智香「ええっ？　なんですかこの牛乳パックの数！？　すごーいっ！」

Ｐ「ちょっとテレビ局に協力してもらってな。雫の利き牛乳が確かなら、なにか番組にできないかとティンときたんだ」

智香「番組に？　雫ちゃん、チャンスだよっ！　アタシ応援するから！！　フレー、フレー、し・ず・くっ☆」

雫「あ、あのー……プロデューサーさん？」

Ｐ「じゃあまずはこの……聞いたことない、これから」

智香「ええと……知床酪農家限定牛乳？」ﾋｿﾋｿ

Ｐ「確かに聞いたことないが、なんだか美味しそうな名前だよな」ﾋｿﾋｿ

智香Ｐ「じゃあ雫ちゃん、一口飲んでみてくださいっ☆　ドラムロール！　どぅるどぅるどぅるどぅるおんどぅるどぅる……」

雫「あのー……あ、は、はいー……」ｺﾞｸｺﾞｸ

智香「どう？」

雫「はい。パック牛乳としては、かなり美味しいですねー」

智香「……うん。それで？」

雫「はいー？」

智香「それ以外にはっ？」

雫「えーと……特にありませんねー」

智香「えっ？」

雫「以上ですー」

Ｐ「……え？」

智香「雫ちゃん。どこのメーカーか、とかはわからないの？」

雫「え？　あ、はいー……」

智香「じゃ、じゃあ。こっちの牛乳は？　飲んでみてみてっ☆」

Ｐ「メグミルクか。メジャーでよく見かける牛乳よね」ﾋｿﾋｿ

智香「CMでもよく見ますよねっ☆」

Ｐ「どうだ？　その牛乳は」

雫「ええと……まあまあ美味しいですー」ｺﾞｸｺﾞｸ

智香「ちょ、ちょっと雫ちゃん。それどこのメーカーのなんて商品かはっ？」

雫「そういうのは、ちょっとわからないですねー」

Ｐ「？　それのどこが利き牛乳なんだ？」

雫「あのぉー……私の利き牛乳っていうのは、そういうのじゃなくてですねー」

智香「？　どういうのなのっ？」

Ｐ「待てよ、雫……じゃあこの牛乳、飲んでみてくれるか？」

智香「なんですかそれっ？　パックじゃなくて瓶入り……でも、ラベルとか貼ってないですね」

雫「じゃあ、いただきますねー。あ！」

Ｐ「どうだ？」

雫「これウチの……おいかわ牧場の牛乳ですねー！　しかもこの味は、エルちゃんの牛乳ですー！」

智香「え？　エルちゃん？」

Ｐ「誰なんだ？　エルちゃんってのは？」

雫「ウチの牧場の４才になる雌牛さんですよー」

智香「ちょ、ちょっと待って。なんでわかったのっ？」

雫「ええとー味ですかね。牛乳の味から、食べてる牧草とか年齢とか体の調子とかわかりますから」

智香「サラっと言ってるけどそれ、すごいことだよっ！　え、そういうの味でわかるの？」

Ｐ「うむ。今、おいかわ牧場に問い合わせた。間違いないそうだ。送られてきた牛乳は、雫の実家の雌牛のエルだそうだ」

智香「す、すごーい！　あ、じゃあさっきのパック牛乳の銘柄がわからなかったのって」

Ｐ「そういうことだろうな。ああいう商品は、複数の牧場のいろんな牛の牛乳が混ざっているし、色々と手も加えられているだろうからな」

雫「そういう加工をすることで、安全に日本中に牛乳が送られるのは大事なことです。でも、味はやっぱり搾りたてが一番ですし、それなら私でも違いがよくわかりますー」

智香「そうか。雫ちゃんの利き牛乳って、その牛乳からどんな牛さんかわかるってことなんだねっ☆」

雫「そうですー。牛さんってデリケートですから、体調とかがすぐ味に影響するんですよー」

智香「残念でしたね、プロデューサーさん。これはテレビの番組にはできなさそうですね」

Ｐ「何を言うんだ智香。こんなすごい技能、使わないテはないだろ」

智香「え？」

雫・智香「雫・智香の日本列島ミルクの旅！☆」

智香「智香・雫のこの牛乳を訪ねて。雫ちゃんが飲んだ牛乳から、その牛さんを訪ねていく旅番組だよっ☆」

雫「今日はこの、搾りたての牛乳ですねー。……あ、この風味は南の暖かい地域の牧草で育った牛さんですねー。お日様もいっぱい浴びてて、これは九州の牛さんですね。きっと」

智香「オッケー雫ちゃん。じゃあまず、九州へレッツゴー♪」

かな子「今週も面白いなあ。視聴率もいいんでしたよね」

Ｐ「ああ。雫が利き牛乳で徐々に産地を割り出していく推理要素と、沙理奈とのセクシーコンビで旅をする楽しさとで、人気が出てる」

かな子「私も九州、行きたかったなあ」

Ｐ「評判もいいし、そのうちウチからゲストを出すから。その時は頼むな」

かな子「それって、私も出られるかも知れないってことですか？」

Ｐ「ああ。かな子が現地で搾りたての牛乳でお菓子を作るねっていうのもいいかもな」

かな子「うわあ。絶対に私を出してくださいね！」

Ｐ「わかってる。お、２人とも帰ってきたな」

智香「ただいまですっ☆。局での収録終わり！　明日から、ロケに行ってきまーす」

Ｐ「おう。今回はどこだ？」

雫「……」

智香「あれ？　雫ちゃん？」

雫「え？　あ、はい。戻りましたー……」

智香「どうしたのっ？　元気ないみたいだけど」

かな子「なにかあったの？」

雫「あのー……プロデューサーさん」

Ｐ「なんだ？」

雫「お仕事の金って、前借りすることとかできますかー？」

智香「え？」

Ｐ「……なにがあった？　おいかわ牧場は、雫の宣伝効果もあって経営は持ち直したんじゃなかったか？」

雫「ええとー……ウチじゃなくて、そのぉー……」

かな子「ど、どうしたの？」

Ｐ「待て。雫、今日の収録だな？　そこの牛に何かあるんだな？」

雫「私……なんとかしてあげたくてー……」

智香「ま、待って雫ちゃん。泣かないでよっ！　アタシも相談に乗るから、ねっ！！」

～ロケ 当日～


智香「見た目は……きれいですよね」

Ｐ「うむ。しかし雫の舌を、智香は信じるだろう？」

智香「当然ですよっ！　雫ちゃんが言うんですから、間違いありません」

Ｐ「今日、我々が取材に来る事は伝えてあるからな、それに合わせて清掃をしたのかも知れない。だが……」

雫「……」

Ｐ「雫をごまかすことは、できないはずだ」

智香「雫ちゃん、元気だしてよっ☆　これから牛さんを、助けに行くんだから」

雫「智香ちゃーん……はい。私、がんばりますよー！」

智香「そうそう！　その調子っ☆」

牧場主「どうもどうも。この度はウチの牧場にようこそ」

Ｐ「……どうも。ではさっそくですが、牛舎を拝見できますか？」

牧場主「どうぞどうぞ」


智香「うわあ……広いですねっ！」

牧場主「ウチは伸び伸び広々と牛どもに生活してもらうのが、モットーですから」

牛「モー……」

雫「！」

智香「で、でもずいぶんとキレイなんですね」

牧場主「そ、そりゃあもう毎日丁寧に、清掃していますから」

Ｐ「それにしては……」

牧場主「は？」

Ｐ「においがひどいですね」

牧場主「は……はは……ま、まあ都会からおいでの方には、そう感じるかも知れませんね。しかし酪農とはこういうものでしてね」

雫「……」

智香「雫ちゃん、ここは我慢だよ」ﾋｿﾋｿ

雫「……」

智香「じゃ、じゃあさっそく、乳搾りを体験させていただきますっ！」

牧場主「あ、はいはい。ではこの搾乳機を……」

雫「いりません」

牧場主「は？」

雫「手で搾りますからー」

牧場主「て、手で？　しかし……」

雫「大丈夫ですよー」

Ｐ「……どうも出がよくないみたいですね」

牧場主「い、いやあ……ですから機械を使って……」

Ｐ「無理矢理、搾り出すわけですか？」

牧場主「な、なにを……」

Ｐ「そちらの牛乳は、低温殺菌した無調整牛乳ということですが」

牧場主「あ、ああ。そうとも！」

Ｐ「明らかに味がおかしい」

牧場主「な！」

Ｐ「そう言った声がありましてね」

牧場主「馬鹿なことを……ウチはちゃんと保健所や衛生局の検査をクリアしているぞ！」

Ｐ「ラクトメーターに細工を……」

牧場主「！」

Ｐ「してるんじやないかという疑惑も……」

牧場主「な、何を根拠に！」

Ｐ「……雫がな」

牧場主「あ？」

Ｐ「雫が言うんだよ、ここの牛乳は水増しされている上に牛さんたちの苦しみや悲しみの味がするってな」

牧場主「そ、そんな小娘になにがわかる！」

Ｐ「雫がな、泣くんだよ。牛さんが、可哀想だってな……」

智香「それだけじゃないですよっ！　雫ちゃんは、牛さんを助けたいって自分で牛さんを買い取ろうってしてたんですからっ！！」

牧場主「……え？」

Ｐ「ちゃんと……もう一度、酪農をやってくれませんか。牛さんのために、あの雫のために、そして……あなた自身のためにも」

牧場主「……そこまで……わかるもんなのか？」

Ｐ「あの娘には、わかった」

牧場主「メーカーも役所も消費者も……ただ量だけを求めてるんじゃねえのかよ……違うのか……違っていてくれるのか……？」

智香「わかりますよっ！　ここにいる雫ちゃんにはわかったし、がんばってお仕事している人の牛乳は絶対に美味しいって、アタシ信じます！！」

牧場主「……わかった。やるよ、もう一度真っ当な、牛たちを第一に考えた酪農を」

雫「ほ、ほんとですかー？」

牧場主「だから……もう一度、改めてこの子の乳を飲んでみてくれ。あんたに……確かめてもらうから」

雫「はいー！　いつでも呼んでくださいねー！！」

智香「一件落着だねっ☆　ひゃっほーぅ☆」

雫「はーい♪　智香ちゃんとプロデューサーさんのおかげですねー」

Ｐ「そりゃいいが、今回の収録は放送中止だ。そして……２人には、その穴埋めをしてもらわなきゃならない」

智香「えっ？」

雫「それはー……？」

Ｐ「嫌とは言わせないからな」

雫「今回は日本列島ミルク旅、スペシャル企画ー♪」

智香「ら、ランドセルで行く酪農体け……ん……////」

雫「ランドセルなんて小学生の時以来ですねー♪」

智香「は、恥ずかしい……っ////」

Ｐ「よしよし、これで視聴率はうなぎ登りだ。ほらほら雫、智香、笑顔笑顔」

雫「はーい♪」

智香「ひゃ、ひゃっほーぅ////」

雫「ただいま帰りましたー」

智香「恥ずかしかったですよっ……って、あれっ？」

Ｐ「２人とも帰ってきたか……大変なことになった」

智香「大変なこと？」

Ｐ「この間の牧場主が……心をいれ変えて牛を元気にしたから、また牛乳を飲んでほしいと……」

雫「うわあー。それは嬉しいですー♪」

智香「それのなにが大変なんですかっ？」

Ｐ「確かにそれはいいことなんだが……問題は乳牛で……」

雫「牛さんがなにかー？」

Ｐ「あの牧場主、乳牛……乳牛を……」

智香「？」

Ｐ「直接、送ってきやがった！！！」

智香「えええーーーっっっ！！！」

乳牛「ンモオオオーーーオオオ！！！」

智香「きゃあっ！」

雫「大丈夫ですよー。私が、ちゃんとお世話しますからねー♪　よしよし」

Ｐ「た、頼むぞ雫」

智香「よ、良かった……雫ちゃんは本当に、牛飼いが上手だねっ☆」

雫「はいー♪」


お　わ　り