
デジタマを普通に放置するように育てた方が、金の匂いをちらつかせられるのでは?

『奇行で人目を引いて目立つためではないのかね?』

デジタマを焼くようにした場合、このサラマンダモンが野生デジモンに殺されたら計画は破綻します。
しかしデジタマを残すようにして、そこにもマルウェアが遺伝するようにしていたのなら、デジタマを産んだ数だけブービートラップデジモンが生き残って拾われる可能性が高くなるわけですよ。
そうした方が確実だったのでは?

『世代を重ねると、与えたマルウェアが遺伝子の中で変異して、元の想定どおりに機能しなくなる可能性があるのでは?』

うっ…たしかに…!
くそぅスポンサーさんつよい…どうする…!

『3つ目は何かなケン君』

437: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2023/07/31(月) 23:48:19.67 ID:x3HohwMoO
このサラマンダモンは、人語を理解できます。

『そのようだね。幼年期からよく教育されているのだろう』

つまり!
このデジモンから、飼い主の情報が漏洩するリスクがあるわけです!

正体を隠しているクラッカーが、そんなのを野放しにすると思いますか!

『ムム!確かに…どれだけ喋れるかは知らないが、機密情報管理が余りにも杜撰といえるかもしれない』

それに、我々のランドンシーフにはマルウェアを封じ込めるための隔離チェンバーがあります。
そこで質問すれば、マルウェア感染を防ぎつつ、クラッカーの情報を聞き出せるかもしれませんよ!

『…それならやってみる価値はあるねぇ!たとえクラッカーの罠だとしてもだ!うむ、くれぐれも気を付けてやりたまえ!』

よっしゃあ!!
私はガッツポーズを取りそうになったけど堪えた。

438: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2023/07/31(月) 23:51:13.30 ID:x3HohwMoO
そういうわけで。
我々はデジタルゲートを開き、サラマンダモンを隔離チェンバーへ招き入れた。

飼い主について聞き出す役割は…
私やクルエがやるるのは、ちょっと危ないからやめておこう。

誰に頼むべきだろうか…

447: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2023/08/02(水) 23:04:30.56 ID:CVonZoJoO
「ケン、まずはお前がやってみろ」

リーダー直々に私が指名された。
断ったら怪しまれる。素直に従おう。

えーと、サラマンダモンくん。
こんにちは。

『クァ~…』

…それにしても、このサラマンダモンというデジモン。
DPが低い成熟期デジモンらしいのだが、どうにも不思議だ。
全身がメラメラと燃えているように見えるのだが、いったい『何が』燃焼しているのだろうか。

炎とは、有機物が高温状態となって酸素と結合し、二酸化炭素が分離する際に熱と光を放つ連鎖現象のことを指す。
そうであれば、このサラマンダモンは、炎を維持するために常に燃料を出し続けているはずだ。
そうなると、体の熱量(カロリー)は凄まじい勢いで消耗されていくはずだ。
さらに、火だるまになっている肉体は当然、表面が常に1400℃の高温にさらされている。

そんな温度で加熱され続けたら、肉体はあっという間に焼き肉、ないし黒焦げになってしまうはずだ。

さらに、炎の放熱によって隔離チェンバー内の温度はどんどん高温になるだろう(空気を循環させているので酸欠にはならないはずだが)

だが、このサラマンダモンはそうはならない。
一体なぜなのか…?
興味が湧いた。調べてみよう。

450: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2023/08/02(水) 23:19:49.39 ID:CVonZoJoO
まずはサラマンダモンの体表の温度を調べてみる。
…30℃。
両生類型デジモンとしてはやや高めだが、予想よりもずっと温度が低い。
メラメラと炎が燃えているように見えるのだが…!?


…これは本当に炎なのだろうか。
乾燥した枯れ草を拾ってきて、サラマンダモンの炎へ近づけた。

…燃えないな。
炎が燃え移らない。
加熱されてすらいない。

『クワァ~』

…サラマンダモン君。
体の炎を熱くできる?

『クワッ!』

サラマンダモンが力むと、体表を包む炎の温度は一気に上がった。1500℃だ。
枯れ草はメラメラと燃える。

やがて、サラマンダモンは炎の温度を下げた。

『クワァ~』

どうやら密室で炎を燃やし続けると、高温になり、酸欠になることを分かっているらしい。
空気を循環させているから心配ないが、賢いな。

…さて。
どうやら、サラマンダモンを常に包んでいるものは、どうやら炎ではないらしい。
意識すれば実際の炎を出せるようだが。

なんだこれは?
熱をほとんど伴わず、赤くゆらめく光だけが出ているようだ。

ウミホタルやカブトクラゲがやるような、ルシフェリン・ルシフェラーゼ反応による生物発光だろうか…?

451: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2023/08/02(水) 23:30:43.90 ID:CVonZoJoO
しかし、蛍光を発する物質を常に放出し続けているというわけでもないようだ。

なんというか、これは…
『オーラ』のような、不思議なエネルギー…としか言えない。

デジモンは時々、我々の世界の物理法則を完全に無視することがある。

スターモンは原理不明の推進力を得て空を飛ぶし、狙った場所へ隕石を落として攻撃できる。

ベーダモンは、光線銃の光の輪によって他のデジモンを操ることができる。

トゲモグモンやアイスモンは、水晶のような体から冷気を放ち、周囲の物体を凍らせることができる。
なんだ凍らせるって!?炎を放つなら分かるが、凍らせるのは流石に意味がわからない!液体窒素を放ってもああはならないはずだ。

そう、一部のデジモンは、超能力とでも呼ぶべき不思議な力を獲得しているのだ。

…サラマンダモンの見せかけの炎も、そういった超能力の一部…なのだろうか。

452: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2023/08/02(水) 23:42:54.27 ID:CVonZoJoO
だが、超能力を使うデジモンは、どうやら無限に使い続けることができるわけではないようだ。

スターモンは飛行に多くのエネルギーが必要らしく、あまり好んで飛ばない。

…エネルギーを消費するということは、デジモン世界には我々の世界とは異なる物理法則やエネルギーがあり、デジモン達はそれを利用しているといえるだろう。

サラマンダモンは、『超能力を使うデジモン』のサンプルとしても優秀かもしれない。


尚、先程サラマンダモンが背中の炎で枯れ草を焼いたときは、背中の皮膚の腺からジメチルエーテル水溶液が噴霧され、燃料として使われていた。

…超能力を使うにしても、100%を超能力頼りにするよりは、ある程度物理法則に則った現象を起こして超能力でエネルギーを補助する方が効率的なのかもしれない。

453: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2023/08/02(水) 23:49:56.68 ID:CVonZoJoO
「調子はどうだ?ケン。何やらいろいろ調べているようだな」

あ、リーダー!
サラマンダモンの体表を覆う炎の性質について調べていました。

「は?」

結露から言うと、サラマンダモンの体表の炎は「超能力によって、燃焼物に擬態する」ために存在しています。

動物やデジモンにとって、炎は脅威です。
できれば触れたくないものといえます。

サラマンダモンは、炎に見せかけた超能力光によって、自分の身を火だるまであるかのように見せかけることで、外敵に狙われるのを避けているんです。

さらに、怖がらずに触ってきた相手には、体表からジメチルエーテルを噴霧し、超能力で種火をつけることで、実際に燃やしてしまうこともできます。

そうやって自分の身を守っているんですね。
とても機能的な形質といえます。

「…で、そのサラマンダモンの飼い主の情報は聞けたか?」

飼い主?何の話でしたっけ。

「いや、お前には飼い主の情報を聞き出せと指示していたんだが、なぜ炎の解明などしているんだ?」

…はっ!そうだった!
炎が気になり過ぎてガチで忘れてた!

「なんだと…何をやっているんだケン!?」

『ハッハッハ!リーダー君、これがケン君の良いところだよ!とんだじゃじゃ馬だ、しっかり乗りこなしたまえ!』

うぅ…つい。

454: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2023/08/02(水) 23:57:01.96 ID:CVonZoJoO
「次は俺がやる」

頼みますリーダー。

「…サラマンダモン。君の飼い主について聞きたい」

『クワァ?』

「君の飼い主は、クラッカーか?」

『クワァ、クワァ!』

首を横に振っている。

「では、まともな研究者か?」

『クワァ~!』

首を縦に振っている。

「だそうだ。サラマンダモン曰く、飼い主はまともな研究者だそうだ」

そ…そのようですね。

『リーダー君!君はクラッカーが、飼ってるデジモンに自分がクラッカーだと名乗ると思うのかね!?』

「うっ…」

『私には、今の証言は信用できないな』

「…ならばどうやって聞き出せばいいというんだ」

そうなんだよな…
サラマンダモンが嘘をついてる可能性や、嘘を信じ込まされてる可能性を否定できないだろうし…
それを見破れる方法など、正直思い当たらない。

456: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2023/08/03(木) 00:06:54.19 ID:WjBUwhWcO
「よう、調子どうだー」

おお…カリアゲ。
喋れない相手から情報を聞き出すのは、ちょっと無理そうだ。
飼い主がクラッカーじゃなくまともな研究者だとは言ってたけど、そもそもその言葉自体の信憑性が疑わしい。

「嘘付いてるってことか?」

そもそも、クラッカーとか研究者って言葉の定義をちゃんと理解しているのかも怪しい。

強敵だ…

「そうか…これからどうするんだ?」

どうしようかな…
逃がしてしまえば無害なんだけども。

「…なんか可哀想だな」

『カリアゲ君も話してみるかね』

「…少し話してみるかね」

頼んだぞカリアゲ。

457: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2023/08/03(木) 00:13:46.83 ID:WjBUwhWcO
「よ。サラマンダモン…でいいんだっけ?」

『クァ~…』

「まずは…ごめんな。俺達は、お前の飼い主だった奴じゃない。別の人間だ」

『クァ!?クァ~!クァ~~!クアアァァーーーー!!』

「…悲しいよな。飼い主さんのこと好きか?」

『クァ!クァ!』

サラマンダモンは首を縦に振っている。

「そうか。いい飼い主さんなんだな。俺達もお前の飼い主さんに会ってみたいぜ」

『クァ…』

「いつか会えるかな?」

『クァー!クァ!クァ!クァー!』

サラマンダモンは首を縦に振っている。

「そうかそうか!俺も会いてえな、お前をこんないい子に育てた優しい飼い主さんに」

『クァ~!』

「でも…どうしてデジタルワールドにいたんだ?迷子になったのか?」

『クァ…』

「…わかんないよな」

『クァ!クァ!クァァ!』

サラマンダモンは首を横に振っている。

「理由が分かるのか。…さっきデジタマを壊して焼いてたのと関係あるのか?」

『クァァァ~!』

首を縦に振っている。

459: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2023/08/03(木) 00:22:33.81 ID:WjBUwhWcO
「自分のタマゴを壊すの…嫌じゃないのか?」

『ク…クァ!!クァァ!』
首を横に振っている。

「…ほんとか?タマゴを壊してるときのお前の声…すごく悲しそうだったぞ」

『クァ…』

「…ホントは壊したくないけど、壊さなきゃいけない理由があるんじゃないのか?」

『…クァ…クァ!!クァァー!クアァァー!』
サラマンダモンは何度も首を縦に振っている。

「辛いよな、悲しいよな。ずっと、嫌だったんだよな、ホントは」
『クァァァ!クァァァーーーーー!』

頷くサラマンダモンの声は…どこか泣いているかのような悲しい響きがあった。

「…でも、飼い主さんのことは好きなのか?ホントはどうなんだ?誰にも言わないから教えてくれ!」

『クァ!』
頷いている。

「…そっか。それでも飼い主さんが好きなんだな。それよりお前、腹空いてないか?飯あるけど、食うか?」

『クアァ!』

「キノコしかないけどごめんな。ほらよっと」
カリアゲはデジドローンできのこを与えた。

『クゥゥーン!クゥゥーーン!ハムハム!モグモグ!』

「おお、食いっぷりいいな。これ好きなのか?」

『クァ!クァ!』


…その後カリアゲは、サラマンダモンと2時間ほど話したり、ボールで遊んだりしていた。