勇者「ニートになりたい」 前編

276: ◆7Ub330dMyM 2018/01/19(金) 20:33:41.56 ID:bvIfG7NGO
【数分後】

荒くれ者「」

戦士「大丈夫だったか? 爺さん」

老人「あ、ああ。それにしても強いんだねぇ、お嬢ちゃんたちゃ」

僧侶「危ないところでしたぁ」

老人「……あっちの若者はいいのかね」チラ

勇者「」

魔法使い「あぁ、いいのいいの。いつものことだから」

老人「ふ、ふむ」

戦士「どーなってるんだい? 井戸に水がはいってないなんて」

老人「旅人か。この地方は雨が降る割合が極端に低いのは知っとるかい?」

武闘家「見ればわかる」

老人「であるからして、こうして地下の源泉を掘り当てた湧き水を使っとるんじゃが……」

僧侶「聞いたことがありますねぇ。いずれ乾いてしまう場合があるとか」

老人「大抵の場合は風で運ばれてきた土が原因じゃ。ここが枯れた理由はさっぱりわからん」

戦士「水がわかなくなったってのはたしかだ。生活できないだろ?」

老人「水を宅配してもらっとるんじゃ。その金がまたバカにならんくての」

魔法使い「水のデリバリー?」

勇者「ほーん」ムク

僧侶「今回は復活まで時間がかかりましたねぇ~」

334: ◆7Ub330dMyM 2018/01/23(火) 13:42:50.44 ID:1oCodxxaO
【数分後】

荒くれ者「」

戦士「大丈夫だったか? 爺さん」

老人「あ、ああ。それにしても強いんだねぇ、お嬢ちゃんたちゃ」

僧侶「危ないところでしたぁ」

老人「……あっちの若者はいいのかね」チラ

勇者「」

魔法使い「あぁ、いいのいいの。いつものことだから」

老人「ふ、ふむ」

戦士「どーなってるんだい? 井戸に水がはいってないなんて」

老人「旅人か。この地方は雨が降る割合が極端に低いのは知っとるかい?」

武闘家「見ればわかる」

老人「であるからして、こうして地下の源泉を掘り当てた湧き水を使っとるんじゃが……」

僧侶「聞いたことがありますねぇ。いずれ乾いてしまう場合があるとか」

老人「大抵の場合は風で運ばれてきた土が原因じゃ。ここが枯れた理由はさっぱりわからん」

戦士「水がわかなくなったってのはたしかだ。生活できないだろ?」

老人「水を宅配してもらっとるんじゃ。その金がまたバカにならんくての」

魔法使い「水のデリバリー?」

勇者「ほーん」ムク

僧侶「今回は復活まで時間がかかりましたねぇ~」

勇者「なぁなぁ、じいちゃん。井戸の水て突然枯れるもんなの? 原理としては」

老人「む? ワシもくわしいことはわからん。だが、現実として枯れてしまった。はっきりしてるのはそこじゃ」

勇者「原因を探ろうとしないのか? 例えば、もっと深く掘ってみたとか」

老人「そりゃするさ。なにせ水は生活に欠かせないものじゃからな。クイーンズベル王国の調査団が水脈を調べておる」

勇者「ほむ」

魔法使い「近いうちに究明されるんじゃない? 学者達もいるだろうし」

老人「左様、ワシらよりもうんと賢いお方が調べておるんじゃ。いっときの辛抱じゃよ」

勇者「……そうは言うけど、干上がってどれくらいになんの?」

老人「かれこれ、二週間になるか」

勇者「その間、生活水を実費で購入してるわけだろ? 国から補助が出るわけもなく?」

老人「そういう段階ではなかろうて。ワシらはお国を信じて待っとりゃいいんじゃ。ぜぇ~んぶ、国王さまが良くしてくれる」テクテク

勇者「……」

武闘家「爺さんは行ってしまったぞ。考えこんでいるようだが」

魔法使い「どうせ晩ご飯なににしようとか悩んでるんでしょ」

戦士「なにっ⁉︎ メシっ⁉︎ 一緒に考えよう! あたしはケバブがいいぞ!」

勇者「行きつく先々で。なんでめんどくせぇんだよ。俺はコナンくんじゃねーぞ」ブツブツ

335: ◆7Ub330dMyM 2018/01/23(火) 13:44:48.37 ID:1oCodxxaO
【クィーズベル城 南西方向 廃墟 】

お頭「おい、割符はちゃんと配ったか」

手下「へへ。これを忘れちゃ報酬が受け取れませんもんね」スッ

お頭「もうすぐ緋の月だ。それまで水を干上がらせておく……」

手下「風の噂によると姫に縁談の話があるとか。北のハーケマルから第一皇子がわざわざ出向いてまで」

お頭「そうなりゃ国を挙げての催事になる。水はもちろん使う。なにせここは暑いからな」

手下「さすがお頭(かしら)。国王を相手にぶんどろうなんてちんけな小物にゃ考えつきませんぜ」

お頭「まだ計画は道半ばだ。明日の朝日一番で城にいく準備をしておけ」

手下「へい」

お頭「いいか、あくまでもお前らは兵の配置を調べるための偵察にいくだけだ。あまり深入りすんじゃねぇぞ」

手下「わかってますって。おい新入り! 馬の餌やりおわったんならボサッとしてんじゃないぞ!」

ガンダタ「……悪い」ムクッ

手下「けっ。山賊だかなんだか知らねーがいい歳こいたおっさんが。こうなっちゃおしまいっすね」

お頭「ガンダタよ。オレも驚いたぜ。この業界でちったぁ名の知れたお前さんが……まさか給料の未払いで手下どもに逃げられちまうとはよ。今はどんな気分なんだい? 聞かせてくれよ」

ガンダタ「……」

お頭「なんだァ? 喋る気もねぇってのか? え? 下働きさんよ」

ガンダタ「暇してんのか? お頭」

お頭「あ?」

ガンダタ「下働きにかまってるんだ。見たまんまの感想だろ」

お頭「からかってるんだよ。それすらもわからねぇのか」

ガンダタ「俺は暇じゃねぇんだ。馬の洗体が残ってるんでね」

お頭「おい……。ガンダタさんよ」

ガンダタ「……」

お頭「郷に入っては郷に従えってしらねぇんだな。言葉遣いにゃ気をつけろよォ?」

ガンダタ「……へい。お頭」

お頭「ふん……おい、野郎ども! 明日は骨董屋に戦利品を売りさばきにいく! うんとふっかけてやれ!」

手下達「へいっ!」

お頭「いいか! 先の大仕事が終われば、お宝が俺たちを待っているッ! なんでも好きなことができるぞ! 報酬は弾む! だから気合いを入れろ!」

手下達「おおおぉぉぉっ!!」

336: ◆7Ub330dMyM 2018/01/23(火) 14:22:07.21 ID:1oCodxxaO
【クィーズベル城 玉座】

学者「こ、国王さまぁ~~っ! 国王さまぁ~っ!」バタバタ

大臣「騒々しいぞ。国王様ならあちらに。御前である」

学者「はひっ! ひっ、ひっ、ふぅっ……ふぅ……なにしろ、取り急ぎお伝えしたいことが」ドゲザ

国王「よいよい。申して見よ」

学者「水が枯れた原因がわかりませんっ!!」クワッ

国王「……」ズルッ

学者「どうしたらよいのでしょうか⁉︎ 国王さま!」

国王「おまっ、そこは普通わかりました! じゃろう」

学者「そ、それが……水は止まっていないはずなのですぅぅ」

国王「なに……? どういうことじゃ?」

学者「一週間前に派遣団を結成いたしておりまして、地奥深くに流れる水脈を調査開始致しました」

国王「知っておる。余が承認したからの」

学者「そ、その結果、水が、逃げていることが判明致したのです」

国王「逃げとるじゃと? 枯れたではなく?」

学者「そ、そうなのでございます。棒を突っ込むと先端は濡れておりまして。ならばと思いそれを目印に掘り進めど水は一向に出てこず」

国王「……んぅ~?」

学者「本来ならばそこに在るはずの水源がないのでございます!! 我ら学者一同頭を抱えておりまして」ペラ ペラ ペラ

大臣「なにを広げておるのだ、勝手に」

学者「こ、これは調査記録でございます。井戸というのはですね、地層水と呼ばれるもので――」

国王「能書きは良い。水は、民この国にかかせない資源じゃ」

学者「は、はいィッ!」ビシィ

国王「“逃げている”、か。にわかには信じられん話じゃが、それで間違いないのか?」

学者「わ、我々も何度も何度も手作業で掘り当て……岩盤層が出てくると爆薬を使い、そしてさらに掘り進みましたが」

国王「……ラチがあきそうにないのぅ」

学者「も、もうしわけまりませんんんんっ!!」ドゲザ

国王「大臣よ。水売りにきている者たちはどうじゃ? 暴利をふっかけてきておらなんだか?」

大臣「今のところは。しかし、最近は、なにやらどうも出し渋りはじめてきたようで」

国王「もう二週間にもなる。長期的になると薄々感づいてきておるのかもしれんな。商人の嗅覚は侮れないものよ……」

大臣「足元を見られるわけにもいくますまい」

国王「同時に、国王が圧力をかけるなどあってはならぬことよ。いくら困っているとはいえ、商人には商人の道理があり、権利がある」

大臣「国の一大事に発展するとならば話は別っ! 水! 水なのですぞ! ない生活など不可能です!」

国王「なにか妙案はないものかのぅ」


337: ◆7Ub330dMyM 2018/01/23(火) 14:43:42.95 ID:1oCodxxaO
【クィーズベル城 姫の個室】

メイド「姫様。もっとお腹にお力を。息をめいっぱい吸いこんでくださいまし」ギュ ギュ

姫「……はぁ」

メイド「吐いてはコルセットが……縁談の件で心を悩ませておいでなのですか?」

姫「そうですの。ねぇ、貴女は恋をしたことはある?」

メイド「いえ。私は王宮に、そして姫様に仕える身として従事させていただければ本望でございます」

姫「楽しいんですの? そんな人生が」

メイド「私にとっては全てでございます。……お悩みは、同じ女としてお察しします」

姫「お父様もお母様もひどいんですの。まるで、私に心を殺して生きる人形になれとおっしゃっているかのよう」

メイド「国王両陛下もお苦しいのだと思われます。一人娘です。決してそのような――」

姫「そんなの! 私は望んでいないんですのっ!!」

メイド「ひ、姫様……?」

姫「わたくしは恋をしたい! もっと一人でいたい! 結婚して妻になれば民は安心する⁉︎ 私はどうなるんですの⁉︎ 幸せは⁉︎」

メイド「……」

姫「いやです。会ったこともない人の妻になるなんて……うっ」ポロ ポロ

メイド「泣くのはおやめください。ハンカチです」スッ

姫「うっ」

メイド「覚えていらっしゃいますか。姫様は昔、泣き虫でした。そのたびに私がこうしてハンカチを差し出してましたね」

姫「忘れたんですの、そんな昔の話」グスッ

メイド「ふふ。私は全て覚えております。……姫様、強くおなりください」

姫「……」

メイド「この国は王子が生まれませんでした。子を授かる、それ自体は誰しも責められぬこと。一部の者は妃様の陰口を叩いておりますが、王様の人望が黙らせております」

姫「ええ、知っています」

メイド「この国の未来は、貴女様にかかっているのでございます。民たちの笑顔をさせることも、がっかりさせることも」

姫「……貴女まで、そんなこと……」

メイド「姫様だからこそです。お立場と向き合うというのならば、私はこれからも、いいえ、死ぬまで片時もお側から離れません。おこがましい申し出ですが、辛さを分け合えたらとさえ思っています」

姫「……」

メイド「男など、手のひらで転がしてやればよいのです。お妃様のように、王様に惚れさせて」

姫「惚れ、させる……」

メイド「必ずや、姫様にはその器量があると信じております」

姫「うぅ~ん」

メイド「まずは、会うだけ会ってみましょう。それから判断しても遅くはございませんよ。……ね?」

338: ◆7Ub330dMyM 2018/01/23(火) 15:02:47.50 ID:1oCodxxaO
【クィーズベル城 姫の部屋前】

メイド「……ふぅ」ギィー パタン

衛兵「お疲れ様です」

メイド「これはこれは、衛兵殿。そちらこそ。では、私はこれで」スッ

衛兵「お待ちください」

メイド「……なにか御用でしょうか? 忙しいのですが」

衛兵「――……お頭からの指示がある。城の見取り図を手に入れてほしいそうだ」

メイド「……! 城内では接触しないでとあれほど……!」

衛兵「決行がそろそろ近くなりそうだ。ハーケマルの王子がくれば兵は各地の警備に分散され、人の出入りで慌ただしくなる」

メイド「……」

衛兵「なぜ返事をしない? お前の弟が人質なのを忘れるなよ。ここにきて裏切ったらどうなるか」

メイド「……っ、わ、わかっていますっ! 弟は、勘弁してやってください」

衛兵「お前次第だ。心配すんな、全部終われば無事に帰ってくるさ。この国はやばいことになるだろうがな」

メイド「せ、せめて、無事だと思える確証を」

衛兵「なら見取り図を手に入れろ。俺たちにはどうしても必要なんだ。王に水の交渉を持ちかけている間に、宝物庫に忍びこみごっそりといただくためには」

メイド「ほ、本当にそうすれば……弟に、合わせていただけるんですね……?」

衛兵「何度も言ってるだろうが。めんどくせえ女だな」

メイド「……」ギュゥ

衛兵「いつまでに手に入れられる?」

メイド「3日、時間をくださいまし。城の見取り図は重要な情報。必要な時だけ取り出せるよう厳重に保管してあります」

衛兵「いいだろう。さっさといけ。誰かに見られたら厄介だ」

メイド「……」スッ スタスタ

衛兵「(何度見てもいい女だぜ。個人的に楽しむってのもありかもしれねぇな)」

339: ◆7Ub330dMyM 2018/01/23(火) 15:23:17.17 ID:1oCodxxaO
【クイーンズベル 宿屋 食堂】

勇者「なんで鍋なんよ?」

魔法使い「……」タラ~

勇者「なんでっ! 外気温が39度もあるのにっ! 地獄鍋なんよっ!」バンバン

戦士「はふはふ、うまいっ、暑いっ、あつうまっ」モグモグ

勇者「お前もうなんかペット化してきてんな!」

僧侶「しょうがありませんよぉ~。これしかないっておっしゃるんですからぁ」

勇者「我慢大会やってるんじゃないんだぞ!」

魔法使い「暑くなるんだから、騒がないでよ。バカ勇者」ダラダラ

勇者「滝の汗になってるけど、平気?」

武闘家「……アタイ、やっぱり店員に」

戦士「待て」ガシッ

武闘家「はぁ……なんだよ」

戦士「出されたものをすべて平らげてからだ。それこそが道理」

勇者「お前ルール押し付けてんじゃねぇ! 俺はもう我慢ならん! 店員さぁーん! ちょっとカマン!!」パチン

魔法使い「指鳴らすとかやめてくれない?」

店員「チッス。追加の鍋ご注文ッスか?」

勇者「いらねーよ! どうなってんのよ!鍋って!」

店員「暑い中食う鍋が今年のトレンドなんスよ」

勇者「いや、ほら。ほかにもあるだろ? 本当は」

店員「あるにはあるすけど。激辛ラーメンとか」

勇者「な、なんでそんなもんばっかり」プルプル

店員「サーセン。お客さん、旅人っスよね? この地方ってみんなこうなんすよ。どこいってもこうすっよ」

勇者「そんなの絶対おかしいよ!!」バンッ

店員「たくさん汗かいてたくさん水のむっス。身体にもいいんスよ。長生きの秘訣っス」

勇者「す、住めない。ここには絶対に……!」

魔法使い「はふぅ」コテ

勇者「お、おいっ! 魔法使い! しっかりしろ!」

魔法使い「ゆ、勇者……水……」

勇者「ほら! 飲め!」スッ

魔法使い「んくっ、んくっ」ゴクゴク

勇者「き、きさまああぁぁっ! よくも魔法使いを!」

店員「なに三文芝居やってんスか。注文ないなら失礼シャース」テクテク

勇者「うっ、うっ」ポロポロ

僧侶「勇者さまぁ、泣かれておられるのですか?」

勇者「これだから、これだからこの地方は嫌いなんだ……! なにもかも……」ポロポロ

武闘家「はぁ……」ガックシ

戦士「うまっ、はふっ、はふっ。店員さーん! ラーメン追加ぁー!」モグモグ


341: ◆7Ub330dMyM 2018/01/25(木) 14:45:24.55 ID:PJlRf//QO
【翌日 朝 宿屋】

魔法使い「――はぁ?? ここにしばらく滞在するぅ?」

勇者「そうだ」

戦士「てっきり、あたしは通過地点程度にしか思ってなかったが」

武闘家「アタイだってそうさ」

僧侶「ダーマに急がなくてよろしいのですかぁ?」

勇者「(ど、どうする……。まさか、私用で……それも勇者にまつわる話だと正直に言うとこいつらのことだ。騒ぎそうだし、めんどくせぇ……)」

戦士&武闘家&僧侶&魔法使い「……?」

勇者「(よし、また適当なウソつくか)……ミンゴナージュからここまでは少し疲れたからな。休息も必要だ」

戦士「疲れてもないが?」

勇者「お前らは揺られてただけだろうが!」バンッ

魔法使い「あんただって手綱握ってた……馬にってこと?」

勇者「そ、その通り!(ということにしておこう)」

僧侶「それにしてはぁ、まるでご自分が疲れたかのようなぁ」

勇者「言い方間違えただけ! 細かいことはいいの!」

武闘家「馬車を失うのは痛いもんね」

勇者「そうだ! 人手で運ぶには限界がある! 魔法使い!」

魔法使い「……なによ?」

勇者「お前、何十キロも重りつけて歩けるか?」

魔法使い「無理だけど」

勇者「だろう⁉︎ 人は便利さを知る前と後ででは感覚が違う! 物資も買った!」バンッ

戦士「む、たしかに。買いこんだな。勇者が最初は北にいくなんていうから余計な荷物まで」

勇者「こ、細かいことは忘れよ⁉︎ ……ごほんっ、それでだな。馬もいたわってあげなきゃいけない。僧侶!」

僧侶「はい~」

勇者「俺が言ってることになにかおかしい点はあるか?」

僧侶「いえ~。暑いですからねぇ~」

勇者「そうだろう、そうだろう! なにもおかしくはない!」

武闘家「……何日ぐらい予定を伸ばすのさ?」

勇者「へ?」

戦士「いや、もちろんすぐにとはいかないが、異常があるわけじゃないんだ。武闘家が言うようにあまり伸ばしても」

勇者「(し、しまった。見切り発車でそこまでは考えてなかった)……三日ぐらいかな?」

魔法使い「ふぅ~ん、まぁいいけど。それならマッスルタウンで羽伸ばしたかったなぁ。ここ住みにくいし」

勇者「……」ホッ

戦士「馬舎に預けてあるから簡単な世話はしてれるよな。あたしらはその間、フリーでいいのかい?」

勇者「そうだな。一緒に行動する理由もない。思い思いに休息してくれ」

僧侶「かしこまりましたぁ」

342: ◆7Ub330dMyM 2018/01/25(木) 14:57:10.51 ID:PJlRf//QO
【宿屋 部屋】

勇者「よし、うまくいったぞ。えぇーと……どこにしまったんだっけ」ゴソゴソ

従業員「掃除しても大丈夫です?」ガチャ

勇者「あー、どーぞどーぞ。お疲れ様です」

従業員「すみません、他の部屋もまわらなくちゃいけないもので。失礼します」バタン

勇者「おっ、あったあった。マク・ドナルドの時の覆面。これを探してたんだよなー。でも、このままだと武闘家は知ってるから~……従業員さん」

従業員「はい?」

勇者「ここらへんって服の仕立て屋ありませんかね?」

従業員「ありますよ。宿をでてしばらく歩くと十字路の大通りにでますから、そこを右に曲がった角です」

勇者「裁縫もやってくれたりします?」

従業員「えぇ、まぁ頼めばやってくれないことはないと思いますが。なにか破れたんですか?」

勇者「いえ、そういうわけじゃないんですけどね、これに手を加えてほしいなーなんて」

従業員「マスクですか? 仮装用の?」

勇者「そんなもんです」

従業員「けっこう痛んでますね。新しいもの買ったらどうです?」

勇者「へ? 売ってるんですか?」

従業員「ええ。変わった店ならいくらか」

勇者「おお! どこに行けば⁉︎」

従業員「それなら、大通りの十字路をそのまま――」

343: ◆7Ub330dMyM 2018/01/25(木) 15:12:16.31 ID:PJlRf//QO
【仮面屋】

店主「いらっしゃい」ニタァ

勇者「魔物め!」スラッ

店主「……なぁ~に言っとるんだい」

勇者「つ、つい。店内薄暗いのにロウソクで下から照らしちゃってるから」

店主「余計なお世話だよ。ひやかしなら帰っとくれ」

勇者「いやいや! 買う! 買いに来た!」

店主「ふん……お探しはなんだい? 仮装用かい?」

勇者「見た目はなんでも。希望は顔の全面が隠せるもので、なるべく通気性の良いものがいいな」

店主「布地がいいかね。麻か、もっと薄くなると透けちまうから……」ゴソゴソ

勇者「けっこう色々あるんだなぁ」キョロキョロ

店主「なんだい? こういう店に慣れてないのかい?」

勇者「ていうか、あんまり見かけない」

店主「そりゃそうかもしれないねぇ。クィーンズベルでもこの1店舗だけさ……これなんかどうだい? 体もセットという代わり品だ」スッ

勇者「おもっくそスパイダー○ンやんけ!!」

店主「す、すばだー?」

勇者「……知らないならいいんだ。でも、ちょっと派手かな? この世界観にそぐわないっていうか。もっとファンタジー色の強いものがいいと思う」

店主「さっきからなに言っとるんだい」

勇者「うんとね、なんかこう、仮面です! って仮面?」

店主「……やっぱり、ひやかしかい」ジトォー

勇者「いやいや違うよ!」

店主「あんたの要望にはそれしかないよ」

勇者「え、えぇ……これ?」チラ

店主「買わないんだったら帰っとくれ」

344: ◆7Ub330dMyM 2018/01/25(木) 15:23:13.53 ID:PJlRf//QO
【数十分後 城門前】

兵士「なんだ貴様は」

スパイダー○ン「ハーイ! ボクの名前はスパイディーさ!」

兵士「不審者か」

スパイダー○ン「違うよ! 正義の味方で悪者をやっつけるんた!」

兵士「……それで、なんの用だ」

スパイダー○ン「城に入れないか――」

兵士「だめだ。帰れ」チャキ

スパイダー○ン「い、いきなり槍の剣先向けないでよ!ボクがなにをしたっていうのさ⁉︎」

兵士「なにかしそうだ」

スパイダー○ン「冤罪だ! 人を見た目で判断しないで!」

兵士「なら、脱げよ」

スパイダー○ン「だ、だめだよ。そんなことしたら、ボクが一般人のピーター・○ーカーだって」

兵士「……」スゥ

スパイダー○ン「笛ふこうとしないで⁉︎ 仲間呼ぶつもりでしょ⁉︎」

兵士「帰れと言ってるだろうが。捕まえるぞ」

スパイダー○ン「い、いや、だからボクは犯罪者じゃなく悪者をやっつけるヒーローで」

兵士「すぅー……」ピィィィィ

スパイダー○ン「戦術的撤退ッ!!」ダダダッ

375: ◆y7//w4A.QY 2018/01/27(土) 11:54:52.45 ID:sYFh7cGeO
【仮面屋】

スパイ○ーマン「ぜぇっ、ぜぇ、はぁっ……ふぅ~」バタン スポッ

店主「おや、あんたついさっきの」

兵士「チッ、見失ったか。おーい! 向こうを探せーっ!」ザッザッザッ

勇者「うっ、やばっ」ササッ

店主「表が騒がしいねぇ。捕り物でもやっとるのか」

勇者「行ったか……こうなると思ってた! 思ってたよ!!」ビターン

店主「なんだいきなり。物を粗末に扱うんではないよ。ましてやうちの元商品を。買った店で床にたたきつけるなんぞ……」

勇者「ば、ばあちゃん! 俺も漫画は好きでよく読んでたけどさぁ……! 」

店主「そりゃ子供達がよく読んでる本の代物だったのかい。だったら買手がつきそうなもんだがねぇ、なんで売れ残ってたんやら」

勇者「コアな方だからな! アデルでも数冊しか見かけないぐらいの!」

店主「詳細はどうでもいいよ。あたしゃあんたの希望に沿う品をご提示しただけだから」

勇者「もっと他になんかない? ファンタジーでなくてもいいからもっと普通の……そう、舞台や劇であるような! これならばあちゃんもわかるだろ?」

店主「劇……そうか。それなら最初から言ってくれればいいのに」

勇者「あくまで俺が悪いみたいな言い方やめていただけるかな⁉︎」

店主「……そうさね、演劇で使うとなりゃ……」ゴソゴソ

勇者「つ、使うわけじゃないけど」

店主「ん~と……これならどうだい?」ポイッ

勇者「おっと……⁉︎」ズシッ

店主「そりゃちょっと曰くつきなんだけどね。なんでも役者が着けてる時に死んだっていう」

勇者「縁起わりーな! ……甲冑の鉄仮面か。これなら。たしかに、さっきより」

店主「違和感とかさっきからお前はなにを言っとるんだい?」

勇者「あぁ、いや、城に行くのにさ」

店主「お城に? そんなもん着けて城にいくのかい?」ジトォー

勇者「あんたんとこの商品だからな!」

店主「客の個人事情なんか知ったもんか。あたしが知りたいのは用途だよ。城に行くならはやく言えってんだ」ゴソゴソ

勇者「……これ、着けたら呪われたりしないだろうな……」ジー

店主「それはその場に置いておきな」ポイッ

勇者「んっ? ……っと」ポト

店主「城に行くならそれなりの格好でなきゃ行けないだろ。それ着けてきな」

勇者「これは……? 仮面か?」

店主「貴族が愛用してるマスカレードマスク(舞踏会で用いられる仮面に装飾が施された物のこと)さ。……あんたの格好じゃチグハグだね」

勇者「だって、体もスパイダー……いつもの服でもダメだな」

店主「亡くなったじいさんがかっこよさコンテストで着ていた服がたしかこっちのタンスに――……」

377: ◆7Ub330dMyM 2018/01/27(土) 11:58:50.96 ID:sYFh7cGeO
【竜王城 司書室】

シンリュウ「ふむふむ」ペラ

ベビードラゴン「んしょ、よいしょ、紅茶と人肉クッキーを運んできましたよぉ」

シンリュウ「そごにおいででぐれ」ペラ

ベビードラゴン「精がでるっすねぇ~」コト

シンリュウ「……」ペラ

ベビードラゴン「勇者をお調べになってるだっしょ? 正直、たかが人間をなにを恐れるてのやら」

シンリュウ「わだすもそう思う。だけんど、伝承によっちゃ、歴代魔王様の天敵扱いになってっぺな」パタン

ベビードラゴン「勇者ってそもそもなんす? 記録が残ってるんすか?」

シンリュウ「時代によっで解釈が変わる。勇あるもの、女神に愛されしもの、世界に平和と均衡を繋ぐもの……呼び名は様々だぁ」カチャ

ベビードラゴン「ふぅ~ん。あっ、一枚もらうっす」ポリッ

シンリュウ「“勇者”とはあくまで符号にしかすぎないのか? たまたまそうなった者が勇者と呼ばれる」

ベビードラゴン「血統は関係ないんすか? んぐっ、あむっ」モグモグ

シンリュウ「そんれがなぁ~、それもたまたまかもしれないし、そうじゃないのかもしんね」

ベビードラゴン「よくわかんねっす」ゴクン

シンリュウ「生まれ持った“ギフト(女神からの贈り物)”なのか……そうだとしたら……勇者とは“運び手”じゃないんかなぁ……」

ベビードラゴン「運び手わっしょい、運び手わっしょい!」パタパタ

シンリュウ「この部屋にある壁画。世界樹を前に、我が祖先と勇者が共に戦う姿……」

ベビードラゴン「ほんとなんすかね? 祖先様は人肉を食べるのをやめたって話」

シンリュウ「……」カチャ ズズ

ベビードラゴン「こんなにおいしいのに」ポリッ

シンリュウ「……っ⁉︎ あっつぅいっ! ベビー! ちょっとあんだ!」ブボッ

ベビードラゴン「あっ、紅茶、暑すぎたっすか? 猫舌ですもんね」

シンリュウ「冷ましてから持ってぎでっていづも言っでるだに!」

ベビードラゴン「んだども、猫舌の竜王なんて聞いだごども。火炎の息はくのに」

シンリュウ「覚えてけろっ! 何度言わせんの!」プルプル

ベビードラゴン「す、すいません!」

シンリュウ「……祖先様は、勇者のどこに惹かれたんだっぺな……」ボー

378: ◆7Ub330dMyM 2018/01/27(土) 12:17:58.27 ID:sYFh7cGeO
【クイーンズベル城 城門前】

勇者?「はっはっはっ、いやぁ、今日も暑い中ご苦労だねぇ!」

兵士「ん……?」

勇者?「失礼。私は名家出身である、ジャンポワール・ルネッサンスというものだが」

兵士「は、はぁ」

ジャン「気軽にジャンと呼んでくれたまえ」

兵士「……」ジー

ジャン「(バレませんようにバレませんようにバレませんようにバレませんように……!)」

兵士「……本日はどのようなご用件で?」

ジャン「(キターーー! ばあちゃん感謝!!)……この城の中に知り合いがいてね」

兵士「はぁ、お知り合いですか。それならば名簿を」

ジャン「いい、いい。私は貴族でありながら庶民の苦労を汲みたい」

兵士「……?」

ジャン「いや、だからだね、手を煩わせるのも悪いだろう?」

兵士「あ、あぁ。いえ、これも務めですので、お名前を教えていただければ――」

ジャン「申すな申すなぁ。せっかくこちらが気を使っているというのに」

兵士「……」

ジャン「……」ゴクリ

兵士「――……あ、ありがとうございます。実はちょうどそろそろ交代の時間で」

ジャン「そ、そうだろう⁉︎ そうだろう! 気にしなくていいんだぞ⁉︎」

兵士「お優しい貴族様で。あの、それでなんですが城内に入るということで?」

ジャン「無論だ。じゃないと自分では探せないからな」

兵士「無許可で通すのはちょっと。そうだ、本日は身分証をお持ちでいらっしゃいますか?」

ジャン「み、身分証?」

兵士「はい。貴族様であれば、身分を証明するものをお持ちですよね?」

ジャン「も、もちろんである!」ゴソゴソ

兵士「……」ジー

ジャン「あ、あれぇ~? どこやったっけなぁ……わ、忘れちゃったかなぁ?」

兵士「……忘れた?」

ジャン「い、いやぁ~ついうっかり。忘れるなんて慌てん坊さん! てへっ!」

兵士「貴様……」チャキ

ジャン「な、なんでせう?」

兵士「貴族が身分証を忘れただぁ?」

379: ◆7Ub330dMyM 2018/01/27(土) 12:49:21.67 ID:sYFh7cGeO
ジャン「た、たたたんま! 本当に! ウソじゃないて!」

兵士「身分証を持ち歩かない貴族など聞いたこともない!」

ジャン「今回がはじめてのケース! やったね! きみの  は捨てられたよ!」アタフタ

兵士「ますます怪しいわ! 貴族がそんなにふざけた言葉遣いをするものかっ!!」

ジャン「言っただろ⁉︎ うちの家系そうなの! こういう教育方針なの!」

兵士「……では、どこの出身だ」スッ

ジャン「ん?」

兵士「出身地と名家であるという証拠を別の形で示せ」

ジャン「ん??」

兵士「できないのか……?」

ジャン「で、できるよ! もちろん! 我が家系は先祖代々アデル王と関係を持っていて」

兵士「ほう」

ジャン「そ、それから、えっと、アデル王と親交が深くて」

兵士「ふむ」

ジャン「……アデル王と仲がすっごくいいんだ!!」

兵士「で?」

ジャン「ん??」

兵士「だからなんだ?」

ジャン「いや、だからさ、そんな凄い貴族ってことで、ここはひとつ」

兵士「なにひとつ証明になっていないのだが?」チャキ

ジャン「矛先って人に向けたら危ないと思うんだ」

メイド「――……これ。なにをしているのです、城門前で」テクテク

ジャン「(ん? あいつは……)」

兵士「こ、これはこれは。姫様専属の……職務に励んでいたのであります!」ビシッ

メイド「貴方は品格を落とすのが務めですか」

兵士「いえっ! 不審者を取り締まり! 王と場内の安全を確保するのが務めであります!」ビシッ

メイド「こちらが、不審者……」ジー

ジャン「(ま、間違いない! あの凶悪姫と小さい頃から一緒にいた……! 俺がいじめられてたのをほくそ笑んでいたメイド……!)」

メイド「城の者が失礼致しました。貴族様と見受けられますが、本日はどのような」

兵士「メイド様! 騙されてはなりません! そいつは怪しいです!」

メイド「黙りなさい。この方がつけているマスクは由緒正しきマスカレードマスクではありませんか。贋作でもない、真贋です。なにを疑っているのです」

兵士「えっ? そ、そうでありますか⁉︎」

ジャン「(な、なんとぉっ⁉︎)」

メイド「……大変失礼致しました。兵にあまり学はないもので」ペコ

ジャン「……いやっはっはっ! いい、いい! 私も身分証をついうっかり忘れていてね!」

メイド「まぁ……それは」

ジャン「だからそこの兵士くんが疑うのも当然よ。責めないでやってくれ」

兵士「……っ! し、失礼いたしましたぁっ!!」ペコペコ

380: ◆7Ub330dMyM 2018/01/27(土) 13:10:07.39 ID:sYFh7cGeO
メイド「重ね重ね、こちらの非礼をお詫び致します」ペコ

ジャン「(けっ、なぁ~にがお詫びいたしますだ! 俺はあの時助けてくれずニコニコしてたお前を忘れちゃいねーぞ!!)……知り合いが城内にいてね。会いにきたのだが」

メイド「お名前がわかればすぐにお調べいたしますが」

兵士「そ、それがっ、貴族様は、ご自分で探していただけると」

メイド「……? なぜ?」

兵士「私を労っていただいて。それなのに、疑ってしまい、本当に申し訳ないことを……」シュン

ジャン「(ちったー反省しろこのタコ!!)……いいんだ。間違いなど誰にでもある。キミはキミの職務を全うしようとていた。責任感に感服する思いだよ」キラン

兵士「お、おおおぉぉぉっ」

ジャン「これからも励み、そして必ずやこの国の、ひいては民の安全を守ってほしい。キミにしかできないのだから」ニコ

兵士「くっ、我が人生、このようなお言葉をかけていただいのは初めてのこと! 私は自分が恥ずかしい!」ガクッ

ジャン「――失敗を糧にしろ」

兵士「糧に……?」

ジャン「学べばよいこと。そうすればキミという価値もさらに高みに近づける」

兵士「そ、そうか……俺は、たるんでいたのか」ギリッ

ジャン「キミは私ができないことをしている。尊敬するよ」ポンッ

兵士「うぅっ、うっ、ありがとうございます、ありがとうございます」

ジャン「(なーっはっはっはっ!! きんもちええwwww)」

メイド「本当に、素晴らしいお考えですね」

ジャン「フッ、よしてくれ。私は父と母の教えに従っているだけで」

メイド「かしこまりました。では、私が城内をご案内させていただきます」

兵士「いえ! それならば俺が! 交代の時間ですし!」

ジャン「(ん……?)」

メイド「あなたよりも私が詳しい。空き時間があるなば……」

兵士「ハッ! そ、そうだ! 高めねば! 自分を!」

ジャン「いや、ほら、メイドさんも忙しいんじゃ?」

メイド「お客様をご案内するのも務めなのでございます。失礼のないように」

ジャン「(どうしてこうなった)」

メイド「自己紹介が遅れて申し訳ございません。私は、クィーズベル王の一人娘にして第一王女。……その専属メイドを務めさせていただいております」フワッ

381: ◆7Ub330dMyM 2018/01/27(土) 13:35:55.30 ID:sYFh7cGeO
【クイーンズベル城 城内】

メイド「あの、なぜ先ほどから目につく鏡ばかりを熱心に」

ジャン「えっ⁉︎ ご、ごほんっ、身だしなみは大切だからね!」

メイド「左様でございましたか。法務室はこの先の右手になります」

ジャン「(くっそー、この城って鏡こんなにあんのかよ! ナルシストかっつーの!)……あぁ、案内ありがとう。礼を尽くしてくれて感謝する」ペコ

メイド「……」キョトン

ジャン「では、私はこれで」

メイド「お、お待ちをっ!」

ジャン「……? なんだい?」

メイド「下々に頭に下げるなんて聞いたことが。あの、どちらの家柄はどちらの」

ジャン「フッ、名乗る時には相応しい場がある。今はその時ではない」

メイド「それは、なぜでございましょう」

ジャン「貴族とはなにか。そう下々に尋ねると権力と富の象徴だと答えるだろう。そこに差はないのだよ」

メイド「……?」

ジャン「つ、つまりだね、私はひけらかしたくないのだ。自分の家柄を」

メイド「……またもや、ご無礼を。私もまだまだ見識が足らぬようです」

ジャン「良いんだ。こういう貴族もいるとこれかは知っていてくれれば」

メイド「感服の極みでございます」ペコ

ジャン「うむうむ、ではこれで」

衛兵「……」スタスタ

メイド「……っ!?」ビクッ

ジャン「(……ん?)」

衛兵「……」スタスタ

メイド「……ふぅー」ホッ

ジャン「(なんだ? 今の表情は? 怯えていたような)」

メイド「退城の際はお声かけくださいまし。私は最初に通りましたホールでお待ち致しておりますので」

ジャン「あ、あぁ。わかった。そうするよ」

382: ◆7Ub330dMyM 2018/01/27(土) 14:05:17.91 ID:sYFh7cGeO
【クィーズベル城 法務室前】

ジャン「……よし、邪魔者はいなくなったな……」ササッ

学者「ど、どどどいてくださいっ!」アタフタ

ジャン「へっ?」クルッ

学者「わひゃあっ」ドーンッ パラパラ

ジャン「お、おお、自分でぶつかって自分でこけた」

学者「ひ、ひいぃいいっ!! せっかく順序よく並べた資料がぁっ!」カサカサ

ジャン「す、すまん。拾えばいいのか?」スッ

学者「触らないでくださいっ!! どこになにがあるのかごちゃごちゃになるでしょう!!」クワッ

ジャン「あ、はい」

学者「あーっ、もう、急いでるのに。なんで角に突っ立てたんですかっ!!」

ジャン「す、すみません」ペコ

学者「うぅ~。間に合わないのにぃ、時間押してるのに~……はやく水質調査団と合流しないと」カサカサ

ジャン「水質? それって井戸のこと?」

学者「そうですよ! この国に住んでるなら知ってるで……あなた、誰?」

ジャン「いや、私は貴族のジャンというもので」

学者「お客様でしたか。城に入れるのならさぞかし誉れ高い名家なのでしょうね」トントン

ジャン「それでさ、水質どうなってんの?」

学者「どうもこうもありませんよ。民には伏せてますが、原因がわからないのです」

ジャン「へぇ、伏せてんの? それってまずくない?」

学者「ならば公表しろと? 無用な混乱を招くだけです。水はたださえ欠かせないもの。この国の気候ならば尚更です。大恐慌が起きますよ」

ジャン「……」

学者「国王様も長期化の憂いは充分理解しておいでです。法務担当の者達が法王庁との協議にはいっています」パンパン

ジャン「(法王庁。たしかアデル王のとこに遊びいった時にきいたことあんな。名前だけだけど)」

学者「水売りに来ている商人があるので、すぐに困窮するともないですし、外部の貴族様が知らなくてもよいですよ」

ジャン「あ、そう」

学者「どいてもらっていいですか? 急いでるので」

ジャン「キミ、貴族に対してフランクだね」

学者「もう一度言います、急いでるので。……罰なら後で受けます」

ジャン「いや、そういう意味ではないけど」

学者「失礼っ、っと、わたたっ」ヨテヨテ

ジャン「前見えてないじゃん。よこせよ、半分」

学者「は、はい?」

ジャン「持ってやるから。整理し終えたんたなら触っても問題なかろうて」

学者「ば、バカじゃないですか⁉︎ ……ハッ! もしや、貴族様に荷物持ちをさせてる現場を見させてさらに重い罰を……」

ジャン「ばっかじゃねーの? そのかわり、ちょい話を聞かせてくれや」

学者「話……?」

ジャン「そうそう。歩きながらでかまわんから」スッ

383: ◆7Ub330dMyM 2018/01/27(土) 14:46:55.06 ID:sYFh7cGeO
【クイーンズベル城 大広間】

メイド「(会いたい。……一目だけでも無事かどうか確認したい。私のたったひとりの弟)」ボー

姫「こんなところでなにしてるんですの?」ヒョイ

メイド「……姫さま。午前の教養の部は?」

姫「退屈だから抜け出してきちゃった」

メイド「はぁ……」ガックシ

姫「貴女こそなぜここに? 暇してるわけじゃないでしょ?」

メイド「私は、お客様のお帰りをお待ちなのです」

姫「お客様? なぜ、貴女がそんなことをするの? わたくしの専属なのに」

メイド「姫様のお付きであると同時に、国にも従事しているのです。丁重におもてなしするのは当然のこと」

姫「いいえ! わかってないのは貴女の方なんですの。私が右といったら右。左といったら左を向くのが貴女の務め」

メイド「ひ、姫様。そのようなことをいつまでもおっしゃるから、国王様は私に」

姫「うるさいんですの! お父様の名前を今持ち出さないで! 縁談の話を思い出したくないのですからっ! べーっ!」

メイド「……はい」

姫「それで? そのお客様というのはどちらですの?」

メイド「……はい?」

姫「わたくしの付き人をこき使った罰を与えてやらなくちゃいけませんの」

メイド「ひ、姫さまっ!! 国賓なのですよ! 自覚をお待ちくださいませ! 第一皇女がそのようなマネを!!」クワッ

姫「うるっさいんですの。どうせどこかの貴族だったのよね? アイツらすぐに舐めたマネしやがるから。セクハラされたんですの?」

メイド「い、いえっ! そ、そのような!」ブンブンッ

姫「口止めされたんですのね。全く許されないんですの!」コツコツ

メイド「ひ、姫さまっ! お待ちを! お待ちくださいっ! そちらでなく法務室にっ⁉︎」バッ

姫「そうなんですのぉ……」ニヤァ

メイド「ち、違います! だめです! なりません! 貴族相手とはいえ姫さまが直々に! 大事になりますよ! 家柄を潰す気ですか⁉︎」アタフタ

姫「大げさなんですの。ちょっとこらしめてやるだけなのに」コツコツ

メイド「待って! お待ちくださいまし! 後生ですから!」タタタッ

384: ◆7Ub330dMyM 2018/01/27(土) 15:30:49.44 ID:sYFh7cGeO
【クイーンズベル城 通路】

ジャン「――ふぅん、水脈が逃げてるねぇ」テクテク

学者「信じられないでしょうが、事実なのです」テクテク

ジャン「岩盤に使う火薬が足りないんとかじゃなく?」

学者「硬い地層については爆薬で突破し、さらに掘りすめたのですからそういう話ではないしょう」

ジャン「いっそ、別の場所を掘ってみるとか」

学者「どこでも掘ればいいという条件ではないのですよ。水脈が流れているか、もしくは地中に溜まった水蒸気が溜まっていないと。生活水として使うまでには濾過も必要ですから」

ジャン「なら、今ある井戸の再利用できないかと模索してるわけ?」

学者「可能ならばそれが一番いいのです。ですが、厳しい……はぁ」ガックシ

ジャン「そりゃ困ったな。できることと言えば掘るしかないしな」

学者「せめて、なぜ水が逃げているのか……その原因さえ突き止められれば」

メイド「ひ、姫さまぁっ!!」タタタッ

姫「……」ズンズン ズンズン

ジャン「……あ、あれは……こっちにまっすぐ向かってくるのは……ま、ままままま、まさかっ!」

学者「あ、姫様だ」ペコ

姫「……見つけたぁ……」ニヤァ

ジャン「ひ、ひぃっ! 10年ぶりかぐらいになるが忘れもせんぞ! そのおもちゃを見つけたような笑み!」ガクガク

学者「頭さげなきゃ。貴族といえども、怒られますよ」コツン

ジャン「(た、たたたのむっ! はやく通り過ぎて! と、トラウマが! やめて! そこはネギを刺す穴じゃ!)」ペコ

姫「……」ズンズン ピタッ

メイド「ひ、姫さま。立ち止まらずにそのまま歩きましょう! ねっ! そうしましょう!」

姫「――……これ。そこのお前」ビシッ

学者「わっ、姫さまから声かけられてるよ」

ジャン「(か、勘弁してくれぇぇぇっ)」ガタガタ

姫「聞こえんのか? マスカレードマスクなどつけておる小癪なお前のことよ」

ジャン「はっ、はいぃっ!」ビシッ

385: ◆7Ub330dMyM 2018/01/27(土) 15:33:59.82 ID:sYFh7cGeO
姫「なんだそのナリは? 舞踏会にでもきたつもりかえ? 着飾って……なんとまぁ、無様な男よ」

メイド「姫さまっ!!」クワッ

姫「オーホッホッホッ! 見てみるんですの。震えておる! くふふっ」ニマァ

ジャン「(に、逃げちゃだめだ逃げちゃだめだ、逃げちゃだめだ逃げちゃだめだ、逃げちゃ、だめだ! トラウマなんか平気だい!)」

メイド「気は晴れましたでしょう? ささ、私たちは――」

ジャン「……失礼。あまりにも麗しいお姿なので、身体に電流が走っておりました」

姫「おべっかを使う作戦に切り替えたんですの? なんでも、このわたくしの付き人をこき使ったようですね」

メイド「来る途中に何度も……! それが私の務めであり、なにより、私から!!」

ジャン「よいのです。たしかに自己紹介をされた際に専属だと。辞退すべきだったのです」

姫「ほう?」

メイド「も、申し訳ございませんっ!」ペコペコ

姫「お前が頭を下げるではないわ。私までさげたことと同義になるであろうが」

メイド「ひ、姫さまぁ」

姫「マスクをとって顔を見せよ」

ジャン「……はい?」

姫「なにかえ? とれぬと申すか?」

ジャン「あー、んー」

姫「私の頼みを聞けぬのか?」

ジャン「(だ、だだだだ大ピンチッ!! ど、どないしよ! こいつ俺の顔覚えてたらえらい目にあうど!!)」

姫「どうした?」

ジャン「(で、ででもっ、10年前の話だし、顔なんか忘れちゃうし? ちっくしょおおおっ! これじゃ変装した意味が! なんとか誤魔化さなければ!)」

学者「……なにやってるんですか。とったほうがいいですよ。無礼です」コソ

389: ◆7Ub330dMyM 2018/01/27(土) 19:23:41.99 ID:YWyAV8D2O
姫「はやくとらぬか。お父様に言いつけるぞ」

ジャン「(ええい、ままよっ!!)……メラミ」ボソ

姫&メイド&学者「え、ええっ⁉︎」ギョッ

ジャン「~~~っ! ぐはっ、ぐあぁ」ゴロゴロ

姫「こ、こいつ、自分の顔に向けて火炎魔法を撃ちおった……気でも狂ってるんですの?」

メイド「だ、大丈夫ですか⁉︎ すぐに神官職のものを」

ジャン「(俺の魔法ってこんないてーの⁉︎ 自分に撃ったことないからわからんかった。で、でも! 困惑させることには成功したぞ!)……これでいいのです」ボォッ

学者「いい、って燃えてますよ。服」

ジャン「え? あ、やばっやばっ! あちゃ! あちゃちゃ!」バタバタ

姫「……」ポカーン

ジャン「ふぅ……私の無礼には今、私自らが罰を与えたのです」

姫「罰? あなたが?」

ジャン「姫。聞いてもらえますでしょうか」

姫「なんですの?」

ジャン「(見よ! 俺の演技力を!)……実は、この仮面の下はひどいヤケドの跡がございます」

姫「……」ピク

ジャン「あれは幼き日のことでございました。実家にある納屋で可愛がっていた馬とお昼寝をしていると……放火魔が」

学者「ま、まさか。それで火をつけられて、逃げ遅れて」

ジャン「警備の者が火事に気がついて救出された際、私は一命をとりとめましたっ!! 顔にひどいヤケドをおって……」

メイド「な、なんということを……」

ジャン「でも! でもっ!! それより悲しかったのは……!! なにかおわかりですかっ⁉︎ 姫っ!!」クワッ

姫「な、なんですの……?」タジ

ジャン「私の仲良かった馬が……っ! 仲の良い馬が巻き込まれてしまったこと……」ポロ

メイド「……涙が」

ジャン「守りたかった!! 守れなかった!! もう帰ってこない! あぁ、ロビー! ……うっうっ……」ポロポロ

390: ◆7Ub330dMyM 2018/01/27(土) 19:26:11.51 ID:YWyAV8D2O
学者「そんなにまで……」

ジャン「姫……。本来ならば罰は姫からいただくが道理。しかし、私にとって最も辛い処罰がわかるのは、私なのです」

姫「……トラウマを……ほじくり起こしたんですのね?」

ジャン「(おめーにほじくられてるよ馬鹿野郎!!)……左様です。追加の罰があれば、なんなりと。仮面を脱げと言われれば脱ぎましょう」スッ

メイド「……っ! お、お待ちください!!」ガシッ

ジャン「ど、どうなされたのです?」(困惑の演技)

メイド「姫さま! 罰というのなら私も同罪でございます!!」

姫「うっ」タジ

メイド「この方はこんなにキレイな瞳をしていて、涙をためてるのに……これ以上なんの罰が必要でしょうか⁉︎」

姫「(な、なんですの。このクソ寒い流れは)」

メイド「さぁっ! 罰を! この方も、そして私も謹んでお受け致しますっ!!」

ジャン「(いや、ちょ、ちょっと。せっかくうまくいきそうだったのに)」ハラハラ

姫「……私が貴女に罰を与えるわけないでしょう」

メイド「では、この方も」

姫「はぁ……なんだか。もうどうでもいいですわぁ」

ジャン「あ、ありがたき幸せっ!!」ドゲザ

メイド「姫さま、寛大なお計らいに感謝を申し上げます」ペコ

姫「はいはい」ヒラヒラ

メイド「さぁ、お立ちを。なにも恥じることはないのです。申し訳ありません、はるばるハーケマルから来ていただく予定の国賓の使者たる方に」

姫「ん……?」ピク

ジャン「ハーケマル?」

メイド「実は……申し上げずともわかっておりました。そのマスクはハーケマル由来のもの。第一皇子に先駆けて様子を見にいらしたのでしょう?」

姫「な、な、な……」プルプル

ジャン「(城門の兵士さんにはアデルって言っちゃたけど。まぁ、いっか。それで。どうせ目的の鏡見つけりゃいいし)……バレていましたか」

姫「……っ⁉︎」ギロッ

391: ◆7Ub330dMyM 2018/01/27(土) 19:38:49.15 ID:YWyAV8D2O
メイド「お帰りの際に、王室へとご案内しようと思っていたのです」

ジャン「いや、そ、そこまでは。今回は隠密でして」

姫「……」プルプル

メイド「姫さま、よかったですね。ハーケマルの国からの使者がこのように清い方で。これなら、民も第一皇子もさぞかし……」

姫「おい」ギロッ

ジャン「ひっ⁉︎」ブルッ

姫「ハーケマルの皇子ってのに伝えるといいですの」

ジャン「(こ、この目はっ! なにかに無性にイライラしている時の! や、やめて! 第二のトラウマを発動させないで!)」ガタガタ

姫「わたくしは、貴方と結婚するつもりは毛頭ないと。頭の毛ぐらいにね!!」

ジャン「あわわわわっ、ごめんなさい、許してください、もう勘弁してください」ブルブル

メイド「姫さまっ!」

姫「……? なんですの? 別に使者に言ってるわけではありませんのに」

ジャン「い、いやだ。診察ごっこはもう嫌だ……」ガタガタ

学者「体育すわりしてなんか言ってますね」

姫「診察ごっこ……?」ピク

メイド「やはり、先ほどのトラウマが!! こうしてはおられません! すぐにお部屋にお通しいたします! 本日は城にお泊まりくださいませ!!」

ジャン「いやなんや……そこは違う穴なんや……」ブツブツ

姫「……どこかで……? なにか……見落としてるような……」

392: ◆7Ub330dMyM 2018/01/27(土) 20:01:17.00 ID:YWyAV8D2O
【クィーンズベル城 玉座】

王様「まことかっ⁉︎ ハーケマルからの使者が!」

メイド「今は、部屋でお休みなさっておいでです」

王様「そうかそうか! そうじゃったか! 失礼はないであろうな!」

メイド「そ、それは……」

王妃「懐かしい。ハーケマルといえば私の母国でもあります。使者といえば、いつもの貴族かしら」

メイド「今回のご来訪は、王子に先駆けての隠密だそうでして」

王様「なるほどのう、視察に参ったというわけか」

王妃「……? それにしては、おかしいような? 定期的に文を渡しておりますし、なにより私が嫁いでいる国をいまさら」

王様「よいよい。あちらの王にとっても大事な息子なのであろうて。気になりもする」

王妃「……左様で、ございますね……」

メイド「目が覚めたら、お通しいたしますか?」

王様「うむ……いや、まて。今日は自由に見てもらって、明日にでも会食を設けよう。ワシが出張っては隠密の意味がなくなる」

メイド「承知いたしました」

王様「お主に世話役をまかせよう。くれぐれも、失礼のないようにな。姫の大事な面談相手に悪印象を持たせるわけにはいかん」

王妃「あなた、その席には私もご一緒してもかまいませんか?」

王様「よろしい。許可しよう」

メイド「姫さまとのご縁談がかかっております」

王様「うむ……お主にも、無理を言ってすまなんだ。小さき頃より共に育った間柄を逆手にとり、姫を説得させようなどと」

メイド「拾っていただいた恩は忘れておりません。姫さまにとっても幸せな婚姻となると信じております」

王様「うむっ! お主の忠義やあっぱれ! ……これからも、姫をよろしく頼む」

王妃「私たちは少々甘やかしすぎたようです。あの子には自覚がたりない。頼りにしていますよ」

メイド「もったいなきお言葉にございます」

393: ◆7Ub330dMyM 2018/01/27(土) 20:24:17.99 ID:YWyAV8D2O
【クィーンズベル城 客室】

ジャン「Zzz」

メイド「……」パタン

ジャン「うっ、うぅっ」ビクゥッ

メイド「……起きていらっしゃるのですか?」

ジャン「いややっ、やめてっ」

メイド「うなされている……おかわいそうに、よっぽどお辛かったのですね」

姫「失礼するんですの」バターーンッ

メイド「……っ⁉︎」ギョッ

姫「あら? 貴女まだいらしたんですの?」

メイド「ひ、姫さま! お静かに! 休まれているんですよ!」

姫「どーにも喉に小骨がひっかかっているような気がして。やっぱりそいつの顔見たいんですの」

メイド「な、なりませんっ! どうしてもというのならせめて許可をお取りください!」

姫「あらあら? 歯向かうんですのぉ?」ニタァ

メイド「な、なんですかぁ?」タジ

姫「めずらしいですわね。貴女が反抗するなんて、十年間はなかったことですの。最後に……かばおうとしたのは、勇者相手だったかしら」

メイド「……っ!」

姫「あの頃の貴女は今よりも引っ込み思案でしたものね。いつもニコニコ笑って、取り繕っていたのをよく覚えていますわ」

メイド「む、昔の話です」

姫「勇者と私と貴女の三人で。アデル王に連れられてやってきた勇者と仲良くなるのはそんなに時間がかからなかったんですの」

メイド「……そうでしたね」

姫「遠く過去のように感じますわ……本当に遠い過去なんですけど」コツコツ

メイド「姫さま! ドサクサ紛れでなにを近づこうとしているんですか!」

姫「……なぁ~んかひっかかるんですの……診察ごっこをしていたのを覚えている?」

メイド「え……? 覚えては、いますが。勇者様とやっていたおままごとの」

姫「ええ。私が妻、そして貴女が愛人」

メイド「い、今思うと、子供ながらにとんでもない設定を」

姫「仲間外れにしてはかわいそうだと思ったんですの。……その診察ごっこをしたのは、後にも先にも勇者だけ……」

メイド「左様です。勇者様が1ヶ月間滞在していた時にやった遊び。アデルにご帰国の際には、遊び疲れたのか、勇者様が憔悴しきっていたのをよく覚えています」

姫「楽しかったですわよね。……こいつは、なんでさっき“診察ごっこ”と口走ったのか」チラ

ジャン「Zzz」

メイド「遊び自体は、よくある遊びですよ」

姫「……それも、そうなんだけど……」ジー

ジャン「違う、皮ひっぱらないで、う、うぅっ」

メイド「良くない夢を見ておられるのです。今はそっとしてあげましょう、姫さま」

姫「うぅ~~~ん? なんで、こいつを見てると勇者を思い出すんですの……?」

400: ◆7Ub330dMyM 2018/01/28(日) 15:49:13.59 ID:nyYl0jguO
【その頃1 クィーズベル城 郊外】

戦士「はぁぁぁぁっ!!」ザシュ

武闘家「ハイィィィィッヤァッ!!」ドンッ

戦士「ぐっ⁉︎ がはっ」キーーン

武闘家「はぁっ、はぁっ……ふぅー」スッ

戦士「く……っ、ち、ちくしょう、また負け、か」ガクッ

武闘家「まだやる?」パンパン

戦士「ふん、あたしは負けず嫌いなんだ。身体が動けばすぐにでもやりたいが……少し休憩するか……ふぅ」

武闘家「……」ドサッ

戦士「なぁ? 気になってたんだが……老人は……武闘家の師匠はなんで勇者についてけって言ったんだ? 修行のためか?」

武闘家「見聞を広げろって。……そう言われた。アタイが井の中の蛙だって思い知ってちょうどよかったんだと思う」

戦士「マク選手のことか。たしかにあの強さは尋常じゃなかったな。できれば、あたしももう一度会いたい」

武闘家「毎日会ってるじゃないさ」ボソ

戦士「……武闘家……お前はあたしより、強い。悔しいが認めなきゃいけないみたいだ。なにかアドバイスをもらえないか?」

武闘家「タフさに自信がありすぎるんだ。防御が疎かになりすぎ。アタイの動きは見えるんだろう?」

戦士「ああ、だが、速すぎて反応できない」

武闘家「動体視力は悪くない。これまでの相手は多少攻撃を受けても自前のタフさがあってどうにかなってたかもしれないけど」

戦士「……」

武闘家「――達人に近づけば近づくほど甘くないよ」

戦士「防御か。攻める方が好きなんだけどなぁ」

武闘家「得意不得意は誰にでもあるもんさ。アタイだって人に教えられるほど高みにいるわけじゃない。勇者に教えてもらえば?」

戦士「むっ? なぜだ? あいつはこのパーティで三番手だろう。器用貧乏だと言ってたのはその通りだったし……武闘家はまだ勇者と手合わせしてないから実力を知らないのか」

武闘家「……はぁ」

戦士「もっと、もっと、強くなりたい……マク選手とまではいかないが、背中が見えるようには」

武闘家「そこに関しちゃ同感だね。あいつの顔色を変えるぐらいの一撃を放ってみせる……! やられっぱなしでたまるもんか……!」ギュゥ

戦士「ぷっ、ははっ、お前もあたしと同じぐらい負けず嫌いなんだな」

武闘家「……なんで笑うのさ」

戦士「いやいや。目標があるとはいいものだ。無愛想だが、嫌いじゃないよ、あたしは」

武闘家「アタイは嫌いだけど」

戦士「なっ⁉︎ 今ようやくいい雰囲気になろうとしていただろうが!」

武闘家「女同士でなに言ってるのさ。アンタ、そっちの気でもあんの?」

戦士「~~ッ! き、嫌いだ! やっぱりお前なんか! このひねくれ者!」

武闘家「くっ、ひ、人が気にしてるところを」

戦士「あ? ……なぁ~んだ。自覚あったのか? やぁ~~い」

武闘家「立てッ!! 足腰立たなくしてやるッ!!」クワッ

戦士「やろうってのか!! あたしが何遍も黙って負けると思ってんだろ!」ムクッ

武闘家「弱いくせに。ウププッ」

戦士「い、言いやがったなぁっ⁉︎ 叩き切ってくれるッ!!」

401: ◆7Ub330dMyM 2018/01/28(日) 16:08:32.89 ID:nyYl0jguO
【その頃2 クィーンズベル城 防具屋】

魔法使い「見てこれ見てこれ~っ! ピアスかわいくないっ⁉︎」

僧侶「お似合いですよぉ~」

魔法使い「はぁ、自由に買い物ができるなんて……甲斐性なしの勇者についてってたら一生できないと思ってたぁ! ふんふ~ん♪」

僧侶「賭けにかってよかったですねぇ」

魔法使い「マク選手! あぁ、素敵! この杖も貰っちゃたし! ん~、ちゅっちゅっ」

僧侶「杖は手垢がついて汚いですよぉ……でもぉ、考えてみればマク選手って不思議な人でしたよねぇ?」

魔法使い「不思議? へんてこりんなマスクや格好が?」

僧侶「それもありますけどぉ。なんで無口なんでしょぉねぇ?」

魔法使い「修行なのよ。あれが」キリッ

僧侶「なんだか、喋りたくなかったみたいなぁ~?」

魔法使い「チッチッチ、僧侶ったらなんにも知らないのね。サイレントモンクっていうのよ。あれが自分に課した制限なの。はぁ……かっこいい」ウットリ

僧侶「……はぁ、やっぱりポンコツなんですねぇ」

魔法使い「きっと、きっとね、あのマスクの下はすごぉ~く、かわいい顔してるのよ? なんで私に杖くれたのかしら……ま、まさかっ⁉︎ 一目惚れされてたっ⁉︎」

僧侶「……」

魔法使い「や、やだぁ~! ど、どうしよ! 私にに恥ずかしがってたってこと⁉︎」バンバン

僧侶「叩かれると痛いですぅ~」

魔法使い「修行があけたら私に会いに来たりして……好きだ、結婚してくれ」(マクの真似のつもり)

僧侶「あのぉ、そもそも声を知らないのではぁ?」

魔法使い「純粋な目を見てわからなかったの⁉︎ そんなことも想像できないの⁉︎」クワッ

僧侶「は、はぁ」

魔法使い「ぐへ、ぐへへっ……だめよ! 私、ダメ男代表の勇者についていかなくちゃ! 魔王が!」

僧侶「……」

魔法使い「それでも僕はかまわない。魔法使い、君がほしい!! ……なぁ~んちゃってなんちゃってぇ!!」バンバン

僧侶「幸せそうでなによりですよねぇ~」

402: ◆7Ub330dMyM 2018/01/28(日) 19:36:14.57 ID:vdGmdMVbO
【数時間後 クイーンズベル城 客室】

ジャン「――せ、洗濯バサミはだめだっ!」ガバッ

メイド「目が、覚められましたか……?」

ジャン「こ、ここは……? 知らない天井だ……」

メイド「姫さまと通路で会ってから、しばらくしてからこちらの客間にお通ししたのですが」

ジャン「お、お前は……姫……思い出したぞ! なぜ俺がここにいるのか!」

メイド「そうですか、よかったです。睡眠中もなにやらうわ言のようにうなされていたので!」

ジャン「(誰のせいだと思ってやがる!)……し、失礼。取り乱してしまい、申し訳ない」

メイド「起きたばかりで、このようなことを申し上げるのは、大変恐縮なのですが」

ジャン「あ、あぁ、長居しすぎたか。こちらこそ――」

メイド「いえいえっ! そうではありません! 本日はお泊りくださいませ!」

ジャン「泊まる? いや、それはご迷惑では」

メイド「申し訳ございません。王に、国王様に今回の使者様のご来訪を報告致しました」

ジャン「(あー、王っていうと、気さくなおっちゃんことか。10年前だからなぁ、顔もあやふやになっちまってるが。じいちゃんになってんのかね)」

メイド「隠密だというお立場を知りながら。責任は全て私にございます」

ジャン「……いや、バレてしまったのならば仕方のないこと。体裁さえ守っていただければかまいませんよ」

メイド「ありがとうございます。城内、街はご自由にご覧くださいませ」ホッ

ジャン「(泊まりの上に行動制限もなし、か。それだったら大義名分のもとゆっくり鏡を探せるな)」

メイド「あの、実は、お伝えしたいことがもうひとつ」

ジャン「ん?」

メイド「姫さまでございます」

ジャン「(かーっ、かーっ、またあいつかよ。顔も見たくないわ)……聞きましょう」

メイド「姫さまを、悪く思わないでくださいまし」

ジャン「……?」

メイド「本来は、とっても心お優しいお方なのです」

ジャン「(ないね)」

メイド「淑女たる教育、求められる姫というお立場、そして……政略結婚の道具。18の年齢にかすにはあまりに重すぎる重圧……」

ジャン「(まぁ、一国の姫だからなぁ。勇者という立場を冠する者として同情はするけど……政略結婚?)」

メイド「ハーケマルとクイーンズベルは長年築いてきた地位が、秩序がございます。それはなにを優先しても守られなければならない」

ジャン「待った……ごほん、待ってくれ。政略結婚と?」

メイド「……っ! ち、違います! 姫さまはまだ会ったことのない王子を悪く言ってるわけでは!」

ジャン「ハーケマルの王子と?」

メイド「会えばきっとお互いを知るきっかけになります! 姫さまはとっても魅力的で!」

ジャン「(縁談か……なぁるほど、だから俺がハーケマルの使者だと聞いて機嫌悪くしやがったんだな)」

メイド「ですから……その、先ほどの無礼はお許しいただけると」

ジャン「(そんでこいつは、さっきのを“なかったことにしてくれ”と打診してるわけだ。ようするに、報告すんなと、王子に)」

メイド「いかがでしょうか?」オズオズ

ジャン「……元よりそのつもりでした。発端は私の無礼のせいなのですから」

メイド「こちらこそ。王様よりは丁重におもてなしせよとのご命令を受けております」ホッ

ジャン「(あーあ、安堵した顔しちゃって。こりゃこの縁談、よっぽど重要みたいだな。ハーケマルとクイーンズベルか……)」

403: ◆7Ub330dMyM 2018/01/28(日) 20:14:42.56 ID:5byNfoa1O
メイド「もし、空腹であればお食事のご用意を」

ジャン「それより、許されるならば貴女からお話を伺いたいのですが」

メイド「はい……? なんなりと」

ジャン「姫は縁談相手である王子をどう思っておいでで」

メイド「……それは、その、ここだけの話でしょうか?」

ジャン「約束しましょう。帰っても話さないと誓います」

メイド「当たり障りのないお話を申しますと、あまり、良くは。なにぶん、会う機会すらなく」

ジャン「(じゃあ、初対面で結婚! みたいな感じか。親同士であらかじめ決められる許嫁みたいなもんかね。家柄ってのは難儀だねぇ)」

メイド「この年齢の婦人は、また複雑なのでございます。姫さまは、誰かと恋愛したことすら、ありませんので……ハッ! い、いいえ! 嫁入り前のお身体を傷物にするというわけではなく!」

ジャン「大丈夫ですよ。言っている意味は伝わっています」

メイド「……ですから、その、現実としてまだ直視できていないご様子で……」

ジャン「(ん? いやでもまてよ?)……王妃はハーケマルのご出身では?」

メイド「もちろん、それは使者さまもご存知の通り。なので、王妃様からもご説得をしたのですが」

ジャン「(え? 待って待って。王妃の血族ってことは……いとこ? え? うっすいけど血の繋がりあんじゃね? うはー、まじかよ。いとこやはとこ同士で毎回結婚してるみたいなもんじゃねぇか)」

メイド「……聞きたことというのは、聞けましたしょうか」

ジャン「(あれ? でも、だとすれば……なんだこりゃ、どうなってんだ? ……探り入れてみるか)」

メイド「……?」

ジャン「いやいや、多感なお年頃だとは理解できます。私は当人達の感情よりも別のことが気がかりかと思っておりました」

メイド「別の?」

ジャン「はい。“ハーケマルから婿入りにこれても、クィーンズベルからは誰も出せない”」

メイド「……」

ジャン「(クソ姫は一人娘だ。男の兄弟がいるわけじゃない。王の直径にあたる人物は交換じゃないとパワーバランスが崩れてしまう)」

メイド「その点は、姫様のご裁量にかかっております」

ジャン「我が国……ハーケマル王子を操ると?」

メイド「い、いいえっ! そんなまさか! 子を産み、その子が成人した暁にはハーケマルに送ると盟約を交わされているではありませんか!」

ジャン「(じ、次世代予約システムっ⁉︎ えげつねーことしてんなこいつら)……そうでしたね」

メイド「永遠の友好は、紡がなければならぬこと。姫様ならば、必ずや元気な赤子を生まれるでしょう」

ジャン「(気の長い話だが、一人娘なのはどーしようもないかんな。それが落ち所ってやつなのかね)」

メイド「他には、なにか?」

ジャン「いや、ない」

メイド「それならば、私はこれで。なにかご用があれば備えつけの鈴をお鳴らしください。表にいる衛兵がすぐに使用人を連れてまいります」ペコ

406: ◆7Ub330dMyM 2018/01/29(月) 10:21:42.46 ID:NGx50bz8O
ジャン「なにからなにまでありがとう。キミには感謝している」

メイド「い、いえ。私はこれが責務ですので。失礼致します」ガチャ パタン

ジャン「――……ふぅ、結婚か」スポッ

勇者「聞きました奥さんwwあの姫が結婚ですってよwwしかも望まないwwメシウマww」ゴロゴロ

メイド「ジャン様、よろしいですか?」コンコン

勇者「おっとww……ごほん、しばし待たれよ」スポッ

メイド「あの、何度も申し訳ございません。会いたいというお方が」

ジャン「どうぞ。お入りください」

メイド「失礼致します」ガチャ

姫「……」スッ

ジャン「(ぬ、ぬおっ⁉︎ な、なななぜっ⁉︎)……これはこれは、ご機嫌麗しゅうございます。先ほどは大変失礼を」スッ

姫「上っ面だけのおべっかはいいんですの」チラ

メイド「ひ、姫さま。くれぐれも。では」パタン

姫「……」ジー

ジャン「(こいつとは1秒たりとも同じ空間にいたくねぇ)どうなされました? 私になにか? まずはお座りください」

姫「あなた、この城に来るのは何回目ですの?」

ジャン「え? えーと、数回ほどです。いや、回数をよく覚えていないのは前回から期間が開いておりまして」

姫「どれぐらい?」

ジャン「(や、やけにつっこんでくるな)一年ほどでしょうか。申し訳ございません、あやふやで」

姫「声の感じからして年配には見えないですけれど。ボケてるんですの? それとも物覚えが悪いだけ?」

ジャン「(こ、このっ、腐れ   )気を悪くされたのならば申し訳ありません」

姫「そのマスクの下は、ひどいヤケドがあるんでしたわね?」

ジャン「はい」

姫「とってみてはくれませんの?」

ジャン「(しつけぇな!)私はかまいませんが、姫を不快にさせるわけには」

姫「かまいません」

ジャン「い、いえ、でも、それでは」

姫「かまわないと言っているんですの」

ジャン「(なんなんだよこの食いつきようは)……なぜ、私のヤケド痕を? やはり、先ほどの罰では」

407: ◆7Ub330dMyM 2018/01/29(月) 10:25:19.04 ID:NGx50bz8O
姫「仮にも一国の姫が免除すると言ったこと自体は撤回しないんですの。ただ――」

ジャン「……?」

姫「どーにも、ひっかかるんですの。以前、城に来た時にわたくしに会った?」

ジャン「(なんだこいつは⁉︎ 野生の勘でもあんのかっ⁉︎ )な、ななにをっ? そ、そんなわけがございません」

姫「前回来た時は何しに? お母様に言われて?」

ジャン「(ま、まずいぞ。演技どうこうじゃねぇ、ウソで塗り固めて二分の一の賭けに勝ち続けるしか。辻褄が合わなければ一発でアウトだ)左様です」

姫「そう……定期的に文を渡してるのを見たことあるんですの。でも、その時の貴族はマスクをしては」

ジャン「ち、父上なのです! 私は息子です!」

姫「父上……?」

ジャン「はい、この度は、隠密ですので。あまり顔を知られていない私がと」

姫「ふぅん」

ジャン「(ど、どうだ? 息子いるよな? どうなんだ?)」

姫「……そうなんですの」

ジャン「(セーーーフッ!! セーフっぽい!)」

姫「では、私と面識はないんですのね?」

ジャン「ありません! 誓って!」

姫「あなた、いくつですの?」

ジャン「……18になりました」

姫「……」ピクッ

ジャン「(空気が重てえ! こいつは何気なく聞いとるのかもしれないが、俺は生きた心地してない。帰りたいよぉ~)」

姫「同い年なんですのね。私も18の誕生日を迎えたばかりです」

ジャン「そ、それは、めでたきことで」

姫「ハーケマルとはどんな国?」

ジャン「王妃様が、よくご存知のはず」

姫「色々な見方を聞いてみたいんですの。あなたとは歳が近いとわかったし、価値観が似ているやも」

ジャン「私の価値観が王族と肩を並べるとは、恐れ多くも」

408: ◆7Ub330dMyM 2018/01/29(月) 10:52:19.52 ID:NGx50bz8O
姫「かまいません。いわばここは外界より隔離された室内。この場での発言は全てなかったことにすると確約いたしましょう」

ジャン「ですが、体裁が」

姫「保つのは第三者の目がある時のみでよい。今はない。この意味がわからないほど愚鈍なんですの?」

ジャン「(俺もその考えに同意だが、こいつに言われると腹たつゥッ!)」

姫「王子とはどんな方?」

ジャン「(知らねーよ。俺会ったことないし、顔すら知らねー。……とは言えないし)我が国を誰が悪く言えましょう」

姫「それは、本音を言えば悪いと?」

ジャン「信用の問題でございます。私が良く言おうと、悪く言おうと、姫様は私の発言する言葉を信じていただけますか?」

姫「……」

ジャン「仮に、王子を褒めたとしましょう。そうしても“どうせ出身国なのだから”、と。勘繰りはいたしませんか?」

姫「わたくしを馬鹿にしているんですの?」

ジャン「いいえ。誰しもが同じなのでございます。そう思うのが自然なのです」

姫「王族であるわたくしを同じだと?」

ジャン「(めんどくせぇ。これだから血筋にこだわるやつらは。一方で嫌いつつも一方でプライドもってやがる)……恐れ多くも、発言がすぎました」

姫「……わたくしの質問に答えればよいのです」

ジャン「北のハーケマルといえば、年中寒さが厳しい国です」

姫「知ってるんですの」

ジャン「この国とはちょうど真逆ですね。しかしながら、そのような厳しい環境にあっても民達からの不平不満は聞こえてきません」

姫「それも知ってるんですの。ハーケマル現王がお父様と同じく賢王であることも。でも、息子もそうであるとは限らないでしょう?」

ジャン「(お前がそうだからなww)……ご自分の目でお確かめを。それ以上は言えません」

姫「忠を尽くしているつもりなんですの?」

ジャン「この縁談は両国間の今後に強く影響致します。お姫様はまだまだうら若き年齢、気分ひとつで悪い結果になりかねません」

姫「……そう、そうなんですの。あなた、犬っころなんですのね。駄犬」

ジャン「なんとでも」

姫「……っ! こ、やつ! こんなやつがあいつのはずないんですの!! 不愉快です!!」バシャ

ジャン「(水ぶっかけてきやがった。お前をデスノートに書いてやる)」ポタポタ

姫「なんとか言ったらどうですのっ⁉︎」ブンッ スコン

ジャン「(今度はコップ投げつけてきやがった。お前をデスノートに……これさっきも思ったか)」

姫「~~ッ!! 私は、結婚なんかする気は、ぜぇ~~~ったいに、ないんですのっ!!」ビシッ

409: ◆7Ub330dMyM 2018/01/29(月) 11:20:01.75 ID:NGx50bz8O
ジャン「(まぁ別に俺は自分の正体さえバレなきゃ)」

姫「王子のことを悪く言うんですの! お父様に報告してなかっことにしてもらうためにっ!!」

ジャン「(なりふりかまわず言いやがったな! なにが発言をなかったことにだ! お前最初からそのつもりだったな!)……できません」

姫「ムキーーーッ!! あなた! 国に帰れなくなりますわよ⁉︎」

ジャン「(使者を脅すなよ……)私がどうなろうと、それだけは」

姫「……」カチャ スラッ

ジャン「ひ、姫様? 暖炉に飾ってあるレイピアを握ってなにを……?」

姫「女はつつましく、男の三歩後ろに下がりついていく。そんなのは前時代的な考えなんですの」ズンズン

ジャン「は、はわわっ」ガタガタ

姫「女であろうと戦う。自分の幸せは自分で勝ち取る。良い時代とは思いませんこと? 使者よ」ニタァ

ジャン「す、鈴、鈴……」カサカサ

姫「お待ちなさい」グサッ

ジャン「いっ⁉︎ (さ、刺した⁉︎ ガチで俺の脚刺しやがったぞこいつっ⁉︎」

姫「どうせお父様がわたくしを守ってくれるんですの。人の一人や二人殺めても」ユラァ

ジャン「(お坊ちゃまが犯罪起こす時にありがちな思考回路⁉︎)ひ、姫? それはまずいですよ。俺使者ですよ」

姫「あなたを殺せば、破談になる、破談になる、破談に……」ブツブツ

ジャン「ひ、ひぃっ⁉︎ (メンヘラにクラスチェンジした⁉︎ やばい、だたやだやだ!俺はニートになるまで死にたくない! せめて自分の好きにやって死にたい!)」

姫「だぁ~いじょうぶですの。痛くない、すぐ終わりますからぁ」ニタァ

ジャン「(こ、この笑みは、10年前と同じ……! ま、またトラウマが……! あ、あぁぁっ!)」ガタガタ

姫「さぁ、覚悟するんですの――……」

410: ◆7Ub330dMyM 2018/01/29(月) 11:23:36.35 ID:NGx50bz8O




ジャン「――……やっ、やめてよっ!! 姫ちゃん!!」ブルブル






411: ◆7Ub330dMyM 2018/01/29(月) 11:38:51.62 ID:NGx50bz8O
姫「へ……?」ポロッ

ジャン「や、やめて。それはいかんて。それは……」ガタガタ

姫「その呼び方は……あなた……? やっ、やっぱりマスクを……!」グィ

ジャン「うっ、うっ、  が、痛い」スポッ

姫「……っ⁉︎ まさか、そんな、で、でも、面影が……」

勇者「汚された。汚されてしもうた……うっうっ」

姫「勇者? 勇者、なんですの? そ、そうだ! お尻見せるんですの!!」グィ

勇者「やだぁっ! またお尻!」ペカー

姫「こ、これは。聖痕……間違いない、勇者……なぜ、ハーケマルの使者だと……」

メイド「お嬢様!! 姫様!! なにをやってるんですか⁉︎ 開けますよ⁉︎」

姫「い、いけませんわっ!!」ダダダッ ガチャン

メイド「鍵閉めましたね⁉︎ 本当になにをやってるんです⁉︎」

姫「えーと、えーと、お、お待ちなさいっ!!」スポッ

ジャン「うっうっ」

姫「これで仮面は元通り。あとズボンも」ゴソゴソ

メイド「かまいません!! ドアをぶちやぶってください!!」

兵士「はっ!」

姫「今開けるというておる!!」タタタッ

――ガシャーーーン――

兵士「あ、あきました!」

メイド「姫様、いったい、なにを――……きゃ、きゃああああああっ⁉︎」

姫「はぁ、今開けるともうしたのに。なにを叫んでいるんですの」

兵士「……」ポカーン

メイド「ひっ、ひっ、ひっひっひっ、ひっ姫様、様」プルプル

姫「……?」

メイド「そ、そっそそそそっ、それはぁ?」

姫「どれですの?」クル

兵士「れ、レイピアが、使者様の太ももに刺さっておりますが……」タラ~

メイド「あふぅ」ドサッ

兵士「メイド様! 気をしっかり! 気絶なされた! お、おーい! 誰か!」

姫「足に刺したまんまなの、忘れてたんですの……」タラ~

412: ◆7Ub330dMyM 2018/01/29(月) 11:57:54.83 ID:NGx50bz8O
【クィーンズベル城 玉座】

王様「な、なんたることを……っ! なんということをぉっ!」ドンッ

姫「……」プイ

王様「~~ッ! なにをしでかしたかわかっておらんのかァッ!!!」ドンッ ドンッ

王妃「あまり怒られては血圧に……メイドよ。貴女がついていながらなんという失態です」

メイド「も、申し訳ございません! 申し訳ございません!!」ペコペコ

王様「前代未聞の出来事じゃ!! 友好国の使者を刺しただァッ⁉︎ しかも、姫が⁉︎ なにをされたというわけでもなくゥッ⁉︎」

姫「ぷっ、顔真っ赤ですわよ、お父様」

王様「お、お前は……っ、いったいどこで育て方を間違えてしまったのだ……! なぜ、このような……」

姫「押しつけるのが悪いんですの。私にできる意思表示をしたまで」

王妃「姫よ。あなたの感情のせいで外交問題に発展するのですよ……どれほどの心労が貴女のお父様の……民の不安に繋がるか考えないの……?」

姫「わたくしがいつ! そんなのを望んだって言うんですの⁉︎ ……それに、外交問題には発展しませんからご心配なく」

王様「な、なにィ? 使者だぞ? こちらが弱みを握られるのだぞ?」

姫「わたくしが解決してみせます。その方法も心得ております。お父様とお母様はどーんと大船になった気持ちでお待ちくださいませ」

王様「こ、こやつは……なんと」プルプル

王妃「あ、あなた。落ち着いて」

王様「使者が回復次第、ここに連れてまいれ。ワシ直々に頭を下げる」

姫「ですから、その必要はありません」

王様「お前がなくてもワシにはあるんじゃ!!」クワッ

王妃「姫は一週間の自部屋謹慎処分です。事態が落ち着いたら、また追加で罰を与えます」

王様「よいなっ⁉︎ お前はもうなにもするな!! この件には一切かかわるな」

姫「いいんですの? 本当にあっというまに解決できますのに」

王様「メイド!! この大馬鹿娘をはやく部屋に連れてゆけっ!!!」クワッ

メイド「は、はいぃっ!! かしこまりましたぁ!!」

413: ◆7Ub330dMyM 2018/01/29(月) 12:18:49.46 ID:NGx50bz8O
【クィーンズベル城 通路】

姫「るんたったらん♪」コツコツ

メイド「ひ、姫様、あの、上機嫌ですけどご自分がなにをしたのかご理解していらっしゃいます?」

姫「不安がってるようですわね。さっきも言ったでしょ? 大船に乗ったつもりでいろと」

メイド「や、やってしまった姫様が言える台詞じゃ」

姫「だいたい回復魔法ですぐに治るんだから騒ぎすぎなんですの。使者はどこですの?」キョロキョロ

メイド「な、な、な、なぁっ⁉︎ この後に及んでまだなにかやろうと⁉︎」

姫「懐かしい友人に会いにいくだけですの」

メイド「……へ? 懐か、しい?」

姫「貴女も知ったら驚くんですの。仮面の下はヤケドなんてありませんでしたよ」

メイド「へ? そ、そうなんですか? じゃ、じゃあウソ?」

姫「いいからはやく案内するんですの」

メイド「で、でもっ……姫様がウソついてる可能性が」

姫「わ、私を疑うんですの?」ヒクヒク

メイド「だって、こんなことしでかす人を!!」

姫「まぁ、本当にハーケマルの使者でも同じことをしてたでしょうけど」

メイド「な、なんという……!」

姫「それはそれ。これはこれです。今回は違ったのですからよしとしましょう」

メイド「……本当に違ったのですか? ハーケマルの使者では……?」

姫「さぁて♪ あなたも見ればわかるんですの♪」

414: ◆7Ub330dMyM 2018/01/29(月) 16:48:18.49 ID:vTFPOFUKO
【クィーンズベル城 南西方向 廃墟】

ガンダタ「飯だ」

見張り番「おっ、やっと飯か。……ん? なんだそれは。なんで2つも持ってんだ? まさか、あいつの分か?」チラ

少年「……」

見張り番「いらねーよ! もったいねぇ、よこせ、俺が食う!」グィ

ガンダタ「人質は生きてなくちゃ意味がねぇ。お頭からの指示だ」

見張り番「お、お頭ァ? ほんとかよ、それ」

ガンダタ「ああ」

見張り番「チッ、だったらしょうがねぇか。俺は酒とってくる。ガンダタさんよ、その間見張り番頼んだぜ」テクテク

ガンダタ「……」スッ

少年「……」ビクゥ

ガンダタ「……飯だ、食え」コト

少年「い、いらない。ねぇ、家に帰して。なんでここに連れてこられたの、家に帰してよ……うっ、うっ」

ガンダタ「食わなきゃ力つかねーぞ」

少年「……」

ガンダタ「お前は単なる人質だ。生きてさえいりゃ家に帰れるだろうよ」

少年「ほ、ほんとう……? お姉ちゃんに、また会える?」

ガンダタ「希望にすがるのはおめぇの勝手だが、不確定な部分もある。……とにかく、今は食って体力を確保しろ。それがお前のすべきことだ」

少年「うっ、うっ」ポロポロ

ガンダタ「メソメソすんじゃねぇ! ……俺もお前も境遇は一緒よ」

少年「……?」

ガンダタ「牢にいれられ、虎視眈々と脱出を狙う。這い上がるチャンスをな。お前はその機会が与えられるのをただ待ってるだけだがな」

少年「……な、なに言ってるのか、意味が……」

ガンダタ「わからなくていい。見張り番の気が変わっちまったら、取り上げられちまうかもしれねぇぞ」

少年「うっ」ぐぎゅるる~

ガンダタ「腹、減ってんだろ?」ススッ

少年「よく、わからないけど、ありがとう、おじちゃん」カチャ

ガンダタ「おじちゃんじゃねぇ。俺の名前はガンダタ。いずれアレフガルドの大盗賊団の長になる男よ」

少年「へ、へー」

ガンダタ「ふん、今はこんな場所にいるけどよ。必ず這い上がってみせるぜ」

少年「うん」パクっ

ガンダタ「(旅の若僧め、えらそーに説教たれてきややがって……! お陰でこっちはあの後手下どもに逃げられ……アデルで、だ、大工仕事だぁ? いまさらできるかよ!!)」プルプル

見張り番「おぉ~い、すまねぇな」テクテク

ガンダタ「(見つけたらただじゃおかねぇぞ! ぶち殺して、やつに渡された銀細工を……)」

見張り番「どうだい、お前も酒飲む――」

ガンダタ「ごちゃごちゃうるせェッ!!」ブン

見張り番「え? ちょ……っ⁉︎ うっ!」ドゴォッ

ガンダタ「あっ」

見張り番「」ドサッ

少年「あ、あわわっ」ガタガタ

ガンダタ「し、しまったぁぁぁっ!!」

415: ◆7Ub330dMyM 2018/01/29(月) 17:09:54.99 ID:vTFPOFUKO
少年「……」ブルブル

ガンダタ「ま、まずいぞ。大人しくしてるつもりが、つい、はずみで」チラ

少年「こ、殺したの?」

ガンダタ「(ど、どうする。このガキがやったことに、ええぃ、できるはずがねぇ。喧嘩の末にやっちまったって感じに――)」

少年「こ、こわいよぉ、お家帰りたいよぉ」ポロポロ

ガンダタ「側で泣くな!! 今考えてるんだからよ!」

少年「ひっ」ブルッ

ガンダタ「ちくしょおぉぉっ、仲間内での殺しはご法度だ。例え喧嘩だとしても、許されるもんじゃねぇ……くっ、なんてこった……こ、ここまでか」

少年「お姉ちゃん、お姉ちゃぁん」

ガンダタ「泣きてえのはこっちも同じ……ん? お姉ちゃん?」

少年「うっうっ、ぐすっ」

ガンダタ「おい、ガキ。おめぇ、そういやなんで人質になってんだ?」

少年「し、知らないよぉ」

ガンダタ「(クソ、イライラさせるガキだ。……いや、まてよ。まだ生き残る道があるかもしれねぇ、このガキを使やぁ)」スタスタ

少年「ひっ、な、なに……」

ガンダタ「――ついてこい。ここから逃げるぞ」

少年「えっ⁉︎ お家に帰れるの……?」

ガンダタ「家には帰れねぇが」

手下「が、ガンダタ……おめぇ、なにしてやがる……」

ガンダタ「……っ⁉︎」ギョ

手下「酒が足りねえだろうと思って、来てみりゃ……まさか、お前、裏切るつもりじゃ⁉︎ お、お頭らァッ!! みんなぁっ!!!」

ガンダタ「チッ」ヒョイ

少年「うっ、わっ」

手下「人質を担いでどうするつもりだ! そいつは――」

ガンダタ「ごちゃごちゃうるせぇよ」ヒュッ

手下「うっ」グサッ

ガンダタ「(手持ちの投げナイフは今ので最後か)」スチャ

手下「う、ううっ」ドサッ

ガンダタ「急所は外してある。お頭に伝えな。人質を返してほしけりゃ、追って連絡を待てとよ」

手下「ぐっ、ガンダタァっ! 身内殺し、裏切りはこの業界じゃご法度だと知らねーおめぇじゃねぇだろ!!」

ガンダタ「まともなことやってちゃ時間がかかるのよ。それに、なにがご法度だ。俺もお前も、社会のはみ出し者だろうが」

手下「ぐっ、ぐぬぬっ! 許されるこっちゃねぇぞ! ガンダタァッ!!」

ガンダタ「……なら、追ってこい。誰も止めやしねぇよ。お前らも止まるつもりねぇだろうがな」

少年「お、お家、帰りたい」

ガンダタ「(クィーンズベル城で働くメイドの弟だったな。こうなっちまったらしょうがねぇ、やるとこまでやるっきゃねェッ!! 男ガンダタ、ただでは死なねぇぜっ!!」

416: ◆7Ub330dMyM 2018/01/29(月) 17:20:52.93 ID:vTFPOFUKO
~~第3章『砂漠の花と太陽と雨と』~~(前編)


433: ◆7Ub330dMyM 2018/01/31(水) 13:59:27.91 ID:YvuJAF6kO
【数十分後 廃墟】

お頭「そうかい……ガンダタの野郎。ついに裏切りやがったか」グビッ

手下「お、お頭ァ! そんな悠長に酒飲んでる場合じゃねぇですよ!」

お頭「騒ぐことはねぇ。あいつはいつか裏切ると思ってた」

手下「……え? そ、それなら、なんで?」

お頭「“目つき”よ。目は口ほどに物を言うっていうだろ。ありゃあ下につくやつの目じゃねぇ。下克上を考えてるやつのモンよ」

手下「だったらなんで手下に加えたんでさぁ⁉︎」

お頭「こうなると予測はついてたっつったろ? まさか……人質をかっさらうとは思ってなかったが」

手下「ガンダタがいなくなって、見張り番を殺られちまったのもかまいやしません。でも、人質は……!」

お頭「計画にケチがついた。おめェはそう言いてんだろ?」

手下「うぐっ」

お頭「修正すりゃいいのよ。予定が狂ったんなら。……やるべきことをやるだけで慌てたってなんにもならねぇ」

手下「なら、すぐに追っ手を!」

お頭「ああ。馬10頭とそれに見合う人数で走らせろ。見つけたら殺せ」

手下「へ、へいっ!」タタタッ

お頭「(ガンダタよ。おめェに一目置いてたんだぜ? 人質掻っ攫われた俺と、行動を起こしたお前。ヘタ打ったのはどちらか、白黒ハッキリつけなくちゃいけねぇみてぇだな)」

手下「あ、そ、そうだっ!」ピタッ

お頭「ん……? どうしたい?」

手下「城に潜伏させてる密偵から連絡がありましてね。なんでもハーケマルの使者がきてるらしいです」

お頭「あ? 使者ァ?」

手下「へい。なんでも、王子来訪に先駆けてだそうで」

お頭「そりゃ都合が良い。水が干上がっちまってるのがバレちまうだろ」

手下「そ、それが……。王も黙って成り行きを見守るつもりはないらしく、法王庁と協議に入ったとか」

お頭「なんだとォ?」

手下「おそらく、援助を要請する腹づもりでしょうね。長期化しても耐えられるように」

お頭「……まじィな。ガンダタよりもそっちのが問題だ。計画がご破算とかしちまう」

手下「どうしやしょう? 予備も含め王子来訪に合わせて水不足に陥っていなきゃ」

お頭「(法王庁か。やつらの援助で水を確保できりゃ、俺らがいくら干上がらせたところで……)」

手下「いっそのこと、こちらも長期化させて、王子来訪の後にズラしますかい?」

お頭「バカやろ。どれくらいの金と期間をかけて下準備してきたと思ってやがる。それまでこっちの体力がもたねぇの。小銭稼ぎじゃ給料が払えなくなっちまう」

手下「う……」

お頭「しかたねぇ。さらに金をばらまくか。……おい」

手下「へ、へい?」

お頭「潜伏してる手下に伝えろ。使者ってやつが金で動くかどうか確認しろとな」

手下「へい!」

お頭「(全てが計画通りとはいかねぇか。だが、それでこそやりがいがあるってもんよ)」

434: ◆7Ub330dMyM 2018/01/31(水) 14:42:42.78 ID:YvuJAF6kO
【クィーンズベル城 癒しの間】

ジャン「(うぅ……ここは……)」

神職「ルビスよ。聖なる守護者よ。彼の者を癒し給ええ」ポワァ

ジャン「(……回復魔法……そうか、また気を失ってたのか。自由に動けてもクソ姫とエンカウント率高かったらたまらんぞ……)」

姫「ここかしら⁉︎」バターーンッ

メイド「姫さまぁっ!」

神職「ひ、姫さま?」

ジャン「(思ってるそばからぁ⁉︎ まだ、寝たふりしてよう)」

姫「神職、あなたはもう下がってよろしくてよ」

神職「し、しかし、目が覚めたら玉座にお通ししろと仰せ司っております」

姫「後はこのわたくしとメイドが面倒を見ます」

ジャン「(ひ、ひぃっ⁉︎ なんでこいつはこうも俺にまとわりついてきやがる!)」

神職「王様は、姫さまは謹慎処分だと」チラ

メイド「う、うぅ」オズオズ

神職「メイド。王に報告いたしま――」

姫「貴女。誰に向かって、誰の専属メイドにモノを申しているんですの?」ギロ

ジャン「(負けるな! 神職さん! あんたは正しい! 責務を全うしようとしている!)」

神職「うっ、し、しかしですね」

姫「まさか? まさかねぇ? たかが宮使いの神職が姫直属の従者に向かってそのような……」

神職「王令は、姫さまと言えど」

姫「おだまりなさいっ!!」バンッ

神職「……っ!」ビクゥ

姫「その王の血を引く者に向かってなんたる無礼なっ!!」

神職「そ、そのようなつもりは」

姫「いいえ、そう聞こえます。嫌というほど聞こえます。貴女がわたくしを軽視していると」

神職「わ、私はただ、王令を尊守しているだけでございます」

姫「チッ。しつこいですわね」

ジャン「(王に報告しろ! 今すぐ報告しろ! どんだけ甘やかされて育ってやがる! こんなのは横暴だ! 許されないよ!)」

メイド「姫さま……。神職殿のお立場も考慮なさってください。彼女は与えられた責務を」

姫「なんでも責務責務。……ふう。わかりました。十分外にでておれ」

神職「……」チラ

メイド「こ、今度は、私もそばについておりますので」ペコペコ

神職「……わかり、ました。十分だけです」

姫「誰にモノを申しておるか。わかったならとっとと出て行け」

ジャン「(だ、だめだぁっ! 行かないで! 友よ! この城の良心よ! 神職さまぁ!)」

神職「失礼致します」ペコ

435: ◆7Ub330dMyM 2018/01/31(水) 15:08:09.43 ID:YvuJAF6kO
ジャン「(い、いって、しまわれた。目を覚ましてやりすごさねば……)」

姫「メイド。よく見ておくんですの」コツコツ

メイド「い、いったいなにをされようというのです?」

姫「この者の正体。なぜハーケマルの使者と名乗っていたのか……」

ジャン「(な、なに……? 正体だと?)」

メイド「先ほども言っていましたが、ハーケマルの使者ではないのですか……? では……ハッ! ま、まさか⁉︎」

ジャン「(こ、こいつ……っ⁉︎ 俺が気絶してる間に仮面とりやがったな⁉︎ やっぱり顔覚えてやがったのか!)」

メイド「な、なりません! 姫さま!」ガシッ

姫「えっ、ちょ、な、なぜ止めるんですの? 貴女も知ってる懐かしい――」

メイド「ま、まさか、姫さまにまで接触していたなんて……!なりません! 危険です!」

ジャン「(……? な、なんだ?)」

メイド「(そうよ! まさか盗賊の一味が毒牙を……! 姫さまだけは巻き込んじゃだめ!!)」

姫「な、何言ってるんですの? 危険なはずがありませっ、はなっ、離しなさい」グィ

メイド「私におまかせくだっ、さいっ! 危害が及んでは王に顔向けできなくなります!」ググッ

姫「あ、貴女、ちょっと、なにか勘違いしてるんじゃありませんこと⁉︎」

メイド「いいえ! 姫さまこそ! この人達は危険なんです! ご自分のお立場と御身をご理解ください!!」

姫「……っ!」カチーンッ

メイド「だいたい! 姫さまはいつもそうです! 小さい頃は泣き虫だったくせに! 勇者様と会ってからはすぐ調子に乗るようになって!」

姫「なんですのっ⁉︎ 貴女だって昔はニコニコ笑うだけの引っ込み思案だったくせに! お姉さん風吹かせてたのは最初だけ! 後は私の後をぴょこぴょこついてきてでしょ⁉︎」

メイド「……っ!」カチーン

姫「歳を重ねるにつれて姫さまお嬢様と!」

メイド「それを言うんだったら言わせてもらいますけどねっ⁉︎ 姫さまは本当は芯が脆いんじゃないんですか⁉︎ 私がいなくなってもいいんですかっ⁉︎」

姫「なっ、ななななぁっ⁉︎ 貴女、自分をなんだと⁉︎」

ジャン「……あの」ムク

メイド「本当はさみしいだけでしょ! 今だって私がいなきゃ着替えもできないのに!」

姫「で、できますわっ! 貴女こそ!」

メイド「……私がなんだって言うんです?」

姫「ぐっ、ぬぬっ……!」

ジャン「いや、あの~、もしも~し」

メイド「いいんですよ~? 昔みたいに泣き虫になっても? ハンカチ貸してあげますからぁ」

姫「あったまきた! 頭きたんですの! 戦争ですわ!」

メイド「なにが戦争ですか! いつまでも子供みたいなこといって!」

ジャン「……おい、お前ら」

姫&メイド「なんですの(か)っ⁉︎」

ジャン「なんでもないです。どうぞ、お続けください」

姫「このクソメイド!! そんな思い込みが激しいからなんでもかんでもすぐポカやるんですの!!」

メイド「あーあー、聞こえませーん。子供姫に言われたくありませーん」

ジャン「……ふぅ」テクテク

姫「耳腐ってるんじゃありませんこと⁉︎」

メイド「幼児退行してるんじゃありません⁉︎」

ジャン「ごゆっくり」パタン

436: ◆7Ub330dMyM 2018/01/31(水) 15:27:01.23 ID:YvuJAF6kO
【クィーンズベル城 通路】

神職「目が覚められましたか」

ジャン「あ、どうも」ペコ

神職「部屋の中からなにやら喧騒な声が」

姫&メイド『――――ッ!!』ギャアギャア

ジャン「喧嘩するほど仲がいいと言いますしね。そっとしておきましょう」

神職「は、はぁ。傷は塞がっておりますか? 痛みなどは?」

ジャン「おかげさまで」

神職「回復力が良いのですね。羨ましいですわ。まるで精霊に愛されているかのよう」

ジャン「大袈裟ですよ。それより、少し城の中を散策したいのですが」

神職「王が会いたいと仰っておいでです」

ジャン「(まぁ、姫が使者を刺したとなればそうなるか)……私は気にしておりませんが」

神職「寛大なお心とお申し出に感謝致します。しかし、事がコトですので、なにもなしというわけにも……」

ジャン「一国の王の申し出ですしね。お誘いを無碍に断ってもカドが立ちますか」

神職「さすがハーケマルの使者様でございます。どうか、我が王を安心させてはいただけませんでしょうか」

ジャン「(弱ったなぁ。俺もボロがでそうだからできれば会いたくないんだけど……かと言って、会わないというわけにも)」

衛兵「神職殿。……と、こちらの方は、ハーケマルの使者様ですね」

神職「これはこれは。お勤めご苦労様です」

衛兵「国王陛下がお呼びです。目が覚め次第、お連れせよと」ペコ

ジャン「ふぅ、わかりました。行きますよ」

神職「ありがとうございます」

ジャン「(今さらだけど、こうなるんだったら忍びこめばよかったなぁ)」ポリポリ

437: ◆7Ub330dMyM 2018/01/31(水) 15:53:29.37 ID:YvuJAF6kO
【クィーンズベル城 玉座へと続く階段】

衛兵「この度は、災難でしたね」コツコツ

ジャン「あぁ、いえ」

衛兵「我々も姫のおてんばぶりには手を焼いているのですよ。トホホ」

ジャン「(同情するわ)」

衛兵「ところで、使者様の生家は名家なのでしょうか?」

ジャン「なぜ、突然?」

衛兵「い、いえ。私は平民出ですので、少し興味が。使者という大役を任せられるとはどのような家柄だろうかと」

ジャン「(俺も普通の家だぞ)たいしたことはございません。我が家系は王に代々使えているだけのこと」

衛兵「やはり。謙遜しておいでなのでしょうが、裕福なのでしょうね」

ジャン「いえいえ、ちっぽけな家でございますよ」

衛兵「またまたご謙遜を」

ジャン「(そういや、勇者特典で王様から支給されてた300万ゴールドはいったいどこへ……夫婦の旅費に消えたんだろなぁ)」

衛兵「……まさか、お金にお困りなのですか?」

ジャン「いえ、困っているというわけではないと思いますが。私が買ってもらったのは竹とんぼなんですよ」

衛兵「た、竹とんぼ……?」

ジャン「はい」ガックシ

衛兵「それは、つまり、お小遣いがなかったと? 教育が厳しくて」

ジャン「厳しい……かは甚だ疑問ですが、自由に使えるお金はなかったですね」

衛兵「ほ、ほうほう! それでしたら! お金があればどんな使い方をしたいです⁉︎」

ジャン「お金があれば……ですか?」

衛兵「パフパフをしてみたり?」

ジャン「(そうやなぁ、それもいいな。ぐへへ。今の金で豪遊すると魔法使いとかがうるせぇだろうしな)」

衛兵「ギャンブルもしてみたり?」

ジャン「い、いいですね」ニマ

衛兵「そーですか! そーですか! 使者様とは気が合いそうですね!」

ジャン「男ならみんなそんなもんでしょう?」

衛兵「たしかにたしかに! たまぁ~にいるんですよ! 堅物が!」

ジャン「何が楽しくて生きてるんでしょうね」

衛兵「いや! まさにその通り! ごもっとも! ……使者様においしいお話があるんですが、どうです? 今夜、酒場で一献」

ジャン「今夜ですか? いや、今日は城に泊まると」

衛兵「城下町の視察だって言って抜けりゃいいじゃないですか! 可愛い子つけますよ? パフパフッ。パフパフッ」

ジャン「う、ううん」

衛兵「    でパフパフっ。パフパフっ」ワキワキ

ジャン「ご、ごほん。なにやら重要な話みたいですね」

衛兵「(チョロいな! こりゃあお頭が喜ぶぞ!)……楽しい夜になりそうですな。ぐふっ、ぐふふっ」

ジャン「衛兵よ。お主もワルよのぉ、ぐふっ」

ジャン&衛兵「ぐふふふふっ」

438: ◆7Ub330dMyM 2018/01/31(水) 17:24:58.09 ID:Ks50AJWbO
【クィーンズベル城 玉座】

王様「本当に、ウチのバカ娘が申し訳なんだ」

ジャン「私は気にしておりません」

王様「う、む。そう言ってくれるのはありがたいのだが。どうだろうか、本心を聞かせてもらえぬか」

ジャン「と、申されますと?」

王様「国を代表する使者として来場している身。母国に忠あればこそ、報告する理由があろう」

ジャン「(あのおっちゃんもだいぶ白髪が目立つようになってんな。喋り方まで。苦労してんだろな)」

王妃「陛下同様、妾も身体に大事ないか心配しておった。傷の具合はどうか……?」

ジャン「(なんでこんなできた親からあんな娘が。……甘やかしだろうな。原因は)神職様に手厚い治療を受けまして、この通り。すっかり傷も癒えましてでございます」

王妃「いつもの貴族ではないようですが……」

ジャン「(ぎ、ぎくぅっ!)あの方は流行りのインフルエンザにかかっておりまして」

王妃「まぁ……そうであったか。北では難病が流行っておったか」

ジャン「収束傾向を見せておりますのでご心配なく」

王妃「ハーケマルに戻った暁には、私も民たちの安全と健康を心より祈っていると伝えておくれ」

ジャン「御意」ペコ

王様「話を戻すが、なにか、望みの物はあるか?」

ジャン「(賄賂だな。物を与えるかわりに黙ってろと。すんなり黙っていますでは忠義がないと判断して、受け取らなければ信用しないつもりか)……では、出立の際に金貨を10万ゴールドほど」

王様「……ふむ、よかろう」

王妃「気を悪くしないでね。これもまた、政治なのです。両国が正しく、良い関係を続けるための」

王様「うむ。お主の国に対する忠義を疑っているわけではない、ただ、保険として――」

ジャン「陛下のご意向。私もしかと感じております。両国の発展と、民が安心して暮らせるのならば、是非もなく」

王様「ほっ⁉︎ ほっほっ。優秀な若者……仮面をかぶっておるからわからんが、優秀であることに違いない」

ジャン「(いやぁ、ホントは素顔で会いたいんだけどね。クソ姫がいるからね)」

王妃「貴方の家柄を取り立てるよう、私からハーケマル王に文を持たせましょう。今後の使者としても」

ジャン「いっ⁉︎ そ、それは、さすがに出来過ぎといいますか」

王様「謙虚な。……国を想う心がそうさせるのか。うむっ! 気に入った!」バンッ

ジャン「陛下。そんないっときの気分で人事を」

王様「ワシの見る目を疑うというのかの?」ギロッ

ジャン「(こ、こいつら……っ! やっぱり親子やんけ!)」

王妃「陛下は一度言い出したらきかぬ頑固者なのです。まったく、あの娘も変なところばかり似て」

王様「だから可愛いのよ」

王妃「ええ、そうですね。ふふっ」

ジャン「(甘やかしてる片鱗を見た気がする)」

王様「使者よ。此度の来訪の目的は隠密での視察だと聞いておるが」

ジャン「はい」

王妃「ハーケマル王も人が悪い。私にさえ秘密にするなんて」

王様「自由に見て回るがよい。大臣よ。この者に、首飾りを」

大臣「かしこまりました」ゴソゴソ

王様「使者よ。心して聞け。今から渡すものは、王家代々伝わる由緒正しき宝具。それを身につけてさえおれば、王族同等の扱いを受けるであろう」

ジャン「畏れ多い。よろしいのですか?」

王様「たかだか10万ゴールドなどはした金で水に流してもらったのだ。こちらも器量を見せねばな。ここに滞在する間のみの貸し出しだが」

王妃「これも、クィーンズベル王陛下のご采配があればこそ……ハーケマルの使者とはいえ、寛大さに感謝するように」

ジャン「はっ!」ドゲザ

439: ◆7Ub330dMyM 2018/01/31(水) 17:48:48.08 ID:Ks50AJWbO
【クィーンズベル城 通路】

ジャン「宝具ねぇ」キラン

メイド「玉座に向かったと……ならば、こちらに……」キョロキョロ

ジャン「なにか特殊な付加効果あったりすんのかな。ただの飾りか……それにしても、久しぶりだった。おっちゃんにあったの」テクテク

メイド「……いたっ! 見つけた!」ダダダッ

ジャン「ん……?」クルッ

メイド「めぇいどぉ~~キィィィィック!!」ドゴォッ

ジャン「ぐはっぁ⁉︎」ドサッ

メイド「……はぁっはぁっ……」

ジャン「あ、あ……? な、なにしやが――」

メイド「姫さまをどうするおつもりです⁉︎ 弟だけではなく姫さままで!!」

ジャン「はぁ?」キョトン

メイド「いつから接触していたのですか⁉︎ 見取り図を渡せといってきたのはつい最近の出来事でしょう⁉︎」グイッ

ジャン「お、おい。ちょっと落ち着け」

メイド「姫さまをどうするおつもりですか! 姫さまを姫さまを姫さまを姫さまを姫さま姫さまをっ!!」ブンブン

ジャン「お、おおっ、おちっふるなっ、ガクガクさせるなっ、ままっまたんかいっ」ガクガク

メイド「私が仕事をしないからですか⁉︎ 弟を人質にとるだけではなく姫さままで⁉︎」

ジャン「ひ、人質……?」

メイド「うっ、うっ、わかりました。城内の見取り図はお渡しします。ですから、もう、姫さまだけは勘弁してくださいまし……」ガクッ

ジャン「いや、あの」

メイド「弟にも、会わせてくださいまし。お金が目的なら、それでいいでしょう⁉︎」キッ

ジャン「う、うん?」

メイド「……弟を助けだしたら、王に罪を告白して、自決します」スッ

ジャン「お、おい」ポカーン

メイド「本日の夜。城下町の酒場に来てください。……そこで、約束の物をお渡しします」

440: ◆7Ub330dMyM 2018/01/31(水) 18:16:00.45 ID:Ks50AJWbO
【10年前 クィーンズベル城 中庭】

姫「ねぇ、ゆうしぁ? おままごとしない~?」

勇者「ええ、またぁ? 姫が奥さんでメイドが愛人の? やだよ。飽きた」

姫「……うっ、うっ、ひぐっ……い、いやなのぉ?」

メイド「お、じょうさま、はんかち」ゴソゴソ

姫「いやだっていわれちゃったぁ……ひぐっひぐっ」

勇者「……泣くことないじゃないか」

姫「あああああんっ!! びいゃあああっ!!」ポロポロ

メイド「な、泣かない。泣かない。お鼻、ちーんっ」スッ

勇者「ちぇ。……ただいま。今日もつかれたなぁ」ドサッ

姫「……? ん、すんっ、すんっ」

勇者「今日のゴハンなにかなぁ」

メイド「お、おじょうさま。ほら」ニコニコ

勇者「泥団子まだかなぁ」

姫「ち、違うもん。そうじゃないもん、ひぐっひぐっ」

勇者「違うのぉっ⁉︎ 役が違った⁉︎」

姫「うっ、診察、ごっこっ、すんっ」

勇者「しんさつぅ?」

姫「わたくしが、お医者さんで、ゆうしゃは患者さん。メイドはナース」

441: ◆7Ub330dMyM 2018/01/31(水) 18:17:10.12 ID:Ks50AJWbO
勇者「な、なに、それ」

姫「今日はどうしましたかぁ?」

勇者「うっ、や、やだよ。やっぱり」

姫「ぴっ⁉︎ ま、まだやだっでぇ……!」

メイド「ゆ、ゆうしゃさま」ジー

勇者「……お、お腹いたいです」

姫「そうなんですかぁ? じゃあ見せてくださいっ!」

勇者「み、見せるの?」チラ

メイド「……」ジー

姫「見せてくださいっ!」ニッコニコ

勇者「わ、わかった。はい」グィ

姫「うーーん」ピト ピト

勇者「……」

姫「これはいけませんねぇ! 手術です!」

勇者「え……?」

姫「メイド! 患者さまを四つん這いに!」

メイド「はい、おじょうさま」

勇者「え? え?」

姫「だぁいじょうぶぅ。ちょこっとちくっとしますからねぇ」

メイド「あ、あの、おじょうさま。なにを」

姫「ニンジン! 生えてたんですの!」ニタァ

勇者「ちょ、なにするつもりっ⁉︎」

メイド「おじょうさま、勇者さま、嫌がって」オズオズ

姫「逆らうんですのぉ?」ニタァ

メイド「……」ガシッ

勇者「メイド、ちゃん? な、なんで抑えてるの?」

姫「おーほっほっほっ! 天井のシミ数えてる間に終わるからねぇ」

勇者「ひっ、や、やめて、いや」

姫「さきっちょだけ。さきっちょだけ」

勇者「や、やめてっ! あ、アッーーーー!!!」

442: ◆7Ub330dMyM 2018/01/31(水) 18:34:57.07 ID:Ks50AJWbO
【クィーンズベル城 姫の自室】

姫「懐かしいですわ。なにもかも――」ゾク

勇者『姫ちゃん! やめて! そこは違う! 穴が違う!』

姫『おーほっほっほっ! ならどこの穴ならいいんですのぉっ!』グリグリ

姫「――なにもかもが、懐かしく、また……いつまでたっても色褪せることはない、うふっ、うふふっ」ゾクッゾクッ

メイド「……ただいま、戻りました……」パタン

姫「もう帰ってきたんですの?」プィッ

メイド「先ほどのやりとり、まだ怒っておいでなんですか?」

姫「当たり前ですわ! というか、さっきの今でしょう! わたくしにあのような無礼千万なことをツラツラと!」

メイド「そ、そうですね。ついカッとなり、失礼いましました」ペコ

姫「なんですの……? いきなり」

メイド「姫さまは、私が守ります」

姫「……? あ、さっき伝えそびれていたんですけれどね、ハーケマルの使者というのは――」

メイド「姫さまはァッ!! 私がッ!!守護(まも)りますッ!!」クワッ

姫「……っ!」ビクゥッ

メイド「私、これまで、勘違いしておりました」

姫「は、はぁ?」

メイド「立ち向かわなければならなかったのです。怯えるのではなく! その、せいで……! 姫さままで!」

姫「いったい、なにを」

メイド「ハーケマルの使者のことは、お忘れください。私がカタをつけてまいります」

姫「ちょ、ちょっと?」

メイド「必ずやっ! この命にとしても!」

姫「……そ、そう」タラ~

メイド「貴女は死なないわ……。私が守るもの」スッ

姫「……」

メイド「では、準備がありますので、私はこれで」

姫「が、がんばってね?」

メイド「御意」ペコ

443: ◆7Ub330dMyM 2018/01/31(水) 21:28:02.30 ID:YvuJAF6kO
【夜 城下町 酒場】

バニーガール「いらぁっしゃぁ~いん♪」

ジャン「お、おう」

バニーガール「あらぁ? その格好は貴族さまぁ~ん? パフパフ……い・か・がぁ?」

衛兵「ジャン殿! ここ! ここ! ここですよぉ!」フリフリ

バニーガール「衛兵さんのお連れだったのぉ~ん?」

衛兵「今日もかわいいねぇ、可愛い子三人テーブルにつけちゃってよ。チップは弾むからさ、これぐらいでどう?」スッ

バニーガール「んもぅ、しかたないわねぇ~ん」カサ

衛兵「ジャン殿。遅かったですね!」

ジャン「ちょっといろいろと見て回ってたもんで」ガタッ

衛兵「何飲まれます! 席についたらなにか飲まなくちゃ!」

ジャン「じゃあ、カクテルを」

衛兵「貴族さまは小洒落てますなぁ! おーい! なんかカクテル! あ、おしぼりどうぞ」スッ

バニーガール「ただいまぁん♪」

衛兵「どうですか? クィーンズベルは。都会なようでなんにもない街でしょー? 賑わっちゃいますが」

ジャン「活気があるのは良いことですよ」

衛兵「そうは言うてもですねぇ、実がないと田舎となにも――」

メイド「た、たたたたのもうっ!!」バターーンッ

店内「……」シーン

メイド「~~~ッ!! あ、あのっ!」

バニーガール「メイド喫茶と間違えたのかしらぁん?」

店内客「わははっ! ねーちゃん! そんな力いっぱい扉開けたらびっくりするだろうがっ!」

衛兵「……っ⁉︎ あ、あいつっ⁉︎」ガタッ

ジャン「お知り合いですか……?」チラ

衛兵「い、いえ、そ、その」

バニーガール「どうしたのぉ? ここはメイドさんが来る場所じゃ」

メイド「人と、待ち合わせしているんですっ!!」

バニーガール「そ。ミルク、でいい?」

店内客「ぎゃっはっはっ! かわいそーだろ! 俺の席につけてくれよ! そのメイドねーちゃん!」

バニーガール「あらぁ? うちの子じゃ不満~?」ギロ

店内客「うっ! そ、そうは言っちゃいねぇが」タジ

444: ◆7Ub330dMyM 2018/01/31(水) 21:42:55.21 ID:YvuJAF6kO
メイド「……」キョロキョロ

衛兵「うっ」ササッ

ジャン「どうなされました? テーブルの下に隠れて」

衛兵「い、いえ。小銭を落としてしまったもので」

メイド「……あ、あんなところに……!」ズンズン

ジャン「(ふーん。やはり、メイドの狙いは俺か。あれから城の中を調べてみたが、さしたる収穫はなし。鏡についてもどれがどれやら――)」

メイド「お、お待たせしましたっ!」

ジャン「――あぁ」

衛兵「お、お前ッ!! なんでここに! 俺を探していやがったな⁉︎」ガバッ

ジャン「あ……?」チラ

メイド「や、やはり……! 一緒にいるということは! あなたも盗賊の一味で間違いないようですね!」

ジャン「あなた、“も”?」

衛兵「ばっ⁉︎」アタフタ

ジャン「(おやおやぁ? これはもしかして、もしかすると、とんでもないマヌケな図式になってるんでない?)」

メイド「裏でこそこそと結託して!! 恥ずかしいという気持ちはないのですかっ⁉︎ 挙句に姫さままで!!」

衛兵「……ひ、姫?」

メイド「とぼけたって無駄です!! あなた方が二人でいることがなによりの証拠!!」バンッ

衛兵「ジャ、ジャン殿。少々席を外しても?」

ジャン「ええ、かまいませんよ」

衛兵「バニーガール! 奥の個室使わせてもらうよ!」

バニーガール「ご自由にぃ~」

衛兵「おまえ、ちょっとこいっ!!」グィッ

メイド「いたっ、はな、離しなさいっ!」タタタッ

ジャン「やれやれ。これが衛兵とメイドで彼氏彼女の関係なら、ここでお幸せに~で帰るんだけどねぇ」

445: ◆7Ub330dMyM 2018/01/31(水) 22:05:10.06 ID:YvuJAF6kO
【酒場 個室】

衛兵「な、なにしにきやがった⁉︎ 俺はこれから大事な接待をするところで!」

メイド「……」ゴソゴソ

衛兵「ああっ、ちくしょう! 絶対怪しまれちまった……警戒心を解くのが肝心なのに……どうしてくれんだよ、ったく」

メイド「これです! これが目的だったんでしょう!」バンッ

衛兵「そりゃぁ、もしかして、城の見取り図か⁉︎」

メイド「夕食の配膳係を変わっていただき、その際に宝物庫の鍵をとり。忍びこみ持ってきました」

衛兵「これは、原本か? そうなんだな?」

メイド「はい。間違いございません。……さあ、約束の品は渡しました」

衛兵「これがこうなって……ふんふん、おお、こんなところに隠し通路が……こっちにも! 隠し階段が!」

メイド「弟はどこなんですかっ⁉︎ 会わせててくれるって約束でしょう⁉︎」

衛兵「あ、あぁ。そうだったな、心配すんな。合わせてやる。ただ、今日はだめだ。これから接待を――」

メイド「私は約束を守ったじゃないですか! どうして弟に会えないんですかっ!」グィッ

衛兵「お、ちょ、あぶっ」ビリ ビリ

メイド「嘘つき! 嘘つき!」ブンブンッ

衛兵「まっ、待て! 破れる!!」ビリィィィッ

メイド「あ……」

衛兵「……う、うそ、だろ……っ。や、やべぇ、ぞ。真っ二つに破れて……どけっ!」ドンッ

メイド「あぅっ!」ドサ

衛兵「……だ、大丈夫だ、真っ二つに破れただけだから、繋ぎ合せりゃいいんだ……」

メイド「……」ムクッ ユラァ

衛兵「おまえどーかしてるんじゃないのか! 会わせると……⁉︎」ギョッ

メイド「……弟は、どこですか……?」スラァ

衛兵「た、短刀⁉︎ お、おまえっ! な、なにするつもりだ⁉︎」

メイド「弟の居場所を、教えて。会わせてください」スッ

衛兵「ま、待てっ! 落ち着け! な?」

メイド「(姫さまにも、お城にも迷惑をかけません。弟を助けたら、見取り図は必ず戻します……だから……っ!)」プルプル

衛兵「……? ふふぅ~ん?」ニヤ

メイド「な、なんですか? なにがおかしいんですか! 私は本気ですよ!!」プルプル

衛兵「そんなにナイフの切っ先を揺らしてか? よく見りゃ膝もふるえちまってるぜ? お前」

メイド「……っ!」

衛兵「冷静になって考えりゃ、メイドに人を刺した経験なんたありゃしねぇよな」ムクッ

メイド「わ、私は本気でっ!!」






446: ◆7Ub330dMyM 2018/01/31(水) 22:24:39.35 ID:YvuJAF6kO
衛兵「本気で? なんだよ?」

メイド「ち、近寄らないでっ!」プルプル

衛兵「……ふんっ!」バシィ

メイド「あっ! うっ!」カランカラン

衛兵「こちとら潜伏してる盗賊とはいえ、毎日兵としての訓練もこなしてるんだ。やわな鍛え方しちゃいねぇぜ」スッ

メイド「うっ……くっ……!」キッ

衛兵「なんだぁ? その目は? こっちは予定を狂わされてちぃとばかし怒ってるんだぜぇ?」

メイド「弟に……」

衛兵「弟弟ってうるせぇっ!!」バンッ

メイド「ひっ」ビクゥ

衛兵「黙ってりゃ会わせてやるって言ってんだ!! わからねぇのかよ!!」

メイド「……うっ、うっ……ぐすっ……」ポロ

衛兵「あ~あ、女はすぐこれだ。泣きゃいいと思ってやがる。なぁ?」グィッ

メイド「うっ、さ、触らないで」パサッ

衛兵「……おう、メイド服ってのは、そそるなぁ?」

メイド「な、なにを……?」

衛兵「お前のうなじ……はだけた胸元、前からいい女と思ってたんだ……」ゴクリ

メイド「……っ⁉︎ な、なに! いやっ! は、離して! だ、誰かぁっ!」ジタバタ

衛兵「だぁ~れもきやしねぇよ。ここの個室はな、そういうこと専門なんだ。……よっと」ビリビリ

メイド「きゃ、きゃあああああっ⁉︎」ドサ

衛兵「白、か。ありがちだが悪くねぇブラジャーだ。着痩せするタイプなんだな」

ジャン「――……衛兵さーん!」コンコン

衛兵「チッ。良いところで」

メイド「……っ、や、やだ、っ、に、逃げないと……」ガタガタ

ジャン「そろそろ帰ろうかと思うんですけどー?」

衛兵「どうするか、こいつとヤレそうだってのに。しかし、使者を抱き込まねぇと」

メイド「と、扉、扉」ガチャガチャ

ジャン「内鍵閉まってますよねー? 蹴破ってもいいですかねー? 離れてた方がいいよー」

メイド「えっ?」

衛兵「な、なに?」

447: ◆7Ub330dMyM 2018/01/31(水) 22:34:31.89 ID:YvuJAF6kO
ジャン「よいせっと」バターーンッ

メイド「あうっ!」ゴチーーン

ジャン「あっ」

メイド「」

ジャン「だ、だから離れてろって警告したのに。お、おい、大丈夫か? ええい、くそ。ベホマ」ポワァ

衛兵「……」ポカーン

ジャン「ちょ、ちょっとまってね? すぐに治すから」ポワァ

衛兵「……ジャン殿? あの、扉が、壁にめりこんでますが、あれぇ~? 見間違いかなぁ~?」ゴシゴシ

ジャン「あ、それ? だいぶ加減したつもりなんだけどさ、よし」

メイド「」

ジャン「外傷は癒えたな。その内意識も取り戻すだろ」

衛兵「か、か、壁に、扉がぁ⁉︎」ギョッ

ジャン「さて、壁にコップを当てるというなんとも古典なやり方で聞かせてもらったよ。盗賊さん」

衛兵「えっ? えっ」

ジャン「とりあえず、右手と左手どっちがいい?」

衛兵「そ、それは~。なんの質問でしょう?」タラ~

ジャン「なんだと思う?」ニヤ

衛兵「ほ、暴力じゃないですよねぇ?」

ジャン「残念。でも当たり」ブンッ

衛兵「う、うわあああああっ⁉︎」アタフタ

448: ◆7Ub330dMyM 2018/01/31(水) 23:01:26.01 ID:YvuJAF6kO
【数分後 同個室】

ジャン「ふんふん、それで? 城の見取り図を入手するため、こいつの弟を拉致ったと」

衛兵「ひゃい」ボロッ

ジャン「盗賊団はどうやって井戸の水脈を……たしか、学者に聞いた話だと“逃げさせてる”んだったか」

衛兵「わかりまひぇん」

ジャン「嘘?」スッ

衛兵「ひっ! ほ、ほんとへす! お頭が別働隊を仕切ってて、そっちの仕事で!」

ジャン「別働隊か。団全体で何人ぐらいの規模なんだ? 二、三十人ぐらいか?」

衛兵「詳しい数は、お頭しか、把握してないと」

ジャン「あ、そう。まだ殴られたいんだ」スッ

衛兵「ひゃ、百人は! いると思います! はい!」

ジャン「へぇ……結構でかい団じゃないか。シノギも大変だろう」

衛兵「まぁ、そこはその、こうしてたまにデカイヤマを扱ってるんで」

ジャン「この国だけじゃなく?」

衛兵「貴族様から依頼されることもあります。……ジャン様もももしよかったら」

ジャン「……」スッ

衛兵「な、ないですよねっ! だと思ってました!」

ジャン「あー、もう。なんでこう芋づる式になっちまうのかねぇ」ポリポリ

衛兵「あの、もう帰っていいですか?」

ジャン「いいわけないだろ。牢屋行きだからな、お前」

衛兵「そ、そんなぁっ! 頼みますよ! 謝礼はウンとはずみますから!」

ジャン「(まずは、人質になってる弟とやらの確保だな。じゃないとこいつが牢にはいったとバレると……)」チラ

メイド「Zzz」

ジャン「(危険になるだろうなぁ……どうするか……どうする? やることは決まってんのかねぇ)」

衛兵「考えなおしてくれました……?」

ジャン「アジトに連れてってくれたら考えてもいいよ」

衛兵「え、えっ? 俺らの仲間に?」

ジャン「行ってから決めるけど。儲けはどれぐらいもらえんの?」

衛兵「一人頭、100万ゴールドはかたいと」

ジャン「お前らさぁ、この国潰す気? 百人いたら最低一億ゴールドじゃない。元締めである親の取り分が100ぽっちってことはないだろし」

衛兵「そう、ですけど?」

ジャン「だぁ……」ガックシ

衛兵「へへっ、お頭、たいしたもんでしょ? どうされます?」

ジャン「とりあえず、バニーガールさん呼んできてもらっていい? ……そのまま逃げたら地の果てまで追っかけてぶち[ピーーー]からな」

衛兵「へ、へい」

452: ◆7Ub330dMyM 2018/02/01(木) 13:08:18.56 ID:tIdBMrZ3O
【数時間後 酒場】

バニーガール「とっとと起きなァッ!!」バチィン

メイド「ひゃっ、ひゃいぃぃっ! ただいま支度をっ……はれ? へっ? ここは?」

バニーガール「なぁに寝ぼけてんの」コチン

メイド「あ……? 貴女は……」

バニーガール「そろそろ店じまいの時間だから帰ってよ」キュッキュッ

メイド「……あのっ! 私、なぜ?」

バニーガール「仮面つけてる貴族の人から起きるまで面倒見てくれって頼まれたの。最初は送ってくれって言われたんだけど……ねぇっ、あんたってお城で働いてんの?」

メイド「あ、そ、そうですけど? か、仮面の人から?」

バニーガール「いいなぁ~! お城でメイドやりゃ貴族様とお知り合いになれるなんて! ……でも、んふふっ、お金はたんまりと弾んでくれたしいっか♪」

メイド「貴女、さっきと言葉使い違いません?」

バニーガール「ありゃ商売の顔。接客のね。男どもなんて媚び売っときゃいいのさ。酒場に来るようなやつらはみぃ~んなさみしくて、気持ちよく飲めれば満足なんだから」

メイド「そ、そうなんですか」

バニーガール「よく見りゃあんたもかわいい顔してるじゃなぁ~い……スタイルもメイド服ぬぎゃ悪くなさそうだし。    何カップ?」

メイド「……っ⁉︎」ササッ

バニーガール「女同士でなに隠してんのよ。……そっか。生娘か。ならウチはだめだ」

メイド「働くなんて一言も……! このような汚らわしい場所で……!」

バニーガール「……ちょっとあんた。今なんつった?」ギロッ

メイド「うっ、だって、そうじゃありませんか。無精髭を生やしているような、清潔感のカケラもない男を」

バニーガール「そうかい。なら尚更だめだな。あんたにゃ城の中が似合ってるよ。世間知らずのガキが」

メイド「ガキって……!」

バニーガール「そうだろ? 男を知らないで、ホイホイついてっちまってさ。貴族様がいなけれりゃ、あんた、犯されてたよ」

メイド「……っ⁉︎」ブルッ

バニーガール「人生ってのはね、生まれながらにして平等じゃない。メイド服きて城の中に住めるだけラッキーってもんだ。……あたしらは、その運がなかっただけ」

メイド「……」

バニーガール「運だよ。この世は。決められた定員数があって、それにあぶれりゃ問答無用で選択肢は狭まる。じゃなきゃ、理不尽なことに説明なんかつくもんか……っ!」ギリッ

メイド「あ、あの。貴族の人が、私を?」

バニーガール「そう言ったろ。……あんたから貴族様にあたしのこと紹介しておくれよ? おもいっきりパフパフするからって♪」

メイド「(どうして、助けて、くれたの……? 盗賊の仲間のはずなのに……)」

バニーガール「あのお方お抱えになればここから抜けだせそうだしさ。ね? 頼むよぉ~」

メイド「貴族様は、どちらに?」

バニーガール「あん? 手癖の悪い衛兵さんと一緒にどっか行っちまったよ」

メイド「(行動をともにするということは……やはり……でも……)」

バニーガール「んふふっ、銀細工までもらっちゃったぁ」キラン

メイド「……? そ、それは……ちょっ、ちょっと! 見せてもらえませんか⁉︎」ガバッ

バニーガール「だめだよ! これは! あたしんのなんだからぁっ!」

メイド「み、見るだけ! 見るだけですから!」

バニーガール「……そんなに見たいの?」

メイド「はいっ! 見たいです! すごく!」

バニーガール「なら、カネ。カネだしな。見物料」クイクイ

メイド「えっ? えぇと、今、手持ちが」ゴソゴソ

バニーガール「じゃあ見せられないね!」プイッ

メイド「300ゴールドあります! これでどうですか⁉︎」ジャラジャラ

453: ◆7Ub330dMyM 2018/02/01(木) 13:29:46.17 ID:tIdBMrZ3O
バニーガール「たった300ぽっちぃ? そんなんじゃ一晩の遊び代にもなりゃしないよ」

メイド「うっ、あの、今はこれが全財産で。お城に行けばまだ」

バニーガール「だぁめぇ~! 今度、いつか、なんて口約束ほど信用ならないもんはない」キッパリ

メイド「う、うぅっ、でも、約束は必ず守りますから」

バニーガール「ふぅ~ん、ま、いっか。盗むんじゃないよ」スッ

メイド「こ、これは……間違いない。見間違えようがない……アデルの……」

バニーガール「なんでもさぁ、アデルにいってこれを見せりゃ仕事を斡旋してくれるって言ってたけど」

メイド「な、なんですって⁉︎」ガタッ

バニーガール「きゅ、急に乗り出してきたらびっくりするじゃないのさ」

メイド「(まさか……っ⁉︎ まさかまさかまさかまさかまさかっ⁉︎)」ギュウッ

バニーガール「ちょっと! なに握りしめてんだ! あたしんのだ!」

メイド「その方は! 今っ! どちらにっ⁉︎」バンッ

バニーガール「……いや、だから知らないって……」

メイド「な、なんてこと……私ったら、なんて勘違いを……」ワナワナ

バニーガール「あのさぁ、そろそろ返してくんない?」

メイド「あ、す、すみません」スッ

バニーガール「でも、ほんとなのかねぇ。これ見せれば選択肢が広がるって」

メイド「なんと、言われたんですか?」

バニーガール「ん? いや、少し世間話をしていたら、ひょんなことを言われたのさ」

メイド「……?」

バニーガール「“なりたいものがあるなら諦めちゃだめだ”って。ふふっ、なんとも青臭いセリフだけどね。ああまで透き通った瞳で言われちゃうとさ」

メイド「……」

バニーガール「私も、自分に対する負い目はあるからさ。境遇は運だけど、いつのまにやら、今の環境に慣れちまってる自分もいる」

メイド「そう、ですか」

バニーガール「つまらない話しちまったね。さぁ、はやく帰ってくれ。この300ゴールドはもらうよ」

メイド「(や、やはり、違う。盗賊なんかじゃない! この銀細工は……この形は……あの時の……ゆ、勇者様……?)」


姫『貴女も知ってる、懐かしい友人ですの――』


メイド「……っ⁉︎」ガタッ

バニーガール「わ、わぁっ! だ、だから勢いよく立つなって」

メイド「姫さまは知ってた⁉︎ 気がついてた⁉︎ あの人の正体に⁉︎」

バニーガール「ひ、姫さま……?」

メイド「も、戻らなくちゃ! お城に戻って確認しなくちゃ!」タタタッ

454: ◆7Ub330dMyM 2018/02/01(木) 13:48:48.97 ID:tIdBMrZ3O
【クィーズベル城 南西方向 廃墟】

ジャン「ぶえっっくしょんっ!! あー……風邪かな」ズズッ

衛兵「も、もう少しですよ」

ジャン「けっこー離れてんのな。かったりぃったらありゃしねぇ」

衛兵「あ、あの~。さっき、バニーガールに支払ったお金は……」

ジャン「ん?」

衛兵「に、2000ゴールドも、その、俺の財布から。い、いつか、返してもらえるかな~なんて?」

ジャン「お前がやらかしたからだろ?」

衛兵「そうはいわれましてもぉ~? 気絶させたのはジャン殿といいますかぁ」

ジャン「お前がこじ開けなきゃいけない状況を作ったからだろ?」

衛兵「ぐっ、で、でもぉ、やっぱりぃ~、最後の決めてはぁ」

ジャン「あ?」スッ

衛兵「さぁッ! 先を急ぎましょうっ!!」クルッ

ジャン「これこれ。待たれよ」

衛兵「……なんすか?」

ジャン「疲れたのである。おぶってたも」

衛兵「……」ヒクヒク

ジャン「おぶってたも」クイクイ

衛兵「こ、この野郎ッ!!!」

ジャン「あ゛ぁッ⁉︎」ギロッ

衛兵「おぶらせていたたぎますっ!」ササッ

ジャン「素直で嬉しいでおじゃる」

衛兵「(あ、アジトについたら、全員で、袋叩きにしてやる……っ!!)」ヒクヒク

ジャン「……その顔は良からぬことを企んでいるでおじゃ」

衛兵「い、いいぇ~っ! そんなわけありませんよぉ~!」ニコォ

ジャン「なんでもいいからおぶれや」(鼻ホジ)

衛兵「(殺してやる……!)」ギリッギリッ

460: ◆7Ub330dMyM 2018/02/02(金) 16:32:37.82 ID:396w4EcWO
【城下町 宿屋】

魔法使い「もう何度目? バカ勇者が無断で帰ってこないの」

僧侶「せめてぇ、帰ってこないのなら連絡の一本ぐらいほしいのですがぁ。せっかく使ったご飯も冷めてしまいますしぃ」

魔法使い「作ってないでしょ!」

戦士「勇者の勝手っぷりには困ったものだ。遊び人の方が似合ってるんじゃないかとさえ思えてきた」

武闘家「まぁ……この街にいるのは間違いないだろうし、ほっといたら帰ってくるだろうさ」

戦士「世話焼きの武闘家にしちゃめずらしいなぁ。前回なんか、アタイ達のリーダーがっ! って慌ててたくせに」ニマァ

武闘家「さっきの勝負をまだ根に持ってんの? 何回やっても負けは負け。アタイの5勝。アンタは0勝」

戦士「ぬぐっ。そ、それがなんだぁっ!」バンッ

魔法使い「あ~はいはい。わかったから。武闘家の言う通り、この街にいるのは間違いないと思うし、どっかで遊びほうけてるだけでしょ」

僧侶「酒場にいらっしゃったりしてぇ」

魔法使い「あいつ、酒なんか飲むの?」

僧侶「さぁ~? 存じ上げませんが、アレフガルドでは18が成人の歳。飲んでいたとしてもなんら問題ありません~」

魔法使い「……それもそうね。酔っ払って嫌な絡み方しなければいっか」

武闘家「しばらく、様子を見よう。明日以降も戻らないようであれば、探しにいく」

戦士「ははっ、なんだよ。やっぱり世話焼きだ」

武闘家「そうじゃなくて、アタイはリーダーを」

戦士「ほぉら、また始まったぞ」ニマァ

武闘家「めんどくさいね、アンタ」

僧侶「……やっぱりぃ、まとめてくれる方がいないと締まりませんねぇ」

魔法使い「まとめる? 誰が?」

僧侶「勇者さまがですよぉ」

魔法使い「あ、あいつが? まとめてられてる様な気がしたことないんだけど? 私達が合わせてやってるだけで」

僧侶「衝突しそうになったら、勇者さまが身を呈して団結させてくれるではありませんかぁ~」

戦士「いや、あいつは好き勝手にふざけているだけだろう」ピタ

武闘家「アタイもそれはちょっとどうかと……」

僧侶「そうは言われましてもぉ、こうして話題になると戦士さんと武闘家さんの喧嘩は止まりますしぃ」

戦士「それは……うーん? なんでだ? 魔法使い」

魔法使い「余計にツッコミやすいからに決まってるじゃない」

僧侶「なんだかんだで、率先してやられてるんですよぉ? 私達の間のクッションになっていただいてぇ」

魔法使い「例えそうだとしても! 連絡もよこさず勝手な振る舞いをしてるやつよ! ただテキトーなだけ! 夢見すぎ!」ビシッ

僧侶「それはぁ~そうですがぁ」

戦士「うん、勇者がダラシないやつという部分に疑いはない」

僧侶「武闘家さんもそう思われますかぁ?」

武闘家「あ、アタイは、武に生きる者として、尊敬する部分もあるが、あいつの人柄を、そこまでは良く考えられない。人間的な部分は出来の悪い弟弟子というか」

僧侶「そうですかぁ~」シュン

魔法使い「僧侶も勇者だからって甘やかしてばかりいちゃだめよ。信仰心という補正がかかってるだけなん――」


「きゃあああああ~~~~ッ!! だ、誰かぁ~~ッ!!」


戦士「叫び声っ⁉︎」ガタッ

武闘家「表の通りからか……!!」ダダダッ

魔法使い「あっ、ちょ、ちょっと!」

戦士「魔法使いと僧侶は後からこい!!」チャキッ ダダダッ

461: ◆7Ub330dMyM 2018/02/02(金) 16:47:41.75 ID:396w4EcWO
【城下町 表通り】

荒くれ者「逃さねぇぜぇ~コイツぅ~っ!」

メイド「あ、あ……」

荒くれ者「そんなはだけた格好で走ってどこいくのぉ~? お嬢ちゃん」ニヤニヤ

メイド「ど、どいてくださいっ! 私はお城に! 見回りの兵はっ⁉︎」キョロキョロ

荒くれ者「四六時中いるもんかぁ~! 恨むんならテメェの運の悪さを恨みなぁ。へっへっへっ」ジリ ジリ

武闘家「――お前らっ!! なにをしているっ!」ズザザッ

荒くれ者「あぁん? なにをって今からお楽しみに決まって……」クルッ

戦士「こいつらは……たしか、昼間のモミの木のタネの老人からお金を巻き上げようとしていた……」

荒くれ者「あ……っ、あっ……あ、あんたらは……」

武闘家「まだこんな元気があったんだね」ポキ ポキ

荒くれ者「ひ、ひィッ!」ガタガタ

戦士「ちぇ、雑魚か。ならあたしの出番はないな」ドサッ

荒くれ者「きょ、今日の昼間はたまたま調子が悪かったんだ! 今度はそうはいかねぇぞっ!!」

武闘家「御託はいい。さっさとかかってきな。今度はしばらく悪さできないようになるけど」クイクイ

荒くれ者「ヒャッハーッ!! 舐めてんじゃねぇぞぉ!」ブンッ

462: ◆7Ub330dMyM 2018/02/02(金) 17:14:57.65 ID:396w4EcWO
【数分後】

魔法使い「――あれ? もう終わってたの? ってこいつ、昼間のじゃない?」

荒くれ者「」チーン

魔法使い「うわっ、顔面ぼっこぼこ」

戦士「弱い者いじめだよなー」

武闘家「アンタじゃ勝てなかったかもよ」

戦士「んなわけあるかっ!!」

僧侶「これは、少々やりすぎでは~」

メイド「あの、助けていたたぎありがとうございました」ペコ

戦士「あぁ、かまわな――」

武闘家「アンタ見てただけだろうさ」

戦士「なんだよ! いいだろあたしが言っても!」

僧侶「あのぉ~。そのような格好で出歩かれてはぁ~。時間も時間もですしぃ」

魔法使い「……露出狂?」

メイド「ちっ、ちちちっ違いますっ! 急いでて!」

僧侶「そうでしたかぁ~。なにやらご事情があるご様子。でしたら、私の着ている服を~」ヌギヌギ

魔法使い「二人に増やすんじゃないわよ!」

武闘家「……ほら、汚いマントだけど。これなら胸元隠せるだろ」パサッ

メイド「ど、どうも……ありがとうございます」

戦士「勇者がいたら喜んでたかな?」

魔法使い「きゃははっ、ないわよ。あいつ、絶対  だし」

僧侶「またお二人はそうやってぇ。純粋と言ってあげないとぉ」

魔法使い「甘い甘い。  は皆すべからずムッツリなの」

メイド「ゆ、勇者? そうおっしゃいました?」

武闘家「あ、んー……まぁ、その、アタイ達のパーティに」

メイド「今もご一緒なんですか⁉︎」

魔法使い「見たいの? やめといたほーがいいわよ。幻滅するから」

戦士「見た目は悪くないが、サインをもらうような相手ではな」

メイド「教えてくださいっ! 今もいらっしゃいますか⁉︎」

僧侶「いぇ~。今日は別行動をしておりましてぇ、今は帰ってきておりません~」

メイド「こ、これっ! これ見たことありませんかっ、私が小さい時にもらったお守りなんですけど……見覚えは……?」スッ

戦士「銀細工みたいだが、ススだらけだな。あるか? 魔法使い」

魔法使い「んーん、ない」

メイド「そ、そんなはず……! 勇者様のパーティなら見覚えが!」

武闘家「アタイも、ないな。僧侶は?」

僧侶「私もありません~」

メイド「そ、そうですか。勇者様なら、コレを持ち歩いているはず……“別の勇者”なのでしょうね……」

戦士「偽物は実際に出ていたが、あたし達が同行している勇者は本物の――」

メイド「いえ、いいのです。姫さまに確認すれば済む話ですので」スッ

武闘家「ちょっと待ちなよ。アタイ達がウソつきだっていうのか?」

メイド「そうは言ってません。ですが、私も、なにがなにやらわからなくて……混乱しているんです……」

戦士&武闘家&魔法使い&僧侶「……?」

メイド「助けていただきありがとうございました。後日、お城におこしくださいませ」ペコ

463: ◆7Ub330dMyM 2018/02/02(金) 19:05:02.23 ID:nXSMbgjzO
【数時間後 廃墟】

お頭「でえっへっへっ!! おめぇ、なかなかに面白いやつじゃねぇかっ!」

ジャン「いやぁ、お頭ほどでもないですよ」モミモミ

衛兵「(な、なんで……こいつが、気に入られてやがる……っ!!)」

ジャン「それそうとお頭、分け前の話なんですけどね」

お頭「そんなにカネが好きか? あァ?」

ジャン「大好き! カネのためならハーケマル王の足の裏だってペロペロしちゃう!」

お頭「ぎゃはっはっ! プライドねぇのかよぉ~おめえ」

ジャン「そんなんで金儲けできたら苦労しませんて。俺も噛ませてくださいよー」

お頭「おう、衛兵。帰ってきたと思えばなに神妙な顔してやがる。酒だ酒」

衛兵「へ、へい」トクトク

お頭「おめぇもご苦労だったな。ハーケマルの使者を見事にだきかかえちまうとは」

衛兵「あ、いや……それが」

ジャン「そりゃあねぇ、衛兵さんが頑張ってくれたおかげでこうして席があるわけですから」

お頭「違えねェ。お前の取り分、成功報酬から三割上乗せしといてやるよ」

衛兵「えっ⁉︎ い、いいんですかい? 三割……というと基本が100だから、130⁉︎」

お頭「なんだァ? 足りねぇか? ……そうだな。使者の協力があれば、成功したも同然だし、200ぐらいいっとくか」

衛兵「ば、ばばばはっ倍ですかいっ⁉︎」

ジャン「さすがお頭! 太っ腹!」

お頭「まぁよっ! 俺ぐらいになりゃあこれぐらい豪気じゃねぇとな!」

衛兵「(あ、あれ? こいつって、もしかして、良い奴?)」

ジャン「協力したいんですってぇ~! でも、計画がどういうものかわからなきゃだめでしょ~?」

お頭「……把握する。それが、狙いか?」ギロッ

ジャン「……」ピタ

お頭「だぁっはっはっ! ちょっと睨んだだけじゃねぇか!」

ジャン「(目は笑ってなかった。半分以上は俺を疑ってるな)」

お頭「いやいや、おめぇはおもしれーやつだ。ちっとも貴族らしくねぇ。だがな、だからこそ、大丈夫か? とも思う」

ジャン「はいはい~」モミモミ

お頭「衛兵。お前は使者をどう見る?」

衛兵「へい? 俺ですか? ……そいつは」

ジャン「思った通りに行ってくださいよー。疑う余地はないって」

464: ◆7Ub330dMyM 2018/02/02(金) 19:20:24.74 ID:nXSMbgjzO
衛兵「お、お頭、実は……」

お頭「ん? なんだ? どうした」

衛兵「……そ、そいつは……」

ジャン「……」ジー

衛兵「俺からジャン殿に質問させていただいてもいいですかいっ⁉︎」

お頭「かまわねェよ」

衛兵「ジャン殿、ちょっと」

お頭「なんだァ? 俺の目の前でコソコソ内緒の打ち合わせか? まさかおめぇら二人で宝を横取りするつもりじゃあるまいな」ニタァ

衛兵「ひっ⁉︎ い、いいえっ! そ、そういうわけではなく!」

ジャン「衛兵さん。お頭は俺たちの雇用主になるわけです。信用を失っちゃったら元も子もありませんよ」

お頭「……」

ジャン「聞きたいことがあれば、どうぞ。ご随意に」

衛兵「(よく考えろ! ここは、俺の岐路だ。分岐点だ。こいつは危ないやつだって、お頭に教えるべき。……で、でも、そうなったら俺の倍のボーナスは、どうなる……?)」

お頭「なにか、あんのか?」

衛兵「(密告しても、もらえるのか? この野郎はどこまでが本気でどこまでがウソなんだ。俺たちの仲間になりたいのは……本気……なのか? 女を襲ったのが気に入らなかっただけか?)」

ジャン「はやくしないと俺だけじゃなく衛兵さんの信用まで失ってしまいますよー」

お頭「だぁっはっはっ! おめェ、よくわかってんじゃねぇか!」バンバン

衛兵「~~~~ッ! ジャン殿っ!!」

ジャン「はい?」

衛兵「お、お金。お金は、好きですか?」オズオズ

ジャン「好きですよ」

衛兵「じゃ、じゃあ、女を襲うようなやつは?」

ジャン「嫌いですね。陵辱は胸糞悪くなるので」

お頭「あァ? そうなのかァ? 嫌がる女を征服するっていいもんだろうが」

ジャン「いやぁ~俺ドMなんで」

お頭「……まじかよ」(ドン引き)

ジャン「や、やだなぁ! 冗談ですって!」

衛兵「(な、なら、でも、牢屋いきだって言ってたしな。俺を。やっぱり報告するか! 報告して報酬もらおう! それでいこう!)」



465: ◆7Ub330dMyM 2018/02/02(金) 19:39:42.55 ID:nXSMbgjzO
ジャン「ほかになにか――」

衛兵「お頭ァッ! そいつは危ねぇやつです!!」ビシッ

お頭「あん? どういう意味だ?」

衛兵「そいつに殴られました! そんななりしてめちゃくちゃつええっす! そいつ!」

お頭「へぇ。おめェ、衛兵よりつええのか?」

ジャン「貴族なもので。幼少の頃より武術と剣術は嗜んでおります」

衛兵「俺が女を襲おうとしたら、こいつが扉を蹴破って入ってきたんです!! そんで俺をぼっこぼこに……!」

お頭「そのわりには、怪我が見当たらねぇが?」

衛兵「ここまで案内させるのに治しやがったんでさぁっ!!」

ジャン「まぁまぁ落ち着いて」

衛兵「お頭、そいつは……」

ジャン「俺、女を襲うようなやつは嫌いなんですよ。でもこの計画には一枚噛みたかった。だから案内してもらったんです」

お頭「ふぅん……」

衛兵「そいつは俺を殴った後、団の内情も聞き出そうとしてて!」

お頭「なに?」ピクッ

ジャン「それも全て、どういう規模で活躍されてるか知りたかったのです。より良い取り引きのために」

お頭「……なるほど?」

ジャン「雇い主を無条件に信用するほどおめでたくありませんよ。ましてや、こんな無能を雇っているようでは」

衛兵「な、なにをぅっ⁉︎」

ジャン「お頭。気がつかないんですか? ならなぜ最初からこいつは報告しなかったのか」

お頭「そいつは俺も気になっていた。なんで今頃になって言う?」

衛兵「……うっ、そ、それは、すぐバレると思って……」

ジャン「予想外に相手に取り入ってしまった。俺にビビってたのか?」

衛兵「ぬぐっ」

ジャン「別にそこはどーでもいいんだけど。ボーナスの話が出たからだと思ってた」

お頭「……」ピクッ

ジャン「迷ってた。俺に金に好きかって聞いたのはなんで?」

衛兵「そ、それは、その、よ、よく考えてから」

ジャン「ほーらね。こいつも俺も金が大好きなんですよ。金のためなら平気で打算しますよ。お頭だって好きでしょ? カネ」

お頭「ああ……」グビッ

466: ◆7Ub330dMyM 2018/02/02(金) 20:02:12.03 ID:nXSMbgjzO
ジャン「そこで――こっからは俺の取り引きです」

お頭「……言うだけ言ってみろ」

ジャン「この場所を知られてしまった以上、お頭達は俺を黙って帰すつもりはないでしょう。なので、先に条件を提示します」

お頭「……」

ジャン「俺を仲間に引き入れれば、計画はさらに円滑に進められるでしょう。そこの衛兵さんをボコった際に聞き出したのですが、なんでも井戸の水を枯れさせているとか」

お頭「おめェ……っ! ペラペラと喋りやがったのか!!」ギロッ

衛兵「ひ、ひっ⁉︎ す、すみませっ!」ドゲザ

ジャン「話を進めても?」

お頭「……」コクリ

ジャン「ハーケマルの使者として、お力になれることは多いはず。取り分は、そうですね。300万でいかがでしょうか?」

お頭「……話を聞くだけといったはずだ。誰がお前を仲間にいれるといった」

ジャン「決めるのはお頭です。どうぞ、存分に打算なさってください。俺を引き入れることによって得られる利点と危険を天秤にかけて」

お頭「……」

ジャン「黙って殺られる気はありませんよ。だめだというなら懐に隠してある短刀で抵抗します」スッ

お頭「……俺をおどそうってのか?」

ジャン「めっそうもない。……お頭らぁ~。頼みますよぉ~。俺もお金もうけしたいんですぅ~」モミモミ

お頭「……」グビッ

ジャン「(考えてる考えてる。口から生まれたと俺に勝とうとは10年はやいわっ!ボケ衛兵が!)」チラ

衛兵「お、お頭。そ、そいつは」オズオズ

お頭「おめェはだぁってろ!! ……ボーナスはなしだ」

衛兵「そ、そんなぁ……」ガックシ

お頭「使者さんよ……まずはおめェになにができるか聞かせてもらおうか」

ジャン「私はハーケマルとクィーンズベルとを結ぶ使者でございます。そうですね、パッと思いつくのは、王子来訪と合わせ帯同してくる」

お頭「それで?」

ジャン「お頭達が安心して、余裕をもって仕事を行えるどころか、逃げ道までお手伝いできるかと」

お頭「う、む。注意を引きつけられるのか?」

ジャン「立場を利用すればたやすい。難しいことではないと想像できますでしょう?」

お頭「……」

ジャン「なにがひっかかてるかじゅ~~ぶんに理解できます。計画の重要ポストにおいたら、消えたり裏切りにあっては痛手。それもかなりの」

お頭「そうだ」

ジャン「私が信用できない。そこがひっかかってる」

お頭「……あぁ」

ジャン「信用できるようになにかやりましょう。あ、そうだ。メイドの弟を拐ってると聞いたのですが。衛兵さんから」

お頭「……なにから、なにまで……ペラペラと……っ!」ブンッ

衛兵「いたっ」コツン

ジャン「その弟の居場所を教えてもらえれば――」

お頭「いねぇよ」

ジャン「――はい?」

お頭「俺もヘタこいてな。ガンダタってやつに持ってかれちまった「

ジャン「な、なんですとぉっ⁉︎」




467: ◆7Ub330dMyM 2018/02/02(金) 20:30:33.68 ID:nXSMbgjzO
【クィーンズベル城 郊外】

ガンダタ「どおりゃあっ!!」ザシュっ

手下「うっ」ドサッ

ガンダタ「ふうっ、ふうっ、これで最後か……」

少年「ひっ、ひぃん」ガタガタ

ガンダタ「む、ぅっ、さすがに10人いっぺんには、こたえる」ガクッ

少年「お、おじちゃん」トコトコ

ガンダタ「ガキ。おめぇ、逃げなかったのか。バカなやつだ」

少年「こ、こわくて。動けなかった」ヘナヘナ

ガンダタ「あ? よく見りゃ小便漏らしてやがる。小便小僧だ」

少年「うっ、うっ、ぐすっ」

ガンダタ「おめェの姉ちゃんに会わせて、俺は金をもらう。そして、そのまましばらく姿をくらませる。再起は、その後だな」ドサッ

少年「だ、大丈夫?」

ガンダタ「ちっらたぁ根性見せたらどうだ。女みたいに人の顔色ばかりうかがってないでよ」

少年「あ、あぅ」

手下「ぐっ、ガンダタァッ……!」

ガンダタ「なんだ。まだ死に損ないがいたか」

手下「美味しい思いだけをできると思うなよ……! 追っ手は俺たちだけじゃねぇぞ!! うっ、ゲフッ」

ガンダタ「わかってるよ」ムクッ

手下「そいつを、渡して、謝礼をもらえてもっ、所詮、おめェは犯罪者だ。腐りきったクズ野郎だ」

ガンダタ「……あぁ」スタスタ

手下「仲間殺し、裏切り、裏社会での暗黙の了解を破ったお前に、もはや居場所なんか、ねぇっ!!」キッ

ガンダタ「だったらよ、俺は自分だけの居場所ってやつを作るだけだ」グサッ

少年「も、もういやだぁ、お、おねぇちゃぁ~ん」ポロポロ

手下「が、がはっ」ドサッ

ガンダタ「自分の居場所なんてもんは勝ち取るもんだ。そうだろ」グサッ グサッ

手下「」

ガンダタ「――俺は生きる。生き残って、あがいてあがいてやる。その先が地獄なら、鬼になってもな」ポタポタ

471: ◆7Ub330dMyM 2018/02/03(土) 21:24:03.71 ID:0GHFRMQmO
【再び 廃墟】

お頭「どうして驚いて……いや、ちょっと待て。頭を整理したい」

ジャン「(まずいぞ。弟はいったいどこに……)」

お頭「使者よ……ジャンっつったか。おめェの指摘には間違いがいくつかある」

ジャン「あ……はい? 間違いとは?」

お頭「たしかに俺ァ金が好きよ。ボンクラ衛兵も、お前も好き。ソレに違いはねぇ……ただな、俺にとっちゃ、カネなんてものは手段にすぎねえ」

ジャン「……?」

お頭「“金に溺れてるつもりはねぇ”。そういうこった。富、権力、そういうものを追い求め野望を胸にしてりゃ、金は後からついてくる。金なんてもんは所詮――」ゴソゴソ

ジャン「……」

お頭「贅沢をするための、道具だ」チャリン

ジャン「さっすがお頭――」

お頭「腹をわって話しようぜェ? ジャンさんよ。おめぇは“カネに使われるモノか”、“カネを使うモノか”。どっちなんだァ? あぁ?」

ジャン「なんのことやら、さっぱり」

お頭「くっくっ、とぼけるんじゃねェよ。俺の手下を無能呼ばわしたお前が、これぐらいを察しがつかねぇでどうする。そんな無能なら、俺がいらねェ」

ジャン「……そうですねぇ、いずれは一人立ちしたいと考えています。いつまでもコキ使われるのはイヤなので」

お頭「盗賊になるか?」

ジャン「俺は働くのが嫌いなクズなんですよ。盗賊だって社会からはみ出して、人の迷惑をかえりみない犯罪まがいのことやっちゃいるが、ルールがある。働いてますよね、一応」

お頭「一般人が積み上げてきたものをぶち壊す汚ねェ手段ばかりだがな」

ジャン「性善説なんてありえませんし、あなた方みたいな人は、人が人間である以上、必ず出てくる。必然的にね」

お頭「……」

ジャン「そんなに複雑な話じゃないんです。私は、のんびり気ままなニートを目指してまして」

お頭「ニート? てェと、無職、世捨て人になるつもりか」

ジャン「今の肩書きを捨てたいだけなのかもしれませんね」

お頭「ほかに大きな野望はねェのか?」

ジャン「そんな先のことまで考えてませんよ」

お頭「そうか……骨のあるやつを期待したんだがな」

ジャン「お頭のおっしゃっている意味は理解できます。その先になにを求めているので? カネが主目的ではない、後からついてくる副産物なら……」

お頭「“国盗り”よ。それが俺の夢であり、盗賊としての野望」

衛兵「く、国盗り……お頭、自分も初耳です」ゴクリ

お頭「そんなんだからおめェはカネに振り回されてんだ」

ジャン「(こいつは……どうしたもんでしょ)」

お頭「ジャンよ、おめぇのここ(胸)になにもないんなら……カネほしさに国を潰せる突き抜けたクズ野郎か?」トントン

ジャン「宝を奪い、財政難に陥れるだけで国が陥落するわけがないでしょう。そうなる前に、ハーケマルや他の機関が援助に動きだします」

お頭「くっ、くっくっくっ。そうはならねぇのさ。なぜなら、落とすからだ」

ジャン「戦をしかけるおつもりで? たった百人たらずの盗賊団で?」

472: ◆7Ub330dMyM 2018/02/03(土) 22:03:19.35 ID:sz2fZswmO
お頭「衛兵から聞いたか……ぎゃっはっはっ! 百人じゃねェのよ。俺たちの団は」

ジャン「例え千でも同じこと、万を超える数ではないと……万もいるとか?」

お頭「いいや。いねェ、くっ、くっくっ」

ジャン「お頭ぁ、わかりませんよぉ~」

お頭「“魔族”だよ。俺たちのバックにはやつらがついてる」

ジャン「(あぁ? ……ちっ)」

衛兵「えっ⁉︎ そ、そうなんですか⁉︎」

お頭「どうだい? これなら信じられないこともないだろう? 国を落とせると」

ジャン「魔族が人間と協力か、もしくは協同ともいいましょうか……初めて聞きましたが」

お頭「俺も驚いたさァ。なにしろ、人間の若い女の姿をしていたからなァ。最初は気がつかなかった」

ジャン「(人間の若い? 淫夢族か?) ……それで、どうやって?」

お頭「そこまで話する気にゃならねェ」

ジャン「魔族がいるかどうかだけでも」

お頭「今言ったろ……チッ、証明か」ゴソゴソ

衛兵「……そ、そんな……ま、魔族と繋がってたなんて……」ブツブツ

お頭「ほらよ。このビー玉見てみな」

ジャン「それは?」

お頭「こりゃあ、なんでも特殊な瘴気の溜まってるもんを閉じこめてる玉らしい。中でケムリが渦になってるのわかるだろ?」

ジャン「(たしかに、紫色の、なにか、形作ってないか?)」ジー

お頭「こんなもんは人間には作れない代物だ。呪いのアイテムなんかでもねぇ」

ジャン「(よく、見ると、竜か?)もっと、よく見せていただいても?」

お頭「ダメに決まってるだろうが。証明はコレで済んだ」サッ

ジャン「……けちんぼぉ~」

お頭「さぁ、どうするよ? お前の結論は」

ジャン「お頭に協力します」キッパリ

お頭「あ、あぁ? 悩むそぶりも見せずにか?」

ジャン「他人が血を流そうかどうなろうか知ったこっちゃありません。俺はクズじゃなくドクズだったようです」

お頭「軽率なやろうだ」

ジャン「単純明快でいいじゃないですか。俺は答えましたよ。お頭はまだじっくり考えたいですか?」

お頭「うう、む」

ジャン「(魔族がなんでまた人間に。あいつら種族のプライド高いはずだけどな~、クィーンズベルを潰すために人間同士の争いに演出するつもりなのかなぁ)」

手下「お、お頭ぁッ!!」ダダダッ

お頭「うるせぇなァ!! ゆっくり考えられねぇだろうがッ!!」

手下「す、すいませんっ! でも、ガンダタを追っていかせた、馬たちが……帰ってきてて……!」

お頭「馬? 馬だけか?」

手下「し、死体をくくりつけた、馬が……!」

お頭「チッ、やられたか。なら、さらに人員を増やして……いや、まてよ。おめェ、衛兵よりつええんだったな……なら、こうすッか。ガンダタって野郎を殺ってこい。そしたらお前を信用する」

ジャン「かまいませんけど、顔がわかりませんよ」

お頭「人相書きなら、ほらよ」ポイッ

ジャン「……」パシッ シュルシュル

お頭「そいつが、ガンダタだ」

ジャン「(あれ? これどっかで……あぁっ⁉︎ 山で出会った山賊じゃねっ⁉︎ こっちに合流してたの⁉︎)」

473: ◆7Ub330dMyM 2018/02/03(土) 22:42:50.34 ID:sz2fZswmO
【宿屋前 表通り】

ガンダタ「ぬっ、ぐっ」ヒョコヒョコ

少年「ずっと足ひきずって歩いてるけど」

ガンダタ「(矢を受けた足の痛みがおさまらねぇ、毒でも塗ってやがったな……!)」ヒョコヒョコ

少年「お、おじちゃん……」

ガンダタ「うるせぇよ、小便小僧。お前はもうすぐ解放されるんだから喜んでろ」

魔法使い「――たまには外食もオツなものよねー!」スタスタ

僧侶「そのわりにはぁ、あまりハシが進んでませんでしたけどぉ」

魔法使い「だって暑いか辛いしかないんだもんっ!! 気分だけでも味わいたくて言ったただけ!」

戦士「あたしは美味かったけどなぁ」

魔法使い「あんたは食えればなんでもいいんでしょうが!」

ガンダタ「(うるせぇ女どもだ。さっさと通りすぎやがれ)」

僧侶「武闘家さんもくればよかったんですけどねぇ~」

戦士「ほっとけ! あんなひねくれ者!」

魔法使い「宿屋のご飯食べるっていたし、まぁいいんじゃない?」

ガンダタ「(いや、まてよ。こいつら、どこかで……?)」

魔法使い「寝苦しくないといいな~」スタスタ

ガンダタ「思い出した……! おめぇらっ! 若僧のツレで寝てたやつ!!」

魔法使い「へ?」ピタッ

ガンダタ「あいつはっ、どこだぁっ!!」ブンッ

少年「わ、わぁっ、またぁっ⁉︎」


――バチィンッ――


魔法使い「あ? へ……?」ヘナヘナ ペタン

戦士「大丈夫か? 魔法使い」ザッ

ガンダタ「(こいつ……俺様の正拳突きを止めやがった……!)」

戦士「いい突き出しだ。ちょっと反応遅れたらウチの魔法職さんに当たってたろう。でも、残念ながらもっと凄いやつの正拳突きをあたしは知ってる」

僧侶「武闘家さんのことですねぇ~」

戦士「余計な解説いれんでいい!」

474: ◆7Ub330dMyM 2018/02/03(土) 22:55:45.34 ID:sz2fZswmO
ガンダタ「なんだァ? てめぇは」グリッ

戦士「むっ⁉︎」シュタッ

魔法使い「せ、戦士ッ! 平気⁉︎」

戦士「(さらに拳に力が入っていたな、思わず距離をとったが)……問題ない」スラァ チャキッ

ガンダタ「小便小僧。少し離れてろ」

少年「あ、あわわっ」トテトテ

僧侶「補助魔法、おかけしますかぁ?」

戦士「いや、必要ないだろう」

魔法使い「ほ、ほんと? 油断してて負けるとかやめてよ?」

ガンダタ「……おい、ねぇちゃんよ。俺は血を見てちィとばかし、気性が荒くなってる。おめぇらの中に若僧がいたろ。あいつはどこだ?」

僧侶「勇者さまを訪ねる方が多いですねぇ。さすが有名人でしょぉかぁ~」

魔法使い「い、嫌な来訪者だけど」

戦士「……あいにくとあんたの探してるやつはいない。今はね」

ガンダタ「ウソついてちゃなんにもなんねぇぞ」ヒョコヒョコ

戦士「……? 足、怪我してるのか? そんな状況であたしと――」

ガンダタ「だったら、なんだってぇんだっ⁉︎」バッ

戦士「――っ⁉︎ 砂っ⁉︎ い、いつのまにっ、くっ」

ガンダタ「正攻法だけでくると思うなよネェちゃんっ!」ブンッ

戦士「目に、砂がっ」ガクッ

魔法使い「……っ! メラミッ!!」ボフゥ

ガンダタ「なにっ」バァンッ

魔法使い「あんたこそっ! この大魔法使いである私の存在を忘れちゃいないでしょうね!」スチャ

僧侶「なんだかぁ、不意討ちのようなぁ~」

魔法使い「し、しかたないでしょ! 戦士が危なかったんだから!」

ガンダタ「……魔力が練りこまれてねぇじゃねぇか。中級魔法(メラミ)の名が廃れるぜ」モクモク

魔法使い「言ったわね……! 時間なかっただけだもん! 咄嗟だからだもん!」キィィィン

ガンダタ「させるかよっ! 俺の斧でもくらっとけ!」ブンッ

魔法使い「え? ちよ、ちょっと、ま、まずっ⁉︎」アタフタ

475: ◆7Ub330dMyM 2018/02/03(土) 23:13:38.11 ID:sz2fZswmO
武闘家「あちょぉ~~~っ!!」キンッ

ガンダタ「……っ⁉︎ なんだぁおめェ」

武闘家「今度は誰かと思えばアンタ達か。まったく、戦士。なんてザマなのさ」タンッ

戦士「くそっ」ゴシゴシ

魔法使い「た、助かった。あ、ありがとう、武闘家」

武闘家「……」キッ

ガンダタ「そーかい。おめェも仲間ってわけかい。女ばかりがゾロゾロと」

武闘家「女だと思って甘くみるんじゃないさ。……痛い目みるよ」スッ

ガンダタ「うるせぇよ。見たところ前衛職二人に、後衛職二人か……」

僧侶「あのぉ、争いはやめたほうがぁ」

魔法使い「女神様は休暇中で見ないことにしてくれるってさ!」

ガンダタ「俺も満身創痍な状態でこれはきついか。これを使うのは気が進まねぇが」

僧侶「……?」

ガンダタ「おい、お前ら。おれが喋る最後のチャンスだ。あの若僧はどこだ」

戦士「だから言ったろう! いないと!」

武闘家「また訪ねてきてるのか?」

僧侶「みたいですねぇ」

ガンダタ「そうかい……へ、へへっ、せっかく、最後の機会を与えたってのによ……」シュゥゥゥ

戦士「なんだ……? 身体から、煙が」

魔法使い「気のせい? 真っ赤になってきてない?」

武闘家「……こ、これはっ⁉︎」

ガンダタ「うっ、うぅっ! うぅっ、ヴゥうぅっ」シュゥゥゥ

戦士「唸ってるが」

魔法使い「唸ってるわね」

武闘家「僧侶! スクルトを! はやく戦士とアタイに! 戦士! 本気を出せッ!!」

僧侶「は、はいぃ~」ポワァ

戦士「なんだ? いったい……?」


武闘家「こいつは……ッ!! バーサーカー(狂戦士)だッ!!」


戦士「バーサーカー?」

ガンダタ「う、ヴぅ」ピタ

武闘家「――来るぞっ!!」

476: ◆7Ub330dMyM 2018/02/03(土) 23:43:01.51 ID:sz2fZswmO
ガンダタ「ウガァッッ!!!」ダンッ

戦士「むっ! あたしに来るか!!」チャキッ

ガンダタ「がァッ」ブンッ

武闘家「避けろ! うけようとするなっ!!」

戦士「なっ、なんだこの力、づよさっ、きゃあぁぁぁっ!」ドーーーンッ

魔法使い「え……戦士が……女の子の悲鳴あげながら、吹っ飛んでった……」

武闘家「だから言ったじゃないさ!」

僧侶「ピオリム~」ピュイ

武闘家「ナイスだ僧侶! はぁぁぁぁっ!! 哈ぁっ!!」ドゴンッ

ガンダタ「ヴゥッ?」ギロ

武闘家「ビクともしないか……っ! アタイの拳を舐めるんじゃないよ!! あちゃぁ! ほぉあたぁっ!!」ドゴォ バキィッ

ガンダタ「……」

武闘家「一撃必殺ッ!! 正拳突きぃぃっ!!」ドゴーーンッ

ガンダタ「うっ……っ!」ヨロ

武闘家「どうだ!」

ガンダタ「……」ギロッ

武闘家「ば、ばかなっ!? アタイの正拳突きがっ!? き、筋肉に阻まれてる……!?」

僧侶「戦士さんを回復してきますぅ」タタタッ

魔法使い「えーと、えーと、えーと、えーと、私は魔力を練らなきゃ」キィィィン

ガンダタ「ヴゥッ!!」ブンッ ブンッ

武闘家「うっ、くっ」ヒョイ ヒョイ

魔法使い「(ひ、ひぃ~ん。ど、どどどうしよぅ。メンバーには黙ってたけどメラミ以上の魔法使えないのにぃぃ~~)」

僧侶「ベホイミ」ポワァ

戦士「うっ、うぅっ」

僧侶「じっとしててください」

戦士「う、受けた、剣が、折れた。ぶ、ぶとうかぁっ、そいつの攻撃は、うけちゃだめだ……」プルプル

武闘家「アタイが最初に言ったろ⁉︎」クルッ

魔法使い「あっ! よそ見っ!」

ガンダタ「ウガァッ!」ブンッ

武闘家「しまっ――」グッ

481: ◆7Ub330dMyM 2018/02/04(日) 12:44:09.78 ID:BK8AK1TlO
【数分後】

武闘家「……うぐっ」ガラガラ

戦士「どうなってるんだ! いくらダメージを与えてもおかましなしじゃないか!」キィンッ ギュインッ

ガンダタ「ウガァッ!!」ブンッ ブンッ

魔法使い「ぜんぜん効いてないじゃないのよぉ~っ!
メラミッ!」ボヒュウ

武闘家「うっ、足が……」ズキンッ

僧侶「今治しますよぉ~」ポワァ

戦士「武闘家っ!」ズザザッ

魔法使い「ちょっとぉ~! なによアレはぁ!」タタタッ

武闘家「……コロシアムにいた時に聞いたことがある。何代か前に、バーサーカーと呼ばれるチャンピオンがいたと」

戦士「……」ジトォ~

武闘家「なにさ、その目は。“もっとはやく教えろ”。そう思ってるな? ……しかたないだろ。バーサク化する特徴で気がついたんだからさ」

魔法使い「それじゃあ、あの化け物もマッスルタウンの元チャンピオンっ⁉︎」

武闘家「同一人物かは知らない。……戦士、今から言うことを良く聞け」

戦士「なんだ?」

ガンダタ「ウゥ……」ノシノシ

武闘家「バーサーカーはアドレナリンを分泌させて筋強アップや痛覚を麻痺させてる。でも、ダメージが蓄積されてないわけじゃない」

戦士「そうは見えないが……」

武闘家「されてるんだよ。アレはいってみれば“究極のやせ我慢”状態なのさ。状態解除されれば、本人もただでは済まない。恐ろしいほどのペイン(痛み)が肢体を駆け巡る」

戦士「状態解除といってもなぁ、止まる方法はなんなんだ?」

武闘家「一度あのモードにはいったら、目的を達成するまで止まらない。我慢を上回るダメージを積むしかない……!」ムクッ

僧侶「あぁ~まだ途中ですよぉ~」ポワァ

戦士「一発でも受ければ致命打だ。先にどでかいのもらうか、手数をぶちこむかの戦いってことだね?」

武闘家「その通り……!」

魔法使い「じゃ、じゃあ! 私も魔力が尽きるまで魔法を撃ちまくって当てまくればいいのね!」

戦士「僧侶。回復は最小限にして補助魔法を頼む」

僧侶「……はい~。スクルトォ~、ピオリム~」ポワァ

武闘家「まさか、いきなりで苦戦を強いられるとは……世の中ってのは、ホントにわけがわからない」

ガンダタ「うがぁぁぁぁあっ!!」ズンズン

戦士「さっきまでは人間と思えてたんだが、あれじゃモンスターだな」

武闘家「……すぅーっ……はぁ~……総力戦だっ!!」クワッ

僧侶「作戦名はぁ~“ガンガンいこうぜ”。と、いったところでしょうかぁ」

482: ◆7Ub330dMyM 2018/02/04(日) 13:42:43.92 ID:BK8AK1TlO
【クイーンズベル 郊外】

ジャン「はぁ~、なにやらこんがらがってきたな~」パッパカ パッパカ

衛兵「……」

ジャン「どしたんだ? さっきから黙りこくっちゃって」

衛兵「魔族と裏で繋がってるなんて聞いて平気でいられるのがおかしいんですよ」

ジャン「悪そなやつはだいたい友達でいいんじゃないの。最高峰の魔族とツルんでるんだから、誇れば?」

衛兵「に、人間じゃないんだぞ⁉︎ お、おっかねぇ」ブルッ

ジャン「よくわからんなぁ~。人間だからだとか魔族だからとか。やってる非道さは似たようなもんだろ」

衛兵「あいつらは人を食う!」

ジャン「……人間は人間を食わないけどさ、普通は」

衛兵「エサとしか見てねえだろ! お、俺らはそこまではしちゃいねぇ」

ジャン「お前なぁ、一般人から見たらどっちもタチ悪いんだが? ビビりめ」

衛兵「そんなんじゃねぇよ、俺はただ」

ジャン「衛兵が弱者を襲ったりする時だけ強気な典型的クソ野郎だとはわかったよ」

衛兵「な、なんとでもいえっ!」

ジャン「ガンダタは城に向かったのは確かなのか?」

衛兵「血の跡がまっすぐ続いてる。盗賊団との取り引き材料に使うよりも、謝礼を貰う方を選んだみたいだな」

ジャン「(このままほっとけば弟くんはメイドの元に帰る、が――)」

衛兵「お頭は人質の奪還をお望みだ。そうしないと、入団も認めてくれねぇぞ」

ジャン「(そこなんだよなぁ。魔族と井戸の原因がまだ判明してない……とりあえず、弟くんの無事を確認したら今わかってる情報だけ王様にながすか……?)」

衛兵「こういう取り引きはよくすんのか?」

ジャン「ん? いや、しないよ」

衛兵「それにしちゃ、慣れてるように感じたが。おカシラにもすぐ気にいられてたし」

ジャン「気に入ったんじゃなくて値踏みしてんの」

衛兵「……値踏み、ねぇ」

ジャン「気に入ったそぶりを見せてたのはハーケマルの使者だから。こいつは使えるとわかってはじめて“気にいる”のスタートラインに立てる」

衛兵「なるほど……」

ジャン「我輩のコミュ力におそれいったかね? なっはっはっw」

衛兵「もうすぐクイーンズベルだ。ジャン殿、まずは宿屋にいきやしょう」

ジャン「あっ! お前スルーしやがったな⁉︎ さみしいじゃないか!」

衛兵「めんどくさいんすよあんたの絡み!」

▼勇者は心に198758のダメージを受けた!

ジャン「き、傷ついた。会心の一撃をお見舞いするとはやるやないか……!」

衛兵「打たれ弱いな!」

ジャン「なんだよぉ、もっとかまってくれよぉ」

衛兵「さらにめんどくせぇ! ……城門は閉まってます! なんで! 宿屋です! 宿屋からいきやしょう!」

ジャン「はいはい」

衛兵「はぁっ」バシィッ

馬「ヒヒーンッ」

484: ◆7Ub330dMyM 2018/02/04(日) 20:08:21.87 ID:S3D9Cw+YO
【クィーンズベル城 姫の部屋】

メイド「……はぁっ……はぁっ、お、お嬢様」ガチャ

姫「わたくしの専属メイド様じゃございませんの。いいご身分ですわね、仕事を放棄していったいどこを……」ポト

メイド「……息を、乱してしまい、失礼いたしました……」

姫「貴女……そのマントは? そんなにメイド服を汚して、なにがあったんですの?」

メイド「姫さま、教えてくださいまし。ハーケマルの使者の正体について」

姫「まずは着替えて――」

メイド「お願いします、姫さま! わたし、とんでもない勘違いをしていたんじゃないかと……盗賊団の仲間かと思ってて、気が気じゃないんです……」ポロポロ

姫「盗賊団……?」

メイド「……もしや、もしや、あの方は、勇者さま……なのでは?」

姫「……そうですわよ」

メイド「や、やはり……そんな、どうして」ペタリ

姫「勇者も見かけなくなりましたけど、なにがあったの……盗賊団と間違えてたってなに?」

メイド「あ、謝らなければ。で、でも、盗賊団と一緒にどこへ」

姫「落ち着いて。順を追って説明なさい」

メイド「いえ、姫さまを巻き込むわけには……」

姫「余計な心配です。貴女はわたくしの従者なんですよ。主人に秘密を持つとはなんたることですか。裏切り行為です」ギロッ

メイド「す、すみません」シュン

姫「それとも、話せないほどわたくしは頼りない?」

メイド「いえ! そんな!」ブンブン

姫「ならば、申してみよ。一国の姫として命ずる」

メイド「……っ!」ギュゥ

姫「……」ジー

メイド「ふぅ~、わかりました、姫さま。告白せねばならぬことがございます」

姫「……申せ」

メイド「実は……弟が、盗賊団を名乗る者に拐われ拉致されました……」

姫「なんですって? 城外にメイドの母と二人で暮らしているという。たまに遊びにきてたわよね」

メイド「ご存知の通り、私の母は、飲んだくれの父に先立たれてから床に伏せております。どうしようもない父でしたが、母には、心の拠り所だったようで」

姫「ええ」

メイド「給金が酒代に消えていたのはお嬢様も薄々感づいておられたのでしょう?」

姫「……」コクリ

メイド「父が不摂生な生活がたたり亡くなってからは、幼い弟が母の身の回りの面倒を見ていたのです」

姫「それもわかっておりました」

メイド「ちょうど二週間ほど前のことでした。城で従事している衛兵に呼び止められ、“弟を拉致した”……そう告げられたのは」

姫「衛兵が……?」

メイド「はい。私にとっては、晴天の霹靂(せいてんのへきれき)でした。父と母を忌み嫌っている私は、弟しか、家族と呼べる者がいないのですっ」ポロ

姫「それで……?」

メイド「うっ、ぐすっ、そ、それから、私は、あろうことか、お城の内部情報をっ、盗賊に流すようになりましたっ」

姫「……」

485: ◆7Ub330dMyM 2018/02/04(日) 20:30:46.42 ID:S3D9Cw+YO
メイド「幼き日、姫さまの従者として取り立てていだいた恩を感じながらもっ、私はっ、弟を失いたくないっ、それしか考えられずっ」

姫「盗賊団の狙いは? 身代金の要求じゃなく情報なんですの?」

メイド「ひっ、姫さまの、ぐすっ、縁談に合わせて、宝物庫に忍びこむらしいです」ポロポロ

姫「……そう。それで、勇者をなぜ盗賊団の関係者と?」

メイド「そ、それはっ、私が早合点してしまい、姫さまがハーケマルの使者じゃないといったときに、盗賊団の者が接触していたのかと」

姫「ここまでは理解しました。先ほど、謝らなければと言っていたわね? 勘違いが解け勇者とわかったきっかけはなに?」

メイド「私は、勇者さまが盗賊団の者だと勘違いしていた折に、姫さまが危険だと感じて、焦っていました」

姫「だから、出かけていたのね?」

メイド「はい。かねてより要求されていた物を手にして」

姫「要求されていたもの? それはなに?」

メイド「城の見取り図でございます」

姫「……っ⁉︎」ガタッ

メイド「弟を無事返していただいたら、王に全てを告白し、自害するつもりでおりました」

姫「自害で済むと思うっ⁉︎」バンッ

メイド「申し訳、ございません」ペコ

姫「でも、相手が勇者だと気がついたのなら見取り図を持ち帰ってきたのですよね? そうでしょ?」

メイド「いえ。それが……待ち合わせ場所である酒場に到着すると、なぜか、衛兵と勇者さまが一緒に卓を囲んでおられたのです」

姫「なんですって……?」

メイド「私はハーケマルの使者が、盗賊団の一味だったという確信を持ちました。そして、衛兵に個室に連れていかれ、二人きりの状況で見取り図を渡したのです」

姫「勇者が、なぜ……そ、それからっ⁉︎ どうなったんですのっ⁉︎」

メイド「……はやく弟の無事を確かめたかった私は、衛兵に詰め寄りました。懐に隠していた短刀を突きつけて」

姫「……」

メイド「でも、こわくてこわくて仕方なかった私は、身体中が震えてしまって……衛兵に気がつかれた後はは、たやすく武器を奪われ、襲われかけました」

姫「だから、そんな格好してるんですのね」

メイド「逃げようと必死になった時でした。個室の扉の前から勇者さまの声が聞こえてきて」

姫「……」

メイド「覚えているのはここまでです。どうやら、扉を無理やり開けてきたらしく、その際に私は気絶してしまい」

姫「目が覚めたら、どこにいたんですの?」

メイド「酒場の椅子に横たわっていました。そこでバニーガールからこれと同じものを見せられて」スッ

姫「それは……勇者の……貴女、まだ後生大事にしてたの……」

メイド「ふふっ、なにをいうんですか。姫さまもオルゴールの箱に大切に隠しているではありませんか」

姫「しっ、知ってたんですのっ⁉︎」

メイド「これは、アデルの像をかたどったもの。勇者さまが生まれた日に作られた記念の銀細工」

姫「サインみたいに配りまくってましたけどね」

メイド「勇者だけが配ることを許された品でもあります。底に刻印が掘ってあるのを気がつかれてましたか?」

486: ◆7Ub330dMyM 2018/02/04(日) 21:02:28.56 ID:S3D9Cw+YO
姫「ええ……」

メイド「これには、特殊な意味があるのです。姫さまに渡したものも、私に渡したものも。ただ、無闇に配っているわけではないのですよ」

姫「……わかってるんですの。ただ、あんまりにも渡しすぎるから。一時は袋に目一杯つめて歩いてましたもの」

メイド「あの時の勇者さまったら、ズルズル袋を引きずりながら」

姫「ふふっ……って! それでっ⁉︎ 見取り図はっ⁉︎」

メイド「申し訳ありません」ペコ

姫「勇者が持ってるんですのっ⁉︎」

メイド「なにぶん、気を失っておりまして」

姫「お父様に報告するにも、見取り図がなくては。貴女が……」

メイド「私のことはどうか、お気になさらないでくださいまし」

姫「き、気にするなですって……?」

メイド「罰を受ける。その覚悟で持ち出したのです。私は、最初から王と姫さまに打ち明け、弟をお頼みするべきだった」

姫「あ、貴女ねぇっ!」ブンッ

メイド「……」

姫「いい加減にしなさいよっ!!」バチィンッ

メイド「……っ、お怒りはごもっともでっ」

姫「痛いでしょう⁉︎ 頬を叩かれて痛くないわけないんですの⁉︎」

メイド「……」

姫「でもっ! 叩いた私の手だって痛いっ!! なぜ叩くと思う⁉︎ 楽しいからじゃあませんのよっ⁉︎」

メイド「も、もうしわけっ、ぐすっ、うっ」ポロポロ

姫「貴女が私の友だからでしょう!」ビシッ

メイド「ひぐっ、ぐすっ」

姫「……お父様には、まだ伏せておきます」

メイド「ひ、姫さまぁ、それでは、見つかった時に、姫さままで罪にぃっ」

姫「黙りなさい!! 勇者……勇者はどこほっつき歩いてんるんですの……!」

490: ◆7Ub330dMyM 2018/02/04(日) 23:26:05.63 ID:PSV4AvuAO
【再び 宿屋前 表通り】

戦士「予備の剣まで折られるなんて……」カランカラン

ガンダタ「ヴぉおおおおぉっ!!」ブンッ

武闘家「諦めるなっ! 心が折れなければっ……ぐぁっ」ドゴォーーン

魔法使い「武闘家ぁっ! め、メラ……魔力が……力が、抜けてく」ガクッ

僧侶「私も精神力がぁ~」ガクッ

戦士「こいつの、やせ我慢が勝ったか」

武闘家「まっ、まだまだぁっ!」ガラガラ

戦士「もう、いいよ」

武闘家「……戦士、アンタ、なに言って……」ズル ズル

戦士「世の中は広い。武闘家に負けて、こんないきなり出会ったやつにまで。つくづくあたしは、弱い」

魔法使い「戦士……」

戦士「なにが、自分の力を試したい、だっ。あたしが勝てないやつばかりがゴロゴロいるじゃないか」ポロ

ガンダタ「ウゥ」ノシノシ

武闘家「泣き言はいい、まだ戦えるだろ。折れた剣をとれ」ヒョコ ヒョコ

戦士「お前も! もう足がまともに動かないんだろ⁉︎ 勝てない! 勝てないんだよ! だったら、もう……いいじゃないか……」

武闘家「ふぬけがぁ……っ!!」

戦士「強くなりたかった。強くなりたいってことは、自分が弱いと思ってるってことだ。そうだ、あたしは、弱いんだ」

武闘家「それで納得するのかっ⁉︎ “とことん”までやってないだろ⁉︎」

戦士「立て続けに負けたことのないあんたにはわからないのよ! 自分の強さが、信じていたものを立て直せなくなる!」

武闘家「武は、いつだって己との戦いだ! 背を向けているものに微笑みかけはしない! それでも! 諦めないものに、勝利をもって微笑んでくれる!」

ガンダタ「うおおぉっ」ズシン ズシン

魔法使い「熱く語りあってるとこ悪いんだけど、待ってくれないみたいよ……」

武闘家「お前はそこで見てろ!! 戦いとはなにか!」

戦士「……」

僧侶「す、スクルトぉ~!」ポワァ

武闘家「戦いとは――意地のぶつけ合いだッ!!」シュタッ

ガンダタ「ウガァッ!!」ブンッ

武闘家「くっ」ササッ スッ

ガンダタ「……ウゥッ」ヨロッ

武闘家「(やつも相当なダメージが蓄積されてる。もう少し、もう少しなんだ……!)ハイィィィィヤァッ!!」ドゴォ

ガンダタ「……っ」ヨロヨロ

魔法使い「き、効いてる? ねぇっ! あれって、効いてるんじゃない⁉︎」

戦士「……」ジー

僧侶「私たちも殴りにいきますかぁ~?」

魔法使い「え……? あ、あの中に?」タラ~

武闘家「あちょぉ~! ちょぁっ!!」バキィ

ガンダタ「うがぁっ!!」ブンッ

491: ◆7Ub330dMyM 2018/02/04(日) 23:27:13.33 ID:PSV4AvuAO
戦士「無駄だよ。じきに、武闘家は捕まる」

魔法使い「戦士っ! どうしちゃったのよ!」

戦士「勝てないんだ、あれじゃ」

僧侶「押しているように見えますが~」

戦士「武闘家の攻撃は、疾く、拳の質もいい。的確に急所を狙ってくる。でも――」

ガンダタ「ヌガァァッ!」ブンッ ドゴォ

武闘家「がっ! かはっ」ドサッ

戦士「足をやられ、翼をもがれた武闘家は、こわくない」

僧侶「やっぱりぃ~、武闘家さんも痛みを我慢してたんですねぇ」

ガンダタ「ウゥゥゥ」ガシッ

武闘家「……ぐっ⁉︎」

戦士「ほら見ろ。言ったそばから捕まった。ああなったら、おしまいだ」

魔法使い「た、助けないとっ! め、メラ……あれ……鼻血が……」ツゥー

僧侶「魔力を使いすぎたんですよぉ」

魔法使い「え……? 魔力って使いすぎたら、鼻血でるの……」

僧侶「知らずに魔法使いをやってるんですかぁ? そのまま使えば血管切れて死んじゃいますよぉ」

魔法使い「ひっ……し、死ぬ……?」

僧侶「もっともぉ~死ぬのは武闘家さんが先かもしれませんがぁ」

ガンダタ「わカぞうは……ドコだ……」ギリギリッ

武闘家「ぐぁぁぁっ」ミシミシッ

戦士「勇者か。なぜ探してるかは知らないが、勇者がきたところで――」

493: ◆7Ub330dMyM 2018/02/04(日) 23:42:10.44 ID:PSV4AvuAO
【このちょっと前 宿屋 角】

衛兵「やけにうるせぇと思ったらストリートファイトしてる。それもすっげーハイレベルの」コソッ

ジャン「な、なにやっとんだ。あいつらは」

衛兵「ガンダタってあんなに強かったのか。お、おっかねぇ~」ブルブルッ

ジャン「衛兵。使いパシリいってこい。ダッシュな」

衛兵「へ? どこに行くんですかい? ガンダタの首をとらねぇと」

ジャン「宿屋にヘンテコなマスクが置いてある。いや、俺の今つけてるやつじゃないよ。覆面レスラーみたいなやつな」

衛兵「は、はぁ」

ジャン「それ探してこい。とにかく急げ。俺はちょっくら時間稼いどくから」

衛兵「部屋番号は何番ですかい?」

ジャン「わからん」

衛兵「わ、わからんって……」

ジャン「僧侶か武闘家か戦士か、はたまた魔法使いかで部屋とってるはずだ。その部屋に荷物があるから。他のやつの荷物には触るなよ。俺のにはゼッケン貼り付けてある。母さんお手製の」

衛兵「へ、へい」

ジャン「くれぐれも。かわいい子だからって下着ドロなんかすんなよ」

衛兵「し、しませんて! 俺は生身にしか興味ないんで!」

ジャン「余計な情報はいらん。わかったら行け」スポッ

衛兵「わかりました」タタタッ

勇者「……ふぅ、しかたねぇなぁっ! ったくもぉっ!」タタタッ

494: ◆7Ub330dMyM 2018/02/05(月) 00:05:58.71 ID:3/mAan4kO
勇者「――ちょぉっとまったぁっ!!」ズザザッ

僧侶「あ、あれは……」

ガンダタ「……」ピクッ

武闘家「あ……う……っ」ドサッ

戦士「勇者……」

魔法使い「バカ勇者! 今までどこいってたのよ!」

勇者「酒場でパフパフしてもらってた」キッパリ

魔法使い「こ……っ、このっ、ボンクラ……っ!」

勇者「久しぶりじゃないか。おっちゃん。山で会って以来だな? 元気してた?」

ガンダタ「てメぇ……」

勇者「おやぁ? 前はもっとハキハキ喋ってたと思うけど、どうしたの? ダメージくらいすぎた?」

武闘家「ゆぅ、しゃぁっ! こいつは、バーサーカーだ!」

勇者「それってなぁに?」

僧侶「やせ我慢男みたいですぅ~」

勇者「なるほど。わからん」

魔法使い「とにかく! あともうちょっとみたいなんだから! ピンピンしてるあんたがやりなさいよ!」

戦士「無理だ。勇者、逃げろ」

魔法使い「戦士っ⁉︎」

戦士「勇者の剣さばきじゃ、すぐに終わる」

勇者「(戦士ったらすっかり自信なくしてやがんの。うけるw ……まぁ、サキュバスの時は精神攻撃だったから仕方ないとはいえ、こうも立て続けに負けてちゃなぁ)」

武闘家「戦士……っ、安心しろ、この勝負、アタイたちの、勝ちだ」ムクッ

戦士「勇者じゃ勝てない」

武闘家「勝てる」

戦士「なぜ……? そうか、武闘家は、知らないんだったな」

武闘家「知らないのは、気がついてないのはあんたさ」ズリズリ

勇者「薬草をすりつぶした塗り薬だ。僧侶」ポイッ

僧侶「はい~」パシッ

勇者「仙豆とまではいかないが、そいつを傷口に塗ってやれ」

ガンダタ「こ、コゾぉっぉおおおおっ!! おまえのせイでぇぇ」

勇者「カカロットォってか。いやはや、中途半端なことして悪かったな。おっちゃん」

ガンダタ「こ、コロしてやるッ!!」ズシン ズシン

勇者「……」チラッ

武闘家&戦士&魔法使い「……」ジー

勇者「(ばっちり見られてるねぇ。やっぱり、テキトーに時間稼ぐとするか)……スクルト、ピオリム」ポワァ

ガンダタ「ウガァァァッ!」ズンズンズン

武闘家「補助魔法……? 勇者、まさか……」

戦士「知らないのだろう。あれが、勇者の戦闘スタイルだ」

魔法使い「自身を強化する魔法剣士。一人でも戦える。だけど、なにかが突出してるわけじゃない器用貧乏」

武闘家「勇者ぁっ!! 本気でやれっ!!」

ガンダタ「ウガァッ!」ブンッ

勇者「むっ」チャキ

戦士「ば、バカっ!! 受けようとするな!!」

495: ◆7Ub330dMyM 2018/02/05(月) 00:36:30.16 ID:3/mAan4kO
ガンダタ「うぅぅぅっオオォォおおっ!!」

勇者「(おおっ、なかなかに重い……! こりゃ苦戦してるわけだ)」パキィッン

魔法使い「勇者の剣がっ!」

戦士「……終わった」

ガンダタ「ゥゥッ」ピタッ

勇者「……なぁ、おっちゃん。アデルに行かなかったのは自由だけど、なにも俺に会いにこなくたって」シュタッ

ガンダタ「オマエのせイで、オレはこうナッた」

勇者「自業自得な面もあると思うよぉ。いつまでも続けられるわけじゃないとわかってると思ってたけど」

ガンダタ「……」シュゥゥゥ

武闘家「……バーサーカー状態が、解けた……?」

ガンダタ「うっ、むぅ……」ガクッ

勇者「終わりか?」

ガンダタ「慌てるな。若いってのはせっかちでいけねぇな」ゴソゴソ

勇者「……?」

ガンダタ「お前が置いてったもの。こいつを返したくてよ」キラン

魔法使い「あれって……さっき、メイドが持ってたやつと同じ……?」

勇者「それは俺がおっちゃんにあげたもんだ。捨てるも自由、なにするも自由だ。俺が受けとらないのもね」

ガンダタ「勘違いすんな。これは、オマエの墓標に添えるもんだ」

少年「お、おじちゃん。終わったの?」ヒョコ

勇者「キミは……もしかして、メイドの弟くん?」

少年「えっ、な、なんでお兄ちゃんが、お姉ちゃんを?」

勇者「そうか……。なぁ、おっちゃん。悪いことは言わないからこのまま城に行け。そして、弟を助け出したと言うんだ」

ガンダタ「くっ、くっくっ」

勇者「金もらってどことなり消えりゃいいだろ。な?」

ガンダタ「そこだよォっ!! 俺が気にくわねぇのはぁーっ! なに上から目線で見てやがる!! オマエは! 誰に向かって言ってるんだ⁉︎ あ゛ぁッ⁉︎」ギロッ

勇者「……」

ガンダタ「オレはッ!! オレ様は認めねぇ!! お前みたいな世の中をなんも見てきてねぇでわかったようなツラしてるガキをッ!!」

勇者「現代っ子なもんで」

ガンダタ「ガキィッ!! だったら、オレが教えてやるよっ!!」シュゥゥゥ

魔法使い「そ、そんなっ……! またっ⁉︎ 武闘家、解除したら痛みが襲うんじゃなかったの⁉︎」

武闘家「意地があるんだ。その意地が、肉体と精神を凌駕している」

戦士「……」

武闘家「あいつも、戦ってる。胸がムカつくことに対して、認めないと」

戦士「勇者ぁっ! 剣の予備はもうない!」

勇者「そいつは、残念」タラ~

ガンダタ「さァッ!! 覚悟ハいいカッ!!」クワッ

496: ◆7Ub330dMyM 2018/02/05(月) 00:52:44.81 ID:3/mAan4kO
【宿屋 部屋】

衛兵「ちぇっ、俺をアゴでこきつかいやがって。なんだってんだよ」ギィ

――ドゴォーーンッ――

衛兵「え……」

勇者「バーサーカーって筋力までアップされてんのな」パンパン

衛兵「あ、あの……。表から、ここまで?」

勇者「吹っ飛ばされてきた。ここってもしかして、俺らの部屋?」

衛兵「す、素顔はそんなに若かったんすね。仮面したまんまだから」

勇者「え~と、たしかこのへんにぃ~と」ゴソゴソ

衛兵「隠れてていいっすか?」

勇者「おっ、あったあった。いいよ。ここなら安全だろうから」スポッ

衛兵「ちなみに、なんでマスクを?」

マク「いろいろとめんどーなことにならないため」

衛兵「は、はぁ」

マク「服の衣装がないけど、とりあえず、同じなままじゃバレちゃうから……たしかこっちに、寝巻きが」ゴソゴソ

衛兵「正体を隠しているので?」

マク「まーね。ヒーローはいつだってそんなもんだろ?」ヌギヌギ

ガンダタ「ワカゾォォォッ!! 降りてコイっ!!」

衛兵「およびが、かかってますが」

マク「人にはせっかちだとか言ってたくせに」タンタン

衛兵「……」

マク「なにも盗るなよ? 盗ったらボコすかんな?」

衛兵「ひゃい」

マク「んーと、となりの部屋から飛び出すか」タタタッ

衛兵「(ここまで吹っ飛ばされて、無傷って……どうなってんの……)」

499: ◆7Ub330dMyM 2018/02/05(月) 10:26:15.41 ID:fQ/B2oVuO
【再び表通り】

魔法使い「勇者、死んだんじゃ……?」

戦士「可能性としては、ありうる。もしくは戦闘不能になってるか」

武闘家「ないね」キッパリ

戦士「あれを見ろ。踏みこみで足跡がくっきりついてる。宿屋の三階まで吹っ飛ばされてるのが衝撃の強さの証拠だ」

僧侶「そろそろ出てくるんじゃないですかねぇ」

――バターンッ――

マク「……」シュタッ

魔法使い「あ、ああ、あ、あれはっ⁉︎」

戦士「マクさんっ⁉︎」

武闘家「(やっぱり……とことん隠したいみたいだね。勇者のやつ)」

僧侶「……くすっ」

ガンダタ「……?」

マク「……」クイクイ

魔法使い「見て見てえっ! 隣の部屋から出てきたわよぉ! マク様が泊まってたなんてぇ~っ!! 颯爽と飛び出して……キャーーーッ! かっこいいっ!!」キラキラ

戦士「マクさんなら、あるいは……」

武闘家「こ、こいつらは……。アタイが全部ぶちまけてやろうかな」ボソッ

ガンダタ「ジャマするノなら容赦しねェッ!」ブシュウ

マク「(血が吹きだしてやがる。時間稼ぎのために長引かせて悪かったな。本当はとっくに限界こえてんだろ)」スッ

魔法使い「マクさまぁっ! がんばってぇ~~!」フリフリ

戦士「動きが、構えが洗礼されてる。勇者とは大違いだ」

武闘家「頭痛がする」

僧侶「くすくすっ、なんでもいいじゃありませんかぁ」

マク「(こっちの都合で本当にごめんな。一発でケリをつけるよ)」ビュッ

ガンダタ「ウォおおおっ!!」ブンッ

マク「(普通のパンチ!)」ズパァァァァンッ

魔法使い「戦士。み、見えた?」

戦士「見えない。いつのまに近づいて攻撃したんだ」

武闘家「(やはり、勇者は次元が違う。あそこまでの高みにはいったいどうすれば)」

ガンダタ「う……オォ……っ! な、なんだァ? テメぇ……」ヨロヨロ

マク「(俺の拳を耐えるとはたいしたもんだよ。人間の枠の中じゃおっちゃんは強い。でもな、俺は魔王に勝てる勇者。人間じゃ、勝てないんだ)」スッ

魔法使い「え……」

ガンダタ「ば、バカなぁっ! たった、一発でぇ」

戦士「限界間近だったのか……?」

武闘家「とっくに限界を迎えて、認めたくないという意地で保ってた。健気に歯をくいしばって耐えてた根性を上回る一撃だったのさ」

戦士「ど、どんだけ強いんだ……」ゴクリ

ガンダタ「」ズゥゥン

マク「(いかん、おっちゃんが死ぬかもしれん。ベホマ)」ポワァ