1: 名無しで叶える物語 2017/11/29(水) 22:50:33.10 ID:vYuTAiU1.net
寝そべりぬいぐるみという、かわいいぬいぐるみたちがいた


みんな曜ちゃんという裁縫の上手な女の子が作ったんだ


曜ちゃんの仕事場は、寝そべり村を見下ろせる丘のてっぺんにあったんだ


寝そべりぬいぐるみたちはみんないろんな個性を持って生活していたんだ


元気な顔したの
何にも考えてなさそうなの
帽子をかぶってたり
ちっちゃいのやとってもおっきいの


みんな一人の裁縫上手な女の子に作られて
同じ村に住んでいたんだ

2: 名無しで叶える物語 2017/11/29(水) 22:51:22.88 ID:vYuTAiU1.net
そして毎日朝から晩まで同じことをしていた

寝そべりぬいぐるみたちはお互いにシールをくっつけあうんだ


寝そべりぬいぐるみたちは金ぴかお星様シールとみにくい灰色のだめじるしシール、それぞれ別の箱に入れて、町中村中のあちこちで、お星様シール灰色だめじるしシールをくっつけあっていたんだ。


造形や布感触がいい寝そべりぬいぐるみは金ぴかお星様シールをいっつももらっていた。

でもエラー品やちょっと顔の形がヘンテコな寝そべりぬいぐるみたちは、だめじるしをくっつけられるんだ。

3: 名無しで叶える物語 2017/11/29(水) 22:52:21.50 ID:vYuTAiU1.net
才能のある寝そべりぬいぐるみたちも、お星様シールをもらえた。

くるっと一回転したり、
高く積んだ箱を、ヒョイっと持ち上げたりできる寝そべりぬいぐるみがいたんだ。

難しい言葉を知ってる寝そべりぬいぐるみや
歌が上手な寝そべりぬいぐるみもいた。

そんな寝そべりぬいぐるみにはみんなお星様をくっつけていた。


お星様だらけの寝そべりぬいぐるみ登場!
お星様もらうと気分は最高!

またすごいことをしてお星様が欲しくなっていくんだ。

4: 名無しで叶える物語 2017/11/29(水) 22:53:37.37 ID:vYuTAiU1.net
だけど何にもできない寝そべりぬいぐるみもいた。

そんな寝そべりぬいぐるみたちはみにくい灰色のだめじるしシールをくっつけられるんだ。


ちかっちはそんな寝そべりの一人だった。

みんなと同じように高く積んだ箱を思いっきりとんでみた。
でもいつも失敗ばかり。
みんなよってきてだめじるしシールをくっつけた。


あるときは失敗して表面が汚れちゃう
まただめじるしをくっつけられた
一生懸命言い訳をしようとしたけど、つまらないことを言ってしまって、まただめじるしをくっつけられた。

5: 名無しで叶える物語 2017/11/29(水) 22:54:50.22 ID:vYuTAiU1.net
しばらくすると体中みにくいだめじるしシールだらけ
おうちからでるのが嫌になった


「スカート捲れていないかな」

「転んで顔の形が歪んだら、まただめじるしだ」

「ヘマをしたらまただめじるしだ」



そんなことが心配でたまらなかった。

だってちかっちはもうすでにたくさんのだめじるしをつけていたから。

そしてみんなそんなちかっちを見て、珍しそうにまたおまけのだめじるしをくっつけていくんだ。

6: 名無しで叶える物語 2017/11/29(水) 22:56:02.88 ID:vYuTAiU1.net
「あの子はだめじるしがお似合いね」
「顔がレズじゃないわ」

寝そべりぬいぐるみたちはみんなそう言ってからかった。


「あいつはだめな寝そべりぬいぐるみだからな」


ちかっちはみんなからそう言われても、仕方がないと思うようになっていった。

「どうせ私はだめな寝そべりぬいぐるみだから…」
そうつぶやいた。


ちかっちは外へ出ると、同じようにだめじるしをいっぱいつけた、寝そべりぬいぐるみたちといつも一緒にいたんだ。

そっちのほうがずっと気が楽だったからね

7: 名無しで叶える物語 2017/11/29(水) 22:57:33.98 ID:vYuTAiU1.net
ある日、ちかっちは寝そべりぬいぐるみらしくない寝そべりぬいぐるみに出会った。


お星様シールもだめじるしシールもつけていないんだ。

名前を穂乃果といった。


みんな穂乃果にシールをくっつけようとしたんだけどくっつかなかったんだ。

8: 名無しで叶える物語 2017/11/29(水) 22:58:19.39 ID:vYuTAiU1.net
ある寝そべりぬいぐるみは、「だめじるしが一つもないなんてすごいですね」と駆け寄って穂乃果を褒めた

そしてお星様シールをくっつけようとしたんだけどシールはくっつかず、落ちてしまった。


今度は別の寝そべりぬいぐるみがやってきて

「お星様を一つもつけてないなんてありえませんわ」とバカにして
だめじるしをくっつけようとした

でもそれもやっぱりくっつかない。

9: 名無しで叶える物語 2017/11/29(水) 22:59:36.82 ID:vYuTAiU1.net
「私もあんなふうになりたいなぁ」とちかっちは思った。
「もう誰からもいいとか悪いとか言われたくないよ」

それでちかっちは、シールのないあの子にどうすればいいか聞いてみた。


「それなら簡単!」穂乃果は言った。

「毎日、曜ちゃんに会いに行くんだよ!」

「曜ちゃん?」ちかっちは聞いた。

「そう!曜ちゃん!裁縫の上手な女の子。仕事場に行って一緒にお話するんだよ!」

「どうして?」

「自分で確かめてみないと!丘のてっぺんだよ!すぐわかるよ!」


そう言って、シールのない穂乃果はスキップしながら行ってしまった。

10: 名無しで叶える物語 2017/11/29(水) 23:00:46.63 ID:vYuTAiU1.net
でも、私なんかに会ってくれるかなぁ?
ちかっちはさけんで聞いた
穂乃果にはもう聞こえていなかった

それでちかっちはおうちへ帰ったんだ。


家に帰ると窓のそばに座って
外で寝そべりぬいぐるみたちが、ちょこちょこと急ぎ足で、お星様やだめじるしをくっつけあっているのをじっと見ていた

「あんなの へんだよ」

ちかっちはそう独り言をつぶやいた。
そして 曜ちゃんに会いに行こうと決めたんだ。

11: 名無しで叶える物語 2017/11/29(水) 23:01:43.97 ID:vYuTAiU1.net
ちかっちは細い道をちょこちょこ登って
丘のてっぺんの 大きな仕事場の中に入っていった。


何もかもが おっきくて そりゃあ ちかっちのまんまるのおめめはもっとまんまるになった


背の高さより大きい椅子があった
作業机の上を見るのに背伸びをした。
ちかっちのお手手と同じくらいの道具があった
ちかっちは一生懸命驚きをこらえた


やっぱりやめとこう…
くるっと向きを変えて帰ろうとした。その時。
名前を呼ぶ声がした。


「ちかちゃん?」


それはきれいな大きな声だった。ちかっちは立ち止まった。

13: 名無しで叶える物語 2017/11/29(水) 23:02:51.12 ID:vYuTAiU1.net
「ちかちゃんだ!会いに来てくれたんだね! こっちに来て、私に顔を見せてくれないかな。」


ちかっちはおそるおそる振り返って
おっきな女の子を見上げた


「私の名前を知ってるの?」

ちっちゃな寝そべりぬいぐるみは、そう聞いた。


「もちろん知ってるよ!私がちかちゃんを作ったんだからね」

14: 名無しで叶える物語 2017/11/29(水) 23:04:09.31 ID:vYuTAiU1.net
曜ちゃんは かがみ込んでちかっちを拾い上げ、作業机の上にちょこんと置いた。


「う~ん」


作り主はみにくい だめじるしのシールたちを見て 思いやり深げに言った。


「ずいぶんたくさんつけられちゃったね」


「そんなつもりじゃなかったんだよ。曜ちゃん。私ね、一生懸命やったんだ。」


「うん。何もかもわかっているよ。愛しい子
他の寝そべりぬいぐるみたちがどう思おうと、気にしないよ」


「ほんと?」


「ほんとだよ。あなたも気にすることないよ。お星様やだめじるしをつけていったのは誰かな?
みんなあなたとおんなじ寝そべりぬいぐるみだよ!
みんながどう思うかなんて、大したことじゃないんだよちかちゃん。
もんだいはね、わたしが ちかちゃんのことをどう思っているかということだよ。
そしてね、わたしは ちかちゃんのことをとても大切だと思っている」

15: 名無しで叶える物語 2017/11/29(水) 23:05:25.57 ID:vYuTAiU1.net
ちかっちは笑ってしまった。


「わたしが大切?どうして? だってわたし、歩くのも遅いし飛んだり跳ねたりもできないよ。顔の表面も汚れちゃった。こんなわたしのことが どうして大切なの?」


曜ちゃんはちかっちを暖かく見つめた。

そして ちかっちのふわふわのお腹を抱えて目の高さまで持ち上げて ゆっくりと、こう 言ったんだ。


「それはね、あなたが 私のものだからだよ。だから大切なんだよ。」


ちかっちは今まで、誰からもこんなふうに見られたことはなかった。

まして 作り主からこんなふうに言われるなんてね。
嬉しくて、嬉しくて、言葉も出なかった。

17: 名無しで叶える物語 2017/11/29(水) 23:07:12.27 ID:vYuTAiU1.net
「毎日ちかちゃんが、ここへ来てくれることを願って待っていたんだよ」
と曜ちゃんは言った


「シール一つつけてない寝そべりぬいぐるみに会ってね、それで来たの。」
ちかっちは言った


「うん!知ってるよ!ちかちゃんのことを話してくれたよ」


「どうしてあの子にはシールがくっつかないんだろう?」


曜ちゃんは優しくこう言った

「それはね、私の言うことのほうが もっと大事だと、あの子が決めたからなんだよ。
みんながどう思うかなんてことよりもね。
シールがくっつくようにしていたのは、ちかちゃん自身なんだよ」


「どういうこと?」


「どんなシールがもらえるかってことを気にしていると シールのほうもあなたにくっついてくるんだ。
ちかちゃんが私の愛を信じたらシールなんてどうでもよくなるんだよ」


「よく わかんないや」

18: 名無しで叶える物語 2017/11/29(水) 23:08:17.97 ID:vYuTAiU1.net
曜ちゃんはにっこり微笑んだ

「今にわかるよ。時間はかかると思うけどね
こんなにもたくさんだめじるしシールをつけられたんだからね。
ともかく、これからは毎日 私のところにおいで
わたしが、ちかちゃんのことを どれくらい大好きか忘れないようにね!」


曜ちゃんはちかっちを作業机からおろして 床にそっとおいてやった。


「わすれちゃいけないよ」


外に出ようとする寝そべりぬいぐるみに 曜ちゃんはこう言った


「この手で作ったから あなたは大切なんだってことを。
それからわたしは失敗しないってこともね!」


ちかっちは立ち止まらず 心の中でこう思った。
ありゃ ほんとだ!


そして その時 一つの だめじるしシールが 地面に落ちた

19: 名無しで叶える物語 2017/11/29(水) 23:08:56.81 ID:vYuTAiU1.net
おしまい

引用元: 「「たいせつなきみ」」