すみれ「……で、引き受けたのは良いけれど、なんであんたもいるのよ」

かのん「本来なら生徒会がやることだったんだけど、きな子ちゃんはちょっと指を怪我しちゃってて、恋ちゃんはきな子ちゃんがペンを持てない分代わりにお仕事を引き受けてくれてるから、私が手伝いに来たの」

すみれ「そ。まぁ、脚引っ張んないでよ」

かのん「大丈夫大丈夫、私書道とかそれなりに出来るから」

すみれ「そう……で、えーと、垂れ幕にはなんて書けばいいのよ」

かのん「うん、恋ちゃんからメモを預かってたんだ。
えーとね。『祝！　コーラス部全国高校合唱コンクール出場』って書くんだって」

すみれ「長いわね……」

かのん「長いよねー……だから２人で書くんだと思うけど」

かのん「あ！　そうだ！」

すみれ「な、なによ、急に大声だして……」

かのん「私とすみれちゃんで1文字ずつ交互に書こうよ！」

すみれ「交互に！？　そんなことしたら文字の統一感がなくなるったらなくなるのよ！」

かのん「大丈夫大丈夫、そこはなんとかなるって」

すみれ「ホントに大丈夫なの……？　うちの部のならいざ知らず、他の部活のための垂れ幕なのよ？」

かのん「へーきへーき、じゃあ、まず私から書いてくね。
まずは『祝』から！」

かのん「～♪」

サラサラ、サッサッサッ

すみれ「……案外上手いじゃない、かのんって筆も綺麗に扱えるのね」

かのん「まぁね。こういうのは作曲と同じだよ、どこに音符を置くのとか、そういうのをイメージしてれば、汚くならないし、字さえ間違えなかったら──」

かのん「字゛ぃ゛間゛違゛え゛た゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛！゛！゛！゛」

すみれ「何やってるったらやってるのよぉぉぉ！！！！！」

かのん「ど、どうしよどうしよすみれちゃん！　これどうしよう！　垂れ幕1枚しかないから失敗したら後がないとこなのに！」

すみれ「最初から言いなさいよそれ！　よりにもよってなーんで1文字目で間違えるのよ！　『祝』って字書き間違えることある！？　何考えてんのよアンタは！」

かのん「だって仕方ないじゃん！　神社の娘が近くにいたら嫌でも『神』って字が頭によぎるじゃん！」

すみれ「なわけないでしょうが！　そもそも人のせいにするんじゃないわよったらないわよ！」

かのん「痛い痛い痛い痛い！　関節キメないで！　女の子の大事なとこ外れちゃうから！！！」

────

すみれ「ぜーっ、はーっ……で、結局どうすんのよこれ」

かのん「んー……取り敢えず、コーラス部が凄いってことを伝えられればいいわけだから……」

すみれ「まぁ、文面的にはそういうことよね？　なら、まだ軌道修正も効くのかしら……」

かのん「やってみるよ」

サッサッサッ

『神！』

すみれ「神……まぁ、うん、高校生的にはありっちゃありよね……よく神ってる、とか言うものね」

かのん「うんうん、むしろ『祝！』より凄く褒めてる感あって良いんじゃないかな？　いやー、こういう咄嗟のアドリブ力でものを改良出来るのも、ね？　ほら」

すみれ「何がほら、よ。まったく……まぁいいわ、次は私ね。
って言っても、1文字目ずつで交互は面倒だし、先に何文字分か書いちゃうわよ」

かのん「よろしくー」

すみれ「えーと、私が書くのは……コーラス部、から1文字ずつで……『コ』『ラ』『部』ね、と」

サッサッサッ

『神！コラ部』

すみれ「あっ……や、やっちゃった！　やっちゃったらやっちゃったぁぁぁ！！！」

かのん「バカぁぁぁぁぁ！！！」

かのん「なーんで続けて書いちゃうかなぁ！　字は綺麗だけど！　字は綺麗だけど間が空いてないんだよ！　そしてなんなの『コラ部』って！　コラージュ！？　コラ画像作って世に出す部活！？　そんな週刊雑誌の記者みたいな真似するような悪質な部活が神呼ばわりされてるの！？　スクールアイドル部の天敵みたいな部活じゃん！　スクールアイドル部は悪魔なの！？」

すみれ「うるさいったらうるさいのよ！　そもそもいきなりアンタが1文字ずつ書こうなんて言い出すから！　っていうかさっきみたいになんとかリカバリーすればいいじゃないのよ！」

かのん「リカバリー、って言ったって、流石に……間に無理にねじ込んでも文字が小さくなるし……」

すみれ「……流石に、やっぱりこれは無理かしら？」

かのん「んーっ……あ、でも、ここをこうしたら……こうやって、こう書き直せば……！」

すみれ「な、なんとかなったの！？」

かのん「うん！」

『神！田名部さん絶賛コーラス部』

すみれ「……田名部さん？」

かのん「……田名部さん」

すみれ「誰ったら誰なのよ！　田名部さんって！」

かのん「田名部さんは田名部さんだよ！　コーラス部に感動して、コーラス部を褒め称えてるのが田名部さんなの！」

すみれ「でもこれじゃ田名部さんが日頃から神って言われてるみたいじゃない！　どう考えても無理ったら無理よこんなの！」

かのん「田名部さんは凄いカリスマ性があってスクールアイドル部より人気なんだよ！　だから神って言われてるの！　人望がある子なんだよ！　だから神の田名部さんが絶賛するコーラス部は凄いってことだよ！」

すみれ「もうなんなのよ田名部さんって……！」

かのん「けど、弱ったなぁ……結構文字数使っちゃった」

すみれ「残りは『全国高校合唱コンクール出場』よね……かなりの数よ」

かのん「うわぁぁぁ長い！　もう全部は収まんないよ！」

すみれ「なら、残った量でやりくりして……そうだ、大会の名前を省略しちゃえばいいのよ。
女子高生なんて何でもかんでも略語にするじゃない、これでいいのよ」

かのん「すみれちゃんの中の女子高生ってどうなってんの……？」

すみれ「えーと……『全国高校合唱コンクール』を略して……」

『全高合コン出場』

かのん「……」

すみれ「……」

かのん「すみれちゃん」

すみれ「はい」

かのん「『全高合コン』って、なに？」

すみれ「……全国高校合唱コンクール」

かのん「なわけないでしょぉぉぉ！？　どう見ても変な合コンだよ！　やらしい雰囲気出ちゃってるよ！　すみれちゃんのそのバカみたいにデカいお尻と太ももみたいにやらしい感じだよ！　なんで合コンに出る人応援するの！？　しかも『全高』ってなに！？　色んな『高』とか持ってる人が集まる合コンなの！？　そんなにに出れるなんてそりゃ凄いよコーラス部！　神の田名部さんも絶賛するよ！」

すみれ「さらっと人の下半身をバカにするんじゃないわよ！　はい！　次あんたの番よ！」

かのん「え、まだ書くの！？　もう終わって……」

すみれ「頑張って略し過ぎたら余っちゃったのよ……」

かのん「何やってんの！？　もうないよ！　書くものないよ！」

すみれ「あんたならなんか書けるでしょ！　頑張んなさいよ副会長！」

かのん「もーっ、仕方ないなぁ……！」

────

『神！田名部さん絶賛コーラス部全高合コン出場♡　たなべさん→𓅓✌「おめでとう」』

かのん「……」

すみれ「……」

理事長「……よく書けましたね」

恋「が、頑張りましたね、お二人とも……」

理事長「葉月さん、ちょっと理事長室へ」

恋「え！？」

かのん「……恋ちゃん、ごめんなさい」

すみれ「まったく……流石に今回はあんたのせいよ、かのん」

かのん「なっ、すみれちゃんだって……」

すみれ・かのん「ふんっ！」



きな子「このあと、可可先輩と夏美ちゃんがなんとか頑張って垂れ幕を用意して、恋先輩が文字を書いたことで事なきを得たっすが、2人はお詫びで生徒会の仕事に忙殺される日々をおくることになったっす」

かのん「もう字を書くのは懲り懲りだよ～！」

おしまい