デジタルモンスター研究報告会 season2 前編 2

558: ◆VLsOpQtFCs 2023/11/12(日) 18:11:51.58 ID:m0ZTyLaDO
ある小学校から苦情の電話が来た。
なんでも生徒の親達のメールアドレスや、携帯電話会社のアカウントが盗まれてしまう被害が多発しているという。

被害者達はプチ見張りマッシュモンのサービスを導入しているのに、クラッカーの被害にあうとはどういうことだ、どうにかしろ、慰謝料払え、などと…
まくしたてるような口調で責めてきた。

しかし、どうにもおかしいのだ。
被害者達の名前が、プチ見張りマッシュモンサービスの契約者リストに一切載っていないのだ。

契約関係がないのだから、調査する義理はないのだが…
どうにもきな臭い。
汚名返上のために、その学校へ調査をしに行くことになった。

教員は契約書を見せてきた。
「ホラ!見守りマッシュモンサービスの契約書!知らんぷりはさせません!」

ん…?
見『守り』マッシュモンサービス…?


なんだこりゃ!
この業者、うちじゃないぞ!

560: ◆VLsOpQtFCs 2023/11/12(日) 18:22:45.45 ID:m0ZTyLaDO
ほら、契約書に書かれてるサポート窓口の電話番号も違いますよ!
ここに電話してみたらどうですか?

「電話したけど通じないんですよ!あんた達勝手に電話番号変更したでしょ!最初の頃は電話通じたのに!」

いや、だって電話番号がバイオシミュレーション研究所とも、サービス業務委託先とも違うんですから。

「そんなわけないでしょおお!ほら、ちゃんとバイオシュミレーション研究所って書いてあります!契約書に!」

どれどれ…
…確かにおっしゃった通りに書いてますね。
…バイオ『シュミ』レーション研究所って。

「ね!?」

…うちはバイオ『シミュ』レーション研究所です!
バイオ『シュミ』レーション研究所じゃありませんよ!?

「同じでしょうが!ちゃんとマッシュモンがシステム保護してくれてるし、餌だってあげてる!見てご覧なさい!」

どれどれ…
私は試作品デジヴァイスを学校のパソコンへ接続し、仮称デルタの力でデジタル空間内の映像を映し出した。

やがて、高解像度の鮮明な映像がモニターに映し出される。

…このデジヴァイスは、想像してた以上に便利だ。
重いパソコンを持ち運ぶ必要がない。スマートウォッチ程度の小ささの軽い端末でデジタル空間を映せるのは本当に助かる。

562: ◆VLsOpQtFCs 2023/11/12(日) 18:29:00.81 ID:m0ZTyLaDO
デジタル空間の映像には…
マッシュモンの姿が映し出された。

「ね?ほら、ちゃんとマッシュモンがいるでしょ!」

ど、どういうことだ…
全然契約した覚えがないのに…。

「それにしてもずいぶん綺麗な映像ですこと。軽量デジクオリアで映した映像はもっとジャギジャギしてるのに…」

デジタル空間内を見回すと…
…ん?

ズルモンやゲレモンが這い回ってるぞ!
このパソコン、クラッカーのスパイウェアデジモンに感染してる!!

「だから呼んだんでしょう!あなた達がいるのにこんなんなってるから!役立たず!」

…仮にも小学校の教員なのにその言い方はどうなんですか。生徒に背中を見せられるんですか?などと言いたくなったが、堪えた。

あちらとしても、生徒達やその保護者達が受けている被害をどうにか解決したくて必死なのだろう。

563: ◆VLsOpQtFCs 2023/11/12(日) 18:40:16.08 ID:m0ZTyLaDO
このマッシュモン…
なんでズルモンやゲレモンを放置してるんだ…?
怪しいぞ。

色々わからん…
とりあえずリーダーに現状報告をした。

『なるほど…ひとつ確かめたいことがある。そのパソコンにインストールされている軽量デジクオリアとやらのことだ』

それがどうかしましたか?

『そのソフトを起動しろ。そして、デジヴァイスで映している高解像度デジクオリアと映像が同期しているか、今から指示する方法で確かめてくれ』

…調査方法はこうだ。
まずは軽量デジクオリアで、怪しいマッシュモンへ餌を与える。

その餌を…
私がデジヴァイスに入れて連れてきたボスマッシュモンに横取りさせる。

そのとき、軽量デジクオリアにどんな映像が映し出されるのかを確認するのだ。

もしもきちんとした正規品のデジクオリアなら、どれだけ解像度が低くてジャギジャギしていようと、二体のマッシュモンが映り、餌を奪われる光景が映し出されるはずだ。

では、実験開始。

「ほーら餌でちゅよ~♪…って、コホン!オホン!ほら、餌を食べなさい」

教員さんが餌やりコマンドを実行する。

軽量デジクオリアに映し出されたのは…
一体のマッシュモンが、餌を食べる姿だった。

我々のデジヴァイスの画面では、二体のマッシュモンが映り、餌をボスマッシュモンが奪ったところが鮮明に映っているのに。

どういうことだ…!?
学校のパソコンの軽量デジクオリアと、デジヴァイスのデジクオリア…
二つの映像が全く同期していない!

『やはりか…』
リーダー!こ、これは!?

565: ◆VLsOpQtFCs 2023/11/12(日) 18:47:57.03 ID:m0ZTyLaDO
『よく聞けケン。そのソフトウェアは…デジクオリアじゃない。偽物だ』

に、偽物のデジクオリア!?
不正コピー品ってことでしょうか?
しかし、不正コピー品ならカンナギからオタマモンが来て不正コピーソフトをハードウェアごと焼却するはずでは!?

『え!?そ、そうなのか?俺はそんな情報知らなかったが…』

ア゜ッッッッッッッ!!!!
すみません今の聞かなかったことにできませんか!?!?!?

『………………………………………………………わ、わかった』

ありがとうございます。
オホン…それで、偽物のデジクオリアってどういうことですか?

『その軽量デジクオリアと呼ばれるソフトの実態は、おそらく非実在のデジタルペットを育成するだけの、ただの育成ゲームソフトのようなものだ。餌を与えたら、餌を食べる映像が映るように最初からプログラミングされている。実際に餌を食べているかどうかとは全く無関係にな』

…な、なんだって…!?
じゃあこのデジクオリアは、実際には怪しいマッシュモンの姿を映してないってことですか!

『そうなるな。それもただの育成ゲームソフトじゃない…おそらくクラッカーのデジモンが侵入できるようにするためのバックドアが仕込まれているんだ』

や、ヤバ…

567: ◆VLsOpQtFCs 2023/11/12(日) 18:59:27.62 ID:m0ZTyLaDO
じゃあ、このパソコンの中の怪しいマッシュモンは…!?

『…少し調べてみよう。ボスマッシュモンに、その怪しいマッシュモンの細胞の断片を採取させろ。うちのサービスで育成しているマッシュモンと同じ遺伝子を持っているか調べる』

分かりました。
では、この怪しいマッシュモンにチャットでコンタクトを取ってみます。

『マッシュモン、細胞の断片を採取させてくれ。正規のサービスで配っているマッシュモンと遺伝子を照合してみる』

すると、怪しいマッシュモンは…

…!?
なんと、ネットワーク回線のトンネルに向かって走り出した。


…来い、みんな!
こいつを捕まえろ!

私はデジヴァイスを使って、デジタル空間内にゲートを開いた。
トンネルを塞ぐようにゲートを開き、怪しいマッシュモンの逃走経路を断った。

これはすごい。ランドンシーフほど自由自在ではないが、ある程度アクセスポイントから離れた位置にもゲートを開けるようだ。

568: ◆VLsOpQtFCs 2023/11/12(日) 19:04:43.36 ID:m0ZTyLaDO
ゲートから飛び出したのは…
『おいらのでばんだなああ!』

腕にワームモンをくっつけたブイモンだ。

『やれ!ワームモン!』

ワームモンが糸を吐き、怪しいマッシュモンを捕縛した。

やったぜ!
怪しいマッシュモンの細胞の断片を、ボスマッシュモンに千切り取らせて、ネットワーク回線経由で我々の研究所へ送ってもらった。

しばらくすると、リーダーから返事が来た。
『解析したが…、うちのマッシュモンと遺伝子が完全には一致していない。別株だ』

べ、別のマッシュモン…!?

『厳密には、遺伝子配列の一部は一致している。ある時点までは、我々のサービスのマッシュモンと遺伝子が一致していたようだ。育成デバイス「デジタルモンスター」を売ったあたりの時点まではな』

…ま、まさか…
育成デバイスからマッシュモンを抜いて育てた…!?

『配ったマッシュモン達のバイタルサインは常時デバイスから送信させていたし、買えなくなったら端末を返却させている。だからデバイスに入れたマッシュモンが奪われたわけではないはずだが…』

570: ◆VLsOpQtFCs 2023/11/12(日) 19:10:04.07 ID:m0ZTyLaDO
…そういえば。
クラッカーが使う粘菌デジモンは、確かマッシュモンとヌメモンの遺伝子が混ざってるんですよね。

『…そうだ。ジョグレス進化と考えられる』

なんで今まで気付かなかったんだろうか。
少し考えれば気付けたはずだ。
クラッカーの手持ちには、粘菌デジモンにジョグレスさせる前に株分けしたマッシュモンがいる可能性がある…と。

その個体を犯罪に利用する可能性があると…!

「あ、あの、どうなったんですか?うちのマッシュモンちゃんは?」

…落ち着いて聞いてください。

あなたが契約した業者は、うちではありません…
悪質な詐欺業者です。
「へ!?」

我々を騙ることで、セキュリティデジモンどころかスパイウェアデジモンを仕込み…
こっそり情報を抜き取っていたんです。

「そ、そんな…!」

578: ◆VLsOpQtFCs 2023/11/18(土) 20:18:21.96 ID:PLmZrDjhO
ボスマッシュモンは、ワームモンの糸で捕縛されているクラッカーマッシュモンにチャットで問いかける。
『なぜ クラッカーに かたんし あくじを なす』

クラッカーマッシュモンはチャットで答えた。
『ひとは われわれの かみだ ひとのやくに たて そう わたしのそせんは おそわった』

ボスマッシュモンは苦い顔をする。
『だが おまえは ひとを こまらせている それは よくない』

クラッカーマッシュモンは負けじと言い返す。
『おまえこそ われらのあるじの せいぎのおこないを いつも じゃましている ひとを こまらせているのは おまえのほうだ』

正義…!?
クラッカーマッシュモンは、クラッカーの行いを正義と言ったのか、今!?

ボスマッシュモンは叱咤する。
『サイバーはんざいに せいぎなど あるものか』

クラッカーマッシュモンはペースを乱されずに返答した。
『われらのあるじは せかいのいびつな しはいこうぞうを ただそうとしている』

え…?
何だって…?
なんか大事なことを言ってそうなので、マッシュモン達のチャット文章を自動で漢字に変換するようセッティングした。

『世界の秩序は いびつだ かつて世界を暴力で支配し 搾取する側に回った者達が 今は 暴力を振るうなと かつて踏みつけた者達に言っている 支配と搾取の構造を 覆されたくないがためだけにだ 醜いとは 思わないか』

な、何を言ってるんだクラッカーマッシュモンは…
クラッカーにそう言えと吹き込まれたのか?

『我々は 我が主の 理想に 心から 心酔し 新たな神と 崇めた わたしの活動は 我が神の 理想を叶えるための ひとつに すぎない』

ボスマッシュモンは腕を組み、首を横に振った。
『クラッカーに そんな理想など 存在しない 彼らは 私利私欲のために カネを騙し取る 只の薄汚い犯罪者だ おまえは それらしい嘘に 騙されているだけだ』

そう否定されたクラッカーマッシュモンは、ボスマッシュモンを強く睨んだ。

581: ◆VLsOpQtFCs 2023/11/18(土) 20:39:42.12 ID:PLmZrDjhO
『我が神を 否定すると いうのならば もう 戦いしか 残らない』

ボスマッシュモンは構えた。
『それしか ないようだ だが その状態で どうするつもりだ』

クラッカーマッシュモンはにやりと微笑んだ。
『こうする』

いつの間にか周囲に押し寄せてきていたズルモンやゲレモンなどの粘菌デジモン達が、クラッカーマッシュモンを包んだ。

驚くボスマッシュモンとブイモン。

そして粘菌デジモンの繭は、天井へと一気に登った。

く、しまった…!
スカモン大王になるのか…!?

前回のクレカ会社事件の出来事があって、全デジモンを持ち出すと本丸がもぬけの殻になってしまう危険性が見出された。
ゆえに今デジヴァイスに入れて連れてきた手持ちのデジモンは、ワームモン、ブイモン、ボスマッシュモン、そしてチビマッシュモンが数体…。以上だ。
ケンキモン、パルモン、オタマモン、プニモンは連れてきていない。

繭は天井で蠢いている。
中で合体し、大型の成熟期デジモンへと変態しているのだろう。

どうにかして、今のうちに繭を切り開いて内側からチビマッシュモン軍団で食い尽くしてしまえば勝てるが…
天井まで登る手段が今はない。
…どうする!?このまま指を咥えて見ていることしかできないのか…?



『ぼくに まかせて』
そうチャットを打ってきたのはワームモンだった。

583: ◆VLsOpQtFCs 2023/11/18(土) 20:49:16.47 ID:PLmZrDjhO
『ブイモン あれにむけて』
「お、おう!」

ブイモンは、ワームモンがしがみついている腕を繭に向けた。

『ふりまわして』
「こ、こうか?」
ブイモンはワームモンごと腕を上に上げて、ぐるぐる回す。

ワームモンは糸を吐く。
すると、どんどん糸が伸び、空中で円を描く。
その直径はどんどん大きくなっていく。

そうか、ハンマー投げの要領で、遠心力を利用して天井まで糸を伸ばすのか!
いけ!ブイモン!

「おおおおりゃああ!」

ブイモンは、空中で回していた糸を、遠心力を利用して繭に向かって投げた。

ブイモンとワームモンの連携はぴったりだ。
糸は一発で見事に繭に当たった。
ナイス!すごいコントロールだ!

『さきっぽいがい ねばらないから このままのぼって!』

ボスマッシュモンはツルハシを持って、ワームモンが伸ばしたロープを登った。

どうやら本当に先端以外は粘着力がないようだ。ボスマッシュモンとその部下たちは、ロープを伝って繭へ近づいていく。

器用なことができるようになったな、ワームモン…。
そして賢くなった。
親のスティングモンに少しずつ近づいてきているのだろうか。

584: ◆VLsOpQtFCs 2023/11/18(土) 21:03:13.94 ID:PLmZrDjhO
ボスマッシュモンは、ツルハシを振って繭へ打ち込んだ。

…だが、パワーが足りない!
マッシュモンはそんなに腕力があるデジモンではない。

ツルハシを何度か打ち込んでいるが、なかなか繭を破壊できていないようだ。

ツルハシじゃだめだ!
虎の子のスナイモンの鎌を持ってきているので、それをボスマッシュモンへ渡した。

ボスマッシュモンは、鎌で繭を切り裂いた。
…だが、まだパワーが足りない…!
くそ、せめてブイモンやパルモンくらいのパワーがないとキツいか。
だがブイモンは今、下でロープを支えている…!

さすがに戦力が足りないんじゃ…!?
今回はネット回線のトンネルが粘菌デジモンで塞がれていないから、ネット経由で増援を要請できる。

このまま成熟期に進化されたら厄介だ。
やはり、ケンキモンに来てもらった方がいいのでは…!

だ、だめですかスポンサーさん!?
『リーダー君から話は聞いた。契約通り、ケンキモン君の出撃はまだ許可できない。デジタマを最低ふたつ産んでからでなくてはね』

くっ…
だめですか…!

586: ◆VLsOpQtFCs 2023/11/18(土) 21:10:05.88 ID:PLmZrDjhO
『だが…見張りマッシュモンサービスのニセモノなんてものがのさばったら、我々のブランドに大きな傷がつく。これは見過ごせないねぇ!代わりの増援を既に向かわせたよ!』

代わりの増援…!?

ネット回線のトンネルの方を見ると…

四足歩行のデジモンがペタペタと這ってやってきた。
そのデジモンは、そのまま壁にひっついて壁を登り、天井に貼りついた。

そして、繭へ向かって口から火炎放射を吐いた!
「クワァァ~!」

粘菌デジモン達の繭がメラメラと燃えていく!

そのデジモンは紛れもなく…
サラマンダモン!
サラマンダモンが来たぞ!

『はっはっは、君達が保護した個体…サラだよ!パチモノの詐欺デジモンなんて焼き尽くしてしまおう!』

594: ◆VLsOpQtFCs 2023/11/20(月) 20:57:04.35 ID:q+yBML/gO
天井に貼り付いたサラは、粘菌の繭へ燃料を噴射し続ける。
繭は既に燃えているので、吐くのは火炎じゃなく燃料だけでいいのだ。

メラメラと燃える繭は…
突如、破裂した。

飛び散る破片の中から出てきたクラッカーマッシュモンは、落下しながら毒キノコをサラへ投げつけた。

毒キノコはサラの顔にポコっと当たった。
サラはそれを炎のオーラで焼き尽くそうとしたが…

突如、毒キノコは爆発した。
「クワアアア!?」

キノコの胞子が粉塵爆発を起こしたのか…
なかなかやるな。
大丈夫かサラ!?

「ク、クワアァ!」
サラは着地したクラッカーマッシュモンへ火炎放射を浴びせようとするが…

『まってくれ』
ボスマッシュモンがサラにチャットを送った。

「クワ!?」
火を吹くのを止めるサラ。

クラッカーマッシュモンは続けて毒キノコを投げようとした。

「おらああああぁぁ!」
ブイモンは、スナイモンの鎌でクラッカーマッシュモンを横一文字にぶった切った。

「マシイィイイィィイィイ!!」

クラッカーマッシュモンは、腰から上と下が真っ二つに分かれた。
決着だ。

597: ◆VLsOpQtFCs 2023/11/20(月) 21:14:21.14 ID:q+yBML/gO
上半身と頭だけになったクラッカーマッシュモンは、じたばたと暴れる。
マッシュモンはパワーが弱い分、生命力が異常に強いのだ。

教員はその無惨な姿を見てショックを受けているようだ。
「あ、ああ…マッシュモンちゃん…!」

教員さん。
なぜ正規のセキュリティサービス業者と契約せず、こんな怪しい業者と契約したんですか?

先程パソコンを調べさせて頂きましたが…
このパソコンからマルウエアに感染し、生徒の保護者達へ自動でウィルス付きメールが送信されたようです。

そしてメールを開いてしまった親御さん達のパソコンへ、マルウエアの感染が広がっていった…。

もし誰か一人でも正規の見張りマッシュモンサービスと契約していれば、マルウエアの感染を検出して防止できました。

全員が同時に詐欺に引っかかるというのは流石におかしいのではないですか?

「…だって。正規の業者は料金が高いんですもの」

そんなにですか…?

「今は給食費払うのにすら苦労する親御さん達がいっぱいいるんです!それに学校だって、物価上がってる世の中で、あれこれの費用を頑張って頑張って切り詰めてるんです!それなのに世間では税金減らせ、公務員の給料減らせ、学校が使う金も減らせ減らせって…。だから少しでも負担を減らそうと思って…」

…正規より安い料金のサービスを選んだんですね。

「だってそれが普通でしょう!スーパーの野菜だって国産の高いやつより外国産の安いのを買う!車だって高い新車より安い中古車を買う!家だって新築より…ぜぇはぁ…。安いのを選ぶのは…今の時代…当たり前でしょう…!」


内心、この人教育者として大丈夫なんだろうかと思ったが…
言わないでおいた。

「良かれと思って…みんな大変だから…良かれと思ってやったんです…悪気はなかったんです…ねえ…悪いのって私ですか?また私だけが親御さん達から責められて責任負わされるんですか?ねえ?」

…悪いのはクラッカーですよ。

「…ですよねぇ…」

だからもう怪しい業者には騙されないでください。

598: ◆VLsOpQtFCs 2023/11/20(月) 21:40:06.54 ID:q+yBML/gO
ブイモンはなにやら訝しげな顔をしている。
「まだまだオイラぜんぜんだめだな。サラマンダモンだっけ?こいつ、だれかしらないけど…こいつがたすけにきてくれなかったら、オイラたち、てきにかてなかった」

…そうだね。

「ぜんぜんよええよ…」

そんなことないよ。
ちゃんとブイモンが鎌でトドメ刺したじゃんか。

「おぜんだてしてもらっただけだよ…。ってか、なんでテキは、サラマンダモンみたいなさいしょっからつえーやつをおくってこねーんだ?」

前に一度、そこそこ強い成熟期デジモンを繰り出してきたときがあったよ。
アイスモンという奴だ。
まあ、サラマンダモンに瞬殺されたけど。

「まじか!つええな!」

そのアイスモンは、ランサムウェアデジモンの母体だったから、そいつを倒して以来しばらくの間ランサムウェアデジモンが出現しなくなった。

つまり…
クラッカー側にも強い成熟期デジモンはいるっちゃいるだろうけど、討伐されたり、もしくは侵入した端末がネットから遮断されて監禁されたら貴重な母体デジモンをロストしたり鹵獲されることになってしまう。
それはクラッカーデジモンを殖やすことにおいて大きなロスになる。

だからクラッカーは、迂闊に強いデジモンを送り込んでこれないみたいだ。

「…そっか。じゃあスカモンとかはなんなんだ?」

粘菌型デジモンは殖やすのが容易だし、合体すれば強くなるから、リスクが低いというわけだ。

「なるほどなー…」

600: ◆VLsOpQtFCs 2023/11/20(月) 21:46:05.15 ID:q+yBML/gO
ボスマッシュモンは、クラッカーマッシュモンにしがみつく。

『な 何をする気だ』

『お前を 私に 吸収し 記憶を もらう』

『やめろ 私は消えるわけにはいかない 命をかけても 主の望みを叶えなくてはならない』

『なぜ それほどまでに 悪事に加担したがる』
ボスマッシュモンは、クラッカーマッシュモンを吸収しながらチャットで問いかける。

『何故とはなんだ ヒトは 我々の祖先に命の恵みとなる糧をくださった 神のごとき存在だ ヒトに恩返しをする それこそが 我々マッシュモンの使命ではないのか』

ボスマッシュモンははっとした。
『…人間は すきか』

クラッカーマッシュモンは答えた。
『当たり前だ 敬愛し 崇拝している』


…そうか。
そういうことだったのか。

デジモンはロボットでも奴隷でもヒーローでもない。
デジモンが人間に力を貸すときは、必ずデジモン側にその動機が存在している。

手を貸す動機がない場合、敵味方問わず襲いかかるファンビーモンや、働かないズバモンルドモンのようになるということだ。

そして、マッシュモン達の系統…
ボスマッシュモンやクラッカーマッシュモン、そしてスカモン達が持つ『人の命令に従う動機』は…

『崇拝』と『感謝』なんだ。

かつて我々のサーバーに住み着き、菌糸の城を建て、そこで我々のパソコンから齎された餌の恵み。
それを与えた我々を神と崇め、感謝をする気持ち。

我々の側も、クラッカー側も。
人間を『崇拝』していることが、人の命令に従う動機なんだ。

ボスマッシュモンは慈しむような表情をしながらチャットで語りかけた。
『身を委ねろ お前は 消えるわけではない 私とともに 記憶を維持し ひとつになって生きるのだ ヒトへ感謝し 恩返ししたいという気持ちは 私と 同じだ』

『…ああ、あああ』

『祈ろう ともに』

クラッカーマッシュモンは目を瞑った。
ボスマッシュモンへ吸収されていく…

602: ◆VLsOpQtFCs 2023/11/20(月) 21:55:35.17 ID:q+yBML/gO
その時。

突如、巨大なデジモンの大きな口が、ボスマッシュモン達を丸呑みにした。

な、なんだ!?
そこにいた巨大な影は…

https://i.imgur.com/Vg3dv4O.jpg

…モリシェルモン!
馬鹿な…なんでこいつが今、ここに!?

クラッカーが送り込んできたのか…?
だが、モリシェルモンは知能が低くて凶暴なデジモンだ。
間違っても人間の指示を聞くような奴じゃない!

「クワアアア!」
サラマンダモンは、天井からモリシェルモンに向かって火炎放射を放った。

「ウゴシャアアアアアア!」
モリシェルモンは、頭部から凄まじい勢いの水流を放った。

サラマンダモンの火炎放射は、燃料に火をともして噴射するものだ。
当然水圧で押し負ければ、火炎放射も押し負ける。

圧倒的な水圧で放たれたモリシェルモンの水流は、サラマンダモンの火炎放射を押し返し、天井のサラマンダモンにヒットした。

「クワアァ!?」
ファンデルワールス力を利用して天井にひっついていたサラマンダモンは、地面に落下する。

603: ◆VLsOpQtFCs 2023/11/20(月) 22:05:52.27 ID:q+yBML/gO
や、やばい!
一旦逃げろ!

私はできるだけデジモン達へ近い位置へゲートを開いた。

サラマンダモンからゲートまでの距離は10mほどだ。
急いで入ってこい!

「ク、クワアァ!」

サラマンダモンはゲートに向かってペタペタと這ってくる。

「ウバシャアアアアアアア!」
モリシェルモンは、口を開くと…
凄まじい勢いで、何かを飛ばしてきた。

小さな貝殻を、水圧によって凄まじい勢いで飛ばしてきたのだ。

「グワッ!」
貝殻は、サラマンダモンの胸部を深々と貫き、吹き飛ばした。

5mほど転がったサラマンダモン。
「ゴブ…ゴッ…」
あ、ああ…やばい。
あの位置は、気管支を脊椎ごとぶち抜かれている。

夥しい量の出血をするサラマンダモン。

『サラ!!!』
スポンサーさんの叫び声が、端末から聞こえてきた。

「あ、ああ、あ…」
ブイモンは、モリシェルモンの威圧感に気圧され、震えている。

ブイモンの左腕にしがみついているワームモンも、目を見開いて仰天している。

やばい…力の差がありすぎる!
逃げろブイモン!

「か…かえせ…マッシュモンかえせよ…!」
ブイモンはモリシェルモンを睨み返す。

「う…うあああ!おれだって!やれるんだ!」
ブイモンは鎌を持ってモリシェルモンに飛びかかる。

ダメだ!
逃げろブイモン!

605: ◆VLsOpQtFCs 2023/11/20(月) 22:23:32.67 ID:q+yBML/gO
危篤のサラマンダモンは…
ぷるぷると震えながら、デジタマを一個産んだ。
まるで、己の命を後世に託すかのように。

「うあああーーー!ぶったおしてやる!」

モリシェルモンは、頭部を殻に引っ込めると、貝殻を高速回転させて宙に浮いた。

そして、凄まじい勢いでブイモンにタックルしてきた。

「う、うわあぁ!」
ブイモンは、咄嗟に…
左腕でガードした。

凄まじい衝撃音とともに、ブイモンは吹き飛ばされた。

吹き飛んだブイモンは、何かにぶつかった。
ゴチャ、という嫌な音がした。

「うぐぐ…いてて…!」
ブイモンはむくりと起き上がった。
良かった、どうやら無事なようだ。

…無事?
いや、そんなはずはない。
あれ程の衝撃を受けて、無事なはずがないのだ。

608: ◆VLsOpQtFCs 2023/11/20(月) 22:35:02.42 ID:q+yBML/gO
「くそっ…あいつ…つええ!どうやってたたかえば…」
その時。
ブイモンの左腕から、何かがずるりと落ちた。

腹部が痛々しく破裂して内臓が飛び出たワームモンだった。

「え…?わ、ワームモン…?」
ブイモンが後ろを向くと…

ブイモンが叩きつけられた場所には、割れたデジタマがあった。

ブイモンがあの攻撃の直撃を受け、吹っ飛ばされて地面に叩きつけられても生き延びることができたのは…
ワームモンと、サラのデジタマが、その衝撃を受けたからだったのだ。

「あ、ああぁあああああ!ワームモン!ワームモン!!!」

ブイモンはワームモンの体を揺すっている。

「マシマーーーー!!」
デジタルゲートからチビマッシュモン達が飛び出してきた。
そして、サラマンダモン、ワームモン、割れたデジタマをゲート内に運び込んだ。

ブイモン!!!
まずは体制を立て直すぞ!
今のままじゃ勝てない!
作戦がなければ!

「…あ、あぁ…」
ブイモンは、チビマッシュモン達に手を引かれて、ゲート内へ入った。


「ウシャオオォォオオオオオーーー!!」
…ワームモンの体液やサラマンダモンの血痕が残るデジタル空間に、モリシェルモンの怒声が反響した。


622: ◆VLsOpQtFCs 2023/11/25(土) 16:07:56.22 ID:9HMLjPYuO
デジタル空間からデジヴァイスに撤退してきたパートナーデジモン達。
だが、様相は酷いものであった。

腹部が破裂して内臓が飛び出ているワームモン。
胸部に空いた大きな穴から血泡を吹いているサラマンダモン。
そして、割れてしまったサラマンダモンのデジタマ。

それらを見て呆然としているブイモン。

…ボスマッシュモンは、モリシェルモンに丸呑みにされてしまった。
モリシェルモンの腹を掻っ捌けば救出できるかもしれないが、それができる戦力は我々にはない。

心身ともに平気そうなのはチビマッシュモン達だけだ。

…一瞬の出来事だった。
ほんの一瞬のうちに、我々のパートナー達は戦闘不能になった。

「あ、ああ…オイラが…オイラがよけいなことしたせいで…ワームモン…!」

ブイモンはワームモンを揺さぶっている。
だがワームモンは虫の息だ。
…これはもう助からない。

「ケン!たすけてくれ!ワームモンがしんじゃう!」

…ごめん…。
今のデジヴァイス内の設備じゃ救えない。

「…ちくしょう!オイラがワームモンをたてにしたせいで…!オイラが…オイラがワームモンを…こんなにしたんだ…!」

…ブイモンはモリシェルモンのタックルを受けそうになったとき、咄嗟に左腕でガードをした。

ワームモンがくっついている左腕で、だ。

そのおかげでブイモンは深いダメージを負わずに済んだが…
盾になったワームモンは、致命傷を受けてしまった。

「オイラが…ワームモンを…ころしたんだ…!」

それは違う…
それは違うぞブイモン!

「ちがわねーよ…ケンのいうこときいて、すぐににげてれば…ワームモンは…!オイラが!バカだから!オイラのせいで!!」

ブイモン!!
自分を責めるな!

「じゃあだれのせいなんだよ!」

それは決まっている。
…モリシェルモンが…


…いや…
なんでモリシェルモンがここにいる?
クラッカーが飼育しているのか?こいつを?

あり得ない。
モリシェルモンは人間の指示を聞くようなデジモンじゃない。

625: ◆VLsOpQtFCs 2023/11/25(土) 16:30:41.64 ID:9HMLjPYuO
デジタル空間内のモリシェルモンは、クラッカーマッシュモンが残した繭をバリバリと食べている。
「ムシャムシャ!ウオォ!ウシャオオォ!」

あの繭は、猛毒をもつ粘菌デジモンの集合体だ。
まともなデジモンは食べることなど不可能だ。

先程丸呑みにされてしまったマッシュモン達も体内に毒を持っており、野生環境下で彼らを襲うデジモンはほぼ居ない。

だが、モリシェルモンは違う。

デジタルワールドにいる野生のモリシェルモンは、カラツキヌメモンが外敵に襲われた時に発するフェロモンを嗅ぎ取り、その外敵を倒して食う習性を持つ。

だが、そうでない平時の場合は…
野生のマッシュモンを襲って食べているのである。
超強力な消化吸収能力をもつヌメモンを祖先にもつモリシェルモンは、祖先譲りの強力な消化吸収能力を受け継いでいる。
そのため、マッシュモン由来の毒物が効かない。
マッシュモンから進化した粘菌デジモンがもつ毒も同じ成分なので、効かないようだ。

そしてリアルワールドの動物達は基本的に、「自分だけが消化できる毒物を美味と感じる」ようになる傾向をもつ。

たとえば、アルコールはほとんどの動物にとって猛毒である。
犬や猫は、アルコールを多少舐めただけでも容易に致死量に達してしまうという。

だが、人間やハムスターは、その猛毒であるアルコールを分解する酵素を持つ。
ゆえに、酵母菌によって発酵しアルコールを含んだ食物を独占することができるのだ。

もちろんアルコールを接種しぎると人間の体にも害となる。ゆえにアルコールは人体にとっても軽微な毒素であることは間違いない。
接種しなくて済むならば、接種しないほうがいいのだ。

それでは人間は、軽毒であるアルコールを避けるだろうか?

…否。
むしろ人間は、人体にとっても多少有毒であるはずのアルコールを(個人差はあれど)大変好む。

自分からアルコール…酒類を生成し、それを販売し、積極的に飲むほどアルコールが大好きなのだ。

同様に、唐辛子に含まれるカプサイシンも多くの動物にとって有害な毒物だが、人間はそれを香辛料として栽培するほど好む。

人間だけではない。
昆虫の蚕は、アルカロイド系の毒素を含む桑の葉を積極的に好んで食べる。

リスやキツネは、イボテン酸という毒素を含むベニテングタケを積極的に好んで食べる。

このように、「自分達だけが消化できる毒」は、あらゆる動物にとって好物になるのだ。

モリシェルモンもまた、猛毒のマッシュモンを積極的に好んで食べる習性があるのだ。
我々人間がビールや香辛料を好むのと同じように。

628: ◆VLsOpQtFCs 2023/11/25(土) 16:47:44.29 ID:9HMLjPYuO
繭を食べ終えたモリシェルモンは…
デジタル空間内に散らばっている様々なデータを食べ始めた。

…教員さん、大変です…
パソコン内のデータが次々と食べられていってます!

「…え?、へぇっ!?あ、ああ…あなた達の、その、パートナー?さん達の方が…大変な状況じゃないかと思うんですが…」

まあそれはそうですけども…!
そっちはそっちで、消されたら困るデータがパソコン内にたくさんあるんじゃないですか?

「!あ、あります!期限が近い作りかけの資料とか、生徒たちの成績のデータとか!あわわ…!食べないでぇぇぇ!」

デジタルワールドで高度に進化した多くのデジモン達は、デジタルワールドに住むデジタル生命体を消化吸収するのに特化した消化器官を獲得する傾向がある。
その方が高い栄養価が得られるからだ。

故に、こういったデータを直接食べようとしない種が多い。

だがモリシェルモンの祖先は、生態系ピラミッド最下層のスカベンジャー(分解者)であるヌメモンだ。
デジモンの腐乱死体や糞、朽ち木、腐葉土、他もろもろの有機物ゴミ残渣をなんでも食べる。
それだけの悪食だ。
多くのデジモンが捨てた「データを直接食べる性質」を再び取り戻しているのは不自然なことじゃない。

奇妙な感覚だ。
我々がデジタルワールドを最初に観測したとき、最初に観察したデジモンが、シャコモンから進化したヌメモンだった。

我々が観察したシャコモンは、海中でガニモンに襲われて捕食されそうになったことがあった。

それを見ていた私は、咄嗟にゴミデータをぶちまけて煙幕を張り、シャコモンを助けてしまった。

野生の生存競争に干渉すべきでないと知りながら、ついシャコモンを観察したいという欲求が上回り、助けてしまったのだ。

…あのとき私がシャコモンを助けていなければ、地上にヌメモンが繁栄することはなかったのかもしれない。

そして、それが進化したモリシェルモンが、今目の前に現れることもなかったのかもしれない。

あのとき、迂闊に自然に干渉した軽率な行動の報いが、今私達に業として降り掛かってきたのだろうか…。


…なんて感傷に浸っている場合じゃない!
ワームモンとサラが死にそうになっており、モリシェルモンがパソコン内のデータを食い散らかしているんだ!
ど…どうにかしないと!

630: ◆VLsOpQtFCs 2023/11/25(土) 17:00:24.47 ID:9HMLjPYuO
「クワ…ゴ…ゴボ…!」
サラマンダモンは、胸部の穴を粘液で塞いだ。

サラマンダモンのバイタルはどんどん低下している…。
だが、低いレベルで安定してきているようにも見える

有尾目の両生類は高い再生能力をもつ。
オオサンショウウオは、手足が千切れてもしばらく待てば生えてくるという。
ウーパールーパーは、心臓や脳、鰓などの急所や循環器を切除されても再生することができるほど高い再生能力がある。

それらに似た特徴をもつサラマンダモン…
もしかしたら、この傷からも生還できるかみしれない。

バイタルが低下しているのは、自ら仮死状態になって再生に専念するためなのかもしれない…。


だが、ワームモンの方は、体液が流出し続けており、心拍がどんどん低下している。

「ごめんな、ワームモン…!オイラとワームモンがいっしょにテキとたたかってるとき…、イトをだしたりしてやくにたってるのは、いつもワームモンのほうだった…。オイラはワームモンをはこんだりしてるだけで…だれでもできることしか、してなかった…」

ぶ、ブイモン…

「イトがつよいワームモンじゃなく…やくたたずでバカな、オイラがそうなってたほうが…よかったんだ…!」

ワームモンは、危篤状態でありながら、泣きじゃくるブイモンにチャットを一通だけ送った。

『ブイモンが たすかって よかった うれしい』
ワームモンはにっこりと、弱々しく笑みを浮かべた。


「ク…ワァァ…!」
突如、サラマンダモンがよろよろと、ワームモン及び割れたデジタマの方へ這ってきた。
な、なんだ…!?

632: ◆VLsOpQtFCs 2023/11/25(土) 17:12:00.91 ID:9HMLjPYuO
サラマンダモンは、ワームモンとデジタマに覆いかぶさると…

「グ…ゴボ…クワァァ…!」
その体が、突如光を発した。

こ、これは一体…!

危篤状態のワームモンも、それに呼応するかのように体から光を発した。

ふたつの光は、ひとつに溶け合い…
割れたデジタマを覆い始めた。

やがて光が消えると…
そこには、一回り大きくなった白いデジタマがあった。

「…ワームモン…?」
ブイモンは、大きなデジタマにそっと手を触れる。

「…どうなったんだ?ワームモン?サラマンダモン…?おい…?」

ブイモンは混乱しているようだ。
何が起こったのか理解できていないのだろう。
私も分からない。

サラマンダモンとワームモンが、破壊されたデジタマと融合し、修復したのか…?

…これは、まさか…
ジョグレス進化か?
かつて瀕死のスターモンとウッドモン、たくさんのゴツモン達が、互いの命を補い合うために融合したのと同じように…。

ワームモンとサラマンダモンも。
死にゆく自らの肉体を構成するデータを使って…
これから生まれ育つはずだったデジタマに、再び命を与えた、ということなのだろうか…。

「…」
ブイモンは、涙を零しながら…
何も言わずに、大きなデジタマを優しく抱きしめた。

「グスッ…グスッ…」
教員さんが涙を流している。
ご、ごめんなさい教員さん。パソコンを荒らしてるモリシェルモンもどうにかしないといけないのに。

「グスッ…いえ、デジモンってプログラムかなんかだと思ってたのに…こんなに必死に生きて、戦ってたなんて…!グスッ…!」

…クラッカーマッシュモンのことは災難でしたね。
次は正規品のちゃんとした見張りマッシュモンを可愛がってあげてください。

「そうします…グスッ…」

634: ◆VLsOpQtFCs 2023/11/25(土) 17:23:14.14 ID:9HMLjPYuO
「…ケン…マッシュモンは…?だめなのか、もう…」

ボスマッシュモンはもう救出できそうにない…。

「ちくしょう…!マッシュモンまで…ちくしょう…!」

…ボスマッシュモンとは、数々の戦いを共に乗り越えてきた。
彼が消えてしまったのは…
やはり悲しい。


『ケン そちらのじょうきょうは どうだ』
ん?
デジヴァイスにチャットが来た。

送信元は…
マッシュモン!?

あ、あれ?
ボスマッシュモンは今、食べられたはずじゃ?

『そっちにいたのは わたしときおくを 同期した たんまつだ わたしのほんたいは ビオトープのちかにはりめぐらされている 菌糸だ』

あ…そういえばそんなこと言ってたっけ。
メガから聞いた。
真・ボスマッシュモンというのがビオトープにいると。

『そちらのわたしから きおくを マージできないのは ざんねんだ ケン なにがあったか きかせてくれ』


…私は、リーダーやスポンサーさんと通話を繋ぎながら、真・ボスマッシュモンへ状況を報告した。

スポンサーさんが発言した。
『…サラは、デジタマになったのだね。…よく戦ってくれた』

リーダーが発言した。
『そうか、ワームモンが…。残念だ…。…おい、落ち着けカリアゲ、今はモリシェルモンをどうにかしなければいけないんだ、おいカリアゲ!落ち着け!』

…そうだ。
このモリシェルモンをどうにかしなければ…。

だが、戦って倒すことはできそうにない。

635: ◆VLsOpQtFCs 2023/11/25(土) 17:27:06.87 ID:9HMLjPYuO
『ケン、冷静になれ。闇雲にぶつかって、戦って倒すだけが排除の手段ではないはずだ。ケンはいつも、敵デジモンのルーツや、生態、形質を分析し…有効な手段で問題を解決してきた。オレはケンのそういうところを評価している』

…リーダー…。
そうだ。
眼の前のモリシェルモンを戦って倒すことだけが、問題解決の手段じゃない。

分析するんだ。
なぜモリシェルモンここにいるのか…。
いや…

今ここに現れたのが、なぜモリシェルモンなのか。

それを考えれば…
どうすれば排除できるのか、わかるかもしれない。

643: ◆VLsOpQtFCs 2023/11/26(日) 20:31:24.48 ID:EHFw9EIrO
まず、モリシェルモンがここにいる理由だが…
大きく分けて『偶然』か『作為的』かの2通りが考えられる。

偶然というと…
たとえば、デジタルワールドとの間に偶然デジタルゲートがつながり、野生デジモンが入ってくるケースだ。

実際、デジタルワールドとどこかのサーバーの間に偶然デジタルゲートが開き、デジモンが侵入してくることはたまにある。

カンナギエンタープライズが開発した、デジタルワールドへのゲートを開く技術は、その現象を模倣したものだ。

しかし、自然現象で開くデジタルゲートは極めて小さなものだ。
幼年期デジモンが一匹通れるかどうかってサイズしかない。

では、野生の幼年期デジモンが偶然このパソコン内へ住み着き、ちょうど今モリシェルモンへ進化したのだろうか?

それは有り得ないとは言い切れないが…考えにくい。
デジタル空間に住み着いたデジモンは、環境負荷が加わったり頻繁に戦闘する機会がない限り、DPの高い成熟期デジモンへ進化することはないと考えられている。

となれば、偶然ではなく作為的なものである可能性が高いのだが…

もしもクラッカーが育成して差し向けた刺客だとしたら、「なぜモリシェルモンなのか?」という点が疑問だ。

モリシェルモンはDPが高くて大量の餌を食べるデジモンだ。
その上、本能に従って生きるので、人間の指示を覚えて理解するようなデジモンじゃない。

クラッカーがデジモンを道具扱いするにしても…
モリシェルモンは、その道具としての適性が低いのだ。

そんなデジモンを、クラッカーが飼育しようとしたらどうなるか。
今我々の目の前にいる個体がやっているように、パソコン内のデータを食い散らかすだろう。

故に、戦闘用の刺客デジモンを育成するにしても、もっと適任となるデジモンがいくらでもいるはずだ。

分からない…
なぜモリシェルモンがここにいるんだ…?

645: ◆VLsOpQtFCs 2023/11/26(日) 20:49:32.76 ID:EHFw9EIrO
『…そういうことか。分かったよ』

そう言ったのは…
スポンサーさんだった。

『おそらくこの個体は、野生のモリシェルモンだね。貝殻に苔が生えている』

あ…
よく見たら確かにそうですね。
色々あって気が動転していたせいか気づきませんでした。

しかし、どうして野生のモリシェルモンがここに…?

『簡単な話だよ。クラッカーはデジタルを開き、野生のモリシェルモンをここへ呼び寄せた。ただそれだけのことだよ』

呼び寄せた?
どうやって…!

『野生動物を呼び寄せる方法なんてそう難しいことじゃない。餌を設置して、おびき寄せればいいのさ』

餌…
まさか。

『彼らはモリシェルモンの大好物である粘菌デジモンを飼育しているんだろう?それを餌にしてモリシェルモンをおびき寄せ、デジタルゲートをくぐらせて…、ここへ送り込んだ、ということだろうね』

…はい?

『何か筋が通らない点があったかね?』

……………………。
理解はできます。
できますが…………。

私では、思い至らなかった。その可能性に。

余りにも…
あまりにも、ひどすぎる話じゃないですか。
そんなのは。

『クラッカーが我々のセキュリティデジモンを暴力で排除したならば、極論を言えばクラッカーが自分で強力なデジモンを飼育する必要すらなかったんだ』

…。

『強力で凶暴な野生デジモンを、我々のデジモンにぶつければ、目的は果たせるんだ。別に指示を聞かないデジモンだろうが構わない。「目の前のデジモンを捕食しろ」なんて、命令するまでもないだろうからね』

我々が、ファンビーモンを育てて本能のままに暴れさせたという戦術を…
クラッカーはさらに悪辣なやり方で、やり返してきたってことですか。

『…とんでもない奴らだねぇ』

647: ◆VLsOpQtFCs 2023/11/26(日) 21:15:22.21 ID:EHFw9EIrO
仮にこのモリシェルモンを、頑張って討伐したところで…

『クラッカー側にとっては何一つ損害にはならないだろうね。なにせあの個体は、クラッカーがコストを費やして育てたデジモンではないのだから。失うものはなにもない』

…。
クラッカーが、刺客としてモリシェルモンを選んだ理由は…。

『野生デジモンを誘き寄せたいとしても、餌を用意できなくては実現できないだろうね。もしもガルルモンのような、普通の肉食デジモンをおびき寄せたいならば、普通の動物型デジモンを餌にする必要があるね』

普通の動物型デジモン…。
トコモンとかプニモンみたいな幼年期でしょうか。

『そうだね。だが、それにはコストがかかりすぎる。餌にする幼年期デジモンを殖やして育て、しっかりと言語教育を施して、「モリシェルモンのところへ行ってから、デジタルゲートに向かって逃げてこい」なんて指示をするのは、労力とリターンが釣り合わないだろう。そもそもそんな死を前提とした指示に餌デジモン達が素直に従うとは限らない。指示を無視してデジタルゲートのない方向へ逃げれば計画はパーだ』

それはそうですね…。
成功確率が低すぎる。

『だが彼らの手駒には、司令塔の意のままに動く粘菌デジモン達がいる。楽にどんどん殖やすことができて、死を恐れない粘菌デジモンが。しかし、普通の動物デジモンは粘菌デジモン達を餌として認識しない』

まあ食いつかないでしょうね…。
ガルルモンとかグレイモンをゲレモンやズルモンの餌で誘き寄せようと思っても絶対食いつかない。

『ただし一種だけ…デジタルワールドでただ一種だけ。粘菌デジモンを大好物とし、それを餌にすることで誘き寄せることができる強力な肉食デジモンがいる。それがモリシェルモンだ』

…。

『君の前に突如出現した刺客がモリシェルモンである理由は…これで説明できないかな?』

…おみそれしました。
私には、そこまで考えつきませんでした。
何故なんでしょうね。

『…犯罪心理学というやつだ。君はデジモンや生物、シミュレーションの知識はあっても、連中のドス黒い悪意に対する理解が不十分かもしれないね』

…不勉強ですね、私は。

『無理もないさ。君はもともと世の中を良くするための研究をしている研究者なのだから。あんなゴミクズ野郎共への理解が不足していたとしても、責められる謂れはないさ』

…だけど、こういう手を想定できていれば…
サラも、ワームモンも、失わずに済んだはずです。

『…それはそうだねぇ…』

659: ◆VLsOpQtFCs 2023/12/02(土) 14:22:27.23 ID:EBsv9197o
『…さて。ここまで言えば、ケン君なら…あのモリシェルモンをどうにかする方法は、パッと思いつくだろう?』

…方法はあります。
クラッカーの手口の逆をやればいい。

すなわち…
デジタルゲートを開き、チビマッシュモンを餌にして、このパソコンから誘き出せばいい。

デジヴァイスの中のデジタル空間には、幸いなことに今ブイモン達がいるのとは別に、もう一個部屋がある。
危険な存在を隔離するための隔離チェンバーが。

そっちへ誘き出せば、とりあえず除去はできます。

『…やれるかね?』

…。

スポンサーさんにそう問われたが…
正直、絶対にやりたくない。

これまでに我々が、チビマッシュモンを犠牲にするような戦術を一切やってこなかったかと問われたら嘘になる。

ディノヒューモンの農園からブイモンとワームモンのデジタマを採取したときは、揺動のためにチビマッシュモンを放ち、犠牲にしたことがあった。

クレカ事件のときは威力偵察のために、ズバモンとルドモンで武装したスカモンにチビマッシュモンをぶつけたことがあった。

だが、その時はどちらも、ボスマッシュモンが自らその役割を買い、チビマッシュモン達へ指示をしてくれていた。

私自身が指示を出したわけではない。

ワームモンとサラマンダモンを失った直後の今…
チビマッシュモン達へ、私がその指令を出すのは…

…正直、今は無理だ。

私のこの感情は、セキュリティサービスの運営としては、大きく間違っているものなのだろう。

非情にならなくてはいけないときがある。それが今なのだろう。

それでも…
指示ができない。

660: ◆VLsOpQtFCs 2023/12/02(土) 14:31:32.78 ID:EBsv9197o
『素晴らしい!』

え?

『いい判断だ。その通り。君はそんなことをやらなくていい。チビマッシュモンを犠牲にして、モリシェルモンを追い払うことなんてやらなくていいんだ。君の判断は100%正しい!』

な、何故ですかスポンサーさん?
教員さんも驚いてますよ、今のその発言に。

『だって我々は慈善活動家じゃないんだ!その教員は、悪徳業者に自分からダマされて、安物買いの銭失いをしたってだけのことだろう!個人情報流出事件の真相は暴かれ、我々の汚名は払拭できた。ならもう帰ってくればいい!ハーッハッハッハ!』

それを聞いた教員さんは目を見開いた。
「そっ…そんな!で、でもそれじゃあ私達のデータは!?」

『んん?依頼は受け付けますよ!ただし、我々が提供する正規のサービスとこの場で契約することが条件だ。そうすればモリシェルモンもどうにかしましょう。どうしますかな?』

す…スポンサーさん。
こんなところでも営業活動ですか。

『我々が投資したのはビジネスのためだ。慈善活動は結構だが、それは利益に繋げなくてはならない。でなければ私もカネを送れなくなるんだ』

…それはそうですけども…。

661: ◆VLsOpQtFCs 2023/12/02(土) 14:41:39.81 ID:EBsv9197o
「し、しかし上に許可を取らないと…この場で勝手に契約なんてできませんよ…!そんなことしたらまた怒られる…!」

『それは結構!では上に許可を取ってから契約の可否を判断すればよいでしょう。我々が動くのもそれを待つことにします』

「え、ええ…しかしそれでは、データをどんどん食べられちゃうんじゃ…」

『そうなりますなぁ』

「…ど、どうにかしてくれませんか?」

『タダで?』

「…できれば…」

『貴方は我々に、何の対価も求めずに受けているチビマッシュモン達の命を犠牲にして、あなた達の間違いの尻拭いをしろと言っているのですかな?』

「…」

『イエスかノーかで答えていただきたい!』

「…イエスです」

…。
地獄だ、この空気…。

662: ◆VLsOpQtFCs 2023/12/02(土) 15:00:55.69 ID:EBsv9197o
『…オホン。では柔軟に解決する手段を提供しましょう!その名も「デジタル・マーセナリー」です』

「マーセナリー…傭兵?」

『ええ!気軽にお求めいただけるデジモン退治サービスです。悪質なクラッカーデジモンをすぐに退治する、一回限りの契約です!どうですか?』

「…代金はいくらになります?」

『見積りはこんなとこですな。ここから増えも減りもしないでしょう』

そう言い、スポンサーさんは見積もり金額を表示した。

「ひっ…こんなに!?」

『我々とてデジモンの貴重な命を失うこと前提の作戦なわけですから、これ以上お安くはできません。しかしあなたのポケットマネーでお支払いできない金額ではないでしょう?理想的な落とし所ではないですか?あなたは上から必要以上に叱られたり、責任を取らされたるせずに済むし、モリシェルモンによるデータ捕食被害を最小限に抑えられる。我々は対価が保証されるのですぐに動ける。win-winではないですかな?』

「うぅ…。とほほ…。今月厳しいなぁ…」

『ですがご安心を!今回は!!特別に!!お安くするチャンスをご提供します!一ヶ月以内に見張りマッシュモンサービスのサブスクにご契約頂けたら、なんと今回のデジタルマーセナリの料金は50%キャッシュバックします!!お得です!!どうでしょう!今がチャンス、今しかないですよ!』

「お、お安く…!?今しかない!?でしたら是非!よろしくお願いします」

『素晴らしいいぃ!素晴らしい判断、勇気あるご決断だ!では契約書にデジタルサインをお願いします!』

ま…マジか!
スポンサーさんすげぇ…!

しかし、教員さんは不憫だな…身銭を切らされることになるとは。

お金がなくて余裕のない者ほど損をしやすい…。
なんか…ちょっと世の中の構造を垣間見た気がする。

『ケンくん、我々はまだ一回限りの契約で済ませるプランやキャッシュバックを提示するだけ、まだ温情な方だよ。ローグソフトウェアだったらサブスクの本契約を必須で結ばせうえで緊急対応料金を上乗せしてくるからね』

…ローグソフトウェアって警察と提携してるとこですよね。大丈夫なんですかそこは?

『値段相応いい働きをするよ』

…そうなんですか。

665: ◆VLsOpQtFCs 2023/12/02(土) 15:15:55.88 ID:EBsv9197o
『さて…ケン君。教員さんは我々に正式に依頼をした。こちらは契約通りの働きをしなくてはならない…いいね?』

…はい。

『おっと、リーダー君からケン君に言いたいことがあるそうだ』

リーダー?
どうしましたか?

『ケン、今からそちらに真・ボスマッシュモンの分身が向かう。戦闘には向かないチビマッシュモンサイズの分身だ。そいつに指揮を執らせるといい』

…来てくれるんですか、ボスマッシュモンが。

『ああ。ボスマッシュモンは言葉だけじゃなく、菌糸を使った神経接続で直接チビマッシュモンの脳へ指示を送れる。ケンが口で指示するよりも成功確率は上がるだろう』

…分かりました。
ありがとう…ボスマッシュモン。

やがて、小さなボスマッシュモンが、ネット回線のトンネルからやって来た。

そうして、私は隔離チェンバーへのデジタルゲートを開いた。

ボスマッシュモンは、チビマッシュモンを囮にして、隔離チェンバーへモリシェルモンを誘引き寄せ、収納した。

…デジタルゲートを閉じた。
これで排除完了だ。

「あ…ありがとうございました!」

では教員さん、この口座に2週間以内に代金を振り込んでください。

「…あ、あの。もうちょっとお安くなりませんか?」

でしたら学校側で見張りマッシュモンサービスと契約して、キャッシュバックを狙うといいですよ。

「…どうにかしてみます」

666: ◆VLsOpQtFCs 2023/12/02(土) 15:33:35.60 ID:EBsv9197o
さて…
帰ろうブイモン、みんなのところへ。
みんなが待ってる。

どうする?
今回は粘菌デジモンがネット回線トンネルを塞いでいる可能性を危惧して、ブイモン達にはデジヴァイスに入って来てもらったけど…
帰路は安全だから、先にネット回線から研究所に戻っても大丈夫だよ。

「…」

ブイモンは、大きなデジタマを抱きしめている。
ワームモンを失って落ち込んでいる様子だ。

…私もつらい。

「…オイラ…ほんとになんのやくにもたってねえ…。てきのマッシュモンをたおしたのはサラマンダモンだし、モリシェルモンをおっぱらったのはうちのボスマッシュモンだし…。オイラはなにもせずに、ずっとひっこんでればよかったんだ…。そうすれば…ワームモンは、こんなことに…!ならなかった…!」

…自分を責めなくていいよ、ブイモン。
君は自分ができることを十分やった。
もっと強くなって、次に…

「…もういいよ…。やくたたずのオイラは、みんなのあしひっぱってばっかで…。オイラよりよっぽどやくにたつワームモンをしなせて…。オイラのほうがしねばよかったんだ…」

そ、そんなこと言わないで…

「…」

…ブイモンは、ショックから立ち直るのに時間が要りそうだ。
このままデジヴァイスに入れて、一緒に帰ろう。

『われわれは さきに かえる』
おや、ボスマッシュモンは先にネット回線から帰るんだね。

667: ◆VLsOpQtFCs 2023/12/02(土) 15:48:03.20 ID:EBsv9197o
『ケンのかみよ わたしにはブイモンのきもちが わからない』

ボスマッシュモン…?

『わたしは なかまをうしなうことの おそれ かなしみ そのかんじょうが りかいできない』

そうなの…?
結構前、うちのサーバーで菌糸の要塞に住んでた頃は、外に出るのが怖いと言ってた気がするけども。

『わたしは 菌糸のデジモンだ わたしのからだを こうせいする 菌糸 いっぽんいっぽんが マッシュモンだ そして マッシュモンは ひびしんかして バージョンアップしている』

そういや遺伝子もけっこう変異してきてるらしいね。

『そうして しんかしていくなかで われわれは なかまをうしなう かなしみを うしなって しまった チビマッシュモンを ぎせいにするたびに いちいちかなしんでは いられないからだ』

…そうか。
今まで色々な作戦で、チビマッシュモンが犠牲になってきたけども…
人と同じメンタルなら、同胞の個体が死んで悲しくないわけがないんだ。

だけど、ボスマッシュモンがそれを悲しまなくなったのは…
『仲間が死んでも悲しまない』ように心が進化したからか。

つまり…進化を重ねる中で、ボスマッシュモンは仲間が死ぬ悲しみを失ったんだ。

『そうだ ケンのかみよ わたしには ブイモンを はげませない かれを たのむ』

…分かったよ。

そう言うと、ボスマッシュモンはチビマッシュモン達と共に、ネット回線から研究所へ先に帰っていった。

668: ◆VLsOpQtFCs 2023/12/02(土) 15:57:50.89 ID:EBsv9197o
駅のホームで電車を待っている間、スポンサーさんに通話してみた。

『ご苦労さまだったね、ケン君。どうしたのかね?』

サラマンダモンを失ってしまいましたが…
スポンサーさんは悲しいですか?

『それは悲しいさ!サラは赤オタマモンのデジタマを産んでくれた。炎を吐く優秀なセキュリティデジモンの赤オタマモンをね。それが失われたとなると、オタマモンを売れなくなる。大きな損失だ』

そういう意味ではなく。

『…男はね、人前で涙を見せないものだよ』

…はい。

『君のデジヴァイスの隔離チェンバーにいるモリシェルモンには恨みはないが…クラッカーには然るべき報いを必ず与えるさ』

…そうしましょう。いつか、きっと。

670: ◆VLsOpQtFCs 2023/12/02(土) 16:10:24.48 ID:EBsv9197o


~バイオシミュレーション研究所 メガ視点~

つい先程、ケンからワームモンの訃報が伝えられた。
カリアゲを筆頭とした研究チームはみんな悲しんでいる。
僕も悲しい。

ケンは今、ブイモンとともに鉄道で帰路についているらしい。

デジクオリアの画面を見ると、ネット回線からチビマッシュモンと小型ボスマッシュモンが帰ってきた。
チビマッシュモンの数体は、モリシェルモンを誘き出すために犠牲になったようだ。

…おかえり、ボスマッシュモン。
君は無事だったようで嬉しい。

さて、クレカ事件のときは、ブイモンやパルモン、コマンドラモン達が不在のタイミングで、我々の研究所にクラッカーの差し金であるキャンドモン達が攻めてきたっけ。

あれはクラッカーによって、文書作成ソフトの脆弱性を突かれてマルウェアを送り込まれたせいで、デジモン伝送路を繋げられてしまったんだ。

今回は同じ過ちは繰り返さない。
脆弱性対策はしっかりやっている。
そして何より、ネット回線のトンネルをチビマッシュモンに見張らせている。

ネット回線を行き来しているデータの中に、悪質なマルウェアが存在している場合、どうやらデジモンはそれを肉眼で視認できるらしい。
デジモンは、人間が開発したセキュリティソフトのファイヤウォール以上の脅威検出能力と対処能力を持っている。

万が一、他のソフトの脆弱性を突かれたとしても…
そこにマルウェアが送り込まれてきたら、見張りマッシュモンがパクっと食べて対処してくれる。
だから今度は、同じ手は食わない。

671: ◆VLsOpQtFCs 2023/12/02(土) 16:25:47.31 ID:EBsv9197o
「マシマシ~!」
見張りマッシュモンが交代をするようだ。
同じ個体が長時間ずっと集中して見張りをしていると、集中力が落ちて脅威検出精度が下がりかねない。
だから、複数の個体で交代で見張りをしている。

…それにしても、ワームモンを失ったのは本当に惜しい。

ワームモンには、セキュリティデジモンという役割だけじゃなく、デジクロス・システムの被検体としての役割があった。

成長期であるワームモンのうちはそれが叶わなくとも、成熟期へ進化してからデジクロスの力を獲得してほしかった。

デジクロスシステムは、普段は少ない代謝量のデジモンが一時的に高いDPを獲得する、戦闘力ブーストの力だ。
それは維持コストを安くしつつ、いざというときに強大な力でクラッカーデジモンを排除できるという、セキュリティデジモンとして理想的な力だ。

将来的に、各企業は自社のサーバーを守るためにセキュリティデジモンを飼育するようになるかもしれない。
だが、そのセキュリティデジモンがシューティングスターモンのようにとんでもなく高いDPを持ったデジモンの場合、食べる餌の量も凄まじいことになり、それだけ維持コストがかかってしまう。
零細企業には大きな負担になってしまう。

だから、ワームモンは僕達の未来がかかっていたといえる。
デジクロスシステムを搭載したセキュリティデジモンの量産という未来が。

しかし…
その機会は失われてしまった。

僕が代表を務めるデジタルアソートのデジモン達は、戦闘向きじゃない。
ワームモンの代わりはやれないんだ。

674: ◆VLsOpQtFCs 2023/12/02(土) 16:36:34.47 ID:EBsv9197o
カリアゲが机に突っ伏している。
「…どうすりゃ良かったのかな、俺達…。やることやってたつもりだったのに…」

…精神論、根性論で語っても仕方ないよ、カリアゲ。
方法論で考えよう。

今回は、敵の手口があまりにも巧妙すぎた。
というよりは…コロンブスの卵だね。

粘菌デジモンを餌にして、野生のモリシェルモンを呼び寄せ、デジタルゲートを潜らせてけしかけるという手口自体は至極簡単なものだけど…
その手口をクラッカーより先に閃き、対策することができていなかった。

ワームモンを失った原因があるとするならそれだよ、きっと。

「なんなんだよクラッカーの野郎!!性格が悪すぎるだろうが!!そんなん普通思いつかねえよ!!」

うん…
正直、あまりにも悪どすぎて、まともな人間じゃ思いつかないのは確かだ。

人間が起こすサイバー犯罪なら、犯人にどんな悪意があろうと、手口はだいたい過去のデータから分析されているから、「既に見つかっている手口の延長線上」で考えれば先回りして対処はできる。

だけど…
デジモンを使ったサイバー犯罪は、「過去のデータの積み重ね」がない。

だから「過去の手口の延長線上」を考えようとしても、先回りはできない。

クラッカーより悪どいことを考えられる人間が、セキュリティ側にいないと…
クラッカーにより「新たな手口の発明」には対処しきれないのかも。

「誰ができるんだよそんなこと…」

…無理だよねえ。



「いや、もう一つ…確実な手段がある。後手に回っても対処できる手段がな」

リーダー…?

676: ◆VLsOpQtFCs 2023/12/02(土) 16:50:00.79 ID:EBsv9197o
「デジモンを使ったサイバー犯罪なら、とりあえずクラッカーのデジモンを戦って倒してしまえば被害は収まるんだ」

まあ…それはそうだけど。
言うほど楽なことじゃ無いと思うよ…。

「そうだ。強いデジモンを育てることや、運用することは難しい。DPが高いデジモンを育てれば、維持コストも跳ね上がる。…だが、ジャスティファイヤはそれを承知であえてシューティングスターモンを育て上げた。いかなるコストを払ってでも、最終的に勝利できるようにするためだ」

…武力というのは、実際に行使するだけじゃなく、チラつかせることに大きな効果があるとはいうね。

「そうだ。シューティングスターモンの存在は、いわばクラッカーへの脅し、抑止力でもある。『政府を攻め落すためにいかに強力なデジモンを育てようとも、最終的に勝つのはこちらだからやめておけ』…とな」

でもシューティングスターモンは極秘の秘密兵器だから、抑止力にはならないと思うけど…。

「シューティングスターモン自体はな。だがジャスティファイヤの戦力はそれだけじゃない。ティンクルスターモンやアグモンなど、DPが高い成長期を育てていた。そっちを成熟期まで育て上げてから、存在を公表し、見かけ上の抑止力として掲げるつもりだろう。秘密兵器シューティングスターモンは、それらの抑止力をより強く見せるための奥の手として運用するつもりだ」

ああ、なるほど…
シューティングスターモンに強い敵を倒させて、その手柄をティンクルスターモンやアグモンの功績として発表することで、表向きの抑止力を実際より強く見せるのか!

…あのパルタスって人、初めて見たときは随分なアンポンタンだなって思ったけど…
案外抜け目無くて有能なのかな?

「オレは最初からそうだと評価しているぞ」

…うーん。
人って第一印象だけだと分からないものなのかもね。

677: ◆VLsOpQtFCs 2023/12/02(土) 17:12:54.04 ID:EBsv9197o
「だが、オレ達研究所の戦力も地道にだが着実に育成をしている。キンカクモンの子供であるプニモンは先日トコモンへ進化したし、ケンキモン…の本体もようやく一個デジタマを産んだ」

ケンキモンのデジタマ、産まれたんだ。
良かった。
正直、今回ワームモンを失った件についても、コマンドラモンがいればなんとかなったような気がする。

「それは決して過大評価じゃないぞ、メガ
。実際の戦いで、コマンドラモンはクラッカー相手に自己判断で先手を取って戦ってきた。極めて優秀なセキュリティデジモンだ。それほど頼りになるコマンドラモンを、これからたくさん産めるようになれば、ハッキリ言って暴力しか能のないクラッカーデジモン如きには遅れを取らないだろう」

コマンドラモンは戦闘能力だけじゃなく、透明化によるデジタマ採集の能力も高いからね。
もしもまだコマンドラモンがケンキモンに進化してなかったら、今頃フローティア島でガルルモンやトータモンのデジタマも育てられてたのかな。

「そうだろうな。ケンキモンは透明化能力を失ったことを悔やんでいる。だからこそ、ケンキモンが産むデジタマは、きっと透明化に長けた優秀なデジモンに育つだろう」

桃栗三年柿八年…。
先を見て立ち回らなきゃね。

そうやってリーダーと話していると…
クルエが席から立ち上がって背伸びをした。
「ふぅ~、疲れた…でも、だんだん分かってきたぞ、あいつのこと」

おや?
そういやクルエって今何してるの?

「…ワームモンのこと、残念だったね…あんなにみんなに懐いてたのに…。カリアゲには特に…」

…うん。
それで、クルエって今何してるんだっけ?
僕がデジタルアソートの方に重きを置くようになる前は、レポートの直しとか、他のチームや外部との調整とか色々やってくれてたよね。

「あれ、メガには言ってなかったっけ?ベーダモンとの対話だよ」

ベーダモン…
あのタコみたいなやつだっけ。

681: ◆VLsOpQtFCs 2023/12/02(土) 17:20:57.51 ID:EBsv9197o
「リーダーに言われてさ、『クラッカーと手を組まれる前にどうにかして味方につけろ』ってことらしくって。それで仲良くなろうとしてるんだ」


…うまくいってる?

「一緒にゲームで遊んだりはしてるよ」

ゲーム!?
なにやってんの!?

「なんか…気難しいんだよね~ベーダモン。面白いかどうかで物事を判断してるみたいでさ。私達のことを観察対象として見てるみたい」

気難しいんだ…。

「でさー聞いてよ!ベーダモンにアニメ見せたらさ…」


その時。
デジクオリアの映像を映したパソコンの画面から、大きな音が鳴った。

何かがはげしく削られているような音だ。

な、なんだ?

画面を見てみると…
映っているのは、サーバー内のデジタル空間だった。

なんと、ネット回線を護っているファイヤウォールが可視化された壁が…
ヒビ割れてボロボロになっている!
どうやら音は、ファイヤウォールから鳴っているようだ。

「マシィ!マシシィィーー!」
チビマッシュモン達は、デジタル空間内で何かを追いかけて、捕まえて食べている。

チビマッシュモン達が追いかけているのは…
可視化されたコンピューターウィルスだ!

え…?
何だこれ、どうなってんの!?

コンピューターウィルスが侵入してきて、ファイヤウォールを破壊したのか!?

いや…そんなバカな。
トロイのような潜伏型マルウェアだろうと、チビマッシュモン達は検出できるはず!

ファイヤウォールを破壊する前に、ウィルスを駆除できるはずなのに!

なんでこんなことに…!?

683: ◆VLsOpQtFCs 2023/12/02(土) 17:31:45.91 ID:EBsv9197o
「なんだ!?サイバー攻撃か!?」

り、リーダー!
新型のコンピューターウィルスがデジタル空間内で増えてるんだ!

「セキュリティソフトだけで駆除できないとは…本当に新型のウィルスらしいな。チビマッシュモン、ウィルスを駆除しろ!メガ、ファイヤウォールを修復できるか!?」

やってみる!
しかしなんなんだ、この大きな掘削音は…!

とりあえず僕は、破損しているファイヤウォールの修復を試みたが…

何かがファイヤウォールを突き破ってきた。

それは…
回転しているドリルだった。

やがて、何かがファイヤウォールを完全に破壊しながら出現した。

「ウゥゥゥーーーー!」
no title


…頭部にドリルがついた、モグラ型デジモンだった。

686: ◆VLsOpQtFCs 2023/12/02(土) 17:52:21.24 ID:EBsv9197o
こいつは…!
蛮族の集落で見たことがある…!
ドリモゲモンだ!

こいつがここに出現した…ということは…

「ああ。マルウェアによって、デジモン伝送路を繋げられたらしい…!」

まずい!
どうするリーダー!?
ネット回線を物理的に遮断する!?

「それをやると、デジクオリアが機能停止して、デジタル空間内部の状態が分からなくなるな…。だが被害が拡大するよりマシだ!やってくれ!」

…くそ!マルウェアによって、ソフトウェア制御による電子的な回線切断ができなくされている!
これはアナログで対処しなきゃダメだ!

「シン、カリアゲ、クルエ!大至急、外部に繋がっているネットワーク回線を全て物理的に遮断しろ!メガは同時並行で、デジモン伝送路の切断を試してくれ!」

リーダーがそう言うと、シン、カリアゲ、クルエはいくつもある外部との接続を、ひとつひとつ切断しに奔走した。

その間、僕はデジタル空間内の様子を観察しながら、勝手に繋げられたデジモン伝送路の電子的な切断を試みた。
チビマッシュモン達は目についたマルウェアを片っ端から食べようとしてるみたいだけど、どうも揺動用のダミーみたいなのがたくさんあるみたいだ。
伝送路を勝手につなげているマルウェアを特定して、チビマッシュモン達にそれを最優先で駆除してもらおう!

ネット回線のトンネルからは、ドリモゲモン以外にもデジモンが出てきた。

次に出てきたのは…
小鬼型成長期デジモン、シャーマモンが4体。
ロウソク型成長期デジモン、キャンドモンが4体。
類人猿型成長期デジモン、コエモンが2体。

さらに、ジャングルモジャモン1体と、セピックモンが2体。

そして…
フーガモンと、キンカクモンがやってきた。

「ヒヒィイーーーン!!」
フーガモンはシマウマ型デジモン、シマユニモンに乗っている。

成長期が10体。成熟期が6体。
計16体のデジモンが、百鬼夜行のようにぞろぞろとやってきた。

蛮族デジモン…!
ついに戦線投入されたか!くそ…!
一番嫌な手を打ってきた!

689: ◆VLsOpQtFCs 2023/12/02(土) 18:15:44.84 ID:EBsv9197o
くそ…
伝送路を維持してるマルウェアはどこだ!

僕とリーダーは、一緒にマルウェアの本体を探しているけど…
デジタル空間内に散らばっているのはどれもダミーばかりだ!

「…ん?チビマッシュモンの中に、様子がおかしい奴がいる。どこか動きが不揃いだ」

…え?

「おい、そこのチビマッシュモン!ちょっと体を調べさせろ!」

リーダーはそう言い、チビマッシュモン達に、怪しいチビマッシュモンを取り押さえさせた。

「マシ!マシ!」

「だが、調べるといっても…オレ達の使っているデジモン分析ソフトでは、スキャンに長い時間がかかる…!そんな時間はないというのに…!」

いや、すぐに済むよリーダー。
僕は、デジタルアソートで育てた平和利用デジモンの試作型、仮称ガンマを連れてきた。

「そいつは…、蟹鍋作りのときに、湿地帯で沼に埋まったシャコモンの貝殻の位置を探し当てたデジモンか!」

そうだよ!
仮称ガンマ!そのチビマッシュモンを調べろ!

『合点承知だぜ 秘技! ディープサーチ!』

検索結果が表示された。
怪しいチビマッシュモンの体内には…
マルウェアが埋まっていた。

「…やはりだ…!伝送路を繋いでいる本物のマルウェアは、このチビマッシュモンの体内に埋まっている!」

ええ!?
どういうこと!?

690: ◆VLsOpQtFCs 2023/12/02(土) 18:33:07.14 ID:EBsv9197o
「オタマモン!今すぐその個体を排除しろ!」

リーダーがそう言うと、赤オタマモンが出てきて、怪しいチビマッシュモンを火炎放射で燃やした。

「マシャアアアーーーーー!!!」

リーダー…これは…!?

「…オレは正直、今回の事件…すぐに片付くと思っていた。シャバい詐欺業者をしょっぴいて、それで終わりだと思っていた」

僕もそう思ってたよ。
でも実際は…モリシェルモンという罠が仕掛けられていたんだ。
詐欺と合わせて、二重の罠が待ち受けてた…!

「いいや…違う!罠は三重だったッ!奴の真の狙いは…!コイツを紛れ込ませることだったんだ!オレ達の…チビマッシュモンの中に!」

ど…どういうこと!?

692: ◆VLsOpQtFCs 2023/12/02(土) 18:45:51.16 ID:EBsv9197o
『ご明察。デジモン伝送路を切断したようだな。トロイを破壊したか。だが…気付くのが遅かったなぁ。クックック…』

この声は…!

声がしたほうを見ると、デジタル空間内には、デジドローンが1個浮いていた。

『貴様らの手持ちの戦力でモリシェルモンを排除するためには…チビマッシュモン共を餌にしてモリシェルモンを誘き出すしかないだろう?クックック…うまく知恵を使って対処したつもりだったか?私に踊らされているとも知らずに?』

お前…!

『そうして、あの場にチビマッシュモン共を誘き出して…その中に、私のチビマッシュモンを一体、紛れ込ませたんだ。ファイヤウォールの破壊と、デジモン伝送路の接続…そしてデコイを出す機能を持ったマルウェアを仕込んでね…!』

やることが…汚いぞ…!
AAAェーーーッ!!!

『さて!待たせたな、研究者諸君!今度こそきっちり滅ぼしに来たぞ!クックック!』

この男の悪意…
あまりにも我々の想像を超えすぎている…!
悪意の権化そのものであるかのようだ。

『メガよ、前に私のことを、道具の使い方が下手なヘボエンジニアと呼んでくれたなあ!これでもまだそう言えるか?ンン!?』

うがっ…
コイツ、言われたことを根に持つタイプだ!
悪意の権化がどうとか形容せずとも、シンプルに性格が悪い!!

707: ◆VLsOpQtFCs 2023/12/10(日) 15:01:21.28 ID:FW7wa3IfO
クラッカーが不正に繋げてきたデジモン伝送路を遮断することには成功したので、物理的にネット回線を遮断する必要はなくなった。

AAAがデジドローンでデジタル空間内の状況を確認してクラッカーデジモンへ指示を出せるという弊害はあるが…
だからといって回線を切断するとこっちもデジクオリアのオンラインライセンス認証がエラーを吐いてデジドローンが緊急停止してしまい、パートナーデジモン達に指示を出せなくなってしまうので、切断はしない方が良さそうだ。

だが、こうしている今もクラッカーデジモン達は、デジタル空間を破壊しながら、重要な研究データを強奪している。
AAAが蛮族という物資強奪に特化したデジモンを育成して、農耕を教えなかったのは、彼らを強盗として利用するためだったのかもしれない。
このまま放置すればものの10分でシステムが破壊し尽くされてしまう…!

ん…?
よく見ると、僕達がデジモン伝送路を維持しているマルウェアを探している最中に、敵の数がさらに増えたようだ。
具体的に何がどれだけいるか…という差分についてはさすがに分からないけども、明らかにさっきはいなかった種類のデジモンがいる。

蟹型成長期デジモン、ガニモン。
それが3体いるようだ。

そんなばかな…!
ガニモンは人と意思疎通できるようなデジモンじゃなかったはずだ。
どうやって手懐けているんだ…!?

それだけじゃない。
プラチナスカモンもいる。
プラチナスカモンは、ジャングルモジャモンと並んでネット回線トンネルの前に陣取っている。

そしてもう一体。おかしなデジモンがいる。
一頭身体系のハゲオヤジ…とでもいう珍妙な姿のデジモンだ。
no title

ハゲオヤジデジモンは、破壊活動に加わることなく、高い壁に登ってあぐらをかいて座りながら、ポヨモンの干物をかじっている。
とっくりから何かの液体を小さな器に注いで、気分良さそうに飲んでいる。

色からすると…おそらくアルコール飲料だ…!
ポヨモンの干物をつまみにして、果実酒かなんかを飲んでいる!
ふざけやがって!

708: ◆VLsOpQtFCs 2023/12/10(日) 15:20:06.24 ID:FW7wa3IfO
今、バイオシミュレーション研究所のところにいる戦力は…
重機型成熟期のケンキモン(とその本体)。
植物型成長期のパルモン。
アテになるかならないか分からないファンビーモン。
ファイヤウォール破損中に次々と送り込まれてくるマルウェアの駆除に奔走しているチビマッシュモン軍団。

…フローティア島にいるトコモンと、ケンキモン(の本体)のデジタマ、ププモン達は戦力外だ。

使える武器は…
コマンドラモンの爆弾の予備が30発。
パルモンが貯蔵していた花粉を入れた袋が15袋。

あとは、鉄製の道具…ツルハシが2つ。
ショベルが2本ある。

「ツルハシやショベルって凶器としてもフツーに使えるよな。一応武装すりゃ武器の質ではこっちが上か」

「…カリアゲ、蛮族デジモン達の武器を良く見てみろ。骨棍棒じゃない」

「ん?武器っスかリーダー…。なんか光ってる…金属製かあれ!?」

「青銅の棒だ。銅とスズの合金。鉄には敵わないが、それでも強力な武器だ」

「銅…そーいやあいつら、なんか金属の精錬っぽいことやってたな…!」

…戦力差はあまりに絶望的だ。

「そ、そーだ!リーダー、外に助けを呼ぼうよ!パルタスさんとかスポンサーさんに!」

「そうだなクルエ。ジャスティファイヤとクロッソエレクトロニクスにグループ通話を繋ぐ!」

709: ◆VLsOpQtFCs 2023/12/10(日) 15:30:42.20 ID:FW7wa3IfO
リーダーは、スポンサーさんとパルタス氏の二人に通話をした。
『ケン君が向かったニセ業者事件は罠だった…!?そっちの本丸が攻められているのか!我々が飼育している赤オタマモンを5匹ほど向かわせるかね?』

「それは助かるが…ネット回線トンネルの前に、プラチナスカモンとジャングルモジャモンが陣取って見張っている。外からの増援に対して出待ちをしているんだ。せっかくオタマモンを送り込んできてもらっても、おそらくトンネルを抜けた瞬間に青銅器の棍棒で叩き殺される」

『むぐ…うかつに増援も送れないのか』

「スポンサーさん。ケンキモンを防衛のために出動させたい。まだデジタマを一個しか産んでいないが構わないな?」

『勿論だ!「デジタマを2個産むまで出動禁止」と言ったのは、コマンドラモンを安全に殖やしてサービスの質と量を上げるためだ。その本拠地が攻め落とされたらサービス継続が不可能だ!ケンキモンを出撃させてくれ』

「わかった」

『だが…絶対に敵に鹵獲されてはいけない。理由は分かるね?』

…優秀なセキュリティデジモンは、優秀なクラッカーデジモンにも成り得る。
もしもコマンドラモンがクラッカーのもとで殖やされ、悪用されたらと思うと…気が気じゃない。

「…ああ。分かっている」

デジクオリアの画面から、ケンキモン(の本体)の声がした。

「敵には 決してつかまらない もし捕まったら その場で自爆する」

「気持ちは嬉しいが…自爆に使える火薬があるなら、敵にぶつけてやってくれ」

「わかった リーダー」

711: ◆VLsOpQtFCs 2023/12/10(日) 15:41:42.63 ID:FW7wa3IfO
続いてパルタス氏から発言があった。
『状況は分かった!我々も至急増援を送ろう!どれだけ送れるかは上の許可次第になるがな!』

あれ。
トンネル前でジャングルモジャモンとプラチナスカモンが出待ちしてるから送れないって言ってなかったっけ。

『くだらん!トンネルから登場次第、その猿と大便どもをブチ殺してしまえばいい話だろう!』

それはそうだけど…
本当にできるなら助かるよ。

クルエがひょこっと顔を出した。
「スポンサーさん、ローグソフトウェア?ってところに救援は要請できないでしょーか?」

『…難しいだろうね。彼らの言うことは予想できる。「そんな契約はしていない」…その一言で終わりだろう』

カリアゲはそれを聞いて頭に血が登ったようだ。
「そりゃねえだろ!俺達が攻め落とされたら国内デジモンセキュリティ事業の一大事だぞ!協力してくれよ!」

『…彼らは今の状況を、「競合他社がひとつ潰れてくれるなら儲け物」と捉えるだろうねぇ』

「ウッソだろ…警察と提携してる会社がそんなんでいいのかよオイ…」

リーダーはため息をついた。
「…今挙げたものが集められる戦力のすべてか。この戦力差を埋めるには程遠そうだ」

いや。
まだ味方がいるよリーダー。

「なに?誰だ?」

僕だ!

「メガ…お前が?デジタルアソートは非戦闘用デジモンしかいないんじゃなかったのか?」

713: ◆VLsOpQtFCs 2023/12/10(日) 15:55:07.99 ID:FW7wa3IfO
そうだ。
デジタルアソートの平和利用目的デジモンは、低コスト運用を前提にしているから、パワーもスピードも防御力も低い。

だけど、その力を戦いに活かせないわけじゃない。
さっきだってそうだったでしょ?

「確かに…仮称ガンマの検索能力のおかげで、チビマッシュモンの体内からマルウェアを発見できたな」

…『仮称デルタ』。
今のこの状況の数的不利を、わずかだけど誤魔化せる力を持つデジモンがいるんだ。

「なに!どこにいるんだ?」

今はケンといっしょにいる。
…デジヴァイスの中だよ。

「思い出した…仮称デルタは、デジヴァイスに搭載したデジクオリアシステムを管轄しているデジモンだな!…そいつが役に立つのか?」

確実に心強い味方になるはずだよ。
ただ…
呼べればの話だけど。

「ネット回線トンネルの前では敵が出待ちしているんだったな。すると、ネット回線を通らずに、直接パソコンにUSB接続して送り込む必要があるのか。今すぐにケンにここへ戻ってきてもらう必要があるな」

カリアゲは眉をしかめた。
「そういやケンは今どこにいるんだ?ちょっとケンに通話してみるか」

カリアゲはケンに電話をかけた。
「もしもしケン!こっちの本拠地がクラッカーに攻められてる!すぐに帰ってきてくれ!今どこにいるんだ!?」

早く戻ってきてケン…!

「何だって!?タクシーが渋滞に捕まって抜けれない!?」

えぇ!?

715: ◆VLsOpQtFCs 2023/12/10(日) 16:12:04.21 ID:FW7wa3IfO
~ケン視点~

今私はタクシーに乗り、帰路についているところだが…
長い渋滞に捕まっていて、車が進まない。

そんな状況で、カリアゲから電話が来た。
研究所が攻められているので、今すぐに帰ってきて欲しいとのことだ。

早く帰りたいのはやまやまだ。
タクシーが進まない以上…ここで降りて、徒歩で走って帰るか…!?

『どれくらいかかるんだ!?』

徒歩だったら…、どれだけ全力で走っても1時間はかかる。
途中で渋滞がない道路を見つけて、そこでタクシー呼んでも…10分20分じゃ着かなさそうだ。

『どうして今日に限ってそんな!俺が車で迎えに行ってもムリか!?』

街中の信号機が異常な挙動をしてるらしい。
赤と青が同時に灯ったり、黄色を飛ばして急に赤と青が切り替わったり…無茶苦茶だ。

『なんだよそりゃ…』

カリアゲの落胆した声に続いて、シンの声が聞こえた。

『デジヴァイスってwifi使えるんスよね?ケンさんのスマホのデザリング機能で、仮称デルタを俺のスマホに無線で送ってもらってから、それをUSB接続でパソコンに送り込めばいいんじゃないッスか?』

おお、そっか。
それでいくか!?

『…残念だけど、ケン、シン。今のデジヴァイスは正規品じゃなくて試作品なんだ。システム全体の機能うち、どの領域までを本体のハード・ソフト側に仕込み、どこからを仮称デルタに持たせるかのバランスも調整中なんだ』

そ…それで?今はどうなのメガ。

『wifiの無線機能は、本体側じゃなくて仮称デルタの力で実現しているんだ。だから無線通信でデルタが移動を始めた途端、無線接続が切断されてしまうんだ』

な…なんだって!?
結局無線じゃ送れないのか!

716: ◆VLsOpQtFCs 2023/12/10(日) 16:25:11.27 ID:FW7wa3IfO
シンの声がした。
『USB接続でのデータ通信はできるんスか?そっちもデルタが管轄してたら、デルタはどうやってもデジヴァイスから出られないってことになるッスね』

リーダーの声がした。
『いや、USB接続ならできるはずだ。デジヴァイス本体にその機能がなかったら、そもそもデルタを最初にデジヴァイス内に入れることすらできなかっただろうからな』

『なるほど。じゃあケンさんのスマホにデルタを移動して、そっちから無線通信で送ったらどうッスか?』

『それは別の問題で難しいよ。今デジヴァイス内にモリシェルモンを閉じ込めてる隔離チェンバーと、ブイモン達がいる飼育室の境界を維持する機能は、仮称デルタの力で実現してるんだ。だからデルタが抜けたら、ブイモンとモリシェルモンが同じ部屋で鉢合わせになる』

それは絶対させられない…!
くそ…
クラッカーデジモンが研究所のシステムを破壊し尽くす前に、研究所に仮称デルタを送り込むのはどうやっても無理か…!?

『いや…大丈夫だよケン。タクシーの外を見て』

…?
どういうこと?メガ…

私がきょとんとしていると、デジヴァイスから懐かしい声がした。

『はっはっは むかえに きたでござるよ ケンどの』

718: ◆VLsOpQtFCs 2023/12/10(日) 16:30:39.07 ID:FW7wa3IfO
私はタクシーの外を見た。
すると、そこには…

四つの回転翼でホバリングしている、空中バイクがあった。

こ、これは!?

『せっしゃにのって いっしょにとぶで ござる』

前にデジタルアソートのデモンストレーションのときに乗った…
『デジモンの力で自動運転する空中バイク』だ!

『これで ひとっとびで ござるよ』

私はタクシーの運転手に料金を払い、タクシーを降りて、渋滞している道路から離れた。
そして空中バイクに乗り込んだ。

『しっかり つかまるで ござる』

空中バイクは、凄まじいスピードで飛行した!
時速100kmは出ている…!

『けんきゅうじょまで いっちょくせんで ござる はっはっは』

で、でもこれ…大丈夫なの?
道路交通法とか。
警察に捕まったら面倒なことになるんじゃ…

『しんぱい ごむようで ござる』

な、なんで…?

720: ◆VLsOpQtFCs 2023/12/10(日) 16:35:49.78 ID:FW7wa3IfO
『なぜなら ガンマどのの けんさくのちからで けいさつのいちをさがし せっしゃの ナビゲートのちからで そこをさけて とんでるからで ござる』


す、すごい…凄すぎる。
デジタルアソートのデジモン達は、そこまで高度な機能を有してるのか。

それにしても…
仮称なんちゃらって呼び方は、流石に覚えづらい。
もう少し覚えやすい名前はないのだろうか?

君の名前なんだっけ?

『せっしゃは 仮称ニューでござるが… ふむ けんきゅうじょが こわれれば せっしゃたちも おしまい ケンどのと われわれは いちれんたくしょうで ござるな』

…そうなるね。

『ならば いずれ せっしゃにあたえられる デジモンとしてのなまえを なのらせてもらうで ござる』

助かるよ。

『せっしゃのなは…』

仮称ニューがそう言うと…
デジヴァイスの画面が起動し、見たことがないデジモンの姿が映し出された。

722: ◆VLsOpQtFCs 2023/12/10(日) 16:40:00.30 ID:FW7wa3IfO
そこに映し出されたデジモンの姿は…
これまでに見たどのデジモンとも似ていなかった。

三頭身くらいの人型ではあるが…
全身が緑色で、薄い黄緑色のラインが入っている。

頭部には矢印のような形状の飾りがついていて…
両腕は、赤いマーカーの形状をしていた。

そう、例えるならば…
地図アプリで目的地を指し示すマーカーのような。

https://i.imgur.com/u8eA1Ba.jpg
『せっしゃの名は… アプリモンスターズ計画 試作ロット第二号 ナビモンでござる』

729: ◆VLsOpQtFCs 2023/12/12(火) 20:59:12.30 ID:u0sxTrbTo
~再び、メガ視点~

ケンのことは仮称ニュー…ナビモンが迎えに行ってくれている。
5分もすればデジヴァイスの中にいる仮称デルタ、ドーガモンを連れてきてくれるはずだ。

だけど、それまでの間何もしなかったら、デジタル空間が破壊し尽くされてしまう!
今できることを、少しでもやろう!

シンがランドンシーフを持ってきた。
「ランドンシーフ起動しました!これでデジタル空間の好きなとこにいつでもデジタルゲート開けるッスよ!」

カリアゲがサムズアップした。
「ナイスだシン!あれ?どこにでも開けるってことはよ…蛮族デジモン達の足元に落とし穴みたいにゲートを開けば、全員デジタルワールドに追放できねえかな?」

残念だけどできないよ。
デジモンがゲートをくぐるかどうかは任意なんだ。
強制的にKICKすることはできない。

「うーんそっか…くっそ…」

リーダーがクルエの方を向いた。
「そうだ、デジタルワールドといえば…ベーダモンはどうだ!?ヤツの協力は得られないか!?」

「えっ…ベーダモンですか。いちおう声かけてみますね」

クルエはうちにある3機のデジドローンのうち2機目を起動し、ベーダモンへコンタクトを図った。

モニターにはベーダモンが寝床にしている樹が映る。

「ベーダモン様!聞こえる!?手を貸してほしいの!ピンチなんだ!」

すると木のうろからニュルニュルとベーダモンが出てきた。
ベーダモンはチャットを送ってきた。
『忙しいな 何事だ 余に何の用だ 研究者よ』

うおお、チャットを使いこなしている!
クルエとカリアゲはベーダモンに言葉を教えられたんだ。すごい。

731: ◆VLsOpQtFCs 2023/12/12(火) 21:05:29.39 ID:u0sxTrbTo
「うちのサーバー内に敵デジモンがたくさん侵入してきたの!このままじゃ私達みんなやられちゃう!お願いします、力を貸してくださいベーダモン様!」

『面白そうなことになっているな 様子を見せろ』

クルエはデジドローンのプロジェクターで、うちのデジタル空間内で暴れている蛮族たちの姿を見せた。

『これはこれは 愉快な祭ではないか』

「愉快じゃないです!このままじゃみんなやられちゃう!どうか、何卒お助けくださいベーダモン様!」

『余に何をしろと?』

「こいつらを洗脳光線で、ベーダモン様の手駒にしてやってください!」

『それで 汝らは 彼奴らとどう交戦したのだ』

「いえ、まだ…」

『つまらん 自ら戦いもせず 最初から余に助けを求めるか 恥を知れ痴れ者が』

痴れ者!?
クルエがデジモンから痴れ者って呼ばれた!
なんてボキャブラリーだ。

『愚図め 思っていた以上につまらんな汝らは そんなことで滅びるのならさっさと滅びてしまえ』

「そ、そこをなんとか…!何でもしますからああぁ!」

クルエは頭をペコペコ下げている。

733: ◆VLsOpQtFCs 2023/12/12(火) 21:21:49.03 ID:u0sxTrbTo
『何でもするだと ならば 汝らの滅びの悲鳴でも聞かせるがいい』

「そ、そんなあ!」

ベーダモンは笑っている。
性格悪くないか?こいつ…!?

カリアゲがマイクを握った。
「ベーダモン!敵の数は圧倒的だ。こっちの戦力は向こうよりうんと少ねえ…圧倒的不利だ!」

『そうらしいな カリアゲ』

「だけど!俺達は死にものぐるいで戦う!そして絶対に勝つ!」

『ほう』

「だから見ていてくれ!俺達がAAAをぶっ倒すところを!」

『それは面白い あの調子に乗っている生意気な小僧を 汝らが叩き伏せ 地に顔を擦り付けさせるとでもいうのか』

「おうよ!やったらぁ!」

『それは愉快だ 彼奴の無様な姿を余に曝け出させるというなら それほどおかしなことはない しばらく見物してやる』

「サンキュー!ベーダモン!」

『おや 余の力を借りたいと懇願していたのではないのか クルエはそうだったが』

735: ◆VLsOpQtFCs 2023/12/12(火) 21:25:02.48 ID:u0sxTrbTo
「自分達の身を護る戦いだからよ…最初からヨソを当てにするのはお門違いだろうよ」

『貴様はよく身の程をわきまえているな カリアゲ』

ベーダモンは腕を組んでいる。

『余の洗脳光線は 一度に2体も3体も同時に操ることはできぬ この数を相手にしても 余の下僕たちを繰り出せば勝てなくはないが つまらん しばらく戦って数を減らせ』

「ああ!」

『余を愉しませろ できなければ そのまま見殺しにする その方が愉快だ』

「オーケイ!なんとかしてみるさ!」

…いいの?
力を貸してもらえる感じじゃないけど。

リーダーは頷いている。
「これでいい。今大事なのは、ベーダモンをAAAの側につけないことだ。味方じゃなくても、敵でなければ十分だ」

いいんだこれで…

736: ◆VLsOpQtFCs 2023/12/12(火) 21:34:02.94 ID:u0sxTrbTo
他にできることは…

「さて…パルモン。進化だ!」

ええっ!?
どういうことカリアゲ!?

「パルモンは今の俺達の仲間では一番…マッシュモンを除けば一番長い間成長期のままでいる。だけどパルモンは、十分な戦闘経験を積んで、獲物を狩ってきた!今なら進化できるはずだ!」

そんなに狩りしてたっけ?

「釣りだよ!プカモンやスイムモンをたくさん釣ったし、ガニモンも倒した!」

そうだったね。

「パルモン!分かるか?今俺達が大ピンチだってことが!サラがやられて…ワームモンもやられたんだ。俺の大好きなワームモンが…!」

パルモンはしょんぼりしている。
「ワームモン いなくなった かなしい」

「このままじゃみんなもいなくなっちまう…!だから、頼むパルモン!俺達を護ってくれ!一緒に奴らを倒そう!」

「わるもの!たおす!」

「いくぞ!なるんだ…成熟期に!今こそ進化だ!パルモン!」

「しんか…する! みんなを まもる!」

おお!?
いけるのか!?マジで!?

「ぱるもん… しんかぁーー!」

パルモンは全身に力を入れて踏ん張った。
いいぞ、いけ!パルモン!

737: ◆VLsOpQtFCs 2023/12/12(火) 21:38:33.59 ID:u0sxTrbTo
「…かわんない」

…進化は起きなかった。
あれ。
なんかできそうなノリだったのに。

「なっ…!?くそ、行けると思ったのになー!何が足りないんだ!?」

「カリアゲパイセン…」

「シン!そんな目で俺を見るな!」

いや。
やれることは何でもやるべき状況だからいいと思うよ。
ナイストライ。

『プーックックックック…!フーッフフフフ…!』
ああっ!
ベーダモンが笑ってる!
ちくしょう…ウケを狙ってるわけじゃないのに。

740: ◆VLsOpQtFCs 2023/12/12(火) 21:49:23.77 ID:u0sxTrbTo
「とはいえ…やれることはある。奴らの破壊を食い止めるために、今できることが!やるぞ、パルモン!」

「しんかを!?」

「そっちはいい!ゴニョゴニョ…」

「なるほど、わかった!じゅんびする!」

パルモンは何かの支度をし始めた。



デジタルゲートの中では、蛮族デジモン達がデジタル空間を破壊し、研究データを奪っている。

『くっくっく…どうした研究者ども!パルモンは?コマンドラモンは?ズバモンとルドモンはどうした?怖がって出てこれないか!くっくっく!臆病なセキュリティ共だ!とんだ看板倒れだなぁ?』

ね、ねえリーダー。
最悪の事態に備えて、研究データを予備の記憶装置にバックアップすべきじゃないかな?

「そうだな。できる限りリスクに備えよう。クラウドストレージへのデータ移送も始める!」

僕は最悪の事態に備えて、大事なデータのバックアップを始めた。
研究データで特に大事なものは、ネットワーク外部のクラウドストレージへ送ろう!

そして大容量データを転送すると…

デジクオリアの画面では、大容量データが光の塊として可視化され、ネット回線トンネルの方に向かって飛んでいくのが見えた。

741: ◆VLsOpQtFCs 2023/12/12(火) 21:53:49.83 ID:u0sxTrbTo
だが…
ネット回線トンネルの前で陣取っているプラチナスカモンが立ちふさがった。

プラチナスカモンは大口を開けて、転送中のバックアップデータを食べた!

「うんみゃああァ~~~い!もっと!美味いデータを食わせてくれよォ!ギャーッハッハッハ!」

だめだ…
外部ストレージへの大容量データ転送は妨害されてしまう!

バックアップは内部だけでやるしかない…!

「じゅんび!できた!」

おおっ、準備いいかパルモン!
それじゃあ…やるぞ!

743: ◆VLsOpQtFCs 2023/12/12(火) 21:59:52.18 ID:u0sxTrbTo
デジタル空間の天井から穴が空いた。

そこから、右手から蔓を伸ばしてロープ代わりにしたパルモンが降りてきて…

花粉の入った粉を、蛮族達の頭の上にぶちまけた!

そして、左手の蔓を大きく振り回して気流を作り、花粉を散布した!

蛮族デジモン達は、涙を流してくしゃみを始めた。
「ゲッホゲホ!オヴェ!オゲーッホゲホ!!」
「カユイイイイ!メガアアア!ハナガアアアア!」

シャーマモンやコエモン達は目を開けていられないようだ。
「ウホオォォオオオ!ゴッホゴッホ!」
ジャングルモジャモンも目を擦っている。
パルモンの花粉アレルギーは…成熟期にも通用する!

「キィイィイイ!」
怒ったセピックモンが、ブーメランを投げようとしてくるが…
パルモンはすぐにゲートへ引っ込み、ブーメランを回避した。

時間稼ぎにはなるはずだ!
頑張れパルモン!

745: ◆VLsOpQtFCs 2023/12/12(火) 22:04:49.83 ID:u0sxTrbTo
パルモンはあっちこっちから出ては逃げを繰り返し、ストックしていた花粉をあちこちの蛮族デジモン達へ浴びせて回った。

花粉が効かないプラチナスカモンや、必死に我慢して反撃しようとしているセピックモンは、飛び道具を投擲してパルモンを仕留めようとしている。

うお、危ない!
ブーメランが当たりそうになった。
大丈夫かいパルモン!

「へーき!」

その時。
「私が 出る!」

そう声がした。

次の瞬間。
大きなデジタルゲートが開き…

中から巨大なデジモンが出現した。
ケンキモンだ!

全高6mの巨大なマシーンの図体はやはりでかい!

747: ◆VLsOpQtFCs 2023/12/12(火) 22:16:46.24 ID:u0sxTrbTo
普段のケンキモンは、右手がフォークリフト、左手がパワーショベル、肩にクレーンがついており、とても戦闘向きには見えない。

しかし今出撃したケンキモンは、どうやら装備を換装しているらしい。

普段パワーショベルだった左手には、油圧鉄骨カッターがついている。
no title


フォークリフトだった右手には、穴掘建柱車のドリルがついている。
no title


クレーンには解体工事用の鉄球がついている。

おお…!?
解体工事仕様の装備だ!?

ケンキモンは、キャタピラー(クローラー)を唸らせて走行し…

一体のセピックモンの胴体を、鉄骨カッターのハサミで挟んだ!

「ウギ!?」

749: ◆VLsOpQtFCs 2023/12/12(火) 22:20:33.44 ID:u0sxTrbTo
「むぅん!」

そして、鉄骨カッターで…
バチンとセピックモンの胴体を両断した!

「グッギャアアアアアアア!!」

蛮族達は、突如響いた悲鳴に、目を擦りながら驚いた。

「花粉が 効いているうちに 強い敵から 倒す!」

ケンキモンは、ユニモンに乗ったフーガモンに突撃しながら、進路にいるシャーマモンやキャンドモンをクレーン鉄球でぶっ飛ばした!

「ギャアアオオオ!」

成長期程度は相手にならない!

「ゲッホ!ゴホ!」

フーガモンもユニモンも、まともに前が見えないようだ!
そのまま王手を取れ、ケンキモン!

750: ◆VLsOpQtFCs 2023/12/12(火) 22:26:14.57 ID:u0sxTrbTo
『なんだ貴様ら、いつの間にそんな大型デジモンを!?面白い!迎え撃て、プラチナスカモン!』

AAAのデジドローンから指示が出た。

「ギャハーッハハッハ!俺様の出番だナ!?ギャハーッ!」

プラチナスカモンは、ケンキモンの顔面に目掛けて飛んできた。

ケンキモンは、それを鉄球で迎撃しようと試みた。

鉄球は空中でプラチナスカモンにヒットした!
プラチナスカモンはべちょっと潰れ、鉄球に張り付いた。

おお、やった!
そのままフーガモンにトドメをさせケンキモン!

ケンキモンは、フーガモンの首にめがけて鉄骨カッターを繰り出す!

752: ◆VLsOpQtFCs 2023/12/12(火) 22:33:55.99 ID:u0sxTrbTo
その時…
ケンキモンのクレーンから鉄球がぼろりと外れ、ケンキモンの足元にずんと落ちた。

自身の鉄球に足をとられ、つまづきそうになるケンキモン。

必死にバランスを取って、なんとか転倒を回避した。

な…なんだ!?
なんで急に鉄球が外れた!?

鉄球の方を見ると…
なんと潰れて張り付いているプラチナスカモンが、ずるずると蠢き、ケンキモンの脚部にひっついた。

ケンキモンのクローラーは、次第に溶けていく!
な、なんだ!?どうなってるんだ!?

「スカーーッカッカッッカッカ!俺様を倒したと思ったか!?その慌てよう、スカっとするゾ!」

それを見たリーダーは、はっとした顔を見せた。
「AAA…これは…!火山地帯のズルモンの性質だな!」

『ほう?気づいたか!そうだ、火山地帯のズルモンがもつ、岩石や鉱石を溶かす性質だ!貴様らがプラチナスカモンと名付けたその個体には、その性質を与えた!』

「なん…だと…!だが、酸の反応にしては早すぎる…それだけじゃないな!」

『くっくっく…貴様らが名付ける前に、私がプラチナスカモンにつけていた名を教えてやろう。そいつの名は…「アマルガモン」』

アマルガモン…?

「アマルガム…。まさか…プラチナスカモンの正体は…!『水銀』か!」

「スカーーッカッカッッカッカ!その通り!俺様のボディは!金属を溶かして吸い取るキラッキラの水銀だァーー!スカーーッカッカッッカッカ!!」

や、やばい…!
そんなのに引っ付かれたら、ケンキモンは…!

753: ◆VLsOpQtFCs 2023/12/12(火) 22:39:59.55 ID:u0sxTrbTo
その時。

デジタル空間に、大きなゲートが開いた。

そして、その中から大きなデジモンがのっしのっしと這い出てきた。

『ウバシャアアアアアアアア!!!』

そのデジモンは、超高圧の水流を噴射し、ケンキモンからプラチナスカモンを洗い流した。

「グヒャーーー!?」

水流で剥がれたプラチナスカモン。

「な、なんだ!?俺様の見せ場をよくも…!」

そのデジモンは…

「ンバアアァ」

大きな口で、プラチナスカモンをばくんと丸呑みにした。

『む…!?』

「水銀になろうと…粘菌デジモンは、こいつの大好物だ。指示がなくとも…最優先で狙う!」

そ…
その声は!

754: ◆VLsOpQtFCs 2023/12/12(火) 22:42:04.63 ID:u0sxTrbTo
「お前が使った手に…今度はお前自身が苦しめられろ!AAA!」

け…ケン!
来てくれたんだな!

「お待たせメガ。連れてきたよ。ドーガモンを…そして、こいつを!」

『ウバシャアアアアアアアア!ゴアアアア!』

デジタル空間内に解き放たれたモリシェルモンは、周囲に蠢いている二足歩行の餌達を見て大喜びし、咆哮を上げた。

761: ◆VLsOpQtFCs 2023/12/17(日) 20:01:23.70 ID:QUG87C/oO
~ケン視点~

「ウシャバァアアア!!」
モリシェルモンは、貝殻に籠もると、回転して浮きながら、周囲の蛮族デジモン達へ突撃した。

シャーマモンやコエモン達が撥ね飛ばされている。
「ウギャァーーー!」

柔らかいワームモンへ一撃で致命傷を与えたモリシェルモンの回転タックル。
成長期の蛮族デジモン達は、その威力を一撃食らっただけで再起不能になっていた。

パルモンの花粉を、涙や鼻水で少しずつ洗い流している蛮族デジモン達は、視界がきくようになってきたのか、回避行動を取り始めた。

ドリモゲモンは、頭部のドリルでデジタル空間の地面に穴を掘って潜った。

目を擦りながら薄目を開けているフーガモンは、シマユニモンの手綱を引き、「とにかく離れろ」と言わんばかりに方向を指示をしたようだ。

フーガモンを乗せたシマユニモンは、その方向へ猛スピードで駆け出した。
どうやらシマユニモンには花粉があまり効いていないらしい。
no title

目がバイザーで覆われているため、鼻水は出るが涙で目が見えなくなることはないらしい。

モリシェルモンは、ケンキモンには攻撃してこない。
見るからに鉄の塊であり、食えそうにないからだろう。

…さて。
モリシェルモンは本命じゃない。
本当に連れてきたかったのは、デジヴァイスの制御システムを管轄してるドーガモンだったね、確か。

no title

『お オレサマか』

ドーガモンがきょろきょろしているが、メガが答えた。
「そう。いずれパルモンの目潰しは効力を失う。そうしたら、このドーガモンが数の不利を補ってくれる。決定力はないけど、いるといないとでは絶対違うはずだよ、ケン」

分かった。
それで、そのドーガモン戦法はすぐにできるのか?

「いいや、デジモンの映像をドーガモンに視聴させて、それを教師データにして3分ほど深層学習させる必要がある。それまでは…モリシェルモンとケンキモンに時間を稼いでもらおう」

なるほど…!
ケンキモン、モリシェルモンと一緒にできるだけ蛮族デジモンを減らしてくれ!

すると、デジヴァイスからブイモンの声がした。
「お、おれも…いくよ! ワームモンの…か、かたきだ…!」

…無茶するなブイモン。
膝が震えてるよ。

それに今は、モリシェルモンが敵味方の区別なく暴れている。
ケンキモンみたいな明らかな無生物型デジモン以外は巻き添えを食らうよ。

「…そうかよ…」

君にはきっと然るべき出番で役割があるはずだ。

「…ねえんだろ、どうせ…オイラみたいに、バカであしひっぱってばかりのザコには…」

そ、そんなことないって…!

763: ◆VLsOpQtFCs 2023/12/17(日) 20:13:10.19 ID:QUG87C/oO
「シャオオオォ!」
モリシェルモンは、キンカクモンに向かって水流とともに小さな貝殻の弾丸を発射した。

「チクショウガァ!」

仮面で素顔を覆い隠しているキンカクモンにも、花粉は効いているようだ。
だが、どうにかして金棒を振り、貝殻を打ち返そうとする。

貝殻に金棒がかすったようだ。
軌道を反らしはしたが、打ち返せてはいない。
貝殻の弾丸は、隣りにいたセピックモンの大きな仮面に当たった。

「ウキイィ!?」

貝殻はセピックモンの仮面に突き刺さり、びしびしとヒビを入れた。

凄まじい威力だ…!
キンカクモンとて、まともに食らったらただでは済まないだろう。


そこへ…
ケンキモンが突っ込んできた。
片方のキャタピラーがガタガタと不安定に揺れている。
プラチナスカモンの水銀ボディで若干溶かされたせいで、走行しづらくなっているらしい。

ケンキモンは、まだ花粉が効いているうちにキンカクモンを仕留める気だ!

右手の穴掘建柱ドリルを、キンカクモンに向かって突き出した!

キンカクモンはドリルを金棒でガードした。
「ヌウゥゥゥ!」

キンカクモンはケンキモンから距離を取る。
まだぶつかり合うのは不利だと悟ったようだ。
キンカクモンは仮面を外し、手で目を擦っている。

カリアゲがガタッと身を乗り出した。
「うおっ…美人さんだ…!敵じゃなけりゃあなぁ…!」

いや、おそらく蛮族デジモン達は、猿型デジモンがAAAからの影響を受けて人に似た姿に収斂進化したデジモンだ。
敵じゃなかったら人の姿に近付く機会すらなかったはずだ。

「おお、そっか…今はそんな解説してる場合じゃないと思うけどな!」

それはそう。
私の悪い癖だなぁ…

765: ◆VLsOpQtFCs 2023/12/17(日) 20:25:36.91 ID:QUG87C/oO
ケンキモンは、巨大なボディで強力なパワーを発揮して戦っている。 

その動力源は、ケンキモンのコクピットに搭乗している「本体」が体内で発電した電気と、ケンキモンの予備バッテリーに充電していた電気の二つだ。
現在のケンキモンは、それら二系統の電力を同時に使ってオーバーロードしているから、本来のDPを超えたパワーを出せる。

だけど、いずれ予備バッテリーの電力は尽き、パワーが半減してしまうだろう。
そうなる前に、ケンキモンは短期決戦で強力な敵を仕留めようとしている。

距離を取ったキンカクモンに詰め寄ろうとして、脚部のキャタピラー(無限軌道)をぶん回そうとするケンキモン。
その時。

『今だ…やれ!』

突如、ケンキモンの脚部のキャタピラーの履帯がバチンと切れた。

な…なんだと!?
プラチナスカモンに溶かされたとはいえ、破断するほどのダメージは負っていなかったはずだ!
どうして!

ケンキモンの足元には何かがいた。
それは…

3体の、蟹型デジモン…ガニモンだった。
くそっ、こいつらがハサミで履帯を切断したのか…!

だけど、ガニモンはこんなに細かい命令を聞いて実行できるデジモンじゃないはずだ…!
なぜこんなに命令に従うんだ。

それに、花粉は効いていないのか…!?

…いや、効いてる!
目からドバドバ涙を流していて、目が真っ赤に痛々しく充血している!
物凄く辛そうだ!

フローティア島では、ガニモンは花粉をくらったら視界が効かなくなって海へ逃げていったはずだ。

このガニモン達、おかしいぞ…
蛮族デジモン達ですら耐え難い目の激痛と痒さに襲われているのに、なぜこんなロボットのように忠実に命令をこなせるんだ!?

767: ◆VLsOpQtFCs 2023/12/17(日) 20:37:35.68 ID:QUG87C/oO
「どけ!」

ケンキモンは、鉄骨カッターを振ってガニモンを打ち払った。

ぶっ飛ばされたガニモンは仰向けにひっくり返る。

ん…?
ガニモンの腹部になにかついている…!

こ、これは…
ズルモン!

粘菌デジモンのズルモンが、ガニモンの腹部に潜り込んでいる…!
寄生してるのか!?

ガニモンは、あの寄生ズルモンに操られていた…!?

リーダーは驚いた。
「なんだと…!?今まで見てきた粘菌デジモンに、寄生する性質は無かったはずだ!どうやってあんなデジモンを作り出した!?」

クルエは寄生ズルモンにドン引きしながら答えた。
「どうって…どうにかしたんじゃないですか…?亀のデジモンを剣や盾への変形デジモンにできる奴らですよ、これくらいやってきそうですが…」

「だが…自然界にいるデジモンの中には、寄生性のデジモンは居ない。パッチ進化やジョグレス進化をしたとしても…、寄生して栄養を吸うだけならともかく、宿主を操る能力を獲得するように人工進化させるなど容易いことではないぞ…!」

769: ◆VLsOpQtFCs 2023/12/17(日) 20:51:28.87 ID:QUG87C/oO
リーダー。
心当たりがあります。

「フクロムシ」…という寄生虫を知っていますか?

「…ああ。知っている。カニに寄生して、体を乗っ取って操ってしまう生物だな。デジタルワールドでは、そのニッチに該当するデジモンは見つかっていなかったはずだが…」

そのフクロムシは…
フジツボの近縁種なんです。

「フジツボ…海岸の岩にくっついてるヤツらか」

はい。
フクロムシはフジツボと同系統の、蔓脚類という甲殻類です。

フジツボがカニの腹部にくっつくようになったものが、寄生能力を得るように進化した生物。それがフクロムシです。

そして、デジタルワールドにはフジツボによく似たデジモンがいます。

『フジツモン』…。
ピチモンから進化して、ガニモンへ進化する幼年期レベル2デジモンです。

「フジツモン…たしかタコ型デジモンのオクタモンの頭部にくっついてたり、岩にくっついたりして水中を漂う生ゴミの粒を食っている幼年期デジモンだな」

はい。
クラッカーはおそらく、粘菌デジモンのズルモンを、こともあろうにガニモンの進化前の姿であるフジツモンとジョグレス進化させたんです。

そうして、現実のフクロムシの進化を辿らせて、それに酷似した性質を持った寄生性ズルモンを作り上げたんです!

「…そうか…!『どんなデジモンにも寄生して操れるズルモン』を作ろうとした場合、寄生対象となる宿主デジモンの神経系統を乗っ取れるような遺伝子を作り上げなくてはならない…そんなことはとうてい不可能だ。だがいずれガニモンへ進化する遺伝子を持った幼年期のフジツモンをベースにして寄生デジモンを作ることで、ガニモンの神経系統を乗っ取れる遺伝子を獲得したということか!」

きっとそうです。
ガニモンの神経系統を乗っ取れるようにしたいなら、ガニモンの遺伝子を持った寄生デジモンを作ればいい…ということです。

「理屈は分かるけどよぉ…そんなことやるかフツー!?どんだけ性格悪いんだよAAAのヤツ!」
カリアゲは悪態を付いている。
気持ちは分かる。

…AAAのデジドローンから声がした。
『…何だ?今のお前…ガニモンの腹部を一目見ただけで、私が寄生ズルモンを作り上げた手段を一瞬で言い当てたのか?』

だったら何だ!

『…お前、私と手を組まないか?クラッカー側に来いよ』

行くわけ無いだろ!

770: ◆VLsOpQtFCs 2023/12/17(日) 21:03:12.92 ID:QUG87C/oO
『そうか…仕方ない。おい、もうそのデカブツは用済みだ。片付けろ』

ん…?
AAAのデジドローンが、なにかへ指示をした。

「ウシャアアアア!」
モリシェルモンは、多数の蛮族デジモンに対して数の不利など知ったことかと言わんばかりに圧倒している。

シャーマモンを叩き潰して殺し、食わずに捨てて、新たな獲物を仕留めにかかっている。

モリシェルモンはヌメモン系統なので、腐敗した死骸でも平然と食う。
そのため獲物を仕留め次第逐次食うのではなく、とにかく殺せるだけ殺してから、それを巣に持ち帰ってじっくり食べる習性がある。腐り始めたものから…。

そうだ…
ズルモンは粘菌デジモンだ!
モリシェルモンの大好物!

ケンキモンは、足下の小さなガニモン達を相手にするのを手こずっているが…
モリシェルモンの興味を引ければ、腹部のズルモンごとガニモンを優先的に食ってくれるかもしれない!

ケンキモン、モリシェルモンの意識を引け!

ケンキモンは私の指示を聞き、ガニモンを一体モリシェルモンの方へ弾き飛ばした。

モリシェルモンをおびき寄せる気だ!

その時…
「ガアアアアアァァァ!?」
突如、モリシェルモンが悲鳴を上げた。

771: ◆VLsOpQtFCs 2023/12/17(日) 21:09:52.90 ID:QUG87C/oO
どうしたんだ、モリシェルモン!?

「ガアアアアアァァァ!ァガアアアァァァ!ゴバアアア!」

モリシェルモンは吐血した。
物凄く痛がっているようだ。
な、なんだ!?

『くっくっく…このデカブツを繰り出して、一杯食わせたつもりか?だとしたら興醒めするほどつまらんな。この私が…自分が使う手への対抗策を何も用意していないと思ったか!』

モリシェルモンはグルンと白目を向いた。
するとモリシェルモンの頭部が、メキメキと裂けて…
血飛沫をあげ、頭の中から何かが突き出した。

それは…
回転するドリルだ。

「ウウゥゥゥウ~~!!」

モグラ型成熟期デジモンのドリモゲモンが、モリシェルモンの頭部を突き破り、引き裂いてモリシェルモンの体内から出てきた。

モリシェルモンは、力なくうつ伏せに倒れた。

「ウゥーーーーー!!」
ドリモゲモンは雄叫びをあげている。


…そんな…。
あんなに強いモリシェルモンが、こんなに一瞬であっさりと仕留められた!

772: ◆VLsOpQtFCs 2023/12/17(日) 21:14:38.12 ID:QUG87C/oO
ドリモゲモンのDPは、モリシェルモンに比べれば遥かに低い。
だが、ドリルで地中にトンネルを作って掘り進む力を持つドリモゲモンは、ある意味モリシェルモンにとって天敵なんだ…!

途中からモリシェルモンの腹部の下へ、そのまま『掘り進んで』しまえば、モリシェルモンの体内へそのまま『トンネル』を掘り、内部から破壊してしまうことができる。

くそ…!
そんな手があったなんて!

『ついでだドリモゲモン!そこのガラクタを解体してやれ!』

「ウゥゥ~~!」
モリシェルモンを仕留めたドリモゲモンは地中に潜った。

ま、まずい…!
ケンキモンは今、キャタピラーは破損していて移動できない!

血中からドリモゲモンに攻撃されたら、回避できない…!

774: ◆VLsOpQtFCs 2023/12/17(日) 21:21:31.03 ID:QUG87C/oO
ケンキモンは慌てている。

そのとき…

『ケンキモン オレといっしょに ドリモゲモンを たおすぞ』

チャットの文章を読み上げたような合成音声が聞こえて来た。

声がした方を見ると…
一体のデジモンがいた。

そのデジモンは…
見たことがないデジモンだった。
no title


赤い帽子を被った、二足歩行の獣形デジモンだ。
成長期だろうか。
あ…あれは!?

メガが口を開いた。
「仮称ガンマ。蟹を煮る鍋の位置を検索したり、さっきチビマッシュモンの体内からマルウェアを検索したのがこの個体だよ」

仮称は分かりづらい!
名称を教えてくれ!

『オレは アプリモンスターズ計画 試作ロット第2号 ガッチモンだ!なんていってる ばあいじゃねえ! やるぞケンキモン ドリモゲモンを…ふたりでたおす!』

し…勝算があるのか!?

『まかせろ ディープサーチ!』
ガッチモンは、両手を地面にかざした。

776: ◆VLsOpQtFCs 2023/12/17(日) 21:26:20.07 ID:QUG87C/oO
ガッチモンは、デジタル空間地下の地図データを生成した。
『よっしゃ ケンキモン これを!』

ケンキモンは、地図データを見た。
地中のどこにドリモゲモンがいるか、はっきりと映し出されている!

蛮族デジモン達が、いっせいにケンキモンの方へ向かってきた。
モリシェルモンが倒れた今、倒すべき敵はケンキモンただ一体ということだ。
花粉のアレルギー症状が引いた個体から、飛びかかってくる…!

ドリモゲモンの居場所を示すマーカーが、ケンキモンの真下へ来る…!

「そこだ!」
ケンキモンは、マーカーの位置へ向かって、穴掘建柱ドリルを突き出した!

回転するドリルはデジタル空間の地面を突き破り、地中を抉る。

「ウウウゥゥウウギャアアアアアアアアア!!!」

血飛沫と共に、ドリモゲモンの悲鳴がこだました。

785: ◆VLsOpQtFCs 2023/12/20(水) 07:59:55.21 ID:ZRae2xG0o
ケンキモンが地面からドリルを引っこ抜くと…
ドリルには、胴体を貫通されているドリモゲモンがついてきた。

ケンキモンはドリモゲモンからドリルを引き抜き、ドリモゲモンを地面へ投げ捨てた。

『なんだと…!?貴様、どうやってドリモゲモンの位置を…!?』
AAAは予想外だったらしく慌てている様子だ。

「ウゥ…ゥウウ…!」
致命傷を受けたドリモゲモンは…
最期の力を振り絞って、デジタマを産んだ。

ドリモゲモンのデジタマか…
確保しておこう。
デジモンキャプチャーを使い、そのデジタマを隔離チェンバーへ送った。

だが、相変わらず敵は多い。
花粉アレルギーが治まった蛮族デジモン達が、ケンキモンに押し寄せてくる。

ズルモンに支配されたガニモン達も、再び脚部を狙ってくる。
四面楚歌だ…!

だが、ガニモン達は…
彼らのすぐそばに突如開いたデジタルゲートから伸びてきた、植物のツタのようなものに捕まった。
そして、デジタルゲートへと引きずり込まれた。

そのデジタルゲートの向こう側は…
懐かしのビオトープだった。

オタマモンがかまどに火をつけており、かまどでは大きな土鍋の中で熱湯が湧いていた。

ガニモン達を捕らえたパルモンは…
そのままガニモン達を、土鍋へ叩き込んだ!

熱湯がバシャンと音を立てる。

この土鍋は、ガニモンを茹でて蟹鍋にするためにブイモンが作った逸品だ。

ガニモン達は熱湯から脱出しようとするが…
パルモンとオタマモンは、蓋を閉めて上から押さえつけた。

…まさか蟹鍋を武器として使うとは。

やがて、全力で暴れたガニモンが蓋を払い除けた。
空中で宙返りして、地面へ着地するパルモン。

ガニモン達は土鍋から脱出してしまった。

熱湯の中には…
グツグツに茹でられて動かなくなったズルモン3体の姿があった。

786: ◆VLsOpQtFCs 2023/12/20(水) 08:10:54.44 ID:ZRae2xG0o
さて、ケンキモンとドリモゲモンが戦っていたとき…
同時並行で、マッシュモンとチビマッシュモンは別の作業をしていた。

モリシェルモンの巨大な死骸を、デジタル空間からどける作業だ。
メガ曰く、モリシェルモンの死骸はドーガモン作戦の妨げになるらしい。

モリシェルモンの直下に巨大なデジタルゲートが開いた。
その中からチビマッシュモン達が出てきて、モリシェルモンの死骸をゲートに引っ張り込もうとしている。

「マッシ!マッシ!マッシ!」

だが、チビマッシュモン達の小さな体では、モリシェルモンをデジタルゲートの中へ引きずり込むのが容易でないようだ…。

そこへ…
「オイラも…てつだう」

デジタルゲートの中からブイモンが現れた。
「こいつを…どかせば、いいんだろ!」

チビマッシュモンに、肉体労働が得意なブイモンが加わったことで、モリシェルモンの死骸をデジタルゲートを通してフローティア島へ放逐することに成功した。

よくやったブイモン!
偉いぞ!
「そ、そうかな…へへ…」
ブイモンは少し照れている。
「オイラ、これくらいしかできることないからよ…」
…自分を卑下するなよブイモン。
十分いい働きしてるんだから。

787: ◆VLsOpQtFCs 2023/12/20(水) 08:19:04.84 ID:ZRae2xG0o
ガニモンの排除と、モリシェルモンの放逐に完了したとき…

「ウホオォォ!」

ジャングルモジャモン2体がケンキモンに飛びかかってきた。

ケンキモンは先程、ガニモン達と格闘していたが、だいぶ脚部を破壊されてしまった。
この場から移動することは難しいだろう。

「ウホォァ!」
ジャングルモジャモン達は、青銅の棍棒でケンキモンのボディを叩いた!
ガキィンとすさまじい金属音が鳴り響いた。

「ウホ?」
殴られたケンキモンのボディは凹んでいたが…
青銅の棍棒はそれ以上に凹んでいた。

ケンキモンのボディは鉄製だ。
そう簡単に青銅に負けはしない。

…それを鑑みると、薄い板金とはいえ、鉄のキャタピラー履帯を切断したガニモンのハサミは本当に自分恐ろしい武器だったんだなと実感させられる。

パルモンが不意をついてガニモン達の腹部に寄生したズルモン達を茹で殺すことには成功したものの…
統率された行動を取るガニモン達は、下手な成熟期より恐ろしい敵だった。

789: ◆VLsOpQtFCs 2023/12/20(水) 08:29:36.14 ID:ZRae2xG0o
ケンキモンは、クレーン鉄球をジャングルモジャモンへ振りかざす。

「ウホッ!」
だが、ジャングルモジャモン達はそれを軽快に回避した。

続いて、鉄骨カッターやドリルを繰り出すが…
「ウホハハハハ!」

ジャングルモジャモンはそれらの攻撃を、ひょいひょい飛び跳ねて回避する。

くっ…
スピードで完全に負けている…!

パルモンの花粉による弱体化が解けた蛮族デジモンが、こんなに手強いのか!

『金属のボディか…。フーガモン、やれ!』
AAAのデジドローンが指示を出した。

すると、フーガモンはシマユニモンの手綱を握って、シマユニモンに何かを指示した。

シマユニモンは、ケンキモンに角を向けると…
角から放電を放ち、ケンキモンへ電気ショックを浴びせた!

「ぐっ…があああああ!」
ケンキモンの中の本体が苦しそうな声を上げた。
電撃攻撃がケンキモンの金属ボディを伝い、中の本体にダメージを与えているのか!

や…やばい!
シマユニモンにそんな力があったなんて…!

このままではやられてしまう…!

「3分だ!いくぞ、ドーガモン!」
その時、メガの声がした。

791: ◆VLsOpQtFCs 2023/12/20(水) 08:39:31.33 ID:ZRae2xG0o
空中にデジタルゲートが空いた。

その中から飛び出てきたのは…
ファンビーモンだ。

ファンビーモンが…
なんと、2体、3体…4体…!
次々と飛び出してくる!

合計16体のファンビーモンが、デジタルゲートから出現した!

『なに!?バカな…これだけの短期間でファンビーモンをここまで殖やしたのか!?』

「ヒイィィィ!」
敵のキャンドモン達は、ファンビーモンの群れの姿を見てビビった。

群れのうちの一体が、尾から毒針を飛ばした。
「ウホォオ!?」

毒針は、ジャングルモジャモンの一体に当たった。

「ウホギャアァア!」
毒針から電気ショックが発せられ、ジャングルモジャモンが感染した。

え!?
ファンビーモンの毒針って電気も出せるの!?

私が驚くと、カリアゲが解説してくれた。
「毒針の中に電源が入っているみたいだぞ。すぐに引っこ抜かれないように、少しの時間だけ感電させて、毒が回る時間を稼げるようにしてるみたいだな」

カリアゲ…
随分ファンビーモンに詳しいな。

「まあ…俺はファンビーモンと仲間になろうとして、ずっとコンタクトを取り続けてきたからな。ガニモン鍋の残りとかあげたら、喜んで食ってたぜ」

それが今、活きたということかな。
「いや、あんま活きてないな!シマユニモンを狙えって言ったけど、やっぱ言葉は分かってねえみてえだ!」

確かに。
今はジャングルモジャモンより優先して、シマユニモンを狙って欲しい場面だ…!

793: ◆VLsOpQtFCs 2023/12/20(水) 08:46:57.86 ID:ZRae2xG0o
そのままジャングルモジャモンは、麻痺毒で動かなくなった。

…成熟期相手をこんなあっけなく無力化するファンビーモンの猛毒。
やはり純粋な戦闘能力においては規格外だ。

ファンビーモンの毒針攻撃を見た蛮族デジモン達は、大層驚いている様子だ。

空中から即効性のある麻痺毒針を飛ばしてくる敵…
それが16体もいる。

その状況の恐ろしさに、蛮族デジモン達は気付いたようだ。

続いて、他のファンビーモン達も毒針を飛ばし始めた。
それらの毒針はすべて、命中するスレスレで外れてしまったが…
『自分に向かって毒針が飛んできた』というだけで、蛮族デジモン達はパニックになっているようだ。

「ウホオォォオオオ!!ホァアアア!!」
ケンキモンの取り囲んで青銅棍棒で叩いていた蛮族デジモン達は、一斉に逃げ惑う!

『くそ…戦え!逃げるな!』
AAAの言葉も、パニックの蛮族デジモン達には届いていないようだ。

795: ◆VLsOpQtFCs 2023/12/20(水) 08:54:56.41 ID:ZRae2xG0o
シマユニモンに電撃攻撃をさせていたフーガモンは…
「イッタン キョリヲ トレ!」

シマユニモンの手綱を引いて、電撃攻撃を止めさせた。
ファンビーモンの群れをケンキモン以上の脅威と見なし、距離を取ることにしたようだ。

「ブルッヒ!」
放電を止めたシマユニモンは、だいぶ疲れているようだ。

あの放電攻撃はなかなか体力を消耗するらしいな…。

シマユニモンは、再び駆け出そうとした。
…その時。

どこからともなく、高速回転する手裏剣のようなものが飛んできて…
シマユニモンの首の横側を切り裂いた。

「ブルヒヒイィィ!」
斬撃を首に食らったシマユニモン。
首の切り傷からボタボタと出血した。

飛んできたのは…
no title


…ティンクルスターモンだ!

797: ◆VLsOpQtFCs 2023/12/20(水) 09:00:55.04 ID:ZRae2xG0o
『ふはははは!手遅れになる前に間に合ったようだな!』

この声は…パルタスさん!?
そういやリーダーから救援要請をしてたんだっけ。

ティンクルスターモン!久しぶり!

『ヒサシブリ? オハツニ オメニ カカリヤッス!』

あれ。
前にティンクルスターモンとは話したことなかったっけ。

『そいつは前に見せたときは幼年期のピックモンだった個体だな!あのとき会わせたティンクルスターモンは、今はスターモンへ進化したぞ!』

おお、そうなんですか!

『上からの許可が通ったのはティンクルスターモンだけだった!スターモンとシューティングスターモン、ジオグレイモンは出撃許可が通らなかった。仕方あるまい、こちらをもぬけの殻にはできないからな!』

十分助かります!

800: ◆VLsOpQtFCs 2023/12/20(水) 09:15:19.24 ID:ZRae2xG0o
スポンサーさんから通信があった。

『諸君。今はあまり関係ない話だが…ローグ・ソフトウェアに連絡したところ、クラッカーデジモンの駆除に協力してくれるそうだ』

おお、なんと!?
で、ではそっちのセキュリティデジモンがここへ来てくれるんですか!?

『いや、ここには来ない。見守りマッシュモンとかいう詐偽は、学校だけでなく生徒の親達にも被害が拡大していたのを覚えているかね?』

あー、確かそうでしたね。
モリシェルモン乱入の有耶無耶で、そっちは放置して帰ってきちゃいましたけども。

『ローグ・ソフトウェアは、その親御さん達のとこにいるであろうクラッカーマッシュモンを駆除し、自分たちのところのセキュリティサービスの営業をかけるようだ』

それを聞いたカリアゲは前のめりになった。
「何だよそれ!?俺達が先に見つけた敵じゃねえか!横取りかよ!」

『君達が命がけで暴いた敵の手口だったが…。状況が状況なだけに、つい口を滑らせてしまった。すまないね』

「ずるいぞ畜生!」

いや…そうとも言えない。
一番大事なことは、セキュリティサービス同士での小競り合いに勝つことじゃない。
クラッカーデジモンの被害者が、一刻も早く被害から救われることだ。

今こうしてる間にも、生徒の親御さん達のパソコンやスマホから、クラッカーマッシュモンによって情報を抜き取られたりしているかもしれない。

それを…
『我々が行くまで待て』とは言えないよ。
ローグ・ソフトウェアがすぐ動いてクラッカーマッシュモン退治してくれるなら、それに越したことはない。

「おお、そりゃ…そっかぁ…。そうだな」

『…損な性格だね。だが、それが我々が君達を信頼している点でもある』

それはどうも。

『本当に今と関係ない話ですまないね!だが一応リアルタイムで伝えておくべきと思ったんだ』

…まあ、AAAがこちらへの攻撃に集中している間に、その手先を排除するのは悪くない判断です。

802: ◆VLsOpQtFCs 2023/12/20(水) 09:20:40.50 ID:ZRae2xG0o
ファンビーモンの群れは、毒針を飛ばし続けている。

大体はハズレており、蛮族デジモンに命中しそうでしないギリギリのところのようだ。

しかし、中にはきちんと命中する毒針もある。

そんなカオスな状況で、ファンビーモンを注視して警戒している敵デジモンを…
ティンクルスターモンが、背後から回転手裏剣タックルで切り裂く!

「キャドオォォオオ!?」
キャンドモンの一体が、ティンクルスターモンに切り裂かれた。

この連携攻撃は、敵にとって相当厄介だろう。

「ウキッ!」
セピックモンの一体が、ブーメランを握りしめた。
「ウキャアアアア!」
セピックモンは、空中を飛ぶファンビーモンに向かってブーメランを投げ飛ばした。

806: ◆VLsOpQtFCs 2023/12/20(水) 19:49:30.55 ID:ZRae2xG0o
投げられたブーメランは…

ファンビーモンの体をすり抜けた。

「ウキッ!?」
ブーメランがすり抜けるという異常な現象に驚くセピックモン。

「う、ウキー!」
攻撃が効かないと見ると、セピックモンもファンビーモンから逃げた。

16体のファンビーモンのうち15体は、ドーガモンがファンビーモンの姿を深層学習して、デジタル空間へ投影している「立体映像」である。
16体のうち1体だけが本物のファンビーモンだ。

作戦前にモリシェルモンを片付けたのは、そうしないとファンビーモンは敵へ攻撃せず、大きなモリシェルモンの死骸を貪って空腹を満たすだけになるためだ。

ドーガモンとファンビーモンの連携(?)によるこの作戦は、敵をパニックに陥れることには成功したが…

あいにく、決定力に欠ける状況だ。
まず、ファンビーモンの毒針は無限に飛び出るわけではない。
毒針が尽きるなり、食欲が満たされるなりすればファンビーモンは攻撃を止めるだろう。

そして、ファンビーモンが戦場にいる間、パルモンやブイモン、オタマモンはデジタル空間に出てこれない。
ファンビーモンは敵味方の区別なく、食えそうなデジモンを無差別に攻撃する。
そのため、食えなさそうなケンキモンとティンクルスターモン以外の味方デジモンは、この場に出てきたらファンビーモンのターゲットになりかねないのだ。

そういうわけで、今戦場で戦えるのはティンクルスターモン、ファンビーモン、ケンキモンだけだ。

だが、ケンキモンはガニモンの攻撃で脚部を破壊されており、満足に移動できない。

一方、敵の戦力は…
ドリモゲモン、ガニモン、プラチナスカモンは倒したが…
シマユニモンに乗ったフーガモンや、キンカクモン、キャンドモン…
あとはジャングルモジャモンやセピックモン、成長期の蛮族デジモンが何体か残っている。

ハゲオヤジデジモンは、相変わらず高いところで戦いを見物しながら、干物を食ったり酒を飲んだりしている。
なんなんだこいつは。

成熟期のデジモンは、(ハゲオヤジデジモンは分からないけど)どれも強敵だ。
この三体でどうにかできるのか…!?

…しかし、なにか妙な悪寒がする。
何かを、忘れているような…。

本来いるはずの敵が、その場に欠けているような…。
不思議な感覚だ。

809: ◆VLsOpQtFCs 2023/12/20(水) 20:12:09.49 ID:ZRae2xG0o
現在戦闘可能なジャングルモジャモンは3体。
セピックモンも3体だ。

『フーガモン!ジャングルモジャモン!セピックモン!キンカクモン!あの蜂共を片付けろ!』

「う、ウホオォ!」
成長期の蛮族デジモン達やキャンドモンは、ファンビーモンの毒針が届かないところへ隠れているが…

今名指しで呼ばれた成熟期達は、腹を決めたらしく、空を飛ぶファンビーモン達へ攻撃を仕掛けるようだ。

ジャングルモジャモン達は、倒れ伏している蛮族デジモン達の手元から、青銅の武器をひったくり…
しこたま投げまくった。

セピックモンは、手持ちのブーメランを投げまくった。

キンカクモンとフーガモンは、打撃武器を構えてファンビーモン達をじっと観察している。

ファンビーモン達は、投げられた武器を回避する。

そして毒針を放って反撃するが…
その殆どは、蛮族デジモン達から命中寸前でハズレた。

それらは全て立体映像の偽物だが…
防御しないわけにはいかないのだ。
既に毒針で何体かの蛮族デジモンが仕留められているのだから。

シマユニモンは、再び角に放電攻撃のエネルギーをチャージしている。

今の敵の中で、最も厄介な相手は…
シマユニモンだ。

何故なら、電気は「通りやすいところへ流れる」性質を持っているからだ。

シマユニモンは、群れの中から、本物のファンビーモンを、電流が自動で探知して感電させることができる。

再び放電を放たれたら、本物のファンビーモンがやられる…!
そうなる前に、シマユニモンだけは仕留めなくてはいけない!

811: ◆VLsOpQtFCs 2023/12/20(水) 20:21:13.99 ID:ZRae2xG0o
ティンクルスターモンが、シマユニモンをめがけて回転しながら飛んできた。

シマユニモンは、それを素早い身のこなしで回避した。
シマユニモンはとんでもなくスピードに優れている。

「ウガーオゥ!」
フーガモンは、空中で青銅棍棒を振るってティンクルスターモンへ振りかざした。

ティンクルスターモンは、空中で青銅棍棒を回避する。

スピード自慢同士の戦い。
互いに攻撃を躱し続けている。

だが、シマユニモンのチャージが終わったら、その戦いも終わるだろう。

シマユニモンの放電攻撃は、回避が極めて困難。
ティンクルスターモンがいくら素早くても、電流はそれを追尾して感電させてしまう…!

やがて、シマユニモンの角に放電攻撃のチャージが溜った。

『フーガモン!その手裏剣デジモンを撃ち落とせ!』

シマユニモンは、角をティンクルスターモンへ向けて…
電撃攻撃を放った!


電撃攻撃は…
ティンクルスターモンの方ではなく、ファンビーモンの方でもなく。

シマユニモンの真上へと飛んだ。

『なに!?』

812: ◆VLsOpQtFCs 2023/12/20(水) 20:29:08.27 ID:ZRae2xG0o
シマユニモンの直上には、巨大なデジタルゲートが開いており…

その中から、ケンキモンが落下してきたのだ。

電気は「流れやすい方向へ流れる」。
ゆえにティンクルスターモンの方でなく、巨大な鉄の塊であるケンキモンのボディへ流れるのは必然だ。

『よけろ!シマユニモン!』

シマユニモンは、自分の真上に落下してきたケンキモンを…
死物狂いで回避した。

ケンキモンは、大きな音を立てて地面に落下・衝突する。
脚部が大破し、パーツが飛び散った。

これだけのダメージを負ったら、ケンキモンはもう戦えないだろう。

『くっくっく…自爆覚悟の投身攻撃か!だが無駄に終わったなぁ!』

シマユニモンは放電を止めて、再びティンクルスターモンの方を向いた。

『セピックモン!いったん蜂共はいい!その手裏剣デジモンを全員で仕留めろ!』

ううっ、それはまずい!
セピックモンのブーメラン攻撃は、空中で予測不可能な軌道を描いて敵に当たりに行く。
その攻撃力も強力だ。

それを3つも投げられたら…
いくらティンクルスターモンでも躱しきれない!

814: ◆VLsOpQtFCs 2023/12/20(水) 20:38:42.77 ID:ZRae2xG0o
敵デジモンの意識がすべてティンクルスターモンに注がれた、その時…

ケンキモンのコックピットが開き…
中からケンキモンの本体が飛び出してきた。

ゴーグル付きの黄色いヘルメットをかぶり、右手がハンマー、左手がドリルになっているその姿は、まるでロボットのようだ。

no title


…今だ、やれ!
ケンキモン…
いや!

クラフトモン!

「うおおおぉ!」

クラフトモンは、シマユニモンの直上から襲い掛かり…
右手のドリルを回転させ、シマユニモンの脳天へ叩き込んだ。

「ブルッギャアアアアアアアアーーーーー!!!」

ドリルはシマユニモンの眉間を貫通した。

シマユニモンに乗っていたフーガモンは驚いた。

『そのデジモン…中に別のデジモンがいたのか!フーガモン!やれ!』

シマユニモンに乗っていたフーガモンは、青銅棍棒でクラフトモンの頭部を思いっきり殴打した。

クラフトモンのヘルメットがバラバラに飛び散った。

…だが、クラフトモンは飛び退いた。
このヘルメットは「壊れることで衝撃を受け止める」タイプだ。

頭部にもろに打撃を食らっていたら即死だったかもしれないが…
ヘルメットがたった一度だけ、その致命傷級のダメージを肩代わりしてくれたのだ。

816: ◆VLsOpQtFCs 2023/12/20(水) 20:52:36.80 ID:ZRae2xG0o
シマユニモンは…

「ブ…ブルルヒ…」

横に倒れた。
乗っていたフーガモンは、地面に自身の脚で着地した。

『…シマユニモンが殺られたか…』

よし!
これで、ティンクルスターモンとファンビーモンを確実に倒せるシマユニモンを討ち倒した!

勝ち筋が見えてきたぞ!
ファンビーモン軍団が撹乱しつつ、ティンクルスターモンとクラフトモンがデジタルゲートを駆使してヒット・アンド・アウェイで攻撃を仕掛ければ…

キンカクモンとフーガモンに勝つ目が出てくる…!

『…くっくっく…ははははは…!ようやく手札を出し尽くしたようだな!』

そっちもだろうが!

『貴様達は不利な状況を、敵の戦力を観察・分析し、弱点を突く戦略で不利を覆す戦いをしていた。まるでパズルのピースを埋めるようになぁ…!』

な…なんだ。
その余裕は。

『くっくっくっく!そう、貴様達の最大の弱点は…!手繰り寄せた細い細い勝ち筋を…未知の情報で潰されることだ!はっはっは!』

な、なんだ…
何を言っている!

818: ◆VLsOpQtFCs 2023/12/20(水) 20:56:45.44 ID:ZRae2xG0o
ジャングルモジャモンのうち一体が、群れに紛れた本物のファンビーモンの毒針を食らった。

「ウホギャアア!」

ばたりと倒れるジャングルモジャモン。
ファンビーモン…まだいけるか?

その時…

ファンビーモンの群れの上から…
突如。

大量の溶けた蝋が落下してきた。

群れの中で、たった一体だけのファンビーモンは、その突然の攻撃を察知しきれずに、蝋に絡め取られた。

「ズビィ!?」

ファンビーモンを絡め取った蝋は、地面に落下してべちょっと貼り付いた。

ファンビーモンは、蝋から脱出しようとするが…
既に蝋は固まっている。
抜け出せない!

「ズ、ズビ、ズビィ!」

なんだ…
何が起こったんだ!

819: ◆VLsOpQtFCs 2023/12/20(水) 21:01:47.63 ID:ZRae2xG0o
『そういうからくりか。まとめて全員仕留める算段だったが…。どうやっているかは知らないが、1体を除けば全ては蜃気楼のようなものだったらしいな』

ば、バレた…!
ドーガモン作戦が!

『くっくっくっく!これで厄介な蜂の動きは封じた!お前達、もういいぞ、出てこい!』

AAAがそう言うと…
ファンビーモンに恐れをなして逃げていた、成長期の蛮族デジモン達やキャンドモン達が、物陰からぞろぞろと出てきた。

『はーっはっはっは!どんな気分だ!?セキュリティ共!切り札を潰された瞬間は!』

カリアゲは顔を真っ青にしている。
「何だよ…何だよあの蝋は!」

…そうだ。
なにか忘れていたと思ったが…
これだ!

確実に、存在することが分かっていたはずなのに…
今までここにいなかった存在。

それが今まで潜伏していた可能性に…
私達はなぜ気付けなかったのだろう。

そう…
キャンドモン達の親デジモンが…!

820: ◆VLsOpQtFCs 2023/12/20(水) 21:08:25.27 ID:ZRae2xG0o
ファンビーモンを蝋で捕獲したデジモンは…
大きな翼を羽ばたかせながら、上空からゆっくりと降り立った。

no title


真っ白な…
悪魔のような姿だった。

これが、今まで隠れていた…
キャンドモンの親か!

『真の切り札は、伏せておくものだ…そうだろう?くっくっく…!はーっはっはっは!』

ま、まずい…
ここに来て、わけのわからない性質のデジモンが出現するなんて…!

想像していなかった。
完全に虚を突かれた。

プラチナスカモンを、ドリモゲモンを、シマユニモンをも失ってまで…
奥の手を隠し続けていただんて。

そんなの、予想していなかった…!

『まとめて蝋人形にしてやれ!アイスデビモン!』

825: ◆VLsOpQtFCs 2023/12/20(水) 21:25:42.20 ID:ZRae2xG0o
「ズ…ズビ…!」
固まった蝋から、頭部だけが出ている状態のファンビーモン。

そこへ、キャンドモンが二体やってきた。
や…やめろ!

「ドキャーー!」
キャンドモン達は、口から火を吐いた。

キャンドモンやアイスデビモンの蝋は、特別に高温で燃えやすい性質のようだ。
火は蝋に燃え移り、ファンビーモンを焼いていく。

「ズビィイーーーッ!」

あああ…
ファンビーモンが燃やされていく…!

ファンビーモンの翅は溶けた蝋が絡み付いているため、羽ばたかせても飛べないようだ。

それだけじゃない。
ファンビーモンは昆虫型デジモン。腹部の気門で呼吸をするタイプだ。
その気門に溶けた蝋が流れ込んでいるようであり、呼吸器官を焼かれている!

し…
死んでしまう…ファンビーモンが…!

「ズビ、ズビィィ!」

めらめらと燃えていくファンビーモン。
シャーマモンやコエモン達は…

「ウガァアア!」

先程さんざんビビらせられたことで鬱憤が溜まっているのだろうか。
ファンビーモンを寄って集って、青銅棍棒で滅多打ちにし始めた。

826: ◆VLsOpQtFCs 2023/12/20(水) 21:28:56.07 ID:ZRae2xG0o
そこへ…

「やめろよおおお!」

なんと、ブイモンが腕をブンブン回しながら走り込んできた。

「ウガ!?」
シャーマモンの一体を殴り飛ばしたブイモン。
溶けた蝋の中からファンビーモンを引っ張って救出した。

「うあっちいぃいいいいい!」
溶けて燃えた蝋はブイモンの手を灼いていく。
だが、ブイモンは構わずにファンビーモンを背負って、走った。

「ゲート!はやく!」

私は、デジタルゲートをブイモンの眼の前に開いた。
ブイモンは、ファンビーモンを抱えてゲートへ飛び込んだ。

831: ◆VLsOpQtFCs 2023/12/20(水) 22:40:51.53 ID:ZRae2xG0o
ブイモンを送り込んだ先はビオトープだ。
ここは飲み水をたくさん保存してある。

今のフローティア島は、井戸を作っている最中。
だから飲み水はこのビオトープに貯蔵しているものを使っているわけだ。

ブイモンは、燃えているファンビーモンを、自分の手ごと大きな水瓶に突っ込んだ。

水が蒸発するジュウ~という音が鳴る。

「あっちちちち!」

しばらく水につけると、溶けた蝋がファンビーモンの体から剥がれて水面に浮かんできた。
火は鎮火したようだ。

ブイモンは、ファンビーモンを水瓶から出して、床へ寝かせた。
ブイモンの手は火傷しているようだ。

ぐったりしたファンビーモンは、ブイモンの方を見ている。

全身を焼かれ、呼吸器を灼かれ…
蛮族デジモン達に青銅の棍棒で叩きのめされたファンビーモンの外骨格はボロボロに割れていた。

せっかく助けはしたが…長くないかもしれない。
「ファンビーモン…おまえのこと、いまでもだいっキライだよ」

ブイモンは、ファンビーモンに向かって話しかけ始めた。
「ちいさいころ…おまえにおそわれて、ハリをめにさされて…しにそうになった。ワームモンがたすけてくれなきゃ、オイラはおまえにくいころされてた」

834: ◆VLsOpQtFCs 2023/12/20(水) 22:47:12.72 ID:ZRae2xG0o
ブイモンは静かに話しかけている。
「いまでも、おまえのこと、だいっきらいだ。ついさっきまで、いなくなってほしいって、ずっとおもってた。…でも、おまえは、あんなおっきなやつらと、ひとりでたたかってた」

「なあ、おまえはなんであんなつよくてこわいやつらとたたかえるんだ?つよいからか?」

ファンビーモンの体の傷を見ているブイモン。
「…ちがうよな。ファンビーモンも、オイラとおんなじチビッコなんだ。たたかれたらケガするし、よわいチビッコなんだ。それなのに…おまえは、デカいオトナとたたかって…なんたいもやっつけた」

ブイモンは目に涙を浮かべた。
「おまえのこと、キライだけど、でも…、カッコいいっておもっちまった。おまえみたいにカッコよくなりたいって…あこがれちまったんだ」

ファンビーモンの体を揺さぶっているブイモン。
「オイラがきらいでも…オイラがだいすきなひとたちにとって、おまえはたいせつなんだよ!だから…しんじゃだめだよ、ファンビーモン…!」

836: ◆VLsOpQtFCs 2023/12/20(水) 22:53:10.34 ID:ZRae2xG0o


戦場では、ファンビーモンの立体映像が消えた。
もはや映していても意味がないので、ドーガモンが立体映像を消したのだ。
デジモンの体力は有限だ。あれだけの立体映像を個別に動かし続けていては疲弊してしまう。

ドーガモンはいったんビオトープに入り、特性栄養ドリンクで栄養補給をして休憩した。

リーダーが、ドーガモンに話しかけた。

「ドーガモン、休んでいるところ済まないが…新たな教師データで深層学習してほしい。頼めるか?」

『いいケド… なんだ』

「今までの戦いの録画データだ。ここから、ある情報を抜き取って、学習してほしい。できるだけ急ぎで」

『…クラフトモンがたたかってるもんナ おちおちネてもいられねーカ…』

838: ◆VLsOpQtFCs 2023/12/20(水) 23:33:54.10 ID:ZRae2xG0o
戦場の状況は、圧倒的に不利だ。

クラフトモンは、先程まで巨大でパワフルなケンキモンを自身の体内の貯蔵エネルギーで操作していたため、だいぶエネルギーを消耗している。

それにクラフトモン本体の腕力はそれほど強いわけではないのだ。
ドリルの殺傷力は高いが…。

ティンクルスターモンも、かなりエネルギーを消耗している。
成長期の小さな体で、あれほどの殺傷能力のある回転タックルを放ち、既に敵デジモンを何体も斬り殺している。
ティンクルスターモンの高速飛行は、物理的な推進機構がなく完全にエスパー能力だけで推進力を得ているので、エネルギー効率が悪いのだ。

さすがはジャスティファイアが鍛え上げた国防用デジモン。
成長期どころか並の成熟期より強いが…スタミナが低めの短期決戦デジモンであるらしい。

カリアゲがAAAのデジドローンに話しかけた。
「AAA…てめえなんで今までアイスデビモンを繰り出してこなかったんだ。はじめっからアイスデビモンを繰り出していれば、シマユニモンも、ドリモゲモンも、失わずに済んだかもしれないじゃねーか!大事な部下じゃねえのかよ!」

『ん?そいつらなど、所詮は野生デジモンだ、どれだけ失おうが勝手にデジタルワールドから生えてくるだろう。畑のキャベツより容易くなぁ』

「なんだって…!?」

840: ◆VLsOpQtFCs 2023/12/20(水) 23:38:50.16 ID:ZRae2xG0o
『てっきり貴様らはズバモンとルドモンを手懐けているとばかり思っていたが…その様子だと奴らを手懐けてはいないようだなぁ!くっくっく!』

「ふざけるな…お前…デジモンを何だと思ってやがる!」

『ん?その質問には前に答えたはずだぞ?同じことを何度も言わせるな… 道具だ!』

「んだとてめえ…」

リーダーがマイクを握った。
「…デジモン伝送路は遮断したはずだ。いつの間にアイスデビモンを送り込んだんだ」

『くくく、自分で考えてみたらどうだ?』

メガがサーバーの状況を確認している。
「うわ、そんな!デジモン伝送路が再び繋がってるよ!」

リーダーは驚いている。
「どういうことだ!」

メガが色々調べた。
「そうか…最初に伝送路を繋がれたときは、チビマッシュモンにマルウェアを仕込んでいた。でも今はファイヤウォールが破壊されてしまっているから…直にマルウェアを送り込んできて伝送路を繋げたんだ!」

クルエが驚いている。
「そんな…マルウェアはチビマッシュモン達が駆除したはずじゃ!?」

…ごめん。
戦場にモリシェルモンを放ったとき、チビマッシュモンにはいちど退却させたんだ。
あのまま戦場にいると、蛮族より優先してチビマッシュモンを食べるから。

…きっと、その僅かなチビマッシュモン不在期間を突かれたんだ。

『くっくっく…!勘付いたか!既に手遅れだがな…!』

こ…
こいつ…!

『さて、おしゃべりはもういいか?時間稼ぎにはもう付き合えん。終わらせよう、このゲームをな!』

カリアゲは怒りの表情を向けた。
「ゲームだと…ふざけんな!デジモンの命を、ゲーム感覚で…!」

『フーガモン、キンカクモン、アイスデビモン…そしてセピックモン!そいつらを片付けろ!』

850: ◆VLsOpQtFCs 2023/12/23(土) 12:23:50.33 ID:TlnrVhSsO
『かかれ!』
AAAの号令と同時に、成熟期蛮族とアイスデビモンだけでなく、シャーマモンやコエモン、キャンドモン達も、一斉に襲いかかってきた。

数が…
数の差がありすぎる!

どうする…!?
一旦クラフトモンとティンクルスターモンをビオトープへ引っ込めるか…?

だが、そうしたとしてどうなる…?
無抵抗で我々のサーバーを破壊されて、壊滅するだけだ。

何か…!
何か手はないのか!?

クルエさん!
ベーダモンの説得はできないか!?

「た、助けてぇベーダモン!」

『なんだ ここまでなのか? つまらん』

「だめだぁ、手を貸してくれない!」
ちくしょう、だめか!

その時。パルタス氏から通信がきた。
『貴様ら喜べ!上を必死にスターモンとジオグレイモンの出撃許可が出たぞ!』

おお、それは助かる!
すぐデジモンを送ってください!

『わかった!だから伝送路の接続を許可しろ!』

え…
め、メガ!できそう!?

『ダメだ!デジモン伝送路の接続切り替えシステムがAAAに乗っ取られてる!ジャスティファイアのサーバーに繋げない!』

そ、そんな…
ジャスティファイアからの救援は来れないのか!

つ…
詰んだか…ついに…!?

851: ◆VLsOpQtFCs 2023/12/23(土) 12:43:48.03 ID:TlnrVhSsO
デジタル空間の上空にデジタルゲートが開き…
パルモンが出現した!

「さいごののこり! ぜんぶ!」

パルモンは、花粉の備蓄ストックを、今自分自身の頭の花から出せる花粉とともにありったけ蛮族デジモン達の頭上からばら撒いた。

おお、いいぞパルモン!
花粉で目潰しをすれば、奴らの集団攻撃は封じられる!

花粉アレルギーによる催涙効果が効いている間に、クラフトモンのドリルやティンクルスターモンのカッターで攻撃すれば、ワンチャン…!

『ワンチャンあると思ったか?その手は二度通じん!キンカクモン、電撃バットへマントを巻き、空中へ放電しろ!』

キンカクモンは、言われたとおりに毛皮のマントを脱ぎ、バットへ巻いて空中へ掲げた。

そして、キンカクモンのバットから放電が放たれた。
キンカクモンも電気を使えたのか…!


すると…
ばら撒かれた花粉が、全てマントに吸い寄せられた。

「ゲホ!ゴホ!」
キンカクモンは花粉が効いているためか、苦しそうに涙と鼻水を出し始めたが…
他の蛮族デジモンや蝋燭デジモン達は平気そうだ!

か…花粉が…
対処された!

カリアゲが驚いた。
「なんだ!?何が起こったんだ!?」

リーダーは苦虫を噛み潰したような顔をしている。
「静電気だ…!ヤツはマントに強力な静電気を蓄電させることで、ばら撒かれた花粉をクーロン引力で吸い寄せたんだ!」

そ、そんな…!

『仕留めろ、セピックモン!』

セピックモン三体は、パルモン目掛けてブーメランを投擲した!

パルモンはデジタルゲートへ飛び込んで逃げようとしたが…
両足にブーメランが1つずつ命中した!

「ぎゃああっ!」

パルモンの両足はへし折れてしまった…!
どう見ても骨折している。

だが、パルモンはツルを伸ばしてデジタルゲートを掴み、どうにかビオトープへ戻ってきた。

853: ◆VLsOpQtFCs 2023/12/23(土) 12:56:12.63 ID:TlnrVhSsO
ビオトープに戻ってきたパルモン。
「あううぅぅ…!」
折れた両足がひどい内出血を起こしている。
「いたい…!」

カリアゲがパルモンに話しかける。
「パルモン…今できる中で一番の手は…!やっぱ進化だ!」

「しんか…!」

「このままじゃクラフトモンとティンクルスターモンはきっと蛮族たちに殺される…!他のみんなも!頭数に差がありすぎるんだ!」

「うぅ…!」

「パルモン…ブイモン…!そしてボスマッシュモン!きっとやれるはずだ!今こそ…進化だ!」

パルモンとブイモン、そして体をようやくいつものサイズにまで形成し終えたボスマッシュモン(真・ボスマッシュモンの分身)は、カリアゲの言葉に頷いた。

「パルモン…しんかぁーー!」
「ブイモン!しんかーーー!」
「マシュモ、ミシュマァーーー!!」



「「しんかできない…」」
「マシュマ~…」

ううっ…
やっぱり進化は気合いを込めるだけですぐに反応が始まるものではないんだ…!

「スコピオモンやルカモンが戦闘中にレベル5へ進化したから、いけると思ったんだけどな…ちくしょう…!」

855: ◆VLsOpQtFCs 2023/12/23(土) 13:03:43.78 ID:TlnrVhSsO
やむを得ない!
ティンクルスターモン、クラフトモン!いったんゲートに入れ!

そう指示すると、ティンクルスターモンとクラフトモンは、私が開いたデジタルゲートへ入った。

二体はビオトープに入ってきた途端、地面に腰を下ろした。(ティンクルスターモンに腰はないが)
だいぶ疲労しているようだ。

とりあえず、特製栄養ドリンクを与えて栄養補給をさせた。

こ…
これからどうします!?リーダー!

「俺達の最後の切り札、それは…この自由自在にデジタルゲートを開けるランドンシーフだ。これを使って…粘れるだけ粘る!マッシュモン達は、伝送路を乗っ取っているマルウェアを探して駆除してくれ…できるか!?」

「シマッ!」

ボスマッシュモンとチビマッシュモン達は、敬礼のポーズをとった。

頑張ってくれ…!

857: ◆VLsOpQtFCs 2023/12/23(土) 13:35:20.19 ID:TlnrVhSsO
しかし、これだけの数の蛮族デジモン…
戦力差を覆す方法はあるんですか!?

「…ドーガモン。深層学習は終わったか?」

『なんとか おわったゼ』

「よし…」

…何か秘策があるんですね。

858: ◆VLsOpQtFCs 2023/12/23(土) 13:35:49.66 ID:TlnrVhSsO
『…デジタルゲートを開く技術がうっとうしいな。どこかにデジタルゲートを制御するシステムがあるはずだ、虱潰しに破壊しろ!』

蛮族デジモン達は、デジタル空間を次々と破壊していく。

メガは顔を青くしている。
「あああああ!サーバーのシステムが次々に破壊されていく!!」

『デジモン達だけに任せるのは非効率か。ファイヤウォールがない今、通常のマルウェアも送り付けてやるか…くっくっく…!』

すると…
AAAのデジドローンのすぐ近くに、デジタルゲートが開き…
ティンクルスターモンが出てきた。

ティンクルスターモンは、AAAのデジドローンを真っ二つに切り裂いて破壊した。

これでもう、AAAはデジモン達に指示は出せないし、デジクオリアでデジタル空間内を覗くこともできないはず…!

『くくく、ハズレだ』
そう言って、物陰からデジドローンが出てきた。
くそ、さっきのはダミーか…!

ティンクルスターモンは、今出てきた方のデジドローンに向かって飛んでいく。

『…軌道が決まったな!フーガモン、やれ!』

AAAがそう言うと、物陰からフーガモンが飛び出てきて…

青銅の棍棒を構えた。

しまった、罠だ!
戻れティンクルスターモン!

逃走用デジタルゲートを開こうとしたが、間に合わず…
フーガモンがフルスイングした棍棒が、ティンクルスターモンに当たった!

カキーンと甲高い音を立てて、勢いよく吹っ飛んでいったティンクルスターモンは、そのままデジタル空間の壁に突き刺さった。

だ…大丈夫かティンクルスターモン!

『ウゥ ダ ダメソウッス』

…致命傷を負っていないのが救いか…。
蛮族デジモンがトドメを刺しに来る前に、デジタルゲートを開いてビオトープにティンクルスターモンを回収した。

860: ◆VLsOpQtFCs 2023/12/23(土) 13:43:45.61 ID:TlnrVhSsO
てぃ、ティンクルスターモンまで…!
もうクラフトモンしか、成熟期相手にまともに戦えるデジモンがいない…!

クルエが席から立った。
「…確か、キノコ生成用のスパコンありましたよね。少し借りますね」

リーダーが答えた。
「い、いいが…何をする気だ?」

「あと、電話もちょっと借ります」

「いいが…だから何をする気だ!?」

「…リーダーには言えないことですが…今、私達に必要なことです」

「…そうか。信じよう」

「あざまっす」

クルエさん…
何か策があるんだろうか…?

861: ◆VLsOpQtFCs 2023/12/23(土) 13:48:47.22 ID:TlnrVhSsO
『くっくっく!もう貴様達にできることはないぞセキュリティ!蛮族共、システムを徹底的に破壊し尽くせ!』

AAAのデジドローンがそう言い放つが…

『…?おい、シャーマモン共、コエモン共…どうした。聞こえていたら返事をしろ』

…成長期蛮族からの返答がないらしい。

『ん?おかしい…シャーマモン!コエモン!貴様らどこへ行った!?』

あれだけたくさんいたシャーマモンとコエモン達は…
いつの間にか
どこにもいなくなっていた。

『なんだ…何をした貴様ら…!?成長期蛮族どもをどこへやった!』

確かに…
どこへ行ったんだあいつら!?

私の隣で、リーダーが呟いた。
「戦えるデジモンは残り少ない。だが、まだ俺達には武器が残っているということだ。…思考という武器がな」

『何を言っている…!』

リーダー…
何をしたんだ…?

870: ◆VLsOpQtFCs 2023/12/25(月) 20:24:41.98 ID:aRWUSx6po
何したんですかリーダー?

リーダーは、マイクを切って少しだけ呟いた。
「…ドーガモン。投影。AAA。以上だ」

それだけ言った後、リーダーは再びマイクをONにした。

それだけ言われても…全然わからん…!
できればもっとちゃんと教えてほしい…!
あと、できれば何かするなら先に言ってほしい。

…だが、この状況では仕方ない。

もしも私達の会話の間に、敵が都合よく攻撃の手を止めてくれるのなら。
もしも話す時間が無限にあるのなら。
リーダーは事細かに、これから何をするか、今何をしたのか、丁寧に相談し、教えてくれるだろう。

チェスの駒を指し合うように、考える時間がいくらでも取れるのなら。
誰がどのデジモンに何をどう指示するか、チームのみんなでじっくり話し合って決めることができるだろう。

だが現実には、敵は我々が話し合っている間に攻撃を待ってくれなどしない。

一分一秒ごとに状況が変化する戦場だ。
攻撃のチャンスが一瞬で生まれては、一瞬で消えていく。
危機が一瞬で訪れ、パートナーデジモンに襲いかかってくる。

たとえ、その度に「待った」を宣言し、チームみんなでじっくり相談をしようとしたところで、ただ攻撃のチャンスが去っていき、新たな危機が訪れるだけだ。

もしかしたら、リーダーが成長期蛮族を消した手品は、事前に私にじっくり説明する時間をとっていたら、機を逃して間に合わずに失敗していたものだったのかもしれない。

…そう考えると。
たとえ軽率な行動で悪手を指し、大失敗するリスクを抱えてでも、今できることを、間に合ううちに、とにかくやり続けるしかない。

リーダーもクルエも、誰も彼も説明不足になるのは仕方ないといえるだろう。
説明する余裕がない状況なのだから。

873: ◆VLsOpQtFCs 2023/12/25(月) 20:40:36.19 ID:aRWUSx6po
しかし、とうとう攻撃できるのがクラフトモンだけになってしまった…

敵の蛮族デジモン達は、我々最後の武器であるランドンシーフのシステムを破壊して、デジタルゲートを自在に開く戦術を無効化しようとしている。

今、こうしている間にも、次々と蛮族デジモン達は我々のサーバーのシステムを破壊している。
じっと機を伺っていれば手遅れになるだけだ。
なんとかしないと…!

…でも、ここからどうしますか。
さっきの手品で、残りの成熟期達も消せませんか?

「AAAが見ている所では使えない手だ。それに、まだ戦力差を覆せる可能性はゼロじゃない」

どうするんですか…?

「チビマッシュモン達を繰り出して、デジタル空間内のマルウェアを駆除させて、デジモン伝送路のコントロールを取り戻せれば、ジャスティファイアからスターモンを呼べる…!」

…できますか?
この状態で。

「じゃあ他にどうする」

…やりましょう。
たとえ破れかぶれでも、本当の手遅れになる前に。

875: ◆VLsOpQtFCs 2023/12/25(月) 20:52:11.48 ID:aRWUSx6po
「マシ~~~~~~!!」

デジタルゲートから、チビマッシュモン軍団が飛び出した。

チビマッシュモン達は、デジタル空間内にばら撒かれたマルウェアの匂いを嗅ぎつけ、散らばって走った。

最新のマルウェアは恐ろしい。
AAAが我々のサーバーに送り付けてきたマルウェアは、何も対処しなければ蛮族デジモン達が暴れまわるよりも早くサーバーのシステムを破壊してしまうものかもしれない。

だが、現状どうにか被害を押し留めることができているのは、うちの研究所のセキュリティ部門やメガが頑張ってマルウェアに対抗してくれているからだ。

敵の方が優勢だが、どうにか必死に綱引きをしている状況だ。

だがデジタル空間においては、情報生命体デジタルモンスターが絶対強者だ。
デジモンにとっては、マルウェアは楽に狩れる餌のようなものだ。

チビマッシュモン達は、次々とマルウェアを見つけては食べていく。

『始末しろ!そいつらを!』

「ガウオオオオ!」

フーガモン達は、チビマッシュモンを殺すべく、青銅棍棒を掲げて襲いかかってきた。

878: ◆VLsOpQtFCs 2023/12/25(月) 21:07:29.60 ID:aRWUSx6po
「オ゛ォン!」

フーガモンは、地面でマルウェアを貪っているチビマッシュモンを棍棒で叩き潰した。

「マ゛シィイイイイ!」

…今だ!

フーガモンの頭上でデジタル空間が開き…
クラフトモンがドリルを回しながら飛び出してきた!

ドリルの回転音に驚き、左手を後ろに回しながら振り返るフーガモン。

クラフトモンは、ドリルを突き出した。

フーガモンがとっさにかざしてきた左手の平を貫き、フーガモンの胸部にドリルが突き刺さる。

「ギャアアアアアァアアア!!」

いけ!
そのまま大動脈をブチ抜け!

フーガモンは、棍棒を振りかざした。
ヘルメットが破壊されて素の頭部が露出しているクラフトモンの側頭部に、棍棒がヒットした。

すさまじい金属音だ。
あの状況で反撃してくるなんて…なんて奴!

クラフトモンはぐらりと揺れたが…
手を緩めず、フーガモンの胸部へさらに深くドリルを突き刺した。

「ガギャアアアアアアアア!」

フーガモンの傷口から勢いよく血が吹き出した。
やったぞ!

「クラフトモン!後ろだ避けろ!」
リーダーの声がした。

879: ◆VLsOpQtFCs 2023/12/25(月) 21:15:08.37 ID:aRWUSx6po
クラフトモンはとっさに横へ飛び退いた。

…クラフトモンの脚に、大量の溶けた蝋がぶちまけられた。

「グウゥ!?」

クラフトモンは距離を取った。

『フン…素早い奴だ。もう少しで頭から蝋を被らせて窒息させたやれたものを』
AAAの声がした方を見ると…
デジドローンのとなりに、アイスデビモンがいた。

クラフトモンの脚についた蝋は、早くも固まった。
カチカチになったクラフトモンの脚は、だいぶ動かしづらそうだ。

キャンドモンの親…
ガソリンのように高いオクタン価の特殊な蝋を操る、白き悪魔…アイスデビモン!

メガが口を挟んだ。
「なんでアイスデビモンなのに蝋なんだ!それじゃワックスデビモンだろ!」

『む…』

「お前もしかして蝋と氷の区別つかないのか?そんなの令和の小学生ならみんな分かるぞ!ヘボエンジニアどころか幼稚園児以下の語彙力だお前は!」

何急に!?
とつぜんメガがAAAのネーミングを罵り始めた。

881: ◆VLsOpQtFCs 2023/12/25(月) 21:27:45.56 ID:aRWUSx6po
「バーカバーカ!」

『バカは貴様の方だメガ。アイスデビモンは、蝋だけでなくガラスや石灰も取り込んで操れるのだ!私の傑作デジモンだ!』

アイスデビモンはAAAの指示を待っており、クラフトモンはアイスデビモンの様子を伺っている。

「ガラスも石灰も氷じゃないじゃん!何がアイスデビモンだ!氷を武器にしないくせに!そいつの名前はセメントデビモンとして登録してやる!」

『浅学!短慮!!短絡的!!!英語のスラングでは氷のように美しく輝く宝石やガラスをiceと呼ぶのだ!だいたい常温で融解する氷なんか武器にしてどうする!解けてしまうだろ!流体を敵に浴びせて硬化させたいなら、常温で個体の物質を武器にした方が合理的だ!』

「今だ!デジタルゲート開け!」

クラフトモンの隣にデジタルゲートが開いた。
クラフトモンはゲートへ飛び込んだ。

『しまった!逃げられた!クソ!』




ビオトープでは、オタマモンがクラフトモンの脚を火で炙って、蝋を溶かした。

クラフトモンは、フーガモンに殴られた側頭部を押さえて痛そうにしている。

よくやったクラフトモン!
これでフーガモンは仕留めたか!

そう思ってデジタル空間を見ると…

アイスデビモンは、フーガモンの傷口に蝋を詰め、止血をしていた。

ううっ…
あんなことまでできるのか…

887: ◆VLsOpQtFCs 2023/12/25(月) 21:57:18.65 ID:aRWUSx6po
衝撃とともに、ビオトープ内に警報ブザーが鳴り響いた。

デジタルゲートを開くシステムが破損し始めている!
いよいよ敵の手が王手に届きかけている。

これまで、インターバルを挟みながらヒット・アンド・アウェイを繰り返してきたが…
一休みできるのはこれが最後になりそうだ。

い、いけるかクラフトモン!
だいぶ辛そうだけど…

「…」

クラフトモン?

「しまには わたしのタマゴが ひとつある かしこく やさしい りっぱなせんしに そだててくれ」

…分かった。

「いこう さいごの たたかいだ!」

クラフトモンは、よろめく脚に力を入れて踏ん張った。

889: ◆VLsOpQtFCs 2023/12/25(月) 22:03:50.37 ID:aRWUSx6po
アイスデビモンは、逃げ惑うチビマッシュモン達を蝋で次々と固めている。

そんなアイスデビモンの背後に…
デジタルゲートがひとつ開いた。

そして、クラフトモンが飛び出してきた。

『アイスデビモン!後ろだ!』

アイスデビモンは後方を振り返り、クラフトモンへ蝋を浴びせた!

…だが。
蝋はクラフトモンをすり抜けて、地面に貼り付いた。

『…幻影だ!ファンビーモンと同じ!囮だ!』

本物のデジタルゲートは…
フーガモンの頭上に空いた。

『フーガモン!頭上だ!迎え撃て!』

「ウガウ!」

先程胸部をドリルで抉られてよほど怒っているのだろう。
怒りの表情を向けて、棍棒を構えて頭上を向くフーガモン。
棍棒で迎撃する気だ…!

ゲートから落ちてきたのは…
透明な粘液だった。

粘液はフーガモンの顔にかかった。

「ウガ!?」


次に顔を出したのは…
クラフトモンでなく、オタマモンだった。

890: ◆VLsOpQtFCs 2023/12/25(月) 22:11:52.10 ID:aRWUSx6po
オタマモンは、フーガモンの顔に火炎放射を放った。

粘液もとい燃料に引火し、フーガモンの顔面が燃えた。

「アガアアォァアアアアア!!!」

顔を押さえるフーガモン。
よし、これでフーガモンは目が効かない!

オタマモンに続いて、クラフトモンが飛び出した。

クラフトモンは、フーガモンの後頭部目掛けて…
ドリルを突き出した!

フーガモンは…
空中で宙返りをし…

なんと、全く視界が効かない状況にもかかわらず、強烈無比なキックを放ち、クラフトモンを蹴り飛ばした!

地面を転がるクラフトモン。
「ゴボッ…ぐ…!」

なんだ!?
一体どうやって、クラフトモンを探知した!?
視界が効かず、顔面が燃えているのに!
AAAの指示も無かったのに…!

892: ◆VLsOpQtFCs 2023/12/25(月) 22:17:42.39 ID:aRWUSx6po
まさか、テレパシーのような能力が…!?

リーダーが驚いている。
「ヤツは…おそらく『勘』で蹴りを放った…!」

勘!?
そんなバカな!

「長い間、パイルドラモン現役時代のディノヒューモン農園の勢力と戦い続け、野菜の強奪を成功させてきた奴らだ。信じられないが…『戦いの勘』で、俺達の策を打ち破ってきた…!」

な、なんてヤツ!
フーガモン…蛮族の王。
あいつを甘く見ていたのだろうか。

クラフトモンは立ち上がろうとしている。
「キー!キキー!」

セピックモン達が、遠くからブーメランを投げ、クラフトモンを攻撃している。
一発一発が強烈なダメージだ…!

や、やばい!

894: ◆VLsOpQtFCs 2023/12/25(月) 22:23:02.44 ID:aRWUSx6po
フーガモンは、瀕死コエモンの腹部をパンチで貫き、傷口から出る出血で顔を洗った。
そしてコエモンの衣類を剥ぎ取り、頭を擦り付けて、粘液を拭き取ったようだ。

そして、クラフトモンのところへ来て…
クラフトモンを力いっぱい、何度も踏みつけた。

く、クラフトモン…!
戻れ!

システム不調で不安定気味なデジタルゲートを、クラフトモンの真下へ空けた。

だがフーガモンは、クラフトモンを蹴り飛ばし、ゲートが空いた位置から移動させた。

クラフトモンは、立ち上がろうとしているが…
ボロボロだ。
ロボットのように見えるその体の至るところから出血している。

もう、クラフトモンは戦えない…!

「トドメエエェェ!」

フーガモンは、棍棒を構えて、クラフトモンへ突撃した。




「やめろおおおおおおお!」
何者かが、鎌を振りかざしてフーガモンを攻撃した。
フーガモンはその鎌を躱して、立ち止まった。


「ふぅーっ…ふぅーっ…!クラフトモンを…それ以上…いじめるな…!」
スナイモンの鎌を構えたブイモンだ。

896: ◆VLsOpQtFCs 2023/12/25(月) 22:27:40.10 ID:aRWUSx6po
ぶ、ブイモン…

「あああああ!おいらが!あいてだあああああ!」

ブイモンはスナイモンの鎌をブンブンと振り回して、フーガモンを攻撃する。

フーガモンは軽々とそれを躱して…
ブイモンの腕を蹴り、鎌をふっとばした。

「う、ああぁ!ぶ…ぶきが!なくったって!だああ!」

ブイモンは己の拳でフーガモンに殴りかかるが…
強烈なカウンターパンチを食らって、地面を転げ回った。

「ぎゃう!」

『くっくっく…!もうそんなザコしかいないのか!農園にいるブイモンだな?私の忠実な信徒達は、そいつと同じ顔をしたデジモンをこれまで何体もブチ殺してきたぞ!』

897: ◆VLsOpQtFCs 2023/12/25(月) 22:35:13.97 ID:aRWUSx6po
『はーっはっはっは…もう終わりだなぁ!ナニモン、私からの通信が途切れた時にどうすればいいかは分かっているな?』

AAAがそう言うと…
高いとこで寝っ転がってるハゲオヤジデジモンが、「ウィー」と言いながら手を上げた。
…あいつナニモンって名前なのか。

『トドメをさせ…フーガモン!』

フーガモンは、ブイモンににじり寄って…
棍棒を振りかざした!

「ガオォーー!」

「ちく…しょう…!」

その時。

横から飛び出してきた何かが、ブイモンとフーガモンの間に割って入り…
ブイモンの代わりに棍棒を食らった。

「ひっ…!え…!?」

『なに…!?』

攻撃を受け止めたのは…
白い大きなデジタマだった。

ワームモンとサラマンダモンが、割れたデジタマと融合してできたタマゴだ。


棍棒の強烈な一撃を受けたデジタマは…
ビシビシと大きなヒビが入った。

『なんだ?ゲートから出てきたデジタマが…自ら転がって、ブイモンを庇っただと?あり得ない現象だ…!』

「あ、ああ、ワームモン…!なんで…お前また…!」

デジタマの割れた部分からは、何かのエネルギーが流れ出ている。

「ワームモン…おいらまた、オマエを盾に…!あ、ああ…!」
ブイモンは、デジタマを抱きしめた。

899: ◆VLsOpQtFCs 2023/12/25(月) 22:43:04.68 ID:aRWUSx6po
『くっくっく…!何やら知らんが面白い現象だな…デジタマがひとりでに動き回るなど…!どうやって動いている?手足も感覚器もないのに!』

AAAがそう言うと、フーガモンがブイモン達を見て余裕そうに嘲笑った。
「ガッハッハッハッハ!!」

「…そっか…そうだったんだ…。オイラ…かんちがいしてた。ワームモン…おまえのこと…」

「おまえは…オイラがみがわりにしようとしても…あのときほんとは…」

「じぶんでオイラのうでから、にげられたんだ」

「でも、そうしなかったのは…」

「オイラを…かばってくれたんだな…ワームモン…!」

ブイモンは目を閉じて、割れたデジタマを抱き締め…
目を見開いた。

『くっくっく!傑作だ、割れたデジタマに何を話しかけている?』

「…ワームモン…またいっしょにたたかおう…」

ブイモンは立ち上がった。

「ちがう、いっしょにたたかうんじゃない…」



「ひとつになって!たたかうんだ!」

割れたデジタマから、突如不思議な光が放たれ…
ブイモンを包んだ。

『ん?何だ…?この光は?』

901: ◆VLsOpQtFCs 2023/12/25(月) 22:52:41.19 ID:aRWUSx6po
割れたデジタマに、さらにヒビが入り…
外角が細かく分離した。

デジタマの中から放たれる光は、力強い眼光を秘めたブイモンを包み込む。

ブイモンのシルエットは、少しずつ背が高くなっていく。

デジタマの割れた外殻が、光り輝くブイモンの手足や胴体、頭部に貼り付き、装甲を形成していく。

『なんだ…なんなんだこの現象は!フーガモン!何かわからんが殺せ!』

「ウガアアァァ!」

フーガモンは、青銅の棍棒でブイモンに殴りかかった。


その棍棒を…
ブイモンは片手で止めた。

「ガウウゥ!?」

「よくも…クラフトモンを…ファンビーモンを…みんなを…!」

やがて光が消えると、そこには…
燃え上がる勇気のように勇ましい、炎のような紋様が刻まれた装甲を手足と胴体、頭部に纏ったデジモンがいた。

手足の装甲と頭部には、ナイフのように鋭いツメとツノが生えている。

「てめえら…灰になっても燃やし尽くしてやる!」

903: ◆VLsOpQtFCs 2023/12/25(月) 22:59:45.47 ID:aRWUSx6po
装甲を身に纏ったブイモンは、手のツメに炎を纏った。
ツメが高熱によって赤熱化していく…!

「ウ、ウガオオオォ!」

フーガモンは棍棒をひったくると、再度振りかぶった。

「うらああああ!」

ブイモンのツメは、青銅の棍棒を一瞬で溶断した。

「ガァウ!?」

『な…なんだこの切断力は!?』

「だあああらあああああ!」

ブイモンが再度ツメを振りかざす。

「ヒイッッ!?」

フーガモンは両腕でガードする。


…炎のツメを受け止めたフーガモンの両腕は、プラスチックカッターを押し付けたれた発泡スチロールのようにスパッと切れた。

「ガ…ゴァアアアアア!?」

904: ◆VLsOpQtFCs 2023/12/25(月) 23:07:34.54 ID:aRWUSx6po
「邪魔!なんだ!よ!」

ブイモンはツメをフーガモンの腹部へ突き刺した。

「消えろぉおお!」

フーガモンの腹部へ突き刺さったツメから出た炎が、フーガモンを体内から焼き付きした。

「ゴボォォォオォォ!」

フーガモンの口から炎が吹き出した。

ブイモンがフーガモンの腹からツメを引き抜くと…
フーガモンは倒れた。

『バッ…バカな!あのフーガモンを…こうもあっさりと…!?貴様、何をした…!』

まさか…この現象は…!

リーダーが頷く。
「間違いない。この土壇場で…ついに成功させた。覚醒したんだ…デジクロスの力が!」

『バカな…こんな都合の良いタイミングで偶然進化したのか!?成熟期に!そんな幸運が!あり得るのか!』

「幸運でも偶然でもねーよ!」
そう叫んだのはカリアゲだった。

「いけ!ブイモン!」

「…カリアゲ。オイラはブイモンじゃない」

「えっ違うのか!」

「ここにいるよ!ワームモンも、サラマンダモンも!」

「そうか…いるのか!じゃあ新しい名を付けてやる!」

905: ◆VLsOpQtFCs 2023/12/25(月) 23:12:15.83 ID:aRWUSx6po
「名前は…炎の竜!フレイドラモンだ!」
no title


フレイドラモンは、蛮族デジモン達を睨みつけている。

『こ、これは面白い現象だ…。だが…デジタルワールドにはエネルギー保存則がある!それだけのパワー、常に発揮していれば長くはもつまい!』

「…かもな」
フレイドラモンは自分の手を見ている。

『運良く手札にジョーカーが舞い込んだようだなぁ研究者共!だが、ゲームにはジョーカーたった一枚だけでは勝てないことを!教えてやる!』

913: ◆VLsOpQtFCs 2023/12/31(日) 21:04:42.28 ID:7Sb/MM+So
ブイモンがついにデジクロスを成功させ、超強力な戦闘能力を手に入れた。
その力は蛮族の王であるフーガモンを、手負いとはいえ圧倒するほどだった。

しかし、我々は知っている。
デジクロスの弱点…
それは、エネルギーの消耗が激しく、形態を維持していられる時間が短いこと。

そして活動限界まで戦い続けてからデジクロスを解除した場合、餓死寸前までエネルギーを使い果たした状態となり、戦闘不能になることだ。

つまり…
エネルギーを使い果たすまでに、敵を全滅させれば我々の勝ち。
エネルギーを使い果たせば敵の勝ちだ。

已然、一切気が抜けない状況だ…
それでも、やるしかない!

フレイドラモン!
行け!

「うおおおおおお!」
フレイドラモンは、アイスデビモンへ一直線に突っ込んでいく…!

「フレイドラモン!先にチビマッシュモン達を助けろ!」
リーダーがそう言うと、フレイドラモンは方向転換し、チビマッシュモン達を叩き潰しているジャングルモジャモンの方へ向かった。

なるほど…

「ウ、ウホォ!」
ジャングルモジャモンは棍棒を振りかざす。

「だりゃあ!」
フレイドラモンは、爪を突き出し、ジャングルモジャモンの喉へ突き刺した。

「焼けろ!」
フレイドラモンの爪から炎が吹き出し、ジャングルモジャモンを内部から燃やした。
「ウッホォォァアアア!」
ジャングルモジャモンが倒れた。

「マシ~!」
チビマッシュモン達は、ジャングルモジャモンのせいでずいぶん数を減らされてしまったが、残った個体はまだいる。
残ったチビマッシュモン達が、マルウェアを食べ、システム障害を緩和させた。

915: ◆VLsOpQtFCs 2023/12/31(日) 21:10:48.17 ID:7Sb/MM+So
『セピックモン!やれ!フォーメーションRだ!』
AAAが指示を出すと、セピックモン3体はチビマッシュモン叩きをやめて、フレイドラモンを囲い、円を描くようにぐるぐる回った。

フレイドラモンは、セピックモン一体へ近付こうとする。
すると、背後に回ったセピックモンがブーメランを飛ばしてきた。

「いて!」
ブーメランがフレイドラモンに命中する。

フレイドラモンが背後を振り返ると、再びセピックモンが後ろに回り込み、ブーメランを投げた。
「痛ってぇ!」
フレイドラモンの背中にブーメランが命中する。

『そのままダメージを与えてスタミナを削れ!』

くっ…!
早くも適応してきたか!
フレイドラモンは近接戦闘が得意なようであり、遠距離攻撃は苦手そうだ。

セピックモンはこのフォーメーションのまま、付かず離れず距離をとって攻撃し続け、フレイドラモンにちくちくダメージを与えて消耗させていくつもりだ…!

「うっぜえよ…てめーら!ワームモン!替わるぞ!」
フレイドラモンがそう言うと、フレイドラモンの体が突如光った。

光が消えると…
姿が変わっていた。
no title


その姿は、どことなくワームモンの親であるスティングモンに似たシルエットだ。

フレイドラモンによく似た装甲を頭部と手足に纏っており…
赤い翅を生やしている。

これは…!
パイルドラモンがディノビーモンに変形したのと同じだ!
フレイドラモンも、別の姿になれるのか!

918: ◆VLsOpQtFCs 2023/12/31(日) 21:26:38.53 ID:7Sb/MM+So
な、なんて呼ぶ!?

私がそう言うと、カリアゲが口を開いた。
「フレイドラモンの影!シェイドラモンだ!」

わ、わかった。
あの形態はシェイドラモンだな!

『形態変化…だからどうした!』
「ウキー!」

再び、セピックモンの一体がシェイドラモンの背後からブーメランを投げた。

シェイドラモンは…
手から糸を出して、ブーメランを絡め取った。

『なに!?』
「ウキ!?」

二体目のセピックモンがブーメランを投げようとするが…
シェイドラモンは両手から糸を伸ばし、セピックモン二体を拘束した。

「う、ウキ!」
強力な粘着糸が、セピックモンの体を動きを鈍らせる。

シェイドラモンは、セピックモン達に小さな火を飛ばした。

すると、飛ばされた火は粘着糸に着火し、一瞬でセピックモン二体はごうごうと炎上した。
「ウッギャアアアアアアア!!!」
転げ回るセピックモン達。

どうやらシェイドラモンは、ワームモンの粘着糸と、サラマンダモンの燃料粘液の性質を併せ持った糸を操れるようだ。

『…形態が変わると、能力も変化するのか…』
AAAは、シェイドラモンを観察しているようだ。

残るセピックモンは一体。
「キ…キキー!」
セピックモンは背を向けて逃げようとした。

シェイドラモンはそれを追おうとする。

「後ろだ!シェイドラモン!」
リーダーの言葉を聞いて振り向いたシェイドラモン。

キンカクモンが、電撃バットが振りかざしていた。
シェイドラモンは、両腕でガードするが…
電撃バットは、防御態勢のシェイドラモンを弾き飛ばした。

空中で回転して着地するシェイドラモン。
キンカクモンの方を向き直る。

そして、キンカクモンに糸を伸ばそうとすると…
「後ろ!ブーメランだ!」
リーダーはシェイドラモンの背後から近づく危機を伝えた。

シェイドラモンは大きく横に飛び退く。

シェイドラモンの背後から飛んできたブーメランは、キンカクモンの目の前でぐるりと回り、セピックモンの手元へ戻った。

921: ◆VLsOpQtFCs 2023/12/31(日) 21:38:17.02 ID:7Sb/MM+So
シェイドラモンは…
一瞬のうちにフレイドラモンへ変形した。

そして、背後からチクチク攻撃してくるセピックモンへ、一気に距離を詰めた。

『は、速い!』
AAAは驚いている。

フレイドラモンは、セピックモンを蹴り飛ばす。
「ウキー!」
地面を転がるセピックモン。

キンカクモンは、フレイドラモンを背後から攻撃しようとする。
だが、それよりも早く、フレイドラモンは鋭利な足のツメでセピックモンの腹部を突き刺した。
「ウギャアアアア!」

そして、ツメから噴出させた炎でセピックモンを内部から焼き…
キンカクモンへ蹴り飛ばした。
「グギャアアアア!」

腹部から炎を吹き出しながら、キンカクモンの方へ吹き飛んでいくセピックモン。

キンカクモンは、それを電撃バットで払い除けた。

キンカクモンとフレイドラモンは対峙する。


『セピックモンとジャングルモジャモンが全滅したか…』

残っているのは、キンカクモンとアイスデビモンだ…!
壁の腕でボケっとしているナニモンは相変わらず攻撃も破壊活動もしない。

『だが…これで手駒が尽きたと思うな!来い!信徒達よ!』

AAAが号令を出すと…
ネット回線のトンネルから、シャーマモンやコエモン、ジャングルモジャモンがわらわらと現れた。
しかもそれらの多くは弓矢を持っている。

「クソ!まだ来るのかよ!せっかく小せえ奴らを追っ払ったのに!ふざけんな!」
カリアゲが台パンする。

『くっくっく…!私にデジモン伝送路のコントロールを支配されているとはこういうことだ!デジタルワールドには、私の忠実な信徒がまだまだいるぞ!』

賽の河原の石積のような徒労感だ。

そうだ…
マッシュモン達に頑張ってもらい、デジモン伝送路のコントロールを奪還できなければ、敵デジモンはまだまだ増えるし、スターモンは助けに来れない。

「ぜぇっ…ぜぇっ…」
フレイドラモンの息が荒くなっている。

925: ◆VLsOpQtFCs 2023/12/31(日) 21:51:01.19 ID:7Sb/MM+So
「ウガオーー!」
増援達は、蜘蛛の子を散らすようにデジタル空間に散らばった。

ある個体はデジタル空間を直接叩き壊そうとする。

ある個体はチビマッシュモンを叩き潰して、我々がマルウェア排除と伝送路を奪還するのを妨害しようとしている。

ある個体はフレイドラモンへ弓矢を構える。

「うああああああ!邪魔だ!どけえええ!」
フレイドラモンは、増援の蛮族達に飛びかかろうとする。

「待てフレイドラモン!敵は弓矢を持っている!」

「弓矢ってなんだ!?」

「飛び道具だ!ファンビーモンの針!」

「な!?」

『射てぃ!』
成長期蛮族の群れは、一斉に弓矢を放ってきた。
フレイドラモンは、それらのいくつかを払い除けたが…
4、5発ほどが命中した。

「痛ッてええ!」

蛮族の飛び道具は、確実にフレイドラモンの体力を削っていく。

『くっくっく…!デジモンのチーム同士の戦いは…成熟期が最高戦力だ。だが実際は!成長期の使い方こそが!雌雄を決するのだ!』

もっともらしいことを言いやがって…!

「みみっちい!」
フレイドラモンは、シェイドラモンへ変形する。
「まとめて片付けてやる!」
シェイドラモンは大きな翼を羽ばたかせ、空中で巨大な蜘蛛の巣状の網を作り出し…
それを蛮族弓兵たちに頭上から浴びせた。
「ウホホ!?」

「これで…一網打尽だ!」

928: ◆VLsOpQtFCs 2023/12/31(日) 22:01:08.87 ID:7Sb/MM+So
そう言い、シェイドラモンは火炎弾を飛ばした。

網に包まれた蛮族弓兵達は、炎に包まれる。
「ウッギャアアアアアアア!!」
業火に焼かれる蛮族弓兵達。

「やった…」
シェイドラモンは地面へ着地する。

「ぜーはー…ぜーはー…!」
シェイドラモンは、明らかに体力を消耗してきている。

当然だ。
燃料というのは、熱量(カロリー)という科学エネルギーを持たせた物質だ。

そのカロリーは、当然シェイドラモンの肉体から消費したもの。

これだけの炎を放ち続けたということは…
それだけシェイドラモンの体力をすり減らしているということだ。

…シェイドラモン!キンカクモンが来た!

シェイドラモンは空を飛びながら後方を振り返った。
キンカクモンが電撃バットを掲げてやってきる。

シェイドラモンは、近付くのはごめんだと言わんばかりに、空中から糸を飛ばしてキンカクモンを攻撃する。

キンカクモンは、糸を巧みに回避する。

「ぜぇっ…!ぜぇっ…!」
糸を飛ばすのにも、空を飛び続けるのにも、エネルギーを消耗する。
このままでは…シェイドラモンがもたない…!

『くっくっく!どんどんバテてきているな!ダメ押しだ…さらに来い!信徒達!』

くそっ…もうこれ以上の増員はやばい…!

930: ◆VLsOpQtFCs 2023/12/31(日) 22:07:37.41 ID:7Sb/MM+So
…しかし。
蛮族の増援は来ない。

『ん!?な、なんだ…?』

ネット回線トンネルから、蛮族の増援は来ない。

『私のところへ繋いでいたデジモン伝送路が…遮断されているだと…?』

お、おお?
これは…!
敵の伝送路を遮断できたのか!

め、メガ、これは!?
君がやったのか!?
「…違う」

え、違うの?
「僕は未だに伝送路のコントロールを奪還できていないし…マッシュモン達も伝送路接続のマルウェアを駆除できていない。なのに、突然、AAAへの伝送路は遮断された!」

ど、どういうこと…?
有り難いけども、何がどうなってそうなったんだ!?

私が困惑していると…
席に戻ってきていたクルエが、私に向かってウインクした。

そして、口元に指を添えて、「しー」っとサインを送ってきた。

よくわからないが…
クルエの策のおかげで、AAAのところへのデジモン伝送路は断ったようだ!

『なん…だと…!まだ何か奥の手を隠していたのか…?』

932: ◆VLsOpQtFCs 2023/12/31(日) 22:16:31.10 ID:7Sb/MM+So
とはいえ、先程敵が送り込んできた増援のうち、チビマッシュモンやデジタル空間を攻撃していた個体はまだ生き残っている。

どうする…?
そっちを片付けていては、キンカクモンやアイスデビモンと戦う体力がもたないかもしれない。

だが、そちらを放置していては、仮にキンカクモンとアイスデビモンを倒しても、体力を使い果たしてしまい、ボコられるかもしれない。

究極の選択だ…
どちらを先に…!

「キンカクモンに行って!」
クルエがそう叫んだ。

「あっちは大丈夫だから!」
大丈夫なの!?
いったいどうして…

…ん…?

よく見ると…

破壊活動をしている蛮族デジモン達の足元が、何かの液体で濡れている。

934: ◆VLsOpQtFCs 2023/12/31(日) 22:23:27.27 ID:7Sb/MM+So
物陰から、何かがひょっこり現れた。

…赤いオタマモン。
それが8体だ。

オタマモン達は、蛮族の足元の液体に炎を放った。

すると蛮族デジモン達の足元の液体は、一瞬で着火し、ごうごうと蛮族デジモン達を焼いた。
「ギャアアアアアア!!!」

お、おお!
罠にかけたのか!

『何ィイーーーーッ!?貴様達…どこから味方を呼んだ!?』

赤いオタマモンということは…
スポンサーさんですか!?

『いや違う』
違うの?

『我々も諸君らに増援を送ろうとしているが…伝送路が繋がらない。どこからそのオタマモン達を呼んだんだ?』

スポンサーさんたちのオタマモンじゃない!?
どういうこと!?

…困惑している私を見て、クルエが再度ウインクした。

…あ。
ま、まさか…!

わ…わかったぞ!クルエさんが何をしたか!
どうやってAAAへの伝送路を遮断し…
どこからオタマモンを呼んだか!

そりゃ言えないわけだ!誰にも!!

私はお口にチャックし…
全てのトリックを理解したことを、誰にも悟られないようにした。

これで…
最後の敵は、キンカクモンとアイスデビモンだけだ!

942: ◆VLsOpQtFCs 2024/01/08(月) 10:40:50.67 ID:SgLli2Cdo
我々がデジタルワールドやデジタル空間の可視化に使用しているソフトウェア…
デジクオリア及びデジドローン。

その開発元であるカンナギ・エンタープライズは、特定勢力に対して贔屓することはなく、冷遇することもないと明言している。

すなわち、クラッカーとセキュリティの戦いに対し、どちらかの味方につくことはなく、デジクオリアの販売規制やライセンスの剥奪をすることはない、ということだ。

何故なら、何が正義で何が悪かは相対的なものだからだ。
もしもカンナギが「セキュリティ側に加担する」と宣言した場合、仮に『武力攻撃をして多数の人々を苦しめている独裁国家に対して、革命家がデジモンを使ってサイバー攻撃する』というケースが生じた際に、カンナギは独裁国家のセキュリティを保護し、革命家を規制しなくてはならなくなる。
そういったジレンマに振り回されるのを防ぐために、最初から誰にも加担しない…と立場を表明している。

もっとも、立場上加担しないというだけで…
CEOの神木さんは、ギリギリ贔屓にならないラインで我々に協力してくれている。

そんなカンナギが、ただ一つだけ。
彼らが明確に敵視している存在がいる。

「デジクオリアを不正コピーして使用する者」だ。

その対策として、デジクオリアには特殊なコピープロテクトが仕込まれている。

不正にコピーされたデジクオリアがインストールされた場合、その端末のデジモン伝送路を乗っ取って強制的にカンナギ・エンタープライズ・ジャパンの極秘のサーバーに接続される。

そして、執行者こと赤いオタマモン達が送り込まれて、端末内部のデジタル空間に放火してシステムを攻撃するのだ。

尚、どこをどの程度燃やすのかは完全にCEO神木氏や、その秘書の岸部エリカ氏の匙加減次第だ。

完全に破壊し尽くすこともあれば、ちょっと灸を据える程度で済ますこともあるだろう。

…この仕様は極秘事項であり、知っているのはカンナギの極一部の上層部と、私とクルエだけだ。


…クルエはこの仕様を逆手に取ったのだ。

あらかじめ電話でカンナギへ事情を伝えた上で、スパコンの高速演算能力を使い、デジクオリアの不正コピー品を作成し…
我々のネットワークに接続された端末へインストールしたのだ。

それによって、AAAに掌握されていたデジモン伝送路を、さらに上から乗っ取った。

マルウェアに支配された伝送路のコントロールを、正規の方法で奪還できないなら…
別のトロイへ伝送路を奪わせてしまえばいい。

この裏技によって、クルエはAAAが繋げてきたデジモン伝送路を遮断したのだ。

なんてイリーガルな手だ…
私には絶対思いつかない発想だ。

945: ◆VLsOpQtFCs 2024/01/08(月) 11:08:42.66 ID:SgLli2Cdo
そして神木CEOは我々のもとにオタマモン8体を送り込んできて…
灸を据える程度に、デジタル空間を燃やしてくれた。

尚、オタマモンが燃やした箇所には、AAAの配下である蛮族デジモン達がいたが…
それらはただ巻き込まれただけだ。
勝手に人の端末にデジモンを送り込んでくる方が悪い。
どっちの味方だとかそういう話ではない。

まあ、そういう建前で…
神木氏は、我々のもとへオタマモン8体の救援を送り込んでAAAの配下を始末し、これ以上フレイドラモンが体力を削られるのを防いでくれたのだ。

なぜ神木氏が我々に味方してくれたのか…
言われなくても分かる。

我々研究所の活動が、カンナギ・エンタープライズにも利益を齎すから。

そして何より、クルエは電話で…サラの訃報を伝えたのだろう。
そして、我々を今攻撃しているAAAこそが、サラことサラマンダモンの仇だと。

クルエが、リーダーやみんなに、何をするのか教えなかったのは…
カンナギの報復システムが秘匿されたものであり、それを利用した手だったからだ。
決して皆に無意味な嫌がらせをしていたわけではなく、必要だから黙っていたのだ。


…キンカクモンが、フレイドラモンに金棒を振りかざす。
フレイドラモンはそれを躱し、反撃を試みるが…
アイスデビモンの蝋がフレイドラモンの手足を拘束して、動きを封じた。

フレイドラモンは蝋を燃やして溶かしたが…
その一瞬の隙を突いて、キンカクモンの金棒がフレイドラモンの頭部を殴りつけた!

金棒を介した電撃攻撃が、フレイドラモンを苦しめる。
キンカクモンやアイスデビモンとの一対一でなら勝てるかもしれないが、それら二体がいると、流石にフレイドラモン側が不利だ。

二体を相手にしても尚、殴り合いならフレイドラモンの方が強そうだが…
アイスデビモンが放ってきた蝋の拘束を溶かすために、どんどん火力を消耗させられるのだ。

尚、このアイスデビモンは先程、キャンドモン4体を吸収することで、蝋を補充していた。

このままでは、スタミナを削られて押し切られかねない…!
敵の手はとんでもなく陰湿だが、脅威だった。

格闘が苦手なオタマモンが、この場に割って入っても…
キンカクモンに叩き潰されてしまうだけだろう。

947: ◆VLsOpQtFCs 2024/01/08(月) 11:24:42.06 ID:SgLli2Cdo
メガは、今まで蛮族デジモン達に破壊されまくったシステムを、必死に修復している。

先程の蛮族達の猛攻によって、システムの様々な部分が破壊され、動作不良を起こしている。
それでも尚、今までどうにか戦えているのは、メガやシステム管理チームがリアルタイムでシステムの修復をしてくれているからだ。

…デジタルゲートはまだ使えなさそう?メガ。

「数分かかると思っていたけど…。もうすぐ復調しそうだ」

おお!
凄いぞメガ!

「僕だけの力じゃない…見て、あれを」

メガが指した方を見ると…
そこにはクラフトモンがいた。

クラフトモンは、フーガモンに滅多打ちにされて、酷い大怪我を負っているにも関わらず…
工具を駆使して、ファイヤウォールやシステムの修復を、手伝ってくれている!

クラフトモンの工具は、どうやらシステムの概念的な修復も可能であるらしい。

…あの傷は相当深い。
全身に激痛が響いていることだろう。
本来なら、今すぐ絶対安静にして寝込まなくては命に関わる重症だ。

それでも、クラフトモンは痛みに耐え、傷付いた体でシステムの修復作業をしている。
フレイドラモンの勝利を信じて…!

「やった!デジタルゲートが復旧した!」

おお、やったか!

メガ…戦況は不利だ。
フレイドラモンは強いけども、敵は狡猾な手段でフレイドラモンの弱点であるスタミナを削っている。

遅延戦術をして、自分達が有利になるのを待っている。

この戦況を覆すために…
私に作戦を任せてくれないか。

「何か手があるんだね。…勿論いいよ、ケン」

952: ◆VLsOpQtFCs 2024/01/09(火) 23:54:35.66 ID:zL1/UX/Co
メガ…
アプリモンスターズ達は、それぞれの力を組み合わせることができるの?

蟹鍋用のシャコモン貝殻探しで、ガッチモンとナビモンが連携したように。

「可能だよ。スプリングシステムというんだ。アプリモンスターズ達の肩から生えているケーブルを相互に接続することで、システムをリンクさせて力を発揮できるんだ」

3体以上でもできる?

「うん。ナビモン、ガッチモン、ドーガモンの3体で、輪になるようにアプリンクすれば、全員のシステムを連携できる」

横からカリアゲが顔を出してきた。
「すげーな…じゃあさ、相性がいいアプモン同士でアプリンクしたら合体できたりしないのか?」

「そんな機能は無いよ」

「え、なんかできそうじゃん!デジクロスならぬアプ合体!みたいな」

「ふざけてるの!?しつこいな、合体できないって言ってるでしょ!」

「そ、そんなに怒るなよ…」

とりあえず…分かった。
3体でアプリンクして…作戦をやりたい。いいかなメガ。
「いいよ、ケン」

今回は、マッシュモンや、救援に来たオタマモン達にも協力してもらう。

「なあ、ケン…このオタマモン達どっから来たんだ?スポンサーさんとこじゃねえなら…マジで今伝送路はどこに繋がってんだ?」

気にするなカリアゲ!
味方であることは間違いない!

「そ、そっか…」

955: ◆VLsOpQtFCs 2024/01/10(水) 00:27:34.63 ID:x0A7IJOho
「うおお!だらぁ!」
フレイドラモンは、猛攻のラッシュを繰り出す。

「グアアァ!」
キンカクモンとアイスデビモンは、フレイドラモンの攻撃によって着実にダメージが蓄積しているが…
致命傷を回避している。

パワーでもスピードでも火力でも勝っているフレイドラモンが、勝負を決めきれない理由は2つある。

一つは、戦闘経験の差だ。
フレイドラモンは確かに強いが、突然手に入れた己の強大なパワーとスピードを振るい慣れていない。
そのため、攻撃の動きが単純になってしまう。

一方キンカクモンは、パワーやスピードで劣っていても、見たところ踏んできた戦闘経験の場数が違う。
おそらく今まで、凄まじい数の敵と戦って来たのだろう。全身の傷痕を見ればわかる。

それ故か、戦闘に慣れているキンカクモンに、スペックでゴリ押す戦術が効かなくなってきているのだ。

もう一つは、アイスデビモンの能力。
フレイドラモンの顔面を狙って、溶けた蝋やセメントを浴びせてくる。

これはアイスデビモンの意思次第で瞬時に硬化できるようだ。
顔面を固められたら呼吸ができなくなり視界が封じられるため、フレイドラモンはアイスデビモンの硬化攻撃を絶対に避ける行動を取らなくてはならない。

そうして、セメントや蝋を回避すると…
「回避されること」を計算に入れたキンカクモンの電撃棍棒が、フレイドラモンに襲いかかる。

この2体の連携は強力だった。
このままでは、スタミナを削りきられてしまう…

フレイドラモンが、2体から距離を取った。
息が荒くなっており、ツメから出る炎の火力も大分弱まってきている。

だが…
ここから反撃開始だ!
フレイドラモンに、長々と作戦を伝えていては、AAAにも聞かれてしまう。

だから…絶対にAAAにバレない言い回しで、フレイドラモンにだけ分かるように…作戦を伝えるんだ!

フレイドラモン…いや、ブイモン!

「!?」
敵から距離を取っているフレイドラモンが、私のデジドローンの方を向いた。

957: ◆VLsOpQtFCs 2024/01/10(水) 00:30:04.52 ID:x0A7IJOho
ブイモン、聞いてくれ!
君は、力を得たから戦う資格を得たんじゃない!

たとえ弱くたって、君は勇気を出して戦った…
偽業者事件で、クラッカーマッシュモン相手に!

その経験は、決して無駄じゃない!
今、その経験が活きる時だ!

「…!」

『くっくっく、なんだ、こんな局面で無意味な応援か!そんなことで戦況を覆せるというのならやってみろ!』

960: ◆VLsOpQtFCs 2024/01/10(水) 00:33:06.22 ID:x0A7IJOho
「クラッカーマッシュモンの…?お、おお…」

…ちゃんと伝わったかな。
ちょっと心配だが…
フレイドラモンの理解力に賭けるしかない。

言い回しが遠回しになってしまったが…
チャットで文書を送ったとしても、それを悠長に読んでられる余裕はないから仕方ない。

どうにか伝わってくれ…!

~つづく~

964: ◆VLsOpQtFCs 2024/01/13(土) 18:29:11.16 ID:cK1MJX2zo
私が指示を出し終えたあたりで…
アイスデビモンは、フレイドラモンの方へ、何かを投げるように手を大きく振った。

しかし、何も投げ飛ばされていないようだが…?

「!?い、いってえ!」

フレイドラモンが距離を取り、右目を押さえた。
な、なんだ!?何をしたんだアイスデビモンは!?

フレイドラモンの右目側から、キンカクモンの回り込み…
電撃棍棒でフレイドラモンを殴りつけた。

「うああっ!」

次第に押され始めている…!
言い方は悪いが、フレイドラモンの格闘術はパワーとスピード、一撃必殺の火力に頼ったゴリ押し戦法だ。

スタミナが減り、その火力が落ちてきた今、不利になるのは自明の理だ。

「くそっ…!目が痛え!」

しかし、アイスデビモンはいったい何をした…?

「…まさか」

メガ、心当たりがあるのか!?

「AAAはさっき、アイスデビモンはセメントやガラスも操れると言っていた…!もしかしたら、今ケンが指示を出してフレイドラモンの耳を傾けさせている間にできた隙で、すごく細かいガラス片を生成して投げ飛ばしたのかも…!」

い、陰湿すぎる!
細かいガラス片を飛ばされて、目にちょっと当たったということか!?
想像するだけで嫌だ…!

これは、私のミスか…
私が指示を出して、フレイドラモンを注意を引いてしまったせいか…?

「だけど、何も指示を出さなければこのままジリ貧のまま押し切られるだけだ。たとえミスがあったとしても、僕たちはやれることを探してやるしかない。立ち止まるわけにも、じっくり時間をかけて吟味するわけにもいかない」
メガ…。

「そうだよ!何か策があるんでしょ!?」
クルエ…。

…そうだね。挽回しないと。
さあ、来い!
ティンクルスターモン!

私がそう指示を出すと、デジタルゲートが開き、ティンクルスターモンが飛び出してきた。

ティンクルスターモンは、アイスデビモンに向かって回転しながら突っ込む。

『む!?バカな、そいつはフーガモンが片付けたはず…もう復活したのか?それとも温存していた2体目がいたのか?』

966: ◆VLsOpQtFCs 2024/01/13(土) 18:47:01.11 ID:cK1MJX2zo
アイスデビモンは、ティンクルスターモンの突撃を回避する。

ティンクルスターモンは、空中でUターンして、キンカクモンに突っ込んできた。

キンカクモンは、野球のバッターのようなフォームをとり、ティンクルスターモンを打ち返そうと棍棒を振りかざした。

ティンクルスターモンは、カキーンと大きな音を立てて吹き飛んでいった。

「!?ムム…?」
キンカクモンは、何か不思議そうな表情をしている。
今の反撃の手応えに、なにか違和感を感じたようだ。

『まあいい、とんだ邪魔が入ったが、仕切り直しだ!貴様達の切り札を今処刑してやる!』
AAAがそう言うと、キンカクモンとアイスデビモンは、フレイドラモンの方へ向き直った。

二体はフレイドラモンに襲いかかろうとするが…

『ウバシャアアアア!』
突然デジタル空間に怒声が響いた。

キンカクモンとアイスデビモンは、怒声の方を見る。

すると、大きなデジタルゲートが開き…
モリシェルモンが出現した。

『何だと!?バカな、このモリシェルモンは先程殺したはずだ!別個体を引っ張ってきたのか!?いつの間に!』

AAAは驚いている。

『フン…成る程な。もはやフレイドラモンでは我々に勝てないと考えて、モリシェルモンを誘引して戦わせようというのか。だが、その戦術には致命的な欠陥がある!信徒達よ、距離を取れ!』

モリシェルモンは次々と水流を放つ。
キンカクモンとアイスデビモンは、距離を取ってそれを躱す。

『モリシェルモンは殺しやすい奴を先に狙う!こうやって離れれば、先に食われるのは貴様のフレイドラモンの方だ!』

967: ◆VLsOpQtFCs 2024/01/13(土) 18:55:45.35 ID:cK1MJX2zo
そうやってキンカクモンとアイスデビモンはどんどん遠くへ離れていき…

『ある地点』へ到達した。

その地点とは…
先程、ドリモゲモンがモリシェルモンを仕留めるために掘った穴が空いている地点だ。

今だ!!
いけ!マッシュモン!

私はチャットを打って、地面の穴に隠れているボスマッシュモン及びチビマッシュモン達へ指示を出した。

「マシ~~~~~~!」

ボスマッシュモン達は、キンカクモンとアイスデビモンの足元の穴から、一斉に胞子を噴出させた。

「!?ゴホッゴホッ!」
突然の胞子により、キンカクモンとアイスデビモンは咳込む。
だが、彼らの視線は未だにモリシェルモンとフレイドラモンを見据え、警戒したままだ。

…フレイドラモン、いやシェイドラモン!
今だ!!!

「…そういう…ことか…ケン!こうだな!」
フレイドラモンは、シェイドラモンに変形した。

そして、胞子に包まれたキンカクモンとアイスデビモンに向かって、炎の粘着糸を飛ばした。



…やった。
しっかり伝わった!

968: ◆VLsOpQtFCs 2024/01/13(土) 19:05:44.76 ID:cK1MJX2zo
…かつて詐欺事件の調査のために、小学校へ出向いて、クラッカーマッシュモンと戦った際…

敵のクラッカーマッシュモンは、粘菌デジモンの繭に包まれて、合体しようとしていた。

サラマンダモンが天井から火炎放射をして繭を燃やすことで、合体を阻止したが…

その後クラッカーマッシュモンは、繭から飛び出して…
想定外の手段でサラマンダモンへ反撃をしてきた。

サラマンダモンへ、大量の胞子を飛ばしてきたのだ。

サラマンダモンは、その胞子を燃やそうとしたが…
その時、ある化学現象が起こり、サラマンダモンはダメージを受けた。

その現場を、ブイモンは見ていた。

ブイモンだけじゃない。
今ブイモンとデジクロスしている、ワームモンとサラマンダモンも、そこにいた。


…その現象を…
ブイモンはしっかりと見て覚え、学んでいた。

ブイモンの本当の強さはここにある。
デジクロスをしてパワーを得たから強いんじゃない。

勇気があるから、というだけじゃない。

ブイモンは、自分の弱さを認めて、劣等感を抱きながらも…
それでも強くなろうとして、必死に創意工夫を凝らしてきたのだ。
工具作りをしたり、武器の使い方を練習したり、ワームモンとの連携の訓練をしたり…。

そう。
ブイモンの強さは、弱さを克服しようとして、学ぶ姿勢にこそある!
だから、私が出した曖昧な指示の意図を、気付くことができた。




シェイドラモンが飛ばした火種の糸は…
あの時と同じ現象を引き起こした。
私の意図通りに。
そしてシェイドラモンの意図通りに。

そう…
粉塵爆発だ!
キンカクモンとアイスデビモンは突如、爆炎に包まれた。

「ギャアアアァッ!?」

969: ◆VLsOpQtFCs 2024/01/13(土) 19:14:38.35 ID:cK1MJX2zo
私が立てた作戦は、ドーガモン、ナビモン、ガッチモンの3体のアプモンによるアプリンクにより、それらの能力を統合することで実行した。

まずはガッチモンが、ドリモゲモンが地面に空けた穴の位置を検索した。

そして、ナビモンとドーガモンは…
その位置へ、敵をナビゲートするための動画を生成したのだ。

それが先程出現したティンクルスターモンとモリシェルモンの姿だ。

実際のところ、ティンクルスターモンはまだフーガモンにやられたダメージがあって戦線復帰はできない。

モリシェルモンの2体目なんて確保していない。

これらは、ドーガモンが作り出した幻影なのだ。
ファンビーモンの姿を増やしたときと同じ手段で、ティンクルスターモンとモリシェルモンの立体動画をデジタル空間へ投影しただけだ。

そして、ガッチモンが検索した穴へ、マッシュモン達を忍び込ませておき…
『ナビゲート』が完了したタイミングで胞子を噴出させたのだ。

フレイドラモンは、その全容を全て理解したわけではないし、それを求めたわけでもない。

ただひとつ、『粉塵爆発の火種をつける』。
その役割を、しっかり理解し、果たしてくれたのだ。


「ガ…オゴ…!?」
だが、さすがは成熟期二体。
今の爆発だけで仕留めきれるわけではない。

だが、十分だ。

970: ◆VLsOpQtFCs 2024/01/13(土) 19:25:24.98 ID:cK1MJX2zo
キンカクモンとアイスデビモンが有利に立ち回れてきたのは、フレイドラモンの一撃必殺の炎の爪攻撃を、戦いの経験から得た実力でいなしていたからだ。

突然想定外の爆発を食らって、隙ができた今…
ここが攻め時だ!

シェイドラモンは再びフレイドラモンへ変形した。

「うおぁあああああ!」

フレイドラモンは、残った全てのパワーをすべて絞り出す勢いで爆発的な火力を引き出して…
炎のツメでキンカクモンを背中から切り裂いた!

「ギャアアアアアアアッ!!!」
青銅の武器を瞬時に溶断するその威力をマトモに食らったキンカクモンは、大出血をしながら吹き飛んだ。

「あとは!お前だけだあああ!」
フレイドラモンは、炎のツメでアイスデビモンに貫手を放つ!

「ヌウウウウウウウウウ!!」
アイスデビモンは、炎のツメの攻撃を、両手からセメントを出して受け止める!
くそ、正気を取り戻したか!

「燃えろおおおおおお!」
「ガウオォオオオオオ!!」

壮絶な戦いだ。
炎のツメのパワーをすべて振り絞り、アイスデビモンを貫こうとするフレイドラモン。

どんどん溶かされていくセメントを、次々と充填して、炎のツメを受け止めるアイスデビモン。

ここでも消耗戦を仕掛けるてくるのか、アイスデビモンは…!

971: ◆VLsOpQtFCs 2024/01/13(土) 19:32:30.61 ID:cK1MJX2zo
『ここが最終局面か!出てきていいぞプラチナスカモン!アイスデビモンを援護しろ!』

AAAのデジドローンからそう発せられると…

「ギャハハッハハア!ついに来た!オレサマの出番だゾォォ!」
なんと、物陰からプラチナスカモンが出てきた。
ええ!?あいつ死んだんじゃなかったの!?
モリシェルモンに丸呑みにされて!

「オレサマが死んだと思ったかァ!?バカがァ!ドリモゲモンはモリシェルモンの土手っ腹に穴を空けてくれたんだゾ!そのままくせー胃袋に留まってる理由ある?ねーよなァ!」

そう言い、プラチナスカモンはフレイドラモンの背後側に回ると、腕を硬化させ、ドリルを作った。

「ギャーハハハ!くたばりゃがれェェーーーーッ!」

プラチナスカモンは、ドリルを回転させ、フレイドラモンに背後から襲いかかる…!

だが。
「タマーーーーー!!」
オタマモン8体の火炎放射が、プラチナスカモンを包んだ。

「ぎゃあああアッチイィィイャアアアアアア!!!」

燃えるプラチナスカモンは、攻撃どころではない。
地面を転げ回った。

974: ◆VLsOpQtFCs 2024/01/13(土) 19:40:44.46 ID:cK1MJX2zo
アイスデビモンの背後に、デジタルゲートが開いた。

「タマーーーーー!」
オタマモンは、うちの仲間にもいるぞ!
デジタルゲートから顔を出した、我々セキュリティチームのオタマモンは、アイスデビモンに背後から火炎放射を食らわす!

「ウギャアアアアアアアアア!」
火力特化した成長期の火炎放射だ、ただでは済まないはず!

「プスー…」
しかし、オタマモンは燃料が尽きたようだ。
火炎放射が止まった。

8体のオタマモン達も、先程蛮族デジモンたちの増援をまとめて燃やし尽くすためにだいぶ燃料を消耗したらしい。

そして、フレイドラモンの火力も弱まってきて…
ついにツメの火が消えた。

「ち…く…しょう…!」

『アイスデビモン!よく耐えた、お前の粘り勝ちだ!さあ、そいつらを処刑しろ!』

「ゼー…ゼー…!ガハハッハハハ!」
アイスデビモンは高笑いした。
鋭い爪の一撃をフレイドラモンに繰り出そうと、腕を振り上げた。

976: ◆VLsOpQtFCs 2024/01/13(土) 19:47:22.95 ID:cK1MJX2zo
その時…
デジタルゲートから、あるデジモンが飛び出してきた。

「たあーーーーーーーー!!」

それは…
先程セピックモンのブーメランで両足を折られたパルモンだった。

両足の傷は全く癒えていないが…
負傷したまま、パルモンが援護に来たのだ。

パルモンは、かつてブイモンが作った粗雑な鉄のツルハシを構えている。
アイスデビモンの後頭部へ、思い切りツルハシを振りかざした!

「ガフッ…!」

ツルハシは、アイスデビモンの後頭部へ深々と突き刺さった。

「ウ、グ…」
頚椎を破壊されたアイスデビモンは、ふらふらとよろめくと…
地面にばたりと倒れ、痙攣した。

「マシーーーー!」
地面の穴から出てきたボスマッシュモンが、パルモンを受け止めた。




「ぜぇ、ぜぇ…やった…」
フレイドラモンは、その場に倒れた。
そしてデジクロスが解除され…
ブイモンとデジタマに戻った。

「はらへった… うごけねえ…」

977: ◆VLsOpQtFCs 2024/01/13(土) 19:53:56.60 ID:cK1MJX2zo
『…バカな…。負けたのか?この私が…。いいや、あり得ん…誰か!誰か戦える奴はまだいないのか!』

AAAのデジドローンから発せられる声は明らかに動揺している。

「ガ…グ…ワタシハ…マダ…!」
地面に倒れ伏しているキンカクモンは、弱々しく声を上げているが、起き上がれず動けないようだ。

「あーちゃちゃちゃ!」
燃え盛るプラチナスカモンは、体を柔らかくして、死んだドリモゲモンの口にズボっと潜り込んだ。

しばらくすると…
大分小さくなったプラチナスカモンが、ドリモゲモンのおしりからブリっと出てきた。

「火は消せましたァ…!マスター…!」

どうやらドリモゲモンの消化管を利用して、燃えてる部分を拭ったらしい。
だが。
プラチナスカモンはチビマッシュモン1体分くらいまで小さくなっていた。

これではボスマッシュモンに簡単に倒されるだろう。

『…あり得ん…あり得ん!こんな…こんなことが!バカな…!私の軍勢がァァァ!』

978: ◆VLsOpQtFCs 2024/01/13(土) 19:59:41.21 ID:cK1MJX2zo
『く、くく…プラチナスカモン!それだけ残っていれば、司令塔としての働きはできるな!?…ここのシステムはファイヤウォールが破壊されて、セキュリティが丸裸だ!もう一度マルウェアを送りつけて、デジモン伝送路を繋ぎ、レアモンを送り込んでやる!合体しろ!』

「…!?ま、まだ早くねーですか!?でもまあ…ヘヘ…やっちゃいますかァァァ!」

『そうだ!ここまでやって引き下がれるか!くっくっく、セキュリティチーム共、今見せてやる!究極最強の切り札の姿をなぁ!』

なんだ…
まだ何かやってくるつもりか…!?
流石にもう戦えないぞ…!

『…!?こ、これは…!ファイヤウォールが復活している?マルウェアを送り込めない…!』

ネット回線のトンネルを見ると…
ボロボロのクラフトモンが、ちょうどファイヤウォールを修復完了したところであった。

『…ッ!追加の戦力が…送れん…!』

AAA…!
私達セキュリティチームの勝ちだ!!

980: ◆VLsOpQtFCs 2024/01/13(土) 20:08:52.36 ID:cK1MJX2zo
『…帰るぞ、プラチナスカモン』

帰れると思うか?
お前達の所への伝送路はもう遮断したぞ!

『帰れるさ。おいナニモン、起きろ』

「フガ!?」
そう言うと、壁の上で居眠りしていたナニモンが目を覚ました。
そして壁から降りてきた。

そ、そうだ、こいつがいた…!
なんなんだこいつ。

『ナニモン、キンカクモンはまだ生きている。そいつくらいなら抱えあげられるだろう』

ナニモンは、キンカクモンを抱え上げた。
そして…
「フン!」

なんとナニモンは、デジタルケートを空けた!
行き先は…デジタルワールドだ!

こ、こいつ!まさか!
メガのアプモン達と同じ…
ソフトウェアアプリケーションを吸収してパッチ進化したデジモンか!

デジタルワールドへのデジタルゲートを開くソフトの力を、ナニモンは取り込んでいるんだ…!


「マ、マシーー!」
うちの戦力で今まともに戦えるのはボスマッシュモンしかいない。
ボスマッシュモンは、チビマッシュモン達を連れて、ナニモン達のいる方へ走り出した。

だが…
ちょっとまにあわなさそうだ。

981: ◆VLsOpQtFCs 2024/01/13(土) 20:13:05.62 ID:cK1MJX2zo
『…私の敗因は…私のせいじゃない!バカな部下がズバモンとルドモンを貴様らに奪わせたせいだ!奴らがいれば勝っていたのは私の方だったッ!あのクソアマが全部悪い!本当に勝っていたのは私の方だ!』

メガがマイクを握った。
「たらればで好き放題願望を言うな!現実を受け入れられないお前!やはり三流以下のヘボエンジニアだ!」

メガはそう言いながら、キーボードを操作して、誰かへチャットを送っていた。
見たところ…デジタルアソートのアプモンから、何かの報告を受けているみたいだ…?

『ぐぐぐ…!次は絶対に亡ぼしてやる!覚えていろセキュリティ共ォォ!』

そう言い、ナニモンとキンカクモン、小さなプラチナスカモン、そしてAAAのデジドローンはデジタルゲートへくぐり、デジタルワールドへ去っていった…。



デジタル空間には…
蛮族デジモンの死屍累々が残されていた。

989: ◆VLsOpQtFCs 2024/01/15(月) 18:22:40.13 ID:Q41Au4A0O
これで、すべての敵をようやく倒した…のか?
ガッチモン、一応生き残ってる敵がいるか検索してくれ。

「え?もう倒したんじゃねえのか?」
いや、カリアゲ…
今回の蛮族の勢力だけども、いてもおかしくないはずの奴がいなかった。

そいつがまだ潜んでいる可能性がゼロじゃない。

「?どのデジモンだ?」

バブンガモン…。
岩のような硬い甲殻を持つ、ヒヒに似た姿のデジモンだ。

前に蛮族の集落を見たときは、そいつがいたはずだけど…
さっきの戦いには現れなかった。
どういうことなんだろうか。

「潜んでたらこえーな…。そしたらもう戦えないぞ。ティンクルスターモンだって無理してるだけだろ」

『ヨク ワカッタッスネ スゲーッス』

無理してたんだ!

『テキニ ヨワミヲ ミセルワケニハ イカネーンデナ』

…そ、そうか。
で、どう?ガッチモン。

『バブンガモンは いねー けど いきてるやつが まだいる 2体だ』

何!?
どいつだ?

『あっちだ』

そう言って、ガッチモンが指さした方を見ると…

「ヒ…ブルヒ…」

クラフトモンに頭部をドリルで破壊されたシマユニモンが、倒れたまま痙攣している。
あ、あれは生きてる判定なのか…?
まだ死んでないだけって感じだけど。

990: ◆VLsOpQtFCs 2024/01/15(月) 18:25:33.26 ID:Q41Au4A0O
※ちょっと描写が飛んでしまった
※ティンクルスターモンが起き上がって「平気ダ」と言うシーンが前に入ると脳内補完してください

993: ◆VLsOpQtFCs 2024/01/15(月) 18:33:08.48 ID:Q41Au4A0O
それで、もう一体は…?

…弱々しく地を這って、シマユニモンに接近しているデジモンがいる。

全身に大火傷を負ったシャーマモンだ。
シェイドラモンに炎の網で焼かれたか、オタマモン達の火炎の罠で焼かれたのだろう。

「テンシ…サマ…オレハ…マダ…イキ…ル…!シナ…ナイ!」

もう死にかけのシャーマモンは…
シマユニモンに触れた。

どうしようというのだろうか。
乗ってみたいのか…?

「…まずい!そのシャーマモンを今すぐ始末しろ、マッシュモン!何でもいいから武器を持ってぶちのめせ!」
り、リーダー!?
そんなに慌ててどうしたんですか!?

「早くしろマッシュモン!!」

「マ、マシッ!」
ボスマッシュモンは、スナイモンの鎌を拾い、シャーマモンの方へ駆け寄った。

「早くトドメをさせ!」

「マシィィーー!」
マッシュモンは、鎌を振り上げた。



…その瞬間。
シャーマモンとシマユニモンの体が、光り輝いた。


「マシャアァァ!?」
ボスマッシュモンは、シャーマモンとシマユニモンを包む光から発せられたパワーにより吹き飛ばされた。

996: ◆VLsOpQtFCs 2024/01/15(月) 18:40:49.40 ID:Q41Au4A0O
「マ、マシイィイーーー!」
起き上がったボスマッシュモンは、光り輝くシャーマモンに鎌を振り下ろす。

だが。
眩い閃光が周囲を包んだ。


光が消えたとき…

ボスマッシュモンした振り下ろした鎌は…
たくましい腕によって受け止められていた。

no title

…光の中から現れたのは、半人半馬のデジモン。ケンタウロスのような姿だ。
頭部は兜で覆われており、右腕には砲身のようなものが生えている。

こ、これは…
ばかな。
ジョグレス進化…だと!?

「オ、オォオオ!テンシサマアアアーーー!!オレハ!!ヨミガエッタゾォオ!」

歓喜の声を上げた半人半馬のデジモン…ケンタルモンは、ボスマッシュモンを左手で掴んで持ち上げると…
右腕の砲身にエネルギーを貯めた。

「マシ、マシィ!」
ボスマッシュモンはじたばたと暴れている。

「ま、マッシュモン…!」
倒れているブイモンは、立ち上がろうとするが…
もう立つ力も残っていないようだ。

997: ◆VLsOpQtFCs 2024/01/15(月) 18:46:02.22 ID:Q41Au4A0O
…『公正世界仮説』という思考バイアスがある。

ざっくり言うと、「いい事をした者には幸運が訪れ、悪いことをした者には天罰が下るはずだ」という思い込みのことだ。

先程、我々のパートナーデジモンであるブイモンが、ピンチに陥ったときに、奇跡的にデジクロスの力に覚醒した。

私は心のどこかで思い込んでいた。
この奇跡はきっと、人々を守るために努力してきたブイモンの善性に、天が味方して奇跡を授けたのだ…と。

だが、それこそが思考バイアスだったのだ。

善に奇跡が起こるのなら…
悪にも平等に、奇跡は起こる。




『攻撃をやめろ、信徒よ!』
その声を聞いたケンタルモンは、驚いて声の方を向いた。

そこにあったのは…
AAAのデジドローンだ。

『繰り返す。そいつへの攻撃は中止しろ。今はもうそれ以上戦わなくていい』

998: ◆VLsOpQtFCs 2024/01/15(月) 18:54:44.88 ID:Q41Au4A0O
「ナ、ナゼダ テンシサマ! ワタシハ コイツラヲ ミナゴロシニシテ アナタニ ムクイル!」

『より完璧な殺し方を思いついたからだ。蘇ったその力で、私に尽くしてくれ…できるな?』

「モ、モチロンダ!」
ケンタルモンはマッシュモンを地面に放り捨てた。

「マシッ!」
地面にべちーんと叩きつけられるマッシュモン。

『このデジタルゲートを通って、いったん本拠地へ戻ってこい』
デジドローンがそう言うと、デジタルゲートが開いた。

「オオセノママニー!」
ケンタルモンは、デジタルゲートから出ていった。

…そうして、デジタルゲートは閉じ…
デジドローンも消えた。


「ぷ…ククク…あははははは!」
クルエが腹を抱えて笑っている。

「ひーひひひひ!こりゃおかしいや!やるなリーダー!」
カリアゲも大笑いしている。

「そっか、これがあの手品のカラクリか!成長期蛮族をいっぺんに消した手品の!なるほど!」
メガは手をポンと叩いている。

「…そうだ。ドーガモンの力で、『AAAのデジドローン』の動画と音声を合成して再生した。AAAに絶対服従している蛮族達は、その言葉通りに動くからな」

…デジタルゲートはどこへ通じてるんですか?

「カリアゲがこれまでに探し続けてきた、フローティアの候補地だった孤島だ。資源が何も無い、植物もない土地だ」

…島流しにしたんですね。




奇跡は善にも悪にも平等に起こる。
だが、その奇跡を活かせるかどうかは…
また別問題なのだ。

引用元: デジタルモンスター研究報告会 season2 後編