1: 以下、\(^o^)/でVIPがお送りします 2017/07/20(木) 20:48:02.678.net
────ドンッ!!!!


……
なぜだ、どうして……
どうして私を庇ったんだ……

私はお前に庇われるような人間だったか……?
なあ、答えてくれよ……
頼むから、目を開けて答えてくれよ……


サターニャ……ッ!!

2: 以下、\(^o^)/でVIPがお送りします 2017/07/20(木) 20:48:51.383.net
けたたましいサイレンの音が鳴り響いていたのを覚えている
茫然と立ち尽くし、それを眺めていた私を覚えている

野次馬が群がり、五月蝿く喚いていた
その群衆を掻き分け、駆け寄ってくる二人


ヴィーネがやって来て、泣き喚く
ラフィエルがやって来て、狂ったように泣き散らす


動かないサターニャの身体
息をしていないサターニャの身体
冷たくなっていくサターニャの身体


いつしか、私も狂ったように泣き叫んでいたのを覚えている……

3: 以下、\(^o^)/でVIPがお送りします 2017/07/20(木) 20:49:38.275.net
あれから、幾つかの月日が流れた

親しかった人達は皆、涙を零して悲しみに明け暮れていた
彼女の元気な姿を知っていた者達も、遣る瀬の無い気持ちに陥っていた

クラスは生気を失ったように静まり返り、心が抜け落ちたようだった
先生も暗い顔で、どこか寂しそうな表情をしていた

サターニャは、この学校に必要な存在だったのだろう
あの明るい姿に、誰もが活気を貰っていたんだ


だけど、それらも時間と共に次第に風化していく……

4: 以下、\(^o^)/でVIPがお送りします 2017/07/20(木) 20:50:55.212.net
──勝負しなさいよ、ガヴリールっ!


あの声が、不意に記憶に甦ってくる
思い起こされるのは、ただただ後悔ばかり
どうして私は普段からあいつに優しくしてやれなかったのだろう

もっと、構ってやればよかった
我儘に、付き合ってあげればよかった
あいつともっと一緒に、遊んでやればよかった

あいつと、もっと一緒に……
ああああああああああ……


あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛…………

5: 以下、\(^o^)/でVIPがお送りします 2017/07/20(木) 20:52:11.607.net
あいつの墓の前で、泣いていた
どうしようもなく、涙が溢れていた
湧き上がる後悔が、私をどこまでも蝕んでゆく

あいつに、会いたい──
会って、お前に謝りたい……


風が吹き抜けて、木々が揺さぶられてゆく
冷たい空気が、私の肌を突き刺してゆく


なあ、サターニャ……
どうしてお前はあの時、私を庇ってくれたんだ……?

6: 以下、\(^o^)/でVIPがお送りします 2017/07/20(木) 20:53:02.042.net
神様、お願いです……
彼女を、生き返らせてください

私はどうなっても構いません
この命と引き換えになっても構いません

どうか、どうか……


──その存在、その全てと引き換えにしてでもか?



……もちろん、構いませんっ!!

7: 以下、\(^o^)/でVIPがお送りします 2017/07/20(木) 20:54:35.394.net
……パチッ

気が付くと、私は自宅のベッドで寝ていた
なにか、遠い夢を見ていたような気がする……

記憶が混濁していて、よく分からないけれど


あれ? そういえば私はいつ帰ってきてたんだっけ?
どうも昨日からの記憶が曖昧になっている
確か、彼女と一緒の帰り道で……

まあいいか
ベッドから起き上がり、服を着替える
朝ご飯を食べて、はやく学校へ行く支度をしよう


私は舞天高校に通う生徒、
胡桃沢=サタニキア=マクドウェル

8: 以下、\(^o^)/でVIPがお送りします 2017/07/20(木) 20:55:58.648.net
おはようっ!
おはよう、サターニャっ!

昔からの旧知の親友と朝の挨拶を交わす
学校に着くと、やがてクラスメイトたちの談笑が聞こえてきた

和気藹々と笑顔で賑わい合う教室
いつもの活気に満ちた空気、楽し気な雰囲気

自分の席に鞄を置きつつ、私は彼女の姿を探した
あの綺麗な目立つ金色の髪は、今日は視界に入ってこない
一体どうしたのだろう?

ねえ、ガヴリールは?
え? ガヴリール?

それって、誰の事……?



……えっ?

9: 以下、\(^o^)/でVIPがお送りします 2017/07/20(木) 20:57:02.312.net
ヴィネット? 何を言っているのかしら?
冗談にしてはタチが悪いわね

ほら、ここの席に座ってる…………


そこには、ガヴリールの席が無かった……



サターニャさん、おはようございます♪

ラフィエル、おはようっ!
……ねえ、ガヴリールを知らない?

ガヴリール? それは誰の事ですか??


嫌な予感が、駆け巡る……

10: 以下、\(^o^)/でVIPがお送りします 2017/07/20(木) 20:58:02.221.net
……お願い、冗談は止めて! ガヴリールよ、ガヴリールっ!

──ごめんなさい、何を言っているのか分かりません……

……ヴィネットっ! あんたガヴリールのことあれだけ世話してたじゃない!

──サターニャ? 何の事を言っているのかしら?

……ラフィエルっ! あんたとガヴリールは昔からの知り合いだったじゃない!

──サターニャさん? さっきから誰の事を言っているのですか?


二人の顔は、ふざけてる様には見えなかった……

11: 以下、\(^o^)/でVIPがお送りします 2017/07/20(木) 20:59:02.487.net
何事もないまま、授業は進んでいく
まるでガヴリールの事など最初から居なかったかのように

誰もその事に触れない、気付かない
クラスメイトも、先生も
ごく自然に、普通に振舞っている

ガヴリールの名簿は、消えていた
ガヴリールの持ち物は、消えていた
ガヴリールの下駄箱は、消えていた

この世から、ガヴリールの痕跡が失われている
物も、記録も、人々の思い出の中からも……


吐き気が、した

12: 以下、\(^o^)/でVIPがお送りします 2017/07/20(木) 21:00:02.822.net
よく思い出すんだ……
ガヴリールは、私の妄想の中の人物か?

違う、私はガヴリールのことをよく知っている!
あのやさぐれた性格も、あの眼も、あの手の温もりも
私はちゃんと知っている!

昨日までは、みんなも……
昨日?
そういえば昨日は私、何をしていたんだっけ?


確か、夕暮れの帰り道を二人で一緒に歩いていた
茜色に染まった街並みに、そして何気ない会話
軽い冗談でからかい合う私たち

それから、それから……
そこに、突然トラックが走ってきて……


あ、れ……?
私は、たしか……

13: 以下、\(^o^)/でVIPがお送りします 2017/07/20(木) 21:01:02.159.net
…………

私は、死んだはず……


どうして私は今、ここにいるの?

ガヴリールは、どこにいるの?

なぜ、誰もガヴリールのことを覚えていないの……?


ねえ、どうしてどうして……
どうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうして……!!

14: 以下、\(^o^)/でVIPがお送りします 2017/07/20(木) 21:02:02.421.net
ガヴリールの、部屋の前まで来ていた……

ここを開けるといつものようにガヴリールが怠けた姿で待っている
きっと今までのは夢か何かで、勘違いに決まっている

ドアには鍵が……でも構わない
握力で壊して、そのまま開け広げる


部屋は、空っぽだった


あれだけ乱雑に散らかっていた空間が、跡形も無い
机もベッドも、家具など何一つ無い
まるで人が住んでた形跡が見当たらないかのように


静まり返った部屋の中で
窓から日差しだけが小さく射し込んでいた……

15: 以下、\(^o^)/でVIPがお送りします 2017/07/20(木) 21:03:02.223.net
気力を失くし、その場に膝を突く

茫然としたまま身体が動かない

ガヴリールが、いない……
この世界のどこにも、ガヴリールがいない

どうして、どうして……


どこに行けばあなたに会えるの……?
ねえ、教えてよガヴリール……

16: 以下、\(^o^)/でVIPがお送りします 2017/07/20(木) 21:04:05.788.net
PC……
そうだ、PCの中ならもしかして!!


この世界からはガヴリールの存在が消え去っている
でも、ガヴリールに関わった人物までもがそのまま消え去っているわけじゃない

だったら、ガヴリールの作った架空のキャラだって、もしかしたら……


あのゲーム、彼女がハマっていたゲーム
ハンドルネームを思い出せ……


おそらく、これが最後の手掛かりになるだろう

17: 以下、\(^o^)/でVIPがお送りします 2017/07/20(木) 21:05:02.352.net
急いで自宅に帰ってPCを立ち上げる


あのゲーム……
そうだ、確かヴァルハラ王国

手早くダウンロードして起動させる
キャラクターメイクを終え、チュートリアルを済ます

画面の中からプレイヤー検索の項目を探す


ガヴリールの使っていたキャラの名前
彼女が下界に来てからずっと続けてきたその成果を

お願い、見付かって……
検索ワードに、その名を打ち込む



1件のヒットがありました

18: 以下、\(^o^)/でVIPがお送りします 2017/07/20(木) 21:06:15.305.net
白黒に映し出されるシルエット
やがて浮かび上がるその全体の姿

豪華な装備を身に纏い、手間を掛けたであろうその格好

そこには、見覚えのあるキャラクターがいた


彼女が何ヶ月も育てていたキャラ
仕送りの大半を注ぎ込んでいたキャラ
国を二つ救ったと自慢していたキャラ

ガヴリールが生きていたことの痕跡が、そこにはあった
彼女が存在していたことの証が、そこには確かに残っていた


懐かしさに、胸が熱くなる
ようやく見付けた、想い出の欠片……

20: 以下、\(^o^)/でVIPがお送りします 2017/07/20(木) 21:07:41.330.net
そのキャラクターには、ログイン履歴がずっと無かった

キャラクターから、彼女のゲーム内のページへと飛ぶ
イベントの記録、ギルドとのやり取り、伝言板などが残っている

この人たちは、天真=ガヴリール=ホワイトを知らない
このキャラクターとしての人物像、それしか知らない

だから、これらの記録は消されなかったのだろうか……


──最近、どうしたのですか?
──ギルドは、いつでも貴方の帰りを待っていますよ
──はやく戻ってきてくださーい!


彼女の人望が、よくわかる
そうか、、

彼女はこのゲームの中で、英雄だったんだ……

21: 以下、\(^o^)/でVIPがお送りします 2017/07/20(木) 21:09:01.636.net
シークレットの付いたページがある……
パスワードの鍵が掛かっていて、中に入れない

でも私は、その鍵を知っている
以前、一度だけ私に教えてくれた言葉がある

震える手で、パスワードを打ち込む
私に教えてくれた、あの時の言葉を……


鍵が開き、中が見えるようになる
その中身に、私は驚愕をする

その文字に一瞬信じられず、私は目を疑った



──『サターニャへ』

22: 以下、\(^o^)/でVIPがお送りします 2017/07/20(木) 21:15:04.452.net
この手紙が読まれているという事は、
いわゆる私はもうこの世にはいないだろうってやつだな
やれやれ、まさか私がこんな手紙を書くことになるとはね……

このメッセージがこの世に残る可能性は1%
お前が私の事を覚えてる可能性は0.1%
そしてお前がこのメッセージを見付ける可能性は0.001%以下だろう

もしそれらの全てをクリアし、もしこのメッセージをお前が読んでいたというのなら……
それはもう奇跡と言っても過言ではないんじゃないかな?

私は自分の存在全てを引き換えにしてお前を生き返らせる事にした
お前の周りでは私の事を誰も覚えてはいないだろう
私の持ち物なども、おそらくは全て消え去っているのだろう

だけど悲しむことはない
私は自分のせいで誰かが泣いてしまうなんて耐えられないから
人々の記憶から私そのものが消え去るというのなら、むしろ好都合だ

サターニャには悪いことをした
どうか、お前も私のことは忘れてこの先を生き続けて欲しい
我儘なことを言って、本当にすまない

それから……
お前にいつも素っ気ない態度を取っててゴメン!
どうして私は、お前にもっと優しくしてやれなかったんだろうな

もっとお前と一緒に遊びたかった
お前と共に過ごしていたかった
本当はお前に構ってもらえるの、私は嬉しかったんだぞ

ごめんな、サターニャ

23: 以下、\(^o^)/でVIPがお送りします 2017/07/20(木) 21:20:00.433.net
ああああああああああ……


あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛…………


どうして、どうして……



嫌だよ、ガヴリール……
こんなの、嫌だよ…………

会いたい、会いたいよっ……!! ガヴリール……

24: 以下、\(^o^)/でVIPがお送りします 2017/07/20(木) 21:23:02.818.net
嵐が吹き荒れる中で、叫んでいた
大雨と激しい風が舞い上がる中で、天に向かって呼び続けていた

……ガヴリール、こんなの嫌だよ
……お願いだから、返事をしてよっ!!


冷たい雨が肌を震わせる
薄暗い雲が、轟音を鳴り響かせる……

……神様、いるのなら答えてっ!!
……私は、こんなの嫌ですっ!!


風が、舞い散る……
雨粒が頬を濡らしてゆく


──それほどまでに、あの子が大切か?

……当たり前じゃないっ!!


揺さぶられた感情が、魂を侵していく
悲しみの雫が、頬から溢れ落ちてゆく……



────そうか、、、

25: 以下、\(^o^)/でVIPがお送りします 2017/07/20(木) 21:27:02.243.net
……パチッ

気が付くと、自宅のベッドで寝ていた
乱雑に散らかった部屋、付けっ放しのPC

頭がぼーっとしていて働かない
なにか遠い夢を見ていた気がする
記憶が混濁してて、よく分からないけれど

あれ? 私は確か……


ガバッと起き上がり、目を覚ます
そうだっ、サターニャ……!!

26: 以下、\(^o^)/でVIPがお送りします 2017/07/20(木) 21:31:04.760.net
桜が舞い散る中を、駆け抜けていた
咲き乱れる花びらが遊び浮かれて飛んでゆく

はぁはぁ……はぁはぁ……
逸る気持ちが身体を巡って足を急がせる

新しい風の息吹に樹々は育まれて
陽気な日射しに春先の匂いを感じさせる

嵐は過ぎ去り、気持ち良く晴れた空に
穏やかな風が軽やかに吹き抜けてゆく

サターニャ……サターニャっ……!


逢いたい人の下へ、いま向かって
膨れ上がる想いに、身を馳せて……

27: 以下、\(^o^)/でVIPがお送りします 2017/07/20(木) 21:35:02.192.net
──おはようっ、ガヴリール!!


ああっ……

彼女の姿へ向かって飛び込んだ
胸の底から溢れる気持ちが止まらなくなる

サターニャ……サターニャっ……!

腕に縋り付き、嗚咽を叫き散らす
どこまでも湧き上がる想いが心を包み込んでゆく


神様……
ありがとう……ありがとう……

28: 以下、\(^o^)/でVIPがお送りします 2017/07/20(木) 21:39:02.586.net
新しい季節を祝う華々が舞い上がる
凍える日々を越えて、今を気高く咲き誇っている

幾つもの後悔が私を蝕んでいた……
数え切れない哀しみが私たちを苦しめていた

だけど今、ようやく逢えたこの奇跡に
お互いの大切さを知ったこの現在に


いつまでも、一緒に……

二人に、永遠の祝福を──

29: 以下、\(^o^)/でVIPがお送りします 2017/07/20(木) 21:43:01.903.net
おしまい☆
読んでくれた方いたらありがとう!

引用元: ガヴリール「神様、お願いです」