1: 名無しで叶える物語 2017/11/05(日) 23:47:28.25 ID:rpEihqQk.net
「―――ふぅ」
読み終えた小説をぱたんと閉じて、マルは一息。
この本―――浦女の図書室の最後の購入リストの中にあった、1冊なんだ。
もう廃校になっちゃうから―――図書室の購入リクエストも、これでおしまい。
浦女が無くなっちゃうのも、もちろん寂しいけど。
この図書室の本棚には、もう―――本が増えることも無い。
ううん、むしろ―――
最近置かれたばっかりの本棚も、もう古くなって歪んじゃった本棚も―――
そこに住む本たちも、それを読む生徒も、みんな――――
ここから、いなくなっちゃう。
実際、もう学校の備品は少しずつ片付けられていて―――
図書室も例外じゃない。
読み終えた小説をぱたんと閉じて、マルは一息。
この本―――浦女の図書室の最後の購入リストの中にあった、1冊なんだ。
もう廃校になっちゃうから―――図書室の購入リクエストも、これでおしまい。
浦女が無くなっちゃうのも、もちろん寂しいけど。
この図書室の本棚には、もう―――本が増えることも無い。
ううん、むしろ―――
最近置かれたばっかりの本棚も、もう古くなって歪んじゃった本棚も―――
そこに住む本たちも、それを読む生徒も、みんな――――
ここから、いなくなっちゃう。
実際、もう学校の備品は少しずつ片付けられていて―――
図書室も例外じゃない。
2: 名無しで叶える物語 2017/11/05(日) 23:49:22.62 ID:rpEihqQk.net
いくつかの本棚は、もう空になった。
そこに居た本たちは、生徒たちが貰っていった。
オラたちは、統合した学校に行くことになるけれど―――
貰われていった本たちは、生徒たちが大切にしてくれるけれど。
じゃあ、居場所のなくなった本たちは、どこに行くんだろう?
ふと、そんな考えが頭をよぎった。
きっとオラたちの行く学校の図書室でまた会える本は、ほんの少しで―――
沼津の図書館や他の学校の図書室に行く本もいれば―――
処分されて、二度と誰にも読んでもらえない本もいる。
そう思うと、マルは寂しくて、寂しくて仕方なくて。
居ても立っても居られなくて―――
今まで読んだことのなかった本も、苦手で遠ざけていた本も、全部読んでみようって。
そう決めたオラは、暇さえあれば図書室に引きこもるようになったのでした。
そこに居た本たちは、生徒たちが貰っていった。
オラたちは、統合した学校に行くことになるけれど―――
貰われていった本たちは、生徒たちが大切にしてくれるけれど。
じゃあ、居場所のなくなった本たちは、どこに行くんだろう?
ふと、そんな考えが頭をよぎった。
きっとオラたちの行く学校の図書室でまた会える本は、ほんの少しで―――
沼津の図書館や他の学校の図書室に行く本もいれば―――
処分されて、二度と誰にも読んでもらえない本もいる。
そう思うと、マルは寂しくて、寂しくて仕方なくて。
居ても立っても居られなくて―――
今まで読んだことのなかった本も、苦手で遠ざけていた本も、全部読んでみようって。
そう決めたオラは、暇さえあれば図書室に引きこもるようになったのでした。
3: 名無しで叶える物語 2017/11/05(日) 23:52:01.75 ID:rpEihqQk.net
えっと、それで―――
この本は、ちょっと前に流行ったネットの小説が、本になったもの、みたいで。
オラ、そういうのはあんまり読まないんだけど―――
その、えぇっと―――すごく、は、恥ずかしい、描写が、あって―――。
えっと―――その、男女のそういうシーンなら、他の本でもたまに目にはしていたんだけど。
この小説の主人公は女の子で、ヒロインも女の子で。
最後に―――
「マル~~?」
「ひゃあ!!」
がらっと、突然勢いよく開いたドアに―――マルはおかしな声をあげてしまいました。
この本は、ちょっと前に流行ったネットの小説が、本になったもの、みたいで。
オラ、そういうのはあんまり読まないんだけど―――
その、えぇっと―――すごく、は、恥ずかしい、描写が、あって―――。
えっと―――その、男女のそういうシーンなら、他の本でもたまに目にはしていたんだけど。
この小説の主人公は女の子で、ヒロインも女の子で。
最後に―――
「マル~~?」
「ひゃあ!!」
がらっと、突然勢いよく開いたドアに―――マルはおかしな声をあげてしまいました。
4: 名無しで叶える物語 2017/11/05(日) 23:55:12.87 ID:rpEihqQk.net
「わっ―――」
ドアを開けたのは、ヨハネちゃんでした。
オラの声にびっくりしたヨハネちゃんは、転んで、机に頭をぶつけて―――
あっ!
その机の上には、積まれた本が――――
どさどさどさ―――。
倒れたヨハネちゃんの上に、何冊も本がのしかかる。
「うぅ……」
ヨハネちゃん―――本当に、小説の登場人物みたいな不幸ぶりずら……。
ドアを開けたのは、ヨハネちゃんでした。
オラの声にびっくりしたヨハネちゃんは、転んで、机に頭をぶつけて―――
あっ!
その机の上には、積まれた本が――――
どさどさどさ―――。
倒れたヨハネちゃんの上に、何冊も本がのしかかる。
「うぅ……」
ヨハネちゃん―――本当に、小説の登場人物みたいな不幸ぶりずら……。
5: 名無しで叶える物語 2017/11/05(日) 23:58:11.87 ID:rpEihqQk.net
「ふぅ―――変なとこぶつけなくて済んでよかったわ」
「よっちゃん、大丈夫?」
「ええ、大丈夫。もう―――いくら読むのに夢中だったからって、本を積んでおくのはやめてよね」
「うん、ごめんなさい……」
「そ―――そんなに落ち込まないでよ。マルちゃんのせいじゃないし―――それで、今日は何読んでたの?」
「えっ!?え、っと―――」
「―――あ、これこれ!映画がすごく私好みだったから、本になってるのを知って探してたのよ♪」
ヨハネちゃんは、マルがさっきまで読んでいた本を手に取って―――
上機嫌で、貸出カードに名前を書いている。
「これ―――読んでたの?」
「えっ――――と、その……うん、さっき読み終わった、ところで―――」
「へえ、意外―――マルちゃんって、こういうの読まないと思ってたのに」
「よっちゃん、大丈夫?」
「ええ、大丈夫。もう―――いくら読むのに夢中だったからって、本を積んでおくのはやめてよね」
「うん、ごめんなさい……」
「そ―――そんなに落ち込まないでよ。マルちゃんのせいじゃないし―――それで、今日は何読んでたの?」
「えっ!?え、っと―――」
「―――あ、これこれ!映画がすごく私好みだったから、本になってるのを知って探してたのよ♪」
ヨハネちゃんは、マルがさっきまで読んでいた本を手に取って―――
上機嫌で、貸出カードに名前を書いている。
「これ―――読んでたの?」
「えっ――――と、その……うん、さっき読み終わった、ところで―――」
「へえ、意外―――マルちゃんって、こういうの読まないと思ってたのに」
6: 名無しで叶える物語 2017/11/06(月) 00:00:54.83 ID:L8Flrlaf.net
「ねえ、ところで―――」
「な、なに?」
「この小説の主人公とヒロイン、マルちゃんとルビィに似てなかった?」
「な、なななな――――――」
顔が、かぁっと熱くなるのがわかった。
そう、この小説の主人公と、ヒロインは―――
「弱気な女の子がふたり、お互いに引っ張り合って―――なんて、
映画を観てる時からマルとルビィみたいだって思ってたのよ。
でもまさか、最後があんなことになるなんて思わなかったけれどね。女の子同士で―――――」
「わあああああああ!!!」
オラは耳をふさいで大声を上げてしまって―――
「ちょ、ちょっとどうしたの?大丈夫?」
わああああああああ、聞こえない、聞こえない――――!
「な、なに?」
「この小説の主人公とヒロイン、マルちゃんとルビィに似てなかった?」
「な、なななな――――――」
顔が、かぁっと熱くなるのがわかった。
そう、この小説の主人公と、ヒロインは―――
「弱気な女の子がふたり、お互いに引っ張り合って―――なんて、
映画を観てる時からマルとルビィみたいだって思ってたのよ。
でもまさか、最後があんなことになるなんて思わなかったけれどね。女の子同士で―――――」
「わあああああああ!!!」
オラは耳をふさいで大声を上げてしまって―――
「ちょ、ちょっとどうしたの?大丈夫?」
わああああああああ、聞こえない、聞こえない――――!
7: 名無しで叶える物語 2017/11/06(月) 00:03:25.70 ID:L8Flrlaf.net
……その、ね。
この小説は、気弱な女の子ふたりが力を合わせて困難を乗り越えていくお話、なんだけど。
マルはビルドゥングスロマンは好きだし(成長物語のことずら)
文章も読みやすくて、スラスラ読めたんだぁ。
そ、それでね。
主人公もヒロインも、お互いのことを大切に想っていて―――
最後の、シーンで―――――
2人は、お互いの気持ちを確かめ合って、き、きき、―――――
キスを、するの。
ヨハネちゃんが言う通り、小説の主人公は、なんだかオラに似てて―――
ヒロインの子は、ルビィちゃんに似てるなって、思ってて。
この小説は、気弱な女の子ふたりが力を合わせて困難を乗り越えていくお話、なんだけど。
マルはビルドゥングスロマンは好きだし(成長物語のことずら)
文章も読みやすくて、スラスラ読めたんだぁ。
そ、それでね。
主人公もヒロインも、お互いのことを大切に想っていて―――
最後の、シーンで―――――
2人は、お互いの気持ちを確かめ合って、き、きき、―――――
キスを、するの。
ヨハネちゃんが言う通り、小説の主人公は、なんだかオラに似てて―――
ヒロインの子は、ルビィちゃんに似てるなって、思ってて。
8: 名無しで叶える物語 2017/11/06(月) 00:07:36.07 ID:L8Flrlaf.net
マルはいつも、本を読むと夢中になって―――
主人公がオラと似ているから、余計に、物語の中に居るように錯覚して。
頭の中で、ルビィちゃんと――――
「ねえ、マルちゃん」
「ひゃああああ――――あ、よ、よっちゃん」
「ホントに大丈夫?……これ、カードにハンコ、押してくれる?」
「あ、わ、わかったずら」
カードに日付の入ったハンコを押して、ヨハネちゃんに返す。
「はい、お待たせ……」
主人公がオラと似ているから、余計に、物語の中に居るように錯覚して。
頭の中で、ルビィちゃんと――――
「ねえ、マルちゃん」
「ひゃああああ――――あ、よ、よっちゃん」
「ホントに大丈夫?……これ、カードにハンコ、押してくれる?」
「あ、わ、わかったずら」
カードに日付の入ったハンコを押して、ヨハネちゃんに返す。
「はい、お待たせ……」
10: 名無しで叶える物語 2017/11/06(月) 00:12:31.18 ID:L8Flrlaf.net
「ん、ありがと。今日は練習無いけど―――マルちゃんは、まだ図書室に残ってるの?」
うん―――って声を出したつもりだったんだけど、ヨハネちゃんは首をかしげている。
こくり、と頷いて意思を示す。
「顔も赤いし―――帰った方がいいんじゃない?今日のマルちゃん、ちょっと変よ?」
「でも、ルビィちゃんを待ってないといけないし、図書室の当番も、もう少し残ってないとだから―――」
「だったら私が待ってるわ。ルビィには伝えておくから―――
それに、当番って言っても、ハンコ押すだけでしょ?」
「でも―――」
でも。
たしかに、今、ルビィちゃんを見たら――――
ううん。
見れない、気がするずら……。
うん―――って声を出したつもりだったんだけど、ヨハネちゃんは首をかしげている。
こくり、と頷いて意思を示す。
「顔も赤いし―――帰った方がいいんじゃない?今日のマルちゃん、ちょっと変よ?」
「でも、ルビィちゃんを待ってないといけないし、図書室の当番も、もう少し残ってないとだから―――」
「だったら私が待ってるわ。ルビィには伝えておくから―――
それに、当番って言っても、ハンコ押すだけでしょ?」
「でも―――」
でも。
たしかに、今、ルビィちゃんを見たら――――
ううん。
見れない、気がするずら……。
11: 名無しで叶える物語 2017/11/06(月) 00:19:07.69 ID:L8Flrlaf.net
「じゃあ―――お願い、してもいい……?」
「いいって言ってるでしょ。本は読まないで、早く寝るのよ?」
「ありがとう、ヨハネちゃん―――ヨハネちゃんは、堕天使なのに、優しいよね」
「ほら、今はいいから―――早く帰りなさいよ」
ちょっとだけ赤くなったヨハネちゃんは、マルの代わりに席に座ってくれた。
優しい堕天使のヨハネちゃんに後を託して―――
マルはふらふらと、帰路につくのでした。
「いいって言ってるでしょ。本は読まないで、早く寝るのよ?」
「ありがとう、ヨハネちゃん―――ヨハネちゃんは、堕天使なのに、優しいよね」
「ほら、今はいいから―――早く帰りなさいよ」
ちょっとだけ赤くなったヨハネちゃんは、マルの代わりに席に座ってくれた。
優しい堕天使のヨハネちゃんに後を託して―――
マルはふらふらと、帰路につくのでした。
12: 名無しで叶える物語 2017/11/06(月) 00:20:35.75 ID:L8Flrlaf.net
―――その紅い果実は、この世の何よりも甘美なものだった。
―――いつも手と手を重ねていたように、唇をそっと重ねるだけで。
―――この身で、これ以上ないくらいに、たしかに彼女の存在を感じられた。
「うぅ……」
帰ってから寝るまで―――ううん、寝て起きても。
あの小説のキスシーンは、マルの頭の中をず~~~っと、ぐるぐるしていた。
教室の前まで来て、ドアにかけた手が止まる。
もしも――――――
あ。
オラ―――今、なんて酷いことを考えたんだろう。
―――いつも手と手を重ねていたように、唇をそっと重ねるだけで。
―――この身で、これ以上ないくらいに、たしかに彼女の存在を感じられた。
「うぅ……」
帰ってから寝るまで―――ううん、寝て起きても。
あの小説のキスシーンは、マルの頭の中をず~~~っと、ぐるぐるしていた。
教室の前まで来て、ドアにかけた手が止まる。
もしも――――――
あ。
オラ―――今、なんて酷いことを考えたんだろう。
13: 名無しで叶える物語 2017/11/06(月) 00:25:36.35 ID:L8Flrlaf.net
"ルビィちゃんが居たらどうしよう"
そんなことを、思ってしまった。
この世界で一番大切な、マルのお友達。
そんなルビィちゃんを―――
「―――最低ずら」
「何が?」
「きゃああ!!」
「わっ、ちょ―――まだ治ってないの?」
マルが悲鳴を上げて振り向くと、そこにいたのはヨハネちゃん。
そんなことを、思ってしまった。
この世界で一番大切な、マルのお友達。
そんなルビィちゃんを―――
「―――最低ずら」
「何が?」
「きゃああ!!」
「わっ、ちょ―――まだ治ってないの?」
マルが悲鳴を上げて振り向くと、そこにいたのはヨハネちゃん。
15: 名無しで叶える物語 2017/11/06(月) 00:27:16.83 ID:L8Flrlaf.net
「よっちゃん……その―――昨日はありがとう」
「それは別にいいんだけど―――大丈夫?」
「大丈夫って―――なにが?」
「いや、なにが?じゃなくて―――昨日と何も変わってないように見えるけど」
「う―――」
図星―――ヨハネちゃん、鋭いずら……。
「―――あら? 2人揃って、教室の前で何をしているの?」
不思議そうに声をかけてきたのは、ダイヤちゃんでした。
「それは別にいいんだけど―――大丈夫?」
「大丈夫って―――なにが?」
「いや、なにが?じゃなくて―――昨日と何も変わってないように見えるけど」
「う―――」
図星―――ヨハネちゃん、鋭いずら……。
「―――あら? 2人揃って、教室の前で何をしているの?」
不思議そうに声をかけてきたのは、ダイヤちゃんでした。
16: 名無しで叶える物語 2017/11/06(月) 00:31:21.10 ID:L8Flrlaf.net
「あぁ、そういえば―――マルちゃん、具合が悪かったの?」
「え?」
「ルビィも昨日心配していたわ。大丈夫?」
「う、うん―――」
「ならいいけど。無理しないようにしてね」
「ありがとう……」
「そういえばルビィは?教室にも居なかったけど」
「あの子ならまた寝坊よ」
「ふぅん―――」
「は、はぁ、はぁ―――ま、間に合ったぁ!」
その声を聞いて、オラの身体はびくん、と跳ねた。
「え?」
「ルビィも昨日心配していたわ。大丈夫?」
「う、うん―――」
「ならいいけど。無理しないようにしてね」
「ありがとう……」
「そういえばルビィは?教室にも居なかったけど」
「あの子ならまた寝坊よ」
「ふぅん―――」
「は、はぁ、はぁ―――ま、間に合ったぁ!」
その声を聞いて、オラの身体はびくん、と跳ねた。
17: 名無しで叶える物語 2017/11/06(月) 00:36:17.22 ID:L8Flrlaf.net
「あら、今日は間に合ったのね」
「お姉ちゃん、酷いよぉ―――なんで、いつも、先に行っちゃうの」
「今日も3回起こしたわ。起きなかったのはルビィのほうでしょ?」
「そ、そうだけど―――」
「―――あ、わたくし、朝の放送があるから行くわね。マルちゃん、お大事に」
「は、はい―――」
「お、お姉ちゃぁん……」
一挙一動が美しいダイヤちゃんを見送ったあと―――
マルは恐る恐る、視線をずらした。
「お姉ちゃん、酷いよぉ―――なんで、いつも、先に行っちゃうの」
「今日も3回起こしたわ。起きなかったのはルビィのほうでしょ?」
「そ、そうだけど―――」
「―――あ、わたくし、朝の放送があるから行くわね。マルちゃん、お大事に」
「は、はい―――」
「お、お姉ちゃぁん……」
一挙一動が美しいダイヤちゃんを見送ったあと―――
マルは恐る恐る、視線をずらした。
18: 名無しで叶える物語 2017/11/06(月) 00:38:24.42 ID:L8Flrlaf.net
その紅い髪は、いつもと違って結われることなく垂れている。
幼さの残る彼女の顔は、走ってきたおかげか、紅潮していて―――
姉に冷たくあしらわれ、目には涙が溜まっている。
「はぁ、はぁ―――あ、お、おはよう、よっちゃん、マルちゃん」
私に向けてくれる純粋な笑顔にも、色気を感じさせた。
赤い、紅い唇から零れる微かな吐息も。
いつもは何とも思わないのに―――
今日は、とても甘く。
―――吐き気すら覚えるほどに、甘く感じた。
幼さの残る彼女の顔は、走ってきたおかげか、紅潮していて―――
姉に冷たくあしらわれ、目には涙が溜まっている。
「はぁ、はぁ―――あ、お、おはよう、よっちゃん、マルちゃん」
私に向けてくれる純粋な笑顔にも、色気を感じさせた。
赤い、紅い唇から零れる微かな吐息も。
いつもは何とも思わないのに―――
今日は、とても甘く。
―――吐き気すら覚えるほどに、甘く感じた。
19: 名無しで叶える物語 2017/11/06(月) 00:43:04.39 ID:L8Flrlaf.net
「おはよう、ルビィ」
「お、おはよう―――ルビィちゃん」
「うん♪―――あ、そうだ!マルちゃん、大丈夫?調子悪かったんだよね?」
突然手をぎゅっと握られる。
またオラの身体は、びくんと跳ねる。
「え、っと―――うん。大丈夫、ずら」
無理矢理笑顔を作って―――そっと、ほんの少しだけ、手を握り返す。
「そっか!よかったぁ―――ルビィ、すっごく心配したんだよ?」
「ごめんね、ルビィちゃん……」
「いいよいいよぉ、マルちゃんが元気ならそれで!」
「ルビィ、髪すごいことになってるわよ?結んであげようか?」
「いいの?ありがとう、よっちゃん!」
「マル?―――マルちゃん?ほら、教室入るわよ?」
「あ―――うん」
このもやもやをどうすればいいのかわからなくて―――
マルは大きく、溜息をつくしかありませんでした。
「お、おはよう―――ルビィちゃん」
「うん♪―――あ、そうだ!マルちゃん、大丈夫?調子悪かったんだよね?」
突然手をぎゅっと握られる。
またオラの身体は、びくんと跳ねる。
「え、っと―――うん。大丈夫、ずら」
無理矢理笑顔を作って―――そっと、ほんの少しだけ、手を握り返す。
「そっか!よかったぁ―――ルビィ、すっごく心配したんだよ?」
「ごめんね、ルビィちゃん……」
「いいよいいよぉ、マルちゃんが元気ならそれで!」
「ルビィ、髪すごいことになってるわよ?結んであげようか?」
「いいの?ありがとう、よっちゃん!」
「マル?―――マルちゃん?ほら、教室入るわよ?」
「あ―――うん」
このもやもやをどうすればいいのかわからなくて―――
マルは大きく、溜息をつくしかありませんでした。
21: 名無しで叶える物語 2017/11/06(月) 00:51:42.21 ID:L8Flrlaf.net
オラは気づけば、ルビィちゃんをぼーっと眺めていました。
ヨハネちゃんが髪を持ち上げると、ルビィちゃんの綺麗な首筋が見えて―――
目を、逸らしてしまう。
いつも―――小さいころからずっと。
なんなら、お風呂にだって一緒に入ったりして―――
ルビィちゃんのことを、ずっと見ていたはずなのに。
ドキドキが、止まらない。
でも、気になって、またちらりと、ルビィちゃんを見る。
「あ―――エヘヘ♡」
目が合ってしまって―――
硬直したマルに、ルビィちゃんは優しく微笑みかけてくれる。
オラもなんとか、笑顔を返した――――つもり。
どんな顔をしていたかは、わからない。
マルは―――
いつもは嬉しい、大好きなルビィちゃんの優しさが。
もやもやと、心を覆うようで。
胸をちくちくと刺してくるようで―――
とても、辛かった。
ヨハネちゃんが髪を持ち上げると、ルビィちゃんの綺麗な首筋が見えて―――
目を、逸らしてしまう。
いつも―――小さいころからずっと。
なんなら、お風呂にだって一緒に入ったりして―――
ルビィちゃんのことを、ずっと見ていたはずなのに。
ドキドキが、止まらない。
でも、気になって、またちらりと、ルビィちゃんを見る。
「あ―――エヘヘ♡」
目が合ってしまって―――
硬直したマルに、ルビィちゃんは優しく微笑みかけてくれる。
オラもなんとか、笑顔を返した――――つもり。
どんな顔をしていたかは、わからない。
マルは―――
いつもは嬉しい、大好きなルビィちゃんの優しさが。
もやもやと、心を覆うようで。
胸をちくちくと刺してくるようで―――
とても、辛かった。
22: 名無しで叶える物語 2017/11/06(月) 00:57:46.15 ID:L8Flrlaf.net
お昼休み。
教室に、鞠莉ちゃんがやってきた。
「ハァイ! Lunchの途中にごめんね?今日の練習の事だけど―――」
ダイヤちゃんが、オラの体調を案じて、練習を休みにするって決めたみたい。
「マル、大丈夫?顔色はいつもと変わらないけど―――」
ずずい、と顔を近づけてくる鞠莉ちゃん。
鞠莉ちゃんはハーフで、海外の人っぽいところがあって―――人との距離感が近いずら。
「もしかして―――好きな人でもできたとか♡」
「え――――?」
教室に、鞠莉ちゃんがやってきた。
「ハァイ! Lunchの途中にごめんね?今日の練習の事だけど―――」
ダイヤちゃんが、オラの体調を案じて、練習を休みにするって決めたみたい。
「マル、大丈夫?顔色はいつもと変わらないけど―――」
ずずい、と顔を近づけてくる鞠莉ちゃん。
鞠莉ちゃんはハーフで、海外の人っぽいところがあって―――人との距離感が近いずら。
「もしかして―――好きな人でもできたとか♡」
「え――――?」
23: 名無しで叶える物語 2017/11/06(月) 00:59:15.84 ID:L8Flrlaf.net
「すっ―――」
「好きな人ぉ!?」
鞠莉ちゃんの一言で、ルビィちゃんとヨハネちゃんが立ち上がる。
「ウ、ウソでしょマル!?」
「ど、どんな人!?ルビィも会ってみたい―――あ、でも男の人は苦手だから、えっと―――」
2人の声が頭に入ってこない。
耳たぶが熱くなるのを感じる。
「って――――もしかして、本当に―――?」
鞠莉ちゃんの笑顔が少し引きつる。
「そ、そうだわマル!ちょっと来てくれる?」
鞠莉ちゃんに腕を引っ張られて、マルは教室を飛び出した。
「好きな人ぉ!?」
鞠莉ちゃんの一言で、ルビィちゃんとヨハネちゃんが立ち上がる。
「ウ、ウソでしょマル!?」
「ど、どんな人!?ルビィも会ってみたい―――あ、でも男の人は苦手だから、えっと―――」
2人の声が頭に入ってこない。
耳たぶが熱くなるのを感じる。
「って――――もしかして、本当に―――?」
鞠莉ちゃんの笑顔が少し引きつる。
「そ、そうだわマル!ちょっと来てくれる?」
鞠莉ちゃんに腕を引っ張られて、マルは教室を飛び出した。
24: 名無しで叶える物語 2017/11/06(月) 01:07:00.14 ID:L8Flrlaf.net
鞠莉ちゃんに連れられてやってきたのは、屋上だった。
太陽の光を浴びて、キラキラ光る駿河湾がまぶしい。
「――ごめん、マル。冗談のつもりだったんだけど―――まさか本当に、恋しちゃってるなんて」
恋。
本の中では、何度も経験してきた。
物語の世界の恋なら、熟知している。
Aqoursの曲で恋の歌も、そんな物語の世界の恋を想像しながら歌ってた。
でも、現実の世界の恋は――――知らない。
「恋、なのかな」
「……ん?どういうこと?」
太陽の光を浴びて、キラキラ光る駿河湾がまぶしい。
「――ごめん、マル。冗談のつもりだったんだけど―――まさか本当に、恋しちゃってるなんて」
恋。
本の中では、何度も経験してきた。
物語の世界の恋なら、熟知している。
Aqoursの曲で恋の歌も、そんな物語の世界の恋を想像しながら歌ってた。
でも、現実の世界の恋は――――知らない。
「恋、なのかな」
「……ん?どういうこと?」
25: 名無しで叶える物語 2017/11/06(月) 01:10:18.86 ID:L8Flrlaf.net
「オラ、恋なんてしたことないから、本当に恋かわからないんだぁ」
「う~ん」
「それに―――」
「それに?」
「―――鞠莉ちゃん、誰にも言わない?」
「もちろん!マリーは味方よ♪」
「……じゃあ、お話、聞いてほしいずら」
オラは、ルビィちゃんの名前を出すのは伏せたけど―――
あの小説を読んでからのことを、鞠莉ちゃんに話した。
「そ、そっか―――ええと」
いつも飄々と、ハキハキとしている鞠莉ちゃんが―――珍しく、言い淀んでいる。
「う~ん」
「それに―――」
「それに?」
「―――鞠莉ちゃん、誰にも言わない?」
「もちろん!マリーは味方よ♪」
「……じゃあ、お話、聞いてほしいずら」
オラは、ルビィちゃんの名前を出すのは伏せたけど―――
あの小説を読んでからのことを、鞠莉ちゃんに話した。
「そ、そっか―――ええと」
いつも飄々と、ハキハキとしている鞠莉ちゃんが―――珍しく、言い淀んでいる。
26: 名無しで叶える物語 2017/11/06(月) 01:13:19.72 ID:L8Flrlaf.net
「それはきっと―――恋に、"なってしまった"のかもね」
「なってしまった……?」
「マルはその友達のこと、ずっと大切だったんでしょう?」
「うん」
「きっとそれは―――その気持ちは、friendship…"友情"だったんだと思うの」
「でも、小説がきっかけで、それはlove―――"愛情"に変わったんだわ―――なんてね☆」
鞠莉ちゃんの言葉を聞いて、なんとなく――――
はっきりしたような、気がした。
「あ、えっと―――マル?」
「そうかも、しれないずら」
「え?」
「マル、このもやもやが何かわかって、ちょっとだけスッキリしたずら」
「え、ええ!それならよかったわ!」
「お話聞いてくれてありがとう、鞠莉ちゃん」
マルは屋上を後にした。
「あれってゼッタイ―――ルビィのことよねぇ……」
「なってしまった……?」
「マルはその友達のこと、ずっと大切だったんでしょう?」
「うん」
「きっとそれは―――その気持ちは、friendship…"友情"だったんだと思うの」
「でも、小説がきっかけで、それはlove―――"愛情"に変わったんだわ―――なんてね☆」
鞠莉ちゃんの言葉を聞いて、なんとなく――――
はっきりしたような、気がした。
「あ、えっと―――マル?」
「そうかも、しれないずら」
「え?」
「マル、このもやもやが何かわかって、ちょっとだけスッキリしたずら」
「え、ええ!それならよかったわ!」
「お話聞いてくれてありがとう、鞠莉ちゃん」
マルは屋上を後にした。
「あれってゼッタイ―――ルビィのことよねぇ……」
41: 名無しで叶える物語 2017/11/07(火) 20:49:50.78 ID:4x6tpkwX.net
「あ、帰ってきた」
「マルちゃん、なんのお話だったの?」
教室に戻ると、善子ちゃんとルビィちゃんが心配そうに声を掛けてくれた。
「ねえ、好きな人ができたって本当なの?」
「よ、よっちゃん!?その話はやめようってさっき決めたよね―――」
「あっ―――ごめん」
「うーん……わからないずら」
「わからない?」
「そう。マル、恋なんてしたことなかったから。だから、まだわからないずら♪」
「ふぅん……」
「あ、そうだマルちゃん!欲しい本が出たんだけど、今日一緒にマルサン行かない?」
「えっと―――」
「―――もしかして、お寺のご用事とかある?」
「マルちゃん、なんのお話だったの?」
教室に戻ると、善子ちゃんとルビィちゃんが心配そうに声を掛けてくれた。
「ねえ、好きな人ができたって本当なの?」
「よ、よっちゃん!?その話はやめようってさっき決めたよね―――」
「あっ―――ごめん」
「うーん……わからないずら」
「わからない?」
「そう。マル、恋なんてしたことなかったから。だから、まだわからないずら♪」
「ふぅん……」
「あ、そうだマルちゃん!欲しい本が出たんだけど、今日一緒にマルサン行かない?」
「えっと―――」
「―――もしかして、お寺のご用事とかある?」
42: 名無しで叶える物語 2017/11/07(火) 20:53:59.14 ID:4x6tpkwX.net
「そうじゃないけど、オラ―――放課後は教室で、図書委員の集まりがあるから」
「じゃあ―――図書室で待ってるね。読みたい本あるし♡ よっちゃんは?」
「私は―――やめとく。今日は行きたいところがあるから」
「そっか」
「あの、ルビィちゃん―――」
キーン、コーン――――。
お昼休み終了のチャイムが、マルの言葉を遮った。
「ん?どしたの、マルちゃん」
「―――ううん、なんでもないずら」
「じゃあ―――図書室で待ってるね。読みたい本あるし♡ よっちゃんは?」
「私は―――やめとく。今日は行きたいところがあるから」
「そっか」
「あの、ルビィちゃん―――」
キーン、コーン――――。
お昼休み終了のチャイムが、マルの言葉を遮った。
「ん?どしたの、マルちゃん」
「―――ううん、なんでもないずら」
43: 名無しで叶える物語 2017/11/07(火) 21:01:14.48 ID:4x6tpkwX.net
「次なんだっけ?」
「古典だよ。よっちゃん、あの宿題やった?」
「やってなーい。あんな難しい問題、わかるわけないもの」
「えへへ、だよね……マルちゃんはわかった?」
「えっと―――」
ぺらぺらとノートをめくり、ふたりに見せる。
「わぁ―――すごい!さすがマルちゃん♪ねね、ちょっと見せて?」
「もちろんずら!」
「えへへ、ありがとぉ♡」
机に手をついて、ぴょんぴょんと跳ねるルビィちゃん。
飛び跳ねる度にふわりと、ルビィちゃんの匂いがする。
かわいいなぁ、ルビィちゃん。
「古典だよ。よっちゃん、あの宿題やった?」
「やってなーい。あんな難しい問題、わかるわけないもの」
「えへへ、だよね……マルちゃんはわかった?」
「えっと―――」
ぺらぺらとノートをめくり、ふたりに見せる。
「わぁ―――すごい!さすがマルちゃん♪ねね、ちょっと見せて?」
「もちろんずら!」
「えへへ、ありがとぉ♡」
机に手をついて、ぴょんぴょんと跳ねるルビィちゃん。
飛び跳ねる度にふわりと、ルビィちゃんの匂いがする。
かわいいなぁ、ルビィちゃん。
44: 名無しで叶える物語 2017/11/07(火) 21:05:34.65 ID:4x6tpkwX.net
さすが鞠莉ちゃん―――
マルのお悩みを、すぱっと解決してしまったずら。
オラの心を覆っていたもやもやは―――
胸を刺すちくちくは、今はむしろ心地良い。
さっきまで、眩しくて見えなかった彼女の笑顔も、
この世の何よりも美しく見えた。
―――そっか。
この気持ちが―――そうなんだ。
マルは、幼馴染に恋をした。
マルのお悩みを、すぱっと解決してしまったずら。
オラの心を覆っていたもやもやは―――
胸を刺すちくちくは、今はむしろ心地良い。
さっきまで、眩しくて見えなかった彼女の笑顔も、
この世の何よりも美しく見えた。
―――そっか。
この気持ちが―――そうなんだ。
マルは、幼馴染に恋をした。
45: 名無しで叶える物語 2017/11/07(火) 21:16:40.19 ID:4x6tpkwX.net
今日の図書委員の議題は、残った本の行先を決めるものだった。
生徒向けのポスターを作ったり、図書館や他の学校に電話したり。
浦女の図書室って、あんまり人は来てなかったんだけど―――
図書委員のみんなや先生たちはすごく一生懸命に活動していて。
みんな本を大事にしてくれているんだな、って―――マルは感動しました。
そのおかげで思っていたよりも時間がかかっちゃって―――日も落ち始めていた。
ルビィちゃんが待っている図書室へと向かう。
その足は軽くて―――朝、教室に入るのを躊躇っていたのがウソのようだった。
ルビィちゃんに会いたい。
今すぐ、ルビィちゃんを、感じたい。
生徒向けのポスターを作ったり、図書館や他の学校に電話したり。
浦女の図書室って、あんまり人は来てなかったんだけど―――
図書委員のみんなや先生たちはすごく一生懸命に活動していて。
みんな本を大事にしてくれているんだな、って―――マルは感動しました。
そのおかげで思っていたよりも時間がかかっちゃって―――日も落ち始めていた。
ルビィちゃんが待っている図書室へと向かう。
その足は軽くて―――朝、教室に入るのを躊躇っていたのがウソのようだった。
ルビィちゃんに会いたい。
今すぐ、ルビィちゃんを、感じたい。
46: 名無しで叶える物語 2017/11/07(火) 21:26:44.66 ID:4x6tpkwX.net
「ルビィちゃん、お待たせ!」
がらっ、と勢いよく扉を開ける。
奥の机に、紅い髪がちらりと見えた。
―――ルビィちゃんだ♡
「ごめんねルビィちゃん、すっかり遅くなっちゃった。マルサン閉まっちゃうし、急いで―――」
と―――そこまで言って、初めて。
安らかな寝息に気づいた。
開きっぱなしの本は、ルビィちゃんの涎で濡れている。
あぁ、またやっちゃった―――。
がらっ、と勢いよく扉を開ける。
奥の机に、紅い髪がちらりと見えた。
―――ルビィちゃんだ♡
「ごめんねルビィちゃん、すっかり遅くなっちゃった。マルサン閉まっちゃうし、急いで―――」
と―――そこまで言って、初めて。
安らかな寝息に気づいた。
開きっぱなしの本は、ルビィちゃんの涎で濡れている。
あぁ、またやっちゃった―――。
47: 名無しで叶える物語 2017/11/07(火) 21:35:38.04 ID:4x6tpkwX.net
仕方ないなぁ、とマルはハンカチを取り出して―――
口から零れ、頬まで達した涎を拭く。
枕になった本をそっと抜き出して―――
これくらいだったら、大丈夫かな。
水分をハンカチでふき取って、濡れたページにコピー用紙を挟む。
本を乾かしていたら、春のことを思い出した。
ヨハネちゃん―――あのときはまだ、善子ちゃんだったっけ。
ヨハネちゃんがリクエストしたアイドル図鑑を、ルビィちゃんが涎でべたべたにしちゃって―――
そこから、ちょっとずつ、ヨハネちゃんと話すようになって。
まだ、1年も経っていないのに―――なんだか、懐かしいな。
ページを扇風機の風に当てて、水気を飛ばす。
うん、そろそろいいかな―――
コピー用紙を新しいものに交換して本を閉じ、重しをする。
これでよし。
口から零れ、頬まで達した涎を拭く。
枕になった本をそっと抜き出して―――
これくらいだったら、大丈夫かな。
水分をハンカチでふき取って、濡れたページにコピー用紙を挟む。
本を乾かしていたら、春のことを思い出した。
ヨハネちゃん―――あのときはまだ、善子ちゃんだったっけ。
ヨハネちゃんがリクエストしたアイドル図鑑を、ルビィちゃんが涎でべたべたにしちゃって―――
そこから、ちょっとずつ、ヨハネちゃんと話すようになって。
まだ、1年も経っていないのに―――なんだか、懐かしいな。
ページを扇風機の風に当てて、水気を飛ばす。
うん、そろそろいいかな―――
コピー用紙を新しいものに交換して本を閉じ、重しをする。
これでよし。
48: 名無しで叶える物語 2017/11/07(火) 21:44:17.77 ID:4x6tpkwX.net
置きっぱなしのハンカチを仕舞おうと思って―――
涎を拭いて湿った部分に、ふと指が触れた。
…………。
う、うわあああああああ~~~~!
何を考えてるの、オラは―――!
……でも。
―――誰も、見ていない。
――――ちょっとくらい。
そう思って。
ルビィちゃんの涎を拭いた、そのハンカチを―――――
ちろりと。
舐めた。
涎を拭いて湿った部分に、ふと指が触れた。
…………。
う、うわあああああああ~~~~!
何を考えてるの、オラは―――!
……でも。
―――誰も、見ていない。
――――ちょっとくらい。
そう思って。
ルビィちゃんの涎を拭いた、そのハンカチを―――――
ちろりと。
舐めた。
49: 名無しで叶える物語 2017/11/07(火) 21:51:24.21 ID:4x6tpkwX.net
胸のドキドキが止まらない。
ルビィちゃんへの気持ちが―――
いけないことをしている背徳感が、興奮が―――
なにもかもが、おさまらない。
「ルビィちゃん」
耳元でつぶやき、ぷにと頬をつつく。
起きない。
大丈夫。
こうなったルビィちゃんは、なかなか起きない。
ルビィちゃんへの気持ちが―――
いけないことをしている背徳感が、興奮が―――
なにもかもが、おさまらない。
「ルビィちゃん」
耳元でつぶやき、ぷにと頬をつつく。
起きない。
大丈夫。
こうなったルビィちゃんは、なかなか起きない。
50: 名無しで叶える物語 2017/11/07(火) 22:00:11.04 ID:4x6tpkwX.net
ルビィちゃんのことなら―――ダイヤちゃんだって負けないくらい知っている。
かがんでルビィちゃんの顔を覗き込む。
綺麗な寝顔。
マルの世界で、一番愛おしい寝顔。
ゆっくりと――――顔を、近づける。
ほんのちょっとだけなら、いいよね。
唇を少しだけ尖らせて、目を閉じる。
ルビィちゃん、
大好き―――――――――。
かがんでルビィちゃんの顔を覗き込む。
綺麗な寝顔。
マルの世界で、一番愛おしい寝顔。
ゆっくりと――――顔を、近づける。
ほんのちょっとだけなら、いいよね。
唇を少しだけ尖らせて、目を閉じる。
ルビィちゃん、
大好き―――――――――。
51: 名無しで叶える物語 2017/11/07(火) 22:13:27.33 ID:4x6tpkwX.net
頭にぴりぴりとしたものが走る。
―――――快楽。
紅玉のような彼女の唇は、私の脳を溶かしてしまうような、甘さだった。
いや――――実際、溶かされてしまったのかもしれない。
ルビィちゃんのことしか、考えられない。
愛しくてたまらない。
惜しいけれど唇を離して、そっと目を開けると―――――
「……」
ルビィちゃんと、目が合った。
―――――快楽。
紅玉のような彼女の唇は、私の脳を溶かしてしまうような、甘さだった。
いや――――実際、溶かされてしまったのかもしれない。
ルビィちゃんのことしか、考えられない。
愛しくてたまらない。
惜しいけれど唇を離して、そっと目を開けると―――――
「……」
ルビィちゃんと、目が合った。
52: 名無しで叶える物語 2017/11/07(火) 22:22:33.49 ID:4x6tpkwX.net
慌てて飛び退いたけれど―――唇を、糸が伝っていた。
言い逃れはできない。
誰も見ていないわけがなかったんだ。
ここはミッションスクールの浦の星女学院。
マルはお寺の娘。
誰も見ていないように見えても―――神様はちゃんと見ている。
悪いことをしたら、罰が当たるずら。
「ま、マルちゃん―――」
ルビィちゃんが立ち上がった。
血の気が引くのを感じる。
近づいてくるルビィちゃんが怖くて、後ずさってしまう。
言い逃れはできない。
誰も見ていないわけがなかったんだ。
ここはミッションスクールの浦の星女学院。
マルはお寺の娘。
誰も見ていないように見えても―――神様はちゃんと見ている。
悪いことをしたら、罰が当たるずら。
「ま、マルちゃん―――」
ルビィちゃんが立ち上がった。
血の気が引くのを感じる。
近づいてくるルビィちゃんが怖くて、後ずさってしまう。
53: 名無しで叶える物語 2017/11/07(火) 22:28:55.59 ID:4x6tpkwX.net
――――怖い。
ルビィちゃんに嫌われた。
マルはいけないことをした。
勘違いしていたんだ。
あの小説の女の子に似ているからって、自分を主役だって勘違いしてた。
でも本当は違う。
オラは所詮ただの脇役で――――
主役のルビィちゃんに、触れていい人間じゃなかった。
それを履き違えて、ルビィちゃんを汚してしまった。
ルビィちゃんに嫌われた。
ルビィちゃん、
ごめんなさい―――――――
ルビィちゃんに嫌われた。
マルはいけないことをした。
勘違いしていたんだ。
あの小説の女の子に似ているからって、自分を主役だって勘違いしてた。
でも本当は違う。
オラは所詮ただの脇役で――――
主役のルビィちゃんに、触れていい人間じゃなかった。
それを履き違えて、ルビィちゃんを汚してしまった。
ルビィちゃんに嫌われた。
ルビィちゃん、
ごめんなさい―――――――
54: 名無しで叶える物語 2017/11/07(火) 22:39:08.62 ID:4x6tpkwX.net
えっと―――
ルビィ、マルちゃんの図書委員が終わるのを待ってる間、本を読んでたんだけど。
寝ちゃってたみたいで。
起きたらなんだか、息苦しくて。
唇がすごく熱くて。
目を開けたら、目の前にマルちゃんが居て。
何が起こってるのか、全然わからなくて――――
じーっとしてたら、マルちゃんの顔が離れて――――それと同時に、息苦しさも無くなった。
なんだか顔が真っ赤なマルちゃんを見つめていたら、ばっちり目が合って。
マルちゃんの口から、糸が引いているのが見えた。
ルビィ、マルちゃんの図書委員が終わるのを待ってる間、本を読んでたんだけど。
寝ちゃってたみたいで。
起きたらなんだか、息苦しくて。
唇がすごく熱くて。
目を開けたら、目の前にマルちゃんが居て。
何が起こってるのか、全然わからなくて――――
じーっとしてたら、マルちゃんの顔が離れて――――それと同時に、息苦しさも無くなった。
なんだか顔が真っ赤なマルちゃんを見つめていたら、ばっちり目が合って。
マルちゃんの口から、糸が引いているのが見えた。
55: 名無しで叶える物語 2017/11/07(火) 22:40:34.68 ID:4x6tpkwX.net
ルビィの口も、なんだか湿っているような気がして――――
口元に手を当ててみる。
――――ルビィ、またよだれ垂らして寝てた?
じゃ――――ないよね。
いや――――そうかもしれないけど。
じゃあ、なんでマルちゃんの口から、ルビィの方に糸が伸びていたの?
……。
あの息苦しい感じ。
唇に残ってる感覚。
もしかして――――
ち、ちち――――――ちゅー、してた、とか。
口元に手を当ててみる。
――――ルビィ、またよだれ垂らして寝てた?
じゃ――――ないよね。
いや――――そうかもしれないけど。
じゃあ、なんでマルちゃんの口から、ルビィの方に糸が伸びていたの?
……。
あの息苦しい感じ。
唇に残ってる感覚。
もしかして――――
ち、ちち――――――ちゅー、してた、とか。
56: 名無しで叶える物語 2017/11/07(火) 22:43:51.77 ID:4x6tpkwX.net
―――――あ、あわわわわわわ!!
みるみる顔が熱くなるのがわかった。
熱くて、熱くて、このまま燃えて死んじゃうんじゃないかってくらい、熱かった。
「ま、マルちゃ――――」
うまく、声が出せない。
だからマルちゃんに声が聞こえるように、近づこうとしたら――――
さっきまで真っ赤だったマルちゃんの顔は真っ青になって。
ふらふらと後ずさりして――――
「ごめんなさい――――」
ばたん―――って、糸が切れたみたいに倒れた。
「マルちゃん!?」
みるみる顔が熱くなるのがわかった。
熱くて、熱くて、このまま燃えて死んじゃうんじゃないかってくらい、熱かった。
「ま、マルちゃ――――」
うまく、声が出せない。
だからマルちゃんに声が聞こえるように、近づこうとしたら――――
さっきまで真っ赤だったマルちゃんの顔は真っ青になって。
ふらふらと後ずさりして――――
「ごめんなさい――――」
ばたん―――って、糸が切れたみたいに倒れた。
「マルちゃん!?」
57: 名無しで叶える物語 2017/11/07(火) 23:00:06.26 ID:4x6tpkwX.net
ぼんやりと―――意識が戻ってきた。
目を開けようとしたけれど―――
窓から差す夕焼けの眩しさに、また目を閉じてしまう。
「―――マルちゃん!」
「ルビィ、ちゃん―――」
「よかったぁ、目が覚めて―――突然倒れちゃったから、びっくりしたよぉ」
涙目のルビィちゃんが、上から覗きこんでくる。
気まずくて、ぷいと顔を逸らすと―――
目の前にあるのは、ルビィちゃんのお腹。
「あ、ごめんね。ルビィの膝じゃ、寝心地悪かったかな―――」
「ひゃあああ!」
ごん―――と。
慌てて飛び起きたら、ルビィちゃんとオラの頭が、鈍い音を立ててぶつかった。
目を開けようとしたけれど―――
窓から差す夕焼けの眩しさに、また目を閉じてしまう。
「―――マルちゃん!」
「ルビィ、ちゃん―――」
「よかったぁ、目が覚めて―――突然倒れちゃったから、びっくりしたよぉ」
涙目のルビィちゃんが、上から覗きこんでくる。
気まずくて、ぷいと顔を逸らすと―――
目の前にあるのは、ルビィちゃんのお腹。
「あ、ごめんね。ルビィの膝じゃ、寝心地悪かったかな―――」
「ひゃあああ!」
ごん―――と。
慌てて飛び起きたら、ルビィちゃんとオラの頭が、鈍い音を立ててぶつかった。
58: 名無しで叶える物語 2017/11/07(火) 23:03:49.88 ID:4x6tpkwX.net
「いたた……だ、大丈夫、マルちゃん―――」
ルビィちゃんが、オラを心配して伸ばしてくれたその手を―――払ってしまった。
「―――マル、ちゃん……?」
ルビィちゃんがまた、泣きそうになる。
「―――駄目だよ、ルビィちゃん。オラ―――ルビィちゃんに触られる資格なんて、ないずら」
あんなことをしてしまったんだから――
本来なら、もうここで―――
言葉を交わす資格すら、ない。
ルビィちゃんが、オラを心配して伸ばしてくれたその手を―――払ってしまった。
「―――マル、ちゃん……?」
ルビィちゃんがまた、泣きそうになる。
「―――駄目だよ、ルビィちゃん。オラ―――ルビィちゃんに触られる資格なんて、ないずら」
あんなことをしてしまったんだから――
本来なら、もうここで―――
言葉を交わす資格すら、ない。
59: 名無しで叶える物語 2017/11/07(火) 23:14:50.14 ID:4x6tpkwX.net
「そんなこと、言わないで」
ルビィちゃんは目を擦って、泣くのを必死に我慢して―――震える声でオラに話しかける。
「マルちゃん、覚えてるかな―――ルビィたちが、仲良しになったきっかけ」
「そんなの―――忘れるわけ、ないよ」
幼稚園のお泊り会の夜。
怖くておトイレに行けなかったマルに、手を差し伸べてくれたルビィちゃん。
自分だって怖くて仕方なかったのに、オラを助けてくれたルビィちゃん。
忘れたくても、忘れられない。
生まれ変わったって、絶対覚えてる。
「あの時もルビィ、こうやって手を伸ばしてたよね」
オラが払った手を、ルビィちゃんは―――再び、伸ばす。
「マルちゃんに資格が無いなら、ルビィがあげる」
ルビィちゃんは目を擦って、泣くのを必死に我慢して―――震える声でオラに話しかける。
「マルちゃん、覚えてるかな―――ルビィたちが、仲良しになったきっかけ」
「そんなの―――忘れるわけ、ないよ」
幼稚園のお泊り会の夜。
怖くておトイレに行けなかったマルに、手を差し伸べてくれたルビィちゃん。
自分だって怖くて仕方なかったのに、オラを助けてくれたルビィちゃん。
忘れたくても、忘れられない。
生まれ変わったって、絶対覚えてる。
「あの時もルビィ、こうやって手を伸ばしてたよね」
オラが払った手を、ルビィちゃんは―――再び、伸ばす。
「マルちゃんに資格が無いなら、ルビィがあげる」
60: 名無しで叶える物語 2017/11/07(火) 23:18:09.03 ID:4x6tpkwX.net
「だって、マルちゃん、は―――ルビィの、一生の、大切なっ、人、だからっ……」
「ぜったい、ずっと、いっしょ、だからっ……!」
涙がぼろぼろと零れる。
オラも、つられて泣いてしまう。
「でもっ…でもオラ、ひどいことを―――」
「ひどくないよっ!!」
「マルちゃん、キスってね、っ―――大好きな人と、するんだよっ……」
「マルちゃんが、ルビィにキスしたのは、嫌いだから?」
それは―――それだけは、絶対に、違う。
「エヘヘ―――;だよね♡」
「ぜったい、ずっと、いっしょ、だからっ……!」
涙がぼろぼろと零れる。
オラも、つられて泣いてしまう。
「でもっ…でもオラ、ひどいことを―――」
「ひどくないよっ!!」
「マルちゃん、キスってね、っ―――大好きな人と、するんだよっ……」
「マルちゃんが、ルビィにキスしたのは、嫌いだから?」
それは―――それだけは、絶対に、違う。
「エヘヘ―――;だよね♡」
61: 名無しで叶える物語 2017/11/07(火) 23:24:37.75 ID:4x6tpkwX.net
「ルビィたち、女の子同士だし―――ビックリもしたけど」
「でも、ルビィも、マルちゃんのこと―――大好きだから」
――――――――――――――――――――――――――――。
「えへへ、お返しっ♡」
「あ、あ―――」
「……な、なんて―――恥ずかしいね」
言うに事を欠いたマルは―――
「も―――もう、こんな時間ずら。早く行かないと、書店、閉まっちゃうよ」
なんて言って、誤魔化そうとした。
「いいよぉ、今度で」
「でも、ルビィも、マルちゃんのこと―――大好きだから」
――――――――――――――――――――――――――――。
「えへへ、お返しっ♡」
「あ、あ―――」
「……な、なんて―――恥ずかしいね」
言うに事を欠いたマルは―――
「も―――もう、こんな時間ずら。早く行かないと、書店、閉まっちゃうよ」
なんて言って、誤魔化そうとした。
「いいよぉ、今度で」
62: 名無しで叶える物語 2017/11/07(火) 23:34:24.79 ID:4x6tpkwX.net
「でも―――」
「本はいつでも読めるし、買えるでしょ?」
「今日はルビィ、マルちゃんとずっと一緒に居たい気分なんだぁ♪」
「―――ルビィちゃんが、そう言うなら」
「うんっ♪新しい本の代わりに―――この図書室のオススメの本、教えて?」
「でも、オラの好きな本って、ルビィちゃんにはちょっと―――」
「いいからっ!」
すくっと立ち上がったルビィちゃんはまた、手を伸ばす。
「―――いこ♡」
オラは、その手をぎゅっと握る。
「―――うんっ♡」
「本はいつでも読めるし、買えるでしょ?」
「今日はルビィ、マルちゃんとずっと一緒に居たい気分なんだぁ♪」
「―――ルビィちゃんが、そう言うなら」
「うんっ♪新しい本の代わりに―――この図書室のオススメの本、教えて?」
「でも、オラの好きな本って、ルビィちゃんにはちょっと―――」
「いいからっ!」
すくっと立ち上がったルビィちゃんはまた、手を伸ばす。
「―――いこ♡」
オラは、その手をぎゅっと握る。
「―――うんっ♡」
63: 名無しで叶える物語 2017/11/07(火) 23:39:23.83 ID:4x6tpkwX.net
おわりです
グッダグダになってしまって大変申し訳ございませんでした
グッダグダになってしまって大変申し訳ございませんでした
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