2: ◆a5k6MQnQtIgi 2017/08/30(水) 01:46:50.48 ID:d+zn+am9o
ある日、一本の仕事の依頼の電話が事務所に来た。

「はい…え、このみさん、ですか?えっと…それは本人に聞いてみないと…あの?もしもし?」

電話は、用件だけを早口で告げて、プツンと切れてしまった。

「プロデューサー、どうしたの?」

「このみさん、仕事の依頼が来たんですけど、ファッションカタログの、モデルになってくれないかとのことなんですが」

「あら、いいじゃない。で、どこからの仕事なの?」

ファッションの仕事と聞いて、馬場このみは乗り気になって聞いてきた。

143cmの身長、卵のようなすべすべ肌、幼い顔立ちは、24歳というより、その半分以下の年齢と言われても何の違和感もない。

そのため、こういう仕事とは無縁だと思っていたところでの仕事の依頼は、このみのやる気を掻き立てた。

「はい、○×△というところなんですが…聞いたことあります?」

プロデューサーが首をかしげる。

このみも心当たりがないか、自身の記憶を確かめてみるが、見たことも聞いたことも無いブランドだった。

「うーん…なんか怪しい…でも、アイドルになったばかりで仕事の依頼が来たんだから、この機会を逃す訳にはいかないわね」

「そうですか、じゃあさっきのところに折り返し連絡しときます」

「ふふふっ、私のアダルティでセクシーな魅力を、世界に発揮するチャンスね」

このとき、この仕事がこのみにとってどうなるのかを、二人はまだ知らなかった。


3: ◆a5k6MQnQtIgi 2017/08/30(水) 01:47:19.25 ID:d+zn+am9o
「えっと…スタジオは…ここですね」

このみは、カーナビの地図で示された場所にたどり着いた。

「そうみたいね」

依頼を受けたブランドについて調べてみたが、ネットには見つからず、結局謎のままであった。

しかし、もしこれが新規のブランドで、765プロの名前を売りに出すことができたら、他のシアター組にも仕事の依頼が来るかもしれない。

そう考え、他の仕事をおして、この日はプロデューサーも同伴してきたのだった。

スタジオに入ると、セットを組んでいる途中のようだった。

「おはようございます。765プロから参りました、Pです」

「おはようございます。同じく765プロ所属の、馬場このみです。本日はよろしくお願いします。」

挨拶をすると、カメラマンと打ち合わせをしていた、若い女性がこちらに来た。

「おはようございます。」

電話で聞きた声だった。

「先日は急いでいましたもので、急なオファーですみません。えっと、このみちゃんだよね?挨拶できてえらいね、今日はよろしくね!」

「こ、このみ…ちゃん…」

このみの顔がひきつった。

「今回の撮影は、まだ公に発表はされてないんですけど、なんと、大手会社のXXと、有名なファッションデザイナーの協力で新たなキッズブランドを立ち上げることに、なったんですよ!コンセプトは、キュートに、そしてカラフルに!」

このみは、呆然としてその担当者の話を聞いていた。

「まだ公にするわけにもいかない企画で、オーディションとかもできなくて…そんなときに、765プロさんのアイドルに適役な子がいて!」

なんとなく事情を察したプロデューサーは、おかしくて笑いをこらえるのに必死だった。

「じゃあこのみちゃん、控え室に、かわいい服があるから、お姉さんと一緒に着替えにいこっか」

「か、かわいい…」

そう言って、二人は控え室に向かっていった。


4: ◆a5k6MQnQtIgi 2017/08/30(水) 01:48:17.69 ID:d+zn+am9o
二人が着替えている間、セットが組まれているのを、プロデューサーは見ていた。

学習机、教科書、ベッド、パステルカラーに統一された内装、そして…赤いランドセル。

「…これは…」

「お待たせしましたー!」

着替えが終わり、二人がスタジオに戻ってきた。

着替え後のこのみを見て、プロデューサーは吹き出しそうになった。

パステルブルーの布地にラメの入った文字が印刷された、首もとが開いたシャツ。

首もとに覗かせてる白のキャミソールの紐。

フリルのついたピンクのミニスカートに、ニーハイソックス。

三つ編みだった髪は、ツインテールになっていて、誰から見てもせいぜい小学校高学年くらいの容姿だった。

ハイテンションな女性担当者と、顔を真っ赤にしてスカートの裾をぎゅっと握って震えていた。

「やっぱり、これ以上ないってくらいに似合ってますね!」

「は、はは…」

「うぅ…」

笑うしかないプロデューサーと、恥ずかしさやらなんやらで俯いて震えるしかないこのみであった。

「それじゃあ、撮影お願いします」

女性がカメラマンのところへ向かう。

「大丈夫ですか?」

プロデューサーが、こっそりとこのみに尋ねる。

「恥ずかしいけど…やるしかない、わね…」

観念したかのように、このみは撮影に臨んだ。


5: ◆a5k6MQnQtIgi 2017/08/30(水) 01:49:00.73 ID:d+zn+am9o
「はい、笑って~」

カメラのシャッター音が鳴る。

撮影中に何か愚痴を言うこともなく、カメラマンの指示にしたがっているのは、プロ意識からなのか、大人だからなのか。

「いや~このみちゃん、似合ってますね~」

「ええ、まあ…」

「そういえば最近の子って、おませさんが多いんですかね?なんか大人っぽい下着を…」

女性の担当者は、そこまでで言うのをやめた。

そのあと、何回か着替えては撮影を繰り返し、担当者が写真を選び、プロデューサーがNGショットが無いかをチェックして撮影は終わった。

「お、お疲れさまでした~…」

体力的にも、精神的にも疲れたようで、気のない挨拶だった。

「お疲れさま、このみちゃん。どう?気に入ったのがあったら、持っていってもいいよ?」

「うぅ…私は…私は…」

すかさず、プロデューサーのフォローが入る。

「えっと、このみさん、疲れてるみたいなので、とりあえずこの辺で…」

「そうですか…じゃあ、これ持っててくださいね」

そう言って、半ば強引に、撮影で使った衣装を紙袋に入れて渡された。


6: ◆a5k6MQnQtIgi 2017/08/30(水) 01:49:50.17 ID:d+zn+am9o
帰りの車中、このみはほっぺたを膨らませて不機嫌そうにしていた。

「24歳なのに…セクシーでアダルティーなレディなのに…」

「ま、まぁこのみさん、機嫌悪くしないでください。今回の撮影で結構気に入って貰えたし、撮影で使った衣装も、なん着かいただけたんですから。」

「プロデューサー、まさか私に、またその衣装を着ろということかしら?」

まさに、子供のような拗ねかただった。

プロデューサーは、後部座席からの恨み辛みを、劇場につくまで聞かなければならなかった。


7: ◆a5k6MQnQtIgi 2017/08/30(水) 01:51:11.23 ID:d+zn+am9o
撮影から数週間して、カタログのサンプルが送られてきた。

「このみさん、見ますか?」

プロデューサーが、このみにカタログを差し出す。

「見ないわよ!」

「でも、アイドルになってから宣材以外の、初めての写真の仕事ですよ。ちょっとくらいは見てもいいんじゃないですか?」

そう言うと、このみは渋々とカタログを手にとった。

カタログを開くと、このみの生き生きとした写真が、カタログに載っていた。

このみ本人にとっては、不本意な仕事ではあったが、アイドルとしての一歩を踏み出せたと、プロデューサーは確信していた。

このみ自身も、カタログを見ているうちにそう感じたらしく、穏やかな表情で言った。

「はぁ、こういうのを見せられるとねえ、悔しいけど…次はアダルティな仕事を頼むわよ、プロデューサー!」

「勿論ですよ、次こそは…」

また、事務所の電話が鳴った。

「すみません、はい、765プロです。…え、このみさんに?…ちょっと待ってください…」

保留ボタンを押して、プロデューサーはため息をついた。

「どうしたの?プロデューサー」

「今度は別のキッズブランドのところから、このみさんにオファーが…」

「そんな…」

このみの望むような仕事が来るのは、どうやらまだまだ先になりそうだった。

そして、カタログのこのみの紹介が、24歳が14歳になっていることを気づくのも…


8: ◆a5k6MQnQtIgi 2017/08/30(水) 01:51:55.52 ID:d+zn+am9o
お わ り

 


引用元: 【ミリマス】パステル色の