1: 名無しで叶える物語◆q6VWlTdG★ 2024/12/03(火) 19:29:40 ID:???00
吟子「あ、梢先輩。それにさやか先輩も。お二人も花帆先輩に呼ばれて?」

梢「ええ。慈との配信を部室で見るように言われてね」

さやか「わたしたちに何か共通項でもあるんでしょうか」

吟子「う~ん、すぐには思いつきませんね。あ、配信開始時刻ですよ」

梢「それじゃあ早速見ましょうか。ぽち。あら? ぽち。今晩の機械さんはご機嫌斜めなのかしら」

さやか「埒が明かないのでわたしのを使いますね。開始っと」ポチッ

慈『はろめぐ~』

花帆『はろかほ~』

梢「ン……至って普通の配信に見えるわね」

さやか「ですね。軽快で弾むようなリズム感ある配信スタイル。お二人らしい配信です」

吟子「でも、特にこれと言って私たちに見せる理由がないような。いつもの配信に見えます」

2: 名無しで叶える物語◆q6VWlTdG★ 2024/12/03(火) 19:30:12 ID:???00
慈『それで花帆ちゃん。今日は何か企画を持って来てるんだよね?』

花帆『はい! えへへ。今日はそのために配信を点けたんです』

慈『ほらほら、勿体ぶらずに言っちゃいなよ! 今はタイパの時代なんだからさ!』

花帆『ですね! 今回あたしの持ってきた企画は──』

花帆『一週間キス予告ドッキリです!』

梢「一週間……」

さやか「キス予告……」

吟子「ドッキリ……?」

3: 名無しで叶える物語◆q6VWlTdG★ 2024/12/03(火) 19:30:58 ID:???00
慈『ほうほう、キス予告ドッキリとな! それはまたなんとも……え? 聞き間違い?』

花帆『お耳さんは至って正常ですよ!』

慈『お、おう。えと、あのさ、これってほーそーりんりきこー的なのに定食? してないよね?(小声)』

花帆『え? 当たり前じゃないですか。キスですよ? キス。口付けとか、接吻とかのアレです』

慈『ん、んん、そ、そっかぁ、そっかぁ……』

花帆『? 友達同士のキスなんて普通ですよ?』

慈『……キミ、なんちゅー世界に生きてんだ』

花帆『そう言ってましたし』

慈『誰が!?』

花帆『あたしの親友ですけど』

慈『ず、ずいぶん性におおらかな親友……淫らな友達、淫友なんだね……』

花帆『え? せっちゃんってあたし言いましたっけ?』

慈『せっちゃん?』

花帆『え?』

慈『え?』

花帆・慈『え?』

4: 名無しで叶える物語◆q6VWlTdG★ 2024/12/03(火) 19:31:44 ID:???00
吟子「え、えと、あの。私の耳がおかしくなければ、キスと、そう聞こえたんですが」

梢「……ええ。私もそう聞こえたわ。さやかさんは?」

さやか「残念ながら、わたしも」

吟子「じゃあ、これは現実ってこと、ですか……」

さやか「……」ツネリ

吟子「いたっ!? な、なんですか突然っ、人の頬を抓って!」

さやか「痛い、ということは夢ではないようですね」

5: 名無しで叶える物語◆q6VWlTdG★ 2024/12/03(火) 19:38:15 ID:???00
吟子「は、え? なんで自分の頬でやらないんですか?」

さやか「痛い思いをするのは後輩の担当じゃないですか」

梢「先輩に痛い思いをさせる気なの? 上下関係は昔からの伝統よ、吟子さん」

吟子「え……わ、私が間違ってるん……?」ビクビク

花帆『ではでは、本ドッキリの参加者──慈センパイ!』ササッ

慈『あいあい。これ読めばいいのね。えと、乙宗梢、村野さやか、百生吟子。今呼ばれたのが今回の参加者です』

慈『この配信終了後の翌日から一週間、花帆ちゃんが参加者の誰かにキスをします。一週間後、誰がキスされたのか当ててもらいます』

慈『要は、人狼ってわけね』

花帆『そういうことです! あたしにされちゃった人は上手に隠してね!』

6: 名無しで叶える物語◆q6VWlTdG★ 2024/12/03(火) 19:38:44 ID:???00
慈『ちなみに花帆ちゃん。一週間後の指摘で正解した人、キスの事実を隠しきった人には賞品とかあるの?』

花帆『はい! もちろんです!』

花帆『賞品は──親友のキスです!』

慈『親友の、キス?』

花帆『はいっ、とゆーことで参加者のみんな! がんばってね~。あっ、ネタバレに近い説明があるから、参加者はウィズミーツアフター見ちゃだめだよ!』

花帆『それじゃ、ばいかほ~』

慈『ばいめぐ~』

7: 名無しで叶える物語◆q6VWlTdG★ 2024/12/03(火) 19:39:19 ID:???00
吟子「……ぽちっ」

シン……

吟子「……」

梢「……」

さやか「……」

吟子「あの、なんとなく、ですが、今回のメンバーの共通項が分かった気がします」

梢「ええ……。きっと、約束通りアフターを見ない、それが実行できるメンバー、でしょうね」

さやか「他のメンバーだと確かに、好奇心に従って見ちゃいそう、ではありますね」

8: 名無しで叶える物語◆q6VWlTdG★ 2024/12/03(火) 19:39:47 ID:???00
梢「それにしても……花帆からの、キス……」ソッ…

さやか「親友の、キスとは……」

吟子「友達を越えた、親友の……」

梢・さやか・吟子「……」

吟子「あ、あの、一つ、提案があるんですけど」オズ…

梢「え、ええ、何かしら……?」

吟子「その、一週間以内にここにいる三人の内誰かがキス、されるわけですよね?」

さやか「配信が真なら、そうなりますね」

吟子「な、ならっ、ここの三人全員で結託してっ、キスされない状況を作るかっ、されそうになっても拒否することにしませんかっ!?」

吟子「そうすれば、くだらない企みも潰せますし、変にギクシャクすることもなくなるはずです──」

9: 名無しで叶える物語◆q6VWlTdG★ 2024/12/03(火) 19:40:17 ID:???00
吟子(……あれ? 待って。もし、もし仮に、この協定を二人が守って、私一人が密かに破れば……?)

吟子(フィジカルに優位のあるお二人なら、花帆先輩からのキスをきっと拒否できる。でも、私だけ警戒を緩めて……うぅん、むしろ、ちょっと隙を作ってあげれば……)

吟子(ターゲットが私じゃなくても、私を狙わざるを得なくなる──?)

梢「……あなた、抜け駆けする気?」ジロッ

吟子「はっ!」ビクッ

さやか「悪だくみが透けて見えますよ」

吟子「わ、悪だくみなんて、そんな……」

吟子(でも、一瞬心に生じたあの迷いは、葛藤は……)

梢「……けれど、そうね、吟子さん。あなたがそれを実践するのなら、私は止めない。存分に、思うがまま、身を任せるといいわよ」

吟子「……え?」

さやか「梢先輩の意見に賛成です。別に、花帆さんのキスが欲しいとか、あわよくば親友のキスが欲しいとか、親友の座は譲らないと気炎を吐いてるとか、そういうわけではありませんが」

吟子「……」

10: 名無しで叶える物語◆q6VWlTdG★ 2024/12/03(火) 19:40:45 ID:???00
梢「まあ、所詮一週間、一週間よ。過ぎてしまえばあっという間よね」

さやか「はい。もしかすれば、途中で花帆さんがドッキリの中止を進言するかもしれませんし」

梢「ええ。心安んじて、ことの趨勢を見守るのが最善ね」

さやか「ですね。それが良さそうです」

梢「ふふっ」

さやか「ふふふっ」

吟子「……」

吟子「前言、撤回、します……」ボソソッ

梢「……そう」

さやか「……撤回の撤回も認めますよ?」

吟子「……そのお言葉は、そっくりそのままお返しします」

さやか「……世間擦れしてきましたか」ボソッ

梢・さやか・吟子「……」

15: 名無しで叶える物語◆q6VWlTdG★ 2024/12/04(水) 23:03:09 ID:???00
さやか(そんな気はまるでなくとも、せざるを得ないという状況はあるはず)

さやか(無論、キスをされる状況なのは言うまでもありません)

さやか(例を挙げるのなら、そう、両手が塞がっていて、抵抗できない時とか)

さやか(具体的には、刃物を扱い、火を操る、調理中、とか──)

花帆「さ~や~かちゃんっ」ピョコッ

さやか「!」

さやか(来た……! 事前に花帆さんの行動経路を推測した甲斐があったというものです)

さやか(焦るな、きょどるな、冷静になれ、村野さやか。わたしは特段、キスに興味があるわけではありません)

さやか(けれど、花帆さんの親友の座。それを易々と明け渡せるほど、わたしの握力は弱くありません)

さやか(断じて、キスがしたいわけじゃあありません!)

16: 名無しで叶える物語◆q6VWlTdG★ 2024/12/04(水) 23:04:17 ID:???00
花帆「なに作ってるの?」ピョコピョコ

さやか「ザルツブルガーノッケルンです。オーストリアの郷土料理で、平たく言えばスフレのことです」

花帆「へぇ~。さすがさやかちゃん。色んな食べ物に詳しいね」

さやか「いえ、ラブライブ!スーパースター!!三期九話で初めて知ったんです。それで興味が高じて、と言った仕儀ですね」

花帆「ふ~ん?」ササッ

さやか(ラブライブ!スーパースター!!三期六話のマルガレーテみたいな足並みで接近してきました!)

さやか(お、落ち付け、心臓の鼓動。乱れるな、脳の思考。あくまで自然に、キスという結果を追い求めるんです)

さやか「ふふっ、慌てなくても花帆さんの分もありますよ」クスッ

花帆「え、いいの? やったー! さやかちゃんだ~いすきっ!」ダキッ

さやか(抱き着かれ──ここです!)

17: 名無しで叶える物語◆q6VWlTdG★ 2024/12/04(水) 23:04:51 ID:???00
さやか「もう、調理中ですよ。火を扱ってる人に手出しは厳禁です」メッ

さやか「ああ、道具で手は塞がっていますし、火の入り具合も逐一確認しなければいけません。これは何かされても一切抵抗できませんね」

さやか「本当にもう、なにも、なにも、な~んにもできません!」

さやか(よし、よしっ、自然に、尚且つ効果的に、自らの無防備さを説明できました!)

さやか(これならきっと、花帆さんもしたくなるはず……!)

さやか(キス……!!!)

花帆「あ、そうだよね。火傷とかしちゃったら大変だもんね。あたし、静かに待ってるね」ソソソ

さやか「……」

さやか「え?」

花帆「まだかなまだかな~♪」

18: 名無しで叶える物語◆q6VWlTdG★ 2024/12/04(水) 23:05:15 ID:???00
吟子「……」ジッ…

吟子(さやか先輩、それは悪手、失着の一手ですよ。花帆先輩は基本的にいい娘なんです。友人が怪我するかもしれない一手を打てるはずがありません)

吟子(初めから。そう、初めからです、さやか先輩)

吟子(詰んでいたんですよ、最初から……!)

吟子(けど、失敗こそ成功の母です)

吟子(悪く思わないでくださいね。この失敗、私の糧とさせていただきます……!)

19: 名無しで叶える物語◆q6VWlTdG★ 2024/12/04(水) 23:05:46 ID:???00
──
────

吟子(キス。それをされるには何が必要か。さやか先輩の作戦を抽象化すれば、無防備さ、それを重要視していた)

吟子(けど、調理中というアプローチが間違いだった。だから私は、そこを変える)

吟子(舞台は、部室。そして私が取る手とは──)

吟子「ああ、伝統の、息吹……」

吟子(大の字で床に寝そべり、この身全てで伝統を感じる姿勢……!)

吟子(瞼を閉じて、浅く呼吸を繰り返すこの体勢、見た目は睡眠を摂っているようにしか見えない……!)

吟子(そう、睡眠だ。睡眠こそ、考え得る限り最も無防備な格好……!)

花帆「こんにちはー!」ガチャ

吟子(来た……!)

花帆「ん?」チラッ

吟子(伝統、伝統だ、私……。これは伝統を感じているだけ。キスをされようと思ってるわけじゃあない)

吟子(何を恥ずかしがることがあろう。温故知新。古きを知り新しきを作る。そこに、羞恥の入り込む隙なんてあるわけがない……!)

吟子(さあ、花帆先輩! 来るなら来い、だよ! 私は無防備! キスをされても仕方がない! さあ、さあ!)

20: 名無しで叶える物語◆q6VWlTdG★ 2024/12/04(水) 23:06:10 ID:???00
花帆「あ、発作」

花帆「また出ちゃったんだ」

花帆「誰かに踏まれたら痛いだろうし、脇に避けてあげようっと。えいっ」コロコロ

吟子「……」コロコロ

吟子(……え?)

梢(吟子さん、こんな言葉を知っているかしら)

梢(君子危うきに近寄らず。触らぬ神に祟りなし)

梢(見える地雷を踏むほど、花帆は浅薄ではないのよ)

梢(あなたの敗因は一つ)

梢(自らの異常さに気付かない、自己分析の甘さよ)

21: 名無しで叶える物語◆q6VWlTdG★ 2024/12/04(水) 23:06:39 ID:???00
──
────

梢(さやかさんと吟子さんの失敗は、作為的、その一点に尽きる。周到に用意された場には、必ず何らかの異様さが残り、警戒を抱かせる原因になる)

梢(日常に敷かれた自然な導線、そこに違和なく自らの私欲を溶け込ませる。それこそ、相手を罠にはめる奥義)

梢(つまり、調理中という場、部室に寝そべるという場、そうした状況を一から作っていては、怪しまれるのも当然ということ)

梢(だから、私は探した。いつも過ごす生活の中、ふとした瞬間キスをされてもおかしくない状況を)

梢(つまるところ、それは──)

花帆「あっ、間違えちゃった」ポロン

梢「大丈夫。途中から続けて。今は最後まで弾き切っちゃいましょう?」

花帆「はいっ」ポロロン

梢(ピアノの練習。これが、最適解)

梢(手の甲に指を重ね、背に抱き着くようにして鍵盤を導くことも何ら不自然じゃない)

梢(茜色の夕暮れ、和やかな旋律、そして、縮まる二人の距離)

梢(これはもう、キスをしない方がおかしいというものだ)

22: 名無しで叶える物語◆q6VWlTdG★ 2024/12/04(水) 23:07:04 ID:???00
花帆「梢センパイ」

梢「!」

梢(来た……!)

花帆「弾きにくいのでちょっと離れてもらうことってできますか?」

梢「ア……ごめんなさい」ソソ…

23: 名無しで叶える物語◆q6VWlTdG★ 2024/12/04(水) 23:07:38 ID:???00
──
────

梢「おかしいわね……。花帆からキスされないわ。考えたくないけれど、ターゲットは私ではなく吟子さんかさやかさんのどちらか、なのかしら……」

梢「い、いえっ、諦めたらいけないわ乙宗梢っ。考えても仕方のないことは考えず、明日に向けて英気を養うのが先決よっ」

梢「そうと決まれば就寝一択だけれど、何か安眠できる音が欲しいわね」

梢「あっ、そういえば今晩は確か、花帆が耐久配信? なるものをやっていたような」

梢「機械さんは、あった。ぽちっ」

花帆『はいっ、ということで今回の配信はっ、躁鬱雑談耐久配信ということでっ、企画にぴったりな二人をご招待しました!』

花帆『蓮ノ空の躁担当と言えばこの娘! 小鈴ちゃんです!』

小鈴『呼ばれで飛び出てジャジャジャジャーン! 徒町小鈴です! ちぇすとー!』

花帆『蓮ノ空の鬱担当言えばこの娘! 瑠璃乃ちゃんです!』

瑠璃乃『あい……ちっぽけで矮小、愚にも付かないミジンコ担当、ルリです……』

花帆『瑠璃乃ちゃんには充電切れ状態で配信に臨んで貰うために、掘った穴を埋めてもう一度掘る作業を五時間やってもらいました!』

瑠璃乃『掘る……穴……茶色……うああ……』

小鈴『おお、流石の仕上がり具合です! 細工は流々仕上げを御覧じろ、ですね!』

花帆『えへへ、それほどでも』テレテレ

24: 名無しで叶える物語◆q6VWlTdG★ 2024/12/04(水) 23:08:03 ID:???00
花帆『それと補足ですっ、今回あたしは一分ごとに躁と鬱が逆転して喋ります!』

花帆『あたしのお花、満開です!』

花帆『と!』

花帆『あたしのお花……枯れ落ちて消し炭です……』

花帆『これを交互に繰り返すさいこーに斬新な企画で進行していくよ!』

瑠璃乃『頭おかしい……』

小鈴『ぬおーっ! なんだか徒町、ワクワクしてきましたー!』

ワイワイソウソウガヤガヤウツウツ

梢「ふふっ、よく分からないけれど、花帆の声こそ一番の入眠材料よね」

梢「おやすみなさい」

梢「……」スゥスゥ…

25: 名無しで叶える物語◆q6VWlTdG★ 2024/12/04(水) 23:08:27 ID:???00
──
────

チュンチュン…

梢「ン……朝、ね。今朝の太陽も素敵に輝いているわ。眠気も疲労もなくて、体調も万全」

梢「去年のいつ頃からか、不思議と快調の日が続くのよね。これもあの娘の恩恵、なのかしら。なんて」

梢「……さて、今日で一週間最後の日。気合いを入れて臨みましょう」

梢「花帆の口づけは、私だけのものよ……!」メラメラ…

26: 名無しで叶える物語◆q6VWlTdG★ 2024/12/04(水) 23:08:56 ID:???00
──
────

吟子「あ……」

梢「……」

さやか「吟子さん、それに、梢先輩も……奇遇ですね」

梢「ええ……。そう、ね」

吟子「奇遇、ですね」

さやか「……ふふっ、何を警戒しているんです? 廊下で偶然会っただけなのに」

梢「!」

梢(この落ち着きよう……まさか、さやかさんっ)

さやか「何か言いたげなお顔ですね。もしかして、わたしが狼にでも見えましたか?」

梢(含みを感じる笑み……。余裕を演じているのか、本当に彼女が狼なのか。判断はできない)

梢(ここで腹芸、舌戦を交えてもいいけれど、それは勝敗とは無関係。私が今選択すべきことは、情報収集、それ一択だ)

梢「狼はむしろ、花帆の方でしょう? 狙われ襲われる対象の私たちは、言わば家畜……ところで、当の本人の花帆を見ていないかしら」

さやか「花帆さん、ですか。いえ、わたしも探しているんですが見つからなくて」

吟子「右に同じです」

27: 名無しで叶える物語◆q6VWlTdG★ 2024/12/04(水) 23:09:27 ID:???00
梢「……」

梢(ひと時の逡巡も見せずに返答、これを虚偽の申告と捉えるのは考えすぎ、かしら)

梢(私一人はともかくとして、吟子さん、さやかさんの二人も花帆を見ていない。三人の目があっても尚、その監視網を潜り抜ける。偶然見逃しているだけか、パーソナルな場所に留まっているか、その二つが考えられる)

梢(一体どれなの……?)

綴理「あ、こず、それにさやとぎんも。やっほ~」トトト…

梢「綴理……こんにちは。出鼻から質問で悪いけれど、花帆を見なかった?」

綴理「かほ? うぅん、見てないよ。もしかして、かくれんぼ?」

梢「いえ、遊んでいるわけではないの」

梢(花帆自身は、その一環なのだろうけれど)

綴理「ふぅん? あっ、でも、かほと言えば」

梢「何か、引っ掛かることでもあるの?」

綴理「そういうわけじゃないけど、めぐと一緒にいるところをよく見るな―って」

梢「慈と……?」

吟子「あっ、そういえば私……昨日中庭でこそこそと移動中の二人を見かけました」

さやか「中庭で……? 言われてみれば、慈先輩が空き教室に一人入っていく姿を見ましたね」

綴理「仲良しさんだね~」

28: 名無しで叶える物語◆q6VWlTdG★ 2024/12/04(水) 23:09:54 ID:???00
梢「花帆と慈が、二人で何かをしている……?」

梢(どういうこと? ターゲットである私と、さやかさんと吟子さん、渦中の三人と会うのは分かる。けれど、慈は逆の立場、仕掛け人のはず)

梢(何か、企画に穴があってそれを詰めている、とか……? いえ、そもそも今回のドッキリは酷くシンプルなもの。穴があったところで直す必要のない大雑把なものだ)

梢(ならば、なに……? もしかして、何かを見落としている……?)

梢(こういう時は、大胆な発想、真逆の思考をすると上手に行くかもしれない)

梢(例えば、例えば、そう……慈は仕掛け人ではなく、逆の立場、だとすれば──)


花帆『ではでは、本ドッキリの参加者──慈センパイ!』ササッ

慈『あいあい。これ読めばいいのね。えと、乙宗梢、村野さやか、百生吟子。今呼ばれたのが今回の参加者です』


梢「!!!」ピッコーン!!

梢(……そう、そう、だったのね)

梢(慈は仕掛け人であると同時にターゲットだった……!)

梢(ふふ、なるほど、味な真似をしてくれたじゃない……)

梢(慈!!!)

29: 名無しで叶える物語◆q6VWlTdG★ 2024/12/04(水) 23:10:21 ID:???00
モブ子「ねー、聞いた? 熱愛報道で炎上したアイドルの話」

モブ美「どんなん?」

モブ子「えっとねー、そのアイドルってばね、未成年に手出しちゃったらしいのよ」

モブ美「最悪じゃん」

モブ子「けどさ、最悪なのはそのファンなのよ。奴らの怒りの矛先がどこに向いたかってゆーと、アイドル本人じゃなく関係を持った未成年にいったのよ」

モブ美「ええ? なにそれ、ファン心理ってわかんないなぁ」

モブ子「私たちの○○を誑かしやがって、あの女狐! ってな具合にさ」

モブ美「思考回路が狂ってるじゃん」

30: 名無しで叶える物語◆q6VWlTdG★ 2024/12/04(水) 23:10:56 ID:???00
梢(慈……! あの新雪のように純白で穢れを知らない花帆の口づけを、まさかあなたが享受していただなんてね……!)

梢「この恨み、晴らさでおくべきかしら!!!」

モブ子「え、こわ」

モブ美「突然叫んだよこの人」

綴理「こ、こず……?w」

34: 名無しで叶える物語◆q6VWlTdG★ 2024/12/05(木) 21:58:33 ID:???00
──
────

花帆「こんにちは~、日野下花帆でーす! 今日は一週間前に予告したドッキリ、その結果を発表しちゃうよ~!」

慈「めぐちゃん優しいから、前の配信見てないよー、って人のために説明してあげるね」

慈「今週、花帆ちゃんはとある誰かにキスをしたの。された人はその事実を隠さなきゃいけなくて、されなかった人は誰がされたか当てなきゃいけないの」

慈「で、巧みに当てられた人、隠し通せた人は花帆ちゃんから親友のキスが与えられます」

慈「……これほんとに全国の電波に乗せていいものなのかな(遠い目)」

花帆「何を不安がってるのか分かりませんけど、事情を説明したら〝上〟は分かってくれましたよ?」

慈「上って、なに……?」ヒクッ

35: 名無しで叶える物語◆q6VWlTdG★ 2024/12/05(木) 21:59:08 ID:???00
花帆「まー、細かいことをワンちゃんにでも食べさせておいて、本題に入りましょー!」

花帆「ではでは、参加者の皆さんっ、集まってくださーいっ!」

吟子「こ、こんにちは、百生吟子です」

さやか「こんばんは。村野さやかです」

梢「……乙宗、梢です」

花帆「ふんふん、みんな色んな表情してるね。カプ厨のみんなは誰が狼さんか分かるかな?」

:っぱ、さやかほでしょ
:蓮はこずかほって古事記にも書いてある
:ぎんかほ、どすか
:かほめぐの生きる道は?
:セラかほを見せろ

花帆「ふんふん、厄介なコメントしか流れないや」

花帆「ではではっ、みんなのコメントもきちんと見たということでっ、審判の時間に入ります!」

:ほんとに見ただけじゃん
:さすかほ
:植物の剪定に容赦なさそう(偏見)

36: 名無しで叶える物語◆q6VWlTdG★ 2024/12/05(木) 21:59:45 ID:???00
花帆「さ~て、誰から聞こうかな? まずは──梢「待って」ズイッ

花帆「梢センパイ? どうしたんですか?」

梢「いいの、いいのよ、花帆。私はもう全て分かっているから」ポフ

花帆「……え? わ、わかっちゃったんですか!?」オロオロ

梢「ええ。だからもう、そんな健気に進行役を務める必要はないの」ヨシヨシ

花帆「え? え? どういうこと……?」

慈「ちょっと梢~、進行の邪魔だから下がってなよ~」トテテ

梢「あなたがっ!!!」

慈「声でっか!?」ビクッ

梢「あなたが、あなたが花帆を……誑かしたのでしょう……?」ワナワナ…

慈「は? え? なに言ってんの?」ポカーン

梢「とぼけたフリが上手ね。子役だから演技なんておちゃのこさいさいなのかしら?」

慈「すごい嫌味」

梢「いいわ。そこまで白を切るというのなら、私がこの茶番ごと両断してあげる」

梢「この一週間続いた予告ドッキリ……花帆にキスされた狼役……それは──」

梢「慈、あなたよ」ビシッ

花帆・慈「!!!」

さやか「段取りもクソもありませんね」

吟子「淑女がクソとか言っちゃだめですよっ」

37: 名無しで叶える物語◆q6VWlTdG★ 2024/12/05(木) 22:00:13 ID:???00
梢「事は酷く単純よ。予告ドッキリの開催を宣言した一週間前、花帆と慈はこう言ったわね」


花帆『ではでは、本ドッキリの参加者──慈センパイ!』ササッ

慈『あいあい。これ読めばいいのね。えと、乙宗梢、村野さやか、百生吟子。今呼ばれたのが今回の参加者です』


梢「アーカイブを見返して確信に至ったわ。あの時花帆が慈の名を呼んだのは、進行役を渡す意味じゃなかった。参加者として慈の名を呼んだ。これが今回の絡繰りよ」

梢「どうかしら。悪知恵の働く短絡的な狐さん。推理は当たっていて?」チラッ

慈「え、あ、あー、まあ、うん」

梢「煮え切らない返事ね。黒幕なら幕引きまで毅然としていなさい」

慈「いやだって、この企画考えたのめぐちゃんじゃないし……」

梢「些末なことで手を煩わせないで貰える?」

慈「えぇ……」

:よくわかんないけど、かほめぐ勝利でおけ?
:うおー!かほめぐだー!
:あれ、ってことは、親友のキスは梢様に授与されるって……コト!?
:こずかほきちゃあああああ!
:やっぱりこずかほメンスねぇ

38: 名無しで叶える物語◆q6VWlTdG★ 2024/12/05(木) 22:00:40 ID:???00
さやか「すみません、一ついいですか?」スッ

梢「なに、さやかさん。今は慈の言質を取る大切な時間なの」

さやか「いえ、心はわたしも同じで、慈先輩、花帆さんにキスをされたんですか?」

慈「え、まあ、はい、うん……され、ました。配信の後、ちゅちゅっと……」

梢「なんですって……!? ちゅだけでは飽き足らず、ちゅちゅっとお得に二回も……!?」

慈「お得かどうかはわかんないけども」

さやか「なるほど。事の成り行きは理解しました」フムフム

さやか「梢先輩」チラッ

梢「今度はなに。というかあなた、どうしてそう落ち着き払っていられるの? 花帆が慈に盗られたのよ? こんなのっ、  られじゃないっ!」

さやか「落ち着き払っているように見えますか」

梢「ええ、そりゃあもう嫌味なほどに」

さやか「それはきっと、わたし〝も〟花帆さんからキスされているからですね」

梢「……」

梢「……」

梢「……」

梢「ほぁ?」

吟子「あ、私も花帆先輩からキスされてます」スッ

梢「ぽょ……?」

慈「カービィになっちゃった」

花帆「ちいかわを選ばない辺り梢センパイって感じがしますね」

39: 名無しで叶える物語◆q6VWlTdG★ 2024/12/05(木) 22:01:13 ID:???00
梢「ま、待って、まってまってまってっ……!? な、なにが起こっているって言うの……? いえ、いえいえいえっ、違うっ……!」

梢「なにが、起こっていたの……!?」

花帆「はーいっ、ではパニックになってる梢センパイとコメントのみんなのためにっ、今回のドッキリ、その詳細についてお話したいと思います!」

花帆「今回のドッキリ、そのターゲットとなるのは梢センパイ、さやかちゃん、吟子ちゃん、そして慈センパイの四人でした。慈センパイに気付く辺り、さすが梢センパイですね!」

花帆「でも、さすがに分かりやすすぎるヒントなのでこれはミスリード……というより、注意を逸らすミスディレクションだったんですね」

花帆「本題は、こちら」

花帆「『キス企画でたった一人仲間外れドッキリ』でしたー!」

花帆「わ~、ぱちぱちぱちっ」

梢「……」

梢「……」

梢「……」

梢「はぃ……?」ボウゼン…

花帆「どうかな、みんな。これがたった一人キスされなかった人のお顔だよ?(カメラを梢にズームさせてる)」

梢「は、ぇ、あ、え……?」オロオロ…

さやか「状況に追い付いていない様子ですね」

吟子「さすがに可哀想な気がします……」

慈「さすがにって枕詞、なんで付けたのかな?」

吟子「あっ、ち、ちがくて……」

40: 名無しで叶える物語◆q6VWlTdG★ 2024/12/05(木) 22:01:52 ID:???00
梢「じゃ、じゃあ、なに……? 私はたった一人、花帆からの口づけは貰えず、その様子をショーとして見世物にされる、そんな役回りだったの……?」

花帆「ドッキリですから」

梢「ドッキリ……」

梢「……」

梢「ふ、ふふ、あはは……」フラッ

花帆「梢センパイ?」コテン

梢「哀れ、哀れね、本当に、私は……。選ばれるのは己である信じて疑わず、選ばれないと分かれば逆恨みに慈を敵視する」

慈「逆恨みって気付いてたんかい」

梢「けれど、結果はこの通り。全て花帆の掌の上で踊らされていた。ピエロのお人形、それが私よ……」

梢「ふふ、笑えばいいわ。腹を抱えて、涙を流すほどに。そうして子々孫々に語り継げばいいじゃない。私の哀れで愉快な痴態を……」メソメソ…

慈「……ね、ねぇ、これ、配信に流して大丈夫なの?」

さやか「まずいですね。普通に考えて放送事故です。音と姿を隠せる厚手の布とかありませんか?」

吟子「えと、ない、ですね……。てか先輩方の対応、ドライすぎる……」

花帆「はい、とゆーことで! 次の発表に移ります!」ニコニコ

:一人だけ元気な人がいますね……
:お通夜会場で元気に跳ね回る兎さん
:無敵か?

41: 名無しで叶える物語◆q6VWlTdG★ 2024/12/05(木) 22:02:23 ID:???00
花帆「実は実は、梢センパイには別のドッキリも実施していたんです!」

梢「……ぇ」

花帆「では、こちらの映像を、どーん!」

花帆『はい、こんにちは、日野下花帆です。就寝中の梢センパイを起こさないよう、静かにお部屋にお邪魔します……』ガチャ

:なんで合鍵持ってんの?
:そりゃ、ユニット同士だし
:お前らの順応性に脱帽するばかり

花帆『いましたいましたっ、梢センパイです……! 寝顔かわいい~。大人っぽい梢センパイも素敵だけど、赤ちゃんみたいに眠る顔も大好き~』

花帆『あ、いけないいけない。ではでは、今回のドッキリを、ここで発表したいと思いまーすっ』

花帆『ずばりっ、お姫様は王子様にキスをされたら起きるのかドッキリでーすっ』

梢「?????」

花帆『それじゃあ、早速……ちゅっ。さて、これで起きるのか……起きませんっ。今日の挑戦は失敗ですっ』

花帆「はいっ、映像はここで終了です!」

梢「え、わ、私、花帆と、口づけを……? け、けれど、じっ、実感がなにもないわ!」

花帆「こちらのドッキリを一年前から毎日続けていたんですが、ついぞ起床することはありませんでした。説立証ならず、花帆はちょっぴり残念です……」ズ~ン…

梢「い、いちねん、前……? は、へ……? じゃ、じゃあ私、既に花帆と三百回以上の接吻を終えているの!? 嘘でしょう!? だいぶ熟練者じゃない!? なのに柔らかさも瑞々しさも何も覚えていないわ!?」

42: 名無しで叶える物語◆q6VWlTdG★ 2024/12/05(木) 22:02:48 ID:???00
さやか「そういえば花帆さん、今回のドッキリで狼と言い当てられなかったわたしと吟子さんって、親友のキスは受け取れるんですか?」

吟子「あっ、それは気になってた……」

花帆「もちろんっ! あたしに二言はなしっ、だよ!」

さやか「そ、そうですかっ、親友のキス、その全貌が遂に……!」

吟子「あ、あのっ、さやか先輩より先に親友のキスをお願いしたいですっ」

さやか「ぬ、抜け駆けですか吟子さん!」ギャオー!!

吟子「油断する方が悪いんですよ!」ギャオー!!

花帆「あはは……そんな喜んでもらえるとちょっと照れちゃうかも……」テレテレ

梢「思い出せ、思い出すのよ乙宗梢……! 花帆との口づけ、その初めから全てを……! ああっ、どうして脳みそを取りだしたら人って死んでしまうのっ!?」

慈「……」

慈「……」

慈「……」

慈「ば、ばいめぐ~! ぽ~ちっ!」

〝本日の配信は終了いたしました
ご視聴ありがとうございました〟

:は?
:は?
:は?
:ぶんなげるな
:親友のキスまで見せろ
:花ちゃん、親友のキスは私以外としちゃだめって言ったよね
:院友改め淫友も見てます



おわり……!!!

引用元: 🆓花帆「一週間キス予告ドッキリするよ!」