1: 名無しで叶える物語 2018/01/22(月) 20:27:50.71 ID:8f2RyLUK.net
――呼吸を整え、足元を覗き込む。

――飛び込み台から水面までの距離――10メートル。これまで何度も跳んできた高さだ、恐怖心はこれっぽっちも無い。

――ふと、観客席の方を見る。今はコンタクトを外しているからよくは見えないけれど、ぼんやりと二人の姿がわかった。

――一度だけ二人に軽く手を振ってから、改めて姿勢を整える。

――そして、全身のバネを使い台から跳躍。

――回転。

――着水する。

2: 名無しで叶える物語 2018/01/22(月) 20:28:40.08 ID:8f2RyLUK.net
ザパンッ

曜「ぷはぁっ……」パシャッ

――結果は……コーチに言われるまでもなく、自分でもわかっていた。

――回転が足りない、水しぶきが大きい、着水音も大きい……明らかな失敗だった。

曜(まいったな……せっかく二人が見に来ているのに……)

――練習だから良かったものの、これが大会本番だったら目も当てられない。

――ふと、背中がヒリヒリと痛むのを感じる。

3: 名無しで叶える物語 2018/01/22(月) 20:29:09.78 ID:8f2RyLUK.net
曜(あちゃ~、痣が残らないといいんだけど……今度の衣装、背中を出さないようにデザイン変更しなきゃ駄目かな……?)

――そんな事を頭の隅で考えながら、プールサイドへと向かう。

――今日は何度飛んでも同じ感じだ。次のジャンプでも上手く出来る自信が無い。

曜(渡辺曜。本日、絶賛スランプ中であります……)

4: 名無しで叶える物語 2018/01/22(月) 20:31:16.10 ID:8f2RyLUK.net
――――数十分後:練習プールの観客席にて


千歌「あ、曜ちゃ~ん♪お疲れ~」ブンブン

梨子「お疲れ様、曜ちゃん!」ニコッ

曜「あはは……ありがと」テレッ

千歌「いや~でもさっすが曜ちゃんだよね♪私、あんな高い所からジャンプなんて出来ないもん。何度見ても凄いっ!」

曜「そうかな?えへへ……」////

梨子「……」

5: 名無しで叶える物語 2018/01/22(月) 20:33:32.97 ID:8f2RyLUK.net
千歌「でも良かったの?せっかくAqoursの活動が休みなのに飛び込みの練習なんて……オーバーワークで倒れちゃわないか心配だよ?」

曜「ん~最近全然飛び込みの練習に来れてなくってコーチから催促されてたしね~。それにどうせ練習が休みの日って私、衣装作ってるか筋トレしてるかだから!」

梨子「そうなんだ?お休みの時くらいゆっくりすればいいのに……」

千歌「梨子ちゃんだって、休みの時でもよく家でピアノ弾いてるじゃん?」

梨子「あ……ゴメン、窓は閉めてたんだけど……うるさかった?」

千歌「ん~ん、梨子ちゃんのピアノ聞きながらだと宿題が捗るんだ♪」ニコッ

曜「へ~、私も今度千歌ちゃん家に行って試してみようかな……」

梨子「そんな効果無いからっ」////

6: 名無しで叶える物語 2018/01/22(月) 20:37:54.36 ID:8f2RyLUK.net
曜「あはは……でも今日は良かったの?せっかくの休みにこんな遠い所まで……」

千歌「だって~梨子ちゃんが曜ちゃんの飛び込みをする所、一回も見たことないって言うから~ねぇ?」

梨子「う、うん……今まで周りに高飛び込みやってる人なんていなかったから、一度見てみたくて……」

曜「そっか~」

千歌「それにぃ~こっちの街には沼津とはまた違った、色んなお店があるみたいだし~」ニシシ

梨子「そうなんだ?」

千歌「終わったら皆で一緒に買い物行こうね!美味しいみかんスイーツのお店もチェックしてあるんだ♪」ニコッ

曜「う、うん……」

コーチ「おーい、渡辺~!」

曜「あ、呼ばれちゃった……また後でね、千歌ちゃん!梨子ちゃん!」

梨子「うん、また……」

千歌「ロビーで待ってるからね~」ブンブン

曜「ヨーソローッ!」ビシッ

梨子「……」

7: 名無しで叶える物語 2018/01/22(月) 20:40:57.64 ID:8f2RyLUK.net
――――数時間後:沼津市:バス停留所にて


曜「それじゃ~私はここで!今日はホントにありがとね、おかげでこっちじゃ置いてない珍しい生地も買えたよ♪」ニコッ

梨子「ううん。こっちが無理言って練習見学させてもらったんだし、これくらい……」

千歌「私達も久々の休みを満喫出来たしねっ!」

曜「…………また明日から練習だね」

千歌「うん!決勝に向けて頑張らないと。ね、梨子ちゃん?」

梨子「え、ええ……」

千歌「じゃあね、曜ちゃん。今日はゆっくり休んでね~」

曜「了解であります!じゃあね~」ビシッ

8: 名無しで叶える物語 2018/01/22(月) 20:43:20.38 ID:8f2RyLUK.net
プシュー、バタンッ

梨子「……」

千歌「……」

梨子「行っちゃったね、曜ちゃん……」

千歌「うん……」

梨子「ねぇ、千歌ちゃん……」

千歌「ん~?」

梨子「曜ちゃんの事なんだけどさ……」

千歌「…………うん」

梨子「なんだか今日は元気が無かったように見えたんだけど、どこか調子悪かったりとか……」

千歌「……」ジー

梨子「……千歌ちゃん?」

9: 名無しで叶える物語 2018/01/22(月) 20:45:57.57 ID:8f2RyLUK.net
千歌「……梨子ちゃんには、そんな風に見えてた?今日の曜ちゃん――」

梨子「ええ……でも一体――」

千歌「えいっ」スッ

梨子「えっ、ちょっと千歌ちゃんっ!?」

千歌「ん~梨子ちゃんは凄いなぁ~」ナデナデ

梨子「な、なんで頭を撫でるのっ!?」////

千歌「褒めてるんだよぅ♪『よく気づけましたで賞』だね!」ナデナデ

梨子「えぇっ!?」

千歌「…………曜ちゃん、悩んでる姿をあまり人に見られたくないからすぐ隠しちゃうからねぇ~」

梨子「――っ!じゃあやっぱり……」

10: 名無しで叶える物語 2018/01/22(月) 20:47:58.35 ID:8f2RyLUK.net
千歌「曜ちゃんってば、隠し事も得意だからさ~私も見逃しちゃう時があるんだケド……Aqoursを始めて、曜ちゃんの事きちんと見てくれる人が増えたのはとっても嬉しいんだ」ニコッ

梨子「千歌ちゃん……」

梨子(気づけたのは、千歌ちゃんがいつもよりテンション高めだったのもあるんだけど……)

梨子「――って、いつまで撫でてるのっ!」////

千歌「――っと、ゴメンゴメン」

梨子「もう!…………でも、何か悩んでるなら力になってあげないと……」

千歌「……そうだね。ここは千歌の幼馴染データベースをフルに活用して……」ムムム

梨子「千歌ちゃん、真面目に考えてる……?」ジトー

千歌「真面目だよぅ……ん~でも今日の感じだと、なんだか飛び込みに関する悩みっぽいから……」ムムム

梨子「から……?」

千歌「……ここは果南ちゃんの出番かな?」フフッ

梨子「――――へ?」キョトン

11: 名無しで叶える物語 2018/01/22(月) 20:51:14.43 ID:8f2RyLUK.net
――――


プルルルル


果南「ん?――と、曜から着信だ」ピッ

曜『あ、果南ちゃん……』

果南「はいは~い、どうしたの?――って、今日は確か飛び込みの練習じゃなかったっけ?」

曜『あはは……練習はもう終わったんだけどさ……果南ちゃん、お店のお手伝いの方は?』

果南「ん~今日は予約分は全部終わったから、飛び入り客が来なければ片付けをして終わりかな?全く父さんも人使いが荒くて……」ブツブツ

曜『そっか。だったら――』

果南「……?」

12: 名無しで叶える物語 2018/01/22(月) 20:53:55.06 ID:8f2RyLUK.net
曜『――久しぶりに、ちょっと付き合ってもらっていいかな?』

果南「――!…………いいよ?」

曜『……アリガト。じゃあ、果南ちゃん家の近くまで来たらまた連絡するね』

果南「はいよ~気をつけてね~」ピッ

果南「ふぅ……」ストンッ

果南「……久しぶりだなぁ、曜に誘われるの♪」フフッ

13: 名無しで叶える物語 2018/01/22(月) 20:58:03.46 ID:8f2RyLUK.net
――――


梨子「真剣勝負?……果南さんと?」

千歌「そ♪種目は水泳だったり徒競走だったり――その時その時でマチマチみたいだけど……」

梨子「…………それって悩みの解決になってるの?」

千歌「アハハ……なってるみたいだよ?なんか、全力を出し切るとスッキリするみたいで!……水泳部や飛び込みでなんかモヤモヤしてる時は大体そうしてるかな?」

梨子「私には理解できない世界だわ……」

14: 名無しで叶える物語 2018/01/22(月) 21:00:29.47 ID:8f2RyLUK.net
千歌「……曜ちゃんが気兼ねなくお願いできて、且つ勝負になるのって果南ちゃんくらいしかいないんだよね~。ホントは私が役に立てれば良いんだけれど、千歌じゃ力不足だからさ……」

梨子「千歌ちゃん……」

千歌「ああ、ちなみに今のは『千歌』と『力』をかけた~」ニヤニヤ

梨子「はぁ~~。曜ちゃん大丈夫かしら……」トオイメー

千歌「ちょっと梨子ちゃん聞いてる!?盛大に溜息つかないでよっ!」

16: 名無しで叶える物語 2018/01/22(月) 21:03:38.95 ID:8f2RyLUK.net
――――二時間後:淡島神社本殿前にて


曜「ぜはぁっ……はぁっ……はぁっ……」

果南「はい、私の勝ち~♪」ニカッ

曜「はぁ……はぁ……あ~負けた!悔しい~~」ジタバタ

果南「はいはい、暴れないの。それより、しっかりクールダウンしときな」

曜「む~……これでも水泳部では負け無しなんだけどなぁ、階段ダッシュ……」

果南「鍛えてるからね♪それに、こっちの階段は私の方が走り慣れてるし」

曜「そっか……」シュン

17: 名無しで叶える物語 2018/01/22(月) 21:07:19.96 ID:8f2RyLUK.net
果南「……いつも思うんだけど、自分の得意分野で勝負しないの?今日だって――例えば短距離走とかにしとけば曜の圧勝じゃん?」

曜「ん~勝つことが目的じゃないし、思いっきり負けた方がスッキリするかな?……ってね♪」フフッ

果南「発想が根っからの体育会系だねぇ……」ヤレヤレ

曜「果南ちゃんには言われたくないなぁ~」

果南「なにおぅ~!?」

曜「あははっ、果南ちゃんが怒った~」

果南「ったく…………で?悩みは解決しそう?」

曜「う~ん……わかんないや」ヘラッ

果南「なにそれ」クスッ

18: 名無しで叶える物語 2018/01/22(月) 21:10:45.07 ID:8f2RyLUK.net
曜「おかげで気分は晴れたけど……じゃあまた失敗せずに飛べるか聞かれたら、う~ん……って感じ?ホントどうしてなんだろうね?今日は何度飛んでも上手く出来なくってさ……」

果南「ふむふむ……」

曜「二人には格好悪い所見せちゃったな……いくら練習に行ったのが久しぶりだからって言っても、もう少し上手にやらないといけないのにさ……」シュン

果南「ふ~ん……」ジー

曜「果南ちゃん?」

果南「ああいや、珍しいなって思って……」

19: 名無しで叶える物語 2018/01/22(月) 21:13:31.52 ID:8f2RyLUK.net
曜「珍しいって……果南ちゃんまで私の事、要領が良い人間だと思ってる?私にだって調子が悪い時くらい……」ブツブツ

果南「ん?ああ、違う違う――」

ピローン

曜「果南ちゃん、携帯なってるよ?」

果南「ホントだ。ちょっとごめんね。ふむふむ…………」

曜「?」

果南「――よしっ!曜、もう少し時間ある?」

曜「へっ!?」

20: 名無しで叶える物語 2018/01/22(月) 21:17:46.37 ID:8f2RyLUK.net
――――


ブロロロロ

千歌「ふぅ、やっと着いた~」

梨子「そうね……」

千歌「…………ねぇ、梨子ちゃんはどうする?」

梨子「――!……どうするって?」

千歌「…………私はね『いつもの私』でいるつもり。いつもと変わらず応援してあげて、立ち直ってくれたらいつもと同じように迎えてあげる……それが、幼馴染の私に出来る一番の方法」

梨子「千歌ちゃん……」

千歌「梨子ちゃんは……どうする?」

梨子「私は…………」

21: 名無しで叶える物語 2018/01/22(月) 21:20:03.37 ID:8f2RyLUK.net
千歌「――――なんてね。じゃあね梨子ちゃん、また明日~」ブンブン

梨子「あ、千歌ちゃん……」

梨子「……」

梨子(果南さんは勝負を受けることで、曜ちゃんの力になってあげている……)

梨子(千歌ちゃんは『いつもと変わらない事』を心がけて、曜ちゃんに心労をかけないようにしている……)

梨子(二人とも方法は違うけれど、曜ちゃんの事を心配して何かをしてあげているんだ……)

梨子(じゃあ、私に出来る事は……?)

梨子「……」スッ

梨子「『果南さん、曜ちゃんの様子はどうですか?』と……」

22: 名無しで叶える物語 2018/01/22(月) 21:22:12.97 ID:8f2RyLUK.net
――――


果南「よいしょっと……セッティング完了♪」

曜「わぁ~久しぶりに見たな、果南ちゃんの望遠鏡♪」

果南「そうだっけ?」

曜「うん。小さい頃はよく誘ってくれた覚えが有るけど……」

果南「言われてみればそうかも……」

曜「――今考えると、私達より鞠莉ちゃんやダイヤさんとばかり遊ぶようになったからそういう機会がなくなったのかな?」ニヤニヤ

果南「さ、さあね?」////

曜「ふふっ♪」

果南「もうっ、曜!」

曜「あははっ♪でも、久しぶりに誘ってくれて嬉しかったな、天体観測」

果南「うん……」

23: 名無しで叶える物語 2018/01/22(月) 21:25:44.14 ID:8f2RyLUK.net
曜「そうだ果南ちゃん!前に話してたおっきな船の星座は今見れるの?」クルッ

果南「アレはたしかに冬の星座だけど、日本からはほとんど見れないってば……例え見えたとしても、端っこの部分だけだよ?」

曜「そうなんだ……あぁでも、夜空い~っぱいに大きな船が浮かんでるのってロマンあるよね~」ニコニコ

果南「……」

曜「そうだ!次のステージは星座をモチーフにした衣装なんてどうかな?こう、藍色をベースにしてぇ~。星は何で表現しようかな~」キラキラ

果南「……」

曜「果南ちゃん……?」

25: 名無しで叶える物語 2018/01/22(月) 21:28:47.14 ID:8f2RyLUK.net
果南「……やっぱりその顔だよね」

曜「へ……?」キョトン

果南「いやさ、曜って制服とか、船とか、飛び込みとか――好きなものの話をする時はいっつもそんな風に笑顔で話してくれてたのに、今日は全然だったからさ~」

曜「そう……かな……?」

果南「そうだよ。ましてや今日はただの練習だったんでしょ?コレが大会本番だって言うんならまだしも……ただの練習の日なら、いつもの曜だったらまず久しぶりの飛び込み自体を楽しんでると思うんだけど?」

曜「そう……かもしれない」

曜(確かに、今日は『上手くやらなきゃ』って事ばかり頭に浮かんでいた気がする。だから余計な力が入って――)

曜(小さい頃から、ただ飛ぶこと自体が楽しかった……はずなのに)

26: 名無しで叶える物語 2018/01/22(月) 21:31:24.67 ID:8f2RyLUK.net
曜「…………なんで今日に限って『上手くやらなきゃ』って気持ちばかり先に来ちゃったのかな?」ウーン

果南「なんでって……本気で言ってるの?」

曜「果南ちゃん……?」

果南「そんなの、ギャラリーが増えたからに決まってるでしょ?」ニコッ

27: 名無しで叶える物語 2018/01/22(月) 21:39:24.97 ID:8f2RyLUK.net
――――


――知識としては知っていた。それこそ、オリンピックや世界大会の時期になるとTVのニュースでもよくやっていたし、数えるくらいだが、映像でも見たことがあった。

――それでも生で見る飛び込み台は、観客席からすら見上げるほどに高くそびえ立ち、プールはその数字以上の深さを感じさせていた。

――隣に座る千歌ちゃんは慣れた様子で話してくるが、当の私は『本当に人がこんな所から飛び降りることが出来るのだろうか』……と半ば見当違いの心配をするばかりだった。

――『少なくとも私には無理だな』……なんて事を考えていると、一番上の飛び込み台に一人の少女の姿が見えた。

――少女はこちらに一瞥をくれると正面に向き直り、躊躇うこと無く跳躍。

――回転。

――着水する。

28: 名無しで叶える物語 2018/01/22(月) 21:42:39.52 ID:8f2RyLUK.net
――正直、素人目には今のジャンプの良し悪しなんて判断がつかない。だが、プールから上がった彼女の表情から察するに、結果はあまり芳しくはなかったのだろう。

――彼女が眉間にしわを寄せていたのはほんの一瞬の事で、こちらに気付くとすぐに笑顔を向けてくれていた。

――きっと彼女にとっては、私達に失敗を悟られる事が嫌なくらいひどいジャンプだったのかもしれない。

――それでも私は、彼女の小さな身体が宙を舞い……力強く回転し……水面に吸い込まれる姿を見て――

『綺麗……』

――と、自然に声を漏らしていた。

30: 名無しで叶える物語 2018/01/22(月) 21:47:24.62 ID:8f2RyLUK.net
――――


曜「ギャラリー……?」ポカン

果南「うん」

曜「いやいや、確かに大会が近い時の練習には結構見学に来る人も多かったけど、今はシーズンオフだし観客なんて全然……」アタフタ

果南「曜?」

曜「……はい?」ギクシャク

果南「そんなんで誤魔化してるつもり?」ニッコリ

曜「あはは……やっぱり通じない?」

果南「当然!」

曜「あはは……だよね~」ガックリ

33: 名無しで叶える物語 2018/01/22(月) 21:49:58.47 ID:8f2RyLUK.net
――果南ちゃんの言いたいことはそう難しいことじゃない。

――『ギャラリーが増えた』から『上手くやらなきゃ』と意識してしまった……。

――つまり、見られていることを意識してしまったから失敗してしまった……と。

――見られていた……誰に?

――先に自分で言ったとおり、今はシーズンオフで観客なんてほとんどいない。それに私自身『ナショナルチーム級』なんて言われることも有るけれど、あくまで『級』だ。正式な所属選手というわけではない。

曜(今はスクールアイドルの方に力を入れちゃってるわけだしね……)

――そんな無名な自分のことを見ている人間なんて、それこそ千歌ちゃんと梨子ちゃんくらいしかいなかったわけで……。

――千歌ちゃんには小さい頃から飛び込む姿を見られていたわけだから、今更意識なんてするわけない。

――ということは、つまり……つまり…………。

34: 名無しで叶える物語 2018/01/22(月) 21:53:53.66 ID:8f2RyLUK.net
曜「いやいやまさか、ねぇ……」ブツブツ

果南「な~にブツブツ言ってるんだか…………梨子もそう思うよねぇ?」

曜「――――っ!!り、梨子ちゃん!?」ビクッ

梨子「……う、うん」コクリ

35: 名無しで叶える物語 2018/01/22(月) 21:58:04.35 ID:8f2RyLUK.net
――――ほんの少し前:果南⇔梨子:メッセージアプリにて


梨子:果南さん、曜ちゃんの様子はどうですか?

果南:梨子!……曜の事、気づいてたんだ。

果南:心配?

梨子:はい

梨子:なにか私に出来ることはないか探したんですが、思いつかなくて……

梨子:でも何かしないといられなくって、それで

果南:そっか、梨子は優しいねぇ

果南:だったら、直接会いに来る?

梨子:えっ?

36: 名無しで叶える物語 2018/01/22(月) 22:00:17.34 ID:8f2RyLUK.net
果南:ちょうど今ウチにいるからさ。ほら、前にダイビングで来た事あるからウチまでの道は分かるでしょ?

梨子:でも……二人の邪魔にはならないですか?

果南:大丈夫。梨子も直接曜の様子見たほうが安心できるでしょ?

梨子:それはそうですけど……

果南:よし決まり♪待ってるよ~

果南「――――と、ふふっ。世話の焼ける後輩達だなぁ」クスクス

果南(でもまぁ。私もダイヤや鞠莉みたいに、みんなの力になってあげないとね……先輩として♪)

曜「果南ちゃ~ん、三脚置くのってココら辺でいいの~?」

果南「ん~今そっち行くから待ってて~」

37: 名無しで叶える物語 2018/01/22(月) 22:03:30.10 ID:8f2RyLUK.net
――――再び現在


曜「梨子ちゃん……」

梨子「曜ちゃん……」

果南「……って、二人とも何固まってるのさ?」

曜「へ?い、いや~」////

梨子「そ、そんな事ないですよ?」////

曜「で、でもどうしてここに……?」

果南「私が呼んだんだ~♪一緒に天体観測でもどうかなって――ねぇ?」

梨子「は、はい……」

曜「そうなんだ……」

38: 名無しで叶える物語 2018/01/22(月) 22:07:20.46 ID:8f2RyLUK.net
果南「そうだ♪この時期には梨子の好きな犬の星座が見えるかもしれないな~。はいコレ星座早見盤。今の時間だと……こっちの方角かな?」

梨子「べ、別に好きってわけじゃ……嫌いではなくなりましたけど……」

曜「あぁでも、あっちの方は山だから見辛いかもね……」

梨子「……」チラッ

曜「……」チラッ

曜・梨子「「……」」////

39: 名無しで叶える物語 2018/01/22(月) 22:12:07.30 ID:8f2RyLUK.net
果南(う~む、少し二人きりにしておくか……)

果南「二人とも、もうこんな時間だし夕食はウチで食べてく?」ニカッ

曜「えっ?」

梨子「そんな、ご迷惑じゃ……」

果南「いいのいいの♪んじゃちょっと作ってくるから待っててね~」スタスタ

曜「ちょ、果南ちゃ~んっ!?」

果南「望遠鏡と早見盤、自由に使っていいからね~寒かったら中に入っておいで♪」ヒラヒラ

曜「……」ポカン

梨子「……」ポカン

41: 名無しで叶える物語 2018/01/22(月) 22:16:58.54 ID:8f2RyLUK.net
曜「……クシュン」

梨子「大丈夫!?……はいコレ」スッ

曜「上着?……ありがとう」ゴソゴソ

梨子「……この時間だと、寒いかなって思って持ってきてたの。寒がり……だもんね?」クスッ

曜「あ、うん……」////

梨子「……せっかくだし、星でも見ながらお話する?」

曜「うん!」

42: 名無しで叶える物語 2018/01/22(月) 22:20:13.00 ID:8f2RyLUK.net
――――3年生:メッセージアプリにて


果南:二人とも、今大丈夫?

ダイヤ:どうしたんですの?唐突に

果南:お、珍しくダイヤの返信が早い♪

ダイヤ:ちょうど空いてる時間でしたから……

鞠莉:Hi!なになに?真面目な話?

果南:あはは、実はさ……

44: 名無しで叶える物語 2018/01/22(月) 22:25:50.78 ID:8f2RyLUK.net
~~~~

果南:というわけで、梨子をこっちに呼ぶまでは良かったんだけどさ~その先がなかなかうまく行かなくて……

ダイヤ:なんというかまぁ……

鞠莉:無計画にも程があるわよね~

果南:うう……やっぱり?

ダイヤ:どうせ果南さんのことだから、二人を会わせれば何とかなるとでも思ったのでしょうけど

鞠莉:しかし曜と梨子がね~。前からちょっとそんな感じはしてたケド

ダイヤ:しかしまぁ……あんまり慣れない事はするものではないかと

鞠莉:そうだよ!似合わない事して、曜と梨子が私達の時みたいにすれ違っちゃったらどうするの?

果南:その節は反省してます……

鞠莉:もう!ハグしてくれるまで絶対許してあげないんだからね?o(*≧д≦)o))プンプン

果南:(`・ω・)ω-*)ギュ

鞠莉:(≧∇≦)キュン

ダイヤ:なにしてるんですの……

46: 名無しで叶える物語 2018/01/22(月) 22:30:26.20 ID:8f2RyLUK.net
果南:あはは……まぁ二人ともさ

鞠莉:?

果南:理事長や生徒会長としてってだけじゃなく、みんなの事見てあげているじゃん?

果南:私も先輩として、何かしてあげないとな……って思ってね

ダイヤ:果南さん……

鞠莉:そっか……でもね

果南:?

鞠莉:別にそのままの果南でいいんじゃない?

ダイヤ:そうですわね

47: 名無しで叶える物語 2018/01/22(月) 22:35:27.95 ID:8f2RyLUK.net
ダイヤ:無理に気を遣おうとしなくても、あなたは十分みんなの事を見ていてくれているではありませんか

鞠莉:トレーニングメニュー考えたり、みんなの体調管理したりとか?

ダイヤ:それに辛い練習の後でも、ニコニコ笑っているあなたの事を見ると、結構元気づけられたりするんですよ?

鞠莉:あ~それわかる!

鞠莉:なんだかヘラヘラ笑ってる果南を見ると、こっちまでおかしくなっちゃって、疲れが吹っ飛んじゃうのよね~

果南:ヘラヘラって……

ダイヤ:自覚はないのかもしれないですが、みんな感謝してるんです。

ダイヤ:無理に私達の真似をするのではなく、そのままのあなたでいて下さい。

鞠莉:Yes!

果南:そっか……

48: 名無しで叶える物語 2018/01/22(月) 22:37:14.17 ID:8f2RyLUK.net
果南:曜に偉そうな事言っちゃったけど、私の方もらしくなかったってことか

果南:二人とも、ありがとう♪

鞠莉:No problem!

ダイヤ:いいえ、何年の付き合いだと思ってるんですか?

果南:でも助かったよ。

果南:また明日学校で♪

果南「ふう…………ふふっ、二人ともやっぱり凄いなぁ……」

果南(私らしく……か――)

果南「――さて、夕食作らなきゃ!何を作ろうかな?」

果南「曜と梨子の好きなもの……スコッチエッグにでもしようかな?♪」フフッ

49: 名無しで叶える物語 2018/01/22(月) 22:40:24.72 ID:8f2RyLUK.net
――――


梨子「『最も時間が短い競技』……飛び込みが?」

曜「うん!……飛び込み台からジャンプして、着水までが約2秒。たったそれだけの時間で決着する競技なんだ」

梨子「凄く、シビアな競技なのね……」

曜「まぁ実際は何種目か飛んで、その総合点を競うわけだし……格闘技とかは一瞬で試合が終わることもあるから、厳密にいうと『最も時間が短い』ってわけじゃないのかもしれないけどね~」フフッ

梨子「そうなんだ?」

曜「……それでも、着水までに与えられた時間はどの選手も平等……その限られた時間にどれだけの表現を込めることが出来るのか……」

梨子「……廃校が決定した私達みたいね。限られた時間の中で、浦の星の名前を遺すために足掻く……」

曜「――!…………そうかもね。だからかな?」

梨子「?」

50: 名無しで叶える物語 2018/01/22(月) 22:42:58.59 ID:8f2RyLUK.net
曜「限られた中でやらないと――とか、そう考えると、『やってやろうじゃん?』って気になるんだ!飛び込みも、スクールアイドルも♪」

梨子「……曜ちゃんは強いね。私だったら、長年かけて研鑽してきた技術がたったの2秒で評価されちゃうなんて考えたら……」

曜「……そんな事無いよ。今日だって私失敗ばかりで――」

梨子「――今日のジャンプ、凄く格好良かった!」グイッ

曜「り、梨子ちゃん……?」

梨子「曜ちゃんからしたら、納得できない……失敗したジャンプだったのかもしれないけど、私……とっても綺麗だなって思ったの」////

曜「そっか……アリガト」////

梨子「私、思わず見惚れちゃって……どうしてもそれを伝えたくて――って私、いきなり何恥ずかしい事を言って……」カァァ

曜「あははっ。……じゃあ、梨子ちゃんが恥ずかしい事を教えてくれた教えてくれた代わりに、私もひとつ恥ずかしい事言っちゃおうかな?」

梨子「えっ?」

51: 名無しで叶える物語 2018/01/22(月) 22:45:19.50 ID:8f2RyLUK.net
曜「私ね、梨子ちゃんの言うとおり今日のジャンプは失敗ばかりだったんだ……」

梨子「あ……ごめんね?飛び込みの素人な私が失礼な事を……」シュン

曜「ううん?自分でもわかってたから……でも今日はどうしても『失敗できない』『上手くやらなきゃ』って意識しすぎちゃって、ベストなジャンプを飛べなかったんだ……」

梨子「そう……なんだ……」

曜「今日の練習は、どうしても……『格好良い所を見せたい人』が見に来ていたから、変に力が入っちゃって――ね」////

梨子「――――!うん、そう……なんだ……」////

曜「……」////

梨子「……」////

52: 名無しで叶える物語 2018/01/22(月) 22:48:59.48 ID:8f2RyLUK.net
曜「ハイッ!私の恥ずかしい話はこれでおしまい!」

梨子「う、うん……でも曜ちゃん、その『格好良い所を見せたい人』って――」

曜「ダ~メ。これ以上は、また梨子ちゃんが恥ずかしい事言ってくれないと話せません!」

梨子「何それ」クスクス

曜「あ、でもそれとは別にね?」

梨子「うん?」

曜「……私ね、梨子ちゃんに伝えたい事が有るんだ」

梨子「私に……?」

曜「うん。……でも、今はまだ言えない♪」

梨子「え?えぇ~気になるわよ~~」

53: 名無しで叶える物語 2018/01/22(月) 22:51:15.80 ID:8f2RyLUK.net
曜「えへへっ、ゴメン。今はラブライブの決勝も控えてるし……それに、私もまだ決心が出来ていないからさ……」

梨子「うん……」

曜「……でも、もしその時が来たら私、2秒だけ勇気を出すから」

梨子「2秒……?」

曜「うん、2秒。……2秒で私の想い、伝えるから……それまで待っててくれる?」

梨子「…………わかった。それまでは私も聞かないでおくね?――曜ちゃんが勇気を出してくれるの、待ってる……」

曜「ありがとう……」ニコッ

果南「二人とも~、ご飯出来たよ~」

曜・梨子「「は~い」」

54: 名無しで叶える物語 2018/01/22(月) 22:57:51.74 ID:8f2RyLUK.net
――――卒業式・閉校式後、音楽室にて


曜「いい音だね……」

梨子「……ここのピアノ、とてもいい音がするの♪」

曜「広くて音が響くからかな……?」

梨子「そうかも……」スッ

曜「綺麗だよね、この景色……」

梨子「最初転校してきた時思ったなぁ~。東京じゃ絶対見ることのできない景色だって♪」

55: 名無しで叶える物語 2018/01/22(月) 23:04:02.67 ID:8f2RyLUK.net
曜「…………私ね」クルッ

曜「ずぅっと言っておきたい事があったんだ……」

梨子「うん?」

曜「…………『2秒』間だけ、勇気を出すから聞いてくれる?」

梨子「――!うん……」

曜「実は、梨子ちゃんの事が――――」


おわり

56: 名無しで叶える物語 2018/01/22(月) 23:08:54.20 ID:8f2RyLUK.net
おまけ


梨子「それにしても……」

曜「?」

梨子「『2秒』より長かったわね?」フフッ

曜「――――っ!」////

梨子「……なんだかドキドキしちゃった」////

曜「……だって、『2秒』じゃ収まらなかったから、私の気持ち……」////

梨子「ふ~ん?」ニヤニヤ

曜「り、梨子ちゃんは逆になんで即答できたの?」////

57: 名無しで叶える物語 2018/01/22(月) 23:11:16.15 ID:8f2RyLUK.net
梨子「……曜ちゃんがあまりにも待たせるから、考える時間はいっぱい有ったからね」////

曜「そ、そうなんだ……待たせてごめんなさい」

梨子「ふふっ、ずっと待ってたんだから♪早く返事を伝えたいなって思ってたし……」////

曜「梨子ちゃん……」////

千歌「お~い、梨子ちゃ~ん!曜ちゃ~ん!」タッタッタッ

曜「あ、千歌ちゃん!」

梨子「ごめんね。ちょっとピアノの弾き納めをしてて……」

千歌「探したよ~。最後は部室の方にみんなで――」ポカン

梨子「千歌ちゃん?」

58: 名無しで叶える物語 2018/01/22(月) 23:17:15.25 ID:8f2RyLUK.net
千歌「……」ジー

曜「どうしたの……?」

千歌「……ふ~ん」ニマァ

梨子「ど、どうしたの?急に笑って」

千歌「いえいえ、ようやく収まる所に収まったのかなって」ニコニコ

梨子「……?それってどういう……」

曜「――っ!?ち、千歌ちゃんそれって!?」////

59: 名無しで叶える物語 2018/01/22(月) 23:21:15.31 ID:8f2RyLUK.net
千歌「まぁまぁ……えいっ!」グイッ

梨子「ちょっ、急に狭い所に入ろうとしないでよ!?」

千歌「ふふっ♪今まで一番近くでヤキモキさせられた分、ちょっとお邪魔しちゃおうかなってね♪」

曜・梨子「「えぇっ~!?」」////

千歌「あ、そうだ。みんなにも報告しておかないと!無事くっついたみたいだよ……って♪」

梨子「何?みんな私と曜ちゃんの事……」カアァ

曜「千歌ちゃ~んっ!?」////



おわり

引用元: 曜・梨子「「ずっと言いたかったこと」」