1: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2018/01/09(火) 12:00:38.05 ID:J1t1zDf6O
【勇者宅 自室】

勇者「俺の名前は勇者。なんでも生まれた時に“聖痕”なんてもんがケツにあったお陰で神官は大騒ぎ。王様にまで上告した」

母上「勇者ぁ~! 朝よぉ~! 起きなさぁあ~い」トントン

勇者「そして、扉をノックしているのは我が親の片割れ(妻)。王様から金を積まれて18歳になったら魔王退治の旅へと行かせる約束した……」

母上「寝てるのぉ? 開けるわよぉ?」

勇者「うるさいな! 自己紹介の最中に話しかけないでよママン!」

母上「……あら? 起きてるじゃなぁ~い。ちゃんと返事はしないとぉ~」

勇者「い、嫌だからな! 俺は王様のところなんて行かへんぞ!」

母上「またそんな駄々こねぇてぇ。みんなの希望なのよぉ?」

勇者「希望なんてクソくらえ! 誰が死にに行きたいもんか!」

母上「それにぃ、お金も~」

勇者「やっぱり金か畜生!」

母上「うふふ~。今日が旅立ちの日ねぇ~」

勇者「いやだ。俺はいやなんだ。なんで俺ばっかり、というか、ピンポイントで俺だけ」

母上「さぁ、朝ごはんできてるから、食べなさい~。下でお父さんも待ってるわよぉ~」

勇者「なぁ、母上。やっぱり、俺には無理だ……」

母上「あらあらぁ~。そんな弱音を吐く子に育てた覚えはないんだけどぉ~」シャキン

勇者「ひっ⁉︎ ほ、包丁を構えるのはやめて⁉︎」

母上「しごきたりなかったのかしらぁ? 親失格でお母さん悲しいわぁ」ユラァ

勇者「た、足りてる! 足りてるよ! いやぁ! 行きたい! 行きたいなぁ! 魔王なんかけちょんけちょん! ほら、こうやって、この枕め! おりゃ!」ボスボス

母上「……」ジィー

勇者「はっ! 魔王なんて楽勝だぜ! 雑魚が!」チラ

母上「そうよねぇ」ニコォ

勇者「……ふぅ」

母上「それじゃあ、下で待ってるからぁ~。はやく降りてくるのよぉ~」ギィー バタン

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2: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2018/01/09(火) 12:17:59.61 ID:J1t1zDf6O
【勇者宅 居間】

父上「シャオラッ! シャオラッ!」ブン ブン

勇者「母上。つかぬことを聞きますが父上は居間でなぜに斧をふりましておられるので?」

母上「ご近所の武器屋さんから頂いたみたいねぇ。勇者のめでたい旅立ちを祝してってぇ~」

父上「おっ! 起きたか! まったく、旅立ちの日にまで朝寝坊するとは肝っ玉の据わったやつだ! さすが俺の息子!」

勇者「(引きこもりたかっただけなんだけど)」

父上「ガハハハッ!」キラン

勇者「(正直に言ったら斧で一刀両断されそうな気がする)」

母上「貴方もそれぐらいにしてぇ~。今日は家族揃って最後の朝食になるかもしれないんだからぁ」

勇者「不吉なこと言わないでくれる⁉︎」

父上「そうだな……。勇者、立派になって。俺は、俺はっ、ぐすっ」

勇者「ち、父上。泣いてるの? そんな、俺なんかまだまだ」

父上「さ、飯でも食うか」ケロッ

勇者「あー、そうですか。あんたらマイペースだったわ」

父上「ところで勇者。伝えわすれていたが、お前今日からこの家出入り禁止な」

勇者「はぁっ⁉︎ なんで⁉︎」

父上「魔王倒したら入っていいぞ」

勇者「俺の家だろーが!」

父上「おい、テメェ誰に口きいてやがる」ポキポキ

勇者「僕の家です、はい」

父上「早い話が王様に親権を譲った。今日からお前は王様の子」

母上「私たちも涙をのんでぇ~。だって、勇者がそうすれば王族になれるしぃ」

勇者「そんな……」

父上「そして、俺たちも王様に恩を売ってがっぽり、ごほん」

母上「あなたぁ、今度ここの温泉に行きたいわぁ」

勇者「それでいいのかよ!」

父上「……」

勇者「俺を育ててくれたんだろ⁉︎ 俺を生んでくれたんだろ⁉︎ そりゃ親孝行はしてないかもしれないけど」

母上「勇者……」

勇者「父さん、母さん……」

父上「いい」キッパリ

勇者「……っ!」プルプル

父上「いずれお前も大人になる。そうなったら嫁ができ、家庭を持ち、自分の子を持つだろう。そうなった時に、俺の気持ちがわかる。お前のためなんだ」

勇者「……俺の、ため」

3: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2018/01/09(火) 12:32:49.04 ID:J1t1zDf6O
父上「なんて言うと思ったか!」

勇者「えっ」

父上「ウジウジしてんじゃねぇ! 男だろ! 魔王倒してこい!」

勇者「そんな、無理やり」

父上「世の中なんてもんはなぁ、理不尽の塊なんだ! 社会勉強と思って行ってこい! お前にゃ女神様の加護がついてる!」

勇者「加護って、クジ運なんて一度もよかったことないよ」

父上「あぁん?」キラン

勇者「……わかったよ。俺なんかどうせ、どうせいらない子なんだ。邪魔者なんだろ!」

父上「ようやくわかったか」

母上「あ、あなた……」

父上「黙っていなさい」

勇者「だったらお望みどおり出ていってやるよ!」ガタ

母上「あ、朝ごはん……」

勇者「く……っ! うっ、ぐすっ」ダダダッ バタン

父上「やれやれ……。相変わらず慌てん坊なやつだ」

母上「本当によかったの?」

父上「にこやかに笑って見送る、それができればなぁ。だが、泣いてしまいそうで」

母上「……もう、見栄っ張りなんだからぁ」

父上「あいつも18。いつかは自立しなければならない。信じよう、俺たちの息子を」

母上「(勇者……。辛かったら帰ってくるのよ……)」ホロリ

4: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2018/01/09(火) 15:20:08.88 ID:TqZDSh6WO
【城下町】

勇者「とは言ったものの。どうしたもんかなぁ」テクテク

道具屋店主「勇者! ついに旅立ちだな! 期待してるぜ!」

勇者「あ、ども」ペコ

武器屋店主「おっ、王様に謁見しにいくのか! 頑張れよ!」

勇者「ウース」ペコ

老人「あの頼りない子供が」

勇者「俺って立派に見える?」

老人「……やはり、子供のままじゃの」

勇者「……」ガックシ

犬「ワンワン!」

勇者「いいよなぁ、お前は。なんにも悩みなさそうで」

犬「わん?」

勇者「毎日与えられた飯くって、ゴロゴロして、遊んでさ。俺もそんな生活送りてぇなぁ」ナデナデ

犬「ハッハッ」

勇者「王族になりゃそんな生活……だめか。俺は魔王退治で送りだされちゃうもんな」

兵士「勇者か」

勇者「ん? おや、兵士さんじゃありませんか。いまから出勤ですかい?」

兵士「村人Aみたいな喋り方をするんじゃない。まったく、こいつは」

勇者「俺は元々そんなもんすよ」

兵士「王様に謁見だろう。お前を迎えにいっていたところだったのだ」

勇者「はぁ、それはお疲れさんです。じゃ、俺はこれで」クルッ

兵士「待たんか」ガシッ

勇者「勇者ならあっちにいました」

兵士「三文芝居をするんじゃない。ほら、いくぞ」グイ

勇者「いやじゃ~~~! 堪忍してぇ~~~~!」ズルズル

5: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2018/01/09(火) 15:39:56.86 ID:TqZDSh6WO
【王城 謁見の間】

王様「ワシが王様でアル」

勇者「はい」

王様「……え? そんだけ?」

勇者「はい?」

王様「もっと、ははーっとか、本日はご機嫌麗しゅうとかないの?」

勇者「子供の頃から知ってるじゃないですか」

王様「あ、そう。……うぉっほんっ、勇者よ! よくぞまいった!」

勇者「(やりたいのね)」

王様「此度の日をどれだけ待ち望んだことか! まずは18の誕生日、おめでとう。祝福するぞよ」

勇者「ありがたき幸せ」ペコ

王様「うむ。と、同時に女神様のお告げどおりの旅立ちの日でもある」

勇者「……」

王様「お主にはこの世界を魔王の脅威から救ってもらわなきゃならん。引き受けてくれるな? 勇者よ」

勇者「いや」

王様「まさかイヤなどとは言うまいて。まさかのぅ」

勇者「あの、ちなみに断ったらどうなるんです?」

王様「税金」ボソ

勇者「え?」

王様「実はの、お主の家だけは税を特別免除しいて、尚且つ、毎月お金を振り込んでいた。勇者という理由での。断れば今までの分を請求する」

勇者「そ、そんな話はじめて聞きました」

王様「まぁ家計事情なんて子供には普通話さんじゃろ」

勇者「(父さんがロクに仕事もせずに毎日過ごせてたのはそういうことか……! クソ親父め!」

王様「ちなみにじゃが、ワシも養子縁組したのは聞いとる?」

勇者「あ、それは今朝」

王様「うむうむ。よって、請求は親にではなく勇者本人にいくことになる」

勇者「なんでだよ!」

王様「だって、実の親とは赤の他人じゃもん。わしも肩代わりするつもりないし。無能の」

勇者「無能って言うな! あの、ちなみに請求っておいくらまん?」

王様「ざっと軽く見積もって300万ゴールドってとこかの」

勇者「さ、さ、さ、さ、さんひゃくっ⁉︎」

王様「18までずっと支給しておったんじゃ。当たり前じゃろ」

勇者「買ってもらったおもちゃといえば竹とんぼだけなのに」

王様「それは1ゴールドじゃの」

勇者「あの、分割とかはもちろんできるんですよね?」

王様「ならん。一括で返納してもらう」

勇者「一括で⁉︎ 無理に決まってる!」

王様「それならば、そうじゃな。やっぱり魔王退治にいってもらうしかないの」

勇者「め、めちゃくちゃや。こんなの」ガックシ

6: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2018/01/09(火) 15:53:23.27 ID:TqZDSh6WO
大臣「王様、よろしいですかな?」

王様「お、おお。大臣、おったのか。よいぞ」

大臣「失礼致します。勇者よ、話を聞け」

勇者「なんでせう?」

大臣「泣くな。うっとうしい。旅立ちの手引き書を用意した。これ」ゴソゴソ

衛兵「はっ!」ザッ

勇者「手引き書?」

衛兵「受け取れ」スッ

勇者「……向かう場所、ですか」ペラ

大臣「なにはともあれ旅には仲間がつきものだ。アイーダの酒場で仲間を募集しろ。そして次の国に向かうのだ」

勇者「……」ペラ ペラ

大臣「そして――……」

勇者「あ、あのっ! ちょっといいですか!」

大臣「なんだ?」

勇者「この、ダーマ神殿てなんすか⁉︎ 転職できるって書いてありますけど!」

大臣「そのままの意味だ。職とは、女神様により定められた天命。だが、その洗礼を変えることができる」

勇者「行きます! 俺行ってきます!」

大臣「……?」

勇者「急ぐなくては! じゃ、そゆことで!」ダダダッ

王様「お、おい、勇者よ」

大臣「……」

王様「走って行きおった」

大臣「よもや、勇者も転職できると思ってるんじゃないでしょうか」

王様「できんのにのぅ」

10: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2018/01/09(火) 16:28:24.88 ID:TqZDSh6WO
【再び城下町】

勇者「ひゃっほーーーーい! 俺の人生はバラ色だぁーー! 勇者とおさらばでっきるぅ~~~! スキップスキップランランラン♪」

子供「ママァ。あの人」

母親「シッ。見ちゃいけません」

勇者「なんだよ、こんな神殿があるならもっとはやくいっときゃ……いや、待てよ」ピタ

アイーダ「勇者」

勇者「あれ? 結構遠くね? まずいんじゃないか、これ。モンスター多いだろうし」

アイーダ「勇者ってばよ」パコーン

勇者「いっ、てぇなぁ! 誰だよ、頭はた、いた……の?」

アイーダ「あたしだよ」

勇者「こ、これはこれは。腕っ節が強いで評判のアイーダおばさまじゃないですか」

アイーダ「あいかわらず腰の低い子だねぇ」

勇者「いやいや、あっしなんてもう」

アイーダ「誰があっしだよ。ふざけてないでうちにきな」

勇者「なぜでしょーか」

アイーダ「この鳥頭は。王様からなにも聞いてないのかい?」

勇者「あ、あぁ! そういえばなんか言ってたような」

アイーダ「うちにくれば名簿に登録してあるやつと連絡がとれる。仲間、必要だろ?」

勇者「仲間、仲間ねえ。たしかに神殿にいくには仲間がいた方が……アイーダさんってダーマ神殿聞いたことあります?」

アイーダ「あん? ダーマって転職ができるとこだろ?」

勇者「さすが! 荒くれ者どもと繋がりがあるってことは事情通!」

アイーダ「ほんで? それがどしたい?」

勇者「あのですね、ちょびっと気になったんですけどもぉ、転職ってどんな職があるのかご存じです?」

アイーダ「職? あぁ、戦士とか武闘家とか?」

勇者「うんうん」

アイーダ「あとは、魔法使いに僧侶、踊り子」

勇者「そんでそんで?」

アイーダ「一風変わって遊び人とか」

勇者「キタ━(゚∀゚)━!!」

アイーダ「うお、な、なんだこいつ」

勇者「勝つるwwwwこれで勝ったも同然ww」

アイーダ「……」

勇者「うひょおおお! やったぜ! ハーレルヤー!」

アイーダ「……頭おかしくなった?」

勇者「アイーダさん! ありがとう!」ガシッ ブンブン

アイーダ「いたっ、いたたっ、握手はいいけどちょっと」

勇者「そうとわかれば、やはりさっさと行かなければ」ダダダッ

アイーダ「お、おいっ! 仲間はっ⁉︎」

勇者「俺には必要ない! むしろ足手まといだ!」

アイーダ「お、おぉ……」

勇者「待ってろよぉ~~~~っ!!(ダーマ神殿!!)」


17: ◆7Ub330dMyM 2018/01/09(火) 18:54:00.70 ID:76b4/dYJO
【アイーダ酒場】

戦士「ふっ、ロイヤルストレートフラッシュ」

僧侶「ひぃ~ん、ツーペア。負けましたぁ」

魔法使い「やるじゃない。戦士」

戦士「あたしはポーカーは得意なんだ。それに、僧侶、顔に出すぎだよ」パサ

僧侶「素直って褒めてくれてるんですか?」

戦士「……たしかに、素直なんだろうけど、なんだろう、あざとさを感じるのは」

僧侶「チッ」

戦士「いま舌打ちしたろ⁉︎」

魔法使い「ふふっ、僧侶なんて雑魚よ。ポーカーといえばこの私。大魔法使いであるこのわ・た・し、でしょ」

戦士「なんだ? やるのか? 勝負事なら手は抜かないよ?」

魔法使い「真面目ね。もっと肩の力抜いたら?」

戦士「遊びだからって勝負は勝負だ。下手な言い訳はしたくねぇ」

魔法使い「女のくせに、男みたいな口ぶりして」

戦士「あたしは女を捨てたんだ。そんなの関係ないね」

魔法使い「そこまで言うなら……なにか賭ける?」

僧侶「か、賭け事はだめですよぉ」

戦士「挑発してんのか? いいぜ、乗ってやるよ」

魔法使い「戦士、貴女もどうせ勇者のパーティーに入りたくてこの街に来たクチでしょ?」

戦士「勘違いすんな。勇者ってのがどんなのか見定めてから決めるつもりだ」

魔法使い「ふーん。ま、どうでもいいけど。私もそう。あぁ、そうっていうのは勇者御一行の仲間入りしたいってことね」

戦士「……それで?」

魔法使い「負けたら、候補から降りるってのはどう?」

戦士「なんだと?」ギロ

魔法使い「見てみなさいよ、店の中。私たちだけじゃない。……どこから聞きつけたのか、今日が勇者の旅立ちの日だと知った冒険者で超満員」

戦士「なぁ~るほど。ライバルは減らしたいってわけ」

魔法使い「私の見立てによれば、他は雑魚。あなたは別格。たたずまいでわかるもの」

僧侶「……」

魔法使い「もちろんあなたもね、僧侶」チラ

僧侶「えっ? わ、わわわたしですかっ?」

魔法使い「猫かぶるのをおやめよ。実力者は実力者でグループを作る」

18: ◆7Ub330dMyM 2018/01/09(火) 19:07:11.73 ID:76b4/dYJO
僧侶「で、でもぉ~私たちは職も違いますしぃ~蹴落とす必要ないんじゃないですかぁ?」

魔法使い「それもそうだけど、もし少人数しか選ばれなかった時に面倒だもの。私はどうしても勇者についていきたいの」

戦士「なんだぁ? 勇者がへっぽこなやつでもか?」

魔法使い「どんなやつでも、よ。“聖痕”という証拠がある以上、勇者であることに疑いはない。魔王を滅ぼし、魔物に殺された母様の仇を討ちたい……!」

戦士「……よし、わかった。お前についていくだけの理由があるとは察した。だがな、あたしだってただ見るためにここにきたわけじゃねぇ」

魔法使い「えっ、だってあんたさっき」

戦士「あたし達は今日はじめて会ったんだ。そんな奴らに本音を言うはずないだろ」

魔法使い「うっ」

戦士「だが、さっきのあんたの仇という言葉を聞いて気持ちが変わった。あたしは、自分の実力を試すために勇者についていきたい」

魔法使い「修行感覚ってわけ? 遊びのつもり?」

戦士「てめぇ……! 身体中にある傷跡を見てそれ言ってんのか? あたしの決心が遊びだと……?」

魔法使い「……」ゴクリ

戦士「女を捨ててまで武芸に身を打ち込んでるんだ。遊びなわけないじゃないの」ガン

魔法使い「……悪かったわよ」

戦士「僧侶、あんたはどうなんだい?」

僧侶「えっとぉ~、私は神官様に言われてここに来たっていいますかぁ~」

戦士「だったら帰んな。神官様とやらには“選べれなかった”と言えばいいだけ」

僧侶「えっとぉ~えっとぉ~」

魔法使い「イライラするわね、この女。私達がわざわざ本音で話してるのに」

僧侶「でもでもぉ~、貴女達が勝手に話しだしただけって言いますかぁ~」



19: ◆7Ub330dMyM 2018/01/09(火) 19:39:01.42 ID:76b4/dYJO
魔法使い「要するに、私達には話しする気ないってわけ?」

僧侶「はうぅ、そんな、極端ですよぉ。女神様も争いは嫌ってらっしゃいますぅ~」

戦士「たしかに……イライラするね。魔法使い、あんたとは気が合いそうだ。僧侶、あんたのその喋り方、なんとかならないのか?」

僧侶「うぅ」

魔法使い「頭悪いんじゃないの? いいえ、悪そうに見えるわよ? 本当に悪いんならお気の毒だけど」

僧侶「……黙って聞いてりゃ調子のってんじゃねぇぞアバズレどもが」ボソ

魔法使い「……!」

戦士「ん? なんか言ったか?」

僧侶「い、いえ~」ニコォ

魔法使い「(聞こえたわよ、やっぱりこいつ)」

僧侶「そ、そうだぁ! ポーカーやるんじゃないんですかぁ?」パン

戦士「あぁ、そうだったな。どうすんだ? 勇者の仲間入りの条件、賭けるのか?」

魔法使い「もちろん。でも、戦士だけじゃないわ。僧侶、あなたも勝負に参加して」

僧侶「え、えぇ? なんで私までぇ?」

戦士「勇者についてく理由がないから参加しても平気だろ」

僧侶「だ、だからぁ。神官様のご提示がぁ」

魔法使い「カード、切るわよ」パサ

戦士「ああ」

僧侶「ひ、人の話を聞いてくださぁ~い」

アイーダ「勝負はする必要ないよ」スッ

戦士&僧侶&魔法使い「アイーダさん?」

アイーダ「トランプをしまいな。集まった猛者ども! みんなよく聞け!! 酒を飲む手を止めてこっちに注目だ!!」パン パン

戦士「勇者がついにくるのか……?」

魔法使い「そのようね」

アイーダ「いいか、勇者は、勇者は……」

僧侶「……」ゴクリ

アイーダ「たった今、旅立った! よって、本日の営業は終わり!!」

店内「は、はああああぁぁぁっ⁉︎」

20: ◆7Ub330dMyM 2018/01/09(火) 19:45:55.66 ID:76b4/dYJO
アイーダ「一人で行っちまった! お前らには悪いが、足手まといだそうだ!! 酒代はチャラにしといてやるよ」

戦士「な、なんだと……?」

魔法使い「そ、そんなのって、あり?」

僧侶「……」

アイーダ「あんた達も。ポーカーなんてやる必要ないんだ。荷物をまとめて故郷にお帰り」

戦士「は、はは。なんて野郎だ。一人で魔王退治だと。そんな肝っ玉座ってる男見たことも聞いたこともねぇや」

アイーダ「あん?」

魔法使い「それほどの強者。さすが勇者ってわけか……」

僧侶「勇者様はいつ頃出発されたのですかぁ?」

アイーダ「つい今しがた」

僧侶「ありがとうございますぅ~」ゴソゴソ

アイーダ「おい、あんたまさか」

僧侶「杖は、あ、ここだ。よいしょっと。それでは私はここで~お疲れ様でしたぁ~」イソイソ

アイーダ「ふぅ……やれやれ」

魔法使い「これから、どうしよ。どうしたらいいの」

戦士「……くっ、まだ修行が足りなかったのか」

アイーダ「あんた達は僧侶と一緒に行かなくてよかったの?」

魔法使い「故郷は別々ですし」

アイーダ「はぁ? あんたら気づいてないのかい? あの子、勇者を追いかけていったよ」

戦士&魔法使い「な、なんですって(だって)⁉︎」ガタッ

アイーダ「機転の利く子みたいだね。切り替えの早いというか」

戦士「あ、あいつ! あたしの剣、剣は」カチャカチャ

魔法使い「こうしちゃいられない……!」ガタガタ

アイーダ「(そんなに遠くには行ってないはずなんたけどねぇ。ま、すぐに会えるだろうさ)」

22: ◆7Ub330dMyM 2018/01/09(火) 20:13:18.86 ID:76b4/dYJO
【街近郊 平原 ~ ミンドガルドの村】

スライム「ピギーッ!」

勇者「逃げる!」ダダダッ

ベビーパンサー「ガルルッ」

勇者「逃げ続ける!」ダダダッ

スカルナイト「ウガー」

勇者「逃げる勇気!!」ダダダッ

村人「――ミンドガルドへようこそ」

勇者「ひたすらに走っていたら、あっという間に次の街についてしまった」

村人「旅の人。宿はどうするね?」

勇者「あ、うーん。どうしよっかな。一泊いくらです?」

村人「8ゴールドだよ」

勇者「それなら……あれ、あ、やっべ! 家からも城からも慌てて出てきたから金あんま持ってねえ」

村人「なんだ、お兄さん、文無しか?」

勇者「いや、ちょっとはあるはず……」ゴソゴソ チャラ

村人「ひぃ、ふぅ、みーと100ゴールドもないじゃないか。それで全財産? お小遣いじゃなく?」

勇者「まぁ、小遣いみたいなもんすけど」

村人「よくそれで旅なんかする気になったねぇ。すぐに底をついちゃうよ」

勇者「そうなったら、野宿とか」

村人「寝てる間の魔物除けアイテムは一個、80ゴールドだぞ? しかも一回の使い捨て」

勇者「そんなすんのっ⁉︎」

村人「アイテム使わないならせめて、見張り番がいないと、なぁ」

勇者「夜行性のモンスター多いし、寝込み襲われちゃいますもんね」

村人「村の中で野宿なんてしたらつまみだすぞ……ハッ、まさか、流れ者の犯罪者じゃ?」

勇者「えっ、誰が……俺っ⁉︎ ち、違いますよ! 違います!」ブンブン

村人「ふん。で、どうする? 宿に泊まってく?」

勇者「そ、そうします~」シュン

23: ◆7Ub330dMyM 2018/01/09(火) 20:42:59.11 ID:76b4/dYJO
【夜 ミンドガルドの村 宿屋 食堂】

勇者「はぁ~、まいったぞ。いきなり資金難になるとは」ペラ

店主「オムライスお待ち」コト

勇者「ダーマの神殿まではどれくらいかかるんだろうか」

店主「ん? お客さん。ダーマ神殿目指してるの?」

勇者「はい?」

店主「ああ、すまんね。独り言が聞こえちまったもんで」

勇者「かまわないすよ、そうです。オムライスうまそっすね」

店主「ダーマっつうとこっから1ヶ月はかかるよ」

勇者「そ、そんなにっ⁉︎」

店主「ああ、ほれ、壁に地図がかかってるだろ。あれ見てみな」

勇者「……」コト

店主「現在地が西のはずれ。ダーマは大陸のちょうど中心地にある」

勇者「うまいすね、これ」モグモグ

店主「まぁな。俺のカミさんが作ってるから。そんで、山を二つ超えなきゃいかんから、はやくて1ヶ月てとこ」

勇者「はぁ……まいったな」

魔法使い「あんた、なんで抜け駆けなんてすんのよ!」バンッ

僧侶「えぇ~。だってぇ、一緒に行くなんて約束はぁ」

戦士「それにしたって黙っていくこたぁないだろう!」

勇者「おっちゃん」

店主「なんだ?」

勇者「あの騒がしい子たちも旅の人?」

店主「らしいよ。ついさっき到着してね。パーティなんじゃないか」

勇者「ふーん」モグモグ

戦士「勇者、どこまで行ってるんだろうな。来る途中は見かけなかったが」

勇者「ん? 勇者?」ピクッ

魔法使い「行動がはやければ、足もはやいなんて。ほんと、たいした男みたいね」

僧侶「私たちが気がつかなかった可能性もぉ~」

戦士「ここまではだだっ広い平原だったんだ。人影の見落としはありえない」

勇者「(……勇者探してんのかよ。こいつら。まさか、王様に見張りを言いつけられたとか?)」

店主「勇者……? おおい、あんた達! 勇者様がどうかしたのかい?」

戦士「ああ、今日が勇者の旅立ちの日なんだ。魔王退治のね」

店主「な、なんだってぇ⁉︎ こいつはたまげた! なら、あんた達は勇者様の付き人かい⁉︎」

魔法使い「だといいんだけどねぇ。私達はまだ……」

戦士「魔法使いの言う通りさ。勇者は仲間が足手まといだとよ」

店主「ひぇ~~!! こいつはまたたまげた! なら一人で旅してるんか⁉︎」

僧侶「店主さん~、今日はお客さんは私たちだけですかぁ?」

店主「ここは辺鄙な村だ。今日チェックインしたのは、あんた達と、ここの――」

勇者「ば、ばかっ!」コソ

24: ◆7Ub330dMyM 2018/01/09(火) 21:04:43.57 ID:76b4/dYJO
店主「そういやあんた、どっから来たの?」

戦士&魔法使い&僧侶「……」ジィ~

勇者「せ、拙者はしがない旅の者でござる」

店主「そんな喋り方してなかったろ」

僧侶「いきなり失礼ですけどぉ~、そちらの旅の方の職業をお聞かせいただいてよろしいですかぁ~?」

勇者「しょ、職業?」

店主「なんでもこのお兄さん、ダーマ神殿を目指してるらしいよ」

魔法使い「なら、転職? なにになりたいの?」

勇者「遊び人に」

魔法使い「遊び人……? ぷっ、変なやつ」

戦士「おい、お前。遊び人なんて怠け者のやる職業だぞ」

勇者「(怠けたいんだから天職じゃねぇか)」

僧侶「……」

店主「勇者様が旅立つのなら号外かお触れでも出してくれりゃいいのにねぇ」

戦士「そんなことしたら魔王に潰されちまうだろ。秘密裏にやる必要があんだよ」

魔法使い「そーそー。絶対的な魔王にとってのただひとつの脅威たる勇者。除外する為には、国ひとつ潰すわよ」

店主「国をか……おっかねぇ」ゴクリ

僧侶「……私ぃ、そちらの旅の方のテーブルに相席したいんですけどぉ」

勇者「へ?」

僧侶「だめでしょうかぁ~」

店主「席は四人がけだ。かまわないよ」

勇者「ちょ、俺の意思は!」

店主「こんなベッピンさん三人のうちの一人と一緒な飯食えるんだ。男なら役得だろ?」

勇者「めんどくさいから、いい――」

僧侶「失礼しますぅ~」スッ

勇者「見かけによらずグイグイくるな!」

魔法使い「僧侶、ちょっと、あんた男の趣味悪くない? そんなのがいいの?」

戦士「まったくだ。そんな軟弱そうなやつ」

勇者「こ、こいつら、なんで俺なにも言ってないのにボロクソいわれとるんじゃ!」

僧侶「うふふ。あちらは無視しておいて。……あ、手にご飯粒つけてますよ」

勇者「え、ついてな……」

僧侶「実は、私ぃ、特技があるんですよ」

勇者「(……? なんだ、手が熱い)」

僧侶「僧侶は癒しの職。女神様の特色が色濃くでる職でもあるんですぅ~」

戦士「そうなのか?」

魔法使い「女神は争いを好まないもの。魔法使いや戦士だって加護を受けてるけど、どちらかというと精霊の側面が強いわ」

25: ◆7Ub330dMyM 2018/01/09(火) 21:26:33.77 ID:76b4/dYJO
僧侶「勇者様は女神様の寵愛を一身に受けられるお方。溢れ出る光に蓋はできません~」ポワッ

勇者「(な、なんだ。やばい感じする!)」

魔法使い「……?」

戦士「僧侶の手が光だしてるのはどういう原理だ? いや、重ねてる手から?」

勇者「や、やだなぁ! ご飯粒なんてついてないじゃないですか!」サッ

僧侶「あっ」

勇者「いやぁ、おいしかった! おっちゃん! オムライスうまかった! ごっそさん!」

店主「いいのか? まだ半分くらい残ってるが」

勇者「職が細いんだ、俺! もうお腹いっぱいになっちまって、残してごめんな?」

店主「いや、金払ってるからかまわねぇが」

僧侶「……」ジィ~

勇者「うっ、じゃ、じゃあ俺は部屋にいくから! あ、あと、明日は早朝にでたいんだけどどうしたらいい?」

店主「料金は先払いでもらってる。そのままチェックアウトしてかまわないよ」

勇者「了解! それじゃ、俺はこれで!」ソソクサ

戦士「なんだぁ、あいつ。いきなり慌ててたっていうか」

魔法使い「たしかに、変ね……それに僧侶。さっきのはなにをしてたの? 回復魔法?」

僧侶「うふふ。みぃ~つけた」ボソ

戦士&魔法使い「……?」

僧侶「先ほどのは、旅の安全を祈ってたんですよぉ」

戦士「そんなことか」

魔法使い「待って。光ってたわ。ああいうのものなの?」

僧侶「そうですよぉ」ニコニコ

戦士「祈りが特技か。しょーもな」

僧侶「なんとでもぉ~。それはそうと、こちらのパーティからは抜けさせてもらいますのでぇ」

魔法使い「いいの? 同じ魔法職だから言わせてもらうけど、前衛は必要よ」

戦士「そうだ、あたしが守ってやるぞ」エッヘン

僧侶「はい~。実は私の元いた神殿というのもダーマでしてぇ。目的地が同じなようなので、先ほどのお方を頼ろうかと思いますぅ」

戦士「目的地が同じって」

魔法使い「……勇者様のことは諦めるの?」

僧侶「元々神官さまに言われただけですしぃ、お二人の言う通り、諦めようかとぉ~」

戦士「まぁ、そうか。あんたには理由がないもんな」

26: ◆7Ub330dMyM 2018/01/09(火) 21:43:34.19 ID:76b4/dYJO
【深夜 魔法使い 部屋】

戦士「魔法使い、まだ起きてるか?」コンコン

魔法使い「その声は、戦士? 鍵なら空いてるわよ」

戦士「失礼する」ガチャ

魔法使い「夜分にどうしたの? というか、まだ起きてたのね」

戦士「あんたもな。なんだ、本を開いて勉強でもしてたのか?」

魔法使い「気にならない? 僧侶の言動。あの子、どうにも信用ならないのよ」

戦士「……同感だ。実は気になってな。あたしのはただの勘だが」

魔法使い「さっきの光、調べてみたの」

戦士「祈りってやつか。それで?」

魔法使い「専門職じゃないから詳しいことはわからないけど、たしかに祈りをするときは祝福の影響で発光することがあるらしいわ」

戦士「……でも、それだけじゃないんだろ?」

魔法使い「貴女も見たでしょ? 重ねてた手の下から、つまり、あの男からの光だったわよね?」

戦士「そんな気がした」

魔法使い「そうであれば、おかしいわ。僧侶の手が光っていなければ」

戦士「だけど、光が強すぎて、その、見間違いってことも」

魔法使い「……」ギシ

戦士「まさか、あいつが勇者だってのか?」

魔法使い「あくまで可能性よ。でも、僧侶はあいつとパーティを組むと決めた。どうにもひっかかる」

戦士「たしかに、男、だもんな。しかも二人きりになるし」

魔法使い「貴女、オンナは捨てたんじゃなかったっけ」

戦士「ち、ちがっ! あたしは、一般的な常識で!」

魔法使い「別にいいけど。それを抜きにしても、前衛を任せられると判断できない者とパーティを組むメリットは、魔法職に無いのよ」

戦士「……強いのか? あいつ」

魔法使い「そこで、提案があるんだけど――」

27: ◆7Ub330dMyM 2018/01/09(火) 22:00:46.53 ID:76b4/dYJO
【宿屋 早朝】

スズメ「チュンチュン」

勇者「っし! 天気は快晴! 今日もマラソン日和! さぁ~走るぞぉ! 目指すはダーマ! ダマされるもんか! なんつって」バタンッ

僧侶「おはようございますぅ~」

勇者「あ、お、おはよう。朝、はやいんだね。というか、なんで扉の前に立ってんの?」

僧侶「一晩ここで夜をあかしましたのでぇ~」

勇者「ここ? ここって通路だよ?」

僧侶「はい~。お布団ならあちらに~」

勇者「あー、うん、綺麗にたたんでありますね。ってそうじゃないわ! 部屋で寝ろよ!」

僧侶「何時に出るかわからなかったんですもの~」

勇者「誰が……? 俺が?」

僧侶「はい~」ニコニコ

勇者「俺が出るのを待ってたと。そして、ここで寝てた。それすなわち……」

僧侶「パーティを組んでいただけませんかぁ?」

勇者「間に合ってます」ピシャリ

僧侶「そうおっしゃらずにぃ~。お話だけでも」

勇者「俺は遊び人になりにダーマ神殿に向かってるんだ。そんなやつとパーティを組んだってろくなことにならないよ」

僧侶「正直なお方なんですねぇ。是非ともご一緒したいですぅ」

勇者「いや、だからだな。あの、人の話聞いてる?」

戦士「ちょぉっと待ったッ!!」

魔法使い「抜け駆けは許さないわよ! 僧侶!!」

僧侶「チッ」

勇者「な、なんだ?」

魔法使い「話は盗み聞きさせてもらったわ。まさか廊下で一晩明かすなんて、よっぽどそいつとパーティを組みたいようねぇ?」

戦士「あたしも驚いたぜ。たまたま通りかかったから発見できたものの」

魔法使い「……そいつ、何者? まさか、勇者様なの?」

勇者「……っ!」ギクゥッ

僧侶「……やですねぇ~。違うんじゃないですかぁ? 本人はそんなこと言っておられませんしぃ」

戦士「なんでそこまでそいつにこだわる? 前衛ならあたしでも困らないだろう?」

僧侶「はぁ……。それはぁ目的地が同じと言ったじゃないですかぁ」

戦士「なら、あたしたちの目的地もダーマだと言ったら?」

僧侶「……そうなんですかぁ? 勇者様は別のところに向かってるかもしれませんよぉ?」





28: ◆7Ub330dMyM 2018/01/09(火) 22:28:01.52 ID:76b4/dYJO
魔法使い「そいつに質問があるのよ。なに壁に張り付いてるの?」

勇者「ボクハオキモノデス」

魔法使い「わー、おもしろーい。メラ」ボッ

勇者「あっつぅっ! 馬鹿野郎! 人に向けて魔法は撃っちゃいけません!」アタフタ

魔法使い「たいしてダメージないみたいね……」

勇者「ふーっ、ふーっ、どうしてくれる! キズモノにされたらお婿にいけないじゃないの!」

魔法使い「将来設計の話なら別の子にしてくれる? 出身地はどこ? 身なりも軽装なようだけど」

勇者「うっ、そ、それは、隣の国の」

戦士「む? そうだったのか。ならば同郷だな」

魔法使い「そうだったの? 隣国に詳しい?」

戦士「もちろんだ。なにしろ生まれ育った国だからな」

魔法使い「そうよね、普通は。あんたも?」

勇者「いや、俺は、その、引きこもり生活をしておりまして。外の世界を知らずに」

戦士「それなのに旅をしてるのか?」

僧侶「お二人ともその辺で。きっとあまりのダメ男っぷりに親に勘当されたんですよぉ~。察してあげましょぉ~?」

勇者「サラッとひどいこと言わないでくれるかな⁉︎」

僧侶「口裏合わせてください~」コソッ

勇者「うっ、わ、わかった」コクリ

魔法使い「ますます怪しいわ。もっと言えば胡散臭い」

戦士「あぁ、そうだな。こうなっちゃ疑うなって方が無理だ」

僧侶「この方は勇者様じゃありませんよぉ~? ねぇ~?」

勇者「もちろんです! 僕勇者ジャナイヨ!」

魔法使い「なぜ、隠すのか。そこもわからないのは確かね」

戦士「ああ。それに、こんなやつが勇者だとは思えないってのも」

魔法使い&戦士「……」ジトー

勇者「えぇい! というか、なんで俺がこんな目に合わなきゃいかんのじゃ! 場の雰囲気に呑まれてすっかり流されてたわ!」ガバッ

僧侶「あららぁ~」

勇者「お前らに付き合ってたら出発が昼になっちまうわ! そんじゃ――」

戦士「待てよ」ガシッ

勇者「……うわぉーお。握力すごぉーい。肩の骨が悲鳴あげそぉ」ミシミシ

戦士「僧侶だけじゃなく、あたしと魔法使いもパーティにいれろ。そんで折れてやる」

勇者「僧侶と組むなんて一言も」

僧侶「はぁ、しかたないですねぇ」

勇者「決めるのそっち⁉︎」

魔法使い「……旅をしながら見定める。こいつが勇者じゃなくても、行く先で情報は集められるだろうし」

戦士「ああ。それが昨夜。あたしらで決めた話だ」

勇者「(い、いかんですよ。こんなやつらとパーティを組むなんてごめんこうむりたい)」

僧侶「なんにせよ、そろそろ離してあげてはぁ~?」

戦士「ほらよ」パッ

勇者「(に、逃げなければ。隙を見て)」

魔法使い「ともあれ、これからよろしくね?」

僧侶「ふつつか者ですが、よしくおねがいしますぅ~」

戦士「……ふん」

30: ◆7Ub330dMyM 2018/01/10(水) 14:00:20.07 ID:WsvInrNpO
僧侶「あのぉ~、旅の方が腰掛けてるその岩……」

爆弾岩「ウガァー」ボコン

勇者「うおっ」ガク

僧侶「やっぱりぃ~」

魔法使い「モンスター⁉︎」

戦士「爆弾岩だったのか!」ズザザ

爆弾岩「……」ニヤニヤ

勇者「(爆弾岩は様子を見てる……ってか、これ走って逃げたらいいんじゃね?)」

戦士「よぉーしッ! やってやらぁ!」チャキッ

勇者「(戦士は血気盛んだねぇ。しめしめ)」スススッ

魔法使い「物理攻撃では不利だわ! 時間を稼いで! 私は攻撃魔法、僧侶! サポート魔法で戦士の援護を!」

僧侶「はぁ~い」

勇者「(そぉ~っと、そぉ~っと)」コソコソ

魔法使い「あんたは……あれ? あいつは?」

僧侶「あちらで駆け出していますよぉ~」

勇者「ぬぉっ! もう見つかった⁉︎」ダダダッ

魔法使い「……」ポカーン

戦士「どおりゃっ!」ガキンッ

爆弾岩「……」ニヤニヤ

戦士「くっ、刃が……! 岩相手に無理か」

僧侶「爆弾岩は早めに決着をつけないとぉ~」

魔法使い「あ、あいつ……!」ワナワナ

戦士「おい! 魔法使い!逃げ出したやつにかまってる時間はねぇぞ!」

勇者「(すまないな……。恨むならば自分の無力さを恨むがいい……!)」ダダダッ

魔法使い「冷気系魔法を使うわ! 戦士、さがって!」

戦士「おう!」シュタ

31: ◆7Ub330dMyM 2018/01/10(水) 14:01:00.65 ID:WsvInrNpO
魔法使い「氷の礫をくらえっ! ヒャド!」カキン

爆弾岩「……っ⁉︎」ドゴン ヒュー

戦士「おお……! 凍らせるかと思ったが、吹っ飛んだ」

僧侶「初級魔法しか使えないんですかぁ?」

魔法使い「いちいちうっさい! 距離とれたんだからいいでしょ!」

僧侶「……でもぉ、飛ばしただけじゃ」

爆弾岩「」ヒュー

勇者「ん? なんか背後から気配を感じるような……?」クル

爆弾岩「」ヒュー

勇者「なんでこっちに来てんの⁉︎」ギョ

戦士「……魔法使い。狙ってやったのか?」

魔法使い「……うん、そんなつもりなかったけど。まぁ、いいでしょ」

勇者「にょわあああああっ!」ダダダッ

僧侶「あらあらぁ~。爆弾岩が赤くなりはじめてますねぇ~。爆発する兆候ですぅ」

勇者「こっちこないでぇぇええええっ!!」ダダダッ

戦士「なんか、哀れになってきたんだが」

魔法使い「そ、そうね……」

僧侶「旅のお方ぁ~。足を止めて伏せればいいんですよぉ~」フリフリ

勇者「ハッ! そ、そうだ! そうすれば頭上を通りこして――」

爆弾岩「」ズドーン

勇者「目の前に落ちてくるとかお約束やんけ!」

爆弾岩「……」プルプル

勇者「トイレ?    なら我慢しない方が」

爆弾岩「……」ニタァ

勇者「やっぱ我慢して! 平原は公共スペースです! 汚物の垂れ流しはご遠慮してください!」

爆弾岩「」ピカァー

戦士&魔法使い&僧侶「あ、爆発する」

勇者「――ひっ⁉︎」

32: ◆7Ub330dMyM 2018/01/10(水) 14:31:21.88 ID:WsvInrNpO
お気の毒ですが、勇者は死んでしまいました。

勇者「おおい! 死んでねぇわ! ……あぁ、死ぬかと思った」ボロ

僧侶「旅のお方~、大丈夫ですかぁ~?」トテトテ

戦士「爆弾岩の爆破攻撃を食らって生きてるのかよ」テクテク

魔法使い「こいつ、本当に人間? モンスターなんじゃないの?」

勇者「失礼なことを言うのはやめていただけるかな⁉︎」パンパン

僧侶「回復しますねぇ~」ポワァ

魔法使い「自業自得ってやつね」

戦士「いきなり逃げ出すとは、遊び人を目指すわけだ」

勇者「えへへ」テレテレ

戦士「褒めとらんっちゅーに!」

僧侶「でも、さすが、ゆう……旅のお方ですぅ。擦り傷だけなんてぇ」

魔法使い「擦り傷はあったんだ」

戦士「それぐらいで済んでるのがそもそも異常だ。普通なら死んでる」

勇者「俺はなぁ、こんなところで死ぬわけにはいかねぇんだよ……! 俺は、俺は……!」

戦士「お?」

勇者「立派なニートにならなければいけないのだからっ!!」ビシッ

戦士「死んでいいぞ」

魔法使い「まったく、モンスター退治したってのにかけらの緊張感もないなんて。へんな感じ」

僧侶「退治といえるかは微妙ですけどねぇ」

魔法使い「細かいことはいいでしょ」

テレテレッテッテッテー
戦士はレベルが上がった。

戦士「女神様から祝福のファンファーレが」

魔法「ほら、やっぱり倒したってことになってる」

僧侶「おめでとうございますぅ~」パチパチ

勇者「はぁ、罪のない命を……」

魔法使い「意外ね。あんたからそんなセリフがでてくるなんて。それとも、レベル上がられた嫉妬?」

勇者「違わい。こいつはただここにいただけなのに」

爆弾岩「」チーン

勇者「モンスターにも社会があるとか考えたことねぇの」

戦士「はっ、社会? 知能があるかすら怪しいぞ」

勇者「そりゃ下っ端はそうだろうけどさ」スッ

魔法使い「魔王の手下なんて人間とって脅威でしかないわ! 絶滅させるべきよ!」

僧侶「あの、爆弾岩の飛び散った破片を拾ってなにをなさってるんですか?」

勇者「元いた場所に埋めてやるんだ。墓なんて大層なもんじゃないけど」

33: ◆7Ub330dMyM 2018/01/10(水) 15:20:45.97 ID:WsvInrNpO
【魔王城 玉座】

魔王「勇者が生まれ落ち、早18年の歳月。そろそろ旅立ちの日を迎えよう」

四天王一同「……」

魔王「にもかかわらず! 未だに詳細が掴めぬとは貴様らはそんなにも無能な集まりであるか!」ブンッ カランカラン

大臣「魔王様、落ち着きなされ。先代のワイングラスを投げては」

魔王「黙れ、黙れ黙れぇいっ!! 貴様達はなにをしておった! 遊んでおったのじゃあるまいな⁉︎」

サキュバス「四天王の一人、淫夢王サキュバスが恐れながら、申し上げます」

魔王「……」クィ

サキュバス「我々には、その、なぜ人間風情ごときをそこまで危険視するのか……いくら女神の加護を得ているとはいえ」

オーガ「同じく! 四天王が一人、巨人王オーガも同意致します! 大魔王様は絶対的存在! なにを恐るることがございましょう!」ズゥゥン

魔王「まだそのような認識でおったのか」

シンリュウ「竜族の長、シンリュウも疑念を抱いております。むしろ、身の程をわきまえていないのは人間達。ご采配をいただければ、すぐにでも国を滅ぼしてまいりましょう」

魔王「余が何度も説明したであろうが」

キングヒドラ「獣族の王! キングヒドラ! 我も理解できませぬ! 勇者が我々と人間の架け橋になるなどとありえぬこと!」

魔王「……古き伝承からあることよ」

サキュバス「し、しかし……!」

魔王「“勇者の冠を擁する者、光と共に、種族を超えた架け橋とならん。汝、争うことなかれ。争いはなにも生まぬ。勇者の作る光の道を闊歩せよ――”」

四天王一同「……」

魔王「なにも力だけが、この世の理ではないのよ。圧倒的な暴力。それは快楽、強さには違いない。だが、それを生みだす原動力がある」

シンリュウ「と、申されますと」

魔王「人間どもの好きな、希望とやらだ」

キングヒドラ「ぐふっ、ぬわっはっはっ! 大魔王! わからぬのはそこよ! 我々を人間と同じ尺度で捉えるとは言語道断!」ジャララ

サキュバス「左様でございます。人など餌同然」

魔王「やはり、わからぬか」

シンリュウ「当然でございましょう。もし、勇者が友好を持ちかけてきても瞬時に灼熱の息で消し炭にしてごらんにいれます」

魔王「……ふぅー」

オーガ「大魔王にはどっしりと構えていただきたい! 我らが種を代表する者であれば、魔王様もまた! 我らの代表なり!」

魔王「(気がついておらなんだか。サキュバス以外は男勝りな言葉使いをしているが、四天王、この私を含んで全員“オンナ”であることに。このままでは……)」

35: ◆7Ub330dMyM 2018/01/10(水) 15:57:15.20 ID:WsvInrNpO
【再び 平原】

勇者「――これで、よしっと」サク

魔法使い「やっぱり変人よ。モンスターに墓標を作るなんて聞いたことない」

僧侶「綺麗なお花ですねぇ~」

勇者「こいつらだって生きてる。アレフガルドの大地の上で暮らしてる」

魔法使い「綺麗事ね。やらなきゃやられてたわ」

勇者「それ自体は否定しないさ。でも、人間だって殺し合いしないわけじゃないだろ」

戦士「おぉ~い! 一角うさぎがとれたぞぉー!」

魔法使い「……火、おこしましょっか。焚き木から離れて」

僧侶「わぁー。なんだか、キャンプみたいですぅ」

魔法使い「そのまんまでしょ。メラ」ボッ

勇者「飯食ったら出発するからな」

僧侶「あのぉ~また走るんでしょうかぁ?」

魔法使い「馬を用意してくれるとかないの?」

勇者「そんな金あるか」

戦士「よいせっと。火は準備してるな、待ってろよ、今から捌いて」スラッ

勇者「しゃーない。走るには走る。だが……戦士」

戦士「なんだ?」

勇者「僧侶、魔法使い、おぶるならどっちがいい?」

魔法使い「は、はぁっ⁉︎」

僧侶「なぁるほどぉ~」ポン

戦士「どういう意味だ? どこか怪我したのか?」

勇者「いいや、好きだろ? トレーニング。まさかそんな格好と職で非力ってわけじゃないだろし」

戦士「あぁ、鍛錬か! お前もそういう志があったのだな!」

魔法使い「ちょ、ちょっと待ちなさいよ! 私は嫌よ! 男に体を密着させるなんて!」

僧侶「私はかまいませんのでぇ~」

魔法使い「ま、まじ……? あんた、曲がりなりにも神職でしょ? 神に捧げてる身体を」

僧侶「お堅いんですねぇ。下心がなければかまいませんよぉ~。あってもいいですけど」

魔法使い「う……」タジ

勇者「だったら決まりだな。今後の方針を発表する! 飯を食って小休憩をしたら、次の街までダッシュ!」

魔法使い「なんで仕切ってんのよ。さっき真っ先に逃げ出したくせに」

戦士「うむうむ。鍛えるのならそれでかまわん」

僧侶「かしこまりましたぁ~」

36: ◆7Ub330dMyM 2018/01/10(水) 17:23:45.67 ID:WsvInrNpO
戦士「ほっほっ」ザッ ザッ

魔法使い「……」ジトォー

勇者「あの、僧侶さん?」

僧侶「はぁい?」ニコニコ

勇者「なんだが、背中にあたる感触が妙に生々しく感じるんだけども」

僧侶「もちろんですよぉ~。下はなにも着けておりませんのでぇ~」

勇者「な、なにもって、その」

僧侶「なにもはなにも、ですよぉ~」

魔法使い「不潔」

戦士「どしたどしたぁっ! お前が言い出しっぺだろ! 遅れてるぞ!」

勇者「(俺だって男なんだぞ!突起物があるような)」

僧侶「布でこすれてぇ~、たっちゃいました」

勇者「たっちゃいましたって、な、なにが?」

僧侶「  の先端についてる、と・こ・ろ」

勇者「……っ!」

戦士「なんだ、あいつ。前かがみになって」

魔法使い「ますます不潔」

勇者「落ち着け、素数だ。素数を数えるんだ」

僧侶「んっ」モゾ

勇者「悩ましげな声をあげるな!」

僧侶「だっ、てぇ。走る度に、こすれてっあんっ」

勇者「だああああっ! なんかもうちくしょおおおおっ!!」ダダダッ

戦士「やればできるじゃないか」

魔法使い「はぁ……あれがもし勇者だったら、この世の終わりだわ」

37: ◆7Ub330dMyM 2018/01/10(水) 17:42:35.53 ID:WsvInrNpO
【国境の街 アルデンテ】

勇者「ぜぇっ、ぜえっ」バタリ

戦士「だらしないなぁ。そんなに疲労するとは」

魔法使い「疲れてるのは別の理由でしょ」

僧侶「はやかったですねぇ~」ニコニコ

魔法使い「(僧侶、おそろしいやつ)」

村人「さぁ、さあ! 今日はお祭りだよぉ~!」

戦士「騒がしいな。まるで祝賀パレードだ」

魔法使い「記念日? 今日じゃないはずだけど」

戦士「おい、なんの祝典だ?」

村人「おお、これは旅の方! あなた達は幸運ですよ!」

僧侶「なにか抽選会でもあるんですかぁ?」

村人「へ? ち、違います! この村に今、かの有名なあのお方がいらっしゃっているんです!」

戦士「かの有名……な?」

魔法使い「あのお方?」

村人「むっふっふぅ~聞いたら驚きますよぉ! あのお方とは!」

僧侶「お方とはぁ?」

村人「魔王討伐に旅立ったばかりの超有名人! 勇者様! その人です!!」バーン

戦士&魔法使い「なんだって(ですって)⁉︎」

僧侶「はぁ、勇者様が、ですか?」

村人「あ、あれ? そちらの僧侶さんは驚かれないんですか?」

僧侶「……」チラ ジー

勇者「もう、だめ。甘い香り、オンナは……」

僧侶「その勇者様はどちらにいらっしゃるんです?」

村人「酒場にて祝賀パーティーを行っていらっしゃいます! 我が村をあげてのお出迎えですからな」

戦士「おい! 魔法使い!」

魔法使い「ええ! 私たちも向かいましょう!」

僧侶「ふぅん……これは、どうなってるんでしょうねぇ~」



38: ◆7Ub330dMyM 2018/01/10(水) 17:58:35.43 ID:WsvInrNpO
【アルデンテの村 酒場】

村娘「きゃっ、もう、勇者さまったらぁ」

偽勇者「ぎゃっはっはっ! キミかわいいねぇ!」

村娘「いやん。ねぇ、勇者様ぁ、本当に魔王討伐なんてできるんですかぁ?」

偽勇者「おう! あったりまえよ! この俺にまかせておけばなぁ~んにも心配いらねぇ!」

村娘達「きゃーーっ! 勇者様素敵ぃ~っ!」

魔法使い「……あ、あれが、勇者」

戦士「なんとも、下衆な」

僧侶「あらあらぁ~」

魔法使い「本当に勇者なの?」

偽勇者「愉快愉快! おらぁ、酒だ酒だ! もっと酒持ってこんかーーーいっ!」

店員「ハイ! ただいま!」

戦士「おい」

店員「お客さん、悪いね。見ての通り忙しくて」

戦士「注文じゃない。あれ、勇者っていう証拠あるのか?」

店員「シーッ! 聞こえますよ! アレなんて言っちゃ!」アタフタ

戦士「聞こえてもかまわん」

店員「まったく。……で、なんですか?」

魔法使い「名を騙ってる偽物じゃないの? ってこと」

店員「めっそうもない! あのお方は本物ですよ!」

僧侶「どうしてそう思われたんですかぁ?」

店員「雷魔法ですよ! 伝承にあるでしょう! 勇者しか使えないと記録にあるあの!」

魔法使い「雷魔法……? まさか、ライデイン?」

店員「えぇ、えぇ。そのまさかです。勇者様は雷魔法を使って木を真っ二つに。それはもう、シュババ~っとやっちゃったんです!」

僧侶「それは、妙ですねぇ」

店員「妙なんてもんじゃありませんよ! まさかこんな国境ハズレの村に立ち寄ってくださるなんて奇跡です! あとでサインをいただかねば!」

戦士「伝説の魔法、ライデイン、か……」

魔法使い「勇者、なの? アレが?」

偽勇者「あーっはっはっはっ! 笑いが止まらねえ!」

39: ◆7Ub330dMyM 2018/01/10(水) 18:15:43.10 ID:WsvInrNpO
【アルデンテの街 宿屋】

勇者「おばちゃん。部屋ひとつ」

店主「あら、めずらしい。ひとり旅かい?」

勇者「うん、まぁ、そんなとこ。連れはいるにはいたけどね、どっかいったし。空いてる?」

店主「空いてるよ。勇者様の隣の部屋が」

勇者「勇者? え? この街に来てんの?」ドッキンコドッキンコ

店主「酒場で乱痴気騒ぎさ」

勇者「(てことは、俺のことじゃない! セーフ! セーフ!)」

店主「しっかし、あたしゃにはどうにも勇者に見えないねぇ」

勇者「そうなの?」

店主「勝手なイメージで申し訳ないが、なんてったって勇者だろ? もっと清廉潔白な方かと思ってたよ」

勇者「……年頃のやつだよ。普通の」

店主「そうかもしれないねぇ、若い娘に鼻の下伸ばしてるようじゃ」

勇者「夕食もつけてくれる?」

店主「ああ、追加で2ゴールドになるよ」

勇者「かまわない。メニューはなにかな?」

店主「村の名前を聞いてピンとこないのかい?」

勇者「村の……あぁ、ってことは」

店主「そう、パスタさね」ニコ

40: ◆7Ub330dMyM 2018/01/10(水) 18:37:04.30 ID:WsvInrNpO
【再び 酒場】

偽勇者「キミキミ! キミ達!」チョイチョイ

魔法使い「うげっ、私達を見てない?」

戦士「そのようだな」

僧侶「……」スタスタ

魔法使い「あっ、そ、僧侶」

偽勇者「めっちゃくちゃかわいいねぇ! キミ、その格好は神官見習いだよね? 僧侶?」

僧侶「はい~。はじめまして、勇者様」

偽勇者「挨拶はいいからいいから、隣座ってよ! ねっ! おい、お前は邪魔!」ドンッ

村娘「きゃっ、そ、そんな。さっきまで」

偽勇者「うるせぇな! どつくぞコラァ!」

魔法使い「あいつ……!」

戦士「待て。こらえろ」

村娘「ひっ、す、すみません」ササッ

僧侶「……」

村娘「ど、どうぞ。お座りください」

偽勇者「勇者がキミの為に席をあけたよぉ! ささっ、座って、座って」

僧侶「失礼いたします~」スッ

偽勇者「いや、マジほんとかわいいね! 田舎の芋娘と比べたら月とスッポンだわ!」

僧侶「ありがとうございますぅ~」

偽勇者「料理はまだかよ!」バンッ

店員「ただいまお持ちいたします!」アタフタ

偽勇者「俺ってば勇者じゃん? キミならパーティー組んでもいいよぉ? あっちの子も連れ? もしかしてパーティー組んでる?」

僧侶「すみません、お手を拝借」

偽勇者「おっほっ! 積極的なんだねぇ~、いいよいいよ。なに? 手相でも見てくれるの?」

僧侶「……」ポワァ

偽勇者「重ねるだけ? もっと指を絡めてもいいんだよぉ?」

僧侶「……よく、わかりました」スッ

偽勇者「えっ、えっ? 急に立ち上がってどうしちゃったの?」

僧侶「いえ、私は神殿に帰らなければならないので。失礼いたします~」

偽勇者「……おいっ!」ガシッ

僧侶「はい?」

偽勇者「俺は勇者なんだぜ? お酌のひとつぐらいしてけよ」

僧侶「すみません、あなたには無理ですぅ~」ツネリ

偽勇者「いっつ!」

僧侶「女性からではないと、身体に触れてはなりませんよ」

偽勇者「こ、この野郎……!」ブンッ

戦士「そこまでだ」チャキッ

偽勇者「う……っ!」

戦士「女神様に仕える神職に対する暴力。勇者であっても見過ごせん」

偽勇者「貴様ら! 勇者に向かって!」

戦士「我々はこのまま酒場を後にする。これで手打ちとせよ」

42: ◆7Ub330dMyM 2018/01/10(水) 18:52:38.86 ID:WsvInrNpO
【宿屋 ロビー】

魔法使い「ひやひやしちゃったじゃない!」

戦士「まったくだぞ。いくらなんでもあれは。相手を選べ」

僧侶「すみません~」

魔法使い「……ねぇ、僧侶。さっきの手を重ねるのって、本当に旅の祈り?」

僧侶「そうですよぉ」

戦士「本当か? なにかを確かめていたんじゃないのか?」

僧侶「いえいえ~。それはそうと、もう一人の旅のお方はどちらにぃ~」

店主「いらっしゃい。あんたらも部屋かい?」

僧侶「はい~。空いてますかぁ?」

店主「うちは団体部屋しか置いてないんだ。今日は相部屋になっちまうよ」

魔法使い「そ、そんなぁ」

店主「すまないねぇ、なにしろ辺鄙な田舎村だろ? 個室を用意しておくと採算がなぁ」

戦士「女将。聞くが、酒場にいる勇者とやらも?」

店主「あぁ、当宿を利用してもらってるさね」

魔法使い「ええ⁉︎ てことは、あいつと相部屋⁉︎」

店主「勇者様は一部屋貸し切りだよ。そうご希望なんでね。大方、村娘を連れ込もうとしてるんだろうが」

魔法使い「ホッ」

戦士「もう一つのところになるのか?」

店主「ああ、さっき、チェックインした青年だよ。あちらも旅の途中みたいだが」

僧侶「そちらでかまいません~」ニコニコ

店主「いいのかい? 男にしちゃかわいい顔してたが」

魔法使い「そいつって、まさか」

43: ◆7Ub330dMyM 2018/01/10(水) 18:54:09.43 ID:WsvInrNpO
>>41
まったくの無関係です
話の繋がりが紛らわしいですかね?

44: ◆7Ub330dMyM 2018/01/10(水) 19:29:11.81 ID:WsvInrNpO
とりあえずNGIDで見えなくするなり対応お願いします
続けます

45: ◆7Ub330dMyM 2018/01/10(水) 19:51:10.09 ID:WsvInrNpO
【宿屋 部屋】

魔法使い「変な気起こしたら、殺すわよ」キッ

勇者「なんでいきなり物騒な目つきされなくちゃいけないんですかねぇ!」

魔法使い「……ふん」プイ

戦士「まぁ、こいつは無害だろう。そう心配するな」カチャカチャ

僧侶「旅のお方は勇者様を観に行かなくてよいのですかぁ?」

勇者「興味ないから」

魔法使い「あ~ぁ」ボフッ

戦士「ライデインを放ったという話は本当なのだろうか?」

勇者「……」ピクッ

魔法使い「木を真っ二つにしたんでしょ? なら、本当なんじゃない?」

僧侶「なにかのまやかしかも~」

勇者「ちょい待ち。ライデインって言った? 今?」

戦士「ああ。この村に到着した時に披露したらしい」

勇者「(子供の頃、遊びで撃ってめちゃくちゃ叱られたなぁ……)」シミジミ

僧侶「お二人は勇者という確信がもてないんですよねぇ?」

魔法使い「むしろ、そうじゃないであってほしい?」

戦士「うーむ」

僧侶「ならば、簡単ですよぉ。勇者には印が刻まれてますからぁ」

勇者「……!」ギックゥ

魔法使い「そうなのっ⁉︎」ガバッ

戦士「なぜもっとはやく言わないんだ!」

僧侶「聞かれなかったものでぇ」

魔法使い「それで、印って⁉︎」

僧侶「“聖痕”といわれるものですねぇ~。身体に刻まれているんですぅ」

戦士「そんなものが……」

魔法使い「それって、もしかして手にあるとか」

僧侶「いえいえ~。目に見える部分ではありません~」

魔法使い「服の下ってこと?」

僧侶「はい~。お尻、ですよぉ~」

戦士「し、シリ。なんでまた、そんなところに」

僧侶「色仕掛けでもして脱がせればすぐにわかると思うんですけどぉ~。旅の方もそう思いません~?」

勇者「アア、ソウダネ」

魔法使い「色仕掛け……あんなやつに……」

戦士「あたしには無理だな」

魔法使い「想像してみたけど、私もパス。生理的に無理」

僧侶「あらあらぁ~」

魔法使い「でも、聖痕なんてあったんだ」

勇者「……」ドッキンコ ドッキンコ

僧侶「ここって、お風呂はどうなってるんでしょうねぇ~」




46: ◆7Ub330dMyM 2018/01/10(水) 20:11:46.48 ID:WsvInrNpO
【数時間後 宿屋 部屋】

魔法使い「あー、いいお湯だった」ホカホカ

戦士「サッパリしたな」

僧侶「戦士さんって、スタイルいいですよねぇ」

戦士「あたしは鍛えてるだけだよ。僧侶だって胸大きかったじゃないか」

勇者「お、おう、それじゃ次は俺が」

僧侶「旅のお方~」

勇者「な、なんでしょ?」

僧侶「タオル、お忘れですよぉ。大衆浴場になってるので、大事な部分は隠さないとぉ」ニコニコ

戦士「……? 男湯と女湯は別れてたろ?」

勇者「し、失礼します!」パサッ ダダダッ

魔法使い「ねぇ、僧侶。やっぱりあいつに対して扱い違うわよ。どう見たっておかしい」

僧侶「くすくす。だって、必死なのがかわいくてぇ~」

戦士「か、かわいい? アレがか? まぁ、悪い顔立ちはしていないと思うが」

僧侶「そうじゃありませんよぉ~。イタズラを見つかった子供みたいな反応が、です」

魔法使い「遊んでるの?」

僧侶「そうかもしれませんねぇ」

魔法使い「そういう感じ? 私、てっきり」

僧侶「……あの人が勇者だと思った?」

戦士&魔法使い「……っ!」

僧侶「だとしたら、私たちに隠す理由はなんなんでしょうねぇ~」

戦士「そこがなぁ」

魔法使い「わからないのよねぇ」

僧侶「転職する為にダーマを目指してるって話ですしぃ~」

戦士「勇者は転職なんぞできん」

魔法使い「それを知らないってわけでもないだろうしねぇ」

僧侶「勇者とはぁ、職業ではありません~。なりたくてなれるものではないのですからぁ」

戦士「この大地に立つ者の光の存在」

魔法使い「伝説の女神の代弁者」

僧侶「酒場にいた方はそうは見えませんけどねぇ~」

魔法使い「風呂にいったやつも同じでしょ。そりゃ、少しは、マシだけど。モンスターの墓作ったり変なやつよ」

47: ◆7Ub330dMyM 2018/01/10(水) 20:29:59.60 ID:WsvInrNpO
【宿屋 大衆浴場】

勇者「(おかしい。……実はバレてるんじゃなかろうか?)」カポーン

老人「おおい、にいちゃんや」

勇者「(いや、でも、勇者を確認しにいったって話だし。まだバレてはいないはず)」

老人「聞こえとらんのかの? にいちゃんや~い」

勇者「(いやいや、でも、それにしたって、特に……あの、僧侶の態度は……)」

老人「小僧ッ!!」クワッ

勇者「わっ! は、はいっ!」ビクゥ

老人「その若さでぼけっとしとるなや。ずっと呼んでおったじゃろうか」

勇者「あ、す、すまん。考え事してて。どしたのよ、じいちゃん」

老人「どうしたもこうしたもあるかい。大衆浴場は初めてかい?」

勇者「そうだけど」

老人「湯船にタオルは厳禁じゃ。汚いじゃろうが」

勇者「あ、そうなの?」

老人「あったりまえじゃて。それで身体をゴシゴシしとったろ」

勇者「でも、丸見えになっちゃうし」

老人「男同士でなんじゃ! きしょ! きっしょ!」

勇者「若者言葉使うんすね」

老人「とにかくじゃ、それは傍に置いとくんじゃよ。ルールっでもんがある」

勇者「すんません」ザパァ

老人「わかればよろしい」

勇者「じいちゃんもここに泊まってんの?」チャポン

老人「ここは浴場だけ村の共有スペースで解放されとるんじゃよ」

勇者「へー」

老人「有料じゃがな。一回2ゴールド」

勇者「宿屋利用者は宿泊料金に含まれると、いい村だね」

老人「なぁ~んにもない田舎も田舎じゃがな。通り道ぐらいしか利用はせんような」

勇者「でも、嫌いじゃないよ。俺は」

老人「ほっ⁉︎ ほっほっほっ! 変わった若者じゃの!」

勇者「そうかな?」

老人「若者は活気と娯楽をこのむじゃろ。住んでるのは八割方、よぼよぼのじいさんやばあさんじゃ」

勇者「……そういうもんか」

48: ◆7Ub330dMyM 2018/01/10(水) 20:45:10.50 ID:WsvInrNpO
偽勇者「おらぁっ! ……ヒック」バァンッ

勇者「なんだ?」

老人「おお、勇者様ではございませぬか」

勇者「あれが?」

偽勇者「うぃ~っ、ヒック」ヨテヨテ

老人「いかん、かなり酔っ払っておる」ザパァ

偽勇者「あー、飲みすぎた。しっかし、村娘とこのあと……ぐふっぐふふっ」

老人「勇者様。深酔いにお風呂は危険でございますじゃ」トテトテ

偽勇者「あん?……ック」

老人「しばらく外で休んでからの方が」

偽勇者「うるせぇっ!」ブンッ

老人「な、何を……!」

偽勇者「俺は勇者なんだぞぉっ! ほっとけってんだ! じじいコラァ!」

老人「ひ、ひぃ」ドサッ

偽勇者「けっ、よぼよぼの   見せてんじゃねえっっての」

勇者「……おい」ザパァ

偽勇者「あ?」

勇者「老人は労わるもんだ。親に教わらなかったのか?」

偽勇者「なんだァ? テメエ? 勇者に文句あるっての」

勇者「立派だろうが。シワシワのどこが悪い」

老人「よい、よい。若者よ。ワシのことなぞ」

偽勇者「あ、お前も逆らう気か? 勇者であるこの俺様にィ!」

勇者「逆らう? 勘違いすんなよ。俺はハナからお前のことなんか眼中にない」バチ バチバチ

偽勇者「んだとぉ!」

勇者「じいちゃん、浴室から出ろ」

老人「し、しかし……」

勇者「ここからは俺とこいつの問題だ。余計な口出して悪かった」

老人「……! ま、待っとれ! すぐに人を呼んできてやる!」ワタワタ





49: ◆7Ub330dMyM 2018/01/10(水) 21:01:19.40 ID:WsvInrNpO
偽勇者「ヒック……味方がいっちまったぞぉ? 味方っていってもじじいだが」

勇者「“勇者”」

偽勇者「あ?」

勇者「勇ある者。聞こえはいいよな。人間の希望。魔王を討ち亡ぼす。まさに英雄ってわけだ」

偽勇者「そうだ! 俺は偉いんだ!」

勇者「履き違えるな。勇者は偉くなんかねぇ、ただの、孤独だ」

偽勇者「はっ、あっはっはっはっ! なに言ってるんだぁ! 勇者の力があれば金も! 女も! 自由だ!」

勇者「……」

偽勇者「俺こそが勇者なんだ! お前もひれ伏せェ!」

勇者「少し羨ましい。そう開き直って考えられるお前が」

偽勇者「ヒック」

勇者「ひとつ! 勇者家家訓! 人に迷惑かけるときは、自分が迷惑と思うことはやっちゃいけません!」バチバチ

偽勇者「あっ、な、なんだ。痺れてきた」

勇者「ふたつ! 勇者家家訓! 人に迷惑かけるときは、まず自分に置き換えて考えなさい!」ピシャンッ

偽勇者「あばばばばばっ、痺れ」

勇者「みっつ! 勇者家家訓! 勇者たるもの、老人には優しくしなさい! ……目一杯力加減してやる、明日の朝までオネンネだろうが、勘弁しろよ」

偽勇者「ひっ、ま、まさか、その魔法は」

勇者「──……魔力を雷に変えて、射貫け。ライデイン」

50: ◆7Ub330dMyM 2018/01/10(水) 21:17:39.40 ID:WsvInrNpO
【宿屋 部屋】

魔法使い「な、なに?」ズゥゥゥーーン

戦士「地震か?」

僧侶「どうやら、勇者ごっこは終わりみたいですねぇ」

魔法使い「ごっこ?」

僧侶「なにやら面白そうですしぃ、私たちも行ってみませんかぁ?」

戦士「地震じゃないのか?」

魔法使い「魔力の波動を微かに感じる……これって」

僧侶「さぁてぇ~?」

店主「あんた達!大丈夫かい⁉︎」バタン

戦士「女将。こちらは別になんともないが」

店主「それがもう、大騒ぎさ! 浴場の常連客にじいさまがいるんだけどね!」

魔法使い「落ち着いて」

店主「年甲斐もなく取り乱しちゃって。あの勇者! ニセモノだって話だよ!」

戦士「なんと!」

魔法使い「……」

店主「相当酔っ払って脱衣所に落としてたんだって! ツルギを!」

僧侶「ツルギというとぉ?」

店主「なんでも魔法剣ってやつがあるらしいじゃないのさ! 爺さまでさえ使えば雷を落とせるなんて!」

戦士「それはそれで驚きだな。レア中のレアだぞ」

店主「どこで拾ってきたんだろうねぇ。胡散臭いと思ってたんだよ、あたしゃ」

魔法使い「じゃあ、さっきの振動はその剣を振ったもの?」

店主「あぁ、そうだった! 浴場に急がなきゃ!」ドテドテ

戦士「そういや、浴場にはもう一人いたな」

魔法使い「……そのようね」


51: ◆7Ub330dMyM 2018/01/10(水) 21:46:57.90 ID:WsvInrNpO
【浴場 男湯】

老人「まったく、なんというやつじゃ!」

店員「どうしてくれるんだ! うちの酒場で飲み食いした分!」

村娘「勇者様じゃなかったなんてぇ~。あ~ん、もうお嫁にいけなぁ~い」

偽勇者「」ドサッ

店主「とんでもない詐欺師だよ! 明日の朝一番で役所に突き出さないと!」

戦士「おおーい、女将」

店主「あら、あんた達も来たのかい」

魔法使い「もう一人いなかった?」

店主「あぁ、気絶してるよ」

僧侶「気絶? なにがあったんでしょお?」

老人「あちらの若者にはすまんことをした」

戦士「ははーん、剣を振ったら巻き添えくらったと」

老人「脱衣所で偶然見つけてのぉ。これまた、たまたま振った先の直線上に二人がおったらしい」

魔法使い「運のないやつ……」

僧侶「回復魔法使えますのでぇ、もう一人のお方はどちらに?」

店主「そっち。裸だからタオル被せておいたけど」

僧侶「あっ」トテトテ

勇者「う、うぅーん。嫌や。ヒジキは嫌いなんや。うーん」

戦士「どんな夢見てんだ」

魔法使い「気絶っていうか、ただ寝てるだけなんじゃないの」

僧侶「お目覚めください、勇者様」ボソ ポワァ

勇者「……あ、あれ? ここは?」

戦士「更衣室だ」

勇者「きゃあ! なによあんた達!」ガバッ

戦士「男のくせに気色悪い声だすな」

魔法使い「そんだけ悪ふざけできれば心配なさそーね」

勇者「うー、いてて。さっきのはちょっとだけ痛かった」ムク

戦士「古より伝わる秘宝剣。稲妻のつるぎ。話には聞いていたが、はじめてお目にかかる。爆弾岩といい死んでないとはたいしたものだ」

勇者「(ニセモノが倒れた後で、直撃してなくてよかったな。あいつだったらたぶん死んでた)」

魔法使い「あの剣も王様に献上するのかしら」

戦士「おそらく。野放しにするには、あまりに危険だ」

僧侶「旅のお方も鍛えてらっしゃるんですねぇ」

勇者「男だからって見ていいもんではないぞ」

魔法使い「……ねぇ、お尻、見せてくれない?」

勇者「断る」

戦士「いやな? まさかとは思うが、確認は必要だろう?」

勇者「なぜ近寄る」

魔法使い「痛くしないから」ジリ ジリ

勇者「嫌だと言ってるだろうが」


52: ◆7Ub330dMyM 2018/01/10(水) 22:13:11.12 ID:WsvInrNpO
魔法使い「戦士、抑えて」

勇者「ちょ」

戦士「ほいきた」ガシ

勇者「おい、これ男女逆だったらえらい場面だぞ」

魔法使い「お尻ぐらいいでしょ」

勇者「なんだ? お前なら見られてもいいってのか?」

魔法使い「私はだめ。男と女とじゃ価値が違うもの」

勇者「……なんだかなぁ」

戦士「ほれ、タオルとっちまえ」

勇者「(よく考えたらこれってピンチ?)」

魔法使い「わ、私がとるの? 戦士がとってよ」

戦士「な、なんであたしが。タオルとって見えたら困るじゃないか」

勇者「……おや?」

魔法使い「だ、だから、私だって見たくないもん」

勇者「なんだなんだ? まさか、俺のツルギを見るんじゃないかと臆してらっしゃる?」

魔法使い「つ、ツルギって」

勇者「おんやぁ~? 想像しちゃったのかな?」

戦士「……」

勇者「戦士さんもどうなされたので? 顔が赤いようですが?」

魔法使い「あ、あんたが自分でとってよ」

勇者「嫌に決まっとるやろがい」

魔法使い「う、うぅ~~」プルプル

勇者「な? もう諦めろって。俺のケツなんかなんにもねぇし」

僧侶「えいっ」パサ

勇者&戦士&魔法使い「あっ」

僧侶「私だけ知ってるっていうのもどうかと思いましてぇ~」

勇者「な、なんてことしやがる!」

魔法使い「き、汚いものはやくしまいなさいよ!」

戦士「……これが、オトコの……」ゴクリ

僧侶「おっき、顔に似合わず」

勇者「ち、ちくしょ」アタフタ クルッ

戦士「あ、聖痕」

魔法使い「あ、ほんとだ」

僧侶「……」ニコニコ

勇者「し、しまったぁあああぁああ~~っ!!」

53: ◆7Ub330dMyM 2018/01/10(水) 22:32:28.05 ID:WsvInrNpO
魔法使い「や、やっぱり、あんたが勇者?」

戦士「う、うーむ。異常なタフネスさを考えると、いや、しかし」

勇者「……」ガックシ

僧侶「勇者様、ファイトォ♪」

魔法使い「というか、僧侶! あんたやっぱり知ってたのね⁉︎」

僧侶「気がつかない方が悪いんですよぉ」

戦士「本物、なのか? 今度こそ」

勇者「はは、あはは」

魔法使い「あっちのニセモノも大概だったけど、コレよ? 抜け殻みたいなやつが?」

僧侶「正真正銘の勇者様です。お疑いであれば、あなた方の目が曇っているということ」

戦士「あたしの、目が、ねぇ」

魔法使い「……」

僧侶「改めてご挨拶させていただきます。ダーマ神殿より、遣わされました。勇者様とご一緒してお力添えになるようにと」フワッ

戦士「お、おい。僧侶」

魔法使い「本物、みたいね。間違いなく」

勇者「……」

魔法使い「勇者様、私は──」

勇者「いい」

魔法使い「えっ」

勇者「これまでと同じでいいんだ。俺はみんなと変わらない」

戦士「し、しかし。本物であれば」

勇者「態度を変えるのは失礼な時もある。今がその時ってだけ、俺に対してはな」

魔法使い「そう、お望みであれば」

勇者「あぁー、ったく」ポリポリ

店主「あんた達、ちょっとこっち手伝っておくれ。こいつを運ばないと」

勇者「了解! 服着るからまっててくれ!」

戦士「力仕事なら、あたしが」

勇者「いいんだ、テキトーにやらせてくれよ。頼む」

戦士「……」

勇者「よーし! すぐ着るから!」

魔法使い「……ねぇ、僧侶」

僧侶「はい?」

魔法使い「勇者ってイメージと違うのね」

僧侶「ええ、そうですね。伝説というおとぎ話の中だけじゃない、現実になると」

戦士「等身大の、若者か」

店員「この! ニセモノめ! 吐け! 食ったもの吐きだせ!」

店主「吐いたところでどーにもならいでしょーが! 足の方持ちな!」

54: ◆7Ub330dMyM 2018/01/10(水) 22:36:24.56 ID:WsvInrNpO
こうして、隠していた身分がバレた勇者。

彼のニートになる旅はまだまだはじまったばかり。
旅は続くが、これにておしまい。

ちゃんちゃん

66: ◆7Ub330dMyM 2018/01/11(木) 10:32:38.37 ID:/prJW+7dO
【翌日 早朝 宿屋 食堂】

勇者「ごほん」

戦士&魔法使い&僧侶「……」ジィー

勇者「あの、むず痒いからそんなに見つめないでくれない?」

僧侶「話す時は人の目を見て話すものなのでぇ~」

戦士「シャイボーイか」

魔法使い「  なんじゃない?」

勇者「言い返せないのが悔しい!」

戦士「なんだ、チェリーの方か」

勇者「……」プルプル

魔法使い「モテそうには見えないもの」

勇者「……はぁ、いいよ、もう。それで、今後の方針だが」

僧侶「勇者様とご一緒であればどこへでもぉ」

魔法使い「あ、あたし、別に、ただ、まぁあんたが勇者なら」

戦士「一緒に行けば強いモンスターと戦えるんだろ?」

勇者「自分の欲望に忠実か!」バンッ

僧侶「私たちから質問よろしいですかぁ?」

勇者「……なに?」

魔法使い「なんで、隠してたの? 勇者だって」

戦士「あたしらにだけじゃない。このまま隠し通せるかどうかは別として理由がわからない。ダーマが目的地というのも」

勇者「(遊び人になりたいのは本当! 隠してたのは面倒になりたくなかったらだよ! ……とは言え、正直に言うとヒンシュクを買いそうだな)」

魔法使い「もしかして、魔王軍からも隠すため?」

勇者「へ?」

僧侶「私もそれは考えましたぁ。勇者の所在がわかれば、近隣に被害が及ぶ恐れがありますもんねぇ」

戦士「……どうなんだ?」

勇者「あ、ああ! そうそう! その通り!」

魔法使い「……」ジトォー

勇者「俺のせいでまわりに被害なんてことになったらいかんですよ!」

戦士「……」ジトォー

勇者「い、いかんと思うのです、はぃ」

僧侶「くすくす。どちらにせよ、ダーマは魔王城に行く道の通過点上にあります~」

勇者「ご、ごほん。パーティの件なんだが、希望するなら組むのはいいよ。上から目線で申し訳ないけど」

魔法使い「ほ、ほんとうっ⁉︎」ガタッ

勇者「ただし、条件がある。特に戦士」

戦士「む?」

勇者「無闇な殺生は禁止だ」

魔法使い「は、はぁっ⁉︎」

勇者「あくまで、正当防衛。鍛錬をしたいのなら半殺しまでにしとけ。喧嘩止まりのな」

67: ◆7Ub330dMyM 2018/01/11(木) 10:33:28.12 ID:/prJW+7dO
戦士「しかし、それではレベルアップが」

勇者「経験値は殺さなくても手にはいる。気絶させりゃいい」

僧侶「そうなんですかぁ?」

勇者「勇者がモンスターを殺した! なんて物騒だろ。まぁ、そこはお察しくださいな部分でもあるが、逆に大雑把な解釈だからこそ、こういう見方もできる」

魔法使い「私達に重要なのは、個々のレベルアップよ。旅を続けていく限り、避けては通れない」

勇者「だから、レベルアップさえできりゃ問題ない。だろ? 無力化でちゃんと手にはいるよ。“ここはそういうもんだ”と思ってくれりゃいい」

戦士「それなら、まぁ」

魔法使い「なんで、なんでそんなにモンスターに情けをかけようとすんの? あいつらは敵なのよ。こっちが命乞いしても聞く耳もたないような」

勇者「俺は神職じゃない。志てるつもりもない。だけど、嫌なんだよ」

僧侶「……かしこまりましたぁ」

魔法使い「僧侶っ!」バンッ

僧侶「私達がパーティを希望している身。ならば、条件を呑むのは当然かとぉ~」

魔法使い「う、そ、それは」

僧侶「それに、戦うな、とは申しておりませんしぃ。正当防衛なら、殺されそうになったらヤッちってもいいんですよねぇ~?」

勇者「しゃーないよ、そうなったら」

戦士「ふむ。あえての鍛錬か。良いかもしれんな」

魔法使い「戦士も!」

戦士「そうカッカするな。どうやら勇者様とやらはこういう人間のようだ」

勇者「……魔法使いはどうする?」

魔法使い「~~~~ッ! わかったわよ!」プイ

68: ◆7Ub330dMyM 2018/01/11(木) 10:51:26.03 ID:/prJW+7dO
僧侶「あ、でもちょっと待ってください~」

勇者「ん?」

僧侶「レベルアップの件については了承いたしましたぁ~。でも、資金調達はどうなさるおつもりでぇ?」

戦士「おっ、そうだった。魔物の皮やツノを売らなければ旅が苦しくなるぞ」

勇者「あ……」

魔法使い「その顔は、考えてなかったって感じね」

勇者「やべ、どうしよう」

僧侶「みなさんいくらもってますかぁ?」

戦士「あたしは300ゴールドほど」

魔法使い「少なっ! 私は1000ゴールド」

戦士「おっ、結構持ってるな」

魔法使い「当たり前でしょ。あんたが少なすぎるのよ」

僧侶「私も魔法使いさんと同じぐらいですぅ~」

魔法使い「まぁ、当面はなんとかなるか。でも、装備もあるし……勇者は? 王様からがっぽり支給されてるんでしょ?」

勇者「……」

戦士「いくらだ? 荷物は軽そうだが」

勇者「……ゴールド」

僧侶「すみません~いま、なんとぉ?」

勇者「は、はちじゅう、ゴールド」

戦士&僧侶&魔法使い「……」ポカーン

魔法「……き、聞き間違いよねぇ? 勇者がまさか、そんな貧乏なはず」

勇者「う、うぅ」

戦士「ほ、本気なのか?」

僧侶「これは、困ってしまいましたねぇ~」

魔法使い「このっ! 貧乏勇者! 甲斐性なし!」ゲシゲシ

勇者「や、やめちくりぃ~。蹴らんどいてくりぃ~」

魔法使い「はぁっ、はぁっ、ヒモ男かあんたはっ!!」ゲシゲシ

勇者「ず、ずびません~」

僧侶「殺生が禁止となるとぉ、戦利品も望めませんしぃ」

69: ◆7Ub330dMyM 2018/01/11(木) 11:19:37.81 ID:/prJW+7dO
魔法使い「王様ならなにも貰ってないの⁉︎」

勇者「それは、色々(ただ慌てて出ただけ)とありまして」

魔法使い「はぁ……どうすんのよ、勇者様」

勇者「……ギャンブルとか、どu」

魔法使い「無一文になるつもりか!」スパーン

戦士「生計の為ならば生を奪う、致し方ないだろう。我々だって、肉を食らう。菜食主義者ではないよな?」

勇者「あー、うん、それはその通り」

戦士「やれやれ……ブレブレのような気がするが、関係のない殺生はしないという解釈でいいか?」

勇者「ははーっ」ドゲザ

僧侶「決まりですねぇ~」

魔法使い「……こ、こんなのが、勇者。私は認めない! 絶対に認めないんだからぁっ!!」

店主「ちょっとちょっと、朝っぱらから騒がしいねぇ」

勇者「あ、おばちゃん。おはよ」

店主「ほい、おはよーさん。まっとくれ、今トーストを準備するから」

僧侶「昨日のニセモノさんはどうなったんですかぁ?」

店主「若い衆に頼んで隣町の役所に連れてってもらったよ。連れてく最中もうるさくてねぇ」

戦士「まだ自分が勇者だと?」

店主「いいや、その逆さ。“ホンモノがいる! あのお方に会わせてくれ!”だと。まだホラふくなんて笑っちまったよ」

魔法使い「ふーん」ジトー

勇者「う、うぅ」シュン

店主「村の連中以外はあんた達しかいないってのに。そっちのお兄ちゃんが勇者なのかい?」

勇者「いや、俺は」

店主「だぁーっはっはっ! そんなわけないよねぇ!」

勇者「(なんだろう、そう見えないっていうのも悲しい)」

店主「ま、牢屋にぶちこまれれば大人しくなるだろ」

70: ◆7Ub330dMyM 2018/01/11(木) 12:24:17.83 ID:/prJW+7dO
【魔王城付近 沼地】

魔王「のぅ、サキュバスよ」

サキュバス「ははっ、ここに」

魔王「幾百年といがみ合う種族の争い。お前は人間達との戦いになにを見る」

サキュバス「群れを主体とする脆弱な生き物。しかし、時にひどい残虐性、憎悪。危険極まりない存在かと」

魔王「ふっ、向こうも我等をそう思っておろうな」

サキュバス「然りにございます。あちらもこちらを悪の象徴と見ているでしょう。決して相入れない、平行線上にいますゆえ」

魔王「……幾千年、繰り返したことか」

サキュバス「ご心中お察しいたします」

魔王「我等は、負けるぞ」

サキュバス「……」

魔王「なにも今すぐという話ではない。内に内にと向いている近親婚のお陰で、個々の血が強まるどころか、衰退している」

サキュバス「それは、魔族繁栄の為、先代様の方針で」

魔王「その結果がご覧の有様だ。巨人王オーガの身体つきを見よ。背丈が代を変わるごとに小さくなっておるでないか。他の種族も……」

サキュバス「……」

魔王「強い種を産むには、交配が不可欠だ。だが、種族間のプライドが邪魔をする」

サキュバス「我々が、負けるなどと。おやめください。群れが主体の脆弱な生き物に敗北しようがありません」

魔王「だからだよ、その驕りに負けるのだ」

サキュバス「我が王よ……」

魔王「率いるとは、調整を余儀なくされる。お主も種を代表する者であれば、我が苦心がわかるであろう」

サキュバス「そ、それは……」

魔王「だが、まだ諦めているわけではない。女神の申し子たる勇者の行方さえ掴めれば、友好などという仮初めの芽を潰せる」

サキュバス「……!」

魔王「どこにおるのやら」

サキュバス「大魔王様の苦心、わたくしも種を束ねる者として充分にご理解できました。勇者捜索はおまかせを」

魔王「なにを……18年も見つけられないでおいて」

サキュバス「必ずや挽回してみせましょう。我が誇りにかけて」

魔王「信じて、よいのだな……?」

サキュバス「必ずや……! 四天王がひとり、淫夢王の名にかけて!」ザッ

魔王「……頼んだぞ、我が友よ」

サキュバス「はっ!」ビシッ

71: ◆7Ub330dMyM 2018/01/11(木) 13:03:02.21 ID:/prJW+7dO
【アルデンテの村 近郊 森林】

勇者「ああ、そよ風が気持ちいい。あの雲のように俺も漂えたら」

魔法使い「邪魔」ドンッ

勇者「人間の扱いして⁉︎」ドサッ

魔法使い「うー、なんでこんな獣道通んなきゃいけないのよぉ~」

戦士「しかたない、だろっと。あそこに見える山を越えなきゃならない」

僧侶「遅いですよぉ~」フリフリ

魔法使い「なんでこんな歩きにくい場所で元気なのよ、僧侶」

戦士「ダーマから来たのなら、ここを通ってるんじゃないか?」

魔法使い「陸路を? 魔法職ひとりで? ……怪しい」

戦士「魔法使いはどうやってアイーダの酒場へ?」

魔法使い「城のすぐ近くに波止場があるもの。船に乗って来ただけ」

戦士「ということは、別大陸出身か」

魔法使い「大陸というか、島国よ」

戦士「ほう」

僧侶「勇者さまぁ~。はやくはやくぅ~」フリフリ

勇者「はいはい」

戦士「足元に気をつけろよ」

勇者「俺を舐めんなよ? ワンパクっぷりは近所でも呆れられてたんだから」

魔法使い「……私は今呆れてる」

勇者「ほっ、よっと」パキッ カチ

戦士&魔法使い「……ん?」クル

勇者「ん? どした? 俺の顔になんかついてるか?」

戦士「いや、なんか、枝じゃない音がしなかったか?」

魔法使い「なにかのスイッチを押したような」

勇者「気のせいだろ。……びびってんのか?」

戦士「それなら、いいのだが」

勇者「まったく~。今からそんなんじゃこれから先が思いやられるぜ」

魔法使い「ムカつく。メラ」ボッ

勇者「ほっ! はっはーっ! チッチッチ、甘い甘いー」ヒョイ カチリ

戦士「おい、今のはっきり聞こえたぞ。カチリって」

勇者「やーいやーい! 魔法使いのノーコン!」

魔法使い「……」プルプル

勇者「ざまぁwww ……あ?」ガコン

戦士&魔法使い「あっ」

勇者「うそぉおおおおっ! なんでこんなところに落とし穴がああぁぁぁぁっ」ヒューー

72: ◆7Ub330dMyM 2018/01/11(木) 13:21:59.35 ID:/prJW+7dO
【??? 洞窟】

勇者「おー、いつつ」ナデナデ

戦士「おぉぉ~い! 大丈夫かぁぁぁ~⁉︎」

勇者「大丈夫! ケツが二つに割れただけで済んだ!」

魔法使い「元からでしょ!」

勇者「……結構落ちたな、しかし、なんにも見えねぇ」キョロキョロ

僧侶「どうしたらいいですかぁぁぁ~?」

勇者「魔法使い! 戦士に手頃な木を用意してもらって松明を作ってくれ!」

魔法使い「まったく、仕切る時は仕切るんだから」ブツブツ

勇者「からかったのは悪かったって! ほんの冗談のつもりだったんだ!」

魔法使い「準備ができたら投げ込むけど、どうやって戻ってくるつもりぃ~? 結構、深いわよねぇ~?」

勇者「こっちに降りるのは危険かもしれない! なんとか出口を探すから、森の入り口で夕方までまっててくれ!」

僧侶「ほんとに大丈夫ですかぁ~~?」

勇者「大丈夫大丈夫! もし戻ってこなかったら迷子と思って探してね!」

魔法使い「かっこつけるんなら最後までかっこつけなさいよ!」

戦士「おい、魔法使い。これでいいだろ」

魔法使い「ん。じゃぁ」

戦士「待て。布を巻いてっと」ビリ クルクル

魔法使い「油で湿らせるの忘れないでね」

戦士「昨日の一角うさぎのやつがある。これで」

魔法使い「メラ」ボッ

戦士「よし。いいかぁ~投げるぞぉ~~~っ!」ヒョイ

勇者「ありがとう! それじゃまた後で落ち合おう!」パシ

僧侶「くれぐれもお気をつけてぇ~!」

勇者「それでぇ、どこだぁ? ここはぁ?」


73: ◆7Ub330dMyM 2018/01/11(木) 15:02:04.40 ID:/prJW+7dO
【数十分後 洞窟 中腹部】

勇者「いんやー、すぐに行き止まりかと思えばなかなか入り組んでるんでない? 炭鉱だったのかな?」

シク……

勇者「唐突ですが、ここで俺が嫌いなものランキングの発表です。第3位、幽霊」

シクシク

勇者「第2位! ゴースト」

シクシク

勇者「そして栄えある第1位はぁ、お化け!」

シクシク

勇者「全部同じでしたぁ~……はは、あはは……」

シクシクシクシク

勇者「なんでずっと泣いてるんじゃ! 出るなら出てこんかい!」バッ

ハーピー「シクシク」

勇者「おっと……なんだ、鳥か」

ハーピー「……っ⁉︎ ニンゲン!」

勇者「人型、言語能力があるのか」

ハーピー「……去れ。コロスぞ」

勇者「そういきるなって。足、はさまって動けねぇんだろ?」

ハーピー「⁉︎ なにかすルつもりか!」

勇者「焼き鳥にして食う。腹減ってんだ」

ハーピー「おのれ……っ! 野蛮な!」

勇者「よいせっと」ドサッ

ハーピー「……!」ビクッ

勇者「俺さ、小さい頃、スライム飼ってたんだ。親からは犬猫にしなさいって大反対されたけど」

ハーピー「す、スライム?」

勇者「スラリンって名前つけてな? 最初はよく反抗したもんだ」

ハーピー「クッ……」バサバサッ

勇者「スラリンもお前みたいに怪我しててさ。治るまでは俺のこと利用してやろうって考えたんだろうな。
治療は素直に受け入れだした、動くなよ」ガタッ

ハーピー「……?」

勇者「よっ、俺にとっちゃ、初めての友達だったんだ。勇者っていってみんなから遠巻きに眺められてるだけだったから」コロ

ハーピー「……」

勇者「そうそう、今のお前みたいに。石をどかしたら俺のこと襲おうと考えてるだろ?」

ハーピー「な、ナニをイッてる」

74: ◆7Ub330dMyM 2018/01/11(木) 15:16:05.00 ID:/prJW+7dO
勇者「お互いに知能があるならさぁ、向いてる方向が違うだけだと思うんだよなぁ。ほれ、とれたぞ」

ハーピー「……」スッ

勇者「行けよ。背中から刺したりしねぇから、あ、でも襲おうってんなら俺も抵抗はするぞ。今はそういう時代なんだろうからな」

ハーピー「……フン」バサッ

勇者「さて、と」パンパン

ハーピー「ギャッ」ドサッ

勇者「……まさか、飛べないとか、そういうお約束パターン?」

ハーピー「う、うぅッ……!」ズリ

勇者「しょーがねぇなぁ! ほれ、こっちこい!」

ハーピー「ダマレ! ニンゲンになど!」キッ

勇者「そのままだったら野垂れ死ぬぞー。プライドと命どっちとるんだー?」

ハーピー「死をエラぶ!」

勇者「あー、そうですか。勝手にしろよ」スタスタ

ハーピー「き、貴様! よるな!」

勇者「死ぬんだろ? なら近寄ったって関係ないじゃん」

ハーピー「くっ」ズリズリ

勇者「俺のマッサージは街のじいちゃんばあちゃんにも高評なんだ、あの世を見せてやんよ」ポワァ

ハーピー「うっ、うぅ……」

勇者「勇者として生まれてよかったことがひとつある。それは、補助系、攻撃系と満遍なく覚えること。バランス方っつーのかな。器用貧乏とも言うけど」

ハーピー「ゆ、勇者ダト……」

勇者「あ、近所にね? 勇者って人がいたんだ。俺じゃないよ?」ポワァ

ハーピー「(暖かい、ヒカリ)」

勇者「少し怪我の具合がひどいか。じっとしてろよ」

75: ◆7Ub330dMyM 2018/01/11(木) 15:46:25.48 ID:/prJW+7dO
【再び数十分後 洞窟】

勇者「これでよしっと。まぁ、飛ぶ分には問題ないだろ」

ハーピー「……」

勇者「どした? まだ痛むのか?」

ハーピー「オマエ、ヘンなやつ」

勇者「よく言われる」

ハーピー「勇者とは、ホントウか?」

勇者「嘘だよ、ウソ」

ハーピー「……」

勇者「あのさぁ、ここの出口があったら教えてくんない?」

ハーピー「ニンゲンにほどこしをウケたなど……! 一族の恥……!」

勇者「困ってんだよねぇ~。出口探すの疲れてきてるし」

ハーピー「獣王キングヒドラ様にお叱りを……! かクなる上は!」バサッ

勇者「せっかく治したのにまた怪我すんの?」ゲンナリ

ハーピー「思い上がるナッ! オマエを殺せばここでのコトもなかったコトに!」

勇者「誰にも言わない。本当。約束する。俺口固い」

ハーピー「信用できるカッ!!」ザシュ

勇者「……っとと。なぁ、考えなおさない?」ヒョイ

ハーピー「チョコマカと!」ザシュ ザシュ

勇者「よっと、ほっ」ヒョイ ヒョイ

ハーピー「~~ッ! 真面目にやれ! ヘラヘラするな!」バササッ

勇者「いや、だからだね」トンッ

ハーピー「うっ」ズキン ドサッ

勇者「言わんこっちゃない。これまたお約束的に」

ハーピー「……くっ、いっそコロセ」

勇者「テンプレのオンパレードか! そーゆうのいいから!」

ハーピー「ナラば、自決を」

勇者「はぁ……あのさあ、ありがちすぎんだろ」

ハーピー「……」スッ

勇者「待てよ」パシ

ハーピー「なぜ、トメル」

勇者「お前らにとって人間ってなに?」

ハーピー「エサだ」

勇者「そう。俺らにとっても、魔物の材料は高く売れる。そっから精製されるもんは重宝されてる。良い値がつく」

ハーピー「だから、ナンだ」

勇者「利用され利用して、高い知能を持った同士が欲のままに殺しあう。そうなれば遺恨を残すし、終わらないサイクルに突入する」

ハーピー「……」

勇者「一枚岩じゃないからな。魔物も人間も、ついついやらかしすぎちまうやつがポッと出てきちまうものなんだ」

ハーピー「イッてる意味が、ワカらん」

76: ◆7Ub330dMyM 2018/01/11(木) 16:02:48.40 ID:/prJW+7dO
勇者「ちっと難しかったか? 第二章! 政治編もあるぜ!」ビシッ

ハーピー「……」ポカーン

勇者「ダダ滑り……なにが言いたいかというと、もっとラクに生きようぜ。しきたりとか垣根とか、今は俺とお前しかここにはいないんだから」

ハーピー「……」

勇者「お前にだって魔物としての吟じがあったりすんだろ? もっとニンゲン殺してやるー! とか。自決なんてもんはバカのすることだ。やりたいことやってから死ね」

ハーピー「お前ハ、ニンゲンがコロサレてもいいのか」

勇者「そんな話じゃない。それぞれの立場でやりたいように生きろ、小難しく考えてもどうせ破綻すんだから」

ハーピー「……コノまま、ススメば出口がアル」

勇者「あ、本当? 風の気配ないからないのかと焦っちゃったよ」

ハーピー「指を舐めてミロ」

勇者「えっ、指?」アム

ハーピー「ソウスルと、風を感じられるはず」

勇者「……んー、おおっ! 指先がちべたい!」

ハーピー「ツギニ会ったら、コロス」

勇者「期待して待ってる。できれば、俺だけを狙ってほしい」

ハーピー「……」

勇者「俺を殺せたら、次の人間を殺したっていいよ」

ハーピー「……そのコトバ、ワスレるなよ」バサッ

勇者「ああ、しっかり覚えといてやる」ニッ

77: ◆7Ub330dMyM 2018/01/11(木) 16:20:34.12 ID:/prJW+7dO
【アルデンテの村 近郊 森林】

僧侶「あのぅ~、勇者さまは森の入り口で待つようにとぉ~」

戦士「魔法使い、ロープ頼む」

魔法使い「死んでたらどうすんのよ。はいってもう一時間も経つわ」

僧侶「ツンデレってやつですかぁ? 古典ですねぇ」

魔法使い「違うわよ! 私はそんなんじゃ!」

戦士「一度村に戻ってロープを買ってきたんだ。あたしが降りて勇者を探してくる」

バサッバサッ

魔法使い「……なにか羽音が聞こえない?」

僧侶「たしかにぃ~。エコーがかかってますねぇ。穴の中から?」

戦士「穴って、ここか?」ヒョイ

ハーピー「ウオッ⁉︎」ドヒュン

魔法使い「わっ、び、びっくりしたぁ……いきなり飛び出して……は、ハーピー⁉︎」

戦士「おぉ。人型だ」

僧侶「あらあらぁ~」

魔法使い「気をつけて! こいつは中級モンスターよ!」

ハーピー「ニンゲンか……」バサッバサッ

魔法使い「言語を解するのね! 高い知能を持ってる! モンスターにとって知能は強さの現れ! 戦士!」ザッ

戦士「戦闘か!」チャキ

僧侶「でもぉ、戦う意思があるようにはぁ~」

ハーピー「オマエたち、さっきのヤツのナカマか?」

魔法使い「さっきの? って、だ、誰?」

戦士「あ、あたしに聞かれても」

僧侶「そうでぇ~す!」フリフリ

魔法使い「ちょ、そ、僧侶!」

ハーピー「ココから東にススメ。そこに行けばイル」

戦士「な、なんだ……?」スッ

魔法使い「なにが、どうなってるの?」

ハーピー「フン」バサッバサッ

僧侶「……行っちゃいましたねぇ~」

戦士「ど、どうする?」

魔法使い「どうするったって……」

僧侶「ここにいたって暇ですしぃ、まずは行ってみませんかぁ~?」

78: ◆7Ub330dMyM 2018/01/11(木) 16:41:48.73 ID:/prJW+7dO
【森林 東の外れ】

勇者「ふぃー」ザッ

戦士「あれじゃないか? おぉ~い! 勇者ぁ~!」

勇者「あれ? ここって入り口だったの?」

魔法使い「はぁ、はぁっ、呑気な、平気、なの?」

僧侶「ふぅ~」

勇者「なんともないよ。砂埃をかぶっちまったぐらい」パンパン

戦士「なぁなぁ、中はどうだった?」

勇者「なーんにも。宝箱さえなかったね」

魔法使い「ハーピーと遭遇しなかった⁉︎」

勇者「……いんや」

僧侶「そうなんですかぁ~?」

勇者「あぁ。誰とも会わなかったよ」

魔法使い「えっ、でも、それだったら、誰のこと。勇者はたしかにこっちにいたし、えっ、えっ?」

勇者「いいんじゃないの。わからなくても」

戦士「……かっこつけてんのか?」

勇者「ち、違わい! 改めて指摘すんな! 恥ずかしい!」

僧侶「くすくす。怪我がなくてなによりですぅ」

魔法使い「はぁ……つまり、そういうこと。あんたはキザ似合わないから」

勇者「べ、別に、そんなつもり」ゴニョゴニョ

戦士「生きてるならそれでよしとしよう。時間を食ったが、陽が落ちるまでに落ち着ける場所に行かなければ」

勇者「あー、間に合うかな?」

戦士「パス」ポイ

勇者「うぉっ」ドサ

戦士「さっき、村に戻ったついでにテントを買ってきた。勇者が持て」

魔法使い「あんたのせいなんだからそれぐらいしなさいよね」

勇者「は、はい」

僧侶「とりあえず、今日のところは山の中腹を目指す感じでしょうかねぇ~」

戦士「そうだな……。さ、出発だ」

79: ◆7Ub330dMyM 2018/01/11(木) 19:47:33.01 ID:eL30j4//O
【獣王城 玉座】

キングヒドラ「なにぃっ⁉︎ もう一度申せっ!!」

ねずみモグラ「オラじゃねぇっスよ~」ブンブン

キングヒドラ「それはわかってる! ハーピーがニンゲンの匂いをつけて帰ってきただとぉ⁉︎」ドガーーン

ねずみモグラ「ひぃ~っ」ガタガタ

キングヒドラ「ハーピーはどこだっ!!」

ねずみモグラ「今、巣に」

ハーピー「ただいま、戻りました。キングヒドラ様」スッ

キングヒドラ「……」ギロ

ねずみモグラ「はわわわわっ」ガタガタ

ハーピー「此度の件は」

キングヒドラ「仕事はどうした! 人語を喋れるお前を斥候(偵察のこと)にやった理由を言えぇいっ!!!」ピシャーン

ハーピー「人間どもの、勢力調査です」

キングヒドラ「それがなぜニンゲンの匂いをつけて帰ってくる!! プンプン臭うぞぉっ!!!」

ねずみモグラ「あ、あの、キングヒドラ様ぁ」

キングヒドラ「なんだっ⁉︎」ギロ

ねずみモグラ「もしかして、ハーピー様はニンゲンどもを殺してきたのでは? もともと、匂い自体はめずらしいことでは」

キングヒドラ「……そうなのか?」

ハーピー「……」

キングヒドラ「答えんか。恐怖の爪で引き裂かれる前に」

ハーピー「も、申し訳ございません! 獣王様!」ドゲザ

キングヒドラ「なぜ……謝る?」ドシン

ハーピー「卑しくも、このハーピー。ニンゲンに助けていただきました!」

ねずみモグラ「えぇっ⁉︎」

キングヒドラ「……」プルプル

ハーピー「嘘をつくこと違わず。いかような罰もお受けする所存でございます」

キングヒドラ「……よかろう。正直に話した貴様の誇り、たしかに受け取った」

ハーピー「はい、有り難く」

キングヒドラ「だが、罰を免除することは無理だ! ニンゲンに手助け⁉︎ ほどこしを受けただとぉおおおっ⁉︎」ゴォッ

ハーピー「……もし、機会をいただけるのであれば、万全の状態でやつを殺しとうございます」

80: ◆7Ub330dMyM 2018/01/11(木) 19:49:51.46 ID:eL30j4//O
キングヒドラ「……なに?」ピクッ

ハーピー「実力を隠しているのやも。こちらが手負いとはいえ、まるで赤子同然でした」

キングヒドラ「ふむ。では、情けをかけられたということか? ニンゲンに?」

ハーピー「お恥ずかしい話ですが、そうなのでしょう。であれば、見過ごすはずがございません」

キングヒドラ「忌々しいッ!!」ドンッ

ねずみモグラ「玉座が壊れちゃうっスよぉ」

キングヒドラ「それで、相手は何人だ? 群れがやつらの特徴だ。五人か? 十人か?」

ハーピー「……一人で、ございます」

キングヒドラ「ひ、ひひひひひひっ⁉︎」

ハーピー「申し訳、ございません」

キングヒドラ「ひ、ひとぉおおおおりぃぃいいっ⁉︎」ピシャア

ねずみモグラ「火炎の息が漏れてるっス! あちっ! あちちっ!」アタフタ

キングヒドラ「出ていけッ!! 貴様など種族のツラ汚しだッ!!!」

ねずみモグラ「シワが増えるっすよ! もうニンゲンでいうとハタチ超えた  ゴなんですからキングヒドラ様も!」

キングヒドラ「だまぁああれぇぇっ!!」ゴォッ

ねずみモグラ「熱っ! あっちゃあっ!!」バタバタ

ハーピー「かしこまり、ました。それがお望みであれば」スッ

82: ◆7Ub330dMyM 2018/01/11(木) 20:41:25.64 ID:eL30j4//O
【山 中腹部 テント設営地】

戦士「薪はこんぐらいでいいな」カランカラン

魔法使い「メラ」ボッ

勇者「お前、チャッカマンみたいになってきてるなぁ」

魔法使い「なに? チャッカマンって?」

勇者「いや、知らなきゃいい」

僧侶「見てください勇者様ぁ~! アルデンテの村がもうあんなに小さく!」

勇者「おお、いい眺めだ」

魔法使い「戦士、そっちの地図とって」

戦士「ん」ヒョイ

魔法使い「えぇ~と」パサッ

戦士「真面目だよなぁ、魔法使い」

魔法使い「計画性なく行動するのが嫌いなの」

戦士「勇者も見習ったらどうだ」

勇者「お前もな」

戦士「な、なにをぅっ!」

魔法使い「現在地は、ここね。ダーマまでは半分もきてない、か……」

僧侶「それはそうですよぉ。村二つ通りすぎただけですしぃ~」

魔法使い「僧侶、陸路できたの?」

僧侶「そうですよぉ~?」

魔法使い「どうやって? こんな長い距離、襲ってくださいっていってるようなものじゃない」

僧侶「それはぁ、これのおかげです♪」

戦士「アイテムか?」

僧侶「とぉっても貴重なものでぇ、ゴスペルリングっていうんですよぉ」

魔法使い「どんな効果なの?」

僧侶「モンスターに出会わなくなっちゃいますぅ」

魔法使い「えっ⁉︎」

戦士「ほほー」

魔法使い「それって、国宝級のアイテムじゃない!」

僧侶「はい~。世界にひとつしかないアイテムだそうですよぉ」

魔法使い「よ、よくそんなの……」

僧侶「もちろん返納しますよ~。もともとは神殿の魔除けにと保管されていたアイテムですから~」

勇者「どれどれ? 見せてもらっていいか?」

僧侶「どうぞどうぞ~」スッ

勇者「ふぅ~ん。なんの変哲もないリングに見えるけどねぇ」

僧侶「編み込まれるものが特殊なんですよぉ。我々が身につけている装備品もそうですけどぉ」

魔法使い「杖、新調したいな」

勇者「メラしかやってないn」

魔法使い「なんかいった?」ギロ

勇者「このリングすごぉーい!」

戦士「次は山を越えたあたりにある。なかなかに大きいぞ」

勇者「そうなんか?」

戦士「あぁ、コロシアムで有名な街。マッスルタウンだ」

88: ◆7Ub330dMyM 2018/01/12(金) 11:34:28.00 ID:9na26kBgO
【山頭頂部 付近】

手下「おやび~~ん! 間違いありやせん! あの煙は旅人のもんでさぁ!」

ガンダタ「ぐっふっふ。遠征から帰ってきたとたんにカモがのこのこやってくるとはツイてるぜぇ~」

手下「苦労して手に入れた稲妻のツルギを持ち逃げされやしたからねぇ」

ガンダタ「ばっ、それを言うなよ」

手下「俺たちの中から裏切り者がでるとは。1ヶ月の遠征の後、やっと見つけた塔で、しかも多数の負傷者を出して赤字……お給料もまともに払えないなんて」

ガンダタ「ぬっ、ぬぐぐ……!」

手下「動けるのは俺と、親分のみ……はぁ」

ガンダタ「ガタガタうるせえっ! 働いて補填したらいいんだろうが! 赤字分は!」ガンッ

手下「……働くしかないの間違いではないすか?」

ガンダタ「いいんだよ! 働くって分に変わりねぇんだから! 仕切り直し!」

手下「へい」シュン

ガンダタ「支度するぞ! 俺の斧持ってこい!」

手下「へいへい」

ガンダタ「へいは一回!」

手下「金目の物持ってるといいですねぇ」ゴソゴソ

ガンダタ「……ぐっふっふっ、飛んで火にいる夏の虫とはやつらのことよ。なぁ~に、金がなくても身体がある」

手下「奴隷として売り飛ばすんですかい? 老人じゃなきゃいいでやんすね」

ガンダタ「対面すりゃわかるこった。やつらが寝静まった時間を狙って……うっひっひっ」ニタァ

89: ◆7Ub330dMyM 2018/01/12(金) 12:25:51.41 ID:D1/b/IpBO
【魔法使い 夢の中】

魔法使い(母)「メラゾーマ!」ゴォッ

レッサーデビル「ウギャーッ!!」ドサリ

魔法使い「ママッ!」

魔法使い(母)「くっ、油断した」ドロ

魔法使い「血っ⁉︎ 腕から血が……っ!」

魔法使い(母)「よく聞きなさい。走って村の人達を呼んできて」

魔法使い「や、やだよ! こわいもん! ママ、いや! 離れたくない!」

魔法使い(母)「黙って聞くのッ!!」

魔法使い「……っ!」ビクゥ

魔法使い(母)「いつものお使いよ」ニコ

魔法使い「うっ、うぅっ、ぐすっ」ポロポロ

魔法使い(母)「私の心配なら平気。ね、大丈夫だから」

魔法使い「ほ、本当……?」

魔法使い(母)「ええ、もちろん! 来週、ピクニックに行くんでしょ?」

魔法使い「う、うん……」

魔法使い(母)「指、貸して」

キラーナイト「……」ウィーン

魔法使い「……はい」

魔法使い(母)「ゆぅ~びきり、げんまん♪」

魔法使い「ゆ、ゆびきりっ、げんまんっ!」

キラーナイト「タイショウヲ、マッサツ」ピピ

魔法使い(母)「さ、走れるわね?」

魔法使い「う、うん!」ゴシゴシ

魔法使い(母)「行きなさいッ! 振り向いちゃだめよ! 一生懸命走って!!」

魔法使い「わ、わかった! ママ、頑張って!」ダダダッ

魔法使い(母)「ふぅ……さぁ、かかってきなさい。ここから先へは一歩も通さないわよ……っ!」

90: ◆7Ub330dMyM 2018/01/12(金) 12:43:34.50 ID:D1/b/IpBO
【深夜 山 中腹部】

魔法使い「――……ママッ!!」ガバッ

戦士「……」チラ

魔法使い「あ、えっ? ここ……」

戦士「平気か? 随分とうなされていたみたいだが」

魔法使い「あぁ……」

戦士「まだ夜は深い。ゆっくり身体を休めておけ」

魔法使い「貴女は、寝なくて平気なの?」

戦士「あと二時間すれば勇者を起こす。代わり番で見張りだからな」

勇者「んがーっ、んがーっ」スヤスヤ

魔法使い「そういや、そうだったっけ」

戦士「昔の夢でも見てたのか」

魔法使い「はぁ……そんなところ。母様の夢」

戦士「……なにやら、仇と言ってたな」

魔法使い「私が小さい頃にね、魔物に殺されちゃったの。遺体は見つかってないけど」

戦士「そうか……」

魔法使い「火、小さくなってるね」カラン

戦士「あたしは慰めが苦手だ。月並み言葉だが、ご冥福をお祈りさせてもらおう」

魔法使い「いいんじゃない、ストレートで。変に飾るよりは好感が持てるわ」

戦士「これしかできないだけだよ」

魔法使い「……変わった勇者よね」チラ

勇者「むにゃむにゃ、もう食べられないのにぃ~」スピー

戦士「どうだかな……正直なところ、掴みきれてない」

魔法使い「どういう意味?」

戦士「曖昧なように感じる。まだ日が浅いが、メリハリというか、なんというか……言葉ではうまく説明できん」

魔法使い「なんで、モンスターなんかに肩入れするのかな……」

戦士「さてな。魔王を倒す旅はしているんだ、肩入れしようとやることさえやっときゃ問題ない」

91: ◆7Ub330dMyM 2018/01/12(金) 12:57:02.37 ID:D1/b/IpBO
【中腹部 茂みの中】

手下「おぉ~! 親分! 暗がりでよく見えやせんが、ありゃ間違いなく上玉の女冒険者でっせ! ひぃ、ふぅ、みぃ、男のコブつきみたいですが、当たりですね!!」

ガンダタ「ほぉ~れ見ろ! こうやってな、女神様はきちーんと考えてくださるんだよ!」

手下「へ? か、考える?」

ガンダタ「女神様の声が聞こえるねぇ~。“あなた達は頑張ったのです。ご褒美をあげましょう”ってな~!!」

手下「いや、でも、それじゃ、そもそも稲妻のツルギを持ち逃げされないんじゃ」

ガンダタ「下げて上げるっつーのはまさにこのことよ! 落ち込んでる時に棚からぼた餅なくりゃ、いつも以上に有り難みがますってもんだろぉ~!」

手下「な、なるほど! さすが親分!」

ガンダタ「どれ、では早速」ガサガサ

手下「待ってください! 今は二人起きてるんでもうすこし様子を見ましょう!」

ガンダタ「あぁ? 女におくれをとるガンダタ様じゃねぇぞ!」

手下「俺だって疲れてるんすから! ろくに休みもらえなかったし!」

ガンダタ「うっ、そ、そうなんか?」

手下「ね? 無駄な労力を使わず、まだ時間はあるでやんす。もうちょっと様子見ましょうって」

ガンダタ「しょうがねぇなぁ」

92: ◆7Ub330dMyM 2018/01/12(金) 13:19:36.41 ID:D1/b/IpBO
【再び テント設営地】

勇者「……んー」ムク

魔法使い「……? 起きたの?」

戦士「交代には、まだ」

勇者「ネズミがいるな」

魔法使い「ネズミ……? こんなとこに? どこよ」キョロキョロ

勇者「ふぁ~ぁ」コキパキ

戦士「ネズミだったら非常食にとっておきたいんだが」キョロキョロ

勇者「目が覚めた。戦士、交代すっか」

戦士「いや、あたしは」

勇者「俺は目が覚めたって言ったろ? どうせ起きてる。なら眠いやつが寝ておけばいい」

魔法使い「私も目が覚めたし、戦士は休んで大丈夫」

戦士「む、そうか? ならお言葉に甘えて」

勇者「お前もだよ、魔法使い」

魔法使い「え? 私は、べつに」

勇者「夢を見る睡眠ってのは案外浅いもんだ。明日に疲れを蓄積させるな」

戦士「……起きてたのか?」

勇者「いや、あの」

魔法使い「狸寝入りしてたの? キメきれないやつねぇ」

戦士「ふっ、まったくだ。言わなければわからないものを」

勇者「……入っちゃまずい雰囲気かなーと思って」

魔法使い「余計な気は使わない方がいいわよ。自然体でいること」

戦士「起きてるならあたしは休むぞ。マヌケな勇者様ひとりじゃないみたいだからな」ゴソゴソ

勇者「う、うぅ。二枚目キャラになりたい」

魔法使い「だったら空気を読み違えないように」

勇者「へい」

魔法使い「ふざけてばっかりなんだから」

勇者「オホホ、お花をつみに行ってまいりますわ」

魔法使い「くっ、この、ヘンテコ勇者」

勇者「寝たくなったら寝てていいからさ。母さん、生きてるといいな」ポンッ

魔法使い「何言ってるのよ。母様は死んだの」

勇者「遺体は見つかってないんだろ?」

魔法使い「はぁ……あのねぇ、いくら探し回ったか知らないでしょ。生きてるなら帰ってくる」

勇者「……」

魔法使い「ありもしない希望にすがるのは、やめたのよ」

勇者「それなら俺がお前のかわりに祈っておいてやるよ」

魔法使い「いい加減に」

勇者「勝手だろ、誰かひとりぐらいいたっていいじゃないか。そう願う者が」

魔法使い「……好きにしたら」

勇者「あぁ、てなわけで、ラリホー」ポワァ

魔法使い「えっ、な、なに、を……」

勇者「朝までゆっくりしてろ」スッ

93: ◆7Ub330dMyM 2018/01/12(金) 14:57:20.31 ID:cIisLjGgO
【茂みの中】

手下「絶好の機会でやんす! コブの男どっかいきやしたぜ!」

ガンダタ「他も寝静まったみてぇだな」

手下「ラクな仕事すぎて小躍りしそうっすよ!」

手下?「親分! お待たせしました!」ガサゴソ

ガンダタ「おっ? お、おめぇ?」

手下「(青い布つけてるやついたっけ?)」

手下?「ひどいですよぉ~置いてくなんて! それで、なにをするんですか?」

ガンダタ「……まぁ、いいか。あそこで寝てるやつらを縛るんだ」

手下?「盗みですかい?」

ガンダタ「あったりめーよ! 身ぐるみ剥いで女は上玉みてぇだからな、高く売れそうだ」

手下?「なぁ~るほど! 良い値で売れるといいですね!」

手下「大丈夫でやんす! マッスルタウンに富豪がいるっすから! ……ん? 知らないんでやんすか?」

手下?「知ってますよ! あの富豪さんでしょ!」

手下「でげすでげす! 成金趣味の嫌ぁ~な感じのやつっすけど、上客には違いねぇっす! 親分、男はどうしやす?」

ガンダタ「あいつは奴隷商に売りとばそう」

手下?「奴隷商人っていうと、あのお方ですかい?」

ガンダタ「ああ、隣国でなにやら建設してるらしくてな。力仕事をするやつを探してる」

手下「女がひとり、十万ゴールドとして……いや、もっといけるかもしんねぇでやんすな!」

手下?「ところで親分! 他の手下はどちらへ?」

ガンダタ「あ? お前が今来た頂上の洞穴だろーが。山賊が、勉強できねぇのは仕方ねぇけどよ、それぐらい覚えろよ」

手下?「でっへっへ。すみません」

手下「準備はいいすか?」ガサガサ

ガンダタ「ああ、いつでも……」ガサガサ

手下「とつげきぃぃ………うふん」コテ

ガンダタ「気色わりぃな。……おい。……あ? おい?」クルッ

手下?「ラリホー」ポワァ

ガンダタ「あふん」コテ

手下?「……残るは山頂の洞穴だっけ」

ガンダタ「ぬ……っ! 睡眠、魔法……っ!」

手下?「親分、まだ意識あるんですか?」ヌギヌギ

ガンダタ「おのれ……! 稲妻のツルギを奪られた時と同じパターンか」ガク

手下?「稲妻のツルギ……あぁ、ニセモノ勇者の親玉だったのか」ヌギッ

勇者「……うぇっぷ、口の中に髪の毛はいっちった。ペッペッ」

94: ◆7Ub330dMyM 2018/01/12(金) 15:23:47.48 ID:cIisLjGgO
【頂上 洞穴】

勇者「タウンワークはここにおいて……これでよし、と」パンパン

手下達「」スヤァ

勇者「お前らもお前らなりに理由があって仕事してんだろうけど、見過ごしたら被害者出続けるだろうからな。別の仕事見つけてくれ」

手下達「」スヤァ

勇者「……聞こえてないか。あー、肩凝った。ロープで縛るのもラクじゃないなぁ」ドサッ

ガンダタ「う……」ピク

勇者「もうお目覚め?」

ガンダタ「う、うぅっ……はっ! こ、ここは」

勇者「アジトでーす!」

ガンダタ「お、おめぇ! どういうことだ……そうだ、おりゃあ眠らされて」

勇者「耐性が少しはあるみたいだな。さすが親分ってとこか」

ガンダタ「むぉっ⁉︎ いつのまに縛りつけやがった!」

勇者「疲れたわー、親分マッチョだから、ここまで担いで運ぶの」

ガンダタ「おめぇら! 目を覚ましやがれ!」

手下達「」スヤァ

勇者「ねぇねぇ、なんで山賊なんかやってんの?」

ガンダタ「……くっ、不覚。ちくしょう」ガクッ

勇者「おやぶーん!」

ガンダタ「お前手下じゃねぇだろ!」

勇者「シカトすんなや!」

ガンダタ「ちっ、やってる理由なんて社会に適合できねぇからに決まってんだろ。ルールってやつが嫌いなのよ、俺たちゃ」

勇者「わかる! すっごぉーくわかる!」

ガンダタ「な、なんだ?」

勇者「ルールなんてかったくるしいもん俺も大嫌いでさぁ!」ポンポン

ガンダタ「なら、この縄を」

勇者「それは断る」

ガンダタ「……」

勇者「一緒にニートにならない?」

ガンダタ「ニートだと?」

勇者「イエスニート! 無職、遊び人、くぅ~、いい響きだわー! 何者にも縛られずフリーって!」

ガンダタ「どうやって食ってくんだよ、アホか」

勇者「違うの? 要するに、誰かに押し付けられるのが嫌なんだろ? ルールとか型とかにハメられてさ」

ガンダタ「まぁ……」

勇者「アゴでこき使われるのが嫌なだけで、やりたくないわけじゃないもんな? 山賊だってこうして働いてるわけだし?」

ガンダタ「いや、そりゃそうだが」

勇者「残念だわ。せっかくニート仲間が増えるかと思ったのに。なんだよ、真面目かよ」

ガンダタ「山賊に真面目って、お前、頭おかしいんじゃねぇのか」




95: ◆7Ub330dMyM 2018/01/12(金) 15:40:40.39 ID:cIisLjGgO
勇者「ここから西にいけば、アデルの城がある。知ってるだろ?」

ガンダタ「ああ」

勇者「そこに行ってこれを見せたらいいよ」スッ

ガンダタ「……銀細工か?」

勇者「大工の仕事ならあると思うから」

ガンダタ「おい、ガキ。俺を舐めてんのか?」ギロ

勇者「ベロベロバーー!」

ガンダタ「……」

勇者「そんな姿で凄んでもだめだっての。ああ、別に売っちまってもいいから」

ガンダタ「なにがしてぇんだよ、お前」

勇者「俺は俺の好きなようにやってるだけ。親分と一緒」

ガンダタ「性善説とか信じてるクチか?」

勇者「そうでもない。理由を求めてんの? 俺を型にハメようとしてらっしゃる?」

ガンダタ「……」

勇者「おやぶーん、それじゃ筋が通りませんよー」

ガンダタ「からかってるだけか」

勇者「だから、そういうのだよ。自分の中だけで完結すんな」

ガンダタ「……」

勇者「あんたらは負け犬なんかじゃねぇ、社会不適合でもねぇ。……俺がやってるのも人助けでもなく、ただの自己満だ」

ガンダタ「クッ、そうか」

勇者「説教じゃねぇからな? ただ、理解してないようだったから説明した」

ガンダタ「ふん」

勇者「決めるのはあんた達だ。いつまでもその日暮らしのこんな生活できるもんじゃねぇぞ」

ガンダタ「……」

勇者「今が楽しいならいいんだけどさ」スタスタ

ガンダタ「おい、どこに行く! 縄を解いていけ!」

勇者「やーなこった。自分でなんとかしろ」

ガンダタ「小僧! ちょ、待て! 待ってぇー!」

96: ◆7Ub330dMyM 2018/01/12(金) 15:58:56.98 ID:cIisLjGgO
【山 中腹部 テント設営地】

子供『あ、勇者くんだぁー! あそぼー!』

勇者(少年)『う、うんっ! へへっ!』

親『だめよ、勇者くんにもし怪我でもあったら』

勇者(少年)『えっ』

子供『……あ、うん。わかった』

勇者(少年)『ぼ、僕なら大丈夫だよ! ほら、こんなに丈夫なんだ!』バンバン

大人達『さすが勇者! すごいねぇー!』

勇者(少年)『ち、違うよ、僕、すごくなんか、ないよ。普通だよ』

大人達『勇者っ! 勇者っ! 勇者っ! 勇者っ!』パチパチ

兵士『頑張れよ、勇者』

勇者(少年)『僕、勇者ってだけじゃないよ、普通の、普通の……』

王様『勇者よ』

勇者『勇者っていうのやめてよっ! ……僕を……見てよ……』



勇者「――……嫌なこと、思い出したな」

97: ◆7Ub330dMyM 2018/01/12(金) 16:12:35.90 ID:cIisLjGgO
【翌朝 テント設営地】

僧侶「う、うぅ~ん、よく眠れましたぁ~」ノビー

勇者「おはよ」

僧侶「おはよーございますぅ~」

勇者「戦士と魔法使いもそろそろ起こしてやれ」

僧侶「はい~。戦士さん、戦士さん」ユサユサ

戦士「ん、んぅ」

僧侶「魔法使いさん、魔法使いさん」ユサユサ

魔法使い「ん……」

僧侶「ずっと起きていらっしゃったんですかぁ? 交代いたしましたのに~」

勇者「今日はたまたまだ。次は言われなくても起こすよ」

僧侶「……? なにか、あったんですかぁ? 膝のところやぶれてますが~」

勇者「あら? おしっこする時にひっかけちゃったのかな?」

戦士「ふぁ~ぁ、なんだ、もう朝かぁ」

僧侶「あ、おはようございますぅ」

戦士「やけにぐっすり眠れた気がするな。深い眠りは久しぶりだ」

魔法使い「……んにゅ」

勇者「ヨダレぐらいふけよ」

魔法使い「ふぁ? ……っ⁉︎」ゴシゴシ

勇者「みんな、よく眠れたようでなによりだ。朝メシを食ったら出発する」

魔法使い「あれ、昨日、いつのまに寝たんだったっけ……」

98: ◆7Ub330dMyM 2018/01/12(金) 17:14:37.75 ID:cIisLjGgO
【コロシアムの街 マッスルタウン】

傭兵「シェイシェイハ!! シェイハッ!! シェシェイ!! ハァーッシェイ!!」ブンブン

勇者「……でるゲーム間違えてね?」

魔法使い「あいかわらずむさくるしい街ねぇ~」

戦士「いいじゃないか! この熱気! 溢れ出る闘志!」ウズウズ

魔法使い「脳筋って仲間意識あんのね」

僧侶「出店もたくさんありますよぉ~」

勇者「なぁ、戦士」

戦士「どうした?」

勇者「コロシアムって毎日やってんの?」

戦士「ああ。なにしろここの財源だからな。元締めは癒着があると黒い噂があるが」

勇者「ふーん」

魔法使い「財源なんて、ただのギャンブルでしょ」

戦士「それは否定できない。誰が勝つかを予想して観客は一喜一憂するわけだからな。金がかかるから見てる方も熱くなる」

僧侶「勇者さまぁ、フランクフルト売ってますよぉ」

勇者「食べたら?」

僧侶「私に食べろって言うんですかぁ? フランクフルトを~」

魔法使い「公衆の面前で痴女ってんじゃないわよ!」スパーン

僧侶「はうぅ」

勇者「……あそこの上にあるのは?」

戦士「あれか? あれは優勝者に贈られる品物だ」

勇者「なになに……イーリスの杖、か」

魔法使い「えっ⁉︎ うそっ⁉︎」

戦士「魔法職の杖が賞品なんてめずらしいな」

魔法使い「……」ジィー

戦士「レアなのか? あれ」

魔法使い「かなり! 魔力を消費せずにピオリムが放てるのよ!」キラキラ

戦士「ピオリム……素早さを上げる魔法か」
 
僧侶「イーリス。ギリシア神話の虹の女神、あるいはギリシア語で虹……キレイな形状してますねぇ」

魔法使い「……」チラ

戦士「自分の杖見つめて……比べてるのか」

魔法使い「い、いいでしょ別に!」

戦士「余計ひもじい思いするだけだぞ」

99: ◆7Ub330dMyM 2018/01/12(金) 17:32:15.32 ID:cIisLjGgO
【マッスルタウン 宿屋】

勇者「なんか一気に物価あがった気がするんだが? 一泊30ゴールドって」

戦士「しかたないよ。そういうもんだ」

僧侶「幸い団体部屋も同じ料金でしたしぃ~。よしとしましょう~」

魔法使い「次はいつ出発すんの?」

勇者「明日の朝かな」

戦士「なっ⁉︎ おいおい、この街に立ち寄って観戦してかないのか?」

勇者「なにが悲しくて男同士の殴り合いを見なきゃいかんのよ」

戦士「女もでるぞ」

勇者「あ、そうなの?」

戦士「当たり前だ。重要なのは強さであって性別ではない。証拠に今のチャンピオンも女だそうだ」

勇者「へー、そりゃすんごい」

僧侶「文字通り、男顔負けって感じですねぇ~」

戦士「是非! 一度手合わせしてみたい!」キラキラ

魔法使い「戦士がでたら?」

戦士「……そうしたいのはやまやまなんだがなぁ。事前申請が必要で、エントリーまでに一週間もかかるんだよ」

魔法使い「そ、そんなに……」ガックシ

勇者「お前今、杖手に入るかもって期待したろ」

僧侶「やっぱり職業は戦士さんなんですかぁ?」

戦士「いいや……武闘家みたいだ」


100: ◆7Ub330dMyM 2018/01/12(金) 17:43:31.40 ID:cIisLjGgO
【マッスルタウン 路地裏】

武闘家「あちょお~~~っ!! あたっ!!」バキッ

暴漢「ぐぇっ」ドサ

町娘「あ、ありがとうございました。危ないところを……」

武闘家「……ほら。次は気をつけなよ」スッ

町娘「ありがとうございます、ありがとうございます」ペコペコ

武闘家「それじゃ、アタイはこれで」

町娘「あ、あのっ! 質問が、あるんですけど……」

武闘家「ん?」

町娘「現チャンピオンの武闘家さんですよね⁉︎」

武闘家「そうだけど、っ、わぁっ⁉︎」

町娘「ファンなんです! まさかこんなところで会えるなんて、しかも助けてもらって……あぁ、感激ッ!!」

武闘家「あ、あはは~……そ、そう」タジ

町娘「握手してもらっていいですか⁉︎」

武闘家「いいけど……」スッ

町娘「一生洗えない、この手」ギュゥ

武闘家「いや、手は洗いなよ」

町娘「あぁ……」ウットリ

武闘家「うっ……ね、ねぇ、ちょっと、もういいだろ? 手を離してくれない?」

町娘「こ、興奮しすぎちゃって……はぁ、はぁ……」

武闘家「な、なんで息が荒くなるのかなぁ~」

町娘「ぶ、武闘家さん、私、もう……っ!!」

武闘家「ストップ!! それ以上迫ってきたら正拳突きをお見舞いするよ!」

町娘「す、すみません」シュン

武闘家「はぁ……」

老人「これ! こんなところでなにをほっつき歩いてるアル!」

武闘家「し、師匠。助かったぁ」ホッ

老人「道草くってないでいくアルヨ」

武闘家「はい! ただいま!」タタタッ

町娘「武闘家さん、女性なのにさわやかで、ポニーテールが素敵……」

101: ◆7Ub330dMyM 2018/01/12(金) 18:10:49.43 ID:cIisLjGgO
【宿屋 食堂】

勇者「なぁ、いじけるのはよせって。ピオリムなんて使わないだろ?」

魔法使い「付加価値のある杖ってだけでハクがつくんだから!」

勇者「そんな、使わない機能があっても」

魔法使い「全部あんたが悪いのよ! 貧乏なくせに! 貧乏なくせに!」ゲシゲシ

勇者「や、やめてたもれ~」

僧侶「私のゴスペルリングの効果はパーティに適用されますので、このまま進めなくはできなくはないですけどぉ」

戦士「ろくに戦闘をしていない。レベルアップどころの話ではないぞ」

勇者「うっ」

戦士「ダーマに着く頃にはかなり強いモンスター達が闊歩する場所になる。はたしてこのままでいいのやら」

魔法使い「私はイヤよ! なにもできずに死ぬなんて!」

戦士「……勇者はどうなんだ? 戦っているところを見たことがない」

勇者「俺? それなり」

戦士「それなりとは、かなりのは幅がある」

勇者「すまん、正直本気がどこまでかは俺もわからんねーんだ」

魔法使い「……どういう意味?」

勇者「本気だしたことないから、俺」

戦士「それは、なにもしなくてもまわりが倒してくれたとか」

勇者「ああ、いやいや、勝負で苦労したことないの」

戦士「……」ギラッ

勇者「……なぁ、なんか逆鱗踏んだ?」

僧侶「というよりぃ、好奇心にぃ」

戦士「ふ、ふふっ、それは面白いなぁ。これまで城の猛者供と手合わせしていたそうじゃないか? 噂には聞いてるぞ」

勇者「い、いやぁ~。噂って尾ひれがつくもんじゃない?」

戦士「アデル城の戦士長といえば、我が師の同僚だったお方。そのお方とも手合わせをしているはずだよなぁ~」スラッ

勇者「なぜに剣を抜かれる?」

戦士「苦労したことが、ない? ほほう。それはそれは……」ガタッ

勇者「なぁ、僧侶、出店見に行かない?」

僧侶「今はちょっとぉ~」

戦士「おい、勇者ッ……表、でろっ!!」バンッ





102: ◆7Ub330dMyM 2018/01/12(金) 18:30:16.12 ID:cIisLjGgO
【マッスルタウン 宿屋 表通り】

僧侶「二人ともがんばってぇ~!」

魔法使い「(勇者……伝説の。本当に強いのかしら)」

勇者「なぁ~んでこんなことになっとるのかねぇ~」

戦士「剣を抜けッ!!」チャキ

勇者「そろそろ頭冷やせって。俺が本気だしたことないってのはそういう意味じゃない、怠けてただけだっての」

戦士「それなりにと言ったではないか!」

勇者「あー、うん、まぁ、でもそれは俺の中での話だから。全然たいしたことないんだって」

戦士「伝説の存在……ずっと興味があった! いつか手合わせしてみたいと願っていた!!」

勇者「……チッ、またかよ」イラァ

戦士「さぁ、剣を抜け」

勇者「また、“勇者”かよ」

戦士「それとも、私では剣を抜くにすら値しないとでも言うつもりか!」キッ

勇者「……ふぅ」ニコ

戦士「どうした?」

勇者「俺の負けだ。頼む、剣を収めてくれ」

戦士「きさ、ま……っ! それでも男か! 神聖なる決闘を前にして、侮辱する気か!」

村人達「なんだなんだ? 決闘か? いいぞーやれやれぇー!」ガヤガヤ

勇者「なぁ、そんな熱くならなくても」

戦士「私は……っ! 私はこの剣に人生を賭けた! 雨の日も風の日も、オンナを捨て、指のマメが潰れても振り続けたッ!!」

勇者「……」

戦士「その、誇りを……誇りを貴様は侮辱するというのか……?」

武闘家「なんだ……?」

老人「喧嘩アルか? ……む、あやつは」

武闘家「……師匠、知り合いですか?」

老人「面白い見世物にナルヨ。ワシらも見物していくアル」

勇者「はぁ……わかったよ」スラッ

戦士「……恩にきる。一方的な勝負だとは理解してる」

103: ◆7Ub330dMyM 2018/01/12(金) 18:48:30.05 ID:cIisLjGgO
勇者「勘違いしないでほしいんだけど。勇者ってのは、ある一点に優れてるわけじゃないんだ」

戦士「……?」

勇者「なんでもオールマイティーにこなす。戦士みたいな魔法を使えないかわりに、腕力に一点振りしてるではなく」

戦士「それがどうした」

勇者「魔法剣士に特性は近いと思うよ。両立させるという意味では。ピオリム」ポワァ

戦士「むっ……!」

勇者「意味がわかったろ? 自分で自分をサポートできるんだ。スクルト」ポワァ

戦士「くっ、ま、まずい」ダダダッ ブンッ

勇者「全部の呪文をカバーしてるわけじゃ、ないんだけどねっと」ヒョイ

戦士「そっちか!」ブンッ

勇者「あらよっと」ブンッ

――ガキィンッ――

戦士「……くっ」ギリギリ

勇者「ね? タネがわかればしょーもないだろ?」トンッ

戦士「なるほど、たしかに。勇者とやらは便利だな」

勇者「前衛、後衛、どっちでもできるからなぁ。ただ、特化はできないけど」

老人「弟子よ」

武闘家「はい、師匠」

老人「どっちが勝つと予想するアル」

武闘家「五分五分じゃないでしょうか。自魔法サポートは良いですが、自力の勝負で男の方が負けてる気がします」

老人「アイヤー。本気で言うとるアルか」

武闘家「ち、違うんですか?」

老人「お主の目は節穴ネ。あれはただ教えとるダケよ」

武闘家「……」

老人「ワシとオマエみたいな関係ネ。まだ全然ホンキじゃないヨ」

104: ◆7Ub330dMyM 2018/01/12(金) 19:07:42.75 ID:cIisLjGgO
【数分後】

戦士「はぁっ、はぁっ」チャキ

勇者「(そろそろ頃合いか。手を抜いたと悟らせないにも神経使うんだよなぁ。小石につまずいてっと)」ズルっ

戦士「……っ! 勝機っ! くらえっ! ハヤブサ斬り!!」ザシュ ザシュ

勇者「うっ、し、しまっ」カキーーン

老人「わざと剣を手放しおったな」ボソ

武闘家「……」ジィー

戦士「はぁっ、はぁっ、どうだっ!」チャキ

勇者「……まいった。すげーよ」

村人達「おお~! なかなかレベル高い決闘だったぞぉ」パチパチ

僧侶「お二人ともかっこよかったですよぉ~!」パチパチ

魔法使い「(たしかに便利だけど。自力は戦士の方が上ってことか。器用貧乏ね)」

老人「あの負け方はダメアルねー。後々、恨まれるアル」

武闘家「師匠、やはり、私には違いが」

老人「オマエよりも強いヨ。アレ」

武闘家「え、えぇっ⁉︎」

老人「ワシの見立てでは女戦士よりちょっぴり強いぐらいアル。オマエ」

武闘家「そんなことありません! あんなやつすぐに倒せます!」

老人「それがちょっぴり言うテルネ。どんぐりの背比べ。ワシから見たらどっちも弱いシ」

武闘家「……で、では、師匠が強い認める強さとは」

老人「ワシより強くねー? て思うぐらい」

武闘家「……!」ギロッ

老人「ふぉっふぉっふぉっ、一気に闘志が燃えあがたネ。嫉妬したカ」

武闘家「し、失礼しました。でも、あの男、何者……」

105: ◆7Ub330dMyM 2018/01/12(金) 19:28:32.92 ID:cIisLjGgO
戦士「立てるか?」スッ

勇者「お、おう、さんきゅ」

戦士「自魔法サポート。非力な後衛職、力だけの前衛職ではできない戦い方に脱帽した」

勇者「よせやい」

戦士「勇者というだけのことはある。危なかったぞ」

勇者「うんうん、いい汗かいたな」

戦士「あぁ。こんなにもやっていて充実していたのは師匠とやって以来だ。なにやら指導を受けていたようにすら感じる」

勇者「あ、そ、そう」

戦士「……いや、それほどあたしたちの力が拮抗していたのだろう。改めて感謝する」

勇者「もうやめようぜ、さ、メシメシ」

老人「ちと待つアル。ワカモノよ」

戦士「失礼だが、どちらだ?」

老人「ネーちゃんじゃないアル。用があるのはニーちゃんネ」

勇者「じーちゃん、なんだ?」

老人「ちこうよるアル」チョイチョイ

勇者「……?」

老人「もっとアルもっとアル。耳貸すアルよ」

勇者「なんだ? おひねりでもくれんのか?」

老人「お主、手を抜いたロ?」コショ

勇者「……おっとぉ~」

老人「バラされたくなければ、ついてくるヨロシ」

戦士「勇者、どうしたんだ?」

老人「呼ばれている名についても、色々と聞きたいことがあるネ」

107: ◆7Ub330dMyM 2018/01/12(金) 20:02:35.43 ID:cIisLjGgO
【武闘家 家】

老人「話というのは他でもないアル」

武闘家「師匠、お茶をお持ちしました」コト

老人「ワシの弟子と結婚しない?」

武闘家「し、師匠っ⁉︎」バシャアッ

勇者「あっちゃぁっ!!」アタフタ

武闘家「な、なにを言いだすのですか⁉︎」カランカラン

老人「客人におもっくそぶちまけとるけど」

勇者「あつっ!あっつぅっ!」

武闘家「私はまだ修行中です! 先日正拳突きを覚えたばかりではないですか!」バシャア

勇者「おかわりっ⁉︎ ぎゃあっ!」

老人「おい、大丈夫カヨ」

勇者「~~ッ!」ゴロゴロ

武闘家「男なぞ興味ありません!!」

老人「転がってるが」

武闘家「聞いてますか!! 師匠!!」バンッ

老人「落ち着くヨロシ」

武闘家「なぜ、そのような提案を」

老人「子供が強くなりそうネ」

武闘家「それにしても浅はかです! 撤回してください!」

老人「わかた、わかたネ。ドウドウ」

武闘家「……」ブスゥ

老人「して、勇者とやら。オイ」

勇者「~~ッ!」ゴロゴロ、

老人「すまんネ、ワシ、お茶は目一杯暑くするヨ」

108: ◆7Ub330dMyM 2018/01/12(金) 20:27:35.42 ID:cIisLjGgO
【数分後】

老人「落ち着いたカヨ」

勇者「た、たいしたもんだ」

老人「あれに対応するのは難儀ダロヨ。ワシでも無理」

武闘家「……」プイ

老人「話を戻すネ。勇者か?」

勇者「うん、そだよ」

武闘家「……っ!」ジィー

老人「これ。パンダじゃないんだから好奇の視線で見るヨクナイ」

武闘家「あ、すみません、つい」

老人「やりとりだけならば冗談思うヨ。でも、オマエは実力もありそうネ」

勇者「じいちゃんも極めてんな」

老人「マスターと呼ぶイイヨ。若い頃はぶいぶい言わせたもんアル」

勇者「……聞きたいってのはそんだけ?」

老人「明日、コロシアムが開催されるアル。毎日開催してるケド」

勇者「みたいだね」

老人「お前も出場するアル。枠はチャンピオンから口きいてヤル」

勇者「……なんで?」

老人「マク・ドナルドがいいカ? リングネームは」

勇者「なぁ、おい。このじいちゃんボケてんのか?」

武闘家「凄くマイペースなだけ……師匠はこうなったら周りの意見なんか聞かないから」

老人「……どこにやったカ」ゴソゴソ

勇者「うぇ、なんで股間に手を突っ込んでるんだよ」

老人「あったあった」ズポッ ヒラリ

109: ◆7Ub330dMyM 2018/01/12(金) 20:29:32.10 ID:cIisLjGgO
武闘家「そ、それは……!」

老人「光栄に思うヨロシ。ワシが若い頃つけてたマスクよ」

勇者「ずっと入れっぱなしだったのかよ!」

老人「これをかぶって、思う存分ヤッてこい。ほんで決勝で我が弟子をコテンパンにしてほしい」

武闘家「……っ!」

老人「コイツ、最近天狗になってるヨ。こんな街でコロシアムに参加させたのは失敗だた。鼻っ柱を折ってやってほしいネ」

勇者「……えぇ、それかぶんのぉ?」

老人「受けとれ」スッ

勇者「い、イヤすぎるんだけど」

武闘家「私がこいつに負けるとお思いですか!」バンッ

老人「またデタよ。さっきも言うたネ。オマエよりもこっちのニーちゃんの方が全然強い。レベルそのものが違う」

武闘家「……っ!」ギロッ

勇者「なぜに睨まれるんです?」

老人「未熟者の嫉妬ヨ。堪忍するネ」

勇者「いや、それはいいけど。えぇ、俺が出るのぉ?」

老人「さっきの女戦士。真実を知ったら激昂すること間違いナシよ。オマエも問題アル」

勇者「うっ」

老人「ああいうのはコテンパンにやっちまうネ。ありのままの強さを見せることが礼節」

勇者「いや、しかし、立ち直れない可能性も」

老人「今後の人間関係に影響するカ?」

勇者「……」

老人「そうなったらそれまでの関係ヨ。取り繕ったオマエはヒキョウモノに違いナイ」

勇者「ぐぬぬ」

老人「勇者とか全部置いて、一旦忘れるヨ。オマエは明日だけはマスクマンネ」

110: ◆7Ub330dMyM 2018/01/12(金) 20:53:21.30 ID:cIisLjGgO
【宿屋 部屋】

魔法使い「ねぇ、勇者って結局どんくらい強かったの?」

戦士「質問の意図がわかりかねる。見ていただろう?」

魔法使い「うーんと、要するに、魔王と渡り合えると思った?」

戦士「いや、それはどうだろうな」

魔法使い「無理そう?」

戦士「無理とは言ってないが。個人でとなると厳しいだろう」

僧侶「くすくす」

魔法使い「なにがおかしいのよ」

僧侶「強さ議論をしているのがおかしくてぇ~」

魔法使い「どーゆー意味?」

僧侶「彼はそういう次元にいるんじゃないんですよぉ」

戦士「……?」

僧侶「女神様が人間と力比べをなさるはずがありません~」

魔法使い「はぁ、教会特有の信仰心ってやつ」

僧侶「いいえ~真実ですよぉ~」

魔法使い「女神の祝福ねぇ、どういう形で現れるんだろ」

僧侶「勇者さまはありがたぁ~いお方なのですぅ~」シミジミ

戦士「……ふむ」

勇者「ただいま」ギィ

僧侶「おかえりなさいませ~」

戦士「おう、あの老人は何の用だったんだ?」

勇者「明日さ、出発しないことにした」

魔法使い「えっ?」

僧侶「どうして突然~?」

勇者「うん、まぁ、なんていうか、家の修理を頼まれちゃって」

戦士「修理? いきなり他人にそんなものを頼むのか?」

勇者「いや、ほら。俺って手持ちの金が一番少ないだろ? 賃金はずむっていうから引き受けたんだ」

魔法使い「……ふぅ~ん、まぁそれはそうだけど」

勇者「明日は、みんな自由行動でいいよ」

僧侶「ついていってもよろしいですかぁ?」

勇者「いやぁ~それはやめといたがいい。気難しい爺さんだったから。なんでも、オンナが嫌いらしい」

戦士「変わった老人だな」

勇者「そういうわけだから。観光でもしてきてくれよ。な?」

111: ◆7Ub330dMyM 2018/01/12(金) 21:05:59.52 ID:cIisLjGgO
【武闘家 家】

老人「まだ納得してないアルカ。明日になればわかることヨ」

武闘家「あたっ!! ほあっ!!」ビュッ ビュッ

老人「今日はそれぐらいにしとくネ」

武闘家「はぁっ、はぁっ」

老人「……」

武闘家「師匠。ひとつだけ聞かせてください。伝説の存在の勇者、師匠はワシより強い? と疑問系で言ってました」

老人「たしかに」

武闘家「改めて対峙してみて、いかがでしたか。師匠ほどのお人であれば、力量がわかるはず」

老人「引退したとて、格闘家のはしくれ。負けるとは口がサケてもいえないヨ」

武闘家「……では」

老人「今の言葉の中のどこに勝てると言ったカ? 察するネ」

武闘家「……っ! では、師匠の全盛期ならばどうですかっ!」

老人「……イメージがわかない。こんなのハジメてのことヨ」

武闘家「イメージ……?」

老人「ワシが見下ろしてるイメージヨ。倒れているものを」

武闘家「……」ゴクリ

老人「これまで、ゴッドハンドと呼ばれる者と対峙した時でさえ、そのイメージは持てたネ」

武闘家「……伝説に、偽りなしですか」

老人「女神の加護、ありゃバケモン。ヒトでは勝てるもんではない。遠慮なく全力で当たって砕けるヨロシ」

119: ◆7Ub330dMyM 2018/01/13(土) 15:45:36.97 ID:OTML+W87O
【翌日 マッスルタウン メインストリート】

――ヒュルルルルゥ~~ ドンドンッ パラララッ――


僧侶「わぁ、花火ですよぉ。昼なのに豪華ですねぇ」

魔法使い「うるさいなぁ。イオ系でも放てばいいのに」

戦士「活気を演出しているんだろう。客寄せだな」パクッ

魔法使い「どこで買ってきたの? しかも、その量」

戦士「んっ? んむっ、んまいぞ。食うか?」

魔法使い「たこ焼きにフランクフルトにイカ焼きに……よく持ちながら食べられるわね」

戦士「食べて減らしているからな!」キラン

受付「エントリーがお済みの方はこちらが入場口になってまーす、番号札を持って順番にお入りくださーい!」

魔法使い「今からはじまるみたいね、コロシアム」

僧侶「実際に見たことはないんですけどぉ、どういうシステムなんですかぁ?」

戦士「予選を突破した者同士の勝ち抜きトーナメント制だ。武器の使用は認められている」

魔法使い「え、それって怪我するんじゃ」

戦士「ありだ。ただし、殺しは即刻牢屋行きになる」

魔法使い「事故とか、ないの?」

戦士「これまでそんな話は聞いたことないよ、あむっ」モグモグ

??「おっと、すま……」ドンッ

戦士「あっ」ポト

??「あ、あれ? お前ら」

戦士「あ~~~っ!! あたしのたこ焼きがぁっ!!」コロ

受付「まもなく番号札の配布を締め切りまーす! まだの方はお急ぎくださぁーい!」

??「す、すまん。先を急ぐので」

僧侶「見慣れない中華服とマスクでしたねぇ。どこかで聞いた声をしていたような……?」

魔法使い「気のせいでしょ。あんなヘンチクリなの知り合いにいないし」

戦士「あ……あ……」ガクン

魔法使い「ちょ、膝ついてやめてよ。みっともない」

戦士「うぅ~。タコちゃん」グスン

僧侶「たこ焼きなら私が買ってあげますからぁ」

戦士「まことか!」パァ

僧侶「ちなみにぃ、コロシアムの観戦料金っておいくらなんでしょぉ~?」

121: ◆7Ub330dMyM 2018/01/13(土) 16:09:12.38 ID:OTML+W87O
【コロシアム 控え室】

受付「マク・ドナルドさん、いらっしゃいますか?」

マク「あ、はい」

受付「チャンピオンからの推薦というお話なのですが、一応予選は受けていただきますので。こちらが日程になります」パサ

マク「ふむふむ、午前が予選で午後が本戦か」ペラ

受付「そうです。予選は無観客試合となりまして、この先にある広場でグループに分かれて行われます」

マク「天下一武闘会モロパクr」

受付「はい?」

マク「いや、ごほん、なんでもない。割とオーソドックスな形式だからな。うん」

受付「……? 登録される武器はいかがなさいますか?」

マク「武器? 使っていいの?」

受付「当たり前ですよ。職によって得意とする得物がありますし、無手が専門というのならそれでかまいませんが」

マク「怪我大丈夫?」

受付「素人同士ではありませんので。万が一、やりすぎた場合でも、五十人を超える医療スタッフが控えております」

マク「へー。そうなんだ」

受付「どうされます? 武器。なにも持ってきてないんですか?」

マク「うん、てっきり、俺、素手でやるもんだと」

受付「レンタルされますか? 強度に問題はありますが、使えなくはありませんよ」

マク「うーん、レンタルねぇ」チラ

受付「あの、まだ他の方にも聞いてまわらなきゃいけないので」

マク「おねーさんが使ってるそれでいいや」

受付「へ? 私ですか? ……ペンしかもってませんけど」

マク「ペーパーナイフ。貸りるよ」

受付「あ、あのー。やる気、あります?」

マク「ない」キッパリ

受付「……推薦なので、目を瞑りますが、早々に敗退なんてことになったチャンピオンにもペナルティありますので、一応」

マク「なんでよ」

受付「参加希望者は殺到しているからですよ。その貴重な定員枠をひとつ潰すのですから」

マク「めんどくせぇ!」

受付「本当にペーパーナイフでいいんですか?」

マク「はぁ、いいよ。お姉さんの幸運がありそうだし」

受付「……きっしょ」ボソ

マク「聞こえるようにボソって言うのやめていただけるかな⁉︎」

受付「わかりました。それでは、マク・ドナルドさんはペーパーナイフということで」カキカキ

122: ◆7Ub330dMyM 2018/01/13(土) 16:11:45.63 ID:OTML+W87O
レスですよレスw

123: ◆7Ub330dMyM 2018/01/13(土) 16:26:07.52 ID:OTML+W87O
【予選広場 グループD】

マク「おー、いるいる」

司会「みなさーん! ご静粛に! ご静粛にー! こちらに注目してくださーい!」バンバン

マク「なんだ?」

司会「これよりぃ、グループ毎に別れて乱戦を行なっていただきまーす! 勝敗はシンプルに最後の一人が本戦出場です! 人数多いのでお願いしまーす!」

参加者達「もうはじめちまっていいのかぁ?」

司会「レフェリーは本戦までいませーん! どうせみなさんのほとんどが雑魚ですしー!」

参加者達「なんだとコラ!」

司会「かませ犬はぱっぱっとやられちゃってくださーい!」

参加者達「……」

烈海王「私は一向にかまわんッ!」

マク「えっ? おっ、おい」

烈海王「私は一向にかまわんっ!!」

マク「司会! 司会の人! どう見てもここにいちゃいけない人がいるよ! 勝てる気しない人が混ざってるよ!」

司会「さぁ、どうぞー! はじめちゃってくださーい!」カーンッ

マク「……」ゴクリ

烈海王「……こぉ~」

マク「あ、あのぅ~。あなた、海王ですよね? でちゃいけませんよね?」

烈海王「邪ッー!! 言葉は要らぬッ!!」ズザッ

マク「うおっ!」ヒョイ

烈海王「女々しくも喋るかァッッ!!」クワッ

マク「ひ、ひぃっ! こいつとやれよ! チャンピオン! ていうか、ふざけるじゃ……!」

烈海王「む……」ピタッ

マク「……?」

烈海王「しまった、闘技場を間違えていたか」

マク「あんたが行くのは地下だよ! ここじゃねぇよ!」

烈海王「失礼する」スタスタ

マク「……か、勘弁してくれよ」タラ~

124: ◆7Ub330dMyM 2018/01/13(土) 17:05:42.15 ID:OTML+W87O
【コロシアム 観客席】

僧侶「すごい人だかりですねぇ。何人ぐらいいるんでしょう」

戦士「見た所、あむっ、三千人ぐらいじゃないか」

僧侶「大きな建物だったんですねぇ」

魔法使い「外から見る分にはガワだけだしね。収容人数はそんなに入るんだ」

老人「おろ、お主は」

戦士「……? お、昨日のご老人ではないか」

魔法使い「勇者が家の修理にっていってた人?」

僧侶「主人がいつもお世話になっておりますぅ~」

魔法使い「いつ結婚したんだ、あんたらは!」

老人「そうカ。そういう話になってるカ。つったっとら邪魔ヨ。座るヨロシ」

魔法使い「いいんですか?」

老人「む?」

僧侶「女性が苦手なのではぁ~?」

老人「なに寝ぼけたこといってるカ。若い頃は日替わりでとっかえひっかえネ」

戦士「それはどうかと思うが……勇者は」

老人「細かいことはいいネ。デモンストレーションはじまるヨ」

司会「皆さまぁ! お待たせいたしましたぁ! 現っ! チャンピオン! 女武闘家さんの入場でぇぇーーすっ!!」

武闘家「……」スッ

観客「おおーっ! 出てきたぞぉーー!」

観客「きゃーーっ! チャンピオーーン!」

司会「初壇上から負け知らず! 並み居る猛者をばったばったと倒して気がつけばチャンピオン! そう! 私こそがチャンピオン! 好きなものはぬいぐるみと乙女チックだー!!」

武闘家「ちょっ」アタフタ

司会「ただいま予選を行なっておりまして、この後、本戦へと進みますがまだ少々お時間がございます。その間、チャンピオンに一戦してもらおうぜー!!」

観客達「オォーーッ」ガヤガヤ

僧侶「耳がキーンってしますねぇ」

戦士「チャンピオンは目玉だからな」

老人「まったく、勘違いしすぎヨ」

魔法使い「勘違い?」

老人「観客達に言うてナイネ。言うてるのはあのバカ弟子ヨ」クィ

武闘家「……」ペコリ

老人「声援なんぞに応えおってからに。なにしにきたのか本分を忘れてるアル」

戦士「弟子とは……? ご老人、あなたの弟子なのか?」

老人「そうヨ。不甲斐ない弟子を持って穴に引きこもりたい気持ちネ」

僧侶「わぁ、じゃあ、お爺さんも強いんですかぁ?」

老人「当たり前ヨ。強さなんてのは――」

観客「キャーーッ! キラーパンサーよーー!」

魔法使い「キラーパンサー⁉︎ 大人の⁉︎」ガタッ

125: ◆7Ub330dMyM 2018/01/13(土) 17:27:07.25 ID:OTML+W87O
キラーパンサー「グルルッ」ズザッ

武闘家「すぅ~……はぁ~……」キッ

戦士「なるほど、デモンストレーションとはこのことか」

老人「バカバカしいヨ」

魔法使い「戦士だったら勝てそう?」

戦士「勝てないことはないだろうが、簡単にとはいかない――」

武闘家「哈っ(はっ)!!」パァンッ

キラーパンサー「ギャウッ⁉︎?」ドンッ ドサッ

僧侶「壁に叩きつけていっぱつ……ワンパンってやつですねぇ」

観客「うおおおおおおっ!! 強えっ!! お前こそがチャンピオンだ!」

戦士「……」

魔法使い「戦士より、あのチャンピオンって強いみたいね……」

老人「昨日の戦いぶりを見させてもらたアル」

戦士「ん? あたしか?」

老人「潜在能力ならうちの弟子とどっこいね。武闘家志望なら弟子にとってたが、生憎と剣士のようだシ」

戦士「あたしは、ちゃんと尊敬する師がいるよ」

老人「研鑽を忘れないように。光るモノはオマエももってるゲド、使わなければサビついてしまう」

戦士「ご忠告、覚えておこう」

老人「弟子といいライバルになりそうでなによりネ」

魔法使い「勇者じゃライバルってわけにはいかないもんねぇ」

戦士「あいつとも実力は近いよ。そうだ、今度定期的にやるか誘ってみるか」

老人「……やめとくアル」

戦士「……?」

魔法使い「おじいさん、やめるってなんで?」

老人「あいつとやったって稽古にならないヨ」

僧侶「あっ、帰っていくみたいですよぉ~」

武闘家「……」フリフリ ペコリ

観客達「チャンピオン! チャンピオン! チャンピオン!」

126: ◆7Ub330dMyM 2018/01/13(土) 19:45:07.81 ID:/iL+wtxeO
【予選広場 グループD】

マク「――チキンナゲット5ピース拳っ!」ドンッ

ならず者「ぐえっ」ドサッ

司会「おっ! グループDは今ので最後ですねー! ……えぇ~とぉ、マク・ドナルドさん本戦進出けってーい!」カーンッ

マク「ふぅ、やれやれ。異文化コミュニケーションした時はどうなることかと思ったが」

武闘家「……」スッ

マク「おっ、よぉ」

武闘家「素手でやってるの?」

マク「ん? うん、まぁ」

武闘家「師匠はああ言ってるけど、アタイ、信じられない」

マク「いいんじゃないか、それで。言われてもわかるもんじゃないだろ」

武闘家「それは、体験させるって言いたいの?」

マク「なんでそう物事を……斜に構えてとらえるんですかねぇ」

武闘家「本気じゃないから」

マク「む?」

武闘家「苦労した人にはね、ムカつくのよ。あなたみたいな人」

マク「……」

武闘家「アタイだって、昔から才能があると言われつづけてきた。でも、師匠に出会い、天賦の才に奢っていたのは自分だと気がついた。……そして努力するようになった」

マク「……」

武闘家「――あんた、努力したことないだろ」

マク「んー」ポリポリ

武闘家「師匠は今のアタイが気にいらないんだ。鼻を折るつもりだろうけど」

マク「そう言ってたなぁ」

武闘家「これはチャンス! 師匠にアタイの努力を見てもらうための! ……積み重ねてるものを……!」

マク「なぁるほど」

武闘家「勇者だかなんだか知らないけど、踏み台になってもらう。……じゃ」クルッ スタスタ

マク「……勇者と思わない、か。嫌いじゃないねぇ。ああいうの」

127: ◆7Ub330dMyM 2018/01/13(土) 20:03:28.03 ID:/iL+wtxeO
【コロシアム 観客席】

司会「れでぃぃぃすあんどじぇんとるめーーん! いよいよ本戦の開幕デーーーースっ!!!」

観客達「おおおおおぉぉぉーーっ!!!」

司会「十連続防衛中のチャンピオンの牙城を崩すやつはどいつだ! はたまた今回も防衛して破竹の新記録をたっせいするのかぁーーーっ! 無謀な挑戦者たちはぁ、こいつらだぁーーーっ!!」

僧侶「いよいよ本戦みたいですねぇー」

戦士「やはりこの空気はビリビリとくるものがある」

老人「口上で誤魔化してるダケヨ」

魔法使い「あっ、出てきた」

老人「さて、どこにおるアルカ」キョロキョロ

僧侶「チャンピオンの他にも知り合いがいらっしゃるんですかぁ?」

老人「今回の本命ヨ」

戦士「本命とは? 普通、弟子だろう?」

老人「ワシの弟子は負けるネ。ネタバラシて悪いけど確定ヨ」

魔法使い「えっ」

マク「……」スタスタ

老人「うんうん、ちゃんと勝ち進んでいるアルな」

僧侶「あのお方は~……」

魔法使い「コロシアムの外で戦士とぶつかったやつじゃなかった」

戦士「あたしはたこ焼きしか見てなかった」

僧侶「くすくす。花より団子ですねぇ」

老人「女戦士よ」

戦士「なんだ?」

老人「アレをよく見ておくよろし。一挙一動、目を離さずに」

戦士「……?」ジィー

老人「勉強にはならないダロけど、気がつくものがあるカモしれないネ」

僧侶「と、いうことはぁ……あの選手が本命さんですかぁ?」

老人「台風の目といっても過言ではないヨ」

魔法使い「べ、べた褒めね」

老人「当たり前ヨ。強者たるもの、自分より強い者を褒めんと、なにを褒めるノヨ」

戦士「なに……?」

老人「独り言ヨ。聞き流すよろし」

128: ◆7Ub330dMyM 2018/01/13(土) 20:36:18.79 ID:/iL+wtxeO
【一回戦 マクvsナルシストな優男】

マク「んーとぉ、決勝までは三回勝たなきゃいけないわけか。チャンピオンってその間待つだけなの?」

優男「ふっ。貴様も運がないやつだ!」ビシィ

マク「運はないと思う、たしかに」

優男「一回戦からこのオレに当たってしまうとは……だが、情けはしないよ。なぜなら、女たちが悲しんでしまうから……」

マク「……」

優男「かっこよすぎるオレの罪……あぁっ! マーベラスッ!!」

レフェリー「間もなく試合が開始される。準備はいいか?」

マク「ああ」

優男「いつでも」

レフェリー「よし。まず、殺しはご法度だ。このルールだけは守れよ。じゃないと牢屋行きだからな」

優男「心得ているよ。そうなったら女たちが」

レフェリー「話を続ける。尚、この説明は一回戦のみとする、あとは割愛するからそのつもりで」

優男「彼には必要なかったろう」

マク「了解だ」

レフェリー「双方、立ち位置につけ」

優男「5秒で屠ってあげよう。せめてもの情けだ」ザッザッ

マク「……」ザッザッ

レフェリー「よし、位置についたな。……オーケーだ! ゴングを!」フリフリ

司会「一回戦の準備が整ったようです! キザな優男さんは前回の準々決勝で惜しくも敗れました! 今回は前回よりも高みを目指せるか! 注目の選手です!!」

129: ◆7Ub330dMyM 2018/01/13(土) 20:37:13.76 ID:/iL+wtxeO
観客「優男さーーーんっ!!」

優男「ふっ」キラン

司会「対するは、マク・ドナルド選手! チャイニーズの装いでマスクをかぶるというなんともあべこべな出で立ちですか実力やいかに!!」

マク「(……だりぃ)」

司会「それでは、レディィイッ! ゴォォオーッ!」カーン

優男「……さぁ、このレイピアの餌食となるか?」ジリ

マク「5秒じゃなかったのかよ。さっさとこいよ」ダラー

優男「むっ、武器は無手か? クローもないのか?」

マク「ああ、これ」スッ

優男「なんだね、それは」

マク「ペーパーナイフ」

優男「ほ、ほう……」ヒクヒク

マク「ほれ」スッ

優男「なにをしているんだね……?」

マク「構えた」プラプラ

優男「ふ、ふっふっふっ、なぜ貴様のようなやつが本戦に」

マク「はよこい」

優男「よかろうッ! 医務室で後悔するがいい!!」ダンッ ダダダッ

マク「バリューセット」スッ

優男「……っ⁉︎」

マク「てりやき三段突きっ!!」ドンドンドンッ

優男「なっ、はやっ……ッ⁉︎ がはっ!!」ドサァ

マク「おっちゃん。医務室に連れてってやれ」クルッ

レフェリー「おっ、お、えっ?」

司会「おーーっとぉ!! どうしたことだこれはぁ!! 優男選手が向うもあえなく返り討ちぃーー!! 倒れてしまったーー!」

優男「」

レフェリー「泡ふいてる。だめだな、こりゃ」フリフリ

司会「あーーっとぉ! レフェリーが腕を交差したぁ! けっちゃーーくっ! なんともあっけない幕切れ!! マク・ドナルド選手の圧勝だぁーーっ!!!」

130: ◆7Ub330dMyM 2018/01/13(土) 20:46:57.11 ID:/iL+wtxeO
【観客席】

戦士「……」ジィー

老人「どうネ。理解できたカ?」

魔法使い「あの相手が弱かっただけじゃないの?」

老人「弱いヨ」

魔法使い「な、なんじゃそりゃ」ズル

老人「というか、この大会自体出てるやつみんな弱いネ。ワシから言わせれば。その中で順位競ってるカラ、滑稽なのヨ」

戦士「たしかに、はやかったが」

老人「情報量が少なすぎタカ」

僧侶「あの、でもぉ、準々決勝ならそれなりだったんじゃぁ」

老人「他と比べて普通ぐらいカヨ。次いってミヨ」

魔法使い「それにしても、だるそーにしてたわね。あのマク・ドナルドって人」

老人「かっかっかっ! そらそうよ! 遊び相手にもならんモノ」

僧侶「……でもぉ、どこかで見たことがあるようなぁ~」

131: ◆7Ub330dMyM 2018/01/13(土) 21:03:20.84 ID:/iL+wtxeO
【準々決勝 マクvsおかっぱの女】

マク「女かよ」

おかっぱ「……オトコ、男、むおおおおおっ!」ムキムキ

マク「訂正、女じゃなかったわ」

司会「おかっぱの女選手は前回の決勝進出選手なので、シード扱いとなります。よってぇ! 準々決勝はぁ、このカードだぁー!」

マク「シードなんてあったのか。んー、あ、表をよく見ると武闘家は反対側から勝ち進んでるのね」

おかっぱ「おとこおおお、おとこおおおおっ!!」

マク「別の意味で身の危険を感じる」

司会「マク・ドナルド選手は初出場ながらも、初戦は見事な勝利をおさめました! その実力はホンモノなのか! レディィイッ! ゴォォオーッ!」カーン

おかっぱ「むふーっ、むふーっ」ズシン ズシン

マク「おわかりいただけるだろうか」

おかっぱ「むふーっ、むふーっ」ズシン ズシン

マク「身長2メートル、体重100キロを超そうな体躯をした女が向かってくる恐怖を」

おかっぱ「ぎぁあああおっ」

マク「恐竜のような雄叫びをあげている様を」

おかっぱ「どっせえぇいっ!!」ブンッ

マク「おっ」ドンッ

司会「おかっぱ選手の張り手がマク選手にクリーンヒットォ!! 直撃だぁーーっ!!!」

マク「……シャオリーです」タンッ

司会「しかーし! なにごともなかったかのようにしているぅー!」

マク「また海王でてきたらこわいからここまでにしとくか。ほら、こいよ」クイクイ

おかっぱ「おとこおおおおおおっ!!」ズンズンッ

132: ◆7Ub330dMyM 2018/01/13(土) 21:16:21.97 ID:/iL+wtxeO
【観客席】

魔法使い「なんか飽きてきた」

老人「オマエ魔法職。なら、見ていて楽しいモンではないヨ」

魔法使い「賭ければよかったかな。戦士、誰かに賭けてる?」

戦士「……」ジィー

魔法使い「って、聞いちゃいないか」

僧侶「私は賭けましたよぉ~」

魔法使い「いつ? ていうか、ほんと抜け目ないわよねぇ」

僧侶「魔法使いさんがヌケサクなんですよぉ~」

魔法使い「そ、そう……! ケンカ売ってるわけね?」

僧侶「誰に賭けたか気になりませんかぁ?」

魔法使い「聞いてほしいなら素直に……誰よ」

僧侶「マク・ドナルド選手ですぅ~」

魔法使い「へー、おじいさんの話がホントなら優勝するんでしょ? よかったじゃない」

僧侶「はい~。初出場ということもあってぇ、オッズは150倍でしたぁ」

魔法使い「大穴ね。いくらかけたの?」

僧侶「全財産です~」

魔法使い「ぜっ……や、やるわね。でも、もし負けたら返ってこないわよ?」

僧侶「第六感を信じようと思いましてぇ」

魔法使い「まぁ、あんたのお金だからいいけど」

僧侶「魔法使いさんのお財布もですよぉ~」

魔法使い「……えっ」

僧侶「さっき、席を外した時に麻袋から持っていきましたぁ」

魔法使い「ちょ、ちょっと~、タチの悪い冗談やめてよー……」ゴソゴソ

僧侶「……」ニコニコ

魔法使い「な、ないっ! ない! うそ⁉︎」ブンブン

僧侶「ですからぁ~」

魔法使い「僧侶っ! あんた⁉︎」

僧侶「みんなでマクさんを応援しましょ~」ニコニコ

老人「やるアルネ。オマエ」

135: ◆7Ub330dMyM 2018/01/13(土) 23:35:55.73 ID:XHxRr4XKO
【決勝 マクvs女武闘家】

司会「青コーナー! 連戦無敗のチャンピオン! 女武闘家ぁー!」

観客「チャンピオン! 頑張れよー!」

武闘家「谢谢(シエシエ)」ペコ

司会「迎えるは準々決勝、準決勝と危なげなく勝ち進んできた謎のチャレンジジャー! マク・ドナルドだぁー!」

観客「なんかようわからんが頑張れー!」

マク「適当な応援ありがとよ!」

魔法使い「勝て! 死にものぐるいで勝ちなさい!」

マク「あ? なんか聞き覚えのある声がまじってたような」

武闘家「……疲れてないか?」

マク「疲れてたら手加減してくれんの?」

武闘家「冗談。そんなふざけた雰囲気はここでおしまい」

マク「えぇー、やだなー。もっとふざけたいのにー」

武闘家「うざっ」

マク「すみません」

武闘家「……すぅ~……はぁ~……」

マク「それってなんか統一法だったりすんの? 発勁とか?」

武闘家「気が散る」

マク「はい」

司会「泣いても笑ってもこの一戦で今日はフィナーレです! ではぁ、試合、開始ィッ!!」カーン

武闘家「……ひとつ、聞きたい」

マク「なんだね?」

武闘家「強いって、どんな気持ち?」

マク「……」

武闘家「アタイに見えない景色が見えてるんだろ?」

マク「つまんないよ。なにもかも」

武闘家「どうして? 強ければ嬉しくないの?」

マク「ノーテンキに構えてりゃそうかもしんないけどな。俺ってこう見えて繊細なの」

武闘家「……見えないけど」

マク「こう見えてって言ったろ」

武闘家「師匠の言う通り、最初から全力でいこうと思う」

マク「どーぞ」

武闘家「……」ゴゴゴッ

マク「(力溜めてんのか)」

136: ◆7Ub330dMyM 2018/01/13(土) 23:49:08.84 ID:XHxRr4XKO
【観客席】

魔法使い「やれ! 殺っちゃえー!」

僧侶「くすくす。熱中してなによりですー」

戦士「女武闘家の雰囲気が変わった。最初からフルでやるつもりか」

老人「いい心構えネ。小細工は不要よ」

戦士「あのマク選手。たしかに強い。これまでの危なげなく勝利した戦いを見ても、そう思う」

老人「……」

戦士「ご老人。しかしだな、あたしはたぶん女武闘家が」

老人「それは合わせてただけよ」

戦士「……なに? 合わせる?」

老人「マクは相手の強さに合わせる。手を抜くのに慣れすぎてるネ。かわいそうな男ヨ……これまでそうしてきたんだロウ」

戦士「手を、抜く?」

老人「つまり、相手が子供だたら自分も子供レベルまで弱くするヨ。優しいんだろネ」

僧侶「……」

老人「だがしかし、それは武に生きる者にとっては、これ以上ない愚弄ヨ」

魔法使い「いけーっ! 今が隙だらけなんだから攻撃するのよー!」

戦士「では、武闘家の強さにも合わせるということか?」

老人「そうであれば、救えないネ。でも、ちゃんと事前にコテンパンするよう言ってあるから大丈夫ダロ」

僧侶「おじいさん、あの人って、やっぱり……」

老人「そろそろ体内の気を練り終わる」

137: ◆7Ub330dMyM 2018/01/14(日) 00:09:18.46 ID:kHGtQHyDO
【広場】

武闘家「……ッ」キッ

マク「かもん」クイクイ

武闘家「あちょぉ~~~~ッ!! 二段蹴りッ!!」ダンッ

マク「甘い……!」スッ

武闘家「まだまだっ!! 回転脚ッ!!」ガンッ

マク「おっ、おっ」スッ スッ

武闘家「はぁぁ~~~ッ!! 正拳突きっ!!」バァンッ

マク「うっ」ズザザ

司会「流れるような女武闘家選手の攻撃がマクを選手を襲うー! そしてとどめの正拳突きがクリーンヒットォーー!」

武闘家「……」スッ

マク「いてて。直線的な動きとはいえ、食らうといてぇな」

武闘家「まじめにやれ」

マク「やってるよ」

武闘家「ふざけるなっ!!」ダンッ

マク「いやー、本気でやろうとしてるんだけど、どうやるのか忘れちゃっててね」

武闘家「……そうか、なら思い出せるのからはじめないといけないのか」

マク「うーん、でもまぁ、ちょこっとならいいよ」

武闘家「……」ピク

マク「出し惜しみしてるわけじゃないんだけどな。爺さんがうるさそうだし、本気、見せてやるよ」

武闘家「面白い……! 伝説の存在の力! 見せてみろ!」

マク「んじゃ手始めに」ブンッ バンッ

司会「な、なんだー⁉︎ どうしたマク選手! いきなり地面を殴ったーー!!」

武闘家「……?」

司会「これは降参ですという合図なのかーー⁉︎」

ゴゴゴッ ゴゴゴゴゴゴッ メキメキ

武闘家「な……そんな、まさか……」

マク「地割れって、知ってる?」

司会「な、なななっ! マク選手が殴ったところから大地が割れたーー! きゃあっ⁉︎」ガラガラッ

ゴゴゴッ ゴゴゴォッ

マク「さらに、もう一発」ブン バンッ

ゴォォオーッ

武闘家「ま、まずいっ!」ダンッ

138: ◆7Ub330dMyM 2018/01/14(日) 00:16:17.89 ID:kHGtQHyDO
【観客席】

老人「アイヤー、本気でやれ言うたけど誰が見せろ言うたネ。この建物壊す気かあのボケ」

戦士「な、なんだこれは。どうなってる!」

魔法使い「じ、じじじ地震?」

僧侶「あらあらぁ」

老人「イヨイヨなったらワシが止めにはいるヨ。オマエら逃げる準備しとけ」

魔法使い「だ、だだただ大丈夫なの? これ」

老人「無問題」

魔法使い「な、何者よ! あのマクとかいうやつ!」

老人「それは後で本人に聞いてみるがよいよ」

戦士「……っ! こ、こんな力、人間か⁉︎ 」

139: ◆7Ub330dMyM 2018/01/14(日) 00:36:14.74 ID:kHGtQHyDO
武闘家「……くっ」

マク「なんでもさ、魔王ってのはいくつも障壁もってるらしいんだよね」

武闘家「だ、大地を割るなんて……」

マク「だからなのかもしれんけど、俺ってばその何層かの膜を打ち破るパワァーがあるみたいなのよ」

武闘家「……っ」ゴクリ

マク「地割れなんてさ、ほんの見せかけだけ。派手だけどな。どうする? もうやめる?」

武闘家「……や、やめられるものか……」

マク「そうだよな。ひっこみつかないよな」

武闘家「い、いくぞっ! 正拳突きっ!!」ダンッ ブンッ

マク「っと」パシッ

武闘家「つ、掴んだっ⁉︎」

マク「正拳突きって直線的すぎるから、当たった時はダメージでかいけど命中率はそんな高くないよ。予測しやすいし」

武闘家「くっ、離せ」ブンッ

マク「はい」パシッ

武闘家「あっ、りょ、両手を。ならば、蹴りで」

マク「……」ギュゥッ

武闘家「いっ⁉︎」ガクンッ

マク「動作を殺すのは、痛覚が一番なんだよ。拳を握られた痛みで、足がでなくなったろ」ギリギリ

武闘家「うっ、く、くぅっ」

マク「でも俺の足はあいてるんだな、これが。女の腹蹴るのは気がひけるから、胸にしとく。いいか、今から胸のあたりを蹴るからな」スッ ブンッ

武闘家「……っ! きゃあっ!!」ドゴーーン

司会「女武闘家選手、壁まで一直線に吹っ飛んだーーっ!! 凄まじい蹴りです!! 単なる蹴りなのでしょーか!」

マク「レフェリーのおっちゃん、隠れてないで出てきて」

レフェリー「ひっ」

マク「毎回悪いんだけど、医務室に連れてかないと」

レフェリー「あっ! だ、大丈夫か⁉︎」

武闘家「」パラパラ

レフェリー「おい、 医務班! 医務班!」

観客達「マジかよ」ザワザワ

司会「えっ? お、終わり?」

140: ◆7Ub330dMyM 2018/01/14(日) 00:54:08.11 ID:kHGtQHyDO
【観客席】

老人「一時はどうなることかおもたけど、おわたカヨ。コテンパンにするどころか、ってないネ」

戦士「ご老人!! あれはどういう知り合いだ!!」

老人「まぁ、弱いのは自覚できたろうから良しとスルか」

魔法使い「あ、あんなの、マクがいれば、魔王城付近のモンスターとも渡りあえるんじゃないの……?」

老人「あれでもちょっこっとしか見せてないと思うヨ」

戦士「な、なに? ちょこっと?」

老人「そうヨ。普段を0.1としたら0.5ぐらい?」

魔法使い「それって、1が上限?」

老人「100が上限に決まってるダロ。1だったらたいしたことなくなる」

魔法使い「い、今ので? 補助魔法かけてない状態よ? ……アレフガルド、滅ぼされちゃうんじゃないの……」

老人「大袈裟な。こっち側の人間なんだからいいヨ」

僧侶「これで、賭け金ゲットですねぇ~」ニコニコ

141: ◆7Ub330dMyM 2018/01/14(日) 00:55:42.05 ID:kHGtQHyDO
ちと駆け足ですがここまで。

146: ◆7Ub330dMyM 2018/01/14(日) 13:01:39.37 ID:o71JjVk4O
【医務室】

武闘家「うっ……」ムク

勇者「目が覚めたか」

武闘家「……そうか、蹴り一発で気を失ってしまったのか……」ポフン

勇者「ちゃんと鍛えてたお陰だろ。気絶で済んだのは」

武闘家「勝者が敗者に……!」ググッ

勇者「悪かった。それじゃ、俺は行くよ」

老人「待つアル」スッ

勇者「じーちゃん」

老人「たかだか一回の敗戦で、なにをイキってるネ」

武闘家「し、師匠」

老人「悔しいカ?」

武闘家「まだ、実感が……」

老人「そうダロよ。何度か寝て起きたらじんわりと負けという事実がのしかかってくるアル」

武闘家「……」

老人「あの時こうしておけばよかた、もっとできたはず……そして、その先にアルものは、自信の喪失ヨ」

武闘家「アタイは……」

老人「オマエが積み重ねてきた拳は、なんのタメにあるのヨ」

武闘家「なんの、ため」

老人「楽しくないとつらい修行はやってられないヨ。オマエ、ドMか?」

武闘家「そ、そんなわけっ、ないじゃないですか……」

老人「成長、変化が楽しく。たまにうまくいった時が気持ちイイからダロヨ」

武闘家「は、はい……」

老人「見世物小屋に長居しすぎたヨ。ワシも悪かったアル」

武闘家「いえ、そんな、アタイが未熟なせいで」

老人「謙虚さがあるならまだ取り戻せる。学ぶ姿勢はイツだって、傲慢とはかけ離れてイル」

武闘家「はい」シュン

老人「勇者よ。マスクかぶってちとついてくるアル」

勇者「お、おう。だけど、ついておかなくていいのか」

老人「ヒナはヒナなりに考える時間が必要ネ。ほっとくよろし」クルッ スタスタ

147: ◆7Ub330dMyM 2018/01/14(日) 13:24:51.85 ID:o71JjVk4O
【通路】

マク「なぁ、じーちゃん、本当にほっといてよかったのか」

老人「オマエ、過保護すぎよ。優しさを履き違えるの、よくないアル」

マク「いや、そうだけど」

老人「負け癖がつくのがよくないだけで、負けは変わるきっかけに他ならないノヨ。弟子をありがとうアル」ペコ

マク「やめてくれよ。俺は、自分のしたかったことをしただけで」

老人「本当にソウか?」

マク「ただの自己満だよ」

老人「ならば、なぜこんなところにイル。女戦士にどう思われようといいダロ? 惚れてるカ?」

マク「そういうんじゃ、ねえけど」

老人「マゴマゴしてないでやりたいように生きればいいアル。オマエは“勇者”に縛られてるんダロ」

マク「……」

老人「人々の勇者に対する期待、羨望のまなざし。いつだってそれに晒されて生きてきた。ガラスの家に住んでいた気分だったロヨ」

マク「そんなたいしたもんでは」

老人「いつしか、心は壊れてしまうネ。勇者という肩書きと、本来の己との乖離のハザマで」

僧侶「あっ、おじいさ~ん!」フリフリ

マク「いっ⁉︎」ギョ

魔法使い「マクってやつもいる!」

老人「ここに集まるアル」

マク「ちょ」サッ

僧侶「初めましてぇ~。マク選手すっごくかっこよかったですよぉ~」

魔法使い「ねえねえ、私たちのパーティに入らない? マクさんがいれば百人力って感じだし! ね! 戦士もそう思うわよね?」

戦士「あ、ああ」

僧侶「無口なんですねぇ~?」

老人「やれやれ。こいつはまだ修行中の身。喋ることを禁じられてるアル」

戦士「そうなのか? そういえば、聞いたことがある、モンクというんだったか?」

老人「この男の肉体的強さは、先ほど見たとおり折り紙つきヨ。しかしアル。心と精神はまだまだネ」

魔法使い「別にいーんじゃない? あんだけ強ければ」

老人「諸刃の剣ヨ。アンバランスな均衡は、時に自分を追い詰めてしまうモノ」

僧侶「……」

老人「マクの代わりに提案があるアル」

戦士「提案? なんだ?」

老人「我が弟子を連れてくヨロシ」

魔法使い「えっ、弟子って、チャンピオン⁉︎」

老人「そんな肩書きはもう失ったヨ。こいつに負けてナ。しがないひとりの武闘家ネ」

僧侶「勇者さまに聞いてみないとぉ~」

老人「……その必要はないよ。マク、どう思うネ?」

マク「……っ!」

老人「ワシも策士ダロ? クビを縦にふるか横にふるかで答えるヨ。そうしなかった場合は――」

マク「~~ッ!」コクコクコク

老人「決まりアル。勇者とやらにはワシの家の修理が終わったら、伝えておいてヤル」

魔法使い「なんで……マクに聞いたら……」

戦士「おっけーなんだ?」

148: ◆7Ub330dMyM 2018/01/14(日) 13:41:17.74 ID:o71JjVk4O
【夜 宿屋 食堂】

魔法使い「それでさぁ、マクが地面殴ったとおもったらメキメキメキィッて亀裂がはしったのよ! 信じられる⁉︎ 大地を割ったの!」

勇者「はいはい」

魔法使い「やがて亀裂が壁にまで到達してさ! 地震かと思っちゃった!」

僧侶「くすくす。魔法使いさん、すっかりマク選手のファンですねぇ」

戦士「いや、しかし、たいしたものだ。どうすればあそこまで極められるのか」

魔法使い「戦いたいとか言い出す?」

戦士「……やめとくよ。差がありすぎてな。なにもできずに終わってしまう」

魔法使い「あっちが勇者だったら信憑性あるのになぁ~。もうほんと凄かったんだから!」

勇者「……そうですか。今日の給料。100ゴールド」ジャラ

魔法使い「あ、そうそう。お爺さんに会ったわよ。全然女嫌いじゃなかった」

勇者「あ、そ、そう?」

魔法使い「勇者って見る目ないわね」

僧侶「それはどちらがでしょうねぇ」ニコニコ

魔法使い「サインもらっておけばよかったかなぁ~」

戦士「握手、してもらえばよかったかな」ボソ

魔法使い「意外ね。戦士もそういうこと思うんだ」

戦士「ひ、独り言だ」

僧侶「灯台下暗し、ですよぉ~」

勇者「……」ハラハラ

僧侶「本当にお二人は、ヌケサクさんですねぇ」ニコニコ


149: ◆7Ub330dMyM 2018/01/14(日) 13:57:55.24 ID:o71JjVk4O
【その頃 武闘家の家】

老人「勇者についてって、見聞を広げるアル」

武闘家「ですが……! アタイはまだ師匠の元で」

老人「子供に旅をさせるのは良いことヨ。ワシも老いたネ。一緒にいくには」

武闘家「……っ!」ギュウ

老人「世界を見てまわり、己の目と耳で見聞を広げヨ。殻の世界に閉じこもるのはここまでにするアル」

武闘家「し、師匠」

老人「いつまでヒナのつもりでイルネ。オマエも自分で判断できる歳ダロヨ」

武闘家「……うっ、ぐすっ、アタイを、見捨てられるのですか……っ」ポロポロ

老人「オマエは優秀な弟子ヨ。この世でただひとり、ワシが才能に惚れこんだのは」

武闘家「……」シュン

老人「ワシが教えられることにも限界がアルヨ。成長する姿を見せることに自信がないノカ?」

武闘家「……」

老人「子の成長はいつだって嬉しいもの。血の繋がりはナイが、それまでは長生きしておいやるアル」

武闘家「師匠……!」ゴシゴシ

老人「行ってくるアル。……結婚したら生まれてくる子供は、ぜひ、ワシの弟子に」

武闘家「別れの場面でふざけないでください!」

老人「いや、本気」

武闘家「なおさら問題です!! 怒りますよ!」

老人「しかし、オマエ、この世界はわりと婚姻ハヤいから、行き遅れなんてあっというま……」

武闘家「あちょお~~~っ」スッ

老人「ま、待つアル! わかたわかた! ドウドウ」アタフタ

武闘家「……はぁ、男には、興味ありません」

老人「人の縁(えにし)とは、わからないモノよ」

150: ◆7Ub330dMyM 2018/01/14(日) 14:23:09.25 ID:o71JjVk4O
【翌日 マッスルタウン 出口】

魔法使い「あ~、今日もマクさん試合するのかなぁ」

戦士「ディフェンディングチャンピオンだからな。当然だろう」

勇者「……」

僧侶「くすくす」

魔法使い「見に行きたいなぁ」チラ

勇者「だめだ。昨日は予定外に道草くっちまったんだから」

魔法使い「ケチ。男の嫉妬ってみっともないわよ」

戦士「勇者も鍛錬すればまだまだ伸びると思うぞ」

魔法使い「そういうんじゃなくて! 圧倒的なのに惹かれるんじゃな~い! 完成形の魅力ってやつ?」

僧侶「育てるのも女の嗜みだと思いますけどぉ」

魔法使い「可愛げがあればいいけどねぇ、こいつじゃ」チラ

勇者「なんだよ」

魔法使い「……」ジトォー

勇者「そんなに目を細くして。ゴミでもはいったのか? 近眼?」

魔法使い「……はぁ」ガックシ

老人「おい、お主たち」

馬「ブルルッ」パッカパッカ

戦士「ご老体、その馬車は」

老人「これまで賞金を溜め込んでたカラナ。旅の選別ヨ。仲間が増えれば馬車はつきものダロ? まだ増えるかもわからんシ」

魔法使い「くれるの⁉︎」

老人「それと、ほれ」ポイッ

魔法使い「わっ⁉︎」ワタワタ

老人「アイヤー。そんなものも受け取れない反射神経カヨ」

魔法使い「魔法職なんだからいいでしょ! ……あれ、これって」

老人「イーリスの杖ヨ。昨日、マクから渡しておいてもらうように頼まれたネ」

魔法使い「えっ⁉︎」

戦士「ほう、なかなかに粋な計らいを」

魔法使い「で、でもっ、私、ちょっと会っただけなのに」

老人「受け取るヨロシ。それがあいつも望んでおるコトネ」チラ

勇者「ご、ごほんっ!」

151: ◆7Ub330dMyM 2018/01/14(日) 14:25:29.65 ID:o71JjVk4O
魔法使い「そ、そんな……私、お礼を言ってこなくちゃ」ギュウ

老人「マクならもういなくナタヨ」

魔法使い「えっ、そ、そうなの?」

戦士「チャンピオンなのにか?」

老人「すぐに返上したらしいヨ。運営は嘆いていたが、今日にも新しいチャンピオンは決まるアルネ」

戦士「いったい、どこに……」

老人「弟子よ!! いつまで荷台に引きこもってるアルか! 出てきて挨拶するアル!!」クワッ

勇者「……おい、じいちゃん」

老人「黙るアル。最後の指導に口を挟むの良くない」

武闘家「……」スッ タンッ

魔法使い「あ、元チャンピオン」

武闘家「お初にお目にかかります。よろしく」プイ

戦士「な、なんとも……」

僧侶「愛想がないですねぇ~」

老人「なにはともあれ、気楽にやるヨロシ」

152: ◆7Ub330dMyM 2018/01/14(日) 14:43:00.49 ID:o71JjVk4O

~~第1章『マッスルタウンのチャンピオン』~~



162: ◆7Ub330dMyM 2018/01/14(日) 18:37:05.29 ID:wnnh1YX3O
【馬車 荷台】

魔法使い「ふんふーん♪ うふふ♪」ニッコニッコ

僧侶「よかったですねぇ、魔法使いさん」

魔法使い「はぁ、マク様……。ありがとう」スリスリ

戦士「チョロイやつだ。物で釣られるとは」

魔法使い「つ、釣られてなんかっ! ……あんまり、プレゼントもらったことなぃんだもん……」

僧侶「それが欲しいものなら尚更嬉しいですよねぇ~、偶然を加味するとロマンチックですぅ」

戦士「ふん、男なら腕っ節だろ」

僧侶「それもわかりますぅ。強い男性に惹かれるのは、種の生存本能に訴えかけてきますしぃ~」

魔法使い「わからないのは顔だけよね。どんな顔してるのかしら? イケメンだったらどうしよう」

戦士「顔なぞ……」

僧侶「良いにこしたことはないと思いますよぉ? 男性だって、容姿端麗な女性に惹かれるじゃないですかぁ~」

戦士「男の目線はみんな下心だ。女は違うだろ」

魔法使い「戦士はどう思うの?」

戦士「あたしは……さっきも言ったが男は腕っ節だと思う。ほかのは付加価値だな」

僧侶「占める割合が大きいんですねぇ。やっぱりぃ、自分より強い人が好きとか?」

戦士「それもある。嫌だろ、あたしよりなよっちぃ男なんて」

魔法使い「た、大抵の男は戦士より弱いんじゃないの?」

戦士「だから、男は――」

僧侶「マクさんはどうですかぁ?」

魔法使い「……それもそうね、戦士が敵わないっていう条件ならクリアしてるし」

戦士「顔もわからないやつを好きになれるかよ……」

僧侶「んー、顔は重要じゃないってぇ~」

戦士「ちっがぁーうっ! 内面を知らないやつを好きになれるかっての!」

魔法使い「そもそも、オンナ捨ててたわよね」

戦士「うっ、いや、それは」

163: ◆7Ub330dMyM 2018/01/14(日) 18:51:13.59 ID:wnnh1YX3O
僧侶「……武闘家さんはどう思いますかぁ?」

武闘家「……」

魔法使い「ねえ、元チャンピオン。パーティにはいったんならもうちょっと愛想良くしたらどう?」

戦士「無理にとは言わないが、まだまだ旅は続くわけだしな。コミュニケーションをしてくれると助かる」

武闘家「……アホくさ」

魔法使い「なっ⁉︎」

武闘家「男だとかなんだとか、そんなのでキャアキャア言ってるなんて」

魔法使い「ちょ、ちょっとあんた! まともに喋ったかと思えばそれ⁉︎」

僧侶「まぁまぁ。おさえておさえてぇ」

戦士「すまない、あたしたちも初対面で馴れ馴れしくしすぎたかもしれん」

僧侶「でもぉ、なんでパーティに入ろうと思ったんですかぁ?」

武闘家「関係ないでしょ」プイ

魔法使い「大方、あのおじいさんに言われたんでしょ? だから拗ねてるんだ?」

武闘家「うるさいなぁ」

魔法使い「あたし達は仲間になってんのよ? 命を預けられる? そんな態度で」

武闘家「別に。自分の命くらい自分で守れば?」

魔法使い「ぐぬっ! じゃあなんでここにいんのよ! 一人旅でもすれば⁉︎」

僧侶「おー、よしよしぃ」ナデナデ

魔法使い「犬扱いすんな!」

戦士「……決勝は残念だったが、その他の戦いは見事だった」

武闘家「あっそ」

戦士「どうだ? 今度手合わせしないか? なんだったら、勇者も一緒に。あいつは私と同じくらいの強さで」

武闘家「戦士……って言ったっけ?」

戦士「そうだぞ。よろしく」

武闘家「それ本気で言ってる?」

戦士「ダメか? 良い鍛錬に――」

武闘家「そこじゃなくて。誰と誰が同じくらい?」

戦士「む……今の話の中でか? あたしと勇者だが」

武闘家「ぷっ、くっくっくっ」

魔法使い「……?」

戦士「なんだ? なにがおかしい」

武闘家「ザコ。勝負なんて願い下げよ」

164: ◆7Ub330dMyM 2018/01/14(日) 19:18:51.94 ID:wnnh1YX3O
【馬車 手綱】

勇者「のどかやなぁ~。お前もそう思わんか?」

馬「ブルルッ」パッカパッカ

勇者「ほんにのどかやでぇ~。このまま時間が止まれば――」

――ドゴォンッ!!――

馬「ヒヒーンッ」ビクゥ

勇者「おっ⁉︎ ちょ、ちょっ! どーどー! 静まれ!」

馬「ブフォ」タンタン

勇者「な、なんだ? 荷台が揺れた……?」

戦士「自分で吐いたその言葉! 簡単には飲むなよ……!」バキィッ

武闘家「ほんとのこといってなにが悪いってのさ」バキィッ

勇者「あんれまー。新品の馬車の荷台をぶっ壊して出てきたように見えたけど。疲れてるのかな」

魔法使い「勇者!」

勇者「やめて。現実逃避してるのにやぶれた穴から話しかけないで」

魔法使い「二人を止めないと!」

勇者「ゆ、夢じゃなかったの? ウソ、ウソだといってよバーニィ」

戦士「コミュニケーションしようと思ったのが間違いだったようだ」チャキッ

武闘家「……ふん。ザコのくせに」スッ

勇者「お、おまえらぁぁぁぁああっ!!」クワッ

戦士「口を出すな、勇者」

勇者「出すに決まっとるわい!! どうすんだよ! いきなり穴あけちまいやがって!! まだ出発して半日もたってねぇぞ!」

武闘家「それは、こいつが……」

勇者「お前もしっかり穴あけとるやないかい! 2つ! わかる? ふーたーつぅー!」

武闘家「うっ」

戦士「穴ぐらいなんだ。男のくせに細かいやつだな」

勇者「ホワッツ⁉︎ アナタ、イマナントイッタカ⁉︎」

戦士「うっ、いや、男のくせに」

勇者「アーユークレイジーッ⁉︎」

魔法使い「僧侶。勇者が言ってるあれ。どこの言葉?」

僧侶「さぁ~。でもぉ、いいんじゃないですかぁ? 勇者様の勢いにタジりだしてますしぃ」

武闘家「あ、アタイは……」

勇者「シャラップッ!!」

戦士「お、おい、勇者、さっきから何語を……」

勇者「シッダウン! シッダウン!!」

戦士&武闘家「……?」

勇者「……はぁ、あのなぁ、知り合ったばかりだし、喧嘩するのもしゃーないけど。物は壊さないようにやれよ」

武闘家「やっぱり、アタイはこのパーティから」

勇者「じいさんと約束してんだろ? 会って日にちが長いわけじゃないけどさぁ。俺に連れてけって言ったんだ。お前はここにいろ」

武闘家「……戦士とは別にしてほしい」

勇者「お安い御用です! 個室を用意します! ……できるわけねーだろ。馬車に仕切りなんか作れるか」

武闘家「……」ブスゥ

戦士「やはり、力で決着を」

勇者「もう太陽が傾きはじめてる。やるなら止めないから、次の村についてからやれ」

165: ◆7Ub330dMyM 2018/01/14(日) 19:37:35.39 ID:wnnh1YX3O
【ミンゴナージュの村】

勇者「はぁ、どうすんだよ。この穴」ジー

僧侶「アップリケでもつけますかぁ?」

勇者「トホホ。なんで半日でズボンの穴あき処置みたいなことを……」

魔法使い「あ、蝶々」

勇者「わぁー、ほんとだぁー! ってなるかい!」

魔法使い「暇なんだもん。ここアルデンテの村みたいな田舎だし。それに――」

武闘家「あちょお~~~~っ!! ハイィッ」ダダダッ

戦士「むっ、このっ……! くっ!」キンキン

魔法使い「あっちは脳筋だしさ」

勇者「……」

僧侶「勇者様ぁ、テントの生地がありますよぉ」ビリビリ

勇者「そ、僧侶さん? 普通、ありますって言う時はその後の対応を聞くものでは? なぜに破ってらっしゃる?」

僧侶「使わないんですかぁ?」ビリビリ

勇者「どーすんだよ! これから野宿するとき!」

魔法使い「いいんじゃない?」

勇者「なんでだよ!」

魔法使い「勇者は知らないんだっけ? 私達、今、ちょっとした小金持ちなの」

勇者「へ? こ、小金持ち?」

僧侶「はい~。マク選手に賭けていたお金がありますのでぇ」

勇者「あ、そなの?」

魔法使い「細かく数えてないけど、30万ゴールドは持ってるわよ」ドサッ

勇者「さ、ささささっさんじゅう⁉︎」

僧侶「大穴の150倍だったんですよぉ~」

勇者「そ、そうなんか……」

166: ◆7Ub330dMyM 2018/01/14(日) 19:57:41.49 ID:wnnh1YX3O
【宿屋】

店主「祟りじゃ!」クワッ

勇者「え、えぇ……」

店主「祟りじゃ、祟りじゃ、この村は呪われておるぅ~!」

勇者「落ち着けよ。ばあちゃん」

僧侶「あのぉ、部屋をとりたいんですけどぉ」

店主「部屋などと呑気なことを言うとる場合ではない。早々に立ち去るんじゃ」

魔法使い「そんな、困る」

店主「えぇい! 今は満室じゃ!」

魔法使い「なんなのよ、もう」

僧侶「ご無理を言っても申し訳ないですぅしぃ、道具屋でテントを買いますかぁ?」

勇者「しかたない、そうするか」

店主「店じまいしてるよ」

魔法使い「へ?」

店主「みぃ~んな祟りのせいじゃ。道具屋の店主も倒れてしまったわい」

魔法使い「え? え? じゃ、じゃあ買い出しは?」

店主「マッスルタウンに戻るとええ」

勇者「なあ、ばあちゃん、日は沈みはじめてるし、今からってのは」

店主「今宵、儀式がある」ボソ

僧侶「儀式……? なんのですかぁ?」

店主「よそ者は帰れ。あたしゃこれ以上は話す舌を持たん」

勇者「祟り、ねぇ」ポリポリ

167: ◆7Ub330dMyM 2018/01/14(日) 20:23:23.13 ID:wnnh1YX3O
【ミンゴナージュの村 入り口】

戦士「くっ、不覚……! 剣がっ!」カキーーン

武闘家「はぁっ、はぁっ」ピタ

戦士「さ、さすが、チャンピオンといったところか。言うだけはある」

武闘家「ふぅ……」

戦士「それほどの力を持ちながら、なぜ、先ほどはあのような態度を」

武闘家「力と性格になんの因果関係があるっての。アタイはあんたが気に入らないのはたしかだけど」

戦士「むっ、あたしのどこがだい」

武闘家「弱いくせに。アタイより弱っちいくせに誰と同列で語ってんさ」

戦士「……?」

武闘家「はぁ、まだわからないの? いい? 勇者はね――」

僧侶「戦士さぁ~ん! 武闘家さぁ~ん!」トテトテ

戦士「僧侶? どうしたんだ?」

僧侶「今日の宿が決まらないんですよぉ~」

戦士「なに? ……おい、武闘家。さっきはなにを言いかけて」

武闘家「……」プィ

僧侶「喧嘩もいいですけどぉ、問題解決に向けてみんなで協力しましょ~?」

勇者「決着ついたか?」スタスタ

魔法使い「脳筋ってほんと単純だから。どうせ仲良くなってんじゃないの?」

戦士「いや……」

魔法使い「あ、あれ? 違った?」

武闘家「勇者。道具屋でテントを買えば?」

勇者「それがそういうわけにもいかねぇんだわ。武器屋、防具屋、道具屋、全部店を閉めてる」

戦士「……なにがあったんだ?」

僧侶「なんでもぉ、祟りのせいみたいですよぉ~?」

武闘家「タタリ? タタリって、呪いとかそういう類の?」

僧侶「そうみたいですねぇ」

魔法使い「今夜、儀式があるって言ってたけど、なんの儀式かしら」

勇者「……」ジー

僧侶「……? 勇者さまぁ、なにを見てるんですかぁ?」

勇者「気がつかなかったけど儀式ってこの石像が関係してんじゃね?」

戦士&魔法使い&僧侶&武闘家「……?」

勇者「“淫夢王、サキュバス。ここに祀る”……なんだこれ?」

168: ◆7Ub330dMyM 2018/01/14(日) 22:50:27.96 ID:rRmjoYTBO
【淫夢城 玉座】

サキュバス「ミンゴナージュ村の様子はどう?」

リリム「精を搾り尽くしている最中でございます。若い淫魔はじめ、かっこうの餌場かと……」

サキュバス「田舎村で人口が少ないのが難点だけど、目立ちにくさという利点もある。このまま枯れ果てるまで絶頂を味あわせておやり」

リリム「もちろんです、お姉様。夢の中という、無防備な空間。どうやって抵抗できましょう」

サキュバス「私達は、“相手の望む姿になれる”」

リリム「それに加えて抜群の性技も……うふふ」

サキュバス「人間にはもったいなさすぎるけどね」

リリム「所詮はエサ……行為自体に愛情のかけらもございません」

サキュバス「我らを軽々しく言った魔族はどうした?」

リリム「ご指示通り。性交を通して魂を抜き取ってやりました」

サキュバス「くふっ、くっはっはっはっ! あわれな。所詮はオトコ。オンナであっても我らの前では……」

リリム「生物はみな種を残すため、そのために性欲をもっている。その性欲を意のままに操る我らこそが魔王軍における最強の眷属でございます」

サキュバス「良い子ね……リリム」スッ

リリム「あっ……お姉様」ウットリ

サキュバス「勇者の捜索は……?」

リリム「ハッ⁉︎ す、すみません、あまりの美しさに……アデルの城が勇者発祥の地であるようです」

サキュバス「アデル……というと、サルマニア国との兄弟国ね」

リリム「伝承を参考にすると、“ロト”がやはり鍵を握っているかと」

サキュバス「どの部分?」

リリム「“東のサルマニア、北のハーケマル、南のクイーンズベル、西のアデル。光は西から登り、東へと進む”」

サキュバス「……勇者、忌々しいオトコ」

リリム「引き続き、調査します」

サキュバス「くれぐれも、ミンゴナージュも手を抜かないように」

リリム「私におまかせください。お姉様のご期待以上の結果をご覧にいれますわ」

サキュバス「魔王様も期待なさっておいででおられる。頼んだわよ」

171: ◆7Ub330dMyM 2018/01/15(月) 11:14:56.32 ID:mVndM0qxO
【ミンゴナージュの村 入り口】

魔法使い「ねぇ、いつまで村の入り口にたむろしてるの? 戻るならはやく戻らないと」

勇者「いや、今日はここで一泊する」

僧侶「宿がないのにですかぁ?」

戦士「そうだぞ、テントを予備に複数個買えばいいじゃないか」

勇者「それは、そうなんだが……」

武闘家「……? なにか、気になることでも……」

村娘「もし、旅のお方」

魔法使い「……うわっ、露出度高い服」

村娘「うふふ。なにやらお困りのご様子。よければお話を聞かせていただけませんか」

戦士「いや、今日の宿がなくてだな」

村娘「まぁ。テントはお持ちではないのですか?」

僧侶「それがぁ、切らしておりましてぇ」

村娘「大変。日が沈みはじめるというのに。寝る場所がないと辛いことでしょう」

魔法使い「だからぁ、マッスルタウンに戻ろうよぉ~」

村娘「よければ……私の家でよければ面倒を見ますが」

戦士「いや、しかし、いきなりは困るだろう」

村娘「ご遠慮なさらずに。先日、母に先立たれ、さみしい思いをしていたところでございます」

僧侶「それはそれはぁ、お悔やみ申し上げます~。私でよければ祈りを捧げますがぁ」

村娘「神職様でございましたか、ありがとうございます。そのお礼ということで、いかがでしょうか?」

魔法使い「ねぇねぇ、お世話になろうよ、勇者」

勇者「うーん」

魔法使い「最悪、場所の荷台で寝るんじゃないの? このままなら。寝っ転がれないなんて私は絶対にイヤ!」

勇者「……見ての通り、えぇと、いち、に、さん……俺たちは4人いる。寝床はある?」

村娘「粗末な我が家ですが、布団ならご用意できます」

戦士「すまない、素性もわからない旅人に親切にしていただいて」ペコ

村娘「困った時はお互い様というじゃありませんか。お気になさらず。ささ、どうぞ」スタスタ

勇者「……」

魔法使い「あぁんもうっ、はっきりしないやつ! 勇者は荷台で寝れば⁉︎ 私はついてくからね!」タタタッ

僧侶「勇者さまぁ~。行かれないのですかぁ?」

戦士「好意を無碍にするのは失礼だ」

勇者「……わかった。俺は少しぶらついてから行くよ。みんなは先に行っててくれ」

武闘家「アタイも、残ろうか?」

勇者「いや、いい。腹減ったろ? きっと料理もだしてくれると思うから、お前も行ってろ。僧侶」

僧侶「はい~」

勇者「お返しを忘れるなよ。しっかり包んでやれ。金」

僧侶「かしこまりましたぁ~」ペコ

武闘家「……」スッ スタスタ

戦士「(勇者の言うことを素直に聞くのは、なんでだ……?)」

172: ◆7Ub330dMyM 2018/01/15(月) 11:33:44.23 ID:mVndM0qxO
【村娘 家】

村娘「どうぞ」ギィー

魔法使い「わっ、結構ひろーい!」タタタッ

僧侶「失礼ですよ、魔法使いさん」

村娘「かまいません。見ての通り、一人で住むには広すぎるので」

戦士「手荷物はどちらに置いたらよろしいか?」

村娘「あちらにお願い致します」

戦士「わかった」スッ ボサッ

村娘「お連れの男性の方は……?」

武闘家「ぶらついてから来るそうよ」

村娘「なにもない村ですのに。……今夜はあまり外出なさらない方が」

僧侶「なぜでしょう~?」

村娘「儀式、がございますので」

魔法使い「宿屋のお婆さんも同じこと言ってたわね……なんの儀式?」

村娘「この村は今、不幸続きなのでございます」

戦士「……と、いうと?」

村娘「ある日ぱったりと村の男衆が、倒れてしまったのです。その後は、ベッドから起き上がることも叶わず」

武闘家「呪い?」

村娘「原因不明な病なのです。話を聞こうにも、幸せそうな顔をして眠るばかり。ですが、日に日に体は痩せ細り、弱ってゆく……」

戦士「不可思議な話だ。眠ったままとは」

魔法使い「病気だとしても男だけってのは変ね」

村娘「村の女衆にも異変が――」

僧侶「異変……?」

村娘「口が過ぎました。なので、くれぐれも今夜は外出なさらぬよう。沈める儀式がございます」

戦士「まて、その肝心の儀式とやらの内容がわからん」

村娘「……祈祷師に依頼したところ、おそらく淫夢の仕業だろうということを言われまして」

魔法使い「淫夢? まさか、サキュバス?」

戦士「魔法使い、知ってるのか?」

魔法使い「伝説のモンスターの一角。実際にいるのか怪しい。その祈祷師、大丈夫? 詐欺師じゃない? 困ってるからそれっぽいこと言ってお金だけふんだくろうって」

村娘「しかし……ほかには頼るところも……」

戦士「サキュバス、か……」

173: ◆7Ub330dMyM 2018/01/15(月) 12:18:33.36 ID:SH/yhARoO
【ミンゴナージュの村 広場】

祈祷師「キエエエェエエイッッ!!」バサッ バサッ

勇者「なんじゃあれ。キャンプファイヤー?」

村人達「お怒りをお沈めください。サキュバス様」ドゲザ

祈祷師「南無 三曼多伐折羅赧 悍(ノウマク サンマンダ バザラダンカン)! 悪霊ッ! 退散ッ!」バッ バッ

勇者「ははーん……あれが儀式ってやつか。もうはじめてんのね」

店主「……っ! まだこの村におったのか!」

勇者「宿屋のばあちゃんも参加すんのか?」

村娘達「オトコ、オトコよ」ヒソヒソ

店主「いかん! こっちにこんかい!」グイッ

勇者「おっ、とと。いきなりナンパ? いくつになっても乙女だね」スタスタ

店主「お主! さっき早々に立ち去れと言うたじゃろうが!」

勇者「都合もあってね。引き返すのはやめとこかなと」

店主「この村は呪われておるんだぞ!」

勇者「さっき、村の入り口で石像を見つけたよ。サキュバスって書いてあった。あれに関係してんじゃないの?」

店主「うっ、そ、それは……」

勇者「そんで、悪霊退散って叫んでるところを見るとお祓いしてるってとこ?」クィ

祈祷師「滅っ!! めえぇつっ!! めえええぇえつっ!!」バサッ バサッ

店主「左様じゃ。この村は今、サキュバスの脅威に晒されとる」

勇者「店じまいしてるのもそれが原因か」

店主「正確には男連中に、じゃ。精気を抜き取られておる」

勇者「へぇ……そりゃ、男にとっては幸せだ」

店主「適度ならば、の。精気とは生命力と深い関わりをもっておるでな。抜き取られすぎると、命にかかわる」

勇者「サキュバスってあれだろ?   いことしてるんだよな? だったら、腹上死か」

店主「夢の中だけじゃよ。ワシも絵本でしか知らぬが、姿を消したサキュバスが枕元に立ち、意識だけ夢の中にはいってくるらしい」

勇者「擬似的なもんか」

店主「なんでも、“理想の姿に変化させる”ようじゃ」

勇者「自分を? それって、例えばペチャ  が好きだったら……」

店主「そういう意味じゃ。男なら誰しもが一度は妄想するであろう。あの子としてみたい、と。そこにサキュバスはつけこむ」

勇者「でも、まぁ、男からしてれば夢が叶うわけだ」

店主「あくまで幻じゃよ。そこに実体はないからの」

勇者「ばあちゃん、よく知ってんね」

店主「古い古い伝説の話じゃ。魔王軍の一角に、サキュバスあり……」

勇者「……」

店主「さぁ、もうわかったろう。さっさと立ち去るがよい」

勇者「もひとつ。男にしか影響ないの?」

店主「いらぬ首をつっこむでないわ!」クワッ

勇者「いや、今日泊まるからさ。ここに」

店主「な、なんじゃと……⁉︎」

174: ◆7Ub330dMyM 2018/01/15(月) 12:33:38.88 ID:SH/yhARoO
勇者「心配してくれるのはありがたいけども」

店主「……いかん、いかんぞ」プルプル

勇者「どした? 俺のことなら別に」

店主「女にも……影響は、ある」

勇者「……? どんな? あ、サキュバスって男もいるの?」

店主「サキュバスは女じゃよ。女に悪影響をもたらすのは、瘴気」

勇者「瘴気……?」

店主「悪い気のようなものじゃ。淫魔の魔力にあてられ、発情しだす。村娘達を見て気がつかなんだか」

勇者「ん?」チラ

村娘「きゃっ、こっち見たぁ」モジモジ

村娘「あたしよ、あたしを見てたのよぉ」フリフリ

店主「わしは歳のお陰で影響は低い。しかし、若い活発な女たちには、これ以上ない毒となって思考を鈍らせておる」

勇者「つまり……   化してんな」

店主「勘違いするでない。本来は慎ましかで初心(ウブ)な  ゴたちよ。男と目も合わせられんような」

勇者「なるほど」

店主「異性を求めはじめておる。しかし、男はこの村にいる限り、サキュバスの餌食。女たちのぶつけようのない欲求不満はたまる一方じゃて」

勇者「なんかよくわからん被害だな」ポリポリ

店主「この恐ろしさがわからぬのか。一国でさえ狂わせられてまうぞい」

勇者「ふぅーん。まぁ、とりあえず経緯は把握したよ」

175: ◆7Ub330dMyM 2018/01/15(月) 12:58:06.28 ID:SH/yhARoO
【村娘 家】

村娘「勇者……?」ピクッ

戦士「おい、魔法使い」

魔法使い「あっ、言っちゃだめなんだっけ? つい」

戦士「勇者がなぜ我々にまで最初黙っていたか聞いたろう? 立ち寄った村々に被害が及ぶのを防ぐために」

魔法使い「ぶっちゃけ、怪しいけどね」ボソ

村娘「あの、勇者とはいうのは本当に……?」

魔法使い「僧侶、パス。私、しーらない」プイ

僧侶「困った人ですねぇ~叱られるかもしれませんよぉ」

魔法使い「うっ。べ! べつに! あんなへっぽこに叱られたって」

戦士「……はぁ。ああ、本当だ」

村娘「まぁ、なんということでしょう。あの、失礼ですが、勇者と証明できるものは――」

僧侶「戦士さんも~。だめですよ~」

戦士「他言はしないよう言えば大丈夫だろう。あたしたちは一泊の恩がある。勇者も納得してくれるさ」

村娘「そ、それで?」

戦士「“聖痕”があるんだ」

村娘「それは、まさか……女神ルビスが勇者にしか刻まないといわれている伝説の?」

戦士「そのまさかだよ。あいつにはそれがある」

村娘「……そう、ですか。こんなところに……」

魔法使い「驚くのも無理ないけど。秘密ね?」

村娘「ええ、ええ。もちろんですとも。あの、ちなみにですが、聖痕はどこに……?」

戦士「ん? あぁ、あたしたちが嘘をついてると?」

村娘「す、すみません。あくまで可能性の話で」

戦士「いや、当然だ。ニセモノも実際にいたしな。聖痕の場所は、ケツだよ」

村娘「お尻……ですか。なるほど……普段は見えない場所。てっきり、わかりやすくデコか手にあるものかと」

魔法使い「へんてこりんな場所よね」

村娘「そうでしたか。見える場所ばかりを探していても見つからぬハズ……」

戦士「……? 探していた?」

村娘「あっ、いえ。勇者様にあこがれてまして。うふふ」

魔法使い「すぐに幻滅することになるわよ。残念ながら」

村娘「……ここ二、イタのネ……」ニタァ

武闘家「……アタイ、ちょっと出てくる」

村娘「ハッ! な、なりません! もう儀式がはじまりだしています!」

武闘家「大丈夫。サキュバスかなんだか知らないけど、クンフーがあるから」

村娘「お、お腹すきましたでしょう⁉︎ すぐにご用意いたしますよ!」バタバタ

戦士「おい、武闘家。用もないのにほっつきあるくな」

武闘家「どきなよ。どうしようとアタイの勝手だろ」

戦士「恩人に対してそれはどうなんだ。言うことを聞け」

武闘家「……」

戦士「それとも、勇者が言わないとだめなのか?」

魔法使い「……? なんで、そこで勇者が出てくるの? あっ、もしかして、武闘家って勇者がタイプなの?」

武闘家「あんたら……」イラァ

僧侶「すとっぷですよぉ~~。まずは矛をおさめておさめてぇ~~。腹が減ってはなんとらやらと言いますしぃ~」

176: ◆7Ub330dMyM 2018/01/15(月) 13:20:45.54 ID:SH/yhARoO
【道具屋 寝室】

勇者「よっと」カタン

店主「Zzz……」スヤァ

勇者「不用心だなぁ、窓が空いてたら泥棒に入られちまうぜ。道具屋のおっちゃん」

店主「むにゃむにゃ」スヤァ

勇者「昨夜は、お楽しみでしたね」

店主「……!」ピクッ

勇者「昨夜は、お楽しみでしたね」

店主「ぐふっ、ぐふふふっ……むにゃむにゃ」

勇者「幸せそーな顔しちゃって。こりゃ淫夢を見せられてるって話がウソってわけでもなさそーだな」

店主「……っ、う、うぅ、っ、く、苦しい……もうやめてくれ、もう出ない」ビクンビクン

勇者「どーやって淫夢を見せてるんだ? 呪文か?」

店主「Zzz」

勇者「伝説だと枕元に立つんだっけ? ……なにもいない」スカッ

店主「うっうぅ……」

勇者「なにか、タネがありそうだな。精子だけに」

店主「た、たすけて、たすけて、くれぇぇ……うーん、うーん」

勇者「待ってろよ。男だって、無理やりされたら嫌だもんな」タンッ

177: ◆7Ub330dMyM 2018/01/15(月) 14:08:49.85 ID:SH/yhARoO
【村娘 家】

魔法使い「おっそい! なにやってんのよ! あいつ!」

戦士「ご飯、ご飯」

魔法使い「見てみなさいよ! 戦士なんて幼児退行しちゃってんじゃない!」

僧侶「私たちだけ先に食べてしまうのも~」

村娘「温めなおせばまだございますよ。今夜はとろぉ~り、濃厚な……シチューでございます」

戦士「白い、ドロドロの」

魔法使い「美味しそう」

村娘「そうでございましょう? 腕によりをかけてご用意いたしましたので。あつあつなままどうぞ」

戦士「な、なぁ、僧侶。ほっておくと、逆に申し訳ないっていうか」

魔法使い「そ、そうね。べ、別に。お腹すいてるからじゃないんだからね」

僧侶「はぁ~。ホントにおふたりはしょうがないですねぇ」

戦士「食べていいのか……?」

武闘家「……」スッ カチャ

戦士「あっ! ず、ずるいぞ! いけないんだぞ! いただきますをしないでスプーンを手にとっちゃ!」

武闘家「……これ、いつ作った?」

村娘「今しがたです。固形ルーがあまっていましたので……得意料理なのですが、お嫌いでしたか?」

武闘家「いや……そうじゃないけど」

戦士「食に対する冒涜は許さん! 好き嫌いせずに食べるんだ!」

武闘家「アタイは、いいや」

村娘「そ、そんな。やはり、お嫌いでしたか」

戦士「武闘家……っ! きさまぁっ! 恩人を悲しませた挙句! 振舞われた料理に口をつけずに……!」

武闘家「ぎゃーぎゃーうるさい」

戦士「……斬る」チャキ

武闘家「まだやる気? さっきやられたくせに」

戦士「届かぬ背中ではなかった。あと数戦もすればいい勝負をしていたと確信する」

武闘家「……調子に乗ってるでしょ」ポキパキ

戦士「そっくりそのまま返そう。何様のつもりだよ」

僧侶「あぁ~~んもう! やめなさぁ~~い! ……戦士さんも、武闘家さんも。食べましょ~」

魔法使い「はぁ、犬猿の仲ってやつね。あむっ……ん~……んっ! 美味しい!」

戦士「いただきますしてないのに!」

魔法使い「戦士も武闘家も食べてみなさいよ! すっごく美味しいわよ! これ!」

戦士「食べる食べる! ……いただきます!」ガツガツ

武闘家「……」ジー

僧侶「武闘家さんも。座って食べましょぅ?」

武闘家「ちっ、しかたないなぁ」

僧侶「くすくす」

武闘家「なにがおかしいのさ」

僧侶「いえ~根は優しいと思いましてぇ~」

武闘家「……なによ」プイッ

178: ◆7Ub330dMyM 2018/01/15(月) 16:10:41.92 ID:SH/yhARoO
【数十分後 同部屋】

魔法使い「ねぇ、なんだか暑くない?」パタパタ

僧侶「そういえば少し~。なんだか身体がぽっぽっとしてきたようなぁ~」

戦士「すまない。窓を開けてもいいか?」

村娘「申し訳ございません。戸締りの調子が悪く」

魔法使い「えぇ~~? 開かないのぉ?」パタパタ

村娘「すみません……。ただいま、氷をお持ちしますので」

戦士「氷、氷といえば、魔法使いの冷気魔法で」

魔法使い「あ、あのねぇ。生活魔法じゃなく攻撃魔法なのよ? 放ったら制御できない」

戦士「そ、そうか」シュン

村娘「しばし、お待ちを。気休めかと思いますが、お香をたかせていただきます」

僧侶「お香……?」

村娘「はい。心身ともに緊張をときほぐす効果がございますので」

魔法使い「暑いだけなんだけど」

村娘「我慢というのはストレスがたまるものでございましょう。ですから、気休めなのです」

戦士「すまない、なにからなにまで」

村娘「いえ、母がいなくなってから……こんなに楽しい夕食は……」

魔法使い「ちょっと、戦士」ドンッ

戦士「あっ、うっ、あたしは、そんなつもりで。決して思い出せるような」

武闘家「食は済んだし、外の風に……っ⁉︎」ガタッ クラッ

魔法使い「どうしたの? 立ちくらみ?」

武闘家「なっ……なんだ、こ、れは……」ガクッ

戦士「体調でも悪い……⁉︎」クラッ

僧侶「まってくださいねぇ~、今回復魔法を~……あ、あらぁ」フラァ

魔法使い「ちょ、ちょっと、どう……した……はれ?」クラッ

村娘「こちらがお香になります」カチッ

武闘家「お、おのれ……っ! 一服、もった、な……っ!」キッ

魔法使い「そ、んな……」ズリ

戦士「くっ、なんと」

僧侶「はふぅ~」

村娘「うふっ、うふふふふふっ。……なんともはや。間抜けな女達よ。こうもあっさりひっかかってくれるとは」

戦士「な、なぜっ……!」ググッ

村娘「なぜ? 簡単なこと。最初からこうするのが目的だったから」バサっ

武闘家「そ、そのっ、はね、はぁっ」

村娘「キレイでしょう? 淫夢族は、人間どもが思い浮かぶ悪魔と酷似している。そう、漆黒の翼を持って」スゥー

魔法使い「サキュ、バス……っ⁉︎」

リリス「――お前たちの旅はここで終着点だ。……言え。勇者はどこにいる?」

179: ◆7Ub330dMyM 2018/01/15(月) 16:34:30.89 ID:SH/yhARoO
武闘家「モンスターめ……! 勇者、が狙いか……!」

リリス「聞かぬでもわからないでか。我が魔族の宿敵。ルビスの加護をその身に宿した者……お前らに価値なぞない」

戦士「ぬぅ、ぬぅうううっ!」ググッ

リリス「シチューには、痺れ薬と幻覚薬を混ぜてある。そう簡単には戻らんぞえ」

魔法使い「か、身体が……意識も……」

リリス「まさかこのような場所に勇者がいるとは。とんだ偶然……いや、僥倖だったわ。貴女達がペラペラと喋ってくれたお陰で。淫夢王様にご報告できる」

僧侶「ん、んんぅ~、き、キアリク」ポワァ

リリス「ふんっ!」ドゴォ

僧侶「あうっ⁉︎」ズザザッ

戦士「そ、僧侶っ!! 大丈夫か⁉︎」

リリス「解毒魔法は使わせないよ。面倒だから、あんたは気絶してな」

僧侶「」

魔法使い「そ、そんなっ! 僧侶! 目を覚まして!」

リリス「ああ、我が愛しいサキュバスお姉様ぁん。……他にまだ聞けるやつはいることだし。さぁ、言え。勇者はどこだ」

武闘家「……すぅー……はぁー……」スゥ

リリス「……? なにもできや――」

武闘家「あちょお~~~っ!!」バッ

リリス「な、なにっ⁉︎」バサッ バサッ

武闘家「ちっ、出遅れた。……飛べるんだ。飾りじゃなかったんだね、その羽」

リリス「な、なんだ⁉︎ なぜ、動ける⁉︎」

武闘家「……くっ」ズキン

リリス「……? ま、まさか……⁉︎ くっ、あっはっはっはっ! お前! 自分の指を折ったねっ⁉︎」

武闘家「だったら、なんだってのさ」ズキンズキン

戦士「そ、そうか、その手が! よし!」ザクッ

魔法使い「う、うわぁ、剣で足を刺した」

戦士「あたしは指を折っては剣を握れない。……くっ」ズキン

リリス「迷いもなくやるとは、なかなかに見上げた根性だ」バサッバサッ

戦士「たしかに痛い。だが、そのお陰でクラついてた頭はすっきりしてる」

武闘家「麻痺は、まだ残ってるけど、ちょうどいいハンデよ」

魔法使い「わ、私も刺さなきゃいけない流れ……?」

戦士「好きにしろ」カチャ

リリス「人間風情がッ! 淫夢族の恐ろしさ!! 舐めるでないよッ!!」バサッバサッ

180: ◆7Ub330dMyM 2018/01/15(月) 17:02:04.28 ID:SH/yhARoO
【武器屋】

勇者「むっ……! こ、この気配は……!」キュピーン

ピロリロリーン
勇者は週間少年ジャ○プを手に入れた!

勇者「お、おお~! 家にいる時は読んでたんだよなぁ! どれどれ、今週のワ○ピは……と」ペラ

店主「う、うぅ~ん」

勇者「……あれ? なんだか読んだことある。おっかしいな~。たしか昨日が発売日のはず……ん~……が、合併号⁉︎ あら~、てことは来週まで続きはお預けか」

店主「うっ、わ、ワシは」ムクッ

勇者「おっ、目が覚めたのか?」

店主「ここは……ワシの家だよな。お前、誰? なんで人ん家のタンス漁ってるんだ……?」

勇者「あ、いやー、あの~。手がかり探しといいますか、勇者の本分といいますかぁ」

店主「さ、さては泥棒……うっ」クラッ

勇者「ああ、無理すんなって。淫夢からの生還おめでとう」

店主「うっ、うぅ」ポフン

勇者「なぁなぁ、夢の中はどうだった?」

店主「夢……そうか、あれは夢だったのか」

勇者「夢を見てるって自覚はないんだ?」

店主「とても……とても、じゃないが。あれは現実だった」

勇者「リアルに感じるなら気持ちいいってこと?  、    ってどんな感じ?」

店主「お前、  か」

勇者「ど、どどどどっ  ちゃうわ!!」

店主「……最初はよかった。若い子を相手にしていた」

勇者「ほ、ほうほう」

店主「だが、気持ちいいのは最初の何発かまで。それ以降は、ただ、搾り取られている。そう感じた」

勇者「牛の乳みたいな?」

店主「それでも、笑うんだ。やめてくれ、もう勘弁してくれと言っても、笑い続ける……ひ、ひぃっ」ガタガタ

勇者「……」

店主「魂を……吸われてた。笑いながら、口から魂を吸ってたんだ……」

勇者「寝る前になにか兆候はなかったのか?」

店主「なにも……あの日、ワシはお香を焚いて寝ただけだよ」

勇者「お香……? 匂いなんかしないが」

店主「するだろう。イチゴのような甘い香り……たしか、枕元に……むっ、どこだ?」ゴソゴソ

勇者「なくなってると……。これはなにやら、きな臭い匂いがプンプンしてくるねぇ」

181: ◆7Ub330dMyM 2018/01/15(月) 17:35:12.53 ID:SH/yhARoO
【再び 村娘 家】

魔法使い「ひ、ひぃ~ん。戦士が短刀をおいてくれたはいいけど決心がつかないぃ~」

武闘家「はあぁぁぁっ!! ハイィッ!!」ビュッ

リリス「……っ!」バサッバサッ

武闘家「くっ、テーブルを足場にしてもだめか……逃げ回るしか能がないの? それも狭苦しい室内で飛んじゃってさ。天井低くない?」

戦士「大層なクチをたたいていたが、薬に頼る時点でわかりきっている。戦闘能力はそうでもないな?」

リリス「くっ」バサッバサッ

武闘家「鳥族に変更したら? ただ飛び回るだけなら」

リリス「き、きさまらあぁぁあっ!! 淫夢族をバカにしたなっ⁉︎」

戦士「怒った怒った。本当のこと言われて怒ってやんの」

武闘家「悔しかったら降りて戦ってみなさいよ」スッ

リリス「……ふふっ、ふぅ、安い挑発ね。貴女達はもはや我が手中のナカ」

戦士「……?」

リリス「若い淫夢のサポートアイテム。それをご覧なさい」

武闘家「なに……?」

リリス「私がただ飛び回っていたと思うのか。羽で部屋に充満する空気をかき乱していたまでのこと」

戦士「この、お香か……?」

リリス「お前タチ。さぞかし身体を動かしていたわねぇ。運動をすれば、多くの酸素を人体は必要とする……たぁっぷり、染み込んだでしょう?」

武闘家「……っ!」クラッ

魔法使い「ぶ、武闘家!」

戦士「なんだ、これは。身体の芯が、暑い」ガクッ

魔法使い「戦士! ……あ、あれ、なんだか、私も」モゾモゾ

リリス「人が……否、生物は種の生存本能からは逆らえない! 子を残すために我らは生まれおちるッ!!」

武闘家「くっ、淫夢って、まさか、女にも」ドサッ

リリス「うふふ。淫らな術中にハマり、悶えて……快楽に身をゆだねなさい」スタッ

戦士「よ、ようやく地に足をついたな……くっ」ドサッ

リリス「もちろん。だって、貴女達は正真正銘、なにもできないから」スタスタ

魔法使い「うぅ、うぅっ」モゾモゾ

リリス「自分で弄ってもいいのよ? それとも、貴女達、みんな  ?」スッ

戦士「不埒なまねを……! 魔法使いに触れるな!」

魔法使い「うっ」ビクッ

リリス「まずはお前から。淫夢に堕ちろ」スッ

魔法使い「あ……あぁっ……」ガクガク

武闘家「せ、戦士ッ! このままじゃやばい!!」ググッ

戦士「わかってる!! わ、わかってるが、か、身体が……」ググッ

リリス「待っていろ。この者が堕ちたら、次はお前達の番だ」スッ

魔法使い「ゆ、勇者……」ガクガク

183: ◆7Ub330dMyM 2018/01/15(月) 17:50:47.13 ID:SH/yhARoO
――ガシャーーーンッ――

勇者「――……呼んだ?」

武闘家&戦士「ゆ、勇者っ!!」

勇者「内鍵閉めてるから窓から入るしかなかったじゃないの。ごめんな、窓ガラス割っちゃって」

リリス「……お前が……勇者?」

勇者「なぁ~んで知ってるんですかねぇ」

戦士「す、すまない……私たちが……っ!」ググッ

勇者「おお、なんか随分と緊迫した雰囲気だな。寝転がってなにしてんの? 床になんかいる?」ジー

魔法使い「」ドサッ

僧侶「」

勇者「……二人気絶の、二人戦闘不能か。あ、そういや四人じゃなかったわ。俺含めて五人だ。布団の数足りる?」

リリス「なんともふてぶてしい男だ。余裕を装っているつもりでいるのか」

勇者「ありのままの現実を受け入れてます」

戦士「き、気をつけろッ! そいつは淫夢族だ! 男には特に!」

勇者「なにができんの? オラわくわくすっぞ」

戦士「手だ! 魔法使いに触れてた手がなにやら怪しい光を放っていた! そいつに触れてはだめだ!」

リリス「チッ」

勇者「やっぱり触れる必要はあるんだ? そこのテーブルにあるのがお香だろ。それはなんのために」

戦士「おそらく、導入剤のようなものだろう、それを嗅がされて、あたしたちも、その」モゾモゾ

勇者「待て、待て待て! え? お前ら、もしかして発情ナウ?」

武闘家「……っ!」キッ

勇者「冗談だって。頼むから襲わないでくれよ。俺を」

戦士「お、襲うかっ!」

勇者「それで、何匹いるんだ? この村には」

リリス「なに……?」ピクッ

184: ◆7Ub330dMyM 2018/01/15(月) 18:10:59.68 ID:SH/yhARoO
勇者「村の男人口に対して、お前ひとりじゃ数が足りないだろ? それとも何人も相手にできるの?」

リリス「……バカじゃないみたいだね」

勇者「どーにもわからねぇんだよなぁ。カラクリが。たぶんどんどん近づいていってるんだろうけど」

リリス「……」バサッバサッ

勇者「飛べるんだ、それ」

武闘家「アタイも同じこと言った」

勇者「伝説によるとさぁ、枕元にたってるんだろう? んで、お香が導入剤。ここまではわかる。納得できる」

戦士「……?」

勇者「触れるのが必要なら、わざわざひとりずつ触っていってたのか? 一度触れてしまえば、後は放置プレイ? 勝手に夢の中で?」

リリス「我が一族の秘密……。きさま、それを探っているのかっ⁉︎」バサッバサッ

勇者「武器屋のおっちゃんが言うには、魂を吸われていたって。てことはだよ? 夢の中にもなんらかの実体があるはずだよなぁ? 吸えねーだろ? じゃないと」

リリス「こ、こいつ……!」

勇者「そこで、今の質問に戻るわけだ。何匹ここにいる」

リリス「答えると思うか……うふふ、女よりも男は容易い」

勇者「ん?」

リリス「男なぞ、所詮タネを飛ばすだけの生物。ヤリたい気持ちが先行するだけの愚鈍な生き物」スッ

勇者「……」ジィー

リリス「……はぁっ!!」バサァッ

勇者「翼目一杯広げて、どうし……あら?」クラッ

リリス「オンナの秘密はね、知りたいのなら命をかけなくちゃ。男ならわかるわよね?」スタッ

勇者「あ、あいにくと、付き合ったことがないもんで」フラフラ

戦士「勇者っ! おい、どうした!」

武闘家「余裕ぶってるから……!」

リリス「あら? 勇者なのに  なの? 股間のソードは未使用のまま?」

勇者「とっておいてあるんだ。ここぞって時のために」ガクッ

リリス「経験を積んだ方がいいわよ? 私が相手になりましょうか?」

勇者「結構です」キッパリ

リリス「……人間が。淫夢に溺れれば、そのような減らず口をたたけなくなる」

185: ◆7Ub330dMyM 2018/01/15(月) 18:33:21.87 ID:SH/yhARoO
勇者「……お、おうふ。やはり、体験するって大事だ。ただいま  禁14日目に突入した状態だぜ」

リリス「うふふ。切ないでしょう? いてもたってもいられないでしょう?」

勇者「う、うぅ。発情させるのは触れなくてもいいんだね」

リリス「もちろんよ。男はただたぎらせるだけですもの。この翼でね」

勇者「……」

リリス「鱗粉がまけるようになっているの。男に対して、超強力な媚薬効果のある」

勇者「蛾みたいだな」ガクッ

リリス「おだまりッ! ペラペラペラペラと軽口をたたきおって!」チラ

戦士「あの、バカ! なにしに来たんだよ……!」

武闘家「ぐっ! ……身体、動け……っ!」ググッ

リリス「ふふふっ、勇者よ。あそこにメスがいるわよ」スッ

戦士「触られたらダメだ! 勇者!!」

リリス「意識は、ぼやけてくる。種を残したい。それが男の本分。勇者であっても変わらない――」ピト

勇者「あ、あぁ」

リリス「本能を解放なさいな。勇者という枠に捕らわれないで」

武闘家「戦士! 不本意だけど、アタイの腕を折れ!!」

戦士「う、腕を……! し、かし、あたしも、身体が……! それに折ったところでどうする」

武闘家「何かで上書きするしかないだろ! まだ痛みが足りないんだ! というか、それしかない! 最後の力を振り絞れ! このままじゃ、勇者が! 人間の希望が……っ!!」

戦士「くっ! ぐぅぬぬううぅっ!!」ググッ

186: ◆7Ub330dMyM 2018/01/15(月) 18:49:36.18 ID:SH/yhARoO
リリス「さぁ、勇者よ。あそこにメスがいる。よくごらん」

勇者「メ、メス、オンナ」

リリス「そぉ。オンナだよ。衝動をぶちまけたいだろ? 荒ぶる  をしずめたいだろう?」サワッ

勇者「うっ、はぁっ、はぁっ」

リリス「なかなかにかわいい反応するじゃない。そんなに苦悶の表情を浮かべて……さっきまでの余裕はどこにいったの?」

武闘家「戦士、まだか! まだなのか⁉︎」

戦士「お前は待ってるだけだろうが! こっちだっめ必死でやってるよ!!」ググッ

リリス「うふふ。いいんだよぉ? あいつらを好きにして。勇者なんて忘れちまいなよ。勇者だからしちゃいけないなんてことはないんだから」

勇者「勇者を、忘れる……」

リリス「そぉ……みんな生き物なんだ。魔族も人も動物も。みぃ~んな、本能には逆らえない」ニタァ

勇者「だ、めだ。僕は、勇者なんだ」

リリス「……ボクぅ? ぷっ、クックックッ、ボクっ子だったの?」

勇者「勇者、勇者なんだ……」ブツブツ

リリス「かわいいね。母性本能をくすぐられる……ほら、あそこのお姉ちゃん達と遊んでおいで……?」

勇者「うっうぅ……」

戦士「そんな、まさか。勇者! 目を覚ませっ!!」

武闘家「集中しろッ!! かまうな!!」

戦士「しかし……っ!!」

リリス「くっふっふっふっ! これが伝説か! ルビスの加護とはこんなものか! なんだこのあっけなさは! 」

勇者「う、あう」フラフラ スタスタ

リリス「これなら、淫夢王様に報告するまでもない。ここでお前らは全滅だ!!」

187: ◆7Ub330dMyM 2018/01/15(月) 19:29:27.31 ID:SH/yhARoO
勇者「オンナ、オンナ……」スタスタ

戦士「や、やめろよ、勇者。冗談、だよな? いつもの冗談だろ?」

武闘家「最初から全力でやってれば、勇者ならあんなやつワンパンでいけたはずなのに……!」ボソッ

勇者「はぁっ、はぁっ、たまんねぇ、戦士、武闘家」スタスタ

戦士「く、くんなよっ! こっちくんな!」

勇者「興奮させようとしてるんだろ……? そうやって嫌がって」

戦士「や、やめろ! そんな品定めするような目で見るな! いつもの勇者に戻ってくれよ!」

リリス「クスクス。無駄だよ。そこにいるのはただのオスなんだから」

勇者「お前らだって発情してんだろ? そうだよな?」

戦士「い、いやだっ! あ、あたしは、こんなの……」

武闘家「師匠、ここまでのようです。先立つ不孝をお許しくださ……うぶっ⁉︎」

勇者「おっとぉ、なに舌かもうとしてんだ。させねえよ」

武闘家「ゆ、指を、クチに、いれて、ふぉのっ(このっ)」キッ

勇者「……ここまでかな。良い子に見せられるのは」ボキィ

戦士「ゆ、勇者……?」

勇者「淫夢族のチャームとでもいうのかね。たしかに強烈だ」ダラン

武闘家「ぷはっ、ま、まさか……勇者!」

戦士「お、お前、自分の腕を――」

勇者「傀儡にするというなんとまぁありがちなパターンで。おまけに催眠効果だけど、単純だから強烈。いやはや、危ないもんだ」

リリス「……っ! またか! お前も折りやがったのか!」

勇者「ネタバラシを聞き出すつもりが、まんまと蜘蛛糸にひっかかりそうだった。肝心なところ……どうやって精気を吸い取るのか。淫夢族の秘密とやらは、まだ聞けそうにないな」バチ バチバチッ

リリス「……? なんだ?」

勇者「この村から出て行け。それで話をつけよう」バチ バチィッ

リリス「ふざけるな!! なぜそんなことを――」

勇者「ライデイン」ピュン

リリス「う、うっあっ?」

勇者「反応できないだろ。稲妻の速度は。壁に穴あけるぐらいに抑えたけど、次はもっと強烈なのいくぞ」

リリス「……い、いまのが、伝説の」

戦士「み、見えたか? 武闘家」

武闘家「いや、なにかが、指先から光ったとしか」

リリス「くっ! な、舐めるんじゃな、い……」

勇者「二度は言わないぞ。腕が痛いんだ」バチィ バチバチッ

リリス「うっ」ズサッ

戦士「こ、これが、勇者だけが持つ、攻撃魔法」

武闘家「……」ゴクリ

勇者「あのなぁ、これでもめちゃくちゃ加減してんだ。頼むから帰れよ」

188: ◆7Ub330dMyM 2018/01/15(月) 19:52:53.61 ID:SH/yhARoO
リリス「(ど、どうする、もう一度、翼で……!)」

勇者「変な気起こさない方がいいぞ。指先大ほどのちっちゃな穴がどでかい穴にかわる。お前が反応して避けられるってんなら別だが」

リリス「(バレてる。……しかし、勇者に我が一族の特技が通用する……! これは有益な収穫だ……!)」

勇者「お帰りは俺が割った窓か、玄関。お好きな方をどうぞ。手下がいるかわからずじまいだけど、そいつらもね」

リリス「いいのか? 私がこのまま帰れば、お前の所在もバレるぞ。全魔族に」

勇者「まぁ、しゃーないよね。こうなったら」

リリス「安心して眠れる夜はなくなるぞ」

勇者「うん、まぁでもそれももう少しの辛抱だから」

リリス「……? もう少しの、辛抱?」

勇者「(だって俺、勇者やめて遊び人になるし。勇者いなかったら追いかけるのもやめるだろ)」

リリス「なにかたくらんでるのか……?」

勇者「いやいや。そんなたいしたものでは」

リリス「……いいだろう。この場は退散してやる。帰る理由もあるし」

勇者「助かる」

戦士「い、いいのかっ⁉︎ このまま逃して! ライデインを撃てよ! そうすれば口封じできるだろ!」

勇者「いや、いいよ。不要な殺しは」

リリス「なるほど……やはり伝承は事実か」

武闘家「勇者! そんな甘さではこの先生き残れないぞ!」

リリス「くっふっ。たしかに甘い。魔族との友好など! そんな幻想! 実現するものか!!」

勇者「(友好? なぁーにいってんだこいつ)」

武闘家「ま、魔族との友好?」

戦士「勇者、そんなことを考えていたのか……」

勇者「えっ? いや、あの」

リリス「夢物語は絵本の中だけにしておくんだね!」

勇者「(なんか勘違いして盛り上がってるけど、ま、いいか。ほっとこ)」

リリス「その甘さがいつか命とりになる! あーっはっはっはっ!!」バサッバサッ

勇者「ほーい。おつかれさーん」

戦士「ゆ、勇者、お前ってやつは」

武闘家「飛び立ったばかりの今からでも遅くない、さっきの魔法を! なんなら追いかけてでも!」

勇者「いや、いいんだ。これで」

199: ◆7Ub330dMyM 2018/01/16(火) 12:02:39.15 ID:g1xmOKbDO
【数十分後 村娘 家】

村娘「みんなが目覚めはじめたわぁ~! 祈りが通じたのよぉ~っ!」タッタッタッ

村人「待てよぉ~っ! こいつぅ~!」タッタッタッ

村娘「きゃっ! いたっ!」ドテン

村人「だ、大丈夫かっ⁉︎」ササッ

村娘「もう、私、寂しかったんだから……ほっとかれて。ずっと寝たままで」

村人「村娘……」スッ


勇者「窓の外じゃキャッキャウフフな光景がひろがってるというのに――」チラッ

戦士「……」ギロッ

武闘家「……」ギロッ

勇者「――なぜにわたくしめは、腰に手をあて仁王立ちしているお二人に正座させられてるので?」

戦士&武闘家「自分の胸に聞いてみろっ!!」

勇者「なんだよぉ~いいじゃないかべつにぃ~」

僧侶「ちょっとぉ~戦士さん動かないでくたざいよぉ~。まだ回復魔法終わってないんですから~」ポワァ

魔法使い「さすがに擁護できないわね」

勇者「異議ありッ!! いったいいつ魔法使いが俺を擁護したと……」

戦士&武闘家「勇者ッ!!」

勇者「はい。すんまへん」

戦士「なんということだ! なんたることだっ!!」

武闘家「どうするつもり? これから。明日にも魔王軍が大挙で押し寄せてくるかもしれないよ」

戦士「いまわかった! いや、前々から掴み所のない奴だと思ってはいたが……お前には圧倒的に自分がわかっていない!!」

勇者「……」

戦士「勇者なんだぞ! ゆ・う・しゃっ! わかってるのか⁉︎ 自分の立ち位置が!」

勇者「わかってる」

戦士「いいや! わかってない! 魔族に甘いのがわかってない証拠だ!!」

魔法使い「横から言うけど、魔族は敵なのよ? 起きていなくなってるからてっきり倒したと思ったのに。聞いてびっくりしたわ。まさか、友好を考えていたなんて」

勇者「俺はべつに」

武闘家「魔法使いが言っていたな! なんでもモンスターの墓を作っていたそうじゃないか! 隠そうとしても無駄だよ!」

勇者「それは、ほら。墓ないとかわいそうかなーって」

僧侶「これで、よしと。足の傷口はふさがりましたけど無理しないでくださいねぇ~。次は、武闘家さん~」

戦士「それがわかってないというんだ! 人間と魔族は敵対してるんだぞ⁉︎ お前は人間の代表的な存在だろう⁉︎」

勇者「そ、そりは、まわりが勝手に」

武闘家「喋るんならハキハキ喋りな!!」バンッ

僧侶「ほらほらぁ~動かないでぇ~。ベホイミ~」ポワァ

勇者「……う、うるさいわいっ! お前らこそ! 勇者に対する扱いというものがなっちゃいないんじゃなかろうか⁉︎」

魔法使い「自分で気楽に接してくれって言ったんじゃない」

勇者「うっ」

戦士「勇者様よ。敬えというのなら敬おう。だが、もっと考えろよ……!」

勇者「す、すんません」シュン

200: ◆7Ub330dMyM 2018/01/16(火) 12:16:11.37 ID:g1xmOKbDO
武闘家「……はぁ、過ぎたことをいってもしかたないのはわかってる」

勇者「そ、そうだぞ! ここは頭を切り替えてだな!」

武闘家「黙れ」ギロッ

勇者「ひゃ、ひゃい」

魔法使い「ほらほらぁ~。申し訳ないと思うならワンと鳴いてみなさ~い」

勇者「ワンワン!」

魔法使い「よくできたわねぇ~。お手」

勇者「ワンッ!」ピト

戦士「こ、こいつ。プライドないのか……。怒るのがバカバカしくなってきた……」

僧侶「私たちも悪いんですよぉ~? わざわざ勇者だって教えたのは戦士さんと魔法使いさんですよねぇ~」ポワァ

戦士&魔法使い「うっ」

僧侶「肝心なときに戦闘不能に陥っていたのはどこの元チャンピオンさんでしたっけぇ~」ポワァ

武闘家「そ、それは……」

僧侶「最初に会敵したのは勇者さまではなく私たちなんですからぁ~。助けていただいて感謝すべきではぁ~? あのままだと成すすべありませんでしたよねぇ~?」

勇者「……」

戦士「たしかに、そうだが」

勇者「ペッ!」ビチョ

魔法使い「きゃ、きゃぁっ⁉︎ 勇者! なに人の手にツバとばしてんのよバッチい!!」ゴシゴシ

勇者「あ~ん? なんだぁ? その態度は? 助けていただいてそんな態度でいいのかぁ~?」

魔法使い「こ、こいつ……!」

勇者「僧侶。貴様は我が参謀に格上げいたそう。良きに計らえ」

僧侶「は、はぁ……」

戦士「今はそういう話では!」

勇者「だまらっしゃい! ウダウダいってもしょーがないの! これからどうするかなの! 重要なのは!」

武闘家「ゆ、勇者がそれを言うか」

201: ◆7Ub330dMyM 2018/01/16(火) 12:39:29.76 ID:g1xmOKbDO
勇者「だいたいだな。戦士と武闘家はいつのまに息ぴったりになってんだよ」

戦士「お前のせいだ」

武闘家「共通目的があるから」

勇者「やめていただけるかな⁉︎ 俺を口撃して団結すんの!」

僧侶「また話がそれだしてますよぉ~。どうしましょうねぇ」

戦士「魔王軍の戦力。どれほどのものか。実態は誰も知らない」

武闘家「さっきの淫魔は確実に伝えるだろう。そうなれば、言われた通り、全魔王軍……親玉である魔王自らが勇者を潰しにかかるかもしれない……!」

勇者「おっかねぇ」

戦士「だったらなんで逃したんだよっ!」バンバンッ

勇者「……ふむ」ピラ

魔法使い「百歩譲って、勇者は自分が襲われるのを良しとしたとしましょう。でも、この村も危険に晒されるのかもしれないのよ? 滅ぼされたら、どう責任とるつもり?」

勇者「いや、そうはならない」

僧侶「なぜでしょう~?」

勇者「現状が膠着状態だからだよ。俺が立ち寄ったとされる村々を潰せば、人間たちも黙っちゃいないだろ」

戦士「……」

勇者「人間vs魔族の全面戦争が勃発する。なぜだか知らないが、そうはなっていないから。むやみやたらと人間達の住む村々を攻撃しないよ」

魔法使い「その言い分には穴がある。淫魔達はこの村を実質襲っていた。このままいけば、壊滅していたわ」

勇者「まわりくどいやりかた、でな」

魔法使い「……そ、それは」

勇者「なるべく目立たないようにしてたんだと思うよ。もっと大規模にやってもかまわないんなら、人口の多い、例えばマッスルタウンを狙うだろ」

僧侶「アデルの城下町でもいいわけですしねぇ」

勇者「魔王軍は今はまだ、人間達と争う気はないらしい。明日はわからないけど」

魔法使い「じゃあ、あくまで勇者を個人的に狙ってくるってこと?」

勇者「……だといいけどねぇ。ルートを迂回する」

武闘家「どう行く?」

勇者「現在地はここ」

僧侶「西から東に、中心地のダーマに向かってまっすぐきたのでぇ~。3分の1ちょっとを過ぎたあたりですぇ」

勇者「その通り。ここから北に向かう」

魔法使い「北? 北ってことは雪原よ?」

勇者「この村で防寒対策をしっかり行う。休業していた稼ぎをとりかえすため、営業再開はまもなくするだらうからな」

戦士「北か……なぜ、南のクイーズベルではなく北なのだ?」

勇者「行きたくねぇから」

魔法使い「そ、そんな理由」ガックシ

僧侶「暑さよりも寒さの方がお好みなんですかぁ~?」

勇者「いや、知り合いがいるんだよ。南の国は」

202: ◆7Ub330dMyM 2018/01/16(火) 12:58:23.53 ID:g1xmOKbDO
魔法使い「寒いと乾燥するから、寒さよりは暑さがいいなぁ。肌によくないし」

武闘家「強い紫外線だって同じだろ」

魔法使い「……へぇ。武闘家も美容に気をつけてるんだ?」

武闘家「ち、ちがっ! そんなんじゃ、ない」

戦士「知り合いとはどういう知り合いだ?」

勇者「こわいのがいるんだ」ゾクッ

僧侶「こわい……?」

勇者「……とっても、恐ろしいやつが……や、やめて! パンツ脱がさないでっ!     の皮はひっぱるものじゃないよぉ!」ガタガタ

魔法使い「……だいたい想像がつくわね」

戦士「甲斐性の“か”の字もこいつからは感じられん……本当に、ついていっていいのだろうか」

勇者「……そこでだ」キリッ

僧侶「くすくす。コロコロ表情が変わって面白いですねぇ」

勇者「ギャグじゃないわい。……お前らも、よく考えろ」

魔法使い「考えるってなにを?」

勇者「俺と一緒にいると危険だぞ。まだ引き返せる」

戦士「……?」

勇者「いや、あのですね。そんな何言ってんだこいつみたいなキョトンとされても」

武闘家「バカじゃないのか、お前」

勇者「ストレートに言わないで⁉︎」

魔法使い「旅に危険はつきものでしょ」

勇者「危険の度合いといいますか」

戦士「死ぬのがこわいなら最初からついてきていない」

勇者「あ、そう」

僧侶「優しいんですねぇ~。でもぉ、余計な気をまわしすぎですよぉ~」

魔法使い「はぁ……いきなりなに言い出すかと思えば、くだらない」

勇者「すみませんねぇ! ……おや?」ピクッ

武闘家「今度はなんだ」

勇者「ちょっと、トイレ」

戦士「申告しなくていいから、さっさと行ってこい」

203: ◆7Ub330dMyM 2018/01/16(火) 13:35:50.93 ID:g1xmOKbDO
【淫夢城 玉座】

サキュバス「勇者を発見したっ!?」

リリス「はいぃ~お姉様ぁ。見事リリスが突き止めましてでございます~」スリスリ

サキュバス「報告! 報告なさい!」

リリス「ハッ! またもやトリップしてしまいました。お姉様がいけないんですよぉ、そんなに誘惑の波動をまきちらしてぇん」

サキュバス「……」ギロッ

リリス「ひっ⁉︎ も、申し訳ありません」

サキュバス「……して、勇者がいたというのは嘘偽りない真実か?」

リリス「はい、まことでございます。ミンゴナージュ村にて、遭遇いたしました」

サキュバス「だからか? 精気を搾り取る前に、撤収してきたのは」

リリス「は、はい。先に報告するのが急務と考えまして」

サキュバス「勇者を殺そうとはしなかったのか?」

リリス「そ、それは……」

サキュバス「目の前にいれば考えるはず。できなかったとすれば、圧倒的に力の差があったか?」

リリス「いいえっ! たしかに……攻撃魔法はたいしたものでしたが」

サキュバス「……攻撃魔法ですって?」

リリス「お姉様……失礼、サキュバス様もご存知のライデインです」

サキュバス「稲妻の……どのような威力であったか」

リリス「実際のところは……でも、通常の属性魔法と違い反応できるものではありませんでした。光速の速さといいますか、パッと光ったかと思い振り向けば、穴が」

サキュバス「それで、おめおめと逃げ帰ってきたか? なにもできず」

リリス「なにもできなかったなんてとんでもございません! お喜びください! 勇者に我が一族の特技は通用いたします!」

サキュバス「ほう……?」

リリス「誘惑が効きました! 精神攻撃が有効なのです! お姉様っ!」

サキュバス「それはそれは。たしかに良い報告ね。でも、そうならなぜその場で殺さなかったの?」

リリス「自分の腕を折り、正気を取り戻したのです。そしてライデインの威力をまざまざと見せつけられ……」

サキュバス「報告は終わりか」スッ

リリス「けっ、けっして! けっして逃げてきたわけではありません! 本当です! 罰はどうか!」

サキュバス「リリス、誘惑するなら骨までトロけさせなさいと言ったでしょう……」

リリス「は、はい」ブルブル

サキュバス「そんなに震えて。どうしたの?」

リリス「や、やはり、今からでも殺してまいります!」

サキュバス「よい。ゆっくり休め」

リリス「お、お願いです! サキュバス様! どうか、お慈悲を!」ガタガタ

サキュバス「……うふふ。かわいいかわいいリリス。怯えなくても平気。勇者には、私が会ってくる」

リリス「淫夢王様がっ⁉︎ そ、それは必要ないんじゃ。魔王様に報告して、あとは招集会議を」

サキュバス「勇者……。どれほどのものか自分で確かめたい。魔王様が、我が大魔王があれほど言う人物。たしかめねば、気が済まないのよ」

204: ◆7Ub330dMyM 2018/01/16(火) 13:51:50.61 ID:g1xmOKbDO
【村娘の家 トイレ】

勇者「漏れちゃう漏れちゃう」ジーッ

サキュバス「……」パッ

勇者「ふぃ~この瞬間が心のオアシスやでぇ~」ポロン

サキュバス「……リリスのやつ。転移魔法陣の座標誤ってる。使えない部下なんだか……ら?」キョトン

勇者「あ?」ジョロロ

サキュバス「えっ、ちょ、ちょっと」ビチャビチャ

勇者「おっ、ちょ、なんでいきなり便座に座ってんだよ! 急には止まらないんだって男は!」ジョロロ

サキュバス「め、目にはいっ、うえっ、口の中に」

勇者「顔にあたってはねてる! ばっちい!」チョロチョロ

サキュバス「お前のだしてるものだろうが! か、髪に、私の髪が……っ!」

勇者「……」チョロ

サキュバス「……に、人間よ。なにか申し開きはあるか」

勇者「いきなりは、勘弁してほいかなーなんて。あと場所も」

サキュバス「……」プルプル

勇者「ご、ごめんね? ツラかったよね? 顔にションベンぶっかけられ、髪と衣服まで……着てる服って、あぶない水着?」

サキュバス「――……死ねッ!!」バァッ

205: ◆7Ub330dMyM 2018/01/16(火) 14:14:19.75 ID:g1xmOKbDO
【村娘の家 リビング】

僧侶「みなさん機嫌をなおしましょ~」パンパン

戦士「機嫌なら……怒るのもバカらしくなった時点で。……呆れてるだけだよ。これから、魔王軍に目をつけられた旅になるかと思うと」

武闘家「死ぬのはこわくないと言ったくせに、ビビってるのか」

戦士「悪目立ちをしてしまったという意味だ!」

魔法使い「まぁ、その点については私たちも責任の一端があるのはたしかだし。問題は勇者の性格よね」

戦士「あぁ。だいたいあたしもつかめてきた」

魔法使い「てきとー、甲斐性なし」

戦士「うんうん」

魔法使い「私たちがしっかりしないとだめね」

僧侶「そんなことありませんよぉ」

魔法使い「僧侶、ほんっきで勇者に惚れてるわけ? 肩書きなかったら、しょーもないやつでしょ」

僧侶「それはぁ、おふたりの見る目がないだけでぇ」

――バンッ バンッ ドォーーン――

戦士「爆発音⁉︎」

武闘家「トイレの方からだ!」ダダダッ

魔法使い「今の炸裂音は……イオ系よ! イオ系の呪文だわ!」

僧侶「すごい音でしたねぇ」

武闘家「おい、どうした! ゆう、しゃ……」パタン

戦士「武闘家! なぜ扉の前で立ち尽くしている!」タッタッタッ

武闘家「……ない」

僧侶「ないってなにがですかぁ?」トテトテ

戦士「こ、これは……⁉︎」ギョッ

武闘家「トイレが、壁が、なにもかも。丸ごと、なくなってる」ヒュ~

僧侶「あらあらぁ~。外と繋がっちゃってますねぇ」

魔法使い「それで、勇者は……どこ?」

206: ◆7Ub330dMyM 2018/01/16(火) 15:22:56.92 ID:wnE7S7Y5O
【ミンゴナージュの村 数キロ先】

サキュバス「この淫夢王に向かって、せ、聖水プレイだと……」バサッバサッ

勇者「高くて良い眺めである」

サキュバス「なぜしがみついてるんだお前はっ!!」

勇者「いきなりイ  ズンとかぶっ放すから爆風で掴んだのが貴女でした」キリッ

サキュバス「こ、この……! 下等生物……!」

勇者「聖水プレイははじめてだったのか? 力抜けよ」

サキュバス「……」ヒクヒク

勇者「どこまで行くんだ? そろそろ地上に下ろしてほしいんだけど」

サキュバス「よかろう……ならば望みどおりっ!! 落ちるがいいっ!!」バサァ

勇者「おっ、いきなりそんな、あぶなっ、あっ」ツルッ

サキュバス「まだだ……メラゾーマ」ボォ

勇者「落下する相手に追い打ち? だめだよーそんなのは」ヒュー

サキュバス「今度こそ……! 死ねぇぇぇっ!!」ゴォッ

勇者「……っ!」バッ

サキュバス「腕を交差したところで防げるものかっ!! そのまま灼熱の業火で焼かれるがいい!!」

勇者「フバーハ」ボォ

サキュバス「……っ! 耐火魔法か!」ゴォォォッ

勇者「うぉっ! あちっ、なんだ? 防御魔法が」

サキュバス「そんじょそこらのやつが放つメラゾーマだと思うなよ! そんなちっぽけなもので……!」

勇者「にょわわわぁ~~~」ヒュー

サキュバス「……な、なんだ。今のマヌケな叫び声は。落下していったが……一応、確認しておくか」

207: ◆7Ub330dMyM 2018/01/16(火) 15:40:23.48 ID:wnE7S7Y5O
【ミンゴナージュの村~ 荒野】

サキュバス「このあたりに落ちたはず。岩だらけで目視しずらいわね」バサッ バサッ

勇者「あ~、死ぬかと思った」ガラガラ

サキュバス「……っ⁉︎」ギョッ

勇者「ただのメラゾーマだと思って舐めてたわ。見てくれよ。マントが焦げちまった」ビリビリ

サキュバス「な、なんだお前は⁉︎ こ、この私のメラゾーマだぞ!」バサッ バサッ

勇者「この私ってどちら様か知らんけども。ご近所さんではないな」

サキュバス「ま、まさか、お前が……⁉︎ お前が勇者なのか! そうであろう! 生身の人間でこんな強力な個体などいない!」

勇者「んー、まぁもう隠しても仕方ないか。そうだよ」パンパン

サキュバス「そ、そうか……貴様が。どおりで、消し飛ばしたはずのイ  ズンも、焼き殺したはずのメラゾーマも」

勇者「さっきのやつなぁ、俺以外に放つとあぶないと思うんだ」

サキュバス「ふ、ふふっ! 勇者よ! 私はお前に会いにきた!」

勇者「それはどうも。こんにちは」ペコ

サキュバス「その実力。伝説に違わぬかどうか私自らが見定てあげる。――見せてみなさい。魔王様に届きうるか否かッ!!」バサァッ

勇者「めんどくせぇ」ゲンナリ

サキュバス「まずは小手調べといきましょうか。この荒野とともに散りとなるなよ……」

勇者「心配してくれんの?」

サキュバス「がっかりさせるなという意味だ! さっきよりも魔力を高めてるぞ」ギュイィィィン

勇者「(こいつは……今まで会った中で一番やべぇっ!!)」グッ

サキュバス「連鎖する爆風! 小さき精霊(もの)どもよ! 連なり爆(は)ぜろ!! イ  ズンッ!!」

208: ◆7Ub330dMyM 2018/01/16(火) 16:02:56.87 ID:wnE7S7Y5O
【ミンゴナージュの村 村娘の家」

魔法使い「えっ? えっ? 勇者は、どこに行ったの?」

僧侶「もしかしてぇ~。責任を感じて一人で行かれたのではぁ~?」

戦士「そ、そんなタマかぁ? あいつが」

僧侶「絶対ないって言い切れますかぁ?」

魔法使い「可能性の話をしたらキリがないけど」

武闘家「いなくなってるのは事実さ」ドサッ

戦士「どうしたんだ? 座りこんで」

武闘家「どーすんのさ。これから。アタイ達は」

魔法使い「どうするって?」

武闘家「忘れたの? 旅の目的」

戦士「いや、忘れてないが」

武闘家「アタイは師匠との約束を守るため。あんた達は何のためか知らないし、知りたくもないけど……勇者についてく。そう思ってパーティ組んでたんだろ」

魔法使い「……」

武闘家「見切りをつけられちまったのは、アタイ達の方だったってわけだ」

戦士「いや! しかし、あたしたちだって選ぶ権利が」

武闘家「その選ぶ権利とやらはさっき行使したばっかだろ。満場一致で勇者と行動をともにする。そこに疑問なんてあったの?」

戦士「それは、なかったが」

武闘家「アタイが言ってるのは、“勇者にだって選ぶ権利がある”。そういうことだよ」

魔法使い「……で、でもっ!」

武闘家「でももへったくれもないって言ってんだろ!」バンッ

魔法使い「……っ!」ビクッ

武闘家「いなくなってるんだよ……リーダーが……どうすんだよ……これから」

僧侶「メソメソしたって仕方ないですよぉ~」

武闘家「だ、誰がメソメソしてるって⁉︎」

僧侶「私には、武闘家さんが一番ショック受けてるように見えます~。ほかのお二人は、ポンコツさんなので実感がないかもしれないですけどぉ」

戦士「う、うむ。言われてみれば、先ほどはきつく言いすぎたかもしれん」

魔法使い「……」

――ドォーーンッ ドォーーンッ――

武闘家「なんだ……?」パラパラ

戦士「天井からホコリが……それに、かなり離れてるが音が聞こえる」

魔法使い「マッスルタウンの花火?」

戦士「バカいえ。そんな大規模なものでは……それに断続的に続いている」

武闘家「向こうの方角だね。空が……? 雨雲?」

僧侶「さっきまで曇ってませんでしたのにぃ~……これって、まさかぁ、あの魔法ではぁ?」

戦士「僧侶、なにか?」

僧侶「予想が正しければ勇者様はまだ数キロ先にいらっしゃいます~。追いかけますよぉ~」

209: ◆7Ub330dMyM 2018/01/16(火) 16:23:23.98 ID:wnE7S7Y5O
【ミンゴナージュの村~ 荒野】

勇者「あっぶぇなぁっ!」ヒョイ

サキュバス「危ないで済んでるお前はなんなんだ! すこしは攻撃したらどうっ⁉︎ それか、当たりなさい!」ブンッ ズォッ

勇者「わろたww当たるバカがいるかよww」

サキュバス「……バカ?」ピクッ

勇者「むっ? いや、言葉のあやで」

サキュバス「バカにしたのか? 王の前で、一族を……?」ゴゴゴッ

勇者「(煽りすぎたか。顔真っ赤やで)」

サキュバス「この私をおおおおおっ!! 誰だと思っているかぁぁああッ!!!」バサァッ

勇者「……ぬっ⁉︎」グッ

サキュバス「――……“誘惑の波動”」キィィィッ

勇者「な、なんだ? あり?」ガクガク

サキュバス「どうした? 勇者よ、下等な人間よ。膝が笑っておるぞ」

勇者「ぬぐっ、ち、力が、抜ける」ガクッ

サキュバス「そうだ! 膝をつけ! それこそが王たる私にふさわしい姿勢! バカにするなど万死に値するッ!!」キッ

勇者「ま、まずいぞ、これ」ドサッ

サキュバス「リリスの報告はただしかったようね。ねぇ、なぜ私が淫夢の王になれたと思う?」

勇者「し、しらないけど」ググッ

サキュバス「それは、魅惑の魔眼を開花できたから。この魔眼を開花するには膨大な魔力を必要とするの。体力もね……でも、効果は絶大」

勇者「どんな、チートなんだ」

サキュバス「どんな強者であっても、見つめられると私の意のままに操れる」

勇者「そ、それはまた、ありがちな能力で」ググッ

サキュバス「それだけじゃないわ。意のままに作り変えることができる。過去も未来も」

勇者「……?」

サキュバス「現在は、過去と未来の中にあるのよ。普遍的なものではないから。あなたが成り立っている過去、家族、全てを忘れられたら……?」

勇者「意味が、わからん」

サキュバス「別の人間になってみる?」

勇者「な、に……?」

サキュバス「リリスも使ったかもしれないけど、あの子はまだ開眼できていなかったでしょうから。……勇者よ、あなたは今から勇者ではない」キィィィン

210: ◆7Ub330dMyM 2018/01/16(火) 16:52:23.36 ID:wnE7S7Y5O
勇者「……」フラァ

サキュバス「そう……いい子ね。あなたはもう勇者ではないのよ」

勇者「勇者じゃ、ない」スゥ

サキュバス「ただの青年。疲れたでしょう? 人間たちの御輿に担がれるのは」スタッ

勇者「でも、僕は、みんなが期待してるから」

サキュバス「(深層心理がでてきてる……)……いいのよ。忘れて。魔族になりましょう」

勇者「だめだよ、そんなのっ! 僕が、僕がやらなくちゃ……!」

サキュバス「……言うことを聞きなさい」キィィィン

勇者「うっ、あ、あぁっ」ガクガク

サキュバス「いい? あなたは――……勇者じゃない」

勇者「わかった……」ビュッ

サキュバス「……っ⁉︎ き、消えたっ⁉︎ そ、そんな、どこに……っ⁉︎」

勇者「……こっちだ。ウスノロ」ビュッ ブンッ

サキュバス「……っ! う、うしっろぉ……っ⁉︎ ぎゃあっ」ドゴーーンッ

勇者「……」スッ

サキュバス「……う、うぅっ」パラパラ

勇者「……僕は、勇者じゃない」バチィ バチバチィッ

サキュバス「くっ、な、なんだ……っ⁉︎ 今の一撃は! 今のスピードは! パンチは! わ、私の障壁が……っ!!」ゾワッ

勇者「お前を殺すぞ……」

サキュバス「あ、雨雲が……勇者の頭上に。いつのまに。……やつが作ってるのか⁉︎」ギョッ

勇者「ギガ……」バチィッ バチバチィッ

サキュバス「ひ、ひぃっ⁉︎」アタフタ

勇者「ギガ・デイン!」バチバチィ ピシャン

サキュバス「――……ギャぁあああああっ!!」バチバチィ

勇者「まだまだ……!」バチバチィ

サキュバス「うがぁぁぁぁあッ!! こ、こんなもの、こんなぁっ、ギャあああっ!!」バチバチィ

勇者「……う、うぅっ」ピタッ

サキュバス「ああァァッ――……あっ、あっ、うっ」プス プス

勇者「だ、だめだ。こんなの……」

サキュバス「うっ、うっ、一瞬で、障壁が、すべて……こ、こんな……こ、こいつの牙は……ルビスめ……隠していたのかぁ……!」プス プス

勇者「」ドサッ

サキュバス「き、気絶した、のか。じょ、冗談ではない、ぞ。我を失っていたとは、いえ……それは、本来持ってる力をふるっただけ、のはずっ」ズリ ズリ

勇者「」

サキュバス「息の根を止めねば……! こ、こいつの力は……魔王に、匹敵する……ッ! 友好などと……なまっぬるい話ではない、我が王の不安は、正しい……ッ!」ズリ ズリ

勇者「」

サキュバス「こいつは、今っ、ここでぇ、殺しておかねばならないッ……!」ブンッ

211: ◆7Ub330dMyM 2018/01/16(火) 17:18:38.42 ID:wnE7S7Y5O
サキュバス「――……なんの、なんの」ズワナワナ

ハーピー「……」バサッバサッ

サキュバス「なんのつもりだっ!! ハーピーッ!!」クワッ

ハーピー「……すミません」スタッ

サキュバス「魔族語でよいわ! 担いでる勇者を連れてさっさと降りてこい!! なんならお前が息の根をとめろ!!」

ハーピー「……」チラッ

勇者「」

ハーピー「この者の命、私が預かります」

サキュバス「ばっ⁉︎ バカなことを言うなっ⁉︎ すぐに出てこれたということは、お前も見ていたんだろうが!」

ハーピー「転移の魔法陣で送ります。サキュバス様であれば、一命はとりとめるでしょう」

サキュバス「だめだ、だめだだめだだめだぁッッ! 今すぐ殺せ! やれ!! なぜ人間を助ける! 魔族だろうが!!」

ハーピー「魔族、だから、です」

サキュバス「な、なにを世迷言を……」

ハーピー「誇りがあるからっ! この者は、必ず私が殺します」

サキュバス「中級のお前なぞに敵うものか! 一瞬で消し炭にされるぞ!! 私の姿を見よ!!」ズリ

ハーピー「そう、かもしれません」

サキュバス「獣王に報告するぞ⁉︎」

ハーピー「追い、だされ、ました」

サキュバス「~~~ッ!! この馬鹿者がっ!! 誘惑の波動ッ!」キィィィ

ハーピー「ご無理をなさらない方が。今は力を回復に回すのです。……本当に、死んでしまわれます」

サキュバス「くっ、おのれぇぇえええっ!! 力が……!」ガクッ

ハーピー「私は、魔族にも、人間にも、属さぬ身。しかし、魔族である誇りは失っていません」

サキュバス「な、なぁ? そいつを殺せば、クチを聞いてやろう! 獣王との仲をとりもってやろう!」

ハーピー「それもまた、然り」

サキュバス「か、かたいことを言うな! 我らは魔族だろうが!」

ハーピー「ご達者で。獣王さまにもよろしくお伝えください」スッ

サキュバス「ハァァァピィィィッッ!! 許さんぞ!! 貴様の一族! 家族! 親兄弟全ての魂を抜き去ってやるっ!! 魔王様にも報告して、未来永劫地獄の業火で焼かれ――ッ!!」スゥーー

ハーピー「はぁ……ばいばい。サキュバス」

勇者「」

ハーピー「……これで、貸し借りなしよ。お前は、勇者は私が必ず殺す。もっと強くなって。命は私のものだ」バサッバサッ

212: ◆7Ub330dMyM 2018/01/16(火) 17:43:29.47 ID:wnE7S7Y5O
【一時間後 荒野】

魔法使い「な、なによ、これ。地形変わってるんじゃないの? 隕石でも落ちてきた?」ゴクリ

戦士「足場がかなり脆くなってる! 踏み外して足をくじかないように気をつけろよ!」

武闘家「……」タンッ タンッ

僧侶「ぶ、武闘家さん待ってくださぁ~い。そんなに軽々と超えられませんよぉ~」

武闘家「爆心地にいるはず。どこだ……」キョロキョロ

戦士「焦げ臭い匂いがする。枯葉が焼かれているのか」

武闘家「……」キョロキョロ

魔法使い「かすかに魔力の残り香を感じる……戦ってた? ここで?」

僧侶「ふぅ、ふぅ。よいしょっうんしょっ」カラカラ

武闘家「いたっ!」タンッ タンッ

勇者「」

武闘家「おいっ! 勇者!!」ダダダッ

戦士「ん⁉︎ 勇者? おぉーい! 武闘家! そっちに勇者がいるのか⁉︎」

武闘家「身体が、熱い……! 僧侶! こっちだ! 早く来い!!」

僧侶「そ、そういわれましてもぉ~。急いでますよぉ~」

武闘家「……」ピトッ

僧侶「到着~おでこをくっつけられてますけどぉ、熱があるんですかぁ?」

武闘家「あぁ、かなり熱い。診てやってくれ」スッ

僧侶「わ、私は医者じゃありませんので診断はぁ。とりあえず、回復魔法をぉ。ベホイミ」ポワァ

勇者「」

僧侶「キアリク」ポワァ

勇者「」

僧侶「キアリー」ポワァ

戦士「よいせっと。……ん? 勇者どうしたんだ?」

魔法使い「せ、戦士、手を貸して」

僧侶「……これは、まずいわ」

戦士「まずいって、なにが?」

僧侶「武闘家さん! 勇者様を担いではやく村に戻るのよ!」

武闘家「えっ、あ、ああ」

僧侶「はやく! 貴女の足が一番はやい! 村に帰ったら氷水につけたタオルで冷やして!」

戦士&魔法使い「……」ポカーン

僧侶「なにボサっとしてるのよ! 急げっつってんだろ!! ロッドでぶん殴るぞコラァ!!」

213: ◆7Ub330dMyM 2018/01/16(火) 17:56:58.93 ID:wnE7S7Y5O
【数時間後 村娘の家】

僧侶「……いま、タオルをとりかえますね」スッ チャポン

勇者「Zzz」スヤァ

戦士「な、なぁ。そ、僧侶、さん?」

魔法使い「沈痛な表情浮かべてるところ悪いんだけど、さっきの、言葉使いって?」

僧侶「なんですかぁ?」

魔法使い「ええぃ! まどろっこしい! 素は違うんじゃないの⁉︎」ビシッ

僧侶「なんのことでしょお~?」

魔法使い「……二重人格とかじゃ、ないわよね?」

武闘家「アンタたち、今は勇者だろ。僧侶、どうなのさ」

僧侶「知恵熱、みたいなものでしょうか~」

戦士「知恵熱? というと、詳しい原因がわからないという、赤ちゃんがよくなるあの?」

僧侶「そうですよぉ~。びっくりしちゃったんでしょうねぇ」

魔法使い「びっくり……?」

武闘家「普段から慣らしておかないからってことか」

戦士「なんで武闘家は合点がいったみたいな顔してるんだ」

魔法使い「……?」

武闘家「……心配なさそうね」

僧侶「はい~。一時はどうなることかと思いましたが、たいしたことなくてなによりですぅ」

武闘家「外で風に当たってくる」

魔法使い「ね、ねえっ! 私達だけ置いてけぼり⁉︎ 勇者はなににびっくりしてんの? 荒野のあの惨状は⁉︎」

僧侶「さぁ~。なぜなんでしょうねぇ」

戦士「……んー?」

214: ◆7Ub330dMyM 2018/01/16(火) 18:09:25.10 ID:wnE7S7Y5O
【ミンゴナージュの村 翌朝】

勇者「あぁ~よく寝た。なんだかやけに気分がスッキリしてんな。ストレス発散でもしてきたような……」

僧侶「Zzz」スヤァ

勇者「俺の膝に顔を置くとは100年はやい……あり?」

魔法使い&戦士&武闘家「Zzz」スヤァ

勇者「なんでこいつら座ったまま寝てんだ? 布団なかったのか?」

僧侶「ん……あっ」ゴシゴシ

勇者「お、おはよう」

僧侶「おふぁようございますぅ~」

勇者「な、なぜにみんな座ってんの?」

僧侶「昨日はあまり寝れなかったのでぇ~。深夜遅かったですしぃ」

勇者「あ、あぁ。……あれ? あの後俺どうやって帰ってきたんだっけ」

僧侶「お疲れ様でしたぁ」ペコ

勇者「なにが……?」

武闘家「ん、おっ、目が覚めたのか……ふぁ~ぁ」ノビー

勇者「ああ、おはよう」

武闘家「今日出発すんだろ? アタイは顔洗ってくるよ。あと、あんまり無理すんなよ」スッ

勇者「あ、ああ」

僧侶「勇者さまぁ、あらためてぇ、不束者ですが、これからもよろしくお願い申し上げますぅ」ペコ

勇者「……俺死ぬの? 優しくされると不安になっちゃうんだけど」ハラハラ

215: ◆7Ub330dMyM 2018/01/16(火) 18:19:29.40 ID:wnE7S7Y5O
【淫夢城 回復室】

サキュバス「ぷはぁっ……ここは……?」バシャァ

リリス「さ、サキュバス様ッ!! よ、よかった! 瀕死の状態で帰ってきてから気を失っていたんですよぉ!!」ホッ

サキュバス「そうか、生命のスープにつかっていたのか」

リリス「す、すみません。生臭い匂いがお嫌いなのは存じていますが、この回復法が細胞を傷つけないので」

サキュバス「障壁の回復はまだのようね……」

リリス「な、なにがあったんですか? あんなボロボロの状態になっていたなんて。あっ、タ、タオルです」ササッ

サキュバス「特別収集会議をすぐに開く。各城に伝達を。魔王様には、私が直々に出向く」フキフキ

リリス「は、はいっ! ただいま!」バサッ

サキュバス「……おのれッ……許さぬ……っ!! 許さぬぞっ!! ハーピーッ!!」クワッ

216: ◆7Ub330dMyM 2018/01/16(火) 18:35:25.14 ID:wnE7S7Y5O
【ミンゴナージュの村 入り口】

勇者「さて、必要なものは買ったし。出発すっかね、みなさん」クルッ

戦士「あ、あのだな。勇者」

魔法使い「べ、べつにっ! あんたのためになんか」

勇者「お前ら起きてからそればっかりだなぁ、なにを拾い食いしたんだよ」

魔法使い「……こ、こいつがこんなやつだから……!」

僧侶「くすくす。おふたりはですねぇ、昨日言いすぎたんじゃないかと気にしてるんですよぉ」

勇者「なにをだよ」

戦士「そ、それはその。魔族を逃した時に」

勇者「あ? ……あー! そんなことあったなそういや」

魔法使い「ちょ、ちょっとだけ! きつく言いすぎたかなって」

勇者「いや、俺こそすまん。考えが浅くて」ペコ

戦士「や、やはり、気にして……」

勇者「ばぁ~~~っかじゃねぇの?」

魔法使い「……」

勇者「思わず有名なコラ画像貼りたくなったわ。あぁ~んなもん気にするかよ。俺は煽り耐性鍛えられてんだ」

魔法使い「……そ、そう」プルプル

勇者「落ちこんでると思ったのw やばいねw」

戦士「やはり、私が間違っていたようだ」スラッ

勇者「お前らはもうちょっと煽り耐性つけたほうがいいと……」

魔法使い「メラミッ!!」ボッ

勇者「当社比50パーセント威力アップ!」ササッ

戦士「根性を叩き直してくれるッ!」チャキ

武闘家「はぁ……おぉ~い勇者ぁ。馬車に荷物積んだよー。行くんならさっさとしろよー」

勇者「まて! 殺気が本物だろ! 待てって! 落ち着け! 冗談だってば!」ヒョイ ヒョイ

僧侶「次の街はぁ、どこなんでしょうねぇ」

魔法使い「ヒャド!」カキンッ

勇者「待てッ! そこはケツ! アーーーーッ!!」

217: ◆7Ub330dMyM 2018/01/16(火) 18:48:24.09 ID:wnE7S7Y5O
【魔王城 付近 沼地】

魔王「――それで、終わりか」

サキュバス「我が王よ。私が間違っておりました!!」

魔王「で、あるか」

サキュバス「魔王様は勇者が架け橋になると不安がっていましたが、それとはまったく別ッ!! 不安は別の形で正しかったのでございます!!」

魔王「ふぅ……で、あるか」

サキュバス「特別招集会議をすでに呼びかけております! 今すぐに万を超えるモンスターをかき集め、勇者を滅ぼさなければ!」

魔王「で、あるか」パサッ

サキュバス「き、聞いておられますかっ⁉︎ 沼地のマドハンドに餌をやっている場合では……」

魔王「ピーピーピーピーと」

サキュバス「ハッ!? し、失礼。取り乱してしまい」

魔王「お前も種族の王。であれば、冷静さを失わぬことだ。足元をすくわれるやもしれんぞ」

サキュバス「お、おそれながら我が王よ。勇者は魔王様に匹敵を――」

魔王「それ以上は許さぬ。二度はないぞ」ゴォッ

サキュバス「ひっ⁉︎ ま、魔王様の波動……!」ゴクリ

魔王「そうか。遂にやつを見つけたか。万里先を見通す水晶でも見つけられなかったやつを遂に……!」

サキュバス「皆が、種族達の王が魔王様をお待ちでございます」

魔王「勇者……! 面白い、貴様の伝承が真実であれ、実力者であれ、余は勇者の全てを否定してやる!」

サキュバス「我らの王よ。絶対的な神よ。すべては、あなた様の御心のままに」

218: ◆7Ub330dMyM 2018/01/16(火) 19:09:04.67 ID:wnE7S7Y5O
~~第2章『ミンゴナージュ村のタタリ』~~



233: ◆7Ub330dMyM 2018/01/17(水) 14:50:58.34 ID:ZTs4EIV4O
【ダーマ神殿 聖堂】

大司祭「な、なぜ勇者様の目に枝が被っているものしかないのだね」

神官「それがそのぅ、投影機で撮影しようと思ってもこうなってしまいまして」

大司祭「これではまるで犯罪者ではないかっ! 指名手配でよくあるあの!」

神官「す、すみませぇ~ん。機材が重くてぇ、勇者様を撮影するたびに移動するのが大変でぇ」

大司祭「……うぅむ。まぁよい。こちらに到着してから改めて、撮影させてもらおう」

神官「は、はいぃ~」シュン

大司祭「それで、定期的に伝書鳩はきているのか」

神官「ちゃぁ~んと来ていますよぉ」

大司祭「真面目に仕事をしとるようだな」

神官「かわいそうですよぉ~。あの子は立派に改心いたしましたー」

大司祭「才能はピカイチなんだがなぁ。あのはねっかえり娘は」

神官「で、ですからぁ~、今はそんなことありませんってばぁ」

大司祭「人はそう簡単には変わらん。幼い頃、この大聖堂にきてからは喧嘩ばかりおこしていたではないか。神官も覚えておろう?」

神官「は、はぁ。それはぁ」

大司祭「“ダーマの殴り僧侶”“ロリヤンキー”。通り名がいくつあったことか。ワシは何度も恥をかかされた」

神官「くすくす。大司祭様のパンツにワサビをぬったこともありましたかっけぇ」

大司祭「あ、あれは……今思い出してもシャレになっとらん」タラ~

神官「芋虫からサナギへ。そして蝶になりはばたいてゆくのですぅ~。私たちが知らない内に」

大司祭「淑女になっていればいいがなぁ。お前の口調をマネだしてからは大人しくなったが」

神官「あの子もそういうお年頃だということですわぁ~」

子供「司祭さまっ! 賛美歌の準備ができました!」

大司祭「おお~もう済んだのか。えらいぞ」

子供「えへへっ! みんなはあちらに!」ススっ

大司祭「うむ。それでは子供達よ――」

子供達「はーーいっ!」

大司祭「――……両の指を絡め、女神ルビス様を讃える唄を。この世に祝福の光、あれ」

喜び、それは、美しき神々の閃光。楽園からの乙女。

われらは熱情に酔いしれて、汝の聖殿に踏み入ろう。
汝の魔力は世の習わしにより冷たく引き離されたものを再び結び付。
勇者の優しき翼のもと、全ての生物は兄弟となる。

神官「(僧侶。勇者様の力に精一杯なりなさい。お務めを果たすのです。祈りましょう。私も、あなた方の旅の無事を祈って……)」

234: ◆7Ub330dMyM 2018/01/17(水) 15:11:20.79 ID:ZTs4EIV4O
【ミンゴナージュの村 ~ 森林 馬車の中】

僧侶「ふぅ~」パカっ

魔法使い「……なに? それ。手鏡?」

僧侶「はい~。これは私の大切な方からいただいたものなのですぅ」

戦士「故郷か、親からの餞別品か?」

僧侶「いえ~。私、親はおりませんのでぇ」

戦士「そうなのか。亡くなられた、とか」

僧侶「いえいえ~。捨て子だったのですよぉ。ほらぁ~、よく聞くでしょぉ~? 教会に赤ん坊の入った籠をおくとぉ」

魔法使い「あ、あんまり、聞かない」

僧侶「そうですかぁ? 教会は駆け込み寺的な場所でもありますからねぇ~。もしおふたりが無計画に子供を産んで、どうしてもとなったらぁ」

戦士&魔法使い「するかっ!!」

僧侶「……でもぉ、残念なことにそうしてしまう親もいらっしゃるのですぅ」

武闘家「親のこと、恨んでないの?」

僧侶「顔もわからない方をどうやって恨めというのですかぁ?」

武闘家「なぜ、捨てたのか、とか……」

僧侶「さぁ~。事情があったのかもしれませんねぇ~、なかったかもしれませんがぁ~」

戦士「サッパリしてるんだな」

僧侶「そういうんじゃありませんけどぉ。そういう時期は過ぎ去ったというだけですよぉ」

武闘家「まぁ、でも、大切な人ができたならいいんじゃないさ」

僧侶「そうですねぇ~。人は出会いがあり成長していくもの。女神様に感謝せねばなりません~」スッ

魔法使い「信仰、ねぇ」

僧侶「耳を澄ませば、今にも聖堂からの賛美歌が聞こえてくるかのようですぅ」

魔法使い「なんだか、後光が見えるわ。僧侶から」

戦士「徳を勇者にも少しは分けてやったらどうだ?」

僧侶「またおふたりはそうやってぇ~。勇者様は私たちが拝むべきお人なんですよぉ」

魔法使い「聖人君子なら拝みもするけどね。あれじゃあね」

戦士「うんうん」

僧侶「いつか、あなた方にも勇者様の御心を察することができるといいですねぇ」

ガタン ガタン

勇者「おい、ついたぞ」ヒョイ

僧侶「はい~かしこまりましたぁ。勇者さまぁ~」ニコ

235: ◆7Ub330dMyM 2018/01/17(水) 15:53:56.80 ID:9i0aqCWlO
【森林】

魔法使い「ついてないじゃないのよ!」スパーン

勇者「顔はやめて!」ドサ

武闘家「おかしいと思ったんだ。ミンゴナージュを出発してからそんなにたってないし」

戦士「うぅん、獣道のせいで車輪がグラついてるな」ギィ ギィ

僧侶「大工道具は買ってきませんでしたよねぇ」

勇者「いてて、戦士。車輪持ち上げられるか?」

戦士「お前はあたしをオンナアマゾネスかなにかと思ってるのか?」

勇者「ちがうの?」

戦士「ふんっ」ドゴォ

勇者「ガゼルパンチッ⁉︎」ドサ

武闘家「新品の状態でもらったのに。ボロボロじゃないか」

勇者「う、うぅ、元はといえばお前らが暴れるのが悪いんやろが」

武闘家「そ、そうだっけ?」

勇者「あの時にグラつく兆候を作ったのかもしれん」

戦士「む、無効だ! そうならあの場で指摘すべきだ!」

魔法使い「馬車には食料もつんであるし、おいてけないわよ。ここに」

ギャアー ギャアー バサバサッ

僧侶「モンスターの鳴き声が聞こえますねぇ」

魔法使い「馬が怯えて逃げ出すかもしれない。勇者、どうする?」

勇者「うーん。馬は使えるんだからトンカチ買いにひとっ走り行ってくるか」

魔法使い「私たちはこのまま?」

勇者「そんなに時間かからんだろ。それに、ここらのモンスターなら襲われても対処できるんじゃね」

武闘家「アタイがいれば平気だろ」

勇者「なんでもいいけど。じゃあ、俺が馬にのって行ってくるから」

僧侶「お気をつけてぇ」

勇者「俺、無事に帰ってきたらあの子と結婚するんだ」

魔法使い「誰とよ!」

勇者「フラグもわからんとはなっとらんやつだ。よっ」ザッ

馬「ブルルッ」

勇者「はいよー、シルバー!」バシッ

馬「……」

勇者「あ、あり? は、はいよー!」バシッ

戦士「なにやってるんだ。こいつ」

魔法使い「馬にまで舐められてる」

勇者「そ、そんなバカな⁉︎」

武闘家「はぁ……いってこいッ!!」バシィッ!

馬「ヒヒィーーンッ!!」ガバァ

勇者「あっ! そんな、いきなり、はげしっ! らめぇええええ~~っ!」パッパカ パッパカ

魔法使い「……勇者ってふざけないと死ぬ病気なのかしら」

236: ◆7Ub330dMyM 2018/01/17(水) 17:53:45.36 ID:MJCk7GC0O
【森の中】

勇者「これなら、すぐに森を抜けられそうだな。しっかし、ロケーションが物足りない気がする」パッカパッカ

ビュッ ズバッ

馬「ヒ、ヒヒーンっ!」ズサァ ピタッ

勇者「うおっ⁉︎ ど、どーどー! な、なんだ今のは。なにかが横切ったよな?」

スラリン「ピギーッ!」ポヨン

勇者「このありがちな鳴き声と他のスライムと見分けのつかない姿はっ! お、お前っ! もしかしてスラリンか⁉︎」

スラリン「ピギーッ!」ポヨン ポヨン

勇者「お~~っ!! 初めてにして最後の友よ!! はははっ! 元気だったか⁉︎」

スラリン「ピィッ!」

勇者「こんなところにいたんだなぁ。立派になって。   の も剥けたか?」

スラリン「ピッ?」

勇者「スライムってゲルだからないのか? どれどれ」ムニィ

スラリン「ピィっ⁉︎ ピギーッ!」ボフンッ

勇者「おうふっ。今のは言葉がわからなくてもなぜ怒ったかわかる気がする……」ドサ

馬「ヒヒーンッ!」パッカパッカ

勇者「あっ! しまっ! ちょ、ちょっと待てよ! どこ行くんだ勝手に! ま、待ちなさい! 待ってくだはい!」

スラリン「ピー……」

勇者「い、いってしまわれた。ま、まずいぞ。このままじゃ、あいつらに殺されてまう……!」

スラリン「ピッ?」

勇者「す、スラリン。た、助けてくれ!!」クワッ

スラリン「ピィ?」

勇者「お、俺は、実は。召使いのようにこき使われとるんだ」

スラリン「ピッ⁉︎」

勇者「来る日も来る日もまわりにふりまわされ。足蹴にされる日々……う、うぅ」

スラリン「ピィ……」ススッ

勇者「慰めてくれるのか! 心の友よ!」ダキツキ

スラリン「ピィッ⁉︎」

勇者「け、決してあいつらがこわいわけじゃないぞ。馬が逃げたのも不慮の事故だ。オレ、ワルクナイ」

スラリン「ピッピッ」ヌル ポヨンポヨン

勇者「あ、どこに行くの? 俺を今ひとりにしないでぇ! メンヘラになっちゃうよぉ!」ヨタヨタ

237: ◆7Ub330dMyM 2018/01/17(水) 18:19:14.00 ID:MJCk7GC0O
【茂みの中】

勇者「ここは? スライムの集会所か……?」ガサガサ

スライムベス「ピッ⁉︎ ピギィーッ!!」

勇者「おもっくそ警戒されとるな」

スラリン「ピィー!」ポヨン ポヨン

メタルスライム「」ササッ

勇者「慌てるでない森の住民よ。ワシが危害をくわえるつもりは」

スライムベス「ピギィー!」ドンッ

スラリン「ピッ⁉︎」ズザザァ

勇者「これこれ。やめなさい。浦島太郎の亀さんいじめる子供かお前らは」

「誰? 誰かそこにいるの?」ガサガサ

勇者「……今のは、空耳かな? 人間の声が聞こえたような気がしたんだが」

「あなた、ニンゲン? 私の言葉がわかるの?」

勇者「やっぱり聞こえる。どちら様で?」

「下よ、した」

勇者「下には、スライムしか……」

「いるじゃない。声は聞こえるだけで見えないの?r

勇者「んん~?」ジィー

「まだ見えない?」ボヤァ

勇者「おお、なんかうっすらと……だんだん鮮やかになってきた」

妖精「驚いた。本当に見えだしてるんだ」スゥー

勇者「ああ。今はっきりと見えた。紫の髪で虫みたいな羽があるな」

妖精「虫は余計でしょ。あなた、本当にニンゲン?」

勇者「うん、そだよ」

妖精「ニンゲンには見えないはずなのに。……わかった! 変わったニンゲンね!」

勇者「なんの違いが?」

妖精「こんなところでなにしてるの? ニンゲンはここに用なんてないでしょ? 薬草でもとりにきた?」

勇者「いや、懐かしい友にあってね」

スラリン「ピッ!」ポヨン

妖精「えっ⁉︎ ニンゲンと友達なの⁉︎ うそぉっ⁉︎ 信じられない!」

勇者「むしろ俺人間に友達いないんだ」

妖精「え? そんなのありえなくない? 実は魔族?」

勇者「い、いや。そ、その。避けられてたっていうか」

妖精「いじめられてたの?」

勇者「違うよ! 俺はひとりでいたかったの!」

妖精「……隠キャ?」

勇者「フヒヒ。よ、世の中が悪いんだぁ! 俺は悪くねえ……」ドヨーン

妖精「はぁ……変なニンゲンね」

238: ◆7Ub330dMyM 2018/01/17(水) 18:56:43.44 ID:MJCk7GC0O
勇者「ここに住んでんの?」

妖精「ええ、そうよ。この森は精霊様のお膝元ですもの」

勇者「へー、そうなんだ。村からあまり離れてないのに」

妖精「ミンゴナージュの村? もともとあの村はここにいる精霊様を祀ってたの」

勇者「サキュバス祀っとったぞ」

妖精「ニンゲンは得体の知れないものに出会うとすぐに信仰を鞍替えするのよね。なにもしてくれないからっていって」

勇者「生きるのに必死なんじゃない?」

妖精「自分たちのことばっかりよ。ニンゲンなんて。集団で生活するから周りの影響に流されやすいでしょ」

勇者「うん、まぁ」

妖精「感情が不安定だしね。って、ニンゲンにいってもしかたないか」

スラリン「ピッ」ポヨン

妖精「……スライムが人間の膝の上に。そんなの聞いたことない」

勇者「こいつはな。昔怪我したところを助けてやったんだ」

妖精「へぇ」

勇者「それからだよな? 仲良くなったのは」

スラリン「ピィッ!」

妖精「それにしたって異常よ。恩を感じるなんて」

勇者「細かいことはいいんだよ。こうなってんだから。なー?」

スラリン「ピィー!」

妖精「私の姿が見えるし……ねぇっ、あなたってもしかして、勇者ってやつじゃない?」

勇者「違うよ。俺は」

妖精「なぁーんだ残念。勇者なら面白いもの見せてあげようと思ったのに」

勇者「……ちなみにどんなもの?」プニプニ

スラリン「ピッピッ」スリスリ

妖精「“ロトシリーズ”って聞いたことない?」

勇者「ん……?」ピクッ

妖精「何代かに渡る勇者の物語。その石碑があるんだよ」

239: ◆7Ub330dMyM 2018/01/17(水) 19:16:28.13 ID:MJCk7GC0O
【森林 祠】

勇者「……これが」スッ

妖精「もー! 勇者じゃないくせに!」

勇者「初代ロト……二代目、三代目……」

妖精「当時の魔王との争いが描かれているみたい。ほら、そこに描かれてるのが不死鳥ラーミアにまたがってる」

勇者「勇者って、なんなんだ?」

妖精「えっ?」

勇者「女神の加護。先代……これまでの勇者も同じように?」

妖精「よくわからないけど、血統があることはたしかね。勇者である一族は、決められた家系から排出されてきたみたい。唯一違うのは、初代ね」

勇者「古代語で読めないな」ザリ

妖精「うーんとね、曖昧なのよ」

勇者「曖昧?」

妖精「そう。ひとつひとつの繋がりがね。もしかしたら別の時間軸の話かもしれない」

勇者「は、はぁ?」

妖精「例えば、私がりんごを落とすとするわよね。それを拾ったAである私と、拾わなかったBである私。そうした感じでAとBが分岐しているの」

勇者「つまり、別の世界とか?」

妖精「なくはないってだけ。全部繋がってるのかもしれないし、そうじゃないのかもしれない。だって、大昔の話ですもの」

勇者「魔王、倒してるなら、平和になってるはずだもんな」

妖精「どうなんだろう。よくわからない。魔王ってね、定期的に復活するって書いてあるよ?」

勇者「なんじゃそら」

妖精「もちろん、数千年とか数万年とか長い感覚があくし、同じ魔王ってわけじゃないみたいだけど」

勇者「今の魔王も復活してきてんのかな?」

妖精「今代の魔王は先代から継承する形だったらしいよ。だから、復活はしてないんじゃない?」

勇者「ん? ……って、話は戻るが勇者って結局なんなんだよ」

妖精「さぁ? だからよくわかんないの」

240: ◆7Ub330dMyM 2018/01/17(水) 19:37:34.99 ID:MJCk7GC0O
勇者「父上も……? 父さんは勇者の家系なんて聞いたことがない。それに、“聖痕”とはいったい」ボソッ

妖精「ほら、こっちこっち! これ見て!」

勇者「これは……?」

妖精「ルビス様だよ!」

勇者「ルビス? ……これが……? そんな、これじゃまるで」

妖精「? なにに驚いてるの?」

勇者「こ、これが女神……?」

妖精「あー! そういうこと? チッチッチッ。違うんだなぁ。魔族も人間もなぁーんだか勘違いしたままだけど」

勇者「勘違い……」ザリッ


妖精「――……そうだよ! だってルビス様は精霊王なんだもん!」

241: ◆7Ub330dMyM 2018/01/17(水) 20:15:43.83 ID:MJCk7GC0O
【森の中 馬車】

魔法使い「あーあ、暇だなぁ。モンスターでもでてこないかなぁ」

戦士「鍛錬にもなるしな。どうだ? 武闘家。一戦交えないか?」

武闘家「同じ相手とばかりやるのはやめたほうがいいよ。慣れすぎちゃうから」

戦士「む、そ、そうか」シュン

武闘家「素振りでもしてればいいじゃないのさ」

戦士「相手がいないとどうにもなぁ。あたしは実践型なんだ」

馬「ヒヒーーンッ」パッカパッカ

魔法使い「ねぇ、見間違い? こっちに向かってくるのってどこかで見覚えのある馬じゃない?」

武闘家「ちぃっ!」シュバッ

僧侶「……勇者さまが乗っていませんけどぉ」

戦士「武闘家! 傷つけるなよ!」

武闘家「わかってる!」シュタッ

馬「⁉︎ ヒヒーンッ⁉︎ ブルルッ!!」バタンバタン

武闘家「どぅどぅ、落ち着いて……大丈夫、こわくない」ナデナデ

馬「……ブルッ」タンタン

魔法使い「またあのバカは。どこでなにやってるのよ」

僧侶「どうしましょうねぇ~連絡手段がないので~」

武闘家「アタイが村に戻って確認してくる! アンタ達はここで待ってな!」グイッ

戦士「お、おい。武闘家」

武闘家「はぁっ!」バンッ

馬「ヒヒーン!」パッカパッカッ

僧侶「――……武闘家さんの行動力は見習わないといけませんねぇ」

242: ◆7Ub330dMyM 2018/01/17(水) 20:52:18.73 ID:MJCk7GC0O
【森林 祠】

勇者「ルビスは、神じゃない……?」

妖精「そもそも神の定義って、絶対的なものを指す場合だってあるでしょ? それだけルビス様がすごかったって意味でもあるけど」

勇者「神と思えるような能力を持ってた、とか?」

妖精「そのほかにも、“マネできない偉業を達成した”とかね。伝説のさらに上にあるのが神ってもんよ」

勇者「じゃあ、ここに描かれてるのは、神と崇められるの前の?」

妖精「そう、精霊王ルビス様その人! いつのまにか女神っていうのが定着しちゃってるけど、精霊を束ねるお方なんだよ!」

勇者「も、もしかして、まだ、生きてたり?」

妖精「うん? ばっかだなぁ」

勇者「そ、そうだよな。生きてるはずない――」

243: ◆7Ub330dMyM 2018/01/17(水) 20:53:13.12 ID:MJCk7GC0O
妖精「あったり前じゃない! ルビス様は今もピンピンしていらっしゃるよ!」

勇者「は、はぁっ⁉︎ い、いいいっ生きてる⁉︎」

妖精「そだよ?」キョトン

勇者「え、ええ……じゃ、じゃあ、俺のケツにある聖痕っていったいいつ……そもそも何故俺に。わ、わけがわからなすぎるぞ」

妖精「直接聞いてみたら?」

勇者「どうやって? 会える方法があるのか? というか、今どこにいるんだ?」

妖精「……時のハザマ。そう呼ばれるところにいらっしゃるよ」

勇者「時の、ハザマ?」

妖精「だけど残念! 特殊な結界で往来の制限がされてるから行けないんだ!」

勇者「だけど、制限ってことは、行く方法はあるってことだよな?」

妖精「あるよ? 勇者じゃないと無理だけど」

勇者「ちなみに、勇者だったらどうやって行くんだ?」

妖精「通行手形があるでしょ?」

勇者「どこに? どうやって手に入れるんだよ」

妖精「手に入れるぅ? 身体に刻まれてるでしょ?」

勇者「……あっ! そ、そうか! 聖痕か⁉︎」

妖精「んー、たぶんそれ」

勇者「聖痕は、目印じゃない。通行証だったのか」

妖精「勇者じゃないのに知ってどうするの?」

勇者「会ったら教えとく。それで、どこから? 聖痕があると仮定して」

妖精「鏡から」

勇者「どこの? 主語がない」

妖精「クイーンズベルのお城」

勇者「く、くくくっクイーンズベルっ⁉︎」

妖精「そこがゲートになってるの」

勇者「な、なななっなんでそんなところに」

妖精「ルビス様ゆかりの土地らしいから」

勇者「く、クイーンズベルといえば……」ポワンポワン

『オーッホッホッ! オーッホッホッ! オーっげふっ、ごほっ、おぇっ、む、むせたんですの……うぇっ』

勇者「こ、こいつがいるところじゃないか……」ガタガタ

妖精「大丈夫? 顔青ざめて震えてるけど。なにか思い出したの?」

勇者「だ、だがしかし、戦わなくちゃ現実と!」ゴソゴソ

妖精「?」

勇者「じゃじゃーん! 世界地図ぅ~!」ピロリン

妖精「わっ、それってニンゲンの? けっこう精密なんだねぇ」

勇者「北から迂回しても南から迂回してもダーマまでの距離はほとんど変わらないか……ならば」

妖精「おっ?」

勇者「行かねばなるまいっ! クイーンズベルへっ!!」クワッ

254: ◆7Ub330dMyM 2018/01/18(木) 19:44:48.58 ID:0bN6bfFxO
【ミンゴナージュの村】

武闘家「すまない、若い男を見なかったか?」

村人「え? 俺のこと?」

武闘家「そうではなくて。旅の者なんだが」

村人「いや? 見てないよ」

武闘家「……ありがとう」スッ

店主「さぁ~安いよ安いよぉ~!おっ! へへ、さっきはどうも」ペコペコ

武闘家「道具屋の店主。早朝は無理をいって店をあけてもらって悪かった」

店主「あぁ、気にしないでくださいよ。こちとら稼がなきゃおまんま食いっぱぐれちまうで。かあちゃんも取り戻すんだーってはりきってますし」

武闘家「連れの者を覚えてないか?」

店主「へぇ? 連れの者というとどちらさまで? 若いお姉さんたちがいましたが」

武闘家「もう一人いただろう? その中に若い男が混じって」

店主「ああ、はい、はい。いらっしゃいましたね。荷物持ちさせられてた小間使いさん」

武闘家「い、いや。小間使いではないんだけどさ」

店主「その方がどうか?」

武闘家「村に戻っているはずなんだけど見当たらないのよ。見かけてない?」

店主「見てないですね……。見たらわかるんですが」

武闘家「本当か? 見落としてるだけとか」

店主「ありえませんよ。客商売をしているとね、お客さんの顔は覚えてるもんなんです。それに、こんな田舎村でしょう? 店舗に来るなんて珍しいんで」

武闘家「そうか……」

店主「ほかのお姉さん達はいらっしゃらないので?」

武闘家「ああ、別の場所にいる」

店主「小間使いさんとはぐれちまったんですかい? そりゃ大変だ」

武闘家「いや、だから小間使いではないと――」

店主「どこではぐれたんですか?」

武闘家「北に数キロいったところに森林があるでしょ。あそこから出てきたはずなんだが」

店主「森林……というと、精霊さまの……」

武闘家「精霊さま?」

店主「へぇ。あの森にゃ古くからある言い伝えで精霊さまのお膝元なんて言われてる森なんでさ。村の者ですら忘れかけてますが」

武闘家「そうか。でも、今はそういう話は」

店主「もしかしたら、神隠しにあったのかもしれませんねぇ」

武闘家「ん……?」ピクッ

店主「いや、これも古くから。子供を危険な場所に行かせない与太話なんですがね。妖精がいるって噂が一時期たったらしいんですよ」

武闘家「妖精……」

店主「いつだったかなぁ。ボヤ~っとした姿の妖精を見たっていう子がいて。もうだいぶ昔の話なもんで」

武闘家「神隠しとは、どんなもの?」

店主「ふらふら~っと迷って、いつのまにやら別世界の扉の中に入っているっていう伝承みたいなもんですよ」

武闘家「……そう」

店主「もう一度、森に入って探してみては?」

武闘家「そう、ね。村にいないのならいつまでもいても仕方ない。あ、それと店主」

店主「へい?」

武闘家「トンカチとロープ。貰える?」

店主「お買い上げですかい? ありがとうございます!」

255: ◆7Ub330dMyM 2018/01/18(木) 20:11:57.45 ID:0bN6bfFxO
【森林】

妖精「ねぇ、ニンゲン。なにを知りたいかわかんないけど、勇者じゃないと無理だよ?」

勇者「元気でな、スラリン」ナデナデ

スラリン「ピッ!」スリスリ

妖精「聞いてるのー?」

勇者「ちゃんと聞いてるよ。お前らもいきなりお邪魔して悪かったな」

スライムベス「……ピッ」

勇者「わはは。そんな簡単にゃ警戒心解けないか」

妖精「当たり前。スライムが懐くなんてありえないんだから」

勇者「人間だって同じだよ。いきなり分かり合える人なんてなかなかないないもんさ」

妖精「種族の壁があるってわかってないの? モンスターと人間ってそういうもんじゃないでしょ?」

勇者「まぁ、そうだけど。大事なのは調整であってだね」パンパン

妖精「ほんっとーに変わったニンゲンね。向いてる方向が違うのに調整もないわ。宗教みたいな統一思考でもない限り無理よ」

勇者「“私こそが魔物と人間をつなぐ架け橋である!! 皆の者! 手を取り合おう! 争うのをやめるのだ!” 」スラッ

妖精「い、いきなり剣を抜いてなにやってるの? 気でも狂った?」

勇者「やってみたかったんだ」チャキン

妖精「あながち間違いではないかも。夢という理想で覆い隠せば、人も魔物もいっときの幻想に溺れるかもね。もちろん、反発もあるだろうけど」

勇者「やけに他人事じゃないか。人間と魔物が本格的な争いに突入すれば、精霊だって迷惑だろ?」

妖精「そうだけど、大きな流れの前ではなにやったって無駄だもん。争いはやめてっていってやめる?」

勇者「やめないねぇ」

妖精「魔物と人間ってどちらかが滅びるまで争いをやめないんだと思う」

勇者「……」

妖精「私は、傍観者としてひっそりと生きてくだけ。この子たちと一緒に」

スラリン「ピィッ!」

勇者「楽しそうでいいな」

妖精「一緒に住む? 私が見えるんだから考えてあげてもいいよ」

勇者「人生プランの選択肢のひとつとしていれておくよ」

妖精「ほかになにがあるの? ……やっぱり、魔物を殺すの?」

勇者「いいや、ニート」

妖精「へ?」

勇者「無職とか遊び人」

妖精「ぷっ、きゃははっ! 変なの~」

勇者「……グータラしたいんだよなぁ」

256: ◆7Ub330dMyM 2018/01/18(木) 20:33:56.74 ID:0bN6bfFxO
【馬車 荷台】

魔法使い「あっ! 帰ってきた! おーい、ここここ!」

僧侶「……やっぱり勇者さまの姿が見えませんが
~」

馬「ブルルッ」タンタン

武闘家「どぅどぅ」ナデナデ

戦士「村にいなかったのか?」

武闘家「ええ。そんなに遠くには行ってないはずだけどね」ボトッ

僧侶「修理道具は買ってきていただけだんですねぇ」

武闘家「このままだとここで夜を明かすことになる。それはできれば避けたい、戦士」

戦士「合点承知。あたしが直しておけばいいんだろ?」

武闘家「このままアタイは近辺を探してまわってくる」

魔法使い「もし、もしなんだけど、落馬して気絶してるなんて理由だったら目が覚めたら帰ってくるんじゃない?」

僧侶「それもそうですねぇ~。さっきまで変わった様子はありませんでしたしぃ~」

戦士「それもそうだな。馬も疲れてるし、少し様子を見ないか? 武闘家?」

武闘家「……わかった。けど、数時間戻って来なければ探しに行くよ」

僧侶「私たちだって心配してますよぉ~」

魔法使い「武闘家って世話焼きなのね」

武闘家「アンタらが能天気すぎるんだ。何度も言うが、勇者はアタイらの核なんだぞ。勇者がいて、魔王討伐の旅があって、アタイらがいる」

僧侶「……そうですけどぉ」

武闘家「勇者がいなければ、アタイ達に行動を共にする理由はない。違うか?」

僧侶「それはそれで、さみしいっていいますかぁ」

武闘家「慣れ合うだけだろ。アンタ達、っと」タンッ

馬「ブルルッ」

武闘家「おつかれ」ナデナデ

戦士「な、なにをぅっ! 旅は道連れ世は情けというじゃないか! 寝食を共にするからこそ、絆も深まる!」

魔法使い「そうよ! それに、いざというときコンビネーションは必要だわ! 信頼できるかどうかだって大事なの!」

武闘家「……そうかい。だったら、もっと強くなりなよ。信頼されるように」

戦士「……っ!」ギリッ

武闘家「なに歯をくいしばってんのさ。わかってんだろ? ……自覚してんだろ? アタイがこのパーティで二番目に強い」

戦士「うぬっ⁉︎ こ、こいつ……へ? 二番目?」

魔法使い「むきーっ! 一番は武闘家でしょ! ここにいる戦士と勇者は同じぐらいなんだから! ちっともそんなこと思ってないくせに、嫌味なやつぅ!」ダンダン

戦士「そ、そうかっ! 嫌味で言ったのか!」

武闘家「……はぁ」

257: ◆7Ub330dMyM 2018/01/18(木) 21:01:59.20 ID:0bN6bfFxO
【数時間後 馬車】

武闘家「日が傾きだしてきた。やっぱり、探しに」

ガサガサ ガサガサ

戦士「待て。なにかが、いる」

武闘家「……魔物か」スッ

魔法使い「強いモンスターはいないから、平気だと思うけど」

ガサガサ ガサガサ

勇者「お、いたいた」ピョコ

戦士&武闘家&魔法使い「……」ポカーン

勇者「ただいま戻りましてでござ~い。いやぁ、迷っちゃってさぁ、森って見通し悪いもんなんだね」

僧侶「おかえりなさいませぇ~」

勇者「くるしゅうない。草だらけになってしまった」パンパン

戦士「おい、勇者」ゴゴゴッ

勇者「ん?」

魔法使い「まずは、“ごめんなさい”じゃないかしら……?」ゴゴゴッ

勇者「え~。意味わかんなぁ~い。無事に帰ってきてなんで謝らなきゃいけないのぉ~? マジ意味わかんないんですけどぉ」

武闘家「……誤魔化してるつもりなんだね」ゴゴゴッ

勇者「や、やっぱ、ダメ?」タラ~

魔法使い「ダメに決まってるでしょ!」スパーン

勇者「暴力反対!」ドサ

魔法使い「散々心配かけておいて謝罪の言葉もないとかクズかあんたは!!」

勇者「堪忍や~。自分で自分を守るため開きなおるしかなかったんや~」

戦士「どこほっつき歩いていた。このグータラ勇者」

勇者「そ、それが、その。馬がね……あっ! 馬いるやんけ! いつのまに帰ってきたんだ! 俺を置いて!」

馬「……」チラ

勇者「俺、どーなることかと思って……!」

馬「ブルルッ」プイッ

勇者「な、なんだぁこの野郎! 調子のってんじゃねぇぞ! 俺を誰だと思ってやが――」

武闘家「呀ァッ(ヤ)!!」ブンッ

勇者「本気の一撃⁉︎」ドサァ

魔法使い「うわっ、いったそぉ」

武闘家「……おい、勇者」

勇者「~~ッ! うぉぉぉ、腹が、腹が」ゴロゴロ

武闘家「ふざけるのはよせ。真面目に聞け」

勇者「は、はい」ピタッ

武闘家「アンタがアタイを、アタイ達をどう思っていてもいい。だけど、心配をかけるな。止むを得ずそうなった場合は、誠意を見せろ」ジロ

勇者「す、すんません」シュン

戦士「さっきの話じゃないが、この際はっきりさせとくか」

勇者「話とは? ……なんのことでございましょ?」

魔法使い&僧侶「……」

戦士「あたしらは、お前にとってなんなんだ? 勇者」

258: ◆7Ub330dMyM 2018/01/18(木) 21:21:59.76 ID:0bN6bfFxO
勇者「は、はぁ?」

戦士「さっき、武闘家に言われて思ったんだ。あたしらの旅の目的。その中心に勇者がいる。その指摘自体は間違っちゃいないってね。言い方はきにいらないが」

武闘家「ふん」プイッ

戦士「あたしらはそれぞれ目的がある。勇者といけば、その目的が叶うと思っている。だから、一緒にいる」

勇者「ふむ」

魔法使い「勇者は何のために私たちと一緒に旅をしてるの? 仲間がいるにこしたことはないでしょうけど」

僧侶「……」

魔法使い「――そもそも、勇者は私たちを仲間だと思っているのかしら? そう思ってないから、適当な対応しかしないの?」

勇者「そんな深刻にならんでも」

戦士「ふざけるのはなしだ」

勇者「……ふぅ、あのなぁ。ついてきたいと言ったのは、お前らだろう? 武闘家は、爺さんに頼まれてってのもあるが」

魔法使い「つまり?」

勇者「今後についても決めるのはお前らだと言ったはずだ。淫魔を逃した時に」

戦士「なるほど。では……あたしらは仲間じゃなく、ビジネスな取り引き相手だと言いたいわけか?」

勇者「うっ、そ、そうは言っちゃいないが」

魔法使い「そういうことでしょ。逃げるのは卑怯よ」

僧侶「私たちは責めているわけではありません~。ただ、知りたいのですぅ~。本心を~」

勇者「……」ポリポリ

戦士「リーダーの方針には従う。そうであるというのならば、今後の付き合い方にも影響する」

魔法使い「慣れ合いがしたいって言ってるわけじゃないのよ? 仲良しサークルじゃない。それはわかってる」

戦士「あたしの本心を言わせてもらえば、できれば、その、うまく付き合っていきたい」

勇者「つ、付き合うって……」ソワソワ

魔法使い「  か! ……ふざけるんじゃないって言ってるのに」キッ

勇者「ついつい。……わかってるよ。人間関係的な話だろ」

戦士「そうだ。所詮は他人同士。時にはぶつかることもあるだろう、こうして話合いの機会を設けることだって少なくないかもしれない。それ自体は悪いとは思わない」

魔法使い「……でも、そればっかりじゃ、疲れちゃうでしょ? どうせなら、楽しくしたい」

武闘家「……」

勇者「うん、言ってる意味はわかるよ」

戦士「だが、それはあくまであたしらの希望であって決めるのはリーダーだ」

魔法使い「勇者、あんたのことよ」

僧侶「……」

勇者「よし、こうしよう」ポンッ

259: ◆7Ub330dMyM 2018/01/18(木) 21:49:56.11 ID:0bN6bfFxO
戦士&武闘家&魔法使い&僧侶「……」ジィ

勇者「一度、みんなで風呂にでもはいって親睦を深めあうってのは? 俺ももちろん一緒に」

魔法使い「あ、あんたね……」

勇者「すべてを分かりあうなんて不可能だ。他人同士の壁、性別の壁。色んな壁がある。ケツに泥ついちまった」ムクッ

戦士「……」

勇者「お前らが旅を楽しくしたいと望んでるのなら、俺はそれにできるだけ応えるよ。必要ならそうする」

僧侶「それだとぉ、私たちがそうさせてるっていうかぁ」

勇者「結局のところ、お前らはどーしたいんだよ。そういう話になった時に、言ったんだろ」

戦士「それは、そうだが」

勇者「俺はその要望を汲み取るって言ってるんだ。リーダーとして」

武闘家「でも、それだと、こいつらが言ってるのとはたぶん違う気がする」

勇者「(ふぅ、やれやれ)」

僧侶「私たちは勇者さまのお言葉がほしいのですぅ」

魔法使い「これは、私たちも卑怯かもしれないけど、理由がほしいのよ。それさえあればいい」

勇者「ただひとつ言えるのは、俺は、お前らのことが必要だと思ってるよ」

戦士「本当か……?」

勇者「当たり前だろ。だから要望を聞いて合わせようとしてるんじゃないか」

僧侶「それは、お優しいからではぁ~」

勇者「いんや。助かってる部分はあるし、旅の中でそれは思った。本心でだ」

魔法使い「続けて」

勇者「本心を言えば、戦士や魔法使いが要望通りすれば得られるものがある。その損得勘定の一方で、仲良くできればいい、そう思ってる」

魔法使い「じゃあ……」

勇者「だが、勘違いするな。仲良くなれるかどうかなんて個人間の問題だということを。旅は楽しければいい。そりゃそうさ」

戦士「……」

勇者「無理して仲良しを装うほどつまらないもんはないだろ。努力は必要だが、合う合わないはある。分かり合えるきっかけなんて些細なものだが、それが生まれない場合もあると理解しろ」

僧侶「はい~」

勇者「まずはお互いがなにを求めているのか、そこからはじめたのは良いことだと俺は思う。良い方向に考えればだが」

戦士「……」

勇者「気楽にやりましょーってことで」ゴソゴソ

戦士「お、おい。まだ話は終わりじゃ」

勇者「うーるせぇなぁ。時間が解決してくれることだってあんだよ。なに生き急いでんだ」ピラ

武闘家「地図広げてどうしたんだ?」

勇者「方針を発表します! 今から、南のクイーンベルに向かいます!」ビシィ

僧侶「あらまぁ……」

魔法使い&戦士&武闘家「――……はぁぁっ⁉︎」

264: ◆7Ub330dMyM 2018/01/19(金) 14:50:11.88 ID:+r3xFqGgO
【魔王城 玉座】

キングヒドラ「なぁにぃ⁉︎ 勇者の居場所がわかっただぁ⁉︎」ドンッ

シンリュウ「ならば、消せば良い」

オーガ「そうだ! 勇者を殺しッ! 残った人間は一匹残らずすり潰してやるッ!!」

サキュバス「コトは……そう単純ではなくなってしまったのよ」

オーガ「なにがだ⁉︎ 我ら魔族の連合軍を前にして敵など皆無! 力を存分に発揮して蹂躙しつくしてやればいいだろうッ!」

魔王「……時期ではない」スゥ

シンリュウ「我らが王よ。なぜ? なぜでございましょうか。人間を過大評価するのは」

魔王「まず一つに、数だ。我ら魔族は強力な個体を強みとするが、人間共の母数に比べれば半分にも満たない」

オーガ「数など……っ!」

魔王「次に、数を活かした組織力にある。有象無象の衆を相手にしたとなれば……たやすく蹴散らせる。しかし、戦局が複雑化すれば次第に我らと均衡するであろう」

キングヒドラ「なぜだッ⁉︎」ビターン

魔王「やつらもやつらで団結するからである。生産能力は侮れぬ。首脳陣が保身しか考えない無能であれば話は別だが……あれを見よ」ピタ

四天王一同「……」

魔王「知っておろうが、ニンゲン共が作った世界地図だ。アレフガルドには、人間達の国が四つある」

サキュバス「アデル、クィーンズベル、ハーケマル、サルマニアですね」

魔王「我らの大地は“裏にある”。地図を裏返してみよ」

大臣「ははっ!」ペラ

魔王「……して、見てどう思う?」

四天王一同「……?」

魔王「気がつかないか。領土の広さは人間どもの治める大地に比べて……」

シンリュウ「当たり前のことすぎて……」

オーガ「なにが言いたいのですか⁉︎」

魔王「我らもいずれはやつらの治める大地……有り体に言えば人間界へと侵攻するであろう。準備が足りないのだ」

キングヒドラ「ですから! 準備などせずとも!」

魔王「黙れ……」ギロッ

キングヒドラ「……っ!」ビクゥッ

265: ◆7Ub330dMyM 2018/01/19(金) 14:51:35.27 ID:+r3xFqGgO
魔王「ラクに勝てる道を前にしてなぜイノシシのごとく突進するのか。我らは個を有利とすればこそ、失った時の損失もまた大きいのだ」

サキュバス「領土を広げるには、子を産み、魔族の母数を広げることが最重要課題」

魔王「で……ある。そうなればどちらにせよ今の領地では足りなくなる。資源も、土地も」

シンリュウ「勇者は……?」

魔王「やつは殺す。これ以上力をつけられる前に」

キングヒドラ「ならば! 私におまかせを! 必ずや勇者の息の根を止めてごらんにいれましょう!」

魔王「……場所はわかっておるのであろう?」

サキュバス「はっ。ミンゴナージュで遭遇してから日数がたっておりません」

魔王「キングヒドラよ」

キングヒドラ「ははっ!」ザッ

魔王「人間共のをなるべく刺激しないようにできるか?」

キングヒドラ「うっ……」

シンリュウ「そういう理由ならば我におまかせを。竜族は時に激しく、そしてまた時には静けさを持ち合わせております」

魔王「シンリュウよ。王、自ら動くのか?」

シンリュウ「サキュバスからの周知徹底によると、勇者はとんでもない力を秘めているとか。……であれば、下っ端にまかせるわけにもいくますまい」

魔王「返り討ち、なんて顛末にはなるまいな?」

シンリュウ「所詮は人の子。戦闘向きではない淫魔族が遅れをとったとて、古代から続く竜に敵うものですか」

魔王「良いか。よく聞け」

四天王一同「……」

魔王「先走るな。繰り返し念を押すが、お主らのどこが欠けてもまた時間をかけねばいけないくなる。我らに欠如して良い部族はない」

四天王一同「……」

魔王「狙うは勇者のみだ。よいな?」

四天王一同「……ははぁっ!」ドゲザ

266: ◆7Ub330dMyM 2018/01/19(金) 15:11:09.58 ID:+r3xFqGgO
【魔王城 通路】

シンリュウ「これはこれは……サキュバス殿ではありませんか」

サキュバス「……」スッ

シンリュウ「なぜ、通路でお待ちに? 招集会議なら終わったばかり――」

サキュバス「勇者を、侮ってはいけない」

シンリュウ「ふっ、ふふっ、笑わせないでいただけますか。我らをどの一族だと思っておいでか」

サキュバス「どの一族でもだ。巨人族でも、獣族でも同じこと。油断すれば、消されるぞ……! やつの……力に」ゾワッ

シンリュウ「相当、恐ろしい思いをなさったようだすねぇ。竜族を、理解しておられないようで」

サキュバス「我ら魔族は、力がある。その特異性もあってか、力のある個体を好む。魔王様に従い、尊敬するのも同じことよ」

シンリュウ「おやおや。では、貴女は勇者の力にときめくものでもあったと? 魔王様に反旗を?」

サキュバス「ち、違うわっ! 私は、そんなこと……。貴女の心配をしてるのよ!」

シンリュウ「ですから、その心配が我が一族に対する侮辱だと申しているのです。人間でしょうが」

サキュバス「あ、あれは人じゃないっ! 人間の強さじゃないのよ!」

シンリュウ「では、ガタガタと震えていらっしゃいませ」

サキュバス「な、なに……?」

シンリュウ「ニンゲンがこわいよぉ~、と……。淫夢城の片隅で」

サキュバス「き、貴様ぁっ!! 私をバカにしているのかえっ⁉︎」キィィィン

シンリュウ「きっかけを作ったのは貴女でしょう。では、失礼。淫魔の王よ」コツコツ

サキュバス「……ぐっ! ……おのれっ……おのれえええぇえええっ!!」ギリギリ

267: ◆7Ub330dMyM 2018/01/19(金) 15:24:12.96 ID:+r3xFqGgO
【数十分後 竜王城 玉座】

ベビードラゴン「おかえりだす!」

シンリュウ「ただいも。えんらく疲れちまっただよ。堅苦しい空気は苦手だぁ」

ベビードラゴン「口調は大丈夫だったか?」

シンリュウ「いや~、危なっかしい場面チラっとあったけんど、気がつかれてなかったっぽい。ハラハラしちまったよ」

ベビードラゴン「威厳もへったくれもあったもんじゃないもんな!」

シンリュウ「そりゃあなぁ。奥地に住んでたらいつのまにかこんな方言定着してたなんて知られたら笑いものだっぺ」

ベビードラゴン「なんの招集会議だっただか?」

シンリュウ「……なんでも、勇者の居場所をつきとめらし」

ベビードラゴン「へぇ~! 勇者ってあの勇者だろ? ずーーーーっと昔には協力関係にあったかもしれないっていうあの!」

シンリュウ「その時代に生きとるやつなんかいんね。伝説なんじゃねの」

ベビードラゴン「そうはいうけど、壁画が残ってるし」

シンリュウ「戦ってる壁画もあんだべよ。時には戦い、時には協力。こんれもまた、時代なんだっぺなぁ」

ベビードラゴン「今は魔王様いるしな! 勇者を殺すのか?」

シンリュウ「ほんとは行きたくなかっただすぅ。でも、あの場の雰囲気がワタスを動かしてぇ」

ベビードラゴン「わかるわかる。やらねばって感じになるよな」

シンリュウ「おめぇがいづから部族の代表になったのよ。しんねぇくせに」コツン

ベビードラゴン「いたっ。えへへ、で、どうすんだ?」

シンリュウ「人間、だもんなぁ。サキュバスはああいうけど、正直負ける気がしねぇ」

ベビードラゴン「サキュバス? 負けるのはありえないんじゃないか?」

シンリュウ「んだども、どうすっぺかなぁ」

268: ◆7Ub330dMyM 2018/01/19(金) 16:09:22.04 ID:+r3xFqGgO
【三日後 クィーンズベル 国境 砂漠地帯】

魔法使い「照りつける太陽、からからに乾いた大地。景色がゆらゆらぁからゆらゆらぁ~」

武闘家「最後のひと瓶だ。それ」ポイ

魔法使い「あっ、えっ、わっ」アタフタ

武闘家「ばっ、ばかっ⁉︎」

魔法使い「あっ」ツル パリンッ

僧侶「あらあらぁ、水がぁ」

武闘家&魔法使い「う……あ……」

魔法使い「ど、どどどどっどうすんのよ⁉︎」

武闘家「どんな壊滅的な運動神経をしてるのさ⁉︎」

魔法使い「う、うるさいわねっ! 暑くてだるかったの!」

戦士「暑いんだから喧嘩しないでくれぇ~」

僧侶「勇者さまぁ、最後のひと瓶がぁ」ヒョコ

勇者「……」

僧侶「勇者さまぁ?」

戦士「心頭滅却すれば火もまた涼し。ここにきて、勇者、ついに悟りを……」

勇者「」コテ

魔法使い「気絶してんじゃないの!」

武闘家「無理もない。この炎天下の中、ずっと外で座ってちゃ」

僧侶「一日ですっかり肌も焼けてしまってますねぇ」

魔法使い「ま、真っ赤よ⁉︎ 火傷しちゃってない⁉︎」

勇者「う、うぅ。み、水を。水……」

僧侶「それがぁ、先ほどお伝えいたしたとおり、魔法使いさんが割ってしまいましてぇ」

魔法使い「私のせいじゃない! 武闘家が悪い!」

武闘家「アタイのせいにすんなよ⁉︎ アンタの運動神経が――」ギャアギャア

勇者「な、なんでもいいから、水くれぇぇぇ…………」

270: ◆7Ub330dMyM 2018/01/19(金) 19:46:56.82 ID:bvIfG7NGO
【クイーンズベル城 玉座】

姫「な、なななっ⁉︎ このあたくしがお見合い⁉︎ どういうことですの⁉︎」

王様「姫も18になった。そろそろ婚礼を迎えてもいいであろ」

王妃「ええ、貴方。相手は北のハーケマル。その第一子嫡男であるハーゲよ」

姫「朝の身支度を終えて来てみれば……そんな……っ! それになんですの⁉︎ ツルピカってそうな名前は!」プルプル

王様「これ、失礼であろ。名前は親がつけたもんじゃ。親はもう毛根が……ゲフンゲフン」

姫「やっぱりハゲるんじゃありませんこと⁉︎」

王妃「ハゲハゲ言うんじゃありません。髪の話などしても不毛よ。髪がないだけに」

王様「……座布団没収」ボソ

姫「お父様! お母様! ダジャレを言い合っている場合ではないんですの!!」

王様「しかしのぅ、この縁談は政治的側面もあるんじゃよ」

姫「……っ!」

王様「姫も知っておろ? 四つ国は西と東、南と北でそれぞれ兄弟国になっておる」

王妃「私も元々はハーケマルの姫だったのよ?」

王様「うむ。こうして代々、王家同士で和睦と太平の契りを交わすため、家族となるのじゃ」

姫「そ、それは……でもっ」

王妃「夫婦生活なんて慣れよ。この人と結婚するのなんて、私も最初は嫌々だった」

王様「本人を前にして言うかの」

王妃「よく聞きなさい、姫。王家の女はね、男と結婚するのではない」

姫「……お母様」

王妃「いいから聞きなさい。王家の女は、民と結婚しなくちゃいけないのよ」

王様「ふむ」

王妃「所詮、女なんて道具に過ぎない。慰めにならないと思うけど……貴女の勇気が、民を安心させる」

姫「い、いやですわ。そんなの納得いかないんですのっ!!」タタタッ

王様「おう⁉︎ ひ、姫っ」

王妃「……今はほっときましょう。私もそうでした。あの子は帰ってきます。身体に王族の血が流れている限り」


272: ◆7Ub330dMyM 2018/01/19(金) 20:02:51.88 ID:bvIfG7NGO
【砂漠の国 クイーズベル 城下町】

荒くれ者「ヒャッハーッ!! 水だ水だぁっ!!」ドン

老人「あうっ」ドサッ チャリン

荒くれ者「ん……? なぁ~んか今、金目の音がしなかったかぁ~?」

老人「あわわっ」ササッ

荒くれ者「おぉ~い爺さん! 金だしなァッ!!」グィ

老人「ひ、ひぃっ! やめてくだされ! それはモミの木を買う金でっ」

荒くれ者「しらねぇなぁ~!!」ブンッ

勇者「……待て」

荒くれ者「あァん?」チラ

勇者「お前らの血は何色だ?」

荒くれ者「なんだぁテメェ?」

勇者「おまえらの血は何色かと聞いているゥッ!」ビシ

荒くれ者&老人「……」ポカーン

勇者「この俺の前で悪事を働いたのが運の尽き。この北斗神拳の餌食に――」

魔法使い「さっさと助けなさいよ!」スパーン

勇者「み、見事だ。天に還る時が」ドサ

戦士「そのまま寝てろ」ゴツン

勇者「」

荒くれ者&老人「……」ポカーン

武闘家「はぁ……おい、そこのお前。お爺さんから手を離しな」

荒くれ者「な、なんだァ、テメェは⁉︎ 俺は女だからって容赦しねぇぜぇ⁉︎」

戦士「奇遇だな。あたしらも男だからって容赦しないんだ」スラッ

荒くれ者「……あ、あれ?」

武闘家「さぁ、覚悟はいいかい」ポキポキ

荒くれ者「~~~~ッ! 舐めんじゃねぇぞおっ!!」ブンッ