1: 名無しさん@おーぷん 2017/05/10(水)23:33:48 ID:9bW

珍念「今日もいい朝ですねえ、掃除がはかどります」

弾平「おーい、珍念ー」

珍念「おや……弾平くんですか、お久しぶりです」

珍念「三年ぶりですね。……あまり変わらないようですが」

弾平「いい朝だな、ちょっとドッジでもやらないか?」

珍念「……」

珍念「弾平くん、ちょっとお話があります」

弾平「へ?」

2: 名無しさん@おーぷん 2017/05/10(水)23:34:39 ID:9bW
珍念「そこにお座りなさい」

弾平「なんだよ、急に改まって」

珍念「弾平くん、君いくつになりました」

弾平「お前と同じだよ、35かな」

珍念「お仕事は何を?」

弾平「仕事? してないぞ」

珍念「はぁ……」

3: 名無しさん@おーぷん 2017/05/10(水)23:35:35 ID:9bW
珍念「いいですか、世の中の35歳と言えば、もうみんな定職について家庭を持っているのです」

珍念「私もこの闘久寺の住職となりました」

弾平「あれ? 爺ちゃんはどうしたんだ?」

珍念「昨年、腰を痛めて老人ホームに入りました」

珍念「君に連絡を取ろうとしたのに音信不通だったんです」

弾平「ふーん、あとでお見舞いに行かないとな」

4: 名無しさん@おーぷん 2017/05/10(水)23:36:11 ID:9bW
珍念「それはともかく、君は定職に就く気はないのですか」

弾平「働いたことないからなあ、それにまだ行きたい国もあるし」

珍念「まだ武者修行の旅とやらを続けてるのですか」

珍念「その旅費はどこから出てるのです」

弾平「ん? 母ちゃんからの仕送りとか」

珍念「一撃遥さんですね、けなげなことです。まだスイミングスクールでコーチを続けてるんですよ」

珍念「還暦手前なのに」

弾平「わはは、すげーな」

珍念「おかしくない!」

5: 名無しさん@おーぷん 2017/05/10(水)23:36:52 ID:9bW
珍念「他の方の話をしましょうか、尾崎主将、覚えてますか」

弾平「ああ、目が細い人だったな」

珍念「今は運送会社を立ち上げて社長をやっています。小さな会社ですが、社員の皆に慕われているそうです」

弾平「へー」

珍念「火浦さんは高校で体育教師をされています、沢村さんは一流企業の課長になっていますよ」

弾平「あー……、沢…うん、覚えてる覚えてる…うん」

珍念「……」

6: 名無しさん@おーぷん 2017/05/10(水)23:42:24 ID:9bW
弾平「そういや大河とかどうしてんだろうな、ブラックアーマーズの御堂とかも」

珍念「……新聞とか読んでないのですか。大河さんはIT関係の会社を立ち上げて、今はM&Aで業績を伸ばしてますよ」

弾平「エム…なに?」

珍念「御堂さんはハンドボール選手として活躍してます、高山さんは結婚して専業主夫になりました」

珍念「陸王さんはバイク王に勤めてるようです」

弾平「なんだあ、ドッジボール続けてるやつはいないのか」

珍念「……」

珍念「あのですね、弾平くん」

弾平「うん?」

8: 名無しさん@おーぷん 2017/05/10(水)23:45:09 ID:9bW
珍念「確かにドッジボールがスポーツとして注目された時期もありましたが、もう20数年も前の事です」

珍念「プロリーグ化の話もまったくないし、興行としての試合もほとんど行われてない」

珍念「日本以外でも同じことです」

珍念「アメリカの方では、危険だからという理由でドッジボール自体が禁止されてるようですね」

珍念「こんな時代に、君は世界をうろつき回って何をやっているのですか!」

弾平「先週はロシアのほうで熊と試合したなあ」

珍念「君のクラスメートはみんな家庭を…え?」

9: 名無しさん@おーぷん 2017/05/10(水)23:45:32 ID:9bW
弾平「先月は海賊と戦ったぞ。カリブ海の海賊の隠れ家って場所で。黄金のボールを投げあったんだよ」

弾平「ボールがピカピカして捕りにくかった。それにキッドってやつが腕からサメを出してきて」

珍念「な、何を言ってるのですか???」

弾平「え、何してたって聞くから…。ええと、先々月はブラジルだったかな。アマゾン川ってすげーんだぜ、向こう岸が見えないぐらい広くて」

弾平「ジミーってやつがすごいんだ。ボールがあいつに近づくと遅くなるんだよ。生体電気とか何とか」

珍念「…………」

珍念「……なるほど」

珍念「君は私が真面目な話をしているのに、そんな話でごまかそうというのですね」

弾平「なんだよ? なに怒ってんだ?」

10: 名無しさん@おーぷん 2017/05/10(水)23:46:06 ID:9bW
弾平「そうそう、お土産があるんだよ」

珍念「いりません、私に持ってくるぐらいなら、一撃遥さんに親孝行を…」

弾平「ほら象牙、でかいだろ」

珍念「!?!?」

弾平「アフリカの方でもらったんだよ、すっげー手足の長い女の子のファイターがいて、勇者が持つものだとか何とか」

珍念「こ、ここ、こんなものをどうやって持ち込んだんですか! 税関は!!」

弾平「ん? ああ、日本に来る時は米軍機で横須賀から来たから」

珍念「…………」

11: 名無しさん@おーぷん 2017/05/10(水)23:46:56 ID:9bW

弾平「さって、それじゃー父ちゃんの墓に挨拶してこよかな、その後は爺ちゃんのお見舞いに行くよ」

珍念「……ああ、丘の上にある玉川老人ホームです」

弾平「わかった、じゃーなー」

珍念「……」

珍念「ふう、騒々しい方です」

珍念「なにがアフリカでもらった象牙、ですか」

珍念「ホラ話がしたいというだけで、こんな高価なものまで買って……」

珍念「いつまでたっても、大人になれない方です…」

12: 名無しさん@おーぷん 2017/05/10(水)23:47:28 ID:9bW
珍念「……」

珍念「まあ、いいでしょう」

珍念「彼の話がどれだけ荒唐無稽でも、私ぐらいはそれを信じてあげてもいいでしょう」

珍念「私が信じる限り、彼がファイターとして生きる世界も存在するのですから……」


(おしまい)

引用元: 一撃弾平(35)「珍念ー、ドッジやろうぜー」