1: ◆b0/EDFEyC136 2024/08/04(日) 23:03:59.58 ID:bbKbCQ7N0
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┃     ノ|     _        ┃
┃  {\イ;;ム彡、<~;;;;;ヘ      . ┃
┃  へ;;;;;;/ケーミ\゙i;;;;;;゙i      .┃
┃   /人;弋   ~ヘ} ゙i;;;;;|    ..┃
┃  弋;{ミ、\`=、_  }} |;;;;|     ┃
┃   ~ヘ マ´~~´_,ノノ しヘ     ┃
┃    そ  ノ二/   ヾミニ-、  ┃
┃   _`三´ ___  _    ┃
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日本ウマ娘トレーニングセンター学園――通称トレセン学園。

トゥインクル・シリーズでのデビューを目指すウマ娘たちが集う、全寮制の学園。その輝かしい門を、また一人のウマ娘が――。



【貴方】はトレセン学園の新人トレーナーです。

トレーナーとしてウマ娘と向き合い、担当ウマ娘を活躍させてあげましょう。



過去スレ


【安価コンマ】オリウマ娘と共に 前編 

【安価コンマ】オリウマ娘と共に 後編


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2: ◆b0/EDFEyC136 2024/08/04(日) 23:08:25.11 ID:bbKbCQ7N0
【貴方】の担当ウマ娘:シルヴァーパピヨン



シルヴァーパピヨンの競争戦績

メイクデビュー 1着
Pre-OP_プラタナス賞 1着
G1_全日本ジュニア優駿 2着
G3_ユニコーンステークス 5着
G3_エルムステークス 1着
G2_東京盃 2着
G3_カペラステークス 1着


次走:G1_ドバイゴールデンシャヒーン


15: ◆b0/EDFEyC136 2024/08/10(土) 23:56:26.62 ID:svUFStVM0
パピヨン「――やっほ、どう?元気してた?」

マンティ「ぱ、パピヨン、さん……!こ、こんにちは……!」

病室の扉を開けて、ベッドに横たわるマンティに手をひらひらと振って挨拶をする。アタシを見てゆっくりと上半身を起こそうとするのをちょっと止めて、近くの椅子に腰を掛ける。

パピヨン「足はまだ駄目な感じ?」

マンティ「……はい。松葉杖などを使えば、少しだけ歩けるんですけど……でも、まだ全然で」

そういえば、ベッドの近くに松葉杖が立てかけられてある。これ使って歩くんだ……へぇ。

マンティ「…………」

あ、しゅんとした表情になっちゃった。やば、ちょっと近況どんな感じ?って聞いただけのつもりだったんだけど、間違えちゃったか――。

パピヨン「ちょっとマンティ!そんな悲しい顔しないでよ!ごめんって――でも、ちゃんと歩けるようにはなってるんでしょ?リハビリも頑張って、それでさ」

また、走ろうよ。約束したじゃん。

マンティ「……はい、はい!それは、もちろん、です……!わ、私、その……リ、リハビリ、頑張ってますから!」

パピヨン「ん、当然でしょ。まあでも〜?マンティがリハビリしてレースで復帰するころにはアタシもダート最強になっちゃってるしな〜なかなか戦えないかもね〜」

マンティ「ふふっ……ええ、そうかもしれませんね。パピヨンさんならきっと……どんな人も魅了して、釘付けにして……そんな走りで一番になっちゃいますね」

パピヨン「……ふふ、言ってくれるじゃん。もしかしてマンティ、アタシのこと大好きでしょ」

マンティ「――――はい、ずっとずっと大好きでしたよ。貴女の走りがなかったら、私は今ここにきっと……いませんでしたから」

パピヨン「うぇ!?」

ま、は、はぁ!?そ、好きとか……や、止めてくんない!?こ、こっぱずかしいんだけど!?は、はー!そうやって動揺させる作戦!?そういうこともしてくる!?

16: ◆b0/EDFEyC136 2024/08/10(土) 23:57:43.36 ID:svUFStVM0
マンティ「では、頑張ってくださいね――テレビで見ていますよ。貴女が、世界で一番になる瞬間を。そして待っていてください、すぐに……追いつきますから」

パピヨン「ほ、ほぉ。まあ、そういう約束だからね、うん……頑張ってくるよ、だから期待して待っててよ」

期待して待っててよ。この言葉に、マンティはなんだかとても嬉しそうにしながら笑うと。右手で握りこぶしを作って、こちらに向ける。

……いいね。やってあげる。

パピヨン「いっ、えーい!」

マンティ「い、いえーい!」

グーターッチ!

――――ドバイに向かう、前日のお話。

さてさて、頑張っちゃおうかな〜……ぷはは。

19: ◆b0/EDFEyC136 2024/08/12(月) 19:07:31.56 ID:92/7nx8r0
『……』

様々な人やウマ娘に見送られながら、【貴方】とパピヨンはドバイへと旅立った。長い長いフライトの間、【貴方】はドバイでのレースに思いを馳せたが、中々思考がまとまらない。

……【貴方】は飛行機に乗るのがこれが初めてだった。学生時代の修学旅行などはすべて新幹線で行ける範囲内で、友人との旅行なんてのもするタイプではなかった。

パピヨン『うわっ!すごっ!お兄さんお兄さん!空飛んでる空飛んでる!うひゃ〜……うわ、うわ〜!』

そういえば、この前パピヨンも飛行機に乗るのは初めてだと言っていた。窓際の席から外の景色を眺め、きゃほきゃほと喜んでいた姿は、確かに初めて飛行機に乗る人の姿だった。

……まあ、そんな自分もちょっと外の景色を写真で撮ってしまったのだが。と、【貴方】はなんだか恥ずかしくなる。

パピヨン「すぅ……すぅ……んむっ、ぅ……」

『……すぐ寝たな』

あんなにはしゃいでいた彼女も、今はすっかりおとなしくなってぐっすり眠っていた。これまで一緒に過ごしてきて、あんなに成長した彼女もやはりまだまだ子供なのだと、【貴方】はクスリと笑う。

――何もパピヨンは一人じゃない。【貴方】もいるし、それにドバイの他のレースに日本から出走する別のウマ娘もいる。

実力なんて疑う必要はない、気持ちも負けやしない。全部全部必要以上なんだから、あと足りないのは――。

『……自分も寝るか』

ちらりと、隣の席でスヤスヤ眠っているパピヨンを見る。

……軽く、髪の毛を撫でる。尻尾と同様にとても丁寧に手入れされていて、少し触るだけでなんだか気持ちがいい。それに何時だったかお気に入りだと言っていた、甘い匂いがふわりと鼻をくすぐった。

『…………頑張ろうな、パピヨン』

そう言って、【貴方】は目を瞑った。

――。

――――。

――――――――。

――――――――――――――――。

20: ◆b0/EDFEyC136 2024/08/12(月) 19:08:35.89 ID:92/7nx8r0
――――ドバイ、メイダンレース場。控室。

『……どうだ、コンディションのほうは』

控室でパピヨンに言葉をかける。

ダボっとした一枚パーカー、黒のダメージソックス、ヒトではまともに走ることすらできないようなピンヒールブーツ。なんだか見てるだけでハラハラしてしまいそうな、心配したくなるような勝負服を身に纏ったパピヨン。

……パピヨンが、口を開く。

パピヨン「――うん、絶好調。ドバイのコースでも練習してたけど別に違和感とかもなかったし……というか、それはお兄さんが一番よく知ってるよね」

思えば飛行機を降りてドバイの地に立ち、ホテルなどに荷物を置いてから――ずっと今日までドバイのコースになれるために練習の毎日だった。

結論から言うと――パピヨンは十分ドバイの地でも走れるということが分かった。日本のダートとも遜色変わらない走りを見せつけ、にやりと笑うパピヨンの顔が今でも忘れられない。

――だとすれば後は自分が頑張るしかない。初めての海外による時差ボケも生活習慣も、食生活も、アウェーのこの空気に負けないサポートも――全部やり切って、パピヨンを舞台に立たせるだけだ。

そして今、自分とパピヨンはここにいる――。

パピヨン「今日までお兄さんほんっと過保護かって思うくらい色々してくれたよね。いつも通り我儘言っても全部対応してくれたし」

『そりゃ、それをやるのがキミのトレーナーだからな』

パピヨン「ぷぷ、お兄さんアタシのこと大好き過ぎるでしょ〜!」

『……好きじゃなかったらここまでしないさ』

パピヨン「……!っ……すー……っ……。ふっ、ふぅ、へぇ……ま、まあ。そ、そりゃそうだよね〜!ぷ、ぷはははは!!!」

……と、というかこんな話はどうでもいいの!お兄さんのキモい言動もそこまでにして!

顔を真っ赤にしながらぷんぷん怒り出すパピヨン。

パピヨン「はぁ……こんな大舞台でちょっと緊張してたのに、お兄さんのせいで緊張もどっか行っちゃった」

『そ、そうか……ならよかった。キミが緊張で実力を発揮できないとか言われたら困ってしまうからな』

パピヨン「言っとくけど良い意味で言ってないからね。アタシ以外のウマ娘にそんな言動したら普通に嫌われるし、通報とかされるからね!」

『……分かってるよ』

この前もこんなことを言われたような気がする、しかしそれならこっちにも言いたいことがある。パピヨンの我儘な言動は他の人にやると迷惑がかかるから自分以外にやらないでほしい――が、これは今言うことではないな。

……こんなやり取りができるなら、本当にパピヨンは大丈夫そうだな。

21: ◆b0/EDFEyC136 2024/08/12(月) 19:09:14.49 ID:92/7nx8r0
パピヨン「それにしても、ついにこんなところまで来ちゃったね。昔のアタシが聞けば嘘だって信じてもらえないだろうね。アタシが海外のG1で走ろうとしてるなんて」

『ああ、そうかもな』

パピヨン「……でも昔のお兄さんなら信じてくれるよね。未来のアタシが、海外のG1で走ってるよって言っても――」

『信じるに決まっているさ。だって自分は、キミの走りに魅了されてここまで来たんだ。キミの走りが世界に通用しないはずがない――そう信じて、ずっとキミと頑張ったんだ」

メイクデビューであの走りを見た瞬間から、自分はキミの走りに焼かれているんだ。

パピヨン「――じゃあ期待してね。アタシが世界の大舞台で人気も空気も全部ひっくり返して――勝つ姿を」

『……期待するさ、ずっとずっと自分はキミに期待してばかりなんだ』

パピヨン「はぁ、重いなぁ。そういうの嫌われるよ?でも――――そんなお兄さんだから、アタシはここまでこれた」

お兄さんの期待も、日本の期待も、友達の――ライバルの期待も。全部全部ぜーんぶ背負って。



パピヨン「――――特等席で見ててよ、ばっちり応えて見せるから」

『ああしっかり見ているよ、パピヨンの大舞台――――だから、楽しんで行ってこい!」



パシィン!と、ハイタッチの音が響く。

そして、パピヨンは――――満面の笑みで、控室を飛び出して行って――――。


22: ◆b0/EDFEyC136 2024/08/12(月) 19:11:07.03 ID:92/7nx8r0
パピヨン「――――」

――空気がピリピリとしている。これがドバイのG1レース、かぁ。

右を見ても左を見ても歴戦のダートウマ娘がいて、アウェーのこの空気でアタシが走る――人気もだいぶ低いし、殆どの人から期待もされていない。

パピヨン「っふぅうううう……よし」

お兄さんは言った、楽しんで来いって。常識的に考えて、こんな時に楽しんで走れるわけなくない?緊張がどっか行ったなんて言ったけど、やっぱりちょっと緊張はするし、ドキドキもする。

――けど、それもこれも全部アタシが抱えて走る――それって。きっと。

パピヨン(――――楽しいだろうなぁ)

どうしよ、頭がおかしくなっちゃったのかもしれない。ライバルとの約束とかもあるのに、どうしてこんなにうずうずしてワクワクして、ドキドキして……心が昂っちゃってるんだろう。


パピヨン「――――さぁて」


――すべてのウマ娘がゲートイン完了――出走準備整いました――――。


パピヨン「――――ドバイの皆の度肝抜いてやるから、覚悟しといてよ」



23: ◆b0/EDFEyC136 2024/08/12(月) 19:11:36.96 ID:92/7nx8r0

G1ドバイゴールデンシャヒーン。結果は:コンマ直下

1 全部全部背負って。駆け抜けて――
2-5 有無を言わせぬその一着は。
6 世界には、あと一歩手が届かず。
7-9 それでも、足りない。届かない。
0 おおっと――――。


28: ◆b0/EDFEyC136 2024/08/12(月) 21:52:47.61 ID:92/7nx8r0
――――シルヴァーパピヨン先頭!シルヴァーパピヨン先頭!後続とは3バ身の差!このまま逃げ切ることができるか!?

その実況の声に、周りの観客から声が上がる。決して高くはない人気の日本のウマ娘が先頭を突き進むその光景に、困惑のような驚愕のような声がワーッ!と響く。

今この瞬間、全ての観客がシルヴァーパピヨンに視線を向けている――注目を浴び、度肝を抜かせている。

『――――』

手に汗が握る、心臓が高鳴る。自然と体が前のめりになる。ドバイの大舞台で華麗に前を往く銀の蝶、これが、これがずっとずっと自分と彼女が追い求めていた景色――。

『――行け』

逃げろ、逃げろ、逃げろ!作戦も何も必要ない、自分が思うように、自分が楽しいと思えるように!自由奔放に、自由気ままに!

『行け――!逃げろ、逃げろパピヨン!行けっ!!!』

息が苦しい、呼吸することも忘れて叫ぶ。この声が彼女に届くように必死に何度も叫ぶ。

――ボロボロと涙が零れる、しかし叫ぶ。こうでもしなければこの思いは抑えきれない――!

夢じゃない、これは夢じゃない!あまりにも険しい道だった、心が折れそうになる日もあった、自分はトレーナーを辞めたほうがいいんじゃないかと眠れない日もあった――けど!今はっきりと思う!



『行けぇええええええええええええっっっっっ!!!!!』



――ああ、シルヴァーパピヨンのトレーナーでよかった。この役目は、誰にも渡したくない。渡してたまるもんか。




29: ◆b0/EDFEyC136 2024/08/12(月) 21:53:47.35 ID:92/7nx8r0
――脚が軽い。まるで、羽のように。

――体が思い通りに動く。まるで、自由に空を飛ぶ蝶のように。

パピヨン「――――っ!」

は、はは!観客の声が聞こえる――どう?誰にもマークされてないアタシが先頭を走ってるのはそんなにびっくりした?

――――行け――!逃げろ、逃げろパピヨン!行けっ!!!

パピヨン「――――!?」

ぷっ、はは、あはは!お兄さんの声が聞こえてきた――へぇ、あんなに叫ぶことあるんだお兄さんって――でも、うん、分かる。

心臓が痛い、息が苦しい。しかし脚は止まらない、逃げて逃げて逃げて、それでも止まらない。高鳴る心臓の鼓動と呼吸音、そして観客の声だけが聞こえてくる。

――――ねえ、お兄さん。アタシ実は全日本ジュニア優駿で負けた時、もう走るの止めようかなとか考えてたんだよ?いろんな人の期待も裏切って、無様な姿を見せて――でも、でもさ。

アタシの走りは今日この日のために、お兄さんとライバルの皆――それと物好きなファンに今までの期待を全部返すために。

アタシがアタシを認められるようになるために。



パピヨン「――――走るのって、サイコー……!」



アタシは2バ身差の一着でゴールした。


は、はは、あはは――!ああ、息苦しー……!

30: ◆b0/EDFEyC136 2024/08/12(月) 22:18:10.87 ID:92/7nx8r0
『――――お疲れ様、パピヨ――うわぁ!?』

控室の扉が開かれた瞬間、まるで弾丸のように何かが自分の体に突撃してきた――自分の胸に、ごしごしと頭をこすりつけてくるそのウマ娘は。

『……お疲れ、見ていたよパピヨン』

パピヨン「えへ、ありがとうお兄さん――どう、どう?アタシの走り――その目に焼き付けた?」

『勿論、キミの走りをずっと――ずっと見ていたよ』

土だらけの格好で抱き着いてきたパピヨンを、こちらからも抱きしめ返す。頭も撫でてあげると、気持ちよさそうにパピヨンは笑った。

パピヨン「うわ、お兄さんお目目真っ赤じゃん。もしかして……感極まって泣いちゃった?うわ、泣き虫じゃん」

『……そりゃ泣くに決まっているだろ?キミがこの大舞台で――一着を取ったんだ。泣かないトレーナーがいるもんか』

パピヨン「ぷぷぷ……ほんっと、お兄さんってそういうとこだよね」

でもさ、アタシ聞こえたんだ。お兄さんが叫んで――応援する声が。その声を聴いた瞬間、なんだか体に力が湧いて、もっともっと体が軽くなって。

パピヨン「……嬉しかった、嬉しかったんだ。だから、ありがとう。お兄さん」

『お礼を言うのはこっちだよパピヨン。ありがとう、本当にありがとうパピヨン――』

――一層力強く抱きしめる、するとパピヨンも力強く抱きしめ返してくれる。ウマ娘の力だそれをやられるとちょっと苦しいけど、そんなの気にならない。

パピヨン「よし!じゃあお兄さんにお仕事!」

『……ん?』

体を離し、パピヨンが何かを言おうとしている。――これまでパピヨンと付き合ってきた仲だ――なんとなく、分かる。


パピヨン「――――尻尾の手入れ、やーって?うんと綺麗にしてよね」

『……もちろん、やらせていただきますよ。お姫様』

パピヨン「――――んふ、んふふふふっ!」


さっすがお兄さん――期待してるからね?




32: ◆b0/EDFEyC136 2024/08/12(月) 22:41:48.73 ID:92/7nx8r0


――――ドバイゴールデンシャヒーン。1着、シルヴァーパピヨン。

その名誉は日本でももちろん話題となり、たちまちシルヴァーパピヨンの名を広めることとなった。

――――華麗に舞い、自由気ままに前を往く。"砂上の銀の蝶"。

我儘に、しかし誠実に。強い責任感と鍛え抜かれた脚で覚醒した"魔王"は、世代最強のダートウマ娘としても語られるようになり――――。




33: ◆b0/EDFEyC136 2024/08/12(月) 22:58:02.36 ID:92/7nx8r0
『…………ぐぅ』

パピヨン「ぷぷぷ、間抜けなキモい寝顔晒してる〜』

飛行機の中。隣の席のお兄さんがすやすや眠っているのを見て笑いが止まらない。窓の外はすっかり暗くなっていて、周りの人も大体が眠っている。

アタシも行きはぐっすり眠ったけど、今日はなんだか眠れなかった。だからこうして起きているんだけど……いやいや、良いものが見れた。

パピヨン「まずは写真を撮って〜……後でウマッターに晒そ。そんでリュックから取り出すのはマジックペン〜」

さて、どんな落書きをしてやろうか〜?

…………。

パピヨン「……はぁ、まあ今日は止めてあげるか」

お兄さんもアタシもなんだかとても疲れた。優勝パーティーとか、写真撮影とか、インタビューとか……正直インタビューのほうは何喋ってるのか全然分かんなかったけど。翻訳さんがいなかったら終わってたよね、ほんと。

……一緒に来ていた日本のウマ娘さんにも滅茶苦茶おめでとうって言われたし、ウマッターとか電話でもお祝いのメッセージが沢山来た。

パピヨン「…………アタシが、世界を」

夢じゃない、ちゃんと現実なことは理解している――けど、どうしても信じられない。あのアタシが、誰からも期待されなかったアタシが――今こうして、存在していることが。

『…………すぅ』

パピヨン「どれもこれも、全部……お兄さんのせいなんだからね』

――あの日声をかけてくれなかったら、あの日走りを見てもらえなかったら、お兄さんがトレーナーじゃなかったら――アタシは今頃、どうなっていたか。

34: ◆b0/EDFEyC136 2024/08/12(月) 23:00:49.21 ID:92/7nx8r0
パピヨン「…………」

……ああ、うん。この気持ち、わかるよ――ずっとずっと認めたくなかったけど、あのしつこい恋愛脳ウマ娘たちにからかわれたりして、なんとなく目を背けていた――ように思えるけど。

パピヨン「あぁ……」



――――アタシ、この人のこと大好きだ。はっきり言える。好きで好きで、たまらないって。



アタシのトレーナーはお兄さん以外考えられないし、その役目は誰にも奪わせない。お兄さんがアタシをこうした責任――取ってもらわないと。

あんな軽率な行動ばっかりしてたら、年頃の女の子は――そりゃ好きになっちゃうよ。

パピヨン「――――お兄さん」

スヤスヤ眠ってるお兄さん、今日もいろんな人の対応で動き回ったお兄さん。だからきっと、何をしてもすぐには起きない。はず。

パピヨン「……」

周りにはほとんど寝ている人、知り合いは近くにいない、きっと。

パピヨン「…………」

――アタシはドバイG1を獲ったウマ娘!これくらい――!


アタシはドバイG1勝ったウマ娘:コンマ直下
1-3 ……っすー……
4-6 …………手を握っちゃったり。
7-9 ……お兄さんの腕を抱き枕にしちゃったり。
0 ――――。

37: ◆b0/EDFEyC136 2024/08/12(月) 23:22:23.25 ID:92/7nx8r0
――――いや、いやいや、いやいやいや。

パピヨン「待って、今アタシ――何をしようとした?」

――さ、流石に行動が早すぎる。こういうのは、もっとこう……じゅ、順序とかあるよね。て、手をつなぐとか……。

…………し、しかも寝てるお兄さんに勝手にやるとか。あ、あとでバレたら……そ、それに誰かに見られてたら!?

パピヨン「…………っすー……」

よ、よし。いったん落ち着こう。きょ、今日は……うん、うん、終わり!それにお兄さんもアタシも疲れてるし、後日ちゃんと考えてから……そ、そうしよう。うん。

パピヨン「お、お休み、お兄さん……」

で、でもやっぱり手を繋ぐくらい……だ、ダメ!い、意識すると無理、無理!はずい!

パピヨン「…………」

――ね、寝れるかぁ!か、顔があっつい!心臓もどっきどきするし、というか隣にお兄さんがいて眠るとか、これ大丈夫なの!?

ア、アタシ行きの飛行機で変なことされてないよね!?あ、うわ、考えるともうそのことしか考えられない!お、お兄さん……!お兄さんのバカ……!バカ……!!!

38: ◆b0/EDFEyC136 2024/08/12(月) 23:28:25.46 ID:92/7nx8r0
お疲れさまでした。今日はこれで終わりです、おやすみなさい。


多分9番人気とか10番人気くらいで勝ってますパピヨン。すごい。

ライムに勝ったこともあって、勝ちコンマ大きめでした。とりあえず勝ってくれてよかったです。

では次ファン感謝祭。そして次のレース決めです。ありがとうございました。


パピヨンが恋をはっきり自覚してもクッソ弱そうでとてもよかったです。

41: ◆b0/EDFEyC136 2024/08/13(火) 22:30:13.47 ID:2p4nH+yH0
シルフィー「ぱ、パピヨンさん……!!!」

パピヨン「うわっ!ちょ、シルフィー……!」

トレセン学園に戻って早々、シルフィーがぎゅうっと抱き着いてくる。油断していたせいでちょっと苦しいし、恥ずかしい。

シルフィー「わ、私見てましたよ!テレビで、み、皆と応援しながら……!い、一着を取ったとき、ほんと感動で泣いちゃって……!」

パピヨン「おっけ、おっけ!分かったから……うんありがとうね、シルフィー」

……そんなに喜んでくれるなんて思わないでしょ。もう何日か経ってるってのに、優しいねシルフィーは。

ライム「――はい、見ていましたよパピヨンさん。ドバイゴールデンシャヒーン、おめでとうございます!」

抱き着いて離れないシルフィーをよしよしするアタシに、ライムが話しかけてくる。

――普段の様子、普段の言葉遣い。けれど分かる――隠せないほどの闘争心、メラメラと燃えるオーラがライムから出ているのを。

パピヨン「どう?ドバイダートの電撃戦を制したアタシは――ライバルとして十分?」

ライム「ふふ、パピヨンさんは何時だってライバルとして最高です!けど今の貴女は――もっともっと最高です!」

より強くなった貴女と戦える日が来るのが楽しみです!と、笑いながら言うライム。ほんっとこのウマ娘は……天然物の戦闘狂め。

パピヨン「……ふふん、その余裕アタシがぼこぼこにしてあげるから覚悟しといてよね」

シルフィー「ぐす、パピヨンさぁん……」

パピヨン「あーもーそんなに嬉しかったの!?は、恥ずかしいんだけど!?」


42: ◆b0/EDFEyC136 2024/08/13(火) 22:31:01.77 ID:2p4nH+yH0
ライム「そうだ、パピヨンさん。実はマンティさんなんですけど……」

パピヨン「……マンティ?」

そういえばマンティから連絡が来ていない。今この場にタブレットもないし……も、もしかして何かあったんじゃ――。

ライム「マンティさん、パピヨンさんのあのレースを見た日からとてもリハビリを頑張っているんです。パピヨンさんがやってくれたんですから、私も頑張らないとって」

パピヨン「ああ、なるほどね……そっか」

――ああ、じゃあ今も頑張ってるんだリハビリ。マンティ、今度様子見に行かなくっちゃ。

パピヨン「……んふーっ。にしても、ようやくアタシもG1勝利のウマ娘か〜、しかもドバイの優勝ウマ娘……これ、色んなところから取材の引っ張りだこだろうな〜」

ライム「確かにそうですね!パピヨンさんの実力ならもっと前からテレビで取材をされてもおかしくないと思いますが……あんまりしませんよね?」

シルフィー「……ぱ、パピヨンさんは、その……ちょっとあんまりテレビで放送するのは」

パピヨン「え〜?アタシは素直な感想をそのまま話してるだけだけどな〜」

ぷぷぷ、あーお兄さんと一緒に有名人になっちゃうかも〜!手のひらクルクルの人たちたっくさんいるんだろうな〜!

43: ◆b0/EDFEyC136 2024/08/13(火) 22:32:54.71 ID:2p4nH+yH0
シルフィー「ところでパピヨンさんはファン感謝祭どうするんですか?」

パピヨン「……ファン感謝祭?」

……あ〜そういえばそういうのあったね。今まであんまファンとか気にしたことなかったから覚えてなかったや。

パピヨン「てか最近優勝しちゃったアタシだしファン感謝祭凄いことになるんじゃない〜?ぷぷぷ、バカみたい〜」

ライム「ちょっと!いけませんよパピヨンさん!ファンの皆さんが応援してくれるからアタシたちウマ娘は――」

パピヨン「あーはいはい!そうそう、ファンの皆さんがお金をぽこぽこ落としてくれるからアタシたちはおいしいご飯が食べれるんだもんね!」

ライム「ぱーぴーよーんーさーん!」

シルフィー「あはは……で、ファン感謝祭では何をするんですか?いろんな競技があったり、チームで出し物やお店があったりするみたいですけど……」

ライム「わ、私はいくつか競技に出てみようと思います!せっかくの機会ですから、色んなウマ娘さんと競いたいです!」

パピヨン「ふむぅ」

……どうしよ、本当に何も考えてなかった。ドバイで頭いっぱいいっぱいだったし……お兄さんも多分あんま考えてないよね。

うーん、うーん……要するにアタシのファンに何かしてあげろってことでしょ?競技でアピールするのも、お店で何かを提供するのもそういうことだし。

パピヨン「…………物好きなファンが喜びそうなことねぇ」

51: ◆b0/EDFEyC136 2024/08/14(水) 22:20:36.56 ID:B/zJkmHT0
パピヨン「――メイド」

ライム「はい?」

パピヨン「メイド喫茶やろう!どうせアタシのファン層なんて、メイド喫茶とかそういう媚びたのが大好きな人しかいないんだし!」

うん!メイド喫茶!うんうん決定!適当に写真撮影とかでお金取ればめちゃくちゃ大金持ち〜!

シルフィー「ま、待ってください!め、メイド喫茶なんて……そ、そもそも!一人で切り盛りなんて……」

パピヨン「え?」

シルフィー「……えっ!?」

パピヨン「やだなぁシルフィー。アタシたち同室で同期でお友達じゃーん。一緒にやろうよ、メイドさん〜!シルフィーならアタシとは違うファン層にストライクだよ〜?」

シルフィー「ふ、ふぇ!?や、やりまっ、やりませんからぁ!め、メイドさんなんて私には、に、似合いませんってぇ……!」

ライム「パピヨンさん!駄目ですよ勝手に人を巻き込んでは!やるならまず事前に連絡や打ち合わせを」

パピヨン「ライムは料理上手だし厨房担当だよね。あーでも沢山売りたいし誰でも簡単に用意できるようなものにした方がいいよね〜……お菓子とか冷凍食品にちょーっと手を加えたみたいな」

ライム「なんで当然のように私まで入ってるんですか!わ、私はもう競技のエントリーも済んでいて――」

パピヨン「まーまー!せっかくだし一緒にやろうよメイド喫茶!競技の合間にちょ〜っとやってくれるだけでいいし、それに〜……」

――――キミたちの大好きな男の子にメイドさん姿見せられるよ〜?


52: ◆b0/EDFEyC136 2024/08/14(水) 22:21:01.82 ID:B/zJkmHT0
ライム「!」

シルフィー「!」

パピヨン「どうせ来るでしょ?せっかく外からお客さんが沢山来る機会なんだし」

シルフィーは親友の弟くん。ライムは幼馴染くんに……甘々なメイドさん姿、見せたいでしょ〜?

ライム「……だ、ダメです!そんな、べ、別に見せたいとかそんな……」

シルフィ―「ふぁ、ファンの皆さんのための場で、そんな個人の……そ、そういう感情を使うのはよくありませんパピヨンさん!」

パピヨン「え〜?でも男の子ってみんなメイドさん好きだよ?知ってる女の子にメイドさんでご奉仕とか、絶対喜ぶと思うけど」

ライム「くっ……!ふっ、ぅうううううう……!!!」

シルフィー「うっ、うぅうう……!」

恋する乙女の葛藤。ぷはははは!好きな男の子に可愛い恰好見せたくて堪らないんだ!

――――結果、とりあえず二人のメイドさんを手に入れた!チョロい奴らめ!

53: ◆b0/EDFEyC136 2024/08/14(水) 22:31:38.14 ID:B/zJkmHT0
さてさて、メイド喫茶をやることにしたわけだけど――流石にもう少しメイドさんが欲しいかも。

パピヨン「むむむ」

さて誰に声をかけようかな、最近あんまり話せてなかったかもだし――――。

誰かに声をかけよう:安価直下
1 ニシノフラワー
2 ダイワスカーレット
3 ナカヤマフェスタ
4 メイドさんもういらない?
5 自由安価

57: ◆b0/EDFEyC136 2024/08/15(木) 23:50:58.74 ID:9jBt3bU40
ナカヤマ「――――よぉ、ドバイの王者様。久しぶりじゃねぇか」

パピヨン「別に王者様になったわけじゃないんですけど、ナカヤマ先輩」

というかアタシとしては王者様というより、お姫様とかそっちの方が好みなんですけど。魔王もまあぶっ飛んでて好きだけど。

――ナカヤマ先輩が棒付きのキャンディを口の中で転がしながら、アタシを見てにやりと笑う。

ナカヤマ「見てたぜ、お前の大舞台――誰もお前に期待していない人気薄の状況で、逃げ切り勝ち。どよめきと熱狂が入り混じった歓声――――なあ、お前はあの場で勝利して、何を感じた?」

パピヨン「何を感じたか、とか言われても」

あ、これ前にアタシもライムにしたことある。あー、逆に自分が訊かれるとちょっと悩む……けど、分かりやすい答えが一つだけ。

パピヨン「――――走るのがやっぱ好きなんだなって。思いも決意も夢も約束も期待も――全部全部背負い込んだうえで、無我夢中の全力で前を駆ける」

これが最高に気持ちいいんだよね。と、語ると――ナカヤマ先輩が、目を丸くしてこっちを見る。

……な、なに?別に変なことは言ってないと思うけど。

ナカヤマ「クッ……クハ、クハハハハ!私はお前のことを道化だと思っていたが――どうやらとびっきりのバーサーカーだったみたいだな、パピヨン?」

パピヨン「人のこと勝手に狂戦士にしないでくれます?」

てか、そういうのはライムの方だと思うんですけど。

ナカヤマ「やっぱりお前はおもしれ―やつだよ。それで?お前は私に何の用なんだ?ベットする価値のないピエロがこんなに良い後輩になって帰ってきたんだ――きっと愉しませてくれるんだろ?」


58: ◆b0/EDFEyC136 2024/08/15(木) 23:51:26.64 ID:9jBt3bU40
パピヨン「あ、そうなんですよ〜!実はメイド喫茶やろうと思ってて、ナカヤマ先輩どうかな〜って」

ナカヤマ「は?メイド喫茶?」

パピヨン「メイド喫茶」

――さっきまでの騒がしい感じの会話はどこへやら。一瞬の静寂、そして。

ナカヤマ「クッ……ククク!クハハハハ!なあ、パピヨン?お前――私をメイドにしようなんざ、ずいぶんと度胸があるな?」

パピヨン「いいじゃん、やりましょうよメイド。ゴーゴー!」

ナカヤマ「…………ま、かわいい後輩の頼みだ。しかもどでかい勝負事を制した後の」

やってやろうじゃねぇか。と言いながら、ナカヤマ先輩は承諾してくれた――チョロい!この人優し!

ナカヤマ「ちなみにそのメイド喫茶のメニューは考えてんのか?」

パピヨン「適当な冷凍食品とかに簡単な手を加えて高いお金で売り付けます」

ナカヤマ「じゃあもつ煮も売るぞ!どうせお前のメイド喫茶なんざ正統派になるわけがねぇ!」

パピヨン「うおおおおおお!!!」

あ、でも作るのめんどくさそうだったら全部ナカヤマ先輩が作ってくださいね!それかライムに作り方教えて上げてください!

――メイドさんげーっと!ギャンブル系のゲームも追加すればきっとリピーターが続出だ!ぷぷぷ!

59: ◆b0/EDFEyC136 2024/08/15(木) 23:54:22.03 ID:9jBt3bU40
――さてさて〜。メイド喫茶の人員はゲット、メニューも適当に作るとして……ああでも。ちょっとはそれっぽくしないといけないよね。

…………ま、その辺は適当にやるとして。何かやることあるかな〜。準備とか――。

メイド喫茶準備編。何をすればお金……じゃないじゃない。お客さんを満足させられるかな〜。ぷぷぷ。


準備イベント。何かメイド喫茶でやりたいことや、絡みたい人とか、事前にやりたいこと:安価下2まで。

この人メイドに呼ぼうとか、メイド喫茶でこんなイベントやろうとか、何かあれば。全然関係ないことでもいいです、メイド服の破壊力でお兄さん誘惑してもいいです。




今日はこれだけです。おやすみなさい。

62: ◆b0/EDFEyC136 2024/08/16(金) 22:22:36.95 ID:zunHSaWc0
パピヨン「お、に、い、さ〜ん!」

『うわぁ!?な、なんだパピヨンか……』

トレーナー室でぼんやり考え事をしていると、後ろから勢いよくパピヨンが突撃してきた。

パピヨン「ぷぷ、実はお兄さんにメイド喫茶で出すメニューの試作品を食べてほしいんだ〜」

……ああ、そういえばメイド喫茶を感謝祭でやると前に言っていたな。ライムたちもいるし何か問題を起こすとは思わないが……まあ、パピヨンはこういう時ちゃんとやるし大丈夫か。

……大丈夫か?

『試食にならいくらでも付き合うが……ただ変なのは止めてくれよ?』

パピヨン「え〜。変なのってなになに、お兄さんアタシが激辛ロシアンルーレット饅頭とか出すと思ってるの?」

『具体的な名前を出してるじゃないか……』

まあ、あんまりにもやばいのは学園側からストップがかかるだろう。いや、けどトレセン学園だしなぁ……。

パピヨン「さぁさぁ!色々持ってきたからたくさん食べて食べて!」

――――こうしてパピヨンが持ってきた試食品をひたすら食べることになった。基本的には市販品にちょっと手を加えたものだが、妙に手が凝ってるものやクセのある試食品があったり……なんだ、もつ煮って。おいしいけど。

パピヨン「この今川焼……大判焼き?いやまん丸焼き……まあなんでもいいんだけど!これに焼き印ついてるでしょ?実はこれアタシの蹄鉄モチーフなんだ〜」

こうやってちょっとアタシたち要素を付け加えるだけでちょろいファンはすぐにお金投げちゃうよね〜。んー、アタシ商売の才能あるかも?と、ドヤ顔で語るパピヨン。

……そんなに上手くいくものだろうか。

63: ◆b0/EDFEyC136 2024/08/16(金) 22:29:26.02 ID:zunHSaWc0
『いや、あんまり食レポとかできる人間じゃないが……美味しいよ、ただ全体的にメイド喫茶っぽくはないが』

本当に全部おいしかった。今川焼も、もつ煮も……どうしたことか、メイド喫茶ぽくない。

パピヨン「えっ!ほんとほんと!?んふ、んふふふ!そっかそっか、美味しかったか〜……」

『……?』

美味しい、という言葉を聞いてパピヨンがなんだかとても嬉しそうにそわそわし始めた。尻尾がフリフリ揺れて、ウマ耳がぴょこぴょこ動いていかにもな様子だ。

パピヨン「ぷぷ、ぷぷぷ……えへ。ほら!もっと沢山あるから食べて食べて!お兄さんは貴重な試食係なんだから、沢山感想を言ってアタシたちに貢献して!」

『わ、分かった。分かったから……!』


何かパピヨンがかなり大胆な行動:安価下2まで。
1 【貴方】のほっぺについたクリームをペロリ。
2 自由安価

68: ◆b0/EDFEyC136 2024/08/17(土) 23:55:01.42 ID:xc7xqBkZ0
パピヨン「……あ、ぷぷ〜。お兄さんほっぺたにクリームついてるよ〜」

『えっ?ああ、本当だ……ありがとうパピヨン。ティッシュティッシュ……ぁー」

ニヤニヤ笑う彼女に教えられて、ティッシュを探す……が、近くにあるティッシュ箱が空になってしまっていた。新しいティッシュを取りに行くのも、少し距離がある。

パピヨン「ティッシュないじゃんお兄さん。んも、しょうがないな〜」

『ん、悪いけどパピヨン――』

ちょっとティッシュを取りに行ってもらおう。そうお願いしようとした瞬間、パピヨンがグイっと顔を近づけてきて。

パピヨン「んっ……れぇ……」

ペロリ、と。ほっぺたについたクリームを、舐めとった。

『――――へ』

パピヨン「えへ、クリームあま〜い!……あっ、まだちょっと残ってる。んんっ……」

突然の出来事に言葉が出ないし体が固まってしまう。しかしパピヨンはそんな自分のことなど知らず、続けて残ったクリームを掬ってくる。

小さな可愛らしい舌が、ちゅぷちゅぷと頬を撫で。ぺろぺろとクリームの一つも残さないよう丁寧に舌が往復する。

パピヨン「れぇ……んっ、ちゅっ、ちゅぱ。れろぉ……んむっ。ぷはぁ……!ほらお兄さん!クリーム全部食べたから!次の料理次の料理!」

そしてパピヨンは何事もなかったように行為を終えて、ニコニコと次の料理を持ってこようとする。


【貴方】は――。:コンマ直下
1-10 ――ここでしっかり怒っておかないとダメな気がする。
11-75 驚いたけど中学生だし……簡単な注意だけ。
76-90 注意したいけどパピヨンの姿を見て何も言えなくなってしまう。
91-00 ――ドキドキが止まらない。パピヨンの顔が見れない。

70: ◆b0/EDFEyC136 2024/08/18(日) 00:19:35.07 ID:ZXJNLXRA0
『――――ちょ、ちょっと待ってくれパピヨン』

パピヨン「?」

引き留める。引き留めなければならない、いや、いや――落ち着け。

……そうだ、パピヨンはまだ中学生。普段あんな言動をしているとはいえ去年まで小学生だったまだまだ子供のウマ娘。だったらいきなりあんなことをしても……まあ、普通なのかもしれない。

『その、さっきみたいな……いきなり頬っぺたを舐めるみたいな。そういうことは良くないんだ』

パピヨン「え〜?別に良くない?お兄さんずっとほっぺにクリームつけてるつもり?」

『普通にティッシュを取ってくるだけでよかっただろう?とにかく、こういう舐めるとか……もう他の人にもしないでくれ、もちろん自分にも』

パピヨン「あーはいはい!分かったから!わかったわかった!ほら、だから次の食べて〜!」

頬っぺたを膨らませながら、本当に分かっているのか分からない返事でパピヨンは次の料理を取りに行ってしまった。

……もしかしてライムやシルフィー、マンティにもあんなことを軽率にしているのだろうか。なんだかいきなり怖くなってしまった。いや、けどパピヨンは賢い子だし……うぅん。

パピヨン「……何ずっとうんうん唸ってるんだろ、お腹一杯かな?」

――とりあえずパピヨンが出してくれた試食品は何とか食べきることができた。とんでもない量にだったが……うぷっ。大丈夫だった。

パピヨンのとても嬉しそうな表情を見ると、この苦しさも……問題ない。ただ体重が……うぅ。





今日はこれだけ、お休みです。

72: ◆b0/EDFEyC136 2024/08/18(日) 21:40:31.74 ID:ZXJNLXRA0
シリウス「――おい、どういうことだナカヤマ。なんで私がメイドなんざやらないといけねぇ」

ナカヤマ「この間の賭けに負けたろ?人手なんざいくらあっても良いんだ、どうせ暇なんだから手伝え」

パピヨン「はんたいはんたーい!こんな人メイドカフェのメイドさんにしたら印象悪くなっちゃいまーす!」

なんだかナカヤマ先輩が良い人を知っていると言うから来てみれば……シリウス先輩とか全然メイドじゃない!

パピヨン「こんな口の悪くてファン層がヤバそうな人NG!」

ナカヤマ「……それお前が言うか」

シリウス「はっ――どうやら私はお呼びじゃねぇみたいだ。この子犬もキャンキャン吠えているしな」

ナカヤマ「おおっと逃がさねぇぞ。そのヤバそうなファンを連れて売り上げにでも貢献しようぜ、なぁ?」

ほら、お前としても売り上げが増えるのは嬉しいだろ?と、ナカヤマ先輩が言うけれど――むむむむむ。むむむむむ……。

パピヨン「……まあ賭けに負けた人だし!変なことはしないか!シリウス先輩もアタシの手となり脚となりテキパキ働いてね!」

シリウス「はぁ!?おい、こらなんでそんないきなり……!この子犬、ドバイ勝ってから図太くなってねぇか。前はもっと不安定な感じだったろ」

ナカヤマ「おいおい知らねぇのか?だからこいつはおもしれーんだよ。なんもかんもメンタルが釣り合ってねぇ、いつでも壊れそうな状態で走ってた奴だぜ?」

パピヨン「なんか滅茶苦茶ディスられてる気がするんですけど」

とにかく先輩が新しいメイドさんになった!まあ、ぶっちゃけあんま好きじゃないけど……それはそれとして人は来そう!

賭けに負けたらしいし、ナカヤマ先輩とアタシの言うことに従う手足となれぇい。ぷははははは!

73: ◆b0/EDFEyC136 2024/08/18(日) 22:03:33.71 ID:ZXJNLXRA0
――――――――――――――――

――――――――

――――

――

ファン感謝祭当日。アタシたちのメイド喫茶はというと――。

メイド喫茶の繁盛具合:コンマ直下

コンマが高いほど繁盛繁盛。

コンマ補正
ドバイゴールデンシャヒーン優勝+35
ライムとシルフィー+20
ナカヤマ先輩とシリウス先輩+25

75: ◆b0/EDFEyC136 2024/08/18(日) 22:39:24.63 ID:ZXJNLXRA0
パピヨン「え〜?ご主人様もお嬢様もアタシ目当てでメイド喫茶なんて来ちゃったの〜!?ぷぷぷ、よっぽどヒマなのかな〜?しかもアタシに萌え萌え〜って魔法かけてほしいんだ?え〜キモ〜い!」

シリウス「おいおい、キャーキャー言ってないで早く注文しな。今なら特別に……この私からの奉仕を受けれるんだぞ?この時間、無駄にしたくないだろ?」

ライム「はい、こちらドリンクとまん丸焼き――あ!もしかしてこの間私のレースを見てくれた方ですか!?はい!レース前から最前列で熱心に応援してくれてましたよね!ふふ、嬉しいです!はい、ありがとうございます!今日はたくさん楽しんでくださいね!」

――――人が入る、人が入る。面白いくらいに人が入る。

最初はドバイゴールデンシャヒーンで優勝したパピヨンを一目見ようと来る野次馬のような人ばかりだったが――この口コミがどんどん広まり。まだ午前中だというのにもう人で教室が埋まっていた。

曰く、とても可愛く罵ってくれるだとか。曰く、客のはずなのに子犬になっていただとか。曰く、どんなファンでもちゃんと覚えてくれているだとか――。

シルフィー「お、お待たせしました!こ、こちらもつ煮……ひゃぁ!ご、ごめんなさい!あ、熱い汁がかかっちゃいましたか!?す、すぐに拭かせてもらいます!ご……ご主人様!」

ナカヤマ「ふっ……ほら私の勝ちだ。ご主人様はメイドの私に負けた――罰として、ほら。このドリンクを飲みな」

びっくりするくらい小動物みたいなメイドさんがいるとか、ゲームの罰として大量にドリンクを飲まされるが勝つとめちゃくちゃファンサしながらチェキを取ってくれるとか。

噂が噂を呼び、人が人を招き。どんどんどんどんメイド喫茶に人が足を運び――結果として。このメイド喫茶は大成功だった!

パピヨン「もえもえ〜……きゅん!ぷっ、はは、あはは!バカみた〜い!え、ご主人様〜、そんなに嬉しいの?うわ、バカにされて喜んじゃうとか、人としてどうかと思うな〜……けど、アタシはそんなご主人様もお嬢様も〜……好きだよ。なーんて!」

76: ◆b0/EDFEyC136 2024/08/18(日) 22:53:15.78 ID:ZXJNLXRA0
『……だいぶ繁盛してるじゃないか』

パピヨン「あ、お兄さんじゃん。どしたのどしたの、担当ウマ娘がしっかりご奉仕してるかの確認?」

時間ができたのでメイド喫茶に顔を見せると、かなりのファンがそのメイド喫茶でご奉仕を受けていた。

『……まあ、そんなところだ』

パピヨンがちゃんとファンを相手に対応できているか、何か問題を起こしていないか、変な輩がいないかの確認だったが……雰囲気的に大丈夫そうだな。これは。

ライム「パピヨンさんのトレーナーさん!お疲れ様です!」

『やあ、お疲れ様ライム』

ライム「パピヨンさんなら大丈夫ですよ!私も心配だったんですけど、ちゃんと接客も……できてるかわかんないですけど。皆さん喜んでいますから!」

『ちょっと不安になるな、なんだか』

パピヨン「え〜?大丈夫だって、ほらほら。アタシにバカにされて喜ぶような人たちばーっかりなんだから、アタシがどんな接客しようと平気平気!」

そういってぷぷぷと笑うパピヨン。担当ウマ娘がそういうのならトレーナーとして信じてやりたいが……うーん。

パピヨン「ほらほら、席空いたから座って座ってお兄さん――じゃないや、ご主人様〜?ねぇ、アタシメニュー表の上から下まで全部くださいって言ってほしいな〜?」

『いやいやいやいや』

勘弁してくれ。

77: ◆b0/EDFEyC136 2024/08/18(日) 23:07:44.55 ID:ZXJNLXRA0
パピヨン「ご主人様〜!こちらがまん丸焼きで〜す!」

とりあえず一番食べやすそうなものを頼む。蹄鉄のマークが焼き印されたまん丸焼き、今日初めてメニュー表を見て気が付いたが。しっかりメイドのウマ娘ごとにまん丸焼きが違うんだな。

パピヨン「は〜い、じゃあ美味しくなる魔法かけちゃいま〜す!美味しくな〜……れ!はい美味しくなったなった〜!」

『なんか雑じゃないか』

パピヨン「一生懸命やってるんですけど。は〜!このご主人様酷い!アタシ悲しくて泣いちゃうかも!」

なんだか一日メイドになったせいか変なモードに入ってるな、なんて考えながらまん丸焼きを食べる……うん、気持ち試食品で食べた時よりも、美味しい気がする。

パピヨン「ぷぷ……ねえ、実はこのまん丸焼きが一番売れてるんだよ?好きなウマ娘の奴を買ってさ、蹄鉄のモチーフとかぶっちゃけ別の人のでも分かんないくせに、ありがたがって美味しいそうに食べてるの」

ほんっと、ファンの人たちってよわよわだよね〜。推してる気分になれれば何でもいいんでしょ。なんて、鼻で笑うように言ってのけるパピヨン。

…………今日この日までずっと担当トレーナーだったから分かる。パピヨンが、とても嬉しそうにしていることを。

尻尾や耳には表れていない、けど……表情や言葉の雰囲気で。ファンの皆さんが買ってくれて、好きでいてくれていることが分かるのが……嬉しいんだ。

『……そうだな』

パピヨン「あ、ちょっとお兄さん!なにその笑顔!キモいんだけど!はー、ファンの中でも一番キモイ!きっといつかメイドさんにお触りして警察の人に連れていかれるよね!」

『なんてことを言うんだキミは』

――パピヨンのファンもだいぶ増えた。ドバイに勝つ前から、その走る姿勢が評価されて――着実にシルヴァーパピヨンというウマ娘のことが知られてきている。

生意気で我儘なメスガキウマ娘。人を煽るが、レースには真摯で真面目ひたむきで――とてもファン想い。これが古参ファンから伝えられてきているパピヨン評だ。

78: ◆b0/EDFEyC136 2024/08/18(日) 23:11:53.85 ID:ZXJNLXRA0
パピヨン「ほらほら、食べたならさっさと出て行って。他のお客様の邪魔になるから」

『はいはい、美味しかったよパピヨン。午後も頑張ってくれよ』

パピヨン「ん、たっくさん大切なファンの皆さんにもえもえ〜ってしてあげて、お金をしっかり稼いじゃうよ!」

……パピヨンのファンの場合、こういう態度が勝手にファンサになる場合があるのが恐ろしいな。

『怪我とかには気を付けるんだぞ、特に包丁や火を使った料理は細心の注意を――』

パピヨン「ほんっとうにキモい!ほら、でてけでてけ!ロリコン!親面すんなー!」

……メイド喫茶から追い出されてしまった。

79: ◆b0/EDFEyC136 2024/08/18(日) 23:22:07.90 ID:ZXJNLXRA0
パピヨン「は〜……疲れた」

正午の一番忙しそうな時期を乗り越えて、少し人が少なくなってきた。ここから午後だけど、午後からは結構デカいイベントが色んなところでやるしそっちに人がいっちゃうから、休憩タイムかな?

ナカヤマ「おう、お疲れパピヨン」

パピヨン「あ、ドリンク代荒稼ぎのナカヤマ先輩!」

ナカヤマ「ふっ……ご主人様が私とのチェキを求めてギラつかせた目で勝負をしてくるからな、こっちもヒリついたさ」

おー……なんだかとても様になっていたから思わず拍手しちゃった。カッコいい気がする!

ナカヤマ「お前もだいぶやってただろ、だから一旦休憩しちまえよ。それともなんだ?お嬢様としてちょっとご奉仕されるか?」

パピヨン「え〜?ん、どーしよーかなぁ」

悩む、悩む。休憩どうしようかなぁ……。


休憩、どうしよう:安価直下
1 じゃあお言葉に甘えてお嬢様に
2 ちょっと感謝祭見ていこうかな
3 自由安価

85: ◆b0/EDFEyC136 2024/08/20(火) 23:49:32.50 ID:6jRbBr1R0
パピヨン「せっかくだし色々見ていこうかな」

カフェとか演劇とかアトラクションとか、それこそ特別なレースとか。トレセン学園の規模だけあって感謝祭での出し物は様々ある。

お兄さんと一緒に――ってのも考えたけど、なんとなく今は一人で見て回りたい。うん、そんな気分かも。

それにお兄さんがアタシみたいなかわいい子と一緒にいたらロリコンの変質者として捕まっちゃうかもだし。

パピヨン「あ、というかメイド服のまま来ちゃった」

着替えておけばよかった……あーいや。これで自撮りでもしてウマッターに上げてお店の宣伝しちゃおう!まあ午後からくるかは分かんなけど。まあ、メイド服のアタシなんて貴重だし?おすそ分けおすそ分け。

パピヨン「いえーい!」

さてさて、どうしようかな〜。


ファン感謝祭、パピヨンは:安価直下
1 パピヨンのファンと遭遇
2 レースだレースだ
3 自由安価



これだけです。おやすみなさい。

89: ◆b0/EDFEyC136 2024/08/23(金) 00:04:52.53 ID:ukTM5/150
「あ、あの!もしかして……シ、シルヴァーパピヨンさんですか!?」

パピヨン「ん〜……?」

ぷらぷら歩いていると突然後ろから声を掛けられる。なんだなんだと振り返ってみるとそこにいたのは……ちっちゃなウマ娘だった。

え、なになに?かわいい〜!

ファンウマ娘「わ、私!ずっとパピヨンさんに憧れていて……!その、だから……!」

パピヨン「落ち着いて落ち着いて、アタシは逃げないからゆっくり、ね?」

ファンウマ娘「は、はい!ご、ごめんなさい……私、地元のレースクラブに通っているんですけど、周りの子はみんな体が大きくて足も速くて……ちょっと自信なくしていたんですけど、そんなときパピヨンさんに出会ったんです!」

――小さな体で、体の大きなウマ娘も近づけない速さで前を走る姿が、私にはとっても輝いて見えて……!わ、私、だからパピヨンさんみたいな強いウマ娘になりたいんです……!

パピヨン「――――」

ファンウマ娘「ぱ、パピヨンさん……?」

パピヨン「えっ。あ、ごめんごめん。ちょっとね」

――アタシに憧れて、アタシの走りを見てファンになったウマ娘――もちろん居ることは知っているよ。ファンレターとかもたまに届くし……けど、そっか。そっかぁ……。

……こんなに目を輝かせた小さなウマ娘ちゃんの憧れになるようなウマ娘に、アタシもなれたんだ……。

パピヨン「……ねえ、君の名前は?」

ファンウマ娘「○○!○○って言います!」

パピヨン「そっか、○○ちゃんか〜……」

…………どうしよ、滅茶苦茶嬉しいしこの子が可愛くて顔がにやけちゃいそう。

何かしてあげたほうがいいよね、ファンサ大事だってお兄さんも言ってたし……えっと。

90: ◆b0/EDFEyC136 2024/08/23(金) 00:06:41.99 ID:ukTM5/150
ファンのウマ娘ちゃんになにかファンサ:安価直下
1 サインしたげる
2 一緒にチェキ撮ろう
3 尻尾の手入れしてあげちゃう
4 自由安価




今日はこれで終わりです、おやすみなさい。

93: ◆b0/EDFEyC136 2024/08/23(金) 23:34:31.71 ID:ukTM5/150
パピヨン「……よし!ちょっと待っててね、すぐ戻ってくるから」

ファンウマ娘「?は、はい」

――アタシが人に胸張って誇れること、それでウマ娘の子にやってあげられることと言ったらこれしかないよね。

ええっと、あの子の尻尾だと何がいいかな。しっとりしたやつよりサラっとしたやつで軽く整えてあげたほうが……あーでも、匂いとかその辺を気にした方が普段使いとか――。

――

――――

――――――――

――――――――――――――――

94: ◆b0/EDFEyC136 2024/08/23(金) 23:36:19.94 ID:ukTM5/150
ファンウマ娘「あ、あの……パ、パピヨンさん」

パピヨン「○○ちゃん大丈夫?痛くない?くすぐったくない?」

ファンウマ娘「は、はい。むしろ……んっ。気持ちいいんですけど……」

流石ファン感謝祭、そこらの教室でお湯が使えるよう準備されている。そんなわけでちょーっとお願いしてお湯を使わせてもらう。

○○ちゃんの尻尾を付け根からしっかりお湯で濡らして、特性のシャンプーとリンス、コンディショナーでわしゃわしゃと洗ってあげる。

――とても毛の質がいい。艶もあってこれはしっかりと手入れをしてあげたらすっごい綺麗な尻尾になる。そういう確信があるから、なんだかやる気が出てくるかも。

それにせっかくアタシが憧れだというウマ娘ちゃんだし、おもてなしくらいしてあげないとね。

パピヨン「わしゃわしゃ、わしゃしゃしゃ〜」

ファンウマ娘「……ふふ、パピヨンさん。声出ちゃってますよ」

パピヨン「良いでしょ?ほら、こういう擬音とかオノマトペとか、言うの楽しいし」

言うのも楽しいし、言われるのも気持ちいい。ぷぷぷ、良い言葉だよね〜。

……しっかりとお湯で濡らしたのを確認して、ドライヤーで乾かす。これもしっかりと乾かさないと、あとでちょっと出来が変になっちゃう。

ファンウマ娘「んっ……きもち……」

パピヨン「あ、○○ちゃんドライヤー好き?」

実は尻尾の付け根のところとかちゃんと乾かすの難しかったりするし、不思議な感じがして気持ちがいいかも。じゃあせっかくならと、念入りにやってあげる。


95: ◆b0/EDFEyC136 2024/08/23(金) 23:37:04.85 ID:ukTM5/150
尻尾専用のオイルをしっかりと手になじませて、尻尾にゆっくりと付けていく。尻尾の毛並みに逆らわないように、撫でるようにスーッと丁寧に丁寧に。

……うん、やっぱりこの子毛並みいいなぁ。ちょっとやっただけでもうつやつやだし。

パピヨン「……尻尾ってさ、アタシたちウマ娘にとって大事なものでしょ?ちょっと手入れが不十分だとなんかモヤモヤして、その日ずっと違和感を感じちゃう」

それは日常生活でもレース中でも変わらない、だからある程度の手入れはできておく必要があるの。

ファンウマ娘「…………」

パピヨン「それに、尻尾の手入れができてると気分良いでしょ?尻尾が揺れて、ちょっと好きな匂いがして……だからアタシはオイルの匂いとかはちゃんと自分が好きな奴にした方がいいと思うんだよね」

ファンウマ娘「……尻尾の手入れが好きなんですね。私、その全然意識したことがなかったんですけど……」

パピヨン「うん。大好き、だって気持ちよく手入れ出来てつやっつやの綺麗な尻尾にできたら……ちょっと嬉しいし気持ちいいし。○○ちゃんもちょっと意識してみたら?」

道具とかオイルの買い方はアタシが全部教えて上げちゃうし。あ、じゃあ連絡先も交換しないとか。

ファンウマ娘「へっ!?れ、連絡先ですか!?」

パピヨン「あれ〜?もしかして憧れのアタシの連絡先は恐れ多い感じ?ぷぷぷ、そんなに遠慮しなくていいのに……じゃ、あとでLANE交換しようね」

――よし、手入れ完璧!これ以上は時間がかかっちゃうし、場所的にも他の人の迷惑になっちゃうかも。

パピヨン「はい終わり!どう?変な感じしない?」

ファンウマ娘「あ、ありがとうございます!え、えっとその……」

尻尾を軽く振って確認、うん、うん……反応も問題なさそうかな。匂いの好みは分からないけど、多分大丈夫そう?

パピヨン「じゃあ、はいこれがアタシのLANE!気になることがあったら何でも相談してね!」

ファンウマ娘「ほ、本当に良いんですか?そ、その……アタシ、トレセン学園に来れるかもわからないのに……」


96: ◆b0/EDFEyC136 2024/08/23(金) 23:38:13.38 ID:ukTM5/150
パピヨン「なに?そんなことで悩んでるの?」

ファンウマ娘「そ、そんなことって……!わ、私!もう全然勝てなくて、実技試験も受かるかどうか……!」

――分かるよその気持ち。全然勝てなくて、何やっても一着になれなくて、不安で不安で夜も眠れなくて苦しくなる。その、気持ち。

だからこそ、アタシが言えるのは――。

パピヨン「無責任かもしれないけどさ、○○ちゃん――――楽しんで走る、気持ちよく走るってのが、結局一番強く走れると思うよ」

――どうすれば楽しく走れるか、どうすれば気持ちよく一着でゴールできるか。それを突き詰めて突き詰めて、色んな人に相談して、考えて――そうした結果、最高のゴールが得られる。

パピヨン「なんだか尻尾の手入れと似てるよね?なーんて、無理やりこじつけちゃったりしちゃって」

ファンウマ娘「……パ、パピヨンさん」

パピヨン「ねえ、アタシに憧れてるんでしょ?誰も近づけないくらい早いアタシの姿が好きなんでしょ?だったら――それができたら滅茶苦茶気持ちいいよね」

ファンウマ娘「……はい、はい!わ、私……ずっと走るのが好きで、でも最近は好きの気持ちも忘れちゃってて……!もっと、もっと走るのが好きになって楽しくなれれば!私も!」

パピヨン「――うん。きっとそれが一番近道だよ」

――――そして、アタシは○○ちゃんと別れた。LANEの連絡先を交換して、いつか尻尾の手入れ道具を見に行こうねって約束もして。

――正直あんな言葉で、あの子がどうなるかわかんないけど。けど……きっと前よりほんのちょっとでも、走るのが楽しいって気持ちを忘れないでいてくれると嬉しいな。

97: ◆b0/EDFEyC136 2024/08/23(金) 23:42:44.33 ID:ukTM5/150
ファン感謝祭はまだまだ――:安価直下
1 追加イベント(自由安価)
2 ファン感謝祭終了!





これだけです。お疲れさまでした、おやすみなさい。

ジェンティルドンナ実装とてもうれしいです。とても好きなので。

100: ◆b0/EDFEyC136 2024/08/24(土) 18:04:26.69 ID:2DApn2wQ0
「は〜い。ご主人様専属メイドの、シルヴァーパピヨンで〜す❤お兄さん……じゃなかった、ご主人様のことた〜っぷりと、ご奉仕させていただきま〜す❤」

「…………え、そういうのは良くない?ぷぷぷ、ご主人様もしかして   なこと考えてる?アタシは日々のお仕事で疲れたご主人様の体をたーっぷり癒してあげたかっただけのに……ご主人様はロリコンのどうしようもない変態さんだから、すぐそっち方面で物事を考えちゃう〜。きっも〜い!」

「……ぷぷっ。冗談だって冗談〜!ほら、ただお耳掃除したいだけだから、前みたいにアタシのお膝にごろーんってして、ごろーんって」

「おっ、今回は無駄な抵抗しないね?さすがに学んだ?アタシのお願いは断れないって?」

「うわ、ひっどーい!さっさと終わらせた方が早く済むからって!そりゃそうだけどさ、お兄さん。そういうこと言うの女心分かってない感じするから気を付けたほうがいいよ?」

「はあ、これだとずっと結婚もできない彼女もできないままだろうね〜……んじゃ。ちゃちゃっとお耳掃除しちゃうね〜」

「…………もし触りたかったら、触ってもいいよ?アタシのムチムチの太もも……❤さわさわ、なでなで〜って、担当ウマ娘の大事な脚を痴漢みたいに……あっ!こら、嘘だって!分かってる!分かってるよ!お兄さんがそんなことしないって!」

「は〜……別に触ってもいいのに。ん!何でもない!変態のむっつりお兄さんには実際に行動する勇気なんてないもんね!」

101: ◆b0/EDFEyC136 2024/08/24(土) 18:04:55.64 ID:2DApn2wQ0
「――ぬり、ぬり、ぬりぬりぬり……耳たぶをむにむにむに〜」

「お耳マッサージしながらちょっと見てるけど、やっぱり暫くやってなかったから汚いね〜お耳。たまには自分で掃除とかしたら?」

「あれ、アタシそんなこと言ったっけ?自分で耳掃除しないで〜って……ぷぷ。ごめんお兄さん、全然覚えてないや」

「……でも、そんな約束覚えてて今の今まで守ってくれてたんだ……お兄さん。なんというか真面目だね〜!別にアタシ分かんないのに」

「…………いや、まあ。そりゃ沢山汚れてた方がアタシが耳かきするとき楽しいけど?それでもさ……んっ。不意打ちのお耳ぎゅぅうう〜」

「ぷぷ、お兄さんキモい声出してる……❤そろそろお耳をカリカリしてほしくなった?」

「うんうん、して欲しいんだ〜❤じゃあ……"大好きなパピヨンさんにムズムズするよわっちぃお耳をほじほじしてほしいですお願いします"…って、おねだり出来たらお耳掃除してあげようかな〜」

「ほらほら、言わないとしてあげないよ?や〜ん、アタシ忙しいからな〜!このまま放置してどっか行っちゃおうかな?」

「…………❤❤❤」

「お兄さん本当に言っちゃうんだ……きっも……❤ん、じゃあ合格!じゃあ、お兄さんのお耳気持ちよくしてあげるね?」

「取り出すのは匠の耳かき。前にお兄さんに使ってあげたやつとおんなじやつ、これでお兄さんのよわよわな部分を優しく丁寧にイジめてあげるねから、覚悟してね?


102: ◆b0/EDFEyC136 2024/08/24(土) 18:05:34.74 ID:2DApn2wQ0
「かりかり、かりかりかり……かき、かき、かき……かりかりかりかりかり」

「うっわぁ〜キモい顔。お兄さんそんなに気持ちいんだ?やっぱお兄さんのお耳はよわよわだね〜」

「すり、すり、がさごそがさごそ……すっ、すっ、すーっ……」

「……あーあ、そんなに好きだったら……さ。あ、アタシが……ま、毎日、やってあげてもいいけど?」

「…………えっ。いや、まあ毎日やるのはお耳に良くないけど……そ、そうだけどさ?……ぅ、ぅ〜……!」

「ほんっとキモい。お兄さんもう喋らないで。キモい声だけ出してて」

「別に怒ってないけど、ほらご主人様〜?メイドさんがお耳掃除してるので動かないでジーっとしててくださいね〜?」

「かり、かり、すり、すり……かき、かき。かきかきかきかき……」

「はい、じゃあ次梵天ね。ふわふわでお兄さんのお耳蹂躙しちゃう」

「は〜い、ふわふわふわ〜。ふわふわ、ふわふわふわ。ふわふわふわ〜……くるくる、ずぽずぽ、くるくるくる〜……」

「――――ふーっ……❤」

「ぷっ。ぷはは!変な声出してる〜!お耳掃除と言ったらやっぱこれだよね〜」

「はい、じゃあ反対側ね。こっち向いて、こっち」

――

――――

――――――――

――――――――――――――――


103: ◆b0/EDFEyC136 2024/08/24(土) 18:06:58.79 ID:2DApn2wQ0
「――――もう寝た?お兄さん?」

「……うん、起きない。ぷぷぷ、アタシの大事な脚の上でスヤスヤ眠ってる……❤お兄さん本当にお耳弱いんだ」

「あーあ。でも、ちょっと嬉しいし可愛いかも……❤えいえい、うりうりうり〜」

「…………」

「…………お兄さんがアタシを選んでくれたら、ずーっとこの太もも枕使わせてあげるのに。耳かきだって……毎日やってあげるのに」

「……っ!?あ、アタシ今なんて言った!?う、うわ、ないない!ないわ〜……ま、まあでも。お兄さんモテないし?かわいそうだったら、アタシが拾ってあげる……みたいな?アタシやっさし〜」

「…………はあ、お兄さんどんなのがタイプなんだろ。    もふともももデカいのに……身長?」

「……もっと押し付けたり、ちょっとハプニング装ってみたり……いや、でも、嫌われたら……」

「ほんっと、なんでこんな気持ちになってるんだろ。お兄さんのせいだよ全部……」

「ん――おやすみなさいお兄さん。アタシ、お兄さんが寝てる時にしか……こんなことできないけど。でもずっと、大好きだよ……❤」

「…………ちゅっ❤んっ……んぇ……❤ちゅっ、ちゅぅ……れろ……❤」

「…………えへへ❤」

112: ◆b0/EDFEyC136 2024/08/30(金) 00:05:25.78 ID:5iF4gO9o0
休憩を終え、アタシはメイド喫茶に戻ると――。

ゴルシ「――おかえりなさいませお嬢様。ご注文はビーフorチキン?ケンタッキー?」

パピヨン「うわでた」

うわでた。こう思わないでなんと思えばいいか、今のアタシには分からない。

パピヨン「ケンタなんてウチのメニューにないんですけど。ウーマーイーツはあちらへどうぞ〜」

ゴルシ「いえいえお嬢様。私様デキる広報担当ですのでその辺も抜かりなくご用意がございます、さささこちらへ」

流れるまま席へ移動され、着席。……というかマジでなんでいるの。メイド服滅茶苦茶似合ってるし、なんか雰囲気もそれっぽいし。

ライム「はーいケンタッキーです!あ、パピヨンさん!休憩終わりですか?」

パピヨン「うわぁあああああああ!!!!」

ラ、ライム!?ライムがなんか適応してる!?怖い怖い!ライムはそんなんじゃないと思ってたのに!

パピヨン「ら、ライム!?ど、どうしてあんなのなんかと……!」

ライム「……?あ、もしかしてゴールドシップさんですか?あの人最初は驚いてしまいましたけど、とてもよく手伝ってくれて大助かりです!」

パピヨン「ライム……?」

ゴルシ「ええ、そうですよお嬢様。私様とライムさんはマブでズットモの関係ですから」

ライム「ふふっ、ちょっとゴールドシップさん!そんな、恥ずかしいですよ」

パピヨン「……っ!??!!?!?!」

な、なんでそんな仲良い感じなの!?ゴルシ滅茶苦茶馴染んでるし、ライムも全然気にしてないし……え、えっ?

……む、ムカつく!なんかムカつく!……ライムもそんな奴と嬉しそうにするな!多分めんどくさいことになるよ!


なんかムカつく!:安価直下
1 ライムを自分の方に引っ張り寄せる。
2 ナカヤマ先輩とシリウス先輩にヘルプミー。
3 …………拗ねる。
4 自由安価

116: ◆b0/EDFEyC136 2024/09/03(火) 01:58:54.37 ID:PuKvqxQL0
ライム「――きゃっ!ちょ、パピヨンさん……!?」

パピヨン「ゴールドシップ先輩。ライムはそういうハチャメチャで何でもありみたいな空気似合わないんで、止めてもらえますか?」

――ライムの腕をグイっと引っ張ってこっちに引き寄せる。

ゴルシ「ほほほ、しかしライムさんもとても楽しそうにしてましてよ?」

パピヨン「うるさい!んなことないから!ほら、あっち行ってあっち!というか呼んでないのに勝手にメイド服着るな!」

そもそも人数分しか用意してないのにどっから着てきた!

ゴルシ「ナンバーワンメイドのゴルシ様を放棄するとはいい度胸よ!その選択を後悔しないことだなメイド長!それじゃあ次の職場がアタシを待つ!次は太平洋の上で会おうぜ!」

海の上でもご奉仕じゃい!とかなんとか言い残して、その人は消えていった。すたこらさっさとそんな音が聞こえてくるみたいな感じで。

ライム「…………あの、パピヨンさん」

パピヨン「良いライム?あのよく分かんない白いのはライムが関わっちゃいけないタイプの人だから。ナカヤマ先輩とかはまあ…………ギリギリオッケーだったけど、あの人はだめ」

あんなのとずっと一緒にいたらライムがおかしくなっちゃう。そうそう、アタシのライバルがヘンテコ属性持ちになったらアタシ悲しいから、すんごく。

ライム「わかりましたから、その……腕を放してもらえませんか。あと足に絡んでる尻尾……」

パピヨン「…………」

ライム「ぱ、パピヨンさん!?」

ふーんだ。メイドならメイドらしくアタシの近くに居てよねーだ。

119: ◆b0/EDFEyC136 2024/09/04(水) 01:28:11.07 ID:zVWhB3dV0
パピヨン「――――あ"〜……疲れた!お兄さんマッサージ!あとジュース!」

『はいはい』

ドバイゴールデンシャヒーンを越え、ファン感謝祭を終えて。【貴方】の担当ウマ娘、シルヴァーパピヨンにしばしの休養がもたらされた――かのように思えたが、現実はそう甘くはなかった。

日本からドバイへ渡り、そしてその地で名誉あるG1レースに勝利したウマ娘となれば当然取材の依頼が舞い込んでくる。

取材、取材、テレビ出演、写真撮影――今までとは比べ物にならないくらいのメディア露出に、パピヨンも【貴方】も疲れていた。

パピヨン「今までぜんっぜん見向きもしなかったくせにいきなりなにこれ!もーやだ!疲れた疲れた!」

『こら、暴れないでくれパピヨン。肩揉みにくいから』

別に今までも取材を受けたことがなかったわけではない、ただ一回取材を受けるとなぜだか次の取材依頼がめっきり来なくなるのだ。【貴方】はその事実に何とも言えず苦笑いをするだけだった。

インタビュアーを煽り、記者を煽り、ファンや観客にはぷーくすくすと嘲笑して。そんな態度を続けていたら取材が来なくなったわけだが――流石に今回のG1勝利はそれを無視してでも取材がしたくなる出来事だったんだろう。

パピヨン「ぶー……お兄さん尻尾手入れ!うんっと丁寧にやって!」

『はいはい』

手慣れた手つきで道具を取り出して、パピヨンの尻尾を手入れしていく。オイルを手になじませて、ふわりと良い匂いをトレーナー室に漂わせる。

ぴこぴこ、とパピヨンのウマ耳が動く。

パピヨン「……お兄さんほんと上手になったよね、アタシほどじゃないけど」

『ずっとキミの担当やってるからな。上手にもなるよ』

パピヨン「んま、でもまだまだ70点てところだね〜……ぷぷ、早くアタシから100点満点取れるように頑張ってね、お兄さん?」

120: ◆b0/EDFEyC136 2024/09/04(水) 01:29:10.56 ID:zVWhB3dV0
『――それじゃ、次のレースの話をしようか。パピヨン』

パピヨン「ん、オッケーお兄さん!」

尻尾の手入れを終えると、パピヨンが尻尾の感覚を確かめるために何回かゆらゆら動かしている。様子を見るに今回はだいぶ良い出来だったようだ。【貴方】はパピヨンのそんな様子を見ると心の中で小さくガッツポーズをする。


『パピヨンが出れるレースといえば7月のプロキオンステークス、8月のエルムステークス、クラスターカップ……あと9月のさざんかテレビ杯』

パピヨン「エルムステークスは去年も出なかったっけ?連覇か〜……良い響きかも」

『日本のダートの感覚を思い出すためにレースを一度挟んだ方が良いと考えてはいるが――10月の南部杯に出走してみるのもありかもしれないな』

盛岡で開催されるG1レース、マイルチャンピオンシップ南部杯……ドバイから日本に戻って最初のレースに選ぶにしては最高の規模だ。

『自分としては短距離で感覚を慣らした方が良いとは思うが――けど、一番はパピヨンがどうしたいか、だ』

今までだってトレーナーの【貴方】がレースを決めることはあった。しかし一番の優先順位は――パピヨンが何に出たいかどうかだ。

彼女の我儘に答えてこそ、【貴方】はシルヴァーパピヨンのトレーナーとしての役割があると、そう考える。

パピヨン「ん、どうしよっかなぁ――」

ニンジンジュースを飲みながらパピヨンはソファに腰を掛けて考える。短距離に出るかマイルに出るか、また札幌に行って連覇を狙うか、それとも盛岡に行くか……。

パピヨン「アタシが出るからにはもうアタシの勝ちは決まってるけど――うぅんと」


次のレースは――:安価直下
1 7月前半、短距離G3プロキオンステークス
2 8月前半、マイルG3エルムステークス連覇狙い
3 8月後半、短距離G3クラスターカップ
4 9月後半、マイルG2さざんかテレビ杯
5 10月前半、マイルG1マイルチャンピオンシップ南部杯。
6 それ以外(自由安価)



今日はこれだけです、おやすみなさい。

122: ◆b0/EDFEyC136 2024/09/04(水) 23:22:41.68 ID:zVWhB3dV0
パピヨン「じゃ、もっかい行こ札幌!アタシまたラーメン食べたい!」

『……そうか』

あまりにも正直すぎる回答に【貴方】は思わずそんな返答しかできなかった。

どんな彼女の我儘にでも応えてみせる――確かにそう思いはしたが、でもそれでももう少し隠すとか……。

まあしかし、それがシルヴァーパピヨンかとも納得してしまう自分がいる。ドバイのレースに出走するきっかけになった出来事というのも、結局は彼女の自分勝手で満足したがりな理由によるもので――。

――けれどそれに救われる娘がいた。勢い任せで後先も考えないその姿勢に期待してしまう――パピヨンはそういうウマ娘なのだ。

パピヨン「あーでも海鮮!海鮮も食べたい!お兄さんイクラ食べよイクラ!あとサーモン!」

『…………』

……と、【貴方】はそれらしいことを頭の中でぐるぐると考えてみたものの、多分あんまりパピヨンは考えてないだろう。もちろんあのドバイの出走理由はとてもよく考えられたものだと思うが。

――――【貴方】は思わず笑みをこぼしてしまった。


次走はエルムステークスになりました!

123: ◆b0/EDFEyC136 2024/09/04(水) 23:52:02.06 ID:zVWhB3dV0
パピヨン「札幌札幌〜……!海の幸、牧場、ラーメン〜……!」

『…………』

担当ウマ娘が非常に浮かれている、パピヨンの実力を考えれば勝てないレースではないはずだ――しかし、この浮かれに足をすくわれる可能性も非常にある。

ここいらで一回油断するなと足をすくわれるぞと警告を――。

パピヨン「よっし気分がいいから練習しよ!気持ちよく勝って気持ちよく札幌ご飯食べようね!お兄さん!」

『……あ、ああ。そうだな』

パピヨン「いや〜お兄さんのお金で食べるご飯最高だよね〜……ぷぷぷ!あー、楽しみ!」

――ちょっと申し訳ない気持ちになった。後でおやつを買ってあげようと思った。

……もちろん自分も勝つために最善を尽くす。よりパピヨンが強くなれるように――毎日毎日をしっかりと考えていこう。


夏合宿前イベント:安価下2まで。
1 パピヨン飛行機リベンジ
2 パピヨンとマンティ
3 自由安価

126: ◆b0/EDFEyC136 2024/09/06(金) 00:21:41.62 ID:AGd55id90


――――あの日の模擬レースで見た走りを、私は今も鮮明に思い出せる。


可愛い銀色のフォーテールがまるでバイクのマフラーの炎のようにたなびいて、小さな体で誰よりも先に駆け出して、作戦なんて関係ないと言わんばかりに全身全霊のその走り。


マンティ「――――っ!!!」


思わず息を吞んだ。もう退学してしまおうかなんて考えていた私の心を力強く掴んで離さない、理想の走り――なんて、なんて気持ちよさそうに走るんだろう、あの、あの人は……!


その人の名前はシルヴァーパピヨンさん。結局そのレースでは7着に終わってしまったウマ娘。私の友達で、ライバルで――。


私の、私にとって―――。



127: ◆b0/EDFEyC136 2024/09/06(金) 00:23:55.61 ID:AGd55id90

パピヨン「マンティ〜?起きてる〜?」

マンティ「あ、ぱ、パピヨンさん……!?お、おはようございますっ!」

パピヨン「ぷぷぷ、別にお昼だけどね〜?」

――ちょうどお昼ご飯を食べ終わって、これからどうしようか考えているときに彼女は何の連絡もなく私の病室にやってきました。何も変わらないその顔を見た瞬間、涙があふれてしまいそうになったのを、ぐっとこらえます。

ど、どうしましょう……!も、もし何か連絡をくれたら色々と準備をしたのに……!

パピヨン「んも〜そんなあたふたしないでよ。ちょっとドバイのお土産とか渡しに来ただけだから」

マンティ「は、はい。そ、そう、ですよね……ご、ごめ、ごめんなさい……」

パピヨン「だーかーらー!すぐに謝らないで!アタシとマンティの仲なんだから!」

マンティ「んむっ!?」

ほ、ほっへたをつかまないへ!つかまないへくらさい!んぅ……!

……私の頬っぺたをつかんだ手を離すと、パピヨンさんはまるでいたずらに成功したことが嬉しそうな感じに笑っていました。

そして……。

パピヨン「……ねえ、マンティ。アタシ――――やってきたよドバイで。誰よりも早く駆けて、誰よりも早くゴールして。世界中にアタシの姿を見せつけて――度肝を抜いてあげた」

マンティ「…………!」

パピヨン「そんなアタシは……マンティの期待に応えられるくらい強いウマ娘になれたかな。マンティの憧れを越えて、もっともっと最強の――シルヴァーパピヨンになれたかな」

私の目をまっすぐと見つめて、パピヨンさんは私に訊いてきます。ちょっと恥ずかしくて思わず目をそらしてしまいそうになるけど、私は……目を、そらしません。


――ドバイゴールデンシャヒーン。パピヨンさんは海を越えたその先で、見事一着に輝きました。何も変わらないその走りで……ずっとずっと私の憧れになっているあの模擬レースと同じ――――いえ。


あの時のパピヨンさんは間違いなく――私の憧れを越えていました。あの走りは、今走ることのできない私にとってまるで劇薬で……。


あんな走りを、見てしまったら……わ、私、私は……!もっと、もっと……っ!


128: ◆b0/EDFEyC136 2024/09/06(金) 00:25:27.38 ID:AGd55id90

マンティ「――――はい、パピヨンさん。貴女は……私の、私にとって……最強のウマ娘です」

もう……憧れは止めます。貴女は私にとって超えるべき壁であり、最高のライバルです――憧れているばかりでは、いつまでも追いつけませんから。

パピヨン「…………そっか。ん、ならよかった!アタシとマンティの関係はそうでなくっちゃね。だから、ほら。泣かないでよ」

マンティ「へっ……!?あ、やっ、ごめんなさい……!わ、私……泣かないって、決めたのに……!」

ボロボロと零れ始める涙が止まらない、パピヨンさんと会ってから堪えていたものが一気にあふれて、零れた先で濡れた跡ができる。

――パピヨンさん。パピヨンさん……!

パピヨン「……待ってるからね。アタシ、期待してるからね。最強のアタシにチャンレンジャーのマンティが挑んでくるの」

そう言いながらパピヨンさんは……アタシの涙をハンカチで拭いてくれました。な、なんでこんなに優しいことしてくれるんですかぁ……!

マンティ「わ、私……!絶対、絶対……!脚を治して、それで……パピヨンさんとまた……走りたいです!だから、待っていてください!」

パピヨン「ん、じゃあ待ってるね。マンティ!」

――ああ、私って……パピヨンさんに救われてばっかり。貴女がいなかったら今頃レースの道は諦めていたでしょう。そもそもメイクデビューの前にトレセン学園を辞めていたかもしれません。

――今までも、今回も私を助けてくれた貴女に、ヒーローみたいな王子様みたいな貴女に……私は、そろそろ返します。



この想いも、この感情も、この感謝も。全て全て――ウマ娘であるならば、走りの中で。




129: ◆b0/EDFEyC136 2024/09/06(金) 00:30:15.66 ID:AGd55id90
今日はこれで終わりです、ありがとうございました。

マンティ→→→→→←パピヨン

書くたびにマンティからの矢印が増えて大きくなっていきます。

131: ◆b0/EDFEyC136 2024/09/06(金) 19:19:26.27 ID:AGd55id90
パピヨン「あ、ねえお兄さん。今度のお休み空いてる?」

『今度の休み?ああ、特に用事はないが……』

ある日の放課後、いつものようにトレーナー室でだらだらとスマホをいじっているパピヨンが突然そんなことを訊いてきた。

特に用事はない、しかし誰もいない休日だからこそ仕事にも集中できるだろうと考えていたが……いったい何だろうか。

パピヨン「ん、オッケ〜。じゃあその日はアタシに付き合ってね」

『……?なあ、別に付き合うのはいいけど、いったい何を……』

パピヨン「アタシのパパとママがお兄さんに会いたいんだって〜、だからアタシの家に一緒に行こ?』

『ああ、なんだキミのご両親か……分かった、準備しておくよ』

そういえばまだちゃんと挨拶などもできていなかった。もうパピヨンを担当して2年と少し、流石に中学生の彼女を請け負ったのだからこちらから挨拶に出向くべき――ん?

『…………キミの家に行くのか?』

パピヨン「は?そうだけど、どしたのお兄さん?別におかしなこととかないでしょ」

――前に先輩トレーナーから聞いたことがあった。担当ウマ娘の実家に挨拶に行くという行為は、何かまずいと。

具体的な話は特に教えてもらえなかったが、それでトレーナーが何人かトレセン学園と辞めたとかなんとか。怖い都市伝説くらいの話にその時は考えていたが……。

『まあ都市伝説は都市伝説か』

と、先輩の話を再度脳みその片隅に放り投げる。それにしてもパピヨンの家か……粗相のないようにしなければ。

パピヨン「あ〜ママのご飯久しぶりに食べるな〜!たっのしみ〜!」


132: ◆b0/EDFEyC136 2024/09/06(金) 19:20:52.07 ID:AGd55id90
――――そして当日。電車を少し乗り継いで、パピヨンに道案内されるように歩いていくとその家があった。

住宅街に建てられた一軒家。一軒家を想像してまず最初に思いつくような、二階建てで小さな庭があるそんな家だった。

慣れた調子で玄関扉にパピヨンがカギを差し込んで、何の躊躇もなく扉を開く。

パピヨン「ただいま〜!ママー!お兄さん連れてきたよ〜!」

『あ、おいこら……!』

あれだけお兄さんは止めろと言ったのに……!家ではトレーナーって呼べと何度も……!

「は〜い!今行きま〜す!」

家の奥から返事が返ってくる。とってとってと歩く音がどんどんこちらに近づいてきて……。

パピママ「あら、あらあらあら〜!初めましてパピヨンちゃんのトレーナーさん、私がこの子の母親です」

――玄関まで迎えに来てくれたのは、なんともふんわりとした雰囲気のウマ娘だった。

長い芦毛のロングヘアは見るだけでとても手入れがされていることが分かる。ちらりと見える尻尾の先も一目で艶が極上だと理解できる。

……なるほど、パピヨンのお母さんだな。

パピママ「……ふふっ、そんなにみられると照れちゃいますよ、トレーナーさん」

『あ、も、申し訳ありません。私、シルヴァーパピヨンさんのトレーナーをさせていただいています――』

パピママ「いえいえ自己紹介なんて、貴方のお話はパピヨンから十分聞いていますから〜。それより早くどうぞこちらへ。色々と準備しておりますので〜」

パピヨン「おっけー!じゃあお兄さんいこいこ!」

――待ってくれ、色々聞いているって何を聞いているんだ。なんだか少し怖い、怖いな!

137: ◆b0/EDFEyC136 2024/09/07(土) 23:50:06.84 ID:9OwgrwHC0
パピママ「すみませんトレーナーさん。粗茶ですが〜」

『あ、すみませんありがとうございます……』

案内されたリビングでパピヨンのお母さんに出されたお茶を受け取る、パピヨンの前にはニンジンジュースが。そして…………。

パピパパ「――ん、ありがとう○○」

自分の前に座っているパピヨンのお父さんにもお茶が出される。

――何とも落ち着いた雰囲気の人だなと感じた。自分よりも背が高く、しっかりと鍛えられた体には大黒柱としての雰囲気を感じる。

パピヨン「パパ久しぶり〜!どうどう、成長したアタシと久しぶりにあった感想は〜!」

パピパパ「ふふ、そうだな……パピヨンのことはテレビでも見ていたが、実際に見ると……なんだか大人な雰囲気になったな、パピヨン」

パピヨン「えぇ〜?そうかなそうかな?ママー!アタシ大人っぽくなったかな!」

パピママ「ええ、とっても大人になりましたよ〜パピヨンちゃんは。それもトレーナーさんのおかげかしら?」

『い、いえそんな……私なんて何も』

パピママ「そんな謙遜しないでくださいよ〜。トレーナーさんのおかげでレースに勝てた〜って、前にパピヨンちゃんからLANEで」

パピヨン「はぁあああ〜〜〜!?ちょ、ママ何言ってんの!?いや、ちがっ……お兄さん耳塞いで!ママ!!!」

パピパパ「…………ああ、確かにパピヨンは貴方のおかげで……本当に成長したと思います。だからこちらも感謝しているんですよ、トレーナーさん」

パピヨン「パパ!!!」

……とても仲がいい家族だ。この人たちがパピヨンの家族、か。

138: ◆b0/EDFEyC136 2024/09/08(日) 00:01:34.28 ID:10YC/HPg0
パピママ「そうだパピヨンちゃん!LANEでも言ったけどドバイのレースおめでと〜!私、テレビで見て泣いちゃったわ〜。パパも目頭を押さえて――」

パピパパ「ちょっと○○……こほん。でも私もパピヨンが一着でゴールした時思わず、な……しかし、ドバイのレースに出ると決めたのも、きっとパピヨンなんだろう?」

パピヨン「……うん、アタシが出たいから出たんだよ」

パピパパ「そうか……ああ、なら良かった」

そう言うと、パピヨンのお父さんはとても安心したように微笑んで、お茶を一口含んだ。

パピパパ「……パピヨンはとても責任感の強い娘です。人からのお願いや想いには精いっぱい応えようとする……優しくて賢い自慢の娘です」

『……はい、私もそう思います』

パピヨン「えっ、ちょ、ちょっと止めてよ……!」

パピパパ「ですから……不安だったんです。パピヨンが自分からトレセン学園に入学すると言ったとき、本当にこの娘はやっていけるのか、と。もちろん自分から言い出したのですから、私自身は止めませんが――それでも、心配してしまうのが父親というものですから」

パピママ「ママは全然心配してなかったけどね〜。パピヨンちゃんなら絶対すっごいウマ娘になってくれる〜って信じてたから!」

パピヨン「あ、も、もう!ママも撫でないで……よ!」

ニコニコと笑うお母さんに撫で繰り回されるパピヨン。お母さんにはだいぶ溺愛されていたんだな、ということがこの一面だけで分かってしまう。

パピママ「ふふっ……ほんと、本当にすごいウマ娘になっちゃったんだから。ママ、嬉しいわ……パピヨンちゃん」

パピヨン「う〜……ちょ、ちょっと恥ずかしいんだけど〜!」

パピパパ「…………と、まあ前から○○とパピヨンはあんな感じなんです。ですから、あまり気にしないで上げてください」

『いえいえ、とても仲がいいじゃないですか。こんなに仲がいいから、パピヨンも……』

139: ◆b0/EDFEyC136 2024/09/08(日) 00:02:12.04 ID:10YC/HPg0
――誰かと話そう:安価直下

1 パパ
2 ママ
3 パピヨン

141: ◆b0/EDFEyC136 2024/09/08(日) 00:33:07.19 ID:10YC/HPg0
パピヨン「んも〜……パパもママも勘弁してほしいな〜」

料理の準備をすると言って、パピヨンのご両親がキッチンに行ってしまった。椅子に座ったパピヨンが、ぶーっとほっぺを膨らませながらテーブルに突っ伏している。

『いいじゃないか、とても仲のいい家族みたいで。年頃の女の子だし、もっと仲が悪かったりするんじゃないかと思っていたよ』

パピヨン「あー、思春期特有の、みたいなのね』

アタシは特にないかなぁ、パパはパパだけど、ママは……ママだけど、ちょっと年上の友達みたいな。そんな感じだし。

パピヨン「あー、ママがウマ娘なのもあるかな?だからそんな風にアタシが思ってるのかな」

『なるほど、確かに』

パピヨンのお母さんもウマ娘だ、となればパピヨンのお母さんの教えがあって今のパピヨンの走りがあるのかもしれない……パピヨンはあの日出会った模擬レースの時からスピードは物凄かった、だったら――。

パピヨン「…………ねえ、ママに変な目線向けないでよ。ママはパパのなんだから」

『…………怖いこと言わないでくれ』


何か会話:安価直下
1 ……キミは家族のことが好きなんだな
2 自由安価

143: ◆b0/EDFEyC136 2024/09/08(日) 01:57:15.89 ID:10YC/HPg0
『……キミは家族のことが好きなんだな』

パピヨン「……うん、パパもママも大好き」

彼女は顔を赤くして、恥ずかしそうにしながらそう言った。昨日はトレーナー室でママの料理食べたいとかパパに会いたいとか堂々と言っていたが、家の中ではちょっと恥ずかしいんだろう。

パピヨン「パパはアタシがやりたいこと大体やらせてくれて、アタシの決めたことも全部反対しないで後押ししてくれたし。ママはとっても優しくて……アタシが泣いちゃったときも慰めてくれたし」

ぽつりぽつりと、パピヨンの口から家族のことが語られる。小さいころにパパが色んなところに連れて行ってくれたとか、ママと一緒に走りの練習をしたことを。

パピヨン「アタシちっちゃい頃はずっと我儘だったし、とっても迷惑かけたと思うけど……うん、アタシすっごい感謝してるの」

――アタシがやりたいようにさせてくれるパパとママだったからこそ、今のアタシはトレセン学園に入学したんだもん。

『……トレセン学園に?』

パピヨン「うん、アタシ走るの大好きだからトレセンには行くかな〜って思ってたんだけど、ちょっと走ることが怖いというか……嫌いになりそうだった時期があって」

だからトレセンじゃなくて普通の学校に行こうかなって思ってたんだけど……ママとパパがね。

パピヨン「パピヨンが行きたいなら応援するけど本当に行きたいの?って、走るのが好きって気持ちなくなっちゃったの?って、すっごいアタシに聞いてくれて……で、やっぱりアタシの走るのが好きって気持ちは嘘じゃないよなーってなって……」

『なるほど、それでトレセンに……』

パピヨン「……うわ、なんか恥ずかしい自分語りしちゃった!お兄さんも止めてよ!人のプライベート!プライベート!!!」

『えっ』

パピヨン「可愛い担当ウマ娘のそういう話ちゃんと聞いちゃうとかロリコンでしょ!ほんっとお兄さんサイテー!」

『えー……』

滅茶苦茶怒られてしまった、流石に理不尽すぎないか……?

144: ◆b0/EDFEyC136 2024/09/08(日) 03:03:18.68 ID:10YC/HPg0
――――――――――――――――

――――――――

――――

――

『あの、なんだかすみません晩御飯までいただいてしまって……』

パピママ「あらあら良いんですよ〜。こちらがいきなりお呼びしたんですから、これくらいは……」

すっかり家族団らんの空気に交じってご飯を頂いてしまった。

……外を見るともう暗くなっていて、そろそろ帰らなければいけない時間だ。

『……そういえばパピヨン……はどうするんだ?一緒に帰るか?』

パピヨン「あ、アタシ外泊届今日出してるから泊ってく〜。お兄さんこそ一人で帰れる〜?」

『はは、流石にそれくらい……』

パピママ「あら〜?ごめんなさい、私てっきりトレーナーさんもお家に泊まるかと思って準備しちゃって……』

『えっ……い、いやいやお母さん。流石に泊まりませんよ』

パピママ「パピヨンちゃんもそういうつもりだと思っていたんだけど……そう、トレーナーさん帰っちゃうんですね。確かにトレセン学園のトレーナーさんですし、明日も大変ですよね〜」

『い、いえいえいえ!?そんな、いや、パ、パピヨン?』

――明らかにお母さんがシュン……としてしまった。ウマ耳が垂れて、尻尾もちょっと下がり悲しそうにしている――。

パピヨン「マ、ママ……!!!あ、あれは冗談だって……い、言ったじゃん……!!!」

パピヨンが顔を真っ赤にしながら震えた声を出す。どうやら自分が泊まる……みたいな話をしたことは本当のようだった。

――これは嫌な予感がする。お父さんに視線を送って何か助けを……!

パピパパ「……こらこら、○○もパピヨンも止めなさい。トレーナーさんが困っているじゃないか」

『!』

パピパパ「だが、しかし……トレーナーさんがもし今日泊っても大丈夫だというなら……あとはパピヨンの気持ち次第だな」

『お父さん?』

パピパパ「どうなんだパピヨン、今日トレーナーさんと一緒に泊まりたいのか泊まりたくないのか。パピヨンが決めた選択を……私たちは尊重するよ」

パピヨン「え、ええ、いや、アタシ……べ、別に……」

145: ◆b0/EDFEyC136 2024/09/08(日) 03:05:27.30 ID:10YC/HPg0
パピヨンの選択:コンマ直下

コンマ6以上でお泊り



今日はこれで終わりです。おやすみなさい。

148: ◆b0/EDFEyC136 2024/09/08(日) 22:22:31.33 ID:10YC/HPg0
パピヨン「いや、その……ぅ………………」

『……へっ』

顔を赤くして、口をパクパクするパピヨンがなんと言うのかハラハラしながら待っていると。ぎゅっ、とワイシャツの袖口をつかまれる。

……涙目の上目遣いで、何か自分に訴えかけるように自分を見つめてくるパピヨン。

パピヨン「…………あ、アタシは……別に、そんなつもりないけど…………も、もう遅いし暗いし……きょ、今日くらいは……」

パピママ「あらあらあらあら〜!まあまあまあまあ〜!」

パピパパ「……と、言うわけらしいです。トレーナーさん、急なお願いになってしまいますが今日我が家に泊まることは……」

『……あ、あー……そ、そうですね。じゃあ、お言葉に甘えて……』

なんだかとても嬉しそうなお母さんと、申し訳なさそうなお父さんに負けて了承してしまう。……まあ担当ウマ娘とトレーナーの関係だ、こういうこともきっとあるのだろう。

都市伝説を少し思い出すが……まあ、こんなに優しそうな人たちだ、そんな怖いことにはならないだろう。

パピママ「それじゃあ早速お布団の準備をしましょうか〜。えっと客室……はちょっとだいぶ使ってないですから、パピヨンちゃんのお部屋で良いかしら〜?」

『は?』

パピヨン「はっ!?」

――

――――

――――――――

――――――――――――――――

149: ◆b0/EDFEyC136 2024/09/08(日) 22:25:02.52 ID:10YC/HPg0
『……お風呂頂いたよパピヨン』

パピヨン「ふぇっ!?ぁ、お、お兄さん!の、ノックくらいしてよ!バカ!」

『あ、ああ悪い!気を付けるよ……』

――お風呂から上がり、寝間着も借りて自分はパピヨンの部屋に入る。

パピヨンの部屋はそれはファンシーというか女の子らしい部屋だった。沢山のぬいぐるみに……テレビのCMとかでしか見ないようなどでかいクマのぬいぐるみ。それと机の上には沢山の尻尾ケアの道具が。

……ふと、パピヨンから視線を感じる。誰よりも先にお風呂に入り、ふわふわとしたピンク色のパジャマに着替えたパピヨンが、ぬいぐるみを抱きしめながらベッドの上でこちらを見ている。

パピヨン「……変態。勝手に部屋ジロジロ見ないでよ。ロリコン」

『そ、そうだよな。悪い、キミのお父さんとお母さんが寝たら廊下で寝るようにするよ』

パピヨン「はぁ!?そ、そんなこと言ってないじゃん!廊下で寝るとか風邪ひいちゃうよ!」

『…………そ、そうだな』

……だめだ、何をしても何か言われる気がする。

パピヨン「…………そこ、そこに布団敷いてあるから、寝るときはそこで寝てよね」

『……ありがとう』

しょうがない、今日はもう寝てしまおう。さっさと眠ってしまって、明日の朝早くに帰ろう……。

150: ◆b0/EDFEyC136 2024/09/08(日) 22:25:48.06 ID:10YC/HPg0
『…………』

パピヨン「…………っ」

――――顔が熱い、心臓のドキドキが止まらない。あのお兄さんが、お兄さんが……ア、アタシの部屋で……寝てる。

というかお兄さんが部屋に入ってきたときがヤバかった。お風呂上がりのお兄さんとか初めて見たし変な声が出ちゃいそうだった……ギリギリ堪えれたけど。

……ママが言ってた言葉を思い出す。

パピママ『――パピヨンちゃんあのトレーナーさんのこと好きでしょ〜?』

パピヨン『はっ!?はっ……なっ、ま、ママ!?な、なに意味わかんない!』

パピママ『ふふっ、そりゃあんなに好き〜な視線向けてたらママも分かっちゃうわよ〜。私にも経験あるし……ね、今日はトレーナーさんと距離を縮めちゃいましょ〜?』

あんまりママを悪く言いたくないけどバカだと思う。きょ、距離を縮めるって……いやいや、いやいやいや!

『……まだ寝ないのか?』

パピヨン「ひぅ!?も、もう寝るって……」

――――お、お兄さんとおんなじところで寝るって、ど、どどどうしよう……!ね、寝れる気がしないんだけど……!

てかお兄さんこそ早く寝てよ!

パピヨン「…………ぅ」

……ま、まあ飛行機でも隣で寝たし……そ、そう考えれば普通かも!余裕余裕!

それにお兄さんごときにドキドキとか……気のせい気のせい!あ、あはは……。

151: ◆b0/EDFEyC136 2024/09/08(日) 22:29:47.83 ID:10YC/HPg0
お兄さんになにか……なにか行動してみよう:自由安価下2

154: ◆b0/EDFEyC136 2024/09/09(月) 00:39:35.49 ID:6NDVm2NG0
――――――――――――――――

――――――――

――――

――

パピヨン「……ぅあっ!?」

いったぁ……!ぅ、なにぃ……あーベッドから落ちちゃったのか……。

眠い目をごしごしと擦って、壁に掛けてある時計で時間を確認すると……うん、流石にまだまだ起きるのは早い時間だ〜……ふぁぁ、ねむっ……。

パピヨン「ねよねよ……んっ」

もぞもぞと近くの布団の中に潜る。あれ、なんか狭い……気がする。

パピヨン「……んぅ」

……なんかこのぬいぐるみ、ゴツゴツしてる……?でも、なんか……あったかくて、落ち着く……。

それに良い匂いがするし……すぅー……んんっ、ぉ……好き……。

パピヨン「…………」

なんだか頭がふわふわしてきた、かも……もっと、もっとこのぬいぐるみに包まれたい……なぁ。

とくん、とくんって小さな音が直に聞こえてきて……アタシの意識がどんどん薄くなって、消えて行って……。

…………。

……すぅ。

155: ◆b0/EDFEyC136 2024/09/09(月) 01:00:10.70 ID:6NDVm2NG0
『…………』

パピヨン「…………むにゃぁ」

――朝起きたら布団の中にパピヨンが入っていて、しかも強く抱きしめられていた。寝ぼけ眼でぼんやりとした思考の中では、上手く物事が考えられない……。

どうしてパピヨンが……?寝ぼけて布団に入ったのか……?いや、でもそれにしては気づくだろうし……。いたずら……?

『パピヨン、パピヨン起きてくれ……パピヨン』

前からしっかりと抱きしめられてまるでパピヨンの抱き枕のようにされている。ゆさゆさと揺らして起こそうと試みるが、まったく目を覚まさない。

パピヨン「んぅ……すぅ、すぅ……」

『……まいったな。全然引きはがせないし……はぁ』

…………しょうがない、パピヨンが起きるまでこのまま待っているしかないか。適当にスマホでも見て時間を潰そう……。

パピヨン「おにいさん……おにいさぁん……えへ……」

『…………』

むぎゅむぎゅと、とても柔らかいそれが無慈悲に押し付けられる。年頃の女の子が、異性の布団になんて間違えても入ってはいけないと思うんだが……はぁ、今思ってもしょうがない。

…………勘弁してほしい。でも、パピヨンの部屋で無防備に寝てしまった自分が悪いか……はぁ。

……パピヨンの甘い匂いが、ふわりを鼻をくすぐる。寝ていても色々と考えてしまいそうだし、いっそ二度寝してしまうか……。

『……お休み、パピヨン』


156: ◆b0/EDFEyC136 2024/09/09(月) 01:10:46.51 ID:6NDVm2NG0
パピヨン「ふぁぁ……んー!よく寝た……ぁ?」

『…………すぅ』

パピヨン「…………っ!??!?!?!?」

――パピヨンの悲鳴とともに目が覚める、何が何だか分からないまま罵倒されて勘違いされたまま……自分とパピヨンはトレセン学園へと帰った。

……パピヨンのお母さんからはとても喜ばれ、お父さんからは何も言われないまま送り出された……。

パピヨン「変態!変態変体変態変態!ケダモノ!!!」

『いや、キミが勝手に布団に入ってきたんだろう!?』

パピヨン「はぁ!?アタシがそんなことするわけないじゃん!人のせいにしないで!お兄さんのバカ!ロリコン!」

『…………』

163: ◆b0/EDFEyC136 2024/09/12(木) 21:33:37.94 ID:QmwUSRYI0
夏合宿初日。ドバイを勝利したからこれからは楽勝だ――なんて考えている担当トレーナーがいるわけなく。今年は今年で組みなおしたパピヨン用のトレーニングメニューを試す機会である。

パピヨン「変態、ロリコン!」

夏の暑さは根性を鍛え。灼熱の砂浜は足腰の筋力を磨き、体力を増強させる。来月のエルムステークスで連覇を決めるためしっかりとトレーニングを……。

パピヨン「ちょっと聞いてるのキモお兄さん!返事しないとたづなさんとか理事長さんとか先生に言いつけるから!」

『はぁ…………』

……あの日パピヨンの家で事件があってからというもの、何かとバカにされている。それだけショッキングな出来ことだったんだろうが……それにしても、長い。

今までなら長くても一週間くらいで機嫌を治してくれているものだが、今回はもうそれ以上の時間が経過している。まあ、自分みたいな男が女の子と一緒に寝てしまったんだ、嫌われてもしょうがないか……。

『……どうしたパピヨン』

パピヨン「熱い!日傘持って!パラソル!トレセン学園に置かせられないようなロリコンのお兄さんをトレーナーにしてあげてるんだから感謝してよ!」

『キミなぁ』

自分悪いとはいえ流石に怒るぞ……?いや、まあ……熱中症とか怖いし全然日傘持ちくらいはするけど。

――前途多難の夏合宿。どこかで謝りたいところだが、パピヨンがこの調子ではなぁ……。トレーニングはちゃんとやってくれると嬉しいんだが……。

パピヨン「…………」

164: ◆b0/EDFEyC136 2024/09/12(木) 21:39:28.64 ID:QmwUSRYI0
シニア夏合宿!一週目!:安価下2まで

1 パピヨン「お兄さんの顔が見れない……!」
2 『なんだか併走トレーニングのお願いが沢山来るな』
3 自由安価

167: ◆b0/EDFEyC136 2024/09/13(金) 00:14:55.03 ID:45MaiGob0
パピヨン「……〜〜っっ!!!」

――宿舎に戻って早々、アタシはお布団にダイブをして枕に顔を埋める。もがもがもがと足をバタバタ、手をバタバタ動かして、この行き場のない感情を外に放出させる。

パピヨン「お兄さんの顔が見れないよぉ……!」

そう、お兄さんが寝ているアタシをお布団に連れ込んだあの日から……アタシはお兄さんの顔が全然見れなくなっていた。

お兄さんの顔を見るたびに、あの日のことを思い出しちゃって顔が一瞬でヒートアップ。心臓が爆発しそうになっちゃって、その思いをトレーニングを必死にこなして忘れようとするだけ。

パピヨン「…………う"ぅ"う"う"〜〜!!!」

お兄さんがアタシを布団に連れ込んだ――ってことは、もちろん……そ、その、そういう気があるってこと……だよね!?

ま、まあついにようやくお兄さんがアタシの魅力に気づいてくれたってこと!あとちょっと待てばお兄さんの方からモジモジしながら……告白してくるはず!きっとそう!

………………ほ、ほんとうにぃ?

パピヨン「ふっ、ふーっ…………お、落ち着かないと。ほ、本当にお兄さんがこ、ここ告白とかしてきちゃったらぁ……!」

――ダメ、頭おかしくなっちゃいそう。こうやってすぐに沸騰しちゃうから、最近お兄さんからすぐ離れないと!ってなっちゃうし……お、お兄さんに変に思われてないよね?

……でも本当にお兄さんがアタシのこと好きだったら……。

パピヨン「…………えへへぇ……あっ、ゃ、違う違う違う〜〜〜っっっ!!!」

脚をバタバタ、手をモガモガ。枕に頭を何度も何度も頭突きする。



パピヨン「……明日も明後日もトレーニング。そして札幌でレース……お兄さんとずっと一緒に」

今のアタシに耐えられるか?いや、いや……とてもじゃないけど無理!

顔を見るとあの日のお兄さんの寝顔を思い出しちゃう。ちょっと近くになるとなんだかとっても良い匂いがするお兄さん。男の人なんだな〜……ってなる、体付き……。

パピヨン「…………ぅ」

だ、誰かに相談しようかなぁ……ぅ、でもあの色ボケ恋愛三人娘には相談したくない……!けど……なぁ……!

パピヨン「去年はアタシがネタにする方だったのにぃ〜〜〜!!!」

絶対バカにされる!あー!うわー!んもー!!!


恋愛よわよわドバイウマ娘、誰かに相談する:安価直下
1 ほぼ付き合ってそうな幼馴染がいるライバルウマ娘に相談
2 親友の弟からアタックされまくってる同室のウマ娘に相談
3 同年代サッカー少年と夢を追いかけあってるウマ娘に電話

171: ◆b0/EDFEyC136 2024/09/14(土) 00:25:36.11 ID:pdQNYH3+0
シルフィー「はぁ、つまり……その。パピヨンさんのお友達が……?」

パピヨン「そ、そう!アタシの友達がね!?好きな人の顔も見れなくて声聞くとドキドキしちゃってすぐに逃げちゃうんだって!」

ど、どうすればいいかなぁ!と、アタシはシルフィーに尋ねる。

……こ、これならばれないよね?た、多分……。

シルフィー「…………ふふっ」

パピヨン「!?」

わ、笑った!シルフィーが笑った!?ば、バレた!?

シルフィー「ご、ごめんなさい……!ふふふっ……!んっ、こほん。切り替えます」

笑いを止めるように咳ばらいを一回。そしてシルフィーはアタシの方をじーっと見つめてきた。

シルフィー「……とりあえずそのお友達に、素直になるようにおっしゃったどうですか?」

パピヨン「はっ!?す、素直とか……い、意味わかんないけど!?その子はずっと素直ですけど!」

シルフィー「……どうですかね?」

あー!あー!ニヤニヤ笑ってる!や、やっぱこれバレてる……!?

シルフィー「でも、そうですねぇ……パピヨンさん――じゃなくて、そのお友達の悩みなんでしたら、私も力になりたいですけど……」

パピヨン「!!!」

シルフィー「そんなにもその好きな人にぞっこんだと、色々と大変ですよね。きっと」

パピヨン「そうそうそう!そうそうそう!」

シルフィー「…………えぇっと」

172: ◆b0/EDFEyC136 2024/09/14(土) 00:37:33.71 ID:pdQNYH3+0
グリーンシルフィーアドバイス:安価直下

1 ……え、えぇ〜っとぉ……。
2 ……思い切って告白しちゃえばいいんじゃないですかね。
3 自由安価



今日はこれで終わりです。おやすみなさい。

色ボケ卑しかウマ娘、大好きです。

174: ◆b0/EDFEyC136 2024/09/15(日) 00:26:10.40 ID:elBstn6D0
シルフィー「……思い切って告白しちゃえばいいんじゃないですかね?」

パピヨン「はっ、はぁ!?」

い、いきなり何言ってんの!?バ、バカじゃないの!?

パピヨン「で、出来るわけないじゃん!も、もし、こ、断られちゃったら、ど、どうすんの!?」

シルフィー「お、落ち着いて、落ち着いてくださいパピヨンさん!でも、ほら、そのパピヨンさん……のお友達も、ずっとそんな気持ちだと辛いんじゃないですか?」

パピヨン「うっ……」

シルフィー「ですから思い切って告白してしまって、その気持ちに区切りをつけるんですよ!」

パピヨン「…………じゃあシルフィーはおんなじ気持ちになったら、弟くんに告白するの?」

シルフィー「…………それは、そのぅ」

パピヨン「やんないんじゃん!だから無理無理!ぜーったいに無理!!!」

シルフィー「ぱ、パピヨンさん待って!これは違うんです!!!」

ヒシアマ「――うるさいねアンタたち!アンタたちだけの部屋じゃないんだから静かにしな!」

――わーわーぎゃーぎゃー叫んでたらヒシアマの姐さんに怒られちゃった……。撤退撤退!


175: ◆b0/EDFEyC136 2024/09/15(日) 00:41:38.49 ID:elBstn6D0
パピヨン「む、むむ、むぅ……」

――告白、告白、こくはく……。いや、いやでも……お兄さんアタシのこと大好きだし……!告白すれば全然……!

でも断られたら……!む、むり!考えられない!断られたら一生お兄さんと一緒にいれない!やだやだやだ!

パピヨン「……うぅ」

告白して気持ちに一区切り、なんて分かってる、分かってるけどさぁ……!

一区切りしすぎてお兄さんとの今の関係も区切っちゃう。嬉しくて心臓が飛び出ちゃうか、悲しくて心臓が潰れちゃうか。

告白なんて一か百か。失敗したら……アタシはもう、もう、戻れない。

パピヨン「…………そ、そもそもお兄さんがアタシにあんなことしたから、お兄さんがあんなに優しくしてくれたから……アタシは、アタシは」

アタシがずっとずっと悩んでたことを、あんなに解きほぐしてくれたお兄さんのことをアタシが好きにならないわけなくない!?アタシがお兄さんのこと好きなのも、全部全部お兄さんのせい!あの変態ロリコン脚フェチお兄さんが、アタシにあんな……あんなさぁ……!

パピヨン「…………お兄さんの方から告白してくれないかなぁ」

そうしたら、アタシが悩む必要もないのに……てか一緒に寝たんだしもう秒読みじゃない!?そうでしょ!絶対に!……ぜ、絶対に……絶対……。

パピヨン「……んもぉおおおおおおお〜〜〜っっっ!!!」

ダメダメダメ!全部悪い方に考えちゃう!ア、アタシ、アタシ告白……告白するのぉ……?し、しるふぃ……。


お兄さんに何か行動を……:安価直下
1 ……と、とりあえず保留でぇ……
2 お兄さんから告白待ち!というか告白しやすくしてあげよう!
3 ………………こ、告白
4 『……パピヨン?』
5 自由安価

177: ◆b0/EDFEyC136 2024/09/15(日) 02:54:31.50 ID:elBstn6D0
パピヨン「………………っ」

心臓のバクバクが抑えきれない、最悪な展開を考えるだけでも涙があふれてしまいそうで、何かが崩れてしまいそうで。

だけど、だけど――一度自覚しちゃったこの気持ちを隠してこのままお兄さんと一緒に過ごすだなんて――アタシには無理だし、そもそも隠せない。

お兄さんが好き。お兄さんの顔も、声も、体も、性格も、匂いも、厳しいところも優しいところも、甘いところもチョロいところも全部全部――好きで好きでたまらない。

パピヨン「……告白は……うん、まだ……まだ止めよう」

夏合宿中に告白は、ちょっと他の人に見られたりしたら怖いし……レース前に振られたりしたら、メンタルボロボロで多分やばいし……。

――――札幌、そこでなら二人きりだし。多分……大丈夫なはず。

パピヨン「……ぅ、ぅうぅうぅ〜〜〜……っ!!!」

――覚悟を決めろアタシ!お兄さんはアタシのこと大好き!だからきっと――悪い方向には進まない。

担当契約解除とか、お兄さんがアタシのこと嫌いになるとか。そんなことには……ならない。ここではっきりと、断言する。

……普段通りのアタシで行け。我儘で自分勝手、だから自分の気持ちにも素直でありたいし、お兄さんの気持ちも――欲しい。アタシのものにしたい。

パピヨン「どれもこれも全部お兄さんが悪いんだからね……!」

担当ウマ娘のこの気持ちくらい受け止めてよねお兄さん……!ゆ、勇気、振り絞るんだからなぁ……!

――責任取ってよね。アタシをこんなにさせた責任を。


178: ◆b0/EDFEyC136 2024/09/15(日) 03:02:01.54 ID:elBstn6D0
今日はこれだけ、こんな時間にしかできないので全然進まなくて申し訳ないです。お疲れさまでした、おやすみなさい。

女子中学生の担当ウマ娘をこんな気持ちにさせるお兄さん許せねぇですよ……。

そろそろ時間に余裕出てくるんじゃないかなって感じがするので、やる時間早めるかもです。22時とか……。明日はできないですけど。

180: ◆b0/EDFEyC136 2024/09/20(金) 02:50:01.54 ID:cI5zJ7Tp0
『……なんだか併走トレーニングの依頼が沢山来るな』

シルヴァーパピヨンと併走をしたい、一緒に走らせてほしいというお願いが他のトレーナー陣、ウマ娘から殺到している。

理由は明白である。パピヨンの頭に戴冠されたドバイの冠。そんなウマ娘が誕生したとなれば、併走トレーニングで力を付けたい――まあ、その気持ちも理解できる。

『トレーナーの自分としては受けてもいいが、最優先はパピヨンの――あ、いた。おーいパピヨン!』

パピヨン「ひぅぁ!?」

そう考えていたところ、ちょうどいいタイミングでパピヨンが視界に映る。いつも通り声をかけてみると、パピヨンはビクっ!と大きく体を震わせて、変な声を出して、こちらを向いた。

……今絶対に見つかりたくない相手に見つかってしまった、そんな表情だった。

パピヨン「おっ……お、お兄さんじゃーん。ど、どしたの〜?あ、アタシいま忙しいんだけど〜……」

『いや、忙しいって……まあいいか。実はキミと併走したいっていうお願いが沢山来ていてな、もしパピヨンが大丈夫そうなら受けようと思うんだが――』

パピヨン「へ、へいそぉ?ふ、ふーん……ま、まあ、別にいいけど……」

……目が合わない。それになんだか顔が赤いし、声が震えている。

おかしい……夏合宿初日はこんな様子ではなかったはずだ。もしや……。

『悪いパピヨン、ちょっと額触るぞ』

パピヨン「ぴゃっ!?」

額に手のひらをくっつけて熱を測る。ひどい熱……とは言わないが、ちょっと熱いかもしれない。まさか熱中症……!?

『悪いパピヨン!すぐに日陰で休むぞ!』

パピヨン「ぁ、へっ?!ちょ、お、お兄さん急展開過ぎるって……!!ひあ!?」

パピヨンを持ち上げて急いで宿舎に戻る。担当ウマ娘の体調も管理出来ないなんて、トレーナーとして失格だ……!


181: ◆b0/EDFEyC136 2024/09/20(金) 03:00:44.78 ID:cI5zJ7Tp0
パピヨン「………………」

『ほら、お水。あとこれで首筋を冷たくして』

宿舎の保健室でパピヨンにスポドリと保冷剤を渡す。気まずそうにしながらスポドリと自分を見比べてから、パピヨンはちびちびと水分補給をし始めた。

……どうやら大事にはなっていないらしい。意識もはっきりしているし、本当に熱があっただけのようだ。

『……悪かった、キミの体調にも気づけなくて』

パピヨン「い、いやっ。お、お兄さんは悪くないし……そ、そもそも、別に熱中症とかじゃ――」

「……キミは優しいな。けど今回は自分の責任だ、何かあってからじゃ手遅れだしな」

思えば自分はパピヨンの我儘に甘えていたのかもしれない。何か違和感があればすべて言ってくれる、嫌なことも不調も全部教えてくれるはずだと――今までのパピヨンへの信頼が、自分の甘えになってしまっていたのだ。

……最初から気付いている。パピヨンは責任感がとても強くて、頑張り屋なウマ娘だ――だから、きっとパピヨンはこうやって抱えてしまうこともあると。

「キミのことをすべて分かってこそのトレーナーだ。だから今日はゆっくり休んでくれ」

パピヨン「い、いやいや!い、いーよいーよ!ほんと、ちょっと……あ、暑かっただけだから!それよりほら、なんか併走とか言ってなかった?じゃあやろうよ併走!アタシ張り切っちゃつめたぁ!?」

頬っぺたにもう一つ持っていた保冷剤を押し当てる。

「ダメだ、今日はしっかりと休もう。やる気があるのは嬉しいが……今日は自分の言うことを聞いてくれないか?」

パピヨン「…………ぅ、しょ、しょうがないなぁ……!アタシがお兄さんの我儘を聞いてあげるとか、滅茶苦茶レアだからね?」

「はは、ありがとうパピヨン――じゃあキミの我儘を一つかなえてあげるよ。うん、何でも言ってくれ」

パピヨン「――」

……まずい、またパピヨンの顔が固まってどんどん赤くなってきた!

182: ◆b0/EDFEyC136 2024/09/20(金) 03:14:24.69 ID:cI5zJ7Tp0
パピヨンの我儘。:自由安価直下

これだけです。次更新土日予定です。おやすみなさい。

184: ◆b0/EDFEyC136 2024/09/23(月) 23:18:21.13 ID:vFuKj4tL0
パピヨン「…………じゃあ、じゃあさ」

――ずっとアタシだけ見ていて。今日はずっと、一緒にいて。

と、パピヨンは恥ずかしそうに照れくさそうに、小さな声で言った。

『……それだけでいいのか?』

パピヨン「は、はぁ!?お、お兄さんなにそれ!あ、アタシ結構勇気出したんだからね!?」

『あ、いや悪い。そんなバカにするつもりじゃなかったんだが……いや、なんでもない』

もっとキミらしい我儘を言われると考えていたところに、ずっとキミだけを見ていてほしいなんて言われるとは思わなかった。だから思わずそんなことを言ってしまった。

……ずいぶんと可愛らしい我儘だった。というか、そんなことをわざわざ言わなくても自分はそのつもりだった

パピヨン「…………なに、その眼」

『何でもないよ、ほら今日は休んで、明日からまた調子を見て頑張ろう』

ジトーっとした目を向ける彼女に、にこりと微笑み返す。

外からセミのうるさい鳴き声がジージーと聞こえてくる。エアコンの効いたこの保健室、パピヨンと自分だけがいる場所で、目を離さないように見つめている。

パピヨン「…………そ、そんなに見ないで。ほんと、キモいから」

『……キミが見ていてほしいといったんだろう』

パピヨン「う、うるさいなぁ!ほら!休んでほしいならなんか面白い話して!あと飲み物とアイス!」

『……はいはい』

彼女の熱が収まるまで、保健室のベッドの上に寝っ転がった彼女と何かをおしゃべりし続けた。

…………いつの間にかスヤスヤと眠ってしまった彼女からも、目を離さなかった。


185: ◆b0/EDFEyC136 2024/09/23(月) 23:21:49.98 ID:vFuKj4tL0
パピヨン「――――ふぁぁあ。ん、ねむ……」

『おはよう、パピヨン』

パピヨン「ん、おはようおにーさん…………んぇぁ!?」

寝ぼけ眼をこすりながら体を起こすパピヨンにおはようの挨拶をすると、彼女は普通に返事をした後、勢いよく自分から距離を取った。

パピヨン「な、なんでいるの!?!?」

『……キミ、寝る前のことあんまり覚えないタイプだろう。キミが言ったんだろ、ずっとアタシを見ていてって』

パピヨン「い、いや覚えてるけど!?だ、だから、いやでも、ずっと寝てたアタシを見てるとか……」

『いや、約束したんだから当然だろう。キミがそうして欲しいと言ったんだから」

もし急に具合が悪くなりだしたりしたら大変だ、そう伝えると彼女は信じられない表情でこちらを見た後、何かあきらめたように溜息を吐いた。

『ど、どうした!?』

パピヨン「いや、別に〜……お兄さんさ、ほんっと……アタシのこと好きすぎない?」

『……?そりゃそうだろ、キミのトレーナーなんだから』

パピヨン「…………はいはい。んーお腹空いた!お兄さんご飯!」

『ああ、今持ってくるよ。宿舎の方にお願いしてキミ用のご飯をちょっと作ってもらったんだ』

立ち上がって保健室から出ようとすると、「待って!」とパピヨンに呼び止められる。

パピヨン「アタシから目を離さないで!まだこれ続いてるから!」

『いや、だが……ああ、じゃあ一緒に行こうかパピヨン。もう立ち上がれるか?」

パピヨン「ん、余裕余裕〜」

……そしてパピヨンと一緒に部屋を出た。道中、彼女の尻尾がすりすりと自分の足に絡みついてきたのが、くすぐったくて何とも言えなかった。

186: ◆b0/EDFEyC136 2024/09/23(月) 23:39:56.13 ID:vFuKj4tL0
パピヨン「あ"〜……!お兄さん暑い!疲れた!」

『……まだ練習を始めたばかりなんだが』

パピヨン「あー!そんなこといって!ほら水分とスイカ!」

――あの日以降、なんだかパピヨンに遠慮がなくなった。

パピヨン「何その眼。ほらほら、アタシの体調が悪くならないようにしっかり見てしっかり休ませてね〜?」

『キミなぁ、そんな調子で次のレース――』

パピヨン「じゃあ、次のレースアタシ負けちゃう?」

『…………』

パピヨン「……えへ、正直なお兄さん。負けるとこなんて想像しないし、そもそも勝たせるようにするのがお兄さんだもんね?』

大丈夫大丈夫、ほんとちょっと休んだら練習頑張るから、ね?

『……はあ、分かってるよ。ほら、スイカと飲み物』

パピヨン「ん、ありがとー♪」

――エルムステークスまであと少し、追い込みの時期だ!

187: ◆b0/EDFEyC136 2024/09/23(月) 23:51:00.43 ID:vFuKj4tL0
シニア夏合宿!エルムステークス前:安価直下

1 ライムと夜の砂浜練習
2 自由安価



土日できなくてごめんなさい。今日はこれだけです。

お疲れさまでした。

191: ◆b0/EDFEyC136 2024/09/25(水) 01:05:26.10 ID:4sxshuEX0
ライム「すみません、急にこんな時間に呼び出したりしてしまって……」

パピヨン「ほんとだよー。アタシそろそろ寝る準備とかしようかなーって考えてたのに」

夜の砂浜はなんだかとてもジメーっとしていて気持ちが悪かった。というのにアタシを呼び出した張本人であるステラライムは申し訳なさそうにしながら、けどなんだか嬉しそうにしながらアタシの方を向いていた。

ライム「……実は断られちゃうかもと思ったんですけど、来てくれてよかったです。本当にすみません、けど……ありがとうございます。パピヨンさん」

パピヨン「絶対にすみませんって思ってる顔じゃないでしょ。はぁ……んま、来ちゃったアタシもアタシなんだけどさ」

ライム「パピヨンさん、優しいですもんね!」

パピヨン「帰る、暑いし」

ライム「わー!わーっ!?ま、待ってくださいパピヨンさん!折角ですから!折角会いに来てくれたんですから!ちょっと走りましょうよ!パピヨンさん!」

帰る!このウマ娘アタシになら何してもいいとか考えてる!

もう寝る!!!

192: ◆b0/EDFEyC136 2024/09/25(水) 01:06:01.66 ID:4sxshuEX0
――――――――――――――――

――――――――

――――

――

ライム「ふっ、ふっ……はぁ。やっぱりパピヨンさんは優しいですね」

パピヨン「うっさい。静かに走って」

あまりにも五月蠅かったから少しだけライムと走ることにした、といっても寝る前の簡単な運動みたいなもので、トレーニングとは言えないものだった。

真横から嬉しそうなライムの視線を感じる……ええい見るな見るな!

ライム「ふふっ……はは」

パピヨン「…………」

海の音、風の音、砂浜を駆ける音。

この音に加えてお互いの呼吸が聞こえてくる。何も喋ってはいないはずなのに、なんだか言葉を交わすよりも相手のことを知ることができている気がする。

――思えば、ドバイに行くちょっと前の日もこんな風に走ったっけ。いや、あの時はもっと本番って感じだったっけ。

ライム「………………ドバイのレースを見たとき、私。実はちょっとだけ泣いちゃったんですよ」

パピヨン「へっ?」

急に何を言い出すんだろうこの人は、しかしライムは続けて話す。

ライム「あまりにも綺麗で、あまりにも清々しくて、あまりにも……楽しそうで。あの日の貴女の走りを見た瞬間、体全身にゾクゾクと鳥肌が立って、なぜだか涙が零れてしまって」

と言ってすぐにその涙は止まったんです。そのおかげでシルフィーさんにはバレませんでしたけど……と、ライムは語る。

……少し、速くなる。

ライム「よく美術品を見たり、オーケストラを聞いて泣いてしまうというじゃないですか。多分、あの時のパピヨンさんの走りは……それと同じなんです」

パピヨン「な、なになに?いきなりそんな……ほ、褒めてるんだよね?」

勿論です!本当にすごくて、感動して――。


193: ◆b0/EDFEyC136 2024/09/25(水) 01:06:44.39 ID:4sxshuEX0


ライム「――――そんな貴方を追い越せたらどれだけ気持ちがいいでしょうか、パピヨンさん」


パピヨン「…………!」

――また、速くなる。負けないように、こちらも脚を速くする。

ライム「ドバイの地で勝利を勝ち取ったパピヨンさん、私たちの世代で最強のダートウマ娘なんて言われるようになったパピヨンさん、そしてそんな姿を魔王とか銀の蝶とか言われるパピヨンさん」

貴女は強い、そんなの誰だって知っています。私も――当然知っています。だからこそ、だからこそ私は……!

ライム「最高のライバルとして、"世代最強のダートウマ娘"として、私は貴方を――ねじ伏せたい……!」

――速くなる。どんどんどんどん、加速する……!準備運動なわけがない、もうこれは模擬レースの域に――!

全身全霊で脚を動かす、前を往くライムに負けないよう必死に走る!

――――笑い声が、聞こえてくる。

ライム「パピヨンさん――私待っていますよ!チャンピオンズカップで!私はあの日のリベンジを!パピヨンさんは――いえ、言わないでも大丈夫ですよね!」

パピヨン「――――っ!ほんっと!ライムってそういうとこあるよね!!!ライムにリベンジしたいことなんて――こっちは数えきれないくらいあるのに!」

良いよ、乗った!チャンピオンズカップ――どっちが最強か!決めようよライム!

こっちは約束してんだ!最強になって待ち受けるって――だったら一番の障壁を、今ここで――打ち壊す!

ライム「ああ、やっぱりパピヨンさんは――ほんっとうに!最高ですね!私、この世代で、貴女と一緒に走ることができて――本当に良かったです!」

まるで星のように眩しい笑顔――そう感じさせる声だった。

真夏の夜、砂浜に輝く一番星。ずっとずっとアタシを照らしてくれた、眩い星を――アタシは、集大成として撃ち落さなければならない。

ああ、なんて最高なんだろう。と、アタシも嬉しくなって、笑った。

194: ◆b0/EDFEyC136 2024/09/25(水) 01:07:43.14 ID:4sxshuEX0



――――最終目標が12月後半"チャンピオンズカップ"に決定した!



195: ◆b0/EDFEyC136 2024/09/25(水) 01:12:49.49 ID:4sxshuEX0
>>189
悩み中です。最近あんまりできてないので、新しい子続けられるかなぁと思う気持ちとそれはそれとして新しい子を書きたい気持ちがあります。


今日はこれだけ、安価なしです。おやすみなさい。

次、エルムステークスです。

197: ◆b0/EDFEyC136 2024/09/27(金) 00:16:05.06 ID:OA3BgWtT0
『去年に比べるとずいぶん人が多いな……』

去年以上の観客数、その理由はといえば……もちろんパピヨンだよなぁ。

エルムステークス連覇を賭けたレース、そしてなによりドバイゴールデンシャヒーン優勝後の初国内レース。一目その走りを見ておきたいと札幌まで足を運ぶ観客が多かった。

――グッズやらなにやらもシルヴァーパピヨンのものが多かった。まさかここまで影響力があるとは、想像していなかった……とは言えないが、それにしても多い。

『……大丈夫かパピヨン?国内での復帰戦、観客数も注目も今までよりも――パピヨン?』

パピヨン「…………へっ!??!な、なに!?」

振り向いてパピヨンを見ると、なんだか心ここにあらず、という感じだった。

自分が声をかけるまで意識がレースとは違う別のどこかに行っていたような……なんだかレースの緊張とは違った緊張もしていそうだし。

『……何を考えているのか自分には分からないが、今はレースに集中だパピヨン。体調もコンディションもばっちりだろう?』

パピヨン「あ、あったりまえでしょ!今のアタシが観客の人数とか、注目だとか人気とかでグラグラ揺さぶられるウマ娘じゃないの、お兄さんも知ってるでしょ?」

と、堂々と胸を張って応える。

――なら大丈夫だ。夏合宿中の練習でも、脚や走りに問題なし。あとはただ――そんなパピヨンのことを信じて待つだけだ。

『よし、じゃあ行ってこいパピヨン!――そして、楽しく走ってこい!』

パピヨン「おっけ、任せてよ!ダート最強のアタシの走りを――手のひらクルクルの観客たちに見せつけてやるから」

198: ◆b0/EDFEyC136 2024/09/27(金) 00:17:22.07 ID:OA3BgWtT0
――――G3エルムステークス。一番人気シルヴァーパピヨン。

いつも以上の視線。観客席からも、この地下バ道からも、そしてもちろんパドックの上からも。

アタシをマークするウマ娘も多いけど――まあ、変わらない。

パピヨン「………………っし」

ちょっと控室では別のこと考えてたけど……それはちょっと置いといて。レースに気持ちを切り替える。

――全部全部圧倒して、アタシが逃げ切る。

ただそれだけ、それだけで十分。

パピヨン「…………見ててねお兄さん」

199: ◆b0/EDFEyC136 2024/09/27(金) 00:20:42.15 ID:OA3BgWtT0
エルムステークス、結果は?:コンマ直下
1-3 圧勝圧勝!
4-7 一着だ連覇だ!
8-9 ずこーっ
0 おおっと

201: ◆b0/EDFEyC136 2024/09/27(金) 00:51:15.61 ID:OA3BgWtT0
結果!連覇だ連覇!

おやすみなさい。

203: ◆b0/EDFEyC136 2024/09/30(月) 22:45:31.38 ID:zwE3mDPH0
――シルヴァーパピヨン先頭だ!逃げる逃げる!ドバイで見せたその走りは日本国内でも健在か!後続とは4バ身ノリード!

――シルヴァーパピヨン逃げ切ったー!そして2着に8番、3着に4番!シルヴァーパピヨンエルムステークス見事連覇!

――――わぁあああああああ!っと、歓声が上がる。

パピヨン「ふぅううう……はぁ。ほんっと、何この歓声」

――けど悪い気はしない。ずっとずっと応援してくれてるファンがいることを知ってるから、アタシの走りを待ってるライバルがいるから。

そっか、そっか……うん。だったら――。

パピヨン「――――ほんっと!バカみたいだよねー!そんな嬉しそうに声出して!ずっとずっと!アタシのことなんて見向きもしなかったくせに!」

アタシはずっと凄かったの!デビューしてから今に至るまで!気持ちよく走ってるだけなのに――こんな風に盛り上がって!

パピヨン「――けどね!」

そんなバカみたいなファンの皆が、ミーハーですぐに手のひら返して見向きもしなくなるようなファンの皆だけど――――アタシのことを応援してくれて、ありがとー!!!


アタシは勝手に走るから!皆も自分勝手にこれからも応援してね!


――精いっぱいの、感謝の気持ち。ちょっとは、伝えてもいいよね。

また湧き上がる歓声。より一層高ぶった感情がぶわーっとこっちに向かってくる。うわっ、うわ〜……!

パピヨン「……気持ちわるーい、ぞ!」


204: ◆b0/EDFEyC136 2024/09/30(月) 22:49:04.77 ID:zwE3mDPH0
――――――――――――――――

――――――――

――――

――

『お疲れ様パピヨン。エルムステークス連覇おめで――!』

パピヨン「あー疲れた!お兄さんマッサージ!あと尻尾の手入れ!」

控室に戻って来て早々、パピヨンはそのままソファに直行し、脚をこちら向けてくる。

……揉めということだろうか。

パピヨン「は〜……あ。いやっ、ちがっ……ご、ごめんごめん!冗談!」

『えっ』

まあ脚のマッサージくらいトレーナーとしての務めだろうと手を伸ばすと、パピヨンはやってしまった!といった表情で脚を引っ込めてしまった。

……自分から脚を差し出したのに?

『……だ、大丈夫か?その、脚の調子とか』

パピヨン「だ、大丈夫大丈夫!んもー全然平気!あ、尻尾の手入れは……お、お願いするけど。脚はいいや!』

『そ、そうか。それならいいんだが……』


205: ◆b0/EDFEyC136 2024/09/30(月) 22:49:38.62 ID:zwE3mDPH0
――――あ、危ない!!!いつもの感じでマッサージとか頼んじゃった!

今日はだめ!今日はだめ!ア、アタシは今日覚悟してきてるんだから……!脚のマッサージいきなりとか、ちょっと印象悪いよね、うん。そうそう。

パピヨン「………………」

『なあパピヨン。くすぐったかったり変な感じがしたりしないか?』

――今日一晩ホテルに泊って、明日帰る!だからその間に――――!

『――パピヨン?』

パピヨン「ふひゃぁあ!?」

『わっ!ご、ごめんパピヨン!そんなに驚くとは……』

み、耳元で喋らないで!し、心臓飛び出ちゃうかと思った……!

パピヨン「お、驚かせないでよおお兄さん!あ、も、もー!尻尾もっと手入れして!ほらほら、ウイニングライブまでまだ時間あるから!」

――ど、ドキドキしてるのバレてないよね?アタシいつも通りだよね?

――――お、落ち着けアタシ、落ち着け。だ、大丈夫、大丈夫だから……!

206: ◆b0/EDFEyC136 2024/09/30(月) 22:57:03.26 ID:zwE3mDPH0
ウイニングライブ終了後!パピヨンと【貴方】は――。:安価直下

1 ホテル
2 夏祭り
3 その他(自由安価)

208: ◆b0/EDFEyC136 2024/10/01(火) 00:34:18.44 ID:nqvApMSj0
『そういえば』

――アタシの尻尾の手入れを続けながら、お兄さんは口を開いた。

『実は今日近くでお祭りやってるみたいなんだ、もしパピヨンが良かったら……今日一緒に行かないか?』

パピヨン「えっ!?」

な、夏祭り!?お、お兄さんから誘って!?

……で、デート!?こ、これそういうことだよね!?

パピヨン「え、え〜?もしかしてお兄さん、それデートのつもり〜?」

『こら、揶揄うなパピヨン。ほら、去年楽しみにしてたじゃないか夏祭り、だからちょっと調べてな』

パピヨン「ぷ、ぷぷぷ!お兄さんってば、そんなにアタシと夏祭り満喫したいんだ〜……しょうがないなぁ、お兄さんの思い出に残る楽しいデートにしようね?」

『……ああそうだな。楽しい夏祭りにしよう』

――――ど、どうしようどうしよう!えっ、えっ!夏祭りデート……!や、やっぱりお兄さんアタシのこと好きすぎでしょ……!

うっ、うぅ〜〜〜!!!絶対あの色ボケ三姉妹に影響されてる……!アタシの頭の中こんなにピンク色になるとかぁ……!

パピヨン「…………❤」

『……尻尾がすごい揺れてるな』

な、夏祭りで告白とか……も、もしかしてお兄さんからしてくれるとか!?お兄さんもそのつもりとか!?

……『そういえば』

――アタシの尻尾の手入れを続けながら、お兄さんは口を開いた。

『実は今日近くでお祭りやってるみたいなんだ、もしパピヨンが良かったら……今日一緒に行かないか?』

パピヨン「えっ!?」

な、夏祭り!?お、お兄さんから誘って!?

……で、デート!?こ、これそういうことだよね!?

パピヨン「え、え〜?もしかしてお兄さん、それデートのつもり〜?」

『こら、揶揄うなパピヨン。ほら、去年楽しみにしてたじゃないか夏祭り、だからちょっと調べてな』

パピヨン「ぷ、ぷぷぷ!お兄さんってば、そんなにアタシと夏祭り満喫したいんだ〜……しょうがないなぁ、お兄さんの思い出に残る楽しいデートにしようね?」

『……ああそうだな。楽しい夏祭りにしよう』

――――ど、どうしようどうしよう!えっ、えっ!夏祭りデート……!や、やっぱりお兄さんアタシのこと好きすぎでしょ……!

うっ、うぅ〜〜〜!!!絶対あの色ボケ三姉妹に影響されてる……!アタシの頭の中こんなにピンク色になるとかぁ……!

パピヨン「……えへ❤」

『……尻尾がすごい揺れてるな』

な、夏祭りで告白とか……も、もしかしてお兄さんからしてくれるとか!?お兄さんもそのつもりとか!?

……❤

209: ◆b0/EDFEyC136 2024/10/01(火) 00:36:13.14 ID:nqvApMSj0
おやすみなさい。お疲れさまでした。

なんか桃色脳内過ぎるなぁって思いましたが、素直になったらパピヨンはこうなるかって思いながら書いてます。

211: ◆b0/EDFEyC136 2024/10/01(火) 22:13:11.17 ID:nqvApMSj0
パピヨン「ちょっとお兄さん!早く早く!」

『こらこら走るな走るな』

――ウイニングライブが終わってからすぐにパピヨンと一緒に夏祭りが行われる場所へと向かう。

全く、本来ならレース直後は休ませるべきなんだろうが――パピヨンのあんな顔を見てしまったら、行くしかないだろう。もともと行くつもりではあったが……せめて次の日とかの予定だった。

尻尾がフリフリと揺れる、年相応の声を響かせ嬉しそうに駆けていく少女。目を輝かせ、普段の悪態をついた言動なんて忘れてしまうくらい純粋な担当ウマ娘。

『……もうそんなに喜んでくれたのなら、こっちとしても嬉しいよ』

パピヨン「お兄さんだって!こんなかわいいアタシとデートとか〜、一生分の幸せでしょ〜?」

いつもの煽り……のようであるが、全然こちらをバカにしたような意図を感じない。

……本当に嬉しいんだな、今日夏祭りに来れたことが。

「お、おいあれ。もしかしてエルムステークスの……」

「あ!ほんとだ、えっサインとか――」

『むっ……』

――――ざわざわと周りの人が騒ぎ始める。そりゃ、今日重賞を連覇したばかりのウマ娘、海外G1を制したこともあって話題性としても抜群。そんな彼女が何の対策もしないでこんな場所に居たら、こうもなる。

パピヨン「あ、どうも〜。もしかしてアタシの――きゃっ!?あ、ちょっと、お兄さん……!?」

どうしたものかと一瞬考えて――パピヨンの手を力強く握りしめ、その場から逃げるように人ごみの中に入っていった。


212: ◆b0/EDFEyC136 2024/10/01(火) 22:14:02.95 ID:nqvApMSj0
パピヨン「…………ねえ、これは?」

人から隠れるように木の裏に隠れ、パピヨンに先ほど購入したそれを渡す。

『ほら、お面だよ。これでちょっと今日はお忍びといこう』

可愛らしいくデフォルメされた狐のお面。それをパピヨンにつけてもらって、少しでも顔を隠そうという魂胆だ。

……まあ、それでもバレるときはバレそうだが……なにもしないよりかはマシだろう。

パピヨン「……お兄さんありがと。でもさ、別にアタシは気にしてないよ?ほら、アタシファンサとかも全然できるようになったし――」

『キミにとってデートなんだろう?今日は』

パピヨン「えっ」

デートだというなら、二人きりで楽しむべきだろう。キミと自分だけで楽しむべきで……そのつもりでパピヨンも夏祭りに来たはずだ。

『だったら他の人には邪魔されない方が良いと思ったんだが……ダメだったか?』

パピヨン「――――」

……まずい、固まってしまった。もしかして気持ち悪いことをしてしまったか……どれもこれも勝手にパピヨンの気持ちを考えてみたいな風に言って、自分勝手だったか――。

パピヨン「ぷぷ……♪うわ、うわ〜……!お兄さんそれ……凄いね?」

『パピヨン?』

パピヨン「うん、アタシもおんなじ気持ち!じゃ、早く行こ!」

今度はパピヨンに手を引かれ、夏祭りに戻っていく。

狐のお面に隠れた彼女の顔が、なんだかとっても嬉しそうに、輝いていた。

213: ◆b0/EDFEyC136 2024/10/01(火) 22:21:33.57 ID:nqvApMSj0
夏祭り!何かイベント――:自由安価直下

219: ◆b0/EDFEyC136 2024/10/04(金) 22:36:21.53 ID:XYKyijZC0
パピヨン「あ、お兄さん射的射的!射的やりたい!」

パピヨンが指をさす方を見ると、そこにはお菓子が景品となって台に並べられた射的。なるほど、確かに夏祭りといえばの代表格だ。

『分かったよ、ほらお金あげるからやってきな』

パピヨン「ありがとーお兄さん!ねえおじさん!射的一回!」

渡した百円玉をパピヨンが受け取り、それが射的屋の店主に払われる。店主から渡された射的銃を見て、きらきらと目を輝かせながら尻尾を振る。

……やっぱりこういうところは年相応なんだよな。

パピヨン「よぉし、じゃあ何狙っちゃおうかな〜。んー……よし、決めた」

しっかりと両手で銃を構え、コルクが入った銃口をお菓子に向ける。狙いが何かわからないが、パピヨンの瞳にはそのターゲットだけが映っている。

『…………』

――まるでレース前のような真剣な表情。そして、ぱぁんと音が鳴ってコルクが跳んでいき――。

パピヨン「あー!外れた!ちょっとおじさん!コルクも一個頂戴!え、ダメ?う〜……お兄さん!もっかい!」

『……あ、ああ。分かった分かった、もう一回だけな』

真剣な表情から一転、悔しそうな表情へ。コロコロと変わる表情を見てしまってパピヨンへの反応が遅れる。

自分でもスムーズすぎるくらいに百円玉をもう一つ渡し、パピヨンがまたチャレンジする。

パピヨン「ん、ありがと!よ〜し、集中集中……」

また表情が変わる。普段からパピヨンの真剣な表情は見ているつもりだが、こうやって改めて見ていると……やはりそのギャップに驚いてしまう。

少女の顔から、競争者への顔へ。パピヨンの静かな呼吸音が、こんなにも大きく聞こえてくる。

パピヨン「――――っ!」

ぱぁん。と、コルクが跳んで……そして、それにぶつかったお菓子の箱が棚から落ちる。

パピヨン「わっ……!やった!やったお兄さん見た見た!?すっごい綺麗に落ちてったよ!?アタシ射的の才能あるかも!」

220: ◆b0/EDFEyC136 2024/10/04(金) 22:37:27.89 ID:XYKyijZC0
自分の手を握って、嬉しそうな明るい表情でぴょこぴょこ飛び跳ねるパピヨン。いつもの見慣れたパピヨン、けど……さっき見たあの表情を思い出すと。

『…………ああ、見てたよちゃんと。凄いじゃないか』

パピヨン「でっしょ〜!ふふん、じゃあそんなお兄さんにはさっきとったお菓子をちょっと分けてあげよ〜」

ルンルン気分で店主さんから落とした景品のお菓子をもらい、自分に見せる。

……缶に入ったキャンディだった。他のお菓子と比べるとそこそこな重さがあるだろうに、本当に当たり所が良かったんだな。

パピヨン「缶に入った飴って珍しくない?だからなんか欲しくなっちゃったんだ〜、はいお兄さんに一粒!」

小さな掌に転がったキャンディ一粒を自分に手渡してくれる。

『……ああ、ありがとうパピヨン』

パピヨン「味わって舐めてよね〜?噛んだりしちゃダメなんだからね?」

――思えばパピヨンは相応に表情が豊かな子だ。明るい表情も、悲しい表情も、真剣な表情も……担当になってからより一層、それが顔に出ているウマ娘だ。

――――一緒にいて楽しいと言えば、きっと事実だろう。だからこそ改めて……その彼女の表情を見つめてしまった、自分は。

『……あっまいなこれ』

……暫くはあの表情が離れなさそうだ。

221: ◆b0/EDFEyC136 2024/10/04(金) 22:52:46.58 ID:XYKyijZC0
――――――――――――――――

――――――――

――――

――

『そろそろ花火の時間だな』

パピヨン「えっ!花火まであるの!?」

狐のお面をかぶったパピヨンが嬉しそうな声でそう聞いてくる。右手には溶けかかったかき氷、そして左手には水風船。誰がどう見ても夏祭りを満喫している、そう思えた。

パピヨン「うっわ〜!どうしよどうしよ!ねえ今から場所取りに行く!?いい場所で花火見たいよね!?」

『いや、どうだろうな……最初から場所を取ってる人に取られてる気もするし……そもそも、ここの夏祭りならどこから見ても――』

パピヨン「むっ……じゃあそうだなぁ……』

自分の言葉に納得したのか、パピヨンがむむむと何か考えながら溶けたかき氷をストローで啜る。

パピヨン「…………えっと、じゃあさ」

……お、お兄さんと二人っきりで花火見たいな。ここ、人も多いし……で、デートなんでしょ?お兄さん。

恥ずかしそうにしながら、小さな声でパピヨンはそう言った。

『……その通りだな』

キミからデートだと言い出したんだろう、というツッコミはしないでおく。とにかく二人きりで花火が見たいというなら……叶えてあげるのが自分の役割だろう。

222: ◆b0/EDFEyC136 2024/10/04(金) 23:24:00.11 ID:XYKyijZC0
パピヨン「……よく見つけるねお兄さん」

『……人があんまりこなさそうな場所を見つけようと思ったら、案外すぐにな』

見つけた場所は夏祭り会場の裏手の部分、出店からはそこそこ離れているので人も中々来ないのだろう。

……その分、花火も少し小さくなってしまうだろうが。

『ほら、そこに座りな。ハンカチ敷くから』

パピヨン「え、あ、うん。ありがとお兄さん」

地べたにそのまま座らせるのもあれだろうと、せめてハンカチの上に。近くに何か腰を掛けれそうなものがあればよかったのだが……。

パピヨン「……あ、始まった!うわ、ちっちゃ〜!」

『……ごめんな、事前に場所を取っておけばよかったな』

パピヨン「あ、んもー違う違う!そんなしょんぼりしないでよお兄さん!全然気にしてないから!」

――遠くに花火が見える。音はだいぶ響いてくるが、その大きさはかなり小さかった。

……でも、久しぶりに花火なんて見た。この年になってから夏祭りになんて行く機会もなかったし、一人で行くつもりにもなれなかった。

『パピヨン、ありがとうな。キミがいなかったら……今日花火なんて見れなかったよ』

パピヨン「……えへ、そっかぁ。じゃあ、今日は一緒にありがとう、だね」

『――――そうだな』

彼女の隣に腰を下ろす。今日はなんだかとても疲れた……花火を見ながら、休憩しよう。

パピヨン「………………」

223: ◆b0/EDFEyC136 2024/10/04(金) 23:33:30.34 ID:XYKyijZC0
パピヨンの恋愛強さ:コンマ直下

コンマが高いほど滅茶苦茶告白までスムーズに、低いほど恋愛弱者すぎる。

225: ◆b0/EDFEyC136 2024/10/05(土) 00:49:43.94 ID:vHOD/oG80
パピヨン「…………ねえ、お兄さん」

『ん、どうしたパピヨン……――』

パピヨンが、じーっとこちらを見つめてくる。花火ではなく自分を、目と目を合わせて、視線を逸らさず真っ直ぐと。

――レース前のような真剣さ、何か決心をしたようなその表情に。思わず息を呑む。

ドーン、ドーン……と花火の大きな音が。しかし、それも今は気にならない。


パピヨン「アタシ、今から大事な話があるんだけど――聞いてくれる?」


『…………もちろん、キミの話ならいくらでも』


――聞こう、彼女の話を。他ならぬシルヴァーパピヨンの話を。


226: ◆b0/EDFEyC136 2024/10/05(土) 00:55:11.65 ID:vHOD/oG80
パピヨン「初めて会った日のこと覚えてる?あの日、模擬レースでアタシが……6着くらいで終わっちゃった奴」

『ああ勿論覚えてるよ。あの日キミが模擬レースに出ていなかったら、もしあの日自分がレースを見に行かなかったら……自分とパピヨンは出会えなかったから』

どんな時でもあの日のレースは思い出せる。それだけ、自分の脳に焼き付いて離れない――魅了されてしまったシルヴァーパピヨンの走りを。

パピヨン「うん、本当にね……担当トレーナーとウマ娘の出会いはそんな奇跡の積み重なりだーって、誰かが言ってたけど本当にそう。アタシはね、そういうのあんまり信じてなかったけど……信じれるようになったよ」

『…………』

パピヨン「お兄さんがアタシのトレーナーだったから――アタシは今こうして走ってて、ライバルができて、色んなレースに出て、海も越えちゃって。勝って負けて、泣いて笑って、それでそれで……もっともっと走りたいなって思えて」

だからきっと、お兄さんがトレーナーじゃなかったらアタシは……トレセン止めちゃってたかもね。なんて、笑いながら語るパピヨン。

パピヨン「だから、さ――アタシ、いつからかずっと思っちゃってたんだけど――お兄さん以外がトレーナーとか考えられないなーって」

『――――そんな風に、思ってくれたのか?こんな新人の……トレーナーで、後悔はしていないか?』

パピヨン「……ぷはは!そんな風に思ってたら――ここまで来れてないよ、お兄さん」

――思わず、視界が滲む。

そうか、そうか――キミは、そんな風に思っていてくれたのか……パピヨン。


227: ◆b0/EDFEyC136 2024/10/05(土) 00:58:00.04 ID:vHOD/oG80
パピヨン「だからね……お兄さん」

ほんの一瞬だけ考えた後、パピヨンは真剣な表情から――――いつもの変わらない表情に戻って。

パピヨン「アタシはお兄さん以外のトレーナーなんて嫌、考えられないし考えたくない。そう思ってたら…………まず表情が好きになっちゃった」

『……え』

パピヨン「アタシのトレーニングメニューを考えてる時の真剣な表情とか、アタシの我儘をなんだかんだ聞いてくれる時の表情、真面目だけど結構ノリが良くて一緒にふざけてくれる時の表情も」

――ずっとずっとアタシのことを応援してくれて、アタシが間違えても失敗しても見捨てないでくれて。どんなアタシでも……受け入れてくれた。

パピヨン「お兄さんはトレーナーだから当たり前、だなんて片付けるのかもしれないけど――これ、普通に考えてヤバすぎるからね?」

『……そう、なのかも、しれないな』

パピヨン「うん。だから――――責任取ってよね、お兄さん」

そういうと、パピヨンは顔を赤くしながら――とても嬉しそうに、笑顔で。まるでようやく我慢しなくて済む、みたいな表情で。



――――お兄さんのことが大好きです。こんな我儘なウマ娘ですけど……付き合って、ください。



228: ◆b0/EDFEyC136 2024/10/05(土) 01:08:25.20 ID:vHOD/oG80
『――――』

パピヨン「………………」

――パピヨンは何も言わない。自分からの答えを待つように、願うようにこちらを見つめている。

…………好きという感情を向けられたことが、そもそも告白をされたことも――初めてで。思わず固まってしまう。

『……自分、は』

答えを出さないわけないはいかない、先延ばしにすることも許されない。それは彼女のこの想いを踏みにじることになる。

……パピヨンは担当ウマ娘で、自分はそのトレーナーで。

好きとか、付き合うとか、そんな関係は…………。

パピヨン「…………っ」

『…………パピヨン』


自分は、パピヨンの、ことを――――。



【貴方】は:コンマ直下

1-3 …………その想いには応えられない
4-7 ……"今は"応えることができない
8-0 ――言葉より行動で。断る理由なんて、どこにも…………。

230: ◆b0/EDFEyC136 2024/10/05(土) 02:26:57.35 ID:vHOD/oG80
『…………申し訳ないけど、今はキミの想いに応えることは……出来ない』

パピヨン「…………っ。そっ……か、うん。そう、だよね」

自分の言葉を聞いて、パピヨンはぐしゃりを顔を一瞬だけ歪ませた後、また何でもないいつも通りみたいな表情で、笑った。

――違う、違う。待ってくれ、まだ話は……!

『パピヨン』

パピヨン「…………そうだよね、そうだよね!普通に考えてお兄さんがアタシと……なんてあるわけないよね!告白する前から考えてたけど、でもやっぱ……やっぱりさぁ……!ぐずっ……ぅ、ぅぁ……!」

『パピヨン、まだ話は終わってないんだ……パピヨン!』

パピヨン「ふぇぁ!?」

瞳に涙をにじませて、プルプルと震えて自分から目を逸らそうとするパピヨン――その肩をつかんで、無理やり目線を合わせる。

顔がぐちゃぐちゃで、今何が起こっているのか分かっていないパピヨンに――ちゃんと伝える。

『――今は、と言ったんだ。今すぐにキミの想いに応えることはできないと、自分は言ったんだ』

パピヨン「…………おに、いさん?」

『……自分とキミは、トレーナーと担当ウマ娘で、そういう関係は――まだ早いと、この担当の関係は、これ以上の関係になってはいけないと、自分はずっと……ずっと思っている』

パピヨン「…………っ」

『でも……でもだ!"俺"は――だからといって……気持ちをごまかしたりは、したくない』

体が熱い、心臓がドクンドクンと激しく痛い。この鼓動がパピヨンに聞かれたりなんかしたら――一生モノのネタにされてしまうだろう。

ただただ伝える、俺の本音を。トレーナーとしてではなく――――として。

『……もし、もしもキミがトレセン学園を卒業して。それでもまだキミの気持ちが……変わらなかったら』

パピヨン「ぁ……っ、うそ、うそぉ……!そんな、お兄さん……っ!」



『――――その時、改めてキミの気持ちに応えさせてほしい……パピヨン』




231: ◆b0/EDFEyC136 2024/10/05(土) 02:28:25.32 ID:vHOD/oG80
パピヨン「ぁ――ぁああぁあああぁあああああぁ……っっっ!!!」

――壊れたダムのように、パピヨンの目から涙があふれて零れる。パピヨンは抑えきれなくなってしまったように、胸の中に飛び込んできて……。

パピヨン「ばか、ばか、ばかぁ!お兄さんのバカ!勘違い、するじゃん!勘違いしちゃったじゃん!!!」

『……悪かった』

パピヨン「絶対に許さない、絶対に許さないから!もう一生、お兄さんは……アタシの我儘に付き合って、付き合ってもらうんだからぁ……!ぐす、うぁ、あああぁああぁぁ〜〜〜っっっ!!!」

『…………』

泣きじゃくる彼女の頭を、優しく撫でる。とてもよく手入れされた銀色の髪が、指の間を通り気持ちがいい。

パピヨン「もっと撫でてぇ!ぅぁ、ずびっ……うわぁあああああああぁん……!」

『…………なあ、パピヨン』

彼女に言われるがまま、頭を撫で続ける。

『キミは俺以外のトレーナーなんて考えられない、そう言っていたが……自分も同じだよ』

あの日、自覚した自分の本心。それがパピヨンと同じ想いだったことに――胸が高鳴り、嬉しくて嬉しくて堪らなかった。

『……俺だって、パピヨンのトレーナーが俺意外だなんて考えられない。キミのトレーナーの役割なんて、誰にも渡してやるもんか』

――――いつの間にか花火はもう止まっていて、だんだんと夏祭りの片づけが始まろうとしていた。

泣きじゃくっていたパピヨンはいつの間にか泣き止んでいて、そのまま一緒に今日のホテルへと戻っていった。

――お互いに手だけ繋いで、同じ歩幅で歩く。特に何も会話はなかったが……なんだかそれがお互いに、とても嬉しかった。

233: ◆b0/EDFEyC136 2024/10/05(土) 02:32:28.80 ID:vHOD/oG80
――――今後のパピヨンの様子は?:コンマ直下

コンマが高いほどべったり甘々いちゃいちゃ、低いほどいつも通り。

239: ◆b0/EDFEyC136 2024/10/06(日) 01:46:21.21 ID:WWIxNlds0
――――エルムステークスを勝利し、飛行機に乗り夏合宿に合流する。

もっと札幌を観光したりゆっくりしてもよかったのだが、パピヨンの次の次走予定を聞けばその考えもどこかに行ってしまった。

『……チャンピオンズカップか』

12月に中京レース場で行われる1800mのマイル戦。今のパピヨンのスタミナであれば走り切ることは可能だろうが――勿論、チャンピオンズカップといえば彼女がいる。

――――ステラライム。去年のチャンピオンズカップでのレコード覇者。思えばあのレースからステラライムがダート最強だと言われるようになった。

『……連覇を狙いに行くだろう。ステラライムの適正的にはばっちりだからな』

――教科書のお手本のような完璧な先行策。前でレースを走り、最終コーナー最終直線で一気に外から抜き去っていく。それが、彼女の走りだ。非の打ち所がない、綺麗な走り――でも。

『だからと言って負けるつもりはない、パピヨンだってこのレースを選んだのは……彼女にリベンジをするためだろう』

チャンピオンズカップでうちの担当ウマ娘を勝利させるためにも、どちらが最強かをハッキリさせるためにも――気合を入れよう。自分は、パピヨンの担当トレーナーなんだから。

240: ◆b0/EDFEyC136 2024/10/06(日) 01:54:05.44 ID:WWIxNlds0
『――――ところで、だ。いつまで引っ付いてるつもりだ、パピヨン』

パピヨン「えぇ〜?お兄さん難しそうな顔してるから、アタシが癒してあげようと思って〜?」

……ニヤニヤ笑いながら、パピヨンは押し付けるみたいに自分の後頭部にそれを当ててくる。

『……年頃の女の子がそんなことしない方が良いぞ』

パピヨン「でもお兄さんアタシのこと好きでしょ?じゃあ良いじゃーん♪ほらほら、むぎゅむぎゅ」

――――この前の札幌でのあの出来事から。パピヨンはなんというか……こう、一層絡んでくるようになった。

人目を気にしてか人前ではやらないが、二人きりになると我慢してたぶんを解き放つみたいに、密着してきたりからかってきたり。

『…………とにかくダメだ。ほら、離れた離れた』

パピヨン「あ〜!もしかして照れてる?照れてるでしょ!ふふーん、お兄さんアタシ以外に彼女とか居たこといないもんね〜!」

そう言いながら頬っぺたをふにふにと触ってくる。はあ、あんなふうに答えてしまった責任か……こんなことトレセン学園の他のトレーナーなどに聞かれたら……。

…………案外大丈夫か?いや、けど流石に未成年だしな……。

『……そろそろトレーニングするから。準備してくれ』

パピヨン「ぷはは、んも〜しょうがないなぁ。じゃあ準備してくるね!お兄さん!」

……こういうところは素直で助かった。いや、まさかパピヨンがあんな……いや、でも。分からないでもないのか……?

241: ◆b0/EDFEyC136 2024/10/06(日) 02:05:16.16 ID:WWIxNlds0
シニア夏合宿最終日:安価直下

1 恋愛脳ウマ娘3人、ザワつく
2 自由安価


おやすみなさい!

243: ◆b0/EDFEyC136 2024/10/06(日) 17:14:22.18 ID:WWIxNlds0
ライム「シルフィーさんどうしましたか?急に呼び出したりして……」

――夏合宿もあと少しというある日。シルフィーさんにLANEで連絡を受けて待ち合わせ場所に向かいました。何かレースごとで相談でしょうか……?

シルフィー「す、すみませんライムさん……その、実はちょっとお話したいことが……あ、マンティさんも呼んでます」

マンティ『――あ、こ、こんばんはライムさん』

シルフィーさんが持っているスマホの画面にはマンティさんの顔が映っていて、私が来たのを確認すると慣れない笑顔で笑ってくれました。

ライム「マンティさん!マンティさんも呼ばれてたなんて……あ、その脚は大丈夫なんですか?」

マンティ『は、はいぃ。そろそろトレセンに復帰しても大丈夫とお医者さんにも言われましてぇ……そ、その。リハビリの成果が想定よりも早く出たみたいで……』

ライム「本当ですか!?じゃあもうレースにも……?」

マンティ『い、いえいえ!トレセン学園で、またもう少しトレーニングを重ねてからになりますけど…………はい。それが終われば、レースにも……』

ライム「――――!」

――マンティさんがレースに戻ってくる。ようやく、ようやくトレセン学園で……彼女と!これはパピヨンさんにも知らせてあげましょう……!

……あれ、そういえばパピヨンさんがいませんね……?

ライム「シルフィーさん。パピヨンさんは呼んでいないんですか?」

シルフィー「そう!そうなんですよライムさん!今日はその……パピヨンさんについてお話がありまして」


244: ◆b0/EDFEyC136 2024/10/06(日) 17:15:16.24 ID:WWIxNlds0
マンティ『……?パピヨンさん、ですか?な、なにか……あったんですか?』

シルフィー「そ、そうなんですよマンティさん……!ライムさんならわかりますよね?その……エルムステークスから帰ってきたパピヨンさんが……な、なんだかその……!」

ライム「あー……」

手をせわしなく動かして何かを伝えようとしてくるシルフィーさん。ええ、ええ分かります。分かりますよシルフィーさん……!

ライム「…………パピヨンさん、何かありましたよね。絶対」

マンティ『へっ?』

そう、エルムステークス連覇を見事に決めて帰ってきたパピヨンさんは……なんだか変わっていた。

何が変わったか?というと……ちょっと、具体的には指摘できません。けど確実に……確実に何かが変わった!そう断言できます!

マンティ『な、何があったんでしょうか……?レースはいつも通りのパピヨンさんの……いえ、今までよりももっと早く……な、なってましたけど』

シルフィー「なんというか……ちょっと余裕が出てきたというか。甘く……?なったと言いますか」

ライム「…………誰かに訊いてみますか?」

シルフィー「……そうしましょうか!」

というわけで誰かに訊いてみましょう。パピヨンさんに何があったのか……!


どうしましょう……:安価直下
1 パピヨンさんに直接訊きましょう!
2 パピヨンさんのトレーナーさんに!
3 ……おやあれはパピヨンさんとそのトレーナーさん……。

246: ◆b0/EDFEyC136 2024/10/06(日) 18:20:23.32 ID:WWIxNlds0
『ん、やあシルフィーにライム……それにマンティまで?どうしたんだ?』

パピヨンさんのことを一番近くで見ているトレーナーさんなら、きっと何があったか知っているでしょう!

シルフィー「こんばんはパピヨンさんのトレーナーさん!すみませんちょっとお聞きしたいんですけど……」

こうして私たちの疑問を訊ねてみます。エルムステークスの後、帰ってきたパピヨンさんの様子がなんだかおかしい気がする……と。

…………!なんだかトレーナーさんの表情が硬くなったような気がします!これはなにか知っていそうです!

ライム「もし何かご存じでしたら教えていただけませんか?実はそれが気になって気になって……」

マンティ『わ、私もお願いします!さ、札幌で何かあったんですか!?』

『…………そう、だね。うーんパピヨンに何があったか……』


トレーナーさんの回答:安価直下
1 『…………いや?特に何もなかったよ?』
2 『……パピヨンとちょっと、色々と約束をしたというか……ええと』
3 『……ふふ、何があったと思う?』
4 自由安価

248: ◆b0/EDFEyC136 2024/10/06(日) 20:11:42.79 ID:WWIxNlds0
『……パピヨンとちょっと、色々と約束をしたというか……ええと』

シルフィー「色々と……!」

マンティ『や、約束……!?』

『そ、そうなんだ。こう……ご褒美……みたいな……』

ライム「ご褒美っていったい何なんですか!」

――気まずそうに目線を逸らすトレーナーさん……こ、これ絶対ご褒美じゃないです!しかしこのまま押せばきっと――!

パピヨン「――ねえ、ちょっとなにお兄さんに集まってるの」

――が、その目論見はどうやらダメになってしまいそうでした。

ライム「あ……ぱ、パピヨンさん……」

パピヨン「ライムにシルフィーに……あ、マンティも。三人でお兄さんに用事?」

ムスっとした顔のパピヨンさんが、私たちからトレーナーさんを守るように横に移動しました。

……流れるように彼の脚に尻尾がするすると絡みつきました。

パピヨン「…………」

マンティ『そ、そんな用事ってわけじゃなくて……う、うぅ……』

シルフィー「ちょっとお話がしたかっただけなんです!そんなパピヨンさんを怒らせるみたいなつもりじゃ……」

パピヨン「……別に怒ってないんですけど」

――――これはいけません。三人そう思ったみたいで、トレーナーさんに謝罪をした後そそくさとその場を立ち去りました。

――――ぜ、絶対パピヨンさんとトレーナーさんで何かあったやつです……!それにトレーナーさん、すっごいパピヨンさんの匂いが染み付いてました……!

……な、何があったんですか……!?ま、まさかそういう……え、えっ……!?

249: ◆b0/EDFEyC136 2024/10/06(日) 20:22:08.20 ID:WWIxNlds0
『……助かったよパピヨン……パピヨン?』

パピヨン「………………」

……パピヨンが腕にくっついて離れない。

パピヨン「ライムもシルフィーもマンティも集まってお兄さんと喋ってて……ちょっと、モヤモヤしちゃった」

『えっ?』

パピヨン「アタシのお兄さんなのに……あの三人がそんなことするわけないのは分かってるけど、でも……」

『……ごめんな、心配させちゃって。でも大丈夫だから』

彼女の頭を撫でる。ぁぅ、と小さな声が漏れて、気持ちよさそうになでなでを受け入れている。

パピヨン「…………やっぱり大々的に公表した方が良いと思うんだけど」

『だからまだ自分とキミはそういうのじゃないって……あの、パピヨンさん、力が……力が強い!』

パピヨン「…………♪」

251: ◆b0/EDFEyC136 2024/10/06(日) 21:03:02.70 ID:WWIxNlds0
――――――――――――――――

――――――――

――――

――

パピヨン「――っやぁああああああああああ!!!」

夏合宿を終え、パピヨンの走りにはますます磨きがかかっていた。存分に鍛え上げられた足腰は力強く、小さな体躯からは想像もできない瞬発力。

――あとはこの走りを持続できるかどうか。そしてどれだけ――パピヨンに気持ちよく走ってもらえるか。

『よし、じゃああと一本走ったら休憩にしよう。パピヨン』

パピヨン「ふぅううう……ん、オッケー!」

その返事とともにパピヨンはまた勢いよく駆けて往く。手元のストップウォッチを見ると……うん、やはり明らかに速くなっている。

『…………』

……もっともっと頑張ろう。あの日、想いを告白してくれた彼女に呆れられないように、精一杯尽くそう。

…………九月だというのにまだまだ蒸し暑い。12月までまだまだ時間はあるが――油断すると一瞬だ。

252: ◆b0/EDFEyC136 2024/10/06(日) 21:10:05.10 ID:WWIxNlds0
チャンピオンズカップ前イベント1:自由安価下2まで。




ちょっと離席します。パピヨンのイベントも残り数回です。早いような長いようなそんな気分ですね。

260: ◆b0/EDFEyC136 2024/10/09(水) 00:03:00.09 ID:Gr51D2Pw0
パピヨン「えっ!マンティそろそろトレセンに戻ってくるの!?」

マンティ「は、はい……!お医者さんからももう大丈夫だと言われまして……あ、歩くのももう一人でも、へっちゃらなんです!」

――病室のベッドの上で、マンティは誇らしげに力こぶを作って見せた。普段のマンティならしないような仕草に、ちょっと笑っちゃう。

そっか、そっかぁ……マンティ。復帰するんだぁ……。

パピヨン「じゃあ、早くても来年とか?マンティがレースに戻ってくるの」

マンティ「そう、ですね。もう少し早くトレセンに戻れていたら12月のレースに出走できるくらいにはなっていたかもしれませんけど……う、うぅ……」

悲しそうに俯くマンティ。ああ、そっかなるほどね。

パピヨン「今年のチャンピオンズカップ。アタシとライムが出走するもんね。マンティ、出たかったんだ?」

マンティ「…………はぃ。その……一度は、G1の舞台を三人で……走れたらと思っていたんですけど……」

……またなんかネガティブになってる。意味わかんない。けど――。

パピヨン「こらこらなーに言ってるの!アタシとライムとマンティがもうG1で一緒になる機会はないみたいな言い方しちゃって」

――ずっとずっと、ずーっと走り続けてたら。絶対何時かは同じ舞台で競い合う。ならその時までアタシは――。

パピヨン「――言ったでしょ。アタシは、マンティの憧れも吹き飛ばしちゃうくらい最強のウマ娘であり続ける。そしてそれにマンティが挑む」

マンティ「!」

パピヨン「これ、去年の約束。ちゃんと覚えてるから、今日までリハビリ頑張ったんでしょ?」


261: ◆b0/EDFEyC136 2024/10/09(水) 00:06:13.96 ID:Gr51D2Pw0
マンティ「は、はぃ……はい!ご、ごめんなしゃい!」

パピヨン「んま、アタシとしても一緒に走りたいって気持ちはあるし、ライムの方にも頑張ってもらわないと……今度のレースでボコボコにしちゃって引退とかしちゃったらどうしよ」

いや、まあないだろうけど。それくらい圧倒的な勝利で分からせちゃう気持ちはあるし?

マンティ「……ふふっ。パピヨンさんは、変わらないですね」

パピヨン「とーぜん!アタシは何時だって変わらない!」

ピースサインでアピールなんかしちゃって。それに「おー……」とパチパチ拍手の音。

……と、なんだ自慢げに言っちゃったけど。アタシだって変わる、トレセン学園に入学してから今に至るまでアタシが変わらなかったことなんてない。

どれもこれも全部お兄さんのせいで、お兄さんのおかげ。

パピヨン「…………じゃあアタシ次のレース頑張るからね。チャンピオンズカップ、応援してね〜?」

マンティ「そ、それはもちろんです!あ、いやでもライムさんのことも……ど、どうしましょう……!ふえぇ……」

パピヨン「あー分かってる分かってる。勿論ライムも応援してあげてね?」

アタシだけ応援独り占めとかちょっとズルだしね?

262: ◆b0/EDFEyC136 2024/10/09(水) 00:32:19.37 ID:Gr51D2Pw0
『…………』

トレーナーの業務の一環として担当ウマ娘が世間一般的にどのように思われているかの調査がある。これは担当ウマ娘へ危害を加えるような発言などがないかのチェックの一環として行われているもので、殆どがエゴサーチのようなものになっている。

――雑誌やテレビでは、少し早いがチャンピオンズカップの話題がちらほらと出ている。時期的にはスプリンターズステークス、少し先の菊花賞や秋華賞、天皇賞秋の話題が多いだろうに。

"――国外を制したウマ娘と国内現役最強のウマ娘、ダート二大ウマ娘激突!!"そんなタイトルの記事が目に滑り込んでくる。

シルヴァーパピヨン、そしてステラライム。どちらが勝つのか――そしてどちらが強いのか。そんなレースにおいて鉄板のような話題が今世間をにぎわせていた。

SNSなどを眺めてみてもどちらかを応援してるような書き込みや、どっちも応援しているという書き込みなど……勿論、ファンが多くなれば多くなるほどアンチというものも切っても切り離せない存在ではあるが……。

『まあ、それも当然だよな』

――では、今現在パピヨンとライム、どちらが世間的に優勢かというと――。


どっちに今軍配が:コンマ直下
コンマが高いほどパピヨン優勢、低いほどライム優勢。真ん中で同じくらい。

265: ◆b0/EDFEyC136 2024/10/09(水) 18:38:34.55 ID:Gr51D2Pw0
ごめんなさい昨日寝落ちしてそのまま外出てました……再開します。



「シルヴァーパピヨンでしょ今回は。あのドバイのレースを見たら確信できる」

「パピヨンちゃんならきっと国内G1も勝てる!!」

「もうあの逃げにはステラライムも流石に無理でしょ」

――どうやら今の段階ではパピヨンの方が優勢だったみたいだ。SNSの書き込みを見て見るとやはりその要因にはドバイでのG1勝利……それが影響しているようだった。

だがその一方で「流石にステラライム相手にこの距離はスタミナ切れるでしょ」「海外の砂が合っていただけで日本で勝てるわけじゃない」という意見も見える。

……勿論言っていることの意味は分かる。パピヨンは生粋のスプリンター。初めて会ったあの日からスタミナには悩まされ続け、ステラライムと戦うときはいつも最後の最後で躱されている。

『……でも、だ』

それが事実だとしても――自分はそれに勝てるようにトレーニングを考えたつもりだし、自分の考えにパピヨンは乗ってくれている。

――――最高のライバル"青の流星"ステラライム。

ぜひ見てくれ。その流れる星よりも先に瞬く――蝶の羽ばたきを。そしてその頃にはもう、どちらが最強かなんて議論するまでもないだろう。

266: ◆b0/EDFEyC136 2024/10/09(水) 18:40:36.93 ID:Gr51D2Pw0
パピヨン「お、に、い、さ、ん!」

放課後。トレーナー室にパピヨンが突撃してくる。勢いよく開かれた扉から駆け足でこちらに向かってきて、ニコニコした可愛らしい表情をこちらに見せつけてくる。

パピヨン「今日のアタシ、いつもと違います!何が違うでしょうか!」

『突然だないきなり』

さあ当ててみて当ててみて!と、その場でくるりと一回転……いや、パっと見だと何が変わっているのか何もわからないんだけど……。

パピヨン「…………じー」

『……』

…………ちらりと、尻尾を見る。

『尻尾に使ってるシャンプー……じゃないな、オイルがいつもと違う?新しい奴か?』

パピヨン「えっ!?なんでわかるの!?キモーい!!!」

『キミなぁ……』

折角当てたのに何でそう言われなくちゃいけないんだ。

パピヨン「好きなブランドの最新作なんだー、尻尾の艶とか毛並みもいつもよりちょっと違うでしょ?あとほら、匂いも違うし」

と、言いながらすりすり脚に尻尾をこすりつけてくる。まあ、確かにこうして近くで見ると結構違うな……匂いも甘いというより、スッキリした匂いだ。

パピヨン「…………えへ、お兄さんこんなところまで気づいちゃうんだ……❤アタシのこと大好き過ぎるでしょ〜❤」

……ニヤニヤこっちを見てくる瞳から逃げるように、視線を逸らす。

267: ◆b0/EDFEyC136 2024/10/09(水) 18:57:04.15 ID:Gr51D2Pw0
以前募集して書くと言った小ネタですけどちょっとムリそうなのでここで消化させてください……全部書けなくて申し訳ないです。



チャンピオンズカップ前イベント2:安価下2まで。

1 パピヨンが【貴方】にウマ耳マッサージされる話
2 パピヨンがお兄さんが買った抱き枕に嫉妬する話
3 煽りすぎてちょっと分からせられるパピヨンの話

270: ◆b0/EDFEyC136 2024/10/10(木) 00:14:39.97 ID:XYThoUOX0
パピヨン「かり、かり、かり……かりかり、かきかきかき……」

パピヨン「ぷぷ、お兄さんほんっとすぐ情けない声出ちゃうね〜?もうアタシ以外の耳かきじゃ満足できないよわよわざこざこのお耳になっちゃったね〜?」

パピヨン「……将来はお兄さんのお耳はぜーんぶアタシがお掃除してあげちゃうからね❤」

パピヨン「こら、動かないでお兄さん!あ、もうっ……!」

パピヨン「――ふ〜っ……❤」

パピヨン「はーい、アタシのお耳ふーふーでお兄さん黙らせちゃいま―す❤はいはい、もうちょっとで終わるから、我慢我慢だよ、お兄さん?」

271: ◆b0/EDFEyC136 2024/10/10(木) 00:15:24.21 ID:XYThoUOX0
『…………』

何時からだろう、月に数回パピヨンに耳掃除をしてもらうようになったのは。

パピヨンから数回耳かきをさせろとお願いされて、言われるがまま耳を貸し……それが習慣化されているこの状況。不健全だと思ったことは――勿論ある。

しかし、事実気持ちが良いし睡眠も取れる。耳かき後のパピヨンの機嫌がすこぶる良いのもあって――止めようと言い出す機会が中々ない。

『……よし』

読んでいた本を閉じる。実は以前からパピヨンに対して何かお返しができないかと考えていたところこの本と出会った。

……自分が満足させてあげられるだろうか。パピヨンが嫌な気持ちになったらどうしようかと考えることもあったが――まあ、パピヨンなら許してくれるだろう。

――――ウマ娘にとって耳というのはとても重要な部分だ。感情表現や周囲の警戒、レース中も走る音一つで位置をキープしたりなど、用途は多岐に渡る。

――つまり、それだけ凝っているということだ。


272: ◆b0/EDFEyC136 2024/10/10(木) 00:15:53.84 ID:XYThoUOX0
パピヨン「へっ?お兄さんがマッサージしてくれるの?」

『ああ、この前も自分の耳を掃除してくれたしそのお礼と思ってくれ。これでも色々と勉強したんだぞ?』

パピヨン「あー、確かにウマ耳って結構疲れとか溜まってるっていうよね?だからマッサージで揉み解そう〜ってこと?」

ちょっと前に友達がお店でやってもらったって言ってたかも。と、ぼんやりパピヨンが喋る。

……まあ、そういう専用のお店ほどではないが、そこそこいい線行くんじゃないかと自負している。

パピヨン「アタシも一時期極めよう!って思ってた時はあったけど、自分でやってもなんかよく分かんないし、尻尾のお手入れする方が気分も上がるから結局全然なんだよね〜……へ〜、お兄さんアタシのお耳マッサージしてくれるんだ?」

ニヤニヤと上目遣いで見つめてくるパピヨン。へ〜?ふ〜ん?と、まるでバカにするみたいな表情で。

パピヨン「もしかして〜普段アタシに耳かきでよわよわにされてるから仕返しってこと〜?ぷ、ぷぷぷ!お兄さんのそういうところ、良くないと思うな〜?」

『……別にそんな意図はないさ。いつもキミに手入れさせてばかりだと、不公平だと思ってな』

パピヨン「ぷっ、ぷはは!うんうんそうだね〜!お兄さんばっかり気持ちよくなってちゃアタシが損だもんね〜?でも〜……アタシそんな気持ちよくなるかな?」

アタシがウマ耳マッサージあんまやんなくなっちゃったのも、自分でやってあんまり気持ちよくなかったからなんだよね。なんかくすぐったいだけって感じ。

……そ、そうだったのか。じゃあパピヨンにはマッサージ効果がないのかもしれないな……。

パピヨン「でも、お兄さんがせっかく覚えてくれたなら、一回くらいやらせてあげよっかな〜。はい、じゃあどうぞ!」

そう言って、パピヨンは自分の膝の上にちょこんと座り。右耳に何時も付けている銀色のパピヨンマスクを外す。

……ふわふわとしていそうな銀色のウマ耳が目の前にある。心を落ち着かせて、まずは右耳から――。

パピヨン「お兄さんはアタシになっさけなーい声を出させて楽しみたいのかもしれないけど、ちょっとくすぐったいだけでそんな声なんてひゃんっ!?」


273: ◆b0/EDFEyC136 2024/10/10(木) 00:16:36.27 ID:XYThoUOX0
『!?』

パピヨン「へっ……?やっ、ぇ……?」

――右耳の根元の部分を優しく触った瞬間、パピヨンの体がビクン!と揺れ、可愛らしい声がトレーナー室に響いた。

なっ、ぱ、パピヨン……?

『だ、大丈夫かパピヨン!?い、痛くなかったか!?』

パピヨン「ち、ちがっ……!こ、これはその、ちょっとびっくりしただけだから!ほ、ほら続けて続けて!」

……ほ、本当に大丈夫なんだろうか。しかし、パピヨンが大丈夫だというなら大丈夫か……?

……気を取り直して右耳を触る。

パピヨン「んっ……」

耳の根元を親指で軽くぐりぐりと押してあげる。円を描くように揉み解すと、モジモジとパピヨンの体が動き甘い声が漏れてくる。

耳の根元を揉み解した後、次は耳全体を刺激させていく。親指と人差し指を使ってぎゅっ、ぎゅっ……と左右から耳を押しつぶす。

パピヨン「ふっ、くぁ……!ひぅぁ……!」

あとはそうだ、確か……。

『……声、我慢しなくていいからなパピヨン。パピヨンの耳、ふわふわしてて気持ちが良いな』

パピヨン「ひゃぁ!?み、耳元で喋んないでぇ……!ひぅ……!」

いつも自分にしてくれているみたいにパピヨンの耳元で囁いてあげる、うん。だいぶいい感じだ。


274: ◆b0/EDFEyC136 2024/10/10(木) 00:17:14.67 ID:XYThoUOX0
――右耳の先っちょをつまんで、真上に軽く伸ばして伸ばして……ぺたんと折り畳み潰す。

パピヨン「んっ、んぁ、ふぁ……ぃ……っ!」

――ぎゅーっ、ぺたん。ぎゅーっ……ぺたん。気持ちいいか?

パピヨンの耳全体がぽかぽかとあったかくなってくる。次は軽く爪を立ててこしょこしょと擽ってみたりする。

――こしょこしょ、こしょこしょこしょ。

パピヨン「ぁああぁあぁあぁ〜〜〜っっっ❤❤❤」

ふにゃふにゃの声と一緒にパピヨンの体重が自分の胸にかかってくる。よし、問題なさそうだな。

次は左耳だ。先ほどと同じように解して押して潰して擽って……とにかく耳を揉みくちゃにしてあげよう。

パピヨン「ぁ……!やっ、それ、やだっ……っ!ぃ……んっ」

パピヨン「にゃ……ぁ……❤ふぃ……んっんぅ、ひゃぁ……!」

もみもみ、ぎゅっぎゅっ……ぺたんぺたん。

かりかり、こしょこしょ、ぽしょぽしょ…………。

――――ふーっ。

パピヨン「っっっ!?!??!?!❤❤❤」


275: ◆b0/EDFEyC136 2024/10/10(木) 00:17:45.43 ID:XYThoUOX0
――――――――――――――――

――――――――

――――

――

『……よし、終わりだパピヨン!…………パピヨン?』

マッサージが終わりパピヨンに声をかけるが、反応がない。

パピヨン「…………っ、ぁ……?」

眠ってしまっていたか……?と思い不安になったが、どうやら意識はあるようだった。

……完全に自分に体重を預け、目元も口元もとろんと蕩け切ったパピヨン。口からは少し涎も垂れてしまっていた。

近くのティッシュ箱からティッシュをつかみ、パピヨンの口元を拭ってあげる。

パピヨン「………………」

『……大丈夫か?パピヨン?おーい……?』

――――結局、パピヨンの意識がはっきりしたのは十分ほど経ってからだった。

意識を取り戻したパピヨンは顔を真っ赤にしながら何か大きな声で怒り、ぷんすことトレーナー室を飛び出してしまった。

……もしかして嫌だったか、と不安になったが……。

パピヨン「………………お、お兄さん。その、あの……あ、あのさぁ……」

――――後日、モジモジと恥ずかしそうにしながらもう一度マッサージをして欲しいとお願いされて。その不安も吹き飛んでしまった。

276: ◆b0/EDFEyC136 2024/10/10(木) 00:19:39.91 ID:XYThoUOX0
凄い時間かかっちゃいましたけど今日はこれで終わりです。お疲れさまでした。

次更新は抱き枕に嫉妬する話です。


パピヨンの耳はもう後戻りできない。

279: ◆b0/EDFEyC136 2024/10/12(土) 00:37:31.03 ID:tOAnJqPx0
パピヨン「お兄さんいる〜?実はお願いがあるんだけど……ぉ?」

『…………』

ちょっと欲しいものがあったからお兄さんにおねだりしようとトレーナー室に入ると……お兄さんが眠ってた。

ずっと前から置いてあるソファに横になって、すぅすぅ小さな寝息を立てながら。気持ちよさそうに眠ってる。

パピヨン「わっ……わぁ〜!お兄さん、寝てる〜……!」

お兄さんを起こさないように近寄って、寝顔をまじまじと見つめる。わ〜……ぷぷ、お兄さんの寝顔かわい……❤

……てかお兄さん、こんなところでぐっすり眠っちゃうくらい疲れてたんだ。いつものことなのは分かってるけど、お兄さんあんまりこういう姿見せないからなぁ……。

…………うりうり、トレーナー室で寝るならちゃんと家で寝ないとでしょ〜?

パピヨン「……というか、お兄さん抱き枕抱いてるじゃん」

よくよく見るとお兄さんは何かを抱きしめながら眠ってた。寮のアタシの部屋に置いてあるのと同じペンギンの……えっ!?

パピヨン「な、なんで――あ。そうだ、前に同じペンギンのぬいぐるみ買おうか悩んでるって言ってたっけ」

お兄さんが寝不足っぽかったからアタシのペンギンぬいぐるみを貸してあげて、それで睡眠の質を〜……って話の時だ。てか、睡眠の質とか考えてぬいぐるみ買うなら最初からちゃんと寝なきゃダメだって。

『……すぅ』

パピヨン「…………』

お兄さんがソファの上で、ぎゅうっとぬいぐるみを抱きしめながら眠ってる。

…………なんかモヤモヤする。


280: ◆b0/EDFEyC136 2024/10/12(土) 00:38:45.71 ID:tOAnJqPx0
パピヨン「……」

お兄さんが気持ちよさそうに眠ってることはとても嬉しい。けどなんでこんなにモヤモヤするの……?

パピヨン「……おいペンギン。えいえい」

――何このペンギンお兄さんに抱かれてるの?アタシの方が先にお兄さんにぎゅうううって抱きしめられたし、一緒に寝たんだけど?

ぬいぐるみを抱くよりも、アタシを抱いた方がお兄さんもぐっすり眠れるんだけど?アタシの方がいろいろ柔らかくて気持ち良いんけど?

パピヨン「…………えいっ!」

お兄さんの腕を緩めて、一気にぬいぐるみを引っこ抜く。そして慎重にゆっくりと……お兄さんと一緒にソファに横になる。

ソファが狭いせいで下手したら落ちちゃうから……ぎゅううう、ってお兄さんを抱きしめて。落ちないように工夫する。

パピヨン「…………えへっ。抱き着いちゃった……❤」

あの日はお兄さんがアタシをお布団に引き込んだけど、今日はアタシが……お兄さんのソファに入り込んじゃった。うわっ、お兄さんの顔近すぎ……。

パピヨン「ん〜……❤お兄さんポカポカで、なんだか良い匂いもする……スンスン」

お兄さんの胸に顔を埋めて匂いを堪能する。すりすりと頬もこすりつけて、マーキングもしちゃう。

『……んんっ……?んぅ……』

パピヨン「きゃっ、お兄さんモゾモゾしないで……くすぐったいよ❤」

ペンギン見てる〜?やっぱりお兄さんはぬいぐるみよりアタシの方が嬉しいみたいだよ〜?せっかくお兄さんが睡眠のために買ったのに、ごめんね〜?

…………ふぁぁ。

パピヨン「なんだか眠くなってきちゃった……寝ちゃお」

今日はお兄さんに用事があったけど……まあいいや、今日は……お兄さんとお昼寝の休憩日にしちゃお。

おやすみなさいお兄さん。ぎゅううう…………。

…………すぅ。

281: ◆b0/EDFEyC136 2024/10/12(土) 00:39:59.86 ID:tOAnJqPx0
――――――――――――――――

――――――――

――――

――

『…………』

パピヨン「……むにゃむにゃ」

仕事中、少し疲れがたまっていたのと感じて仮眠をしたんだが……どうしてこうなった。

『……パピヨン、パピヨン?』

軽くゆすってみるが起きる気配はない。自分はペンギンのぬいぐるみを抱いて眠ったはずなのに……ああ、地面に落ちてる……。

『……パピヨンの家でもこんなことあったな』

パピヨンの部屋の次はトレーナー室で。はあ、どうしてパピヨンは自分と一緒に……。

……甘い匂いと花のような匂いがする。多分使っているオイルの匂いだろう。サラサラとした尻尾が自分の脚をくすぐって、妙にドキドキしてしまう。

パピヨン「すぅ、すぅ……」

『はぁ……』

もしかしてこれもパピヨンからの揶揄いの一部なんだろうか。こうやって体を密着させて、自分の反応を楽しむみたいな……いや、にしてもぐっすり眠っているな。

…………いつか本当に捕まりそうだな自分。しかしまあ、このトレーナー室ならきっと……ギリギリ問題ないだろう。

『……いつの間にか、じゃなくて……ちゃんとお互いに一緒に眠れる日が来るといいな、キミと』

そう思いながら、静かに自分は目を閉じた。

282: ◆b0/EDFEyC136 2024/10/12(土) 00:55:03.00 ID:tOAnJqPx0
>>277,278
ありがとうございます。健全なのばかり書きたいです。
パピヨンは告白してすべてぶち抜けた……お兄さんもそれにつられていろいろぶっ壊れた……


今日はこれだけ。おやすみなさい。次、チャンピオンズカップ前イベント最後です。そしておそらくパピヨン自由イベント最後です。

特に何も決めてないので、自由安価になるか良いの思いつくかになりそうです。

283: ◆b0/EDFEyC136 2024/10/12(土) 00:56:42.30 ID:tOAnJqPx0
あと質問なんですけど、次ウマ娘募集するとき用のオリウマ娘もう作って温めてる人いますか?

色々考えてるので作ってる人が多かったら色々考えてます。前作成した時のテンプレもありますので。

286: ◆b0/EDFEyC136 2024/10/12(土) 21:02:29.92 ID:tOAnJqPx0
結構キャラ作ってる人いる感じですね、じゃあまあ普通に募集しようと思います。

ありがとうございましたー。



11月。チャンピオンズカップまで残り一か月。

――ライバル、ステラライムとの決戦に向けてトレーナーとして何ができるか――トレーニング以外にも何かパピヨンにしてやれるんじゃないかと考える。

パピヨン「お兄さん揺れないで、座りにくいから」

『……パピヨン、ちょっとパソコンが見えないんだけど』

パピヨン「えー、今はお休みしようよお休み。アタシ今スマホ見てるから、もう少し待って」

……当然のように自分の膝の上に座り、スマホをいじってるパピヨン。パピヨンの後頭部でパソコンの画面は隠れ、何も見えない。

『今からキミのために色々と仕事しようと思ってたんだけど』

パピヨン「トレーニング以外で何かできないか〜みたいな?さっき言ってた気がするけど、アタシはこれが今一番嬉しいけど?」

そう言って、嬉しそうにニヤニヤ笑いながら頭を自分にこすりつけてくる。いや、まあそう言ってくれるのは嬉しいんだけど……。

パピヨン「別にさぼりたいわけじゃないよ?お兄さんが頑張って仕事してるのも、色々トレーニングの論文とか見てるのも知ってるけど――でも、アタシがこうやって休んでるときは、お兄さんも休んで欲しいな〜……なんて」

だって、レースの時に体壊して入院しちゃいました!とか……笑えないからさ。

『……パピヨン』

パピヨン「だから今日くらいはお休みしよ?ね、今日一日くらい大丈夫だって――勿論、トレーニングとかレースの研究もアタシ頑張るからさ」

――――レースまで残り一か月。頑張りすぎだとパピヨンに言われ、とりあえず今日は色々とお休みすることになった。

――だいぶパピヨンに甘くなったし、自分にも甘くなった気がする――けどまあ、問題ないというなら、問題ないだろう。

287: ◆b0/EDFEyC136 2024/10/12(土) 21:06:29.91 ID:tOAnJqPx0
チャンピオンズカップ前イベントラスト:自由安価下2まで

291: ◆b0/EDFEyC136 2024/10/13(日) 23:46:42.53 ID:CSIuROC10
パピヨン「シルフィーって来週のG1出るんだよね。エリザベス女王杯」

自室。勉強机に向かって何か本を読んでいるシルフィーに話題を振る。

シルフィー「あ、は、はい!お、覚えていてくれたんですね……」

パピヨン「そりゃアタシだってルームメイトのレースくらい把握してるって。現地には行けないけど、テレビで応援してるね〜」

おりゃおりゃ、とシルフィーの頬っぺたを後ろからムニムニと触ってマッサージ。や、止めてくださいよぉ……!涙目で言われてしまってので止めてあげる、ムニムニ。

シルフィー「今年はG1にまだ挑戦していませんでしたので、エリザベス女王杯が今年初のG1レースとなるんです……ですから、み、見ていてくださいね……パピヨンさん」

パピヨン「――――うん、勿論見るよ。シルフィーが勝つところ、だってシルフィーもずっと頑張ってたもんね」

頑張ったから勝てるなんて甘い世界じゃない、けどそれでも――頑張った人には勝って欲しいし、仲が良い人ならなおさらだ。

パピヨン「んじゃ、今月来月でG1勝利部屋にしちゃおうここ!今月はシルフィーで、来月はアタシ!」

シルフィー「……!ふふ、パピヨンさんそれ良いですね……凄い話題になっちゃいそうで」

パピヨン「でしょ〜?」


292: ◆b0/EDFEyC136 2024/10/13(日) 23:47:35.52 ID:CSIuROC10
パピヨン「じゃ、来月のアタシのチャンピオンズカップ、テレビで応援しててね」

――勝ってくるから。ステラライムに。シルフィー相手に宣言して、約束する。

シルフィー「……はい、見てますよパピヨンさん」

パピヨン「ぷぷ、ほんとかな〜?実はライムの方応援しちゃうとかない〜?」

シルフィー「なっ……!や、止めてください!そりゃ、ライムさんも……友達ですけど!」

パピヨン「ぷはは!冗談冗談、いやまあ別にライムを応援してもいいよ?勝つのはアタシだけど」

シルフィー「むぅ……なんか意地悪です。じゃ、じゃあ良いです!私も……ぱ、パピヨンさんの応援とかいらないですから!」

――あ!シルフィーもそういうこと言うんだ!

パピヨン「なにおー!?すっごいシルフィーのこと応援するけど!?当日は横断幕とか作っちゃうし!」

シルフィー「わ、私は……お、応援歌とか作っちゃいますけど!」

ぎゃーぎゃー!わーわー!

――――とかこんなことを言い合って、最後はバカみたいに笑いあってお互いに眠った。

うん、シルフィーとはこういうことが結構できるからいいよね〜。

……ちゃんと、勝たないとな。あーあ、ここでも約束しちゃった……けど、それも全部全部背負っていこう。

297: ◆b0/EDFEyC136 2024/10/14(月) 02:47:27.59 ID:Nw/DCeu30
エリザベス女王杯当日。トレーナー室のテレビで中継を見て、シルフィーを応援していたけど――。

パピヨン「あ"ぁ"ぁ"〜〜〜……!!!」

『……スパートのタイミングが少し遅かったな。あと近くに居た4番のウマ娘……あの子の位置取りを考えると――いたっ!』

パピヨン「冷静に分析しないで!」

――5着。そりゃ、レース展開とかタイミングとかが重要なのは分かるけど。あんなずっと頑張ってたシルフィーが……いや、分かってる、分かってるけど……。

パピヨン「…………ますます負けられないじゃん」

『……?』

パピヨン「約束してたの!シルフィーがエリザベス女王杯勝って、来月のチャンピオンズカップでアタシも勝つ!それで二か月連続G1勝利コンビ!って!」

『あ、あぁ……そんな約束してたのか。そっか……じゃあ、せめてな』

パピヨン「……うぅ〜!シルフィー、大丈夫かな……後で電話しよ」

負けちゃったシルフィーの分まで、次のレース頑張らないと……絶対勝つ!ぞー!

パピヨン「あ、帰ってきたシルフィーが落ち込んでたら……尻尾の手入れと、ハグと……あ、じゃあウマ耳のマッサージも気持ちよかったし……」

『……尽くすの好きだな、キミは』

300: ◆b0/EDFEyC136 2024/10/14(月) 20:29:09.87 ID:Nw/DCeu30
ライム「――――今だ、ここ……!」

最終コーナーを回り最終直線に入ろうとしたタイミングで一気にスパートをかける――!脚に力を入れ、地面を蹴り飛ばし前に突き進む――タイムは!

ライトレ「よし、タイムに狂いはないぞライム。いったん休憩の後もう一度だ!」

ライム「っはい!」

駆け足でトレーナーさんの元に向かい、ボトルとタオルを受け取る。11月のもう冬に足を踏み入れたこの時期に、むわむわと汗が乾き、私の体から蒸気が昇る。

――チャンピオンズカップのための練習。逃げるウマ娘とのレースでも自分のペースを忘れないため体内時計をしっかり整える練習。

そして最後、絶対に相手を差せるタイミングでスパートをかける――逃げを許さない、先頭の景色なんて見させない。

ライトレ「……ライム、調子の方は大丈夫か?脚に違和感とかはないか?」

ライム「はい!トレーナーさん、大丈夫です!特に違和感はなく、問題なくトレーニングできてます!」

ライトレ「なら良かった……ライムの年内最後となるG1レースだからな、トレーナーとしては怪我無く安全に走ってほしいんだ」

――優しそうな笑みを浮かべながら、私にそう語るトレーナーさん。

ライトレ「……それにライムにとっては、シルヴァーパピヨン……彼女との対決になるわけだしな」

ライム「はい、パピヨンさんに対してのリベンジで――この3年間の区切りとして、私は――世界に羽ばたくあの蝶を、捕まえなければいけないんです」

――きっと、パピヨンさんもおんなじことを考えているはずです。なんて自分で言うけれど、なんだか恥ずかしい。


301: ◆b0/EDFEyC136 2024/10/14(月) 20:30:20.27 ID:Nw/DCeu30
ライトレ「――――ドバイゴールデンシャヒーンでの彼女のレースは見事だった、しかしそれは――彼女の適正に合っていたから」

世界の土が、1200mという距離が彼女の脚にハマっていた。だからこそあんなにも素晴らしいレースができた……しかし、彼女の脚はそれ以上の距離に対応していない。

――ずっと前からそう思っている、今も変わらずそう考える。なのに――――。

ライトレ「適性を無視した走りはトレーナーか担当ウマ娘のエゴで、そんな走りは脚にダメージを溜める――というのに、今の彼女からは……」

ライム「そんな適正も跳ね返して脅威になりえる存在――ですよね?」

ライトレ「………………」

何とも言えない表情で私を見た後、こくりと頷いたトレーナーさん!ふふっ、なんだかちょっと誇らしいです!

ライム「パピヨンさんはちゃんとマイル戦も勝っていますし、この間のエルムステークスも1700mで去年とで連覇していますし……それでも認めてませんでしたよね?」

ライトレ「……いや、今はちゃんと考えを改めている。適性に合った走りをするべきで、適性に合っていないレースには出るべきではないとは今も思っているが……シルヴァーパピヨンにとってはそれが少し違っていた」

真面目な表情になって、トレーナーさんがパピヨンさんのことを語り始める

ライトレ「そう、シルヴァーパピヨン――彼女はマイルじゃなくて長めの短距離を走っていたんだ。彼女のスピードとパワーが長い短距離も走れるだけの適性を生み出した……そう考えている」

ライム「…………長めの短距離?」

ライトレ「そうだ、長めの短距離だ。1700mも1800mも……彼女にとっては短距離に分類されるんだ」

……う〜ん。う〜ん……。

ライム「…………そうですね!確かにちょっと長い短距離かもしれませんね!」

ライトレ「ああ、やはりそうだよな。トレーナーになってから結構な経験を積んだが、まだまだ自分も――」

トレーナーさんって、なんかこういうところあるんですよねぇ……真面目な方なんですけど。

――――待っていてくださいねパピヨンさん。どちらが最強か、知らしめてあげますから。

302: ◆b0/EDFEyC136 2024/10/14(月) 20:31:53.24 ID:Nw/DCeu30
とりあえずこれだけ。書けたら今日中にチャンピオンズカップ結果コンマ判定まで。

304: ◆b0/EDFEyC136 2024/10/14(月) 23:19:20.94 ID:Nw/DCeu30
――中京レース場、ダート1800m、G1"チャンピオンズカップ"

寒空のレース場に最高峰のダートウマ娘が集う。出走ウマ娘を見ても、ダートで名を挙げた強者ばかりのそのレースに……彼女は参加できるだけの実力があった。

『最後に確認をしよう』

今回のレースに逃げウマ娘はシルヴァーパピヨンしかいない。つまりパピヨンが今回のレース展開を操作すると言っても過言ではない。

キミの走りで後方のウマ娘はペースを変えるかもしれない、それによってスタミナをぐちゃぐちゃにかき混ぜて最後逃げ切れる――そんな作戦もありえたかもしれない。

が――しかし。

『……キミにはそんな作戦必要ないだろう』

ただただ脚を動かして、腕を振り、全力を出し切る。最後の最後まで気力を振り絞り、スタミナ全てを使い切って――駆け抜ける。それがシルヴァーパピヨンのレースだし。それ以外にシルヴァーパピヨンのレースは存在しない。

自分が憧れた走りがそれで、見惚れた走りはそれ以外にあり得なかった。

『パピヨン……?』

レース場控室でこうして確認をしているが、パピヨンからの返事が一つもない。何か不調かと不安になったが――どうやら問題はなさそうだった。

パピヨン「ん……ごめんお兄さん。ちょっと集中してた、ちゃんと話は聞いてたから大丈夫だよ」

――――目を瞑って、瞑想をしていたパピヨン。勝負服の背中にプリントされた溶けた銀色の蝶が、まるで彼女の滾る熱によって溶けてしまっている――そんな風に見えてしまう。

……膝下のダメージソックスも、ピンヒールブーツも、どんな意図でデザインしたのか分からない面積のインナーも、いつも身に着けているパピヨンマスクも、そして一枚のパーカーも。彼女を表すには十分すぎる勝負服だった。

――どんなに傷を負っても、どれだけ不安定な適性で、周囲をハラハラさせるその性格も、己の本質を隠す小さな仮面も、燃えるレースへの情熱も――全部全部、シルヴァーパピヨンというウマ娘の要素そのものだった。

……いや、多分考えすぎだと思う。パピヨンはそこまで考えてデザインしていないはずだ。

305: ◆b0/EDFEyC136 2024/10/14(月) 23:19:57.40 ID:Nw/DCeu30
パピヨン「……ねえ、お兄さん」

『ん、どうした――』

パピヨンが静かに立ち上がって、何も言わずにスタスタとこちらに向かって歩いてきて……ぎゅっ、と抱き着いてきた。

自分の胸に顔を埋め、静かに抱きしめる力を強めてくる。

『……』

パピヨン「…………ん、ありがと。最後に充電したかったんだ〜……えへ」

埋めていた顔を上げて、上目遣いでにや〜っと笑う。すりすりと尻尾が脚に絡みついてきて擽ったい。彼女がこうやって尻尾を脚に絡ませてくるときは大抵、甘えたかったり心がちょっと不安定だったりするときだ。最近気づいたことだが。

『……不安か、やっぱり』

パピヨン「……そりゃね、色んな人と約束しちゃったから」

ステラライムとはどちらがダート最強か決めると約束し、ブラックマンティスとは最強となって立ちはだかると約束を、そしてグリーンシルフィーの分まで今回のレースを走り、勝利をすると約束をして。

沢山の約束があった、つまりそれだけパピヨンには――期待をされている。約束を果たしてほしいと、色んなウマ娘の想いが乗りかかっている。

パピヨン「沢山走って色んな人からそういうの貰ってるから、ちょっとは慣れたっちゃ慣れたけど……まだまだ怖いし、不安なんだよね」

『……ああ、そうだな』

パピヨン「勿論、そういうのからはもう逃げないって決めたけど……逃げないために、ちょっとだけ。お兄さんのことを補充したいな〜って、お兄さんパワーをアタシに吸わせろ〜って感じで」

なんなんだお兄さんパワーって、とは思いながら……要するにハグをして心を落ち着かせてレースに行きたいということだろう。

…………自分の両腕を、彼女の背中に回す。

306: ◆b0/EDFEyC136 2024/10/14(月) 23:20:31.13 ID:Nw/DCeu30
パピヨン「ひゃぁ!?お、お兄さん……?」

『もっと沢山充電しよう、それでキミが落ち着けるなら幾らでも。それでしっかりと……満足する走りを皆に届けよう』

パピヨン「…………えへ、お兄さんってアタシに甘いよね。そういうところ、アタシ大好きだよ」

『……自分もキミのそうやって素直に伝えてくれるところ、好きだぞ』

パピヨン「…………!??!?!??!?!?」

しまった……言い過ぎたか。レース前にこれはちょっとまずいな。

パピヨン「はっ…………は、はーい!はいはいはい!もうお兄さんパワー終わり終わり!これ以上は……あ、溢れちゃうから!もったいないもったいない!!!」

『……ん、そうか』

顔を真っ赤にしてパピヨンが離れてしまった……離れるときにちょっとお腹をパンチされたな、痛くはなかったが。

パピヨン「じゃ、じゃあ行ってくるから!!!お兄さん……応援しててね!」

逃げるように控室から出ていこうとするパピヨン――ダメだ、まだ言っていないことがある。

『パピヨン!』

パピヨン「ちょ、ちょっとなにお兄さん!ア、アタシいま恥ずかしいんだけど……!顔も熱いし――」


307: ◆b0/EDFEyC136 2024/10/14(月) 23:21:15.65 ID:Nw/DCeu30


『――――頑張れ!キミは、キミらしい走りをしてくればいい!』

とても楽しそうに走るキミの姿に――自分も、皆も期待してるよ!と、叫ぶ。

パピヨン「…………!」

……一瞬の、沈黙。そしてパピヨンは、嬉しそうに笑って。



パピヨン「あーあ、そんなこと言われたら――背負うしかないじゃん!お兄さん!」



――――オッケー任せておいて!アタシはアタシらしく走るから!行ってきます!



ああ、行ってらっしゃい――!その言葉が、パピヨンの耳に届いているかは分からないけれど、この想いはきっとパピヨンに届いているだろうと確信は――あった。




308: ◆b0/EDFEyC136 2024/10/14(月) 23:21:48.80 ID:Nw/DCeu30
"砂上の戦いを求める猛者が集う!ダート王決定戦、チャンピオンズカップ!"

"今日の主役はもちろんこのウマ娘!一番人気シルヴァーパピヨン!ドバイゴールデンシャヒーンでは見事な逃げ切り勝ちを決め、前走エルムステークスでは連覇も決めております。蝶のように舞う華麗な逃げはこの日本でもその力を証明できるか!"

"そしてこの人気は少々不満か。二番人気、去年チャンピオンズカップ覇者にしてレコードホルダー!ステラライム!流星のごとくその走りは逃げる蝶を打ち抜くか!そしてチャンピオンズカップ連覇を果たすことはできるか――!"

パピヨン「…………会えたね、ライム」

ライム「そうですね……パピヨンさん。会いたかったですよ」

わぁあああああああああ……!!!と観客の歓声が聞こえてくる、アタシとライムが向かい合って何か喋っているんだ、何か宣戦布告とかしてるんだろうと盛り上がってるんだろうなぁ……。

……でも、そういうのって全部全部前にやっちゃってるからなぁ。

パピヨン「ん、今更何か言うつもりはないけど――宜しくね。そっちも別に何か言いたいこととかないでしょ?」

ライム「ええ、話したいことも語りたいことも、全部あの日夏合宿の夜に話しましたから」

――――ライムの後ろから隠しきれないオーラみたいなものが見える。今すぐ走りたい、今すぐアタシと競いたいという思いが――いや、隠し切れないじゃなくて隠してないんだ。これ。

……嬉しいじゃん。だったらアタシも――相応に応えてあげるから。

パピヨン「……っし、じゃあちゃっちゃと決めちゃおうか。どっちがダート最強か――!」

ライム「――お互いがお互いのリベンジのために。証明しましょう、パピヨンさん!」

"どのウマ娘も気合十分!良い表情をしております!"

"――各ウマ娘ゲートイン完了、出走準備整いました!"

パピヨン「…………っ!」

――よし、頑張ろう。ゆっくり息を吸って、吐いて――心を、落ち着かせて。

――――あとは、ゴールの向こうだけを見つめよう。



"さあ今ゲートが開きG1チャンピオンズカップ!スタートいたしました!!!"




309: ◆b0/EDFEyC136 2024/10/14(月) 23:23:11.33 ID:Nw/DCeu30

結果は:コンマ直下
1 自由に、楽しく、奔放に――逃げる、ただそれだけで
2-4 "砂上の銀の蝶"
5-7 "青の流星"
8-9 煌めく流星は瞬いて、誰もが目を奪われて――。
0 おおっと

313: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2024/10/15(火) 12:19:13.31 ID:9o76oXEAo
ドバイ前国内ライム:厳しい国内ダート適正と距離適性+バカつよライム=どうやって勝つんですか?(現場猫)

ドバイゴールデンシャヒーン:適正ヨシ!距離ヨシ!相手は強いけどここまで来れたなら勝ちの目は十分ある実質ラストバトル

ドバイ後チャンピオンズカップ:今だから改めて分かる初期ライムの強さ(ここまで鍛えたパピヨンでほぼ互角の)、イベントマッチ

ゲームだとこんな感じかなぁ
立派だ、よく頑張ったよ
幻視する実馬正史は多分ドバイ走ってない、子が国外砂でめっちゃ活躍して、パピヨンも走れたなら……を言われただろうし、そのアンサーを見れるシナリオは大変人気なのですね(早口)

314: ◆b0/EDFEyC136 2024/10/17(木) 02:16:31.93 ID:GphOy83Z0
――砂を蹴り飛ばす。その体全部を使って、ただひたすらに全力に前を往く。

目の前には誰もいない、自分一人だけが独占しているこの景色が――どうしようもないくらいに、キラキラ輝いて……綺麗だった。

"最終コーナー!先頭は依然としてシルヴァーパピヨンが突き進む!3バ身ほど離れた位置に5番!そしてその後ろをステラライムが追う!そして2番、11番――!""

パピヨン「――――!」

は、はは、ははは――!と、笑いが止まらない。何か自分の中のネジがぶっ飛んでしまったんじゃないかとも思うが、きっとこれは正常だ。

――いや、正常なんかじゃない。こんな大舞台で笑いながら走るウマ娘なんて――きっとイカれている。

楽しくて楽しくてしょうがない。自由に走れるこのレースが、ライバルと競うこのレースが、色んな期待を背負って駆けるこのレースが――今のアタシには最高の時間だった。

――――ずっとずっと、この時間が続いてほしいとアタシは願う。

ライム「――――は、はははは!!!」

"さあ最終直線先頭はシルヴァーパピヨン!そしてその後ろからは――上がってきた上がってきたー!ステラライムが5番を交わし一気に先頭を狙いに行く!

"世界王者か!国内王者か!二人の王者の一騎打ち!シルヴァーパピヨン逃げる!ステラライム追走!残り――あと400m!"

――観客から、今日一番の歓声が沸き上がる――より一層、神経を集中させる。


315: ◆b0/EDFEyC136 2024/10/17(木) 02:17:24.47 ID:GphOy83Z0
パピヨン「っ……ぁあああああああああああああああ!!!!!」

叫ぶ、自分の力全てを出し切るために。スピードもスタミナも全て限界を超えて出し切って、最後に出せるものは――ギリギリの根性だけだった。

負けたくない、絶対に勝ちたいという想い。ステラライムに絶対に負けないという想い一つで――駆ける。駆ける。駆ける!

ライム「やぁあああああああああああああ!!!!!」

後ろから近づいてくるステラライムの声。先頭は、先頭はアタシのものだ……!絶対に奪わせてたまるものか……!

心臓が爆発しそう、息が苦しい、今にもぶっ倒れそうな体を、根性で動かして――全力で突き進む。

――ずっと続いてほしいと願ったレースにも終わりがくるものだ。


パピヨン「あ"ぁ"あ"あ"ぁ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"!!!!!」

ライム「っ―――ぁああああああああああああああああああ!!!!!」


――――青いウマ娘が、一瞬だけアタシと並ぶ。そして、瞬き一つする間に――アタシの視界が、一瞬だけ青く瞬いた。

"――ステラライム!ステラライム先頭!ステラライム先頭!ぐんぐんぐんぐん突き放す!これはシルヴァーパピヨン追いつけないか!?"


パピヨン「――――っ」

誰もいない景色に――青い星が流れてくる。

――ああ、くそ、くそっ……!なんで、こんな、こんなにさぁ……!

――――悔しいなぁ……!悔しいなぁ!

――――楽しいなぁ……っ!


316: ◆b0/EDFEyC136 2024/10/17(木) 02:19:04.42 ID:GphOy83Z0
"――――ゴーーーール!一着ステラライム!二着シルヴァーパピヨン!ステラライム、見事チャンピオンズカップ連覇達成!国内王者はやはり強かった!!!"

パピヨン「はっ……はっ、はぁ……っ」

ゆっくりとゆっくりとスピードを落としていき――ゆっくりと、地面に倒れこむ。

前からべしゃぁと倒れる。全身砂まみれになって、寝返りをうち、空を見上げる――ダメだ、もう動けないや。全部全部使い果たして、完全燃焼……だなぁ。

……誰かの足音が、聞こえてくる。

パピヨン「ぉぇ……はぁ。はぁ……どしたの、王者様?」

いつもなら観客に向かって感謝の気持ちを伝えているはずのライムが――敗者のアタシを、見下ろしてくる。

ライム「――――今日は私がリベンジさせていただきました」

誰がどう見ても私の勝ちで、ダート最強は私だと証明されました――ですよね、パピヨンさん?と、語ってくる。

パピヨン「…………」

ライム「悔しいですよね、今すぐここで騒ぎたいくらいですよね?だったら――私は何時でも、貴女を待ち受けますから」

王者として、貴女の挑戦を待ちますと――ステラライムは、眩しい笑顔で、言いやがった。

…………。

パピヨン「はぁあああああああああ!!!んもームカつく!!!くそ、くそくそくそ!ライムさぁ――強すぎ!!!」

脚をじたばたと動かす!G1の舞台がなんだ!観客がなんだ!ムカつくものはムカつくし――悔しい悔しい悔しい!

パピヨン「絶対リベンジするから!――最強の椅子温めておいてよ!」

ライム「――――ええ、もちろんですよ。パピヨンさん」

それでこそ――私の最高のライバルです。

アタシのその宣言を、ライムはとても嬉しそうな表情で――受け止めた。


317: ◆b0/EDFEyC136 2024/10/17(木) 02:19:48.35 ID:GphOy83Z0
――――――――――――――――

――――――――

――――

――

『――お疲れ様、パピヨン』

パピヨン「ん……ごめん、負けちゃった」

戻って来て早々、彼女の口から出たのは謝罪だった。

彼女らしくないとは思いつつ、それだけ彼女にとってこのレースが大きかったのか……それが伝わってくる。

『……とてもいいレースだった。確かに負けてしまったけれど……キミならこの負けを糧にできるだろう?このままライムに負けて終われるウマ娘じゃないのは、自分がよく知っている』

パピヨン「それはそうだけど!違うじゃん!ほら、ほらもっとアタシが喜ぶことして!」

滅茶苦茶怒られてしまった。

――パピヨンが喜ぶこと。尻尾の手入れを最初に思い浮かべたが――今のパピヨンと、自分ならきっと……。

『…………パピヨン』

そして自分は、最高の愛バに対して――大きく腕を広げて。

おいで。と、そう言ってあげる。

パピヨン「――――っ!!!」

『…………ぐえっ』

――突っ込んでくるパピヨンの力が強すぎて思わず声が漏れるが――倒れないよう堪えて、優しく抱きしめる。

――――悔しい悔しい悔しい!絶対次は勝つ!負けない負けない負けなーーーーい!!!

パピヨンの悔しい思いが響く。どんどん声が震えて、涙声になる……顔は見れないけど、頭をなでなでと撫でてあげる。


…………次は勝とう。キミと自分で、二人一緒ならどこへだって――手が届くはずだから。



318: ◆b0/EDFEyC136 2024/10/17(木) 02:20:37.52 ID:GphOy83Z0



――――全ての目標を達成しました!



319: ◆b0/EDFEyC136 2024/10/17(木) 02:22:33.28 ID:GphOy83Z0
安価無し、今日はこれで終わりです。ありがとうございました。

次クリスマスイベ、温泉イベ、そして最後の育成終了イベントです。どこかで安価挟みたいけど、なにかあるかなぁ……。

321: ◆b0/EDFEyC136 2024/10/17(木) 20:26:46.89 ID:GphOy83Z0
クリスマスイベ、悩んでます
1 【貴方】宅、パピヨン突撃
2 クリスマスデート編
3 風邪を引いた【貴方】を看病してくれるパピヨン
4 それ以外

どれが良いですか。安価とかじゃないのでいいなーってやつください。

329: ◆b0/EDFEyC136 2024/10/26(土) 22:55:00.12 ID:YfXsexqa0
パピヨン「――――マンティ〜〜〜!!!」

マンティ「うひゃ!?ぱ、パピヨンしゃん……っ!?ちょ、わっ、わぁ……!」

――チャンピオンズカップを終えて。世間はクリスマス前ということでそれらの話題で持ちきりだったり、有馬記念とかのレースで大騒ぎだけど――少なくとも今この場所では違った。

パピヨン「お帰り〜〜〜!!!すっごい久しぶりな感じがする〜〜〜!」

そう、ついにマンティがトレセン学園に帰ってきた……!長い長い病院生活から、脚をちゃんと治して――戻ってきた!

ライム「マンティさんお疲れさまでした!無事に治ったようでよかったです……!」

シルフィー「お、おかえりなさいマンティさん…………!」

マンティ「あ、あのぉ……!う、嬉しっ、嬉しいんですけどぉ……!ひゃぅぁ、ぱ、ぱぴよんしゃんがぁ…………!」

ライム「……パピヨンさん、そろそろ離れましょうか。凄い困ってますよ」

パピヨン「やーん。マンティ……」

流石に抱き着いてむぎゅむぎゅするのはダメだった見たい。マンティの顔が真っ赤で今にも爆発しちゃいそうだもんね……失敗失敗。

でも、それだけ嬉しいってこと!

マンティ「ひゃぁ…………はっ!す、すみっませんっ!ちょっとぼーっとしちゃいました……!で、でも!脚は治ったんですけど、もう少しちゃんと走るリハビリとか練習も必要なので…………」

パピヨン「ん、良いの良いの!またマンティと走れるのが分かったんだから!――――ぷぷぷ、早く追いつかないと、待ちくたびれちゃうからね?」

マンティ「――はい、待っていてくださいね。パピヨンさん」

――――あーあ、これライムに勝ってから言いたかったなぁ!んもー!

330: ◆b0/EDFEyC136 2024/10/26(土) 22:55:31.28 ID:YfXsexqa0

マンティ「……と、ところで今は何を……?ちょっと騒がしいような……?」

シルフィー「あ、そういえばマンティさんは知らないんですっけ?えっとですね――」

――クリスマスパーティーにはまだ早い、しかし現に美浦寮に所属するウマ娘たちは騒がしい。

色んなところに飾り付けがあり、寮の広間には様々な料理が並べられている。

ライム「今年はだいぶ早いですよね、クリスマス前に……」

――ヒシアマ姐さん主催で毎年行われている恒例の、忘年会だ!


331: ◆b0/EDFEyC136 2024/10/26(土) 23:02:02.02 ID:YfXsexqa0
――――――――――――――――

――――――――

――――

――

今年は特に特に盛り上がった一年だった。それはきっとみんながそう思う――そんな一年だったと、忘年会の中、振り返る。

……ドバイゴールデンシャヒーンの勝利、エルムステークス連覇、そして――チャンピオンズカップでのステラライムとの対決。

記録にも残る、記憶にも残る――少なくともアタシはこの年のことを忘れることはない、絶対にない。

パピヨン「……えへ」

それに……お兄さんとも……えへ。

…………えへへっ。

シルフィー「…………パピヨンさんがずっとニヤニヤしてますよ」

ライム「あの、やっぱり……」

マンティ「…………パピヨンさん、やっぱり……うぅ」

……なんかめっちゃ見られてるんだけど。なに、そんなうわぁ……みたいな!

パピヨン「ちょっとそっちの三人!何見てんの!」

ライム「あ、いえいえパピヨンさん!私たちはそんな――――いえ、ここはもうはっきりと訊いちゃいましょう」

シルフィー「えっ、ら、ライムさん…………!」

ライム「パピヨンさん!貴女――と、トレーナーさんとその……な、なったんですか、そういう……仲に?」

真剣な表情で、興味津々そうな表情で、ライムがアタシとお兄さんとの仲を訊ねてくる。

もしここではっきりそうだと言ってしまったら……多分お兄さんが困るだろうなぁ。うん、別に言ってもいいけどここはお兄さんのためにもはっきりと…………。

パピヨン「え〜〜〜?えっ、そっ、そんな…………お兄さんと恋人とか…………そ、そんなわけないじゃん!で、でもぉ……そ、そっかぁ、そんな風に見えちゃうんだアタシたち……お兄さんの恋人みたいな……ふふっ」

マンティ「ぱ、パピヨンさぁん…………!」


332: ◆b0/EDFEyC136 2024/10/26(土) 23:35:43.84 ID:YfXsexqa0
パピヨン「えへっ、それでさ、お兄さんがさぁ…………」

お兄さんとアタシが付き合ってることがバレちゃった……❤けどバレちゃったならしょうがないよね〜?

じゃあ隠す必要もないし、この三人は興味津々みたいだし……色々教えてあげちゃお〜。

あの日の告白のことも、お兄さんの返事も、そして今日までやった色んなことを!

パピヨン「凄い優しくて、良い匂いして……体つきとかも、すごい男の人って感じでぇ……❤」

シルフィー「ほ、ほほぉ……ほぉ……!」

マンティ「ふぇぇ……そ、そんな……パ、パピヨンさん凄い…………うわぁ……」

ライム「……今までの態度が一気に変わりましたね」

パピヨン「べ、別に変わってなんてないけど?ライムもさ〜、自分からアタックアタックしないと〜……幼馴染くんとか逃げられちゃ――痛い!抓らないで手の甲!」

ライム「パピヨンさん!!!」

興味津々に色々聞いてくるシルフィー、顔真っ赤ではわはわしてるマンティ、そしてなんとも素直じゃなさそうなライム。

ライムちょっとムスーっとしてるけど……耳がちゃんとこっち向いてるんだもんな〜!興味津々恋愛脳ウマ娘の一角のむっつりさんめ〜!

シルフィー「じゃ、じゃあ……!クリスマスにも……デートとかするんですか!?」

パピヨン「もちろん!きっとお兄さんから誘ってくれるだろうし……すっごい楽しみ!」

シルフィー「……あれ、パピヨンさんから誘うんじゃないんですか?」

パピヨン「だってクリスマスだよ〜?お兄さんからきっと誘ってくれるって!お兄さん優しいし……多分すっごいデート考えてくれてるよ!」

333: ◆b0/EDFEyC136 2024/10/26(土) 23:55:20.47 ID:YfXsexqa0
ライム「…………それ、大丈夫ですか?」

パピヨン「は?なに、お兄さんとアタシの仲疑ってるのライム?」

ライム「別にそういうわけじゃないですけど……その、さっきのパピヨンさんの話だと…………まだ正式な恋人ではないんですよね?」

いや、もうほとんど恋人みたいなものだけど……ま、まあ。一応、トレセン卒業まで回答は未定ってことで…………。

でも!いや、そんなのほぼ恋人決定でしょ!?じゃあもう恋人!両想い!

ライム「……トレーナーさん、クリスマス忙しいんじゃないですか?年末ですし、恋人……いえ、パピヨンさんまだトレセン生ですし、世間的には……」

パピヨン「…………ぇ」

…………お、お兄さん考えてない?いや、いや、でもお兄さんとアタシは……で、でも……ぇ。

パピヨン「…………」

ライム「パ、パピヨンさん!?ち、ちがっ……す、推測!推測ですから!」

マンティ「パ、パピヨンさん!き、きっと考えていますよ!パ、パピヨンさんの……トレーナーさん、良い人ですから!」

シルフィー「じゃ、じゃあいっそのことデートのことこっちから誘っちゃうとか!」

パピヨン「そ、そそ、そう!いや、でもお兄さんがぁ……さ、誘ってくれる…………」

マンティ「と、トレーナーさんにデートを誘ってもらうため……デートまでの作戦会議しましょう!そ、それならどうでしょうか!?」

……ぐすっ。デートしたい…………じゃあ、お兄さんに色々……うぅ。

ライム「わ、私も手伝いますから……す、すみませんパピヨンさん……」

334: ◆b0/EDFEyC136 2024/10/27(日) 00:08:28.04 ID:BqXiCNkd0
――――デートまでの作戦会議。

こんなことしなくてもお兄さんはデート……誘ってくれるはずだけど。でも、やっぱり、デートは絶対したいし……。

パピヨン「お、お兄さん、普通にデート誘って大丈夫かな……?め、迷惑じゃ……」

ライム「自分から告白してるのにいまさら何言ってるんですか……大丈夫ですって。ほら、お菓子食べて落ち着いてください」

パピヨン「……ありがと」

シルフィー「デートと言えば色々ありますよね。クリスマスですから、イルミネーションを見に行ったりとか……あ、レストランで一緒にご飯とか……!」

マンティ「お、お家デートとかもあります、よね……!聖夜に、二人っきりで…………!」

ライム「シルフィーさんとマンティさんはなんだかいつも以上にやる気ですね?」

……い、いえ。私も、ちょっと……興味はありますし、ドキドキもしますけど…………こ、こほん!

パピヨン「……お兄さん忙しいし、クリスマスもお仕事とかしてたし……」

ライム「パピヨンさん!ちょっと、いきなり弱気になるの止めましょう!?普段通りで行きましょう普段通りで!」

…………うぅ、なんか、一気に不安になってきちゃった……おにいさぁん……。

335: ◆b0/EDFEyC136 2024/10/27(日) 00:14:30.35 ID:BqXiCNkd0
クリスマスデート作戦会議編

まずデート場所は……:安価直下
1 イルミネーション!
2 家デート!
3 その他(自由安価)

337: ◆b0/EDFEyC136 2024/10/27(日) 00:38:51.66 ID:BqXiCNkd0
お兄さんとイルミネーションを見たい!

どうやってデートまで持っていこう……:安価直下
1 それとなーくデートのこと匂わせてみるとか……
2 素直にデートしたいって言えばいいんじゃ……
3 その他(自由安価)

339: ◆b0/EDFEyC136 2024/10/28(月) 00:19:18.11 ID:6JVayfYH0
『……そういえば今日はクリスマスか』

――クリスマス。年に一度の聖夜ということで世間は盛り上がり、一般的には彼女とデートをしたり家族と過ごしたり……というのが一般的だろう。

しかし、自分はトレセン学園のトレーナーだ。自分にそんなことをする余裕は…………ない。

『いつも以上に仕事が多いな……』

担当ウマ娘の取材依頼に撮影依頼、学園の必要書類の提出に、トレーニングメニューの見直しや研究……やることで言ったら盛りだくさんだ。

…………それに。

『……他の担当、か』

わが学園の理事長である"秋川やよい"理事長から依然このような相談を受けた。

端的に言えば――シルヴァーパピヨン以外のウマ娘を担当するつもりはないか、と。

学園の中にはチームを持ち複数のウマ娘を担当しているトレーナーもいる、しかしそれは経験豊富なトレーナーが行うものだが――おそらく、パピヨンを海外のG1で勝利に導いた実績を考慮されてのものだろう。

――あと、あのパピヨンと二人三脚で三年間無事にやっていけた対応力、も評価されているらしい……まあ、それは光栄なものだ。天晴ッ!とかかれた扇子がとても目立っていたことを思い出す。

『…………』

…………新米トレーナーの自分が、シルヴァーパピヨン以外のウマ娘も担当する。となると、当然パピヨンに割ける時間も減ってしまうだろう。

――はぁ。とため息をついてコーヒーに口を付ける。トレセン学園の来たばかりのころはコーヒーなんて飲めなかったら、今では燃料を補給するみたいに飲めてしまうのだから、恐ろしいものだ。

『パピヨンは、どう思うかな』

もし、自分が他のウマ娘も担当するという話をパピヨンにしたらどうなるか、そう考えていると――トレーナー室の扉が開いた。


340: ◆b0/EDFEyC136 2024/10/28(月) 00:26:03.78 ID:6JVayfYH0
パピヨン「…………お、お兄さん?」

『ん……どうした、パピヨン』

トレーナー室に入ってきたのはパピヨンだった。なにやら緊張した様子で、自分と目線が合わない――今日はトレーニングも何も休みだから、特に何も連絡はしていないんだが――。

パピヨン「い、今大丈夫!?ちょ、ちょっと、おっ……お願い、があるん、だけど……」

『キミのお願いなら大丈夫さ、どうしたんだ?』

……耳がピコピコとせわしなく動いている。顔が赤く「えっと、あの……そのぉ……」と、中々お願い事が出てこない。こういう時のパピヨンは――――あっ。

そうか、さっき思い出したばかりだった――今日は、クリスマスで…………。

パピヨン「…………で、デート!……したいんだけど。今日、クリスマスだから……お、お兄さんが忙しくなかったら――ひゃっ!?」

『悪いパピヨン!そうだ、そうだよな……きっと、こういうのは自分から言うべきだった』

当然パピヨンと自分はそういう仲じゃない、それはあの夏祭りの日に宣言したしパピヨンも分かっている……はずだ。

けど、だからといって……そんな仲の女の子に、こんな思いをさせるわけにはいかないだろう。

彼女の手を握って、言う。

『――デートしようパピヨン。当日になってからで申し訳ないけど……もしキミが自分と過ごしてくれるなら』

パピヨン「…………っ!ぷっ……ぷはは!なにそれ、お兄さんさぁ……えへ。こんな日にお兄さんと一緒に過ごしてくれる女の子とか……アタシ以外にいないんだからね?」

感謝してよね、お兄さん?と、彼女は満面の笑みでそう言った。嬉しそうに尻尾がブンブンと揺れていて……思わず、こっちも笑ってしまった。

343: ◆b0/EDFEyC136 2024/10/29(火) 01:49:09.61 ID:D4BrmwKA0
パピヨン「…………〜♪」

トレセン学園から少し歩くとカップルであろう男女がちらほらと見えるようになってきた。

……傍から見るとこっちもそういう風に見えているのだろうか。と、自分の腕にぎゅううっと密着して離れないパピヨンを見る。

黒いゴスロリチックの、全体的にもこもこふわふわとしたコートを羽織り耳当てを装備した完全防寒仕様のパピヨン。その見た目がなんだか羊みたいで可愛らしい。きっと触り心地も良いのだろう。

パピヨン「ほら、お兄さん!もっともっと近づかないと寒いよ〜?」

『……歩きにくいって。ほら、手は繋いであげるからもう少し離れて』

パピヨン「え〜?んー、もうちょっとこうしてる!」

…………今日のパピヨンには何も言えないな、と自分の中でパピヨンを受け入れる。つくづくパピヨンに甘いと思うが、もうこれが平常運転になってしまっているのだからしょうがない。

『まったく、転んでも知らないからな?』

パピヨン「だって転びそうになったらお兄さんが支えてくれるでしょ?」

『……まあ、それはそうだけど』

パピヨン「じゃあ問題ないじゃーん!えへへ、お兄さん暖かいでしょ?」

……自分の腕に抱きつく力がまた強くなった。もう何を言っても離れないだろうなぁ……。

パピヨン「……❤」

じぃ〜……っと、上目づかいで見つめられている。ほんの少しだけ目を細めて、まるで自分を誘惑するみたいに、クリスマスの街並みを歩きながら――パピヨンはなにも言わずにただただ見つめて、自分の反応を楽しんでいた。


344: ◆b0/EDFEyC136 2024/10/29(火) 01:49:34.17 ID:D4BrmwKA0
――――――――――――――――

――――――――

――――

――

パピヨン「わっ……すごー……!」

『……本当だな、いや凄いな』

軽く食事を済ませて目的地であるイルミネーションが見れるスポットに向かうと――それはまさに圧巻だった。

木々に飾り付けられたLEDが、白く青く輝ききらきらと街を照らす。まるで雪が降っているように見えて、自分も目を奪われる。

――イルミネーションなんてまともに見たことはなかった、この時期のテレビでたまに見るくらいだったが……自分の目で見ると、やっぱり……凄いな。

『こんな綺麗に彩られるものなんだな、パピヨン……パピヨン?』

パピヨン「……わぁ…………!」

ちらりと、横にいるパピヨンに視線を向ける――イルミネーションにも負けないくらい、きらきらとした瞳をまっすぐ向けて、見つめている年相応の横顔に思わず……息を呑む。

――――あの日告白されたとき、自分の表情を好きになったと……パピヨンは言っていたが。なるほど。

……うん、分かるな。分かってしまうな、恥ずかしいけど。

パピヨン「……ぁ、ちょ、ちょっとなにお兄さん!アタシじゃなくて、イルミネーション見てよ!」

『あ、いや悪い悪い、ちょっと見惚れちゃってたよ……』

パピヨン「へっ?」

『イルミネーションとか実際に見るとこんなに凄いんだな。やっぱりキミと一緒じゃなかったらこの光景も一生見ることは――パピヨン?』

パピヨン「…………〜〜〜っっっ!!!ほんっと、お兄さんさぁ…………!ばか、ばかばかばか…………!」

ぽこぽこわき腹のところを殴られてしまう。な、なんでだ……いたっ、痛いっ!痛い!


345: ◆b0/EDFEyC136 2024/10/29(火) 01:50:18.59 ID:D4BrmwKA0
パピヨン「お兄さんもうアタシにそういうこと言うの禁止!…………いや、ダメ、やっぱりダメ!もっと言って欲しい……」

『どっちなんだそれは』

そもそもそういうこととは一体?何を言ったんだ自分は?

パピヨン「う〜…………お兄さんのそういうところが、まあ好きだけどさぁ……」

『……こら、他の人もいるんだからそういうことは言わない』

一応自分とパピヨンはごくごく普通の一般的なトレーナーとウマ娘。そんな……軽率に好きとか言ったら、どこで拡散されてしまうか分からない。

パピヨン「…………じゃあ二人っきりだったらいいの?」

『…………』

……なんだかこっちも恥ずかしくなってくる。顔が熱くなっていくのを感じながら、何も言わず縦に首を振ると、パピヨンはとても嬉しそうににや〜っと笑う。

パピヨン「……お兄さん、大好き❤」

『……ああこら!パピヨン!』

パピヨン「えへ〜……❤好き、好き好き、だーいすき!」

無邪気に笑いながら好意を伝えてくるパピヨン。少し前のパピヨンでは絶対に考えられない……が、これまでの道のりがパピヨンをこうさせたのだと、自分は理解している。

――変わらないなんてできっこない、自分もパピヨンもずっと変わり続けていく。この関係も、この時間も、この気持ちも……。

パピヨン「ほらほら、お兄さんも何か言ってみたらどう〜?ぷぷ、返事はアタシが卒業したらなんだっけ〜?お兄さんヘタレだし、当日になったら何も言えなくなっちゃいそ〜!」


346: ◆b0/EDFEyC136 2024/10/29(火) 02:03:40.00 ID:D4BrmwKA0
『……むっ』

――明らかにパピヨンが煽りのモードに入った。言葉の節々から愛情は感じるが、自分をちょっと小ばかにしたような……そんな喋り方。

パピヨン「ほらほら、お兄さんもアタシのこと好きでしょ?じゃあ言っちゃいなって〜!自分の気持ちも素直に伝えられない〜……よわよわお兄さん〜?」

…………そして気づく。にやにやと笑っているが……明らかに顔が赤くなっていることを。冬の寒さでは言い訳出来ないような、頬の赤み。

……どうしてあげよう。このあまりにも可愛い担当ウマ娘を。


どうしてやろう。クリスマスに:安価直下
1 …………何も言えない。敗け。パピヨンが凄い調子に乗る。
2 誰にも聞こえないように、耳元でそっと。
3 その他行動(自由安価)

348: ◆b0/EDFEyC136 2024/10/30(水) 01:23:32.96 ID:oP30TQ3I0
パピヨン「どうどう?今のうちにちゃんと好き〜って伝えておかないと、アタシがどっかに行っちゃう――――」

止まらないパピヨン。だと言うのなら――しっかりと伝えてあげよう。

『――――俺もキミのことが好きだよ。パピヨン』

そっと彼女の耳元で、誰にも聞こえない小さな声で囁いて。

紛れもない本心を、この特別な夜なのだから――伝えるべきだ。

パピヨン「――へぇぁ?」

その瞬間、パピヨンの顔が真っ赤に染めあがり。組んでいた腕を放して……ゆっくりよたよたと後方に下がる。

――まるで想像していなかったかのように自分を見つめ、言葉にならない声を漏らして。

パピヨン「なっ、はっ、ぇ……?ぁ、お、お兄さん、だって……それは――」

『……ああ、勿論卒業したらキミにはしっかりと想いを伝えるよ』

今の言葉よりももっと凄い言葉を、強い想いを、キミに知ってもらうから。

――――と、俺はパピヨンの綺麗な髪の毛を撫でながら、言った。

パピヨン「――――」

ぷひゅっ。とパピヨンの口から空気が漏れた音が聞こえ、ぱたんと自分の胸の中に顔を埋める。

『……覚悟しておいてくれよ。何倍も凄いからな、きっと。ちゃんと伝えてもらえるか不安みたいだから――今のうちにキミには言っておくよ』

パピヨン「ちょ、ちょっと、ちょっと待ってぇ……ムリ、ムリムリムリ……っ!」

青白いイルミネーションの光に、紅潮したパピヨンの顔が目立つ。クリスマスの寒さも気にならなくなって、自分もなんだが恥ずかしくなってきたが――顔は、背けなかった。


349: ◆b0/EDFEyC136 2024/10/30(水) 01:24:01.72 ID:oP30TQ3I0
――――シルヴァーパピヨン以外のウマ娘も担当して欲しい、理事長にお願いされた言葉を思い出す。

理事長には申し訳ないが……今回は断らさせていただこう。

パピヨン「…………お兄さん、こんなんとか知らなかったんだけど。なに、あれぇ……言う感じのタイプ、じゃないえしょぉ……」

『……キミとずっと一緒に居たらあんなことも言えるようになるさ』

別に他のウマ娘以外担当したくないわけじゃない、シルヴァーパピヨンが引退したら一緒にトレーナーを辞めるつもりも、今のところない。

ただ、シルヴァーパピヨンがレースを走り続ける限り――自分は、その走りに夢中になっていたい。

……それにきっとパピヨンもそれは嫌がるだろう。

『……ははっ、顔が赤いな』

パピヨン「はっ!?いや、ちがっ……さ、寒いから!寒いから赤くなってるだけ!お兄さん!おーにーいーさーんー!」

――今日この聖夜を、自分は一生忘れないだろう。


355: ◆b0/EDFEyC136 2024/11/02(土) 03:37:18.22 ID:lcqyPAtO0
シルヴァーパピヨンと共に駆け抜けたトゥインクル・リリーズでの3年間――彼女は色々なものを背負い抱えてここまで来た。

期待も想いも、信頼も本音も。全部全部投げ出さずに抱えたパピヨンの軌跡に……色々な人が魅了されていった。勿論、自分もその一人だ。

『…………』

机の引き出しを開けてそれを取り出す、去年商店街の福引で見事引き当てた温泉旅行券。3年間見事に戦い抜いた彼女、その一区切りの今の時期ならば……これも使えるだろう。

『実は期限も結構ギリギリだしな』

そう言えばパピヨンはいったい誰と温泉旅行に行くんだろうか。確かあの日は……友達を誘っていくんだったか。それとも親と水入らずの休養を……うーん、あまり覚えていない。

しょうがない、とりあえずこの温泉旅行券だけパピヨンに渡してあとは彼女に任せるか。レースもしばらくは入れていないし、いつでも練習休みは取れるスケジュールだ。

パピヨンが休んでいる間、自分も色々と休憩でもしようか……もちろん仕事は沢山あるが、少し休むくらいの時間はあるだろう。

『そろそろ練習だし来ると思うんだが――』

パピヨン「お兄さんどうも〜、あーさむさむ……」

とか噂してたら早速パピヨンが入ってきた、もう自分の家みたいに遠慮なくソファに腰を掛けて当然のようにお菓子を食べ始めたその姿は、今では何も珍しくない。

『パピヨンパピヨン、ちょっと話があるんだがいいか?』

パピヨン「え〜?んもー、なになに?」

寒そうにしながらこっちに近づいてくるパピヨン。そして、自分はその温泉旅行券をパピヨンに見せて…………。


356: ◆b0/EDFEyC136 2024/11/02(土) 03:38:42.35 ID:lcqyPAtO0
――――――――――――――――

――――――――

――――

――

パピヨン「あ〜着いた〜!結構長かったね〜!」

『…………』

――温泉旅行の話をした次の日、自分とパピヨンは温泉旅館の前まで来ていた。

パピヨン「ほらほら早く部屋に行こ!荷物置いて、温泉街見て回ろ!」

『……あ、ああ』

手をぐいぐいと引っ張られて、パピヨンに引きずられるがまま旅館内に入る。

昨日パピヨンに温泉旅行の話をしたとき、誰と一緒に行くのかを訊ねた。ペアの旅行券なのだから一人で行くわけにもいかない。友人……ライムやシルフィーにマンティ、それかあの仲が良い親のどちらかと行くものだと――しかし。

パピヨン『――――お兄さんとに決まってるじゃん、むしろそれ以外にある?』

……と、断言されてしまっては何も言えなかった。パピヨンに告白されてからというもの、こういったところをストレートに伝えられてしまうので、少し恥ずかしい。

…………いや少し考えれば分かったことだ。パピヨンが一緒に温泉に行く相手に自分を指名することなんて。3年間二人三脚で共に歩み、クリスマスデートをして、あの告白に答えをハッキリすると誓い――ほとんど、トレーナーと担当ウマ娘という関係を越えている。

いや、温泉とかクリスマスデート自体は他のトレーナーも行ったことがあるという話は聞いたことがある。なんでも有名なトレーナーは毎回温泉旅行に行っているとか――。

パピヨン「……一緒に温泉とか入っちゃう?」

『……入るわけないだろ』

え〜、でもお兄さんも一緒に温泉入りたいでしょ?一応混浴とかもあるらしいよ?と、ニヤニヤと笑いながらこっちを見てくる。随分と慣れてきたつもりだが、今でも少しビックリしてしまう。

……というか混浴なんてあるのかこの温泉旅館。

パピヨン「ぷぷ、あーあ。お兄さんのお背中とか流してあげたかったのにな〜。お兄さんもったいなーい」


357: ◆b0/EDFEyC136 2024/11/02(土) 03:40:32.92 ID:lcqyPAtO0
――――温泉街を歩き、人気のある観光名所を巡り、そして旅館での料理に舌鼓を打つ。そして……。

『……ふぅ』

温泉に肩まで浸かり、体の芯までポカポカと温まる。今までの疲れがじんわりと溶けていく、そんな風に思えてしまう。

……これが温泉の効能って奴だろうか。トレーナーの間でも湯治でウマ娘のケアをするなんてのは聞かない話ではない。

『というか、本当に混浴あるんだなここ……』

時間帯で温泉が混浴に切り替わるらしい……今時あるのかそんな温泉が。いやまあ、今の時間から混浴の時間まではだいぶあるし関係ないか。

『……それにしても気持ちいいな』

体が温泉の温かさで、溶けて混ざり合っていく。はぁ、時間さえ忘れてしまいそうだ……。


混浴温泉:コンマ直下

コンマ5以上でパピヨン行ったー!

360: ◆b0/EDFEyC136 2024/11/02(土) 14:05:36.18 ID:lcqyPAtO0
パピヨン「あっ、あっ…………あ〜!お兄さん長かったね!温泉そんなに良かった?」

『ああ、良い温泉だったよ……ふぅ、時間を忘れて堪能しちゃったな』

もっと早くに上がるつもりだったんだが。温泉……良いものだな、少しハマってしまうかもしれない。

パピヨン「も、もしかして〜。混浴で女の人が入ってくるの期待してたとか?実はちょっとだけ混浴の時間になっちゃってたもんね?」

『はは、確かにな。時間的には混浴になってたが誰も入ってこなくて助かったよ』

……まあ今時混浴の温泉に女性が入ってくるなんて滅多にない気がするけど。それでも可能性があるならちょっと怖いしな。

『……というかパピヨンまだ温泉入ってなかったんだな。早く入ってきたらどうだ?』

パピヨン「わっ、分かってるって!あ、あ〜あ〜温泉楽しみだな〜!」

わざとらしくそう言うとパピヨンは自分から逃げるように小走りで温泉に向かっていった。どうやらもう着替えの準備はしていたみたいで、ちょうど温泉に行くというタイミングで自分が戻ってきたんだろう。

『さて…………』

―――ーもう一度部屋をぐるりと見渡す。ペアのチケットということで……部屋が一つしかもらえなかった。一つの部屋に、布団が二つ。

……気持ち布団同士の距離が近い気がする。少し離しておこう。


361: ◆b0/EDFEyC136 2024/11/02(土) 14:06:28.75 ID:lcqyPAtO0
パピヨン「……あっ、きもちっ……」

思わず声が出ちゃった……確かに、お兄さんがあんなに幸せそうに言うくらいだし、本当に気持ちいな……。

…………それにしても。

パピヨン「……もっと早く行けばよかったぁ……」

混浴ぎりぎりの時間前待って、それでお兄さんと……お、温泉に入るつもりだったのに。適当に時間間違えちゃったとか言い訳して、お兄さんに……色々してあげたかったのに。

でも最後にちょっとビビちゃって本当に大丈夫かなとか考えちゃったせいで!お兄さん戻ってきちゃったぁ……うぅ。ヘマしちゃったぁ……。

パピヨン「あ〜!今頃お兄さんと一緒に温泉でそれっぽい雰囲気になる予定だったのに〜……!」

――けどまだ大丈夫、まだプランはある。いくらお兄さんがアタシの気持ちを受け入れたうえで、のらりくらりと躱すのなら……逃げられないようにするだけだ。

お兄さんはアタシを傷つけない。お兄さんは、アタシを傷つけられない。

だから今日……いや今夜!アタシは……き、キス。キス、するぞ!

パピヨン「……〜〜っっっ!!!」

やばい、想像するだけで顔から火が出そう。ばしゃばしゃと手のひらで温泉を叩いて気を紛らわす。キス、口づけ。頬っぺたにちゅーじゃなくて、唇と唇で……だ、大丈夫。大丈夫、アタシなら……行ける。

…………でも、お兄さんはどう思うかな。無理やり唇奪うとか、お兄さん……い、嫌がるかな……ダメだよね……。

パピヨン「いや!大丈夫!アタシは負けない!大丈夫!」

そもそもお兄さんが悪い!クリスマスにアタシに好きとか言っといて!沢山アタシに優しくして!全部全部甘やかしてくれ!好きになるに決まってるじゃん!!!

――そう、アタシをこんな気持ちにさせてるお兄さんに教えて上げるんだ!こんなことばっかりしてたら……いつかこうなるぞって!

パピヨン「…………よし、頑張ろう!」

温泉の準備してる時に、ほんのちょっとお布団の距離も近くしておいたし!こんなチャンス、滅多にないもん!


363: ◆b0/EDFEyC136 2024/11/02(土) 15:35:56.21 ID:lcqyPAtO0
――――――――――――――――

――――――――

――――

――

『よし、じゃあ明かり消すぞ』

パピヨン「あ、うん!オッケー!」

温泉から上がり、浴衣に着替えた自分とパピヨン。ちょこんとお布団の上に座っているパピヨンがなんだか小動物みたいで、可愛らしい。

……まだ体がぽかぽかするな。流石温泉だ、そういう効能があるんだろう。

天井の明かりからぶら下がっている紐を引っ張って明かりを消す。別に気温が下がったわけじゃないのに、これだけでほんのりと冷えたような感覚がする。

部屋の縁側にある大きな窓から差し込んだ月明かりだけが、今この部屋をうっすらと照らしている。その月明かりで見えるパピヨンの顔が……なんだかとても、綺麗に見えた。

パピヨン「お、お休み……お兄さん」

『ああ、お休みパピヨン。ふぁぁ……よく眠れそうだな、今日は』

パピヨン「…………」


364: ◆b0/EDFEyC136 2024/11/02(土) 15:38:17.82 ID:lcqyPAtO0
『…………』

……ぼんやりと意識が残っている。眠っているような起きているような……気持ちのいい夢をずっと見ている、そんな感覚。

……パピヨンはもう眠ってしまっているのだろうか。背を向けて眠ってしまったせいで、様子を見ることが出来ない。

まあ、早く眠ってしまおう……そう思った、瞬間。

『…………ん』

ゴソゴソと、布団の中に誰かが入り込んでくる。今この状況で、布団に入ってくるのなんて……一人しかいない。

『……ぱぴ、よん?』

パピヨン「ひぁ。お、おにい、さん……」

びくっ。と自分の背中にくっついてきたパピヨンから可愛い声が聞こえてくる。自分が起きているとは思っていなかった……もしかしたら、自分が眠っていると判断したからこうやって布団の中に入り込んできたのかもしれない。

パピヨン「…………ちょ、ちょっと。さ、寂しくなっちゃって……ごめん、起こしちゃって」

『……良いよ。そんな謝らなくて』

背中からパピヨンの温もりを感じる。一つの布団の中でこうやって密着するなんて良くないことだが……今日くらいは、目を瞑ろう。

……ボソッと、パピヨンが口を開く。

パピヨン「…………ごめん、お兄さん」

『え―――ー』

瞬間、自分の体がぐるんと回転して仰向けに、そして……それに覆いかぶさるように、パピヨンが自分の上に跨った。

見えていた天井の景色にパピヨンが映りこむ。少しだけ開けた浴衣と、ほんのりと汗ばんだパピヨンの顔が。


365: ◆b0/EDFEyC136 2024/11/02(土) 15:40:16.49 ID:lcqyPAtO0
『…………パピヨン』

パピヨン「ねえ、アタシお兄さんのこと……大好きだよ。前にも言ったけど、今までも沢山伝えてきたけど……今も変わらず、大好きだよ」

ずしっ……と、パピヨンの体重が掛かる。

パピヨン「お兄さんさ、アタシをからかいすぎだよ。ずっとずっとアタシに優しくして、卒業後に気持ちを伝えるなんて言って……クリスマスに好きとか言っちゃって」

彼女の顔が近づいてくる、いつもは四つに纏めている青みがかった銀色の髪の毛が、宝石みたいにきらきらと輝いて。ふんわりと、彼女の匂いが鼻をくすぐる。

思わず――見惚れてしまう。

パピヨン「頭を撫でてくれて、手を握りしめてくれて、優しく抱きしめてくれて……そんなことされたらさ、お兄さん……こうなっちゃうんだよ?」

お兄さんが悪いんだよ?なんて言いたげな表情、だけど……こっちまで聞こえてくる、彼女の心臓の音が。

小さく震えている、彼女の手が。

『……落ち着いてくれ、パピヨン』

パピヨン「お、落ち着いてるよ。アタシはずっと……ずっと落ち着いてる」

キスがしたい、お兄さんと一緒になりたい、お兄さんに……アタシのことをもっともっと知ってほしい。ずっと前から思ってたアタシの気持ち、勢いでやってるわけじゃ……ないんだよ?

『……』

パピヨン「お兄さん……抵抗、しないんだね。跨って、お兄さんを押さえてるのに」

『……万が一、キミを傷つけるわけにはいかないからな』

パピヨン「……っ!」


366: ◆b0/EDFEyC136 2024/11/02(土) 15:46:04.69 ID:lcqyPAtO0
パピヨン「お兄さん……っ!ほんと、そういうところが……っ!」

『……キミが大事だからな』

自分の本心を隠さず伝えると、どんどんとパピヨンがヒートアップしていく。彼女の中の何かを、刺激してしまっている……。

パピヨン「ふーっ……お兄さん。アタシの……お願い、訊いてくれる?」

『……ああ』

パピヨン「――――キス、してもいい?」

真剣な表情で、お願いをしてくる。彼女の心臓の音が嫌でも聞こえてくる。この状況だ、ムリやりにでも奪うことだって出来るはずなのに、わざわざこうやってお願いしてくるというのは……。

…………やっぱり優しいな、キミは。

『――――パピヨン』


コンマ判定:コンマ直下
1-3 ……今はこれで我慢してくれ。
4-6 ……寝ている間にされたことなら、自分は気が付かないだろうな
7-9 …………おいで、パピヨン。
0 ――――。

368: ◆b0/EDFEyC136 2024/11/02(土) 17:17:36.15 ID:lcqyPAtO0
『……悪いな』

俺はまた、キミにこんな思いをさせてしまって……でも、今はこれで我慢してくれ。

そう囁いて、俺はパピヨンの顔に唇をそっと近づけて――――。

パピヨン「ひぅ……!?」

――可愛らしいその頬っぺたに唇をくっ付けた。ちゅっ、と小さなリップ音が鳴って、突然のキスに……パピヨンは理解できていないようだった。

パピヨン「へっ……?あっ、ぇ、ふぇ…………?」

口をパクパクを開いて、俺の顔を見つめて……明らかに狼狽えている。きっと、パピヨンの方からキスをするつもりだったのに、俺からキスをされて……ぽかーんと、固まってしまっている。

パピヨン「…………い、いやいや。ダメ、違う、違うって。ア、アタ、アタシは……!」

『……今はこれだけだ。キミがしたいことも、して貰いたいことも…………全部全部、卒業したらな』

パピヨン「……〜〜〜っっっ!!!」

パピヨンは俺が言ったこの言葉に、何か言おうとして……そして、ぺたりと顔を胸に埋めた。

うううぅううう〜〜〜…………!と、うめく声が、聞こえてくる。

パピヨン「バカ、バカ、バカ!お兄さんズル、ズルだよぉ……!卑怯者ぉ……!」

『……反省してるよ』

パピヨン「そんな、そんなこと、言われたら…………我慢、するしか、ないじゃん…………!」

『キミは優しいから、俺のこんなお願いも訊いてくれると思ったんだ……だってキミは……無理やり奪わないだろ?』

パピヨン「…………そっちが勝手にキスしたくせにぃ……!」

『……嫌だったか?』

……何も答えず、パピヨンは自分の胸に顔を埋めながらぎゅうっと抱きしめてくる。


369: ◆b0/EDFEyC136 2024/11/02(土) 17:29:48.55 ID:lcqyPAtO0

パピヨン「……じゃあ今日は一緒に寝て、一緒のお布団で」

『……それは』

パピヨン「これくらいしてくれなきゃ、お兄さんのあることないこと言い触らすから」

『……それはまずいなぁ』

――ゆっくりとパピヨンは顔を上げ、自分の体から降りて……横に寝そべった。

パピヨン「ん」

『……ありがとうな』

自分の腕を枕にして、彼女は満足そうに鼻を鳴らす。

パピヨン「…………卒業したら覚悟しておいてよね、お兄さん」

『……ふふっ、それをキミが言うか?』

――――ああ、未来が怖い。何をされてしまうんだろうか。それを考えるだけで……思わず、笑ってしまいそうだった。

キミを愛する。告白させた責任も、今日こんなことになってしまった責任も全部取る。だから――だから。

今この瞬間、悪いお兄さんでいることを……許してくれ。パピヨン。

パピヨン「…………うん。いいよ、許してあげる」

だって――お兄さんは、こんな我儘なアタシを、ずっと許してくれてるんだもん――――えへへっ。

370: ◆b0/EDFEyC136 2024/11/02(土) 17:30:46.39 ID:lcqyPAtO0



――――シルヴァーパピヨンとの間に、かけがえのない絆を感じたひとときだった……。



371: ◆b0/EDFEyC136 2024/11/02(土) 17:34:36.56 ID:lcqyPAtO0
一旦休憩。続きは深夜くらいか明日に。

シルヴァーパピヨン最終イベントです。

373: ◆b0/EDFEyC136 2024/11/02(土) 23:59:06.51 ID:lcqyPAtO0


――スタートダッシュでハナを握り、その小さな体を懸命に動かして、最後の直線までスタミナ全てを燃やし尽くして走りぬく。それが、シルヴァーパピヨンというウマ娘のレースだった。

作戦は要らない、ただただ駆ける。余計な雑念はすべて吹っ飛ばして、必死に前を往く――見る人が見ればその走りは愚かで、合っていない適性も走るスプリンターであると、笑い飛ばすだろう。

ダートの短距離しか走れないウマ娘で。

それより長い距離はスタミナを使い切ってしまう、後先の考えられないウマ娘だと。

しかし、だからこそ彼女の走りは記憶に残る。ある者はその走りに勇気をもらい、ある者は何があるか分からない未来を、信じて生きていこうと願うことが出来た。

――テレビでも中継されたその海の向こうの走りは、様々なウマ娘を焼き尽くして――。

――――美しい蝶の舞を見るように、魅了されて。


374: ◆b0/EDFEyC136 2024/11/02(土) 23:59:38.35 ID:lcqyPAtO0

パピヨン「…………」

『…………』

手に馴染ませたオイルを全体に塗り広げていく、輝きにムラができないように全体に均一にオイルが浸透するように。櫛も使い毛も整えて……確認する。

あの日クリスマスに見たイルミネーションのように、彼女の尻尾は今……輝いていた。

『どうかなパピヨン』

パピヨン「ん〜……」

師匠は確認するように尻尾を軽く振る。ゆらゆらと横に揺らしたかと思えば、いきなり力強くブンブンと尻尾を振ってみたり。自分で尻尾を触ってみて触り心地も確認して……暫くすると。

パピヨン「……ん〜!90点上げちゃお!残りの10点も頑張って取れるように精進してね弟子〜?」

『あぁ〜……惜しいなぁ。……因みにどこがマイナス10点だったんだ?』

パピヨン「根っこのところがちょっと硬い気がする。もう少し力入れて櫛とか入れてもいいと思うよ?お兄さんの手つき、優しいけどちょっと弱いもん」

ぷぷぷ、とにやにや笑いながら尻尾でぺちぺちと叩いてくる彼女は、自分のウマ娘尻尾手入れの師匠だった。彼女を担当するようになってからの3年間で、最初は全然だった腕前も今では中々のものであると自負できるくらいには上手くなっていた。

自分がパピヨンの尻尾の手入れをするという情報は彼女の友達から漏れたりしているらしくて、たまに自分に尻尾の手入れをお願いするウマ娘が出てくることもあったが……大体はパピヨンが何処からともなく現れて、代わりにやってくれていた。

つまり、自分の腕前はパピヨンと同等か――いや、まあそこまで自惚れるわけではないが、嬉しいものだ。

パピヨン「お兄さんの腕前で他のウマ娘に手入れさせるなんで恥ずかしいからね、まだまだアタシの尻尾で練習させてあげないと〜……ね?」

……この調子じゃ自分がパピヨン以外のウマ娘に尻尾手入れをするのは当分先だな。


375: ◆b0/EDFEyC136 2024/11/03(日) 00:00:31.43 ID:2/VoYCQc0

『キミの後輩?』

尻尾の手入れを終えて、今後のレース展開やトレーニング方針について話し合っていると急にパピヨンがそんな話をし始めた。

パピヨン「そうそう、前に話さなかったっけ。○○ちゃんって言うんだけど、トレセン学園無事に入学できたんだって」

ほら、この子この子。とパピヨンがスマホで写真を見せてくれると、ぎこちない笑顔でこっちにピースをしているウマ娘がいた……あ。そうだ、だいぶ前にパピヨンが話していた、ファン感謝祭の……。

『へえ、よかったじゃないか。もしかしてパピヨンが走りとか見てあげたのか?』

パピヨン「いや?アタシがやったのは尻尾手入れの道具相談とか、入学試験の勉強とかそういうの?レースの相談は……されてないなぁ」

『えっ……あ、そうなのか』

パピヨン「んま、アタシも問題ないと思ってたし?というか、そろそろ約束の時間だから行ってくるね?」

そう言うと彼女はどこかに行こうとする、今日は練習休みだというのにジャージに着替えていたのは……もしかして。

『……ふふっ。そうか、じゃあ自分も行こうかな。キミが言う後輩がどんな子なのかも気になるしな』

パピヨン「うーわ、お兄さんキモっ……新入生に会えるとわかってすぐにニヤニヤして……だからアタシ以外の担当ウマ娘居ないんじゃないの?」

……それをキミに言われるとなんだかモヤモヤするな。

パピヨン「……あーあ、○○ちゃんにアタシのお兄さんがキモいのバレちゃうじゃん。○○ちゃんはアタシのことをカッコいい先輩だ〜って思ってくれてるのに」

『キミなぁ……』


376: ◆b0/EDFEyC136 2024/11/03(日) 00:01:30.70 ID:2/VoYCQc0
――――――――――――――――

――――――――

――――

――

後輩ウマ娘「――は、初めましてパピヨンさんのトレーナーさん!わ、私○○って言います!ま、前のファン感謝祭でパピヨンさんと連絡先を交換しまして、その……!あの!」

練習用コースに向かうとパピヨンが見せてくれた写真の彼女がいた。パピヨンと同じくらいの背丈で……いや、少しだけ○〇さんの方が大きいか?

『初めまして○○さん。パピヨンからキミのことは訊いているよ……だから一旦落ち着いて」

ガチガチに緊張している彼女に優しく声をかける。「は、はい!」と大きな返事をして、大きな深呼吸をする。

後輩ウマ娘「ぱ、パピヨンさんの走りをテレビで見てから、パピヨンさんの走りにずっと憧れていて……それで私、トレセン学園にまで来てしまって……!」

『……へえ、それは凄いな。トレセン学園に入学だなんて、それは凄い頑張ったんだろう?』

やはりまだどこか落ち着いていない彼女。その体をじーっと見る……なるほど、確かに入学したてのウマ娘としては中々に鍛えられていた、特にトモの筋肉は初めて会った時のパピヨンのそれを髣髴とさせるような……。

パピヨン「うわ、○○ちゃんを舐めまわすように見てる……○○ちゃん、こういう時はちゃんとキモいって言ってあげないとダメだよ?そうしないとお兄さん犯罪者になっちゃうから」

『いやいや、自分はだな……』

後輩ウマ娘「き、キモいです!パピヨンさんのトレーナーさん!!!」

『えっ』

――パピヨンがにやにやと笑ってみている。まさか何か吹き込んだのか……?

パピヨン「は〜、可愛いなぁ○○ちゃん。後で一緒に駅前のパフェ食べに行こうね、お兄さんのお金で」

あ、違うな。ただ初めてできた後輩が可愛くて仕方ないんだ。それで後輩を甘やかすもんだし、自分のことも色々と言っているだろうから……はぁ。

……まあ、○○さんなら問題ないだろう。良い子だろうし。

後輩ウマ娘「ご、ごめんなさい!と、トレーナーさんを犯罪者にはしたくなくて……!』


377: ◆b0/EDFEyC136 2024/11/03(日) 00:02:30.59 ID:2/VoYCQc0

後輩ウマ娘「――――わ、私パピヨンさんに言われて楽しく走れるようになったんです。勝った時はもちろん、負けた時も……も、もちろん負けたら悔しいですけど!どうすればもっと早く走れるのかとか、色々と考えられるようになって……ウジウジすることが少なくなったと言いますか」

――負けが続いて、走ることが楽しくなくなった……けどそんなときにパピヨンの走りを見て、それが彼女の希望になった。

パピヨン「……えへへ、やっぱり恥ずかしいな正面から言われると」

後輩ウマ娘「パピヨンさんがいなかったら、きっとアタシは……今この場に居ませんでしたから」

きらきらと輝くその瞳で、真っ直ぐとパピヨンを見つめる――きっと昔のパピヨンならここで変に茶化したり、煽ったりするのだろうけど……今のパピヨンは違った。

その好意をきちんと受け止めて、返してあげられる。優しい後輩想いなウマ娘だった。

後輩ウマ娘「――で、その、お願いなんですけど……ぱ、パピヨンさん!わ、私と……走ってくれませんか!」

パピヨン「――――えっ」

後輩ウマ娘「トレセン学園に入学出来たら……さ、最初はパピヨンさんと走りたいなって!ずっと思っていまして……だ、ダメです、か?」

申し訳なさそうな表情の彼女を見て、自分はパピヨンをちらりと見る。驚いたような表情、そして――すぐにその表情はスプリンターとしてのものになって。

パピヨン「――いいよ、コースは?」

後輩ウマ娘「あ、ありがとうございます!コースは……ダートの1,200m左回りで、お願いします!」

パピヨン「!」

――――ダート1,200m左回り。それは、彼女があの世界で一着となったレースの……。

パピヨン「ぷっ……ぷはははは!え、○○ちゃんさぁ……言うじゃん。でもアタシ、○○ちゃんボコボコにしたくないしなぁ」

後輩ウマ娘「わ、私を。ただのウマ娘だと思うと……い、痛い目見ますよ!」

パピヨン「――――へぇ。成長したね」

そして、二人のダートスプリンターは……コースに向かって歩いていき……さて、自分は計測係をしなくてはな。


378: ◆b0/EDFEyC136 2024/11/03(日) 00:02:57.49 ID:2/VoYCQc0

――――レースの結果は当然のようにパピヨンの圧勝だった。短距離レースの着差とは思えないほどの――圧勝。

パピヨンの走りは何も変わらない、ただただ全力で先頭を走る――それだけだった。それだけが作戦なのだ。

後輩ウマ娘「はっ……はっ、はぁ……!っ……!」

膝に手を置いて、必死に息を整えている彼女に対して。パピヨンは……。

パピヨン「――っ。はぁ、はぁ……!うぷっ……お、お兄さん!お兄さんドリンク!二人分ね!」

――地面に横になっていた。スタミナを全て使い切ったんだろう、もう立つのも暫くは難しいだろう。○○さんの分も含めて二つドリンクを持っていく。

『……お疲れ様パピヨン。○○さんも良い走りだったよ』

後輩ウマ娘「はぁ、はぁ……!あ、ありがとう、ございます……!」

パピヨン「ん、ありがとー……おぇ」

きっとこれもパピヨンなりのファンサービスだったのだろうか……いや、違う。

シルヴァーパピヨンは誰が相手でも自分の全力を出す、スタミナ全てを使い切って1,200m先のゴールまで駆ける――なぜならそれが一番、楽しいのだから。

パピヨン「ねえ、○○ちゃん――今日はアタシがボコボコにしちゃったけどさぁ……待ってるね」

後輩ウマ娘「へ……?」

パピヨン「○○ちゃんが正式なレースに出て、ダートのG1とかに出場出来たらその時は――アタシがそこでまた戦ってあげる。それってきっと……めっちゃくちゃに楽しいよね!」

後輩ウマ娘「!」

パピヨン「――ぷはは、アタシはまだまだ現役だからね。衰えなんて、感じさせないから」

後輩ウマ娘「は――はい!私、私……!すぐにそこまでたどり着きますから!それで、私はパピヨンさんに教えてもらった……楽しい走りで!貴女と走るために!!!」


379: ◆b0/EDFEyC136 2024/11/03(日) 00:03:39.61 ID:2/VoYCQc0



――――シルヴァーパピヨンの走りに焼かれたウマ娘は多い。華麗に舞う蝶の美しさに魅了されて近づいたウマ娘は、目に見えない灼熱の炎に燃やし尽くされてしまうのだ。



全身全霊、完全燃焼、全力投球。



あるいはそれを運命と呼ぶのかもしれない。パピヨンとともに走ったライバルたちもまた、そんな灼熱の炎に焼かれた者ばかりだった。



彼女は駆ける。"楽しい"気持ちを忘れずに、"魔王"か"砂上の銀の蝶"とか大層な肩書も身に着けて、どんな期待も約束もプレッシャーも抱えて――――ただただ、その一瞬に命を懸けて。



だから彼女は――どこまでも人々を魅了した。何もかもを燃やし尽くす、その銀色の炎で。



――人々の頭のフィルムに、その激動のレースを焼き付けて。




380: ◆b0/EDFEyC136 2024/11/03(日) 00:04:23.47 ID:2/VoYCQc0





パピヨン「――――期待してるね、ずっとずっとアタシは――前で待ってるから!」





381: ◆b0/EDFEyC136 2024/11/03(日) 00:06:45.19 ID:2/VoYCQc0
お疲れ様でした、これにてシルヴァーパピヨン育成完了となります。

とても長い間付き合ってくださった皆さん、本当の本当にありがとうございました。

しっかりと書くことが出来て、とても満足しています!

386: ◆b0/EDFEyC136 2024/11/03(日) 19:03:25.12 ID:2/VoYCQc0
シルヴァーパピヨンの競争成績

メイクデビュー 1着
Pre-OP_プラタナス賞 1着
G1_全日本ジュニア優駿 2着
G3_ユニコーンステークス 5着
G3_エルムステークス 1着
G2_東京盃 2着
G3_カペラステークス 1着
G1_ドバイゴールデンシャヒーン 1着
G3_エルムステークス 1着
G1_チャンピオンズカップ 2着

通算成績:10戦6勝


引用元: 【安価コンマ】オリウマ娘と共に Part2