1: 名無しさん@おーぷん 2017/08/27(日)06:06:27 ID:t9g



これは決して叶わない想い。

いかに強く想おうとも、許されない恋。

認められない愛。

悲しい悲しい、想いの抜け殻。



2: 名無しさん@おーぷん 2017/08/27(日)06:06:34 ID:t9g




悲恋の前には必ず、壁がそびえ立つ。

越えられない、高い壁。

あるいは身分、あるいは年齢……そして……。





3: 名無しさん@おーぷん 2017/08/27(日)06:06:46 ID:t9g




私たち二人はアイドルだった。

それも同性の。



4: 名無しさん@おーぷん 2017/08/27(日)06:10:43 ID:IGn



同じ時、同じ場所で彼に出会い、共にスカウトされた。

あなたは喜び、また、私もそれを嬉しく思った。

「素敵なアイドルになろうね?」

そう微笑むあなたは美しく、眩しく、まるで太陽のようだった。



5: 名無しさん@おーぷん 2017/08/27(日)06:11:10 ID:IGn



そして始まる下積みの日々。

華やかな世界とは縁遠い、地味な仕事と基礎レッスンの繰り返し。

退屈で窮屈な日々。



6: 名無しさん@おーぷん 2017/08/27(日)06:11:40 ID:IGn



もちろん辛いことばかりではない。

先輩アイドル達は皆、優しかった。

特に『ニュージェネ』と呼ばれるユニットのひとり、渋谷凛という娘は、お世辞にも愛想のいい方とは言えない私にも、とても親切に接してくれた。



7: 名無しさん@おーぷん 2017/08/27(日)06:12:02 ID:IGn


事務所の設備も整っており、収入の少ない私とあなたでも、生活に困ることはなく、どうにかやっていくことができた。

たとえ多少苦しくてもあなたと一緒なら耐えられる。

共に歩めばどんな困難も越えていける。




8: 名無しさん@おーぷん 2017/08/27(日)06:12:17 ID:IGn




そう思った矢先『私の』デビューが決まった。




9: 名無しさん@おーぷん 2017/08/27(日)06:12:35 ID:IGn



デビューとは言っても私個人のCDが出るわけではない。

先輩達の応援で一緒に舞台に上がることが決まった、その程度のものだ。

それでも私は戸惑い、あなたと共にデビューしたい、そう彼に伝えた。



10: 名無しさん@おーぷん 2017/08/27(日)06:15:11 ID:aR8


しかし、彼が首を縦に振ることはなく、私は彼女を残し、舞台に立つこととなった。

結果は……成功と言って差し支えないだろう。

私はあなたよりも先に表舞台に立ち、世に知られるようになった。

11: 名無しさん@おーぷん 2017/08/27(日)06:16:06 ID:aR8

そんな私に対しても、一切、悲しみや非難を見せることなく「すぐに追いつくからね」と微笑むあなたは、やはり私を強く惹きつけ、励まし、そして同時に、ほんの少し傷つけた。

12: 名無しさん@おーぷん 2017/08/27(日)06:16:48 ID:aR8

あなたの言葉を額面通り受け取ったわけではない。

それが気持ちの全てであるとは思っていない。

しかし、それでも……あなたは強い。

いや、私の知らぬ間にとても強くなっていた。

否応無く、それを痛感させられたのだ。

13: 名無しさん@おーぷん 2017/08/27(日)06:17:26 ID:aR8

あなたと私。

物心ついた頃にはもう一緒にいた。

どんな時も寄り添いあって生きてきた。

しかしそれも終わる。

いずれあなたに私は必要なくなるのだろう。

そう思うと無性に悲しくなったのだ。

14: 名無しさん@おーぷん 2017/08/27(日)06:17:53 ID:aR8

言葉に違わず、成長し、アイドルとして成功をおさめていくあなた。

私は隣でそれを見ることができて、共に歩むことができて、心から幸せだった。

そこに嘘偽りはない。

15: 名無しさん@おーぷん 2017/08/27(日)06:18:25 ID:aR8

しかし、数年後『その時』はやってくる。

あなたが彼に惹かれ、想いを告げたのだ。

立場の違いも顧みず、壁をものともせず、まっすぐに想いをぶつけて……。

16: 名無しさん@おーぷん 2017/08/27(日)06:18:57 ID:aR8
正直なところ、あなたが彼に惹かれていることには最初から気付いていた。

そう、最初から。

出会い、見出された時から、あなたは彼に人として惹かれ、異性として惹かれ、想いを寄せていた。

一番近くにいた私だからこそわかる。
きっと彼自身よりも理解できる。
あなたがどれだけ彼を愛しているかを。

あなたが私にくれる「大好き」とは明らかに違う、その想いの強さを。

17: 名無しさん@おーぷん 2017/08/27(日)06:19:29 ID:aR8
だから私は祝福した。

あなたが勇気を出して想いを告げ、彼もそれを拒むことなく受け入れた。

その喜ばしくも寂しい事実を、ただただ祝福した。

おめでとう。良かったね。


口に出して言うことこそ叶わなかったが、その事実を受け入れ、祝福した。

自身の性別をほんの少しだけ恨み、それ以上に彼を羨み、しかしそれを押し殺しながら、祝福した。

おめでとう。お幸せにね。

18: 名無しさん@おーぷん 2017/08/27(日)06:20:00 ID:aR8
それから少しの時を経て、現在。

今、あなたは彼と生活を共にしている。

私もごく側に……あなたのすぐ近くに居を構え、どうにか生きている。

彼は私にも優しく接してくれるし、あなたもそれを快く思っているようだ。


迷惑かもしれない。

自分はあなたにとって邪魔な存在なのかもしれない。

そう考えたこともあった。

しかしあなたや彼が……表向きだけでも……私を拒まずに受け入れてくれている間は、今しばらくここにいさせて欲しい。

19: 名無しさん@おーぷん 2017/08/27(日)06:20:36 ID:aR8

あなたの笑顔、あなたの言葉は私の全てであり、生きがいなのだ。

たとえ想いが通じずとも、結ばれることがなくとも、あなたの近くにいたい。

いることを許して欲しい。

20: 名無しさん@おーぷん 2017/08/27(日)06:21:02 ID:aR8

「…………」

今日もあなたのいない部屋で一人食事を終え、天を仰ぐ。

冬の大三角がきらめき、私の息が白く霧散した。

21: 名無しさん@おーぷん 2017/08/27(日)06:21:38 ID:aR8
23時。

ガラス戸を開け、あなたは今日も私に微笑みかける。

私と同じ、白い息を吐きながら。




「おやすみなさい。ブリッツェン」




end

引用元: 【デレマスSS】「壁の向こう側」