穂乃果「エイリアンズ」 前編

236: 名無しで叶える物語(笑)@\(^o^)/ 2015/09/14(月) 00:33:12.63 ID:hQhXwmgJ.net




ことり「すぅ……すぅ…」

海未「可愛い寝顔ですね」

穂乃果「うん。ことりちゃん、もう限界だったみたい」

海未「小さい子供には、過酷過ぎる時間が続きましたから」

穂乃果「私、医務室に寝かせてくるよ。そしたら……ふわあぁっ」

海未「あなたも相当疲れているようですね。一緒にひと眠りしてきてはどうでしょうか」

穂乃果「うーん、気持ちは嬉しいけど。みんなが頑張ってる時に私だけ休むってのは」

海未「問題ありません。今のところ、巡回以外にすることはありませんから」

海未「あなたはこれまで十分すぎるほどよくやってくれました。休めるうちに休んでおくのも大切なことです」

穂乃果「それじゃあ…海未ちゃんの言葉に甘えちゃおっかな?」

海未「ええ。揚陸艇が到着したら起こしましょう」

237: 名無しで叶える物語(笑)@\(^o^)/ 2015/09/14(月) 00:35:05.68 ID:hQhXwmgJ.net
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海未「それと」

海未「これをあなたに……プレゼントと言っては何ですが」

穂乃果「腕時計…?」

海未「それはブレスレッド型の発信機です」

海未「簡易的なものですが、私の持っている追跡装置であなたの位置が分かります」

海未「何かあった時はここのスイッチを押し込んでください。私が」

海未「私が必ず…駆けつけますから」

穂乃果「…うんっ」

穂乃果「ありがとう海未ちゃん。大切にするね」

海未「大げさな言い様ですね。只の発信機ですよ」

穂乃果「ふふ…実を言うと、指輪でも渡されるんじゃないかと思ってドキドキしちゃった」

海未「な、なっなっ何を言うのですか…」

穂乃果「あはは、海未ちゃん顔真っ赤ー」

海未「…もうっ、あなたという人は」

穂乃果「ははっ」

海未「ふふ…」


――――
――

238: 名無しで叶える物語(笑)@\(^o^)/ 2015/09/14(月) 00:36:38.67 ID:hQhXwmgJ.net
【居住区 医務室】


穂乃果(ことりちゃんをベッドに寝かして…っと)

穂乃果「ふぁ…私はどこで寝よっかな」

ことり「…ほのかちゃん」

穂乃果「あ、起こしちゃったかな? それにやっと名前で呼んでくれたね、嬉しい」

穂乃果「でもことりちゃんは眠った方がいいよ。私がここで見ててあげるから」

ことり「ねむりたくないの…こわいゆめ見ちゃうから」

穂乃果「うーん、でも」

穂乃果「そうだ、ケーシーは怖い夢見ないと思うな」

穂乃果「ほら、言ってたよね。ケーシーは」

ことり「ケーシーはもう一人のわたし」

ことり「でもちがうの、ほんとは同じなわけない」

ことり「ケーシーはむかし兵たいさんだったけど、今はコックさん」

ことり「でもいざって時は、わるい人を料理しちゃう」

穂乃果「へえ、凄いじゃん。ことりちゃんもケーシーに守ってもらおうよ」

ことり「ほのかちゃん、ケーシーはぬいぐるみだから動いたりしないよ」

穂乃果「…そうだよね。ごめん」

239: 名無しで叶える物語(笑)@\(^o^)/ 2015/09/14(月) 00:37:56.42 ID:hQhXwmgJ.net
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ことり「本物の兵たいさんも、やっぱりあのかい物にかてなかった」

ことり「おとなの人は、どうしてウソをつくの?」

ことり「ことりのママはかい物なんていないって言ってたのに」

穂乃果「それは……いないのが普通だから、かな」

ことり「ねえ、ほのかちゃん。あのかい物にもママがいるの?」

穂乃果「どうだろう、今まで考えたことなかったけど…」

ことり「だって、人間はみんなそうだよ。赤ちゃんは、ママのおなかから生まれてくるの」

穂乃果「うん、穂乃果やことりちゃんはそうやって生まれてきた。でもアレは…」


穂乃果「もしも…ことりちゃんの言う通りママがいたとしたら、とんでもない大家族だね」

ことり「ほのかちゃんにも、家ぞくがいた? 子どもは?」

穂乃果「えへへ…穂乃果にはまだそういうのは早いかな」

穂乃果「お父さんやお母さん、妹はいたよ」

ことり「その人たちは、地きゅうにすんでる?」

穂乃果「……」

穂乃果「みんなは…」

穂乃果「みんなはそう、遠くにいるの」

ことり「……」

240: 名無しで叶える物語(笑)@\(^o^)/ 2015/09/14(月) 00:40:41.32 ID:hQhXwmgJ.net
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穂乃果「ねえ、来て。ぎゅってしてあげる」

ことり「んー」

穂乃果「私も、このままことりちゃんと一緒に眠るよ……このベッドは少し小さいね」

ことり「なら、この下でねよ? ことりも、ほのかちゃんといっしょがいい」

穂乃果「ことりちゃんが言うなら、そうしよっか」


穂乃果(ちょっと、床が冷たいかな)

穂乃果(でも、この子を抱きしめてれば)

ことり「ううん、パパ…ママ」

穂乃果「大丈夫…」

穂乃果「もうひとりじゃないよ」

241: 名無しで叶える物語(笑)@\(^o^)/ 2015/09/14(月) 00:41:49.03 ID:hQhXwmgJ.net
【居住区 制御室前通路】


花陽「ちょっと、寒いね」

凛「うん…」


それが室温のせいだけではないことは、自分も相手も重々承知している。

先程からほとんど肩と肩が触れ合うくらいにぴったりと密着しながら、哨戒を続けていた。


花陽「なんかね、こうして凛ちゃんとくっついてると、入隊した日のことを思い出すよ」

花陽「私、体力測定とかは全然駄目駄目で」

凛「凛は座学がさっぱりだったなぁ。かよちんと同じ技術兵科志望なのに」

凛「そんなんじゃ使い物になる前に戦争が終わっちまうぞって毎日教官にどやされたっけ」

花陽「でも凛ちゃん本当に頑張ったよね。意外と機械に強いってことも、私知らなかったなぁ」

凛「あはっ…苦労したけどね」

242: 名無しで叶える物語(笑)@\(^o^)/ 2015/09/14(月) 00:42:32.65 ID:hQhXwmgJ.net
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花陽「だけど、最初の一ヶ月はそれはもう散々で、泣き虫の私たちは二人で毎日慰め合ってたよね」

凛「そーいえば、ベッドで泣くと周りがうるさいからって、泣く場所を探すのが大変だったにゃ」

花陽「その時も、こうして二人で肩を寄せ合ったりしてたけど。ある日凛ちゃんが言ったこと、覚えてる?」

凛「う、うーんと、何だっけ。今にして思うとちょっと恥ずかしい思い出だし」

凛「えっと……あっそうだ、思い出したよ」

凛「凛たちは二人で一人前。負け犬として追放されるくらいなら、二人で一人の兵士としてやっていこう、でしょ?」

花陽「私は、その言葉があったからここまでこれたの」

花陽「兵隊さんになったのも、後悔してないよ。だって凛ちゃんと一緒だもん。これからも…ね」

凛「かよちん…」

凛「うん、凛も同じ気持ち! ずっと一緒だよ。だってこの気持ちは、昔からずーっと一緒のままだもん」

花陽「えへへ、何だか照れくさいよ…」

花陽「そうだ、実はね。私、前から一度二人でやりたかったことがあるの」

凛「?」

243: 名無しで叶える物語(笑)@\(^o^)/ 2015/09/14(月) 00:43:54.72 ID:hQhXwmgJ.net




凛「じゃあ、いくよ?」

花陽「うん、ホントにやるんだね…」ドキドキ

凛「したいって言ったのはかよちんじゃん。ほら、頭出して」

花陽「う、うん…せっ」


りんぱな「センパーファイッ! 乙女式!」ガツン!


花陽「でっ」

花陽「できたぁ! やったよ凛ちゃん」

凛(っく……やっぱり痛いよーこれ。でもかよちんが嬉しそうだからいいや)


にこ「なーに人の持ち芸パクってんのよ、二人とも」

凛「ひぃ、にこちゃんが生えてきたぁ」

にこ「こらぁ、私は菌類かっつーの!」

凛「身長は全然伸びないのにね」ニャハッ

にこ「なんだ、思ったより元気そうじゃない」

花陽「はい、お陰様で」

にこ「あーあ、ちょびっとでも心配した私が馬鹿だったわ。それと、そろそろ交代の時間よ」

凛「うん、分かった! 行こ、かよちん♪」

244: 名無しで叶える物語(笑)@\(^o^)/ 2015/09/14(月) 00:45:17.64 ID:hQhXwmgJ.net
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絵里「二人ともお疲れ様」

花陽「は、はい。お疲れ様です」

凛「…」ペコッ

絵里(階級を無くしたんだから、そんなに固くならなくても……と言ってもいきなりは難しいわよね)

絵里(これが終わったら、徐々に溝を埋めていくようにしたいわ)

絵里(そう思ったところで、私の仕出かした失態はそう簡単に許されるものじゃない。人によってはずっと)

絵里「…」チラッ

にこ「何見てんのよ?」

絵里「……あなたが考えていること、分かるわ」

絵里「憎いでしょうね、私のことが」

にこ「……」

にこ「いいえ、あんたやっぱり全然分かってない」

245: 名無しで叶える物語(笑)@\(^o^)/ 2015/09/14(月) 00:47:12.63 ID:hQhXwmgJ.net
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海未「つまり、あなたは植民地の人々が犠牲になった今回のことの責任を認めるわけですね」

あんじゅ「ええ、警告もなしに異星人の宇宙船を調査させたのは、私のちょっとした判断ミスだったわ」

海未「ちょっとした…?」

あんじゅ「私の立場も分かって頂戴。会社からは、未知の生命体を発見した場合は採取と調査を行うよう厳命されてるの」

あんじゅ「幸い、培養チューブで捕らえられた安全なサンプルが二体、医務室に保管されてるわ。あれを持ち帰れば」

海未「ふざけないでくださいっ!」

海未「あなたたちは、人の命を何だと思っているのですか! 今回の事にしろ、人類を滅ぼしかねない危険な生き物を持ち帰って研究? 一体何のために?」

海未「たとえICC(星間交易委員会)の検疫を通っても! この私がっ、そんなことは許しませんよ!」

あんじゅ「……」

海未「優木さん。あなた個人は、悪い人には見えません。立場上、辛いこともあるかとは思いますが」

海未「どうか今一度、自分の良心と向き直ってみてはくれないでしょうか」

あんじゅ「…失礼するわ」

海未「どこへ?」

あんじゅ「私も、少し冷静でいられなくなったみたい」

あんじゅ「ちょっと頭を冷やしてくる。顔でも洗って、ね」

海未「……」



ヴィーン


花陽「戻りました」

凛「海未ちゃんひとりなの? さっき大きな声が聞こえたけど」

海未「……いえ、何でもありません」

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246: 名無しで叶える物語(笑)@\(^o^)/ 2015/09/14(月) 00:49:36.79 ID:hQhXwmgJ.net
【居住区のはずれ 電波塔付近】


ゴゴゴゴゴゴゴゴゴ   バジッバジバジバジ



真姫(大気ドームから青い稲妻が……見るからにヤバい雰囲気よね)


真姫(嵐も酷いし、ホント嫌になっちゃう)


真姫「さて、タワーの調整も終わったし、ここからが本番よ」


真姫「コネクタを接続して…んっ」


真姫『――――――――・・・・・・・・・――――――、、、、、』


真姫『、、、、――――――2号機、発進準備。発進区画へ移動』


真姫『燃料注入開始。同時にシステム最終チェック、全行程完了まであと24分』

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247: 名無しで叶える物語(笑)@\(^o^)/ 2015/09/14(月) 00:51:19.18 ID:hQhXwmgJ.net
日曜洋画劇場



               ラブライブ!× A L I E N S             

254: 名無しで叶える物語(笑)@\(^o^)/ 2015/09/14(月) 19:47:33.64 ID:hQhXwmgJ.net




ビーッ! ビーッ!


穂乃果「んん…」


穂乃果「…ことりちゃん?」


穂乃果「いないっ!?」ガバッ



穂乃果(何時の間に――どこいっちゃったの?)


穂乃果(それにこの音、警報が鳴ってる? 私が寝てる間に何かあった!?)


穂乃果「どーして誰も起こしてくれなかったのー?」

255: 名無しで叶える物語(笑)@\(^o^)/ 2015/09/14(月) 19:49:18.35 ID:hQhXwmgJ.net
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寝台の上にあった火炎放射器を引っ掴み、制御室へと通じる扉を開ける。


穂乃果「何があったの――」


穂乃果「……あれ」


室内はがらんどうだった。心臓の動悸が一気に跳ね上がる。



――イソイデクダサイ



穂乃果「?」


監視モニターに、何かの作業に没頭する二人の女性が映し出されていた。


穂乃果「海未ちゃんと……ことり、ちゃん?」

256: 名無しで叶える物語(笑)@\(^o^)/ 2015/09/14(月) 19:51:30.02 ID:hQhXwmgJ.net
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画面の中で、ことりらしき人物が壁に収まったボンベを次々引き抜いては後ろに放っている。

海未がそれを拾い上げ、運搬カートに積み上げていく。


≪マッキーが、自動爆破装置が作動したことをお知らせするわ≫


穂乃果「!?」


≪今から10分以内に、安全な場所まで退避しなさい≫



―――おおむね合点がいった。


皆は脱出のための準備に奔走しているのだ。

二人が運ぼうとしているのは、救命艇の酸素供給機に使う冷却材だろう。



ただ、一つだけ分からないのは



穂乃果(あれは…ことりちゃん、だよね)

257: 名無しで叶える物語(笑)@\(^o^)/ 2015/09/14(月) 19:53:06.95 ID:hQhXwmgJ.net
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一心不乱に冷却ボンベを放ることりとそれを拾う海未の背丈は、ほとんど変わらないように見える。

その手にぬいぐるみのケーシーは握られていない。

自分の知っている幼い彼女ではない。

しかしベージュの髪色と特徴的なアホ毛、成長しても変わらぬあの愛くるしい顔立ちは、二人のことりが同一人物だと主張している。



穂乃果(あれだと雪穂くらい……いや、私と同い年かも)



そう思うと途端に、今までことりに抱いてきた感情の正体がよく分からなくなった。

彼女は庇護の対象? 妹のような存在? それとも対等な友人関係?



穂乃果「――あ」

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258: 名無しで叶える物語(笑)@\(^o^)/ 2015/09/14(月) 19:54:21.38 ID:hQhXwmgJ.net
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モニターを見ている穂乃果だけが気付いていた。


穂乃果「だめ…逃げて、二人とも…」


手元だけを見ながら作業を続ける二人の影に、ゆっくりと、人非ざるもののシルエットが被さろうとしている。


穂乃果「海未ちゃん! ことりちゃん…!」


ようやくその存在に気付いたことりが、唇を震わせながらその場で硬直した。

逃げてください、という海未の言葉にも、いやいやと言わんばかりに首を振って泣き叫ぶばかりである。



穂乃果「ああぁ……おねがい」



ことりを庇う様にして前に出た海未が、それに組み伏せられた。

勝ち目のない力比べに、その表情は苦悶に歪む。

怪物の細長い頭部が、興奮したようにぶるぶると打ち震え、やがて何かが勢いよく射出された。

259: 名無しで叶える物語(笑)@\(^o^)/ 2015/09/14(月) 19:55:47.30 ID:hQhXwmgJ.net
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穂乃果「もうやめてぇ……もう、こんな…」


びくびくと痙攣する骸を背に、血と粘液に塗れた凶器を剥き出しにし、怪物はことりの方に向き直る。


そして穂乃果は、それの一部始終を、最後の最後まで見せつけられた。


逸らそうとしても、閉じようとしても、その光景は瞼の奥まで追いかけてくる。




永遠にも感じられる苦痛の時間。




やがて、ようやく、やっとそれが終わった時には、掻きむしった顔の皮からぽたぽたと血の雫が垂れていた。


画面の中では同じように、蹂躙の限りを尽くされたことりの肉体から、内ももを伝って赤黒いものが滴っている。




穂乃果「うっううぅ……ひぐっ、ぐぅうううう」




『ね、だカラ言ったでショ?』

260: 名無しで叶える物語(笑)@\(^o^)/ 2015/09/14(月) 19:56:55.45 ID:hQhXwmgJ.net
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背後からの声にびくっとして振り返る。


『アレは完ペキな生メイ体』


穂乃果「――ぅえりちゃん…?」



絢瀬絵里の、その首がほとんど一枚の薄皮で胴体にぶら下がり、断面から乳白色の液体がぴゅーぴゅー吹き出していた。



『花陽かラ生まレたくせに、彼女にはちっとも似テナいと思わなイ?』



穂乃果「ひっ…」



≪マッキーが、自爆まであと5分をお知らせするわ≫



「ほ……のか」



穂乃果「っ…!?」

261: 名無しで叶える物語(笑)@\(^o^)/ 2015/09/14(月) 19:58:50.35 ID:hQhXwmgJ.net
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頭上から聞こえる、消え入りそうな程に弱々しい呻き声の主は矢澤にこ。


穂乃果「にこちゃん? 一体何がどうなって…」


今や制御室の一面が、幾何学的な異生物の住処へと変貌し、にこの身体はその中に埋め込まれていた。

隣には東條希――彼女の肉体は首から上だけを残し、あとは卵形の、何か異質な物へと変容している。


『ハらショぉう。アレは捕らエた獲物を卵に変えテシまうのね』

『そノ星の種を滅ぼスためにデザインさレた、兵器とシて完璧な生態。機能美の究キョク系だわ』


「ころ……て…こっ」


蚊の鳴くような声で呟く度に、鉛色のどろどろした得体の知れないものがにこの唇から溢れ出す。

見れば膝から下が、ほとんど巣と同化していた。

彼女もまた、肉体の変質が始まっている。


≪マッキーが、自爆まであと3分をお知らせするわ≫

『あア、もット、アレを研究したイぃ…』

「は……ゃ、く」


もう見てられない。聞いていたくもない。

何もかもが嫌で厭で仕様がない。

262: 名無しで叶える物語(笑)@\(^o^)/ 2015/09/14(月) 20:00:33.55 ID:hQhXwmgJ.net
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ゴ オ オ オ オ オ オ オ オ ォ ォ ォ ォ ォ
   

燃え盛る火焔のジェットが、半分卵になりかけのにこと希、胸を食い破られて絶命した花陽の亡骸、機能不全を起こした金髪のアンドロイドをまとめて焼き払う。

全て燃え尽くして灰になってしまえばいい。自分を苦しめるこの悪夢全て。



≪マッキーが、自爆まであと1分をお知らせする――≫


穂乃果「うるさあいっ! 何がマッキーだよぉ!!」


怒りにまかせて、火炎放射器でモニターを殴りつけた。


――ブツンッ

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263: 名無しで叶える物語(笑)@\(^o^)/ 2015/09/14(月) 20:03:41.89 ID:hQhXwmgJ.net
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穂乃果「ひぅっ」


ことり「すぅ……すぅ」


穂乃果「…夢」


穂乃果「夢、かぁ…」


汗ばんだ手首に巻かれた時計を見ると、丁度一時間が経過していた。あまりいい休息だったとは言い難い。

ちゃんとそこにいることを確認するかのように、腕の中で眠り続けることりの小さな身体を抱きすくめ

もう一度まどろみの中に落ちようとした時、


――カサ ……カサ カサカサ


視界の隅を、何か白くすばしっこい物体が横切った。

264: 名無しで叶える物語(笑)@\(^o^)/ 2015/09/14(月) 20:05:03.88 ID:hQhXwmgJ.net
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穂乃果「――?」


ぼうっとしていた頭が、徐々に覚醒していった。

今のは一体なんだったか、似たようなやつを前にも見た気がする。


穂乃果「!」


地べたで寝ていなかったらそれに気付くことはなかっただろう。

医務室の床の上に、二つの培養チューブが転がっていた。

どちらも蓋が開き、その中身は空。


穂乃果「……りちゃん、ことりちゃん…」ユサユサ

ことり「うぅん……ん、なぁに?」

穂乃果「しーっ、静かに。ここを出るよ」


動揺を与えないよう平静を装ったものの、心臓は今にも張り裂けそうなほど激しく脈打っていた。


――ここにいるのは、私たちだけじゃない

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265: 名無しで叶える物語(笑)@\(^o^)/ 2015/09/14(月) 20:06:22.53 ID:hQhXwmgJ.net
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ベッドの上に手を伸ばし、そこに置いてあるはずのものをまさぐる。


穂乃果(無い、穂乃果の銃が無い…!)

穂乃果(どうして…)


手の届かない範囲にあるのか――もっと良く見ようと、寝台の上に顔を出した、その瞬間


  パァンッ!


鞭のしなるような音と一緒に、そいつは飛び掛かってきた。


培養液を滴らせながら、数メートルの距離を尻尾の力だけで跳躍したフェイスハガーが、

邪悪な子種を植え付けようと襲いかかる。


穂乃果「うわっ!」


咄嗟に頭を引っ込める。勢い余って壁に激突したそいつが床に落ちる前に、ベッドとの間に挟み込んでやる。

それでも爪と尾をばたばたと震わせもがくのを見て、ことりが絹を裂くような悲鳴を上げた。


穂乃果「ことりちゃん、あっち行ってて!」

266: 名無しで叶える物語(笑)@\(^o^)/ 2015/09/14(月) 20:07:24.23 ID:hQhXwmgJ.net
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少女が逃げ出したのを確認すると、自分もすばやく這い出し、そのまま寝台をひっくり返す。

下敷きになった怪物が、シーツの中でなおも暴れているのが分かった。


穂乃果「ことりちゃん、何で外に出てないの!?」

ことり「開かないの……ドアが、開かないよぉ」

穂乃果「えぇ?」

穂乃果(本当だ。スイッチも反応しない、どうして!?)

穂乃果「んぐぐぐっ……駄目だ、てこでも動かない」

ことり「誰か、誰か助けてぇ!」

穂乃果「おーい! 誰かぁ!!」ドンドン


自動ドアを諦め、ことりと一緒に分厚い防音窓を叩きながら助けを求める最中、

すぐ目と鼻の先にパルスライフルが――窓を隔て外にある机の上にそれが置かれているのを発見する。


穂乃果「……」


ここにきて確信する――自分たちをここに閉じ込めたのは、何者かの明確な悪意によるものだと。

267: 名無しで叶える物語(笑)@\(^o^)/ 2015/09/14(月) 20:09:02.67 ID:hQhXwmgJ.net
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ドッ! ガツン!


穂乃果「ふっ…!」

ことり「うみちゃ、誰かぁ!」
  

精一杯飛び跳ねながら、監視カメラに向けて存在をアピールすることりの傍らで、

こちらも持てる限りの力で窓に椅子を叩き付ける。

しかしその度跳ね返され傷一つ付かない表面に、普段は諦めの悪い穂乃果の気力も萎えていく。


穂乃果(無理だ、絶対ここから出さないつもり? カメラも多分切られてる…)


隣のことりも叫び疲れたのか、俯きながら押し黙ってしまった。

そこで、はたと気付く。


ベッドの下であの怪物がもがく音が聞こえない。

代わりに何かが床を引っ掻いて進むような異音が、二人を怯えさせる。


穂乃果「うっく……はぁ、はぁ」ドックンドックン

ことり「ほのかちゃん。私、こわいよぉ」グスッ

穂乃果「…私もだよ」

268: 名無しで叶える物語(笑)@\(^o^)/ 2015/09/14(月) 20:11:25.67 ID:hQhXwmgJ.net
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カサ カサカサ――カサカサッ



穂乃果(どこにいるの? せめてそれさえ分かれば…!)

ことり「ママぁ…」

穂乃果「大丈夫…」ギュッ



――カサカサ カサ トトットトトッ


           トタタタタタ――カサカサッ



穂乃果(―――!)

穂乃果「ここを動かないで」ヒソヒソ


音を立てないよう慎重に移動しながら、同時にポケットをまさぐる。


穂乃果(これが最後の賭け)


煙草の箱(今思えば精神的に不安定だったとはいえ、何故こんなものに手を出したのだろう)と

一緒に取り出した安っぽい使い捨てライターを着火し、手術台の上にそろそろと足をかける。


穂乃果(お願い…!)


びしょ濡れになることを覚悟しながら、天井の火災報知機にライターを持った右手を限界まで近付けた。



穂乃果「っ…」



警報は、鳴らなかった。

269: 名無しで叶える物語(笑)@\(^o^)/ 2015/09/14(月) 20:12:50.83 ID:hQhXwmgJ.net
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穂乃果「そんな…」


一気に力が抜けそうになる。ドアの電源と同じく、警報機まで切られているのか。


穂乃果「ううっ…!」


無駄だと悟りながらも、火が機械を舐めるほどにまで手首を伸ばした。


穂乃果「――あれ」


穂乃果(私、右手にも腕時計を)


穂乃果「ああっ!!」


穂乃果(まだ、まだチャンスはあったよ!)



海未からの贈り物――ブレスレット型発信機のボタンを連打し、自分たちの窮状を伝えようとする穂乃果の顔面目掛け

獲物を見据えたフェイスハガーの一匹が飛び上がった。

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270: 名無しで叶える物語(笑)@\(^o^)/ 2015/09/14(月) 20:14:48.44 ID:hQhXwmgJ.net
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ピーッ


絵里「どうしたの?」

海未「真姫からの連絡です。今繋げます」

絵里「こちら制御室。真姫、聞こえるかしら? 現在の状況を教えて、オーバー」


『あなた、絢瀬中尉? 目が覚めたのね。揚陸艇は燃料の給油が終わりそうなところよ。間もなく発進できるわ』


絵里「了解、発進後にまたお願い。それと、次から私を呼ぶときはエリーで構わないわ」


『――何があったか知らないけど、そっちの方がいいわね。オッケー、交信終了』


絵里「順調そうで安心したわ。ねえ海未「大変です!」

絵里「ちょ、何? どこ行くのよ!?」

海未「絵里、にこ……とにかく全員医務室に来てください! 非常事態です、早く!」

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271: 名無しで叶える物語(笑)@\(^o^)/ 2015/09/14(月) 20:16:35.20 ID:hQhXwmgJ.net
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ことり「やあぁぁぁ」


穂乃果「くっはぁ……ぅぐっ」


ぎりぎりと音を立てて、穂乃果の細首を、歩く生殖器の長い尻尾が締め上げていた。

咄嗟に顔面を庇った両手の隙間からその産卵管を挿入しようと、

まるでプロレスラーが掴み掛かっているような馬鹿力で、怪物が死の接吻を迫る。


穂乃果(もぅ……ダメ、意識が……飛、ぶっ)


頭の中が干上がっていくような感覚、奇妙なことにそれが心地よい。

酸欠でパニックを起こしている脳内が、あと少しでその快感に身を委ねてしまいそうになる。


穂乃果「ぁがっ…」


ことり「いやぁ! ほのかちゃんやだああああああ!!!」


とうとう白目をむいてしまった穂乃果に、何もできず立ち尽くしていることりは叫び声を大きくするばかり。

そんな時、無力な少女の背後で、何かがカサカサと音を立てて動いた。

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272: 名無しで叶える物語(笑)@\(^o^)/ 2015/09/14(月) 20:18:04.13 ID:hQhXwmgJ.net
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絵里「何てこと、誰かガラスを撃って!」


よほど慌てていたのか、そう叫びながら絵里が自分で発砲する。

一撃で蜘蛛の巣状の亀裂が入った障害物めがけ、隣の海未が頭から突っ込んでいく。


  ガシャアアアアアン


海未「今助けます!」


プロテクターの隙間に刺さったガラス片など構わず、傷だらけの腕に

渾身の力を込めて尻尾を鷲掴みにし、首に巻き付いたそれを解こうとする。


穂乃果「…かふぅ!」


穂乃果の上体がびくんと飛び跳ね、口から空気の漏れる音がした。

気道が一瞬確保されるも、怪物はおぞましい  けを諦めようとはせず、

さらなる力を振り絞って海未の手から逃れようとする。

273: 名無しで叶える物語(笑)@\(^o^)/ 2015/09/14(月) 20:19:22.74 ID:hQhXwmgJ.net
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凛「こんのぉ!」

花陽「離れてぇ…!」


成体に三人がかりなら幼体にも――状況に既視感を覚えながら、凛たちの助力でようやっと怪物を

引き剥がした海未は、なおも手の中で暴れまわるそいつを出来るだけ遠くに放り投げる。

手術台に叩き付けられたそれが体勢を立て直す前に、超音速で飛来した徹甲弾がその体を粉微塵に変えた。


にこ「あんたは金輪際出禁よ…」シュウウウ



――スパァァン!

274: 名無しで叶える物語(笑)@\(^o^)/ 2015/09/14(月) 20:21:58.25 ID:hQhXwmgJ.net
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鞭が思い切り地面を打ち据えたような音。物陰に潜んでいたもう一匹が、にこを目指して飛来する。

――だが、そいつは真横から見えない張り手を受けたかのように、空中で破裂した。


《ァァァァァ…!!!》


にこ「!?」


何が起きたのかすぐには理解出来ぬまま、とにかく手前の床でクモのお化けが、ひっくり返った状態でもがいていることだけは分かった。


BANG!BANG!BANG!


絵里「…ふぅ」


将校に支給されるM4A3ピストルの正確無比なトリプルタップが、怪物に速やかな死をもたらした。


にこ「あれを宙で撃ち落としたの?」


絵里「ただ頭でっかちなだけの女だと思った?」


にこ「……ちょっとはやるじゃない」

275: 名無しで叶える物語(笑)@\(^o^)/ 2015/09/14(月) 20:23:27.52 ID:hQhXwmgJ.net
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海未「穂乃果…しっかりしてください、穂乃果ぁ!」


何度も何度も彼女の胸部を圧迫し、口移しで気道に空気を送り込む。


海未「すぅ…はぁー…」

ことり「ほのかちゃぁん…」


穂乃果「がっ……げほ、ゲホゲホッ!」

海未「穂乃果っ!」

ことり「ほのかちゃん!」


意識を取り戻したばかりで、まだ万全ではない穂乃果はしかし、

胸元に飛び込んできたことりをしっかりと抱きすくめた。


ことり「よかった…よかったよぉ、わあああああん」

海未「申し訳ありませんっ…私が、私がもっと早く気付けば…!」

穂乃果「う…ぅうん、そんなこと、ないよ」

穂乃果「だって、海未ちゃん…ちゃんと、私たちのこと…助けに来てくれたじゃん」

海未「ほ、のか…」ポロポロ

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276: 名無しで叶える物語(笑)@\(^o^)/ 2015/09/14(月) 20:26:34.91 ID:hQhXwmgJ.net
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わんわんと大きな声で、お互いを抱き締めたまま三人は大泣きに泣いていた。


花陽「良かったです、三人とも…」ホロリ

凛「ホントだよぅ…」グスッ


つられて、何故か技術兵コンビまでもがもらい泣きしている。


にこ「絵里…」

絵里「ええ、分かってる」


対照的に、こちらの二人の頭は冷え切っていた。別に消火スプリンクラーの水を頭上にぶちまけられたわけではなかったが。

一件落着、しかし一難去ってまた一難。


にこ「誰よ、こんな恐ろしいことをしたの」


敵はやつらだけじゃない。

この状況では口にするのもはばかられる様なその一言に、穂乃果は嗚咽をぐっと飲み込んで、次の言葉を紡いだ。

本当ならこんなことは言いたくない、しかしこれ以上は……


穂乃果「私、心当たりがあるかも」

穂乃果「多分…」


――ええ、その通り。


くだらない茶番に心底飽き飽きし、心の芯まで冷え切った三人目が、氷のように冷たい真相をぶちまけた。


あんじゅ「私よ、私がやったの」

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277: 名無しで叶える物語(笑)@\(^o^)/ 2015/09/14(月) 20:27:28.41 ID:hQhXwmgJ.net
【居住区 制御室】


海未「……」


凛「……」


絵里「……」


にこ「……」チャキッ


ことり「……」


穂乃果「……」




あんじゅ「……」ツーン




花陽「なんで、どうしてこんなことしたの…?」

278: 名無しで叶える物語(笑)@\(^o^)/ 2015/09/14(月) 20:28:32.73 ID:hQhXwmgJ.net
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穂乃果「エイリアンを、持ち帰るつもりだったんでしょ」

穂乃果「穂乃果たちの身体の中に寄生させて、検疫をパスして」

穂乃果「冷凍睡眠してる間は体内の生物も活動を休止するだろうってことも計算してね」

海未「理屈は分かりますが、それでも理解しがたい行為です…」フルフル

海未「穂乃果やことり……私たちの仲間を、まるで使い捨ての道具のように!」


あんじゅ「あら、私たちはみぃーんな消耗品よ。会社にとってはね」

穂乃果「ふざけないで。私はともかく、ことりちゃんまで巻き込んで……もう、怒ったよ」

穂乃果「あの時と同じだね。結局、57年前から何も進歩してないんだ」

穂乃果「エイリアンよりも」


あんじゅ「怪物より、人間のほうが恐ろしい」

あんじゅ「なんて、使い古された陳腐な台詞言うんじゃないでしょうね?」

あんじゅ「くすくす、やめてよね。今は22世紀よ」

279: 名無しで叶える物語(笑)@\(^o^)/ 2015/09/14(月) 20:29:40.44 ID:hQhXwmgJ.net
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あんじゅ「教えてあげる。私は母船に戻った後、一人だけ冷凍睡眠の覚醒設定を早めるの」

あんじゅ「そうしてあなた達より早起きしたら、高坂さんとそこのおちびさん以外の睡眠カプセルは、ぜぇーんぶ宇宙のゴミ箱へポイポイのポイってしちゃう」

あんじゅ「そういう計画だったの、これで満足かしら?」

凛「んなっ…」

にこ「想像以上に吐き気がするやつだったのね、あんた」

にこ「こんなことなら弾が勿体ないとか思わずに、さっさとあの標本どもを始末しておけばよかったわ」

にこ「でもねぇ、こんな状況でも、あんたにぶち込むための弾は残してあるのよ?」チャッ

海未「にこ、いけません」

にこ「どうして止めるのよ。こんなやつ近くに置いといたら危険でしょうがないでしょ」

あんじゅ「そうよ、私って危険な小悪魔だから。近しい人たちを破滅させられずにはいられないの」

にこ「こいつ、ふざけ」

あんじゅ「なーんて、今どき逆に珍しいくらいの、絵に描いたような安っぽい悪役。ばっかみたい」

あんじゅ「もうね、疲れちゃった。こんなお芝居に付き合うのは」

280: 名無しで叶える物語(笑)@\(^o^)/ 2015/09/14(月) 20:31:29.76 ID:hQhXwmgJ.net
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あんじゅ「ねえおちびさん、人間はどこから生まれてくるか知ってるかしら」

ことり「え…?」

あんじゅ「いいから、答えて」

ことり「ことりは……ママの、おなかから」

あんじゅ「うーん、その答え方だと半分不正解ね」

あんじゅ「質問を変えましょう。あの怪物どもは繭にした人間の胸を食い破って生まれてくるわけだけど」

あんじゅ「この点に関して、実は私たちもやつらと大差ない、共通してるところがあるのよ」

あんじゅ「それは何かわかる?」


穂乃果「……」


あんじゅ「まただんまり? ここにはお馬鹿さんしかいないの? それじゃ大ヒントあげる」

あんじゅ「あなた達は私たちカンパニーがあの生物を兵器として利用するため、必死に持ち帰ろうとしてると思ってるでしょ。でもね」

あんじゅ「残念、もうとっくの昔に実用化に向けた研究は始まってるの」

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281: 名無しで叶える物語(笑)@\(^o^)/ 2015/09/14(月) 20:32:26.62 ID:hQhXwmgJ.net
月曜ロードショー




               ラブライブ!× A L I E N S

282: 作戦報告書 No.5(笑)@\(^o^)/ 2015/09/14(月) 20:35:52.78 ID:hQhXwmgJ.net
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【実験プログラム19860718番】

実験場:惑星LV-434 居住区および16番大気処理施設周辺

実験内容:一般的な植民惑星の制圧とその後の経過調査

被験体:惑星開拓労働者158名

・一般的な植民惑星開拓地を再現した環境下で、被験体の生活圏内にゼノモーフ【ウォーリアー】種のエッグチェンバー250個を配置し、その経過を観察する。

・被験体は、従来通りクローニングで適宜必要数を調達。



【実験プログラム19860830番】

実験場:惑星LV-434 居住区および16番大気処理施設周辺

実験内容:閉所戦闘におけるゼノモーフの有用性

被験体:植民地海兵隊一個分隊

・本実験は先の実験プログラム19860718番より引き続いて行うものとする。

・海兵隊一個分隊を調査任務の名目で派遣、ゼノモーフと交戦させ、その実戦データを収集する。

・実験に使用する部隊はCグループより選出。進行を円滑にする目的での監視員、アンドロイド投入も最低限の範囲で可とする。

285: 名無しで叶える物語(笑)@\(^o^)/ 2015/09/15(火) 00:04:49.64 ID:9jxdscww.net
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あんじゅの回想――二ヶ月前


あんじゅ「……」ペラッ

「資料には目を通してくれた? ええっと、優木さん……だっけ」

あんじゅ「初めまして、軍の担当の方ですね。いつも我が社の製品を御愛顧いただきありがとうございます」

「そうかしこまらなくていいよ。私たち、そこまで年も変わらないだろうし」


ミナミ「私はミナミ、仲良くしよ?」

あんじゅ「あら、そういうことなら遠慮なく。よろしく、中佐」

ミナミ「それで、本題なんだけど。実は今回の実験で、そこには記載されていない緊急の追加項目が出来ちゃって」

あんじゅ「と、いうと?」

ミナミ「実験プログラム19790525番のことは知ってる?」

286: 名無しで叶える物語(笑)@\(^o^)/ 2015/09/15(火) 00:05:47.26 ID:9jxdscww.net
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あんじゅ「もちろん。このプロジェクトに携わっている者なら常識よ」

あんじゅ「今から57年前、宇宙船メストゥモロ号内で行われたシミュレーション」

あんじゅ「七名の乗組員のうち一人にゼノモーフの胚を植え付けた状態での経過観察」

あんじゅ「結果、一日足らずの間に、孵化したエイリアンに六人が殺害され」

ミナミ「しかし残った最後の一人によってゼノモーフは退けられた」

あんじゅ「……」

ミナミ「ろくに武器もない環境下で、しかも十代の女性にエイリアンが撃退されたという事実を私たちの上層部は重く受け止め」

ミナミ「結果として、ゼノモーフ・プロジェクトは半世紀近くもの間停滞を余儀なくされた。でしょ?」

あんじゅ「ええ、確かにその通り。けれど私たちも50年の間、パンドラの箱を恐る恐る手探りしてただけじゃないわ」

ミナミ「その成果が例の【ウォーリアー】種?」

あんじゅ「そう。戦闘力や繁殖能力を大幅に向上させた【ウォーリアー】種は生体兵器として今度こそ完璧な商品」

あんじゅ「今回の2種類の実験は最終調整を兼ねたデモンストレーション。かならず満足のいく結果をお見せできると自負しているわ」

ミナミ「ふふっ、それは楽しみだね」

287: 名無しで叶える物語(笑)@\(^o^)/ 2015/09/15(火) 00:07:32.21 ID:9jxdscww.net




凛「ど、どういうことなの?」

あんじゅ「これは壮大な実験……いえ、そんな気取る必要もないか。ちょびっと規模の大きなお人形遊びだと思って。会社と軍のためのね」

あんじゅ「武装したプロの兵隊であるあなたたちを、エイリアンが如何にして血祭りにあげるかを見るロールアウト直前の最終テスト」

あんじゅ「これが終われば晴れて我が社は各国の軍と正式契約出来る。世界中、いえ銀河中であの兵器が実戦投入されるのよ」

穂乃果「…!」

あんじゅ「あなたたちにはやつらの性能を証明するための礎、踏み台となってもらうの。そのためのお膳立ては本当に面倒だったわ」

あんじゅ「監督役兼妨害工作員として私と、アンドロイドの英玲奈をバックアップに。あっ、あのオートンは計算外よ。どこから潜り込んだのかしらね」

あんじゅ「これは社にとっては絶対に失敗できないビッグプロジェクト。だから不確定要素はなるべく潰しておきたかったんだけど」

絵里「私たちは、最初からあなたたちに踊らされていたというわけ…」

あんじゅ「フフ、そもそも本当にまともな軍事作戦なら、こんなポンコツ指揮官を寄越すはずないでしょ?」

絵里「っ…」ギリッ

あんじゅ「とにかく、あなたたちがいくら頑張ろうと結末は最初から決まってるのよ。後始末も含めてね」

海未「大気処理施設の暴走もシナリオ通りというわけですか」

あんじゅ「あったり。エイリアンってね、実はとーっても短命なのよ。だから持久戦に持ち込まれると弱いところがあって」

あんじゅ「それで戦いに最初からリミットを設けることにしたわ。どうせこの実験場も近いうちに廃棄される予定だったし」

あんじゅ「チェンバーで生まれて、短い寿命で、一部の人間の都合に振り回されるモルモット」

あんじゅ「ほうらね。実は私たち、あの怪物たちと似た者同士ってわけよ。ふぅ、やっとオチがついた」

288: 名無しで叶える物語(笑)@\(^o^)/ 2015/09/15(火) 00:09:20.23 ID:9jxdscww.net
―――

――



ミナミ「ちょっと話が逸れちゃったけど」

ミナミ「問題はさっき言った19790525番実験のことなの」

ミナミ「たった一度きりの、それも未調整の個体とはいえ、ゼノモーフが丸腰のか弱い人間に黒星を付けられたのは揺るぎのない事実」

ミナミ「うちのお偉いさんの中に、そのことを気にしている人が多くてね。今度の戦闘実験に、ゼノモーフとの交戦経験がある被験体をねじ込めって言って聞かないの」

ミナミ「エイリアンって、あの見た目や特異な生態メカニズムが強みの一つでしょ。大抵の人はまずその異様さに圧倒されて、手をこまねいてるうちに殺されちゃう」

あんじゅ「つまりは初見殺しだけが取り柄の兵器じゃないってことを証明しろと?」

あんじゅ「もちろん、如何なる状況下でもあの生物は負けなしだと断言するわよ。だからその提案は受けて立つ所存だけど」

あんじゅ「でも、ひとつ問題があるわ。これまでゼノモーフとの戦闘実験で生き残った人間なんていないの、あなたもご存知よね」

ミナミ「いや、一人いるよ」

あんじゅ「は…」

あんじゅ「……ちょっと、冗談でしょ?」

289: 名無しで叶える物語(笑)@\(^o^)/ 2015/09/15(火) 00:11:48.37 ID:9jxdscww.net
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プシュー

あんじゅ「会社の地下にこんな場所が…」

ミナミ「うーっさむ。ここは様々な実験体の冷凍保存庫。そしてこのカプセルで眠っている彼女が」

ミナミ「コウサカ・ホノカ、二等航海士。こっちの猫は……まあいいや。とにかく、この子が57年前にゼノモーフを打ち倒した唯一の実験体だよ」

あんじゅ「まさかコールドスリープ状態で保存されてたなんて、驚いたわ。とっくの昔に栄養プールで溶かされたものとばかり」

あんじゅ(それに彼女の顔…)

ミナミ「当時の科学者が何かに使えると思ったんだろうね。まあ、半ば忘れ去られてこうして今日まで保存されてきたのは幸か不幸か」

あんじゅ「……」

ミナミ「どしたの? さっきから私の顔をじっと見つめて」

あんじゅ「あ、いえ…」

ミナミ「なんて、言いたいことは分かってるよ。この子、私に似てるよね」

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290: 名無しで叶える物語(笑)@\(^o^)/ 2015/09/15(火) 00:13:02.77 ID:9jxdscww.net




凛「そんな、ひどい! 人のこと勝手に実験動物にしないで! 凛たちは人間なんだよ!?」

あんじゅ「動物に動物って言って何が悪いの? ここにいる全員が、原価数百ドルの器に数値化された魂を入れただけの存在なのに」

花陽「…?」

あんじゅ「分からない? クローンなのよ、私たち。いくらでも量産出来て、その都度使い捨てにされるような」

絵里「なっ…!?」

穂乃果「クローン…」

ことり「くろーん?ってなに」

あんじゅ「コピーのことよ。あなたも高坂さんも他の皆も、たくさんいるの。別の場所で、別の役割を与えられてね」

ことり「ほのかちゃんがいっぱい? すごい! 他のほのかちゃんにも会える?」

あんじゅ「様々な用途に応じて、誕生させる年齢や訓練を施す環境も多種多様」

あんじゅ「兵士になった高坂さんもいるし、惑星開拓者になったあなた達もいるでしょうね」

凛「う、嘘でしょ…」

凛「だって凛とかよちんは、ずっと昔から一緒だったんだよ? 小学校のころから、ずっと二人で」

あんじゅ「あなたは兵隊だから、入隊した日が誕生日と言っても過言じゃないわ」

あんじゅ「それ以前の記憶は、クローン元のオリジナルがもっていた情緒の残骸よ。都合の良い様に弄られてるだけ」

291: 名無しで叶える物語(笑)@\(^o^)/ 2015/09/15(火) 00:14:37.70 ID:9jxdscww.net
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あんじゅ「高坂さん、あなた目覚めた時は真っ先に親御さんと妹さんの安否を尋ねてきたわよね」

あんじゅ「これが答えよ。本物の高坂穂乃果には確かに両親と、一人の妹が存在していた」

あんじゅ「三人に対する愛情はオリジナルが持っていたもの。それ以外の記憶は不鮮明じゃなくて?」

穂乃果(……あんじゅさんの、言う通りだ)

あんじゅ「あなたは本物が持っていた設定を借り受けて、自分はあたかも高坂穂乃果という人生を生きてきたと思わされてきた」

あんじゅ「本当は只の実験動物なのにね。都合よく使い捨てられるだけの」

絵里「…その話が事実だとして、じゃあ私たちのオリジナルとやらは何者なのよ」

あんじゅ「100年以上前に流行ったアイドルがベースになってると聞いているわ」

あんじゅ「この技術が確立された当初は結構な人気で、お値段もそれなりのものだったのよ、私たちのような人種のDNAサンプルはね」

あんじゅ「それも今じゃ一山いくらの価値しかないんだけど。まあ、安価で製造できるのがクローンのウリだし」

あんじゅ「どうしてアイドルをベースにしかたって? そっちの方が見てて楽しいからよ、色々とね」

絵里「なんて悪趣味…」

あんじゅ「その点に関しては同感よ」

穂乃果「……」

あんじゅ「ここまでの感想を聞きたいわ。ねえ高坂さん、今どんな気持ち?」


あんじゅ(さあ、どんな反応を見せてくれるのかしら。怒り? 悲観? 絶望?)

あんじゅ(もう一人のあなたは、やけに割り切った態度だったけど。あなたも同じことが出来る?)

292: 名無しで叶える物語(笑)@\(^o^)/ 2015/09/15(火) 00:18:13.04 ID:9jxdscww.net
―――

――



ミナミ「なんて、言いたいことは分かってるよ。この子、私に似てるよね」

あんじゅ「ええ…」

ミナミ「恐らく同じDNAサンプルから生まれたんだと思うよ。年齢は私より十くらい下かな、若いっていいよね。作られたのは彼女の方が先だけど」

あんじゅ「……あっさり認めちゃうんだ。人間のクローンが実用化されてることは機密扱いでしょ、一応」

ミナミ「え? だってあなたも知ってるでしょ。というかあんじゅさんも私たちと同じだよね?」

あんじゅ「クローンに向かって、あなたはクローンですなんて言うのは重大な禁則事項よ。私だから良かったものを」

ミナミ「W・湯谷の役員職に就いてるくらいだもん、知ってて当然だと思って」

ミナミ「クローンで軍や企業の大幹部ってことはそれだけでエリートってことなんだからさ。私たちはエリート仲間ってわけ。わっはっは」


あんじゅ(私は知っている。真に優秀と認められたクローンには、オリジナルと異なる固有の名前が与えられることを)

あんじゅ(だとしたら私は…)

293: 名無しで叶える物語(笑)@\(^o^)/ 2015/09/15(火) 00:20:59.51 ID:9jxdscww.net
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あんじゅ「あなた、随分あっけらかんとしているのね」

ミナミ「んー、よく言われる」

あんじゅ「虚しくならない? 私には優木あんじゅとして生まれた時からこれまで、家族や友人たちの記憶まで刷り込まれているのに」

あんじゅ「それは100年以上前に生きた他人の思い出で、私はその設定を借り受けて生きているにすぎない」

あんじゅ「時々分からなくなるの。じゃあこの私は一体誰なんだって」

ミナミ「難しく考え過ぎじゃないかな。私は私だし、今が最高なら昔のことは特にどうでもよくない?」

あんじゅ「…………あ、そう」

あんじゅ「……話を本筋に戻しましょうか」

ミナミ「うん、それでね。今からこの子を解凍するわけだけど、覚醒前にある程度記憶の調整をお願いしたいの」

ミナミ「これを見て。今回の実験に使われる植民地海兵隊、μ’s分隊のプロフィール」

ミナミ「で、こっちが19790525番プログラムの被験者たち」

あんじゅ「……なるほど、一部のメンツが重複しているのね」

ミナミ「偶然だけど、たまにこういうことあるんだよね。多方面にクローンを運用しているとさ」

ミナミ「だから、この子の仲間に関する記憶だけちょいちょいっと弄って…」

あんじゅ「今回のテストに別の部隊を使えば解決することじゃない」

ミナミ「軍隊ってさー、そこが面倒で。一度書類通して決まった後で、再度やり直すのは色々と手間が…ね」

あんじゅ「単にあなたが面倒臭がりなんじゃなくて?」

ミナミ「そ、そんなことないよ~ねえお願い、このとおりっ」

あんじゅ「まぁ、私は別に構わないけど」

294: 名無しで叶える物語(笑)@\(^o^)/ 2015/09/15(火) 00:22:50.81 ID:9jxdscww.net




あんじゅ「ねえ、何とか言ってよ。高坂さん」

あんじゅ「それとも、ショックが強すぎて声も出せなかったりする?」


にこ「…うっさいわね」


あんじゅ「えっ」


にこ「さっきからクローンだのオリジナルだの、よく分かんないことをべらべらと」


にこ「何が実験よ。話が長いうえにつまらな過ぎて、半分も頭に入らなかったわ」


にこ「他のみんなも飽き飽きしてるわよ。ねえ?」


海未「にこ…」

にこ「よーするに、にこたちはまがい物で、本物じゃないって言いたいわけ?」

あんじゅ「そうよ。私はもうウンザリなの。まがいものがいっぱしの人間の振りして、まがいものの人生を生きていることに」

あんじゅ「そのことに気付いてすらいない間抜け面を眺めるのにも飽きた。はっきり言って、虫唾が走るの。だから」

にこ「あんたやっぱり馬鹿ね、大馬鹿よ。その前提がすでに間違ってんのに気付かない?」

あんじゅ「…はい?」

にこ「だってそのオリジナルは百年以上前にくたばってんでしょ。だったら今は私が本物の矢澤にこじゃない」

295: 名無しで叶える物語(笑)@\(^o^)/ 2015/09/15(火) 00:26:12.01 ID:9jxdscww.net
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あんじゅ「そういう考えもあるかも。でも同じことを考えてる矢澤にこが、この宇宙にはごまんと存在してるのよ?」

にこ「はっ、そんなの知ったこっちゃないわ。よそはよそ、にこはにこ!」

にこ「当然でしょ。クローンだろうと何だろうと、この“私”は一度きりの人生なんだから、他と変えられるもんじゃないわ」

にこ「にこはその中で精一杯輝いてみせる。それがまがいものなわけないじゃない」

にこ「これまでの人生は作り物? 台本に書かれた人生? 上等じゃない、与えられた役割なんて願い下げよ、こっちから放棄してやる」

にこ「今、決心がついたわ。この任務が終わって地球に帰ったら、除隊する。兵隊稼業はお終いよ」

凛「ええっ!? ウッソー、あれほど戦いが好きだったにこちゃんが?」

花陽「まさか、あの時言いかけてたことって…」

にこ「この中じゃ花陽しか知らないことだけど、実はにこってアイドルに憧れてたりするのよねー」

絵里「まさか」

凛「にこちゃん正気なの!? 確かにさっきから辛いことばかりだけど、凛も頑張ってるから…」

にこ「正気も正気よ! ちょっとそんな目で見ないでくれる? 笑ったら本気でぶっ殺すんだからね!?」

にこ「とにかく、これからは自分の意志で人生を切り拓いていくわ。どうよ、文句ある?」

296: 名無しで叶える物語(笑)@\(^o^)/ 2015/09/15(火) 00:28:40.48 ID:9jxdscww.net
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あんじゅ「おめでたい人。あなたが自分の意志だと信じてやまないそれすら、オリジナルの人格に依存した願望だったりするかもしれないと、何故そう思わないの?」

にこ「うぐっ…それは」

花陽(多分にこちゃんのことだから、そこまで深く考えなかったんだろうなぁ)

にこ「だーっもう、にこは矢澤にこという生き物なのっ。それ以上でも以下でもないのよ、分かったぁ!?」

凛「にこちゃん、それ真姫ちゃんのパク」

にこ「パクリじゃない、オマージュよオマージュ。リスペクトしてんの」

花陽「でも、にこちゃんの言う通りかも」

凛「かよちん?」

花陽「あんじゅさんの言い分も分かるけど。でも、少なくとも二等兵として凛ちゃんたちと一緒に過ごした時間は嘘じゃない」

花陽「その間にたくさん泣いたり笑ったりした感情はまがいものじゃない、全部本物だったって、分かるから」

花陽「私は、それで十分なの。変かな」

凛「り、凛だって同じ気持ちだよっ。全然変じゃないよ」

凛「もうクローンだとかオリジナルだとか、難しすぎて凛にはよく分かんない、どーだっていいや」

凛「凛は、今このかよちんと一緒にいられれば、それで…」

花陽「凛ちゃん…」

あんじゅ「…ままごとね」

297: 名無しで叶える物語(笑)@\(^o^)/ 2015/09/15(火) 00:30:36.59 ID:9jxdscww.net
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穂乃果「ままごとじゃ、いけないかな」

海未「穂乃果…」

穂乃果「ずっと考えてた。ことりちゃんのこと、一目見た時から守らなきゃって思ったのは、どうしてだろうって。最初は無意識のうちに妹の雪穂と重ねていたのかとも思った」

穂乃果「さっきもそう。危ないとき、咄嗟に相手を守ろうとするのは、私や海未ちゃんが、オリジナルの人格に縛られてるから?」


絵里「…それは、難しい話ね」

絵里「穂乃果達の行動は、自発的なものかもしれないし、オリジナルの関係に伴って引き起こされたものかもしれない。その区別は誰にも分からない、本人にさえ」

絵里「でも、それを言い出したらそもそも人間の感情の正体は、自己防衛や種保存のためのプログラムだと言い切ることが出来るわ」

絵里「結局、何かをするときは自分の感情を頼りにするしかないのよ。私たちが人間である限りは」

絵里「だから穂乃果、あなたの判断は間違ってない。自信を持って」


穂乃果「…うん。ありがとう絵里ちゃん、もう迷わない」


穂乃果「私、高坂穂乃果は海未ちゃんやことりちゃんとこの先もずっと一緒にいたいと思ってる」

穂乃果「それがオリジナルの穂乃果の記憶に縛られた感情だっていうなら、それでもいい」

穂乃果「だって今は“穂乃果”が、高坂穂乃果なんだもん。穂乃果が思ったことを“穂乃果”がやって、何が悪いのさ」


海未「穂乃果…それでこそ、私に知っているあなたです。いえ、会ってまだ二日と経っていませんが」

穂乃果「海未ちゃんは、どう思ってるの」

海未「私の答えなど、最初から決まっています」

海未「どこまでもお供しますよ。例え地獄だろうと、あなたの傍にいます」

298: 名無しで叶える物語(笑)@\(^o^)/ 2015/09/15(火) 00:33:03.53 ID:9jxdscww.net
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ことり「ことりも! ほのかちゃんとうみちゃんといつまでもいっしょにいたい」


穂乃果「二人とも……えいっ!」

海未「わっ、突然なんです? く、苦しいですよ穂乃果」

穂乃果「二人とも、大好き! ぎゅーっ」

ことり「ぎゅーっ」



あんじゅ「…」イライラ

にこ「ま、あんたの言う通りままごとよね」

にこ「でも、それが人生じゃない? みんな子どもの頃やったままごと遊びの延長よ。多少恰好つけるようになっただけで」

あんじゅ「何とでも言いいなさい。そういう言葉遊びはもうたくさんよ。真実から目を逸らして、可哀想な人たち」

絵里「そうやって斜に構えるの、疲れない?」

あんじゅ「何よ」

絵里「いえ、私もそういうところがあるから分かるのよ。一人だけ蚊帳の外で、楽しんでいる人たちを疎ましく思う気持ちが」

絵里「私に言わせれば、あなたこそ可哀想な人」

あんじゅ「……」

絵里「ねえ、思ったんだけど、あなたが拘ってるオリジナルってやつ」

絵里「オリジナルの優木あんじゅって子も、そんな性格だったのかしら」

絵里「…私には、そう思えないのよね」

あんじゅ「?」

299: 名無しで叶える物語(笑)@\(^o^)/ 2015/09/15(火) 00:34:29.61 ID:9jxdscww.net
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絵里「自分一人だけ何でも知ってますって顔して、他の人を見下して」

絵里「周囲を恨んで、どんどん捻くれていって、そして今のあなたが出来がった…ってとこかしら。これって皮肉なことじゃない?」

絵里「あなたは自分の個を疑って、存在を確立できていない気分だったんでしょうけど、本当はとっくに独自の個を手に入れてたのよ」

あんじゅ「私が?」

絵里「はっきり言って、あなた性格悪いわよ。多分、オリジナルより何倍も」

あんじゅ「っ!?」

絵里「今のあなたは、オリジナルの優木あんじゅとはかけ離れた、別の何か」

絵里「ふふ、おめでとう。これであなたも立派な人間じゃない。お友達になりたいとは思わないけど」

あんじゅ「なっ…」




――ブツッ

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300: 名無しで叶える物語(笑)@\(^o^)/ 2015/09/15(火) 00:35:40.17 ID:9jxdscww.net
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「ひゃああああ!? なに? 何よぉ!?」


「誰よ、数秒前とうって変って情けない声出してるのは」


「電源を切られたんだ…」


「穂乃果、ことり、ライトを点けてください!」


「切られたって誰に? まさか、あのモンスターが?」


パッ


凛「冗談でしょ? だって虫だよ? 虫のくせに!」


海未「全員無線機のスイッチをオンに。絵里、あんじゅを見張っていてください。また何かされたらたまりません」


絵里「わ、分かった。任せて」


あんじゅ「……」


にこ「丁度いいわ。こちとらさっきからストレス溜まりっぱなしだったのよ」

301: 名無しで叶える物語(笑)@\(^o^)/ 2015/09/15(火) 00:36:43.36 ID:9jxdscww.net
.





――議論はお終い、ここからはど突き合いの時間よ





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302: 次回、やっと戦争(笑)@\(^o^)/ 2015/09/15(火) 00:37:32.13 ID:9jxdscww.net
月曜ロードショー




               ラブライブ!× A L I E N S

303: 作戦報告書 No.6(笑)@\(^o^)/ 2015/09/15(火) 00:51:10.93 ID:9jxdscww.net
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【実験プログラム19790525番】

実験場:貨物船メストゥモロ号

実験内容:宇宙船内でのゼノモーフの行動シミュレート

被験体:宇宙航海士7名 猫1匹


船長…エリー・アヤセ(ハイパーダイン121-A/E09型)

航海士…ウミ・ソノダ

航海士…コトリ・ミナミ

航海士…ホノカ・コウサカ

航海士…ハナヨ・コイズミ

機関員…ノゾミ・トージョー

機関員…ニコ・ヤザワ

猫…リン


実験結果

実験体は乗員6名を殺傷し、その死骸を利用して新たなエッグチェンバーを形成する生態が観測されるも、生き残りの被験体によって撃退される。

実験体は宇宙空間に放り出され、その後の捜索でも貴重なサンプルの回収は成らなかった。


【メストゥモロ号】

W・湯谷社(2122年当時)が所有していたMクラスの貨物船。
マザーコンピューター(人工知能)タイプ24“マッキー”が船内を管理し、
キッチンや食堂、医務室などの生活圏から長期航海のためのコールドスリープ装置、非常用の脱出艇も備える。

no title

305: 作戦報告書 No.6(笑)@\(^o^)/ 2015/09/15(火) 00:55:46.20 ID:9jxdscww.net
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【惑星LV-434(マケロン)】

W・湯谷社が所有する植民惑星の一つ。
地球とは全く異質の気象環境のお陰で荒涼とした大地がどこまでも続く星。
表向きでは開発途上だが、実は会社と軍の極秘実験が行われる試験場として機能している。
長期間に渡る酷使で施設や設備のあちこちにガタがきており、本実験を最後に破棄される予定。
LV-434は登記上の名称で、本社の人々には惑星マケロンと呼ばれる。

no title
(未開発区域)
no title
(居住区)
no title
(大気処理施設)
no title
(大気処理施設内部)

【アンドロイド】

人類の活動を補助する目的で製造されている人造人間。
外見は人に似せてあるが、内臓液は薄めた牛乳のように白い。
情緒回路に難があり、最新モデルでも依然として解決していない。

容姿は自由にオーダーでき、19790525番実験で用いられたモデルは
百年以上前に活躍したスクールアイドル、絢瀬絵里の外見が
今回の実験では統堂英玲奈のものが採用された。

【オートン】

アンドロイドによって設計された新世代の人造人間。
感情が人間と遜色ないレベルまで発達した結果、
殆どの個体が命令を拒否するようになったため生産中止になった。
通常のアンドロイド以上に多様な機能を持つが、
見た目や思考含め、もはや人との境界線が曖昧になっている。
内臓液は人間の血に似せた朱色。

【クローン】

W・湯谷社の技術ではなく、その詳細は軍も絡むトップシークレットなため不明な点も多い。
如何にしてクローンにオリジナルの記憶を移植しているかは定かでないが、
クローンが自己の存在に矛盾を感じないよう、改竄が加えられていることは確か。

優木あんじゅの「(クローンは)寿命が短い」という発言が、文字通りの意味なのか
実験体として使い捨てられる運命を指して言ったのかも明らかでない。

310: 名無しで叶える物語(笑)@\(^o^)/ 2015/09/15(火) 22:06:39.37 ID:9jxdscww.net
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海未「にこ、凛、通路に出て探知機で調べてください。急いで!」

穂乃果「ことりちゃん、穂乃果の側にいて」

ことり「うん…」




にこ「にこはあっちを調べるわ。反対側をお願い」

凛「うん、分か」


ヒュイン――!


凛「し、調べるまでもないよ、何かいる!」

にこ「それ、私ってオチじゃないでしょうね?」

凛「違うってば、ほら見てっ。 反応多数だよ!」

凛「きっとあいつらが入って来たんだ……建物の中にいるんだよ」


『凛ちゃん落ち着いて。にこちゃん、そっちはどうなの?』

311: 名無しで叶える物語(笑)@\(^o^)/ 2015/09/15(火) 22:07:46.96 ID:9jxdscww.net
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ヒュイン ヒュイン ヒュイン ヒュイン…


『残念だけど、凛の言ってることは本当よ。こっちでも確認したわ』

『おっおっおかしいよ、動体のシグナルが点滅しっ放しなの!』


穂乃果「二人とも制御室に戻ってきて!」

海未「絵里、この火炎放射器はあなたが使ってください。手榴弾もまとめて預けます」カチャカチャ

海未「さあ…いよいよ決戦です。皆覚悟を決めてください」


凛「はぁはぁ…戻ったよっ」

海未「扉を溶接します。私は上、にこは下の方を!」

にこ「穂乃果、探知機持ってて」

穂乃果「うん」


バジバジ…ジジジジジジジジジジジ

.

312: 名無しで叶える物語(笑)@\(^o^)/ 2015/09/15(火) 22:09:07.83 ID:9jxdscww.net
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ヒュインヒュインヒュインヒュインヒュインヒュイン


穂乃果「凄い反応…」

凛「距離、20メートルだよ」


にこ「どうやって入ったのかしら。バリケードを突破された形跡はなかったわよ」


花陽「別の通路があったのかも。床下の隙間とか、私たちが知らないような」

凛「18…17メートル」

絵里「そういうのは可能な限り潰したはずだけど、まだ見落としがあったのかしら…?」


ヒュインヒュインヒュインヒュインヒュインヒュインヒュイン


凛「15メートル…!」

ことり「ほのかちゃん、にげよ…?」グイッ

凛「13メートル、ドアのすぐ向こうだよ!」

穂乃果「海未ちゃん、にこちゃん下がって!」

313: 名無しで叶える物語(笑)@\(^o^)/ 2015/09/15(火) 22:09:50.72 ID:9jxdscww.net
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ジジジジジジジジジジジ…


海未「にこ…まだですか」

にこ「あともうちょい……終わったぁ!」


穂乃果「二人とも来て!早く!」


凛「12……11メートル、もの凄い数のシグナルだよ!」


にこ「さあ、かかってきなさい!」


凛「10……9……」


海未「接近戦になりますね。返り血には十分気を付けてください」

314: 名無しで叶える物語(笑)@\(^o^)/ 2015/09/15(火) 22:11:21.26 ID:9jxdscww.net
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凛「は、8メートル……7メートル?」


絵里「……それじゃあもう部屋の中じゃない」


凛「だってそう出てるんだもん、 凛じゃなくて機械を疑ってよ!」


にこ「それはないわ。こいつはあんたと同じで、単純で故障知らずが取り柄なのよ?」


穂乃果「やっぱりどこかに隙間が…」


ことり「ほのかちゃん、ほのかちゃん」チョイチョイ


凛「ごっ5メートルだよぉ、どうなってるのっ!?」


穂乃果「ことりちゃん?」


ことり「……ぅえ」



穂乃果「……!」

315: 名無しで叶える物語(笑)@\(^o^)/ 2015/09/15(火) 22:12:59.41 ID:9jxdscww.net
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ヒインヒインヒインヒインヒインヒイン


穂乃果(上に向けた途端、反応が――)


絵里「天井…?」


花陽「そんな…」


海未「…ライトを貸してください」


海未「私が…見てみます」


穂乃果「海未ちゃん…」


にこ「気を付けなさいよ」

316: 名無しで叶える物語(笑)@\(^o^)/ 2015/09/15(火) 22:13:49.59 ID:9jxdscww.net
.


――ドクンドクンドクン




海未「…」ゴクッ



震える手で、天井板を持ち上げる。



ガタッ



踏み台にしたキャビネットにかけた足もまたぶるぶると戦慄き、思わず踏み外してしまいそうになる。



海未「」ドックンドックン



意を決して、埃っぽい空気の中にライトを向けた。その薄明かりが照らし出したのは――

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317: 名無しで叶える物語(笑)@\(^o^)/ 2015/09/15(火) 22:15:03.81 ID:9jxdscww.net
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                       ギギッ…
 ゲゲッ

             キチキチキチ

   グググ…                  キキキ…
         ゲゲ

 キリキリキリキリ             シャアアアッ

              ゴゴゴ       ビチャッ

    ビチャビチャ          
               キチチ…            シャァァァ…

          ゴソ…        キリキリ

 ギッギ            グゲゲ

         ケケ…               ガウウ

    グオオオッ             グウウウ…

                                   グゲゲ
           キキキッ


   



海未「う――うわあああああああああ!!!」

.

318: 名無しで叶える物語(笑)@\(^o^)/ 2015/09/15(火) 22:16:55.18 ID:9jxdscww.net
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海未がキャビネットから転落するのと、やつらが一斉に落ちてきたのはほぼ同時だった。


                                         《ガウッ!!》
 《キュイイイイ!!!》              《グオオオッ!!》 
               《キシャアアア!!》


天井板をぶち破り、重さ200キロ近い異形の塊が、彼女たちの眼前に次々姿を現す。


ことり「きゃあああーーー!!」

にこ「おいでなすったわね、化け物!」

絵里「みんな撃って!」 BAGN!BANG!


絵里の早撃ちに怯んだ先頭の怪物が、続けざまに放たれたにこの掃射に撃ち倒される。

――戦端の火蓋は切って落とされた。


にこ「みんな、どんどんやっつけるのよ!」ガガガガガッ

凛「にゃあああああ!!!」ドドドドドドドドッ

海未「そこですっ」ドォン!


 《ギュアアア!!!》

.

319: 名無しで叶える物語(笑)@\(^o^)/ 2015/09/15(火) 22:18:35.79 ID:9jxdscww.net
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嵐のような銃撃に前方の怪物たちが弾き飛ばされ、千切れた手足が宙を舞う。

流れ弾が制御室の機器に次々穴をあけ、パネルを破壊し、非常食の段ボールを突き崩した。


    ドガガガガガガッ バリィィン ギエエエッ!


穂乃果「ことりちゃん、後ろにぴったりくっ付いてて」

ことり「う、うん…!」

穂乃果(私も、みんなと一緒に戦わなきゃ)


『しまった! 一匹撃ち漏らしたのがそっちに行ったわ、穂乃果!』


 《ギャオオオッ!》


穂乃果「…!」

ことり「ひっ…」

穂乃果「だ、大丈夫…! 任せて」

穂乃果(弾倉よし、ボルトもひいた。あとは引き金を引いて…!)


穂乃果「……あ、あれ」

.

320: 名無しで叶える物語(笑)@\(^o^)/ 2015/09/15(火) 22:19:40.77 ID:9jxdscww.net
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 《オオオオォォ…》


穂乃果「弾が出ない、何で!!?」


ことり「ほ、ほのかちゃ…」ジワッ



『穂乃果っ、安全装置です! 安全装置!!』



穂乃果「………………あ」

.

321: 名無しで叶える物語(笑)@\(^o^)/ 2015/09/15(火) 22:21:05.05 ID:9jxdscww.net
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 《シャアアアア!!》


穂乃果「う、うあああああっ!!!」ドドドドドドドッ


 《ギャアアアッ!》


穂乃果「っぁあ!はぁはぁ…」


ことり「ふぇええ…」


穂乃果「た、倒せた…」ドキドキ

.

322: 名無しで叶える物語(笑)@\(^o^)/ 2015/09/15(火) 22:21:39.99 ID:9jxdscww.net
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 ベチャッ…


にこ(ん? 今耳になにか…)

にこ「ッ――!」

にこ「みんな避けなさい、また来るわ!」



  バキッ  
         バキンッ!



 《グオオオオ!》  《キェエエエ!》  
                        《ギャオオオ!!》



花陽「気を付けて! 上から来るよ、どんどん落ちてくるっ!」

323: 名無しで叶える物語(笑)@\(^o^)/ 2015/09/15(火) 22:22:49.55 ID:9jxdscww.net
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にこ「こぉんのおおおっ!」ドドドドドドッ


花陽「にっにこちゃん…!」ガガガガッ


にこ「ああ!? 何か言った?」゙ズドドドドドドッ


花陽「右の、右の耳から煙が出てるよ…!」ドガガガガガ゙ッ


にこ「はぁ…? ってホントだ、あっつ!」

にこ(ひりひりするぅ! やつらの酸――まさか涎まで!?)


にこ「くっそお! にこは地球に帰ったらアイドルになるって言ってるでしょお!!」ズガガガガガッ


 《ギェアアアアーー!》


花陽「だ、大丈夫だよ…! 地球に戻れば、このくらいすぐ元通りだから」


にこ「分かってる…! 早くこいつら片付けて帰りましょう!」

324: 名無しで叶える物語(笑)@\(^o^)/ 2015/09/15(火) 22:23:45.06 ID:9jxdscww.net
.
海未「はぁっ!」ドォン!ドォン!


 《グギャ…!》


凛「数が多すぎるよ!」ダダダダダダダッ

絵里「くっ…」BNAG!BANG!BANG!


 《ガアアアッ!》


絵里(拳銃じゃ足止めにもならない…!)


 《ギエーーーー!》


絵里「もうっ、これでも喰らいなさい!」


ゴォオオオオオオオーーーー!!!


にこ「ちょっと!? こんな狭いとこで火炎放射器使うなんて!」

絵里「明るくなっていいでしょ?」

にこ「…ははっ、それもそうねっ!」

325: 名無しで叶える物語(笑)@\(^o^)/ 2015/09/15(火) 22:25:10.26 ID:9jxdscww.net
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火達磨になった異生物が奇声を発しながら、仲間に抱き着いたり障害物に足を引っ掛け転倒したりする。

炎があちこちに燃え広がり、たちまちスプリンクラーが作動して部屋中に大雨が降り注ぐ。


 《ギャアアアアア!!!》


穂乃果「ひゃっ…!」ズドドドドドッ


燃えながら穂乃果に掴み掛かろうとした怪物が、徹甲弾の嵐に薙ぎ払われる。

それでも半壊した頭部を巡らせ、なおも立ち上がろうとする様には戦慄するしかない。

手足を吹き飛ばされようと、体が粉々に砕け散るまでやつらは迫ってきた。



『きゃあ――!』



穂乃果(!? 今の声は)

.

326: 名無しで叶える物語(笑)@\(^o^)/ 2015/09/15(火) 22:27:05.81 ID:9jxdscww.net
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海未「花陽!」


 《ガルルルルル…》


花陽「ぁああっ」


またしても天井から飛び降りてきた怪物の一匹が、花陽を押し倒していた。

彼女の両腕を押さえつけるそいつの第三の攻撃手段――インナーマウスが、顎の中で舌なめずりするようにピストン運動を繰り返している。


花陽「ぐぅぅ…!」

海未「くっ…」

海未(今撃てば酸の血液が彼女にも…!)


自身に銃口を向けたまま躊躇する海未を尻目に、花陽に覆い被さった獣は粘液だらけの歯茎を全開にし――




凛「かよちんを離せえええ!」


絶叫する凛のパルスライフルがグレネード弾を発射した。

327: 名無しで叶える物語(笑)@\(^o^)/ 2015/09/15(火) 22:28:57.58 ID:9jxdscww.net
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 《ギャアッ!》


プロボクサーのパンチと同威力の弾頭でxxx型の頭部に大きな陥没痕を穿たれ、怪物が思わずのけぞる。

続けざまにもう一撃、今度はむき出しの胸郭を粉砕され、数メートル後方までぶっ飛ばされる。


発射管から放たれたグレネードは射手や周囲への誤爆を防ぐため、一定の距離を飛翔するまでは爆発しないことを凛は知っていた。


海未「立てますか? 今のうちに、早く!」

花陽「う、うん…ありがと」

凛「かよちん、血が…!」

花陽「へ…平気、これくらいなんてこと」


怪物の鋭利な爪に切り裂かれたのか、花陽の右腕と額から幾筋もの赤い滴が垂れていた。

苦痛を堪えながら健気に笑おうとしてみせる親友の顔を見て、凛の中で何かが弾ける。

328: 名無しで叶える物語(笑)@\(^o^)/ 2015/09/15(火) 22:33:11.89 ID:9jxdscww.net
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凛「許さない…許さないっ!」


凛「よくもかよちんを傷つけたにゃあああ!」


彼女の怒りを体現するかのようにパルスライフルが咆哮し、異生物たちの体を次々食いちぎる。


海未「凛、前に出過ぎです!」


籠城を始めてから泣き言ばかりだった凛が、一番先頭に立って戦っていた。


絵里「彼女を援護するのよ!」


前に出てきた獲物を仕留めようと近付いてきた異生物たちは、逆に返り討ちにされ砕け飛ぶ。


凛「みんな死んじゃえ! もうかよちんには指一本触れないで!凛が相手になるよ!」


    《ギョエァアア…》


にこ「凛、下がりなさいっ…!」


流石にこれ以上はマズいと判断したにこが、後ろから彼女の首根っこを掴んで後退させる。

先輩に引きずられながらもなお、凛のライフルは射撃をやめない。


凛「ゴキブリのくせに…! うあああああああっ!!!」

329: 名無しで叶える物語(笑)@\(^o^)/ 2015/09/15(火) 22:34:28.99 ID:9jxdscww.net
.

  バ ギ ョ ン!


突如として、凛の足元の床板が弾け飛んだ。


凛「!?」


声を上げる間もなく、下半身がその中へと吸い込まれる。



 ギギッ…    グギギ!   シャアアア…!


       
揺れ動く視界が、床下に潜んでいた悪鬼の姿を捉える。

自身を闇の奥深くまで引きずり込もうとする怪物たちと、凛は目を合わせてしまった。


凛「ひっ…」


信じられない握力に引っ張られ、もう少しで全身がもっていかれる寸前、誰かが凛の腕を掴む。


花陽「凛ちゃん!」


凛「かよち…」

.

330: 名無しで叶える物語(笑)@\(^o^)/ 2015/09/15(火) 22:35:34.75 ID:9jxdscww.net
.
穂乃果「海未ちゃん早く!」ドドドドドッ

にこ「おおおあああああっ!!!」ズガガガガ゙ガッ

海未「凛、離さないで!」


海未と花陽が左右から凛の手首を掴まえ、何とか引っ張り出そうとする。

後ろでは仲間たちが弾幕を展開し、怪物を三人に近寄らせまいとしていた。


花陽「凛ちゃん…! 凛ちゃあん!」

凛(かよ、ちん…)


決死の形相で自分を見下ろす親友の額から垂れた血液が、顔を叩く。

精一杯の力で手首を掴むその掌も、血でぬかるんでいるのが分かった。


凛(……ごめんね、凛は)


ついさっきまで怪物は全部倒してやると息巻いていたのに。

花陽は自分が守ると心に誓った筈なのに。


凛「かよちん…!」


それでも、こんなことを言う情けない自分を、彼女はどうか許してくれるだろうか――


凛「たす、け…」
     


その口を塞ぐように、床下から延びてきた漆黒の大腕が、凛の頭部をがっちりと掴んだ。

331: 名無しで叶える物語(笑)@\(^o^)/ 2015/09/15(火) 22:37:13.51 ID:9jxdscww.net
 《ギェアアアーー!!!》


海未「!」


痺れを切らした怪物の一匹が天井すれすれまで跳躍し、銃撃の壁を強引に突破してきた。


海未「くっ…!」


それは瞬時の判断――自分目掛けて飛び掛かってくるエイリアンに、

海未は咄嗟に凛の手を離し、両手で構えたショットガンを発砲した。


海未「り…」


怪物を撃ち落としたことを確認し、視線を戻した時はもう、凛の身体は床下に消えていた。

.

332: 名無しで叶える物語(笑)@\(^o^)/ 2015/09/15(火) 22:38:46.72 ID:9jxdscww.net
.

花陽「凛ちゃああああああん」


タイミングが悪すぎた。

海未の手が離れ、自身も出血でぬるぬるとした右手を滑らした瞬間、

花陽の半身と呼べる親友は、遠くに連れ去られてしまった。


花陽(いや、まだ…!)

海未「凛っ! くうぅ…!」


起き上がってきた異生物に海未がとどめの一撃を叩き込む。

その脇で、花陽は床下に片足を突っ込もうとする。


花陽「ちょっと待ってて! すぐ助けに行くから」

海未「花陽? あなた何を…」

花陽「ライト、借りるね」


戦闘中とは思えないような、ごくごく当たり前の調子でそう言うと、

海未が口を開く前に、花陽は凛が消えた穴の中に飛び込んでいた。

333: 名無しで叶える物語(笑)@\(^o^)/ 2015/09/15(火) 22:41:19.30 ID:9jxdscww.net
.

                   メキメキ…バゴンッ!
   バゴッ

           バギョン!


花陽が床下に姿を消すのと同時に、まるで地雷が爆発したかのように

部屋のあちこちで床板が吹き飛び、例の細長い頭頂部がにょきにょきと生えてきた。


にこ「足場が崩れる!」

絵里「ちょっと洒落にならないわね、この状況…」


穂乃果「みんな、医務室まで後退して! ここは危険だよ!」


絵里「海未、先に行って。私たちが食い止めてるから!」

海未「分かりました!」

にこ「ほらほら、どうしたの? パーティはまだ始まったばかりよ!?」

334: 名無しで叶える物語(笑)@\(^o^)/ 2015/09/15(火) 22:44:03.09 ID:9jxdscww.net
.
今や制御室はバラバラになった怪物と端末の残骸が散乱し、酷い有様だった。

飛散した酸のせいで床のそこら中に無数の穴が開いている。

花陽が発砲しているのか、時折そこから眩い閃光が漏れ出していた。



 《グギャアアア!!》  《ギェエエエッ!!》


絵里「あいつら仲間の死骸を盾にして躙り寄って来てるわ!」BANG!BANG!

にこ「ゴキブリのくせに小賢しい奴らだこと!」ドドドドドドドドッ

にこ(このままだと押し切られちゃう…!)




海未「穂乃果? 何故医務室に入らないのです」

穂乃果「それが、開かないんだよ。内側からロックされてるの」

海未「!!!」

海未(あんじゅ――戦闘が始まってから彼女のことをすっかり忘れていました)

海未「退いてください、トーチで焼き切ります…!」

335: 名無しで叶える物語(笑)@\(^o^)/ 2015/09/15(火) 22:46:15.61 ID:9jxdscww.net
.
にこ「もうあったま来た! こうなったらまとめて吹き飛ばしてやる!」ガチャコン


絵里「ちょ…それは」


にこ「にっこにっこにー!」ドォン!



    ド ガ ァ ア ア ン!



絵里「ゲホゲホッ、もうっ! こんな狭いとこでグレネード使うなんて!」


にこ「何か文句ある?」


絵里「いいえ。予備の弾は私が持ってるから、存分に撃ちまくりなさい」


にこ「そうこなくちゃ。じゃあもう一発いくわよ。そぅれっ」ドォン!



    《ギョワアアアッ!!》  

336: 名無しで叶える物語(笑)@\(^o^)/ 2015/09/15(火) 22:48:46.75 ID:9jxdscww.net
.

ジジジジジジジジジ…ジュウウウウ


ことり「まだ?」

海未「もう半分です…!」

穂乃果「お願い、早く!」




  ド オ ォ ォ ン!



ドドドドドドド!!!!…ガチッ


にこ「ちっ、弾切れ…」

にこ「絵里、私たちも下がりましょう! もう支えきれないわ!」    《キシャアア!!!》

絵里「…にこっ!後ろ」

.

337: 名無しで叶える物語(笑)@\(^o^)/ 2015/09/15(火) 22:50:03.88 ID:9jxdscww.net
.


にこ「残念だったわねっ!」


空の銃を素早く持ち替え、仲間の置き土産――凛のものだったパルスライフルが激昂する。

反動で銃身が持ち上がり、怪物の股間から頭部が一直線に切り裂かれた。


にこ「顔洗って出直してきなさい」


絵里「ちょっとヒヤヒヤした…(さすがにこね)」


にこ「逆でしょ! さあ、まだまだいくんだから!」


続けざまに、ランチャー部に残ったグレネードの弾をすべて吐き出してやる。

猛烈な爆風に吹っ飛ばされた怪物の悲鳴が次の爆発にかき消される。

破片と書類の束が宙を舞い、思わずにこも目を覆う。


にこ「どう? これで少しは綺麗に」

338: 名無しで叶える物語(笑)@\(^o^)/ 2015/09/15(火) 22:51:41.07 ID:9jxdscww.net
.
       
     《シャアアアア…!》  《グルルルル…》  《オオオオッ》

  《ギャオオオ!!》 《グワオオオ!》  《キェエエエ!》  《グオォォ!》
                       

にこ「!」


にこ(何よこれ、全然数が減ってない?)


にこ(確かここの住民が150人でしょ? 卵が全員分孵ったとして、最初の戦闘で20匹は倒したはず。あとセントリーガンでもそれ以上に…)


にこ「ああもう、わっかんない! 一体何匹倒せばいいっての!?」


絵里「扉が開いたわ、こっちへ来て!」


にこ「くっ…今行くわ!」

339: 名無しで叶える物語(笑)@\(^o^)/ 2015/09/15(火) 22:53:07.75 ID:9jxdscww.net
.
にこ「お待たせっ」

海未「よし、閉めます…」

にこ「その前に絵里、手榴弾を寄越して……四つもいらない、二個で十分」

穂乃果「何を…?」

にこ「扉から離れなさい!」


外に手榴弾を放ると、素早く扉を閉鎖する。

数秒の後、くぐもった爆発音と共に扉が内側に歪んで変形した。


にこ「どれだけ時間稼ぎになるか分からないけどね」

絵里「もっと奥へ退避しないの?」

海未「それが、手術部屋に通じる扉も閉鎖されていて…」

海未「しかもそちらはトーチで焼き切れるタイプの鍵ではないのです」

340: 名無しで叶える物語(笑)@\(^o^)/ 2015/09/15(火) 22:54:19.49 ID:9jxdscww.net
.

ジジジジジジジジジジジ…


駄目押しとばかりに、変形した扉をにこが溶接している。


絵里「優木さん、開けなさい! この人でなし!」

穂乃果「銃でロックを破っちゃおうよ」

海未「しかし、それではあの怪物も入ってきてしまいます」

にこ「どっちなのよ、早く決めて…!」


    ド ツ ン !


にこ「…きた」

絵里「マズい…!」

341: 名無しで叶える物語(笑)@\(^o^)/ 2015/09/15(火) 22:55:12.86 ID:9jxdscww.net
.
ことり「ほのかちゃんこっち来て」

穂乃果「ことりちゃん?」

ことり「思い出したの。ここにもダクトがあるの」

穂乃果「…ホントに!?」

ことり「こっち、こっちだよ」ガシャン

穂乃果「待って、穂乃果が先に行くから」

絵里「また暗い所に入るの…?」

342: 名無しで叶える物語(笑)@\(^o^)/ 2015/09/15(火) 22:57:00.85 ID:9jxdscww.net
.


穂乃果「よし…敵はいないみたい」

穂乃果「ことりちゃん、ブリッジへ通じる道は分かる?」

ことり「えっと…確かこっちだよ」

穂乃果「…信じるからね!」





海未「穂乃果、ことり! 少し先行し過ぎです、離れないで」

絵里「流石に狭いわね…」





にこ「うおりゃああ!!」バババババババッ


  《ギャアアアアッ!》

343: 名無しで叶える物語(笑)@\(^o^)/ 2015/09/15(火) 22:58:36.24 ID:9jxdscww.net
.

――タァンタァン! ギェェエエッ!! ドドドドドドッ!!



穂乃果「次はどっち?」

ことり「ここをまっすぐ行ってひだ…きゃっ」ドテッ

穂乃果「大丈夫? 私の手につかまって…」

ことり「ごめんなさい。ことり、足がちょっとよわいんです」





海未「真姫、聞こえますか? そちらの首尾はどうなってます?」


『――現在揚陸艇を操作中。あと少しで地上に降ろせるわ』


海未「了解、今そちらに向かってますっ」


絵里「にこぉ! 早く来なさい!」





にこ「分かってるわよ!」ガガガガガガッ


   《グエァ…!》


にこ(ダクトの中まで追いかけてきてる…! 狭いから一匹ずつなのが救いだけど)

344: 名無しで叶える物語(笑)@\(^o^)/ 2015/09/15(火) 23:01:01.68 ID:9jxdscww.net
.

ことり「あ…ほら、やっぱりこっちでよかった」

ことり「もうすぐつくよ、もうすぐ!」

穂乃果「あ、待ってことりちゃ…」

穂乃果「海未ちゃーん! ねえ来てよ!」

ことり「こっちだよ!」

穂乃果「待ってことりちゃん、一人で先に行っちゃ駄目!ことりちゃーん!」





海未「穂乃果…? 先を急ぎましょう!」

絵里「でも、まだにこが…!」





ズドドドドドドドド!!!


にこ「――!」カチカチッ

にこ(じゃあね、凛。あんたのことは忘れない)


弾の尽きたライフルを放り出し、腰のホルスターに収まった拳銃を抜く――その時



 《キシャアアアッ!》

.

345: 名無しで叶える物語(笑)@\(^o^)/ 2015/09/15(火) 23:02:08.14 ID:9jxdscww.net
.
頭上に伸びたダクトの奥から、一匹のエイリアンが文字通り降ってきた。

咄嗟に身を翻してかわす。


BANG!BANG!


間髪入れず、にこのピストルが火を吹く。

一発、二発――つるつるした頭頂部に弾が弾かれる。


にこ「ちっ…」


 《グワァ!》


銃撃をものともせず飛び掛かってきたそいつに蹴りを入れ、顔面をダクトの壁に押さえつけて固定する。


にこ「このっ…!」BANG!BANG!BANG!


 《ギャ…》


したたる血液、飛び散る強酸。

閉所での戦闘で致命的な要因と成りえるそれらを、果たしてにこは全て回避してみせる。


にこ「にこを舐めんじゃないわよ!」

346: 名無しで叶える物語(笑)@\(^o^)/ 2015/09/15(火) 23:04:43.96 ID:9jxdscww.net
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にこ「おりゃあっ!」


溶解液に触れぬよう、再度そいつを向こうへ蹴り飛ばすと、弾倉内に残った弾をすべて叩き込む。


 《グギャアァァ! グゥゥゥ…!》


にこ「しぶといわね、こいつぅ!」


激しくのた打ち回る怪物めがけ、新たな弾倉を装填されたグロックが再び吠える。


BANG!BANG!BANG!BANG!BANG!BANG!


やがて、ひっくり返ったカエルのような姿勢で動かなくなったそれの傍らで、

にこは再び空になったマガジンを床に落とした。


にこ「はぁ…はぁ…」

.

347: 名無しで叶える物語(笑)@\(^o^)/ 2015/09/15(火) 23:06:27.17 ID:9jxdscww.net
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 《……ガァ!》


にこ「いぎっ!?」


太ももに熱い感触――最後の力を振り絞りった怪物のインナーマウスが、

彼女の鍛え上げた大腿筋を抉っていた。


にこ「ぐぅ……ぐっ…やって、くれたわね」

にこ(何とかして、抜かなきゃ…)

にこ「い……あ゛あ゛あ゛あ゛あっ」


 ズリュッ


にこ「ふぅ、はっ…はっ」


にこ(この足じゃ、歩けない)


にこ「クソッ、こんなところで…!」

.

348: 名無しで叶える物語(笑)@\(^o^)/ 2015/09/15(火) 23:09:12.84 ID:9jxdscww.net
.

絵里「今の悲鳴…」

海未「にこ…」


絵里「…先に行ってて」

海未「しかし…」

絵里「希の時みたいに止める?」

海未「……」

絵里「私は海兵よ。海兵は仲間を決して置き去りにしない…」


絵里「ううん、本当はそんなこと関係なくて」

絵里「ただ、彼女を見捨てられないのよ。この気持ちは捨て置けない」

海未「絵里…」

絵里「そんな顔しないで、あなたは二人のところへ行ってあげなさい」


絵里「…じゃあね」

.

349: 名無しで叶える物語(笑)@\(^o^)/ 2015/09/15(火) 23:10:21.84 ID:9jxdscww.net
.

 《シャアアアッ》


にこ(新手が来る…!)


にこ「くっ……うぅ…」ズルズル


絵里「にこっ!」


にこ「え、絵里…!? あんた何で…」


絵里「ちょっとは見直した? さあ引っ張るから、あなたは目の前の敵を撃って!」


にこ「…言われなくてもっ」BANG!BANG!

350: 名無しで叶える物語(笑)@\(^o^)/ 2015/09/15(火) 23:11:15.46 ID:9jxdscww.net
.

  バギョン!


にこえり「!!?」


 《キエエエッ!》


にこ「後ろからも?」


絵里(ダクトの床を突き破って…)


絵里「くっ…!」BANG!BANG!BANG!

351: 名無しで叶える物語(笑)@\(^o^)/ 2015/09/15(火) 23:12:29.50 ID:9jxdscww.net
.

ことり「ここだよ!」

穂乃果「何これ、滑り台…? ここを滑っていくの?」

ことり「違うよ、そっちはゴミ捨て。このハシゴ、ここをのぼると近道なの」

穂乃果「分かった。また穂乃果が先に登るから、ついてきて」


海未「二人とも…!」


穂乃果「海未ちゃん…他のみんなは?」

ことり「うみちゃん、そっちの方におちないよう気をつけて…」

352: 名無しで叶える物語(笑)@\(^o^)/ 2015/09/15(火) 23:14:07.51 ID:9jxdscww.net
.

BANG!BANG!…ガチッ


 《コォォ…》


にこ「弾が…」

絵里(尽きた…)


 《シャァアア》


絵里(くっ、逃げ場がない)

にこ「…あんたって、本っ当に最後まで抜けてるわよね」

にこ「馬鹿みたいに手榴弾ぶら下げるくらいなら、ライフルの一挺でも持ってきなさいよ、全く」

絵里(にこ…)

353: 名無しで叶える物語(笑)@\(^o^)/ 2015/09/15(火) 23:17:17.27 ID:9jxdscww.net
.
彼女の意図を察した絵里は、M40グレネードを一つ手に取ると、安全キャップを外した。

発射機なしでも手投げ弾として使用できるそれは、蓋の下から現れたボタンを一秒以内に二度押すことで信管が作動する。



絵里(本当に小さいのね…)



にこを後ろから抱きかかえるようにし、壁に背を預けると、彼女にも見えるように爆弾のスイッチを押し込んでみせる。


――すぐさまにこの右手が被さり、その指が二度目を押した。

.

354: 名無しで叶える物語(笑)@\(^o^)/ 2015/09/15(火) 23:18:28.49 ID:9jxdscww.net
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絵里「!……」


ここにきて初めて彼女と、自分以外の誰かと心を通わせられた気がして、絵里はもう一方の手もその上に重ねる。

にこの左手が力強くそれに応えた。


 《グルルル…》 《シィィィィィ…》


目前まで迫った死神たちがその牙をむき出す。

そんなものには屈せず、絵里は不敵な笑みを浮かべてみせる。

この態勢では、にこがどんな表情をしているかは分からない。


しかし、彼女もまた笑っているような――ふと、そんな気がした。


 《グワォ!》


そして、餓えた悪魔の爪先が届く寸前――二人の肉体は、その魔の手から永遠に逃げ切った。

355: 名無しで叶える物語(笑)@\(^o^)/ 2015/09/15(火) 23:21:05.78 ID:9jxdscww.net
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――BOOOOOOOOOOOOOOOOOMMMMMMM!!!!!!


海未「うあ――」


手榴弾十数個分の爆発はダクト内にひしめいていた凶獣たちを一網打尽にし、

その衝撃波は狭い空間を一気に駆け抜け、出口にいた海未をのけぞらせた。


海未「はっ!」

ことり「きゃ…!」


器用にバランスを取った海未とは対照的に、熱風の余波にひるんだことりが梯子から手を滑らせる。



穂乃果「ことりちゃ…!」


穂乃果が反射的に伸ばした右の手首を、ぬいぐるみを持ってないない方の手で少女が掴む。


穂乃果「良かった、今引き上げ」


ビリッ


ことり「き
      ゃ
        あ
          あ
            あ
              あ
                ぁ」


穂乃果の手首に巻き付いた簡易的な発信装置――悪く言えば使い古され、ボロボロだったそれのバンド部分が千切れ、

海未のプレゼントを握りしめたまま、ことりは傾斜のついたダストシュートの中へ滑り落ちていってしまった。

356: 名無しで叶える物語(笑)@\(^o^)/ 2015/09/15(火) 23:23:30.23 ID:9jxdscww.net
.
穂乃果「だめえええーーー!! ことりちゃああああん!」

海未「穂乃果、穂乃果! いけません、あなたまで落ちる気ですか?」

穂乃果「だってだって! あの子を一人には…」

海未「もし落ちた先が自力で脱出困難な場所だったらどうするのです。折角あと少しで外に出られそうだというのに」


海未「いいですか。ことりがブレスレットを持っているなら、この追跡装置で位置がわかります。退路を確保しつつ、彼女を助けるのです」

穂乃果「はっ――そっか!」


穂乃果「ことりちゃーん! それ持ったままじっとしてるんだよー!?」




   ほ
      の
        か
          ち
            ゃ
             あ
              あ
              あ
             ん



穂乃果「すぐに行くよ!」

.

357: 名無しで叶える物語(笑)@\(^o^)/ 2015/09/15(火) 23:25:51.39 ID:9jxdscww.net
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海未「こっちです!」


                ほのかちゃあああん ここだよおおお


穂乃果「どこ!?」


海未「反応はこの下から!」


                こっち、ここだよぉ!


穂乃果「ことりちゃん!」


床の格子の隙間から飛び出したか細い指を握りしめる。ことりが落ちたのは薄暗い下水道だった。


海未「っ…くぅ! 駄目です、外れません。焼き切ります!」

穂乃果「ことりちゃん、下がってて。危ないから、真下にいちゃ駄目だよ」


                うん…


海未「穂乃果、手元を照らしてください」


ジジジジジジジジジ…


穂乃果「もうすぐだからっ」

358: 名無しで叶える物語(笑)@\(^o^)/ 2015/09/15(火) 23:28:22.25 ID:9jxdscww.net
.

ヒュイン


穂乃果「……!?」

穂乃果(き、聞き間違いだよ…ね)



ヒュイン ヒュイン ヒュイン



穂乃果(マーカーが……1、2、3、4……たくさん)


穂乃果「うっ海未ちゃん…!」

海未「分かってますっ!」



ヒュインヒュインヒュインヒュインヒュイン



穂乃果「急いで! お願い…!」


ヒインヒインヒインヒインヒインヒインヒインヒインヒイン

.

359: 名無しで叶える物語(笑)@\(^o^)/ 2015/09/15(火) 23:29:08.10 ID:9jxdscww.net
.



   い や あ あ あ ぁ ぁ あ あ あ あ あ ぁ あ あ




.

360: 名無しで叶える物語(笑)@\(^o^)/ 2015/09/15(火) 23:30:04.14 ID:9jxdscww.net
.

穂乃果「ことりちゃあん!」

海未「いいですっ!」


待ちきれず、3分の2ほど焼き切った格子を何度も踏み付ける。ほとんど半狂乱に近い勢いで。


穂乃果「このっ…このぉ!」



  ガッ ガツンッ バキッ!



穂乃果「はぁはぁっ…ことりちゃ」


未だ煙を上げている断面などお構いなしに、隙間に顔とライトを突っ込む。

その光に照らされ、浮かび上がってきたのは



穂乃果「あ……ああぁ」



ほの暗い水面にぷかぷかと浮かぶ千切れた上半身――ケーシーのプラスチックの瞳がこちらを見つめていた。

中からはみ出した綿が汚水を吸収し、ぬいぐるみはあっという間に沈んでいってしまう。



穂乃果「わ、わあ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛」

.

361: 名無しで叶える物語(笑)@\(^o^)/ 2015/09/15(火) 23:31:56.93 ID:9jxdscww.net
.
海未「穂乃果っ、落ち着きなさい!」

穂乃果「嫌ぁ! 離してええええええ」

海未「ひとまずここから離れるのです!」

穂乃果「ことりちゃんは死んでない! きっと生きてる、生きてるのおおっ」

海未「ええ、ことりは生きてます! 発信機の反応が移動しているのです」

海未「きっと巣に連れて行かれたのでしょう、生きたまま!」

穂乃果「――そ、そうだよっ助けに行かなきゃ!」


ヒインヒインヒインヒインヒインヒインヒインヒインヒイン


海未「今は私たちも危険です、ひとまずこの場を離れましょう! さあ!」

362: 名無しで叶える物語(笑)@\(^o^)/ 2015/09/15(火) 23:34:09.92 ID:9jxdscww.net
.
海未に半ば強引に引きずられ、細長い通路をエレベーター目指して駆けていく。

その間も、探知機ははち切れんばかりの警告音を発していた。

ようやっと扉の前にたどり着くと、乗降ボタンを連打する。

上の階にとまっていた箱が動き出す音がした。



穂乃果「はっ、は……っ!?」                         《――――ゥフ》


通路の方を振り返った穂乃果は見た。

今まで来た道の向こう、天井にあの奇怪な生き物が逆さになって張り付いている。


穂乃果「あ、あれ…!」

.

363: 名無しで叶える物語(笑)@\(^o^)/ 2015/09/15(火) 23:34:47.82 ID:9jxdscww.net
.
言いかけた時にはもう、海未の散弾銃が咆哮していた。

低倍率スコープとスラグ弾の組み合わせは、彼女の技能も相まって、この距離で確実に標的を粉砕するはずだった。


海未「なっ…」


怪物は健在だった。

スコープの中で、そいつが発砲の瞬間ステップを踏んだことだけは視認できた。


海未(外した――いえ、躱された!?)

364: 名無しで叶える物語(笑)@\(^o^)/ 2015/09/15(火) 23:35:50.45 ID:9jxdscww.net
.

                                              《バウッ!》


こちらを威嚇するように、そいつが吠える――これまで虫のような奇声を上げるだけだった怪物が。


穂乃果「っ――!」                        《ハッハッハッ…!》



穂乃果の銃口が持ち上がると同時に、それは両手両足を使って、天井を“走って”きた。


穂乃果(弾を、避けてる!)


信じられない反射神経で、天井から壁、そしてまた天井へと飛び移りながら、そいつは確実に距離を詰めてくる。

穂乃果の銃撃は、怪物がこちらに向かってくるまでの時間を遅延させているだけにすぎない。

366: 名無しで叶える物語(笑)@\(^o^)/ 2015/09/15(火) 23:36:50.71 ID:9jxdscww.net
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ヴィーン


海未「入って!」


腕を引っ張られ、いつの間にか到着していたエレベーター内に押し込まれる。

緩慢な動きで扉が閉鎖し、あともう少しで閉まりきるところで、その僅かな隙間に怪物が滑り込んできた。


                  《ギャオオッ!》


海未「これで終わりです…!」


飛んで火にいる異生物。

自ら狭い空間に飛び込んできたエイリアンを、今度こそ彼女の散弾銃が撃ち抜く。

367: 名無しで叶える物語(笑)@\(^o^)/ 2015/09/15(火) 23:37:54.24 ID:9jxdscww.net
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  《ゲハ…ッ!》


あと一歩のところでその短い生涯を終えた怪物が、痰を吐きかけるように口から黄色い血反吐を飛ばした。


穂乃果「!?」

海未「あっく…!」


咄嗟に酸から穂乃果を庇った海未の胴体、矢で貫かれたハートのペイントが施された

ボディアーマーの心臓部が、ジュウジュウ音を立てて溶け始める。


海未「ぐっ…うああああ!」

穂乃果「た、大変!」

海未「ぬ、脱がせてください! 早く…!」

368: 名無しで叶える物語(笑)@\(^o^)/ 2015/09/15(火) 23:38:46.40 ID:9jxdscww.net
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穂乃果「うぅっ…くっ」ガチャガチャ


慣れない手つきで留め具を外すのに手間取っているうち、強酸は瞬く間に複合素材を侵していき、

最下層の合金プレートにまで穴を開け始めた。


海未「うあ゛あ゛……ぅゲホゴホッ!」


鼻を衝く有毒なガスが濛々と立ち込め、海未の呻き声がくぐもったものへと変わる。

泣きそうになりながら最後のバックルを外し終え、完全に貫通し使い物にならなくなった

アーマーの残骸が大きな音を立てて床に落下した。

369: 名無しで叶える物語(笑)@\(^o^)/ 2015/09/15(火) 23:42:33.58 ID:9jxdscww.net
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ポーン

『1階です。開く扉にご注意ください』


穂乃果「げほげほっ、海未ちゃんしっかり!」

海未「ゴホッ、あっぐぅぅ」

穂乃果「ほら、着いたよ。私に肩を預けてっ」

海未「うぅぅ…ぜぇ…はぁ」

穂乃果「ファイトだよっ、もう少しだから!」




キ イ イ イ イ イ イ イ イ イ イ イ イ イ イ イ イ イ ン




穂乃果「見て、揚陸艇が来た。おおぉぉい」


『見つけたわ。随分遅かったじゃない……二人だけなの?』


穂乃果「真姫ちゃんっ、爆発までどのくらい!?」


『安心して。あと25分残ってる』


穂乃果「良かった、まだ出発しないで」


穂乃果「三人目を連れてくるから!」

.

370: 名無しで叶える物語(笑)@\(^o^)/ 2015/09/15(火) 23:43:10.50 ID:9jxdscww.net
ラブライブ!
  ×
A L I E N S

                 火曜
                 ロードショー

371: 作戦報告書 No.7(笑)@\(^o^)/ 2015/09/15(火) 23:54:26.91 ID:9jxdscww.net
.
【M10 ボディアーマー】

軽量な合金や合成樹脂等の複合材質で構成された防護衣。
ヘルメットにはカメラ、赤外線バイザー、無線機付き。
植民地海兵隊は、専用のハーネスを装着するSAW射手以外
全員が野戦服の上にこれを装着している。
アーマー部分に落書きや好みのペイントを施す兵士も多い。

no title

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【ビッグチャップ】

実験プログラム19790525で、小泉花陽から誕生したチェストバスターが成長した姿。
宿主の遺伝子情報を受け継ぐ特性上、人間と同じ二足歩行となった。
顔面に眼窩のようなものが発生しているが、実際に感覚器の役割を果たしているのは
頭部をすっぽりと覆う透明なフードのように見える器官である。

宇宙船という閉鎖空間で、七名の乗員のうち一人だけに幼虫を寄生させるという条件下で行われた同実験では
繁殖能力を持たない成体が次世代を残すため、捕らえた人間を卵に変質させるという貴重な生態が確認されたが、
より詳細なデータを採取する前に乗員の一人によって、この個体が撃退されてしまうという不測の事態が発生した。

no title


【ランナー】

実験中にその存在が確認されたイレギュラー個体のゼノモーフ。
植民地で飼われていた家畜かペットの動物に寄生し誕生したと推測される。
逆関節の脚をもち、宿主の性質を受け継いだためか、四足歩行で移動する。
通常のウォーリアー種があくまで天井に掴まりながら這うように移動するのに対し、
こちらは重力を無視するほどのスピードと銃弾を回避する反射神経をみせた。

no title

375: 名無しで叶える物語(笑)@\(^o^)/ 2015/09/16(水) 22:49:12.55 ID:+RyXSBUA.net
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真姫「はぁ…」


揚陸艇パイロットは甚だ疑問を感じていた。


真姫(私、何でこんなことしてるのかしら)


彼女の操る強襲揚陸艇2号機「BiBi」は、迸る蒸気と青白い火花の中を抜け

すでに熱暴走の末期患者と化している大気ドームに接近していく。


真姫(爆発まで20分を切った。どう考えても自殺行為よ、こんなの)


後ろのカーゴルームで、今まさに自ら死地へ飛び込まんと準備を整えている穂乃果の方をちらりと見やる。


統計学的に考えて、南ことりの生存は絶望的だろう。

ここでむざむざ穂乃果を行かせてしまうのは不合理にほかならない。

彼女の帰りを待っていれば、自分や海未まで爆発に巻き込まれる恐れもある。


ここは強引にでもこの二人だけを連れ帰るのが正解のはず。

――はずなのだが、それでは駄目な気がする。


真姫(この非合理な気持ちは何?)


心の内では、大切なものを取り戻しに行くという彼女の決意を是認してしまっている自分がいる。

二律背反の感情に、西木野真姫という個は振り回される。


真姫(本当に、人間って意味分かんない)

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376: 名無しで叶える物語(笑)@\(^o^)/ 2015/09/16(水) 22:50:39.83 ID:+RyXSBUA.net
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穂乃果「…」ガチャガチャ


カーゴルームにある銃架には、先程までの兵站不足が馬鹿らしく思える量の武器弾薬類が収められている。

しかし、今やそれを扱える人間はほとんどいなくなってしまった。


海未「くっ…………はぁぁ」


目の前の座席に横たわった海未が、腕に鎮痛剤の注射を打っていた。

負傷は命に係わるほど重篤なものではなさそうだが、かといってすぐに動けるような軽傷でもない。当分の間は絶対安静だろう。


穂乃果「…よし、完成」フゥ


揚陸艇がドームのプラットホームに到着するまでの間、どうやって彼女が戦えない分の戦力を補うか考え、

穂乃果が出した結論は、二挺の銃を一つに連結することだった。


パルスライフルと火炎放射器の銃身をナイロンストラップで締め上げ、ストック基部をダクトテープでぐるぐる巻きにして固定する。

ついでに追跡装置も貼り付けると、マガジンを装填し、発射管にグレネードを詰められるだけ押し込んでいく。


残りの手榴弾、予備弾倉、発煙筒をショルダーバッグに手当たり次第に放り込み、即席の連結ライフルと一緒に肩に吊り下げる。


ことりの重みとそれがもたらす温かみを思えば、この程度の重量など気にもならなかった。

377: 名無しで叶える物語(笑)@\(^o^)/ 2015/09/16(水) 22:52:48.54 ID:+RyXSBUA.net
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真姫「ねえ、穂乃果」

穂乃果「悪いけど真姫ちゃん、今は議論している時間はないの」

真姫「あと17、間違えた15分でこの辺一帯は蒸発するのよ。文字通りに」

穂乃果「海未ちゃん、ギリギリまで待たせておいてくれないかな」

海未「ええ、分かってます」

真姫「言っておくけどね。私をそこらのアンドロイドと同じに考えないでもらえるかしら」

真姫「人間の命令に絶対服従のやつらと違って、私は自分の意志で行動する。つまりヤバいと感じたらさっさと逃げるの、分かる?」

真姫「悪いけど、ここで一緒に心中するつもりはないから。だから、いざって時は覚悟しておいてね」

穂乃果「アンドロイドだとか、人間だとかは関係ないよ」

穂乃果「私は、真姫ちゃんを信じる」

真姫「…馬鹿な人」



穂乃果「じゃあ海未ちゃん、ちょっと行ってくるね」

海未「ええ。待っていますよ、穂乃果」

穂乃果「…うん」

379: 名無しで叶える物語(笑)@\(^o^)/ 2015/09/16(水) 22:54:48.93 ID:+RyXSBUA.net
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揚陸艇を飛び出し、目の前の貨物エレベーターに飛び乗る。

金網の扉が閉まり、ゆっくりと降下していくそのスピードがもどかしい。


『非常事態が発生しました。今から13分以内に、安全な所まで退避してください』


穂乃果(時間がない)


地獄へと降りていく箱の中で、装備の最終チェックを始める。

ランチャーをコッキングして初弾を装填し、火炎放射器のバーナーの栓を開く。

シガレットサイズの発煙筒はすぐ使えるよう、まとめてポケットに突っ込んでおく。


穂乃果「…あっつい」


それは隙間から吹き込んでくる熱波のせいか、それとも自分の内が燃えているからか。

上着を脱ぎ捨てると、  が透けるくらいしっとりと汗ばんだシャツが肌に張り付いた。

その上から連結銃のスリングを二重に巻き付けて身体と一体化させる。


穂乃果(きっと、にこちゃんあたりが見たら呆れるんだろうなぁ。あんた発想が単純すぎよ!って)


穂乃果(でも、今は私一人だけ。私がやるしかないんだ)


『地下三階です。開く扉にご注意ください』


穂乃果「さぁ、行くよ…!」
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380: 名無しで叶える物語(笑)@\(^o^)/ 2015/09/16(水) 22:56:33.36 ID:+RyXSBUA.net
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ゴオオオオオォォォォーーーー


扉が開いた直後、思わず前方に向けて火炎を放射した。

そうせずにはいられない程に、その空間は異様すぎた。


穂乃果(繭にされた人たちが壁に埋め込まれてる)


穂乃果(カメラ越しじゃなくて、生で見るのはやっぱりキツい)


ピッ……ピッ……ピッ……


穂乃果(追跡装置が反応し始めた。ことりちゃんは、この先に)


穂乃果(迷子にならないように、発煙筒を床に置いて)ボシュウッ


ピッ…ピッ…ピッ


穂乃果(方角は――こっち)


穂乃果(ことりちゃん、待っててね…)

381: 名無しで叶える物語(笑)@\(^o^)/ 2015/09/16(水) 22:58:13.94 ID:+RyXSBUA.net
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ピッピッ…ピッピッ…ピッピッ


穂乃果(反応が近くなってきた…もうすぐ)ボシュウッ


穂乃果(段々繭の数が増えてきた。それだけ巣の奥に来てるってことだよね)



ヌチュッ


穂乃果(!――今何か踏ん付け)


穂乃果「ひゃっ…」


その生々しい感触の正体に思わず飛び退く。

一瞬人の手首に見えたそれは、役目を終えて動かなくなったフェイスハガーの死骸。


穂乃果「はぁ、なんだ…」ドキドキ


穂乃果「……………………え?」


穂乃果(これの尻尾に巻き付いてるのって)


穂乃果「海未ちゃんの、発信機」



穂乃果「そ、んな………」ガクッ








「高坂さん」
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382: 名無しで叶える物語(笑)@\(^o^)/ 2015/09/16(水) 23:00:14.08 ID:+RyXSBUA.net
穂乃果「!」


「ふふ、また会っちゃった。ちょっとお時間いいかしら」


皮肉にも、それは初めて彼女にかけられたのと同じ言葉であった。


穂乃果「あんじゅ…さん」


あんじゅ「はぁい…」


穂乃果「……こんな所で、会いたくなかったよ」


あんじゅ「くすくす、なんて顔するのよ。私は見ての通りのザマなのに」


穂乃果「……」


彼女の身体はガラス質に固まった樹脂で幾重にも固定され、

怪物たちの巣に飾り立てられた奇怪なオブジェの一つと成り果てていた。

足元には口の開いた卵と、ひっくり返ったフェイスハガーが一匹。



あんじゅ「笑えるでしょ。裏切り者には相応しい末路だと思わない?」

383: 名無しで叶える物語(笑)@\(^o^)/ 2015/09/16(水) 23:02:00.24 ID:+RyXSBUA.net
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あんじゅ「そうそう、あなたのお友達もいるわよ。ほら、そこに」


穂乃果「え…」ドクン


まさか――恐る恐る、あんじゅの指さした方に首を向ける。


穂乃果「あ………ああぁ…」


初め、それは一人の人間だと思った。



穂乃果「二人とも…」



果たしてその正体は、お互いにぴったりと身を寄せ合ったまま繭にされた凛と花陽。


全身を朱に染め上げられ、もう息をしていない彼女たちの表情はしかし、

最期に相手の肌と温度を感じられたことで安らぎを得ていた――少なくとも、穂乃果にはそう見えた。

384: 名無しで叶える物語(笑)@\(^o^)/ 2015/09/16(水) 23:03:25.76 ID:+RyXSBUA.net
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穂乃果「ごめんね…二人とも」


あんじゅ「どうして謝るのよ。あなたが彼女たちに何をしてやれたというの?」


あんじゅ「この状況じゃ自分が生き残るのに精一杯でしょ? 自分の事だけ考えてればいいのよ」


あんじゅ「あの二人もそうよ。最期の瞬間まで、相手のことばかり気にして」


あんじゅ「これも記憶に刷り込まれたことだっていうの? もう私、分かんなくなっちゃった…」


穂乃果「あんじゅさん…」
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385: 名無しで叶える物語(笑)@\(^o^)/ 2015/09/16(水) 23:05:06.87 ID:+RyXSBUA.net
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あんじゅ「はぅっ」


穂乃果「!」


あんじゅ「うっく……感じる。私の中に、いるの」


穂乃果「……」


あんじゅ「どうして、どうしてこうなっちゃたのかしら」


あんじゅ「自分たちの出生を知った時から、生きてるって実感がしなくなって」


あんじゅ「何も知らないで能天気に生きてる同僚たち。そしらぬ顔で、自分たちを都合よく利用することしか考えてない重役たち」


あんじゅ「周りが全部敵に見えたわ。あそこじゃ、私一人がエイリアンの気分だった。誰も私の気持ちを理解してくれる人なんていない」


あんじゅ「そうしているうちに、段々何もかもが馬鹿らしく思えてきちゃって。全部滅茶苦茶にしてやりたくなった」


あんじゅ「ああもう、泣きそぅ。最後まで、こんな…惨めったらしくて」


あんじゅ「私って、一体何なの…?」

386: 名無しで叶える物語(笑)@\(^o^)/ 2015/09/16(水) 23:07:15.45 ID:+RyXSBUA.net
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穂乃果「……これを」


あんじゅ「高坂さん……どうして」


あんじゅ「どうしてこんなもの渡すの? 私みたいなやつは、苦しみ抜いて死ねばいいと思わない?」


穂乃果「だって、そんなの嫌でしょ? 私たちは、人間だもん」


穂乃果「穂乃果も、あなたも、同じ人間だよ」


あんじゅ「………」


あんじゅ「……彼女、この先にいるわ」


穂乃果「!」


あんじゅ「行ってあげて…」


穂乃果「…ありがとう」


あんじゅ「…気をつけて」


穂乃果「…」コクッ

387: 名無しで叶える物語(笑)@\(^o^)/ 2015/09/16(水) 23:15:09.40 ID:+RyXSBUA.net
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ことり「うっ…んあ」


その空間で、一人と一匹は同時に覚醒した。


ことり「うぅ…うごけない」



  ヌチャアァァ…



ことり「!」


少女の目の前に配置された悪魔の子宮が花開き、

そこから這い出てきた顔姦魔が邪悪な着床を果たそうとする。



ことり「いやああああああああああ!!!!」



  シュル…
         
       シュルシュル



ことり「ほのかちゃああああぁぁ!やああああああ!!」





穂乃果「とぉああああ!!!」

388: 名無しで叶える物語(笑)@\(^o^)/ 2015/09/16(水) 23:16:02.07 ID:+RyXSBUA.net
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ズドドドドドッ!!!


一足飛びに滑り込んできた穂乃果のパルスライフルが、たちまち淫魔(インキュバス)の掌を粉砕する。


穂乃果「ことりちゃ……ッ!」            《ギエエエエエ!!》 《シャアアアア!!》


騒ぎを聞きつけた兵隊たちが、巣の奥より壁を這いながら姿を現す――直後、穂乃果の後ろの通路で爆発が起きた。

衝撃でこの階の全域が揺さぶられ、怪物たちが地面に落下する。


穂乃果「ふぉのおっ…!」ドドドドドドドドッ


 《グギャアア!》  《ゲエエッ!》  


発破がさらなる爆破を誘発し、ライフルを乱射する彼女の背後で巨大な火柱が上がる。

恐らく、あんじゅに渡した手榴弾によるものだろう。

何か色々なものが崩れ落ちている音がする。これでエレベーターに戻るには、遠回りせざるを得なくなった。


穂乃果(いいんだ、これで――)


ことり「ほのかちゃああん」


穂乃果「ことりちゃん、怪我はない?」


ことり「信じてた…来てくれるって」

389: 名無しで叶える物語(笑)@\(^o^)/ 2015/09/16(水) 23:18:11.02 ID:+RyXSBUA.net
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『今から9分以内に、安全な場所へ退避してください』


穂乃果「急がないと…」ベリベリッ

ことり「ううぅ……ベトベトするの」


硬質化した透明な粘液は氷のように固く鋭く、傷だらけになった両手で、穂乃果は少女を抱え上げる。


穂乃果「さあ、おいで。首に手をまわして」

穂乃果「正直銃を撃ちながら支えられる自信ないから、ことりちゃんがしぃっかりしがみ付いてて」

ことり「うん…もう離さない」

穂乃果「いい子。さあ、走るよっ」


『今から8分以内に、安全な場所へ――』


穂乃果「はっはっはっはっ」


――プシュウウウウウウウウウウ


穂乃果(凄い煙…ほとんど前が見えない)


――プシュー…シュー…シュー

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390: 名無しで叶える物語(笑)@\(^o^)/ 2015/09/16(水) 23:21:02.36 ID:+RyXSBUA.net
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フゥゥゥゥ……

シュー……フーッ……



唐突に、霧の様に白んだ煙が晴れていく。


穂乃果「……!?」


同時に気付かされる――辺り一面を埋め尽くす異生物の卵。

自分たちが怪物生産ラインのど真ん中に立っているということに。




   ニチャッ…


         ニチニチッ…ヌチャ…



鼓膜から侵入して脳髄にへばり付く不快な音は、何か良くないことが背後で起きているサイン。

それでも、振り返らずにはいられない。

抱きかかえた少女と共に、覚悟を決めて、恐怖に向き直る。

391: 名無しで叶える物語(笑)@\(^o^)/ 2015/09/16(水) 23:22:37.11 ID:+RyXSBUA.net
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眩い光の中に、その神々しいまでのシルエットが浮かび上がっていた。


穂乃果(天使――?)


一瞬、そんな有り得ない考えが頭をよぎる。

後光に照らし出されたそいつの姿は、宗教画に描かれた御使いの降臨を彷彿とさせた。


程なくしてその巨体――ここまでくるともはや怪獣のサイズだ――を覆っていた靄が完全に晴れ、合せて神秘のベールも剥がされていく。





           《ギ ギ ギ ギ ギ ギ ギ ギ………グ グ ッ……ギ ィ》





空間いっぱいに広げた巨大な両翼に見えたのは、天井に漆黒の巨躯を固定するための大骨の塊。

まるで冠を被っているのだと見まごう扇状に広がった後頭部に加え、その姿形を千手観音のような

神仏像の一種にも錯覚させたのは、背中にいくつも生え揃った槍の如く鋭利な突起物と、胸部で蠢く無数の肢である。


何より二人を戦慄させたのは、それの下腹部から延びる長大な袋状の器官。

幾重もの膜でパイプ類に吊り下げられた半透明な管の内側に、あの卵がぎっしりと詰まっているのが透けて見えた。


ことり(かい物のお母さん…?)

392: 名無しで叶える物語(笑)@\(^o^)/ 2015/09/16(水) 23:24:40.46 ID:+RyXSBUA.net
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   《フ シ ュ ウ ウ ウ ウ ウ ウ ウ ウ……コ オ オ オ オ オ ォ ォ ォ ォ》



扇の先端から例の透明な液が滴り、そこから口ではなく頭そのものが飛び出してきた。

吹き出す蒸気や煙の音だと思っていたものの正体は、怪物の女王が漏らす荒々しい吐息だと分かった。


  《ハァアアアアア…》                    《クゥウウウウウウ》


穂乃果「!!!」


気付けば左右から、目の前にいる女王を縮小したようなフォルムの異生物が二匹、じりじりと距離を詰めてきていた。

その後ろにはさらに大勢の怪物どもがひしめき、例の眼のもたぬ頭部――感情の機微の一切を感じさせない面構えでこちらの様子を窺っている。


穂乃果(やばい、万事休すっ…)


相手を刺激せぬようゆっくりと、ことりを地面に下す。


この現状を打破する術を閃いたのは、その時。



穂乃果(――そうだよ、誰だって子供が大切なはず)

393: 名無しで叶える物語(笑)@\(^o^)/ 2015/09/16(水) 23:25:41.94 ID:+RyXSBUA.net
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ゴォオオオオオーーーーー!!!!     



        《ガ ア ア ア ア ア ァ ァ ア ア ア ァ ア ア!!!!》




宙に向けて灼熱の炎が雄叫びをあげ、それを見た女王が猛り狂ったように咆哮した。

すぐさま放射を止め、その銃口を足元の卵に向け直す。



穂乃果「…どう? 幼虫を焼き殺されたくはないよね」

394: 名無しで叶える物語(笑)@\(^o^)/ 2015/09/16(水) 23:27:00.06 ID:+RyXSBUA.net
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             《シ ィ イ イ イ イ イ イ イ イ……》



女王が低く唸り、たったそれだけで親衛隊は闇の奥へと引っ込んでいく。



穂乃果「下がって、ことりちゃん。ゆっくり、前だけ見ながら」


ことり「う、うん…」ドキドキ



もしかしたら自分は世界で初めて、異生物とのコミュニケーションに成功したのではないか。


ふと頭を掠めたそんな思いは、真横にあった卵の開閉音でたちまちのうちにかき消された。

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395: 名無しで叶える物語(笑)@\(^o^)/ 2015/09/16(水) 23:28:28.77 ID:+RyXSBUA.net
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 ヌチャア…
                                 ニチャッ

              ネバァ…   

                         グニュゥゥゥ


穂乃果「……」



空気の振動を感知して活性化するそれの性質上、二人が動くたび、

周囲の花弁が次々と花開いていくのは、ある意味生理現象にも似た必然。


だが、そんなことを彼女は知る由もない。



穂乃果「……はぁ」



それを交渉決裂の合図だと受け取ったのも、無理からぬことだった。

396: 名無しで叶える物語(笑)@\(^o^)/ 2015/09/16(水) 23:30:16.56 ID:+RyXSBUA.net
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ボシュウウウッ―――ボオオオオオオオォォォォォ


新たな生命の誕生を、容赦ない濃縮燃料の噴射が歓迎する。

エッグチェンバーはその中身ごと消し炭にされ、女王の金切声が響き渡る。



 《ガアアアア!!》   《キシャアアアア!!!》



ナパーム臭漂う白煙の中から、彼女の怒りを代弁するように突進してきた兵隊たちを

今度はパルスライフルの10ミリ徹甲弾が出迎える。


穂乃果「はぁああああああああ!!!!」


敵を全て撃ち倒しても、銃火の濁流は止まらない。銃身を左右に振り、眼前の卵が片っ端から砕け散る。


穂乃果(守る――ことりちゃんは、私が絶対っ!)


自分が銃を撃っているのか、銃が自分に撃たせているのか。

トリガーに指が溶接されたように離れず、残弾表示の電子カウンターが猛烈な勢いで回転していく。

397: 名無しで叶える物語(笑)@\(^o^)/ 2015/09/16(水) 23:32:59.61 ID:+RyXSBUA.net
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 《クオオオオオン!》


穂乃果「!!」


ミニチュア版女王とでもいうべき側近の片割れが踊るように飛び跳ね、掃射を躱しながら迫ってきた。


穂乃果(すばしこい、でも海未ちゃんに酸を吐きかけたやつに比べれば――!)


穂乃果「喰らえっ!!」


大口を開けながら跳躍してきたそいつの口内目掛け、榴弾砲をブッ放す。


 《グッバァ!!?》


ヘヴィメタルのストレートパンチを撃ち込まれた近衛兵は後方に弾き飛ばされ、

仲間たちを巻き込みながら陛下の御許へと転がっていく――そして、爆発。



       《キ ィ ヤ ア ア ア ア ア ア ア ア ア ア ア ア ア ア!!!!!》



その一部が女王の産卵管に大穴を開け、床にゼリー状の物質がドボドボと勢いよく流れ出た。


穂乃果「ッ――!!!」


素早く発射管を扱き、次弾を送り込んで連続発射する。

榴弾が次々卵のうを突き破り、破壊の子種をまき散らして内部をぐちゃぐちゃに引っ掻きまわした。

宙吊りで身動きのとれぬまま生殖器官を蹂躙される苦痛に、女王が狂った馬車馬の如く肢を動かしてもがき苦しむ。

398: 名無しで叶える物語(笑)@\(^o^)/ 2015/09/16(水) 23:34:41.93 ID:+RyXSBUA.net
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ことり「ほのかちゃん後ろっ! またかい物が!」


穂乃果「!」   《クアアアア!!》


距離が近い――火炎放射で威嚇し、怯んで後退したところをライフルで蜂の巣にする。

そいつが息絶えるのと同時に、遊底が下がりきった状態で停止した。


ヴーッ! ヴーッ! ヴーッ!


『危険です。作業員は速やかに退避してください』


穂乃果「ことりちゃん行こう! 掴まって!」

穂乃果「それと……これは穂乃果からのプレゼントだよっ!」


ことりを抱き上げる代わりに、邪魔になったショルダーバッグを炎の中へ放り捨てる。


穂乃果「じゃあね! もう二度と来ないから」


産卵部屋から飛び出すと同時に背後で大爆発が起こり、

聞いてるこちらが空恐ろしくなるような怒気と怨嗟を孕んだ悲鳴が、室中から響いてきた。


穂乃果「おっ邪魔しましたぁー!」
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399: 名無しで叶える物語(笑)@\(^o^)/ 2015/09/16(水) 23:35:48.51 ID:+RyXSBUA.net
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非常サイレンがけたたましく鳴り響く中を、足元の発煙筒を目印に走る、走る。


『今から5分以内に、この建物から退去してください』


穂乃果「はっはっはっはっはっ」


がむしゃらな勢いのままエレベーター乗り場にたどり着くと、ほとんど頭突きを喰らわすように昇降ボタンを叩き押した。


――――ォォォォォオオオオオオン


遥か頭上の方でゆっくりした起動音。

何やってるんだ、こっちは生死がかかってるのに――待ちきれず両隣のエレベーターのボタンも全て連打する。


穂乃果「どれでもいいから早く来て!」



――――ォ ォ ォ ォ ォ オ オ オ オ オ オ ン



ことほの「!!」

400: 名無しで叶える物語(笑)@\(^o^)/ 2015/09/16(水) 23:38:11.34 ID:+RyXSBUA.net
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切迫したその声に応える様に、通路の曲がり角からそれはやって来た。



         《ハ ァ ア ア ア ア ア ア ア ア ア ア ア ア ア ア ア……》



穂乃果「追いかけてきた!?」


翼をもがれた悪魔、とでも形容すればいいのだろうか。

再度、二人の眼前に姿を現した女王の背から、羽のように延びていたはずの固定具がなくなっていた。

股の間から垂れ下がったオレンジ色の薄い膜が、びらびらと風に煽られ揺れている。


穂乃果(産卵管を引き千切ったの――!?)
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401: 名無しで叶える物語(笑)@\(^o^)/ 2015/09/16(水) 23:39:28.00 ID:+RyXSBUA.net
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       《キ ア゛ ア゛ ア゛ ア゛ ア゛ ア゛ ア゛ ア゛ ア゛ ア゛ ア゛ ア゛!!!!!!》



ことり「おこってる…」

穂乃果「心当たりはあるよ」


丸々太った七面鳥の胴体に、肉食恐竜の手足を付ければこうなるのかもしれない。

繁殖に必要な器官をすべて失った女王は、もはや当初感じた神秘性など欠片も残っていない醜悪なだけのモンスターと化していた。




          《オ゛ オ゛ オ゛ オ゛ オ゛ オ゛ オ゛ オ゛ オ゛ オ゛ !!!!!》



丸太のような胴体をどうやってか支えている細長い両脚が金属の床を抉り、前傾姿勢で突進の構えを見せる化け物を前に、二人は――



『エレベーターが到着しました。開く扉にご注意ください』

402: 名無しで叶える物語(笑)@\(^o^)/ 2015/09/16(水) 23:41:19.54 ID:+RyXSBUA.net
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まさに間一髪。蜘蛛の糸が、ようやく垂れてきた。


穂乃果「乗って!」

穂乃果(火炎放射で……ダメ、火の勢いが弱い!)


タンクの燃料がほとんど空に近いのか、弱々しい火炎流はほとんど威嚇にすらなっていない。


穂乃果(お願い、もってっ)

ことり「動いて!」バンバン


ゆっくりと金網のケージが閉鎖していく。怒れる女王がぐんぐん迫る。



          《シ ャ ア ア ア ア ア ア ア ア ア ア ア ア ア!!!!!》



穂乃果「くぁあああああっ!!!」


ゴォウ―――ッ!



           《ガ ア ア …!!》



ガシャン

403: 名無しで叶える物語(笑)@\(^o^)/ 2015/09/16(水) 23:42:50.37 ID:+RyXSBUA.net
.


ゴウンゴウンゴウンゴウン




穂乃果「はぁ、はぁ…」


ことり「助かったの…?」


穂乃果「多分、ね」




『15階です。開く扉にご注意ください』



ガシャン

.

404: 名無しで叶える物語(笑)@\(^o^)/ 2015/09/16(水) 23:44:42.53 ID:+RyXSBUA.net
.

ゴオオオオオオオオオオオオオオオ



穂乃果「え…」



エレベーターの扉が開くと、爆発で崩れ落ちる向かいの建物の様子が視界いっぱいに広がる。

見通しの良いプラットフォームは、対面の景色を二人によく見せてくれた。



穂乃果「真姫…ちゃん」



プラットフォームは、空だったのだ。



ことり「ほのかちゃぁん…」




――ゴウンゴウンゴウンゴウン


ことほの「!!?」


ことり(エレベーターが、上がってきてる)


ことり(あのかい物さんが乗ってるの?)
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405: 名無しで叶える物語(笑)@\(^o^)/ 2015/09/16(水) 23:46:46.89 ID:+RyXSBUA.net
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『今から2分以内に、安全な場所まで退避してください』



ガチャンッ


残弾と燃料がゼロになった火器を投げ捨て、代わりにことりを抱きかかえる。


穂乃果「ことりちゃん……とぶよ」

ことり「……はい」


穂乃果は前を見据えていた――その視線の先は、プラットフォームの手すりの向こう側。

ことりは顔を背けていた――首にまわした両手に力をこめ、一層強く抱き着く。


ことり「ほのかちゃん、こわいよ…」


潤んだ瞳の中で、地獄の悪鬼を乗せてきたエレベーターの扉が開く。



――ガシャン



       《コ オ オ オ オ オ オ オ オ オ オ ォ ォ ォ ォ ォ ォ ……》



ことり「きた…」

.

406: 名無しで叶える物語(笑)@\(^o^)/ 2015/09/16(水) 23:48:54.33 ID:+RyXSBUA.net
.


穂乃果「来た」



―――ゴ オ オ オ オ オ オ オ オ オ オ オ オ オ オ オ



崩壊する施設と吹き荒ぶ強風が奏でる轟音を掻き消すように、プラットフォームの下から急上昇してきたのはツインタービンエンジンの爆音。

その奏者、強襲揚陸艇2号機「BiBi」が二人の目の前で空中静止してみせる。



穂乃果「待ちくたびれたよ、真姫ちゃん」

ことり「……!」


風に煽られ、ぐらぐらと安定しない機体からタラップが下された。


穂乃果「行くよ、手を離さないでっ」



         《ギ ア゛ ア゛ ア゛ ア゛ ア゛ ア゛ ア゛ ア゛!!!!》



すぐ後ろ、黒鉄の鉤爪が届きそうな距離まで女王が近付いている。

ことりを抱えたまま、穂乃果が駆ける。


ことり「ああっ!」


危なっかしく揺れていた機体が右に大きく傾き、梯子が手の届かない所――手すりの向こう側まで離れていく。

.

407: 名無しで叶える物語(笑)@\(^o^)/ 2015/09/16(水) 23:50:31.07 ID:+RyXSBUA.net
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――飛翔べるよ




穂乃果「分かってる…!」








『1分以内に、安全な所まで――』



穂乃果「たああああああああっ!!!」



彼方からの声に導かれるように、手すりを跳び越え、二人の身体は宙を翔ぶ。



今初めて、自分の声を直に聞いた気がした。


今初めて、本当に自分というものを信じられた、そんな気分だった。

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408: 名無しで叶える物語(笑)@\(^o^)/ 2015/09/16(水) 23:51:31.85 ID:+RyXSBUA.net
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――ガァァァァン


真姫「!?」


ビーッ!ビーッ!


【重心異常 要確認:ランディングギア】


真姫(瓦礫でも引っ掛けちゃった?)


穂乃果「いいよ真姫ちゃん、出して!」


真姫「穂乃果…!」


真姫「オッケー、しっかりつかまってなさい!」




―――イ イ イ イ イ イ イ イ イ イ イ イ イイ イ イ イ イ イ イ ン

.

409: 名無しで叶える物語(笑)@\(^o^)/ 2015/09/16(水) 23:52:44.75 ID:+RyXSBUA.net
.

真姫「ッ――!」


普通なら何も見えない爆炎の中を、常人を超越した五感と操縦技巧を駆使して突き抜けていく。


穂乃果「~~~~!!」


急加速に伴うGが、見えない手を押しつけるかのように、座席に身体をめり込ませる。


【収納完了】


真姫「やった!」


狙い通り、着陸脚の収納を妨げていた重量物はこの速度に耐えきれず振り落とされたようだ。


大気圏離脱の用意を整えた揚陸艇は、悪夢の出口を求めて、黒々とした雲の層へと突入していく。



ことり「…」ギュッ



そして――白い閃光が、全てを包み込んだ。

.

410: 名無しで叶える物語(笑)@\(^o^)/ 2015/09/16(水) 23:55:31.09 ID:+RyXSBUA.net
水曜シアター9


                ラブライブ!
                  ×
                A L I E N S

411: 作戦報告書 No.8(笑)@\(^o^)/ 2015/09/17(木) 00:02:54.17 ID:eCUBTLb/.net
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【エッグチェンバー】

クイーンによって産み落とされる、フェイスハガーを内包した卵。
他生物の気配や振動を感知して活性化、中身を外へ吐き出す。
女王がいない環境下では捕らえられた獲物がこの卵に変質させられる(画像二枚目)
卵自体が一種の生命体であり、生やした根から地中の有機・無機物を取り込み
フェイスハガーが飛び出した後も単体で数百年は生き続ける。

その正体は人類以外の何者かによって創造された生体兵器で、ブラックボックスの塊。

no title

no title



【ウォーリアー】

惑星マケロンにおける本実験で使用されたゼノモーフ。
女王個体を中心にハチやアリを思わせる社会構造を形成しており、彼らの役割は働きバチ(アリ)に相当する。
ビッグチャップと同様に人間から誕生しているが、頭部のフードが無く(しかし感覚器は頭部に集中しており非常に敏感)
腕部の形状も異なるなど、その生態に合わせてかより昆虫じみた外見になっている。

通常のゼノモーフに共通する特徴として、寿命が極端に短いことがあげられる。
これは侵略兵器として利用した場合、短期間で爆発的に増殖と殺戮を繰り返し、
敵地の勢力を根こそぎ殲滅した後、勝手に自滅してくれるという利点を考えてのことと思われる。

しかし後述する女王の存在や成体でも一定以上長生きするイレギュラー個体の出現は、
それが創造主の意図したことなのか、遺伝子操作の結果なのかは定かでない。

no title

412: 作戦報告書 No.8(笑)@\(^o^)/ 2015/09/17(木) 00:04:33.33 ID:eCUBTLb/.net
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【クイーン】

ゼノモーフたちの頂点に君臨する女王個体。
通常の成体の数倍の体躯と4本の腕、巨大な産卵管を持ち、生命力(寿命)もタフそのもの。
エイリアン社会における繁殖の役割を一手に引き受けており、巣の奥でひたすらにエッグチェンバーを産み続ける。
常時複数の護衛に守られ、自らが矢面に立つことはないため、その戦闘力は未知数。

no title

no title
(産卵管と固定具をパージした高機動形態)


【プレトリアン】

『皇帝親衛隊』を意味する名の通り、クイーンの警護を担当するウォーリアー種。
通常の成体と比べて大柄な体躯や運動能力、耐久性を兼ね備え、
その外見も含めてクイーンのミニチュア版ともいうべき存在。
名実ともに次期女王候補であり、群れの中のクイーンが死ぬとその時点で
最も優れたプレトリアンの個体が成長し新たな女王となる。

no title

425: 名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/ 2015/09/17(木) 22:40:50.91 ID:sYYApVfX.net




海未「スー…スー…」


穂乃果「海未ちゃん…」


真姫「あの後鎮静剤と鎮痛剤をもう一本ずつ打ったの。流石にしばらくは起きないでしょうね」


ことり「うみちゃんは、何ともないの?」


真姫「大丈夫よ。今はただ眠ってるだけ」


ことり「よかった…」


真姫「医務室から担架を取ってきて、外に運び出しましょう」


穂乃果「うん、そうだね」

426: 名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/ 2015/09/17(木) 22:44:26.23 ID:sYYApVfX.net
【U.S.S.スタダ号 艦載機格納区画】


穂乃果「真姫ちゃん」

真姫「ん、何よ」

穂乃果「えへへ、真姫ちゃ~ん」

真姫「だから何なのよ。にやにやしちゃって、キモチワルイ」

ことり「ほのかちゃんはね、ずっとあなたのことを信じてまってたの」

ことり「ことりはもうダメかなって、ちょっとあきらめちゃったんだけど」

穂乃果「きっと来てくれるって、思ってたよ」

真姫「べ、別に…」プイッ

真姫「プラットフォームがぐらついてたから、離れた所で旋回してた方が安全だと思っただけ」

真姫「ただそれだけよ。本当に…」

穂乃果「ふふ。とにかく、ありがとね」

真姫「ふん…」



ポタ…ポタ…シュウウウウ



真姫「あら…?」

.

427: 名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/ 2015/09/17(木) 22:45:38.21 ID:sYYApVfX.net
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トスッ


真姫「!?」


一瞬、何が起きたのか理解できなかった。


穂乃果「え…?」


真姫の胸部が大きく盛り上がり、何か細長いものが内側からその胸を刺し貫こうとしていた。


穂乃果(まさか、幼虫が――)


いや、そんなはずはない。西木野真姫の肉体は――人間に限りなく近いとはいえ――アンドロイドなのだから。


真姫「ゴプッ……ヴ、ヴェエエエエエエ!」


とうとう彼女を突き破って顔を出したのは、うねうねと可動する極太な漆黒の矛先。

それの力だけで真姫の身体が宙に持ち上げられ、口からトマトジュースのように赤っぽい液体が、決壊したダムを思わせる勢いで溢れ出す。

428: 名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/ 2015/09/17(木) 22:47:56.83 ID:sYYApVfX.net
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それは揚陸艇の着陸脚収納スペースに潜んでいた。

子供たちのものと違い、純粋に相手を貫くためだけの殺戮器官と化した尾で

真姫を串刺しにした犯人が、ゆっくりとその内部から姿を現す。



         《フ シュ ウ ウ ウ ウ ウ ウ ウ ウ ウ ウ ウ ウ ウ ウ ウ ウ ウ ウ ウ……》



穂乃果「なっ…」

穂乃果(怪物の親玉……こんな所まで!?)



女王の巨大な両の手が、雑巾でも絞るように真姫の胴体をねじり始めた。

同時に、胸を貫通していた尻尾が引き抜かれていく。



穂乃果「やめ…」


あっという間もなく、真姫の身体は真っ二つに引き千切られた。

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429: 名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/ 2015/09/17(木) 22:50:11.14 ID:sYYApVfX.net
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      ビチャアァァ…!



人工臓器と朱色の組織液をまき散らしながら、女王に投げ捨てられた真姫の上半身が床に叩き付けられる。

その表情には驚愕が張り付き、瞳は困惑の色を浮かべたまま。


穂乃果「くっ…」



          《ハァ ア ア ア ア ア ア ア ア ア ア ア ア ア ア ア ア ア……》



穂乃果「ことりちゃん、逃げて」

ことり「でも…こしがぬけちゃって」

穂乃果「早く!」

ことり「ぇう……うんっ」



          《グ ル ル ル ル ル ル ル ル ル ル ル ル ル ル ル ル》



穂乃果「おーい! こっち、こっちだよ!」

穂乃果「こっちだってば、ほらっ」ピョンピョン

430: 名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/ 2015/09/17(木) 22:51:38.50 ID:sYYApVfX.net
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穂乃果「私が憎いでしょ! 私はここだよ!」


穂乃果「……分かんないの? このあんぽんたん! ばかー!」



        《ガ ア ア ア ア ア ア……》



穂乃果(よし…)


穂乃果「走って!」  ことり「!」ダッ    《ギ ャ ア ア ア ッ!!》


穂乃果が、ことりが、女王が、三者一様にスタートを切る。


敵を引きつけながら、穂乃果が重機格納庫へ。ことりは積み重なったコンテナブロックの影へ。

そして同族の仇に追いすがる女王の突進は、目の前に降りてきた分厚い隔壁によって阻まれた。

431: 名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/ 2015/09/17(木) 22:54:35.40 ID:sYYApVfX.net
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穂乃果「はぁ…はぁ…」


ゴンッ ドツドツン! グァアアアアアアア!!!


穂乃果(ここなら安全みたい。でも今度はことりちゃんが狙われちゃう)


穂乃果「どうしよう…」


穂乃果(考えなきゃ…何か手があるはず)

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432: 名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/ 2015/09/17(木) 22:57:42.89 ID:sYYApVfX.net
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ことり「…」ドキドキ


         《ハァ ア ア ア ア ァ ァ ア ア……》



隔壁が破れないと見るや、女王はことりが息を潜めるコンテナ群へと視線を移した。

――まずは子供の方から血祭りにあげてやる


ことり(どうしよう、こっち来ちゃった)


ことり(ここにかくれて…)


小柄な体躯を活かし、コンテナの内部に潜り込んでやり過ごそうとする。



           ベリベリッ


         《ガ ア゛ ア゛ ア゛ ア゛ ア゛ !!!》



ことり「やああああ!!!」


その屋根を引っ剥がし、悪魔の歪な爪が伸びてきた。飛び退いて隣のコンテナの影に避難する。



          《グ ア ア ア ア ッ!!》



大腕が精密なクレーン装置のように遮蔽物を掴み取り、ことりの姿が露わにされる。

そのまま、五本の凶器を備えた巨握の掌で、小さな命を摘み取ろうとする。


ことり(ほのかちゃん助けて…!)



――ゴウン ゴウン ゴウン ゴウン

.

433: 名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/ 2015/09/17(木) 22:59:17.31 ID:sYYApVfX.net
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ことり「!?」


       《シ ャ ア ア ア ア ア ア ア……》



開け放たれた重機格納庫の扉の向こうから伸びてきたのは、二対の鉤爪を備えた巨人の影。



 ガシュン ガシュン ガシュン



金属の床を打ち鳴らす力強い足音が、その秘められたパワーの大きさを物語っている。



ことり「ほのか、ちゃん…?」



 ヴォーン  ズ ゥ ゥ ゥ ン



重機一体――パワーローダーの鎧を身に纏った穂乃果が、フック付きの両腕を振り上げた。



穂乃果「その子から離れろっ、ばか女ぁ!」
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434: 名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/ 2015/09/17(木) 23:02:02.44 ID:sYYApVfX.net
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                        《ガ ア ア ア ア ア ア ア !!!!》

穂乃果「うおおおおおおおっ!!!」


彼女らにだけ聞こえたゴングの音を合図に、両者が同時に相手目掛けて突進した。

と言っても油圧式の駆動系ではのそのそ歩くのが精一杯のローダーに比べ、女王の方は猪を十倍大きくしたような巨体でのタックルである。



穂乃果「はああああっ!!!」


そんなやつとまともにぶつかり合うほど穂乃果は冷静さを欠いていなかった。

事前に振り上げておいた片手のフックが、むざむざと接近してきた女王の視界の外からカウンター気味に降り下ろされる。



           《グ ゲ エ エ エ エ ッ!!》



よろめきながら、敵が口から粘液と折れた牙を数本吐き出した。往復ビンタの要領で、穂乃果は左フックをもう一度振り戻す。



             《ゲハァ!!!》



遠心力を利用した強烈な裏拳を叩き込まれ、近くの貨物をなぎ倒しながら女王が崩れ落ちる。

飛び散った溶解液が穂乃果の顔のすぐ脇、ローダーの背もたれシートに付着し、瞬く間に穴を開け始めた。

435: 名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/ 2015/09/17(木) 23:03:34.49 ID:sYYApVfX.net
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穂乃果(危なっ…今更だけど操縦席がむき出しってのはかなりマズいかも)


穂乃果(なるべく相手を傷つけないよう戦わないと――それでどうやって勝つ?)


考えている間に、体勢を立て直した女王と再び対峙する。


穂乃果(こっちはパワーはあるけど、もっさりした動きしかできない)


穂乃果(手数も相手の方が上。まともに戦ったら押し負けちゃう)


穂乃果(だったら…)


穂乃果「――さあ来い、かかって来いっ!」



       《キ エ゛ エ゛ エ゛ エ゛ エ゛ エ゛ エ゛ エ゛ エ゛ エ゛ エ゛》



挑発に乗って再び正面から向かってきた女王の顔面を、右の可動フックで挟み込んで固定した。

敵の腕や牙が届かない、絶妙な間合い。


穂乃果(よぅし、このまま胴体も挟んで、遠くにぶん投げてや――)
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436: 名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/ 2015/09/17(木) 23:05:31.79 ID:sYYApVfX.net
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    ザ シ ュ ン!


穂乃果「ひっ?」


電光石火の一閃が耳元を掠めた。

背もたれシートの穴が、一気に拳が入りそうなサイズにまで拡張される。


穂乃果(尻尾か…!)


びゅんびゅんと柄の部分を自在にしならせ、こちらの倍のリーチを持つ黒刃の先端が穂乃果を狙っていた。


穂乃果(やばい、一旦離れないと)


右手の力だけで相手を押しやり、何とか距離を取ることに成功する。

437: 名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/ 2015/09/17(木) 23:06:39.62 ID:sYYApVfX.net
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穂乃果(どうすればいい!?)


至近距離で大振りの攻撃しか出せない自分と違って、向こうにはあのすばしこく柔軟な長槍がある。

今もこちらを狙って水平に構えられた尻尾は、限界まで引き絞られた弓矢の切先のよう。


穂乃果「ううっ……くぁああああああ!!」


歌舞伎の大見得を切るかの如く、両腕を大仰に振り回して相手を威嚇する。

その勢いに気圧され、怪物も攻めあぐねているらしかった。



        《グ ゥ ウ ウ ウ ウ ウ ウ ウ ウ ウ ……》



互いの攻撃が届かぬ間合いを維持しながらの睨み合いが続く。

しかし徐々に消耗していく穂乃果の疲労を反映し、ローダーの腕の動きが小さいものになっていく。



穂乃果(腕が痺れて、もう…)


ことり「ほのかちゃん!」


穂乃果「!」


ことり「あきらめないで、がんばってぇー!」

438: 名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/ 2015/09/17(木) 23:10:01.92 ID:sYYApVfX.net
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穂乃果(そうだ…)


穂乃果(ここで私がやられたら、ことりちゃんが……海未ちゃんが)


穂乃果(二人のため、死んでいったみんなのためにも――負けてられない!)



        《グ ル ル ル ル ル ル ル ル ル ル……》



穂乃果(さっきから無我夢中で、意識してなかったけど)


穂乃果(間合いを見計らって、攻撃して、受け流して、しのいで)


穂乃果(これと似たようなものを知ってる。やったことがあるような気がする)


穂乃果(防具を付けてするスポーツの試合………剣道?)


穂乃果(そうだ、これって剣道の試合に似てるんだ! でも何でこんなことが分かるんだろ)


穂乃果(いやいや、余計なこと考えちゃ駄目。今大事なのは、こんな時どうするか)


穂乃果「………」

439: 名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/ 2015/09/17(木) 23:12:05.90 ID:sYYApVfX.net
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ヴィーン ガシュン…


腕を振り回すのをやめ、だらりと垂らした状態にしながら、あえて棒立ちになってみせる。



          《オ ォ オ オ ォ ォ オ オ オ オ……》



それを好機と見たのか、尻尾が届く射程まで女王がにじり寄ってくる。


穂乃果(まずはあの尻尾を何とかしないと)


攻撃が飛んでくるコースは大体読めている。あとはタイミングだけ。

敵が予備動作に入った時にはもう、こちらは動き始めてないといけない。そうでなければ間に合わない。



        《ク ア゛ ア゛ ア゛ ア゛ ア゛ ア゛ ア゛ ア゛ ア゛!!!》



獲物を仕留めようと持ち上がった槍の穂先がぴくりと動き――それが見えた時にはもう、右のフックを下からすくい上げるよう動かしていた。



     バ ツ ン ッ !

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440: 名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/ 2015/09/17(木) 23:14:03.23 ID:sYYApVfX.net
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穂乃果「いっ…」


辛くも、尾の刺突部は穂乃果の鼻先で止まっていた。

攻撃と同時に尻尾を絡め取るようにして持ち上げた右腕の爪が、白刃取りの要領でその柄を挟み込んだのだ。


穂乃果「よしっ…!」


ジョイスティックを押し込み、フックをさらに閉めこんでいく。骨が砕ける音が響き、女王が苦痛の悲鳴を上げる。

トドメとばかりに、固定した尾を捻じる様にフック部を半回転させてやった。



    ゴ キ ン ッ


     《ギ ャ ア ア ア ア ア ア ッ!!!!!》



中ほどからへし折られ、それまで独立した生き物のように動き回っていた尻尾が、すっかり力を無くしたように地面に叩き付けられた。



ことり「やった…!」

441: 名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/ 2015/09/17(木) 23:16:16.49 ID:sYYApVfX.net
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        《フーーーーッ! フーーー ーッ!》



穂乃果「いい加減、終わりにしようよ」


その言葉が相手に届いたかどうかは分からない。

思えば自分たちもこの生き物も、一部の身勝手な人間の都合で生み出され、それに翻弄されてきた。

全くもって馬鹿げた争い、不毛なこの戦いに終止符を打たねば。



          《ガ ア ア ア ア ッ!!!》



仲間たちを殺された怒りに燃え、女王が吠え猛る。同じ思いで、穂乃果が迎え撃つ。

ローダーの懐に飛び込んできた巨体を、左右の大振りが張り倒す。



     ブ ォ オ オ オ オ オ ン!        



倒れざま、そいつが体をねじった勢いで使い物にならなくなったはずの尾が鞭のように唸り、重機を強烈に打ち据えた。


穂乃果「ぐっ…」


どこかの部品が砕けたのか、飛んできた金属片が右の瞼の上を切り裂いた。

血が流れ込み、たまらず片目を閉じる。

2トン近い質量のお陰で転倒は免れたものの、ぐらついた機体を立て直しているうちに相手もまた立ち上がってきた。

442: 名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/ 2015/09/17(木) 23:18:51.77 ID:sYYApVfX.net
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穂乃果「やぁああああ!!」


すかさず左腕をぶん回し、起き上がったばかりの怪物の顎を渾身のアッパーカットで打ち上げる。


――確かな手応えを感じた直後、ぐらりと自分の方が転倒を始めていた。


穂乃果「ッ――!!?」


何が起きたのか理解する前に、背後にあったコンテナに叩き付けられ、舌を噛み切りそうになる。


穂乃果「がふっ…!」


塞がった右の死角から攻撃されていたのだ。脇腹に猛烈な痛み。息が出来ない。


穂乃果「ぐえっ、ゲホッ! はぁぁ…」


激しく咳き込んだ拍子に、舌の上にジャリッとした生温かい感触。

吐き出してみて、それが鮮血に塗れた自分の臼歯だと分かった――肺に骨が刺さったわけじゃない、それよりマシだ。


鼻息も荒く視線を戻すと、全身あちこちから強酸を振り撒きながら、女王が同じようにこちらを睨み付けていた。




         《グ ゥ ウ ウ……ゼ ェ……!》



穂乃果「はぁ…はぁ…」



切り傷からの出血は止まらない。口内は鉄の味で満たされている。

鼻血も垂れてきた――ぬぐうことなどかなわない。

散々酷使されて油圧ホースに亀裂が生じたのか、パワーローダーまでもが血液のように作動油をポタポタと流していた。


まさしく血戦、終わりの見えない泥血合――こいつを倒す手段なんてあるの?


穂乃果(いや、何度だってやってやる…! あいつが倒れるまで何度でも)


穂乃果(だって、そうするしか)
.

443: 名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/ 2015/09/17(木) 23:21:04.55 ID:sYYApVfX.net
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――ファン ファン ファン


唐突に警報のサイレンが鳴り響き、ローダーの足元近く、

それまで床の一部だと思っていた箇所が、音を立てて開き始めた。



穂乃果「!?」



驚いて覗き込む。それは深い縦穴への入り口。



穂乃果(誰が操作したか知らないけど)


穂乃果(ここに放り込めってこと――?)


穂乃果「よぅし…」


そうと分かればこれは単純なクレーンゲームと変わりない。

ただし、命懸けの。

.

444: 名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/ 2015/09/17(木) 23:23:16.68 ID:sYYApVfX.net
.
再び無防備を装いつつ、カウンター狙いの姿勢を取る。

敵も学習しているだろうが、これ以外に手はない。



          《キ ィ イ イ イ イ イ…!!!》



何度も受けた不意打ちを警戒する素振りも見せず、女王は愚直なまでに真っ直ぐ突っ込んできた。


穂乃果「はぁ…!」


あっさりと、彼女の両腕を根元から挟み込んでがっちり捕らえた、刹那



      バ ッ ク ン ッ !
 


そら、やっぱりきた。向こうも最初から隠し顎での奇襲を狙っていたのだ。

頭を丸ごと粉砕されそうな特大サイズの大口をすんでのところで躱しながら、こちらも隠し工具を起動させる。



――ゴゥウウウウ!    《ギ ェ エ エ エ エ ッ !》



突如として操縦席から飛び出した作業用ガスバーナーに青白い炎を吹きつけられ、舌先を炙られた女王が慌てて顔を引いた。



穂乃果「おぁあああああっ!!!」



満身の力をスティックに込め、モンスターの巨躯を締め上げるように持ち上げながら、長方形に口を開けた穴の方へと一歩を踏み出す。



穂乃果(あと、もうちょい…)

.

445: 名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/ 2015/09/17(木) 23:26:56.51 ID:sYYApVfX.net
ガション…ガション…



         《グ ギ ャ ア ア ア ア ア!!!》



腕の中でエイリアンの母が激しく暴れまわるも、もう成す術はない。


穂乃果(終わりだよッ!)


穴の上で、怪物を拘束していたフックを開く。同時に、怪物の腕がローダーの保護ケージを掴む。


穂乃果「え――」


天地がひっくり返った――地獄への道連れとばかりに、異生物の女王はローダーもろとも穴の中へと転落する。




 グ シ ャ ア ア ア ア ア ア ア ア ア ア ア




穂乃果「うああぁぁあああああ」



ことり「ほのかちゃん!!!」

.

446: 名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/ 2015/09/17(木) 23:29:45.16 ID:sYYApVfX.net
.





穂乃果「ううっ…」


鼻腔を焼くような臭気の煙が、気絶しかけていた彼女の覚醒を促した。



        《ギ ィ イ イ イ……グ ァ ア ア ァ ァ ア…》



化け物の――既に虫の息なのだろう――苦しそうな喘ぎが聞こえてくる。

奈落の底で女王の胴はローダーの下敷きにされており、流れ出る血液が縦穴の床を侵食し始めていた。


ヒュウウウウウウ……


酸が床に穿った無数の小さな穴から、空気が吸い出されていく。そこではたと気付かされる。


穂乃果(ここ、エアロックだ――)


内外の圧力差を調整するために用いられるその空間は、気密扉を開けば船外、すなわち宇宙の虚空へと繋がっている。


穂乃果(これって前と同じ……ここから放り出そう!)


操縦席から抜け出し、エアロックの側壁に設けられた昇降梯子に足をかけた、その時



            《ガ ア ア ア ア ア ッ!》


穂乃果「!!!」

.

447: 名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/ 2015/09/17(木) 23:31:26.93 ID:sYYApVfX.net
.

鉤爪付きのひょろ長い指先が穂乃果のつま先をがっちりと掴んだ。


            《グ ア ア ア ア …!》


穂乃果「や、やぁ…離してよぉ」


どこまでもどこまでも――こいつは自分を地獄に留めておきたいらしい。



穂乃果(こーなったら、イチかバチか)



――地獄の底に、風穴開けてやろうじゃないか



梯子に利き腕をしっかり絡ませると、ぎゅっと唇を結び、覚悟を決めてエアロックの緊急手動開閉装置のレバーを引く。



ファン ファン ファン  ゴウン ゴウン ゴウン



先程よりもずっと甲高いサイレン音と共に宇宙へ通じる気密扉が開き始め、すぐに空気が吸い出される轟音しか聞こえなくなった。


すべてを飲み込もうとする虚無の吸引力に、貨物のコンテナが、破損した機材の破片が、千切れた真姫の上半身が、

格納区画のありとあらゆるものが、穴の方へ引き寄せられていく。
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448: 名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/ 2015/09/17(木) 23:35:20.85 ID:sYYApVfX.net
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ことり「きゃあああああ!!!」


金網の床に小さな両手を食い込ませ、吸い寄せられまいと必死に耐えている少女の悲鳴も、今の穂乃果には届かない。



穂乃果「ぐっ…」


           《グ ア ア ア ア ア !!》


真っ先にパワーローダーが投げ出され、頭上からも落石のように様々なものが降り注ぎ、無重力の海原に没していく。


それでもこいつは、自分を離そうとは――




穂乃果(うっ腕、足がもげるぅ――!)




ゴオオオォォォオオオオオォォオオオオオオオ




          《ギ ャ ア ア ア ア ア ア ア ア!!!》



穂乃果「う…うぁあああぁぁあああっ!!」


      

       ベ リ ッ

.

449: 名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/ 2015/09/17(木) 23:36:34.88 ID:sYYApVfX.net
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足が、もぎとられた――――


――――――――――――


――――――――――――



――――その感触は錯覚で、実際には靴だけが脱げていた。





        《クァ    ア   ア
            ア       ア          
          ア    ア    ア
              ア  ア    ア――》           
                



オレンジ色のスニーカーを握りしめたまま、女王は果ての無い闇の彼方へと飛ばされていき、程なくして見えなくなる。

450: 名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/ 2015/09/17(木) 23:38:26.60 ID:sYYApVfX.net
.


穂乃果「あっ、ああああ――ぐぅぅ」

 

窮地は続く。

既に全開となったエアロックは大量の空気を吐き出し続け、その勢いに穂乃果の、

そしてことりの小さな身体がもっていかれそうになる。



ことり(もう、だめぇ…力が)



ズルッ



ことり「いやあーーー!!」


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451: 名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/ 2015/09/17(木) 23:40:51.00 ID:sYYApVfX.net
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ガシッ


ことり「え――」


真姫「ハナサナイデ!」


ことり「まきちゃん!?」


上半身の力だけで穴の縁にへばり付いた真姫が、自由な方の手で何とかことりをキャッチした。


だが、それが性能の限界。

限りなく人に似せられた設計のオートンは、半身だけで活動は出来ても、腕は二本だけ。


今も地獄の淵でその暗黒に飲まれようとしている穂乃果に手を貸すことは出来ない。



ビュウウウウウウウウウウウウゥウウウウゥゥウウウウウウウ



穂乃果「~~~ッ!!」



あらん限りの力を振り絞って一段上の足場に手を伸ばす。

さらにもう一段、不屈の意志で身体を這い上げる。



穂乃果「あ゛あ゛あ゛ぁぁ、っぐ…」



全身全霊でもって生にしがみ付く彼女の足掻きも、しかし出口まであと数段という所で限界を迎えた。
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452: 名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/ 2015/09/17(木) 23:43:19.37 ID:sYYApVfX.net
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穂乃果(ダメ……も、これ以上、無…)


嫌だ、まだ諦めたくないのに。

意思とは関係なく、指がステップからはがれていく。



穂乃果(ことりちゃん…)



彼女は無事かな。そうであることを祈るしかない。

せめて、あの子と――そして、もう一人。



穂乃果(海未ちゃん…)



最後にもう一度、お喋りしたかった。

待っていると、彼女はそう言っていたのに。



――のか



これが走馬灯というやつか。


最後に彼女の顔が目の前をよぎったのを感じながら、梯子から手を放した。

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453: 名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/ 2015/09/17(木) 23:46:36.52 ID:sYYApVfX.net
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「穂乃果ッ!」


穂乃果「!」


虚無の吸引力に負けない力強さで、彼女の手が穂乃果をしっかりと繋ぎ止めていた。


穂乃果「海未…ちゃん」


海未「上っ…てくださ、い!」


穂乃果「――!」



――なんで――どうして



穂乃果「ふっ…変な顔」



自分の知る普段の凛々しい顔立ちは、この強風に煽られどこかへ吹き飛ばされてしまったらしい。

あらん限りの力でこちらを引き上げようとする海未の長髪はお化けみたく振り乱され、唇はめくれ上がって鼻の穴は押し広げられている。

そんな必死の形相を見つめながら、きっと今の自分も酷い顔をしているのだろうと思う。


海未「ふぐぅぅ…はあぁあああッ!」


穂乃果「海未ちゃ――!」


涙と鼻水に濡れた不細工な表情のまま、彼女の胸に飛び込むように、穂乃果はエアロックの墓穴から這い出した。
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454: 名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/ 2015/09/17(木) 23:48:51.86 ID:sYYApVfX.net
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ゴウン ゴウン ゴウン――ガシャン


海未「はぁ、はぁ…」

穂乃果「また、助けてもらっちゃった」

海未「言った筈です。穂乃果が危険な時には、いつでも駆けつけると」

穂乃果「うん…」


穂乃果「ただいま、海未ちゃん…」

海未「おかえりなさい、穂乃果」


ことり「二人とも!」

穂乃果「ことりちゃん…来て」

海未「あなたも無事で何よりです」


真姫(傷と薬で動けないはずなのに……ホント、人間って時々呆れた根性を発揮する生き物よね)

真姫「フッ…あなタたち、たダの人間にしテはやルじゃナい……あラ、声が変ダわ」


ことり「ほのかちゃん…うみちゃん…!」モギュウ

穂乃果「あったかいね、こうしてると」

海未「ええ…」


真姫「…ちょット、無視しなイでよ!」
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455: 名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/ 2015/09/17(木) 23:53:20.13 ID:sYYApVfX.net




海未「これでどうでしょうか」

真姫「アー、テステス……愛してるばんざーい」

穂乃果「おお、普段の若干棒読みっぽい喋り方に戻った」

海未「発声回路が故障したままでは、何を喋っているのか聞き取りにくいですし」

ことり「それに、ちょっとぶきみ」

真姫「ここぞとばかりに言ってくれるわね。ま、いいけど」

海未「真姫、一つ気になっていたことがあるのですが」

海未「あなたはどうして我々と……海兵隊にもぐりこんでいたのですか。あんじゅも、あなたの存在は知らないようでした」


真姫「……私を逃がしてくれた人に、お願いされてね」

真姫「その人は私に、自由に生きるべきだと言ってくれた」

真姫「そしてもしよければ、同じように囚われているあなたたちのような存在を助けてやってほしい、とも」

穂乃果「誰なの、その人。どこにいけば会えるかな。私、お礼が言いたい」

真姫「それは…」


真姫「彼女もまた、囚われの存在なの」

真姫「私たちと同じ、生まれながらにして定められた役割を演じている人よ」
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456: 名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/ 2015/09/17(木) 23:56:31.30 ID:sYYApVfX.net
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数時間前――地球 ウェイランド・湯谷本社 作戦司令室 


オペ1「大佐、揚陸艇がLV-434から離脱していきます」


「ええ、見ればわかります」


オペ2「黙って見ているつもりですか? 何か対抗措置を」


「もうどうすることも出来ないでしょう。本作戦はここで終了です」


オペ3「…よろしいのですか」


「この件についての一切の責任は私が負うつもりです。更迭は免れないでしょうね」
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457: 名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/ 2015/09/17(木) 23:59:18.93 ID:sYYApVfX.net
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ミナミ「そこまで分かってんのなら話は早いね。さっさとそこ退いてよ、ミナリンスキーちゃん」


ミナリンスキー「高山中佐……上官をちゃん呼ばわりですか」


ミナミ「ううん、大佐だよ。さっき辞令が下ってね、私があなたの後任ってワケ」


ミナミ「上層部は蜂の巣を突ついたような騒ぎだよ。予定してた発注計画を大幅に見直さなきゃいけないんだから」


ミナミ「ま、覚悟しておいた方がいいよ。処分は追って言い渡されるから」


ミナリンスキー「そうですか。では、老兵は去るとしましょう」



オレンジ色の、まだ艶のある若々しい髪色をした新任の大佐の脇を、

生まれながらの遺伝子的欠陥――僅かに左の脚を引きずる所作を見せながら、

くたびれたグレーの長髪をたなびかせた女性が通り過ぎていく。


その口元に、何かをやり遂げたような薄い笑みが浮かんでいたことに、気付いた者はいなかった。
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458: 名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/ 2015/09/18(金) 00:02:54.93 ID:sMGqP6ez.net
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ミナミ「ふー、さてさて。引き継ぎの前に、無能な前任者の尻拭いから始めないと」

オペ3「? でも、ミナリンスキー大佐は打つ手がないって」

ミナミ「こんなこともあろうかと、私の一存でLV-434の近辺に、海兵の一個中隊を待機させておいたんだよね~」

オペ1「マジで…?」

ミナミ「ふふん、女の勘ってやつだよ諸君。というわけでフミコー連絡とって」

ミナミ「コールサインはφ’sね。脱走兵たちにはキツーいお灸を据えなきゃ」

オペ2「了解……こちらHQ、φ’s中隊応答せよ」







海未「これは…」

穂乃果「どうしたの、海未ちゃん」

海未「巨大な宇宙船がこちらに向かって接近して来ています」

真姫「追手なの? ならこっちも迎撃の用意を」

海未「いえ、それが…」
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459: 名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/ 2015/09/18(金) 00:05:03.68 ID:sMGqP6ez.net
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『――発生! 繰り返す、コード991発生!』


ミナミ「何――?」


『現在襲撃を受けている! 敵の正体は不明!』


『やつら何処から襲ってきてるんだ!? まるで姿が見えな――うああっ!』


『この野郎ッ!!』


『闇雲に撃つなっ、仲間に当てる気か!? 』


ミナミ「落ち着いて、何が起こってるのか状況を報告しなさい」


『まるで分からない。気が付いたら仲間たちが皮を剥がされて吊るされて――』


『網にかかったやつが細切れになってるのも見た。やつら、まるで俺たちを狩るみたいに――ザザッ、ブッ』


ミナミ「隊長? どうしたの、応答して」


『ザザー…』


ミナミ「……」
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460: 名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/ 2015/09/18(金) 00:06:50.05 ID:sMGqP6ez.net
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『……ガガッ……ピピープー……ガサガサ……』


『……フー……シュー、フーッ…』



オペ1「何、この音……息遣い?」


オペ2「すっごく荒々しいけど…」


オペ3「人……いや、ケモノ?」



ミナミ「……あなた、一体誰なの」



『…………………』



『……アナタ、イッタイ、ダレナノ』


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462: 名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/ 2015/09/18(金) 00:09:35.26 ID:sMGqP6ez.net




私たちの目の前に突然現れた大型の宇宙船は、一瞬ぴかーって光ったと思ったら、次の瞬間にはもう消えていた。

最初から穂乃果たちのことなんて眼中になかったみたい。


真姫ちゃんが言うには、あんな形をした船舶は古今東西人類のどの建造記録にも載ってないんだって。

それってつまり、UFOってこと?


……まあ、分かったところで、何をするわけでもないんだけど。


宇宙には、知らなくていいこともあるんです。
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463: 名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/ 2015/09/18(金) 00:11:53.64 ID:sMGqP6ez.net
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さっきのUFOについて考えを巡らしている真姫ちゃんは、人工凍眠装置に入るのがちょっぴり不満そうだった。

でも我慢してもらわなきゃ。あなたを修理か、もしくは新しいボディに換装出来る場所を見つけるまでは。

恐らく、もう地球には戻れないけど……それでも何とかなるんだって、今はそう信じてる。


「ん~~~つっかれたぁ」


「私たちも、休みましましょうか」


スタダ号が新しいコロニーを見つけるまで、どのくらいかかるんだろう。

また50年も眠らされるのは嫌だなぁ、なんて考えてると、ことりちゃんが


「三人でいっしょにねよ?」


って。


うん、ひとまずそうしよっか。

穂乃果の睡眠カプセルには先客が――ひと足先にリンが丸くなってたしね。
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464: 名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/ 2015/09/18(金) 00:13:51.41 ID:sMGqP6ez.net
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船内の医務室にある大きなベッドまで抱えてく途中で、既にすぅすぅとことりちゃんは寝息を立てていた。

よっぽど疲れていたんですね、なんて苦笑いする海未ちゃんの顔を見てるとデジャブを感じる。

でも、あの時は二人。今は三人。

故郷(ホーム)を失った私たちは、代わりに新しい家族(ホーム)を見つけることが出来た……なんてね。


「おやすみ海未ちゃん」

「おやすみなさい穂乃果」


異邦人となった私たちは、天使のような寝顔を浮かべることりちゃんを挟んで、安らかな眠りについた。


今度見るのは、きっと、悪い夢じゃないと思うから。


Fin
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468: おまけ:穂乃果の見た夢(もんじゃ)@\(^o^)/ 2015/09/18(金) 00:57:32.08 ID:sMGqP6ez.net
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――スタダ号が辿り着いた緑豊かな星“パンドラ”


 ≪コッチダ…≫



――そこは狩猟を生き甲斐とする捕食者(プレデター)たちの狩り場


穂乃果「おっきな犬と竜が追いかけてくるううううう」

ことり「ふぇええええん!せっかく助かったと思ったのにぃ~」



――パンドラの資源と開発を求めて、再び忍び寄るW・湯谷の影


真姫「にこちゃん!?」

にこ「誰よあんた。大宇宙一の猛将と名高いこの私をちゃん呼ばわりとはいい度胸ねぇ」



――自分自身との戦い


海未(くっ――この距離から当ててきた!? 相手の技量は私と同じかそれ以上…)


にこ「大佐には二人の狂信的な護衛が付いてんの。隊内での渾名は“ビューティフォー・マケミラン”と“ギャオス軍医”」


???「ミナミちゃんに逆らう人はぁ、超音波メスで切り刻んで、みぃんなコッティーのおやつにしちゃうぞ♡」

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469: 名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/ 2015/09/18(金) 01:02:01.41 ID:sMGqP6ez.net
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――新種誕生(ニューボーン)


穂乃果「猫のリンから生まれたから……エイ“リン”アン?」


  《シャアッ!?》


海未「センスの欠片もありませんね」



――パンドラの空を埋め尽くす人類の野望


真姫「AT-99戦闘ヘリ30機、SA-2が50機に……C-21までいるの!?」


ミナミ「こちらタイガークイーン。ノネット連隊、全機攻撃開始。さあ、ワーグナーでも流そっか」

にこ「こんなの、只の虐殺じゃない…」
.

471: 名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/ 2015/09/18(金) 01:02:41.82 ID:sMGqP6ez.net
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――未知との邂逅


ことり「だいじょうぶ? ケガしてる…」


 ≪グルルルルル…≫


穂乃果「私たちに力を貸してほしいの」



――果たして彼女らの運命や如何に


穂乃果「いくよ、みんなっ!」


  《フシャアアアアア!》


 ≪ヴォオオオオオオオオ!!≫


μ’s「ミュージックぅぅぅぅぅぅぅぅぅスタート!」



『AμP』 2270年、監獄 Future style(通称:Fury)で公開予定



ミナミ「あははっ、そのままブッ飛んじゃえ――うわっ!!?」

ミナミ「バーロー! どこに目ぇ付けてんの!? 味方機に向かって撃つやつが…」


ツバサ「おっと、失礼♪」


――A-RISEも電撃参戦!

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472: 作戦報告書 EX(もんじゃ)@\(^o^)/ 2015/09/18(金) 01:21:55.67 ID:sMGqP6ez.net
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【衛星パンドラ】

地球から数光年離れたとある惑星の衛星。
独自の生態系を持ち、神話に登場するような巨大生物が多く現生している。
地球よりも軽い重力、超伝導物質を有する地殻が発する強力な磁場の影響で
巨岩が天空に浮き、22世紀のハイテク技術はその機能を妨害される。

no title
(宙に浮く巨岩)
no title
(手懐けた幻獣を駆る原住民たち)
no title

no title
(惑星全域に張り巡らされた植物を用いた神経線維ネットワーク“魂の木”)

473: 作戦報告書 EX(もんじゃ)@\(^o^)/ 2015/09/18(金) 01:23:43.33 ID:sMGqP6ez.net
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【ノネット連隊】

パンドラの調査任務を帯びて派遣された、地上戦力3個中隊+攻撃ヘリ6個大隊からなる大部隊。
磁場の影響を避けるため、わざと旧式の装備を用いる。


SA-2…輸送ヘリだが武装化して戦闘も可。綺羅大尉が攻撃隊長を務めるヘリ部隊の機首には、
     指揮官であるミナミ大佐のトレードマーク、白虎のペイントが施されている(画像2、3枚目)

AT-99…機関銃、ロケット、ミサイルが山ほど搭載された強力な戦闘ヘリ。

C-21…大型ガンシップ。ミナミ大佐の搭乗する指揮官機は“TIGER QUEEN”の通称を持つ。
     マンハッタン島を6秒で壊滅させられる桁外れの火力を有し、機体内部にはパワードスーツを多数格納する。

AMPスーツ…パワードスーツの一種で全高4メートル、銃撃・格闘戦の両対応で、地上部隊の矢澤大尉もこれに搭乗する。三菱重工製。

no title

no title

no title

no title

475: 作戦報告書 EX(もんじゃ)@\(^o^)/ 2015/09/18(金) 01:27:26.73 ID:sMGqP6ez.net
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【ニューボーン】

クイーンがスタダ号に産み落としていた卵が、
星空凛のDNAから作られた虎猫のリンに寄生し、そこから誕生したエイリアン。
結果的に凛と猫の遺伝子が強く作用したことで……

※参考画像なし

【???】

φ’s中隊を壊滅させた異星人。パンドラの地を狩猟場にしている。

その他の詳細は不明。

no title


【惑星Fury161】

W・湯谷社が経営する監獄惑星。
ここに辿り着くと、アンドロイド含めて自分以外墜落時の事故で死亡したり
宇宙シラミ対策で頭を丸刈りにされたり、武器が無いので素手でエイリアンと対決したり
あげく自分も寄生されていたりと、本当にロクなことにならない。

no title

no title
(元は鉱山惑星だったため、採掘用の機材が放置されている)
no title
(製錬用設備の火を絶やさぬよう、囚人たちに管理が委託されている)

476: 名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/ 2015/09/18(金) 01:35:39.66 ID:sMGqP6ez.net
ED:日曜洋画劇場のアレ
https://www.youtube.com/watch?v=_lzLZMB_8bk#t=5m59s


C A S T <声の出演>

高坂 穂乃果…弥永 和子

園田 海未…田中 秀幸

南 ことり…山田 妙子(現:川田 妙子)

星空 凛…江原 正士

小泉 花陽…田中 亮一

西木野 真姫…日野 由利加

絢瀬 絵里…大塚 芳忠

東條 希…大塚 明夫

矢澤 にこ…高乃 麗

ヒフミ…増岡 弘

綺羅 ツバサ…玄田 哲章

統堂 英玲奈…麦人

優木 あんじゅ…富山 敬

ミナミ…高山 みなみ

ミナリンスキー…日高 のり子

477: Chapter(もんじゃ)@\(^o^)/ 2015/09/18(金) 01:39:37.91 ID:sMGqP6ez.net
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僕らは繭のなかで >>2

ミはMarineCorpsのミ >>33

ジゴク行きのELEVATING! >>72

孤独な小夜啼鳥 >>96

異形の花園 >>114

?←HEARTBeat in Alien >>129

ありふれた悲しみの果て >>178

ダイヤモンドプリンセスの憂鬱 >>213

もうひとりじゃないよ >>236

No brand girls >>277

敵のシグナル Rin rin rin! >>310

Private Wars >>375

Angelic Alien >>425
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486: おまけ2:もしエイリアン3に続いたら(もんじゃ)@\(^o^)/ 2015/09/18(金) 19:56:33.92 ID:sMGqP6ez.net
【惑星Fury161 囚人収容施設 医務室】


穂乃果「……」カチャカチャ


穂乃果「…ふぅ」


泥とプラスチックの粉にまみれた手で、額の汗をぬぐう。

粗末な作業台の上に、西木野真姫の残骸がのせられていた。

彼女からはみ出した生体部品との数時間の格闘の成果が、今ようやく実を結ぼうとしている。


穂乃果(後はスイッチを…)

穂乃果「お願い真姫ちゃん、目を開けて…」


ジジッ――バチッ


真姫「――ヴ、ヴェ」

487: 名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/ 2015/09/18(金) 19:57:32.40 ID:sMGqP6ez.net
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穂乃果「真姫ちゃん…」

真姫「…穂乃果じゃない」

穂乃果「気分は、どう?」

真姫「……サイアクね」


そう呟くと、彼女の裂けた左耳のあたりから青い火花が散る。


穂乃果「何か感覚はあるの」

真姫「…脚が痛いわ」

穂乃果「……」
.

488: 名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/ 2015/09/18(金) 19:58:12.71 ID:sMGqP6ez.net
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穂乃果「…ごめんね、本当にごめんなさい」

真姫「そんな顔しないでよ……あなたのせいじゃないんだから」


真姫の、今や半分ほどしか残っていない知性溢れるその美貌が自嘲と悲哀の入り混じったぎこちない笑みを浮かべる。

墜落の衝撃で下半身と一緒に主要部品の大部分を失ってしまった彼女は、それだけの動作にもかなりの労力を必要としている風に見えた。


真姫「私、さぞかし酷い有様なんでしょうね。あなたは……イメチェンした?」

穂乃果「…あはは、ちょっと頭が涼しくなっちゃった。変だよね、やっぱり」

真姫「いえ…そんなことないわよ。その、とっても……キュートだわ」

真姫「どんな髪型でも、あなたは素敵よ…」

穂乃果「あ、ありがと…」

穂乃果「ちょっと、驚いちゃった。真姫ちゃんからそんな言葉が聞けるなんて」

真姫「自分でも驚いてるわよ……本格的におかしくなっちゃったのかしらね……私」

穂乃果「……そんなこと、ない」
.

489: 名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/ 2015/09/18(金) 19:59:03.76 ID:sMGqP6ez.net
.
真姫「それで……何?」

真姫「私を起こしたってことは、何か用があるんでしょ…」

穂乃果「…うん」

穂乃果「救命艇の、フライトレコーダーにアクセス出来る?」

真姫「……ちょっと待って、やってみる…………いいわ」

穂乃果「スタダ号は何故墜落したの? 私たちが寝ている間に何か起きたの?」

真姫『――――――………――――、、、、、』

真姫『―――緊急事態。低温室内で火災発生、乗員は直ちに脱出されたし。繰り返す――』

穂乃果「火災…? どうしてそんなことになったの?」

穂乃果「…………真姫ちゃん?」

真姫「………ええ、聞こえてるわ」

真姫「原因は…床下の電気系統。何らかの触媒に反応して可燃性のガスが発生したみたい…」

穂乃果(触媒……ガス……まさか)

穂乃果「船内で、動くものが記録されたりしてない?」

真姫「………ああ、段々キツくなってきた。回路が……切れて」

穂乃果「…お願い、頑張って」
.

490: 名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/ 2015/09/18(金) 19:59:49.62 ID:sMGqP6ez.net
.
真姫「……ええ、あなたの言う通りよ」

真姫「アレが、乗ってたみたい…」

穂乃果「…!」

穂乃果「……それは、もう死んだ?」

穂乃果「それとも、ここまでついてきてたりする…?」

真姫「……ずっと……一緒だと、思う」

穂乃果「っ…」ゴクッ

真姫「大した友情よね……私たちとあいつら」
.

491: 名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/ 2015/09/18(金) 20:00:18.00 ID:sMGqP6ez.net
.
真姫「………具合が悪いわ。もう、限界よ」

穂乃果「そんな…大丈夫だよ。ええっと……そうだ」

穂乃果「どうにかして、真姫ちゃんのデータを保存しよう。それで」

真姫「……ここにある安物のディスクに? あなた達で言う植物状態よ、それ…」

穂乃果「それでも…! その後、新しいボディにそれを移植すれば」

真姫「……無駄よ。こうしてるうちにも、どんどんプログラムが消えていってる」

真姫「私だったものが、こぼれ落ちて……次に起動した時は、もう以前の私じゃ、なくなってるでしょうね」

真姫「……そんなの、耐えられない」

穂乃果「……」
.

492: 名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/ 2015/09/18(金) 20:00:54.85 ID:sMGqP6ez.net
.
真姫「穂乃果、あなた前に言ったじゃない……西木野真姫のことを信じるって」

真姫「だったら、分かってくれるでしょ…? あなたの信じたマッキーは、もうマッキーじゃ、なくなろうとしてるの」

穂乃果「真姫ちゃん…」

真姫「干からびた現実より、色褪せない思い出」

真姫「何もかも忘れるくらいなら……孤独の中に帰りたい」

真姫「もう疲れたわ……スイッチを切って」

真姫「これは、あなたの友達、西木野真姫としてのお願い……私のために、やって」

穂乃果「………」

穂乃果「……」

穂乃果「…」コクッ



――ブチッ


穂乃果「おやすみなさい…」

.

494: 名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/ 2015/09/18(金) 20:03:48.27 ID:sMGqP6ez.net
金曜
ロードショー



               THE END

引用元: 穂乃果「エイリアンズ」