1: 名無しで叶える物語◆tFLfI1DC★ 2024/11/08(金) 19:00:01 ID:???00
千砂都「──はい、そこまで! 各自10分休憩! ちゃんと水分補給して、身体を休めてねー!」

マルガレーテ「はぁ、はぁ……」ヘタリ

冬毬(休憩の号令とともに、マルガレーテがその場に座り込み、息を整えています)

冬毬(いつもの練習風景。そのはずです。私の視線がマルガレーテに注がれているのも、最近では日常となっています)

冬毬「マルガレーテ。これを」サッ

マルガレーテ「これは……栄養ドリンク? さすが冬毬、気がきくわね」

冬毬「これくらい、当然のことです」

マルガレーテ「ふふっ……ありがと、冬毬」ニコッ

冬毬「……!」ドキッ

マルガレーテ「……冬毬? どうしたのよ、いきなり動かなくなって……」

冬毬「……いえ、問題ありません。マルガレーテも、休憩時間を効率的に過ごしてください」

マルガレーテ「? えぇ、そうするわ」

冬毬「……」スタスタ

冬毬(……最近、理解できないことが起こります。私の意思とは無関係に、身体がマルガレーテの方へと勝手に動くのです)

冬毬(それに、栄養ドリンクを手渡したときに感じた心臓の鼓動も不可解です。突然、心拍数が上昇していました)

冬毬(…………この現象は、一体……)

2: 名無しで叶える物語◆l8YabCFH★ 2024/11/08(金) 19:00:42 ID:???00
期待

3: 名無しで叶える物語◆tFLfI1DC★ 2024/11/08(金) 19:01:01 ID:???00
────

冬毬「姉者。相談したいことがあるのですが」

夏美「相談? 冬毬がですの?」

冬毬「はい。姉者にしか話せないことかと思いまして」

夏美「あ、あの冬毬が、私に相談……こ、これはとんでもないことですの!?」ガタッ

冬毬「姉者?」

4: 名無しで叶える物語◆tFLfI1DC★ 2024/11/08(金) 19:02:01 ID:???00
夏美「その……冬毬にできないことを、お姉ちゃんに解決できるかはわかりませんの……だから相談されても、答えられるかは自信が……」

冬毬「! ……いえ、姉者。姉者ならきっと、私に有用なアドバイスをしていただけると確信しています」

冬毬(いつだって姉者は、前を走っていて……私はその背中をずっと見つめていました。今回だって、姉者にならきっと)

夏美「冬毬……」

夏美「……わかりましたの。それなら、お話聞かせてほしいですの」

冬毬「はい。実は……」

5: 名無しで叶える物語◆tFLfI1DC★ 2024/11/08(金) 19:03:01 ID:???00
冬毬「マルガレーテから、目が離せないんです」

夏美「……?? マルガレーテから?」

冬毬「そうです。気づけば、私の視線はマルガレーテに注がれています。一度や二度のことではありません」

冬毬「他にも、マルガレーテのために何かしてあげたいと感じ、勝手に体が動いてしまったり、笑顔を向けられると心拍数が急激に上昇したり……」

冬毬「こんなことは、マルガレーテに会うまで経験したことがありません。そのため、この現象を解決するためのエビデンスが私には不足しています」

6: 名無しで叶える物語◆tFLfI1DC★ 2024/11/08(金) 19:04:01 ID:???00
冬毬「私は何か、深刻な病気なのでしょうか? 姉者になら、わかりますか?」

夏美「……」

冬毬「……姉者?」

夏美「冬毬……私はわかりましたの。その感情……」

夏美「──それはずばり、“恋”ですの!」

7: 名無しで叶える物語◆tFLfI1DC★ 2024/11/08(金) 19:05:01 ID:???00
冬毬「……? “恋”、ですか……?」

冬毬(意味は、わかります。ですが、その単語が私自身に関係する日など、決して来ないと思っていました)

夏美「いやぁ、冬毬にもついに“春”が来るなんて……! お姉ちゃんはもちろん、応援しますの!」

冬毬「“春”……」

冬毬(“春”……四季の一種。ですがきっと、姉者が言っているのはそんな辞書に載っているような意味ではないのでしょう)

冬毬(マルガレーテのために何かをしてあげたい、というこの感情が、姉者の言う“恋”で、“春”が来たと……?)

冬毬(……そんなもの、曖昧で不鮮明な表現です。私には理解できません)

8: 名無しで叶える物語◆tFLfI1DC★ 2024/11/08(金) 19:06:01 ID:???00
冬毬(……ですが、もし……)

冬毬「……あれ」ピタッ

夏美「? どうしましたの、冬毬?」

冬毬「姉者は今、冬毬に“も”と仰いましたよね。もしや……」

夏美「!!!」

9: 名無しで叶える物語◆tFLfI1DC★ 2024/11/08(金) 19:07:01 ID:???00
冬毬「……姉者」ジー

夏美「な……何のことだか、さっぱりわかりませんの~!」アワアワ

冬毬「……」

冬毬(……この様子、姉者を誑かす不届者がいる可能性がありますね)

冬毬(それならば、優先順位を変更しなくてはなりません。見定めさせていただきますよ、姉者)

10: 名無しで叶える物語◆tFLfI1DC★ 2024/11/08(金) 19:08:01 ID:???00
────

夏美「疲れましたの~、やっぱりLiella!の練習は鬼ハードですの……」

冬毬「……」ジー

冬毬(可能性としてはやはり、グループ内に交際相手がいる確率が高い。よって、練習中および練習後に姉者に親しく話しかける人物を見つけるのが最適です)

冬毬(果たしてその人物は一体……)ジー

「──夏美ちゃん、ちょっといいっすか?」

夏美「あ……きな子、どうしましたの?」

きな子「えへへ、実はきな子、夏美ちゃんのために、はちみつレモンを作ってきたんす!」ニコッ

冬毬「……!」

11: 名無しで叶える物語◆tFLfI1DC★ 2024/11/08(金) 19:09:01 ID:???00
夏美「なんとはちみつレモンだなんて、練習後の今にピッタリですの! 美味しくいただきますの~、ありがとうきな子!」ニコッ

きな子「喜んでもらえて嬉しいっす! ……あ! そうだ、夏美ちゃん」

きな子「きな子、夏美ちゃんが好きそうなスムージー屋さんを原宿で見つけたんすけど、放課後一緒に行くのはどうっすか?」

夏美「スムージー屋さん!? もし動画で紹介して、バズればマニーが……もちろん行きますの!」

冬毬「……」ジー

冬毬(きな子先輩は、“姉者のために”と言っていましたね……)

冬毬(……もしかして)

12: 名無しで叶える物語◆tFLfI1DC★ 2024/11/08(金) 19:10:01 ID:???00
────

冬毬「今お時間、よろしいですか? ──きな子先輩」

きな子「あれ、冬毬ちゃん? 時間なら、きな子は大丈夫っすよ!」

冬毬「……でしたら一つ、質問があるのですが」

きな子「質問っすか……? きな子に答えられるものなら、何でもOKっす! これでもきな子、先輩っすから!」ドヤッ

冬毬「では、遠慮なく」コホン

冬毬「きな子先輩は、姉者と交際関係にあるのですか?」

きな子「!?!?」

13: 名無しで叶える物語◆tFLfI1DC★ 2024/11/08(金) 19:11:01 ID:???00
きな子「な、な、な、なんでそれを……」アワアワ

冬毬「……私と似たようなことを仰っていたので。それより、きな子先輩の反応からして事実であることは確かなようですね」

きな子「う……そう、っす。夏美ちゃんとは、少し前から恋人同士の関係になっていて……」

冬毬「恋人……」フム

冬毬「では、姉者との交際を認めるということで間違いありませんか?」

きな子「は、はいっす……」

14: 名無しで叶える物語◆tFLfI1DC★ 2024/11/08(金) 19:12:01 ID:???00
冬毬「……」

きな子「……あの、きな子みたいな田舎者に夏美ちゃんはやらん! ……みたいなことを、きな子はこれから言われたりするんすか……?」

冬毬「……いえ。私から見て、きな子先輩が姉者に相応しくないと判断できるエビデンスは、ありません」

冬毬(姉者が入学式の日に撮影していた動画のときから……私はきな子先輩を見ているので)

冬毬(……それに)

冬毬「……もう一つだけ、質問を加えてもよろしいでしょうか」

きな子「? 別にそれくらい、いいっすけど……?」

15: 名無しで叶える物語◆tFLfI1DC★ 2024/11/08(金) 19:13:01 ID:???00
冬毬「きな子先輩は──姉者の笑顔が、好きですか?」

きな子「! そんなの、もちろんっす!」ガタッ

きな子「きな子は、夏美ちゃんを笑顔にするためなら何でもしてあげたいって思うんす! だってきな子は、夏美ちゃんのことが大好きっすから!」ニコッ

冬毬「……わかりました」

冬毬(その回答が得られた時点で、私は何も言うことはありませんね)

冬毬(……さて、姉者の交際相手が不届者ではないと確認できた以上、最初の議題に立ち返る必要があります)

冬毬(“恋”……私が抱いている感情も、きな子先輩と同じなのでしょうか)

16: 名無しで叶える物語◆tFLfI1DC★ 2024/11/08(金) 19:14:01 ID:???00
冬毬(仮にそうだとしても、どうやって確かめればいいのか……)

冬毬「……」ウーン

きな子「あ! ……そういうことっすか」フンフン

きな子「冬毬ちゃん! きな子、少しお話ししてもいいっすか? 冬毬ちゃんに伝えたいことがあるっす!」

冬毬「? ええ、構いませんが……」

きな子「ふふっ、ありがとうっす!」ニコッ

17: 名無しで叶える物語◆tFLfI1DC★ 2024/11/08(金) 19:15:01 ID:???00
きな子「……実はきな子、夏美ちゃんのことを最初に見たときから、ずっと夏美ちゃんに憧れてたんす」

冬毬「憧れ……ですか」

きな子「そうっす! でも、一緒に過ごしていくうちに段々と、夏美ちゃんから目が離せなくなって」

きな子「夏美ちゃんが喜ぶ顔を見たいから、いつも近くで寄り添えるようにしたり、夏美ちゃんの好きなものを調べたり……」

きな子「そのうちに、一緒にいるだけでドキドキするようになって、夏美ちゃんにもっと、もっと何かしてあげたい、って思うようになったっす!」

冬毬「何かをしてあげたい……」

きな子「そして、その気持ちがきっと──“恋する”ってことなんだと気づいたっす」ニコッ

冬毬「……! “恋”……」

18: 名無しで叶える物語◆tFLfI1DC★ 2024/11/08(金) 19:16:01 ID:???00
きな子「きな子はその気持ちを……隠さないで夏美ちゃんに伝えたから、夏美ちゃんの恋人になれた」

きな子「だから、きな子も気持ちはわかるっす。──冬毬ちゃんの“恋”、きな子も応援してるっすから!」グッ

冬毬「! ……私は一言も、自分が恋をしているなどと話した覚えはありませんが」

きな子「ふふっ、そうだったっすか? だって冬毬ちゃん、きな子と似ているみたいっすから」クスッ

きな子「これはきな子からの勝手なアドバイスっすけど……とにかく、一歩踏み出してみるのがいいと思うっす!」

冬毬「そう、ですか……」

19: 名無しで叶える物語◆G1uI5AbW★ 2024/11/08(金) 19:16:03 ID:???Sd
とても期待

20: 名無しで叶える物語◆tFLfI1DC★ 2024/11/08(金) 19:17:01 ID:???00
────

冬毬(姉者と交際関係にあるきな子先輩が、姉者のために、という行動原理から動いていたことを踏まえると……)

冬毬(“恋”は、誰かのことを思いその人のために何かをしてあげたいと感じる感情である──とディファインされます)

冬毬(これはきな子先輩の仰った“恋”についての発言も踏まえた、合理的かつ正確な回答であり、私が導き出した正答です)

冬毬(ですが、これでは……)

冬毬「……私からマルガレーテへの気持ちにも、当てはまってしまいますね」

21: 名無しで叶える物語◆tFLfI1DC★ 2024/11/08(金) 19:18:01 ID:???00
冬毬(ではやはり、姉者の言葉は正しかったのでしょうか。私がマルガレーテに“恋”をしていて、“春”が来ていると……)

冬毬「……」

冬毬(きな子先輩が言っていた、自分と似ている、というのも確かに、そうなのかもしれません)

冬毬(……やはりアドバイスの通り、一歩踏み出すのが、現状における最適解だと推測されます)

冬毬「…………マルガレーテに、私が……」

冬毬「…………」

22: 名無しで叶える物語◆tFLfI1DC★ 2024/11/08(金) 19:19:01 ID:???00
────

マルガレーテ「──どうしたの、冬毬? いきなりこんなところに呼んで……」

冬毬「……マルガレーテ」

冬毬(翌日、私はマルガレーテを屋上に呼び出しました)

冬毬「少し……お話があるのですが」

マルガレーテ「話? それって何よ?」

冬毬「それは……」

23: 名無しで叶える物語◆tFLfI1DC★ 2024/11/08(金) 19:20:01 ID:???00
冬毬「……」ドキドキ

冬毬(心拍数の上昇……頬の温度も上がっていることが、体感で把握できます)

冬毬(その方が良いと判断したからこそ、自分からマルガレーテを呼び出したというのに……私の思考はいつにもなく落ち着いてくれません)

冬毬(……今ならまだ、何でもありません、と踵を返すこともできる)

冬毬(……ですが)


冬毬「マルガレーテ。私は──」

冬毬(一歩踏み出す。ただ、それだけでいい)



冬毬「──マルガレーテに、“恋”をしてしまいました」

24: 名無しで叶える物語◆tFLfI1DC★ 2024/11/08(金) 19:21:01 ID:???00
マルガレーテ「……え」

冬毬「……//」

冬毬(言い終えてから暫くの間、私はマルガレーテの顔を見ることができません)

冬毬(……見ようとしても、心音がうるさく鳴り響くのです)

冬毬「……要件はそれだけなので。では……」スタッ

マルガレーテ「! 待って、冬毬!」ギュッ

25: 名無しで叶える物語◆tFLfI1DC★ 2024/11/08(金) 19:22:01 ID:???00
冬毬「マルガレーテ……」

マルガレーテ「全く、言いたいことだけ言って逃げるなんて許さないわよ」

マルガレーテ「……冬毬」

冬毬「……っ」ドキドキ

冬毬(途端にこの場から逃げ出したい、という衝動に駆られます)

冬毬(……突然こんなことを言って、マルガレーテはどう思うのでしょうか。私は、マルガレーテに嫌われたくない……)

冬毬(自分のことながら……そんな感情の存在に、今の今まで気づいていなかったと、漸く理解しました)

マルガレーテ「はぁ……最近、やたらと冬毬がこっちを見つめてきていたのは、そういうことだったのね」クスッ

26: 名無しで叶える物語◆tFLfI1DC★ 2024/11/08(金) 19:23:00 ID:???00
冬毬「……気に障っていたのなら、謝罪します。もしや配慮に欠けていましたか?」

マルガレーテ「いいえ、そういうことじゃないわ」

マルガレーテ「……告白、先を越されちゃうなんてね」ボソッ

冬毬「……マルガレーテ?」

マルガレーテ「あぁ、もう……本当は私の方から言い出したかったのよ!」

冬毬「? 仰る言葉の意味が……」

マルガレーテ「ふふっ、冬毬ってば、本当に気づいていなかったのね?」

マルガレーテ「私も──冬毬が好きだってこと」クスッ

冬毬「……!?!?」

27: 名無しで叶える物語◆tFLfI1DC★ 2024/11/08(金) 19:24:00 ID:???00
冬毬「そ、そんなはずは……」

冬毬(マルガレーテも私を? 何故、という理性的な疑問と、嬉しい、という感情的な実感が同時に湧いてきます)

冬毬「……私がマルガレーテに好かれる理由なんて、皆目見当もつきませんので」

マルガレーテ「あなたがそれを言うの? 私の方こそ、冬毬に好かれているなんて、思いもしなかったのに……まぁ良いわ」クスッ

28: 名無しで叶える物語◆tFLfI1DC★ 2024/11/08(金) 19:25:00 ID:???00
マルガレーテ「……もちろん、最初は、なんなのこの子って思ったわよ。いきなり現れて、入部しようとする同級生なんて、不思議で仕方なかったし」

マルガレーテ「でも、冬毬は思っていたよりもずっと素直で……面白い子だった」クスッ

冬毬「……面白い、と判断される程、ウィットに富んだ発言はしていないと思いますが?」

マルガレーテ「ふふっ、そういうことを言ってるわけじゃないの。全く、そういうところが冬毬らしいのよ」

29: 名無しで叶える物語◆tFLfI1DC★ 2024/11/08(金) 19:26:00 ID:???00
マルガレーテ「一緒にスクールアイドルとして活動して……この子のこと、もっと見ていたい、って素直に思えたの」

冬毬「そう、だったのですか」

冬毬「……ですが、まだ信じられません。マルガレーテが、私に合わせているだけでは……」

マルガレーテ「疑い深いのね、冬毬は。あのね、わかってる?」

マルガレーテ「冬毬が私を見つめてるのを、私が知っているってことは──私からも見てる、ってことよ」クスッ

冬毬「……!」

30: 名無しで叶える物語◆tFLfI1DC★ 2024/11/08(金) 19:27:00 ID:???00
冬毬「では、本当に……」

マルガレーテ「ええ。両思いだってこともわかったし、晴れて私たち、これからは恋人同士ってわけね」フフッ

冬毬「……恋人、ですか」

冬毬(私とマルガレーテが恋人……そう実感すると、何故だか不思議な感情が去来します)

冬毬(……姉者の仰った、“春”が来た、とはこのことを意味していたのでしょう)

31: 名無しで叶える物語◆tFLfI1DC★ 2024/11/08(金) 19:28:00 ID:???00
冬毬(まさか私にも……“恋”が理解できるなんて)

冬毬「マルガレーテ。これからも……私の隣にいてくれますか?」

マルガレーテ「ふふっ、そんなの当然でしょ? 私だって、冬毬から離れるつもりなんてないんだから」ニコッ

冬毬「! ……はい。今後とも、恋人として、よろしくお願いします」


おしまい

引用元: 【SS】冬毬「蝶に恋する春の季節」