1: 短編3本立て 2011/11/27(日) 12:38:48.02 ID:sJM53n6T0
~結衣のマンション~

京子「ねぇ、結衣」

結衣「何?」

京子「明日は日曜じゃん?隣町の祭りまでちょっと遠出しない?」ネッ

結衣「明日?えらく急だな」

京子からの突然の誘いは今に始まったことじゃないが、心構えの時間くらい用意してほしい。

京子「お母さんに許可はもらってるし、結衣の浴衣もここに用意してるよ?」ホラ

結衣「返事はYES前提か」ハア

京子「でも実際、行きたいと思ってるでしょ?」ニヤニヤ

私の行動予定と性格を熟知しているこいつは、意見を聞く必要性を感じないらしい。
まぁ、京子の誘いを理由なく断るなんて、私にはできないけれど。

2: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/11/27(日) 12:42:18.37 ID:sJM53n6T0
結衣「……いくけど」

腹の底まで知れた相手というのは、便利に思うときもあれば、ちょっと悔しくもなる。
それはお互い様というやつだろうから、仕方ないか。

京子「だと思った、やったー!」パァ

結衣「今日は明日に備えて、早めに寝るぞ」

京子「はーい!」

結衣「歯磨きいくよ」

京子「ラジャ!」

まぁ、はしゃぐ京子の姿が可愛いから、許してあげてもいいか。

4: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/11/27(日) 12:44:56.40 ID:sJM53n6T0
~翌朝~

京子。

京子「………」zzz

京子、起きて。

京子「ん……」

朝は早く起こせって、京子が言ったんだぞ?

京子「むにゃ……」

京子ったら ユサユサ

京子「ん……」ゴロン

結衣「起きないと、ちゅーするぞ」ボソッ

京子「んー………へっ?」パチクリ

京子「のわぁっ!」ガバッ

5: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/11/27(日) 12:47:29.14 ID:sJM53n6T0
結衣「おはよう」

京子「あ……おおはよう結衣、いま、なんか…」

結衣「何?」

京子「あっ、いや夢……かな」フゥ

結衣「よくわからないけど人騒がせだな」

京子「いやぁ、ごめん」アハハ

京子は案外ちょろかったりする。
たまにはイタズラをやり返しても罰は当たるまい。

7: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/11/27(日) 12:50:41.28 ID:sJM53n6T0
結衣「朝は食パンとコーヒーでいい?」ハイ

京子「ありがと」

京子「いただきます」

京子「」モグモグ

結衣「そういえば、移動手段はバスでいいの?」

京子「んぐ、ひゅぐひぃちゅ」モグモグ

結衣「飲み込んでから喋りなよ」

京子「」ゴクン

京子は礼儀作法もある程度出来るくせに、私の前ではめちゃくちゃだ。
無意識に私を姉のような存在として捉えて、甘えているのかもしれない。

8: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/11/27(日) 12:53:31.55 ID:sJM53n6T0
京子「けほっ…」トントン

京子「調べてみて、電車よりもバスの方が行き来には便利だと思って」

結衣「まぁ、お祭り関係で便数も増えてるか」

京子「バス停の場所は、よく覚えてないんだけどね」テヘッ

結衣「……下調べはしっかりやりなさい」

京子「いやぁ、ごめんごめん」

……私も、京子を妹のような目で見ていない、とは言い切れない。
この想いは分析すればするほど深みに嵌って、不安定になるものだから。

幼馴染、親友、家族、姉妹、そのどれもが当て嵌って、きっとどれも正解ではない。
私と京子、ずっと一緒にいるけれど、まだまだ私たちの関係は分からないことだらけだ。

11: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/11/27(日) 12:56:10.93 ID:sJM53n6T0
~お昼過ぎ~

京子「結衣、すごく可愛いなぁ」

結衣「そんなことは、ない」

京子「照れなくても」

結衣「照れてない」プィ

京子「私の見立て通り、美人さんだよ?」

出かけるにあたって、黒を基調とした梅模様の浴衣を着させられた。
正直、こんな格好は断固辞退したいところだが、京子の悲しげな瞳に負けてしまった。

京子はずるい、京子は本当にずるい。

12: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/11/27(日) 12:59:12.53 ID:sJM53n6T0
結衣「京子も早くそれ着なよ」ジトー

京子「ん……」

結衣「京子?」

京子「えっとさぁ」モジモジ

京子「浴衣の着付けってどうやったっけ?」アハハ

私の着替えをじっと見ていたのは、そういうことか。
単なるセクハラかと思っていた。

結衣「貸して」

京子「ほい」

結衣「とりあえず服を脱いで」

京子「結衣の   ……」ポッ

結衣「アホか」ベシッ

13: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/11/27(日) 13:02:21.95 ID:sJM53n6T0
京子「ちょっとくらい乗ってくれたっていいじゃんかー」ムゥ

結衣「分かったから、さっさと服脱げ」

京子「鬼畜は嫌だよぉ……結衣ぃ……」シクシク

結衣「無理やりひっぺがされたいと?」

京子「あっ脱ぎます、脱ぎますから、無理やりはやめて」アタフタ

相変わらず調子のいいことだ。
けれど、それでこそ京子なのかも。

結衣「………」シュル

京子「………」ドキドキ

結衣「………」キュッ

京子「……出来た?」ワクワク

結衣「出来た」ポンッ

15: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/11/27(日) 13:05:16.94 ID:sJM53n6T0
京子「どうよ、京子ちゃんのセクシーな浴衣姿は」キラーン

結衣「可愛いよ」

京子「……ッそっか」ドキドキ

結衣「何照れてんの?」クスッ

京子「うっさい、うすらとんかち」フンッ

結衣「本当に似合っているよ、京子」

京子「あ、ありがと……」

京子の浴衣は、淡い水色を基調として、その中で水玉や鯉が鮮やかに踊る。
それは京子の印象を、儚く、美しいものに変えていて。
見た目だけなら、深窓のご令嬢を偽れるかもしれないと思った。

16: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/11/27(日) 13:09:09.80 ID:sJM53n6T0
結衣「簪はどれがいい?」

京子「えっと、これ」

結衣「……これ、私が贈ったチャチな安物だけどいいの?」

京子「だからこそ、それがいいの」ニコッ

結衣「……そっか」

京子の優しい微笑みを見ていると、何だか心が安らいで、泣きたくなる。
込み上げる想いは、喜びでも、怒りでも、哀しみでも、楽しみでも、どれでもなくって。
欠けた何かが満たされていくような、そんな不思議なものなのだ。

結衣「結ってあげる」

京子「頼んだ」

私はショートヘアだから簪はいらないけれど、髪の長い京子には必要なものだ。
京子の艷やかな髪を彩ることができるなら、この簪も本望だろう。
そんなセンチメンタルなことを思った。

17: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/11/27(日) 13:13:13.24 ID:sJM53n6T0
~バスの中~

京子「結衣、海沿いだぞ、海が見える!」

結衣「落ち着きなよ」

バスに乗ってからの京子は、少し興奮気味だ。
浴衣を着て、いつもと違う街に遊びに出るのだから、気持ちは分からないでもない。

京子「ワクワクするなぁ」

結衣「そうだな」

京子「いっぱい楽しもうな、結衣」ニコニコ

結衣「…うん」ニコッ

バスの揺れ方で、人生の意味が解かった気がする日曜日。
やっぱり私という存在は、この人と共にあって初めて成り立つのだろう。

20: 速攻バレてワロタ 2011/11/27(日) 13:16:23.21 ID:sJM53n6T0
~隣町~

京子「着いたー」

結衣「京子が迷子になると困るから、手をだして」

京子「へいへい、繋げばいいんでしょ」ポン

結衣「よろしい」ギュ

私たちの関係が何であれ、貴方はきっと運命の人だから、離さないようにこの手を握る。
これはきっと単なる好きじゃない、もっと根源的な何かが、君を求めているんだ。
私はまるで、全てを貪ることを企む、そんな狡猾な獣のようだから。

京子「本格的なお祭りまで数時間ちょっとあるし、探検しようか」

結衣「あては?」

京子「無論ない!」

結衣「だと思った」ハァ

計画するのはいいけど、何とか責任を持ってくれないものかと小一時間。

22: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/11/27(日) 13:19:06.35 ID:sJM53n6T0
京子「だって、計画を思いついたの昨日だし、時間なかったもん」ショボン

結衣「縮尺地図、私がポーチに入れて持ってきてあるよ」ガサッ

京子「流石、結衣」ヨッ

結衣「京子は信用ならないからね」パラッ

京子「うぅ、幼馴染にあっさりと衝撃的事実を明かされたよ……」ヨヨヨ

結衣「泣き真似はいいから」スタスタ

京子「あぁ、結衣のいけずぅ」

結衣「ほら、どこに行きたいの?」

京子「あっ、じゃあこことか…」

結衣「了解」

君の笑顔は素敵だから、特別に許してあげよう。
君の泣き顔は、演技でも見たくはないから。

23: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/11/27(日) 13:23:11.78 ID:sJM53n6T0
~繁華街~

結衣「あと一時間くらいで、お祭りも本格的に始まるかな」

京子「それじゃ、祭り近くの商店街でのんびりするか」

結衣「あっ、そろそろコンビニで飲み物買っておく?」

京子「そういや割高だもんね、お祭りのジュース」ハハ

イラッシャイマセー

結衣「屋台は味が濃いから、お茶がいいかな」ウーン

京子「あえて、ビールとか」

結衣「この前飲んで不味いって残しただろ」ハァ

京子「今なら飲める気がする!」メラメラ

その調子でハーブティーをねだって、結局残したのはどちら様だ。

26: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/11/27(日) 13:26:20.95 ID:sJM53n6T0
結衣「京子の分のお茶、このメーカーでいい?」ヒョイ

京子「あ、どうも」イヤー

結衣「どういたしまして」ハイハイ

京子「……って人の話はスルーしないでちゃんと聞けー!」

結衣「ビールなんてそもそも年齢確認でアウトだ、馬鹿野郎」

京子「ぐっ、バカって言った方がバカなんだからな!」

結衣「じゃあ京子も馬鹿だな」

京子「oh……」

愛はコンビニでも買えるけれど、それは大切なものだから、もう少し一緒に探してみようよ。
はしゃぐ君を見ていると、私はそう思えるんだ。

27: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/11/27(日) 13:29:14.32 ID:sJM53n6T0
~商店街~

京子「おお、この店の下着、すっごい……」

結衣「私たちにはまだ早いって……」ソワソワ

こういう空間はどうにも落ち着かない。
ファッションや可愛い下着に興味はあるけど、実際に来るのは恥ずかしい。

京子「この黒の下着をつけた京子ちゃんとかどうよ?」ジャーン

結衣「いろいろと足りてないね」フッ

京子「こいつぅ……自分があるからって生意気だぞぉー!」ムニムニ

結衣「おい、どこ触って、ちょ、ちょっと、んっ…」ビクッ

京子「結衣の無駄な脂肪なんてこうしてやる」ムニムニ

結衣「あ、やめっ……このっ、いいかげんにしろ!」ボカッ

京子「」キュー

28: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/11/27(日) 13:31:55.67 ID:sJM53n6T0
結衣「浴衣がちょっと崩れただろうが」プンプン

京子「申し訳ありません」

結衣「もう無理やり触ったりするなよ」

京子「あい」

結衣「それから、そんなものをプレゼントには絶対にするなよ」

京子「イエスマム」

結衣「京子は突飛なことを思いつくから、信用できないな」ジトー

京子「むぅぅ~」ウルウル

結衣「へそ曲げてないで、機嫌直してよ」ヤレヤレ

30: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/11/27(日) 13:35:17.61 ID:sJM53n6T0
パーン パーン

結衣「ほら、祭り開始の合図だ」

京子「おぉぉ」パァ

京子「早く、結衣、早く」グイグイ

さっきまでの調子はどこへやら、目を爛々と輝かせて、慌てて店を出ようとする。

結衣「そんなに急かすと危ないって」パタパタ

京子「大丈夫、大丈夫」

結衣「仕方ないなぁ」クスッ

変な下着の話に夢がはじけて笑う、そんな寄り道だってありだろう。

この扉を開けたら走ろうか、遥か地球の果てまでも、どこまでも。
悪あがきになっても、呼吸をしながら君を乗せていくからさ。

32: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/11/27(日) 13:38:22.45 ID:sJM53n6T0
~お祭り~

京子「お祭りの雰囲気っていいね!」

結衣「分かってると思うけど、まずは神社にお参りするよ」

京子「はーい」

結衣「参拝方法は覚えてる?」

京子「もち、二礼二拍手一礼」

結衣「その前に手を洗って口も濯ぐ」

京子「おぅ、ジーザス」

結衣「お前も私も神道だろ」

京子「そうでした」エヘッ

会釈しながら鳥居から入る、真ん中は神の通り道だから通らない、そんな風に決まりがある。
せっかく日本に生まれ落ちたのだから、それくらいは守っておきたい。

33: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/11/27(日) 13:41:34.67 ID:sJM53n6T0
~神社~

結衣「」パン、パン

京子「………」

結衣「……これでいいかな」フゥ

京子「結衣は、何をお願いしたの?」

結衣「即物的なお願いは避けたから、多分京子の期待には沿えないよ」

京子「年寄り臭いぞ、この頑固ものめ」

そもそも、神に願うには、それなりの代償や苦労が必要なのがセオリーで。
ふらりと立ち寄った余所者の願いを、わざわざ聞いてくれる殊勝な神はいないだろう。
少なくとも私なら、門前払いにするだろう。

……それでも、

35: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/11/27(日) 13:44:40.66 ID:sJM53n6T0
結衣「……それでも、あえて願うなら」

結衣「好きな人の傍をずっと離れないでいられる、そんな絶対の勇気が欲しい、かな」

京子「ん?」キョトン

京子「離れませんように、じゃダメなの?」

結衣「神様におんぶに抱っこなんて、性に合わないし」ダメッ

京子「というか好きな人って、誰?」モジモジ

結衣「さあね」

京子「むー」ムスッ

私には君が必要なんだ、君さえいればそれでいい。
無料のユートピアなんて、あえて汚れた靴で通り過ぎてやろうよ。
私達自身の手で見つけたいから、この関係の行くべき道を。

36: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/11/27(日) 13:47:48.19 ID:sJM53n6T0
京子「おみくじ大吉だし!」

結衣「私は末吉」

京子「仕方ない、私の幸運を分けてやろう」エッヘン

結衣「不可分なものをどうやって分けるんだよ」

京子「いつも一緒にいれば、半分こじゃん?」エヘヘ

結衣「……そっか」フフッ

投げたボールが望み通りに対岸に届いた日。
もらいあくびした後の涙目で茜空を見た日。

悲しい話は絶えないけれど、それでも二人一緒に輝く明日を目指していよう。
それが許されるなら、きっとそれだけで幸せだ。

37: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/11/27(日) 13:50:23.11 ID:sJM53n6T0
京子「しかし、こういう厳かな空気っていいね」

結衣「京子の場合、半刻もしないうちに飽きる、に百円」

京子「何たる言い草、本当に挑戦して百円を請求するぞぉー」

結衣「やれるものならやってみなよ」

京子「……ごめんなさい、正直そろそろお祭りに参加したいです」

結衣「素直でよろしい」

京子「ってなわけで夜店いこっ」ニコッ

結衣「はいはい、お嬢様の仰せのままに」クスッ

京子は自由奔放で、誰にも縛られなくて、まるで空を飛ぶ鳥のようだ。
その姿に少し寂しくなるけれど、私という宿り木の下で羽を休めてくれるのなら、それでいい。
無理やりこの手で捕まえることもできるけれど、それでは鳥は弱ってしまうだろうから。

39: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/11/27(日) 13:53:11.01 ID:sJM53n6T0
京子「いっくぞー」

結衣「わかったわかった」

走る、遥かこの地球の果てまで。
恥ずかしくても、まるで駄目でも、格好つけていこう。
私には君が必要だけれど、君の前では情けない姿なんて見せたくないもの。

いつか君が躓いたときには、その隣で手を差し伸べるから。
ふらつきながら、迷いながら、二人で一緒に答えを見つけよう。

41: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/11/27(日) 13:56:14.70 ID:sJM53n6T0
~お祭りの屋台~

京子「まずは何にしよっかなー」

京子「あれ?結衣?」キョロキョロ

アリヤシター

結衣「」モグモグ

京子「ちょっと結衣、なに抜け駆けして食ってんのさ!」ガシッ

結衣「ベビーカステラだけど」モグモグ

京子「いや、ほら、そういう問題じゃなくて」

結衣「あーん」ホレ

京子「へっ?」

42: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/11/27(日) 13:58:24.38 ID:sJM53n6T0
結衣「欲しいんじゃなかったのか?」コテン

京子「あ、あーん」パクッ

結衣「美味しいか?」

京子「う、うん」モジモジ

結衣「たこ焼きも買って半分こするか」スミマセーン

オジョウチャンカワイイネー

京子「………」

京子「うぅぅ、結衣のばかぁ……」ガックリ

サービスシチャウヨー

結衣「」ウマウマ

京子「しかも、あんなおっさんに媚びて……」イラッ

京子「私にもよこせー!」ウガー

43: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/11/27(日) 14:01:48.23 ID:sJM53n6T0
京子「これから何しよっか」

結衣「何するの?」モグモグ

京子「うーん、射的でもやってみる?」

結衣「取れる気がしない」モグモグ

京子「じゃあ、くじとか」

結衣「当たりくじは事前に抜いてるから無駄」モグモグ

京子「きっ、金魚掬い……とか?」

結衣「死骸の処理が大変だろ」モグモグ

京子「……つーか、することねぇ!」

結衣「かき氷食べる?」ハイ

京子「…うん」パクッ

44: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/11/27(日) 14:06:20.42 ID:sJM53n6T0
京子「………」ズーン

食べ物を好きなだけ楽しんでいたら、京子がちょっと落ち込んでいた。
予想外に遊べるものが少ないことと、私がそれに乗り気でないことが原因かな。

結衣「京子」

京子「なあに?結衣」ウフフー

結衣「……お祭りを純粋に楽しむことは、できなくなったかもしれないけどさ」

結衣「私は、京子と手を握って、こうして歩いていられるだけで、」

結衣「すごく楽しいよ」ニコッ

京子「ばっ、恥ずかしいセリフは禁止!」

結衣「京子の顔、真っ赤」クスクス

京子「違うし、これは人混みの影響だから!」プィ

そういうことにしてあげよう。

46: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/11/27(日) 14:09:46.37 ID:sJM53n6T0
結衣「あのくじ引きのはずれのおもちゃ、可愛いな」

京子「ああ、うにみたいなやつね」

結衣「ちょっと一回やってみよう」ウン

京子「どうせやるなら、一等を狙いなよ」ジトー

結衣「京子はどうする?」

京子「私もやる!」ニパッ

京子のご機嫌なんて、春の天候のようにコロコロ変わる。
私にかかれば、それを自由に操作するなんてお茶の子さいさいだ。

結衣「なんかよくわからないのが当たった」

京子「はずれた」

結衣「別に要らないし、はずれと取り替えてもらおうか」

京子「私のはずれあげるから、もったいないことしちゃダメ!」

こういうものは順位が高くても、いらないものもあると思うけど。

48: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/11/27(日) 14:12:17.98 ID:sJM53n6T0
結衣「そろそろ花火のための席取りしようか」

京子「もうどこもいっぱいじゃない?」

結衣「神社の裏手に、寂れたベンチがあった」

京子「マジで!?」

先のことは常に考えて、行動するものだ。

結衣「たぶん、皆神社なんて忘れてるから、空いてると思う」

京子「結衣ー何してるの!早く行くぞー!」

結衣「人の話を聞け」

そそっかしいにも程がある。

49: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/11/27(日) 14:15:25.81 ID:sJM53n6T0
~お祭りの花火~

ドーン ドドーン

京子「綺麗な花火だね」

結衣「そうだな」

大輪の花が、次々と夜の空に咲く。
咲いては散って、咲いては散って、それを繰り返しているだけなのに、綺麗だと思う。

京子「………」

結衣「………」

花火は金属固有の燃焼反応の色を利用したもので、それを工夫して芸術に仕立て上げる。
まぁ、打ち上げて均等に光を散らすのが難しくても、所詮は理科の実験と大して変わらない。

それでも、何故かこうして心動かされるのは、
私たちに感性や文化が、脈々と受け継がれてきたからなのかもしれない。

51: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/11/27(日) 14:20:01.25 ID:sJM53n6T0
京子「……記念に、一緒に写真を撮ろっか」

結衣「それもいいね」

京子「このカメラなら、花火もしっかり写るんだぞっ!」ジャーン

結衣「楽しみにしてる」

京子「私と結衣の大切な思い出が、また増えたね」エヘヘ

ああ神様、この人となら、このままどこまでも一緒にいける。
この地球のはるか遠くまで、どこまでも行けそうな気がしてくるんだ。

53: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/11/27(日) 14:22:20.85 ID:sJM53n6T0
~花火終了~

結衣「そろそろ帰ろうか」

京子「うん」

いつか本当の自分を君にさらけ出せるように、転んだときは、二人で立ち上がれるように。
また、君の手をそっと握りしめる。

結衣「京子」

京子「何?結衣」

結衣「いつも、ありがとう」

傍にいてくれて、ありがとう。

54: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/11/27(日) 14:25:03.47 ID:sJM53n6T0
少し照れくさいけれど、 私には京子が必要で。
そんなことはとっくに分かっていたけれど、今回は新しく見つけたこともある。

カタチさえも不確定なこの想いだけれど、

それでも、貴方が好き。

56: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/11/27(日) 14:28:29.89 ID:sJM53n6T0
京子「どっ、どうしたの?急に」モジモジ

結衣「たまには、悪くないって思ってさ」

京子「そっか!」パァァ

京子「こちらこそ、付き合ってくれてありがとう!」ニコッ

結衣「……なんか照れくさいな」

京子「まぁまぁ、たまにはいいじゃん!」

結衣「……帰るよ」

京子「照れてる結衣、可愛い」

結衣「うっさい」スタスタ

京子「あっ、まってよー」

だから、私たちの行く末を見守っていてください、神様。
その結末は、どんなものよりも眩しくて、綺麗なものになるだろうから。



おわり

58: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/11/27(日) 14:31:12.58 ID:sJM53n6T0
2本目

ちなつ「雨上がりのその後に」


60: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/11/27(日) 14:33:49.48 ID:sJM53n6T0
~ごらく部~

ちなつ「まだ降ってますね」

結衣「そうだね」

降り始めから三十分ほど経ったけれども、しとしとと降り続く雨は未だ止まない。

ちなつ「………」

結衣「………」

先日に梅雨入りしただけあって、最近は雨続きだ。
今日の天気予報は快晴だったのにご覧の有様で、TVに八つ当たりの一つでもしたくなる。

ちなつ「………」

結衣「………」

現在、部室に結衣先輩と二人きりになっている。
普段ならはしゃいでいるところだが、この天気とあっては、会話も途絶えて沈黙がちになる。

63: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/11/27(日) 14:36:11.05 ID:sJM53n6T0
ちなつ「………」

結衣「………」

ちなつ「いい音ですね、コンクリートとは違って、音が柔らかくて」

結衣「確かに、土の臭いも仄かにして、趣深いね」

耳を優しく叩く音は、いつもの状況では体験できない貴重なものでもある。
空気がじめじめしているのは気に食わないが、それでも発想の転換で少しでも楽しみたい。
後ろ向きなコトばかり考えては気が滅入る、前向きでいるのが私のスタンスなのだ。

ちなつ「雨、止みそうにないです」

結衣「天気予報も、案外嘘つきなものだから」

ちなつ「………」

結衣「………」

ゆったりとしたテンポで会話をしながら、お茶を少しずつ飲む。
時間の流れがいつもより緩やかで、こういう静かな空気も悪くない。

65: 気にしないでよろし 2011/11/27(日) 14:38:30.34 ID:sJM53n6T0
結衣「このジャスミン茶、すごく美味しい」

ちなつ「お口にあって良かったです」

今日は冷ましたジャスミン茶を用意してみたけれど、どうやら正解だったようだ。
茶葉自体がジャスミンの花の香りを吸着しているため、冷めても花の香りがするのが特徴だ。
雨の日には、何となく渋みよりも甘味を堪能したくなるのは、私だけだろうか。

ちなつ「………」

結衣「………」

ちなつ「……置き傘、もう一本くらいしておけばよかったかな」ハァ

結衣「次は私が全員分、用意しておくよ」

置き傘は一本しかなくて、そしてそれを使って京子先輩は出かけた。
……涙目なあかりちゃんを引っ張って。

66: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/11/27(日) 14:41:30.16 ID:sJM53n6T0
ちなつ「京子先輩とあかりちゃん、大丈夫でしょうか」

結衣「京子は濡れることも気にせずに、雨の中をダッシュしている気がする」

傘一本でも雨は防げるが、京子先輩が身を寄せ合って使っているとは思えない。
想像するだけでも、あかりちゃんの悲鳴が実際に聞こえてくるようだ。

ちなつ「何もお茶菓子のために、こんな天気の中、買出しに行かなくても……」

結衣「京子はともかく、あかりはそう思ってるだろうね」ハァ

京子先輩は、お茶菓子を求めてスーパーへ向かった。
止める隙すらないほど、鮮やかにあかりちゃんを連れ去って。

67: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/11/27(日) 14:43:58.71 ID:sJM53n6T0
ちなつ「結衣先輩とのんびりできることは嬉しいですけど、風邪を引かないか心配です」

結衣「ちなつちゃんも、京子の前でその優しさを見せてあげればいいのに」

ちなつ「いやです、あの人はすぐに調子に乗っちゃいますから!」プンプン

結衣先輩の優しい瞳がこそばゆくて、つい反発してしまった。
今の言葉は単に、そう、風邪を移されると厄介だから警戒している、そういう意味合いなのだ。

自分が優しいなんて決して思わないし、優しさを自負する人間なんて虫酸が走るだけだ。

ちなつ「まぁ、あかりちゃんに無茶苦茶なことはしないと、信用はしてますけど」プィ

結衣「あれで、あかりには気を使ってるからね」アハハ

京子先輩はあかりちゃんをいじる時も、まぁ一応限度を考えているようだ。
あえてスルーしてツッコミをさせてあげたり、逆に話題を振ってあげたりと、
少々過保護な嫌いがある。

コロコロと表情を変えるあかりちゃんが面白いから、という理由な気もするけれど……。

69: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/11/27(日) 14:46:42.90 ID:sJM53n6T0
ちなつ「………」

結衣「………」

ちなつ「不思議な関係です」

ちなつ「引っ張っているのは京子先輩に見えて、精神的な支えはあかりちゃんの方、なんて」

結衣「……京子はああ見えて、臆病な子だから」

まぁ、何となく脆そうな人ではある。
結衣先輩の保護下にいる限り、変な輩に目を付けられることはないだろうけど。
きっと京子先輩も、本来は心穏やかな優しい人なのだろう、絶対に口に出して言わないが。

ちなつ「臆病な割に、いろいろな人にちょっかい出すのはどういう理由なんでしょうね」ハァ

結衣「あれで対象は選んでいるはず……多分」

ちなつ「本能でかぎわけているんですかね、大丈夫な人を」

結衣「たまに調子に乗って失敗してるけどね」クスクス

71: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/11/27(日) 14:50:02.87 ID:sJM53n6T0
ちなつ「調子に乗って羽目を外すくらいが、あの人らしいですよ」フフッ

京子先輩のノリに慣れると、今更大人しくされてもこちらが困る。
ちょっとくらいやんちゃな方が、女の子は可愛いというものだ。

結衣「……ちなつちゃんはいい子だね」ニコッ

ちなつ「へっ、そ、そうですか?」テレテレ

結衣先輩に褒められるとくすぐったくて、柄にもなくご機嫌になってしまう。
この有様を見た京子先輩やあかりちゃんからは、腹黒のそしりを受けたけれど。
まぁ実際に腹黒なのだから、返す言葉もない。

結衣「こっちにおいで」ポンポン

結衣「膝枕してあげるから」

ちなつ「はい!」トテトテ

これは普段いい子にしていたチーナへのご褒美ですか。
そうですか、ありがとうございます。

72: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/11/27(日) 14:52:30.61 ID:sJM53n6T0
ちなつ「し、失礼します」ゴロン

結衣「よしよし」ナデナデ

ちなつ「ぁ……」

結衣先輩に髪を撫でてもらえて、とても気持ちいい。
結衣先輩の太もも、服越しでもすべすべな気がするなぁ。

ちなつ「んんっ……」

始めは固まっていた体も、しばらく撫でられているとリラックスして。
いつの間にか、結衣先輩の太ももに頬を擦りつけていた始末である。

結衣「ちなつちゃんは猫に似ているなぁ」ナデナデ

ちなつ「…そうですかぁ?」トローン

73: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/11/27(日) 14:55:06.90 ID:sJM53n6T0
結衣「そうやって、気持ちよくて喉を鳴らしそうなところとか」クスッ

ちなつ「これは結衣先輩だけ、ですから…ぁっ……」カァ///

流石にちょっと恥ずかしくなってきた。
盛りの付いたメス猫じゃないんだから、しっかり意識を保ちたい。

結衣「美味しいお茶をいつもありがとう」ナデナデ

ちなつ「喜んでもらえてなりよりです……」ゴロゴロ

結衣「いつもお疲れ様、感謝してるよ」ナデナデ

結衣先輩の言葉に、胸が暖かくなる。
マッチ売りの少女の見た幻覚もかくやというレベルじゃないかな、これ。

ちなつ「その言葉だけで、チーナは幸せです……」エヘヘ


何かもう、ずっと梅雨でもいいかも。


74: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/11/27(日) 14:58:52.27 ID:sJM53n6T0
結衣「雨、止んだね」

そんなこんなでいちゃいちゃしている間に、雨は上がった。

ちなつ「雨上がりの虹が見えたらいいですね」

虹は大気中の水滴がプリズムの役割を果たすことで現れる。
つまり、光の屈折を引き起こしやすい雨上がり後は、虹を観察できる可能性が高くなるのだ。

結衣「体を動かしたいし、虹を探しに行こうか」

ちなつ「はい!」パァァ

結衣先輩と外にお散歩まで出来るなんて、今日はラッキーだ。

傍にいられなくても、振り向いてもらえなくても、
こうしてのんびりと一緒にいられるならば、ただそれだけで私は満足なのだ。

結衣「どこがいいかなぁ」ウーン

ちなつ「花壇で綺麗な空気でも吸いませんか?」

結衣「それ、いいね」ウン

76: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/11/27(日) 15:01:30.78 ID:sJM53n6T0
ガラッ

雨が空気中の埃や塵を叩き落としたようで、外に出た私たちを清浄な風が迎える。
湿度はどうしようもないが、それでも太陽に照らされた地面はいつもより綺麗に見えて。
気分も爽やか、気力も満タンである。

結衣「水溜まりが出来てるから、注意してね」

ちなつ「はい」

水溜まりは天空を映す鏡のようで、まるで空が地面に落ちてきたみたいだ。
それはウユニ塩湖のように透き通ってはいないけれど、私にはこれくらいが丁度いい。

結衣「開放的な気分」ンー

ちなつ「雨もいいですけど、やっぱり晴れが一番ですね」

ありふれた幸せを、景色を、青春を、謳歌していたい。

78: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/11/27(日) 15:03:49.15 ID:sJM53n6T0
~花壇~

雨上がりの花壇は、いい匂いだけれど、カオスなくらい色々な匂いが混ざっている。
落ち葉、木、土、花、空気、水、といったくらいだろうか?
これだけの匂いが混じれば喧嘩しそうなものだが、けれども匂いというのは基本的に足し算で。
例えば一種類だけでは不快な臭いも、混ぜてしまえばいいアクセントになることもあるそうだ。

ちなつ「………」スゥー

ちなつ「………」フゥ

胸いっぱいに吸い込んだ新鮮な空気は、頭をすっきりと爽快にさせてくれる。

ちなつ「結衣先輩~!こっちです」

結衣「元気一杯だね、ちなつちゃん」

ちなつ「今までのんびりしていて、体に体力が有り余ってますから」エヘヘ

結衣「見せたいものって、やっぱりこの…」

79: 早く特売に行きたいから 2011/11/27(日) 15:06:23.27 ID:sJM53n6T0
ちなつ「はい、ピンクの紫陽花です!」ジャーン

紫陽花は雨の中でこそ上品に輝くと言われる、そんな珍しい花だ。
でも私は、雨が上がったあとの紫陽花が一番魅力的だと思う。

結衣「綺麗……」ワァ

雨の中では寂しそうに項垂れているように見える紫陽花。
けれども雨が上がった後の紫陽花は、
まるで待ち焦がれていた夜明けのような、海中から見上げた空の眩しさのような、
そんな説明し難い美しさを持っているのだ。

ちなつ「お気に召していただけて幸いです」エヘッ

とにかく、紫陽花についた雨の雫に光が反射して、それはそれは綺麗なのだ。
好きな花を結衣先輩と一緒に見て、感動を共有したい、そう思ってここに付き合ってもらった。

82: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/11/27(日) 15:09:15.76 ID:sJM53n6T0
結衣「確か、紫陽花は土によって色が変わる、だったかな」

ちなつ「流石結衣先輩、博識です」ポッ

紫陽花の色は土壌の酸性度に影響を受けていて、土を調整することで色をある程度左右できる。
酸性なら青に、アルカリ性なら赤になると言われているから、ここの土はアルカリ性なのかもしれない。

結衣「たまたま園芸の本で読んだだけ、買い被りだよ」クスッ

またまた、ご謙遜を。
意外と結衣先輩は女の子らしい知識を沢山持っている。

ちなつ「でも、こんなに綺麗なのに、花言葉は移り気、高慢なんて酷いのばっかりなんです」

ちなつ「もっとも私みたいな女にはお似合い、そう言えるかもしれませんが」ショボン

83: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/11/27(日) 15:12:02.47 ID:sJM53n6T0
結衣「それはどうかな?」

結衣「紫陽花には、ひたむきな愛情という花言葉もあるんだよ」

結衣「だから私は、ちなつちゃんによく似合う、素敵な花だと思うよ」ニコッ

ちなつ「結衣先輩……」

どうして結衣先輩は、こんなに私に優しくしてくれるのだろう。
これでは、期待してしまいそうになってしまうじゃないですか。

結衣先輩は私のことを好いてくれるのではないか、そんな夢を。

結衣「咲き始めから色を変えていくから移り気、なんて言うけれど」

結衣「それはきっと心変わりじゃなくて、精一杯美しくあろうと努力しているんだよ」

結衣「だから、紫陽花はちなつちゃんみたいな努力家なんだろうね」

ちなつ「あうぅ……///」モジモジ

86: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/11/27(日) 15:14:20.25 ID:sJM53n6T0
真っ赤になったまま、言葉も発せないくらい顔がにやけて、どうしよう。
微笑む結衣先輩がすごく素敵で、胸がドキドキして苦しい。
でも、結衣先輩に何か返事を返さないと、何か、えぇと……。

ちなつ「……ゆ、結衣先輩は、梅の花みたいに綺麗な人です」ボソッ

結衣「何か言った?」

ちなつ「な、なんでもありませんからっ」アタフタ

何を口走っているのだろう、私は。

ちなつ「そろそろ部室に戻りましょうか」

結衣「京子も戻ってきてるかもね」

綺麗な空気も、紫陽花も、もう十分過ぎる程に堪能した。
これ以上、こんな空気を味わっていると、私の心臓が先に参ってしまう。

87: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/11/27(日) 15:16:55.62 ID:sJM53n6T0
空は晴れて、本日は快晴。
雨は上がり、太陽が雲を割って顔をのぞかせた。

ちなつ「あっ……」

結衣「……綺麗な虹だね」

いつの間にか、私たちの頭上には虹が出ていて。
空に架かる七色の虹は、おとぎ話にでも出てきそうなくらい幻想的だ。

結衣「……さっきの雨、狐の嫁入りだったのかな」

ちなつ「じゃあ、この虹は急な雨のお詫び、みたいなものかもしれないですね」クスッ

結衣「何だかロマンチックだね」

慕うものに恩恵を、裏切りに牙を。
お稲荷さんはどちらかというと、人に近い性質を持っていると思う。
敬われて、又恐れられてもいるのは、その不安定さが人の心のそれだからじゃないかな。

89: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/11/27(日) 15:19:07.13 ID:sJM53n6T0
ちなつ「めぐり合わせに、感謝ですね」

この素晴らしい景色を見せてくれた全てに、感謝したい。
結衣先輩との出会いをくれた全てに、感謝したい。

それが偶然でも、必然でも、気まぐれでも、親切でも、オカルトでも、自然現象でも、何であろうとも。
単にひねくれて考える人であるよりも、その方がきっと、よっぽどいい。

90: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/11/27(日) 15:21:40.17 ID:sJM53n6T0
結衣「手を繋いで帰ろうか」

ちなつ「はい!」

結衣先輩の差し出した手をそっと握る。

今はただ、このままを楽しんでいたい。
この想いを秘めていられる限り、結衣先輩の隣で。



おわり

105: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/11/27(日) 15:56:30.29 ID:sJM53n6T0
慌てて割れ物踏んで血溜り出来てワロタ痛い

三本目

綾乃「夕暮れ空とココロの色」

106: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/11/27(日) 15:58:34.24 ID:sJM53n6T0
色には不思議な力がある。

その不思議さを実感するために、少し身近な例を挙げてみよう。

Q. 提灯が基本的に赤色なのはどうして?
A. それが一番人目を引き付けるから。

Q. 青色が食欲を減退させるのはなぜ?
A. 自然界に青の生物は殆どいないから。

Q. 黄色が警戒色に使われるのはなぜ?
A. 黄色には危険な生物が多く、おまけに遠くから判別しやすい。

このように色彩の効果とその影響は、誰しもが日常で体験している。
されど、その影響の大きさを理解できる人は、そうはいない。

108: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/11/27(日) 16:00:36.00 ID:sJM53n6T0
私たちの身体に影響する、そんな例もある。
赤系統は気分を盛り上げて、青系統は落ち着きを与える。
お洒落なカフェや装飾品の売り場に、暖色の柔らかい光が多いのは、そういう影響だ。
これは有名な話だが、部屋の色のコーディネイトは体感温度すら左右するのだ。

また、私たちは色自体に意味を求めたりもする。
白は純真を、紫は気品を、赤は情熱を、緑は安らぎを。
色自体が概念を内包し、その色を持つものの性質にすら影響を与えている。

時の権力者や宗教が、色に特別の権威を持たせて意味づけをしてきたのは、
そんな色の持つ力に着目したからであろう。

110: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/11/27(日) 16:02:36.50 ID:sJM53n6T0
色の効果や解釈は多様で、とても把握しきれるものではない。
私達には、色のない世界なんて想像もできないのに。

形のない感情すらも、色として表すことができるという。
それならば、心のカタチも色として表せるのだろうか。

私の揺れる、この恋心も。

111: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/11/27(日) 16:04:37.47 ID:sJM53n6T0
~生徒会室前廊下~

綾乃「またこんなに書類仕事が……」ハァ

綾乃「たまにはやり甲斐のあることがしたいわ」

創作物のような強権を行使する生徒会、そんなものがそうそうあるはずもなく。
私たちにできるのは、時代遅れな校則の撤廃又は改正の交渉、その程度が精々だ。

綾乃「」ガラッ

京子「お帰り、綾乃」モグモグ

綾乃「って、とっ、歳納京子ーっ!」

京子「おー、どうしたの綾乃?」

綾乃「ああなた何を食べてるの」

京子「プリンだよ?」

楽しみに取っておいたプリンは、歳納京子に食べられていた。
日々の疲れを癒す、私の好物なのに……。

112: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/11/27(日) 16:06:37.93 ID:sJM53n6T0
綾乃「私の……プリンが……」ガクッ

京子「ごめんごめん、お腹すいちゃって、つい」アハハ

京子「はい、あーん」アーン

綾乃「えっえっ」アタフタ

落ち込んでいる私に、プリンの乗ったスプーンが差し出される。
これは、食べてしまってもいいのだろうか。

京子「あ、他人の食べたスプーンなんて嫌だよね」ヒョイ

京子「うっかりしてた」イヤー

綾乃「あ……」シュン

綾乃「うぅぅ……」シクシク

京子「えっと、そんなに……嫌だった?」

むしろそっちの方が……、なんて口が裂けても言えない。
もっと勇気が出せたなら、この人と触れ合えるのに。

113: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/11/27(日) 16:08:38.30 ID:sJM53n6T0
綾乃「別に、大した理由じゃないわ」プィ

京子「今度、アイス奢ってあげるからさ、元気だしてよ」ネッ

綾乃「でも、アイスとプリンは別物よ」イジイジ

二重のショックで、私のテンションはダダ下がりだ。
歳納京子の困った顔は可愛いけれど、それでも気分は落ち込んだままだ。

京子「」ウーン

京子「」ピコーン!

京子「綾乃!」

綾乃「何?」シクシク

京子「私がプリンの分も働くよ!」

綾乃「へっ?」

いきなりの発言が飲み込めなくて、少し逡巡する。

114: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/11/27(日) 16:10:41.71 ID:sJM53n6T0
京子「今日は生徒会のお仕事を手伝うことにする!」

綾乃「でもあなた、ごらく部は」オロオロ

京子「基本自由参加だし、結衣がいれば大丈夫!」

綾乃「……信頼してるのね」

嬉しいことのはずなのに、どこか面白くない。
胸がチリチリして、燃え上がることなく燻る火が、私の心を焦がす。

京子「まぁ、幼馴染だし」

私の知らない彼女の過去。
それを見てきて、傍で支えてきただろう船見さんが、羨ましくて、妬ましくて。

京子「今日はずっと綾乃の傍にいるよ!」

綾乃「へっ、いいきなりなにを」アワワワ

115: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/11/27(日) 16:12:59.09 ID:sJM53n6T0
京子「だめ?」

綾乃「ダメじゃない、けど」カァァ///

子首を傾げる歳納京子が可愛くて、思わず赤面する。
これを計算でやっているのなら、とんだ小悪魔だ。

千歳「………」ウフフ

千歳「………」ボタボタ

千歳「綾乃ちゃん、後はお二人でゆっくりしてなぁ」ニコニコ

綾乃「ちょっと、千歳」ガシッ

二人きりなんて、私が死んでしまう。
生徒会の仕事も溜まっているのだから、千歳を逃す訳にはいかない。

116: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/11/27(日) 16:17:05.25 ID:sJM53n6T0
千歳「せやかて綾乃ちゃん、これはチャンスや」ヒソヒソ

綾乃「むっ、無理よ」ヒソヒソ

千歳「歳納さんとの共同作業、深まる絆」ヒソヒソ

綾乃「お願いだから、千歳も一緒にいて」ヒソヒソ

今でさえ、心臓の音が、耳から離れないのだ。
五月蝿いほどに脈打って、狂おしいほどに何かを求めていて。

京子「どしたの?」

綾乃「何でもないわ」プィ

京子「うーん、千歳~!」

千歳「ほな、この書類を綾乃ちゃんと整理してもらえるやろか?」

京子「イエッサー」

綾乃「んなっ」

千歳に先手を打たれてしまった。

118: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/11/27(日) 16:20:03.59 ID:sJM53n6T0
京子「一緒に頑張ろう、綾乃」ニコニコ

綾乃「そそそそうね」

京子「はい、私が書類を分類するから、ホッチキスは頼むよ」

綾乃「ま、任せなさい」

千歳にしてやられたのは癪だけれど、まぁ、いいか。
こうして歳納京子と一緒にいられると、確かに楽しいから。

千歳「あかん、失血死には注意せんと」ダラダラ

綾乃「ティッシュを五箱用意しておいたわ」ハイ

千歳「堪忍なぁ」ダラダラ

京子「千歳も大変だなー」

あなたの影響でしょうが。

120: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/11/27(日) 16:22:47.27 ID:sJM53n6T0
~活動終了~

京子「結構疲れたね」グッタリ

綾乃「今日は特に、明日の分の配布物が大量だったから」

先生にプリントを提出すると、更なる仕事を押し付けられた。
雑用係な生徒会に拒否権があるわけもなく、泣く泣く引き受ける羽目になった。

綾乃「まぁ、だから感謝していなくもないわ」

京子「それって感謝してるってこと?」

綾乃「あぅぅ」

京子「えへへ」

この人の笑顔を見るたびに、私の胸は切なくなって。
どうしようもない感情が、この心を満たす。

121: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/11/27(日) 16:24:58.44 ID:sJM53n6T0
京子「千歳、プリント提出に行ったきり帰ってこないね」

綾乃「どこかで鼻血を吹いて、倒れているのかしら」

千歳はおそらく、気を使っているつもり、なのだろうけど。
夕暮れに染まる生徒会室に、歳納京子と二人きりだ。

京子「二人きりだね」

綾乃「そうね」

歳納京子の顔が、まともに見られない。
ドキドキして、行き場を失った想いが暴走するような気がするから。

京子「綾乃?どうしたの?」

俯いた私の顔を、無邪気にのぞき込んでくる。

京子「綾乃?」

……私を誘惑するこの人に、分からせてやりたい。

チュッ

123: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/11/27(日) 16:27:00.66 ID:sJM53n6T0
京子「ぁ……」

頬を染めて、大人しくなった彼女が可愛くて。
その表情をもっと見たくなる。

京子「あ、あやの?」

上目遣いが可愛いなぁ。
その目は涙で潤んでいて、まるで宝石みたいだ。

京子「ぁぅ……」

もっと、キス、したい。

124: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/11/27(日) 16:29:18.73 ID:sJM53n6T0
京子「………ゃ」

綾乃「……ッ」

何をしているのだろう、今のわたしは。

綾乃「ちがっ、いまのは……」

綾乃「その……ッ」

ガタッ、バタバタ

バタンッ

私は言い訳もできないままに、
歳納京子から逃げだしてしまった。

125: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/11/27(日) 16:31:19.95 ID:sJM53n6T0
綾乃「どうしよう、どうしよう、どうしよう」

キス、してしまった。
だって、あんなに可愛いから。

綾乃「歳納、京子……」

そっと指で触れた唇は、甘くて、熱かった。

126: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/11/27(日) 16:33:43.27 ID:sJM53n6T0
~電話~

千歳『綾乃ちゃん、今日はどうやった?』

綾乃「千歳、ごめんなさい」

千歳『どしたん、急に?』

綾乃「放ったらかしで、帰っちゃって……」

千歳『ええよええよ、それより歳納さんの顔が真っ赤になってたんやけど』

千歳『綾乃ちゃん、手を出したりしたん?』

綾乃「……うん」

千歳『』ブシャァァ

綾乃「大丈夫?千歳」

千歳『予想外な、返事やったから』ボタボタ

127: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/11/27(日) 16:35:45.00 ID:sJM53n6T0
綾乃「……わたし、歳納京子に無理やりキスしたの」

千歳『せやったん』

綾乃「どうしよう、私、私、」

あのときのキスの意味は、なんだろう?

千歳『……綾乃ちゃんは、つい歳納さんにキス、してしもうたんやね』

綾乃「……私が帰った後、歳納京子はどうしてたの?」

千歳『私が帰ったときは、上の空で外を眺めとったよ』

綾乃「もう、歳納京子に会わせる顔がないわ」ハァ

千歳『せやろか』

綾乃「同性にキスなんてされて、怯えない人はいないでしょ、普通に考えて」

128: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/11/27(日) 16:37:52.27 ID:sJM53n6T0
千歳『せやかて綾乃ちゃんは、歳納さんのこと、このまま諦めるん?』

綾乃「だって、私は……」グスッ

千歳『綾乃ちゃん』

千歳『うちは、本当は引っ込み思案でも、』

千歳『それでも、いつも真っ向勝負の綾乃ちゃんが好きやで』

綾乃「……ありがとう、千歳」

千歳『頑張って、綾乃ちゃん』

綾乃「……うん」

綾乃「心配かけて、ごめんね」

千歳『ええんよ、友達やもん』

綾乃「おやすみ、千歳」

千歳『おやすみ、綾乃ちゃん』

ガチャン

129: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/11/27(日) 16:40:23.47 ID:sJM53n6T0
綾乃「弱気な私は、情けないものね」フフッ

綾乃「伝えなくっちゃ」

結果は望み薄でも、気持ち悪がられるだけでも、怖くても、傷つくだけだとしても、
それでも、逃げるなんてやっぱり嫌だ。

だから、私は会いに行く。

130: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/11/27(日) 16:42:25.78 ID:sJM53n6T0
~生徒会室~

綾乃「歳納京子ー!」バーン

歳納京子を、放課後の生徒会室に呼び出した。
皆に申し訳ないけれど、協力をお願いして二人きりにしてもらった。

京子「綾乃……」

すでに歳納京子は私を待っていた、来てくれていた。
沈みゆく夕暮れが、生徒会室を照らす。

131: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/11/27(日) 16:44:26.87 ID:sJM53n6T0
綾乃「ああなたに、伝えたいことがあるの」

京子「伝えたい、こと?」

夕暮れに照らされた歳納京子は、綺麗だ。
眩く輝く髪が、煌めく瞳が、私の心を沸き立たせる。
けれど……、

綾乃「キスして、ごめんなさい!」

京子「いや、その……」

綾乃「本当にごめんなさい!」

まずは謝らなければならない。
それが誠意というものだ。

132: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/11/27(日) 16:46:28.85 ID:sJM53n6T0
京子「えっ、ちょっと」アワアワ

綾乃「私は、私は」

綾乃「貴方のことが好きなの!」

京子「え、えぇぇ」

こんな格好のまま告白してしまった、まぁいいか。
直接、顔を見て告白なんて、恥ずかしいし。

綾乃「貴方のことが好きで、好きで」

綾乃「手伝ってくれたのが嬉しくて」

綾乃「笑うあなたが可愛くて」

綾乃「私の顔を覗き込むあなたが可愛くて」

綾乃「つい、我慢ができなくて、キスしたの」

京子「えっ、あの、……」ワタワタ

綾乃「いつも、あなたに会いたくて」

綾乃「構って欲しくて」

綾乃「言い訳をつくって、ごらく部にお邪魔していたの」

「あ……えっと……その……」モジモジ

133: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/11/27(日) 16:49:07.54 ID:sJM53n6T0
「女同士で、こんなこと、いけないって分かってる」

「それでも、私は貴方が好き、好きなの!」

これで振られたら、涙でどうしようもなくなるかも。
けれど、胸のつかえが取れたような、すっきりした気分でもある。

京子「はっ話を聞いてよ!」

綾乃「ごっ、ごめんなさい」

怒られてしまった。
ちょっと泣きたい。

京子「顔上げて、それから立っていいから」

綾乃「はい」

膝が痛くなってきたので、有難い。
勇気を出して視界に入れた彼女の顔は、赤くなっているような気がする。

134: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/11/27(日) 16:51:21.99 ID:sJM53n6T0
京子「あのさ、その、ね」

京子「告白が土下座しながら、っていうのはまず問題だと思うんだ」

綾乃「……うん」

京子「じゃあ、普通にしなよ」プンプン

流石に土下座しながらの告白は駄目だったらしい。
少し怒っている歳納京子も、可愛い。

京子「……うぅっ、そんなに見つめないでよ」

綾乃「あなたが魅力的なのがいけないんだから」

京子「そんなことを言われても……」タジタジ

綾乃「……もしあなたが望むなら、二度と近づかないわ」

京子「それは嫌!」

それは、近づくことを許せないほどには嫌われていない、ということだろうか。
それだけで、明確な拒絶を受けなかっただけで、この心は安心する。

135: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/11/27(日) 16:53:23.47 ID:sJM53n6T0
京子「うーん」

綾乃「やっぱり気持ち悪いかしら……」

京子「そんなことないから」イヤイヤ

綾乃「それでも、嫌だったわよね」

再び口付けをしようとしたときの、拒絶する瞳が、声が、忘れられない。
私の心をズタズタに引き裂いたくらいなのだから。

京子「えっと、その、だから」アタフタ

京子「ああもう、なんていったらいいんだー!」ウガー

京子「……わるくなかった」ボソッ

綾乃「えっ?」

136: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/11/27(日) 16:55:27.07 ID:sJM53n6T0
京子「だから、別に悪くはなかったの!」プィ

京子「キスも驚いたけど、平気だったから!」

そっぽ向いて、夕暮れに照らされた横顔は、確かな羞恥に染まっていて。
期待、してもいいのだろうか。

綾乃「そっそれって、つまり」

京子「だからさ」

京子「京子、って呼んで?」

ああ、千歳が鼻血を吹く理由が分かる。
これはやばい。

綾乃「きょっきょきょきょ」

京子「落ち着きなよ」ハァ

名前で呼べなかった。
呆れられてしまった、穴があったら入りたい。

137: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/11/27(日) 16:57:32.22 ID:sJM53n6T0
京子「……そのさ、キス、したい?」

綾乃「え、えぇぇぇ!」

京子「えっと、唇はダメだけど、頬っぺたなら……」モジモジ

綾乃「そ、そういうことね、勿論わかってたわ」

京子「……別にどうでもよかった?」

綾乃「そんなことないわよ!」

京子「ないないナイアガラじゃないんだ」フフッ

綾乃「そういう台詞を言う雰囲気じゃないでしょう」ムッ

京子「それもそうだね」クスッ

キス、してもいいのだろうか。
顔が熱くて、心も熱くて、ドキドキが止まらない。

138: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/11/27(日) 16:59:59.32 ID:sJM53n6T0
綾乃「………」ドキドキ

京子「………」ドキドキ

綾乃「……目をつむって」

京子「えー、なんで」ブー

綾乃「だって、は、恥ずかしいじゃない」カァァ///

いくら頬と言っても、恥ずかしいものは恥ずかしい。
口付けをじっと見つめられるのは、ちょっと耐えられそうにない。

チュッ

京子「ご馳走様」

綾乃「」

京子「確かに恥ずかしい、かも」エヘヘ

綾乃「」アワワワ

キス、されてしまった、歳納京子にキスされてしまった。
頬っぺたにちゅってキスが、キスがあうぁくぁwせdrftgy

139: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/11/27(日) 17:02:00.03 ID:sJM53n6T0
綾乃「」プシュー

京子「綾乃、大丈夫?」

綾乃「とととっと歳納京子の唇が……」ワタワタ

京子「もうっ、綾乃ったら」クスクス

綾乃「だって、歳納京子が…」アワワ

京子「名前、呼んで?」

綾乃「………………京子」

京子「よくできました」ナデナデ

綾乃「うぅぅ~」カァァ///

もう、お嫁にいけない。

140: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/11/27(日) 17:04:03.71 ID:sJM53n6T0
京子「これからもよろしくね、綾乃」

綾乃「うん」

京子「私も綾乃のことが、好きだから」

綾乃「わ、私も京子のことが好き」

京子「知ってる」ニコッ

ああ、私の心はきっと、夕暮れ色なのだろう。
情熱の赤のように一気に燃え上がるものではないけれど、
あったかくて、切なくて、こうしてあなたを彩る光。

141: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/11/27(日) 17:06:04.75 ID:sJM53n6T0
綾乃「夕暮れが、綺麗ね」

京子「綾乃の可憐さが際立っていいね」

綾乃「かっからかうのは禁止よ!」

私の心は変化して、いつかは違うカタチや色になるのかもしれない。
でも、今日という日の、夕暮れの美しさを忘れたりはしない。
好きな人と結ばれた、この日を。



おわり

引用元: 結衣「アイニージュー」