幼女「ウソだよー、どうせ児童ポルノDVDとか持ってんでしょ？」

幼女「どっかの漫画家みたいに！」

誘拐犯「持ってない！」

誘拐犯「どこかの漫画家ってのは……あれか、和月か」

誘拐犯「あんな勝ち組がどうしてあんなことを……」

幼女「お兄さん、るろうに剣心好きだったの？」

誘拐犯「……ああ」

幼女「どのくらい？」

誘拐犯「十本刀だって余裕でいえるぐらいに好きだったよ！」

誘拐犯「“天剣”の宗次郎、“盲剣”の宇水、“明王”の安慈、“百識”の方治、“刀狩”の張」

誘拐犯「“大鎌”の鎌足、“飛翔”の蝙也、“丸鬼”の夷腕坊、“破軍（甲）”の才槌、“破軍（乙）”の不二」

誘拐犯「どうだ、すごいだろ！　破軍の甲乙をちゃんと覚えてる奴はそうはいないぞ！」

誘拐犯「ちなみに由美を十本刀だと思ってる奴とは友達になれない」

幼女「ものすごい早口だったね」

幼女「でもさ、イタズラはするんでしょ？　こんな美幼女と二人きりなんだし！」

誘拐犯「しないって！　俺は年下に興味ないんだ！」

幼女「信じられないなぁ」

誘拐犯「だったら俺の初恋の相手、教えてやろうか？」

誘拐犯「ポケモンの≪おとなのおねえさん≫なんだから」

幼女「わーお」

誘拐犯「それからというもの、惚れる相手はみんな俺より年上だった」

誘拐犯「部活の先輩、学校の先生、大学の講師、バイト先の社員さん……色々あったなぁ」

幼女「じゃあなんであたしを誘拐したの？」

誘拐犯「決まってるだろ。身代金をもらうためだよ」

誘拐犯「そういえば、君の親はお金を持ってるかい？」

幼女「持ってると思うよ」

幼女「ママは売れっ子のファッションデザイナーだし」

幼女「あたしがもっと幼い頃に離婚して、慰謝料を一千万円ぐらい手に入れてたし」

誘拐犯「そりゃあいい！　だったらその半分くらいもらってもバチは当たらないな！」

誘拐犯「じゃ、電話するか」

幼女「んー、無駄だと思うけどね」

誘拐犯「そんなことないさ。母親ってのはみんな我が子が可愛いはずさ」

誘拐犯「あのーもしもし」

母『なんでしょ？』

誘拐犯「お宅の娘さんは預かった。返して欲しければ、身代金500万円よこせ」

母『私の娘を？　アハハ、あの子はそうたやすくさらわれるタマじゃないわよ』

誘拐犯「え！？」

母『じゃあね～！』

ﾂｰﾂｰ…

誘拐犯「切られちゃった」

幼女「ね？」

誘拐犯「どうしよう……」

幼女「もう一回電話してみたら？」

誘拐犯「いや、多分ダメだろう。相手にされないのがオチだ」

誘拐犯「仕方ない、こうなりゃ直接会って交渉しよう！」

幼女の自宅――

誘拐犯「へぇ～、いいマンションに住んでるね。家賃高そう」

幼女「ママが頑張って稼いだおかげだよ」

誘拐犯「ファッションデザイナーってこんなに儲かるのか……」

幼女「あ、ママだ！」

誘拐犯「どれどれ……」

誘拐犯「！」ﾄﾞｯｷｰﾝｯ

母「あら、お帰りなさい」

母「なかなかステキな殿方を連れてるじゃないの」



誘拐犯「な、なんて……！」

誘拐犯「なんてキレイな人なんだ！　俺の好みドストライクじゃないか！」

幼女「！」

誘拐犯「あ、どうも、私あなたの娘さんを誘拐した者なんですけど」

母「ああ、もしかしてさっき電話くれた人？」

誘拐犯「そうですそうです」

母「よくあの子を誘拐できたわねえ、大変だったでしょ？」

誘拐犯「そりゃもう……実質誘拐したというより、誘拐させて頂いたようなもので」

母「ところで、ご要求は？」

誘拐犯「娘さんを返して欲しかったら、一緒にお茶でもいかがです？」

母「ちょうど仕事が終わったところだし、いいけど」

誘拐犯「ホントですか！」



幼女「む～……」ｲﾗｲﾗ

幼女「なによ！」

誘拐犯「！」ﾋﾞｸｯ

幼女「あたしのアプローチには見向きもしなかったくせに……ママのことはナンパして！」

誘拐犯「あ、ごめんよ……」

母「あら、もしかしてジェラシー？」ｸｽｯ

幼女「うう～……！」

幼女「お兄さんのバカッ！」ﾀﾀﾀｯ



誘拐犯「ああっ！」

母「心配ないわよ。さ、お茶に行きましょ」

誘拐犯「しかし……！」

母「大丈夫よ。さ、行きましょ」

誘拐犯「このっ！」ﾊﾟｼｯ

母「！」

誘拐犯「あなた、自分の娘が心配じゃないんですか！　ませてるとはいえまだ子供なんだぞ！」

母「……ごめんなさい。目が覚めたわ」

誘拐犯「あの子の行きそうな場所を捜しましょう！」

母「分かったわ」

誘拐犯「たとえばどこでしょう？」

母「そうねえ……」

母「レトロな喫茶店とか、場末の居酒屋とかスナックとか、ホームレスの溜まり場とか……」

誘拐犯「あまり驚かなくなってる自分がいますよ」

誘拐犯「とにかく、片っぱしからあたってみますか」

母「……ありがとう」

……

…………

誘拐犯「……ダメだ、見つからない」

母「あの子ったら、どこ行ったのかしら？」

ﾌﾟﾙﾙﾙﾙ…

母「電話だわ。しかも非通知」

誘拐犯「もしかしたら、あの子かもしれませんね」

母「もしもし」

電話『お前の娘は預かった』

母「！」

電話『返して欲しければ、身代金一千万円用意しろ』

電話『用意したら、これからいう場所に来い』

電話『警察に知らせたら、娘の命はないと思え』

電話『場所は――……』

誘拐犯「どうでした？」

母「娘は……誘拐されちゃったみたい」

誘拐犯「なんですって！？」

母「どうしましょう……私のせいだわ」ｶﾞｸｯ

母「もしあの子に何かあったら……」

誘拐犯「大丈夫！」

母「！」

誘拐犯「ここにも誘拐犯がいるんですよ？　誘拐されたのなら、誘拐し返しましょう！」

母「……うん」

ﾌﾞﾛﾛﾛﾛ…

誘拐犯（車もいい車だなぁ）

母「あなたがいてくれて助かったわ。一人だったらもっと心細かったもの」

誘拐犯「いえいえ。ところで犯人はどんな奴でした？」

母「機械で声を変えてて、よく分からなかったわ」

誘拐犯「いわゆるヘリウム声ってやつですか」

母「そうそう」

誘拐犯「こうも短時間であの子をさらって、そんなものまで用意して……」

誘拐犯「明らかに計画的な犯行ですね」

誘拐犯「しかし……疑問があります」

母「なに？」

誘拐犯「あなたもいってましたけど、あの子がこうもやすやすと捕まりますか？」

誘拐犯「俺も誘拐する時とても苦労しましたし、誘拐してからも主導権握られっ放しで」

誘拐犯「それに一千万って金額、あなたが手に入れた慰謝料の額と同じですね」

誘拐犯「ってすみません！　あの子が話してくれたからつい……！」

母「！」ﾊｯ

母「犯人が……分かったわ」

誘拐犯「え！？」

母「犯人は――」

母「私の元旦那よ」

誘拐犯「あっ……！」

誘拐犯「どっ、どんな人だったんですか？」

母「いい人だったわ。イケメンで、いい大学出て、優秀なビジネスマンだった」

母「といってもそれは表面だけのことだったけど」

母「どこかの会社の令嬢と知り合ったら、あっさり私に離婚しようっていってきたわ」

母「当時まだ売れてないデザイナーの私と、社長令嬢。月とスッポンだものね」

母「私もあの人と長々争うのは嫌だったから、一千万だけもらってとっとと別れちゃったけど」

誘拐犯「……」

誘拐犯「旦那さんが犯人なら、あの子がやすやす捕まる理由も分かります。実の父親なんですから」

誘拐犯「しかし、なにが目的なんでしょう？」

母「さあね……あの人の考えてることは分からないわ。今も昔も」

母「でも、いつも車の後部座席に乗せてるアレが役に立つ時が来たようね」

誘拐犯（後部座席にはボストンバッグが置かれている……）

誘拐犯（まさか、あの中には武器が……！？）

ﾌﾞﾛﾛﾛﾛ…

どこぞの倉庫――

元旦那「やぁ、待ってたよ」

幼女「あっ、ママ！」

母「やっぱりあなただったのね」

元旦那「気づいてたか。まぁ気づいてもらうためにあんな額を要求したわけなんだけどね」

元旦那「身代金自体はどうでもいいんだ」

母「今さらどういうつもり？」

元旦那「いやぁ～、実はね……」

元旦那「あの社長令嬢とは別れちゃったんだ」

元旦那「でさ、やっぱり独り身は寂しいんだよね。だからさ、また家族三人でやり直さないか？」

母「ふざけないで」

元旦那「ふざけてなんかないさ」

母「散々やり直しましょうっていった私をひっぱたいたのは誰よ」

元旦那「都合の悪いことは忘れる主義でねえ」

元旦那「今度こそ、君と娘を大切にするよ！　さぁ、やり直そう！」

母「嫌よ！」

元旦那「……分かってねえなぁ」

元旦那「こっちには人質がいるんだぞ？」

元旦那「お前は俺と復縁するしかねえんだよ」

幼女「ママ、あたしのことはいいから……！」

元旦那「黙ってろ」ｶﾞｼｯ

母「……！」



誘拐犯「いや、その子は人質じゃない」ｻﾞｯ…

誘拐犯「なぜなら今から俺が誘拐するからだ！！！」

元旦那「なっ！？　誰だ！？」

誘拐犯「うおおおおおおおっ！　縮地！」ﾀﾀﾀﾀﾀｯ

元旦那「なんて微妙なダッシュだ！　決して遅くはないが別に速くもない！」

誘拐犯「俺につかまれっ！」ｻｯ

幼女「うんっ！」ｶﾞｼｯ

元旦那「させるかぁっ！」ｶﾞｼｯ

誘拐犯（しまった！　華麗にこの子をかっさらうはずが……！）

ｸﾞｸﾞｸﾞｯ…

幼女「ううう……」

元旦那「娘の右手を私が持ち、左手は君が持ったというわけか」

元旦那「面白い！　どっちがこの子の親に相応しいか、引っぱり合いといこうじゃないか！」

誘拐犯「いいだろう！」

元旦那「いくぞぉっ！」ｸﾞｲｯ

誘拐犯「むんっ！」ｸﾞｲｯ

ｸﾞｸﾞｸﾞｸﾞｯ…

幼女「い、痛い！」

元旦那「放すかよぉっ！」

誘拐犯（ダメだ、これ以上引っぱり続けたらあの子が……！　放さないと！）

幼女「はなさないで！」

誘拐犯「！？」ﾋﾞｸｯ

幼女「子供に痛みを味わわせないために手を放す。たしかに美談になるかもしれないわ」

幼女「だけど、あたしは自分のパパには、たとえあたしが泣き叫んでも手を放して欲しくないの！」

誘拐犯「……分かった！　所詮この世は弱肉強食……シャアアアアッ！」

元旦那「うおおおおっ！　たとえ娘の肩が抜けようと引っぱってやる！」

ｸﾞｸﾞｸﾞ…

ﾇﾙｯ

元旦那「！？」

元旦那「すっぽ抜けたッ！」



ﾄﾞｻﾞｧｯ

誘拐犯「やった！」

幼女「あ～、痛かった……」

元旦那「ぐぐぐ……！」

誘拐犯「勝負あったな」

誘拐犯「これでこの子は俺のものだ！　分かったな！」

元旦那「ち、ちくしょう……！」

母「……」ｺﾂｺﾂ

元旦那「？」

母「あなたにずっと渡したかったものがあるの」

元旦那「なんだ……？」

元旦那（もしかして婚姻届か！？）

母「はい、これ」

ﾄﾞｻｯ…

元旦那「これは……！」

母「あなたからもらった一千万。まったく手をつけてないわ」

母「いつか叩き返してやろう叩き返してやろうって、ずっと車の中に入れてたの」

母「ただし、二度と近づかないでね。私たち三人に」

元旦那「あうぅぅぅ……」ｶﾞｸｯ

誘拐犯「彼は再起不能だろうな……まるで雷十太のように打ちひしがれてるよ」

母「雷十太って誰？」

誘拐犯「るろうに剣心に出てくる剣客で、秘剣――」ﾍﾟﾗﾍﾟﾗ

幼女「るろ剣の話はストップ！」

誘拐犯「しかし、よく都合よく手がすっぽ抜けてくれたな」

誘拐犯「あれ以上引っぱり合いが続いたら、さすがに放しちゃうところだったよ」

幼女「えへへ～、これ！」ｷﾞﾄｷﾞﾄ…

誘拐犯「あっ、これは！」

誘拐犯「フライドチキンの油か！」

幼女「うん、引っぱり合いになる予感がしたから、右手に塗ってたの！」

誘拐犯「やるなぁ！」

母「さすが私の娘ね」

ﾌﾞﾛﾛﾛﾛﾛ…

誘拐犯「いやぁ～、すごい一日だったな」

幼女「ところでさ、いつお兄さんとママは結婚するの？」

誘拐犯「ふぇ！？」

母「私はかまわないわよ。私、ハートをあなたに誘拐されちゃったみたいだし……」

誘拐犯「ア、アハハハ……」

誘拐犯「じゃあとりあえず、結婚を前提にお付き合いお願いします！」







～おわり～