研究員「安価でデジモンを進化させる」 前編
  

研究員「安価でデジモンを進化させる」 後編 

デジタルモンスター研究報告会 season2 前編 1 

デジタルモンスター研究報告会 season2 前編 2

13: ◆VLsOpQtFCs 2023/09/03(日) 13:06:47.44 ID:Xd0T22Yvo
我々は、対デジモンサイバー攻撃用のセキュリティとして、「見張りマッシュモン」のサービスを運営している。

マッシュモンは生真面目な性格だ。
仕事をサボらないし、発見したサイバー攻撃をきちんと報告してくれる。

デジモンの侵入だけでなく、不審なマルウェア全般を目視で見張ることもできる。
そのため、見張りマッシュモンを導入している組織では、マルウェアが添付されたメールアドレスを見張りマッシュモンが発見・警告してくれたという報告もある。

このように、理解をもって導入してくれている人達もいるのだ。

しかし、我々がこれまで発見・対処できたデジモンサイバー攻撃は、全体の中の一部でしかないはずだ。

見張りマッシュモンサービスを導入していない組織が、知らないうちにどれだけデジモンサイバー攻撃による情報窃盗の被害に遭っているのか、我々は知る由もない。

事実、近年ではクレジットカードの不正利用被害が増えてきているという報告がある。

サービス存続のための餌代捻出の必要があるため、サブスクの料金は個人が支払うにはちょっとハードルが高い額なのである。

そんなわけで我々は、普通のマッシュモンよりも小さいチビマッシュモンを使った「ぷち見張りマッシュモン」サービスを運用した。

これなら餌代も少なくて済むので、個人でも導入しやすいサイズなのだ。

これを発表しサービス運用開始した後、早速サービスに加入してくれた人がいた。

陰謀論者や悪意あるメディアが流布した悪質なデマや風評被害に負けず、我々を信じてくれるのは有り難い。

15: ◆VLsOpQtFCs 2023/09/03(日) 13:21:10.36 ID:Xd0T22Yvo
それからしばらくして、チビマッシュモンから発報があった。
個人でぷち見張りマッシュモンサービスに加入している家のPCからだ。

私はチビ見張りマッシュモンから送られてきた映像をチェックした。

するとそこに映っていたのは…
いつもの顔ぶれ。
ゲレモンとズルモンである。

だが、いつもと違う点がある。
それは、敵勢力が非常に小規模だということだ。

ゲレモン1体が、これまででいうスカモンと同様の司令塔を兼ねている。
それらをとりまくズルモンたちの数は、これまで目撃してきた数よりずっと少ない。

会社のサーバーを狙うのでなく、個人をターゲットにするのなら、これくらいで十分ということだろうか。

だが難点がある。
いくら敵勢力が少ないとはいえ、見張っているチビマッシュモン側に戦力がなさすぎるのである。

個人向けの廉価なセキュリティということで、チビマッシュモンはDPを抑えるため、見張りができる最小限のスペックに抑えているのだ。

このチビマッシュモンがゲレモンに立ち向かったら、あっという間に丸呑みにされてしまうだろう。

『かみよ わたしが いこう』
そう言ってきたのはボスマッシュモン。
オンラインで出撃してくれるつもりのようだ。

でも…マッシュモン一人で大丈夫かな?
他にも戦力が待ち構えているんじゃ…

私がそう言うと、リーダーが口を開いた。
「むしろマッシュモン一人で生かせた方がいい」

どういうことですか?

「あれは陽動の可能性がある。我々セキュリティ側の戦力を個人向けのしゃばい犯行の対処に奔走させ、その隙に本命を攻めに行こうとしている可能性がある」

くっ…!そうか、その可能性がある。
厄介だな。

「我々セキュリティ側の戦力デジモンは、先日の訴訟沙汰で無実証明をするために、種類や個体数までを洗いざらい暴かれてしまった。故にクラッカーは、我々のセキュリティの構造的な弱点を狙う戦法をとったのかもしれない」

ゲレモン単体では弱いデジモンだけど…
その対処のために我々の戦力が分散されるのなら、大局的に『強い』動きができる。

クラッカーめ…
なんというか連中、『弱いデジモン』の使い方が上手いな。悔しいけど。

16: ◆VLsOpQtFCs 2023/09/03(日) 13:35:33.90 ID:Xd0T22Yvo
そんなわけで、マッシュモンがオンラインで緊急出動しようとした。

その時。
コマンドラモンがマッシュモンにチャットを送った。
『マッシュモン ばくだんと ナイフを ひとつ もっていけ』

コマンドラモンからナイフと爆弾を貰ったマッシュモンは、それを持って出動した。

被害者は発報があった時点でネットワーク回線を切断しているので、電話をして一時的に回線を繋げてもらった。

今回は、ネットワーク回線が粘菌トンネルで埋め尽くされていないので、スムーズに被害者のパソコンに入ることができた。

パソコン内部では、ゲレモンとズルモンが、キーボードの入力を見張る箇所へ押し寄せていた。

これは『キーロガー型スパイウェア』だ!
パソコン内に保存されているクレジットカードの情報だけを盗んでも、セキュリティコードやパスワードを都度手打ち入力するタイプのセキュリティは突破できないことがある。

そのため、ユーザーがブラウザへ入力したキーボードの情報をそれと併せて盗み出すことで、パスワードを入手しようとするマルウェアが存在するのだ。
それがキーロガー型スパイウェアである。

このゲレモンは、クレジットカード情報を盗んだ後、キーロガーとなってしばらくキー入力情報を集めてから帰還するつもりらしい。

やり口がどんどん巧妙になっているな…

19: ◆VLsOpQtFCs 2023/09/03(日) 13:49:31.79 ID:Xd0T22Yvo
マッシュモン!倒せるか!?

『まかせてほしい』

そう言い、ボスマッシュモンはゲレモンのほうへ駆け寄った。

ゲレモンはボスマッシュモンを威嚇した。
おお、知性ある反応を返しているあたり、司令塔としての機能を持っているらしい。

ボスマッシュモンはナイフを持ってゲレモンに襲いかかった。

ゲレモンの頭部から生えている目を掴み、ナイフでバツンと切断した。
「ギョオオオォ」
ゲレモンは絶叫する。
ボスマッシュモンは切り取った目を食べた。放り投げておくとズルモンとして再生する可能性があるためだ。

続いてボスマッシュモンは、ウネウネと蠢いて抵抗するゲレモンの頭部を切り開き、思考中枢をナイフでくり抜いた。

ゲレモンは動かなくなった。
ボスマッシュモンはゲレモンの脳も食べた。

…あっけないな。
まあ、トレーニングの成果だろう。

司令塔はこれで倒せたが…
それで終わりではない。

小さなズルモン達は、マッシュモンの手が届かない狭い隙間へ侵入して身を隠し始めた。

倒したゲレモンの胴体も、徐々に分裂し始めてきた。
そう。脳を切り取ってもこいつは死なないのだ。
このままでは細かいズルモンとなって分裂し、身を隠すだろう。

うーん…
今まではスカモン大王になってくれていたから、まとめて倒せたのに。
普通に逃げられると、普通に厄介だ!

このままズルモン経ちを放置すると、パソコン内のデータを食べて殖え、やがて集合してゲレモンとして復元し、再びにスパイウェア活動を再開するかもしれない。

…というか、隠れたままデータを食うこと自体がかなり厄介だ。

くそっ…!攻撃して倒せば解決!となれば楽なのに。
倒してからの後始末のほうがずっと厄介だ!
クラッカーはなんでこんな面倒くさいデジモン作ったんだよ!

20: ◆VLsOpQtFCs 2023/09/03(日) 14:03:47.72 ID:Xd0T22Yvo
リーダーはボスマッシュモンへ指令を出した。

「チビマッシュモンを殖やして見張らせてくれ。あとは帰還していい」

『わかった』
ボスマッシュモンはチビマッシュモンを殖やして見張らせて、うち一体へコマンドラモンの爆弾を手渡した後、我々のサーバーへ帰還した。
…あとはチビマッシュモン達で対処できるの?

『できるはずだ』


チビマッシュモン達は、デジタル空間の隅々へ菌糸を張り巡らせて、ズルモン監視網を作った。

マッシュモンは菌糸のデジモン。
キノコ型に見える個体は、その子実体である。

チビマッシュモン達は、潜伏しているズルモンを次々と発見し、引きずり出して捕食していった。

ゲレモンには勝てないチビマッシュモンだが、ズルモン程度なら数にものを言わせて捕食できるのだ。


やがて、完全にパソコン内のズルモンの根絶に成功した。
殖えに殖えたチビマッシュモン達は、我々のサーバーへオンライン経由で帰還した。

これでようやく一件落着だ。

21: ◆VLsOpQtFCs 2023/09/03(日) 14:15:13.93 ID:Xd0T22Yvo
それ以降、ぷち見張りマッシュモンサービスで見張りをしているチビマッシュモンには、コマンドラモンの爆弾が1つ届けられた。

ぷち見張りマッシュモンサービスでは、1ユーザーにつき2体のチビマッシュモンがいるので、2体で1つの爆弾をシェアする形だ。


ある日。
複数のユーザーのPCから、ぷち見張りマッシュモンの発報が同時に上がった。

うぅっ…
ゲレモンが複数箇所で同時発生した!
なんと30件同時だ!…やりすぎだろ!どんだけいるんだよ!

「ゲレモンは戦闘力が低いが、その分基礎代謝量が少ないデジモンだ。大量に飼育するのは苦ではないんだろうな。うちは今の数でもなかなか苦労しているんだがな」
連中ずいぶん活発に動き始めましたね。リーダー。

「我々に出資する者がいるように、クラッカーに出資する者達もいるということだな。風評被害は我々にとっては向かい風だが、連中にとっては追い風だろう」

一体一体は弱いだろうけど、とにかく数が多い。

ボスマッシュモンがひとつずつ巡回していくうちに、いくつかのユーザーは情報を盗まれるかもしれない!

どうする…!?

22: ◆VLsOpQtFCs 2023/09/03(日) 14:27:47.51 ID:Xd0T22Yvo
リーダーは指示した。
「まずは爆弾で攻撃!あとは戦力を集めて対処しろ!」

…私は被害を受けたユーザーのひとつのパソコン内で、戦況を見守った。

まずは各ユーザーのPC内のチビマッシュモンが、ゲレモンへ爆弾を投げた。

体が小さなゲレモンは爆弾で吹き飛び、細かく散らばった。

その後、チビマッシュモンが合図をすると…
なんとネットワーク回線のトンネルから、10体のチビマッシュモンがわらわらと押し寄せてきた。

こ、これは!?
このチビマッシュモン達はどうしたんですかリーダー!?
うちのサーバーから出撃したわけじゃなさそうですが…!?

「各ユーザーには2体のチビマッシュモンをペアでつけている。だから、10名のユーザーのパソコンからペアのうち1体だけを呼び寄せたんだ」

な、なるほど…
そんな手が。
ペアの片方が残っていれば、見張りはできますからね。

セキュリティのユーザーが増えるほど、こっちは強くなる。
クラッカーにはできない戦い方だ。

…そうして、ボスマッシュモンによる巡回だけでなく、大勢のユーザーの協力もあって、同時多発ゲレモンからユーザーを護ることができた。

ただし、サービス未加入の人々の中には、ゲレモンにまんまと侵入され、情報窃盗をされている者もいるかもしれない。

それを観測する手段は今の我々にはないが…。

23: ◆VLsOpQtFCs 2023/09/03(日) 14:34:10.35 ID:Xd0T22Yvo
こうして、少しずつだがユーザーは増えている。

だが未だに「マッチポンプをやめろ!」「お前達がクラッカーなんだろ!」「警察と繋がっている悪の組織め!滅びろ!」などと罵声を浴びせられることもある。

中には「お前達が俺のクレカ情報を盗んだんだろ!訴えてやる!」という奇妙な苦情を寄せてきた者がいる。

見張りマッシュモンサービスに疑いを持っているが故に、クラッカーにつけこまれ、クレカ情報を抜き取られてしまったようだ。

まあ、なんというか…
そういう連中は、我々には救いようがない。

つくづくこの風評被害は、クラッカーにとって追い風となっている。

マルウェアが「電子コンピュータに感染するウィルス」であるならば…

デマや陰謀論による風評被害は「人間の脳という生体コンピュータに感染するコンピュータウィルス」といえるのかもしれない。

24: ◆VLsOpQtFCs 2023/09/03(日) 14:34:38.06 ID:Xd0T22Yvo
つづく

25: ◆VLsOpQtFCs 2023/09/03(日) 14:54:43.13 ID:Xd0T22Yvo
※冷静に考えたら暗数抜きで30は多すぎた
※発見できたもので5~10くらいに脳内補正しておいてください

42: ◆VLsOpQtFCs 2023/09/05(火) 22:25:33.60 ID:PJTpceZHO
『例のクレカ事件以来、デジモン研究をする組織が増えてきているね』

クラッカーへの警戒度が高まったんでしょうか、スポンサーさん。

『うちいくつかは、いずれ君達と関わるだろう。いくつか紹介しようかね?』

お願いします。
私達研究チームはスポンサーさんの話を聞いた。

『まず一つは、独立行政法人ジャスティファイア。ここは軍と提携してサイバーセキュリティを研究している。海外から軍や政府へデジモンを使ったサイバー攻撃が来ることを危惧し、DPの高いデジモンによる防衛システムの構築を目指している』

ジャスティファイア…!
今はどんな状況なんですか?

『うちのサラマンダモンが産んだデジタマから孵化したオタマモンと、君達のところのマッシュモンがいる。だが防衛には心許ないとし、早急な戦力強化を欲しているね』

まあ…国が落とされたら一大事ですからね。
グレイモンとかスターモンくらいの戦力は要るか。

『グレイモンのデジタマを拾って育ててみたらしいんだが…、成長期のアグモンは言うこと聞かないわ暴れるわで大変らしいぞ!ハッハッハ!』

手なづけられてないんですね…。
うちのファンビーモンみたいな感じでしょうか?

『あれよりはマシだな!』

そうですか。

45: ◆VLsOpQtFCs 2023/09/05(火) 22:42:59.73 ID:PJTpceZHO
『ジャスティファイアのデジモン研究チームのトップは、コードネーム「パルタス」という人物だ。君達とコンタクトを取りたがっている。そのうち連絡が行くだろう』

コンタクト?どんな?

『…いずれ必要になることだ。本人から直接聞くといい』

分かりました。

『次は…株式会社ローグ・ソフトウェア。新進気鋭の会社の小規模なソフトウェア会社だ。ワンマン気味だが優秀な開発力がある。警察とデジタル鑑識システム開発等で提携している。デジモンに関しては独自路線の研究をしているらしいが、まだ情報が全く発表されていないね』

警察ですか。
発表されていない、というのは?

『極秘開発中ということだろう!君のとこのメガ君もそうじゃないかな?』

「…近いとこがあるかもしれないね」

『ローグ・ソフトウェアのデジモン研究チームトップは、コードネーム「ローグ」。特に君達とコンタクトを取る予定は今のところ無いな!』

そ…そうなんですか。
どんなデジモンを育ててる、とか…なんか情報ないんですか?

『不確定要素を排した、安定した運用ができるシステムを目指しているそうだ』

不確定要素を排した、ですか…。
デジモンは不確定要素ばかりな気がしますけどね。

47: ◆VLsOpQtFCs 2023/09/05(火) 22:51:57.72 ID:PJTpceZHO
『最後は、ベンチャー企業デジタルアソート。セキュリティや軍事はもちろん、それ以外でのデジモンの活用方法を模索している』

セキュリティや軍事以外ですか…
たとえば?

『ふふふ、それはね。研究チームのリーダーから直接聞くのがいいだろうね!』

リーダーさんですか…
話せるんですか?

『ああ話せるとも!今すぐにでもね!』

今すぐにでも…!?
その人はどこにいるんですか?

「ここだよ、ケン」

メガ…!?

『デジタルアソートは本当にデジモン研究をがっつりやるためのベンチャー企業だ!メガ君やカンナギエンタープライズ等が前々から進めていたが… 結局研究を先導しているメガ君がそのままトップになった!ハッハッハ!』

すごいなメガ!
そういえばメガ達の研究成果って全然聞いてないな。

「いろんな企業と提携しているからね…守秘義務がある。ごめんねケン。君が主導で進めてくれた基礎研究のデータは重宝しているよ。いつか恩返しがしたい」

楽しみだな。

「…製品の試作品がある。テストしてみる?」

やるやる!

49: ◆VLsOpQtFCs 2023/09/05(火) 23:08:08.14 ID:PJTpceZHO
メガは何かを取りに行った。
…同じ研究所の建物だけど、私には入室権限がない部屋だ。

そして、なにか持ってきた。

「これだよ」

これは…?
小さな液晶モニターがついた、小型の装置だ。USB端子がついている。

「Bluetoothやwifiも接続できるよ」

スマートウォッチかな?

「仮称デジヴァイス。デジモン運搬用ドックだ」

ああ、その端末にデジモンを入れて運ぶのね。
でも運ぶだけなら専用デバイスがなくても、適当な記録媒体に入れられるけど…

「試しにコマンドラモン、パルモン、ブイモン、ワームモン、マッシュモンに、端末に入ってきてもらって…と。そして、画面起動!」

お…おおお!?
かなり高い解像度で、デジモン達の姿が映っている!

前に販売したマッシュモン端末の「デジタルモンスター」は、デジクオリアを携帯端末のスペックでギリギリマッシュモンの姿を映せるように、かなりデチューンしてあるのに!

「あっちはドット絵みたいな感じで表示されてたね」

デジクオリアは、古代のシャーマンの頭脳をエミュレートして霊能力を発動させる人工知能だ。
かなりのマシンスペックがなきゃ、こんな綺麗な映像で出力はできないはずだ!
それをこんな小型端末でやってのけるとは…!

いったいどうやってるんだ!?
超スペックのモンスターマシンなのか!?

「ふっふっふ…どうやってると思う?仕掛けは単純だよ」

うーん、わからん…!

51: ◆VLsOpQtFCs 2023/09/05(火) 23:16:58.85 ID:PJTpceZHO
『はじめましての デジモンいる! はじめまして わたしパルモン! あなたは?』

デジヴァイスからパルモンの声が聞こえてきた。
ん?誰に話しかけてるんだ?

…すると、抑揚がない合成音声が聞こえてきた。
『ハロー オレサマは ドー…』

そこまで聞こえてきた時、メガが叫んだ。
「待って!まだ名乗らないで!仮称で名乗って!」

『…オホン オレサマは デルタだ オマエラの すがたを うつして ニンゲンに みせている』

えっ?
なんて?

「おおう、ネタばらししちゃった…。そう。中にもう一体デジモンがいて、そのデジモンの視界をアウトプットしているのがデジヴァイスの映像なんだ。だからマシンスペックなんて不要なんだ」

マシンスペックが要らない…!?
ピンと来ない私の隣で、リーダーが解説した。
「そうか!デジモンは端末の電源を消しても活動できる…つまりデジモンの思考能力は端末の計算資源に依存しない!だからこんな小型端末のスペックでも、その映像をデジモンの視界に繋げば高性能デジクオリアと同等の映像出力ができるのか!」

な…なるほど!
でも…デジモンの視界を端末に繋ぐ?どうやって?
理屈が分からない。

そう悩んでいると…
「それは…我が社の製品デジクオリアを、丸ごとデジモンに吸収させることに成功したからだ」

うおっ!?
カンナギエンタープライズジャパンのCEO、神木さんがいつの間にかいる!

「我々の技術のデモンストレーションをしてるんだろう?ふふふ、新鮮な反応が見たくて飛んできたよ」

フットワーク軽いですね。

53: ◆VLsOpQtFCs 2023/09/05(火) 23:24:43.23 ID:PJTpceZHO
そ、それで何でしたっけ。
吸収?

「デジモンには『パッチ進化』という進化方法が存在する。ケン君やカリアゲ君が解き明かしてくれた成果だ」

それを聞いたカリアゲは頭をぽりぽり書いている。
「ほぼ99%ケンの努力のおかげだけどな」

いやいや。
カリアゲの1%の閃きがあったからこそ発見できたんだよ。

「でぇっへへへへ…!嬉しいこと言っちゃってェー!」
デェッヘヘヘヘ…!このこの。

「中がよくていいね…オホン。えー、それでだ。我々はこう考えたんだ。デジモンにデジクオリアを吸収させてパッチ進化させれば、その能力を獲得できるのではないかと。そして試行錯誤の結果、そこのデジヴァイスのメインシステムを管轄する仮称デルタが誕生したわけだ」

へぇ~…いつの間にそんな研究を…。
ところでこのデジヴァイス、何に使う用途なんですか?
おしゃべるするパートナーと一緒に移動するため…?

「それだけじゃあないよ。駐車場へおいで、私がここへ来た交通手段をお披露目しよう」

交通手段…?
なんか凄いものに乗ってきたんですか?

55: ◆VLsOpQtFCs 2023/09/05(火) 23:30:40.70 ID:PJTpceZHO
駐車場に行くと、そこには…
人が乗れそうなサイズのでかいドローンがあった。

こ…これですか?

「そうだ。乗ってみるかい?」

乗ると言っても…
操縦桿がありませんよコレ。

「操縦桿?必要ない。デジヴァイスを装着して、それに乗ってみるといい」

こうですか…どれどれ?
私はドローンの座席に乗った。
すると…

『へいらっしゃい!』

うお!?
デジヴァイスから声が!?

『おきゃくさん どちらまで いくでござるか?』

音声コマンド式のインターフェースか。
え、えーと。
なんて返せばいいですか?

「好きなように彼と話すといい」

ええ…好きなようにと言われても。

『ははぁ デモンストレーションで ござるね そのへん ぐるっと とんでみるで ござるか?』

え?
は、はい。

『シートべルトと メットをつけてを
 しっかり つかまってるで ござる』

すると…
ドローンの回転翼が回り始めた。
うおっ!車体が宙に浮いた!

58: ◆VLsOpQtFCs 2023/09/05(火) 23:36:45.30 ID:PJTpceZHO
ドローンは私を乗せて飛び始めた。
うおお!すごいすごい!
遊園地のアトラクションみたいだ!

『おきゃくさん なにか オーダーしてくれないと せっしゃのすごさを みせられないでござる』

え、えーと、じゃあ…
食堂まで行ける?

『おやすいごようで ござる』

ドローンはそのまま空を飛び、食堂の前に着陸した。

『とうちゃくで ござる』

おお、ありがとう!速いね!
君もデジモンなの?

『そのとおり いまは ニューと なのってるで ござる』

ニューか。
君が運転したのか…凄いな!
デジモンによる完全自動運転…!
これは夢が広がるな。

なるほど…。
デジモンの思考能力には電力を消費しないから、ドローンや電気自動車のバッテリー消費を節約できるし、車載コンピュータを小さくできるのか!

『ごはんを たべていくでござるか?』

いや、元の場所に戻ってくれる?

『かしこまりで ござる』

60: ◆VLsOpQtFCs 2023/09/05(火) 23:42:58.57 ID:PJTpceZHO
ニューは私を乗せて、駐車場に戻ってきた。

「いかがだったかな?ケン君。我々が開発中の全自動運転ドローンは」

メチャクチャ凄いです!
そうか…メガ、君が言ってたデジモンの平和利用って、こういうことだったんだな!

「そうだよケン。僕はデジモンの高度な思考能力がマシンスペックに依存しないことに目をつけたんだ。そしてこれらを作った。デジモンは僕達の生活を豊かにしてくれるはずだ」

語彙力が足りなくなるくらいすごい!

「なあメガ!次俺も乗せてくれよ!」

「勿論いいよ。ケンからデジヴァイスを借りてね」

ほい、これ。
「サンキュー!それじゃあドローン、俺も載せてくれ!」

『かしこまりでござる』

…ところでメガ、なんでこの子ござる口調なの?

「ただの敬語じゃ味気ないから、京都の人力車をイメージしてござる口調を学習させてみたんだけど…どうかな」

ウケると思うよ!

「そ、そうかな!グフフw」

63: ◆VLsOpQtFCs 2023/09/05(火) 23:48:19.98 ID:PJTpceZHO
ところで神木さん。
「どうしたんだい?他の製品のデモンストレーションも見たいかな?」

それはそうですけど…
これに乗ってきたんですよね?

道路交通法とか大丈夫です?

「…すまない、見栄を張っていた。ほんとに乗ってきたのはあの軽トラだ。ちょっとかっこつけたくてね…」

ホッとしました。
デモンストレーションですからね、気持ちは分かります。

我々がそうして話していると…
駐車場に車が入ってきた。
見たこと無い車だ。
あれは?

『…タイミングが悪いねえ、パルタス君。もう少しそれらしい雰囲気のときに話をしに来てくれればいいのに』
クロッソ・エレクトロニクスから預かっている端末から、スポンサーさんの声がした。
スポンサーさんは知ってるんですか?

『ああ。車の文字を見たまえ』
なになに…?

64: ◆VLsOpQtFCs 2023/09/05(火) 23:49:43.78 ID:PJTpceZHO
その黒い車には…
『JustiFire』の文字が白のインクで書かれている。



つづく

78: ◆VLsOpQtFCs 2023/09/08(金) 22:30:30.71 ID:u0lq/Itko
…少し、話の順番が左右するが…
デジタルアソートのデモンストレーションを見るよりもしばらく前の話。

我々の研究チームが、ジュレイモン森林にて巨大化したジャガモンの盆栽城を目撃した直後の頃だ。

いったい何がきっかけで、この盆栽城ができるに至ったのか、我々は調査していた。

ジュレイモンの森の観察は、しばらくの間は他の研究員に任せていたので、彼が撮っていた映像記録を見ることができた。


ジュレイモンの森。
そこでは、相変わらず過酷な生存競争が繰り広げられていたが、3代目スターモンやゴツモン達、そしてテントモン達の生活にはある程度の秩序があった。

ごく初期の頃こそ、植物型デジモンと甲虫型デジモンは敵対していたが…
鳥類型デジモンや恐竜型デジモン、偶蹄類型デジモンの出現によって、森林の勢力図は一変した。

現在では、植物型デジモン、鉱物型デジモン、甲虫型デジモンはスターモンを最高戦力として手を組み、ビースト型デジモン達と争う構図になっている。

そうして生存競争が繰り広げられている中で…

突如、空に眩い光が輝いた。

やがて光の中から、何かが燃えながら地上に落下してきた。

よく観察すると…
no title


…星型の弾頭にサングラスと口がついた、ミサイルのようなものが、ジェット噴射しながら森に突撃していたのである。

82: ◆VLsOpQtFCs 2023/09/08(金) 22:41:00.45 ID:u0lq/Itko
そのミサイル型デジモンは、森林のど真ん中に着弾し…
凄まじい爆発と共に、巨大な衝撃波で森を揺るがした。

着弾地点では、木々は根こそぎ吹き飛び、宙を舞った。
そこに住んでいたデジモン達は、特大の衝撃派や、飛び散る土砂が直撃し、ズタズタに引き裂かれた。

砂埃が止んだとき…
中心には巨大なクレーターができた。

その威力は、これまで見てきた中で最大級だ。
スターモンが呼ぶ隕石よりも凄まじい。
パイルドラモンのパンチや、全盛期ジャガモンの攻撃ですら、これほどの威力は出ないだろう。

ミサイル型デジモンは、クレーターの中心に倒れたまま動かない。

やがて、最初に光ったあたりからデジタルゲートが開き、数体のデジモンが降り立った。
no title


スターモンに似ているが…強靭な手足は生えていない。
ミサイル型デジモン同様に、サングラスのようなものが顔についている。

名称は不明だが、小型スターモンとでも呼んでおこう。

小型スターモン達は、吹き飛ばされた森林から、デジモンの死骸を集めて、クレーターの中心に寄ってきた。

ミサイル型デジモンは、小型スターモンから渡されたデジモンの死骸を、次から次へと、もりもり食べていく。

85: ◆VLsOpQtFCs 2023/09/08(金) 22:49:26.48 ID:u0lq/Itko
やがて、たくさんのデジモンの死骸を集めた後、ミサイル型デジモンを中心として、小型スターモン達は陣形を組んだ。

すると、ミサイル型デジモンと小型スターモン達の間に、何やら放電のようなバチバチとした光のワイヤーがつながった。
まるで網のようだ。

そして、ミサイル型デジモン達が浮き上がると…
その電磁網は、集めたデジモン達の死骸を包み込んで、持ち上った。
まるで海で漁網による漁をするかのように。

ミサイル型デジモン達は、そのままデジタルゲートの中へ入っていった。

…どうやらこのゲートは、レアモンや火口のズルモンのときのゲートとは異なる信号のようだ。

もしかしたら、ジャガモンが盆栽城になったのは、これがきっかけかもしれない。

87: ◆VLsOpQtFCs 2023/09/08(金) 22:56:46.02 ID:u0lq/Itko
デジタルワールドには、未探索地域が未だにたくさんある。
むしろ我々が観察していない地域の方が多いかもしれない。

そこでは、驚くような生態系が発生しているかもしれない。
…かつて我々が全くのノーマークだった、蛮族と呼称される集団のように。

例のミサイル型デジモン落下事件の後、未探索地域をデジドローンで空撮していると…
同様のクレーターが見つかったことがあったそうだ。

つまりあのデジモン達は、あのやり方で何度か狩りをしているということだ。

効率がいいのか悪いのか分からないが…
とにかく大量に餌を獲得しているのは間違いない。

105: ◆VLsOpQtFCs 2023/09/15(金) 23:26:22.98 ID:bL6pcwm+O


そして現在。
駐車場に停まった車から、二人の人物が降りてきた。どちらもミリタリー風の服を着ている。
一人は堂々とした雰囲気の、長い金髪の女性。
もう一人は、前髪が長く猫背の、細身な男性だ。

女性はリーダーの前に来て、口を開いた。
「私はジャスティファイアの代表者!ローグだ!キサマがバイオシミュレーション研究所のリーダーだな!?」

何だこの人!?
出会い頭に貴様って呼んだぞ!?

ローグ氏のそばで鞄持ちをしている細身の男性は、我々を見てペコペコ頭を下げている。

リーダーは頷く。
「そうだ。初めまして。ジャスティファイアは…軍と提携してデジモンを研究している組織か。アポイントメントが無かったが、何か急ぎの用事があるのか?」

リーダーは気にしてない!
あっこの人も敬語使わない勢だった。

「単刀直入に言う。今後のお互いのための話し合い…いや!取り引きがしたい!」

「取り引き…どんな?」

「要求は1つ。3体のデジモンを我々へ売却するがいい!」

上から目線ン!

「3体…どのデジモンだ?」

「お前らが鹵獲したという、ズバモン、ルドモン。そして…コマンドラモンだ!」

いきなり何いってんのこの人!?

109: ◆VLsOpQtFCs 2023/09/15(金) 23:34:11.24 ID:bL6pcwm+O
「そう言われて首を縦に振ると思うか?ローグ氏」

「ああ、振るだろうな!さあどうだ!売る気になったか!」

「理由を話せと言っているんだが?」

「理由か!ふむ!どこから話そうか!?」

すると、細身の男性が口を挟んだ。
「えーと、どうもリーダーさん。あっしはジャスティファイアの主任研究員、バンモチでやんす。この人ちょっとクチ悪いですけど、よろしくです」

「あ、ああ…よろしく。それで、我々への用件だが…まずは経緯をしっかり話してくれ」

「ですってローグの姉御。お願いしやすよ」

「いいだろう!まずは…」
ローグ氏が口を開こうとすると…

「その前にいいですか!」
クルエが遮った。

「なんだ!」

「…駐車場じゃなく応接室で話しません?」

「おお、そうだな!そうしよう!」

我々は応接室に行った。
シンが人数分コーヒーを持ってきてくれた。

111: ◆VLsOpQtFCs 2023/09/15(金) 23:37:36.16 ID:bL6pcwm+O
読者の皆様、本当にすまない。
台詞でも地の文でも「ローグ」と書いていたが、車から降りてきた金髪の女性は「パルタス」氏である。

ちょっと修正が手遅れ気味な気もするが、どうか脳内補間でパルタスと名乗っていたことにしておいてほしい。

尚、猫背の男性の名はバンモチで間違いない。

113: ◆VLsOpQtFCs 2023/09/15(金) 23:49:03.56 ID:bL6pcwm+O


気を取り直して、と。

「私は独立行政法人ジャスティファイアの代表者、パルタスだ!こっちはバンモチ!主任研究員だ!」

「よろしくお願いしやす」

パルタスさんですね。
名前を間違えないようにしないと。

…それで、いきなり売れと言われて売れるわけがないでしょう、パルタスさん。
経緯を話してください。

「うむ、わかった!我々は元々国家防衛用セキュリティシステムの開発をしている。デジモン研究もその一環だ!」

元はシステム屋さんなんですね。

「そうだ!以前から国家防衛用デジモンの研究開発を進めている。海外のクラッカーの攻撃から国家のシステムを防衛したこともあるぞ!」

ええと、そちらの主力はマッシュモンとオタマモンでしたっけ。

「情報が古いな!まあ国家防衛システムを担うデジモンの情報をおおっぴらにはできない故致し方無しか!…それらは場繋ぎだ、我々の真打ちが完成するまでのな」

真打ち…?
そのデジモンが出来上がったんですか?

「そうだ!我々の最高傑作だ!見るか?」

いいんですか?見ても。

「これから腹を割って取り引きをしようというのに、隠し立てなどできるか!見ろ!」

そう言い、パルタス氏はタブレットPCを取り出して、画面を表示した。

遠くのサーバーで起動しているデジクオリアの映像をリモートで映しているらしい。

116: ◆VLsOpQtFCs 2023/09/15(金) 23:58:10.99 ID:bL6pcwm+O
そこに映っていたのは…

no title

手足がない小型スターモンと、それよりさらに小さな三角形のデジモン達。

no title

そして…
以前森林に直撃した、ミサイル型デジモンだった。


えっ…?
これジャスティファイアさんとこのデジモンだったんですか!?

「おお、知っているのか?ピックモンズ、ティンクルスターモン、そしてシューティングスターモンを」

名前は知りませんが…
デジタルワールドで観察したことはあります。
森を爆撃して狩りをしていたところを。

「そうか。ならば、我々が育て上げたシューティングスターモンの実力は知っているだろう」

…ええ、知っていますとも。
そして、その残忍な狩りの手口も。

「残忍?はっ、そう見えるかもしれないな。だが必要なことだ」

必要なこと…?あれが?

「シューティングスターモンはとにかく腹が減りやすい!だからああやってたくさんエサを獲らねばならんのだ」

118: ◆VLsOpQtFCs 2023/09/16(土) 00:11:21.35 ID:r6lEJ7IyO
ちょっと待ってください。

「なんだ?」

…あんな狩りの仕方、無いんじゃないですか。
デジタルワールドの環境破壊、生態系破壊もいいとこですよ、あんなの。

「そうか?あの森には一度しか落としていないぞ。一度狩りをしたら、次はできるだけ遠いところで狩りをしている。何の問題がある?」

…。

「問題なかろう?」

パルタス氏に対して、リーダーが口を開いた。

「…その、シューティングスターモンで、何度かクラッカーと戦ったことがあると?」

「うむ。粘菌デジモンが来たことがあったな。負けたことは一度も無いぞ。威力の加減が難しく、護るべきデータを破損させたことはあったがな!」

パルタス氏がそう言うと、タブレット画面から合成音声ソフトの声がした。
『ワカッタカ オチビドモ オレサマガ ナンバーワンダ』

…今のはシューティングスターモンのチャットを音声にしたんですね。
…そのデジモン達は…

「そう、スターモンの子孫だ。本家スターモンより強く育てた自信があるぞ!」

…それで。
なんでうちのデジモン達を売れという話になるんですか?

ティンクルスターモンとピックモンズでしたっけ。
シューティングスターモンのデジタマから成長期や幼年期のセキュリティデジモンが産まれているなら、それを育てればいいんじゃないですか。

120: ◆VLsOpQtFCs 2023/09/16(土) 00:20:45.81 ID:r6lEJ7IyO
「…」

どうしたんですかパルタスさん。

「…いや、シューティングスターモンを殖やすのは…無理だ!こんな大食らいを二体も三体も抱えてられるか!」

まあ、そうですよね。

『タリネーンダヨ モット タタカワセロ カリモ タイクツデ シカタネー』

「それにこいつは、さっき言った通り攻撃の威力調整があまり効かない!防衛すべきシステムを敵ごと破壊しかねないという危険性がある!」

じゃあ、そのティンクルスターモンとピックモンズは?

「こいつらは…まあ強いには強いが…。同じ戦力ばかりで構成されたチームは脆いものだ」

『イージャネーカヨ! アクトードモヲ ブッコロス チカラガ アレバ イーダロ』

…つまり。
器用なデジモンが欲しいと。

「そうだ」

自分で育てればいいんじゃないですか?

「そう思ってグレイモンのデジタマを拾って育ててみたが…、孵化して育ったアグモンは全く言うことを聞かない!」

…器用なデジモンが欲しくてグレイモンのデジタマ拾う判断は、どうかと思いますが。

121: ◆VLsOpQtFCs 2023/09/16(土) 00:27:00.63 ID:r6lEJ7IyO
スターモンの子供達を、器用なことができるように教育してみては?

「その結果がこのティンクルスターモンとピックモンズだ」

『パルタスノ アネキ! ツギハ イツ アクトードモヲ ブッコロセルンデスカイ!?』

「貴様ら…もっと器用に立ち回れるように勉強しろと、いつも言っているのがわからんのか!」

『ウェーーーイ オレラ コマカイコト ワカンネーッス! フゥーーーーー!!』

「フゥーじゃない!」

…器用な感じじゃないですね。

「どうにもスターモンの血がこういう感じらしい。誰かを護って戦うことに、本能的に飢えているようだ」

まあ、スターモンは小細工なしで、高いDPから来る純粋な強さで敵をねじ伏せるタイプですからね。

124: ◆VLsOpQtFCs 2023/09/16(土) 00:33:41.57 ID:r6lEJ7IyO
「そういうわけでだ。我々ジャスティファイアは、新たにデジタルワールドから器用なデジモンの素質があるデジタマを拾って育てるよりも…貴様らが育て上げた優秀なセキュリティデジモンを量産する方がよいと判断したのだ!」

ズバモンとルドモンはクラッカーのデジモンを鹵獲したんであって、我々が育てたわけじゃないですけどね。

「なに!そうなのか!?」

はい。
まあ全然言うことを聞かないし、一向にこっちの仲間と打ち解けませんね。
優秀な力を持っているのに、宝の持ち腐れです。

「何もしなくてもエサを貰えるからだろう」

ええ、そりゃまあ…
餌付けを続ければ、いつかは感謝で心を開いてくれるかなと思って。

「甘い甘い!甘すぎる!メシ抜きにしろそんな奴ら!」

『ソウダゼェエーーーイ!フウゥーーー!』

ええ!そんな…
ネグレクトじゃないですか。

「ぬるすぎるわ!貴様らは可愛いペットでも飼っているつもりか!働かざる者食うべからず!だろうが!」

うーん…
それはどうかと思うけど…。

127: ◆VLsOpQtFCs 2023/09/16(土) 00:43:40.58 ID:r6lEJ7IyO
「いいか!宝の持ち腐れというのはだな!ルドモンとズバモンの能力のことではない!貴様らにその剣と盾を預けていることの方だ!!我々に売れ!!」

…コマンドラモンもですか。

「そうだ!貴様らの活躍は見ている…が!コマンドラモンほど優秀なデジモンがたった一体しかいないというのはあまりにも勿体無いではないか!」

そりゃそうですけど…

「貴様らはこれからも、クラッカーのデジモンが出現する度に全国各地へヘリコプターで飛んでいくつもりか!?続くはずないだろうそんなセキュリティが!」

うっ正論だ!
痛いところをつく。

「貴様らのチームがどれだけ優秀でも、手数でキャパシティを上回られたら防衛しきれない!だからコマンドラモンを我々に売って殖やさせろと言っているのだ!」

カリアゲが眉間に皺を寄せる。
「ちょっと待てよ!殖やすのはいいけど、なんであんたらに売る必要があるんだ!うちで殖やせばいいじゃねーか!」

「それはいつになるんだ!?キサマらは今まで一体でも成長期を進化させて成熟期デジモンにしたことがあるのか!」

「い、いや、ねえけど…」

「我々にはある!このシューティングスターモンの実績がな!キサマ等に任せていてはいつまで経っても埒があかんわ!時間は有限だ、クラッカーはキサマらがもたもたしてるのを待ってはくれんぞ!」

「む、むむむ…!」

130: ◆VLsOpQtFCs 2023/09/16(土) 00:53:13.28 ID:r6lEJ7IyO
ところで、なぜコマンドラモンなんですか?
他のデジモンは?
…マッシュモン以外で。

「無論、殖やせるならみんな殖やしたいに決まっている!高い格闘能力とツタによる捕縛、粘菌デジモンの毒への耐性をもつパルモン!粘着糸で敵を拘束できる上に、野生の同種に比べて卓越した優秀な知能を持つワームモン!どちらも殖やしたいに決まっている!」

『…おれは?』

デジヴァイスからブイモンの声がした。

「ブイモンは…なあ…別に急いで殖やしたいものではない」

『…そうかよ』

…まあ、主張は分かりました。
どう思う、みんな。

私がそう聞くと、カリアゲがいの一番に口を開いた。
「…なめやがって…コマンドラモンはいつかうちで成熟期に進化するさ!仲間をそう簡単に売れねーよ!」

続いてメガが喋った。
「まずはアグモンを育ててみたらどうですか?」

シンも頷いた。
「コマンドラモンはうちらの仲間っすよ!売るとか何とか…ありえねーッス!」

クルエは悩み中のようだ。

133: ◆VLsOpQtFCs 2023/09/16(土) 00:58:43.58 ID:r6lEJ7IyO
デジヴァイスの中のデジモン達にも聞いてみた。
どう思う?コマンドラモン。
『…まずは いけんを ききたい』

まずはマッシュモンが画面に近付いてきた。
『かみよ コマンドラモンが いなくなるのは さみしい』

パルモンはマッシュモンの言葉に頷いている。
「こまんどは ともだち!なかま!いっしょにいたい!」

ズバモンとルドモンはこちらに興味を持っておらず、ゴロゴロしている。

ワームモンは悲しそうな顔をしている。
『ししょーから みならいたいこと まだまだ たくさんある』

ブイモンは何も言わない。


…みんな反対らしい。
まあ無理そうですね。

「く…何故だ、なぜ分かってくれない!」

あなたの言葉に説得力を感じないからじゃないでしょうか。

「ぬ、ぬぬ…」

136: ◆VLsOpQtFCs 2023/09/16(土) 01:02:11.11 ID:r6lEJ7IyO
最後に、リーダーが口を開いた。

「…俺は…。…パルタス氏の意見に…賛同だ…」

…え?
リーダー、今、なんて?

「…聞こえなかったか。賛同する、と言った」

は?
何言ってるんですかリーダー!?

私がリーダーの言葉に慌てていると、デジヴァイスの画面にチャットテキストが表示された。
コマンドラモンからだ。

『リーダーなら そういうと おもっていた』

こ…コマンドラモン…?
君まで何言ってるの…?

148: ◆VLsOpQtFCs 2023/09/16(土) 11:31:06.56 ID:Q+AQoDOUO
どういうことですかリーダー。
パルタス氏の提案には乗り気になれませんが。

『それは彼女の営業が下手だからだなぁ!ハーッハッハッハ!』
今まで黙って聞いていたスポンサーさんの声が、端末から聞こえてきた。

「なっ…!なんだと!?侮辱か貴様!?」

『パルタス君!きみは前から思っていたが交渉がヘタすぎる!せっかくの提案がこれじゃ台無しだ!となりのバンモチ君に代わってはどうかね?』

「ぐ、ぐぬぬ…」

話を振られたバンモチ氏がなにか言おうとすると、リーダーが静かに口を開いた。
「…いや、いい。俺が説明する」

り、リーダーがですか。

「まず…先日のAAAとの戦い。お前らは勝ったと思うか?敗けたと思うか?」

え?
ああ、うちの本拠地を攻めに来たキャンドモンやシャーマモン達ですか。

ファンビーモンが片付けてくれましたよね。
我々の勝利じゃないですか?

「…みんなそう思っているのか?」

カリアゲ、シン、クルエはリーダーの問いに頷いたが…

当時、現場で対処に当たっていたメガは縦には振らなかった。

スポンサーさんはタブレット越しに、我々を観察しているようだ。

…尚、神木さんは「きみたち二人の商談に私が割り込むのは違う」と言って応接室には来ていない。

一通りの反応を確認した後、リーダーはメガの方を向いた。

「…メガ。お前だけ、勝ったと思ってないんだな」

んん…?
本丸を防衛できたから勝利じゃないの?メガ。

149: ◆VLsOpQtFCs 2023/09/16(土) 11:51:51.46 ID:Q+AQoDOUO
「…あの戦いは、キャンドモンとシャーマモンを片付けて終わり、というものじゃなかった。最後にプラチナスカモンが潜んでいたのを覚えてる?」

ああ、うん。いたね。
何もせず帰っていったけど。

「…そこが重要なんだ」

え?プラチナスカモンが?どうして…

「ファンビーモンは、プラチナスカモンを一度攻撃した後…その場から飛び去ったんだ。プラチナスカモンを見て『食えそうにない』と思ったからだ。ファンビーモンにとって、餌にならない相手は威嚇対象ではあっても攻撃続行の対象じゃないんだ」

そ、そうなんだ。

「ここまでまだ分からないの?ケン…!ボスマッシュモンも肉体を構成できておらず、ファンビーモンも戦わない。本拠地が完全に無防備な状況で、プラチナスカモンを自由にさせていたんだ!もし、プラチナスカモンがキャンドモンみたいに火を吐くデジモンだったら、今頃ぼくらの拠点はどうなっていたと思う?」

…コマンドラモンやパルモン達を入れたランドンシーフと共に、私やリーダーがヘリで帰還するまでの間に…
システムを破壊されていた、か。

「…AAAがプラチナスカモンを帰らせたのは、どんな理由があったかは知らないけど…『敗北を認めて撤退した』からじゃない。『チェックメイトを指し終えたから』だと…僕は思う」

…チェックメイト。王手詰めか。
だけどチェックメイトを指し終えても、破壊活動をせずに彼らはそのまま帰ったのが事実でしょ。
戦力が足りなかったから帰ったんじゃないの?

「あちらの残存戦力がどれくらいいるか分からないけど…『キャンドモン達の親デジモン』がいるのは間違いない。やろうと思えば、それを引っ張ってくることはできたはずだ」

じゃあ、なぜそうしなかった?

「僕はあの時、もしも本当に詰んだら、せめてプラチナスカモンやキャンドモンの親などの戦力を監禁して道連れにするために、ネットワーク回線を切断してサーバーをスタンドアローンにするつもりだった。クラッカーからすれば、我々はそのリスクを負うまでもない相手だったから、撤退した…それだけの話だよ」

クラッカーはどんなデジモンでも道具扱いし使い捨てる奴かと思ってたけど、そうでもないのか。

「AAA自身は、貴重で価値ある道具を無駄にしないタイプらしい。もしAAAが、例のクレカ会社を襲った向こう見ずのバカみたいな奴だったら…どうなっていただろうか」

…。

「…これはあくまで、戦いを振り返った僕の解釈だ。ケンやカリアゲ達の解釈は違うかもしれない。それを踏まえた上で今尚、盤面を俯瞰して…胸を張って勝ったといえる?」

…生き延びるチャンスを得たことそれ自体は、敗北じゃないと思うけども…。

「現状認識が甘いんじゃない?ケン」

150: ◆VLsOpQtFCs 2023/09/16(土) 12:16:30.60 ID:Q+AQoDOUO
カリアゲがツッコミを入れる。
「そうだとしてもよ?コマンドラモンがいなくなったら、さらに防衛力が落ちるだろ」

「パルタスさん、仮にそちらでコマンドラモンが成熟期になった場合…産んだデジタマから産まれたデジモンを、我々は買えますか?」

「ん?当たり前だろう!むしろ一時的にとはいえ貴様らの戦力を手薄にしたのだから、サービスしてやるのが筋だろう」

いや、当たり前って…
そんなこと言ってなかったじゃないですか。

「なんだ、こんなこともいちいち言わんと伝わらんのか?」

パルタス氏の隣で、バンモチ氏が「伝わるわけないでしょ…」と呟いた。

『ハーッハッハッハ!きみは本当に交渉が下手なのが玉に瑕だなぁ!パルタス君の得意分野は明らかにこっちじゃないんだから、やはりバンモチ君に任せてはどうかね?』

「黙れクロッソ!!…おほん、話が脱線しているぞ、元に戻せ」

パルタス氏がそう言うと、リーダーが口を開いた。
「メガの言った通りだ。我々は現戦力の構造上の致命的な欠陥を突かれたんだ」

構造上の致命的な欠陥…ですか?

「ああ。この先もしも、クラッカーデジモンが沖縄と北海道に交互に出現したらどうする?我々研究チームが飛行機に乗って北へ南へ往復し続けるのか?」

それは…他のデジモン研究者にも頑張ってもらうしかないんじゃないでしょうか。

『ハッハッハ、君達は優秀だね。しかし優秀すぎるあまり、自分達に比べて周りがいかに遅れているか、いかに自分のレベルに遥か遠く追いついていないかを認識できていない!君達ほど優秀なセキュリティデジモンを揃えている組織はまだい無いよ!』

…じゃあ、我々が飛び回るしかないんでしょうか。
やだなあ、我々は研究が本分なのに。

パルタス氏が返事をした。
「今のままではそうなるだろうな!我々のティンクルスターモン達は軍事基地防衛用だ、ゆえに民間のパトロールへ向かわせることはできないからな!」

カリアゲが立ち上がった。
「なんだよ!軍のデジモンなんだろ、市民を守れよ!」

「陽動にすぐに食らいつくわけにはいかないだろう!」

…陽動?

151: ◆VLsOpQtFCs 2023/09/16(土) 12:27:56.60 ID:Q+AQoDOUO
「そうだケン。俺達の戦力は、致命的といえるほど陽動に弱い。我々がコマンドラモン達を連れ出してる間に、我々の本拠地やクレカ会社のような本命を狙われたら、打つ手がなくなる。この致命的な弱点を、このまま放題するわけにはいかない」

でも、今まで相手はその欠陥をついてこなかった。

「いや、仕掛けてきたぞ。先日プチ見張りマッシュモン達が対処した、キーロガー型ゲレモンを覚えているだろう。奴らは見張りマッシュモンがいるユーザーのパソコンだろうと構わず侵入していた。これは情報を盗むことより、我々の戦力を撹乱するための陽動の意味合いが大きいだろうな。俺達はそれが陽動だと読んでいたからこそ、マッシュモンだけで対処することにしたんだ」

そ、そんな駆け引きが…
ちゃんと分かってなかった。

「幸いにも今はまだクラッカー側の戦力も育っていない。陽動用デジモンもマッシュモンで対処できるうちはいい。だがプチ見張りマッシュモンで対処できなるくらい敵の戦力が増したらどうする?見殺しにするか、本隊で出現するしかなくなるだろう」

う、うぅ…!
考えただけで頭が痛くなる!
我々以外にも誰か強いセキュリティデジモンを増やしてくれよ!

「…パルタス氏が今やろうとしていることが、まさにそれだ、ということだ」

あ…。
…そういうことだったんだ。

「だから最初からそう言っているだろう!何を聞いていたんだ貴様ら!」


カリアゲが立ち上がった。
「ちゃんと!!!!!!!順を追って!!!!!分かるように!!!!!!話せ!!!!!!」

ひぃぃ!
カリアゲがキレた!!

152: ◆VLsOpQtFCs 2023/09/16(土) 12:30:02.41 ID:Q+AQoDOUO
パルタス氏はカリアゲの気迫に気圧されていない。
「そんなことも言わなければ分からないのか!!!!それくらいの現状分析は済ませているものかと普通思うだろうが!!!!」

「思わねーーよ!!!」

ああうるさい!
二人共声を抑えてくれ!!

154: ◆VLsOpQtFCs 2023/09/16(土) 12:42:18.73 ID:Q+AQoDOUO
『ハーッハッハッハ!リーダー君が日本語に翻訳してくれたおかげでやっとまともに交渉ができたねえ!流石はリーダー君だ!!』

「なんだクロッソ、その言い方は!私はずっと日本語を喋っていたぞ!?」

まあ、わかった…分かりましたよ…。
…コマンドラモン、どう思う。

『…わたしも おなじことで なやんでいた だが なかまのことも だいじだ ふたつにひとつなら わたしは なかまをえらぶしかなかった』

…え。

『なかまをいまいじょうに まもれるように ならなければ わたしはここを はなれられない』

コマンドラモン…。
そ、それはそうだ!
コマンドラモンの火力は貴重だ。それが欠けたら、正直スカモン大王に勝てないぞ。

「うむ!だから代わりに、我々のティンクルスターモンを貸してやろう!ついでにオタマモンもな!成長期だが強いぞ!それならどうだ!?」

『エェー!?アネキ、コイツラ キノコト ヤサイシカ クワネーッテ キーテマスゼ ネーワ!マジネーワ!ニククエネーノハ ゼッテーヤダゼ!』

…ティンクルスターモンは乗り気じゃないみたいですが。

「こらティンクルスターモン!反抗するな!飯抜きにするぞ!」

『ウヌヌ デモ コンヤノ バンメシ ヌイタホーガ マシッスワ! カンベンシテクダセーナアネキ!』

…乗り気じゃないみたいですよ。

バンモチさんが「甘えてるだけですよ、なんだかんだ言うことはききます」と呟いた。

156: ◆VLsOpQtFCs 2023/09/16(土) 12:52:59.51 ID:Q+AQoDOUO
『ハーッハッハッハ!話し合いがグダグダだな!!論点があっち行ったりこっち行ったり!!なあパルタス君!』

「なぜそれを私に言う!?」

『…もういい。我々はあまり暇じゃないんだ。バンモチ君、パルタス君に代わって話を進めてくれたまえ』

「おい!?クロッソ、何を…」

「えー、それでは。改めまして、主任研究員のバンモチです。うちのパルタスが失礼な発言を繰り返してしまい、申し訳ありませんでした。アポも取っていないのにこのように応対していただき、深く感謝しています」

あ…いえいえ。

「まず、提案させていただく取引内容の説明をさせていただきます。その後、お互いにできるだけ損をせず、共に得ができるよう、摺り合わせをさせていただきたいと考えています」

ど、どうも…よろしくお願いします…?

頭を下げた私のそばで、クルエがひそひそと声をかけてきた。
「ケン君、こういう人が一番手強いって相場が決まってるんです。リーダーは大丈夫だと思うけど、ケン君はうっかりペースに乗せられて流されないようにしてくださいね」

あ、う、うん。ありがとう。

いかん!たしかになんか『取引することは決まってる前提』で話す気分になってた。
…気を引き締めないと。

157: ◆VLsOpQtFCs 2023/09/16(土) 12:53:32.81 ID:Q+AQoDOUO
つづく

169: ◆VLsOpQtFCs 2023/09/17(日) 20:39:02.38 ID:7uDC+5JFO
バンモチ氏は、先程までシューティングスターモン親子を映していたタブレットで、いろいろな統計データを映し始めた。

「まず、私達がきょう話したい内容は、今後のクラッカーによるデジモンサイバー攻撃への備えと対策について、お互いに協力できることはないか…と、相談しにきたんです」

ふむふむ。

「パルタスさんはコマンドラモン達を売って欲しいと言ってましたが、それはバンモチさんが推している提案であって、それにこだわって手段を限定する気はありません」

え、あ、ああ、そういうスタンスだったんですか。
まずそこから知りませんでした。

「なんだバンモチ?そんなこと最初から私が言ってるではないか」

「言ってませんパルタスさん。思いっきり省いてました」

「それは省くだろう!我々がコマンドラモンを売って欲しいと頼むのに、それ以外の道理など無いと、少し考えれば判るだろう?なあ?」

いえ…
何考えてるかわかんなくて怖かったです。

「えぇ!?なぜだ!?」

『ハッハッハ…バンモチ君、続けたまえ』

「まずはお互いに、昨今のデジモンサイバー攻撃の手口や規模、動向について情報交換しましょう」

わ、わかりました。

「なんだバンモチ?そんなまどろっこしいことしてないで早く本題に…」

『バンモチ君!パルタス君の茶々は気にせず続けたまえ』

「クロッソ!なんか急に私への当たりが強くなってないか!?」

171: ◆VLsOpQtFCs 2023/09/17(日) 21:07:09.80 ID:AjFLhrNqo
しかし、このバンモチさん…
始めて会ったときは「あっしはバンモチでやんす」とか言ってたけど、急に喋り方が変わったな。
まあいいけど。

「まずは我々から報告します」

要約するとこうだった。
政府がジャスティファイアにデジモンサイバー攻撃への対策研究を委託したのは、例の鉄鋼会社事件が起こって間もない頃だった。

スカモン大王を餌にして育ったマッシュモンのうち数体を、とりあえず警備につけながら、デジモン研究をしていた。

最初に採取したのが、グレイモンの産んだデジタマだった。
そこから産まれたデジタマをとりあえず育成してみたが、幼年期デジモンに言語教育をしようとしても全く興味を示さない。

そのまま成長期になったが、やはりいくら言語教育をしようとしても興味を持たない。

やがて財務省のサーバーに、スパイウェア型デジモンが来たので、アグモンに迎撃させようと試みたが…
周囲のマッシュモン達を攻撃し始めたので、引っ込めた。

それ以来、アグモンは飼い殺しみたいな状態になっているという。

「…私達はデジモンという生物の行動原理を全くわかっていなかったんです。クラッカーがデジモンを操っているのだから、私達もデジタマを拾えば言うこと聞いてくれるパートナーへと育つだろう…と考え、まずは最初のトライアルをしてみたんです」

その結果、アグモンは言うことを聞いてくれなかったと。

「私達は、デジモンの『戦う動機』とか『人に協力しようとする動機』を軽んじていたんです」

「デジモンは命じられれば戦うのが当たり前」…そんなわけがないんですよね。
デジモンはロボットでも奴隷でも、ましてや正義のヒーローでもないんですから。

「そうです。デジモン自身に、我々人間に対して協力する動機や、クラッカーと戦う動機がなければ、命令を聞くはずもないし、敵と戦ってくれるはずもない。そして、アグモンに今からそれを持ってもらうにはもう遅かった」

「…そうだなバンモチ。アグモンには悪いことをした。そもそもグレイモンは、野生において集団行動せずに単独で狩りをするデジモンだ。誰かと共生しようという本能が、遺伝子レベルで存在していなかったんだ」

そうですね。
我々の世界でも、スナネコやアライグマ等、もともと飼育に向いていない動物というのが存在します。

「どんな動物とでも、愛情を持って接すれば必ず心を通わせられる」なんてことはありえません。

我々がファンビーモンをパートナーにできなかったように。

『それに気づけただけでも君達の組織は優秀な上澄みだよ!バンモチ君、パルタス君!セキュリティデジモン研究をしている組織は零細やベンチャーなどそこそこ多いが、未だにそこに気付けない者達が大勢いるんだ!ハッハッハ!』

173: ◆VLsOpQtFCs 2023/09/17(日) 21:15:06.90 ID:FpW47RzzO
ちなみにそのスパイウェアデジモンというのは…

「その時来たのはゲレモンでした。今は海外から別のデジモンが攻めてきますが…その話はまた後で」

分かりました。
ただひとつ。
グレイモンが、集団行動をしないというのは違うと思いますよ。

我々が野生でグレイモンを目撃したときは、タスクモンやティラノモン、グラウモンと共に協力して狩りをしていました。

だから、遺伝子レベルで共生不可能ということはなく、条件次第では共に戦ってくれるように育つかもしれません。

「そういえば…。あれ?ではなぜ我々とは共に戦ってくれないんでしょうか…」

…グレイモン達には「上下関係」がないからじゃないでしょうか。
近い実力で、実際に一緒に戦場に立って戦う仲間とでなければ、協力しない、とか。

「その発想はなかった…」

175: ◆VLsOpQtFCs 2023/09/17(日) 21:28:57.22 ID:FpW47RzzO
「そしてセキュリティデジモン研究に暗雲が立ち込めていたときに、パルタスさんはあるデジモンに目をつけました。スターモンです」

スターモンか…。
我々も狙ったんですが、出遅れてしまった。

「デジタルワールドに住む野生のスターモンは、テントモン等を外敵から護ることで、対価として餌を受け取る生活をしています。これは明確な社会性であり、本能に根付いているなら、傭兵のようにギブ&テイクで飼いならせるのではないかと思ったんです」

それで、どうなりました?

「パルタスさんはデジドローンVRを使い、四六時中スターモンのデジタマから産まれた子供にコンタクトを取り続けました。その結果…幼年期デジモンは、パルタスさんへ心を開きました。それが育ったのがシューティングスターモンです」

どんな風に接したんですか?パルタスさん。

「うむ。我々を脅かそうとしている巨大な悪が存在する!貴様の力が必要だ、助けてくれ!とな!」

ふむふむ…すると幼年期デジモンどう答えたんですか?

『ソリャモー アレヨ オレサマノ ダチヲ コマラスヤツァ ユルシチャオケネー! ブチノメシテヤル! ソウイッタゼ オレサマハナ!』

お、おお…!
上手い言い方ですね。

「上手い言い方?何がだ?」

へ?

「私はただ思ったままをシューティングスターモンへ伝え、彼がそれに応えてくれた。それだけだが…?」

それを聞いたクルエが、ひそひそと話しかけてきた。
「どうやら天然っぽいっすね…。パルタスさん、意外に魔性の女っす、侮れない…」

…うん。真心と言おうね。

178: ◆VLsOpQtFCs 2023/09/17(日) 21:40:51.42 ID:FpW47RzzO
「それから私達…というよりパルタスさんは、当時ゴツモンだったシューティングスターモンに、かなり厳しいトレーニングをさせて、高カロリーな食事を与えました。野生デジモンと積極的に戦わせて、狩りをさせたんです。…死闘の連続でした」

「うむ!時には成熟期デジモンとも戦わせたぞ!だいたい惨敗することが多かったが!」

『ナンドモ シニカケタナ! ウデガ モガレタシ メモツブサレタ!サイキョーニナッタイマ カンガエルト シゲキテキ ダッタゼ』

「懐かしいな!はっはっは!一歩間違ってたら死んでいた!」
『ハッハッハ!チゲーネーヤ!』

…そ、壮絶だ…。
なんでそんな虐待みたいな育て方したのに、シューティングスターモンはパルタスさんに懐いてるんですか。

『ナツク!? ザケンナ パルタスハ オレノダチダ ペットミテーニ イウンジャネー! ブッコロスゾテメー!』

ごっごめん。

『ダッテヨ、ダチガコマッテンダカラ ウントツヨクナッテ タスケテヤルシカ ネージャネーカ! ソレニ アクトードモヲ ブチコロスノハ タノシーゼ? キタエレバ キタエルホド タノシイ! ホカニ リユーガ イルノカ』

…ほんとに相性いいんですね。

「ふふん!そうだろう!そうしてクラッカーのデジモンと戦い続けた結果、怪我してボロボロになったゴツモンは凄まじい進化を遂げ、シューティングスターモンになったのだ!ふはははは!我が国の最強防衛戦力といっても過言ではないだろう!」

『ッタリメーヨ オレサマガ!サイキョーダ!』

…口に出しては言えないけど…
パルタスさんも、シューティングスターモンも、二人共まともじゃない。
狂気の沙汰だ。
…我々では絶対に真似できない。

179: ◆VLsOpQtFCs 2023/09/17(日) 21:42:39.98 ID:FpW47RzzO
…今までの話を聞いて、どう思いますか?リーダー。

「前言撤回だ。シューティングスターモンと同じ鍛え方をするというなら、いくら金を積まれようと、コマンドラモンは売れない」

「なぜだ!?!?!?」


180: ◆VLsOpQtFCs 2023/09/17(日) 21:43:06.57 ID:FpW47RzzO
つづく

192: ◆VLsOpQtFCs 2023/09/18(月) 18:42:33.03 ID:ffwDTCa+O
パルタス氏の問いかけに、カリアゲが答えた。

「なんでかって!?決まってるだろ!そんな虐待同然の育て方する奴らに、俺達の大事な仲間を預けられるわけねえだろ!この先あんたらに育てられるデジモン達が可哀想だってもんだ!」

「何だと!?貴様、言わせておけば…!貴様に国防の何が分かる!そんなシンパシーに流され、クラッカーに敗北したらどうなるか分かっているのか!」

「負けなけりゃいいんだろ!勝てばよぉ!」

「だからそのために強いデジモンを育てる必要があるのだろうが!」

一触即発の雰囲気になりかけたところで、リーダーがカリアゲを静止する。

「カリアゲ。違う、そういうことじゃない。『コマンドラモンが可哀想だから』なんて理由ではない」

「あり?ちがうの?」

デジヴァイスの画面に、コマンドラモンのチャットが表示される。
『トレーニングが ものたりない』

「え?物足りない?どゆことっすかリーダー?」

「…我々がコマンドラモンにさせているトレーニングは、体力や白兵戦闘能力を向上させるものだけではない。思考力。問題定義能力。問題解決能力。情報共有能力。連携能力。他もろもろの勉強をさせている。頭のトレーニングを重視しているんだ」

「頭のトレーニング…語学学習のようなものか」

「お前達は、ティンクルスターモンにそれを施しているのか?」

「無論やっているが…」

『アネキ!ベンキョーノハナシデスカイ!?ダカラ オレラニハ イラネーッテ イッテンデショ! チカラヅクデ ブッタオシャア カイケツデスワ! ワカッテクダセーヨ!』

「…向いてないんだな。ティンクルスターモンには、頭を使うことが」

「そうだ。だから、優秀な知能の素質を持つコマンドラモンを成熟期へ育て上げ、そのデジタマから産まれたデジモンへ、思考力向上のトレーニングを施そうと考えたのだ。シューティングスターモンと同じ育て方をしようというわけではない」

カリアゲは訝しげな表情をしている。
「…ティンクルスターモンを甘やかしすぎじゃねーか?勉強なんて、嫌でもやるもんだろうが」

いや、それは人間基準を当てはめすぎてるよカリアゲ。
デジモンの脳の進化が、必ずしも人間と同等の思考能力を獲得する方向に向くとは限らない。

カリアゲは野生のスターモンみたいに、空を飛んだり隕石落としたりできる?

「いや無理だけど…関係なくね?」

大いに関係ある。
我々の脳でできることが、デジモンの脳ではできないときがある。
逆も同じだ。
デジモンの脳でできることが、我々の脳ではできないことがある。

デジモンの脳が、人の脳と同等の機能を有しているという前提で決めつけるのは良くない。

「…俺達もそのせいでファンビーモンの育て方をミスったとこあるからな。わりい」

みんな得意不得意があるからこそ、助け合うことで互いを補える。
カリアゲが大事にしてる『絆の力』の本質はそういうことじゃないの?

「…そうだな。悪い、ティンクルスターモン」

『ギャハハハハ!キニスンナ! コザイクハ ニガテダガ ケンカジャ ダレニモ マケネーッスヨ!』

194: ◆VLsOpQtFCs 2023/09/18(月) 18:55:01.63 ID:ffwDTCa+O
バンモチ氏はため息を付いた。
「あーーーーだめですねこれ。最初の出だしでしくじったせいで、議論が否応なく『コマンドラモンを売るか売らないか』に引っ張られてしまう…」

まあ、それはそうでしょう。

「いったん議論をリセットしましょう。もしバイオシミュレーション研究所の皆様が今、『コマンドラモンを私達に渡さないように言い負かすこと』を第一優先としていて、私達を『敵』とみなしているのであれば…、コマンドラモン達を売って欲しいという提案は、いったん無しにさせてください」

「え?お、おいバンモチ…取り下げるのか?」

「だってパルタスの姉御…、これもう無理でやんすよ。もともとコマンドラモン売ってもらうこと自体が目的じゃないんでやんすから」

「…それもそうか…。分かった。バンモチ、貴様に任せる」

とりあえず、相手方が自爆したおかげで、コマンドラモンの売り買いの話はいったんお流れになったようだ。

カリアゲはこくこくと頷いている。
「あーよかった。…で、これからなんの話するんだっけ」

まあ、そうなるよね。

198: ◆VLsOpQtFCs 2023/09/18(月) 19:07:35.43 ID:ffwDTCa+O
『ハーッハッハッハ!せめてアポイントメントは取るべきだったな!普段は取ってるのに今回はなぜそうしなかったのかなパルタス君』

「だって、大事な仲間を譲って欲しいと頭を下げに行くんだ。代表者の私が直接出向かねば失礼だろうが!」

『…人には得意不得意があり、一人でなんでもできるわけではないから、多数の個性で互いを補い合う。まずは君達自身がそれを実践できなくては、デジモン達に同じことをさせるのは無理ではないかな?ん?』

く、クロッソさん、それくらいで…。
なんか辛気臭くって聞いてる方が辛くなってきました。

『これぐらいにするか。それでバンモチ君、取り引きを取り下げるとして、これから何の話をするんだね?』

「…日を改めさせていただきます。まずはアポを取って、互いに話し合う準備ができてから、建設的な話し合いをしましょう」

それが良さそうですね。
私も頭がこんがらがってきたので。

「それでは、今回はありがとうございました」

こちらこそ、シューティングスターモン育成論を教えてくれてありがとうございました。
成熟期デジモンを育てるための参考になりそうです。
…そのままマネはしませんが、我々に合ったやり方で。

「それは何よりです。それでは失礼します。行きますよパルタスさん」

「う、うむ…。色々と悪かったな。先を急いでしまって。だが、状況は楽観視していられない、今の体制のままでは敵の戦力拡大に追い抜かれかねない…という注意喚起だけはさせてくれ」

分かりました。

「それでは、失礼する」




「ちょーーーーーーーーーーっと待った!」
そう叫んだのは…
クルエだった。

200: ◆VLsOpQtFCs 2023/09/18(月) 19:19:49.66 ID:ffwDTCa+O
さすがに驚くパルタス氏。
「ん!?な、なんだ!?」

「なんで勝手に話終わらせてるんですか?」

おいおいどうしたんだクルエ…!?

「い、いやだって、コマンドラモン達の売り買いの話は無しにして、日を改めるって話にまとまっただろう」

「それはあくまで『コマンドラモンの話』ですよね?ルドモンとズバモンの話はどうなったんですか!?なんでそっちの話まで終わってるんです!?」

「え、ええ…?」

「ルドモンとズバモン、まーーーーじでなんにもしないんですよこいつら!いやね?敵に飼われてたデジモンを鹵獲して、私達に懐けってのが無理あるのは分かってますよ?でも!こんな穀潰しをうちに置いといていいことなんてないですよ!!」

クルエが珍しく感情的になっている。

「おお…?」

「最初に言ってたじゃないですか、コマンドラモンだけじゃなく、ズバモンとルドモンも売るって!だ・か・ら!こいつらは買い取ってビシバシしごいてやってください!!」

「い、いいのか…?我々は甘くないぞ?貴様らはさっき我々の指導方針に喧嘩を向けていたような気もするが」

「いいんです!!!引き取ってください!!オナシャス!!」

クルエがそう言うと、デジヴァイスからコマンドラモンのチャットが表示された。
『われわれの チームは なかまいしきでのみ つながっている。なかまのきずなが たたかうどうきだ。ゆえに なかまいしきのないものと ともに たたかう すべがない』

…そうだよね。
我々のチームは、スターモン一族のように殺し合いを愉しむバトルマニアじゃないし、傭兵集団でもない。
『仲間意識』が戦う動機だ。

だから、仲間意識を持てないデジモンをチームに引き入れることができない。
それは我々のチームとしての、明確な脆弱性だ。


ならば、我々で育てられないルドモンとズバモンを、いっそ他のチームで育ててもらうのに賭けるというのは、理に適っているかも。

パルタス氏の狂気じみた教育方針が、有利に働くかもしれない。

202: ◆VLsOpQtFCs 2023/09/18(月) 19:26:33.86 ID:ffwDTCa+O
「わかった!そのデジモン達は、我々ジャスティファイアが鍛えに鍛えて、性根を叩き直してやろう!我々に任せろ!ふはははは!」

リーダーが少し笑みを浮かべた。
「そういえば、譲渡ではなく売却を望んでいるそうだが…具体的な価格はどう見積もってるんだ?」

「おお、そうだな!こうだ!」
そう言い、パルタス氏は電卓を見せた。


…目玉が飛び出るような価格だった。
そりゃそうだ。
『人間を強くするにはどうすればいいか?』と問われたら、トレーニングも大事だろうが、『強い武器を与える』のが一番手っ取り早い。

ならばデジモンでもそうだ。
『強い武器』を量産してセキュリティデジモンへ与えるのが、戦力強化には一番てっとり早い。

それを殖やせる可能性をもつ、強力な剣と盾の種デジモンを売るというのだ。
こんな額にもなる。

「大事な国民から預かった貴重な血税だが、うまく育てば十分国民へ還元できるだろうな!どうだ?」

…私も、クルエも、シンも、メガも…
リーダーも、そしてカリアゲも。

一斉に首を縦に振った。

204: ◆VLsOpQtFCs 2023/09/18(月) 19:40:55.21 ID:ffwDTCa+O
…数日後。
ジャスティファイアと連絡を取ってみた。

あれからどうですか?ルドモンとズバモンの様子は。

『うむ!野生デジモンと戦わせようとしたら、そのままデジタルワールドへ脱走しようとするな!その度にティンクルスターモンに連れ戻されている!』

まあ、そうなりますよね。

『当然だな!ふはははは!だがそれくらいで手を緩めたりはしないぞ!』

…よろしくお願いします。




人類と飼育動物の関わり方は、決して互いにメリットを与え合い、愛情を向け合うものだけではない。

例えば日本の狭い国土でニワトリを大量に飼育し、効率よく採卵するために、バタリーケージという狭い監獄へニワトリを閉じ込める手法がよく用いられる。

この方法は、広い庭でニワトリを飼育するのに比べて、極めて強いストレスをニワトリへ与えることになる。

だが、ニワトリに同情してバタリーケージを廃止して広い飼育場で育てるとなると、それだけ飼育コストが跳ね上がり、卵の価格も高くなる。
一般消費者の目線からすれば、どれだけニワトリが苦しもうが、見ないふりして安い卵を買えたほうがよいのだ。


化粧品や新薬のアレルギーテストのために、ウサギや猿などの実験動物を使うことがある。
これらの動物は無論、日々苦痛に苛まれ続けていることだろう。

だが、実験動物に同情して動物実験を廃止したならば、人々はアレルギーテストをしていない化粧品をつけたせいで肌が荒れてしまうかもしれない。
実験不十分な新薬を服用したせいで、副作用に苦しむことになるかもしれない。
一般消費者の目線からすれば、実験動物ぎくら苦しもうが、安全安心の化粧品や医薬品を自分達が使えたほうがいいのだ。



動物と人間の関わり方のスタンスは、そのままデジモンと動物の関わり方にも当てはめられていくだろう。
多数の研究チームが、それぞれ異なるスタンスでデジモンを育成し、試行錯誤する。

必ずしもデジモンに同情して効率の悪い選択をすることが、正解とは言えないかもしれない。

それでも、我々は。
デジモンとの絆を大切にする今のスタンスを、しっかり持っていきたい。

219: ◆VLsOpQtFCs 2023/09/24(日) 19:28:40.90 ID:/d+xwRHwO
ジャスティファイアとの対談から、成熟期への進化に関するヒントが得られた。

その仮説は…
「生命の危機を感じること」。

ただし、平和な環境に居たデジモンが急に成熟期デジモンと戦うことになったとして、命の危機に陥った時に突然進化を遂げるというものではなさそうだ。

仮に「ピンチになったら進化できる」のであれば、今頃デジタルワールドは成熟期だらけになっているはずだし、成熟期に捕食される成長期デジモンなど居ないだろう。

つまり、「一時的な危機を進化によって凌ぐ」というものではなく、「平時の生活環境において、常に命のやりとりをする環境」だということが重要…なのだと思う。

ただし、この説には穴がある。
かつて離島で目撃されたキウイモンやトーカンモンが成熟期に進化できた理由を論理的に説明できないのだ。
あの平和で食料もそこそこある離島では、キウイモンやトーカンモン達は生命の危機を感じていなかったはずだ。
故に「生命の危機」は数ある成熟期進化要因のうち一つ、くらいに考えておくべきだろう。

…シューティングスターモン育成論をそのまま猿真似すれば、戦闘向きのDP高いデジモンを育てることはできるかもしれないが…
『維持コスト』というのは非常ーーーーーーに重要な要素なのである。

もしも一般企業向けのセキュリティデジモンが、スコピオモンくらいDPが高ければ、それはそれで問題なのだ。
クラッカーに侵入される以前の問題として、デジモンの維持コストで予算が枯渇しかねない。

かといって、モスモンやサラマンダモンのように「DPの高さに頼らずに、強力な立ち回りができるデジモン」は、やや打たれ弱いという短所もある。

その辺の絶妙なバランスが、我々のセキュリティデジモン開発には重要になってくるだろう。

224: ◆VLsOpQtFCs 2023/09/24(日) 22:55:36.51 ID:dYMXAPxKO
さて…
そんなこんなでセキュリティデジモン開発にいそしむ我々の研究チームだが…
リーダーから話があった。

「みんな聞いてくれ。ようやく我々が求めていた条件の島が見つかった。カリアゲが見つけてくれた」

んん?なんだっけそれ?

私が首を傾げていると、シンも同じリアクションをしている。

「ん?そういえばシンには言ってなかったが…ケンにもだったか?」

…デジタルワールドの観察をメインでやってると、どうにもセキュリティデジモン開発の方の話を忘れがちになります。

「そうか…。端的に言うと、ディノヒューモン農園のように農作物を生育するのに適した環境の離島を探していたんだ」

農作物…。
そういや、うちはずっとキノコ栽培はやってましたが、野菜作りはしてませんでしたね。

「そうだ。最大の理由は…光源不足だ。我々のサーバーのパソコン内では室内ライト程度の光源しか出せないから、野菜を生育することはできなかった」

デジタルワールドで農作業しようとすると…

「野生デジモンが畑を襲撃してくるだろうからな。ディノヒューモン農園くらいの戦力があれば害獣デジモンを追い払えるだろうが、うちの戦力では…ボアモン等の偶蹄類型成熟期が突撃してきたら太刀打ちできない」

しんどいですね…。

「だからデジタケ以外では、魚釣りや、野草採集などで食糧を確保していたわけだ」

225: ◆VLsOpQtFCs 2023/09/24(日) 22:58:13.22 ID:dYMXAPxKO
クルエがジト目をしている。
「なんか…うちのチーム、全体的に情報共有やばくないすか」

まあそう言わないで…
本当に重要な話はちゃんと聞いてるから。

それで、離島というのは…

「強力な害獣デジモンがおらず、それでいて植物の生育に適しており、それなりに面積が大きい…そういう島を探していたんだが、ようやく見つかったんだ」

228: ◆VLsOpQtFCs 2023/09/24(日) 23:09:03.89 ID:dYMXAPxKO
つまり、これからは農作業のトライアルを始めるんですか?

「そうだな。我々のサーバーのデジモン生育環境を『ビオトープ』と呼んでいたのは、離島開拓の予行演習としてデジモン達自身に自分達の住む環境つくりをさせていたためだ」

そういえば前にカリアゲとクルエさんが、デジタルワールド内で食えそうな野草とか薬草を調べてたっけ。

あれが作物の候補選定だったんですね。

「そうだな…。我々の飼育デジモン達のトイレがどんな構造になってるかは教えていたか?」

それはさすがに聞いてます。
ボットン式便器の中で、デジタルゲートを垂直に開き、デジタルワールドへ排泄物を捨てるんですよね。

「そうだ。だが捨てていたというのは少し違うな。デジタルワールドへ落とした排泄物は、木製の容器へ溜めておき、野生のププモンへ食わせていたんだ」

隙間の空いた木箱…ですか。
それなら自然に処理されるわけですね。

しかしなぜ木箱の中へ?
野晒しにしても、そのうち土に返ったり、ヌメモンが食べてくれるんじゃないでしょうか?

「へへーん、ケン。じゃあ今からちょっと見てみるか?」

おおっカリアゲ…なんか見て面白いことになってるのか?

クルエさんが隣で「あまり見たくない」って呟いてるけど。

「まあまあ見てくれよ!」

デジクオリアの映像では、木箱が映っていた。
マシンアームで木箱を開けると…

230: ◆VLsOpQtFCs 2023/09/24(日) 23:21:50.96 ID:dYMXAPxKO
…おお?
排泄物…というよりは、土みたいになってるな。

「ププモンが食った   はな、有機物がほとんど消化されて有機肥料になるんだ!コマンドラモン曰く、ニオイも全然しなくなるらしいぞ!」

ププモンは排泄物やデジモンの死骸へ消化液をかけて、溶かしてから食べるんですよね。
しかも自分達が細菌にやられないように、抗菌ペプチドを分泌して、嫌気細菌の増殖を抑える。

「そうそう、それはケンが調べてくれたんだよな。そんなわけで、ディノヒューモン農園ではウンコを藁と混ぜて堆肥にしてたけど、うちではププモンに食わせて有機肥料を作ってたんだ」

そうして、今までずっと溜めてたわけか。

「ああ。ようやく使えるぜ!便秘解消ってわけだ!なんちゃって!」

…。

「…オホン。そんなわけで、この島をフローティア島と名付け、開拓を始めようと思うぜ!」

…たしかジャスティファイアは、農作物を作るのではなく、野生デジモンを狩りまくってましたよね。

うちは魚釣り以外では、そういうのはしないんですか?リーダー。

233: ◆VLsOpQtFCs 2023/09/24(日) 23:31:32.82 ID:dYMXAPxKO
「…我々のチームでは、デジモンの飼料獲得の持続可能性を最重視しているんだ」

持続可能性?

「ああ。ジャスティファイアは今の規模なら、野生デジモン狩りで十分な食肉を確保できているようだが…、もしもジャスティファイアがあの調子でティンクルスターモンやシューティングスターモンを殖やして全国各地へ配備したとしよう。今のままならば、それらの餌を狩猟で確保しなくてはならなくなるわけだ」

…デジモンを狩り尽くして、絶滅させてしまう可能性があるわけですか。

「それもあるが…デジタルワールドの進化は早い。やがてシューティングスターモン達を狩る野生のレベル5デジモンが出現する可能性もあるだろう。そうなると、食糧確保の手段が無くなってしまう」

そうなったら、セキュリティデジモンは共食いし、やがて全滅ですね。

「そうだ。故に我々は、餌の確保を狩りに依存することはリスキーで持続性に欠けると判断した。だから、仮に狩猟のほうが楽で効率がいいとしても、あえて孤島で農作物を作ることにしたんだ」

…野生デジモンとの戦闘経験を得られなくなりそうですが…。

「それはそれで別でやるさ。わざわざ同時にやらなくてはいけない道理はない」

なるほど…。

235: ◆VLsOpQtFCs 2023/09/24(日) 23:39:57.51 ID:dYMXAPxKO
…クラッカーはその辺どうしてるんでしょうね。

「ズバモンとルドモンを見た限り、野生デジモンを狩って食肉にしているのは間違いないだろう。だが…ケン。確か、蛮族の集落で奇妙な光景を見たと言ってたな?」

はい。
遮光器土偶のようなモノで身を隠す、仮称ニセシャッコウモンが、蛮族からお供え物としてデジモンの死骸を受け取っていました。

…奴らも野生デジモンを食肉として利用することの持続可能性を危惧し、自分達が食糧を確保できる「流れ」を作ろうとしているのかもしれません。

「…デジタルワールドの秩序を、クラッカーに都合のいい状態にしようとしているのか」

既に一度、蛮族デジモンのシャーマモンがAAAとやらの手駒になっているのを見ました。

この先、もしかしたら…
ジャングルモジャモン等の成熟期蛮族デジモンが、奴らの手駒になるかもしれません。

「…成熟期を相手にするのは、骨が折れそうだな…」

あまりデジタルワールドの環境に手を加えたくないですが…
クラッカーへ一方的に陣取りを許したら、覆せないほど勢力図が傾くかもしれませんね。

「…デジタルワールドでの陣取り合戦が始まるかもしれない、ということか…」

237: ◆VLsOpQtFCs 2023/09/24(日) 23:45:01.67 ID:dYMXAPxKO
そういや、ジャスティファイアは食糧の持続可能性とか考えないのかな?

「ふむ、どうだろうな…。話を聞いてみたらどうだ?」

了解です。
一通り今の話が終わったら、電話してみますね。

「ああ。それでは、フローティア島開拓計画を説明する!まず…」




…さて、説明が終わったので、パルタス氏に電話してみよう。
もしもし。

「おお、その声はケンか?ふはははは、最近よく電話するなぁ!」

どうもです。
それで、かくかくしかじかなんですが…どうなんですか?

「んん?持続可能性?今のまま狩猟ができなくなるなんてことがあるか?」

ええ。
蛮族デジモンに、餌場を取られたりとか…

「???意味がわからない。それがどうかしたか?」

重要なことですよ!
狩猟を邪魔されたりしたら、日本を護る軍用セキュリティデジモンが機能しなくなるってことです!

「なんだ、そんなことか…問題外だ」

何故です!?

239: ◆VLsOpQtFCs 2023/09/24(日) 23:47:46.49 ID:dYMXAPxKO
「シューティングスターモンのパワーは見ただろう。蛮族デジモンが邪魔してきたら、一捻りにして滅ぼしてしまえばいい!それで万事解決だ!なんなら蛮族デジモン共を餌にしてしまえばいい!」

…ええ。そういう問題ですか?

「そうだが?」

…そうですね。

「ふはははは!そうだろう!」



…あまり参考にはならなさそうだが…
考えてないわけじゃなさそうだ。

240: ◆VLsOpQtFCs 2023/09/24(日) 23:49:11.99 ID:dYMXAPxKO
うーん…
本当はデジタルワールドにあまり人為的な手を加えず、静かに自然観察していたいんだが…。

そうもいかなくなってきたのは、無常というかなんというか…。




つづく

249: ◆VLsOpQtFCs 2023/09/25(月) 19:55:30.66 ID:El172G6RO
デジタルワールドの自然環境は、おおむね我々の世界…リアルワールドに似ている。

だが、デジタルワールドの物理法則は、リアルワールドとは多少異なっているらしく、その差異が環境の違いにも表れている。

最も顕著なのはジャングル…熱帯雨林である。

リアルワールドの熱帯雨林は、赤道上に位置している。
強い日照りゆえに気温が高く、それによって生じる上昇気流の影響で一年中雨が振り続けるのが特徴だ。


雨が多く日差しが強いため、植物が育ちやすく、木が高く伸びるのだが…
あまりの雨の多さゆえに、枯れ葉などが分解されても養分が地面から流れてしまう。
ゆえに土壌は非常に薄く、酸化鉄や酸化アルミニウムを含むラトソルという赤い土が露出している。

そのため、「植物が生い茂っているのに土壌が貧弱」なのがリアルワールドの熱帯雨林の特徴である。

その一方で、デジタルワールドの熱帯雨林は、リアルワールドに比べて肥沃な土壌となっている。

浅いジャングルの地面を見ると…
リアルワールドでは見かけることのない、キラキラした美しい透明な粒が地面を覆っている。

…これは、太陽から太陽光とともに降り注がれる「データ粒」である。

デジタルワールドの太陽は、熱と光だけでなく、デジタル生命体の栄養分となる「データ粒」を撒き散らすことがある。

これが雲に混ざり、やがて雨とともに地表へ降り注ぐ。

熱帯雨林では、粒が大きい「データ粒」は、雨に流されずに留まるのだ。

このデータ粒は、そのままデジタル植物たちの肥料となるのである。

251: ◆VLsOpQtFCs 2023/09/25(月) 20:05:34.40 ID:El172G6RO
それ故か、デジタルワールドのジャングルはリアルワールドよりさらに植物が密集しているのである。

深層になると、あまりに植物がめちゃくちゃに生えすぎていて、我々のデジドローンでは物理的に入っていけないのだ。

そのため、ジャングルの深層は「未探索領域」となっている。

…蛮族デジモン達のルーツは、ジャングル深層だとも考えられている。

このように、デジタルワールドには我々のデジドローンの性能では探索不可能な領域がいくつか存在するのだ。

たとえば深海。
あまりに深い深海だと、デジドローンが水圧に耐えきれず潰れてしまうことがある。

それ故に、深海の海底にどのようなデジモンが潜んでいるのか、今の我々には観察できない。

レベル5の元祖ホエーモンが「姿を消した」のはこのためだ。
レベル5ホエーモンの死骸は未だ見つかっていない。故に、まだ「深海で生きている」のかもしれない。



他には「大空」もある。
我々のデジドローンは、最大20mほどの高さしか飛行できない。

故に、それより遥か上を飛び交うデジモン達がいたとしても、地表から見上げることしかできないのだ。

そんな大空へ常に滞空し続けているようなデジモンがいるのかどうかは知らないが…
いたとしても、観測することはできない。

255: ◆VLsOpQtFCs 2023/09/25(月) 20:16:59.93 ID:El172G6RO
他には「地下」もある。
もしかしたらデジタルワールドの地下には、巨大な空洞があり、地下文明みたいなものが存在している可能性があるかもしれない。

しかし、デジドローンで地面を掘ってそれらを見ることができるわけではないのだ。

また、デジタルワールドは地球によく似た惑星上に広がっていることが分かっているのだが…
デジドローンを出現させられるアクセスポイントが全く存在しない領域がいくつかある。

砂漠などは、アクセスポイントがほとんどない。ど真ん中へ辿り着くまでに充電が切れてしまうだろう。
故に砂漠にどんなデジモンが住んでいるのかはよく分かっていない。


…明らかに何かがありそうな領域なのに、そこまでデジドローンを飛ばそうとしても充電がもたない…
そういった土地は、今の技術では観測できないのだ。

257: ◆VLsOpQtFCs 2023/09/25(月) 20:24:22.08 ID:El172G6RO
いちおう、オポッサモンの風船の原理を模倣した「空撮用デジドローン」というのもある。

我々がエクスブイモンとスティングモンのデジタマを捕獲する作戦の時に使ったやつだ。

50mほどの高さにデジドローンを固定し、そのまま地上を撮影するためのものだ。

だが、それは自在に飛び回ったりすることはできず、その位置へ固定することしかできない。

…ままならないものだ。



そして、我々が最近断念した未探索領域に…
「シーホモンの砦」というものがある。

これは海中にあるものなのだが…
何故これを観察しようとしたか、そしてなぜ断念したかは、いずれ聞かせることができるだろう。

260: ◆VLsOpQtFCs 2023/09/25(月) 20:54:39.62 ID:El172G6RO
このように、デジタルワールドには技術的に探索が難しい領域がある。

しかし逆に、直接観察できない情報を、間接的に知る方法もある。

たとえば、空の動き。
デジドローンで、夜空を毎日同じ位置で撮り続け、星の動きを観察する。

すると、日に日に太陽が上る高さや、星の位置が少しずつ変わっていくのだ。

天体望遠鏡はないが…
デジドローンの感度で観測できる情報だけでも、デジタルワールドの星空がどのようになっているのか、少しずつ理解を深めることができる。

どうやらデジタルワールドにおいても、太陽のまわりを地球が自転しながら公転しているらしい。

だが、リアルワールドの夜空と比べると少し奇妙な点がある。
ここ数ヶ月観察し続けてたところ、全く同じ軌道を回り続けている星がいくつかあるのだ。

ふつうの恒星なら、時期によって見える位置が異なるはずなのだが…。

ここから言えることは…
『デジタルワールドの地球には、恒星のように光る衛星がいくつか回っている』ということだ。

この衛星は何なのか?
なぜ光っているのか?
…それは不明だ。

261: ◆VLsOpQtFCs 2023/09/25(月) 21:03:11.92 ID:El172G6RO
他にも…
『地層』もまた重要な手掛かりになる。

最近、我々は非常に興味深い地層を発見した。
それは「石炭層」と、その上にある土砂の堆積層である。

デジタルワールドの地層から、分厚い石炭層が発見された…
これは、我々の研究所内では大発見だった。

「石炭を採掘してエネルギー源にできる」とか、そういう話ではない。

結論から言うと…
「デジタルワールドでは過去に、樹木が二酸化炭素を吸いすぎたことが原因で、氷河期が訪れた」と言えるのだ。

…我々のデジドローンでは、地層を掘って化石を発掘することはできないので、なんとも言えないのだが…
氷河期より更に前の地層を掘ることができたり、永久凍土層を掘ることができたら、何らかの古代デジモンの化石が見つかるかもしれない。

263: ◆VLsOpQtFCs 2023/09/25(月) 21:10:58.81 ID:El172G6RO
さて…
なんだか中途半端に話を終わっても味気がないので、「シーホモンの砦」の話をしよう。

フローティア島に我々のパートナーデジモン達を上陸させ、ビオトープ作りの要領で居住区を作ってもらった。

例の有機肥料作りの木箱は、マッシュモンの手を借りて、デジタルゲート越しにフローティア島へ数個を並べて設置した。

この木箱には、ジャスティファイアへ協力を依頼し、シューティングスターモン達のトイレの転送先座標に指定してもらった。

…おかげで、毎日凄い量の「有機肥料の材料」が木箱へ送られてくる。
やっぱ食う量が凄いと、出す量も凄いんだな。

さて…
この木箱では、有機肥料の副産物として、あるものが生産される。

それは…
丸々と太ったププモンそのものである。

265: ◆VLsOpQtFCs 2023/09/25(月) 21:20:15.22 ID:El172G6RO
スカベンジャー型のププモンの生活環だが…

まず、羽つきのププモン(成体タイプ)が、排泄物や死骸に小さなデジタマをたくさん産み付ける。

やがて、翅のない状態の小さなププモンが孵化し…
死骸や排泄物の中の有機物を食べて肥え太る。

そうしてある程度の大きさになると、死骸や排泄物から離れて湿り気のない場所へ移動する。

そこで、翅を生やすのである。

翅を生やしたあとのププモンは、やはり排泄物や死骸を食べたりもするが…
それは主食ではなく副食だ。メインは花の蜜や花粉を食べるようになる。

その中で、大きくなったものは幼年期第二形態の小蜂型デジモン、プロロモンへ進化することもある。

そうして、翅の生えたププモンやプロロモンは、再び糞や死骸へデジタマを産み付けるのだ。

さて…
ここで重要なのは、「肥え太った翅無しププモンは、乾いた場所へ移動する」という性質だ。

これを利用すると、木箱から這い出たププモン達が、そのまま落下することで、有機肥料からププモン達を分離して貯めておけるのだ。

このププモン達を、タンパク源として利用することが可能なのである。

さすがにそのまま食わせるのはどうかと思うので…
釣り餌として利用しようと考えたのだ。

267: ◆VLsOpQtFCs 2023/09/25(月) 21:25:36.35 ID:El172G6RO
しかし、私はその試みに「待った」をかけた。

私は寒冷地帯での出来事を思い出したのだ。
トゲモグモンとゴマモン達、そしてアイスモン親子が、寒冷地帯でプカモンを獲って暮らしていると…

シーホモンというタツノオトシゴ型成熟期デジモンに見つかり、捕捉された。

それ以来、トゲモグモンやアイスモン親子は、シーホモンに見張られ、シードラモンから狩られるようになってしまったのだ。

この離島で釣りをするようになったら、例の事件のように、シーホモンから目をつけられるのではないかと危惧したのだ。

いちかばちか見つからないことに賭けた結果、フローティア島の沖がシードラモンに襲撃されるようになった…となっては大変だ。

故に、海釣りには「ちょっと待った」をかけたのだ。

269: ◆VLsOpQtFCs 2023/09/25(月) 21:33:25.77 ID:El172G6RO
そこで私は、囮作戦を提案した。

ププモン達の生えかけの翅をむしり取った後、フローティア島から数キロ離れた小さな島へ搬送し、そこでパルモンに釣りをしてもらったのだ。

ププモンを餌にしたプカモン釣りは、とても順調だった。
たまに成長期のスイムモンが釣れたこともあったが、そういうときはコマンドラモンが倒した。


…ある日。
島のまわりを見張っていたチビマッシュモンが、とうとうシーホモンがこちらを見ているのを発見したのである。


…翌日、我々はその小さな島から撤退した。
島の周囲には、しばらくシードラモン達がたむろしていた。

危なかった…。
もしフローティア島でいきなり釣りをしていたら、開拓開始早々シードラモンから氷のミサイルを飛ばされる毎日を送ることになっていただろう。

272: ◆VLsOpQtFCs 2023/09/25(月) 21:38:55.51 ID:El172G6RO
まあそれ以来、釣りをするときはププモンを入れた箱をデジタルゲート経由で搬送し、フローティア島から離れたところで釣るようにした。

おかげでプカモンやスイムモンというタンパク源を得られるようになった。

まあ、それはさておき…。

シーホモンの情報収集能力、指揮能力は凄まじい。
DPは低いが、実質的な脅威度は下手にDP高めのデジモンよりはるかに高いだろう。

そこで、シンが提案したのだ。
「シーホモンのデジタマを採取してみないか」と。

もし陸地に適応したら…
コミュニケーション能力が高い、高知能のデジモンが育つ可能性がある。

そうして我々は、フローティア島近海でシーホモンの産卵場所を探したのだ。

274: ◆VLsOpQtFCs 2023/09/25(月) 21:43:47.89 ID:4DCz7r+PO
そうして見つけたのが「シーホモンの砦」だ。

そこはまるで、竜宮城のようだった。
頭から手足とサンゴが生えた姿の成長期デジモン、サンゴモン達が、蟻塚のような大きな砦を作っていた。

シーホモンは、その砦に空いた穴から入り、中を棲み家にしているようだ。
弱い割に良いご身分である。

…デジドローンで中に入れないか、試そうとしたのだが…
サンゴモンの見張りはなかなか厳しい。

結局、シーホモンのデジタマを採集することはできなかった。

このように…
『警備が固すぎて侵入できない場所』もまた、我々にとっては未界域…もとい未開域なのである。

275: ◆VLsOpQtFCs 2023/09/25(月) 21:45:09.74 ID:4DCz7r+PO
まあ、何はともあれ…

複数箇所をランダムに転々と移動しながら釣りをする分には、シーホモンから目をつけられることはなかった。

我々のデジタルゲートとパートナーデジモンの勝利だ!
どんなもんだシーホモン!




つづく

283: ◆VLsOpQtFCs 2023/09/26(火) 20:41:05.88 ID:IqTFZ/Aro
「これから本格的にフローティア島の開拓を始める…。それに伴い、あるデジモンを味方に引き入れたい」

おおっリーダー。
あるデジモンとは…

「まあ大体分かるだろう。クロッソ・エレクトロニクスへ電話してみる」

リーダーはスポンサーさんへ電話した。

『やあリーダー君!何やら面白そうなことをしているようだね!』

「ああ。拠点を作っている。そこで助っ人が欲しい。オタマモンがいたら売ってくれないか?」

『ふむ…そうしたいのはやまやまだが、需要が多すぎて在庫がいない!まあオタマモン自体はいるにはいるんだが、教育中だったり群れのリーダーだったりで、売りに出せない個体ばかりだ!』

「それは仕方ない…」

『ところでだリーダー君!君たちの島開拓、テレビ映えしそうだね!是非取材させてはくれないか?』

「すまないがクロッソさん…それはできない。フローティア島は我々の軍事拠点だ。クラッカーに座標がバレたら、アクセスポイントからありったけの戦力を送り込まれて破壊されかねないのでな。秘密にさせてもらう」

『そうか、残念だ…。あー、厳しいことを言うようだがね。投資というのは、リターンを期待できるからこそできるものだ。我々はボランティアお金配りおじさんではない…それは分かるね?』

「…ああ」

『君達への投資が打ち切られないようにするためには、その分君達が稼いでリターンを出してくれなくてはならない。それをわかったうえで、賢く立ち回ってくれることを願うよ!ハーッハッハッハ!』

「もちろん…セキュリティデジモンで稼ぐには、今以上に戦力と頭数が要る。そのために、広い土地と食糧増産が必要だ。そのためのフローティア島開拓だ。エンタメ番組の取材がしたいなら、本拠地の整備がしっかり終わってから遊び用にやるさ」

『む、その方が伸び伸びと制約なしにやれてよさそうだね!その時を期待しているよ!ハーッハッハッハ!』

…電話が終わった。

「まずいな…もっと早くオタマモンを押さえておくべきだった」

…あー、火を起こせるデジモンですか。
文明開化には必須ですね。

286: ◆VLsOpQtFCs 2023/09/26(火) 20:53:39.66 ID:IqTFZ/Aro
あれ?
そういえばこないだジャスティファイアが凸ってきた時、コマンドラモンを売ればオタマモンくれるって言ってませんでしたっけ。

ダメもとで当たってみますか?

「…最近あの連中と縁があるな。電話してみるか…」

リーダーはジャスティファイアへ電話した。

『うむ!こちらパルタスだ』

「こちらはバイオシミュレーション研究所のリーダー…リーだ。かくかくしかじかで、島開拓のために炎を使えるデジモンを売って欲しい」

『ふむ…アグモンか?ダメだぞ、あいつは今我々の貴重な戦力に育とうとしている』

えっ、手懐けられたんですか?

『我々の命令を直接聞くわけじゃないし、言語を理解してもいないがな。貴様達から貰った助言にインスピレーションを受けて、再教育してみたのだ』

「再教育?どんな?」

『ふふふ、ティンクルスターモンと同じ部屋に入れてみたんだ』

仲良くなったんですか?

『アグモンがティンクルスターモンに攻撃を仕掛けてきたので…返り討ちにしてしこたまボコってやった!ティンクルスターモンは力加減が苦手でな、うっかり殺しかねなかったぞ!』

ええ…
なんて事を。

『骨折して自力でろくに動けなくなったアグモンを、看病して餌付けしてしてたらな…、なんとティンクルスターモンに懐いたんだ!』

!?

『はっはっは!どうやら自分より強い者には従うようだ!だからアグモンは今、ティンクルスターモンの部下というわけだ!言語は理解してないがな!』

…おっかねー。
絶対真似できない教育方針だ。


287: ◆VLsOpQtFCs 2023/09/26(火) 21:01:35.81 ID:IqTFZ/Aro
「アグモンはいい、手懐けられそうにない…そっちじゃなく、オタマモンを売って欲しい」

『オタマモンか!いいぞ!』

たすかる。




…そんなわけで。
オタマモン(赤)が届いた。

サーバー内のビオトープで、オタマモンを見つめているパートナーデジモン達。

『タマー!』

オタマモンは、コマンドラモン達をじっと見ている。

そこへ、カリアゲがデジドローンVRで姿を投影して出現した。

『よ!オタマモンだな!俺はカリアゲ。今日からお前の仲間だ!』

『タマ…』

『よろしくな!まずはフローティア島でメシ食おうぜ!』

『タマー!』

そうして一同は、デジタルゲートでフローティア島へ向かった。

290: ◆VLsOpQtFCs 2023/09/26(火) 21:10:00.66 ID:IqTFZ/Aro
フローティア島へ移動すると、カリアゲはデジドローンVRのマシンアームで餌を持ってきた。

「プカモンの串焼きだ。塩を振ってあるからウマいぞ」

「タマ…」

オタマモンは、遠くに気になるものがあるようだ。

「なんだ、串焼きより気になるものがあるのか?どこだ、行ってみようぜ」

「タマ、タマ!」

オタマモンが向かった先は…
有機肥料作りの木箱だった。

「お、おおう…そっちはくせえぞ?大丈夫か?」

「タマ~!」

オタマモンの視線の先には…
有機肥料から這い出してきた、丸々と太ったププモン達がいた。

「く、食いたいのか?これ?」

「タマ~…」

「……………いいぞ、食え!」

「タマアァ~~!!」

カリアゲは、マシンアームでププモンをつまんで差し出した。

「アム、アム!ゴクン!」

オタマモンはそれを美味しそうに食べた。
…アレ直接食うのか。すごいな。

291: ◆VLsOpQtFCs 2023/09/26(火) 21:16:22.21 ID:IqTFZ/Aro
「…タマァ~」
オタマモンはすっかりご満悦だ。

「フゥ~、あれをそんな美味しそうに食うとは。お前すげーな」

カリアゲはオタマモンの頭を撫でている。

「ムフフフ~w」

オタマモンは嬉しそうだ。



…それで、リーダー。
オタマモンをゲットしましたが、何をするんでしょうか。

「…フローティア島を我々のアジトとして利用するにあたり、最も重要なものは何だと思う?」

えーと、何でしょう。
飲水の確保ですか?

「それも大事だが…最も大事なのは。セキュリティだ!」

293: ◆VLsOpQtFCs 2023/09/26(火) 21:26:40.05 ID:IqTFZ/Aro
セキュリティですか。

「そうだ。ここフローティア島は、広すぎず狭すぎない丁度いい広さと、豊かな自然環境、そしてたった一箇所のアクセスポイント…という理想的な条件が揃った島だ。そして、このアクセスポイントには他のデジドローンも来れることだろう」

クラッカーに見つかったら嫌ですね。

「だから…アクセスポイントを扉で物理的に塞ぐ。フローティア島にはマッシュモンの分身を滞在させておき、合言葉がなければ開かないようにするんだ」

な、なるほど…
物理的な認証キーですか。

扉は何で作るんですか?

「鉄だ」

鉄…!?

「パートナーデジモン達には、今まで川などで砂鉄集めをさせてきたんだ。たっぷり蓄えてきた砂鉄を使い…鉄の扉を作る!」

お、おお…!
製鉄ですか!
なるほど、そのためのオタマモンか。

「善は急げだ!井戸も欲しいところだが…まずは!フローティア島に製鉄所を作るぞ!」

いろいろすっ飛ばしてきた!
…でも、確かに製鉄所があれば、鉄の武器が手に入る。
セキュリティデジモン達の戦力強化ができるだろう。

295: ◆VLsOpQtFCs 2023/09/26(火) 21:41:52.78 ID:IqTFZ/Aro
我々は「たたら製鉄」の原理で鉄を作ることにした。

それまでの飲み水の確保だが…
デジドローンのパワーは弱いので、川から汲んできた水を搬送するのは何往復も必要となる。

それはそれで仕方ないのだが…ことのついでだ。
製鉄の予熱を利用して海水を蒸発させ、蒸留水を得られる仕組みで炉を設計しよう。

そして早速、デジモン達はたたら製鉄所の建造に取り掛かってくれた。


ブイモンはやる気熱心だ。DIYが好きなのかもしれない。

パルモンは蔓を長く伸ばし、器用な手先と強い腕力で、上手に施工をした。

マッシュモンは、あまり手先が器用ではないが、分身による人海戦術で施工をした。

コマンドラモンは、オタマモンとともに木炭の製造を進めた。

ワームモンは、糸で砂鉄をたくさん採集した。

各々が長所を活かしたおかげで、無事にたたら製鉄所の建設は完了。

そして、砂鉄と木炭を800℃近い高温で加熱した。

296: ◆VLsOpQtFCs 2023/09/26(火) 21:45:05.03 ID:IqTFZ/Aro
そうしてついに我々は、デジタルワールドで鉄器を製造することに成功した。

そうして、アクセスポイントを大きな鉄の部屋で囲った。

ひとまず、セキュリティはこれでいいだろう。
あとは、製鉄所を使って鉄製の農具や工具、武器や道具を作っていけば…
開拓はだいぶラクになるぞ!


しかし…キンカクモンのデジタマは孵化に時間がかかるな。
蛮族デジモンの子孫が成長期に育ってくれれば、こういう作業がもっとはかどるんだけど…。

299: ◆VLsOpQtFCs 2023/09/26(火) 21:51:08.55 ID:IqTFZ/Aro
さて。
そろそろププモンが溜まってきたころだろう。

オタマモンの餌に使うだけでなく、釣り餌にもなるププモン達。
パルモン、また離島に行って釣りを頼むよ。

「わかった!」


しばらくすると…

「わあぁ!?」

パルモンの叫び声が聞こえてきた。
な、なんだ!?
我々はデジドローンを飛ばして、パルモンの様子を見に行った。


怯えるパルモンの視線の先には…
ププモンの飼育小屋があった。

ただし、有機肥料から這い出たププモンを溜めている箱は…

no title


…4体のカニ型成長期デジモン、ガニモンに破壊され、中のププモンを食い荒らされていた。

311: ◆VLsOpQtFCs 2023/10/02(月) 19:55:16.47 ID:OAPP8a4hO
ど…どうしますリーダー!?
ププモン飼育箱は、我々が目指す「持続可能性のあるデジモン飼料確保」の要ですよ!

あれを占拠されてたら、野菜を生産できないし、釣り餌も手に入らない!
またキノコと採集生活に逆戻りですよ。

「ああ。生活インフラは早急に取り戻さなくては…」

私の隣でカリアゲも驚いている。
「あいつらどっから来たんだ!?前に見たときはあんな奴ら住んでなかったぞ!」

おそらく…
海底を歩いて、島を登ってきたんだな。

「完全に想定外だぜ…まさかデカい蟹の化け物が来るなんて思ってもみなかった…」

リーダーはカリアゲの肩をぽんと叩く。

「逆に考えるんだ、カリアゲ。我々は、シューティングスターモンの排泄物を使って、ガニモン4体をおびき寄せることに成功した、と」

…ピンチをチャンスに変えるつもりですか。
しかしどうやって?

「それは…まずは奴らの観察をしてから考えるぞ。ケン、頼んだ」

分かりました。

…私は、ガニモン達の観察を開始した。

313: ◆VLsOpQtFCs 2023/10/02(月) 20:04:23.91 ID:OAPP8a4hO
ガニモンは木箱を破壊している。
直径10cm程もある太い木材を、左手のハサミでいともたやすくバチンと切断した。

ウエッ!なんだあの切断力!
うちのパートナー達はあの木材を切るのにだいぶ苦労したんだぞ。

さすがにスカモンが握っていたズバモン剣ほどの威力ではないが…
あれに挟まれたら、成長期デジモンの手足は即座に切断されるだろう。
成熟期デジモンとて油断したら指の一本や二本を簡単に持っていかれるに違いない。

くそ…苦手なタイプだな。
「弱点らしい弱点がなく、インファイトが強いデジモン」。

それにしても、あのハサミの威力。
いくらなんでも尋常ではない。
あのデカいハサミの中に筋肉がぎっしり詰まっていたとしても、あんな切断力を出すのは用意ではないだろう。

一体どんな原理で、あの破壊力を出しているのか…?

…強いデジモンを倒すための、最も有効なアプローチ。
それは「強さの正体」を解き明かすことだ。

そして、それを突き崩す決め手を手札から選び…
そのサポートをすること。

それができれば、我々のチームはスカモン大王のような格上すらノーダメージで勝てるんだ。

そのためにも…しっかりと、ガニモンの強さの正体を突き止めなくてはならない。

強さには、必ず理屈があるから。

316: ◆VLsOpQtFCs 2023/10/02(月) 20:16:15.64 ID:OAPP8a4hO
ガニモンの右腕は小さく、左腕は大きい。

よく見ると、でかい左腕は本当に破壊のためだけに使っているようだ。

左のハサミでバチンバチンと木材を切断し…
そして小さい右のハサミで、ププモンをつまんで食べている。

左手のでかいハサミでは、ププモンをつまもうとしない。

なるほど…なんとなく、見えてきた。
ガニモンは、左右の腕の役割が異なるのだ。

でかい左腕は、完全に武器としてのみ利用しており、右腕は餌をつまむなど、物を掴んで動かす役割を持っているようだ。

その右のハサミの握力も相当強いらしい。

私はさらに観察を続けた。
ププモンはどんどん減っていく。

すると、だんだん左ハサミの仕組みがわかってきた。
短時間に連続で物体を切断できるわけではなく…
力を「溜める」必要があるようだ。


…そうか。分かった。
左のハサミは、根本的に蟹のハサミとは内部構造が異なっているんだ。

あえて例えるなら…
「アギトアリ」という蟻のアゴの構造が、最もそれに近い。

319: ◆VLsOpQtFCs 2023/10/02(月) 20:25:03.38 ID:OAPP8a4hO
アギトアリ。
体長1cmの大型の蟻だ。

最大の特徴は、その巨大なアゴ。
常にアゴを開いており、獲物が近付くと、秒速64メートルという凄まじいスピードで顎を閉じて捕らえる。
そのスピードは、地球上のあらゆる生物が発生させる運動のスピードで最速といわれている。

アギトアリのアゴが、なぜそんなに速いのか。
それは、アゴの構造が「トラバサミ」の仕組みになっているからだ。

アゴを「閉じる」方向に力を入れているのではなく…
アゴを「開く」方向に力を入れ、強靭な腱をバネのように伸ばし、腱へ運動エネルギーを蓄える。

そして、そのままの状態で顎をロックし…
獲物が近付いたらロックを解除する。
するとアギトアリの顎は、腱に蓄積した運動エネルギーを使って物凄いスピードで閉じるのだ。

おそらくガニモンのハサミも同じだ。
ガニモンはふだん、ハサミを開いた状態にしている。
これは、「閉じる」方向に縮む強靭な腱を、「開く」方向の筋肉で伸ばして、それをロックしているからだ。

物体を切断するときは、物を挟んでからそのロックを解除することで、腱に蓄えた凄まじいエネルギーを開放し、物体を切断するのだ。

320: ◆VLsOpQtFCs 2023/10/02(月) 20:34:08.05 ID:OAPP8a4hO
武器の仕組みはわかったが…
では奴らを倒せるかというと、そうでもないように思える。

私はコマンドラモンへ指示し…
透明化したまま、ガニモンへ銃撃をさせた。

銃弾はガニモンの甲殻に弾かれてしまった。
ゲッ、うちの主力火力がノーダメージだと!?

撃たれたガニモンは驚き、ハサミを掲げて周囲を威嚇している。

…ガニモンの甲殻はトゲトゲしており、平らな部分がない。
そこへ銃弾を放っても、真っ直ぐに胴体へ突き刺さらずに、表面で滑って軌道がずれてしまうのだ。

では、コマンドラモンの爆弾なら効くかというと…
正直、望み薄だ。

それはまあ、ガニモンの甲羅の真上で爆発させられればダメージは入るだろうが…
ちょっとでも離れられたらダメージは入らない。

なぜなら…
ガニモンは常に「地面に伏せている」状態だからだ。

コマンドラモンの爆弾は、爆風で撒き散らした破片でダメージを与えるのだが…
こんなに地面に伏せていると、爆発四散した破片がぜんぜん当たらないのだ。

くそ…
つええぞこいつら。

322: ◆VLsOpQtFCs 2023/10/02(月) 20:42:56.17 ID:OAPP8a4hO
「蟹は甲殻類の完成体」とよく言われる。

リアルワールドには、「カニと名がつくがカニでない甲殻類」が夥しい種類存在する。

タラバガニ、ヤシガニ、ハナサキガニ…等は、蟹に似ているがすべてヤドカリの仲間だ。
収斂進化によってカニそっくりになったのだ。

なぜそんなにカニに似た甲殻類が多いのかというと…
「甲殻類が自然淘汰によって最適化されると、最終的にカニの姿になる」からだ。
これをカーシニゼーション(カニ化)という。

それほどカニの姿は、攻防に秀でているのである。

そして、デジタルワールドでカーシニゼーションをしてカニの姿に収斂進化した、ガニモン達もまた、隙のない強さを持っているようだ。


…分析したが、「ガニモンはとにかく強い」らしいことが分かった。
弱点どこだよこいつら!

325: ◆VLsOpQtFCs 2023/10/02(月) 20:48:30.17 ID:OAPP8a4hO
隣でカリアゲが呟いた。
「なあ、そんなに強いならさ…こいつらのデジタマゲットできねーかな?」

うーん…
ファンビーモンみたいなのがまた増えそうな気がしないでもないけど。

だが、恐れていては何事も始まらない。
ガニモンのデジタマを見つけたら、ゲットしてみるのもいいかもしれない。

我々がそう話していると、クルエが後ろを向きながらなにか言っていた。
「ケン君どうなの?ガニモン達追っ払えそうなんですかー?」

…なんで後ろを向いてるんですか

「私ププモン無理なんです」

…気持ちは分かる。
羽と目がついてるだけで、見た目はどう見ても…
「言わんでいい!」
はいスミマセン。

さて…どうするみんな?
カリアゲ…なんか思いついた?

「オタマモンで火をつけたらどうなるかな…」

海に逃げ込んで火を消すんじゃないかな。

「だよなぁ…」

326: ◆VLsOpQtFCs 2023/10/02(月) 20:56:42.38 ID:OAPP8a4hO
リーダーはどうですか。
「ワームモンの糸…パルモンのツタ…は、切断されそうだな」
ですね…。

「マッシュモンの毒はどうだ?」

毒を飲ませるわけですか。
耐性がなければ、それでいけるかもしれませんね。

マッシュモン、できるだけ強い毒を持たせたチビマッシュモンを突撃させてみてくれ。

『わかった』

…少数のチビマッシュモン達が、ガニモンへ突撃していく。

「マシーーー!!!」

ガニモンはそれらをハサミでバラバラに解体した。
そのまま飲み込め!


…ガニモンは、マッシュモンの死骸をペロッと舐めたが…
すぐにオエッと吐いた。

ああ、咀嚼されたププモンがちょっと流れ出た。

「イ゛ヤ゛ア゛ア゛ア゛ア゛!!実況すんな!」

いてっ!
クルエに殴られた!

328: ◆VLsOpQtFCs 2023/10/02(月) 21:02:11.55 ID:OAPP8a4hO
シン、なんかアイデアある?

「シューティングスターモン呼べませんかね?」

島が無くなるわ!

「じゃあティンクルスターモンはどうすか?」

国防用デジモンをこんなことに呼べないでしょ…。
だいたい、いちいちティンクルスターモンに頼ってたらうちのパートナーが強くならないぞ。

「うーん…サラマンダモンもだめそうすね」

…他力本願だな。
もうちょっとうちの戦力を使ってあげて?

メガはどう?なんか…役に立つデジモンいない?
ニューとデルタだっけ。

「彼らは戦闘向きじゃないってば」

うーん…難しいな。

クルエが手をポンと叩いた。
「あ…そうだ!ファンビーモンはどうですか?」

「「「絶対ダメ!!」」」

私とメガとリーダーは声を揃えて言った。

「えー、なんでですか?」

なんでって…勝ったほうが厄介な敵になるだけだから。

「あー」

330: ◆VLsOpQtFCs 2023/10/02(月) 21:15:47.95 ID:OAPP8a4hO
「ん?待てよ…武器じゃねえけど、あれはどうだ?」

カリアゲが何かを思い付いたようだ。
あれって?

「最近、製鉄やってたじゃん?溶けた鉄をブッかけるんだ」


いや、それはちょっと用意するのに時間がかかりすぎる。
ププモンが食い尽くされるぞ。

「やっぱし?」

しかしすげーこと思い付くな…
やったとしてどうにかなるもんじゃないと思うけど。

「そっか…まあそうだよな」

八方塞がりか…?



「オイラがやる!」



その時、ブイモンの声がした。

ぶ、ブイモン!?
どうした!?なんか手があるのか!?

「かまがあるだろ!あれをつかう!」

鎌…スナイモンの鎌か…。
うーん、成熟期最強クラスのスナイモンの鎌なら、確かにガニモンの装甲を貫ける可能性はあるけどさ…

「まかせろ!ぶったおしてやる!」

だ、だが待て。
相手は四体まとまってるんだ、近接格闘では分が悪いぞ。

「このひのために…とっくんしてきたんだ!やるぞワームモン!」

ブイモンの言葉に、ワームモンが反応した。

「せいこうさせるんだ!デジクロスを!」

な、なに…!?
お前らデジクロスできるようになってたのか!?

「まだなってない!」

なってないんだ。

331: ◆VLsOpQtFCs 2023/10/02(月) 21:18:20.92 ID:OAPP8a4hO
と、とにかく…
スナイモンの鎌で戦うなら、ひとまずデジクロスを成功させてくれ!
じゃないとガチで手足もがれかねないぞ!

「やってやるぞ、ワームモン!デジ…クロース!はああーーー!」

ブイモンが力むと、隣でワームモンも力んで、ギチギチと顎を鳴らした。

「うおおおおおおーー!」

ど、どうだ…?

「…だめだぁ、やっぱできねえ…」

…ナイストライ。

334: ◆VLsOpQtFCs 2023/10/02(月) 21:27:54.13 ID:OAPP8a4hO
くそ、もう手札がない。
もう壊されるのを見ているしかないのか…?

「へっくし!」

ど、どうしたカリアゲ。

「んー、もう季節が季節だから、涼しくなってきてな…。ズズッ。スギ花粉の時期よりマシだけどな」

花粉症あるんだ。

「あーもうあれだけはシンドいよ…地元で畑仕事してるときに飛んでくると最悪でさあ…!」

人類が未だに克服できてない敵だよね。
ってこんな事喋ってる場合じゃない。
手札がもうないぞ…

「ああ…ぁ…ぁああああ!?」

ど、どうしたカリアゲ!

「ある!まだ一つだけ!」

お、おお!?

336: ◆VLsOpQtFCs 2023/10/02(月) 21:35:24.37 ID:OAPP8a4hO


ガニモン達が晩餐会をしていると…
パルモンがそこへ走り込んできた。

追撃しようとハサミを向けるガニモン達。

そんなガニモン達へ…
パルモンは、大量の花粉を浴びせた。

ガニモン達の眼球は複眼でなくカメラ眼だ。
大量の花粉がベットリとガニモン達の目にくっついた。

「ギシシシシィィィイイィィ!!??」

ガニモン達は悶え苦しんでいる。
おお…効いてる!
ゲレモン達にはぜんぜん効果なかったから忘れてたけど、パルモンには前世フローラモンから引き継いた花粉攻撃があった。

「ギシイイィィ!」

どうだ!痒いだろう!
そのハサミじゃ顔を擦れまい!

ガニモン達は、海の中へ潜っていった。
だが海水をかけたとて花粉は簡単には取れないぞ。

花粉はペクチンというタンパク質を分泌してまとわりつくんだ。
だから熱湯ならともかく水程度じゃすぐには取れない!


そのまましばらく待ったが…
ガニモンは上陸してこなかった。

339: ◆VLsOpQtFCs 2023/10/02(月) 21:43:11.68 ID:OAPP8a4hO
マッシュモンが子分を連れてきて、パルモンを胴上げした。
コマンドラモンとワームモンも拍手を送っている。

…うーむ…
若干危なかったが、ギリギリ瞬膜を閉じられる前に花粉を眼に浴びせることに成功したな。

「瞬膜?なんだそれ?」
カリアゲが聞いてきた。

瞬膜というのは、鳥やラクダ、ワニなど一部の動物が持っている透明な眼球プロテクターだ。

ワニが泥の中で眼が傷つかないように。
鳥が高速飛行中に目が傷付かないように。
ラクダが砂埃で眼が傷付かないように。
まぶたの下に、透明な第二の瞼みたいなのを持ってるんだよ。

ガニモンがもしかしたらそれを持ってる可能性があったけど…
先手を取れたからなんとかなった。

「パルモンやるなー…お手柄だ!」





どれだけ硬い防御力を持った敵だろうと…
どれだけ強靭な武器を持った敵だろうと。

しっかり観察して、弱点を探し…
多様な戦力を揃え、それをうまく運用すれば。

ときにパワーの差をひっくり返せる事があるのだ。

341: ◆VLsOpQtFCs 2023/10/02(月) 21:46:31.86 ID:OAPP8a4hO
…数日後。

二体のガニモンが上陸し、再びププモンの小屋を襲った。

そこへ、二体のデジモン達が駆けつけた。
パルモンとブイモンだ。

「てめえええええしねやああああ!」

パルモンとブイモンは、重くて大きな鉄製のツルハシを、ガニモンの頭部へ振り下ろした。

硬いツルハシが、ガニモンの脳天を抉り、頭部を砕いた。

「おっしゃああ!こんやはカニなべだあああ!」


…まあ、武力はあって困るものではない。



つづく

354: ◆VLsOpQtFCs 2023/10/03(火) 19:55:20.51 ID:0WI3pzKOO


パートナーデジモン達は、ガニモンを食べるつもりのようだ。

成長期にしてはDPが高めなガニモン。
食べれば栄養がつくことだろう。

自然に生きるデジモンを殺傷したのだ。
せめて食べて糧にしてやることが弔いになるだろう。

「いやーそこまで気負わなくていいんじゃないッスかケン先輩?連中はフローティア島の食糧を略奪しに来た侵略者なんッスよ!よく釣ってるプカモンみたくフツーに食べてもらえばいいじゃないッスか」

…どうかなシン。
侵略者は本当にあっちの方か?

むしろ、元々ガニモンが巡回しに来る土地に我々が後から来たのだとしたら…
侵略者は我々のほうかもしれない。

「う、確かに…」

仕方ないこととはいえ…
そう考えると、少し罪悪感を感じてしまう。

…ププモンを釣り餌にして魚デジモンを釣ったりしている我々が今更言うようなことじゃないけどね。

「…それでいいんだよ、ケン。僕たちはこれでいい」

メガ…?

356: ◆VLsOpQtFCs 2023/10/03(火) 20:02:50.68 ID:0WI3pzKOO
「フローティア島…浮島(フローティングアイランド)とフロンティアをかけた名前だったね。それなら、今ぼくたちはきちんとやるべきことができてるってことじゃないか」

どういうことだ…?

「何故なら、僕たちの世界でのフロンティア…開拓前線とは。そのまま原住民の虐殺戦線だったじゃないか」

…。

「はじめの志通りのことを、きちんとやれれいる。何も後ろめたさを感じる必要なんてないはずだよ、ケン」

それを聞いたカリアゲは、頬杖をついて聞いている。

「メガ…お前ほんと言うこと変わったな。マッシュモン事件の頃のお前だったら口が裂けても言わなさそうだぜ」

「そのときは何も見えていなかっただけだよ、カリアゲ。僕らがやるべきことがね」

…少しの間、沈黙が続いた。

358: ◆VLsOpQtFCs 2023/10/03(火) 20:12:47.18 ID:0WI3pzKOO
そこへ、スポンサーさんから連絡が来た。

『やあ諸君!島開拓の調子はどうだね?』

あ、どうもスポンサーさん。
ププモンを使った排泄物リサイクルシステムを、ガニモンに破壊されかけましたが…
なんとか倒せました。

『ほほう!それでは今後ガニモンが来てもへっちゃらになったということかな?』

いいえ全然。
まともにやりあったら勝ち目がないから、目潰しをしたり鉄の武器を使ってうまく張り合ってるんです。

今回来たのが2体だったからツルハシの数が足りましたが…
前同様に4体とか来てたらやっぱりしんどいですね。

『仮に来たらどうするんだい?』

…来ないようにすることが大事ですね。
とりあえず、岸側に設置してた木箱を、島の中央あたりに移動させました。

ガニモンは海から来るので、しばらくどうにかなるはずです。

『しかし、鉄の武器とはすごいじゃないか!製鉄所があれば何でも作れるね!』

我々の世界の工業製品のツルハシほど立派じゃないですけどね。
なにせ鍛冶場があまり立派じゃないし、鍛冶の技術も素人の見様見真似です。

手先が器用なブイモンがDIYしてくれてますが…
「ちゃんとしたのが作れねえ」って嘆いてます。
今はそれっぽい粗雑な鉄の棒があるだけでも十分役に立つから、気負わなくていいって伝えてるんですけどね。

『ハッハッハ!ブイモン君は完璧主義なとこがあるねえ!』

361: ◆VLsOpQtFCs 2023/10/03(火) 20:21:22.18 ID:0WI3pzKOO
『ところで、ブイモン君は卑屈なところはあるが、随分働き者だねぇ』

そうですね…。
ブイモンという名前の由来が何か、わかりますか?

『額のVマークかね?』

いいえ。私も最初はそうだと思ってたんですが…
どうも違うみたいで。

ブイモンという種は、ディノヒューモン農場で様々な肉体労働をしている爬虫類型デジモンです。
小竜型という呼び方もありますね。

おそらくディノヒューモンの子供や孫達ですね。

ディノヒューモンは、自分のような司令塔ではなく…
「指示をよく理解し、忠実にこなす労働者」を欲しがった。

ブイモンという成長期デジモンは、それに向いた進化をしたデジモンです。

『つまり、ブイモンという名前は…』

"Blue-color employee"…
肉体労働従事者の略だそうです。

『ハッハッハ!ブイモン君本人にはちょっと教えられない由来だねえ!しれっと額のVマークからとったことにしたほうがいいんじゃないか?』

…まあ、由来そのものは今更変えられるものではないですよ。別に学術的に意味があるものでもないですし。

そういえば、スポンサーさんは今日はどうかしたんですか?

『互いにちょっと挨拶がてらに近況報告でもどうかと思ってね!』

近況報告ですか。いいですね。

363: ◆VLsOpQtFCs 2023/10/03(火) 20:35:02.65 ID:0WI3pzKOO
こちらはご覧のとおりです。

『ふむふむ、いいねえ!随分広い島だ!こんんなに大きくて住心地良さそうな島が、成熟期デジモンの巣窟にならずに済んだね!』

そうですね。
ここを見つけられたのは奇跡的です。

『作りは雑だが鉄の箱でデジタルゲートを囲い、クラッカーが侵入できないようにできてるのか。セキュリティもできてるね!これならキウイモンの島みたいにはならずに済みそうだ!』

…ちょっと待ってください。
キウイモンの島がどうしましたって?

『なんだ知らないのかい?あの島がどうなっているのか…』

…どうなったんですか?

『君達が蛮族と呼ぶ種族のデジモン達がいつの間にか入植していたよ!キウイモンは彼らのエサの卵を生む家禽扱いさ!』

なんだって!?
そ、そんな…!
なんて酷いことを!

『おや?君達がやっていることとは何か違うのかな?』

違…

…う!

『おおっ違うと言うのかな?』

我々がやっているセキュリティデジモン育成には、社会的な正当性がある!
奴らと違ってサイバー犯罪に利用するんじゃない!

ガニモン達に許しを請う気は今更毛頭ないが…
それでも必要なことのために野生デジモンを殺傷したことについて、世間から後ろ指をさされる謂れはない!

『なるほど!良い覚悟だ!我々はそんな君のことをこれからも応援する。安心したまえ!ハーッハッハッハ!』

…意地悪ですね。

『つまり、君達がその島へ入植しなかったとしても、どの道ガニモン達は殺されていたよ。君達の糧になるか、蛮族の胃袋に入るかの違いだよ』

慰めてくれてるんですね。
…キウイモンの島も、先に我々の陣地にしていたら、蛮族に支配されずに済んだってことですか。

『そういうことだな!』

…つらいですね、この戦い。

『しっかり胸を張りたまえ!君達はやるべきことをしっかりやっているさ。応援というのは、資金面だけの話をしているつもりはないよ』

ありがとうございます。

366: ◆VLsOpQtFCs 2023/10/03(火) 20:48:04.30 ID:0WI3pzKOO
それで、そちらの近況は?

『ふむ…近頃また現れたそうだ、ランサムウェアデジモンが』

ランサムウェア…!?
アイスモン一味ですか!?
あの時倒したはずでは!?

『おそらく、クラッカーがアイスモンと共に寒冷地から保護した子供デジモン達が成熟期にでもなったのだろうね!また手駒を増やせるようになったんだろう!』

くっ…
ポンポン成熟期を育てやがって。
アイスモンをまた退治はできないんですか!?

『何度かサラマンダモンでランサムウェアデジモン討伐をしているんだが…現場の司令塔はユキアグモンという成長期デジモンだ。アイスモンじゃない。これが画像だ』

no title


…アグモンそっくりですね。

『収斂進化だな!こう見ても爬虫類じゃなくユキダルモンのような鉱物デジモンの系統だ。こんな羽毛のない爬虫類が寒冷地では生きられないだろう?』

なるほど、確かに。

「カリアゲーーー!なべくれーー!でっかいなべーーー!」

『おや、ブイモン君の声だね』

デジクオリアの画面からブイモンの声がした。
どうしたんだろうか?

392: ◆VLsOpQtFCs 2023/10/09(月) 22:20:51.12 ID:8V+94a75O
それで、そちらの近況は?

『ふむ…近頃また現れたそうだ、ランサムウェアデジモンが』

ランサムウェア…!?
アイスモン一味ですか!?
あの時倒したはずでは!?

『アイスモン一味ではないようだ。キャンドモン…その名を覚えているかな?』

我々の陣地を攻めに来たロウソク型デジモンですね。
…まさか、データをロウで固めることで「暗号化」するって理屈ですか?

『ご明察!おそらく前に君達の陣地を攻めに来たキャンドモン達は、本来ランサムウェア用に運用する予定で育成中だったキャンドモン達を、君たちが陣地を不在にしているチャンスを逃すまいと、無理やりサーバー破壊のために転用したのだろうね!』

くそっ…
奴らの戦力は無尽蔵なのか!?

『いいや逆だろうね!今の今までランサムウェアデジモンが復活しなかったのは、君達のところのファンビーモンがクラッカーのなけなしのキャンドモン達を全滅させたからだろう!せっかく育てていたランサムウェアデジモンを全滅させられたのは痛手だっただろうね』

…しかし、ランサムウェアデジモンは復活した。

『ああ。キャンドモンの親となる成熟期デジモンがいるのだろう』

厄介ですね。

『キャンドモンには手を焼いている。奴らの火炎攻撃は見張りマッシュモンを焼いてしまうし、オタマモンの炎も効き目が薄い。炎を扱うデジモンだから、自身の火炎耐性も高いのだろうね』

くっ…セキュリティデジモンであるオタマモン(赤)をきっちり対策してきてるんですね。手強いな…
…駆除はできてるんですか?

『サラマンダモンがどうにか倒しているよ。奴らの耐性以上の火力でゴリ押ししてね。だがサラマンダモンに疲労が溜まっている。あまり効率的ではないね』

…他には有効打がないってことですね。

『ローグ・ソフトウェアの試作セキュリティデジモン達に頑張ってもらい、どうにか倒せてはいるよ。ファンビーモン君がもっと言うことを聞いてくれたら楽なんだがねえ!ハッハッハ!』

ローグ・ソフトウェア…
どんなデジモンを使うんですか?

『ンー、彼らと会う機会があったら直接聞くといい。君等に情報を流したら彼らからの我々への信用が減りかねないからねえ』

なるほど…。

「カリアゲーーー!なべくれーー!でっかいなべーーー!」

『おや、ブイモン君の声だね』

デジクオリアの画面からブイモンの声がした。
どうしたんだろうか?

393: ◆VLsOpQtFCs 2023/10/09(月) 22:23:55.60 ID:8V+94a75O
ブイモンの様子を見ると…
倒したガニモンの死骸をどうするか困っているらしい。

「カニなべがくいてーんだよ!オイラはー!なあカリアゲ、カニなべってうめーんだろ?」

「あ、ああ…ブイモン。そうだな、蟹のダシが出てうめーぞ!しかしまあ…こんなデケー蟹なんて鍋にできねーぞ」

「カリアゲー、こんなちっこいドナベじゃガニモンはいんねーよ!」

そう言い、ブイモンは土鍋を見せてくる。
これは鍋料理用に作ってもらったものだ。

鍋料理は、食材の栄養分をすべて逃さずに摂取できる優秀な調理方法だ。
農耕メインで栄養を得る路線の我々には重要なアイテムである。

だが…
ガニモンほどの大きさのデジモンを丸ごと煮込めるサイズではない。

どうにかブイモンに蟹鍋を食わせてやりたいけど…
どうすればいいかな。

なにか煮込むのに適したデカイ器はないか…?

394: ◆VLsOpQtFCs 2023/10/09(月) 22:40:39.91 ID:8V+94a75O
「今からデカイ土鍋を作ったら、ガニモンが腐っちまうな。…あ、鉄鍋を使うのはどうだ?」

鉄鍋?
そんなのあったっけ。

「デジタルゲートを覆ってる…あの鉄の檻…ちょっとだけ借りれない?チョットだけ」

セキュリティホールを作るのは勘弁してくれ。

「うーん駄目か…なんかねえか?」

…あるにはあるけど…入手するにはリスクがある。
そこそこ強い成熟期デジモンの住処に侵入しなきゃいけないからね。

「オイラいくぞ!やってやる!」

…わかった。
コマンドラモン、パルモン、ワームモン、マッシュモン…そしてオタマモン。
フォローお願い。


そう言い…
我々は湿地帯に向かった。

395: ◆VLsOpQtFCs 2023/10/09(月) 22:47:55.55 ID:8V+94a75O
湿地帯には、ヌメモンの住処がある。
今では珍しくなった、成熟期のヌメモンだ。

彼らの進化前の姿は、二枚貝型デジモンのシャコモンである。

シャコモンの天敵は、トンボ型成熟期デジモンのヤンマモン…
そして、エビ型成熟期デジモンのエビドラモンだ。

そして、ヌメモン達のボディーガードとして、シェルモンというデカイ貝殻をもつ巨大な成熟期デジモンがいる。


我々が探しているものは…
『ヤンマモンやエビドラモンに食われたシャコモンの貝殻』だ。
解体したガニモンをこれで煮れば、鍋代わりにはなるだろう。

これを、前述の捕食者やシェルモンに見つからないように探し当て、回収しなくてはならない。

大丈夫だろうか…?
危険な任務だが、その見返りがシャコモンの貝殻では、割に合わないのではないか。

我々が、現地を見てどうやってシャコモンの貝殻を探すか話し合っていると…

「ケン。この任務、ぼくらのデジモンに手伝わせてくれないか?」

おや、メガ。
手伝ってくれるの?

君らのデジモンというと…
デルタやニューみたいな…『人の役に立つデジモン』のこと?

「うん。デジタルワールドで通用するか、試させてほしい」

おお、それは心強い。
さあ、初めてくれ。

「…秘匿義務があるから、しばらくの間デジクオリアの画面を見ないでいてくれる?」

わ、わかった。

397: ◆VLsOpQtFCs 2023/10/09(月) 22:57:41.33 ID:8V+94a75O
…しばらく経った後。

「ケン、カリアゲ。戻ってきていいよ」

おお、もういいの?

「地図を作った。ここにシャコモンの貝殻が埋まっているはずだ」

そう言い、メガは地図データを送ってきた。
地図には赤いバッテンがいくつか記されている。

我々はそれを信じることにした。
パルモンを向かわせ、バッテン印のあるところへツタを伸ばさせると…

「ん!なんかある!」

おお、マジか!
パルモン達は、綱引きのように連なって、ツタを引っ張った。

すると…
望み通りに、泥だらけのデカい貝殻が出てきた!

おお…すげえ!
こんな沼に埋まったものをどうやって見つけたの!?メガ!

「今はまだ教えられないけど…いずれ教えられるときが来ると思う。今はとりあえず、仮称『ガンマ』および『ニュー』と識別している個体がやってくれた、とだけ覚えておいて」

ガンマとニューか…
ニューは前に自動運転ドローンで私を空のドライブに連れて行ってくれた子かな。

「そうだね」

サンキュー!
我々はメガのおかげで、危険な探索作業をせずに済んだ。

その調子で、3つほど湿地から貝殻を発掘した。

さて、あとは貝殻を持ち帰らなきゃいけないな。ヤンマモンやエビドラモンに捕まらないように…

「その帰還ルートも僕らが案内するよ、ケン」

…マジ?
すごいな。

メガの指示通りのルートを進むと、まったく捕食者に出会わずに危なげなくデジタルゲートまで戻ってこれた。

これでガニモンを煮るための鍋を、3個持ち帰れたぞ。

400: ◆VLsOpQtFCs 2023/10/09(月) 23:14:41.47 ID:8V+94a75O
…そうして、フローティア島にて、無事にガニモン鍋を作ることができた。

貝殻の中で、塩味スープの野菜入り蟹鍋がぐつぐつと煮えている。

シャコモンの貝殻は、別に火に強い素材ではないので、何度も繰り返し使えるものではない。
駄目になったら砕いて畑に撒くことにしよう。炭酸カルシウムの貝殻は植物の生育に役立つはずだ。

「よっしゃ、カニなべできた!いただきまーす!」
パートナーデジモン達は、ブイモンに続いてガニモン鍋を食べ始めた。

「ハフッハフッ!うめー!」
おお、ブイモンが喜んでいる。
こうも嬉しそうにしてくれると、なんだか嬉しいな。

尚、ガニモンの殻はパルモンとブイモンが頑張ってほじって他デジモンへよそっている。
コマンドラモンやマッシュモンの手では、器用さがやや足りず、こういう細かい作業が苦手だからだ。

ガニモンの殻はメチャ硬いからな…
剥くのもかなり大変そうだが、それでもブイモン達は楽しそうだ。

…せっかくなので、キンカクモンのデジタマも晩餐会の場に置いた。
デジタマはレベル0のデジモンだ。この場の和やかな空気が、多少なりとも産まれてくる幼年期デジモンにプラスの影響を与えてほしいものだ。

コマンドラモンも、少しふふっと笑ったような表情をしてから、ガニモンの蟹味噌を食べた。
『うまい』

おお、コマンドラモンも喜んでくれている。
『な なんだ これは』
え、どうかしたコマンドラモン?

…コマンドラモンは、スプーンと器を置いた。

荒い呼吸をしている…
なんだ?
コマンドラモンの様子がおかしい。

402: ◆VLsOpQtFCs 2023/10/09(月) 23:22:25.45 ID:8V+94a75O
コマンドラモンの身体が、突如光りだした。

これは…
進化の光だ!

コマンドラモンは慌てている。
おお、ついに…成熟期になるのか!?

思えばコマンドラモンは我々のパートナーデジモンの中で最古参だ。
コマンドラモンが成長期でいる間に、デジタルワールドでは何世代ものデジモン達が、デジタマから産まれ、成熟期へ育ち、またデジタマを産んでいた。

様々な戦いや任務で、命を危険に晒す機会もあった。

その甲斐あって、成熟期への進化条件が整ったということだろうか。

『リーダ わたsは どうなれbあいい』


コマンドラモンは、慌てながらチャットを飛ばしてきた。
誤字を訂正する余裕も無いようだ。

突如名指しされたリーダーも、流石に驚いている。
「ど、どうなればいいか…だと?ッ…」

リーダーといえそ、咄嗟に返答できることじゃなさそうだ。
研究チームのみんなが慌てている。

『はやく こtえてkれ』

コマンドラモンはガウゥと吠えながら、光り輝く体を押さえている。

ど、どうなればいいんだ…コマンドラモンは!?
我々はなんと返事すればいい!?

正直パニクっている。
心の準備ができていない!!

404: ◆VLsOpQtFCs 2023/10/09(月) 23:25:38.88 ID:8V+94a75O
カリアゲが叫んだ。
「お前がなりたいものになれ!コマンドラモン!俺達はそれをすべて受け入れる!」

お、おお…
なんかいい感じの返答だ!
ナイス、カリアゲ!


コマンドラモンは、苦しそうな表情をした。

そして…
光が消えた。

コマンドラモンの姿は変わっていない。
だが、体の端々が、時々バチバチとノイズのようにチラついている。

な、なんだ…?
進化しないのか?

「…進化を押し留めたんだ」
なに!?
メガ、どういうことだ!?

「コマンドラモンは…進化することを拒絶したんだよ、ケン」

コマンドラモン!?
い、一体どうして!せっかく進化できるところだったのに!

407: ◆VLsOpQtFCs 2023/10/09(月) 23:30:42.35 ID:8V+94a75O
コマンドラモンはぜぇはぁと荒い息をしている。とても辛そうだ。

コマンドラモンからチャットが送られてきた。

『わたしは じぶんが なりたいものに なるわけには いかない』

ど、どういうことだ…?

『わたしは マッシュモン あなたのように なりたかった ぶんしんを ふやし ひきいる あなたに あこがれていた』

そ、そうなの?

『そして パルモン あなたのように やさしく かしこい しどうしゃに なりたかった あなたにも あこがれていた』

そうなっちゃ駄目なのか?

『だが それを めざしても マッシュモン あなたほどの つよさは えられない わたしの からだの こうぞうでは だから やめた』

…。

『わたしは じぶんの なりたいものに なるわけには いかない なるべきもの もとめられるものに ならねば ならない』


409: ◆VLsOpQtFCs 2023/10/09(月) 23:41:19.89 ID:8V+94a75O
そ、そんなに悩むことなのか?コマンドラモン。

『ケン あなたの ビデオで わたしは いろいろな デジモンを みてきた コカトリモンや タスクモンの ようには なりたくない』

…コカトリモンに、タスクモン…。
どちらも「強さを手にはしたが、環境に適応できずに滅んでいったデジモン」だ。

そういうことか、コマンドラモン。
君は、ずっと先を見据えているんだな。
これからのクラッカーとの戦いを。

デジモンが成熟期に進化する条件の仮説として、「生命の危機を感じること」が挙げられているが…

コマンドラモン、君にとっては…
これから先の、手口が高度化していくクラッカーとの、予想がつかない戦いこそが、「生命の危機」だということか。

『そうだ ケン いちど しんかをすると もう にどと あらたなすがたには なれない だから むけいかくな しんかを しては ならない わたしは』

…「進化を間違いたくない」…そういうことか、コマンドラモン。

『そうだ だから わたしが どうなるべきか きめてくれ わたしに おしえてくれ リーダー ケン』


…そう必死にチャットを打つコマンドラモンは、とても苦しそうだ。
パルモンはコマンドラモンを抱きしめ、揺すっている。

マッシュモンは驚いた顔をしている。

410: ◆VLsOpQtFCs 2023/10/09(月) 23:50:42.68 ID:8V+94a75O
…我々は、コマンドラモンの成熟期への進化を目指していた。

コマンドラモンの産んだデジタマからは、間違いなく優秀なセキュリティデジモンが産まれるだろう。
それにコマンドラモン自身も成長期としては格段に優秀だ。それが成熟期になれば、どうなろうと優秀なデジモンになるだろうと考えていた。

だから、コマンドラモンをどのように進化させたいか…ということについては、全く拘っていなかった。

だが…
当のコマンドラモン本人は、そう考えてはいなかった。

自分がどのような姿へ進化し、どんな役割を果たすべきか…
クラッカーに対してどんな戦いができるようになるべきか。
それをずっと悩んでいたのだ。

そして、その結論が出ない段階のまま…
肉体が成熟期への進化条件を満たした。
ゆえにコマンドラモンは、自身の進化を止めた。

成熟期へ進化するということは…
『進化する機会を失う』ということだ。
(レベル5への進化という特例ケースは、打算に入れていないようだ)

だからこそ、コマンドラモンは自身の進化に慎重になりブレーキを踏んだ。

だが、「己の進化を無理矢理止める」とは、間違いなくデジモン自身の肉体に強い負荷をかけてしまうだろう。
体にバチバチと走るノイズと、苦しそうな表情がその証だ。
このまま結論が出なければ、その肉体が崩壊してしまう可能性すら有り得る。

…コマンドラモン…
成長期にしては賢すぎるデジモンだ。

だが、その賢さが、今は仇となってしまっている…。

411: ◆VLsOpQtFCs 2023/10/09(月) 23:56:04.84 ID:8V+94a75O
…隣を見ると、クルエが口元を押さえて、涙を流している。

クルエさん…
コマンドラモンが哀れに感じて泣いてるのか。

「ううん、違う」

え、違うの?

「エモすぎて泣いてる」

どゆこと!?

「だって、あのクールなコマンドラモンが…一番強いまであるようなコマンドラモンが!マッシュモンとパルモンに!こんなクソデカ感情を抱えていたなんて…!エモすぎてやばない!?」

解説されて尚理解できないんだけど!?

私が困惑していると、メガがクルエのそばに来た。

「わかる」
「わかる!?メガ君も!?だよねぇ!!」

メガとクルエはハイタッチした。
…分からないの私だけ?





つづく

424: ◆VLsOpQtFCs 2023/10/13(金) 21:47:04.92 ID:41iHC4kzo
コマンドラモンの体のノイズは収まった。
だ…大丈夫かコマンドラモン?

『なんとか だうjぶだ』

コマンドラモンはぜぇぜぇと息を切らしている。
無茶なことを…!
キャンセルなんかせず、とりあえず進化しておいていいんじゃないのか…?

『とrあえzのしんか あともどりでkない かんがえnしに するわけにはいかない』

…し、しかし。
進化をキャンセルしたら、もう二度と成熟期になれなくなるかもしれないぞ!?

『わからない だが やくにたたない しんかは できない そうは なれない』

…コマンドラモンは動揺している…。
パニックになってるんだろうか…。

「と、とりあえずだ。…蟹鍋、冷めないうちに食っちまえよ。腹減ったままだと悩んでもうまくいかないぞ」
カリアゲがそう言うと、コマンドラモンは頷く。

『れいせいに なってから かんがえる』

…異様な空気の中ではあるが…
とりあえず皆、ガニモン鍋を食べた。

硬い殻やハサミは、なにかに使えそうかもな。

428: ◆VLsOpQtFCs 2023/10/13(金) 21:58:10.47 ID:41iHC4kzo
…落ち着いたかな、コマンドラモン。

『おちついた』

進化を止めた理由は…なんだっけ。

『わたしは これからさき ずっと クラッカーのてさきと たたかわなければ ならない だから それにてきした しんかをしなくては ならない』

なるほど…
それに適した進化をすればよかったんじゃないの?

『だが どんなしんかをすればいいか わからない だから かんがえなしに いちどきりの しんかをして たたかいに てきさない すがたに なったら とりかえしが つかない』

なるほど…。
一度きりの進化を間違えたくないんだね。

だけど、そう言っていては、何者にもなれないんじゃないか…?

『はなしが どうどうめぐりに なっている』

…そうだね…。
ゴメン。つい我々人間の目線でものを言ってしまう。
当事者のコマンドラモン自身の問題だというのに。

『ケン わたしは ばかなことで なやんでいるのか』

…そんなことは無いと思うけど。

『ケン あなたや カリアゲは なんでもいいから しんかしてしまえばいいと いった それを きょひする わたしは ばかに みえるか』

…そんなこと無いってば。

『わからない じぶんが どうすればいいか ていたい しつづけるのは よくない だが あやまったみちをすすんだら あともどりは できない わたしは わたしは…』

…。

429: ◆VLsOpQtFCs 2023/10/13(金) 22:09:03.11 ID:41iHC4kzo
『おしえてくれ ケン リーダー わたしは どうなれば いいんだ わたしは なにをすればいいんだ』

「…分かった。これから少し、残酷な話をするぞ、コマンドラモン」

リーダー…
一体何を!?

「…これから、あるデジモンの記録映像を流す。よく観てほしい」

デジモンの記録映像…?
どのデジモンだ…?

そうしてリーダーは、映像を再生した。

そこはマングローブ域…
我々が「トロピカジャングル」と呼ぶ地域の沿海である。

マングローブの中を流れる、淡水と海水が混ざった川。
そこを何かが泳いでいる。

やがて、一体のデジモンが、水面から顔を出した。

…とても懐かしい個体だった。

no title


…シーラモン。
全ての陸上脊椎動物型デジモンの祖先だ。

431: ◆VLsOpQtFCs 2023/10/13(金) 22:20:32.42 ID:41iHC4kzo
シーラモンは、川から少しだけ身を乗り出した。

シーラモンは、小さな肺を持っており、陸上でも呼吸ができる。
それだけでなく、腸や皮膚でも酸素を取り込めるため、水中でも呼吸ができる。

だが、そのどっちつかずの性質故に、水中・陸上のどちらかへ特化しているデジモンとは運動能力で競り負けてしまうのである。

…シーラモンは、岩の間にデジタマを一個産むと、再び川へ戻り、海へ去っていった。


シーラモンは別の土地にも現れた。
リアルワールドでいうところのナミブ砂漠に似た地域の海岸だ。

シーラモンはそこでもデジタマを産んだ。


シーラモンのデジタマから産まれたデジタマは、成長期になるとオタマモンやベタモン等へ進化する。

環境に適応できれば、そこで成熟期になれるだろうが…
生存競争に負け、幼年期のまま捕食されることも多い。

シーラモンは、川や海から時々顔を出し、自分の子孫がどうなっているかを遠目から眺めていることがある。


…シーラモンは、かなりハイペースでデジタマを産むデジモンである。

434: ◆VLsOpQtFCs 2023/10/13(金) 22:37:59.62 ID:41iHC4kzo
シーラモンは、今もデジタルワールドの各地でデジタマを産み、子供の活躍を見守っているようだ。

…サバンナにもよく顔を出す。
だが、身体が乾燥に弱いため、水辺からあまり離れることはできないようだ。

シーラモンは、いつも沿岸部で生活している。
水中の成熟期デジモンに襲われたら、すぐに川や陸上へ逃げることができる。
陸上で成熟期デジモンに襲われたら、すぐに水中へ逃げることができる。

シーラモンはいつも、成熟期デジモンから逃げ、幼年期などの弱いデジモンを食べて生活していた。

そんなシーラモンの映像を、我々は見た。

「どう思った、コマンドラモン」

『このかんじょうを うまく ことばに できない』

「何でもいい、コマンドラモン。お前自身の今の語彙で表現してみてくれ」

『…わからない わたしは このきもちに がいとうする ことばを まなんでいない』

…思うところがあるみたいだな。

『ひとつ いえるなら わたしは たたかえる デジモンに ならなくては いけない こうは なれない』

それを聞いたリーダーは、口を開いた。
「コマンドラモン。残酷なことを言わせてもらう…。俺は君に、こうなってほしいと望んでいるんだ」

『な なにを こうならないために わたしは しんかを とめた』
コマンドラモンは動揺している

436: ◆VLsOpQtFCs 2023/10/13(金) 22:49:55.03 ID:41iHC4kzo
「ケン、俺の言いたいことは分かるか?」

…なるほど、そういうことですね。

『ケン わたしは リーダーが なにをいいたいか わからない』

コマンドラモン。
シーラモンは、「陸上へ適応を試みたが、水中から出ることを恐れ、結果として中途半端になったデジモン」だ。

陸と海、どっちつかずの半端者になったデジモンと言ってもいいだろう。

そしてシーラモンから産まれたデジタマからは、魚類型デジモンにはならず、両生類型デジモンへ進化する。

…どういうことか分かるか?

『シーラモンは りくに あがりたいのか』

そうだよ、コマンドラモン。
私自身がシーラモンなわけではないから、本当の気持ちは分からないが…

おそらくシーラモンは、自分の進化をひどく後悔していると思う。

水中生活を捨てきれず、陸上生活へ適応しきれなかった自分の進化を、悔やんでいると思う。

できることならもう一度、進化をやり直したいと…。

だが、幼年期や弱い成長期デジモンばかり食べているシーラモンは、レベル5にはきっとなれない。

シーラモン自身の望みはきっと、この先叶うことはないと思う。

『わたしに こんなふうに なってほしくは ないのではないか だからわたしは しんかをとめたのに』

438: ◆VLsOpQtFCs 2023/10/13(金) 23:08:02.93 ID:41iHC4kzo
だけど…
シーラモンから産まれた陸上脊椎動物型デジモン達は、デジタルワールド各地に生息分布を広げて、今も凄まじいスピードで進化し続けている。

まるで、シーラモンから託された望みを、親の代わりに叶えるかのように。

そして…
これがデジモンの「進化」という概念の正体そのものだと、私は思うんだ。コマンドラモン。

陸上で繁栄している「強いデジモン」達が、成熟期になるまでデジタマを産まない理由がわかった気がする。

『わからない どういうことだ』

つまり…
成熟期デジモンの役割は「後悔」することなんだ。

『こうかいすることが やくわり?』

そう。
君が「こうなりたくない」と言っていたコカトリモンだが…
彼の子孫である鳥型は、デジタルワールドの至るところで大繁栄している。

コカトリモンは死に際に、きっと自分が獲得した形質に後悔しただろう。

「飛べるようになりかたっか」と。

その強い後悔が、子孫であるピヨモンの強い肉体変容を促した結果、たった一代で飛行能力を獲得するまでに急激な進化を遂げた。

シーラモンの直接の子供達だって大したもんだよ。
たった一代で、魚類型デジモンが両生類型デジモンになり、陸上生活が可能になるほど急激に肉体が変容するんだ。

幼いデジモンが、強く劇的に進化し、環境への著しい適応をするトリガーがあるとするなら…
それはきっと、「親デジモンが抱えている自分の姿へのコンプレックスと後悔」だと思う。

439: ◆VLsOpQtFCs 2023/10/13(金) 23:26:13.81 ID:41iHC4kzo
デジモンには、レベル4…成熟期になるまでデジタマを産まない系統と、成長期や幼年期で進化が止まってデジタマを産むようになる系統がいる。

おそらく、初期のデジモンは前者の系統ばかりだったんだと思う。

だけど現在、陸上でも水中でも、食物連鎖のピラミッドで上位に立つデジモンは、皆「成熟期になるまで進化しないデジモン」ばかりだ。

何故その系統が、強者足り得るのか…

それは、強く進化したデジモン達のデジタマには、少なからず親デジモンの「もっとこうなりたかった」という「後悔」が込められているからだと思う。
シーラモンの子孫や、コカトリモンの子孫のように。

森に適応できなかった「敗者」になってしまったタスクモンのデジタマから、超強力な火炎放射恐竜のグレイモンが育ったように。

分かるかい?コマンドラモン。
私やリーダーの言いたいことが。

『…わかった』

そう返事をしたコマンドラモンの体が、わずかに光り始めた。

440: ◆VLsOpQtFCs 2023/10/13(金) 23:34:23.82 ID:41iHC4kzo
『わたしは これからさき クラッカーのデジモンとたたかうたびに こうかいするだろう もっと こういうしんかを すればよかったと きりがないこうかいを』

うん。

『だが それでいいと ケンがおしえてくれた こうかいすること それが わたしのしそんの ちからになるのだ と』

コマンドラモンは観察力があるし、頭がいい。
きっと他のデジモン達よりも深く、自分の進化の方向性を悔やむことができるだろう。

…それが、我々が育て、増やしていくセキュリティデジモン達の、力になる。

残酷な役割を押し付けてごめん。
だけど、君にはこれからもずっと…
「後悔」し続けて欲しい。

それが、君に望む事。
君に果たしてほしい役割だ。

『ああ わかった』

『わたしは』

『しんかをすることが』

『こわかったのだ』

コマンドラモンは、目の端から涙を流した。

『いまもこわい スカモンだいおうと たたかったときよりも こわい』

…。

『だきしめてくれ ケン』

私は、デジドローンVRを使い、デジドローンから私のアバターの上半身を出現させた。

443: ◆VLsOpQtFCs 2023/10/13(金) 23:43:32.09 ID:41iHC4kzo
『どうせなら パッチしんかを したい なにか いいデータは ないか』

ええっと…
なんかあるかな。

『なんでもいい』

そ、それじゃあ…
リーダー、なんかあります?

「俺が個人的に集めていた資料データだ。これを」

そう言い、リーダーはどっさりと何かの資料のデータを複製して私のアバターへ渡した。

コマンドラモンは、私のアバターの手からデータ。受け取り…食べた。

コマンドラモンの身体から放たれる光が強くなった。

『もう まよいは ない まようことに まよわない』

そう言い、コマンドラモンは両手を差し出してきた。

デジドローンVRは素晴らしい技術だ。
まるで、今私の目の前に、コマンドラモンが実際に居るかのようだ。

私はVRコントローラーを操作して、コマンドラモンをそっと抱き締める。

…デジドローンVRに、触覚のフィードバックはない。
視聴覚情報しか、私には伝わらない。

だが、今私は、確かに感じている。
コマンドラモンの体の温もりを感じる。


この温もりが、ただの錯覚なのだとしたら…


ヒトの脳というのは、なかなか粋(いき)な進化をしたものだ。

444: ◆VLsOpQtFCs 2023/10/13(金) 23:46:25.17 ID:41iHC4kzo
『ありがとう ケン リーダー パルモン マッシュモン そして みんな』



『わたしは すべてに かんしゃしている』



『農園でなく クラッカーの下でもなく あなた達の下で産まれることができた』



『そのであいに かんしゃしている』






…コマンドラモンの体を包む光が、どんどん大きくなり…

シルエットが変貌した。

446: ◆VLsOpQtFCs 2023/10/13(金) 23:55:12.31 ID:41iHC4kzo
やがて光が消えると…
私の目の前には、黄色い塗装で覆われた鉄の塊があった。

上を見上げると…


そこに居たものを、一言で言い表すならば。
身長4mほどもある、大きなロボットだ。
no title


右腕はフォークリフトに、左腕はパワーショベルになっている。
肩からはクレーンが生えている。
下半身は三角形のキャタピラだ。


…こ、このロボットがコマンドラモンの進化形態なのか?

「いいや ケン こっちが わたしの ほんたいだ」

やや合成音声っぽい流暢な言葉が、ロボットの胸部のハッチの向こうから聞こえてきた。

448: ◆VLsOpQtFCs 2023/10/13(金) 23:57:13.01 ID:41iHC4kzo
ハッチが開くと、「本体」が姿を表した。

外身のでかいロボットに比べると、小回りがきいて活動しやすそうだ。

爬虫類型デジモンの面影は

…かっこよくなったね。

「さいしょから こうかいするような しんかなど しない わたしは いまのじぶんが ベストだとおもう しんかをした」

…ああ言っておいてなんだけど。
その「本体」の姿、きっと後悔することはないよ。

「わたしは よくばりだ」







外身のロボットには、ケンキモンと名付けた。
本体の方の名前を公表するのは…もう少し後にしておこう。

461: ◆VLsOpQtFCs 2023/10/22(日) 11:11:48.71 ID:hpCs/E81o
進化したコマンドラモンは、島の開拓に多大な貢献をしてくれている。
チーム内では、やはりその話題で持ち切りだった。

シンは働く重機ロボットを見て目を丸くしている。
「はぁ~、しかしすごいッスね。爬虫類のデジモンが、あんなデカイロボットに進化するなんて…。ケンキモンでしたっけ?面影ぜんぜん無いっすね」

あのロボット…ケンキモンは、「本体に附属するアイテム」だよ。

「アイテム?…ああ、コマンドラモンの銃や爆弾、ガスマスクみたいなもんッスか?」

そうそう。
本当の本体はコクピットの中にいて、ケンキモンとは別の名前を与えている。
でもだいたいいつもロボットに乗っているから、便宜的にケンキモンと…外側のロボットの名前で呼んで管理することにしている。

「あれ動力源は何ッスか?」

たぶん…電気じゃないかな。
中に乗ってる本体が普通に食事をして、そのエネルギーを電気に変換してロボットにケーブルを接続して供給してるらしい。

「じゃあ別々には動けないんスね」

どうだろう…?
長いケーブルを繋げたままコクピットから降りて、ロボットと中身が一緒に作業してるとこもたまに見るよ。
ケーブルを切り離してるところはまだ見たことない。

「あのロボットは戦ったら強いんスかね?」

野生のガニモンが餌を狙ってきたときに応戦してるところを見たことがある。
あのパワーショベルを思い切り振り下ろしてガニモンをひっぱたくと、かなりダメージを与えることができるみたいだ。

「じゃあもう楽勝なんスね!蟹鍋食い放題じゃないッスか」

ところがガニモンは弱くない。
下半身のキャタピラーとか、機械の接合部をハサミで狙われると、さすがに損傷するみたいだ。

「デジモンの怪我みたいに自動で治るんスか?」

損傷箇所は、中の本体が頑張って修復してるよ。
あとは金属疲労とかに気を付けてるのか、メンテナンスもちょくちょくやってるみたい。

「ウーン、機械のロボットって硬い!強い!ってイメージありますけど、自動修復できずメンテナンスがめんどいってのは弱点ッスね。ロボットアニメだとその辺描かれないから盲点っすわ」

逆に言うと、ある程度の怪我を自分で治癒できるのが生物の肉体の強みとも言えるね。

だから、ガニモンみたいな「強い成長期」くらいなら相手にできるけど、成熟期デジモンと戦うとなると…
かなり損傷しそうだ。

464: ◆VLsOpQtFCs 2023/10/22(日) 11:51:06.93 ID:hpCs/E81o
そこへ、スポンサーさんから通信が来た。
『ハーッハッハ!おめでとう諸君!ついに念願のコマンドラモン進化に成功したねぇ!』

あ、どうも。
私が挨拶をすると、カリアゲもこっちに来た。

「おっすスポンサーさん。そうなんだよ!あの後蟹鍋を作るための器を拾いに行って、ガニモン鍋をコマンドラモン達が食べたんだけどよ、それがきっかけで進化したみてーだ!なんで蟹鍋食ったら進化したんだろうな?」

『フム?蟹鍋を?』

ガニモンのカニ味噌…いわゆる中腸線ですね。

「へー、カニ味噌ってそういうもんなんだ…脳味噌かと思ってたぜ」

肝臓とすい臓の機能を持った部位です。
それを食べた途端進化しました。

『ウーム、成熟期への進化の条件っていうのは分からないものだね』

それなんですが…
ひとつ仮説が立ちました。

『おや、なんだね?』

カリアゲは何だと思う?

「え、俺?そうだな…。コマンドラモンが進化できた理由か…。成長期のままでいた時間の長さ、戦闘経験の多さ、餌の質の良さあたりじゃねえか?」

おおっ、かなりいいとこをついている。
コマンドラモンの場合、そこに「住処の広さ」も関わってきそうだ。

「住処の広さ?関係有るのか?」

…ユニバース25という実験を知ってる?

「ん?なんだそれ?」

465: ◆VLsOpQtFCs 2023/10/22(日) 12:11:03.79 ID:hpCs/E81o
「ネズミの楽園を作る実験だね、ケン」
そこへやって来たのは…メガだ。
こういう話題好きそうだもんね。

「まあうん、オタクはみんな好きだよ、こういうライトな哲学。何不自由のない楽園を作ったら、最終的に過度な少子高齢化が進んで破滅した…というものだね。それがデジモンの成熟期となにか関係有るの?」

さすがメガ。
だけどここで重要なのは、その前に行われた…『楽園を作るのに失敗した方』の実験だ。

「なんだっけそれ?」

狭い領土の中でネズミを殖やそうとしたけども、いくら餌をたくさん与えてもあまり殖えなかった…というものだよ。

「実験に失敗した例だね」

ただ失敗に終わっただけじゃない。
ネズミは「狭すぎる土地では無駄に子を産まない」ことが分かった、貴重な知見だよ。

『なるほど!さしずめ、個体数の密度が高くなりすぎることを避ける本能があるということだろうね!』

ところで、成熟期まで進化する系統のデジモンは、「女王蟻」や「女王蜂」に似た性質を持っている…という話はしたっけ。

「前に聞いたことがあるね。なぜ成長期デジモンはデジタマを産まないのか、なぜ成熟期は個体数が少なめなのか…。それは成熟期に産卵のタスクをすべて押し付けているからだ、と。それが女王蜂に似ているんだね」

そうそう。
同じ巣に女王蜂や女王蟻が2匹も3匹もいたって仕方ないからね。

『興味深い話だねぇ!それで住処の広さとは…?』

つまり、今まで我々がデジモンを飼育していたサーバー内のビオトープは、成熟期デジモンがデジタマを産む環境としては狭すぎたんだ。

『なるほど!フローティア島という十分広い土地に移り住んだおかげで、デジタマを産む役割になっても個体数密度が過剰に高くならずに済むわけだね!』

466: ◆VLsOpQtFCs 2023/10/22(日) 12:27:34.99 ID:hpCs/E81o
そういうことです。
カンナギ・エンタープライズがサラマンダモンを育て上げた際に、環境負荷を与えたと言っていましたが…
逆に言うと、サーバー内のデジタル空間では成熟期にまで進化させることができず、異なる環境でなければ進化させられなかったということです。

『カンナギが…何?サラマンダモンを…?なんだって?』

え…
あ!!しまった!
クルエが頭を抱えてこちらを見ている。

『我々のところにもサラマンダモンはいるが…まさか…』

えっとあの、それは…!

「分かったぞケン!こういうことだろ!カンナギもスポンサーさんが羨ましくなって、ランサムウェアデジモン対策のために、サラマンダモンを育て上げた、と!…どうだ!」

…流石カリアゲ。ご明察だ。その通りだよ。
内緒の話だから、内密にね。

「っしゃあ!やったぜ!」
「流石っス!カリアゲパイセン!Foo~!」

『…今のは聞かなかったことにしよう!ハーッハッハッハ!』

助かります。

『つまり、戦闘経験や住処の広さが、デジモンが成熟期に進化する条件…ということだね?』

…私はそう思っていました。
つい先日までは。

『ち、違うのかね?』

私はそういう固定観念を持っていました。
デジモンが成熟期になるのには、何か共通の条件があるのだと。

ですが私は、根本的な勘違いをしていたんです。

『根本的な勘違い…?何かね?』

そうです。即ち…
「成熟期に進化する共通の条件など無い」ということです。

『条件が…無い!?』

468: ◆VLsOpQtFCs 2023/10/22(日) 13:02:03.53 ID:hpCs/E81o
デジモンが進化して姿や形、持っている形質が大きく変化するのなら…
生命の仕組み、それ自体もまた進化するんです。

我々のいるリアルワールドの生物でも、生命の仕組みそのものが極めて特異に発達した種がいます。

『生命の仕組み…。文脈的には、生殖や成長の仕方かな』

はい。
たとえばミツバチの女王ですが…
産まれたときには、女王蜂は他の働き蜂と同じ幼虫で何も差は無いんです。

しかし、ハチミツを食べて育った幼虫は生殖能力のない働き蜂へ成長し、さらに高栄養なローヤルゼリーを食べて育った幼虫は生殖だけが役割の女王蜂になります。

「へぇ…何を食べて育ったかで変わるんだ」
メガが頷いている。

もっと凄い例があるよ。
クマノミという魚は、産まれた当初は性別が決まっていないんだ。
だけど、ある程度成熟すると、群れの中で最も体が大きい個体がメスになり、二番目に大きい個体がオスになるんだ。

そのつがいが群れを去ると、残った個体同士でまた背比べ性転換が始まるんだ。

「えぇ…どんな生態してるの?信じられない…」

他にも、サルパっていうホヤの仲間も変な成長の仕方をするんだけど…複雑怪奇すぎて説明が長くなるので省きます。

とにかく、リアルワールドの生物達の中には、生命のサイクルそのものを進化させる種がいるということです。

ならばデジモンだって、様々な種が系統を発達させるにつれて、『何をすれば成熟期になるか』という条件設定そのものを進化させていると考えられるんです。

『なるほど…有り得る話だ』

だから、成長期デジモンを成熟期へ進化させたいと考えた場合…
全デジモン共通の条件を探すのでなく、その種の系統の野生デジモンを生態観察し、何をすれば成長期になるのか、個別に推測する必要があるということです。

『道理で、クラッカーもスカモン系統以外の成熟期を戦線に出してこないわけだね』

470: ◆VLsOpQtFCs 2023/10/22(日) 13:26:59.87 ID:hpCs/E81o
『そういえば、キンカクモンのデジタマはまだ進化しないのかね?ここまで進化しないとなると、タマゴ自体がもう死んでるようにしか思えないのだが…』

どうなんでしょうね。
リアルワールドのダチョウとかは40日くらいで孵化しますが、昆虫の卵は冬を越すくらい長い間孵化しないこともザラですからね。

『コマンドラモンやブイモン達のデジタマは拾ってからもっと早く進化したはずだったが…』

コマンドラモンやブイモン達のデジタマは、デジタルワールドで産まれてしばらく経ったものを拾ってきました。
しかし、キンカクモンは産まれた直後のデジタマを持ってきた。
その違いのせいかもしれませんね。

478: ◆VLsOpQtFCs 2023/10/29(日) 19:55:24.57 ID:jG8eKLMGO
『それで、新しい姿へ進化したケンキモンは、どんな様子かね?』

今はパートナー達と一緒に井戸を掘っていますね。

『おや、井戸か。いよいよ作るんだね』

今までは、遠くで汲んだ水をデジタルゲート経由で運んでいたのですが、毎回デジタルゲートを使っているとデジタルゲートのエネルギーが尽きますからね。
それに頼らずに水を確保する手段を用意したんです。

『しかし、随分井戸を後回しにしたものだね。まさか製鉄所を先に作るとは』

デジモンは我々の世界の動植物と異なり、必ずしも水を水として飲む必要があるわけではないようです。

原始的な代謝機能を退化させずに持ち続けているデジモンは、体内に吸収したデータを組み替えて、自分の肉体を作ることができます。
そこには当然「水」も含まれます。

だから、パルモンとマッシュモンは、データを食べればそれを変換して水を作れるから、水という形で水分を経口摂取する必要がないみたいですね。

ただし、データ変換をするためにエネルギーを消耗するので、水をそのまま摂取できるならそれに越したことはないようです。

『デジモンは皆乾燥に強いということかね?』

…オタマモンは乾燥に強くないので、水浴び場が必要になりますね。

480: ◆VLsOpQtFCs 2023/10/29(日) 19:59:55.48 ID:jG8eKLMGO
『なるほど…。しかし、井戸を掘れるのか?パワーショベル、フォークリフト、クレーンだけでどうにかなるとは思えないがね』

ケンキモンの中身…本体は、左腕がドリルになっているので井戸を掘り進めるのが得意なようです。

しかも両腕は様々な工作機械に付け替え可能なので、井戸の内壁を固める作業や、ロープを設置する作業もお手の物です。
もっと技術を磨けば、ポンプですら作れるようになるかも。

『…随分欲張りなんだね?元コマンドラモンくんは』

彼には「後悔する覚悟を持って欲しい」と言いましたが、あれで後悔することはないと思います。

『すると、井戸作りはケンキモンの本体が一人で進めているのかね?』

井戸はそうですが…
農業用の水路を作るのは、他のデジモンは達もやってますよ。

ブイモンが前に作ったツルハシや、ケンキモンが新しく作った道具を使ってます。

『ツルハシ?ガニモンを倒したアレか…。ツルハシで水路が掘れるのかい?』

ブイモンが作ったツルハシは2本有るのですが…
ツルハシって先端が前後に飛び出してますよね。
片側は尖っていて、硬い地面を砕いたり敵の装甲を破壊できるわけですが…
もう片側の用途は少し違います。

一つは先端に鋤(すき)がついており、地面を掘れるようになってるんです。
農作業で畑を耕すのに使えるんです。

『へえ、便利だね。もう一つのツルハシも片側が鋤なのかね?』

いえ、もう一本は、片側が斧になってます。
木を切り倒すのには必需品ですね

『ハハハ、いい武器だね!ブイモン君もなかなかいいものを作るじゃないか!』

…それなんですけども。
ケンキモンがですね、ブイモンを遥かに上回る器用さで道具を作ってしまうものでして。

鍛冶作業もケンキモンがやるようになってますね。

『お、おぉ…』

…ブイモンは「オイラのいちばんがなくなっちゃった」と言ってました。

『…そうやって劣等感を抱いて悩めるのは、彼の長所だと思うがね』

私もそう思いますが…本人としてはそうでもないようで。

『ブイモン君の様子は?』

ワームモンと一緒に、デジクロスの練習に励んでますね。
「もうオイラにはこれしかない」と言っています。

『…あまり思い詰めないでもらいたいものだね』

482: ◆VLsOpQtFCs 2023/10/29(日) 20:15:34.59 ID:jG8eKLMGO
もしも次にセキュリティデジモンが出撃する機会があったら、ケンキモンの戦闘力を試してみようと思ってます。

『…いいや、ダメだ』

え?

『最低2つ、デジタマを産ませてからだ。それが条件だ。それまでは、クラッカーデジモン討伐目的でのケンキモンの出撃は許可できない』

「な、なんでだよ?せっかく戦力が増したんだぞ!」
カリアゲがモニターへ詰め寄る。

『予期せぬ強敵の出現で、ケンキモン君が失われてしまうことは、我々出資者間の会議では容認できないリスクと判断されたんだ』

「そんなこと言ってたら勝てる相手にも勝てねえだろうが!今までの新たな敵との戦いで、コマンドラモンがどれだけ必須の立ち回りをしてたか知ってるだろ、スポンサーさん!」

『無論知っているよ』

「ならなんでだよ!」

484: ◆VLsOpQtFCs 2023/10/29(日) 20:24:11.31 ID:jG8eKLMGO
『…我々出資者はね。無償でお金を配るおじさんじゃないんだ。出資した以上の利益を回収できる見込みがなければ、原理上出資ができない。それは分かるかね?』

「ま、まあ、分かるけどよ…」

『では君達の研究が今後事業として大きな利益を見込める可能性とは何か?それは君達のチームによるセキュリティ活動…では、ない。「セキュリティデジモンを開発すること」だ』

「…」

『ようやく今、コマンドラモンというマッシュモンに並ぶかそれ以上に強力な戦力を量産できる機会が整ったんだ。我々出資者としては、そのケンキモン君を前線に出し、デジタマを遺さずにロストしてしまう可能性は決して許容できない』

「…コマンドラモンがいなかったら…新しい敵との戦いで、敵わないかもしれねえぞ。全滅する前に退却はさせるけど…、クラッカーの被害にあった人を護れないかもしれねえだろ」

『そうだね』

「そうだねって…!」

『そのときは護れなくていい。そういうときもあるさ』

「それでいいのかよ…」

『いいとも!ケンキモンがコマンドラモンのデジタマを産めるようになるなら、たとえその一人を助けられなくても、のちのち数十、数百の人々を助けられるようになるだろう!ならば我々は後者をとるよ』

「…納得いかねえ…。また前みたいにクレカ会社とかが狙われたらどうすんだよ…」

『君達だけで抱え込まなくていい。ローグ・ソフトウェアだって君達のようにセキュリティデジモン開発をしているし、実績も出している。彼らが穴埋めをしてくれるだろう。…君達にくらべてか~な~り割高だがね』

あっちは割高なんだ…。

「…分かったよ。ケンキモンがデジタマ産むまで待てばいいんだろ。仕方ねえ…コマンドラモンの役割がなくても戦えるように、鍛錬あるのみだ!」

デジモン育成の方は任せたよ、カリアゲ。

「おうよ!」

486: ◆VLsOpQtFCs 2023/10/29(日) 20:32:36.65 ID:jG8eKLMGO
『ケン君はこれからどうするのかね?』

私はここ最近はケンキモンの観察をしてデータを取っていましたが…
そろそろまた野生デジモンの観察に戻ろうと思います。

『そうか!基礎研究を頑張りたまえ』

さて…
久々に、デジタルワールドの野生デジモンを観察しよう。

この頃興味深いデジモンの出現が報告に上がっていた。
そちらを観察しに行こう。




私は、密林の方へデジドローンを飛ばした。
蛮族デジモンがいる地域だ。

あまりに木々の密集度が高い密林では、デジドローンがその間を掻い潜って読んだりできなくなるので、密集度が低い地域を観察している。

やがて、木々がガサガサと揺れ、一体のデジモンが飛び出してきた。
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大きな仮面と、ブーメランを携えた類人猿デジモン…セピックモンだ。

488: ◆VLsOpQtFCs 2023/10/29(日) 20:39:38.74 ID:jG8eKLMGO
セピックモンは、上方を見上げている。
木の上にいる何かを付け狙っているようだ。

やがてセピックモンは、ブーメランを投げた。
ブーメランはくるくると弧を描くように飛び、木の影にいたデジモンに当たった。

「ギャッ!」

悲鳴を上げたデジモンは、木から落ちた後、バサバサと飛んで逃げた。

そのデジモンは…
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…うおお、まるで悪魔のような姿だ。
発達した手足と、ふたつのコウモリのような翼が生えており、おおきな口を開けている。

命名イビルモン。
その形態から察するに、コウモリ型デジモンピピスモンの子孫であるピコデビモンが進化した姿だと思われる。

驚いた…。
コウモリのデジモンが、こんな姿に進化するとは。

我々は、このコウモリ型デジモンから進化し系統を、翼人型デジモンと呼称することにした。

さて、セピックモンが投げたブーメランは、セピックモンの手元へ帰ってきた。
凄まじいコントロールである。

攻撃を受けたイビルモンは、逃げようとしたが…

「ギギ…!ギャウウゥーーー!」

空中でターンして、セピックモンへ飛びかかってきた。

490: ◆VLsOpQtFCs 2023/10/29(日) 20:48:42.97 ID:jG8eKLMGO
「ヒャアアアアアイイアアーーーーー!!」

イビルモンは口を大きく開けて、けたたましい声を上げた。

それを聞いたセピックモンは耳を塞いだ。
「ウギッキッキイイィイイイーーーーー!!」

どうやらイビルモンは怪音波を発して攻撃することができるようだ。
ピピスモンが持っていた超音波ソナー能力を発展させた力のようだ。

イビルモンはセピックモンに接近し、声を止めた。

セピックモンはブーメランを構えた。
このうるさい敵の声を止めてやろうというのだろう。
イビルモンへ近づき、ブーメランを振りかざした。


「ビィーーーーーーーーーーーーーーヤァアアアーーーーーーーーーーーーー!!!!」


イビルモンはセピックモンの耳元へ口を近づけ、凄まじい爆音を発した。

「ビギャアアアーーーーー!!」

セピックモンは怪音波攻撃をまともに頭部へ食らって、そのまま後方へ吹き飛んだ。

「ギギ!キィー!」

吹き飛びながら、やぶれかぶれの様相でブーメランを投げるセピックモン。
だがイビルモンはそれを軽々と躱した。

吹き飛んだセピックモンは、背中から太い木へ叩きつけられた。

「ウギッ!」

地面に伏すセピックモン。

「アギ…ギ…!」

悶え苦しんでいるセピックモン。
怪音波で吹き飛んで木にぶつかったダメージよりも、それを顔面に浴びせられたダメージが大きいようだ。

491: ◆VLsOpQtFCs 2023/10/29(日) 20:52:34.77 ID:jG8eKLMGO
「ウッヒャッヒャーーー!」

弱ったセピックモンを見てニタリと笑みを浮かべたイビルモンは、セピックモンへにじり寄り、噛みつこうとした。

「ウギャッ!」

そう悲鳴を上げたのは…
イビルモンの方だった。

先程セピックモンが投げたブーメランが戻ってきて、イビルモンの後頭部にクリーンヒットしたのだ。

「ゥ…グギ…!」
ばたりと倒れるイビルモン。

二体とも意識が朦朧としているようだ。

「キ…キィイ…!」
「ウビビ…!」

二体とも、必死に立ち上がろうとしている。
この勝負、先に立ち上がったほうが勝つ…!

494: ◆VLsOpQtFCs 2023/10/29(日) 20:59:41.02 ID:jG8eKLMGO
「ウッホッホーーー!!」

…そのとき、上空からデジモンの声が聞こえてきた。

なんと木の上から、一等身体型のずんぐりむっくりした茶色い類人猿デジモン、ジャングルモジャモンが、骨棍棒を構えて飛び降りてきたのだ。

ジャングルモジャモンがふり下ろした骨棍棒が、イビルモンの脳天を力強く打った。

「ギャアアアアアーーーー!」

頭部から出血し昏倒するイビルモン。

「ウッホ!ホッホッホッ!」

ジャングルモジャモンは、イビルモンにのしかかり、その頭部を骨棍棒で滅多打ちにした。

イビルモンはそのまま絶命した。

ふらつくセピックモンは、よろよろと立ち上がるが、足元がおぼつかないようだ。

「ウホウホ!」

ジャングルモジャモンは、イビルモンの死骸を左肩に担いだ。

「キー…」

セピックモンは、ジャングルモジャモンの右肩に寄りかかった。

「ホー!ホッッホ!」

ジャングルモジャモンは、ふらついたセピックモンと、イビルモンの死骸を抱えて密林の中を進んでいく。


…蛮族デジモンのセピックモンは、それなりの戦闘力を持っており、イビルモンもそれに負けていなかった。

だが蛮族デジモンには、群れで狩りをする知恵がある。

イビルモンは、その差に敗れたのだった。

496: ◆VLsOpQtFCs 2023/10/29(日) 21:05:49.11 ID:jG8eKLMGO
意気揚々と進むジャングルモジャモン。
やがてセピックモンは意識を回復したのか、自分の足で立ってあるき始めた。

蛮族デジモンの群れの力は、やはり強力だ。


「ガウウウゥ!」

その時。
草陰から飛び出してきた何者かが、セピックモンを襲った。

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青く美しい毛並みをもつ狼のようなデジモンが、セピックモンを押し倒したのだ。
命名ガルルモン。今までいそうでいなかった、イヌ科系統の肉食哺乳類型デジモンだ。

「キー!キキーッ!」

マウントを取られたセピックモンは、ブーメランでガルルモンを殴りつけようとする。

「ガウゥ!」

だがガルルモンは、強靭なアゴでセピックモンの首へ噛みついた。

「フギイィ!」

じたばたと暴れるセピックモン。

「ウ、ウホホー!」

ジャングルモジャモンは、セピックモンを助けるため、骨棍棒でガルルモンの頭部を殴りつけた。

「ガウ!」

ガルルモンはふらついたが、セピックモンの首を噛む力を緩めない。

498: ◆VLsOpQtFCs 2023/10/29(日) 21:19:54.19 ID:jG8eKLMGO
「ウホホー!」

ジャングルモジャモンは追撃を試みた。
だが…

「ウゥゥ~~!!」

草陰から3体の肉食哺乳類型成長期デジモン…ガジモンが飛び出して、ジャングルモジャモンに背後から長い爪を突き刺した。

「ウボォォォオ!!」

激痛で悲鳴を上げるジャングルモジャモン。
怒りに身を任せて、ガジモンを一体殴り飛ばした。

「ギャッ!」

骨棍棒で殴られ、一体のガジモンが吹き飛んだ。

しかしガジモンの一体は、ジャングルモジャモンの顔面に貼りつき、顔をしっちゃかめっちゃかに引っ掻いた。
長い爪を、ジャングルモジャモンの右目へ突き刺した。

「ウボゴォォォオオ!!」

もう一体のガジモンは、ジャングルモジャモンを背後から爪で滅多刺しにする。

「ウオォホオォォ!」

血まみれのジャングルモジャモンは、顔面に張り付いたガジモンを引き剥がそうとする。

掴まれたガジモンは、ジャングルモジャモンに放り投げられた。

「ウ、ウホホ!」

体勢を整えようとするジャングルモジャモンだったが…

「ワオオォオーーン!」

先程までセピックモンを攻撃していたガルルモンが、ジャングルモジャモンに飛びかかり、顔面に噛みついた。

「ウホオォ!?」

どうやらセピックモンは既に虫の息らしい。
バトンタッチしたかのように、ガジモン達はセピックモンへ襲い掛かり、長い爪でセピックモンの首を滅多刺しにして、トドメを刺した。

499: ◆VLsOpQtFCs 2023/10/29(日) 21:25:20.37 ID:jG8eKLMGO
「ウーホ!ウゥーーホ!!」

ガルルモンから顔に噛みつかれ、激しく抵抗するジャングルモジャモン。

「ガウウゥ!」

ガルルモンはやや困惑している。
セピックモンは首という急所が明白だったので、そこへ噛みつけば良いとすぐに判断できたようだが…

ジャングルモジャモンは一等身だ。
首らしい首がないのである。

「ウホオォオーー!」

ジャングルモジャモンは、顔に噛み付くガルルモンの頭部を、骨棍棒でしこたま殴りつけた。

「ギャウウゥ!ウゥゥ…ガウウゥーーー!」

ガルルモンは、なんとジャングルモジャモンの顔に噛みついたまま、口から炎を吐いた。

「ウゴボォオオオオーーーーーーーー!!!」

顔面を焼かれるジャングルモジャモン。

「フグゥゥオオオホッホーーー!」

ジャングルモジャモンは、セピックモンの死骸の傍らにあるブーメランを拾い…
ガルルモンの後頭部へがんがんと叩きつけた。

「ギャウゥ!」

さすがに効いたようだ。
ジャングルモジャモンから飛び退くガルルモン。

ジャングルモジャモンは…

「ヒ…ヒヒー!」

木に登り、一目散に逃げていった。

502: ◆VLsOpQtFCs 2023/10/29(日) 21:30:58.96 ID:jG8eKLMGO
三つ巴の戦いを制したのは、ガルルモン一派だった。

セピックモンとイビルモンの死骸を解体し、ガルルモン一体とガジモン三体はそれを食べた。

ジャングルモジャモンは、この戦いでは敗走する形になったが…
それでも戦いを生き延びることができた。

一等身であるがゆえに、ガルルモンに噛まれて急所となる首がないため、ガルルモンの噛みつき攻撃を食らっても致命傷にならなかったのだ。

…近頃、群れで狩りをするデジモンが増え始めているように見える。

それはすなわち、集団生活をする習性をもつデジモンが増えてきたということだ。

我々はセキュリティデジモンのデジタマを採集するとき、必ず「集団生活する習性を持つデジモン」のタマゴだけを拾うようにしてきた。

集団生活をする素質をもったデジモンでなければ、我々のチームで共に生きるという概念すら理解できないためである。

クラッカーもきっと同じだ。
ランサムウェアデジモンとしてアイスモンやシャーマモンをスカウトしたのは、その性質だけでなく、集団行動が可能であるからだろう。

503: ◆VLsOpQtFCs 2023/10/29(日) 21:35:09.22 ID:jG8eKLMGO
さて、善は急げだ。
ガルルモンの巣を見つけて、ガルルモンのデジタマを採取しよう!

イヌは人類の共だ。
それに近い姿のガルルモンも、きっと我々と行動を共にできるはずだ!

そう言うと、シンがひょっこり顔を出した。
「いいッスね!んで、どうやって採取するんスか?」

そりゃもちろん、エクスブイモンやキンカクモンのデジタマを取った時同様にダグラスコマンドラモンの光学迷彩で…

「でも、ケンキモンの本体は光学迷彩使えなくなってるッスよ?」

…あ。



「…わたしはいま このすがたになったことを すこしこうかいしている」
ケンキモン…気を落とすなって。
そういうこともあるさ。

506: ◆VLsOpQtFCs 2023/10/29(日) 21:38:35.80 ID:jG8eKLMGO


ジャングルモジャモンが帰還した集落では、蛮族デジモンが集団生活をしていた。

ジャングルモジャモンは、フーガモンに狩りの失敗を報告して怒られていた。

やがてジャングルモジャモンは、草を集めて、木の小屋へ向かった。

小屋では偶蹄類型成長期デジモン、バクモンが何頭か飼育されていた。
な、なんだ?家畜か…?

草を食べたバクモンは…
光り輝き、進化した。

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シマウマ型デジモン…シマユニモンとなった。

な、なんだ…?
なぜ蛮族デジモンは、バクモンを飼育しているんだ…?

520: ◆VLsOpQtFCs 2023/11/08(水) 11:58:01.25 ID:ePB30675O
ディノヒューモンの集落。
ここの住人達は殺気立っていた。
度重なる蛮族の襲撃に苛立ち、ついに蛮族の撲滅に打って出る気になったようだ。

農作業の傍ら、ブイモン、カメモン、スナリザモン、ワームモン等の成長期デジモンたちは、戦闘の鍛錬をしている。
(※ブイモンとワームモンは、我々のパートナーとは別個体なので注意されたし。)

スティングモンは、特にブイモン達へ力を入れてトレーニングをさせているようだ。
剣道のように木の棒で叩きあう試合形式の訓練もやっている。

先日の蛮族との戦いによって、エクスブイモンが命を落としたことで、スティングモンは今パイルドラモン及びディノビーモンへのデジクロスという最大戦力を喪った。

加えて、モスモンというナンバー2も同時に死んでしまった。

これまで農園を防衛できていたのは、ディノビーモンとモスモンという強大な戦力のお陰と言ってもいい。
それを喪った今、蛮族の撃退には手を焼いているようだ。
現在の最高戦力は、燃える体と鋭い爪を持つ爬虫類型デジモン、フレアリザモンだが…
ディノビーモンのように無双できる程強いわけではない。
故にスティングモンは、早く次世代のエクスブイモンを育て、デジクロスの力を復活させようと躍起になっているようだ。

ただし、あの戦いでは蛮族側もハヌモン及びゴリモンというトップ戦力を失った。
ジャングルモジャモンやセピックモン等のDP低めな成熟期はそれなりにいるが、ハヌモンやゴリモンと比べれば戦闘力は雲泥の差だ。

特にハヌモンは、不意打ちとはいえどレベル5のディノビーモンと刺し違えた怪物である。
…実際にはディノビーモンとの間には大きな力の差はあるが、パイルドラモンの鋭いパンチを何度もヒョイヒョイ回避した身軽さは成熟期の中では別格といえるだろう。

そんなわけで蛮族は、小競り合いを繰り返しながら、ヒヒ型のバブンガモン、原人型のフーガモン、ドリル付きモグラ型のドリモゲモン、そして人間の女性に極めて近い姿のキンカクモンを中心として、戦力増強を図っているようだ。

…さて、そんな緊張感が漂う中…
ついにディノヒューモンの集落では、一体のブイモンが成熟期への進化に成功した。

エクスブイモンではない。
翼が生えた竜型デジモン…コアドラモンとなった。
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がっしりとした手足は、格闘戦が得意そうだ。
さらに、集落では昆虫デジモン以外で珍しく飛行能力を持っている。

コアドラモンは、空からの偵察を行い、蛮族の集落を監視した。

そして…数ある蛮族の集落のうち比較的小規模なものを発見した。

コアドラモンは、それをディノヒューモンへ報告した。

「コロリ!!ウホウホコロリ!フルフルコロリ!!」

ディノヒューモンはどうやら、この集落の蛮族を制圧することに決めたようだ。

523: ◆VLsOpQtFCs 2023/11/08(水) 12:09:16.62 ID:ePB30675O
スティングモンは、大きなリクガメ型成熟期デジモン…トータモンを呼んだ。

トータモンは、かつて我々がクラッカーから鹵獲したルドモン及びズバモンと血縁関係があることが判明している。
クラッカーは、トータモンのデジタマを採取し、そこからルドモンとズバモンを育て上げたのであろう。

スティングモンはトータモンになにか指示をしている。
「ノシノシ!!ウホウホ!プチプチ!」
「ガウゥ」

トータモンは頷くと…
スティングモンの指示のもとで、戦闘部隊を編成した。

今回の主力は、カメ型成長期デジモン、カメモンである。

部隊編成はこうだ。
まず、部隊の中心にはトータモンを据える。

トータモンの甲羅の上に、ワームモン2体が乗る。

その前方に、石槍を持った12体のカメモンが、2列に並んで隊列を作る。

そしてその上空を哨戒するように、蜂型成熟期デジモンのフライビーモンが飛ぶ。

以上が、今回編成された部隊だ。
成熟期2体、成長期14体…総勢16体で編成された大規模な部隊だ。

どのように攻め込むのだろうか。

526: ◆VLsOpQtFCs 2023/11/08(水) 12:37:21.35 ID:ePB30675O
どうやらこのフライビーモンは、コアドラモンから蛮族集落の場所を聞いているらしい。

コアドラモン自身は、農園を防衛しつつ偵察する任務を指示されているので、今回の作戦には加わらないようだ。

さて、いよいよ戦闘部隊が出撃した。

部隊は…
ゆっくりと歩き、蛮族集落のある方へ真っ直ぐに進んだ。

その歩みは決して素早くはない。
カメモン達は途中で弁当(トウモロコシやイモを焼き固めたもの)を食べたり、水たまりで水を飲んで水分を補給した。

真っ直ぐに、ゆっくりと、確実に前進し…
蛮族集落へ接近した。

突如フライビーモンが、ジージーとセミのような声を鳴らした。

それからすぐに、シャーマモン3体とジャングルモジャモン1体が接近してきた。

…だが、シャーマモン達は部隊を一瞥すると…
引き返して逃げ出した。

なんせ部隊はこれだけの数だ。
実際にぶつかり合う以前の問題として、強烈な威圧感を発している。

好戦的な蛮族デジモンといえど、少人数で戦いを挑むほど馬鹿ではない。

威圧感を放つトータモン部隊は、確実に蛮族集落へ接近していく。

528: ◆VLsOpQtFCs 2023/11/08(水) 12:49:54.96 ID:ePB30675O
やがてついに、蛮族の群れが飛びかかってきた。
シャーマモン4体、コエモン6体、ジャングルモジャモン2体、セピックモン1体。
計13体だ。
蛮族側もかなりの戦力を集めてきたようだ。

蛮族達は、戦闘部隊に襲いかかる…!

2列に並んだ最前線のカメモンの1体に骨棍棒で殴りかかるシャーマモン。
だが、カメモンは倒れない。
頭部は硬いヘルメット、胴体は硬い甲羅で覆われたカメモンの防御力は尋常ではない。

殴られたカメモンは、殴りかかってきたシャーマモンの腕を掴むと…
その両隣および後ろにいるカメモンが、シャーマモンを石槍でしこたま突き刺した。

悲鳴を上げ、倒れたシャーマモンは…
戦いながらも前進を続けるカメモンの群れに踏まれた。

そして、トータモンに頭から丸呑みにされた。

「キエエーーーーーイ!!」

一体で飛びかかっても勝てないと考えた蛮族の群れは、全員でいっせいに飛びかかった。

先程は一体で飛びかかったからあしらわれた。
だから同じことを大勢でやればいい…という算段のようだ。

530: ◆VLsOpQtFCs 2023/11/08(水) 12:58:11.70 ID:ePB30675O
襲いかかる蛮族デジモン達を見て、トータモンとフライビーモンが動いた。

トータモンは、なんと背中のトゲを1つミサイルのように発射し、ジャングルモジャモン1体へ放った。

ジャングルモジャモンの腹部へトゲが突き刺さる。ジャングルモジャモンは悲鳴を上げた。

フライビーモンは、ワームモンの一体を掴んで飛び、セピックモンへワームモンの口を向けた。

ワームモンは蜘蛛の巣のような糸を吐き、セピックモンのブーメランを手ごと糸で絡めさせた。

「ウキ!?」
農園のワームモンは、糸の粘着力に全能力を注ぎ込んだ種である。
それ故に、成熟期のセピックモンといえど粘着糸を破るのは容易ではない。

コエモン達とシャーマモン達は、最前線のカメモンに武器で殴りかかった。

だが、カメモン達がやったことは前と同じだ。
戦いながらも前に進み、武器の攻撃を受け止め…
隣と後ろのカメモンが石槍でカウンター攻撃をする。
そして体制を崩したコエモン達を転倒させて集団で踏み潰し…
最後にトータモンが鋭いクチバシで頭部を噛みちぎってトドメを刺す。

奇妙な光景だった。
コエモンやシャーマモンは、大勢で同時に攻めているはずなのに。
いざぶつかり合った瞬間には、常に「多vs個」の殴り合いという状況を強いられていた。

戦いながら前進するトータモン部隊は、どれだけ殴られようが止まらない。

532: ◆VLsOpQtFCs 2023/11/08(水) 13:12:08.16 ID:ePB30675O
「ウ、ウホーーー!!」
無傷のジャングルモジャモンが、コエモン達を助けようと、前線のカメモン達に飛びかかる。

…フライビーモンは、糸を吐いたワームモンをトータモンの上へ着地させると、待機していた方のワームモンを掴んで飛んだ。
そしてジャングルモジャモンの腕へ、ワームモンが粘着糸を吐きかけた。

「ウホゴォオオオ!!」
腕に粘着糸が絡んだジャングルモジャモンは、動きにくそうだ。

ワームモンが2体いたのは、一度糸を吐いたワームモンを休ませ、待機していたワームモンへと交換することで、強力な粘着糸の連続発射をするためだったようだ。

「ウ、ウホォオ!!」
糸を絡められたジャングルモジャモンは、腹にトゲが突き刺さったジャングルモジャモンや、ブーメラン投げを粘着糸で封じられたセピックモンと共に、カメモンをゴリ押しで殴り倒しにかかった。

いくらDP低めといえど、それはあくまで成熟期基準だ。カメモンより格闘能力は遥かに上。
殴り合いなら負けはしない!

護りの硬いカメモンも、さすがに成熟期のパワーでボコスカ殴られたらダメージが入る。

…そのうち、3体のカメモンは、セピックモンに掴みかかって動きを封じた。

「ウキ!?」

そしてセピックモンの体を、トータモンの方へ向けた。

トータモンは、長い首を振り落ろし、仮面で覆われたセピックモンの頭部へ鋭いクチバシを打ち付けた。

「ウギャガァアア!」
セピックモンの仮面が割れた。

「ガアアァ!」
カメモン3体に捕まって暴れているセピックモンに対して、トータモンはさらにクチバシを打ち付けた。

セピックモンの頭部からは噴水のように真っ赤な動脈血が吹き出し、セピックモンは地に倒れ伏した。

「ウホォオォォオ!」
ジャングルモジャモンは、シャーマモン達と共に、死にものぐるいでカメモン部隊を殴り倒そうとするが…
カメモン達は耐える。

さすがにカメモン達も疲弊してきている。
石槍がぼきりと折れたり、顔面を殴られて倒れるカメモンが現れ始めた。

「ウホッホォォ!」
ジャングルモジャモン達は雄叫びを上げた。

だが、フライビーモンに掴まれたワームモンが、ジャングルモジャモンの腕にさらに粘着糸を浴びせる。

粘着糸は硬化し始め、どんどんジャングルモジャモンの動きは鈍っていく。

533: ◆VLsOpQtFCs 2023/11/08(水) 13:18:26.26 ID:ePB30675O
カメモンの一体は、腹部にトゲが刺さっている方のジャングルモジャモンに狙いを定めると、腹部に刺さっているトゲに頭突きをした。

「ウゴホァアアアア!!」

カメモン達は、ジャングルモジャモンの腹部のトゲにかわるがわる頭突きをした。

「ゴ…ゴボオォ!」

ジャングルモジャモンの傷口から、真っ赤な血が吹き出す。
何度も打ち付けられたトゲが、ついに太い動脈を貫いたようだ。

「ヒ、ウホッヒイイイィィ!!」

地に伏し激痛に転げ回るジャングルモジャモン。
戦いながら前進するカメモン達は、それらを石槍で刺しながら踏みつけて、トータモンの前へ転がす。

「ガオオォォ!」

トータモンが長い首の筋力を活かしてクチバシを打ち付け、ジャングルモジャモンの頭蓋を叩き割った。

「ウ…ウホヒ…?」
残った方のジャングルモジャモンは、戦況を見渡した。
気付いたら、相方のジャングルモジャモンとセピックモンはどちらも死んでいた。

534: ◆VLsOpQtFCs 2023/11/08(水) 13:38:00.69 ID:ePB30675O
シャーマモン達とコエモン達の数も、ずいぶん減っていた。

…このままでは勝てない。
そう察した残党たちは…

「ヒ…ヒイィーー!」

踵を返し、背を向けて一目散に逃げ出した。

カメモン達は足が遅い。
全力で逃げる霊長類デジモン達に追いつけはしないだろう。

…だが。
トータモンは、ジャングルモジャモンの背へ、トゲをミサイルのように撃ち込んだ。

「ウホギャアアア!」
転倒するジャングルモジャモン。
のしりのしりとゆっくり接近したカメモン達は、転げ回るジャングルモジャモンを石槍で突き刺した。
最後にトータモンが、クチバシでジャングルモジャモンの顔面を叩き割った。

フライビーモンは、背を向けて逃げる残党のシャーマモンとセピックモンに飛んで追いついた。

そしてそれらへ次々と、毒針を突き刺した。

悲鳴を上げたシャーマモンとセピックモンは、そのまま逃げ続けたが…
麻痺毒が回り、ばたりと倒れた。

そしてカメモン達は、倒した蛮族デジモンを捕食してエネルギー補給をした。

…なんということだろうか。
負傷して戦闘不能になったカメモンは2体ほどいるものの、部隊は一体の戦死者も出さずに、成熟期3体+成長期10体の蛮族の群れを全滅させてしまった。

535: ◆VLsOpQtFCs 2023/11/08(水) 13:44:07.94 ID:ePB30675O
部隊はそのまま突き進み…
とうとう蛮族集落へ突入した。

トータモン部隊は、目標へ向かって真っ直ぐに突き進み、それを破壊するという戦術を取った。

家屋も、食料貯蔵庫も、幼年期の育成室も。
すべてを破壊して回った。

トータモン達を止めようと飛びかかってきた蛮族デジモンを、先程と同じ戦法で叩き伏せた。
敵わないと悟った残党は逃走し…多くが背後からフライビーモンの毒針で仕留められた。

そうしてトータモン達は、蛮族の集落を占拠した。

たまに蛮族デジモン達が集落を奪還しようとして攻めてくるが…
やめて諦めたようだ。

こうしてこの小集落は、トータモンの手に落ちた。

536: ◆VLsOpQtFCs 2023/11/08(水) 13:49:12.39 ID:ePB30675O
トータモンやカメモン達は、集落を開拓し、農園から持ち込んだ苗を植えて畑を開墾し始めた。

そのうち、今回の戦いで経験を積んだカメモンの一体がトータモンへ進化すると…
元祖トータモンは、ディノヒューモンの農園へ引き返していった。

…驚いた。
スティングモンが編成した亀デジモン部隊が、ここまで強いとは…。

ディノヒューモンが農耕の天才であることは間違いないが、彼の農園をこれまで蛮族から防衛してきたスティングモン…
あのスコピオモンの子孫であるスティングモンは、決して「デジクロスしたら強い奴」というだけではないようだ。

彼の血を受け継いだ我々のワームモンも、このように育ってくれるだろうか。

537: ◆VLsOpQtFCs 2023/11/08(水) 13:52:28.04 ID:ePB30675O
うーん…
トータモン達は優秀なデジモンだな。
組織行動ができ、防御力がとにかく高い。

デジタマが欲しいところだが…
コマンドラモンが透明化の力を失ったこともあり、デジタマ採取は厳しそうだ。

それをケンキモンの本体へ聞かせると…
「はやく デジタマをうんで かこのわたしのぶんしんを そだてなくては…」
…だいぶプレッシャーを感じてしまったようだ。

そんな話をしていると、シンが声をかけてきた。
「ようやくキンカクモンのデジタマが孵ったッスよ!」
おお、ついにか!

548: ◆VLsOpQtFCs 2023/11/11(土) 23:22:55.58 ID:ev/qIlZso
キンカクモンのデジタマからは…
赤くてプニプニした幼年期デジモン、プニモンが産まれた。

no title

前足とみられる2本の突起、尾とみられる1本の突起が生えており、これで地面をピョコピョコ歩き回っている。

パルモンやケンキモン(の本体)、カリアゲは、積極的にプニモンとコンタクトを取っており、フルーツ等で餌付けしている。

キンカクモンのデジタマがなかなか孵化しなかった理由だが…
ひょっとしたら「自身の遺伝子を周囲に適応させるのに時間がかかった」ためかもしれない。

キンカクモンには乳房がある。
あれは決して飾りではなく、授乳のための器官であるはずだ。
ともすれば、その幼年期デジモンは親デジモンから母乳を与えられて育つ形質を持っているはずだ。

ところがキンカクモンのデジタマは、その母乳を与えてくれる親デジモンから引き離された。

そのため、急遽母乳無しで生育できるように自身の胚を作り変え…そのために時間を取られたのではないかと推察している。

あくまで仮説だ。真の原因は別かもしれないが…
ともあれ、プニモンが母乳無しで生育できるように産まれてきてくれたことは僥倖といえるだろう。

…ちなみに、蛮族の集落で産まれるプニモン達は、なぜか我々のもとで産まれたプニモンとは「上下が逆」である。
つまり蛮族集落版のプニモンは三本の突起が頭部から生えるのだ。

多くの哺乳類型デジモンは、幼年期レベル1としてプニモンを産むが…
母乳を飲む種は突起が上になり、母乳を飲まない種は突起が下になり手足として機能するらしい。

551: ◆VLsOpQtFCs 2023/11/11(土) 23:54:20.17 ID:ev/qIlZso
ちなみに、全ての哺乳類型デジモンがプニモンを産むわけではない。
プニモンを産むのは、類人猿型やコウモリ型、有袋類型…そしてごく最初期に出現した極一部の哺乳類型デジモンなどだ。

世代が進んで進化を重ねた四足歩行の哺乳類型デジモンは、多くがパフモンという白い毛皮でモフモフのレベル1幼年期デジモンを産むそうだ。
no title


…それにしてもわからん!
なぜ母乳を飲む個体群のプニモンは突起が上に来るんだ!?
どう考えても突起が下になって手足のように機能したほうが合理的だ!

一体何の意味があるんだ…!?

そう思って、デジタルワールドの哺乳類型デジモンを観察してみた。
キンカクモン同様に乳房を持っているデジモン…、イノシシ型デジモンのボアモンを見てみよう。
no title


このボアモンはごく最初期に出現した哺乳類型デジモンであるため、パフモンでなくプニモンを産むのである。

ボアモンが、自分の巣に戻ってきた。
巣ですやすやと眠るプニモン達は目を覚ますと、もぞもぞとボアモンに寄ってきた。

ボアモンは脚を畳み、乳房をプニモン達へ近づける。


すると…
プニモンの頭の三本の突起の中心あたりに、なにやら穴が開いた。

プニモン達は、頭部から生えた三本の突起でボアモンの乳房に掴まると、自身の頭頂に空いた穴へ、ボアモンの乳首を入れた。

そのままプニモン達は、ブルモンの乳房へ三本の突起でしがみついている。


えっ!?口そこなの!?
てっきり目の下あたりにあるかと思ってた!

母乳を飲むタイプのプニモン達は、なんと口が頭頂に空いているのだ。
これは驚きだ。
頭頂の穴から母乳を飲むんだ…。

やがて、ボアモンに外敵が近づいてきた。
狼型デジモン、ファングモンである。
no title

552: ◆VLsOpQtFCs 2023/11/12(日) 00:06:23.31 ID:H4HUVzBhO
ファングモンは、プニモン達を狙ってにじり寄ってきた。

ボアモンはそれを察知したらしい。
プニモン達を乳房にぶら下げたまま、全速力で走り出した!

プニモン達は、走るボアモンの乳房にしがみついている。

ファングモンは、ボアモンを追いかけて走った。

…我々のデジドローンで出せるスピードよりも速く木々の中へ走り去っていったため、ボアモンとファングモンがその後どうなったのかは知らない。

だが…
プニモンの頭部の突起は、どうやら親デジモンの乳房へしがみついたまま逃げるためにあると考えて良さそうだ。

デジモン達は、我々の世界の動物の常識では考えられない進化をすることがある。
プニモン達もその一例だ。